上条(悪)「その希望(幻想)をぶっ殺す」

上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」



1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 18:47:19.42 ID:ji4/LZbu0

麦野「クソ…! なんなんだ…なんなんだあの野郎は!」

フレンダ「私達が結局逃げるしかないなんて! ありえないっつーの!!」

滝壺「ごめん、むぎの……私全然役に立ってなくて……」

絹旗「……」

麦野「絹旗は…まだ目を覚まさないか…」

 麦野は自分の背でうなだれている少女、絹旗最愛に目を向ける。
 はっきりと青い痣を浮き上がらせた絹旗の顔を見て、麦野はぎりりと奥歯を噛んだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 18:57:55.62 ID:ji4/LZbu0

 麦野は事の顛末を心中で反芻する。
 いつも通り、くだらない組織の、くだらない企みを叩き潰すだけの仕事だったはずだ。
 なのに、今自分たち『アイテム』はケツをまくって無様に逃走してしまっている。
 逃走するしかなくなってしまっている。

 いつも通りの仕事の中で、敵方にいた『アイツ』だけが異質だった。
 ツンツンしたウニ頭の男だけが異常だった。

 滝壺の『AIMストーカー』でも位置をまったく特定できず。

 『窒素装甲』を持つ絹旗を一撃で沈め。

 フレンダの罠などかすりもせず。

 挙句の果てにはLEVEL5の超能力、『原子崩し』すらかき消した。

麦野「くそ…! 覚えていろ…! 貴様は必ずこの『原子崩し(メルトダウナー)』、麦野沈利がバラバラに引き裂いてやる!」

 麦野は男が追ってきているであろう背後を睨みつけ、呻くようにそう宣言した。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:10:04.03 ID:ji4/LZbu0

※とある事情により、上条さんがぐれにぐれてしまったら、という妄想です


上条「ふ~……」

 上条はボロボロのベッドに寝転がり、携帯電話をいじっている。

上条「今回はけっこうキツイ仕事だったな。まあその分報酬も高かったしよしとするか」

上条「さて、次はどこに接触してみるかな……なんか噂にもなってるみたいだし、そろそろ慎重にやるべきかな~…」

上条「……っと」

 ケータイで金計算に精を出していた上条の目が鋭くなる。
 その視線は己が住処としているこの建物、廃墟ビルの一室、その入り口を向いていた。
 カツン、カツンと存在を隠そうともしない足音が響く。

土御門「よーうカミやん。元気にしてるかにゃー?」

 そこに現れたのは上条当麻の『元』クラスメイトである、土御門元春だった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:16:22.64 ID:ji4/LZbu0

土御門「『元』じゃねーよ。今でも立派なクラスメイトだぜい」

上条「誰に言ってんだお前?」

土御門「いやいや、気にしなくていいぜよ。ただ何となく言ってみただけだから」

上条「お前……一体全体、何の用でこんな所まで来たんだ?」

土御門「おう、これこれ、これを渡しに来たんだにゃー」ヒラヒラ

上条「……なんだ? その紙の束は」

土御門「学校で配られたプリント。休んだ同級生に届けてやるのはクラスメイトの義務ってもんだろう?」

上条「心底いらねえ世話だ。大体そういうのは委員長とかの仕事じゃねえのか?」

土御門「しょーがないんだぜよ。何しろ戸籍上は俺とカミやんは部屋が隣の隣人ってことになっているんだからな」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:26:42.38 ID:ji4/LZbu0

上条「ああ…そういえば、そうだったな」

土御門「そうなんだよ。俺だって届けるならもっと可愛い女の子の家とかに行ってラッキーイベントを起こしてみたいもんさ」

土御門「俺が何故こんな、金髪にサングラスにアロハシャツなんて格好をしているのか、わかるだろう?」

土御門「それは全て女の子にもてるためなんだにゃー!! なのに何が悲しゅうてカミやんなんてすれた男なんぞの家を訪ねなきゃならんのだ!!」

上条「……ああ、そういえば、お前はそういう奴だったな」

 上条は呆れた顔で土御門を見遣る。
 しかし、その一方で、土御門の姿を確認してなお、上条は己の戦闘体勢を解いてはいない。

上条「お前はそういうキャラ付けだったはずなんだよ。こうして、俺の部屋を訪ねてこれた時点でそのキャラは崩壊しちまってるけどな」

土御門「ん? 何の話だにゃー?」

上条「お前はどうやって俺の居場所を知ったんだ? っつってんだよ、土御門」

 上条はベッドから完全に立ち上がり、拳を握り締めた。

上条「お前は、何者だ?」

土御門「………」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:35:01.24 ID:ji4/LZbu0

 土御門は右手でサングラスを持ち上げる。
 土御門の雰囲気が、陽気なクラスメイトのものから、何か異質なものに変貌した。

土御門「色々背負っているのは何もお前だけじゃないってことさ、カミやん」

上条「知った風な口を利くじゃねえか」

土御門「カミやんのことで知ってるのはこの部屋のことだけじゃないぜ。他にも色々知ってる。そう、色々とだ」

上条「………」

土御門「元々カミやんは碌に学校にも来ないロクデナシではあったが……『七月二十八日』以降、遂にぷっつりとこの街から姿を消した」

土御門「この街の、表側からな」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:49:34.32 ID:ji4/LZbu0

土御門「程なくして、この街の『裏側』である噂が広がり始める。『敵であろうが味方であろうが』『否応なく』壊滅させてしまう男の噂」

土御門「その男と敵対して唯一無事に逃げおおせたのは第四位の超能力者(LEVEL5)が率いていた『アイテム』のみ」

土御門「ついたあだ名が『災厄』……お前だろ? カミやん」

上条「随分と大仰なあだ名をつけてくれたもんだな。笑えねえ」

土御門「いや、大したもんだぜ。実際」

土御門「『トリック』、『バースト』、『テロル』。聞き覚えはあるか?」

上条「何となく、な」

土御門「どれもこの学園都市で、実力的にも、極悪ぶりでも上から数えたほうが早い武装集団だった。それを悉く壊滅させちまうなんざ……ちょっと信じられないぜ」

上条「大袈裟に言うなよ。俺は別に何もしていないぜ? きっと、そいつらの運が悪かっただけだろ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 19:58:05.09 ID:ji4/LZbu0

土御門「実はな、直接会って聞きたいことがあったんだよ。カミやん」

上条「なんだよ?」

土御門「さっきも言ったがお前が関わってきた連中は本当に凶悪な奴らだった」

土御門「『トリック』は人身売買を、『テロル』は無差別略奪を、『バースト』は薬物売買を生業にするようなクズの集まりだ」

土御門「何故お前はそういった連中に好んで近づく? どうしてお前は好んで死ににいくような真似を繰り返すんだ?」

上条「そりゃ、そっくりそのまま、死にてえからじゃねえの?」

土御門「な…」

上条「冗談だよ。金だ金。金のためだよ」

上条「俺は悟ったね。俺みたいな奴が無理やりでも幸せを掴もうとしたら、もう金しかないのさ」

上条「その金を手っ取り早く稼ぐためにそいつらに取り入って仕事もらおうとしてたら、あれよあれよとぶっ潰れちまったのさ」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:06:45.76 ID:ji4/LZbu0

土御門「その割には、汚い部屋に住んでるんだな」

 土御門はにやりと笑って辺りを見回す。
 上条が住処としている廃墟ビル。その部屋の中も当然ひどい有様だった。
 壁も床も天井もいたる所にひびが入り、その破片は床に乱雑に散らばっている。
 家具といえるものは、その部屋にぽつんと置かれたベッドだけだった。
 それだって、カビだらけのマットに、すぐに外れてしまいそうなシーツが引っ掛かっているに過ぎない。

土御門「電気どころか、水道さえ通ってるようには見えないな。とてもとても金を持っている奴の部屋には見えん」

上条「おいおい、人の部屋見て笑ってんじゃねえよ。趣味悪ぃぞ」

土御門「ああ、すまんすまん。これはそういう笑みじゃないんだ。ちょっと、安心しちまってな」

上条「あぁ?」

土御門「すまんなカミやん。俺は嘘をついていた。俺は『七月二十八日に何が起こったのかを知っている』」

 土御門の言葉に、上条の顔色が変わる。

土御門「そうかそうか。金のためか。だからお前は、そんな無茶をしてまで―――」

上条「それ以上不愉快な口を利いてんじゃねえぞ、土御門」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:14:14.41 ID:ji4/LZbu0

 上条が一歩、土御門に歩み寄る。
 じゃり、と破片を踏みつける音が鳴る。

上条「黙って聞いてりゃくだらねえことをべらべらべらべらと……おい、プライバシーって知ってるか?」

土御門「気を悪くしたか? なら謝るぜ」

上条「もうおせえよ」

 上条は握り締めた拳を土御門の顔面に振るう。
 そのいけ好かないサングラスを叩き割ってやる――つもりだった。

土御門「おっと」

 土御門は首を捻り、あっさりと上条の一撃を回避する。

土御門「俺にはカミやんと殴りあうつもりなんてないんだけどな……まあいい。同級生との殴り合いなんて、青春にはよくあることだろ! …ってふがっ!!」

 ゴヅン、と重い音がした。
 上条は右手を振るった勢いそのままに、土御門に向かって頭を叩きつけていた。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:23:06.32 ID:ji4/LZbu0

土御門「…ってえ! 野郎! もう手加減しねえぞ!!」

 鼻を押さえながら、土御門は上条の足目掛けて思い切り踏みつける。
 ダン!とコンクリートの床を踏みつける音が響く。

土御門「はあっ!?」

 土御門は驚愕する。
 コイツ――全く下を見ないで俺の一撃をかわしやがった!!
 上条は右拳を空振り、勢いそのままに土御門の顔に頭を叩きつけ。
 さらに、その勢いのまま宙を舞っていた。
 つまり。

土御門「前転宙返り――!? んなアクロバティックな!!」

 つまり、足を踏みつけようとした自分の行動は全くの愚策だったわけだ。
 後悔し、反省するももう遅い。
 上条は既に土御門の腕を絡め取っている。

 宙返りの勢いに引っ張られた土御門の足が床を離れた。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:31:49.54 ID:ji4/LZbu0

土御門「…んなろ!!」

 土御門は無理やり体を捻り、肩から落ちそうだった背中から落ちそうだった体勢を立て直す。
 無理やりな体幹の捻りに、みしみしと嫌な音が耳に届くが構ってはいられない。
 次が、来る。

土御門「ぐう!!」

 片膝をついた体勢だったところを思い切り蹴りこまれた。
 両腕でガードし、わざと踏ん張らないことで後ろに転がり、立ち上がる。

上条「家具がねえとこういうとき便利なんだよな」

土御門「思いっきり暴れられるからってか? ほざけ」

 じんじんと痛む両腕を振り、調子を確かめる。
 よかった。どうやら骨が折れたりひびが入ったりした様子はない。

土御門「参ったな……何でそんなに強いんだ? カミやん」

上条「鍛えたからだよ。当たり前のこと言わせんな」

土御門「なるほどにゃー」

 土御門は両腕を上げた。言わずと知れた降参のポーズだった。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:38:29.34 ID:ji4/LZbu0

土御門「参った。降参だよ、カミやん。これ以上やっても勝てる気がしねーや」

土御門「ねーちんがタイマンで負けたって聞いたときは耳を疑ったけど、納得だぜい」

上条「ねーちん?」

土御門「おっと、こっちの話ぜよ」

上条「ふん……ところで、散々人のプライバシーを侵害しといてこの程度で許してもらえると思ってんじゃないだろうな?」

土御門「あちゃ。ならどうすれば許してもらえるんだ?」

上条「一生許さねえよ。二度と俺の前に現れるな」

土御門「……わーったよ。消えるさ、すぐにな」

 土御門は腰を屈めて、床にバラけてしまったプリントをかき集める。
 集めたそれを、土御門は上条に差し出した。
 上条は当然、受け取らない。
 土御門はため息をついて、プリントの束を床に置いた。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:49:04.25 ID:ji4/LZbu0

土御門「学校来いよ、カミやん」

上条「しつけえぞ」

土御門「小萌センセイも会いたがってたぜ」

上条「なおさら行く気しなくなった」

土御門「なあカミやん」

 部屋を出る前に、土御門はもう一度だけ上条に向き直った。

土御門「カミやんには、きっと俺なんかには想像も出来ないようなことがたくさんあったんだろうとは思う。それでも、幸せになる権利ってのは、そうそう放棄するもんじゃない」

