1 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:21:31.16

このSSは次の要素を含みます

・エセ関西弁
・地の文
・百合
・微エロ?


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421925690



2 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:23:06.68

洋榎「よーしわかった!
   つまり答えは1やな!」

恭子「ちょ、人の説明聞いとった!?
   なんでそんな答えになるねん」

洋榎「だーって難しくてわからんもーん」

恭子「そんなんじゃアカンて!
   言うとくけどこれ教科書レベルの問題やからな?
   来週の期末テストに間違いなく出るで!」

洋榎「はー……
   こんなん人が解ける問題やないわ。
   人類の英知を超えとるで」

恭子「だから教科書レベルやて!
   もー洋榎、こんなんで躓いてたらまた赤点とるで!」

洋榎「言うてもなー」

恭子「赤点とったら追試受けなあかんし、
   一発目で乗り切るんが一番ええでしょ」

洋榎「せやけどなー……
   あー、もう無理や!
   これ以上集中でけへん!
   休憩にしよう休憩!」

恭子「はあ!? まったくもう……
   洋榎うちに何しに来たん?
   勉強わからんから教えてー言うたんは洋榎やろ」

洋榎「せやけどもう頑張れへんわー……
   あーええ布団」ゴロゴロ

恭子「勝手に人の寝床に寝っ転がるな!」

洋榎「頑張りの前には休憩が必要なんやー」ゴネゴネ

恭子「だから今がんば……
   あーもう、これ以上言うても不毛なことにしかならんわ。
   しゃーない、ちょっと紅茶用意するから待っといて」

洋榎「サンキュー!
   ホンマ恭子はええ嫁さんやなー」

恭子「誰がや!」



最初に違和感を覚えたのは、いつのことだったか。

多分、そんなに最近のことではないはずだ。

姫松高校。
南大阪の麻雀名門校に、私が入学してきたのは2年前。
同じくして、入学してきた彼女。
ファーストインプレッションは、最悪だったと言ってもいい。



3 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:23:46.63


私が初めて麻雀部の部室を訪れたとき、彼女は既に卓を囲って打っていた。
入学初日で、しかも入学式とオリエンテーションが終わった1時間後のことだ。
彼女と一緒に卓を囲っているのは皆上級生らしく、お互いをニックネームで呼び合っている。
はじめは上級生が4人で打っているのかと思っていた。
しかし、周囲の先輩の口ぶりから、彼女はどうも私と同じ1年生らしいということを知る。
そこで私が彼女に抱いた印象は、図々しい奴、だった。

それだけならまだ良かった。
打っている最中、彼女はやたら口うるさく喋り立てる。
ツモアガリすれば『まいどあり』、出アガリすれば『ごちそーさん』。
牌を切るときも3ピンと言いつつ1ソーを切ったり。
ドラを切るときもドラであることをやたら強調するし。
おまけに時々変な言葉遊びが付いていた。

遠目に見ているだけで、私のイライラは最高潮。
雀荘には時々マナーの悪い打ち手がいたりすると聞くが、アレもその類なのだろうか。
しかもここは雀荘ではない、高校の麻雀部の部室。
麻雀の技量を磨くために各々が研鑽する場なのだ。
彼女が口を開くたび、下家に座っている先輩の顔が心なしかひきつっているように見えた。
注意しようかと悩んだが、私も来たばかりの1年生、ずかずかと出て行って注意するのは気が引けた。
その代わり、こいつとは絶対に関わらないでおこうと、心に誓った。

彼女が昨年度インターミドルの覇者・愛宕洋榎であることを知ったのは、その翌日のことであった。



4 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:24:47.77


インターミドル覇者と知ったからといって、私の心持ちが変わるわけもなく。
彼女が口うるさく鬱陶しいやつであることには変わりなかった。
私はなるべく彼女の傍を通らないようにし、なんとか話しかけられないように気を遣っていた。
しかし、誰にでもすぐちょっかいを出す彼女のこと、私に声がかかるまでそう時間はかからなかった。

「おう、アンタも1年やったか? 名前なんて言うたっけ」

イライラの蒸気が一瞬にして身体の下から上へ吹き抜ける。
とはいえ、私はすぐに理性を取り戻す。
周気に食わない相手とはいえ、りの目もある中ここで無視するのは私の印象が悪い。

