すいませんでした

ベーリング海艦これの旅に出てたら遅くなってしまいました

前のスレの最後でレスいっぱいついてるヤッタァと喜んでいざスレを開いてみたらあんな有様に、とんだ肩透かしだよコンチキショウ

お付き合い頂きまして本当にありがとうございました、できればこれからもお付き合いください構ってください。


[前スレ]----------------------------------------------------
【ガルパン】マタニティ・ウォー!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473248759/

(このスレへの誘導リンクを張れず、ごめんなさい)------------

皆さまのおかげで2スレ目と相成りました
完結にむけて清書してますので最後までどうぞよろしくお願い致します。

なお、このスレは前スレの完全なる続きです。前スレを読んでからでないと話の展開が理解できません。
さらに、作中で季節の経過に触れるのを完全に忘れていますが最後まで忘れますごめんなさい許してくださいなんでもしますから。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489668640




8: KASA 2017/03/17(金) 21:50:33.44 ID:RfXd2UyYO

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続・■188日目

朝チュン時間帯、エリカさんの部屋

:裸のみほ。裸のエリカ。並んでベッドに横たわる。二人の頭の位置関係→みほがエリカに授乳をするような感じ。
:エリカの手の平、みほの膨張した腹部をなでる。
:交わされる会話は、精神的な後戯。

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「ねぇエリカさん。私達の今晩の事、ちゃんとお母さんに報告しよ……?」

「……。やだ……」

「どうして……?」

「お義母さまに叱られるの、やだ」

「……ふふ」

「何よ」

「だって、エリカさん子供みたい。可愛い」

「っ、るっさいわね……でも、やっぱり、無理、どうしても怖い……」

「怖い……?」

「だって私は、隊長と一緒にいたいからって、この家においてくれるようお義母様にお願いをしたのよ。それなのに、私は今あんたと……。きっとお義母様に、軽蔑される」

「大丈夫だよ。お母さんはきっと、許してくれる」

「……。どうしてそう思えるの? どうして信じていられるの? お義母さま厳しい人よ。決勝に負けたあの時、お母様は、打ちのめされてるみほを、黒森峰から──。」

「……。今のお母さんは、優しいもん。人が変わったみたいに、ね。それに私……お母さんのこと、今はすごく尊敬してる……。だからもう、お母さんに隠し事はしていたくない。お願いだよ、エリカさん……」

「……。」

「朝ご飯を食べたら、二人で一緒にお母さんと──っ、あ!、んっ……」


 :みほの乳頭に、ぐずったエリカがかぶりつく。乳首を吸われる。何度も何度も。愛撫でもなんでもない。ひたすら愚直に、ちっ、ちっ、ちっ、と単純なリズムで吸引が繰り返される


「……エリカさん、ごめんね……おっぱいって子供を産んだ後に出始めるの。だからまだ、お乳はだせないんだ……」


 :それでもエリカさん、吸うのを止めない、愚直に、愚直に、ちっちっち。


「……。いいよ、エリカさん、今は一杯、私に甘えて。早く、元気になってね……。お姉ちゃんに、心配かけたくないもんね……」

 ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ……。

「大丈夫だよ、エリカさんは強い人だもん。すぐに、また元気になれるよ」

 ちっ、ちっ、ちっ、……。

(……。お母さん、赤ちゃんにおっぱいをあげてる時って……こんなに幸せな気持ちになれるんだね……)

 ちっ、ちっ、ちっ……。
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21: KASA 2017/03/18(土) 21:34:49.55 ID:GXLR8hmSO

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続■188日目

朝10時/居間

[しほ&恒夫][みほ&エリカ]、テーブルをはさんで対面。みんな正座。重苦しい雰囲気。


全てを正確に告白。

・お姉ちゃんが流産をしてしまった後のエリカさんの異常な心理傾向(求婚行為ふくむ)
・つくばに取り残された自分達が直面していた苛酷な精神環境
・肉体的快楽への逃避
・それにともなう友情→共依存的愛情への変質
・他、この場にいたるまでのお互いの葛藤のすべて


お母さんは黙して目をつむり、眉間にしわを寄せてる。お父さんは、何も言わず平静な表情で、テーブルの上の模様を見てる。エリカさんは私の隣で顔を青くしてうつむいてる。
自分がどんな表情をしているのかは分からない。両親には嘘をつかない、その決意だけを意識する。まな板の上の鯉。



 お母さんが、重たい声で、思案中に漏れた独り言のように、

「まほは、これ知っているのですか」

 続けて淡々と、

「『エリカは学校で元気にやっている、流産からもしっかり立ち直りつつある』と──つい先日も、まほから報告がありました。貴方たちから今きかされたような話は、一言も聞かなかった」

 みほ、ハッとする。お姉ちゃんはエリカさんの様子をちゃんと見守って、お母さんとも密に連絡を取り合っていたんだ。
 姉のその思いやりに愛しさと後ろめたさを感じ、それゆえにみほは、その後の母の言葉にぎょっとさせられた。

「もしも知らなかったのだとしたら、まほは、あの子は……一体エリカの何を見ていたの」

 ぎょっとしたのはエリカさんも同じみたい。エリカさんはそれまで俯いていた顔をあげ、切に訴えた。
 隊長は誰よりも細やかに自分の心配してくれている。だけど自分は、心の中のふあん亭が表にないよう、きつく抑え込んでしまってた。

「もう、私と隊長との間に赤ちゃんはいないんです」

 だからいつまでも隊長に甘えていられない。隊長は西住流を背負って立たねばならない人。いつまでも自分のせいで迷惑をかけていてはいられない、だから元気でいる姿を見せなければ、はやく立ち直らなくちゃ──
 エリカさんがそんな事をまくし立てる。
 みほはエリカさんのそんな一図さをもどかしく思うとともに、だからこそ、エリカさんを愛しく思う。この人を守りたいと思う。
 ……そういう自身の気持ちに意識がむいて──
 ──お母さんの振り上げた拳には、少しも気がつけなかった。その拳がいよいよテーブルにたたきつけられ、部屋に激しい音が鳴り響いてからようやく、私の身体は凍り付いた。
 



22: KASA 2017/03/18(土) 21:35:27.42 ID:GXLR8hmSO

 ダンッ!!!

「ひっ……」

 と、隣でエリカさんの喉が鳴る。お父さんの、それまで一定だった柔らかい視線さえもが、いくらか緊張して、お母さんに向けられる。
 お母さんは、その激しい行動には似つかない、妙にたんたんとした声で──

「あなたのお母様の憤りと、ようやく少しだけ、理解した」

 呟いて、それからすっと立ち上がる。足を踏み出し、テーブルを回り込んでお母さんが私達に接近してくる。
 エリカさんと私はもう、ただただ、硬直したカエル。

「しほさん」

 と、お父さんがポツリ。あ、お父さんは私達をかばってくれてるんだ……とぼんやりした頭の片隅で気付いてお父さん大好き。
 お母さんはお父さんの言葉には何の反応もみせず、とうとうエリカさんのすぐ側まで。怯えて見上げるエリカさんに向けて、お母さんは一言、

「たちなさい」

 エリカさん、腰がぬけてるんじゃないかな。

「は……い……」

 エリカさんはなんとか頑張って、生まれたての小鹿みたいにぷるぷると立ち上がる。委縮して縮こまった両手を胸の前に、お母さんと対峙。
 そんな二人の様子に、──みほのほっぺたに、かつての衝撃がよみがえる。
 何か月も前、学園の戦車倉庫で、お母さんからうけた強烈な一撃。
 お母さんやめて──、と自分もたちあがりそうになった、その時だった。

 ぺんっ
 
 お母さんの右の手の平が、エリカさんの頬に当たった。当たった……叩いた? 添えられた? どっちつかずの、曖昧な接触。
 接触の瞬間、エリカさんの身体は電気に感電したみたいにびくっと跳ね──
 そしてお母さんはエリカさんをやんわりと、安心させるように、ゆっくりと抱きしめていったのでした。

「へ、、、あ、……え……?」

 眼を白黒さえるエリカさん。
 お母さんは、そのままエリカさんには何も言わず、

「みほ」

 と私の名前を呼び、それから少しだけ厳しくした声で──

「まほに電話をしなさい。家に──来るようにと」

 付け加えて、

「ヘリを使って、直ちに、今すぐ」

 私の心臓が、きゅってなった。


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23: KASA 2017/03/18(土) 21:40:22.56 ID:GXLR8hmSO

お昼をすぎて、庭にヘリが降りた。
小梅さんの操縦。だけど小梅さんはすぐにまた飛び去っていった。どのみち、小梅さんにはかまってられなかった(ごめんなさい)。私達はもう、それどころではなかったから。

居間にて、テーブルをはさんで姉と向かい合う。
「お父さん・しほ・みほ・えりか」四人と、[まほ」一人。



まほ「いったい何があったのです……?」


 みほとエリカは尋常でなく緊張。


しほ「カクカクシカジカ」



 ──────。



 しほの報告、まほは一言も声を発せずに聞き入る。
 ときおりわずかに、眉間にしわがよる。
 みほとエリカ、気が気じゃない。
 姉に嫌われるだろうか、隊長に見捨てられるだろうか、まさか家族の縁を切られはしまいか。

 話が終わった後、まほはしばらく無言。
 
 まほはようやく血をひらくと。

「西住流か、みほやエリカか……そのどちらかを選ぶなんてことは、私にはできません」

 それだけ言って、部屋を出て行った。みほもエリカも、姉の言わんとしていることが分からなかった。
 あとに残される4人。

しほ「あとは貴方たちで話し合いなさい」

恒夫「どうにもならない時は、ちゃんと言うように」

 エリみほ、困惑。



24: KASA 2017/03/18(土) 21:41:02.58 ID:GXLR8hmSO


 夕飯になっても、まほは自室からでてこない。しほも恒夫も何も言わない。この件については何も触れない。→空気の重い晩御飯。


 意を決して、二人でまほの部屋へ。

 するとまほ、落ち着いた様子で二人を迎える。

まほ「今日はまた、布団をならべて三人で一緒に寝ようじゃないか」

 みほエリ、顔を見合わせる。



 布団並び→ [エリカ・みほ・まほ](エリカがビビって端に逃げた)



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みほ「お姉ちゃん、怒って、ますか」

まほ「……怒ってはいないよ、ただ──少し、寂しい」

エリカ「……。申し訳、ありません」

まほ「二人のせいじゃない」

みほ「でも、私たちが──」

まほ「だから、そうではないんだよ」
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まほの独白

妊娠をしていた間、自分とエリカは赤ちゃんによって繋がれていた。こんな風に他人とつながっていられたのは、みほ以外ではエリカが初めて。
流産をしたとき、それが途切れた。流産自体も悲しかったがその事も悲しかった。
あるいは再び、エリカと互いに子どもを妊娠して、特別な絆を結べたらと思っている。
しかし──

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まほ「例えそうなったとしても、私は西住の長女だ。いずれは男性と結婚をし、その人との間に、子もうけねばならない。それが、私の人生だし、私はそうありたいと思う。長女としてこの家に生まれた、私の役目だ。それに背きたくない。」

みほ「……。」

エリカ「知っています。隊長は……そういうお方です」

まほ「……。エリカは私の、一番の理解者なのかもしれないな」

まほ「なのに……私はそんなエリカに──エリカの欲している物をやることができない。それが……寂しいんだ」

エリカ「……。隊長、私はそんな隊長を、心から尊敬しています。だからこそ、ずっと……おそばにいたいんです」

まほ「…………。」


みほ(…………。)

みほ(どうしてだろう、私、いま……すごく悲しい……。)



25: KASA 2017/03/18(土) 21:41:49.76 ID:GXLR8hmSO

まほ「お母さまから二人の話を聞いて──、部屋で、ずっと考えていたよ」

みほ「え……?」

まほ「もし、もしも私が──長女ではなく、次女だったなら──」

みほ「……!」

まほ「あるいは、つくばに最後に残されたのが──みほとエリカではなく、私とエリカだったなら」

エリカ「……っ」

まほ「まぁ──考えてもしかたのないことだ」

まほ「エリカ」

エリカ「……はい」

まほ「私の隣にきてくれ」

エリカ「わかりました……」

 エリカさん、布団を回り込んで、お姉ちゃんの隣へ。

まほ「エリカは今晩、私の隣で寝れ」

まほ「さぁ、私の布団に入れ」

エリカ「は、はい……」

まほ「それと、な──」

まほ「……すまないエリカ。これが私がお前にあげられる、精一杯なんだ──」

エリカ「え──?」


みほ(──次の瞬間、お姉ちゃんは──エリカさんに、キスをしました──。エリカさんの手首を握り、上から、体を抑え込むように……)


エリカ「──────!?」


みほ(多分、エリカさんは何が起こっているのか理解できていなかったんだと思います。呆然と目を見開いて……お姉ちゃんの瞳を、触れ合うほどの距離から、凝視していました)

みほ(短いキスの後、お姉ちゃんは、一度エリカさんから唇を放し──)


まほ「ぷぁっ……エリカ、私の初めてだよ。……まぁ、小さい頃の、みほ以外では、だがな。」



26: KASA 2017/03/18(土) 21:42:16.81 ID:GXLR8hmSO

みほ(照れ隠しなのか、言わなくていいことを言って──)

みほ(そしてじっとエリカさんの顔を見つめたまま、少しの間をおいて──多分、エリカさんに今おこっていることを理解させるために──そうしてまた、その後でまた──)


エリカ「った、な……なにをっ、た、たいちょ……っ、んむっ……!?」


みほ(今度は長く、ゆっくり、ゆっくりと──粘土を舌で整形する時みたいに、力をこめて、しっかりと、たんねんに、気持ちをこめて──)


まほ「ん、ちゅ……エリ、カ……ちゅ……」

みほ「……たい、……ちゅ……あ……あ……」


みほ(私の目の前で──私のお姉ちゃんが、エリカさんとキスをする。エリカさんは──私にはあまりみせてくれないような、水飴みたいな溶けた顔で──。私はそんな二人を見て──)


みほ(……よかったね、エリカさん……お姉ちゃん……)

 ……つくばの医学研究所のあの大会議室で──ニーナさんが倒れた時にはじまった、エリカさんと私の長い長い夢──、それが今、ようやく終わったような気がする。ようやく……救われたような気がする……

みほ(あーあ……結局エリカさん、お姉ちゃんにとりかえされ──)

みほ(──。)


 ……私は、二人がキスをしていることが、とても嬉しくて──


みほ(──寂しい──)

 
 ……え……


みほ(──寂しい──いやだ──一人にはなりたくない──)


 ……!? !?  !!!!????

 ……なに、これ──私は、何を考えているの──?


みほ(エリカさんと一緒にいたい、エリカさんと抱きしめあっていたい、一人はいや、一人じゃ耐えられない、わたしだって ──つくばの夜をまだ忘れられないのに──エリカさんだけ、ズルい──)


 だめ、やめて、そんな事考えないで! エリカさんとお姉ちゃんとを邪魔をしちゃだめ!!


みほ(──憎い──この人が憎い──)


 っ……やめて!


みほ(──私のエリカさんを取らないで──)

 ……ダメ!!!



27: KASA 2017/03/18(土) 21:43:05.92 ID:GXLR8hmSO

みほ(──どうして貴方は、私のエリカさんを奪うの──)

 やめて!!!! そんな事考えないで!


みほ(──嫌い……私の大事な人をとるお前なんか──私はお前なんか、大きら──)



 ────駄目──!!!!!