土御門「俺だってカミやん程じゃないにしろ、そこそこの不幸を抱えてるつもりだ。だけど、俺は俺の人生を諦めるつもりはない」

土御門「カミやんも俺もまだ高一だぜ? 世界に見切りをつけるには、早すぎるだろ?」

 土御門はそういい残して、最後に快活に笑って去っていった。
 部屋に残された上条は、床に置かれたプリントの束を蹴飛ばし、ベッドに腰を下ろす。

上条「見切りをつけるには早すぎる、だと?」

 ぽつりと、呟くような声でそう言って。

上条「ばーか。遅すぎたくらいだよ。あと三年は早く見切ってりゃ、親父も母さんも『アイツ』も助かったんだ」

 上条は快活に――歪な笑みを浮かべた。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 20:58:26.87 ID:ji4/LZbu0

 カツン、という足音。
 上条はいらだったように、ガシガシと頭を掻いた。

上条「あの野郎……なにいきなり戻ってきてんだ。家の鍵落としたとか言い出すんじゃねえだろうな?」

 言って、上条はそこらの床に取り合えず目を落とす。
 とりあえず、目に見える範囲には――といっても、家具など置いていないので見えない範囲はベッドの下しかないのだが――何も落ちていない。

上条「なら、一体何の用で土御門の野郎は戻ってきたんだ?」

 カツン、と足音。
 入り口に現れる影。
 違った。戻ってきたのではなかった。
 やって来たのだ。新たな客が。
 いや――刺客、か。
 上条はもう一度、髪を掻き毟る。
 苛立ったように――バリバリと。

上条「千客万来、一難さってまた一難……最近特に極まりすぎだろ、俺の不幸も」

美琴「………」

 そこには、常盤台中学に所属するLEVEL5、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴が立っていて。
 包帯まみれの顔で、笑っていた。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 21:08:26.95 ID:ji4/LZbu0

上条「正面から堂々とまあ……いい度胸というか、なんというか……」

美琴「アンタに不意打ちは無駄だってことは散々学んだからね」

上条「もっと大事なことを学べよ……お前、本当に頭おかしいんじゃねえか? 俺に何されたか忘れたわけじゃねえだろ?」

 美琴の肩がふるふると揺れる。
 笑みに、揺れる。

美琴「忘れてないわよ……忘れるもんですか。忘れてないからこそ、私はこうしてここにいる」

上条「失敗から何も学ばねえ奴は馬鹿だ」

美琴「失敗を恐れて何もしない奴は愚か者よ」

 バリィ、と美琴の前髪から電撃が迸る。

美琴「そして私は愚か者にだけは死んでもなりたくない」

上条「じゃあ死ねよ」

 上条は拳を握る。ゆっくりとベッドから立ち上がる。

上条「もうわかった。今度こそ、今度こそだ。今度こそ、お前を動かしている『可能性』っていう幻想を殺しきってやる」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 21:20:03.00 ID:ji4/LZbu0

美琴「こんのぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

 狭い廃ビルの部屋の中で、極大の烈光が荒れ狂う。
 悪夢としか思えない殺意の塊に、しかし上条は動じない。
 揺るがない。
 やることはひとつだけ。
 己の右手を振るうだけ。
 それだけで、荒れ狂っていた電撃は霧のように消えうせる。

上条「学べよ! 俺の右手にお前の能力は通じねえ!!」

 上条は一歩踏み込む。次々放たれる美琴の電撃をものともせずに。
 目の前に垂れ下がったカーテンを振り払うような気軽さで、上条当麻はLEVEL5の力を消し飛ばす。

美琴「あああああああああああああああああ!!!!!!」

 それでも美琴はお構い無しに電撃を生み出し続ける。
 光が途切れることなく廃ビルの部屋を照らし続けている。
 もはや美琴の姿が上条から視認できぬほどに。
 しかし、関係がない。
 上条には関係ない。
 例え見えなかろうが、彼の体は反応してしまう。
 そうやって今まで不幸を切り抜けてきたし、不幸を振りまいてきた。

上条「ピカピカ見栄えはいいけどよぉ!! さすがにもう飽きたぜ!!」

 上条が美琴まで手の届く距離に―――踏み込んだ。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 21:28:56.11 ID:ji4/LZbu0

 ――瞬間。
 電撃が荒れ狂う中を、光を反射させながら、突き出されるものがあった。

 ギリギリで――上条の体は反応していた。

 突き出されてきた御坂美琴の手首を、上条はその右手で掴み取っていた。
 美琴の手には、鋭く光る、小型のナイフが握られていた。

美琴「学ぶわよ」

 美琴の包帯まみれの顔が笑みの形に歪む。

美琴「アンタの右手は異能の力を無効にする……なら、物理的な力で打倒するしかないじゃない」

上条「……なるほど。単純明快なお答えで」



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 21:37:39.32 ID:ji4/LZbu0

美琴「もちろん、用意したのは一本だけじゃないわよ!!」

 美琴の左手がスカートの下に潜り込む。
 取り出されたナイフが上条の心臓を狙う。
 上条は舌打ちして、掴んでいた美琴の右手首を思い切り捻り上げた。

美琴「あう!」

 右手に引っ張られる形で、美琴の体勢が崩れる。
 上条に向けて背中を晒す形になってしまった。これでは左手のナイフは用をなさない。

 それでいい。それで何も問題はない。

 大事なのは、今、アイツの右手が塞がっているということ―――!!

美琴「ずあああああああああああ!!!!!!」

 位置はわかる。自分の右手を掴んでいるアイツの腕を追えばいい。
 美琴は渾身の力を込めて電撃を生み出そうとして――ぷしゅう、と間抜けな音がした。

美琴「え?」

 美琴の頭を撫でるように、電撃の出所を、上条当麻の『右手』が押さえていた。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 21:49:37.69 ID:ji4/LZbu0

美琴「そんな……右手は私の右手を掴んでいたはず……」

上条「おいおーい。アホかお前は。『右手』は俺の切り札だぜ? いつまでも使用不能の状態にしとくかよ」

 単純な話だった。上条は美琴を掴んでいた手を右手から左手に入れ替えただけ。

美琴「そんな…だって……! そんなのいつの間に……!」

 それでも、単純明快なその方法を聞いても、美琴の混乱は解けない。

美琴「そんな、そんな感触しなかったのに…! 私、ずっと確認してたのに!!」

上条「だからまあ、気付かれないようにやったってだけの話さ」

 上条は飄々と言ってのけた。

上条「人間が、同時に二つの物事を考えながら進行させるってのは不可能だからな。片方の事柄を自動的に行えるほど熟達してるってんならともかくよ」

上条「俺に手を捻り上げられて痛みを感じてたお前、俺の位置を背中越しに探ろうと意識を集中していたお前、どっちも笑っちまうくらい意識の隙がでかかった」

上条「どっちの時に入れ替えたのかはご想像にお任せするぜ……さて、んじゃ」

 上条は掴んでいた美琴の腕ごと背中を押した。
 カランカランと音を立て、美琴の手にあったナイフが床に落ちる。
 美琴が押し倒された先にあったのは――ボロボロのベッドだった。

上条「お仕置きの時間だぜ。ビリビリ」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:00:02.31 ID:ji4/LZbu0

美琴「ひ、や、あ」

 これから何をされるのかは、今まで散々経験したことだから、勿論わかっている。
 美琴はベッドの上を、四つんばいになって逃げた。
 少しでも上条から距離を取ろうと。
 でも、その方向には窓枠のついていない、吹きっさらしの窓があるだけだ。

美琴「いや、やだ、お願い……許して……!」

上条「オイオイ今日はいつにもまして無様じゃねえか。いつもはもっとこう、まさしく殺意を込めた目で俺を睨みつけてくるくせに」

美琴「今日だけはイヤ…! 今日だけは本当にダメなの……!」

上条「おう、なんてこった。その様子じゃいつもと違う『事情』があるのなんてわかりすぎるくらいにわかっちまう」

上条「さっきまでの俺ならさすがの罪悪感に耐えかねて、行為を中断しちまうかもしんねえが、しかぁし」

上条「あいにくだったな。本当についさっき、俺は決意しちまった」

 ベッドの上で、震える美琴に上条はにじり寄る。
 その顔に、ことさらに醜悪な笑みを浮かべて。

上条「俺は今日、お前の中にある希望(げんそう)を殺しつくす、ってな」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:10:19.63 ID:ji4/LZbu0

 『お仕置き』と呼ばれた、唾棄すべき行為を終えて――直後だった。

 泣きながら、泣いたフリをして見せながら。
 美琴は、この時を待っていた。
 たとえ、どんな人間でも無防備になってしまうその瞬間。

 交尾の中で、雄としての役割を終えたその瞬間。

 その瞬間を、美琴はただひたすらに待っていたのだ。

 御坂美琴は学んでいる。
 電撃は効かない。あらゆる異能は上条当麻の右手の前には無力化する。
 だからといって――私がナイフを持ってみたところで、かなうものか。
 そんなことは――わかりすぎるくらい、わかっていた。

 だから。
 美琴は能力を発動させる。
 生み出すのは、電撃ではなく、磁力。
 さっきわざと床に落としたナイフと美琴を結ぶライン上には、上条当麻の体がある。

 つまり。


上条「成程、それがいつもと違う『事情』ってやつか」


 人間であれば必ず無防備になってしまうその瞬間に――上条当麻は、そう言った。



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:22:48.04 ID:ji4/LZbu0

美琴「え…?」

 ナイフは音もなく飛来する。
 間違いなく上条当麻は後ろを振り向いてなどいない。
 ただ、美琴に向けて笑って見せただけだ。

 そして、上条はボロボロのマットにかけられた、すぐにはずれそうなシーツを引き抜き。
 横薙ぎに振るうことで、飛来するナイフを払い飛ばした。

上条「オーレイ! ってか?」

 直後に上条はナイフと美琴を結ぶ直線上に右手を差し込む。
 美琴からナイフに伸びていた磁力がプツリと切れ、ナイフがカタンと床に落ちた。

美琴「なに……なんなのよアンタ……人間じゃない……! 人間じゃないわ……!!」

上条「おう、ようやくわかったか。実はそうなんだ」

 上条は床に散らばっていたズボンを拾い上げる。

上条「俺の正体を教えてやろうか?」

美琴「何よ…何者なのよ、アンタは……」

 拾い上げたズボンをそそくさとはきながら、上条は笑った。

上条「関わるもの全てに不幸をもたらす『災厄』そのもの。それが俺だ」



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:32:47.74 ID:ji4/LZbu0

美琴「意味……わかんない……」

上条「わかんねえか? 関われば関わるだけ損ってだけの話だよ。お前ももう来んな。マジで。かなりマジで」

美琴「ふざけないでよ……許せるわけないでしょ。ここまでの…ここまでのことをしておいて……!」

上条「ぜーんぶ、『来たらやるよ』って予告してたんだけどな」

美琴「うるさい! これ以上襲われたくないなら、いっそ殺しなさいよ!!」

上条「あぁ?」

美琴「そうよ! 殺せばいいんだわ! アンタに勝てないなら、生きてる意味なんてないんだしね!!」

上条「オイオイ……」

美琴「殺さなきゃ、私はずっとアンタを狙い続けるわ! 地の果てまでも、地獄の底までも!!」

上条「それでも、お前は俺には勝てねえよ。無駄なことはやめて、もっと建設的なことしろって。な?」

美琴「なによ? 殺せないの? 殺せないんでしょ。そんなヘタレの分際で偉そうに上から物を言わないでよ」

上条「……」

美琴「アンタのこと、調べてないとでも思ったの? 色んなところにハッキングして、出来るだけの情報は集めたわよ」

美琴「笑わせるわ。笑わせるわね、アンタ。『災厄』だなんだって、偉そうに物を言っておいて」

美琴「自分から人を殺したことなんて、ないくせに!!」



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:41:15.39 ID:ji4/LZbu0

 ブチリ、と脳みそのどこかで何かが切れた。

上条「おーけぃ、わかった。わかったよ、御坂美琴」

 それが――お前の幻想の、源か。
 なら、そんな幻想は――殺さなくっちゃな。

美琴「気安く名前呼ばないでよ」

上条「いいじゃねえか。まさしく今生の別れってやつなんだからよ」

 上条は美琴の首に手をかける。
 美琴は上条によって衣服をひん剥かれ、全裸だ。
 隠し武器など持ちようがない。
 上条の暴力に抗う術など、持ちようがない。

上条「あばよ」

 上条は、首にかけた右手で美琴の体を持ち上げ――窓の外に、放り投げた。
 下を確かめることはしない。
 死んだかもしれないし、死んでないかもしれない。
 どうでもいい。殺そうとした結果さえ残ればそれでいいと、上条は思う。

