過去作
【ガルパン】みほ「猛特訓です!」
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」【前編】
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」【後編】
※オリキャラあり
SS速報VIP:【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/
449: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:20:45.60 ID:utHvKE5h0
【ガルパン】みほ「猛特訓です!」
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」【前編】
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」【後編】
※オリキャラあり
SS速報VIP:【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/
449: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:20:45.60 ID:utHvKE5h0
【大洗女子 Pティーガー】
麻子(マズい…。無人機撃破の代償に西住さんたちを失ったのはあまりに痛すぎる…)
麻子(それに…)
麻子(何故西住さんは最後に私に『お願いします』と言ったのだ?!)
典子『冷泉さん!私達はどうしましょう?』
梓『もうまもなくサンダース車両が到達するかと思います!』
麻子「つ、つまり私が西住さんの代役を務めろと?!」
杏『急だけどこういうこともあるからねぇ…』
そど子『悔しいけど命令違反は風紀を乱すから今はあなたに従うわ!』
カエサル『もちろん各車両でも個々の判断はする!だが司令塔は必要だ!頼む冷泉さん!!』
450: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:23:28.14 ID:utHvKE5h0
麻子(お、おのれB-29…とんでもない置き土産を…)カタカタ...
華「ふふ…心配はいりませんよ」
麻子「えっ?」
華「冷泉さんはあのB-29を落としたのですから」
麻子「い、いや、落としたのは五十鈴さんじゃないか」
華「冷泉さんの指揮がなければ無理でした」
麻子「し…しかし私は…」
華「もちろん、優花里さんもツチヤさんも、私だって、あれだけ困難な相手に打ち勝つだけの実力はありますわ」
華「でも、それらは冷泉さんの指揮からスタートしたものです」
華「ですから、心配は何もいりません」ニコ
優花里「五十鈴殿の仰る通りですよ冷泉殿!」
ツチヤ「私はチームは違うけどさ、全然やれる自身あるよ。冷泉さんのおかげだね」
麻子「そ、そうか…みんな頼むぞ…!」
優花里「はいっ!」
華「ええ!」
ツチヤ「りょーかい!」
麻子「こちら冷泉、西住さんに代わり、臨時の隊長をすることになった」
麻子「西住さんのようにはいかないが、やれる限りのことをやる。どうか皆、頼む」ペコッ
全車輌『了解!!』
そど子『上手くやりなさいよ!れま子!!』
麻子「ああ…やってみる。あとれま子はよせそど子」
麻子「おそらくサンダースは、先程のポルシェティーガーの砲撃で、こちらのおおよその位置は把握したと思う」
麻子「だから各車両はなるべくここから離れる形で散開して欲しい」
麻子「アヒルさんチーム、ウサギさんチームは先頭を走り、森林を抜ける一歩手前まで進み、偵察をお願いしたい」
麻子「無人機はもういない。残るは戦車だけだ…頑張ろう!」
全車輌『了解!!』
麻子「では、パンツァー・フォー!」
麻子「さて…」
麻子(ああは言ったものの、車長なんて初めてだ。どうしたものか…)
麻子(しかもよりによってポルシェティーガーはフラッグ車。私の采配ミス1つで即終了なんてことも十分あり得る……)
麻子(こんな胃に大穴が開きそうなことをずっとやってきたのか西住さんは…)
麻子(手腕もさることながら、責任能力も相当のものだ…)
ツチヤ「それで、どうしようか?」
麻子「あ…あぁ。我々はなるべく遮蔽物に隠れながら他の味方車両の後を付いていこう」
ツチヤ「あいよー!」ブロロロ
ズガァァァン
ズドォォォン
梓『こちらウサギさんチーム!先程のような一斉射撃をまた受けています!』
麻子「こちら隊長車。了解した!窪みや岩陰などを利用して砲弾の回避を優先してくれ」
梓『わかりまs ズガァァァァァン!!! ポシュッ!
アナウンス『大洗女子チーム M3リー 走行不能!』
麻子「っ!! ウサギさんチーム!ケガは無いか?!」
梓『なんとか全員無事です!すみませんが後はお願いしますっ…!』
麻子「了解した。無事で何よりだ…」
麻子「こちら隊長車。最前線のウサギさんチームより、サンダースによる一斉砲撃を確認とのこと」
麻子「距離はまだ近くないため、挑発行為の可能性もある。遮蔽物に隠れるなど流れ弾の回避をお願いする」
『了解しました!』
麻子(くそっ…後輩が私よりも前線で奮闘したというのに…)
杏『うっひゃー!こりゃぁまるで花火大会だよ!サンダースは弾を惜しまずに撃ってくるねぇ!』
麻子「どうやらそのようだな。だが、向こうと違いこちらは闇雲に撃つものなら居場所を教えることになると思う」
麻子「砲撃は慎重に、そして撃ったら速やかにその場を離れてくれ」
桃『了解。一番先頭の車両を狙ってみる』
ズドォォォン!
アナウンス『サンダース大学付属高校 M4シャーマン 走行不能!』
桃『やった…!』
杏『よくやったかーしまぁ』
柚子『すごい!桃ちゃんが当てた…!』
桃『よし次は…』
ズガァァァァァァァァン!!!
ポシュッ!
アナウンス『大洗女子 ヘッツァー走行不能!』
杏『…冷泉ちゃん、本っ当にゴメン!!』
麻子「構わない。それよりみんな無事か?」
杏『なんとかねー。しかし河嶋が当てるとはねぇ』
桃『できるのならば1輌いきたかった……』
柚子『冷泉さん、あとはお願いします…!』
麻子(今度は生徒会の御三方か…)
麻子(このままじゃ他のチームも餌食になってしまう)
優花里「冷泉殿!」
麻子「お、おう?」
優花里「今の2輌が撃破された時ですが、音からしてシャーマン・ファイアフライです」
華「!」
麻子「シャーマン・ファイアフライ…確か前回の大会のサンダース戦で撃たれた車輌だったな?」
優花里「ええ。搭載してる17ポンド砲はティーガーIの正面装甲すらも貫通できるほどです!」
優花里「ただ、強力な砲弾なため火薬量が多く、音や煙がすごいのと、装填速度に時間がかかるのが難点ですけどね」
麻子「なるほど。ならば…」
優花里「"当たらなければどうということはない"と言いたいところなのですが…」
麻子「っ…!」
華「ファイアフライの砲手はナオミさんです」
麻子「ナオミさん…先程交信してきた人か」
華「はい。サンダースが誇る名砲手です…!」
麻子「厄介な戦車に厄介な砲弾。厄介だ…!」
ズバァァァァァァァン!!
ズガァァァァァァァン!!!
華「!!!」
ツチヤ「っ!こっちまで飛んで来たか!」
麻子「外れたものの至近弾だ。危なかった…」フゥ...
優花里「今の音!やっぱりファイアフライですよっ!」
麻子「なっ…ということは…」
華「結構な距離からの攻撃ですが、偶然ではなく、確実に狙われています…!」
麻子「ぐっ…!」
麻子「ポルシェティーガーより冷泉。全車輌に聞いて欲しい」
麻子「先程よりサンダース側から断続的な攻撃を受けているが、その中でシャーマン・ファイアフライと思われる攻撃は、より正確に私達を狙ってきている」
麻子「だから常に射程内にいるものだと思い、地形や遮蔽物を最大限利用して回避に徹してくれ!」
全車輌『了解!』
麻子「…って、しまった!ここじゃロクな遮蔽物がない!」
麻子「迂闊だった…私の判断ミスだっ…!」
優花里「落ち着いてください。砲弾が飛んできた位置を確認し、車体を傾けることでダメージを軽減させられます」
麻子「わかった、やってみる…!」
麻子(砲弾は確かあちらから飛んできた。…となれば)
麻子「ツチヤさん。車体を左に30度傾けてほしい」
ツチヤ「あいよ任せて!」グイッ ガコン
麻子「くそっ…私としたことが…!」
優花里「大丈夫です!まだやられたわけじゃありません!」
麻子「っ…そうだな。済まない」
華「………」
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!
ガコーーーーン!!!
麻子「うわぁっ!!」
優花里「大丈夫です!命中こそしましたが決定打にはなってません!!」
優花里「100mmの装甲と避弾経始が助けてくれましたよ!」
麻子「そ…そうか…!」
ツチヤ「大丈夫だよ!この子やったら頑丈だからさ!」
優花里「ですよねー!黒森峰戦ではお世話になりましたよ!」
華「………」
麻子「ど、どうした、五十鈴さん…?」
華「見えましたわ…」
麻子「見えた…?」
華「シャーマン・ファイアフライです」
麻子「!!」
優花里「徹甲弾、装填完了です!」
麻子「遠方に戦車がたくさんいるのは私にも確認できた」
麻子「だが、ファイアフライがどこにいるかまではわからない…」
優花里「ファイアフライは他のM4A1シャーマンよりも砲身が長いヤツです!」
麻子「長いやつ?ここからだとどれも同じに見えるぞ…?」
優花里「あ…ひょっとしたら砲身に迷彩塗装してるのかもしれないです!」
麻子「迷彩塗装?」
優花里「ええ。ファイアフライはティーガーを撃破できる数少ない戦車だけに、ドイツにとって要注意戦車だったわけですよ」
優花里「そのため真っ先に狙われるから、砲身の下半分にカウンターシェイドという迷彩塗装を施して背景と同化することで砲身が短く見えるように偽装したのです」
麻子「な、なるほど…!」
華「ご安心ください。私にはもう見えてます。距離は2,200mほどでしょう…!」キュラキュラ…
優花里「ティーガーの砲弾Pzgr40は射程2000mで110mmの装甲板を貫通すると言われています。これならいけるかもしれません!」
麻子「なるほど。五十鈴さんの方は行けそうか?」
華「10,000mの後だとすごく近く感じますね」
優花里「さすがです…!」
麻子「隊長なのにこんな体たらくで申し訳ない…。五十鈴さん、砲撃を頼む!」
華「承知いたしました…!」
麻子(おそらくラストチャンスだ…ここで外せば終わる!)
ズガァァァァァァァァァァァァン
シュポッ!
アナウンス『サンダース大付属 シャーマン・ファイアフライ 走行不能!』
優花里「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!」
麻子「やった…!」
ツチヤ「おーさっすがぁ!」
華「いえ、まだです!!」
麻子「っ!」
華「目標、フラッグ車」
麻子(確かにフラッグ車の旗が見える。…だが、その前に複数の戦車が護衛でついている…いけるのか…?)
ガコン
優花里「次弾装填完了!」
華「………」
カチッ
ズガァァァァァン
シュポッ!
アナウンス『サンダース大付属高校 M4A1シャーマン 走行不能!』
アナウンス『フラッグ車走行不能により、勝者・大洗女子学園!』
優花里「お、お見事です…五十鈴殿っ…!」
華「うふふ。やりました」ニコッ
麻子「………勝った…」
麻子「…勝った………勝った……!」ヘナヘナ
優花里「ええ!私たち勝ちましたよっ!!!」
華「ふふっ。麻子さんの采配のお陰ですわ」
麻子「そんな……私は何も………」
麻子「それどころか危うく窮地に追いやるところだった…」
華「そんなことはありません」
麻子「えっ…?」
華「この位置からでないとファイアフライとフラッグ車は狙えませんでしたわ」
麻子「そ…そうなの…か?」
華「ええ。遮蔽物に隠れながらだとどうしても攻撃範囲が狭まってしまいます」
華「マゴマゴしている間にほかの味方車両が撃たれていたかもしれません」
華「それにファイアフライもフラッグ車も他の車輌に隠れるような位置でした」
華「ですが、この位置からだといずれの車輌も狙える"隙間"がありました」
麻子「そうなのか…」
ツチヤ「そう考えると被害を最小限に押さえて、同時に危険車両と最重要目標を同時に倒すことに貢献したわけだよねー」
華「ええ。そうですわね」フフッ
優花里「西住殿の代役、しっかり果たせてましたよ冷泉殿!」
麻子「そ、そうか」ヘナッ
優花里「おぉっと!」ガシッ
麻子「す、すまん…体に力が…」
優花里「えへへ。お疲れ様です冷泉殿」
麻子「あ、あぁ…本当に疲れた。眠い」ウトウト
「皆さぁーーーん!お疲れ様でしたーー!!」
優花里「お、西住殿ですよ! おーーーーい!!」ヒラヒラ
みほ「麻子さん!本当にありがとうございましたっ…!」フカブカ
麻子「いや、私は皆に助けられた側だ。例を言うべきは私のほうだ」
麻子「秋山さん、ツチヤさん、そして五十鈴さん、本当にありがとう」
華「ふふふ」
優花里「えへへー冷泉殿にもお礼言われちゃいました~!」ワシャワシャ
ツチヤ「普段と違うメンツもなんだか新鮮だったよ!」
ナカジマ「ウチのツチヤがご迷惑おかけしてなかったかな?」
麻子「とんでもない。むしろ助けられた方だ」
スズキ「ならいいけど、ツチヤ一旦スイッチ入ると暴走すっからねー」
麻子「どちらかというと暴走しかけたのは私の方だった」
ホシノ「エンジンよりも熱しやすいもんなーツチヤ」
ツチヤ「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
ナカジマ「うわっ!オーバーヒートだ!!」
ホシノ「こりゃいかん!熱暴走してる!」
スズキ「またレオポンなのにライオンか!」
「こんの野郎ォォォォォォ!!!」ガァァァァァ
ホシノ「うわっ!暴走車両がコッチ突っ込んでくるぞー!」アハハハ
スズキ「逃げるしかないっしょー!」スタコラサッサ
ナカジマ「戦略的撤退ー!」ハハハハ
ツチヤ「お前らなんか嫌いだーっ!私ゃ明日からあんこうチームの操縦手やるっ!!」ダダダダ
麻子「まて、それじゃ私が困る…!」
ワッハハハハハハッハッハ!!!
優花里「自動車部の皆さんもなかなか個性的ですねぇ~」
華「あらあら。私達も負けてませんわ」
麻子「張り合うところなのか…それ?」
みほ「麻子さん」
麻子「ん?」
みほ「麻子さんがいなかったらこの試合は負けてたと思う。だから…」
みほ「本当に、ありがとう…!」
麻子(これが屈託のない笑顔ってやつだな。なかなか良いものだ)
優花里(羨ましいですぅ冷泉殿ぉ…)
麻子「まぁ…その、西住さんと比べると全然だが、勝てて今ではホッとしている」
麻子「ただ…」
みほ「?」
麻子「西住さんはあんな心臓に悪い事を今までやって来たんだなぁ…と思った」
みほ「えへへ。私は黒森峰の時からの事もあったし、大洗の皆は良い人ばかりだから、それで助けられてたかな」
麻子「なるほど…。ただこんな心臓に悪いのは当分カンベンだ」
麻子「だからこれからは操縦手として西住さんが倒れないよう全力を尽くそう」
みほ「えー。また私が倒れたらお願いしようと思ってたのに…」ショボン
麻子「なっ!か、勘弁してくれ…。あのような役はおしゃべりな沙織の方が向いている」
みほ「そういえば沙織さんは…?」
華「沙織さんでしたらあちらにいますよ」
沙織「いーい?試合中は周囲の状況確認や報告することに専念する!」
沙織「浮気性なオンナは男運さがるんだからねっ!!」
優季「はーい沙織先輩!質問!」
沙織「なーに優季ちゃん?」
優季「沙織先輩は浮気性じゃないのにどうして男運悪いんですかぁ?」
沙織「男運が悪いんじゃない!!男がいないだけッ!!!」
紗希「………」ツンツン
沙織「ん?どうしたの紗希ちゃん?」
紗希「……………むかで」ビローン
沙織「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
あゆみ「紗希ちゃんその子まだ持ってたの!!?」
桂利奈「沙織先輩もムカデ苦手なんだぁ」
梓「いや、誰だって苦手だと思うよ…」
麻子「…いじられキャラだな」
優花里「わりかし性に合っているような気もしますけどね」
みほ「あははは」
華「しっかり先輩してますわね」ウフフ
「ミッホーーー!」
みほ「あ…ケイさん!」
ケイ「ん~~~Congratulations!!!」ムギュゥゥゥ
みほ「んごがっがあが…!」ミシミシ
麻子「なんかすごい音がしてるぞ…」
華「あらあらうふふっ」
ケイ「やっぱミホすごいよー!Strong womanだよっ!」
みほ「えへへ。そうですか?」
ケイ「そりゃもう!!なんてったって戦車で無人機落としちゃうんだもん!最っ高にCoolよ!!!」
みほ「でも、実際に落としたのは私ではなく華さんや、麻子さん、優花里さん達なんですよ」
ケイ「へ?そうなの?」
みほ「ええ。種明かしをすると、麻子さんが無人機の速度と高度を算出して、砲弾が到達するまでの時間を割り出して」
ケイ「ほほう?」
みほ「優花里さんが砲弾の信管をセットして」
ケイ「ふむふむ」
みほ「そして最後に華さんが狙い撃つ」
ケイ「…」
みほ「…といった感じですね」
ケイ「ちなみにそれを提案したのは」
みほ「…一応私です」エヘヘ
ケイ「やっぱミホ凄いじゃない~!!」ムギュゥゥゥ
みほ「んごがっがあが…」ミシミシグキッ
ケイ「…あれ?でも信管ってセットするだけで準備オッケーなんじゃないの?」
みほ「え?」
ケイ「え?」
みほ「???」
ケイ「ホラ、高周波発振機から出る電波の反射を利用したやつがあるでしょう?」
ケイ「あれなら砲弾が無人機に接近するだけで自動的に作動してくれるじゃない」
みほ「そんなのあるんですか?」
ケイ「ええっ?!」
優花里「それはアメリカが開発した"近接信管"ですよね」
ケイ「そうそう!それよ!」
みほ「あっ、私達が使ってたのはゼンマイで作動する時限式のものなんですよ」
ケイ「Whats'?!!!」
みほ「なので、無人機の速度や距離から砲弾到達秒数を出して、それで信管を設定する…という流れだったんです」
ケイ「…」
みほ「ですから、本当にすごいのは、やっぱり皆さんなんですよね」ニコッ
ケイ「Greeeeat!!!!!」ムギュウ!!!!!!
みほ「んごがっがあがごげっんががっ…ぐ、ぐるじ…しぬぅ…」パンパン
ケイ「ミホも大洗も最高すぎる!!こんなExcitingな試合ホント初めて!!戦車道やっててホント良かったわっ!!」ギュウウウウ
みほ「えへへへ…」ミシミシ
ナオミ「ヘイヘイ隊長。感動したら抱きつくクセはそろそろ直すべきだ」
ケイ「えー。だってぇ」
アリサ「だってもヘチマもありません!西住さんクチャクチャになってますよ!」
ケイ「ほぉーアリサ?さては嫉妬してるなぁ?」ニヤニヤ
アリサ「し て ま せ ん っ !」
ケイ「ミホは私のものだもんねー」ニシシ
優花里「ちょっと待ってください!西住殿は私達大洗のものです!」グイッ
みほ「あう…」
ケイ「あっズルいぞオッドボール軍曹!学校が同じだからって独り占めは反則よ!」グイグイ
みほ「はう…」
優花里「だーめーでーすぅ!西住殿がいなくなったら大洗ピンチになっちゃいますぅ!」グイッ
みほ「ふぇ…」
クシャクシャ ギュウギュウ ワシャワシャ
麻子「大丈夫なのだろうか西住さん…」
アリサ「私も西住さんみたいになればタカシ振り向いてくれるかなぁ…」
麻子「タカシ?コーラのことか?」
アリサ「それはペプシよ!!」
ナオミ「ハナ…」
華「! ナオミさん…」
ナオミ「私の完敗だ。あの砲撃、本当にお見事だった…!」
華「私も、あのような砲撃が成功するとは思ってもいませんでした」
ナオミ「私もだ。無茶な要求をしたとは重々承知だが、それでも対抗手段がなければ"無敵"の無人機を、戦車だけの学校がどうすべきか…知りたかった」
ナオミ「そして君がそれを教えてくれた」
華「もう一度やれと言われて成功できる自信はありません」
華「ですが、0パーセントではありませんので、これでまた一つ無人機への対抗手段が見つかりましたわ」
ナオミ「あぁ、そうだな。そして…その…済まなかった」
華「えっ?」
ナオミ「私の興味とは言え、君や大洗女子を試すような真似事をしてしまった」
華「私も最初あのような提案をされた時は驚きましたわ」
華「でも、無人機を持たない、つまり明らかに戦力差のある相手に対等に戦おうという意思表示として受け取らせて頂きました」
華「そこには純粋に戦車道をする者としての、直向きな心があります」
華「それはまるでまっすぐ茎を伸ばすヒマワリのように」
ナオミ「ありがとう…ハナ」
華「ただ、一つ気になったのですが」
ナオミ「何かな?」
華「もしも私達が無人機を撃破できず、1時間が経過してしまった場合、どうなっていたのかと思いまして」
ナオミ「たらればの話になってしまうが、恐らくは無人機はそのまま放置して、そのまま戦車のみで戦っていたはずだ」
華「えっ、そうなんですか?」
ナオミ「ああ」
ナオミ「これら一連の試合が無人機の性能や今後の改善点を洗い出すために設定されたという事情もあり、無人機を保有する学校は必ず無人機を参戦させないといけない」
ナオミ「だから、私達は無人機を使った」
華「…」
ナオミ「だが、無人機を持たない学校相手に無人機を使うのはアンフェア」
ナオミ「それが隊長の考えだ」
華「そうなのですね…!」
グゥゥゥゥゥ
華「はぅ…////」
ナオミ「ははは。いい砲撃音だ」
華「神経を使いすぎたのでお腹が空いてしまいましたわ…」
ナオミ「それはいい。隊長がパーティーを企画したからたらふく食べて行ってくれ」
華「本当ですか!」パァァ
みほ(こうして、私達はサンダース戦も何とか勝つことができました)
みほ(対空戦車の攻撃が届かない無人機への新たな対抗手段も見つかり)
みほ(…次も同じことが出来るかというと、保証はできませんが、それでも道は開けたことには変わりありません)
みほ(麻子さんの高精度な演算、優花里さんの膨大な知識、華さんの職人技とも呼べる砲撃)
みほ(大会が進むにつれて欠点が見え、そして改善し、新しい可能性を生み出す)
みほ(戦車道は私達に様々なことを教えてくれました…!)
杏「おしまいっ!」
みほ「ええーっ?!」
杏「ん?」
みほ「まだ決勝戦残ってるじゃないですか!」
杏「あっ、そうだったごめんごめん~」ニャハハ
みほ(全くもう会長ったら…)ヤレヤレ
柚子「それで、決勝戦はどこと対戦なんだっけ?」
桃「プラウダ高校と黒森峰女学園がこれから戦う。その勝者とだ」
みほ(カチューシャさんか、それともお姉ちゃんか…)
◆最終章 "天上人"
【戦車倉庫・自動車部】
ナカジマ「………ということなんですよ」
柚子「そんな…じゃぁIV号は」
ナカジマ「えぇ…直せないことはないんですけど…」
ナカジマ「確実に決勝戦には間に合いませんね」
桃「くッ…」
ホシノ「なにしろ無人機の主翼がモロに直撃して、エンジン周辺やら砲塔旋回に使われる装置やらが全滅でして…」
スズキ「乗員を防護するカーボンコーティングもかなり損傷が激しいですよ」
ツチヤ「不謹慎な言い方になっちゃうけど、よく皆さん無事だったなって思うくらい車体がメチャクチャになってます」
桃「そこを何とかならんのか!」
ナカジマ「流石に今回ばかりは……」
ホシノ「パーツがあればまだしも、国内にそういったパーツがあまり流通していないんで、それらを取り寄せるのに時間がかかるんですよね」
スズキ「今までの対空戦車のパーツもドイツとのルートがある隊長のお母さんの手配のおかげで何とかなったけど」
スズキ「これを個々でやれってなれば数ヶ月はかかると思いますよ」
桃「くそッ!」
杏「………」
桃「こんな時にあんこうチームのIV号戦車が使えなくなるなんて…!」
柚子「どうしよう…。戦車を新しく導入する予算もないし………」
桃「そもそも原因はサンダースの無人機の落下だろう?ならばサンダースに…」
杏「いんや、無理だと思うよー?」
桃「えっ?」
杏「仮にサンダースに非があって、賠償を支払うとなったとしても、今大会中じゃ間に合わないだろうからさ」
杏「異議申し立てがあったらまず両校や戦車連盟を交えた検証が行われて、それで改めて判断するって流れだから、決勝戦までには間に合わないねぇ」
柚子「そんなぁ…」
杏「かといって、戦車を新しく買うお金もないと。いやはや参ったねぇ…」
柚子「…」
桃「…」
杏(ほんと、参ったよ)
【会長室】
桃「…ということで、IV号が大破したために、決勝戦までの修復が困難になってしまった」
柚子「自動車部にも確認したけれど、無理だって…」
あんこう「えええええーっ!!」
優花里「それじゃ私達は決勝戦どうなるんですか!?」
桃「それを決めるためにお前達を呼んだ」
沙織「私あの時IV号…じゃなくてクーゲルブリッツに乗ってたけど、あの衝撃はヤバかったよ!」
みほ「あれだけの損傷を受けておいて乗員が全員無事だったのが本当に不幸中の幸いです」
柚子「ええ。皆が無事で本当によかったよね」
桃「うむ。ただ、これからのことをどうするか。それが問題だ」
麻子「そちらで何か代案はあるのか?」
柚子「他の車両に振り分けるくらいしか…」
華「そうですよね…」
みほ「ところで、会長は?」
桃「会長は出かけている」
沙織「もーっ!会長ってばいつもこんな時にいないんだからー!」
華「まぁまぁ。沙織さん」
麻子「怒ったところで何も変わらん。それよりも解決策を考えるほうが先だ」
優花里「冷泉殿のおっしゃる通りです。こちらでも出来ることを探しましょう」
みほ「そうだね」
【西住流戦車道家元】
菊代「それでは、家元をお呼びいたしますので、お待ち下さい」ペコリ
杏「ありがとうございます」
杏(前にも来たことがあったけど、やっぱり広いお屋敷だなぁ)
ガララッ
杏「! お久しぶりです。西住さん」
しほ「ええ。お久しぶり。うちの娘は元気にやっているかしら?」
杏「ええ。私が不甲斐ないばかりに、いつも助けられています」
しほ「そう。良かった」
杏「ええ」
しほ「…」
杏「…」
しほ「それで、お話というのは?」
杏「実を言いますと、先日のサンダース戦にてみほさん達が乗るIV号戦車が大破してしまいました」
しほ「…」
杏「幸い乗員は全員無事なので、その点だけは安心して下さい」
しほ「そう」
杏「…が、IV号戦車の損壊はかなりのもので、修復には時間がかかり決勝戦までに復旧させることが不可能となりました」
杏「そこで、西住さんの方からIV号戦車の代わりとなる戦車をお借りすることは出来ないかと思いまして…」
しほ「申し訳ないけれど、その要望にはお応えできないわ」
杏「ですが…!」
しほ「確かにあなた達には様々な機材を提供してきました」
しほ「しかし、"戦車をくれ"となると話は別」
しほ「一戦車道の流派が特定の学校だけに贔屓をするのはタブー」
杏「そこをなんとか!お願いしますっ!!」フカブカ
しほ「…そうね」
杏「…!」
しほ「菊代さん」
菊代「はーい」スタスタ
しほ「車体と砲身が欲しいそうよ」
菊代「かしこまりました。少々お待ちください」スタスタ
杏「あ、ありがとうございます!!」
しほ「ヒントはあげたわ。あとは貴方の力でそれを形にしなさい」
杏「え…ヒントですか?」
菊代「お待たせしました。どうぞお受け取りください」サッ
杏「…? これは一体?」
しほ「私から出来るのはこれだけ」
杏「さっきの車体と砲身というのは…?」
しほ「先にも言った通り、"ヒントはあげた"と」
杏「?」
しほ「あとは全て、あなたが探しなさい」
杏「はぁ」
しほ「ただし、最高の物を得るには最高の苦痛が必要」
杏「えっ?どういうことですか?」
しほ「とある高校の生徒は自分の戦車道を貫き通すために自ら狂いに行った」
しほ「その結果、その生徒がいる高校は瞬く間に強豪校になった」
しほ「代償としてその生徒は壊れてしまったけれども」
杏「………」
しほ「犠牲なくして、大きな勝利を得ることは出来ない」
しほ「あなたは自分が守りたいと思ったものの為にそこまで出来るのかしら?」
そこから私の仕事は始まった。
「戦車が壊れたからちょーだい」なんて甘ったれたことが西住流の家元に通じるなんてこれっぽっちも思っていない。
だから門前払いを食らうと思っていた。
しかし、門前払いの代わりに渡されたのは1つの封筒。
私はまずこれが何を意味するのかを調べることから始めることにした。
なんとなく想像はついていた。
杏「クルップ、ヘンシェル、ラインメタルねぇ…」
何度でも言うよ。なんとなく想像はついていた。
家元から渡された封筒の中に入っていた用紙には、黒森峰でも投入されているドイツの戦車や高射砲を"当時"製造していた会社の情報が記載されていた。
当時の面影がそのまま残っているとは思えないが、戦車道が盛んに行われるようになったことで、それらの産業も再び息を吹き返したのだろう。
そうでなければ黒森峰がティーガーやマウスなんてものを所有できるはずがない。
黒森峰はドイツと交流があった。だからそのルートを通じて戦車に関するやり取りが出来て、強力な戦車やその運用術を得られたのだろう。
そして私はそのルートを紹介してもらったに過ぎない。
西住ちゃん達あんこうチームが乗る『IV号戦車』を修復する、あるいは代替品を譲ってもらうには現時点ではこれを利用するしかないというのは大体わかった。
………が、何かが引っかかる。
杏「んじゃー小山、河嶋。後は頼んだ」
ちょいと出張するからしばらく頼むわー
そう言ったら河嶋も小山もすごい形相で驚いた。お前ら目玉飛び出てるぞ…。
小山はオロオロするし、河嶋に至っては「私も連れてってください~!!」なんて号泣しだす始末。
お前ら、副会長と広報として2年ちょいやって来ただろうが。今さら私がいなくたって問題ないだろうに…。
ひとまず練習については、西住ちゃんを中心にお願いすることにした。
…といっても肝心の西住ちゃん達あんこうチームの戦車が無いから、それぞれのチームの車両の空いているポジションにあんこうメンバーがローテーション形式で乗るよう提案した。
特にカモ、アリクイ、レオポンは空席は勿論、試合の経験数がほかのチームよりも少ない。それに私が抜けたカメも課題は残っている。
なのでそれらに優秀なあんこうチームの皆が交代で乗ることで、各々が培ったノウハウをそのチームに伝授し、弱点を可視化・改善することが目的だ。
前回の試合のように、自分たちの戦車だけ乗っていれば良いというわけでもなさそうだしね。
…と言う旨を西住ちゃんに話したらスンナリと納得してくれた。
決勝戦はプラウダか黒森峰のどちらか。どっちが勝つにしろウチらにとっちゃ厄介だ。前回までのような幸運は二度と訪れないと思っていい。
ましてや戦車だけでなく、無人機まで出てくるんだから、むしろ貧乏神に惚れられたと言ってもいいくらいだよね。早くあんこうのIV号戦車を用意しなくては。
………ん??
やはり何かが引っかかるが、今はドイツへ行くための準備をしないと。
のんびりしたいところだが、残された時間はあまりない。
戦車道や生徒会の関係で海外には何度か行ったこともあるけど、それはあくまで「見学」としてだ。今回に限っては何もかも自分で決定しないといけない。
貴重な体験なんだけど、正直面倒くさい。家で干し芋貪りながらゴロゴロしていたい。
念のため西住ちゃんには出張の行き先を教えておいた。行き先だけね。
そしたら昔の友人がいるから紹介すると言ってくれた。
どうやらその子は生まれはドイツらしく、日本に来るまでは向こうで戦車道らしいことをやっていたそうな。
で、その子も近いうちにドイツへ帰国するというから、一緒に行くよう説得したらしい。
西住ちゃん曰く「気難しいけど根はいい子だから」とのことだけど…まぁ現地で通訳をお願いしようかな。英語ならまだしもさすがにドイツ語は無理だ。
………私も通訳も無しによくドイツへ行こうと思ったよなぁ。我ながら無茶をするもんだ。
「あなたが角谷杏さん?」
西住ちゃんの"お友達"とは空港で対面した。
赤髪のツインテールの彼女は"中須賀エミ"という日独ハーフの子で、小学生時代の西住ちゃんの同級生とのことだ。
簡単に自己紹介したあと、ドイツ行きの飛行機に乗り込んだ。
中須賀ちゃんが何でドイツに?と訪ねるから「西住ちゃんの戦車がB-29に壊された」と色々端折って説明した。
そしたら彼女は『相変わらず無茶をするのねあの子…』という。それについては私も同意する。
だが『無人機相手に戦車で挑もうなんてバカだ』とまで言うもんだから、その西住ちゃんがそのB-29をポルシェティーガーで落としたと言ってやったら今度は物凄く驚いてた。
驚くのはわかる。私だって未だに信じられないくらいだもん。
…でも機内でデカい声で「うええっ!?」はちょいとマズいよ?
他の乗客がすごい顔でこちらを見てっからさ。
エミ「一体どうやって落としたのよっ!?」
ものすごい形相で詰め寄って来るので、あの時の試合を説明してみた。
そうしたら「ありえない……カリウスでもそんなことしないわ…」と、今度は魂ここにあらず状態。
この子もなかなか個性的な子ではある。ウチの学校に来ていたらさぞ面白かっただろうなぁ。主に西住ちゃんが。
飛行機の窓から外の景色を眺めてみると、陸がずっと下の方に見える。
あんな下の方からこちら目がけて砲弾が飛んできて、爆発して撃墜されると思うとものすごく怖い。
戦車同士の戦いでもそう何キロも離れて撃ち合うわけじゃない。なのに8km以上離れた上空の獲物を撃墜するのだから、もはや戦車道を超えた戦いだ。
そんな正確な射撃能力があれば黒森峰やプラウダの戦車も遠方から撃ち抜くことが出来るよね。
…………。
もうずっと何かが引っかかっている。
重大な何かだ。そいつが喉に刺さった骨みたいに取れそうで取れない。もどかしい。
エミ「ところでIV号じゃないとダメなの?」
杏「んー?」
エミ「代わりの戦車。何でIV号なの?」
モヤモヤしていると中須賀ちゃんが訪ねてきた。
何でって…そりゃそうだろう、西住ちゃん達のシンボルの戦車なんだよ?
だから違う戦車だったら…
……ん?
何でIV号じゃないとダメなんだろ?
確かに西住ちゃん達あんこうチームが乗っているのはIV号戦車だ。
そのIV号戦車は対無人機戦闘を想定して様々な"IV号対空戦車"としてカスタマイズしてきた。
メーベルワーゲン
ヴィルベルヴィント
オストヴィント
そしてクーゲルブリッツ。
20mm、30mm、37mm…それぞれの対空機関砲は、無人機に当たりさえすればそれなりのダメージは与えられるだろう。…当たりさえすればだが。
…だが、それらのカスタマイズは確かに無人機戦闘での対抗策にはなったが、対戦車戦闘では活躍するのだろうか?
いかんせん相手は無人機抜いて戦車だけ見ても強豪校のツートップだ。
ここで前回ほとんど役に立たなかったクーゲルブリッツを「直ったから使ってよー」といったところで、それがこの2校のいずれかを相手にした時有利になるのだろうか?
対空戦車として対無人機に限定すれば多少の効果はあるかもしれない。
しかし、その対空戦車の砲撃は戦車の装甲相手だと…
それに西住ちゃんたちあんこうチームは大洗の"切り札"と言っても良い。
もちろん他のみんなも、うちの河嶋も小山も優秀だが、あんこうたちは更にその上を行く。
まさに切り札といえる存在だ。
彼女たちは無人機を相手にしても戦車を相手にしても柔軟な発想と機転によって勝ち上がってきた。
んむっ?!
無人機を相手にしても戦車を相手にしても?!
杏「それだぁぁぁぁぁっ!!!」ガタッ!
どーしようもないバカだ私は。こんなことも忘れてたなんて!
無人機が導入されて数ヶ月、私達はずっと無人機の対策しか考えていなかった。
無人機を保有しないウチらにとって相手の無人機の存在が圧倒的に不利だったがために!
しかし、私達が相手にしなければいけなかったのは"戦車"なのだ。
いや、戦車"も"というべきだ。戦車を相手にして、無人機はオマケくらいの認識でなければいけなかった!!
無人機落としてバンザーイで終わる話ではなかった!
なのに…
対戦車戦闘を疎かにして貴重な戦力削って無人機対策に傾倒してしまっていた!!
そしてその役割をあろうことか大洗女子の"切り札"あんこうチームを主体に………!
エミ「ち、ちょっとどうしたのよ?」
杏「…そういうことだ!!やっとわかったぞっ!!」
エミ「だから何がよ!!」
CA「お静かに願います」
杏・エミ「あ…すいません…」
おいこら中須賀ちゃん。あんたのせいで怒られただろーが。ンだからはしゃぐなつったろーに…。
え?あたしのせい?………悪かったよ。
エミ「…で、どうしたのよ?」ヒソヒソ
杏「よくよく考えたらさ、IV号じゃなくてもいーじゃんって思ったわけよ」ボソ
エミ「ほらね。どうせドイツ行くんならパンターとかティーガーとか持っていけば良いじゃない」
杏「んなもん簡単に手に入ったら苦労しないよ」
エミ「まぁね」
杏「…」
そりゃそうだ。
パンターだろうがティーガーだろうが戦車が簡単に手に入るんならあたしゃドイツになんぞ行かぬわ。家でテレビ見ながら干し芋食べてるよ。
杏「まぁ、あとで西住ちゃんに相談してみるよ…」
エミ「あ、第二次世界大戦後に出た戦車は試合じゃ使えないからね?厳密には1945年…」
杏「わぁっとるわいンなこたぁ」
エミ「えぇーホントにぃ?」
こいつめ…あたしゃ腐っても廃校の危機に瀕した学校で、戦車道復活させるためにアレコレやって来たんだぞ?
そんなルールくらいわかってるっちゅーの。
………天蓋付いてない対空戦車つかってたのはアレだけど。
【空港】
疲れた。
さすがに12時間のフライトはしんどい。ノンビリ寝転がれる無人機が欲しいよ。
おケイ、スーパーギャラクシー貸してくんないかなぁ。操縦手つきで。
エミ「それで、まずは何処から行くの?」
杏「あん?」
エミ「いや、だって時間ないでしょ」
杏「決勝戦までまだ時間あるからへーきへーき」
ぶっちゃけると1ヶ月きった。正直ヤバい。
エミ「私来週には日本に戻るよ?」
杏「ふぁっ!?」ガタッ
エミ「みほから聞いてなかったの?」
杏「西住ちゃんそんなこと一言も言ってなかったよ!」
おーい西住ちゃん、こりゃどういうことかなぁー?
「ドイツのお友達が一緒に行く」ってのは聞いたけど、その子の滞在期間が一週間ってのは聞いてないぞ?
…まぁ聞かなかった私も悪いけどさ!
ピリリリリ
ピリリリリ
…っと電話だ。西住ちゃんからだね。
杏「もしもーし」
みほ『こんばんは。西住です』
杏「おっ。そっちは夜かぁ?こっち今早朝だよ。ぐーでんもーげん」
みほ『えっ?あ、おはようございます』
杏「そっち何とかなりそー?」
みほ『ええ。指示通り交代で各車輌に乗ってます』
みほ『そのおかげで各々の改善点も色々見つかりました』
杏「おーそりゃ良かった!ところでさ、」
みほ『はい?』
杏「西住ちゃんたちの戦車なんだけどさ」
杏「IV号じゃなくてもいい?」
みほ『えっ?!』
そう。これは西住ちゃんに伝えとかないといけない事なんだよね。
次の試合ではIV号戦車が出てこないということ。
そして…
無人機も戦車も破壊できる超強力な戦車が必要だということ。
みほ『………』
案の定西住ちゃんは黙り込んだ。
そりゃそうだ。IV号戦車は彼女たちあんこうチームの「戦車道」を象徴する戦車といって良い。
西住ちゃんたちが最初に乗って今日まで様々な戦いを勝ち抜いて、二度の廃校の危機から救った由緒ある戦車だ。
それを「IV号じゃなくてもいい?」なんて言ってしまうのはあまりにも無礼だ。
…だけど、今のIV号戦車、そしてIV号対空戦車じゃ戦車と無人機を相手に戦い抜くには力不足なんだよね。
みほ『そうですよね…私も薄々感じていました』
みほ『ここ最近の私達は無人機にばかり気を取られて、肝心の対戦車対策が疎かになりつつある。と』
みほ『今まではそれでも良かったかもしれませんが、決勝戦となると…』
そうなんだよね。
知波単学園の戦車は装甲が薄いから対空戦車(オストヴィント)の砲弾が通った。
サンダースはクーゲルブリッツの弾がB-29へ届かなくて、西住ちゃんが機転を利かせて入れ替えたポルシェティーガーで五十鈴ちゃんが無人機やエース車とフラッグ車を叩いた。
あのサンダースの試合に関しては「完勝」と言っても良いくらいの成果だった。
だが、決勝戦でそういったものが通じるとは思えない。
黒森峰にしろプラウダにしろ、火力、装甲どちらも強力な戦車ばかりだ。
『対空戦車』では勝ち目がない。
戦車の質だけでなく、プラウダにはカチューシャ、黒森峰には西住ちゃんの姉・西住まほといった優秀な指揮官がいる。
戦車良し
指揮良し
兵士良し
そこに更に無人機というオマケがついて、もはや"勝てる要素がない"といった状態なんだよね。
そうなると、「IV号戦車(対空戦車か?)直ったよ~」じゃあまり有利にはならない。
もっと強力な戦車…無人機が来ても重戦車が来ても相手に出来るようなヤツが必要なのよ!
みほ『………わかりました』
杏「!」
みほ『IV号に乗れないのは残念ですが、会長に選定をお任せします』
杏「おっけーい」
みほ『その…無人機も戦車も相手にできる戦車、楽しみにしてます』クスッ
杏「あ、今笑ったなこのやろ~」ハハハ
みほ『いえ、笑っていませんよ。フフフ』
杏「やっぱ笑ってるじゃないかぁ!いいもんね!トビッキリの戦車持ってきて西住ちゃんのアゴ外してやっからさぁ!」
みほ『楽しみにしてます』
杏「あいよー。そいじゃ」
ガッ!
杏「ちょっ!何すんのさ?!」
いきなり中須賀ちゃんが私の携帯をひったくった。
どうやら西住ちゃんと話がしたいんだろう。
んだが、「ちょっと代わって」くらい言って欲しかったよそこは…。
エミ「久しぶりね。みほ」
みほ『あっ!その声は………』
エミ「…」
みほ『………』
エミ「エミよ!中須賀エミ!!」
みほ『あ、あっ、エミちゃんだぁ!お久しぶりだねぇ!』
エミ「忘れてたでしょ」
みほ『…ごめんなさい』シュン
エミ「まったく…」
エミ「…まぁ、相変わらず元気そうで良かったわよ」
みほ『えへへ。試合のルールが変わって振り回されてたかな』
エミ「無人機、ね」
みほ『…うん』
エミ「最初聞いたときは耳を疑ったわ」
みほ『実を言うと私も…』
エミ「戦車で競い合うのが戦車道なのに、そこに航空機が乱入したらもう戦車道でも何でもないじゃないの!って」
みほ『うん…』
エミ「普通の戦車じゃ空からの攻撃への対抗手段なんて無いし、あったとしても無人機相手に不利なのは変わらないし」
みほ『そうだよね…』
"無人機"は戦車道を履修する者全員が違和感を抱いている。
中須賀ちゃん、西住ちゃんはもとより、ケイもチョビ子もダージリンもカチューシャも、無人機によって恩恵を受けた西ちゃんも………。
もちろん私もだ。
なぜならそこには無人機を導入できない学校をふるいにかけるという"政治的"な意図が見え隠れするからだ。
だからこそ私達はそういった理不尽に勝たなくちゃいけないんだよねぇ。
学園艦の統廃合を目論む汚い連中に学校を潰されないように。
そして戦車道が汚染されないように。
エミ「…で、しかも角谷さんいわく、大洗女子は無人機を持っていないと」
みほ『あはは…実を言うと無人機を導入する予算がないらしくて』
エミ「ハイテクな誘導装置を組み込む分戦車よりも高いからね無人機は」
みほ『会長が干し芋減らせば買えるかも?』アハハ
エミ「どんだけ干し芋にお金使ってんのさ…」
聞こえてんぞ西住ちゃん。
干し芋減らしたカネで無人機が買えるならわざわざドイツにゃ行かん。
…あ、そういえば干し芋がもう無い。近くに売ってないかなぁ?
みほ『エミちゃんの学校は持ってるの?』
エミ「持ってないわよ。持ってたとしてもウチのバカタレ共が使えるわけ無いでしょ」
みほ『あはは。瞳ちゃんだったら』
エミ「一番ダメ。あの子10秒で墜落させるから」
みほ『えーヒドい!』
なんだか楽しそうだなぁ二人とも。ちょいと疎外感。
こんなことなら河嶋と小山も連れてくるべきだったかなぁ。
そもそもあいつら二人以外に友達いたっけかな?
まぁケイとはよく話すし、チョビ子も会った時はよろしくやってるし。
でも友達かと言われると、うーむ…
…ダメだ。なんか悲しくなってきた。この話はよそう。
エミ「…で、本当に良いのね?」
みほ『え?』
エミ「IV号」
みほ『あっ…うん。今回ばかりは仕方ないよ』
エミ「そう。なら良いけど」
みほ『うん。そっちは何か検討ついてるの?』
エミ「全っ然」キッパリ
みほ『ぅ…』
エミ「まず"代わりの戦車探す"ってだけでいきなりドイツに行くってのがあり得ない」
エミ「仕事辛いからってスキルもコネもなく会社辞めてフリーランスや起業するくらいあり得ない」
みほ『あはは…わかりやすい例えだね』
ムッカつくなぁコイツ!
何がムカつくって?例えが的確ですんげぇ分かりやすいところだよ!!
アタシだって何かする時ゃ事前準備くらいするさ。
色んなことが立て続けに起きるから準備するヒマが無いだけで!!
エミ「そもそも戦車も決まってない、予算もない、コネもないで"戦車くれ"が無理」
みほ『うん…』
エミ「あなた以上に無茶なことやってるよコッチは」シレッ
みほ『その…なんというか、うちの会長が迷惑かけてごめんなさい…』
エミ「全くよ」
みほ『会長は色々ぶっ飛んでいるけど、その…悪い人じゃないからよろしくお願いねエミちゃん』
エミ「まぁ通訳と戦車についての知識くらいは提供するわ」
おのれ黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって…!
チョビ子といい、ウサギのメガネといい、この小娘といい、どうしてツインテールの女はこうも傍若無人なヤツが多いんだか!
カワイイで許されるのは今のうちだぞマジで。そのうち"お局様"にそのツインテール食いちぎられっからなァ!!
エミ「それじゃ、もう一回角谷さんに代わるわね」
みほ『あ、うん』
エミ「はい」
杏「やぁやぁ。随分楽しそうに話してたねー」
みほ『ええ。何しろ小学生時代からの付き合いですから』
杏「へー。となれば中須賀ちゃんの事なんでも知ってるわけだよねぇ?」
みほ『うーん…まぁ、多少は…』
杏「そっかぁ」ニタァ
杏「中須賀ちゃんにまつわる面白い話とかないの?」ニヤ
エミ「ちょっと!」
みほ『えーと…』
ヘっヘっヘ。さっきのお返しだもんねー!
中須賀ちゃんが横で何か言ってるけど知らんぷりぃ~♪
どんな面白話が聞けるかなぁーうししし。
みほ『そういえば、小学生時代にエミちゃんカギ閉めずにトイレに入って』
みほ『知らずに扉開けたらウ●チぶら下げたエミちゃんがいて』
みほ『顔真っ赤にして踏ん張ってる姿が印象的だったり…』
杏「」
みほ『他にもお昼ごはん食べたあとに猛ダッシュしたせいで、校庭でゲロゲロ吐いてたこともあったり…』
杏「」
みほ『あとは帰宅途中に我慢できなくなって、近くの雑木林で…』
杏「」
エミ「何暴露してんのよぉぉ!!!///」ガァァァ
…予想を遥かに超えるドギツイ暴露だよ西住ちゃん。
あたしゃてっきり『寝ぼけて片方だけ髪の毛結ぶの忘れてた』みたいなソフトなのを予想してたよ。
金輪際西住ちゃんに他人の過去話をさせるのはやめよう。被害者が不登校になりかねん。
その後は大洗の練習の状況とかを聞いたり、あんこうの戦車について軽く話した。
西住ちゃんもどんな戦車が来るのか(一応)気になっているらしく、
『とても期待していますからね!』
と言うので『無人機も戦車も蹴散らせるヤツ持っていくから任せといて!』と言って電話を切った。
だが…
杏「………どうしよ…」ズーン
電話じゃ大見得切ってあんな事言ったけど、戦車も無人機も相手に出来る戦車なんぞあたしゃ知らんぞ!
そもそも知ってたところで、その戦車を手に入れる術もない!
ホントどうしよ………。
エミ「随分無茶なこと言うのねぇ」
杏「悔しいけど中須賀ちゃんの言うとおりだよ…」
エミ「ひとまずホテルに行ってチェックインしない?」
杏「…そだね」
到着したばかりなのに早くもこのザマだよ。先が思いやられるなぁ。
んでも、ウダウダ言ってもしょうがないので、とりあえずホテルに行くことにした。
長旅で疲れていることもあるし、計画ナシであちこち行くのも時間の無駄になる。今日はゆっくり今後の計画について考えることにした。
【ホテルの部屋】
ドイツのホテルは日本のホテルとは違っていかにも"西洋"って感じがする。
まぁ西洋だから西洋っぽいのは当たり前だけどね。
ただ、ドイツなのにどこにも干し芋が置いてないのは解せない。あとでアンケート書いとこう。
エミ「まずは『エッセン』へ行ってみたらどうかしら?」
杏「エッセンねぇ…」
地図を広げてエッセンがどこにあるかを確認する。
現在地は『デュッセルドルフ』だから、公共交通機関を使えば30分ほどで行ける距離だ。
ちなみに当初の計画ではフランクフルト行きの飛行機に乗る予定だったが、中須賀ちゃんの要望でデュッセルドルフに変更して現在に至る。
確かに、フランクフルトからエッセンまで結構な距離だし、デュッセルドルフを選んだのは正解だ。土地勘のある中須賀ちゃんが頼もしいねぇ。
んで、件のエッセンに何があるかというと
クルップだ。
戦時中はIV号戦車、ティーガー、そしてマウス、列車砲といったドイツを代表する有名な兵器の開発・設計・製造に関わっており、ドイツ戦車を語る上で欠かせない重工企業だ。
また戦車以外にも高射砲で有名な『8.8cm Flak』を作っている。
戦後はティッセン社と合併して"ティッセンクルップ"という名前になり、相変わらず世界一デカい採掘機を作ってたりしていて、巨大なマシン作りに定評のある会社だ。
今回の私達が求める『戦車も無人機も相手にできる戦車』というニーズを満たすモノを作ってくれるに違いない。
そうと決まればささっとクルップに行ってみるかね。通訳については中須賀ちゃんに任せればいいしね。
…あ、「作ってくれるに違いない」ってのは技術的な意味でだよ。ウチらのために協力してくれるかってのは別の話。
杏「…んでもさぁ、いくら戦車作ってた企業だからって、見ず知らずの人間に『戦車作って!強いの!!』って頼まれて『わかりました!』って言うかねぇ?」
エミ「まず無理ね」キッパリ
一切期待してなかったけど、こうも即答されると心に来るものがあるよ…。
そもそも、
IV号の代替となる戦車目当てにドイツに来たのは良い。
欲しい戦車の構想が全然決まってないのもまだ良い。
一番問題なのはそれを"作 っ て も ら う"ことなんだよ!!!