まほ「──みほ」




みほ「──────……っ」

みほ「……え……」


 :──いつの間にか、エリカさんとお姉ちゃんのキスは終わってた。エリカさんは惚けた顔で布団に横たわってる。その頬にたれたヨダレは……どちらよだれなんだろう……


まほ「さぁ、みほ、お前もおいで」

みほ「あ、え……。」


み(エリカさんとのキスの余韻なのか──お姉ちゃんの表情も、どこか夢に浮かされているような──お姉ちゃんだけじゃない。いつのまにか三人とも、夢の中かあるいは夢から目覚めたばかりの、あさぼらけの中の世界に──)


みほ「おねえ、ちゃん……」

 :おいでといいつつ、半ば強引に、まほに抱きしめられる。姉の香りに、すこし、エリカさんの香りがまじっている。
 :おどろいていると、おでこにキスをされた。

まほ「みほ……ありがとう。感謝してるよ」

みほ「………………………………。どうして…?」

まほ「私にできなかったことを、エリカにしてくれた。エリカと、ずっと一緒にいてくれた」

みほ「……お姉ちゃんは……怒って、ないの……?」

まほ「……私は──」

まほ「みほ……私はな……お前達と、仲の良い姉妹でいたいんだ」

みほ「……っ」

まほ「ずっとずっと……三人姉妹でいたいんだ……」

みほ「さん、にん……?」

まほ「それが私に残されたもう一つの夢だ。だから、どうか頼む」

まほ「もう──六人で一緒にいる夢は、見ることができなくなってしまったからな──」

みほ(──!)



28: KASA 2017/03/18(土) 21:44:06.86 ID:GXLR8hmSO

まほ「さぁ、エリカ、おまえも、こい。いつま惚けてる」

エリカ「……あ……」

まほ「さぁ、二人で私をだいてくれ、二人とも……ずっと仲良しでいてくれ」

まほ「そして私も──三人でいさせてくれ──」


:みほとエリカと、二人でまほを挟む。


エリカ「隊長……」

まほ「……。エリカ、もう私を隊長とは呼ぶな」

エリカ「え──?」

まほ「この家にいる間は──お姉ちゃんと呼べ。お姉さんだろうが、姉ちゃんだろうが、なんでもいいけれど──わかったか」

エリカ「……」

エリカ「……っ」

エリカ「……ね──」

エリカ「お、姉……さま」

エリカ「……お姉さま……」

まほ「……お姉さま、か、ふふ……良い響きだな」

まほ「それと──いいか私は──もしも、この先もお前がみほと一緒にいたいとおもうのなら……私はそれでも構わない」

みほ「……!!」

まほ「ただし──みほ」

みほ「……はい……」

まほ「いいか、エリカを独り占めにはするんじゃないよ。エリカは──私の妹なんだからな」

みほ「……っ、私も……私もお姉ちゃんの妹で、いさせてくれる……?」

まほ「……? 当たり前だろう。三人姉妹でいたいのだと──なんど言わせるのかな」

みほ「……!」

みほ(私……一人じゃ、ない……)

みほ「……お姉ちゃん……」

エリカ「……おねえ、様」

みほ(……お姉ちゃん、お姉ちゃん……お姉ちゃん!!!)


 ぎゅうううう!



29: KASA 2017/03/18(土) 21:46:30.08 ID:GXLR8hmSO

まほ「ん……いい気持ちだよ、みほ……だけど、お腹にきをつけろ。あまり、赤ちゃんを圧迫するな……」

みほ「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……!」

まほ「さぁ……私は少し疲れたよ、今日は頭を使いすぎた。だから、そのまま二人で抱いてくれ。私がこのまま眠ってしまえるまで」

まほ「いいな、二人とも──絶対にそのまま──私をはなさないでくれよ──」

エリカ「は、はい……っ」

みほ「……っ、……っ!」


みほ(私の大好きな──お姉ちゃん──)


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みほが、まほの身体をボテ腹でよしよし。
エリカさんが、まほの頭を両手にだいてよしよし。
まほは、二人に抱かれて気持ちよさそうに眠りについた。

エリカさんが静かに泣いている。お姉ちゃんを起こしてしまわないように、声をころして泣いている。
みほは、時々手を伸ばして、エリカの涙を拭ってやった。

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■189日目

朝ちゅん。

みほが目を覚ます。
三人とも、寝付いた時のまま、密着している。

障子が開いて、その先にはしほが立っていた。。

その物音で、エリカさんとお姉ちゃんも目を覚ます。

子猫みたいに互いに体をよせあったまま、たがいにあくびをする。

お母さんは、しばらくその様子を観察したあと──

「問題は、ない?」

みほとエリカが姉の顔をうかがおうとするけれど、その前にお姉ちゃんが──

「ええ、何も問題はありませんよ」

機嫌の良さそうな声で、母に返事をした。

ならばよし、とお母さんはは頷き──

しほ「三人とも、着替えて朝ごはんを食べなさい。そのあとみんなで──逸見さんのお家へご挨拶にいくわよ。」

エリカ「え゛っ!」

しほ「現状このような事になっております──と、逸見さんにお詫びと説明をしなければなりません。みほ、お腹は重たいでしょうが、貴方にも同行をしてもらいます。……責任を果たしなさい」

みほ「……はいっ」

エリカ「あぁ……どうしよう……どうしよう」

まほ「どうしようも何もないだろう。ありのままを放せばいい。……いいな、昨日の私との約束は──そういう意味でもある。わかったな」

エリカ「うぅ、はい……た──お姉さま」

まほ「よし」

 エリカさんのそのぎこちない返事をきいて──お母さんが、障子を閉めようとしていた手をぴたりと止めた──。

しほ「……何ですって?」

 私のことですよ、と、お姉ちゃんがくすくすと笑った。



30: KASA 2017/03/18(土) 21:48:14.16 ID:GXLR8hmSO

お昼過ぎ。

 なってしまったものは仕方がないか、という雰囲気のエリママエリパパでした。寛容。

 お母さんは、すごくほっとしてた。



 家に帰ってから、お母さんに謝る。

みほ「お母さん、……迷惑をかけてごめんなさい」

しほ「まったくですこれからまだまだ、たくさん迷惑をかけられるというのに。」

みほ「すみません……」

しほ「……。あなたも疲れたでしょう。早くやすみなさい。お腹を冷やさないように。それと──よく打ち明けてくれた。」

みほ「……はい」

さっていく母の背中。

 私はもうじき母親になる。それでもやっぱり、まだまだ姉にも母にもかなわないのだと、そんな風に感じさせられた、長い長い3日間でした。

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36: KASA 2017/03/19(日) 19:10:51.49 ID:JInKTuvXO

■190日目 昼さがり

みほの自室。
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沙織『──はぁぁぁ……みぽりんのお家、そんな事になってたんだねぇ……』

みほ「ごめんね、今まで黙ってて」

沙織『謝る必要なんてないよ。ていうか……私、この話聞いちゃってよかったのかなぁって。 みぽりんの実家の、すごくプライベートなお話だよね……?』

みほ「そうだけど、でも、沙織さんも、華さんとのことをちゃんと私に打ち明けてくれた……。それに、沙織さんは私の、大切なお友達だから……私に起こった事を、知っておいてほしくて……」

沙織『……ありがと、うれしいよ、みぽりん』

みほ「私こそ、ちゃんと話を聞いてもらえて、うれしかった」

沙織『えへへ』

みほ「えへへ」

沙織『……はぁ~、だけど、みぽりんとエリカさんがそんなに仲良しさんになってただなんて……びっくりだよぉ』

みほ「そだね、……私だって、こんな風になるとは思ってなかったから……」

沙織『だけどそれだけ、色んな事があったんだよね……』

みほ「うん……」

沙織『……。』

沙織『……あ、あの、さぁ、みぽりん? ところで、なんだけど……』

みほ「なに?」

沙織『え、っとー……こういう事をきくのって、本当はマナー違反だとは思うんだけど~……』

みほ「?? な、なに? いいよ、気にせずに何でもきいて……?」

沙織『じゃ、じゃあ―思い切って聞いちゃうけど、その~……お、女の子同士てエッチするって……どんな感じなのかなぁ……』

みほ「ふぇっ!?」

沙織『ごごごごごめんね! ごめん! けど……やっぱり、ちょっと、興味があって~……』

みほ「……えと、でも、沙織さんだって……その……華さんと……してるんじゃ……」

沙織『え?』

みほ「え?」

沙織「……!?」

沙織『わわわわ、わたしはまだ華とはえっちなんかしてないよ!』

みほ「!?  そうなの……!? ご、ごめんなさい、私てっきり、沙織さんと華さんはとっくに……」

みほ(それもあったから、沙織さんになら話をしやすいなーって思ったんだけど……)

沙織『キスは、たしかに今でもいっぱいしてるよ? けど、それ以上のことは──……華が、ね……』

みほ「……?」




54: KASA 2017/03/20(月) 09:46:17.85 ID:8wl7wHa6O

みほ「……?」



華→「(お家のこともあるから)私は沙織さんと本当にずっと一緒にいてあげられるかどうかわからない」「この気持ちは妊娠が与えてくれた、一時の感情なのかもしれない」
「だから、沙織さんの特別な初めては──本当に一緒にいられるその人のために、今はまだ大切にしておきましょう?」



みほ(……あ……。お姉ちゃんと同じ、なのかな……お姉ちゃんがエリカさんを想う気持ちと……)

みほ(……。)

沙織『私はね……華となら、初めて、いいかなって、思ってるんだけど……まあほら、華って、ああ見えて頑固じゃない? それに、私の事を真剣に考えてくれてのことだからね……』

沙織『……あ~あっ、とにかく、華のせいだ! みぽりんに大人の階段、先をこされちゃったねぇ~!』

みほ(……。)

みほ「ううん、そんなことないよ。……私なんて、ぜんぜん子供……華さんのほうが、ずっとずっと大人だよ……」

沙織『そぉ~?』

みほ(私は──ちっともそんな事考えてなかった。ただただ、エリカさんと一緒にいたい、一緒に気持ち良くなりたい、って思うだけで……。)

みほ(……。)

みほ(うー……なんだか、情けなくなってきちゃった……)
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直後、エリカさんの部屋
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 ガチャリ、キィィィ

みほ「……エリカさぁ~ん……」

エリカ「っ……み、みほ……」

 エリカさん、ベッドの上に寝頃がってた。
 みほ、ベッドの脇に腰掛ける。そのまま後ろに寝ころぶ。エリカさんの膝を枕にする。

エリカ「な、何……?」

→エリカさんは、今朝からなぜか私への態度がちょっぴりぎこちない。でもみほはそれには構わない。

→みほ(ねぇお姉ちゃん。エリカさん、きっとまた、何かを気にしてるよ)まほ(考えがまとまれば、話してくれるだろう)みほ(そだね)まほ(長引きそうなら、それとなくたずねてやればいい)みほ(うん、そうする):経験と理解を重ねて、わりと肝が据わってきた。

みほ「はぁ~……ごめんねエリカさん、私、ふしだらな娘で……」

エリカ「???」

みほ「…はぁ~…」

エリカ「……。」

エリカ「……ねぇ、みほ……」

みほ「なんですかぁ~……」

エリカ「私は、あんたのこと……ちゃんと……す、好きだからね……隊長と、同じくらいには」

みほ「……。ふぇ?」

エリカ「いろいろ、振り返って、いろいろ考えたら……なんか、私、自分がすごく恥ずかしくて……」

みほ(……?)

みほ「なになに、エリカさん、何でも聞きくよ」

エリカ「っ!? な、何で、そんなに嬉しそうなのよ……」

みほ「だって、エリカさん、今朝からずっと何か考えてたから。やっと、まとまったのかなーって。それでそれで?」

エリカ「ぐ……気付いてんじゃないわよ。……別に、大したことじゃないし……」

みほ「はい、はい」

エリカ「──隊長にはこの事は秘密にしてくれ、とか、あんたにはさんざ言っといて、だけど私、いざ隊長に優しくしてくれたらころっと隊長に甘えて……。目の前で、あんたも見てるのに」




37: KASA 2017/03/19(日) 19:13:37.20 ID:JInKTuvXO

エリカ「──隊長にはこの事は秘密にしてくれ、とか、あんたにはさんざ言っといて、だけど私、いざ隊長に優しくしてくれたらころっと隊長に甘えて……。目の前で、あんたも見てるのに」

エリカ「何か私、自分がバカみたいなのよ……何も考えずにただただしっぽ降ってるみたいな気がして……わたしって、ぜんぜんどうあるべきかだなんて事を考えれてないんだなって……」

みほ(あ)

みほ(なんだかちょっとだけ、私の悩みと似てるかも……)

みほ(……えへへ……)

エリカ「だから、そこらへんのケジメつけたくて、一度あんたにはっきり言っとく」

みほ「ケジメ……?」

エリカ「私は、誰かれかまわずじゃなくて、みほや隊長だからこそ」

エリカ「……それだけ、言っとくから」

みほ「はい、わかりました」

エリカ「よろしく……。」

みほ「……。……すっきり、した?」

エリカ「ん……ま、そこそこね」

みほ「そっか、よかったぁ」

エリカ「で……あんたは、何を唸ってたのほ」

みほ「……うーん……私はまだ、巧く言えないや」

エリカ「あっそ、じゃあいい」

みほ「うん」


(部屋のドアを開けてまほが入ってくる)


まほ「エリカはいるぞ──みほもいたのか」

みほ「あ、お姉ちゃん。あのね、エリカさんの悩みゴト、いま解決したよ」

エリカ「!?」

まほ「そうか、よかった。私もきいた方がいいか?」

みほ「えっと、とりあえずは、聞いても別に今更かも」

エリカ「っ!? !?」

まほ「わかった。なら、今はいい」

エリカ「ちょっとっ……何なんですかもう、二人とも!」

まほ「エリカ。私とみほは15年以上も姉妹をやっている。これで不足ないんだよ」

まほ「エリカの話は──あとで直接、聞かせてほしいな」

エリカ「っ……わ、わかりました……」

まほ「それで──エリカ、私は明日学園艦に戻るが、エリカはどうする?」

エリカ「え、あ、……じゃあ、私も一緒に戻ろうかな……」

みほ「あ……エリカさんも、帰っちゃうんだ……そっか……」

エリカ「え……うーん、ま、まぁ、お義母様が許してくれたら、別にもう一日、二日は──」

まほ「……なんだ、エリカ……私と一緒には帰らないのか……」



38: KASA 2017/03/19(日) 19:16:58.72 ID:JInKTuvXO

エリカ「え、あ……え……と、……。ど、どうしよう……」

みほ「……。」

まほ「……。」


みほ(……ふふ)

まほ(ふ……。)


エリカ「う、う、-ん……」



 ──コン、コン

 <しほ『エリカ?』



エリカ「あっ……は、はい、どうぞ」



 <しほ『開けるわね』

 ──きぃぃ



しほ「──3人とも一緒にいたのね。」

まほ「お母様」

しほ「丁度よかった。三人とも、下へ降りていらっしゃい。話があります」

みほ「お話し?」

しほ「本当は、二日前に話すつもりだったのだけれど──ごたごたしていたから」

エリカ「何の、話ですか……?」



しほ「貴方たちの妊娠の原因について、です」



みほまほエリカ「……。」

みほまほエリカ「!?」


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39: KASA 2017/03/19(日) 19:17:24.81 ID:JInKTuvXO

