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1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/18(金) 01:35:38.32 ID:+zkL4m9C0
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1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/18(金) 01:35:38.32 ID:+zkL4m9C0
今日から君がこの鎮守府の提督だ。
──なんで私なんだ。
良い働きを期待しているよ。
──嫌だなぁ……。
──────
────
──
提督「鎮守府に着任する。これより、艦隊の指揮を執る」
電「は、はい! よろしくお願いします、司令官さん!」
電(このお方が電の司令官さん……。若い男性ですが、少し小柄ですね)
電(でも司令官さん、目に光が無いのです……大丈夫なのでしょうか……)
提督「……うん?」
電「どうか……なされましたか?」
提督「他の艦船はどうした」
電「え、えっと……電、だけですよ?」
提督「……は?」
電「ですから……その……この鎮守府に居る艦船は、電だけですよ?」
提督「…………」
提督「駆逐艦一隻で……」
電「は、はい?」
提督「どうしろってんだクソがああああああッッッ!!!!!」
電「ひぃ!?」
拝啓、亡き父と母へ。
私の死亡先は海のようです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382027738
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 01:45:20.89 ID:+zkL4m9C0
電「はう……はわわわ……あぅぅ……」
提督「──あ。ああ、すまん。取り乱した」
電「びっくりしたのです……」
提督「だが、駆逐艦一隻でどうしろと。なんだ? 爆弾積んで敵母港に神風特攻か?」
電「ち、違います違います!! 建造したり海で拾ったりして仲間を集めるのです!」
提督「……は?」
電「え、えっと……ですから──」
~駆逐艦説明中~
電「──というコトなのです」
提督「便利だな、これ→」~駆逐艦説明中~
電「はい?」
提督「いや、こっちの話」
提督「まあ、やる事は分かった。最初に頂いた資源もあるし、まずは建造でもするか」
電「はいなのです」
電「……でも、どうして建造なのですか? 海で拾ってきた方が、消費資材が少ないと思うのですが……」
提督「…………」
電「あ……すみませんすみません! 司令官さんに意見をするなんて──」
提督「いや、気にしなくて良い。これからも意見は言ってくれ。私一人の考えでは足りん所もあるからな」
電「え? は、はい」
電(見た目と違ってマトモなお方……なのです)
提督「さぁて、各資材はこんくらいでいいか。頼んだ」
妖精「え、これマジで?」
電「?」
提督「構わんよ。やってくれ」
妖精「まあ、提督が言うのなら……」ガッチャガッチャ
電「あの……資材はいくらご投入を?」
提督「オールナイン」
電「え?」
提督「上限いっぱいとも言う」
電「ええええええええええええええ!!?!」
電「な、何をやってるのですか司令官さん!? 貴重な資源がぁ!!!」
提督「構わんよ」
電(えええ……司令官さん、本気ですか……? 身動き取れなくなっちゃいますよ……?)
電「まともじゃなかったのです……」
提督「よく言われる。ああ、バーナーも使っちゃって」
電「うう……本当に大丈夫なのでしょうか……」
妖精「あたしシーラネ」ゴォォォ
~新しい船が出来ました~
提督「ほう」
電「あわ……あわわわわ……」
金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」
金剛「貴方が提督ですカー?」
提督「ああ。これからよろしく頼む」
金剛「ィエース! 私にまっかせてクダサーイ!」
金剛「そちらのレディのお名前は?」
電「あっ。い、電と申します。金剛さん、これからよろしくお願いします!」
金剛「ハイ! 私の実力、見せてあげるネー!」
金剛「ところで、他の艦娘たちはドコですか?」
提督「いや、この鎮守府は君たち二人しか艦娘は居ないよ」
金剛「……ホワッツ!? どういう事ですカ!?」
電「あの……司令官さんは今日、着任されたばかりなのです……」
電「そして、初めての建造で金剛さんが進水されたのです」
金剛「……と、いうことは資材は」
電「雀の涙しか残ってないのです……」
金剛「Oh……」
金剛(私……来る鎮守府を間違ったのカモしれません……)
提督「では、二人共。早速ですまんが、すぐに出撃準備をしてくれ。旗艦は金剛に任せる」
金剛(大丈夫なのでしょうカ……私達……)
~鎮守府正面海域~
電「あ、あの……司令官さん?」
提督「うん?」
電「ど、どうしてついてきたのですか? 危ないですよ……?」
提督「お前達が戦場に出ているのに、上官である私が安全な場所でのうのうとするのは嫌だ」
提督「それに、無線だけでは分からないモノもある。的確な判断を下すなら前線に立つべきだ」
金剛(言ってる事はマトモなのですガ、そもそもテートクが居なくなったら私達もどうしようもできないデス……)
提督「そら、敵さんのお出ましだ」
金剛・電「!」
提督「総員、戦闘準備。敵影から見るに駆逐艦一隻だが気を緩めるな」
提督「金剛、砲塔をそのまま左に20°調整」
金剛「え?」
提督「敵が射程内に入り次第そのまま斉射」
提督「電はそのままでいい。もし第一射が外れたら撃つから準備だけしておけ」
電「は、はい!」
金剛「わ、わかりマシタ!」
提督「──今だ。金剛、テーッ!!」
金剛「ファ、ファイヤー!」
ロ級「ヒャhhバゴォォン! 轟沈
金剛「おお……」
電「す、凄いのです司令官さん! 金剛さん!」
提督「気を抜くなと言ったはずだが?」
電「あっ──」
提督「沈みたいのか、電」
電「ご、ごめんなさい!!」ビクッ
提督「……分かれば宜しい」
電「あ……」ナデナデ
電(温かい……。司令官さん……変な人で、厳しいけど優しいのです)
提督「…………倒した敵艦から何か浮かんでるな」
金剛「あれは……艦娘のデータですネ。持って帰って実体化させまショー!」
提督「なるほど。だから『拾ってくる』か」
提督「私が回収する。金剛、電は周囲に敵が居ないか索敵をしてくれ」
提督(……敵艦から艦娘のデータが出てくる、か)
提督(まるで艦娘が沈んだのが深海棲艦みたいじゃないか……)
金剛「むっ! テートク! 2時の方向から敵艦が来ますヨ!」
提督「! 数と艦種は」
金剛「軽巡が一隻と……駆逐艦が二隻デス!」
提督「そうか。連戦になるな」
提督「二人共、まだいけるよな?」
電「い、電は全然大丈夫なのです!!」
金剛「テートクのおかげでピンピンしてるヨー!」
提督「良い返事だ。戦闘準備に入れ」
金剛・電「ハイ!」
提督「……なんだあれは。一隻だけ突出してきたぞ」
提督「金剛、さっきは細かく指示をしたが……狙えるか?」
金剛「イエース! この距離ならまず外しまセーン!」
提督「よし。金剛、テーッ!!」
金剛「ファイヤー!」
イ級「ひぃぃッッハアアアア!!!」ヒョイ
金剛「なァッ!?」
提督「チ。避けられたか。よく見てやがる」
提督「電は突貫してくる敵艦を撃て。金剛は奥の軽巡だ」
提督「避ける事も考えて前門と後門で時間差で撃つんだ」
電「電の本気を見るのです!」
イ級「オウフ!」ボゴォン! 中破
後方イ級「!」サッ ドォン! 大破
電「あ、当たったのです!」
金剛「ノー! 敵旗艦を庇われまシタ!」
提督「だが、速度を維持できなくなったみたいだな」
提督「敵から砲撃がくるぞ。総員、衝撃に備えよ!」
電「はわわわわ!!」miss
金剛「シット! 至近弾!!」3ダメージ
提督「反撃だ。奴等の息の根を止め──!?」
提督「チッ……金剛は5時の方へ砲撃! 電は敵旗艦になんとしても当てろ! 挟まれた!!」
金剛「なんですッテ!?」
電「ひぃ!」
駆逐ハ級「奇襲はいいものですたい」
金剛「なんて奴ネ! 主砲、砲撃開始!!」
駆逐ハ級「俺は不可能を可能にsバガァァン! 撃沈
軽巡ホ級「まだだ……まだ終わらんよ!」小破
電「だ、ダメです司令官さん! 止めれません!!」
提督「もう雷撃距離か……。金剛は敵軽巡へ全門斉射。電は魚雷と主砲を残りの駆逐艦へ撃て」
提督「相手の錬度は低いが、気を引き締めろ」
金剛「バーニング──ファイヤー!!」
電「な、なのです!」
軽巡ホ級「馬鹿なぁ……ありえん……有り得んぞぉ!!!」 撃沈
駆逐's「「へべれげッ!」」 撃沈
提督「……周囲に敵影はあるか?」
金剛「──ノー。反応無いデス」
電「…………電の方も何も反応ないです!」
提督「よし……戦闘終了。二人共よくやってくれた」
金剛「……テートク」
提督「うん?」
金剛「ごめんなさい……」
提督「……話が見えないんだが?」
電「? ……?」
金剛「……出撃の際、私はテートクが前線に来るのを見てミステイクだと思いまシタ」
金剛「でも、テートクが指示を出してくれなかったら今頃、私達がこうして居られたかどうか怪しかったデス」
金剛「だから、ごめんなさいテートク」
電「金剛さん……」
提督「気にするな。ここは鎮守府の正面海域。そして初出撃だ。気が緩むのも無理はないだろう」
金剛「でも! それでも私は……間違っていました……。下手をしたら、私達はロストしていたのかもしれまセン……」
提督「……分かった。その件については後で処罰を行う。今は母港に帰ろう」
提督「こうして生きて帰れるのも、二人が居るからこそだ」
金剛「テートク……」
電「司令官さん……」
提督「さて、では帰ろう。だが、索敵を怠るなよ?」
金剛・電「──はいっ!」
~母港~
提督「二人共、燃料と弾薬を補充。そして金剛は風呂を済ませた上で私の部屋に来るように」
金剛・電「ハイ!」
金剛「って、テートク? どうして入渠なんデスカ?」
提督「至近弾を貰っていただろ、金剛」
金剛「でも、資材が……」
提督「足りるだろう?」
金剛「あ、あの……掠り傷ですカラ、私はまだまだ大丈夫デ──」
提督「金剛」
金剛「サ、サー!」ビクッ
提督「私の命令が聞けないと? それとも慢心してそのまま出撃し、沈みたいという願望でもあるというのか?」
金剛「ノ、ノー! 違います! 私はただ──」
提督「異論は認めん。例え掠り傷であったとしてもしっかりと修理をする事」
提督「……その傷が原因で沈んだら、後悔してもしきれなくなる」
提督「指示は以上だ。各員、指示が遂行次第、休息を取るように」
電「は、はい!」
金剛「……はい」
~提督室~
コンコン──。
提督「入れ」
金剛「……金剛、出頭しまシタ」
提督「そうか。少し待っててくれ」
金剛「…………? 何をしているんデスカ?」
提督「報告書だ。先の戦闘での戦果と被害、そして新たに手に入った駆逐艦二隻の進水とかのな。進水は明日だが」
金剛(……出会った時も思いましたケド……テートクは、なぜ死んだ目をしているのでしょうカ)
提督「待たせた。すまない」
金剛「い、いえ!」
提督「そうか。では早速、本題に入らせてもらう」
提督「金剛、お前は私の行動が間違っている思っていた……と言っていたな?」
金剛「……ハイ。ごめんなさい……」
提督「気にするなと言っただろう?」
金剛「それはダメです! それでは、いつかテートクを軽視する者が出てくると思いマス!!」
金剛「だから、ケジメは大事デス!」
提督「……ふむ。確かにそうだな」
提督「……………………処遇を決めた」
提督「金剛、お前を私の私欲に使わせてもらおう」
金剛「────!! ハ……イ……」
金剛(そうデス……テートクも年頃の人デス……)
金剛(本当はディスライクですが、これもケジメ、デス)ギシッ
提督「どこへ座っている。こっちだ。椅子だ」
金剛「……ホワイ?」
提督「いいから、ベッドではなくこっちだ」
金剛「……?」チョコン
提督「じっとしていろよ」
金剛「……あのー、テートク?」
提督「んー?」
金剛「なんで、私の髪をブラッシングしてるのデスか?」
提督「処遇」
金剛「処罰じゃないんですか?」
提督「じゃあこれが罰だ。私への不敬と私への助言。二つ合わせて+-0といった所だろう」
金剛「では、なぜブラッシング?」
提督「金剛の髪を梳きたかったから。言っただろう、私欲に使わせてもらうと」
金剛「プッ……アハハハ!」
提督「どうした、何がおかしい」
金剛「だって、これじゃあ罰にならないじゃないデスカ」
金剛「私、ブラッシングされるの好きですよ」
提督「そうか。じゃあこれからもブラッシングをして良いか?」
金剛「もっちろんデース!」
金剛(テートクのブラッシング、とっても優しくて丁寧デス……気持ち良いネ)
提督「だが、あまり男に髪を触らせるんじゃないぞ?」
金剛「何を言ってるんですか、テートク」
金剛「私、誰にでも触らせる訳じゃありませんヨー?」
提督「……そうか」
金剛「ハイ♪ テートクだからデス!」
提督「……そうか」
金剛「むー……。反応が薄いデース……」
提督「ほら、ブラッシングは終わりだ。しっかりと休息を取るように」
金剛「ぅー……もうちょっとしてほしかったデース……」
提督「あと三十分もすれば食堂が閉まるが?」
金剛「そ、それはテリブルです! テートクも急ぎましょう!!」
提督「あっこら! 私はまだ仕事が──」
金剛「体調管理も仕事の内デース! 栄養をしっかり取らないと、指揮できなくなりマスヨ?」
提督「……そうだな。食堂へ行こう」
~食後、提督室~
提督「ふぅ……。さあ仕事だ」ギシ
金剛「ハイ!」
電「なのです!」
提督「……ところで、どうして二人がここに?」
電「秘書なのです!」
金剛「テートク、私達も手伝いマース!」
提督「ああ……そうか。まだ秘書を任命していなかったな」
提督「だが、秘書は一人しか付ける気がない」
金剛「それじゃあ、どっちか一人デスカ?」
提督「そうなるな」
提督(さて……どっちに任命するべきか……)
提督(…………フタフタサンマル)チラッ
提督「よし。二人共、そこのソファーに座ってくれ」
提督「そのまま私から命令があるまでジッとしている事」
金剛・電「?」
~十分後~
電「…………」コックリコックリ
提督(ふむ、やはり船を漕ぎだしたか)
金剛(あ、ナルホド。まだ幼い電には眠い時間ネ)
電「!!」フルフル
提督「…………」ジッ
電「!!!」ハッ
提督「…………」
電「……………………」ビクビク
提督「電、明日の為にゆっくり休んできなさい」
電「うぅ……ハイ……」トボトボ
提督「ああそうだ、電」
電「……?」
提督「今日一日ご苦労。また明日も私に力を貸してくれ」ナデナデ
電「!」
金剛「!!」
電「ハ、ハイなのです! 司令官さん、金剛さん、お先に失礼します」
ガチャ──パタン
提督「さて、金剛。正式に任命する。私の秘書となり、サポートしてくれ」
金剛「…………あのぅ」
提督「うん?」
金剛「私も……撫でてもらって良いデスか?」
提督「秘書になってくれるのなら」
金剛「ハイ! なります! 高速戦艦金剛、提督の秘書の命、受け取りました!!」
提督「うむ。よろしく頼む」ナデナデ
金剛「はうぅ……」
提督「それでは仕事だ。時間が押している。書類の左上に提出先が書いてあるから、それを分けてくれ」
金剛「ハイ! 任せてくだサーイ!!」
提督「ああすまん。その前に」
金剛「?」
提督「紅茶を淹れてくれ。金剛も喉が渇いたんじゃないか?」
金剛「! 分かりました! 紅茶はとっても得意デース♪」
提督「期待しているよ」
……………………
…………
……
金剛「テートクー、日付が変わりましたヨー」
提督「ん、もうそんな時間か」
提督「金剛、君はもう休んで構わない。ご苦労だった」
金剛「……テートクは?」
提督「私はまだやらねばならない仕事がある。ほら、そこの書類の束とかな」
提督「金剛のおかげで山から盆地くらいにはなった。これからも頼む」
金剛「……終わるまで手伝ってはイケマセンか?」
提督「ならん。体調管理も仕事の内なのだろう?」
提督「朝になったらまだやっていない事を──ああ……失敗した」
金剛「? テートク?」
提督(電に起床時間を伝えるのを忘れていた。参ったな……方法は無くもないが、あまりやりたくない)
金剛「?」
提督「いや、気にするな。独り言だ」
金剛「あの、テートク……私に何か出来る事はアリマセンか?」
提督「……どうした?」
金剛「私、もっとテートクの役に立ちたいデス! だから、何か指示を下サイ!」
提督「……そうか」
提督「じゃあ就寝しろ。起床はマルロクマルマルだ。マルロクサンマルまでに提督室へ来るように」
金剛「ええええええええええ!!!? テートクーッ!!??」
提督「お前はこの小さな鎮守府の最重要艦だ。そして明日も朝から新しい事をする。早めに寝てくれないと困るのだよ」
金剛「ウ。ううー……分かりまシタ……」
金剛「……テートクもしっかりスリープして下さいヨ?」
提督「約束する」
金剛「…………一緒にスリーピングしても──」
提督「金剛」
金剛「ソ、ソーリー!! お先に失礼します!!!」
提督「ああ、おやすみ」
金剛「良い夢を!」
ガチャ──パタン
提督「…………小さなミスは数多く、大きなミスは三つ」
提督「一つ、各資材を浪費した事」
提督「一つ、電に中破した駆逐イ級ではなく軽巡ホ級へ攻撃させた事」
提督「……一つ、金剛に必要以上に気に入られてしまった事」
提督「……やり辛くなるな」
~翌朝~
提督「電、起きているか」コンコン
……………………。
提督「…………」コンコンコン
電『わひゃあ!? はっはい!! どなたですか!?』
提督「私だ。起きたか?」
電『し、司令官さん!? ご、ごめんなさい! 寝過ごしてしまいました!!』
提督「いや、起床時刻を伝えていなかった私のミスだ。それに、寝過ごしてはいないから安心しておけ」
電『は、はい……ありがとうございます……』
提督「三十分後のマルロクサンマルに提督室へ来るように。今日進水する駆逐艦達を紹介する」
……………………
…………
……
提督「今日進水した二隻の駆逐艦を紹介する」
雷「雷よ。カミナリじゃないわ。そこのとこもよろしく頼むわね!」
響「響だよ。その活躍ぶりから、不死鳥の通り名もあるよ」
電「雷ちゃん! 響ちゃん!」
金剛「知り合いデスか?」
電「はい! 姉妹艦なのです!」
雷「元気みたいね! 良い事よ!」
響「見た所、暁は居ないみたいだね。すぐに会えるかな」
提督「安心しろ。すぐとは言わないが、見つけよう」
雷「さっすが司令官! 頼りになるわ!」
響「司令官、スパスィーバ」
金剛「…………」
提督「そんなに悲しそうな目で見るな。どれくらい時間が掛かるか分からんが、金剛の姉妹艦も見つけるよ」
金剛「……約束デスよ?」
提督「ああ、約束だ」
金剛「──アハッ。センキュー、テートク♪」
提督「…………」
金剛「?」
提督「さて、と。進水して間もないんだが、君たち駆逐艦は遠征してもらう」
金剛(テートク、一瞬だったけど……すっごく悲しそうな顔してた……)
雷「遠征?」
響「資源はとても大事だからね。遠征で資源を拾ってこなければ、すぐに枯渇してしまうだろう」
提督「…………」
響「? 司令官?」
電「あの……あ、あの……」
電「……既に、ほとんど枯渇状態なのです」
雷・響「……え?」
~駆逐艦説明中~
雷「オールナインって……」
響「どうしてだい、司令官?」
提督「深い意味は無い。強いて言うなら、直感だな」
提督「だが、そのおかげで金剛が早期にここへ来てくれた」
金剛「ヨロシクね!」
響「……司令官、ちょっと良いかな」
提督「許可する」
響「見た所、母港もまだまだ小さい。そして資材は枯渇寸前と聞く」
響「戦艦である彼女をまともに運用できるのかい?」
金剛「────っ」ビクッ
提督「できんよ」
金剛「あ……」
提督「だから、君たち駆逐艦には遠征に出てもらう」
提督「その間、金剛は母港を守ってもらおう。だが、ジッとさせる訳ではない」
提督「装備の開発や秘書としての仕事もある。彼女には資材のあまり掛からない仕事を任せる気だ」
金剛「テートク……」
提督「──この鎮守府はまだまだ弱小だ。この国の明日の為に協力してくれ」
雷「勿論よ司令官! もーっと私を頼りにしても良いのよ?」
響「…………」
提督「まあ、それは建前だ」
電「建前なのですか!?」
響「たて……まえ……」
提督「当たり前だ。国の為など二の次。一番はお前達を誰一人とて沈ませず戦争を抜け出すことしか考えていない」
響「……それは、司令官としてどうなのかな?」
提督「知らん。ここは私の城だ。私のやりたいようにやらせてもらう」
提督「それに、上も私へ大して期待しておらんよ。尻尾さえ振っておけば後はどうとでもやれる」
提督「例え、駆逐艦一隻を犠牲にして敵主力戦艦を五隻討ち取れる戦況でも、私は撤退命令を出す」
響「エゴだね」
提督「エゴの塊だよ、私は」
響「……司令官としては最底辺だね」
電「響ちゃん!?」
響「でも、嫌いじゃない。むしろ好ましい」
響「司令官、作戦指示を。私は司令官の為に動きたい」
提督「ああ。だが、その前に──」
────────────。
響「なっ……ななななななんで!? なんで私は吊るされてるんだ!?」
提督「上官への暴言は許されるものではない」
提督「むしろこの程度で良かったと思え」
電「ひ、響ちゃあああん!!!」
雷「──あ、下着が見えそうね」
金剛「……プリティピンク」
響「ッ!?」ビクッ
響「さ、流石にこれは……恥ずかしいな……」
提督「反省はしたか?」
響「……もし、していないと言ったら?」
提督「そうか」クルクル
響「あ、あああ……! た、たたた高くなった!?」
雷「完全に丸見えになったわね」
電「はわわわわわわ!!」
響「ひぅっ!!」
金剛「テ、テートク……そろそろ降ろしてあげては?」
提督「…………」チラ
金剛「!!」ビクッ
提督「……あと二分吊るしておこう」
響「ううう……」
~二分後~
響「たった二分だったのに……物凄く長かった……」
電「だ、だだ大丈夫ですか、響ちゃん!?」
響「ん、ああ。どこも痛くないよ。……心はちょっと傷ついたけどね」
提督「…………」ジッ
響「!! し、司令官! 先程の暴言、申し訳ありませんでした!!」
提督「……本当に身体は痛くないか?」
響「え? はい……どこも痛くないですけど……」
提督「ならば良し。駆逐艦達は十分……いや、二十分後までに遠征準備をして第二艦隊船着場へ集まるように」
提督「私は先に待っている」
電「……響ちゃん、本当にどこも痛くないのですか?」
響「うん? ああ、ほら、毛布に包んで縛られていただろう? どこも痛くないよ」
電「え、毛布……?」
雷「あら、電ったら気付いてなかったの?」
電「あうう……」
金剛「バット、どうして大人しく吊るされたのですか? 縛られたのは隣の部屋デスから、詳しくは分からないのデスけど」
響「あ、ああ……それは……」
提督『抵抗すれば撃つ。言葉を発しても撃つ。大人しく縛られるのと、私にこの部屋を大規模な掃除をさせるのとどっちが良いか選びたまえ』
響「──と、リボルバーを眉間に当てられて……」
金剛・電・雷(怖ーーーー!!!!!)
響「ハッタリなのは分かっていたから抵抗も出来たけど、従うことにしたよ」
雷「ハッタリ?」
響「弾倉に弾が入ってないのが見えたんだ。間違っても弾が出ないようにする為だと思うよ」
電「心臓に悪いのです……」
響「──っと、毛布が汚れてしまったね。不用意に床へ置くんじゃなかった」
金剛「あ……」
響「うん?」
金剛「い、いえ。なんでもないデース!」
金剛「その毛布、皆が遠征に出てる間に洗っておくヨー」
響「ん、了解した。頼んだよ」
金剛「まっかせなサーイ!!」
金剛(……この毛布、提督のベッドにあった物なのデス。という事は……)
~その夜~
提督「ふむ……仕事は終わりか」
金剛「途中でスコールになって、遠征も練習だけで切り上げちゃいましたからネー」
提督「あれはかなりの痛手だった。特に燃料が痛いな」
金剛「どうにかしてやりくりしないとイケマセンねー……」
提督「そこは上へ申請して少し多めに頂く事にする」
提督「今回の遠征、敵艦が現れて至近弾をいくつか貰っただろう?」
金剛「え? ハイ……」
提督「損傷箇所をいくつかでっち上げておいた。修理に使った燃料と鋼材を余分に要求したよ」
金剛「そ、それって大丈夫なんデスか!?」
提督「無論ダメだ。だが、現場に居た人間しか分からないくらいの水増しだ。まずバレんよ」
金剛「ほええ……」
提督「金剛、分かってはいると思うが──」
金剛「ハイ! 私は提督の味方デス!」
提督「感謝する」
提督「それでは、今日の仕事は全て終了。金剛、部屋に戻って休息を取れ」
金剛「ハイ!」
ガチャ──パタン
提督「……寒いな。毛布は乾いてないし、代えの毛布を備蓄倉庫へ取りに行くか」
~倉庫物色中~
提督「無い……だと……?」
提督「仕方が無い……。風邪を引かないようにしなければ……」
ガチャ──パタン
提督「うん?」
金剛「おかえりなさい、テートク!」
提督「…………なぜここに居る」
金剛「ちゃんと毛布を取りに自室に戻りまシタ」
金剛「そして、休息を取る為にここへ来まシタ」
提督「私が聞きたいのはそういう事ではない。どうしてここで寝ようと思っているんだ」
金剛「だって、テートクの毛布が乾いてまセン」
提督「備蓄倉庫から取ってくる。だから自分の部屋へ──」
金剛「午前中に備蓄倉庫を確認しましたケド、毛布なんて無かったデス」
金剛「毛布は一枚。加えて寒い中にこのスコール。私達の二人が風邪を引かない為には一緒に寝るしかないデス」
提督「……分かった。私は毛布無しで寝る。だから──」
金剛「テートクが風邪を引いてしまったら、明日の仕事に影響が出てしまいマス」
提督「暖房を使って──」
金剛「暖房用の燃料、まだ無いですよネ?」
提督「代えの服ならある。それを何枚か着て──」
金剛「三着しかないデス。それでは風邪を引いてしまいマス」
提督「……はぁ。参った。降参だ」
金剛「ヤッタ! 私の勝ちネ! テートクー、カムヒアー!」
提督「帽子と上着くらいは脱がせてくれ。皺が付く」
提督「それと、私は男だと分かっているよな?」
金剛「勿論デスよ?」
提督「……自分の身の安全を考えないのか?」
金剛「テートクはそんな事しまセン! それはこの間の処遇で知っていマース!」
提督「分からんぞ。仮に金剛の予想が外れて襲ったらどうする」
金剛「襲われたらデスか? うーん……」
金剛「……テートクなら、受け入れちゃうかもしれまセン。アハッ」
提督「冗談でもそういう事を言うもんじゃない」コツン
金剛「アウチッ。むー……テートク、ノリが悪いデース……」
提督「まったくお前というヤツは……」
提督「電気、消すぞ」
金剛「ハイ。準備オッケーデース!」
提督「何の準備だか……」
提督「それじゃあ、失礼する」モゾ
金剛「アンッ」
提督「ソファーで寝る」
金剛「ジョークですってばテートクー!」
提督「次は無い」モゾ
金剛「はーい……」
金剛「……ねぇ、テートク」
提督「なんだ?」
金剛「テートクはやっぱり優しいデス」
提督「とんだ勘違いだな」
金剛「私の中では優しい人デス」
提督「……そうか」
金剛「響に罰を与える時も、痛くないように毛布を使ってましたし」
金剛「吊るしている時も、響の表情をずっと見て苦痛がないかどうか確認していました」
提督「そうか、そう見えたか」
金剛「遠征の準備も、五分で終わるものに二十分もくれました」
金剛「充分に響へフォローできる時間です」
提督「…………」
金剛「他にも、響へ銃を突きつけたと聞きましたが、弾が入ってなかったそうです」
提督「万が一にも誤射しない為だ」
金剛「本当に脅すなら弾が入っていないと意味がないです」
提督「…………」
金剛「そして、さっきも私を気遣ってくれました」
提督「当然だろ」
金剛「私は──私達は、提督の道具です。本来だったら気遣う必要なんてないです」
提督「私のやりたいようにやっているだけだ」
金剛「気遣ってくれてるのは、今もです」
提督「…………」
金剛「提督、背中を向けてくださってます。私を少しでも安心させる為です」
提督「……………………」
提督「勘の良いヤツだ」
金剛「あはっ」
金剛「提督、こっちを向いてください。背中を眺めるのは、寂しいです」
提督「…………」
金剛「向いてくれなかったら、私がそっちへ行きますよ?」
提督「分かった分かった……」モゾ
金剛「提督♪」ギュー
提督「む」
金剛「やっぱり、あったかいです……。提督も抱き締めてください」
提督「……拒否権は」
金剛「ありません!」
提督「……分かったよ」ギゥ
金剛「あはっ。あったかい……」
金剛「ここ最近で、一番心を落ち着けて眠れそうです……」
提督「……そうか」
金剛「はい。提督、おやすみなさい……良い夢を」
提督「おやすみ」
提督「……………………」
提督(……困ったなぁ。本当、困った……)
~翌朝~
金剛「ん……」
提督「おはよう、金剛」
金剛「てーとく……?」
金剛(なんでテートクが私の部屋……じゃない!)
金剛(そうでシタ! 私、テートクと一夜を──)ガバッ
金剛「いち、やを……」
金剛「あうあうあう……! あう……?」
提督「どうした金剛」
金剛「……テートク、お仕事デスか?」
提督「ああ。午前中に終わらせておきたいからな」
金剛「…………」
金剛(テートク、ロマンチックじゃないデース……)
金剛「って、午前中に?」
提督「そうだ。今日一日は全員に暇を出しておいた。この濃霧じゃ出撃なぞできんよ」
提督「加えて資材が枯渇する寸前だ。資材は明日届くから、どっちにしろ明日じゃないと動けん」
金剛「ナルホドー」
提督「まあ、何もしない訳にはいかないからな。何か装備でも作っておこうか」
提督「ところで金剛、顔を洗ってきた方が良いんじゃないか? まだ軽く寝惚けているように見えるが」
金剛「え? いえそんな事は──」
提督「そうだな、ゆっくりと時間を掛けてきて良いぞ。今日は時間があるからな。秘書の仕事はそれからだ」
金剛「! ハイ! 行ってきマース!」
ガチャ──パタン
金剛(って、テートクはどうして私が朝にバスタイムするの知ってるのでしょうカ……?)
金剛(……………………そういえば、書類が半分終わってましたネ)
金剛(今は……マルロクマルマル。という事は、最低でも一時間前には起きていたのデスか)
金剛(私の部屋からシャワー室へ行くにはテートクの部屋の前を通らないと行けナイ)
金剛(だから、私が朝にバスタイムを知っているのデスか)
金剛「……昨日の仕返しデスかね? ふふっ」
金剛「──楽しいデス」
……………………
…………
……
~工廠~
提督「で、だ……金剛」
金剛「ワオ……」
提督「お前、何やった?」
金剛「何もやってないデスよ……?」
提督「じゃあなんで、妖精達は建造してるんだ……?」
金剛「提督のご指示じゃなかったんですか……?」
提督「いや、私じゃない……勿論、秘書以外の者が建造に関わる事もできない」
金剛「…………」
提督「…………」
金剛「これ、どう見ても空母デスよね?」
提督「……ああ、それも正規空母だな」
妖精「お、やあ提督」
提督「……何を造ってるんだ?」
妖精「空母」
提督「資材はどこから?」
妖精「港に沈んでた艦をリサイクル」
提督「…………どうやって?」
妖精「あたし達にできない事なんて……一杯あるけど、これくらいならできるよ」
妖精「昨日、提督が駆逐艦達を思いながら遠征練習してるのに心を打たれちゃってね。」
妖精「いやぁ、良かったよアレ! 『資材を持って帰れないと判断したら資材を捨ててでも帰ってこい』なんてさ!!」
妖精「ありゃあ普通の提督には言えないよ」
提督(そうなのか……?)
金剛(たしかに、死んでも持って帰ってこいって言う人がほとんどでしたケド……)
妖精「という訳で、あたし達からのプレゼント。おお、丁度出来たっぽいね」
瑞鶴「──はじめまして! 翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です!」
提督「」
金剛「」
瑞鶴「って、あ、あれ?」
妖精「ふふん。ちょっと本気出しました。どうせなら良いモノをプレゼントしたいしね」
提督・金剛「どうしよう……」
妖精「……あれ? お気に召さなかった?」
提督「いや、こんなに難しい船を造ってくれて物凄くありがたい」
金剛「だけどネ、妖精さん……」ピラッ
妖精「うん? 資材倉庫の情報紙? ……え?」
瑞鶴「なになに? 見せて?」
瑞鶴「……うわぁ」
妖精「これ、運用できないじゃん……」
瑞鶴「え……私、来るところ間違えた……?」
金剛(私と全く同じコト考えてマスね……)
妖精「ま、まあ! ここからは提督の腕の見せ所ということで……さいならー!!!」
瑞鶴「……提督さん、大丈夫?」
提督「どうしよう……ホントどうしよう……」
瑞鶴「ですよね……」
金剛「駆逐艦達に遠征を頑張ってもらいまショウ……」
提督「それしかないな……」
瑞鶴「……ちなみに、なんだけど……ここの艦娘保有数は?」
金剛「駆逐艦三隻と、私達だけデース……」
瑞鶴「…………詰んでるじゃないの!?」
提督「……金剛、駆逐艦たち全員に伝えてくれ」
提督「ヒトサンマルマルから作戦会議……それも非常に重要な、と……」
金剛「分かりまシタ……」
瑞鶴「…………」
提督「…………」
瑞鶴「……提督さん、どうする? あの……なんだったら解体しても──」
提督「それは認めない」
提督「それとも、瑞鶴は解体されたいのか?」
瑞鶴「そりゃ……嫌だけど……」
提督「ならばそれが答えだ。私はお前を解体しない」
瑞鶴「……どうやっても極貧生活になるわよ?」
提督「いくら普通の女の子になるからといって、解体で悲しそうな顔をする艦娘を見たくない」
瑞鶴「……エゴね」
提督「エゴの塊だよ、私は」
瑞鶴「加えて大馬鹿だと思うわ。この先、上手くやって極貧生活。下手を打ったら敵に殺されるっていうのに──」
グチグチグチグチグチグチグチ。
提督「…………そうかそうか」
瑞鶴「──え? あ……」
……………………
…………
……
雷「休みが作戦会議になるくらい重要な事って何かしら?」
電「きっと、とっても大変な事があったのです」
響「それだと緊急召集を掛けると思うけど……うん?」
瑞鶴『たーすーけーてー!!』
電「だ、誰かの悲鳴が聞こえてくるのです!」
雷「行きましょう!!」
響「……なぜだろう。とても同情したくなる声だ」
~提督室隣の部屋~
電「ここなのです!」
雷「えいやーっ!!」バターン!