普通に考えりゃわかるけど、戦車ってものすーっごいコストかかるわけよ?
そんなモンを何処のウマのホネかもわからん女子高生に「つおい戦車ちょーだい!」って頼まれて快諾するバカが何処にいるの?って話だよ。
それで首を縦に振る人がいるなら"ウラ"があるんじゃないかと逆に不安になる。
エミ「でも、それを何とかしないと来た意味がないでしょう?」
杏「まぁねー」
『何とかしないと』で何とか出来たら生徒会はいらん。
とは言っても中須賀ちゃんの言う通り、何とかしない事にゃどうにもならない。
…どーしてこうも理不尽な事ばかり起きるかねぇ大洗は。
エミ「で、結局どんな戦車作るか決まったの?」
杏「ティーガーとかマウスみたいなのが貰えれば良いかなぁってくらい?」
エミ「ハァ…」
思いっきり溜め息つかれた。
そもそも"戦車道"については調べまくったけど、肝心の戦車については
ティーガー強ぇぇぇぇ
マウスでけぇぇぇぇぇ
くらいしか知らん。
…あっコイツめ!また溜め息つきやがった!!
杏「んでも戦車も無人機も攻撃するってなりゃそんくらい強力なヤツが必要じゃない?」
エミ「確かにティーガーやマウスの主砲は強力よ。大半の戦車をアウトレンジから撃破出来るくらいにね」
杏「だろー?」
エミ「でも、無人機はどうするのよ?」
杏「あえ?」
エミ「ティーガーやマウスの"戦車砲"じゃ対空攻撃は無理よ」
杏「でも西住ちゃん達アレでB-29落としてたし…」
エミ「あんなもん例外中の例外よ!」
まぁ確かに。あん時はサンダースの"特別ルール"によって助けられたわけで。
黒森峰やプラウダ相手にノンビリ穴掘りやる余裕なんてまず無いわけだ。
戦車の知識が無い自分を呪いたくなる。秋山ちゃん連れて来れば良かった。
エミ「ひとまず、車体についてはティーガーやマウス級のものが必要ね」
エミ「さすがにIV号やパンターじゃ大きな砲は搭載出来ないでしょうし」
杏「ほうほう」
エミ「…で、搭載する砲はアハト・アハトみたいなの」
杏「アハトアハト?」
エミ「8.8cm Flakの事。ティーガーの主砲のベースにもなった高射砲よ」
杏「なるほどねぇ」
そういえばサンダース戦の時にも言ってたなソレ。
高射砲だったヤツを敵戦車に向けて撃ったら撃破できたって話。
1つで航空機も戦車も対処できる理想の砲だ。
エミ「で、ここで問題になるのが"砲塔"ね」
杏「え?砲塔?」
エミ「そう。無人機撃墜のための高射砲を搭載するとなれば、当然従来の戦車のような砲塔じゃダメ」
杏「それは砲を上に向けるから?」
エミ「その通りよ。もし仮にアハトアハトを搭載するとなれば」
エミ「砲塔はオリジナルになるわ」
確かに、今までカスタマイズしてきたIV号対空戦車たちも無人機を倒すために砲を空に向けて射撃していた。
メーベルワーゲンやヴィルベルヴィント、オストヴィントはオープントップだったから、そのまま砲身をただ上に向ければ良かった。
しかしこれらのオープントップな対空戦車は後にルール改定によって使用できなくなった。
その代案としてのクーゲルブリッツは、従来の対空戦車と違い密閉型の砲塔になってて、ジャイロコンパスのように砲塔ごと上下左右に動かした。
…しかし、大型の高射砲を搭載した砲塔は、左右はともかくどうやって上下に動かせば良いのさ!?
エミ「…一つだけ、心当たりがあるわ」
杏「どんなの?」
エミ「"ゲラート554"という砲塔があるのよ」
杏「なにそれ?」
エミ「クーゲルブリッツと合わせて、もう一つの本命となるはずだった対空戦車の砲塔よ」
杏「!」
エミ「…だけど、その砲塔は結局モックアップしか作られず、試作にすら至らなかった幻の対空戦車よ」
杏「幻の対空戦車?」
エミ「V号対空戦車 "ケーリアン" ね」
V号対空戦車ケーリアン
V号戦車、つまり"パンター"をベースにした対空戦車だ。
対空戦車といえばIV号戦車ばかりを想像しがちだが、IV号よりも車体の大きいパンターでも対空戦車が計画されていたそうだ。
そして、そのパンター対空戦車も様々な種類が検討されていたが、その中でも最も完成に近かったのがこの「ケーリアン」という。
当初このケーリアンには、メーベルワーゲンやオストヴィントに搭載されていたような3.7cm Flak43対空機関砲を2連装にしたものが搭載されるはずだった。
しかし実際は連合軍の空襲により工場が破壊され、ベースとなるパンターの生産すら危うい状況となり、最終的に砲塔のモックアップが作られただけで実現はしなかった。
また、実現しなかったもう一つの理由には搭載兵器の変更があったから。
というのも車体に対して武装が貧弱という理由で、搭載兵器を"5.5cm対空機関砲"にするよう計画が変更されたそうだ。
この5.5cm対空機関砲は『ゲラート58』という名称で開発が進められており、試作はされたものの、実用化する前に終戦を迎えた。
ゲラート58の元となった対空機関砲に『5cm Flak41』というものが存在し、こちらは3.7cmと8.8cmの射程のギャップを埋めるために作られたそうで、あのメーベルワーゲンの搭載兵器の候補にもなったらしい。
杏「へぇー中須賀ちゃんって意外に戦車について詳しいんだね」
エミ「意外って何よ。これくらい、"こっち"じゃ普通なんだから」
杏「こっちって?」
エミ「ドイツのことよ!」
新たにわかったことが2つ。
まず1つは対空戦車はIV号だけでなくV号(パンター)でも計画されていたという点。
そしてもう一つは…
私は、私が思っている以上に無謀なことをしているという点。
考えてもみてほしい。
あのV号戦車ケーリアンでさえ試作にすら達しなかったのだ。
ティーガーやマウスをベースにした対空戦車なんてまず存在しないだろう。
しかし、黒森峰やプラウダの戦車を叩き、なおかつ対空攻撃もするという無茶苦茶な条件を満たそうとなれば、ケーリアン以上のものが必要となる。
5.5cmじゃティーガーは叩けない。
エミ「限りなく無理に近い無理ね」
杏「…あたしもそう思うよ」
もしここで『こういう戦車があるよ!』って言ってくれる人がいるなら今すぐ私のところに来てほしい。
…もっとも来たところで「私が考えた最強の戦車」計画が出来ただけで、その次の「作ってもらう」という壁が立ちはだかるけどさ。
さすがに手詰まりだ。どうしようもない。
はるばるドイツにまでやって来て、教えてもらった会社へ交渉をする以前の段階でこんな事になるのだったら日本で悶絶していればよかった。
本当に頭が冴えない。
こういうとき西住ちゃんだったらどうしていただろうか。
エミ「…だったらさ」
エミ「車体と砲だけ既存のものを選んで、砲塔はオリジナルにすれば良くない?」
杏「は?」
エミ「だから、砲塔はオリジナルにするの」
杏「???」
エミ「要は車体と砲だけ何とかして、あとはそれを搭載するための砲塔を新規設計するのよ」
アンタは何を言っているんだ?
砲塔を新規設計するって?
そんなことしたらレギュレーションに引っかかるじゃないか。
この子ちゃんとルール理解してるのかね?
*****************************************
参加可能なのは、1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた車輌と、同時期にそれらを搭載される予定だった部材のみを使用した車輌のみとする。
それを満たしていれば、実際には存在しなかった部材同士の組み合わせは認められる。
計画段階車両に関しては、個別に連盟と協議を行うこととする。
但し、部品等が調達不能等の理由により再現が困難な場合は、連盟が認める範囲において改造することが認められる。
3-01 参加車輌 戦車道試合規則(日本戦車道連盟)
****************************************
…ん?
計画段階車両に関しては、個別に連盟と協議を行うこととする???
杏「…中須賀ちゃん」
エミ「なにかしら?」
杏「例えばさ、戦時中にドイツのお偉いさん達ってさ…」
杏「ティーガーやマウスをベースにした対空戦車って考えると思う?」
エミ「思う」
珍しく中須賀ちゃんが"肯定的に"断言した。
エミ「だってIV号だけでは飽き足らず、V号対空戦車なんて作ろうと計画してたのよ?」
エミ「時間とか物資といった事情が許されるのならば、パンターでもマウスでも対空戦車は計画されてもおかしくないわ」
杏「確かにねぇ」
エミ「ティーガーやマウスをベースにした対空戦車なんだから、搭載する砲もそこそ強力なものになるはず」
エミ「そうなれば私達が考えるように1つの車輌で戦車と航空機を対応できるわけだからね。極端な話」
エミ「場合によっては通常のティーガーやマウスといった"戦車"以上の仕事をする可能性だってあるはずよ」
杏「なるほど…」
エミ「あとは言わなくてもわかるよね?」
んー。ひとまず理事長さんに聞いてみるか。
児玉『お電話代わりました。日本戦車道連盟、児玉です』
杏「お忙しい中失礼します。私、大洗女子学園の角谷杏と申します」
児玉『おぉ、大洗の角谷君か。先日はどうも』
杏「先日の件につきましては本当にありがとうございました」
児玉『いえいえ、こちらこそ。久方ぶりに白熱した試合を見ることが出来たよ』
杏「お陰様で大洗女子は今も元気に戦車道を嗜んでいます。これも理事長や関係者の皆様のおかげです」
児玉『それは良かった。今は丁度大会中で、しかも次が決勝戦ときた。楽しみにしておるよ』
杏「ありがとうございます。それで、お電話の内容ですが、戦車道のルールに関する相談がありまして」
児玉『相談?』
杏「はい。戦車道における試合で使用する戦車についての相談です」
私は理事長さんに現在に至るまでの事情を説明した。
先日の試合で我が校のエースが乗る戦車が大破し、次の決勝戦までに修復するのが困難なこと
そのため新しい戦車が必要となり、代替の戦車を求めてドイツにいること
そして、
既存の戦車をベースに、新しい戦車を作ろうとしていること。
児玉『………』
杏「この件について、理事長の考えをお伺いしたいのです」
児玉『なるほどねぇ』
杏「…」
児玉『そのベースとなる戦車は…少なくとも"試作"開発に着手しているというのは間違いないのだね?』
杏「はい」
児玉『そして、その戦車に搭載する砲は"戦車砲"ではなく"高射砲"であり、こちらも試作への着手に至ってたものと』
杏「ええ。おっしゃる通りです」
児玉『ただ、その車輌と砲を結びつける"砲塔"だけが存在せず、再現するには新規に設計する必要があると』
杏「はい。この砲塔こそが今回の相談となります」
児玉『うーむ………』
杏「如何でしょう?」
児玉『………難しいねぇ』
杏「!! それはどういう…」
児玉『判断が難しい。という意味だね』
杏「使用許可を出すのが難しい…という意味ではなく、"可か不可かの判断が難しい"、という意味ですか?」
児玉『うむ…。車体と砲はOKだけれども、砲塔がね…。かなりグレーゾーンなのだよ』
杏「…」
児玉『ちなみに、その戦車はまだ完成してはおらんのだね?』
杏「はい。戦車道連盟の許可が降り次第、交渉に入ろうと考えています」
児玉『そうか…。なら』
杏「?」
児玉『その計画はやめた方が良い』
杏「なっ…」
児玉『君が一生懸命やっているのはわかるよ』
児玉『…ただね?』
児玉『君が提示した案件を、許可すべきか否かを理事会でまず決める』
児玉『通った場合、改めて各方面へ製造を依頼するという流れになると思う』
児玉『…しかし、それでは決勝戦にはまず間に合わない』
杏「っ…!」
児玉『だから悪いことは言わない。…やめておきなさい』
杏「ですが…!」
児玉『私だってこのようなことは言いたくない』
児玉『だが、実現不可能なものに時間を浪費するのは得策じゃない』
杏「………」
杏「この提案に、西住流家元が関わっているとしてもですか?」
児玉『…なに?』
杏「一点、お伝えし忘れた事があります」
杏「破損した戦車の修復が間に合わないと判断した時、私は西住流家元のもとへ足を運びました」
児玉『…』
杏「そして相談した結果、残念ながら戦車をお借りすることは出来ませんでした」
児玉『そうだろうね。西住流家元とは言え、一つの学校へ安々と戦車を貸与するとは思えまい』
杏「…しかし」
児玉『?』
杏「戦車の代わりに、一通の封筒を頂きました」
児玉『封筒?』
杏「はい。本来なら丁重にお断りされ、手ぶらで帰るところなのですが」
杏「どういうわけか、西住さんは私に封筒を差し出した」
杏「かつてドイツの戦車を製造していた企業の情報が記載された一枚の用紙が入った封筒を…」
児玉『…』
杏「そして、西住流家元は確かにこう言いました」
― ヒントはあげたわ。あとは貴方の力でそれを形にしなさい
児玉『………』
杏「これが何を意味するかはまだわかりません」
杏「ただ、一つ言えることは」
杏「西住流家元は首を横には振らなかったということです」
児玉『………そうか』
杏「…」
児玉『西住さんはそこまでしてくれたんだね』
杏「…!」
"そこまで"…?
児玉『…わかった。私も一肌脱ぎましょう』
杏「!!」
児玉『ひとまず、その作りたい戦車の"概要"を私のところへ送って来なさい』
児玉『ベース車輌、搭載する砲の種類、そして砲塔について、出来るだけ詳しくまとめたものをね』
杏「ありがとうございます!!」
児玉『ただし、』
杏「っ!」
児玉『まだOKを出したわけじゃない』
児玉『あくまで、まず資料を見てから判断。…という流れだよ?』
児玉『だから糠喜びだけはしないで欲しい』
杏「わかりました」
児玉『…しかし、大洗女子は不思議だねぇ』
杏「えっ?」
児玉『無限の可能性を秘めている』
杏「…」
児玉『何故、こんな良い学校を廃校にしたがるのか、私は理解に苦しむよ』
児玉『文科省は戦車道世界大会のために優秀な生徒だけに予算を集中させたがっておる』
児玉『だが…』
児玉『本当に、我々年配者が手塩にかけて育てないといけないのは』
児玉『君たち全ての若者達なのだよ』
杏「………」
児玉『縛る必要なんてない。伸び伸びと戦車道を楽しんで欲しいものだ』
児玉『その中で戦車道の概念を理解し、技術を身に着け、少しずつ育ってくれたら良い』
児玉『そうすれば、本当の意味で素晴らしい人物が誕生する』
杏「……………」
児玉『それが、私が望む戦車道だよ』
杏「………たとえ」
児玉『うん』
杏「たとえ何度、廃校を宣告されても、わたし達は撤回のために、全力を尽くします…!」
児玉『済まないね。勝手な大人たちのせいで苦労かけてしまって』
杏「…」
児玉『今の日本には目先のことに囚われ過ぎて、本当に大事なものを見失っている』
児玉『残念ながらお役所の人間はそれが理解できていない』
児玉『だから、君たちが徹甲弾のように硬い頭の彼らに、本当に大切なものを教えてやって欲しい』
杏「はい」
児玉『頼んだよ…』
杏「それが私の戦車道です」
西住ちゃんのように優れたリーダーシップは発揮できない。
秋山ちゃんのように戦車の知識もロクにない。
だけど私は私なりの方法で、彼女たちが心から愛した"道"を守りたい。
その為だったら何だってしよう。
杏「あと、もう一つだけ、お願いがあります」
杏「いやぁーお待たせお待たせ」
エミ「ずいぶん遅かったわね?」
杏「連盟にかけるついでに、ウチの生徒会にもちょっと電話しててねぇ」
エミ「ふーん。で、どうだったの?」
杏「大漁だったよー」
エミ「やったじゃない」
杏「ホントだよー。なにしろ」
杏「ひっさびさのお通じだったからねぇー。いっぱい出たよ」
エミ「………は?」
杏「冗談。まずは"資料"を送ってほしいとのことだよ」
エミ「…そう」
ベースとなる戦車は何にするか
搭載する砲はどうするか
そしてその2つを結ぶための砲塔はどうするか
私と中須賀ちゃんは"設計図"を作った。
そして翌日、朝一番にその設計図を戦車道連盟へ送信した。
その結果、
・1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた車輌をベースにしている
・1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた高射砲を搭載している
この2点が認められ、"砲塔の問題は無事にパスした"という返事が戻ってきた。
私達が提案した戦車の大まかな概要は、
・ティーガーやマウスのような、「重戦車」の車体
・8.8cm Flakのような実在する「高射砲」を搭載する
・「V号対空戦車 ケーリアン」のような砲身を上空へ向けられる旋回式砲塔
この3点だ。
ひょっとしたら完成品は試作設計とはかけ離れたものになるかもしれない。
しかし上記の範囲内であれば連盟はOKだという。
そしてもう一つ、報告を逐一戦車道連盟に必ず入れること…というのが条件だ。
これで私達はまず第一の関門を突破したことになる。
しかし、これは序の口にすぎない。
次は、"戦車を作ってもらう"という最大の関門が待ち受けている。
●Tips
杏「I号戦車、II号戦車、III号戦車、そして西住ちゃんたちがのるのがIV号戦車だね」
エミ「そうよ?」
杏「んで、V号がパンター、VI号がティーガー」
エミ「ええ」
杏「ってことはマウスはVII号ってわけか」
エミ「違うわよ」
杏「え?」
エミ「マウスはVIII号」
杏「それじゃVII号は?」
エミ「"レーヴェ"と呼ばれる70トン級あるいは90トン級の重戦車が計画されてたけど」
エミ「マウスとか他の戦車と平行して開発・生産するのは国家資源の浪費ってことで開発は中止になったのよ」
杏「ふーん。そうなんだ」
【翌朝 ホテル レストラン】
朝食なう。
レストランのバイキングにてドイツ料理に舌鼓を打ちながら今日の計画を練る。
特に干し芋が切れてから芋不足に陥ってたので、ポテト料理をひたすら食べた。
中須賀ちゃんから『イモ女』なんて呼ばれたけど気にしない。
なにしろイモだからね。イモはいいぞ!
あ、あとソーセージも美味しかった。河島や小山にも食べさせてやりたいなぁ。
エミ「…にしても良く食べるわね」
杏「1つ関門をパスして安心したせいか急にお腹が空いちゃってねぇ~」モグモグ
エミ「それは良いけど。…そんなにイモばっかり食べて飽きないの?」ズズ...
杏「全っ然?」モグモグ
エミ「…そう」
杏「ふぅ…。そんで、まずはクルップ社だよねー?」
エミ「ええ。そうよ」
杏「んー」
エミ「なによ?」
杏「アポ無しで戦車つくって下さいってどう考えても無理だよなぁ…って」
エミ「そうね」
わかってる。わかってるよ。
でも、そんなアッサリと否定されるとホント悲しいのよ…。
せめて『やってみなければわかりません!可能性がある限り進みましょう!』って西住ちゃんみたいなこと言って欲しいなぁ…。
エミ「みほも両手あげて降伏するレベルの無理難題に取っかかろうとしてるのよ私達は…」
杏「ぐぅ…」
エミ「でも、仮に私達の第一要求が通らないとしても、何か他のところで有益な情報が得られるかもしれないわ」
杏「まぁねぇ…(それもあまり期待しちゃいかん気がするけど)」
結局のところ、当たって砕けろだ。
私達はレストランを後にして、クルップ社のあるエッセンへ向かった。
【クルップ社 応接室】
………やっぱりな。
行く前から予想はできていた。
見ず知らずの小娘に『お金ないけど超強力な戦車作ってよ』と言われて『無理』以外の回答を期待する方がおかしい。
そんな無茶ぶりが出来るのはヒトラーくらいだ。応対してくれたスタッフさんに鼻で笑われたよ。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛どうしよ!!
こんなんじゃ他の会社行っても同じ結果になるだけだし。
そもそもこうなるなんてドイツ行く前からわかってたし!
なんで家元もあんな紙切れ渡したんだよっ!
素直に門前払いされた方が良かったよクルップみたいに!!
エミ「………」
中須賀ちゃんも呆れてるよ。予想通りな展開だけに。
私が中須賀ちゃんの立場だとしても『行く前からわかってたのに何でわざわざドイツ来たの?バカなの?』ってなるもん…。
杏「…帰ろう。さすがに無謀だったよ」
エミ「…」
杏「中須賀ちゃん?」
エミ「*****,**************?」
「***…*************」
エミ「***!**********,**********」
「*********」
エミ「*****」
え…なに?何の話してるの??
ドイツ語わかんないよ。
え?なんであんたら握手してんの?!
………もしかして、
エミ「車体、何とかなるかもしれない」
杏「ちょっ、何とかなるってどういうことよ?!!」
エミ「落ち着きなさい…」
「HAHAHA」
スタッフの人にまた笑われちまったよ…。だけどそんなことはどうでもいい。
誰がどう考えても「無理」しか返って来ないようなお願いしてるのに"何とかなる"ってどういうことさ?!
まさか中須賀ちゃん………
ヒトラーの孫とか?
エミ「そんなわけないでしょーが!!!」
杏「あはは。そーだよねー」
「HAHAHAHA」
エミ「まったく…」
ブチ切れ方はそっくりだけど、黙っておこう。
そんなことより、説明してもらおうか中須賀ちゃん
エミ「さすがに戦車を作れってのは無理だけどさ」
杏「うん」
エミ「戦車道やってるドイツの学校から借りることは可能かもしれないってこと」
杏「!」
エミ「だから、クルップ社製の戦車を使ってる学校を紹介してもらうのよ」
その手があったか!!
何度も言うけど、"かつて戦車作ってたから"という理由だけで、一企業にノーマネーで1から戦車作れというのはまず無理。時間的にも(会社が負担する)コスト的にも。
で、作るのがダメなら、既に完成している戦車を借りれば良かったのだ。…どうしてそんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。
そしてどーしてそっちを最初に教えてくんなかったんだよあんのクソババア!!!
エミ「いや、いきなり学校に行っても貸してもらえないわよ?」
杏「えっ?」
エミ「考えてもみなさいよ。身元の分からない他国の人間が急に『戦車貸して』で『ハイ、どーぞ』なんてなると思う?」
杏「確かに…」
エミ「仮にも実弾を発射する兵器なんだから、簡単に借りれたら色々マズイわよ」
中須賀ちゃんの言うとおりだ。
何処の馬の骨かもわからん輩にホイホイ戦車を貸してしまうのはあまりに危険だ。
相手が反社会的勢力だったらテロに繋がりかねないし、そうでなくても借りパクされる可能性だってある。
戦車を借りパクって聞いたことないけど、実際されたらかなりヤバいだろう。
なにせドイツ戦車はどれも非常にスペックが高い。先進国ならまだしも途上国では余裕で戦力となりうるのだから。
まぁ戦車をパクられる学校があったらそこの隊長は相当マヌケだけどね。
…そういった事情から本来なら学校単位で申請するものなんだってさ。納得。
じゃぁ何でウチらがそのやり取り出来るって?そりゃあ私が生徒会長だからだよ。
こう見えて大洗女子や学園艦に関する一定の権限を持ってる。だから今回こーやってあちこち走り回ってるわけよ。
西住ちゃんは元西住流の子だし戦車も詳しいけど、こういった学校単位でするような交渉権の類は一切持ってないからねー(西住ちゃんに限った話じゃないけど)。
ちなみにあたしが死んだら小山と河島が学校や学園艦の運営・管理を引き継ぐことになる(大丈夫かなぁ…)。
杏「…ということは、ここに来たのはその学校とウチらを結ぶための何かしらの"コネ"を作るためと?」
エミ「その通り」つ[書類]ドッサリ
杏「うっわ…なにこれ…」
エミ「借用書みたいなものよ」
杏「めっちゃ分厚いじゃん…」ゲンナリ
エミ「それだけ厳重なの」
おっかしいなぁ…ドイツに来たのに日本の商社みたいな事やってっぞ?
こーいうのはPCでササッと入力とかじゃダメなのかねぇ…。
え?筆跡鑑定?あーそっか…。
1時間ほどかけてよーやく書類を全部書き終えた。右腕がプルプル震えてる。
本来こういう書類の作成とかはぜーんぶ小山に丸投げしてたし(もう少し手伝ったほうが良いのかな?)、私が何か作る時はだいたいパソコンだったから手書きで書類を作成するのは久しぶりだよ。
ひとまずこれでクルップ社からの紹介状を入手出来るので幾分スムーズに話が進みそうだ。
…いや、幾分どころではない。一気に話が進んだ。
『作ってもらう』と『貸してもらう』は違うが、『戦車を入手する』という目的は同じだ。
だが、1から作るよりも既に完成しているものを借りた方がコストも時間もかからない。
これは当初の計画よりも早く目的が1つ達成できるかもしれない…!
さて、どの学校に行くのかと中須賀ちゃんに訪ねたところ、ニーダーザクセン州ノルトハイム郡バート・ガンダースハイム市(長ったらしいなぁ…)にあるヴィルヘルム女学院が良いという。
話によると、そこは戦車道で優勝常連校と言われてる強豪中の強豪なんだそうだ。
日本で言う黒森峰みたいなものだろうか。西住ちゃんに聞いたらわかるかな?
何にせよ強豪校ならば強力な戦車も保有しているだろうし、行ってみる価値は大いにある。
【ヴィルヘルム女学院】
というわけで学校に到着したよ。
なんというか、豪華だね。さすが優勝常連校だけはある。
聖グロみたいな華やかさと黒森峰の荘厳さ混ぜた何かよくわからない感じだよ。
杏「」ヘトヘト
エミ「」ヘトヘト
あー…うん。
"というわけで学校に到着したよ"って軽々しく言ってっけどさ、実際のところエッセンからココまで電車で方道3時間近くかかるのよ。
まぁ疲れたわホント…。河島に丸投げしたい。しないけど。
学校の中に仮眠室無いかなぁ。マッサージチェア付きがいいなぁ。
エミ「あるわけないでしょ…」
杏「だよね…」ショボン
ひとまず来賓用の入り口から施設へ入り、通りすがりの学校関係者に用件を伝えた。
最初『何言ってんだこいつ』みたいな顔してたけど、クルップからの紹介状を出したら急に表情が明るくなった。クルップパワーすげー。
だけど中須賀ちゃんが『何で最初から(紹介状)出さないのよ』ってジトーっと睨んできた。
いきなり出したって面白くないじゃん?人を散々コケにする相手が急に慌てふためくところ見たら何かスカッとしない?
………悪趣味って言われた。
【ヴィルヘルム女学院 戦車倉庫】
私たちは学校の戦車倉庫へ案内された。
いや、倉庫というよりはスーパーマーケットだねーこりゃ。
あちこちに世界各国の戦車が"陳列"されている。うらやましい。
杏「うっひゃー。サンダースの倉庫みたいにいっぱいあるねぇ」
エミ「サンダースどころか黒森峰だって敵わないわよ」
杏「へぇ。さすがドイツ一の高校だけあるよ」
エミ「何言ってんの?」
杏「ふぇ?」
エミ「世界一よ」
杏「え?」
エミ「世界大会でドイツ代表選手を最も多く輩出している学校なのよ」
杏「そーなの?」
エミ「そうよ。だからこの学校は実質戦車道において"世界一"なの」
杏「世界大会ねぇ…ウチらにとっては遠い世界の話だよ」
エミ「でしょうね」
杏「…」
世界は本当に広い。
私達は目の前の学校の存続の危機のために必死になっている。
なのにこの学校が見ているのは世界だ。
いかに自分たちが小さな枠に押し込まれているかがわかる。
エミ「これが世界との違いよ」
杏「…」
エミ「残念ながら日本の戦車道は世界各国から大きく遅れをとっているわ」
エミ「だから、世界選手権大会に出たところで初戦敗退、良くて一回戦勝利が関の山ってとこかしら」
杏「そりゃ残念だね」
エミ「社会人チームが大学選抜チームに負け、その大学選抜チームが高校生チームに負ける」
エミ「言い方は悪いけど、このザマでは世界を相手に戦えない」
杏「………」
エミ「だから、文科省が本腰を入れて選手育成に躍起になっていて」
エミ「その結果、弱小校を"間引く"政策にシフトしつつあると」
エミ「日本代表選手を育成するべく、強豪校に予算を集中させるためにね」
杏「削られる側としちゃ笑えないねぇ」
エミ「だから生き残りたければ"結果"で示すしかないのよ」
杏「そだね」
ウチらは二度も結果を出してきた。
にも関わらずまだこんな姑息な手段を使ってまで潰そうとしている。
アンタら文科省が納得する"結果"って一体何なのさ?!
エミ「日本人は礼儀だの情けだのそういったものを尊重しているわ」
エミ「それは悪いことじゃないけど。世界を相手にした勝負じゃそれは何の役にも立たない」
杏「…」
エミ「勝つか負けるか。それだけ。それ以外は何も必要ない」
杏「でもねぇ」
エミ「なに?」
杏「確かに日本の戦車道はせいぜい日本でしか通用しないレベルだと思うよー」
杏「んだけどさ、自分たちの中で守りたいモノ、大切にしたいモノの為に一生懸命になる」
杏「そんな小さな世界が悪いとは思えないんだよねぇ」
エミ「…」
西住ちゃんが前を向いて最初の号令をかけた。
西ちゃんが涙を流して最期の吶喊をした…
自分や仲間の"道"を守るために先頭に立って。
あんなの見せられたら世界なんてもうどうでもいい。
彼女たちが守りたいものを皆で一緒に守りたいよ。
あの子たちが胸に抱える"情熱"は、血も涙もない灰色の成果主義なんかでかき消して欲しくはないよ…。
日本人はそういった"情"にもろいせいか、勝負師になれないのかもしれないけどさ。
でもその情が様々な形になって人の心に染み渡るから、極東の小さな島国が弱いながらも愛される国になった。
その場しのぎの対応や慌ててやるような目先の成果主義だけじゃ何もつかめないし何も守れない。
地道に積み重ねてきた静かな歴史こそが、ビクともしない屈強な柱になるんだよ。
エミ「でもウチらがやってることは戦車を貰うという"その場しのぎ"な対応だよね」
杏「………うるさいな…」
…なんにせよ、今は世界の道よりも私達の道をこじ開けるほうが先だ。
しばらく戦車を眺めていたら、この学校の責任者がやってきた。
軽く自己紹介を済ませたら「何がほしいの?」と聞いてきたので、ティーガーやマウスといった強力な戦車が欲しいと言った。…中須賀ちゃん経由で。
すると「ティーガーはともかくマウスはオススメしないよ?」と返事が帰ってきた(通訳:中須賀エミ)
杏「えっ、マウスダメなの?あんな強い戦車なのに?」
エミ「確かに強力だけど実戦ではまず使えないわね」
杏「ふぇ?なんで?」
エミ「不要な長物だから」
杏「えー。確かに車体は大きいけどさ、あんだけの火力と装甲があればどんな戦車にでも勝てるじゃん!」
エミ「重い・ノロい・使えないの3拍子そろった欠陥品よあんなもの」
杏「えぇ…」
エミ「マウスはね、火力…というより防御力のために全てを犠牲にした一辺倒な戦車なの」
杏「へー?」
エミ「"ソ連はティーガーやパンターを超える強力な戦車を用意するだろう"というヒトラーの警戒心から生まれた鉄のカタマリよ」
エミ「最大速度はたったの20kg。試験走行の段階でエンジンが故障」
エミ「もし仮に戦場に出たとしても同じようなトラブルはおそらく発生するはずよ」
エミ「で、発生したらその超重量が災いして回収も出来ない」
エミ「仮に故障しないとしても、マウスを動かすには大量の燃料が必要となるわ」
エミ「もっともそれ以前にマウスを作るだけで膨大な人員と資材を消費する」
エミ「…後半は私達には関係ないけど、とにかく"史上最大の戦車"ってだけで完全にお荷物でしかないわ」
エミ「だからマウスは論外よ。わかった?」
杏「おっ、西住ちゃんたちのIV号だ。でもなんか車体の表面デコボコしてんなー?」
エミ「聞けェェェェェ!!!」ガァァァァッ
わかったわかった。要するにマウスは"使いもんにならん"ってことでしょ?
ならば私が「ティガーかマウスか」って言った時にどーしてそれを言わなかったのさ…。
え?固定砲台にするならマウスでも良いって?…それはちょっとねぇ…。
杏「…となるとやっぱティーガー?」
エミ「うーん…」
杏「おやおや、随分と優柔不断だねぇ?」
エミ「ええ…。仮に8.8cm高射砲を載せるとしたらティーガーじゃ少し小さいから」
杏「いや、ティーガーが小さいって、ティーガーも8.8cm砲載せてるじゃない?」
エミ「砲塔を上に向けるとなるとまた事情が変わってくるのよ」
杏「あぁ…そうか」
確かにティーガーは8.8cm高射砲生まれの戦車砲を搭載しているが、それは狭い砲塔内に収められるようアレンジしたものなのだ。
一方で今回はそのまま高射砲を載せる。…いや、砲塔に収まるよう多少は改良はすると思うけど。
しかし、そうなれば砲塔も当然大きくなるだろうし、大きくなった砲塔を支えるために車体もより大きいものが必要となる。
マウスがダメでティーガーもダメ。他に何があるのだろうか…。
エミ「**********」
「******」
エミ「**?*******」
「*****…,********」
エミ「*******」
まーたドイツ語で何か喋ってる…。
英語ならまだしもドイツ語なんて一言たりともわかんないよ。"ぐーでんもーげん"くらいしか。
ほら中須賀ちゃん。何話してたのか教えてよ。
エミ「ひとまず車体、決まったわよ」
杏「え゛っ!?ちょっと待ってよ!」
エミ「なによ…」
杏「なによじゃないよ!どんなのかわからないまま決定は流石に困るって…!」
エミ「心配ないわよ」
杏「えぇ…」
こうして私の知らんところでベースとなる戦車が決まった。…解せぬ。
ティーガーでもない。マウスでもない。だけど高重量な高射砲を搭載するためにベースとなる戦車の名前は…
『エントビックルングストーペン・フォンダーツ・スーパーシュワール』
エミ「…随分カタコトね」
杏「だってドイツ語わかんないんだもん」
エミ「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーンって言う外国人レベルよ」
杏「うっさいなぁ…。んなことよりこの戦車初めて見るんだけど何ていうの?」
エミ「この戦車はね、"E-100"って言うの」
杏「ほうほう。随分でかいねぇ」
エミ「この戦車もマウスと同じく"超重戦車"カテゴリに含まれる戦車なのよ」
杏「ってことはやっぱ重たいの?」
エミ「そうね。完成してたら130~140トンになると言われているわ」
杏「…結局マウスと変わんなくない?」
エミ「そんなことないわよ。30トンも違えば足回りの負担ぜんぜん違うんだから」
エミ「それにE-100は最大時速40キロは出せるしね」
杏「ほうほう」
杏「そういえばE-100はパンターとかティーガーみたいな動物の名前じゃないんだ?」
エミ「ええ。ひょっとしたら将来的に名前が付けられたのかもしれないけど、そうなる前に戦争が終わったからね」
杏「そーなんだ」
エミ「他にもE-75とか、E-50とかE-25、E-10といった数パターンあるわ」
エミ「これらの戦車は生産性を高めるために構成部品を共有化し、また重量を標準化するという試みのもと計画された」
杏「計画ってことは結局作られなかったの?」
エミ「ええ。E-100の車体が試作されただけ」
杏「なるほどね。試作されたってことは戦車道のルール的にはおっけーなのかねぇ」
エミ「おそらくね。何なら聞いてみたら?」
杏「あいよー。…って、結局借りるのOKなの?」
エミ「ええ。元々世界各国の戦車道のある学校に貸してたりするからその辺は大丈夫よ」
杏「そっかそっか。んじゃいっちょ聞いてみますかねぇ」
『E-100』か…。そんな戦車があったなんて知らなかったよ。
ひとまず"ハンコ"を押す前に理事長にこの件を相談した。どうやら児玉さんはこの戦車のことを知っているみたいだ。
なんでもマウスと同じ砲を搭載するか、更に大きい15cm砲を搭載する予定だったとか、それよりも大きい17cm戦車砲(こちらは大きすぎるので駆逐戦車のような固定式戦闘室に収める形だったそうだ)まで計画されていたそうだ。
なかなか興味深い話だけど、今はそれよりこのE-100がOKなのかどうかを知りたいのですよ理事長。
児玉『おめでとう。車体はOKだよ』
杏「本当ですか!?」
児玉『あぁ、車体はね。残るは搭載する砲と砲塔だね』
杏「ええ」
児玉『ただ…時間的に間に合うのかい?』
杏「それは…やってみなければわかりません」
児玉『そうだね。もし間に合わないのならば、最悪E-100に既存の砲塔を流用して運用するしかない』
杏「えぇ…」
児玉『わかった。それじゃ引き続き頑張って。何かあったら報告だけはしっかり頼むよ?』
杏「はい。ありがとうございます」
児玉『あ、そうだ』
杏「はい?」
児玉『いかんいかん。肝心なことを忘れとったよ。年を取るといかんねぇ…』
杏「何でしょう?」
児玉『今回の車体や、そのあとの戦車関連のものは日本大使館経由で防衛省へ送ってほしい』
杏「防衛省?」
児玉『うむ。戦車道で使うからとはいえ、モノは戦車でしかも海外から持ってくるとなれば正当な手続きをしないと色々厄介なことになるのだよ』
杏「そうなのですね…(いわゆる大人の事情ってヤツか)」
児玉『それに特殊カーボンや判定装置なども含め、もう一度チェックしておきたいからね』
杏「わかりました」
児玉『まぁこのあたりは先方さんに聞いてみたらわかると思う。よろしく頼むよ』
杏「はい。ありがとうございます」
いよっしゃぁぁぁぁぁ!車体オケー!!!!
最初の難関突破したぞー!!
なんだか優勝した時の気分だよ。まだ優勝してないのに。
でも念願の戦車(の車体)ゲットだよ?一気に話が進んだよ!!
エミ「」ペチッ
杏「あいたっ!何すんのさ!?」
エミ「」ドンッ
[書類の束]
杏「うげっ!!」
エミ「」つ[ペン]
杏「…これを全部書けと?」
エミ「」コクリ
杏「」
クルップ社で書いた時よりも書類の量が多いじゃないか…。
曰く戦車をレンタルする件に加え、その戦車をドイツから日本へ送るための手続きに関する書類も含まれているとか。A4用紙1枚で済ませてちょ…。
文句を言っても始まらんので、私は履歴書のような書類をひたすら書き続けた。
一方で中須賀ちゃんは戦車に乗ったり、生徒と会話をしている。うらやましいなぁ…。
エミ「早くしてよ。日が暮れちゃうじゃない」
ちったァ手伝えよゴルァァァァァァ!!!
その後私は日が暮れるまでひたすら書類を書き続けた。なんだか反省文書かされる悪ガキの気分だった。
書類を提出したら担当者曰く責任持って"速達"で日本へ届けるとのこと。任せたよー。
杏「もう今日は右手使わんよ………」プルプル
エミ「どうやってドアの扉あけるのよ?」
杏「左手使う」
エミ「ご飯は?」
杏「中須賀ちゃん食べさせて」アーン
エミ「嫌よ」
杏「今からホテルまでまた電車で3時間かぁ…」ゲンナリ
エミ「あー、そのことなんだけど」
杏「んー?」
エミ「なんか航空科の人がホテルまで送ってくれるそうよ」
杏「マジで?!」パァァ
バリバリバリバリ
ヒュインヒュインヒュインヒュイン
航空科パイロット「キタデ」グッ
杏「うおーヘリコプターだ!」キラキラ
エミ「ほら、はしゃいでないで乗るわよ」
バリバリバリバリバリバリ
杏「すげー!早ぇぇぇぇぇ!!」キラキラ
航空科パイロット「セヤロ」グッ
エミ「わかったから。少し落ち着きなさい…」ハハハ
【夜 ホテル前】
航空科パイロット「マタノ」グッ
杏「ありがとー!」ダンケダンケ
エミ「ははは…」
恐ろしいほどサービス旺盛な学校だった。
片道3時間だったものがヘリだとたったの1時間だ。こりゃぁ良いや~。
ところでさっきのヘリ何ていう名前なんだろ?
エミ「"ティーガー"よ」
ティーガー?!
…あ、なんだ。ティーガーという名前のヘリコプターなのね。びっくりした。
にしてもパッと見た感じ2人乗りっぽいのに3人も乗れたし最近のヘリって技術が進んでるんだなー。
………。
深くは考えないようにしよう。
杏「…ところで無人機として出たりしないよねアレ?」
エミ「戦後のヘリなんだから出ないわよ」
とりあえず今日のノルマ(?)は達成できた。
大収穫と言ってもいい。なにせ、一番の課題である戦車の入手が決まったからだ。
ひとまず西住ちゃんに連絡しとこーっと。
みほ『………もしもし…』
杏「西住ちゃーん!ぐーでんもーげん!」
みほ『…はぁい…どうもぉ…』
杏「聞いてよ西住ちゃん!戦車の車体手に入ったよ!!」
みほ『…そうでふか……』
…ありゃ?なんか全然興味なさそうだよ?
というか何か声に元気がない…。風邪でも引いちゃったのかな?
…え?時差?日本とドイツって時差どんくらい?
ほうほう。日本のが8時間進んでるとな?
ってことは今こっちがだいたい夜の8時くらいだから………
げぇっ!朝の4時じゃん!!
西住ちゃんゴメンっ!!!
みほ『あのぉ…あとでも良いですかぁ…寝ますぅ……』
杏「う、うん。後でね…」
みほ『ぁぃ…おやうみなひゃ』
ツーツー
その日西住ちゃんは寝坊したらしい。ほんとごめん。後で遅刻ノーカンにしとくから許して。
…でもさぁ、
西住ちゃんの寝起きの声メッチャ可愛かった!!!
いでぇっ?!なっ何すんのさいきなり!!?
【ホテル 部屋】
エミ「あー疲れた…」
杏「同じく。特に右手が」
エミ「でも良かったじゃない」
杏「だねー。手段は違ったけど、目的は達成できた」
エミ「作るよりも借りる。この方が時間もコストも節約できる」
杏「うんうん。感謝してるよー中須賀ちゃん」
エミ「布団の上で寝っ転がって言われても説得力無いわよ…」ヤレヤレ
杏「ごろごろ~」
エミ「こっち来るな!ここは私のエリアよ!」
エミ「それで、次は"砲"ね」
杏「そだねー」
エミ「ともなればやっぱりアハト・アハトかしら」
杏「そういえばずっとアハアハの一点張りだけどさ、その他に高射砲って無かったの?」
エミ「あることはあるけど…」
杏「例えば?」
エミ「まず10.5cm Flak38(39)」
杏「ほほう」
エミ「これは8.8cm Flakの後継種として開発された高射砲ね」
エミ「で、もう一つは12.8cm Flak40」
エミ「こっちはドイツ最大の高射砲なんだけど、重すぎるから移動はほぼ不可能ということで、ドイツの主要都市の高射砲塔に設置したもの」
杏「12.8cmともなればさぞ強力だろうねぇ」
エミ「マウスやヤークトティーガーに搭載されてる12.8cmPak44(KwK44)が連合軍の主力戦車の正面を3,500m離れた場所から貫通できるというからね」
エミ「おそらくそれ以上に強力だと思うわよ」
杏「え、同じ12.8cmなのに??」
エミ「同じ12.8cmだけど、マウスやヤークトティーガーのは55口径で、Flak40は61口径だから、砲身が長い分威力も上がるのよ」
杏「へー。だから同じ7.5cmでもIV号とパンターとでは違うんだねぇ」
エミ「そういうこと」
杏「でもさ…」
エミ「んー」
杏「それって、E-100に乗せられないんだよね?重たすぎて」
エミ「えぇ…」
杏「…ちなみに10.5cmの方は?」
エミ「厳しいと思うわよ。何しろ8.8cm flakの倍以上の重量なんだから」
杏「そっかぁ…」
エミ「ただね、8.8cmでも十分よ」
杏「え?そうなの?」
エミ「ティーガーIIやエレファント、ヤークトパンターに搭載されている71口径8.8cm戦車砲でも」
エミ「55口径 12.8cm戦車砲と同じように3,500m以上離れた場所から連合軍の主力戦車の正面装甲を貫通出来るとされているわ」
杏「!」
エミ「ティーガーIの56口径とティーガーIIの71口径。同じ8.8cmでも188cmも砲身長が違えば威力は全然違うわね」
エミ「しかもティーガーIIは砲身長を伸ばした分、装薬も増やしている」
杏「へー勉強になるねぇ」シミジミ
エミ「ひとまず、明日はラインメタルへ行ってみましょう」
杏「そうだね。今回みたいにまた貸してもらえるかもしれないしね」
エミ「………」
杏「どったの?」
エミ「いや…なんでもないわ」
杏「?」
エミ(…悔しいけどここまでね……)
●Tips
そど子「ちょっと冷泉さん!今日もまた遅刻じゃないの!」
麻子「私は朝は無理だから仕方ない…」フラ...
そど子「そんなの関係ないわよ!このままじゃ本当に留年になるわよ!」
麻子「遅刻日数はリセットしたから問題ない…」ウツラウツラ
そど子「とにかく!ちゃんと早く寝て早く起きれるようにしなさい!生活習慣の乱れは風紀の乱れになるんだから!」
麻子「考えておこう……」
そど子「全く。前の試合で隊長やってたとは思えないわね。あなたも西住さんを見ならないなさい!」
みほ「うわぁぁぁぁぁ遅くなってすみませぇぇぇぇん!!」ヒーン
そど子「」
麻子「西住さんが何だってそど子?」
そど子「…もう…おしまいよ………」ヘナヘナ
麻子「お、おいしっかりしろそど子…!」
麻子(そど子がグレてもらっては困るから明日は早く起きるか…)
【デュッセルドルフ ラインメタル社】
昨日と同じように朝食を済ませた私達は、その足でラインメタル社のあるデュッセルドルフへ向かった。
8.8cm高射砲はクルップ社が製造しているのだが、このラインメタル社もまた8.8cm高射砲の前身でもあり、後世の高射砲のモデルとなる『8.8cm Kw Flak』をクルップ社と開発していたそうだ
なお、この頃はまだラインメタルじゃなく『エーアハルト』という社名だったらしい。
そんなラインメタルは現在は44口径の120mm砲を開発・製造し、一部を除き西側諸国の主力戦車の砲身として採用されている。
日本の90式戦車に搭載されているものもラインメタル製をライセンス生産したものだ。
…さすがに戦後の戦車砲はレギュレーション違反だから使えないけどね。
エミ「………」
杏「やっぱり"作ってもらう"は駄目だったね…」
エミ「ええ…」
杏「正直車体の時と同じように"作ってくれ"には期待してなかったよ」
杏「だからさ、また紹介してもらおうよ。高射砲を提供している学校を」
エミ「無理よ」
杏「え?どうしてさ?」
杏「車体の時みたいに借りればいいじゃん?」
エミ「それが出来たら苦労はしないわ…」
杏「どういうこと?」
エミ「車体と違って高射砲は砲塔用に再設計しないといけないんだから」
杏「!!」
そうだった…。
高射砲はそのまま搭載するのではなく、砲塔内に収まるようにアレンジを加えないといけないんだった…。
砲塔内に収まるように改造するだけだから、砲身や発射機構に手を加えないのでレギュレーション違反にはならない。
しかし、その改造は"借り物"では出来ないのだ…!
なぜなら、改良した時点でそれはもう借り物ではなくなってしまうのだから………。
エミ「残念だけど…これまでよ…」
杏「ちょっ!まだ他に方法あるかもしんないじゃん!」
エミ「一から作らないといけないのだから、それが無理となったらお手上げなのよ…」
杏「じ、じゃぁ他の会社当たってお願いすれば!」
エミ「クルップやラインメタルみたいな大手企業ですら『作れ』が無理なのに、」
エミ「それ以外のメーカーが請け負ってくれるとは思えないわ…」
杏「それじゃぁ…」
エミ「だから言ったじゃない…」
エミ「お手上げ…って」
杏「!!!」
そんな…私たちここまでやってきたのに…。
車体の件が上手く行ったから次も何とかなると思ってたのに…。
なのに…
ここまで来て手詰まりだなんてあんまりだよ………
エミ「角谷さんに謝らないといけないわ…」
杏「…えっ?」
エミ「私はこうなることを知ってたから…」
杏「じゃぁどうしてもっと早く言ってくれなかったのさ!!」
エミ「私もそう思うわ…あの時ハッキリと言ってやればよかったと…」
エミ「でも…言えなかった…車体が手に入ってあんなに嬉しそうにしているあなたには…」
杏「だけど…!」
エミ「あなたからこの話を聞いたとき、車体はまず何とかなるだろうと思った」
エミ「なぜなら、車体だけは借りることができるから」
エミ「そして実際に借りることができ、次のステップに進めた」
杏「…」
エミ「でも、本当の問題はここからだったの」
エミ「さっきも言った通り、借りれる車体と違って、砲身は原型のままでは搭載出来ないから手を加えないといけない」
エミ「そしてそれは"借りる"ではなく"作る"でないと実現できない」
エミ「高射砲だけじゃない。砲塔も1から作らないといけない」
エミ「そして、それらの実現が不可能となった今、私達の計画は失敗したことになるわ」
エミ「………無謀だった…最初から………」
杏「ッ!!!」
ピリリリリ
ピリリリリ
…また西住ちゃんからだ。恐らく昨夜電話したことについてだろう。
こんな事になってしまった以上どう電話に出ればいいかわからない…。
ピリリリリ
ピリリリリ
エミ「…出なよ」
杏「出ても何も言えやしないよ…」
サッ
杏「あっ!」
ピッ
みほ『もしもし、西住です』
エミ「みほ…」
みほ『あっ、その声はエミちゃんだね?』
みほ『明け方に戦車確保できたって電話きたけど、それって本当?夢じゃないよね?!』
エミ「えぇ。本当よ」
みほ『凄いよエミちゃん!こんなにも早く戦車を手に入れることができ』
エミ「みほ」
みほ『え、はい?』
エミ「残念だけど………」
エミ「私達の計画は失敗したわ」
みほ『ええっ!?ど、どういうこと?!』
エミ「最初から無理だった」
みほ『で、でも車体を手に入れたのだから…!』
エミ「今回は事情が全然違うわ」
みほ『そんな…』
エミ「あなたや角谷さんには悪いけど、今回ばかりはどうしようもない…」
みほ『………』
エミ「………ごめん」
みほ『………』
みほ『ううん、仕方ないよ。…色々お願いしちゃってこっちの方こそゴメンね………』
エミ「それじゃぁ…またね…」
みほ『うん…』
ピッ
【ホテルの部屋】
私達はそのまま来た道を引き返した。その間私達が一言も会話を交わすことはなかった。
私も中須賀ちゃんも虚無感に苛まれてもはや何もしようとも思わない。
大はしゃぎしていた昨日の自分がまるでピエロのように見える。
車体は借りれるのだから大してハードルは高くない。車体よりもそこへ搭載する高射砲からが最大の難関だった。
なにしろ戦車内に収容できるよう1から設計しないといけなかったのだから。
そうなると車体のように借りるのではなく、"作る"でないと実現できない。
そして、それはラインメタルやクルップですらノーと言うものだ。他の企業がやってくれるとは到底思えない。
更に砲身だけでなく砲塔も同じように1から設計しないといけない。
そうなると高射砲が砲塔に収まるよう入念に調整しなければならず、企業間での連携も必要不可欠だ。
課題が多すぎる…。
私たちは気がついたらホテルに着いて、気がついたらベッドへ倒れ込んで、ただただボーッとしていた。
一気に疲れが出たせいでそこから先のことは覚えていない。
わたしも中須賀ちゃんもそのまま現実から逃げるように眠りについた…。
このまま目が冷めなければいいのに…。
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
杏「…ん……」
いま何時…?
