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SS速報VIP:高森藍子「マーキング」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483199905/



1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 00:58:25.78 ID:KRFu3uzn0

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり

※人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※決して変態的なプレイをする話では無く、健全な純愛物を目指してます

※独自設定とかもあります

※プロデューサーは複数人いる設定

以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483199905




2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 00:59:26.74 ID:KRFu3uzn0
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:00:16.11 ID:KRFu3uzn0

自分で言うのもなんですが……今を時めくトップアイドルの一人、高森藍子……私には、好きな人がいます。


昔から支えてくれたファンのみんなには言えないけど……ずっと前から、その人の事が好きでした。


みんなのアイドルとして、特定の一人を好きになる事は間違っている……と言われれば、その通りなんですが……それでも、好きなんです。


それは……私の担当プロデューサーのHさん……。ちょっと抜けた所があって、たまに意地悪な事もあるけれど……私の、大切な人。


私を……何でもないただの普通の少女、高森藍子をアイドルとして見い出してくれた人です。






4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:00:44.79 ID:KRFu3uzn0

でも……あの人と私の繋がりは元々……アイドルとそのプロデューサーという関係ではありませんでした。


あの人にスカウトされる前から、私達は知り合いで……それが発展して、そういう関係になった……という事なんです。


そんな私達の出会いは……私がよく散歩に訪れる公園での事でした。


その日、学校が休みだった私はお気に入りの服を着て、トイカメラを片手に公園内を気の向くままにふらふらと歩いていました。


野に咲く花や、道端でお昼寝している猫さんを写真に収めたりして……そうして園内をくまなく歩いていると……敷地内にある池のほとりで、倒れ込む様にベンチの上で寝そべっている人がいたんです。


それがあの人……Hさんでした。






5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:01:29.85 ID:KRFu3uzn0

私は最初にそれを見た時……『何かあったのかもしれない』と、思って慌てて声を掛けたんです。


『あ、あの、大丈夫ですか?』


でも、あなたはただ昼寝をしていただけで……私の声に反応して目を覚ますと、寝ぼけた顔をして……


『……どちら様?』


って、言ったんです。ふふっ、私は今でも……あの時の事を良く覚えているんですよ。


勘違いした事に気付いて……とても恥ずかしくて……その思いは今でも、この胸の中に残っています。






6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:02:23.44 ID:KRFu3uzn0

その後で話を聞いてみると、仕事で出歩いていたHさんはどうやら日頃の疲れが溜まっていた様で……休憩を取ろうと立ち寄ったこの公園のベンチに座ったらつい眠くなって……気が付いたら寝ていたみたい。


そしてその時に初めて……あの人がアイドルのプロデューサーをしていると聞いたんです。


……と言っても、この頃のHさんはまだ担当するアイドルもいない……見習いの様なものだと、愚痴ってはいましたけどね。


それで話していく内に何となく馬が合うのか、会話が弾んでしまって……ちょっとだけのつもりが、うっかり夕方まで話し込んでしまったんです。


休みだった私は良かったけど、仕事中だったHさんはそうもいかなくて……『先輩に怒られる!!』と、言ってその場から慌てて走り去っていきました。






8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:03:01.89 ID:KRFu3uzn0

悪い事をしたかな……とは思いましたが、謝ろうにも連絡先を知らない私にはどうする事もできなくて……罪悪感を胸に溜め込んだまま、この日は家に帰ったんです。


偶然会っただけの関係でしたから、もう会う事は無い……普通ならそれで終わりなんですが、私達の場合は違いました。


後日、学校帰りに私がその公園に立ち寄ると……そこでまた、ベンチで休憩しているHさんと出会ったんです。


この時ばかりは私も少しは運命を感じていたかもしれません。もし、まゆちゃんだったら……絶対に感じているでしょうね。






9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:03:39.16 ID:KRFu3uzn0

そして私がこの間の事で謝って……それからまたお話をして……前回の事もあったから、ほんの少し話をした所で彼と別れました。


でも、ここから私とあの人との関係が始まったんです。ただの高校生だった私と、見習いだったあの人との関係が。


それから私達は特に連絡を取り合った訳ではありませんでしたが……学校帰りや休みの時間を利用して、公園で会う様になりました。


彼の仕事の話を聞いたり、私が学校で起きた事を話したり、時には二人で並んで公園を散歩して……そんな友人みたいな付き合いを続けていき……Hさんと会う事が、私の中で楽しみになってきました。






10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:04:10.81 ID:KRFu3uzn0

そしてそんな関係が続いたある日……私はHさんから唐突に、こう誘われたんです。


『アイドルになってみないか?』って。何でもない気軽な感じで、彼は言ってきました。


でも、私は彼と同じ様に『はい、任せて下さい』なんて、気軽に返答はできませんでした。


今までHさんから何度かその業界の話を聞いてきた私からすれば、そんな世界に足を踏み入れるのは無謀とも思えたんです。






11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:04:39.60 ID:KRFu3uzn0

もちろん、誘われたのは嬉しかったです。アイドルに対して憧れが無かった訳ではありませんから。


だけど……私みたいな普通の女の子が、厳しいアイドルの世界で生き残れるのか……って。


話で聞く分には良かったけど、実際に私がアイドルになるのは不安で一杯でした。


だから私は……彼に条件を出したんです。






12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/01(日) 01:05:13.63 ID:KRFu3uzn0

『私がどういう結果に終わろうと……あなたが最後まで支えてくれるなら、いいですよ』という感じに。


そうしたら彼は『もちろんだとも』と言って、私の手を強く握り締めて答えてくれました。


そういった経緯を経て、この時から……私は普通の女の子の高森藍子から、アイドルの高森藍子にへと変わったんです。


そして私とHさんとの関係も……友人からアイドルとその担当にへと変化しました。






17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/03(火) 01:27:01.77 ID:Xp5nL7vj0

そうしてアイドルになった私でしたが……最初から順風満帆にはいきません。私を待ち受けていたのは厳しい下積みの様な毎日でした。


来る日も来る日もトレーナーさんの指導の下、練習に励んだり……時には顔を売る為に地方の営業や先輩アイドルさんの補助として駆け回った事もありました。


辛くなかった……と言えば嘘になるけど……それでも、辛いだけでは無かったです。


アイドルになって普段できない様な色んな経験を積ませて貰って……私も今まで以上に成長できました。


それに未央ちゃんや茜ちゃん……その他にも、大勢のお友達も増えました。今ではかけがえのない素敵な仲間達です。






18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/03(火) 01:28:00.37 ID:Xp5nL7vj0

そして何より……Hさんと築き上げてきた思い出が……私の中で、一番の宝物です。


その思い出の一つ一つ……思い返そうと思えば、全て脳裏に蘇ってきます。絶対に消えない……消す事のできない大切な記憶です。


だから、ちゃんと……その思い出達は写真に収めて、全てアルバムで保存してあります。いつでも思い返せる様に……大事に保管してあるんですよ。


でも……これまで沢山の写真を撮ってきたから……1冊や2冊程度では足りません。収まらなくなくなってきました。


今は13冊目に入ってますが……これからも増えていきそうだから、そろそろ次の冊子を用意しないといけませんね。ふふっ。



22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 05:37:30.98 ID:1PBm2E1a0

そうしてあなたの姿を見てきたから……私、あなたの事なら何でも知っているんですよ?


好きな食べ物とかはもちろんの事、趣味や癖……ちょっとした仕草なんかもつぶさに把握してます。


それとかあの目は何を見ているのか、あの手は何を取ろうとしているのか、あの顔は何を考えているのかも、一目見れば分かっちゃいます。


それこそ知らない事の方が少ないんじゃないでしょうか。これに関してはちょっとは自身があるんです。






23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 05:38:46.47 ID:1PBm2E1a0

だって、私……あなたの事が大好きなんですから。


好きな人の事を知りたいというのは当然の気持ちだと思いませんか?


ずっと……あなただけを見つめてきましたから。だからね……Hさん。私……知っているんですよ?


あなたが今、ある事をした事の後ろめたさに怯えているのだという事を。


あなたが私に隠れて、こそこそとある事をしているのだという事も。


全部、全部、お見通しなんですよ?





24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/04(水) 05:39:15.82 ID:1PBm2E1a0