瑞鶴「あ、た、助け──いや待って! まず見ないでぇ!!」
雷「吊るされてる……」
電「響ちゃんみたいになってるのです……」
響「提督、何があったんだい?」
提督「八分に渡る上官への暴言、侮辱、その他諸々の罪で吊るし上げた」
瑞鶴「だ、だからってこんな辱め──」
提督「時間追加」
瑞鶴「ひぃっ!?」
金剛(瑞鶴さん……同情するネ……)
電「…………」
雷「あーあ……司令官を怒らせちゃったのね」
響「むしろ八分もよく続けれたと思うよ。私にはできない」
瑞鶴「だ、だって……」
響「安心して良い。私も吊るされた。昨日」
響「それにしても、そこまで言ったのなら、どうして懲役刑じゃないんだい?」
瑞鶴「!?」
響「いやむしろ、そんなに長々と言ったのならその場で銃殺してもおかしくないと思うんだけど」
瑞鶴「!!?」
提督「知らん。私はそんな腐った法に従う気はない」
提督「この鎮守府内だけだがな」
瑞鶴「それはそれでどうなの提督さん……」
提督「そうか」
瑞鶴「わぁぁああ!! 嘘嘘! ごめんなさい!!!」
提督「嘘をついてまで私を貶めたかったのか?」
瑞鶴「あの……その……」
提督「…………」ジッ
瑞鶴「えっと……う……」
提督「…………」ジッ
瑞鶴「ぅ、ううう……」ジワ
提督「ところで皆、もうすぐヒトサンマルマルだが?」
全員「!!」ビクゥ
雷「は、はいい!!」
電「い、急ぐのです!!」
響「もうあんな思いはゴメン!!!」
金剛「あ、あの、私もですか?」
提督「うむ」
金剛「オ、オーケー!! テートクも程ほどにネー!?」
──パタン
瑞鶴「うぅ……うえぇ……」ポロポロ
提督「…………」クルクルホドキホドキ
瑞鶴「ぐすっ……?」
提督「悪かった。もしかして痛かったのか?」
瑞鶴「…………」フルフル
提督「本当だな?」
瑞鶴「…………」コクン
提督「そうか……。泣くほど嫌がるとは思っていなかった。すまない」
瑞鶴「う……」ジワッ
瑞鶴「うう~~ッッ!!!」
提督「っとと?」
提督(なぜ抱き付いてきた……)
瑞鶴「教えて……どうしてこんなに罰が甘いの……」
提督「さっきも言っただろう。私はあんな法に従うつもりはない」
瑞鶴「……それだけ?」
提督「建造直後とはいえ、既にお前は私の艦だ。誰が捕まえたり殺したりするものか」
瑞鶴「でも……私はあんなに沢山……」
提督「だから罰を与えた。充分に恥ずかしかっただろう」
瑞鶴「そりゃ……そうだけど……」
提督「…………」
提督「……私は、悲しまれたりするのが苦手なんだよ」
瑞鶴「……?」
提督「本当なら気にするなと言ってやりたい。だが、それではダメだと秘書に叱られてしまってね」
提督「だから、こうしてケジメをつけている。吊るされるのは嫌だろう?」
瑞鶴「…………」コク
提督「それに……お前を刑に処したら、姉の翔鶴がやってきた時に悲しむ」
瑞鶴「…………」
瑞鶴「……優しすぎ」
提督「悪いか?」
瑞鶴「ううん……そういうの、好き……」
提督「ところで、顔を洗ってきた方が良いだろう。抱き付くのもそろそろ止めておいた方が良い」
瑞鶴「え?」
提督「ん?」
瑞鶴「…………」
瑞鶴「──ピィッッッッ!?!!??!」ビックゥ
瑞鶴「ご、ごごごごごごめんなさいいいい!!!!!!!」ダッシュ
提督「…………嵐のような娘だ」
~一方、隣では~
電「い、いいいい今、とんでもない声が聴こえてきたのです……!」ビクビク
雷「何をやったのかしら、提督……」オドオド
響「まるで鴨の首を絞めたかのような声だったね……」ガタガタガタ
金剛(気になりマース……)
……………………
…………
……
提督「さて、諸君」
金剛・瑞鶴・電・雷・響「ハイ!!!」ビシィッ
提督「……これから作戦会議を行う。議題は『不足している資材の調達方法』についてだ」
金剛・瑞鶴・電・雷・響「────」ピシッ
提督(やたら皆気合が入っているな……)
提督「手元の資料を見て貰えば一目瞭然だが、現在この鎮守府の資材は枯渇寸前となっている」
提督「運用できて駆逐艦三隻が限界だろう。だが、駆逐艦達には遠征をしてもらわなければならない」
提督「この現状を打破するに有効な手段が無い。そこで、諸君らにも知恵を分けて欲しい」
提督「何でも良い。思いついた者は手を挙げて述べてくれ」
電「あの……資材が集まるまで遠征のみというのはどうですか?」
提督「一番確実で効率が良い意見だ。だが、昨日のように敵艦が近くに居る可能性が高い」
提督「そこを狙われて轟沈してしまったら、それこそこの鎮守府は終わりだ」
雷「はい! 護衛に金剛さんを付けるのはどう、司令官?」
提督「それだとマイナスになってしまう。この近海で得られる資源は少なくてな……」
響「夜、海岸を影にして遠征をするのはどうだろう?」
響「私達が昼に寝れば、夜を通しての遠征ならできると思うよ」
提督「ふむ……。これを見てくれ」
響「これは?」
提督「本部からの情報だ。夜になると、赤や黄のオーラを纏った敵艦が複数出没するらしい」
提督「奴等の戦闘能力は非常に高いものとされるようだ。重巡が駆逐艦に落とされたという報告もある程だ」
響「これは……提督は許可してくれそうにないね」
提督「うむ」
提督「何度でも言うが、資材を持って帰れないと判断したら資材を捨ててでも帰ってこい」
瑞鶴「資源を捨ててでもって……貴重なんでしょう?」
提督「資源など時間を掛ければいくらでも手に入る」
提督「だが、君達は君達しか居ない。例え同じ設計図で組み立てても、それは彼女等であって君達ではない」
金剛「提督……」
金剛「ぁ──」
瑞鶴「あの、良いです?」
金剛(──の……)
瑞鶴「ちょっと賭けになっちゃうのがネックなんですけど、艦娘を増やすのはどう?」
提督「増やす?」
瑞鶴「敵艦を撃破すれば艦娘のデータが手に入るでしょう? 初期投資という事で、海からデータを拾ってくる」
瑞鶴「修理や補充ができなくなるのは痛いけど、艦隊を二つに分けて出撃すれば、二倍のチャンスが巡ってくるわ」
瑞鶴「近海の敵も減らせる。新たに手に入った艦娘で遠征も出せる」
提督「…………」
瑞鶴「ど、どう……?」ビクビク
提督「……保留。他にも良い案が無いか考えてから検討しよう」
提督「いや、むしろこの案を基にどう動くか考えた方が良いだろう」
金剛「!」
瑞鶴「やった!」
提督「金剛、何か他に案はあるか?」
金剛「え、あ……その……」
金剛「……無いです」
提督「…………そうか。では、瑞鶴の案を基に話を進めよう」
金剛(大体同じ案だったけど、瑞鶴の方がしっかりとしていました……)
金剛(劣化の案なんて、言えません……)
提督「…………」
……………………
…………
……
響「提督、この子→ID:KIphuwbUo どうする?」
提督「無論……」
瑞鶴「私と同じ目によ!!」ブラーンブラーン
金剛(また何かやったのデスか)
提督「──よし、練り固まったという所だろう。諸君、お疲れ」
提督「この会議での作戦を明日までに頭に叩き込んでおく事。良いな?」
瑞鶴・電・雷・響「ハイ!!!」
提督「……宜しい。では各自自由行動」
提督「ああ金剛、お前だけは残ってくれ」
金剛「……え?」
提督「お前は私の秘書だ。やってもらいたい事がある」
金剛「──ハイ」
提督「駆逐艦達は瑞鶴にこの鎮守府の案内をしてやってくれ」
雷「はーい、司令官。瑞鶴さん、いっきますよー!」
瑞鶴「あ、こ、こら。引っ張ったら──」
──パタン
提督「……さて、人払いは済ませた」
金剛「!」ビクッ
提督「金剛、私が何を言いたいのか分かるか?」
金剛「……私は、役立たずでシタ」
金剛「ろくな案も出せず……かといって煮詰めることも、本当に何も出来なかったです……」
金剛「ごめんなさい……提督……」
金剛「私、役に立てなかった……」
提督「ああ、違う」
金剛「──え?」
提督「私が言いたかったのはそうじゃない」
提督「だが、聞きたかった事が聞けた」
金剛「? …………?」
提督「会議中、何か思い詰めてるようだったからな。気になっていた」
提督「悲しい顔をさせたk……いや、聞き流してくれ」
提督「ゴホン。明日の作戦に支障が出るからな。ケアが必要だ」
金剛「…………」
提督「……どうした? ノーマル駆逐艦からクリティカルを貰ったかのような顔をして」
金剛「あははっ。なんでもないデス」
金剛「涙、ひっこみまシタ!」
提督「良い事だ。泣くのは嬉しい時だけで良い」
金剛「ふふっ、そうさせて下さいネ、テートク♪」
金剛「I don't mind that everthing is a lie」
提督「む?」
金剛「As long as I love you forever」
提督「……流暢だな。聞き取れなかった」
金剛「内緒デース♪」
金剛「ただ……一つ言うなら」
金剛「私、こんなに惚れやすくないはずなんですけどね」
提督「……………………」
金剛「それじゃあ、グッナイ提督♪」
──パタン
提督「…………は?」
カチャ……
金剛「あのぅ……」
提督「……なんだ?」
金剛「髪、梳いてくれますか?」
提督「……さっき良い夢をって言わなかったか?」
金剛「ぅー……」
提督「…………」
金剛「ダメ、ですか?」
提督「……椅子に座りなさい」
金剛「ヤッター!」チョコン
提督「嬉しそうだな」
金剛「そりゃあモッチロン!」
金剛「んー♪ やっぱり気持ち良いデース♪」
提督「そんなに良いのか……?」
金剛「ハイ! 提督のブラッシングは優しくて丁寧デス!」
金剛「もう私、テートクの虜ですヨー?」
提督「冗談……じゃないんだよな?」
金剛「おっ。テートクはコミックスとかでよくある都合の良い難聴はないみたいですね」
提督「なんだそれ」
金剛「告白とカー、それに順ずる言葉ダケ聴こえなくなる現象デス」
提督「もはやそれって分かっててやってるだろ」
金剛「まあ、コミックスですからネー」
提督「それもそうだな」
金剛「ネー、テートクー」
提督「うん?」
金剛「今日も一緒にスリーピングして──」
ガタッ!
金剛「!?」
提督「……誰だ? 現れなかった場合、明日、全員を縛り上げて──」
ガチャ──パタン!
瑞鶴「わ、私です!」
金剛「瑞鶴?」
提督「……無断で部屋に入ってきた事についてだが」
瑞鶴「あぁっ!? ご、ごめんなさい!!!」ビクビク
提督「いや、現れろと言ったのは私だ。不問にする」
提督「だが、どうして盗み聞きしていた?」
瑞鶴「それは……その……」
瑞鶴「えっと……ですね……」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ひゃいッ!?」
提督「……………………」
瑞鶴「ぅ……」ビクビク
提督「話せ」
瑞鶴「はいぃ……」
金剛(ちょっとだけ可哀想デス……)
瑞鶴「あの……この通路を通ろうとした時、金剛さんが入っていくのが見えたの」
瑞鶴「なんだかすっごい笑顔だったから、つい気になって……」
金剛「あ、あぅぅぅ……」
瑞鶴「えっと……差し支えなければ聞いても、良いですか?」
提督「…………」チラ
金剛「…………………………」コク
提督「髪を梳いてくれとねだってきたので梳いている」
金剛「ス、ストレート過ぎですよ提督ー!!」
提督「回りくどく言った方が良かったか?」
金剛「…………いえ、このままの方が良かったデス」
瑞鶴「……仲が良いですね」
提督「懐かれてしまってな」
金剛「懐いてるんじゃありまセン。惚れているんデス」
瑞鶴「なぁ!?」
提督「お前の方がストレートじゃないか……」
金剛「開き直りまシタ!」
提督「……女心は分からん」
瑞鶴「……あの」
提督「うん?」
瑞鶴「私も立候補して良いですか」
金剛「ホワッツ!?」
提督「…………」
金剛「ど、どうしてですか!? 貴女、今日来たばっかりじゃないですか!!」
提督「それ、昨日来たばかりのお前が言えるか……?」
金剛「……あー…………」
瑞鶴「分からないんです」
提督「ん?」
瑞鶴「なんか、金剛さんが提督さんと……その……恋仲、になるのがとても嫌って思って……」
瑞鶴「でも、提督さんの事が好きかって言われたら、合ってるような違うような……良く分からないの」
提督「…………」
瑞鶴「だから、金剛さんが提督さんと恋仲になる立候補をするなら、私も──」
提督「話の途中ですまんが、一つ言わせてくれ」
瑞鶴「え?」
提督「私は金剛の想いを受け入れるともなんとも言っていないし、そもそもハッキリとした……いわゆる告白は受けていない」
金剛(言いましたのにー……)
提督「そもそも、私にとって二人は昨日今日、出会ったばかりなんだ」
提督「そんな出会ってすぐ決めれるほど飢えておらんよ」
提督「金剛がそこの所をどう思っているのか知らないが……」
金剛「アピールするだけですよ。私は食らいついたら放さないんだから!」
金剛「あ、でも、嫌がってたら流石に諦めますケドね」
金剛「提督が振り向いてくれるまで、ささやかに想い続けます」
提督「…………分かった。憶えておく」
提督「瑞鶴もそれで良いか?」
瑞鶴「え? は、はい……」
提督「それじゃあ二人共、今日は解散。明日に備えよ」
金剛「ハーイ」
瑞鶴(…………?)
瑞鶴(なんか、無理矢理に追い出そうとしてる……?)
──パタン
提督(…………はぁ)
提督(本当に困った……)
提督(……………………やりづらい……)
~翌日~
響「晴れたね」
提督「ああ、晴れたな」
提督「──これより第一艦隊、第二艦隊に分かれ、南西諸島沖に向けて出撃してもらう」
提督「第一艦隊は瑞鶴、電、雷」
瑞鶴・電「はい!」
提督「第二艦隊は金剛、響」
金剛・響「ハイ!」
提督「昨日も言ったが、今から言う事は何がなんでも守れ」
提督「『まだいける』と思ったらもう危ない。そして『もう危ない』と思ったらいつ沈んでもおかしくないと思え」
提督「慢心は死を招く。海の上では気を抜くな」
全員「はい!!」
提督「金剛、響。私の留守中、母港を守ってくれ」
金剛・響「ハイ!」
提督「出撃する。第一艦隊、出撃」
~南西諸島沖~
瑞鶴「……普通に出てきたからなんとも思わなかったけど」
雷「どうして司令官も一緒に来てるの?」
提督「電は知ってるが、お前達が戦場に出ているのに、上官である私が安全な場所でのうのうとするのは嫌だ」
提督「あと、無線だけでは分からないモノもある。的確な判断を下すなら前線に立つべきだ」
瑞鶴「もっともだけど、危なくないかしら……」
瑞鶴「提督さんが居なくなったら、私たち何もできなくなるわよ?」
提督「だからこその指示だ」
雷「? どういう事?」
提督「……本当は演習で経験を積ませるのが良いんだが、何せ資源が無いからな。私のせいで」
瑞鶴・電・雷(認めてたんだ……)
提督「それゆえ、今の艦隊は錬度が低い」
提督「それを補うために、私が直接指示を出しているんだ」
提督「正直に言うと、さっきのは建前だ。錬度が高くなれば無線で指示をする方向に切り替わるかもな」
電「かも……ですか? それは、ずっとこのまま一緒に海へ出るかもしれないという事ですか?」
提督「……よく聞いているな、電。そういう事だ」
提督「人間、誰しも矛盾した心を持っている」
提督「私の言った建前も、本当の理由も、どっちも私の本心なんだ」
提督「そして、どちらも──む」
瑞鶴「! 船の影! 偵察機、飛ばします!」
……………………。
提督「……敵か。数と艦種は」
瑞鶴「数は2。駆逐ロ級とイ級です!」
提督「総員、戦闘準備開始。瑞鶴、攻撃機と爆撃機は飛ばせるか?」
瑞鶴「いつでも!」
提督「良い返事だ。飛ばせ」
瑞鶴「はい! 皆、アウトレンジで決めてよね!!」
艦爆妖精「任せろ嬢ちゃん」
艦攻妖精「……敵艦確認。沈めます」
艦戦妖精「今回は休みなのー」
ブゥゥゥン……ッドォォォオオン!!!!
瑞鶴「……敵艦、全滅させたみたいよ」
提督「よくやった瑞鶴。流石だな」
瑞鶴「──あ」
瑞鶴(……胸が高鳴るくらい、すっごく嬉しい)
雷「おおお!!! 凄い凄い!! 射程距離に入る前にやっつけた!!」
雷「これが瑞鶴を先に出させた理由かー」
提督「そうだ。射程外から一方的に攻撃できるのは、とてつもない武器だ」
提督「ところで、瑞鶴、雷」
瑞鶴・雷「?」
提督「電の方を見てみろ」
電「他に敵は居ないみたいです──って、はい?」
提督「二人がしていなかった索敵を、電は一人やっていた」
瑞鶴・雷「あ……」
提督「出撃前、私が言っていた事を暗唱せよ!」
瑞鶴・雷「ヒッ──! 『慢心は死を招く。海の上では気を抜くな』です!!」
提督「うむ、よく憶えていた。そして、さっきの君達はどうだったか答えてくれ」
瑞鶴・雷「慢心していました!! 申し訳ありません!!!」
提督「そうか。よほど海の底へ沈みたいようだ」
瑞鶴・雷「────!!」ガクガクブルブル
提督「処罰は帰ってから行う。だが、私も鬼ではない」
提督「先程の行為を覆すほどの活躍を見せてくれたら、処罰は無しとしよう」
瑞鶴・雷「ありがとうございます!!」
提督「うむ。良い働きを期待しているよ」
電(凄いのです……! 緩んでいた緊張の糸をすぐさま張り直したのです!!)
電(凄いなぁ……司令官さん)
電(そして、瑞鶴さんのあうとれんじ攻撃も凄いのです! これだったら被害が最小限なのです!)
……………………
…………
……
瑞鶴「むっ! 敵艦と思われる影を確認しました!!」
瑞鶴「──偵察機の報告によりますと、軽巡、雷巡が各一隻、駆逐が三隻のようです!!」
瑞鶴「飛ばしましょうか」
提督「意味は伝わるが、必要箇所を省略するな。それが元となって伝達に齟齬が発生する」
瑞鶴「は、はい!! 失礼しました!」
提督「ちなみに、各艦の大きさ、陣形は?」
瑞鶴「軽巡がへ級。雷巡がチ級。駆逐はロ級一隻、ハ級が二隻。陣形は単縦陣のようです」
提督「ふむ……陣形はこのまま維持。まずはハ級の二隻を艦爆、艦攻で攻撃しろ」
瑞鶴「え? は、はい」
艦爆妖精「いいのかい提督さん? 真っ二つにしてやるぜ」
艦攻妖精「了解しました。殲滅します」
艦戦妖精「まーたお仕事無しですよ……」
ブゥゥゥン……ッドォォォオオン!!!!
瑞鶴「! 一隻は撃沈、もう一隻は大破炎上! ですが、直に沈むと思われます」
提督(やはりか……まだ火力が足りない。駆逐艦を狙わせて正解だった)
提督「総員、砲雷撃戦に入る。駆逐艦は主砲用意」
提督「空母は第二次攻撃隊発艦始め」
提督「敵に攻撃を許すな」
提督「電、恐らく敵の駆逐艦は旗艦の軽巡を庇おうとする。さっきの先制攻撃で随分敏感になっているはずだ」
提督「それを逆に狙え。最初っから駆逐艦を狙うんだ」
電「はいなのです!」
提督「瑞鶴は電の発砲後、敵旗艦の軽巡へ総攻撃。一切の妥協をするな」
瑞鶴「はい!」
提督「雷は敵軽巡と駆逐の両方を狙っておけ。落とし損ねていたら撃つから、いつでも撃てるようにしておく事」
提督「そして威嚇に今、敵旗艦に撃て。当たらなくて良い。敵駆逐艦を誘い出す」
雷「任せて司令官! テーッ!!」
敵軽巡「ぴぎぃ!?」ゴォン! 中破
雷「あ、船橋に当たっちゃった」
提督「よくやってくれた! 敵が怯んだこのチャンスを逃すな!」
提督「電、困惑している駆逐艦へ斉射! 瑞鶴、第二次攻撃隊に攻撃命令!」
電・瑞鶴「はい!!」
敵軽巡「Nooooooo!!!!」 撃沈
敵駆逐「連中の艦隊はバケモノか!?」 撃沈
瑞鶴「……提督さん、攻撃隊が一発目で敵軽巡を沈めたらしいから、敵雷巡にも攻撃していいかって聞いてる」
提督「許可する。──雷、残った敵雷巡へ撃て!」
瑞鶴「はい!」
雷「はーい!」
敵雷巡「えっちょ──おおおばあああああきるぅぅぅううううう!!!?!?!」ドゴドゴドゴドゴ 撃沈
提督「うむ。敵は全滅したな」
瑞鶴・電・雷「周囲に敵影ありません!」
提督「うむうむ。索敵ご苦労」
提督「やればできるじゃないか」
瑞鶴・雷「!」パァ
瑞鶴・雷「──ハッ!!」キョロキョロ
提督「うむ。もう慢心していないようだな」
提督「──さて、データも回収したし、帰ろうか」
提督「……索敵を怠るなよ?」
瑞鶴・電・雷「はい!!」
……………………
…………
……
金剛「あ、帰ってきたネ!」
響「! ご苦労様、皆」
金剛「お疲れサマ!」
金剛「戦果リザルトはどうでシタ?」
提督「上々だ。まさかデータを四つも持って帰れると思わなかった」
金剛「ワーオ! コングラッチュレイショーン!!」
響「という事は、私達は出撃しない方が良いかな?」
提督「このデータが何によるかだが、大方しなくても良いだろう」
……………………
…………
……
提督「……確認する。君達の名前は──」
提督「神通、川内、那珂、暁で間違いないな?」
神通「はい」
川内「うん、そうだよー。で、今夜って夜戦の予定とかある?」
那珂「那珂ちゃん、有名だー!」
暁「ええ、そうよ司令官さん」
暁「って、皆!!」
雷「暁!」
電「暁ちゃんなのです!」
響「……これは驚いた。まさか一発で拾ってきてくれるなんて」
提督「私も正直、驚いてる」
金剛「あのー……提督、これって」
提督「ああ」
金剛「第三艦隊の保有許可が下りるネー!!」ダキッ
提督「なぁ!?」
金剛「やったヨー! 凄い嬉しいネー!」ギュウゥ
提督「……金剛、時間と場所を弁えろ」
金剛「はっ!」
全員「……」ジィ
金剛「あ、アハハ………………ゴメンなさい……」
提督「喜ぶ気持ちは良く分かる。が、今後無いように」
金剛「ハイ……」
提督「それはさておき……」チラ
瑞鶴・電・雷「!!!」ビクッ
提督「処遇を決めよう。三人共、提督室へ行くように」
提督「金剛、響、すまないが四人に鎮守府の案内をしてやってくれ」
金剛「了解デース」
響「いってらっしゃい、司令官、三人共」
瑞鶴・電・雷「…………」ガタガタガタ
川内「……なんであの三人、震えてるの?」
響「司令官の怖さを知っているからさ」
神通(こ、怖いお方なんですか……)ビクビク
那珂「そんな風には見えないけどー?」
暁「ええ。むしろ優しそうな人よね」
金剛「いずれ分かる日が来ると思いマース」
金剛(でも……『処遇』ですか。やっぱり優しいですね、テートク♪)
……………………
…………
……
~提督室~
提督「……ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
提督「出撃前の私の命令に従えなかった者が二名居る」
瑞鶴・雷「はい……っ」ビクッ
提督「それとは別の理由で、電にも来てもらった」
電「は、はい……」オドオド
電(なんでしょうか……私、何か失敗したのかな……)
提督「まずは雷」
雷「はい!!」ビクッ
提督「戦闘終了後、命令をしていたのにも関わらず気を抜き、慢心した」
提督「だが、最後の戦闘において敵旗艦軽巡に直撃弾を与え、指揮系統を狂わせて敵に攻撃させなかったのは事実」
提督「資材を消費できない中、今回の出撃で一切の被害を出さなかった事へ非常に大きな貢献してくれた」
提督「よって、罰は無しだ」
雷「え、あ──ありがとうございます!」
提督「次に、瑞鶴。一歩前へ」
瑞鶴「はい!」ビクン
瑞鶴(どうしよう……私、雷みたいに特別な戦果を挙げてない……)
提督「先に述べた雷と同じ過ちを犯している、が──」
瑞鶴(おまけに戦闘中に何回も注意された……!! つ、吊るされる!?)
提督「──会敵七隻中四隻撃破。雷との共同戦果二隻」
提督「今回の出撃で一番貢献してくれている。よくやってくれた」ナデナデ
電・雷「!!!」
瑞鶴「──え? あ、あれ……はひ!?」
電(瑞鶴さん、お顔が真っ赤なのです)
雷(物凄く嬉しそう……。良いなぁ……)
提督「これにて今回の処遇は終わりだ。電以外は下がりなさい」
瑞鶴・電・雷「え?」
提督「なにかね?」
瑞鶴・雷「い、いえ!! 失礼しました」ピシッ
提督「ああ、午後からは行動を自由とする。燃料と弾薬が補充できないのはすまないがね」
瑞鶴「は、はい……」ポー
雷「はいっ司令官!」
カチャ──パタン──
提督「──さて電」
電「は、はい!!」ビクッ
提督「紅茶とココア、どっちが好きかな?」
電「…………ほえ?」
……………………
…………
……
提督「大した話ではないのだが、少々気になってね──ココアの甘さ加減は丁度良いかい?」
電「はい……とっても美味しいです……。けど、どうしたのですか、司令官さん?」
提督「なに。電は敵艦を沈めると悲しそうな顔をしていると気付いてね」
電「…………」
提督「それはなぜか、私には分からんのだよ。だから教えてくれないか?」
電「……………………」
提督「…………」
電「あの……怒りませんか?」
提督「知らん」
電「ええっ!? こ、ここは『怒らないよ』とか言う場面じゃないですか!?」
提督「知らん。私が怒るかどうかは話の内容を聞かないと分からんよ。私はエスパーではないからね」
提督「それとも、私が怒りそうな内容なのかな」
電「司令官さんなら怒りそうにない……と思います。けど……」
提督「…………けど?」
電「『司令官』という立場だと、怒るのが普通かな……と思うのです」
提督「ふむ。言ってごらん」
電「はい……。あの………………戦争って、殺し合いですよね……」
電「敵も私達と同じだと思うのです……。家族が居て、仲間が居て、大切な人が居て……中には、仕方がなく戦ってる人も居ると思うのです」
電「だから……沈んだ敵も、できれば助けたい……。そう思っちゃうんです……」
提督「……………………」
電「司令官さん……。戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって……おかしいですか……?」
提督「……どうだろうな」
提督「…………すまん、私は電の悩みを解決する事ができない」
電「です、よね……。敵を助けても、帰らせちゃったらまた戦場に──」
提督「それもあるが、私が言いたかったのはそうじゃない」
電「え?」
提督「…………」
電「……相容れれない……のですか?」
提督「確かに敵と会話を設けた事は無い。だが、それが理由というわけではない」
提督「電」
電「はい?」
提督「……電の悩みの答えは、電の思っているよりも深海の闇の中にある」
提督「触れると取り込まれるぞ」
電「………………取り込まれる……?」
電「司令官さん……? どういう事なのですか……?」
提督「知らなくて良い。できるならば──」
提督「──その悩みを忘れた方が、幸せだ」
……………………
…………
……
提督「さて、この書類を片付けねば」
金剛「ワーオ……まさにマウンテンね……」
提督「この程度で音を上げていたら、この先やっていけなくなるぞ」
提督「鎮守府を快適にすればするほど、この書類は増えていくからな」
金剛「ンー……大きくするのも問題なのデスねー……」
提督「できるなら、程々が一番だな」
金剛「ですネー……。あ、紅茶にしますか、コーヒーにしますか、それともココア?」
提督「金剛が飲みたいヤツを頼む」
金剛「ハイ! では紅茶を淹れますネ」
……………………。
金剛「お待たせネ」
提督「ん、ご苦労」ズズ
提督「……………………」
金剛「? どうしたんデスか、テートク?」
提督「金剛、お前の茶を飲ませてみろ」
金剛「え!? い、いや……それは…………」
提督「上官命令だ」
金剛「……ハイ」
提督「…………」ズズ
金剛「…………」ビクビク
提督「……やはり、薄いな」
金剛「あう……バレてしまいまシタ……」
提督「金剛の紅茶は、出涸らしを使っていたのか」
金剛「ハイ……」
提督「見えない所で健気だな、金剛。そうやって少しでも節約しようとしていたのか」
金剛「そもそも、たかが秘書の私も紅茶を飲んでいるのがおかしいのデス」
金剛「テートクは優しいから私に紅茶を飲むの許可してくれていますケド、本来だったらダメなんデスよ?」
提督「秘書の特権だ。私の城ではそうなっている」
金剛「そう言うと思っていたネ」ソッ
提督「む」
金剛「大好きですよ、提督」ギュ
提督「金剛、時間と場所を弁えろと言ったはずだろう」
金剛「今は仕事前のティータイムです」
提督「ここは提督室だが」
金剛「私達以外、誰も居ません。つまり、誰の目にも触れません」
提督「……まったく、抜け道を探すのが上手いな」
金剛「提督の秘書になる為の必須技術だと思いますよ?」
提督「ごもっとも」
金剛「──サテ! デスクワークをしましょう!」
提督「ああ。だが、その薄味の紅茶は私が貰う。そして、これからは使えなくなるまで私の紅茶にも出涸らしを使う事」
金剛「え?」
提督「私も鎮守府の懐に貢献せねばな」
金剛「あはっ。やっぱり、提督は優しいです」
提督「私のやりたいようにやっているだけだよ」
提督「──さて、今日の遠征練習についてだが、金剛はどう思った?」
金剛「──まだ錬度が足りないと思いマス。あれではまだ、敵が現れた時に無駄撃ちしそうデス」
提督「同意見だ。だが、上から指示された近海の警備任務の項目をギリギリながらクリアしているのも事実」
提督「そこでだ。彼女らにはしばらく警備任務と海上護衛任務で────」
金剛「海上護衛はまだ早いと思いマス。実戦で経験を────」
提督「そうだな。その方向でやって────」
金剛「こっちの資料によると────」
提督「防空射撃演習か────」
金剛「────」
提督「────」
……………………。
瑞鶴「…………」
瑞鶴(……仕事をしてるけど、楽しそう。いいなぁ……)
瑞鶴(秘書、か……。お茶の練習、しよう)
……………………
…………
……
提督「ふう……。今日の仕事、終わったな」
金剛「うー……疲れまシタァ……」
提督「秘書の仕事、だいぶ慣れてきたようだな」
金剛「いっぱいいっぱいデース……。まだまだ速くなれるはずデース……」
提督「向上心があって良い事だ」
金剛「…………テートク、マルヒトマルマルデース」
提督「もうそんな時間か」
金剛「そうデス。この時間が悪いのデス」
提督「うん?」
金剛「提督。提督はどうしてそんな目をするのですか?」
金剛「希望を失って、絶望しか見えていないかのような目をしています」
提督「…………」
金剛「私、知りたいです。提督の過去を」
提督「……ストレートだな、金剛」
金剛「それが私の良い所で悪い所です」
提督「よく分かっているようだ」
金剛「踏み込まれたくないのだったら、そう言ってください。私は強要したくないです」
提督「……少し、時間をくれるか?」
金剛「はい、待ちます。いつまでも」
提督「………………金剛」
提督「答える代わりに、髪、梳かさせてくれ」
……………………。
金剛「ンー♪ 幸せデス♪」
提督「それは良かった」
金剛「こうしていると、眠くなるのが玉に瑕デス……。もっとこの幸せを感じていたいの二ー……」
提督「眠くなったら寝ても良いんだぞ。無理はするもんじゃない」
金剛「勿体無いデース……。折角テートクがーブラッシングしてくれているのニー……」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「……綺麗な髪だな」
金剛「自慢のー……髪デース……」
提督(ホント、綺麗だな……)
提督(艶もあるし、細く柔らかい。自然な栗色の毛で、風に靡けば一層美しさが増すだろうな)
提督「……………………」
提督「沈ませはせんよ。必ず」
金剛「…………」
提督「む」
提督(寝たか……。自室へ運んで──いや、勝手に部屋に入るのはマズイか)
提督(なら私のベッドへ運ぶか。嫌がる事はないだろう)ソッ
提督(……こうして見ると、本当にただの女の子なんだがな)
金剛「てーとく……」
提督「ん、すまん。起こしたか」
金剛「私が……護ります……」
提督「……寝言か」
提督(護る、ね……)
提督(…………悲しい事だ)
……………………
…………
……
金剛「で、言い訳はありますか、テートク」
提督「……無い」
金剛「私、前に言いましたよね? 風邪を引くって」
提督「……言った」
金剛「じゃあ──どうして風邪を引いてるんですか!!」
提督「面目ない……」
雷(あの司令官が言い負かされてる……)
電(金剛さん、ある意味凄いのです……)
響(私には真似できない……)
瑞鶴(私もよ……。恐ろしくてできないわ……)
金剛「ええ。確かに私が提督の部屋で眠ってしまったのが悪いですよ?」
金剛「でも、起こすなり一緒の毛布に入るなりと方法はいくらでもあったんじゃないですか?」
雷(さり気なくとんでもない発言してるのに気付いてるのかしら……)
金剛「前に毛布が無い時、一緒に寝ましたよね?」
瑞鶴(なんですって!?)
金剛「前例はあったのに、どうして今回はやらなかったのですか?」
提督「…………あの時は、金剛の同意を貰っていただろ」
金剛「では、私が嫌がるとでも思ったのですか?」
提督「…………嫌がらないと思う」
金剛「分かっているじゃないですか!! そういう時は一緒に寝てください!」
電(はわわ……! 聞いてるこっちが恥ずかしいのです……)
提督「だが……論理的に──」
金剛「てーいーとーくー!?」
提督「……………………」
金剛「ちゃんと反省して下さい。提督が不調だったら、公私共に困るんですよ?」
提督「…………分かった。以後無いようにする」
金剛「──はい。ちゃんと反省して、分かってくれたら良いんです」
金剛「ふう……。デハ、今日のミッションは瑞鶴と私を除く七隻で演習をすれば良いんデスね?」
雷(あ、真剣の時──じゃないわね。私事の時は日本語が流暢になるのね)
提督「ああ……頼んだ」
……………………
…………
……
金剛「──と、いう訳で! 今日は私が提督の代わりに演習総指揮を執りマース!」
金剛「ちなみに命令に背いた者、昼に夜戦を試みようとする者、支障をきたす私語をする者は吊るして良しと許可を貰っていマス」
川内・那珂「ひぃ!?」ビクゥ
響「ああ……君達は早々に吊るされてたね、同胞よ」
金剛「弾は開発妖精さん特製のペイント弾を使いマス。水で簡単に落ちるので、気にせず当ててくださいネー」
金剛「当たった箇所で瑞鶴と私が轟沈判定を出しマス。砲塔に当たったらその砲塔は使えなくなると思ってくださいネー」
金剛「質問はありマスか?」
響「はい。中破、大破の判定はどんな基準なんだい?」
金剛「基本的にありまセン。けど、重要箇所に被弾したら使わないように意識して下サイ。当たると冷たいからすぐに分かると思うネ」
雷「はーい! 被弾箇所を意識しながら戦闘するのって、物凄く難しくない?」
金剛「それは実戦でも同じ事ヨー? 至近弾でもない限り、被弾すると基本的に使えなくなるデショ?」
金剛「むしろ、被弾箇所を意識せず戦闘を続行すると、思わぬ被害が生まれマス。なので、実戦でも被弾箇所は意識して下さいネ」
電「あの……。弾は二十発だけなのですか?」
金剛「これからはもっと遠くの海域に足を運ぶ事になりマス。つまり、戦闘回数が多くなるわネ。確実に当てるのは難しいケド、浪費しないよう出来るだけ当てる訓練も兼ねていマス」
暁「はい。魚雷は?」
金剛「今回は無しデス。開発妖精さんに期待してくださいネ」
川内「はい!! 夜戦の演習はやって──」
金剛「吊るしますヨ」
川内「い、いえ!! なんでもな──あ、違った、えと……あっ! や、夜戦の演習って今後やるの!?」
響(上手くかわしたね)
金剛「今の所その話は無いデスが、提督に聞いてみますネ。他にありマスか?」
金剛「………………無いみたいネ。それじゃあ、演習開始デス!!」
……………………
…………
……
提督「ケホッ。まだ少し甘い気もするが、さすが艦娘。よくやっている」
コンコン──。
提督「──誰だ?」
任務嬢『任務嬢です。元帥がお見えになりました』
提督「!? ……お通ししろ」
ガチャ──
元帥「やあ、数日ぶりだね」
提督「ハッ」ピシッ
元帥「いやいや、畏まらなくて良い。楽にしたまえ」
提督「いえ! 元帥殿に対し、そのような行為は出来かねます」
元帥「私が良いと言っている。……そうだな、座って話そうか」
……………………。
提督「どうぞ。元帥殿がいらっしゃるのでしたら、もっと上等な茶葉を用意したのですが……」
元帥「構わん構わん。濃は程々の茶が一番だよ。礼儀作法は苦手なのでな」
元帥「──いきなり本題に入るが、君は非常に興味深い戦果を挙げているね」
元帥「着任初日で高速戦艦を保有。二日目で空母。三日目では総司令部の指定した神通、川内、那珂の進水」
元帥「このような大戦果を挙げる者はそうそう居らぬよ」
提督「恐縮です」
元帥「だが、一つ気になるものがある。二日目に建造した瑞鶴」
元帥「アレは、港に沈んでいた艦を材料に造ったとあるが、間違いないね?」
提督「ええ。建造妖精達が総出で拾い上げてくれました」
元帥「ハッハッハッ。実に面白く、無駄の無い行為だ。だが──」
元帥「単刀直入に言おう。瑞鶴を総司令部へ引き渡しなさい」
提督「…………理由をお聞きしても宜しいですか?」
元帥「ふむ、理由とな?」
提督「はい。上官の命令は絶対です──が、我が鎮守府は残念ながら小さい。小さい故に戦力が乏しい。そんな小さい鎮守府で、最大戦力の一隻です」
提督「今、彼女を手放してしまうと、戦力の降下だけではなく深海棲艦から母港襲撃を受けた際──」
元帥「それは無い」
提督「……無い? なぜですか」
元帥「そういう風に出来ておるのだよ、深海棲艦というモノは」
提督「…………すみません、話が逸れてしまいました」
元帥「よい。私が逸らした」
提督「──艦娘は一人の提督にしか命令を聞かないと耳にします。まるで、初めに見た者を親と思う雛鳥のように」
提督「それなのに、どうして総司令部へ? こう言うのは少々気が引けますが、他人では完全に役立たずですよ」
元帥「……………………」
提督「……元帥殿?」
今更だけど、多少グロっぽい表現が出てきます。
注意サレタシ
ついでにいずれエロも書く予定。
厳重注意サレヨ
元帥「……いやなに。君への処遇を考えている所だ」
提督(は? 処遇?)
元帥「そうだな。うむ。素質は充分にある」
元帥「少将よ、君は深海棲艦に興味はあるか?」
提督「……はい。大変興味深くはあります」
提督(なんだ……? どういう意図の質問だ……?)
元帥「では、深海棲艦をどう思っている?」
提督「どう……とは?」
元帥「そのままの意味だ。何でも良い。率直に答えてくれ」
提督「……………………」
提督(まさか、調べていたのに感付かれたか……?)
提督(いや、その可能性は低い……。倒した敵艦から出てきたデータを回収しているようにしか見えていないはずだ)
提督「そうですね……なんと言えば良いのやら……」
提督(どう答えるのがベストだ……。くっそ……頭が上手く回らん……!)
提督(仕方が無い……冗談を言って有耶無耶にするか)
提督「性能の驚きを隠せません。アレらを素材とした艦娘を建造すれば、我が鎮守府もすぐさま強くなるでしょう」
元帥「宜しい。二階級特進だ。少将、君は今から大将だ」
提督「なーんて──ハァ!?」
提督「な!? ど、どういう事ですか元帥!!」
元帥「どうもこうも、そういう事だ。おめでとう」
提督「……私は死ぬのですか」
元帥「何か勘違いしているようだが、殉職による二階級特進ではない」
提督「ではなぜ……」
元帥「なぁに。我々の計画を話すに値すると判断したからだ。大将以上の方が何かと融通が利くからのう」
元帥「深海棲艦を素材にして艦娘を造ったという実績もある」
元帥「何より今は駒が圧倒的に足りない。多少強引でも引き入れている」
元帥「そして──」
元帥「もう逃げる事は叶わんよ、大将殿?」ニィ
提督(おい……オイオイオイオイオイオイオイオイ!!!!! 地雷を踏み抜いたどころの話じゃねーぞ!!?)
提督(帝國海軍はどこかおかしいと思っていたが、真っ黒なんじゃねーのかこれ!?)
元帥「何もかもという訳にはいかんが、話そうじゃないか」
元帥「我々の計画を────」
……………………
…………
……
元帥「始まりは、艦娘建造計画から始まった」
元帥「我々の今の敵は深海棲艦。将校でもそう教えられただろう」
元帥「そして、その深海棲艦を倒す為に艦娘を使っている」
元帥「今でこそ当たり前の存在だが、当時の艦娘はとても不安定でな」
提督「……………………」
元帥「いやあ、それはもう阿鼻叫喚、地獄絵図だったよ」
元帥「失敗作は様々な死に方を迎えた。全身の皮膚が剥がれ落ちる者。溶けるように血の塊へと変わる者」
元帥「身体中から鉄の柱が突き出る者。突如骨が砕ける者。人の形を保てなくなった者……」
元帥「どんな形であれ、その成れの果てが深海棲艦だ」
提督「!!」
提督(やっぱりか……。倒した深海棲艦から艦娘のデータが出てくるなんておかしいと思った)
元帥「その顔を見るに、既に予測はしていたようだな」
提督「……ええ。敵艦から艦娘のデータが出る事に疑問を抱いていましたから」
提督「それに、ところどころ艦娘と似ていますしね」
元帥「結構。話を続けよう」
元帥「その深海棲艦だが、最初は艦娘と大して変わらん装備だった」
元帥「だが、彼女らは次第に我々の想像を上回る兵器を扱ってきだした」
元帥「なぜだと思う?」
提督「……彼女らも、艦娘と同じように成長している……?」
元帥「半分正解だ」
元帥「もう半分は、大陸の技術だ」
提督「大陸……? 将校で言っていた深海棲艦の大陸ですか?」
元帥「うむ」
元帥「更に、深海棲艦は燃料も弾薬も必要無い」
提督「……どういう事ですか。どうやって動いているんですか、それは」
元帥「これについてはまだ解明されていない。が、一説によると負のエネルギーが原動力では、と言われている」
提督「負のエネルギー?」
元帥「そう。恨みや怨念。現に彼女らが率先して狙うのは人間ではなく艦娘。それはよく実感しているんじゃないかね?」
提督(────そうか。最初の出撃の挟撃してきた駆逐艦。確かに俺じゃなくて金剛を狙っていた)
元帥「思い当たる節があるようだね」
元帥「その負のエネルギーだが、戦争をしている内はまず無くならないだろう」
元帥「殺し、殺され、沈んでいくのだ。無くなる訳がない」
元帥「深海棲艦を解体して調べてみたが、動力となりそうな部分は一切発見されなかったらしい」
元帥「その深海棲艦を素材にして、艦娘を造ろうと試みた。が、今まで一回たりとも成功しなかった」
元帥「君を除いて」
元帥「君の瑞鶴、通常の艦娘よりも性能が高いのでは?」
提督「……いえ、この鎮守府に空母は瑞鶴一隻しか居ないので分かりかねます」
元帥「そうか……残念だ。補給はしたのかね?」
提督「いえ。資材が枯渇寸前の為、金剛、瑞鶴に回す資材がありません」
元帥「そうか……色々と足りないのだな」
元帥「よし。資材については特別配給をしよう」
元帥「これから色々と結果報告をして貰わねばならんからなぁ」
元帥「さて、前置きはそろそろ終わりにしよう。本題だ」
元帥「我々は今、戦争で劣勢状態にあるのは分かっているね?」
提督「……はい」
元帥「深海棲艦を基とした艦娘を大量に造り、そして戦争を勝ち抜け」
元帥「勝たなければいけないのだよ。でなければ我々の未来は無い」
提督「……未来、ですか」
提督(何言ってるんだこのクソジジイ。さっき深海棲艦は艦娘しか狙わないって言ったじゃねーか)
提督「ですが、深海棲艦は艦娘しか狙わないと──」
元帥「そんな事は言っておらん。率先して狙うのは艦娘だが、人間を狙わない訳ではない」
提督「……失礼しました」
元帥「よい。大将、ランチェスター第二法則は知っているか?」
提督「戦闘力=質×量×量……ですよね?」
元帥「うむ。現在の深海棲艦の数は、艦娘の数千倍は下らないと言われている」
提督「数千……」
元帥「総合的な質で言うと我々の方が遥かに上だ。だが、圧倒的な数の暴力には勝てん」
元帥「その内、艦娘は全滅して深海棲艦が人類を滅ぼしにくるだろう。そうなると、人類は滅亡する」
元帥「現に、いくつかの基地は艦娘が全滅したという報告もある」
提督「……その基地はどうなりましたか」
元帥「放棄した後、乗っ取られたよ。現在は深海棲艦が拠点にしている」
元帥「彼女らも母港というものが恋しいのだろう……。母港に対して一切の砲撃はしてこなかったよ」
元帥「だが、それを逆手に戦力が揃うまで一切出撃をしなかった基地もあるが、流石に手を出された」
元帥「なるべく母港を傷つけず、艦娘は例外なく沈められた」
元帥「──量で勝てないのなら、質で勝つしかあるまい」
元帥「それも、圧倒的な質で」
提督「……そうですね」
元帥「だからこそ、深海棲艦を基とした艦娘を建造して欲しい」
提督「……ただの偶然かもしれませんよ」
元帥「ただの偶然ではないかもしれんだろう?」
元帥「我々に残された選択肢は数少ない。君が協力してくれそうでなかったら、瑞鶴を強奪して研究の為に華々しく散っていっただろう」
提督「それは──!」
元帥「倫理的に問題がある。それは分かっている。だが、そうせざるを得ないほど切羽詰っているのだ」
元帥「例え元艦娘を材料に──いや、回りくどく言うのは止めよう」
元帥「艦娘の死体を利用してでも、やらなければならない」
提督「……………………」
元帥「やってくれるのであれば、定期配給される資源を上乗せしよう。……明らかに必要ないであろう程になればストップはするが」
元帥「勿論、通常の任務報酬も今まで通りだ」
提督「…………仮に拒否した場合はどうなりますか?」
元帥「不穏分子と判断し、艦娘諸共殺害する。この情報を漏らす訳にはいかぬから、君に関わった者も全員行方不明となるだろう」
提督「ッ!!」
元帥「既に言ったではないか。逃げる事は叶わぬと」
元帥「特に、君は艦娘達に好かれているようだね。目の前で見せてあげようか、彼女らの生身が解体されるのを」
提督「……分かりました」
提督「協力……します……」
元帥「うむ。頼んだぞ」スクッ
提督「……お帰りですか」
元帥「濃も忙しい身でな。──ああそうそう」
元帥「大将のバッヂだ。付けておきなさい。それと──」
元帥「くれぐれも、この話は漏らさないように。濃らと深海棲艦を基とした艦娘以外には、な」
提督(漏らしたらどうなるか分かっているな、とでも言いたそうだな)
提督「勿論です。ご安心を」
元帥「……では、失礼する。君の目に光が宿ったのを初めて見たよ」
提督「!」
ガチャ──パタン
提督「私の目に光、ねぇ……」
……………………
…………
……
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
金剛「テートクー! 演習終わったヨー!!」
提督「ああ、見ていた」
瑞鶴「え、起きていたの?」
金剛「……提督?」
提督(──ヤベッ!)