夜中の1時か…。こんな時間に誰が電話かけてくるんだよ…。
ディスプレイを見たら非通知になっている。どうせロクな電話じゃない。無視しよう
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
エミ「…うるさいから早く出てよ…」
杏「…切れるのを待つよ」
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
エミ「…全然切れないじゃない」
杏「しつこいなぁ…」
エミ「緊急の電話じゃないの…?」
私はしびれを切らして通話ボタンを押した。
そして電話の相手に「誰さ…」と嫌悪に満ちた声で問いかけた。
『あっ、やっと出てくれた…もしもし…!』
杏「いま何時だと思ってるのさ…っていうかどちらさん」
『ご、ごめんなさい…その…西住です』
杏「んー…西住ちゃん?非通知になってっけど?」
『じ、実は携帯電話の調子が悪くて…』
杏「あっそう…んで何の用?」
『あの…会長…怒ってます?』
杏「…怒ってないよ。眠いだけ」
『うぅ…やっぱり怒ってる…』
杏「…それで、なんかあったの?」
『はい。話によると戦車が見つかったとのことで…』
杏「戦車は見つかったよ。…だけど、期待しないで」
『え…』
杏「私が馬鹿だった。車体が見つかっただけで浮かれてた」
眠いけど、面倒なんだけど、それでも西住ちゃんには伝えておかないとダメだから、私は今回の計画が失敗したことを伝えた。
杏「…というわけ」
『…』
『えーと…、車体は借りれたので大丈夫だったけれど、砲は砲塔に収めるために加工しないといけないから、借りるのではなく作らないと不可能…と』
『でも、クルップ社もラインメタル社もそれがダメな以上、頼るアテが無くて手詰まり…ということですよね?』
杏「そのとおりだよ。…私が馬鹿だった」
『…』
杏「車体を確保する以前から前途多難だってのはわかってた」
杏「んだけど、やらないことにはどうにもなんないから奔走してみたよ」
杏「けどさ、やっぱりダメなもんはダメなんだねぇ」
杏「…ごめんよ」
『あの…その件なんですけど…』
杏「…何かな?」
『ドイツではなく日本の企業に依頼してみてはいかがでしょう?』
杏「………は?」
『あの…ですから、日本の企業に製作を依頼してみてはと…』
杏「西住ちゃん、今はそういう冗談あまり聞きたくないんだけどさ?」
杏「ドイツの戦車を作るためにドイツに来て、どーして日本の企業が出てくんの?」
杏「ふざけてんなら怒るよ?」
『いえ、そういうつもりでは…』
杏「悪いねぇ西住ちゃん。今は眠いし気が立ってるから冗談を流す余裕は無いんだよ」
『実を言うと…』
『砲や砲塔を作れる会社に幾つか心当たりがありまして』
杏「…へぇ」
『それはですね…』
西住ちゃんはこう言いたいのだ。
"ドイツの会社がダメなら、日本の会社を使え" と。
そして、西住ちゃんにはそれらの会社に心当たりがあると。
けどさ…、
『まず…』
杏「ちょっと待って、メモするから。………うん、良いよ」
『まずシラヌイ重工という会社があります』
杏「へぇ。どんな会社?」
『ここでは戦車で使われる均質圧延装甲板を作っています。なので砲塔はここで手配しましょう』
杏「ずいぶん簡単に言ってくれるねぇ…」
『つぎにツクバ製鋼所という会社。高射砲の砲身はここにお願いしてみて下さい』
杏「(無視かよ…)えーと、次がツクバ製鋼所と」
杏「ツクバって茨城県の筑波だよね?そんな会社あったかなぁ…」
『10式戦車の砲身を作っている会社といえば納得いただけるかと思います』
杏「へー。そりゃすごいね」
※ここで紹介する企業は実在しない架空のものです。
『次にヒトエ技研。高射砲用の砲弾…徹甲弾と対空用の信管付き榴弾、及びそれらの装薬はこの会社なら出来ます』
杏「ヒトエ技研ね」
『また、高射砲の砲身以外のパーツ。駐退機および復座機、尾栓、砲架などですね。これらはシマキ金属へ』
杏「うん」
『そして最後になりますが、これらの砲から砲塔まで一連の設計についてはチトセ設計にお願いしてください』
杏「んーわかった」
『こちらからは以上です』
杏「あのさ西住ちゃん」
『何でしょう?』
杏「そーやって企業名を並べてくれるのは良いんだけどね」
杏「お金も時間もかかる事をタダでやってくれる保証はどこにあんの?」
『えっ…』
杏「ウチらはさぁ、現地に行ってダメ元でお願いしてみたよ?」
杏「だけど結局門前払いだった」
杏「現地で実際に作ってる会社がダメだったモノをどうして無関係な日本の会社がタダで引き受けてくれるのさ?」
杏「その辺を私にわかるよう説明して欲しいねぇ」
『…』
杏「西住ちゃんさ、言うのは誰にでも出来る。んだけど実行するのはまた別の話よ?」
杏「悪いけどさ、これは無
『可能性がある限り進まないとダメなんです!!』
杏「…」
『会長は一生懸命になって車体を確保しました。これは大きすぎる一歩なんです!』
『そしてこの一歩を足掛かりに、とにかく私達はひたすら走るしかないんです!』
『走るのを止めたらそれこそ全部おしまいなんです!血を吐くような想いをしてこなしてきた事も全部無駄になってしまうんです…!』
『だから…!!』
杏「………」
………そうだねぇ。
西住ちゃん、いっつもウチらの前に立ってピンチを救ってくれたよね。
私がこんなじゃ頑張ってる西住ちゃんや皆にも申し訳ないねぇ。
せっかくここまで来たんだし、1%でも可能性があるんならやってみよう。
『あ、ありがとうございます!』
杏「それで、他にウチらの方で何か出来ることはあるかな?」
『あ、それなのですが』
杏「うんうん」
『もう一度、高射砲や砲塔について情報が欲しいので、ドイツの会社の方へ行って欲しいのです』
杏「ん?また行くの?」
『ええ。今度は"資料"を貰って来て下さい』
杏「資料?どんなの?」
『ざっくりいうと、砲塔や高射砲の設計図です』
『砲塔については装甲厚、材質、砲や搭乗員を載せるために必要な寸法』
『そして高射砲を上に向けるための仕組みもお願いします』
杏「なるほどね」
『同じように高射砲についても、砲身からその発射機構、そして砲を支える砲架などすべての設計図があると良いです』
『もちろん使用する弾薬の種類、寸法、火薬の種類についても』
『…とにかく読めば誰でも対空戦車が作れるくらい詳しいモノが良いです!』
杏「あはは。誰でも作れる資料があるなら私が高射砲つくるよ」
『あ…そうですよね…えへへ』
杏「まったく西住ちゃんらしいねぇ~」
『でも、資料は詳しいに越したことはありませんのでお願い致します』
杏「なるほどね~。わかった、やってみるよ」
『ありがとうございます!』
やっぱり西住ちゃんだよ。
私が諦めかけた時に助けてくれる。
絶対無理だと思ってたのに、また可能性を見出してくれる。
西住ちゃんが頑張ってる以上、私が何もしないわけにはいかないよね。
エミ「………」
エミ「ちょっと代わって」
杏「ん、いいよ。ほい」
エミ「もしもし」
『ふぇっ!?』
エミ「どうしたのよそんなに驚いて…」
『あ、あの…えっと…』
エミ「ちょっと…みほ?」
『ご、ごめんなさい!また次の機会にっ!』プツッ
ツー... ツー... ツー...
エミ「………」
杏「どったの?」
エミ「今の電話、みほじゃなかった」
杏「えっ…」
杏「い、いや、声も話し方も西住ちゃんだったよ!?」
エミ「確かにソックリだった」
エミ「でも、私が出た瞬間、相手はなぜか取り乱した」
エミ「本物のみほだったら私がいるって知ってるからあんなに驚いたりはしない」
エミ「あの反応…"知らない人"を相手にした時のものよ」
杏「!! …じゃぁ今の相手は誰なのさ!?」
エミ「私が知るわけないじゃない…」
杏「…」
エミ「…でも、さっきの話、やってみる価値はありそうよ」
杏「そうだね。資料だけなら貰えると思う」
エミ「もう一度、まずはラインメタルへ行きましょう」
電話に出たのは確かに西住ちゃんの声だった。
でも、違うとなれば一体誰なんだ…?
そして何故私たちに情報を提供した!?
【翌朝 ラインメタル社】
私達は再びラインメタルへ訪れた。
担当者からは『また君らか。もう話すことはない。帰ってくれ』と言われた。
しかし、事情を説明するとなんとか話を聞いてくれた。表情からはYESかNOかはわからない。
ただ、設計図とはいえ、扱うものが大砲、すなわち兵器なわけだ。簡単には譲っては貰えないだろう。
そして、返ってきたのは…
大量の書類だ。
言わなくてもわかる。今までと同じようにこの書類の山を作成して提出すれば良いだけのことだ。
右手が少し疲れるだけで私が欲しいものが手に入る。こんなのお安い御用だよ。
そうしてまた1時間ほどかけて書類の山を書き終えた。
書類を受け取った担当者はそのまま事務所へ行き、10分ほどして戻ってきた。
戻ってきた担当者から私はUSBメモリを1つ受け取った。この中に目当てのモノが入っている。
念のためパソコンを借りてその場で中身をチェックした。
砲身、砲架、砲弾…高射砲の情報が詳しく記載された"設計図"だ。
これだけの情報があれば高射砲は再現することは可能だろう。
エミ「…Flak41」
杏「ん?どうしたの」
エミ「私達がイメージするアハトアハトとは少し違うモノが来たわね」
杏「えっ?」
エミ「"アハトアハト"、"8.8cm 高射砲"といえば大体がクルップ社の『8.8cm Flak18/36/37』を想像するはず」
エミ「最初の型である『Flak18』」
エミ「発射方向の切り替えを電源式にして砲身の交換も容易にした『Flak36』」
エミ「観測点から砲へ射撃諸元を送るためのアナログコンピュータを搭載した『Flak37』」
エミ「だいたいこの3つ」
杏「ふむふむ」
エミ「でも、この『Flak41』はクルップ社の8.8cmのバリエーションとは別で、従来の8.8cm Flakの後継種としてラインメタルが開発していた高射砲なの」
杏「ほほう?」
エミ「56口径のFlak18/36.37と違って砲弾とかの互換性は無いけれど、より強力な砲弾を使う74口径という長砲身の高射砲よ」
杏「74口径ってことは71口径のティーガーIIよりも砲身が長いわけだね」
エミ「ええ。…初期不良や生産遅延が発生してあまり日の目を見なかったけど、このFlak41は、」
エミ「12.8cm Flak40に匹敵する最強クラスの高射砲よ…!」
杏「!」
エミ「これなら無人機はもちろん、戦車相手でも十分よ」
杏「良いねぇ良いねぇ!」
エミ(よくよく考えたらクルップじゃなくラインメタルだから自社のFlak41を出すのは当然ね)
高射砲を作るための設計図を無事に入手することが出来た。
そしてもう一つ『砲塔』の設計図だが、こちらも同じくラインメタルの担当者に相談したところ、『試作レベル』とのことだが1つ資料を提供してくれた。
それはかつてラインメタルが開発を行っていた『ゲラート554』だった。
前に話したけど、ゲラート554はパンターをベースにした対空戦車『ケーリアン』の砲塔だ。
搭載車両も搭載砲も全く違うが、このゲラート554をベースにすれば砲身を上空に向ける砲塔のヒントは得られるはず。
試作レベルと担当者は言うが、設計図は砲塔の構造を詳しく書き記してあり、資材と設備さえあればこの資料をもとにケーリアンの砲塔は十分再現できるであろう。
Flak41とゲラート554。
どちらもラインメタルが開発した機材だ。
初期不良や開発の遅れなど日の目を見なかったこれら2つの機材。
もし私達がこれらを使って成果を挙げられたら当時のエンジニアたちは喜ぶだろうか。
ともあれ、これで高射砲と砲身の資料が手に入った。
あとはこれを西住ちゃん…のソックリさんに教えてもらった会社に提供すればいい。
…ただ、どうやって、誰に依頼すればいいだろうか。
昨夜かかってきた電話は非通知だったから折り返しができない。
なのでひとまず、ここまでの進展も含め、理事長に電話で相談してみるか。
杏「…という出来事がありました」
児玉『ふむ…』
杏「電話の相手が誰かはわかりません」
杏「ですが、その人の指示に従い、砲塔と高射砲の製作に必要であろう設計図を入手しました」
杏「可能性がある限りは挑戦しようと思います」
児玉『うん』
杏「…」
児玉『そうだねぇ………』
杏「…」
児玉『お疲れ様』
杏「えっ………?」
児玉『お疲れ様。と言ったのだよ』
杏「あの、それはどういう意味でしょうか…?」
児玉『あとはその資料を私のところへ転送したら君の仕事は終わりだよ』
杏「それって…もしかして…!」
児玉『うむ。君が言った会社には既に話がついている。あとは資料だけだよ』
杏「!!!」
児玉『よく頑張ったね。見事だ』
杏「あ…あ…」
杏「ありがとうございます!!!!」
理事長との電話を終えたあと、すぐにメールで資料を送信した。
暫くしたら連盟いや、理事長から
『受理しました。お疲れ様。気をつけて帰国してください』
という返事が帰ってきた。
これでようやく私たちの役目は終わった………。
杏「………」
エミ「泣いてるの?」
杏「……んなわけないじゃん」
エミ「はいはい」
エミ「………まぁ」
杏「ん」
エミ「悪くなかったわよ。今回の旅」
杏「…」
杏「中須賀ちゃんには色々お世話になったね」
杏「ありがと」
エミ「勘違いしないでよ?みほがどーーーしてもって電話越しに土下座するから来てやっただけなんだから」
杏「まぁそういう事にしておいてあげるよ」
エミ「ちょっと、それどういうことよ!」
ピリリリ ピリリリ
エミ「ほら、電話鳴ってるわよ」
杏「わかってるよ。…おっ、今度は西住ちゃんだ」
エミ「ちゃんと"本人か"確認してよ?」
杏「あいよ」
ピッ
みほ『も、もしもし…西住です…?』
杏「おー西住ちゃん!ぐーでんもーげん!」
みほ『ふぇっ?会長…?』
杏「あー、ちょっと良い?」
みほ『え、あ、はい?』
杏「さて問題です。私の横にいる小生意気なツインテの女の子の名前はなーーーんだ?」
エミ「小生意気って何よっ!!」
みほ『え…中須賀エミちゃんですよね?』
杏「ピンポンピンポ~ン!んじゃ次の問題」
杏「河嶋が至近距離で外した時に小山は何て言ったでしょ~?」
みほ『ええっ?!えーと………も、桃ちゃんそこで外すぅ?!』
杏「おー正解!今の声録音したから後でかぁしまに聴かせてやろう」ニシシ
みほ『だ、ダメですっ!!』
杏「え~、どうしよっかな~」
みほ『あの…そんなことよりも』
杏「あはは。ごめんごめん」
みほ『戦車は…やっぱり…?』
杏「うん。私の仕事は終わったよ」
みほ『そうですか………』
杏「だから次の試合、ものすごい対空戦車が来るから!」
みほ『ふぇっ!?』
杏「いやぁ~頑張った甲斐があったねぇ」
みほ『ほ、本当ですか?!』
杏「ミンナニハナイショダヨー」
みほ『え…わかりました…?』
杏「これでウチらの役目は終わったから数日後にはソッチ戻るよ」
みほ『は、はい!お疲れ様です。そしてありがとうございます!』
杏「どーいたしまして~」
エミ「ほとんどやったの私だけどね…」ヤレヤレ
杏「それで、そっちは何か変わった事とか無い?」
みほ『特にこれといったことは無いはずです。ただ、』
みほ『決勝戦の相手は黒森峰になりました』
杏「んーそっか。楽しみだねぇ」
みほ「はい…!」
杏「わかった。お土産楽しみにしといてよー」
みほ「ええ。楽しみにしていますよ」エヘヘ
杏「あいよー。そいじゃーねー」
ピッ
エミ「…」
杏「…」
エミ「…?」
杏「…お土産、干し芋でもいいよね?」
エミ「私がみほだったら撃つね」
杏「えぇ…」
…さて、私たちの役目は終わった。
思い返せば西住流家元から1つの封筒を貰ったことがきっかけでアチコチ走り回ってた。
最初は無理だとわかっていながらも、やらないことには始まらないと強引に突破口をこじ開けた。
車体の製作が無理なら借りればいい。
借りるのが無理なら設計図を提供してもらえばいい。
道は一つじゃない。
よくよく考えれば今まで何度も無理だと思った道を何とか通ってきた。
今に始まったことじゃないんだよね。
杏「そういえば中須賀ちゃんさー」
エミ「何かしら?」
杏「帰国したあとはどうすんのー?」
エミ「そうね…特にコレといった予定はないけれど…また戦車の練習かな」
杏「そっかー」
エミ「角谷さん達は次が決勝なんでしょ?」
杏「まぁねー」
エミ「相手は結局どっちなの?」
杏「さっき西住ちゃんから黒森峰が勝ったってさー」
エミ「そう………」
杏「…」
杏「あ、そうだ中須賀ちゃん」
エミ「なに?」
杏「帰国したらさ、ウチに来ない?」
エミ「"ウチ"?」
杏「そそ。大洗女子学園」
エミ「別にいいけど…?」
杏「おっけー」
翌朝私達は日本行きの飛行機に乗り、再び12時間の空の旅を満喫…はしてないか。
いやぁもう疲れたよ。クッタクタ。あちこち走り回ったせいで旅客機のシートが快適すぎるほどだよ。
私も中須賀ちゃんも爆睡してて気がついたら空港に到着してた。
【大洗女子学園】
空が少しずつ茜色になる頃に我が学園いや楽園に到着した。
ただいま大洗女子学園。愛してる大洗女子学園。
杏「いやぁ~懐かしいねぇ~大洗女子学園」シミジミ
エミ「ほんの数日前までいたじゃない」
桃「かかか会長ぉぉぉぉぉぉぉおっぉぉぉぉぉお!!!」
杏「たっだいまぁ~♪」
柚子「お帰りなさい会長」
杏「ごくろーさん。私がいない間大丈夫だった?」
柚子「それが…」
学校に入って早々河嶋が号泣しながら抱きついてきた。こらこら鼻水がつくじゃないか。
緊急の電話が無かったから特に何もなかったとは思うが、小山の様子がなにかおかしい。
なんか、嫌な予感がするなぁ…
【戦車倉庫前】
杏「やぁー久しぶりだねみんな」
ナカジマ「会長…帰ってたんですね…」ハァ...
典子「…今頃ノコノコ帰ってくるなんて、随分と根性ありますね」ジトッ
杏「え…?」
梓「西住隊長たちの戦車が無くてピンチだというのに…今の今までどこに行ってたんですか…!」
杏「え、え…?!」
カエサル「見損なったぞ会長!これが生徒会のやることなのか!!!」
杏「」
ワーワー
ガヤガヤ
帰ってきて早々、私は戦車道メンバーから非難轟々罵声の嵐を浴びた。
日頃から顰蹙を買うような事はしてたし、こういった袋叩きにあう覚悟はあったけど…
流石に今回ばかりは何か様子がおかしい。
みほ「あっ会長、帰ってたのですね!」
杏「あ、うん…。ただいまだよ西住ちゃん…」
みほ「?」
杏「あのさ、私に向けられるこの冷たい視線の理由は一体…」
みほ「あれ?会長まだ説明してなかったんですか?」
杏「へ?」
みほ「戦車探すためドイツに行ってたって」
杏「…は?」
みほ「いえ、会長が『ミンナニハナイショダヨ』というので…」
杏「」
アホかああああああああああああああ!!!
私が『ミンナニハナイショダヨ』って言ったのは、ドイツで迷走しまくってる事についてだよ!
戦車探しに行ってること自体を内緒にしろなんて一言も言ってねーし!!!
みほ「うえええええ?!」
こっちがうえええええ?!だよ西住ちゃんっ!!
おかげであたしゃ完全に悪役じゃないか!文科省の役人並にクズだよ今の私!!
つーか河嶋も小山もどーして何も説明しなかったのさ!!
河島「知りませんでした…」
小山「出張に行くとしか聞いてなかったので…」オロオロ
ぐぬ…。
とにかく皆に事情を説明して西住ちゃん!お願いだから!
【数分後】
ナカジマ「なーんだ。そういう事だったんですね」ハハハ
典子「さすが会長です!根性ハンパないですっ!!」
梓「も、もちろん私は信じてました…!」アセアセ
カエサル「水臭いぞ会長。そういう事なら先に言えば良いものを」
やれやれ。ボロクソに言ってたクセによく言うよあんたら。
でもとりあえず誤解はとけたみたいだから安心したよ。
…これからは行き先と目的はちゃんと伝えておこう
エミ「あのさ、こっちがやれやれなんだけど」
杏「あれ?」
エミ「あれ?じゃないわよ!いつまで待たせんのよ!!」
すっかり忘れてたわ。中須賀ちゃんがいること。
そうだね。んじゃ、ちょっと生徒会室行こっか。
【会長室】
小山「どうぞ」コトン
エミ「あ、ありがとう…ございます」
杏「かーしまぁ。例の件はちゃんとやっといたよね?」
桃「はっ。問題ありません」
杏「よしよし」
エミ「それで、話って?」
杏「うん。そうだね率直に言うとね」
杏「中須賀ちゃんには大洗に短期転校してもらいたいんだよね」
エミ「はぁ!?」
そう。対空戦車を探す傍ら進めていた、もう一つの私の仕事。
それは中須賀ちゃんを大洗女子に短期間転校させ、戦力となってもらうこと。
そのため私は戦車道連盟に相談したり、河嶋らに水面下で交渉を任せてた。
彼女を大洗女子へ転校させる理由はさっきも言ったように対黒森峰戦における戦力の増強。
そしてもう一つは
作った対空戦車は彼女にも乗ってほしいからだ。
ハッキリ言うよ。
今回の対空戦車は全て彼女による功績だ。
大まかな設計、車体の選択、各社への交渉…。何から何まで中須賀ちゃんがいたから成功したのだ。
私は横にいたが戦車の知識もない。ドイツ語も喋れない。正直何一つ役に立たなかった。
だから多大なる功績を残してくれた彼女に対し『戦車完成したねバンザイ。それじゃバイバイ』というのは無礼すぎる。
中須賀ちゃんが生み出した戦車だからこそ、中須賀ちゃんに乗って欲しいのだ。
エミ「………」
杏「もちろん、強制じゃないよ。中須賀ちゃん次第ね」
エミ「………」
エミ「わかったわ」
杏「!」
エミ「…恐らく、その対空戦車は6人乗りになるでしょうから」
エミ「私が装填手の一人をやればちょうど6人」
杏「やってくれるかな。中須賀ちゃん」
エミ「ええ」
杏「交渉成立だねぃ♪」
中須賀ちゃんが快諾してくれたので、さっそく転校手続きを行った。
書類は2~3枚程度なので私が書いたアレに比べれば随分楽だ。
そして彼女に大洗女子の制服を渡した。うんうん。似合ってるよ。
ようこそ大洗女子学園へ。
エミ「………」
小山「中須賀さん?どうしたの?」
エミ「えっ?あぁ…何でもないです」
エミ(………私はこの時が来るのを待っていた?)
【再び戦車倉庫】
杏「というわけで、中須賀ちゃんが短期転校することになったから」
一同「おおおおおおおおおおおお!」
小山「ず、ずいぶんザックリですね…」ハハ...
沙織「久しぶりだねエミりんっ!」
エミ「え、えぇ…(エミりん…)」
みほ「またエミちゃんと一緒に戦車に乗れるなんて嬉しいよ!」
エミ「そうね。何年ぶりかしら」
みほ「IV号に乗ってお姉ちゃんたち相手に戦った時以来かな?」
エミ「時間が立つのは早いわね…」シンミリ
優花里「ぅぅ…西住殿と幼馴染だなんて中須賀殿が羨ましいです…」
沙織「ねぇねぇエミりん、昔のみぽりんってどんな感じだったの?」
麻子「こら。人の過去を詮索するな」
エミ「そうね…今以上にヤンチャで」
みほ「ふぇっ?!」
沙織「ほぉほぉ」キラキラ
エミ「戦車の中で大きな音たててオナラしたり」
華「え…」チラッ
沙織「や、やだもぉ…」チラッ
みほ「ち、ちょっとエミちゃん!!!/////」カァァァ
エミ「この間のお返しよ」フフン
あんこうチームはもちろん、皆の反応は良好だ。
歴女チームは歴史上の名コンビに例え、
バレー部は即戦力だと言って勧誘するし、
1年生は勝手に2人をカップリングするという三者三様の反応だ。
あとは中須賀ちゃんが個性的な大洗女子の皆と打ち解けられるかだね。
でも、とりあえず…
これで私の役目は終わった。
あとは西住ちゃんにバトンタッチしよう。
●Tips
決勝戦の3日前に私達の対空戦車がやってきた。
E-100の車体にマウスのような巨大な砲塔が載っている。
車体前面はマウスと同じ200mm、後面は150mm。
側面は120mmに加え、着脱式の追加装甲が付いている。
砲塔も上面を除いて200mmという極めて堅牢な作りになっている。
そして一番驚いたのは、その砲塔に8.8cm Flak41が2つ搭載されていたことだ。
搭載する砲は1つだけと思っていた。ところが設計が見直され、砲の数を増やしたというのだ。
中須賀ちゃんに教えてもらったようにFlak41は大戦中で最強クラスの高射砲の1つだ。
それは無人機はもちろん、戦車を相手にしても十二分な威力と言っていた。
マウスに匹敵する装甲に、ティーガーIIと同等あるいはそれ以上の砲が2つ。
まさしく最強クラスの対空戦車が大洗女子学園に届いた。
当然その戦車を見た者全員があまりのインパクトに唖然としている。
戦車に詳しい秋山ちゃんやエルヴィンちゃんはもちろん、西住ちゃんもだ。
今回の対空戦車開発に携わった中須賀ちゃんですら開いた口が塞がらないのだ。
なお、この対空戦車は設計から製作まで連盟関係者が立ち会いのもと進められたとのこと。
つまりレギュレーションに関する心配は皆無だ。
E-100 対空戦車。
こいつが大戦中に完成していたら一体どうなっていただろうか…。
― 西住さんのお姉さんのチームの相手が 私の姉のチームだったんだから
― あのとき撃った戦車の車長は あなたですよね
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(姉さんを打ち負かした相手…西住まほともう一度戦えるから)
― あんなこと言われたら……絶対勝たせてあげないと
― だから…ッ もっかい勝負しなさいよ……っ!!!
― 負けて悔しいって思うことはあっても 寂しいと思うことなかったのに
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(ベルウォールの皆が勝てなかった相手…黒森峰ともう一度戦えるから)
― お互い自分の"戦車道"を見つけたそのときに…また会お!
― みほ 約束を果たしましょう
― 約束が果たせてよかった また必ずやりましょ
― うん…また"約束"だね
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(私に戦車道を教えてくれたみほとの約束、もう一度果たせるから)
◆最終章 2 リトルアーミー
【決勝戦の3日前 戦車倉庫】
スゲー
デケー
カッケェー
みほ「」ポカーン
優花里「さすがの西住殿も開いた口が塞がりませんね」アハハ
沙織「みぽりんだけじゃなくここにいる全員が ( ゚д゚ ) って顔だよ」
エミ「無理もないわよ…一緒に戦車探した私ですら砲身が2つもつくなんて思わなかったんだから…」
全員「」ポカーン
華「黒森峰のマウス並に大きいですわね」
麻子「話によるとマウスに匹敵する装甲に、ティーガーIIに匹敵する砲が2つだったか」
麻子「いくら連盟立ち会いのもと製作が行われたとはいえ、こんなもんが出たらド肝を抜かすだろうな」
沙織「この戦車見た人の反応がちょっと楽しみだったりする~」アハッ
みほ「あはは…会長の言った通り、ものスゴい戦車が来ちゃったね」
杏「うしし。凄いでしょ♪」
エミ「あなたはイモ食べてただけじゃない…」ハァ
沙織「会長とエミりんが並んでると姉妹っぽく見えるの私だけ?」
優花里「わかります。初めて中須賀殿を見たとき会長のお姉様かと思ったほどです」
麻子「会長のが年上なのにな」
華「会長、小さいですからね」ウフフ
杏「おいこら聞こえてっぞ」
沙織「せっかくだからみんなで乗ってみようよ!」
みほ「そうだね」
優花里「こんなおっきい戦車間近で見るのはクビンカ以来ですっ!」ワクテカ
エミ「見るだけじゃないわ。乗れるわよ」フフフ
優花里「ひやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
みほ「あはは。優花里さん嬉しそうだね」
華「8.8cm砲…早く撃ってみたいです」ドキドキ
沙織「華はこの間撃ったじゃない」アハハ
麻子「こんな鉄の塊が果たして動くのだろうか…」
エミ「大きい分クセはあるから今のうちに慣らしておかないと試合当日に不要の長物になってしまうわね」
みほ「そうだよね。今のうちに一杯練習しようね」
【大洗女子学園 練習場】
ドゥルルルルルル.....
麻子「お、重い…IV号とは全然違うぞ…」
エミ「そりゃそうよ。IV号の6倍も重量あるんだから」
麻子「何というか…力士を満載したトラックみたいな重量感だ」グヌヌ...
沙織「なっ!あたしそんなに重くないわよ!」
麻子「お前なんぞコイツ(E-100)に比べたら屁でもない」
沙織「もー!麻子きたない!」ヤダモー
エミ「ゆっくり、ね。IV号と違ってこの子は無茶するとすぐに減速機やエンジンがお釈迦になるわ」
麻子「了解だ」ガコン
優花里「重いといえば砲弾も8.8cmなので重量が…」ヌォォ
みほ「足に落とさないよう注意してね」
華「早く撃ってみたいです」ソワソワ
エミ「そうね。ちょうど前方にM3 Leeがあるから試しに撃ってみる?」
優季『ふぇっ!?ウチらぁ?!』
あや『ほら!優季が沙織先輩の悪口言ったから先輩たち怒っちゃったじゃない!!』
優季『それ絶対違うよぉ!』
梓『た、隊長との勝負…!』ドキドキ
あゆみ『梓しっかりして!無理ゲーだから!』
みほ「え、エミちゃん…?」
エミ「冗談よ。心配しないで」
沙織「さすがに後輩にそんなイジワルしないよ」アハハ
沙織「それに弱い者いじめはモテない人のやる行為だしね!」
ウサギ『』ホッ
桂利奈『あれ?でも沙織先輩がモテないのは?』ハテ
あゆみ『ちょっ!桂利奈ちゃん!!』
沙織「華。やっぱ撃っていいよ。2発とも」シレッ
華「えっ、良いのですか?!」オロオロ
ウサギ『いやああああああああああああああ!!』
麻子「沙織、そのへんにしておけ」
沙織「ぶぅ」
紗希『………』ボー
【数分後】
沙織「皆さん、聞いてください」ザザッ
沙織「E-100対空戦車の運行をテストするので」ザッ
杏『へ?う●こする?』
沙織「う・ん・こ・う!!!///」ザザッ
アハハハハ!
カイチョウッタラァ!!
ヤダモォォォォ!!!
エルヴィン『あまり賛同したくはないが…その、確かにそう聞こえたぞ…?』
沙織「うn…そんなこと言うわけ無いでしょっ!」ザザー
杏『なんかさー、そっちノイズ酷くない?』
優季『確かにザーザー言ってますぅ。なんか雨降ってるみたい』
沙織「えー?」ザザッ
ねこにゃー『なんか力尽きたサイボーグみたいだにゃー』
優花里「周波数は大丈夫ですよね?」
沙織「うん。合ってるよ?」
麻子「一応こんなでもアマチュア無線の資格所持者だ。そんなミスはしないはず」
沙織「こんなでもって何よー!」
みほ「まぁまぁ」アハハ
< オーイ! タケベサーン!!
優花里「おや?ナカジマ殿が呼んでますよ武部殿」
沙織「はーい?」カチャッ
ナカジマ「ちょっと冷泉さんに"変速機"あるかどうか聞いてみてよ」
沙織「麻子、ヘンソーキってある?」
麻子「ヘンソウ?変速機だろう?…そんなものなかったはずだが?」
沙織「無いみたいですー」
ナカジマ「やっぱりか」
沙織「???」
みほ「あっ…」
優花里「なるほど…」
エミ「マジか…」
沙織「えっ?なになに!?」
エミ「もしかして、"ガス・エレクトリック方式"ってことでしょう?」
ナカジマ「そーゆーこと!たぶん発電機の電磁波が無線機と引っかかってノイズ発生してるんだと思うよー」
沙織「えーっ!?それじゃ通信どうすんのよー!」ヤダモー
みほ「あはは」
エミ「はは…」
優花里「えへへ」
沙織「え?なによ?アタシ何かヘンなこと言った?!」
ナカジマ「あっはっは♪」
沙織「ぴぃっ?!」ビクッ
ナカジマ「ウ チ ら が 直 し た げ る ♡」ニッコリ
沙織「で、出来るの?…っていうかすんごい嬉しそう?!」ゾワーッ
みほ「出来るというか、」
優花里「ナカジマ殿たちレオポンさんの、」
エミ「ポルシェティーガーも、」
ナカジマ「ガス・エレクトリック方式だからね!!」バーン!
ツチヤ・ホシノ・スズキ「イエーーーーーーイ!!!」
沙織「うわっ!いつの間にぃ?!」ビクッ
「おいホシノ見ろよ!!マイバッハHL234 V型12気筒液冷エンジンだぞ!!!」パァァァ
「うぉぉぉぉぉぉすげぇぇぇぇ!!これウチの子にも入れようぜ!!!800馬力出るぞ!!!」カチャカチャ
「これなら普通の車とレースしても勝てるっしょ!!」
「レオポンチームからチーターチームに改名だなっ!!」
「名前変わってもツチヤはライオン(ランオン)だけどなっ!」
「しつけーよバッキャロー!!!」ガァァ!
「「「ワハハハハハハハハハ!!」」」
ワイワイ ガヤガヤ
みほ「あはは…」
沙織「なんだか水を得た魚のようだね…」
優花里「さすがレオポン殿ですね。何というかこの国の自動車業界は安泰です」アハハ
華「うふふ。大変結構でございます」
エミ「内部見たことなかったけど、ムッチャクチャな構造してるのね…」
麻子「zzz...」
ナカジマ「はい、直ったよ!」
エミ「早っ!?」
沙織「もしもーし?」
杏『お、ノイズ無くなったよーいい感じぃー!』ピースピース
優季『こっちも大丈夫ですぅ~』
そど子『良い返事よ!』
ねこにゃー『こっちもおっけーだにゃー』
沙織「それでは、こちらの無線機も改善しましたので、本題に入ります」
沙織「E-100対空戦車の運行をテストするので、これより紅白戦を行おうと思います!」
全員『』
カエサル『ちょっとまだ無線の調子悪いみたいだ。よく聞こえないな』シレッ
沙織「あ、カルパッチョさんだ」
カエサル『ヒナちゃん?!どこどこ?!』ガタッ
沙織「聞こえてんじゃない!!」
カエサル『あっ、しまっ…!』
エルヴィン『このバカタレがっ!』
桃『おおおお、おい!それはつまりわ、我々にそそ、ソイツの的になれってことk 『かぁーしま落ち着け』
ナカジマ『ウチらのポルシェがちっさく見えるから凄いよね…』ハハハ
妙子『私達でも根性さえあれば撃破…できるのかなぁ……』
エミ「チーム編成なんだけどさ」
みほ「うん」
エミ「私達 vs 全員で行ってみない?」
みほ「えっ!?」
優花里「いっ、1対7ですかぁ?!」
エミ「ええ。黒森峰も私達の戦車を知ったら真っ先に潰そうとしてくるわ」
みほ「確かに」
沙織「こんな戦車が試合会場に出てきたら注目の的だもんねー」
麻子「見つかったら逃げ切るのはまず無理だな」
エミ「そうよ。だから1対多数の戦闘に慣れておかないといけない」
エミ「この戦車1つで黒森峰を壊滅させるくらいにね」ニタァ...
みほ「あはは…そうだよね(またエミちゃん悪いこと考えてる顔してるよ)」
華「それならたくさん撃てるので楽しみです」フフッ
沙織「あんこうチームより全車輛へ」
沙織「ただいま話し合った結果、私達あんこうチームとそれ以外というチーム分けにしようと思います」
全員『』
桃『くぉるぁぁ西住ぃ!!貴様やっぱり我々を的に『落ち着けかぁーしま。イモ食べろイモ』
梓『に、西住隊長、それはどういう…』
みほ「はい。やはり我々の対空戦車はあらゆる意味で目立つため真っ先に狙われるでしょう」
みほ「そのため、1対多数を想定した練習を行おうと思った次第です」
みほ「ですから、皆さん」
みほ「全力で私の"首"を取りに来てください!」
全員『!!!』
エミ(言うようになったじゃない…)フッ
杏『言うね~西住ちゃん』モグモグ
桃『フフフ面白い。ならばお望みどおりその首頂戴するぞ西住!!』
柚子『逆に桃ちゃんがクビにならないようにね?』
桃『そりゃどういう意味だっ!!』
あや『西住隊長すっごい自信だねー』
桂利奈『あんなでっかいのに乗ってたら誰でも自信ついちゃうよ!』
あゆみ『主砲はおっきいし装甲は硬いもんね…』
優季『あんな大っきいの無理だよぉ…』
紗希『………』
梓『でも、味方と上手く連携して接近して弱点を狙えばきっといけるっ!』
優季『ねぇ梓ぁ?』
梓『ん?』
優季『もしも私たちが西住隊長やっつけたらどうするぅ?』
梓『へ?どうするって?』
優季『きっと"さすが澤さん!私の自慢の後輩です!"って言うかも~』
梓『………』
あや『何かご褒美もらえるかもよー?』
梓『………』
梓『いい?!何が何でも私達が西住隊長の首とか色々もぎ取りに行くよ!!』
あゆみ(首とか色々って何だろ…)ヒソヒソ
あや(体操服とか?)ヒソヒソ
桂利奈(あい?替え持ってないの?)ヒソヒソ
優季(もぉ~梓はエッチねぇー)ヒソヒソ
梓『う、うるさーーーーい!!!!』ガァァァ
カエサル『シモ・ヘイヘだな』
左衛門佐『ここは上杉謙信だろう』
エルヴィン『いやオットー・カリウスだろ』
おりょう『西住小次郎しかいないぜよ』
『『『それだ!!!』』』
あけび『あのE-100って戦車、6人乗りなんですよね?』
典子『そうだな。砲が2つで装填手も2人いるみたいだよ』
妙子『となると砲塔内結構狭いんじゃ?』
典子『んー…まぁそうだろうねぇ』
忍『』ジー
あけび『』ジー
妙子『』ジー
典子『な、何だよお前たち…』
エミ「ふふふっ。どうやら皆やる気マンマンのようね」
みほ(あはは…そうかなぁ…)
エミ「ほら、西住隊長」ポン
みほ「えっ?あ、はい!」
エミ「号令かけちゃいなさいよ」
みほ「そうだね。…それでは皆さん、試合は5分後にスタートします」
みほ「各車輌、万全の準備をした上で私達にかかってきてください!」
みほ「こちらも一切の手を抜くことなくお相手致しますっ!!」
全車輛『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
みほ「それではご武運を!パンツァー・フォー!!」
【紅白試合 あんこうチーム】
みほ「来ましたね」
優花里「さすが綺麗な隊列を組んでますねぇ!」
みほ「うん。あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて凄い…!」
華「聖グロリアーナとの練習試合を思い出しますわ」
沙織「ウチらがあんな綺麗な隊列を組めるなんてあの時は思わなかったなぁ」
みほ「うん。いっぱい練習した甲斐があったよね!」
エミ「…」←疎外感
みほ「あ、え、エミちゃんごめん…」アセアセ
エミ「…いいわよ別に」ムスッ
優花里「こちらの砲だとこの距離は届くのでしょうか?」
みほ「そこは戦術と腕かな?」
華「先頭は89式、その後ろに三式とヘッツァー」
優花里「どうやら二手に分かれるみたいですねぇ」
エミ「妥当な判断ね。全車輛で攻めたとして、こちらの危険領域に達するまでにアウトレンジから壊滅できる」
沙織「そんなこと出来るの?!」
エミ「撃ってみればわかるわよ」
華「いいですか?」ワクワク
みほ「うん。華さんの判断でお願いします」
華「わかりました」
カチッ
ズガァァァァァァァァァァン!!!!
ズシャーーン!!
華「…」
エミ「外れたわね」
華「………」
麻子「らしくないな。ずいぶん見当違いな所に飛んでいったぞ?」
みほ「華さん…?」
華「…全然違います」
みほ「違う?」
華「はい…。何と言いますか…」
華「全然落ちないのです」
みほ「落ちない??」
華「砲弾は放物線を描いて飛んでいきます」
華「なので、遠方の戦車を狙う時は、砲身を上に向けて山なりに撃たなければなりません」
みほ「うん」
華「そのため…8.8cmということもあり、先日のポルシェティーガーの時と同じ照準合わせで狙ったつもりですが…」
華「それでも弾が落ちませんでした」
沙織「それって凄いの?」
麻子「今ので砲弾が落ちないということは、少なくともポルシェティーガーの8.8cm砲よりも高いエネルギーを持っているという証拠だ」
沙織「えっ、すごいくない?!」
みほ「つまり、今の弾はポルシェティーガーの砲だったら落ちて狙ったところに命中したということかな?」
華「はい」
優花里「五十鈴殿があれだけ外してしまうほど弾道に差が出るなんて…」
エミ「それがFlak41よ」
みほ「エミちゃん…?」
エミ「口径も違えば装薬量も違う」
エミ「初速も威力も何もかもがティーガーのソレとは段違い。もはや既存の砲とは別モンと考えたほうが良いわ」
優花里「そんなに凄いんですねFlak41…」
華「もう1発、宜しいでしょうか?」
みほ「うん。お願い華さん」
エミ「五十鈴さん」
華「はい。何でしょうか?」
エミ「"Pak43"および"KwK43"の砲口初速、被帽徹甲弾を使ったときが1,000/sで」
エミ「タングステン弾芯の合成硬核徹甲弾(高速徹甲弾)を使えば1130m/sになるわ」
華「はい」
エミ「これは距離2,000mで185mmの均質圧延装甲を貫通でき」
みほ「っ…!」
エミ「1,000mも接近すれば貫通力は245mmにも達する」
華「ええ」
みほ「つまり黒森峰のティーガーを正面から撃破できる」
華「なっ…!」
エミ「ただ…」
華「ただ?」
エミ「それはあくまで"Pak43"の数値であって、砲身長や装薬量の増えた"Flak41"なら更に貫通力は増すはず」
エミ「しかも当時の数値がそれで、現代技術で作った砲なら更に精度や性能はアップしていると見て良いわ」
エミ「そう考えるとティーガーIどころか、」
エミ「ヤークトティーガーの250mm装甲板も800m以下でブチ抜ける」
華「!!!」
みほ「実際はそこまで上手くいくとは思わないね。返り討ちにあっちゃうから」
みほ「それにヤークトティーガーは側面が80mmだから、わざわざ危険を冒して正面を狙う必要は無いかな」アハハ
エミ「…う、うるさいわよ!///」カァァ
優花里「でも、黒森峰の重戦車相手に不足はないことは分かりました!」
華「ええ。ティーガーやパンターをこの手でスクラップにしてみたいですわ」フフッ
沙織「あっ!相手チーム方向を変えたよ!森の方へ向かっていく!」
華「かしこまりました…」キュラキュラ...
カチッ
ズガァァァァァァァァァァン!!!!!!
シュパッ!
みほ「アリクイさんの三式に命中しました!」
優花里「凄いです五十鈴殿!たった1発で弾道を修正できるなんて!」
エミ「ほら!秋山さん装填!」
優花里「あっ、り、了解でありますっ!」ガコン
エミ(ホントよね…)
エミ(たった1発撃っただけで弾道のクセを把握しちゃうなんて)
エミ(みほ、あなたの仲間たち、タダ者じゃないわよ…!)
みほ(その後、距離にして1,500mほどのアウトレンジ射撃で装甲の薄い89式やM3リー、ヘッツァーを相次いで撃破)
みほ(二手に分かれた挟撃もE-100の装甲は一切受け付けず、ポルシェティーガー、ルノーB1、三突と撃破)
みほ(結論を言うと紅白戦は私達が勝ちました。完勝です)
みほ(強力な高射砲を搭載し、強靭な装甲を纏うE-100対空戦車は、"陸上戦艦"の名に相応しい力を発揮しました)
みほ(…なお、試合後には皆さんから強すぎるだの不死身の分隊長だのチートだの非難轟々でした。その点については本当に申し訳ありません…)
みほ(同時にこの戦車のイレギュラーな性能には皆が納得しており、これなら黒森峰の猛獣を倒せると誰もが確信していました)
みほ(しかし、操縦は麻子さんはもちろん、ポルシェティーガーのツチヤさんでさえ"横着い"と言わせるほどで)
みほ(Flak41や堅牢な装甲を纏った砲塔は華さんを以てしても"扱いづらい…"と評価され)
みほ(変速機の負荷を軽減させるためのガス・エレクトリック方式は、沙織さんより"無線のノイズひどい!"という副作用をもたらしました)
みほ(…まぁこれは改善したけどね)
みほ(何にせよ、このイレギュラーな戦車は、様々な代償をと引き換えにその力を発揮しているということは誰もが理解していました)
みほ(それから私達は3日間、一 対 全員の"ボコボコ作戦"を中心に、時間の許す限り練習に明け暮れました)
みほ(その結果、麻子さんはIV号の時と同じくらい操縦技術を身に着け、)
みほ(華さんは1,500m以上の命中率が向上)
みほ(それ以外の車輌も命中精度、操縦技術、連携が向上し、ますます能力の向上を実感しました)
みほ(戦車の数や性能は他の強豪校に劣りますが、そこを戦術と腕でカバーすべく、個々の能力の底上げに努めた3日間でした)
みほ(そして、決勝戦の日がやってきました)
●Tips
エミ「ねぇ、角谷さん」
杏「んー?」
エミ「結局、あの電話の相手は誰かわかったの?」
杏「いや?」
エミ「そう…」
みほ「あの、私のニセモノなんですよね…」オロオロ
優花里「信じられないですねぇ…西住殿ソックリさんがいるなんて…」
杏「そうそう。あまりにソックリだから中須賀ちゃんが冗談言ってるんじゃないかと思うほどだよ」
エミ「いや、明らかに違ったわよ」
みほ「えぇ…」
杏「で、その西住ちゃんのソックリさんに、会社紹介されて、それを連盟の児玉さんに話した結果、コイツが完成したってわけよ」
E-100 対空戦車
みほ「その会社とは?」
杏「砲塔の装甲がシラヌイ重厚、高射砲の砲身がツクバ製鋼所、ヒトエ技研に砲弾、高射砲の残りがシマキ金属。あと何だったっけ?」
エミ「チトセ設計よ。砲塔や砲身の設計の」
杏「そうそう」
柚子「そんな会社ありましたっけ?」
エミ「えっ?」
桃「一応あることはあるみたいだが」
杏「そりゃ無かったらコイツ作れないでしょ」
みほ「………」
優花里「どうされました西住殿?」
みほ「私…電話の相手、わかりました…」
全員「えええっ!?」
シラヌイ重工
ツクバ製鋼所
ヒトエ技研
シマキ金属
チトセ設計
不知火重厚
筑波製鋼所
単 技研
四万騎金属
千歳 設計
皆は気付いてくれたよね?
●Tipsおしまい
【決勝戦当日 試合会場 広場】
麻子「………夜戦と言うものがあって良いと思うのだが…」フラ...
沙織「あはは…麻子じゃなくても6時集合は辛いよね」
華「お腹すきましたわね」
エミ「…さっきオニギリ食べたじゃない。5つも」ヤレヤレ
優花里「」ファァ
「ふふっ。随分大きなあくびですこと」
優花里「ほぇ?」ポケー
アッサム「御機嫌よう。大洗の皆様」
オレンジペコ「おはようございます」ペコリ
沙織「お早うございます。その……セイロンさんでしたっけ?」
アッサム「っぐ…!だからアッサムですってば!」グヌヌ
沙織「ふぁっ?!ご、ごめんなさいーっ!!」ワタワタ
オレンジペコ「どういうわけか色んな方に間違えられるんですよね…」アハハ
アッサム「笑い声じゃありませんのよ!」
華(その節は大変失礼しました…)
みほ「あれ?そういえばダージリンさんは?」
沙織「ホントだ。ダージリンさんいない??」
アッサム「ああ…」
オレンジペコ「あ…あの…」
みほ「?」
「ダージリン様は現在、静養中でございます」
優花里「えっ?そうなのですか!?」
アッサム「ええ。…ちょっと体調を崩されて」
オレンジペコ「何しろここ最近は忙しかったですからね…」
みほ「そうなんですか…」
沙織「だんだん寒くなって来たし、私達も気を付けないとだねー」
優花里「ところであなたは…」
華「確か…初めてお会いする方ですよね?」
「ご挨拶が遅れました」
ヴェニフーキ「聖グロリアーナ隊長車・砲手の"ヴェニフーキ"と申します」
ヴェニフーキ「どうぞ、お見知りおきを」
華「ヴェニフーキさんですね。私、大洗女子の隊長車の砲手を務める五十鈴華です。宜しくお願い致します」フカブカ
みほ「よろしくお願いします」ペコリ
沙織「あれ?でも隊長車の砲手って確かアッサムさんじゃ?」
麻子「ダージリンさんが休養中だから配置が変わったのだろう」
沙織「麻子起きてたの?」
麻子「寝ながら聞いてた」
オレンジペコ「器用ですね」クスッ
アッサム「先述の事情により、今は私がグロリアーナの車長と隊長を兼任しています」
アッサム「それ故、空いた砲手席にはこのヴェニフーキに座ってもらった次第ですわ」
華「そうでしたか。同じ砲手としていつかお手合わせ出来ればです」
ヴェニフーキ「ええ。その時は是非」
優花里「ときにヴェニフーキ殿はエキシビション戦や大学選抜戦ではお会いしなかったですよね?」
ヴェニフーキ「はい。今までは家の都合でイギリスへ留学しておりました」
ヴェニフーキ「そして丁度この大会の準決勝が終わる頃こちらへ転校し、今後はこちらでお世話になります」
華「まぁ。帰国子女ですのね!」
アッサム「さて、大洗の皆様、朝早くのご活動でしょうから、気付けとしてお目覚めのコーヒーでも如何でしょう?」フフッ
オレンジペコ「お食事も用意してありますよ」
華「お食事?!ありがとうございます!」ガタッ
エミ「わっ?!」ビクッ
麻子「おぉ…有り難い…」スピー
優花里「あはは。冷泉殿ったら寝ながら喋ってますよ」
オレンジペコ「き、器用ですね…」ハハ...
沙織「へー。聖グロもコーヒーとか飲むんだぁ」
アッサム「どういうわけか、コーヒー嫌いのダージリンが唯一飲む銘柄ですわ」
優花里「それは凄く美味しいんでしょうね!」キラキラ
エミ(COFFEE SHIRATORI…か)
エミ(良かったわね。キリマンジェロ)
ヴェニフーキ「ところで、西住さん」
みほ「はい、何でしょう?」
ヴェニフーキ「先日の試合で、戦車が再起不能になったとお聞きしましたのですが」
オレンジペコ「無人機が落ちて壊れちゃったんですよね…」
みほ「はい。でもうちの生徒会長のお陰で代替車輌をなんとか手配することが出来ました」
オレンジペコ「! 良かったぁ…」ホッ
ヴェニフーキ「間に合って良かったです」
沙織「ふふふ。すっごい戦車ですからね!きっと見たら驚きますよ!」
オレンジペコ「ええ!とても楽しみです!」ワクワクペコペコ
アッサム「そういえば他の方は?」
みほ「あ、時間がくるまで自由行動としていますので、各自で朝食など取られているかと」
アッサム「そうでしたのね。てっきりここにいる人で全員かと」フフッ
オレンジペコ「そんなわけないじゃないですかぁ…」ジトッ
みほ「あははは。私達だけで試合には勝てませんよ」
【グロリアーナとのお茶会の後】
優花里「ふぅ。お腹いっぱいですっ!」ポンポン
華「ふふ。腹七分目といったところですね」
エミ「あなたは食べ過ぎよ。どこに入っていくのよ…」
麻子「コーヒーも美味しかった。あれなら毎朝飲めるぞ」
沙織「ミルクと砂糖ガンガン入れてたくせに」アハハ
優花里「聖グロというと紅茶ってイメージですけど、コーヒーを飲む人もいるみたいですよ」
みほ「そこは人それぞれかな」
沙織「そ・れ・よ・りっ!転校生のヴェニフーキさん超カッコ良かったよねっ!!」キラキラ
優花里「そ、そうでしたか?私はちょっぴり苦手なタイプかもです…」アハハ
沙織「銀色のストレートヘアに赤い目、そしてクールっていうか冷静沈着っていうかぁ~~~」ヤダモー!
