1 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:52:52.44

以前書いた、
杏子「そして……叛逆の物語」
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1394627640

のいうまどマギSSのベストエンド・ルート・バージョンです。

前作? の最後に確かチラっとだけ触れていたかなと思いますが、元々書こうと思っていたベストエンド案が、
前のルートを書き進めるうちに『このお話にという事だと、これは違う』と強く感じるようになってやめたのですが、
突然『このお話でピンとくる』結末を閃いたのでそっちを書いてみる事にしますです。

別ルート、ありました。

元々、ベストルートで追加するつもりだったシーンとかも挿入されていたりするので、
終わり方が変わっているだけではないです。

・自己解釈、捏造しまくり。
・地の文ありまくり。

以上が苦手な方と、『叛逆の物語』を未見でネタバレが嫌な方はバックしてね。

じゃあレッツゴーです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413190362



2 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:53:48.77

杏子「……ん?」

夜、自分の部屋で、魔法少女・佐倉杏子は突如虚空を見つめた。

まるでその先に誰かが居るかのように。

この部屋には、彼女しか居ないはずなのに。

杏子「……な、なんだと?
──あ……いや、そうか……」

そのまましばらく訝しげな顔をすると、彼女は唇を噛み締めてうつむく。

杏子「うん……そう、だな。
わかった、確かにその通りだ。どこまで出来るかわからないけどやってみるよ」

そして、杏子は決意の表情でそう言った。



3 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:54:45.97

─────────────────────

翌日、朝。登校時。

杏子「…………」

通学路にある木の上で、彼女はリンゴを頬張っていた。

杏子(そういえば……)

杏子は以前、似たような状況であの『悪魔』からちょっかいを出された事がある。

あれ以来、彼女から『悪魔として』の接触は無い。

杏子(……まあそうだろうな。今更そんな事をする意味ねーもん)

杏子はすべてを忘れていたのだから。

同じクラスではあり、杏子の友達の一人でもあるのでその辺りの関わりがあるだけ。

いや、『悪魔』側は杏子を友達とは思っていないどころか、まともに見てもいないのだろうが……

しかし、だからこそ。

杏子(チャンスがあるってね)



4 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:55:49.38

杏子がリンゴを食べ終えた丁度その時、彼女が待っていた相手が向こうから歩いて来た。

杏子『──おう、マミ』

その相手……巴マミに、杏子は木の上からテレパシーで語りかける。

巴マミ。

美しい髪を縦巻きにした、女性らしいスタイルの綺麗な少女。

そして、杏子と同じ魔法少女でもある。



5 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:56:56.40

マミ『おはよう佐倉さん。あなたにしては随分と早いじゃない?』

マミも、テレパシーで返事を返す。

その声色(といってもテレパシーだが)から察するに、杏子が待っていたのにすでに気付いていたのだろう。

杏子『その理由、わかってんだろ?
……話がある。ちょっと時間くれるかい?』

マミ『ええ』

と、マミは学校へと続く道から外れる方へと歩みを変えた。


バッ。


杏子も、彼女が向かう方へと跳ぶ。

もちろん、二人ともが周囲にあの悪魔の気配が無いのを確認してから、だ。

この辺りはさすが腕利きの魔法少女二人である。



6 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:57:37.56

─────────────────────

魔法少女。

神そのものである『概念』を貶めた悪魔・暁美ほむらが再編し、作り上げたこの世界でもそれは存在している。

魔獣と呼ばれる、生き物の『負』を糧として現れる存在と戦いながら。



7 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 17:58:38.00

─────────────────────

杏子とマミは、辺りに誰も居ない近くの河原まで来ると、そこに腰をかける。

杏子「さて、と……だ」

まずは杏子が口を開いた。

杏子「マミも昨日、聞いたよな?」

マミ「ええ。
……聞いた、と形容する事が正しいかどうかはわからないけれど」

杏子「違いないね」

少し、杏子が笑った。

杏子「……あんたはこれからどう動くべきだと思う?」

マミ「慎重に、しかし急いで体勢を整える。
知っての通り、こちらから彼女に挑むにはまだ早いから」

『彼女』……暁美ほむらの事だ。



8 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:00:16.75

杏子「……だな。
そんな事態を避けれたらベストではあるが──
いずれ戦うにしろ、やっぱあたしとあんただけじゃぁあいつとは勝負にすらならないだろうし」

マミ「目をつけられるだけでも終わりでしょうしね」

そう。それだけの差が、彼女たちにはあった。

現在、純粋な戦闘力という点ではその限りではないのだが……

かつては一魔法少女に過ぎなかったほむらが、世界再編という神のような真似が出来たのは、
彼女が貶め・奪った神の力を自身の中に完全に取り込む前だったからこそだ。

現在その力は暁美ほむらという『器』に完全に入っている為、今はその時ほどの巨大な力は振るえない。

かつての神の力を完全に発揮するには、彼女の『器』では小さすぎるのだ。

もっとも、それにほむらは気付いていないのだろうが……



9 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:01:39.23

だが、それでもこの次元・宇宙は、ほむらが作った世界。

その一点だけでも、いわば創造神とも呼べる『悪魔』に真っ向から立ち向かうのは無謀であった。

たとえば……

杏子とマミの手の届かない遠距離から、二人が力尽きるまで延々と手下を送ったりなどは、
ほむらからすれば簡単な事だろう。

だが、そんな杏子たちにも手が無い訳ではない。

杏子「……さて、あたしたちにどこまで出来るかな」

マミ「正直不安よね……
でも、やらなければ」

杏子「そうだな」

マミ「とにかく、慎重さは大切だけれど、動くべき時だと判断したら少々無謀でもやらないといけないでしょうね」

杏子「時間が……無いもんな」

マミ「ええ……」

二人はもう数回、言葉を交わす。



10 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:03:00.68

杏子「──と」

その途中で杏子が小さな声を上げると、携帯を取り出す。

話に集中して気付かなかった彼女だが、どうやら同じ人から何度も着信があったようだ。

杏子「さやかからだな」

美樹さやか。

現在の杏子が居候させて貰っている家の娘であり、
かつては、『円環の理』と呼ばれる概念に導かれてその一部となった少女なのだが……

今は、杏子やマミと同じく人としての命を持つ魔法少女。

彼女は、杏子が朝早い時間になにも言わずに出て来てしまったので、怒りつつも心配しているのだろう。

杏子は電話に出る。

杏子「ああ、ああ……大丈夫、こっちも今学校に向かってるから……」

軽く言葉を交わすと、彼女は電話を切った。



11 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:04:37.28

マミ「……そろそろ行かないと、暁美さんにも気付かれちゃうかもしれないわね」

杏子「そうだな」

言うと、二人は立ち上がって学校の方へと歩き出す。

話し足りないが、遅刻したり、学校を休んだりする訳にはいかない。

まあ、まだそこまで遅い時間ではないのだが……

二人は、迂闊に下手な行動・いつもと違う行動を取り、
自分たちの動きをほむらに勘付かれるのは絶対に避けなければならないのだ。

マミ「じゃあ私は先に行くわね」

これも、ほむらを警戒して。

住む家の位置などの問題で、彼女たちが共に登校する事はまずないのだ。



12 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:05:58.08

杏子「おう、また後でな」

ニッコリほほえむと、マミは去っていった。

杏子はそれを見届けると、


バッ! タッ、タッ!


再び木の枝を跳んでいき、最初にマミを待っていた木の上まで戻る。

杏子「…………」

彼女が居るのとは別の木の枝の上。

チラリと杏子が向けた視線の先に、カラスの体をした、
しかし顔は雀のようなインコのような不思議な生き物が居る。

暁美ほむらの使い魔だ。



13 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:07:11.93

杏子(こうして見ると異質な生き物だね。
『異形』ってヤツ?
前にあたしは、こいつと仲良くリンゴを食べたりしたっけ)

その不思議な姿になんの違和感も持たずに。持てずに。

なぜなら、この世界はそう言う風に作られているからだ。

だが、それ自体は別になんの問題も無い。

杏子(……本音を言うと、『あの』問題さえ無ければあたしは別にこのままでもよかったんだけどな)


スタッ。


彼女は使い魔にも見付からないよう注意しながら、そのまま人目につかないよう地面に着地すると、
素知らぬ顔でいつもの通学路へと戻った。

そこで、ショートカットの少女と丁度出会う。

美樹さやかだ。



14 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:08:23.01

杏子「おう!」

さやか「杏子!」

さやかは杏子の姿を認めると、目を釣り上げて彼女の方へと詰め寄る。

さやか「あんたどこ行ってたのさ!
起きたらあんたの部屋には誰も居ないし、何度も電話やメールしたってのに!」

杏子「悪い悪い。今日はたまたま早くに目が覚めちまってさ、
するとなんか魔獣の気配がしたから、そいつ倒しに行ってたんだよ」

さやか「えっ……」

その言葉に、さやかの表情が心配そうなそれに変わる。



15 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:09:26.65

さやか「大丈夫だったの?」

杏子「おう。ザコが一体だけだったからな」

さやか「そんなの、別にあたしを起こしてくれれば……」

杏子「朝早すぎたし、別に強敵って感じじゃあなかったからね。
ただまあ、勝手に突っ走ったのは悪かったよ」

さやか「もうっ……無茶だけはしないでよね!」

杏子「ああ」

──……これで、今朝マミと会っていた事はごまかせただろう──

さやかに嘘を吐いた罪悪感を軽く覚えつつも、杏子は安堵した。



16 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:10:22.02

まどか「あっ、さやかちゃんに杏子ちゃん!」

さやか「──おうっ、おはよ!」

そこへ現れた、柔らかな髪の毛をツインテールにした華奢で可愛らしい少女、鹿目まどかと、

杏子(……!)

ほむら「…………」

長い黒髪の少女──暁美ほむらの姿に、杏子の顔に緊張が走った。

ほむら「……?」

杏子(まずい!)

それはほんの一瞬だけだったが、ほむらは見逃さなかったようだ。



17 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:11:22.62

杏子「……おう二人とも!
っかし、こんな天気の良い朝だってのにあんたは相変わらずぶっきらぼうなんだな。
唐突に見たら幽霊みたいで怖かったぜ!」

ほむら「……ふん」

頭をかきながら早口で言う杏子に、ほむらはいつものなんとも言えない笑みを浮かべると、再び歩き出した。

まどか「あっ、待って~」

杏子(……アブねー)

これで、杏子の先ほどの反応は不意に現れたほむらに驚いただけであり、
今のはその気恥ずかしさを誤魔化す為の態度だと思って貰えただろう。



18 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:12:17.75

さやか「こら」

杏子「痛っ」

こっそりと胸をなで下ろす杏子の頭を、さやかが軽く小突いた。

さやか「いきなりそりゃ、ほむらに失礼だ」

杏子「わーったわーった。すまんすまん」

さやか「あんた悪いと思ってないでしょ!……って、あたしに思われてもしょうがないんだけど」

と、さやかは笑うと、

さやか「おい二人とも、待てよ~。一緒に行こうぜっ!」

まどかとほむらを追いかけた。



19 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:13:11.24

杏子(……まどか)

鹿目まどか。

本来の彼女は、絶望の未来しか待っていない、
魔法少女という存在のすべてを救済する神・『円環の理』そのものなのだが……

この次元に生きる彼女は、人としての命しか持たない歪で不完全な存在。

女神たる彼女は、貶められたのだ。

暁美ほむらの手によって。



20 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:14:23.96

杏子「…………」

杏子はまどかの背中を見つめつつ、


マミ『慎重に、しかし急いで体勢を整える。
知っての通り、こちらから彼女に挑むにはまだ早いから』


先ほどのマミの言葉を思い出す。

杏子(だな。何事も慎重にしねーと……)

もし彼女たちの動きを察知されたら、その瞬間からほむらは襲いかかってくるだろう。

真の意味での勝ち目がまだ無い以上、絶対にそんな事態にしては駄目だ。



21 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:15:19.39

─────────────────────

その日の昼。

チャイムが鳴り、昼休みになった途端にさやかは立ち上がると、ほむらの元へと歩いていった。

杏子(!?
さやか……?)

今のさやかが放つ空気は、いつもの明るい彼女のものではなかった。

杏子は、さやかとほむらに意識を向ける。



22 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:16:34.13

──暁美ほむらは、クラス内どころか学校中で浮いている。

いや。

基本的に無口であり、美人であり、他の誰にも持ち得ない近寄りがたい雰囲気を漂わせているので、
特別視・畏怖されていると言った方が正解だろうか。

そんな彼女はクラスメートから話しかけられる事はまずないし、
自分からも必要最低限にしかクラスメートとは関わろうとしない。

だが、明るいさやかや、彼女の友達の志筑仁美や上条恭介、
杏子といった面々はほむらに話しかけるのもめずらしくはない。

だから、

さやか「ねえほむら、ちょっと付き合ってくれない?」

さやかがほむらにそう声をかける事が、周りから不審な目で見られる事はなかった。



23 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:18:04.11

ほむら「……構わないけれど」

言って、彼女は左手で髪をかき上げる。


キラッ。


その際に見えた、ほむらの左耳に装着されているイヤーカフスの宝石が光った。

杏子(……『ダークオーブ』……
いや、あれはそいつの別形態だっけ?)

以前は救済の女神の一部だったそれは、今は悪魔・暁美ほむらの力にして彼女の命そのもの。

杏子(…………)



24 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:19:08.92

さやか「悪いね、杏子、まどか、ちょっとだけこいつ持ってくわ!」

さやかは、先ほどまでの空気など感じさせないいつもの様子で、近くのまどかと杏子に言った。

まどか「うんっ」

杏子「おう! じゃあ先に昼メシ食ってるぞ~!」

なにも気付いていないのだろうまどかはもちろん、杏子もいつも通りに言葉を返す。

さやか「オッケー!」

明るい笑顔のさやかと、シニカルな笑みを浮かべたほむらが教室から出ていった。

杏子「…………」

杏子は、早速魔力で聴力を高める。

彼女の耳に、『どこへ行くのかしら?』などと話す二人の会話が届き、二人の向かう場所はわかった。



25 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:20:47.71

まどか「杏子ちゃん、行こっか?」

まどかからの誘い。

いつもは、さやかとほむらを含め、
杏子、マミ、まどかの五人で昼食を取る場合が多い(たまに他の友人二人も混じるが、
彼女たちは二人きりで居る事の方が多い)のだが……

どうやら今日、それは無理そうな空気だ。

杏子「……そうだな」

上手い具合に抜けだし、こっそりとさやかたちを追おうかと思っていた杏子だったが、
やめてまどかとの食事に専念する事にした。


マミ『とにかく、慎重さは大切だけれど、動くべき時だと判断したら少々無謀でもやらないといけないでしょうね』


杏子(いきなりその時が来たっぽいが、ここであたしが動くのはやめた方が良いだろうね)

注意をするのはほむらだけではない。

彼女と比較的仲の良いまどかや、さやかにしてもそうなのだ。

迂闊な行動一つで、どこから杏子たちの動きがほむらの耳に届くかわからない。

杏子(つーか、今回動くとしたらあたしじゃなくて……)

杏子は、マミにテレパシーを送った。



26 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:22:11.28

─────────────────────

マミ「…………」

杏子のテレパシーを受けたマミは、さやかとほむらが対峙する様子を、校外の高層マンションの屋上から見ていた。

ここが、マミが魔力を使って高めた視力で、二人をしっかりと確認出来る限界の距離の場所。

事情を聞いたマミは、全速力でここへと向かったのだ。

ほむらの近くだと気付かれる恐れが多いし、彼女の使い魔も居る。

使い魔とほむらは繋がっているので、使い魔に見付かる事とほむらに見付かる事はイコールなのだ。

マミ(たぶん、ここからだとさすがに大丈夫だとは思うけれど……)

マミの周囲には、使い魔の姿・気配は無い。



27 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:23:12.03

──マミはともかく、これまでにも杏子は、さやかがあのような行動を取るのを目にした記憶があった。

ただし、彼女のその行動の真意は知らなかったが……

マミも含め、今は違う。

だから、二人にこの件をスルーする選択肢は無かったのだ。

マミ「…………」

さやかとほむらは、人がまず来ない校舎の裏で向かい合っていた。

マミは、聴力も魔力で高める。



28 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:24:20.35

─────────────────────

ほむら「──で? 私をこんな所まで引っ張り出してなんなのかしら?」

さやか「あんたはなにがしたいのさ?」

怒気を孕んだ言葉と顔を向けられても、しかしほむらは例の笑みを崩さない。

さやか「こんな世界を作って、でも特別なにをする訳でもない……」

ほむら「ならそれで良いんじゃないの?」

さやか「そんな風に簡単に言えはしないだろ?」

ほむら「言えるわ」

さやか「……どうして?」

ほむら「ここは私の楽園だもの。
あなただって居心地は良いでしょう?」

さやか「居心地がよければそれで良いの?」

わずかに、ほむらの顔に疑問の色が浮かんだ。



29 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:25:33.48

ほむら「……なにが言いたいの?」

さやか「いくら居心地がよくても、永遠に続きやしない幻をただ与えられたり、
手にしたってだけであんたは満足なのかって言ってんの」

ほむら「そもそも、永遠に続くものなんてありはしないじゃない」

さやか「あたしが言いたいのはそんなんじゃなくて……」

ほむら「まあ、私はあなたとは立場もなにもかもが違うから、理解し合えなくて当然なのでしょう」

さやか「……そうやってまた逃げるんだね」

ほむら「事実、でしょう?」

さやか「っ!
だからあんたは……
そんなだからこんな風になってもなにも気付かずに……!」

ほむら「もっと、なにが言いたいのかわからないわ」

悲しみと怒りを吐き出すさやかに対して、ほむらはふん、と小さく鼻を鳴らして話題を変える。



30 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:29:36.32

ほむら「そんな事より、今回は随分と早かったわね。
記憶を取り戻すの」

さやか「……そうだね」

ほむら「まあ、あなたの思い・意思は強いから、こんな時もあるでしょう」

軽く肩をすくめるほむらからは、なんの動揺も見られなかった。

すべての面において余裕があるからだ。

かつてとはいえ、『円環の理』の一部だった相手なのだから、
この程度のイレギュラーもあるだろうと思っていたから。

なにより、いくらさやかが記憶を取り戻そうと、それでほむらへなにが出来る訳でもないのだから。

さやか「それって、褒めてないよね?」

ほむら「さあ? どうかしら」



31 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:30:56.73

これまでにも、記憶を取り戻したさやかがほむらの前に現れる事は何度もあった。

初めに二人が極めて深く接近したのは、ほむらがこの次元を作り上げた最初の頃。

すべての記憶を持ったさやかはほむらに近付いたが……

彼女は、その記憶と、円環の力にて自在に操れるようになった魔女の力もほむらに奪われた。

なんの抵抗も出来ずに。

いや、奪われたのではなく、『円環の理』を否定するこの次元の『摂理』が、
さやかの持つ円環のカケラを排除しようと動いたというのが正解だ。

この『摂理』に関しては、ほむらの強烈な意思によって存在しているものである。



32 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:32:07.27

しかしこれこそが円環を宿す者の力なのか。

どうやらさやかの『中』まではその『摂理』の影響力は完全ではないようで、
円環のカケラを完璧に排除する事までは出来ず、時間が経てばまた記憶と力が戻るのだ。

外に出ようとした・もしくは外に出た円環のカケラが『摂理』によって彼女の内部に押し込められ、
しかし内部にまでは『摂理』の力は及ばない為に、
また円環のカケラが外に……をループしているという訳である。

ちなみに、これはまどかもほぼ同じ。

もっとも、さやかと違ってほむら(と、彼女の意思で存在している『摂理』)に常に見張られているまどかは、
ただ時間が経つだけでは決してなにも目覚めはしないのだが。

──そして、記憶の戻ったさやかは再びほむらの元へと訪れ……

その繰り返し。



33 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:33:13.73

ほむら「ともあれ、私はいつものように対応してあげるだけ」

さやか「…………」

ほむら「──愚かね美樹さやか。記憶が戻る度に私の所へ来るなんて」

『それで私をどうこうなんて出来るはずないのに』『だから同じ事を繰り返すはめになるのに』
と、ほむらはさやかを嘲る。

さやか「だって……見てらんないんだよ……」

ほむら「それも聞き飽きたわね。
私にあれだけ敵意を向けていた癖に」

さやか「……昔のあんたと似たようなもんだよ」

ほむら「……?」



34 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:34:25.45

さやか「魔女が居た頃の世界のあんただって、そりゃぁあたしたちに思う事はいっぱいあったんだろうけど、
でも今のあたしみたいにしてたじゃん! まどか最優先でも見捨てられなくてさ!」

ほむら「……なんの話よ……?」

さらに続けようとしたさやかだったが、感情が高ぶっているからか上手く言葉が纏まらない。

彼女は小さく息を吐いて一瞬だけ間を取った。

さやか「……あたしだって──まあ、さすがに『まどか』レベルに全部を全部知ってる訳じゃないけど──
それでもあたしだって『円環の理』の一部になって、
いろんな時間軸のいろんな可能性、未来・過去を知ってるんだよ?」

『まどか』か、『円環の理』か……それとも両方か。

おそらくその言葉に反応したのだろう。ここで初めて、ほむらの笑みが消えた。



35 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:35:37.83

ほむら「……私らしく、同じ言葉をループさせましょう。
なにが言いたいのかわからないわね」

さやか「だからあたしは、そんなあんたを──」

ほむら「黙りなさい」


パチンッ!