しほの部屋・PDF文書のプリントアウト。一般向けでなはい無骨な文書。
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・妊娠の前後 中性子星同士の衝突に起因すると思われる重力波が太陽系に到達している。一方向からではなく三方向から。確率的にはほぼあり得ないこと。なんらかの原因で一つの重力波が三つに反響(?)した?ともあれ、ともかく三つの重力波が太陽系付近で交差。局所的に非常に大きな時空的な疎密波が現れた。通常重力波で歪む時空のスケールは、太陽系全体で原子数個分程度。けれどこの時は、太陽系全体で局所的には数メートルも変動した可能性が。局所性はどこに集中したか→縦波のエネルギーのもっとも逃げやすい場所、すなわち特殊カーボン場。特殊カーボンへと太陽系周辺の歪みの全てが集中。極度に増幅されたその縦波は積み重ねられた別の世界を無限数に貫いた。そしてまた──特殊カーボンによって囲まれた空間(開口部の総面積数が11次元方程式中に現れるある振動数と共鳴しない場合のみ)は、その縦波に引きずられ空間ごと別の宇宙へある種のワープをしたと表現できる。特殊カーボンの質量現象は、特殊カーボンがその際にエネルギーとして消費された……のかもしれない(理論的な証明はまだ得られていない)その際に何が起こるか? ヒトの感覚器官はその次元間(紙の間)を認識することはできない。見かけ上は何も起こっていない。ただし、けれど、実際はワープの過程でカーボン内の空間は素粒子レベルでばらばらにされ、各時空突入時に、保管されていた情報に基づいてつどつど再構成をされる。再構成……無限に近い再構成を経るうち、わずかにエラーが発生しうるのでは?→((((我々は仮説の出発点をここに定める))))さてそのエラーはいかなる場合において発生しうるのか。卵母細胞ではなく卵子に起こりかつその卵子内に他の生徒の染色体が格納されそこで組み換え及び細胞分裂の開始する確率は。あるいは──、無限回数の再構成ののち、そのような事が発生した結果の世界がこの世界である、これを数学的に表現しうるためにはいかなる理論式が必要か?→また、もしも今回の仮説がただしくかつこれを人為的に起こせるのならば、ヒトの染色体進化速度に爆発的な加速がかかるのでは?→この方向でこれから検証を進めていきましょう。というお話し。ぶっちゃけあんまりわかってない。けれど方向性はさだまった。なお、各世界は隣の世界と時間的にも空間的にも似通っている。が、距離がそこには極微妙な差異があって突入元と突入先時間と空間は無限の積み重ねを貫き続けるうちに相当「ズレる」 異戦車間妊娠はこれに該当するであろう。→これも仮設。現時点で、地球上に3名の生存胎児がいる。彼らは共通して相手染色体が分からないがなんなん。→上記にしたがえば、共有者候補はある程度限定されうる。聞き取り調査や当時の行動を可能な限り精緻にヒアリングすること。及び遺伝子解析をさらに。
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(*みほ達はは2行目の途中で読むのを止めた。)



みほ「私これよくわかんない……エリカさん、お姉ちゃん、分かる?」

エリカ「わかんない」

まほ「私もだ」

みほ「……えと、お母さん?」

しほ「……。私にもよく理解できないわね」

みほ&まほ&エリカ(あ、そうなんだ……)

しほ「とはいえ、必要な要点だけは確認をしました」

しほ「まず、もっとも大切なことですが──」

しほ「おそらく今回のような妊娠は二度と起こらない──ということね」

エリカ「!」

まほ「……。」

みほ「……二度と……」

しほ「可能性は0ではない。けれどそれは、『手に持ったリンゴを床におとして、そのリンゴが床をすりぬけて床下に到達するくらいの確率』だそうよ」

みほ「……?」

エリカ「……??」

まほ「……???」

しほ「ええ、そうね、私にもよくわからない」

しほ「とにかく──もう一度これが自然に起こることは、確率的にはまずありえない」

しほ「──誰かが意図して行わないかぎりは、ね」

みほ「え……?」

しほ「……。」





現象を理解するための研究 ←いまここ



現象を再現するための研究



現象を操るための研究




エリカ「……そんな事が、許されるんですか……?」

 エリカがさんが唖然として呟いた。誰も、その問には答えられない。

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40: KASA 2017/03/19(日) 19:21:13.37 ID:JInKTuvXO

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みほ、自室のベッド、深夜。眠れない。

みほ「……。」

戦車道はいよいよ復活できるかもしれない。妊娠の可能性がほとんどないのなら。今回の知らせには大きな意味がある。

ただ、私個人にとっては──どうだったのだろう。

理由が分かろうが分かるまいが、私のお腹にはもう赤ちゃんがいて、私はそれを現実として受け止めなきゃいけない。
どんな理由があれ、私達は妊娠し、そして、多くの子達が流産をした。その事実は変わらない。

みほ(妊娠の原因がわかれば、もっとなにか、気持ちがすっきりするのかなって思ってたけど──)

神様のイタズラではないことがわかった。何かしらにきちんとした仕組みがあるらしい事はわかった。

だけど──

結局「理由」は、分からない。「どのように」ではなく「どうして」私はそれをしりたい。

ほとんど起こり得ない事だというのなら、なぜ、それは起った?いったい何の意味があって?

科学は、世界の仕組みは教えてくれても世界の理由については何も教えてはくれなかった。

みほ「……。」

パパが誰かどうか──それについてすら、もう、正直なところ自分は感心が薄れてきる。

数か月後には、この子はきっと産まれる。わたしはもう、その事を何よりも一番に考えなくちゃいけないのだ。

それに、パパがいようがいまいが──

みほ「私にいは、皆がいる。お姉ちゃんも、エリカさんも、お母さんも、お父さんも」

私は十分、元気にやっていける──。

いつかみた悪夢を思い出す。あの夢の中に自分に、今の自分の幸せを、ほんの少しでもいいから、分けてあげたい。あんな未来は──辛すぎる。




それにしても──今回のような妊娠を、意図して、わざと……そんなことをしていったい誰が幸せになれるの?
進化や多様化だかなんだかよくわからないことのために、そんな事が許されるの?

みほ(……でも……)

男性も女性も一切の性別の垣根もなく区別もなく──ただ純粋な相手への尊敬に基づいて、互いの子供をもうけられるのなら、あるいはそれも、幸せな世界なのかな。

みほ(もしも、この世界が今、そういう時代だったなら……お姉ちゃんとエリカさんは──当たり前のように結婚して、あたりまえのように、二人の赤ちゃんを、産むことができたのかな……)

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41: KASA 2017/03/19(日) 19:21:43.63 ID:JInKTuvXO

■191日目~234日目

翌日、結局エリカさんはお姉ちゃんと一緒に学園艦へ帰った。

私は、軽い運動を継続し、大学の為の勉強にも少しづつ熱をいれはじめる。





大洗のみんなは、いつもたくさん連絡をくれる。

マタニティトレーナーさんもときどきお家に来てくれたりもして、出産や産後のこともひっひっふー。

エリカさんとは時々二人であいびき肉を清くコネコネ。

ますますお腹もおっきくなって、日々の暮らしが大変大変。
オシッコ近いしイライラしちゃうし身体は重くて寝るのも大変。睡眠不足でなかなか勉強がはかどらない──とまぁ不満をあげればキリがないけれど、そんな時は、お腹を撫でておちつこう。

赤ちゃんは女の子!名前どうしよう。





42: KASA 2017/03/19(日) 19:22:09.07 ID:JInKTuvXO

まほ「私はもう一度、エリカと一緒に三年生をやるよ。」

お姉ちゃんは留年を選択した。
お姉ちゃんだけではなく、今回の妊娠で長期間の学業停止を余儀なくされた生徒、また精神的な負担により学習に著しい遅れが生じた生徒は、希望により一年間の留年を認可(私立公立関係なく学費は国持ち)された。カチューシャさんやアンチョビさんも留年するみたい。ノンナさんも「堪えがたい精神的苦痛」が原因で留年するそう。
私やエリカさんはそのまま三年生になる。お姉ちゃんと一緒の学年になってみたかったので。そういう私達にも、ちゃんと少人数制の学習補填教室を国が無償で開いてくれる。それを受講することによって高校の出席日数問題を免除してくれるそうです。役人さん達にちょっぴり、ううん、とっても感謝しないと。



43: KASA 2017/03/19(日) 19:22:35.77 ID:JInKTuvXO

ある時期、私達は再び大変な緊張に襲われた。
アルジェリアで、胎児の暗殺未遂が起った──小包爆弾による、暗殺未遂。
その理由は──こんな事にだけちゃんと理由がある──神と人類の尊厳への冒涜──神様への冒涜が、どうしてお母さんや赤ちゃんを殺したいと思うほどの理由になるのか、日本にいる私にはよくわからない。
それ以降、私は熊本の家をでて黒森峰の学園艦に移住をさせてもらった。
隔離された空間、高度な自治、忍び寄る悪意から身を隠すには効果的な場所。懐かしい古巣。
お母さん、お姉ちゃん、エリカさん、4人で暮らした。お父さんは家を支えるため、一人で熊本に残ってくれた。


アルジェリアのママ友に向けて励ましのお手紙を書いた。英語じゃなきゃ伝わらたない。。難しい。だけど、英語なら、気持ちが伝えられる。はじめて英語の勉強が楽しくなった。
この頃から、英語と世界史、そして生物、公民……いくつかの学科で勉強にたいする精神的なコツがわかるようになってきた。





44: KASA 2017/03/19(日) 19:23:08.38 ID:JInKTuvXO

エリカ「今年のうちに、隊長と私とで黒森峰の戦車道を立て直してみせる。」

と、語気の荒いエリカさん。エリカさんのその鼻息が、抱きしめられた私のうなじをこちょばしていく。
結局エリカさんと私は──清い範囲で、関係を続けている。時々軽いキスをしたり、抱き合ってみたり。
ただし、エリカさんはお姉ちゃんともキスをしている。かといって危険な火遊び──というわけでもない。
お互いに、きちんと全部を把握している。
シーソーに私とお姉ちゃんがまたがり、板の上にエリカさんを立たせて、三人できゃっきゃとはしゃぎながらぎっこんばったん。
知らない人がみたら、変な3人だとおもわれるのかもしれない。だけど、私達はこれが楽しいのだ。





日々が過ぎていく。
少しづつ、エリカさんと私とお姉ちゃんとの間に細やかな姉妹の記憶が積み重ねられていく。
そうしてむかえた235日目の朝。
私にとっては唐突に、研究してくれてる人達にとってはようやくに──「西住みほの胎児」のパパが、判明したのでした。
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45: KASA 2017/03/19(日) 21:47:32.50 ID:JInKTuvXO

■235日目

学園艦後部デッキ・秘密の穴場展望台



エリカ「──私は納得いかない。父親には何も知らせない──だなんて……あんた、本当にそれでいいの……?」

みほ「うん。それに──お母さんも、国の人も──それでもかまわないって、許可はしてくれたよ」

 エリカ:染色体共有者の書類を眺めてる。
 みほ:海を眺めてる。

エリカ「……私は……私はやっぱり、なっとくいかない……だってそれじゃあ、あんたが……。」

みほ「……。みんな、つくばの辛い記憶を乗り越えて頑張ってる。大洗のみんなも、お姉ちゃんやエリカさんも、他の学校の皆さんも」

みほ「今更……それを掘り返すようなことは、したくありません」

エリカ「じゃあ、あんたは、一人でその子の命を背負うの? 一人で産んで、一人で成長を見守って──」

みほ「私はひとりじゃない。お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも──それに、エリカさんも──」

みほ「私は本当に、恵まれた人間だよ。それに──子供の父親はもう見つからないんだろうって、覚悟してたし、それでいいって、思ってた」

エリカ「……いつか……生まれたその子に、父親を訪ねられたら?」

みほ「それは──これから色んな人達と相談する。母親としては情けないけど──私ひとりで、決めていいことじゃないの」

みほ「だいたい私一人じゃ、どうせつめいしていいかだなんて──さっぱりわからないもん。──この子の父親は、もう……いないんだし……」

エリカ「たしかに『父親』はいない。でもそんなのはただの言葉遊びでしょう。あんたのお腹の子につながった連中は──みんな、生きてる」
.



エリカの手にある資料

[西住みほの子供の父親の写真一覧]



1.会長・河嶋──の胎児

2.華・沙織──の胎児

3.つちや・ほしの──の胎児

4.そど子・麻子──の胎児

5.ダージリン・オレンジペコ──の胎児

6.アッサム・ローズヒップ──の胎児

7.福田・西──の胎児

8.カチューシャ・ノンナ──の胎児

9.ニーナ・アリーナ──の胎児

10~.モブ数名──の胎児





46: KASA 2017/03/19(日) 21:48:16.83 ID:JInKTuvXO

エリカ「私……なんかゾッとする……」

みほ「──ここに名前がある人達の、みんなの子供、……うまれられなかった子達の遺伝子」

みほ「それらが少しづつまざって──この子の身体を作ってる。私の遺伝子と一緒に」

エリカ「頭がおかしくなる」

みほ「私の卵子に、この子達全員の精子が同時に受精して──皆の染色体が混ざりあって、全く過不足なく、きちんとした正常な染色体になった──でもそんなことは通常起こり得ないんだって。」

みほ「だから、何か別の仕組みが働いてるはずで──一応、私のいた特殊カーボン場が42次元方向に回転してたり振動してたりすると、こういう事が起こる可能性を導けるかもしれないんだって。ほら、書類のここ……」

エリカ「『時空立体球:+97km、+429日』──どうでもいいわよ。どうせ私にはさっぱりわかかないから」

みほ「えへへ、私にも分かんない」

エリカ「えへへじゃないわよ……」

みほ「あのね、もし仮に──私が妊娠をしたころに、プラウダ高校の学園艦みたいに、この艦が大洗沖にいたら、……もしかしてエリカさんの遺伝子もこの子の中に……ね、残念だね」

エリカ「ばか。そんときは隊長の遺伝子もはいってたかもしれないでしょ」

みほ「あぁ、それは……うぅ……あ、でも、この子の染色体は、見かけ上はあらゆるエラーを回避してるって……だったら、近親が原因の異常だってきっちり──」

エリカ「もうやめて……なんかもう私、気持ち悪くなってきたから……。」

みほ「あぁぁあ、ごめんね」


みほ「……。とにかく──」


みほ「みんな、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通にお母さんになりたいと思う」

みほ「今更──この子はあなた達、子供の子供だ──つまり、孫、なのかな。他の人の孫でもあるけれど──そんな子がいます、だなんて……伝える必要、あるのかな……?」

エリカ「……。」

エリカ「でも、じゃあ、あんたは全部、一人で背負っていくの……?」

エリカ「この先、一生、ずっと……何もかも、全部、あんた一人で──」

みほ「大げさだよ。みんな同じだよ。同じだけ辛い思いして、同じだけ苦しんだ。それはみんな一緒。この先も一生、それは変わらない。私はたまたま、その先の幸せにたどり着けただけ──」

エリカ「……幸せ、って……」

みほ「この子を産める。私は今、──幸せだよ」

エリカ「……っ、ねぇ……? いいいの? あんた……ほんとにそれでいいの……?」

みほ「──私ね、エリカさん」

みほ「最近またボコの事、好きになってきたんだよ」

エリカ「……そうなの?」

みほ「やってやるだけじゃどうにもならない。そんな事がこの世界にはいっぱいある。それを思い知らされて依頼、私はボコが好きになれなくなった。でも──そもそもどうあがいたってどうにもならない事が、この世の中にはいっぱいあるんだなーって。だったもう──私達にできることは──やってやることしかできないんじゃないかなぁ……って」

エリカ「……。」

みほ「……やっぱりボコはすごい、ボコは、すごいよ。。愛里寿ちゃんはきっと、これを分かってたのかなぁ……」


 ──やーってやーるやーってやる~ や~ってやーるぜっ いーやなあーいつを──


 ──。



55: KASA 2017/03/20(月) 20:29:41.12 ID:8wl7wHa6O

■236日目
深夜。
腹の中でボコボコ動かれて目が覚める。

みほ「君は元気がいいね~」

睡眠不足にちょいと悩み始める。
子宮がおっきくなったせいか、オシッコがとっても近い。
でも、元気でいてくれてうれしい。

私に似ず、明るくて活発な子に育ってくれるといいな。
ナカジマさんとホシノさんの遺伝子ちゃん、頑張って。




■237日目
ちょっと体が重い、という言い訳で、一日中家でゴロゴロ。
平和。
猫飼いたいなぁ、とかと思う。他特になし。




■238日目
夢をみる。

あのつくばの人類医学研究所で、みんな無事にそれぞれ赤ちゃんを産んだ。中庭の池のほとりで、それぞれに赤ちゃんを抱きながら、皆で一緒におしゃべり──。
そこで目が覚める。起きてからも、はっきり覚えてる。うれしくて、すこし、哀しい。
もう一度ねようと思うけど、なんだか寝付けない。
まだ午前三時なのに。
しばらく外の景色を眺める。
市街エリアのはずれの丘の、静かな一軒家。そこから眺める、黒森峰の静かな夜。
この子は、どこの学校に通うのだろう。
普通の子とは違うから、学園艦には乗れないのかな。




■238日目
そど子さんと麻子さんがきた。
おばあちゃんと三人での九州旅行。その途中に立ち寄ってくれた。

二人の間にはキスもエッチもないけれど、それでもやっぱり、二人で行動することは多くなったそう。

私の赤ちゃんの父親の一部は、この二人の子供。だから、そど子さんと麻子さんが仲良しな様子をみてると、なんとなく嬉しい。



だけど、麻子さんの発言が──私をひどく、ぎくりとさせた。

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麻子「西住さんのパパは誰なんだろうって、よく考える」

みほ「あー……う、うん……」

(みほパパ達についての情報は、研究者間と西住家以外の人間には完全シャットアウト(エリカさん、準養子なのでギリギリセーフ→しほが押し通した)漏れたとしても宇宙人と同列のサブカルネタとして世見にはコケ下ろさせましょう。そうして研究は秘匿しましょう。明るみにだしたら必ずやかましい倫理批判にさらされる。研究したい人達、戦車道を復興させたい人達、批判にさらされたくないお上、皆にはヒミツにしておきたいみほ、みんなの利害が綺麗に合致→トップシークレットへ。)

麻子「時々バカなこと考える。もしかして──その子のパパは、流産してしまった子供のうちの誰か、なのかもしれないって……」

みほ(──!?)



