女「やあ」

男「……また来たのか」シュッシュッ

女「まあね。しばらく雨宿りさせてもらうよ」

男「勝手にどうぞ。じめじめしてるな」

女「ああ」

ザアアアァアアアァ……

女「よく毎日、物ばかり作れるね。疲れないのかい?」

男「ああ、疲れるさ。楽に生きたいよ」

女「その割には、随分丁寧な仕事をするね」

男「手は抜くなと教えられたからな。親父の口癖だった」

女「ふーん。仕事を継いでから、何年目かな?」

男「……さあな。覚えちゃいねえさ」

女「でも、私は好きだよ、君の作る物」

男「そうかい、そりゃ良かった」

女「少し休憩しないかい?」

男「……ああ」

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2: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:13:27.45 ID:LfybRj+M0

女「やあ」

男「……おう、今日も暑いな」

女「そうだね……あ、団扇があるじゃないか。借りてもいいかい?」

男「勝手にどうぞ。どうせ俺ぁ両手が塞がってるしな」シュッシュッ

女「扇いであげるさ、ほら」

男「……ん」

女「へえ、変わった模様の狐のお面だね」

男「気持ち悪いか?」

女「ううん。全然。不思議な力が宿ってるみたいに見える」

男「そうか」

女「見てて落ち着くよ。描き方がうまいね」

男「……なんだ、今日はやけに褒めるじゃねえか。何も出さねえぞ」

女「ひどいなあ、人を鳥の雛か何かと勘違いしていないかい?」

男「どっちも似たようなもんだ。ぴよぴよとよく喋る」

女「君の無口と合わさって、ちょうど良いくらいだよ」

男「……別に俺は無口って訳ではないが」

女「じゃあ、今日は君の話をたくさん聞きたいな」

男「……生憎、忙しくてな」シュッシュッ

女「ほら、すぐ仕事に逃げる」クス




3: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:15:46.43 ID:LfybRj+M0

女「やあ、それは……瓢箪の明かりかな? すごく丁寧に彫られてるね」

男「ああ、去年の奴だが。蝋燭はつけるなよ? 暑苦しくて適わん」

女「まあ、今は明るいしね。また夜に来た時にでも見せてもらうよ」

男「お前の言葉を借りるなら」

女「ん?」

男「よく毎日俺の所に通い続けれるな」

女「まあ、君と居ると、退屈しないしね」

男「そうか……よく分からんが」

女「おいおい、ちょっとぐらい照れてくれても良いんだよ?」

男「照れ方なんて忘れちまったよ」

女「まるで君が人形みたいな言い方をするね。君だって、感情を持った人間なんだぜ?」

男「どうだろうな。ただの物作り人形かもしれないぞ」

女「人形にしては、随分と表情に愛想が無いけど」クス

男「仕方ない。生まれつきだ」

女「君は生まれた時も、そんなしかめっ面だったのかい?」

男「別にしかめっ面をしている訳ではないが」

女「じゃあ、たまにはにっこり笑ってほしいものだねぇ」

男「そのうちな」

女「もう」



4: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:18:30.26 ID:LfybRj+M0

女「やあ、来たよ。さっそくだけど、明かりをつけてくれるかい?」

男「本当に来たのか……」

女「まあまあ。お酒と、肴もちゃんとあるからさ……ね?」

男「……まあいい。入れ」

女「おじゃまします、はいこれ」

男「鮪の刺身か。ええと、確か醤油は……」

女「ああ、いらないよ。これで食べよう」

男「……塩?」

女「商人から手に入れてね。岩からとったものらしいよ」

男「へえ……」スッ

女「……おお、光と影の塩梅が良いね、暖かい光だ」

男「だろう」

女「それじゃ。乾杯しようか」

男「ああ」



5: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:21:37.51 ID:LfybRj+M0

男「……おお、旨いな。この酒……」

女「だろう? これでも高かったんだよ」

男「うん、確かに刺身も旨いや」

女「塩で食べるのも、乙なものだろ?」

男「ああ」

女「……」

男「……」

男「……どうした。今日はやけにだんまりだな」

女「……うん」

男「何かあったんだな?」

女「……うん。実は……親に勧められて、結婚する事になったんだ」

男「……ほう」

女「役所の人でね。人柄も良さそうだった」

男「良かったじゃねえか、玉の輿ってやつだな」

女「ああ、そうだね」

男「……」

女「……」




6: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:23:28.88 ID:LfybRj+M0

女「……明日、遠くの町へ引っ越す事になったよ」

男「随分と急だな」

女「ああ、早く母さん達を安心させてあげたいしねぇ」

男「……じゃあ、今夜で会うのは最後か」

女「……そうだね」

男「……」

女「……」





7: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:24:52.43 ID:LfybRj+M0

女「……私ばかり喋っていたけどさ、君は私といて楽しかったかい?」

男「……いや」

女「迷惑かけてたら、ごめんね」

男「……そんなことはない」

女「……そうか」

男「……ああ」

女「……今日は涼しいね」

男「……ああ」

女「……良い、気分だ」

男「……そうだな」

女「……お酒が、回ってきたかなぁ。毛布借りるよ? 私が持ち込んだものだけども」

男「……!」

男(……言わなければ)

男(……このままだと、あいつは何処かへ行ってしまう)

男(……伝えなければ)

男「……ああ」

女「おやすみ」

男「……おやすみ」

男(結局、伝えたい言葉は、喉を通らなかった)





8: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:25:45.20 ID:LfybRj+M0

男「……朝、か……!?」

男(これは!)

【お世話になったね。先に出発するよ。今までありがとう】

【君は顔は悪くないんだから、もっとにこにこ笑ったら、きっと人気が出るよ?】

【体に気を付けてね。それじゃ、いつかまた】

男「……」

男(結局、あの時俺は何を伝えたかったのだろう)




9: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:32:25.31 ID:LfybRj+M0

男(あれから、俺は独り、物を作り続けている)

男「……蝉の抜け殻か」

男(抜け殻、面、瓢箪。全てに共通している事がある)

男「空っぽなんだ。こいつらも、俺も」

男(どちらも、表面ばかりで中身が無い)

男(だから、中身が無いと、そのすかすかな存在が、周りに浮き彫りになる)

男(暑い夏、騒がしい蝉の声。俺の周りだけが静かだ)

男「……女」

男(ああ、なんだろう、この気持ちは)

男(俺は、俺は)

男(俺は)


女『やあ』


男「……ああ、俺は、あいつが好きだったのか」

男(長い間、喉の奥で眠っていた言葉は、ゆらりと抜け殻に吸い込まれていった)



10: ◆XkFHc6ejAk 2016/06/09(木) 16:37:50.74 ID:LfybRj+M0

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/06/09(木) 16:55:04.69 ID:bRwzA8Gbo

乙ー



元スレ
SS速報VIP:男「浮き彫り」
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