「ああ……そうや。うちは末原恭子。そっちは……愛宕さん?」

「お? 覚えてくれてるんか。
 その通りや。うちは愛宕洋榎言うてな。
 驚くなや、うち去年のインターミドルで優勝してんねん!」

それは今朝先輩から聞いた。

「ふーん」

「え? な、なんや!
 もうちっと驚いてもええやろ!」

「いや、先輩から聞いたわ、それ」

「はー……なーんや驚かせよう思うたのに。
 まあええか、うちくらい有名やとしゃーないことやな」

自慢か。

「まあそういうわけや、よろしくな、恭子?」

「は、はあ!?」

「何や」

「何、って、いきなり下の名前とかやめてや!」

「えー同じ1年やろ。普通とちゃう?」

同学年でも最初は普通苗字にさん付けだ。

「いや普通とちゃうわ、末原さんにしといてとりあえず」

「えーそんなつれないなー。
 じゃあよろしゅうな、末原さん」

「はいはいよろしく」

「あ、でもうちのことは洋榎て呼んでええからな?」

「もっと嫌や!」



5 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:25:40.35

それが彼女と私の第一接触だった。
振り返ってみれば、彼女が私を『末原さん』と呼んだのは、この一回を含めて数えるほどしかない。
会い直すたび、彼女は私のことを『恭子』と呼んでくる。
私が何度『末原さん』に訂正しても、次会うときはまた『恭子』だ。
そんな応酬を繰り返した結果、最終的に私のほうが折れ、結局『恭子』呼びで定着してしまったというわけだ。
それにしても、今の洋榎が私を『末原さん』などと呼ぶ光景はまったくもって想像できない。
もし呼んできたら、私は吹き出すことだろう。

元々実力のあった彼女は1年生の頃からレギュラー入り、私は3年生から。
2年生の時に声がかかったことはあったが、自分よりも得点稼ぎの期待できる後輩に席を譲った。
とにかくも私は2年遅れで、彼女と同じ土俵に立ったのだった。
その一つのけじめとして、公の場では私の彼女に対する呼び名は『主将』に変わり、言葉遣いも敬語に変わった。
多分、彼女への気持ちが少しおかしな方向へ傾き始めたのは、レギュラーとしての活動が始まってからだと思う。

インターハイ予選の一週間前、土日を使って泊まりこみ合宿があった。
春季大会を戦った5人、かつインターハイのレギュラーとして出場する5人だ。

特に目立ったきっかけがあったわけではない。
ただ、泊まり込みの合宿というのは、生活を共有する場であり、人が普段見せない姿を見せる場である。
いつもの練習なら、部活仲間が風呂に入ったり、歯を磨いたり、布団をかぶって寝ている様を見ることはない。
私は、彼女がドライヤーで髪を乾かし、スキンケアのローションを顔にかぶり、オイルを肌に塗りたくる様子を、まじまじと眺めていた。

「絹! どんな感じ」

「おー、ええ感じやお姉ちゃん、めっちゃキレイやで」

「うっしゃ! これでうちもモテモテガールやな!」

「あはは。お姉ちゃんも頑張りいな」

「誰かできたらなー」

妹とお互いの顔と肌を見せ合いつつ、談笑する彼女。
こうして見えていると、彼女もやはり女子なのだ、などと思う。
いや、女子はもちろん女子なのだが、普段のアレが女子らしいソレに見えるかといえば。



