SS速報VIP:李衣菜「…ここどこ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484142174/



1: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:42:54.47 ID:rRiEBhHTO

アニメ準拠はほとんどありません
草は生えてませんが気分を害された方がいらっしゃったら大変申し訳ありません
設定がガバガバなのと↓のssの続きです
※仮面ライダー×モバマスです
卯月「…ここ…どこ…?」
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1480939100/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484142174




2: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:45:13.42 ID:rRiEBhHTO

「…」

その少女は、音楽が好きだ。

その少女は、楽器が好きだ。

楽器を弾ける人間が、好きだ。

「…」

自分が弾けるのなら、尚良し。

しかし、彼女は楽器が弾けない。

持ってはいるが、弾いた事はほとんど無い。

勿論、手入れもしていない。

だが、彼女は楽器が好きだ。

いつか立派に弾けるようになりたいと願い、部屋の片隅に置く。

やることがなく、ごく稀に楽器に触れても、時間は5分と持たない。

音楽に関する知識が乏しく、覚えることが山ほどある為、どうにも構えてしまうからだ。

しかしながら、彼女の「それ」を知っている人間は限られる。

友達と、親。

彼女と二、三会話すれば何となく察する事は出来るが、多くの人間はそこまでいかない。

しかし彼女には不特定多数の人間と話す機会が多い。

「…えええ…ホント何処なのここ…?」

そんな彼女、多田李衣菜の職業はアイドル。

そしてその売り出し方は、「ロック系」だ。



3: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:47:40.96 ID:rRiEBhHTO

目をこすり、自分が今見ているものが幻だと願い、もう一度、見る。

そしてもう一度、パニックになる。

ただあたふたする李衣菜の目の前に映る光景。

それは、いつもと特に変わりのない日常風景。

ではなく、何処かも知らない街中。

「…あれー…?」

喫茶店や、コンビニもある。

自動販売機もあれば、アパートもマンションもある。

しかし、一つだけ、違和感。

「…えっと…誰かー!!誰かいませんかー!?」

少なくとも今自分の目に映る光景の中には、人っ子一人、いない。

人の気配も無ければ、動物の気配も無し。

「…って何この格好…」

誰もいないせいか、少しでも冷静さを保とうといつもより多めに呟く。

しかし、確かに今、彼女が着ている衣服は誰が見ても二度見してしまいそうな状態だった。

「…軍人…?」

迷彩のズボンに、ブーツ。

黒のランニングに、手袋。

「…あ、ブラジャーはある…良かった…」

露出度が高いからか、少々気になるところは、思春期真っ盛りの女子高生らしい。

しかし、彼女にはもっと気にすることが、かなり、あった。



4: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:48:38.13 ID:rRiEBhHTO

「…」

まず、ここが何処なのか。

そして、何故自分はここにいるのか。

誰が、自分をここへ連れてきたのか。

何故、この格好なのか。

皆は何処にいるのか。

挙げればきりがない疑問。

答えを知ろうにも、ここには話し相手すらいない。

「…とりあえず、交番探さなきゃ…」

こういう時は警察に頼るのが一番。

常識的に考え、彼女は歩き出した。

「…ぉわっ!!?」

しかし、彼女の第一歩は何かに阻まれ、つまづいてしまった。



5: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:50:47.14 ID:rRiEBhHTO

「……何なのぉ…もぅ…」

誰かに見られる事すらなく転び、誰にもリアクションを取られる事なく悲しげに呟く。

いざ歩かんと思った瞬間、何かに足を取られ転んでしまった。

「…?」

目をやると、そこには鉄製のケースがこれ見よがしに落ちている。

「…スマート…ブレイン…?」

読みづらかったものの、SMART BRAINとデザインされたそのケース。

「落し物かなぁ…?」

聞き覚えの無い会社ではあるが、何処かの人間が落としたものなのかもしれない。

「交番に持ってかなきゃ…」

元来のボランティア精神が彼女にそう囁き、それを持ち運ぶことにした。

「…人いるかなぁ…?」

それが、始まりの合図だとも、知らずに。



6: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:52:23.25 ID:rRiEBhHTO

…。

「交番だとよ!聞いたかガテゾーン!」

「…おーおー。優しいこって…」

「ケケケッ。それにしてもあのガキ、見事に持っていきやがった」

「しかし身体の変化にゃ気づかねぇか。頭思いっきりコンクリートにぶつけて痛くも痒くもねえってのに疑問も無えのか?」

「そりゃあいつがバカなガキだからさ。それよりガテゾーン!」

「何だよ」

「この作戦には俺も協力してやってるんだ!手柄の独り占めなんてさせないぞ!」

「そんな事気にしねえよ。好きにしろ」

「…全くお前も相当だな…」

「何か言ったか、ゲドリアン」

「何も。…それより何だあの格好は。わざわざあそこまでお膳立てしてやる必要も無いだろ!」

「良い格好じゃねえか。アイドルやってるだけあって早速着こなしてやがる」

「そういうことじゃない!マリバロンよりも早く!結果を出したいんだ!あんな服に着替えさせる為だけにもう…まる二日…も!無駄にしたんだぞ!始めたのはこっちが先なのに!!」