ふふっ、でも……もう心配しなくてもいいですから。


これからはあなたが怯える必要はありません。隠れてしなくても大丈夫です。


それらの障害は全部……私が片付けてあげます。


あぁ、待っていて下さいね、Hさん。


今からあなたを……私が解放して、助けてあげますからね。


ふふっ、ははっ、あはははっ……。






28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:23:02.12 ID:ChWG+AeO0

日曜日の昼下がり。特に用事や仕事も無ければ、普通はゆっくりと休養を取っているはずのこの時間帯。


「ふぁ……ねむっ……」


繁華街の外れにある年季を感じるアパートに住むこの男もその例に漏れず、一度は起きてはいたもののやる事が無く、再び惰眠を貪ろうと布団の中に潜り込んでいる所だった。


そこへ……ピンポーンと来客が来た事を知らせるチャイムが室内に響き渡る。


「ん……? 誰だろう……」


部屋の主たるこの男……CGプロ所属のプロデューサーのHは気怠そうに立ち上がると、来客が待つ玄関に向けてのそのそと足を運ぶ。





29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:24:44.14 ID:ChWG+AeO0

朝方に起きてから一度も整えていない髪は寝癖のついたままになっており、服装はシャツ、トランクスと上下とも下着のままであるが、Hはそれを直そうとは思わなかった。


これがもし、仕事先の担当者や会社の上司、先輩が待ち受けているのであればそうする所だが、この時間帯にやってくる相手といえば大方限られている。


宅配業者か保険業者か……はたまた大家が何か言いに来たぐらいとしか思わなかったHは特に何も考えずに玄関の扉の鍵を開け、来客を出迎える。


「はーい……どちら様……って、えっ?」


そして扉の先で待っていた来客を目にし、Hは驚きの声を挙げ、目を丸くした。


そこにいたは来るとは思わない……意外な人物であった。





30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:25:39.69 ID:ChWG+AeO0

「こんにちは、プロデューサーさん」


高森藍子。CGプロの中にいる他の同系統の娘に比べ、落ち着いていてゆったりとした雰囲気を持つ、Hが担当するアイドル。


その彼女が近所にあるスーパーのビニール袋に入った多めの荷物を両手で持ち、にっこりと笑顔を浮かべて待ち構えていたのだった。


「あ、藍子……? 何で藍子がここに……?」


「えへへ……来ちゃいました」


Hの疑問の声に藍子はまるで彼氏に物言う様にそう言った。






31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:26:08.14 ID:ChWG+AeO0

「来ちゃいました……って、そうじゃなくて……何で藍子が俺の家に来たのかを聞いているんだが」


まだ整理のつかない頭で必死に考えを巡らせながら、Hは再び藍子に聞き返す。


「えっと、それはですね……プロデューサーさんここ最近は忙しくて疲れ気味みたいだから……何か栄養のあるものでも作ってあげようかな……って思ったんです」


そう言って藍子は両手に持つビニール袋を掲げてHに見せる。


Hがその中を覗いてみると、確かに買ってきたと思われる食料品の数々がぎっしりと押し詰められていた。






32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:26:43.64 ID:ChWG+AeO0

「いつもコンビニ弁当ばかりで、まともな食事も取れていないだろうからそう考えたんですけど……もしかして迷惑、でした?」


少ししゅんとした表情をして、藍子はHを見つめそう言った。


自分の良く知った……ましてや美少女の部類に入る藍子にそう言われれば、Hとしても断れない。


寧ろ、断る理由が無かった。






33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:27:57.87 ID:ChWG+AeO0

「いや、そんな事ないよ。そうして考えて来てくれて、嬉しく思ってる」


Hはそう言って、彼女の提案をすんなりと受け入れたのであった。


「本当ですか! ありがとうございます!」


藍子は受け入れられた事が嬉しいのか、その影響で声が少し大きくなり、その喜びの気持ちを露わにする。


ファンを魅了する顔では無く、無垢な少女の顔を見せられ……Hは心が和むのを感じ、薄くであるが笑みを浮かばせる。





34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:29:18.50 ID:ChWG+AeO0

だが、質問はそれで終わりでは無い。まだHが藍子に対する疑問はもう一つ残っていた。


「あと、ちなみにだが……俺の家の場所……何で藍子が知っているんだ?」


Hは藍子に一度として、自宅の場所を話した事は無かった。


それなのに目の前の彼女はHに聞く事無く、無事に目的地に辿り着いている。


これには疑問が浮かばずにはいられないだろう。





35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:29:46.99 ID:ChWG+AeO0

「実は……ちひろさんに教えて貰ったんです」


しかし、藍子はさも当たり前かの如く、そう言って退けたのだった。


「ち、ちひろさんが……?」


Hの脳裏に浮かぶのは、一度見たら忘れる事の無い、緑の蛍光色の服を着る事務員。


入社したての頃のHにスタドリやら色々と勧め、暴利を貪った悪魔、千川ちひろの姿である。






36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:31:00.21 ID:ChWG+AeO0

「またあの人は……」


個人情報を何だと思っているんだ……と、Hは頭を抱える。


「まぁ、とりあえず上がってくれ。いつまでも立ち話もなんだしな」


「えぇ、そうですね。それではお言葉に甘えて……」


藍子が足を一歩踏み出し、部屋の中に入ろうとした……が、二歩目を踏み出した所で、藍子は歩みを止める。






37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:31:57.92 ID:ChWG+AeO0

「ん? どうした?」


「えっと……その……」


何か言いたそうだが、妙に歯切れの悪い藍子を見て、Hはどうかしたのかと疑問が浮かぶ。


「あの……そろそろ目のやり場に困るので……何か着て貰えると助かるんですけど……」


そして藍子の発した言葉を聞き、Hは自分が下着姿のままだった事をハッと思い出した。


「す、すまん、藍子! 直ぐに着替えてくる!」


指摘を受け、Hは急いで部屋の中に戻り、洗濯物の中から着替えを探し始める。






38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/05(木) 20:32:43.87 ID:ChWG+AeO0

慌ただしいHの様子を遠目で見つつ……藍子は中に入ると床に荷物を置いて扉を閉め、掛けうる限りの鍵を全て掛ける。


その上念入りにチェーンロックまで掛けて、外部からの侵入を完全にシャットアウトした。


この行動は外からの侵入を防ぐと同時に、内部にいる者が外に逃げる際の妨げとして効果するだろう。


そしてそれが指し示す答えは……内部の人間が外に逃げ出すかもしれない、というのを予期してのものであった。


部屋の主たるHは藍子のその行動に気づかず、いそいそと藍子が入ってくる前に着替えを済ませようと必死にもがいているのだった。






48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:06:17.07 ID:MQCs+vRn0

「それにしてもすまないな、藍子」


「えっ? 何がですか?」


藍子の作った食事を食べ終え、一息吐いたHは空いた食器を片付けるエプロン姿の藍子に向けてそう言った。


「いや、忙しいのは藍子も同じなのに……こうして飯を作って貰ってな。少し悪い気がしてな」


「ふふっ、そんな事無いですよ。私がしたくてしているんですから」


食器を纏めて終え、それを流し場まで運ぶと、藍子は手慣れた手つきで食器を洗い出す。






49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:07:24.03 ID:MQCs+vRn0

「プロデューサーさんにはいつもお世話になってますから……こうして少しはご恩を返しておきたくて……」


「ご恩って……それは俺の台詞だよ。俺もいつも藍子に助けられてるからな」


Hの言う事は事実である。H単体の経験も薄い未熟な腕では、藍子をトップアイドルまで導く事は難しい話だった。


だが、藍子にアイドルとしての才能があったか、もしくは二人で頑張ってきたからこそ、ここまで上り詰める事が出来たのだ。






50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:07:53.79 ID:MQCs+vRn0

「今もこうして飯を作りに来てくれて……本当、助かってる」


時勢や運もあるだろうが、それでも藍子がいなければこの結果は無かった。


だからこそ、Hは感謝しているのだ。


「うふふ。私にはもったいない言葉です」


食器を全て洗い終わり、手を拭いて藍子はエプロンを外す。






51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:08:23.61 ID:MQCs+vRn0

「それじゃあ……次は掃除もしちゃいますね」


そして次の作業に取り掛かろうと、Hに向けてそう告げる。


「えっ!?」


「……? どうかしましたか?」


何故だか驚きの声を上げるHに対し、不思議そうに藍子は問い掛ける。





52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:08:58.24 ID:MQCs+vRn0

「いや、その、何だ……そこまでして貰うのはちょっと……気が引けるというか……」


「もう。そんな事、気にしなくても大丈夫ですよ」


視線を逸らし、急に態度がたどたどしくなったHに、藍子は優しく諭す様にそう言った。


「ここは私に任せて下さい。ねっ?」


そして笑顔を見せて安心させようとする藍子だが、Hは浮かない表情のまま。納得する様子は無かった。






53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:09:52.84 ID:MQCs+vRn0

「で、でもだな……」


「いいから、ほら。プロデューサーさんはお風呂にでも入ってきて下さい。さっき入れておきましたから」


そう言うと、藍子は洗濯物の山から見つけたと思われるバスタオルと下着一式を持ち出し、Hに渡した。


「心配しなくても大丈夫ですよ。私が隅々まで綺麗にしておきますから」






54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:10:40.20 ID:MQCs+vRn0

「そ、それなら……お願いする……かな」


結局は藍子の熱意に負け、一抹の不安は残るが、Hは藍子の申し出を了承したのだ。


「はい! 任せて下さい!」


そう言って満面の笑みを浮かべる藍子。その表情のまま洗面所に入っていくHを見送った。






55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/06(金) 05:11:23.52 ID:MQCs+vRn0

「……さて。プロデューサーさんがお風呂に入っている間……部屋の中を綺麗に『お掃除』しておかなきゃ」



そしてHが風呂場に入った音がしたのを確認した後、藍子は室内の『不要物』を『片付ける』為に動き出すのであった。






59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:33:29.12 ID:E1XVd7FB0

その日の汚れ……いや、前日からの体の汚れを全て洗い落とした後、Hは古くて狭い浴槽にゆっくりと浸かる。


そして落ち着いた所で『はぁ……』と、深くため息を吐いた。


「何か……今日の藍子はやけに積極的だな……」


これまで出会ってきてから藍子の事を見続けてきたHだが、今日ほど積極に動く藍子は初めて見る。






60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:35:27.27 ID:E1XVd7FB0

とにかく何にしても押しが強い。あのゆるふわとした少女の藍子がだ。


こんな姿は珍しいなんてものじゃない。通り越して少しおかしいぐらいだ。


「それよりも……問題は別だな」


誰に言う訳でも無く、Hはそう独り言を呟く。






61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:35:58.68 ID:E1XVd7FB0

Hには藍子よりも気に掛ける事があった。


「まさか掃除まで買って出るなんて……」


食事を作るという目的が済んだら帰るのかと思っていた。


それか居残ったとしても雑談して帰るぐらいに思っていた。





62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:36:29.33 ID:E1XVd7FB0

それがまさか掃除までするだなんて言うとは、Hはそこまで考えていなかった。


そんな事もあって、先程の藍子の発言に動揺してしまったのだ。


寝起きの様な働いていない頭で物事を考えた愚かしさをHは悔いた。


「しかし……何事も無ければいいが……」





63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:36:59.92 ID:E1XVd7FB0

Hも男であるが故、見つかって欲しくないものは室内に多々存在する。


それが藍子に露見されては、今後の信頼関係に係わる問題となってくる。


だからこそ、藍子が室内を掃除するのを止めておきたかったが、押し通された今となってはどうしようも無かった。


「……まぁ、でも……大丈夫か」


不安のあまりあれこれと考えていたHだが、どういう心境の変化か悲観的だったのが急に一転し、楽観的に捉え始める。






64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:37:27.07 ID:E1XVd7FB0

実はこの前々日にHは大体ではあるが掃除をしていたのだ。


その時にゴミは粗方捨て去り、汚れも大部分は落としてある。


それに物の片付けは殆ど済ませてあるので、無造作に床に転がっている物は一つも無いはずだ。


何よりも今日初めて来た藍子に、どこに何があるのかは分からないだろう。


地の利が無い藍子に対し、主たるHには地の利がある。






65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/07(土) 05:38:16.15 ID:E1XVd7FB0

長年住み慣れた部屋だからこそ、住人でしか知りえない隠し場所も存在する。


そして……本当に見つかって欲しく無いものは、ここには無かった。


だから、見つかりっこない……Hは既にそう確信していた。


「……とりあえず、早く風呂から上がろう。大丈夫とはいえ、あまり長い時間藍子を一人にしておくのはこっちの精神的に良くないからな」


そしてHは立ち上がると足を上げて浴槽から出て、風呂場からも出ていく。






68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:21:23.21 ID:IyufrTFG0

洗面所に戻ると長い事敷いたままになっているバスマットの上に立ち、藍子から受け取ったバスタオルを使って濡れた体を拭き上げる。


普段なら無精な事もあって髪は乾かす事は無いが、藍子がいる手前そうする訳にはいかず、指摘されない様にとしっかり乾かした後、部屋にへと戻っていった。


「あっ、プロデューサーさん。湯加減どうでしたか?」


部屋に戻ると、藍子は笑顔を見せてHにそう尋ねた。






69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:22:37.67 ID:IyufrTFG0

丁度机の上を拭いている所なのか、その手にはHの家では普段あまり使われる事の無い、小さめのタオルを手にしている。


「あぁ、良い湯加減だったよ。ありがとう」


そう言ってお礼を言った後、Hは目だけを動かして室内の幾つかのポイントを確認していく。


その視線を向けた先が隠し場所なのであるが、見た所漁られた形跡は見当たらない。


その事にHは心の中でホッと安堵する。まずは助かったと言うべきか。






70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:23:12.28 ID:IyufrTFG0

安心したHは藍子が掃除している机の傍まで歩み寄ると、ゆっくりと床に腰を下ろして座り込む。


「もうちょっとで終わりますから、少し待ってて下さいね」


「あぁ。本当にすまないな、藍子」


「だから気にしないでいいですよ。私がやりたくてやっている事ですから」


そして机を拭き終わると、藍子はタオルを持って台所に向かい、水道の蛇口を開いて汚れたタオルを洗い流していく。






71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:23:40.11 ID:IyufrTFG0

その様子を見た後、Hは充電中だった携帯を手に取り、藍子が拭いたテーブルの上で操作してメールや電話が着ていないかを確認していった。


「それにしてもプロデューサーさん……割と綺麗にしているんですね。部屋の中」


そうしている内にタオルを洗い終えたのか、藍子がそう言いながら戻ってくる。


「ん? そうか?」


「はい。男の人の部屋だから……もっと、散らかってると思ってました。少し意外です」






72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:24:09.37 ID:IyufrTFG0

「……まぁ、週一で掃除しているからな」


それ以外の事に関しては無精なHだったが、こればかりは積極的に取り組んでいるのだ。


それは、そう……『アレ』を放置し過ぎた結果、物の配置を忘れ、場所が変わってしまうのを恐れての事だった。


「最初は面倒かもしれないけど、習慣化してしまえばこんなもんだよ」


「うふふっ、流石ですね。プロデューサーさんならきっと……良い旦那様になれるでしょうね」


ある程度掃除が終わった為か、藍子はHの直ぐ横に立つと、隣にそっと腰を落ち着けた。






73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:24:36.52 ID:IyufrTFG0

「そんな事は無いさ。俺はそれ以外の事は物臭だし……それに、家庭を持つだなんて……今は考えられないな」


Hは現状の仕事の多忙さ……そして、藍子の担当を務めている内は、難しいだろうと踏んでいた。


それにそうなる相手もおらず……そんな事を真剣に考えるのは、もっと数年先の事だろうと思っていた。


「俺の事よりも……藍子の方が良い嫁さんになれるだろうな。飯も美味くて、家事もできて……将来の旦那が羨ましいよ」


「も、もう……何言ってるんですか、プロデューサーさん!」






74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:25:03.83 ID:IyufrTFG0

Hの言葉に反応して、藍子は顔を少し赤くさせてそう返した。


そして言った後に顔を見られたく無いのか、Hとは反対方向に顔を向けてしまう。


冗談で言った訳ではなく、本心からの言葉だったが……藍子のその反応を見て、Hの顔に少しばかり笑みがこぼれる。


「……って、私の将…………様は…………ですから」


それ故に油断していたからか、藍子がポツリと呟いたのをHは聞き逃してしまった。





75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:25:29.09 ID:IyufrTFG0

「えっ? 何か言ったか、藍子」


「いえ、何でもないです」


藍子は再びHに顔を向けると、笑顔でそう返す。


その表情には先程まであった赤さは消え去っていて、元に戻っていた。






76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/08(日) 18:25:58.77 ID:IyufrTFG0