6 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:26:19.01


「絹は一回あったからなー」

「もー昔のことやで、今はおらんわ」

「まあな。中学生んときか?
 それなりに続いてたよな」

「まあね。はあ……
 今思い出しても悔しい」

「ひどいよなー。
 麻雀なんか打つ女はキモイて」


「え、何? 何の話それ」

目の前の話題が気になり、私も飛び込む。

「いやー、絹が昔付き合うてたオトコなんやけどな」

「さっき言った通りの理由でフラれたんです」

「はあー、そんなことが……」

「元々サッカー部つながりで付き合いだしたやんな?」

「そうやね」

「なるほど。どんぐらい続いたのん」

「半年くらいですね」

「半年かあ」

「絹な、その間ずーっと麻雀好きなことは隠しとってん。
 でもな、ある日絹がサッカー部やめる決意した時に」

「案の定カレシに『なんでやめるん?』って聞かれたんですよ。
 嘘ついてもつききれんて思うて、私正直に話したんです」

「『麻雀やるため』って?」

「そうや」

「そしたらあいつ、
 『は? 麻雀? お前そんなことやっとるん?』って怪訝な顔しはじめて」

「そのままサヨナラか」

「はい。それはそれはもうホンマショックやったし、
 一日中お姉ちゃんに泣きついてました」



7 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:27:06.72


「それはひどいなあ……」

「ひどいやろ?
 今思い出しても憎たらしいわ……
 うち復讐したろかって思うたけど絹が必死に止めてきて」

「だって暴力は良くないよお姉ちゃん」

「暴力とちゃうわ、ただ皆に協力してもろて恥ずかしい思いさせたろうて」

「それでもアカンよ」

「んむー」

「まあでもそんなキモイとか言われたら、うちしばらく立ち直れんなあ」

「恭子でもか」

「いや、うちそんなメンタル強くないんで」

「そうか? 恭子てけっこう鉄の精神やと思うてたけど」

「鉄ほど強くないです、むしろアルミです」

「なるほど、末原アルミンか」

「誰やねんそれ!」

「末原アルミンの上にあるミカン」

「ダジャレになってへんよお姉ちゃん」

「で……それはともかく、よく立ち直れたな絹ちゃん」

「はい。まあ次の日には私もだいぶ腹のワタ煮えくり返ってたし、
 むしろ怒りでよく牌が掴めましたよ」

「ショックがバネになったんか」

「まあオトコの方がクズっちゅーことで姉妹で全会一致したからな。
 むしろ絹もせいせいしてたで」



8 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:27:53.34


「なるほどなあ」

「そういえば恭子はそういうのないん?」

突然の不意打ちに一瞬体がビクッとなる。

「いや、うちは」

「あ、末原先輩は私も気になります」

「いや、そんな期待せんといて!
 うちホンマに何もないから」

「え、ホンマに?
 うら若き高校3年生の恭子がホンマに?」

「いやそれ言うたら主将もでしょ」

「あ? まあそういえばそうか」

「今まで自分を何だと思ってたんです」

「雀鬼やな」

「それは○井さんです」

「で、ホンマの話、恭子ってそういうのないん?」

「ありません。今までの一度『恋』の『こ』の字も経験無いです」

「ならうちは『ラブ』の『R』の字もないわ」

「お姉ちゃん、『ラブ』の最初のスペルは『L』やで」

「あれ、そうやっけ」

「おいおい、高校生がそれはアカンやろ……」

談笑も一息ついて時計を見れば、針はもう天辺を通過する頃。
和室の寝室に全員の布団を敷き、皆それぞれ床に就いた。
部屋の真ん中に吊るされた蛍光灯の灯りが消えれば、目の前にはふんわりとした闇が広がる。
その静寂の中で、私はその日の会話と光景を頭の中のビデオデッキで繰り返し再生していた。
『恋人』という言葉、目の前でしゃべるその顔、その声。
それが一挙に私の頭を駆け巡る。



9 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:28:36.01


それからというもの、落ち着きのない日々が続いた。
あの日の声と映像が浮かび上がっては、何度も自分の胸に手を当ててみる。
髪を手でほぐし乾かす後ろ姿。
オイルを塗りたくる手の捌き。
妹の破局に奮い立つ姿。
胸を打つ脈が速くなり血が回りだすと、心に被さっていた照れ隠しやガードといった付着物が取り去られ、本当の心の姿が澄んだ水の中に露になる。
インターハイが終わる頃には、私は完全に自分の心に気づいていた。

悟った瞬間の衝撃、それと同時に襲い来る以前からわかっていたような既視感。
相反する感情の荒波にぐちゃぐちゃにかき乱された心が、彼女の顔を思い出すことで一斉にその方向を指し示す。
その引力によって忽ち静まり返った水面の上で、ついにそうなってしまったのだと、私はため息をつくしかなかった。

ただ、そうなると、私の為すべき仕事は容易ではない。
この気持ちを、いかにして伝えようか。
先述の通り、私は今まで『恋』の『こ』の字も知らない恋愛初心者。
さらに同性同士とくれば、これはこの上ない無理難題だ。
だが一度持たされた爆弾、放っておけばただの不発弾となり、生涯いつまでも心に重くのしかかる。

いつかは言わなければ。
火も付けられずに燻る思いを抱え続けながら、時間はあっという間に過ぎていった。



10 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:29:10.12


幸い、というか。
勉強が大の苦手な洋榎は、勉強の得意な私をよく頼ってきた。
ホームルームが終わるやいなや洋榎がの○太くんよろしく私に泣きついてきては、私がドラ○もんよろしく嫌々応対する。
もっとも、嫌々というのは本音からの態度ではない。
本音を言えば、すごく嬉しかった。
だが、ドラ○もんがあの丸いしっぽを振って嬉々として世話を焼いていたとしたら、それはたいそう気持ち悪いに違いないのだ。