金剛「やぁあっぱり提督は私の話を聞いてくれなかったのですねぇ……?」
提督「いや……そういう訳じゃない……」
金剛「じゃあどうして身体を休めず演習を見ていたのですかッ!?」
金剛「──って、あれ? これ……大将バッヂ……? どうしたんですかこれ?」
提督「……さっき元帥殿がやってきて、なぜか二階級特進になった」
金剛・瑞鶴「はぁ!?」
提督「なんでも、初日に戦艦、二日目に空母、三日目に総司令部が指定した川内型の保有。異例な速度での近海の敵艦排除。沈んだ船を引き上げて資源の有効活用。その他諸々」
提督「尋常じゃない戦果と新たな資源の活用法を編み出したという理由で二階級特進……だそうだ」
瑞鶴「へぇ……そんな事もあるんだ……」
金剛「…………」
提督「元帥殿の前で寝ている訳にはいかなく、かといって風邪を引いたと言えば体調管理すら出来ていないのかと思われそうで言えなく……」
提督「バッヂを貰ったあと元帥殿に演習する姿が目に入ったらしく、演習が終わるまでずっとご見学されていたんだ」
瑞鶴「ええ!? こ、金剛さん……私達、大丈夫だったかな……?」
金剛「──え、ああウン。大丈夫だと思うヨ?」
提督「……その演習についてなんだが、瑞鶴、この書類の山を片付けたら話があるから、ちゃんと起きているように」
瑞鶴「ッピィ!?」
提督「以上だ。金剛、秘書の仕事は大丈夫か?」
金剛「……ハイ! まだまだいけますヨー!」
瑞鶴「そ、それじゃあ私はこれで……」ガクガク
……………………。
金剛「……さて、提督」
提督「…………」
金剛「私が言いたい事、提督なら分かってますよね?」
提督「……ああ」
金剛「本当は何があったんですか?」
提督「……すまん。これは誰にも言えない」
金剛「……秘書の私でも、ですか?」
提督「ああ」
金剛「……そうですか」
金剛「──では! 書類を分けますネー!」
提督「…………」
金剛「? どうしましたテートク。鳩がアトミックバズーカに被弾したような顔をして」
提督「……私の顔は爆発四散した肉みたいに酷いか?」
金剛「まっさか~」
金剛「……いつか、話せるようになったら話してください。約束ですよ?」
提督「……ああ、約束だ」
金剛「ふふっ。じゃあテートク、ゆっくり休んで──」
提督「そうか。金剛が一人でこの書類の山を片付けてくれるのか」
金剛「…………」
金剛「頑張りマス!!!」
提督「冗談だ……。早く終わらせて寝ようか」
……………………
…………
……
提督「んー……! 終わった……」
金剛「現在マルマルサンマルですネ。昨日より早いデース」
提督「ご苦労だった金剛」
金剛「ありがとうございマース! ご褒美はキスが良いデース」
提督「調子に乗るな」コツン
金剛「アウッ。むー……残念デース……」
提督「明日も早い。自室に戻って寝なさい」
金剛「……看病してはイケマセンか?」
提督「風邪が移ったら困る」
金剛「テートクが看病してくれるのなら風邪になるのも──ァウッ」コツン
提督「バカを言うな。皆も心配するだろう」
金剛「……テートクも?」
提督「当たり前だ」
金剛「……ハイ! 風邪を引かないように努めマス!」
提督「良い返事だ」
金剛「それじゃあ、グッナイテートク!」
提督「ああ、おやすみ」
提督(…………さて、瑞鶴と話さなければな)
……………………。
提督「……瑞鶴、話をしようか」
瑞鶴「はい……」ビクビク
提督「……今日、この提督室にて非常に問題のある発言があった」
瑞鶴「…………ッ」ビクッ
提督「瑞鶴、お前は上に目を付けられた」
提督「深海棲艦を材料としたお前が──」
瑞鶴「────え?」
……………………。
瑞鶴「……嘘、よね?」
提督「本当だ」
瑞鶴「ま、またまた提督さんたら! 私をからかってるんでしょ?」
提督「……残念だが、本当だ。できれば私も信じたくない」
提督「だが、この大将を示すバッヂは紛れもなく本物……。あの話は嘘偽りが無い事を証明している」
瑞鶴「で、でも! 私は補給が必要よ! さっきの話が本当なら、深海棲艦は──」
提督「通常の空母に補給に必要な燃料と弾薬、調べさせてもらった」
提督「結論を言うと、瑞鶴……お前の補給に必要資材は圧倒的に少ない。駆逐艦並みだ」
瑞鶴「……数字で言うと、どのぐらい差があるの?」
提督「通常空母と比べ、4~5倍の差がある。空母でこの数字は絶対にありえない」
提督「あと、いくら駆逐艦相手でも、経験の全く無いお前が撃沈させるのは無理がある話らしい」
提督「……どういう事か、もう説明しなくても分かるな」
瑞鶴「……………………」
提督「…………」
瑞鶴「ねえ、提督さん……私、居ちゃいけないのかな……」
提督「…………」
瑞鶴「私ね、役に立てて嬉しかった。皆からお礼を言ってもらって、提督さんに頭を撫でてもらって、すっごく幸せだった」
瑞鶴「ダメなの……? 他の皆が当たり前のように感じる幸せを、私は感じちゃいけないの……?」
提督「…………」
瑞鶴「私……提督さんの会えて良かったなって思ってた……。でも、今は違う。会わない方が──造られない方が良かったって──」
提督「それは私が困る」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴が居なかったら、今の鎮守府は無い。下手したら無くなっていた可能性だってある」
瑞鶴「……でも、私の身体は──」
──同族の死体──
瑞鶴「──それで出来てる……。やだよ……こんなの……」
提督「…………」
瑞鶴「だって……気持ち悪いじゃない……」
提督「……スゥ…………瑞鶴!!」
瑞鶴「ぴゃい!?」ビクゥ
提督「…………」ジッ
瑞鶴「あ、ああぁあの……? わ、私、なに、か粗相を……?」ビクビク
提督「お前は誰に仕える艦だ」
瑞鶴「て、提督さんに、です」ビクビクビク
提督「私はお前が居なかったら困ると言った。お前は私に必要だ」
提督「それすら信じれないか?」
瑞鶴「それとは……また、ちょっと別というか……」オドオド
提督「瑞鶴」
瑞鶴「はいッ!!」ビクッ
提督「私の前に立ちなさい」
瑞鶴「え……?」
提督「ほう、指示を聞き逃したか。それは吊るさな──」
瑞鶴「はいぃ!!!」シュタッ
提督「うむ。よろしい」
瑞鶴「…………」ビクビクビク
提督「…………」スッ
瑞鶴「ッ!!」ビクッ
提督「ほれ、こうして触れる」ナデナデ
瑞鶴「…………?」ビクビク
提督「む……触っていて心地良い髪だな。ちょっとブラッシングさせてくれ」
瑞鶴「え、え? 良いけど……え?」
提督「椅子に座れ。──よし。そしてリボンを外してっと……梳くぞー」
瑞鶴「あ……」
瑞鶴(優しくて丁寧だ……気持ち良い……)
提督「ん? 痛いか?」
瑞鶴「……全然」
提督「なら良かった」
瑞鶴「……提督さん、嫌じゃないの?」
提督「むしろもっと触らせてくれ」
瑞鶴「……変なの」
提督「よく言われる」
瑞鶴(ああ……これ、すっごく良い……。なんでだろう……さっきまでの辛い気持ちが嘘みたい……)
提督「落ち着いたか?」
瑞鶴「うん……」
提督「……まだ続けたいんだが、良いか?」
瑞鶴「ぜひお願い!」
提督「うむ」
瑞鶴(……自分の身体が死んだ艦娘を使っているっていうのは凄く嫌だって思った。けど……)
瑞鶴(こうして提督さんが髪を梳いてくれるなら、別にどうでも良いかなぁ……)
瑞鶴「ねー、提督さんー」
提督「んー?」
瑞鶴「私を正面から抱き締めれるなら私もこの身体の事を気にしない──って言ったら、どうする?」
瑞鶴(ちょっとだけ、イタズラ)
瑞鶴「なーんて──!?」
提督「こうする」ギゥ
瑞鶴「え、ええっ!?! ちょ、て、提督さん!?」
提督「どうした、私は抱き締めれるぞ。何も変わらない、普通の女の子じゃないか」
瑞鶴「い、いいいやそういう事じゃなくて!?」
提督「ああもう、うるさい。大人しくしろ」ナデナデ
瑞鶴「ぁ………………はぃ……」
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴(何これ……今まで感じた事がないくらい幸せ……)
瑞鶴(なんで……? なんでこんなに幸せなの……?)
提督「瑞鶴」
瑞鶴「……はひ?」
提督「勝手に死んだり、自分を蔑ろにするなよ」
瑞鶴「…………うん」
瑞鶴「絶対、そんな事しない……」
瑞鶴「約束する……」
……………………
…………
……
提督「落ち着いたか?」スッ
瑞鶴「────あ」
提督「うん?」
瑞鶴「……ううん、名残惜しかっただけ」
瑞鶴「ありがとう、提督さん」
提督「うむ。よろしい」
瑞鶴「それに、ポジティブに考えたら私ってすっごくコストパフォーマンスが良い空母なのよね」
提督「そうなるな」
瑞鶴「それって、他の誰よりも提督さんの力になれるって事じゃない!」
提督「それは実力次第だな」
瑞鶴「むぅ……そこは嘘でも良いから『そうだよ』って答える所じゃない?」
提督「ほう。ではまず秘書の仕事と出撃を両立してもらおうか?」
瑞鶴「う……」
瑞鶴「──や、やる!!」
提督「お?」
瑞鶴「金剛さんに負けてられないもの!」
瑞鶴「提督さん、明日から私が秘書になって良い?」
提督「…………」
提督(変に対抗意識を燃やさせるんじゃなかった……)
……………………
…………
……
~翌日~
瑞鶴「負けました……」ズゥゥゥン…
金剛「秘書で私に勝とうなんて、百年早いネー」
響「特にお茶淹れは段違いだったね。月とすっぽんと言っても過言じゃなかった」
瑞鶴「うっ」グサッ
暁「レディとしての振る舞いも金剛さんの方が上ね。さすが英国からの帰国子女といった所かしら」
瑞鶴「うぅ……」ドスッ
神通「提督の細かい動きを見れていたのも金剛さんでしたね……」
瑞鶴「あぐ……」グシャァ
提督「金剛、今後も秘書をよろしく」
金剛「ハイ♪ 私に任せてくだサーイ♪」
瑞鶴「あああぁ……」トドメ
提督「──話は変わって、遠征について言っておくことがある。が、その前に……」
雷「どうしたの、司令官?」
提督「整列」
全員「!!!」ビクッ
ザッ──!!
提督「点呼」
金剛「1!」
川内「2!」
神通「3!」
那珂「4!」
暁「5!」
響「6!」
雷「7!」
電「8!」
瑞鶴「9!」
提督「よろしい。では今後の遠征についての計画を発表する」
提督「総司令部の意向で、この鎮守府への定期資材配給に上乗せが約束された。──だが、私はこれに頼りきろうと思っていない」
提督「確保できる資源があるのなら自分達で調達するべきだ」
提督「現在、予定しているのは警備任務と海上護衛任務の二つ」
提督「だが、海上護衛任務に就くには旗艦を軽巡にしなければならないという決まりがある」
提督「そこで、次の出撃で一番適切だと思える軽巡の者を海上護衛任務の旗艦となってもらう」
提督「だが、それではモチベーションが上がらないと思い……こんな物を用意した」スッ
金剛「……はい、テートク」
提督「なんだ?」
金剛「それはなんデスか?」
提督「間宮アイスクリーム券だ」
全員「!!?」
提督「人数分頂いたのだが、生憎と私は甘い物が苦手でね。一枚余ってしまう」
提督「そこで今回、全員が一回出撃して、特に頑張った者に+一枚の景品として渡そう」
提督「質問はあるかな」
響「はい! 駆逐艦と戦艦など、戦力に差がありすぎるのは不公平だと思うのだけど、そこはどうするんだい司令官!」
提督「私は一番戦果を挙げた者とは言っていない。特に頑張った者と言った。故に、戦果が全てではないから安心したまえ」
提督「……無いとは思うが、目の前の欲に駆られていると判断した場合、その者へのアイスクリーム券は一枚も与えないから注意するように」
全員「はいっ!!!!」
提督「他に質問はあるか? ……………………無いようだな。では、第一艦隊、第二艦隊の編成を発表する──」
……………………
…………
……
ぜーはーぜーはー……。
提督「皆よく頑張った。全員が全員を助け合い、目立った失敗も無かった」
電(もうヘトヘトなのです……)
川内(夜戦で、気付いたら後ろから敵駆逐艦が主砲を向けていたくらい神経磨り減った……)
金剛(ノー……睡眠不足はダメね……これから気を付けないといけまセン……)
瑞鶴(疲れた……これが私の全力よ……! でも、ダメだったらどうしよう……)
提督「それでは、提督室にて旗艦になる軽巡と特に頑張った者を発表する。総員、補給と入渠を済ませたら随時提督室に来るように」
……………………
…………
……
提督「さて、と準備しなければな」
金剛「何の準備デスか?」
提督「……うん? なぜここに──ああ、金剛は今回被弾していなかったな」
提督「間宮アイスクリーム券を封筒に入れて準備をする。ついでに時間が余るはずだから少しでも書類を片付けようとね」
金剛「ナルホド。では、私は書類を整理しマスね?」
提督「ああ、頼む」
……………………
…………
……
雷「遅くなってごめんなさい。雷、出頭したわ」
提督「ん、これで全員揃ったな」
金剛「ハイ、雷。ココアデース」
雷「え!? 良いの、司令官!?」
提督「うむ。構わん」
雷「わぁー! ありがとう司令官、金剛さん!」
提督「……」
金剛(あ……また一瞬、悲しそうな表情を浮かべました……)
金剛(どうしてですか、提督……)
提督「飲みながらで良い。今から順不同で発表し、封筒を渡す。呼ばれたら私の前に来てくれ。封筒は各自室で開けるように」
提督「まずは暁」
暁「はい!」
提督「休み無く動き回り、砲雷撃戦、また戦闘後の索敵も申し分なかった。今回の戦闘で一番経験を積んだだろう。良い実戦だったな」
暁「ありがとうございます、司令官」
提督「川内」
川内「はい!」
提督「少し危なっかしい所もあったと思うが、その猛攻は素晴らしいものであった。敵の動きに対して反応が速かったようにも見えるから、その分野を伸ばすと夜戦にも役立つだろう」
川内「褒めてくれるの……? ありがとう!」
提督「神通」
神通「──はい」
提督「……運が悪かったのか、敵に狙い撃ちされていたな。だが、それらのほとんどを避け、その中でも砲雷撃を止めなかったのは驚嘆に値する」
神通「あの……提督……ありがとうございます」
提督「電」
電「は、はい!」
提督「慣れているのもあるかもしれんが、どの動きも機敏で質が良く、まさに電の本気を垣間見た。常日頃から努力しているのが窺える。良くやった」
電「あ、あの……! ありがとう……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「はいっ!」
提督「前回よりも艦上機の精度が増していたな。特に爆撃機の精度が素晴らしい。その機体で敵重巡を一撃大破させた功績は非常に大きかった。これからも頑張りなさい」
瑞鶴「ふふっ、ありがとねっ」
提督「響」
響「はい」
提督「敵空母から直撃弾を受けたのには肝を冷やされたが、その際のダメージコントロールは目を見張るものがあり、勉強にさせてもらったよ。不死鳥の名は伊達じゃないな」
響「これは照れるな……スパスィーバ」
提督「那珂」
那珂「はーい!」
提督「言葉は普段と変わらないが、その行動は戦域全体を見据えたもので、何より真剣に戦闘へ取り組んでいた。特にあの真剣さはこの鎮守府で右に出るものは居ないだろう」
那珂「提督ー! ありがとーーーーー!!」
提督「…………」
那珂「……ごめんなさい」
提督「……次、雷」
雷「はーい、司令官」
提督「戦果は乏しかったものの、最後の戦闘で直撃弾を受けそうになった金剛を庇って彼女に攻撃を託し、敵空母二隻を撃沈させたのは非常に大きい功績だ。被弾後のダメージコントロールも素早く、よく耐えてくれた」
雷「ありがとう司令官! 私、もっと頑張るからね!」
提督「最後に、金剛」
金剛「ハイ」
提督「出来る事は非常に多くなっており、勉強しているのが分かる。が、いつもよりキレが悪かった。一つ一つ習得していくようにしなさい」
金剛「あぅ……やっぱりデース……」
提督「次に海上護衛任務の旗艦を任せる者を言い渡す」
提督「総合的に見た所、神通、お前が適任だと判断した。頼んだぞ」
神通「え──は、はいっ。頑張ります」
提督「以上だ。ココアが飲み終わった者から自由行動を許可する」
……………………
…………
……
雷「ごちそうさま司令官! ココア、とっても美味しかったわ」
提督「うむ。これからも良い働きをしてくれ」
雷「はいっ! 雷、司令官の為だったらいくらでも頑張るわね! おやすみなさい!」
提督「おやすみ」
金剛「グッナイ、雷」
ガチャ──パタン
提督「そういえば金剛、自室へ戻らないのか?」
金剛「秘書の仕事がまだ残っていマース。封筒の中身なんていつでも確認できるネー」
提督「……ふむ」
金剛「テートクの仕事のスピードが速くなっていってるから今日も早く終わりそうデス。さっすがねテートクー!」
提督「それもあるが、一番は効率良く仕事を進めれるように金剛が色々としてくれているからだよ」
金剛「そんなことありまセーン。テートク、謙遜しすぎですヨー?」
提督「鏡を向けてやろう」
金剛「むー……私はサポート役なのニ……。メインはテートクですヨ?」
提督「私を剣とするならば金剛は技術だ。いかに優れた剣でも技術がなければ鉄屑に等しい鈍ら剣にすら負けるものだ」
提督「それとも、私に褒められるのは嫌いかね?」
金剛「そ、そんなことありまセン!!」ブンブン
金剛「本当はスキップしたいくらいに嬉しいデス。でも、恥ずかしいというかなんというカー……」
提督「はっはっはっ。そういう所は日本人だな、金剛」
金剛「ぅー……テートクは私をからかってるのデスか……?」
提督「半分からかってるが、もう半分は金剛を困らせたいからだ」
金剛「なんデスかそれー!!」
提督「さて……話は変わるが金剛」
金剛「ハイ、なんですか?」
提督「昨日は何時間ほど寝ている?」
金剛「え。エート……何時間でしょうか、ネ……」
提督「ほう? 自分の睡眠時間すら把握できていないのか、金剛?」
金剛「……二時間デス」
提督「最低でも四時間は寝れるようにしているつもりだったが、余りの二時間はどこへいった?」
金剛「…………自分の部屋で戦術指南書を読んでまシタ」
提督「やはりか」
金剛「……少しだけ、私の心の内を見せても良いですか?」
提督「うむ」
金剛「ありがとうございます提督」
金剛「…………私、もっと提督の役に立ちたいです。そして、提督を護りたいです」
金剛「提督は一緒に海へ出ていますけど、本当は凄く凄く怖い。なぜか敵は提督を狙わないけど、これからはどうなるか分かりません」
金剛「それに、例え狙わないといっても流れ弾はあります。それで提督が…………しまったら、私……その場で提督を追いかけてしまいます」
提督「……金剛」
金剛「は、はい」ビクッ
提督「すまないが、椅子に座るのが疲れた。ベッドへ腰掛けよう。隣に座りなさい」ギシッ
金剛「え……? は、はい……」チョコン
提督「そのまま私へ倒れなさい」
金剛「こ、こう、ですか?」
提督「肩へではない。足の上にだ」
金剛「えーと……はい」ヒザマクラ
提督「話を途中で止めてすまなかった。続けてくれ」ナデナデ
金剛「あ…………」
金剛(これ、とっても幸せです……)
提督「どうした、金剛?」
金剛「──あ、ご、ごめんなさい。つい気持ち良くて……」
提督「そうか。それは良かった」
金剛「……えっと……それでですね」
金剛「提督を死なせる訳にはいけません。皆の為にも、なにより私の為にも」
金剛「だから、私は強くなりたいんです」
提督「………………それで?」
金剛「え?」
提督「それだけじゃないんだろう? もっと汚い部分もあるはずだ」
金剛「…………提督はなんでもお見通しですね」
提督「分かる所しか分からんよ」
金剛「提督らしい切りかえしです」
金剛「……でも、ここから先は私自身が嫌う汚い部分ですよ? 良いんですか?」
提督「……うん? なにか独り言が聞こえてきたような気がするが、気のせいか。私はこのまま金剛を撫で続けるとしよう」
金剛「くす……。優しいですね、提督」
提督「……………………」
金剛「……私は、怖いんです、瑞鶴が……。いつか、今私が立っている提督の隣を取っていくんじゃないかって」
金剛「今日、秘書としての勝負を持ち込まれた時は心の底から怖かったです。勝てたから良かったですけど、今でも思い出すと背筋が凍りそうです」
金剛「そして、戦力では圧倒的です。あれは私がいくら努力しても勝てそうにないです。スペックが違うというのでしょうか……」
金剛「そのスペックの差を埋めるには、技術しかないと思います。提督を護る為に読んでいた戦術指南書で、どうにかしようと思いました」
金剛「でも、今思うとそれは汚い感情です。提督の為に読み始めたはずなのに、いつのまにか瑞鶴と対抗する為に読むようになってしまいました」
金剛「私は、提督よりも自分の心を優先させてしまったのです。それが醜くて、汚くて、そして悔しい……」
金剛「私は提督が大好きです。提督が傷付きそうになるなら、私は身を挺して庇います。万が一、提督が居なくなってしまったら、私は後を追います。それくらい好きです」
金剛「なのに……いえ、だから、自分の為に本を読むようになっていったのが、物凄く悔しいです」
金剛「提督……ごめんなさい……」
金剛「……………………」
金剛「──提督、ありがとうございます。スッキリしました。これが私の汚くて、嫌いな部分です」
提督「なんの話だろうな」
金剛「ふふっ、独り言です」
提督「そうか、独り言か。それならば仕方が無い」
金剛「……そろそろお仕事に戻らないといけませんね」
提督「何を言ってるんだ金剛。今日のお前の仕事は終わってるぞ」
金剛「え、でも提督の机の上の──」
提督「私には何も見えないな。私に見えるのは、上官の膝に倒れこむほど寝不足の秘書だ」
金剛「……ズルいですよ、提督」
提督「上の者は基本的にズルいんだよ、憶えておくと良い」
金剛「もっと、好きになっちゃったじゃないですか」
提督「そろそろ溺れそうだな」
金剛「とっくに沈んでますよ。水面に届かないくらいに」
提督「困った秘書だ」
金剛「あはっ」
……………………
…………
……
金剛「ん……今何時──はっ!!」ガバッ
提督「起きたか」
金剛「……私、何時間寝てまシタか?」
提督「三時間にギリギリ届かないくらいだな」
金剛(という事は、今フタサンサンマルくらいデスか)
金剛「……テートク、机のスタンドライトだけでは目を悪くしマスよ」
提督「継続しなければ問題ないだろう」
金剛「私の為に気を遣って……」
提督「今日はこうして仕事をしたい気分だったんだ」
提督「だが、秘書の言う事は最もだろう。電気を付けるぞ?」
金剛「ノープロブレム。大丈夫ですヨ。──ワオッ眩しい」
金剛「さて、私もお仕事を──アレ? もう書類が無いデス……」
提督「言っただろう、今日のお前の仕事は終わったと」
金剛「あれだけあった書類を、たった一人──しかも三時間で終わらせるのは無理があると思います。どこに隠しましたか。終わらせた書類の下ですか?」
提督「……まったく、本当に勘が良いな」
金剛「ほらほら出してください。早く終わらせまショー?」
提督「いや、残りの九割は機密書類なんだ。私以外が見る訳にはいかない。金剛は自室にもどって寝るように。これは上官命令だ」
金剛「……理由を聞いても良いですか? 一割は残ってますよね」
提督「寝不足が原因で艦全体の動きに支障が出るのは困る。何度でも言うが、轟沈なんてされたら後悔してもしきれん」
金剛「……提督が寝不足になっても同じ事じゃないですか? それも、私よりも遥かに影響が大きいです」
提督「私が訓練した艦が早々轟沈する訳がないだろう。演習を見ていて分かったが、そろそろ私が一緒に出撃しなくても良いくらいだ。それでも私は行くがな」
提督「それに、私は轟沈などしない。死ぬ事は無いんだ」
金剛「それはどうなるか──」
提督「ならない」
金剛「────え?」
提督「そうならないように出来てるんだよ」
金剛「……………………」
金剛「それは、前に言っていた秘密ですか?」
提督「…………」
金剛「──分かりまシタ! 今日、私はぐっすりとスリープしマス!」
提督「うむ。おやすみ金剛」
金剛「グッナイ、テートク! ……ありがとう」
ガチャ──パタン
提督「…………さて、瑞鶴が来るのにあと三十分か。ギリギリだったな」
……………………
…………
……
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──
瑞鶴「……瑞鶴、出頭しました」
パタン
瑞鶴「あの、提督さん。お話って何……?」ビクビク
提督「昨日話したように、私と私に直属する艦娘の命は握られている。下手をすれば明日の命が無いのは知っているな?」
瑞鶴「う、うん……」
提督「本当は全くの進展無しではぐらかすつもりだったんだが、そうもいかなくなった。これを見てくれ」ガサッ
瑞鶴「……何これ?」
提督「簡単に言うなら、実験結果報告書だ」
提督「知っての通り、艦娘は一人の提督にしか言う事を聞かない。だから、私達の二人でそこの書類にある項目をクリアしていき、報告書を作成しろ、との事だ」
提督「まあ、私が何もしないで放置すると思ったのだろう。だからこんな物を送りつけてきた」
瑞鶴「……それって効率悪くない? この鎮守府にその手の施設とか職員を置くのが普通だと思うんだけど」
提督「この事はAAAクラスの機密事項。詳しくは知らんが微塵にも怪しまれる訳にはいかないのだろう」
提督「それに、駒も足りないと言っていた。何よりも人が居ないのだろうな」
瑞鶴「ふぅん……。げっ、薬物投与の項目もあるじゃない」
提督「それらの項目に従うつもりは一切無い。貴重なサンプルを薬で壊す可能性がある上、当鎮守府の戦力を大幅に削ぐため論外とでも適当な事を書くさ」
瑞鶴「……ありがとう、提督さん。……それにしても滅茶苦茶多いわね、この書類。どれだけあるのよ」
提督「まったくだ。通常の機密書類と一緒に送りつけてくるものだから、金剛を追い払うのに少し頭を悩まされた」
瑞鶴「…………あの、提督、さん。これ、全部、見た?」
提督「いや、全部は見ていないが、どうした」
瑞鶴「…………」スッ
提督「うん? ……『性行為による通常艦娘との違いの報告』?」
瑞鶴「……………………」
提督「…………………………………………」グッ
瑞鶴「だめえええ!!! 機密書類を破っちゃだめえええええ!!」ガシッ
提督「ええい放せ瑞鶴! あんのクソジジイ共こんなもん送ってきやがって!! 破り捨てて焚き火の燃料にでもしてくれるわ!!!!」
瑞鶴「それでもダメだってばあああ!!!」
提督「問題ない!! 紛失したと言えば良い!!!」
瑞鶴「それ言ったら隠蔽の為に私たち殺されちゃう!!」
提督「ならば誤って燃やしてしまったと!!」
瑞鶴「提督さん落ち着いてえええええええ!!!」
……………………。
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……よし、何も変わらなかったと書こう」
瑞鶴「検査されたら一発じゃない……」
提督「…………これで三十回のダメだし。もう他に思い付かんぞ」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「まだあるじゃない、一つ……」
提督「何、本当か!?」
瑞鶴「う、うん……」
提督「一体なんだ。むしろよく思い付いたな」
瑞鶴「……………………本当にやっちゃえば良いじゃないの」
提督「…………」
提督「そうだ。まだ瑞鶴の心の準備が出来ていない為、延期を希望と書こう」
瑞鶴「……私、提督さんなら良いよ?」
提督「…………」ビキィ
瑞鶴「万年筆にヒビが!? どういう力してるのよ!?」
提督「……瑞鶴、お前も冗談が言えるようになったじゃないか」ミシミシ
瑞鶴「万年筆が可哀想だから離してあげて!!」
瑞鶴「……本心よ。私、提督さんになら身体を預けて良い」
瑞鶴「それに、艦娘は生殖能力が無いから戦闘に影響は無いじゃない」
瑞鶴「……やらないと、私達はどうなるか分からない。それだったら、私は──」
提督「時間が必要と書く。本人が望まず強引に行為を運ぶと戦闘に甚大な影響が出る可能性が極めて高い」
瑞鶴「──え、提督さん?」
提督「ご苦労だった瑞鶴。今日はもう休みなさい」
瑞鶴「ま、まだ話は途中でしょ!? 性こ……さっきの話が最後なんだし、最後まで話しましょうよ!」
提督「いや、終わったよ。心の底で瑞鶴がどう思ってるのかを聞けた」
瑞鶴「え…………え……?」
提督「私の言っている意味が分からないのなら、じっくり考えると良い。安心しろ。上に急かされるまで命は大丈夫のはずだ」
瑞鶴「て、提督さん……? 私、何か癇に障る事──」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃい!?」ピシッ
提督「これ以上は明日の行動に支障をきたす。寝なさい」
瑞鶴「…………はい」
ガチャ──
瑞鶴「………………おやすみなさい、提督さん」
提督「ああ、おやすみ」
パタン
提督「…………はぁ」
提督「本当、やり辛くなってきた……」
提督「──それにしても、実験か。本当に効率が悪いな。なぜわざわざ瑞鶴を使う。敵艦を捕獲でもなんでもして──」
提督「──……そうだ、なぜだ? なぜ敵艦で実験しないんだ?」
提督「確かに瑞鶴は深海棲艦から造られた、たった一隻のサンプルだが、それにしては明らかに不必要だと思える内容もあった」
提督「何かがおかしい……。いや、おかしい事はいくらでもあるが……なんだ、この妙な違和感は……」
……………………
…………
……
~翌朝~
提督「ふぅん……沖ノ島海域でねぇ……」ズズッ
金剛「どうしましたテートク? 軍諜報新聞を睨み付けて」コクコク
提督「ん、沖ノ島海域で過去最大級の大規模戦闘があったらしい。敵味方共に被害は甚大だそうだ」
金剛「怖いですネー……」
提督「あそこは敵が蛆のように沸く海域らしいからな。大規模戦闘自体は珍しくもない。まあ、私達の管轄じゃないから大丈夫だ」
提督「……ところで、当たり前過ぎたから流してしまっていたが、どうして金剛がここに居る? 今日は休みにしたはずだろう」
金剛「私は提督の秘書デスから」
提督「本音は?」
金剛「提督と一秒でも長く一緒に居たいからデス」
提督「金剛は素直だな」
金剛「ふふーん。秘書の特権デス!」
提督「……こうして薄い紅茶を嗜みながら海を眺めていると、平和そのものなんだがな」ズズッ
金剛「ですネー……。戦争しているなんて嘘みたいデス」コクコク
金剛「それにしても、どうして今日は休みにしたのデスか?」
提督「なんとなくだ」
金剛「……………………」
金剛(何かありましたね、これは)
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
電「あの、い、電です」
提督「どうした?」
電「あのですね……えっと……なんて言えば良いのでしょうか……」オロオロ
提督「……ほら、飲んで落ち着きなさい」スッ
電「え、あ──はい」コクコク
金剛(む。間接キス……)
提督「落ち着いたか?」
電「──はい。ありがとうございます」
電「それで、ご報告なのですが……敵です」
提督「な──!?」
金剛「どこデスか電! 急行しマス!!」
電「あ、あの!! 落ち着いてください! その敵がおかしいのです!!」
金剛「おかしいって何がデスか!!! 早く行かないと──」
提督「金剛」
金剛「──ひゃいっ!」ピシッ
提督「電、おかしいというのはどういう意味だ。それは、お前が慌てていないのと関係があるのか?」
電「は、はい……それが……」
……………………。
空母ヲ級「…………」ボー
提督「……なんだあれは。なんで母港の端っこで黄昏てるんだ……」
雷「おまけに、なんだか砲身も折れ曲がってるわよ」
電「使い物になりそうにないです……」
暁「服もボロボロね」
響「まるで必死に逃げてきたみたいだよ」
ヲ級「……………………」ハァ
金剛「……物凄く落ち込んでるみたいネ」
川内「…………良く見たら艦載機積んでないよね、アレ」
神通「どういう事なのでしょうか……」
那珂「話しかけてみる?」
瑞鶴「誰がやるのよ……」
提督「…………私が行く」
金剛「何を言ってるんですか提督!?」
響「正気かい? ……いや、司令官ならそんな無謀もやりかねないか」
提督「響、あとで吊るすからな」
響「なっ!?」
暁「……同情するわ」
提督「皆はここで待っててくれ」
金剛「私も行くわ。提督は私の一歩後ろを進んできてください」
電「……本当に行くのですか?」
提督「ああ。これは今までに前例が無いからな」
雷「いってらっしゃい司令官!」
暁「雷、いってらっしゃいって……」
雷「だって司令官と金剛さんよ? 大丈夫に決まってるじゃない!」
瑞鶴「…………」
提督「それじゃあ行って来る。瑞鶴、川内、神通、電は周辺の索敵。何かあったら瑞鶴を司令に動いてくれ」
提督「行くか、金剛」
金剛「ハイ! 皆さん、頼みましたヨー?」
瑞鶴(…………あの敵空母、危険じゃないような気がする……)
瑞鶴(やっぱり、深海棲艦がベースだからかな、私……)
……………………。
ヲ級「?」チラッ
金剛「動かないデ! 動いたら撃ちマス!!」
ヲ級「ッ!?」ビクッ
提督「……今までの敵と様子が違うな」
ヲ級「…………」ビクビク
ヲ級「……?」
提督「うん?」
ヲ級「…………」ジー
提督「……なんだ?」
ヲ級「…………?」ジー
提督「……………………」
ヲ級「……」チラ
金剛「……なんデスか?」ジャキッ
ヲ級「!」ビクッ
ヲ級「…………」ビクビク
提督「…………」
提督「金剛、砲を下ろしてやれ」
金剛「できまセン」
提督「私からのお願いだ」
金剛「う……。何か変な行動をしたと思ったら発砲して良いですか」
提督「許可する」
提督「……さあ、教えてもらおう。どうしてここに居るんだ?」
ヲ級「……………………!!!!」ビクゥッ
ヲ級「!」ピシッ
提督「…………なぜ敬礼をした」
金剛「テートク……このエネミー、意味不明ネ……」
提督「ここまでくるともはや敵かどうかさえ疑いたくなる……」
ヲ級「…………?」
提督「…………」
ヲ級「…………」ソロソロ
金剛(テートクに近付いて何をする気……? 敵意は感じないケド……)
提督「……なんだ?」
ヲ級「…………」ソロー…ギゥ
金剛「なぁッ!?」
提督「……は?」
ヲ級「♪」ホッコリ
金剛(なんってハッピーな顔をしてるんデスか、このエネミー……)
ヲ級「♪」スッ
ヲ級「♪」ニコニコ
提督「……一体お前はなんなんだ?」
ヲ級「…………」ピョン…パシャ
ヲ級「♪」ペコッ
提督「…………」
ヲ級「♪」スーッ
金剛「……なんだったんデスかね、アレ」
提督「分からん……」
……………………
…………
……
金剛「結局あの敵空母、分からずじまいでしたネー」
提督「当たり前のように提督室でお前の髪を梳いている私の方が分からんがな」
金剛「折角の休みなんですカラ甘えさせてくださいヨー」
金剛「それにしても、なぜ提督に敬礼したんデスかね?」
提督「あれは本当に謎だった」
金剛「もしかしてエネミーの司令官も同じ服を着ていたりシテ。ほら、それだったら提督に攻撃しないのも頷けるでショ?」
提督「それだとあのヲ級がすぐさま敬礼しなかった事に説明がつかん」
金剛「アー……たしかニ……」
金剛「まったく訳が分かりまセーン……」
金剛「……テートク」
提督「うん?」
金剛「昨日のよ──」
コンコン──。
提督「む、すまん金剛。……入れ」
瑞鶴「失礼します──って、金剛さん?」
提督「瑞鶴、どうした?」
瑞鶴「あ、えっと……その……提督さんとお話がしてくて……」
提督「私と? なんの話だ」
瑞鶴「…………」ジッ
金剛「? なんデスか?」
瑞鶴「やっぱり話は後で良いです! 提督さん、私の髪も梳いてください!」シュル
提督「…………」
金剛「オー。ロングヘアーだとは思っていまシタが、下ろすと思っていたよりも長いですネー」
瑞鶴「……それ、金剛さんが言う?金剛さんの方が圧倒的に長いじゃない」
金剛「自慢の髪デース♪」
瑞鶴「手入れ、大変じゃない?」
金剛「テートクにブラッシングしてもらってるおかげで、この通りデース」
提督「私は梳いてるだけで、他は全部、金剛自身がやってるだろう」
金剛「テートクー、ブラッシングは大事なんですヨー?」
瑞鶴「うんうん。そうなのよ、提督さん?」
提督「……どうして私なんだ?」
金剛「だって、テートクのブラッシングはとっても気持ち良いデス」
瑞鶴「それに、優しくて丁寧よね」
提督「……………………」
金剛「テートク、あと少しで瑞鶴にもブラッシングしてあげてくだサイ」
瑞鶴「え、良いの?」
金剛「こんなに気持ちの良いブラッシングを独り占めなんて、できまセーン」
瑞鶴「……ありがとう、金剛さん」
金剛「ノンノン。お礼はテートクにデース」
瑞鶴「…………うん。ありがとう、提督さん」
提督(やるとは言っていないんだが……まあ、良いか)
……………………。
瑞鶴「はー……幸せー……」
提督「そんなに良いものかね……」
瑞鶴「すっごく良い」
金剛「まさに至福の時デース」
提督「……どうして金剛は私のベッドの上に転がってるんだ」
金剛「普段はできないデスから、甘えさせてくださいヨー」
提督「まったく……」
瑞鶴「あ、それ私もしたい」
提督「……あー、分かった分かった。今日はハメを外して良いぞ」
金剛「ヤッター!!」ダキッ
提督「こら飛び付くな」
金剛「抱き付いているんでーすよー♪」ギュー
瑞鶴「……ハートが飛び交ってるのが見える気がするわ」
金剛「瑞鶴もやると良いでーす」
瑞鶴「え……でも私は……」チラ
提督「…………」
瑞鶴「ぅ…………」オズ
提督「……はぁ…………分かった。お前もハメを外せ。戦場ではハメを外す機会を設けるが良いしな」
瑞鶴「えっと……それじゃあ……えいっ」ピト
金剛「両手に花ですね、提督♪」
提督「どうしてこうなったのやら」
金剛「提督が私達のハートを撃ち抜いたからです」
瑞鶴「…………」
金剛「あれ、瑞鶴は同意できないですか?」
瑞鶴「分からない……うーん…………うーん……?」
金剛「じゃあ、私が提督に貰われますね」
瑞鶴「それはヤダ」
金剛「我儘でーす」
提督「……私の意志は関係無しか」
金剛「私は既に提督のモノですよ?」
提督「こら。自分を物扱いするんじゃない」
金剛「抽象的な意味の『モノ』でーす」
提督「まったく……」
金剛「ねー、提督。一つ、我儘を言って良いですか?」
提督「内容による。まずは言ってみなさい」
金剛「今夜は一緒に寝たいです」
瑞鶴「んなっ」
提督「……相変わらずオープンだな、お前」
金剛「だって、一緒の布団を被って寝るなんて幸せじゃないですか」
瑞鶴「あ、それ分かるわ。提督さん、私も一緒に……良い?」
提督「瑞鶴、お前まで……。どうしようかなぁ…………」
金剛「悩むという事は、可能性があるって事です! 瑞鶴、押していきましょう!」
瑞鶴「え? う、うん」
提督(まったく……本当にどうしてここまで懐かれてしまったのか……)
……………………
…………
……
響「さて、散々気になっている事を話そう」
電「どきどき」
雷「わくわく」
暁「…………」
響「おや、暁は司令官たち三人が気にならないのかい?」
暁「あんまり」
暁(本当は物凄く気になるけど、大人のレディはパパラッチみたいにならないわ)
響「そうか。少し残念だね」
響「じゃあ、私たち三人で──」
暁「ちょっと待ちなさい。あんまり気にならないだけで、会話に入らないとは言ってないわ」
響「そうかい? なら、私たち四人で司令官たち三人がどこまでいっているのか妄想しよう」
電「はわわわわ! 響ちゃん、ハッキリ言い過ぎだよぉ」
雷「私はBくらいならいってると思うわ!」
電「い、雷ちゃんも……」
暁「雷、はしたないわよ」
響「そうかい? 私はAもいってないと思うよ。電はどう思う?」
電「え、えっと……私も響ちゃんと同意見なのです……」
暁(私は最後までやってると思うなぁ)
雷「そう? 金剛さんは皆の見えない所でアタックをしてそうじゃない?」
響「あの司令官の事だ。きっとのらりくらりとかわしているさ」
暁「どうかしら? 普段はああでも、夜になるとケダモノかもしれないわよ?」
電「け、けだもの……!!」
雷「おおー、言うわね、暁!」
響「一番はしたない言葉を口にしているのは暁だね」
暁「あっ──」
響「もう遅いよ。大人しく素直になろうじゃないか」
暁「~~~~~~っ!!」
暁「はぁ……分かったわ。素直になる」
響「それでは、話の続きといこう。どうして雷はBまでだと思ったんだい?」
雷「なんとなくかしら。金剛さんにはBで瑞鶴さんにはAもいってないってイメージよ」
雷「だって瑞鶴さん、奥手そうじゃない?」
響「なるほど。確かに瑞鶴さんは奥手そうだ」
暁「ああいうのに限って積極的だったりもするわよ」
電「瑞鶴さんが積極的に、司令官さんに……!! はわわわ!!」
響「そう言われるとそんなイメージがあるね。恥ずかしいけれど司令官と……ってな具合に、自分の感情を抑え切れなくなってしまってそうだ」
電「わ、私はそんな感じがしない、かなぁ。いざって時にお二人とも動けなくなってそう、です……」
雷「特に瑞鶴さんはチャンスを逃しそうよね」
響「激しく同意するよ」
暁「そうかしらね? 金剛さんは大胆に誘って、瑞鶴さんは布団の上で待っていそうだわ」
響「しっくりくるね」
暁「そして行為に移ると、司令官への愛が大きくて二人とも貪るように腰を振りそう」
電「あうぅ……恥ずかしいよ……」
雷「意外とストレートね、暁」
響「これは流石に……恥ずかしいな」
暁「う……」
響「どこからそういう知識を手に入れているんだい、暁。ちょっと私にも情報源を教えてくれないか?」
雷「わ、私も気になるわ!」
電「あ、あの……私もです……」
暁(やっぱり参加するんじゃなかったぁー!!)