「ちょっと独り言が口に出ただけですから」


「あぁ、そうだったのか」


そう聞いて特に重要な事では無い事が分かったHは、藍子の言い分に納得する。


そしてそれ以上藍子に追及する事無く、話を流してしまうのであった。






77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:25:04.74 ID:Jkm6eUFf0

「それよりもプロデューサーさん」


それで話は終わり……かとHが思っていると、藍子が話題を変える様にそう切り出してきた。


「ん? どうかしたのか?」


「実はその……プロデューサーさんに見て貰いたいものがあるんです」


「見て貰いたいもの……?」


「はい。えっとですね……」


藍子は自分の荷物が入った小さめのポーチを手に取ると、そこから無地の茶封筒を取り出す。






78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:25:38.38 ID:Jkm6eUFf0

「これです。どうぞ」


そしてそれをHに向けて差し出し、渡したのだ。


Hがそれを受け取ると、その中には厚めの何かが入っている事が、手で感じ取れた。


「えっと……これは?」


渡されたものの、何が入っているのか分からないHは藍子にそう尋ねる。






79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:26:10.41 ID:Jkm6eUFf0

「うふふっ。それは……開けてみての、お楽しみです♪」


「お楽しみ、ねぇ……」


そう言われてHは特に警戒する事無く、封筒の中から中身を取り出す。


そして中から出てきたのは、数十枚にも及ぶ量の写真の束だった。


「これは……あの時の写真か」


「はい。この間の……アインフェリアの時の写真です」


写真の一番上には、普段とは違う佇まいの……軍服の様な姿の藍子が写っている。


いつもの愛らしい彼女の姿では無く、凛々しい彼女の姿はとても魅力的だった。






80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:26:42.65 ID:Jkm6eUFf0

この写真は他ならぬH自身が藍子のカメラを使って撮ったものなので、良く覚えていた。


「昨日、現像したので……今日、見て貰おうと持って来たんです」


写真を一枚、一枚と捲っていくと、その時のシーンが鮮明に蘇ってくる。


藍子だけでは無く、ユニットの他のアイドルの姿も収めた写真を見て、Hは懐かしく感じた。


「そんな昔の事でも無いのに……こう見ていると、懐かしくなるな」






81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:27:10.14 ID:Jkm6eUFf0

そしてある写真の所で、Hは捲っていた手を止める。


それは草原で咲いていた花畑の中心で藍子と自分が並んで写っている写真。


そこに居合わせたユニットメンバーの橘ありすに頼んで撮って貰ったもの。


写真に写る藍子とHの左薬指にはお揃いの指輪……藍子がシロツメクサで作った指輪が嵌めてあった。


「……改めて見ると、恥ずかしいな、これ」


Hはその時の自分の浮かれ具合を見て、クスッと苦笑してみせた。






82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:27:38.27 ID:Jkm6eUFf0

「ふふっ、そうですか? 私は……とても素敵だと思いますよ」


「藍子は女の子だから気にならないだろうけど、男の俺はちょっと気になるな」


「でも……私は嬉しかったですよ。こうして……プロデューサーさんとお揃いの指輪を嵌めて、そして一緒に写真を撮れて……幸せでした」


「……そうか。まぁ、藍子が良いって言うなら、俺も良いかな」





83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/09(月) 07:28:04.31 ID:Jkm6eUFf0

ちなみにこの時貰った指輪をHは大切に取っておいてあったが、日も経ってしまった事で既に枯れ果ててしまった。


それでも……その記憶はHの中で消えない記憶となって残っている。


それはHがこれまで藍子と築いてきた絆の証でもあり、けっして消える事は無いのである。


そう考えると、Hは藍子をスカウトし、プロデュースしてきて本当に良かったと思えた。






85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:23:30.36 ID:AfOePbXf0

さて、次は……」


Hは次なる思い出に浸る為、写真を捲ってその先にある光景に目を通す。


だが、それを目にした瞬間、再びHの手が止まり、固まってしまう。


ドクンッと心臓が高鳴り、思考は乱れ始める。そして動揺からかその手はプルプルと震えだす。


目は見開き、その表情は思い出に浸る様な穏やかなものでは無い。愕然とし、青褪めた表情をHはしていた。


その原因となった写真……そこにあったのはHにとって思い出深い光景……では無かった。






86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:24:14.38 ID:AfOePbXf0

いや、ある意味では思い出深い光景なのかもしれない。


何故なら……この写真を撮ったのは紛れも無いH自身に他ならないのだから、知らない訳が無かった。


(な、何で……この写真が……?)


だが、Hには何故その写真が束の中に紛れ込んでいるのかが分からなかった。


それはHが厳重に保管して、他に知られない様に隠していたもの。


それなのに、今ここに手にしてしまっている。






87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:24:40.27 ID:AfOePbXf0

(だけど……何で藍子が現像してきた写真の中にこいつ、が……)


そこまで考えた所で、Hはある事に気付いて戦慄する。


そもそも……この写真をHは現像した覚えは無い。データのままで保存していたものだった。


それがここに写真としてあるという事実……つまり、誰かがデータの存在を知り、わざわざこうして現像してきたという事である。


そしてその誰かというのは……


(ま、さか……)






88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:25:08.89 ID:AfOePbXf0

Hは恐る恐るではあるが、ゆっくりと写真から目を離し、その視線を藍子にへと向ける。


「……? どうか、しましたか?」


視線を向けられた藍子はニコニコと笑いながら、その意図をHに尋ねてくる。


だが、Hが見たのは異様な光景だった。


確かに藍子は笑っている。その顔にはいつもの彼女と変わらぬ笑顔が浮かんでいる。


しかし……それは口元だけに限った話である。目はそうでは無いのだ。


そして、その目はというと……






89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:25:41.26 ID:AfOePbXf0





「何か……変なものでもありましたか?」


一切の光も宿っておらず、全くといって笑ってはいなかった。








90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:36:20.78 ID:AfOePbXf0

「あ、藍……子……?」


普段と違う様相の藍子の姿を見て、Hは思わず手に持っていた写真を全て落としてしまう。


Hの手から離れた写真はバサッと音を立てて、机の上にへと散らばっていった。


「あぁ、もう。駄目ですよ、プロデューサーさん」


そう言うと藍子はHが落とした写真を一枚、一枚丁寧に拾っていく。






91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:36:46.90 ID:AfOePbXf0

その中には問題の写真もあったが、藍子は見たにも係わらず、それに対して言及はしなかった。


「はい。ちゃんと持ってて下さいね」


だが、纏めた写真をHに向けて再び差し出した時、その一番上にあったのは問題の写真だった。


「大事な、大事な写真ですから……落としたら駄目ですよ。ふふっ」


満面の笑みを見せながら藍子はそう言った。しかし、それを見たHは冷や汗が止まらなかった。





92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:37:22.56 ID:AfOePbXf0

「な、なぁ……藍子……この写真……一体、どこで……?」


Hはそう言って入手した経緯について、藍子に問い掛ける。本当は聞きたくは無かったが、こうなった以上、確認しておかなければならなかった。


「どこ……で……? うふふっ、あはっ、あははははははははっ!」


だが、藍子はそれを聞くと今まで見せた事の無い、狂った様な笑いをHに見せた。


そんな藍子の姿を見て、Hは唖然とした。目の前で笑う藍子は、いつも見てきた藍子とはあまりにもかけ離れているからだ。


「おかしなプロデューサーさん。それはプロデューサーさんの方が良く知ってるじゃないですか。だって……」






93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 05:37:53.62 ID:AfOePbXf0





「あなたが事務所で隠し持っていたデータを元に、現像したんですから」








97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:28:58.06 ID:YPUOgvwF0

「私……全部知っているんですよ? プロデューサーさんがしてた事、全て……」


「ぜ、全部だって……?」


「はい。だって……ずっと見てきましたから。あなたの事……」


そう言って藍子はジッとHを真っ直ぐ見つめる。






98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:29:25.00 ID:YPUOgvwF0

「許されませんよね、こんな事。私に対する裏切りです。私……これを見つけた時、とっても悲しかったんですよ?」


藍子の放つオーラに気圧されて、Hはたじろいだ。


もう、こうなってしまっては助かる見込みは無い、終わったのだと、悟りもした。


「それにしても……この写真、どうしましょうかね? 事務所のみんなに見せましょうか?」


「えっ……?」


だが、藍子の言葉でHは一瞬で我に返った。






99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:29:53.51 ID:YPUOgvwF0

「それとも、これをネットに流したら……ふふっ、大変な事になりそうですね。プロデューサーさんだけじゃ無くて、私も終わってしまうかもしれない……あははっ、面白そう」


「ま、待ってくれ、藍子!」


面白おかしく、危険な発言をする藍子を、Hはそう言って止めた。


藍子が言う事を実行されてしまえば、自分達だけでは無く、事務所にも最悪の事態が巻き起こってしまう。


自分が悪い事は分かっているが、それだけは何としてHは避けたかった。






100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:30:19.19 ID:YPUOgvwF0

「頼む! それだけは止めてくれ! 俺はどうなってもいいが……事務所を……藍子を巻き込みたくないんだ!」


Hは藍子に体を真っ直ぐ向け、そして頭を床に擦り付けて土下座をした。


「この通りだ! 頼む!」


プロデューサーであるHが担当アイドルに土下座する。それは何とも滑稽な光景であった。


藍子はそんな姿を見て、ニコニコとした笑みでは無く、初めてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。






101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:30:45.77 ID:YPUOgvwF0

「プロデューサーさん、顔を上げて下さい」


そう言われてHは藍子の指示に従って顔を上げる。


するとそこには、慈愛に満ちた表情の藍子がHを見ていた。


「さっきのは冗談ですから、そんな事はしません。大丈夫ですよ♪」


「じょ、冗談……?」






102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:31:40.56 ID:YPUOgvwF0

「はい。だから、安心して下さい。この秘密は……誰にも話したりはしません」


藍子はそう言うと、Hに近付いてその顔を自分の胸の中にギュッと抱き寄せた。


「プロデューサーさんは……私が守ってあげますから」


「あ、藍子……すまない……本当に、ありがとう……」


Hは感謝を言いつつ、藍子の体を抱きしめた。


踏み止まってくれた藍子の優しさに触れ、Hの瞳から涙が浮かぶ。






103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:32:10.00 ID:YPUOgvwF0

「……だけど、プロデューサーさんには……『罰』が必要ですね」


「……え?」


『罰』という恐ろしい響きの言葉を聞き、Hは思わず藍子の顔を見上げる。


そして見上げた先に待っていたのは、笑顔の藍子。


だが、その笑顔からは優しさでは無く、言い表せない程の恐ろしさが窺えた。





104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:32:36.62 ID:YPUOgvwF0

「プロデューサーさんが二度とこんな事をしない様……これからは私が管理してあげます」


「か、管理って、どういう事……」


Hはそう言って反論しようとするが、そんなHに藍子は再び問題の写真を見せて。押し黙らせる。


「嫌ならいいですよ? それなら今度こそ、この写真をばら撒くだけです」


それを見せられては、Hは反論できなかった。写真やそのデータという弱みを握られている以上、Hは藍子には逆らえなかった。






105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:33:05.33 ID:YPUOgvwF0

「でも、心配しないで下さい。管理と言っても……プロデューサーさんを束縛するとか……そういう事では無いです。精々、私のお願いを聞いて貰うだけだから」


藍子はそう言うと、Hをあやす様にその頭をそっと優しく撫でた。


「さぁ……どうします? 私が言う事……聞いてくれますか?」


「……分かった。藍子の言う事を聞く。だから……ばら撒くのだけは止めてくれ」






106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 13:33:32.04 ID:YPUOgvwF0

「ふふっ、そう言ってくれて……嬉しいです」


自分の望み通りの展開に、藍子は今度こそ幸せそうに微笑んだ。


Hからすれば、自分を地獄にへと誘う悪魔の笑みだったが、Hには受け入れるしか手は残されていなかった。


「それじゃあ、まずは……」


全てを諦めたHは藍子の言う事を従順に聞き入れるのであった。






111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:10:12.32 ID:YPUOgvwF0

あっ、おはようございます、プロデューサーさん♪


今日も良い天気ですね。何か良い事がありそうな気がしますね♪


……ふふっ♪ どうしちゃったんですか? そんなに怯えて……ふふふっ。


大丈夫ですよ。ちゃんと秘密は守ってます。証拠も全部、私が押さえてますから安心ですよ。






112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:10:42.44 ID:YPUOgvwF0

……それにしても、いつもの素敵なプロデューサーさんも良いけど、こんな可愛い姿のプロデューサーさんももっと素敵です!