「他の奴のはどうだ?…お?こいつは…いやこれはこれで中々…」

「話を聞け!!!」

…。



7: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:54:05.27 ID:rRiEBhHTO

何処かも知らない街中を歩き続け、また違和感を感じ始める。

人の気配が無いのは、もう理解した。

しかし、その割には随分と建物が綺麗になっている。

人がいない建物は段々と草木が生え自動的に廃墟と化していくものだが。

ここら一帯はまるでつい先程まで人が存在していたかのような、そんな風に見える。

「…神隠し…なーんて…」

小刻みに震え出した脚を無理矢理歩かせ、ロボットのようなぎこちない動きになりながら、彼女は探索を開始した。



9: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 22:56:31.74 ID:rRiEBhHTO

「…うーん…」

歩いてすぐ、目的地である交番は見つかった。

だが、予想通りそこにも人はいない。

「…中で待つかぁ…」

致し方なく、引き戸を開け中に入る。

特に何の変哲もない、見慣れた交番。

中までまじまじと見るのは初めての光景だが、決して珍しい事ではない。

ただ、人がいないというのを除いて。

「…」

流石に一人語りが面倒になったのか、パイプ椅子に腰掛けたまま黙りこくる。

「…んー…携帯も無いしなぁ…」

衣服も変えられ、携帯も無く。

やることもなく退屈になったのか、机に肘をつき、待つ。

「…うーん…」

…。

「…んー…」

…。

「…」

…。

「zzz…」

…。



11: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:16:51.16 ID:rRiEBhHTO

…。

「おいガテゾーン!!何なんだコイツは!!」

「あ?」

「あ?じゃない!!何十分も待って、終いには寝てしまったぞ!!」

「そうだな」

「一体お前は何を考えているんだ!そもそもあいつはあのカバンを開けることすらしてないぞ!!」

「そうだな」

「あのままじゃあいつはあそこで何時間も寝続けるぞ!…どれだけ緊張感が無いんだ!!?」

「そうだな」

「そうだなってのはそんな便利な言葉じゃない!!!」

「俺が選んだ基準。お前に分かるか?」

「…何?…フン!どうせ好みの顔だとかそんなもんだろ!!それとも違うのか!?」

「馬鹿を言え」

「…ほう。ならば教えてもらおうか!奴を、あのグータラを選んだ理由を!!」

「顔だけじゃねえよ」

「お前が一番の馬鹿だろうが!!!」

「…奴は、必ずアレを使うさ。何せここは…」

「…サバイバル空間…という奴か」

「そうさ。確かにあのガキはあんなふざけた奴だが、本当は違う」

「…マリバロンと違うやり方。とかほざいてたな」

「マイナスの感情を増幅させ、洗脳する。それも悪くはねえがそれじゃあ限界もあるってもんだ」

「…」

「奴らはいつもプラスの感情で強くなっていった。スペック以上の力を発揮して、進化していった」

「…」

「…っていうわけだ」

「…あいつに…か?」

「そうだ。それも誰かを守りたいという、正義のヒーロー様特有の自己満足…まあ本分ってやつだ」

「…仮面ライダーには、仮面ライダー…成る程…」

「何だっけな…確か、アレの本来の持ち主の信条…」

「…」

「…弱気を助け、強気をくじく。だったか?」

「…ほう…」

「…」

「…」

「…」

「…だったらさっさとアイツを起こせ!!いつまでガキの寝顔見てなきゃならないんだ!!!」

「夢がねえなぁ」

「ああああああああああこの変態サイボーグがああああああああ!!!」

…。



12: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:18:08.60 ID:rRiEBhHTO

「…」

あれから、どれくらいの時間が経ったのか。

「…」

変な体勢で寝ていたせいか、頬が若干痛む。

だが、彼女がしかめっ面をしているのは、そのせいだけではない。

「…」

恐らく、数時間。

誰もいない所に放り込まれ、孤独を味わい続ける。

次第に貧乏揺すりが激しくなっていき、第三者が見れば一瞬で分かるほどストレスが溜まっている事が見受けられる状態となった。

「…」

孤独は段々と不安を煽りだし、彼女から余裕を奪っていく。

「…ッ!!」

そして、ストレスが頂点に達した時、それは小規模の爆発を起こした。

交番の中の机を叩き、怒りを露わにする。

「…え…?」

そして、気づく。

「…は?」

痛みの無い、自分の小さな拳。

それと違い、ヒビ割れ、凹んだ机。

「…何?…これ…」

そして、思い出す。

先の自分の、おかしな部分。

躓き、転んだ。

一言で表せば何てことのない日常の一コマに過ぎないが。

しかし、ただ単に転んだのではない。

頭から思い切り、地面に激突した。

「…」

凄まじい激突音。

友達が見ていたなら、間違いなく救急車の手配をするかもしれない程の出来事。

だが自分は全く意に介さず、起き上がって歩き出した。

「…何なの…これ…」

異常なまでに強化された、己の肉体。

ここに来てようやく彼女は、自分の変化に気づいた。



13: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:20:20.87 ID:rRiEBhHTO

『♪』

「うわっ!!?」

呆気にとられた瞬間、間髪入れず訪れる。

ケースの中から聴こえてくる、メロディ。

「…?」

チープな、昔のおもちゃのようなメロディ。

その音を発する物が何なのか分からなかったが、ケースの中に入っている事から推測する。

「…ケータイ?」

自身のプロデューサーも、会社用の携帯電話を所有している。

最も、彼女が取り合う連絡先は彼の本来の方であるが。

しかし、そういったことは他の会社では中々ない。

つまり、このケースに入ったそれは、恐らく会社用のものなのだろう。

「…困ってる…のかな…?」

もしかしたら、本来の持ち主がこれをこれを探し求めて決死の思いで電話しているのかもしれない。

もしくは、会社の人間が一早く事態を察知し連絡してきたのか。

『♪』

「…」

鳴り続ける携帯電話に、果たしてどちらが良心的なのか、必死で考える。

ケースを開けて電話を取るのか、取らずに放っておくのか。

「…中、見なきゃ良いよね…」

連絡を取って、このケースを取りに来てもらう。

そのことよりも、今はとりあえず会話する相手が欲しい。

それが見知らぬ男であれ何であれ、彼女は目を閉じてケースを開け、携帯電話だろうそれを手の触感のみで探る事にした。

…。



14: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:21:48.22 ID:rRiEBhHTO

「悩んでもしかたないー…」

李衣菜と時を同じくして、一人の少女がスキップしながら無人の道を進んでいた。

「ま、そんな時もあるさー…」

普段より幾分か低いテンションで自身が知っている歌を口ずさむ。

何処を見渡しても、自販機の裏にも、マンホールの下にも、公衆トイレにも、誰もいない。

その静かな世界に、流石の彼女も段々と精神が削られていく。

「…」

やがてスキップする足も止め、普通に歩き出す。

その右手には、李衣菜と同じスマートブレインのロゴが刻まれたケース。

「…」

彼女もまた、李衣菜のように落し物と勘違いし、一応交番に届け出ようとしていた。

だが、こうも人とすれ違うことすらないというのには違和感を感じ始める。

「…開けちゃおうかな…」

悪い事だというのは分かってはいても、正直それどころではなかった。

まず、自分は誘拐された。

そして、妙な服に着替えさせられ、何処かの道端に捨てられた。

挙げ句の果てに、誰も自分を助けなかった。

そこに、この落し物。

本来は持ち主に届けるのが筋だが、この仕打ちを笑顔で済ませる程、彼女、藤本里奈は歳を重ねていない。

「…見ーちゃお…」

その場にしゃがみ込み、おそるおそるケースの蓋を開けることにした。



15: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:23:41.08 ID:rRiEBhHTO

「…んー…?」

その中に入っていたのは、一言で表すならば。

「…え?おもちゃ?」

折りたたみ式の携帯電話に、妙なベルト。

色は、青と、白。

見た目は正直、子供が遊ぶような、玩具。

「…説明書…?」

その二つの下に、一枚の説明書。

「…んー…」

だが、その説明書はどう見ても子供に読ませるレベルのものではない。

「…えっと…え?英語ばっかー…ムズイ漢字ばっかー…分かんにゃーい…」

恐らく携帯電話の設定コードだろう説明部分に目を凝らし、最初に書いてあるボタンを押す。

「…えーと…まず、3…」

そして、もう一つ。

「…1…」

ボタンを入力していく。

だが、そこでもう一つの入力コードに気づく。

「…緊急連絡?」

説明書の片隅に書いてある、緊急連絡という項目。

「…えーと…5…5…5…で…ガラケー久しぶりー…」

書かれてある通りに番号を押す。

『♪』

「お!かかったー?」

他のそれらとは違う、番号。

11桁のものではなく、たったの3桁。

他の携帯電話とは違う。

そういうことなのか。

「…」

しかし、この連絡がどこに繋がるのだろうか。

「…んー…」

何処かの会社に繋げられ、引き取りにでも来るのか。

はたまた、別の誰かと話す事になるのか。

「…出ない…」

精神的に追い込まれている分、いつもよりせっかちになっている。

「…」

後3コールかかって出なければ、切ってしまおうと思い始める。

「…いーち…にーい…」

…。


「…さー…」

『…』

「!」



16: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:24:47.69 ID:rRiEBhHTO

突如鳴り止む、呼び出し音。

そして聴こえる、微かな吐息。

「…もしもーし…」

『…も、もしもし?』

相手は、女性。

恐らく自分とそう変わらない、年齢。

「えっとー…」

『…こ、このケータイの持ち主さんですか?』

「え?」

『え?』

「…アタシ、違うよー?」

『…え…』

それにこの声は、何処かで聞いた気がする。

記憶に新しい、明るい声。

「…」

『あの、スマートブレインの方じゃ…?』

自身の頭の中を探る。

ユニット。

違う。

友人。

違うプロジェクト。

ヘッドホン。

「…もしかして、だりなちゃん?」

『…え…』

「…アタシ」

『…里奈ちゃん?』



17: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:26:24.74 ID:rRiEBhHTO

『な、何で?…どうして里奈ちゃんが…?』

「アタシも分かんにゃい…でも良かったぁ…!…あ、良くない…」

話せる相手がいた。

それも、それは自分の知り合い。

孤独な今の世界で、これ程心強いものはない。

だが、それは同時に、彼女も自分と同じ目に遭っているということ。

李衣菜もまた、誘拐され、この格好にさせられたということ。

それは、良くない。

「…今何処?近くに何かある?」

『えっ…えっと…交番…』

「交番?」

『うん。でもここ自体何処か分からないし…』

「…んー…」

『…?誰か来たみたい…』

「…ん?」

『えっ…?な、何!?』

「え?」

『ちょ、ちょっと!!何!?え!?』

「だ、だりなちゃん!?」

『ご、ごめん!!掛け直す!!』

「だりなちゃん!!だりなちゃん!!?」

『…』

「ちょっと!!もしもし!!?ねえ返事して!!」



18: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:27:29.83 ID:rRiEBhHTO

…。

電話が一方的に切られる。

返事が無いことが信じられず、必死で呼びかける。

「…折角会えそうなのに…!」

まず、ここが何処なのか。

そして、李衣菜は何処にいて、何処に行ったのか。

現状を把握する為、里奈はケースとともに立ち上がる。

そして、目に入る。

「…?」

説明書の一番はじめに書いてある、項目。

「…変身シークエンス?」

それは、先程里奈が押そうとしたコード。

315と入力し、ベルトに装填。

ただそれだけ。

「…あ!だりなちゃんだりなちゃん!」

しかし今の彼女にとっては、どうでもいいこと。

李衣菜を助けるべく、急いで走り出した。



19: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:28:46.95 ID:rRiEBhHTO

友人と、たった少しの間だが繋がっていることを感じた矢先、李衣菜は面倒事に巻き込まれてしまっていた。

「対象発見!直ちに撃破する!」

「何?何!?何これ!!?」

それは、2mはあるだろう巨大なロボット。

数百メートル離れた所からでも分かる重戦車のような見た目は、どう見ても丸腰の人間には倒せないだろう頑強さを感じさせる。

「実験体5号、多田李衣菜!」

「だ、誰!?」

「我が名はキューブリカン。怪魔ロボット大隊最高傑作。ガテゾーン様からの命により、貴様を撃破する」

「げ、撃破!?何で私!?」

「全てはクライシス帝国の為。実験体5号、死にたくなければ変身して戦え!!」

「!?」

突然の事に、頭が回らなくなる。

目の前に現れた喋るロボットは、こちらの意思とは関係なく戦おうとしている。

だが、ロボットはおろか人間すら殴ったことがない李衣菜には、戦うなどという選択肢は無い。

「じ、実験体って何!?何かの実験!?」

「貴様が戦う意思を見せなければ、死ぬだけだ」

こちらの言葉など聞く耳持たず。

キューブリカンは両腕や両肩、胸部につけられた武器をこちらに向け、狙いを定める。

あまりの理不尽さに為す術なく、李衣菜はキューブリカンに背を向け、脱兎の如く逃げる。

「逃がさん!!」

その言葉とともに、彼の武器が容赦無く一斉射撃を始める。



20: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:29:36.67 ID:rRiEBhHTO

「無理無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!」

生まれて初めての経験。
普通に生きていれば、することはない経験。

彼女の背後で、様々な無機物が破壊されていく。

郵便ポスト、自動販売機、ガードレールや看板。

彼の放つ弾丸は、それら全てを貫き破壊する。

これはドッキリなどではない。

本当にあのロボットは、自分を殺すつもりで攻撃を開始している。

死にたくない。

その言葉だけが李衣菜の頭を支配し、本能的に走らせる。

その逃げ足がどれ程驚異的に速いか、理解出来ない程に。

「やだああああああああ!!!死にたくないいいいいいいい!!!!」

キューブリカン自体の移動速度は、さほど速くはない。

だが、そこから放たれる弾丸の速度は、人間が開発したそれとは段違いのもの。

いくら李衣菜の脚が速くなっていても、避けきることは不可能だった。



21: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:30:41.13 ID:rRiEBhHTO

「ッ!?痛ったぁ…!!!!」

太腿と、二の腕。

それぞれを弾丸が掠める。

しかしその傷口は深く、ナイフで切り裂かれたかのように血が吹き出す。

「痛いよう…誰か助けてぇ…」

止まらない血と、涙と鼻水。

何とかキューブリカンのセンサーに反応しない位置まで逃げ切る事には成功したものの、打開策は思いつかない。

いつかは彼のセンサーが自分を捉え、再び攻撃を始める。

あの威力ならば、ビルの外壁程度なら余裕で貫通出来るだろう。

つまり、逃げ続ける事は物理的に不可能。

血の出方からして、弾切れを待つ事も難しい。

仮にそれが出来たとしても、肉弾戦をする元気も逃げる余裕も無いだろう。

このまま二十歳を迎えることなく自分は死んでしまうのだろうか。

「…やだぁ…」

彼女にも、人並みの夢がある。

アイドルとして成功することも、女性らしく恋愛することも、結婚し、子を産むことも。

「…」

その時、ふと目に入る。

「…これ…」

無意識に手に掴んでいた、ケース一式。

そしてキューブリカンの言葉を思い出す。

変身して戦え、と。

自分の耳が腐っていなければ、そう言い放った。

「…そういえば…」

先の里奈との電話の時、目を開けてはならないと思っていたが、あまりの嬉しさに見開いてしまった。

そして、見えた。

ケース内の説明書の、変身シークエンスという項目。

記憶力は良い方ではないが、物珍しさからどうにも覚えていた。

「…」

導かれるように、手を伸ばす。

ベルトと、携帯電話と、奇妙な道具。

そして、覚えている限りのコードを押す。

『5・5・5』



22: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:33:13.81 ID:rRiEBhHTO

『STANDING BY』

大きく鳴る、機械的な音声。

それは恐らく、戦いの合図。

「…」

ベルトを腰に巻き、開いた携帯を閉じる。

「…」

これが正しい決断なのかどうかは、分からない。

だが、これ以外に選択肢は無い。

里奈の助けを待つなど、彼女には無い。

友人が傷つくなら、自分が傷つく方を選ぶ。

「…ッ…」

呼吸の乱れは、疲れたからではない。

「李衣菜…」

自分に語りかける。

震える脚を押さえつけ、歯を食いしばる。

「…行くよ…!!」

そして一気に、ベルトに装填。

「…ッ!!…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!!」

直後に来る、痛み。

傷口が染みるなどというものではない。

肉を抉られ、ほじくり返されるような痛み。

具体的に言うならば、内側から急激に吸い込まれている感覚。

「…!!…ッッ!!?」



23: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:34:12.88 ID:rRiEBhHTO

痛みに悶え苦しむ中、傷口を見る。

そして、目を疑う。

あれ程流れていた血が、止まっている。

それどころか、流れて固まった筈の血さえも消え、見えるのは裂けた己のピンク色の肉のみ。

毛細血管すら、透明になっている。

そして、理解する。

今、吸われていると感じているのは、錯覚ではないということ。

己の腹部を見ると、良く分かる。

真っ赤な液体が、ベルトの中心部に集まっている。

そして循環器のように、再度放出している。

放出された液体は、血液よりもさらに赤く、線となって身体の末端神経まで行き渡らせる。

痛み。
苦しみ。

それだけではない。

身体が、異常に熱い。

その赤い線が行き届いた部分から熱が発生し、蒸気を発している。

「…!!!?…!??」

最早、叫ぶことすら出来ない。

あまりの辛さに、コンクリートの床を叩く。

叩いた箇所から凹み、ひび割れていく。

「…ッッ…ああああああああああああ!!!!」

うずくまる彼女に追い打ちをかけるように、焼けるような熱さがベルトから伝わる。

だが、意識は途切れない。

何かが、自分を無理矢理戦わせようとしている。

「…!?」

そして、苦しみの最中、彼女は見た。

赤い光が、携帯から放たれる、その瞬間を。



24: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:35:43.90 ID:rRiEBhHTO

…。

「…お、おい!ガテゾーン!どうなってる!?何だこれは!?」

「何がおかしい?」

「あれは仮面ライダーのベルトだろ!?何故変身するだけであんなに苦しむ!?」

「そりゃそうだろ。お前報告書も読んでないのか?」

「報告書って…!そ、それは…」

「ありゃあ人間が変身するにはちっとばかし条件が厳しくてな」

「…それは何だ?」

「お前は少しは書類ってもんに目を通せ。それでも幹部か?」

「ええい!!勿体ぶってないで話せ!!」

「…死。だよ」

「…あ?」

「死だ。あのベルトが必要としてるのはな。…最も、それはあくまで第一段階に過ぎない…が」

「…は!?そ、それじゃあ実験どころじゃないだろ!!」

「まあな。だから俺はあのベルト達をちっとばかし改造した」

「…?」

「犠牲にするもんを軽くしたのさ」

「…それは?」

「血だよ」

「それが、代わりになるのか?」

「まあ、大量だがな。それらをベルトの中で循環させ、フォトンブラッドに変え身体に行き巡らせる」

「…そうすると?」

「出来るってわけだよ。戦うお姫様が。まあ、変身する度面倒な事になるだろうが、な」

「…」

「…まあ、戦えるかどうかはあのガキ次第だがな…」

「…」

「気絶はさせねぇ。最強の兵器として少しは意地を見せてもらうぜ…」

「…良い趣味してやがる…」

…。



25: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:36:59.65 ID:rRiEBhHTO

「センサーに、反応…」

自身が張り巡らせたセンサーに、人間の反応。

だが、今のキューブリカンにはその必要はなかった。

「…あれは…」

数キロ先で突如光り輝いた、赤。

自身が教えられた情報が正しければ、あれはベルトの光によるもの。

「…実験体5号…ん?」

そして自分の機能に狂いが無ければ、センサーに感知された反応が、凄まじいスピードでこちらに迫ってきている。

そのスピードは、虎やヒョウなどのものではない。

それを遥かに凌駕した、獣。

獣というよりは、化け物。

「…来い…!その力を見せてみろ…!!」

それは、かなりの速度で走っている。

「…?」

そして、疑問に思う。

実験体達のスペックはメモリーカードに記録されている。

それ以上も、それ以下も記録はされていない。

だが、このスピードは、聞いていたものとは違う。

「…100m…5.8秒…だがこれは…」

それの二倍、三倍。

それどころではない。

十倍、以上。

「…!?」

だが、気づいた時には既に遅かった。

いつの間にか、目の前まで、それは迫っていたのだ。



26: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:37:51.04 ID:rRiEBhHTO

「ッ…!!」

赤い、レーザー。

弾丸よりも速く、それは自身の中心部を狙っている。

だが、それを避けるには自分の移動速度はあまりにも遅い。

「…ガッ…!」

そして、喰らう。

痛みは記録され、メモリーに植え付けられる。

だが、その記録は更新され続ける。

頑強であるはずの自分の身体が、痛みを訴え続けている。

その痛みを訴えているのは、装甲ではない。

身体の内側。

内側に向かってドリルを突き立てられているような感覚に陥る。



27: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:39:04.30 ID:rRiEBhHTO

「…な…ぜっ…!!?」

赤いレーザーが直撃した後、遥か彼方から来る人影に気づく。

「…キッッ…サマァ…!!」

先程、自身の攻撃から逃げ惑っていた少女。

涙を流し、鼻水を垂らして泣きじゃくっていた弱々しい、人間の子供。

しかしその形相に、先の印象は消える。

鬼のような形相の、突撃。

間違いなく、こちらを攻撃するつもりだろう。

そして、生かして帰すつもりも、毛頭、無いのだろう。

「…!!…!?」

体の自由は最早効かない。

武装の制御も全く効かない。

攻撃はおろか、防御も不可能。

「ガテゾーン…様…!!」

打開策をメモリーから検索するも、結果は0。

ならば、何故彼女の放った攻撃がセンサーに反応したのか。

だが、それを考えた時、自身の敗因を理解した。

ガテゾーンの実験においての、不都合。

変身する為の、条件。

ガテゾーンによる、改造。

血液。

循環。

だが、それは血液。

熱を帯びた、血。

人間の細胞にいち早く反応する己のセンサーの性能をこれ程恨んだことはない。

「申し訳…ありません…!!」

自身が仕える幹部への心痛の念。

それが意味するものは、敗北。

「でえやああああああッッ!!!!」

その言葉を最後に、彼のメモリーは赤く光る記号の刻まれた靴を記録して、その機能を停止した。



28: ◆GWARj2QOL2 2017/01/11(水) 23:40:37.21 ID:rRiEBhHTO

「ハアッ…ハアッ……ハッ…!」

変身直後に己の頭を襲った、激痛。

何かが自分の脳に直接映像をねじ込んできた。

このベルトの使い方。
敵の倒し方。
サポートメカの活用。

それらを無理矢理詰め込まれ、そしてはっきりした視界。

数キロ先まで見え、聴こえる、感覚。

李衣菜は感じ取ったまま、ケースに入っていた付属品のレーザーポインターを取り出し、携帯のカバーらしきもの、ミッションメモリーを装填。

そのまま右足に装着し、携帯のボタンを押した。

流れる音声とともに、標的に向かって、放った。

「ハーッ…ハーッ…」

己の放った攻撃で、灰塵と化したキューブリカン。

誰が見ても分かる、勝利。

だが、李衣菜は困惑していた。

これをやったのが自分だということ。

機械相手とはいえ、命を奪ったということ。

だが、やらなければ、自分がやられていた。

だが本当に、これしか方法がなかったのか。

「ハー…ハー……ッ!?」

変身が解かれると同時に、急激に冷える身体。

まだ想像でしかないが、極限まで吸われただろう、血液。

そのせいか、視界がぼやけ、足元が定まらない。

やがてぐらつき始め、その場に倒れる。

コンクリートの大地に顔を伏せ、力なく身を任せる。

このまま自分は死ぬのだろうか。

そんな思いを抱く。

「…」

あれは幻だろうか。

それとも、現実だろうか。

後者ならば、これ程嬉しい事は無い。

「…」

視界の端に映る金髪の少女に李衣菜はほんの少し微笑み、意識を失った。

第一話 終



35: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:15:16.14 ID:gex3pyg2O

「…」

暗闇の中で、彼女は一人佇んでいた。

「…」

特に何も考えるわけでもなく、ぼおっと、立っていた。

「…」

あまりの現実離れした出来事や、死ぬ程の痛みを味わった事。そして死ぬ程流し、失った血のせいで脳が考える事をやめた。

「…」

もう、このままでも良いと彼女は思っていた。

音楽やアイドルへの情熱よりも、友達よりも最も大事なもの。

「生きる」という選択肢を、彼女は放棄しようとしていた。

このままここで死に直面し続けるのならば。

「…」

いっそこのまま眠るように、と。

「…?」

だが、それを許さない者が、一人。

『なちゃん…』

「…?」

誰だろう、と声のする方向に耳を傾ける。

『りなちゃん…』

その声は努めて優しく、何度も此方側に語りかけている。

『だりなちゃん』

母親が産まれたての赤ん坊に呼びかけるように優しく。

『だりなちゃん』

この世に生まれでて欲しいかのように。

「だりなちゃん」

「!」



36: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:16:06.98 ID:gex3pyg2O

「…」

暗闇に、光が差し込む。

その眩しさに、思わず手で避ける仕草をする。

「…」

そしてそれが、現実である事に気づく。

「…」

目を閉じ続けていたせいか、朝日の光が眩しいだけだということに、気づく。

「…ん…」

身体を起こそうとするも、力が湧かない。

嫌な夢を見たものだと、少しため息をつく。

力が湧かない為、 目だけで周囲を伺う。

そしてあまりの気だるさに、母親を呼ぼうかと考えていた時、その光景が目に入った。

「…あれ…?」

見慣れない、天井。

辺り一面が真っ白な、光景。

情報を仕入れようと、様々な方向に目をやる。

包帯。

消毒液の匂い。

何かの機械。

「…」

恐らくここは、何処かの病室。

それだけは、今の李衣菜にも理解出来た。

そして。

「…え…?」

自分が寝ているだろう、ベッドのすぐ横。

そこに、彼女はいた。

「…あ…」

俯き、涙を流す、金髪の少女。

「…里奈…ちゃん…?」

「…!」

自分の声にすぐさま反応し、顔を上げる。

その表情からは、普段の明るい彼女は見当たらない。

目にクマを作り、泣き腫らした弱々しい、ただの一人の少女だった。



37: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:17:03.34 ID:gex3pyg2O

「…良かったぁ…良かったよぅ…」

自分が起きたことでまた泣き始めた、彼女。

普段のメイクも取れ、多少は違うものの、藤本里奈に間違いなかった。

「…本当、ありがとね…」

「良いのぉ…アタシももっと早く来てあげられなくてごめんねぇ…」

彼女は、衰弱しきった李衣菜を担ぎ、近くの病院まで運んでいた。

しかしそこにもやはり人はおらず、致し方なく病院にあった道具で李衣菜に応急処置を施した。

しかしその程度で治るようなものではないということは百も承知であった。

だが、自分に出来ることは何でもしようと、一晩中李衣菜を看病し続けていたのだ。

泣きじゃくりながらも、必死に李衣菜の手当てを続け、ついには自分の目にクマを作る程にまでなってしまっていた。

つまり、夢だと思ったあれは、夢などではない。

この身で体験した、現実。

「私…何が何だか、分からなくてさ…」

しかし里奈のおかげか、何とか一命は取り留めた。

「…」

だがそれでも、絶対安静には変わりない。

「だりなちゃん。何か欲しいものある?」

「え?」

「何でも良いよ。持ってくるから」

自身の身体よりも、目の前のケガ人を優先する。

その優しさのせいで、既に彼女も幾分か調子が悪そうではあるが。

「…なら、里奈ちゃんがぐっすり寝てくれたら良いかな…」

「そんなの良いよ!アタシ全然元気だもん!」

そう言って、笑顔を作る。

だが、その笑顔は到底笑顔とは呼べない代物。

自身のプロデューサーが見たら、無理矢理にでも仮眠室に連れていくレベルのものだ。

「…里奈ちゃんの身体が壊れる方が、嫌だよ」

「元気元気!ほら、ね?」

心配させまいと、必死に取り繕う。

その姿が、今の李衣菜には一番嫌だった。

「…えっと…」

「あ!じゃあお肉!お肉食べよ!すぐ作るから!」

「あ…」

「待っててね!すぐ戻るから!」



38: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:18:02.76 ID:gex3pyg2O

「…」

手を伸ばしたが、あまりにも弱々しかった為に気づいてはもらえなかった。

里奈は恐らく病院の調理場に向かったのだろうか。

「…」

誰もいないこの世界では、最早あれはダメ、これはダメという事などは言っていられない。

他人の物に手を出すなど、普段の彼女達ならば絶対にしないことだが、背に腹は変えられない。

「…」

しかし、李衣菜が気にしているのは、それではない。

自分の看病の為に無理をし、自身の信条さえも破る里奈の姿に対し、ただただ、申し訳ないという、悲痛。

その身を犠牲にしてまで助けてもらう価値が、今の自分にあるのだろうか。

寝たきりの、静かにしか話せない自分に、そこまでされる価値があるのだろうか、と。

「…情けないなぁ…」

里奈を傷つけさせまいと誓ったはずが、ここまで追い込んでしまうという結果になった。

「…はぁ…」

ため息は幸せを逃す。

分かってはいても、つかずにはいられなかった。

「…」

その上、頭の中とは裏腹に、鳴り続ける、自身の胃袋。

恐らくこれを聴いて里奈は調理場にすっ飛んでいったのだろうと、余計に恥ずかしさを感じる。

だが、ここで不貞腐れて寝ていたところで、何も始まる訳でもない。

第一、里奈にまた心配をかけてしまう。

「…」

まず、お互いが元気になること。

その為に、李衣菜は里奈が戻ってくる間、力が湧かないながらも表情筋に鞭を打ち、必死に笑顔を作り出していた。



39: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:18:57.60 ID:gex3pyg2O

…。

「フン…第一段階は終了というわけか?ガテゾーン」

「どうだかな。何にしても状況が悪過ぎた」

「だがあいつはお前の目論見通り進化したぞ?大事な大事なお仲間を守る為になッ!ひゃははははは!」

「…しかし、ありゃあ驚きだ」

「あ?」

「普通、あそこまで傷つけられりゃ大概のやつは保身に走る。例え対等に戦える力を身につけられても、トラウマに見えちまってな」

「…」

「ところがどうだ。あのガキ、キューブリカンに向かって思いっきり突っ込んできやがった」

「頭のネジでも外れたんだろ。もしくはさし違えてでも倒すか」

「…本当にそうか?」

「…何が言いたい?」

「…本来は、あのキックの威力じゃキューブリカンの装甲には傷一つつけられやしねえ」

「…?」

「だが奴は殺した。一撃でな」

「…どういうことだ?」