56: KASA 2017/03/20(月) 20:30:14.00 ID:8wl7wHa6O

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妊娠の原因についてまでの情報なら、すでに妊娠者全員に伝わってる。

麻子さんの優れた頭脳は、研究の中身を正確に理解して、さらに、自力で推論をし始めてる……。

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麻子「私は学者になる。分野はまだわからないけれど……とにかく、今回の事の原理を解明したい。みんなのためも、そど子のためにも」

みほ「……そ、そっか。」

そど子「私、なんども止めてるんだけどね……自分の一生を、そんな風に決めていいのかって」

麻子「いいって言ってる。私はもう、決めた」

そど子「……ありがと。一応お礼、言っとく」

みほ(……。)
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みほ焦る。
麻子さんはものすごく賢い。きっと本当に研究者さんになって、……その時に真実を知る?
あるいはもしかするとまさかまさか、隠ぺいのために研究者の道をそもそも閉ざされる?そんなドラマみたいなことが?

そしてそして更によくよく考えたら──

皆は何も知らされずにこれからの人生を送る。
でも、何かのきっかけで、みんなが突然に本当のことを知ってしまったら──そのほうがはるかに、ショックは大きいんじゃ……。



みほ(私……もしかして、間違ってるのかな……)

みほ(お父さんたちに、本当のことを知らせた方がいいのかな)




■239日

お姉ちゃんに相談──

まほ「難しいな……お母様に、相談をしよう」



姉と一緒にお母さんに相談──

しほ「私達だけで決められることではないわね。」



■240日目

お母さんが偉い人達に相談──

偉い人達「元妊娠者、元共有者にならば、告知を許可します。どうするかは、母体であるみほさんの意向にお任せします」



■241日目
ボールがみほに帰ってきた。

みほ「……どうしよう……」



エリカさんとお話し。
エリカ「戦車道大会を思い出しなさい。私達戦車乗りはそんなにヤワじゃない。ちゃんと受け止めて、そのうえで前に進める。……仮にもし「どうして黙っててくれなかったんだ」と恨んでくる奴がいたら──その時は、私も一緒に恨まれてあげる。私は……伝えるべきだと思う」



みほ、決心する。伝えよう。



57: KASA 2017/03/20(月) 20:30:42.96 ID:8wl7wHa6O

■242日目
「皆には、私の口から伝えたいです」

みほ渾身の我儘。「私を関東につれてってください」



お国さん「貴方はは妊娠八か月目。あなたと胎児は学術的に極めて貴重。長距離移動のリスクは許可できない」



折衷案。

黒森峰の学園艦に対象者全員を集めます。

■243日目
みほパパ全員集合。

艦内のとある会議室で、みほはみんなにそれを告げた。

みんな唖然。
麻子さんも、やっぱりなんだかんだで絶句してた。

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カチューシャ「じゃあ、ミホーシャの赤ちゃんは──私とノンナの赤ちゃんの──そのまた赤ちゃんだっていうの?」

ニーナ「頭がおかしくなりそうだべ」

エリカ「正確に言えば──みほのDNAが50%で、残り50%を貴方たちの子供で重ね合わせて分けているような──だからおおよそ3%ほど? 遺伝学的には、ひひひ孫に──」(←エリカさん、みほをフォローするためにいっぱいで勉強してくれた)

カチューシャ「ニェット! 今は止めてちょうだい! もう何も言わないで! これ以上何か言われたら、頭がどうかしちゃうわよ!」

エリカ「ごめんなさい」
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河嶋「そこに、いるのか。会長と私の……あの子が……西住のお腹に」

杏「……。」

ダージリン「それは──『子供』をどのように定義するかによりますわね」

ペコ「ダージリン様、無粋ですよ。今は、そんなこと……どうだっていじゃありませんか」

ダージリン「……。そうね、あなたの言う通りだわ。ごめんなさい、ペコ。許してちょうだい」

杏「はは、……私のマタニティ・ノート、西住ちゃんにあげて正解だったんだね……」
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ホシノ「……。」

ツチヤ「なんで? どうしてこういうことが起きるの……?」

麻子「……。理由なんか、ない」

ツチヤ「え?」

麻子「朝日が昇るのに、理由なんかない。地球が、太陽の周りをまわってるから、朝日は昇る。それと同じ」

ツチヤ「……。」

麻子「……それでも、私は──その理由を、探したい」

ツチヤ「麻子さん」

麻子「絶対に、理由を──見つけて見せる」

そど子「……。」

そど子「……。私も、一緒に……探そうかな……」
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58: KASA 2017/03/20(月) 20:31:12.15 ID:8wl7wHa6O

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華「みほさん。お腹を、触らせていただいてもよろしいですか?」

沙織「私も、いいかな」

みほ「うん、もちろん。触って、あげてほしいです」

福田「あ、次、私も触りたいであります」

紗季「……あかちゃん……」

みほ「はい、……はいっ……皆さん、触ってあげてください……!」
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その後、偉い人達から、胎児への法的な責任はございませんとか、権利周りがどうのことうのと、補足説明。
他言は一切無用。
法律で罰せられます。誰であろうと→みほさんやみほさんの胎児を第三者の悪意から守るためでもあるのですよ、と改めて強調。

ダージリンが質問。
「では、この事実は、は私達意外の誰も知らない?」

返答
→そうです。この先も、ずっと。

皆押し黙る。

偉い人補足
「ただし、皆さんの胎児は神社の神様に列せられることとなりました。もちろん由来は創作させていただきますが──貴方たちのお子さんは、これから先も、この国の歴史の一部として、記録され続けます。」


夜、市役所の議場でみんなでお食事。
にぎやかだけれど、やっぱりどこか、みんな切なげな影がありました。





■244日目
みほは家でお休み。

集まってくれた皆は、黒森峰の演習場で戦車道の交流をしてくそうな。
少しづつ、車両郡も復帰しはじめてる。
ティーガー1やティーガー2もすでに艦に帰ってきた。

時折遠くでかすかに聞こえる砲撃音を、羨ましく思う。


夕方以降、随時、それぞれの場所へ帰っていく。




■245日目~265日目
この期間、お母さんはずっと家にいてくれた。
お仕事部屋に、いつもこもってはいるけれど、私に何かがあったときは、すぐに気が付ける様に。
この20日間、とくに大きなことは何もおこらなかったのは、きっと、お母さんがそうやって一緒にいてくれたおかげ。



一度河嶋先輩が、ふらっと家にやってきたことがある。お腹を触りながら、
「生まれたら、ぜひ抱かせてほしい」
「それと私がここにきたことは会長にはヒミツだ」
……どうか神様、河嶋先輩が将来素敵な旦那さんに巡り合って、可愛い赤ちゃんを産めますように……


赤ちゃんの勉強も本格的に。
……けど、あまり身が入らない。生まれたこの子とは、病院でお別れすることになる。この子はすぐに、関東の研究施設へ連れていかれる。
この子がはじめて熊本の家を訪れられるのは……いつになるんだろう?



59: KASA 2017/03/20(月) 20:31:38.33 ID:8wl7wHa6O

■266日目
臨月を迎えて、学園艦の中央病院へ移ることに。
清潔で広々としたVIP病室。他の病棟エリアからも隔離されてて、すごく静か……。こんな場所があったなんて。

本来なら霞が関の政府専用?の病院に移る予定だったけれど……爆弾事件の影響が、やっぱりあるみたい。

ここが一番、きっと安全。
……それは分かるけれど、私としてはやっぱり……

みほ「お母さん、できれば、熊本のお家で産みたい……」

と甘えた声で訴えてみるも、無碍なく却下。

しほ「論外です」

ピシャリ。





■267日目
ケイさんが見舞いにきて、ひとしきりハシャイで帰って行った。





■268日目
この時期にはめずらしく、雪が降りました。さむーい。

エリカさんが、凍えながら様子をみにきてくれた。
学校終わりに、寄ってくれた。





■269日目
なんだかいつにもましてお腹が張る……そういえば、もう3日お通じがない。
お産の時いきむのに、このままじゃ心配……。

看護士さんに聞いたら──
「分娩中のそれは、よくあることですよ。大丈夫大丈夫」
ぎゃあ。


お母さんがお見舞いに。
うんちのお話し。
「私は6日間でなかった。貴方を産んだ次の日に見事なのが出た」
家系なのかな……。


お医者様に相談したら、今ならまだいいでしょう、ということでお薬をだしてくれた。
飲んだら、数時間もしないうちにスルスルと出た。お薬って凄い。

トイレに座っていてふと考えたのだけれど、昔の妊婦さんはどうしてたんだろう。和式便器だったのに。
このお腹でしゃがむなんて、とても無理。座る姿勢でさえ少し苦しい。





■270日目
突然にミカさんがやって来た。一人で。
ミカさんは本当にいつ現れるか分からない。
でもカンテレの音色は相変わらずすごく綺麗だった。
流産のせい、なのかどうかはわからないけれど……ミカさんはなんだか、今までにもましてすごく大人びた感じがする。
と言ったら、

ミカ「君もだよ、お母さん」

と微笑んでくれた。
ミカさんカッコいい。

やってきたエリカさんが、「なんで貴方がここにいるのよ」と驚いてた。

ミカ「風と一緒に流れてきたのさ」



60: KASA 2017/03/20(月) 20:32:09.25 ID:8wl7wHa6O

■271日目
急にお腹にいたみがきて陣痛!? っと思たら本番ではなかった。

ちょうどこの日もエリカさんが様子を見に来てくれてて、生まれるの!?飛び上がって驚いてた。

落ち着いた後、そういえばまだ破水してないねって二人で笑った。

けれど、本番ではこの痛みよりもさらにさらに激しいものが来るのだと思うと、憂鬱。



そういえば、昔の妊婦さんのトイレ事情を、エリカさんがインターネットで調べてくれた。
両足でしっかり踏ん張って、なるべく腰を浮かせて耐えるしかなかったそうな。ひぇぇぇ。





■272日目
華さんと沙織さんが連絡無しに突然お見舞いに来てくれた。
事情を聞いて仰天、

『駆け落ちしてきた』

……っていうのはまぁ半分冗談らしいけど、お母さんとちょっぴりケンカしてるのは本当だそうな。
家元の長女はやっぱり色々難しいみたい。

けれど、

華「大丈夫ですよ、なんとかなります」

華さん、以前にもまして肝が据わってた。






■273日目

病室でエリカさんと世間話をしてたら、突然エリカさんが私をキープし始めた。




61: KASA 2017/03/20(月) 20:34:02.04 ID:8wl7wHa6O

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エリカ「──じゃあ、三十歳」

エリカ「三十歳までお互い独り身だったら、そのときは──私が、あんたの子供のパパになってあげる」

みほ「ふぇ?」

エリカ「行き遅れ同志、一緒になればいいんじゃない?」

エリカ「アンタの荷物、私が半分、背負ってあげるわよ」

みほ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……何かいいなさいよ」

みほ「え……でも……う~ん、まいったなぁ……」

エリカ「? なにがよ」


(みほ、自分のお腹に向けて)


みほ「私達──保険にされちゃったねねえ」

エリカ「ほ……」

エリカ「……。」

エリカ「ちがうわよっ、そういうのじゃない!」

みほ「違わないよぉ」

エリカ「違う! 私はあんたのことを考えて──」

みほ「それに、ねぇ……私が30歳になったら……アナタ(お腹に向かって)はもう、13歳くらい……?」

みほ「私とエリカさんはこの先もずっとお友達だから、この子はエリカさんの事を『エリカお姉ちゃん』って呼びながら、育つよね?」

みほ「ということは『エリカお姉ちゃん』って呼んでた人が、いきなり……自分のパパ……? びっくりするだろうなぁ」

みほ「13歳って、思春期だし……捻くれちゃわないかなぁ……」

エリカ「……む……」

エリカ「じゃあ、25」

みほ「8歳かぁ。」

みほ「……もう一声?」

エリカ「ぐ、……24っ」

みほ「小学生二年生……少し、中途半端……?」

エリカ「わかったわよ23! これでどう?」

みほ「そうだね、それぐらいかなあ」

エリカ「じゃあ……お互い、大学中に彼氏ができなかったら……ってとこかしら」

みほ「そうだね、そういう感じかなぁ」

エリカ「猶予期間が、7年も前倒しにさせられちゃった」

みほ「あはは」

みほ「……はは……。」

みほ「……。」


みほ「まぁ、でも……きっと大丈夫だよ」

エリカ「?」

みほ「エリカさんは本当に素敵な人」

みほ「だから、ぜったい、彼氏もできるし、かっこいい旦那さんと結婚できる。結婚して、妊娠して……絶対幸せなお母さんになれるよ。私が保障します」



62: KASA 2017/03/20(月) 20:34:34.25 ID:8wl7wHa6O

エリカ「……。」

エリカ「あんたに、偉そうに保障されたくないわね」

みほ「えへへ」

エリカ「だいたい……みほこそ、心配はいらないわ」

みほ「え?」

エリカ「大学にいって、新しい環境でも頑張ってれば、そしたら、……たとえあんたに出産経験があろうが、そんな事関係なくあんたを大切にしてくれる男が……そういう人が絶対みつかる」

エリカ「だってあんたは、凄く立派だし、凄く魅力的。時には……隊長と、同じくらい、かもね、……って、私はそう思ってる。だから……心配ないわよ、絶対──」

エリカ「絶対、幸せになれる」

エリカ「私が──保障するわ」

みほ「……うん、ありがと。嬉しい」

エリカ「どういたしまして」


みほ(……。)

エリカ(……。)


(二人、じっと見つめあう)


みほ「……エリカさん。」

エリカ「……みほ」


(二人の顔)


みほ「……一回だけ?」

エリカ「そうね、じゃあ、一回だけ……」


みほ&エリカ「……ん……」



みほ「……。エリカさん……」

エリカ「み、ほ……」


 ちゅ~
 


みほ「……ん、ぷはぁ……久しぶり……だったね……」

エリカ「……すごく、ドキドキした」

みほ「うん……」

エリカ「…………。」

エリカ「……22歳」

みほ「22歳?」

エリカ「大学を卒業する年に入っても、私達がまだ変わらなかったら──その時は、真剣にちゃんと覚悟をきめて──根回しをはじめましょ。」

みほ「ん、約束、だね」

エリカ「はー……22までに、また隊長の赤ちゃんを妊娠できないかしらねー……」

みほ「えへへ、無理だよ」



63: KASA 2017/03/20(月) 20:35:02.93 ID:8wl7wHa6O

■274日目
麻子さんと電話。
麻子さんが不思議な事を言ってた。




麻子『西住さんが前に見た夢──つくばの病院で、みんなで一緒に赤ちゃんを抱き合ってたって──あれは、夢じゃなくて、西住さんの記憶かもしれない。そうとも考えられる』

みほ「……? ごめんなさい、良く分からないです」

麻子『報告書の記述が正しいのなら──西住さんは、妊娠から429日間を、無限の回数繰り返したとも解釈ができる。変数が少しづつ異なる、たくさんの429日間を。それらの「西住さん」と今の「西住さん」とを、同一人物と言えるのかどうかは、わからないけれど……』

麻子「とにかく、繰り返しが終わるたびに、西住さんの卵子は少しづつ少しづつ、皆の赤ちゃんの遺伝子と重ね合わせられていって──」


 ──。


麻子「──全部私の妄想。だけど、これが本当にただの妄想なのかどうか、それを調べるために、私は勉強して──研究する」


 ──。


私には麻子さんの話は、よく分からない。ただあの幸せな夢が、どこかの世界の現実なら──それは、とっても嬉しい。

みほ(だけど、私にとっての現実は──今ここにいるあなたを、きちんと産んであげる事だよ





■275日目

一日のんびりすごして。

消灯後、、うつらうつら~としてたら……破水した。



最初のうちは、寝ぼけ半分でおねしょかなぁと思ってたけど──

みほ(……違う! これ、おしっこじゃない!!)