さやか「っ!」

ほむらが指を鳴らすと、さやかが体を軽く震わせて両ひざをついた。

ほむら「ふふっ、今度は魔女の力を使おうとする間も無かったわね」

さやか「く……そっ……!」



36 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:37:22.80

ほむら「まあ、『真の』あの子の事を思い出した存在は、
あの子に真実を取り戻させる可能性があるから……」

ほむらは、無表情のままゆっくりとさやかに近付く。

ほむら「わざわざ私と接触するという愚かな行動を繰り返してくれるあなたには、
むしろ助かっているのだけれどね」

──まどかが『まどか』に戻ってしまう可能性の一つを、いち早く潰せるから──

さやか「何度忘れても……あたしは絶対に忘れない……!
あんたが、悪魔っ……だって事……は……」


かくんっ。


ほむらを睨みながら小さくつぶやくと、さやかは両ひざを付いたまま深くうな垂れた。



37 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:38:05.83

ほむら「…………」

さやかは、もう数秒も経てば目覚めるだろう。

その時にはまた、『円環の理』に関する記憶は失っている。

ほむら「ふん」

ほむらは目を細めて髪を軽くかきあげると、歩き出した。



38 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:39:22.53

─────────────────────

杏子「…………」

その日の夜、杏子は自分の部屋でマミとメールでやり取りをしていた。

彼女は結局、昼休みの間にはさやかとほむら、学校から離れていたマミとも合流する事はなかった。

とはいえ、まどかと二人きりで取る昼食というのも、新鮮でなかなか楽しくはあった杏子だったが。

例のさやかとほむらの件は、休み明けの授業中にマミからテレパシーで報告を受けた。

ほむらを目の前にしての行動とはいえ、さすがにテレパシーを使用するだけで、
その力を察知されたりはしないというのは『今の』彼女たちは知っている。


ピロリロン♪


マミ『その辺りは、情報の通りね』

と、マミからメールが来た。



39 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:40:40.40

杏子『ああ。あんたに二人を監視して貰うのも含めてかなり大胆な行動だったけど、
テレパシーが使えないのは厳しすぎるからな。
問題無く出来て助かったよ』

それに、杏子が返信する。

そうだ。

今回の件をなんとかするには、一人二人ではまず不可能。

情報の共有と、動ける仲間を集めて力を合わせる事は必須である。

テレパシーは、その為に必要で重要な手段の一つなのだ。



40 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:41:51.16

杏子(学校があったり、魔獣退治があったり……
さやかと暮らしている今の状況だと、マミと二人で会ったりってのはなかなか難しいからな。
あいつは一人暮らしだからまだマシだけど)

ほむらに行動を悟られない為になるべく普段通りにしておきたい彼女としては、
さやかや、その家族が寝静まってから動き出すというのもあまりしたくはない。

また、今日の朝みたいな魔獣を使った言い訳も、さすがに何度もという訳にはいかないだろう。

注意深く動くのであれば、直接会う事自体は別に悪い手ではないのだが、
それでも広範囲に有効であり、
リアルタイムでちゃんと対話の出来るテレパシーという能力はやはり大きな戦力である。



41 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:44:03.85

マミ『あと四日……か。
やっぱり大変ね』

杏子『だが、話の通りあいつは神だの概念だのってほどではないみたいだからな』

「この宇宙に、新しい概念が誕生したというのか?」──ほむらが『悪魔』になる際にそんな風にひとりごちたのは、
杏子やマミもよく知るとある地球外生命体だが、その解釈は間違っていた。

人智を越えた現象と存在を目の当たりにしたあの時の状況を考えたら、
その地球外生命体がそんな解釈をしたのは無理はないのだが……

いくら博識と言えど、神でもなんでもないあくまで一生命体であり、
また、神の知識を持っている訳でもない者がこのレベルの事を理解しきるのはやはり無茶なのだ。



42 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:45:30.52

杏子『そもそも『悪魔』ってのもアレだし、これならやってやれなくはないさ』

マミ『そうね』

この次元を作ったのはほむらだが、だからといって彼女が、
『無条件で』この次元内のすべてを把握出来るのかといえばそうではないらしい。

だからこそ、たとえば物を運ぶとか物理的に力が必要な状況ならばわかるが、
そうではないのに使い魔がウロウロしていたりするのだろう。

杏子『まあ、ほむらのヤツが意識を向けたらその限りではないって話だが……』

マミ『その場合は、隠れて話していても、その様子を『視る』事も『聴く』事も可能なのだったわね。
テレパシーも、テレパシーをしていると知っていて、そこへ意識を向けられたら内容すら読まれてしまう』

また、それまでは気付かれていなくとも、使い魔に見付かるとその時の動きを主人であるほむらに察知される為、
結果彼女に意識を向けられて行動がバレてしまったりもする。



43 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:47:06.45

杏子『ったく、厄介なモンだね』

マミ『……早く仲間を増やさないと』

杏子『ああ。
まずはなぎさ、だな』

マミ『ええ』

百江なぎさ。

暁美ほむら改変前の世界で、さやかと同じ存在だった魔法少女。

彼女もまた、改変に巻き込まれてこの次元に居る。

ただ一つ、以前と決定的に違う事があるのだが……



44 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:48:01.17

杏子『ホントは気が進まないけどな……』

マミ『でも、『あの子』がそう言うのならば、力を借りない訳にはいかないわね』

杏子『おう。
……ま、あたしやマミがついてれば大丈夫だろ』

マミ『そうね。……むしろ、大丈夫にしなければ』

ここから、二人はなぎさの事でもう何度かメールでやり取りをした。



45 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:49:25.48

杏子『──あとは……
最終的にはさやかにも協力して貰うつもりだが……』

彼女はまだ、現在の杏子やマミ、そしてなぎさほどの事情は知らない。

なぜなら、こうなった以上さやかは『円環の理』と誰よりも関わりが深い少女だから。

そんな彼女に杏子・マミ・なぎさに対してと同じように動いてしまうと、
力が共鳴するなどしてこの次元が大きく揺らぐなど、なにかしらの現象が起こる危険性がある。

そうなるとまずほむらに勘付かれるだろうから、
杏子たち今回の件に深く関わるすべての存在は、さやかとの接触をひとまず避けたのだった。

他にも理由があるのだが、とにかく今回のさやかの参戦は、真に来たるべき時が来たらになるだろう。



46 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:50:56.01

杏子『あいつ意外と演技派だからな。
余計な問題さえなければ他の能力的にも絶対に必要なヤツだから、
さっさと事情を説明して手を貸して貰いたいってところだったんだろうけど』

杏子は、かつてほむらのソウルジェムの中に在った世界で、立ち回っていたさやかの姿を思い出しているのだろう。

そんなさやかなら、すべてを知っても下手を打たずに上手く動いてくれるに違いない、と杏子は思う。

マミ『意外とっていうのは失礼よ。
……美樹さんに関しては、とにかくタイミングね』

そもそも、今でもさやかはほむらの目を引きつける役割を担ってくれている。

もちろん、彼女自身はそうとは知らずにだが……今はこれだけでも杏子たちには最高の援護ではあった。



47 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:52:17.75

杏子『……でも、あいつを利用しているみたいで気分がよくねーよな』

マミ『そうね……
言い方は悪いけれど、はっきり言って囮になって貰ってる訳だからね。
なるべくならこんな状態は続けたくはない』

杏子『いずれにしても、『タイムリミット』まで時間はあまりないね』

マミ『ええ。
その時と、暁美さんがこの現状に最後まで気付かず、すべてが崩壊する時と……
私たちが目的を果たす時。
一体どれが早いのかしらね』



48 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:53:52.21

─────────────────────

次の日の放課後。

杏子「さーて、帰るか」

さやか「おうっ!」

杏子はこの後、可能ならばマミと合流するつもりである。

杏子(とはいえ、いつも一緒に帰っているさやかをほっぽって『用があるからお先に』ってのはね……
まあ怪しまれないのは、家に帰ってから散歩だのなんだの適当に理由つけて出かけるとか……かな)

だが、杏子は無理に動くつもりはなかった。

今回のは出来れば杏子も居た方が良いというだけで、別に後でマミから報告を受けてもよい事だからだ。



49 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:55:32.69

さやか「お~いっ、まどかとほむらも一緒に帰ろうぜ!」

と、さやかが帰り支度をしていた二人に声をかける。

まどか「うんっ」

まどかは笑顔で頷くが、ほむらは一瞬の沈黙の後、

ほむら「……私は結構よ」

首を横に振った。

まどか「そっかぁ……残念」

とはいえ、ほむらのこんな反応はめずらしくはない。

目的地が同じ登校時に出会った場合はともかく、
帰宅時に声をかけて彼女がまどかやさやかたちと一緒に帰る可能性は、およそ半々といったところだろうか。



50 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 18:57:04.17

さやか「相変わらず気分屋だなぁ。なんだったら十円ガムでも奢るよ?」

ほむら「いらないわ」

一言つぶやくと、ほむらは教室の入り口へと歩き出す。

ほむら(…………)

ほむらの本心としては、常に、常にまどかの側に居たくはある。

彼女の近くにさやかたちが居ても、色々な意味で構わない。

そうでないと──わざわざ、こんな世界にしはしなかったから。



51 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:00:00.80

だが、世界再編後のすぐはともかく、この現状で自分の感情に素直になるにはほむらには度胸が無かった。


ほむら『いずれあなたは、私の敵になるかもね。
でも構わない』


以前、ほむらはまどかにそう言った事があるが、これが本心なはずはない。

だからこそ、その言葉を口にした時のほむらは苦しげだった。

ほむら(……まどか……)

もし本当に、いざその時が来たら。もし目の前でまどかが『敵』になってしまったら……

そう考えると、ほむらは自分からはなかなかまどかの側に行く事は出来なかった。



52 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:02:17.21

もちろんまどかが敵になる瞬間が来たとして、
その時に彼女の目の前に居ようと、離れていようと大差は無いのかもしれない。

だが、理屈ではないのだ。この『恐怖』は、ほむらから積極性を奪うのに十分だった。

それでも、なんとか『恐怖』を抑え込めた時は自分からまどかに近付けたりもするが……

そんな状態が続くはずもない。

こういうのは、一度乗り越えたらもう大丈夫というものではないのだから。


ほむら((私は、遠くからまどかを見守るだけで良いわ。
それで……満足))


ほむらがそんな諦めにも似た気持ちになったのは、世界を再編してからまだ大して時間の経ってない頃。

ほむら(でも、これで良いのよ。
『円環の理』さえ寄せ付けなければ、私たちは永遠に離れる事はないのだから。
欲張る必要は……ない)

これが自分に対する言い訳でしかないのは、ほむら自身が一番わかっている。



53 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:03:50.98

さやか「じゃ、あたしたちも行こっか」

杏子「おう」

まどか「うんっ」

繰り返し『これで良い』と内心で自分に言い聞かせるほむらの耳に、杏子たちの言葉が届く。

ほむら「…………」

気にしないようにして扉を潜るほむらだが……


ドクンッ。


ほむら「!?」

突然、彼女の胸で『なにか』が跳ねた。



54 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:05:02.76

ほむら(な、に? これは……?)

なにが起こったのか、ほむらにはわからない。

ただ、この時唐突に彼女に襲いかかってきたのは……

確信。

孤独、の。



55 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:07:02.10

ほむら「…………」

──まどかが敵になった後に、私は真の意味で一人ぼっちになるのかもしれない──

そう何度も思った事のあるほむらだが、今回はそれは、今までの『確信めいた予感』とは違う。

強烈で純粋な……『確信』。

ほむら(私は、失う……?)

今の彼女に、すべてがすべてをハッキリとまではわからない。

確かなのは、『確信』にほむらが魂の底から震え上がった事。

そして、本当に孤独になるのだとしたら、それはまどかと永遠の別れを告げる時がとうとう訪れるという事でもある。



56 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:08:42.57

ほむら「……ねえ」

杏子「?」

かつてない恐怖に耐えきれず、ほむらは振り返って杏子たちに声をかけた。

ほむら「やっぱり私も一緒に帰るわ」

まどか「ほむらちゃんっ」

杏子「……そっか」

さやか「何だなんだ? この一瞬でどういった心境の変化かな気分屋ちゃん」

嬉しそうにニヤニヤと、さやかがほむらへと近付く。

さやか「だったらあたしとちゅ~しようって気にもなったんじゃない???」

ほむら「ならないわ。
というか、話に脈絡が無さすぎる」

さやか「いや、さっきまであたしとちゅ~する気だって無いのはわかりきってたから、
今ならついでにそんな気にもなってんじゃないかなってコラ!」

グダグダと説明するさやかをスルーし、ほむらはまどかや杏子と教室を出る。



57 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:10:15.51

ほむら「まどか、荷物を持つわよ」

まどか「ううん、このくらい大丈夫だよ。ありがとうっ」

さやか「待 つ の!」

さやかは頬を膨らませて三人を追いかける。

杏子「いきなりそんな変な事言ったらそりゃあ流されるよ」

さやか「うっさいなあ! じゃああんたがちゅ~してよ!」

杏子「意味わかんねー」

笑顔でさやかとじゃれ合いながらも、杏子はほむらを注視していた。

杏子(あいつ、ちょっと様子が変だな。
……なんか怯えてる?)



58 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:12:42.26

─────────────────────

いつもの通学路。

さやか「するとね、向こうから青いコップと黄色いコップを被った人が歩いて来たわけよ」

まどか「うんうん」

ほむら「…………」

杏子「……?」

先ほどまでは、口を挟まずともほむらもまどか・さやかの会話に参加していたのだが、
時間が経つにつれて彼女は眉間に深いシワを寄せて、どんどんうつむいていく。

杏子「ほむ……」

と、杏子が声を出しかけたそのタイミングで、

さやか『……そういやあ、やけにカラス? が多いね』

まどかとの雑談は止めずに、さやかがテレパシーで杏子に言った。



59 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:16:55.92

杏子『……ああ』

彼女の視線の先には、あちこちの木の枝にビッシリと居る真っ黒な『異形』の鳥たち。

パッと見はカラスに似ているが、顔はインコのような雀のような、例のほむらの使い魔だ。

いや、よく見たら木の下やしげみの脇にも、彼女の使い魔らしき他の『異形』の姿が沢山ある。

まどか「えっ? 他には虹色の台車で波乗りをする人も居るの?」

そして、その使い魔たちはまどかには見えていない。

さやか『なんか不気味だね』

ちなみに、その『鳥』たちがほむらの使い魔だと知っているのは、この場ではほむら以外だと杏子だけだ。



60 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:19:06.82

ほむら「…………」

杏子「……おい、ほむら大丈夫か?」

杏子は異形たちへの注意は切らさず、いつの間にやら顔を手で抑えて立ち尽くしているほむらへと改めて声をかけた。

元々彼女は色白だが、手の隙間から覗くほむらの顔色はいつもに増して真っ白だ。

ほむら「う……」

まどか「ほむらちゃん!?」

さやか「お、おいほむらっ!?」

ようやくほむらの様子に気付いたまどかとさやかが、話を止めてほむらを見た。



61 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:22:47.54

ほむら(な……なぜ? 使い魔たちが私の言う事を聞かない!?)

当然ながら、この手下たちが近くに集まって来ているのは、主たるほむらは最初から気付いていた。

まどかの側にはいつも使い魔たちを置いているのでそれ自体は別に良いのだが、これはあまりにも数が多すぎる。

奴らは、恐怖に駆られたほむらがまどかを強烈に求める深層心理を感じ取って、こんなに大勢集まってきた。

いわばほむらの心を表した行動をしたのだ。

実際、他に目的のない手下たちには殺気などはまったく無いし、
ただ居るだけで取り立ててなにかをしようとはしていない。

使い魔は主人の要素を持ち、主人と意識が繋がっている為にほむらにはそれはわかる。

もちろん、さすがにこの数は求めていない為に、ほむらは『離れなさい』と何度も命令を送っていたのだが……

その命令をまったく受け付けない。



62 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:24:32.74

ほむら(ありえない。
『悪魔』になってからは、こんなの初めてだわ……)

先ほど感じた『確信』もあり、ほむらの中で黒いなにかが広がっていく。

ほむら(……黒い、なにか? これは一体……
──!?)

まどか「ほむらちゃん……?」

ほむらがふと向けた視線の先には、まどか。

……いや。



63 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:27:51.00

まどかの十メートルは更に向こうに、横並びで立つ無数の人型の影。

イバリ、ネクラ、ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ワルクチ、ノロマ、
ヤキモチ、ナマケ、ミエ、オクビョウ、マヌケ、ヒガミ、ガンコ。

それぞれが黒を基調とした衣装を身にまとい、共通するのは蒼白い肌に大きな瞳。

彼女たちは、葬列を待つ着せ替え少女人形……

クララドールズ。

『泣き屋』の役割を持つ、ほむらの使い魔の中でももっとも彼女に近しい存在たち。



64 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:29:18.39

その全員が肩を落としてジッとほむらを見つめている。

まるで、もはや自分ではどうにも出来ない現実に絶望してしまったかのような──

皮肉と自傷・暗い影を纏いながらも、いつも元気に動き回っているクララドールズからは考えられない姿だ。

ほむら「……!?」

しかし、ほむらがまばたきをしたほんの一瞬でクララドールズは全員消えてしまった。

ほむら(…………)



65 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:30:38.81

まどか「ほむら……ちゃん?」

ほむらが視線をまどかたちに戻すと、心配げに見つめる三人の姿。

ほむら「な、なんでもないわ」

さやか「そんな風には見えなかったけどなぁ……
あんたらしくなく、ボーっとしてた」

杏子「──まあ、人間そんな時もあるだろ」

ほむら(人間……
人間か)


杏子『てめえそれでも人間か!?』

ほむら『もちろん違うわ。
……あなたもね』


ほむらは、繰り返す時間軸の中で杏子と何度もそんなやり取りをした。



66 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:32:20.40

ほむら(あの時と違い、今の私は魔法少女ですらない。
魔法少女と同じく人ではないけれど、魔法少女よりもさらに人間からは離れた存在になった)

──でも、後悔など無いわ──

けれどそれも、自身の考える『愛』を貫いて、この次元というものを……まどかを手にしているからだ。


『もう一度、あなたと逢いたいって……!
その気持ちを裏切るくらいなら……』

『そうだ。私はどんな罪だって背負える』

『どんな姿に成り果てたとしても、きっと平気だわ』

『あなたが側に居てくれさえすれば──』


これらはすべて、悪魔になる前のほむらの言葉。



67 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:34:01.94

彼女は強硬な決意の後に、その言葉の通り自身の思いを貫き通したのだ。

だから後悔など、ありようがない。

だからこそ。

もしも。

ほむら(もし私の感じた『確信』が正しいのだとしたら……)

もしも、本当に大切なものを無くしてしまうような事があれば……

きっと、ほむらは後悔などというものを遥かに越えた感情に潰されてしまうだろう。



68 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:35:39.81

当たり前だ。

現在のほむらが手にしているのは、それほど大きな大きな、本当に大きなものなのだから。

そうでない、彼女にとってその程度のものならば、
『愛』を通す事に……『悪魔』になる前に決意など必要自体無かっただろう。

ああまでしても、自身の『愛』を貫きたかった──

そんなほむらが、手にしたそれを失う事を恐れるのは当然だ。

いざその時が来たり、その時が視えてしまったら心揺れるのは当然だ。



69 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:37:28.59

ほむら(わ、私は……)


ドクン、ドクン。


ほむらの、前髪に隠れた額に脂汗が浮かび、彼女の胸の鼓動が早くなる。

ほむら「私は……」

杏子「……あんたは疲れてんだよ。
帰ってゆっくり休め」

ほむら「疲れ……?」

杏子「ああ。たまにはゆっくりするのも大事だぞ」

ほむら「…………」

悪魔になって以降ほむらが疲労を感じる事はなかったが、これほどまでに精神が不安定になったのも初めてだ。

ならば、今の自分と言えど、完全に疲れが無くなるという事はないのかもしれない──
やや混乱する頭で、ほむらはそう思った。



70 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:39:03.97

ほむら「確かにそうなのかも……しれないわね。
そうするわ」

杏子「ああ」

まどか「お家まで送ってくよ」

杏子「あ、そりゃ名案だ」

さやか「うん。相変わらず顔色悪すぎだし」

ほむら「必要無いわ。子供じゃないんだから」

杏子「まあまあ、良いじゃん」

ほむら「けど……」

さやか「……あたしたち、ほむらが心配なんだよ」

ほむら「…………」

さやか「まあどうしても迷惑だってならやめとくけどさ」

まどか「うん。
でも、送らせて欲しいな」



71 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:40:17.53

ほむら「……勝手にしなさい」

真摯な顔のさやかとまどかに、ほむらは背を向けて言った。

まどか「うんっ」

杏子(悪いなマミ、あたしはほむらを優先したい)

杏子がこっそりとマミへメールを送った。



72 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:41:54.52

─────────────────────


スタスタ……


杏子たちにそんな事があった同じ日の放課後、マミはマンションへと帰宅していた。

見晴らしのよいこの廊下をあと数メートルほど歩けば、自室である。

マミ「さて……」

ほのかな風を感じる中、自分の部屋の前まで来ると、マミは隣に立つ少女に言った。

マミ「じゃあ入りましょうか」

なぎさ「はい」

サラサラと綺麗な髪の毛、小柄な体躯、あどけない顔立ち……

百江なぎさ。



73 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:42:46.43

昨夜マミは、杏子とメールのやり取りをしていた時から、この日の放課後になぎさを自宅へ招くと決めていたのだ。

もちろんこの事は杏子も知っているが、彼女はこの場には居ない。

来れそうならば後で合流する予定である。



74 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:43:47.96

─────────────────────

実は、この世界のなぎさは他の魔法少女たちとは誰とも面識が無かった。

しかし、以前マミがスーパーで買い物をしている時、
彼女はチーズ売り場の前でなにやら小躍りしているなぎさを目撃した。

これが、ほむら再編世界での二人の出会い。



75 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:45:25.34

……………………

マミ((あいかわらずここはチーズが豊富ね。
山みたいに積まれてて、見るだけでも楽しいわ))

マミ((……あら? あの子なにをしているのかしら?))

なぎさ『チーズ! チーズがいっぱいなのです!』

マミ((ふふっ、あんなにはしゃいじゃって。
チーズが好きなのかしら?
でも、ちょっと危ない……))


コケッ。


なぎさ『あっ!』

マミ『危ないっ!』


ガシッ!