「それが奴らの特殊能力、毒だ」

「ほう。毒…」

「毒を体内に流し込み、内側から破壊する。…ある意味、RXのリボルケインに似た部分がある」

「それはつまり…お前の自慢のロボット軍団だろうが関係無いということか?」

「…」

「…」

「…倒せる自信があったから、突っ込んでいったんだろうな」

「…」

「武闘派な姫さんなことだ」

「…」

「…俺の選んだカードは、もしかしたらジョーカーかもしれないな…」

「…他の実験体はどうなってる?」

「今から見るさ。…まだ寝てるバカもいるみたいだが…」

「…」

「…あ?」

「ん?……!?」

「…おいおい、嘘だろ…?」

…。



40: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:19:38.63 ID:gex3pyg2O

「美味しい?だりなちゃん」

「うん。おかげで力が湧いてきたよ」

「そんなすぐ治らないよ!ちゃんと寝てなきゃ!」

「んぐ…」

里奈が戻ってくる頃には幾ばくか冷静さを取り戻した。

彼女は今の自分が一番食べやすいだろうスープを作って持ってきた。

それを老人に与えるかのようにスプーンで掬い、李衣菜の口に運ぶ。

一口一口、ゆっくりと噛み締め、味わう。

血肉を求める己の身体が、美味い、と。もっと欲しい、と。

身体の奥底から訴え、口を自動的に開けさせる。

傷の痛みもいつしか和らぎ、ようやく少しの安心を手にすることが出来た。

「ご馳走様でした」

「エヘヘ…」

食えば、後は安静にするだけ。

今は一刻も早く、傷を治さなければならない。

「何かあったら言ってね?ずっとここにいるから」

里奈はそう言って、ベッドの近くの丸椅子に腰掛ける。

そっちこそ、休んではくれないかという台詞は、言わなかった。

堂々巡りになるだろうということが、分かっていたからだ。

「…ね」

「ん?」

だから、こうするのが一番なのだろう。

「…寒いし、一緒に寝ない?」

「…」

「お互い、早く元気にならなきゃ」

「…ん!」

この世界の今の気温は、恐らく20度を遥かに超えているだろう。

つまり、里奈を思いやった、李衣菜の優しい嘘だということだ。



41: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:20:22.76 ID:gex3pyg2O

…。

「…ッ…」

少女は、焦っていた。

「…ハァ…ハァ…」

起きた場所が、見知らぬ所。

妙なコスチューム。

見覚えのないケース。

何処にもいない、話し相手。

「…ハー…」

ではない。

それにはもう、慣れてしまった。

ならば、何か。

「…」

この、慣れない感覚だろうか。

黄色の線が入った、戦闘服のようなもののせいだろうか。

血の抜けていく、感覚だろうか。

血液が、圧倒的に足りないからだろうか。

「…」

それは、少し。

見たことのない、想像すらしない化け物を相手にしたからだろうか。

力を入れて殴り、蹴り、斬り伏せたからだろうか。

それも、少し。

「…何処だ…」

自分が相手にした、意思を持つロボットが、灰と化す前に話した事。

「…何処にいるんだよ…」

この世界にいるのは、自分だけではない。

自分の友人も、いる。

つまり、今自分の友人はこの世界の何処かにいて、自分と同じ目にあっているということ。

この痛みと恐怖を、味わっているということ。

「…お願いだから…!」

ならばどうか、無事でいて欲しい。

傷一つない、いつものままでいてほしい。

「…だりー!!何処だー!!!」

彼女の名は、木村夏樹。

李衣菜が羨望の眼差しを向ける、楽器を得意としたアイドルである。



42: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:21:09.18 ID:gex3pyg2O

気づいた時には、自分は既に何処か知らない街の中。

平日の深夜でも、早朝でもないというのに、行き交う人の姿は一人としていない。

当初はパニックになってしまったが、彼女の持ち合わせる性格が、少しして冷静さを取り戻させた。

そして先ずは、この世界の情報を把握するべきと歩き回った。

そして、誰かのイタズラでないことはすぐに理解した。

このような犯罪じみたことは、流石に誰もするはずがない。

とは言っても、この仕打ちを行ったのが誰なのかは、皆目検討もつかない。

「…」

歩き回る内に、喉も乾き、腹も減っていく。

自分がまだ死んだわけではないと、実感する。

だからか、尚更辛い。

一人静かな時間を過ごすのは好きだが、ここまで極端な程の孤独感は好きではない。

「…しょーがない…か」

財布があればレジカウンターに置くつもりだったが、それはおろか携帯も持ち合わせていない。

心の中で謝りながら、彼女は近くのコンビニから一番安い水と食料を手にした。

誰もいないのだから、という思いは勿論あるはずもない。

「…バイオハザードみたいだな…全く…」

もしかしたら、今は身を潜めているだけで、夜になれば化け物達が押し寄せてくるのだろうか。

そう思うと、気温の高さに関係なく身震いする。

「…」

改めて、持ち物を確認する。

食料と、水。

そして、誰の物かも分からない、分厚いケース。

スマートブレインという会社のロゴが刻まれたそれは自分が目覚めたすぐ隣に置いてあり、異質な存在感を放っていた。

「…」

中を確認したい思いもあるが、仮に何かの機密情報でもあれば、恐らく自分は見たことを後悔するだろう。

だがそれ以外に持ち合わせているものもある。

両手が塞がっている、という大義名分もある。

「…荷物入れるだけなら、いっかな…」

所詮自分は女子高校生。

小難しい書類の内容など分かるわけもないとケースを開ける。



43: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:21:55.58 ID:gex3pyg2O

「…」

蓋を開けて、一瞬、止まる。

中に入っていたのは、想像していたものとは遥かに違う。

「…何だこれ?」

それはファッションにするにはどうも似合わず、本来のそれの機能性も微塵も感じられないもの。

「…ベルト…だよな…?」

バックル部分には、何かを入れるのだろうケースがある。

それとサイド部分にも、何かをはめるためのものがある。

後ろで止めるタイプのベルトらしく、益々オシャレとは程遠い代物であると感じる。

「…んー…」

ここまで見てしまうと、どうにも気になる。

一番下に入っていた取扱説明書を取り出し、パラパラと捲る。

「…えーと…あ!ケータイ…」

それを読みながら、ケースの中を確認していくと、随分使いづらそうな折りたたみ式の携帯電話を発見する。

それを取り出すと、折りたたむものではなく、スライド回転させて使用するものなのだと気づく。

「…?」

そこにあった画面は、三つのコードの羅列。

これらのコードを押せと言わんばかりに表示されている。

「えーと…とりあえず…」

こういう時、誰に電話をすれば良いのか。

親、友人。

それよりも、もっと現実的な連絡先。

「…110…と」

警察に電話し、救助を求めるのが一番早い。

「…」

呼び出し音は鳴っている。

どうやら普通の携帯電話と同じ機能は持ち合わせているらしい。

「…」

だが、7コール目まで経っても呼び出し音が鳴るばかりで、誰も出ない。

「…やっぱ、人はいない…か…」

しかし、それは想像の範囲内。

ならば、と家族や友人にかけてみても、結果は同じ。

「…勘弁してくれよ…」

夏樹は力無く項垂れ、携帯を閉じた。



44: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:22:32.26 ID:gex3pyg2O

彼女の精神年齢は、見た目と裏腹に、随分と落ち着いたそれとなっている。

だからか、何かにそのストレスをぶつけることまではしなかった。

「…」

解放感を味わう。

そんな余裕など、勿論ありはしない。

「…どうすれば、いいんだよ…」

自分らしくない。

誰でも良いから、会いたい、話したい、接したい。

寂しさに耐えきれず、涙を流すなど。

「…アタシのキャラじゃ…ないってのに…」

年齢など、関係無い。

ただ、自分が許せない。

自分の弱さを、認められない。

それこそ子供らしいということは、まだ彼女は気付かない。



45: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:23:15.54 ID:gex3pyg2O

「…」

ふと、泣き止む。

そして、神経を研ぎ澄ます。

「…」

何か、こちらに向かってやってきている。

足音、ではない。

戦車のキャタピラのような、駆動音。

「…?」

ゆっくりと、振り向く。

「…!」

そして、目を見開く。

向こうからやってくる、それ。

一目見て分かる、生物ではない形。

「…」

そして、人の為に働くようなものではないだろう見た目。

腕、肩、胸部。

至る所に装備された武器。

武器というより、兵器。

「…誰だ?」

機械だからか、表情は読めない。

会話は可能なのかどうなのかも、分からない。

「…」

こちらに向かってキャタピラを動かすそれは、常に両腕に装備された武器を構えている。

「…誰だって、聞いてんだけどな…」

距離、20メートル。

そこでロボットは足を止め、両腕を一度下げる。

「…」

そして、こちらを見定める。

「実験体6号、木村夏樹、発見」

「…実験体?」

突如言葉を発したそれは、腕をぐるり、と動かし、言い放つ。

「我が名はクライシス帝国怪魔ロボット大隊、ガテゾーン様が最高傑作、ガンガディン!」

「…は?」



46: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:23:58.99 ID:gex3pyg2O

クライシス帝国。
ガテゾーン。
ガンガディン。

自分の人生では恐らく一度も聞いたことはない。

だが、彼は自分の名前を知っている。

そして、実験体6号、とも呼んだ。

「…実験?」

「貴様らはガテゾーン様の実験に選ばれた。名誉ある事だ」

「…」

貴様「ら」。

その言葉に夏樹の眉間に皺が寄る。

「…アタシ以外にも、いるってのか?」

自分が6号ということは、最低でも後5人はいるということ。

「…冥土の土産に教えてやろう。…貴様もよく知る人物達だ」

「…!!」

そしてそれは、自分の知り合い。

ということは。

「…だりー…か…?」

「これ以上はあの世で知るといい。貴様の友人もすぐに送ってやる」

「…泣いてる女に残酷な事言うもんじゃないと思うんだけどな…」

「死にたくなければ変身して戦え。ガテゾーン様からのお言葉だ」

「…変身?」

変身。

読んで字の如く、身を変えること。

勿論、自分にそのような経験も、力も無い。

「おいおい…アタシはアイドルであってヒーローじゃないぜ?」

「ならば死ぬだけだ。所詮貴様はそこまでの人間だったということ」



47: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:24:47.68 ID:gex3pyg2O

そして、再び両腕を上げる。

こちらに照準を合わせるような音が聴こえる。

「…」

もしも、自分以外がこのような目に遭っているのなら。

自分の相棒ともいえる存在の人間が困っているのならば。

ここで大人しく撃たれて死ぬのは、困る。

「…」

もしも経験の無い自分に、その力があるのならば。

その力は、間違いなくこのベルトと携帯。

「…」

自分は武闘派ではない。

避けられる衝突ならば、避ける。

自分が謝って済むのなら、謝る。

ただ、納得のいかない、あまりにも理不尽な問題ならば、それは別だ。

「…おい…」

「…?」

ベルトと、携帯電話。

二つを握り締め、ゆっくりと立ち上がる。

「…アンタらが誰かは知らないし、興味も無いし。どうでもいいんだ。正直」

「…」

ベルトを装着し、向き直る。

「…でもさ、バカだよ。アンタら」

「…何?」

そして、携帯のボタンを押す。

『9・1・3』

「…アンタら、人間の事を知らないんだ」

「…?」

『STANDING BY』

「…知ってるか?」

「…」

「…普段怒らない奴が怒ると、結構めんどくさいんだぜ?」

「!」

『COMPLETE』



48: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:25:27.01 ID:gex3pyg2O

携帯電話をベルトに装填。

直後に自身の身体を襲う、熱。

痛みというよりも、熱い。

だが彼女はそれに歯を食いしばり、拳を握り締め、耐える。

何の犠牲も無く力を手に出来るなど、思ってはいない。

「…ッ…!」

「…」

ガンガディンは、こちらに攻撃をしてこない。

それが彼の余裕からなのか、はたまた実験データを取れというガテゾーンとやらの命令の為なのかは定かではないが。

「…ッ!!…ああああああああアアアアアアッッッ!!!」

ベルトの中心部から、黄色、というより金に近い色の線が夏樹の細部にまで行き渡る。

やがて金色の光が夏樹の中心部から放たれ、彼女を包み込む。

眩しい、という感情はロボットであるガンガディンには存在しないが、人間であれば思わず腕で目を隠す程の光。

「…」

そして、更新された目の前の実験体のデータ。

それは、先程までの人間のデータではない。

常人を遥かに凌駕する、化け物じみたスペックを持つもの。

「…ようやくお出ましか。今度のライダーは随分待たせる…」



49: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:26:01.38 ID:gex3pyg2O

光が落ち着きだし、それは姿を現す。

「…待たせて悪かったな…」

黒を基調とし、金色の二本の線が入った、戦闘服。

肩や膝、拳などに保護用パッドが装着され、頭にはXを模した、黒と金色の兜。

その顔には汗がしたたり、吐く息は熱を帯び、白く煙る。

「…誰かさんに教えてもらってたんだよ。アンタらのぶっ倒し方をさ」

「…ほう。面白い事を…貴様の力では俺に傷一つつけられんぞ?」

「へェ…!!」

「!」



50: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:26:50.52 ID:gex3pyg2O

ケースを手に取り、後ろに跳躍。

「処刑タイムだ!!」

すかさず、両腕のビームを発射。

しかしそれは当たらず、夏樹は近くの建物に飛び移る。

「逃げられると思うな!!」

続いて、肩に内蔵されたミサイルを発射。

「…!」

それを確認し、避けながら、ケースにあった付属品を3つ手に取り、ベルトに装着する。

「…!」

だがそのミサイルは追尾機能を備えており、逃げた夏樹を容赦無く追う。

「ンなもん…!」

付属品の中の一つ。

Xを模った、逆手持ち用の剣を構える。

「効くかッッ!!」

携帯に装着されたミッションメモリーを外し、武器に装填。

『READY』

そして、ボタンを押す。
すると柄部分の穴から黄色い弾丸が飛び出す。

銃と剣。

二つの役割を果たすこの武器も、変身直後に頭の中に無理矢理捻じ込まれた情報の一つ。

その弾丸はミサイルに着弾し、爆発。

「ほう…!だが空中でビームを避ける手段が貴様にあるかな!?」

「!」

地上に目をやると、両腕のビーム砲を構えたガンガディン。

だが、それは夏樹の想定の範囲内。

「…」

携帯を開き、ENTERボタンを押す。

『EXCEED CHARGE』

「!」

空中で身体を翻し、武器から銃弾を放つ。

その弾丸は先程のものとは違い、弾速が遅い。

しかし細かな動作が難しい己の機動力では避けられず、食らってしまう。



51: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:28:50.59 ID:gex3pyg2O

「ム…!」

それは、拘束用の弾丸。

これでは、ビームを放つことが出来ない。

視界には、上空から剣を構え、迫ってくる実験体6号の姿。

「終わりだあああああああ!!!」

「…」

だが、そうしたのは間違いだった。

「…このようなものが…」

ガンガディンには、機動力が無い。

だがそれは、圧倒的物量で戦いを進める為だけではない。

強固な装甲。

そして、圧倒的なパワーを作る為であった。

「このようなものが、俺に効くか!!!」

「!?」

夏樹が斬り伏せんとしたその時。

拘束をいとも容易く解いたガンガディンの右腕が、夏樹の側頭部にクリーンヒット。

あまりにも予想外の出来事に防御が間に合わず、吹き飛ぶ。

何処かの家の外壁に爆発音を上げ、突っ込み、瓦礫の山に埋もれる。

「…」

その中から、彼女が出てくる様子はない。

「ガテゾーン様は気をつけろとおっしゃっていたが…やはりこの程度か…」

瓦礫の山から、彼女が出てくる様子は無い。

己が持つ渾身の力で殴り飛ばした。

常人ならば、首から上が消滅する程のパワー。

いくら底上げされ、アーマーを身につけたとしても、耐えられるものではない。

紙切れのように吹き飛んだ彼女に、ガンガディンは一切の興味を失った。

「…戦闘経験の無い女の子供。実験にもならん」

己の上官を責める気は無いが、実験体にする者があまりにも未熟過ぎると肩を竦める。

「たとえ生きていたとしても、戦える状態でもあるまい。そのまま死ぬがいい」

首の骨が折れたか、意識を失い、瓦礫の山の中で窒息死するか。

どちらにせよ、トドメをさすまでもないと判断したガンガディンは後ろを向き、ゆっくりと移動を開始した。

「RXなど、この俺一人で十分…ライドロンさえ無ければ奴は…」

因縁の相手の名を呟く。

上官であるガテゾーンからの言葉を思い出す。

「この実験で俺の方が使えれば、RXとの決着を…」

それは、焦り。

早く、因縁の相手を倒し、自身こそが最高傑作だと認めさせたいという、思い。

慢心。
焦り。

それこそ、彼の持つ弱点。

自身の本当の弱点を見なかった、それこそが、弱点。

「…?…ムッ!?」



52: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:29:36.04 ID:gex3pyg2O

突然、キャタピラの動きが重くなる。

何かにつかえて移動が出来なくなるほど、自分の足は弱くはない。

「…まさか…」

腹部を見る。

「…貴様…!?」

そこには、金色の線が入った、黒い腕。

後ろに目をやると、ニヤリと笑みを浮かべる、実験体6号の姿。

その顔は、傷一つない。

口を少し切っただけで、全くダメージを受けていない。

「…!当たった筈だ!!」

だが、それは大きな間違いだった。

よく考えれば、おかしかった。

「…」

いくら彼女の体重が軽いと言えど、殴った時の手応えは、まるで紙切れ。

「…まさか…」

「…避ける方法なんてさ、いくらでもあるってことだよ…」

ガンガディンの腕が当たる瞬間。

夏樹は頭を思い切り回転させ、その威力を最低限にまで殺した。

「…やっぱアンタら、バカだよ…」

1tを超える自身の体重。

その自分が今、徐々にだが、持ち上げられている。

「…な、何…!?」

「・・・アタシもだけど・・・なァ・・・!!!」

夏樹の足元のコンクリートに、ヒビが入る程の重さ。

「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛・・・!!」

「は、離せ!!離せ!!!!」

自身のトラウマが、蘇る。

転ばされ、うつ伏せになり、亀のように何も出来なかった、あの時。

それは、敗北のフラグ。

「や…やめろ…!」

「・・・ッラァァァァアアアアアアア!!!!!」

それは、その時よりも酷い、頭部が地面に突き刺さり、視界が真っ暗になるほどのもの。

人間が使う技、ジャーマンスープレックスだった。



53: ◆GWARj2QOL2 2017/01/12(木) 21:30:31.08 ID:gex3pyg2O

「…お、おい!!やめろ!!元に戻せ!!」

両腕をジタバタとさせ、キャタピラを必死に動かす。

しかし地面に深く突き刺さった自分の身体は元に戻ることはなく、ただのオブジェと化してしまっていた。

「…」

『EXCEED CHARGE』

「!?」

見えないが、聴こえる。

コツコツという足音と、熱を帯びた剣を振るう音。

それが意味するものは、処刑。

殺される恐怖を味わわせる立場だった筈の自分が、今それをゆっくりと味わっている。

「ま、待て!!俺にはミサイルが…!」

「そんなとこでやってみなよ。自爆するだけだぜ?」

「…!!?」

地面との距離は、数センチ。

仮にミサイルを発射したとしても、夏樹を狙う前に地面に着弾し爆発する。

その結果ダメージを受けるのは、自分。

残った武器は直線的なものだけ。

為す術は、無い。

「…言ったろ?」

「…!」

いつの間にかすぐ近くまでやってきていることに、その声の大きさで気づく。

「…普段怒らない奴が怒ると、面倒な事になる…ってさ」

「ヒッ…!!」

クライシス帝国、怪魔ロボット軍団の一員、ガンガディン。

RXに破れたものの、もう一度作られ、復活。

その命を再び無駄にした彼が最後に放った言葉は、あまりにも情けない断末魔の叫びであった。

第二話 終



60: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:29:17.02 ID:O8COb7uRO

亀のように動きを封じられた。

上官が見れば、随分間抜けな格好だと笑うのだろう。

「…嫌だ…」

再び訪れる、死の恐怖。

一切の抵抗も許されない、一方的な攻撃。

「嫌だ…!」

死にたくない。

「…助けて下さい…ガテゾーン様…!」

本来は実験体撃破の為のものだが、非常事態と上官へ通信を試みる。

だが、返事は無い。

通信機能が壊れたわけではない。

向こうから、意図的に、切られている。

「ガテゾーン様…!」

それは、分かりやすいまでの切り捨て。

自分はもう用無しという、上官の明確な意思。

選ばれたのは、忠誠を尽くした自分ではなく、無作為に選ばれた人間の子供。

ガンガディンは、その残酷な運命に絶望した。

そして、ロボットである自分に、自殺機能は無い。

ミサイルを撃って、この実験体も道ずれにすることも考えたが、ロボットである自分の身体は、そうしない。出来ない。

「…普段怒らない奴が怒ると、面倒な事になる…ってさ」

「ヒッ…!」

後ろから聞こえる、死神の声。

「来世はもっと人の役に立つロボットにしてもらえよ・・・」

「ヒ…」

「・・・なッ!!」

「…ギャアアアアアアアアア!!!!」

背中から、鋭利なドリルを突っ込まれた感覚。

それは、一瞬で体内を破壊し、突き抜けた。

だがガンガディンがその痛みに苦しむ暇など無かった。

彼は、自分を殺す相手の姿も見ることなく、一瞬で灰と化したのだから。



61: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:30:53.74 ID:O8COb7uRO

「…ハアッ…ハアッ…」

何とか、勝った。

だが、この勝利は、偶然の賜物。

勝因は、相手の慢心。

自分を女子供と揶揄する、彼の浅はかさ。

「…痛った…」

パンチをいなしたといっても、常人なら間違いなく死に至る威力。

最低限といえど、痛みはある。

「…奥歯折れたかな…あ、大丈夫か」

そして、苦しみはそれだけではない。

戦い終わって、クールダウンした身体を襲う、倦怠感。

そして、下腹部の皮膚に来る痛み。

「…こりゃ、ちょっとヤバいかもな…」

腹に、何本も注射をされたかのような感覚。

血を大量に吸われ、違う液体として送り返された。

その血を元にしたエネルギーを惜しげも無く使用した。

「…お…っと…」

低血圧な自分に、この貧血に似た症状はかなり苦しい。

しかし、彼女は倒れるわけにはいかなかった。

「…だりー…」

彼女がその愛称を使うのは、多田李衣菜という少女。

彼女が346プロダクションで最も心を許した、友人。

「…お前も、こうなってるのか…?」

歯を食いしばり、耐える。

「…お前も、何処かにいるんだな…?」

そして、願う。

友人の、友人達の無事を。

「…何処に…いるんだよ…!」

そして、誓う。

「…今すぐ、助けてやる…」

彼女を、助けると。

「…こんな思いするのは、アタシだけで十分だ…」

彼女は、戦わせないと。

「お前は、アタシが守ってやる…」

それは、独占欲にも似た感情。

「お前は、戦うな…!」

その決断は、正しいのか。

彼女がその答えを知るのは、まだ、先。



62: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:31:53.48 ID:O8COb7uRO

「…ん…」

寝苦しいといえど、疲れ果てた身体は何処でもいいから休みたいと訴えていた。

だからか、いつの間にか随分と寝てしまっていた。

「…ん…里奈ちゃん…」

隣ですやすやと幸せそうな寝顔を晒す里奈を揺する。

「…ん…?」

明朝、というわけではないが、もう寝るには長すぎると、彼女を起こす。

本当は気の済むまで寝させてやりたいものではあるが、先の戦闘ロボットの件もあり、油断は出来なかった。

「そろそろ行こっか。とりあえず水とご飯取りにいかなきゃ」

泥棒は良くないという大前提はあるが、命には変えられない。

というより、恐らくこの世界には自分達以外はいない。

だとするなら、許されることかもしれない。

そう自分を納得させ、里奈を起き上がらせる。

「…んー…」

「そろそろ行かないと。また危ない目に遭うかもしれないし」

「…うん」

そして、この時また、妙だ、と思った。

ランニングから見える二の腕。

銃弾が掠め、傷を負った。

それはいつの間にか完治しており、痛みも無かった。

「…」

これがどういうことなのか。

異常な力。
強烈な痛みに耐えた、強靭な身体。
常人の何倍もの生命力。

自分は、既に人ならざるものとなっているのか。

自分が自分でなくなっていく感覚に、思わず寒気がする。



63: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:32:53.06 ID:O8COb7uRO

「ん…汗かいたね…」

暗にシャワーを浴びたいと呟く、里奈。

まだ現実に帰ってきていないのか、寝る前とは違う、少々能天気な事を口にする。

「…」

だが、ベタつく自分の身体に不快感があるのも、事実。

「…」

病院には基本、浴室がある。

それはここも例外ではないだろうと、ゆっくりと立ち上がる。

「…だりなちゃん…」

塞がった傷口を見て、それとなく心情を察したのか、里奈は先程までのように無理に止めることはしない。

「…」

人ならざる者になる恐怖。

それははっきりと分かる程に、彼女達を襲う。

「…里奈ちゃん」

「…?」

「…シャワー、浴びよっか?」

「…ん…」

だが、彼女は笑う。

こういう時こそ笑うべきなのだと、己の感情を殺しながら。



64: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:34:06.35 ID:O8COb7uRO

…。

人のいない、この世界。

そこに集められた、幾人かの者達。

「…あー…」

「…」

「…誰もいねーな…」

「…うん…」

「…何処、行ったんだろーな…」

「…うん…」

「…な…」

「…うゅ…」

「…」

「…」

「…ッ!」

「…」

「ッオイ!!!」

「!」

「いつまでそんなウジウジしてんだよ!!とっとと歩けってんだよ!!!」

「…」

その二人は、20センチ以上も身長の差があり。

「…ったく…」

「…う…」

「…お?」

「…うえぇ…」

「…おいおい…またかよ…」

また、性格にも大きな差がある。

特徴的で、対象的な二人。

「莉嘉ちゃあん…みりあちゃあん…」

ここに来てから泣いてばかりいる、背が高く、顔は幼い子供のようなギャップを感じさせる容姿、諸星きらり。

「いい加減泣き止めっての…しょげてたって始まんねーだろ…」

それを不器用ながらも必死で慰める、強気な顔立ちに、性格もまたそれに準ずる元暴走族、向井拓海。

彼女達は同じ場所で目覚め、自然と行動を共にするようになっていた。



65: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:35:31.22 ID:O8COb7uRO

「…なんたってアタシとコイツが…アタシは恨まれる覚えあるけどさ、お前はねーだろ?」

「…きらり、何もしてないにぃ…」

「…だろーよ…」

180を遥かに上回る身長。

その性格に似合わない、自分よりも広い肩幅。

自分が喧嘩してきた相手の中にもここまでの者はいなかった。

そう思える程の出で立ちにも関わらず、普段の彼女を知っているせいか、どうにも今の格好は不自然に見える。

紛争地にでもいそうな、女性兵士のような服装。

自分はともかく、争いとは無縁だろうきらりにはアンバランスさを醸し出すような格好だった。

「…だけど、誰かにやられたってわけでもなさそうだな…何かの組織か?」

拓海はこの状況下においても、持ち合わせた勇敢さで立ち向かっていこうとする。

「…分かんない…」

しかし、隣はそうではない。

「…いいか?こうなっちまった以上、アタシらは戦わなきゃならねぇ。相手だって何人いるか分からねぇんだ」

その時は手を貸せ。

そこまでは言わず、察しろと言わんばかりにきらりの背中を叩く。

「…」

強い力で叩いたわけではないが、びくともしないその反応に少々たじろぐ。

「…」

恵まれた体躯。

拓海はそう思ったが、それはあくまで戦いの場においての話。

アイドルとして、可愛い者としての場ではそうでもないのだろうと、考えるのをやめた。



66: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:36:34.48 ID:O8COb7uRO

「携帯も持ってねーし、誰一人いやしねぇ。もう頼れるのは相方と、コイツだけだ」

そう言って、握り拳を見せる。

幾度も、人を殴ったのだろう。

発達した、傷だらけの手の甲。

「…ケンカはだめだにぃ」

「背に腹は変えらんねーだろ。ここまで来たら覚悟決めろ」

本来、大人しいきらりを巻き込むのは己の信条に反する。

だが、もしも相手が何十人も、何百人もいたとしたら。

その時は、流石に守れる自信は無い。

現実的に考えて、無理がある。

だからこそ、彼女にもそれなりの用意はして欲しいという拓海なりの気遣いではあるが。

「…」

「…」

育った世界が違い過ぎる彼女にその事を分かってもらうのには、無理があるというものだった。



67: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:38:15.89 ID:O8COb7uRO

「…」

「…」

同じ346プロダクションのアイドルではあるが、ほぼ初対面。

しかし、気が合わないというわけではない。

しかし、共通する話題があるわけでもない。

元来は、人見知りで、寂しがりやなのだろう。

普段は明るいらしいきらりは、こちらが話しかけない限り口を開かない。

借りてきた猫のように大人しくなってしまった彼女に拓海は何度か話題を振ってはみたのだが、反応は悪い。

恐らく、心を開かれていないのだろう。

「…」

自分の過去の事を話したわけではない。

だが、二、三話しただけで萎縮されてしまった。

「…話題が悪かったか…?」

彼女に聞こえないよう、一人呟く。

普段と違い、無理をして、自分が好きなものの話題を振ってはみた。

バイク。
ツーリングに最適な場所。
武勇伝。

「・・・」

思い返して、ようやく分かった。

人は、背伸びをするものではないと。



68: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:39:26.80 ID:O8COb7uRO

「…なあ、諸星」

「…?」

「…そういや…これ…」

それは、李衣菜達と同じ、スマートブレインのケース。

最も、彼女達はまだ李衣菜達のことは知らないが。

「…これよ。もしかしてアタシらに渡されたってことはねーか?」

「…?」

「おかしいだろ。たまたま攫われて、たまたま起きた所にたまたまコイツが落ちてるって。しかも二人ともだぞ?」

「…そうだけど…でも、何だか怖いにぃ…」

「怖いって…っつーかお前のは白なんだな。アタシのは黒なのに」

「…」

「…なあ」

「?」

「…中、開けてみるか?」

「!だ、だめだにぃ!」

「何でだよ。わざわざこれ見よがしに置いてあったやつだぜ?どう考えても使えって事だろ」

「…もしかしたら、爆弾があるかもぉ…」

「んなギャグねー……いやあるか?」

「…」

共通する話題といえば、と考えた時、手に持っていたそれを思い出した。

これが仲を取り持つアイテムだというのが、どうにも癪に障るものがあるが。



69: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:40:44.20 ID:O8COb7uRO

undefined



89: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 22:23:02.44 ID:O8COb7uRO