みほ「髪の色はエリカさんに似てたけど、エリカさんより上品な感じだったね」
優花里(何気に酷いこと言いますね西住殿…)
沙織「あの雰囲気たまんないよ~!あれで男だったら私落ちちゃう~~!」ヤダモー!!
華「ふふ。沙織さんはヴェニフーキさんのような方が好みなのですね」
麻子「うむ。あの落ち着きは沙織に少し分けて欲しいくらいだな」
沙織「ちょっと麻子!それどういう事よ!!」
アハハハハハハ
優花里「目つきも鋭かったですね。有無を言わせないオーラ放ってました…!」
沙織「あのギラリとした目が良いんだってば~!」
みほ「私はちょっと…」アハハ
エミ「あなたはお母さんによく"ギラリ"とされてるもんね…」
みほ「うん…」
華「あらゆる意味で聖グロにはいないタイプでしたね」
沙織「確かに。お嬢様とはちょっと違うかな?何というか…"ゴシック"って感じ?」
麻子「なんだその例えは。…まぁわからんこともないが」
エミ(転校生かぁ…)
「また会ったわね。みほ」
みほ「あっ、エリカさんとお姉ちゃん!」
エミ「!」ピクッ
まほ「元気そうだな。みほ」
みほ「うん。お姉ちゃんたちも元気だった?」
まほ「まぁ…そこそこn
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
全員「」ビクッ
「ナカスガエミ!?なんでアナタがここに!?」
エミ「っ!この声…!」
「ここで会ったが <ツネッ> あいでででで!!!?」
エリカ「はしゃぐんじゃない!!」
エミ「ツェスカ…!」
― 会えるかもとは思ってたけど…まさかこんな形にとはねッ
― やっぱりあなたは最低ね
― ……じゃぁ私も こんなチームいらないわ
エミ(………)
エミ「そういえばあなたも黒森峰だったもんね」
ツェスカ「忘れてたのかよ!…というかエミはどうして大洗に…?」
エミ「転校よ短期の。またすぐにベルウォールに戻るわ」
ツェスカ「そう…。まぁいいわ。今回もあなたをコテンパンにしてやるから覚悟してなさい!!!」
エリカ「静かにしなさい!」ツネッ
ツェスカ「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」ジタバタ
エミ「…相変わらずね」
みほ「エリカさんの手を焼かせるなんて凄いなぁ…」ハハハ...
まほ「中須賀さんも久しぶり。前回の優勝記念杯以来だな」
エミ「ええ。お久しぶりです」
エミ「………ん?」
まほ「?」
エミ「確か、引退されたのでは?」
まほ「ああ。本来ならそうなるが、無人機の件があって、もう一度戦車に乗ることにした」
エミ「そうなんですか」
みほ「てっきりエリカさんが泣きついたのかと」アハハ
エリカ「ちょっとそれどういう意味よ!」
まほ「あはは。そろそろエリカにも頑張ってもらわないとな」
エリカ「た、隊長!私だって…!」
まほ「…それで、どういうわけか戦車道に"邪魔者"が入ってきたせいで、我々も色々手を焼いてね」
エミ「無人機ですよね。私もあり得ない改定だと思っています」
みほ「お姉ちゃん達もやっぱり無人機を…」
まほ「ああ。試合となっては話は別。我々は3機の無人機をフル投入して全力で挑むつもりだ」
優花里「…あの、つかぬ事を伺いますが」
まほ「何かな?」
優花里「"スツーカ"、出ますでしょうか?」
まほ「えっ?」
優花里「スツーカです。ユンカースのJu78です」
まほ「あぁ…。そいつは準決勝では使用したが、今回は出さないつもりだ」
優花里「そうですか…」シュン
みほ「それって優花里さん好きな機体とか?」
優花里「急降下爆撃機といえばJu78!Ju78といえば"カノーネンフォーゲル"ことJu78Gですっ!」
優花里「あの"ソ連人民最大の敵"とまで言わしめたルーデル閣下が!牛乳飲んで赤軍戦車をバタバタと倒していくっ!!」
優花里「くぅぅぅ!たまんないですぅ~~!!」ワシャワシャ
みほ「へ、へぇ…」
エミ「私達はバタバタ倒される側なんだけど」
みほ「やめてよ縁起でもない」アハハ...
まほ「確かに有名な機体ではあるが、それはエースが乗っていたからだろう」
まほ「実際に使った者は"操縦が恐ろしく難しい機体"と言っていた」
みほ「そうなんだ。やっぱりエースが使うから凄いんだよね」
まほ「そうだな。そしてそれは戦車でも言えること」
みほ「うん。そうだよね」
まほ「そして、みほ」
みほ「ん?」
まほ「戦車道において無人機は誰も"歓迎していない"」
みほ「………」
みほ「そうだね」
まほ「だがルールである以上、私達はそれを使わなければならない……」
みほ「!」
まほ「だから…悔いのないよう全力でかかってこい」
みほ「勿論だよ」
まほ「…さて、それでは我々は準備に戻る。みほ、そして大洗の皆、試合で会おう」
みほ「うん、あとでね」
みほ「………」
みほ(お姉ちゃんも本当は無人機なんか使いたくないんだね………)
「西住さん」
みほ「え、はい?」
ヴェニフーキ「…」
みほ「あ…えっと、ヴェニフーキさん…??」
ヴェニフーキ「試合まで時間があります。差し支えなければお話を」
みほ「はい?」
沙織「ヴェニフーキさんに口説かれてるのみぽりんっ?!」
ヴェニフーキ「…」
麻子「お前は引っ込んでろ」ゲシッ
沙織「痛いっ!!?」
ヴェニフーキ「…」
みほ「?」
ヴェニフーキ「場所を変えましょう」
【試合会場 ???】
ヴェニフーキ「…」スタスタ
みほ「あの…お話って…?」
ヴェニフーキ「そうですね。ここでなら」
みほ(結構離れちゃったよ…一体何を話すんだろ…)
ヴェニフーキ「西住さん」
みほ「は、はいっ!?」ビクッ
ヴェニフーキ「決勝戦、勝てそうですか?」
みほ「え…。その、」
みほ「ここまで来たからには勝つつもりで臨みます」
ヴェニフーキ「そう」
みほ「…」
ヴェニフーキ「…」
みほ「あの、お話ってこれだけですか…?」
ヴェニフーキ「この試合、」
ヴェニフーキ「あなたは99%負ける」
みほ「っ!!!」
ヴェニフーキ「…」
みほ「それを…」
みほ「………それをわざわざ言うために私をここへ呼んだのですか?」
ヴェニフーキ「いえ」
みほ「だったらどうしてそんなことを…!」
ヴェニフーキ「私がお話しすべきことは、99%ではなく、1%の方」
みほ「はい…?」
ヴェニフーキ「確かに99%負けるとは言いました」
ヴェニフーキ「しかし、残りの1%で成功すれば」
ヴェニフーキ「大洗は黒森峰に完勝します」
みほ「なっ…」
ヴェニフーキ「…」
みほ「か、完勝って…その…」
ヴェニフーキ「読んで字の如く、圧倒的な差をつけて勝つことです」
みほ「い、言ってることの意味がわかりません!」
みほ「99%負けると言ったと思えば1%で完勝だなんて誰が信じるんですか!」
みほ「相手は優勝常連校の黒森峰ですよ?! 前回の大会でもギリギリだったのに完勝なんて!」
みほ「それに今回は無人機も出てきます!どう
ヴェニフーキ「無人機などもはや敵ではない」
みほ「えっ…!?」
ヴェニフーキ「これを」サッ
みほ「これは試合会場の地図…ですよね…?」
ヴェニフーキ「はい」
みほ「これが何か…」
ヴェニフーキ「「この会場の中に一箇所だけ」
みほ「…?」
ヴェニフーキ「黒森峰を一方的に葬れる場所があります」
みほ「なっ!!?」
ヴェニフーキ「そこをあなたが、あなたの戦車が押さえれば、大洗女子の勝ち」
ヴェニフーキ「そうでなければ負け」
みほ「そ、その場所って…」
ヴェニフーキ「申し訳ありませんが、私の助言はここまで」
みほ「…」
ヴェニフーキ「では、時間ですので戻りましょう」
【 http://i.imgur.com/33eMmBk.png 】
みほ(この広大な会場にたった一箇所だけ………!?)
乙
オリキャラは良いんだけど
アッサムはポジション奪われてたの?
まぁ、話に関係無いから良いんだけど
>>752
アッサムのポジは>>734の通りですね。
・ダージリンが静養中なので聖グロの隊長および隊長車(チャーチル歩兵戦車)の車長が不在になる
・なのでアッサムが臨時の隊長および隊長車の車長をする(つまりダージリンの代わり)
・しかしそうなると(砲手だったアッサムが戦車長になるので)砲手席が空く
・なので謎の転校生ヴェニフーキが砲手として代役を務める
・みんな大好きペコ太郎はそのまま装填手。
と言った感じですね。分かりにくくてスマソ。
ダー様はきっと今頃自室でクシュンクシュン言ってる頃だと思います。たぶん。
【試合会場 選手待機場所】
沙織「いよいよだね…」
華「ええ。私、なんだか緊張してまいりました…」
麻子「前回はギリギリ勝ったが、今回はどうなるだろうか」
エミ「今回は無人機もあるし相当厳しい戦いになるわね」
優花里「そうそう。無人機で思い出しました」
エミ「ん?」
優花里「無人機といえば先程のやり取りで一部情報に誤りがありました。すみません…」
エミ「へ?」
× Ju78
○ Ju87
優花里「不肖・秋山優花里、まだまだ修行が足りませんっ!!」
エミ「う、うん…?」
※本当は>>1が間違いました。すみませんm(__)m
みほ「…」ブツブツ
優花里「あっ、西住殿が戻ってきました」
沙織「もー!みぽりんったらこんな時に何処行ってた…の…?」
みほ「…」ジー
沙織「みぽりん…?」
優花里「西住殿が見ておられるのは試合会場の地図ですよね?」
華「随分熱心に見ておられますね…」
沙織「み・ぽ・り・ん・っ!!」
みほ「ふぇっ!?あ、えっ…?」
華「あの、大丈夫ですか?」
みほ「うん、ごめんなさい」
沙織「もーっ!試合前だってのにどうしちゃったのよー!」
みほ「…ちょっと、ね?」
麻子「周りに全然気付かなくなるほど地図を眺めて一体どうしたんだ?」
みほ「えっとね、どうやって攻めようかなぁって…」
麻子「そうか…。だがあまり煮詰めすぎてもいけないから程々にな?」
みほ「うん、ありがと」
みほ(確かに。1箇所だけ、怪しいところがある…)
みほ(でも本当にココだという確証は無い)
みほ(もしも間違えたら、その時点で負け…!?)
みほ(やっぱり、セオリー通り行くか。………いや、それとも…)
エミ「………」
エミ「みほ」
みほ「…」ブツブツ
エミ「みほッ!!」
みほ「ふぇぅっ!?え、エミちゃん?!」ドキドキ
エミ「話しなさいよ」
みほ「えっ?」
エミ「あの女と何を話したのか」
みほ「あはは…」
エミ「私にも話せない事なの?」
みほ「えっ……」
エミ「初対面の人間とは話せて、何年も前から友達やってきた私や」
エミ「ずっとチームやってきた皆に話せないことって何?」
みほ「…」
エミ「…」
みほ「…実はね」
あんこうチーム「…」
エミ「たった、1箇所だけねぇ…」
優花里「そしてその1箇所を見つければ"完勝"すると…」
麻子「信じがたい話だ」
華「私も麻子さんと同じです。あの黒森峰を相手に完勝だなんて…」
沙織「胡散臭いよね。なんか一攫千金の儲け話みたい」
みほ「…」
エミ「で、あなたはその1箇所に心当たりはあるの?」
みほ「うん…」
みほ「私はここだと思った」ポン
全員「………?」
麻子「西住さん、そこは前線から結構離れた場所に見えるが…?」
沙織「そうだよね。私は川の周辺じゃないかなーって思ったよ」
みほ「私もこの地図だけじゃ断定は出来ない。だから行ってみないと…」
優花里「難しいですねぇ…」
みほ「うん…」
エミ「行きなよ」
みほ「ふぇ…?」
エミ「行きなよ。あなたがそう思うならそれで良いじゃない」
みほ「………」
沙織「そうだよね。私達みぽりんのおかげでいつも助かってるもんね」
麻子「仮にこの試合に敗れたとしても即廃校となるわけでもない」
麻子「以前よりかは気楽に行けるだろう」
華「ええ。大船に乗ったつもりで行きましょう」
優花里「私はどこまでも西住殿についていきますよっ!」
みほ「みんな………」
エミ「ふふ。決まりね!」
みほ「うん!………スゥ」
みほ「それでは皆さん!これが最後の試合です!全力で行きましょう!!!」
みほ「パンツァー・フォー!!!」
全員「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
エミ「び、びっくりさせないでよ…」ビクビク
みほ「…ごめん」
エミ(まったく。鋭いんだか抜けてるんだか…)
【試合開始後 あんこうチーム】
みほ「各車輌、移動しながら聞いてください」
みほ「地図を見てわかるように、北西が大洗、北東が黒森峰のスタート位置となります」
みほ「また、これは中央を流れる2つの川を挟むように西側が私達、東側が黒森峰となるため、川にかかる2つの橋の周辺が激戦区と予想されます」
【 http://i.imgur.com/kVBMpb9.png 】
みほ「しかし橋の上は長い一本道で遮蔽物も一切ありません」
みほ「そのため格好の的になるので、私達は橋を渡らず対岸からの攻撃を行います」
みほ「一方で黒森峰は厚い装甲を盾に橋を渡り、こちら側へと侵攻するでしょう」
みほ「2つ橋に2つの部隊で挟撃を仕掛けてくると予想されます」
【 http://i.imgur.com/E6txAY7.png 】
みほ「しかし、我々がこれを阻止しようと水際作戦を実行すると、今度は無人機による空からの攻撃が来ます」
みほ「なので対岸からの攻撃にはなりますが、川岸ではなく、その数百メートル手前の住宅街を遮蔽物として上手く利用して下さい」
カエサル『ポン・デュ・ガールか』
おりょう『メクロン河永久橋ことクウェー川鉄橋ぜよ』
左衛門佐『いいや、壬申の乱の決戦場となった瀬田の唐橋だろう』
エルヴィン『何を言ってるんだ!これこそまさにレマゲン鉄橋だろうが!!』
『『『それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』
みほ「そして配置についてですが」
みほ「橋が2つあるため、こちらも隊を2つに分けます」
みほ「まず黒森峰側が直進するであろう【ルート①】にウサギさんチーム、カモさんチーム、カバさんチーム」
みほ「次に迂回路となる【ルート②】はアヒルさんチーム、レオポンさんチーム、アリクイさんチームにお願いします」
みほ「そして、ルート間のギャップを埋めるためにカメさんチームには間へ入って頂きます」
みほ「カメさんチームは2つの隊だけではカバーしきれない情報の収集・伝達を中心に、」
みほ「また必要に応じて時間稼ぎとしての挑発もお願いします」
杏『おっけーい』
【 http://i.imgur.com/33d0FkX.png 】
みほ「なお、私達あんこうチームは皆さんとは別の場所で待機します」
ナカジマ『えっ?隊長たち一緒じゃないの?!』
そど子『それはどういうことなのかしら?』
ねこにゃー『黒森峰の戦車に対抗できる数少ない戦車なのに…』
みほ「はい。あんこうチームは戦車だけでなく無人機を叩かないといけません」
みほ「なので皆さんが配置につく市街地では上空の視界を確保できないため、少し離れた場所にある開けたエリアで攻撃を行います」
みほ「代替策として、アヒルさんチームおよびウサギさんチームに、それぞれの区間の指揮車輌をお願いします」
みほ「指揮車輌は情報収集に特化し、得た情報を素早く正確に他車輌との共有を心がけてください」
梓『わかりました!』
典子『了解です!気合と根性で指揮しましょう!!』
みほ「先にも言いましたが、大洗チームの防衛ラインは岸ではなく、その後ろの住宅街です」
みほ「ここで爆撃および砲撃を回避しながら攻撃をします」
みほ「また、戦車が橋を渡り切ったとしても、入り組んだ住宅街ならば奇襲という形で至近距離から側面を狙えます」
みほ「もちろん撃破できれば御の字ですが、距離、火力、装甲を鑑みると一筋縄ではいきません」
みほ「そのため、最初は撃破のための戦闘ではなく、侵攻を遅らせるための戦闘を意識してください」
杏『また履帯を狙えばいいんだねー』ウシシ
エルヴィン『ふむ。弁慶ならぬ重戦車の泣き所だな』
ナカジマ『同じ重戦車乗りとして同情するよ』アハハ...
みほ「こちらからは以上です。各車輌健闘を祈ります!」
全員『了解!!!』
エミ「向こうは任せちゃって大丈夫なの?」
みほ「うん。ウサギさんチームやアヒルさんチームはもちろん、他の皆も優秀な人たちばかりだから」
優花里「何と言ってもウサギ殿はあのヤークトティーガーやエレファントを撃破したんですからねぇ!」
エミ「ええっ!?あのM3リーで!?どうやって!!」
みほ「あはは。あとでゆっくり説明するよ」
エミ「…そう? 何にしろ、私は大洗女子についてはまだまだ分からないことだらけだから、そっち方面は任せるわよ」
みほ「うん」
沙織「じゃぁエミりんは何をするの?」
エミ「え、私?」
沙織「うん」
エミ「そうね。みほがいつオナラしても良いようにベンチレーターを作動させるわ」
みほ「ちょっとエミちゃん!!!」
沙織「あらやだぁ~無線入れっぱなしだった~ てへぺろ☆」
みほ「えええええ!!!?」
アハハハハハハハハハ
みほ(確証はどこにもない)
みほ(でも…)
みほ(恐らく、ここしかない…)
【 http://i.imgur.com/6jStWLT.png 】
典子『こちらアヒルさんチーム。配置につきました!』
梓『同じくウサギさんチームも準備完了です!』
杏『こっちもおっけーだよ。いつでもカバー入れるからねー』
みほ「了解です。私達もまもなく配置場所へ到着します」
みほ「ただ、先述の通り、現時点でそちらの状況が判別しづらいため、」
みほ「各車輌はそれぞれの前線指揮官を中心に行動判断を一任します」
全員『了解!!』
【あんこうチーム 配置場所】
沙織「これがみぽりんの言ってた場所…」
麻子「なんというか…」
華「円柱状の建造物ですよね…?」
エミ「何でこんなものがココにあるのよ………」
【 http://i.imgur.com/xq6SvOo.png 】
優花里「この建物の最上階に上手く戦車を移動できれば無人機を撃墜しやすそうですね」
エミ「当たり前じゃない」
優花里「えっ?」
エミ「だってこの建物の本来の目的がソレなんだから」
華「どういうことですか?」
エミ「こっちが"どういうことなの"って聞きたいわよ」
エミ「何でこんなところに"高射砲塔"があるのかって」
沙織「高射砲塔?」
エミ「ええ。名前通り高射砲や対空機関砲を全周囲に配置した塔よ」
エミ「ドイツの主要都市やヨーロッパの大都市を爆撃から守るためにつくられた防空要塞」
麻子「確かに道中の建物は西洋風のものばかりだった。ここはそういったのを模倣した都市なのかもしれんな」
エミ「だからといって高射砲塔まで再現するのかしら…」
麻子「そこまではわからん…。だが、高射砲塔なら対無人機戦闘で大いに活躍するんじゃないか?」
エミ「そうね。問題はこの馬鹿デカいE-100対空戦車が乗るかだけど」
優花里「ひとまず内部を見てみましょう」
みほ「うん。ちょうどあっちに戦車が通れそうな入り口もあるしね」
【高射砲塔 内部】
沙織「…何かちょっと気味が悪いね」
華「窓のない建物の中にいる気分です」
エミ「高射砲塔は分厚い鉄筋コンクリートで造られているから、この中にいれば無人機の爆撃なんて屁じゃないわ」
麻子「しかし同時に攻撃もできないな」
みほ「ひとまずどうやってE-100対空戦車を最上階まで持っていくか考えよう」
エミ「ええ。IV号戦車よりも重たい"12.8cm Flakzwilling40"を最上階まで運搬するんだから何かしら仕組みがあるはずよ」
優花里「皆さぁーん!こちらに業務用のエレベーターがありましたー!」
エミ「一体どんな構造になってんのよこの高射砲塔…」
麻子「おそらく高射砲塔を再現して、それとは別に何かしらの都市設備を兼ねているのだろう」
麻子「災害が起きれば避難所にもなるだろうしな」
エミ「…」
沙織「そんなことより!そのエレベーターを動かせば最上階まで行けるかも!?」
エミ「戦車の重量が耐えられるといいわね」
みほ「大丈夫かなぁ…」
優花里「それでは動かしますよー!」
ガクン
ゴゴゴゴゴゴゴゴ.....
沙織「あはは。エレベーターが悲鳴あげてるね」
エミ「そりゃそうよ。いくらなんでも150トンを持ち上げるんだから」
麻子「途中で真っ逆さまにならんことを祈ろう」
【高射砲塔 屋上】
エミ「…た、耐えた…!?」
みほ「あはは…本当に頑丈なんだね高射砲塔って」
エミ「…もう深く考えるのはやめるわ。試合に集中できなくなる」
みほ「う、うん…」
優花里「さすが高射砲塔というだけあって見晴らしが良いですねぇ」
華「試合じゃなくてもこういった景色のいい場所は足を運びたくなります」
麻子「ここなら全周囲見渡せるから無人機が相手でもある程度は応戦できそうだ」
沙織「そうだね。これだけ高かったらすぐ無人機の場所がわか
みほ「いや、違う」
麻子「んっ?」
優花里「西住殿…?」
みほ「ほら、あれ…」
クルッ
全員「あっ…」
エミ「………どうやら、あなたは"正解"を選んだみたいね」
みほ「うん…」
― 黒森峰を一方的に葬れる場所があります
みほ(地図を見たとき、そこそこ高いし視界も良いから無人機を叩きやすい場所だと思った)
みほ(そしていざ現物を確認したら、それは都市防衛を目的として建設された高射砲塔だった)
みほ(これを活用すれば本来の用途通りに使えば防空能力は向上する)
みほ(…そう思っていた)
みほ(でも、それは本当の目的ではなかった…)
みほ(ヴェニフーキさんはこの事を言ってたんだ…!!)
【 http://i.imgur.com/QxPIWvR.png 】
【本筋とは関係ない余談】
(レスにもあったように)試合会場はオーストリアのウィーン(高射砲塔はアウガルテン公園にあるやつ)をモデルにした"きっとどこかにある場所"です。
・巨大な戦車が入れる入口がある
・150トン超える超重戦車が持ち上げられるエレベーターがある
などなど、この世界の高射砲塔やその他もろもろは、実物のものとは違うみたいですが。。
なお高射砲塔は他にもドイツのベルリンやハンブルクにもありますが、
・戦車道の試合会場
・黒森峰に完勝する
という2点を鑑みた結果、地理的にウィーンが適していたので選んでみた次第です。
GoogleMapを起動させるとPCがパンクしそうでした。
華「ここから橋まで、おおよそ1,300~2,200mほどでしょうか」
優花里「結構な距離ですねぇ…」
麻子「普段の対戦車戦闘がだいたい500mほどだったからな」
華「うふふ。ここ最近は1,000mを超える射撃ばかりですね」
沙織「サンダースの時なんて1,000mどころか10,000m近かったもんね」
エミ「え゛っ!?」
みほ「あはは。B-29落とした時のことだよ」
エミ「無理よそんなの!!」
みほ「でも実際に撃破したもんね」
エミ「うぇぇ…」
優花里「10,000m級に隠れがちですが、そのあとに2,000m超えの狙撃を2回やった点も忘れてはいけませんよ」アハハ
エミ「ふぁっ!?」
沙織「そうだよねぇ。サンダース相手にあんなあっけなく勝っちゃうなんて思わなかったもんね」
エミ「…い、五十鈴さんも名門の人なの?!」
華「戦車道ではなく華道ですけどね」フフッ
エミ「えっ…えええ?!」
沙織「華道やっているせいか射撃時の集中力ハンパないんだよね」
エミ「」
みほ「私も華さんの潜在能力には驚かされてるかな」
華「恐縮です」フフッ
エミ「…みほ。あなたのチーム、日本代表選手になれるわよ…」
みほ「えへへ。みんな凄いもんね」
沙織「日本代表選手かぁ…やっぱりモテるのかなぁ」
麻子「持つものがなければ選ばれんだろうな」
沙織「上手いこと言わなくていいのっ!」
エミ「…で、ここから橋の上までは狙えそうなの?」
華「遠くを狙う機会に恵まれていたおかげで、遠距離への攻撃はだんだんとコツを掴んできました」
エミ「そ、それは頼もしいわね…」
華「それに、ここからだとちょうど一直線上に位置する橋の上」
華「狙いがつけやすいのはもちろん、相手は逃げられない…」
華「いけると思います」
沙織「すごい華…。どんどん強くなっていくね…!」
華「楽しいことに夢中になるとどんどん技術は身に付きますよ」
みほ「あはは。それじゃああまり時間もないし、狙撃の準備に入ろう」
華「はい」ニコッ
麻子「五十鈴さん、角度はこれくらいかな?」
華「これだと砲弾が上を通り過ぎてしまいます、もう少し前方へお願いします」
麻子「わかった」ガコン
優花里「今のところ無人機は確認できません」
沙織「やるなら今のうちだよね」
エミ「黒森峰は橋を渡り始めたようね」
みほ「うん。あとは上手くこっちに来てくれるかだね」
典子『こちらアヒルさんチーム!【ルート②】の中ほどに敵車両を確認!』
典子『先頭にティーガーII、その後ろにパンターが2輌、そのあとにフラッグ車のティーガーIです!」』
みほ「了解です。こちらからも【ルート②】にて複数車両を確認出来ます」
華「同じく確認できました。…ただ、まだ距離は遠いので、もう少し寄せたいです」
エミ「どれくらいまで接近させるの?」
華「そうですね…今のところ1,800mほどですから、これを1,500mまで縮めたいです」
エミ「それならティーガーIの正面はブチぬけるでしょうね」
ガコン
優花里「高速徹甲弾、装填完了です」
ガコン
エミ「こっちもOK」
華「ありがとうございます」
梓『こちらウサギさんチーム!【ルート①】からも先頭にヤークトティーガー、その後ろにパンター複数確認できました』
梓『あっ、その後ろにはティーガーIIもエレファントもいます!』
優季『橋が崩れちゃうよぉ』
みほ「わかりました!」
みほ「引き続き、"抵抗するけど全く歯が立たなくて焦ってる感じ"で防衛ラインを守ってください!」
みほ「目的は相手車両の接近です!それではオロオロ作戦開始!」
全車輌『オロオロ作戦開始!』
優花里「っ! 遠方に無人機を確認。いよいよ動き出しましたよ…!」
みほ「華さん!」
華「ええ」
みほ「うん!お願い!」
みほ「目標、フラッグ車 ティーガーI」
華「うっ…」
優花里「ん?五十鈴殿?」
エミ「…どうしたの?」
華「距離にしておおよそ1,600m…微妙ですね」
みほ「微妙?」
エミ「一応、2,000mでも153mmは貫けるから大丈夫だと思うど…」
華「ええ。…ですが、確実に仕留めたいのです」
華「せめて、砲塔が横を向いてくれたら…」
みほ「カメさんチーム!ティーガーIを挑発して下さい!!」
杏『おっけーい。小山ぁ頼んだぞ~』
ズドォォォォォン!!
ガシャーーーン!!
杏『うっひゃぁ!めーっちゃ狙われてるよー西住ちゃん!』
柚子『あぁ…建物が…』
みほ「挑発に引っかかってる証拠です!このまま続けましょう!」
杏『んでも撃破は無理っぽいよ?どーする?』
みほ「構いません!そのまま続けてください!!」
杏『あはは。西住ちゃんもなかなか無茶を言うようになったねー』
桃『に、西住ぃ!!貴様私達を見殺しにするつもりかぁぁぁぁ!!!』
柚子『あぁ…やっぱり色々迷惑かけたこと根に持ってるのかなぁ…』オロオロ
みほ「ち、違うんです!ティーガーIの砲塔の向きを変えることが目的なんです!」
杏『わかってるって西住ちゃん。とりあえずやれるだけやってみるよ』
みほ「はい、お願いします!」
杏『ダメだ西住ちゃん!相手もさすがに挑発だって気づいてるよコレ!』
杏『全ッ然見向きもしてくんない!』
みほ「っ…!」
典子『西住隊長!私達もカメさんチームに援護します!!』
典子『おそらく1輌だけじゃ挑発かもしれませんが、複数でやれば多少は反応するでしょうから!!』
みほ「はい!お願いします!!」
典子『レオポンさん、アリクイさん!カメさんチームと合流して橋へ攻撃をします!』
典子『私についてきてください!!』
ねこにゃー『了解だにゃー!』
ナカジマ『殿は任せて!』
エミ「ティーガーIが停止した!!」
優花里「砲塔も動きました!これで側面を狙えます!!」
みほ「うん! 華さん、チャンスです!」
華「かしこまりました…!」
麻子「車体の向きや角度は問題ないか?」
華「ええ、バッチリです」
沙織「一旦無線OFFにするよ」プツッ
華「お心遣い感謝します。では、いきます…!」
「………」
キュラキュラキュラ
「………」
ウィーン
「………」
「………」
カチッ
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
アナウンス『黒森峰フラッグ車、走行不能』
アナウンス『よって、大洗女子学園の勝利!!』
みほ(その瞬間、全てが沈黙した)
みほ(私達を除く、ほぼ全ての人が『何が起こったの!?』と唖然した)
みほ(華さんの弾は、黒森峰のフラッグ車であるティーガーIの砲塔右側面に命中し、撃破)
みほ(私達は、黒森峰を相手に、本当に"完勝"した)
みほ(高校戦車道最強といわれた黒森峰を相手に…)
みほ(今でも信じられない………)
◆ エピローグ
沙織「私達、勝った…の?」
優花里「先程のアナウンスは偽装工作だったりしませんよね…?」
華「いえ。砲弾は確かにティーガーIの砲塔右側面命中しました」
沙織「…冷静に考えるとそれも相当凄いけどね」
華「ふふ。相手が遠ければ遠いほど狙うのが楽しくなりますわね」
沙織「へぇ~。華も追うタイプだったんだ」
麻子「…狙撃の話だろ。お前の恋愛観とはまた別だ」
エミ「みほ、いつまで沈黙してるのよ」
みほ「え…あぁ…うん…」
『こちら黒森峰フラッグ車。試合の終了に伴い交信をする』
沙織「えっ?」
梓『西住隊長、黒森峰から通信が入りました!』
典子『こちらにも通信が入ってます』
エルヴィン『こちらカバチーム。同じく通信が聞こえる』
ナカジマ『こっちにも来てるよ』
みほ「この声…お姉ちゃん…!」
エミ「どうやら、まほさんは全車輌に通信しているようね」
『こちらのフラッグ車であるティーガーIは、被弾により走行不能となった』
『…我々の、完敗だ』
全員「『!!!』」
エルヴィン『お、おい、今なんと?!』
ねこにゃー『ボクたち勝ったの…?!』
梓『西住隊長…これは相手側のダミー情報なのでは?!』
ナカジマ『ええっ、ダミーなんですか!?』
そど子『ちょっと!そんなのルール違反じゃない!』
沙織「大洗全車輌へ、黒森峰側の無線は試合終了に伴い発信されたものです」
沙織「よって、この内容は試合戦術における偽装通信ではありません」
沙織「我々あんこうチームは、黒森峰女学園からの通信に対し、最大限の敬意を表しこれを受信いたします」
全員『…!』
『ご理解いただき感謝する』
『大洗女子の隊長にお尋ねしたい。我々はどの位置から撃たれただろうか?』
沙織「…」チラッ
みほ「…」
みほ「XXX-YYY地点にある高射砲塔…高台からです」
みほ「今から上空に向かって撃ちます」
『…』
みほ「ゆかりさん、エミちゃん。対空砲弾をお願い。信管の設定はお任せします」
優花里・エミ「了解」
ガコン ガコン
優花里「装填完了」
エミ「同じく装填完了」
みほ「…華さん、お願いします」
華「かしこまりました」
ズガァァァァァァァァァン
ズガァァァァァァァァァァン
みほ「………」
『こちら黒森峰フラッグ車。砲撃を確認。射撃位置を特定した』
『見事だ………!』
【戦車を降りて...】
まほ「確かに、この高射砲塔からだと見下ろす形で橋の上を狙える」
みほ「…」
まほ「対してこちらのいかなる攻撃も届かないだろう」
みほ「…」
まほ「こんな場所があったとはな…」
みほ「どうして、無人機を使わなかったの?」
まほ「はは。もっと早く投入すればよかったかな」
みほ「…使いたくなかったんだね…やっぱり」
まほ「そうかもしれん。だが、仮にあの状況で無人機を使ったとしても」
まほ「恐らくみほがいた場所ではなく、対岸の防衛ラインを崩すことに専念していた」
みほ「で、でも!そこに私達がいないってわかれば…!」
まほ「あぁ。もっと広域を偵察しただろう。だが、その段階で既に手遅れだっただろうな」
まほ「いずれにせよ、高射砲塔はノーマークだった」
みほ「そっか……」
まほ「みほ」
みほ「はい…」
まほ「おめでとう」
みほ「う、うん…ありがと」
まほ「どうした?お前は我々に勝って優勝したんだぞ」
みほ「うん…。未だに勝ったって実感が湧かないんだ…」
まほ「それは我々も同じだ」
まほ「まさか1輌も撃破することなく敗れるなんて思いもしなかった」
みほ「………」
みほ「実は………」
みほ(私はお姉ちゃんに全てを話しました)
みほ(試合が始まる前に勝敗が決まっていたこと)
みほ(そしてそれは私の考えではなかったこと)
まほ「………」
みほ「………」
まほ「………さすがだな」
みほ「えっ…?」
まほ「確かに、みほに助言した者は恐ろしいほど観察力・洞察力に長けた人物だろう」
まほ「しかし、その助言から実際に"答え"を導き出したのは、他でもないみほだ」
みほ「!」
まほ「どの相手と、どこの会場で試合をしても、同様な『完勝』を実現できる条件は必ず存在すると私は思っている」
まほ「だから誰だって『こうすれば完勝できる』と言うことは可能だ」
みほ「で…でも…」
まほ「だが、そう宣告するのと実際にその条件を見つけ、遂行するのとでは話は全く違う」
まほ「そして、お前は確かに自分の経験をもとにそのポイントを見つけた」
まほ「みほだから見つけられた」
まほ「だから、さすがだよ。みほ」
みほ「…」
みほ「…まだ……終わってないから」
まほ「えっ?」
みほ「……こんな試合……ナシだから……」ポロポロ
まほ「みほ…!」
みほ「無人機なんて…余計なものがあったから…まともに戦えなかった………」
みほ「だから……だから………もう一度…今度は無人機ナシで………」
まほ「あぁ…わかった」ギュッ
みほ「…ヒッグ……」
まほ「泣くな。隊長がそんな顔では皆が浮かばれんだろう」ナデナデ
みほ「…だって………」
まほ「この試合はお前の勝ちだ。だが、我々もまだ終わったわけではない」
まほ「今度は私の意思を受け継いだエリカが隊長となって、またみほたちの前に立ちはだかる」
まほ「その時、私はまたみほと戦える」
みほ「……ッ…」
まほ「その時が来るまで私はエリカや他の隊員をしっかり育てよう」
まほ「だから、みほも次の世代を育てろ」
みほ「お姉ちゃん……!」
エミ「へへ…いい話じゃない」
優花里「ええ…目頭が熱くなりますねぇ!」
エミ「何にせよ………これで私の役目も終わったかな」
沙織「えっ?」
エミ「私は短期転校だから、試合が終わってからはまたベルウォール生よ」
エミ「…ちょっと寂しいけれど、私にも帰る場所があるからね」
華「エミさん」ダキッ
エミ「わっ!?ち、ちょっと五十鈴さん!?」ギュゥゥゥ
華「楽しかったですわ!とーっても!!」ウフフフ
沙織「あ!華ばっかりずるい!私も!」ムギュッ
エミ「ごぶッ!?」
優花里「中須賀殿もすっかりあんこうチームですねぇ!」
麻子「全くだ。短期転校というのが惜しい」
エミ「私もよ。あの時はこうやってみほたちと一緒に戦車が乗れるなんて思いもしなかった」
エミ「なんていうか…運命なのかな。色んな所で繋がってる」
麻子「あぁ。運命というのは本当にわからん。なにせ私が西住さんに代わって隊長をやる事もあったのだから…」
沙織「あのときは私も『麻子でいいの!?』ってなったよ」
麻子「まぁお前がやるよりは100万倍マシだがな」シレッ
沙織「ちょっとそれどういう意味よ!!」
優花里「まぁまぁ」アハハ
みほ「みんなごめんね。待たせちゃって」
エミ「良いわよ。こういう時くらい」
みほ「えへへ」
「ミホーシャぁ!!」
みほ「ふぇっ!?」
カチューシャ「どういう事か説明しなさいっ!あの黒森峰をコテンパンにしちゃうなんて!!」
みほ「え、えっとぉ…」
「まぁまぁ。ミホが困ってるじゃない」
みほ「あっケイさ
ケイ「Congratulationsミホぉ~~~!凄かったよさっきの1発ぅ!」ギュゥゥゥッ
みほ「んがががぐごががががギブギブ…!」ミシミシ
カチューシャ「ちょっとケイ!あんたこそミホーシャ困らせてるじゃない!」
アハハハハハ!
「優勝おめでとう!こりゃぁ盛大にお祝いしないとなっ!」
みほ「あ、アンチョビさんも観てたんですね!」ミシミシ
アンチョビ「おうよ!何しろ大洗女子の試合だからな!」
みほ「えへへ。いつもありがとうございます」
アンチョビ「うむうむ。勝利を祝って盛大にパーティだ!」
みほ「ええっ!良いんですか?!」
アンチョビ「おうよ、遠慮するな!い、いや、ちょっとは遠慮してくれ…。いや、やっぱ気にするな!こういう時はケチケチせずパーッとやるのが一番だ!」
ケイ「あははっ。ウチからもお祝いするよ!…あの時のお詫びも兼ねてねっ!」
カチューシャ「だったらカチューシャたちも盛大に振る舞うわよ!ノンナが!!」
まほ「本当に強くなったな、みほ」
みほ「お姉ちゃん…」
まほ「気づいたらお前の周りには多くの仲間がいる」
まほ「黒森峰を去ったときは心配だったが、今はもう大丈夫だろう」
みほ「うん…」
しほ「ええ。強くなったわね。みほ」
みほ「げぇぇっ!!お母さん!!?」
しほ「げぇっとは心外ね」
みほ「ど、どうしてこんなところに?!」
しほ「娘たちが戦う決勝戦を、親である私が見に行くのはそんなに珍しい事かしら?」
みほ「い、いやそんな事はないけど!そんな事はないけどっ!」オロオロ
しほ「先程の戦い、実に様々なことを考えさせられたわ」
みほ「え」
しほ「なので、ゆっくり話を聞かせてもらいましょう」
みほ「お、お姉ちゃん…!」
まほ「ははは。良いじゃないかこういう時くらい」
みほ「はぅ…」
まほ(何だかんだいって、お母様もみほと過ごす機会を探しているからな)
「ふふ。一家お揃いで微笑ましいです」
みほ「あ、アッサムさん!?」
アッサム「おめでとうございます。みほさん」
オレンジペコ「凄かったです!さっきの遠距離射撃!」
みほ「あ、ありがとうございますの!」
まほ("の"…?)
アッサム「あなたの戦い方は常に計算外なので、私達も多くのことを学ばさせて頂います」
オレンジペコ「今回の試合もものすごく勉強になりました」
みほ「い、いえいえそれほどでも…!」
アッサム「ふふっ。早起きして会場に来た甲斐がありました」
オレンジペコ「はい!眠気なんて吹っ飛んじゃうほど熱い試合でした!」
みほ「あの。ところで…ヴェニフーキさんは?」
沙織「そういえばヴェニフーキさんがいない?!」
アッサム「あぁ、ヴェニフーキでしたら、みほさんたちの戦車が射撃をした直後に帰りましたわ」
みほ「そうですか…」
アッサム「どうかされまして?」
みほ「あ。いえいえ、何でもないです」
オレンジペコ「そういえばヴェニフーキ様より伝言があります」
みほ「ふぇ?ヴェニフーキさんから?」
沙織「………」
オレンジペコ「はい。みほさんへ "おめでとうございます" と」
みほ「あ、ありがとうございます…!」
みほ(こうして、各校の皆さんに祝福されながら、私達の"対空"戦車道は優勝という形で無事に幕を閉じた)
みほ(無人機というイレギュラーなルール改変から始まり、それに抗う形でIV号対空戦車の投入)
みほ(メーベルワーゲンから始まった対空戦闘と、そこから学んだ搭乗員の安全性)
みほ(次のヴィルベルヴィントが教えてくれた航空機の圧倒的優位)
みほ(気が緩みかけた私達を軌道修正してくれたオストヴィント)
みほ(常識に囚われない新たな戦い方を模索するきっかけとなったクーゲルブリッツ)
みほ(そして…)
みほ(イレギュラーなルール改変に対抗する形で誕生したE-100対空戦車というイレギュラー)
みほ(一言に対空戦車といえど、そこには色んな思惑があった)
みほ(多くの困難が立ちはだかり、その度に乗り越えてきた)
みほ(別に無人機じゃなくてもいい。対空戦車じゃなくてもいい)
みほ(確かに言えることは)
みほ(私達はどんな困難が訪れても、きっとまた乗り越えていける)
みほ(それが私達の戦車道だから)
おしまい
● Tips
「…私です」
「ええ。たった今試合が終わりましたよ。大洗の完勝です」
「そうですね。やはり西住さんたちは凄いです」
「それで、今からそっちに行ってもいいですか?」
「ありがとうございます。すぐに向かいますね」
「ん?こちらですか?」
「残念ながら、振り出しに戻ってしまいました」
「アッサムさんだと思っていたのですが…」
「…ええ。ご心配なく。必ず突き止めますので」
「はは。あなたが納得しても、私の腹の虫が収まらないでしょうね」
「ええ。続きはそっちへ行ってからにしましょう」
ヴェニフーキ「ダージリン」
もう一つの戦いが静かに始まろうとしている。
おしまい ?
対空戦車が好きだから50レス程度でガルパンSS書こうと思ったらこんなに長くなってしまった。
ガバガバ設定だけど読んでくれた人にありがとう
レスしてくれた人にもありがとう
きっとツッコミどころ満載だけど、ひとまずこのSSはここで完結させて、HTML化依頼をします。
ちなみに過去に書いたSS↓
【ガルパン】みほ「猛特訓です!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474376201/
おつ!
げぇぇぇぇ!は笑う
元スレ
SS速報VIP:【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/
麻子(お、おのれB-29…とんでもない置き土産を…)カタカタ...
華「ふふ…心配はいりませんよ」
麻子「えっ?」
華「冷泉さんはあのB-29を落としたのですから」
麻子「い、いや、落としたのは五十鈴さんじゃないか」
華「冷泉さんの指揮がなければ無理でした」
麻子「し…しかし私は…」
華「もちろん、優花里さんもツチヤさんも、私だって、あれだけ困難な相手に打ち勝つだけの実力はありますわ」
華「でも、それらは冷泉さんの指揮からスタートしたものです」
華「ですから、心配は何もいりません」ニコ
優花里「五十鈴殿の仰る通りですよ冷泉殿!」
ツチヤ「私はチームは違うけどさ、全然やれる自身あるよ。冷泉さんのおかげだね」
麻子「そ、そうか…みんな頼むぞ…!」
優花里「はいっ!」
華「ええ!」
ツチヤ「りょーかい!」
451: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:24:25.73 ID:utHvKE5h0
麻子「こちら冷泉、西住さんに代わり、臨時の隊長をすることになった」
麻子「西住さんのようにはいかないが、やれる限りのことをやる。どうか皆、頼む」ペコッ
全車輌『了解!!』
そど子『上手くやりなさいよ!れま子!!』
麻子「ああ…やってみる。あとれま子はよせそど子」
452: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:26:09.91 ID:utHvKE5h0
麻子「おそらくサンダースは、先程のポルシェティーガーの砲撃で、こちらのおおよその位置は把握したと思う」
麻子「だから各車両はなるべくここから離れる形で散開して欲しい」
麻子「アヒルさんチーム、ウサギさんチームは先頭を走り、森林を抜ける一歩手前まで進み、偵察をお願いしたい」
麻子「無人機はもういない。残るは戦車だけだ…頑張ろう!」
全車輌『了解!!』
麻子「では、パンツァー・フォー!」
453: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:27:37.67 ID:utHvKE5h0
麻子「さて…」
麻子(ああは言ったものの、車長なんて初めてだ。どうしたものか…)
麻子(しかもよりによってポルシェティーガーはフラッグ車。私の采配ミス1つで即終了なんてことも十分あり得る……)
麻子(こんな胃に大穴が開きそうなことをずっとやってきたのか西住さんは…)
麻子(手腕もさることながら、責任能力も相当のものだ…)
ツチヤ「それで、どうしようか?」
麻子「あ…あぁ。我々はなるべく遮蔽物に隠れながら他の味方車両の後を付いていこう」
ツチヤ「あいよー!」ブロロロ
454: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:30:41.57 ID:utHvKE5h0
ズガァァァン
ズドォォォン
梓『こちらウサギさんチーム!先程のような一斉射撃をまた受けています!』
麻子「こちら隊長車。了解した!窪みや岩陰などを利用して砲弾の回避を優先してくれ」
梓『わかりまs ズガァァァァァン!!! ポシュッ!
アナウンス『大洗女子チーム M3リー 走行不能!』
麻子「っ!! ウサギさんチーム!ケガは無いか?!」
梓『なんとか全員無事です!すみませんが後はお願いしますっ…!』
麻子「了解した。無事で何よりだ…」
麻子「こちら隊長車。最前線のウサギさんチームより、サンダースによる一斉砲撃を確認とのこと」
麻子「距離はまだ近くないため、挑発行為の可能性もある。遮蔽物に隠れるなど流れ弾の回避をお願いする」
『了解しました!』
455: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:36:18.99 ID:utHvKE5h0
麻子(くそっ…後輩が私よりも前線で奮闘したというのに…)
杏『うっひゃー!こりゃぁまるで花火大会だよ!サンダースは弾を惜しまずに撃ってくるねぇ!』
麻子「どうやらそのようだな。だが、向こうと違いこちらは闇雲に撃つものなら居場所を教えることになると思う」
麻子「砲撃は慎重に、そして撃ったら速やかにその場を離れてくれ」
桃『了解。一番先頭の車両を狙ってみる』
ズドォォォン!
アナウンス『サンダース大学付属高校 M4シャーマン 走行不能!』
桃『やった…!』
杏『よくやったかーしまぁ』
柚子『すごい!桃ちゃんが当てた…!』
桃『よし次は…』
ズガァァァァァァァァン!!!
ポシュッ!
アナウンス『大洗女子 ヘッツァー走行不能!』
456: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:38:26.36 ID:utHvKE5h0
杏『…冷泉ちゃん、本っ当にゴメン!!』
麻子「構わない。それよりみんな無事か?」
杏『なんとかねー。しかし河嶋が当てるとはねぇ』
桃『できるのならば1輌いきたかった……』
柚子『冷泉さん、あとはお願いします…!』
457: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:39:29.39 ID:utHvKE5h0
麻子(今度は生徒会の御三方か…)
麻子(このままじゃ他のチームも餌食になってしまう)
優花里「冷泉殿!」
麻子「お、おう?」
優花里「今の2輌が撃破された時ですが、音からしてシャーマン・ファイアフライです」
華「!」
麻子「シャーマン・ファイアフライ…確か前回の大会のサンダース戦で撃たれた車輌だったな?」
優花里「ええ。搭載してる17ポンド砲はティーガーIの正面装甲すらも貫通できるほどです!」
優花里「ただ、強力な砲弾なため火薬量が多く、音や煙がすごいのと、装填速度に時間がかかるのが難点ですけどね」
麻子「なるほど。ならば…」
優花里「"当たらなければどうということはない"と言いたいところなのですが…」
458: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:41:10.31 ID:utHvKE5h0
麻子「っ…!」
華「ファイアフライの砲手はナオミさんです」
麻子「ナオミさん…先程交信してきた人か」
華「はい。サンダースが誇る名砲手です…!」
麻子「厄介な戦車に厄介な砲弾。厄介だ…!」
ズバァァァァァァァン!!
ズガァァァァァァァン!!!
華「!!!」
ツチヤ「っ!こっちまで飛んで来たか!」
麻子「外れたものの至近弾だ。危なかった…」フゥ...
優花里「今の音!やっぱりファイアフライですよっ!」
麻子「なっ…ということは…」
華「結構な距離からの攻撃ですが、偶然ではなく、確実に狙われています…!」
459: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:43:22.92 ID:utHvKE5h0
麻子「ぐっ…!」
麻子「ポルシェティーガーより冷泉。全車輌に聞いて欲しい」
麻子「先程よりサンダース側から断続的な攻撃を受けているが、その中でシャーマン・ファイアフライと思われる攻撃は、より正確に私達を狙ってきている」
麻子「だから常に射程内にいるものだと思い、地形や遮蔽物を最大限利用して回避に徹してくれ!」
全車輌『了解!』
460: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:45:00.19 ID:utHvKE5h0
麻子「…って、しまった!ここじゃロクな遮蔽物がない!」
麻子「迂闊だった…私の判断ミスだっ…!」
優花里「落ち着いてください。砲弾が飛んできた位置を確認し、車体を傾けることでダメージを軽減させられます」
麻子「わかった、やってみる…!」
麻子(砲弾は確かあちらから飛んできた。…となれば)
麻子「ツチヤさん。車体を左に30度傾けてほしい」
ツチヤ「あいよ任せて!」グイッ ガコン
麻子「くそっ…私としたことが…!」
優花里「大丈夫です!まだやられたわけじゃありません!」
麻子「っ…そうだな。済まない」
華「………」
461: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:46:07.68 ID:utHvKE5h0
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!
ガコーーーーン!!!