……………………
…………
……
川内「夜戦……やーせーんー……ぐぅ」
那珂「那珂ちゃん……パワー……アー……くー……」
神通「すぅ……すぅ……」
川内「──隣に駆逐艦がぁ!?」ガバッ
神通・那珂「ッ!?」ビクゥッ
川内「んが……ぐぅー……」
神通・那珂「…………」
川内「イタタタタタタタタ!?」ツネー
……………………
…………
……
金剛「三人一緒に布団の中でーす♪」
瑞鶴(やだ……自分でもびっくりするくらい落ち着くわ……)
提督「……………………」
金剛「ありがとうございます、提督♪」
提督「いつも私の為に一生懸命になってくれているんだ。このくらいはな」
瑞鶴「三十分は説得したと思うけど……」
提督「瑞鶴、自分の部屋に戻るか?」
瑞鶴「ごめんなさい!」
金剛「あははっ。提督と瑞鶴も仲良しでーす♪」
金剛「えいっ」ピト
提督「む」
瑞鶴「? 何したの?」
金剛「嫉妬したのでピッタリとくっつきましたっ」
瑞鶴「ず、ずるい! 私も!」ソッ
提督「……甘えん坊だな、二人共」ナデナデ
金剛「嫌いですか?」
提督「頭を撫でているこの手は何かな」
金剛「えへっ♪」
金剛「……提督、私の心臓の音、分かりますか?」
提督「…………速いな」
金剛「すごく幸せで、すごく嬉しくて、すごくドキドキしています」
金剛「瑞鶴はどうですか?」
瑞鶴「……え、私?」
金剛「はい! 私と同じですか?」
瑞鶴「私は……逆ね。ものすごく落ち着いてる。眠いくらい、安心してる」
金剛「おー……瑞鶴は肝が座ってマース……」
提督「人それぞれという事だろう」
金剛「そうですねー。不思議なものです」
金剛「提督はどうですか?」
提督「……色々な感情が巡りに巡って訳が分からない事になっている」
金剛「どんな感情なんでしょうかね~?」
提督「部屋に戻るか?」
金剛「冗談ですよー!」
提督「ああこら、大きな声を出すな」
金剛「?」
提督「瑞鶴、寝てしまったんだ」
瑞鶴「……くぅ……くぅ」
金剛「…………え? あの短時間で?」
提督「らしい」
金剛「……ある意味すごいわね」
提督「そういう事で、私達も眠りに就こうか。今日ほど寝れる日はそうそう無いぞ」
金剛「そうですねっ。提督、良い夢を」
提督「ああ、おやすみ」
……………………
…………
……
~翌日~
提督「──諸君、昨日は充分に休息が取れたか?」
全員「はいっ!」
提督「良い返事だ。今回は少し特殊な事情になるので、充分に注意されたし」
提督「第一艦隊は新しく出撃認可が下りたカムラン半島へ出撃」
提督「第二艦隊は旗艦を神通。続いて暁、響、雷、電の五名でマルハチマルマルより海上護衛任務」
提督「尚、今回は建造を行い、新たに仲間を加える予定となっている。その艦によって第一艦隊の編成が変わる為、まだ第一艦隊の編成は発表できない」
提督「以上。何か質問はあるか?」
提督「…………無いようだな。では、第二艦隊は遠征準備を始め、四十分後のマルロクヨンマルまでに第二船着場に集合するように」
神通・暁・響・雷・電「はい!!」
提督「瑞鶴を除く三名は母港にて警戒しつつ待機。瑞鶴は私と一緒に工廠へついてきなさい」
金剛・瑞鶴・川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
~工廠~
提督「さて、建造妖精」
建造妖精「ん? やーやー提督さん。建造かい?」
提督「うむ。総司令部からの指示で一隻分の特別資材を送られてきていると思う」
建造妖精「あー、うん来てるねー。にしても、何アレ? 本当にあんなので建造できるの?」
瑞鶴「…………」
提督「総司令部の考える事はよく分からん。私も出来るとは思っていない」
提督「なのでそれとは別にもう一隻、造ってもらおうと思っている」
建造妖精「なるほどねー。資材はどれくらい使うんだい?」
提督「総司令部が指示した各資材投入量はこうなっている。二つとも同じで頼む」
建造妖精「はいよー」
提督「ああ、総司令部からの指示で送られてきた資材と、普通の資材は混合して建造しないようにしてくれ」
建造「総司令部用と普通のとで分けたら良いんだね? りょーかいー」テッテッテッ
瑞鶴「……提督さん」
提督「諦めろ、瑞鶴。ここを指示通りに動かなかったら流石に上も黙っちゃいないだろう」
瑞鶴「うん……そうだけど、一つ言いたい事があるの」
瑞鶴「あれ、絶対に造れないと思うよ」
……………………
…………
……
建造妖精「提督さん、できたよー」
提督「ご苦労。どうだった?」
建造妖精「普通の資材の方はきちんと出来たよ。でも、総司令部からの特別資材は無理だったよ」
建造妖精「いやぁ、びっくりしたね。だって、艦娘の魂が入ってこないんだもん。あれじゃただの船だよ」
提督「やはりか」
建造妖精「あれ、どうする?」
提督「総司令部からの指示によると、建造できなかった場合は解体して送り返せとの事だ」
建造妖精「えー……造りたてなのに解体しなきゃいけないのー……?」
提督「そのようだ。面倒を掛けてしまうな」
建造妖精「提督さんが悪いんじゃないさ。総司令部が残念なんだよ」
提督「お詫びといってはなんだが、間宮アイスクリーム券だ」
建造妖精「なんだって!? ひゃっほぉぉぉおおおおお!!!」
建造妖精「本当に提督さんは優しいなぁ」
提督「ありがとう。そして、建造できた艦娘はどこかな?」
ヒュ──ガシッ!
島風「お゙ぅ!?」
提督「ん? ああすまん。つい捕まえてしまった」
島風「こ、この私が捕まるなんてー……」
瑞鶴(何この子……速過ぎでしょ……)
提督「…………」スッ
島風「あなた何者? 今の結構全力だったんだよ?」
提督「…………」
島風「…………? ねえ、何か喋ってくれませんか?」
瑞鶴(あ、あぁぁ……これはマズい……)
提督「どうやら教育が成っていないらしい」
島風「──え? な、なんかやばい……?」
提督「吊るしてやるから覚悟しろ」
島風「て、撤退ッ!!」ビュン
瑞鶴「うわっ! 速っ!!」
提督「瑞鶴、この帽子を持っててくれ」ポスッ
瑞鶴「──わっ。え? はい……」
瑞鶴(あ……提督さんの帽子が私の頭に……)
提督「身体を激しく動かすのは久し振りだ。衰えていなかったら良いのだが」グッグッ
提督「ん、調子は良いみたいだな」
提督「──さて」ダンッ
瑞鶴「高ッ!?」
瑞鶴(ええええ……あの窓って10mはあるわよね……? 提督さん何者……?)
瑞鶴「……ん?」
島風「へ、へへーん! 島風には、誰にも追いつけないんだから!」ヒョコッ
提督「…………」スッ
瑞鶴(え!? あの高さから降りて音が無い……!? あの島風って子も、後ろに降りたのに気付いてないし……)
瑞鶴(……提督さんの帽子)ホッコリ
提督「そうかそうか」
島風「ひゃんっ!? …………っ」ソー
提督「…………」ジッ
島風「────ッ!!」ビクッシュバッ
提督「…………」タン──スッ
島風「ひゃあッ!!? 上から!? 目の前に!?」
提督「…………」ジッ
島風「あ、ああ……あぁああ、の……」ビクビクビク
島風「ひぃっ!!」ダッシュ
提督「…………」タッ
──ガシッ!
島風「お゙ぅっ!!?」
提督「…………」ジッ
島風「に、逃げる事すら……できない、なんて……」ガタガタ
提督「────吊るす」
島風「ひっ──!」
きゃあああああああああああああああああ────ッッッ!!!!!!!
金剛「なっ、なんの声デスか今のは!?」タタタ
川内・那珂「…………あー」タタ…
島風「やーめーてー!! やーめーてーよー!!!」ブラーン
提督「反省が足らんようだな」
島風「人!! 人が集まってきてるってば!!」
提督「ああそうだな」
島風「スカートの中が見えちゃう! 恥ずかしいってーっ!!!」
提督「…………」ジッ
島風「ひぃッ!?」ビクッ
那珂「……君、何をしたの?」
島風「なーにーもーしーてーまーせーんー!!」
金剛「……何もしなかった?」
瑞鶴「そう。何もしなかったの……」
金剛「ああー……何もしなかったのネ……」
川内「なるほどねー……」
那珂「那珂ちゃん納得……」
島風「どうして納得してるのーッ!?」
提督「島風」
島風「ひゃぅッ!? な、なんですか……?」ビクビク
提督「私がどんな立場の人間か答えろ」
島風「て、提督……です……」ビクビク
提督「自分の立場をなんだ」ジッ
島風「くち、く……駆逐艦、です」ビクビク
提督「上官に対しての第一声、貴様はなんと言った」
島風「あ……あぁぁあぁぁぁ…………」ビクビク
提督「答えよ」
島風「あ、あなた……何者……と、言いまし……た…………」ビクビクビク
金剛・瑞鶴・川内・那珂(こうなって当たり前よね……)
提督「何か言う事は」
島風「──ごめんなさい!! 提督に不敬を働いてごめんなさいっ!!」
提督「よろしい」クルクルホドキホドキ
島風「う、ぅぅ……」
提督「…………」ジッ
島風「ヒッ──!」ビクッ
島風「あ、あの……何か、罰が与えられるのですか……?」ビクビクビク
提督「うん? 既に罰は与えただろう」
島風「え……?」
提督「お前は私に不敬を働いた」
島風「はい……」ビクッ
提督「私は捕まえて吊るした」
島風「…………」ビクビク
提督「お前は自分の過ちを認め、そして謝っただろう」
島風「…………?」
提督「罰はそれで終わりだ」
島風「……え!? か、軽すぎじゃないですか!?」
金剛(やっぱり最初はそう思いますよネー)
提督「知らん。この鎮守府は私の城だ。私のやりたいようにやらせてもらう」
島風「……なんだか凄い人ですね」
提督「…………」
島風「──申し遅れました! 私、駆逐艦の島風です! スピードなら誰にも……提督以外に負けません! 速きこと、島風の如し、です!」ピシッ
提督「うむ。よろしく」
……………………
…………
……
提督「──さて、第二艦隊も見送ったところで第一艦隊の編成を発表する」
提督「カムラン半島へ出撃する第一艦隊の旗艦を金剛。続いて瑞鶴、島風。以上だ」
金剛「提督。一つよろしいデスか」
提督「なんだね?」
金剛「建造直後の島風をいきなり出撃に出すのは少々、酷じゃないデスか?」
提督「私が留守の間、この母港を守ってもらわないといけない。そこに島風を置く方が酷だろう」
提督「そして、私のやり方を覚えて貰い、尚且つ経験を積ませたいから連れて行く。金剛と瑞鶴が一緒ならば大丈夫であろう」
金剛「ナルホド……」
提督「他に質問のあるものは居ないか? …………居ないようだな。では、第一艦隊、出撃」
提督「川内、那珂。 私が居ない間、母港を守ってくれ」
川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
島風「提督もついてくるんですね」
提督「そうだ」
島風「…………なんか納得しました」
金剛「あんまり驚かないのデスね?」
島風「提督の凄さはもう身に染みてますから……」ブルブル
瑞鶴(そりゃあ、あんな事されたらねー……)
提督「──敵も近くに居ないようだ。今の内に島風に海の上での決まりを教えておこう」
~提督説明中~
提督「守らなかったら吊るす」
島風「はいっ!!」ピシッ
提督「…………瑞鶴」
瑞鶴「うん。偵察機を飛ばすわね」
島風「え?」
金剛「敵よ、島風」
島風「え、ど、どこ?」
瑞鶴「──提督さん、二時の方向に重巡リ級一隻、軽巡へ級二隻、駆逐イ級一隻、ロ級二隻。陣形は単縦陣みたい」
提督「…………重巡に艦攻、軽巡一隻に艦爆で先制攻撃。その間に金剛と島風は戦闘準備をしなさい」
瑞鶴「了解!」
金剛「──準備オッケーネー!」
島風「は、はやっ! 連装砲ちゃん、お願い!」
提督「…………準備ができたようだな」
──ッドォォォン!!
瑞鶴「提督さん、艦攻の攻撃を駆逐イ級が庇ったみたい。軽巡、駆逐、共に一隻撃沈よ!」
提督「よし、総員戦闘開始。金剛、敵重巡へ斉射。瑞鶴、第二次攻撃隊発艦。島風、蛇行を繰り返して最後尾の駆逐艦へ付かず離れずの距離を維持できるか?」
島風「……ちょっと怖いけど、行きます!」
提督「良い返事だ。瑞鶴の攻撃で一隻だけ切り離す。切り離せたら主砲で斉射しろ」
金剛・瑞鶴・島風「はい!」
リ級・前方ロ級・後方ロ級「!!」ドンドンッ!
島風「へへーん! そんな攻撃、当たらないんだから!!」ヒョイヒョイ
提督「金剛、今だ。放て」
金剛「バーニング・ラァァアアブ!!」
リ級「!?」 撃沈
提督「瑞鶴、敵進行方向の逆側から前方駆逐ロ級を攻撃。後方の駆逐ロ級を引き剥がせ」
瑞鶴「はい!!」
提督「そして──」
島風「どこ狙ってるのー!? 遅いおそーい!!」
島風「!! 前方の駆逐艦が大破炎上して、後ろの駆逐艦が回避行動を取った! ここね!! 逃がさないんだから!!!」
後方駆逐ロ級「ピ、ギ──!!」 中破
島風「あっ! 倒せなかった……! 砲身がこっちに──か、回避!!」
後方駆逐ロ級「ガ──ッ!?」ドゴドゴッ 撃沈
島風「──え?」
島風「今の……艦載機の攻撃? ……護ってくれたんだ。ありがとう……」
島風「よーし! 島風、もっと頑張ります!!」
……………………
…………
……
提督「戦闘終了、ご苦労」
金剛・瑞鶴・島風「周囲に敵は居ません!」
提督「よろしい」
島風「あの、瑞鶴さん」
瑞鶴「ん、なにかしら?」
島風「さっきは護ってくれて、ありがとう。おかげで助かっちゃった」
瑞鶴「それなら提督さんに言ってあげて? 島風の護衛に艦載機を割くよう指示をしたのは提督さんなの」
島風「提督さんが……?」チラ
提督「…………」
島風「──助けてくれてありがとう! 嬉しかったよ!」
提督「艦を護るのは私の務めだ」
島風「むー。素直じゃないんだから」
提督「時に島風。お前はヒットアンドアウェイを知っているか?」
島風「え? んー……攻撃してすぐに離れるって戦法ですか?」
提督「そうだ。島風は他のどの艦よりも速い。その長所を生かしてヒットアンドアウェイで戦ってみると良いだろう」
提督「攻撃を避けつつ射程に入り、攻撃をしてすぐに回避しつつ離れる。そうやって敵を撹乱できるのは恐らく、お前だけだ」
島風「私だけ……?」
提督「そうだ。島風が一番速いからだ。もしお前を追ってきたとしても、誰も追いつく事すらできんだろう」
島風「私が、一番……」
島風「────はい!! やっぱりそうよね! だって速いもん!」
提督「だが、調子に乗ったら……」
島風「しません! 吊るさないで!」ビクッ
提督「うむ。心得ておけ。慢心は敵だ。僅かな慢心が艦隊の全滅を引き起こす事さえあるだろう」
島風「はい!!」ピシッ
……………………
…………
……
提督「今帰った」
川内・那珂「おかえりなさいー」
川内「提督、あの島風って子、どうだった?」
提督「役に立ってくれたよ。そして、あの通りだ」
島風「ハー……ハー……もう、走れない……疲れた……」グッタリ
那珂「何があったのー?」
提督「敵に空母が三隻居てな。輪形陣を組んでいて中々倒せそうになかったから制空権争いをしている時、島風に全力で避けてもらいつつ一番近くの空母に肉薄して、攻撃してもらった」
川内「そんなに近く!? それって危なくない!?」
提督「肉薄さえ出来れば逆に敵が盾となるからな。見事に指揮が崩れ、その間に制空権を取って空母の護衛艦を沈め、金剛と島風の砲雷撃で空母を撃沈してくれたよ」
川内「島風が可哀想じゃないかな……」
島風「無理矢理じゃないもん……はぁ……私が、希望したんだもん……へぅぅ……」
那珂「え、自分から?」
提督「ほら、水だ」
島風「ありがと……。ん……」コクコク
島風「ふー……。そうだよ、私から希望したんだよ」
那珂「そんな危ない役、どうして買って出たの? 近付く時に沈んじゃうかもしれないのにー……」
島風「だって、島風にしか出来ない事だって、提督が、認めてくれたんだもん!」
島風「それに、提督だったら絶対、ぜーったいに島風を沈ませないから!」
川内(……ね、どうしてあんなに提督を信用してるの? 島風ってついさっき来た子のはずよね?)
金剛(沈まないようにテートクが密かにサポート指示していたのデス。それを瑞鶴がバラしたのヨ)
金剛(下手したら轟沈する状況だったのデスが、間一髪で助かりまシタ)
川内(なるほどねぇ……。吊り橋効果ってヤツだっけ?)
金剛(結果的にそうなりましたケド、絶対に考えてなかったでしょうネ。テートクですから)クス
川内(提督だしねー)クス
提督「ん、呼んだか?」
金剛「イイエー?」ニコニコ
川内「微笑ましい会話をしていただけですよー」ニコニコ
提督「……そうか」
……………………
…………
……
提督「──よし、今日の書類の片付けは終わりだ」
金剛「現在フタサンマルマル。凄いデス! 今まででベストタイムです!!」
提督「秘書が有能で助かるよ」
金剛「まだまだデース。いつか提督のスピードに追いつけるようになりマース!」
提督「楽しみにしておこう」
金剛「──あと、ここにも早くキスが欲しいですね。その先も勿論」
提督「唇に指を当ててまあ積極的なことで」
金剛「だってー。瑞鶴に負けてしまいますもんー」
提督「なんの話だ」
金剛「『提督になら身体を預けて良い』とか『艦娘は生殖能力が無いから戦闘に影響は無い』って聴こえましたよー?」
提督「……どこまで聴いた」
金剛「今言った所だけです。前後の話は聴いてませんけど、明らかにそういう話じゃないですか」
金剛「髪を梳いたりするのは良いですけど、流石にそれだけは誰にも譲りたくないです」
金剛「──提督、瑞鶴の誘い……受け取ったのですか?」
提督「勿論、拒否した」
提督「それより、金剛が盗み聞きをするとはな。お前はそんな奴だったか?」
金剛「言い出せなくてごめんなさい。シャワーを浴びようと通りかかった時、とても瑞鶴の大きな声が聴こえました」
金剛「なんて言ったのかは分かりませんでしたが、何があったんだろうと思ってドアに手を掛けた時、さっき言った言葉が聴こえてきたのです」
金剛「これは邪魔をしてはいけないなーと思ってその場をすぐに去りました」
提督「成程。たしかに金剛らしいな」
金剛「ぅー……信じてくれないですか……?」
提督「言い方が悪かった。信用するよ、金剛」
提督「だから昨日、急に甘えてきたのか」
金剛「そうです……。私へ振り向いてもらおうと、少しだけ自分に素直になりました……」
提督「うん?」
金剛「あっ……」
提督「聞かせてもらおうか」
金剛「あう……ここ最近で一番の失敗でーす……」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「……喉が渇きそうだな。金剛、新しく紅茶を淹れてくれ。新しい茶葉でな」
金剛「えと……それは、私のも、ですか……?」
提督「無論だ」
金剛「くす……はい、少々お待ちくださいね」
……………………。
提督「うむ。やはり茶葉が新しいと舌触りが良い。これは口が滑りそうだ」ズズッ
金剛「…………」コクコク
金剛「…………」フゥ
金剛「……私ですね、本当は甘えん坊なのです」
金剛「できるなら、提督と四六時中くっついていたい、もっと提督に触れたい、髪を梳いてもらいたい──それくらい提督が大好きで、それくらい甘えん坊なのです」
金剛「提督なら知っていると思いますが、私は金剛型戦艦の長女です。それ故、私には甘えれる相手が居ませんでした」
金剛「榛名からは慕われ、比叡からは甘えられ、霧島からは頼りにされました。だから私は、妹達の望む姉になる為、頑張りました」
金剛「強く、凛々しく、頼れる──そんな姉に、です」
金剛「でも、私だって弱い心はあります。強い優しい人に憧れて、弱い自分を曝け出し、人に甘えたい気持ちなんていくらでもあります」
金剛「だから、私は提督に心を惹かれました。提督は強く優しく、甘えさせてくれました。今も、弱い私を目の前にして真剣に話を聞いてくれています」
金剛「……正直、怖いです、どんどん提督にのめり込んでいく自分が。いつか本当の私を曝け出した時、拒絶されるかもしれないんじゃ……と思っています」
金剛「──あはっ、これが私の本性です」
提督「…………」
金剛「……ごめんなさい。普段、気丈に振舞っている私は、本当の私であって本当の私ではないのです……」
提督「……たしかに、普段の金剛からは予測が付かないな。だが、人などというものはそういうモノだろう?」
提督「強い面と弱い面がある。矛盾した、本音と建前がある」
提督「そう、私もだ」
金剛「──え?」
提督「先程、金剛は私を強い人と言った。だが、それは間違っている」
提督「弱いなんてものではない。私は既に負けているのだ」
金剛「…………ごめんなさい。私の頭では分からないようです……」
提督「よい」
金剛「……いつか、提督が良かったら教えてくれますか?」
提督「……そうだな。約束しよう」
金剛「…………」
提督「…………」
金剛「……………………提督、弱い私からのお願いです。その腕の中に、私を収めてもらって良いですか?」
提督「……構わんよ」スッ
金剛「ぁ──。…………ありがとう、優しい提督……」ソッ
提督「紅茶が悪い」
金剛「?」
提督「紅茶が悪いんだ」
金剛「くす──。そうですね、紅茶が悪いです────」
……………………
…………
……
~翌日~
提督「さて……昨日忘れていた、新しい艦娘の実体化をしようか」
金剛「誰が来るんでしょうかネー?」
瑞鶴「空母系列と戦艦以外だったらなんでも良さそうよね」
川内「できれば駆逐艦とか軽巡とかが良いのかな? 資材的にも」
金剛「そうなんですよネー……もう少し良い遠征にも出ないと資材がカツカツなのデース……。かといって戦艦や空母を遠征に出すわけにはいきまセンし……」
……………………。
天龍「俺の名は天龍。フフフ……提督、怖いか?」フンス
龍田「…………」
提督「…………」
天龍「……あれ、どうした二人共?」
瑞鶴(ちょっとちょっとちょっと!? あそこ物凄く怖いんだけど!?)
響(背筋が凍りそうだ……ここはいつから北国より冷たくなったんだい……)
電(な、何か龍と虎が見える気がするのです!!)
金剛(あの天龍って子、そこが一番危険な場所と気付いていないのデスか……?)
龍田「…………」
提督「…………」
龍田「…………」タジ…
提督「…………」
龍田「…………!」ピシッ
龍田「天龍型二番艦、軽巡洋艦の龍田です。提督さん、よろしくお願いします」
提督「うむ。二人共よろしく」
全員(何かの決着がついた──!!)
天龍「ど、どうしたんだよ龍田? いつもと口調が違うぞ?」
龍田「提督さん、天龍ちゃんのご無礼、私がお詫び申します。許してください」
天龍「龍田!? こ、こんの野郎!! 龍田に何しやがった!!?」ジャキッ
瑞鶴(あ)
提督「…………」ジッ
天龍「ひっ──! お、おおお俺は、負けないぞ!?」ビクッ
提督「…………」
天龍「…………っ」ガタガタガタガタ
龍田「あ、あの~……」ビクビク
提督「龍田」
龍田「──はい!」ピシッ
提督「良い姉妹を持ったな」
龍田「え? はい……?」
提督「大切にするように」
龍田「────勿論ですよ~」
提督「さて……どうしてくれようか、天龍?」ジッ
天龍「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!!」ビクン
提督「…………」
天龍「~~~~!」ビクビク
提督「龍田を護ろうとするその意思に免じて罰は無しだ」
天龍・龍田「…………」
天龍・龍田(良かったぁ~!)
提督「だが、次はない」
天龍・龍田「はいっ!」
提督「ああそれと、天龍、龍田。礼儀さえ弁えておれば口調などは素で構わん」
天龍「おう!」
龍田「は~い」
島風「……順応が早いわね」
瑞鶴「ある意味島風と同じね」
島風「私が速さで負けるなんてー……」
金剛「いや……漢字が違いますからネ?」
提督「では天龍と龍田はこれから出撃してもらおう。編成は──」
……………………
…………
……
~艦隊帰投後~
川内「提督ー、おかえりーっ!」ブンブン
提督「うむ。今帰った」
天龍・龍田「…………!」ガタガタガタ
那珂「ど、どうしたの一体……?」
金剛「それがー……」
天龍『なんでだよ提督!! あとちょっとでアイツを落とせるんだ!! 死ぬまで戦わせろよぉ!!』 中破
龍田『肉を切らせて骨を断つ……ふふっ……ふふふふっ…………え、提督さん……?』 中破
金剛「という事がありましてー……」
川内「ああ……提督なら絶対に認めないね、それ……」
提督「吊るしてくる」
天龍「あう……あぁぁ……」ビクビクビク
龍田「だ、大丈夫よ、天龍ちゃん……私も一緒……一緒だから……」ビクビク
……………………
…………
……
~翌日~
提督「まーた沖ノ島海域で大規模な戦闘か……」ズズッ
金剛「またデスか?」
提督「どうやら遠方偵察機が大量の敵艦を発見し、それの殲滅の為に元帥殿の艦隊が出撃したらしい」
提督「戦術的には勝利したらしいが、元帥殿の艦隊も相当な痛手を負ったようだ」
金剛「本当に、私達の管轄じゃなくて良かったデスね……」
提督「まったくだ。まあ、今のところ私達の管轄になる事はないよ。なにせ戦力が足りないからな」
金剛「あー……そういうのを考えたら戦力が小さいのも良いものですネー」
提督「そうも言ってられないのが懐事情だがな」
提督「それよりも気になるのがこっちだ」ガサッ
金剛「? 南方海域にて非常に強力な敵艦が現る?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、夜戦など、全ての攻撃を兼ね揃え、火力、装甲共に最高水準クラスのバケモノという話だ」
金剛「なんデスかそれ……どうやって勝つんデスか……」
提督「出撃、撤退を繰り返して削りきるしかないだろうな。まったく、厄介なものだ」
提督「どうやらこのバケモノ。この鎮守府の方面へ微速移動をしているらしい」
金剛「ハァ!?」
提督「あくまで作戦部の進路予測だが、この鎮守府が危ないと判断するのに充分だ」
提督「できれば早く地盤と戦力を固めたいよ」
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
任務嬢「提督さん、元帥がお見えになりました」
金剛「!」
提督「お通ししろ」
金剛「……………………」
金剛(なんだか嫌な予感がするネ……)
元帥「やあ、大将。久し振りだね」
提督「はっ」ピシッ
金剛「……」ピシッ
提督「数日前にお会いしたばかりですよ、元帥殿」
元帥「そうだったかな? ハッハッハッ。この歳になると流れる時間が速くて敵わんよ」
元帥「……うん? この艦娘は君の秘書かね?」
金剛「ハッ! 英国ヴィッカース社より建造された高速戦艦金剛型一番艦、金剛デス!」ピシッ
元帥「ふむ……。秘書としての板がしっかりと付いているみたいだね」
金剛「ありがとうございマス。お茶をお出ししマスので、こちらに掛けてお待ちくだサイ」
元帥「うむ。──ところで大将よ」
提督「はっ。なんでしょうか」
元帥「──なぜ瑞鶴が秘書でない?」
金剛「────────!!」
元帥「君の報告書を見る限り、瑞鶴がこの鎮守府での最大戦力であろう?」
金剛(…………ッ)ギリ
提督「元帥殿、それは彼女の淹れたお茶を口にしつつ話をしましょう」
提督「きっと納得されると思います」
……………………。
元帥「ほう、これは美味い! こんなに美味い紅茶を飲んだのはいつ振りだろうか」
金剛「光栄デス」
提督「この通り、彼女はお茶を淹れるのがこの鎮守府で群を抜いています。仕事中での気力維持に欠かせません」
提督「そして何よりも、瑞鶴と比べて仕事の出来が違います。艦娘全員を集え、二人を秘書としての評価を競った事がありますが、満場一致で彼女──金剛へ軍配が上がりました」
元帥「なるほどなるほど。戦果を上回る功績がこの艦娘にあるのか」
提督「はい。戦果についても目を通して頂いている通り、瑞鶴には及ばないものの非常に素晴らしいと言えます」
元帥「なるほど、良く分かった」
提督「話は変わりますが、元帥殿がどうしてこの小さな鎮守府へ? 今はお忙しいと伺っておりますが」
元帥「儂が忙しいと知っておるのならば、どうしてここへ来たのかも分かっておろう」
提督「…………南方の強力な敵艦ですか」
元帥「うむ。アレは非常に厄介だ。現存するどの艦娘よりも秀でた戦闘能力を持っておる」
提督「仰るとおりです。倒すには複数の大規模艦隊を用いて出撃、撤退をし、敵に休む間を与えず繰り返すしかないかと」
元帥「なるほど。敵を疲弊させて確実に討ち取る、か」
提督「はい。複数に分ける事で待機中の艦娘は休みを取る事ができ、損傷した場合でも修復する時間が得られます」
元帥「──だが、それをより確実に打開する方法を大将は知っておろう」
金剛(え?)
提督「……はい」
元帥「建造の方はどうなっている?」
提督「残念ながら、上手くいっていないです」
金剛(……建造が上手くいっていない? それって本当なのデスか? あんなに速い艦娘が進水しましたよネ……?)