「…い、良いか…?開けるぞ…?」

「…!」

先のきらりの心配。

あながち、間違ってはいないのかもしれないと、慎重にケースの蓋に指をかける。

自分の後ろに隠れようとするきらりに、この身長差でそれは何の意味もないと訴えてやりたかったが、それどころではない。

蓋を開けたと同時に、思いっきり逃げる。

そうすれば、最悪の事態は防げるだろう。

しゃがみながらもつま先で立ち、まるでクラウチングスタートのような姿勢。

第三者が見れば、間抜けな姿だろう。

「…い、いくぞ…!」

「う、うん!」

「3…2…1…うりゃっ!!」

「うきゃっ!!」

「…」
「…」

開けた瞬間、目を瞑り、後ろに跳ぶ。

そして、驚いたことが二つ。

「…あ…?」

「…」

まず、驚いた時に跳んだ距離。

これはギャグ漫画ではない。

にも関わらず、あり得ない距離をひとっ跳びで叩き出した。

「…な、何だ?」

「…そういえば、体…軽いね?」

言われてみればと感じ始める、違和感。

いつもより、身体が軽い。

無重力空間にでもいるかのように、まるでバッタのように跳べる。

「…」

それなりに武勇伝はあるものの、このような身体能力は身につけていない。

「…っつーか、爆弾じゃなくねーか…?」

そして、ケースの中身。

自分の手元に落ちていた黒いケースを開けてみたが、そこにあったものは爆弾ではない。

「…ベルトと…携帯と…んだこりゃ。何かのおもちゃか?」

剣らしきものの、柄。
鍔もあるが、肝心の刀部分が無い。

「諸星。お前のは?」

「ん…」

拓海のケースに特に害が無かったことから、多少は余裕が出たのか自らのケースも開ける。

「…」

「…ん…?」

きらりが持っていた白ケース。

そこには、やはりベルト。

しかし、拓海のものとは少し違う。



90: undefined 2017/01/15(日) 22:25:25.36 ID:O8COb7uRO

「…拳銃か?」

「…そう…かも…」

拳銃の持ち手のようなものが、一つ。

それをしまうホルダーのようなものが初めからベルトにセットされており、拓海のものよりも少し簡易的なベルトとなっている。

「…」

それぞれのケースに入っていた取り扱い説明書を取り出し、見る。

隅から隅まで目を通す拓海のその様子を、きょとんとした目で見るきらり。

「…んだよ。何かおかしいか?」

「な、何でもないぃ…」

言いたい事は分かる。

決して頭が良さそうには見えないのだろう。

きらりは間違ってもそれを口に出すような人間ではないが、この意外な姿に呆気に取られたのだろうか。

「こう見えてな、成績は悪かねーんだよ…」

喧嘩さえ強ければ良し。

それは、拓海の生き様とは違う。

「やることはやる。テメーの我儘通してーなら通すなりに義務を果たすんだよ」

「…」

思っていた人間では、ない。

失礼かもしれないが、拓海の見た目ではそう思われるのも無理はない。

最も拓海はその色眼鏡を払拭する為に勉学に勤しんでも、いたのだが。



70: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:41:51.75 ID:O8COb7uRO

「…で、だ…」

「なぁに?」

その質問の仕方に若干心を許し始めたのだろうと、気づかれないよう笑みを浮かべる。

「…?」

「あ、あー…こいつはな…なんつーか、えーと、とどのつまり…」

「…どうしたの?」

「…ほら、ヒーローとかって、変身するだろ?分かんねーけど…」

「…んー…うん!」

「…それ、だな」

「…それ?」

そういった類のものに興味を示したことはなかった為、話すのに多少の気恥ずかしさがある。

「…いわゆる、変身グッズってやつだな。おもちゃだよ。お・も・ちゃ」

「おもちゃ…なの?」

「おお。…何だか拍子抜けだな。誘拐されて手渡されたモンが子供向けのおもちゃかよ…」

一切の興味を失ったと、ケースを足で追いやる。

これで、事件解決への道が無くなってしまった事に、失望した。

「…この携帯、使えないかなぁ?」

「どーやって使うんだよ。そんなもん」

「…」

画面を見る限り、3ケタの数字を入力するのが主な使い方なのだろう。

3ケタ。

それならばと、警察へと連絡を取る。

「…あ、そっか。110か…いやでも使えねーだろ……使えてんのか?」

「…ん、うん!繋がってるよ!!」

「マジか!?……え…っつーこと…は…」

「…」

「これ…マジなやつか…?」

「…んー…」

「…どうした?出ねーのか?」

「…うん…」

「…そうか…」

ふりだしには戻った。

だが、少なくともこの携帯は使える。

それが分かっただけでも、解決への道は開いた。

「…ま!とりあえず行くか!」

「…うん!」



71: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:42:52.35 ID:O8COb7uRO

…。

「…こりゃあ、期待度高いぜ。あいつら。まさかガンガディンをやっちまうたぁな…」

「ふん!あんなポンコツよりも俺の部下の方がよっぽど使えるがな!」

「…だが、ガンガディンは一度はRXを倒した。…ま、今回はあいつのバカさ加減のせいだがな」

「だから!だ!…俺の兵隊をだな…ここいらでだな…?」

「そんなことよりだ」

「そんなことよりって何だ!!俺だって選りすぐりの怪魔異生獣をだな…」

「…あの二人だ。どう思う?」

「どう思う…?お前まさかこの後に及んでどっちが良いかとかじゃないだろうな!?」

「違う」

「…。なら、こうだな。あのデカいのは、戦闘向きじゃない。もう一方は、逆だ」

「ああ、そうだ」

「…だから何だ?そもそもあのデカい方は…」

「…あいつには、ちっとばかし特別なベルトを持たせた」

「…何なんだ?」

「ありゃあ変身するのに苦しんだりはしねぇ。誰でも変身出来る、まさに人間専用のベルトだ」

「…地球は、そこまで科学力が進んでいるのか?」

「…まあ、副作用もあるがな」

「副作用?」

「ああ。だが、それはアイツにとっちゃあ、ある意味良い効能になるだろ」

「…?」

「こいつを見ろ。ライダー達の情報だ」

「…。…。……!」

「…楽しみだぜ。どうなるのか、な…」

「…良い趣味してやがる…」

「…さて…」

「…」

「…「あいつら」にゃあ、とっておきの怪魔ロボットを送ってやるか…」

…。



72: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:43:48.15 ID:O8COb7uRO

「あー!気持ち良かったー☆」

「そうだね。でももう行かなきゃ」

「ん!…でも、無茶しちゃダメだよ?」

「…無茶しなくて済むならしないよ」

「んー!!」

自身に起きたことを簡易的に里奈に説明した。

すると彼女の顔はみるみるうちに青くなっていき、李衣菜の身体に異常がないか細かく調べた。

「まずは生き残らなきゃ。いつまでも逃げてられない」

対等に戦える力はある。

ならば、最悪戦うという選択肢がある。

「…アタシも、戦う」

「?」

「アタシにもあるもん!これ!」

「…」

そう言って自分のケースを突き出す。

まるで子供が駄々をこねるようなその仕草に苦笑するしかない。

だが、今の追い詰められている状況で、これ程助かるものはない。

「ありがと。でも無理しないでね」

「…お互いに…ね?」

「…」

「…ね?」

「…うん」

やられた、と思った。

これでは、自分も中々無理は出来ない。

そこで、思い出す。

彼女は、自分よりも年上だったことを。



73: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:44:38.37 ID:O8COb7uRO

自分達は、一体何処に向かっているのか。

相変わらず分からないまま、真っ直ぐ進む。

だが進み続ければ、果てはある。

その果てに、何が待っているのか。

行けば、それは分かる。

「ね、だりなちゃん」

「ん?」

「…おかしいね?」

「…ん?」

「…一人だと不安なのに、二人だと、何処までも行けそうな気がする!」

「…私も、そう思う」

もしも帰る事が出来たら、どうなるだろうか。

短時間であるにも関わらず、二人の絆はかなり深くなった。

それこそ、本来の相方にも匹敵するかもしれない。

「…」

「…!ね、だりなちゃん!!」

「どうしたの?」

「あれ!あれ見て!!」

その時、突然里奈が足を止め、ある方向を指差す。

「…あ…」



74: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:45:43.47 ID:O8COb7uRO

そこにあったのは、大量の灰。

風もあまり吹いていないここで積もりに積もっているそれは、どう考えても自然に出来たものではない。

「…あれって…」

記憶の中を探る。

自身が倒した、ロボット。

灰と化し、今のあれと同じような状態になった。

だが、ここはその時の景色とは違う。

近くの建物は違う上、あのロボットが放った銃弾の後もない。

「…アタシ達以外にも、いるっぽい?」

「…かもね」

それが意味するもの。

まだ、犠牲者がいるということ。

「…」

どうかこれが、その者の身体でないことを祈る。

「…実験って言ってたけど、何の実験なんだろ…」

「…分かんにゃい…」

実験だとしたら、何を持って成功、終了なのか。

「…私達が、死ぬまでやるってこと?」

「…」

考えたくはないが、あり得ない話ではない。

人間が新薬の開発の為にマウスを使って実験する時もそうなのだから。

「…」

「…」

空気は、重い。

軽口を叩けるような空気ではないと、里奈も口を噤む。

「…!」

「!」

そして、その答えを知っているかもしれない者は、すぐにやってきた。



75: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:47:49.68 ID:O8COb7uRO

「…」

がしん、がしんと。

前に聴いたロボットのものとは違う、はっきりとした足音。

恐らく二足歩行だろう。

「…来たよ…」

「…」

前回ならば、最悪逃げることは出来たのかもしれない。

だが、今度は違う。

「…」

後ろを振り向く。

堅牢な装甲。

一目で分かる、機械の身体。

今までと違うのは、その脚。

指先まで作り込まれた、両腕。

「…あれ、アシモ?」

「…あんなアシモ、苦情来るよ…」

そのロボットは真っ直ぐこちらに向かってきている。

彼もまた、クライシス帝国に作られたロボットなのだろう。

「…」

そしてそれはやはり少し離れた位置で止まる。

「…我が名は…」

「クライシス帝国のロボット…でしょ?」

「…フン。ならば分かるだろう。俺は怪魔ロボット大隊、最強のロボット!メタヘビー!!」

「…さ、最強って…」

「…前の奴も、言ってたよ…」

台本でもあるのかと疑うような自己紹介。

戦いの前に随分余裕なものだと、感じる。



76: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:48:56.48 ID:O8COb7uRO

両拳をがしんと合わせ、その力を見せつけるようなポーズを取る。

そのメタヘビーの姿は、キューブリカンとは全く違う。

「…ロボットなのに、武器無いの?」

「…武器?」

武器、という単語を聞いた瞬間、鼻を鳴らすようなポーズを取った。

そのような感情を表す機能もあるのかと、驚いた。

それはまるで中に人でも入っているのではないかと思ってしまう程。

「武器などと…弱い者が使うもの。そのようなものは必要無い!!」

その身体に、遠距離用の武装は無い。

近接格闘用に作られたのだろう、フットワークも軽い。

李衣菜は里奈の前に出て、そして後ろを振り向くことなく話す。

「…里奈ちゃん。隠れてて」

「え!?い、嫌だよ!アタシも戦う!」

そして、必死に作る。

「…大丈夫だよ」

「だりなちゃん!」

作った顔を、里奈に向ける。

「…すぐ、帰って来るからさ?」

「…」

精一杯の笑顔。

作りきれていないからか、半分しか見せられない。

「だりなちゃん…」

ただ、信じて欲しい。

そして、どうか傷つく選択肢は選ばないで欲しい、と。



77: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:50:35.69 ID:O8COb7uRO

「…」

ベルトを装着し、携帯を開く。

今度はスムーズにコードを押す。

『STANDING BY』

「…」

あの痛みには慣れることはないだろう。

だが、死ぬことよりも。

自分以外の誰かが、友人が傷つくことに比べれば。

それは、蚊ほどにも感じない。

「…変身」

『COMPLETE』

腹に剣山を突き刺されるような感覚。

「ッ…」

そして、赤く光出す。

それに歯を食いしばり、耐える。

「…」

心配している里奈の顔は、見ずとも分かる。

「…ッッッ!!!!」

直後に来る、熱。

啖呵を切ったことを後悔する程の痛み。

だが、クールダウンした身体には丁度良い。

やがて、あの光が全身を包み、視界が一瞬真っ赤になる。

そして、一瞬で消える。

「…!」

眩しい光に目を閉じた里奈。

目を開けると、再び驚愕。



78: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:51:56.07 ID:O8COb7uRO

「…」

黒の、赤い一本の線が末端にまで入った戦闘服。

至る所をカバーする、アーマー。

Φの文字を模った、兜。

「…行くよ」

それは、出会った当初の李衣菜ではない。

まごうことなき、戦士の姿。

「…良いだろう…かかってこい!!」

その姿に、両腕を広げ、好きに殴れと行動で示す。

「…!」

望むところと、メタヘビーに向かって一直線に走る。

「…でぇぇぇぇえええええ…!!!」

右腕を振り上げ、左腕を脇に構える。

腰を捻り、左足を思い切り地面に叩きつける。

「…ッやああああああああ!!!」

捻った腰をそのまま勢い良く元に戻し、さらに足の力を加える。

「ッ!!」

車の衝突音のような音に、耳を塞ぐ里奈。

「…」

それ程までの威力の、渾身の右ストレート。

コンクリートブロックなど豆腐のように砕け散るだろうそれは、メタヘビーの胸部、人間でいう心臓部分に綺麗に当たった。

「…」

どうだ、と。

思い知ったか、と。

李衣菜はメタヘビーの顔色をうかがおうと、彼を見上げる。

「…え…?」



79: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:53:03.95 ID:O8COb7uRO

「…」

そして、目を見開く。

先程の、人を小馬鹿にしたポーズ。

メタヘビーは、そのポーズでもって、李衣菜に答えていた。

「…嘘…」

「…嘘…か…」

額然とする李衣菜に、あえて振りかぶらず、手首部分だけを可動させる。

そして、そのまま李衣菜の顔を叩いた。

「ブフッッ…!!!」

それだけで吹き飛ぶ、李衣菜の身体。

「だりなちゃん!!」

思わず叫ぶ、里奈。

「…ったぁ…」

「だりなちゃん!大丈夫!?今すぐ…」

その計算外のイレギュラーに、すぐさま対応しようとケースに手を掛ける。

「里奈ちゃん!!」

「!」

しかしそれは、李衣菜の制止によって、止められる。

「…大丈夫だよ…」

口の中が切れたのか、溜まった唾液とともに血を吐き出す。

「…こんなの、蚊にさされたくらいだよ…!」

何ともない。

そう訴える。

しかし。

「そうかそうか…ならば」

「!?」

「…この蚊にも刺されてみるか?」

「…!」

立ち上がろうと、見上げた時、太陽の光が見えなかった。

「…地の果てまで…」

そこにあったのは、パーではない。

「ヤバっ…」

「吹き飛べ!!」

「!ングッッ…!?!??」

力強い、グーだった。



80: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:55:41.76 ID:O8COb7uRO

「だりなちゃん!!」

李衣菜は本能的に、咄嗟にガードをしていた。

だが、メタヘビーはお構いなしにとその拳を振るった。

捻じ込まれた機械の拳は、李衣菜のガードをいとも簡単に突き破り、そのまま顔面を的確に捉え、そして吹き飛ばした。

「だりなちゃん!!!だりなちゃん!!!」

瓦礫の山に埋もれた李衣菜に、起き上がってくる様子はない。

「だりなちゃん!!」

真っ直ぐ顔面を捉えたそれは、避けようがなかった。

「無駄だ。RXならばともかく、俺のパンチをあのように食らって立ち上がる者はおらん」

「だりなちゃっ……」

「所詮人間の子供。貴様らごときでは肩慣らしにもならんわ」

「…」

「安心しろ。貴様もすぐに…」

「…」

「…?」

呆然とする、里奈。

メタヘビーに背を向け、その表情は分からない。

「…ム…!?」

だが、感じた。

得体の知れない何かを、感知した。

それは、実験体5号、李衣菜ではない。

「…実験体8号…藤本里奈…」



81: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:56:41.43 ID:O8COb7uRO

ぞくり、とした。

「…」

思わず、後退りをする。

「…ざけんなよ…」

「ム…?」

強さや、そういったものの類ではない。

巨大な蛇のようなものが、足元に這いずり回ってくる不気味な感覚。

「…調子に乗ってんじゃねぇよ…」

「…貴様…」

そして、振り向く。

「…」

こめかみに、青筋。

眉間に、皺。

だが、最も大きく変わったもの。

それは、目つき。

先程までの綺麗な瞳ではない。

どす黒く濁った、三白眼。

「…成る程…5号よりも期待出来そうだ…」

「…そんな死にたきゃ、今すぐぶっ殺してやるよ…」

まだ誰も見たことのない、里奈の我慢の限界を超えた顔。

「…面白い…!」

優しく、明るい、彼女の本気。

拳を鳴らし、ケースから取り出したベルトを勢いよく腰に巻く。

「…」

『3・1・5』

だが、それを許さない者が、いる。



82: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:57:45.56 ID:O8COb7uRO

「!」

「!?」

突如、里奈の背後から飛んできた赤い弾丸。

それはメタヘビーの顔の中心を捉え、彼も思わぬ方向からの攻撃に堪らずたじろぐ。

「…な、何だ…!?」

「…」

後ろ。

瓦礫の山に、目をやる。

「…まさか…」

そこには、銃となった携帯を持つ、右手。

「…勝手に、終わらせないでよ…」

「…何…だと…?」

そして、瓦礫の中からゆっくりと出てくる。

「…だりなちゃん…」

「…里奈ちゃん。顔」

「え…?」

激怒を表す里奈の顔を、元に戻せと指摘する。

上半身が血塗れの自分が言えた事ではないが。

「…笑顔。そんな顔してたら笑顔出来なくなっちゃうよ」

「…った…」

「…?」

「…良がっだぁ…」

李衣菜の生存を確認出来た瞬間、ふにゃり、と崩れる里奈の表情。

笑顔ではないが、先程の顔よりはマシだろうと、ぽんと彼女の肩に手をやり、再びメタヘビーの前に立つ。

「…何故だ…何故俺のパンチをまともに食らって立ち上がれる…!」

「…さぁ…?…案外フェミニストなんじゃない?」

鼻から、口から、頭からポタポタと出ている、血液。

本当は意識を保つので精一杯ではあるが、冗談を言うことで余裕さを醸し出す。

そして焦るメタヘビーを尻目に、携帯のコードを押す。

『1・0・6』
『Burst Mode』

そして、銃モードとなった携帯を構え、撃つ。

「!?」

今度は足元。

続いて顔。

交互に、チャージしながら的確に撃ち続ける。

その戦法に足を取られ、転ぶ。

「き、貴様…!」

「…武器は禁止?」

「…ッ!」

「…悪いけど私、か弱い人間の女の子なん…でっ!」

そしてまた顔を撃つ。

今度は、何度も何度も。

殴られた恨みを、晴らすかのように。



83: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 21:59:09.69 ID:O8COb7uRO

「…」

メタヘビーが怯んでいる隙に、左腰に装着されたカメラに、ミッションメモリーを通す。

そして横のボタンを押し、握り部分を展開、右手に装着。

「…」

携帯のEnterキーを押し、構える。

『EXCEED CHARGE』

「…グッ…今度は…容赦せんぞ!!貴様ァ!!」

腹部から血を吸われ、毒として循環され、右腕に、カメラに流し込まれる。

「…」

出血量のせいで脳が麻痺しているのか、痛みは少ない。

「…」

涙を流す里奈も、一切目を逸らさないと見開く。

「…」

滴り落ちる血を見て、思う。

正直、この戦いが終わったら死ぬかもしれない。

「…ッ!!」

「ヌウッ!!」

だが、そうなったとしても、どうか彼女には笑顔でいて欲しい。

「だぁぁぁぁぁああああああありゃああああああ!!!!」

「ヌゥオオオオオオオオ!!!!」

まだ巻き込まれているだろう犠牲者の為に。

その為の糧となれるのなら、喜んで命を捧げられる。

だが、今はとりあえず。

「ガッッ…!!?」

目の前の敵を倒す。

ただ、それだけ。



84: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 22:00:27.73 ID:O8COb7uRO

「…ッ!!ぁぁぁぁぁぁああああああアアアアアアッッ!!!!」

クロスカウンターのようにメタヘビーのパンチを避け、腹部に拳を捻じ込む。

しかしこれだけでは効かないといつのは分かっている。

だからこその、一撃。

「…!!?」

Φの文字が、メタヘビーの身体を貫く。

貫かれた体内が、破壊されていく。

「ン゛ン゛ン゛……!!」

「!!?」

「……ダァッッ!!!」

そして、駄目押しと言わんばかりに渾身の力でそのまま吹き飛ばす。

地面に叩きつけられたメタヘビーは起き上がろうとするが、それが出来ない。

「!?」

起き上がれない。

灰化していく脚が、自分の体重を支えきれない。

「…こ、こんな…こんな…ことが…!!」

続いて、手が崩れていく。

「…な、何故…!貴様のような小娘に…!!」

「…」

崩れに崩れて、ついに上半身のみとなる。

最早見上げることでしか李衣菜と目を合わせることは出来ない。

「…」

そんなメタヘビーに対し李衣菜はゆっくりと、足をあげる。

「…!」

「…失う物の、違いだよ」

「…貴様ァァァァァアアアアア!!!」

そして、ゆっくりと、じっくりと。

死ぬ恐怖を最大限に味わわせながら、踏み潰していった。



85: ◆GWARj2QOL2 2017/01/15(日) 22:01:23.82 ID:O8COb7uRO

長いようで、短かった戦いが終わった。

変身が解け、そして力なく倒れかける。

「だりなちゃん!!」

すんでのところでキャッチした里奈によって助けられたが、それでどうにかなる状態ではない。

「…あー…血、出し過ぎたぁ…」

「だりなちゃん!無理しないって…約束したのに!!」

汚れることも気にせず、己の衣服を破り、李衣菜の頭に巻く。

「すぐに手当てして…あとお肉お肉…!」

「…あはは…」

肉を食えば何とかなる。

まるで漫画のキャラのようだと、笑う。

里奈に抱えられ、再びあの病院へ行くのだろう、思いっきり走られる。

揺れるので、もう少し控えめに走って欲しかったが、それを言う気力も体力も、今の自分には残ってはいない。

「…あ」

「?」

だが、ここである問題が解決していないことに気がつく。

「…そういえば、さ…」

「…うん…」

「…敵の情報、聞くの忘れてたね」

「…あ」

第三話 終



91: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:45:14.71 ID:9jOuoerRO

…。

機械が立ち並び、様々な武器、兵器が貯蔵されている、彼の部屋。

「~♪」

最強の兵器を作り上げる為、彼はそこで日夜研究を続けている。

「~♪」

だが、そこに辛さは無い。

「…そしてェ…こいつ…だっ!」

何故なら、彼はこの仕事が好きだからだ。

「…ふむ…。悪くねぇな…」

自身が強者と認めた、ある男を倒す。

そして、最強の兵器を作り上げる。

この二つが、彼の夢。

その夢が叶えられるだろう環境。

彼は、毎日が楽しくて仕方がなかった。

「…しかしこっちのベルトは…仮面ライダーってぇのは人間を守る為に作られたもんじゃねえのか?」

しかし、彼には地球を征服するという本来の仕事に対する興味は無かった。

「…怪人、あるいはそれに近いモンしか変身出来ない…」

たまたま、自身の目的がそこに関係していただけ。

「…これじゃあ、まるで人間を滅ぼす為のモンじゃねえか…。このままじゃあ、使えねえな…」

彼はクライシス帝国に愛着など無い。

ただ、強者を倒したい。

自身の科学力を、実力を示したい。

「…しかし、アイドルだけあって良い外見してやがるな…」

だが、そんな彼もマッドサイエンティストとまではいかない。

「…おっとこりゃ失礼。マリバロンにビンタされちまう…」

そんなニヒルで掴み所のない、クライシス帝国幹部、ガテゾーン。

彼はとある実験の為に、少女を9人、そして。

「…ライダー…ねぇ…」

9人のライダーの力を、奪い、自身の部屋へと連れていった。



92: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:46:10.09 ID:9jOuoerRO

「全く…飛ぶわ跳ねるわ手間取らせやがって…」

決して彼の実力が凄まじいというわけではない。

だが、彼の強みはそれではない。

「…ま、人間の知識ならこの程度、か…」

天才的な頭脳と、圧倒的な科学力。

人工的に作られたライダーの力を解析、攻略するのに時間はさほどかからなかった。

「こいつには…そうだな…これなんかお似合いじゃねえか?」

己の欲求を満たすには事足りないと上官に文句を言ったが、そこで彼は実験の核心部分を教えられた。

「…人間の子供。それも女。そいつらが相手なら南光太郎は手出し出来ねぇ…」

打倒、仮面ライダーBlack RX。

その為の、第一段階。

究極の兵器を、作り上げる。

「ライダーには、ライダーの力…甘ちゃんなアイツにゃあ、最も効果のある方法だぁな…」

第二段階。

各々の実力テスト。

「その為だけに、俺らの兵隊を復活させろってか?…ま、どっちが有能か決めるならそれが一番早えか…」

そして、第三段階。

「…そして、こいつらが生き残った場合…」

ベルトの機能をコピーし、ガテゾーンなりに作った、4枚のカードと、5本のベルト。

それらを彼女らに分け与える。

そして、その手には、小さなリモコン。

「…こいつら全員を、洗脳。出来なきゃ、爆発させる…か」

彼のレンズに映し出される、可愛らしい寝顔。

「…あのシャドームーンでさえ、最後にゃ情を見せやがった…。…いくら洗脳したところで…」

サイボーグである自分には分からない、感情。

「…この作戦、期待は出来ねぇぞ?マリバロン…」

自身の経験から恐らく使うことになるのだろうと感じる、爆発スイッチ。



93: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:46:54.18 ID:9jOuoerRO

「…」

机に置かれた、二つのアイテムを見る。

それもまた、あるライダーから奪ったもの。

「…解析は完了。ウチの兵隊にも応用は出来る…」

自分には感情が無い。

そういうわけではない。

「…人間を手中に収め、兵隊として活用。…それじゃあ…」

クールな彼にも存在するもの。

「…それじゃあ、俺の力が足りねえって、言ってるようなもんじゃねえか…!!」

それは、怒り。

自身の作るものではRXを倒せないと暗に示された事に対する、怒り。

プライドを傷つけられた事で、彼の腹は心底煮え繰り返っていた。

「…俺の科学力こそが、一番頼りになる…」

机に置かれた二つのアイテムを手に握る。

「…それを証明してやる…」

眠るアイドル達を尻目に、歩を進める。

そして棚の後ろにあるスイッチを押し、隠し部屋に入る。

「…お前らこそが、最強だと、証明してやる…!」

そこには、二体の怪魔ロボット。

「デスガロン…」

その左手首に、腕時計型の、加速アイテム。

「…ヘルガデム…」

もう一方の背中には、トランク型のアイテム。

「…これで、こいつら全員、そしてRXをぶっ倒せ」

彼が自信を持って作り上げた、二体のロボット。

彼の本当の思惑を知るものは、まだいない。

…。



94: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:47:39.49 ID:9jOuoerRO

「…で」

「?」

「…アタシら、こんなことやっててバチ当たらねーか?」

「…うん…」

「…当たるよなぁ…店の奴に会ったら土下座で済むか?」

「いっぱいいっぱい謝ったら、許してくれゆ?」

「…そんだけ食ってりゃ、許してもらえないかもな…」

「う…」

この世界に来て、恐らく一日が経過した。

その間、きらりと拓海は休みを挟み、ひたすら歩き続けた。

金銭は持ち合わせていない為、何かを購入することも出来ず、ほとんど飲まず食わずで過ごした。

気温は30℃に近く、歩くだけで汗はとめどなく溢れる。

消費されるエネルギー。

供給は、無い。

次第に口数も減っていき、歩行速度も著しく低下していった。

鳴り続ける腹を押さえても、身体は訴え続ける。

「なぁ…諸星…」

「…なぁにぃ…?」

「…アタシら、死んじまうのかな…?」

「…」

最早、道を探すどころではない。

「…何も知らずに、誰にも知られずに、死んじまうのか…?」

「…」

死にたくはない。

だが、それだけはしたくない。

「…」

何度も、頭を過った。

だがそれは、人に迷惑をかけると、考えないようにした。

「…一日二日で、解決すると思ってたのになぁ…」

「…」

「…流石に、この年で死にたくねぇなぁ…」

「…そうだにぃ…」

「…」

「…」

もう、どうにでもなれ。

そう考えた彼女達は、ゆっくりと立ち上がり、目の前にあるコンビニへと重い足を運んだ。



95: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:48:23.34 ID:9jOuoerRO

「冷静になって考えれば、おかしいんだよ。どれもこれも」

「…人、いないし…」

「それだけじゃねぇ。本来なら、今は冬の筈だ。にも関わらずこの暑さだ」

「…ここ、日本?」

「標識もそこに置いてある本も日本語だろ。日本じゃなかったら何処だよ」

「…」

来た時から考えてはいた。

「意図的にここに連れてきたってことは…だ…」

「…」

今の季節、こんな夏場のような場所は日本の何処にもありはしない。

「…もしかしたら、ここ全体、何処かの実験場だったりしてな…」

「…」

非現実的ではあるが、それを否定する要素は、無い。

寧ろ、そう考えるのが打倒かもしれない。

「飲み食いも、服装も、環境も自由。…こんだけの規模のものを作れるなんざ、とんでもない奴らがいるってことだ…」

「…もしかしたら、監視されてるかもぉ…」

「…あり得ねー話じゃねぇな…」

この状況でも冷静にいられるのは、仲間がいるおかげだろう。

彼女達は、まだ憶測の域を超えていないが、着実に答えを導き出していた。



96: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:50:10.14 ID:9jOuoerRO

「…このベルト…」

腹を満たし、喉を潤し。

改めて自分達の持ち物を確認していく。

「…」

使い方は、学んだ。

だが、これをどんな目的で使用するのか。

何の為に、使うべきなのか。

「…」

「…」

「変身用ツール…しか書いてねぇ」

「うん…」

「…お前が思う、変身って…何だ?」

「…」

自分が過ごした中で思う、それ。

特撮や、漫画。

その中で見てきた、変身。

「…悪い人を、やっつけるために…」

「…」

「…人間のままじゃ、勝てないから…」

「…アタシも、そう思う…」

自分達だけでなく、恐らく大多数の人間がそう思うだろう。

そう考えれば、これの使用する為の条件や状況は想像に難くなかった。

「…つまり、だ…」

「…」

「悪い野郎共が、アタシらを狙ってる。…それを迎え撃つ為に…」

「…」

「これを、使う…」

「…」

「…っつー…実験って訳かよ…」

今はこうして、構えているだけではあるが。

その時はいつか、必ずやってくる。

「…こりゃ、やらなきゃやられるってやつだな…」

「…」

戦わなければ、生き残れない。

助かりたければ、元に戻りたければ。

幾多の屍を、踏み倒せ、と。



97: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:50:50.55 ID:9jOuoerRO

「…お前も、覚悟決めろよ」

拓海はそう言って、きらりを見る。

「…」

そんな彼女は、こちらに目を合わせようとしない。

戦う選択肢など無い。

はっきりとではないが、感じ取れるその意思表示。

「…そうかよ…」

これが自身を慕う昔の仲間なら、勇んで立ち上がったものだが。

「…アタシも、無理は言えねー。…けど、どこまでお前を守ってやれるか分かんねーぞ…」

「…」

臆病者だ、と。

以前の彼女なら、そう怒鳴ったかもしれない。

だが、世間を知った今の彼女には、それをすることが出来なかった。

本来は、「これ」が普通なのだと分かったからだ。



98: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:52:18.97 ID:9jOuoerRO

…。

「ガテゾーン」

「?…こりゃジャーク将軍。どうしたんで?」

「作戦は順調か?」

「…まあ、ぼちぼち…ってぇとこか…ね」

「…今回、お前には十分な働きをしてもらった」

「…」

「きっと大首領閣下も喜ぶだろう」

「勘弁してくれよ。俺はただRXを倒したいだけだぜ」

「…この実験に、我らクライシス帝国50億の民の命がかかっている」

「…」

「…それを忘れてはならん」

「…それが、これですかい?」

「む…」

「結局俺らの兵隊じゃあ、俺らだけの力じゃどうにも出来ねぇ。アイツの弱みを突かなけりゃ勝てねぇ。そういうことですかい?」

「…そうではない。だが…」

「俺がやりてぇのは、圧倒的な力を持った兵隊でもって、RXを倒す。それだけよ」

「…」

「…確かに、悪くねえ作戦だとは思うさ」

「…」

「…だがな、何の抵抗もねぇ相手を一方的に痛ぶって得る勝利なんざ、勝利とは言わねぇんだ」

「…ガテゾーン…」

「…俺は認めねぇ。こんなやり方なんざ…」

「…」

「…実験体5号。多田李衣菜」

「…555の力を得た子供か」

「アイツが本来使うだろうアイテム。確かにあれがありゃあRXでも見切れねぇスピードを得る事は出来る」

「…!」

「…そんな簡単にゃあ、使わせねぇよ」

「ガテゾーン。…まさかお前は…」

「…俺の兵隊なら、もっと上手く使えるさ。…まあ見てな」

「…」

「それでアイツらが死ぬなら、所詮そこまでってことだ。あのまま戦わせたところでRXにゃあ傷一つ負わせられねぇ」

「…」



99: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:53:05.76 ID:9jOuoerRO

「ガテゾーンよ」

「…何だ。説教なんざ聞かねぇぞ」

「そうではない」

「…」

「…マリバロンの大叔母の話は知っているな?」

「…百目婆ァのことか?」

「…例えクライシス帝国の裏切り者としても、我らの仲間だ」

「…珍しくマリバロンが庇ってやがったな。もう少し冷酷な奴かと思ってたが」

「…つい先程、奴は、死んだ」

「…あ?」

「実験体を助けようと、己の身を捨てた」

「…おいおい…」

「…私にとっては、クライシス帝国の民の一人だった」

「…」

「お前もその一人だ。ガテゾーン」

「…」

「犠牲は付き物なのかもしれん。しかし私は…」

「やめてくれよ」

「…」

「俺達はロボットだぜ?チップ一枚残りゃあ何とかなる存在だ」

「…」

「俺らに情なんざかけられても困るってもんだ。ましてやこいつらもな…」

「…」

「…さて、前は逃したが…今度は付き合ってもらうぜ…8号…」

「…」

「デスガロン!」

「…ガテゾーン…」

…。



100: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:53:59.17 ID:9jOuoerRO

「だりなちゃん…」

あの壮絶な戦いから李衣菜は、里奈から出された物、全てを食らいに食らった。

そしてひとしきり食らい、腹も膨れた後、熊の冬眠のように眠りについた。

元気な証拠だ。

思わず笑っていると自分の胃袋も鳴り出し、食事にありつく。

それから、数時間。

「…」

ふと、目を覚ます。

どうやら少し眠っていたらしい。

油断出来ないこの状況で二人とも眠りにつくのは良くないと頭を振り、目をこする。

「…」

そして、見る。

「…!」

あれ程血を流し、傷を負い。

骨も折れた可能性があった、彼女の小さな身体。

「…やっぱり…」

いつの間にか傷は癒え、きめ細かい柔肌へと戻っていた。

「…」

いつしか護身用と思い手に取った、病院内にあった器具。

「…」

自傷癖など、持ち合わせていない。

「…」

メスを持つ手が震える。

「…ッ…」

痛いのは嫌だ。
その指を離せ。

そう、脳が訴える。

だが、確かめなくてはならない。

そして、見なくてはならない。



101: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:54:51.37 ID:9jOuoerRO

「…ッッ!!」

切れ味の鋭いメスが、己の腕に切り込みを入れる。

「…痛ったぁ…!!」

切った所から、じわり、と痛みと血が溢れてくる。

心臓の鼓動に合わせ、痛みを訴えてくる。

少し切っただけというのに、この激痛。

「~~!!!」

だが、彼女はそれ以上声を出さない。

何故なら、これ以上の痛みに耐えた者が、隣にいるからだ。

「…!!」

李衣菜に被せていた布団の端を持ち、本能的に噛む。

それで痛みが解消されるわけではないが、必死に噛み付く。

もう一方の手で傷口を押さえ、耐える。

「…!!」

その間、数十秒。

「…」

もう暫くすると、痛みが徐々に薄れてきた。

「…!」

初めは太い何かが腕にめり込んでいるような痛み。

そして次は、それが針が刺さっているような痛みに変わる。

最後には、爪楊枝で突かれているような、微かな痛み。

「…」

おそるおそる、手を離す。

「あ…」

そして、目を疑う。

「嘘…」

パックリと割れていた、切り傷。

それが縫われているかのように、綺麗にくっつき始めている。

「…」

血は既に止まり、痛みも薄れた。

そして、気づいた。

李衣菜に、喧嘩の経験は無い。

そんな彼女が、あれ程までに打たれ強い訳がない。

つまり、立ち上がれたのは彼女の持ち合わせた精神力などではない。

李衣菜はあの瓦礫の下で、確かに意識を失い、戦闘不能に陥っていた。

しかし、その驚異的な生命力と、回復力がそうさせなかった。

直ぐに彼女に意識を取り戻させ、立ち上がらせた、ということだ。



102: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:55:32.44 ID:9jOuoerRO

「…」

呆然とする。

「…あはは…」

そして、笑う。

「あははは…」

否、それは笑みではない。

「…あは…」

零れ落ちたそれは、涙。

「…」

渇いた笑顔は直ぐに崩れ、彼女は静かに泣いた。

「…」

最早、人ではない。

自分は、人の領域を超えた。

それは、超人などというものではない。

これは、ただの化け物。

「…」

誘拐され、取り残され。

戦わされ、化け物にされ。

その現実に、只々涙を流した。

「…嫌だぁ…」

早く、帰りたい。

早く、助かりたい。

早く、元に戻りたい。

「…もうやだよお…」

絶望。

極限状態。

そこに、いつもの明るい彼女は、いなかった。

「…!」

だが、そんな彼女達には、束の間の安息すら許されていなかった。



103: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:56:14.76 ID:9jOuoerRO

「…」

鼻を啜り、目をこすり、耳を澄ます。

前にも聞いた、駆動音。

機械が歩く、音。

「…」

絶望に打ちひしがれ、諦めかけていても、それは容赦無く自分達を狙う。

「…」

だが、そんな中でも、李衣菜は笑った。

自分よりも遥かに辛い目に合った彼女は、笑った。

「…だりなちゃん…」

自分を、同じ目には遭わせない。

その一心だけで、年下であるはずの彼女は血みどろの戦いへと足を踏み入れた。

「…ごめんね」

ならば、今の自分は何か。

ただ、泣きじゃくるだけの、足手まとい。

「…ちょっと、待ってて…」

それは、嫌だ。

「…少ししたら、戻るから…」

彼女だけに、重荷は背負わせない。

何故なら。

「…だって…」

彼女は。

「…お姉さんだから…!」



104: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:56:54.95 ID:9jOuoerRO

「…」

李衣菜を起こさぬよう、外に出る。

そして、自身が持っていたケースを開く。

李衣菜のものとは違う、ベルトと携帯電話だけのセット。

それが何を意味するのかは分からない。

「…」

だが、やるしかない。

しかしこれは、怒りの感情ではない。

誰かを守りたいと願う、優しさ。

『3・1・5』

「…弱音なんか、吐かないよ…!」

その言葉は、李衣菜に向けてのものなのか。

それとも、目の前にいるサイボーグに向けてのものなのか。

「…ほう。この俺を前にして逃げんとは…」

人間の身体をそのままロボットにしたかのような、外骨格。

昆虫のような顔に、背中についた蜘蛛の脚にも似た、それ。

自分達とは違うものの、ベルトを携えている。

「…」

左手首に、見覚えのある記号が刻まれたもの。

「…俺は一度、死んだ。ガテゾーン様、ジャーク将軍の命に応えられず…」

「…」

「だが今度は違う。このデスガロン、今度こそ作戦を成功させ、ガテゾーン様の期待に応える!!」

「…もう、何が来ても驚かないよ」

「…実験体8号、藤本里奈」

「…」

「残念ながら貴様はここで終わりだ。5号、多田李衣菜とともに」

「…」



105: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:57:43.53 ID:9jOuoerRO

「終わりかどうかなんて、知らないよ。始まったのかも分かんないのに」

「…」

右手に持った携帯電話を握る。

携帯電話から鳴るこの音は、変身しろという合図なのか。

だが、里奈はそれをベルトに装填しない。

「…」

「…戦ってあげるから、教えて」

「ム…?」

「そっちが何者なのか。何でアタシ達がこんな目に遭わなきゃいけないのか」

「…フム…」

「…」

「…貴様が俺に勝てたら、話してやろう」

「…あっそ…」

それは、ある意味、自分を叱咤しているとも言える返答。

助かりたい、元に戻りたい。

その欲を、全力で自分にぶつけろという、彼の答え。

或いは、ただの余裕。

「…」

どちらにせよ、今の里奈を動かすには。

「…変身…!」

それだけで、事足りた。



106: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:58:23.55 ID:9jOuoerRO

「…ッ…!」

李衣菜も味わったのだろう、痛み。

腹部から、末端神経へと繋がる、高熱。

そして、無理矢理脳に詰め込まれる、情報。

「…!!!」

だが、彼女が耐えたのならば。

自分も、耐えよう。

何てことはない、と、笑ってみせよう。

「…ッ!!」

何故なら、自分は、お姉さんなのだから。

「…ァアアアアッ!!!!!」

「…!」



107: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 20:59:06.21 ID:9jOuoerRO