麻子「うわぁっ!!」
優花里「大丈夫です!命中こそしましたが決定打にはなってません!!」
優花里「100mmの装甲と避弾経始が助けてくれましたよ!」
麻子「そ…そうか…!」
ツチヤ「大丈夫だよ!この子やったら頑丈だからさ!」
優花里「ですよねー!黒森峰戦ではお世話になりましたよ!」
華「………」
麻子「ど、どうした、五十鈴さん…?」
462: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:47:09.46 ID:utHvKE5h0
華「見えましたわ…」
麻子「見えた…?」
華「シャーマン・ファイアフライです」
麻子「!!」
優花里「徹甲弾、装填完了です!」
麻子「遠方に戦車がたくさんいるのは私にも確認できた」
麻子「だが、ファイアフライがどこにいるかまではわからない…」
優花里「ファイアフライは他のM4A1シャーマンよりも砲身が長いヤツです!」
麻子「長いやつ?ここからだとどれも同じに見えるぞ…?」
463: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:48:28.32 ID:utHvKE5h0
優花里「あ…ひょっとしたら砲身に迷彩塗装してるのかもしれないです!」
麻子「迷彩塗装?」
優花里「ええ。ファイアフライはティーガーを撃破できる数少ない戦車だけに、ドイツにとって要注意戦車だったわけですよ」
優花里「そのため真っ先に狙われるから、砲身の下半分にカウンターシェイドという迷彩塗装を施して背景と同化することで砲身が短く見えるように偽装したのです」
麻子「な、なるほど…!」
華「ご安心ください。私にはもう見えてます。距離は2,200mほどでしょう…!」キュラキュラ…
優花里「ティーガーの砲弾Pzgr40は射程2000mで110mmの装甲板を貫通すると言われています。これならいけるかもしれません!」
麻子「なるほど。五十鈴さんの方は行けそうか?」
華「10,000mの後だとすごく近く感じますね」
優花里「さすがです…!」
麻子「隊長なのにこんな体たらくで申し訳ない…。五十鈴さん、砲撃を頼む!」
華「承知いたしました…!」
麻子(おそらくラストチャンスだ…ここで外せば終わる!)
ズガァァァァァァァァァァァァン
464: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:49:14.96 ID:utHvKE5h0
シュポッ!
アナウンス『サンダース大付属 シャーマン・ファイアフライ 走行不能!』
優花里「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!」
麻子「やった…!」
ツチヤ「おーさっすがぁ!」
華「いえ、まだです!!」
465: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:50:41.36 ID:utHvKE5h0
麻子「っ!」
華「目標、フラッグ車」
麻子(確かにフラッグ車の旗が見える。…だが、その前に複数の戦車が護衛でついている…いけるのか…?)
ガコン
優花里「次弾装填完了!」
華「………」
カチッ
ズガァァァァァン
466: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:51:22.02 ID:utHvKE5h0
シュポッ!
アナウンス『サンダース大付属高校 M4A1シャーマン 走行不能!』
アナウンス『フラッグ車走行不能により、勝者・大洗女子学園!』
467: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:52:32.71 ID:utHvKE5h0
優花里「お、お見事です…五十鈴殿っ…!」
華「うふふ。やりました」ニコッ
麻子「………勝った…」
麻子「…勝った………勝った……!」ヘナヘナ
優花里「ええ!私たち勝ちましたよっ!!!」
華「ふふっ。麻子さんの采配のお陰ですわ」
麻子「そんな……私は何も………」
麻子「それどころか危うく窮地に追いやるところだった…」
華「そんなことはありません」
468: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:55:05.66 ID:utHvKE5h0
麻子「えっ…?」
華「この位置からでないとファイアフライとフラッグ車は狙えませんでしたわ」
麻子「そ…そうなの…か?」
華「ええ。遮蔽物に隠れながらだとどうしても攻撃範囲が狭まってしまいます」
華「マゴマゴしている間にほかの味方車両が撃たれていたかもしれません」
華「それにファイアフライもフラッグ車も他の車輌に隠れるような位置でした」
華「ですが、この位置からだといずれの車輌も狙える"隙間"がありました」
麻子「そうなのか…」
ツチヤ「そう考えると被害を最小限に押さえて、同時に危険車両と最重要目標を同時に倒すことに貢献したわけだよねー」
華「ええ。そうですわね」フフッ
優花里「西住殿の代役、しっかり果たせてましたよ冷泉殿!」
麻子「そ、そうか」ヘナッ
優花里「おぉっと!」ガシッ
麻子「す、すまん…体に力が…」
優花里「えへへ。お疲れ様です冷泉殿」
麻子「あ、あぁ…本当に疲れた。眠い」ウトウト
469: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:56:00.20 ID:utHvKE5h0
「皆さぁーーーん!お疲れ様でしたーー!!」
優花里「お、西住殿ですよ! おーーーーい!!」ヒラヒラ
470: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 13:57:37.11 ID:utHvKE5h0
みほ「麻子さん!本当にありがとうございましたっ…!」フカブカ
麻子「いや、私は皆に助けられた側だ。例を言うべきは私のほうだ」
麻子「秋山さん、ツチヤさん、そして五十鈴さん、本当にありがとう」
華「ふふふ」
優花里「えへへー冷泉殿にもお礼言われちゃいました~!」ワシャワシャ
ツチヤ「普段と違うメンツもなんだか新鮮だったよ!」
471: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:03:59.95 ID:utHvKE5h0
ナカジマ「ウチのツチヤがご迷惑おかけしてなかったかな?」
麻子「とんでもない。むしろ助けられた方だ」
スズキ「ならいいけど、ツチヤ一旦スイッチ入ると暴走すっからねー」
麻子「どちらかというと暴走しかけたのは私の方だった」
ホシノ「エンジンよりも熱しやすいもんなーツチヤ」
ツチヤ「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
ナカジマ「うわっ!オーバーヒートだ!!」
ホシノ「こりゃいかん!熱暴走してる!」
スズキ「またレオポンなのにライオンか!」
「こんの野郎ォォォォォォ!!!」ガァァァァァ
ホシノ「うわっ!暴走車両がコッチ突っ込んでくるぞー!」アハハハ
スズキ「逃げるしかないっしょー!」スタコラサッサ
ナカジマ「戦略的撤退ー!」ハハハハ
ツチヤ「お前らなんか嫌いだーっ!私ゃ明日からあんこうチームの操縦手やるっ!!」ダダダダ
麻子「まて、それじゃ私が困る…!」
ワッハハハハハハッハッハ!!!
472: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:04:39.51 ID:utHvKE5h0
優花里「自動車部の皆さんもなかなか個性的ですねぇ~」
華「あらあら。私達も負けてませんわ」
麻子「張り合うところなのか…それ?」
みほ「麻子さん」
麻子「ん?」
みほ「麻子さんがいなかったらこの試合は負けてたと思う。だから…」
みほ「本当に、ありがとう…!」
473: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:06:21.57 ID:utHvKE5h0
麻子(これが屈託のない笑顔ってやつだな。なかなか良いものだ)
優花里(羨ましいですぅ冷泉殿ぉ…)
麻子「まぁ…その、西住さんと比べると全然だが、勝てて今ではホッとしている」
麻子「ただ…」
みほ「?」
麻子「西住さんはあんな心臓に悪い事を今までやって来たんだなぁ…と思った」
みほ「えへへ。私は黒森峰の時からの事もあったし、大洗の皆は良い人ばかりだから、それで助けられてたかな」
麻子「なるほど…。ただこんな心臓に悪いのは当分カンベンだ」
麻子「だからこれからは操縦手として西住さんが倒れないよう全力を尽くそう」
みほ「えー。また私が倒れたらお願いしようと思ってたのに…」ショボン
麻子「なっ!か、勘弁してくれ…。あのような役はおしゃべりな沙織の方が向いている」
みほ「そういえば沙織さんは…?」
華「沙織さんでしたらあちらにいますよ」
474: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:11:50.97 ID:utHvKE5h0
沙織「いーい?試合中は周囲の状況確認や報告することに専念する!」
沙織「浮気性なオンナは男運さがるんだからねっ!!」
優季「はーい沙織先輩!質問!」
沙織「なーに優季ちゃん?」
優季「沙織先輩は浮気性じゃないのにどうして男運悪いんですかぁ?」
沙織「男運が悪いんじゃない!!男がいないだけッ!!!」
紗希「………」ツンツン
沙織「ん?どうしたの紗希ちゃん?」
紗希「……………むかで」ビローン
沙織「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
あゆみ「紗希ちゃんその子まだ持ってたの!!?」
桂利奈「沙織先輩もムカデ苦手なんだぁ」
梓「いや、誰だって苦手だと思うよ…」
麻子「…いじられキャラだな」
優花里「わりかし性に合っているような気もしますけどね」
みほ「あははは」
華「しっかり先輩してますわね」ウフフ
475: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:13:14.68 ID:utHvKE5h0
「ミッホーーー!」
みほ「あ…ケイさん!」
ケイ「ん~~~Congratulations!!!」ムギュゥゥゥ
みほ「んごがっがあが…!」ミシミシ
麻子「なんかすごい音がしてるぞ…」
華「あらあらうふふっ」
ケイ「やっぱミホすごいよー!Strong womanだよっ!」
みほ「えへへ。そうですか?」
ケイ「そりゃもう!!なんてったって戦車で無人機落としちゃうんだもん!最っ高にCoolよ!!!」
みほ「でも、実際に落としたのは私ではなく華さんや、麻子さん、優花里さん達なんですよ」
ケイ「へ?そうなの?」
476: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:14:08.62 ID:utHvKE5h0
みほ「ええ。種明かしをすると、麻子さんが無人機の速度と高度を算出して、砲弾が到達するまでの時間を割り出して」
ケイ「ほほう?」
みほ「優花里さんが砲弾の信管をセットして」
ケイ「ふむふむ」
みほ「そして最後に華さんが狙い撃つ」
ケイ「…」
みほ「…といった感じですね」
ケイ「ちなみにそれを提案したのは」
みほ「…一応私です」エヘヘ
ケイ「やっぱミホ凄いじゃない~!!」ムギュゥゥゥ
みほ「んごがっがあが…」ミシミシグキッ
477: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:15:46.47 ID:utHvKE5h0
ケイ「…あれ?でも信管ってセットするだけで準備オッケーなんじゃないの?」
みほ「え?」
ケイ「え?」
みほ「???」
ケイ「ホラ、高周波発振機から出る電波の反射を利用したやつがあるでしょう?」
ケイ「あれなら砲弾が無人機に接近するだけで自動的に作動してくれるじゃない」
みほ「そんなのあるんですか?」
ケイ「ええっ?!」
優花里「それはアメリカが開発した"近接信管"ですよね」
ケイ「そうそう!それよ!」
478: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:23:36.38 ID:utHvKE5h0
みほ「あっ、私達が使ってたのはゼンマイで作動する時限式のものなんですよ」
ケイ「Whats'?!!!」
みほ「なので、無人機の速度や距離から砲弾到達秒数を出して、それで信管を設定する…という流れだったんです」
ケイ「…」
みほ「ですから、本当にすごいのは、やっぱり皆さんなんですよね」ニコッ
ケイ「Greeeeat!!!!!」ムギュウ!!!!!!
みほ「んごがっがあがごげっんががっ…ぐ、ぐるじ…しぬぅ…」パンパン
ケイ「ミホも大洗も最高すぎる!!こんなExcitingな試合ホント初めて!!戦車道やっててホント良かったわっ!!」ギュウウウウ
みほ「えへへへ…」ミシミシ
479: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:24:22.05 ID:utHvKE5h0
ナオミ「ヘイヘイ隊長。感動したら抱きつくクセはそろそろ直すべきだ」
ケイ「えー。だってぇ」
アリサ「だってもヘチマもありません!西住さんクチャクチャになってますよ!」
ケイ「ほぉーアリサ?さては嫉妬してるなぁ?」ニヤニヤ
アリサ「し て ま せ ん っ !」
ケイ「ミホは私のものだもんねー」ニシシ
優花里「ちょっと待ってください!西住殿は私達大洗のものです!」グイッ
みほ「あう…」
ケイ「あっズルいぞオッドボール軍曹!学校が同じだからって独り占めは反則よ!」グイグイ
みほ「はう…」
優花里「だーめーでーすぅ!西住殿がいなくなったら大洗ピンチになっちゃいますぅ!」グイッ
みほ「ふぇ…」
クシャクシャ ギュウギュウ ワシャワシャ
麻子「大丈夫なのだろうか西住さん…」
アリサ「私も西住さんみたいになればタカシ振り向いてくれるかなぁ…」
麻子「タカシ?コーラのことか?」
アリサ「それはペプシよ!!」
480: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:25:37.56 ID:utHvKE5h0
ナオミ「ハナ…」
華「! ナオミさん…」
ナオミ「私の完敗だ。あの砲撃、本当にお見事だった…!」
華「私も、あのような砲撃が成功するとは思ってもいませんでした」
ナオミ「私もだ。無茶な要求をしたとは重々承知だが、それでも対抗手段がなければ"無敵"の無人機を、戦車だけの学校がどうすべきか…知りたかった」
ナオミ「そして君がそれを教えてくれた」
華「もう一度やれと言われて成功できる自信はありません」
華「ですが、0パーセントではありませんので、これでまた一つ無人機への対抗手段が見つかりましたわ」
ナオミ「あぁ、そうだな。そして…その…済まなかった」
481: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:27:24.38 ID:utHvKE5h0
華「えっ?」
ナオミ「私の興味とは言え、君や大洗女子を試すような真似事をしてしまった」
華「私も最初あのような提案をされた時は驚きましたわ」
華「でも、無人機を持たない、つまり明らかに戦力差のある相手に対等に戦おうという意思表示として受け取らせて頂きました」
華「そこには純粋に戦車道をする者としての、直向きな心があります」
華「それはまるでまっすぐ茎を伸ばすヒマワリのように」
ナオミ「ありがとう…ハナ」
華「ただ、一つ気になったのですが」
ナオミ「何かな?」
482: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:30:13.22 ID:utHvKE5h0
華「もしも私達が無人機を撃破できず、1時間が経過してしまった場合、どうなっていたのかと思いまして」
ナオミ「たらればの話になってしまうが、恐らくは無人機はそのまま放置して、そのまま戦車のみで戦っていたはずだ」
華「えっ、そうなんですか?」
ナオミ「ああ」
ナオミ「これら一連の試合が無人機の性能や今後の改善点を洗い出すために設定されたという事情もあり、無人機を保有する学校は必ず無人機を参戦させないといけない」
ナオミ「だから、私達は無人機を使った」
華「…」
ナオミ「だが、無人機を持たない学校相手に無人機を使うのはアンフェア」
ナオミ「それが隊長の考えだ」
華「そうなのですね…!」
グゥゥゥゥゥ
華「はぅ…////」
ナオミ「ははは。いい砲撃音だ」
華「神経を使いすぎたのでお腹が空いてしまいましたわ…」
ナオミ「それはいい。隊長がパーティーを企画したからたらふく食べて行ってくれ」
華「本当ですか!」パァァ
483: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:31:13.28 ID:utHvKE5h0
みほ(こうして、私達はサンダース戦も何とか勝つことができました)
みほ(対空戦車の攻撃が届かない無人機への新たな対抗手段も見つかり)
みほ(…次も同じことが出来るかというと、保証はできませんが、それでも道は開けたことには変わりありません)
みほ(麻子さんの高精度な演算、優花里さんの膨大な知識、華さんの職人技とも呼べる砲撃)
みほ(大会が進むにつれて欠点が見え、そして改善し、新しい可能性を生み出す)
みほ(戦車道は私達に様々なことを教えてくれました…!)
杏「おしまいっ!」
484: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/02(月) 14:34:15.67 ID:utHvKE5h0
みほ「ええーっ?!」
杏「ん?」
みほ「まだ決勝戦残ってるじゃないですか!」
杏「あっ、そうだったごめんごめん~」ニャハハ
みほ(全くもう会長ったら…)ヤレヤレ
柚子「それで、決勝戦はどこと対戦なんだっけ?」
桃「プラウダ高校と黒森峰女学園がこれから戦う。その勝者とだ」
みほ(カチューシャさんか、それともお姉ちゃんか…)
492: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:27:15.79 ID:VN429+8u0
◆最終章 "天上人"
【戦車倉庫・自動車部】
ナカジマ「………ということなんですよ」
柚子「そんな…じゃぁIV号は」
ナカジマ「えぇ…直せないことはないんですけど…」
ナカジマ「確実に決勝戦には間に合いませんね」
桃「くッ…」
ホシノ「なにしろ無人機の主翼がモロに直撃して、エンジン周辺やら砲塔旋回に使われる装置やらが全滅でして…」
スズキ「乗員を防護するカーボンコーティングもかなり損傷が激しいですよ」
ツチヤ「不謹慎な言い方になっちゃうけど、よく皆さん無事だったなって思うくらい車体がメチャクチャになってます」
493: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:28:37.68 ID:VN429+8u0
桃「そこを何とかならんのか!」
ナカジマ「流石に今回ばかりは……」
ホシノ「パーツがあればまだしも、国内にそういったパーツがあまり流通していないんで、それらを取り寄せるのに時間がかかるんですよね」
スズキ「今までの対空戦車のパーツもドイツとのルートがある隊長のお母さんの手配のおかげで何とかなったけど」
スズキ「これを個々でやれってなれば数ヶ月はかかると思いますよ」
桃「くそッ!」
杏「………」
494: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:30:01.06 ID:VN429+8u0
桃「こんな時にあんこうチームのIV号戦車が使えなくなるなんて…!」
柚子「どうしよう…。戦車を新しく導入する予算もないし………」
桃「そもそも原因はサンダースの無人機の落下だろう?ならばサンダースに…」
杏「いんや、無理だと思うよー?」
桃「えっ?」
杏「仮にサンダースに非があって、賠償を支払うとなったとしても、今大会中じゃ間に合わないだろうからさ」
杏「異議申し立てがあったらまず両校や戦車連盟を交えた検証が行われて、それで改めて判断するって流れだから、決勝戦までには間に合わないねぇ」
柚子「そんなぁ…」
杏「かといって、戦車を新しく買うお金もないと。いやはや参ったねぇ…」
柚子「…」
桃「…」
杏(ほんと、参ったよ)
495: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:32:32.65 ID:VN429+8u0
【会長室】
桃「…ということで、IV号が大破したために、決勝戦までの修復が困難になってしまった」
柚子「自動車部にも確認したけれど、無理だって…」
あんこう「えええええーっ!!」
優花里「それじゃ私達は決勝戦どうなるんですか!?」
桃「それを決めるためにお前達を呼んだ」
沙織「私あの時IV号…じゃなくてクーゲルブリッツに乗ってたけど、あの衝撃はヤバかったよ!」
みほ「あれだけの損傷を受けておいて乗員が全員無事だったのが本当に不幸中の幸いです」
柚子「ええ。皆が無事で本当によかったよね」
桃「うむ。ただ、これからのことをどうするか。それが問題だ」
麻子「そちらで何か代案はあるのか?」
柚子「他の車両に振り分けるくらいしか…」
華「そうですよね…」
496: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:33:16.26 ID:VN429+8u0
みほ「ところで、会長は?」
桃「会長は出かけている」
沙織「もーっ!会長ってばいつもこんな時にいないんだからー!」
華「まぁまぁ。沙織さん」
麻子「怒ったところで何も変わらん。それよりも解決策を考えるほうが先だ」
優花里「冷泉殿のおっしゃる通りです。こちらでも出来ることを探しましょう」
みほ「そうだね」
497: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:34:31.26 ID:VN429+8u0
【西住流戦車道家元】
菊代「それでは、家元をお呼びいたしますので、お待ち下さい」ペコリ
杏「ありがとうございます」
杏(前にも来たことがあったけど、やっぱり広いお屋敷だなぁ)
ガララッ
杏「! お久しぶりです。西住さん」
しほ「ええ。お久しぶり。うちの娘は元気にやっているかしら?」
杏「ええ。私が不甲斐ないばかりに、いつも助けられています」
しほ「そう。良かった」
杏「ええ」
しほ「…」
杏「…」
しほ「それで、お話というのは?」
498: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:37:02.61 ID:VN429+8u0
杏「実を言いますと、先日のサンダース戦にてみほさん達が乗るIV号戦車が大破してしまいました」
しほ「…」
杏「幸い乗員は全員無事なので、その点だけは安心して下さい」
しほ「そう」
杏「…が、IV号戦車の損壊はかなりのもので、修復には時間がかかり決勝戦までに復旧させることが不可能となりました」
杏「そこで、西住さんの方からIV号戦車の代わりとなる戦車をお借りすることは出来ないかと思いまして…」
しほ「申し訳ないけれど、その要望にはお応えできないわ」
杏「ですが…!」
しほ「確かにあなた達には様々な機材を提供してきました」
しほ「しかし、"戦車をくれ"となると話は別」
しほ「一戦車道の流派が特定の学校だけに贔屓をするのはタブー」
杏「そこをなんとか!お願いしますっ!!」フカブカ
しほ「…そうね」
499: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:38:31.29 ID:VN429+8u0
杏「…!」
しほ「菊代さん」
菊代「はーい」スタスタ
しほ「車体と砲身が欲しいそうよ」
菊代「かしこまりました。少々お待ちください」スタスタ
杏「あ、ありがとうございます!!」
しほ「ヒントはあげたわ。あとは貴方の力でそれを形にしなさい」
杏「え…ヒントですか?」
500: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:41:19.19 ID:VN429+8u0
菊代「お待たせしました。どうぞお受け取りください」サッ
杏「…? これは一体?」
しほ「私から出来るのはこれだけ」
杏「さっきの車体と砲身というのは…?」
しほ「先にも言った通り、"ヒントはあげた"と」
杏「?」
しほ「あとは全て、あなたが探しなさい」
杏「はぁ」
しほ「ただし、最高の物を得るには最高の苦痛が必要」
杏「えっ?どういうことですか?」
501: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:42:30.41 ID:VN429+8u0
しほ「とある高校の生徒は自分の戦車道を貫き通すために自ら狂いに行った」
しほ「その結果、その生徒がいる高校は瞬く間に強豪校になった」
しほ「代償としてその生徒は壊れてしまったけれども」
杏「………」
しほ「犠牲なくして、大きな勝利を得ることは出来ない」
しほ「あなたは自分が守りたいと思ったものの為にそこまで出来るのかしら?」
そこから私の仕事は始まった。
502: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:50:15.65 ID:VN429+8u0
「戦車が壊れたからちょーだい」なんて甘ったれたことが西住流の家元に通じるなんてこれっぽっちも思っていない。
だから門前払いを食らうと思っていた。
しかし、門前払いの代わりに渡されたのは1つの封筒。
私はまずこれが何を意味するのかを調べることから始めることにした。
なんとなく想像はついていた。
503: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:53:24.49 ID:VN429+8u0
杏「クルップ、ヘンシェル、ラインメタルねぇ…」
何度でも言うよ。なんとなく想像はついていた。
家元から渡された封筒の中に入っていた用紙には、黒森峰でも投入されているドイツの戦車や高射砲を"当時"製造していた会社の情報が記載されていた。
当時の面影がそのまま残っているとは思えないが、戦車道が盛んに行われるようになったことで、それらの産業も再び息を吹き返したのだろう。
そうでなければ黒森峰がティーガーやマウスなんてものを所有できるはずがない。
黒森峰はドイツと交流があった。だからそのルートを通じて戦車に関するやり取りが出来て、強力な戦車やその運用術を得られたのだろう。
そして私はそのルートを紹介してもらったに過ぎない。
西住ちゃん達あんこうチームが乗る『IV号戦車』を修復する、あるいは代替品を譲ってもらうには現時点ではこれを利用するしかないというのは大体わかった。
………が、何かが引っかかる。
504: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:54:25.10 ID:VN429+8u0
杏「んじゃー小山、河嶋。後は頼んだ」
ちょいと出張するからしばらく頼むわー
そう言ったら河嶋も小山もすごい形相で驚いた。お前ら目玉飛び出てるぞ…。
小山はオロオロするし、河嶋に至っては「私も連れてってください~!!」なんて号泣しだす始末。
お前ら、副会長と広報として2年ちょいやって来ただろうが。今さら私がいなくたって問題ないだろうに…。
505: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 22:56:34.94 ID:VN429+8u0
ひとまず練習については、西住ちゃんを中心にお願いすることにした。
…といっても肝心の西住ちゃん達あんこうチームの戦車が無いから、それぞれのチームの車両の空いているポジションにあんこうメンバーがローテーション形式で乗るよう提案した。
特にカモ、アリクイ、レオポンは空席は勿論、試合の経験数がほかのチームよりも少ない。それに私が抜けたカメも課題は残っている。
なのでそれらに優秀なあんこうチームの皆が交代で乗ることで、各々が培ったノウハウをそのチームに伝授し、弱点を可視化・改善することが目的だ。
前回の試合のように、自分たちの戦車だけ乗っていれば良いというわけでもなさそうだしね。
…と言う旨を西住ちゃんに話したらスンナリと納得してくれた。
決勝戦はプラウダか黒森峰のどちらか。どっちが勝つにしろウチらにとっちゃ厄介だ。前回までのような幸運は二度と訪れないと思っていい。
ましてや戦車だけでなく、無人機まで出てくるんだから、むしろ貧乏神に惚れられたと言ってもいいくらいだよね。早くあんこうのIV号戦車を用意しなくては。
………ん??
506: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:01:42.02 ID:VN429+8u0
やはり何かが引っかかるが、今はドイツへ行くための準備をしないと。
のんびりしたいところだが、残された時間はあまりない。
戦車道や生徒会の関係で海外には何度か行ったこともあるけど、それはあくまで「見学」としてだ。今回に限っては何もかも自分で決定しないといけない。
貴重な体験なんだけど、正直面倒くさい。家で干し芋貪りながらゴロゴロしていたい。
念のため西住ちゃんには出張の行き先を教えておいた。行き先だけね。
そしたら昔の友人がいるから紹介すると言ってくれた。
どうやらその子は生まれはドイツらしく、日本に来るまでは向こうで戦車道らしいことをやっていたそうな。
で、その子も近いうちにドイツへ帰国するというから、一緒に行くよう説得したらしい。
西住ちゃん曰く「気難しいけど根はいい子だから」とのことだけど…まぁ現地で通訳をお願いしようかな。英語ならまだしもさすがにドイツ語は無理だ。
………私も通訳も無しによくドイツへ行こうと思ったよなぁ。我ながら無茶をするもんだ。
507: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:09:38.67 ID:VN429+8u0
「あなたが角谷杏さん?」
西住ちゃんの"お友達"とは空港で対面した。
赤髪のツインテールの彼女は"中須賀エミ"という日独ハーフの子で、小学生時代の西住ちゃんの同級生とのことだ。
簡単に自己紹介したあと、ドイツ行きの飛行機に乗り込んだ。
中須賀ちゃんが何でドイツに?と訪ねるから「西住ちゃんの戦車がB-29に壊された」と色々端折って説明した。
そしたら彼女は『相変わらず無茶をするのねあの子…』という。それについては私も同意する。
だが『無人機相手に戦車で挑もうなんてバカだ』とまで言うもんだから、その西住ちゃんがそのB-29をポルシェティーガーで落としたと言ってやったら今度は物凄く驚いてた。
驚くのはわかる。私だって未だに信じられないくらいだもん。
…でも機内でデカい声で「うええっ!?」はちょいとマズいよ?
他の乗客がすごい顔でこちらを見てっからさ。
508: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:13:53.07 ID:VN429+8u0
エミ「一体どうやって落としたのよっ!?」
ものすごい形相で詰め寄って来るので、あの時の試合を説明してみた。
そうしたら「ありえない……カリウスでもそんなことしないわ…」と、今度は魂ここにあらず状態。
この子もなかなか個性的な子ではある。ウチの学校に来ていたらさぞ面白かっただろうなぁ。主に西住ちゃんが。
飛行機の窓から外の景色を眺めてみると、陸がずっと下の方に見える。
あんな下の方からこちら目がけて砲弾が飛んできて、爆発して撃墜されると思うとものすごく怖い。
戦車同士の戦いでもそう何キロも離れて撃ち合うわけじゃない。なのに8km以上離れた上空の獲物を撃墜するのだから、もはや戦車道を超えた戦いだ。
そんな正確な射撃能力があれば黒森峰やプラウダの戦車も遠方から撃ち抜くことが出来るよね。
…………。
もうずっと何かが引っかかっている。
重大な何かだ。そいつが喉に刺さった骨みたいに取れそうで取れない。もどかしい。
509: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:17:01.58 ID:VN429+8u0
エミ「ところでIV号じゃないとダメなの?」
杏「んー?」
エミ「代わりの戦車。何でIV号なの?」
モヤモヤしていると中須賀ちゃんが訪ねてきた。
何でって…そりゃそうだろう、西住ちゃん達のシンボルの戦車なんだよ?
だから違う戦車だったら…
……ん?
何でIV号じゃないとダメなんだろ?
510: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:21:31.74 ID:VN429+8u0
確かに西住ちゃん達あんこうチームが乗っているのはIV号戦車だ。
そのIV号戦車は対無人機戦闘を想定して様々な"IV号対空戦車"としてカスタマイズしてきた。
メーベルワーゲン
ヴィルベルヴィント
オストヴィント
そしてクーゲルブリッツ。
20mm、30mm、37mm…それぞれの対空機関砲は、無人機に当たりさえすればそれなりのダメージは与えられるだろう。…当たりさえすればだが。
…だが、それらのカスタマイズは確かに無人機戦闘での対抗策にはなったが、対戦車戦闘では活躍するのだろうか?
511: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:27:48.37 ID:VN429+8u0
いかんせん相手は無人機抜いて戦車だけ見ても強豪校のツートップだ。
ここで前回ほとんど役に立たなかったクーゲルブリッツを「直ったから使ってよー」といったところで、それがこの2校のいずれかを相手にした時有利になるのだろうか?
対空戦車として対無人機に限定すれば多少の効果はあるかもしれない。
しかし、その対空戦車の砲撃は戦車の装甲相手だと…
それに西住ちゃんたちあんこうチームは大洗の"切り札"と言っても良い。
もちろん他のみんなも、うちの河嶋も小山も優秀だが、あんこうたちは更にその上を行く。
まさに切り札といえる存在だ。
彼女たちは無人機を相手にしても戦車を相手にしても柔軟な発想と機転によって勝ち上がってきた。
んむっ?!
無人機を相手にしても戦車を相手にしても?!
512: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:30:21.63 ID:VN429+8u0
杏「それだぁぁぁぁぁっ!!!」ガタッ!
どーしようもないバカだ私は。こんなことも忘れてたなんて!
無人機が導入されて数ヶ月、私達はずっと無人機の対策しか考えていなかった。
無人機を保有しないウチらにとって相手の無人機の存在が圧倒的に不利だったがために!
しかし、私達が相手にしなければいけなかったのは"戦車"なのだ。
いや、戦車"も"というべきだ。戦車を相手にして、無人機はオマケくらいの認識でなければいけなかった!!
無人機落としてバンザーイで終わる話ではなかった!
なのに…
対戦車戦闘を疎かにして貴重な戦力削って無人機対策に傾倒してしまっていた!!
そしてその役割をあろうことか大洗女子の"切り札"あんこうチームを主体に………!
513: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:31:46.59 ID:VN429+8u0
エミ「ち、ちょっとどうしたのよ?」
杏「…そういうことだ!!やっとわかったぞっ!!」
エミ「だから何がよ!!」
CA「お静かに願います」
杏・エミ「あ…すいません…」
おいこら中須賀ちゃん。あんたのせいで怒られただろーが。ンだからはしゃぐなつったろーに…。
え?あたしのせい?………悪かったよ。
514: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:32:54.27 ID:VN429+8u0
エミ「…で、どうしたのよ?」ヒソヒソ
杏「よくよく考えたらさ、IV号じゃなくてもいーじゃんって思ったわけよ」ボソ
エミ「ほらね。どうせドイツ行くんならパンターとかティーガーとか持っていけば良いじゃない」
杏「んなもん簡単に手に入ったら苦労しないよ」
エミ「まぁね」
杏「…」
そりゃそうだ。
パンターだろうがティーガーだろうが戦車が簡単に手に入るんならあたしゃドイツになんぞ行かぬわ。家でテレビ見ながら干し芋食べてるよ。
515: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:34:18.98 ID:VN429+8u0
杏「まぁ、あとで西住ちゃんに相談してみるよ…」
エミ「あ、第二次世界大戦後に出た戦車は試合じゃ使えないからね?厳密には1945年…」
杏「わぁっとるわいンなこたぁ」
エミ「えぇーホントにぃ?」
こいつめ…あたしゃ腐っても廃校の危機に瀕した学校で、戦車道復活させるためにアレコレやって来たんだぞ?
そんなルールくらいわかってるっちゅーの。
………天蓋付いてない対空戦車つかってたのはアレだけど。
516: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:36:33.31 ID:VN429+8u0
【空港】
疲れた。
さすがに12時間のフライトはしんどい。ノンビリ寝転がれる無人機が欲しいよ。
おケイ、スーパーギャラクシー貸してくんないかなぁ。操縦手つきで。
エミ「それで、まずは何処から行くの?」
杏「あん?」
エミ「いや、だって時間ないでしょ」
杏「決勝戦までまだ時間あるからへーきへーき」
ぶっちゃけると1ヶ月きった。正直ヤバい。
エミ「私来週には日本に戻るよ?」
杏「ふぁっ!?」ガタッ
エミ「みほから聞いてなかったの?」
杏「西住ちゃんそんなこと一言も言ってなかったよ!」
517: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:40:01.11 ID:VN429+8u0
おーい西住ちゃん、こりゃどういうことかなぁー?
「ドイツのお友達が一緒に行く」ってのは聞いたけど、その子の滞在期間が一週間ってのは聞いてないぞ?
…まぁ聞かなかった私も悪いけどさ!
ピリリリリ
ピリリリリ
…っと電話だ。西住ちゃんからだね。
杏「もしもーし」
みほ『こんばんは。西住です』
杏「おっ。そっちは夜かぁ?こっち今早朝だよ。ぐーでんもーげん」
みほ『えっ?あ、おはようございます』
杏「そっち何とかなりそー?」
みほ『ええ。指示通り交代で各車輌に乗ってます』
みほ『そのおかげで各々の改善点も色々見つかりました』
518: ◆MY38Kbh4q6 2017/01/31(火) 23:41:18.10 ID:VN429+8u0
杏「おーそりゃ良かった!ところでさ、」
みほ『はい?』
杏「西住ちゃんたちの戦車なんだけどさ」
杏「IV号じゃなくてもいい?」
みほ『えっ?!』
そう。これは西住ちゃんに伝えとかないといけない事なんだよね。
次の試合ではIV号戦車が出てこないということ。
そして…
無人機も戦車も破壊できる超強力な戦車が必要だということ。
531: くっそ。ケイのヤツなんで対空戦車壊したんだよ… ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:16:16.96 ID:rfo797Wn0
みほ『………』
案の定西住ちゃんは黙り込んだ。
そりゃそうだ。IV号戦車は彼女たちあんこうチームの「戦車道」を象徴する戦車といって良い。
西住ちゃんたちが最初に乗って今日まで様々な戦いを勝ち抜いて、二度の廃校の危機から救った由緒ある戦車だ。
それを「IV号じゃなくてもいい?」なんて言ってしまうのはあまりにも無礼だ。
…だけど、今のIV号戦車、そしてIV号対空戦車じゃ戦車と無人機を相手に戦い抜くには力不足なんだよね。
532: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:18:27.11 ID:rfo797Wn0
みほ『そうですよね…私も薄々感じていました』
みほ『ここ最近の私達は無人機にばかり気を取られて、肝心の対戦車対策が疎かになりつつある。と』
みほ『今まではそれでも良かったかもしれませんが、決勝戦となると…』
そうなんだよね。
知波単学園の戦車は装甲が薄いから対空戦車(オストヴィント)の砲弾が通った。
サンダースはクーゲルブリッツの弾がB-29へ届かなくて、西住ちゃんが機転を利かせて入れ替えたポルシェティーガーで五十鈴ちゃんが無人機やエース車とフラッグ車を叩いた。
あのサンダースの試合に関しては「完勝」と言っても良いくらいの成果だった。
だが、決勝戦でそういったものが通じるとは思えない。
黒森峰にしろプラウダにしろ、火力、装甲どちらも強力な戦車ばかりだ。
『対空戦車』では勝ち目がない。
533: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:20:14.55 ID:rfo797Wn0
戦車の質だけでなく、プラウダにはカチューシャ、黒森峰には西住ちゃんの姉・西住まほといった優秀な指揮官がいる。
戦車良し
指揮良し
兵士良し
そこに更に無人機というオマケがついて、もはや"勝てる要素がない"といった状態なんだよね。
そうなると、「IV号戦車(対空戦車か?)直ったよ~」じゃあまり有利にはならない。
もっと強力な戦車…無人機が来ても重戦車が来ても相手に出来るようなヤツが必要なのよ!
534: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:21:40.64 ID:rfo797Wn0
みほ『………わかりました』
杏「!」
みほ『IV号に乗れないのは残念ですが、会長に選定をお任せします』
杏「おっけーい」
みほ『その…無人機も戦車も相手にできる戦車、楽しみにしてます』クスッ
杏「あ、今笑ったなこのやろ~」ハハハ
みほ『いえ、笑っていませんよ。フフフ』
杏「やっぱ笑ってるじゃないかぁ!いいもんね!トビッキリの戦車持ってきて西住ちゃんのアゴ外してやっからさぁ!」
みほ『楽しみにしてます』
杏「あいよー。そいじゃ」
535: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:23:14.32 ID:rfo797Wn0
ガッ!
杏「ちょっ!何すんのさ?!」
いきなり中須賀ちゃんが私の携帯をひったくった。
どうやら西住ちゃんと話がしたいんだろう。
んだが、「ちょっと代わって」くらい言って欲しかったよそこは…。
エミ「久しぶりね。みほ」
みほ『あっ!その声は………』
エミ「…」
みほ『………』
エミ「エミよ!中須賀エミ!!」
みほ『あ、あっ、エミちゃんだぁ!お久しぶりだねぇ!』
エミ「忘れてたでしょ」
みほ『…ごめんなさい』シュン
エミ「まったく…」
536: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:24:40.84 ID:rfo797Wn0
エミ「…まぁ、相変わらず元気そうで良かったわよ」
みほ『えへへ。試合のルールが変わって振り回されてたかな』
エミ「無人機、ね」
みほ『…うん』
エミ「最初聞いたときは耳を疑ったわ」
みほ『実を言うと私も…』
エミ「戦車で競い合うのが戦車道なのに、そこに航空機が乱入したらもう戦車道でも何でもないじゃないの!って」
みほ『うん…』
エミ「普通の戦車じゃ空からの攻撃への対抗手段なんて無いし、あったとしても無人機相手に不利なのは変わらないし」
みほ『そうだよね…』
537: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:26:11.34 ID:rfo797Wn0
"無人機"は戦車道を履修する者全員が違和感を抱いている。
中須賀ちゃん、西住ちゃんはもとより、ケイもチョビ子もダージリンもカチューシャも、無人機によって恩恵を受けた西ちゃんも………。
もちろん私もだ。
なぜならそこには無人機を導入できない学校をふるいにかけるという"政治的"な意図が見え隠れするからだ。
だからこそ私達はそういった理不尽に勝たなくちゃいけないんだよねぇ。
学園艦の統廃合を目論む汚い連中に学校を潰されないように。
そして戦車道が汚染されないように。
538: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:27:17.05 ID:rfo797Wn0
エミ「…で、しかも角谷さんいわく、大洗女子は無人機を持っていないと」
みほ『あはは…実を言うと無人機を導入する予算がないらしくて』
エミ「ハイテクな誘導装置を組み込む分戦車よりも高いからね無人機は」
みほ『会長が干し芋減らせば買えるかも?』アハハ
エミ「どんだけ干し芋にお金使ってんのさ…」
聞こえてんぞ西住ちゃん。
干し芋減らしたカネで無人機が買えるならわざわざドイツにゃ行かん。
…あ、そういえば干し芋がもう無い。近くに売ってないかなぁ?
539: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:29:00.58 ID:rfo797Wn0
みほ『エミちゃんの学校は持ってるの?』
エミ「持ってないわよ。持ってたとしてもウチのバカタレ共が使えるわけ無いでしょ」
みほ『あはは。瞳ちゃんだったら』
エミ「一番ダメ。あの子10秒で墜落させるから」
みほ『えーヒドい!』
なんだか楽しそうだなぁ二人とも。ちょいと疎外感。
こんなことなら河嶋と小山も連れてくるべきだったかなぁ。
そもそもあいつら二人以外に友達いたっけかな?
まぁケイとはよく話すし、チョビ子も会った時はよろしくやってるし。
でも友達かと言われると、うーむ…
…ダメだ。なんか悲しくなってきた。この話はよそう。
540: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:30:37.88 ID:rfo797Wn0
エミ「…で、本当に良いのね?」
みほ『え?』
エミ「IV号」
みほ『あっ…うん。今回ばかりは仕方ないよ』
エミ「そう。なら良いけど」
みほ『うん。そっちは何か検討ついてるの?』
エミ「全っ然」キッパリ
みほ『ぅ…』
エミ「まず"代わりの戦車探す"ってだけでいきなりドイツに行くってのがあり得ない」
エミ「仕事辛いからってスキルもコネもなく会社辞めてフリーランスや起業するくらいあり得ない」
みほ『あはは…わかりやすい例えだね』
ムッカつくなぁコイツ!
何がムカつくって?例えが的確ですんげぇ分かりやすいところだよ!!
アタシだって何かする時ゃ事前準備くらいするさ。
色んなことが立て続けに起きるから準備するヒマが無いだけで!!
541: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:31:30.68 ID:rfo797Wn0
エミ「そもそも戦車も決まってない、予算もない、コネもないで"戦車くれ"が無理」
みほ『うん…』
エミ「あなた以上に無茶なことやってるよコッチは」シレッ
みほ『その…なんというか、うちの会長が迷惑かけてごめんなさい…』
エミ「全くよ」
みほ『会長は色々ぶっ飛んでいるけど、その…悪い人じゃないからよろしくお願いねエミちゃん』
エミ「まぁ通訳と戦車についての知識くらいは提供するわ」
おのれ黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって…!
チョビ子といい、ウサギのメガネといい、この小娘といい、どうしてツインテールの女はこうも傍若無人なヤツが多いんだか!
カワイイで許されるのは今のうちだぞマジで。そのうち"お局様"にそのツインテール食いちぎられっからなァ!!
542: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:33:24.79 ID:rfo797Wn0
エミ「それじゃ、もう一回角谷さんに代わるわね」
みほ『あ、うん』
エミ「はい」
杏「やぁやぁ。随分楽しそうに話してたねー」
みほ『ええ。何しろ小学生時代からの付き合いですから』
杏「へー。となれば中須賀ちゃんの事なんでも知ってるわけだよねぇ?」
みほ『うーん…まぁ、多少は…』
杏「そっかぁ」ニタァ
杏「中須賀ちゃんにまつわる面白い話とかないの?」ニヤ
エミ「ちょっと!」
みほ『えーと…』
ヘっヘっヘ。さっきのお返しだもんねー!
中須賀ちゃんが横で何か言ってるけど知らんぷりぃ~♪
どんな面白話が聞けるかなぁーうししし。
543: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:34:53.49 ID:rfo797Wn0
みほ『そういえば、小学生時代にエミちゃんカギ閉めずにトイレに入って』
みほ『知らずに扉開けたらウ●チぶら下げたエミちゃんがいて』
みほ『顔真っ赤にして踏ん張ってる姿が印象的だったり…』
杏「」
みほ『他にもお昼ごはん食べたあとに猛ダッシュしたせいで、校庭でゲロゲロ吐いてたこともあったり…』
杏「」
みほ『あとは帰宅途中に我慢できなくなって、近くの雑木林で…』
杏「」
エミ「何暴露してんのよぉぉ!!!///」ガァァァ
…予想を遥かに超えるドギツイ暴露だよ西住ちゃん。
あたしゃてっきり『寝ぼけて片方だけ髪の毛結ぶの忘れてた』みたいなソフトなのを予想してたよ。
金輪際西住ちゃんに他人の過去話をさせるのはやめよう。被害者が不登校になりかねん。
544: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:36:08.03 ID:rfo797Wn0
その後は大洗の練習の状況とかを聞いたり、あんこうの戦車について軽く話した。
西住ちゃんもどんな戦車が来るのか(一応)気になっているらしく、
『とても期待していますからね!』
と言うので『無人機も戦車も蹴散らせるヤツ持っていくから任せといて!』と言って電話を切った。
だが…
杏「………どうしよ…」ズーン
電話じゃ大見得切ってあんな事言ったけど、戦車も無人機も相手に出来る戦車なんぞあたしゃ知らんぞ!
そもそも知ってたところで、その戦車を手に入れる術もない!
ホントどうしよ………。
545: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:38:41.49 ID:rfo797Wn0
エミ「随分無茶なこと言うのねぇ」
杏「悔しいけど中須賀ちゃんの言うとおりだよ…」
エミ「ひとまずホテルに行ってチェックインしない?」
杏「…そだね」
到着したばかりなのに早くもこのザマだよ。先が思いやられるなぁ。
んでも、ウダウダ言ってもしょうがないので、とりあえずホテルに行くことにした。
長旅で疲れていることもあるし、計画ナシであちこち行くのも時間の無駄になる。今日はゆっくり今後の計画について考えることにした。
546: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:40:28.17 ID:rfo797Wn0
【ホテルの部屋】
ドイツのホテルは日本のホテルとは違っていかにも"西洋"って感じがする。
まぁ西洋だから西洋っぽいのは当たり前だけどね。
ただ、ドイツなのにどこにも干し芋が置いてないのは解せない。あとでアンケート書いとこう。
エミ「まずは『エッセン』へ行ってみたらどうかしら?」
杏「エッセンねぇ…」
547: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:41:17.12 ID:rfo797Wn0
地図を広げてエッセンがどこにあるかを確認する。
現在地は『デュッセルドルフ』だから、公共交通機関を使えば30分ほどで行ける距離だ。
ちなみに当初の計画ではフランクフルト行きの飛行機に乗る予定だったが、中須賀ちゃんの要望でデュッセルドルフに変更して現在に至る。
確かに、フランクフルトからエッセンまで結構な距離だし、デュッセルドルフを選んだのは正解だ。土地勘のある中須賀ちゃんが頼もしいねぇ。
んで、件のエッセンに何があるかというと
クルップだ。
548: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:42:20.86 ID:rfo797Wn0
戦時中はIV号戦車、ティーガー、そしてマウス、列車砲といったドイツを代表する有名な兵器の開発・設計・製造に関わっており、ドイツ戦車を語る上で欠かせない重工企業だ。
また戦車以外にも高射砲で有名な『8.8cm Flak』を作っている。
戦後はティッセン社と合併して"ティッセンクルップ"という名前になり、相変わらず世界一デカい採掘機を作ってたりしていて、巨大なマシン作りに定評のある会社だ。
今回の私達が求める『戦車も無人機も相手にできる戦車』というニーズを満たすモノを作ってくれるに違いない。
そうと決まればささっとクルップに行ってみるかね。通訳については中須賀ちゃんに任せればいいしね。
…あ、「作ってくれるに違いない」ってのは技術的な意味でだよ。ウチらのために協力してくれるかってのは別の話。
549: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:44:00.58 ID:rfo797Wn0
杏「…んでもさぁ、いくら戦車作ってた企業だからって、見ず知らずの人間に『戦車作って!強いの!!』って頼まれて『わかりました!』って言うかねぇ?」
エミ「まず無理ね」キッパリ
一切期待してなかったけど、こうも即答されると心に来るものがあるよ…。
そもそも、
IV号の代替となる戦車目当てにドイツに来たのは良い。
欲しい戦車の構想が全然決まってないのもまだ良い。
一番問題なのはそれを"作 っ て も ら う"ことなんだよ!!!
550: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:46:39.52 ID:rfo797Wn0
普通に考えりゃわかるけど、戦車ってものすーっごいコストかかるわけよ?
そんなモンを何処のウマのホネかもわからん女子高生に「つおい戦車ちょーだい!」って頼まれて快諾するバカが何処にいるの?って話だよ。
それで首を縦に振る人がいるなら"ウラ"があるんじゃないかと逆に不安になる。
エミ「でも、それを何とかしないと来た意味がないでしょう?」
杏「まぁねー」
『何とかしないと』で何とか出来たら生徒会はいらん。
とは言っても中須賀ちゃんの言う通り、何とかしない事にゃどうにもならない。
…どーしてこうも理不尽な事ばかり起きるかねぇ大洗は。
551: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:47:26.24 ID:rfo797Wn0
エミ「で、結局どんな戦車作るか決まったの?」
杏「ティーガーとかマウスみたいなのが貰えれば良いかなぁってくらい?」
エミ「ハァ…」
思いっきり溜め息つかれた。
そもそも"戦車道"については調べまくったけど、肝心の戦車については
ティーガー強ぇぇぇぇ
マウスでけぇぇぇぇぇ
くらいしか知らん。
…あっコイツめ!また溜め息つきやがった!!
552: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:48:43.43 ID:rfo797Wn0
杏「んでも戦車も無人機も攻撃するってなりゃそんくらい強力なヤツが必要じゃない?」
エミ「確かにティーガーやマウスの主砲は強力よ。大半の戦車をアウトレンジから撃破出来るくらいにね」
杏「だろー?」
エミ「でも、無人機はどうするのよ?」
杏「あえ?」
エミ「ティーガーやマウスの"戦車砲"じゃ対空攻撃は無理よ」
杏「でも西住ちゃん達アレでB-29落としてたし…」
エミ「あんなもん例外中の例外よ!」
まぁ確かに。あん時はサンダースの"特別ルール"によって助けられたわけで。
黒森峰やプラウダ相手にノンビリ穴掘りやる余裕なんてまず無いわけだ。
戦車の知識が無い自分を呪いたくなる。秋山ちゃん連れて来れば良かった。
553: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:50:40.00 ID:rfo797Wn0
エミ「ひとまず、車体についてはティーガーやマウス級のものが必要ね」
エミ「さすがにIV号やパンターじゃ大きな砲は搭載出来ないでしょうし」
杏「ほうほう」
エミ「…で、搭載する砲はアハト・アハトみたいなの」
杏「アハトアハト?」
エミ「8.8cm Flakの事。ティーガーの主砲のベースにもなった高射砲よ」
杏「なるほどねぇ」
そういえばサンダース戦の時にも言ってたなソレ。
高射砲だったヤツを敵戦車に向けて撃ったら撃破できたって話。
1つで航空機も戦車も対処できる理想の砲だ。
554: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:51:34.63 ID:rfo797Wn0
エミ「で、ここで問題になるのが"砲塔"ね」
杏「え?砲塔?」
エミ「そう。無人機撃墜のための高射砲を搭載するとなれば、当然従来の戦車のような砲塔じゃダメ」
杏「それは砲を上に向けるから?」
エミ「その通りよ。もし仮にアハトアハトを搭載するとなれば」
エミ「砲塔はオリジナルになるわ」
555: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:56:20.42 ID:rfo797Wn0
確かに、今までカスタマイズしてきたIV号対空戦車たちも無人機を倒すために砲を空に向けて射撃していた。
メーベルワーゲンやヴィルベルヴィント、オストヴィントはオープントップだったから、そのまま砲身をただ上に向ければ良かった。
しかしこれらのオープントップな対空戦車は後にルール改定によって使用できなくなった。
その代案としてのクーゲルブリッツは、従来の対空戦車と違い密閉型の砲塔になってて、ジャイロコンパスのように砲塔ごと上下左右に動かした。
…しかし、大型の高射砲を搭載した砲塔は、左右はともかくどうやって上下に動かせば良いのさ!?