気が付いたと同時に鈍い痛みが──ズゥゥゥゥッ、ズゥゥゥゥッ、とマウスがだんだんとこちらへ接近してくるみたいに──



みほ(あ、痛い、かも……? あ、痛……。痛い……っいたっ……あ、これ、痛い! 痛いのくる! ああ……アっ……!)

みほ(い、いたいいーーーーっ)


枕元にあるはずのナースコール、混乱のせいか、それを押すまでに10秒くらい一人でベッドの上で暴れてた。




64: KASA 2017/03/20(月) 20:36:18.21 ID:8wl7wHa6O

■276日目
AM2:00

<3cm拡大。まだだねぇ。


みほ「痛いですうううう!!!!」


<うーん、誘発剤いれる?

<いやとりあえず様子見で。


お姉ちゃんとお母さんはすぐに駆け付けてくれて、ずっと手を握っててくれてた。
だけど……この日、私はお姉ちゃんに一生分の暴言を吐いた気がする。ごめんねお姉ちゃん。



まほ「み、みほ、ほら、ひっひっふー」

みほ「なにがひっひっふーなの痛くてできないよお姉ちゃんのばかぁぁぁぁ!!ううう!」

まほ「そ、そうか、すまない」

みほ「はぁはぁ……お姉ちゃん、エリカさんは……まだ……?」

まほ「あ、ああ……もう家を出ているはずだが」

しほ「電話をしてみましょう」

みほ「うー、うー、っあぁぁぁ痛いぃぃぃぃ!! エリカさんのばかぁぁ早くきてえぇ!」

まほ「大丈夫だ、きっと今ごろ急いで──」

みほ「うるさい知らないよ黙ってぇえぇ!!痛ったいよぉぉぉぉぉ!!」

まほ「……うぅ、みほ、人が変わってしまったようだ……」

しほ「それくらいに辛いのよ。いつか貴方にも分かります。今は何をいわれても気にしないように」

まほ「はい……」


 ごめんねお姉ちゃん。痛みに耐えるのに必死で、何を言ったのかあんまり覚えてないの……。


しほ「あ──エリカ、いまどこあたりに──」

みほ「! え゛り゛か゛ざぁああああああああああ!!!」

しほ「──静かになさい……無理か。 それでエリカ……ええ、タクシーが渋滞に? こんな時間なのに? あぁ工事……、ええ、わかった。何にせよまだ時間はかかりそうだから、慌てなくていい」

みほ「はやぐぅぅぅううぅぅぅっぅぅうう!!!」

しほ「……。きるわよ」

 
 <看護師「あ、次からは電話は外でお願いしますねー」


しほ「あぁ、ごめんなさい」



65: KASA 2017/03/20(月) 20:37:21.56 ID:8wl7wHa6O

AM3:00

エリカ「みほ、だ、大丈夫……?」

みほ「はぁ、はぁ、もうやだ……もうやだ……早く終わってぇ……」

まほ「お母様。お母様が出産をしたときは、何時間くらいで……?」

しほ「……6,7時間くらいだったかしら?」

みほ(六、七時間……!?)

みほ「……余計な事聞かないでよ、お姉ちゃんの馬鹿ぁ……」

まほ「……うぅ」

エリカ「た、隊長……そんなに落ち込まないで」

まほ「うぅ、姉さまと呼べ……」

エリカ「……。」

みほ「っ! あぁぁぁぁっ、またはじまったぁぁ……!!」


<10分間隔になってきたねー

<頑張りましょうね西住さんー


みほ「あぁぁぁあぁあぁああああ……!!」



何度も何度も襲ってくる激しい痛み、私はただただ耐えるしかなく──エリカさんの持ってきてくれたボコ人形になんども噛みついた──やってやる、やってやるぞとわめき散らしながら──



そうして迎えた──AM7:52──

激しい激痛にみたされた知覚の中で、ふいに、股間に、ズッ、と何かとてつもなく大きいものが擦り出ていくような感覚をおぼえて──

先生「──出た……!──臍帯キット、持ってきて!」

みほ「……!!」

みほ(お、終わった……!?)


 テレビドラマで見るような、感動のご対面とか、そんな余裕はもうなくて、痛みから解放されたことがただただ嬉しくて……
 

みほ「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」

まほ「みほ!!! やったぞ!」

エリカ「凄い! すっごい!!! すごいすごいすごい、すごい……!!!」

みほ「はぁ! はぁ!はぁ! はぁ!」


 それでも、時間をおいて達成感と、無事に産んであげられたという喜びから、自然と涙があふれ──



 ──私は、はたときがついた。



みほ(──あれ?)

みほ(──まって──)

みほ(おかしい、なにかが、おかしい──)

みほ(…………。)

みほ(なんで、こんなに──)

みほ(──静かなの……?)


みほ「あぁあ……赤ちゃん!! 泣いてない!! 声! なんで声がしないの……!?」



66: KASA 2017/03/20(月) 20:37:50.76 ID:8wl7wHa6O

 私の叫びをきいて、私の手をにぎっていたお姉ちゃんとエリカさんの顔がこわばり──そして目に見えて真っ青に──


まほ&エリカ「……!?」

 二人がバッと顔をあげ、赤ん坊のほうを確認する。
 私も、披露と酸欠にもうろうとした頭で、先生たちを──私の赤ちゃんの姿を探す──分娩から少し離れた新生児トレイで、先生や看護師さんが、あつまって、何やらせわし気に、動き回って、いろんな機械を操作したり、細いチューブを何事かあやつっていたり……お母さんも、そのそばに立っていた。お母さんの表情、険しい。

みほ(どいて!  ……先生たち、どいて! 赤ちゃんを見せて!──)

 大人たちの身体が邪魔をして、私のベッドからは、赤ちゃんの姿を見ることができない──

その時、新生児トレイを凝視していたお母さんが、ぽつりと──


しほ「笑ってる?」


 それまで世話しなく動き回っていたお医者様たちまでもが、ぴたりとその動きをとめ──私には見えない赤ちゃんの姿を、信じられないという風に、じっと見おろしってる──

みほ「見せ、へ……私にも、見せへぇ……」

 疲労と混乱とでろれつが周らない。それでも私は、必死に懇願を続ける。
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以後、日数表示変更

旧『みほは妊娠何日目か』



新『産後何日目か』
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109: KASA 2017/03/25(土) 12:50:41.26 ID:yc7Q2IaoO

■1日目
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AM10:35
 
 赤ちゃんは分娩室から新生児ICUに直行。
 何時もたってから、ようやく、短時間だけ会う事ができた。。

 病室に、あかんぼが連れられてくれる。

 ようやく会えた。けれどみほは、我が子の姿にゾッとした。
 タオルケットから覗く赤ちゃんの顔は、青白い。目はつむったまま、少しも動かない。呼吸をしている様子もほとんど感じられない。
 みほ、身体を起こして、赤ちゃんを抱く。

みほ「……。」

 ほっぺたにキスをする。

みほ(……冷たい……)

 頬を擦りつけて、体温をわけあたえる。

みほ「お母さん、この子は生きてるんだよね、ほんとうに生きてるんだよね……?」

しほ「そうよ、だから、泣いていないで、もっとしっかり抱き上げてあげなさい」

みほ「……うん……」

 赤ちゃんをつれてきてくれたお医者様が、状態を一つ一つ、ゆっくりと時間をかけて、教えてくれた。

「代謝が異常に低い。心臓の鼓動も、呼吸も、きわめて活動レベルが低い」
「脳波形を見る限りではレム睡眠状態に似ているといえなくもない。にしても通常のレム睡眠よりもはるかに反応が弱い」
「一方で、神経細胞の活動が新生児にしては異常に広範囲で起こっている。通常脳はが見られない部位にまですでに活動が見られる。」
「しかしそのまた一方で、通常にみられる活動部位に関しては、そのレベルは通常以下」

みほ「いつ目が覚めるんですか? この子……ぜんぜん動いてくれないんです……」

お医者「今はなんとも……申し訳ない」

みほ「……。お母さんは、見たんだよね? この子が、笑ってるところ……」

しほ「ええ、見た。見間違いではないわ」

みほ「……」


:出産直後、新生児はすでに呼吸を行っていた。(泣き声がないので羊水を抜く処置にうつったが、羊水はすでにぬけいて、すでに肺で呼吸をしていた)
:臍のをきった直後──瞼が開き、しほの顔をみた。そして──笑った。お医者様も、それを見ている。

お医者「私もその場に居合わせましたが──たしかに、この子は、笑ってしました。その直後、眠る様に目をつむり──その後ものの数分で、今のような状態に」

お医者「出産直後からの自発呼吸にせよ、すでに視力があることにせよ、何もかもが、通常ではありえないことなんです。私達もいまだに驚いています。まぁ、それをいうなら、この子にはそもそもから驚かされてばかりですが……」

看護師「──先生、そろそろ──」

お医者「西住さん、まだ会えたばかりですが──赤ちゃんを新生児ICUへ戻さなければなりません」

みほ「……まだ、十分もたってないのに……」

常夫「みほ、この数分間でさえ、先生が特別に──」

みほ「……。」

お医者「もっと長く、お母さんと一緒にいさせてあげたいのですが──今の状態では、そうもいかないのです」



84: KASA 2017/03/23(木) 18:46:51.00 ID:nC3puLwv0

みほ「……はい……」

みほ「どうか、この子のことを、よろしくお願いします……」

お医者「もちろん、全力を」

みほ「……。」

みほ「……あ……」

みほ「あの、先生、ほんの少しだけ、待ってほしいです」

お医者「?」

みほ「私のお母さんが、まだこの子を抱いてないんです。どうか少しだけ、お母さんに──」

しほ「──みほ、その時間があるのなら、私ではなくあなたが──」

みほ「……だめ! お母さんに抱いてほしいんです! ちゃんと、生きてるこの子を、お母さんに……!」

しほ「……!」

しほ「……」

しほ「……先生、かまいませんか?」

お医者「ええ、抱いてあげてください」

しほ「……ありがとうございます」


 しほ、なれた動作で赤子を抱く。抱いた腕を少し高めに、腕の中の赤子を間近で。無表情なはずなのに、すごく優しい感じがする。



しほ「先生。この子のおでこに、唇をふれさせても?」

お医者「もちろん、かまいませんよ」

しほ「……ん……」

しほ「寝坊助さん。貴方のお母さんに、早く貴方の可愛い笑顔を、見せてあげなさい……」


 祈りをささげるように、お母さんはそう囁きながら、赤ちゃんの小さな額に、そっと口づけをしてくれました。





85: KASA 2017/03/23(木) 18:47:17.06 ID:nC3puLwv0

PM2:40
お母さんはほうぼうとの連絡打ち合わせへ。お父さんは各種事務手続きへ。それぞれ奔走してくれている。

代わりに病室へは、お姉ちゃんとエリカさんがいてくれた。

お姉ちゃんは、私の身体を抱いて、何度も何度も頭をなでてくれていた。

エリカさんは、各学園のみんなのために、何度も何度も電話をかけ続けてくれた。
今は難しい状況なこと、一言二言なら、電話を替わるから、声をかけってあげてほしいということ。ひたすらに電話をかけ続け、何度も何度も、説明を繰り返してくれた。

みほ(体が痛い……)

筋肉筒で全身が痛い。それと、お腹が急にへこんでしまったことに、恐ろしい違和感がある。お腹がへこんだのに、あの子がいない。いったいあの子はどこにいってしまったんだろうと、時折、発作的に混乱する。
それと出産の時に、会陰が浅く裂傷をした。陰部と肛門が表層で繋がってしまっている。何針かぬうはめになったし、排便にはかなり苦労するといわれた。そんなふうに私の身体はボロボロになっている。それなのに、こんなにまでに頑張ったはずなのに、私は、あの子をしっかり産んであげられなかったのだろうか。赤ちゃんの青白い顔を思い出すと、背筋がぞっとする。
 涙があふれてきて、そんな私を、またお姉ちゃんが慰めてくれた。





PM11:30
なかなか寝付けない。
どうしてあの子を普通の赤ちゃんとして産んであげられなかったんだろう。
昼間からずっと抱いている後悔や悔しさが、少しも頭から消えない。






■2日目

一日安静にしているようにと、お医者様に言われる。

ベッドに横になっていると、やはり体は疲労していたようで、何度も何度も浅い眠りに落ちる。

けれど眠りに落ちるたびに──

「赤ちゃんの目が覚めたよ!」

そんな夢をみてしまい、何度となく、ぬか喜びを味わわされた。



86: KASA 2017/03/23(木) 18:48:14.67 ID:nC3puLwv0

夕方になると、姉やエリカさんが、また病院に来てくれる。
それまでの一人の時間が、とても辛かった。
お母さんもお父さんも、ずっと病院にいられるわけではない。





夜。おっぱいがあまりにも張って痛い。
お医者様と相談し……もう数日待って、赤ちゃんが目覚めなければ、断乳のお薬を飲むことになった。

自分なりに、赤ちゃんや出産のことは一杯勉強した。だから、赤ちゃんにとって母乳がどれほど大事かは、知ってる。

みほ(ごめんなさい。貴方にお乳をあげることさえ、私はできない)

赤ちゃんは今、必要な栄養を点滴で得ている。




■3日目
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朝、お母さんが、様子を見に来てくれる。
母と娘、病室で二人きり。

 

みほ「他の子と同じように、産んであげられなくて、あの子に申し訳ない。そんな事ばっかり、考えてる」

しほ「……。」

しほ「あなたのせいではないわ」

みほ「じゃあ、赤ちゃんのせいなんですか?」

しほ「……みほ」

みほ「……ごめんなさい。でも、どうしても、悔しい。……私、どうしたらいいのかな……」

しほ「……。」


(しほが、みほの頬を撫でる)


しほ「あの子に起こることは、すべて自分に責任がある──もしも貴方がそう思っているのなら──」

みほ「……。」

しほ「みほ、あなたはもう、立派な母親ね」

みほ「え……」

しほ「精一杯、悔やんであげなさい、……お母さん」

みほ「……っ」

しほ「だけど、いつか必ず、あの子は目覚める。その時のために、あの子に何をしてあげられるのか──それもちゃんと考えておきなさい。悔やんであげることも大事だけど──あの子が目覚めた時、貴方はあの子に何をしてあげられるか──それを考える事こそ、貴方の、母親としての本当の責任なのよ」

みほ「……っ」

みほ「はいっ……はいっ……」


 ───────。




87: KASA 2017/03/23(木) 18:48:40.72 ID:nC3puLwv0

 少し時間がたって、みほ、ベッドに横になている。だいぶん気持ちが落ちついた。しほ、そのみほの手をさすっている。




みほ「……ねぇお母さん」

しほ「何?」

みほ「私やお姉ちゃんを産んだ後……お母さんは、どうだった? お母さんは、どんな気持ちだった……?」

しほ「……。」

 しほ、みほの手をさすり続けながら、ゆっくりとした口調で、

しほ「……。」

しほ「まほや貴方を産んだ日は──」

しほ「報われた、生きていてよかった、と……そう思ったわね。」

みほ「そんな風に、思ってくれたんだ」

しほ「……。西住の女に生まれって──楽しいことよりも、辛い事のほうが多い人生だった」

みほ「え……。」

しほ「もしも普通の家に産まれていたら──と、弱気になったこともある。もっとも私にはそれを打ち明ける相手がいなかったけれど」

みほ「お母さん……」

しほ「だけど、貴方たちを抱き上げたあの時、私は──西住の女であることを、一時忘れていた。一人の女性として、母として……心から喜びを感じていられた。だからなのかしらね。よく、覚えているわ」