「…」

大量の蒸気が、上がる。

デスガロンの目にも、彼女の姿が確認出来ない。

赤外線で見ても、全てが赤。

それだけで、どれ程の事が起きたのかが分かる。

「!」

そして突如、白い蒸気の中から突き出された、腕。

白く、青紫の線が入った、アーマー。

そして、その手に持った、逆手持ちの剣。

「…」

やがて蒸気はかき消え、彼女は姿を現した。

「…ほう…」

「…」

肌の露出部分は少なく、体のほとんどをアーマーが覆っている。

唯一出ている顔。
青紫に輝く瞳。

背中にはジェットパックが搭載され、飛行機能を伺わせる。

「…やはりベルトの仕組みが違うようだな…」

「…ッ!」

「ムッ…!」



108: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:00:48.41 ID:9jOuoerRO

瞬間、飛んだ。

その速度やジャンプ力は、脚によるものではない。

「…成る程…RXとはまた違った楽しみを…!」

笑うデスガロンを見下ろしながら、遥か上空を飛行し、そして直ぐに構える。

「…」

逆手持ちの剣の柄を持ち、そのトリガーに指をかける。

「…まさか!?」

そして、容赦無く発射される、光弾。

「…ッ!!」

それはこちらの足元を的確に捉え、着弾。

威嚇射撃などではない。

「ぬおっ!?」

その連射力に耐えられず、崩れる足場。

自身が戦った相手とは全く種類の違う戦法。

「やる…!」

データでは、素行の悪いような情報は無かった。

しかし、彼女は間違いなくこちらの足場を狙った。

その証拠にこちらが体勢を崩した瞬間に、急降下で向かってきている。

「…戦いに、慣れているな…!?」

そしてそのまま、手に持った剣で、デスガロンに激突。

「ヌガッ…!!」

突進力と、その剣の鋭さ。

ガードはしたものの、たじろぐ。

「…貴様…!」

「…ラァッ!!!」

間髪入れず、頭部に膝蹴り。

「オラッ!!!」

そして、そのまま倒し、頭突き。

そして、殴る。

「…!!」

右、左、右、左。

交互に、思い切り、振り抜く。

「…ッ!!」

その連撃に、混乱する。

正統派な戦いを挑んだ「彼」と違い、一切の隙も与えない戦い方。



109: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:01:34.10 ID:9jOuoerRO

「…!」

拳の往復が終わったかと思うと、次は首。

首に両手をかけ、ヘッドロックの要領で捻じ曲げてくる。

恐らく自分の装甲に耐えかねて、首をへし折るのが一番早いと踏んだのだろう。

事実、その選択は正しい。

「ぶっちぎってやるよ…!!」

「…この…!」

その一見荒々しい戦法は、何一つ無駄のない、洗練された戦い方。

だが、それが通じる程、自分は甘くない。

「調子に…」

背中の爪を、器用に動かす。

そして、一直線に振り下ろす。

「!」

「乗るなッ!!!」

その標的は、里奈の背中。



110: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:03:10.02 ID:9jOuoerRO

「がっ…!!」

背中の丁度真ん中。

そこを鋭利な刃物で突き刺された。

痛みよりも先に来る、熱さ。

「失せろっ!!」

突き刺さしたそのまま、彼女を投げ飛ばす。

その拍子に爪は抜け、放物線を描いて彼女は飛んだ。

「…」

ここで様子見。

以前のデスガロンなら、そうしたのかもしれない。

だが、今は違う。

地面に激突しそうな状態の里奈にも追いつく、脚がある。

「ガテゾーン様…!力をお借りします…!」

左手首に巻かれた、腕時計型のアイテム。

そのボタンを押し、構える。

『START UP』

「…」



111: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:03:57.63 ID:9jOuoerRO

里奈の身体が、浮いた。

そうではない。

少しずつではあるが、落ちていっている。

時間が、ほぼ止まった世界。

しかし、その中で一体、我が物顔で動く者。

「…何ということだ…!この力さえあれば、俺は無敵ではないか…!」

デスガロンによって起こされた、世界。

今ここで、たったの10秒間ではあるが、彼以外は全てがスローモーションになる。

「フフ…」

残り7秒。

しかし、余裕を持って里奈に近づける。

「子供のくせに、楽しませてくれた…」

まだ、近づくこちらに気づいていない。

気づいたとしても、対処は出来ない。

「だが、貴様らでは役不足だ」

ゆっくりと、背中の爪を彼女の胸に合わせる。

「その程度の力でジャーク将軍の配下になろうなど…」

そして、ゆっくりと、沈み込ませる。

「…恥を知れっ!!」

『TIME OUT』

「…」

そして、里奈がようやく気付いた時には。

「…え…?」

その爪は、彼女の胸から背中にかけ。

「…あ…」

「…この俺に立ち向かったその気概は褒めてやろう…」

しっかりと、突き刺さっていた。



112: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:04:37.00 ID:9jOuoerRO

「…ゴブッッ…」

行き場を失った血が出口を求め、一番近い、喉、そして口から溢れる。

痛み、苦しみ。

そんなものを感じる間もなく、里奈の視界は真っ白になった。

「…」

瞳孔が開いたことを確認し、爪を引き抜く。

「…圧倒的過ぎる…これならRXも…!」

そして、通信の向こう側でガッツポーズをしているだろう上官に向かい、喜びの感情を露わにする。

「ガテゾーン様!私は今無敵の力を手に入れました!!今すぐ残りの実験体の首もここに揃えてみせましょう!!」

これで、役に立てる。

汚名を返上出来る。

何より、自分に再びチャンスをくれた上官に恩返しが出来る。

「待っていろRX…南光太郎…!」

あまりの喜びに、彼は冷静さを失った。

その為か、彼は気付いていなかった。

「…」

ゆっくりと、それでいてしっかりと。

「…」

「…む…?」

「…」

「…な…」

「…」

「…何ィ!!?」

まるで何事も無かったかのように、立ち上がった里奈の姿に。



113: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:05:23.19 ID:9jOuoerRO

「…何?ゾンビでも見た?」

先程と変わらない顔色と、身体。

貫かれた穴は塞がり、瞳は再び輝きを取り戻している。

だが、自分は間違いなく彼女の心臓を貫いた。

瞳孔が開いたことも、確認した。

「な、何故だ…!何故生きている…!?」

「…」

「殺した筈だ!!なのに何故貴様は立っている!!?」

「…さぁ?」

口の中の鉄の味が嫌なのか、しきりに唾液と共に吐き出す。

しかし彼女自身も、何故こうなったのか、全く分かっていない。

予想外の事態に驚いているのは、どちらも同じ。

「…!ならば何度でも!貴様を…!」

「おっと…」

混乱の中、慌てて放った攻撃が当たるわけもなく、里奈はそれを避け、上空へと飛び立った。

「…!だが、そこも俺の距離だ!!」

しかし、自分には遠距離用の武装も積まれている。

「これで…」

背中から光線銃を取り出し、彼女に照準を合わせる。

「終わりだ!!」

そして、放つ。

それと同時に、彼女の連射も始まる。

「ぐ…!ぬおおおおおおお!!!」

しかし、一発ずつの銃と、雨霰のように降り注ぐマシンガンの差は歴然。

手に持った光線銃は弾かれ、そして背中の爪にも当たる。

だが流石に疲れたのか、こちらにクリーンヒットする事はない。

「ぐ…ならばァ!!」

だが、今の彼にはもう一つ、武器。

「今度は逃がさん…貴様が死ぬまで何度でも貫いてやる!」

「…女の子にそんなこと言うとかサイテー…」

左手首のアイテムに手をかける。

それさえあれば、時はまた止まる。

例え上空にいたとしても、10秒もあれば自分はたちまち殺されてしまうだろう。

だが、里奈は余裕の表情を崩さなかった。

「今度こそ…」

その瞳が見ていたのは、デスガロンではない。

『EXCEED CHARGE』

「終わッ…!」



114: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:06:09.66 ID:9jOuoerRO

その音声に、振り向く。

すると、後ろから黄色い弾丸が迫っていることに気づく。

気付いた時には、目の前数センチ。

避けられない。

「!?」

そして、喰らう。

「ぬ…お…おっ!?」

恐らくは、フォトンブラッドによる拘束。

放ったのは、自身のすぐ後ろに居た、もう一人の実験体。

「実験体6号…木村夏樹…!」

「一応名前で呼んでくれんだな。ありがとよ」

「…これしき…!」

力を振り絞る。

解けない拘束ではない。

「オオオオオッ!!!」

両腕を、無理矢理広げる。

そして紐を引きちぎるかのように、解いた。

「…」

どうだ。
そう言わんばかりに夏樹を見る。

「例え止められたとしても、一瞬!これしきの力で…」

だが、彼女の反応は想像と違う。

「…フッ」

「…?」

笑っている。

それは、本当の余裕。

死を覚悟したそれではない。

「…何が…」

「…」

すうっと、夏樹の腕が上がる。

そして、一方向を指差す。

「…!!」

それは、自分の後ろ。

「しまっ…!!」

夏樹が自分を止めたのは、一瞬。

たったの、一瞬。

だが。

「…一瞬で…」

『EXCEED CHARGE』

「貴様らッ…!!」

「…十分…」

後ろを、振り返る。

そして見える、青白いエネルギーを纏った、剣。

「!!?」



115: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:06:56.26 ID:9jOuoerRO

咄嗟に、両腕で防ぐ。

しかし、それはガードなど意味の無い技。

「ン゛ン゛グッッ!!?」

里奈の放った一撃が、デスガロンの腕、そして胴体を切り裂いていく。

猛毒。
高熱。

耐熱性のあるサイボーグであるはずの自分が耐えられない、一撃。

「…」

そして、振り抜かれる。

身体を真っ二つに裂かれ、切断された箇所から灰となり、空に撒かれていく。

そして、胸像と変わらぬ姿と成り果て、地に落ちる。

「…」

「…」

里奈と、夏樹。

両者に見下ろされる。

「…こんな…」

『…』

「!」

その時、自身の耳に入る、通信。

腕の無い上半身はまだ、通信機能を失ってはいなかった。

「…ガテゾーン様…!」

『…』

「…申し訳…ありません…!」

それでも彼は、助けを求めることはない。

無念、と。

潔く死を受け入れる、と。

その謝罪の言葉に様々な意味を込めた。

『…すまねぇな。デスガロン…』

「!」

しかし、謝罪の言葉をかけたのは、向こう。

それは、何故か。

『…俺ぁ、どうやらとんでもないもんに手を出しちまったらしい…』

「…!?」

『…そいつらは…』

「…」

『…死んでからが、本番だ』

「!!?」



116: ◆GWARj2QOL2 2017/01/19(木) 21:07:36.67 ID:9jOuoerRO

…。

「…」

今は朝なのか、昼なのか、それとも夕方なのか。

日差しはあるが、カーテンも閉められていた為、判別出来ない。

「…ん…」

ゆっくりと、身体を起こす。

「…」

傷が治っているのは、もう見慣れた。

「はぁ…」

起きたそこは、いつもの家だった。

そんな事はなく、ちゃんと寝た場所で目を覚ました。

「…ふわぁ…」

口の中は渇き、喉の調子も良くない。

「ハイ」

「ん…」

左頬に、少し冷たい感触。

「…あ…」

「水。欲しいでしょ?」

「…ん、うん。ありがとう…里奈ちゃん…」

「えへへ…」

冷た過ぎず、ぬるくもなく。

今の自分に丁度良い温度の水分。

彼女はそれを自分に渡し、また再び椅子に腰掛けた。

「…」

「…里奈ちゃん…」

「ん?」

「…おはよ」

「…」

「…」

「…おはよっ☆」

その笑顔は、とてもにこやかだった。

第四話 終



120: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:09:14.38 ID:Eh+ERF6CO

デスガロンのモニターと、通信を通して観た、その光景。

死んだ筈の里奈が、起き上がり、再び戦った。

「…」

死して、オルフェノクとなった者達、専用のベルト。

「…何でだ…?」

彼がこのままでは使えないと、切り捨てた機能。

「何で…」

思えば、実験体5号、多田李衣菜の時もそうだった。

自分の何倍もの威力のある拳を、まともに受け、瓦礫の下敷きになった。

「…あの時も、一度は死んだ…ってのか…?」

捨てた筈の機能が、戻っている。

「…どういうことだ!!」



121: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:10:02.98 ID:Eh+ERF6CO

「…」

思わず、壁を殴る。

鉄よりも硬い壁に、拳がめり込む。

「…」

焦るガテゾーンを、ただ見つめる上官、ジャーク将軍。

「…」

彼もまた、仮面ライダーを研究し続けていた者の一人。

昆虫の力。
自然の力。
機械の力。
最先端の力。
そして、神秘の力。

様々な物から、彼らは生まれ、そして戦いに身を投じた。

「…ガテゾーンよ」

「…ぁんだよ…」

「これはあくまで推測だが…」

違いはあれど、彼らは一つの目的の為に戦っていた。

「奴らは長い年月、戦い続けた」

それは、正義。

揺るぎない、信念。

曲げることのない、真っ直ぐな思い。

「その思いは、消えぬのかも、しれんな…」

「…」

「お前があの子供達と、ライダーを選んだのは、無作為ではない」

「…?」

「…運命だったと、いうことかもしれぬな…」

「…」

「もうすぐここにダスマダーがやってくるだろう」

「…失敗の責任者…ってか?」

「…お前はマリバロンの所に行くが良い」

「…」

「マリバロンの今の心中は、私よりもお前の方が分かるのだろう」

「…将軍…」

「…」

「…すまねぇ…」

「…」



122: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:11:01.30 ID:Eh+ERF6CO

「…さて…」

杖で床を一度、叩く。

するとモニターが別視点へと変わる。

「…」

それは、実験体達の姿でも、怪人達の姿でも、ましてや幹部達の姿でも、ない。

「…フム…」

意図的なのかどうかは分からないが、砂嵐が舞っている。

「…全体像までは分からぬが…」

細かい形までは見えない。

分かる特徴は、黒。

全身が黒に染まった、何か。

「…RX…ではない…」

呼んだ覚えのない、それ。

「…」

肩や肘、膝、足。

鋭利な棘のようなものが生え、禍々しさを演出させている。

彼の通る場所はすぐさま燃え盛り、木々を一瞬にして消し去る。

「…」

密偵から一報を受け、見てみたものの。

「…此奴は一体…何者なのだ…?」

自身のライダーの知識に、このようなものはいない。

というより、ライダーには見えない。

「…この姿…」

ライダー、正義のヒーローというよりも。

「…まるで悪魔ではないか…」

本来存在しない筈の者が、ここにいる。

正体不明のそれに、ほんの少し寒気を感じる。

「…」

それと同時に、一つ。

「…もし奴がライダーの一人だとしたら…」

この黒目の異形の戦士が、ライダーだとするならば。

「…怪魔界に来たライダーは、他にもまだいるということか…?」

…。



123: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:11:49.62 ID:Eh+ERF6CO

「ン…」

里奈から出された水をゴクゴクと飲み干していく。

ジュースが飲みたいという贅沢は最早言わなかった。

生きているだけで、良い。
欲を言えば、全て元に戻ること。

それ以上の贅沢は望まない。

「プハッ…ありがと…」

「えへへ…でもさ、お礼はアタシじゃないんだよー?」

「え?」

空のペットボトルを捨てにいくからと手を差し出し、渡す事を促す。

だが、これを持ってきたのは里奈ではない。

ならば、誰か。

「…え…?」

周囲を見渡し、すぐに気付いた。

「あ…」

病室の扉。

そこに、彼女はいた。

特徴的だった髪型は崩れ、ストレートになっているが。

それでも、見間違えることなどない。

それ程、彼女の顔を見てきたのだから。

「…」

彼女は此方と目が合うと、フッと笑みを浮かべ、右手を軽く上げることで応えた。

「…よっ」



124: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:12:32.10 ID:Eh+ERF6CO

「…」

軽い。

いつも通りの、軽い挨拶。

だが、それは最も彼女らしい、挨拶。

「…なつきち…」

「辛気臭い顔すんなよ。今更、さ」

「…」

「…」

「…ん?」

その時、ようやく。

李衣菜の緊張は解け、溜めに溜めたものを一気に吐き出させた。



125: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:13:14.83 ID:Eh+ERF6CO

「お、おいおい…ただでさえ暑いんだから抱き着くなって…」

「うえぇ…なつきちぃ…」

たったの、数日。

しかし李衣菜は、何年も過ごしたような、会えなかったようだと子犬のように夏樹に抱き着く。

「だりー、もう大丈夫だからな。アタシが守ってやるから」

子供をあやすように李衣菜の頭を撫で、優しく受け止めるその姿に、リナの顔も綻ぶ。

「…しかし里奈もいたなんてな…おまけにそっちもコイツ持ちかよ…」

「夏樹っちもそうだったんだねー…でも夏樹っちがいなかったらヤバかったよー…」

ケースをお互いに見せ合い、そしてお互いの出来事を確認する。

しかし、その行動よりも、李衣菜は気になることがあった。

「…え?ヤバかった?」

「あ、ヤバ…」

「おいおい…」

その言葉は、今は禁句。

タイミングが悪いと、口を押さえる里奈に、李衣菜が詰め寄るのは、何となく予想がついた。



126: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:13:58.54 ID:Eh+ERF6CO

「…」

頬を膨らませ、怒りの感情を表す。

「めんごめんご…だりなちゃん起こすの可哀想かなーって…」

「…」

「ほら、アタシも守られてばかりじゃ…ね?」

「…」

むすっとはしているが、事実一人だけの力ではどうにもならない。

だが、戦わせたくない。
彼女に傷をつけたくない。
犠牲は自分だけで良い。

そう誓っていた、独りよがりな部分もあった。

「…なあ。里奈、だりー」

「?」

「?」

そんな二人のやりとりを見て、不意に夏樹が口を開く。

「お前らも、そのベルトを使ってるんだな?」

「え…」

「う、うん。っていうか夏樹っちに助けてもらったし…」

「…そうか…」

李衣菜と、里奈。

二人の出来事を夏樹に、事細かに説明していく。

「…」

それを目を閉じ、止めることもなく、彼女は黙って壁に持たれ、聞いている。

「…」

最も、里奈は自分が一度死んだかもしれない出来事に関しては誰にも話していない。

というより、話せない。

それを話せば、真っ先に李衣菜がパニックになる事は分かっているからだ。

「…」

しかし、それを除いた内容でも、夏樹の眉間には皺が寄っている。

「…」

そして、聞き終わると同時に肩を落とし、軽い溜息をつく。

「…なつきち?」

そして、目を開ける。

「…もう良い」

「え?」
「?」

その場に仁王立ちし、こちらを真っ直ぐ見据える。

「…夏樹っち?」

「ベルトを渡せ」

「え…」

「え?」



127: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:14:44.81 ID:Eh+ERF6CO

木村夏樹。

普段は物静かで、多くを語らない。

自己主張も少なく、周りを見て的確に判断を下す。

「もう戦うな。特にだりー。お前はダメだ」

「え…」

「な、夏樹っち…?どうしたの?」

しかし、一度決めた事は中々譲らない頑固な一面も、持ち合わせている。

「こんな思いするのは一人だけで良い。お前らまで苦しむ必要なんか無いんだ」

そう言って、手を差し出す。

それはベルトを渡せという、夏樹の意思。

「な、なつきち…?何か変だよ…?」

「変でも何でも良い。これがアタシの出した結論だ」

その瞳は、いつもの輝き。

純粋な、彼女の気持ち。

真っ直ぐ過ぎる、その眼差し。

それが正しいという、彼女なりの結論。

「…嫌だよ…」

「…」

「そんなの…嫌だ…」

「…だりー…」

だが、その気持ちは、李衣菜達も同じ。

自分以外を戦わせたくない、守りたいという気持ち。

「なつきちだけが傷ついて、私達は何の苦しみも無いなんて、やだ!!」

「李衣菜!!」

「!」



128: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:15:21.92 ID:Eh+ERF6CO

あだ名でなく、名前を呼ぶ。

その真剣な表情に、思わず李衣菜も後退りをする。

しかし、李衣菜にも譲れないものはある。

そんな二人の衝突の真ん中でおろおろとする里奈。

感動の再会も束の間、彼女達は互いの思いをぶつけ合っている。

自分一人を犠牲にする、夏樹。
それに近い、李衣菜。

「…」

「…」

睨み合いがしばらく続いた後、夏樹は少し目を閉じた。

「…」

「…」

何かを考えている。

この状況においての妥協策を練っている、というのならば助かるものだが。



129: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:17:44.60 ID:Eh+ERF6CO

「…分かったよ…」

「!なつきち…」

「…お前は、アタシも守りたいって?」

「…」

「自分一人で何とかしたいってか?」

「…出来るなら、そうしたい…」

「…そうか…」

そしてまた一つ、溜息をつく。

大きく息を吸い、髪の毛をかきあげる。

「…?」

彼女がそれをするのは、LIVEや仕事の前。

ヤル気を出した時にする、行動。

「…なら、証明してみろ」

「え…」

「表に出ろ。李衣菜」

「な、なつきち…?」

拳を鳴らし、軽いストレッチをする。

その行動で、彼女が何を言わんとしているか。

里奈には、瞬時に理解出来た。

「…ちょ、ちょっと!夏樹っち!こんなとこで…今はそんなことを…!」

「アタシらがやってんのは何だ?」

「え…?」

「LIVEでも、仕事でもない。アイツらとの殺し合いだ」

「…」

「その殺し合いに参加して、そんで他の奴らも守る。…その覚悟を見せてみろってことだ」

「…夏樹っち…」

「李衣菜。そんなにアタシを守りたいってんなら…」

「…」

最後に、首の骨を軽く鳴らし、彼女に冷たく言い放つ。

「アタシを、ぶっ飛ばしてみなよ」

「!」

「アタシを守りたきゃ、アタシより強いって事を証明してみろ」



130: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:18:26.90 ID:Eh+ERF6CO

「なつきち…」

今まで二人の衝突が、無かったわけではない。

だがいつも、夏樹から折れ、そしてすぐに仲直りをしてきた。

しかしここでは、全く別の話。

命を失うかもしれない事態に、彼女達を巻き込みたくない夏樹の覚悟。

今度ばかりは、折れるわけにはいかない。

その為なら、多少の暴力もやむなし。

静かに、先に外へと出ていった夏樹の背中を、呆然と見る。

「だりなちゃん…」

「…」

考えたことのなかった、友達との喧嘩。

口喧嘩などではない。

「…」

この手で、彼女を屈服させろ。

殴り倒し、言うことを聞かせろ。

「…」

「…だりなちゃん。行かなくていいよ。アタシが説得してくるから…」

「…」

それは、恐らく通用しない。

あの夏樹は、自分も知らない。

周りに説得されて終わるような状態でもない。

「…ごめん。里奈ちゃん。行かなきゃ…」

「…」

「…何とかするから…」

「…ッ」

「!」



131: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:19:30.69 ID:Eh+ERF6CO

「…」

「里奈ちゃん…」

弱い力ながらも、李衣菜の服をつまむ。

「…駄目だよ」

「…」

「こんなことで、喧嘩しちゃ…」

重苦しい雰囲気に耐えられないのか、瞳を潤ませ懇願するような顔で李衣菜を見る。

「…ごめん」

しかし李衣菜は、その手をやんわりとどかす。

「もしここで里奈ちゃんに頼ってたら、多分私はなつきちに嫌われると思う…」

「…だりなちゃん…」

「…行かなきゃ。なつきちが待ってる」

どうするかは、考えていない。

しかし、行かなければならない。

自分は、親友の思いに応えなくてはならない。

「…ごめん…」

そして、ゆっくりと夏樹の後を追う。

里奈が追ってくることは、なかった。



132: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:20:07.20 ID:Eh+ERF6CO

「…」

病院を出て、すぐ。

そこに夏樹はいた。

「…」

待ちわびたとばかりに伸びをし、こちらを見据える。

「…なつきち…」

「…」

「…こんなの、良くないよ…」

「…」

「…間違ってる…」

「お前を死なせたら、お前の仲間はどう思う?」

「え…」

「悪いけど、こっちは本気だからな」

「…!」



133: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:21:11.22 ID:Eh+ERF6CO

夏樹は話し終えると同時に、その場から思い切り、飛んだ。

気付けば彼女は李衣菜の目の前まで迫っており、李衣菜も突然の事に目を疑う。

「ン゛グッッ!!?」

そして、鳩尾に激痛。

「…ッ…!!?」

そこには、彼女の膝がぐっさりと刺さっている。

「気ィ緩めてんじゃねーよ。これがアイツら相手だったらどうすんだ?」

呼吸がままならず、腹部を押さえて倒れこむ李衣菜の髪の毛を鷲掴み、無理矢理起き上がらせる。

「…これ以上の所に、アタシ達はいるんだぞ」

息を吸えず、喋ることも難しい。

痛みというよりは、呼吸困難に陥ったことの方が大きい。

的確で、重い一撃。

何の迷いもなく、夏樹は急所に膝を叩き込んだ。

少なくとも、自分よりは遥かに戦い慣れているレベル。



134: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:21:47.55 ID:Eh+ERF6CO

「ッッ!?」

続いて、左頬に軽い痛み。

彼女の右手が、自身の頬を張った。

意識を保たせる為だけの、威嚇を込めた攻撃。

「そんなもんで、アタシ達を守るって?」

その普段との違いに、驚愕する。

もしかしたらこれが本来の彼女なのかもしれない、と。

「そんなんじゃ、てめーの命も守れねーだろ」

胸倉を掴まれ、顔を近づけられる。

「悪い事は言わないよ。お前は引っ込んでろ。李衣菜」

ここから先は、生半可な世界ではない。

だからこそ夏樹は、優しい李衣菜を参加させたくなかった。

「…なつきち…!!」

「!」

しかし、それは李衣菜も同じだった。

「…ヤッッ!!」



135: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:23:07.63 ID:Eh+ERF6CO

「!!!」

やられてばかりではない、と夏樹の頭を掴み返し、頭突き。

闇雲に放ったが、それは彼女の鼻を捉えたようで、思わず夏樹も手を離し、鼻を押さえる。

「…ってェ…」

鼻血が出たのか、服で拭っている。

「なつきちぃぃぃぃいいいい!!!」

畳み掛けるなら、今。

拳を握り、走る。

夏樹の覚悟は分かった。

ならば、自身の覚悟も見せなければならない。

機械相手とはいえ、戦い方を学んだ李衣菜。

脇を締め、腰を回転。

勢いをつけた全力の拳を、夏樹に振るう。

「…え…?」

しかし、夏樹はそれを難なく避け、李衣菜の右腕に腕を回した。

そしてもう一方の手を彼女の服の首元に回す。

「…バーカ」

「…あっ」

力で無理矢理放った、背負い投げ。

「がッ……」

しかし、背中からかなりの勢いで固い地面に叩きつけられた威力は凄まじく、再び声を失う。

「…!!…!!?」

「アタシは喰らったら血も出るし痛てーんだよ。避けるに決まってんだろ」



136: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:23:45.31 ID:Eh+ERF6CO

「~!!!?」

「…」

聞こえているか、いないのか。

恐らく後者だろうと判断した夏樹は行動不能になった李衣菜に背を向け、歩き出す。

「…アタシの勝ちだな。これで良く分かったろ」

少し本気になり過ぎたと頭を掻く。

「…お前じゃ、足引っ張るだけなんだよ」

これでは元の世界に戻った時、どのような関係になるか分かったものではない。

しかし、生命があるならそれで良いと彼女は考えた。

だから、この判断は間違いではないと自身を納得させる。

「これに懲りたら、二度とアタシを守るなんて…」

その時だった。



137: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:24:28.97 ID:Eh+ERF6CO

「…あ?」

痛みに苦しみ、暴れていただろう音が聴こえなくなった。

その代わりに、獣の唸り声のようなものが聴こえ出す。

「…何だ?……!!!?」

振り返り、そして驚く。

「…」

そこにいたのは、確かに李衣菜。

しかし、少し違う。

先程までの素人同然の構えではなく、まるで今にも飛びかからんとする狼のような姿勢。

犬歯が異常に発達し、目は血走っている。

そして、一回りも二回りも太くなった、腕、脚。

盛り上がった肩の筋肉に、伸びた爪。

「おい…李衣菜…?」

返事は無い。

剥き出した歯とその目を見れば何を考えているかはなんとなく分かるが。

「お前…本当に李衣菜か…?」

その変貌に、後退りする。

ダメージが大き過ぎて脳が壊れた訳ではない。

明らかに、身体的に、変わっている。

「ッ!!?」



138: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:25:07.41 ID:Eh+ERF6CO

隙を見せた夏樹に、吠えるような声を出し飛びかかる。

咄嗟に避けるが、李衣菜はそれをさらに上回る反応速度で持って脚、というより後ろ足で夏樹を蹴り飛ばす。

「…!!どんな力だよ…!!」

ガードしたにも関わらず、数メートルも吹き飛ばされる。

とにかく起き上がり、体勢を立て直そうとする。

「!?」

しかしそれすらも許さない李衣菜の追撃。

「速ッッ……!?」

カウンターを狙う余裕も、避けてどうするという考えも無い。

とにかく防御。

状況も理解出来ない今、夏樹はただ耐えるしか出来ない。

「…~~!!」

右腕を振るえば、左へ。
左腕を振るえば、右へ。

ピンポン球のように弄ばれる己の身体。

稚拙で荒々しい戦法だが、化け物じみたその腕力に隙は無い。



139: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:25:53.55 ID:Eh+ERF6CO

「…李衣菜…!!」

変身した時と同等か、それ以上。

スピードは、最早目で追えない。

ベルトの力無しで、彼女は人知を超えた。

「…殺す気かよ…!全く…!」

しかし、理性はとてもじゃないがあるとは思えない。

今自分は、友人としてではなくただの獲物としてしか見られていない。

必死に防御し、逃げ続けているが、もう腕の感覚が無い。

恐らくこれ以上喰らえば二度と上がらなくなる。

それ程の、力。

「…ヤバいスイッチ…押しちまったみてーだな…」

何とか距離を取ることに成功したが、だからといって何か出来るわけでもない。

両腕の力は入らず、握る力も消えた。

「…やるじゃねーか。だりー…」

彼女は唸り続け、再び飛びかかる姿勢を取る。

このまま一直線に彼女が向かってくれば、頭突きの一つでもかまし、最後の抵抗でもしたいものだが。

自分の反応速度を遥かに上回る動きに、対処を出来る自信は無い。

というより、そんな元気も無い。

こんなところで死を覚悟するとは思わなかったと、苦笑する。

「はは…。バカはアタシかぁ…」

人を辞めても、守りたい。

李衣菜の覚悟が、今になってようやく理解出来た。

「だりー…」

もう、元に戻れなくても、皆を助ける。

化物になっても、皆を守る。

「…ごめんな…」

自身の独りよがりな覚悟よりも、彼女の思いは遥かに上だった。

これが自身の運命ならば受け入れよう。

そう思い、向かってくる李衣菜を見て、そして目を閉じた。



140: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:27:15.73 ID:Eh+ERF6CO

…。

「…」

…。

「…?」

来る、と思っていた李衣菜の攻撃が来ない。

間違いなく、李衣菜は敵意を持って此方に向かってきた。

だが、来ない。

「…ん…?」

おそるおそる、目を開ける。

すると、目の前に、金髪。

「…あ…」

視界の端に、白目を向いて倒れている李衣菜。

「…」

白と、青紫のアーマー。

「はい!終わり!!」

手をパンパンと叩き、気絶し、元に戻った李衣菜を担ぐ。

「里奈…」

「夏樹っちが謝ったから、終わり!!」

「…」

「みんなで一緒に戦うの!!みんなで助け合うの!!!」

気丈に振る舞おうとしているが、鼻を啜りながらの為、迫力が無い。

情けない顔をしているのを見られたくないのか、こちらに身体を向けることはない。



141: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:28:00.84 ID:Eh+ERF6CO

「アタシが勝ったんだから、アタシの言うこと、聞いてよね…!」

李衣菜を担いだまま、里奈は病院に戻っていく。

「…」

その背中を見ながら、夏樹もまた自分が情けないと、声を出さずに泣く。

そして、腕が上がらない事にも後悔する。

それは、流れる涙を拭けない為。

しかし、腕が上がらなくて良かったとも思う。

もし動かせたなら、自分の顔が変形する程殴っただろうから。

「…ごめんな…」

そして、冷静になると同時に痛みが襲う。

腕全体に、重い激痛。
頭突きを喰らった、鼻。
吹き飛ばされた時に擦りむいた、背中。
いつの間にか切っていた、口の中。

「…ごめんな…」

しかし今の自分には丁度良い。

これは、お仕置きの代わりなのだ、と。



142: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:28:52.93 ID:Eh+ERF6CO

…。

その頃。

李衣菜達の所とそう遠くない場所。

「…」

蝙蝠をそのまま巨大化させたような、怪物。

怪魔異生獣、ムサラビサラ。

彼は上官からの命で、向井拓海と諸星きらりを襲った。

「…バカな女だ。変身すれば戦えたかもしれないものを…」

切り傷塗れの、拓海の身体。

噛み付いたところで動く気力も無いだろうと、投げ捨てる。

「何が素手喧嘩だ。そんな弱さでよくも俺に立ち向かえたものだ」

背中や、腹、手足。

全身を切り刻まれた彼女は、一切動かない。

まだ微かに息はあるが、意識は無い。

「幸せ者だな。寝ながら死ねるのだから…さて」

そして、もう一方。

初めから逃げ惑っていただけの、女。

「何と情けない…お前を守る為に、この女は死んでしまったぞ?」

「…」

きらりは傷つく拓海に泣き叫びながら懇願した。

もうやめてくれ。
逃げれば済む話だ、と。

戦うことなど、してはいけない。

そう叫び続けるきらりに、拓海は戦うことはどういうことなのかを教える為、敢えて変身せずに怪物に立ち向かったのだ。



143: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:31:19.91 ID:Eh+ERF6CO

「…」

目の前の凄惨な光景に、目を見開く。

「安心しろ。すぐにお前も後を追わせてやる」

「…」

そして、きらりの中で何かが弾ける。

戦うということ。

それは、命の取り合い。

「…」

やらなければやられる。

殺らなければ、殺られる。

殺さなければ、殺される。

「…」

自然と、ケースに手が伸びる。

「…ム?」

「…」

そして、ベルトを巻く。

「ほーう…ようやくその気になったか…」

そして、銃に着いたマイク部分に、語りかける。

「…」

「…変身…」



144: ◆GWARj2QOL2 2017/01/22(日) 00:32:45.34 ID:Eh+ERF6CO

銃を、ベルトの腰部分に装着。

だらり、と立ち上がる。

すると、身体を黒いアーマーが包む。

白い線がベルトの中心部から末端部にまで行き渡る。

「…」

ブーツを含めたその身長は、190近い。

ゾンビのように立ち上がるその様子は、まるで女性らしさを感じさせない。

「…」

「…アハ…」

「…?」

それどころか、その顔は。

「…アハハハ…」

「…貴様…」

これから起こるだろう、戦い。
流れるだろう、血。

どちらかが死ぬまで、行われる殺し合い。

それら全てに期待を寄せるような。

「…!」

とても、歪んだ笑顔だった。

「アッハハハハハハハハハハハ!!!!!」

第五話 終



152: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:05:09.23 ID:ZYmvzWsJO

…。

それは、突然やってきた。

「…」
「…」

二人が直接、何かをしたわけではない。

だがそれは、間違いなく此方を狙ってやってきた。

空から此方を見定め、急降下。

その超スピードと、突然の事で反応が遅れたきらり。

「あっ…」

「馬鹿ッッ!!」

だが、それはある人物によって助けられた。

「…!」

間一髪、拓海が覆い被さる事で傷を負わずに済んだ。

しかしそれは、きらりだけ。

「…拓海ちゃん…」

「…大丈夫か…?」

背中を、斜めに切り裂かれた彼女。

それでも彼女はきらりを心配する様子を見せる。

「…背中…」

「…」

自身の経験でも、ここまでの怪我は無い。

痛い、と泣き叫ぶのは簡単。

「拓海ちゃっ…!!」

「気にすんな…!慣れてっからよ…!!」

しかし拓海はきらりの言葉を制止し、立ち上がる。

痛くない訳がない。

だがここで自分が叫べば、きらりはパニックになる。

そう考えた彼女は気合と根性だけで耐え、そして襲いかかってきた大型の蝙蝠を睨みつけた。

「…あいつか…!」

彼は飛べない自分達をあざ笑うかのように、上空を旋回し続けている。

いつでも殺せる。

その余裕も、拓海の怒りを助長させるものとなっていた。



153: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:06:06.17 ID:ZYmvzWsJO

「…てめぇ!!降りてこい!!タイマンだコラァ!!!」

拓海の言葉に彼は動きを止め、そしてニヤリと笑う。

そして、相変わらず降りてくる様子はない。

似たような経験があるのか、警戒しているのかもしれない。

「た、拓海ちゃん!!逃げなきゃ!!」

「…!」

その隙を狙って、逃げることを勧めるきらり。

拓海はそんな逃げ腰の彼女を睨みつける。

「ヒッ…」

そして、胸倉を掴み、軽く頭突きをする。

「…拓海ちゃん…」

「こっちは喧嘩売られてんだぞ…!!だったら買ってやるのが礼儀ってもんだろ…!!」

「…」

瞳を潤ませ、懇願するような表情にも、彼女は応えない。

逃げる事も、出来なくはない。

あそこまで飛び回るのなら、室内に逃げ込めばまだ活路はある。

だが、それは拓海の性格が許さなかった。

「特攻隊長向井拓海…このアタシに逃げるなんて言葉は無いんだよ!!!!」

「…」

来るものは全て、迎え撃ってきた。
そして、戦ってきた。

逃げるということは、負けを意味すること。

負けるということ。
それ即ち、死。

「お前は隠れてろ。アイツはアタシがぶっ飛ばす」

「た、拓海ちゃん…」

「とっとと行け!!これはアタシの喧嘩だ!!」

きらりは関係無い。
やられたのは自分。

そうすることで、彼女のメンツを保たせる。

その愚直なまでの真っ直ぐな優しさは、まだきらりには分からない。

「で、でも…」

「何だ!!」

「…足が、足がすくんで…」

「…ッ!!」



154: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:07:49.23 ID:ZYmvzWsJO

喧嘩の経験も、人を殴った事も。

ましてや殺し合いの経験など、あるわけもない。

そこに、あのような化け物が現れれば、こうなるのも無理はないのかもしれない。

足がすくみ、小動物のように身体を震わせる。

そんなきらりにかけてやれる言葉は、拓海には無い。

だからこそ、分かってもらわなければならない。

「…おい、諸星」

「…?」

「よー…く、見とけ」

「え…?」

歩を進め、その場に仁王立ち。

どっしりと構え、拳を鳴らす。

「…ッ」

そして、息を思いっきり吸い、吐く。

傷の深さは見て分かるほど痛々しいものだが、彼女は意に介することなく蝙蝠を見上げる。

「…おいクソコウモリ!!!かかってこい!!」

蝙蝠は拓海を見定め、そしてまたニヤリと笑みを浮かべる。

拓海の手は、ケースを持っていない。

素手のままの、喧嘩。

愚か者だ、と。

勝てるわけがない、と。

既に勝ちを確信したかのように、ゆっくりと降りてくる。

「…フフフッ」

笑いが止まらない。

目の前の人間は、自分に素手で挑んでくるつもりなのか。

これから起こる一方的な暴力に、彼の加虐趣味が刺激される。

「…タイマン勝負は地上で素手が基本だ。飛ぶなんて卑怯ったらしい真似してんじゃねーぞ…」

「へへ……」

「アタシは向井拓海。訳あって今はアイドルだが、元暴走族特攻隊長!!」

「あ…?」

「…てめーの番だクソコウモリ。名乗れよ」

「…名乗る…フフフッ…」

「…」

「…俺はクライシス帝国、怪魔異生獣。ムサラビサラ…へへへッ…」

「…気持ち悪ぃ奴だな…」

これからどうしてくれようか。

五体を順番に切り落とし、じわじわと嬲り殺しにしようか。

それとも、もっと苦しい死を与えようか。

いずれにせよ、人間のままで自分に勝てるわけがない。

あまりの可笑しさに、また笑みを浮かべた。

「…あ…?」

その時だった。



155: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:08:39.47 ID:ZYmvzWsJO

「ッ!!?!?」

下顎。
上顎。

同時に、潰れるような痛み。

「ガッ…!!」

「ゲラゲラ笑ってんじゃねーよ。喧嘩の最中だぞ」

下顎には、拓海の膝。
上顎には、拓海の肘。

まるで虎が獲物に噛み付くかのように、上下から牙が襲いかかってきた。

「…ンググ…!」

「非力なガキだろーがな、やり方はいくらでもあんだよ」

的確に当てられたそれはムサラビサラの歯を何本かへし折り、血を流させた。

「…き、キサマッ…」

血を拭い、拓海を睨みつける。

「!?」

しかし、自身が見たのは、彼女の姿ではない。

「ッラァ!!!」

「ングォッッ!!?」

飛び散る、自分の血と、歯と、空。

先程の攻撃で痛む下顎をさらに蹴り上げられ、その痛みに思わず膝をつく。

「~!!!」

この戦い方は、知らない。

この戦い方は、あの男とは遥かに違う。

強さの違いではない。

種類の違い。

急所を突き、隙が出来れば畳み掛け。

「…!」

「よそ見してんじゃ…」

「…!?」

「ねえっっ!!!」

一切の容赦が無い、本当の暴力。



156: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:09:39.83 ID:ZYmvzWsJO

「…ブフッ…」

顎への多段攻撃で、歯を何本か失う。

出血も、確認出来る。

「痛てぇか?…そりゃてめぇが慣れてねぇからだろ」

「…」

慣れてない、痛み。

その言葉に、ムサラビサラの目がぴく、と動く。

「飛んでばっかりで殴られてきた事がなかったんだろうよ。てめぇなんざこの状態で十分だ」

「…痛み…?」

「あ?」

「…痛みに、慣れてない…だと?」

「…?」

ゆらり、と立ち上がる。

「…」

その動作だけで、何かが違うと分からせる。

先程までの舐め切った態度とは大幅に違う。

「…ならば、逆に聞こうか…」

「…」

「…お前は、慣れているか?」

「あ?…慣れてるに…」

「突き刺され、骨肉が砕け、身体の内側から燃やされ、爆発させられる痛みに、慣れてるか…?」

「…あ?」

「ゆっくりと、殺される恐怖をお前は知ってるか…?」

「…」

「お前に、死んだ経験はあるか?」

「な…」

ただ、歩み寄ってきた。

だが、その距離は縮まらない。

それは、何故か。

「…あ…」

「…お前に、教えてやる…!!」

「…嘘だろ…?」

いつの間にか、自分は壁際にまで追い詰められていたからだ。



157: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:10:34.00 ID:ZYmvzWsJO

「な…ふざけてんじゃ…!」

咄嗟に、拳を振るう。

左目を狙った、急所攻撃。

「…!」

しかし、それは空を切っただけに終わる。

「…え…?」

だが、自身に降りかかる、赤い血液。

「…あ…?」

あまりの事に、思考回路が停止する。

1、2、3。

自身の腕に、深く刻まれた、線。

伸びきった腕から噴水のように飛び散る、血。

「・・・」

押していたのは、自分の筈。

何故、そんな自分の腕がこんなにもボロボロになっているのか。

「・・・」

そして、前を見る。

そして、見開く。

「死ぬって事を、教えてやる!!!」

一筋、二筋。

無数の光の線が、目に映る。

拓海にはそれが何に見えていたのか。

突風によって巻き上がった、枯葉か。

勢いのある、豪雨か。

綺麗な、花火か。

それとも、ドス黒い死神か。

「・・・」

その答えは、分からない。

何故なら、彼女の意識はそこで途切れていたからだ。



158: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:11:19.39 ID:ZYmvzWsJO

「…え…?」

自分の前に立ち、自分に背を向け、守り通そうとした、彼女。

自分の制止など聞く耳も持たず、敵に立ち向かっていった、彼女。

彼女は突如、バランスを崩し、糸の切れた人形のようにその場に倒れた。

「…拓海…ちゃん…?」

倒れたと同時に、雨。

顔に降りかかる雨を、本能的に手が拭う。

「…え…?」

その雨は、赤い。

赤く、黒い。

「…」

倒れた彼女に目をやる。

痙攣し、血を噴出し続ける、その身体。

身体中至る所に赤黒い線が刻まれている。

「…あ…」

それが何を意味するのか。

「…ッッ!!」

理解し、絶叫するのに、そう時間はかからなかった。



159: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:12:16.39 ID:ZYmvzWsJO

目の前で起きた惨劇。

その現実を受け止められずに腰を抜かす。

「…バカな女だ。変身すれば戦えたかもしれないものを…」

ぺっと血を吐き出し、首の骨を鳴らす。

打ち所は悪くても、後に残る程のダメージではなかった。

「何が素手の喧嘩だ。そんな弱さでよくも俺に立ち向かえたものだ」

「…拓海ちゃ…ヒッ!」

血塗れの拓海に触れようとする。

その時また血が噴き出し、きらりの出した手が引っ込む。

「…何と情けない…お前を守る為に、この女は死んでしまったぞ?」

死ぬ、というのは正確ではない。

まだ、生きている。

といっても、虫の息。

助かる見込みは、ほぼ0。

「…お前も直ぐに後を追わせてやる」

「…ッ!?」

そして、ムサラビサラの標的がこちらに移る。

「…や、やめて…」

「フフ…」

これだ、と。

この反応こそ、自分が求めていたもの。

「来ないで…!」

「フフフッ…」

怖がり、命乞い。

それを嬲り殺しにすることほど、楽しいものはない。

「…」

ムサラビサラの心は今、満たされていた。

涙を流し、逃げようとする彼女の逃げ道を塞ぎ、ゆっくり、じっくりと殺す。

それが、自身の心を本当に満たす手段。

「…!」

「ん…?」

後退りするきらりが、不意に止まる。

何かにぶつかったのか、後ろを見ている。

そこに落ちていたのは、白色のケース。

「あ…」

「ほーう…変身か…」

そのベルトを巻けば、確かに自分達と同じステージに立てるかもしれない。

だがそれは、変身者によるのだろう。

自身を怖がっているこの少女が自身を対処出来るとは思えない。



160: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:12:56.48 ID:ZYmvzWsJO

「…!」

思案した結果なのだろう。

ベルトを腰に巻き、立てないまま、変身用の銃を取り出す。

その様子を侮蔑の意味を込めて見る。

「フフフッ…やってみろ。お前ごときじゃ何も出来やしない」

「…」

きらりの頭の中で、様々な思いが交錯する。

戦いたくない。
死にたくない。
戦わせたくない。
彼女を、死なせたくない。
皆に、早く会いたい。

「…!」

変身の仕方は理解している。

だが、そうなったが最後、自分は戦火の中へと飛び込むことになる。

もう、後戻りは出来ない。

だが、やるしかない。

ここでやらなければ、やられる。

「…」

銃を握り、構える。

「…変身…」

そして、装填。



161: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:13:59.13 ID:ZYmvzWsJO

「!」

その瞬間、彼女の身体が動かなくなる。

動かなくなるというよりは、自由が効かない。

「!?…!!?」

自由が効かないのは、何か別の者に押さえつけられているような感覚があるから。

しかし、その感覚は、幻ではない。

『アハハッ…』

「!?」

身体の下から、灰色の何かが這いずり出てきている。

「…だ、誰…?」

それは徐々にはっきりとした輪郭を形成し始め、そして自分にまとわりつく。

「…あ…!」

『ねーぇ…』

見覚えのある、顔。

毎日、鏡で見ている、顔。

「!」

『遊ぼぉ?』

それは、自分。

…。



162: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:14:50.81 ID:ZYmvzWsJO

「アッハハハハハハハハハハハ!!!!!」

「…?」

変身直後。

黒のアーマーに覆いかぶさるような、白の線。

彼女は狂ったように笑い出した。

「…壊れたか…?」

大口を開け、ゲラゲラと。

「…」

だが、その目は、一切笑っていない。

「チッ…面白くない…」

それが死を前に、壊れてしまったのだと思い、舌打ちをするムサラビサラ。

これでは、断末魔の叫びを聞けない。

仕事を遂行しようと、彼女に向かって歩き出した。

「まあ良い。痛めつけるだけ痛めつけ…」

そして、止まった。

「あ…?」

何かが飛んできて、頬を掠めた。

掠めた箇所は火傷しており、痛みを訴える。