 疲れた。とにかく、新しい寝床を探さなくては。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 22:54:21.39 ID:ji4/LZbu0

 もちろん、御坂美琴は死んでいなかった。
 彼女の能力によって生み出された磁力によって、美琴は呆気なくビルの下に着地する。
 落ちてきた窓を見上げた。四階の窓。上条当麻は顔を覗かせもしない。

美琴「ほら、殺せない。その程度よ。アンタ、その程度なんだわ。その程度で、『災厄』だのなんだの、ホントちゃんちゃらおかしくって笑っちゃうわ」

美琴「女を犯すことすら、『来たお前が悪いんだ』って理由付けないと出来やしない、小物。弱虫」

美琴「焼き殺してやるわ。いずれ、必ず」

 美琴は踵を返し、その場を後にする。
 はたと気付いた。
 全裸だ。さすがにこれでは街を歩けない。

男A「親方! 空から女の子が降ってきました!」

男B「しかも全裸です!!」

男C「なんつってな! やべえ、超ウケる!! こういうのってあれだよな、据え膳っていうんだよな」

男A「ん~、包帯で顔が見えないのがネックだけど、逆によしとしよう。好みの顔じゃなかったらなえちゃうし」

 ゲラゲラと笑う男達に、美琴も微笑んで見せた。

美琴「好みの服は誰も着てないけれど……ま、頂いとくわ。贅沢は言えないもんね」

 バヂン! と音がした。
 黒ずんだ男たちが倒れ付した上を、美琴は悠々と歩き去っていく。

 最後に、美琴はもう一度だけ、上条の住んでいる部屋の窓を見上げた。



182: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/02(火) 23:59:41.17 ID:ji4/LZbu0

 上条当麻と御坂美琴の出会いについて、少しだけ語ろう。
 とはいえ、それはとてもありふれた出会いだった。

 人を助けるために力を惜しまぬLEVEL5、御坂美琴。
 人を巻き込まないように力を振るわぬLEVEL0、上条当麻。

 二人の出会いは、やっぱり薄暗い路地裏だった。

 その時御坂美琴はいつも通り、不良に絡まれていた女の子を助けていて。
 上条当麻はいつも通り、不幸にもその現場に居合わせていた。

美琴「アンタが親玉ね?」

上条「いや、そりゃお前の盛大な勘違いだ」

 それが二人のかわした最初の会話だった。
 それからのことは、恐らく語るまでもないことだろう。
 御坂美琴の能力は上条当麻の『幻想殺し』の前に、完膚なきまでに通じず。
 こうして、一方的なおっかけっこが始まった。

 ただし、美琴が上条を追いかける理由は、単純な興味とは少し違っていた。
 美琴の認識として、上条はまぎれも無く『悪』だったし、上条は別にそれを否定しなかった。
 御坂美琴は『悪』を許せない。幼い頃から自分の能力が誰か他の人のために役立てば、と願っていた。
 その思いが、確固たる意志が、彼女を学園都市第三位の能力者にまで引き上げたのだ。

 だから彼女は、端的に言って、上条当麻の存在が許せなかったのだ。



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:05:31.23 ID:YTeyW4S90

 御坂美琴が追いかけ、上条当麻が逃げる。
 それは、傍目には微笑ましく映るほどの掛け合いだったのかもしれない。
 事実、美琴の後輩である白井黒子などは、上条当麻のことを妬ましく思っていた。
 御坂美琴も、自分の全力をぶつけられる相手として、上条当麻を憎からず思っている部分も、確かにあった。

 そして、上条当麻はそれを敏感に感じ取った。
 結果、彼の取った行動は。


 ぐしゃり、と肉を叩く音。

美琴「……え?」

 ぼたぼたと零れる鼻血を、美琴は呆然としたまま拭う。

上条「いい加減にしとけよ。次に来たら一発じゃすまさねえぞ」


 彼の取った行動は、迎え撃つことだった。



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:15:36.04 ID:YTeyW4S90

 上条当麻は、人と関わり合いになることを極端に嫌う。
 その心中は定かではないが――とにかく、彼は人と馴れ合うことを病的なまでに嫌っていた。
 いや、それはまさに――病、だったのだろう。

 ともあれ、彼は殴った。
 女の命ともいえる、顔を。
 それで、御坂美琴の心は折れるはずだった。
 上条の知る常識の中では、それで他人は自分と距離を置くようになるはずだった。

 すなわち、御坂美琴は上条当麻の常識をはるかに超えた女だった。

 彼女は折れなかった。彼女はめげなかった。
 『悪』に敗北する自分を――認めなかった。

 上条は御坂美琴のことが理解できなかった。
 理解できぬままに、とにかく心を折ることを考えて、叩いて。
 叩いて。叩いて。叩き続けて。
 それでも彼女の心は決して折れず、ただ曲がっていった。
 曲がって、曲がって、捻じ曲がっていった。
 最初の確たる思いだけが綺麗に残り、それ以外は見ていられないほど歪な形になってしまった。

 御坂美琴は上条当麻を超えるためだけに。
 上条当麻は御坂美琴の心を折るためだけに。

 歪に捻じ曲がったまま、二人の関係は今へ続いている。



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:25:35.87 ID:YTeyW4S90

 そんな御坂美琴が、目の前で死んでいた。
 上条当麻は、その光景をしばらく呆けたまま見つめていた。

上条「ああ、待て待て。整理しよう」

 上条はふるふると頭を振った。

上条「え~と、昨日まで寝床にしてた所が土御門やらビリビリやらに見つかって、俺は引越しを余儀なくされて」

上条「んで、ちょっとやそっと隠れたぐらいじゃ多分あっさり見つかっちまうから、もういっそのこと屋根なんかいるか~ってことで、とにかく人が近寄らない所を吟味して決めた」

上条「オーケィ。確認終了」

 あらためて上条は前を向き直る。
 血溜りの中、うつ伏せに転がる少女。
 灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーター。
 あまりにも、見覚えがありすぎる。

上条「それで、何でこんなことになるんだよ……」

 上条はボリボリと頭を掻く。
 苛立ちから、乱暴に、ガシガシと。


「オイオイ。部外者の乱入かよ。この場合、実験ってのはどうなっちまうンだ?」


 声が聞こえた。
 不愉快な声だ、と上条は思った。



203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:35:51.71 ID:YTeyW4S90

 もはや紹介するまでもないだろう。
 彼を見れば、裏の世界で生きているものならば、誰でも気付く。
 その真っ白な髪を、血のように赤く輝く瞳を見れば。

 彼が、学園都市で最強の怪物であると。

 学園都市第一位のLEVEL5、『一方通行(アクセラレータ)』。
 もちろん、上条もまだ極短期間とはいえ裏の世界に身を置いている。
 彼の噂を耳にしたことはあった。

上条「おいおいおいおい……俺はさあ、俺はだよ? 誰にも会いたくないって思ってこの場所に来たのにさあ。不幸にも程があんだろコレよお」

一方通行「へェ…随分と余裕じゃねェか。面白ェなオマエ」

 月明かりが二人を白く照らしている。
 まるで鏡を通して向かい合っているような錯覚を、上条は覚えた。
 きっと、目の前の第一位も似たような感覚を覚えているに違いない。
 上条には、何故かそう思えた。



208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:46:39.99 ID:YTeyW4S90

上条「ところでひとつ質問だ」

一方通行「あン?」

上条「そこで転がってる『ソレ』、知り合いに似てんだけど」

一方通行「あァ、オマエ『オリジナル』を知ってンのか。安心しな、そいつは違ェよ。そいつはただの『レプリカ』だ」

上条「レプリカ…?」

 言われてみれば、倒れているその少女は顔に包帯を巻いていない。代わりに、妙なゴーグルを額に着けているが。

一方通行「クローンだよ、要するにな。ここはよ、俺を『LEVEL6(絶対能力者)』に進化させるための実験場なのさ」

上条「おいちょっと待てお前何語りだしてんだ」

一方通行「二万体のクローンを皆殺しにすることでLEVEL6に到達出きるって、何か計算結果が出てるンだとよ。ンで、俺はそれに従ってプチプチプチプチ経験値稼ぎに勤しンでいるわけだ」

上条「やめろオイお前ソレあれだろ、絶対機密情報だろ。知ったやつは皆殺しとかそういう話に持っていくんだろ」

一方通行「オゥ、多分そうなるだろな」

上条「ふざけんな! 何の恨みがあってそんなこと!!」

一方通行「いンやァ、何となく。何か見てるだけでムカツクンだわ、オマエ」

上条「気が合うなクソッタレ!!」



214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 00:55:36.62 ID:YTeyW4S90

上条「……どうせここまで聞いちまったらもう耳塞いだって無駄だろ」

一方通行「安心しろ。目撃者の処理まで俺が相手するわけじゃねェ。命令は来るかもしれねェが、面倒くせェから引き受ける気もねェし」

上条「あっそ。死ぬほど安心したよクソッタレ」

一方通行「そのわりにゃ、怯えてるようには見えねェな」

上条「カッコつけてんだよ、男の子だからな」

一方通行「ハッ、カッコイイじゃねェか。プチっと捻り潰したくなンぜ」

上条「そんで、何でお前はこんなことやってんだ?」

一方通行「あン?」

上条「今でも十分なんじゃねえの? 確かお前学園都市最強のLEVEL5なんだろ?」

一方通行「理由なンざ簡単だよ。オマエみたいな舐めたクチ聞く奴がまだいるからだ」

上条「はぁん、成程ね」

一方通行「俺は『無敵』になりてェのさ」



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:05:26.56 ID:YTeyW4S90

上条「最強じゃ足りないってか」

一方通行「そうさ、最強なンてモンじゃ、まだ足りねェ。比べるのもアホらしくなるほどの無敵。それに俺はなりてェのさ」

一方通行「そうすりゃ、ブンブンブンブンうざってェ虫が纏わりつくことも無くなンだろォさ」

上条「成程ね…全く持って、成程だわ」

 だからか。上条は一人納得する。
 だから、俺はお前が気に入らないんだ。

上条「要するに、敵を無くしたいわけだ。寂しがりやさんだな、第一位」

一方通行「……クスリともこねェ冗談だ。オマエは誰おちょくってンのかわかってンのか?」

上条「なんだっけ? アセロラベータさん?」

一方通行「愉快な間違いしてンじゃねェよ。健康食品じゃねェっつの」



226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:13:24.36 ID:YTeyW4S90

 一方通行は上条に背を向ける。

一方通行「まァいい…さすがに眠てェから、今日のところは見逃してやンよ」

上条「そりゃあ、ありがたい話で」

一方通行「遠からず俺以外の誰かがオマエを殺しに来るさ。それまで精々震えて眠りな」

上条「マジでか。そりゃあ楽しみだ。楽しみすぎて、寝付けそうにねえよ」

一方通行「じゃあな」

上条「おう」

 まるで友人のように二人は手を振り合って別れた。
 御坂美琴のクローンの死体を挟んで、鏡のように同じ動きで。

 こうして上条当麻と一方通行は出会った。
 それは何の変哲も無い、静かな出会いだった。



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:24:25.79 ID:YTeyW4S90

 翌朝、上条はとある情報屋を訪ねていた。

情報屋「うげっ、上条当麻」

上条「オイオイ、そんな露骨に嫌な顔すんなよ。傷つくな」

情報屋「そりゃ、お前に関わった奴がどんな目にあってきたかを知ってりゃ、こんな反応になるよ」

上条「聞きたいことがあるんだよ」

情報屋「いーやーだ。お前とは関わり合いを持ちたくない」

上条「そういうなよ。24時間お前の周り付き纏っちゃうぞ?」

情報屋「そ、そいつはマジで勘弁してくれ! 何でも話すから!!」

上条「最初っからそういう態度でくりゃいいんだよカス」

情報屋「お前よぉ…カタギの人間巻き込むのは病的に嫌うくせに、俺らみたいな人種には嬉々として関わってくんのマジでやめてくれよ……それでいくつの組織が潰れたと思ってんだよ」