しほ「もっとも──そうやって感傷的だったのはその当日くらいで──次の日になれば、さぁこの子達をどう鍛えていこうかと、そんな事ばかりを考えていたけれど」

みほ「あは……お母さんらしい……」

みほ(……。)

みほ「お母さんは、本当に優しくなった」

しほ「……。私は、そんなに変わったかしら」

みほ「変わったよ。……以前とは別人みたいって、時々思うもん」

しほ「……。」

みほ「私の勘違いなのかな。それとも、やっぱり……私達が妊娠したから、心配してくれて……?」


(しほ、しばらく黙したのち、鼻でふーとため息をはいて)


しほ「……態度をかえないようには、していたつもりなのにね……」

みほ「え……?」

しほ「……。」



88: KASA 2017/03/23(木) 18:49:06.29 ID:nC3puLwv0

しほ「みほ。……。この話は──まほには内緒ですよ。あなたを慰めるために──しかたなく身をさばいて話を聞かせるのだと、そう理解しなさい」

みほ「?? う、うん……わかったけど……」



しほ「……フゥー……」

みほ(な、なんだろう……なんだか改まった雰囲気……)



しほ「……貴方たちの妊娠が発覚したとき──大勢の人間が思った。『戦車道の歴史はこれで途絶える』」

みほ「……え……」

しほ「現象を考えれば当然ね。私もそれを覚悟した。せざるを得なかった。私の代で、戦車道は終わりなのだろうと──」

みほ「……。」

しほ「あの時は、私もずいぶんとこたえた」

しほ「戦車道が潰える、私が生涯をささげたものが、なくなろうとしている。だとしたら……」

しほ「私の人生はなんだったんだろうと──」

しほ「考えても仕方のない事が、どうしてもときおり、ふと頭に浮かぶようになった」

しほ「少し話がそれるけれど──そのせいかしらね、私には、エリカの気持ちが、よく理解できた」

みほ(あ……。……そうか、お母さんとエリカさんって)

みほ(……少し、似てるんだ……)

しほ「話をもどします──もちろん私には、流派の家元として、妊娠にみまわれた子どもたちを救う責務がある。私はもう、これからはそういう方向に人生の舵を取らざるを得ない。家元としてその義務がある。けれど、どうしても、ふと──虚しさが時折頭をよぎったわ」

しほ「私の生涯は何だったのだろうか、私のこれまでの努力は何だったのだろうか、どうしてこんなことに──そういう鬱屈とした気分に、時々、飲み込まれた」

みほ「知らなかった。お母さんが、そんな風に。今でも……? 今でも、そんな風に思っているの?」

しほ「……。」


 (しほ、みほの質問に答えてくれない)


しほ「……そうしているうちに、ある晩──貴方から久しぶりの電話がかかってきた」

みほ「え──」

しほ「貴方は、電話が繋がるなり、戦車道についてを、ああでもないこうでもない、と細かい事をペラペラと質問をしてきた──私が危惧しているまさにそのことを、私の神経を逆なでするように」

みほ「え、ええー……そんなつもりは……」

しほ「わかっています。けれど私は──ひどく苛立たされた。大人げないことにね」

みほ「うぅ……」

しほ「だから私はあなたに、腹いせの様にまくしたて返した。──だけどその時に、突然に、私はきがついた」

みほ「え……?」

しほ「戦車道がなくなって、私の生涯の努力が無となった後も、私には、まだ残されているものがある」

みほ「お母さんに、残された物……?」


しほ「そう。まぎれもない、私の生きた証──」

しほ「私が女としてこの世に生を受けた証──」

しほ「少し大げさかもしれないけれど──戦車道を失った後の、私に残されるすべて──」



みほ「……? え、と……?」


(しほ、急に無言になる──みほの手を握ったまま、じっと、みほの目を見つめる)



89: KASA 2017/03/23(木) 18:49:32.56 ID:nC3puLwv0

みほ(え、う、あ、あんまりジッとみられると、困るよぅ……)

みほ(うぅ……。)

みほ(だけど……。『私の生きた証』?『女としてこの世に生を受けた証』って──。……。……あ)


(みほの脳裏、抱き上げた我が子の姿が、唐突に蘇る)


みほ(……え……?)


(直後、しほの言葉の意味、しほの自分を見つめる視線の意味が、すべて──つながっていく)

みほ(──)

みほ(……私?)

みほ(私や、お姉ちゃん)


みほ(……私達がお母さんの──生きた証……?)

みほ「──…………。」



新生児ICUで眠り続ける我が子──彼女の事を想った瞬間、──母の言葉が、何の抵抗もなく、腑に、すとんとに落ちて行く。驚くほど、ストンと……。

みほ(……。)

みほ(なんでだろう体が──しびれてうごかない……)


しほ「……。」

しほ「……みほ」

みほ「……はい」

しほ「言っておきますが──これは、私にとって、非常に情けのない話なのですよ」

みほ「え……」

しほ「だから……まほやエリカには、黙っていなさい」

みほ「でも……お姉ちゃんにも……教えてあげたい……」

しほ「……。」


(しほ、ふかく鼻息)


しほ「人生を支える二本の柱──」

みほ「……?」

しほ「その一方がくずれかけて、その時になってようやく、もう片方の大切さに気がついて──慌てふためいて、そちらの補強に奔走する。私のしたことは、つまりはそういう事です。──親として、そんな醜態を、あの子に見せられるものですか」

みほ「……。」

みほ「……ぷっ……」

みほ(お母さんが、まるで……普通のお母さんみたい……)

みほ「あは、あはは」

しほ「……。」



90: KASA 2017/03/23(木) 18:50:01.26 ID:nC3puLwv0

みほ「でも、私にはかまわないの?」

しほ「……。少しでも、貴方の励ましの言葉になればいいと──そう思ったのです。理解なさい。だいたいの親とは、そういうものなのです。あなたも、母親なら、……わかるでしょう」

みほ(私は、その時のお母さんの、照れ隠しのような厳しい表情がなんだかおかしくて、どうにも笑いが止まらず──)


みほ「あはは、そうだね、あは」


しほ「……。」


みほ(だけど、そのはずなのに、可笑しいはずなのに──)


みほ「あは、……っ、……っあ、は、は……っ」


みほ(どうしてか、私の視界は急にぼやけ初めて──)


みほ「……っ、ひっ──……っ、ぃぐっ……」


みほ(嬉しいはずなのに、どうして涙が)


みほ「……おか……おかぁっ、さんっ……ひっ、ぐ、ひぐ……あぁ……おかあさん……」


みほ(ありがとう……私を産んでくれて……)

---------------------------------------------------------------------------------------------------
新生児ICUへ。

みほ「私はあなたに、何をしてあげられるのかな」

眠る我が子の、姿に思う。すぐには答えはみつからない。

だけど日尾まず、断乳の薬を服用するのは、もう少しだけ待つことにした。

痛いけど、夜、あまりねむれないけれど……もう少しだけ、我慢しよう。

あの子が目覚めた時に、ちゃんとお乳をあげらえるように。



■4日目
エリカさんとお姉ちゃんが、朝から病院にいてくれた。
週末なので学校はお休み。


新生児ICU。
滅菌ケージに横たわる、可愛い我が子。

赤ちゃんベッドの横には、もうネームタグが挟んである。


エリカ「いい名前じゃない」

みほ「うん。私もそう思う。」

まほ「お父様が、一生懸命に考えておいてくれたんだ」

はやく、この子に自分の名前を教えてあげたい。



91: KASA 2017/03/23(木) 18:50:27.28 ID:nC3puLwv0

■5日目

ずっと消えなかった筋肉痛や疲労感が、次第に楽になってきた。

おトイレは相変わらず地獄だけれど、身体はずいぶん軽くなった。

午後、ソーシャルワーカーのお姉さんが、ちらっと顔をだしてくれた。

世間話に交えて「退院したらどうしようか」というような事を聞かれる。

そんな事をいわれても、正直なところ私の頭は赤ちゃんのことでいっぱい。

だけど──これからのことを、ちゃんと考えないとねぇ──現実が、無慈悲に私を追い立ててくる。



赤ちゃんは、しばらくこの中央病院で経過を観察したあと、問題がなければ(目覚めようが、目覚めまいが)、つくばの医学研究所へ移される。

極力移動のリスクを減らすため、この学園艦毎、関東に移動する。

ちょうど大洗へ入港することになるそうな……


結局、私は返事半分なまま、バシバシとお母さんに先の予定をきめられてしまった。

大洗へ入港はは、新学期を始まるのに合わせておこなってもらう。

それまでの数週間は、この学園艦のおうちでゆっくり養生。

そんなところで、話が落ち着いた。



 けど……

(学校、かぁ)

 今の自分には、学校生活というものが、なんだか遠い夢の世界の話のように思える。

 この病院が、今の私の生活の全て。隣の棟の新生児ICUにいるあの子のほうへ、いつも心が向いている。

 今日もあの子は目を覚まさない。




■6日目
通常の新生児室へ散歩をしにいってみた。

そこにはたくさんのベッドがあって何人もの可愛い赤ちゃん達が一緒に眠っていた。そのお父さんや、お母さんたちも。

(いいな、……幸せそうだな……)

普通の妊婦さんなら──出産後は、これから始まる育児のことで頭がいっぱいなんだろう。

けれど私は、そうではない。むしろ、もっと他の事を考えろと、周りに強制されてる。

でも体と心は──やっぱりいまでも、育児の事を考えてしまっている。

頭だけが違う方向に進もうとしているみたいで……なんだかすごく変な気分……。



その後は、新生児ICUへ。

この子が生まれてからもうすぐ一週間……だけど、この子には恐ろしいくらいに変化がない。

もしも、この子が永遠にこのままだったなら……ふと考えて恐ろしくなる。

そんなことはない。きっと、そんなことないっ。強く、祈った。




92: KASA 2017/03/23(木) 18:50:57.60 ID:nC3puLwv0

■7日目

母体の経過は順調。

このまま何事もなければ、明後日に退院となる。

みほ(退院したら……いよいよ私は何なのかなぁ)

もう私は妊婦でもなんでもない。染色体だって、私自身はごくありふれた普通の人間。

母親を気取りたいけど、あの子はずっと眠ったまま。

私って……いったい何なんだろう……。


みほ「うあぁーダメダメ! お母さんと、約束したんだから……! 母親として、あの子にできることを、きちんと考えなきゃ……!」 


けれどやっぱり、なんだか虚しい。新しい命を産んだはずなのに、失ってしまった感覚の方がはるかに強い。

そのギャップに、心が戸惑ってる。


夜。エリカさんが来てくれた。
二人で一緒に、新生児ICUで面会時間ぎりぎりいっぱいまで過ごす。



■8日目

現実においてかれまいと頑張る。
退院にむけ、エリカさんやお姉ちゃんとこれからの話を。
だけど話の途中で、エリカさんがものすごくごねた。

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エリカ「は? ……また大洗女子に通う……?」

みほ「うん。三学期が始まるのに合わせて。二年生の途中から、やり直そうと思うの」

まほ「私も来年、三年生をやり直す。──私達は今から同級生のようなものだな」

みほ「えへへ、お姉ちゃんと同級生かぁ」


 そこでふと気づく。エリカさんが、すごいムスっとして黙り込んでる。


エリカ「………………………………。」

みほ「? エリカさん? どうしたの……?」

エリカ「私、あんたはもう、このまま黒森峰に再転入すると思ってた……」

みほ「え……?」

エリカ「だって、この数か月、あんたはずっと熊本にいたじゃない。それに、大学だって黒森峰に通うんでしょ? だったらもう今更大洗に帰らなくったって。どうせもう、丸々一年つぶれてるんだし」

みほ「エリカさん……」

エリカ「ていうかさっ……子供を産んだあとなのに、そんな遠くに、一人でだなんて、何考えてんの……!? 家族と一緒にいなさいよ! 何かあったらどうするのよ!」




93: KASA 2017/03/23(木) 18:51:32.41 ID:nC3puLwv0

 エリカさん、その後もごねるごねる。お姉ちゃんと一緒にこんこんと説得。



「エリカ、お前は大洗に何度も電話をしてくれた。だから分かるだろう。みんな、みほを待ってる。大洗も戦車道を復興させようと頑張ってる」→「黒森峰にだってみほは必要!」

「エリカさん、ごめんね。やっぱり大洗は、私にとって特別な場所なの。大洗で、私は自分の戦車道をみつけることができた。だから、高校は大洗で卒業したい。なんていうのかな……私の、ケジメ、なの。大学を、黒森峰で頑張るための。……わかって、もらえないかなぁ……」→「うーっ、うーっ、うーっ!」


 エリカさんしまいには、怒りながら泣きだしてしまいました。


エリカ「馬鹿! なんでアンタはわかってくれないのよぉ!」


 そこに至ってようやく、

みほ&まほ(あ……!)

 私とお姉ちゃんは自分達の思い違いにきづいたのでした。


 説得をしようだなんて、なんて馬鹿なことをしようとしていたんだろう。エリカさんはただ寂しいだけ。その気持ちはみんな一緒なのに、いったい何を説得するというの。

 病室に、簡易ベッドを出してもらって、三人で一緒に寝る。


みほ「私、本当は退院するのがこわいんだぁ」

みほ「二人とも、つくばから熊本に帰って後、元通りの生活になるあでどれくらいかかった?」

みほ「私、なんだか最近、よく気持ちが落ち込むんだぁ……」


 自分のかかえる不安を、エリカさんにもお姉ちゃんにも、こんこんと聞いてもらう。 
 そうしたらエリカさんも落ち着いてくれたし、私もすごく、気がらくになった。
 お姉ちゃんもエリカさんも、やっぱり、流産のあとはしばらく虚しい気持ちでいっぱいだったって。
 こればっかりは時間を置くしかない。……そうだ会長のノートにも、同じような記述があった……

 ある意味では──私は誰もが歩む、普通の人生にかえってきたのかもしれない──

 
 私は明日、退院する。今だ眠り続けるあの子を、一人残して。





■9日目
 朝起きて、あの子のところへ。
 変わらず青白い顔で、死んだように横たわっている。繋がれた機械の心拍計は、時折、かすかに波形をたてるだけ……。

みほ「母親として、この子のために何かをしなくちゃ。なんでもいい。どんなことでも」

 口にだして、何度もそうつぶやいた。

 午後、私は退院して、丘の上の家へと戻った。

 お母さんとお姉ちゃんとエリカさんもが、手羽先をつくって、待っててくれていた。
 久しぶりの味が濃いご飯。とってもおいしかった。



94: KASA 2017/03/23(木) 18:52:55.47 ID:nC3puLwv0

■10日目~26日目
この間も、あの子には何の変化もなかった。
はじめのうちは、淡い期待もあった。この二週間のうちに──二週間もあるのだから──きっと彼女の目も覚める。
けれど、彼女は今も、静かに眠り続けている。


体が元気になってからは、時々黒森峰の戦車道に見学をしにいった。

小梅さんが、私に会えたことを涙を流して喜んでくれた。

ところで来年の黒森峰では、エリカさんが隊長をやって、お姉ちゃんは副隊長になる。エリカさんにも隊長を経験させなければだめだって、お姉ちゃんが。

エリカ「うぅ……隊長が、私の副隊長だなんて……」

みほ「大丈夫だよ、エリカさんなら。きっと立派な隊長になれる」

まほ『隊長、いつまで油をうってる。指示をくれ』

エリカ「あ、は、はい……っ」

みほ「頑張ってください~」




大洗のみんなは、私が戻ることをを凄く喜んでくれてる。
大洗への帰還を報告するために会長へ電話。すると会長の声の後ろで、早く帰ってこーい、と、いくうもの懐かしい声が叫んでた。