「…な…」

前を見ると、右手に煙を出す銃を構えた、彼女。

「…」

外したのは、わざとではない。

使った事が無い為、当てられなかっただけ。

「・・・」

その時、ムサラビサラの五感が大声で叫んだ。

ヤバイ。

「…!」

逃げろ、と。

「チィッ!!」



163: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:15:45.40 ID:ZYmvzWsJO

後ろに、逃げるように、一直線に飛ぶ。

津波のように押し寄せる殺気。

それらは形となって現れた。

「なっ…!?」

天地が逆転したかのように、下から上がってくる銃弾の雨。

「アハハハハハハハハ!!!」

持ち前の飛行速度で、何とか避けることに成功する。

しかし彼女はそんな事はお構いなしにと撃ち続ける。

「…!」

ビル。
民家の窓。
橋。

外れれば風穴が開く威力。

しかし彼女は平気な顔で撃ち続ける。

「…!こいつ頭おかしいんじゃねえのか!!?」

「アッハハハハハハハハハハ!!!」

自分が飛んでいった所に、無数の穴。

「…この…!」

旋回すればする程、その数は増えていく。

「…貴様の攻撃で…」

やがてビルの支柱をも破壊し、バランスを保てなくなった上の階は崩れ、落ちてくる。

「…自爆しろっ!!」

その落下地点には、きらりと、拓海。

「!」



164: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:16:38.05 ID:ZYmvzWsJO

…。

……。

「ヒャハハッ!てめぇの攻撃で潰れやがった!!バカな奴め!!」

崩れたビルの瓦礫の山。

そのままならば、下敷きだろう。

出来ることなら自分の手で始末をつけたかったと悪態をつき、背を向ける。

「…しかし、期待外れとはこの事だな…」

直属ではないが、上官の説明を触り程度だが聞いていた。

「…こいつらは要注意との事だったが…」

それとは全く異なる、現実。

ムサラビサラは心底つまらないといった表情で飛びたとうとした。

「…ん…?」

だが、その時だった。

「…」

瓦礫が、崩れる音。

自然に出来た音ではない。

「…まさか…?」

そんなはずはない。
あの重さのものが落下してきたのだから、無事でいられるはずがない。

「…」

おそるおそる、後ろを向く。

「…な…」

そこに、いる。

死んだと思ったその女は。

「…何だと…?」

仲間を守り。

「…こんな…」

一滴の血も流す事なく、無傷で。

「こんな…バカな話があるか!!!」

そこに、立っていた。



165: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:17:53.07 ID:ZYmvzWsJO

「アハ…」

「こいつ…化け物か…?」

理性は飛んでいた。

それでも、彼女は実験体7号、向井拓海を守り、自身も耐えた。

「…」

見開かれた目。

それがぐるりとこちらに向く。

「ッ…!」

不気味。
得体の知れない何か。

そんな思いが、ムサラビサラの頭を支配する。

そこにあるのは、恐怖心。

「…き、貴様…」

「アハハッ」

まだ遊び足りない。
もっと遊ばせろ。

実験体9号、諸星きらりはそんな目で自分を見つめる。

「…こ、この…」

斬りつけ、その首を落とす。

そう思ったが、足が進まない。

「…!」

怪人であるはずの自分が、実験体と罵る者に驚愕し、恐怖に慄いている。

しかし、また、その時。

「…?」

きらりの動きが止まる。

「…?」

きらりもまた、それが何か分からず、足元を見る。

「!」

それは、血塗れの、拓海の手。

震えながらも、しっかりときらりの足首を掴んで離さない。

「…何…やってんだ…」

致命傷を負った筈の彼女。

しかし、その不屈の闘志が再び拓海を呼び覚まし、起き上がらせた。

「バカな…なんて生命力だ…」

「…おい…諸星。聞けよ…」

「…」

「…そりゃあ、てめーの拳か…?」

「…」

「そうじゃ…ねーんだろ…?」

「…」

「とっとと…帰ってこい…」

「…」

「…帰ってこい!!きらりィィィイイイ!!!」

「!」



166: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:18:37.68 ID:ZYmvzWsJO

拓海の手が、きらりのベルトを外す。

変身が解除されたきらりは、そのままそこに倒れこみ、意識を失う。

「…」

一連の光景を目の前で見ていたムサラビサラ。

しかし状況は全く理解出来ず混乱し、その場に立ちすくんでいた。

「…おい…クソコウモリ…」

「!」

「…ありがとよ…」

「…何?」

「アタシは血が多くてさァ…こんくらい抜かれて丁度良いんだわ…」

「…」

「覚悟しとけよ…」

きらりからもぎ取った白いベルトを、自分の腰に巻く。

「…今度は、手加減しねーぞ…」

そして、銃を構え、口元に持っていく。

「…変身…!!」

『STANDING BY』

「何…ぃ…?」

『COMPLETE』



167: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:23:20.54 ID:ZYmvzWsJO

黒のアーマーが、拓海を包み、さらに白の線がそれを包む。

そこまでは、きらりと同じ。

「…」

だが、拓海に変化は無い。

「…あー…」

きらりのように人格が変わることなく、その場で首を鳴らす。

「ど…どういうことだ…?」

「…どうやらコイツは、アタシの事が気に入ったみてーだな」

「…!」

「ま、アタシは黒の方が好きだけどよ。気に入られたんじゃあ、しょーがねーよな」

そして、右腕の人差し指を此方に向け、フッと笑みを浮かべる。

「…!」

そのままそれを半回転させ、そして戦いの合図を促す。

「来いよ。クソコウモリ」

「貴様ァァァアアアアア!!!」



168: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:25:07.66 ID:ZYmvzWsJO

今までで一番。

地面が崩れる程の、ロケットダッシュ。

気合いも十分。

怒りも十分。

今までに無い程の、全力。

「その首…斬り飛ばしてやる!!!」

爪を最大限にまで、伸ばす。

そして右腕を振りかぶり、拓海の喉元に向かって一直線。

残像が見える程のスピードで、振るった。

「!!!」

だがそれは、空を切る。

「そんなッ…!」

避けられた。

こちらは、伸びきった腕。

倒れこむ程の勢いで放った一撃。

体の自由は、まだ効かない。

つまり、避けられない。

「…バカな…!?」

何処にいるのか。

前、いない。
横、いない。
上、いない。
後ろは、分からない。

ならば。

「…!」

「…知ってるか?」

「…しまッ…」

「…来るって分かってりゃ、見切れなくても避けられるもんなんだぜ?」

拳を握り締め、天まで届かせる勢いで振りかぶる。

「今度は、加減しねーぞ」

地面スレスレ。

掠っただけで、火花が散る。

タイミング、角度、全て良し。

「ッッ!!」

視界が、ブレる。

そして、何かが頭の中で弾け飛ぶ。

口から、様々なものが飛び出していく。

走馬灯のように、悪夢が蘇る。

「…ォォォォオオオオオラァァァァアアアアアアアアッッッ!!!!!」

下からの、強烈なアッパーカット。

拓海がその拳を振り抜いた数瞬後。

死ぬ程辛い痛みが襲ってきたのは、10メートル以上吹き飛ばされ、倒れこんだ後だった。



169: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:25:55.27 ID:ZYmvzWsJO

息も絶え絶えに、地の上でもがき苦しむ、蝙蝠。

奇妙なその光景を作ったのは、一人の少女。

「どうだ?腹ん中ぶっ刺されるのとどっちが痛てぇ?」

銃口を冷ますように、拳に息を吹きかける。

比較は出来ずとも、暫くは立ち上がれない痛みだろうというのは見て取れる。

「…」

だがそれは、彼女も同じだった。

「…ッ…」

緊張が解け、様々な苦しみが身体中を一気に襲う。

痛み。
寒気。
倦怠感。
骨の軋み。

「…チッ…」

変身が解け、力無く、倒れる。

「…ここまでかよ…」

最早、指一本動かす気力も残っていない。

「…最後に一発くらい、あのチビポリ公に入れてやりたかったぜ…」

借りのある相手の顔を思い浮かべ、目を閉じる。

力が抜けていく感覚に、身を任せ、彼女は静かに眠りについた。



170: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:26:36.69 ID:ZYmvzWsJO

「…」

人間ならば、泣き叫び、病院で目が覚める程の痛み。

「…ガ…ハ…」

最早、意識は途切れ途切れ。

耳鳴りが止まず、脳の中にモスキート音が大音量で響く。

視界の至る所がスパークし、見え辛い状況。

「…アガ…」

顎は完全に砕け、喋ることもままならない。

しかし、その目はまだ諦めていない。

飛ぶ事はおろか、歩く事も出来ない。

飛行生物である彼が、四つん這いになりながらも、拓海の命を奪おうとする理由。

「…ガ…アアアアアア!!!」

それは、彼のプライド。

戦いたい。

倒したい。

勝ちたい。

あの男に、勝ちたい。

その一心で、彼は蘇った。

それの目前で、死ぬわけにはいかない。

必死に、腕を動かし、這いずる。

後数センチ。

彼女の変身が解けた、今の状態なら、首を少し切るだけで殺せる。

せめて、この女だけでも。

「…?」

だが、それ以上進まない。

力が出ないということでは、ない。

「…ア…ア!?」

それどころか、引っ張られている。

左足首を掴まれ、後ろに引きずられている。

一体、何が起きているのか。

ほとんど動かない首を無理矢理動かし、後ろに目をやる。

「…!!!?」

そこに居たのは、想像を絶するものだった。



171: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:27:23.29 ID:ZYmvzWsJO

「…」

まず初めに見えたのは、黒。

腕や、足。肩、頭部に至るまで全てが、黒。

重厚な、黒く輝く鎧。

赤のラインが入ったその鎧を着た人物。

「…もう、ダメだにぃ」

「…ア…!アア……!!」

必死で、抵抗する。

逃げようと、もがく。

しかし、圧倒的なその腕力と握力の前では、自分など幼い子犬と変わらない。

「…拓海ちゃんは、もうお眠なんだよ。だから、いじめちゃダメだにぃ」

「…!!」

きらりの左手には、自分の足首。

右手には、剣。

それだけで、何をするのか分かった。

「アガ…!!」

やめろ、とは言えない。

喋れない口では、聞いてもらえない。

「…次は、ちゃんと蝙蝠ちゃんに産まれてきてね」

「ア…!!?」

その瞬間、木の枝を振るうかの如く、ムサラビサラの身体が宙に浮く。

「!!?」

そして、飛ぶ。

視界の端には、先程きらりによって倒壊させられたビルの下半分。

ここまで飛んだのは自分の力ではない。

「…バイバイ…」

『EXCEED CHARGE』



172: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:28:29.52 ID:ZYmvzWsJO

…。

『ムサラビサラ。ゲドリアンに復活させられたらしいな』

『?…ガテゾーン…博士』

『博士はよせやい。俺はメカニック専門だ』

『…何用で?』

『なーに。折角蘇ったんだから、祝いにな』

『それならば、ご自身のロボット達へ…』

『愛想がねぇなぁ…。まあどうせお前も実験体と戦う羽目になるだろうからな』

『俺達が勝てば、RXを…』

『そりゃあな。…だが、そんな一筋縄で行くような奴らじゃあ、ねえぞ?』

『…?』

『例えば、実験体7号、向井拓海』

『…この目つきの悪い女が…何か?』

『こいつぁ、喧嘩だけならこん中でもピカイチだ。同条件なら南光太郎でも分からねぇ』

『…ほう…』

『…そんで、こいつだ』

『…こいつは…』

『実験体9号、諸星きらり…まあ、見てくれは気にすんな』

『…』

『…あ、違うな。見てくれも気にしろ』

『…?』

『…素の力じゃ、こいつは規格外だ』

『…何を…』

『単純な腕力。こいつは同年代の奴らのそれを遥かに上回ってる』

『…』

『ただこいつは臆病で泣き虫な奴だ。…だから仕方なく、使ったら戦いが大好きになる魔法のベルトを渡したが…』

『…?仕方なく…?』

『こいつが持つべきベルトは黒だ。…まあ、もしこれを使えたとしたら…』

『…したら…?』

『…相乗効果。カタログスペックなんざ屁でもねぇ力を持っちまうぞ』

『…面白い…!』

…。



173: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:29:50.62 ID:ZYmvzWsJO

「ガ…!!」

巨大な光が、徐々に形を成す。

そして現れた、巨大な光の剣。

地響きが聴こえるのは、幻聴ではない。

「…!」

そこにあったのは、恐怖ではない。

恐怖と言うには、巨大過ぎる。

これは、何なのか。

スケールの違いに、脳の全機能が停止する。

空にいるはずの自分よりも、遥かに高く、そして巨大。

押し寄せる光の津波を見て、ようやく彼は理解した。

「…」

自分は、ハズレくじを引いたのだ、と。



174: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:31:12.79 ID:ZYmvzWsJO

きらりの、放った一撃。

数十メートル先まで出来た、陥没。

空から見れば、地上に数字の1がでかでかと刻まれていると話題になるかもしれない。

奇しくもその一撃が、彼女達の運命を大きく変えたのだが。

今のきらりには、そんな事を考える余裕は無い。

「拓海ちゃん…」

自分を庇い、傷だらけになり。

それでも尚立ち上がり、自分を助け、守った。

「…」

誰かを殺す為ではない。

誰かを守る為の、力。

それならば、何の迷いもなく振るうことが出来る。

拓海が言う本当の拳とは、そういうことだった。

「…拓海ちゃん…!」

ただ、それをきらりが理解したのは、遅かった。

あまりにも、遅過ぎた。

「ごめんね…ごめんねぇ…」

守れなかった。

自分が迷いを振り切る前に、彼女は力尽きてしまった。

「拓海ちゃあん…!!」

その申し訳なさに、堪らず泣きじゃくり、拓海に抱き着く。

「…」

そして、気付く。

「・・・え?」

「…」

温かい。

まだ、温かい。

「・・・あれ?」

それだけではない。

「…?」

もう一度、今度は耳に意識を傾け、彼女に近づける。

「・・・あれぇ?」

「…zzz…」

「・・・」

「zzz…」

「・・・」

すぐさま、病院に運ばなければ。

そう感じたきらり。

ただ、運んでいる最中に思った。

ムサラビサラの放った言葉も、あながち間違いではない、と。

第六話 終



186: undefined 2017/01/28(土) 21:10:47.73 ID:H/ekkTaiO

この世界に来て、恐らく数日。

驚く事は何度もあった。

「…」

「…」

寝ている李衣菜。
ベッドで休む、夏樹。
その真ん中で座る、里奈。

二人の間に、会話は無い。

ただただ、重苦しい雰囲気が漂っている。

その原因は自分が作ったのだと、夏樹は壁を向き、目を合わせようとしない。

だが、一番の原因は、そうではない。



187: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:11:26.90 ID:H/ekkTaiO

「…」

夏樹との戦いで突如変貌した、李衣菜。

彼女は人間の範疇を超え、獣と化した。

「…」

あれは一体、何だったのか。

もしも、李衣菜がこうなっているとしたら、自分達もそうなってしまっているのか。

「…」

溜息すら、つけない。

虚空を見て、ぼうっとする。

何かをやる気さえ起きない。

「…」

友人が、化け物になって、またさらに化け物になった。

それを目にした時は、酷いものだった。

親友であるはずの夏樹に容赦無く攻撃し、殺そうとした。

「…ね、夏樹っち…」

「…ん…」

「…腕、治った?」

「…ん…」

ばつが悪いのか、夏樹の返事は小さく、相変わらずこちらに顔を向けない。

里奈も、どのように声をかけて良いのか分からず、それ以上話しかけることはなかった。



188: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:12:01.12 ID:H/ekkTaiO

「!?」

そして、今日、この日。

夏樹達は、この世界に来て初めて、地震を体験した。

「おわっと…!」

「え!?じ、地震!?」

ベッドで眠っていた李衣菜も顔をしかめるが、疲れているのか起きない。

「…な、何だ…?」

外の様子を伺おうと、窓から見る。

「!?」

巨大な、光。

天まで届きそうな程の、光の柱。

塞がらない、自分の口。

「…な、何あれ…?」

巨大な光は、ゆっくりと倒れるように降りていく。

「…」

その光景を見ていた夏樹の背中に、ぞくり、と寒気。

「…やべっ…!隠れろォ!!」

「え?」

そして里奈と寝ていた李衣菜を抱きかかえ、無理矢理ベッドの下に隠れる。

「な、何?どうしたの夏樹っち?」

「静かにしろ!!…来るぞ…!」

「え?」



189: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:13:13.27 ID:H/ekkTaiO

それは、隕石。
それは、ミサイル。
はたまた、ロケットの墜落。

「ひゃっ!!?」

巨大な何かが地球に超高速で落下し、大地震を引き起こす。

「…ッ!?」

体験したことのない揺れに、固まる。

そして、少し遅れて、今度は耳を押さえる。

「…!!」

これ以上の音は聴くことはないだろう程の、轟音。

そして、窓の隙間から吹く砂塵の嵐。

「何!?何が起きてるの!?」

「分かるかよ!!」

焦り。

得体の知れない巨大な力に対する、畏怖。

「とにかく逃げるぞ…!だりーはアタシに任せろ!」

そう言って夏樹は李衣菜を担ぎ、一刻も早くこの場から立ち去るよう里奈に促す。

里奈もそれが一番だと頷き、今だ続く微振動の地上を警戒しながら移動する。

「…」

その為か、見ることはなかった。

「…」

夏樹の背中で、起きた李衣菜。

「…」

ゆっくりと、目を開ける。

「…」

その目は、まだ血走ったままだった。



190: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:14:10.99 ID:H/ekkTaiO

…。

主がいない、部屋。

電気は切られており、非常用のライト以外の灯りは見えない。

ただ、その薄暗い部屋の中でも、一際目立つもの。

主によって開けられたままの、隠し部屋、だった場所。

その中の、二つのカプセル。

一つは開けられ、一つは閉じられている。

「…」

閉じられたカプセルの中には、機械と思しきもの。

「…」

部屋の主、ガテゾーンの技術の集大成とも呼ぶべき戦闘ロボット。

今回、そこにもう一つの技術が詰め込まれた。

「…」

それは大成功を収めた。

しかし、今の彼が持つもう一つの特殊能力の危険性をガテゾーンは危惧した。

「…」

その起動スイッチは押されておらず、封印されている。

あくまで彼は、最終兵器として投入するべし。

そう考えた。

しかしガテゾーンのロボット軍団は次々と実験体によって破壊されていった。

「…」

最終兵器である彼の、封印の解き方。

「…」

それは、自分以外の再生ロボット軍団の消滅。

『pipipi…デスガロン、機能停止確認』

ガテゾーンの、技術の集大成。

『ヘルガデム、起動。カウントダウンを開始…』

「…!」

大魔神を彷彿とさせるロボット。

彼の名は、ヘルガデム。

そしてその背中には、Φの文字が入ったトランク型のアイテム。

そこから毒々しい赤が身体の全てを包み、そして彼の顔すら変えた。

『ヘルガデム、起動成功』

「…」

『起動セ…起ドウ…キ…ガガ…』

「…」

身体中から毒煙を撒き散らし、彼は歩き出す。

以前より遥かに危険となった、その姿で。

…。



191: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:14:57.19 ID:H/ekkTaiO

「…」

見た目よりも、身長は低く。

見た目よりも、体重は軽い。

「…拓海ちゃん…」

病院を探すよりも、先ずは止血。

そう考えたきらりは背負っていた拓海を近くのベンチに休ませ、近くの売店に立ち寄り、包帯と消毒液を手にした。

これがゲームの世界なら体力も回復しようものだが、今この場でそれは応急処置にしかならない。

「絶対助けるからね…!」

それでもきらりは必死で、拓海の身体に包帯を巻いていく。

だが、いかんせんそういった技術は持ち合わせていない。

「…よいしょ」

「…ン…」

鼻と、口と、目。

それ以外は隙間のほとんどない、綺麗な黒髪のミイラが出来上がってしまっていた。

「…」

しかしそれを寝苦しいと無意識に訴えるくらいには、生きている。

今彼女が生きているのは、持ち合わせたその驚異的な生命力なのだろうと、きらりは感じる。

「一緒に、帰ろうね…」

そう呟いたきらりの背中で、拓海の包帯の隙間から、妖しい光が漏れる。

純粋な彼女はまだ、拓海が生きていられる本当の理由を、知らない。



192: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:15:34.69 ID:H/ekkTaiO

「参ったな…地震は流石に止んだみたいだけど…あれじゃあまたいつ来るか…」

「敵…なのかな?」

「それは分からねーけど…でも何かヤバい事が起きてて、ヤバい奴がいるってのは確かだろ」

なるべくなら衝突は避けたい。

ということではない。

今となっては、戦って勝てる相手なら、戦うつもりではいる。

しかし、これは違う。

「…っつーか…」

「…」

どうやっても、勝てる気がしない。

もしこれが味方なら、これ以上ない程に頼もしく見えるものだが。

「…敵なら、相当ヤバいな…」

「…」

そうでないなら、益々この世界から脱出するのが難しくなる。

「…ね、夏樹っち…」

その時、里奈の頭に過ったもの。

「…」

両手が塞がっている夏樹のズボンに引っ掛けてあるそれを手に取る。

「…」

「これ…」



193: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:16:19.25 ID:H/ekkTaiO

里奈が手に取ったそれは、先のデスガロンとの戦闘で唯一灰化しなかったもの。

崩れていく彼の左腕からころん、と音をたて、落ちた。

「…」

腕時計のような、しかしそうでないもの。

デスガロンはこれを使用した時、音も残像も残すことなく瞬間移動をしてみせた。

「これって…」

そして、そのアイテムには見覚えのあるマーク。

「もしかして、だりなちゃんの…」

「…」

Φのマークが刻まれた、それ。

それがもし本来、彼女専用の物だとしたら。

「…」

この世界の攻略は、難しくないかもしれない。

音をも抜き去るそのスピードならば。

「…でも…」

しかし、夏樹は里奈の意思とは違う。

「それって…こいつを矢面に立たせるって事なんだろ…?」

「…」

それでも、夏樹はまだ、李衣菜を戦わせる事に反対していた。

「…こいつは、本当は虫も殺せないくらい優しい奴なんだ…」

「…」

「そんなこいつを…李衣菜を一番危ない目に合わせるなんて…」

「…」

「…アタシは、嫌なんだ…」



194: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:16:56.12 ID:H/ekkTaiO

「…」

夏樹の心中。

ぶつかっても尚、守りたい、戦わせたくない。

単なる仲間という思いではない。

これが、過保護というやつなのか。

「…夏樹っちの気持ち、分かるよ…」

「…」

異常だと自分でもなんとなく思うが、里奈はそれをあえて否定せず、彼女の気持ちを組んだ発言をする。

「…アタシも、だりなちゃんが傷ついてくの、もう見たくない…」

「…」

「…でも…」

しかし、李衣菜の本質に触れた彼女だからこそ、分かることもある。

手に持ったそれを見つめ、そして意を決したかのように夏樹の目を見つめる。

「…もし、これを渡さなかったら…だりなちゃんは絶対怒ると思う」

「…」

「多分、だりなちゃんは、そういう人だと思う…」

「…里奈…」

里奈の言った、そういう人。

それは、夏樹も含めてのものだが、あえて、言わなかった。



195: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:17:45.84 ID:H/ekkTaiO

「…」

里奈の真剣な瞳に、返す言葉が思いつかない。

夏樹は静かにまた前を向き、歩き出す。

「…」

まだ、答えは出せない。

「…」

何故、彼女がそこまで李衣菜を戦わせたくないのか。

愛情なのか。
それとも、独占欲なのか。

彼女は決してそういった趣味は持っていない。

だが、李衣菜と接していく内に、彼女は無意識に李衣菜に対してはいつも強くありたいと思うようになっていった。

自分が今背負っている者に、格好悪い姿を見せたくない。

彼女には、頼られる存在でいたい。

「…」

それこそが、彼女が李衣菜を戦わせたくない理由なのだが。

無意識だからか、夏樹はその事を自覚出来ていなかった。

「…!」

しかし、不安気な表情を浮かべる余裕は無い。

「ど、どうしたの?」

「シッ!…隠れるぞ…」

いつ、どこで敵が目の前に現れるか分からない。

味方が突然現れるという保証など何処にも無い。

人影は敵。

そう考えていた方が、いざという時の心構えになる。



196: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:18:34.75 ID:H/ekkTaiO

「…い、今来るの…?」

「静かにしろ…!何とかやり過ごす…!」

里奈の口に手を当て、建物の影に隠れる。

向こうから歩いてくる、人影。

少なくとも、自分達よりも巨大。

背中に何か大きな物を背負って、ゆっくりと、悠然と歩いてきている。

「…」
「…」

今の時刻は恐らく夕方。

逆光のせいか、シルエットしか分からない。

「…!何だ…?」

「…!夏樹っち!」

目を凝らして見ようとすると、先に気付いた里奈が夏樹の肩を叩く。

「なっ…静かにしろって…あ、おい!」

その目は確信したと言わんばかりまっすぐそれを捉え、そして走っていく。

「…?」

その異常な行動に呆気にとられた夏樹も警戒しながらゆっくりと身体を起こす。

そこで目を凝らす。

「…あ」

そして、里奈に少し遅れて気がついた。

「…あ…」

いつもの髪型とは違い、ポニーテールとなっている上、服装もかなり似つかわしくないものとなっているが。

その顔と巨体は、中々忘れるものではない。

「…諸星…きらり…?」

「…夏樹…ちゃん…?」

あれ程悠然と道の真ん中を歩いていた割には、鼻水を垂らし、泣きじゃくっていたきらり。

「…と、誰だそりゃ…?」

そしてやはり背負っていた、誰か。

「…ミイラ?」

長い黒髪というだけでは、拓海だとは分かる訳もなかった。



197: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:19:15.70 ID:H/ekkTaiO

…。

「そっか…やっぱアンタらも…」

「…にぃ…」

自分達と時を同じくして、きらり達も地獄の苦しみを味わっていた。

「…しかし、とんでもないな…あの地震がアンタの仕業なんて…」

「…にぃ…」

「…」

今だに、信じられない。

この赤ん坊がそのまま大きくなったような人間に、あのような力があるのか、と。

「…」

彼女から詳しく話を聞くのは、随分時間がかかった。

拓海に早く治療を受けさせたい一心でここまで連れてきたというのだが、先の地震と砂埃の混じった強風のせいで、とてもじゃないが使える状態ではなくなってしまっていた。

それが分かると彼女はその場にへたり込み、本物の赤ん坊のように咽び泣いた。

しかしその光景をいつまでも眺めている程、夏樹達の性格は歪んではいない。

自分を責め、拓海に謝り続けるきらりを必死で宥め、自分達にあったことを説明した。

傷は何故か放っておくだけで直ぐに治る。

そう聞いたきらりはミイラのようになった拓海の包帯を解き、様子を見る。

するとやはりか、その身体は聞いていた状態とは大幅に違う。

傷は全て生々しく割れた皮膚だとの事だったので、思わず目を瞑ってしまっていたが。

そこにあったのは、いくつかの薄い擦り傷。

驚くきらりに、もう慣れたと自嘲気味に笑う、夏樹達。

しかし、きらりが此方の雰囲気に慣れてくれたのは、そこから数十分もしてからだった。



198: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:20:09.78 ID:H/ekkTaiO

「…とにか…く!」

考えをまとめ、一度、大きく手を叩いたのは、里奈。

「全員かどうかは分からないけど、随分大所帯になった…でしょ?」

「あ、ああ…」

「これなら、何とかなる…って気がしてくるよね!」

「…」

「…」

里奈が言ったそれは、戦力として、の意味ではない。

あくまで、気持ちの問題。

「…」

しかし、動けるのは3人だけで。

2人は、いつ起きるのかも分からない状況。

おまけに脱出への糸口が一つも見つからない事で、素直に喜べない。

何とかなる。

今までも、何とかなってきたのだから。

「…」

しかし、現実問題。

「何とかなる」というアバウトな言葉では最早、勢いを取り戻せない。

何か、この状況を打開出来る確定的な何かが欲しい。

それ程までに、自分達は追い込まれているのだと、感じていた。

「…えっと…」

それでも持ち前の明るさで何とか2人を励まそうと、頭の中で言葉を整理していく里奈。

「…んー…」

悩みに悩んで、いざ口を開こうとした、その時だった。



199: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:20:58.82 ID:H/ekkTaiO

「…!」

「うきゃっ!?」

「!また地震か…!?」

地面が、縦に揺れる。

それは、きらりが起こしたものと同じ。

「…こ、今度は何だよ…!」

しかし、その揺れは長く、大きい。

「…」

一体何が起きているのか、ゆっくりと窓から外を見る。

「…!!」

そこにあったものは、驚愕の光景。

「…嘘だろ…」

その光景に、自然と足が震える。

武者震いなどという格好の良いものではない。

「…嘘だろおい…?」

純粋な、怯え。

その者が通る道は紅く腐り、そして崩れていく。

纏うそれは、毒煙のようにも見える。

「…んだよ…あれ…」

この世界を統べる王のような風格を醸し出し、ゆっくりと、歩を進める。

その進路は、間違いなく、此方。

ロボットである彼のセンサー内で隠れる方法など、ありはしない。

息を潜めている今この瞬間でも、彼は一切の迷いなく、自分達に狙いを定めている。

「…やるしか…ねえってのかよ…」

地震の原因は、彼の纏う赤い煙の力のせいで腐食し、崩れていくビル。

それだけでも、彼女達を震え上がらせるには十分過ぎる程だった。



200: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:21:42.24 ID:H/ekkTaiO

「…おい」

「えっ?」

「…?」

迫り来る恐怖の中、不意に夏樹が里奈ときらりの肩を叩く。

顔はあの得体の知れないロボットに向けたまま、彼女は続ける。

「…2人を連れて逃げろ。アレはアタシが食い止める」

「えっ?」

「!」

「そ、そんなの…夏樹ちゃんが…」

「いいから!!行けって!」

それは出来ないと食い下がるきらりに、夏樹は語気を強めて言う。

「早く行ってくれ…!時間が無いんだよ!」

こうしている間にも、彼との距離はどんどん縮まっている。

今だに攻撃をしかけてこないのは、メタヘビーのような近接主体なのか、どうとでも出来るという自信か。

「で、でも…」

「…!いい加減に…!」

「夏樹っち」

「!」

あのロボットの力は、恐らく今までの者達とは比較にならない。

それは、皆共通して感じたこと。

そして、里奈にはもう一つ分かっていることがある。

「…」

そこに一人で立ち向かっていこうとしている夏樹の背中に、ぴた、と手を乗せる。

「そんな脚で、立ち向かえるの?」

「…!」

「そんな顔で、アイツの目の前に立てるの?」

「…」



201: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:22:32.25 ID:H/ekkTaiO

「…」

夏樹が此方に振り向く。

その表情は怯え、恐怖に歯から音が鳴る。

脚は震え、まともに歩けるかどうかも分からない。

「…強がってないで、素直になった方がいいよ」

そんな夏樹の本心を、里奈は感じ取っていた。

「…でも…誰かがアイツを食い止めなきゃ…!」

「死ぬの、ヤなんでしょ?」

「…」

「だったら、強がらないで。カッコ悪いだけだから」

「…里奈…」

「そんなの、何もカッコ良くない」

夏樹に対する里奈なりのエールなのか。

はたまた、本心なのか。

「きらりちゃん。2人、担げるでしょ?行って」

「え…」

「アタシ達も、後で追いつくから」

その腰に、ベルトを巻く。

そして、携帯を取り出し、コードを入力。

「…里奈…」

「勝とうだなんて思ってないよ。ただ、2人なら時間は作れる。逃げられる」

それ以上は何も言わない。

夏樹にも何も言うなとばかりに、背を向ける。

「…行くよ。夏樹っち」

「…」

「泥臭い方が、アタシ達らしいんだから」

「…!」

「…立って」

「…おう…!」



202: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:23:12.45 ID:H/ekkTaiO

ガテゾーン、最終兵器、ヘルガデム。

彼はそこからさらに強化され、リミッターを外された。

その結果、彼の自我は失われ、プログラムに従ってしか、行動出来なくなっていた。

「…ターゲット 木村夏樹 諸星きらり 確認…」

そのセンサーに捉えられた、ターゲット。

「…破壊行動に移行…」

両腕を動かし、行動に移る。

しかし、それはそう簡単にいくものではない。

「…ターゲット 諸星きらり 逃走…木村夏樹…」

プログラムされたデータを確認しようと、一度両腕を降ろしたその時。

「木村夏樹 距r」

「「デリャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」



203: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:24:11.67 ID:H/ekkTaiO

目の前で起きた、爆発。

そしてそこから飛び出してきた、2人の少女。

「木村夏樹 発見」

「遅ェッッ!!!」

里奈の推進力により威力の増した飛び蹴り。

それはヘルガデムの頭部にヒットし、彼の動きを止める。

「こっちもぉ……行っけぇ!!」

間髪入れず、背後から押し寄せる弾丸の波。

前後ほぼ同時に当てられた事で倒れることはなかったが、動きは止まった。

「…」

しかし、その身体は全く傷ついていない。

それは、想像の範囲内。

勝つことは、目的ではない。

あくまで、時間稼ぎ。

「里奈!撃ちまくれ!!!」

「りょーかいっ!!」

夏樹の銃モードの携帯と、固有武器の2丁拳銃。

里奈の固有武器の、マシンガン。

蜂の巣にするかの如く、ヘルガデムを煙に包んでいく。

彼が動こうとすれば、足元を。

体勢を立て直そうとすれば、顔を。

的確に、時間を稼いでいく。

「…この…!どんだけタフなんだこいつは…!」

どれだけ撃ち尽くしても、彼は倒れることはおろか、ビクともしていない。

だが、やめる訳にはいかない。

彼は自分達の攻撃など意に介さずその腕を夏樹に伸ばしている。

「…!来んな…っての…!」

夏樹の顔に、段々と焦りが見えてくる。

弾丸は、無限ではない。

「…く…!」

自身の身体を犠牲にする、それ。

いつまでも持たないというのは、分かっていた事ではあるものの。

よもやここまでとは、思っていなかった。



204: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:25:00.71 ID:H/ekkTaiO

…。

「拓海ちゃん…李衣菜ちゃん…!」

拓海と李衣菜を両脇に抱え、必死で走るきらり。

2人の命を預かるきらりは、ある意味最も重要な役割であった。

しかし、彼女の頭の中は夏樹と里奈に対する申し訳なさでいっぱいだった。

自分は、いざという時に戦えない。

頼りにならないのだ、と。

勿論夏樹にも里奈にもそのような思いは無い。

しかし、きらりはきっと自分は助けてもらったのだと、考えてしまっていた。

逃げ出した自分は恥を知るべきだと、自分で自分を責め続けていた。

「…!」

せめて、この2人だけは何としても守り通さなければならない。

その時は、拓海の忠告通り、戦わなければならない。

「…」

だが、あの恐ろしい敵と、戦えるのか。

出来るわけがない。

だから自分は、走るしかない。

自分に出来ることは、これくらいしかない。

悔し涙なのか、悲しさのそれなのか分からないが、彼女は泣く。

だが、巨大すぎる闇は、彼女のそんな思いも無視して踏みにじっていく。

「…ッ!?」



205: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:25:40.83 ID:H/ekkTaiO

視界の両端を、何かが高速で横切った。

それらは幾つかの建物に穴を開け、4つ目でようやくその勢いを失った。

「…え…?」

何が横切ったのか。

あまりにも突然過ぎて、混乱する。

「・・・」

左右を、交互に見る。

顔は伏せられ、腕も足もだらしなく下げている。

地面に力無く座り込むその2人。

「・・・」

1人は、明るい茶髪。
もう1人は、長い金髪。

「・・何・・これ・・・?」

それは、1分程前に自分を逃がした、者。

「夏樹ちゃん…?」

怖がる皆に発破をかけ、勇気を出して立ち上がった者。

「里奈ちゃん…?」

血塗れの身体は、起き上がる気配を見せない。

「…そんな…」

現れた本当の絶望に、後退り。

「ッ…」

そして、何かにぶつかる。

「・・・」

下を向けば、見覚えのある影。

「・・・」

最早振り向かずとも、何が後ろに立っているのか、分かる。

「・・・」

これが、死ぬということ。

「・・・」
「ターゲット 木村夏樹 死亡確認」

言葉は、出ない。

考えることは、もうやめた。

「・・・」
「ターゲット 諸星きらり 確認」

…。



206: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:26:22.57 ID:H/ekkTaiO

この世界は、作られた世界。

限りなく現実に近づけた、仮想空間。

その為、雨が降る時もある。

丁度この時、強めの雨が降り注いだ。

その雨は、汚れを流し、そして消していく。

それを抵抗することなく受ける者達。

一体のロボットと、そこに横たわる5人の少女。

「ターゲット 諸星きらり 死亡確認」

腹に風穴が開いた巨大な少女。

彼女はその腕を離すことなく、横たわる。

「ターゲット全員 死亡確認…ベルト破壊へ移行…」

ロボットは彼女らをそれ以上攻撃することなく、ケースやベルトを踏み潰していく。

プログラムに則り、行動していく。

「ベルト破壊 完了 全てのシミュレーション 完了」

そして振り向き、またゆっくりと歩き出す。

その後ろで起き上がった1匹の獣と化した少女には、目もくれず。

「…ウ゛ウ゛ウ゛…!!」

唸り声にも耳を貸さず。

「ウ゛ガァッ!!」

飛びかかり、巻きつき、自身を殴りつける少女に、何の興味も示さなかった。

「右腕部 異物発見」

その腕を軽く振り回し、そして元に戻る。

「異物排除確認」

振り回された勢いで叩きつけられた少女は、その血走った目で彼を見る。

理性を失っているからか、動けずとも、動こうとする。

「…!!!」

再び攻撃をしようと、もがく。

「…ッッ!!!!」

その大粒の涙が訴えているのは、果たして何なのか。

誰も、見てくれる者はいなかった。

第七話 終



213: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:44:34.50 ID:S031BAzqO

…。

薄暗い、視界。

降り注ぐ、雨。

身体を包む、冷たさと、痛み。

気力は、とうに無くなった。

「…」

身体を起こす事も、周りを見渡す事も出来ない。

「…」

指は、動く。

腕は、上がる。

今、自分はどうなっているのか確かめたくなり、腕を上げる。

「…」

傷だらけの、ボロボロの右腕。

「…」

何かを考える余裕も無いが、その異変に疑問を感じる。

「…」

肌色の腕は、そこにはない。

鋭利な爪と、大きな棘が生えた、灰色の太い腕。

これは、自分のものなのか。

「…」

必死に、濡れた地を這いずる。

周りで横たわっている仲間には、まだ気づいていない。

「…」

べちゃ、と。

転がるように、身体を反転させた。

「…」

ほぼうつ伏せの状態で、顔だけを少し起こし、雨で出来上がった水溜りを見る。

「…」

見慣れた筈の、自身の顔。

「…なに…?」

尖った、耳。

白と黒が反転している、瞳。

著しく伸びた、犬歯。

太くなった、首。

逆立ち、固まった髪。

狼を彷彿とさせる、口。

灰色の、体色。

「…なに…これ…」

李衣菜がそれを自分だと認めるには、恐らく長い時間がかかるのだろう。

じっと見つめていても、それが何なのかを判断出来ずにいた。



214: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:45:22.94 ID:S031BAzqO

「…」

混乱し、再び仰向けに転がる。

降り注ぐ雨に対して、瞬きさえもしない。

その中、妙な音が、彼女の耳に入る。

「…」

随分距離は離れている。

しかし、聴こえる。

乾いた固いブーツが、地面を歩く音が。

「…」

雨が降っている為、乾いた音が聴こえるのはおかしい。

だが、それすらも今は考える事が出来ない。

「…」

その音は段々と近付いてくる。

「…」

近付いてくる度、もう一つの音も聴こえてくる。

それは地面が、割れている音。

ヒビが入り、割れていく音。

「…」

そして、音が止まる。

「…」

自分の、すぐ近く。

そこで、音は止まった。

「…だ…れ…?」

「…」

ゆっくりと目を動かす。

鋭利な棘、というより刃が生えた、黒い腕。

というより、全身が黒。

金色の線が引かれた、身体。

腹部にある、金色のベルト。

「…」

その腕が、此方に伸びてくる。

そして、遠のく、意識。

「…」

意識を失う寸前。

彼女は、幻のようなものを見た。

「…」

見知った、顔。

無表情なそれとは裏腹に、優しさと熱血を兼ね備えた、顔。

自身が心を許した、顔。

「…プロデューサー…」

…。



215: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:47:02.05 ID:S031BAzqO

時は少し、遡る。

それは、李衣菜がベルトの使い方を理解し、里奈と会ったばかりの頃。

「…」

「…」

携帯に表示された、いくつかの番号の羅列。

「…」

一つは、変身コード。

真ん中二つは、横に表示された携帯を銃へと変えるだろうコード。

「…」

4つ目。

『3821』

そう書かれた、コード。

一度目の変身で、それが何なのかは、無理矢理頭の中に捻じ込まれたことで理解した。

「…これ、なあに?」

「…私、バイク乗れないしなぁ…」

それはあり得ない程のスピードを出す事が可能な、超絶マシン。

そのデータも、頭の中に捻じ込まれていた。

しかし、運転技術はおろか免許も持っていない李衣菜には、どう考えても使いこなせる代物ではない。

「…事故るの、目に見えてるなぁ…」

「…アタシも、そこまで運転に自信あるわけじゃないし…」

そして、里奈もまた、そのように呟いた。

そう感じた2人は、そのコードを使う事をやめ、携帯を閉じた。



216: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:47:57.48 ID:S031BAzqO

「んー…何かこう、ちょーどいいのないかなぁ?」

「丁度良い…?」

「ほら、今なんて勝手に運転してくれる車もあるんだよ?」

「…」

随分我儘なヒーローだ、と苦笑する。

最も、免許すらない自分が笑うのもおかしな話ではあるが。

「…」

しかし、李衣菜には一つ心当たりがあった。

「…どうしたの?だりなちゃん」

「ん…」

頭に送られてきた情報。

その中にあった、一つの項目。

「…んー…」

が、自分の記憶力ではそれを思い出すのは難しかった。

「…えっと…何だっけなぁ…?」

「…あ!だりなちゃんだりなちゃん!」

「え?」

そんな中、李衣菜のケースに入っていたマニュアルに目を通していた里奈が、李衣菜の肩を叩く。

「これこれ!えーと…「SB-555 V オートバジン」…?」

「…何それ…あ!」

その言葉を聞いて、思い出す。

自身のベルトの、正式な装着者を守る、サポートメカ。

高性能AIを積まれた、ハイスペックなロボット。

それはバイクにもなり、普段は移動手段として使われるもの。

「これ良いね!ねえねえ!呼べないかな!?」

「…んー…」

正式な、装着者を守る。

「どしたの?」

それに対しての、疑問。

里奈の期待を寄せる顔には、応えられないだろう思い。

「…私、正式な装着者じゃないと思うし…」

「…ん…んー…そっか…」

しかし、こうも様々な情報を送られても、一度には覚えられない。

そこだけは、常人のまま。

やはり、この世は記憶よりも記録なのだろうと溜息をついた。

…。



217: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:48:53.09 ID:S031BAzqO

そして時は戻り、ガテゾーンの研究室。

「…」

「…」

主のいない部屋に、二人。

一人は、クライシス帝国最高幹部、ジャーク将軍。

そしてもう一人。

「…ジャーク将軍。これは何事か」

「…」

クライシス帝国首領より派遣された査察官、ダスマダー大佐。

「これは何事かと聞いている」

本来彼が怒りを向けるのはこの部屋の主、ガテゾーンであるのだが。

それを良しとしないジャーク将軍が彼を隠すようにマリバロンの元へと向かわせ、それを自分に向けさせた事も含め、ダスマダーの怒りを買っていた。

「ガテゾーンは、仮面ライダー555のパワーアップ用ツールを自分の部下に装着させたと聞く。其奴が起動したのだろう」

毒煙を撒き散らす、歩く兵器と化したヘルガデム。

その力の影響は目に見えて分かり易い。

部屋は異臭を放ち、辺り一面が溶け、最早研究室としては機能しない程にまで朽ち果てていた。

「…この実験で、ヘルガデムを起動させるまでに至った経緯は?」

「貴様も見ていたのだろう。あの少女達がそれ程までに力を使いこなしたということだ」

「そういうことではない。対RX用兵器を作り上げる事が目的の実験の筈だ。貴方達の兵士達があの子供達を殺し、尚且つベルトまで破壊してしまっては意味が無い」

「彼奴等も打倒RXに命をかけている。こちらの兵士が勝てば、戦うのは彼奴等だということなのだろう」

「それでは実験の意味が無い!!」

「…」



218: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:51:11.30 ID:S031BAzqO

「この作戦で最も重要なのは、あの子供達だ。南光太郎は女子供、いや、人間には手出しが出来ない。だからこその人間兵器だというのに貴方達の兵士が殺してしまっては全てが水の泡だ」

「…」

「少女達の戦闘力を極限にまで高め、RXを殺せるまでの力をつけさせた後に洗脳、RXを倒させる」

「…」

「その為に貴方は幹部達にここまでの仮想空間を作らせ、怪人達を再生させたのだろう!」

「…ダスマダーよ」

「…」

「余が選んだ幹部達、そしてその幹部達が選んだ兵士達」

「…」

「彼奴等は再び生を受けた」

「…」

「それを実験の為だけに再び地の底に沈ませよと、申すのか?」

「全ては南光太郎、仮面ライダーBlack RXを倒す為だ」

「…彼奴等では、それは出来ないと?」

「出来ているなら、とっくにRXはこの世にいない。違うか?」

「…」

「…そして、だ」

「…どうした」

「ガテゾーンが選んだ子供達は、ガテゾーンによって作られたコピーのベルトを使用していると聞く」

「…」

「…ならば、聞こう」

「…」

「…本物は何処にある?」

「…」

「ここにあるのは、異臭を放つ機械類だけだ。仮面ライダー達のベルトなど何処にもない」

「…」

「…それどころか、警備の役を担っているチャップ達が死んでいるではないか」

「…」

「あの妙なライダーに夢中で気がつかなかったか!!」

「…余を誰だと思っている。針の落ちた音一つ、聞き漏らしはせぬわ」

「ならば何故こうなっている!?侵入者がいたに決まっているだろう!!」

「…心当たりならある」

「…!?…それは?」

「これを見よ」

「…。…!」

「…ガテゾーンは、計算違いをしていたようだ」

「…成る程…」

「恐らく、あの少女は認められたのだろう」

「…」

「自身が仕える、正規のライダーとして」



219: undefined 2017/02/05(日) 22:54:00.76 ID:S031BAzqO

…。

……。

『おい。いつまで寝てんだよ』

…?

『お前だよ。お前』

…誰ですか?

『…あー…俺の事は…まあいいや』

…?

『お前さ、夢…って…あるか?』

…夢?

『夢だよ。あんだろ。夢』

えっと…トップアイドルで、それでロックで…。

『…結構あんだな』

は、はい。たくさん…。

『なら起きろよ。起きてなくちゃ夢は叶えられねーだろ』

…?

『なあ、知ってるか?』

…何ですか?

『夢を持つとな。時々すっごく切なくなるんだ』

…。

『でも、時々凄く熱くなるんだ』

…。

『俺、夢が無かった時があってよ。その時は他人の夢を俺なりに応援出来れば良いかなってな、自分の人生なんざそんなもんだって思ってたんだ』

は、はぁ…。

『でも、夢を持つと変わるもんなんだな』

…。

『色んな感情が出てきて、生きたいって思うようになるんだ』

…。

『でも、俺は生きられなかった』

…!?



220: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:54:56.26 ID:S031BAzqO

『そこからは色んな奴がベルトを使った。でもそいつらも叶えられなかった』

…?

『でも、お前は違うんだろ?』

…貴方の夢って…何だったんですか?

『俺か?…そうだなぁ…』

…。

『真っ白な明るいシャツみたいに、皆の人生が幸せになって欲しい』

…。

『でも、俺は出来なかった』

…。

『お前は夢を叶えろよ』

…え…?

『出来なかった俺の代わりに。そのでっかい夢を叶えろ』

…。

『だから、お前に託す』

…あの、貴方の名前は…?

『じゃあな』

あ、ちょ、ちょっと!?