マミ『あ、危なかったわね……』



76 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:46:37.88

なぎさ『ありがとうございました。もう少しでチーズの山にダイブするところでした。
チーズの山に……じゅるっ。
チーズ……じゅるるるっ』

マミ『へっ?
……ああ、チーズ、そんなに好きなの?』

なぎさ『は、はい……ゴクリ』



77 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:48:05.95

マミ『……よかったら買ってあげましょうか?』

なぎさ『良いのですか!!!!!!!!!??????』

マミ『ひっ!?
う、うん。良いわよ。
──あ、でも知らない人からこういう事されるのって気持ち悪いかしら』

なぎさ『そんなことないのです! チーズなのですっ! チーズはおいしいのですっ!』

マミ『ふふふっ、そうね』

なぎさ『…………それに』

マミ『えっ?』

なぎさ『なぎさ、あなたとは初めて会った気がしないのです』



78 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:49:30.34

……………………

──この後、二人は携帯の番号やメールアドレスを交換した。

マミは、出会ったばかりの相手へと自分から電話をかけたりメールをしたりは性格上難しかったのだが、
なぎさは彼女の持つそういう『壁』をものともせずに連絡を続けてきた。

そんななぎさとやり取りをしているうちに、マミは彼女と二人きりで会うようになっていく。

……といっても、二人が出会ったのはここ最近の出来事なので、それに関してはまだ数えるほどの話だが。



79 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:50:47.84

─────────────────────

マミ「──とりあえず、紅茶を淹れましょうか」

なぎさ「はいです! チーズなくては戦は出来ませんからね」

マミ「ふふっ、ちょっと待っててね」

言って、マミはキッチンへと姿を消す。

なぎさ(…………)

一人残されたなぎさは、なんとはなしにマミ邸のリビングを見回す。

マミと二人で会った事はあるが、彼女の家に来るのは初めてだ。

……この次元にやって来てからは。



80 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:52:30.14

なぎさ(前は、ここでマミと暮らしてたりしましたね)

それは、ほむらが悪魔になる前、彼女のソウルジェムの中にあった世界での話。

その時に、なぎさはほむらに攻撃を受けた事がある。

彼女が悪魔へと変貌する瞬間にも居合わせた。



81 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:54:20.22

なぎさ「……ほむら」

なぎさは、その時々で見たほむらの、
儚く、まるでガラスのようにすぐに壊れてしまいそうな表情が強烈に目に焼き付いていた。

これはきっと、かつてはなぎさも『まどか』やさやかと同じ思いを持って動いていたからだろう。

そしてなにより、今現在のなぎさをこんな風にしてくれたのが……


テテテンテテテン。


なぎさ「!」

突如鳴った音の方になぎさが目をやると、床の上に置かれたマミの携帯が鳴っていた。



82 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:55:24.42

なぎさ「これはいけません。今出ますよ」

と、なぎさが携帯に手を伸ばすが……

なぎさ「おや」

どうやら電話ではなかったようだ。

マミ「お待たせ」

そこへ、紅茶と様々なチーズを乗せたトレーを手にしたマミが戻ってきた。

なぎさ「あっ、丁度よかったのです」

マミ「?」

なぎさ「メールが来たみたいですよ」

マミ「あら、ありがとう」

トレーをテーブルに置くと、マミはなぎさが差し出してくれた携帯を手にした。



83 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:56:44.31

早速、彼女は届いたメールを開いて確認する。


杏子『すまんマミ、やっぱ行けそうにないから二人で始めといてくれ。
なぎさによろしくね』


マミ「……わかったわ」

『了解』とだけ返信し、マミはすぐになぎさの方へと向き直った。

マミ「佐倉さんは来れないみたいだから、始めちゃいましょうか」

なぎさ「そうですか、わかりました」

頷き合う二人に迷いはない。杏子もだし、マミとなぎさもこの場合はこうしようと決めていたからだ。

なぎさ「でも、チーズを食べながらでも良いですか?」

マミ「ふふっ、もちろんよ」



84 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:57:39.19

─────────────────────

マミ「とりあえず、なぎさちゃんは私たちの仲間になってくれるのよね?」

なぎさ「もちろんです。だからこうやって会っているのです」

マミ「それもそうね」

マミが苦笑する。



85 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 19:59:02.33

マミ「とはいえ、言葉での確認というのは必要よね。
おそらく、私、佐倉さんとなぎさちゃんはまったく同じ知識を得てはいるはずだけれど、事が事すぎて……」

なぎさ「そうですね。人の身では話が大きすぎですし」

そう。

マミ・杏子・なぎさは、お互いがお互いを無条件で仲間になれる事を知っていたが、
それでもちゃんと言葉を交わしたかったのだ。

マミたちは会話も無しにすべてをわかりあえる存在ではないので、
間違いないと思っている事でも、こうやって物理的に確認をしたいと考えるし、必要なのだ。

重要なものこそ特に。

たとえ視線を交えるだけで通じ合えるような関係でも、人にはある程度の対話は必須なのだから。



86 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:00:25.67

マミ「じゃあやっぱり……なぎさちゃんの元にも現れたのね?」

なぎさ「はい。
という事は、マミや杏子もですね」

マミ「ええ」

なぎさ「……えっと、『闇』というものを二人はどう理解していますか?」

マミ「そうね……」



87 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:02:09.39

……………………

『闇』。

それは、かつてとある女神の力の一部だったもの。

しかしある時に奪われ、強烈な負の感情に染め上げられて邪悪なものとなった。

今は悪魔・暁美ほむらを悪魔たらしめている『力』であり、
現在の彼女そのもの・彼女という存在の命でもある。

そして、ほむらでは……いや、魔法少女や魔女では到底扱いきれない巨大で圧倒的な『力』でもある。



88 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:03:33.49

……………………

なぎさ「なぎさの知ってる知識とおんなじです!」

マミ「やっぱり、私たちが持っている情報は同じと考えて良いわね」

それでも、続ける。

万が一『わかった気』になってしまってはいけないから、きちんと確認をする。

なぎさ「では、これから先に『闇』がどうなってしまうかは?」

わずかに間を置き、マミは言った。

マミ「暁美さんの中に在る『闇』は……
あと三日で、彼女から独立して氾濫・暴走する」

なぎさ「…………」



89 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:04:45.37

マミ「そして、暁美さん自身や、彼女が創り上げたすべてを滅ぼしてしまう……」

なぜそうなってしまうのか?

なぎさ「あれは、神のような存在でないととても扱いきれない力です。
なぜなら、元は神の力ですから」

『円環の理』を引き裂いた暁美ほむらは、その純白にして偉大なる力の一部を奪った。

だが、その力は純白のままではいられなかった。

悲しいまでに肥大しすぎた為、己が意志とは関係なく溢れ出る暁美ほむらの絶望や憎しみ。

それら巨大なマイナスの感情が、奪った『円環の理』の力と混じってしまったのだ。

ほむらの意志とは関係無く。彼女自身、気付かぬうちに。

こうして、ただただ純粋だったそれは穢れた力となった。



90 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:06:03.02

だが、ほむらのものとなったその力は、時間が経つにつれて独立が進んでいる──つまり、
彼女の手には負えなくなる時が近付いてきているのだ。

それが、『闇』の氾濫。

なぎさ「『闇』は、仮にもこの宇宙を作り変えたほどの力ですからね。
それはつまり、宇宙を滅ぼすレベルの力でもあるのです」

そんなものが暁美ほむらという『器』から抜け出して暴走するとなると、宇宙は確実に崩壊する──

マミもなぎさも杏子も、その時が近い事を知っている。

なぜか?

接触していたからだ。

『円環の理』と。



91 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:07:32.75

─────────────────────

杏子「……ん?」

数日前の夜、自分の部屋で、佐倉杏子は突如虚空を見つめた。

まるでその先に誰かが居るかのように。

この部屋には、彼女しか居ないはずなのに。

杏子「!?」

突然、『なにか』が杏子の中に入ってきた。

杏子「!? !!?
──ッ!!?」

それは、一瞬──本当に一瞬だった。



92 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:08:49.51

杏子「……な、なんだと?
──あ……いや、そうか……」

けれど、その一瞬で杏子は『理解』した。

彼女の元に現れたのは、『円環の理』と呼ばれる概念。

故にわざわざ物理的に対話をする必要はなく、
こうして、言わば魂と魂が交わるだけで『すべて』がわかるのだ。

杏子「うん……そう、だな。
わかった、確かにその通りだ。どこまで出来るかわからないけどやってみるよ」



93 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:10:33.91

……………………

『円環の理』は、まったく同じ時刻にマミとなぎさの元にも現れた。

概念にとって、同時刻に複数の場所に現れるなど造作もない事である。

その時、杏子と同じようにマミとなぎさもすべてを理解したのだった。

『闇』という存在や、今のまま放っておけば、自分たちやほむらの行く末がどうなるか。

そして、かつて過ぎ去った様々な過去と、これからあったかもしれない無数の未来を。

魔法少女や魔獣、そして魔女。

どうしてこのような世界が生まれたのか、こうなる前の世界はどんなだったのかを……



94 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:13:19.06

─────────────────────

マミ「なぎさちゃんは……もう魔法少女じゃないのよね」

なぎさ「はい」

そう。以前は魔法少女であり、さやかと同じく『円環の理』の一部でもあったなぎさは、
今や普通の人間となっている。

ほむらの再編後気が付いたらそうなっており、
先日『円環の理』と接触するまではかつての記憶すら完全に失っていたのだ。

これはマミと杏子も似たようなもので、
二人も今は無い世界の記憶を取り戻すまでは、百江なぎさという存在自体を忘れていた。

また、やはりさやかも、円環の記憶を取り戻すまではなぎさの事は覚えていない。



95 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:14:41.15

マミ「これは……」

神に近しい存在であった、さやかとなぎさが宇宙再編に巻き込まれたのは偶然だ。これ自体にほむらの意志は無い。

だが、なぎさがただの人間として生きるようになっていたのは。

魔法少女という世界から完全に切り離されていたのは……

なぎさ「……はい。きっとほむらの……」

二人の間に訪れる、わずかな沈黙。



96 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:16:23.03

なぎさ「──えっと、つまりなぎさたちがするべき事って……」

マミ「私、佐倉さん、なぎさちゃん、美樹さんが集結する事」

己の使命を果たす為、『円環の理』が助けを求めたマミたちが。

マミ「そして、私たちで暁美さん──いいえ。
『闇』に立ち向かい勝利する事……ね」

なぎさ「うーん。
今のなぎさは戦闘で役にたてないので、とっても残念です」

マミ「それは仕方ないわよ」

ショボンとうな垂れるなぎさに、マミはほほえんで言った。



97 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:17:54.56

マミ「まあとにかく、私たちは私たちが出来る事をするだけだわ」

なぎさ「はい。
でも、あと三日で世界が滅ぶかもっていうにしては『きんぱくかん』がないですね。
自分でいうのもなんですが」

苦笑するなぎさ。

マミ「期間が短すぎて、かつ話のスケールが大きすぎるからでしょうね。
正直ピンと来てない部分はあるのだと思うわ」

『円環の理』の気持ちはわかれど、決して同化したわけではないからそれは当然だ。

これは、マミたちが概念(純粋な精神生命体)でない限界なのだろう。

しかし、それでも彼女たちは自分に出来る精一杯を動いている。迷いは一切無しに、積極的に。

世界が滅びる云々はピンと来ていないのに、なぜか?



98 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:19:11.57

仲間『たち』を助けたいからだ。

マミ「ともあれ、なぎさちゃんは常に安全第一で居てね。
いつも私や佐倉さんがついていられれば良いけれど、そうもいかないから……」

もしなぎさが迂闊に動いて、マミ・杏子の居ない時に、
ほむらの使い魔はもちろん、最悪彼女自身に襲われたりしたらどうにもならないだろう。

なぎさ「そうですね」

ニッコリと笑い、なぎさは残ったチーズを一気に頬張る。



99 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:20:06.97

マミ(……鹿目さん、任せておいて)


ほむら『この時を、待ってた……』


マミ(もう誰にも、悲しい思いも顔もさせたくないから。させないから)


ほむら『やっと……掴まえた』


マミ(このまま全部消えてしまうなんてあって良いはずはない。
みんなを助ける力になれるのであれば、私はいくらでも頑張れる……!)



100 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:21:42.21

─────────────────────

次の日の放課後。なぎさは、見滝原中の近くにやってきていた。

ここは杏子たちの通学路であり、なぎさの通学路でもある場所だ。

時間が時間の為、チラホラと見滝原中の生徒が下校する姿がある。


タッタッタッタッ!


なぎさ「チーズっ、チーズっ♪」

実は今日、見滝原中の近くのスーパーでチーズの安売りを行っており、なぎさはそこへ向かう途中だったのだが、
どうせならマミを誘おうと彼女は先にこちらにやって来たのだった。



101 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:22:55.73

なぎさ(こんな時です。ごはんくらい宇宙一おいしいものをおナカいっぱい食べないとっ!
チーズはお買い物するだけでも最高に楽しいですしっ)

今回の件でなぎさが出来る事は、数自体は多くない。

その分とても重要な役割を担っているのは他のみんなとまったく同じではあるが、
そんな彼女なりに他に出来る事を考えて、実行しようと動いたのである。

もちろんなぎさは、スーパーの位置、誘うのが元々付き合いのある相手である事などを考えたら、
ほむら(使い魔)に見付かっても怪しまれはしないだろうという計算をちゃんとしている。



102 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:23:57.60

なぎさ「チーズ、チーズっ♪」


タッタッタッタッ!


なぎさ「なぎさのチーズっ!♪」

そのまま走り、大きな植え込みのある石垣を曲がり……


ドンッ!


なぎさ「ヂーィッ!?」

──これは、完全に偶然だった。

ほむら「…………」

なぎさ(ほ、ほむら!)

なぎさが、暁美ほむらにぶつかったのは。



103 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:26:19.49

なぎさ「ご、ごめんなさいです……」

ほむら(……百江なぎさ、だったかしら)

ほむらはもちろんなぎさを知っている。

彼女が今はただの人間である事も。

ただし、今のなぎさに円環の一部だった頃の記憶が戻っているのは知らない。

ほむら「…………」

体勢一つ崩さず、完全に冷静なままのほむらは、なぎさを一瞥すらせずに再び歩き出す。

なぎさ「ま、待ってください!」

気が付いたら、なぎさはほむらを呼び止めていた。



104 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:27:32.93

ほむら「……なにかしら?」

ここで初めてなぎさの顔を見るほむらだが、その顔は無表情である。

なぎさ「あ、えっと……
あの、どこかで会ったことありませんか?」

ほむら「無いわね」


スタスタ。


なぎさ「ま、待ってくださいっ!」

ほむら「…………」

再びなぎさに顔を向ける彼女の表情は、やはり動かない。



105 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:28:52.88

なぎさ「ここで会ったのもなにかの縁ですっ。
なぎさと一緒にスーパーへいきましょう!」

ほむら「?」

なぎさ「なぎさ、今チーズを安売りしているスーパーにいこうと思ってたんです。
お姉さんも一緒にいきましょうっ!」

ほむら「……あなたはなにを企んでいるのかしら?」

低く暗い声に、しかしなぎさはアッサリと返す。

なぎさ「お姉さんと一緒にチーズを食べることをたくらんでますっ!」

ほむら「…………」



106 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:30:19.23

なぎさ「おごりますよっ」

やはり立ち去ろうとするほむらだが、なぎさは追いすがる。


ザワザワ……


ほむらがチラと辺りに意識をやると、そんな二人の姿に周囲の生徒が微かに騒ぎ始めていた。


「めずらしい。暁美さんが鹿目さんや美樹さん以外の人と居るなんて」

「知り合いなのかな? 可愛い子だね」


ほむら(……目立っているわね)

それは、ほむらとしては望むところではない。

彼女には、周りの一般人に気付かれずに軽く力を使ってさっさとなぎさを振り切る事も、殺害するのだって簡単だ。

だがほむらは、今やただの一般人でしかない小さな少女相手にわざわざ力を使う気にはなれなかった。



107 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:31:40.23

ほむら「……良いでしょう。
そのスーパーとやらに付き合ってあげる」

彼女にとってはそれもまた一興なのか? それとも……

なぎさ「やったあ! じゃあ早速いくのです! チーズがなぎさたちを待っているのですっ!」


ぐいっ!


ほむら「…………」

手を掴まれて引かれるが、ほむらは特に抵抗しなかった。



108 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:32:52.37

……………………

………………

…………

……

なぎさ(こんなことして、なぎさはなにをしようとしているのでしょう?)

ほむらとともに歩きながら、なぎさは思う。

なぎさ(ほむら……)

間近で彼女の顔を見たら、『円環の理』とともに救済に向かった時の、
悪魔になる前のほむらの姿がより詳細に蘇ってきて……

考えるより先に、なぎさは彼女を呼び止めていた。

顔付き(顔立ち、ではない)はあの頃とは違う。

しかし、放つ空気は以前とまったく、全然変わってはいない──そんな風に感じたなぎさは、
どうにもこのままほむらと別れる事が出来なかったのだ。

なぎさ(ごめんなさいですマミ。
マミとのチーズ・セールはまた今度でっ)



109 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:34:24.85

─────────────────────

なぎさ「はむはむはむはむはむはむはむはむ」

ほむら「…………」

近くの公園の、石畳で出来た階段に二人きりで座り、
彼女たちはLLサイズの袋一杯に買い込んだチーズを食べていた。

なぎさ「はむはむはむはむはむはむはむはむけぷ。
すみませんでしたお姉さん、なぎさウッカリしていました」

ほむら「別に」

先ほど寄ったスーパーにて意気揚々とチーズ・コーナーに向かっていったなぎさだが、
実は彼女は財布を忘れていたのである。



110 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:35:49.57

完全に天然の為に本気で気落ちするなぎさだったが、ここでほむらが言ったのだ。


ほむら『……私が買ってあげるから好きなのを好きなだけ選びなさい。
といっても、手持ちのお金以上の物は買えないけれど』


なぎさ「やっぱりチーズはおいしいですねっ♪」

ほむら「……そうね」

なぎさ「お姉さんも遠慮しないでドンドン食べてくださいっ!
って、お姉さんに買ってもらったチーズですけど。
…………チーズ……」


ゴクッ。


ほむら「……あなたこそ遠慮しないで食べなさい」

なぎさ「ありがとうございます! 本当にお姉さんには感謝ですっ!
このお返しはいつか必ずしますねっ! 必ず、絶対っ」

ほむら「強調しすぎよ。
そもそも気にする必要は無いわ。
お金とかも、今の私にはまったく執着が無いものだから」



111 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:37:28.69

なぎさ「…………」

ジッとほむらの顔を見るなぎさ。

ほむら「……なにかしら?」

なぎさ「お姉さん、妙に落ち着いてるなぁと思いまして」

ほむら「?」

なぎさ「こういうの、『たっかん』っていうんでしたっけ」

ほむら「達観?
……どうなのかしらね」

ふと、ほむらは考え込む。

確かに彼女は、過去よりは様々な執着が薄れてはきている。

しかし。

ほむら(その表現はどうにも……しっくり来ないわね)



112 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:40:13.87

なぎさ「お姉さん?」

ほむら「……いえ、そんな大層なものではないわ。
ただ単に──そう、諦めているだけよ」

なぎさ「あきらめて?」

首を傾げるなぎさを見て、ほむらは『私はなにを言っているのかしら』とやや自嘲気味に笑った。

ほむら(でも、そうか。まだこの方がしっくり来るわ。
諦めて、『捨てて』いるのね。まどか以外を)

だからといって、今のほむらにはそんな事はどうでも良いのだが。



113 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:41:39.67

なぎさ「なんだかお姉さん……
そういえばお姉さんってお名前はなんですか?
なぎさは、百江なぎさですっ!」

もちろんなぎさはほむらの名前を知っているが、
この次元では持っていないはずの知識なので自分から言う事は出来なかったし、
タイミングの良い流れになったのでここで改めて確認する。

ほむら「ほむら。暁美ほむらよ」

なぎさ「おおっ! 『ほむら』って呼んでも良いですかっ!?」

ほむら「構わないわ」



114 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:44:06.90

なぎさ「それにしてもかっこいい名前ですねっ!」

ほむら「……そうかしら?」

なぎさ「はいっ。なんだかこう、『燃えあがれ~っ!』て感じでっ」

ほむら「!」


ズキンッ。


なぎさの言葉に、ほむらは自分の胸が軋んだのがわかった。


まどか『燃えあがれ~! って感じでカッコ良いと思うなっ』


彼女が思い出すのは、昨日のようにも果てしない昔にも思える、ループ中に幾度となくあった時。



115 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:45:06.65

ほむら「…………」

忘れられない。忘れられるはずがない。

彼女にとってそれは、まどかと過ごした大切な時間の一つなのだから。

ほむら「……まどか」


ほむら『いずれあなたは、私の敵になるかもね。
でも構わない』


世界再編の後、学校の渡り廊下でほむらはまどかにそう言った。

だが、そんなもの本当に本気な訳がない。



116 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:46:45.24

まどかを気が狂いそうなほどに求め・焦がれ、結果ほむらは『悪魔』にまでなったのだ。

そんな相手なのだから、敵対をしても構わないなどありえない。

本当にそうだったら、あの時『円環の理』に戻りかけたまどかを止めなどしなかった。

あの時の必死の行動は、ほむらがまどかと敵対するのを嫌がったから。そんな事態を拒否したからに他ならない。

しかもそうなってしまえば、今みたいにまどかの側に居る事だってもう出来なくなるだろう。

そんなもの、ほむらにはとても受け入れられなかった。

ほむら(でも、しょうがないとは思う……)

これは間違いない。今のほむらは、まどかの『すべて』の本音を知っているからこそ、思う。

だが、だからと言って『受け入れられる』かといえばそれはまた別の話だ。



117 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:48:00.20

ほむら「……まどか……」

なぎさ「ほむら……?」

ほむら「……!」

気が付くと、ほむらは涙を流していた。

ほむら「ふふっ。どう……したのかしらね。私……」

なぎさ「どこか苦しいのですか? それとも、なにか悲しいことがあったのですか?」

心配そうにほむらを見つめるなぎさ。

なんの裏も無い、心の底からの心配。

だからだろうか?

ほむら「なんでもないわ。
つまらないところを見せてしまったわね」

めずらしく、ほむらは『笑った』。



118 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:49:34.20

ほむら「──っ」

だが、急に強いめまいを覚えた彼女は、顔をてのひらで押さえて俯いてしまった。

なぎさ「ほむら、調子がわるそうです。横になるべきです」

ほむら「……問題無いわ」

なぎさ「でも……」

ほむら「大丈……
──っ!!?」


グアッッ!!!


なぎさ「!?」

隣に座るほむらの全身から真っ黒な『なにか』が放出される様を目の当たりにしたなぎさは、驚いて言葉を失う。



119 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:50:21.20

ほむら「ぐ……うっ……」

なぎさ「ほ、ほむらっ!」

ほむらの苦しげな呻きに我に返ったなぎさは、その場に倒れかける彼女の肩を慌てて掴む。

なぎさ「……ほむら?」

ほむら「…………」

しかし、ほむらは気を失っていた。

なぎさ「ほ、ほむらぁぁぁぁぁっ!!!」



120 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:51:43.33

─────────────────────

ほむら(なんなの……かしらね。
ずっと私を蝕み続けるこの気持ちは)

ただ闇が広がる空間に一人座り込むほむらには、前からずっと『予感』があった。

きっと、長いループすらくぐり抜けて自分が進んできた道はもうすぐ終わる、と。

やがてまどかが敵となったその後に──

この予感自体は宇宙を再編した時からあったが、それは日に日に強くなってきていた。

そして、彼女に理由はわからないが、昨日唐突に『予感』は『確信』となった。

『確信』というのは、やはり『予感』とは違う。

よりダイレクトに、ストレートに、心を抉ってくる。



121 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:52:25.72

──……もしすべてが終わってしまったとしたら。
すべてを、まどかを失ってしまったとしたら……
私はどうなるのだろう。どうするのだろう──

そんなほむらの問いかけに、答えてくれる者は居ない。

ほむら(……嫌だ、な……)

闇の中、彼女は震えた。

……自身を取り囲む『闇』が、ほむらには得体のしれない生き物のように見えるのは気のせいなのだろうか──?



122 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:53:26.24

─────────────────────

なぎさ「…………」

なぎさは、ほむらを膝枕していた。

ここが階段の真ん中辺りで、そんな場所にほむらの体を倒したままには出来ないし、
なぎさの力では彼女を他の場所へ運ぶ事など出来ないからだ。

なぎさ(……さっきほむらから出てきたあの黒いの……
たぶん、あれが『闇』──)

なぎさは、思い返すだけで背筋に冷たいものが走るのを感じた。

きっとこれは、彼女が『それ』の知識を持ち、知っているからというだけではない。

人……いや、生き物としての本能が恐れているのだ。

すべてを滅びに導く『闇』を。



123 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:55:06.97

なぎさ(ほむら……苦しそうだったのです)

これは別に、体調に関してだけではない。心も、だ。

なぎさ「……!」

なぎさは、自身の膝の上で気を失っているほむらの目尻に、うっすらと涙が浮かんでいるのに気付いた。

なぎさ(……なんだかほむらは、助けをもとめているように見えるのです)


そっ。


優しく、ほむらの髪を撫でるなぎさ。

なぎさ(サラサラしているのです)

『闇』と同じ漆黒だが、『闇』には無い暖かさを感じる。

なぎさ(……もし、なぎさの勘が正しければ……
ほむらが本当に助けをもとめているのであれば……)

──なぎさは、出来るコトをしますよ──

なぎさ(ううん、なぎさだけじゃない。マミや杏子だって。
さやかだってです)



124 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:56:28.12

ほむら「う……」

なぎさ「──あっ、ほむら。気がつきましたかっ?」

ほむら「ん……」

軽く頭を振りながら、ほむらは上体を起こした。

ほむら「私は……眠って……?」

まだ意識が朦朧としているのか、ほむらの口調はおぼつかない。

なぎさ「はい」

ほむら「……そう。どうやら、迷惑をかけてしまったみたいね」

言いながら、彼女は少し乱れた髪の毛を左手でかき上げる。

……ほむらは気付いていない。

その左手が、左耳の辺りをやけにスムーズに通過した事を。



125 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:57:50.56

なぎさ「とんでもないです。気にしないのが良いですよ」

ほむら「…………」

なぎさにそうは言われるが、ほむらは自分の全身から彼女が知らない『なにか』が溢れ出した時の感触を覚えている。

不安で、恐ろしく、嫌悪感があり、絶望に沈むような……

ほむら(あれは……なんだったのかしら……)

──もしかして──

ほむら(『あれ』が、私が悪魔になった瞬間からずっと感じていた、得も言われぬ予感の正体……?)