記念に一枚……いいですか? ……駄目、ですか。じゃあ、いいです。


それで……ちゃんと私のお願い……聞いてくれましたか?


……そうですか。ちゃんと全部捨ててくれたんですね。






113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:11:21.30 ID:YPUOgvwF0

データも写真も……それに関するものも全部……もう何も残ってませんね?


もし、嘘なんて吐いていたら……私、何をするか分かりませんよ?


……あぁ、ちゃんとその証拠も撮ってきてくれたんですね。


うわぁ……あの忌々しい写真や本が次々と燃えてる……跡形も無く……黒ずみとなって綺麗さっぱりに……。






114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:11:58.18 ID:YPUOgvwF0

ふふっ、ちゃんと実行してくれたんですね。お利口なプロデューサーさん……偉い、偉い♪


……? どうしたんですか? 急に離れて……びっくりするじゃないですか。


撫でられるのは嫌でした? プロデューサーさんは好きだと思ったのに……。


それなら……えいっ♪ これでどうですか?






115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:12:25.12 ID:YPUOgvwF0

抱擁力には欠けるけど……安心できますよね? プロデューサーさん、こういうは好きでしたからね。


……何で知っているかって? だって、言ったじゃないですか。


あなたの事なら何だって知ってるって。私はずっと見てきたって言いましたよ。


だから……プロデューサーさんの好みは全て把握しているので、期待していて下さい♪






116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:12:52.69 ID:YPUOgvwF0

えっ? 何の期待かですか? それは……その時までのお楽しみです♪ うふふっ♪


あぁ、そうそう。そういえば……お願いを聞いてくれたご褒美……あげてなかったですね。


……あった。はい、これです。大事に保管していて下さいね♪ もしくは使ってくれてもいいですよ。


だって……綺麗さっぱりと消えちゃったから……代わりが必要じゃないですか。






117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:13:21.68 ID:YPUOgvwF0

これは……その代わりです。これなら持っていていいですよ。


嬉しいですか? ……嬉しいですよね? ふふっ、それなら良かったです。


さて、それじゃあ次のお願いは……えっ? まだ続けるのか……ですか?


当たり前ですよ。これからは管理するって言ったからには徹底的にやらせて貰います。






118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/10(火) 22:15:18.62 ID:YPUOgvwF0

それに……これはプロデューサーさんの……あなたの幸せを思って、やっている事なんですよ?


そしてプロデューサーさんには拒否権は無い……それはあなたが一番良く分かってるはずですけど?


……分かって貰えたのなら嬉しいです。これからもその調子でお願いしますね。


じゃあ、次のお願いですけど……






122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:53:10.06 ID:cflEI13v0

今日もいつもと変わらず活気に溢れるCGプロダクションの事務所の中。


忙しさからか慌ただしく人が行き交い、誰もが忙しなく作業を進めている。


そんな中……一本の電話が入り、事務所内にけたたましい音が鳴り響く。


「お電話ありがとうございます。CGプロダクションの千川です」


それを事務員の千川ちひろは、事務所の規約通りに2コール以内に受話器を取り、そう言って電話に出る。





123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:53:41.32 ID:cflEI13v0

「あら、藍子ちゃん。おはようございます。事務所に電話なんて、どうしたの?」


電話は事務所の所属アイドルの高森藍子からであった。


だが、声のトーンがいつもと違うのをちひろは感じ取り、藍子の言葉を聞き漏らさない様にと耳を傾ける。


「……えぇ、分かったわ。私の方からHさんやトレーナーさんに伝えておくから、ゆっくり養生してね」


ちひろは藍子に向けてそう言いつつ、ペンを走らせて聞き取った内容を紙にメモしていく。


普段から電話対応をしている為か、ちひろは正確にその内容を書き取った。





124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:54:08.23 ID:cflEI13v0

「……はい。それじゃあ、お大事にね」


そしてそう言った後、電話が切れるのを確認して、ちひろは受話器を下ろした。


「さて、と……」


ちひろは書き終わったメモを持つと、立ち上がって移動する。


目的地は言うまでも無く、藍子の担当プロデューサーのHの下である。






125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:54:34.57 ID:cflEI13v0

他の同僚達の横を通り過ぎ、ちひろがそこに辿り着くと、Hはちょうどパソコンと睨み合い、作業をしている最中だった。


「Hさん、ちょっといいですか」


ちひろが後ろからそう声を掛けると、それに気付いたHはパソコンから目を離し、


「はい、何でしょうか」


と言って、振り返ってちひろの方にへと顔を向ける。






126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:55:17.25 ID:cflEI13v0

「実は……今、藍子ちゃんから電話がありまして……」


「藍子から? どんな内容でした?」


「どうやら風邪をひいたみたいで……今日のレッスンはお休みするそうです」


ちひろからの報告を聞き、一瞬だが苦い表情を浮かべる。


そして最悪の可能性を脳裏で考慮し、それをちひろに向けて口にする。






127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:55:43.87 ID:cflEI13v0

「風邪って……もしかして、インフルエンザですか?」


「そうじゃないみたいですけど……高熱で動けないと言ってましたよ」


「そうですか……なら、良かった」


最悪の可能性を回避できた事に、Hは安堵してホッと息を吐いた。


今日の藍子のスケジュールはレッスンだけであったので休んでも大した問題では無かったが、これが長引けくなら大事になっただろう。






128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:56:11.95 ID:cflEI13v0

高熱なら具合にもよるが、大抵は1日、2日療養すれば何とか快復するので、その程度で済んだ事に一安心した。


「はぁ……やっぱりこうなったか……」


小言でポツリと悪態をつくH。それはまるで……こうなる事が初めから分かっていた様な発言である。


Hからすれば独り言の範疇であったが、


「えっ? やっぱり……?」


それは不運にもちひろの耳にも届いてしまった。それに気付いたHの表情は見る見るうちに青褪めていく。






129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:56:49.78 ID:cflEI13v0

「それって……どういう事ですか?」


Hを問い詰める為、ちひろは目を細めてグッとHに詰め寄り、その言葉の真意を聞き出そうとする。


「い、いや、違うんです!」


ちひろに詰め寄られたHは否定する為に、首と右手を必死に振りながらそう言った。






130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:57:19.31 ID:cflEI13v0

「ただ、昨日から少し風邪っぽい感じがしていたから、やっぱりこうなったかと思っただけでして……」


言い訳する様に焦ってそう伝えるH。その額と手のひらにはじわりと冷や汗が滲み出ている。


目も自然と泳いでおり、それはHが嘘を言っている事に他ならない確かな証拠である。


「そうだったんですね。すみません、疑ったりして……」


だが、ちひろはHの言い分に納得し、詰めていた距離を最初に話していた位置にまで戻す。






131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:57:56.39 ID:cflEI13v0

「い、いえ……俺の方も、勘違いする様な事を言って……すみません」


ちひろが納得してくれてどうにか危機を脱せれた事に、Hは心中で人知れず安堵した。


「でも、気を付けてくださいね。あまり妙な言動をされると、事務所的には困りますから」


「は、はぁ……」


「最近はちえ……ごほん。誰とは言いませんが……事務所内のモラルの低下が顕著に表れていて大変なんです。だから、お願いしますね」


「わ、分かりました……注意します」


ちひろの言葉に、Hは軽く首肯して受け答えた。






132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:58:39.35 ID:cflEI13v0

「まぁ……藍子ちゃんはしっかりしていますし、その辺は問題ありませんね」


「え、えぇ……その通りです、ね……はい」


「それじゃあ……伝言は伝えましたので、後はよろしくお願いしますね」


そしてちひろはそう言って会釈すると、Hの下から去っていき、自分の席にへと戻っていく。


ちひろが去ったのを確認した後、Hはため息を一つ吐き、ズボンのポケットから携帯を取り出して、電源を入れる。


画面が点灯し、電源が入ったのを確認すると、Hは電話のアイコンに触れ、着信履歴から藍子の電話番号を探し当てて電話を掛ける。


携帯を右耳に当て、コール音が鳴ってから待つ事数秒……ガチャと音がなり、藍子が電話に出た事を知らせる。






133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:59:19.14 ID:cflEI13v0

『も、もしもし……おはようございます、プロデューサーさん……ゴホッ、ゴホッ!』


電話から聞こえる藍子の声はやはりと言うべきか、辛そうである。高熱としかHは聞いていなかったが、どうやら喉もやられている様である。


「おはよう、藍子。具合はどうだ?」


『ちょっと……駄目、みたいです。すみません……ご迷惑をお掛けして……』


「だから、言ったろ。無理するからこうなるんだ」


『すみません……』






134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 20:59:49.32 ID:cflEI13v0

藍子の辛そうで消え入りそうな声に、Hは心が痛んだ。


出来れば優しい言葉を掛けてやりたいが、実を言うとこれは藍子の『自業自得』である為、それは躊躇われた。


『あの……プロデューサーさん……』


「……どうした?」


『……寂しいです……とっても……グスッ』


「藍子……」






135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 21:00:19.67 ID:cflEI13v0

それを聞いた後に、小さくすすり泣く声がHの耳に入ってくる。


高熱で精神的に不安になって辛いのだろう。Hは押し黙るが、そうしている内にも藍子の泣き声は聞こえてくる。


いくら自業自得とは言えども、これ以上Hには見過ごす事は出来なかった。


「……分かった。後で、お見舞いに行くから。それまで待っててくれないか」


『……本当……ですか……?』






136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 21:00:47.31 ID:cflEI13v0

「あぁ、本当だ」


『……ありがとう、ございます。プロデューサーさん』


それで安心したのか、すすり泣く声は止まり、声色も少し落ち着いた様にHは聞き取れた。


『私……待ってますから。絶対に、来て下さいね……?』


「大丈夫だ。だから、藍子はゆっくり休んでてくれ」






137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/17(火) 21:01:14.88 ID:cflEI13v0

『はい……そうします。それじゃあ……お休みなさい』


「お休み、藍子」


Hは優しくそう言うと通話を切り、携帯を再びポケットの中に仕舞う。


そしてちひろが来るまでそうしていた様に、またパソコンの画面をジッと睨んで向かい合う。


「さて……仕方ないが早いとこ終わらせて、藍子を見舞いに行くか」


そう呟いた後、急ピッチで作業を終わらせようと、Hはキーボードをいつも以上の速さで打ち込んでいくのであった。






140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/21(土) 05:43:36.89 ID:eTx1YQYo0