…。

……。



221: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:55:40.53 ID:S031BAzqO

「…ッ!?」

これが漫画ならば、勢いの良い効果音がつくだろう程。

飛び起きるという事を、人生で初めて経験した。

「…」

見た夢は、はっきりと覚えている。

しかし、夢に出た男の顔はぼんやりとしており、分からなかった。

「…?」

そもそも今見たのは、夢だったのか。

それとも、現実だったのか。

「…」

薄暗い景色の中。
立ち去っていった、彼。

「…!」

思い返し、そしてもう一度、今度は跳ね起きる。

夜の中で、降り注ぐ雨。
化け物のような、自分の肉体。

「…ハッ…ハッ…」

思わず過呼吸気味になり、呼吸を整える。

そして一度、自分の手に視界を移し、安堵のため息をつく。

いつもの、自分の細腕。

良かった、と頭の中で思い浮かべる。



222: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:56:41.11 ID:S031BAzqO

「…」

辺りを見渡す余裕は、出来た。

「…あ」

自分のすぐ隣に、穏やかな顔で眠る、里奈。

「…里奈ちゃん…」

とても、死闘を繰り広げ続けたようには見えない。

この状況でも、寝ている時は無防備になる。

「…ん…」

二、三回彼女の艶やかな髪を撫でる。

一応年上ではあるが、可愛いと思ってしまったのは、少し失礼だろうかと苦笑い。

「…あれ?」

そこで、違和感に気付く。

「…」

里奈は、ここにいる。

しかし、他の皆は何処にいるのか。

「…?」

もう一度見渡しても、里奈以外の者は見当たらない。

「え…?」

嫌な予感。

頭に過る、最悪の展開。

「…!里奈ちゃん!里奈ちゃん!!」

「…んー…?」

「起きて!里奈ちゃん!!」

「ん、んぇ…何ぃ…?」



223: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:57:54.92 ID:S031BAzqO

心地良い快眠から叩き起こされたものの、彼女をしかめっ面にするには足りず垂れ下がった眉と目でその行為に応える。

「…んー…?」

「ヤバいよ!今すぐ起きて!着替えて!」

「ど…どうしたの?」

「みんながいないの!!私達2人しかいないの!!」

「え…え!?」

皆がいない。

考えるよりも先に、本能的に口が開いた。

起きたばかりの頭をフル回転させ、その言葉の意味を理解しようとする。

たまたま自分達以外の人間がいないだけではないのか。

皆外に出ており、自分達を待っているのではないか。

だが、彼女達がそんな事をするとも思えない。

「…あっ…」

「何?どうしたの?」

そして、思い出す。

「…」

思い出し、身体が震える。

「!?…里奈ちゃん?里奈ちゃん!?」

「あ…」

自分と、もう一人。

敵は自分の攻撃など意に介さず、もう一人にのみターゲットを絞る。

当たれば消滅する筈だったあの攻撃も効かず、彼はゆったりともう一人に向かう。

それを助けようと、片腕を掴んだ。

もう一人も、もう片方の腕を掴み、動きを封じようとした。

しかし、その時だった。

彼は両腕を振り回し、虫を振り払うかのように自分達を投げ飛ばした。

それだけならば、自分のように壁に叩きつけられただけで終わっただろう。

しかしもう一人は、そこに、さらに砲弾を撃ち込まれた。

「…」

生きているというのは、希望的観測。

つまり、願い。

「…」

ここにいない、というのは、生きていて何処かに逃げたということか。

それとも、誰かに連れ去られ、死んだ者に用は無いと切り捨てられたのか。

「…夏樹っち…!」

「…」

震える里奈を見て、自分達に何が起きたのかをざっくりとだが想像出来た。



224: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:58:44.80 ID:S031BAzqO

「…」

側にいたはずの、仲間。

彼女達が今何処にいるのかは、想像もつかない。

「…」

その上、ベルトすら見当たらない。

「…」

里奈の反応と、ベルトも無いことから察するに分かる、圧倒的な敗北。

「…これから、どうしよう…?」

「…」

その質問に対する答えなど、返せる訳もない。

一気に弱気になった里奈の顔を、李衣菜は見ることが出来ず、視線を逸らす。

「…だりなちゃん…」

だが、藁にもすがる思いで里奈は自分の肩を掴み、揺らす。

何とかしてくれ。

そう訴える里奈を、真っ直ぐ見ることが出来ない。

「だりなちゃん…!」

仲間思いで、優しい彼女。

だが「彼女」は今、崩壊しかけている。

とにかく助けを求める、弱々しい子猫のようになってしまっていた。

「…だりなちゃん…」

「…」

この追い込まれた状況で、自分に出来ること。

最早戦う力は残されていない。

「…」

そう、思っていた。

「…!」

だが、そうではなかった。



225: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:00:01.42 ID:S031BAzqO

意識を失っただろう、あの時。

その時に見た、あの毛むくじゃらの腕。

異常なまでに逞しくなった、肉体。

自分のものとは思えない、顔。

「…」

もしも、あれが幻ではなかったとしたら。

「…」

まだ、チャンスはあるというのだろうか。

「…」

ならば、行かなければ。

そう思い、立ち上がる。

里奈も、何も言わず、ひっそりと着いてくる。

だがそれでも、李衣菜に考えがあるわけでもない。

あの姿に任意でなれる保証など、ありはしない。

それでも一縷の望みを李衣菜に託し、必死で着いてくる。

「…」

やがて外に出る。

「…あ」

「あ…」

そこに待ち構えていたかのように。

まるで最初からあったかのように。

「…これ…」

黒と白のモトクロスが、出口の前に置いてあった。



226: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:00:46.63 ID:S031BAzqO

『…』

一人でに動くそれは、間違いなく李衣菜の方を向き、ライトを光らせる。

散歩を待っている犬のように前部分を振り、音を鳴らす。

「…里奈ちゃん…」

「…ん?」

だが、一つ問題がある。

仮に、このバイクが自動で動いてくれたとしても。

「…バイクって、どうやって動かすの…?」

「…えええ…?」

エンジンの掛け方はおろか、ハンドルの握りさえも自信の無い李衣菜には、重過ぎる贈り物。

ここまで来て、何ともカッコのつかない事だと、苦笑いする。

「ふーんだ…どーせ私はにわかだよーだ…」

「めんごめんご…でも何か、気が楽になっちゃった」

「…」

「ありがとね」

「…?」

「…だりなちゃんらしく、いてくれて…」



227: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:02:23.49 ID:S031BAzqO

…。

顔に、少量の冷たさ。

思わず顔をしかめ、手で拭こうとする。

そのすぐ後に、頬に微かな痛み。

じわりと、滲むような痛み。

そして、聞こえ始める、大きな声。

「…?」

ゆっくりと、目を開ける。

ぼんやりと見えてくる、見覚えのある顔。

「…」

普段はかき上げられたヘアースタイルだが、この世界ではこちらの方が見慣れてしまった。

「…夏樹…ちゃん…?」

「!…良かった…無事みたいだな…」

「え…?」

それは、本物なのか。

「…!」

自分の記憶が正しければ、彼女は、腹部が焼け焦げた状態で壁に持たれ、力尽きていた筈だった。

「…な、夏樹ちゃん…?」

「…」

「本当に、夏樹ちゃん…なの…?」

「…そう…だと思うぜ…」



228: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:03:28.91 ID:S031BAzqO

「…そ、そうなのぉ…?」

「…まあ、多分な。自信無いけどさ…」

その体験をした本人だからこそ言える、どちらとも言えない答え。

それこそ、最もリアルな回答だということなのかもしれない。

「…よ、良かったぁ…」

「…そりゃどーも…」

ならば、信じようと胸を撫で下ろす。

「…!」

だが、それを疑問に思うのならば。

「…あ…」

「?」

ならば、自分はどうだと、腹部に手をやる。

「…あれ?」

そこは、いつも通り、何の異常も無い、肌。

「…なあ、きらり」

「…?」

「…正直に教えてくれ」

「…な、なぁに?」

肩を掴む力が強まる。

それだけ真剣なのだという、夏樹の意思表示。

「…ど、どうしたの…?」

「…お前…いや…」

「…」

「…アタシ達って…死んだのか…?」

「え…?」



229: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:04:30.69 ID:S031BAzqO

「…」

唐突で、ぶっ飛んだ質問。

死んでいるというならば、今ここにいる自分達は、何なのか。

「…」

だが、夏樹からは自分をからかっている様子は微塵も感じられない。

「…え、えと…」

しかし、思い出してみれば、おかしい事ばかり。

確かにあの時、自分は死んでもおかしくない痛みを味わった。

背中を突き抜け、背骨は砕け、内臓は破裂し、腹に大きな穴が開いた。

その途中で意識は途切れ、そして今目覚めた。

「…」

それを仮に死んだ、とするならば。

何故自分は、自分達は生きているのか。

どのように傷を治し、もう一度心臓を動かしたのか。

そしてどうやって、ここに来たのか。

「…悪い。色々あり過ぎて混乱してるよな」

「…」

あり得ない事は、もう随分体験した。

しかし、ここまでの事はそうそうあることではない。

「…なあ、きらり」

「…?」

だが、夏樹にはそれに関する事で、なんとなく心当たりがあった。

「…もしも、アタシがバケモンになっちまったら、どうする?」

「…え…?」

「もし、お前の身体がバケモンになってたら、どうする?」

「…きらりが…?」

「お前だけじゃない。アタシも、みんなも、だ」

「…どうして?」

「…」

それは、心当たり、というより、確信。

「…」

「…夏樹ちゃん…?」

そう考えれば合点がいく。

寧ろ、そう考えるしかない。

「…もう、なってる奴がいるんだよ」

「…え…?」



230: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:05:27.53 ID:S031BAzqO

…。

「…」

「…」

自身の相棒とも呼べる存在の、急激な変化。

「…李衣菜ちゃんが…」

「…アイツも…きっと…」

「…」

その後は、口にはしない。

そうしないのは、察してくれということなのか、ただ認めたくないということなのか。

「…」

「…」

思い返せば自分達は、初めからこうなる運命だったのかもしれない。

「…きらり」

「…?」

しかし、立ち止まってはいられない。

「立ちなよ」

「え…?」

こうなった以上、最早後退は無い。

「ほら、立ちなって」

「あ…」

ただ、前に進むのみ。

「行くよ。みんなの所に」

「…ど、どこに…?」

「…」

目的地を知っているわけではない。

だが、それは恐らく。

「…こいつが、教えてくれるだろ」

「え?…あ…」

歩いて、少し。

2人の目の前に現れたのは、黒地に黄色の線が入ったサイドカー付きの大型バイクだった。

…。



231: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:06:20.39 ID:S031BAzqO

「…!」

ようやく見つけた、脚。

「おー!はっやーい!」

現代には考えられない、オーバーテクノロジーを搭載したバイク。

「ちょっ…!もちょっ…もちょっとゆっくり…!!」

「えー?」

乗った直後、彼は引き寄せられるかのように自動で運転を始めた。

まず驚いたのは、その速さ。

人間ならば風の抵抗に逆らえず吹き飛ぶ可能性がある程。

しかし今の自分達には、そよ風にも感じる。

最も、そう考えていたのは運転手のみかもしれないが。

「速い!速い!!」

「ホントだねー☆」

何かのアトラクションにでも乗っているかのような感覚。

凄まじい速度で流れる景色に、李衣菜は目を閉じる。

だが、そのスピードにおいても彼は何かにぶつかることはない。

センサーがついているのか、障害物を捉えた瞬間に避け、その上で最短のルートを辿る。

「…生きてるみたい…」

「…」

意思を持ったように自分達を待ち構え、乗せ、送る。

「…」

一体誰がどんな経緯で開発したのか。



232: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:07:16.24 ID:S031BAzqO

「ねえ…」

「…?」

「…罠じゃ、ないよね…?」

「…」

李衣菜の呟いた一言に、里奈は共感せざるを得ない。

「…なら…」

「…」

しかし、このまま敵の本拠地に向かっているのならば。

「…」

それは、こちらとしても本望。

「…やるしか…ないね…」

待ち構えているのならば。

来ることが分かっているならば。

「…」

導くその場所へと、駆け抜けていくだけ。

例え、その先に何が待っていようとも。

「…」

「…」

右のサイドミラーで、確認する。

裏からやって来る、サイドカーの付いた黒い大型バイク。

そこに乗る2人の姿。

「…」

「…」

そして、左のミラー。

白い、超大型の、SFを彷彿とさせるバイク。

そこに乗る、黒い長髪。

「…」

夏樹、きらり、拓海。

それぞれが、導かれる。

「…おい…お前ら…」

その再会に、歓喜は無い。

最早、言葉など不要。

「…喜ぶのは…」

それをするのは。

「…アイツら全員、ぶっ飛ばしてからにしようぜ…!!」



233: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:08:42.63 ID:S031BAzqO

視界に入ってきた、敵の本拠地らしき場所。

そこで待ち構える大量の兵隊。

「…」

全員が、拳を握る。

何をするか、確認する必要もない。

「…」

バイクを停め、降りる。

そして李衣菜達が乗ってきたバイクも、そのまま何処かへと消え去る。

「…」

深く、大きく息を吸い、吐く。

「…」

目を閉じ、身体の毛細血管まで集中を行き渡らせる。

「…」

その変化は、クライシス帝国戦闘員達にも、見て取れた。

5人の少女達の身体がみるみるうちに灰色に染まっていき、やがてその細い身体が一回りも二回りも逞しくなっていく。

「…」

多田李衣菜。
藤本里奈。
木村夏樹。
向井拓海。
諸星きらり。

それらだったものは原型を失い、何とも言えないものへと形を変えた。



234: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:09:47.98 ID:S031BAzqO

「…」

固まった毛が逆立ち、体毛や爪、牙の生えた、狼のような化け物。

「…」

長い槍を携えた、ライオンの意匠と静かな狂気を感じさせる鎧と顔立ちの、化け物。

「…」

水蜘蛛状の、棘の生えた武器を構える一つ目の化け物。

「…」

龍、というよりも鬼のような角を生やした、強靭で強固な鎧を纏ったパワー特化の化け物。

「…」

大型の剣、というよりは最早鈍器とも取れる、破壊力抜群だろう武器を持った馬の化け物。

それぞれが放つ、尋常ではないオーラ。

それは、殺気。

誰一人として生かす気はないという意思を前面に押し出す。

数ならば、こちらの方が何百倍もある。

圧倒的な数の違い。

負けるわけがない。

そう考えていたチャップ達。

しかし、元居た位置よりも数センチ。

既に後退りを始めた者も何人かいる。



235: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:10:49.79 ID:S031BAzqO

「…」

先頭を任されたチャップは、5人の少女、だったものを見て、一番初めに思った事。

自分達は、彼女達を待ち構え、立ちはだかる存在だった筈。

なのに、何故だろうか。

これでは、どちらが立ちはだかる側なのかが、分からない。

自分の手が、震え始めた事に気付く。

「…」

だが、こちらにも逃げるなどという選択肢は無い。

敵前逃亡は、死刑。

「…お前達…」

後ろや、横にいる数百のチャップ達に、若干の震え声で話す。

「…絶対に…通すな…」

言っていることと、その言い方は真逆。

逆に士気を下げてしまうようなその様子。

だが、引くも地獄、進むも地獄。

ならば、少しでも可能性のある方を選ばなければならない。

「…相手はたった5人の…子供だ…!」

だが、そこに子供らしきものはいない。

「…子供なんだ…!」

いるのは、常軌を逸した化け物。

姿形を見る限り、自分達と同等などということはあり得ない。

「…い…行くぞ…!」

精一杯高く、利き腕を上げる。

だが、その腕はメトロノームのように大きく震えていた。



236: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:11:50.73 ID:S031BAzqO

「…なんだか、着ぐるみでも着てるみたいだな…」

水蜘蛛状の武器を持った夏樹が、己の身体を見渡し、語る。

「おー…何だかたくみんかっこよー☆」

「だろ?…いや知んねーけど…」

これから繰り広げられる戦争を前に、彼女達はお互いの姿を見て感想を述べている。

「…」

「…っつーかお前なんだよそれ。馬か?」

「…むぇー…もちょっとかわゆいのが良いにぃ…」

「…その姿で喋んなよ…」

だが、それくらいが丁度良い。

自分達は、ヒーローなどという大それたものではない。

ただの、女子高生達。

「やっぱり、背伸びなんかするもんじゃないね」

李衣菜のその一言。

それは皆、共通して思った事。

「泥臭い方が、アタシ達らしいってもんだ」

その背中をポン、と叩く。

「…さーて…肩慣らしと行くかァ…」

それを合図に、拓海がぐるりと腕を回す。

「肩慣らし…ねぇ…」

地面に突き立てた槍を引き抜き、構える、里奈。

瞳の奥がギラリと光り、チャップ達を映す。

「…なれば、良いけどね…!」

それがどういう意味なのか。

若干気の抜けた声だったことで、それは良く、伝わった。

「…おい。だりー」

「?」

再び、夏樹が李衣菜の背中をポンと叩く。

機から見ればそれは、蜘蛛の化け物が狼の化け物に話しかけているだけの恐ろしい光景だが。

「やれよ。お前が」

「…?」

しかし、彼女達には分かる。

いくら化け物になったとしても。

「合図だよ。戦いの」

「…合図…」

「そうだよ。お前がリーダーなんだからな」

「えっ?」

その優しい顔は、見える。



237: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:13:06.25 ID:S031BAzqO

「わ、私が?」

「そうだろ。…ま、頼りないけどさ」

「えー…」

「ほら、早くしろよ。みんな待ってるぜ」

「…」

右、左。

4人の、仲間。

団結力も、力も十分。

「…里奈ちゃん」

「んっ☆」

「…拓海ちゃ、さん…」

「ん。…ん?」

「…きらりちゃん」

「はーい☆」

「…」

「…」

「…なつきち」

「…ん」

「…みんなで一緒に、帰ろうね」

「…当たり前だろ」

「…」

「…」

一人、前に進む。

「…!」

大きく、大きく、ひたすら大きく、長く。

息を吸い、思いっきり、吐く。

「…」

これは、緊張ではない。

「…」

勿論、楽しみでもない。

「…ン…」

これは、中途半端な感情。

「…行ッッッ……!!!」

等身大の、正義感だ。

「ッッッ…くぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」



238: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:14:08.98 ID:S031BAzqO

李衣菜の叫びに呼応し、4人が駆ける。

李衣菜もまた全速力で駆け抜け、チャップ達が数メートル進む間に距離を詰めてしまった。

その爪とダッシュ力で、その直線上の相手全てを切り裂き、抜ける。

「!…やるじゃねえか李衣菜!」

その腕の一振りで、一気に何人ものチャップ達の上半身と下半身を分け、弾き飛ばす拓海。

その鎧にはチャップの剣など通らず、逆に折れていく。

その後ろで大剣を振り回す、きらり。

きらり自身の意思なのか、切れる程の鋭さは無く、鈍器と化した、それ。

しかしそれでも兵器として相違ない程の威力。

掠っただけでも、チャップの腕はもぎ取られ、空に舞う。

「そー…れっ!!」

ひと突きで、数人。

串刺しにした後、槍を無理矢理上げ、切り裂く。

ライオンの意匠に恥じることない腕力と脚力。

空をバッタのように跳び回り、蜂のように刺していく。

「どこ見てんだ…よっ!」

その武器でもって、相手を切断、ではない。

それは両断出来る武器ではなく、ブチブチと繊維を千切りながら切り裂いていく。

それが出来るのは、その怪力と、迷いの無い性格の為。



239: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:14:59.98 ID:S031BAzqO

「でぇやああああああああ!!!」

それぞれが、それぞれの固有の武器を持ち、振るう中、李衣菜はその格闘能力のみでもって戦っていた。

殴り、蹴り。

切り裂き、投げ飛ばす。

チャップのマスクのゴーグル部分に爪を突っ込み、抉る。

言うなれば、今の彼女は全身が武器。

追い込まれた状況下で鍛え上げられた彼女の近接格闘術は、戦闘員に過ぎない彼らにはあまりにも強大。

血飛沫を上げ、おもちゃの人形のように軽々と弾き飛ばされる。

次々と屍と化していくチャップ達を足場に李衣菜達は、本拠地に向かって一直線に、跳んだ。

「!?」

だが、こうなる事は、向こうの想像の範囲内。

ならば、第二、第三の手は打つべき。

「多田李衣菜 藤本里奈 木村夏樹 向井拓海 諸星きらり 確認」

跳び上がった先で見たもの。

「直ちに撃破する」

肩から2門の、砲台。

それは自分達にトドメを刺した、あの大魔神のようなロボット。

「行動、開始」

「!!」



240: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:16:05.87 ID:S031BAzqO

ヘルガデムの放った強烈な砲撃。

地面に着弾後、凄まじい音を上げて大爆発を起こす。

その衝撃で5人は吹き飛ばされ、再び戦闘員の大群の中心へ放り出される。

「痛ったぁ…」

「…またあいつかよ…!」

「っ痛ー…おい里奈!もっとマシな方法あっただろーが!!」

「しょーがないじゃん!!」

直撃は免れた。

ヘルガデムが5人をロックオンした瞬間、里奈がそのリーチでもって4人全員を無理矢理センサーから外し、避けさせた。

腹部への突然過ぎる衝撃に痛みを隠しきれず文句を言ったものの、直撃するよりは遥かにマシだと言える。

着弾した地面は陥没し、その威力を物語る。

「…」

喰らっていたら、少なくとも動く事は不可能になっていた。

「…り、里奈ちゃん。ありがとにぃ…」

「ん!」

その感情を素直に表したのは、きらり1人だけだったが。

「…」

だが、残り3人が素直でないという訳ではない。

「…」

正直、それどころではない。

「…ちょっと…」

周りを見渡す。

先程よりも増えたかもしれない程の量。

「…やばいんだけど…!!」

それだけならば、まだ良い。

「…」

倒した筈の4体のロボットが、操り人形のように機械的に歩いてきている。



241: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:16:50.98 ID:S031BAzqO

キューブリカン。
ガンガディン。
メタヘビー。
デスガロン。

倒した筈の彼らが、戦闘員を引き連れて向かってきている。

だがその動きに、前のような意思は感じられない。

「…ただの箱…か…」

「だけど…ヤバイよね?」

だがそれでも、今の自分達にはかなりの驚異。

今の状態で、戦えるのか。

「…」

「…やるしかねーだろ…!」

それでも戦闘態勢を取り、5人がお互いに背を向ける。

互いの背中を自然と預ける。

「…!」

かく汗は、暑さのせいではない。

寧ろ身体は冷え切っている。

自分達の勝つビジョンが見えない事から来る、冷や汗。

「…」

どうすれば良いか。
どのように戦えば良いか。
というより、逃げれば良いのか。

頭の中で考えに考え、打開策を練る。

だが冷静になれないこの状況で、それは無理だというものだった。

「…!」

こうなる事は、想定の範囲外。

あまりにも数が多く、倒した者まで復活しているとなれば、計算は大きく狂う。

「…!」

思わず死を覚悟する。

「…」

だが、その時だった。



242: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:17:51.92 ID:S031BAzqO

「!!」

突如、目の前のチャップ達が銃弾の雨に降られ、倒れていく。

「…え…?」

自分達の周りの者達が将棋倒しのように崩れていく。

「…?」

一体、何が起きたのか。

「…あ!」

一番初めに気づいたのは、李衣菜。

「…あ、あれ…!」

「!?」

上空、数十メートル。

そこに現れた、一体のロボット。

「…!」

見覚えのあるカラーリングと、刻まれたマーク。

「あれ…って、もしかして…」

前の面影は全く無いが、二つのタイヤとその顔部分。

「アタシ達が乗ってきた…バイク?」

人型となったあのモトクロスが、上空からマシンガンを撃ち、戦闘員達を倒した。

そこから推測するに、彼は敵ではなく、味方。

「…」

そして彼は、背中にかけていた一つの大きな袋を李衣菜に投げた。

「うわっと!…え、え?」

「…な、何だ?」

「…」

そしてまた、ひたすらマシンガンを撃ち続ける。

それは、まるで時間稼ぎ。

言葉を発する機能は無いのか、行動でもって示す、意思。



243: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:18:50.21 ID:S031BAzqO

「…まさか…?」

夏樹が袋の紐を解き、中を確認する。

「…」

そして、直ぐにそれが何かを理解する。

「…へぇ…」

そして、彼がそれを持ってきた理由も、察する。

「…こりゃ、誰か正義のヒーローが助けてくれる訳じゃなさそうだな…」

そして、そこに入っていた黒と黄色のベルトと、携帯電話を手にする。

李衣菜達もそれに続き、自身が使っていたそれらを手にし、腰に巻く。

「…いーや…」

素早く携帯電話を開き、コードを入力。

「…十分だよ…!」

『STANDING BY』

携帯電話を掲げ、胸元で構え、握り締め、両手で持ち、銃を口元まで上げ。

皆が各々のやり方で、気合いを入れ。

一度大きく息を吸い、目を閉じ。

「…」

そして、カッと開く。

「「「「「変身!!!!!」」」」」



244: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:19:41.76 ID:S031BAzqO

赤。
黄色。
白。
青。
黒。

様々な色の光が混ざり合う。

周りのチャップ達もその眩しさに目を覆う。

ロボット達もその異常に気づき、動きを一旦止める。

「…」

そして、姿を現す。

「…」

今までとは違う。

「…」

全身を包む、アーマー。

「…」

頭部を包むそれは兜ではなく、仮面。

「…」

その姿を見たヘルガデムのセンサーが、新たな反応を感知。

目の前の5人の少女のデータが自動で更新を行った。

「実験体5号~9号 オリジナルのベルト使用…」

それは、ガテゾーンによって入力されたデータ。

「5号 仮面ライダー555。6号 仮面ライダーカイザ。7号 仮面ライダーデルタ。8号 仮面ライダーサイガ。9号 仮面ライダーオーガ、確認」



245: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:20:40.64 ID:S031BAzqO

「…仮面ライダー…ねぇ…」

「…ライダーじゃないのが2人いんだけどな…」

「も、もう!今はそれ禁止!!…っていうかその顔何!?」

「あ?…あー…まあ、仮面ライダーってんだから、仮面なんだろ」

「わー!何か髪の毛背中に引っかかってるー!!」

「…っつーかきらり!てめーだけなんでそんなマントついてんだよ!」

「わ、分かんないにぃ…」

三者三様、ではなく五者五様の、反応。

「?…うわっ!?」

その様子を見ていた人型バイク、オートバジンがようやく李衣菜の元に降り、そしてバイク形態へと戻る。

「…な、何だァ?」

「…」

他の者達には分からない、その行動。

だが、李衣菜には分かる。

「…んっ」

オートバジンの右ハンドルを引き抜く。

そこから現れる、赤色の剣。

「…ほー…」

「…」

李衣菜はこの時、あの夢を思い出していた。

あの男の顔は相変わらず思い出せないまま。

しかし、疑問が一つ、解決された。

「…」

あの男こそが、正規の装着者だったのだろう、と。

「…どなたか、分かりませんけど…」

その剣を握り締め、その男に語りかけるように、呟く。

「…ちょっとだけ…!」

そして、剣をヘルガデムへと向ける。

続いて他の者達も、他のロボット達に向かって構える。

それは、二度目の戦いの合図。

「…ちょっとだけ、お借りします!!」

何とも李衣菜らしい、火蓋の切り方だった。

第八話 終



249: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:02:26.26 ID:X3wnOaF5O

「…」

向かい合う、5人の少女と、5体のロボット。

それを囲む、戦闘員の大群。

「…」

その光景を静かにモニターで観察する、2人組。

「…」

「…」

「…」

クライシス帝国最高幹部、ジャーク将軍。

監察官、ダスマダー大佐。

彼らは5人がここに来ることを想定し、チャップを増員、そして怪魔ロボットを急遽復活させ、臨んだ。

「…まさかハンガーに置いてあったバイク達が自らの意思で起動するとは…」

「…」

「…これも、ライダーの力の一旦ということですかな?ジャーク将軍」

「…」

「分かっているとは思うが、あの少女達を殺すことは許されない。もしヘルガデムが彼奴等にトドメを刺そうとした時には…」

「案ずるな。その時には余が自ら止める」

「それで良い。あの5人を失えばクライシス帝国首領のお怒りを買う事は間違いない」

「…」

「…後はあの少女達が、何処まで戦闘力を高められるか、だ。フフ…」

「…」

…。



250: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:03:11.55 ID:X3wnOaF5O

…。

皆、打ち合わせをしたわけではない。

それでも皆、まるで決まっていたかのようにそれぞれのロボットの前に立つ。

「…」

一陣の風が吹き、均衡状態が続く中、ヘルガデムと相対する李衣菜の肩に夏樹の手が置かれる。

「だりー」

「?」

その手には、手首に装着する、555専用ツール。

「使いなよ。お前のもんだ」

「…これ…」

「あいつをぶっ飛ばす用だよ。分かるんだろ?使い方」

「…うん」

それを夏樹から手渡される。

すると、そこに拓海が背を向けたままに声を掛ける。

「おい」

「?」

「…多分、この軍団の大将はアレだ…」

「…」

「…本来そういう奴はこのアタシがすっ飛んで、ぶっ飛ばしてやりてーところだ、が…」

「…」

「そうしたいのは、アタシだけじゃあねぇ」

「…」

視線を拓海から、移していく。

背を向けてはいるが、残りの3人。

3人とも何かしらの因縁があるのか、腕が震える程拳を握り締めている。

「…」

「それをお前に譲ってやるってんだ」

「…拓海さん…」

「…良いか」

「…は、はいっ…」

「…」

「…」

「…ぶっっっ壊せ!!!!」



251: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:03:59.19 ID:X3wnOaF5O

「!」

「行くぞお前ら!!」

「はいよ」

「はーい☆」

「きらりんぱ…っわー!!」

「…」

ぶっ壊せ。

そう言って拓海達は戦闘員の海の中へ飛び込んでいった。

「…」

彼女らしい、簡潔な一言。

「…」

だがその一言は、単純なものではない。

負けるな。
下がるな。
逃げるな。
引き分けもするな。
勝て。
殺せ。
圧倒的な勝利を収めろ。

「…」

一体のロボットにさえもあれ程苦戦したというのにも関わらず、言ってくれるものだ、と思う。

「実験体5号 多田李衣菜 確認」

目の前に仁王立ちする全身赤色のそれは、間違いないなく大魔神そのもの。

「…名前、言わないんだ」

「撃破後、オリジナルベルト破壊」

「…」

話を聞こうとしないのではない。

聞く機能を失っているのだ、というのはほぼ初対面だろう自分でも分かる。

「…悪いけど、このベルトは借り物だから…」

「撃破行動、開始」

「…傷つけさせやしないよ!!」



252: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:04:40.71 ID:X3wnOaF5O

「えいっ!!」

一度殴れば、10人が吹き飛び。

一度蹴れば、20人が弾き飛ぶ。

「…!」

殴れば、殴る程。
蹴れば、蹴る程。

きらりの末端神経を通して伝わってくる。

相手の骨が砕け、内臓が破裂する感触。

人、ではないのだろうが、今自分は、大量に、生命を奪っている。

人を傷つけてはいけない。

肉体的にも、精神的にも。

そう誓ってきた筈の自分が、こうして殺戮を繰り返している。

矛盾している。

彼女自身も、それは分かっている。

だが、こうしなければ。

こうされるのは、自分達。

自分以外の仲間が、こうされてしまう。

「やあああああっ!!」

だからせめて、一発で。

一瞬の苦しみだけで、終わらせなければ。

それが、今自分に出来る事。

「…ん…にっ!!」

構造は人間と同じなのか、心臓を強く叩くと動かなくなる。

「…やっ!!」

首を捻れば動かなくなる。

戦いながら、やり方を覚えていく。

そんな自分が、何よりも嫌だったのだが。



253: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:05:22.74 ID:X3wnOaF5O

「!」

戦闘員に囲まれ、渦を巻き始めた時、弾丸の雨。

咄嗟にガードをし、防いだ。

「…」

生身なら、身体が蜂の巣になっていただろうが、不思議と痛みはない。

それ程までに、このアーマーが固く、それでいて柔軟だということ。

「…!」

向こうからガタガタとキャタピラを回しながら近づいてくる、重戦車。

李衣菜が一番最初に相手をしたロボット、キューブリカン。

「…」

彼、そして彼らは自我を失い、プログラムに則って行動する、真のロボットとなった。

「…!」

キューブリカンは戦闘員を気にすることなく、弾丸を勿体ぶる事なく一斉放射した。

味方を撃つことなど、きらりには考えられない話。

だがそれは、撃ったのではない。

「…」

撃つように、プログラムされている。

彼を作った、何者かに。

「…ごめんね」

「…」

「…嫌だよね。自分の身体なのに、自分で動かせないって…」

「…」

奇しくも、自分も一度は同じ境遇に遭った。

目の前にある手や、足が動かせない。

まるで縛り付けられながら、3D映画を観ているような感覚。

そこに楽しみなど、これっぽっちもなかった。

最も、彼らにその感情があるかどうかは知らない。



254: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:06:08.99 ID:X3wnOaF5O

「…きらりはね、本当は戦いたくなんかないの…」

殴りたくない。
傷つけたくない。
殺したくない。

「傷つけるのは、いけないことなんだにぃ…」

目の前にいる敵さえも、それは同じ。

「…でも、いけないことなら…」

仮に、そうだとしたならば。

「…きらりが、やるから…」

その業を、背負うのは、自分で良い。

「戦うことが罪なら、きらりが背負うから…!!」

「…」

その言葉は、彼に届いているのか。

仮に届いていないとしても、今のきらりには関係無し。

「…」

「!!」

先に沈黙を破ったのは、キューブリカン。

再び弾丸の嵐がきらりを襲うが、彼女は急所のみをガードし、進む。

「…!」

痛くない訳がない。

この勝負が終わった後の自分の身体は見たくない。

「ッ…!」

それでも、前に進む。

そして、ミッションメモリーをオーガストランザーと呼ばれる短剣に装填。

柄を折り曲げ、拳銃の要領で構える。

痛みに耐えながら、携帯のENTERボタンを、ゆっくりと押す。

これは、第一歩なのだ、と。

「…」

『EXCEED CHARGE』

「…」

キューブリカンは、それを避けようとしない。

避ける選択肢がプログラムされていないのか、それとも。

「…さよなら…」

「…」

何故か、同情を感じてしまいながらも、きらりは引き金を引いた。

「…」

「…」

一瞬の静寂の後にキューブリカンは金色の光に包まれ、消えた。

少しの痕跡も残すこともなく。

…。



255: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:07:17.29 ID:X3wnOaF5O

…。

「…ッッラァ!!!」

蹴った相手の首の骨が砕ける感触。

「どーだ!!拓海式喧嘩殺法、思い知ったkおわっと!!」

一撃与えれば、倒れる。

しかし次から次へと雪崩のように流れ込んでくる戦闘員に拓海は、銃一つと肉弾戦だけでは頼りなく感じ始めていた。

「!?…てめっ…!何処触ってんだコラァ!!」

いくら好戦的な拓海とはいえ、ここまでの経験は無い。

「離せって…!…この…!」

揉みくちゃにされながら、デルタフォンを口元に持っていく。

「…ッ!」

自分には、武器と呼べるものは少ないかもしれない。

だが、それよりも強大なものがある。

「『3821』!!」

『Jet Sliger Come Closer』

それは、兵器。



256: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:08:15.81 ID:X3wnOaF5O

拓海が呼んだそのバイク、というよりマシンは、彼女が1人、目を覚ました際に、目の前に置いてあったもの。

それが自分のものだと感じたのは、一度目の変身の時に捻じ込まれた知識のおかげか。

見た目にも驚いたが、拓海が一番驚愕したのは、そのスペック。

それと、複雑過ぎる操縦方法。

素人にはまず扱えるものではない。

ならば、自分はどうか。

果たして、この暴れ馬を手懐けられるのか。

「…来い!」

海を真っ二つに切り裂きやって来る、超大型バイク。

そのマシンの名前は、ジェットスライガー。

「オラァッッ!!」

周りの戦闘員を薙ぎ倒すジェットスライガーに自身もぶつかる寸前、ギリギリで飛び乗る。

「…!!」

ここまでやってきた時とは違い、全速力を出す。

そのスピードは、やがて衝突の衝撃すら感じなくなる程。

「ふん…うぎぎぎぎ…!!!!」

両手に力を込め、左右のハンドルを回す。

「ふんぬぬぬぬぬぬぬ…っ!!!」

小回りが効かないという弱点を抱えているからか、タイヤと地上の設置面から火の粉を撒き散らし、何とか無理矢理旋回することに成功。

そして、再び海へと向ける。

「…行くぞ…!」

すでにジェットスライガーはボディの至る部分に戦闘員達の体液と思しきものを付着させ、本来の色が殆ど見えなくなっている。

「行くぞおらぁぁああああああああ!!!」

大声と共にアクセルを踏み、けたたましい爆発音を出しながら猛スピードで海の中へと走る。

「オラァォァァァァアアアアアアア!!!」

その最高速度、時速1300km。



257: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:09:01.40 ID:X3wnOaF5O

あまりにも直線的な突進。

しかし、それだけではない。

「逃がさねぇ…ぞっ!!!」

操縦席にあるボタンを押し、搭載されたミサイルを放つ。

何とか避ける事に成功した者も、その攻撃に巻き込まれ、吹き飛ばされる。

「ヘッ!見たか馬鹿野郎!!」

ブレーキを掛け、後ろを向く。

「ん?」

そして、下を見ると、いくつかの影が自分の頭上にあることに気付く。

その影は少しずつ大きくなっている。

「…まさか!?」

はっとして振り向く。

「…ッ!?やべっ…!!」

そこには、無数のミサイル。

そして、そのミサイルを発射したのは。

「…てめぇ…!」

怪魔ロボット、ガンガディン。

彼によるミサイル攻撃に拓海が気付いたのは、直撃する寸前だった。



258: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:09:49.09 ID:X3wnOaF5O

「うがあっ!!!!」

ガンガディンの攻撃の直撃に耐えられず爆発するジェットスライガー。

本能的にバックをしたからか、自身のダメージは軽減された。

「…こ…のォ…!!」

だがそれでも即座に立ち上がるのは容易ではなく、手を使って立ち上がる。

「…」

破壊され、燃えるジェットスライガーの向こう側で、ガンガディンがこちらに肩の砲台と、両腕のビーム兵器を向けている。

「…!」

その腕が光る前に察した拓海は跳び上がり、近くの家の屋根に飛び移る。

「…」

瞬間、放射されるビームとミサイル。

「ハッ!構えりゃ撃ってくることくらい分かるってんだ!!」

こちらにゆっくりと向きを変えるガンガディンを小馬鹿にしながらベルトのバックル部分からミッションメモリーを引き出し、デルタフォンに装填。

そのまま口元に持っていき、言い放つ。

「CHECK!!」



259: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:10:41.37 ID:X3wnOaF5O

『EXCEED CHARGE』

ベルトからデルタフォン、デルタムーバーにフォトンブラッドが送られる。

「てめぇらロボットはなぁ…」

そして構え、ガンガディンに向かって、放つ。

三角錐状の強烈なエネルギーがガンガディンを襲い、動きを封じる。

「ソフバンで人間と話してりゃあ良いんだよ!!!」

そのまま急降下。

「…」

「喰らえええええええええ!!!」

そして、その光る片足で、ガンガディンを貫く。

「…お…っとぉ…」

そして着地し、振り向く。

「…」

既に炎に包まれ、灰化しかけているガンガディン。

機能は、もちろん停止している。

「…こいつ…」

だがその姿に、拓海は少し疑問を感じていた。

「…わざとか…?」

両腕を開き、まるで自分を受け入れるような様子。

おかしい、と思いつつも拓海はまだ戦っている仲間の元へと走り出した。

…。



260: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:11:21.51 ID:X3wnOaF5O

…。

「おりゃー!!」

空を自在に飛び回り。
地上の者全てを自由に攻撃する。

フライングアタッカーから繰り出される光弾の雨に戦闘員達は逃げる術も無く、次々と貫かれていく。

「来れるもんなら来てみろやーい☆」

縦横無尽に空を駆け回る里奈は、チャップ達にとって天敵。

大量にいた彼らはものの数分も持たずに灰と化し、地上はいつのまにか彼らだったもので覆われていった。

「…!」

だが、その中で唯一、その光弾を喰らってもビクともしない者。

「…」

周囲が静かになったのを確認し、地上へと降りる。

「…」

飛ぶことはおろか、遠い敵を攻撃することすら不可能の、近距離専用ロボット、メタヘビー。

その代わりに、圧倒的なパワーと装甲、安定性を兼ね備えており、里奈達の攻撃はほとんど通用しない。

事実、李衣菜の全力で放った拳でもコンマ1ミリもズレる事なく、耐えてみせた。

「…やっとかぁ…」

そんな強敵であるにも関わらず、里奈は困る様子を見せない。



261: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:12:13.31 ID:X3wnOaF5O

「…」

「…」

両者の間に、会話は無い。

一方は、持っていた感情全てを消去された為。

そしてもう一方は、持っている感情全てをぶつけたい為。

「…」

忘れもしない、あの戦い。

勝ちこそしたものの、自分の目の前で極限にまで傷付けられた友人。

これは、その因縁の相手。

「…よーやく、だね…」

仮面の下で、彼女はニヤリと笑う。

「よーやく、アンタをぶっ飛ばせる…」

あの時は、李衣菜が彼を打ち破った。

だが、今は違う。

彼女の怒りは、少しも治まっていなかった。

「…行くよ…!」

爪先に、力を込める。

バックパックに手を掛ける。

「…」

メタヘビーも自動的に構え、里奈の出方を探ろうとしている。

「…ン゛ン゛ン゛…!!!」

脚の力が地に伝わり、ヒビを入れる。

「…ダリャァッッ!!!!」

フライングアタッカーの推進力と、爪先の力。

ヒビ割れたコンクリートの床が砕け、その速さと強さを伺わせる。



262: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:13:12.37 ID:X3wnOaF5O

「…」

「デエエエリャアアアアアアア!!!」

メタヘビーが右腕を振り上げ、里奈をはたき落とそうとするも、その速さのせいか、動きが間に合わない。

センサーが里奈を感知し、それをメモリーに伝え、最善の行動を計算してから動く「今の」方法では、彼女を捉えられない。

「…」

金属と金属の、激しい衝突音。

あまりの衝撃に、鼓膜が破裂しそうになる感覚。

「…ッ!!!」

だが、里奈はそれでも耐えた。

仮面の下で額が割れ、血が垂れても。

「…」

その威力がどれ程絶大なものか。

凹んだメタヘビーの頭部が、それを物語る。

「…」

「!!」

両腕が動き、里奈を捕まえる。

「…」

このままサバ折りをするつもりなのか、そのまま里奈をギリギリと絞め始める。

「…!!」

だが里奈はお構いなしに頭を振りかぶり、再びメタヘビーの頭部へと頭突きを繰り出す。

何度も何度も、同じ箇所に向かって額をぶつける。

「…」

「…ッ…!!」

やがて仮面が割れ始め、中から里奈の血塗れの顔が見える。

「…もう…」

「…」

「…一回ィ!!!」

そして、ダメ押しと言わんばかりにそのまま頭突き。

仮面は上半分が完全に割れ、顔が露わになる。

「…」

だが、ダメージを負ったのは里奈だけではない。

ふらつきながらも脱出に成功した里奈と、半分の大きさになるまで頭部が凹んでしまい、完全に両腕を離してしまったメタヘビー。



263: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:13:56.62 ID:X3wnOaF5O

「…石頭なら…」

「…」

「…石頭なら、こっちのステージだよ…!」

頭部の損傷で思考回路に異常をきたしたのか、動きがぎこちなくなったメタヘビー。

それを見て、すかさず携帯のENTERボタンを押す。

『EXCEED CHARGE』

フォトンブラッドがベルトから足先へと伝わる。

「…行くよっ!!」

ツールを使わない分、他の者よりもそのスピードは速い。

力任せに蹴るとともに足裏から青白い三角柱型のエネルギーが出現し、彼の腹部を抉る。

「…」

だがメタヘビーは苦しむ様子を見せない。

ぴくりとも身体を動かす様子も無く、だらりと腕を下げる。

「…ッ!」

その様子に歯を食いしばる。

しかし、彼を倒さなければ仲間の元へは行けない。

「…ッダアアアアアアアアアアア!!!!!」

そのまま、ロケット花火のようにメタヘビーの身体を貫く。

「リャアアアアアアアアアア!!!!!」

その勢いは止まることなく、貫いた後も地上を駆ける。



264: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:14:59.24 ID:X3wnOaF5O

「…ハァッ…!ハァッ…!」

後ろから、燃え盛る音が聴こえる。

それは、彼が機能停止した、つまり死んだということ。

「…ハッ…!ハッ…!」

結局彼は、一言も喋ることなく、そのまま粉になった。

「…」

これは、勝利。

「…」

戦って得た、喜ぶべきもの。

「…」

しかし、心は晴れることはない。

殺した事がどうということでは、ない。

それならば、戦う資格は無い。

「…何で…!」

だがこれは、「彼」に対する勝利なのだろうか。

「…何で…一言も喋らないの…!」

自身が憎んだ彼は、もっと挑発的で、プライドに満ち溢れた戦い方だった。

このような、受身の戦い方ではない。

「…アタシが…」

それは、彼が彼でないことの証明。

「…アタシがぶっ飛ばしたいのはアンタじゃない…!」

彼の皮を被った、違う者。

「…!」

それだけなら、まだマシだったかもしれない。

最後、里奈の攻撃を喰らう時、それを受け入れるかのように腕を下げた動き。

それは、機械の故障などではない。

間違いなくメタヘビーは、意図的に下げた。

「…何で…?」

それは、こう訴えているようにも見えた。

「…何で、もうちょっと抗えないの…?」

『殺してくれ』、と。

…。



265: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:16:01.26 ID:X3wnOaF5O

…。

「そー…」

猛スピードで直進。

前輪に急ブレーキをかけ、捻って急速回転。

「らっ!!」

振られる後輪で、戦闘員の顔を砕く。

「まだまだっ!!」

再び走らせ、撥ねる。

「こっちのテクなら…」

そしてまたブレーキをかけながら高速回転。

コマ回しのようになり、その勢いで戦闘員達を薙ぎ倒していく。

「アタシが一番なんでね!!」

長年、というよりは天性のもの。

高度な運転技術を戦闘に置き換える事も、彼女にとっては難しいことではなかった。

しかし、戦う対象はこれだけではない。

それは、彼女も重々承知していた。

「…!」

撥ね飛ばされた大群の1人をビームが突き破り、夏樹に飛んでくる。

それを回転させる事で避け、発射地点を確認する。

「…」

向こうから銃を構えた一体のロボットが、こちらに歩いてくる。

装備されていた左腕のツールは、無い。

「奪っといて正解だったみたいだな…」

「…」

「!」



266: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:17:07.57 ID:X3wnOaF5O

「…」

「今度は名乗りも無しかよ…!…って、そうだよな…」

次々と放たれるビームを間一髪で避けながらお返しとばかりに武器、カイザブレイガンを発砲。

しかし彼もまたその光弾を腕で弾き返す。

「…」

歩く兵器。

怪魔ロボット達に相応しい呼び名。

自分の武器よりも、遥かに強力な武器。

彼、デスガロンはそれに加え驚異的な反応速度と背中に隠した鋭利な爪、圧倒的なパワーを誇る。

「…ったく…ズルいもんだよな…」

「…」

「…ま…アタシもだけどな」

「…」

「「2」対1だけど、恨むなよ?」

ポン、と今の愛車、サイドバッシャーに手を置く。

デスガロンも背中の爪を展開、構えの姿勢を取る。

「…行くぜ」

右手の親指で操縦部分のボタンに触れる。

「…」

「…!」



267: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:18:36.26 ID:X3wnOaF5O

本能か、それとも搭載されたカメラが自動的に追っているだけなのか。

展開、変形し、巨大化し。

デスガロンは、まるで大型の肉食恐竜のような姿となったサイドバッシャーを、ゆっくりと見上げた。

「…ハイテクは、アンタらだけじゃないみたいだな」

そこに座り、見下ろす形となった夏樹。

ハンドル部分に出現したボタンや、数多くのレバー。

操作方法は熟知しているものの、いざ目にすると、驚く。

「…」

デスガロンが銃を構え、撃つ。

「そらっ!!」

その巨大に似合わない軽快な動きでそれを躱し、内蔵されたミサイルを余すことなく撃ち込む。

しかしデスガロンもそれは同じで、無数のミサイルを難なく躱していく。

「…!そんな簡単に喰らっちゃくれない…か」

「…」

「…でもな…!」

ならば、とバイクを動かすのと同じ方法で前進、前方向に勢い良くジャンプ。

「…」

「…これなら…どうだ!」

サイドバッシャーの腕部分を振り上げ、肉弾戦へと持ち込もうとする。

「…」