上条「勝手に人の行動を分析してんじゃないよ。不愉快な野郎だね」

情報屋「お、怒るなよ……それで、何が聞きたいんだ?」

上条「おう、それがな……」



244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:33:13.38 ID:YTeyW4S90

情報屋「そりゃ、『絶対能力進化計画』だな」

上条「はーん、あの野郎マジで本当のこと言ってたのかよ。むかつくね」

情報屋「『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』……LEVEL6。正直、眉唾モンだとは思うんだけどな、凡人たる俺としちゃあ」

 学者さんの考えることはわからんね、と情報屋は首を振る。
 上条は、それから計画の内容を詳しく情報屋から聞きだした。

上条「要は、何とかして神様に近づこうって実験なわけだ」

情報屋「ざっくばらんに言えばな」

上条「いいね。興味が湧いてきた。料金はいくらだ?」

情報屋「いらねえよ。その代わり、二度と俺には近づかないでくれ」

上条「ははは、そりゃいい買い物したな、お前」

 上条は快活に笑って情報屋の部屋を後にした。
 情報屋は上条が去った後、こっそりと塩をまいたのであった。



250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:46:41.23 ID:YTeyW4S90

 時は経ち、夜。
 上条は、人通りの少ない、というかまったくない裏通りをフラフラと当て所なく歩いていた。
 考えるのは、もう二度と関わりを持つまいと決めていた御坂美琴のことだった。

上条「あいつもまあ……とことん不幸なやつだよなぁ」

 上条は情報屋から聞いている。
 美琴が己のクローンが二万体殺されるなんて実験をよしとせず、研究所を潰しまわっていることを。
 そんなに忙しいなら俺のことなんてほっとけよ、と思う。
 いや、それでも放っておけないほど俺に執心しているのか――考えるだけで、げんなりする。

上条「二万体…二万人、か。桁違いだな、これは」

 美琴はどんな気持ちだったろう。
 自分が軽はずみにDNAマップを提供したせいで、二万人もの命がモルモットのように使い捨てられると知ったときは。
 しかも、その時には既に一万人が殺されていたという。

上条「ほんと…たいしたもんだ」

 そんなことを呟きながら歩いていたら。
 目の前に御坂美琴が現れた。




252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:53:23.40 ID:YTeyW4S90

 いや、違う。
 目の前にいる美琴は、傷一つ無い綺麗な顔をしていた。
 つまり、クローン。
 二万体いる『妹達(シスターズ)』の内の一人――!

??「いいえ、とミサカはあなたの予想を否定します」

上条「あれ? 違うの? でもどうみてもお前御坂なんだけど」

??「お姉様のクローンであることは変わりません。しかし、このミサカにはミサカシリーズであることを示す検体番号がつけられていない」

ミサカ「ただの――ミサカなのです、とミサカは説明を完了します」

上条「えーと、つまり、どういうこと?」

ミサカ「仮に検体番号をつけるなら、ミサカのナンバーは20002号」



ミサカ「ミサカはあなたのためだけに急遽作られた『存在し得ない個体』なのです、とミサカは追加説明を終えました」



259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 01:59:36.22 ID:YTeyW4S90

上条「いや、全然意味がわからねえぞ。おいどや顔やめろ。全然説明になってねえって」

ミサカ「やれやれ、随分察しの悪い方なんですね、とミサカは露骨にがっかりします。前情報では異常に勘の鋭い方と聞いていたんですが、まあいいでしょう」

ミサカ「物分りの悪いあなたのために、ミサカは一から十まで説明しましょう」

上条「やべえ、コイツぶん殴りてえ……」

ミサカ「それは後に回してください。それでは説明を開始しましょう。『絶対能力進化計画』についてはもうご存知ですね? とミサカは一応確認を取ります」

上条「ああ、それは知ってる。一方通行がお前たちクローンを二万回殺すことでLEVEL6に至るって実験だ」

ミサカ「Exactly(そのとおりでございます)」

上条「うるせえ、いいから続けろ」



264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 02:11:00.27 ID:YTeyW4S90

ミサカ「ところでその二万という数がどのようにして定められたかはご存知でしょうか?」

上条「何かお偉いさんがした計算の結果なんじゃねえの? その辺は詳しく聞いてねえな」

ミサカ「はい、実はその計算、最初はミサカのオリジナルであるお姉様を用いたらどうなるかということで計算されていたのです。と、ミサカは衝撃の事実を発表します」

上条「……へえ。ちなみに、御坂美琴の場合は何回殺せば条件クリアーなんだ?」

ミサカ「128回です。無論、お姉様を、学園都市第三位の超能力者を128人も準備することなど不可能でした」

上条「それで、クローンか」

ミサカ「はい。私たちクローンはお姉様より力が大分劣ります。故に、お姉様128人分を代用するのに、二万もの数が必要となったのです」

ミサカ「ここまで説明すれば、わかっていただけたのではないでしょうか?」

上条「なるほど、な。つまり、俺のせいで――」

 上条当麻というLEVEL0が、御坂美琴というLEVEL5をコテンパンにし続けたせいで。

上条「――御坂美琴の価値に、疑問が生まれ始めている」

ミサカ「Exactly(そのとおりでございます)」



271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 02:23:39.93 ID:YTeyW4S90

上条「果たして、一方通行をLEVEL6に進化させるのに、御坂美琴128人分で足りるのか?」

ミサカ「まさしくそういうことですね、とミサカは頷きます。なんだ、やっぱり物分りはいい方なんですね」

上条「まぁ…な。嫌なことまで察しちまうから、もう少し愚鈍でいたいもんなんだけどよ……」

 上条はぶらぶらと右手を揺らす。
 それは、戦闘に入る前の、彼のおなじみの動作だった。

上条「つまり、お前は確認に来たわけだ」

ミサカ「はい。『お姉様が弱いのか』、それとも『あなたが強いのか』。それを確かめるために、ミサカは生み出されたのです」

 そう言って、ただのミサカを名乗った少女は、スカートの下に両手を差し込んで―――
 美琴と違って短パンを履いてないからパンツが見えた。水色と白の縞々だった。

ミサカ「いやん、とミサカは頬を赤らめます」

上条「嘘つけ、無表情じゃねーか」

ミサカ「そりゃあ、もう戦闘は始まっているのですから」

 ミサカがスカートの中に突っ込んだ手を前に戻し――その手は、両方ともオートマチック式の拳銃を握り締めていた。



278: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 02:37:01.68 ID:YTeyW4S90

 前に出るか――!? いや無理だ。間に合わ――ない!
 上条は一瞬で判断した。
 恥も外聞もなくミサカに背を向けて、駆け出す。
 もちろん、右に左に、上に下に、不規則に動きを変えて。
 ダンダンと連続して吐き出される銃弾が、上条の服を掠めていく。

ミサカ「二丁拳銃で追い切れないとは、信じられませんね。ゴキブリですかあなたは、とミサカは素直な感想を漏らしながら追いかけます。待てー」

上条「えれえモンに例えてくれるなチクショウ!」

 叫びながらも上条は壁を蹴り、地面を転がり、とにかく的確なタイミングで縦横無尽に道を駆ける。
 あと五秒も走れば広い道に出る。そうなればミサカを撒くのも難しい話ではない。

ミサカ「面倒なのは好みではありません。一気にケリを着けましょう、とミサカは決意します」

上条「んげっ!?」

 発砲が止んだことに疑問を覚えた上条は、後ろを振り返って絶句する。
 ミサカが肩に構えている大筒には見覚えがある。
 多分、あれ、ロケットランチャーっていうやつじゃねえの?

上条「どっから出したそんなもん!! ドラえもんかてめーわ!!!!」

ミサカ「このスレンダーボディのミサカを指して二頭身のずんぐりむっくりに例えるとは、とミサカは憤慨します。ムカついたんで即座に撃ちます。どーん」

 ミサカの可愛げのある効果音とは似ても似つかぬ轟音が響き。
 四階建てのビルが一つ、半壊した。



306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 08:41:58.11 ID:YTeyW4S90

 ぼふっ、と爆発によって巻き起こった煙を割って、上条は駆ける。

上条「冗談じゃねえ。右手が効かないような攻撃方法ばっかでこられちゃ、俺はただの一般人と変わんないって言ってるじゃねえか!」

 そう吐き捨てて、上条はとにかくミサカから距離を取るため、走る。
 小道を見つけては入り、抜け、また小道に入り、と繰り返す。

上条「そ、そろそろ撒いたか?」

 上条は足を止め、後ろを観察する。嫌な気配は感じない。

上条「ふぅ~」

 上条は安堵の息を漏らすも、すぐに苛立ちから髪をガシガシと掻きむしった。

上条「あぁ、くそ。一度くらいはまともに眠らせてくれよ。まだ今日の寝床も決めてないってのに」

 ぶつくさ愚痴りながら、上条は念の為にもう少し距離を取っておこうと、歩みを再開する。
 小道を抜け、新たな小道を見つけ、入る。

上条「……あらぁ?」

 そこで、ミサカが死んでいた。



308: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 08:49:11.72 ID:YTeyW4S90

上条「……なんだぁ? どうなってんだこりゃ?」

 その死体は、ひどい有様だった。
 どうすれば、人間の体をここまでズタズタに出来るのか、上条にはわからなかった。
 まるで、全身の血管が膨張し、破裂してしまったような――灰色のプリーツスカートに半袖のブラウスにサマーセーターというおなじみの格好でなければ誰か分からないほどにその死体は破壊されていた。
 御坂美琴本人ではないだろう。顔に包帯が巻かれていた様子はないし、その死体の傍らには軍用ゴーグルが転がっている。

上条「あれ? そういやアイツゴーグルつけてたっけ?」

 上条は先ほど自分を強襲してきたミサカの顔を思い出す。
 他の個体との差別化を図るためなのかは知らないが、つけていなかった――ような気がする。

上条「つまり、コイツは実験とやらで正当に殺された個体ってことか」

 まるで、上条にその通りですよ、と答えるかのようなタイミングで。
 銃声が響いた。



312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:04:57.97 ID:YTeyW4S90

 音が上条の耳に届くよりも先に、上条はその右足をひょい、と持ち上げていたように思う。
 とにかく、背後から右足を狙って飛来した銃弾は空を切り、地面に倒れ付していたミサカの体へと着弾した。

上条「ひでえことすんなよ。死者に鞭打つ、どころじゃねえぞオイ」

 上条は顔だけで後ろを振り向いた。

ミサカ「……まさかよけられるなんて夢にも思っていなかったんです、とミサカは言い訳します」

 オートマチック式の拳銃を上条の背中に向けたまま、ミサカは言う。

上条「いやいや、実はちょっとほっとしたぜ。俺に関わっちゃったから死んだ奴……その最短記録を塗り替えたかと思っちまったからよ」

上条「出会って10分ってのはさすがの俺も経験したことねえからさ」

ミサカ「随分とお優しいことを言うのですね。データでは、極悪非道が服を着て歩いているような男、と聞いていたのですが」

 そう言って、ミサカは一歩、上条との距離を詰める。

上条「馬鹿野郎。データなんかに惑わされんな。ありのままの上条さんを見てくれや」

 そう言って笑って、上条は今度こそ体ごと背後を振り返る。
 二人の距離は、もう10mそこそこといった所だった。



315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:15:34.78 ID:YTeyW4S90

ミサカ「何故逃げないのです? とミサカはあなたに問いかけます」

上条「何故撃たないんだ? と俺はお前に返そうか」

ミサカ「撃てばあなたは無様に逃げるでしょう、とミサカは確認します」

上条「そりゃあ、撃たれりゃ逃げるさ」

ミサカ「ですから、ミサカはまずはあなたがどうあがいても逃げきれないほどに距離を詰めることを優先しました。一発必中というやつです、とミサカはどや顔で答えます」

上条「そりゃ愚策も愚策だな。本当に事前に俺のデータを参照してたのか?」

 上条はポケットに手を突っ込みながら、悠然と佇んでいる。
 背中を向けて無様に逃げ出していた男の姿は、もうそこにはない。

上条「この距離まで、どうやって近づくかが問題だったのさ。自分から近づいてくれるなんて、ありがとよ」

ミサカ「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言います。ミサカの頭が悪いような言い方はやめてください、とミサカは頬を膨らませます。それに……」

 ミサカは右手に持った銃の照準を、上条の胸の真ん中に合わせる。
 乱射する必要はない。一発必中、だ。
 まあ、とか言いつつ何発か連射はさせてもらうけど。

ミサカ「いくらあなたが常識外れの動きをしようと、私が引き金を引くほうが早い」

上条「なら、試してみようぜ」



320: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:25:11.18 ID:YTeyW4S90

ミサカ「……!?」

 上条の体が、左右にぶれた。
 照準を混乱させられたミサカは、一瞬、引き金を引くのが遅れてしまう。
 それでも、それは瞬きほどの一瞬だ。
 その程度では、10mの距離は詰めれない。
 ミサカは冷静に照準を付け直し、引き金を引こうとして――

 激痛と共に、左側の視界が死んだ。

ミサカ「あぐ…!」

上条「やっぱり世の中は金だよな。小銭だって大事に持ってればこうやっていいことがある」

 ミサカが残った右目で捉えたのは、くるくると宙を舞う、一枚の硬貨。
 コレを、指で弾いて―――!?