556: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:57:27.04 ID:rfo797Wn0
エミ「…一つだけ、心当たりがあるわ」
杏「どんなの?」
エミ「"ゲラート554"という砲塔があるのよ」
杏「なにそれ?」
エミ「クーゲルブリッツと合わせて、もう一つの本命となるはずだった対空戦車の砲塔よ」
杏「!」
エミ「…だけど、その砲塔は結局モックアップしか作られず、試作にすら至らなかった幻の対空戦車よ」
杏「幻の対空戦車?」
エミ「V号対空戦車 "ケーリアン" ね」
557: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 01:58:25.86 ID:rfo797Wn0
V号対空戦車ケーリアン
V号戦車、つまり"パンター"をベースにした対空戦車だ。
対空戦車といえばIV号戦車ばかりを想像しがちだが、IV号よりも車体の大きいパンターでも対空戦車が計画されていたそうだ。
そして、そのパンター対空戦車も様々な種類が検討されていたが、その中でも最も完成に近かったのがこの「ケーリアン」という。
当初このケーリアンには、メーベルワーゲンやオストヴィントに搭載されていたような3.7cm Flak43対空機関砲を2連装にしたものが搭載されるはずだった。
しかし実際は連合軍の空襲により工場が破壊され、ベースとなるパンターの生産すら危うい状況となり、最終的に砲塔のモックアップが作られただけで実現はしなかった。
558: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:00:49.73 ID:rfo797Wn0
また、実現しなかったもう一つの理由には搭載兵器の変更があったから。
というのも車体に対して武装が貧弱という理由で、搭載兵器を"5.5cm対空機関砲"にするよう計画が変更されたそうだ。
この5.5cm対空機関砲は『ゲラート58』という名称で開発が進められており、試作はされたものの、実用化する前に終戦を迎えた。
ゲラート58の元となった対空機関砲に『5cm Flak41』というものが存在し、こちらは3.7cmと8.8cmの射程のギャップを埋めるために作られたそうで、あのメーベルワーゲンの搭載兵器の候補にもなったらしい。
559: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:01:31.38 ID:rfo797Wn0
杏「へぇー中須賀ちゃんって意外に戦車について詳しいんだね」
エミ「意外って何よ。これくらい、"こっち"じゃ普通なんだから」
杏「こっちって?」
エミ「ドイツのことよ!」
新たにわかったことが2つ。
まず1つは対空戦車はIV号だけでなくV号(パンター)でも計画されていたという点。
そしてもう一つは…
私は、私が思っている以上に無謀なことをしているという点。
560: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:02:45.48 ID:rfo797Wn0
考えてもみてほしい。
あのV号戦車ケーリアンでさえ試作にすら達しなかったのだ。
ティーガーやマウスをベースにした対空戦車なんてまず存在しないだろう。
しかし、黒森峰やプラウダの戦車を叩き、なおかつ対空攻撃もするという無茶苦茶な条件を満たそうとなれば、ケーリアン以上のものが必要となる。
5.5cmじゃティーガーは叩けない。
エミ「限りなく無理に近い無理ね」
杏「…あたしもそう思うよ」
もしここで『こういう戦車があるよ!』って言ってくれる人がいるなら今すぐ私のところに来てほしい。
…もっとも来たところで「私が考えた最強の戦車」計画が出来ただけで、その次の「作ってもらう」という壁が立ちはだかるけどさ。
561: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:04:07.18 ID:rfo797Wn0
さすがに手詰まりだ。どうしようもない。
はるばるドイツにまでやって来て、教えてもらった会社へ交渉をする以前の段階でこんな事になるのだったら日本で悶絶していればよかった。
本当に頭が冴えない。
こういうとき西住ちゃんだったらどうしていただろうか。
エミ「…だったらさ」
エミ「車体と砲だけ既存のものを選んで、砲塔はオリジナルにすれば良くない?」
562: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:05:44.19 ID:rfo797Wn0
杏「は?」
エミ「だから、砲塔はオリジナルにするの」
杏「???」
エミ「要は車体と砲だけ何とかして、あとはそれを搭載するための砲塔を新規設計するのよ」
アンタは何を言っているんだ?
砲塔を新規設計するって?
そんなことしたらレギュレーションに引っかかるじゃないか。
この子ちゃんとルール理解してるのかね?
563: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:07:13.66 ID:rfo797Wn0
*****************************************
参加可能なのは、1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた車輌と、同時期にそれらを搭載される予定だった部材のみを使用した車輌のみとする。
それを満たしていれば、実際には存在しなかった部材同士の組み合わせは認められる。
計画段階車両に関しては、個別に連盟と協議を行うこととする。
但し、部品等が調達不能等の理由により再現が困難な場合は、連盟が認める範囲において改造することが認められる。
3-01 参加車輌 戦車道試合規則(日本戦車道連盟)
****************************************
…ん?
計画段階車両に関しては、個別に連盟と協議を行うこととする???
564: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:08:26.90 ID:rfo797Wn0
杏「…中須賀ちゃん」
エミ「なにかしら?」
杏「例えばさ、戦時中にドイツのお偉いさん達ってさ…」
杏「ティーガーやマウスをベースにした対空戦車って考えると思う?」
565: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/18(土) 02:08:58.43 ID:rfo797Wn0
エミ「思う」
珍しく中須賀ちゃんが"肯定的に"断言した。
569: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:34:23.53 ID:mQWErSGe0
エミ「だってIV号だけでは飽き足らず、V号対空戦車なんて作ろうと計画してたのよ?」
エミ「時間とか物資といった事情が許されるのならば、パンターでもマウスでも対空戦車は計画されてもおかしくないわ」
杏「確かにねぇ」
エミ「ティーガーやマウスをベースにした対空戦車なんだから、搭載する砲もそこそ強力なものになるはず」
エミ「そうなれば私達が考えるように1つの車輌で戦車と航空機を対応できるわけだからね。極端な話」
エミ「場合によっては通常のティーガーやマウスといった"戦車"以上の仕事をする可能性だってあるはずよ」
杏「なるほど…」
エミ「あとは言わなくてもわかるよね?」
んー。ひとまず理事長さんに聞いてみるか。
570: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:36:40.12 ID:mQWErSGe0
児玉『お電話代わりました。日本戦車道連盟、児玉です』
杏「お忙しい中失礼します。私、大洗女子学園の角谷杏と申します」
児玉『おぉ、大洗の角谷君か。先日はどうも』
杏「先日の件につきましては本当にありがとうございました」
児玉『いえいえ、こちらこそ。久方ぶりに白熱した試合を見ることが出来たよ』
杏「お陰様で大洗女子は今も元気に戦車道を嗜んでいます。これも理事長や関係者の皆様のおかげです」
児玉『それは良かった。今は丁度大会中で、しかも次が決勝戦ときた。楽しみにしておるよ』
杏「ありがとうございます。それで、お電話の内容ですが、戦車道のルールに関する相談がありまして」
児玉『相談?』
杏「はい。戦車道における試合で使用する戦車についての相談です」
私は理事長さんに現在に至るまでの事情を説明した。
先日の試合で我が校のエースが乗る戦車が大破し、次の決勝戦までに修復するのが困難なこと
そのため新しい戦車が必要となり、代替の戦車を求めてドイツにいること
そして、
既存の戦車をベースに、新しい戦車を作ろうとしていること。
571: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:40:56.77 ID:mQWErSGe0
児玉『………』
杏「この件について、理事長の考えをお伺いしたいのです」
児玉『なるほどねぇ』
杏「…」
児玉『そのベースとなる戦車は…少なくとも"試作"開発に着手しているというのは間違いないのだね?』
杏「はい」
児玉『そして、その戦車に搭載する砲は"戦車砲"ではなく"高射砲"であり、こちらも試作への着手に至ってたものと』
杏「ええ。おっしゃる通りです」
児玉『ただ、その車輌と砲を結びつける"砲塔"だけが存在せず、再現するには新規に設計する必要があると』
杏「はい。この砲塔こそが今回の相談となります」
児玉『うーむ………』
杏「如何でしょう?」
児玉『………難しいねぇ』
572: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:42:41.42 ID:mQWErSGe0
杏「!! それはどういう…」
児玉『判断が難しい。という意味だね』
杏「使用許可を出すのが難しい…という意味ではなく、"可か不可かの判断が難しい"、という意味ですか?」
児玉『うむ…。車体と砲はOKだけれども、砲塔がね…。かなりグレーゾーンなのだよ』
杏「…」
児玉『ちなみに、その戦車はまだ完成してはおらんのだね?』
杏「はい。戦車道連盟の許可が降り次第、交渉に入ろうと考えています」
児玉『そうか…。なら』
杏「?」
児玉『その計画はやめた方が良い』
573: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:44:23.97 ID:mQWErSGe0
杏「なっ…」
児玉『君が一生懸命やっているのはわかるよ』
児玉『…ただね?』
児玉『君が提示した案件を、許可すべきか否かを理事会でまず決める』
児玉『通った場合、改めて各方面へ製造を依頼するという流れになると思う』
児玉『…しかし、それでは決勝戦にはまず間に合わない』
杏「っ…!」
児玉『だから悪いことは言わない。…やめておきなさい』
杏「ですが…!」
児玉『私だってこのようなことは言いたくない』
児玉『だが、実現不可能なものに時間を浪費するのは得策じゃない』
杏「………」
574: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:45:15.75 ID:mQWErSGe0
杏「この提案に、西住流家元が関わっているとしてもですか?」
575: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:46:27.67 ID:mQWErSGe0
児玉『…なに?』
杏「一点、お伝えし忘れた事があります」
杏「破損した戦車の修復が間に合わないと判断した時、私は西住流家元のもとへ足を運びました」
児玉『…』
杏「そして相談した結果、残念ながら戦車をお借りすることは出来ませんでした」
児玉『そうだろうね。西住流家元とは言え、一つの学校へ安々と戦車を貸与するとは思えまい』
杏「…しかし」
児玉『?』
576: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:48:34.45 ID:mQWErSGe0
杏「戦車の代わりに、一通の封筒を頂きました」
児玉『封筒?』
杏「はい。本来なら丁重にお断りされ、手ぶらで帰るところなのですが」
杏「どういうわけか、西住さんは私に封筒を差し出した」
杏「かつてドイツの戦車を製造していた企業の情報が記載された一枚の用紙が入った封筒を…」
児玉『…』
杏「そして、西住流家元は確かにこう言いました」
― ヒントはあげたわ。あとは貴方の力でそれを形にしなさい
577: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:49:45.11 ID:mQWErSGe0
児玉『………』
杏「これが何を意味するかはまだわかりません」
杏「ただ、一つ言えることは」
杏「西住流家元は首を横には振らなかったということです」
児玉『………そうか』
杏「…」
児玉『西住さんはそこまでしてくれたんだね』
杏「…!」
"そこまで"…?
578: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:51:02.91 ID:mQWErSGe0
児玉『…わかった。私も一肌脱ぎましょう』
杏「!!」
児玉『ひとまず、その作りたい戦車の"概要"を私のところへ送って来なさい』
児玉『ベース車輌、搭載する砲の種類、そして砲塔について、出来るだけ詳しくまとめたものをね』
杏「ありがとうございます!!」
児玉『ただし、』
杏「っ!」
児玉『まだOKを出したわけじゃない』
児玉『あくまで、まず資料を見てから判断。…という流れだよ?』
児玉『だから糠喜びだけはしないで欲しい』
杏「わかりました」
579: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:51:58.29 ID:mQWErSGe0
児玉『…しかし、大洗女子は不思議だねぇ』
杏「えっ?」
児玉『無限の可能性を秘めている』
杏「…」
児玉『何故、こんな良い学校を廃校にしたがるのか、私は理解に苦しむよ』
児玉『文科省は戦車道世界大会のために優秀な生徒だけに予算を集中させたがっておる』
児玉『だが…』
児玉『本当に、我々年配者が手塩にかけて育てないといけないのは』
児玉『君たち全ての若者達なのだよ』
杏「………」
580: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:53:27.76 ID:mQWErSGe0
児玉『縛る必要なんてない。伸び伸びと戦車道を楽しんで欲しいものだ』
児玉『その中で戦車道の概念を理解し、技術を身に着け、少しずつ育ってくれたら良い』
児玉『そうすれば、本当の意味で素晴らしい人物が誕生する』
杏「……………」
児玉『それが、私が望む戦車道だよ』
杏「………たとえ」
児玉『うん』
杏「たとえ何度、廃校を宣告されても、わたし達は撤回のために、全力を尽くします…!」
581: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:54:37.72 ID:mQWErSGe0
児玉『済まないね。勝手な大人たちのせいで苦労かけてしまって』
杏「…」
児玉『今の日本には目先のことに囚われ過ぎて、本当に大事なものを見失っている』
児玉『残念ながらお役所の人間はそれが理解できていない』
児玉『だから、君たちが徹甲弾のように硬い頭の彼らに、本当に大切なものを教えてやって欲しい』
杏「はい」
児玉『頼んだよ…』
杏「それが私の戦車道です」
582: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:55:37.97 ID:mQWErSGe0
西住ちゃんのように優れたリーダーシップは発揮できない。
秋山ちゃんのように戦車の知識もロクにない。
だけど私は私なりの方法で、彼女たちが心から愛した"道"を守りたい。
その為だったら何だってしよう。
杏「あと、もう一つだけ、お願いがあります」
583: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 21:58:51.43 ID:mQWErSGe0
杏「いやぁーお待たせお待たせ」
エミ「ずいぶん遅かったわね?」
杏「連盟にかけるついでに、ウチの生徒会にもちょっと電話しててねぇ」
エミ「ふーん。で、どうだったの?」
杏「大漁だったよー」
エミ「やったじゃない」
杏「ホントだよー。なにしろ」
杏「ひっさびさのお通じだったからねぇー。いっぱい出たよ」
584: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 22:00:37.91 ID:mQWErSGe0
エミ「………は?」
杏「冗談。まずは"資料"を送ってほしいとのことだよ」
エミ「…そう」
ベースとなる戦車は何にするか
搭載する砲はどうするか
そしてその2つを結ぶための砲塔はどうするか
私と中須賀ちゃんは"設計図"を作った。
そして翌日、朝一番にその設計図を戦車道連盟へ送信した。
その結果、
585: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 22:03:26.54 ID:mQWErSGe0
・1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた車輌をベースにしている
・1945年8月15日までに設計が完了し、試作に着手していた高射砲を搭載している
この2点が認められ、"砲塔の問題は無事にパスした"という返事が戻ってきた。
私達が提案した戦車の大まかな概要は、
・ティーガーやマウスのような、「重戦車」の車体
・8.8cm Flakのような実在する「高射砲」を搭載する
・「V号対空戦車 ケーリアン」のような砲身を上空へ向けられる旋回式砲塔
この3点だ。
ひょっとしたら完成品は試作設計とはかけ離れたものになるかもしれない。
しかし上記の範囲内であれば連盟はOKだという。
そしてもう一つ、報告を逐一戦車道連盟に必ず入れること…というのが条件だ。
586: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 22:09:43.43 ID:mQWErSGe0
これで私達はまず第一の関門を突破したことになる。
しかし、これは序の口にすぎない。
次は、"戦車を作ってもらう"という最大の関門が待ち受けている。
587: ◆MY38Kbh4q6 2017/02/26(日) 22:26:01.25 ID:mQWErSGe0
●Tips
杏「I号戦車、II号戦車、III号戦車、そして西住ちゃんたちがのるのがIV号戦車だね」
エミ「そうよ?」
杏「んで、V号がパンター、VI号がティーガー」
エミ「ええ」
杏「ってことはマウスはVII号ってわけか」
エミ「違うわよ」
杏「え?」
エミ「マウスはVIII号」
杏「それじゃVII号は?」
エミ「"レーヴェ"と呼ばれる70トン級あるいは90トン級の重戦車が計画されてたけど」
エミ「マウスとか他の戦車と平行して開発・生産するのは国家資源の浪費ってことで開発は中止になったのよ」
杏「ふーん。そうなんだ」
592: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:22:46.91 ID:GOWn+5pK0
【翌朝 ホテル レストラン】
朝食なう。
レストランのバイキングにてドイツ料理に舌鼓を打ちながら今日の計画を練る。
特に干し芋が切れてから芋不足に陥ってたので、ポテト料理をひたすら食べた。
中須賀ちゃんから『イモ女』なんて呼ばれたけど気にしない。
なにしろイモだからね。イモはいいぞ!
あ、あとソーセージも美味しかった。河島や小山にも食べさせてやりたいなぁ。
593: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:24:27.42 ID:GOWn+5pK0
エミ「…にしても良く食べるわね」
杏「1つ関門をパスして安心したせいか急にお腹が空いちゃってねぇ~」モグモグ
エミ「それは良いけど。…そんなにイモばっかり食べて飽きないの?」ズズ...
杏「全っ然?」モグモグ
エミ「…そう」
杏「ふぅ…。そんで、まずはクルップ社だよねー?」
エミ「ええ。そうよ」
杏「んー」
エミ「なによ?」
杏「アポ無しで戦車つくって下さいってどう考えても無理だよなぁ…って」
エミ「そうね」
594: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:26:03.35 ID:GOWn+5pK0
わかってる。わかってるよ。
でも、そんなアッサリと否定されるとホント悲しいのよ…。
せめて『やってみなければわかりません!可能性がある限り進みましょう!』って西住ちゃんみたいなこと言って欲しいなぁ…。
エミ「みほも両手あげて降伏するレベルの無理難題に取っかかろうとしてるのよ私達は…」
杏「ぐぅ…」
エミ「でも、仮に私達の第一要求が通らないとしても、何か他のところで有益な情報が得られるかもしれないわ」
杏「まぁねぇ…(それもあまり期待しちゃいかん気がするけど)」
結局のところ、当たって砕けろだ。
私達はレストランを後にして、クルップ社のあるエッセンへ向かった。
595: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:27:30.93 ID:GOWn+5pK0
【クルップ社 応接室】
………やっぱりな。
行く前から予想はできていた。
見ず知らずの小娘に『お金ないけど超強力な戦車作ってよ』と言われて『無理』以外の回答を期待する方がおかしい。
そんな無茶ぶりが出来るのはヒトラーくらいだ。応対してくれたスタッフさんに鼻で笑われたよ。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛どうしよ!!
こんなんじゃ他の会社行っても同じ結果になるだけだし。
そもそもこうなるなんてドイツ行く前からわかってたし!
なんで家元もあんな紙切れ渡したんだよっ!
素直に門前払いされた方が良かったよクルップみたいに!!
596: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:32:54.18 ID:GOWn+5pK0
エミ「………」
中須賀ちゃんも呆れてるよ。予想通りな展開だけに。
私が中須賀ちゃんの立場だとしても『行く前からわかってたのに何でわざわざドイツ来たの?バカなの?』ってなるもん…。
杏「…帰ろう。さすがに無謀だったよ」
エミ「…」
杏「中須賀ちゃん?」
597: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:33:59.22 ID:GOWn+5pK0
エミ「*****,**************?」
「***…*************」
エミ「***!**********,**********」
「*********」
エミ「*****」
え…なに?何の話してるの??
ドイツ語わかんないよ。
え?なんであんたら握手してんの?!
………もしかして、
エミ「車体、何とかなるかもしれない」
598: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:35:02.63 ID:GOWn+5pK0
杏「ちょっ、何とかなるってどういうことよ?!!」
エミ「落ち着きなさい…」
「HAHAHA」
スタッフの人にまた笑われちまったよ…。だけどそんなことはどうでもいい。
誰がどう考えても「無理」しか返って来ないようなお願いしてるのに"何とかなる"ってどういうことさ?!
まさか中須賀ちゃん………
ヒトラーの孫とか?
599: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:36:48.66 ID:GOWn+5pK0
エミ「そんなわけないでしょーが!!!」
杏「あはは。そーだよねー」
「HAHAHAHA」
エミ「まったく…」
ブチ切れ方はそっくりだけど、黙っておこう。
そんなことより、説明してもらおうか中須賀ちゃん
エミ「さすがに戦車を作れってのは無理だけどさ」
杏「うん」
エミ「戦車道やってるドイツの学校から借りることは可能かもしれないってこと」
杏「!」
エミ「だから、クルップ社製の戦車を使ってる学校を紹介してもらうのよ」
600: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:37:28.69 ID:GOWn+5pK0
その手があったか!!
何度も言うけど、"かつて戦車作ってたから"という理由だけで、一企業にノーマネーで1から戦車作れというのはまず無理。時間的にも(会社が負担する)コスト的にも。
で、作るのがダメなら、既に完成している戦車を借りれば良かったのだ。…どうしてそんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。
そしてどーしてそっちを最初に教えてくんなかったんだよあんのクソババア!!!
601: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:40:33.16 ID:GOWn+5pK0
エミ「いや、いきなり学校に行っても貸してもらえないわよ?」
杏「えっ?」
エミ「考えてもみなさいよ。身元の分からない他国の人間が急に『戦車貸して』で『ハイ、どーぞ』なんてなると思う?」
杏「確かに…」
エミ「仮にも実弾を発射する兵器なんだから、簡単に借りれたら色々マズイわよ」
中須賀ちゃんの言うとおりだ。
何処の馬の骨かもわからん輩にホイホイ戦車を貸してしまうのはあまりに危険だ。
相手が反社会的勢力だったらテロに繋がりかねないし、そうでなくても借りパクされる可能性だってある。
戦車を借りパクって聞いたことないけど、実際されたらかなりヤバいだろう。
なにせドイツ戦車はどれも非常にスペックが高い。先進国ならまだしも途上国では余裕で戦力となりうるのだから。
まぁ戦車をパクられる学校があったらそこの隊長は相当マヌケだけどね。
602: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:41:51.59 ID:GOWn+5pK0
…そういった事情から本来なら学校単位で申請するものなんだってさ。納得。
じゃぁ何でウチらがそのやり取り出来るって?そりゃあ私が生徒会長だからだよ。
こう見えて大洗女子や学園艦に関する一定の権限を持ってる。だから今回こーやってあちこち走り回ってるわけよ。
西住ちゃんは元西住流の子だし戦車も詳しいけど、こういった学校単位でするような交渉権の類は一切持ってないからねー(西住ちゃんに限った話じゃないけど)。
ちなみにあたしが死んだら小山と河島が学校や学園艦の運営・管理を引き継ぐことになる(大丈夫かなぁ…)。
603: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:43:41.33 ID:GOWn+5pK0
杏「…ということは、ここに来たのはその学校とウチらを結ぶための何かしらの"コネ"を作るためと?」
エミ「その通り」つ[書類]ドッサリ
杏「うっわ…なにこれ…」
エミ「借用書みたいなものよ」
杏「めっちゃ分厚いじゃん…」ゲンナリ
エミ「それだけ厳重なの」
おっかしいなぁ…ドイツに来たのに日本の商社みたいな事やってっぞ?
こーいうのはPCでササッと入力とかじゃダメなのかねぇ…。
え?筆跡鑑定?あーそっか…。
604: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:45:11.10 ID:GOWn+5pK0
1時間ほどかけてよーやく書類を全部書き終えた。右腕がプルプル震えてる。
本来こういう書類の作成とかはぜーんぶ小山に丸投げしてたし(もう少し手伝ったほうが良いのかな?)、私が何か作る時はだいたいパソコンだったから手書きで書類を作成するのは久しぶりだよ。
ひとまずこれでクルップ社からの紹介状を入手出来るので幾分スムーズに話が進みそうだ。
…いや、幾分どころではない。一気に話が進んだ。
『作ってもらう』と『貸してもらう』は違うが、『戦車を入手する』という目的は同じだ。
だが、1から作るよりも既に完成しているものを借りた方がコストも時間もかからない。
これは当初の計画よりも早く目的が1つ達成できるかもしれない…!
605: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:46:47.83 ID:GOWn+5pK0
さて、どの学校に行くのかと中須賀ちゃんに訪ねたところ、ニーダーザクセン州ノルトハイム郡バート・ガンダースハイム市(長ったらしいなぁ…)にあるヴィルヘルム女学院が良いという。
話によると、そこは戦車道で優勝常連校と言われてる強豪中の強豪なんだそうだ。
日本で言う黒森峰みたいなものだろうか。西住ちゃんに聞いたらわかるかな?
何にせよ強豪校ならば強力な戦車も保有しているだろうし、行ってみる価値は大いにある。
606: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:48:35.38 ID:GOWn+5pK0
【ヴィルヘルム女学院】
というわけで学校に到着したよ。
なんというか、豪華だね。さすが優勝常連校だけはある。
聖グロみたいな華やかさと黒森峰の荘厳さ混ぜた何かよくわからない感じだよ。
杏「」ヘトヘト
エミ「」ヘトヘト
あー…うん。
"というわけで学校に到着したよ"って軽々しく言ってっけどさ、実際のところエッセンからココまで電車で方道3時間近くかかるのよ。
まぁ疲れたわホント…。河島に丸投げしたい。しないけど。
学校の中に仮眠室無いかなぁ。マッサージチェア付きがいいなぁ。
エミ「あるわけないでしょ…」
杏「だよね…」ショボン
607: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:50:58.84 ID:GOWn+5pK0
ひとまず来賓用の入り口から施設へ入り、通りすがりの学校関係者に用件を伝えた。
最初『何言ってんだこいつ』みたいな顔してたけど、クルップからの紹介状を出したら急に表情が明るくなった。クルップパワーすげー。
だけど中須賀ちゃんが『何で最初から(紹介状)出さないのよ』ってジトーっと睨んできた。
いきなり出したって面白くないじゃん?人を散々コケにする相手が急に慌てふためくところ見たら何かスカッとしない?
………悪趣味って言われた。
608: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:52:36.61 ID:GOWn+5pK0
【ヴィルヘルム女学院 戦車倉庫】
私たちは学校の戦車倉庫へ案内された。
いや、倉庫というよりはスーパーマーケットだねーこりゃ。
あちこちに世界各国の戦車が"陳列"されている。うらやましい。
杏「うっひゃー。サンダースの倉庫みたいにいっぱいあるねぇ」
エミ「サンダースどころか黒森峰だって敵わないわよ」
杏「へぇ。さすがドイツ一の高校だけあるよ」
エミ「何言ってんの?」
杏「ふぇ?」
エミ「世界一よ」
609: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:53:42.95 ID:GOWn+5pK0
杏「え?」
エミ「世界大会でドイツ代表選手を最も多く輩出している学校なのよ」
杏「そーなの?」
エミ「そうよ。だからこの学校は実質戦車道において"世界一"なの」
杏「世界大会ねぇ…ウチらにとっては遠い世界の話だよ」
エミ「でしょうね」
杏「…」
世界は本当に広い。
私達は目の前の学校の存続の危機のために必死になっている。
なのにこの学校が見ているのは世界だ。
いかに自分たちが小さな枠に押し込まれているかがわかる。
610: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:56:33.73 ID:GOWn+5pK0
エミ「これが世界との違いよ」
杏「…」
エミ「残念ながら日本の戦車道は世界各国から大きく遅れをとっているわ」
エミ「だから、世界選手権大会に出たところで初戦敗退、良くて一回戦勝利が関の山ってとこかしら」
杏「そりゃ残念だね」
エミ「社会人チームが大学選抜チームに負け、その大学選抜チームが高校生チームに負ける」
エミ「言い方は悪いけど、このザマでは世界を相手に戦えない」
杏「………」
611: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 19:59:07.39 ID:GOWn+5pK0
エミ「だから、文科省が本腰を入れて選手育成に躍起になっていて」
エミ「その結果、弱小校を"間引く"政策にシフトしつつあると」
エミ「日本代表選手を育成するべく、強豪校に予算を集中させるためにね」
杏「削られる側としちゃ笑えないねぇ」
エミ「だから生き残りたければ"結果"で示すしかないのよ」
杏「そだね」
ウチらは二度も結果を出してきた。
にも関わらずまだこんな姑息な手段を使ってまで潰そうとしている。
アンタら文科省が納得する"結果"って一体何なのさ?!
612: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 20:01:24.19 ID:GOWn+5pK0
エミ「日本人は礼儀だの情けだのそういったものを尊重しているわ」
エミ「それは悪いことじゃないけど。世界を相手にした勝負じゃそれは何の役にも立たない」
杏「…」
エミ「勝つか負けるか。それだけ。それ以外は何も必要ない」
杏「でもねぇ」
エミ「なに?」
杏「確かに日本の戦車道はせいぜい日本でしか通用しないレベルだと思うよー」
杏「んだけどさ、自分たちの中で守りたいモノ、大切にしたいモノの為に一生懸命になる」
杏「そんな小さな世界が悪いとは思えないんだよねぇ」
エミ「…」
613: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 20:02:56.40 ID:GOWn+5pK0
西住ちゃんが前を向いて最初の号令をかけた。
西ちゃんが涙を流して最期の吶喊をした…
自分や仲間の"道"を守るために先頭に立って。
あんなの見せられたら世界なんてもうどうでもいい。
彼女たちが守りたいものを皆で一緒に守りたいよ。
あの子たちが胸に抱える"情熱"は、血も涙もない灰色の成果主義なんかでかき消して欲しくはないよ…。
614: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/02(木) 20:04:43.14 ID:GOWn+5pK0
日本人はそういった"情"にもろいせいか、勝負師になれないのかもしれないけどさ。
でもその情が様々な形になって人の心に染み渡るから、極東の小さな島国が弱いながらも愛される国になった。
その場しのぎの対応や慌ててやるような目先の成果主義だけじゃ何もつかめないし何も守れない。
地道に積み重ねてきた静かな歴史こそが、ビクともしない屈強な柱になるんだよ。
エミ「でもウチらがやってることは戦車を貰うという"その場しのぎ"な対応だよね」
杏「………うるさいな…」
…なんにせよ、今は世界の道よりも私達の道をこじ開けるほうが先だ。
619: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:46:32.73 ID:LrExecwg0
しばらく戦車を眺めていたら、この学校の責任者がやってきた。
軽く自己紹介を済ませたら「何がほしいの?」と聞いてきたので、ティーガーやマウスといった強力な戦車が欲しいと言った。…中須賀ちゃん経由で。
すると「ティーガーはともかくマウスはオススメしないよ?」と返事が帰ってきた(通訳:中須賀エミ)
杏「えっ、マウスダメなの?あんな強い戦車なのに?」
エミ「確かに強力だけど実戦ではまず使えないわね」
杏「ふぇ?なんで?」
エミ「不要な長物だから」
杏「えー。確かに車体は大きいけどさ、あんだけの火力と装甲があればどんな戦車にでも勝てるじゃん!」
エミ「重い・ノロい・使えないの3拍子そろった欠陥品よあんなもの」
杏「えぇ…」
エミ「マウスはね、火力…というより防御力のために全てを犠牲にした一辺倒な戦車なの」
杏「へー?」
エミ「"ソ連はティーガーやパンターを超える強力な戦車を用意するだろう"というヒトラーの警戒心から生まれた鉄のカタマリよ」
620: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:48:59.66 ID:LrExecwg0
エミ「最大速度はたったの20kg。試験走行の段階でエンジンが故障」
エミ「もし仮に戦場に出たとしても同じようなトラブルはおそらく発生するはずよ」
エミ「で、発生したらその超重量が災いして回収も出来ない」
エミ「仮に故障しないとしても、マウスを動かすには大量の燃料が必要となるわ」
エミ「もっともそれ以前にマウスを作るだけで膨大な人員と資材を消費する」
エミ「…後半は私達には関係ないけど、とにかく"史上最大の戦車"ってだけで完全にお荷物でしかないわ」
エミ「だからマウスは論外よ。わかった?」
杏「おっ、西住ちゃんたちのIV号だ。でもなんか車体の表面デコボコしてんなー?」
エミ「聞けェェェェェ!!!」ガァァァァッ
わかったわかった。要するにマウスは"使いもんにならん"ってことでしょ?
ならば私が「ティガーかマウスか」って言った時にどーしてそれを言わなかったのさ…。
え?固定砲台にするならマウスでも良いって?…それはちょっとねぇ…。
621: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:51:14.61 ID:LrExecwg0
杏「…となるとやっぱティーガー?」
エミ「うーん…」
杏「おやおや、随分と優柔不断だねぇ?」
エミ「ええ…。仮に8.8cm高射砲を載せるとしたらティーガーじゃ少し小さいから」
杏「いや、ティーガーが小さいって、ティーガーも8.8cm砲載せてるじゃない?」
エミ「砲塔を上に向けるとなるとまた事情が変わってくるのよ」
杏「あぁ…そうか」
確かにティーガーは8.8cm高射砲生まれの戦車砲を搭載しているが、それは狭い砲塔内に収められるようアレンジしたものなのだ。
一方で今回はそのまま高射砲を載せる。…いや、砲塔に収まるよう多少は改良はすると思うけど。
しかし、そうなれば砲塔も当然大きくなるだろうし、大きくなった砲塔を支えるために車体もより大きいものが必要となる。
マウスがダメでティーガーもダメ。他に何があるのだろうか…。
622: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:52:15.79 ID:LrExecwg0
エミ「**********」
「******」
エミ「**?*******」
「*****…,********」
エミ「*******」
まーたドイツ語で何か喋ってる…。
英語ならまだしもドイツ語なんて一言たりともわかんないよ。"ぐーでんもーげん"くらいしか。
ほら中須賀ちゃん。何話してたのか教えてよ。
エミ「ひとまず車体、決まったわよ」
623: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:53:55.12 ID:LrExecwg0
杏「え゛っ!?ちょっと待ってよ!」
エミ「なによ…」
杏「なによじゃないよ!どんなのかわからないまま決定は流石に困るって…!」
エミ「心配ないわよ」
杏「えぇ…」
こうして私の知らんところでベースとなる戦車が決まった。…解せぬ。
ティーガーでもない。マウスでもない。だけど高重量な高射砲を搭載するためにベースとなる戦車の名前は…
『エントビックルングストーペン・フォンダーツ・スーパーシュワール』
624: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:55:42.55 ID:LrExecwg0
エミ「…随分カタコトね」
杏「だってドイツ語わかんないんだもん」
エミ「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーンって言う外国人レベルよ」
杏「うっさいなぁ…。んなことよりこの戦車初めて見るんだけど何ていうの?」
エミ「この戦車はね、"E-100"って言うの」
杏「ほうほう。随分でかいねぇ」
エミ「この戦車もマウスと同じく"超重戦車"カテゴリに含まれる戦車なのよ」
杏「ってことはやっぱ重たいの?」
エミ「そうね。完成してたら130~140トンになると言われているわ」
杏「…結局マウスと変わんなくない?」
エミ「そんなことないわよ。30トンも違えば足回りの負担ぜんぜん違うんだから」
エミ「それにE-100は最大時速40キロは出せるしね」
杏「ほうほう」
625: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 18:59:13.25 ID:LrExecwg0
杏「そういえばE-100はパンターとかティーガーみたいな動物の名前じゃないんだ?」
エミ「ええ。ひょっとしたら将来的に名前が付けられたのかもしれないけど、そうなる前に戦争が終わったからね」
杏「そーなんだ」
エミ「他にもE-75とか、E-50とかE-25、E-10といった数パターンあるわ」
エミ「これらの戦車は生産性を高めるために構成部品を共有化し、また重量を標準化するという試みのもと計画された」
杏「計画ってことは結局作られなかったの?」
エミ「ええ。E-100の車体が試作されただけ」
杏「なるほどね。試作されたってことは戦車道のルール的にはおっけーなのかねぇ」
エミ「おそらくね。何なら聞いてみたら?」
杏「あいよー。…って、結局借りるのOKなの?」
エミ「ええ。元々世界各国の戦車道のある学校に貸してたりするからその辺は大丈夫よ」
杏「そっかそっか。んじゃいっちょ聞いてみますかねぇ」
626: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:02:07.04 ID:LrExecwg0
『E-100』か…。そんな戦車があったなんて知らなかったよ。
ひとまず"ハンコ"を押す前に理事長にこの件を相談した。どうやら児玉さんはこの戦車のことを知っているみたいだ。
なんでもマウスと同じ砲を搭載するか、更に大きい15cm砲を搭載する予定だったとか、それよりも大きい17cm戦車砲(こちらは大きすぎるので駆逐戦車のような固定式戦闘室に収める形だったそうだ)まで計画されていたそうだ。
なかなか興味深い話だけど、今はそれよりこのE-100がOKなのかどうかを知りたいのですよ理事長。
627: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:04:12.50 ID:LrExecwg0
児玉『おめでとう。車体はOKだよ』
杏「本当ですか!?」
児玉『あぁ、車体はね。残るは搭載する砲と砲塔だね』
杏「ええ」
児玉『ただ…時間的に間に合うのかい?』
杏「それは…やってみなければわかりません」
児玉『そうだね。もし間に合わないのならば、最悪E-100に既存の砲塔を流用して運用するしかない』
杏「えぇ…」
児玉『わかった。それじゃ引き続き頑張って。何かあったら報告だけはしっかり頼むよ?』
杏「はい。ありがとうございます」
児玉『あ、そうだ』
628: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:06:57.20 ID:LrExecwg0
杏「はい?」
児玉『いかんいかん。肝心なことを忘れとったよ。年を取るといかんねぇ…』
杏「何でしょう?」
児玉『今回の車体や、そのあとの戦車関連のものは日本大使館経由で防衛省へ送ってほしい』
杏「防衛省?」
児玉『うむ。戦車道で使うからとはいえ、モノは戦車でしかも海外から持ってくるとなれば正当な手続きをしないと色々厄介なことになるのだよ』
杏「そうなのですね…(いわゆる大人の事情ってヤツか)」
児玉『それに特殊カーボンや判定装置なども含め、もう一度チェックしておきたいからね』
杏「わかりました」
児玉『まぁこのあたりは先方さんに聞いてみたらわかると思う。よろしく頼むよ』
杏「はい。ありがとうございます」
629: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:19:04.99 ID:LrExecwg0
いよっしゃぁぁぁぁぁ!車体オケー!!!!
最初の難関突破したぞー!!
なんだか優勝した時の気分だよ。まだ優勝してないのに。
でも念願の戦車(の車体)ゲットだよ?一気に話が進んだよ!!
エミ「」ペチッ
杏「あいたっ!何すんのさ!?」
エミ「」ドンッ
[書類の束]
杏「うげっ!!」
エミ「」つ[ペン]
杏「…これを全部書けと?」
エミ「」コクリ
杏「」
630: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:20:33.55 ID:LrExecwg0
クルップ社で書いた時よりも書類の量が多いじゃないか…。
曰く戦車をレンタルする件に加え、その戦車をドイツから日本へ送るための手続きに関する書類も含まれているとか。A4用紙1枚で済ませてちょ…。
文句を言っても始まらんので、私は履歴書のような書類をひたすら書き続けた。
一方で中須賀ちゃんは戦車に乗ったり、生徒と会話をしている。うらやましいなぁ…。
エミ「早くしてよ。日が暮れちゃうじゃない」
ちったァ手伝えよゴルァァァァァァ!!!
その後私は日が暮れるまでひたすら書類を書き続けた。なんだか反省文書かされる悪ガキの気分だった。
書類を提出したら担当者曰く責任持って"速達"で日本へ届けるとのこと。任せたよー。
631: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:22:32.33 ID:LrExecwg0
杏「もう今日は右手使わんよ………」プルプル
エミ「どうやってドアの扉あけるのよ?」
杏「左手使う」
エミ「ご飯は?」
杏「中須賀ちゃん食べさせて」アーン
エミ「嫌よ」
杏「今からホテルまでまた電車で3時間かぁ…」ゲンナリ
エミ「あー、そのことなんだけど」
杏「んー?」
エミ「なんか航空科の人がホテルまで送ってくれるそうよ」
杏「マジで?!」パァァ
632: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:32:37.31 ID:LrExecwg0
バリバリバリバリ
ヒュインヒュインヒュインヒュイン
航空科パイロット「キタデ」グッ
杏「うおーヘリコプターだ!」キラキラ
エミ「ほら、はしゃいでないで乗るわよ」
バリバリバリバリバリバリ
杏「すげー!早ぇぇぇぇぇ!!」キラキラ
航空科パイロット「セヤロ」グッ
エミ「わかったから。少し落ち着きなさい…」ハハハ
633: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:38:39.55 ID:LrExecwg0
【夜 ホテル前】
航空科パイロット「マタノ」グッ
杏「ありがとー!」ダンケダンケ
エミ「ははは…」
恐ろしいほどサービス旺盛な学校だった。
片道3時間だったものがヘリだとたったの1時間だ。こりゃぁ良いや~。
ところでさっきのヘリ何ていう名前なんだろ?
エミ「"ティーガー"よ」
ティーガー?!
…あ、なんだ。ティーガーという名前のヘリコプターなのね。びっくりした。
にしてもパッと見た感じ2人乗りっぽいのに3人も乗れたし最近のヘリって技術が進んでるんだなー。
………。
深くは考えないようにしよう。
杏「…ところで無人機として出たりしないよねアレ?」
エミ「戦後のヘリなんだから出ないわよ」
634: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:39:37.91 ID:LrExecwg0
とりあえず今日のノルマ(?)は達成できた。
大収穫と言ってもいい。なにせ、一番の課題である戦車の入手が決まったからだ。
ひとまず西住ちゃんに連絡しとこーっと。
みほ『………もしもし…』
杏「西住ちゃーん!ぐーでんもーげん!」
みほ『…はぁい…どうもぉ…』
杏「聞いてよ西住ちゃん!戦車の車体手に入ったよ!!」
みほ『…そうでふか……』
635: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:40:47.96 ID:LrExecwg0
…ありゃ?なんか全然興味なさそうだよ?
というか何か声に元気がない…。風邪でも引いちゃったのかな?
…え?時差?日本とドイツって時差どんくらい?
ほうほう。日本のが8時間進んでるとな?
ってことは今こっちがだいたい夜の8時くらいだから………
げぇっ!朝の4時じゃん!!
西住ちゃんゴメンっ!!!
636: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:42:30.21 ID:LrExecwg0
みほ『あのぉ…あとでも良いですかぁ…寝ますぅ……』
杏「う、うん。後でね…」
みほ『ぁぃ…おやうみなひゃ』
ツーツー
その日西住ちゃんは寝坊したらしい。ほんとごめん。後で遅刻ノーカンにしとくから許して。
…でもさぁ、
西住ちゃんの寝起きの声メッチャ可愛かった!!!
いでぇっ?!なっ何すんのさいきなり!!?
637: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:43:57.64 ID:LrExecwg0
【ホテル 部屋】
エミ「あー疲れた…」
杏「同じく。特に右手が」
エミ「でも良かったじゃない」
杏「だねー。手段は違ったけど、目的は達成できた」
エミ「作るよりも借りる。この方が時間もコストも節約できる」
杏「うんうん。感謝してるよー中須賀ちゃん」
エミ「布団の上で寝っ転がって言われても説得力無いわよ…」ヤレヤレ
杏「ごろごろ~」
エミ「こっち来るな!ここは私のエリアよ!」
638: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:45:49.17 ID:LrExecwg0
エミ「それで、次は"砲"ね」
杏「そだねー」
エミ「ともなればやっぱりアハト・アハトかしら」
杏「そういえばずっとアハアハの一点張りだけどさ、その他に高射砲って無かったの?」
エミ「あることはあるけど…」
杏「例えば?」
エミ「まず10.5cm Flak38(39)」
杏「ほほう」
エミ「これは8.8cm Flakの後継種として開発された高射砲ね」
エミ「で、もう一つは12.8cm Flak40」
エミ「こっちはドイツ最大の高射砲なんだけど、重すぎるから移動はほぼ不可能ということで、ドイツの主要都市の高射砲塔に設置したもの」
639: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:46:41.54 ID:LrExecwg0
杏「12.8cmともなればさぞ強力だろうねぇ」
エミ「マウスやヤークトティーガーに搭載されてる12.8cmPak44(KwK44)が連合軍の主力戦車の正面を3,500m離れた場所から貫通できるというからね」
エミ「おそらくそれ以上に強力だと思うわよ」
杏「え、同じ12.8cmなのに??」
エミ「同じ12.8cmだけど、マウスやヤークトティーガーのは55口径で、Flak40は61口径だから、砲身が長い分威力も上がるのよ」
杏「へー。だから同じ7.5cmでもIV号とパンターとでは違うんだねぇ」
エミ「そういうこと」
杏「でもさ…」
エミ「んー」
杏「それって、E-100に乗せられないんだよね?重たすぎて」
エミ「えぇ…」
640: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:48:01.48 ID:LrExecwg0
杏「…ちなみに10.5cmの方は?」
エミ「厳しいと思うわよ。何しろ8.8cm flakの倍以上の重量なんだから」
杏「そっかぁ…」
エミ「ただね、8.8cmでも十分よ」
杏「え?そうなの?」
エミ「ティーガーIIやエレファント、ヤークトパンターに搭載されている71口径8.8cm戦車砲でも」
エミ「55口径 12.8cm戦車砲と同じように3,500m以上離れた場所から連合軍の主力戦車の正面装甲を貫通出来るとされているわ」
杏「!」
641: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 19:52:09.07 ID:LrExecwg0
エミ「ティーガーIの56口径とティーガーIIの71口径。同じ8.8cmでも188cmも砲身長が違えば威力は全然違うわね」
エミ「しかもティーガーIIは砲身長を伸ばした分、装薬も増やしている」
杏「へー勉強になるねぇ」シミジミ
エミ「ひとまず、明日はラインメタルへ行ってみましょう」
杏「そうだね。今回みたいにまた貸してもらえるかもしれないしね」
エミ「………」
杏「どったの?」
エミ「いや…なんでもないわ」
杏「?」
エミ(…悔しいけどここまでね……)
642: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/03(金) 20:00:47.92 ID:LrExecwg0
●Tips
そど子「ちょっと冷泉さん!今日もまた遅刻じゃないの!」
麻子「私は朝は無理だから仕方ない…」フラ...
そど子「そんなの関係ないわよ!このままじゃ本当に留年になるわよ!」
麻子「遅刻日数はリセットしたから問題ない…」ウツラウツラ
そど子「とにかく!ちゃんと早く寝て早く起きれるようにしなさい!生活習慣の乱れは風紀の乱れになるんだから!」
麻子「考えておこう……」
そど子「全く。前の試合で隊長やってたとは思えないわね。あなたも西住さんを見ならないなさい!」
みほ「うわぁぁぁぁぁ遅くなってすみませぇぇぇぇん!!」ヒーン
そど子「」
麻子「西住さんが何だってそど子?」
そど子「…もう…おしまいよ………」ヘナヘナ
麻子「お、おいしっかりしろそど子…!」
麻子(そど子がグレてもらっては困るから明日は早く起きるか…)
644: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:29:35.64 ID:APG+ppt70
【デュッセルドルフ ラインメタル社】
昨日と同じように朝食を済ませた私達は、その足でラインメタル社のあるデュッセルドルフへ向かった。
8.8cm高射砲はクルップ社が製造しているのだが、このラインメタル社もまた8.8cm高射砲の前身でもあり、後世の高射砲のモデルとなる『8.8cm Kw Flak』をクルップ社と開発していたそうだ
なお、この頃はまだラインメタルじゃなく『エーアハルト』という社名だったらしい。
そんなラインメタルは現在は44口径の120mm砲を開発・製造し、一部を除き西側諸国の主力戦車の砲身として採用されている。
日本の90式戦車に搭載されているものもラインメタル製をライセンス生産したものだ。
…さすがに戦後の戦車砲はレギュレーション違反だから使えないけどね。
645: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:30:59.11 ID:APG+ppt70
エミ「………」
杏「やっぱり"作ってもらう"は駄目だったね…」
エミ「ええ…」
杏「正直車体の時と同じように"作ってくれ"には期待してなかったよ」
杏「だからさ、また紹介してもらおうよ。高射砲を提供している学校を」
エミ「無理よ」
杏「え?どうしてさ?」
杏「車体の時みたいに借りればいいじゃん?」
エミ「それが出来たら苦労はしないわ…」
杏「どういうこと?」
エミ「車体と違って高射砲は砲塔用に再設計しないといけないんだから」
杏「!!」
646: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:32:24.25 ID:APG+ppt70
そうだった…。
高射砲はそのまま搭載するのではなく、砲塔内に収まるようにアレンジを加えないといけないんだった…。
砲塔内に収まるように改造するだけだから、砲身や発射機構に手を加えないのでレギュレーション違反にはならない。
しかし、その改造は"借り物"では出来ないのだ…!
なぜなら、改良した時点でそれはもう借り物ではなくなってしまうのだから………。
647: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:34:21.34 ID:APG+ppt70
エミ「残念だけど…これまでよ…」
杏「ちょっ!まだ他に方法あるかもしんないじゃん!」
エミ「一から作らないといけないのだから、それが無理となったらお手上げなのよ…」
杏「じ、じゃぁ他の会社当たってお願いすれば!」
エミ「クルップやラインメタルみたいな大手企業ですら『作れ』が無理なのに、」
エミ「それ以外のメーカーが請け負ってくれるとは思えないわ…」
杏「それじゃぁ…」
エミ「だから言ったじゃない…」
エミ「お手上げ…って」
杏「!!!」
そんな…私たちここまでやってきたのに…。
車体の件が上手く行ったから次も何とかなると思ってたのに…。
なのに…
ここまで来て手詰まりだなんてあんまりだよ………
648: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:42:21.42 ID:APG+ppt70
エミ「角谷さんに謝らないといけないわ…」
杏「…えっ?」
エミ「私はこうなることを知ってたから…」
杏「じゃぁどうしてもっと早く言ってくれなかったのさ!!」
エミ「私もそう思うわ…あの時ハッキリと言ってやればよかったと…」
エミ「でも…言えなかった…車体が手に入ってあんなに嬉しそうにしているあなたには…」
杏「だけど…!」
エミ「あなたからこの話を聞いたとき、車体はまず何とかなるだろうと思った」
エミ「なぜなら、車体だけは借りることができるから」
エミ「そして実際に借りることができ、次のステップに進めた」
杏「…」
エミ「でも、本当の問題はここからだったの」
エミ「さっきも言った通り、借りれる車体と違って、砲身は原型のままでは搭載出来ないから手を加えないといけない」
エミ「そしてそれは"借りる"ではなく"作る"でないと実現できない」
エミ「高射砲だけじゃない。砲塔も1から作らないといけない」
エミ「そして、それらの実現が不可能となった今、私達の計画は失敗したことになるわ」
エミ「………無謀だった…最初から………」
杏「ッ!!!」
649: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:45:11.61 ID:APG+ppt70
ピリリリリ
ピリリリリ
…また西住ちゃんからだ。恐らく昨夜電話したことについてだろう。
こんな事になってしまった以上どう電話に出ればいいかわからない…。
ピリリリリ
ピリリリリ
エミ「…出なよ」
杏「出ても何も言えやしないよ…」
サッ
杏「あっ!」
ピッ
650: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:46:51.39 ID:APG+ppt70
みほ『もしもし、西住です』
エミ「みほ…」
みほ『あっ、その声はエミちゃんだね?』
みほ『明け方に戦車確保できたって電話きたけど、それって本当?夢じゃないよね?!』
エミ「えぇ。本当よ」
みほ『凄いよエミちゃん!こんなにも早く戦車を手に入れることができ』
エミ「みほ」
みほ『え、はい?』
エミ「残念だけど………」
エミ「私達の計画は失敗したわ」
651: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:48:35.99 ID:APG+ppt70
みほ『ええっ!?ど、どういうこと?!』
エミ「最初から無理だった」
みほ『で、でも車体を手に入れたのだから…!』
エミ「今回は事情が全然違うわ」
みほ『そんな…』
エミ「あなたや角谷さんには悪いけど、今回ばかりはどうしようもない…」
みほ『………』
エミ「………ごめん」
みほ『………』
みほ『ううん、仕方ないよ。…色々お願いしちゃってこっちの方こそゴメンね………』
エミ「それじゃぁ…またね…」
みほ『うん…』
ピッ
652: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:49:22.48 ID:APG+ppt70
【ホテルの部屋】
私達はそのまま来た道を引き返した。その間私達が一言も会話を交わすことはなかった。
私も中須賀ちゃんも虚無感に苛まれてもはや何もしようとも思わない。
大はしゃぎしていた昨日の自分がまるでピエロのように見える。
車体は借りれるのだから大してハードルは高くない。車体よりもそこへ搭載する高射砲からが最大の難関だった。
なにしろ戦車内に収容できるよう1から設計しないといけなかったのだから。
そうなると車体のように借りるのではなく、"作る"でないと実現できない。
653: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/06(月) 19:51:08.22 ID:APG+ppt70
そして、それはラインメタルやクルップですらノーと言うものだ。他の企業がやってくれるとは到底思えない。
更に砲身だけでなく砲塔も同じように1から設計しないといけない。
そうなると高射砲が砲塔に収まるよう入念に調整しなければならず、企業間での連携も必要不可欠だ。
課題が多すぎる…。
私たちは気がついたらホテルに着いて、気がついたらベッドへ倒れ込んで、ただただボーッとしていた。
一気に疲れが出たせいでそこから先のことは覚えていない。
わたしも中須賀ちゃんもそのまま現実から逃げるように眠りについた…。
このまま目が冷めなければいいのに…。
656: 母さん…どうしてサンダースはIV号壊したの… ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:29:19.99 ID:/u2RfdXR0
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
杏「…ん……」
いま何時…?