だが彼は爪を器用に使い壁を登り、それを拒否。

これが前の彼だったなら、喜んで挑発に乗っただろうが。

今の彼は、リスクのある方法に手を出したりはしない。

「…」

「おわっ!?」

そしてそこから、サイドバッシャーの足元を狙う。

足下を壊されたサイドバッシャーはバランスを崩し、前のめりに倒れかかる。

「やべっ…!」

咄嗟に腕部分を突き出し倒れることは回避したものの、これでは攻撃が出来ない。

「…ッ!」

分かり易い、焦りの顔。

それを見逃す筈もないデスガロンは、すぐ様爪を展開。

刺さった爪で身体を壁に固定し、両足を壁につけ、思い切り夏樹に飛びかかる。

その拳は強く握られており、トドメを刺すのは直接と言わんばかりに振りかぶる。

それが、夏樹の罠だとも気付かずに。

「…バーカ」
『EXCEED CHARGE』



268: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:21:05.51 ID:X3wnOaF5O

「せー…のっ!」

サイドバッシャーの上で倒立、そのまま仰向けに倒れこみながら向かってくるデスガロンの腹部にカイザポインターから三角柱状のエネルギーを放つ。

「…」

「言ったろ?」

「…」

「…2対1だって…なっ!!」

夏樹は思わぬところで攻撃を喰らい、地に落ちてゆくデスガロンに向かって、跳び上がり、下方向に目を向ける。

「これで…!」

そのまま真下に向かって、急降下。

「…」

「終わりだぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「…ぃ…」

だがその瞬間、デスガロンからかなり小さな声量で、何かを呟いているのが耳に入った。

「…それで…良い…」

「!」

「…殺せ…」

「…ッ!!」

デスガロンはそのまま、何かに抵抗するかのようにゆっくりと、それでいて力強く両腕を開く。

夏樹の両足がデスガロンを捉え、体内から彼の身体を破壊していく。

「…もう…」

「…」

「…たくさんだ…」

「…ッ…でぇぇやぁぁぁああああああありゃあああああああ!!!」

そして彼を貫き、夏樹が地上に降り立つまでには燃え尽き、灰となってしまった。

「…」

夏樹は後に落ちてきた灰を全て被ってしまったものの、それを払うことはない。

「…」

彼が言わんとしたことは、何だったのか。

「…」

自分の身体であるにも関わらず、自分の身体として使用出来ない。

「…アンタらは…」

おまけに何度も再生させられ、使い捨てられた事で、辟易してしまった。

「…」

作られた奴を間違えた。

そう呟きたかったが、それは出来ない。

彼らに作られなければ、彼らは生まれなかったのだから。

「…」

敵であり、憎むべき相手だとは、勿論分かっている。

しかし分かっていても、同情を感じてしまう。

「…」

やるせない。

そう思いながら、夏樹はその場を立ち去っていった。

…。



269: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:22:15.72 ID:X3wnOaF5O

…。

「…」

拳を突き出せば、跳ね返され。

蹴れば、叩き落とされ。

銃弾を放てば、消し飛ばされ。

「…」

今までのどの相手にも効いた、あの技を放っても、その身体を貫くことはなかった。

「…」

李衣菜は次第に追い詰められ、肉体的にも、精神的にも極限状態となってしまっていた。

「…ゴホッ…」

クラッシャー部分から、ドス黒い血が漏れる。

「…」

肋骨は、何本か既に折れた。

多少の痛みならもう慣れたもの。

しかしズキンズキンと心臓の鼓動に合わせてやってくる激痛は、女子高生の彼女が耐えられるようなものではない。

「…ハァ…ハァ…」

仮面の中に、鉄の臭いが充満する。

それが自分が出したものだとは、考えたくもなかったが。

「実験体5号、多田李衣菜。ベルト破壊へ移行する」

「…!」

事務的に、冷たく言い放つヘルガデムのその言葉に目を見開く。

「…ッ…」

立たなければ、と震える腕と脚を全部使って、無理矢理身体を起こす。

「…ま、まだ…」

膝を手で押さえつけ立ち上がり、戦う意思を示す。

しかし産まれたての仔鹿のようになっている今の状態でこの敵に勝つ方法は現実的に考えて思いつかない。

事実、万全の状態で戦い、この状態にまで追い込まれた。

「…戦える…!」

パワーも装甲も、桁違いのスペック。

自分で自分を鼓舞させながら、彼の前に立つ。

「…!」

震えているのは、ダメージのせいだけではなかったが。



270: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:23:03.27 ID:X3wnOaF5O

「行動、開始」

「!!」

ヘルガデムの肩から、砲弾が放たれる。

「…ッ!!」

間一髪、滑り込むようにそれを避け、転がりながら左腕に装着されたツール、ファイズアクセルからアクセルメモリーを取り出す。

「…これで…!」

ファイズフォンからミッションメモリーを引き抜き、アクセルメモリーを装填。

「…!!」

少しでも隙を見せれば砲弾を撃ち込まれ、吹き飛んだところに追い打ちをかけられる。

だがボロボロになり、ヘルガデムがベルトの破壊行動へ移行した事で、ほんの少しだけ猶予が出来た。

「…もう…」

震えが止まり、今一度、今度はしっかりと立ち上がり、ヘルガデムを見据える。

彼は既にこちらをロックオンしており、次弾を撃ち込む寸前となっている。

「…終わりだよ…!」
『COMPLETE』

そして再び砲弾が撃ち込まれ、李衣菜の居る場所に着弾。

たちまち爆発し、煙を上げる。

「…」

ヘルガデムは搭載されたセンサーで、李衣菜の状態を確認しようと試みた。

「…」

だが、前方には何も感知されない。

「…」

煙が消え始め、やがて見えてきたもの。

「…」

そこは、陥没したコンクリートのみだった。



271: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:24:01.54 ID:X3wnOaF5O

…。

「…!」

ヘルガデムから次弾が撃ち込まれた瞬間、李衣菜が変身する555の胸部が展開、フォトンブラッドの色が赤から銀へと変化し、仮面の眼が赤へと変化。

ファイズアクセルのスイッチを押したその瞬間、世界が止まった。

『START UP』

「…」

砲弾。
ヘルガデム。
周りに立ち込める、煙。

全てがスローモーションに見え、李衣菜は今、この世界で唯一動ける者となった。

「…!」

その制限時間は、10秒。

しかし、それだけあれば十分。

「でやっ!!」

李衣菜はヘルガデムに向かって走り、真上に飛び、ファイズポインターからエネルギー弾を放った。

だが、その行動は一回だけではない。

二回、三回。

何度も同じ動作を繰り返し、ありったけのものをぶつける。

「でえやあああああああああ!!!」

やがて赤い三角柱状のエネルギーに囲まれたヘルガデムに向かって、飛び蹴りを喰らわせる。

何度も、何度も貫き、破壊しようとする。

「…ッ!!」

だが、その硬さと、フォトンブラッドの強さの違いからか、彼の身体の中心で跳ね返される。

「…時間が…!!」

気がつけば、既に残り時間は3秒。

「…頼むから…!もう終わって…!!」

2秒。

「…お願い…!!」

1秒。

「…!!」

『Time out』

今自分が持つありったけを、ぶち込んだ。

そして、最後の一撃を与えようと再び飛び上がった時、それは訪れた。

「…ヤバ…」

『Reformation』

色も、胸部も全て元に戻る。

下を見ると、至るところから灰を撒き散らしながらもまだこちらを見上げるヘルガデムの姿。

「…!」

ここまで来れば、最早化け物。

自分達を遥かに超える、怪物。

「…」

そう考え、諦めようとしたその瞬間。

「…!」

その音速の生き物は、やってきた。



272: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:24:56.14 ID:X3wnOaF5O

「!」

何をやってもたじろぐことのなかったヘルガデムが、突然苦しみ出す。

何の異常か、身体の色が赤から銀色へと変わっていく。

だがそれは、先の自分のような銀色ではなく、鉄のような、重い色。

攻撃が効いた、というよりは何かしらのエラーが発生したという感じが見受けられる。

「…あ…」

だがその答えは、瞬時に分かった。

「あれは…!」

それは音速で動く自分よりも、さらに速く動き回り、ヘルガデムの背後に回った。

そのまま彼の背中に装備されたアイテムを無理矢理もぎ取り、彼の力を半減させた。

「…李衣菜ァ!!」

仮面を捨て、人間の姿でもなく。

そしてその強固な鎧すらも脱ぎ去った、彼女。

「…拓海さん…!」

「今だ!!決めろォォォオオオオオオオ!!!」

「…!」

李衣菜は拓海の叱咤に頷くことで応え、ミッションメモリーを腰に備え付けられたファイズポインターに装填。

「…てやっ!!」

右足に装着、レーザーを放つ。

「…これで…」

「…」

「終わりだぁぁぁぁああああああ!!!」

急降下する形で決める、クリムゾンスマッシュ。

「…」

銀色に変化した、ヘルガデム。

だがそれは、変化ではない。

元に戻った、ということ。

「…調子に…」

つまり、意思を取り戻したということ。

「調子に乗るなァ!!!」

「!?」



273: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:25:41.37 ID:X3wnOaF5O

これが最後だと放った必殺技。

李衣菜のその決死の一撃をヘルガデムは満身創痍の身体で受け止め、両腕で耐える。

「…この程度…!!」

身体がほとんど壊れた状態でも、彼は必死に耐える。

その理由は、ただ一つ。

「…終われるか…!!」

今まで戦ってきたのは、自分ではない。

自分は小さな箱に閉じ込められ、外を覗くだけの存在となっていた。

戦いたい。
ここから出してくれ。
自由にさせてくれ。

いくら訴えても、聞いてくれる者は誰一人いなかった。

「…このままで…終われるか…!!!」

蘇らされ、閉じ込められ、身体の自由を奪われた。

だが、今はこうして動く。

例え、死にかけの状態であっても。

今自分は、こうして相手と向き合えている。

だからこそ、望む。

「何も出来ないままで、終われるかァ!!!!」

どうかもう少しだけ、自由を楽しみたいと。

「!!?」

「ぬぅぅおおおおおおおあああああ!!!!」

その意地だけで、彼は李衣菜の攻撃を跳ね返してしまった。



274: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:26:29.52 ID:X3wnOaF5O

「!!…李衣菜ッ…!」

それを見ていた拓海が焦り、助けようと動く。

しかし、すぐに止まる。

「…!」

跳ね返され、宙に投げ出された李衣菜。

だがその中で、彼女は既に第二の手を打っていた。

「…まさか…!」

天高く振り上げられたその状態で、腰部に装備されたファイズショットにミッションメモリーを装填。

右手に持ち、握る。

もう一度、急降下しながら李衣菜は叫ぶ。

「…まだまだぁぁァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

振りかぶり、落下のスピードを乗せた、全力の右ストレート。

「…!!」

ヘルガデムはもう一度防御しようと、腕を上げようとする。

「…ム…!?」

だが、上がらない。

「…」

先程の攻撃で、遂に身体が限界を迎えてしまった。

灰となっていく己の腕を見て、ヘルガデムはもう一度、李衣菜を見上げる。

「でええええりゃああああああああ!!!!」

「…」

彼女の右拳が、胸部にめり込む。

地面に叩きつけられ、身体全体が青い炎に包まれる。

ゆっくりと、走馬灯を見るかのように目に映るものが遅くなっていく。

その時、彼は色々なことを考えた。

ロボットではあるが、痛みを感じる事が出来る己の身体。

正直、自分には要らない機能だと思っていた。

だが、今は悪くないと思うようになっていた。



275: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:27:37.81 ID:X3wnOaF5O

「…実験体5号…」

「…!」

何もせずに終わってはしまったものの、ほんの少しだけ、願いを聞いてもらうことが出来た。

「…この先の本部に、この世界の出口がある…」

「…え…?」

そのお礼を誰に言っていいのか分からず、ヘルガデムは目の前の少女にそれを押し付けることにした。

「…そこからお前達の仲間がいる、怪魔界へと行ける…」

「…」

生きて、死ぬ。

短期間ではあるものの、それを実感出来た。

「…早く行け…」

「…!」

本当に戦いたかった相手とは違うものの、もうこれ以上を望むことはない。

呪縛から解放されただけでも、満足だと。

彼にもしも表情を変える機能があるならば。

「…」

きっと、満点の笑みを浮かべて死んでいっただろう。

「…」

李衣菜は変身を解除し、ペコ、と少しだけ灰の山になったヘルガデムに向かってお辞儀をした。

複雑な心境ではあったが、筋は通す。

彼女は、ずっと彼女のままだった。



276: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:28:28.04 ID:X3wnOaF5O

「…おい」

「…」

「…やったな」

「…はい」

後ろから拓海が背中を優しく叩く。

「…」

「…良い喧嘩だったぜ」

「…拓海さん…」

彼女なりの、褒め方。

拓海も相変わらず、拓海のまま。

姿が変わっても、その内に秘めた優しさは、変わることはなかった。

「…」

「…あー、なんだ。李衣菜」

「はい?」

「…その、拓海さんってのはやめろ」

「え?」

「拓海、で良い。…あ、それと…タメ口で構わねーよ」

「…」

李衣菜の最後の最後まで諦めないその強さを、拓海は見届け、そして認めた。

「ほら行くぞ。みんなも待ってる」

「…」

「…」

「…」

「…んだよ。どーした?」

「…その、えっと…拓海…さ、ちゃん…」

「あ?」

「…その姿で言われても…」

「あ?…あ」

剥き出しの牙に、威圧するような目。

何よりその灰色の禍々しい身体のままでは、どうにもリアクションが取りづらい。

あまりにも自然に皆の元へと行こうとしたからか、元に戻るのを忘れてしまっていた。

「…行くか」

「…うん」



277: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:29:38.74 ID:X3wnOaF5O

「…」

そして、この世界にある、クライシス帝国の本部。

「…出張所にしちゃ、随分デカいよな」

「…そだね」

それでも、自身らが働く事務所とそう変わらない大きさに驚く5人。

「…ま!これでようやく向こうのお偉いさん方とご対面って訳だ!…一発二発じゃ済まさねぇ…!」

拳を鳴らし、本部を睨む。

我先にと拓海が勇んで歩いていく。

「…」

そして、止まる。

「…」

向こうからやってくる、2種類の足音。

一つは、軽めのブーツのような足音。

もう一つは、重く、それでいてしっかりとした足音。

「…んだよ。わざわざ行くまでもねえってか?」

余裕の態度を見せるが、その顔には一滴、汗が流れている。

少し後ろにいる4人も、同じく。

嵐の前の静けさのような、得体の知れないプレッシャーを感じ取った。

「…」

「…」

騎士のような服装に身を包んだ、青年。

金の重厚な鎧に身を包み、赤銅色のマントを羽織った男。

どちらも本部の入り口前で立ち塞がるように止まる。

「…」

手合わせをしたわけではない。

知っているわけでも、ない。

しかし、相手の戦闘力を知る方法はそれだけではないと、5人全員が感じる。

びりびりと、肌に伝わる迫力。

「…なつきち…」

「…ああ」

「…」

「…どうやら、上司が来たみたいだな…!」

「…」

不敵な笑みや冗談で誤魔化しても、その恐怖心は、分かる。

目の前の2人はこちらを見下ろし、微動だにしない。

まるで、こうなることが初めから分かっているかのように。



278: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:31:36.63 ID:X3wnOaF5O

「…実験体5号…9号まで。よくぞ此処まで来てくれた!」

騎士風の青年が、演説をするかのように口を開く。

「お前達の行動は全て見させてもらった!大したものだと褒めてやろう!!」

自分達がここに来たことが余程嬉しいのか、両腕を開き、歓迎の意思を見せる。

「…つまり、てめーがアタシらを此処に拉致監禁した張本人ってことか?」

「その通り!!」

「悪びれねーのかよ…」

「お前達はこれから我がクライシス帝国の一員となり、憎き仮面ライダーBlack RXを倒す突兵となってもらう!!」

「…あ?」

「これまでの機械兵団はお前達に戦いを方を身につけさせる為の駒に過ぎんのだ!!」

そしてその男は、自分達をその軍団に引き込むことを声高々に宣言する。

「…んな冗談…!!」

「…?」

「んな冗談、聞いてたま…!!?」

我慢の限界と青年に食ってかかろうとする拓海。

しかし、それはもう一人の男によって阻止される。

「…!」

「…」

その光景に、李衣菜達も息を飲んだ。

「…」

その男は瞬間移動でもしたのかと思うほどの速さで拓海の前に立ち、杖を彼女の喉元に近づける。

「…てめぇ…!」

「余の目が届く中で、好き勝手はさせん」

静かに、それでいて重々しく語り掛ける。

その迫力に拓海はいつしか気圧され、後ろに下がってしまっていた。

「ジャーク将軍。その程度の者、助けを貰うまでも…」



279: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:32:04.50 ID:X3wnOaF5O

「…ダスマダーよ」

「…?」

「…首領からの遣いとはいえ、貴様も余の部下」

「…」

「…余の手の届くところで、手は出させん」

「…ほう」

「…」

「!」

ジャーク将軍と呼ばれたその男は一度、杖の先端で地を叩き、李衣菜達を視界に入れる。

「…少女達」

「…」

その喋り方、立ち振る舞い。

単に実力だけの上司ではないということが、見受けられる。

「…余は、ジャーク将軍」

「…」

「今のお前達を、ここから先へ通すわけにはいかぬ」

「…」

「もしも、通りたいと言うのならば…」

杖を地から離し、悠然と歩き、近づいてくる。

そして、一喝する。

「私を倒してみるがいい!!」

「!!」



280: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:32:52.17 ID:X3wnOaF5O

ジャーク将軍のその言葉に、李衣菜達は身構える。

対峙して改めて気づく、その迫力。

鎧の下から見える、筋骨隆々の肉体。

相手を萎縮させる、その眼差し。

いつの間にか李衣菜達と同じところまで下がってしまった拓海に対しても侮蔑の視線を投げることもない、相手への礼儀。

「…5対1…だよ…?」

きらりの質問に、視線を外すことなく、彼は簡潔に答える。

「それが将たる者の務めだ」

「…」

余裕だとは、言わない。

ただ、自分が将であるが故という、それだけの理由。

「…出会い方間違えなけりゃ、仲良くなれたかもな…!」

拓海がベルトを巻き、それを金切りに皆もベルトを巻く。

「変身!!」

5人が一斉に変身し、飛び上がる。

「…」

ジャーク将軍はそれを一瞥した後、杖を軽く振るった。

「!!?」

その一振りで李衣菜達は吹き飛び、遥か後方へと叩きつけられる。

「…ったぁ…!!」

「あたた…!!」

「アイツ…何したんだよ…!?」

大きなダメージを一度に負ったことでベルトが耐えられず、変身を解除してしまう。

「うえぇ…」

つまり彼は、一切触れることなくそれをやってのけたということ。

「…何てヤローだ…!!」

その圧倒的な力に、ただ驚愕するしか出来ない。

ジャーク将軍はその場から一歩も動かず、また杖の先端をとん、と地に置いた。



281: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:33:48.72 ID:X3wnOaF5O

「…どうした…お前達の怒りはその程度ではないはずだろう?」

追い打ちをかけるなどということは、ない。

向かってくれば、また叩き潰せば良い。

完全な強者の証。

「…ぐ…!」

力の差は、歴然。

「…なら…!」

李衣菜と拓海。

2人が立ち上がり、李衣菜はファイズアクセルを装着、拓海はベルトを地に置き、ドラゴンオルフェノクへと変身。

「…こっからは…!」
「アタシらの世界だぞ…!!」
『START UP』

果たして彼に対して、スピード戦法が通用するものかどうか。

それも分からないまま、2人は走った。

ジャーク将軍の背後に易々と回り込み、その顔に左右から上段蹴りを浴びせようと試みる。

「…ふむ」

「!?」

しかし、彼は止まった時間などお構いなしにと拓海と李衣菜の脚をそれぞれの手で掴んでしまった。

「…てめぇ…!!」

「は、離して…!」

「…」

万力で締め付けられているように感じる程の、握力。

骨まで伝わるその力は、全く振りほどける気がしない。

「…確かに、私よりは遥かに速い」

そして、2人をそのまま持ち上げる。

「…だが、余の時間は止まってなどおらぬ」

「!」
「!」

「…ぬぅん!!」

振り回し、投げる。

きらり達に受け止められ、何とか事なきを得たものの、再び変身解除へと追い込まれてしまった2人。

「…これも、通用しねえってのかよ…!」

ヘルガデムよりも、またさらに桁違いな力と反射速度でもって、皆から自信を奪っていく。



282: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:34:28.62 ID:X3wnOaF5O

「…流石はジャーク将軍…と言っておこう」

「…」

後ろで軽い拍手をする青年、ダスマダー。

部下であるにも関わらず、彼は自分の上司すらも駒のように見る。

ジャーク将軍とは、真逆。

それでも、ダスマダーからも感じる強者の証。

「だがしかし!我々の目的を忘れてはならない!」

「…」

「その子供達を洗脳せよ!!さすれば貴方のその功績、必ずや首領の耳に入れておこう!!」

「!?」

「…」

その言葉に、李衣菜達は耳を疑う。

「せ、洗脳って…?」

「ここにいるジャーク将軍が直々にお前達を洗脳、クライシス帝国の戦士として活動してもらうのだ!!」

「は…?」

「ふ、ふざけんな!!誰が洗脳なんざ…!」

「ならば抵抗してみるがいい。私達がいくらでも相手になろう!!」

「…」

「お前達など、このダスマダーが…ッ!!?」

「!?」



283: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:35:17.87 ID:X3wnOaF5O

高笑いしていたダスマダーの顔が突如、後ろに折れ曲がる。

「…」

ジャーク将軍はそれを尻目に、その原因となっただろう者をギロリと睨みつける。

「…」

李衣菜達も、思わず目を疑う。

「…!」

後ろを振り向き、固まる。

「…」

銃に変形させた携帯を構えた、里奈。

銃口から上がる、煙。

その目は冷ややかで、それでいてしっかりとダスマダーを見据えている。

「…里奈…」

「…みんな」

「…?」

「迷う必要なんか無いよ」

「…里奈ちゃん…」

「こいつは、悪い奴だよ」

「…」

「やっつけるよ。みんなで」

「…」

「…フフ…」

「…」

「ハッハハハハハハハハハハハハ!!!!」

「!」



284: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:36:10.54 ID:X3wnOaF5O

里奈の攻撃に動きを止め、天を仰いでいたダスマダーが、笑い出す。

「…あー…」

その余韻を残し、そしてこちらにぐるりと首を向ける。

「…面白い…」

その顔を見て、驚く。

彼の被弾箇所である額は、少し赤い後を残しただけで、何一つ怪我は無い。

「そうでなくては、面白くないからなァ!!」

剣を抜き、構える。

先までの少しあどけなさも残した顔つきも、歪んだ顔へと変化し、殺気を一切隠さなくなっていた。

「…」

それに対し、何らアクションを起こさず、相変わらずの仁王立ちをするジャーク将軍。

「…!」

数では勝っていても、その実力差は比べ物にならない。

「…何度でも…やってやるよ…!」

それでも彼女達は、諦めない。

「…まだ、やりたいこと、やってないからな…!」

ベルトを巻き、立ち上がる。

「これ以上、待たせてらんないしね…」

たとえ諦めようと、諦めなかろうと結果が同じだとしても。

彼女達は、進むことを選ぶ。

「愚か者共め…ならば望むままに戦ってやろう!!」

剣を片手に構え、高笑いする。

口だけではないという、実力の証明の仕方。

「きらり達なら、出来るもん…!」

「…みんな…」

皆の前に、一歩出る李衣菜。

ファイズフォンを構え、コードを入力。

そして、ヘルガデムから奪い取った戦利品、ファイズブラスターに差し込む。

「…見せてやろうよ…!」

そして、皆一様に、思いの丈を、目の前の敵にぶつける。

「…私達の、生き様ってやつを!!!」



285: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:36:50.28 ID:X3wnOaF5O

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!!」
『AWAKENING』



286: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:37:52.04 ID:X3wnOaF5O

「ふむ…」

李衣菜が変身した瞬間、555の身体に異変が起きた。

どこからともなく、赤い光の線が現れ、彼女のアンテナ部分に当たる。

するとたちまち全身が真っ赤に染まり、装甲もより強固なものとなった。

「…」

李衣菜は右手に握ったファイズブラスターを光り輝く剣へと変形させ構え、2人の幹部と対峙する。

「それが仮面ライダー555の強化形態というわけか…」

従来の555とは違い、身体の全てにフォトンブラッドの色が入っており、その出力の高さを伺わせる。

「…ハハッ!!」

「!」

その姿を見たダスマダーは、構えをそのままに、瞬時に李衣菜の懐へと飛び込む。

「どの程度か確かめる良い機会だ…!!」

「…!」

「フン!!」

「…でやっ!!」

反応が遅れたものの、何とかダスマダーの一撃を受け止めた。

「…!!」

しかし、その身体に似合わず、機械軍団に匹敵する程の腕力を持ち合わせている彼に、次第に押されていく。

「どうした…?その程度ではないのだろう…?」

「…悪いけど…か弱い女の子なんで…!」

「!」



287: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:38:47.78 ID:X3wnOaF5O

李衣菜との鍔迫り合いの最中。

戦っているのは1人だけではないと、横から斬撃が飛ぶ。

「その程度!」

しかしそれが当たる程、彼は弱くはない。

夏樹の一撃は、空を切っただけに終わってしまった。

「…流石に、喰らっちゃくれない、か…」

死角からの不意打ちにも関わらず、その殺気だけで判断する。

いかに彼が戦い慣れているかが、良く分かる。

「…だけど…」

「…?」

「…チームワークなら、そっちよりよっぽどあるからね…!!」

「…何?」

「…撃てー!」

「!」

李衣菜の合図。

その瞬間、彼女の背後から無数の銃弾が飛ぶ。

「…!…ハハッ!!狙う気があるのか…!?」

しかしダスマダーはその中を平気な顔で避け続け、こちらに向かってくる。

「先ずは貴様からだ!実験体5号!!」

そして、李衣菜に斬りかからんと走る。

「私の力を…ぬおっ!?」

だがその時、何かに足を取られ、躓いてしまった。

「…!」

そこには、無数の陥没。

「…まさか…!?」

彼女達が狙っていたのは、自分ではない。

自分の、足場。

「…良かった…」
『EXCEED CHARGE』

「!?」

倒れかかりながらも、視界を前にする。

「…ダスマダーさんが、バカ正直に向かってきてくれて…!!」

そこに、あったもの。

「何っ…!?」

それは、ファイズショットを被せた、李衣菜の右拳だった。



288: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:39:36.58 ID:X3wnOaF5O

「…」

「…」

重い、金属音。

「…」

手応えは、確かにあった。

貫く衝撃を、放った筈だった。

「…良き、チームワークだ」

「…ッ…!!」

「…ジャーク将軍…」

だがそれは、鋼鉄の巨大な壁に阻まれていた。

「しかし、忘れてはならぬ」

「…!!」

右手首に、握り潰されそうな痛み。

勿論先ほどと同じく、振り解けるものではない。

「いくら強化しようと、数が増えようと、チームワークが良かろうと…」

自由な方の手で、ジャーク将軍の顔を何度も殴り、抵抗する。

夏樹達も加勢し、必死に攻撃をする。

「余にとっては、無力に等しい」

「!!」



289: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:41:36.26 ID:X3wnOaF5O

李衣菜の右腕から、木材が潰れるような音が全員の耳に届く。

「…ッ…アアアアアアアアアアア!!!」

「!!だりー!!!」

「だりなちゃん!!」

「李衣菜ちゃあん!!」

瞬間、痛みに叫び、のたうち回る李衣菜。

強化スーツに身を包んでいるため固定はされているが、間違いなく右手首は粉砕された。

「…その満身創痍の身体でここに来たのは、褒めてやろう」

「…!!」

「…が、勘違いはしてはならぬ」

「…て…めぇぇぇええええええ!!!」

その光景に、我を忘れる程の怒りを感じた拓海がジャーク将軍に殴りかかった。

「…ぶっ殺してやッッッ!!!?」

しかしそれよりも遥かに速く、彼の手が拓海の頭部に届く。

「…!!!」

「今、貴様達は自らの力で生き永らえていると思っているようだが…」

「…は、離しやがれ…!!」

おもちゃを扱っているかのように、拓海を片腕一本で軽々と持ち上げる。

「…貴様達、人間の少女など…」

掴んだ箇所、デルタの仮面がひび割れ、徐々に拓海の皮膚が露出していく。

「殺そうと思えば、いつでも殺せるのだ」

「!!」

「…拓海!!!」

たった、1人。

実験体のうち1人が死のうと作戦に影響は無い。

そう暗に示したジャーク将軍は拓海の頭部を握り潰そうと右手に力を込める。

「…余に挑んだのは、間違いだったな」

「…!…!!?」

「拓海ぃぃぃいいいいいい!!!」

だが、その時だった。



290: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:44:43.54 ID:X3wnOaF5O

「…ム…!?」

「!!」

今まさに拓海を殺そうとしていたジャーク将軍。

そこへ、一台のバイクが異常なスピードで突進してくる。

「…ぬおっ!!?」

「うわっ!!?」

そしてそのまま、ジャーク将軍に激突。

「…!!」

「あれは…!!」

それを見たダスマダーと、突進された本人が、そのバイクの姿に目を見開く。

それだけではなく、夏樹達も、その異様なデザインのバイクに唖然とする。

『pipipi…』

青、赤、黄。

彩られた、バッタのようなデザイン。

「…な、何だこいつ…」

何とか気絶は免れた拓海も、間近で見て驚く。

まるで意思を持っているかのように拓海を助け、闘牛のように前部分を振る。

「…アクロバッター…」

ダスマダーがぼそりと呟く。

「…これが来た、ということは…」

そして、その顔に若干の焦り。

「…?」

その時、どこからともなく、足音が聴こえてくる。

「…」

それまで変化のなかったジャーク将軍の表情が、ほんの少し険しくなる。

「…あれは…?」

李衣菜と拓海を介抱しながらも、それが気になる里奈、きらり、夏樹。

「…黒い…?」

昆虫のような、真っ赤な目。

屈強な、黒いボディ。

二つ、赤く輝く「何か」を有したベルト。



291: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:45:25.50 ID:X3wnOaF5O

「…何だよ、あれは…」

その疑問に対してか、それとも自然か。

「…RX…!!」

ダスマダーが憎き相手の名を呼ぶように、呟く。

「!」

「…あれが…?」

「…仮面ライダー、Black…RX…?」

ゆっくりと、確かな足取りでこちらに歩いてくる彼は、敵か、味方か。

「…南光太郎…何故ここが…?」

「…1人の仮面ライダーが、俺をここまで案内してくれた」

「…?」

「何の罪も無い子供達を利用し、洗脳し、自分達の兵隊にするなど…この俺がさせない…!」

「…RX…まあ良い。ここで貴様を処刑してやる!!」

「子供達の夢を踏み躙るお前達を…俺は絶対に許さん!!!!!」

それは、疑うまでもなかった。



292: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:46:28.34 ID:X3wnOaF5O

「ジャーク将軍、RXは私が引き受ける!何としても実験体達を逃がすな!!」

「…」

「行くぞ!!RX!!」

ダスマダーが待ちきれないとばかりにRXに斬りかかる。

「喰らえッ!!」

衝撃波が生まれる程の斬撃にも関わらず、彼はそれを片腕で受け止め、そしてその瞬間、身体が青く光り出す。

「なッ!!?」

そして一瞬で液状に変化し、空中から彼に四方八方から突撃。

「がっ…!」

それに思わずたじろぐダスマダーへもう一度、突進。

「RX…キック!!」

液状がダスマダーに直撃する刹那、それは赤く光る足へと変わり、そして元の姿へと戻る。

RXの両足での飛び蹴りが顔面に直撃し、ダスマダーは綺麗に後方へと吹き飛んでいく。

黒い血を撒き散らし、地面でもがき苦しむ。

「…」

「…は…?」

ダスマダーがジャーク将軍に自分達を任せ、RXに攻撃を開始。

そして、ここまで。

「…な…」

「…何だ…ありゃ…」

その間、およそ3秒。

夏樹達が一呼吸終える間に、RXは1人の幹部を行動不能にしてしまった。



293: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:48:11.29 ID:X3wnOaF5O

「…南光太郎よ」

「…」

「…良くぞ、ここまで来た、と褒めておこう」

「ジャーク将軍…!」

「…が、余が貴様と戦うには、少々早い」

「…!」

「だがここは負けを認め、潔く身を引こう」

「何…!?」

「…だが、これだけは言わせてもらう」

「…」

「…貴様も、そこで伸びている者も」

「…」

「…そして、今貴様が守った少女達も、私達、クライシス帝国も…」

「…」

「それぞれの大義の為に、戦っているということを」

「…ジャーク将軍…!」

「ゲドリアン」

「!」



294: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:49:04.94 ID:X3wnOaF5O

ジャーク将軍が名前を呼んだ瞬間、上空から1人の化け物が飛び降りてきた。

ゲドリアンと呼ばれているそれは、倒れたダスマダーを抱え、ジャーク将軍の元へとひとっ飛びする。

「RX!本来ならここでお前を切り刻んでやりたいところだが…」

「…!」

「このバカをほっとくと首領にドヤされるんでな…。今日は見逃してやる!」

「貴様…!」

「せいぜい首を洗って待っておくがいい!」

その言葉を最後に、後ろのジャーク将軍が杖で床を叩く。

すると3人は光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。

「…」

RXと呼ばれていた彼は、彼らが消えた後も拳を握り締めながら、悔し気に見続ける。

「…」

そしてこちらを向き、李衣菜と拓海の怪我をその赤い目に映す。

「…キングストーンフラッシュ!!」

「…!」

それに向かってポーズを取り、ベルトから光を放つ。

「…?」

目を瞑っていなければ、目が一生使えなくなりそうな程の、眩しさ。

「…!」

だが、微かに感じる、温かみ。

恐怖は不思議と、無い。

「な、何を…?」

「すまない。今俺が君達に出来ることはこれくらいしかない…」

「え…?」

「…」

「…あ…!」

その光の中、苦悶の表情を浮かべていた李衣菜の顔に、落ち着きが戻る。

拓海もまた、押さえていた頭から手を離し、起き上がる。

その様子から、恐らくこの光には治癒能力があるのだろうと感じる。

完治したのか、彼は光を放つのを止め、そして光に包まれる。

『…すまない』

「え?」

『…俺も後から必ず行く。君達の仲間を連れて…!』

「あ、ちょっと…!」

そして、段々とRXの声が小さくなっていることに気づく。

「!」

見ると、彼の身体が若干、薄くなり始めている。

『どうか、無事でいてくれ…!』

「あ…」

お礼の一つでも何とか言おうと彼に触れようとするが、その手は空を掴んだだけに終わった。

「ちょ、ちょっとアンタ…!」

それから数秒もしないうちに、彼は霧のように、消えた。

まるで嵐のように、全てを掻っ攫って。



295: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:49:50.09 ID:X3wnOaF5O

「…」

もう、何が起きても驚かないつもりでは、あった。

「…」

しかし、この世界では最早常識などという言葉は存在しない。

生きてきた時間の短さとは関係無い、漫画のような世界。

「…なあ」

「…ん…」

無言の空気が続く中、李衣菜を腕に抱く夏樹が、隣にいた里奈に対して口を開く。

「…神様って、いるんだな」

「…ん」

どれだけ絶望に追い込まれても。
どれだけ血を見ようとも。
残酷な運命に打ちひしがれたとしても。

まだ自分達は、見捨てられてはいない。

「じゃ…」

「…」

「…行くか」

「…ん!」

それが分かっただけでも、救いというものだった。

…。



296: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:50:38.69 ID:X3wnOaF5O

…。

それから、数分後。

「…李衣菜…?」

「…うん」

渋谷 凛。

「…李衣菜ちゃん…なの…?」

本田 未央。

「…うん」

時間にすれば、短過ぎる再会。

感覚的には、数十年も待たされたような、再会。

「…まだ、戦える?」

だが、李衣菜はそれを喜ぶのはまだ早いと、2人を起こす。

「…」

「…」

「立って、戦える?」

何度も泣きじゃくったのだろう彼女達の顔を見ても、優しい言葉はかけない。

「…うん」

「…出来るよ」

「じゃあ、行こうか。みんなで」

いつの間にか、自分達とは違う、遠い世界に行ってしまったと、未央と凛は感じる。

だからこそ、その厳しい言葉に対して意地でも応えようとする。

たくましくなった友人に、追いつこうと。

「…うん!」

「…じゃ、これ」

「え?」



297: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:51:19.99 ID:X3wnOaF5O

李衣菜から2人に、何かが手渡される。

「…?」

「…ベルトの…バックル?」

「使って。多分、そっちよりは大丈夫だから」

「…」

「…」

バックルの中心部に、見覚えのあるマーク。

赤いダイヤと、緑のクローバー。

「先ずは、卯月ちゃんと美嘉さんを元に戻さなきゃ」

そして、もう二つ。

「…それ…」

青いスペードと、黒いハート。

「…行くよ。いつまでも座ってないで」

「…」

「みんな戦ってる。生きる為に。帰る為に」

「…」

「…」



298: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:52:13.02 ID:X3wnOaF5O

李衣菜が指差す方向を、見る。

「…あ…」

黒い、金の線。
白い、青の線。
黒い、黄色の線。

顔は、分からない。

だが、その声には聞き覚えがある。

「…あれ…」

「卯月ちゃあん!お願いだから元に戻って!!」

「…っあー!暴れんなって!!」

「痛くしない痛くしなーい☆」

卯月と鍔迫り合いをする、きらり。

美嘉を二人掛かりで抑え込む、夏樹と里奈。

「…3人だけじゃないよ」

「…」

「…」

そして、その向こう。

「…いくらテメーが機械軍団の長だろうがなぁ…!」

「…!」

「こちとら族の長なんだよ!!!」

「ぬおっ!!?」

ガテゾーンに一撃を喰らわせ、さらに大型バイクで追撃を試みている、拓海。

「…戦うことを怖がってたら、前には進めないよ」

「…李衣菜…」

「でも前に進まないと、助からないよ」

「…」

「助かりたいなら、戦って」

「…李衣菜ちゃん…」

「覚悟、したんでしょ?」

「…」

「…」

真っ直ぐな目でこちらを見つめる、李衣菜。

多くの死地を乗り越えたからこそ出せる、説得力。

「…うん」

「出来てる」

「…じゃ、行こっか」



299: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:54:17.88 ID:X3wnOaF5O

「…」

凛。

「…」

李衣菜。

「…」

未央。

3人が並び、ベルトを腰に巻く。

凛と未央はベルトに最初から備え付けられたカードをバックルに挿入。

トランプのようなものが帯状になり、ベルトの形となる。

それは自動的に2人の腰に巻かれ、音声を鳴らす。

「…分かるんだ?」
『5・5・5』

「…何となく…?」

「…何でだろ…」

「…さあ、ね?」

準備は出来た。

覚悟も、出来た。

「…」

そこに、言葉はいらない。

後は、進むだけ。

だがこれは、倒す為の戦いではない。

生きる為の、生きて帰る為の、戦い。

「…変身!」
『Open Up』

「変身!!」
『COMPLETE』

「変身!」
『Turn Up』

赤い光に包まれる、李衣菜。

未央と、凛のベルトのバックルからは、カード状のエネルギーが出現。

「…!」

「…ッ!!」

2人はそれに向かって、走り出す。

李衣菜もまた、それに合わせて走る。

「…行っっっくぞぉぉおおおおおおお!!!」

「でええええやああああああああ!!!」

「ああああああああああああ!!!」



300: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:55:00.95 ID:X3wnOaF5O

赤い光の両サイドで、エネルギーが勢い良く、突き破られる。

そこから現れた、3人の戦士。

真ん中に、李衣菜が変身した、仮面ライダー555。

左には、凛が変身した、仮面ライダーレンゲル。

右には、未央が変身した、仮面ライダーギャレン。

李衣菜は走りながら、スペードとハートのバックルを2人にパスするように渡し、そしてさらに加速する。

「2人とも…!」

右手に、ファイズフォン。

左手には、ファイズブラスター。

「…ちょっと、我慢しててね…!」
『AWAKENING』



301: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:55:46.90 ID:X3wnOaF5O

「きらりちゃん!」

「!」

「なつきち!里奈ちゃん!」

「!」

「…!」

走ってくる李衣菜と、凛、未央に気付く3人。

その手に持った物で全てを察し、それぞれが暴走する卯月と美嘉の背後に回り、羽交い締めにする。

「でえ…りゃっ!!」

それでもまだ抵抗しようとする2人の腹部に、李衣菜がダメ押しの一撃を加える。

急所に叩き込まれたことで、動きが止まる。

「今だよ!!」

「卯月…!」

そして、凛は卯月へ、カードを挿入し、ベルトとなったそれを無理矢理装着、レバーを引く。
『Turn Up』

「…ごめん!」

出現したエネルギーに、そのまま卯月を投げ飛ばす。

「…ごめん!美嘉姉!」

未央は美嘉へ、ハートのバックルのベルトを叩きつけ、カードをスリット。
『CHANGE』

「元に…!」

「戻れええええええええ!!!」



302: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:56:32.35 ID:X3wnOaF5O

エネルギーを突き破り、その場で姿が変わり。

卯月と美嘉は力無く項垂れ、立ち尽くしている。

重厚なアーマーに、昆虫のような仮面。

「…」

暴走は止んだ。

しかし、どうなったかまでは、分からない。

ただ、李衣菜達にこれ以外の方法は思いつかなかった。

「…」

本部の中で見た、一部始終。

本部の中に保管されていた、4つのバックル。

恐らくこれが正解なのだろうと、それらを手にとって、ここまで来た。

「…!」

そして遂に、その時はやってきた。



303: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:58:21.48 ID:X3wnOaF5O

「…あ…」

「…あれ?」

卯月と美嘉。

顔色は伺えないが、ゆっくりと頭を上げている。

何が起きたのか分からないと、周囲を見渡す。

「…な、何ですか?どうしたんですか?」

「…あれ?アタシ…」

そして、混乱する。

「…え?だ、誰っ!?」

仮面を被り、顔が出ていない為、無理もない。

外し方もよく分かっていないので、何とか説明しようと、李衣菜が近づく。

だが。

「!?」
「うわっ!?」

「卯月いいいいいいいい!!!」
「美嘉姉えええええええ!!!」

彼女達の視点で見るならば、人ならざる化け物が叫びながら飛び込んできた、と思わざるを得ない。

だがそれは、友人の無事を心から喜ぶ優しい景色なのだと、李衣菜達は笑う。

「良かった…!良かったぁ…!」

「美嘉姉ぇ…」

「え…その声…」
「…凛…未央…?」

誤解は割と早く解け、これでようやく全員が揃った、と喜ぶ。

「…良かっ…」



304: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:59:34.62 ID:X3wnOaF5O

「…」

視界の端を、何かが猛スピードで横切った。

横切ったそれは、地面に叩きつけられ、力無く横たわる。

「…え…?」

変身が解除され、姿が露わになる。

「…あー」

「…拓海…ちゃん…?」

「そのベルトを奪ってきたのは誰だと思ってんだ?」

「…!」

振り向くと、そこには腕を回すガテゾーンがジャケットを脱いだ状態で立っていた。

「俺ぁ科学者だぜ?何の対策も無しにこんな事すると思うか?」

「…!」

ガテゾーンの背後に、壊れた状態で横たわるジェットスライガー。

彼の手には、リモコンらしきもの。

恐らくそれは、あのバイクに取り付けられた起爆スイッチ。

「相手が歴戦の猛者共ならともかく、ガキのお前らにゃあまー…だそいつは早すぎるシロモノなんだよ」

「…だけど、傷を負ってるのは…!」

「そっちも対策済みだ。人間が作れるもんを俺が作れないわけねぇだろうよ」

「…ッ!!」

「…ま、他にも言いたいことはある…が、まァ…一言でまとめておくか」

すると彼はショットガン型の武器を背中から取り外し、構える。

「…!」

それに対抗し、李衣菜達も武器を構える。

「…」

多勢に無勢、という言葉がある。

しかし彼は、この状況においても全くたじろぐことはない。

「…」

寧ろ、楽しんでいる。

「…」

そして彼は銃の引き金に指を置き、少し低いトーンで、冷静に言い放った。

「調子に乗るな」

「!!」



305: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:00:21.73 ID:X3wnOaF5O

「…!」

そのショットガンが発砲される瞬間、地面が揺れ出す。

「何…?これ…!」

「出てこい。シュバリアン」

「!!」

地面に亀裂が走る。

「うわっ!!?」

「きゃっ!!?」

巨大な地震を起こしながら、中から巨大なロボットが這いずり出てきた。

「こいつぁお前達のデータを元に作った物をさらに強化させたモンだ」

「コイツ1人じゃなかったのかよ…!」

「言ったろ。俺は科学者だって…なっ!」

ガテゾーンはシュバリアンと呼ばれるそれの上に飛び乗ると、地上にいる彼女達に再度言い放つ。

「…調子に乗るなってのは、割とマジだぜ」

「…!」

「シュバリアン!こいつらを殲滅しろ!!」

『了解しました』

ガテゾーンの命令に、両腕に備え付けられたビーム砲を構え、チャージを始める。

「…!」

その出力は、今まで見たどの怪魔ロボットよりも強力。

「…やべ…!!逃げろォ!!!」

夏樹がいち早く叫んだものの、時すでに遅かった。

『殲滅、開始します』

「…!」

子供達に対して、彼は容赦無く攻撃を放った。

着弾したそれは大爆発を引き起こすほどの威力で、彼女達はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。

「うわああああああああああっ!!!」

深刻なダメージを負い、その場に倒れ込んでしまう。



306: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:01:31.11 ID:X3wnOaF5O

「…こんな…!」

「…こんなの…アリかよ…!」

衝撃のせいか、脚がまだ言うことを聞かない。

「…んー…直撃は無し、か」

ガテゾーンはそんな散り散りになった彼女達を見ながらデータを記録している。

「急ピッチで仕上げたからなぁ…こりゃまだまだ改良が必要だ」

「…コイツ…マジでアタシらぶっ殺す気みたいだぜ…!」

「当たり前だろ。お前らに任せてRXを倒されたんじゃ、俺らのプライドはズタズタだ」

「…!」

「仮にお前らが死んで計画どうのこうのってなってもな、代わりを探せばいいだけの話だ」

「…人間を…何だと思ってんの…!?」

話を察した未央が、怒りを爆発させる。

だがガテゾーンは振り向くこともなく、即答する。

「お前らが豚だ牛だを食うのと同じさ」

「!」

「…さて、どいつからやろうか…」

そして、お菓子を選ぶ子供のように1人ずつ、舐めるように見ていく。

「…」

「…」

「…」

そして、彼が目をつけたのは。

「…よーし。お前さんだ。渋谷凛」

「!」

「シュバリアン。あいつをやれ」

『了解しました』

「!」

「…!凛!!」

凛に向かって、放たれる二発目。

「凛!!!」

美嘉達が走り、助けようとする。

「…!」

避けられないと、防御の体勢を取る凛。

直撃すれば、どうなってしまうか。

先程着弾したあの隕石が落下したような地面を見れば分かる。

「…!!」

仮面の下で、彼女は死を覚悟し、目を瞑った。

「…」

しかし、その時だった。



307: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:03:28.68 ID:X3wnOaF5O

ガテゾーン含め、皆、目を疑った。

「…」

黒い何かが、超高速で凛の前に立ち塞がり、ビームを片手で弾いた。

「…え…?」

弾いたその腕には、鋭利な角、というよりは鎌のようなものが生えている。

全身が黒と金に包まれた、禍々しい、何か。

「…は?」

ガテゾーンは、混乱した。

あの攻撃は、今までの怪魔ロボット達のものよりも何倍もの威力を誇るもの。

しかし、彼はそれを弾き、消した。

「…おいおい…聞いてねぇぞ…?」

冷や汗をかく機能は自分には無いが、間違いなく彼は焦っていた。

「…なんだァ?ありゃあ…」

「…」

「…」

だが、卯月と、李衣菜。

彼女達には、見覚えがあった。

「…あれ…」

消えゆく意識の中、幻影のようにそれは現れた。

最も、そこからは覚えていないが。

「…間に合いました…」

「!」

しかし聞き覚えは、彼女達全員に、あった。

「…無事で、良かった…」

「…その声…」

「…嘘…」

そして、顔を上げる、それ。

「…」

やはり、昆虫のような仮面。

「…」

その目は、燃える炎のように、真っ赤だった。

第二章 終



308: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:05:23.24 ID:X3wnOaF5O

二章ここまで
また書けたら新しくスレ建てます



309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 22:55:00.30 ID:fOTjXjpPO


仮面ライダーってこんなイカしてたっけ


元スレ
SS速報VIP:李衣菜「…ここどこ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484142174/