元帥「ふむ……」
提督「…………」
元帥「…………」
元帥「儂の方も同じだ。良い艦船は出来上がるが、どれも問題のある物ばかりでな」
元帥「南方の敵艦がこっちへ向かっている状況で、儂の艦隊も強化せねばならない。それゆえ、役目を果たせそうにない艦娘は──」
元帥「──解体を繰り返すという事も辞さない程だよ」
金剛(…………)
提督「……心中、お察しします」
元帥「ああ……儂も心が苦しい。大量の艦娘が解体され、普通の女子として暮らしているのだが……」
元帥「不思議な事に、解体された艦娘はある日、忽然と姿を消す」
提督「…………」
元帥「それが艦娘というものなのだろう。特に手塩に掛けていた艦娘が消えるのは、とてもとても悲しいものだ」
提督「はい。その気持ちはよく分かります。失うというのは、取り戻せないという事ですから」
金剛(…………)
元帥「金剛、と言ったな?」
金剛「! はっ!」ピシッ
元帥「ああ良い。楽にしたまえ」
元帥「大将は、艦娘をどう扱っておる」
金剛「……とても大切にしていマス。轟沈する可能性があるのならば、その可能性を徹底的に取り除き、私達が沈まない事を第一に作戦を立ててくれていマス。テートクへの信頼はとても厚いと言えマス」
金剛「これは私だけではなく、この鎮守府の艦娘全員の総意でショウ」
元帥「ふむ、なるほど。良い提督として働いてくれているようだな」
元帥「それだけ大切に思っているのであれば、絶対に沈ませれないな」
提督「……はい。私の大事な者達です」
元帥「良い返事だ」
元帥「ああそうそう。君に贈り物を届けに来た」
提督「元帥自らがですか? 郵送で宜しかったのでは……」
元帥「なに。あの厄介な敵を倒す方法と君の姿を見るついでだ。顔色を見るに、少々疲れているようじゃないか」
提督「管理が行き届いていない証拠です。申し訳ありません」
元帥「いや、君はむしろ働きすぎなぐらいだろう。もう少し休息を増やしてみたらどうかね」
元帥「いやはや、やはり持ってきて良かった」コト
提督「……これは? 見た所、ただの水の入った小瓶ですが……」
元帥「見た目はそうだが、実際は全く別の代物だ」
元帥「滋養強壮の漢方を使った薬だ。長く眠る前に飲むと良いだろう。……非常に苦いのが欠点だがのう」
元帥「漢方薬は現在、非常に入手しにくくなっておる。よって二つしか渡せん。決して無駄遣いをするんじゃないぞ?」
元帥「身体が弱ると指揮も鈍る。そうなる前にしっかりと休みを取りなさい」
元帥「取り扱い説明はこの紙に書いてある。注意を払って読みなさい」
提督「……はっ。お心遣い、感謝します」
元帥「では、儂はこれで失礼するよ。金剛、美味な茶であった」
金剛「光栄です」ピシッ
提督「お気を付けて」ピシッ
ガチャ──
金剛「どうぞ」
元帥「うむ」
元帥「…………」チラ
提督「…………」
元帥「…………」
──パタン
提督「…………」
金剛「…………」
提督「…………ふぅ」
金剛「はぁー…………」
金剛「物凄く神経を使いまシタ……」グッタリ
提督「まったくだ」
金剛「テートクー……私、あの元帥が苦手デス……」
提督「私もだ。出来れば関わりたくない。……だが、立場上どうしても関わらないといけない」
金剛「テートクが可哀想デース……」
金剛「その漢方薬を今すぐ飲み干したい気分ネー……」
提督「やめておけ。相当貴重な物らしいからな」
金剛「はーい……」
金剛「そういえば、建造が上手くいっていないってどういう事デスか? 島風って駆逐艦ではかなり良い艦娘デスよね?」
提督「強大な敵と戦う時、金剛なら駆逐艦と戦艦、どっちで戦う」
金剛「ああー……そういう事デスか……」
提督「まったく……元帥も人が悪い」
提督「──本当、色々と困るよ」
……………………
…………
……
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「…………提督さん、どうしたの? ドアの隙間から手紙を入れて呼び出すなんて」
提督「非常に残念な知らせがある」
瑞鶴「……総司令部関連?」
提督「ああ。とうとう急かされた」
瑞鶴「────ッ! ……思ったよりも早かったわね」
提督「予想以上に早い。脅しながらこんな物を寄越してきたよ」コト
瑞鶴「……水?」
提督「見た目はな。中身は完全に別の物だ。大きな声を出すなよ」ピラ
瑞鶴「……………………!? ……催淫剤?」
提督「実際に滋養強壮の効果があるらしいが、その本質はそういう事のようだ」
提督「まったく……注意を払ってその紙を読めと言ったからまともな物じゃないとは思ったが、まさかこんな物だったとは……」
瑞鶴「……つまり、これを飲んでさっさとヤれと」
提督「端的に言えばそうなるな。本当に何を考えているんだかあのクソジジイは……。深海棲艦とは全く関係ないだろうに……」
瑞鶴「関係が無いようで、何かが関係しているのかしら……」
提督「それなら理由を言えば良い。なのにそれをしないという事は、何か隠したい事でもあるのだろうよ」
提督「それに書いてあるように、期限は一週間。一口飲めば効果があるとあるが……こんなもの、どこで手に入れたのやら……」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴、その小瓶は二本ともお前に預けておく。お前の判断に任せる」
瑞鶴「…………え? わ、私?」
提督「ああ。心の準備が出来たらそれを持って私の所へ来てくれ」
提督「……私も、色々と腹を括るよ」
瑞鶴「…………ねえ。これ、今飲んでも良いの?」
提督「……ああ、構わない。が──」
提督「──震えているぞ、瑞鶴」
瑞鶴「…………!」
瑞鶴「あ、あれ……? なんでだろ……」
提督「さあな。それは私には分からない」
提督「だが、心の奥底ではダメだと言っているんじゃないのか?」
提督「あと一週間しかないが、逆に言えば一週間ある。焦らなくて良い。しっかりと心の整理をしてくるんだ」
瑞鶴「……うん。ごめんね、提督さん」
提督「なぜ謝る」
瑞鶴「だって、私のせいで不本意に……」
提督「誰のせいでもない。強いて言うならこの世界が悪い。大きな流れに逆らえば、身を滅ぼす結果しかないんだ……」
瑞鶴「……うん」
瑞鶴「提督さん、一つ約束して欲しいの」
提督「なんだ」
瑞鶴「……その、する……時さ、嘘でも良いから……私を恋人のように、優しくして……?」
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……分かった」
瑞鶴「…………!」
提督「約束だ」
……………………
…………
……
提督「……色々と、予定が狂ったな」
提督「そうだな……もう、無理だろう……」
提督「──護ろう。それが、私の────」
……………………
…………
……
雷「あら?」
提督「今戻った」
雷「おかえりなさい司令官! 皆! どうしたの? 帰ってくるのがすっごい早いじゃない」
天龍「俺のせいだよ」中破
龍田「も~……お洋服が~…………今度見つけたら切り刻まないと……」大破
島風「うー……」大破
金剛「いたたたた……」中破
瑞鶴「この飛行甲板、もう使い物にならないわね……」大破
提督「誰がお前のせいだと言った」
天龍「……俺がいきなり直撃弾を受けたからこうなっちまったのは、紛れもない事実だ」
龍田「そこに追撃してきた砲撃を、私が独断で庇ったの~。おかげでこの有様。我ながら無様よね~……」
提督「旗艦以外を庇うなと言った憶えはない。下手をしていたら天龍は轟沈していた。庇い方に問題はあれど、良くやってくれたと私は判断している」
提督「そこから島風が囮役になってくれなければ、恐らくどっちかが轟沈していただろう」
島風「……提督、ごめんなさい」
提督「なぜ謝る」
島風「だって……私、提督の命令を無視したんだよ?」
提督「しっかりと私の命令をこなしたではないか」
島風「必要以上に敵に近付いたんだよ!?」
提督「私は、沈まないよう回避できる距離で敵の注意を引き付けてくれ、と命令したはずだが?」
島風「普通に考えてよ!! あの距離、普通じゃ回避できないくらいの距離だったでしょ!?」
提督「だが、お前は沈んでいない。あの距離、あの砲弾の雨の中、ギリギリまで回避し続けてくれたじゃないか」
提督「どこが命令違反している?」
島風「でも……でもぉ!!」
提督「お前は、他の誰にも出来ない事を成し遂げたんだ。もっと誇って良い」ポンポン
島風「ぅ……ぅー…………」
龍田「あらあら~。提督さんに褒めてもらえてお顔が真っ赤~」
提督「そうだな、龍田にも褒めないといけない」
龍田「あらあら、何かしら~?」
提督「天龍が被弾した時、私は追撃が見えなかった。もし見えていたら、恐らく龍田の行動を指示していただろう」
提督「そして、庇ったのは天龍だけではないのだろう?」
龍田「…………どうしてそこまで分かるのでしょうかね~?」
提督「やはりか。どうりで変な庇い方をする」
金剛「やっぱり、あれってテートクを庇ったのデスか」
龍田「そうよ~。だって、提督さんと提督さんを庇った天龍ちゃんの直線上の敵が攻撃したのですもの。下手をしたら、天龍ちゃんの装甲を貫通して、提督さんに当たったかもしれないでしょ~?」
天龍「……なんで俺が提督を庇ったって分かってるんだよ」
龍田「だって~。本当だったら避けれる弾のはずですもの~。天龍ちゃんは優しいからね~」
龍田「きっとだけど、あの弾は提督さんに当たらなかった。でも、万が一の事を考えて庇ったのでしょ~?」
天龍「ちぇっ……バレてるなんて、カッコ悪いな、俺」
提督「いいや、あの時の姿は格好良かったぞ、天龍」
天龍「な!? 何を言ってるんだよ提督!?」
提督「世界水準を軽く超えた庇い方だった」
天龍「う、うぐぐぐぐぐ……!」
島風「やーい、天龍の顔真っ赤ー」
天龍「────ッ!! 沈めてやろうか島風ぇえ!!!」
島風「キャーこわーい!」
天龍「おりゃおりゃおりゃぁあ!!」ポンポン
島風「ひゃんっ! きゃははっ! くすぐったいってばー!」
龍田「…………」
龍田(頭をポンポン。自分でやるのは寂しいものね~)ポムポム
提督「…………」チラ
龍田「!」サッ
提督「…………」ポンポン
龍田「あ、あら? あらあらあらあら?」
提督「…………」スッ
龍田(あらあら……思ったよりも嬉しいものね~……)ホッコリ
金剛・瑞鶴(むー……)
……………………
…………
……
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
川内「提督ー」
神通「失礼します……」
那珂「こんにちはー!」
提督「どうした、三人共。珍しい」
川内「いやー、ちょっと気になる事があってねー」
提督「話してみよ」
神通「あの……私達って基本的に遠征と母港を守る事しかしてませんよね?」
提督「ああ、そうだな」
那珂「いやー……私達、本当に役に立ってるのかなーって……」
提督「なるほど。役に立っている気がしていないから私に聞きに来た、と」
神通「はい……それで、もしよろしかったら何か新しくお仕事をくださらないかと思いまして……」
提督「ハッキリ言っておこう。私はお前たち三人が居なかったら非常に困っている」
那珂「……そうなのー? だって、私達ほとんど出撃してないよ?」
提督「出撃だけが仕事ではない。遠征で資源を拾ってくるのも仕事だ。母港を守るなんて最重要任務に等しい」
川内「遠征は分かるんだけど、母港を守るとかそんな感覚が無いんだけどなぁ……」
提督「では川内。明らかに使用されている敵母港を発見したが、艦船が一隻も居なかったらどうする」
川内「そりゃ勿論使えないように破壊するよ」
提督「では、同じように敵母港を発見したが、敵が船着場をウロウロして索敵していたらどうする」
川内「あー、確かに警戒するね。なるほど、私達がしているのって、ちゃんと母港を守ってるんだね」
提督「ああ。そして、それは信頼しているから任せれるんだぞ」
神通「信頼……ですか?」
提督「そうだ。実際に母港を襲われた際、しっかりと守れないと意味が無いだろう」
川内「でも、基本的に二隻しか居ないよ?」
提督「たかが二隻。されど二隻。居るのと居ないのとでは雲泥の差がある」
提督「それに、お前達なら一人でも敵艦が二~三隻居ようと倒せるだろう?」
那珂「確かにそれくらいなら倒せるねー。二人だったら倍かー!」
提督「そういう事だ。これからも母港を守ってくれ」
川内「私達のやってる事、すっごく大切だったんだね!」
那珂「なんだか、安心しちゃったー!」
神通「私達も、提督をお慕いしていますよ」
提督「うむ」
……………………
…………
……
響「あ、司令官。丁度良かった」
提督「うん? 響……だけではないな。暁に雷、電、どうした? もう夜中だぞ」
雷「あのね! 司令官に渡したい物があるの!」
提督「渡したい物?」
電「はい。いつもお世話になってる司令官さんに、プレゼントなのです」
暁「この掛け軸よ!」バッ
提督「第六駆逐隊……すぱしーば?」
響「スパスィーバ。日本語の発音だとなんて書けば良いのか分からなかったから、なるべく近い言葉で書かせてもらったよ」
提督「ふむ……。すまないが、なんという意味なんだ?」
電「せーのっ──」
暁・響・雷・電「──ありがとう!」
暁「そういう意味よ、司令官」
提督「────」
響「……あ…………お気に召さなかったかい、司令官……」
提督「いや、面食らってしまって声が出なかった」
提督「ありがとう。いつも私の為に動いてくれて、本当にありがとう」
暁「ひゃっ」ナデナデ
響「ん……」ナデナデ
雷「あ……」ナデナデ
電「はわわ……」ナデナデ
提督「この掛け軸は部屋に飾っておこう。皆が書いたのかね?」
響「絵と文字と書いたのは私だよ」
暁「私はこの花飾りを作ったの」
雷「私は材料を集めたわ!」
電「仕上げは私がしました」
提督「そうか。皆が協力して作ったのだな」
暁「大切にしてよね?」
提督「勿論だとも」
響「特に暁が喜ぶよ」
暁「ちょ、ちょっと響!」
雷「なんせ、考案と指揮をしたのって暁だもんね」
電「暁ちゃん、すごく一生懸命だったのです」
暁「あ、あああ……バラしちゃって……もー!!」
提督「こらこら、夜中だから静かにしなさい」
……………………。
金剛「──あら? この掛け軸、どうしたのデスか?」
提督「電たちが作ってくれた。とても素晴らしい品だと思うよ」
金剛「……本当。とても優しい気持ちになりマス。これは愛が詰まってマスね」
提督「ああ。慕われているようで嬉しいよ」
……………………
…………
……
神通「あの、提督さん……」
提督「うん? どうした神通」
神通「ここ四日ほど、遠征は警備任務だけですけど、大丈夫なのですか……?」
提督「その事か。安心しろ。ただの保険だ」
神通「保険、ですか?」
提督「南方の強力な敵艦がこっちへ進行している、というのは五日前から知っているだろう」
神通「だから、戦力の増強へ?」
提督「そうだ。金剛、瑞鶴を中心に艦隊の錬度を高め、ついでに艦娘のデータも手に入ると思っていたのだが……まさか一隻も手に入らないとはな……」
神通「運が悪かったのでしょうか……」
提督「さてな……ん?」
電報妖精「提督さーん、緊急電報だよー」
提督「緊急電報? ……暗号で送ってきたのか。一体どこの誰だ」
電報妖精「なんかやたら急いでたよ」
提督「ふむ……」サラサラ
神通「え。復号キーを憶えているんですか……?」
提督「一応な」
神通(それって本当はいけない事なんじゃ……)
提督「……………………」
提督「神通、全員を提督室へ呼べ。演習も全て中断。緊急招集だ」
……………………。
提督「緊急事態だ」
金剛「何があったのデスか?」
提督「……………………」
提督「鎮守府が一つ、襲撃された」
天龍「なっ──!?」
川内「襲撃されたって……」
瑞鶴「どういう事なの!?」
提督「どうしたもこうしたも、そういう事だ。更に、悪い知らせはこれだけではない」
提督「一つ──この襲撃に迎撃をした総司令部長の元帥が行方不明となった」
金剛・瑞鶴「────────!!」
暁「総司令部長……?」
提督「天皇陛下の次に偉い人だと思ってくれて良い。私たち海軍のナンバー2」
提督「そして、海軍で一番実力を持っているお方だ」
響「……そんな人が負けてしまったのかい?」
提督「ああ。完全に敗北だそうだ。艦娘は全て轟沈。敵の46cm級砲撃が元帥の居た部屋に直撃。その建物は勿論、砲弾を雨の如く撃ち込まれ母港全体が崩壊したらしい」
提督「まず生きていないだろう。死体が上がるかどうかさえ怪しい」
島風「うわー……悲惨でしょ……」
瑞鶴「……………………」
金剛「……提督、次の悪い知らせはなんデスか」
川内「ま、まだあるの!?」
提督「……ある」
提督「二つ目は、その敵がこの鎮守府へまっすぐ向かっているという事だ」
天龍「……マジかよ」
提督「本当だ。そして、私達に命令が下った」
提督「『南方棲戦姫を沈めろ』と」
那珂「なんぽーせいせんき……?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、そして夜戦──全ての戦闘をこなし、最高水準の火力と装甲を誇るバケモノだ」
提督「護衛艦として数十隻の敵も確認されている」
提督「その敵の全てが、黄のオーラを纏っているようだ」
神通「そんな艦隊がこの鎮守府に……。それを迎撃しろと……?」
提督「……そうだ」
龍田「滅茶苦茶ね~……。まるで死ねと言ってるみたい……」
雷「……提督、勝ち目はあるの?」
提督「ハッキリ言って、無い。数が違いすぎる」
暁「……どうするの?」
提督「…………このような事は言いたくないのだが」
提督「神に祈る他ないだろう…………────」
提督「……一つ、言っておく事がある」
提督「今回の出撃は任意だ。強制は勿論、私が決めもしない」
金剛「────え?」
電「どういう意味なのですか……?」
提督「艦娘は海から離れると死んでしまう。だが、解体をすると普通の女子になると聞く」
提督「今回の戦いは、間違いなく死ぬ。死にたくない者は解体を施すから逃げろ」
提督「海軍刑法によると敵前逃亡は罪に問われる。だがここは私の城だ。そんなモノは最初から存在しない」
提督「全員、目を瞑れ。私が許可するまで開いてはならん」
提督「……………………全員閉じたな。では、十秒与える。解体を希望する者は静かに手を上げろ」
提督「十……九……八……七……六……」
提督「…………」
提督「五……四……三……ニ……一……」
提督「そこまで──。手を下ろしてよい」
金剛(手を下ろしてよい……? 誰かが手を上げたのデスか……?)
提督「…………目を開け」
提督「……………………」
提督「…………死にたがりの大馬鹿者共め。馬鹿だよ、お前ら全員」
暁「当たり前でしょ、司令官」
響「……不死鳥も、ここでその名を終えるね」
電「そうです! 私達は皆、馬鹿なのです!」
雷「私達、誰も逃げることなんてしないわ!」
天龍「なんだ、みんな根性あるじゃねーか」
龍田「天龍ちゃんや提督さんと死ぬのなら本望ですよ~」
川内「よーっし! 私達の鎮守府を守るぞー!!」
神通「こんな私でも、やる時はやります」
那珂「那珂ちゃん、本気でいっきまーす!」
瑞鶴「…………?」
金剛「ふふっ……ホント、皆馬鹿デース」
提督「旗艦は金剛に任命する。──金剛、最後の出撃の掛け声を頼んだ」
金剛「ハイ!!」
金剛「私達の最後の出番ネ!! 皆さん! ついてきてくださいネー!!」
瑞鶴「……………………」
……………………
…………
……
ガチャ──
瑞鶴「……提督さん」
パタン
提督「うん? どうした瑞鶴。もう間宮アイスクリームは良いのか?」
瑞鶴「そんな事はどうでも良いの。ねえ、おかしいと思わない?」
提督「…………」
瑞鶴「どうして、総司令部は私を放棄する事にしたのかしら。貴重なサンプルだって言ってたのに……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ
提督「私は一つ、嘘を吐いた」
瑞鶴「……嘘?」
提督「あの電報、胸糞が悪かったからな」
瑞鶴「…………何?」
提督「私と瑞鶴を除く全員で南方棲戦姫に全力突撃をしろ」
提督「それが本当の命令だ」
瑞鶴「……やっぱり」
提督「だが、私はこの命令に従うつもりはない」
提督「私の大事な艦娘達を犠牲にして、サンプルである瑞鶴とその提督である私だけ逃げろなんて命令、誰が聞いてやるものか」
瑞鶴「…………」
提督「すまんな、瑞鶴。本当は生き残れたのだが……」
瑞鶴「ううん! 私は嬉しいわ」
瑞鶴「だって、それって皆を見捨てろって事でしょ? 私はそんなの、絶対に出来ない! そんな事をするくらいなら死んだ方がマシよ!!」
提督「────うむ。良い意思だ」
提督「さて、逝こうか──」
瑞鶴「はい──」
……………………
…………
……
提督「総員、心の準備は出来たか」
全員「はいっ!」
金剛「──あ、ごめんなさい。私、一つだけ心残りがあります」
提督「調子を狂わせるんじゃない。…………まあ良い。なんだ」
金剛「提督、キスしてください」
龍田「あらあらあら~」
暁「お、大人……!」
提督「……金剛、時間と場所を弁えろ」
金剛「──時間と場所なら弁えてますよ」
金剛「残り少ない僅かな時間。二度と戻る事のないこの鎮守府の母港──」
金剛「死に行く私の、ささやかな最後のお願いです」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「皆が見ているぞ」
金剛「私には提督しか見えないです」
提督「死にたくなくなるぞ」
金剛「良いことじゃないですか」
提督「何も残らないぞ」
金剛「私の魂に刻まれます」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「負けたよ、お手上げだ」
金剛「それではご褒美を」
提督「後悔は?」
金剛「私の辞書には載ってませんね」
──そっと、提督が私の背に手を回しました。
「ぁ──」
服越しに伝わる提督の温もりが、私の心臓を跳ねさせる。
死んだ目をしている提督の目は私の瞳の奥を見据え、私だけを見てくれている。
暴れる心臓を押さえる為、閉じた右手を胸の前へ持っていくと、その手は提督の左手に阻まれた。
優しく、けれど強く──大切な物をその手に収めるかのよう握られた。
だから私は、余っている左手をさっきの右手と同じように胸の前へ持っていく。
──バクバクと飛び出しそうな程の鼓動が、ハッキリと伝わってきた。
「提督……」
そう呟くと、私の愛しい人は右手に力を込めた。
ゆっくり、ゆっくりと提督が近くなるにつれ、私は今更緊張してきた。
身体は強張り、手を固く結び、視線も提督の光の無い目に釘付け──。
そういえば、私はいつからこの不思議な目を追い続けたのだろう。
一緒の毛布に包まった時?
提督の秘書になった時?
──初めて会った時?
いつだったか、もう分からない。
ただ一つ、分かる事は──
「……金剛」
──ほんの一瞬。愛しい人が目を閉じる瞬間、光が宿ったという事。
「ん……」
不意打ちだった。
その瞳の美しさに見惚れているというのに、愛しい人は唇を重ねてきた。
触れ合うだけの、フレンチキス──。
それだけだと思った私だけれど、提督はそのつもりではなかったらしい。
舌で唇をつつかれる。
すぐに私は、閉ざしていた唇を小さく開けた。
そろりと、窺うように舌が入ってくる。
それに対して、控えめに舌で触れ、提督に合図をした。
小さく、腫れ物に触るかのように優しく触れ合っていた愛しい人の舌は、甘い、甘い味がした。
「あ……」
その甘美な即効性の毒は、私の身体から力を抜くのに一秒と掛からなかった。
いや、本当に抜いたのは骨かもしれない。
そんな言葉遊びを痺れる頭に思い浮かべ、私は目を瞑って提督の舌を堪能した。
絡み、絡まれ、唾液を交換する──。
もう、どれが提督の唾液か私の唾液か分からない。
そこで、私の右手の指が提督の左手の指と絡まっているのに気付いた。
互いを貪るように動く舌と同じように、私達の指は絡み合った。
絡まった唾液を呑みこむ度に頭がボーっとする。まるで麻薬だ。
頭が痺れ、脳が蕩け、どこからが私でどこからが提督なのか、もう分からない。
いや、実際に麻薬なのだろう。こんなに気持ちの良くて、もっと欲しくなっているのだから──。
「は、ぁ…………」
どちらからともなく、舌が、唇が離れる。
提督と私の間に出来た銀のアーチ。それは数瞬だけ形を保って、プッツリと切れてしまった。
「……提督」
──もっと、あの甘く蕩ける麻薬が欲しい──
けれど、それは言えなかった。
私の愛しい人が、悲しそうな顔をしていたから──。
だから私は、笑顔でこう言った。
「────ありがとう」
──I don't mind that everyting is a lie.
(たとえ全てが嘘でも構いません)
──As long as I love you forever.
(私が貴方を愛している限り、永遠に)
……………………
…………
……
(フレンチキスってねっとりどっぷりキッスのことやで)
地の文に逃げた挙句、フレンチキスを誤用するこの体たらく。
死にたくなってきた。
金剛「──私は、最後まで沈みません」
金剛「提督が沈むのを見るまで、私は沈みません」
提督「……そうか」
金剛「…………」
提督「約束だ」
金剛「────はいっ!!」
瑞鶴「……あのー、良い所で悪いけど」
瑞鶴「…………見てるこっちが恥ずかしいんだけど……」
暁「お、大人……! 大人のキス……!!」
響「そうだね暁。とても深いキスだったね」
雷「エロいわね」
電「はわわわ……!」
天龍「おぉ……ぉぉぉ……」
龍田「天龍ちゃん、大丈夫~?」
川内「本当だったらこのあと夜戦になるんだろうなぁ」
神通「……夜戦…………や、やせん……」
那珂「神通って初心だねー」
提督「…………」
提督「整列」
全員「ッ!?」ビクゥ
……………………
…………
……
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」【後編】に続く
元スレ
SS速報VIP:金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1382027738/
電「はう……はわわわ……あぅぅ……」
提督「──あ。ああ、すまん。取り乱した」
電「びっくりしたのです……」
提督「だが、駆逐艦一隻でどうしろと。なんだ? 爆弾積んで敵母港に神風特攻か?」
電「ち、違います違います!! 建造したり海で拾ったりして仲間を集めるのです!」
提督「……は?」
電「え、えっと……ですから──」
~駆逐艦説明中~
電「──というコトなのです」
提督「便利だな、これ→」~駆逐艦説明中~
電「はい?」
提督「いや、こっちの話」
提督「まあ、やる事は分かった。最初に頂いた資源もあるし、まずは建造でもするか」
電「はいなのです」
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 01:51:44.45 ID:+zkL4m9C0
電「……でも、どうして建造なのですか? 海で拾ってきた方が、消費資材が少ないと思うのですが……」
提督「…………」
電「あ……すみませんすみません! 司令官さんに意見をするなんて──」
提督「いや、気にしなくて良い。これからも意見は言ってくれ。私一人の考えでは足りん所もあるからな」
電「え? は、はい」
電(見た目と違ってマトモなお方……なのです)
提督「さぁて、各資材はこんくらいでいいか。頼んだ」
妖精「え、これマジで?」
電「?」
提督「構わんよ。やってくれ」
妖精「まあ、提督が言うのなら……」ガッチャガッチャ
電「あの……資材はいくらご投入を?」
提督「オールナイン」
電「え?」
提督「上限いっぱいとも言う」
電「ええええええええええええええ!!?!」
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 02:05:41.13 ID:+zkL4m9C0
電「な、何をやってるのですか司令官さん!? 貴重な資源がぁ!!!」
提督「構わんよ」
電(えええ……司令官さん、本気ですか……? 身動き取れなくなっちゃいますよ……?)
電「まともじゃなかったのです……」
提督「よく言われる。ああ、バーナーも使っちゃって」
電「うう……本当に大丈夫なのでしょうか……」
妖精「あたしシーラネ」ゴォォォ
~新しい船が出来ました~
提督「ほう」
電「あわ……あわわわわ……」
金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」
金剛「貴方が提督ですカー?」
提督「ああ。これからよろしく頼む」
金剛「ィエース! 私にまっかせてクダサーイ!」
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 02:12:20.85 ID:+zkL4m9C0
金剛「そちらのレディのお名前は?」
電「あっ。い、電と申します。金剛さん、これからよろしくお願いします!」
金剛「ハイ! 私の実力、見せてあげるネー!」
金剛「ところで、他の艦娘たちはドコですか?」
提督「いや、この鎮守府は君たち二人しか艦娘は居ないよ」
金剛「……ホワッツ!? どういう事ですカ!?」
電「あの……司令官さんは今日、着任されたばかりなのです……」
電「そして、初めての建造で金剛さんが進水されたのです」
金剛「……と、いうことは資材は」
電「雀の涙しか残ってないのです……」
金剛「Oh……」
金剛(私……来る鎮守府を間違ったのカモしれません……)
提督「では、二人共。早速ですまんが、すぐに出撃準備をしてくれ。旗艦は金剛に任せる」
金剛(大丈夫なのでしょうカ……私達……)
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 02:20:30.09 ID:+zkL4m9C0
~鎮守府正面海域~
電「あ、あの……司令官さん?」
提督「うん?」
電「ど、どうしてついてきたのですか? 危ないですよ……?」
提督「お前達が戦場に出ているのに、上官である私が安全な場所でのうのうとするのは嫌だ」
提督「それに、無線だけでは分からないモノもある。的確な判断を下すなら前線に立つべきだ」
金剛(言ってる事はマトモなのですガ、そもそもテートクが居なくなったら私達もどうしようもできないデス……)
提督「そら、敵さんのお出ましだ」
金剛・電「!」
提督「総員、戦闘準備。敵影から見るに駆逐艦一隻だが気を緩めるな」
提督「金剛、砲塔をそのまま左に20°調整」
金剛「え?」
提督「敵が射程内に入り次第そのまま斉射」
提督「電はそのままでいい。もし第一射が外れたら撃つから準備だけしておけ」
電「は、はい!」
金剛「わ、わかりマシタ!」
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 02:30:14.87 ID:+zkL4m9C0
提督「──今だ。金剛、テーッ!!」
金剛「ファ、ファイヤー!」
ロ級「ヒャhhバゴォォン! 轟沈
金剛「おお……」
電「す、凄いのです司令官さん! 金剛さん!」
提督「気を抜くなと言ったはずだが?」
電「あっ──」
提督「沈みたいのか、電」
電「ご、ごめんなさい!!」ビクッ
提督「……分かれば宜しい」
電「あ……」ナデナデ
電(温かい……。司令官さん……変な人で、厳しいけど優しいのです)
提督「…………倒した敵艦から何か浮かんでるな」
金剛「あれは……艦娘のデータですネ。持って帰って実体化させまショー!」
提督「なるほど。だから『拾ってくる』か」
提督「私が回収する。金剛、電は周囲に敵が居ないか索敵をしてくれ」
提督(……敵艦から艦娘のデータが出てくる、か)
提督(まるで艦娘が沈んだのが深海棲艦みたいじゃないか……)
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 02:50:24.47 ID:+zkL4m9C0
金剛「むっ! テートク! 2時の方向から敵艦が来ますヨ!」
提督「! 数と艦種は」
金剛「軽巡が一隻と……駆逐艦が二隻デス!」
提督「そうか。連戦になるな」
提督「二人共、まだいけるよな?」
電「い、電は全然大丈夫なのです!!」
金剛「テートクのおかげでピンピンしてるヨー!」
提督「良い返事だ。戦闘準備に入れ」
金剛・電「ハイ!」
提督「……なんだあれは。一隻だけ突出してきたぞ」
提督「金剛、さっきは細かく指示をしたが……狙えるか?」
金剛「イエース! この距離ならまず外しまセーン!」
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 03:07:54.24 ID:+zkL4m9C0
提督「よし。金剛、テーッ!!」
金剛「ファイヤー!」
イ級「ひぃぃッッハアアアア!!!」ヒョイ
金剛「なァッ!?」
提督「チ。避けられたか。よく見てやがる」
提督「電は突貫してくる敵艦を撃て。金剛は奥の軽巡だ」
提督「避ける事も考えて前門と後門で時間差で撃つんだ」
電「電の本気を見るのです!」
イ級「オウフ!」ボゴォン! 中破
後方イ級「!」サッ ドォン! 大破
電「あ、当たったのです!」
金剛「ノー! 敵旗艦を庇われまシタ!」
提督「だが、速度を維持できなくなったみたいだな」
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 03:22:14.49 ID:+zkL4m9C0
提督「敵から砲撃がくるぞ。総員、衝撃に備えよ!」
電「はわわわわ!!」miss
金剛「シット! 至近弾!!」3ダメージ
提督「反撃だ。奴等の息の根を止め──!?」
提督「チッ……金剛は5時の方へ砲撃! 電は敵旗艦になんとしても当てろ! 挟まれた!!」
金剛「なんですッテ!?」
電「ひぃ!」
駆逐ハ級「奇襲はいいものですたい」
金剛「なんて奴ネ! 主砲、砲撃開始!!」
駆逐ハ級「俺は不可能を可能にsバガァァン! 撃沈
軽巡ホ級「まだだ……まだ終わらんよ!」小破
電「だ、ダメです司令官さん! 止めれません!!」
提督「もう雷撃距離か……。金剛は敵軽巡へ全門斉射。電は魚雷と主砲を残りの駆逐艦へ撃て」
提督「相手の錬度は低いが、気を引き締めろ」
18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 03:47:20.23 ID:+zkL4m9C0
金剛「バーニング──ファイヤー!!」
電「な、なのです!」
軽巡ホ級「馬鹿なぁ……ありえん……有り得んぞぉ!!!」 撃沈
駆逐's「「へべれげッ!」」 撃沈
提督「……周囲に敵影はあるか?」
金剛「──ノー。反応無いデス」
電「…………電の方も何も反応ないです!」
提督「よし……戦闘終了。二人共よくやってくれた」
金剛「……テートク」
提督「うん?」
金剛「ごめんなさい……」
提督「……話が見えないんだが?」
電「? ……?」
金剛「……出撃の際、私はテートクが前線に来るのを見てミステイクだと思いまシタ」
金剛「でも、テートクが指示を出してくれなかったら今頃、私達がこうして居られたかどうか怪しかったデス」
金剛「だから、ごめんなさいテートク」
電「金剛さん……」
19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 03:55:33.92 ID:+zkL4m9C0
提督「気にするな。ここは鎮守府の正面海域。そして初出撃だ。気が緩むのも無理はないだろう」
金剛「でも! それでも私は……間違っていました……。下手をしたら、私達はロストしていたのかもしれまセン……」
提督「……分かった。その件については後で処罰を行う。今は母港に帰ろう」
提督「こうして生きて帰れるのも、二人が居るからこそだ」
金剛「テートク……」
電「司令官さん……」
提督「さて、では帰ろう。だが、索敵を怠るなよ?」
金剛・電「──はいっ!」
20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 04:04:51.26 ID:+zkL4m9C0
~母港~
提督「二人共、燃料と弾薬を補充。そして金剛は風呂を済ませた上で私の部屋に来るように」
金剛・電「ハイ!」
金剛「って、テートク? どうして入渠なんデスカ?」
提督「至近弾を貰っていただろ、金剛」
金剛「でも、資材が……」
提督「足りるだろう?」
金剛「あ、あの……掠り傷ですカラ、私はまだまだ大丈夫デ──」
提督「金剛」
金剛「サ、サー!」ビクッ
提督「私の命令が聞けないと? それとも慢心してそのまま出撃し、沈みたいという願望でもあるというのか?」
金剛「ノ、ノー! 違います! 私はただ──」
提督「異論は認めん。例え掠り傷であったとしてもしっかりと修理をする事」
提督「……その傷が原因で沈んだら、後悔してもしきれなくなる」
提督「指示は以上だ。各員、指示が遂行次第、休息を取るように」
電「は、はい!」
金剛「……はい」
21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 04:20:07.09 ID:+zkL4m9C0
~提督室~
コンコン──。
提督「入れ」
金剛「……金剛、出頭しまシタ」
提督「そうか。少し待っててくれ」
金剛「…………? 何をしているんデスカ?」
提督「報告書だ。先の戦闘での戦果と被害、そして新たに手に入った駆逐艦二隻の進水とかのな。進水は明日だが」
金剛(……出会った時も思いましたケド……テートクは、なぜ死んだ目をしているのでしょうカ)
提督「待たせた。すまない」
金剛「い、いえ!」
提督「そうか。では早速、本題に入らせてもらう」
提督「金剛、お前は私の行動が間違っている思っていた……と言っていたな?」
金剛「……ハイ。ごめんなさい……」
提督「気にするなと言っただろう?」
金剛「それはダメです! それでは、いつかテートクを軽視する者が出てくると思いマス!!」
金剛「だから、ケジメは大事デス!」
提督「……ふむ。確かにそうだな」
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 04:32:05.10 ID:+zkL4m9C0
提督「……………………処遇を決めた」
提督「金剛、お前を私の私欲に使わせてもらおう」
金剛「────!! ハ……イ……」
金剛(そうデス……テートクも年頃の人デス……)
金剛(本当はディスライクですが、これもケジメ、デス)ギシッ
提督「どこへ座っている。こっちだ。椅子だ」
金剛「……ホワイ?」
提督「いいから、ベッドではなくこっちだ」
金剛「……?」チョコン
提督「じっとしていろよ」
金剛「……あのー、テートク?」
提督「んー?」
金剛「なんで、私の髪をブラッシングしてるのデスか?」
提督「処遇」
金剛「処罰じゃないんですか?」
提督「じゃあこれが罰だ。私への不敬と私への助言。二つ合わせて+-0といった所だろう」
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 04:50:23.56 ID:+zkL4m9C0
金剛「では、なぜブラッシング?」
提督「金剛の髪を梳きたかったから。言っただろう、私欲に使わせてもらうと」
金剛「プッ……アハハハ!」
提督「どうした、何がおかしい」
金剛「だって、これじゃあ罰にならないじゃないデスカ」
金剛「私、ブラッシングされるの好きですよ」
提督「そうか。じゃあこれからもブラッシングをして良いか?」
金剛「もっちろんデース!」
金剛(テートクのブラッシング、とっても優しくて丁寧デス……気持ち良いネ)
提督「だが、あまり男に髪を触らせるんじゃないぞ?」
金剛「何を言ってるんですか、テートク」
金剛「私、誰にでも触らせる訳じゃありませんヨー?」
提督「……そうか」
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 05:02:36.72 ID:+zkL4m9C0
金剛「ハイ♪ テートクだからデス!」
提督「……そうか」
金剛「むー……。反応が薄いデース……」
提督「ほら、ブラッシングは終わりだ。しっかりと休息を取るように」
金剛「ぅー……もうちょっとしてほしかったデース……」
提督「あと三十分もすれば食堂が閉まるが?」
金剛「そ、それはテリブルです! テートクも急ぎましょう!!」
提督「あっこら! 私はまだ仕事が──」
金剛「体調管理も仕事の内デース! 栄養をしっかり取らないと、指揮できなくなりマスヨ?」
提督「……そうだな。食堂へ行こう」
30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 13:23:00.34 ID:uKhsAYXN0
~食後、提督室~
提督「ふぅ……。さあ仕事だ」ギシ
金剛「ハイ!」
電「なのです!」
提督「……ところで、どうして二人がここに?」
電「秘書なのです!」
金剛「テートク、私達も手伝いマース!」
提督「ああ……そうか。まだ秘書を任命していなかったな」
提督「だが、秘書は一人しか付ける気がない」
金剛「それじゃあ、どっちか一人デスカ?」
提督「そうなるな」
提督(さて……どっちに任命するべきか……)
提督(…………フタフタサンマル)チラッ
提督「よし。二人共、そこのソファーに座ってくれ」
提督「そのまま私から命令があるまでジッとしている事」
金剛・電「?」
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 13:47:18.80 ID:uKhsAYXN0
~十分後~
電「…………」コックリコックリ
提督(ふむ、やはり船を漕ぎだしたか)
金剛(あ、ナルホド。まだ幼い電には眠い時間ネ)
電「!!」フルフル
提督「…………」ジッ
電「!!!」ハッ
提督「…………」
電「……………………」ビクビク
提督「電、明日の為にゆっくり休んできなさい」
電「うぅ……ハイ……」トボトボ
提督「ああそうだ、電」
電「……?」
提督「今日一日ご苦労。また明日も私に力を貸してくれ」ナデナデ
電「!」
金剛「!!」
電「ハ、ハイなのです! 司令官さん、金剛さん、お先に失礼します」
ガチャ──パタン
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 14:16:14.42 ID:uKhsAYXN0
提督「さて、金剛。正式に任命する。私の秘書となり、サポートしてくれ」
金剛「…………あのぅ」
提督「うん?」
金剛「私も……撫でてもらって良いデスか?」
提督「秘書になってくれるのなら」
金剛「ハイ! なります! 高速戦艦金剛、提督の秘書の命、受け取りました!!」
提督「うむ。よろしく頼む」ナデナデ
金剛「はうぅ……」
提督「それでは仕事だ。時間が押している。書類の左上に提出先が書いてあるから、それを分けてくれ」
金剛「ハイ! 任せてくだサーイ!!」
提督「ああすまん。その前に」
金剛「?」
提督「紅茶を淹れてくれ。金剛も喉が渇いたんじゃないか?」
金剛「! 分かりました! 紅茶はとっても得意デース♪」
提督「期待しているよ」
……………………
…………
……
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 14:37:13.62 ID:uKhsAYXN0
金剛「テートクー、日付が変わりましたヨー」
提督「ん、もうそんな時間か」
提督「金剛、君はもう休んで構わない。ご苦労だった」
金剛「……テートクは?」
提督「私はまだやらねばならない仕事がある。ほら、そこの書類の束とかな」
提督「金剛のおかげで山から盆地くらいにはなった。これからも頼む」
金剛「……終わるまで手伝ってはイケマセンか?」
提督「ならん。体調管理も仕事の内なのだろう?」
提督「朝になったらまだやっていない事を──ああ……失敗した」
金剛「? テートク?」
提督(電に起床時間を伝えるのを忘れていた。参ったな……方法は無くもないが、あまりやりたくない)
金剛「?」
提督「いや、気にするな。独り言だ」
金剛「あの、テートク……私に何か出来る事はアリマセンか?」
提督「……どうした?」
金剛「私、もっとテートクの役に立ちたいデス! だから、何か指示を下サイ!」
提督「……そうか」
提督「じゃあ就寝しろ。起床はマルロクマルマルだ。マルロクサンマルまでに提督室へ来るように」
金剛「ええええええええええ!!!? テートクーッ!!??」
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 14:56:59.09 ID:uKhsAYXN0
提督「お前はこの小さな鎮守府の最重要艦だ。そして明日も朝から新しい事をする。早めに寝てくれないと困るのだよ」
金剛「ウ。ううー……分かりまシタ……」
金剛「……テートクもしっかりスリープして下さいヨ?」
提督「約束する」
金剛「…………一緒にスリーピングしても──」
提督「金剛」
金剛「ソ、ソーリー!! お先に失礼します!!!」
提督「ああ、おやすみ」
金剛「良い夢を!」
ガチャ──パタン
提督「…………小さなミスは数多く、大きなミスは三つ」
提督「一つ、各資材を浪費した事」
提督「一つ、電に中破した駆逐イ級ではなく軽巡ホ級へ攻撃させた事」
提督「……一つ、金剛に必要以上に気に入られてしまった事」
提督「……やり辛くなるな」
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 15:07:19.47 ID:uKhsAYXN0
~翌朝~
提督「電、起きているか」コンコン
……………………。
提督「…………」コンコンコン
電『わひゃあ!? はっはい!! どなたですか!?』
提督「私だ。起きたか?」
電『し、司令官さん!? ご、ごめんなさい! 寝過ごしてしまいました!!』
提督「いや、起床時刻を伝えていなかった私のミスだ。それに、寝過ごしてはいないから安心しておけ」
電『は、はい……ありがとうございます……』
提督「三十分後のマルロクサンマルに提督室へ来るように。今日進水する駆逐艦達を紹介する」
……………………
…………
……
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 15:18:19.83 ID:uKhsAYXN0
提督「今日進水した二隻の駆逐艦を紹介する」
雷「雷よ。カミナリじゃないわ。そこのとこもよろしく頼むわね!」
響「響だよ。その活躍ぶりから、不死鳥の通り名もあるよ」
電「雷ちゃん! 響ちゃん!」
金剛「知り合いデスか?」
電「はい! 姉妹艦なのです!」
雷「元気みたいね! 良い事よ!」
響「見た所、暁は居ないみたいだね。すぐに会えるかな」
提督「安心しろ。すぐとは言わないが、見つけよう」
雷「さっすが司令官! 頼りになるわ!」
響「司令官、スパスィーバ」
金剛「…………」
提督「そんなに悲しそうな目で見るな。どれくらい時間が掛かるか分からんが、金剛の姉妹艦も見つけるよ」
金剛「……約束デスよ?」
提督「ああ、約束だ」
37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 15:40:12.18 ID:uKhsAYXN0
金剛「──アハッ。センキュー、テートク♪」
提督「…………」
金剛「?」
提督「さて、と。進水して間もないんだが、君たち駆逐艦は遠征してもらう」
金剛(テートク、一瞬だったけど……すっごく悲しそうな顔してた……)
雷「遠征?」
響「資源はとても大事だからね。遠征で資源を拾ってこなければ、すぐに枯渇してしまうだろう」
提督「…………」
響「? 司令官?」
電「あの……あ、あの……」
電「……既に、ほとんど枯渇状態なのです」
雷・響「……え?」
38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 15:55:20.40 ID:uKhsAYXN0
~駆逐艦説明中~
雷「オールナインって……」
響「どうしてだい、司令官?」
提督「深い意味は無い。強いて言うなら、直感だな」
提督「だが、そのおかげで金剛が早期にここへ来てくれた」
金剛「ヨロシクね!」
響「……司令官、ちょっと良いかな」
提督「許可する」
響「見た所、母港もまだまだ小さい。そして資材は枯渇寸前と聞く」
響「戦艦である彼女をまともに運用できるのかい?」
金剛「────っ」ビクッ
提督「できんよ」
金剛「あ……」
提督「だから、君たち駆逐艦には遠征に出てもらう」
提督「その間、金剛は母港を守ってもらおう。だが、ジッとさせる訳ではない」
提督「装備の開発や秘書としての仕事もある。彼女には資材のあまり掛からない仕事を任せる気だ」
金剛「テートク……」
提督「──この鎮守府はまだまだ弱小だ。この国の明日の為に協力してくれ」
39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 16:06:02.03 ID:uKhsAYXN0
雷「勿論よ司令官! もーっと私を頼りにしても良いのよ?」
響「…………」
提督「まあ、それは建前だ」
電「建前なのですか!?」
響「たて……まえ……」
提督「当たり前だ。国の為など二の次。一番はお前達を誰一人とて沈ませず戦争を抜け出すことしか考えていない」
響「……それは、司令官としてどうなのかな?」
提督「知らん。ここは私の城だ。私のやりたいようにやらせてもらう」
提督「それに、上も私へ大して期待しておらんよ。尻尾さえ振っておけば後はどうとでもやれる」
提督「例え、駆逐艦一隻を犠牲にして敵主力戦艦を五隻討ち取れる戦況でも、私は撤退命令を出す」
響「エゴだね」
提督「エゴの塊だよ、私は」
響「……司令官としては最底辺だね」
電「響ちゃん!?」
響「でも、嫌いじゃない。むしろ好ましい」
響「司令官、作戦指示を。私は司令官の為に動きたい」
提督「ああ。だが、その前に──」
40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 16:16:18.75 ID:uKhsAYXN0
────────────。
響「なっ……ななななななんで!? なんで私は吊るされてるんだ!?」
提督「上官への暴言は許されるものではない」
提督「むしろこの程度で良かったと思え」
電「ひ、響ちゃあああん!!!」
雷「──あ、下着が見えそうね」
金剛「……プリティピンク」
響「ッ!?」ビクッ
響「さ、流石にこれは……恥ずかしいな……」
提督「反省はしたか?」
響「……もし、していないと言ったら?」
提督「そうか」クルクル
響「あ、あああ……! た、たたた高くなった!?」
雷「完全に丸見えになったわね」
電「はわわわわわわ!!」
響「ひぅっ!!」
41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 16:26:28.32 ID:uKhsAYXN0
金剛「テ、テートク……そろそろ降ろしてあげては?」
提督「…………」チラ
金剛「!!」ビクッ
提督「……あと二分吊るしておこう」
響「ううう……」
~二分後~
響「たった二分だったのに……物凄く長かった……」
電「だ、だだ大丈夫ですか、響ちゃん!?」
響「ん、ああ。どこも痛くないよ。……心はちょっと傷ついたけどね」
提督「…………」ジッ
響「!! し、司令官! 先程の暴言、申し訳ありませんでした!!」
提督「……本当に身体は痛くないか?」
響「え? はい……どこも痛くないですけど……」
提督「ならば良し。駆逐艦達は十分……いや、二十分後までに遠征準備をして第二艦隊船着場へ集まるように」
提督「私は先に待っている」
42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 16:43:35.25 ID:uKhsAYXN0
電「……響ちゃん、本当にどこも痛くないのですか?」
響「うん? ああ、ほら、毛布に包んで縛られていただろう? どこも痛くないよ」
電「え、毛布……?」
雷「あら、電ったら気付いてなかったの?」
電「あうう……」
金剛「バット、どうして大人しく吊るされたのですか? 縛られたのは隣の部屋デスから、詳しくは分からないのデスけど」
響「あ、ああ……それは……」
提督『抵抗すれば撃つ。言葉を発しても撃つ。大人しく縛られるのと、私にこの部屋を大規模な掃除をさせるのとどっちが良いか選びたまえ』
響「──と、リボルバーを眉間に当てられて……」
金剛・電・雷(怖ーーーー!!!!!)