自分に課せられた仕事を全て終わらせたHは、直ぐに藍子の家に向かっていった。


事務所の最寄の駅から電車に飛び乗り、それで藍子の実家に近い駅まで移動する。


だが、病人の藍子の下に手ぶらで向かう訳にもいかない。そう思ったHは駅から出た後、道中にあるドラッグストアに立ち寄る。


そこで栄養を補給する為のドリンク類や、消化に優しいゼリーといった品々を吟味しては買い物かごにへと放り込んでいく。


そして急いで会計を済ませると、ドラッグストアを出て、再び藍子の家にへと足を進めていく。


本当なら自業自得と切り捨てて気にしない所であったが、そこは担当プロデューサーである。心配にならない訳が無い。


その足運びは自然と速くなり、カツカツとコンクリートで塗装された地面を踏みしめながらHは駆ける。






141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/21(土) 05:44:10.97 ID:eTx1YQYo0

そうして歩く事数十分。Hは一切迷う事も無く、藍子の実家にへと無事に辿り着いた。


目の前にそびえ立つ二階造りの一戸建ての住宅。Hは臆する事無く門を通り抜けて玄関に向けて歩いていく。


そして玄関の前に立つと、家の中に入れて貰う為に横にあったインターフォンを鳴らし、人を呼ぶ……事をしなかった。


「あまり使いたくは無いんだがな……」


そう言いながらポケットに手を入れ、Hはそこからある物を取り出す。それは鍵である。


もちろん、これはHの家の鍵では無い。そんなものでは目の前の扉は開きもしないのだから、当然である。


なら、その鍵は何なのか……実は数週間前に藍子から渡された、彼女の家の合鍵であった。






142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/21(土) 05:44:41.33 ID:eTx1YQYo0

都合の良い時に来れる様に……そう言って渡された鍵であるが、この事を藍子の家族は誰も知ってはいない。知っているのは当事者のHと藍子のみの秘密である。


しかし……もし、この秘密がばれて鍵の存在が公になってしまえば、厄介どころでは済まない大問題になってしまう。


だからこそ、あまり使用は控えたい所ではあったが、病気で寝込んでいる藍子を呼び起こして開けて貰うのも憚れた。


観念したHはその鍵を鍵穴にへと挿し込み、回転させる。するとガチャッと音が鳴り、鍵が開いた事をHに知らせた。


それを確認すると、Hは鍵穴から鍵を抜き取り、またポケットにへと仕舞う。


そして扉を開いてこっそりと家の中にへと入っていったのであった。






143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 20:18:55.39 ID:Rbx35M2Y0

住民以外の人間が侵入したのにも関わらず、それを察知して出てくる者は誰一人としていない。


このHが訪れた時間帯は藍子の家族は全員仕事に行っており、出てくる訳が無かった。


そしてそれをHは何度か訪れた事のある経験から、しっかりと把握していた。それ故に、合鍵を使っての侵入を実行したのだ。


そんな中をHは靴を玄関で脱いだ後、悠然と歩いていき、二階にある藍子の部屋に向かう為に、階段を上っていく。


上がってから直ぐの部屋……それが藍子の部屋である。その部屋の扉をHは軽くノックする。


しかし、中からの反応は全くといって無い。少し待ってみても何も返ってはこなかった。


「……そういえば、寝ているんだったな」


それなら反応が無いのも頷ける。Hはそう考えるとドアノブに手を掛け、起こさない様にとそっと扉を開いた。






144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 20:19:25.91 ID:Rbx35M2Y0

扉を開いたその先には、これまでに何度か見た景色と変わらない藍子の部屋。そして窓際に置いてあるベットの上には、


「あっ、プロデューサーさん。来てくれたんですね」


下半身を毛布を被ったまま上半身を起こし、いつもは束ねている髪を下ろした寝間着姿の藍子がそこにいた。


その手元には厚めのアルバムが置いてあり、Hが来るまではそれを見ていた事を窺える。


「おま……寝てたんじゃ無いのか?」


「いえ、そうしようと思ったんですけど……中々、寝付けなくて。それで、プロデューサーさんが来るまでこれを読んで時間を潰していたんです」


そう言って藍子は手元に置いてあるアルバムをHに向けて掲げて見せる。






145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 20:20:12.54 ID:Rbx35M2Y0

「……そうか。それで、少しは具合は良くなったのか?」


「はい。薬も飲んだので、今朝よりは良くなってます。それに……」


「それに……何だ?」


「プロデューサーさんが来てくれるって分かったら……何だか元気になってきました」


元気になったと言って笑って見せる藍子だが、どうにも無理をしている風にもHは感じ取れる。


電話で聞いて分かっていた事だが、やはり辛そうなのは変わりなかった。


「あぁ、そうだ。これ……一応、お土産な」


そしてHは思い出したかの様に、先程ドラッグストアで買ってきた品々が入った袋を藍子に差し出す。






146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 20:20:41.01 ID:Rbx35M2Y0

「お土産ですか、わざわざありがとうございます」


藍子はHから袋を受け取ると、何が入っているのかを確認するべく、毛布の上に中身を一つ一つ丁寧に取り出していった。


「わぁ……どれもこれも、私の好きな物ばかり。このゼリーも、私が好みの味のものですね」


「それは、まぁ……藍子が好きな物の方が喜ぶと思ってな」


「ふふっ、私……凄く嬉しいです。こんな風にして貰えて……幸せです」


「大袈裟だな。たかがお土産ぐらいで……」


「そんな事ありませんよ。だって……」






147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/22(日) 20:21:17.45 ID:Rbx35M2Y0





「プロデューサーさんが私の好みを段々と分かってきてくれてるんですから。嬉しいに決まってます♪」








148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 05:41:21.44 ID:DL8asYjQ0

「そ、それは……藍子が勝手に教えてくるから……俺は、別に……」


「別に……何です? 私の事……もっと知りたくはありませんか?」


藍子は目を見開き、Hの目を凝視してそう語りかける。


高熱で意識が朦朧としているのにも係わらず、その視線はHを捉えて離そうとはしなかった。


「プロデューサーさんにだったら、何でも教えますよ? それこそ、他人に言えない様な事でも……全部、包み隠さず……ね」






149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 05:41:51.68 ID:DL8asYjQ0

「うっ……あっ……」


藍子から出るオーラに圧倒され、Hは何も言えなくなってしまう。


魅惑的な言葉に思わず呑まれそうになる……が、それでは良くないと、Hは思い止まる。


流されては駄目だ。今日はそんな目的で来た訳では無いのだと、必死に自分に向けて言い聞かせ、心の中で何度も暗示の様に呟き、どうにか堪えようとHは踏ん張った。


「そ、それよりも、藍子……今日は、話があるんだ」


Hは形勢を立て直す為にも、話の流れを切る様に藍子に向けてそう言った。






150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 05:54:00.79 ID:DL8asYjQ0

「話……ですか?」


「あぁ、そうだ。今日はそのつもりで来たんだ」


そう言ってHは藍子に負けじとその目をジッと見つめる。


その瞳の深さに吸い込まれそうにもなるが、強い意志を持ってそうはならない様にと自制する。


「……どんな話なんでしょう。ふふっ……私、ちょっと楽しみです」


「楽しい話なんかじゃない。これは、重要な話だ」


妖しく笑う藍子をHはそう言って釘を刺す。


すると、藍子の顔からは笑みが消え、瞬時に真顔となってHを見つめる。


それを見てHは竦み上がりそうになるが、何とか耐えながら話を進めようと続けていく。





151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 20:08:42.78 ID:DL8asYjQ0

「単刀直入に言うが……藍子。昨日の様な事はもう、止めにしないか」


「止める……ですか?」


藍子はきょとんとした表情を浮かべて、Hに向けてそう問い返す。


「そうだ。もう、あんな事は止めよう。あれは……俺にとっても、藍子にとっても良くない事だ」


「良くない事……」


「現にこうして……高熱で仕事や学校を休む事になってる。それに……これが世間に知られたら、俺達は無事では済まない。だから……」


「……あはっ、あはははははははははっ!」


Hの言葉を遮る様に、藍子は突如としてけたたましく笑い出す。何がおかしいのか、腹を抱える程に笑っているのだ。






152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 20:09:26.15 ID:DL8asYjQ0

「あ、藍……子……?」


あまりの異様さにHは言葉を失い、唖然とした表情で藍子を見る。


その目に映る藍子の姿は普段とはまるで違っていた。


Hが知っているのは優しく微笑む藍子の姿。それに惹かれてHは藍子をスカウトしたのだから、忘れる訳が無い。


しかし、目の前の彼女からはそんな面影は微塵として感じられない。壊れたおもちゃの如く、狂った様に笑っているのだ。


「あははっ、ご、ごめんなさい。聞いてたら、な、何だかおかしくって……ふふふっ」






153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 20:10:10.45 ID:DL8asYjQ0

「お、おかしいって……今の話のどこにそんな要素が……」


「おかしいですよ。だって、プロデューサーさんの言ってる事……矛盾してますから」


「矛盾だって……?」


「はい。さっき、プロデューサーさん……昨日の事は良くない事って言いましたよね」


つい先程の自分の発言を、Hは思い返す。それ程前の事でも無いので、直ぐにその事を思い出す。


「あ、あぁ……そう、言ったが……」


「それがおかしいんですよ。だって……」






154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/23(月) 20:11:41.48 ID:DL8asYjQ0





「あの時一番興奮して、夢中になっていたのは……プロデューサーさんだったじゃないですか」








156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/24(火) 05:43:04.86 ID:WjieUUNv0

「そ、そんな事……」


藍子にそう言われ、Hは反射的に目を逸らしてしまう。


「ありますよね。私……見ていたんですから、分かるんですよ」


それを藍子が見逃す訳が無く、薄く微笑みながら更に追求しようとする。


「あの時……夜の公園の中でのプロデューサーさんの熱い眼差し……そして、興奮して血走った目……うふふっ、素敵でしたよ。私達のライブを見ている時よりも凄かったですから」


まるで全てを見透かしている様な藍子の言葉、その瞳。


それを前にしては、先程は耐えてみせたHも敢え無く呑まれ掛けてしまう。






157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/24(火) 05:43:36.99 ID:WjieUUNv0

「それぐらい夢中で愉しそうだったのに……いいんですか? 止めてしまっても」


「そ、れは……その……」


「こんな事を許してくれるのは、私だけですよ。プロデューサーさんの為なら……私は何でも許しますから。それに……」


藍子は手元にあったアルバムを手に取ると、それを広げてHに中身を見せる。


そこに並んでいるのは、Hがここ数週間の内に撮ってきた写真の数々。


Hが藍子のトイカメラを借り受けて撮っていたのだから、見覚えが無い訳が無かった。


そしてそれは……負の遺産とも言える、Hが生み出した新たな罪の証拠でもあった。


「これだけ撮っておいて……今更、後には退けませんよ? うふふっ」


藍子の言う通り、Hにはもう……逃げようが無かった。


以前の事でも問題であるのに、更に問題を重ね続け、退路は完全に閉ざされている。


Hにとっての安住の地はもう、藍子の傍にしか残ってはいないのである。






159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 05:41:45.52 ID:2oDMvc960

「それでもあなたは……止めると言うのですか? プロデューサーさん?」


「……分かった」


そう言うとHはがっくりと項垂れる。これ以上反論しても無意味であるというのを悟った為である。


「俺が、浅はかだった。だから、ごめん……許してくれ、藍子」


打つ手が無くなったHは観念して、項垂れたまま藍子にそう告げた。


「分かってくれたのなら、嬉しいです。これからも、よろしくお願いしますね」


Hの言葉を受けて、藍子から滲み出ていた暗い影は消え、にっこりと笑みを浮かべる。


その笑顔は今度こそ、いつも彼女が浮かべる優しい笑顔であった。


それを見てHはホッと安堵する。これ以上話を続けられたら、Hの精神的にも辛いからだ。


「あっ、そうだ! プロデューサーさん、ちょっといいですか?」


だが、藍子は何かを思いついた様に、笑みを浮かべながらそう声を上げる。






160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 05:42:19.54 ID:2oDMvc960