夜中の1時か…。こんな時間に誰が電話かけてくるんだよ…。
ディスプレイを見たら非通知になっている。どうせロクな電話じゃない。無視しよう
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
エミ「…うるさいから早く出てよ…」
杏「…切れるのを待つよ」
ピリリリ ピリリリ ピリリリ
エミ「…全然切れないじゃない」
杏「しつこいなぁ…」
エミ「緊急の電話じゃないの…?」
私はしびれを切らして通話ボタンを押した。
そして電話の相手に「誰さ…」と嫌悪に満ちた声で問いかけた。
657: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:31:10.56 ID:/u2RfdXR0
『あっ、やっと出てくれた…もしもし…!』
杏「いま何時だと思ってるのさ…っていうかどちらさん」
『ご、ごめんなさい…その…西住です』
杏「んー…西住ちゃん?非通知になってっけど?」
『じ、実は携帯電話の調子が悪くて…』
杏「あっそう…んで何の用?」
『あの…会長…怒ってます?』
杏「…怒ってないよ。眠いだけ」
『うぅ…やっぱり怒ってる…』
杏「…それで、なんかあったの?」
『はい。話によると戦車が見つかったとのことで…』
杏「戦車は見つかったよ。…だけど、期待しないで」
『え…』
杏「私が馬鹿だった。車体が見つかっただけで浮かれてた」
眠いけど、面倒なんだけど、それでも西住ちゃんには伝えておかないとダメだから、私は今回の計画が失敗したことを伝えた。
658: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:32:40.91 ID:/u2RfdXR0
杏「…というわけ」
『…』
『えーと…、車体は借りれたので大丈夫だったけれど、砲は砲塔に収めるために加工しないといけないから、借りるのではなく作らないと不可能…と』
『でも、クルップ社もラインメタル社もそれがダメな以上、頼るアテが無くて手詰まり…ということですよね?』
杏「そのとおりだよ。…私が馬鹿だった」
『…』
杏「車体を確保する以前から前途多難だってのはわかってた」
杏「んだけど、やらないことにはどうにもなんないから奔走してみたよ」
杏「けどさ、やっぱりダメなもんはダメなんだねぇ」
杏「…ごめんよ」
『あの…その件なんですけど…』
杏「…何かな?」
『ドイツではなく日本の企業に依頼してみてはいかがでしょう?』
659: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:34:21.78 ID:/u2RfdXR0
杏「………は?」
『あの…ですから、日本の企業に製作を依頼してみてはと…』
杏「西住ちゃん、今はそういう冗談あまり聞きたくないんだけどさ?」
杏「ドイツの戦車を作るためにドイツに来て、どーして日本の企業が出てくんの?」
杏「ふざけてんなら怒るよ?」
『いえ、そういうつもりでは…』
杏「悪いねぇ西住ちゃん。今は眠いし気が立ってるから冗談を流す余裕は無いんだよ」
『実を言うと…』
『砲や砲塔を作れる会社に幾つか心当たりがありまして』
杏「…へぇ」
『それはですね…』
西住ちゃんはこう言いたいのだ。
"ドイツの会社がダメなら、日本の会社を使え" と。
そして、西住ちゃんにはそれらの会社に心当たりがあると。
けどさ…、
660: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:36:27.10 ID:/u2RfdXR0
『まず…』
杏「ちょっと待って、メモするから。………うん、良いよ」
『まずシラヌイ重工という会社があります』
杏「へぇ。どんな会社?」
『ここでは戦車で使われる均質圧延装甲板を作っています。なので砲塔はここで手配しましょう』
杏「ずいぶん簡単に言ってくれるねぇ…」
『つぎにツクバ製鋼所という会社。高射砲の砲身はここにお願いしてみて下さい』
杏「(無視かよ…)えーと、次がツクバ製鋼所と」
杏「ツクバって茨城県の筑波だよね?そんな会社あったかなぁ…」
『10式戦車の砲身を作っている会社といえば納得いただけるかと思います』
杏「へー。そりゃすごいね」
※ここで紹介する企業は実在しない架空のものです。
661: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:38:12.04 ID:/u2RfdXR0
『次にヒトエ技研。高射砲用の砲弾…徹甲弾と対空用の信管付き榴弾、及びそれらの装薬はこの会社なら出来ます』
杏「ヒトエ技研ね」
『また、高射砲の砲身以外のパーツ。駐退機および復座機、尾栓、砲架などですね。これらはシマキ金属へ』
杏「うん」
『そして最後になりますが、これらの砲から砲塔まで一連の設計についてはチトセ設計にお願いしてください』
杏「んーわかった」
『こちらからは以上です』
杏「あのさ西住ちゃん」
『何でしょう?』
杏「そーやって企業名を並べてくれるのは良いんだけどね」
杏「お金も時間もかかる事をタダでやってくれる保証はどこにあんの?」
662: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:39:53.19 ID:/u2RfdXR0
『えっ…』
杏「ウチらはさぁ、現地に行ってダメ元でお願いしてみたよ?」
杏「だけど結局門前払いだった」
杏「現地で実際に作ってる会社がダメだったモノをどうして無関係な日本の会社がタダで引き受けてくれるのさ?」
杏「その辺を私にわかるよう説明して欲しいねぇ」
『…』
杏「西住ちゃんさ、言うのは誰にでも出来る。んだけど実行するのはまた別の話よ?」
杏「悪いけどさ、これは無
『可能性がある限り進まないとダメなんです!!』
663: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:41:23.10 ID:/u2RfdXR0
杏「…」
『会長は一生懸命になって車体を確保しました。これは大きすぎる一歩なんです!』
『そしてこの一歩を足掛かりに、とにかく私達はひたすら走るしかないんです!』
『走るのを止めたらそれこそ全部おしまいなんです!血を吐くような想いをしてこなしてきた事も全部無駄になってしまうんです…!』
『だから…!!』
杏「………」
………そうだねぇ。
西住ちゃん、いっつもウチらの前に立ってピンチを救ってくれたよね。
私がこんなじゃ頑張ってる西住ちゃんや皆にも申し訳ないねぇ。
せっかくここまで来たんだし、1%でも可能性があるんならやってみよう。
664: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:43:13.11 ID:/u2RfdXR0
『あ、ありがとうございます!』
杏「それで、他にウチらの方で何か出来ることはあるかな?」
『あ、それなのですが』
杏「うんうん」
『もう一度、高射砲や砲塔について情報が欲しいので、ドイツの会社の方へ行って欲しいのです』
杏「ん?また行くの?」
『ええ。今度は"資料"を貰って来て下さい』
杏「資料?どんなの?」
『ざっくりいうと、砲塔や高射砲の設計図です』
『砲塔については装甲厚、材質、砲や搭乗員を載せるために必要な寸法』
『そして高射砲を上に向けるための仕組みもお願いします』
杏「なるほどね」
665: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:45:12.34 ID:/u2RfdXR0
『同じように高射砲についても、砲身からその発射機構、そして砲を支える砲架などすべての設計図があると良いです』
『もちろん使用する弾薬の種類、寸法、火薬の種類についても』
『…とにかく読めば誰でも対空戦車が作れるくらい詳しいモノが良いです!』
杏「あはは。誰でも作れる資料があるなら私が高射砲つくるよ」
『あ…そうですよね…えへへ』
杏「まったく西住ちゃんらしいねぇ~」
『でも、資料は詳しいに越したことはありませんのでお願い致します』
杏「なるほどね~。わかった、やってみるよ」
『ありがとうございます!』
やっぱり西住ちゃんだよ。
私が諦めかけた時に助けてくれる。
絶対無理だと思ってたのに、また可能性を見出してくれる。
西住ちゃんが頑張ってる以上、私が何もしないわけにはいかないよね。
エミ「………」
666: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:47:18.58 ID:/u2RfdXR0
エミ「ちょっと代わって」
杏「ん、いいよ。ほい」
エミ「もしもし」
『ふぇっ!?』
エミ「どうしたのよそんなに驚いて…」
『あ、あの…えっと…』
エミ「ちょっと…みほ?」
『ご、ごめんなさい!また次の機会にっ!』プツッ
ツー... ツー... ツー...
エミ「………」
杏「どったの?」
エミ「今の電話、みほじゃなかった」
杏「えっ…」
667: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:48:33.59 ID:/u2RfdXR0
杏「い、いや、声も話し方も西住ちゃんだったよ!?」
エミ「確かにソックリだった」
エミ「でも、私が出た瞬間、相手はなぜか取り乱した」
エミ「本物のみほだったら私がいるって知ってるからあんなに驚いたりはしない」
エミ「あの反応…"知らない人"を相手にした時のものよ」
杏「!! …じゃぁ今の相手は誰なのさ!?」
エミ「私が知るわけないじゃない…」
杏「…」
エミ「…でも、さっきの話、やってみる価値はありそうよ」
杏「そうだね。資料だけなら貰えると思う」
エミ「もう一度、まずはラインメタルへ行きましょう」
電話に出たのは確かに西住ちゃんの声だった。
でも、違うとなれば一体誰なんだ…?
そして何故私たちに情報を提供した!?
668: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:49:24.26 ID:/u2RfdXR0
【翌朝 ラインメタル社】
私達は再びラインメタルへ訪れた。
担当者からは『また君らか。もう話すことはない。帰ってくれ』と言われた。
しかし、事情を説明するとなんとか話を聞いてくれた。表情からはYESかNOかはわからない。
ただ、設計図とはいえ、扱うものが大砲、すなわち兵器なわけだ。簡単には譲っては貰えないだろう。
そして、返ってきたのは…
大量の書類だ。
669: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 18:50:46.80 ID:/u2RfdXR0
言わなくてもわかる。今までと同じようにこの書類の山を作成して提出すれば良いだけのことだ。
右手が少し疲れるだけで私が欲しいものが手に入る。こんなのお安い御用だよ。
そうしてまた1時間ほどかけて書類の山を書き終えた。
書類を受け取った担当者はそのまま事務所へ行き、10分ほどして戻ってきた。
戻ってきた担当者から私はUSBメモリを1つ受け取った。この中に目当てのモノが入っている。
念のためパソコンを借りてその場で中身をチェックした。
砲身、砲架、砲弾…高射砲の情報が詳しく記載された"設計図"だ。
これだけの情報があれば高射砲は再現することは可能だろう。
670: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:12:19.52 ID:/u2RfdXR0
エミ「…Flak41」
杏「ん?どうしたの」
エミ「私達がイメージするアハトアハトとは少し違うモノが来たわね」
杏「えっ?」
エミ「"アハトアハト"、"8.8cm 高射砲"といえば大体がクルップ社の『8.8cm Flak18/36/37』を想像するはず」
エミ「最初の型である『Flak18』」
エミ「発射方向の切り替えを電源式にして砲身の交換も容易にした『Flak36』」
エミ「観測点から砲へ射撃諸元を送るためのアナログコンピュータを搭載した『Flak37』」
エミ「だいたいこの3つ」
杏「ふむふむ」
エミ「でも、この『Flak41』はクルップ社の8.8cmのバリエーションとは別で、従来の8.8cm Flakの後継種としてラインメタルが開発していた高射砲なの」
杏「ほほう?」
エミ「56口径のFlak18/36.37と違って砲弾とかの互換性は無いけれど、より強力な砲弾を使う74口径という長砲身の高射砲よ」
杏「74口径ってことは71口径のティーガーIIよりも砲身が長いわけだね」
エミ「ええ。…初期不良や生産遅延が発生してあまり日の目を見なかったけど、このFlak41は、」
エミ「12.8cm Flak40に匹敵する最強クラスの高射砲よ…!」
杏「!」
エミ「これなら無人機はもちろん、戦車相手でも十分よ」
杏「良いねぇ良いねぇ!」
エミ(よくよく考えたらクルップじゃなくラインメタルだから自社のFlak41を出すのは当然ね)
671: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:18:29.02 ID:/u2RfdXR0
高射砲を作るための設計図を無事に入手することが出来た。
そしてもう一つ『砲塔』の設計図だが、こちらも同じくラインメタルの担当者に相談したところ、『試作レベル』とのことだが1つ資料を提供してくれた。
それはかつてラインメタルが開発を行っていた『ゲラート554』だった。
前に話したけど、ゲラート554はパンターをベースにした対空戦車『ケーリアン』の砲塔だ。
搭載車両も搭載砲も全く違うが、このゲラート554をベースにすれば砲身を上空に向ける砲塔のヒントは得られるはず。
試作レベルと担当者は言うが、設計図は砲塔の構造を詳しく書き記してあり、資材と設備さえあればこの資料をもとにケーリアンの砲塔は十分再現できるであろう。
Flak41とゲラート554。
どちらもラインメタルが開発した機材だ。
初期不良や開発の遅れなど日の目を見なかったこれら2つの機材。
もし私達がこれらを使って成果を挙げられたら当時のエンジニアたちは喜ぶだろうか。
ともあれ、これで高射砲と砲身の資料が手に入った。
あとはこれを西住ちゃん…のソックリさんに教えてもらった会社に提供すればいい。
…ただ、どうやって、誰に依頼すればいいだろうか。
昨夜かかってきた電話は非通知だったから折り返しができない。
なのでひとまず、ここまでの進展も含め、理事長に電話で相談してみるか。
672: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:19:45.78 ID:/u2RfdXR0
杏「…という出来事がありました」
児玉『ふむ…』
杏「電話の相手が誰かはわかりません」
杏「ですが、その人の指示に従い、砲塔と高射砲の製作に必要であろう設計図を入手しました」
杏「可能性がある限りは挑戦しようと思います」
児玉『うん』
杏「…」
児玉『そうだねぇ………』
杏「…」
児玉『お疲れ様』
673: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:21:32.97 ID:/u2RfdXR0
杏「えっ………?」
児玉『お疲れ様。と言ったのだよ』
杏「あの、それはどういう意味でしょうか…?」
児玉『あとはその資料を私のところへ転送したら君の仕事は終わりだよ』
杏「それって…もしかして…!」
児玉『うむ。君が言った会社には既に話がついている。あとは資料だけだよ』
杏「!!!」
児玉『よく頑張ったね。見事だ』
杏「あ…あ…」
杏「ありがとうございます!!!!」
理事長との電話を終えたあと、すぐにメールで資料を送信した。
暫くしたら連盟いや、理事長から
『受理しました。お疲れ様。気をつけて帰国してください』
という返事が帰ってきた。
これでようやく私たちの役目は終わった………。
674: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:22:41.33 ID:/u2RfdXR0
杏「………」
エミ「泣いてるの?」
杏「……んなわけないじゃん」
エミ「はいはい」
エミ「………まぁ」
杏「ん」
エミ「悪くなかったわよ。今回の旅」
杏「…」
杏「中須賀ちゃんには色々お世話になったね」
杏「ありがと」
エミ「勘違いしないでよ?みほがどーーーしてもって電話越しに土下座するから来てやっただけなんだから」
杏「まぁそういう事にしておいてあげるよ」
エミ「ちょっと、それどういうことよ!」
ピリリリ ピリリリ
675: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:24:59.33 ID:/u2RfdXR0
エミ「ほら、電話鳴ってるわよ」
杏「わかってるよ。…おっ、今度は西住ちゃんだ」
エミ「ちゃんと"本人か"確認してよ?」
杏「あいよ」
ピッ
みほ『も、もしもし…西住です…?』
杏「おー西住ちゃん!ぐーでんもーげん!」
みほ『ふぇっ?会長…?』
杏「あー、ちょっと良い?」
みほ『え、あ、はい?』
杏「さて問題です。私の横にいる小生意気なツインテの女の子の名前はなーーーんだ?」
エミ「小生意気って何よっ!!」
みほ『え…中須賀エミちゃんですよね?』
杏「ピンポンピンポ~ン!んじゃ次の問題」
676: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:26:24.20 ID:/u2RfdXR0
杏「河嶋が至近距離で外した時に小山は何て言ったでしょ~?」
みほ『ええっ?!えーと………も、桃ちゃんそこで外すぅ?!』
杏「おー正解!今の声録音したから後でかぁしまに聴かせてやろう」ニシシ
みほ『だ、ダメですっ!!』
杏「え~、どうしよっかな~」
みほ『あの…そんなことよりも』
杏「あはは。ごめんごめん」
みほ『戦車は…やっぱり…?』
杏「うん。私の仕事は終わったよ」
みほ『そうですか………』
杏「だから次の試合、ものすごい対空戦車が来るから!」
677: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:27:53.59 ID:/u2RfdXR0
みほ『ふぇっ!?』
杏「いやぁ~頑張った甲斐があったねぇ」
みほ『ほ、本当ですか?!』
杏「ミンナニハナイショダヨー」
みほ『え…わかりました…?』
杏「これでウチらの役目は終わったから数日後にはソッチ戻るよ」
みほ『は、はい!お疲れ様です。そしてありがとうございます!』
杏「どーいたしまして~」
エミ「ほとんどやったの私だけどね…」ヤレヤレ
杏「それで、そっちは何か変わった事とか無い?」
みほ『特にこれといったことは無いはずです。ただ、』
みほ『決勝戦の相手は黒森峰になりました』
杏「んーそっか。楽しみだねぇ」
みほ「はい…!」
杏「わかった。お土産楽しみにしといてよー」
みほ「ええ。楽しみにしていますよ」エヘヘ
杏「あいよー。そいじゃーねー」
ピッ
678: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:29:04.52 ID:/u2RfdXR0
エミ「…」
杏「…」
エミ「…?」
杏「…お土産、干し芋でもいいよね?」
エミ「私がみほだったら撃つね」
杏「えぇ…」
…さて、私たちの役目は終わった。
思い返せば西住流家元から1つの封筒を貰ったことがきっかけでアチコチ走り回ってた。
最初は無理だとわかっていながらも、やらないことには始まらないと強引に突破口をこじ開けた。
車体の製作が無理なら借りればいい。
借りるのが無理なら設計図を提供してもらえばいい。
道は一つじゃない。
よくよく考えれば今まで何度も無理だと思った道を何とか通ってきた。
今に始まったことじゃないんだよね。
679: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:31:08.81 ID:/u2RfdXR0
杏「そういえば中須賀ちゃんさー」
エミ「何かしら?」
杏「帰国したあとはどうすんのー?」
エミ「そうね…特にコレといった予定はないけれど…また戦車の練習かな」
杏「そっかー」
エミ「角谷さん達は次が決勝なんでしょ?」
杏「まぁねー」
エミ「相手は結局どっちなの?」
杏「さっき西住ちゃんから黒森峰が勝ったってさー」
エミ「そう………」
杏「…」
杏「あ、そうだ中須賀ちゃん」
エミ「なに?」
杏「帰国したらさ、ウチに来ない?」
エミ「"ウチ"?」
杏「そそ。大洗女子学園」
エミ「別にいいけど…?」
杏「おっけー」
翌朝私達は日本行きの飛行機に乗り、再び12時間の空の旅を満喫…はしてないか。
いやぁもう疲れたよ。クッタクタ。あちこち走り回ったせいで旅客機のシートが快適すぎるほどだよ。
私も中須賀ちゃんも爆睡してて気がついたら空港に到着してた。
680: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:33:05.79 ID:/u2RfdXR0
【大洗女子学園】
空が少しずつ茜色になる頃に我が学園いや楽園に到着した。
ただいま大洗女子学園。愛してる大洗女子学園。
杏「いやぁ~懐かしいねぇ~大洗女子学園」シミジミ
エミ「ほんの数日前までいたじゃない」
桃「かかか会長ぉぉぉぉぉぉぉおっぉぉぉぉぉお!!!」
杏「たっだいまぁ~♪」
柚子「お帰りなさい会長」
杏「ごくろーさん。私がいない間大丈夫だった?」
柚子「それが…」
学校に入って早々河嶋が号泣しながら抱きついてきた。こらこら鼻水がつくじゃないか。
緊急の電話が無かったから特に何もなかったとは思うが、小山の様子がなにかおかしい。
なんか、嫌な予感がするなぁ…
681: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:34:39.74 ID:/u2RfdXR0
【戦車倉庫前】
杏「やぁー久しぶりだねみんな」
ナカジマ「会長…帰ってたんですね…」ハァ...
典子「…今頃ノコノコ帰ってくるなんて、随分と根性ありますね」ジトッ
杏「え…?」
梓「西住隊長たちの戦車が無くてピンチだというのに…今の今までどこに行ってたんですか…!」
杏「え、え…?!」
カエサル「見損なったぞ会長!これが生徒会のやることなのか!!!」
杏「」
ワーワー
ガヤガヤ
帰ってきて早々、私は戦車道メンバーから非難轟々罵声の嵐を浴びた。
日頃から顰蹙を買うような事はしてたし、こういった袋叩きにあう覚悟はあったけど…
流石に今回ばかりは何か様子がおかしい。
682: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:39:45.15 ID:/u2RfdXR0
みほ「あっ会長、帰ってたのですね!」
杏「あ、うん…。ただいまだよ西住ちゃん…」
みほ「?」
杏「あのさ、私に向けられるこの冷たい視線の理由は一体…」
みほ「あれ?会長まだ説明してなかったんですか?」
杏「へ?」
みほ「戦車探すためドイツに行ってたって」
杏「…は?」
みほ「いえ、会長が『ミンナニハナイショダヨ』というので…」
杏「」
アホかああああああああああああああ!!!
私が『ミンナニハナイショダヨ』って言ったのは、ドイツで迷走しまくってる事についてだよ!
戦車探しに行ってること自体を内緒にしろなんて一言も言ってねーし!!!
みほ「うえええええ?!」
こっちがうえええええ?!だよ西住ちゃんっ!!
おかげであたしゃ完全に悪役じゃないか!文科省の役人並にクズだよ今の私!!
つーか河嶋も小山もどーして何も説明しなかったのさ!!
河島「知りませんでした…」
小山「出張に行くとしか聞いてなかったので…」オロオロ
ぐぬ…。
とにかく皆に事情を説明して西住ちゃん!お願いだから!
683: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:43:30.89 ID:/u2RfdXR0
【数分後】
ナカジマ「なーんだ。そういう事だったんですね」ハハハ
典子「さすが会長です!根性ハンパないですっ!!」
梓「も、もちろん私は信じてました…!」アセアセ
カエサル「水臭いぞ会長。そういう事なら先に言えば良いものを」
やれやれ。ボロクソに言ってたクセによく言うよあんたら。
でもとりあえず誤解はとけたみたいだから安心したよ。
…これからは行き先と目的はちゃんと伝えておこう
エミ「あのさ、こっちがやれやれなんだけど」
杏「あれ?」
エミ「あれ?じゃないわよ!いつまで待たせんのよ!!」
すっかり忘れてたわ。中須賀ちゃんがいること。
そうだね。んじゃ、ちょっと生徒会室行こっか。
684: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:45:28.13 ID:/u2RfdXR0
【会長室】
小山「どうぞ」コトン
エミ「あ、ありがとう…ございます」
杏「かーしまぁ。例の件はちゃんとやっといたよね?」
桃「はっ。問題ありません」
杏「よしよし」
エミ「それで、話って?」
杏「うん。そうだね率直に言うとね」
杏「中須賀ちゃんには大洗に短期転校してもらいたいんだよね」
エミ「はぁ!?」
685: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:48:47.67 ID:/u2RfdXR0
そう。対空戦車を探す傍ら進めていた、もう一つの私の仕事。
それは中須賀ちゃんを大洗女子に短期間転校させ、戦力となってもらうこと。
そのため私は戦車道連盟に相談したり、河嶋らに水面下で交渉を任せてた。
彼女を大洗女子へ転校させる理由はさっきも言ったように対黒森峰戦における戦力の増強。
そしてもう一つは
作った対空戦車は彼女にも乗ってほしいからだ。
ハッキリ言うよ。
今回の対空戦車は全て彼女による功績だ。
大まかな設計、車体の選択、各社への交渉…。何から何まで中須賀ちゃんがいたから成功したのだ。
私は横にいたが戦車の知識もない。ドイツ語も喋れない。正直何一つ役に立たなかった。
だから多大なる功績を残してくれた彼女に対し『戦車完成したねバンザイ。それじゃバイバイ』というのは無礼すぎる。
中須賀ちゃんが生み出した戦車だからこそ、中須賀ちゃんに乗って欲しいのだ。
686: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 19:57:07.36 ID:/u2RfdXR0
エミ「………」
杏「もちろん、強制じゃないよ。中須賀ちゃん次第ね」
エミ「………」
エミ「わかったわ」
杏「!」
エミ「…恐らく、その対空戦車は6人乗りになるでしょうから」
エミ「私が装填手の一人をやればちょうど6人」
杏「やってくれるかな。中須賀ちゃん」
エミ「ええ」
杏「交渉成立だねぃ♪」
中須賀ちゃんが快諾してくれたので、さっそく転校手続きを行った。
書類は2~3枚程度なので私が書いたアレに比べれば随分楽だ。
そして彼女に大洗女子の制服を渡した。うんうん。似合ってるよ。
ようこそ大洗女子学園へ。
エミ「………」
小山「中須賀さん?どうしたの?」
エミ「えっ?あぁ…何でもないです」
エミ(………私はこの時が来るのを待っていた?)
687: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 20:09:48.47 ID:/u2RfdXR0
【再び戦車倉庫】
杏「というわけで、中須賀ちゃんが短期転校することになったから」
一同「おおおおおおおおおおおお!」
小山「ず、ずいぶんザックリですね…」ハハ...
沙織「久しぶりだねエミりんっ!」
エミ「え、えぇ…(エミりん…)」
みほ「またエミちゃんと一緒に戦車に乗れるなんて嬉しいよ!」
エミ「そうね。何年ぶりかしら」
みほ「IV号に乗ってお姉ちゃんたち相手に戦った時以来かな?」
エミ「時間が立つのは早いわね…」シンミリ
優花里「ぅぅ…西住殿と幼馴染だなんて中須賀殿が羨ましいです…」
沙織「ねぇねぇエミりん、昔のみぽりんってどんな感じだったの?」
麻子「こら。人の過去を詮索するな」
エミ「そうね…今以上にヤンチャで」
みほ「ふぇっ?!」
沙織「ほぉほぉ」キラキラ
エミ「戦車の中で大きな音たててオナラしたり」
華「え…」チラッ
沙織「や、やだもぉ…」チラッ
みほ「ち、ちょっとエミちゃん!!!/////」カァァァ
エミ「この間のお返しよ」フフン
あんこうチームはもちろん、皆の反応は良好だ。
歴女チームは歴史上の名コンビに例え、
バレー部は即戦力だと言って勧誘するし、
1年生は勝手に2人をカップリングするという三者三様の反応だ。
あとは中須賀ちゃんが個性的な大洗女子の皆と打ち解けられるかだね。
でも、とりあえず…
これで私の役目は終わった。
あとは西住ちゃんにバトンタッチしよう。
688: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 20:13:53.96 ID:/u2RfdXR0
●Tips
決勝戦の3日前に私達の対空戦車がやってきた。
E-100の車体にマウスのような巨大な砲塔が載っている。
車体前面はマウスと同じ200mm、後面は150mm。
側面は120mmに加え、着脱式の追加装甲が付いている。
砲塔も上面を除いて200mmという極めて堅牢な作りになっている。
そして一番驚いたのは、その砲塔に8.8cm Flak41が2つ搭載されていたことだ。
搭載する砲は1つだけと思っていた。ところが設計が見直され、砲の数を増やしたというのだ。
中須賀ちゃんに教えてもらったようにFlak41は大戦中で最強クラスの高射砲の1つだ。
それは無人機はもちろん、戦車を相手にしても十二分な威力と言っていた。
マウスに匹敵する装甲に、ティーガーIIと同等あるいはそれ以上の砲が2つ。
まさしく最強クラスの対空戦車が大洗女子学園に届いた。
当然その戦車を見た者全員があまりのインパクトに唖然としている。
戦車に詳しい秋山ちゃんやエルヴィンちゃんはもちろん、西住ちゃんもだ。
今回の対空戦車開発に携わった中須賀ちゃんですら開いた口が塞がらないのだ。
なお、この対空戦車は設計から製作まで連盟関係者が立ち会いのもと進められたとのこと。
つまりレギュレーションに関する心配は皆無だ。
E-100 対空戦車。
こいつが大戦中に完成していたら一体どうなっていただろうか…。
689: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/12(日) 20:49:27.66 ID:/u2RfdXR0
― 西住さんのお姉さんのチームの相手が 私の姉のチームだったんだから
― あのとき撃った戦車の車長は あなたですよね
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(姉さんを打ち負かした相手…西住まほともう一度戦えるから)
― あんなこと言われたら……絶対勝たせてあげないと
― だから…ッ もっかい勝負しなさいよ……っ!!!
― 負けて悔しいって思うことはあっても 寂しいと思うことなかったのに
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(ベルウォールの皆が勝てなかった相手…黒森峰ともう一度戦えるから)
― お互い自分の"戦車道"を見つけたそのときに…また会お!
― みほ 約束を果たしましょう
― 約束が果たせてよかった また必ずやりましょ
― うん…また"約束"だね
エミ(私はこの時が来るのを待っていた)
エミ(私に戦車道を教えてくれたみほとの約束、もう一度果たせるから)
◆最終章 2 リトルアーミー
696: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:21:45.49 ID:k3u4QmGm0
【決勝戦の3日前 戦車倉庫】
スゲー
デケー
カッケェー
みほ「」ポカーン
優花里「さすがの西住殿も開いた口が塞がりませんね」アハハ
沙織「みぽりんだけじゃなくここにいる全員が ( ゚д゚ ) って顔だよ」
エミ「無理もないわよ…一緒に戦車探した私ですら砲身が2つもつくなんて思わなかったんだから…」
全員「」ポカーン
華「黒森峰のマウス並に大きいですわね」
麻子「話によるとマウスに匹敵する装甲に、ティーガーIIに匹敵する砲が2つだったか」
麻子「いくら連盟立ち会いのもと製作が行われたとはいえ、こんなもんが出たらド肝を抜かすだろうな」
沙織「この戦車見た人の反応がちょっと楽しみだったりする~」アハッ
697: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:24:08.67 ID:k3u4QmGm0
みほ「あはは…会長の言った通り、ものスゴい戦車が来ちゃったね」
杏「うしし。凄いでしょ♪」
エミ「あなたはイモ食べてただけじゃない…」ハァ
沙織「会長とエミりんが並んでると姉妹っぽく見えるの私だけ?」
優花里「わかります。初めて中須賀殿を見たとき会長のお姉様かと思ったほどです」
麻子「会長のが年上なのにな」
華「会長、小さいですからね」ウフフ
杏「おいこら聞こえてっぞ」
698: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:26:33.89 ID:k3u4QmGm0
沙織「せっかくだからみんなで乗ってみようよ!」
みほ「そうだね」
優花里「こんなおっきい戦車間近で見るのはクビンカ以来ですっ!」ワクテカ
エミ「見るだけじゃないわ。乗れるわよ」フフフ
優花里「ひやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
みほ「あはは。優花里さん嬉しそうだね」
華「8.8cm砲…早く撃ってみたいです」ドキドキ
沙織「華はこの間撃ったじゃない」アハハ
麻子「こんな鉄の塊が果たして動くのだろうか…」
エミ「大きい分クセはあるから今のうちに慣らしておかないと試合当日に不要の長物になってしまうわね」
みほ「そうだよね。今のうちに一杯練習しようね」
699: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:29:39.86 ID:k3u4QmGm0
【大洗女子学園 練習場】
ドゥルルルルルル.....
麻子「お、重い…IV号とは全然違うぞ…」
エミ「そりゃそうよ。IV号の6倍も重量あるんだから」
麻子「何というか…力士を満載したトラックみたいな重量感だ」グヌヌ...
沙織「なっ!あたしそんなに重くないわよ!」
麻子「お前なんぞコイツ(E-100)に比べたら屁でもない」
沙織「もー!麻子きたない!」ヤダモー
エミ「ゆっくり、ね。IV号と違ってこの子は無茶するとすぐに減速機やエンジンがお釈迦になるわ」
麻子「了解だ」ガコン
優花里「重いといえば砲弾も8.8cmなので重量が…」ヌォォ
みほ「足に落とさないよう注意してね」
700: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:31:43.17 ID:k3u4QmGm0
華「早く撃ってみたいです」ソワソワ
エミ「そうね。ちょうど前方にM3 Leeがあるから試しに撃ってみる?」
優季『ふぇっ!?ウチらぁ?!』
あや『ほら!優季が沙織先輩の悪口言ったから先輩たち怒っちゃったじゃない!!』
優季『それ絶対違うよぉ!』
梓『た、隊長との勝負…!』ドキドキ
あゆみ『梓しっかりして!無理ゲーだから!』
みほ「え、エミちゃん…?」
エミ「冗談よ。心配しないで」
沙織「さすがに後輩にそんなイジワルしないよ」アハハ
沙織「それに弱い者いじめはモテない人のやる行為だしね!」
ウサギ『』ホッ
桂利奈『あれ?でも沙織先輩がモテないのは?』ハテ
あゆみ『ちょっ!桂利奈ちゃん!!』
沙織「華。やっぱ撃っていいよ。2発とも」シレッ
華「えっ、良いのですか?!」オロオロ
ウサギ『いやああああああああああああああ!!』
麻子「沙織、そのへんにしておけ」
沙織「ぶぅ」
紗希『………』ボー
701: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:37:37.47 ID:k3u4QmGm0
【数分後】
沙織「皆さん、聞いてください」ザザッ
沙織「E-100対空戦車の運行をテストするので」ザッ
杏『へ?う●こする?』
沙織「う・ん・こ・う!!!///」ザザッ
アハハハハ!
カイチョウッタラァ!!
ヤダモォォォォ!!!
エルヴィン『あまり賛同したくはないが…その、確かにそう聞こえたぞ…?』
沙織「うn…そんなこと言うわけ無いでしょっ!」ザザー
杏『なんかさー、そっちノイズ酷くない?』
優季『確かにザーザー言ってますぅ。なんか雨降ってるみたい』
沙織「えー?」ザザッ
ねこにゃー『なんか力尽きたサイボーグみたいだにゃー』
優花里「周波数は大丈夫ですよね?」
沙織「うん。合ってるよ?」
麻子「一応こんなでもアマチュア無線の資格所持者だ。そんなミスはしないはず」
沙織「こんなでもって何よー!」
みほ「まぁまぁ」アハハ
702: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:39:47.78 ID:k3u4QmGm0
< オーイ! タケベサーン!!
優花里「おや?ナカジマ殿が呼んでますよ武部殿」
沙織「はーい?」カチャッ
ナカジマ「ちょっと冷泉さんに"変速機"あるかどうか聞いてみてよ」
沙織「麻子、ヘンソーキってある?」
麻子「ヘンソウ?変速機だろう?…そんなものなかったはずだが?」
沙織「無いみたいですー」
ナカジマ「やっぱりか」
沙織「???」
みほ「あっ…」
優花里「なるほど…」
エミ「マジか…」
沙織「えっ?なになに!?」
703: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:41:57.52 ID:k3u4QmGm0
エミ「もしかして、"ガス・エレクトリック方式"ってことでしょう?」
ナカジマ「そーゆーこと!たぶん発電機の電磁波が無線機と引っかかってノイズ発生してるんだと思うよー」
沙織「えーっ!?それじゃ通信どうすんのよー!」ヤダモー
みほ「あはは」
エミ「はは…」
優花里「えへへ」
沙織「え?なによ?アタシ何かヘンなこと言った?!」
ナカジマ「あっはっは♪」
沙織「ぴぃっ?!」ビクッ
ナカジマ「ウ チ ら が 直 し た げ る ♡」ニッコリ
沙織「で、出来るの?…っていうかすんごい嬉しそう?!」ゾワーッ
みほ「出来るというか、」
優花里「ナカジマ殿たちレオポンさんの、」
エミ「ポルシェティーガーも、」
ナカジマ「ガス・エレクトリック方式だからね!!」バーン!
ツチヤ・ホシノ・スズキ「イエーーーーーーイ!!!」
沙織「うわっ!いつの間にぃ?!」ビクッ
704: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:46:27.78 ID:k3u4QmGm0
「おいホシノ見ろよ!!マイバッハHL234 V型12気筒液冷エンジンだぞ!!!」パァァァ
「うぉぉぉぉぉぉすげぇぇぇぇ!!これウチの子にも入れようぜ!!!800馬力出るぞ!!!」カチャカチャ
「これなら普通の車とレースしても勝てるっしょ!!」
「レオポンチームからチーターチームに改名だなっ!!」
「名前変わってもツチヤはライオン(ランオン)だけどなっ!」
「しつけーよバッキャロー!!!」ガァァ!
「「「ワハハハハハハハハハ!!」」」
ワイワイ ガヤガヤ
705: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:48:20.83 ID:k3u4QmGm0
みほ「あはは…」
沙織「なんだか水を得た魚のようだね…」
優花里「さすがレオポン殿ですね。何というかこの国の自動車業界は安泰です」アハハ
華「うふふ。大変結構でございます」
エミ「内部見たことなかったけど、ムッチャクチャな構造してるのね…」
麻子「zzz...」
ナカジマ「はい、直ったよ!」
エミ「早っ!?」
沙織「もしもーし?」
杏『お、ノイズ無くなったよーいい感じぃー!』ピースピース
優季『こっちも大丈夫ですぅ~』
そど子『良い返事よ!』
ねこにゃー『こっちもおっけーだにゃー』
706: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:54:58.68 ID:k3u4QmGm0
沙織「それでは、こちらの無線機も改善しましたので、本題に入ります」
沙織「E-100対空戦車の運行をテストするので、これより紅白戦を行おうと思います!」
全員『』
カエサル『ちょっとまだ無線の調子悪いみたいだ。よく聞こえないな』シレッ
沙織「あ、カルパッチョさんだ」
カエサル『ヒナちゃん?!どこどこ?!』ガタッ
沙織「聞こえてんじゃない!!」
カエサル『あっ、しまっ…!』
エルヴィン『このバカタレがっ!』
桃『おおおお、おい!それはつまりわ、我々にそそ、ソイツの的になれってことk 『かぁーしま落ち着け』
ナカジマ『ウチらのポルシェがちっさく見えるから凄いよね…』ハハハ
妙子『私達でも根性さえあれば撃破…できるのかなぁ……』
707: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:57:21.26 ID:k3u4QmGm0
エミ「チーム編成なんだけどさ」
みほ「うん」
エミ「私達 vs 全員で行ってみない?」
みほ「えっ!?」
優花里「いっ、1対7ですかぁ?!」
エミ「ええ。黒森峰も私達の戦車を知ったら真っ先に潰そうとしてくるわ」
みほ「確かに」
沙織「こんな戦車が試合会場に出てきたら注目の的だもんねー」
麻子「見つかったら逃げ切るのはまず無理だな」
エミ「そうよ。だから1対多数の戦闘に慣れておかないといけない」
エミ「この戦車1つで黒森峰を壊滅させるくらいにね」ニタァ...
みほ「あはは…そうだよね(またエミちゃん悪いこと考えてる顔してるよ)」
華「それならたくさん撃てるので楽しみです」フフッ
708: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/24(金) 23:58:49.16 ID:k3u4QmGm0
沙織「あんこうチームより全車輛へ」
沙織「ただいま話し合った結果、私達あんこうチームとそれ以外というチーム分けにしようと思います」
全員『』
桃『くぉるぁぁ西住ぃ!!貴様やっぱり我々を的に『落ち着けかぁーしま。イモ食べろイモ』
梓『に、西住隊長、それはどういう…』
みほ「はい。やはり我々の対空戦車はあらゆる意味で目立つため真っ先に狙われるでしょう」
みほ「そのため、1対多数を想定した練習を行おうと思った次第です」
みほ「ですから、皆さん」
みほ「全力で私の"首"を取りに来てください!」
全員『!!!』
エミ(言うようになったじゃない…)フッ
709: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:01:35.47 ID:N8TPxk6j0
杏『言うね~西住ちゃん』モグモグ
桃『フフフ面白い。ならばお望みどおりその首頂戴するぞ西住!!』
柚子『逆に桃ちゃんがクビにならないようにね?』
桃『そりゃどういう意味だっ!!』
あや『西住隊長すっごい自信だねー』
桂利奈『あんなでっかいのに乗ってたら誰でも自信ついちゃうよ!』
あゆみ『主砲はおっきいし装甲は硬いもんね…』
優季『あんな大っきいの無理だよぉ…』
紗希『………』
梓『でも、味方と上手く連携して接近して弱点を狙えばきっといけるっ!』
優季『ねぇ梓ぁ?』
梓『ん?』
優季『もしも私たちが西住隊長やっつけたらどうするぅ?』
梓『へ?どうするって?』
優季『きっと"さすが澤さん!私の自慢の後輩です!"って言うかも~』
梓『………』
あや『何かご褒美もらえるかもよー?』
梓『………』
梓『いい?!何が何でも私達が西住隊長の首とか色々もぎ取りに行くよ!!』
あゆみ(首とか色々って何だろ…)ヒソヒソ
あや(体操服とか?)ヒソヒソ
桂利奈(あい?替え持ってないの?)ヒソヒソ
優季(もぉ~梓はエッチねぇー)ヒソヒソ
梓『う、うるさーーーーい!!!!』ガァァァ
710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/25(土) 00:03:07.79 ID:N8TPxk6j0
カエサル『シモ・ヘイヘだな』
左衛門佐『ここは上杉謙信だろう』
エルヴィン『いやオットー・カリウスだろ』
おりょう『西住小次郎しかいないぜよ』
『『『それだ!!!』』』
あけび『あのE-100って戦車、6人乗りなんですよね?』
典子『そうだな。砲が2つで装填手も2人いるみたいだよ』
妙子『となると砲塔内結構狭いんじゃ?』
典子『んー…まぁそうだろうねぇ』
忍『』ジー
あけび『』ジー
妙子『』ジー
典子『な、何だよお前たち…』
711: >>710 鳥消えてるけど自分です。 ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:05:09.18 ID:N8TPxk6j0
エミ「ふふふっ。どうやら皆やる気マンマンのようね」
みほ(あはは…そうかなぁ…)
エミ「ほら、西住隊長」ポン
みほ「えっ?あ、はい!」
エミ「号令かけちゃいなさいよ」
みほ「そうだね。…それでは皆さん、試合は5分後にスタートします」
みほ「各車輌、万全の準備をした上で私達にかかってきてください!」
みほ「こちらも一切の手を抜くことなくお相手致しますっ!!」
全車輛『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
みほ「それではご武運を!パンツァー・フォー!!」
712: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:08:25.92 ID:N8TPxk6j0
【紅白試合 あんこうチーム】
みほ「来ましたね」
優花里「さすが綺麗な隊列を組んでますねぇ!」
みほ「うん。あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて凄い…!」
華「聖グロリアーナとの練習試合を思い出しますわ」
沙織「ウチらがあんな綺麗な隊列を組めるなんてあの時は思わなかったなぁ」
みほ「うん。いっぱい練習した甲斐があったよね!」
エミ「…」←疎外感
みほ「あ、え、エミちゃんごめん…」アセアセ
エミ「…いいわよ別に」ムスッ
優花里「こちらの砲だとこの距離は届くのでしょうか?」
みほ「そこは戦術と腕かな?」
713: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:10:30.45 ID:N8TPxk6j0
華「先頭は89式、その後ろに三式とヘッツァー」
優花里「どうやら二手に分かれるみたいですねぇ」
エミ「妥当な判断ね。全車輛で攻めたとして、こちらの危険領域に達するまでにアウトレンジから壊滅できる」
沙織「そんなこと出来るの?!」
エミ「撃ってみればわかるわよ」
華「いいですか?」ワクワク
みほ「うん。華さんの判断でお願いします」
華「わかりました」
カチッ
ズガァァァァァァァァァァン!!!!
ズシャーーン!!
714: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:13:21.57 ID:N8TPxk6j0
華「…」
エミ「外れたわね」
華「………」
麻子「らしくないな。ずいぶん見当違いな所に飛んでいったぞ?」
みほ「華さん…?」
華「…全然違います」
みほ「違う?」
華「はい…。何と言いますか…」
華「全然落ちないのです」
みほ「落ちない??」
華「砲弾は放物線を描いて飛んでいきます」
華「なので、遠方の戦車を狙う時は、砲身を上に向けて山なりに撃たなければなりません」
みほ「うん」
華「そのため…8.8cmということもあり、先日のポルシェティーガーの時と同じ照準合わせで狙ったつもりですが…」
華「それでも弾が落ちませんでした」
715: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:15:44.85 ID:N8TPxk6j0
沙織「それって凄いの?」
麻子「今ので砲弾が落ちないということは、少なくともポルシェティーガーの8.8cm砲よりも高いエネルギーを持っているという証拠だ」
沙織「えっ、すごいくない?!」
みほ「つまり、今の弾はポルシェティーガーの砲だったら落ちて狙ったところに命中したということかな?」
華「はい」
優花里「五十鈴殿があれだけ外してしまうほど弾道に差が出るなんて…」
エミ「それがFlak41よ」
みほ「エミちゃん…?」
エミ「口径も違えば装薬量も違う」
エミ「初速も威力も何もかもがティーガーのソレとは段違い。もはや既存の砲とは別モンと考えたほうが良いわ」
優花里「そんなに凄いんですねFlak41…」
716: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:21:32.19 ID:N8TPxk6j0
華「もう1発、宜しいでしょうか?」
みほ「うん。お願い華さん」
エミ「五十鈴さん」
華「はい。何でしょうか?」
エミ「"Pak43"および"KwK43"の砲口初速、被帽徹甲弾を使ったときが1,000/sで」
エミ「タングステン弾芯の合成硬核徹甲弾(高速徹甲弾)を使えば1130m/sになるわ」
華「はい」
エミ「これは距離2,000mで185mmの均質圧延装甲を貫通でき」
みほ「っ…!」
エミ「1,000mも接近すれば貫通力は245mmにも達する」
華「ええ」
みほ「つまり黒森峰のティーガーを正面から撃破できる」
華「なっ…!」
エミ「ただ…」
華「ただ?」
エミ「それはあくまで"Pak43"の数値であって、砲身長や装薬量の増えた"Flak41"なら更に貫通力は増すはず」
エミ「しかも当時の数値がそれで、現代技術で作った砲なら更に精度や性能はアップしていると見て良いわ」
エミ「そう考えるとティーガーIどころか、」
エミ「ヤークトティーガーの250mm装甲板も800m以下でブチ抜ける」
華「!!!」
717: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:25:09.57 ID:N8TPxk6j0
みほ「実際はそこまで上手くいくとは思わないね。返り討ちにあっちゃうから」
みほ「それにヤークトティーガーは側面が80mmだから、わざわざ危険を冒して正面を狙う必要は無いかな」アハハ
エミ「…う、うるさいわよ!///」カァァ
優花里「でも、黒森峰の重戦車相手に不足はないことは分かりました!」
華「ええ。ティーガーやパンターをこの手でスクラップにしてみたいですわ」フフッ
沙織「あっ!相手チーム方向を変えたよ!森の方へ向かっていく!」
華「かしこまりました…」キュラキュラ...
カチッ
ズガァァァァァァァァァァン!!!!!!
シュパッ!
みほ「アリクイさんの三式に命中しました!」
優花里「凄いです五十鈴殿!たった1発で弾道を修正できるなんて!」
エミ「ほら!秋山さん装填!」
優花里「あっ、り、了解でありますっ!」ガコン
エミ(ホントよね…)
エミ(たった1発撃っただけで弾道のクセを把握しちゃうなんて)
エミ(みほ、あなたの仲間たち、タダ者じゃないわよ…!)
718: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:26:52.73 ID:N8TPxk6j0
みほ(その後、距離にして1,500mほどのアウトレンジ射撃で装甲の薄い89式やM3リー、ヘッツァーを相次いで撃破)
みほ(二手に分かれた挟撃もE-100の装甲は一切受け付けず、ポルシェティーガー、ルノーB1、三突と撃破)
みほ(結論を言うと紅白戦は私達が勝ちました。完勝です)
みほ(強力な高射砲を搭載し、強靭な装甲を纏うE-100対空戦車は、"陸上戦艦"の名に相応しい力を発揮しました)
みほ(…なお、試合後には皆さんから強すぎるだの不死身の分隊長だのチートだの非難轟々でした。その点については本当に申し訳ありません…)
みほ(同時にこの戦車のイレギュラーな性能には皆が納得しており、これなら黒森峰の猛獣を倒せると誰もが確信していました)
719: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/25(土) 00:36:20.95 ID:N8TPxk6j0
みほ(しかし、操縦は麻子さんはもちろん、ポルシェティーガーのツチヤさんでさえ"横着い"と言わせるほどで)
みほ(Flak41や堅牢な装甲を纏った砲塔は華さんを以てしても"扱いづらい…"と評価され)
みほ(変速機の負荷を軽減させるためのガス・エレクトリック方式は、沙織さんより"無線のノイズひどい!"という副作用をもたらしました)
みほ(…まぁこれは改善したけどね)
みほ(何にせよ、このイレギュラーな戦車は、様々な代償をと引き換えにその力を発揮しているということは誰もが理解していました)
みほ(それから私達は3日間、一 対 全員の"ボコボコ作戦"を中心に、時間の許す限り練習に明け暮れました)
みほ(その結果、麻子さんはIV号の時と同じくらい操縦技術を身に着け、)
みほ(華さんは1,500m以上の命中率が向上)
みほ(それ以外の車輌も命中精度、操縦技術、連携が向上し、ますます能力の向上を実感しました)
みほ(戦車の数や性能は他の強豪校に劣りますが、そこを戦術と腕でカバーすべく、個々の能力の底上げに努めた3日間でした)
みほ(そして、決勝戦の日がやってきました)
725: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/29(水) 20:22:30.70 ID:eajDXBkB0
●Tips
エミ「ねぇ、角谷さん」
杏「んー?」
エミ「結局、あの電話の相手は誰かわかったの?」
杏「いや?」
エミ「そう…」
みほ「あの、私のニセモノなんですよね…」オロオロ
優花里「信じられないですねぇ…西住殿ソックリさんがいるなんて…」
杏「そうそう。あまりにソックリだから中須賀ちゃんが冗談言ってるんじゃないかと思うほどだよ」
エミ「いや、明らかに違ったわよ」
みほ「えぇ…」
杏「で、その西住ちゃんのソックリさんに、会社紹介されて、それを連盟の児玉さんに話した結果、コイツが完成したってわけよ」
E-100 対空戦車
みほ「その会社とは?」
杏「砲塔の装甲がシラヌイ重厚、高射砲の砲身がツクバ製鋼所、ヒトエ技研に砲弾、高射砲の残りがシマキ金属。あと何だったっけ?」
エミ「チトセ設計よ。砲塔や砲身の設計の」
杏「そうそう」
柚子「そんな会社ありましたっけ?」
エミ「えっ?」
726: ◆MY38Kbh4q6 2017/03/29(水) 20:29:58.76 ID:eajDXBkB0
桃「一応あることはあるみたいだが」
杏「そりゃ無かったらコイツ作れないでしょ」
みほ「………」
優花里「どうされました西住殿?」
みほ「私…電話の相手、わかりました…」
全員「えええっ!?」
シラヌイ重工
ツクバ製鋼所
ヒトエ技研
シマキ金属
チトセ設計
不知火重厚
筑波製鋼所
単 技研
四万騎金属
千歳 設計
皆は気付いてくれたよね?
●Tipsおしまい
731: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:33:30.23 ID:AFZljjjD0
【決勝戦当日 試合会場 広場】
麻子「………夜戦と言うものがあって良いと思うのだが…」フラ...