上条「レェールガン……なんつってなぁ!!」

 上条は地を蹴って駆け出した。



325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:32:57.79 ID:YTeyW4S90

 上条の体が半分に限定された視界から消えうせる。
 まずい、死角に潜られた――!
 ミサカは慌てて黒く染まった左側を確認する。

ミサカ「――ッ!?」

 いない。
 上条当麻が、どこにも。

上条「右目で左側を確認すりゃあ、当然右側はまったく見えねえよなあ?」

 声が聞こえたのは、体の右側からだった。

ミサカ「くっ!!」

 ミサカは声のした方を目で確認するよりも早く、銃口を向ける。
 そして、引き金を引こうとして―――

上条「撃たせねえよ?」

 銃を持った右手ごと、押さえ込まれた。
 左手をスカートの中に差し込もうとして――

上条「抜かせねえし」

 それも、上条に抑えられた。



330: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:40:26.27 ID:YTeyW4S90

 右手を上条の左手に。左手を上条の右手に。
 それぞれ掴まれてしまっている。
 ならば、残された攻撃手段はひとつ。

ミサカ「――ッ!!」

 頭を、思いっきり振りかぶって。
 上条の下あご辺りを目掛けて、叩きつける――!

上条「舐めんなッ!!」

 上条はそれを向かい撃った。
 額と額がぶつかり、ボーリングの球が勢いよくぶつかり合ったような、鈍い音が響く。

 そして。

 ミサカの体がどさり、とその場に崩れ落ちた。



336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:47:44.98 ID:YTeyW4S90

一方通行「あン?」

上条「おお?」

 コンビニの前で、珍しい、というか珍しすぎる奴と会った。

上条「第一位でも普通にコンビニとか行くんだな」

一方通行「そりゃ行くだろ。俺を何だと思ってンだ? 飯も食えばクソもするわ」

上条「果てしなく意外だわ」

一方通行「オマエマジで俺を何だと思ってンの?」

上条「化物」

一方通行「あってるけどよォ」

 一方通行が持っていたビニール袋がガランガランと音を立てた。
 上条は思わず己の目を疑う。

上条「それ全部缶コーヒー?」

一方通行「おう」

上条「うわぁおマジありえねえ。まとめて買うならスーパーいけよ……一本88円の所だってあんだぞ?」

一方通行「せせこましい野郎だなオマエ」



339: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 09:55:42.72 ID:YTeyW4S90

一方通行「ンで、オマエはこんな所で何してンの? ってか何でまだ生きてンですかァ? 口封じは来なかったンかよ」

上条「ああ、そうだったそうだった。急がねえと、目を覚ましちまうからな」

一方通行「あン?」

上条「ちょうどいいや。ちょっとお前に聞きたいことあんだけど」

 と、そこまで口にしてから上条ははたと気付く。
 そうか。あそこにあった『妹達』の死体は、そういうことか。
 実験直後ってわけだ。

上条「食後のコーヒーってわけか?」

一方通行「飯はこれから食うンだよ。飯の前に好物飲ンで落ちた気分上げとくンだ」

上条「まあいいや。そんなことより」

 上条は自分から振ったくせにコーヒーに関する話題を打ち切った。

上条「『妹達(シスターズ)』のことならお前詳しいだろ? ちょっと教えてくれよ」

一方通行「何をだよ」


上条「コンビニって荷造り用の紐くらいしか置いてないんだよな。それであいつらを拘束とかって、出来る?」



346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:05:54.56 ID:YTeyW4S90

 ぐるぐる巻きに縛っときゃ出来ンじゃねェ? というのが一方通行の回答だった。
 その助言に従って、上条はミサカを芋虫のようにぐるぐる巻きにしてから、ミサカが目を覚ますのを待つ。

 ぱちり、とミサカが目を開けた。左目はまだ少し赤い。
 ミサカは自分が横になっていることに気付き、起き上がろうとして、それが一片もままならないことに気付いた。
 自分の体を見下ろすミサカ。
 しばらくミサカはそうして芋虫のように縛られた自分の体をじっと見つめていたが。
 やがて、傍らでこちらを覗きこんでいる上条を見上げて、言った。

ミサカ「こういう趣味が、あるのですか?」

上条「ねーよ、ボケ」

ミサカ「ミサカはどうして生きているのでしょう、とミサカは疑問を呈します」

上条「そりゃ、俺が生かしておいたからだ」

ミサカ「あなたの命を狙ってきたミサカを、生かしておくメリットなんて無さそうなものですが」

上条「頼みがある。つってもお前に拒否権はねえんだけどな」



348: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:15:26.09 ID:YTeyW4S90

ミサカ「つまり、それは命令ですか?」

上条「つまり、そうなるな」

ミサカ「ミサカがそれに従う必要性を感じません」

上条「うるせえよ。お前は俺のためだけに作られた個体なんだろうが。なら俺の命令に従うほうが道理ってもんだ」

ミサカ「言われてみればその通りと思えなくも無いですね、とミサカは頷きます」

上条「まあ、そうだよな。簡単に頷けるわけがねえ。でもな、こんなこた言いたくねえけど、死にたくなければ俺の命令に……ってあるぇー?」

ミサカ「元よりミサカの運命はあなたに負けて殺されるか、あなたに勝ってそのまま『一方通行』の実験に流用されるという二者択一でしたので」

ミサカ「あなたに負けて生きている、というこの状況は完全に想定外です。故に今のミサカは人生ノープランなのです、とミサカは嘆きます」

ミサカ「この際だからあなた専用ミサカ、『ミサカ上条号』として第二の人生を歩むのも悪くはないのかもしれません」

上条「いや、お前そんなあっさり」

ミサカ「これからよろしくお願い致します、ご主人様。きゃ、言っちゃった」

上条「俺が悪かった」



352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:22:42.15 ID:YTeyW4S90

ミサカ「それで、命令とはなんなのです? ご主人様。とミサカは確認を取ります」

 定着した……。
 上条は頭を抱えた。

上条「……もういい、気にしない」

 上条はすっぱりと諦めて、というかどうでもよくなって、ミサカの拘束を解く。

上条「ミサカ。俺を『絶対能力進化計画』、その責任者の所に連れて行け」

ミサカ「何故です? とミサカはあなたに問いかけます」

上条「興味があるんだよ。神様に会おうなんていう、その馬鹿げた計画に」

ミサカ「いいでしょう。あなたに取っては渡りに船、といえるでしょうね」

上条「あん?」

ミサカ「元より、あなたがミサカを打倒した場合、あなたを研究所へ招待する手筈となっていました」

ミサカ「本来その案内人は別の『妹達』が務めることになっていたのですが、まあいいでしょう」

上条「へえ、それはそれは、話が早い」

ミサカ「案内いたします。『絶対能力進化計画』、その中枢に」



360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:33:33.80 ID:YTeyW4S90

科学者「ようこそ」

 ミサカに連れられた先で上条を出迎えたのは、齢70程の老人だった。
 その傍らには、若い男の姿もある。
 老人は名乗らなかったが、男は天井亜雄と名乗った。
 御坂美琴のクローンである『妹達』を発案したのは、この天井亜雄という男らしい。
 とはいえ、そんなことは上条にとってはどうでもいいことだった。

 もし上条の思い通りに事が運べば、今日、この日、全ての『妹達』は―――

 ――その存在価値を、失う筈だから。

科学者「来てくれて嬉しいよ。上条当麻くん」

上条「アンタが実験の責任者か?」

科学者「まあ、現場レベルではね。不肖ながらそのような大役を務めさせてもらっているよ」

上条「それで、こんなところに俺を招待して、一体何の用なんだ?」

科学者「そうだね。私たちも君も忙しい。用件を伝えよう、上条当麻くん。いや……」

 科学者はその目を細めて微笑んだ。


科学者「――もう一人の可能性よ」



368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:47:39.53 ID:YTeyW4S90

科学者「まことに申し訳ないが、君の事は調べさせてもらった」

上条「まったく、最近の俺のプライバシーってやつはホントどこ行っちゃったんだろね」

科学者「謝罪は後に存分にさせてもらうよ」

上条「それで?」

 上条は話の先を促す。科学者は頷いた。

科学者「学園都市内で確認できるだけの君の戦闘記録を拝見させてもらった。素晴らしい……その一言に尽きるよ」

上条「そりゃどーも。恐縮だぜ」

科学者「ずば抜けた身体能力もさることながら……真に特筆すべきはその異常なまでの勘のよさだ」

科学者「相手が何を考えているのか、これから先、何が起こるのか……『予感』どころではない。これはもう『予知』と言ってしまっていい」

科学者「君は、予めこれから先何が起こるのか『全て知っている』のだ」

上条「そりゃいくらなんでも大袈裟ってもんだろ。神様でもあるまいし」

科学者「つまりはそれが君の可能性だ……『全知』……まさしく、人の身では在り得ぬ能力だろう?」



374: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 10:57:56.45 ID:YTeyW4S90

 科学者は悠々と、朗々と自身の仮説を語る。
 その様子はまるでプレゼンを行っているようだ。いや、事実コレはプレゼン以外の何物でもないだろう。
 科学者は、今まさに上条当麻を己の実験に勧誘しているのだから。

科学者「LEVEL5である御坂美琴を歯牙にもかけぬその強さ。無傷でクローンを打倒するその実力」

科学者「LEVEL0などとんでもない。君は『一方通行』と同じ、LEVEL6に最も近い存在なのだ」

上条「あいつと同じとか、反吐が出るんでやめてくださいよ」

科学者「おやおや、仲良くお喋りしていたと、そう報告が来ていたのだがね……まあいい」

科学者「どうだい? 君もこの実験に、神に近づこうという試みに参加してみる気はないかい?」

上条「乗った」

 即答だった。

上条「もしこの世に神様ってのがいるんなら、本当に、是が非でも、何が何でも会ってみたかったんだ」

 まさしく渡りに船、だ。
 そこまでの道を酔狂にも用意してくれるというのなら、それを使わない手はない。



379: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 11:10:25.52 ID:YTeyW4S90

科学者「そうか!」

 科学者は喜色満面の笑みを浮かべた。

科学者「なら、さっそく『妹達』の量産に取り掛かろう。数の計算には後で取り掛かれ。『ツリーダイアグラム』が破壊された以上、計算には手間取るだろうからな」

 とりあえず『一方通行』を基準として二万体を生産しろ、という科学者の指令に従い、天井亜雄が動き出す。
 が、それを上条は止めた。

上条「おいおい、勘弁してくれよ。二万? そんなしち面倒くせえことやってらんねえっての」

 休み無く一日10人ペースで捌いたとしても、一年で3650人、二万にたどり着くには六年以上かかる。
 ふざけるな。そんな面倒なことはやってられない。

 ――俺は、今すぐにだって神様に会いたいんだ。

科学者「し、しかし、それ以外にこちらは準備する手立てが……」

上条「いるじゃねえか。もっともっと適役がよ」

 上条は不敵に笑う。

上条「一方通行をLEVEL6に引き上げるには、御坂美琴が128人必要だった。だったらよ」

 上条は、ウインクして言った。

上条「その御坂美琴を既に十数回撃退してる俺なら、同じLEVEL6に至る可能性である俺なら、一体何人で済むんだよ?」



386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 11:19:32.91 ID:YTeyW4S90