ブルッと、ほむらが大きく震えた。

なぎさ「……ほむら、なにか不安ですか?」

どこまでも邪気が無く、心配そうになぎさが問いかけてくる。

ほむら「……いえ」

しかし、ほむらは首を横に振った。

ほむら「平気よ」

なぎさ「ほむら……」



126 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/13(月) 20:58:59.06

ほむら(たとえそうだとしても、今さら誰にすがるのもありえない。
なぜなら、私は『悪魔』なのだから)

と、ほむらはいつもの微笑を浮かべようとしたが……

なぎさ「…………」

それは、どう見ても上手く出来てはいなかった。

ほむら「……まどか……」

無意識に、ほむらはその名前をつぶやいていた。

ほむら(まどか、まどか、まどか、まどか、まどか──)



130 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:49:43.63

─────────────────────

しばし時は遡り、見滝原中の通学路でほむらとなぎさが出会い、スーパーへと向かい始めたのと同じ頃。

……………………

………………

…………

……


さやか「でやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

さやかの剣が、

杏子「はあッ!」

杏子の槍が、

マミ「ティロ・フィナーレッ!」

マミの大砲が、彼女たちを取り囲む魔獣の集団をあっさりと全滅させた。



131 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:50:52.38

マミ「ふっ……
終わったわねっ!」

河原での戦いが終わり、三人は一息吐く。

さやか「いやー、あたしちゃん大絶好調! もう魔獣なんて相手にもならないねっ!」

マミ「美樹さん、あまり調子に乗りすぎてはダメよ」

さやか「てへへ、ごめんなさ~い」

さやかは舌を軽く出して明るく謝ると、「そうだ!」と切り出す。

さやか「マミさん、あたしマミさんの紅茶が飲みたいなーっ」

マミ「 ふふっ、美樹さんたら。
──そうね、まだそんなに遅い時間じゃないし、家に行きましょうか?」

さやか「やったあ! さっすがマミさん大好きだぜ~っ!」

杏子「おっ、良いね!」

無邪気に喜ぶさやかと杏子。



132 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:51:51.69

杏子『とりあえずなぎさは完全に仲間になったんだよな?』

と、さやかと笑い合いながら杏子がマミにテレパシーで語りかける。

マミ『ええ。意思の疎通も完璧よ』

例によって、この辺りもメールで杏子に報告済みである。

杏子『よし、じゃあ残るはさやかだけだな。
あと二日あるし、まあ問題は無いか』

マミ『そうね』



133 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:53:32.48

実際二人は、さやかに関しては『闇』が氾濫をする当日──出来れば直前に事情を話すつもりである。

理由は、『円環の理』が動いている事を伝えた結果、
さやかの内に眠る円環のカケラが目覚める事によって、ほむらがそれを察知するのを防ぐ為。

そして。

そうなってしまったら確実に、前述した『円環の理』を排除しようとする『摂理』がまたさやかの記憶を奪い、
ほむらもこの次元での『円環の理』の介入を防ごうと、
その概念の息のかかった杏子たちに襲いかかってくるはず。

これではさやかを味方にしてもまったく意味が無くなるし、ほむらと戦闘をするにもまだ早すぎるのだ。

『闇』は、氾濫を迎えるまではほむらの内にある──
つまり、『闇』が氾濫を始めなければ攻撃しようにもほむらを巻き込んでしまうのである。

これは、杏子たちや『円環の理』の望むところではない。

よって、味方になるイコールほむら(『闇』)との戦闘が始まると予想出来るさやかの参戦は、
『闇』が氾濫してほむらの中から出てくる当日、出来れば直前でないと駄目という訳だ。

この時には、『摂理』の問題も解消している計算もある。



134 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:55:43.01

マミ『まあ、今はこうやって出来るうちにリフレッシュしておきましょう』

杏子『だな。こういうのも大事か。
これが、事が終わるまでに仲間と休息が取れる最後かもしれないしな』

ある程度の計算は出来ても先の事なんてわからないのだから、
運命の日の当日である明後日は最初から除外するにしても、
明日すら休息どころではなくなる不測の事態が起こる可能性だってあるのだ。

最善は願うが、キチンと最悪を想定してそれに備える。

つまり、出来る事は出来る間にやっておこうという考えである。

マミ『といっても、なぎさちゃんを呼べないのは残念だけどね』

杏子『ん? 急な話なのは間違いないが、声かけるくらいは良いんじゃないか?
元々お前とは知り合ってたんだし、新しい友達紹介する~みたいなのでも……
……あ、そうか』

マミ『ええ。美樹さんには『円環のカケラ』があるからね。
前に彼女と同じ存在だったなぎさちゃんとは、まだ会わせるのは……』

杏子『変に刺激は与えたくないよな。
なんか色々ややこしくてめんどくさいが、まぁあと数日の辛抱だ。
全部無事終えられたら、改めて全員でパーっとしようよ』

マミ『ええ、そうね』

優しい声の杏子に、マミはそう答えた。



135 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:56:39.99

さやか「ねえねえ、早く行こうよっ」

マミ「えっ?
──あ、うん。そうね。それじゃあ行きましょうか」

さやか「は~いっ♪」

杏子「早くマミの紅茶と美味しいお菓子が食べたいや」

こうして、彼女たちは河原を後にした。



136 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:57:50.54

─────────────────────

杏子「ん?」

マミの家へと歩を進める途中の暗くなってきた街角で、杏子は向こうからやってくる、とある人物を発見した。

杏子「……まどか」

彼女のつぶやきに、今話題のドラマの話で盛り上がっていたマミとさやかも前を向く。

まどか「あっ、みんな!」

杏子たちの姿を認めたまどかが、笑顔で走り寄ってくる。

さやか「おう親友っ! どうしたんだこんな所でーっ!」

まどか「わっ!」

まどかが自分たちの前に立ち止まったと同時に、さやかが彼女に抱きついた。



137 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 16:58:50.43

さやか「くぅ~やっぱりまどかの抱き心地は最高だわ!」

まどか「く、苦しいよ、さやかちゃん///」

町中で抱きつかれたからか、はたまたさやかにこうされるのに純粋に照れたのか……

頬を赤らめるまどかを見て、

さやか「まどかは可愛いな。私の宝物だ」

さやかが少し気取った口調で言った。

マミ「?」

杏子「あー……今さやかのヤツ、昔のゲームにハマっててな」

今のセリフは、某ゲームのキャラクターのものらしい。

杏子はさやかと二人で遊ぶ事も多い為、それを知っているのだった。



138 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:00:21.63

杏子「で、どうしたんだい? こんな所で」

まどか「さっきまで仁美ちゃんとお買い物に行ってて、その帰り」

仁美──フルネームを志筑仁美という、まどかたちのクラスメートで友達の一人。

気品のある物腰と雰囲気を漂わせながらも、意思の強さを合わせ持つお嬢様だ。

杏子「おや、あいつと二人でなんてめずらしいじゃないか」

まどか「えっとね、ほむらちゃんも誘ったんだけど断られちゃったし……」

さやか「まあよくある事だね」

まどか「仁美ちゃん今日は習い事が無かったんだ」

さやか「あー……なるほど、恭介はバイオリンの練習で忙しいだろうしねぇ」

まどか「そうなんだよ~」

さやか「ははっ、あんな可愛い彼女ほっといて、ホントあいつはしょうがない奴だな」

杏子・マミ『…………』

明るく笑うさやかからは、悲しみや未練といった負の感情はまったく見受けられない。



139 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:01:52.48

──上条恭介。

やはりまどかたちのクラスメート・友達であり、仁美の恋人であり、さやかの幼なじみであり……

かつてのさやかの想い人。

まどか「さやかちゃんたちはどうしたの?
……あれっ? 今日はさやかちゃんと杏子ちゃんは用があるって言ってなかった?」

杏子・マミ『!』

さやか「あ、あー、そうなんだよ。えっと……」

無邪気に首を傾げるまどかに、さやかが『やばい』といった様子で目をそらした。

いつもはこのメンバーで下校するなり遊びに行くなりする場合も多いのだが、
今日は放課後すぐに魔獣の気配を察知したので、
さやかと杏子は用があるといって即教室から抜け出したのだった。

ほむらは魔獣の存在を知っているし、近辺の魔獣退治は杏子たちが行っているのも把握している。

ほむらの様子も気になる杏子(マミも)だったが、運命の日まではまだ数日あり、
魔獣退治はいつもの行動だからそちらを優先したのだ。



140 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:02:51.81

──今のまどかは、魔法少女や魔獣の件はなにも知らない。

つまり、内に『円環の理』との繋がりを持つとはいえ、
少なくとも今の彼女は本当にただの一般人だと考えて良いだろう。

だが、今さやかたちが問題としているのはそこではなく……

さやか(これだと、まどかや仁美をハブにしたみたいじゃんっ!)



141 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:03:48.47

杏子「──見付かっちまったから言うけど、実はこないだ新しい喫茶店を発見したんだよ。
で、今日さやかと二人でこっそり行ってみて、良い感じだったらまた今度みんなで行こうと思ってさ」

と、横から杏子がフォローを入れてきた。

さやか『杏子!』

テレパシーで声をかけてくるさやかに、杏子はため息まじりで答える。

杏子『ここは合わせろ。上手くごまかしてやるから。
つか、そんな態度取ったら不信感しか与えねーだろ』

さやか『うう、すまんよぉ』



142 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:05:08.79

まどか「へえ、そうだったんだ~」

杏子「いきなりみんなで行ってよくない店だったらアレだし、なんつーか……サプライズってのをしてみたくてね。
黙ってて悪かった」

まどか「ううん、謝らないで。
ただ気になっただけだから、気を使わせちゃったなら、わたしこそごめんね」

まどかが、いつもの優しい笑顔を見せる。

まどか「マミさんも一緒に行ったんですか?」

マミ「え?
あ、うん。そうなのよ」

唐突に話を振られ、マミが慌てた様子で返事をした。

杏子「といっても、あたしとさやかが店に入ったら出くわしたって感じだけどな」

杏子は気付いていたのだが、さっきまでマミは視線を泳がせていた。

これはたぶん、彼女も上手く言い繕おうとしていて、しかしそれが出来ずにいた為だろう。

杏子(やれやれ。さやかにしろマミにしろ、こういう事態には弱いんだから)

『ま、突発的に嘘吐けるあたしの方が、人としてはよくないんだろうけどな』と、杏子は人知れず苦笑した。



143 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:06:29.98

マミ「出くわしたって……佐倉さん酷い……」

杏子「ああ言い方が悪かった。悪かったからそんな目で見るなよ」

マミ「うふふっ。
──そうだ鹿目さん、これからみんなで私のお家に行ってお茶でも飲もうかと思ってたんだけど、
よかったらあなたもどうかしら?」

まどか「えっ、良いんですか!?」

マミ「もちろんよ」

さやか「だね。
まどかも来いこいっ!」

まどか「うんっ、じゃあお邪魔させて貰おうかな」

と、四人は再び歩き出した。



144 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:07:40.20

杏子『おい、マミ……』

マミ『わかってるわ。きっと、鹿目さんは暁美さんに常に見張られている』

まどかに仇なす存在が現れたら駆逐する為に。自分の『まどか』を守る為に。失わない為に。

マミ『だから迂闊な事は出来ないけれど、お友達を誘うくらい別に普通でしょう?
逆に、ここで誘わない方が不自然だと思うけれど』

杏子『まあそうだな。
細かい事は抜きで、まどかとも遊びたいしな』

マミ『そういう事ね』

まどかの前では魔獣・魔法少女関係の話は出来ないが、別に彼女の前でまでそんな話をしようとする必要も無い。



145 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:08:39.93

まどか「ところで、さっき言ってたお店ってどんな感じだったんですか?」

マミ「とってもオシャレで良いお店よ。
──ね、佐倉さん」

杏子「おう。あたしとさやかの見立てに間違いは無かったよ。
今度行こうぜっ」

まどか「楽しみだなぁ♪」

杏子「まあ、みんなを驚かせたかったのにマミが居たのは残念だったけどな~」

マミ「私、居たら残念なの……?」

杏子「あ~違う違う。めんどくせーなぁもう」

まどか「ふふふっ♪」

さやか「ははっ! でもやっぱ、マミさんはこの手のお店には強いや!」



146 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:09:46.89

─────────────────────

マミの家での楽しい集まりも終わり、杏子とまどかは二人で夜の河原を歩いていた。

まどか「ごめんね杏子ちゃん、わざわざお家まで送って貰っちゃって」

杏子「ん? 気にするな」

これはさやかも、『あたしも一緒に』と申し出はしたのだが、実は今日彼女は宿題を忘れていた。

その罰として今回他の人よりも多めの宿題を出されていた為、
それを杏子に指摘されたさやかは断念せざるを得なかったのである。

こういう事自体はこれまでにも何度かあったので、これもほむらの件は大丈夫だ。



147 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:10:40.83

まどか「わーっ、空が綺麗だねっ!」

杏子「そうだな……」

今晩は空気が澄んでいる為、美しい星々が鮮明に見える。

杏子(ムカついて、悲しくなるぐらいキレイだな。
……ちくしょう)

まどか「……あのね、杏子ちゃん」

ふと、まどかが足を止めて優しい瞳で杏子を見つめた。

まどか「ありがとう」

杏子「うん? どうした急に」

まどか「わたしに優しくしてくれて」

杏子「?」



148 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:11:56.45

まどか「わたしね、転校してきて不安だったんだ。
学校で上手くやっていけるかなって。クラスのみんなと仲良く出来るかなって」

杏子「なーに言ってんだ、別に人と関わるのが苦手って訳でもないヤツが」

面と向かって礼の言葉を言われたからだろう。そう言う杏子は早口で、頬がやや赤かった。

まどか「そんな事ないよ」

杏子「謙遜も度が過ぎると嫌味だぞ、まったく」

実際、まどかは転校してきてからすぐにクラスに馴染み、今はクラスメートのみんなから好かれる少女となっていた。

飛び抜けた能力がある訳ではない彼女がこうなれたのは、ひとえにその人間性が大きい。

気が弱い所があるが、誰よりも優しく頑張り屋で、そんな彼女に悪意を持つ人間はそうそう現れるはずはなかった。

杏子(まあ、いつもほむらのヤツが守ってるからってのもあるかもだけど)



149 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:13:10.53

まどか「でもね、今こうして楽しい毎日を過ごせているのは……
杏子ちゃんたちが居てくれたからなんだよ」

まどかは言う。そうやってみんなが手を引いてくれたから、今の幸せがあるんだよ、と。

杏子「……やめろよ。それが事実でも、クラス内で一番最初に動いたのはさやかなんだ。
あたしも仁美も、あいつがあんたとお喋りしてる流れで声をかけたんだから」

別の意味で一番にまどかと接触したのはほむらだが、
今の話題に沿った意味で最初にまどかに話しかけたのはさやかだった。

そしてまどかは、いつしかほむらや、気が付けば学年の違うマミとも良い交流を持てていた。



150 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:14:28.72

……余談だが、上記のまどかとほむらが接触した時に、まどかは円環に目覚めかけた。

結局それは防がれてしまったのだが、それをしたのは、前述した『円環の理』を否定・排除する働きを持つ、
ほむらの強烈な意思によってこの次元に存在する『摂理』である。

きっかけがあれば真の姿に目覚めかけるまどかではあるが、その力が表に出るほど覚醒しかけてしまうと、
さやかと同じく、やはり外からは排除されて再び中へと押し込められてしまうのだ。

もっともさすがにまどかは本家本元だからか、
その為に必要な力は、さやかに対するそれとは比にならないようだが……



151 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:15:34.59

まどか「うん……
でもね、ありがとう」

杏子「っだーっもうやめやめ! あたしはこういうのは苦手なんだっ!」

どこまでも真摯な表情と言葉を与えてくるまどかに、杏子は降参といった様子で歩き出した。

杏子「つか、さ。
そういうのは他のヤツにも言ってやりなよ。
みんな喜ぶと思うよ」

──いや、ほむらだけは苦しむのかな……──

そう、杏子は思った。



152 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:16:54.96

まどか「えへへっ、でもやっぱりこういうのは恥ずかしくって……なかなか、ね」

杏子「あー、それはわかる。
人に感謝するとかって照れ臭いんだよなー。
本気であればあるほどさ」

まどか「うんうん」

杏子「まどかでもそうなんだな」

まどか「そりゃあそうだよ~。わたしだって人間だもん」

杏子「……ああ、そうだな」

──人間、か──

杏子(……なあほむら、あたしは……あたしとまどかは、この世界が好きだよ。
ううん、あたしだけじゃない。
マミも、きっと仁美も、恭介のヤツだって。さやかだってそうさ)

人ならざる存在になった者や、かつて命を失った存在がこうやって共に笑顔で過ごせる世界。

これは奇跡を超えた奇跡。

そこだけを見れば、優しい、完璧な楽園だ。



153 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:17:28.90

杏子(でもな。
あたしたちはそれを壊さないといけないんだ)

──救う為に──



154 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:18:16.50

まどか「ほむらちゃんとも、こうやって放課後も遊べれば良いのになぁ」

杏子「ははっ、あいつは付き合いが悪いからな。
昼をよく一緒にするようになっただけで、結構な進歩だよ」

まどか「あははっ、だよねっ」

まどかと笑い合う杏子のほほえみは、どこか寂しげだった。



155 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:19:10.17

……そして、杏子は気付いていた。

先ほど街角でまどかと出会ってからずっと、ほむらの使い魔を見なかった。

杏子(……この世界になってから、まどかが居るところには多かれ少なかれ必ず居たもんだがな。
こいつが居ない場所でだって、チラホラと)

しかし姿が見えないのはもちろん、気配すらどれだけ探っても、少なくとも近くには一切無い。

杏子(異常だ。
ほむらのヤツ、なにかあったのか?
それとももう自分の力を制御出来なくなってるのか……?)



156 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:20:24.93

─────────────────────

杏子「ふうーっ」

あれから家に帰り、次の日の準備などをしてからの入浴後。

部屋へと戻ってベッドに横になると、杏子は大きく息を吐いた。

ちなみに、さやかは宿題たちとの激闘を終えた疲労で、隣の部屋ですでに眠っている。

杏子「…………」

これから自分がしなければならない事と、数時間前に見たまどかの笑顔。

そして、ほむらの事。

杏子(使い魔の異変? もな……)

あれこれを考えると、杏子は自分の心が曇るのを感じる。



157 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:22:00.18

杏子「……ダメだ。一人でこんな事考えてたって仕方ねぇ」

大きく頭を振り、杏子が『マミやなぎさに話してみるか』と携帯に手を伸ばした、
(杏子は、なぎさの番号やアドレスはすでにマミから聞いている)その時。

部屋の暗がりから──

杏子「!」

とある存在が現れた。

白い体に長い耳。それは……

キュゥべえ「やあ」

キュゥべえ──インキュベーターだった。



158 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:23:46.94

宇宙存続に必要なエネルギーを集める為に動いている、地球外生命体。

しかし、今の彼(インキュベーターに性別は無いのだろうが、便宜上こう述べる)は、
暁美ほむらの奴隷のような存在に堕ちているはずだが……

杏子「……お前か」

キュゥべえ「ふむ……
──久しぶりだね、佐倉杏子」

杏子「……ああ」

実は、ほむらが作り変えた世界では、杏子・マミ・さやかたちはキュゥべえとは面識が無かった。

もしかしたらキュゥべえは、奴隷として働いている時に彼女たちの姿を目撃くらいはしていたかもしれないが。



159 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:25:07.30

杏子(思えば──あたしがさやかの家に居候させて貰ってるのもだが──
この時点で、もうどうしようもなくおかしかったんだよな。)

本来、魔法少女という存在になるには、キュゥべえと『契約』をしなければならない。

つまり、魔法少女である彼女たちがキュゥべえと出会った事がないなどありえないのだ。

だが、これまではそれを疑問に思う事すらなかった。

いや、思う事すら『出来なかった』。

これは、今までなかなかに深い付き合いをしてきたまどかに、
魔法少女の事などを『当たり前のように話さなかった』、『当たり前のように気付かれなかった』のも同じである。

この次元は、そういう風に作られていたのだから。



160 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:26:33.04

ちなみに、この次元でも魔法少女が魔女と呼ばれる異形の存在になる事はない。

この宇宙には円環へと導く概念の手が届かない以上、魔法少女の末路は、本来の『ソウルジェムを砕かれて死亡する』か、
『絶望の果てに魔女』になるかの二択しかないはずだが…

ここが元々は円環のものである力にて再編された次元だからか、
さすがに元魔法少女であるほむらもこれには思うところがあったのか、あるいは両方か。

本当なら魔女化する状況に陥った魔法少女はそうはならず、消滅する事になっている。

これに関しても、そのように作られているからだ。



161 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:27:37.44

ただし、魔女化を免れた魔法少女の行く末は、決して円環へと導かれる訳ではない。

あくまで『消滅』である。

これは、宇宙再編時にほむらが振るった力の元がなんであれ、あくまでそれの一部でしかない限界なのだろう。

あるいは、ほむらが例の『摂理』を作り上げてしまうほどに、
『円環の理』を徹底的に否定しているというのもあるのだろうか。

杏子「早速本題に入ろうじゃないか。
用も無くここへ来たわけじゃないんだろ?」

キュゥべえ「もちろんだよ。
──それじゃあ始めようか、この宇宙を存続させる為の対話を」



162 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:28:31.64

─────────────────────

杏子「まず、お前はどこまで知っている?」

床でベッドを背もたれがわりにして座る杏子が、目の前のキュゥべえに鋭い視線を向ける。

キュゥべえ「どこまで、と言われてもね。知っている事だけさ」

杏子「…………」



163 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:29:59.48

キュゥべえ「そんなに警戒しないでくれよ」

杏子「そいつはムリな話だろ」

キュゥべえ「……まあ、そうだね。
けれど、我々インキュベーターとしては、もはや君やマミに協力を要請するしかないんだ。
今となっては、君たちと僕は手を結ぶ必要こそありはすれ、敵対をする理由は皆無なはずだよ」

杏子「…………」

杏子はなにも答えなかった。

キュゥべえの真意の予想はつくのだが、確証は無い為に下手な反応はするべきではないという判断だ。

キュゥべえ「……わかった。先に僕たちの話からさせて貰うよ。
なんにせよ、話が進まないのは芳しくない」

杏子「ああ、そうしてくれ」



164 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:31:20.19

─────────────────────

翌日の早朝、マミの家。

まだ日も昇ってない時間だ。

杏子「悪いね、こんな早くから」

マミ「良いのよ」


コトッ……


マミが、キッチンから持ってきた、ダージリンの入ったカップと蜂蜜色のマカロン等々のお菓子をテーブルの上に置く。



165 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:32:28.16

マミ「……佐倉さんだから大丈夫だと思うけど、
ここに来るまでに暁美さんに気付かれるような事はなかったわよね?」

杏子「もちろん。細心の注意を払ったからね」

早速マカロンに手を伸ばしつつ、杏子は頷いた。

杏子(まあ、注意を払うどころか……
ほむらもだが使い魔もやっぱり気配すら無かったけどな)

マミ「こんな時間にわざわざ家まで来たって事は、なにかあったのね?」

杏子「ああ。
……昨夜、キュゥべえが現れた」

マミ「……!」

杏子の言葉に、マミは鋭く目を細めた。



166 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:33:34.69

杏子「こればかりは、可能ならちゃんと会って話した方が良いと思ってさ」

マミ「そうね。キュゥべえの介入は、私たちにとってイレギュラーだしね。
ここの判断は、たぶん間違えられない」


ガチャッ。


なぎさ「あっ、杏子!」

と、ここでなぎさが二人の居るリビングへとやって来た。



167 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:35:52.36

なぎさ「ズルいですよ、なぎさがトイレにいってる間に話をしはじめてましたねっ!」

マミ「ううん、まだ始まってないわよ」

杏子「よかった、お前も来れたんだな」

声をかけたのは良いが、杏子は、
家族と仲良く暮らしている普通の小学生であるなぎさが来れるかどうかは微妙なところだと考えていた。

なにせ、まだ辺りが暗い早朝である。

家を抜けられても、そんな時間にうろつくなぎさは誰が見ても怪しすぎるし、
そんな彼女がマミの家に向かう姿を、もしほむらや使い魔に見付かったら?