毎日教科書レベルの問題に教えを乞うてくる彼女に、私が懇切丁寧に指導する。
正直、為になっているかはわからない。
ただ、洋榎が両手を投げ出すほど嫌いな勉強をきちんと時間を取ってやっていること自体、相当良いことには違いない。
そしてこの時間は、私にとっても大切なものであった。
二人きりで勉強を教えている時は、よそよそしい呼び方も、敬語も必要ない。
そして言葉遣い以上に、彼女に接近することができた。
下校時刻になると帰らなければいけないのが、唯一の心残りだった。

期末テストまで日数が浅くなり、今までのように教室や学校の図書館で教えるだけでは時間が足りなくなる。
彼女の勉強の成果はといえば、まだまだテストには不安が残るレベルだった。
これはいい口実になるかもしれない──私は思ったのだ。

「なあ、洋榎。
 もし良かったら…… うちに来て勉強せえへん?」



11 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:29:54.92


洋榎は二つ返事で私の自宅に来た。
なんというか、想像通りの容易さである。
ただ一つ想定外だったのは、私が彼女の図々しさについて忘れていたこと。
なんと彼女は宿泊道具をカバンいっぱいに詰めて持ってきたのだ。

「大丈夫や。
 絹とオカンには泊まるて言うてきた」

そういう問題か。こっちは何も準備してないぞ。

「そのつもりなら前もって言うてくれんと困るで」

「えー、金曜日に誘ったってことはこういうこととちゃうん?」

「いやせめて一報くらい入れてや。
 なんとか親に許可取れたから良かったものの」

作った呆れ顔にわざとらしくため息をついてみせる。
無論これは照れ隠しで、想定以上に都合の良い展開に、私の心は躍りっぱなしだった。
今から洋榎と一夜を過ごす──?
しかも合宿の時とは違って、二人きりで──?


このチャンスは、絶対に、ふいにしてはいけない。



12 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:30:41.83


勉強の指導はいつも通り済ませ、簡単に夕飯をとる。
それから風呂に入り、風呂から上がると他愛もない会話を交わした。
さりげなく流したが、二人きりで風呂に入っている間、私の心臓は破裂しそうなほどに高鳴っていた。

「ふー、しかし今日はえらいがんばった気がするで、うち」

パジャマ姿で背伸びしながら、洋榎が言う。
黄色の生地にトラの絵が散りばめられた幼稚な柄のパジャマは、子供の頃から変えていないのかと疑うほど。
合宿所の時はバスローブだったからお目にかかれなかったが、もしかしたら普段はこれを着ているのかもしれない。

「ああ、頑張っとった」

「おお、恭子が褒めてくれるなんて珍しいやん」

「そうか?」

「そうやで。
 いっつも『はいはい』とかいうて流すやん」

「そうかなあ」

「いやー、嬉しいわ」

猫のようにニマニマと笑うその顔を、最初のときなら構わず殴ったに違いない。
だが今それを眼前にした私は、別の意味で手を出したくなっていた。
ふんわりと垂れた頬が、私の痒い場所を無性にかき回す。
もっとも、そこは私の理性で抑える、のだが。

「はー、でも友達の家に泊まるのなんて久しぶりやあ、
 ワクワクしてるで」

「いつぐらいぶり?」

「もう一年もこんなことしてへんなあ」

愛用の枕を抱き、ベッドの上で体操座りでぐらぐらと前後に揺れるその姿は、例えようもなく愛くるしい。
それが私の体をさらにかき回してきて、次第に理性が危うくなってくる。
いや、しかし、だがしかし。
麻雀の損得勘定で培った私の理性は、こんなことでは折れない。

「あー、今から恭子と一緒に寝るんかー、楽しみやわ」ニヤニヤ

もう限界。
私は洋榎にかぶさるように布団に倒れこむ。

「うおっ!?
 ちょ、恭子! なんや! 急に!」

「ちょっとだけちょっとだけ」

「ちょっとだけて何や!?
 うわ、ちょ! アカン、どこ触って……!?」



13 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:31:22.49


──というのは私のよろしくない妄想、あるいは欲望であって。
私たちは2人で風呂上がりのアイスを嗜んでいた。

「あー、うまい。
 レモンシャーベット最高や」

「夏の買い置きが余っててな」

「まー夏過ぎたらなかなか食わへんからなあ」

アイスの冷たい口触りをよそに、私の心は落ち着きなく動き回っていた。
いつ言おうか。
明日になれば、洋榎は帰る。
となると──今日中。今夜。今。

今しかない。

そうは言っても、のん気にくつろぐ洋榎を前に、私はなかなか言い出すタイミングが掴めない。
ウズウズする体に、一口冷たいアイスを頬張って、少しだけリラックス。
そのアイスがあと2口分しかないことに気づいて、一気にパク付き、歯で白い塊をスティックからもぎ取った。