大洗に向けて船が移動を開始した夜。
エリカさんが私の部屋にきて、思い出したようにまたゴネタ。

「ねぇみほ。もしもあの時、私がちゃんとあんたを引き留めてたら、あんたは黒森峰を止めなかったのよね?」

「え? う、うん」

「じゃあ、今は、どうなのよ」

「え?」

「今、私がもっと必死にあんた引き留めたら……みほは、黒森峰に残ってくれる?」

「……う、うーん……」

 冗談なのかな?とエリカさんの顔いろをうかがうけれど、その眼差しはいたって真剣。
 私は困り果てて、苦し紛れに──

「うーん……じゃあ、エリカさんが、大洗に転校するっていうのは……?」

「はぁ?」

 エリカさんはしばらくぽかぁんとした後──。

「んががあああああっ」

 そのばでしばらく、地団駄を踏み、それから突然──

「……はぁ~~~……」

 圧力タンクのバルブを空けるみたいに、長い長いため息をはいた。どうにもならないと、ようやく分かってくれたのかな。

 そして、ゆっくりゆっくりと私をベッドに押し倒し──私もとくに抵抗はせず──

「……22歳のあれ、本気だからね、忘れないでよ……」

 それだけいって、私の身体を、何度も何度も抱きしめました。

「わかってます。それに私だって、エリカさんと今までみたいに会えなくなるのは、寂しいですよ」

 エリカさんの体を抱いて、……自分のお腹が小さくなったことを、改めて感じる。二人の身体は、ほとんど隙間なく、ぴっとりと、抱きしめあえてしまった。
 今まで私達は、あの子と一緒に、三人でだきあえていたんだ──今更また、そんなことに気が付いた。



「みほ。」

「ん?」

「赤ちゃんが目を覚ましたら──すぐに連絡して。どこに居ようと、何をしていようと、すぐに飛んでいくから。」

「うん、絶対だよ。エリカさん」

「私も早くみてみたい。あんたの赤ちゃん──あの子の笑顔」

「うん……」



95: KASA 2017/03/23(木) 18:57:09.60 ID:nC3puLwv0

■27日目

 大洗女子学園に戻る。

 黒森峰の学園艦を降りる時、以前には感じたことのない強烈な寂しさを感じた。きびすをかえして姉やエリカさんのところへ戻ってしまいそうになる。でも、たえた。

 あの子も一緒に、船を下りた。つくばまではお母さんが同行してくれる。お母さんが一緒なら、あの子も安心かも。お母さんは、唯一あの子が、この世界で目にした人。



 大洗のみんなが、すごく歓迎してくれる。澤さんの髪が少し伸びていた。桂里奈ちゃんの背が少し伸びていた。そんなところに、時の流れを感じる。

 あれからいったい何か月が過ぎたのだろう。私はお母さんになって、この大洗に帰ってきた。



111: KASA 2017/03/25(土) 16:12:44.10 ID:yc7Q2IaoO

■36日目
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大洗女子学園:二年生の教室・授業中



みほ(あはは、教室は同じなのに、クラスメートはみんな、変わっちゃったなぁ……)

みほ(しかたないよ、元々のクラスメートはみんな、もう三年生になっちゃったもんね)

みほ(凄く寂しいけど──それでも──)


 みほ、教室のあちらこちらに顔を向ける、


みほ(沙織さん、麻子さん、華さん、優花里さん、みんな一緒)

みほ(それに──)


 キョロキョロとあたりを見回していると、ちょんちょん、と後ろから背中をつつかれる。


あけび(西住先輩どーしたんですか……? せんせーに怒られちゃいますよ)

みほ(あ……ううん、なんでもない。それと……もう、私は先輩じゃないよ)

あけび(あはー、そうでしたぁ)

みほ(うふふ)


みほ(アヒルさんチームの皆さんや、ウサギさんチームのみんなも一緒)

みほ(──順当に学年を上がって二年生になれた子達と、私達のように来年次にあらためて三年生になる生徒を、会長は同じクラスに集めてくれた)

みほ(春になったら、せーので一緒に、みんなで三年生。あはは、変なの)

みほ(そのかわり、来年は戦車道履修者の二年生が不在になる──だからみんなで頑張って、新入生を勧誘しなきゃ……ふふ、楽しみだなぁ……)

みほ(……うん、本当に、楽しみ……)


みほ(……。)

みほ(なんだか……私達だけ、時間が止まってたみたいだなぁ……)


 教室の窓に顔を向ける。開け放たれた窓。カーテンが風にたなびいている。夏の日差しに輝きながら。


みほ(……。)

みほ(まるで……私達のこの一年近くの事が、全て、長い夢だったみたい……)

みほ(……私は授業中にいねむりをして──今日までの何もかもは、全部、夢の世界の出来事で──)

みほ(もしそうだったなら……誰も、あんな辛い思いをせず──私達は目が覚めて、いつも通りに──)

みほ(……今まで通りに……。)

みほ(……。)

みほ(でも、もしも、そうだったとしたら)

みほ(私はお母さんと、ケンカをしたままで)

みほ(お姉ちゃんと一緒に過ごせた時間も全部夢で)

みほ(……エリカさんとも、私は、今でもケンカ……)

みほ(それに……あの子も……)

みほ(何もかもが、夢のできごと……)



112: KASA 2017/03/25(土) 16:13:24.08 ID:yc7Q2IaoO

みほ(…………………………。)

みほ(……いや)

みほ(……いやだ、そんなの嫌……)

みほ(全部夢だったなんて……私はそんなの嫌だよ……)

みほ(私は必死でたたかった。みんなと一緒に頑張った。そうして、ようやくここまでたどり着けた──なのに、それが突然、全部夢だった、だなんて……私はそんなの、嫌……)

みほ(嫌だ)

みほ(絶対に嫌……)

みほ(……いや、いや、いや……寂しい、嫌だ、そんなの、寂しい……っ)


みほ「……っ、……っ」


みほ(あれ……あれ……? どうしよう、なだかすごく気持ちが高ぶって──授業中なのに、学校なのに、涙が……だめ……)


みほ「……。……っ、……うぇっ、……ひ、く……うぅ、だめ、止まってぇ……」
 

 隣の席にいた沙織さん


沙織「……? ……わ、みぽりん……!?」


 前の席にいた桂利奈ちゃん。


桂利奈「ふぇ? わ、た、たいちょー!?」

みほ「あ……ごめんね、なんでもない、なんでもないんです……」

桂利奈「せ、せんせーっ、みほさんが少し気分が悪いみたいですー!」

先生『ん? ……あぁ、西住さん……。いいわ。保健室で休んでなさい。付き添いましょうか?』

みほ「えと……大丈夫です、あ、けど、保健室には、行ってきます。……ありがとうございます……」

優花里「西住殿、私も、一緒に」

沙織「私も」

みほ「……ううん、大丈夫。私一人で……行きたいの、ありがとう、ごめんね」

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113: KASA 2017/03/25(土) 16:14:04.69 ID:yc7Q2IaoO

 (授業中の静かな廊下を一人、保健室に向かってトボトボと)


みほ(ごめんなさい……でも、みんなには、言えないよ……)

みほ(これが夢であってほしくない、だなんて……そんな事言えない……)

みほ(皆、とても辛い思いをした。全部夢だったらって……そう思って、当たり前……)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……寂しい……)

みほ(会いたい)

みほ(エリカさんに会いたい)

みほ(エリカさんになら、どんな事でも私は打ち明けられる)

みほ(後ろめたい事も、人には言いづらいことも……心の中に抱えてるものを全部、あの人となら……)

みほ(……会いたい……)

みほ(会いたい、会いたい、会いたい) 

みほ(……会いたいよ、エリカさん……)

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30分程たって、保健室。

→みほの様子について、先生から会長に知らせがとぶ。
→会長、心配して様子を見に来てくれる。
  

杏「──ノートを書くといいよ」

みほ「ノート、ですか?」

杏「私もさ、今でも時々、色々思い出して、泣けてくるんだよねぇ」

みほ「会長も……。」

杏「だけどそんなときは……これっ」

杏「じゃーん、私の秘密のノート」

みほ「何が書いてあるんですか?」

杏「見せてあげてもいいけど、皆には、秘密だよ?」

みほ「は、はい、わかりました」

杏「約束だからね……ほい、中をみてもいいよ」

みほ「ありがございます。えっと、じゃあ──」
 
みほ「──……。」

みほ(──これは──)

みほ「詩……ですか?」

杏「うん、その通り。ぜーんぶ、赤ちゃんへの、ポエムだよ。うひー、はずかし~」

みほ「赤ちゃんへの……」

杏「まぁ、ポエムだけじゃなくてね、考えた事や、感じた事……となにかくなんでも、書き記してるんだ。これがなかなか、やってみると気持ちが落ち着くんだよね。考えもまとまるしね。気持ちの整理にもなる」

みほ「……なるほどです……私も、やってみようかな……」

杏「うん。おすすめだよ」

杏「それにさ、西住ちゃんの赤ちゃんは……今もしっかりと、ちゃんと生きてる。だから──」

杏「こんな恥ずかしい詩じゃなくて、もっと大切なことを、たくさんたくさん書いてあげられるんじゃないかなぁ」


みほ「……。」


みほ(母親として……私があのこに、してあげられること──残してあげられること──……。)

みほ(──書き残しておいてあげられること──)



114: KASA 2017/03/25(土) 16:14:43.02 ID:yc7Q2IaoO

みほ「……。」



みほ「……会長」

杏「うん?」

みほ「私、あの子のためにできること、ようやく一つだけ、見つけられたかもしれません」

杏「ん、そっか。……頑張れ、お母さん。応援してるよ。あの子が目覚めたら──河嶋と二人で、抱きにいくからねっ」

みほ「……はいっ……ありがとうございます……!」

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夜、みほのマンション。

エリカ『──うん。私もいい考えだと思う』

みほ「ほんとう?」

エリカ『ええ。けれど、かなりの量の文章になるわよね。』

エリカ『手書きのノートよりも、パソコンとか、電子データのほうが──』

みほ「ううん、私が直接書いた、私の文字……あの子にはそれを見せてあげたい」

エリカ『……そっか。そうね、あの子も、その方が喜ぶかもしれないわね』

みほ「うん!」



みほ(母親として、あの子のために、私ができること)

みほ(それに──考えたくも無いけれど、もしもその時、私が此の世にいなかったなら──)

みほ(あのたがどれほど大切な人間か──いったい誰が、あなたにそれを教えてくれるだろう)

みほ(あなたが、いったいどれほどの思いの上にこの世界に産まれたか──いったい誰が、それを貴方に伝えてくれるだろう)



みほ「今ね──もう書き始めてるの」

エリカ『そうなの?』

みほ「<今、エリカさんと電話をしてる>……」

エリカ『なにそれ。もっと、タメになることを書いてあげなさいな』

みほ「じゃあ、何かためになることを言ってください」

エリカ『へ?』

みほ「<エリカさんが電話の向こうでこう言いました> ほら、続きのセリフ、エリカさんの番だよ」

エリカ『え、えと、あー……』



エリカ『……こほん、』



エリカ『……こ、このノートが、あなたの道しるべになりますように。もしも、貴方が自分がどうして生まれたのだとか、何の為に産まれたのだとか、あー、その時は、──』



115: KASA 2017/03/25(土) 16:15:16.88 ID:yc7Q2IaoO

みほ「──う、うーん、エリカさん、ちょっと……長いかも……」

エリカ『もう、あんたがタメになること言えって言ったんでしょう』

みほ「……ふふ、エリカさんってむかしから……以外とマジメだよね」

エリカ『うっさい』

みほ「そうだ、エリカさんも、ノート書く?」

エリカ『書かないわよっ。わたしは、そんなのガラじゃないし』

みほ「そんなことないと思うけどなぁ……。書きたくなったら、言ってね、その時は、一緒に書こうね、エリカさん」

エリカ『はいはい。じゃ、そろそろ切るからね……また、明日ね』

みほ「うん! また、明日!」


 ──ぴっ。


みほ(……あーあ……また明日まで、待たなきゃいけないんだなぁ……)

みほ(……だめだめ、気持ちをきりかえて、まじめに書かなきゃ!)


 ──さぁ、あなたの家族達が、この一年近く、何を体験し、何を考え、何を思ったか。これからそのすべてを書き記そう。


みほ「そうだ、ノートのタイトルは、どうしようかな──」

みほ「……うー……」

みほ「……。」

みほ「んっ、決めた……!」


 ピンクのペンでさらさらとノートの表紙に書き込む。


みほ「……少し、勇ましすぎるかなぁ……でも、これぐらい気合いをいれなきゃだもんね」


 真新しいノート。いつかあのこの、手でこれがめくられますように。

 みんなと私の、今日までの戦い。

 そして、貴方が目覚めるまでの、これからの戦い。


みほ「……早く目を覚ましてね。でなきゃあなたは、山ほどノートを読まなきゃいけなくなちゃうよ」

みほ「……ふふ、案外明日、ひょっこり目を覚ますかもね。……そうであったなら、お母さん、助かるんだけどなぁ~?」

みほ「……。」

みほ「……必ず、貴方は目覚める。私は、そう信じてるよ……」



 だから、貴方が目覚めるその日まで、私はこれを書き続ける。



 ノートの表紙に記された、そのタイトルは──。

















 ──────────────────。



116: KASA 2017/03/25(土) 16:16:16.57 ID:yc7Q2IaoO













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旧『産後何日目か』



新『日記を書き始めてから、何日目か』
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117: KASA 2017/03/25(土) 16:16:44.81 ID:yc7Q2IaoO












──■2001日目──

麻子『私はこう考えてる──あの子は、夢の続きをみているのかもしれない、って』

みほ「夢の続き?」

麻子『そう、西住さんが見ていたはずの、+429日の夢の続きをね。あの子はそれを、こことは少しづつ違うたくさんの宇宙で、何かをもとめって、ずっとずっと無限の未来までの、夢をみてる』

みほ「はぁ」

麻子『──まぁつまりね、最近主流の仮説なんだけど、西住さんが正の高次カーボン振動を経験したのだとしたら、あの子は負の──というよりもイマジナリーな値をもった高次カーボン振動を──』

みほ「わあああああ麻子さん麻子さん、私、そういう話、わからないです……」

麻子『ん、失礼、つい──まぁ、とにかく……』

麻子『──結婚、おめでとう』

みほ「うん、……ありがとう……」

麻子『式にでれなくて、ごめん』

みほ「ううん、麻子さんの勉強は、あの子のためでもあるんだもん。いっぱいいっぱい、頑張ってくださいね。ふふ」

麻子『了解、まかせて』

みほ「それと──おばあさまと、そど子さんは、元気ですか?」

麻子『うん。おばあ、異国で死ぬことになるとは思わなかったって──日本にいたころよりも元気』

みほ「あはは、よかったね」

麻子『じゃあ──そろそろ切る──エリカさんにも、おめでとうと伝えてほしい』

みほ「うんっ」










 ────────────────────……………………。












118: KASA 2017/03/25(土) 16:17:37.37 ID:yc7Q2IaoO










──■5001日目──

エリカ「あぁ、どっこいしょ……ねぇ、今日は、どんな事を書いてるの?」

みほ「今日はねー……ありがとうって、ね。あの子に」

エリカ「ふうん?」

みほ「ほら、『貴方のおかげで、もうすぐエリカさんが、貴方の妹を産んでくれるよ』……って、」

エリカ「妹……そっか、二人ともあんたの遺伝子を受け継いでるんだから──順番でいえば、この子が妹になるのね」

みほ「もちろん、エリカさんにとっては、あの子は他人だけど──痛っ」

エリカ「馬鹿。あんたの赤ちゃんなんだから、私にとっても、娘同然。他人だなんて、言わないでちょうだい」

みほ「ん……ありがとう、エリカさん」




みほ(──あなたのDNAサンプルのおかげで──不妊治療や、人工妊娠に革命的な進歩が起ったのよ。性別に関係なく、互いの尊厳に基づいて誰もが自由に受胎できる世界。私が生きている間に──それが間に合うかもしれない。当たり前のことになるかもしれない。今はまだ、倫理と文化の変化に対して、多くの人が拒否感をもっているけれど……)

みほ(私達がどうして同性妊娠試験の第一号に選ばれたのか──表向きは、私が戦車道連盟の関東管区理事であるとともに、かつ、私達が同性愛者を公言知っているから──……でも本当は、間違いなくあなたのおかげなのよ。貴方だけでなく、亡くなってしまったあの子たちの、その記録のおかげ……)












 ──────────────────────────────………………………………。













119: KASA 2017/03/25(土) 16:18:03.51 ID:yc7Q2IaoO










■10001日目


みほ(Wow! あなたのおかげ──とは言い切れないかもしれないけれど、あなたに関する研究のおかげで、私の友人がノーベル賞を受賞できたのよ!)