杏子(まあ、ほむらはわかんねーが使い魔に関しては気にする必要無かったみたいだけどね)

なぎさ「なぎさは、マミに迎えにきてもらったのです」

杏子「……ああなるほど、その手があったか」

魔法少女に変身出来るマミなら、杏子が来る前に万事無事になぎさを連れて来る事が可能だろう。



168 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:36:44.34

マミ「はい、なぎさちゃんにはチーズケーキね」

なぎさ「ありがとうなのです!」

杏子「──よし。
じゃあ話を始めるが構わねーな?」

マカロンを食べ終えて紅茶を一気に煽ると、杏子は言った。

マミ「ええ」

なぎさ「はいっ」



169 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:38:02.79

……………………

………………

…………

……

──ええと、確かキュゥべえのヤツは、この話から始めたっけか。

わかり辛かったらすまん、二人とも。

キュゥべえ「僕たちはずっと、この地球に入る術を探していた。
『暁美ほむらの支配より解放されてから』、ね』

杏子「…………」

キュゥべえ「まあ、地球を覆う力があまりに強すぎて、これまでは完全に手詰まりではあったんだけど……」

杏子「……地球を覆う力、とは?」

結論から言うと、キュゥべえの話のほとんどは、あたしはもちろんマミとなぎさも知っているはずの内容だったよ。

けど、キュゥべえを警戒して、一応そんな素振りは見せないようには心がけた。



170 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:39:17.53

キュゥべえ「……そうだね。暁美ほむらが、この宇宙──次元を再編したのは知っているよね?」

杏子「ああ……それくらいなら」

キュゥべえ「その後のこの次元の一番最初には、宇宙全体を巨大な力が覆っていたんだ。
暁美ほむらの中にある、恐るべき力がね。
でもその力は、時間が経つにつれて覆える面積がどんどん狭くなっていった」

杏子「うん」

キュゥべえ「今それは、この地球全体を覆うだけのものしか残っていないはずさ」

杏子「どうしてだい?」

キュゥべえ「暁美ほむらの力が弱くなっていってるからだよ」

杏子「…………」



171 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:40:36.84

キュゥべえ「おかげで、嬉しい誤算ながらその『力』から逃れられた僕たち地球外のインキュベーターは、
かつての宇宙の記憶を取り戻した。
きっと暁美ほむらの影響が無くなったからだろうね」

こいつが言った取り戻した『記憶』ってのは、まどかがやってくれた方の改変世界のだな。

さすがに、魔女が居た世界の話ではないと思う。

まあ、キュゥべえはほむらの影響から外れたから、
ほむら改変後の世界では面識の無いあたしやマミを知ってた、思い出したって訳だ。

確認した所、さやかやなぎさ……まどかの事もね。



172 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:42:01.02

キュゥべえ「とはいえ『力』に関しては、暁美ほむらの影響が及ぶ範囲が狭まっているというだけで、
それ自体がどうしようもなく絶対で強固なものなのは変わらなかった。
これを破ろうにも、僕たちにはどうする事も出来なかったよ」

杏子「…………」

言わば、今の地球はこれ自体が一種の結界になってる訳さ。

キュゥべえ「しかし、諦める訳にはいかなかった。
……その様子だと君も知っているのだろう?
暁美ほむらが、引いてはこの宇宙が今どれだけ危うい状態なのか」

あたしは頷いた。

杏子「なるほど、それでお前は……」

キュゥべえ「その通りだよ。これも知っての通り、僕の目的は宇宙を存続させる事。
だからその目的を果たす為には、暁美ほむらを放っておくなど絶対に出来ない」

これは百パー納得したよ。

宇宙がどうとかってのに関してだけは、こいつはブレないからね。



173 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:43:25.41

キュゥべえ「……まぁ、そんな僕たちにとって絶対であるはずのその目的も、
暁美ほむらの影響下では忘れさせられていたんだが」

杏子「……元々、この地球にもキュゥべえは居た……居るんだよな」

キュゥべえ「そうだよ。
その個体たちは、今も暁美ほむらに良いように使われているが」

その奴隷みたいになってるキュゥべえも、今は自分の役割を思い出してるんだってさ。

杏子「完全に手詰まりだったのにも関わらず、この地球に入ってこれた理由は?」

キュゥべえ「打開策が見付からなくても、僕たちは諦めずに全力を持ってこの地球を監視・調査していた。
その途中、気付いたのさ。
これまでまったく手を出せなかった、地球を覆う力が弱まってきていると」

この辺りもさすがといったところだろう。目的の為にはしつこいというかなんというか。



174 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:44:40.07

キュゥべえ「それによって、ついさっきにようやく地球に突入する事と、
地球に居る『インキュベーター』との意識の共有が再び可能になった」

これまでは、地球のキュゥべえと、
あいつの影響から逃れた地球外のキュゥべえは完全に切り離された状態だったらしい。

で、地球を覆ってる力の減少によって意識の共有を再開出来、外のキュゥべえは今のほむらの状態を理解したんだな。

ちなみにその『共有』は、こっちからバラしたり、意識を向けられない限りほむらにバレたりはしないんだってよ。

それだけ当たり前に、かつ外になにも漏らさず秘密裏に行えるとかどうとか。

立ち位置としては、あたしたちのテレパシーと同じだな。



175 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:46:06.61

キュゥべえ「そこで慌てて僕がここへとやってきたのさ。
暁美ほむらを見たところ、いよいよ猶予は無くなってきたみたいだからね」

杏子「少々迂闊すぎないかい?
現状を知ってから、即いきなり突入なんて」

あたしたちと同じくもし行動を察知されれば、こいつらなんて簡単に潰されちまうだろうし。

キュゥべえ「その辺りは、地球に突入する前から問題無いだろうという結論が出ていた。
暁美ほむらの奴隷になっている個体の意識で」

杏子「?」

キュゥべえ「奴隷になっている個体は、その役割故に誰よりも近くで彼女を見てきたからね」

だから、奴隷のキュゥべえはかなり早い段階で気付いた。

ほむらがとても不安定で危うい状況・存在であり、彼女の力がどんどん弱まっていってるのに。

そいつに、ほむら自身は気付かないだろうってのもな。



176 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:47:21.04

なぜなら今のあいつは、前は出せたはずのレベルの力を振るえなくなってるのに気付くほど、
大きな力を使う機会なんてないし……

まどかしか見てないから。

だから、まどかの存在しない地球外に自分の力が及ばなくなってるのも気付いてないし、
自分自身の事すらも注意がいかなくなってたのさ。

……まあ、もしかしたら『闇』の氾濫が近い今は薄々勘付き始めてるか、勘付いてる可能性もあるかもだが……

しかし、見ただけでそんな色々な事がわかるってのも凄いもんだよな。

キュゥべえと違って、あたしたちにはとてもムリな話だ。

他のヤツには無い、近寄り難い雰囲気を纏ってるとかならまあわかるけど。



177 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:48:32.98

キュゥべえ「……あれはいつだったか……
宇宙再編からまだ間も無い夜の、高台にあるとある公園での話だったかな?」

そこでボロ雑巾のようにされたあいつがほむらに視線をやった時、確かに確認したんだとさ。

ほむらの周りを、中を──ほむらの魂を覆う、あまりに強大な『闇』を。

キュゥべえ「それを見て僕は確信したんだ。彼女は……この宇宙は長くないって」

杏子「なるほど……」



178 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:49:51.47

キュゥべえ「ともあれ、そんな彼女には僕一体の動き程度なら気付かれないと考え、地球への突入を決断した」

杏子「……分は悪くないと思うけど、それでも結構なバクチだね。
なんかお前らしくねー気もするが」

キュゥべえ「……まあ、これほどの事態でインキュベーターに出来る事は少ない──
あるいは皆無なのかもしれないけど……
それでも、なにもしない訳にはいかないからね」

杏子「……お前は、この──まだ生きているほむらのテリトリーに入ってきても、
再びあいつの力に囚われる事はないのかい?」

キュゥべえ「無いようだね。
一度暁美ほむらの束縛から逃れた存在は、
彼女がまた記憶を作り変えたり、洗脳などをしようとしない限りは大丈夫みたいだ」

これはその通りだ。

今までは考える事すら出来なかったものを考えられ、こうやって動いているあたしたち自身が証拠だもんな。



179 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:50:56.81

杏子「その根拠は? あったから地球に来ようと思ったんだろ?」

キュゥべえ「……正直言って、これに関しては根拠と呼べるほどのものは無かった。
今の暁美ほむらの状態なら、あるいは……と予測はしていたけれど」

そして、幸いそれは当たっていた訳だな。

杏子「その予測が外れていたらどうしていたんだ?」

キュゥべえ「また外のインキュベーターが動くだけさ。新たに対策を練ってね。
いわば、この個体は特攻役みたいなものだった」

杏子「なるほどな」

で、地球に来て無事なのを確認してもそいつしか動いてないのは、
大人数……つって良いのか? だと見付かりやすくなると踏んで、らしい。

まあ違いない。



180 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:53:06.03

杏子「しかし、やっぱお前らしくねーな。そんな賭けをするなんて」

今回良い結果だったからよかったものの、もしこの個体が奴隷みたくされてたら、
それによってほむらにこいつらの動きを察知されちまってたかもしれないからな。

キュゥべえ「……それだけ宇宙は追い詰められているんだ」

こいつも当然、あたしが危惧した事くらいわかっていただろう。

だけど、もはやこの宇宙・次元に残された時間はあまりにも少ないと踏んでいるこいつは賭けに出ざるを得なかった。


杏子『その予測が外れていたらどうしていたんだ?』

キュゥべえ『また外のインキュベーターが動くだけさ。新たに対策を練ってね』


さっきのこいつの言葉は本心だと思う。

たぶん、どうなっても最後の最後まで足掻くんだろう。

ただ……



181 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:54:04.31

……………………

………………

…………

……

マミ「『予測』が外れていたら、あの子たちにはもうどうする事も出来なかった……と?」

杏子「ああ。相変わらずハッキリとは口にしやがらなかったが、キュゥべえの言い方からはそう感じた」

なぎさ「実際、『地球に来ました。やっぱりほむらの奴隷にされました』じゃあどうしようもないですね」

杏子「あいつらがそこからいくら対策を練ろうが、手なんて無いだろうね。
完全に終わりだ。
キュゥべえはそこまで万能じゃない」

マミ「だから、自分の目的の為に人を魔法少女にする必要があったのだものね」

杏子「で、続きだが……」



182 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:55:43.25

……………………

………………

…………

……

キュゥべえ「ところで、やっぱり君も色々と知っているようだね」

杏子「……お前と同じで、知ってる事だけな」

キュゥべえ「そういえば、僕が現れてすぐに『お前か』と言ってたね。
この世界で僕と君は会った事がないはずだけど?」

杏子「……!」

キュゥべえ「見たところ、君も暁美ほむら改変前の記憶を持っているように感じるんだが」

杏子「…………」



183 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:57:16.73

キュゥべえ「まさか君が地球外からやってきた『佐倉杏子』とは考え辛いし、
この地球はまだ暁美ほむらの影響下にある。
どうやって僕のようにそれから抜け出したんだい?」

なにを考えてるのか読めない目で、キュゥべえはあたしを見つめてくる。

正直、焦ったよ。やっぱりこいつは油断ならねえ。

杏子「……言えないね」

キュゥべえ「ふむ……」

杏子「あたしはあんたをまだ信用していないんだ。
だからこっちの手の内はそうそう見せられない」

キュゥべえは沈黙する。

杏子「大体、あんたはあたしと協力したいんだろ?
だが、あたしはあんたと絶対に手を組まなきゃならないって訳じゃないんだ」

ここは、こうして立場の違いを盾に取って乗り切る方法しか思い付かなかった。



184 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 17:58:17.46

キュゥべえ「……わかった。こちらとしては、君たちの力は絶対に必要なんだ。
この限られた時間で、僕たちに、僕たちだけで暁美ほむらをなんとかする力はたぶん無い。
君が言いたくない事は聞かないよ」

杏子「ああ、そうしてくれ」

キュゥべえ「それに、『円環の理』を観測しようとしたあの時を考えれば、
君が僕を信用出来ないのも当然だろうしね」

杏子「わかってんじゃねーか」

キュゥべえ「逆に言うと、僕を信用して貰うには……」

杏子「これから態度で示すのも当然だが、まずはそっちの手の内はとことん見せて貰う事だな」

キュゥべえ「うん、わかったよ」



185 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:05:20.46

杏子「……で、何度も話に出てきた『時間が無い』ってのは?」

キュゥべえ「僕たちの考えだと、近いうちに暁美ほむらはその力を完全に失い、その身に宿る黒いもの……
仮に『闇』と呼ぼうか」

杏子「…………」

キュゥべえ「『闇』に呑まれる」

杏子「ああ」

キュゥべえ「そうなると、『闇』が氾濫、暴走してしまうんだ」

まあつまり、ほむらの力の源である『闇』の独立が時間が経つにつれて進んでるから、
ほむらの扱える力が落ちてきていた訳だね。

杏子「……その時がすぐ側まで来ているから時間が無い、と?」

キュゥべえ「そうだよ」

さすがはキュゥべえ……いや、インキュベーターってところかな。当たってやがる。

キュゥべえ「だから、僕たちは動けるようになったらすぐに動かざるを得なかった。
まだ具体的な策を決めかねていても、せめて手を組める相手を見付けようとね」



186 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:07:10.52

杏子「……まず最初にあたしの所に来た理由は?」

キュゥべえ「別に特別な理由は無い。
──様々な面を踏まえ、この件で僕たちが協力を要請出来ると考えた存在は四人。
佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、百江なぎさ」

杏子「うん」

キュゥべえ「その中で、美樹さやかは『円環の理』の断片をまだ宿しているみたいだから、
なにが起こるかわからない不安がある為に、最初に接触する相手としては除外だ」

キュゥべえは、奴隷の立場の個体が、記憶が復活する度にほむらに突っかかるさやかを目撃していたんだな。



187 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:08:32.10

それから、とキュゥべえが続ける。

キュゥべえ「百江なぎさの家は、僕が地球に降り立った場所からは遠かった。
これは、マミも同じだよ」

だからこいつは、まずは四人の中で一番近くにあるさやかの家に来て、あたしの前に姿を現したって訳だね。

で、あいつのこの言葉を考えたら、今のなぎさはただの人間だってのは知らないようだ。

キュゥべえ「だからもちろん……
そうだね、これも距離を考えたら次はマミと会うつもりだ」

杏子「なるほどな」

キュゥべえ「で、どうだろうか? 改めてお願いするよ。
ぜひ君たちの力を貸して欲しいんだ。宇宙を救う為に」

杏子「……そうだな……」



188 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:09:57.31

─────────────────────

マミ「──はい、紅茶のおかわりよ」

杏子「サンキュー、マミ」

なぎさ「ありがとうなのです!」

杏子となぎさは礼を言うと、新しく作られ、注がれたオレンジペコに早速口をつける。

杏子「さすがに喋りっぱなしは喉が渇く」

なぎさ「紅茶は、チーズを浸すとおいしさが増しまくるのです」

マミ「それで、キュゥべえにはなんて答えたの?」

杏子「とりあえず、あいつの目的はあたしたちの目的と大差は無いからね。
キュゥべえが余計な行動をしない為にもオーケーしておいた」

杏子は、キュゥべえと同盟関係を築く事で、彼が独断で軽率な行動を取らないよう牽制をしたのだ。



189 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:11:34.24

杏子「って、あいつがそんなバカやる可能性は低いとは思うんだけどな」

マミ「まあそうね。
でも、その判断で正しかったと思うわ」

杏子「ああ。
百パー信用するのは危険だが、本当にあいつが味方になってくれたなら心強いし……と、そうそう」

杏子が思い出したかのように言う。

杏子「話の通りキュゥべえはマミとも会いたがってたから、とりあえず今日の放課後に来いって言っておいたぞ」

キュゥべえはすぐにでもマミの元へと向かいたがっていたが、
先に彼女とこういう話をしておきたかった杏子は許さなかった。

この話もどれだけ時間がかかるかわからなかったし、この後学校があるのも考慮して放課後にしたのだった。

ついでに杏子は、キュゥべえにその時まで下手に動くなとも釘を刺しておいたらしい。

マミ「わかったわ、ありがとう」

マミとしてもキュゥべえと話はしたい。彼女は頷いた。

なぎさ「あの、その場にはなぎさも行って良いですか?」

杏子「むしろ来て欲しいところだから、もちろんさ」

なぎさ「やりました!」



190 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:12:36.12

マミ「……それにしても、ちょっと頭が混乱しているわ」

杏子「ああ、あたしも同じだ。
上手い具合にあいつと話せたとは思うが、実は理解しきれてない部分もある」

マミ「ちょっと整理しましょうか?」

なぎさ「あ、それ良いですね」

杏子「そうだな」



191 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:14:29.10

マミ「まずはキュゥべえの事だけど」

杏子「えっと、あいつは……」


・暁美ほむらの力減少の為、ほむらによって改変される前の次元の記憶と、自由を取り戻した。

・やがてほむらの『闇』が暴走して宇宙が滅んでしまう事は、
ほむらの行った再編後のかなり初期から気付いていた。

・それを防ごうと、記憶と自由を取り戻した地球外のキュゥべえは動き出した。

・だが、彼らは彼女の影響力がまだ大きく生きている地球には入れず、具体的な行動はおこせなかった。

・さらにほむらの力が弱まった事で、地球への侵入が可能になった上に、
奴隷にされている個体とのリンクも復活して現状を把握。

・地球に突入してもほむらには気付かれないと予測したので、キュゥべえは早速やって来た。

・ただし、自分たちだけでこの宇宙を救う事は厳しいと考え、まずは他に仲間を得ようとした。


なぎさ「そのために最初に会ったのが杏子だったのですね」

杏子「だな。
……と、そうだ。キュゥべえは、『闇』の氾濫が近いって事しか気付いてないみたいだった」

なぎさ「それが二日後にせまってるっていう、細かいとこまでは知らないのですね」



192 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:16:00.23

マミ「──一つ気になる事があるわ」

マミが、厳しい表情で杏子を見る。

杏子「ん?」

マミ「キュゥべえは、どうやってこの宇宙を救うつもりなの?」

まさか、暁美さんを殺すつもり?──口にこそ出さなかったが、マミの視線はそう問いかけていた。

杏子「……ああ、マミの想像通りだよ」

なぎさ「…………」

マミ「やっぱり……あの子の考え方だとそうなるわよね……」

しかし、手段そのものとしては、実は杏子たちが取ろうとしているものとそう変わらない。

けれど、断じて別物なのだ。

杏子「実は、その辺りも突っ込んで話したんだ」



193 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:17:22.69

……………………

………………

…………

……

キュゥべえ「なんだって?」

杏子「だから、ほむらを殺すつもりなら手は貸せない」

キュゥべえ「どういう事だい?」

杏子「あたしやマミに、ほむらを殺す気はねーんだよ」



194 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:19:08.59

キュゥべえ「ふむ……じゃあ、どうするんだい?
君たちも、僕と同じくこの宇宙の崩壊を阻止する為に動いているのだと思っていたんだが……」

杏子「宇宙ってより、この近所っつーか世界──精々が地球、だな。
ぶっちゃけ、宇宙となると規模がデカすぎてあたしにはピンとこないんだ。
たぶんマミもそうなんじゃないかな」

キュゥべえ「……そうか。地球人は宇宙進出もまともに出来ていないのだから、それが普通なのかもしれない。
でも、同じ事だろう?」

杏子「違う。
似ているが、お前とは決定的に違うところがあるんだ」

キュゥべえ「?」

杏子「あたしたちはな、この世界を救い……

ほ む ら も 助 け る 。

その為に動いてんだ」



195 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:20:28.55

……………………

………………

…………

……

マミ「それで、キュゥべえはなんて答えたの?」

杏子「『……わかったよ。それで君が納得してくれるなら、こちらも暁美ほむらも助けるつもりで動こう。
僕たちは宇宙を存続させられればそれで良いんだからね』
……だったかな」

なぎさ「なるほど……」

杏子「ともあれ、ほむらと戦う事になったとしても、ほむらを殺す気でやりはしないからな。
これをハッキリ言うのは譲れなかったし、手を組むなら、そんなつもりであいつが動くのは認められなかった」

マミ「うん」

なぎさ「はい」

同意の念を込め、マミとなぎさが首を縦に振った。



196 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:23:07.86

別に結果が同じならば、そんな事に拘る必要は無いのかもしれない。

しかし、ここが彼女たちの若さ・甘さであり、同時になにものにも変えられない強さでもあるのだ。

突然、宇宙が滅ぶなどスケールが違いすぎる話に杏子たちが真面目に、
かつ全力で動けているのは『誰か』の為というのがあるからこそ。

これが無ければ──『円環の理』が直々に現れた以上、話を疑いはしないだろうが──心のどこかで夢物語みたいに思い、
そんなつもりはなくともどこかで本気になりきれなかった可能性が高い。