「それにしても、今日は誘ってくれてホンマありがとうな」

同じくアイスを平らげた洋榎が、カップを机に置きながら言う。

「いやいや、むしろ来てくれてこっちこそ嬉しいで」

「はは、なんや今日はえらい素直やなあ。どしたん」

「どうもしてへんよ」

「そうかぁ?」

そう言って洋榎はニヤニヤする。
さっきのきらびやかな妄想の猫のような笑顔とは違い、少し鬱陶しい顔だ。

「だって普段の恭子やったらうちを誘いになんかまず来えへんやん。
 わざわざうちのために誘ってくれたりなんかして」

「別にそんなこと…… 大体、洋榎のためとちゃうわ。
 うちが誘いたくて誘ったんやから」

「え? 誘いたかったん」

しまった。
自らの失言に気付いた私は、反射的に手で目を覆った。
そのガードをじわじわ外していくと、指の隙間の向こうで洋榎はやはりニヤニヤしている。



14 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:32:04.50


「な、なんや、ええやろたまには」

「ほぉーん」

手をゆっくり下ろせば、頬から熱が伝わってくる。
その熱の高さから、顔がひどく紅潮しているのが自分でもよくわかった。
それを物珍しいと言わんばかりに洋榎は私の顔を覗き込む。

「実は前々から誘いたかったんか?」

「いや……うん……まあ……」

「なーんや、やったら誘ってくれればええのに。
 うちはいつでも来たるで」

「そ、そんな簡単には誘えへんよ」

「なんで? 友達くらい誘うやろ、普通」

その『友達』じゃないから──とは言えるわけもなく。

「だ、だってうちおもろい物ないし」

「そんなもんなくてええねん、話で盛り上がればええんやから」

「ま、まあな……」

「なーんや、ホンマどしたん恭子?
 なんか態度おかしいで」

洋榎にそう指摘され、私はふと冷静になる。
冷静とはいったものの、心臓はバクバクと言いっぱなしだ。
体だけが冷えて、思考はオーバーヒート。
言い出すならここしかないと、過熱した思考は訴えかけてくる。
ぐちゃぐちゃになった思考から抜けだそうと、私は精一杯の言葉を絞り出した。

「……あのな、よく聞いて」

「何や、改まって」

「……うんとな」



15 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:32:40.84


「実はな、最初の時、洋榎のことむっちゃ嫌いやってん」

自分の口から出た言葉に自分で驚いた。
私は何を言っているんだ。

「えぁ!? はあ、最初って、最初か?」

「ん、そうや。1年生で最初会った時」

「……はあ。なるほどな。
 そういや、なんか避けられとるなーていう節はあったなあ」

「はあ、そ、そうか」

「なんかよそよそしかったし、面倒くさそうに返事してくるしな」

気づいてかれていたか。
まあ露骨な態度を取っていた自覚はあるから、当然といえば当然だが。

「でもそれからは普通に話すようになったよなあ?」

「まあな。その、第一印象は悪かってんけど……
 だんだん、変わったんや。
 なんか洋榎ええ奴やん、て思うようになってきた」

「そうか、そらぁどうもな」

「でもな、それだけやなかったんや。
 ええ奴、で止まらずに、もっと先の方へ行ってしもて」

「……先?」

「せや。インハイ予選の前に合宿した時…… 恋バナとかしたよな?
 それからずーっと考えて……
 うちも自分の気持ちに気づいてしもうた」

「……」

「……好きに、なってた」

「……」



16 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:33:25.65


「……」

「……」

「な、なんか言うてや…… 恥ずいんやから」

「……」

「えと……ダメかいな、やっぱり」

「……もっと早よ言って欲しかったわ」

「あ、ああ……ゴメン」

「もっと早よ言ってくれてたら……
 同じ大学行こうとかって誘えたのに」

「ああ……」

「なんてな。まあ、わかったで。
 うちとしては、全く問題ない」

「え……ホンマ?」

「ホンマに」

「ほ、ホンマに……」

「ふーんなるほどな。
 それでか、最近うちへの態度がおかしかったんは」

「そ、そんなおかしかったか?」

「おかしいわ。
 前のそっけない感じからまた微妙に変わったもん」

「そ、そうか……」

後から聞けば、インターハイ前から私の態度は若干変化していたらしい。
以前より話しかけてくることが減ったと思えば、逆に話しかけられたときは妙にぎこちなくなっていた。
確かに、言われてみれば思い当たる節がいくつかある気がする。
そこまで気づいているならそっちから──と言いたくなったが、それを恋愛感情とは気づかなかったという辺りはさすが『ラブ』の『R』の字も知らない洋榎か。
いや、『ラブ』の字を知らないと言った方がいいかもしれない。