Hは嫌な予感がしてならなかった。妖しく笑う藍子を見て、何か悪い企みに違いないと考えたからだった。


「あ、あぁ……どうしたんだ?」


Hは恐る恐るそう言って、藍子に尋ねる。


「話も一区切りついた所で『お願い』があるんですけど……聞いて貰えますか?」


『お願い』……と言われて、Hが断れる訳が無かった。


藍子に『お願い』された以上、それは必ず聞かなければならない。


弱みを握られている以上、拒否する事なんてできないのだ。


「……もちろんだ。何でも、言ってくれ」


「ふふっ、ありがとうございます♪」


従順な姿勢を見せるHを見て、藍子は満足そうにそう言った。


最早、藍子とHの関係はアイドルとその担当では無く、まるで主人とその奴隷と言う関係である。


「それじゃあ、『お願い』なんですが……実はさっきから熱のせいで、汗を掻いて大変なんです」


「あ、あぁ……」


Hはそう言われるが、あまりピンとこない。表面上、そういった風には見えなかったからだ。


しかし、見えていない部分に関しては分からない。


寝間着の下はもしかしたら、汗でびっしょりと濡れているのかもしれないのだ。


「ですので……」






161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 05:43:04.78 ID:2oDMvc960





「プロデューサーさんが拭き取って下さい」








163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 08:08:14.04 ID:2oDMvc960

「は、はぁっ!?」


藍子の無茶苦茶な要求にHは驚き、思わず素っ頓狂な声を上げる。


「さっきから汗で濡れて気持ち悪いんです。だから、お願いします」


「い、いや、しかし……」


当然と言うべきか、Hはそれをするのを躊躇われた。


如何に拒否権は無いとはいえ、その行動は度を越えたものがあるからだ。


「このままじゃ、私……汗で冷えて、更に悪化するかもしれませんよ? それなのに、してくれないんですか?」


「そ、それでも、だな……」





164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 08:08:42.23 ID:2oDMvc960

「もう、何を躊躇っているんです? それとも……何ですか? 私の裸を見るのが、そんなに嫌なんですか?」


「……そんな事は言ってないだろ。ほら、藍子も女の子なんだし、そこは……」


「今更じゃないですか。これまで何度も見てきたんですから、躊躇する必要なんてありませんよ」


そう言われてHは口を噤んで押し黙る。


反論しようとも、藍子の言う事は事実なので、それはできなかった。


「ほら、早くして下さい。タオルの置き場は前に教えましたから、大丈夫ですね?」


「……あぁ、分かってる」


諦めたHはそう言って立ち上がると、重い足取りで藍子の部屋を後にする。


そして藍子の期待に応える為にも、その要求通りに動いていくのであった。






166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 11:52:24.90 ID:2oDMvc960

「ふぅ……すっきりしました。ありがとうございます、プロデューサーさん」


体の隅々を拭いて貰った藍子は、衣装棚から出した新しい寝間着を着ながらHに向けてそう言った。


「……? どうしたんですか? 何で、私を見てくれないんですか?」


しかし、それに対してHは返答する事無く、ただただ無言のまま黙っている。


その視線は藍子を視界に捉えない様にとそっぽを向いていた。


「もしかして……私を見たら、さっきの光景を思い出すから……見てくれないんですか?」


その言葉にピクリとHは反応する。それは図星だと言っている様なものだった。


興奮からか心臓の鼓動は嘗て無い程に高まっており、その額からは汗が滲み出ている。


今のHは藍子に対し、完全に欲情しているのである。






167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 11:52:50.58 ID:2oDMvc960

汗を拭く為に触れた藍子の柔らかな肌。そして見てしまった胸や恥部といったあられもない姿。


先程見た光景が全て脳裏に焼きつき、頭から離れようとはしてくれない。


だからこそ、まともに藍子を見れないでいる。


「ふふっ、大変そうですね。必死に我慢して、辛そうにして……」


自分のせいでHがこうなっているのにも係わらず、藍子はそれを見ても面白そうにそう言うだけである。


しかし、それでも逆らう事のできないHは何も言わずに耐えるだけであった。


「……もう、これで満足か?」


「はい。もう十分です」


「それじゃあ……こいつらは片付けておくからな」


そう言ってHは藍子が脱いだ衣服、下着、そして汗を拭き取ったタオルを掻き集めると、それを洗濯機に持って行こうと立ち上がる。






168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 11:53:18.59 ID:2oDMvc960

「あっ、待って下さい」


しかし、出て行こうとするHを藍子はそう言って止める。


呼び止められたHは振り向き、まだ何かあるのかと視線を藍子にへと向けた。


「さっきから私のお願いばかり聞いて貰って……これですと、私ばっかり得してて申し訳無いですね」


「い、いや……別に、そんな……」


「だから……今、その手に持ってる物……全部、プロデューサーさんにあげます」


「……は?」


そう言われて、Hは怪訝そうな表情で藍子を見る。


何の冗談かとHは思ったが、藍子の様子を見て、冗談では無くて本気なのだと悟った。





169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 11:53:49.08 ID:2oDMvc960

「あげたからには……それをどう扱おうと、プロデューサーさんの自由です。いらないなら捨ててくれればいいですし……必要なら、何に使ってくれても構いません」


「つ、使うって……お前……」


「さぁ……どうします? 捨てて帰ります? それとも……持って帰りますか?」


「お、俺は……」


即決できない問題に直面し、Hはそれを手にしたまま佇み、ジッと眺めたまま固まってしまう。


しかし、しばらくして……Hは意を決したのか、それを小さく纏めて自分の鞄の中にへと仕舞い込んだのである。


「ふふっ、素直ですね。そういうの……嫌いではありませんよ」


そんなHの様子を藍子は愉快そうに眺める。


Hが徐々に自分の色に染まってきた事に、どこか満足気でもある。






170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/25(水) 11:54:14.61 ID:2oDMvc960

「そ、それじゃあ……見舞いも済んだし……俺は、帰るからな」


そう藍子に告げた後、Hはいそいそと帰り支度を始める。


何か火急の用事でもあるかの如く、その動きは迅速だった。


「はい。今日は、ありがとうございました。この埋め合わせは……体調が良くなった時にしますね」


「あ、あぁ……分かったよ……」


「それじゃあ……プロデューサーさん。ゆっくりと、お愉しみ下さいね♪ うふふっ♪」


そして急いで出て行こうとするHを、藍子は笑顔で見送った。


その笑顔からは人々を導く様な女神の如きの優しさは感じられず、ただただ邪まなものしか感じられない。


最早、藍子もHも……堕ちる所まで堕ち切っているのであった。


それはもう……二度と元の関係には戻れない程に、である。






175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:45:06.10 ID:Lj4xWbXA0

プロデューサーさん、お待たせしました。


寒い中……お待たせてしてすみません。着替えるのに手間取ってしまって……。


でも、ほら……ちゃんと着てきましたので、安心して下さい。


プロデューサーさんのリクエスト通り……あの時の衣装ですよ。


盗賊風な恰好で、ちょっと露出が高めだから恥ずかしいけど……プロデューサーさんのお気に入りの衣装なんですよね?







176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:46:00.61 ID:Lj4xWbXA0

あの時のプロデューサーさん……この衣装を着た私を凄く見てましたから。


えっ? 気付いていたのか……って? それは、もちろんですよ。


私が分からないと思ってたんですか? あれだけ熱狂的な視線を送ってくれたんですから、気付かない訳が無いですよ。


特に……私のおへそ周りばっかり見てて……そういうのが好きなんですね。


良かったら、触ります? あなたになら……触れられてもいいですから。


……そういうのは、また今度? ふふっ、分かりました。






177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:46:52.09 ID:Lj4xWbXA0

それなら、今日は止めておきましょうか。お楽しみはまた次の機会……という事で。


それじゃあ、行きましょうか。早くしないと、時間が無くなっちゃいますよ。


……えっ? 腕を組んで歩くと、目立つから止めてくれ……ですか?


あぁ、大丈夫ですよ。実はこの公園……この時間帯はあまり人が来ないので、その心配はいりませんから。


それに……この服、フードが付いてますので……これを被っていれば、私が高森藍子だって簡単には気付かれませんよ。


さて、これで心配事は無くなりましたね。さぁ、早く行きましょうか。






178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:47:22.08 ID:Lj4xWbXA0

……………


………





着きましたよ、プロデューサーさん。


今日は、この辺がいいかもしれませんね。それなりに開けてて……撮影するには、うってつけの場所ですね。


……あれ? どうしたんですか? 急に胸なんて押さえて……


……さっきのは、心臓に悪かった? もう、気にし過ぎですよ。


知らない人と擦れ違っただけで、大袈裟なんですから。






179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:47:51.68 ID:Lj4xWbXA0

それにあまり気にし過ぎてると……逆に不審に思われますので、気を付けて下さいね。


それでは……はい。撮影の邪魔になるので、コート……持ってて貰えますか。ふふっ、ありがとうございます。


カメラの準備も大丈夫そうですね。じゃあ……早速、始めましょうか。


どんなポーズがいいです? リクエストがあれば、やりますよ?


……何でもいいのか……ですか? えぇ、好きに言って下さい。


プロデューサーさんの為なら……私、期待に応えてみせますから。






180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:48:23.59 ID:Lj4xWbXA0

……へぇ、なるほど……。そんなポーズが見たいんですね。分かりました。


えっと……よいしょ……っと。これで、いいですか?


これでばっちり……ですか。なら、良かったです。そう言って貰えて……私、嬉しいです。


さぁ、遠慮なくどうぞ。プロデューサーさんが満足するまで、十分に撮ってくれていいですよ。


……うふふっ。凄いですよ、プロデューサーさん。今、私……あなたにいっぱい撮られてます。


こんな人気の無い所で、こんな格好して、こんなポーズをして、目一杯写真を撮られて……。






181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:48:53.42 ID:Lj4xWbXA0

これでは、アイドル失格ですね。……いえ、普通の女の子としても失格でしょうね。


でも……いいんですよ。あなたがこんな私を求めるのなら……私はそれに応えるだけですから。


ですが、その代わり……あなたは一生、私だけを見てて下さいね?


他の娘をよそ見する事なんて、絶対に許しません。近づく事だって、許しません。


それが私の特権ですから……しっかりと、覚えていてくれますよね。





182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/26(木) 06:49:19.47 ID:Lj4xWbXA0

守ってくれたのなら、こうして……ほら♪ ちゃんと、ご褒美をあげますから。


うふふっ♪ 視線がここに釘付けですよ。そんなに、嬉しいですか?