響「ハッタリなのは分かっていたから抵抗も出来たけど、従うことにしたよ」
雷「ハッタリ?」
響「弾倉に弾が入ってないのが見えたんだ。間違っても弾が出ないようにする為だと思うよ」
電「心臓に悪いのです……」
44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 16:54:01.95 ID:uKhsAYXN0
響「──っと、毛布が汚れてしまったね。不用意に床へ置くんじゃなかった」
金剛「あ……」
響「うん?」
金剛「い、いえ。なんでもないデース!」
金剛「その毛布、皆が遠征に出てる間に洗っておくヨー」
響「ん、了解した。頼んだよ」
金剛「まっかせなサーイ!!」
金剛(……この毛布、提督のベッドにあった物なのデス。という事は……)
48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:04:49.78 ID:uKhsAYXN0
~その夜~
提督「ふむ……仕事は終わりか」
金剛「途中でスコールになって、遠征も練習だけで切り上げちゃいましたからネー」
提督「あれはかなりの痛手だった。特に燃料が痛いな」
金剛「どうにかしてやりくりしないとイケマセンねー……」
提督「そこは上へ申請して少し多めに頂く事にする」
提督「今回の遠征、敵艦が現れて至近弾をいくつか貰っただろう?」
金剛「え? ハイ……」
提督「損傷箇所をいくつかでっち上げておいた。修理に使った燃料と鋼材を余分に要求したよ」
金剛「そ、それって大丈夫なんデスか!?」
提督「無論ダメだ。だが、現場に居た人間しか分からないくらいの水増しだ。まずバレんよ」
金剛「ほええ……」
提督「金剛、分かってはいると思うが──」
金剛「ハイ! 私は提督の味方デス!」
提督「感謝する」
提督「それでは、今日の仕事は全て終了。金剛、部屋に戻って休息を取れ」
金剛「ハイ!」
ガチャ──パタン
49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:15:14.40 ID:uKhsAYXN0
提督「……寒いな。毛布は乾いてないし、代えの毛布を備蓄倉庫へ取りに行くか」
~倉庫物色中~
提督「無い……だと……?」
提督「仕方が無い……。風邪を引かないようにしなければ……」
ガチャ──パタン
提督「うん?」
金剛「おかえりなさい、テートク!」
提督「…………なぜここに居る」
金剛「ちゃんと毛布を取りに自室に戻りまシタ」
金剛「そして、休息を取る為にここへ来まシタ」
提督「私が聞きたいのはそういう事ではない。どうしてここで寝ようと思っているんだ」
50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:23:41.49 ID:uKhsAYXN0
金剛「だって、テートクの毛布が乾いてまセン」
提督「備蓄倉庫から取ってくる。だから自分の部屋へ──」
金剛「午前中に備蓄倉庫を確認しましたケド、毛布なんて無かったデス」
金剛「毛布は一枚。加えて寒い中にこのスコール。私達の二人が風邪を引かない為には一緒に寝るしかないデス」
提督「……分かった。私は毛布無しで寝る。だから──」
金剛「テートクが風邪を引いてしまったら、明日の仕事に影響が出てしまいマス」
提督「暖房を使って──」
金剛「暖房用の燃料、まだ無いですよネ?」
提督「代えの服ならある。それを何枚か着て──」
金剛「三着しかないデス。それでは風邪を引いてしまいマス」
提督「……はぁ。参った。降参だ」
金剛「ヤッタ! 私の勝ちネ! テートクー、カムヒアー!」
提督「帽子と上着くらいは脱がせてくれ。皺が付く」
提督「それと、私は男だと分かっているよな?」
金剛「勿論デスよ?」
提督「……自分の身の安全を考えないのか?」
金剛「テートクはそんな事しまセン! それはこの間の処遇で知っていマース!」
提督「分からんぞ。仮に金剛の予想が外れて襲ったらどうする」
金剛「襲われたらデスか? うーん……」
金剛「……テートクなら、受け入れちゃうかもしれまセン。アハッ」
51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:30:54.65 ID:uKhsAYXN0
提督「冗談でもそういう事を言うもんじゃない」コツン
金剛「アウチッ。むー……テートク、ノリが悪いデース……」
提督「まったくお前というヤツは……」
提督「電気、消すぞ」
金剛「ハイ。準備オッケーデース!」
提督「何の準備だか……」
提督「それじゃあ、失礼する」モゾ
金剛「アンッ」
提督「ソファーで寝る」
金剛「ジョークですってばテートクー!」
提督「次は無い」モゾ
金剛「はーい……」
金剛「……ねぇ、テートク」
提督「なんだ?」
金剛「テートクはやっぱり優しいデス」
提督「とんだ勘違いだな」
金剛「私の中では優しい人デス」
提督「……そうか」
52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:41:16.42 ID:uKhsAYXN0
金剛「響に罰を与える時も、痛くないように毛布を使ってましたし」
金剛「吊るしている時も、響の表情をずっと見て苦痛がないかどうか確認していました」
提督「そうか、そう見えたか」
金剛「遠征の準備も、五分で終わるものに二十分もくれました」
金剛「充分に響へフォローできる時間です」
提督「…………」
金剛「他にも、響へ銃を突きつけたと聞きましたが、弾が入ってなかったそうです」
提督「万が一にも誤射しない為だ」
金剛「本当に脅すなら弾が入っていないと意味がないです」
提督「…………」
金剛「そして、さっきも私を気遣ってくれました」
提督「当然だろ」
金剛「私は──私達は、提督の道具です。本来だったら気遣う必要なんてないです」
提督「私のやりたいようにやっているだけだ」
金剛「気遣ってくれてるのは、今もです」
提督「…………」
53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 17:51:41.94 ID:uKhsAYXN0
金剛「提督、背中を向けてくださってます。私を少しでも安心させる為です」
提督「……………………」
提督「勘の良いヤツだ」
金剛「あはっ」
金剛「提督、こっちを向いてください。背中を眺めるのは、寂しいです」
提督「…………」
金剛「向いてくれなかったら、私がそっちへ行きますよ?」
提督「分かった分かった……」モゾ
金剛「提督♪」ギュー
提督「む」
金剛「やっぱり、あったかいです……。提督も抱き締めてください」
提督「……拒否権は」
金剛「ありません!」
提督「……分かったよ」ギゥ
金剛「あはっ。あったかい……」
金剛「ここ最近で、一番心を落ち着けて眠れそうです……」
54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 18:02:50.60 ID:uKhsAYXN0
提督「……そうか」
金剛「はい。提督、おやすみなさい……良い夢を」
提督「おやすみ」
提督「……………………」
提督(……困ったなぁ。本当、困った……)
~翌朝~
金剛「ん……」
提督「おはよう、金剛」
金剛「てーとく……?」
金剛(なんでテートクが私の部屋……じゃない!)
金剛(そうでシタ! 私、テートクと一夜を──)ガバッ
金剛「いち、やを……」
金剛「あうあうあう……! あう……?」
提督「どうした金剛」
金剛「……テートク、お仕事デスか?」
提督「ああ。午前中に終わらせておきたいからな」
金剛「…………」
金剛(テートク、ロマンチックじゃないデース……)
55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 18:11:56.99 ID:uKhsAYXN0
金剛「って、午前中に?」
提督「そうだ。今日一日は全員に暇を出しておいた。この濃霧じゃ出撃なぞできんよ」
提督「加えて資材が枯渇する寸前だ。資材は明日届くから、どっちにしろ明日じゃないと動けん」
金剛「ナルホドー」
提督「まあ、何もしない訳にはいかないからな。何か装備でも作っておこうか」
提督「ところで金剛、顔を洗ってきた方が良いんじゃないか? まだ軽く寝惚けているように見えるが」
金剛「え? いえそんな事は──」
提督「そうだな、ゆっくりと時間を掛けてきて良いぞ。今日は時間があるからな。秘書の仕事はそれからだ」
金剛「! ハイ! 行ってきマース!」
ガチャ──パタン
56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 18:15:59.01 ID:uKhsAYXN0
金剛(って、テートクはどうして私が朝にバスタイムするの知ってるのでしょうカ……?)
金剛(……………………そういえば、書類が半分終わってましたネ)
金剛(今は……マルロクマルマル。という事は、最低でも一時間前には起きていたのデスか)
金剛(私の部屋からシャワー室へ行くにはテートクの部屋の前を通らないと行けナイ)
金剛(だから、私が朝にバスタイムを知っているのデスか)
金剛「……昨日の仕返しデスかね? ふふっ」
金剛「──楽しいデス」
……………………
…………
……
58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 18:35:18.86 ID:uKhsAYXN0
~工廠~
提督「で、だ……金剛」
金剛「ワオ……」
提督「お前、何やった?」
金剛「何もやってないデスよ……?」
提督「じゃあなんで、妖精達は建造してるんだ……?」
金剛「提督のご指示じゃなかったんですか……?」
提督「いや、私じゃない……勿論、秘書以外の者が建造に関わる事もできない」
金剛「…………」
提督「…………」
金剛「これ、どう見ても空母デスよね?」
提督「……ああ、それも正規空母だな」
59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 18:44:32.22 ID:uKhsAYXN0
妖精「お、やあ提督」
提督「……何を造ってるんだ?」
妖精「空母」
提督「資材はどこから?」
妖精「港に沈んでた艦をリサイクル」
提督「…………どうやって?」
妖精「あたし達にできない事なんて……一杯あるけど、これくらいならできるよ」
妖精「昨日、提督が駆逐艦達を思いながら遠征練習してるのに心を打たれちゃってね。」
妖精「いやぁ、良かったよアレ! 『資材を持って帰れないと判断したら資材を捨ててでも帰ってこい』なんてさ!!」
妖精「ありゃあ普通の提督には言えないよ」
提督(そうなのか……?)
金剛(たしかに、死んでも持って帰ってこいって言う人がほとんどでしたケド……)
62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 19:09:10.98 ID:uKhsAYXN0
妖精「という訳で、あたし達からのプレゼント。おお、丁度出来たっぽいね」
瑞鶴「──はじめまして! 翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です!」
提督「」
金剛「」
瑞鶴「って、あ、あれ?」
妖精「ふふん。ちょっと本気出しました。どうせなら良いモノをプレゼントしたいしね」
提督・金剛「どうしよう……」
妖精「……あれ? お気に召さなかった?」
提督「いや、こんなに難しい船を造ってくれて物凄くありがたい」
金剛「だけどネ、妖精さん……」ピラッ
妖精「うん? 資材倉庫の情報紙? ……え?」
瑞鶴「なになに? 見せて?」
瑞鶴「……うわぁ」
妖精「これ、運用できないじゃん……」
瑞鶴「え……私、来るところ間違えた……?」
金剛(私と全く同じコト考えてマスね……)
妖精「ま、まあ! ここからは提督の腕の見せ所ということで……さいならー!!!」
64: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 19:21:20.14 ID:uKhsAYXN0
瑞鶴「……提督さん、大丈夫?」
提督「どうしよう……ホントどうしよう……」
瑞鶴「ですよね……」
金剛「駆逐艦達に遠征を頑張ってもらいまショウ……」
提督「それしかないな……」
瑞鶴「……ちなみに、なんだけど……ここの艦娘保有数は?」
金剛「駆逐艦三隻と、私達だけデース……」
瑞鶴「…………詰んでるじゃないの!?」
提督「……金剛、駆逐艦たち全員に伝えてくれ」
提督「ヒトサンマルマルから作戦会議……それも非常に重要な、と……」
金剛「分かりまシタ……」
瑞鶴「…………」
提督「…………」
67: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 19:32:22.39 ID:uKhsAYXN0
瑞鶴「……提督さん、どうする? あの……なんだったら解体しても──」
提督「それは認めない」
提督「それとも、瑞鶴は解体されたいのか?」
瑞鶴「そりゃ……嫌だけど……」
提督「ならばそれが答えだ。私はお前を解体しない」
瑞鶴「……どうやっても極貧生活になるわよ?」
提督「いくら普通の女の子になるからといって、解体で悲しそうな顔をする艦娘を見たくない」
瑞鶴「……エゴね」
提督「エゴの塊だよ、私は」
瑞鶴「加えて大馬鹿だと思うわ。この先、上手くやって極貧生活。下手を打ったら敵に殺されるっていうのに──」
グチグチグチグチグチグチグチ。
提督「…………そうかそうか」
瑞鶴「──え? あ……」
……………………
…………
……
69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 19:44:00.57 ID:uKhsAYXN0
雷「休みが作戦会議になるくらい重要な事って何かしら?」
電「きっと、とっても大変な事があったのです」
響「それだと緊急召集を掛けると思うけど……うん?」
瑞鶴『たーすーけーてー!!』
電「だ、誰かの悲鳴が聞こえてくるのです!」
雷「行きましょう!!」
響「……なぜだろう。とても同情したくなる声だ」
~提督室隣の部屋~
電「ここなのです!」
雷「えいやーっ!!」バターン!
瑞鶴「あ、た、助け──いや待って! まず見ないでぇ!!」
雷「吊るされてる……」
電「響ちゃんみたいになってるのです……」
響「提督、何があったんだい?」
70: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 19:58:50.22 ID:uKhsAYXN0
提督「八分に渡る上官への暴言、侮辱、その他諸々の罪で吊るし上げた」
瑞鶴「だ、だからってこんな辱め──」
提督「時間追加」
瑞鶴「ひぃっ!?」
金剛(瑞鶴さん……同情するネ……)
電「…………」
雷「あーあ……司令官を怒らせちゃったのね」
響「むしろ八分もよく続けれたと思うよ。私にはできない」
瑞鶴「だ、だって……」
響「安心して良い。私も吊るされた。昨日」
響「それにしても、そこまで言ったのなら、どうして懲役刑じゃないんだい?」
瑞鶴「!?」
響「いやむしろ、そんなに長々と言ったのならその場で銃殺してもおかしくないと思うんだけど」
瑞鶴「!!?」
71: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 20:15:39.62 ID:uKhsAYXN0
提督「知らん。私はそんな腐った法に従う気はない」
提督「この鎮守府内だけだがな」
瑞鶴「それはそれでどうなの提督さん……」
提督「そうか」
瑞鶴「わぁぁああ!! 嘘嘘! ごめんなさい!!!」
提督「嘘をついてまで私を貶めたかったのか?」
瑞鶴「あの……その……」
提督「…………」ジッ
瑞鶴「えっと……う……」
提督「…………」ジッ
瑞鶴「ぅ、ううう……」ジワ
提督「ところで皆、もうすぐヒトサンマルマルだが?」
全員「!!」ビクゥ
雷「は、はいい!!」
電「い、急ぐのです!!」
響「もうあんな思いはゴメン!!!」
金剛「あ、あの、私もですか?」
提督「うむ」
金剛「オ、オーケー!! テートクも程ほどにネー!?」
──パタン
76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 20:37:35.96 ID:uKhsAYXN0
瑞鶴「うぅ……うえぇ……」ポロポロ
提督「…………」クルクルホドキホドキ
瑞鶴「ぐすっ……?」
提督「悪かった。もしかして痛かったのか?」
瑞鶴「…………」フルフル
提督「本当だな?」
瑞鶴「…………」コクン
提督「そうか……。泣くほど嫌がるとは思っていなかった。すまない」
瑞鶴「う……」ジワッ
瑞鶴「うう~~ッッ!!!」
提督「っとと?」
提督(なぜ抱き付いてきた……)
81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 20:54:00.81 ID:uKhsAYXN0
瑞鶴「教えて……どうしてこんなに罰が甘いの……」
提督「さっきも言っただろう。私はあんな法に従うつもりはない」
瑞鶴「……それだけ?」
提督「建造直後とはいえ、既にお前は私の艦だ。誰が捕まえたり殺したりするものか」
瑞鶴「でも……私はあんなに沢山……」
提督「だから罰を与えた。充分に恥ずかしかっただろう」
瑞鶴「そりゃ……そうだけど……」
提督「…………」
提督「……私は、悲しまれたりするのが苦手なんだよ」
瑞鶴「……?」
提督「本当なら気にするなと言ってやりたい。だが、それではダメだと秘書に叱られてしまってね」
提督「だから、こうしてケジメをつけている。吊るされるのは嫌だろう?」
瑞鶴「…………」コク
提督「それに……お前を刑に処したら、姉の翔鶴がやってきた時に悲しむ」
瑞鶴「…………」
瑞鶴「……優しすぎ」
提督「悪いか?」
瑞鶴「ううん……そういうの、好き……」
82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 21:02:18.54 ID:uKhsAYXN0
提督「ところで、顔を洗ってきた方が良いだろう。抱き付くのもそろそろ止めておいた方が良い」
瑞鶴「え?」
提督「ん?」
瑞鶴「…………」
瑞鶴「──ピィッッッッ!?!!??!」ビックゥ
瑞鶴「ご、ごごごごごごめんなさいいいい!!!!!!!」ダッシュ
提督「…………嵐のような娘だ」
~一方、隣では~
電「い、いいいい今、とんでもない声が聴こえてきたのです……!」ビクビク
雷「何をやったのかしら、提督……」オドオド
響「まるで鴨の首を絞めたかのような声だったね……」ガタガタガタ
金剛(気になりマース……)
……………………
…………
……
85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 21:12:43.73 ID:uKhsAYXN0
提督「さて、諸君」
金剛・瑞鶴・電・雷・響「ハイ!!!」ビシィッ
提督「……これから作戦会議を行う。議題は『不足している資材の調達方法』についてだ」
金剛・瑞鶴・電・雷・響「────」ピシッ
提督(やたら皆気合が入っているな……)
提督「手元の資料を見て貰えば一目瞭然だが、現在この鎮守府の資材は枯渇寸前となっている」
提督「運用できて駆逐艦三隻が限界だろう。だが、駆逐艦達には遠征をしてもらわなければならない」
提督「この現状を打破するに有効な手段が無い。そこで、諸君らにも知恵を分けて欲しい」
提督「何でも良い。思いついた者は手を挙げて述べてくれ」
電「あの……資材が集まるまで遠征のみというのはどうですか?」
提督「一番確実で効率が良い意見だ。だが、昨日のように敵艦が近くに居る可能性が高い」
提督「そこを狙われて轟沈してしまったら、それこそこの鎮守府は終わりだ」
86: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 21:25:09.63 ID:uKhsAYXN0
雷「はい! 護衛に金剛さんを付けるのはどう、司令官?」
提督「それだとマイナスになってしまう。この近海で得られる資源は少なくてな……」
響「夜、海岸を影にして遠征をするのはどうだろう?」
響「私達が昼に寝れば、夜を通しての遠征ならできると思うよ」
提督「ふむ……。これを見てくれ」
響「これは?」
提督「本部からの情報だ。夜になると、赤や黄のオーラを纏った敵艦が複数出没するらしい」
提督「奴等の戦闘能力は非常に高いものとされるようだ。重巡が駆逐艦に落とされたという報告もある程だ」
響「これは……提督は許可してくれそうにないね」
提督「うむ」
提督「何度でも言うが、資材を持って帰れないと判断したら資材を捨ててでも帰ってこい」
瑞鶴「資源を捨ててでもって……貴重なんでしょう?」
提督「資源など時間を掛ければいくらでも手に入る」
提督「だが、君達は君達しか居ない。例え同じ設計図で組み立てても、それは彼女等であって君達ではない」
金剛「提督……」
87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 21:34:07.23 ID:uKhsAYXN0
金剛「ぁ──」
瑞鶴「あの、良いです?」
金剛(──の……)
瑞鶴「ちょっと賭けになっちゃうのがネックなんですけど、艦娘を増やすのはどう?」
提督「増やす?」
瑞鶴「敵艦を撃破すれば艦娘のデータが手に入るでしょう? 初期投資という事で、海からデータを拾ってくる」
瑞鶴「修理や補充ができなくなるのは痛いけど、艦隊を二つに分けて出撃すれば、二倍のチャンスが巡ってくるわ」
瑞鶴「近海の敵も減らせる。新たに手に入った艦娘で遠征も出せる」
提督「…………」
瑞鶴「ど、どう……?」ビクビク
提督「……保留。他にも良い案が無いか考えてから検討しよう」
提督「いや、むしろこの案を基にどう動くか考えた方が良いだろう」
金剛「!」
瑞鶴「やった!」
91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:03:48.07 ID:uKhsAYXN0
提督「金剛、何か他に案はあるか?」
金剛「え、あ……その……」
金剛「……無いです」
提督「…………そうか。では、瑞鶴の案を基に話を進めよう」
金剛(大体同じ案だったけど、瑞鶴の方がしっかりとしていました……)
金剛(劣化の案なんて、言えません……)
提督「…………」
……………………
…………
……
92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:06:05.60 ID:uKhsAYXN0
響「提督、この子→ID:KIphuwbUo どうする?」
提督「無論……」
瑞鶴「私と同じ目によ!!」ブラーンブラーン
金剛(また何かやったのデスか)
93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:18:02.72 ID:uKhsAYXN0
提督「──よし、練り固まったという所だろう。諸君、お疲れ」
提督「この会議での作戦を明日までに頭に叩き込んでおく事。良いな?」
瑞鶴・電・雷・響「ハイ!!!」
提督「……宜しい。では各自自由行動」
提督「ああ金剛、お前だけは残ってくれ」
金剛「……え?」
提督「お前は私の秘書だ。やってもらいたい事がある」
金剛「──ハイ」
提督「駆逐艦達は瑞鶴にこの鎮守府の案内をしてやってくれ」
雷「はーい、司令官。瑞鶴さん、いっきますよー!」
瑞鶴「あ、こ、こら。引っ張ったら──」
──パタン
94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:36:17.54 ID:uKhsAYXN0
提督「……さて、人払いは済ませた」
金剛「!」ビクッ
提督「金剛、私が何を言いたいのか分かるか?」
金剛「……私は、役立たずでシタ」
金剛「ろくな案も出せず……かといって煮詰めることも、本当に何も出来なかったです……」
金剛「ごめんなさい……提督……」
金剛「私、役に立てなかった……」
提督「ああ、違う」
金剛「──え?」
提督「私が言いたかったのはそうじゃない」
提督「だが、聞きたかった事が聞けた」
金剛「? …………?」
提督「会議中、何か思い詰めてるようだったからな。気になっていた」
提督「悲しい顔をさせたk……いや、聞き流してくれ」
提督「ゴホン。明日の作戦に支障が出るからな。ケアが必要だ」
金剛「…………」
95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:46:23.75 ID:uKhsAYXN0
提督「……どうした? ノーマル駆逐艦からクリティカルを貰ったかのような顔をして」
金剛「あははっ。なんでもないデス」
金剛「涙、ひっこみまシタ!」
提督「良い事だ。泣くのは嬉しい時だけで良い」
金剛「ふふっ、そうさせて下さいネ、テートク♪」
金剛「I don't mind that everthing is a lie」
提督「む?」
金剛「As long as I love you forever」
提督「……流暢だな。聞き取れなかった」
金剛「内緒デース♪」
金剛「ただ……一つ言うなら」
金剛「私、こんなに惚れやすくないはずなんですけどね」
提督「……………………」
金剛「それじゃあ、グッナイ提督♪」
──パタン
提督「…………は?」
96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 22:55:10.82 ID:uKhsAYXN0
カチャ……
金剛「あのぅ……」
提督「……なんだ?」
金剛「髪、梳いてくれますか?」
提督「……さっき良い夢をって言わなかったか?」
金剛「ぅー……」
提督「…………」
金剛「ダメ、ですか?」
提督「……椅子に座りなさい」
金剛「ヤッター!」チョコン
提督「嬉しそうだな」
金剛「そりゃあモッチロン!」
金剛「んー♪ やっぱり気持ち良いデース♪」
提督「そんなに良いのか……?」
金剛「ハイ! 提督のブラッシングは優しくて丁寧デス!」
金剛「もう私、テートクの虜ですヨー?」
提督「冗談……じゃないんだよな?」
97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 23:08:37.29 ID:uKhsAYXN0
金剛「おっ。テートクはコミックスとかでよくある都合の良い難聴はないみたいですね」
提督「なんだそれ」
金剛「告白とカー、それに順ずる言葉ダケ聴こえなくなる現象デス」
提督「もはやそれって分かっててやってるだろ」
金剛「まあ、コミックスですからネー」
提督「それもそうだな」
金剛「ネー、テートクー」
提督「うん?」
金剛「今日も一緒にスリーピングして──」
ガタッ!
金剛「!?」
提督「……誰だ? 現れなかった場合、明日、全員を縛り上げて──」
ガチャ──パタン!
瑞鶴「わ、私です!」
102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 23:31:01.47 ID:uKhsAYXN0
金剛「瑞鶴?」
提督「……無断で部屋に入ってきた事についてだが」
瑞鶴「あぁっ!? ご、ごめんなさい!!!」ビクビク
提督「いや、現れろと言ったのは私だ。不問にする」
提督「だが、どうして盗み聞きしていた?」
瑞鶴「それは……その……」
瑞鶴「えっと……ですね……」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ひゃいッ!?」
提督「……………………」
瑞鶴「ぅ……」ビクビク
提督「話せ」
瑞鶴「はいぃ……」
金剛(ちょっとだけ可哀想デス……)
103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 23:38:47.27 ID:uKhsAYXN0
瑞鶴「あの……この通路を通ろうとした時、金剛さんが入っていくのが見えたの」
瑞鶴「なんだかすっごい笑顔だったから、つい気になって……」
金剛「あ、あぅぅぅ……」
瑞鶴「えっと……差し支えなければ聞いても、良いですか?」
提督「…………」チラ
金剛「…………………………」コク
提督「髪を梳いてくれとねだってきたので梳いている」
金剛「ス、ストレート過ぎですよ提督ー!!」
提督「回りくどく言った方が良かったか?」
金剛「…………いえ、このままの方が良かったデス」
瑞鶴「……仲が良いですね」
提督「懐かれてしまってな」
金剛「懐いてるんじゃありまセン。惚れているんデス」
瑞鶴「なぁ!?」
提督「お前の方がストレートじゃないか……」
金剛「開き直りまシタ!」
104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/18(金) 23:50:54.78 ID:uKhsAYXN0
提督「……女心は分からん」
瑞鶴「……あの」
提督「うん?」
瑞鶴「私も立候補して良いですか」
金剛「ホワッツ!?」
提督「…………」
金剛「ど、どうしてですか!? 貴女、今日来たばっかりじゃないですか!!」
提督「それ、昨日来たばかりのお前が言えるか……?」
金剛「……あー…………」
瑞鶴「分からないんです」
提督「ん?」
瑞鶴「なんか、金剛さんが提督さんと……その……恋仲、になるのがとても嫌って思って……」
瑞鶴「でも、提督さんの事が好きかって言われたら、合ってるような違うような……良く分からないの」
提督「…………」
瑞鶴「だから、金剛さんが提督さんと恋仲になる立候補をするなら、私も──」
提督「話の途中ですまんが、一つ言わせてくれ」
瑞鶴「え?」
105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 00:11:16.50 ID:Dt4axTQb0
提督「私は金剛の想いを受け入れるともなんとも言っていないし、そもそもハッキリとした……いわゆる告白は受けていない」
金剛(言いましたのにー……)
提督「そもそも、私にとって二人は昨日今日、出会ったばかりなんだ」
提督「そんな出会ってすぐ決めれるほど飢えておらんよ」
提督「金剛がそこの所をどう思っているのか知らないが……」
金剛「アピールするだけですよ。私は食らいついたら放さないんだから!」
金剛「あ、でも、嫌がってたら流石に諦めますケドね」
金剛「提督が振り向いてくれるまで、ささやかに想い続けます」
提督「…………分かった。憶えておく」
提督「瑞鶴もそれで良いか?」
瑞鶴「え? は、はい……」
提督「それじゃあ二人共、今日は解散。明日に備えよ」
金剛「ハーイ」
瑞鶴(…………?)
瑞鶴(なんか、無理矢理に追い出そうとしてる……?)
──パタン
提督(…………はぁ)
提督(本当に困った……)
提督(……………………やりづらい……)
106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 00:22:46.58 ID:Dt4axTQb0
~翌日~
響「晴れたね」
提督「ああ、晴れたな」
提督「──これより第一艦隊、第二艦隊に分かれ、南西諸島沖に向けて出撃してもらう」
提督「第一艦隊は瑞鶴、電、雷」
瑞鶴・電「はい!」
提督「第二艦隊は金剛、響」
金剛・響「ハイ!」
提督「昨日も言ったが、今から言う事は何がなんでも守れ」
提督「『まだいける』と思ったらもう危ない。そして『もう危ない』と思ったらいつ沈んでもおかしくないと思え」
提督「慢心は死を招く。海の上では気を抜くな」
全員「はい!!」
提督「金剛、響。私の留守中、母港を守ってくれ」
金剛・響「ハイ!」
提督「出撃する。第一艦隊、出撃」
107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 00:34:25.21 ID:Dt4axTQb0
~南西諸島沖~
瑞鶴「……普通に出てきたからなんとも思わなかったけど」
雷「どうして司令官も一緒に来てるの?」
提督「電は知ってるが、お前達が戦場に出ているのに、上官である私が安全な場所でのうのうとするのは嫌だ」
提督「あと、無線だけでは分からないモノもある。的確な判断を下すなら前線に立つべきだ」
瑞鶴「もっともだけど、危なくないかしら……」
瑞鶴「提督さんが居なくなったら、私たち何もできなくなるわよ?」
提督「だからこその指示だ」
雷「? どういう事?」
提督「……本当は演習で経験を積ませるのが良いんだが、何せ資源が無いからな。私のせいで」
瑞鶴・電・雷(認めてたんだ……)
109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 00:46:48.47 ID:Dt4axTQb0
提督「それゆえ、今の艦隊は錬度が低い」
提督「それを補うために、私が直接指示を出しているんだ」
提督「正直に言うと、さっきのは建前だ。錬度が高くなれば無線で指示をする方向に切り替わるかもな」
電「かも……ですか? それは、ずっとこのまま一緒に海へ出るかもしれないという事ですか?」
提督「……よく聞いているな、電。そういう事だ」
提督「人間、誰しも矛盾した心を持っている」
提督「私の言った建前も、本当の理由も、どっちも私の本心なんだ」
提督「そして、どちらも──む」
瑞鶴「! 船の影! 偵察機、飛ばします!」
……………………。
111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 01:10:19.38 ID:Dt4axTQb0
提督「……敵か。数と艦種は」
瑞鶴「数は2。駆逐ロ級とイ級です!」
提督「総員、戦闘準備開始。瑞鶴、攻撃機と爆撃機は飛ばせるか?」
瑞鶴「いつでも!」
提督「良い返事だ。飛ばせ」
瑞鶴「はい! 皆、アウトレンジで決めてよね!!」
艦爆妖精「任せろ嬢ちゃん」
艦攻妖精「……敵艦確認。沈めます」
艦戦妖精「今回は休みなのー」
ブゥゥゥン……ッドォォォオオン!!!!
瑞鶴「……敵艦、全滅させたみたいよ」
提督「よくやった瑞鶴。流石だな」
瑞鶴「──あ」
瑞鶴(……胸が高鳴るくらい、すっごく嬉しい)
112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 01:23:06.92 ID:Dt4axTQb0
雷「おおお!!! 凄い凄い!! 射程距離に入る前にやっつけた!!」
雷「これが瑞鶴を先に出させた理由かー」
提督「そうだ。射程外から一方的に攻撃できるのは、とてつもない武器だ」
提督「ところで、瑞鶴、雷」
瑞鶴・雷「?」
提督「電の方を見てみろ」
電「他に敵は居ないみたいです──って、はい?」
提督「二人がしていなかった索敵を、電は一人やっていた」
瑞鶴・雷「あ……」
提督「出撃前、私が言っていた事を暗唱せよ!」
瑞鶴・雷「ヒッ──! 『慢心は死を招く。海の上では気を抜くな』です!!」
提督「うむ、よく憶えていた。そして、さっきの君達はどうだったか答えてくれ」
瑞鶴・雷「慢心していました!! 申し訳ありません!!!」
提督「そうか。よほど海の底へ沈みたいようだ」
瑞鶴・雷「────!!」ガクガクブルブル
113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 01:45:08.17 ID:Dt4axTQb0
提督「処罰は帰ってから行う。だが、私も鬼ではない」
提督「先程の行為を覆すほどの活躍を見せてくれたら、処罰は無しとしよう」
瑞鶴・雷「ありがとうございます!!」
提督「うむ。良い働きを期待しているよ」
電(凄いのです……! 緩んでいた緊張の糸をすぐさま張り直したのです!!)
電(凄いなぁ……司令官さん)
電(そして、瑞鶴さんのあうとれんじ攻撃も凄いのです! これだったら被害が最小限なのです!)
……………………
…………
……
114: 少なかったからもう一個 2013/10/19(土) 01:46:19.40 ID:Dt4axTQb0
瑞鶴「むっ! 敵艦と思われる影を確認しました!!」
瑞鶴「──偵察機の報告によりますと、軽巡、雷巡が各一隻、駆逐が三隻のようです!!」
瑞鶴「飛ばしましょうか」
提督「意味は伝わるが、必要箇所を省略するな。それが元となって伝達に齟齬が発生する」
瑞鶴「は、はい!! 失礼しました!」
提督「ちなみに、各艦の大きさ、陣形は?」
瑞鶴「軽巡がへ級。雷巡がチ級。駆逐はロ級一隻、ハ級が二隻。陣形は単縦陣のようです」
提督「ふむ……陣形はこのまま維持。まずはハ級の二隻を艦爆、艦攻で攻撃しろ」
瑞鶴「え? は、はい」
艦爆妖精「いいのかい提督さん? 真っ二つにしてやるぜ」
艦攻妖精「了解しました。殲滅します」
艦戦妖精「まーたお仕事無しですよ……」
ブゥゥゥン……ッドォォォオオン!!!!