宇宙の為というだけでは、先の杏子、マミの言葉が示すように『規模がデカすぎてピンとこない』のだ。

『円環』の一部だった事のあるなぎさですら、肉体を持ってしまうとまた同じ。

いくら物理的な記憶を取り戻そうと、概念(純粋な精神生命体)だった頃の感情までは取り戻せない。

頭にはあれど、実感出来ないから。

そんな彼女たちがただただ純真にひた向きに頑張れているのは、
『力になりたい・助けたい相手が居る』──この信念・想いがあるからだ。

……実はこれに関しては、『円環の理』も同様なのだが……



197 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:24:24.37

杏子「まああいつが裏切るとしたら、どれだけ手を尽くしてもダメで、
本当にほむらを殺るしか手段が無くなった時だろうし……
大体あいつの力じゃあ、今更裏切られてもそれでなにかが変わる訳じゃないからね」

キュゥべえが杏子たちの足を引っ張るような裏切り方をしてきたら話は別だが、
今回に限ってはそれはないだろう。

マミ「なら、とりあえずは今回のキュゥべえは味方と考えて良いのかしら」

杏子「信用しすぎなければそれで良いと思う」

マミ「ええ、わかったわ」



198 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:30:49.18

なぎさ「──じゃあ、次はほむらに関してですね」

杏子「ああ。
……そういえば、ここ数日ほむらの様子がおかしいな」

マミ「というと?」

杏子「マミには一昨日の夜にメールでチラっとだけ話したやつなんだが……」

杏子は、一昨日のまどか・さやかと共にほむらと下校した時の話をした。

これまでにほむらは、あんな姿を微塵も見せたりはしなかった。

杏子よりもよくほむらの側に居るまどかやさやかの反応を考えると、
まどかたちもあんなほむらは見た事がないのだろう。



199 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:33:37.98

なぎさ「……あの、実は……」

杏子「?」

マミ「なぎさちゃん?」

なぎさは、昨日の公園でのほむらの様子を二人に話す。

マミ「そんな事があったの……」

杏子「やっぱりあいつ、『闇』の存在に気付いているのかもな。
そこまでいかなくとも、気付きつつあるか……」

マミ「──それにしてもなぎさちゃん、無事でよかったわ……」

なぎさ「ごめんなさいです……
ほむらと出会ってしまったのは本当にたまたまだったのですが、
そのあと一緒にスーパーにいったのはちょっと考えなしだったかもしれません」

今にして思えばなぎさ自身そう思う。

『闇』と思わしきものを目にした時の事は、未だに思い返すだけで背筋が寒くなる。

もしあの時なにか万が一の事態になっていれば、なぎさ一人では対処出来なかっただろう。



200 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:35:14.73

杏子「まあ咄嗟の判断だったんだし、ある程度は仕方ないね。
ほむらだってあんたの事を知ってる以上、下手に逃げ出してた方が怪しまれたかもしれねーし」

マミ「でも、くれぐれも無理はしないでね。
私たちの勝利条件はただ一つ、全員で生き残る事なんだから」

なぎさ「はいっ」

杏子「しかし、なぎさが見たって言う黒いの……
その時のほむらの様子とかを考えたら、まず『闇』だと考えて良いだろうね」

マミ「とうとう『闇』が原因で、暁美さんが苦しみ始めるところまで来た。
表立って……」

なぎさ「氾濫がすぐそばまできてる証拠、でしょうね」



201 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:43:45.98

杏子「あとは使い魔も気になるね」

マミ「話だと、沢山集まってきていたのよね」

杏子「それだけじゃない。昨日からまったく姿を見ないんだ」

なぎさ「えっ?」

杏子「あたしが気付いたのは、昨日まどかと合流してマミの家に向かってる最中だから、
それより前の事はわからないけどね」

マミ「確かに、あの時はまったく見なかったわね。
私はてっきり、暁美さんは千里眼のようなもので鹿目さんを視ていて、
使い魔が必要無かったからとかかと思っていたけれど……」

杏子「あと、さっきここに来る時も気配すら無かった」

マミ「……言われてみれば、なぎさちゃんをつれてくる時も不気味なくらい静かだったわね……」

なぎさ「なぎさにはもう使い魔は見えないですが……
今まであちこちにいたのがいないとなると、確かにおかしいですね」



202 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:46:01.89

マミ「……ともあれ、それらを踏まえて暁美さんは……」


・もはやまどかしか見ていない暁美ほむらは、自分が振るえる力を失いつつある事に気付いていない。

・もしかしたら、使い魔のコントロールすらもう出来なくなっている可能性もある。

・『闇』の独立・氾濫・暴走……自分自身や、
自身が再編した宇宙の崩壊が間近に迫って来ている事は気付いているのかもしれない。

・『キュゥべえ』を変わらずに奴隷のように扱っているが、
彼が地球外のキュゥべえと意思疎通を再開し、そのキュゥべえが地球に侵入した事も知らない。


杏子「こんなところだね」



203 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:48:33.05

マミ「キュゥべえは、暁美さんが『闇』に気付いているかも、というのも知らない訳ね」

なぎさ「そもそも、キュゥべえが持っている情報自体そんなに多くなさそうです。
なぎさたちが『円環の理』と会っているのも知らないのですし」

マミ「さすがに、キュゥべえの前にまでは現れなかったみたいだものね」

杏子「ああ。こんな現状になってる原因の一端でもあるヤツだしな……」

マミ「キュゥべえの介入が、すべてにとっての嬉しい誤算になれば良いけど……」



204 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:50:37.94

─────────────────────

──『円環の理』。

ほむらの力が弱まった為に彼女に察知されずに地球に侵入出来るようになったのは、
キュゥべえだけでなく『彼女』もそうだった。

これは、ほむらが常に意識を向けている相手が、
『円環の理』というよりも『まどか』──この世界に居る、人としての彼女だからこそ可能なのであった。

まどかやさやかの中に眠るものはまだしも、
これまでは宇宙中に流れる『摂理』によって、
外からは地球どころかこの次元そのものに介入・侵入も出来なかった『円環の理』だが……

この大いなる存在もまた、悪魔の影響から離れたこの次元の地球外からチャンスを伺っていたのだろう。



205 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:51:54.75

しかし、外からやって来た概念は、杏子たちの中も含めて今はこの地球には居ない。

さすがにその存在の巨大さ故、長居をすると確実にほむらに勘付かれるのもあるし、
なにより地球にはかなり弱まっているとはいえ、
ほむらの強烈な意思で存在している『摂理』がまだ健在の為に、長時間の滞在は不可能だったからだ。

だから、ほんの一瞬の邂逅にて『円環の理』は杏子・マミ・なぎさに助けを求めた。

自分一人では叶わない、『彼女』の役割を果たす為に。



206 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:52:59.72

─────────────────────

杏子「だが、細かい部分はもうおぼろげになってる部分もあるんだよなー」

マミ「そうね……」

なぎさ「はい」

杏子たちは、あくまで『円環の理』と接触し、その知識や記憶を知るという経験を積んだだけ。

導かれて円環の一部やそのものとなった訳ではないので、
時間とともにその記憶が薄れていくのは人として自然であるし、
もちろん特殊な力を新たに得た訳でもない。



207 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:57:20.51

杏子「だからもうちょっと確認したいが……
結局、『円環の理』が動いているって事は……そういう事になるんだよな……」

なぎさ「……はい。そうです」

マミ「……暁美さん……」

杏子「……っかし、ほむらがああなっちまう前の記憶では、あの神様に関してだけは知識としてはあったけどさ、
その根性っていうか、信念?
凄いよな」

マミ「そうね……なんとしても、自分が救える存在は救うっていう強固な意思を感じるわ」



208 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:58:24.20

杏子「ふふっ、今は裂かれちまってるとはいえ、まどからしいよ」

マミ「鹿目さんは、いつも誰かの為に頑張るような子だったものね」

杏子「今の『円環の理』は、人としての記憶は無くしちまってるが……やっぱり同じまどかなんだよな」

人としてのまどかと、概念としてのまどか。

どちらか片方だけになっても、根本は変わらない。

マミ「だからこそ、あの子は『本物』なのね」

まどかがあれほどの存在になれたのは、
かつてのほむらがループを繰り返し、因果が束ねられて『力』を得たからではあるのだが……

それ以上に、やはり鹿目まどかが鹿目まどかだったからこそなのだ。

いくら力があれども、彼女でなければあのような存在には絶対になれなかっただろう。



209 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 18:59:59.45

なぎさ「そういえば、『まどか』が今のなぎさたちのような、
いわば生者に協力をおねがいするのは初めてだったりします。
以前ほむらのソウルジェム内で、なぎさやさやかが居たときみたいに、導いた存在とがんばるのはたまにありましたが」

だが、それはこれまではそうする必要が無かったからやらなかったというだけであり、
また、今回はそうでもしないと駄目だという事でもある。

救うべき存在を救う以外には介入が出来ないのがあの概念ではあるのだが、
逆にいうと、その為にどうしても必要でそこに繋がる為の行動ならばなんでも起こせるのだ。

それが彼女が司る力なのだから。

杏子「改めてみると大変な事態だよな。
……へへっ、深く考えるほどどんどんビビッちまってるよ。あたし」

マミ「ふふっ、私もよ」

なぎさ「ですねぇ」

ここまではスケールが大きすぎた上にすべてを知ってから時がそう経ってなく、
また、ここまで忙しく動いていたのもある為にまだマシな部分はあった。

だが、こうして落ち着いて話をすると、深く実感する。

自分たちに与えられた大きな大きな使命に。



210 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:01:18.16

杏子「まあ、だからって逃げ出したりはしないけどな。
そんな事したって宇宙が崩壊しちまったら一巻の終わりだし」

マミ「私たち、まだまだ死にたくなんてないものね。
──そしてなにより」

マミの視線を受け、杏子となぎさが大きく頷いた。

杏子「ああ。
ほむらのヤツをむざむざと殺させなんかするもんか。
『まどか』の為にも」

マミ「実質一人ぼっちになりながらも、諦めずに頑張り続けている美樹さんの為にも」

彼女たちは共に、自身の『愛』に従い、頑張っているのだから。

そんな大切な仲間たちを、見捨てる選択肢など無い。

なぎさ「もちろん、ほむらの為にもです」



211 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:02:45.41

マミ「……その暁美さんを、具体的にどうやって救うかだけど……」

杏子「ああ」

──これは、あの日に概念と接触した時からすでに三人の中で答えが出ていた。

ベストなのは、なんとかほむらを説得し、彼女がそれを素直に聞き入れてくれる事。

そうすれば『闇』の氾濫まで安心して待ち、
いよいよ『闇』がほむらの中から現れたら攻撃してその邪悪な力を速攻で滅ぼすだけ。

氾濫からしばらく経ってしまったら、『闇』は人では太刀打ち不可能な、
かつての神の力を完全に取り戻して邪悪なまま覚醒・暴走。

そしてすべてを終わらせてしまうだろうが……

杏子たちが力を合わせればその前に倒せると、『円環の理』の知識は告げていた。



212 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:03:51.08

今はほむらも巻き込んでしまうので戦闘を開始出来ないが、
氾濫が起きれば、たとえ杏子やマミが全力を持って攻撃したとしてもほむらには届かず、
ダメージを負うのは表に出て来た『闇』だけになるのだ。

……だが、ほむらは説得など受け付けないだろう。むしろ、杏子側の話は一切聞かないのではないだろうか。

そもそも、今のほむらが存在していられるのは『闇』の力があるからこそ。

よって、彼女そのものでもある『闇』を滅ぼしてしまえば、悪魔・暁美ほむらの命は終わる。

今の彼女には人としての命は無いのだし、その辺りに関してはほむら自身が誰よりもわかっているはずだ。



213 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:05:25.30

そして、数奇な運命をくぐり抜けた末にようやく作り上げたこの世界を、
ほむらが自ら手離したり、死を受け入れて離れようとするなどありえない。

そんな彼女に下手に話を持ちかけても、
大切なものを失うまいと必死に抗ってくるだろうほむらとの交戦が必至になるだけである。

とすれば、やはりほむらの説得は無意味であり不可能だろう。

それと、氾濫さえ起こってしまえば円環を拒絶するあの『摂理』は地球からも完全に無くなる。

あの『摂理』に関しては、『闇』の力とほむらの意思が合わさって始めて維持出来ているものであり、
氾濫とはその力がほむらの手から離れる事だからだ。

いくらほむらの意思があろうと、根本たる力が無くなればどうにもならない。

だからこそ、『摂理』に影響されないようにさやかを仲間にするタイミングが重要になってくる訳だ。

そういった意味でも、さっさとほむらを説得をしてさっさとほむらと交戦する道はありえない。



214 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:06:26.78

──ほむらはもう魔法少女でも魔女でもない為、
彼女が悪魔である事が出来る『闇』を滅ぼしてしまえば、ほむらに対しての円環の介入は不可能になる。

あの概念はそういう存在だからだ。

じゃあどうやってほむらを救うか?

実は、『闇』を滅ぼすにしても決して瞬時には消滅しない。

コンマ以下の速さではあるが、ほむらの命と連動してフェードアウトしながら消えていく。

一秒にも満たない、『闇』とともに死を迎えゆくわずかな間は、ほむらは悪魔でいられるのである。

そのほんの一瞬に『円環の理』が現れ、ほむらを今度こそ導くのだ。



215 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:07:21.30

なぎさ「まぁ一言で言うと、とにかくあの黒いのと戦ってすぐさま倒せば『ばんじかいけつ』なのですね」

他はその為に必要な情報であり理屈にすぎない。

『闇』を倒せさえすれば、後は慈愛そのものである女神に任せれば良い。

杏子「一言すぎて身も蓋もないが、その通りだね」

マミ「そこがわかりやすいのはありがたいわ」

なぎさの言葉に、杏子とマミが笑顔で頷いた。



216 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:08:31.52

杏子「……けどさ、さっきキュゥべえの話で、ほむらを殺す云々の話をしたが……」

マミ・なぎさ『?』

杏子「本当にほむらを殺さなきゃならない状況になっちまうのって、怖いよな」

つまり、タイムリミット──完全に覚醒するまでに、氾濫した『闇』を滅ぼせなかった場合だ。

だがそうなっても、宇宙を救う、という事でならばまだ手はある。

覚醒させてしまっても、そこから本当の意味で『闇』が完全に力を取り戻すまでには、
さらにわずかな間が必要なのだ。

『円環の理』の知識では、数秒。

これはようするに、人が眠りから覚めても、
完全に目が覚めるまでは多少の時間が必要なのと同じだと考えて良い。

『闇』を覚醒させてしまったら、その数秒を突く事こそが本当に最後のチャンスとなるだろう。

それを逃せば、神レベル以外の攻撃でなければまったく通じなくなってしまって完全に詰みである。



217 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:09:52.58

……実は、これもキュゥべえが知らなかった事だが……

その数秒間には、ほむらの魂もまだ存在はしている。『闇』に覆われた深いところで。

だが、ここまで来てはもはや彼女は助けられない。

ここで上手く立ち回れても、『闇』の中に居るほむらには、彼女を救おうとする『円環の理』の手は届かないからだ。

ほむらから独立する事で、『悪魔』からただの邪悪な力に戻った『闇』には、あの概念は干渉出来ないのだ。

杏子たちが失敗した後に宇宙とともに完全に喰われ尽くされるか、
杏子たちが最後のチャンスをものにした後、『闇』の深いところでそれと共に消滅するか……

『闇』覚醒後は、ほむらにはどちらかの道しかない。



218 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:11:31.53

マミ「……まあ、私たちはそんな状況になる想定は捨てて動いているはずだから、
そんな心配してもしょうがないわよ」

そう言うマミだが、彼女の本心はもちろん違う。

手遅れになって他に手段が無くなった時の話とはいえ、
事実上、自らの手でほむらにとどめを差さないといけないような事態に陥った場合を深く考えたくなかったのだ。

杏子「……それもそうだな」

なぎさ「そうですよ」

三人は不安を振り払うかのようにほほえみ合った。

だが、杏子にはマミとなぎさにも話していない大きな決意があった。

杏子(……でもなマミ、なぎさ。
あたしは、な……)

──もし、もしもだ──

杏子(そんな事態になったら、あたしがほむらにトドメを差すよ)

──あんたやさやかに、そんな残酷な事させられないからね……──



219 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:12:20.45

マミ「? 佐倉さん、どうしたの?」

杏子「──あ、いや、ちょっと眠くなってきてな。すまん」

暗い顔で俯いた自身へと心配そうな顔を向けるマミに、杏子は慌てて手を振って答えた。

マミ「ふふっ、朝早い上に喋りづくだもんね。
ちょっと休憩しましょうか?」

なぎさ「チーズありますよ?」

杏子「いや、続けよう。こうやって話せる時間は貴重だろうからな」

マミ「……うん、わかったわ」

杏子「つっても、もう今細かく話すべき事は消化した気がするけどね」

なぎさ「確かにそうですね」



220 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:13:27.74

……しばしの沈黙の後、杏子が再び口を開く。

杏子「……この世界、良いよな」

マミ「そうね。お父さんやお母さんは居ないから、私にとっては決してすべてが最高って訳じゃないけれど……
佐倉さんやなぎさちゃんが居て、暁美さんが居て、美樹さんや鹿目さんも居て……みんな居て。
私、幸せよ」

なぎさ「はい……
幸せです」

杏子「うん……」

杏子が、幸福感と憂いを帯びた瞳をわずかに下に向けたが、すぐにまた前を向く。



221 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:15:02.35

杏子「……ほむらのやった事は神への叛逆だ。それも、あたしたち魔法少女にとっての」

なぎさ「…………」

杏子「やり方そのものは許されねーのかもしれない。
でも、それ以上にあたしは感謝してんだよ。こんな世界を作ってくれた事を」

マミ「私もよ」

なぎさ「なぎさも」

レイケツ、オクビョウといった膨れ上がった自身の『負』を土台に、
偉大で純真で美しい……神以外が持つには分が過ぎる力を無理矢理奪って『闇』へと変えた彼女は、
最後にはその『闇』に喰われ、呑まれるのが正しい末路なのだろう。

その先に救いは無い。

彼女は、彼女を救いに来た存在たちの手を振り払い、貶めまでした。

救済される事を、自分から捨てたのだ。

だとすれば、救いの無い結末になるのは必然。

杏子たちがその必然を捻じ曲げるのに成功しても、
悪魔・ほむらにはこの世界で暮らす未来が閉ざされているのもまた……



222 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:16:31.81

……そう。これまでの話を見てわかるように、
どうなるにしろほむらには今現在のままの状態で生き続けられる道は残されていない。

杏子「……あいつ、バカだよな。
まどかたちにあんな事した末に、こんな……こんな世界作って自己完結しやがった」

マミ「あるいはあの子、宇宙再編の前から自己完結はしていたのかもしれないけどね。
けれど、この世界を作った──作れた事でそれはより強固なものになってしまった」

なぎさ「…………」

マミ「私たちも、暁美さんだって。
間違いなく幸せだったのよね」

『闇』の問題さえ、あれさえ無ければ、あるいはこれでよかったのだろう。

大半の存在は宇宙が再構築された事に気付いていないし、ここまでは間違いなく彼女たちは幸福だったのだから。

それは、すべてに気付き・知った今も変わらない。



223 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:17:59.53

杏子「つってもあたしには、あいつは常に泣いているようにも見えるけど……
『痛み』で、な」

でも。

マミ「今の暁美さんは、それすらも愛おしいほどに幸福を感じている──
いたのでしょうにね」

杏子たちが悲しそうにほほえむ。

杏子「まあ、あいつが勝手に自己完結してくれているおかげで、あたしたちにチャンスが生まれてるんだろうけどな」

そうでなければ、ほむらはもっと広く視野を持ち、
『円環の理』やキュゥべえが侵入してくる隙など与えなかったに違いない。

しかし、たとえ『円環の理』たちを拒めたとしても『闇』の氾濫はほむらでは止められない。

いくら気付こうが対策を練ろうが、それを制御する力が彼女には無いから。

とすれば、杏子もマミも、誰も『闇』に立ち向かう機会すら無く、
なにも知らずに全員が最悪の終末を迎えるだけだっただろう。



224 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:18:48.60

杏子「へへっ、あいつってずっと穴がありまくりだよな」

マミ「ふふっ、結構詰めが甘いのよね」

なぎさ「割とウッカリさんなのです」

痛いほどの慈愛のこもった三人の言葉。

杏子「まあ、そのおかげで今回は助かっている訳だが……」

なぎさ「──今度はなぎさたちがしてやりましょう」

マミ「ええ。
暁美さんがあんな形で叛逆したのなら……」

杏子「ああ。
あたしたちは、あいつを呑み込もうとする『闇』に──」

マミ「叛逆をする……!」



225 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:20:39.68

─────────────────────

ほむら「──!」

気が付いたら、ほむらはとある高層ビルの屋上に居た。

ほむら「…………」

彼女は右手で頭を抑えながら体を起こす。

ほむら(ここは確か、まどかの家に向かう途中にある……
……そうか)

昨日のあの後ほむらは、心配するなぎさを強引に振り切ってまどかの家に向かったのだが、
調子が悪すぎた為に途中で力尽きてしまったのだろう。



226 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:22:07.38

時間を確認すると、午前三時頃。


ツキン。


ほむら(胸が……痛い)

物理的にも、精神的にも。

彼女は、自分のこれほどの不調の原因が未だに掴めずにいた。

ほむら(……まどか……)

なぎさと別れる前と同じ思考に陥るほむら。

彼女は、まどかを視ようと力を込めた。

この次元限定ならば、意識を向ければこういった事もほむらなら可能だ。

本来の悪魔・暁美ほむらならば。



227 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:26:08.93

ほむら「……くっ」

だが、何度やっても出来ない。

舌打ちすると、今度は自身の目となり耳となる使い魔をまどかの元へと飛ばそうとする。

ほむら「…………」

……しかし、これも上手くいかないようだ。

ほむら(やっぱり……駄目なのね……)

元々ほむらが今回まどかの家に向かおうとしていたのは、
なぎさと別れる前にどれだけ同じ事をしようとしても出来なかったからだ。

ほむら(……そういえば、前の下校中にも使い魔がいう事を聞かない時があったわね……)