 学園都市最強のLEVEL5、一方通行。
 人の域を超えた危機回避能力を持つ上条当麻。

 共に、人間では勝てぬと判定された者同士。
 神に至ると仮定された存在同士。

 ならば、その二人がぶつかりあえば。


 勝者が既に人の身に在らずのは自明の理。


 しかし科学者は軽々には頷けない。
 それもそのはず、その理論には理はあれども保証がない。

上条「失敗を恐れて何もしないのは、愚か者だ」

 上条は、どこかで聞いたようなセリフを口にした。

上条「どの道、この提案が受け入れられないなら俺は降りるぜ」

 上条は、ふざけているのか片目を閉じたまま科学者に向けて言う。



394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 11:31:08.45 ID:YTeyW4S90

科学者「……ぬう…」

天井「か、考えるまでもありません。ツリー・ダイアグラムにより演算結果が出されている一方通行のプランを今さら変えて、どうするんですか」

 天井亜雄は必死で科学者を説得する。
 それも当然だ。仮にプランが上条当麻と一方通行の一騎打ちに移行してしまえば、彼を支える『量産型能力者計画』が全くの意味を成さなくなってしまうのだから。

上条「おいおい、急げよ。お前らは科学者ってわりに、何もわかっちゃいないんだな」

科学者「む…?」

天井「何ぃ…?」

 上条は片目を閉じたまま、にやりと笑う。

上条「お前らは、俺を施設にこんな長いこと留まらせておく意味を、全くわかっちゃいない」

 上条のその言葉と、それは同時だった。
 バヅン、と音がして、辺りが暗闇に包まれた。

天井「て、停電!? な、何故!? 『配電盤に雷が直撃でもしない限り、停電など起こるはずはない』のに!!」

上条「ほーら、こうなった」

 上条はここに至り、ようやく――閉じたままだった目を開いた。

上条「おーおー、あんたらのうろたえた顔がよく見えるぜ。さあどうする? 顔を包帯まみれにしたこわーいお姉様がやってきたぜ?」



402: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 11:43:48.40 ID:YTeyW4S90

 電気系統は死んでも、無線は生きている。
 天井亜雄は必死で無線で連絡を飛ばし、状況を確認する。

『LEVEL5がやってきた』

『オリジナルが強襲してきた』

 入ってくる連絡は、どれも上条の言葉を裏付けるものばかりだった。

上条「前門の虎、後門の狼ってところだな。ただ、あんたらにとって幸いなのは、前門の虎には交渉がきくってことだ」

上条「さあ、どうする?」

 上条はもう一度科学者に問う。
 科学者の眉間に深く刻まれていた皺が消える。
 科学者はふぅー、と長いため息をついた。

科学者「選択の余地はなし、か」

上条「賢いな、アンタ」

科学者「まあ、中国の故事でも二匹の龍が絡み合うことで互いが互いを天に引っ張り上げる、と言うしのう」

上条「毒虫を潰し合わせて究極の毒を抽出する『蠱毒』って言ったほうが例えとしては的確なんじゃねえの、この場合」

科学者「わかった。認めよう。『絶対能力進化計画』は『全知』たる上条当麻と『全能』たる一方通行の激突をもって完遂するものとする」



405: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 11:50:25.18 ID:YTeyW4S90

天井「きょ、局長!!」

上条「うるせえなあ。あんまりしつけえと助けてやんねえぞ、アンタ」

天井「ぐ、ぐう…」

 バン!と勢いよく扉が開かれる。
 開け放たれた入り口から、極大の電撃が飛び込んできた。

上条「ひゅう、容赦ねえな」

 闇に慣れた目を光で焼かれぬように、もう一度、片目を閉じてから。
 上条は右手で電撃を消し飛ばす。
 まさしく、いつも通りに。

美琴「な、何で……」

 その、いつも通りの不可思議な現象を前に。

美琴「何でアンタが、ここにいんのよ……」

 暗視ゴーグルを着けた御坂美琴は、呆然と立ち尽くしていた。



443: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:05:23.42 ID:YTeyW4S90

上条「よう、生きてたんだな。ビリビリ」

美琴「何で? 何でよ? 本当、何でアンタが……」

 御坂美琴は混乱していた。いや、もはやパニックに陥っていたといってしまっていい。
 上条当麻のこと。一方通行のこと。
 それぞれが美琴を苛む複雑かつ巨大な悩みだったが、それでもそれを今まで何とか処理できていたのは、それぞれが別個の悩みとして存在していたからだ。
 それが、ここにきて突然邂逅し、ひとつとなった。
 処理しきれない。頭が、ついていかない。
 そんな美琴を打倒することは、恐らく上条当麻でなくとも容易いことだっただろう。
 上条は呆ける美琴をあっさりと地面に引き倒すと、その右手で首元を押さえつけた。

上条「質問には全て答えてやろう。上条さんは優しいからな。『何故あんたが?』、答えは呼ばれたからだ」

美琴「どうして…!」

上条「『どうして呼ばれたのか?』、それは俺が、上条当麻という人材が『絶対能力進化計画』に必要となったからだ」

美琴「ど、どういう意味よ!?」

上条「その質問の答えは二つある。ひとつは、俺が『一方通行』とやりあう事になったって意味と」

上条「お前がご執心していたであろう『妹達』が用無しになったって意味だ」

美琴「な…!?」



448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:15:40.42 ID:YTeyW4S90

上条「わかるか? 御坂。お前が抱えていた不幸なんて、こんなもんだ。降って湧いた幸運で、あっさりと消え去っちまう」

美琴「何を…何を言ってるの、アンタは……」

上条「考えてみれば、お前が俺に出会ったちまったことで、こういう結果になるのは当然のことだったのかもな」

 今までの苦労が水の泡。
 それは、きっと他の何よりも不幸なことだろう。

上条「ま、精々運がいいわ、なんて自分を誤魔化して荷物を下ろせばいいさ」

美琴「ふざけんな! アンタ、アンタ何様のつもり!?」

上条「何様だろうと関係ねえよ。お前程度の不幸がこの俺に出会ったんなら、これは当然の帰結なんだ」

 小さな川の流れが、大きな川にぶつかったなら、小さな川は大きな川に飲み込まれる。
 これは、ただそれだけの話だ。

上条「お前の不幸は、この俺が飲み込んで連れて行く。身軽になったその体で、精々人生を謳歌しな」

美琴「認めない…認めないわ! 認めるもんですか、そんなの!!」

 問答は終わりだ。
 質問には答えても、抗議は一切受け付けない。



451: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:21:05.44 ID:YTeyW4S90

科学者「実験の日取りに希望はあるかね?」

上条「今日でなければいつでもいい」

科学者「ふむ、何か必要なものはあるか?」

上条「ふかふかのベッド。一晩邪魔されずぐっすり眠れる環境」

科学者「全力をもって準備しよう」

上条「それともうひとつ」

科学者「聞こう」

上条「実験場までの足に、車を一台」

 こうして、実験は開始される。
 上条当麻VS一方通行。
 『絶対能力進化計画』は、頓挫することなく、その最終局面へと向かっていく。



454: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:34:10.27 ID:YTeyW4S90

 ここで、一方通行について少し語らせていただこう。
 一方通行の持つ能力は『ベクトルコントロール』。
 あらゆる力の『向き』を自在に操る能力。
 そんな全能に等しい力を持っていた彼は、幼い頃から多くの敵意に晒されて生きていた。

 彼のもっともスタンダードな能力の行使、『反射』によってその敵意を跳ね返しながら生きてきた。
 悪意も、好意も、一緒くたにして跳ね返してきた。
 そうしなければ、己の身を守れなかったから。
 悪意も好意も、見た目には区別のつけようがないものだから。

 結果として、彼は決して望ましくない結果を多々残してきた。
 彼の能力で守れるのはあくまで己の体のみ。
 彼の周囲にいた人物は、みな世界の悪意に耐え切れなかった。

 彼は学ぶ。
 自分は誰かと一緒にいちゃいけない人間だ。
 否応なく周囲を狂わせ、関わった人間の人生を悉く終わらせてしまう。
 彼の持つ真っ白な輝きは、蛾を迷わせるように、周囲の人間を惑わせる。

 だから彼は、太陽になりたかった。
 太陽にまでなってしまえば、そこに手を伸ばそうなど、誰も考えないだろうから。




457: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:41:32.43 ID:YTeyW4S90

 もちろん、上条当麻はそんなことは知らない。
 渡されたレポートの中にも、そんな彼の心情は一言も記されてはいない。
 だが、その生い立ちを知って――何故だか、上条は確信のように、彼の心を知ることが出来た。

 そして、それはきっと、目の前でレポートを片手に立っている一方通行にしたって同じなんだろう。
 プライバシーなんて、本当に、笑っちまうくらいないがしろだ。

上条「よう、『最悪』」

一方通行「よォ、『災厄』」

 今夜は満月。
 月明かりの下で、二人は対峙する。

上条「正直に言えば、俺は初めてここでお前に会った時からこの時を待っていた」

一方通行「おォ、俺もだよ」

 パラパラと、二人の手元からプリントが離れ、夜風に吹かれて空に吸い込まれていく。




464: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:47:36.30 ID:YTeyW4S90

一方通行「オマエと会って喋ってる間、何回殺してやろうと思ったかわからねェ」

上条「おう、俺もさ」

 二人は、互いが互いを知ってなお。
 いや、互いを知ってしまったからこそ。
 目の前の存在を、許せない。


 鏡を見ているようで。

 もう、醜悪な自分の姿を突きつけられるのはたくさんだ。


上条「じゃあ、早速」

一方通行「おォ、迅速に」

 ――殺し合いを、始めよう。
 負ければ無様に死ねばいい。
 勝てば、太陽になろうが神に会おうが好きにしろ。

 どちらにせよ――望むところなのだから。



469: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 13:56:24.91 ID:YTeyW4S90

 上条が駆け出した。
 いつだって、いつまでだって彼の武器はその体一つ。
 距離を詰めて、思うままに拳を振るうだけだ。

一方通行「そらよォ!!」

 一方通行が地面を踏みつける。
 一方通行の足を中心に亀裂が走り、大地が持ち上がった。

上条「とんでもねえな!! さすが最強、派手に決めてくれる!!」

一方通行「ンで!? LEVEL0はこっからどう無様に足掻いてくれるンだ!?」

上条「猪突猛進、それっきゃねえだろぉ!!」

 上条は捲れあがった大地を即座に迂回し、一方通行に突進する。
 だが、そんな行動は一方通行の予測の通り。
 待ち構えていた一方通行がその手を伸ばしてきた。
 触れればそれだけで血流を操作し、死に至らしめる『死の手』。

上条「舐めてんのか!! スロウすぎて欠伸が出んだよ!!」

 上条は右手で迫ってきた一方通行の手を打ち払う。
 初めて上条の『幻想殺し』を体感した一方通行の目が驚愕に見開かれる。
 その大きく開いた目に――上条は躊躇いなく親指を突き入れた。



476: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:04:09.00 ID:YTeyW4S90

一方通行「あッがァァァああああああああ!!!!」

 一方通行は無我夢中で大地を破裂させ、上条を吹き飛ばす。
 大きく吹き飛ばされた上条だったがしかし、彼は空中で体勢を立て直し、ダメージ無く着地した。
 一方通行の左目から、どろりと赤い血が零れる。

上条「どうよ? 初めての感覚だろ。感想はどうだ、最強」

一方通行「ぐ、あぐ…!!」

 痛みでまともな声も出せない。
 そうか、これが痛みか。

 これを、俺は今まで一万人に振りまいてきたってわけか。

 ぐちゅり、と音がした。
 さすがの上条もぎょっとして目を見張る。
 一方通行は、潰れた左目に己の指を突き入れていた。



487: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:12:16.87 ID:YTeyW4S90

一方通行「がああああああああああああああああああ!!!!」

 ――執念。自分は一万人の犠牲の果てに今ここにいる。
 だから、実験の本懐を遂げ、太陽になるのは俺だ。
 オマエなンぞに、譲ってやるわけにはいかねェ。
 指を引き抜いたとき、一方通行の左目は、多少歪になっているにしろ、元の輝きを取り戻していた。

上条「……マジかよ。いよいよ何でもアリだなお前の能力」

一方通行「自分でも果てしなく意外だぜ。まさか俺の能力が『治療』なンて前向きな方向に使えるなンてよ」

 とはいえ、一方通行の左目は完治したわけではない。
 あらゆる力を作用させて、かろうじて機能を発揮できる形を保っているだけだ。
 気を抜けばすぐに左目はぐじゅりと潰れてしまうだろう。

 人間が、同時に二つの物事を考えながら進行させることは不可能。

 知ったことか。思考を切り離せ。
 同時に二つの情報を処理させろ。その程度が出来なくて、何が『最強』だ。何が『無敵』だ。

一方通行「……オーケィ、完璧。さあ再開するぜ三下ァ」


 ――彼は今、ひとつ階段を昇った。



492: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:22:26.58 ID:YTeyW4S90

一方通行「もうテメエは近づかせねェ!! 潰れて死ね三下ァ!!」

 一方通行はそこらに落ちている鉄クズを蹴り上げる。
 ベクトル操作。
 重力を無に。下に向いていた力を横に転換。
 空気摩擦――無視!!