瑞鶴「! 一隻は撃沈、もう一隻は大破炎上! ですが、直に沈むと思われます」
提督(やはりか……まだ火力が足りない。駆逐艦を狙わせて正解だった)
125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 11:43:34.08 ID:VCXgUKuM0
提督「総員、砲雷撃戦に入る。駆逐艦は主砲用意」
提督「空母は第二次攻撃隊発艦始め」
提督「敵に攻撃を許すな」
提督「電、恐らく敵の駆逐艦は旗艦の軽巡を庇おうとする。さっきの先制攻撃で随分敏感になっているはずだ」
提督「それを逆に狙え。最初っから駆逐艦を狙うんだ」
電「はいなのです!」
提督「瑞鶴は電の発砲後、敵旗艦の軽巡へ総攻撃。一切の妥協をするな」
瑞鶴「はい!」
提督「雷は敵軽巡と駆逐の両方を狙っておけ。落とし損ねていたら撃つから、いつでも撃てるようにしておく事」
提督「そして威嚇に今、敵旗艦に撃て。当たらなくて良い。敵駆逐艦を誘い出す」
雷「任せて司令官! テーッ!!」
敵軽巡「ぴぎぃ!?」ゴォン! 中破
雷「あ、船橋に当たっちゃった」
提督「よくやってくれた! 敵が怯んだこのチャンスを逃すな!」
提督「電、困惑している駆逐艦へ斉射! 瑞鶴、第二次攻撃隊に攻撃命令!」
電・瑞鶴「はい!!」
敵軽巡「Nooooooo!!!!」 撃沈
敵駆逐「連中の艦隊はバケモノか!?」 撃沈
126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 11:56:30.71 ID:VCXgUKuM0
瑞鶴「……提督さん、攻撃隊が一発目で敵軽巡を沈めたらしいから、敵雷巡にも攻撃していいかって聞いてる」
提督「許可する。──雷、残った敵雷巡へ撃て!」
瑞鶴「はい!」
雷「はーい!」
敵雷巡「えっちょ──おおおばあああああきるぅぅぅううううう!!!?!?!」ドゴドゴドゴドゴ 撃沈
提督「うむ。敵は全滅したな」
瑞鶴・電・雷「周囲に敵影ありません!」
提督「うむうむ。索敵ご苦労」
提督「やればできるじゃないか」
瑞鶴・雷「!」パァ
瑞鶴・雷「──ハッ!!」キョロキョロ
提督「うむ。もう慢心していないようだな」
提督「──さて、データも回収したし、帰ろうか」
提督「……索敵を怠るなよ?」
瑞鶴・電・雷「はい!!」
……………………
…………
……
127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 12:12:27.12 ID:VCXgUKuM0
金剛「あ、帰ってきたネ!」
響「! ご苦労様、皆」
金剛「お疲れサマ!」
金剛「戦果リザルトはどうでシタ?」
提督「上々だ。まさかデータを四つも持って帰れると思わなかった」
金剛「ワーオ! コングラッチュレイショーン!!」
響「という事は、私達は出撃しない方が良いかな?」
提督「このデータが何によるかだが、大方しなくても良いだろう」
……………………
…………
……
128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 12:27:23.06 ID:VCXgUKuM0
提督「……確認する。君達の名前は──」
提督「神通、川内、那珂、暁で間違いないな?」
神通「はい」
川内「うん、そうだよー。で、今夜って夜戦の予定とかある?」
那珂「那珂ちゃん、有名だー!」
暁「ええ、そうよ司令官さん」
暁「って、皆!!」
雷「暁!」
電「暁ちゃんなのです!」
響「……これは驚いた。まさか一発で拾ってきてくれるなんて」
提督「私も正直、驚いてる」
金剛「あのー……提督、これって」
提督「ああ」
金剛「第三艦隊の保有許可が下りるネー!!」ダキッ
提督「なぁ!?」
金剛「やったヨー! 凄い嬉しいネー!」ギュウゥ
130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 12:39:32.40 ID:VCXgUKuM0
提督「……金剛、時間と場所を弁えろ」
金剛「はっ!」
全員「……」ジィ
金剛「あ、アハハ………………ゴメンなさい……」
提督「喜ぶ気持ちは良く分かる。が、今後無いように」
金剛「ハイ……」
提督「それはさておき……」チラ
瑞鶴・電・雷「!!!」ビクッ
提督「処遇を決めよう。三人共、提督室へ行くように」
提督「金剛、響、すまないが四人に鎮守府の案内をしてやってくれ」
金剛「了解デース」
響「いってらっしゃい、司令官、三人共」
133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 12:53:29.80 ID:VCXgUKuM0
瑞鶴・電・雷「…………」ガタガタガタ
川内「……なんであの三人、震えてるの?」
響「司令官の怖さを知っているからさ」
神通(こ、怖いお方なんですか……)ビクビク
那珂「そんな風には見えないけどー?」
暁「ええ。むしろ優しそうな人よね」
金剛「いずれ分かる日が来ると思いマース」
金剛(でも……『処遇』ですか。やっぱり優しいですね、テートク♪)
……………………
…………
……
135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 13:10:26.47 ID:VCXgUKuM0
~提督室~
提督「……ここに呼ばれた理由は分かっているな?」
提督「出撃前の私の命令に従えなかった者が二名居る」
瑞鶴・雷「はい……っ」ビクッ
提督「それとは別の理由で、電にも来てもらった」
電「は、はい……」オドオド
電(なんでしょうか……私、何か失敗したのかな……)
提督「まずは雷」
雷「はい!!」ビクッ
提督「戦闘終了後、命令をしていたのにも関わらず気を抜き、慢心した」
提督「だが、最後の戦闘において敵旗艦軽巡に直撃弾を与え、指揮系統を狂わせて敵に攻撃させなかったのは事実」
提督「資材を消費できない中、今回の出撃で一切の被害を出さなかった事へ非常に大きな貢献してくれた」
提督「よって、罰は無しだ」
雷「え、あ──ありがとうございます!」
140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 13:27:09.34 ID:VCXgUKuM0
提督「次に、瑞鶴。一歩前へ」
瑞鶴「はい!」ビクン
瑞鶴(どうしよう……私、雷みたいに特別な戦果を挙げてない……)
提督「先に述べた雷と同じ過ちを犯している、が──」
瑞鶴(おまけに戦闘中に何回も注意された……!! つ、吊るされる!?)
提督「──会敵七隻中四隻撃破。雷との共同戦果二隻」
提督「今回の出撃で一番貢献してくれている。よくやってくれた」ナデナデ
電・雷「!!!」
瑞鶴「──え? あ、あれ……はひ!?」
電(瑞鶴さん、お顔が真っ赤なのです)
雷(物凄く嬉しそう……。良いなぁ……)
提督「これにて今回の処遇は終わりだ。電以外は下がりなさい」
瑞鶴・電・雷「え?」
提督「なにかね?」
瑞鶴・雷「い、いえ!! 失礼しました」ピシッ
提督「ああ、午後からは行動を自由とする。燃料と弾薬が補充できないのはすまないがね」
瑞鶴「は、はい……」ポー
雷「はいっ司令官!」
カチャ──パタン──
提督「──さて電」
電「は、はい!!」ビクッ
提督「紅茶とココア、どっちが好きかな?」
電「…………ほえ?」
……………………
…………
……
142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 13:40:11.95 ID:VCXgUKuM0
提督「大した話ではないのだが、少々気になってね──ココアの甘さ加減は丁度良いかい?」
電「はい……とっても美味しいです……。けど、どうしたのですか、司令官さん?」
提督「なに。電は敵艦を沈めると悲しそうな顔をしていると気付いてね」
電「…………」
提督「それはなぜか、私には分からんのだよ。だから教えてくれないか?」
電「……………………」
提督「…………」
電「あの……怒りませんか?」
提督「知らん」
電「ええっ!? こ、ここは『怒らないよ』とか言う場面じゃないですか!?」
提督「知らん。私が怒るかどうかは話の内容を聞かないと分からんよ。私はエスパーではないからね」
提督「それとも、私が怒りそうな内容なのかな」
電「司令官さんなら怒りそうにない……と思います。けど……」
提督「…………けど?」
電「『司令官』という立場だと、怒るのが普通かな……と思うのです」
提督「ふむ。言ってごらん」
143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 14:01:25.73 ID:VCXgUKuM0
電「はい……。あの………………戦争って、殺し合いですよね……」
電「敵も私達と同じだと思うのです……。家族が居て、仲間が居て、大切な人が居て……中には、仕方がなく戦ってる人も居ると思うのです」
電「だから……沈んだ敵も、できれば助けたい……。そう思っちゃうんです……」
提督「……………………」
電「司令官さん……。戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって……おかしいですか……?」
提督「……どうだろうな」
提督「…………すまん、私は電の悩みを解決する事ができない」
電「です、よね……。敵を助けても、帰らせちゃったらまた戦場に──」
提督「それもあるが、私が言いたかったのはそうじゃない」
電「え?」
提督「…………」
電「……相容れれない……のですか?」
提督「確かに敵と会話を設けた事は無い。だが、それが理由というわけではない」
144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 14:27:23.27 ID:VCXgUKuM0
提督「電」
電「はい?」
提督「……電の悩みの答えは、電の思っているよりも深海の闇の中にある」
提督「触れると取り込まれるぞ」
電「………………取り込まれる……?」
電「司令官さん……? どういう事なのですか……?」
提督「知らなくて良い。できるならば──」
提督「──その悩みを忘れた方が、幸せだ」
……………………
…………
……
145: 思ったより短かったからもう一個 2013/10/19(土) 14:28:27.69 ID:VCXgUKuM0
提督「さて、この書類を片付けねば」
金剛「ワーオ……まさにマウンテンね……」
提督「この程度で音を上げていたら、この先やっていけなくなるぞ」
提督「鎮守府を快適にすればするほど、この書類は増えていくからな」
金剛「ンー……大きくするのも問題なのデスねー……」
提督「できるなら、程々が一番だな」
金剛「ですネー……。あ、紅茶にしますか、コーヒーにしますか、それともココア?」
提督「金剛が飲みたいヤツを頼む」
金剛「ハイ! では紅茶を淹れますネ」
……………………。
146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 14:41:54.56 ID:VCXgUKuM0
金剛「お待たせネ」
提督「ん、ご苦労」ズズ
提督「……………………」
金剛「? どうしたんデスか、テートク?」
提督「金剛、お前の茶を飲ませてみろ」
金剛「え!? い、いや……それは…………」
提督「上官命令だ」
金剛「……ハイ」
提督「…………」ズズ
金剛「…………」ビクビク
提督「……やはり、薄いな」
金剛「あう……バレてしまいまシタ……」
提督「金剛の紅茶は、出涸らしを使っていたのか」
金剛「ハイ……」
提督「見えない所で健気だな、金剛。そうやって少しでも節約しようとしていたのか」
金剛「そもそも、たかが秘書の私も紅茶を飲んでいるのがおかしいのデス」
金剛「テートクは優しいから私に紅茶を飲むの許可してくれていますケド、本来だったらダメなんデスよ?」
提督「秘書の特権だ。私の城ではそうなっている」
149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 15:04:30.54 ID:VCXgUKuM0
金剛「そう言うと思っていたネ」ソッ
提督「む」
金剛「大好きですよ、提督」ギュ
提督「金剛、時間と場所を弁えろと言ったはずだろう」
金剛「今は仕事前のティータイムです」
提督「ここは提督室だが」
金剛「私達以外、誰も居ません。つまり、誰の目にも触れません」
提督「……まったく、抜け道を探すのが上手いな」
金剛「提督の秘書になる為の必須技術だと思いますよ?」
提督「ごもっとも」
金剛「──サテ! デスクワークをしましょう!」
提督「ああ。だが、その薄味の紅茶は私が貰う。そして、これからは使えなくなるまで私の紅茶にも出涸らしを使う事」
金剛「え?」
提督「私も鎮守府の懐に貢献せねばな」
金剛「あはっ。やっぱり、提督は優しいです」
提督「私のやりたいようにやっているだけだよ」
150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 15:14:42.86 ID:VCXgUKuM0
提督「──さて、今日の遠征練習についてだが、金剛はどう思った?」
金剛「──まだ錬度が足りないと思いマス。あれではまだ、敵が現れた時に無駄撃ちしそうデス」
提督「同意見だ。だが、上から指示された近海の警備任務の項目をギリギリながらクリアしているのも事実」
提督「そこでだ。彼女らにはしばらく警備任務と海上護衛任務で────」
金剛「海上護衛はまだ早いと思いマス。実戦で経験を────」
提督「そうだな。その方向でやって────」
金剛「こっちの資料によると────」
提督「防空射撃演習か────」
金剛「────」
提督「────」
……………………。
瑞鶴「…………」
瑞鶴(……仕事をしてるけど、楽しそう。いいなぁ……)
瑞鶴(秘書、か……。お茶の練習、しよう)
……………………
…………
……
153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 15:28:41.08 ID:VCXgUKuM0
提督「ふう……。今日の仕事、終わったな」
金剛「うー……疲れまシタァ……」
提督「秘書の仕事、だいぶ慣れてきたようだな」
金剛「いっぱいいっぱいデース……。まだまだ速くなれるはずデース……」
提督「向上心があって良い事だ」
金剛「…………テートク、マルヒトマルマルデース」
提督「もうそんな時間か」
金剛「そうデス。この時間が悪いのデス」
提督「うん?」
金剛「提督。提督はどうしてそんな目をするのですか?」
金剛「希望を失って、絶望しか見えていないかのような目をしています」
提督「…………」
金剛「私、知りたいです。提督の過去を」
提督「……ストレートだな、金剛」
金剛「それが私の良い所で悪い所です」
157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 15:59:21.12 ID:VCXgUKuM0
提督「よく分かっているようだ」
金剛「踏み込まれたくないのだったら、そう言ってください。私は強要したくないです」
提督「……少し、時間をくれるか?」
金剛「はい、待ちます。いつまでも」
提督「………………金剛」
提督「答える代わりに、髪、梳かさせてくれ」
……………………。
金剛「ンー♪ 幸せデス♪」
提督「それは良かった」
金剛「こうしていると、眠くなるのが玉に瑕デス……。もっとこの幸せを感じていたいの二ー……」
提督「眠くなったら寝ても良いんだぞ。無理はするもんじゃない」
金剛「勿体無いデース……。折角テートクがーブラッシングしてくれているのニー……」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「……綺麗な髪だな」
金剛「自慢のー……髪デース……」
提督(ホント、綺麗だな……)
提督(艶もあるし、細く柔らかい。自然な栗色の毛で、風に靡けば一層美しさが増すだろうな)
提督「……………………」
158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 16:10:47.41 ID:VCXgUKuM0
提督「沈ませはせんよ。必ず」
金剛「…………」
提督「む」
提督(寝たか……。自室へ運んで──いや、勝手に部屋に入るのはマズイか)
提督(なら私のベッドへ運ぶか。嫌がる事はないだろう)ソッ
提督(……こうして見ると、本当にただの女の子なんだがな)
金剛「てーとく……」
提督「ん、すまん。起こしたか」
金剛「私が……護ります……」
提督「……寝言か」
提督(護る、ね……)
提督(…………悲しい事だ)
……………………
…………
……
162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 16:39:12.15 ID:VCXgUKuM0
金剛「で、言い訳はありますか、テートク」
提督「……無い」
金剛「私、前に言いましたよね? 風邪を引くって」
提督「……言った」
金剛「じゃあ──どうして風邪を引いてるんですか!!」
提督「面目ない……」
雷(あの司令官が言い負かされてる……)
電(金剛さん、ある意味凄いのです……)
響(私には真似できない……)
瑞鶴(私もよ……。恐ろしくてできないわ……)
金剛「ええ。確かに私が提督の部屋で眠ってしまったのが悪いですよ?」
金剛「でも、起こすなり一緒の毛布に入るなりと方法はいくらでもあったんじゃないですか?」
雷(さり気なくとんでもない発言してるのに気付いてるのかしら……)
163: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 17:02:42.60 ID:VCXgUKuM0
金剛「前に毛布が無い時、一緒に寝ましたよね?」
瑞鶴(なんですって!?)
金剛「前例はあったのに、どうして今回はやらなかったのですか?」
提督「…………あの時は、金剛の同意を貰っていただろ」
金剛「では、私が嫌がるとでも思ったのですか?」
提督「…………嫌がらないと思う」
金剛「分かっているじゃないですか!! そういう時は一緒に寝てください!」
電(はわわ……! 聞いてるこっちが恥ずかしいのです……)
提督「だが……論理的に──」
金剛「てーいーとーくー!?」
提督「……………………」
金剛「ちゃんと反省して下さい。提督が不調だったら、公私共に困るんですよ?」
提督「…………分かった。以後無いようにする」
金剛「──はい。ちゃんと反省して、分かってくれたら良いんです」
金剛「ふう……。デハ、今日のミッションは瑞鶴と私を除く七隻で演習をすれば良いんデスね?」
雷(あ、真剣の時──じゃないわね。私事の時は日本語が流暢になるのね)
提督「ああ……頼んだ」
……………………
…………
……
165: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 17:12:45.06 ID:VCXgUKuM0
金剛「──と、いう訳で! 今日は私が提督の代わりに演習総指揮を執りマース!」
金剛「ちなみに命令に背いた者、昼に夜戦を試みようとする者、支障をきたす私語をする者は吊るして良しと許可を貰っていマス」
川内・那珂「ひぃ!?」ビクゥ
響「ああ……君達は早々に吊るされてたね、同胞よ」
金剛「弾は開発妖精さん特製のペイント弾を使いマス。水で簡単に落ちるので、気にせず当ててくださいネー」
金剛「当たった箇所で瑞鶴と私が轟沈判定を出しマス。砲塔に当たったらその砲塔は使えなくなると思ってくださいネー」
金剛「質問はありマスか?」
響「はい。中破、大破の判定はどんな基準なんだい?」
金剛「基本的にありまセン。けど、重要箇所に被弾したら使わないように意識して下サイ。当たると冷たいからすぐに分かると思うネ」
雷「はーい! 被弾箇所を意識しながら戦闘するのって、物凄く難しくない?」
金剛「それは実戦でも同じ事ヨー? 至近弾でもない限り、被弾すると基本的に使えなくなるデショ?」
金剛「むしろ、被弾箇所を意識せず戦闘を続行すると、思わぬ被害が生まれマス。なので、実戦でも被弾箇所は意識して下さいネ」
電「あの……。弾は二十発だけなのですか?」
金剛「これからはもっと遠くの海域に足を運ぶ事になりマス。つまり、戦闘回数が多くなるわネ。確実に当てるのは難しいケド、浪費しないよう出来るだけ当てる訓練も兼ねていマス」
166: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 17:25:01.24 ID:VCXgUKuM0
暁「はい。魚雷は?」
金剛「今回は無しデス。開発妖精さんに期待してくださいネ」
川内「はい!! 夜戦の演習はやって──」
金剛「吊るしますヨ」
川内「い、いえ!! なんでもな──あ、違った、えと……あっ! や、夜戦の演習って今後やるの!?」
響(上手くかわしたね)
金剛「今の所その話は無いデスが、提督に聞いてみますネ。他にありマスか?」
金剛「………………無いみたいネ。それじゃあ、演習開始デス!!」
……………………
…………
……
167: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 17:34:15.53 ID:VCXgUKuM0
提督「ケホッ。まだ少し甘い気もするが、さすが艦娘。よくやっている」
コンコン──。
提督「──誰だ?」
任務嬢『任務嬢です。元帥がお見えになりました』
提督「!? ……お通ししろ」
ガチャ──
元帥「やあ、数日ぶりだね」
提督「ハッ」ピシッ
元帥「いやいや、畏まらなくて良い。楽にしたまえ」
提督「いえ! 元帥殿に対し、そのような行為は出来かねます」
元帥「私が良いと言っている。……そうだな、座って話そうか」
……………………。
169: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 17:44:59.66 ID:VCXgUKuM0
提督「どうぞ。元帥殿がいらっしゃるのでしたら、もっと上等な茶葉を用意したのですが……」
元帥「構わん構わん。濃は程々の茶が一番だよ。礼儀作法は苦手なのでな」
元帥「──いきなり本題に入るが、君は非常に興味深い戦果を挙げているね」
元帥「着任初日で高速戦艦を保有。二日目で空母。三日目では総司令部の指定した神通、川内、那珂の進水」
元帥「このような大戦果を挙げる者はそうそう居らぬよ」
提督「恐縮です」
元帥「だが、一つ気になるものがある。二日目に建造した瑞鶴」
元帥「アレは、港に沈んでいた艦を材料に造ったとあるが、間違いないね?」
提督「ええ。建造妖精達が総出で拾い上げてくれました」
元帥「ハッハッハッ。実に面白く、無駄の無い行為だ。だが──」
元帥「単刀直入に言おう。瑞鶴を総司令部へ引き渡しなさい」
提督「…………理由をお聞きしても宜しいですか?」
171: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 18:01:47.58 ID:VCXgUKuM0
元帥「ふむ、理由とな?」
提督「はい。上官の命令は絶対です──が、我が鎮守府は残念ながら小さい。小さい故に戦力が乏しい。そんな小さい鎮守府で、最大戦力の一隻です」
提督「今、彼女を手放してしまうと、戦力の降下だけではなく深海棲艦から母港襲撃を受けた際──」
元帥「それは無い」
提督「……無い? なぜですか」
元帥「そういう風に出来ておるのだよ、深海棲艦というモノは」
提督「…………すみません、話が逸れてしまいました」
元帥「よい。私が逸らした」
提督「──艦娘は一人の提督にしか命令を聞かないと耳にします。まるで、初めに見た者を親と思う雛鳥のように」
提督「それなのに、どうして総司令部へ? こう言うのは少々気が引けますが、他人では完全に役立たずですよ」
元帥「……………………」
提督「……元帥殿?」
172: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 18:07:20.86 ID:VCXgUKuM0
今更だけど、多少グロっぽい表現が出てきます。
注意サレタシ
ついでにいずれエロも書く予定。
厳重注意サレヨ
175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 18:22:38.40 ID:VCXgUKuM0
元帥「……いやなに。君への処遇を考えている所だ」
提督(は? 処遇?)
元帥「そうだな。うむ。素質は充分にある」
元帥「少将よ、君は深海棲艦に興味はあるか?」
提督「……はい。大変興味深くはあります」
提督(なんだ……? どういう意図の質問だ……?)
元帥「では、深海棲艦をどう思っている?」
提督「どう……とは?」
元帥「そのままの意味だ。何でも良い。率直に答えてくれ」
提督「……………………」
提督(まさか、調べていたのに感付かれたか……?)
提督(いや、その可能性は低い……。倒した敵艦から出てきたデータを回収しているようにしか見えていないはずだ)
176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 18:39:29.88 ID:VCXgUKuM0
提督「そうですね……なんと言えば良いのやら……」
提督(どう答えるのがベストだ……。くっそ……頭が上手く回らん……!)
提督(仕方が無い……冗談を言って有耶無耶にするか)
提督「性能の驚きを隠せません。アレらを素材とした艦娘を建造すれば、我が鎮守府もすぐさま強くなるでしょう」
元帥「宜しい。二階級特進だ。少将、君は今から大将だ」
提督「なーんて──ハァ!?」
提督「な!? ど、どういう事ですか元帥!!」
元帥「どうもこうも、そういう事だ。おめでとう」
提督「……私は死ぬのですか」
元帥「何か勘違いしているようだが、殉職による二階級特進ではない」
提督「ではなぜ……」
177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 18:51:54.18 ID:VCXgUKuM0
元帥「なぁに。我々の計画を話すに値すると判断したからだ。大将以上の方が何かと融通が利くからのう」
元帥「深海棲艦を素材にして艦娘を造ったという実績もある」
元帥「何より今は駒が圧倒的に足りない。多少強引でも引き入れている」
元帥「そして──」
元帥「もう逃げる事は叶わんよ、大将殿?」ニィ
提督(おい……オイオイオイオイオイオイオイオイ!!!!! 地雷を踏み抜いたどころの話じゃねーぞ!!?)
提督(帝國海軍はどこかおかしいと思っていたが、真っ黒なんじゃねーのかこれ!?)
元帥「何もかもという訳にはいかんが、話そうじゃないか」
元帥「我々の計画を────」
……………………
…………
……
178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 19:16:03.59 ID:VCXgUKuM0
元帥「始まりは、艦娘建造計画から始まった」
元帥「我々の今の敵は深海棲艦。将校でもそう教えられただろう」
元帥「そして、その深海棲艦を倒す為に艦娘を使っている」
元帥「今でこそ当たり前の存在だが、当時の艦娘はとても不安定でな」
提督「……………………」
元帥「いやあ、それはもう阿鼻叫喚、地獄絵図だったよ」
元帥「失敗作は様々な死に方を迎えた。全身の皮膚が剥がれ落ちる者。溶けるように血の塊へと変わる者」
元帥「身体中から鉄の柱が突き出る者。突如骨が砕ける者。人の形を保てなくなった者……」
元帥「どんな形であれ、その成れの果てが深海棲艦だ」
提督「!!」
提督(やっぱりか……。倒した深海棲艦から艦娘のデータが出てくるなんておかしいと思った)
元帥「その顔を見るに、既に予測はしていたようだな」
提督「……ええ。敵艦から艦娘のデータが出る事に疑問を抱いていましたから」
提督「それに、ところどころ艦娘と似ていますしね」
180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 19:32:40.97 ID:VCXgUKuM0
元帥「結構。話を続けよう」
元帥「その深海棲艦だが、最初は艦娘と大して変わらん装備だった」
元帥「だが、彼女らは次第に我々の想像を上回る兵器を扱ってきだした」
元帥「なぜだと思う?」
提督「……彼女らも、艦娘と同じように成長している……?」
元帥「半分正解だ」
元帥「もう半分は、大陸の技術だ」
提督「大陸……? 将校で言っていた深海棲艦の大陸ですか?」
元帥「うむ」
元帥「更に、深海棲艦は燃料も弾薬も必要無い」
提督「……どういう事ですか。どうやって動いているんですか、それは」
元帥「これについてはまだ解明されていない。が、一説によると負のエネルギーが原動力では、と言われている」
182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 19:52:36.94 ID:VCXgUKuM0
提督「負のエネルギー?」
元帥「そう。恨みや怨念。現に彼女らが率先して狙うのは人間ではなく艦娘。それはよく実感しているんじゃないかね?」
提督(────そうか。最初の出撃の挟撃してきた駆逐艦。確かに俺じゃなくて金剛を狙っていた)
元帥「思い当たる節があるようだね」
元帥「その負のエネルギーだが、戦争をしている内はまず無くならないだろう」
元帥「殺し、殺され、沈んでいくのだ。無くなる訳がない」
元帥「深海棲艦を解体して調べてみたが、動力となりそうな部分は一切発見されなかったらしい」
元帥「その深海棲艦を素材にして、艦娘を造ろうと試みた。が、今まで一回たりとも成功しなかった」
元帥「君を除いて」
元帥「君の瑞鶴、通常の艦娘よりも性能が高いのでは?」
提督「……いえ、この鎮守府に空母は瑞鶴一隻しか居ないので分かりかねます」
元帥「そうか……残念だ。補給はしたのかね?」
提督「いえ。資材が枯渇寸前の為、金剛、瑞鶴に回す資材がありません」
元帥「そうか……色々と足りないのだな」
186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 20:16:23.06 ID:VCXgUKuM0
元帥「よし。資材については特別配給をしよう」
元帥「これから色々と結果報告をして貰わねばならんからなぁ」
元帥「さて、前置きはそろそろ終わりにしよう。本題だ」
元帥「我々は今、戦争で劣勢状態にあるのは分かっているね?」
提督「……はい」
元帥「深海棲艦を基とした艦娘を大量に造り、そして戦争を勝ち抜け」
元帥「勝たなければいけないのだよ。でなければ我々の未来は無い」
提督「……未来、ですか」
提督(何言ってるんだこのクソジジイ。さっき深海棲艦は艦娘しか狙わないって言ったじゃねーか)
提督「ですが、深海棲艦は艦娘しか狙わないと──」
元帥「そんな事は言っておらん。率先して狙うのは艦娘だが、人間を狙わない訳ではない」
提督「……失礼しました」
元帥「よい。大将、ランチェスター第二法則は知っているか?」
187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 20:25:33.54 ID:VCXgUKuM0
提督「戦闘力=質×量×量……ですよね?」
元帥「うむ。現在の深海棲艦の数は、艦娘の数千倍は下らないと言われている」
提督「数千……」
元帥「総合的な質で言うと我々の方が遥かに上だ。だが、圧倒的な数の暴力には勝てん」
元帥「その内、艦娘は全滅して深海棲艦が人類を滅ぼしにくるだろう。そうなると、人類は滅亡する」
元帥「現に、いくつかの基地は艦娘が全滅したという報告もある」
提督「……その基地はどうなりましたか」
元帥「放棄した後、乗っ取られたよ。現在は深海棲艦が拠点にしている」
元帥「彼女らも母港というものが恋しいのだろう……。母港に対して一切の砲撃はしてこなかったよ」
元帥「だが、それを逆手に戦力が揃うまで一切出撃をしなかった基地もあるが、流石に手を出された」
元帥「なるべく母港を傷つけず、艦娘は例外なく沈められた」
188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 20:50:03.71 ID:VCXgUKuM0
元帥「──量で勝てないのなら、質で勝つしかあるまい」
元帥「それも、圧倒的な質で」
提督「……そうですね」
元帥「だからこそ、深海棲艦を基とした艦娘を建造して欲しい」
提督「……ただの偶然かもしれませんよ」
元帥「ただの偶然ではないかもしれんだろう?」
元帥「我々に残された選択肢は数少ない。君が協力してくれそうでなかったら、瑞鶴を強奪して研究の為に華々しく散っていっただろう」
提督「それは──!」
元帥「倫理的に問題がある。それは分かっている。だが、そうせざるを得ないほど切羽詰っているのだ」
元帥「例え元艦娘を材料に──いや、回りくどく言うのは止めよう」
元帥「艦娘の死体を利用してでも、やらなければならない」
提督「……………………」
元帥「やってくれるのであれば、定期配給される資源を上乗せしよう。……明らかに必要ないであろう程になればストップはするが」
元帥「勿論、通常の任務報酬も今まで通りだ」
192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 21:41:22.51 ID:VCXgUKuM0
提督「…………仮に拒否した場合はどうなりますか?」
元帥「不穏分子と判断し、艦娘諸共殺害する。この情報を漏らす訳にはいかぬから、君に関わった者も全員行方不明となるだろう」
提督「ッ!!」
元帥「既に言ったではないか。逃げる事は叶わぬと」
元帥「特に、君は艦娘達に好かれているようだね。目の前で見せてあげようか、彼女らの生身が解体されるのを」
提督「……分かりました」
提督「協力……します……」
元帥「うむ。頼んだぞ」スクッ
提督「……お帰りですか」
元帥「濃も忙しい身でな。──ああそうそう」
元帥「大将のバッヂだ。付けておきなさい。それと──」
元帥「くれぐれも、この話は漏らさないように。濃らと深海棲艦を基とした艦娘以外には、な」
提督(漏らしたらどうなるか分かっているな、とでも言いたそうだな)
提督「勿論です。ご安心を」
元帥「……では、失礼する。君の目に光が宿ったのを初めて見たよ」
提督「!」
ガチャ──パタン
提督「私の目に光、ねぇ……」
……………………
…………
……
193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 22:03:22.21 ID:VCXgUKuM0
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
金剛「テートクー! 演習終わったヨー!!」
提督「ああ、見ていた」
瑞鶴「え、起きていたの?」
金剛「……提督?」
提督(──ヤベッ!)
金剛「やぁあっぱり提督は私の話を聞いてくれなかったのですねぇ……?」
提督「いや……そういう訳じゃない……」
金剛「じゃあどうして身体を休めず演習を見ていたのですかッ!?」
金剛「──って、あれ? これ……大将バッヂ……? どうしたんですかこれ?」
提督「……さっき元帥殿がやってきて、なぜか二階級特進になった」
金剛・瑞鶴「はぁ!?」
196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 22:24:42.00 ID:VCXgUKuM0
提督「なんでも、初日に戦艦、二日目に空母、三日目に総司令部が指定した川内型の保有。異例な速度での近海の敵艦排除。沈んだ船を引き上げて資源の有効活用。その他諸々」
提督「尋常じゃない戦果と新たな資源の活用法を編み出したという理由で二階級特進……だそうだ」
瑞鶴「へぇ……そんな事もあるんだ……」
金剛「…………」
提督「元帥殿の前で寝ている訳にはいかなく、かといって風邪を引いたと言えば体調管理すら出来ていないのかと思われそうで言えなく……」
提督「バッヂを貰ったあと元帥殿に演習する姿が目に入ったらしく、演習が終わるまでずっとご見学されていたんだ」
瑞鶴「ええ!? こ、金剛さん……私達、大丈夫だったかな……?」
金剛「──え、ああウン。大丈夫だと思うヨ?」
提督「……その演習についてなんだが、瑞鶴、この書類の山を片付けたら話があるから、ちゃんと起きているように」
瑞鶴「ッピィ!?」
提督「以上だ。金剛、秘書の仕事は大丈夫か?」
金剛「……ハイ! まだまだいけますヨー!」
瑞鶴「そ、それじゃあ私はこれで……」ガクガク
……………………。
199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 22:53:17.18 ID:VCXgUKuM0
金剛「……さて、提督」
提督「…………」
金剛「私が言いたい事、提督なら分かってますよね?」
提督「……ああ」
金剛「本当は何があったんですか?」
提督「……すまん。これは誰にも言えない」
金剛「……秘書の私でも、ですか?」
提督「ああ」
金剛「……そうですか」
金剛「──では! 書類を分けますネー!」
提督「…………」
金剛「? どうしましたテートク。鳩がアトミックバズーカに被弾したような顔をして」
提督「……私の顔は爆発四散した肉みたいに酷いか?」
金剛「まっさか~」
205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 23:21:57.03 ID:VCXgUKuM0
金剛「……いつか、話せるようになったら話してください。約束ですよ?」
提督「……ああ、約束だ」
金剛「ふふっ。じゃあテートク、ゆっくり休んで──」
提督「そうか。金剛が一人でこの書類の山を片付けてくれるのか」
金剛「…………」
金剛「頑張りマス!!!」
提督「冗談だ……。早く終わらせて寝ようか」
……………………
…………
……
208: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 23:34:36.80 ID:VCXgUKuM0
提督「んー……! 終わった……」
金剛「現在マルマルサンマルですネ。昨日より早いデース」
提督「ご苦労だった金剛」
金剛「ありがとうございマース! ご褒美はキスが良いデース」
提督「調子に乗るな」コツン
金剛「アウッ。むー……残念デース……」
提督「明日も早い。自室に戻って寝なさい」
金剛「……看病してはイケマセンか?」
提督「風邪が移ったら困る」
金剛「テートクが看病してくれるのなら風邪になるのも──ァウッ」コツン
提督「バカを言うな。皆も心配するだろう」
金剛「……テートクも?」
提督「当たり前だ」
金剛「……ハイ! 風邪を引かないように努めマス!」
提督「良い返事だ」
金剛「それじゃあ、グッナイテートク!」
提督「ああ、おやすみ」
提督(…………さて、瑞鶴と話さなければな)
……………………。
211: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/19(土) 23:52:08.16 ID:VCXgUKuM0
提督「……瑞鶴、話をしようか」
瑞鶴「はい……」ビクビク
提督「……今日、この提督室にて非常に問題のある発言があった」
瑞鶴「…………ッ」ビクッ
提督「瑞鶴、お前は上に目を付けられた」
提督「深海棲艦を材料としたお前が──」
瑞鶴「────え?」
……………………。
瑞鶴「……嘘、よね?」
提督「本当だ」
瑞鶴「ま、またまた提督さんたら! 私をからかってるんでしょ?」
提督「……残念だが、本当だ。できれば私も信じたくない」
提督「だが、この大将を示すバッヂは紛れもなく本物……。あの話は嘘偽りが無い事を証明している」
213: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 00:10:22.98 ID:1K4VV5nm0
瑞鶴「で、でも! 私は補給が必要よ! さっきの話が本当なら、深海棲艦は──」
提督「通常の空母に補給に必要な燃料と弾薬、調べさせてもらった」
提督「結論を言うと、瑞鶴……お前の補給に必要資材は圧倒的に少ない。駆逐艦並みだ」
瑞鶴「……数字で言うと、どのぐらい差があるの?」
提督「通常空母と比べ、4~5倍の差がある。空母でこの数字は絶対にありえない」
提督「あと、いくら駆逐艦相手でも、経験の全く無いお前が撃沈させるのは無理がある話らしい」
提督「……どういう事か、もう説明しなくても分かるな」
瑞鶴「……………………」
提督「…………」
瑞鶴「ねえ、提督さん……私、居ちゃいけないのかな……」
提督「…………」
瑞鶴「私ね、役に立てて嬉しかった。皆からお礼を言ってもらって、提督さんに頭を撫でてもらって、すっごく幸せだった」
瑞鶴「ダメなの……? 他の皆が当たり前のように感じる幸せを、私は感じちゃいけないの……?」
提督「…………」
214: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 00:29:31.55 ID:1K4VV5nm0
瑞鶴「私……提督さんの会えて良かったなって思ってた……。でも、今は違う。会わない方が──造られない方が良かったって──」
提督「それは私が困る」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴が居なかったら、今の鎮守府は無い。下手したら無くなっていた可能性だってある」
瑞鶴「……でも、私の身体は──」
──同族の死体──
瑞鶴「──それで出来てる……。やだよ……こんなの……」
提督「…………」
瑞鶴「だって……気持ち悪いじゃない……」
提督「……スゥ…………瑞鶴!!」
瑞鶴「ぴゃい!?」ビクゥ
提督「…………」ジッ
瑞鶴「あ、ああぁあの……? わ、私、なに、か粗相を……?」ビクビク
215: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 00:49:19.41 ID:1K4VV5nm0
提督「お前は誰に仕える艦だ」
瑞鶴「て、提督さんに、です」ビクビクビク
提督「私はお前が居なかったら困ると言った。お前は私に必要だ」
提督「それすら信じれないか?」
瑞鶴「それとは……また、ちょっと別というか……」オドオド
提督「瑞鶴」
瑞鶴「はいッ!!」ビクッ
提督「私の前に立ちなさい」
瑞鶴「え……?」
提督「ほう、指示を聞き逃したか。それは吊るさな──」
瑞鶴「はいぃ!!!」シュタッ
提督「うむ。よろしい」
218: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 01:11:30.36 ID:1K4VV5nm0
瑞鶴「…………」ビクビクビク
提督「…………」スッ
瑞鶴「ッ!!」ビクッ
提督「ほれ、こうして触れる」ナデナデ
瑞鶴「…………?」ビクビク
提督「む……触っていて心地良い髪だな。ちょっとブラッシングさせてくれ」
瑞鶴「え、え? 良いけど……え?」
提督「椅子に座れ。──よし。そしてリボンを外してっと……梳くぞー」
瑞鶴「あ……」
瑞鶴(優しくて丁寧だ……気持ち良い……)
提督「ん? 痛いか?」
瑞鶴「……全然」
提督「なら良かった」
瑞鶴「……提督さん、嫌じゃないの?」
219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 01:37:00.30 ID:1K4VV5nm0
提督「むしろもっと触らせてくれ」
瑞鶴「……変なの」
提督「よく言われる」
瑞鶴(ああ……これ、すっごく良い……。なんでだろう……さっきまでの辛い気持ちが嘘みたい……)
提督「落ち着いたか?」
瑞鶴「うん……」
提督「……まだ続けたいんだが、良いか?」
瑞鶴「ぜひお願い!」
提督「うむ」
瑞鶴(……自分の身体が死んだ艦娘を使っているっていうのは凄く嫌だって思った。けど……)
瑞鶴(こうして提督さんが髪を梳いてくれるなら、別にどうでも良いかなぁ……)
瑞鶴「ねー、提督さんー」
提督「んー?」
瑞鶴「私を正面から抱き締めれるなら私もこの身体の事を気にしない──って言ったら、どうする?」
瑞鶴(ちょっとだけ、イタズラ)
瑞鶴「なーんて──!?」
提督「こうする」ギゥ
223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 02:00:53.04 ID:1K4VV5nm0
瑞鶴「え、ええっ!?! ちょ、て、提督さん!?」
提督「どうした、私は抱き締めれるぞ。何も変わらない、普通の女の子じゃないか」
瑞鶴「い、いいいやそういう事じゃなくて!?」
提督「ああもう、うるさい。大人しくしろ」ナデナデ
瑞鶴「ぁ………………はぃ……」
提督「…………」ナデナデ
瑞鶴(何これ……今まで感じた事がないくらい幸せ……)
瑞鶴(なんで……? なんでこんなに幸せなの……?)