調子が悪く頭が回っていないほむらは、それらは不調のせいだと決めつけていた。

いや、その理由を細かく考えもしていなかった。

ほむら「……まどか」

まどかを求める気持ちが強いあまりに、今のほむらにとってはそんな事に一々頭を回す余裕が無いというのもある。



228 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:28:04.85

ほむら「…………」

やはり何度やろうとしても駄目なようだ。思い通りにならないほむらは苛つき、舌打ちを繰り返す。

いわゆる千里眼も手下たちも使えないとなると自身が動くしかないが、彼女は躊躇する。

こんな状態でも、やはり自分からまどかの側に行く事への恐れがあるのだ。

なぎさと別れた後は、不調が極まってほぼ無意識状態だったのであろうからこそまどかの家に向かえたのだが……

多少なりとも冷静さを取り戻すと、やはり苦しい。



229 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:30:20.75

そう考えると、まどかと同じ空間に居られる理由がちゃんとある『学校』という場所は、
ほむらにとってとても大事なのであろう。


スッ。


それでもまどかを求める気持ちが上回り、彼女は立ち上が……りかけたのだが、

ほむら「……!」


フラッ。


突然目の前が真っ暗になったほむらは、立ち上がる事叶わずその場に倒れ込んでしまう。

ほむら「…………」

体に力が入らず、そのままほむらは数時間ほど再び気を失ってしまった……



230 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:33:03.45

─────────────────────


『おぉおおおおおお!』


周りから歓声が上がる。

体育教師「に、日本記録じゃないの……? これ……」

ほむら「…………」

走り高跳びを終えたほむらは、周囲の反応などまったく意に介せずにマットを降り、
待機するクラスメートの元へと戻って来た。

杏子たち三人のマミの家での話し合いから数時間後、体育の授業での事だ。

やはり、使い魔はどこにも居ない。



231 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:34:52.22

杏子「おう、さっすが!」

さやか「ひぇ~、あんたやっぱ凄いねえ」

ほむら「…………」

素直に感嘆して声をかけてくる杏子とさやかだが、ほむらは答えない。

今回に限っては、相変わらず体調が優れないから反応していないだけなのだが……

それが無くても、いつもの悪魔・ほむらならこのような対応をしてくる場合も多いため、
これで他人に不調を察知されることはなかった。

気を失っていた時間があったのがよかったのか、
ここまでは、調子が悪いといえども一番の不調時に比べれば幾分かマシにはなっていたのもあるのだろう。

少なくとも表情には一切出していない。

相変わらず使い魔を動かしたりは出来ていないほむらだが、
まどかが居る場所に来た事でその件は彼女の頭から消えていた。



232 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:36:00.77

さやか「ったく、相変わらず無愛想なやつ~。
たまには愛想よくしたら? あんた美人なんだし、隠れファンも割と居るみたいだからそんなんじゃもったいないよ」

確かに、クラス内を飛び越えて学校中でどこかしら畏怖されているほむらではあるが、
彼女へと憧れの視線を送る者もチラホラと居る。

これは、学年が違う生徒からもだ。

ほむら「放っておいて頂戴」

しかし、やはりほむらはそっけない。



233 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:37:09.63

仁美「ああっ、やっぱりクールな暁美さんって素敵ですわね……」

まどか「もーっ、仁美ちゃんたら、顔が赤いよ?」

まどかと、志筑仁美が話に加わってくる。

さやか「そーだぞー。
ったく、あんたには恭介が居るだろうに」

杏子「…………」

さやかと仁美、そして上条恭介の三角関係はこの世界でもあり、すでに完璧に決着がついていた。

いや、決着がついている事に『なっている』。

きっと、『じゃあこれまでにどんな経路で恋愛模様を解決したのか』などと聞いても、
彼女たちは上手く答えられないはずだ。

これまでは、その辺りを疑問に思う事すら無かった・出来なかった為にそれでもよかったのだろうが……

ちなみに、どれぐらい完璧に解決している(事になっている)のかと言うと、



234 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:38:08.97

仁美「そうですけど、これはこれですわ」

さやか「かーーーっ、こんな浮気性が相手だと恭介も苦労するよ」

仁美「あらまあ。この間は、『あんな頼りない奴が相手だと仁美も苦労するねぇ』とか言ってらしたのに」

さやか「あれっ、そうだっけ?」

仁美「うふふっ、そうですわ」

さやか「あははっ!」

こうやって普段から他愛ない雑談に出来るくらいに、だ。



235 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:39:33.11

杏子「けどさ、さやかもよくあそこまでほむらに積極的に突っかかっていくよな~。
大抵、つれない反応しかされねーのにさ」

さやか「ん~? まあそうなんだけどね。
なんでかな……?
こいつ、ほっとけなくて」

ほむら「……私を小さな子供みたいに言わないで貰えるかしら?」

さやかの言葉に少々機嫌を損ねたのか、ほむらがぽつりと言う。

さやか「あっ、ゴメンゴメンそんなんじゃなくてね。
……う~ん、なんつーかほっとけないんだわ」

ほむら「訳がわからないわ」

それは、と杏子は思う。

杏子(それはなさやか、お前がまだ『円環の理』の一部を持っているからだよ)

いくら記憶を失くしても、再び人としての命を持っても、今も。



236 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:40:58.22

だがこれは、本家であるまどか以外だとさやかだからこその話だ。

魔法少女になった時間軸でのさやかは、魔女となって果てるか、
なにかしらの戦いで戦死するか、まどか再編後の世界だと円環に導かれるかのいずれかしかない。

どのケースの結末を迎えても、魔法少女になってから間がない為に内に秘めた能力が開花せずに終わり、
その上まどかという不世出の存在が近くに居て目立たなかったが、
実はさやかの魔法少女としての素質も相当凄かった。

そんな才能の持ち主であり、なによりも円環自身であるまどか一番の親友のさやかだからこそ、
このような状況になってもまだ円環のカケラを宿して居続けられるのだ。

そうでなければ、たとえカケラを持ったままこの世界に来ていても、
とっくの昔に例の『摂理』に完全排除されていただろう。

能力的にも、まどかとの繋がり的な意味でも、さやかは言わば円環世界のナンバー2だったと言って良い。



237 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:42:11.41

杏子(……そして、なによりもお前が『美樹さやか』だからだよ)

そう。

円環の一部として、
また、『ピンチの人を助けなきゃ!』というさやか個人のものとしての義務感も確かにあるのかもしれない。

だがそれだけではなく、自身の短い人生の中で深い縁を持てた相手の一人として、
義務感とは違うほむらへの『愛』も間違いなくあるのだ。

だから見捨てない。『愛』以外に思うところはあっても、見捨てられない。

まどかの事を最優先にしつつも、それでもさやかやマミ・杏子を死なせまいとも動いていた、
ループを繰り返していた時のほむら同じように、自分が出来る・状況が許す限りの精一杯をやって……

杏子(お前はまだ、ほむらを救おうとしてるんだよな)



238 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:43:10.66

まどか「でも、さやかちゃんの気持ちはわかるよ。
わたしも、ほむらちゃんはなんだか気になるっていうか……ほっとけない感じがするもん」

さやか「お~っ、さすがはまどか! あたしの嫁!」

ほむら「……まどか」

仁美「うふふっ。鹿目さん、私もですわ……」

杏子(いや仁美、お前の『気になる』とまどかさやかの『気になる』は違うと思うぞ)



239 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:44:51.27

女子「ね、ねえねえ鹿目さん」

話が盛り上がる中、クラスメートがまどかの肩を叩いてくる。

まどか「なあに?」

体育教師「オホンッ」

女子「次は鹿目さんの番だよっ」

まどか「あ、あわわ……」

さやか「げっ」

仁美「あらぁ」

ジト目の教師と焦るクラスメートの様子を見たら、どうやらまどかは何度も呼ばれていたらしい。

体育教師「ほら、早く来なさい!
そこも私語は慎むっ」

どうやら、彼女たちが気付かない間に雑談も注意されていたようである。



240 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:45:57.78

まどか「す、すみません~」

さやか「ごめんなさい……」

仁美「申し訳ございませんでした」

まどかが、慌てて走り高跳びのスタートラインへと向かう。

杏子「いや、ははっ! 夢中になりすぎたみたいだね。
ドンマイさやか!」

さやか「あたしだけ!?」

仁美「うふふふっ」

体育教師「こらそこ~っ、いつまでやってるの! 廊下に立ってなさい!」

女子「先生、ここは校庭です……」

起こる笑い。

杏子「はははっ!」



241 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:47:07.45

ほむら「…………」

突如。


フラッ。


杏子「……!」

ほむらはよろめくと、


ドサッ。


倒れてしまった。

杏子「おい!?」

まどか「えっ?」

さやか「ほむら!?」

仁美「暁美さんっ!?」


ザワザワ!


ざわめくクラスメートの中、杏子たちが倒れたほむらに駆け寄る。



242 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:50:22.98

体育教師「みんな、落ち着いて!
……貧血かもしれないわね……
保険委員は?」

まどか「あ、はいっ。わたしです」

体育教師「じゃあ申し訳ないけれど、暁美さんを保健室まで運んで行って貰えるかしら?」

まどか「は、はいっ!」

杏子「一人じゃムリだろうしあたしも手伝うよ。
……良いよな、先生」

まどかの返事から間髪いれず、杏子が言った。

体育教師「それもそうね。じゃあ佐倉さんにもお願いするわ」

まどか「杏子ちゃん、ありがとう」

杏子「いや、気にしないで良いよ」

まどかと杏子は、二人で協力して気を失っているほむらの体を持ち上げる。



243 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:51:33.18

さやか「あ、あたしも行くよ」

仁美「私も」

さやかと仁美が声をかけてくるが、杏子は首を横に振る。

杏子「いや、ゾロゾロ行ってもやる事は無いだろ。
あたしもすぐ戻ってくるから二人は授業の続きを受けてな」

さやか「杏子……」

杏子の言う通りである。さやかと仁美は頷く。

体育教師「はいはいみんな、続きをやりますよ!」

未だにざわつく生徒たちを教師が静める声を聞きながら、まどかと杏子は保健室へと向かった。



244 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:53:36.16

─────────────────────

昨日と同じ暗闇の中を、ほむらは佇んでいた。

ほむら「…………」

──見渡す限りの闇……
確かに、悪魔である私には相応しいのかもしれないけれど……──

ほむらにとって、それ自体は別にどうという事はない。

だが、なにも在らず、特にまどかが存在しない場所にただ居るのは苦痛でしかなかった。



245 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:55:13.19

ほむら「冗談じゃないわ」

さっさと自分の世界に戻る為に、ほむらは出口を探して歩き出した。

やけに体が重くて頭痛がするが、構っていられない。


タッタッタッタッ……


今の体調では厳しいほどの早足で進むほむらだが、妙な焦燥感が離れない彼女は、そのスピードを緩めない。

これはきっと、あの『確信』の影響が強い。

ほむら(私は絶対に失うものか。失ってなんかなるものか。
冗談じゃ、ない)



246 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:56:17.69

気が付けば、ほむらはまどかの名を呼びつつ歩いていた。

ほむら「まどか、まどか……」


タッタッタッタッ!


いつの間にやら歩きではなく走るような速さになっているが、止められない。

……どれくらい進んだだろうか。

ほむら「……!」

ほむらの視線の先に見慣れた背中が現れた。

ほむら「まどかっ!」

叫び、ほむらはまどかへと駆け寄るが……


シュウゥ……


ほむら「!?」

まどかは振り向きすらせず、周囲の闇に包まれて消えてしまった。



247 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:57:16.24

ほむら「っ!」

ほむらが慌てて周囲を見渡すが、相変わらずただ真っ黒な空間が広がるだけ。

──これは、未来?──

ふと、ほむらの頭にそんな事が浮かんだ。

──まどかと敵対して、その果てにある、全部無くした未来の世界……?──

──私はそこに迷い込んでしまったの?──

──いや、気付かないうちにこれが現実となってしまっていたの……!?──

『闇』の中、ほむらは混乱する。

ほむら「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」



248 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 19:58:34.29

─────────────────────

まどか「ほむらちゃん……」

無事にほむらを保険室のベッドに寝かせられはしたが、
一向に目を覚ます気配の無い彼女に、ベッドの側の椅子に座っているまどかは心配げな様子を崩さなかった。

杏子「…………」

ほむら「う……っ」

杏子(ほむらのヤツ、時間が経つにつれてうなされるようにもなってきたな……)



249 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:00:21.22

保険教師「ほらほら、あなたたちは授業に戻りなさい」

まどか「あの……
このままほむらちゃんについててあげたらいけませんか?」

保険教師「そうは言ってもねぇ」

杏子(さやかと仁美には『すぐ戻る』なんて言っちまったが、正直あたしもそうしたいところだ)

それは、純粋にほむらが心配というのもあるが、ここ数日の彼女の不調が気になるからだ。

杏子(これがもし、ほむらの体調に実際に影響が出てくるほど『闇』の侵食が進んできた証拠だとしたら……)

『氾濫』こそ明日のはずだが、なぎさがほむらとともに居た時に体験した事を考えたら、
周囲に被害を及ぼすなにかが起こる危険性はある。

近くにまどかと教師が居る以上、杏子はこんな状態のほむらを放ってはおき辛いのだ。

杏子(万が一を起こす訳にはいかないからね)



250 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:01:44.48

ほむら「っぐ! あううっ!!」

まどか「ほむらちゃん!?」

唐突に大きくうなされだしたほむらを見て、まどかが声を上げる。

──この時、杏子はほむらにのみ注意を払っていた。

ほむら「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

その為に杏子は、外から接近する『それ』を感知するのが少し遅れてしまった。

杏子「──むっ!!」


ガシャァァァンッ!!!!!


突如窓ガラスをぶち破って、およそ十羽ほどの鳥型の『異形』が保健室に飛び込んで来た!



251 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:03:07.48

杏子(ほむらの使い魔か!?)

まどか「えっ!?」

保健教師「!?」

異形たちは一直線にほむらへと向かうが、その途中には保健の教師。

杏子「ちっ!」

ここで魔法少女に変身など出来ない。


ガッ!


魔力で瞬時に身体能力だけ強化した杏子が教師の前に飛び出し、回し蹴りを放つ。

この蹴りにも魔力が込められており、前方のほぼすべての使い魔を撃退したが、
最後尾の一匹のカラスだけは射程範囲外の為に仕損じた。



252 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:04:26.59

杏子「こいつ!」

杏子は慌てて手を伸ばし、使い魔の突撃が教師の胸に直撃するのを防ぐが……


ザクッ!


杏子「っ!」

くちばしが杏子のてのひらに突き刺さり、貫通する。

杏子「──のッ!」


パァンッ!


しかしすぐさまてのひらから魔力を放出し、最後に残った使い魔を四散させた。



253 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:05:19.34

杏子「ふぅ……」

保険教師「えっ? なにが……起こったの?」

まどか「???」

今の一連の杏子の動きは、教師とまどかの動体視力では捉えられていない。

使い魔の姿も見えていないだろう。

この二人には、突然窓ガラスが割れ、杏子が教師の前に飛び出しただけにしか認識出来ていないはずだ。



254 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:06:25.28

まどか「……!
杏子ちゃん、ケガしたの!?」

手を押さえる杏子を見て、まどかが椅子から立ち上がった。

保険教師「大変っ! 見せて!」

杏子「ああ、かすり傷だよ。飛んできたガラスの破片でもかすったのかな」

怪我した方の手をブラブラと振りつつ、杏子はまどかの目の前、ほむらの寝ているベッドのふちに座る。

鋭いくちばしに貫かれたはずのてのひらは、しかし薄い血の跡が確認出来るだけで、
擦りむいた程度の軽症である。

あの使い魔を四散させたと同時に魔力で治癒を開始していたからだ。



255 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:07:33.25

保険教師「傷、水で洗いましょうか。
その後手当てしてあげるわね」

杏子「いや、良いよ」

保険教師「ダメダメ。ばい菌が入ったらどうするの?」

まどか「そうだよ杏子ちゃん」

杏子「うえぇ、めんどくせー」

ボヤキつつも、杏子は立ち上がってベッドからすぐ側にある小さな洗面台へと行き、手を洗う。

杏子(さやかくらいに治療が得意だったらさっさと完治出来てたのになぁ。参った参った)

こうなった以上魔力での回復を続けて治しきってしまうと面倒な流れになるので、
杏子は教師の言う通りにする事にした。



256 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:08:58.90

保険教師「ごめんね、私をかばったせいで怪我なんかさせちゃって……
痕にならなければ良いけど……」

杏子「全然。ヘーキだよ」

保険教師「──あ、後で私がホウキで片付けるから、割れたガラスは放っておいてね」

床に散らばるガラスを片付けるべく動こうとしたまどかを制し、教師は言った。

まどか「でも……」

保険教師「良いの良いの。ありがとうね」

まどか「……わかりました。
けど、なんで急に窓が???」

立ち上がったままだったまどかが、首を傾げながら再び椅子に腰をかける。

保険教師「本当、なんだったのかしら……?」

杏子「…………」



257 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:09:53.20

その時。


すっ。


まどか「えっ?」

まどかの膝の上に、手がおかれた。

ベッドで眠る、ほむらの白い手だ。



258 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:11:08.39

まどか「ほむら……ちゃん?」

杏子「──!」

まどかの声に反応したのか、

ほむら「う……」

これまでずっと閉じられていたほむらの瞳が開いた。

まどか「ほむらちゃんっ!」

保険教師「あら、よかったわっ」

ほむら「ま……ど、か……?」

ほむらは最初こそ重たげなまぶたで呂律が回っていなかったが、
その視界にまどかを確認したからか、すぐに目を見開いた。



259 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:12:03.90

ほむら「まどかっ!」


バッ!


そのまま彼女は飛び起きて──


ガシッ。


まどか「!?」

まどかに、倒れ込むように抱き付いた。

ほむら「まどか、まどか、まどか……!」

まどか「ほ、ほむらちゃん? どうしたの……?」

保険教師「……よっぽど怖い夢でも見たのかしら?」

学校中にクールで通っているほむらの唐突な行動に、まどかと教師は唖然としている。

二人ともが、暁美ほむらのこんな姿は見た事も、想像した事もなかった。

杏子「……ほむら」



260 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:13:07.85

─────────────────────

ほむら「あぁあっ!! ああーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

私は暗闇の中で叫びながら、消えたあなたを探し回った。

けれどあなたどころか、なにも、誰も見付からず、いつしか私は暴れまわっていた。

今の私に銃などの武器は必要無い。全力で魔力弾を放ち、黒い翼で飛び、ただただ暴れた。

そうでもしないと、永遠にこの暗い場所に閉じ込められ……

ううん。

この『闇』に呑み込まれてしまう気がして、頭がおかしくなりそうだったから。

そうなってしまったら、二度とあなたに会えないような気がしたから。



261 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:13:56.30

周りから見たら、たぶん滑稽な姿だったでしょう。

けれど、そんな事を考える余裕も無くなっていた私は暴れ続けていた。

言ってみれば、これは私にとっての必死の抵抗だ。



262 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:14:53.67

……ふと。

あなたの香りがした。

小さな風に乗って、確かに。

そちらに顔を向けると、ただ『闇』があるだけだった空間に小さな小さな『光』が見えた。

私は反射的に、その『光』に手を伸ばしていた。

そしてまばたきを一つしたら……

???「ほむら……ちゃん?」

目の前に、なによりも眩く大きな『光』が在った。



263 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:16:13.73

ほむら「ま……ど、か……?」

無意識のうちに口からこぼれた、その名前。

そう、彼女こそ私が求めていた……

ほむら「まどかっ!」


バッ!


そのまま私は飛び起きて──


ガシッ。


まどか「!?」

まどかに、倒れ込むように抱き付いた。



264 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:17:49.40

ほむら「まどか、まどか、まどか……!」

まどか「ほ、ほむらちゃん? どうしたの……?」

あなたの名前だけを呼び続ける私に、あなたは戸惑いながらも優しい言葉をかけてくれる。

──例の『確信』は、一昨日よりも昨日、昨日よりも今日とどんどん強く覚えるようになってきている。

なんの根拠もない『確信』だけれど……それを覚えてから、
あなたと袂を分かつ未来をかつてないほどリアルに感じてしまう。

考えるだけですら恐怖で震えが走るほどだったその望まぬ未来への恐れ。
今は、これまでのものとは比にならない。



265 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:18:34.36

ほむら(やっぱり嫌だ。あなたを、まどかを失うなんてっ! 絶対に嫌だ!)

今更ながら、私はそう強く強く思った。

ほむら(ずっと側に居たい。ずっと側に居て欲しい……!)

しかし、そんな思いとは裏腹に。


『お前は失うんだよ』


私の中にある『なにか』が、そうつぶやいたような気がした。



266 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:19:21.12

─────────────────────

昼休み、いつもの屋上にて。

マミ「あら、志筑さんのタコさんウインナー、美味しそうね」

仁美「よろしければ召し上がられますか?」

マミ「良いの?」

仁美「はい。
その代わりと言ってはなんですが、私にはその卵焼きを頂けませんか?」

マミ「もちろん良いわよ♪」

そんな仁美とマミのやり取りを見て、杏子も動く。

杏子「なんだなんだオカズ交換か?
じゃあほむら、それくれよ」

杏子はほむらに言いながら、さやかの弁当からプチトマトを取って自分の口に入れた。



267 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:20:10.75

さやか「あっ良いなぁ。
じゃああたしはまどかの……ってなにすんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

杏子「フェイントだよフェイント」

怒れるさやかを、杏子は軽くいなす。

さやか「もう! じゃああたしは、まどかのと恭介のとほむらのを貰うんだっ!」


ヒョイパクヒョイパクヒョイパク。


まどか「わっ!?」

恭介「!」

ほむら「…………」

目にも留まらぬスピードで、さやかがまどかたちからオカズを拝借した。

さやか「うん美味い!
あ、これお返しね」

と、彼女は三人に自分のオカズを渡す。



268 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:21:09.65

さやか「──あっ!」

さやかはその流れのままに杏子の方を向くと、視線をあらぬ方へやってそちらを指差す。

杏子「えっ?」

さやか「あんたにもお返し!」

杏子「あっ!」

それに釣られた杏子の隙をついて、さやかは杏子からもオカズをGET。



269 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:22:04.21

杏子「なにすんだよっ、あたしの鳥肉!
つかそれは『お返し』違いだろっ!?」

さやか「だってあんたとは『交換』してなかったし?」

杏子「はぁ!? 『あたしの物はあたしの物、お前の物もあたしの物』ってヤツだよ!」

さやか「どこのガキ大将よ、それ?
……くくくぅ~、それにしてもお口がパラダイス!」

まだまどかたちの物も残っていたのだろう口内に、杏子のまで合流した事で、さやかは実に幸せそうな顔を見せる。

杏子「くっそ! じゃあそのハンバーグくれよ!」

さやか「ダメ!
ってか、あんたとあたしのお弁当、中身一緒じゃないっ!」

この二人のこうしたやり取りは、日常である。



270 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:22:54.21

まどか「ふふふっ」

恭介「あははっ」

そんな様子を見ながら、まどかと恭介が笑う。

ほむら「…………」

ほむらは黙っているが、こちらもそれに関してはいつも通り……ではあるのだが……

まどか「──ほむらちゃん、大丈夫?」

ほむら「ええ、大丈夫よ」

しかし、そう答えるほむらはいつも以上に覇気が無い。



271 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:24:33.64

恭介「そういえば暁美さん、授業中に倒れたんだって?
無理はしちゃ駄目だよ」

ほむら「平気よ」

保健室での一件から後、ほむらはフラつきながらもすぐに授業に戻った。

誰が見てもずっと調子が悪そうだった彼女だが、なんとか昼まで持ちこたえて昼休み。

めずらしく、ほむらは自分からまどかたちと昼を共にしたいと言ってきた。

いや。

先日の下校時もそうだが、彼女が自分から昼をというのもめずらしいを超えて初めてだろう。

ほむら(まどかから離れたくなかったから──)

まどかと関わりすぎるのを恐れて一歩引いた位置に居る事が多かったほむらだが、
それを上回る恐怖が、彼女をそんな行動に走らせた。



272 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:25:45.54

ほむら(正直、調子は悪い。悪魔になってから覚えが無いほど……)

特に、精神的に。

ほむらは、恐怖と不安に揺れる心と必死に戦っていた。

そして、不可思議な事がもう一つ。



273 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:27:04.14

ほむら「…………」

近くの空で鳥型の異形が、
同じ屋上の、食事をする彼女たちから少し離れた所にはまた別の姿の異形たちが落ち着きなく蠢いているのだ。

もちろん、これらはすべてほむらの使い魔たち。

数日前と同じで、ほむらは使い魔たちにこんな風に集まれなどと指示は出していない。

むしろ、奴らの姿に気付いてからずっと『離れろ』と命令し続けている。

ほむら(やっぱり、全然命令を受け付けない……)

戸惑うほむら。



274 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:28:38.43

それは、手下たちが言う事をまったく聞かないからだけではない。

彼女は使い魔たちからとある感情を感じ取っていた。

ほむら(……恐怖? 不安と、あと……)

『心配』。

ほむら(どういう事……?
あいつらはなにを不安がり、恐れているの?
なにを……心配しているの?)