でも、これで。
これで、やっと。
私は自分の心を、一番落ち着く場所に結い付けることができたのだ。



17 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:34:02.48


「でもな、恭子」

大仕事をやり遂げて一息ついた私に、洋榎が言う。

「ん?」

「恭子はうちのことが好きかもしれんけど……
 うちにとっては恭子はまだただの友達やねん。
 せやから──」

「うん」

「うちを恭子のモンにしてほしい」

そう、この恋はあくまでまだ私の片思いであり、洋榎にとってみれば私はただの友人。
次なるミッションは、その堀を埋めること──

「じゃ、じゃあ、明日土曜やし、どっかデートにでも行かへんか」

「お、ええな」

「どこ行こうか」

「まあそれは恭子の好きなところに連れて行ってくれればええわ」

「ん……じゃあ考えとく」

「よろしゅうなー」

「それからさ、毎晩メール交換もせえへん?
 うちから送るから」

「メールかあ。うちは電話の方がええなあ」

「あー、じゃあ電話にするわ」

「おう。電話やったらうちからでも掛けるで」

「夜は基本大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、いつでもオッケーや」

話で盛り上がるうちに、気づけば時計の針は天辺を過ぎ、1時を指していた。
部屋の明かりが消え、横になると、窓の縁から零れる微かな月光に輪郭を照らされた身体がすぐ目の前に横たわっている。
その輪郭を遮るように腰にそっと腕を伸ばすと、布伝いに彼女の体温がじわりと広がってきた。
そのままもう一方の腕を反対側の腰に伸ばし、抱きまくらよろしくその身体を抱き締める。
眠っている彼女は何も言わない。
抑えきれない胸の高鳴りと疲れが支配し、まるで止まっているかのような時間の中、私は彼女に顔を近づけ、静かに口づける。
そして時が進むのを惜しむように目を閉じた。
閉じた目の奥に、彼女の顔と目元と唇が無数に浮かんでは消えていく。
暗闇の中を反射して響く声は、聞き取れないが、愛しい人のそれそのものである。
いつの日かそれが、完全に自分のものになる未来が来ることを願って。



いつか、聞いてみたい。
その口からこぼれ出る、『好き』の2文字を。



18 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:35:08.24

洋榎「……」

恭子「ふー、やっと紅茶入った。
   スマン洋榎、時間食って」

洋榎「……」

恭子「どしたん黙って。
   ん、そのノート…… !!」

洋榎「……」パラッ

恭子「あ、アカン!
   そ、それはちゃうくて!
   その、ただの、創作で……」

洋榎「……ふーん?」ニヤニヤ

恭子「な、なんやその顔!
   え、ええやん! ちょっと気晴らしに書いたって!」

洋榎「いやー、これは傑作やなー」ニヤニヤ

恭子「その顔やめえ!
   と、とにかくそのノート置いてや!」

洋榎「なあな、これ持って帰って読んでもええ?」

恭子「ダーメーや!
   何するつもりやねん!」

洋榎「いやー、これは素晴らしい話やった、感動的超大作や!
   これは皆にも広めたらなあかんなあ」

恭子「だからやめえて!
   ホンマ、ホンマお願い、それはなかったことにしてや!」

洋榎「ええやないですか末原さーん、お願いしますわー」

恭子「何やねん急にその呼び方!
   ダメなもんはダメ!」

洋榎「うちも好きやでー、恭子ー」ニヤニヤ

恭子「あーもう! うっさいわ!
   洋榎なんか大っ嫌いやで!!」


カン!



20 : ◆aaEefGZMoI :2015/01/22(木) 20:36:37.90

以上です。
お粗末さまでした。

話を書くのって難しい。
最初の計画とは全然違う話になってしまい、タイトルも変えることに……



21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/22(木) 20:40:29.42

乙乙



元スレ:恭子「いつか聞きたいその2文字」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421925690/