沙織「あはは…麻子じゃなくても6時集合は辛いよね」
華「お腹すきましたわね」
エミ「…さっきオニギリ食べたじゃない。5つも」ヤレヤレ
優花里「」ファァ
「ふふっ。随分大きなあくびですこと」
優花里「ほぇ?」ポケー
アッサム「御機嫌よう。大洗の皆様」
オレンジペコ「おはようございます」ペコリ
沙織「お早うございます。その……セイロンさんでしたっけ?」
アッサム「っぐ…!だからアッサムですってば!」グヌヌ
沙織「ふぁっ?!ご、ごめんなさいーっ!!」ワタワタ
オレンジペコ「どういうわけか色んな方に間違えられるんですよね…」アハハ
アッサム「笑い声じゃありませんのよ!」
華(その節は大変失礼しました…)
732: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:38:29.05 ID:AFZljjjD0
みほ「あれ?そういえばダージリンさんは?」
沙織「ホントだ。ダージリンさんいない??」
アッサム「ああ…」
オレンジペコ「あ…あの…」
みほ「?」
「ダージリン様は現在、静養中でございます」
優花里「えっ?そうなのですか!?」
アッサム「ええ。…ちょっと体調を崩されて」
オレンジペコ「何しろここ最近は忙しかったですからね…」
みほ「そうなんですか…」
沙織「だんだん寒くなって来たし、私達も気を付けないとだねー」
733: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:41:15.40 ID:AFZljjjD0
優花里「ところであなたは…」
華「確か…初めてお会いする方ですよね?」
「ご挨拶が遅れました」
ヴェニフーキ「聖グロリアーナ隊長車・砲手の"ヴェニフーキ"と申します」
ヴェニフーキ「どうぞ、お見知りおきを」
華「ヴェニフーキさんですね。私、大洗女子の隊長車の砲手を務める五十鈴華です。宜しくお願い致します」フカブカ
みほ「よろしくお願いします」ペコリ
沙織「あれ?でも隊長車の砲手って確かアッサムさんじゃ?」
麻子「ダージリンさんが休養中だから配置が変わったのだろう」
沙織「麻子起きてたの?」
麻子「寝ながら聞いてた」
オレンジペコ「器用ですね」クスッ
734: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:45:26.86 ID:AFZljjjD0
アッサム「先述の事情により、今は私がグロリアーナの車長と隊長を兼任しています」
アッサム「それ故、空いた砲手席にはこのヴェニフーキに座ってもらった次第ですわ」
華「そうでしたか。同じ砲手としていつかお手合わせ出来ればです」
ヴェニフーキ「ええ。その時は是非」
優花里「ときにヴェニフーキ殿はエキシビション戦や大学選抜戦ではお会いしなかったですよね?」
ヴェニフーキ「はい。今までは家の都合でイギリスへ留学しておりました」
ヴェニフーキ「そして丁度この大会の準決勝が終わる頃こちらへ転校し、今後はこちらでお世話になります」
華「まぁ。帰国子女ですのね!」
735: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:48:22.88 ID:AFZljjjD0
アッサム「さて、大洗の皆様、朝早くのご活動でしょうから、気付けとしてお目覚めのコーヒーでも如何でしょう?」フフッ
オレンジペコ「お食事も用意してありますよ」
華「お食事?!ありがとうございます!」ガタッ
エミ「わっ?!」ビクッ
麻子「おぉ…有り難い…」スピー
優花里「あはは。冷泉殿ったら寝ながら喋ってますよ」
オレンジペコ「き、器用ですね…」ハハ...
沙織「へー。聖グロもコーヒーとか飲むんだぁ」
アッサム「どういうわけか、コーヒー嫌いのダージリンが唯一飲む銘柄ですわ」
優花里「それは凄く美味しいんでしょうね!」キラキラ
エミ(COFFEE SHIRATORI…か)
エミ(良かったわね。キリマンジェロ)
736: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:54:03.79 ID:AFZljjjD0
ヴェニフーキ「ところで、西住さん」
みほ「はい、何でしょう?」
ヴェニフーキ「先日の試合で、戦車が再起不能になったとお聞きしましたのですが」
オレンジペコ「無人機が落ちて壊れちゃったんですよね…」
みほ「はい。でもうちの生徒会長のお陰で代替車輌をなんとか手配することが出来ました」
オレンジペコ「! 良かったぁ…」ホッ
ヴェニフーキ「間に合って良かったです」
沙織「ふふふ。すっごい戦車ですからね!きっと見たら驚きますよ!」
オレンジペコ「ええ!とても楽しみです!」ワクワクペコペコ
アッサム「そういえば他の方は?」
みほ「あ、時間がくるまで自由行動としていますので、各自で朝食など取られているかと」
アッサム「そうでしたのね。てっきりここにいる人で全員かと」フフッ
オレンジペコ「そんなわけないじゃないですかぁ…」ジトッ
みほ「あははは。私達だけで試合には勝てませんよ」
737: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:55:17.79 ID:AFZljjjD0
【グロリアーナとのお茶会の後】
優花里「ふぅ。お腹いっぱいですっ!」ポンポン
華「ふふ。腹七分目といったところですね」
エミ「あなたは食べ過ぎよ。どこに入っていくのよ…」
麻子「コーヒーも美味しかった。あれなら毎朝飲めるぞ」
沙織「ミルクと砂糖ガンガン入れてたくせに」アハハ
優花里「聖グロというと紅茶ってイメージですけど、コーヒーを飲む人もいるみたいですよ」
みほ「そこは人それぞれかな」
738: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:56:26.75 ID:AFZljjjD0
沙織「そ・れ・よ・りっ!転校生のヴェニフーキさん超カッコ良かったよねっ!!」キラキラ
優花里「そ、そうでしたか?私はちょっぴり苦手なタイプかもです…」アハハ
沙織「銀色のストレートヘアに赤い目、そしてクールっていうか冷静沈着っていうかぁ~~~」ヤダモー!
みほ「髪の色はエリカさんに似てたけど、エリカさんより上品な感じだったね」
優花里(何気に酷いこと言いますね西住殿…)
沙織「あの雰囲気たまんないよ~!あれで男だったら私落ちちゃう~~!」ヤダモー!!
華「ふふ。沙織さんはヴェニフーキさんのような方が好みなのですね」
麻子「うむ。あの落ち着きは沙織に少し分けて欲しいくらいだな」
沙織「ちょっと麻子!それどういう事よ!!」
アハハハハハハ
739: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:58:05.04 ID:AFZljjjD0
優花里「目つきも鋭かったですね。有無を言わせないオーラ放ってました…!」
沙織「あのギラリとした目が良いんだってば~!」
みほ「私はちょっと…」アハハ
エミ「あなたはお母さんによく"ギラリ"とされてるもんね…」
みほ「うん…」
華「あらゆる意味で聖グロにはいないタイプでしたね」
沙織「確かに。お嬢様とはちょっと違うかな?何というか…"ゴシック"って感じ?」
麻子「なんだその例えは。…まぁわからんこともないが」
エミ(転校生かぁ…)
「また会ったわね。みほ」
740: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 18:59:01.40 ID:AFZljjjD0
みほ「あっ、エリカさんとお姉ちゃん!」
エミ「!」ピクッ
まほ「元気そうだな。みほ」
みほ「うん。お姉ちゃんたちも元気だった?」
まほ「まぁ…そこそこn
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
全員「」ビクッ
「ナカスガエミ!?なんでアナタがここに!?」
エミ「っ!この声…!」
「ここで会ったが <ツネッ> あいでででで!!!?」
エリカ「はしゃぐんじゃない!!」
エミ「ツェスカ…!」
741: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:00:52.96 ID:AFZljjjD0
― 会えるかもとは思ってたけど…まさかこんな形にとはねッ
― やっぱりあなたは最低ね
― ……じゃぁ私も こんなチームいらないわ
エミ(………)
エミ「そういえばあなたも黒森峰だったもんね」
ツェスカ「忘れてたのかよ!…というかエミはどうして大洗に…?」
エミ「転校よ短期の。またすぐにベルウォールに戻るわ」
ツェスカ「そう…。まぁいいわ。今回もあなたをコテンパンにしてやるから覚悟してなさい!!!」
エリカ「静かにしなさい!」ツネッ
ツェスカ「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」ジタバタ
エミ「…相変わらずね」
みほ「エリカさんの手を焼かせるなんて凄いなぁ…」ハハハ...
742: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:02:13.01 ID:AFZljjjD0
まほ「中須賀さんも久しぶり。前回の優勝記念杯以来だな」
エミ「ええ。お久しぶりです」
エミ「………ん?」
まほ「?」
エミ「確か、引退されたのでは?」
まほ「ああ。本来ならそうなるが、無人機の件があって、もう一度戦車に乗ることにした」
エミ「そうなんですか」
みほ「てっきりエリカさんが泣きついたのかと」アハハ
エリカ「ちょっとそれどういう意味よ!」
まほ「あはは。そろそろエリカにも頑張ってもらわないとな」
エリカ「た、隊長!私だって…!」
743: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:03:40.39 ID:AFZljjjD0
まほ「…それで、どういうわけか戦車道に"邪魔者"が入ってきたせいで、我々も色々手を焼いてね」
エミ「無人機ですよね。私もあり得ない改定だと思っています」
みほ「お姉ちゃん達もやっぱり無人機を…」
まほ「ああ。試合となっては話は別。我々は3機の無人機をフル投入して全力で挑むつもりだ」
優花里「…あの、つかぬ事を伺いますが」
まほ「何かな?」
優花里「"スツーカ"、出ますでしょうか?」
まほ「えっ?」
優花里「スツーカです。ユンカースのJu78です」
まほ「あぁ…。そいつは準決勝では使用したが、今回は出さないつもりだ」
優花里「そうですか…」シュン
744: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:05:21.64 ID:AFZljjjD0
みほ「それって優花里さん好きな機体とか?」
優花里「急降下爆撃機といえばJu78!Ju78といえば"カノーネンフォーゲル"ことJu78Gですっ!」
優花里「あの"ソ連人民最大の敵"とまで言わしめたルーデル閣下が!牛乳飲んで赤軍戦車をバタバタと倒していくっ!!」
優花里「くぅぅぅ!たまんないですぅ~~!!」ワシャワシャ
みほ「へ、へぇ…」
エミ「私達はバタバタ倒される側なんだけど」
みほ「やめてよ縁起でもない」アハハ...
まほ「確かに有名な機体ではあるが、それはエースが乗っていたからだろう」
まほ「実際に使った者は"操縦が恐ろしく難しい機体"と言っていた」
みほ「そうなんだ。やっぱりエースが使うから凄いんだよね」
まほ「そうだな。そしてそれは戦車でも言えること」
みほ「うん。そうだよね」
745: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:07:30.12 ID:AFZljjjD0
まほ「そして、みほ」
みほ「ん?」
まほ「戦車道において無人機は誰も"歓迎していない"」
みほ「………」
みほ「そうだね」
まほ「だがルールである以上、私達はそれを使わなければならない……」
みほ「!」
まほ「だから…悔いのないよう全力でかかってこい」
みほ「勿論だよ」
まほ「…さて、それでは我々は準備に戻る。みほ、そして大洗の皆、試合で会おう」
みほ「うん、あとでね」
みほ「………」
みほ(お姉ちゃんも本当は無人機なんか使いたくないんだね………)
746: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:08:57.25 ID:AFZljjjD0
「西住さん」
みほ「え、はい?」
ヴェニフーキ「…」
みほ「あ…えっと、ヴェニフーキさん…??」
ヴェニフーキ「試合まで時間があります。差し支えなければお話を」
みほ「はい?」
沙織「ヴェニフーキさんに口説かれてるのみぽりんっ?!」
ヴェニフーキ「…」
麻子「お前は引っ込んでろ」ゲシッ
沙織「痛いっ!!?」
ヴェニフーキ「…」
みほ「?」
ヴェニフーキ「場所を変えましょう」
747: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:09:59.41 ID:AFZljjjD0
【試合会場 ???】
ヴェニフーキ「…」スタスタ
みほ「あの…お話って…?」
ヴェニフーキ「そうですね。ここでなら」
みほ(結構離れちゃったよ…一体何を話すんだろ…)
ヴェニフーキ「西住さん」
みほ「は、はいっ!?」ビクッ
ヴェニフーキ「決勝戦、勝てそうですか?」
みほ「え…。その、」
みほ「ここまで来たからには勝つつもりで臨みます」
ヴェニフーキ「そう」
みほ「…」
ヴェニフーキ「…」
みほ「あの、お話ってこれだけですか…?」
ヴェニフーキ「この試合、」
ヴェニフーキ「あなたは99%負ける」
748: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:11:30.30 ID:AFZljjjD0
みほ「っ!!!」
ヴェニフーキ「…」
みほ「それを…」
みほ「………それをわざわざ言うために私をここへ呼んだのですか?」
ヴェニフーキ「いえ」
みほ「だったらどうしてそんなことを…!」
ヴェニフーキ「私がお話しすべきことは、99%ではなく、1%の方」
みほ「はい…?」
ヴェニフーキ「確かに99%負けるとは言いました」
ヴェニフーキ「しかし、残りの1%で成功すれば」
ヴェニフーキ「大洗は黒森峰に完勝します」
749: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:14:41.61 ID:AFZljjjD0
みほ「なっ…」
ヴェニフーキ「…」
みほ「か、完勝って…その…」
ヴェニフーキ「読んで字の如く、圧倒的な差をつけて勝つことです」
みほ「い、言ってることの意味がわかりません!」
みほ「99%負けると言ったと思えば1%で完勝だなんて誰が信じるんですか!」
みほ「相手は優勝常連校の黒森峰ですよ?! 前回の大会でもギリギリだったのに完勝なんて!」
みほ「それに今回は無人機も出てきます!どう
ヴェニフーキ「無人機などもはや敵ではない」
みほ「えっ…!?」
ヴェニフーキ「これを」サッ
750: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 19:17:00.95 ID:AFZljjjD0
みほ「これは試合会場の地図…ですよね…?」
ヴェニフーキ「はい」
みほ「これが何か…」
ヴェニフーキ「「この会場の中に一箇所だけ」
みほ「…?」
ヴェニフーキ「黒森峰を一方的に葬れる場所があります」
みほ「なっ!!?」
ヴェニフーキ「そこをあなたが、あなたの戦車が押さえれば、大洗女子の勝ち」
ヴェニフーキ「そうでなければ負け」
みほ「そ、その場所って…」
ヴェニフーキ「申し訳ありませんが、私の助言はここまで」
みほ「…」
ヴェニフーキ「では、時間ですので戻りましょう」
【 http://i.imgur.com/33eMmBk.png 】
みほ(この広大な会場にたった一箇所だけ………!?)
752: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/03(月) 19:33:57.90 ID:2pZD7kzDO
乙
オリキャラは良いんだけど
アッサムはポジション奪われてたの?
まぁ、話に関係無いから良いんだけど
753: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/03(月) 20:22:25.39 ID:AFZljjjD0
>>752
アッサムのポジは>>734の通りですね。
・ダージリンが静養中なので聖グロの隊長および隊長車(チャーチル歩兵戦車)の車長が不在になる
・なのでアッサムが臨時の隊長および隊長車の車長をする(つまりダージリンの代わり)
・しかしそうなると(砲手だったアッサムが戦車長になるので)砲手席が空く
・なので謎の転校生ヴェニフーキが砲手として代役を務める
・みんな大好きペコ太郎はそのまま装填手。
と言った感じですね。分かりにくくてスマソ。
ダー様はきっと今頃自室でクシュンクシュン言ってる頃だと思います。たぶん。
760: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:23:11.53 ID:rsGjkxxv0
【試合会場 選手待機場所】
沙織「いよいよだね…」
華「ええ。私、なんだか緊張してまいりました…」
麻子「前回はギリギリ勝ったが、今回はどうなるだろうか」
エミ「今回は無人機もあるし相当厳しい戦いになるわね」
優花里「そうそう。無人機で思い出しました」
エミ「ん?」
優花里「無人機といえば先程のやり取りで一部情報に誤りがありました。すみません…」
エミ「へ?」
× Ju78
○ Ju87
優花里「不肖・秋山優花里、まだまだ修行が足りませんっ!!」
エミ「う、うん…?」
※本当は>>1が間違いました。すみませんm(__)m
761: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:24:43.36 ID:rsGjkxxv0
みほ「…」ブツブツ
優花里「あっ、西住殿が戻ってきました」
沙織「もー!みぽりんったらこんな時に何処行ってた…の…?」
みほ「…」ジー
沙織「みぽりん…?」
優花里「西住殿が見ておられるのは試合会場の地図ですよね?」
華「随分熱心に見ておられますね…」
沙織「み・ぽ・り・ん・っ!!」
みほ「ふぇっ!?あ、えっ…?」
華「あの、大丈夫ですか?」
みほ「うん、ごめんなさい」
沙織「もーっ!試合前だってのにどうしちゃったのよー!」
みほ「…ちょっと、ね?」
麻子「周りに全然気付かなくなるほど地図を眺めて一体どうしたんだ?」
みほ「えっとね、どうやって攻めようかなぁって…」
麻子「そうか…。だがあまり煮詰めすぎてもいけないから程々にな?」
みほ「うん、ありがと」
762: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:26:27.59 ID:rsGjkxxv0
みほ(確かに。1箇所だけ、怪しいところがある…)
みほ(でも本当にココだという確証は無い)
みほ(もしも間違えたら、その時点で負け…!?)
みほ(やっぱり、セオリー通り行くか。………いや、それとも…)
エミ「………」
763: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:27:30.37 ID:rsGjkxxv0
エミ「みほ」
みほ「…」ブツブツ
エミ「みほッ!!」
みほ「ふぇぅっ!?え、エミちゃん?!」ドキドキ
エミ「話しなさいよ」
みほ「えっ?」
エミ「あの女と何を話したのか」
みほ「あはは…」
エミ「私にも話せない事なの?」
みほ「えっ……」
エミ「初対面の人間とは話せて、何年も前から友達やってきた私や」
エミ「ずっとチームやってきた皆に話せないことって何?」
みほ「…」
エミ「…」
みほ「…実はね」
764: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:28:48.29 ID:rsGjkxxv0
あんこうチーム「…」
エミ「たった、1箇所だけねぇ…」
優花里「そしてその1箇所を見つければ"完勝"すると…」
麻子「信じがたい話だ」
華「私も麻子さんと同じです。あの黒森峰を相手に完勝だなんて…」
沙織「胡散臭いよね。なんか一攫千金の儲け話みたい」
みほ「…」
エミ「で、あなたはその1箇所に心当たりはあるの?」
みほ「うん…」
みほ「私はここだと思った」ポン
全員「………?」
765: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:34:15.86 ID:rsGjkxxv0
麻子「西住さん、そこは前線から結構離れた場所に見えるが…?」
沙織「そうだよね。私は川の周辺じゃないかなーって思ったよ」
みほ「私もこの地図だけじゃ断定は出来ない。だから行ってみないと…」
優花里「難しいですねぇ…」
みほ「うん…」
エミ「行きなよ」
みほ「ふぇ…?」
エミ「行きなよ。あなたがそう思うならそれで良いじゃない」
みほ「………」
沙織「そうだよね。私達みぽりんのおかげでいつも助かってるもんね」
麻子「仮にこの試合に敗れたとしても即廃校となるわけでもない」
麻子「以前よりかは気楽に行けるだろう」
華「ええ。大船に乗ったつもりで行きましょう」
優花里「私はどこまでも西住殿についていきますよっ!」
766: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:35:41.32 ID:rsGjkxxv0
みほ「みんな………」
エミ「ふふ。決まりね!」
みほ「うん!………スゥ」
みほ「それでは皆さん!これが最後の試合です!全力で行きましょう!!!」
みほ「パンツァー・フォー!!!」
全員「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
エミ「び、びっくりさせないでよ…」ビクビク
みほ「…ごめん」
エミ(まったく。鋭いんだか抜けてるんだか…)
767: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:43:02.15 ID:rsGjkxxv0
【試合開始後 あんこうチーム】
みほ「各車輌、移動しながら聞いてください」
みほ「地図を見てわかるように、北西が大洗、北東が黒森峰のスタート位置となります」
みほ「また、これは中央を流れる2つの川を挟むように西側が私達、東側が黒森峰となるため、川にかかる2つの橋の周辺が激戦区と予想されます」
【 http://i.imgur.com/kVBMpb9.png 】
みほ「しかし橋の上は長い一本道で遮蔽物も一切ありません」
みほ「そのため格好の的になるので、私達は橋を渡らず対岸からの攻撃を行います」
768: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:44:58.59 ID:rsGjkxxv0
みほ「一方で黒森峰は厚い装甲を盾に橋を渡り、こちら側へと侵攻するでしょう」
みほ「2つ橋に2つの部隊で挟撃を仕掛けてくると予想されます」
【 http://i.imgur.com/E6txAY7.png 】
みほ「しかし、我々がこれを阻止しようと水際作戦を実行すると、今度は無人機による空からの攻撃が来ます」
みほ「なので対岸からの攻撃にはなりますが、川岸ではなく、その数百メートル手前の住宅街を遮蔽物として上手く利用して下さい」
カエサル『ポン・デュ・ガールか』
おりょう『メクロン河永久橋ことクウェー川鉄橋ぜよ』
左衛門佐『いいや、壬申の乱の決戦場となった瀬田の唐橋だろう』
エルヴィン『何を言ってるんだ!これこそまさにレマゲン鉄橋だろうが!!』
『『『それだぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』
769: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:47:19.85 ID:rsGjkxxv0
みほ「そして配置についてですが」
みほ「橋が2つあるため、こちらも隊を2つに分けます」
みほ「まず黒森峰側が直進するであろう【ルート①】にウサギさんチーム、カモさんチーム、カバさんチーム」
みほ「次に迂回路となる【ルート②】はアヒルさんチーム、レオポンさんチーム、アリクイさんチームにお願いします」
みほ「そして、ルート間のギャップを埋めるためにカメさんチームには間へ入って頂きます」
みほ「カメさんチームは2つの隊だけではカバーしきれない情報の収集・伝達を中心に、」
みほ「また必要に応じて時間稼ぎとしての挑発もお願いします」
杏『おっけーい』
【 http://i.imgur.com/33d0FkX.png 】
770: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:51:32.27 ID:rsGjkxxv0
みほ「なお、私達あんこうチームは皆さんとは別の場所で待機します」
ナカジマ『えっ?隊長たち一緒じゃないの?!』
そど子『それはどういうことなのかしら?』
ねこにゃー『黒森峰の戦車に対抗できる数少ない戦車なのに…』
みほ「はい。あんこうチームは戦車だけでなく無人機を叩かないといけません」
みほ「なので皆さんが配置につく市街地では上空の視界を確保できないため、少し離れた場所にある開けたエリアで攻撃を行います」
みほ「代替策として、アヒルさんチームおよびウサギさんチームに、それぞれの区間の指揮車輌をお願いします」
みほ「指揮車輌は情報収集に特化し、得た情報を素早く正確に他車輌との共有を心がけてください」
梓『わかりました!』
典子『了解です!気合と根性で指揮しましょう!!』
771: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 18:57:52.89 ID:rsGjkxxv0
みほ「先にも言いましたが、大洗チームの防衛ラインは岸ではなく、その後ろの住宅街です」
みほ「ここで爆撃および砲撃を回避しながら攻撃をします」
みほ「また、戦車が橋を渡り切ったとしても、入り組んだ住宅街ならば奇襲という形で至近距離から側面を狙えます」
みほ「もちろん撃破できれば御の字ですが、距離、火力、装甲を鑑みると一筋縄ではいきません」
みほ「そのため、最初は撃破のための戦闘ではなく、侵攻を遅らせるための戦闘を意識してください」
杏『また履帯を狙えばいいんだねー』ウシシ
エルヴィン『ふむ。弁慶ならぬ重戦車の泣き所だな』
ナカジマ『同じ重戦車乗りとして同情するよ』アハハ...
みほ「こちらからは以上です。各車輌健闘を祈ります!」
全員『了解!!!』
772: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:09:30.93 ID:rsGjkxxv0
エミ「向こうは任せちゃって大丈夫なの?」
みほ「うん。ウサギさんチームやアヒルさんチームはもちろん、他の皆も優秀な人たちばかりだから」
優花里「何と言ってもウサギ殿はあのヤークトティーガーやエレファントを撃破したんですからねぇ!」
エミ「ええっ!?あのM3リーで!?どうやって!!」
みほ「あはは。あとでゆっくり説明するよ」
エミ「…そう? 何にしろ、私は大洗女子についてはまだまだ分からないことだらけだから、そっち方面は任せるわよ」
みほ「うん」
沙織「じゃぁエミりんは何をするの?」
エミ「え、私?」
沙織「うん」
エミ「そうね。みほがいつオナラしても良いようにベンチレーターを作動させるわ」
みほ「ちょっとエミちゃん!!!」
沙織「あらやだぁ~無線入れっぱなしだった~ てへぺろ☆」
みほ「えええええ!!!?」
アハハハハハハハハハ
みほ(確証はどこにもない)
みほ(でも…)
みほ(恐らく、ここしかない…)
【 http://i.imgur.com/6jStWLT.png 】
773: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:14:31.22 ID:rsGjkxxv0
典子『こちらアヒルさんチーム。配置につきました!』
梓『同じくウサギさんチームも準備完了です!』
杏『こっちもおっけーだよ。いつでもカバー入れるからねー』
みほ「了解です。私達もまもなく配置場所へ到着します」
みほ「ただ、先述の通り、現時点でそちらの状況が判別しづらいため、」
みほ「各車輌はそれぞれの前線指揮官を中心に行動判断を一任します」
全員『了解!!』
774: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:16:21.01 ID:rsGjkxxv0
【あんこうチーム 配置場所】
沙織「これがみぽりんの言ってた場所…」
麻子「なんというか…」
華「円柱状の建造物ですよね…?」
エミ「何でこんなものがココにあるのよ………」
【 http://i.imgur.com/xq6SvOo.png 】
優花里「この建物の最上階に上手く戦車を移動できれば無人機を撃墜しやすそうですね」
エミ「当たり前じゃない」
優花里「えっ?」
エミ「だってこの建物の本来の目的がソレなんだから」
華「どういうことですか?」
エミ「こっちが"どういうことなの"って聞きたいわよ」
エミ「何でこんなところに"高射砲塔"があるのかって」
775: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:18:05.90 ID:rsGjkxxv0
沙織「高射砲塔?」
エミ「ええ。名前通り高射砲や対空機関砲を全周囲に配置した塔よ」
エミ「ドイツの主要都市やヨーロッパの大都市を爆撃から守るためにつくられた防空要塞」
麻子「確かに道中の建物は西洋風のものばかりだった。ここはそういったのを模倣した都市なのかもしれんな」
エミ「だからといって高射砲塔まで再現するのかしら…」
麻子「そこまではわからん…。だが、高射砲塔なら対無人機戦闘で大いに活躍するんじゃないか?」
エミ「そうね。問題はこの馬鹿デカいE-100対空戦車が乗るかだけど」
優花里「ひとまず内部を見てみましょう」
みほ「うん。ちょうどあっちに戦車が通れそうな入り口もあるしね」
776: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:23:12.15 ID:rsGjkxxv0
【高射砲塔 内部】
沙織「…何かちょっと気味が悪いね」
華「窓のない建物の中にいる気分です」
エミ「高射砲塔は分厚い鉄筋コンクリートで造られているから、この中にいれば無人機の爆撃なんて屁じゃないわ」
麻子「しかし同時に攻撃もできないな」
みほ「ひとまずどうやってE-100対空戦車を最上階まで持っていくか考えよう」
エミ「ええ。IV号戦車よりも重たい"12.8cm Flakzwilling40"を最上階まで運搬するんだから何かしら仕組みがあるはずよ」
優花里「皆さぁーん!こちらに業務用のエレベーターがありましたー!」
777: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:33:21.70 ID:rsGjkxxv0
エミ「一体どんな構造になってんのよこの高射砲塔…」
麻子「おそらく高射砲塔を再現して、それとは別に何かしらの都市設備を兼ねているのだろう」
麻子「災害が起きれば避難所にもなるだろうしな」
エミ「…」
沙織「そんなことより!そのエレベーターを動かせば最上階まで行けるかも!?」
エミ「戦車の重量が耐えられるといいわね」
みほ「大丈夫かなぁ…」
優花里「それでは動かしますよー!」
ガクン
ゴゴゴゴゴゴゴゴ.....
沙織「あはは。エレベーターが悲鳴あげてるね」
エミ「そりゃそうよ。いくらなんでも150トンを持ち上げるんだから」
麻子「途中で真っ逆さまにならんことを祈ろう」
778: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:35:45.18 ID:rsGjkxxv0
【高射砲塔 屋上】
エミ「…た、耐えた…!?」
みほ「あはは…本当に頑丈なんだね高射砲塔って」
エミ「…もう深く考えるのはやめるわ。試合に集中できなくなる」
みほ「う、うん…」
優花里「さすが高射砲塔というだけあって見晴らしが良いですねぇ」
華「試合じゃなくてもこういった景色のいい場所は足を運びたくなります」
麻子「ここなら全周囲見渡せるから無人機が相手でもある程度は応戦できそうだ」
沙織「そうだね。これだけ高かったらすぐ無人機の場所がわか
みほ「いや、違う」
麻子「んっ?」
優花里「西住殿…?」
みほ「ほら、あれ…」
クルッ
全員「あっ…」
779: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:38:24.98 ID:rsGjkxxv0
エミ「………どうやら、あなたは"正解"を選んだみたいね」
みほ「うん…」
― 黒森峰を一方的に葬れる場所があります
みほ(地図を見たとき、そこそこ高いし視界も良いから無人機を叩きやすい場所だと思った)
みほ(そしていざ現物を確認したら、それは都市防衛を目的として建設された高射砲塔だった)
みほ(これを活用すれば本来の用途通りに使えば防空能力は向上する)
みほ(…そう思っていた)
みほ(でも、それは本当の目的ではなかった…)
みほ(ヴェニフーキさんはこの事を言ってたんだ…!!)
【 http://i.imgur.com/QxPIWvR.png 】
781: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/04(火) 19:55:32.14 ID:rsGjkxxv0
【本筋とは関係ない余談】
(レスにもあったように)試合会場はオーストリアのウィーン(高射砲塔はアウガルテン公園にあるやつ)をモデルにした"きっとどこかにある場所"です。
・巨大な戦車が入れる入口がある
・150トン超える超重戦車が持ち上げられるエレベーターがある
などなど、この世界の高射砲塔やその他もろもろは、実物のものとは違うみたいですが。。
なお高射砲塔は他にもドイツのベルリンやハンブルクにもありますが、
・戦車道の試合会場
・黒森峰に完勝する
という2点を鑑みた結果、地理的にウィーンが適していたので選んでみた次第です。
GoogleMapを起動させるとPCがパンクしそうでした。
789: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 21:59:06.68 ID:/8gulzeI0
華「ここから橋まで、おおよそ1,300~2,200mほどでしょうか」
優花里「結構な距離ですねぇ…」
麻子「普段の対戦車戦闘がだいたい500mほどだったからな」
華「うふふ。ここ最近は1,000mを超える射撃ばかりですね」
沙織「サンダースの時なんて1,000mどころか10,000m近かったもんね」
エミ「え゛っ!?」
みほ「あはは。B-29落とした時のことだよ」
エミ「無理よそんなの!!」
みほ「でも実際に撃破したもんね」
エミ「うぇぇ…」
優花里「10,000m級に隠れがちですが、そのあとに2,000m超えの狙撃を2回やった点も忘れてはいけませんよ」アハハ
エミ「ふぁっ!?」
790: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:01:24.28 ID:/8gulzeI0
沙織「そうだよねぇ。サンダース相手にあんなあっけなく勝っちゃうなんて思わなかったもんね」
エミ「…い、五十鈴さんも名門の人なの?!」
華「戦車道ではなく華道ですけどね」フフッ
エミ「えっ…えええ?!」
沙織「華道やっているせいか射撃時の集中力ハンパないんだよね」
エミ「」
みほ「私も華さんの潜在能力には驚かされてるかな」
華「恐縮です」フフッ
エミ「…みほ。あなたのチーム、日本代表選手になれるわよ…」
みほ「えへへ。みんな凄いもんね」
沙織「日本代表選手かぁ…やっぱりモテるのかなぁ」
麻子「持つものがなければ選ばれんだろうな」
沙織「上手いこと言わなくていいのっ!」
791: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:02:26.78 ID:/8gulzeI0
エミ「…で、ここから橋の上までは狙えそうなの?」
華「遠くを狙う機会に恵まれていたおかげで、遠距離への攻撃はだんだんとコツを掴んできました」
エミ「そ、それは頼もしいわね…」
華「それに、ここからだとちょうど一直線上に位置する橋の上」
華「狙いがつけやすいのはもちろん、相手は逃げられない…」
華「いけると思います」
沙織「すごい華…。どんどん強くなっていくね…!」
華「楽しいことに夢中になるとどんどん技術は身に付きますよ」
みほ「あはは。それじゃああまり時間もないし、狙撃の準備に入ろう」
華「はい」ニコッ
792: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:04:38.24 ID:/8gulzeI0
麻子「五十鈴さん、角度はこれくらいかな?」
華「これだと砲弾が上を通り過ぎてしまいます、もう少し前方へお願いします」
麻子「わかった」ガコン
優花里「今のところ無人機は確認できません」
沙織「やるなら今のうちだよね」
エミ「黒森峰は橋を渡り始めたようね」
みほ「うん。あとは上手くこっちに来てくれるかだね」
793: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:06:28.71 ID:/8gulzeI0
典子『こちらアヒルさんチーム!【ルート②】の中ほどに敵車両を確認!』
典子『先頭にティーガーII、その後ろにパンターが2輌、そのあとにフラッグ車のティーガーIです!」』
みほ「了解です。こちらからも【ルート②】にて複数車両を確認出来ます」
華「同じく確認できました。…ただ、まだ距離は遠いので、もう少し寄せたいです」
エミ「どれくらいまで接近させるの?」
華「そうですね…今のところ1,800mほどですから、これを1,500mまで縮めたいです」
エミ「それならティーガーIの正面はブチぬけるでしょうね」
ガコン
優花里「高速徹甲弾、装填完了です」
ガコン
エミ「こっちもOK」
華「ありがとうございます」
794: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:08:01.66 ID:/8gulzeI0
梓『こちらウサギさんチーム!【ルート①】からも先頭にヤークトティーガー、その後ろにパンター複数確認できました』
梓『あっ、その後ろにはティーガーIIもエレファントもいます!』
優季『橋が崩れちゃうよぉ』
みほ「わかりました!」
みほ「引き続き、"抵抗するけど全く歯が立たなくて焦ってる感じ"で防衛ラインを守ってください!」
みほ「目的は相手車両の接近です!それではオロオロ作戦開始!」
全車輌『オロオロ作戦開始!』
795: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:10:26.50 ID:/8gulzeI0
優花里「っ! 遠方に無人機を確認。いよいよ動き出しましたよ…!」
みほ「華さん!」
華「ええ」
みほ「うん!お願い!」
みほ「目標、フラッグ車 ティーガーI」
華「うっ…」
優花里「ん?五十鈴殿?」
エミ「…どうしたの?」
華「距離にしておおよそ1,600m…微妙ですね」
みほ「微妙?」
エミ「一応、2,000mでも153mmは貫けるから大丈夫だと思うど…」
華「ええ。…ですが、確実に仕留めたいのです」
華「せめて、砲塔が横を向いてくれたら…」
みほ「カメさんチーム!ティーガーIを挑発して下さい!!」
杏『おっけーい。小山ぁ頼んだぞ~』
796: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:11:42.43 ID:/8gulzeI0
ズドォォォォォン!!
ガシャーーーン!!
杏『うっひゃぁ!めーっちゃ狙われてるよー西住ちゃん!』
柚子『あぁ…建物が…』
みほ「挑発に引っかかってる証拠です!このまま続けましょう!」
杏『んでも撃破は無理っぽいよ?どーする?』
みほ「構いません!そのまま続けてください!!」
杏『あはは。西住ちゃんもなかなか無茶を言うようになったねー』
桃『に、西住ぃ!!貴様私達を見殺しにするつもりかぁぁぁぁ!!!』
柚子『あぁ…やっぱり色々迷惑かけたこと根に持ってるのかなぁ…』オロオロ
みほ「ち、違うんです!ティーガーIの砲塔の向きを変えることが目的なんです!」
杏『わかってるって西住ちゃん。とりあえずやれるだけやってみるよ』
みほ「はい、お願いします!」
798: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:19:49.59 ID:/8gulzeI0
杏『ダメだ西住ちゃん!相手もさすがに挑発だって気づいてるよコレ!』
杏『全ッ然見向きもしてくんない!』
みほ「っ…!」
典子『西住隊長!私達もカメさんチームに援護します!!』
典子『おそらく1輌だけじゃ挑発かもしれませんが、複数でやれば多少は反応するでしょうから!!』
みほ「はい!お願いします!!」
典子『レオポンさん、アリクイさん!カメさんチームと合流して橋へ攻撃をします!』
典子『私についてきてください!!』
ねこにゃー『了解だにゃー!』
ナカジマ『殿は任せて!』
799: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:29:59.30 ID:/8gulzeI0
エミ「ティーガーIが停止した!!」
優花里「砲塔も動きました!これで側面を狙えます!!」
みほ「うん! 華さん、チャンスです!」
華「かしこまりました…!」
麻子「車体の向きや角度は問題ないか?」
華「ええ、バッチリです」
沙織「一旦無線OFFにするよ」プツッ
華「お心遣い感謝します。では、いきます…!」
800: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:30:58.97 ID:/8gulzeI0
「………」
キュラキュラキュラ
「………」
ウィーン
「………」
「………」
カチッ
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
801: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:42:52.82 ID:/8gulzeI0
アナウンス『黒森峰フラッグ車、走行不能』
アナウンス『よって、大洗女子学園の勝利!!』
802: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:53:12.38 ID:/8gulzeI0
みほ(その瞬間、全てが沈黙した)
みほ(私達を除く、ほぼ全ての人が『何が起こったの!?』と唖然した)
みほ(華さんの弾は、黒森峰のフラッグ車であるティーガーIの砲塔右側面に命中し、撃破)
みほ(私達は、黒森峰を相手に、本当に"完勝"した)
みほ(高校戦車道最強といわれた黒森峰を相手に…)
みほ(今でも信じられない………)
◆ エピローグ
803: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:54:52.98 ID:/8gulzeI0
沙織「私達、勝った…の?」
優花里「先程のアナウンスは偽装工作だったりしませんよね…?」
華「いえ。砲弾は確かにティーガーIの砲塔右側面命中しました」
沙織「…冷静に考えるとそれも相当凄いけどね」
華「ふふ。相手が遠ければ遠いほど狙うのが楽しくなりますわね」
沙織「へぇ~。華も追うタイプだったんだ」
麻子「…狙撃の話だろ。お前の恋愛観とはまた別だ」
エミ「みほ、いつまで沈黙してるのよ」
みほ「え…あぁ…うん…」
804: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:56:04.97 ID:/8gulzeI0
『こちら黒森峰フラッグ車。試合の終了に伴い交信をする』
沙織「えっ?」
梓『西住隊長、黒森峰から通信が入りました!』
典子『こちらにも通信が入ってます』
エルヴィン『こちらカバチーム。同じく通信が聞こえる』
ナカジマ『こっちにも来てるよ』
みほ「この声…お姉ちゃん…!」
エミ「どうやら、まほさんは全車輌に通信しているようね」
805: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 22:57:08.39 ID:/8gulzeI0
『こちらのフラッグ車であるティーガーIは、被弾により走行不能となった』
『…我々の、完敗だ』
全員「『!!!』」
エルヴィン『お、おい、今なんと?!』
ねこにゃー『ボクたち勝ったの…?!』
梓『西住隊長…これは相手側のダミー情報なのでは?!』
ナカジマ『ええっ、ダミーなんですか!?』
そど子『ちょっと!そんなのルール違反じゃない!』
806: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:01:11.71 ID:/8gulzeI0
沙織「大洗全車輌へ、黒森峰側の無線は試合終了に伴い発信されたものです」
沙織「よって、この内容は試合戦術における偽装通信ではありません」
沙織「我々あんこうチームは、黒森峰女学園からの通信に対し、最大限の敬意を表しこれを受信いたします」
全員『…!』
『ご理解いただき感謝する』
『大洗女子の隊長にお尋ねしたい。我々はどの位置から撃たれただろうか?』
807: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:05:37.20 ID:/8gulzeI0
沙織「…」チラッ
みほ「…」
みほ「XXX-YYY地点にある高射砲塔…高台からです」
みほ「今から上空に向かって撃ちます」
『…』
みほ「ゆかりさん、エミちゃん。対空砲弾をお願い。信管の設定はお任せします」
優花里・エミ「了解」
ガコン ガコン
優花里「装填完了」
エミ「同じく装填完了」
みほ「…華さん、お願いします」
華「かしこまりました」
ズガァァァァァァァァァン
ズガァァァァァァァァァァン
みほ「………」
『こちら黒森峰フラッグ車。砲撃を確認。射撃位置を特定した』
『見事だ………!』
808: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:10:39.97 ID:/8gulzeI0
【戦車を降りて...】
まほ「確かに、この高射砲塔からだと見下ろす形で橋の上を狙える」
みほ「…」
まほ「対してこちらのいかなる攻撃も届かないだろう」
みほ「…」
まほ「こんな場所があったとはな…」
みほ「どうして、無人機を使わなかったの?」
まほ「はは。もっと早く投入すればよかったかな」
みほ「…使いたくなかったんだね…やっぱり」
まほ「そうかもしれん。だが、仮にあの状況で無人機を使ったとしても」
まほ「恐らくみほがいた場所ではなく、対岸の防衛ラインを崩すことに専念していた」
みほ「で、でも!そこに私達がいないってわかれば…!」
まほ「あぁ。もっと広域を偵察しただろう。だが、その段階で既に手遅れだっただろうな」
まほ「いずれにせよ、高射砲塔はノーマークだった」
みほ「そっか……」
809: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:11:41.27 ID:/8gulzeI0
まほ「みほ」
みほ「はい…」
まほ「おめでとう」
みほ「う、うん…ありがと」
まほ「どうした?お前は我々に勝って優勝したんだぞ」
みほ「うん…。未だに勝ったって実感が湧かないんだ…」
まほ「それは我々も同じだ」
まほ「まさか1輌も撃破することなく敗れるなんて思いもしなかった」
みほ「………」
みほ「実は………」
810: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:12:34.95 ID:/8gulzeI0
みほ(私はお姉ちゃんに全てを話しました)
みほ(試合が始まる前に勝敗が決まっていたこと)
みほ(そしてそれは私の考えではなかったこと)
811: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:16:06.46 ID:/8gulzeI0
まほ「………」
みほ「………」
まほ「………さすがだな」
みほ「えっ…?」
まほ「確かに、みほに助言した者は恐ろしいほど観察力・洞察力に長けた人物だろう」
まほ「しかし、その助言から実際に"答え"を導き出したのは、他でもないみほだ」
みほ「!」
まほ「どの相手と、どこの会場で試合をしても、同様な『完勝』を実現できる条件は必ず存在すると私は思っている」
まほ「だから誰だって『こうすれば完勝できる』と言うことは可能だ」
みほ「で…でも…」
まほ「だが、そう宣告するのと実際にその条件を見つけ、遂行するのとでは話は全く違う」
まほ「そして、お前は確かに自分の経験をもとにそのポイントを見つけた」
まほ「みほだから見つけられた」
まほ「だから、さすがだよ。みほ」
みほ「…」
812: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:17:27.49 ID:/8gulzeI0
みほ「…まだ……終わってないから」
まほ「えっ?」
みほ「……こんな試合……ナシだから……」ポロポロ
まほ「みほ…!」
みほ「無人機なんて…余計なものがあったから…まともに戦えなかった………」
みほ「だから……だから………もう一度…今度は無人機ナシで………」
まほ「あぁ…わかった」ギュッ
みほ「…ヒッグ……」
まほ「泣くな。隊長がそんな顔では皆が浮かばれんだろう」ナデナデ
みほ「…だって………」
813: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:19:18.23 ID:/8gulzeI0
まほ「この試合はお前の勝ちだ。だが、我々もまだ終わったわけではない」
まほ「今度は私の意思を受け継いだエリカが隊長となって、またみほたちの前に立ちはだかる」
まほ「その時、私はまたみほと戦える」
みほ「……ッ…」
まほ「その時が来るまで私はエリカや他の隊員をしっかり育てよう」
まほ「だから、みほも次の世代を育てろ」
みほ「お姉ちゃん……!」
814: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:20:37.44 ID:/8gulzeI0
エミ「へへ…いい話じゃない」
優花里「ええ…目頭が熱くなりますねぇ!」
エミ「何にせよ………これで私の役目も終わったかな」
沙織「えっ?」
エミ「私は短期転校だから、試合が終わってからはまたベルウォール生よ」
エミ「…ちょっと寂しいけれど、私にも帰る場所があるからね」
華「エミさん」ダキッ
エミ「わっ!?ち、ちょっと五十鈴さん!?」ギュゥゥゥ
華「楽しかったですわ!とーっても!!」ウフフフ
沙織「あ!華ばっかりずるい!私も!」ムギュッ
エミ「ごぶッ!?」
815: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:22:14.81 ID:/8gulzeI0
優花里「中須賀殿もすっかりあんこうチームですねぇ!」
麻子「全くだ。短期転校というのが惜しい」
エミ「私もよ。あの時はこうやってみほたちと一緒に戦車が乗れるなんて思いもしなかった」
エミ「なんていうか…運命なのかな。色んな所で繋がってる」
麻子「あぁ。運命というのは本当にわからん。なにせ私が西住さんに代わって隊長をやる事もあったのだから…」
沙織「あのときは私も『麻子でいいの!?』ってなったよ」
麻子「まぁお前がやるよりは100万倍マシだがな」シレッ
沙織「ちょっとそれどういう意味よ!!」
優花里「まぁまぁ」アハハ
816: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:23:36.99 ID:/8gulzeI0
みほ「みんなごめんね。待たせちゃって」
エミ「良いわよ。こういう時くらい」
みほ「えへへ」
「ミホーシャぁ!!」
みほ「ふぇっ!?」
カチューシャ「どういう事か説明しなさいっ!あの黒森峰をコテンパンにしちゃうなんて!!」
みほ「え、えっとぉ…」
817: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:24:50.53 ID:/8gulzeI0
「まぁまぁ。ミホが困ってるじゃない」
みほ「あっケイさ
ケイ「Congratulationsミホぉ~~~!凄かったよさっきの1発ぅ!」ギュゥゥゥッ
みほ「んがががぐごががががギブギブ…!」ミシミシ
カチューシャ「ちょっとケイ!あんたこそミホーシャ困らせてるじゃない!」
アハハハハハ!
「優勝おめでとう!こりゃぁ盛大にお祝いしないとなっ!」
みほ「あ、アンチョビさんも観てたんですね!」ミシミシ
アンチョビ「おうよ!何しろ大洗女子の試合だからな!」
818: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:27:05.42 ID:/8gulzeI0
みほ「えへへ。いつもありがとうございます」
アンチョビ「うむうむ。勝利を祝って盛大にパーティだ!」
みほ「ええっ!良いんですか?!」
アンチョビ「おうよ、遠慮するな!い、いや、ちょっとは遠慮してくれ…。いや、やっぱ気にするな!こういう時はケチケチせずパーッとやるのが一番だ!」
ケイ「あははっ。ウチからもお祝いするよ!…あの時のお詫びも兼ねてねっ!」
カチューシャ「だったらカチューシャたちも盛大に振る舞うわよ!ノンナが!!」
819: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:27:56.69 ID:/8gulzeI0
まほ「本当に強くなったな、みほ」
みほ「お姉ちゃん…」
まほ「気づいたらお前の周りには多くの仲間がいる」
まほ「黒森峰を去ったときは心配だったが、今はもう大丈夫だろう」
みほ「うん…」
しほ「ええ。強くなったわね。みほ」
みほ「げぇぇっ!!お母さん!!?」
しほ「げぇっとは心外ね」
みほ「ど、どうしてこんなところに?!」
820: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:29:42.73 ID:/8gulzeI0
しほ「娘たちが戦う決勝戦を、親である私が見に行くのはそんなに珍しい事かしら?」
みほ「い、いやそんな事はないけど!そんな事はないけどっ!」オロオロ
しほ「先程の戦い、実に様々なことを考えさせられたわ」
みほ「え」
しほ「なので、ゆっくり話を聞かせてもらいましょう」
みほ「お、お姉ちゃん…!」
まほ「ははは。良いじゃないかこういう時くらい」
みほ「はぅ…」
まほ(何だかんだいって、お母様もみほと過ごす機会を探しているからな)
821: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:32:09.92 ID:/8gulzeI0
「ふふ。一家お揃いで微笑ましいです」
みほ「あ、アッサムさん!?」
アッサム「おめでとうございます。みほさん」
オレンジペコ「凄かったです!さっきの遠距離射撃!」
みほ「あ、ありがとうございますの!」
まほ("の"…?)
アッサム「あなたの戦い方は常に計算外なので、私達も多くのことを学ばさせて頂います」
オレンジペコ「今回の試合もものすごく勉強になりました」
みほ「い、いえいえそれほどでも…!」
アッサム「ふふっ。早起きして会場に来た甲斐がありました」
オレンジペコ「はい!眠気なんて吹っ飛んじゃうほど熱い試合でした!」
822: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:33:48.23 ID:/8gulzeI0
みほ「あの。ところで…ヴェニフーキさんは?」
沙織「そういえばヴェニフーキさんがいない?!」
アッサム「あぁ、ヴェニフーキでしたら、みほさんたちの戦車が射撃をした直後に帰りましたわ」
みほ「そうですか…」
アッサム「どうかされまして?」
みほ「あ。いえいえ、何でもないです」
オレンジペコ「そういえばヴェニフーキ様より伝言があります」
みほ「ふぇ?ヴェニフーキさんから?」
沙織「………」
オレンジペコ「はい。みほさんへ "おめでとうございます" と」
みほ「あ、ありがとうございます…!」
823: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:37:56.58 ID:/8gulzeI0
みほ(こうして、各校の皆さんに祝福されながら、私達の"対空"戦車道は優勝という形で無事に幕を閉じた)
みほ(無人機というイレギュラーなルール改変から始まり、それに抗う形でIV号対空戦車の投入)
みほ(メーベルワーゲンから始まった対空戦闘と、そこから学んだ搭乗員の安全性)
みほ(次のヴィルベルヴィントが教えてくれた航空機の圧倒的優位)
みほ(気が緩みかけた私達を軌道修正してくれたオストヴィント)
みほ(常識に囚われない新たな戦い方を模索するきっかけとなったクーゲルブリッツ)
みほ(そして…)
みほ(イレギュラーなルール改変に対抗する形で誕生したE-100対空戦車というイレギュラー)
824: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:38:49.46 ID:/8gulzeI0
みほ(一言に対空戦車といえど、そこには色んな思惑があった)
みほ(多くの困難が立ちはだかり、その度に乗り越えてきた)
みほ(別に無人機じゃなくてもいい。対空戦車じゃなくてもいい)
みほ(確かに言えることは)
みほ(私達はどんな困難が訪れても、きっとまた乗り越えていける)
みほ(それが私達の戦車道だから)
おしまい
825: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/06(木) 23:59:45.75 ID:/8gulzeI0
● Tips
「…私です」
「ええ。たった今試合が終わりましたよ。大洗の完勝です」
「そうですね。やはり西住さんたちは凄いです」
「それで、今からそっちに行ってもいいですか?」
「ありがとうございます。すぐに向かいますね」
「ん?こちらですか?」
「残念ながら、振り出しに戻ってしまいました」
「アッサムさんだと思っていたのですが…」
「…ええ。ご心配なく。必ず突き止めますので」
「はは。あなたが納得しても、私の腹の虫が収まらないでしょうね」
「ええ。続きはそっちへ行ってからにしましょう」
ヴェニフーキ「ダージリン」
もう一つの戦いが静かに始まろうとしている。
おしまい ?
826: ◆MY38Kbh4q6 2017/04/07(金) 00:08:00.21 ID:BGbonNeG0
対空戦車が好きだから50レス程度でガルパンSS書こうと思ったらこんなに長くなってしまった。
ガバガバ設定だけど読んでくれた人にありがとう
レスしてくれた人にもありがとう
きっとツッコミどころ満載だけど、ひとまずこのSSはここで完結させて、HTML化依頼をします。
ちなみに過去に書いたSS↓
【ガルパン】みほ「猛特訓です!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474376201/
827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/07(金) 00:09:08.40 ID:xdZc824m0
おつ!
げぇぇぇぇ!は笑う
SS速報VIP:【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/