でも……これはまだ、序の口……ですよね。


私のあられもない姿……その目に焼き付けて、消えないようにしますから。


まだまだ夜は長いですので……思いっきり、楽しみましょう♪


さて、それじゃあ次のリクエストは……






186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:41:55.93 ID:BNZujswn0

後日。Hが藍子を見舞いにいった日から、約一週間後の休日。


まだ時刻は日も昇らないという時間帯。その為、部屋の主であるHも睡眠の真っ只中であった。


普段ならこの時間には起きて身支度を整え、事務所に出社する所である。


しかし、今日は休日であるからこそ、そうする事は無い。Hの心行くまで、寝る事ができるのだ。


このままいけば、昼前までは眠っていられる。それがHの休日の過ごし方なのである。


だが、そんなHの住むアパートに突然の来客が現れる。それもまだこんな日も昇っていない早朝の時間にだ。






187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:42:26.69 ID:BNZujswn0

来客……彼女はHの部屋の前に立つと、鞄から鍵を取り出し、音を大きく立てない様にゆっくりと扉の鍵を開ける。


そしてこれまた音を立てずに扉を開き、そっと中にへと入っていった。


中に入った彼女は鞄に鍵を仕舞うと、今度は別の物を鞄から取り出し、携える。


それを手にしたまま、彼女はHが寝ている居間に向かってゆっくりと忍んで歩いていく。


居間に向かう途中、居間と廊下を仕切る為に取り付けられたカーテンに出くわす。


実はこれは、前からHの部屋にあったものでは無く、つい最近……とある理由で設置されたものである。


それを通り抜け、彼女は居間に入る。すると、眼下にはHの寝顔が待っていたのだ。






188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:42:53.43 ID:BNZujswn0

「うふふっ♪ 素敵な寝顔です♪」


それを見た喜びからか、彼女は嬉しそうに笑う。


しかし、それで十分に満足したかといえば、そうでは無い。


それだけではまだ、満たされる事は無いのである。


彼女は手に持っていた得物を掲げると、それをHにへと向ける。


それがHの姿を捉えると……カシャッという音と共に、眩いフラッシュがその得物……トイカメラから生じられる。






189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:43:20.47 ID:BNZujswn0

ん……んん……? 何だ、今の……」


フラッシュの光を浴びて目を覚ましたHは、もぞもぞと布団から起き上がり、その元凶を探る為に寝ぼけ眼のまま、きょろきょろと辺りを見回す。


そして居間への入り口の前でカメラを持ちながら佇む、彼女と目があった。


「おはようございます、プロデューサーさん」


彼女……藍子は目が合うと同時に、Hに向けて明るくそう告げる。


「何だ、藍子か……まぁ、おはよう」


Hはそれに対して呆れた口調で、髪を掻き毟りながらそう言った。






190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:43:52.19 ID:BNZujswn0

「それにしてもだな、藍子……いくら何でも、こんな時間に来るか? まだ六時過ぎだぞ?」


そう言いながらHは傍に置いてある目覚まし時計を指し示す。


確かに現在時刻は六時十五分頃。休日とはいえ、来客が来るには早過ぎる時間帯である。


相手の事を考慮すれば、もう少し遅い時間に訪れるのが妥当な選択である。


「だって……少しでも長く、プロデューサーさんと一緒にいたいじゃないですか。だから、この時間に来たんですよ?」


しかし、悪びれもせずに藍子はそう言うだけである。






191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 10:44:18.16 ID:BNZujswn0

そこに悪意や後ろめたさ等、無いに等しいものだった。


藍子は飽く迄、良かれと思ってという、自分の善意に則って行動しているのである。


「はぁ……まぁ、いいけどさ。もう少し考えて欲しい所だけど……」


そして藍子がそう言うならば、Hはそれを認めるしか無かった。


役職柄で言えば上のHだが、個人的な繋がりで言えば下になってしまう。


Hはもう、藍子に逆らう事もできない立場に置かれているのだった。






194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 20:47:19.55 ID:BNZujswn0

「さて、それじゃあプロデューサーさんも起きた事ですし、そろそろ朝ごはんにしませんか?」


「朝ごはんなぁ……でも、まだお米も炊いてないし、冷蔵庫には何にも入っていないしな……」


「大丈夫です。そう思って、ちゃんと準備して持ってきましたから」


そう言って藍子は持ってきた大き目の鞄から、次々とタッパーを取り出していく。


その中にはご飯と様々な具材が入ったカレー。それとスープといった品々が入っていた。


「プロデューサーさんの為に、昨日の内に作っておいたんですよ」


「そ、そうか。ありがとうな……」






195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 20:47:48.50 ID:BNZujswn0

「私が温めておくので……プロデューサーさんはそれまでに、顔を洗って待ってて貰えますか?」


藍子は立ち上がると、持ってきたタッパーを台所にへと持っていき、テキパキと朝食の準備を始めていく。


その手際は自分の家では無いのにも関わらず、どこに何があるのかが分かるかの様で、手早いものである。


これまでに何度も通い妻の様に訪れていた藍子は、何もかもを把握しているのであった。


「じゃあ、お言葉に甘えて……そうさせて貰うよ」


Hもそう言って立ち上がると、洗濯物の中からタオルを取り出し、それを持って洗面所にへと向かう。






196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 20:48:23.52 ID:BNZujswn0

ちなみにこのタオル……実は以前、藍子の家から拝借したものである。


それを持ち帰ってからというものの、Hは幾度となくそれを使用し、色んな意図を持って使ってきた。


今ではHにとって無くてはならない、必需品となっているのだ。


そして洗面所に入ろうとした所で足を止め、振り返って藍子の方にへと顔を向ける。


「頼むな、藍子」


「はい♪ 任せて下さい♪」


そういった短いやり取りを経た後、Hは洗面所の中にへと消えていった。


それを見送った藍子は引き続き、朝食の準備を進めていくのであった。






197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:32:03.72 ID:BNZujswn0

「お待たせしました、プロデューサーさん」


Hが洗面所から戻ってから少しして……藍子が朝食を手に携えて、居間にへと戻ってくる。


そして温められたカレーとスープがテーブルの上に並べられていく。


「私の自信作ですので、良く味わって食べて下さいね♪」


「あぁ。それじゃあ、頂くよ」


早速口にしようと、Hは藍子が一緒に持ってきたスプーンを取ろうと、手を伸ばす。






198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:32:36.10 ID:BNZujswn0

「あっ、駄目ですよ」


しかし、その前に藍子がそう言ってスプーンを掠め取ってしまい、それは叶わなくなる。


「えっ? あ、藍子……?」


意図の分からない藍子の行動に、Hは困惑した表情で藍子を見る。


「プロデューサーさんが直接食べるのは禁止です。代わりに……私が食べさせてあげます♪」


「えっ?」






199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:33:04.66 ID:BNZujswn0

未だに藍子の言葉を呑み込めないHを他所に、藍子は掠め取ったスプーンでカレーを一口分掬う。


そして息を吹きかけて十分に冷ますと、それをHの顔にへと近づける。


「はい、どうぞ♪」


笑顔を浮かべて藍子はカレーをHに差し出す。


Hはしばらくカレーと藍子を交互に見つつ、逡巡していたが……やがて意を決し、


「い、頂きます……」


顔を前にへと伸ばし、差し出されたカレ-を口にした。






200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:33:32.45 ID:BNZujswn0

そしてゆっくりと咀嚼し、その味を十分に堪能しようとする。


「ふふっ♪ おいしいですか?」


「……あぁ、美味い」


「なら、良かったです。さぁ、どんどん食べて下さいね」


それから藍子はHのペースに合わせ、次々とスプーンを使い、朝食をHの口にへと運んでいく。


最初は戸惑っていたHだが、食べ進めていく内に段々と抵抗も無くなり、それに慣れていった。


「うふふっ♪ こんなにもおいしそうに食べてくれて……嬉しいです」


その様子を眺めながら満足げに微笑む藍子。






201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:34:16.24 ID:BNZujswn0

そして次の一口を掬い、それを同じ様にHの口に運ぶ。だが……


「あむっ」


それはHの口に運ばれはしなかった。


途中までスプーンを差し出していた藍子だが、突然方向を変え、それを自分で口にする。


「あっ、やっぱりおいしいですね。頑張って作った甲斐がありました」


「あ、藍子……お前……」


先程までHが口にしていたスプーンを何の躊躇いも無く、藍子は口を付けた。


所謂、間接キスというものであるが……その事実にHは思わず固まってしまう。






202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:35:21.89 ID:BNZujswn0

「あぁ、ごめんなさい。プロデューサーさんがあまりにもおいしそうに食べてるから、私も食べたくなって……」


藍子はそう言いつつ、スプーンで新たに一口分掬う。


そして今度こそ、それをHの顔に近づけた。


「今度はしませんから……さぁ、どうぞ♪」


藍子が口を付けたスプーンを前に、Hは再び逡巡する。


これを口にしてしまっていいのかと一瞬だけ迷ったが、最早Hに……躊躇う必要なんて無かった。


Hはそれに堂々と食らいつくと、その表面を舐め取る様にしゃぶり上げたのだ。






203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:36:20.03 ID:BNZujswn0

「随分とガッツリいきますね。そんなに私との間接キスがしたかったですか?」


見下す様に藍子はHにそう言うが、Hの耳にその声は届かない。


目の前の事に夢中になっていて、聞こえていないのだ。


「でも……それだけじゃあ、足りませんよね」


藍子はスプーンを置くと、空いた手を使いHの顔を掴む。


そしてその顔を引き寄せると、Hの唇に自分の唇を重ね合わせた。





204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/27(金) 23:37:44.45 ID:BNZujswn0

「ん……」


唇同士を合わせるだけのキス。しかし、藍子は数秒経っても唇を離そうとしない。


長い時間重ね合わせ続け……そして満足した所でゆっくりとHの唇から離れた。


「……どうですか? 満足してくれました?」


藍子の問いにHは言葉で返事をせず、黙ったまま首肯してそれに答えた。


「……そうですか。なら、私も嬉しいです」


幸せそうな笑みを浮かべて、藍子はそう告げる。


「それじゃあ、満足した所で……残りのごはんを食べていきましょうか。早くしないと、冷めてしまいますからね」


そう言って藍子は再びスプーンを手に取った。


そしてそれ以降は中断する事無く、普通に食事を進めていくのであった。






209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:53:32.66 ID:+JgHMsO/0

「……ごちそうさま、藍子」


全ての朝食を食べ終えると、Hは満足そうにそう言った。


「はい、お粗末様です」


藍子もそう受け答えると、空いた食器を一纏めにし、それを台所にへと運ぶ。


それを流し台に置き、水を少し掛けた後、スポンジに洗剤を付けて綺麗に洗っていく。






210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:54:02.55 ID:+JgHMsO/0

「所で……どうでしたか? お味の方は……」


「あぁ、良かったよ。こんなカレーは久しぶりに……」


「あっ、そっちじゃないです」


Hの言葉を遮って藍子はそう言う。そして振り返り……


「私とのキスの味……の方ですよ」


妖艶な笑みを浮かべて、そう問い掛けるのだった。






211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:54:28.05 ID:+JgHMsO/0

しかし、Hはそれに答えられず、口を噤んで黙ってしまう。


「……答えてくれませんか。そうですか……」


藍子は洗い物を終え、手の水気を拭き取った後、Hの傍まで歩いていき、その横にそっと腰掛ける。


「ねぇ、プロデューサーさん。私……聞きたい事があるんです」


「な、何だ……?」


「ずっと聞きたかった事なんですが……プロデューサーさんは私の事を、どう思ってますか?」






212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:54:54.20 ID:+JgHMsO/0

真剣な眼差しで藍子はジッとHを見つめてそう言った。


「ど、どう思ってるかだなんて……そんな……」


唐突な質問に、Hの目が泳ぐ。


正直な所、藍子との関係は複雑なものがある為、言葉にし辛いものがあった。


「好きか嫌いかで、お願いします」


そして更に選択肢を二つに絞られ、逃げ道を塞がれてしまう。






213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:55:26.57 ID:+JgHMsO/0

「そ、それはもちろん……好き、だぞ」


その二つの選択肢で迫られれば、好きという方に傾くのは必然だった。


他ならぬH自身が藍子をスカウトしたのだから、嫌いである訳が無いのだ。


「それは、アイドルとしてですか? それとも……女の子として?」


しかし、また更に選択肢を出されてHは追い詰められる。


こうなってしまった以上、腹を括るしかない。Hに残された道は一つしか無かった。






214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:56:02.81 ID:+JgHMsO/0

「……女の子として……だな」


結局はそう言うしか、選択肢は無いのだ。


前者で答えてしまっては、恐らくではあるが藍子が激昂し、何をするか分からない。


それにこれまでしてきた事や、先程のキスの事の事も考えると、女の子として好きでは無いとは言い難かった。


「ふふっ♪ ありがとうございます♪」


求めていた答えが得られた事で、藍子は喜びのあまりにこやかに笑う。


それを見たHはこれでようやく追求は済んだのだと、心の中で一息吐く。






215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:56:31.16 ID:+JgHMsO/0

「それじゃあ……他の娘と比べたら、どうですか?」


だが、安堵したのも束の間。藍子の追求はそれで終わりでは無かった。


また新たな質問を投下されてHは戦慄し、ドッと大量の冷や汗をその顔に浮かべる。


「ど、どうって……」


その質問はHにとってあまり好ましいものでは無かった。


何故ならそれは……Hの仕出かした核心部分に触れる事であるからだ。


「言葉通りの意味です。他の娘……つまり、」






216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/28(土) 07:58:28.06 ID:+JgHMsO/0