一方通行「飛べオラァ!!」

 一方通行の足をカタパルトに、ロケットのように鉄骨が射出される。
 ひとつではない。ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ。次々と、次々と。

上条「しょっぱいぜ最強……」

 上条は思考する。いくつかは避けれる。
 だが、いくつかは間違いなく当たる。
 このままでは。『向き』を変えてやらなくては。

上条「この程度なら、御坂美琴だってやってきたんだよ!!」

 上条は右に飛び、地に伏せ、二つ目をやり過ごしたところで立ち上がり。
 三つ目の鉄骨を、右足で蹴りつけた。

上条「力の向きを操作するってのが、お前だけの特権だと思ってんじゃねえぞコラ!! 横から角度変えて打ち込んでやりゃ、向きを変えるくらい出来るんだよ」

 三本目が、勢いはそのままに、軌道を逸らし、上条の傍を通り過ぎていく。

上条「もちろん、『こんなこともあろうかと』、靴には最低限鉄板仕込んでるけどよ」

 最後の鉄骨が背後に消えて――上条は笑った。



502: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:29:38.82 ID:YTeyW4S90

 上条が駆ける。再び一方通行の懐へ。
 させない。一方通行は地面を踏みつけ、大地を爆裂させる。

 瞬間、上条は大地に右手を当てた。
 上条が触れたその一部分だけは爆発を免れる。
 それで、十分。
 それで、吹き飛ばされないように踏ん張るには十分だった。

 砂煙から飛び出し、上条は右手を振りかぶる。
 一方通行は、身構える。
 だが、一方通行のその構えは、笑ってしまうくらい隙だらけだった。

上条「そりゃあそうか。殴り合いのケンカなんてしたことねえだろ! 最強!!」

 かざされた両腕のどこにも触れず――上条の拳が一方通行の下顎を跳ね上げた。



505: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:37:57.04 ID:YTeyW4S90

一方通行「ごふっ…」

 上条当麻は手を緩めない。畳み掛ける。
 右手の『幻想殺し』以外特殊な能力を持たなかった上条は、こうして勝機を逃がさぬことで勝ってきた。

 だが――いかんせん、右手だけしか振るえないというのは勝手が悪い。
 到底いつものようには体を動かせない。
 それでも、着実に、一方通行にダメージを重ねていく。

一方通行「がァッ!!」

 一方通行は生まれて初めて惨めったらしく、恥も外聞もなく後退した。
 大地を蹴り、ベクトルを操作して自分の体を宙に持ち上げる。
 そうやって、一方通行は上条から大きく距離を取った。

上条「逃がすかよ!!」

 上条は駆ける。一方通行は思考する。

 駄目だ。並みの手じゃコイツは止まらねェ。
 演算の速度を上げろ。やれそうなことは全てやれ――!!

一方通行「おォォォォおおおおおおおお!!!!」

 一方通行の上空に、風が集まり始めた。



510: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:48:11.62 ID:YTeyW4S90

 圧縮、圧縮、圧縮―――!
 一方通行の『ベクトルコントロール』により操作され、彼の元に学園都市の風が集まる。
 集まる風を、一方通行は次々に圧縮していく。
 やがて、彼の上空には、直径20mに及ぶほどの――巨大な『高電離気体(プラズマ)』が生み出されていた。

上条「ナニソレ? 元気球? 地球の皆から元気もらってんの?」

一方通行「もらってンのは学園都市中の『風の力』だ。学園都市全体の大気の流れを演算しなきゃなンねェから、いくら俺でも出来るかはわかンなかったけどよ」

 一方通行は醜悪ともいえる笑みをその顔に浮かべた。

一方通行「あはぎゃは! ニンゲン、やろォと思えば何でも出来るモンだな!!」

上条「冗談じゃねえっつの!」

 上条は逃げる。無理だ無理無理。
 あんなものに近づけば、右手が触れる前に全身が溶ける。

一方通行「オイ! ちょっと待てェ!!」

 当然、全力で大気の流れをコントロールしている一方通行にそれを追う手立てはない。



521: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 14:56:13.39 ID:YTeyW4S90

一方通行「信っじらンねェ! あンだけでかいクチ叩いといてマジで消えやがった!!」

 一方通行は目の前に誰もいなくなった実験場で、ため息をついた。

一方通行「……マジで、この場合実験ってのァどうなっちまうンだァ?」

上条「もちろん、続行に決まってんだろ」

一方通行「…ッ!?」

 一方通行の目が驚愕に見開かれる。
 上条当麻は戻ってきた。

 一台の車に乗って。

 一方通行は、勿論その場を動けない。

上条「アクセル全ッ開!! 死ねコラァ!!」

 上条はアクセルを思いっきり踏みつけた。
 五人乗ってもなお広々としたサイズのワゴン車が、一気に加速を始める。
 上条はある程度の加速がついた段階で、運転席から飛び降りた。
 慣性の法則にしたがってワゴン車は一方通行に突っ込んでいく。

 衝突。

 ワゴン車は、一方通行の『反射』によって大きくひしゃげ。
 上空にあるプラズマの熱に焼かれ、爆発した。



536: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:06:28.67 ID:YTeyW4S90

上条「ま、死ぬわけねーよな。こんなもんで」

 しかし上条の狙いは一方通行の命ではない。
 あのプラズマを生み出すには複雑な大気の流れを演算しなければならない。
 愚かにも一方通行自身の口から語られたことだ。
 なら、あの爆風で大気の流れとやらはもう無茶苦茶だろう。
 加えて、一方通行はその体に触れた爆風もやたらめったらに反射してしまったはずだ。
 そんな風に空気をミキサーでかき混ぜられたかのようにグチャグチャにされてなおプラズマを維持することは不可能だ。

 結果は目の前に出ている。
 プラズマはもう跡形もない。

上条「あんな切り札が残ってるって分かった以上、長引かせるわけにはいかねえな」

 ワゴン車の爆発によって、まだメラメラと地面を焦がす炎の中に、上条は突っ込んだ。

上条「終わらせてやるよ! 最強!!」

 そして、一方通行の姿を煙の中で認め、上条が拳を握り締めたその瞬間――

 ぞくりと、上条の背に寒気が走った。

 何かが――何かが来る!!



542: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:15:58.19 ID:YTeyW4S90

 一方通行は炎の中で、思考していた。

 足りねェか。まだ足りねェか。

 成程、さすがは俺と同じ、LEVEL6の可能性。

 認めてやるぜ。テメエは第三位『御坂美琴』の二万倍厄介だ。

 実感が持てた。テメエを超えれば俺は無敵だ。

 テメエ以上の個体がこの世界に存在しているとは思えねェ。

 だから、勝つ。テメエを完膚なきまでに殺して、俺は『無敵』になる。

 手を伸ばすのも馬鹿らしくなっちまうくらいに眩しい、『太陽』に――!

 必要なのは何だ? 常識の枠内じゃ駄目だ。それじゃ、常識外のアイツを超えれねェ。

 こっちも常識を超えろ。演算の幅を拡幅しろ。今まで見もしなかった領域に手を伸ばせ。

 あァ――なンだ、あるじゃねェか。こンな所に、こンな力が。




 一方通行の背中から、黒い翼が吹き荒れた。




563: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:25:05.51 ID:YTeyW4S90

一方通行「づォォォおおああああああああ!!!!」

 その姿は、余りにも人間離れしていた。
 その姿は、余りにも神々しかった。
 上条は思わずにへら、と力の無い笑みを浮かべる。

上条「おいおい……お前、もう十分人間超えてるよ」

一方通行「いいやァ…まださ。まだオマエを殺せてねェ」

上条「いや…ホント、そこまでの力を見せ付けられちゃったら、呆れるわ。いや、呆れを通り越して、ムカツク」

一方通行「あァ?」

上条「お前は何でそこまでの力を持ちながら、『こんな所』にいるんだ? 太陽になりたい? いいよ、なれよ。なっちまえ。出来るよ、お前なら」

一方通行「そのセリフはそっくりそのままお返しすンぜ。オマエは何でそンな力を持ちながらこンな所でもがいてる?」

上条「あぁ?」

一方通行「見ていて本当に苛立つぜ。手を伸ばせば届くくせに、諦めて、自分には手が届かないと決め付けて、ウジウジウジウジいじけてやがる」

上条「鏡に言えよ。そんなことは」

一方通行「だから、今言ってンじゃねェか」



578: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:33:48.13 ID:YTeyW4S90

 もういいよ。認めよう。
 どうして俺たちは、互いが互いにこれ程憎たらしいのか。
 存在を許しておけないのか。
 言葉を誤魔化すな。

 そうこれはただの――同族嫌悪だ。

 鏡に映った自分の姿が醜くて、醜悪すぎて、直視していられない。


 一方通行の翼が振るわれる、圧倒的な破壊力で振るわれるソレは、あっという間に周りを更地にした。
 ごろごろと、上条は地面を転がる。
 翼自体は『幻想殺し』で逸らした。だが、衝撃を殺しきれなかった。
 上条は立ち上がる。

上条「お前は弱虫だ。クソだ。見てらんねえ。だから殺す」

一方通行「お前は惰弱だ。クズだ。目も当てられねェ。だから消す」

 それは、一体誰に向けた言葉なのか。
 一方通行の翼が蠢く。上条は拳を固く握り締める。

一方通行「世界を敵に回したこともねェくせに、ほざいてンじゃねえェェェェえええええええ!!!!」

上条「運命に弄ばれたこともないくせに、のたまってんじゃねぇぇぇぇええええええええ!!!!」



589: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:43:01.10 ID:YTeyW4S90

 振るう、振るう、一方通行は翼を振るう。
 払う、払う、上条当麻は前に出る。

 逸らしたと思った翼がブーメランのように戻ってきた。
 上条はたまらず後退する。
 上条はぎりり、と奥歯をかみ締めた。
 くそ、もっとだ。もっと思考しろ。
 アイツは正真正銘化物だ。常識の枠外だ。下手すりゃマジで『全能』だ。
 感じ取れ。いや駄目だ。予め感じるだけじゃ足りない。
 予め知れ。確信しろ。
 アイツの取りうる全ての行動を想像しろ。
 それらに対する全ての対策を創造しろ。

上条「らああああああああああああああああ!!!!」

一方通行「があァァァァァァあああああああああ!!!!」

 抜けた。
 嵐のような連撃の中を。
 届く。

 一方通行の体が後方に大きく吹き飛んだ。



601: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 15:53:04.66 ID:YTeyW4S90

一方通行「が…ごふ…!」

 限界が近い。
 元々一方通行はひどく打たれ弱い人間だ。
 既に視界はもやがかっていて、これ以上は一歩だって歩けそうにない。
 そう、精々が――立ち上がるだけで、限界だ。

上条「ふう…ふう……」

 上条も息が荒い。
 だが、それは一方通行のソレとは質が違う。
 それはただの疲れによるもの。
 そう、結局、上条はこの戦いで、一度もその身に直撃を受けていない。
 一方通行の攻撃手段、全てを想像し、対応してしまった。