みほ(私には、それがどういう意味の仕組みなのか、私にはさっぱり理解できないけれど──とにかく、娘が説明してくれた通りなら──もうすぐ私達は、あなたのような量子型の遺伝情報保有者を、意図的に誕生させることができるそうよ。そうすれば、私達人間はこれまでよりもはるかに多種多様な環境に順応していけるそう──環境の違うあちこちの惑星でさえも。たいそうな話ね)












 ────────────────────────────────……………………。













120: KASA 2017/03/25(土) 16:19:17.68 ID:yc7Q2IaoO












■15001日目

今日、最初の恒星艦宇宙船が、地球を出発して、お隣の星への長い航海を始めました。

数十年前に私達が遭遇した高次元間跳躍、それと、あなたの特殊な遺伝子についての研究が、今回の旅へと繋がったそうです。

彼らは、遺伝子操作でうまれた、宇宙に適応した人達。

これから何十年もかけて──星々の間を旅してまわるそうです。もしかすると、私の生きている間に、別の星へ、観光旅行ができるようになるのかもね。



でも、心配しないで。私はずっと、この星で貴方と一緒にいる。

貴方から、離れはしない。



貴方は何十年たっても、あの頃のままね。












 ────────────────────────────────……………………。













121: KASA 2017/03/25(土) 16:19:47.11 ID:yc7Q2IaoO











──■20001日目──

(あの子は、何のためにこの世に産まれてきたんだろう──)

(理事をやめて暇になったから? 若いころによく考えていたようなとりとめもない疑問が──近頃また、頭に浮かんでくる)


 あなたのおかげで、今や人類は尊厳にみちた子作りをおこうことができるようになったし──科学技術は驚くほど進歩した。大きな宇宙船をつくって、何千万人もの新しい人達をとともに──もう、こんなおばあちゃんには関係のない世界の話ね。
 


 ともあれ──そういう視点でみれば、貴方が生まれた意味は、大いにあるのだろうけれど──

 けれど、「貴方にとって」の「貴方の意味」それは、また別問題ですものね

 私にとっては──貴方を産んだことが、私の生まれた意味。……亡くなった貴方のおばあちゃんも、昔、私にそう言ってくれたことがあるのよ。










 ──────────…………。











──■21929日──


 近頃また、あなたの夢を良くみるようになったわ。あなたは大人になって、素敵な笑顔で笑い、みんなとい


(記述が途切れる。以降、数週間日付が抜ける)




 ────……。



122: KASA 2017/03/25(土) 16:20:23.26 ID:yc7Q2IaoO

──■22001日目──



私の、動かなくなった手のかわりに、彼女がこのノートを記し続けてくれている。

私の弱々しい声を、正確に、聞き届けて、それを書きり記してくれている。

ありがとう。

本当に、ずっとありがとう

私の人生は、あなたともにあった。




私が死んだあとは、彼女がこの日記の続きを書いてくれるのよ。

随分いやがられたけど、遺言として押し付けさせてもらうわよ。



いい? 今の言葉も、しっかり書いておいてね。遺言よ。



ええ、今日は、頭がすっきりしているみたい。

もと、たくさんお願いしてもいいかしら。

ええ、ありがとう。




結局、あの子は一度も目を覚まさないのかしらね、あのお寝坊さん。

まぁ、彼女は、いまもきっと、いそがしく飛びまわっているのでしょうね。私には見当もつかない、遠い世界を。

ええ、むかし、私の友人がそう言っていたのよ。

きっと、起きている暇などは、ないのでしょうね。頑張りなさい。私の娘。








 ────────…………。










123: KASA 2017/03/25(土) 16:20:54.53 ID:yc7Q2IaoO

──■22301日目──


また、夢をみたわ。

わたしは、もうじき みんなと同じ夢を、みにいくのでしょうね。

母や父や姉さんのみている ながいながいゆめ



泣かないで。エリカさん。大丈夫、もうしばらくは一緒にいるから。

最後の最後まで、本当にありがとう。感謝しているわ。

一緒にいてくれてありがとう。

あなたを愛してる。

ずっと、いつまでも。



ねえ、今のは書かなくたっていいのよ。

エリカさん、だから、やめなさいな。

ふふ。

もう、書かないでってば。エリカさん。

ふふふ。



大好きよ。




(以降、日記、途絶えがちになりつつも、数年、つづく)













 ────────………。












124: KASA 2017/03/25(土) 16:21:28.70 ID:yc7Q2IaoO

■23042日目





 いつか


 また 

 
 みんなで



 ありがとう


 めがさめて


 あなたが


 いた


 








 ──────。



125: KASA 2017/03/25(土) 16:22:03.02 ID:yc7Q2IaoO

──■23090日目──





 貴方は本当に最後の最後まで、笑わせてくれるのね。

 あなた、このノートの新しい保管場所と連絡先を、娘たちやもつくばの先生達に、伝え忘れていたでしょう。

 49日のあと、「あのノートは今どこに?」と聞かれてたまげたわ。

 おばかさん。あの子が目覚めた時、もしも私までもが死んでいたら、いったいどうやって彼女はこれを見つければいいの?

 数百冊のノートや沢山のデータが、いつまでも保管庫で眠ることになるところだった。

 まったく、最後の最後まで。貴方という人は。



 けれど私は、貴方のしりぬぐいをしているとき──もっとも心が満たされていたのね。

 もしも私が自分の人生に意味や理由をもとめるのなら──貴方をこうして助けるためだった──と、そう答えてもよかったのかもしれない。

 今頃になってようやくそんな事に気が付いたわ。

 まったく、貴方はもう、私の言葉を聞きやしないのに。
 
 一人だけ、さっさと眠ってしまって。本当に、あなたという人は、最後まで。



 ごめんなさい、逆恨みも甚だしいわね。私という人間は、最後の最後までこうなのね。
 
 こんな私と、ずっとありがとう。

 いま、とても寂しいのよ。



 けれど、泣き言ばかりを言っていても先が無い。

 さぁ、あなたのための最後のしりぬぐいを、そろそろ始めなくてはね。

 いつまで書き続けられるかどうかわからにけれど、続きは私に任せなさい。

 あなたは、一足先に、ゆっくり眠るといい。

 いつか私も、そこへいくから。
 
 あなたと二人、夢の続きを、みにいくわ。









 ──────────…………。



126: KASA 2017/03/25(土) 16:22:32.99 ID:yc7Q2IaoO

──■23224日目──



 もっとも初期のノートの、その一番初めのページへ、以下を書き加える。

 出だしを横取りしてしまって、申し訳ないけれど、怒らないでちょうだい。こういうことは一番先頭に書いておかなければ。

 そもそも、貴方が書いておくべきことだったのよ。しょうがない人。



 どのように書こうかと、何度も考えあぐねたけれど……結局最後は書きなぐった。きどったところでしかたがないもの。

 書かないうちに、私まで倒れてしまっていては、笑えないものね。




『──このノートが、あなたの道しるべになりますように。もしも貴方が、自分の生まれた意味だとか意義だとか、そういうことに迷った時の、助けとなりますように。
 ノート、写真、動画データ、たくさんの物を、収めておきます。貴方を産んだあなたの母親についての、すべてを。彼女の歩んだ人生についての全ても。
 だから、自分の生き方に迷うことがあれば、一度家に帰って、ゆっくり体を休めながら、それらををじっくり見つめ返してちょうだい。
 そうして心が落ち着いた後は、しゃんとして、自分の進むべき道を探すのよ。』


 
 ……よし。

 あぁ、そうだ──しもの時のために、あの子ようのメモを残してもらおうかしら……




『──ノートの保管場所について── 

 いま、あなたがどこにいるのかは分からないけれど──まさか宇宙? だとしたらあなたは大変なお使いを背負いこむことになるわね。。

 太陽系の第三惑星。地球という名の、青い星よ。

 その星の大陸の──、その側の、島々が連なる小さな弧状列島があるでしょう?

 私の生きているこの時代では、そこは日本と呼ばれている国で……その国の首都の──もしまだ存在していれば──東京という場所を目指しなさい。

 その東京の、国立公文書館の地下第54層の42番。

 そこに、あなたの人生のそもそもの始まりを、しまっておく。

 一度、取りにいらっしゃい。きっと、あなたの人生の助けになるから
 
 ──あなたの、もう一人の母より──』



127: KASA 2017/03/25(土) 16:22:58.15 ID:yc7Q2IaoO






 書き終えって、デッキチェアーに背中を預ける。

 随分と疲れた。

 文字を書くだけでさえも、近頃は結構な負担になってきた

 これが、老いるということなのだろう。

 戦車にのって走り回っていた頃が、もうずいぶん懐かしい。

 共に競い合った友人たちも、もう、ずいぶんと少なくなってしまった──




 
 ……ありがとう、エリカさん……





 ふと、そんな声を聴いた気がする。遠い記憶の昔の、ずいぶんと若かったころの彼女の声……。

(なるほど。棺桶に片足をつっこむとはこういうことなのかしらね)

 そう考えると、なんだか妙に納得がされる。

 まぁ、とにかくわたしは、書き続けよう。

 私にできる、最後の役目──いつかあの子が目覚めた時のために。




 あの子は今も、凍り付いた時の中で、一人眠り続けるてる。


 ────────────────。








128: KASA 2017/03/25(土) 16:23:31.71 ID:yc7Q2IaoO

──■26744日目──


 ある日気が付くと 10年がすぎていたのよ

 あなたのいない 10年

 はじめはのこされたじかんのながさに おそれおののいていたけれど

 けれど そう心配することもなかった

 こどもたちのおかげで それほどには、さびしくなかったのよ

 わたしは 幸せな人間なのね



 このごろは

 すぎさった日々を一人しずかに振り返る

 としよりのかずすくないたのしみよ。

 貴方のノートが、よく頼りになるわ。

 おかげ様で私は、としのわりには、頭も記憶もがさえているのよ

 過ぎ去った日々のことどもは、何もかもなつかしく、なにもかもがまぶしい

 皆ではげみ みなで生きた 安心なさい

 せんしゃ道は いまも続いてる 

 あの子もあいからわず 夢の中

 いったい何を 探しているのか

 ──────。














 ……42……42……



129: KASA 2017/03/25(土) 16:24:15.53 ID:yc7Q2IaoO

──■27042日目──

おきた
みほ みほ
きいてちょうだいみほ
あの子が 起きた
起きたのよ みほ 起きたの
人生の 最後のたそがれ時に こんなに嬉しいことがあるなんて むくわれた すべて 報われた
なんて可愛い子なの
 あなたの代わりに わたしがこのノートをたくす あなたの命はすべて このノートに記されている よかったあなたの努力は 
 いますべて報われた よかった ほんとうに よかった
        今少しだけあの子の声を聴くまで 生きていたい 神様 どうか おねがいいたします 

 ぜったいに まだ、しねるものか

 ──────。





146: KASA 2017/03/25(土) 23:39:47.99 ID:yc7Q2IaoO

──■27072日目──

 あの子は星々の間でずっと未来をめぐりつづけてた

 あの子が皆にそれを聞かせてくれた とってもすてきな声だった

 きっとあなたは神様の子を産んだのね 天国でじまんするといい 

 ほんの数週間の間に

 彼女はもう立派なおとなになった

 あなたにみせてあげたかった

 あなたによく似て かわいい子

 あなた生まれ変わりではないかと、思うこともあるくらい


 ──────。



130: KASA 2017/03/25(土) 16:25:28.50 ID:yc7Q2IaoO

──■27110日目──

 わたしのことなどきにせずに 前に進みなさいと 彼女にそう伝えた 

 それでいいでしょう?
 
 あの子は優しい子だから 私をおいていけない だなんて言うけれど こんなおばあちゃんといっしょに いてはいけない

 あのこは特別な子  

 私たちの小さな世界に、しばりつけておいてはかわいそうだもの
 
 大丈夫 あなたのノートは すべて たくした



 ただし、気がむいたら いちどに戻ってきなさいと、そうも伝えておいた
 
 さいごの一冊 このノートをとりにきなさいと

 もっとも もうたいしたことは かけないけれど

 まあ そうね せっかくだから 元気があるときには なにか 詩でもかいておかなければね

 わざわざとりに来てもらって おばあちゃんの 独り言ばかりではね



「独りごとを、もっとたくさん聞かせて」ですって、あなたは優しい子ね お母さんとほんとうによく似ているわ


 いま、この文字を書いている私となりに、あなたがいる。


 私の皺がれた指さきをあなたの愛らしい瞳がのぞきこんでいる。

 
 あなたの手が、あたたかい。


 ほんとうに、幸せな時間を。

 
 ありがとう ありがとう


 これでもう わたしは じゅうぶん



 さぁ おいきなさい




131: KASA 2017/03/25(土) 16:25:58.07 ID:yc7Q2IaoO

──■27113日目──

 今日 人生でもっともほこらしい日


 こんなひを迎えることができるだなんて


 こんな日が こんなさいごに待っていただなんて

 たくさんの人たちと たくさんの船とともに あの子は星々の海へ ながいながいたびにでた

 すこしさびしいけれど だいじょうぶ 私には たくさんのおもいでがある

 ここで眠れることを わたしはしあわせにおもう




 ようやく私は役目をおえられた

 終わったわ。みほ。

 できればあなたと、二人でこの日祝いたかったけれど。

 まぁ、いいわ。どうせもうすぐ、会えるでしょう。


 ──。

















──■27203日目──



 ときおりめがさめて

 あなたのはなしをきく

 あなたは 私にはそうぞうもつかない はるかとおい所で

 元気きに がんばっているそうね

 あなたは わたしと 彼女の ほこりよ

  

 そういえば けっきょく 詩などかきはしなかったわね

 ごめんなさいね

 だけど 詩だなんて がらじゃないもの


 ──。



132: KASA 2017/03/25(土) 16:26:27.76 ID:yc7Q2IaoO

──■27240日目──


 とても とても ねむたいのよ


 そろそろ ねむる じかんかしら


 もう つかれたものね


 よめているかしらね きちんとしたもじを かけていると いいのだけれど


 あといちどくらいは がんばって かけるかしら


 そうね なにか しでも かいて みようかしら


 だけど そんなものをかいたら あなたに わらわれるかしらね みほ


 さびしいわ
 

 ずっと あなたを あいしていた


 また あえるかしらね


 みほ



 ─。










133: KASA 2017/03/25(土) 16:27:22.45 ID:yc7Q2IaoO

──■27342日目── さいごのひづけ




  めがさめて ながいながい ゆめをみていた あなたといっしょに おわることのない 

  しあわせなゆめ ありがとう わたしのたいせつなこどもたち ありがとう わたしのたいせつなひとたち ともに

  いきた みんな いきていたのね これからわたしは さいごのゆめを みにゆく あなたのまつ そのばしょへ

  ふたり えいえんゆめを ずっと ずっと  







  ずっと  








  あなたと









 






 









ガールズ&パンツァー ~マタニティ・ウォー!~ 





134: KASA 2017/03/25(土) 16:29:06.33 ID:yc7Q2IaoO

皆さんのおかげで、ようやく最後までたどり着けました。

何度も何度も励ましてもらえた、そのおかげです。

本当に、ありがとうございました。



137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:08:47.25 ID:Ajh7UqRh0


最高の物語をありがとう



138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:36:47.34 ID:UitrZb/Eo




……これ、当初の予定通りだったら完結まで何年掛けてたんや……



140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 17:57:43.57 ID:PalUpoQT0

乙でした
ダイジェストでこれだから初期のままだったら超大作ってレベルじゃないね



143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 18:58:36.26 ID:iR2qhohB0

お疲れ様でした!初期の書き方だったら書籍化出来るほどの出来のいい大作だと思います!(というか書籍かしてほしい。表紙をノートみたいにして)


元スレ
SS速報VIP:【ガルパン】マタニティ・ウォー! 最終章 
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