使い魔の気持ちを読みきれないのもまた、ほむらには初めての経験だった。



275 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:30:20.93

マミ『妙に辺りが騒がしいわね』

杏子『だな』

さやか『なーんか気持ち悪いね』

三人のテレパシー。

周囲の状況に、魔法少女であるマミ・杏子・さやかは当然気付いている。

さやか『なんなんだろうコレ。魔獣の気配はしないし……』

ただ、相変わらずさやかのみは、あの異形たちがほむらの使い魔だとは知らないが。

マミ『私たち……いや、暁美さんの様子を伺っている? ようだけれど、殺気はまったくないし……』

杏子『……まあ、今のところは注意だけしっかりしておけば良いだろ』

さやか『そうだね。まどかたちには見えないんだから、下手に反応する訳にはいかないし。
でも、前もこんな変な事あったし、超強力な魔獣が現れる兆候とかだったらやだなぁ』

マミ『そうだったら力を合わせて頑張りましょうね』

さやか『おうっ』



276 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:32:20.31

杏子『──しかしマミ、どうなんだろうね』

ここからは、杏子とマミ、二人だけのテレパシー会話。

杏子『やっぱほむらになにかが起こってると考えるのが妥当か』

マミ『前も、使い魔の様子がおかしい時があったって言ってたわね。
なるほど、これは確かに異常だわ』

杏子『その時も今みたいに集まりまくってて、でもさっきまでは気配すら無かったってのに。
保健室のアレもあったし、訳わかんねー』

マミ『……そういえば、今日保健室でも使い魔がおかしな動きをしたんですって?』

杏子『ああ。『鳥型』のがいきなり窓ガラスをブチ破って来て、ほむらに一直線だ』

ちなみに、その時の傷はもう魔力で完治させてある。

元々まどかたちに傷口を見せた時もほぼ治りかけていたので、
たとえ今の手のひらを、まどかなり保険の教師なりに見られても特に怪しまれはしないだろう。



277 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:33:21.44

杏子『ただね、あれはほむらの自己防衛っていうか……ヘルプに感じたな』

マミ『ヘルプ?』

杏子『保険室での使い魔の動きは、ほむらを助けようと特攻して来た感じがしたんだ。
根拠は無いけどね』

マミ『暁美さんを助けようと……』

杏子『あいつらは明らかにほむらしか見えてなかったし、
今あちこちに居るヤツらと同じで殺気もまったく無かったからさ』

マミ『だとしたら……』

杏子『ああ。あたしたちにはでっかい追い風だ。
これなら……』



278 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:34:16.94

仁美「あら巴先輩、唇の端にソースが付いてますわよ?」

と、仁美がマミの唇をハンカチで拭った。

マミ「あ、あら。ありがとう」

仁美「良いんですのよ♪」

マミ(テレパシーに気を取られていたわね……)

杏子(なにやってんだマミ……って仁美、なんで妙に嬉しそうにハンカチしまってんだ???)

さやか「ちょっと杏子、あぐら!」

杏子「ん? ああ、つい。
でもこんぐらい良いじゃん」

言いながらも、杏子は脚を直す。



279 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:35:36.71

さやか「ダメダメ、はしたない。恭介も居るんだよ?」

杏子「別に気にしねーし。
大体、はしたないっつーならさやかだって先週風呂で……」

さやか「わーーーーーっ! それは無しあれは無しノーカンっ!!!」

頬を赤らめて両手を振りつつ、さやかは恭介の方を見る。

恭介「ん? どうしたんだい?」

しかし、まどかと話していた恭介はさやかたちの会話は聞いてなかったようだ。

さやか「うっ、ううん。なんでもないよっ」

杏子「他のヤツならともかく、そいつ相手ならそんな気にしなくても良いのに」

さやか「いや、いくら恭介でも男子だし!」



280 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:36:35.56

恭介「?
なんか賑やかだね」

女子二人のそんなやり取りを見て、笑顔の恭介が首を傾げながらものほほんと言う。

まどか「ふふっ、そうだね」

ほむら「……騒がしくてしょうがないわ」

恭介の言葉にまどかもマイペースに返し、ほむらはため息混じりにひとりごちた。

しかし、彼女は依然として不調そうながら、機嫌は悪くなさげなのはまどかと恭介の思い過ごしだろうか。

ちなみにマミと仁美は、二人で再び料理についての話題で盛り上がっているようだ。



281 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:37:22.72

恭介「まぁ違いないかもね。
でも、僕はこういうの好きだな」

まどか「そうなんだ。
ちょっと意外かも」

恭介「そうかい?」

まどか「うん。上条くんみたいな人って、アーティスト気質って言うのかなぁ?
そんな人って、賑やかなのは苦手なのかなって。
……あっ、ごめんね。勝手な偏見だよね。悪い意味じゃないんだよ」

まどかが慌てて恭介に向かって両手を振る。

恭介「はははっ、うん。わかってるよ」

──やっぱり、この子は人に凄く気を使うんだな──

思いながら、恭介はまどかへと笑顔を返す。



282 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:38:44.46

恭介「……そうだね」

そのまま彼は顔を前に向ける。

恭介「正直に言うと、確かに静かな方が好みかな。
特に、バイオリンを引いていたり音楽を聴く時は、他の音はどんな些細なものも一切無い方が良い」

まどか・ほむら『…………』

ほほえみこそ消えてはいないが、前を向く恭介の瞳は先ほどまでのものとは変わっていた。

本気で人生を賭けるものへと向かって精一杯頑張っている人間が、その事について語る時の強い強い瞳へと。

ほむら(……夢、か。
ううん、彼ほどの実力者ならば、それはもう『現実』なのかしら?
──眩しいもの、ね。
私にはきっと、彼の瞳に映っているような景色は永遠に見られないでしょうし……)

そんな風にこそ思うが、別にそれでほむらの心が動いたりはしない。

ほむら(こうしてまどかの側に居られさえすれば、そんな事どうでも良いのだから)

たとえ未来が無くても。

大人になる道が、門が、固く閉ざされてしまっていても。

ほむら(まどかと永遠に居られさえすれば……)

居られさえ、すれば。



283 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:39:54.37

まどか「……そっか」

恭介「うん。
──けれどね、それはそれ、これはこれだよ」

再び恭介が、まどか、ほむらへと視線を戻した。

バイオリニストの彼ではなく、彼女たちの友達・上条恭介の瞳で。

恭介「今のこの現実の全部が、環境が、僕は凄く楽しくて嬉しいんだ」

ほむら「…………」

まどか「今の環境?」

恭介「うん。
手が使えて、バイオリンが思う存分弾けて……
志筑さんやさやか、鹿目さんとか佐倉さんに暁美さん。みんな居てくれてさ。
こんな、『今』が」

まどか「上条くん……」



284 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:40:38.78

恭介「とてもとても大切なものを失いかけて、その途中馬鹿な僕は、
大切な友達であるさやかに酷い事を言ったりもしたよ。
でも『奇跡』に助けられ、周りの人たちからも僕は見捨てられなかった。
学校だって結構休んだのに、復帰してからクラスのみんなも優しく迎えてくれた」

まどか「……うん」

恭介「その先に待っていたのが、『今』」

そう。

恭介「この世界」

ほむら「……!」



285 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:41:42.70

恭介「なにも、誰も失わず、僕を優しく包んでくれる今の世界の全部が大好きなんだ。
だから……
本来は得意ではないはずの喧騒も、楽しくてしょうがないんだよ」

優しく──しかし熱い思いの込もった言葉を、恭介は噛みしめるように言った。

恭介「──って、僕はなに変な事言ってるのかな」

ははは、と笑いながら彼は照れ隠しに頭をかく。

まどか「ううん、全然変じゃないよ」

恭介「ありがとう。
まあ楽しいといっても、自分もあんな風にってのはちょっと無理なんだけどね」

まどか「見てるだけなのが最高ってのもあるもんね」

一緒にワイワイするのが、みんなの輪の中に居る唯一の方法ではないという事なのだろう。

こうやって離れた場所から見ているのが好きな人も居るし、そういう形の絆もあるのだ。



286 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:42:28.34

ほむら「……あなたは……良い人ね、上条くん」

恭介「えっ?」

恭介が、驚いた様子でほむらを見た。

それもそのはず。

ほむらは、相手から話しかけられれば会話もするが、自分から誰かに話しかけるというのはまず無いのだ。

唯一まどか相手にだけは例外かもしれないが、それでもほむらからというのは少ない。

恭介(こんなの……初めてかも)



287 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:43:20.90

ほむら「そんなにこの世界が好き?」

問いかけるほむらはとても穏やかだ。

恭介「うん、大好きだよ」

その問いに答える恭介も、また穏やかで。

ほむら「……本当、良い人。
純粋で、毒が無さすぎる」

恭介「いや、そんな事は無いよ。
入院中は、さやかとか色んな人に迷惑ばかりかけちゃったから……
ほら、辛い時ほど人って本性が出るって言うからね」

ほむら「…………」

まどか「上条くん……」

ほむら「……あなたがそんな人だから、一つ助言をしてあげるわ」

恭介「?」



288 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:45:01.59

ほむら「純粋なのは結構だけど、それで知らない間に傷付く人も居るから気を付けなさい」

ほむらがこんな事を言うのは、自分が再編した世界を好きだと言ってくれた礼なのだろうか?

恭介「えっ?」

まどか「そうだよ……!
仁美ちゃん、一人で寂しい思いしてる時が多かったりするみたいだよっ」

と、まどかが声量を落とし、恭介へと向けて唇を尖らせる。

この辺りの察しのよさや、食い付きのよさはやはり女の子。

恭介「……えっ?」

ほむら「脇目も振らずに夢中になれるものがあるのは素晴らしいけれど、もうちょっと周りを見るべきでしょうね。
まして『恋人』なんて、あなただって合意したからこそ出来た関係でしょう?
なら彼女を疎かにしすぎるのはどんな理由も言い訳よ」

恭介「えっ、え……??」



289 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:46:25.29

ほむら「あなたは、もう少しだけで良いからバイオリン以外にも欲を持つべきでしょうね。
彼女に対しても純粋すぎるのは、優しさとはちょっと違うでしょう?
それが悪いとは言わないけれど」

恭介「う、うん……」

初めてほむらから話しかけられた上、いつになく饒舌な彼女に恭介は混乱していたが、なんとか頷く。

まどか「わたしにはこれといった夢は無いし、好きな人も恋人も居ないから想像なんだけど、
忙しかったらちょっとはこんな感じになっちゃうのかなってのは確かに思うんだ」

恭介「鹿目さん……」



290 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:47:18.06

まどか「でもね、もうちょっと仁美ちゃんも見てあげて欲しいかなって。
仁美ちゃんはあんまり弱音とかを出す子じゃないし、隠そうとはしてるんだと思うけど……
たまに見えちゃう時があるんだ」

恭介「……うん。わかったよ。君たちの言う通りだ。
──ふふっ、二人が居てくれてよかったな。
ありがとう」

まどか「ううん、むしろ嫌な事言っちゃってゴメンね」

ほむら「……ふん、ちょっと喋りすぎたわね」

ほむらは、左手で髪をかき上げるとそっぽを向いた。



291 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:48:34.45

ほむら(……?)

ここで彼女は気付いた。基本的には大抵自分の左耳に装着しているイヤーカフスが無い事に。

イヤーカフスについている宝石は、今のほむらの力の源である『ダークオーブ』。

一瞬それを無くしたかと焦ったほむらだが、意識を向けてみれば、自身の中にその存在があるのを感じる。

ほむら(な、なんだ……)

ダークオーブは、悪魔・暁美ほむらなら飲み込んだりする事で体内に入れる事が出来る。

ほむら(気付かないうち、いつの間にか飲み込んでいたのかしら?
……だとしたら、今の私は本当に駄目すぎるわね)

ほむらは軽くため息を吐く。

ダークオーブを体内から取り出して再びイヤーカフスとして装着しようかとも考えたほむらだが、
そんな行動を人前でというにはいかないだろう。

ほむら(やるなら、後でするべきね)



292 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:49:16.64

杏子「おう、そろそろ教室戻ろうぜ!」

まどか「あっ、そうだね」

会話をしながらも食事は続けていたので、すでに全員の弁当は無くなっているし、もう良い時間になっていた。

さやか「あ~っ、午後の授業めんどくさいなぁ」

杏子「サボろうぜ!」

さやか「サボろうか!」

まどか「ダ、ダメだよ杏子ちゃん、さやかちゃん」

マミ「そうよ。そんな事しちゃダメ」

まどか「さすがマミさんっ!」

マミ「うふふっ♪」



293 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:50:09.10

仁美「巴先輩、色々教えて頂いてありがとうございました」

マミ「こちらこそ、とても勉強になったわ。ありがとう」

仁美は、マミと笑顔の交換をした後に恭介の隣へ行ってそっとつぶやく。

仁美「あっ上条くん、今度アップルパイを作って参りますわ。
巴先輩に作り方を教えて頂きましたの。
お嫌い……じゃあありませんでしたよね?」

恭介「うん、普通に好きだよ。
──いつもありがとう志筑さん。楽しみにしてるね」

仁美「上条くん……?」

いつもとはどこか違う恭介の雰囲気を感じ取った仁美は首を傾げたが、

仁美「……はいっ!」

すぐに嬉しそうに頷いたのだった。



294 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:51:09.49

……………………

いつの間にか、周囲の使い魔たちが全員いなくなっていた。

誰も気付かないうちに、大群がいつの間にか。

杏子(注意を逸らしたりはしなかった……はずなんだけどね)

マミ(…………)

さやか(変なの。やっぱ気味が悪いなぁ)

ほむら(……私の命令が届いたのかしら?
体調はともかく、今の時間を過ごせたおかげか気分はよくなってきたから、
やっぱり疲れが溜まっていただけなのかもしれないわね……)

彼女たちはそれぞれが思いながら、屋上を後にした。



295 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:51:55.79

─────────────────────

杏子『……マミ』

教室に戻る為に屋上からの階段を降りている途中、最後尾に居る杏子が、隣を歩くマミへとテレパシーを使う。

マミ『……上条くん、私たちと同じ事を言ってたわね』

ずっとほむらへ注意を払っていたマミと杏子は、先ほどの会話を聞いていたのだ。

杏子『ああ……』

ここからわずかな間、沈黙した二人はなにを考えていたのか。



296 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:52:39.09

杏子『……なんだかんだでさ、ほむらのヤツも楽しそうっていうか、嬉しそうだったな』

マミ『ええ、そうね』

『痛みすらも愛おしい』段階まで行ったほむらとはいえ、
自身を……自身の行動の結果を肯定されるというのは、やはり良い意味で思うところがあるのだろう。

たとえ彼女がそれを必要としていなくとも、
不意に与えられたそれを、無理に否定して捨てる必要もまた無いのだから。



297 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:54:07.57

杏子『そういやあ途中だった話だけど、もし本当に保健室での『鳥型』がほむらを守ろうとしたんだったら……
きっと、あいつは助けを求めてると思うんだよな』

あの時のほむらは気を失っていたのでおそらく無意識なのだろうが、
ほむらの使い魔に関しては、クララドールズを除けば基本的に悪魔である今の彼女の命令以外では動かないはず。

また、『鳥型』自身が彼女を助けようと思っていたとしても、使い魔は多かれ少なかれ主人の要素・意思が反映されている存在だ。

だからこそ、そう考えるのが自然だろう。

マミ『たとえ暁美さんが『闇』そのものに気付いていなくても、
もしもこの先に起こる事を本能だけででもわかっているのだとしたら。
そして、暁美さんがその運命から助けを求めているのだとしたら……』



298 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:55:38.82

杏子『なんつーか、やる気が出る
よな』

彼女たちに他人の心を読む力など無いが、そうだったら二人は──嬉しい。

ここまでは自分と仲間たちが生きる為に世界を救おうと、そして『円環の理』の力になろうと頑張ってきた。

そこでの、杏子、マミ、なぎさ、『円環の理』だって気持ちは一致している。

円環のカケラを今も宿すさやかだって、まだ事情を知らないだけで必ず彼女たちと同じ思いだろう。

だから、記憶を取り戻せば一人きりででもほむらに立ち向かっていっていたのだから。

だが、当然ながらここにほむらの意思は無かった。

杏子たちは、ほむらはまどかを──
まどかの居るこの世界(次元)は絶対に失いたくないはずだと考えているし、その考えにはみんな自信がある。

だが、あくまで杏子たち側からしたら間違いない『だろう』という読みでしかない。

内心『ただの押し付けなんじゃないか』という思いは、二人には少しだけ、心の奥底にあった。

ここに、ほむらが救いを求めているという事実があるのなら……やはりより気力が湧く。



299 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:57:04.81

杏子『ま、当然まだあいつに直接聞いた訳じゃないからアレだけどね』

マミ『ふふっ、そうね。
そうだけど、そんな風に思える材料が出てきただけでも嬉しいわ』

杏子『……それにさ』

マミ『?』

杏子『今までは世界っつーか、自分たちやほむらの為だけって感じだったが……
今が幸せなヤツが他にも居るってなら、そいつの幸せも守りたいって思ってね』

マミ『佐倉さん……
ええ、そうね! 私もだわっ!』



300 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:58:05.64

これまでは、杏子もマミも、なぎさも──

こんな状況で、魔法少女でもなんでもなく、
今回の件に関係も無い普通の人たちまでを考える余裕も器も無かった。

当たり前だ。いくら腕が立ち神の知識を得ていても、彼女たちはまだ少女なのだから。

しかし先ほど恭介の思いを聞き、触れ、その考えに至ったのだった。

成長、だ。

──数時間後の放課後には、約束通り彼女たちの前にキュゥべえが現れるだろう。

『闇』の氾濫も明日に迫っている。

本当の終わりへ向けて舞台は整いつつあり、その時は近い。



301 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 20:59:11.79

杏子『けど……へへっ、我ながらくさいね』

マミ『そんな事無いわ。
知っての通り私もだけど、あなただって元々はそういう風に頑張る魔法少女になりたかったはずよ?』

杏子『あ~……そっか。
今のマミ、あたしの事もかなり深いところまで知ってるんだよな。
ちょっとやりにくいね』

マミ『ふふっ、あなただって『私』を知っているんだから、お互い様よ』

杏子『へへっ、そうだね』

『円環の理』は、どこか別の次元で激しい絶望の末に果てかけ、
しかし大いなる力にて救われた『杏子』や『マミ』の記憶も内包している。

だから、その『想い』を受けとったこの世界の杏子とマミも同じ記憶を持っているのだ。



302 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:00:22.08

杏子『大体、今のあたしたちに細かい事はもう無意味か』

マミ『そうよ』

無限に近い時間軸の記憶を共有する今の二人は、もはやただの仲間ではない。

これはまどかとさやか、なぎさの三人もそうだし、
あのような経歴で『悪魔』となったほむらもまた、同じはずなのだが……



303 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:01:17.31

ほむら(──大丈夫。これなら放課後まで持つ)

──あんな『確信』など、ただの勘違い。
この世界は、永遠なのだから。
そう、絶対に。絶対に……──

ほむら(……なんにしても、一度本格的にゆっくりと休んだ方がよさそうね)


トッ。


先頭を行くまどかとほむらの足が、廊下へと置かれた。

その時。


グアッ!!!!!


強烈な『闇』の風が吹き荒れた。



304 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:01:59.33

杏子「なにっ!?」

マミ「!?」

さやか「えっ!?」

すざまじい烈風に、杏子、マミ、さやかの三人は反射的に腰を落として踏ん張るが、

まどか「ひゃあっ!?」

恭介「うわっ!?」

仁美「きゃっ!?」


ドガッ!


まどか、恭介、仁美の三人はなす術もなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて気を失う。



305 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:02:49.90

マミ「みんなっ!」

杏子「ぐっ!」

飛ばされないよう踏ん張りつつまどかたちへと声を上げるマミに、前方を見ながら唇を噛みしめる杏子。

杏子の視線の先には、自分たちと同じく烈風で動けないでいるさやかと……

ほむら「っ、っっ、ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

自分で自分の体を抱くような体勢で、体全体から漆黒の『闇』をほとばしらせながら絶叫するほむらが居た。



306 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:04:10.29

マミ「暁美さんっ!」

杏子(バカな!? これは、この現象は……!)

『闇』の、氾濫。

マミ(なぜ!?)

やがて烈風は止み……

ほむら「…………」

黒く露出度の高いドレスやニーソックスを身につけ、禍々しい翼を生やしたほむらが立っていた。

杏子「……あれが、悪魔・暁美ほむらか……」

マミ「…………」

ほむらに宇宙を改変される瞬間、『円環の理』はほむらのこの姿を視ている。

だから知識としては持っていたが、杏子とマミがこのほむらの姿を実際に目にするのは初めてだ。



307 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:05:24.50

二人は背筋に冷たいものが走るのを感じつつ、前を向いたまま階段を何段か上がって間合いを取り、


シュンッ!


魔法少女へと変身して、杏子は槍、マミはマスケット銃というそれぞれの得物を手に構える。

ほむら「…………」

杏子「ぐっ!」

凄まじい殺気だ。

ほむらは無表情だが、それが逆に恐ろしさを増していた。

杏子「さやか! お前も早くこっちへ──」

さやか「──待って」

自分たちとほむらの間に居るさやかへとかけられる杏子の声だったが、
さやかはほむらから視線を外さずにそれを遮った。



308 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:06:12.15

さやか「……ねえ、ほむら」

ほむら「…………」

悲しげな声で名前を呼ぶさやかに、しかしほむらは答えずただ彼女を見つめるだけ。

さやか「──そう。
よかった。まだ間に合うんだね」

つぶやくさやかの表情は、背を向けられている杏子とマミには見えない。


シュインッ!


さやかも魔法少女に変身すると、

さやか「おあぁぁぁぁッ!!!」


ゴゴゴゴゴッ!!!


魔力を高め始めた!



309 : ◆LeM7Ja3gH2ba :2014/10/15(水) 21:06:45.91

さやか「待ってなほむら! 今助けてやるからさっ!」

杏子・マミ『!』

──円環の魔法少女・美樹さやか、覚醒。




ほむら「そしてまた……叛逆の物語」 【後編】に続く



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