一方通行「そォか…こンだけ限界超えて…まだオマエが上か……」

 一方通行は呆れたように呟く。
 あと一撃でももらえば、もう意識を保ってはいられまい。

一方通行「なァ…ひとつ聞かせろよ」

上条「なんだよ」

一方通行「神に会って、どうすンだ?」

上条「そんなもん、決まってんだろ。もし、この世に神様なんてのがいるんなら……」


上条「この右手で、殺してやるだけさ」



607: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:02:27.27 ID:YTeyW4S90

上条「お前こそ…『無敵』なんてもんになってどうすんだ?」

一方通行「ハ…それこそ、決まってンだろォが」

 この期に及んで嘘をつく必要はない。
 自分を誤魔化すのは、もうやめよう。

一方通行「敵がいなくなりゃ、あとは味方を増やすだけだろ」

 バサリ、と一方通行の翼が震えた。

一方通行「取り出した力をむやみやたらに振るうだけじゃ、オマエにはとどかねェ」

 だから、研ぎ澄ませ。
 素材を素材のままで無駄にするな。
 研いで、研いで、鋭い刀に磨き上げろ。

一方通行「いくぜ…『上条当麻』。次で最後だ。気ィ入れろよ」

上条「わかったよ…っと、お前本名なんて言うんだ?」

一方通行「『―――――』。ありふれた名前だろうが」

上条「いい名前じゃねえか。『―――――』」

 一方通行の翼の色が、その根元から反転していく。
 黒から白へ。今までよりも、なお神々しく。

 それはまさしく――『神の領域』の力。



621: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:10:04.24 ID:YTeyW4S90

一方通行「はああああああああああああ!!!!!!」

 一方通行の頭の上に、翼と同色のリングが生み出される。
 一方通行は前に歩けない。ただ、その場に立ち上がるのが限界だ。
 だが、翼は違う。生まれ変わった翼は、その威容を誇るかのごとく大きくばさ、とはためき。

 ――その先端が、地面の中に吸いこまれた。

 一方通行を中心に、大地が円形に輝く。
 円の直径は、およそ100m。当然、上条当麻はその円の中にいる。
 月明かりと、輝く大地に照らされて、世界が真っ白に輝く。

 上条は、一方通行が何をしようとしているのかを知った。

上条「うおらぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 上条は一方通行目掛けて駆け出し――跳ぶ。


 直後に、光の円から無数の光弾が、隙間なく射出された。



640: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:22:40.59 ID:YTeyW4S90

 上条は空中で頭を下に、体を垂直に安定させた。
 腹筋、背筋、その他数多の筋肉の総動員。ぶちぶちと、どこかで嫌な音がなった。
 構うものか。
 上条は自分に言い聞かせる。 
 もっともっと真っ直ぐだ。じゃなきゃ死ぬぞオイ。

上条「くぅ!!」

 その姿勢のまま、上条は真下から垂直に撃ち出された光弾に右手をかざした。
 だが、そんなものが何になる?
 打ち消せるのは精々右手の面積分。頭への即死弾を防ぐのが精一杯。

 肩を、左手を、腹を、体を縦になぞる様に、くり貫かれた。

上条「ぐああああああああああ!!!!」

 だが、守った! 死んでいない!
 脳みそも、心臓も、貫かれてはいない!!

一方通行「だろうと思ったよ!! だから!!」

 真上に打ち上げられた光弾が、直後に向きを変え、今度は真下に撃ち出される。
 まさしく、持ち主の手元に帰るブーメランのごとく。

上条「そうくることはわかってたんだよぉ!!!!」

 上条は一方通行目掛けて降下しながら――吼えた。



650: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:29:12.62 ID:YTeyW4S90

 上条は一方通行の目の前に着地し、一方通行を引き倒す。
 一方通行の体を、傘にする。

一方通行「ハァ?」

 当然、光弾は一方通行の体を貫かない。
 しかし、とはいっても。
 そんな姿勢で密着すれば。
 一方通行の手が、血流を操作し、人間を即死させる手が、上条当麻の体にべったりとくっついていた。

 もっともそれは、上条の右手も届く距離、ということになるが。

一方通行「……ッ!!」

上条「……ッ!!」

 何かの破壊される音が二つ、連続で響き。


 『絶対能力進化実験』はここに終結した。



659: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:34:44.59 ID:YTeyW4S90

 ―エピローグ―

 一方通行が目を覚ましたのは、病院だった。

冥土帰し「お? 目を覚ましたかい?」

 ベッドに横たわる一方通行の顔を、かえるによく似た顔の医者が嬉しそうに覗き込んでいた。

一方通行「ここは……どこだ?」

冥土帰し「病院だよ。そして僕は、医者だ」

一方通行「そうか……」

 一方通行は思い出す。最後の刹那、何が起きたのか。
 一方通行は理解する。


一方通行「俺は……負けたのか」


 そう、実験は、上条当麻の勝利で幕を閉じたのだ。



670: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:41:28.69 ID:YTeyW4S90

 最後のあの瞬間。
 一方通行は上条に触れた手のひらから血流を操作し、血管を破裂させようと試みた。

 上条は、一方通行がそうすることを、それに意識を引き摺られることを知っていた。

 だからあの局面、上条は冷静にまずは一方通行の腕を振り払ってから、あらためて顔面を殴りつけたのだった。

一方通行「敵わねェな……化け物め」

冥土帰し「上条当麻のことを言ってるのかい? 馬鹿を言っちゃいけない。僕はあれ程人間らしい人間はしらないよ」

一方通行「ハン……そンで、アイツはどこに消えたンだ? 俺よりよっぽど重傷だっただろうがよ」

冥土帰し「本当に、ついさっきまで君の隣で寝てたんだけどね。意識を取り戻したと思ったら、すぐに飛び出していったよ」

一方通行「オイオイ……それでも人間かよ、アイツ」

冥土帰し「まあ、しょうがないといえばしょうがないかもしれないね。この病院に、彼はいい思い出を持っていないから」



674: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:47:22.16 ID:YTeyW4S90

冥土帰し「ところで一方通行くん、君の傷はそう大したことはなかったから、そろそろ立てると思うんだけど、どうだい?」

一方通行「ン…多少ふらつくが、まァいけるな」

冥土帰し「では、少しついてきて欲しい。そう歩かせはしないから、安心して着いてきたまえ」

一方通行「……?」

 一方通行は怪訝に思いながらも、取り合えず医者の後をついていく。
 程なくして、ひとつの病室にたどり着いた。
 その病室の中では、上条当麻が闇に堕ちる引き金となった少女が眠っている。

一方通行「誰だコレ」

冥土帰し「僕が受け持っている中で一番厄介な患者でね。名をインデックス、という」

 それは、かつて彼が救えなかった少女の名前。
 救うどころか、殺してしまった少女の名前だった。



687: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 16:54:45.29 ID:YTeyW4S90

一方通行「えれえゴテゴテしたモンくっつけてンな。生きてンのかよ?」

冥土帰し「生きているよ。少なくとも、体はね」

冥土帰し「僕個人宛に支払われてくる『ある援助』によってアレコレ意識を取り戻す方策を試しているんだけどね、中々うまくいかない」

一方通行「ふーン」

冥土帰し「悔しいよ、僕は悔しい。だって、彼女を目覚めさせる理論は頭の中にあるのに、それを可能にする『道具』がないんだ。いいかい、一方通行」

 医者はいつのまにか呼び捨てになっていた。
 図々しい野郎だ、と一方通行は舌打ちする。

一方通行「なンだよ」

冥土帰し「彼女の脳に『理想的な方向』で、『理想的な強さ』の刺激を与えれば、彼女は目を覚ますはずなんだ」

一方通行「……オイ」

冥土帰し「そうやって悩んでいたところに君の入院だ。僕は嬉しかったね。小躍りして喜んだよ」

冥土帰し「これで、僕の患者を『二人』救ってやれるとね」



695: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:02:39.38 ID:YTeyW4S90

一方通行「なンで俺がそンな慈善事業しなきゃなンねェンだよ」

冥土帰し「言ってしまうと、この子は上条当麻ゆかりのものだ」

一方通行「なに?」

冥土帰し「君は上条当麻に勝てなかった。君は確かに神に近づくほどの力を得たのかもしれないが、敵は一人、残ってしまった」

一方通行「……オマエ、何モンだ?」

冥土帰し「僕は医者だよ。患者に必要なものは、どんな手を使っても用意する。そんな医者だ」

冥土帰し「人生の先輩として、僕は君にひとつアドバイスをしておこう」

一方通行「……」

冥土帰し「敵を無くすには、何も勝負して勝たなきゃいけないってことはないんだよ」

一方通行「ハッ」

 冥土帰しの医者の言葉に、一方通行は笑った。

一方通行「オンナノコ一人助けるだけで無敵確定か。達成感の欠片もありゃしねェ。逆に泣けるね」

 いいさ。もう自分に嘘をつくのはやめだ。
 この俺が誰かを救うなど、笑いたければ笑えばいい。
 俺は俺のやりたいようにこれからは生きさせてもらう。

 その為の力は、もうこの手にあるのだから。



708: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:10:40.69 ID:YTeyW4S90

 病院の一室でそんな会話が行われていることなど露ほども知らず。
 上条当麻は病院の入り口を抜けたところで御坂美琴と対峙していた。

上条「よう。元気か?」

美琴「馴れ馴れしく声かけてこないでよ、殺すわよ」

上条「おっかねえな。そんなん言うなら俺の進行方向に立ち塞がってんじゃないよ」

美琴「実験は……どうなったの?」

上条「おう、実験は無事成功。これにて円満終了だ。よかったな、悩みがひとつ解決したじゃねえか」

美琴「アンタは……神に会えたの?」

 思わず口にしてしまった美琴の問いに、上条はにへら、と笑う。

上条「おう、見た見た。真っ白な翼広げてな、ちょっとかっこよかったぜ」



715: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:16:44.53 ID:YTeyW4S90

美琴「ひとつだけ……」

上条「ん?」

美琴「私は、アンタに借りを作るなんて、我慢ならない。だから、ひとつだけアンタの言うことを聞いてあげる」

上条「マジでか。何でもいいの?」

美琴「何でもいいわよ、今さら何言ってんの」

上条「じゃあ、もう二度と俺を狙わないってことで」

美琴「それは却下よ」

上条「うそーん。まあいいや。そうだろうと思ってたし。だったら、うん」

 上条は――いつものものとは違う、何だかスッキリしたような笑みを顔に浮かべて、言った。


上条「その顔を治せ。冥土帰しに頼んで、傷ひとつなくな」



734: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:27:11.06 ID:YTeyW4S90

美琴「な…!」

上条「出来ればそれで俺のこともキレイさっぱり忘れて――ってのは虫が良すぎるから、言わねえよ」

上条「お前はこれからいつでも俺を殺しに来い。お前に顔を治させるのは、単に俺の精神衛生上の問題だ」

上条「俺は自力でお前から必死で逃げるよ。お前が追いかけるのが馬鹿らしくなるまで逃げ切ってみせる」

 そう。逃げる。
 悪意を振りまいて威嚇せずとも、生きていけるだけの力は得たから。

美琴「勝手すぎるでしょ!! 何の責任も取らないで!!」

上条「なんだよ、責任とって欲しいのか?」

美琴「な…! そんなわけないでしょ!! 死ね!! どっかですぐに野垂れ死ね!!」

上条「おう、そうする。じゃあな美琴。もう二度と会うことはないだろうけど」

美琴「……ッ!! 気安く名前呼んでんじゃないわよゴラァァァアアアア!!!!」



743: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:35:03.97 ID:YTeyW4S90

 数日後――。

 一方通行はとある少女と道端で出会う。

「私を保護して欲しいのってミサカはミサカは助けを求めてみたり!」


 数日後――。

 上条当麻は、一人の少女に出会う。

■■「ハンバーガーを食べ過ぎて。うぷ。気持ち悪い」


 数日後――。

 とある病院で、一人の少女が目を覚ます。

「とうまは……どこ?」



 こうして彼らは、正しい歴史の中に還っていく。



758: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:41:06.79 ID:YTeyW4S90


 
 とはいえ、これ程までに運命を歪められた彼らが。
 これから先、正しき歴史とやらの中で、誰かに描かれたシナリオどおりに踊ってみせるものだろうか。


 ――まあいい。
 語り部はこれ以上でしゃばるまい。


 これから先は、諸君らのご想像にお任せするとしよう。


          < 完 >



784: ◆QKyDtVSKJoDf 2010/11/03(水) 17:46:03.77 ID:YTeyW4S90

おしまーい 長かったー

製作速報に行こうかぎりぎりまで迷ってたけどこの一話で終わりだしいいやvipでって感じでこっちでやりました

パートスレうぜえってなった人はごめんちゃい

厨二的な言い回しってなんかくせになる 書いてて楽しかった


あ ミサカの存在を今思い出した

ミサカはとっても元気です



762: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:42:07.50 ID:r/JgXHKx0

乙っ……!!



765: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:42:10.75 ID:BlkKNFEK0

インデックスさんが助かって良かったよ



774: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/11/03(水) 17:43:30.68 ID:HIkXCeV20

乙でした!
熱かった



元スレ
上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1288691239/