「プロデューサーさんがこれまでお金を注ぎ込んで関係を築いていた、女の子達と比べてどうかって聞いているんです」








220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 13:16:55.50 ID:c/8nOsl80

「え、えっと……」


具体的な内容と突かれ、Hは言葉を詰まらせる。


そもそも、藍子とこういう関係になってしまったのはそれが原因なのである。


随分と前に藍子がHに見せた写真……そこに写っていたのは、どこの誰とも知らない女の子とのツーショット写真。


実を言うと、Hはこれまでに一回限りの金銭的な付き合いを何度も繰り返していた。


しかも……その時の事を無用心にも、記念として写真や動画にして残していたのだった。


そしてそれは見つからない様にと、厳重に隠していたのだが……藍子によって見つかってしまい、露見してしまったのだ。


それが、Hの弱みであった。こういった過去がある以上、Hは藍子に逆らえなかったのである。






221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 13:17:32.69 ID:c/8nOsl80

「さぁ、どうなんですか? 早く、答えてくれませんか?」


中々答えが出てこない様子を見兼ねて、待ち侘びた藍子はじりじりとHに迫っていき、威圧する。


その目は大きく見開いていて、少量ではあるが、殺気まで放っているのである。


「答えて下さい……さぁ……早く……」


窮地に陥り、追い込まれたHの顔には、威圧された事によって大量の汗が伝っていく。


それ程にも藍子の暗く光の灯らない黒ずんだ瞳からは恐怖を感じさせているのだ。


そして……






222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 13:18:12.87 ID:c/8nOsl80

「あ、藍子の方が……良いと思う……」


Hはその瞳を前にして、観念してそう言うだけであった。


縁もゆかりも無い相手と、藍子を比べればどちらに軍配が上がるかなんて、比べるまでも無かった。


「……うふふっ♪ そうですよね……私の方が良いに決まってますよね?」


選ばれた事の喜びからか、藍子はHの体に腕を回し、ギュッと抱き着いた。


「あんなお金だけの繋がりに比べたら……私の方が、ずっとずっと素敵なんですから」






223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 13:18:40.81 ID:c/8nOsl80

「そ、そうだな……」


「あの人達はお金をあげないと相手をしてくれなかったですが……私は違いますよ? お金をくれなくたって……プロデューサーさんの愛を頂ければ、私は何だってします。それこそ体だけじゃなくて……心も全て、捧げてあげますから」


そう言いながら藍子はHの首元に顔を近づけると、そこを舌で這わせた。


ゆっくりと舌で舐められて、Hはぞくぞくとした高揚感に駆られる。


これまでに何人もの女の子と相手してきたHだが、これ程に気が高ぶるのは初めての事だった。


「それに……プロデューサーさんの欲求も、何でも叶えてあげます。お金が欲しければ……精一杯アイドル活動頑張って、稼いできます。お腹が空いたのなら……私が作って食べさせます。そして……性欲を満たしたいのなら、私が満足させてあげますよ。うふっ……うふふふふふっ……」






227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:07:44.93 ID:c/8nOsl80

「あっ、そうだ……そういえば、忘れる所でした……」


藍子はそう言うとHから離れ、持ってきた自分の荷物から何かを探そうとする。


そうして見つけ、取り出したのは以前にも渡した同じ様な無地の茶封筒。


しかし、以前とは違う部分が一つだけあった。それは……茶封筒の厚みである。


藍子が持っているそれは、前の時と比べると、倍に近いぐらいの厚さとなっているのだ。


「はい、プロデューサーさん。忘れてましたけど……今回のご褒美です」






228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:08:32.63 ID:c/8nOsl80

そう言って差し出された茶封筒を、Hは恐る恐る掴み、受け取る。


そして封筒を開けて、中に入っている物を抜き出す。中身はもちろん、写真の束であった。


「この間の……夜の公園での撮影会の写真が現像できましたので、持ってきたんですよ」


藍子の言う通り、そこにはこの間の光景がばっちりと収められていた。


前に仕事で使った盗賊の衣装を着た藍子が何枚にも渡って写っている。


しかし……それだけであれば、これは普通の写真であったが、これには問題があった。


それは……藍子のポーズや衣装の着方。そこには藍子が自ら恥部を曝け出すかのように、写っているのだった。






229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:09:00.83 ID:c/8nOsl80

そして、こうする様に指示したのは他でも無いHである。


藍子に秘密が露見され、燃やしてしまったこれまでの記念とも言うべき記録の代わりとするべく、こうして撮る様になっていたのだ。


ちなみに、Hをそういう風に促したのは藍子である。自撮りした写真を渡して、そうなる様に仕向けたのであった。


「どうですか……? ちゃんと、プロデューサーさんの望み通りになってますか……?」


「あ、あぁ……大丈夫、だな……」


手に取った写真を逐一目に通しながら、Hはそう言った。


その目は血走っており、どれ程Hが写真に夢中になっているのかを物語っていた。


「それなら……私も頑張った甲斐がありました。さて、それじゃあ……」






230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:09:27.76 ID:c/8nOsl80





「この写真を……早速、部屋に飾りましょう」








231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:34:39.63 ID:c/8nOsl80

「他の写真と同じ様に……飾って、プロデューサーさんの目に付く様にしましょうね……」


そう言う藍子の視線の先には、Hが持っている写真とは違うものが写った数十枚の写真。それら全てが、部屋の壁に飾られている。


それだけでは無い。藍子が見ている所以外にも、写真は何枚も飾ってある。


そう……部屋の至る所に渡り、藍子の写っている写真が点在しているのであった。


「こうやってしておけば……プロデューサーさんは私以外を見る事は無くなりますよね?」


そう言ってHに問い掛ける藍子だが、残念ながらHの耳には届かない。


Hはまだ渡された写真に夢中になっていて、藍子の声は耳に届かなかったのだ。






232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 17:35:22.34 ID:c/8nOsl80

「うふふっ♪ その様子なら……大丈夫そうですね」


そんなHの様子を見て、藍子はにんまりと笑う。


藍子が見た光景は、藍子が望んだ結果が花開いた瞬間だったからだ。


「これまでずっと……私はあなたを見てきたんですから。今度は、あなたの番ですよ? これからはずっと……私だけを見て下さいね」


そう言った後、藍子はHが見終わった写真を手に取り、そっと立ち上がる。


そしてその写真を部屋の空いているスペースに飾ろうと、動いていくのであった。






235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:46:04.08 ID:c/8nOsl80

誰もが寝付いた頃だと思われる深夜帯も時間。


まだ朝でも無いのにも係わらず、Hは目を覚まし、体を起こす。


「……はぁ」


頭を抱え、疲れた様子のHはついついため息を吐いてしまう。


実は先程から寝付こうとしているのだが、気が気で無いのか、一向に熟睡できないでいる。


例え寝付けたとしても、何度も何度も目覚めては寝るというのを繰り返しているのである。





236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:46:33.83 ID:c/8nOsl80

そして……そうなっている原因は直ぐ傍にあった。


目を覚ましたHはそっと静かに、横にへと視線を向ける。


「……すー……すー……」


そこには幸せそうな寝顔を浮かべ、ぐっすりと寝息を立てて寝ている藍子の姿があった。


そう。藍子は朝のあの時からずっと居座った挙句、Hの家に泊まるとまで言い出したのだ。


当然、それにはHも反対はした。『親も心配する』と尤もな事を言って、藍子を家に帰らせようとした。


しかし……藍子は自分の両親には、事前に友達の家に泊まると言ってあったらしく、その手は通用しなかった。


その結果、藍子に押し切られてしまい、泊まっていく事をHは許可したのであった。






237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:48:01.48 ID:c/8nOsl80

「……ん……むにゃ……ぷろ、でゅーさーさん……」


どんな夢を見ているかは分からないが、藍子は寝言でHの事を呼ぶ。


その様子を眺めていたHは、寝ている藍子の頭をそっと優しく撫でてみる。


撫でると少しくすぐったそうに笑う藍子だが、起きる気配はしない。


完全に熟睡していて、ちょっとやそっとの事では起きそうに無かった。


「こうしていると、普通の女の子なのにな……」


Hは撫でながらそっと愚痴る様に呟くと、その手は藍子から離した。






238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:48:31.62 ID:c/8nOsl80

「……どうして、こうなったんだろうな……」


そして再び誰に言う訳でも無く、Hは愚痴を呟く。


しかし、その答えはとっくに分かっているのである。


『どうしてこうなったか……』など、誰かに聞くまでも無い事なのだ。


藍子がこうなってしまったのは……全て、自分の責任でしかないのである。


秘密を隠し通せなかった……いや、そもそも援助交際なんかに手を出した事自体が間違いだった。


プロデューサー業という多忙な日々を送るにつれて、Hの疲労やストレスは限界に近かった。


それを解消する為に手を出したのが、援助交際だったのだ。






239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:48:59.13 ID:c/8nOsl80

最初の頃はばれてしまわないかと恐る恐るではあったが、何度もしていくとそういった危機感は薄れていった。


それに……没頭している間は何もかも忘れる事ができた。仕事の事も、全て。


お金があれば気軽に出来る事もあって、Hはいつしか夢中になっていた。


そうやって性欲を満たす事でストレスを解消してきたHだが、それを藍子に知られてしまい、Hの援交三昧の日々は終わりを告げる事となった。


「知った時は……相当ショックだったろうな……」


自分の担当をしているプロデューサーがそんなものに手を出しているのを知れば、そのショックは計り知れないものだったに違いない。


きっと『裏切られた』だとか、そんな風にも思ったかもしれない。だからこそ、藍子は変わってしまったのだ。


優しくて穏やかな雰囲気の彼女が、今ではHを管理しようとあらゆる手を使って追い詰めてきているのだ。


そこには以前の藍子の面影は全く見えない。別人の様にHは思えてしまう。






240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:49:43.14 ID:c/8nOsl80

「だけど……そうだとしても、この娘が藍子である事には変わり無いんだよな……」


そう言いながら、Hは藍子をスカウトした時の事を思い出す。


『私がどういう結果に終わろうと……あなたが最後まで支えてくれるなら、いいですよ』


あの時の藍子はHに向けてそう言ったのであった。


「それなら……俺が最後まで責任取らないとな。そもそも、俺が裏切ったのが悪いんだしな」


藍子を見つめながらそう決意するH。


それに藍子に従っていれば、Hにもメリットはあった。


期待に応えてさえいれば、藍子は何だってすると言ったのだ。


そういう特権がある以上、逆らう事は得策では無いのである。






241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 22:50:12.50 ID:c/8nOsl80

「もう、裏切ったりはしないからな、藍子……」

 
そう言った後、Hはもう一度藍子の頭をそっと優しく撫でる。そして少しした後、Hは再び眠りについたのだった。


「んふふ……わたし、ね……あな、たの事が……えへへ……」


幸せそうにまた、藍子は寝言を呟く。


この複雑な関係が良いのかどうかは定かではない。


しかし……それでも、藍子は幸せだった。


理想の形では無いにしろ、確かにその手には、幸せを掴む事ができたのだ。


その幸せが離れてしまわない様、藍子はそれ以降も色々と画策していくのであった。





終わり






242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/29(日) 23:10:42.50 ID:9TwQhb+Po


結局Hから出た身の錆が藍子を追い詰め変えたと…この絶対特権羨ましい
今後は芳乃、凛、奈緒、卯月達が控えてるのか


元スレ
SS速報VIP:高森藍子「マーキング」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483199905/