提督「瑞鶴」
瑞鶴「……はひ?」
提督「勝手に死んだり、自分を蔑ろにするなよ」
瑞鶴「…………うん」
瑞鶴「絶対、そんな事しない……」
瑞鶴「約束する……」
……………………
…………
……
230: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 02:26:40.29 ID:1K4VV5nm0
提督「落ち着いたか?」スッ
瑞鶴「────あ」
提督「うん?」
瑞鶴「……ううん、名残惜しかっただけ」
瑞鶴「ありがとう、提督さん」
提督「うむ。よろしい」
瑞鶴「それに、ポジティブに考えたら私ってすっごくコストパフォーマンスが良い空母なのよね」
提督「そうなるな」
瑞鶴「それって、他の誰よりも提督さんの力になれるって事じゃない!」
提督「それは実力次第だな」
瑞鶴「むぅ……そこは嘘でも良いから『そうだよ』って答える所じゃない?」
提督「ほう。ではまず秘書の仕事と出撃を両立してもらおうか?」
瑞鶴「う……」
瑞鶴「──や、やる!!」
提督「お?」
瑞鶴「金剛さんに負けてられないもの!」
瑞鶴「提督さん、明日から私が秘書になって良い?」
提督「…………」
提督(変に対抗意識を燃やさせるんじゃなかった……)
……………………
…………
……
247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 13:23:06.45 ID:ngVu1Op90
~翌日~
瑞鶴「負けました……」ズゥゥゥン…
金剛「秘書で私に勝とうなんて、百年早いネー」
響「特にお茶淹れは段違いだったね。月とすっぽんと言っても過言じゃなかった」
瑞鶴「うっ」グサッ
暁「レディとしての振る舞いも金剛さんの方が上ね。さすが英国からの帰国子女といった所かしら」
瑞鶴「うぅ……」ドスッ
神通「提督の細かい動きを見れていたのも金剛さんでしたね……」
瑞鶴「あぐ……」グシャァ
提督「金剛、今後も秘書をよろしく」
金剛「ハイ♪ 私に任せてくだサーイ♪」
瑞鶴「あああぁ……」トドメ
提督「──話は変わって、遠征について言っておくことがある。が、その前に……」
雷「どうしたの、司令官?」
提督「整列」
全員「!!!」ビクッ
ザッ──!!
249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 13:34:48.33 ID:ngVu1Op90
提督「点呼」
金剛「1!」
川内「2!」
神通「3!」
那珂「4!」
暁「5!」
響「6!」
雷「7!」
電「8!」
瑞鶴「9!」
提督「よろしい。では今後の遠征についての計画を発表する」
提督「総司令部の意向で、この鎮守府への定期資材配給に上乗せが約束された。──だが、私はこれに頼りきろうと思っていない」
提督「確保できる資源があるのなら自分達で調達するべきだ」
提督「現在、予定しているのは警備任務と海上護衛任務の二つ」
提督「だが、海上護衛任務に就くには旗艦を軽巡にしなければならないという決まりがある」
提督「そこで、次の出撃で一番適切だと思える軽巡の者を海上護衛任務の旗艦となってもらう」
提督「だが、それではモチベーションが上がらないと思い……こんな物を用意した」スッ
252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 13:48:25.98 ID:ngVu1Op90
金剛「……はい、テートク」
提督「なんだ?」
金剛「それはなんデスか?」
提督「間宮アイスクリーム券だ」
全員「!!?」
提督「人数分頂いたのだが、生憎と私は甘い物が苦手でね。一枚余ってしまう」
提督「そこで今回、全員が一回出撃して、特に頑張った者に+一枚の景品として渡そう」
提督「質問はあるかな」
響「はい! 駆逐艦と戦艦など、戦力に差がありすぎるのは不公平だと思うのだけど、そこはどうするんだい司令官!」
提督「私は一番戦果を挙げた者とは言っていない。特に頑張った者と言った。故に、戦果が全てではないから安心したまえ」
提督「……無いとは思うが、目の前の欲に駆られていると判断した場合、その者へのアイスクリーム券は一枚も与えないから注意するように」
全員「はいっ!!!!」
提督「他に質問はあるか? ……………………無いようだな。では、第一艦隊、第二艦隊の編成を発表する──」
……………………
…………
……
254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 14:01:52.20 ID:ngVu1Op90
ぜーはーぜーはー……。
提督「皆よく頑張った。全員が全員を助け合い、目立った失敗も無かった」
電(もうヘトヘトなのです……)
川内(夜戦で、気付いたら後ろから敵駆逐艦が主砲を向けていたくらい神経磨り減った……)
金剛(ノー……睡眠不足はダメね……これから気を付けないといけまセン……)
瑞鶴(疲れた……これが私の全力よ……! でも、ダメだったらどうしよう……)
提督「それでは、提督室にて旗艦になる軽巡と特に頑張った者を発表する。総員、補給と入渠を済ませたら随時提督室に来るように」
……………………
…………
……
提督「さて、と準備しなければな」
金剛「何の準備デスか?」
提督「……うん? なぜここに──ああ、金剛は今回被弾していなかったな」
提督「間宮アイスクリーム券を封筒に入れて準備をする。ついでに時間が余るはずだから少しでも書類を片付けようとね」
金剛「ナルホド。では、私は書類を整理しマスね?」
提督「ああ、頼む」
……………………
…………
……
257: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 14:16:24.92 ID:ngVu1Op90
雷「遅くなってごめんなさい。雷、出頭したわ」
提督「ん、これで全員揃ったな」
金剛「ハイ、雷。ココアデース」
雷「え!? 良いの、司令官!?」
提督「うむ。構わん」
雷「わぁー! ありがとう司令官、金剛さん!」
提督「……」
金剛(あ……また一瞬、悲しそうな表情を浮かべました……)
金剛(どうしてですか、提督……)
提督「飲みながらで良い。今から順不同で発表し、封筒を渡す。呼ばれたら私の前に来てくれ。封筒は各自室で開けるように」
提督「まずは暁」
暁「はい!」
提督「休み無く動き回り、砲雷撃戦、また戦闘後の索敵も申し分なかった。今回の戦闘で一番経験を積んだだろう。良い実戦だったな」
暁「ありがとうございます、司令官」
259: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 14:31:52.25 ID:ngVu1Op90
提督「川内」
川内「はい!」
提督「少し危なっかしい所もあったと思うが、その猛攻は素晴らしいものであった。敵の動きに対して反応が速かったようにも見えるから、その分野を伸ばすと夜戦にも役立つだろう」
川内「褒めてくれるの……? ありがとう!」
提督「神通」
神通「──はい」
提督「……運が悪かったのか、敵に狙い撃ちされていたな。だが、それらのほとんどを避け、その中でも砲雷撃を止めなかったのは驚嘆に値する」
神通「あの……提督……ありがとうございます」
提督「電」
電「は、はい!」
提督「慣れているのもあるかもしれんが、どの動きも機敏で質が良く、まさに電の本気を垣間見た。常日頃から努力しているのが窺える。良くやった」
電「あ、あの……! ありがとう……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「はいっ!」
提督「前回よりも艦上機の精度が増していたな。特に爆撃機の精度が素晴らしい。その機体で敵重巡を一撃大破させた功績は非常に大きかった。これからも頑張りなさい」
瑞鶴「ふふっ、ありがとねっ」
262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 14:45:05.65 ID:ngVu1Op90
提督「響」
響「はい」
提督「敵空母から直撃弾を受けたのには肝を冷やされたが、その際のダメージコントロールは目を見張るものがあり、勉強にさせてもらったよ。不死鳥の名は伊達じゃないな」
響「これは照れるな……スパスィーバ」
提督「那珂」
那珂「はーい!」
提督「言葉は普段と変わらないが、その行動は戦域全体を見据えたもので、何より真剣に戦闘へ取り組んでいた。特にあの真剣さはこの鎮守府で右に出るものは居ないだろう」
那珂「提督ー! ありがとーーーーー!!」
提督「…………」
那珂「……ごめんなさい」
提督「……次、雷」
雷「はーい、司令官」
提督「戦果は乏しかったものの、最後の戦闘で直撃弾を受けそうになった金剛を庇って彼女に攻撃を託し、敵空母二隻を撃沈させたのは非常に大きい功績だ。被弾後のダメージコントロールも素早く、よく耐えてくれた」
雷「ありがとう司令官! 私、もっと頑張るからね!」
263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 14:57:26.49 ID:ngVu1Op90
提督「最後に、金剛」
金剛「ハイ」
提督「出来る事は非常に多くなっており、勉強しているのが分かる。が、いつもよりキレが悪かった。一つ一つ習得していくようにしなさい」
金剛「あぅ……やっぱりデース……」
提督「次に海上護衛任務の旗艦を任せる者を言い渡す」
提督「総合的に見た所、神通、お前が適任だと判断した。頼んだぞ」
神通「え──は、はいっ。頑張ります」
提督「以上だ。ココアが飲み終わった者から自由行動を許可する」
……………………
…………
……
264: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 15:08:18.78 ID:ngVu1Op90
雷「ごちそうさま司令官! ココア、とっても美味しかったわ」
提督「うむ。これからも良い働きをしてくれ」
雷「はいっ! 雷、司令官の為だったらいくらでも頑張るわね! おやすみなさい!」
提督「おやすみ」
金剛「グッナイ、雷」
ガチャ──パタン
提督「そういえば金剛、自室へ戻らないのか?」
金剛「秘書の仕事がまだ残っていマース。封筒の中身なんていつでも確認できるネー」
提督「……ふむ」
金剛「テートクの仕事のスピードが速くなっていってるから今日も早く終わりそうデス。さっすがねテートクー!」
提督「それもあるが、一番は効率良く仕事を進めれるように金剛が色々としてくれているからだよ」
金剛「そんなことありまセーン。テートク、謙遜しすぎですヨー?」
提督「鏡を向けてやろう」
金剛「むー……私はサポート役なのニ……。メインはテートクですヨ?」
266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 15:29:19.55 ID:ngVu1Op90
提督「私を剣とするならば金剛は技術だ。いかに優れた剣でも技術がなければ鉄屑に等しい鈍ら剣にすら負けるものだ」
提督「それとも、私に褒められるのは嫌いかね?」
金剛「そ、そんなことありまセン!!」ブンブン
金剛「本当はスキップしたいくらいに嬉しいデス。でも、恥ずかしいというかなんというカー……」
提督「はっはっはっ。そういう所は日本人だな、金剛」
金剛「ぅー……テートクは私をからかってるのデスか……?」
提督「半分からかってるが、もう半分は金剛を困らせたいからだ」
金剛「なんデスかそれー!!」
提督「さて……話は変わるが金剛」
金剛「ハイ、なんですか?」
提督「昨日は何時間ほど寝ている?」
金剛「え。エート……何時間でしょうか、ネ……」
提督「ほう? 自分の睡眠時間すら把握できていないのか、金剛?」
金剛「……二時間デス」
267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 15:39:49.76 ID:ngVu1Op90
提督「最低でも四時間は寝れるようにしているつもりだったが、余りの二時間はどこへいった?」
金剛「…………自分の部屋で戦術指南書を読んでまシタ」
提督「やはりか」
金剛「……少しだけ、私の心の内を見せても良いですか?」
提督「うむ」
金剛「ありがとうございます提督」
金剛「…………私、もっと提督の役に立ちたいです。そして、提督を護りたいです」
金剛「提督は一緒に海へ出ていますけど、本当は凄く凄く怖い。なぜか敵は提督を狙わないけど、これからはどうなるか分かりません」
金剛「それに、例え狙わないといっても流れ弾はあります。それで提督が…………しまったら、私……その場で提督を追いかけてしまいます」
提督「……金剛」
金剛「は、はい」ビクッ
提督「すまないが、椅子に座るのが疲れた。ベッドへ腰掛けよう。隣に座りなさい」ギシッ
金剛「え……? は、はい……」チョコン
提督「そのまま私へ倒れなさい」
金剛「こ、こう、ですか?」
提督「肩へではない。足の上にだ」
金剛「えーと……はい」ヒザマクラ
268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 15:55:33.81 ID:ngVu1Op90
提督「話を途中で止めてすまなかった。続けてくれ」ナデナデ
金剛「あ…………」
金剛(これ、とっても幸せです……)
提督「どうした、金剛?」
金剛「──あ、ご、ごめんなさい。つい気持ち良くて……」
提督「そうか。それは良かった」
金剛「……えっと……それでですね」
金剛「提督を死なせる訳にはいけません。皆の為にも、なにより私の為にも」
金剛「だから、私は強くなりたいんです」
提督「………………それで?」
金剛「え?」
提督「それだけじゃないんだろう? もっと汚い部分もあるはずだ」
金剛「…………提督はなんでもお見通しですね」
提督「分かる所しか分からんよ」
金剛「提督らしい切りかえしです」
金剛「……でも、ここから先は私自身が嫌う汚い部分ですよ? 良いんですか?」
269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 16:36:24.34 ID:ngVu1Op90
提督「……うん? なにか独り言が聞こえてきたような気がするが、気のせいか。私はこのまま金剛を撫で続けるとしよう」
金剛「くす……。優しいですね、提督」
提督「……………………」
金剛「……私は、怖いんです、瑞鶴が……。いつか、今私が立っている提督の隣を取っていくんじゃないかって」
金剛「今日、秘書としての勝負を持ち込まれた時は心の底から怖かったです。勝てたから良かったですけど、今でも思い出すと背筋が凍りそうです」
金剛「そして、戦力では圧倒的です。あれは私がいくら努力しても勝てそうにないです。スペックが違うというのでしょうか……」
金剛「そのスペックの差を埋めるには、技術しかないと思います。提督を護る為に読んでいた戦術指南書で、どうにかしようと思いました」
金剛「でも、今思うとそれは汚い感情です。提督の為に読み始めたはずなのに、いつのまにか瑞鶴と対抗する為に読むようになってしまいました」
金剛「私は、提督よりも自分の心を優先させてしまったのです。それが醜くて、汚くて、そして悔しい……」
金剛「私は提督が大好きです。提督が傷付きそうになるなら、私は身を挺して庇います。万が一、提督が居なくなってしまったら、私は後を追います。それくらい好きです」
金剛「なのに……いえ、だから、自分の為に本を読むようになっていったのが、物凄く悔しいです」
金剛「提督……ごめんなさい……」
金剛「……………………」
金剛「──提督、ありがとうございます。スッキリしました。これが私の汚くて、嫌いな部分です」
270: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 16:47:32.08 ID:ngVu1Op90
提督「なんの話だろうな」
金剛「ふふっ、独り言です」
提督「そうか、独り言か。それならば仕方が無い」
金剛「……そろそろお仕事に戻らないといけませんね」
提督「何を言ってるんだ金剛。今日のお前の仕事は終わってるぞ」
金剛「え、でも提督の机の上の──」
提督「私には何も見えないな。私に見えるのは、上官の膝に倒れこむほど寝不足の秘書だ」
金剛「……ズルいですよ、提督」
提督「上の者は基本的にズルいんだよ、憶えておくと良い」
金剛「もっと、好きになっちゃったじゃないですか」
提督「そろそろ溺れそうだな」
金剛「とっくに沈んでますよ。水面に届かないくらいに」
提督「困った秘書だ」
金剛「あはっ」
……………………
…………
……
271: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 17:01:02.25 ID:ngVu1Op90
金剛「ん……今何時──はっ!!」ガバッ
提督「起きたか」
金剛「……私、何時間寝てまシタか?」
提督「三時間にギリギリ届かないくらいだな」
金剛(という事は、今フタサンサンマルくらいデスか)
金剛「……テートク、机のスタンドライトだけでは目を悪くしマスよ」
提督「継続しなければ問題ないだろう」
金剛「私の為に気を遣って……」
提督「今日はこうして仕事をしたい気分だったんだ」
提督「だが、秘書の言う事は最もだろう。電気を付けるぞ?」
金剛「ノープロブレム。大丈夫ですヨ。──ワオッ眩しい」
金剛「さて、私もお仕事を──アレ? もう書類が無いデス……」
提督「言っただろう、今日のお前の仕事は終わったと」
金剛「あれだけあった書類を、たった一人──しかも三時間で終わらせるのは無理があると思います。どこに隠しましたか。終わらせた書類の下ですか?」
提督「……まったく、本当に勘が良いな」
272: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 17:22:45.23 ID:ngVu1Op90
金剛「ほらほら出してください。早く終わらせまショー?」
提督「いや、残りの九割は機密書類なんだ。私以外が見る訳にはいかない。金剛は自室にもどって寝るように。これは上官命令だ」
金剛「……理由を聞いても良いですか? 一割は残ってますよね」
提督「寝不足が原因で艦全体の動きに支障が出るのは困る。何度でも言うが、轟沈なんてされたら後悔してもしきれん」
金剛「……提督が寝不足になっても同じ事じゃないですか? それも、私よりも遥かに影響が大きいです」
提督「私が訓練した艦が早々轟沈する訳がないだろう。演習を見ていて分かったが、そろそろ私が一緒に出撃しなくても良いくらいだ。それでも私は行くがな」
提督「それに、私は轟沈などしない。死ぬ事は無いんだ」
金剛「それはどうなるか──」
提督「ならない」
金剛「────え?」
提督「そうならないように出来てるんだよ」
273: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 17:32:30.16 ID:ngVu1Op90
金剛「……………………」
金剛「それは、前に言っていた秘密ですか?」
提督「…………」
金剛「──分かりまシタ! 今日、私はぐっすりとスリープしマス!」
提督「うむ。おやすみ金剛」
金剛「グッナイ、テートク! ……ありがとう」
ガチャ──パタン
提督「…………さて、瑞鶴が来るのにあと三十分か。ギリギリだったな」
……………………
…………
……
275: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 17:57:51.60 ID:ngVu1Op90
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──
瑞鶴「……瑞鶴、出頭しました」
パタン
瑞鶴「あの、提督さん。お話って何……?」ビクビク
提督「昨日話したように、私と私に直属する艦娘の命は握られている。下手をすれば明日の命が無いのは知っているな?」
瑞鶴「う、うん……」
提督「本当は全くの進展無しではぐらかすつもりだったんだが、そうもいかなくなった。これを見てくれ」ガサッ
瑞鶴「……何これ?」
提督「簡単に言うなら、実験結果報告書だ」
提督「知っての通り、艦娘は一人の提督にしか言う事を聞かない。だから、私達の二人でそこの書類にある項目をクリアしていき、報告書を作成しろ、との事だ」
提督「まあ、私が何もしないで放置すると思ったのだろう。だからこんな物を送りつけてきた」
279: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 18:14:06.22 ID:ngVu1Op90
瑞鶴「……それって効率悪くない? この鎮守府にその手の施設とか職員を置くのが普通だと思うんだけど」
提督「この事はAAAクラスの機密事項。詳しくは知らんが微塵にも怪しまれる訳にはいかないのだろう」
提督「それに、駒も足りないと言っていた。何よりも人が居ないのだろうな」
瑞鶴「ふぅん……。げっ、薬物投与の項目もあるじゃない」
提督「それらの項目に従うつもりは一切無い。貴重なサンプルを薬で壊す可能性がある上、当鎮守府の戦力を大幅に削ぐため論外とでも適当な事を書くさ」
瑞鶴「……ありがとう、提督さん。……それにしても滅茶苦茶多いわね、この書類。どれだけあるのよ」
提督「まったくだ。通常の機密書類と一緒に送りつけてくるものだから、金剛を追い払うのに少し頭を悩まされた」
瑞鶴「…………あの、提督、さん。これ、全部、見た?」
提督「いや、全部は見ていないが、どうした」
瑞鶴「…………」スッ
提督「うん? ……『性行為による通常艦娘との違いの報告』?」
瑞鶴「……………………」
280: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 18:30:18.74 ID:ngVu1Op90
提督「…………………………………………」グッ
瑞鶴「だめえええ!!! 機密書類を破っちゃだめえええええ!!」ガシッ
提督「ええい放せ瑞鶴! あんのクソジジイ共こんなもん送ってきやがって!! 破り捨てて焚き火の燃料にでもしてくれるわ!!!!」
瑞鶴「それでもダメだってばあああ!!!」
提督「問題ない!! 紛失したと言えば良い!!!」
瑞鶴「それ言ったら隠蔽の為に私たち殺されちゃう!!」
提督「ならば誤って燃やしてしまったと!!」
瑞鶴「提督さん落ち着いてえええええええ!!!」
……………………。
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……よし、何も変わらなかったと書こう」
瑞鶴「検査されたら一発じゃない……」
提督「…………これで三十回のダメだし。もう他に思い付かんぞ」
瑞鶴「……………………」
瑞鶴「まだあるじゃない、一つ……」
提督「何、本当か!?」
瑞鶴「う、うん……」
提督「一体なんだ。むしろよく思い付いたな」
瑞鶴「……………………本当にやっちゃえば良いじゃないの」
281: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 18:39:50.46 ID:ngVu1Op90
提督「…………」
提督「そうだ。まだ瑞鶴の心の準備が出来ていない為、延期を希望と書こう」
瑞鶴「……私、提督さんなら良いよ?」
提督「…………」ビキィ
瑞鶴「万年筆にヒビが!? どういう力してるのよ!?」
提督「……瑞鶴、お前も冗談が言えるようになったじゃないか」ミシミシ
瑞鶴「万年筆が可哀想だから離してあげて!!」
瑞鶴「……本心よ。私、提督さんになら身体を預けて良い」
瑞鶴「それに、艦娘は生殖能力が無いから戦闘に影響は無いじゃない」
瑞鶴「……やらないと、私達はどうなるか分からない。それだったら、私は──」
提督「時間が必要と書く。本人が望まず強引に行為を運ぶと戦闘に甚大な影響が出る可能性が極めて高い」
瑞鶴「──え、提督さん?」
提督「ご苦労だった瑞鶴。今日はもう休みなさい」
瑞鶴「ま、まだ話は途中でしょ!? 性こ……さっきの話が最後なんだし、最後まで話しましょうよ!」
284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 18:50:07.48 ID:ngVu1Op90
提督「いや、終わったよ。心の底で瑞鶴がどう思ってるのかを聞けた」
瑞鶴「え…………え……?」
提督「私の言っている意味が分からないのなら、じっくり考えると良い。安心しろ。上に急かされるまで命は大丈夫のはずだ」
瑞鶴「て、提督さん……? 私、何か癇に障る事──」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃい!?」ピシッ
提督「これ以上は明日の行動に支障をきたす。寝なさい」
瑞鶴「…………はい」
ガチャ──
瑞鶴「………………おやすみなさい、提督さん」
提督「ああ、おやすみ」
パタン
提督「…………はぁ」
提督「本当、やり辛くなってきた……」
285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 19:04:11.34 ID:ngVu1Op90
提督「──それにしても、実験か。本当に効率が悪いな。なぜわざわざ瑞鶴を使う。敵艦を捕獲でもなんでもして──」
提督「──……そうだ、なぜだ? なぜ敵艦で実験しないんだ?」
提督「確かに瑞鶴は深海棲艦から造られた、たった一隻のサンプルだが、それにしては明らかに不必要だと思える内容もあった」
提督「何かがおかしい……。いや、おかしい事はいくらでもあるが……なんだ、この妙な違和感は……」
……………………
…………
……
287: うおお、ミスった!! 2013/10/20(日) 19:06:30.63 ID:ngVu1Op90
~翌朝~
提督「ふぅん……沖ノ島海域でねぇ……」ズズッ
金剛「どうしましたテートク? 軍諜報新聞を睨み付けて」コクコク
提督「ん、沖ノ島海域で過去最大級の大規模戦闘があったらしい。敵味方共に被害は甚大だそうだ」
金剛「怖いですネー……」
提督「あそこは敵が蛆のように沸く海域らしいからな。大規模戦闘自体は珍しくもない。まあ、私達の管轄じゃないから大丈夫だ」
提督「……ところで、当たり前過ぎたから流してしまっていたが、どうして金剛がここに居る? 今日は休みにしたはずだろう」
金剛「私は提督の秘書デスから」
提督「本音は?」
金剛「提督と一秒でも長く一緒に居たいからデス」
提督「金剛は素直だな」
金剛「ふふーん。秘書の特権デス!」
290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 19:22:42.78 ID:ngVu1Op90
提督「……こうして薄い紅茶を嗜みながら海を眺めていると、平和そのものなんだがな」ズズッ
金剛「ですネー……。戦争しているなんて嘘みたいデス」コクコク
金剛「それにしても、どうして今日は休みにしたのデスか?」
提督「なんとなくだ」
金剛「……………………」
金剛(何かありましたね、これは)
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
電「あの、い、電です」
提督「どうした?」
電「あのですね……えっと……なんて言えば良いのでしょうか……」オロオロ
提督「……ほら、飲んで落ち着きなさい」スッ
電「え、あ──はい」コクコク
金剛(む。間接キス……)
291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 19:29:57.54 ID:ngVu1Op90
提督「落ち着いたか?」
電「──はい。ありがとうございます」
電「それで、ご報告なのですが……敵です」
提督「な──!?」
金剛「どこデスか電! 急行しマス!!」
電「あ、あの!! 落ち着いてください! その敵がおかしいのです!!」
金剛「おかしいって何がデスか!!! 早く行かないと──」
提督「金剛」
金剛「──ひゃいっ!」ピシッ
提督「電、おかしいというのはどういう意味だ。それは、お前が慌てていないのと関係があるのか?」
電「は、はい……それが……」
……………………。
298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 19:48:58.49 ID:ngVu1Op90
空母ヲ級「…………」ボー
提督「……なんだあれは。なんで母港の端っこで黄昏てるんだ……」
雷「おまけに、なんだか砲身も折れ曲がってるわよ」
電「使い物になりそうにないです……」
暁「服もボロボロね」
響「まるで必死に逃げてきたみたいだよ」
ヲ級「……………………」ハァ
金剛「……物凄く落ち込んでるみたいネ」
川内「…………良く見たら艦載機積んでないよね、アレ」
神通「どういう事なのでしょうか……」
那珂「話しかけてみる?」
瑞鶴「誰がやるのよ……」
提督「…………私が行く」
金剛「何を言ってるんですか提督!?」
響「正気かい? ……いや、司令官ならそんな無謀もやりかねないか」
提督「響、あとで吊るすからな」
響「なっ!?」
暁「……同情するわ」
302: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 20:08:55.68 ID:ngVu1Op90
提督「皆はここで待っててくれ」
金剛「私も行くわ。提督は私の一歩後ろを進んできてください」
電「……本当に行くのですか?」
提督「ああ。これは今までに前例が無いからな」
雷「いってらっしゃい司令官!」
暁「雷、いってらっしゃいって……」
雷「だって司令官と金剛さんよ? 大丈夫に決まってるじゃない!」
瑞鶴「…………」
提督「それじゃあ行って来る。瑞鶴、川内、神通、電は周辺の索敵。何かあったら瑞鶴を司令に動いてくれ」
提督「行くか、金剛」
金剛「ハイ! 皆さん、頼みましたヨー?」
瑞鶴(…………あの敵空母、危険じゃないような気がする……)
瑞鶴(やっぱり、深海棲艦がベースだからかな、私……)
……………………。
303: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 20:17:32.24 ID:ngVu1Op90
ヲ級「?」チラッ
金剛「動かないデ! 動いたら撃ちマス!!」
ヲ級「ッ!?」ビクッ
提督「……今までの敵と様子が違うな」
ヲ級「…………」ビクビク
ヲ級「……?」
提督「うん?」
ヲ級「…………」ジー
提督「……なんだ?」
ヲ級「…………?」ジー
提督「……………………」
ヲ級「……」チラ
金剛「……なんデスか?」ジャキッ
ヲ級「!」ビクッ
ヲ級「…………」ビクビク
304: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 20:35:38.04 ID:ngVu1Op90
提督「…………」
提督「金剛、砲を下ろしてやれ」
金剛「できまセン」
提督「私からのお願いだ」
金剛「う……。何か変な行動をしたと思ったら発砲して良いですか」
提督「許可する」
提督「……さあ、教えてもらおう。どうしてここに居るんだ?」
ヲ級「……………………!!!!」ビクゥッ
ヲ級「!」ピシッ
提督「…………なぜ敬礼をした」
金剛「テートク……このエネミー、意味不明ネ……」
提督「ここまでくるともはや敵かどうかさえ疑いたくなる……」
ヲ級「…………?」
提督「…………」
ヲ級「…………」ソロソロ
金剛(テートクに近付いて何をする気……? 敵意は感じないケド……)
305: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 20:45:39.25 ID:ngVu1Op90
提督「……なんだ?」
ヲ級「…………」ソロー…ギゥ
金剛「なぁッ!?」
提督「……は?」
ヲ級「♪」ホッコリ
金剛(なんってハッピーな顔をしてるんデスか、このエネミー……)
ヲ級「♪」スッ
ヲ級「♪」ニコニコ
提督「……一体お前はなんなんだ?」
ヲ級「…………」ピョン…パシャ
ヲ級「♪」ペコッ
提督「…………」
ヲ級「♪」スーッ
金剛「……なんだったんデスかね、アレ」
提督「分からん……」
……………………
…………
……
319: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 21:26:31.55 ID:ngVu1Op90
金剛「結局あの敵空母、分からずじまいでしたネー」
提督「当たり前のように提督室でお前の髪を梳いている私の方が分からんがな」
金剛「折角の休みなんですカラ甘えさせてくださいヨー」
金剛「それにしても、なぜ提督に敬礼したんデスかね?」
提督「あれは本当に謎だった」
金剛「もしかしてエネミーの司令官も同じ服を着ていたりシテ。ほら、それだったら提督に攻撃しないのも頷けるでショ?」
提督「それだとあのヲ級がすぐさま敬礼しなかった事に説明がつかん」
金剛「アー……たしかニ……」
金剛「まったく訳が分かりまセーン……」
金剛「……テートク」
提督「うん?」
金剛「昨日のよ──」
コンコン──。
提督「む、すまん金剛。……入れ」
320: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 21:39:47.80 ID:ngVu1Op90
瑞鶴「失礼します──って、金剛さん?」
提督「瑞鶴、どうした?」
瑞鶴「あ、えっと……その……提督さんとお話がしてくて……」
提督「私と? なんの話だ」
瑞鶴「…………」ジッ
金剛「? なんデスか?」
瑞鶴「やっぱり話は後で良いです! 提督さん、私の髪も梳いてください!」シュル
提督「…………」
金剛「オー。ロングヘアーだとは思っていまシタが、下ろすと思っていたよりも長いですネー」
瑞鶴「……それ、金剛さんが言う?金剛さんの方が圧倒的に長いじゃない」
金剛「自慢の髪デース♪」
瑞鶴「手入れ、大変じゃない?」
金剛「テートクにブラッシングしてもらってるおかげで、この通りデース」
提督「私は梳いてるだけで、他は全部、金剛自身がやってるだろう」
324: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:02:40.06 ID:ngVu1Op90
金剛「テートクー、ブラッシングは大事なんですヨー?」
瑞鶴「うんうん。そうなのよ、提督さん?」
提督「……どうして私なんだ?」
金剛「だって、テートクのブラッシングはとっても気持ち良いデス」
瑞鶴「それに、優しくて丁寧よね」
提督「……………………」
金剛「テートク、あと少しで瑞鶴にもブラッシングしてあげてくだサイ」
瑞鶴「え、良いの?」
金剛「こんなに気持ちの良いブラッシングを独り占めなんて、できまセーン」
瑞鶴「……ありがとう、金剛さん」
金剛「ノンノン。お礼はテートクにデース」
瑞鶴「…………うん。ありがとう、提督さん」
提督(やるとは言っていないんだが……まあ、良いか)
……………………。
325: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:10:28.16 ID:ngVu1Op90
瑞鶴「はー……幸せー……」
提督「そんなに良いものかね……」
瑞鶴「すっごく良い」
金剛「まさに至福の時デース」
提督「……どうして金剛は私のベッドの上に転がってるんだ」
金剛「普段はできないデスから、甘えさせてくださいヨー」
提督「まったく……」
瑞鶴「あ、それ私もしたい」
提督「……あー、分かった分かった。今日はハメを外して良いぞ」
金剛「ヤッター!!」ダキッ
提督「こら飛び付くな」
金剛「抱き付いているんでーすよー♪」ギュー
瑞鶴「……ハートが飛び交ってるのが見える気がするわ」
326: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:21:39.01 ID:ngVu1Op90
金剛「瑞鶴もやると良いでーす」
瑞鶴「え……でも私は……」チラ
提督「…………」
瑞鶴「ぅ…………」オズ
提督「……はぁ…………分かった。お前もハメを外せ。戦場ではハメを外す機会を設けるが良いしな」
瑞鶴「えっと……それじゃあ……えいっ」ピト
金剛「両手に花ですね、提督♪」
提督「どうしてこうなったのやら」
金剛「提督が私達のハートを撃ち抜いたからです」
瑞鶴「…………」
金剛「あれ、瑞鶴は同意できないですか?」
瑞鶴「分からない……うーん…………うーん……?」
金剛「じゃあ、私が提督に貰われますね」
瑞鶴「それはヤダ」
金剛「我儘でーす」
提督「……私の意志は関係無しか」
328: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:31:26.78 ID:ngVu1Op90
金剛「私は既に提督のモノですよ?」
提督「こら。自分を物扱いするんじゃない」
金剛「抽象的な意味の『モノ』でーす」
提督「まったく……」
金剛「ねー、提督。一つ、我儘を言って良いですか?」
提督「内容による。まずは言ってみなさい」
金剛「今夜は一緒に寝たいです」
瑞鶴「んなっ」
提督「……相変わらずオープンだな、お前」
金剛「だって、一緒の布団を被って寝るなんて幸せじゃないですか」
瑞鶴「あ、それ分かるわ。提督さん、私も一緒に……良い?」
提督「瑞鶴、お前まで……。どうしようかなぁ…………」
金剛「悩むという事は、可能性があるって事です! 瑞鶴、押していきましょう!」
瑞鶴「え? う、うん」
提督(まったく……本当にどうしてここまで懐かれてしまったのか……)
……………………
…………
……
329: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:42:07.32 ID:ngVu1Op90
響「さて、散々気になっている事を話そう」
電「どきどき」
雷「わくわく」
暁「…………」
響「おや、暁は司令官たち三人が気にならないのかい?」
暁「あんまり」
暁(本当は物凄く気になるけど、大人のレディはパパラッチみたいにならないわ)
響「そうか。少し残念だね」
響「じゃあ、私たち三人で──」
暁「ちょっと待ちなさい。あんまり気にならないだけで、会話に入らないとは言ってないわ」
響「そうかい? なら、私たち四人で司令官たち三人がどこまでいっているのか妄想しよう」
電「はわわわわ! 響ちゃん、ハッキリ言い過ぎだよぉ」
雷「私はBくらいならいってると思うわ!」
電「い、雷ちゃんも……」
暁「雷、はしたないわよ」
330: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 22:52:27.70 ID:ngVu1Op90
響「そうかい? 私はAもいってないと思うよ。電はどう思う?」
電「え、えっと……私も響ちゃんと同意見なのです……」
暁(私は最後までやってると思うなぁ)
雷「そう? 金剛さんは皆の見えない所でアタックをしてそうじゃない?」
響「あの司令官の事だ。きっとのらりくらりとかわしているさ」
暁「どうかしら? 普段はああでも、夜になるとケダモノかもしれないわよ?」
電「け、けだもの……!!」
雷「おおー、言うわね、暁!」
響「一番はしたない言葉を口にしているのは暁だね」
暁「あっ──」
響「もう遅いよ。大人しく素直になろうじゃないか」
暁「~~~~~~っ!!」
暁「はぁ……分かったわ。素直になる」
響「それでは、話の続きといこう。どうして雷はBまでだと思ったんだい?」
331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 23:02:58.99 ID:ngVu1Op90
雷「なんとなくかしら。金剛さんにはBで瑞鶴さんにはAもいってないってイメージよ」
雷「だって瑞鶴さん、奥手そうじゃない?」
響「なるほど。確かに瑞鶴さんは奥手そうだ」
暁「ああいうのに限って積極的だったりもするわよ」
電「瑞鶴さんが積極的に、司令官さんに……!! はわわわ!!」
響「そう言われるとそんなイメージがあるね。恥ずかしいけれど司令官と……ってな具合に、自分の感情を抑え切れなくなってしまってそうだ」
電「わ、私はそんな感じがしない、かなぁ。いざって時にお二人とも動けなくなってそう、です……」
雷「特に瑞鶴さんはチャンスを逃しそうよね」
響「激しく同意するよ」
暁「そうかしらね? 金剛さんは大胆に誘って、瑞鶴さんは布団の上で待っていそうだわ」
響「しっくりくるね」
暁「そして行為に移ると、司令官への愛が大きくて二人とも貪るように腰を振りそう」
333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 23:12:06.25 ID:ngVu1Op90
電「あうぅ……恥ずかしいよ……」
雷「意外とストレートね、暁」
響「これは流石に……恥ずかしいな」
暁「う……」
響「どこからそういう知識を手に入れているんだい、暁。ちょっと私にも情報源を教えてくれないか?」
雷「わ、私も気になるわ!」
電「あ、あの……私もです……」
暁(やっぱり参加するんじゃなかったぁー!!)
……………………
…………
……
334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/20(日) 23:48:06.96 ID:ngVu1Op90
川内「夜戦……やーせーんー……ぐぅ」
那珂「那珂ちゃん……パワー……アー……くー……」
神通「すぅ……すぅ……」
川内「──隣に駆逐艦がぁ!?」ガバッ
神通・那珂「ッ!?」ビクゥッ
川内「んが……ぐぅー……」
神通・那珂「…………」
川内「イタタタタタタタタ!?」ツネー
……………………
…………
……
336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 00:09:41.94 ID:QabpkdOQ0
金剛「三人一緒に布団の中でーす♪」
瑞鶴(やだ……自分でもびっくりするくらい落ち着くわ……)
提督「……………………」
金剛「ありがとうございます、提督♪」
提督「いつも私の為に一生懸命になってくれているんだ。このくらいはな」
瑞鶴「三十分は説得したと思うけど……」
提督「瑞鶴、自分の部屋に戻るか?」
瑞鶴「ごめんなさい!」
金剛「あははっ。提督と瑞鶴も仲良しでーす♪」
金剛「えいっ」ピト
提督「む」
瑞鶴「? 何したの?」
金剛「嫉妬したのでピッタリとくっつきましたっ」
瑞鶴「ず、ずるい! 私も!」ソッ
提督「……甘えん坊だな、二人共」ナデナデ
337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 00:27:23.55 ID:QabpkdOQ0
金剛「嫌いですか?」
提督「頭を撫でているこの手は何かな」
金剛「えへっ♪」
金剛「……提督、私の心臓の音、分かりますか?」
提督「…………速いな」
金剛「すごく幸せで、すごく嬉しくて、すごくドキドキしています」
金剛「瑞鶴はどうですか?」
瑞鶴「……え、私?」
金剛「はい! 私と同じですか?」
瑞鶴「私は……逆ね。ものすごく落ち着いてる。眠いくらい、安心してる」
金剛「おー……瑞鶴は肝が座ってマース……」
提督「人それぞれという事だろう」
金剛「そうですねー。不思議なものです」
金剛「提督はどうですか?」
提督「……色々な感情が巡りに巡って訳が分からない事になっている」
338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 00:37:40.59 ID:QabpkdOQ0
金剛「どんな感情なんでしょうかね~?」
提督「部屋に戻るか?」
金剛「冗談ですよー!」
提督「ああこら、大きな声を出すな」
金剛「?」
提督「瑞鶴、寝てしまったんだ」
瑞鶴「……くぅ……くぅ」
金剛「…………え? あの短時間で?」
提督「らしい」
金剛「……ある意味すごいわね」
提督「そういう事で、私達も眠りに就こうか。今日ほど寝れる日はそうそう無いぞ」
金剛「そうですねっ。提督、良い夢を」
提督「ああ、おやすみ」
……………………
…………
……
339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 00:57:03.79 ID:QabpkdOQ0
~翌日~
提督「──諸君、昨日は充分に休息が取れたか?」
全員「はいっ!」
提督「良い返事だ。今回は少し特殊な事情になるので、充分に注意されたし」
提督「第一艦隊は新しく出撃認可が下りたカムラン半島へ出撃」
提督「第二艦隊は旗艦を神通。続いて暁、響、雷、電の五名でマルハチマルマルより海上護衛任務」
提督「尚、今回は建造を行い、新たに仲間を加える予定となっている。その艦によって第一艦隊の編成が変わる為、まだ第一艦隊の編成は発表できない」
提督「以上。何か質問はあるか?」
提督「…………無いようだな。では、第二艦隊は遠征準備を始め、四十分後のマルロクヨンマルまでに第二船着場に集合するように」
神通・暁・響・雷・電「はい!!」
提督「瑞鶴を除く三名は母港にて警戒しつつ待機。瑞鶴は私と一緒に工廠へついてきなさい」
金剛・瑞鶴・川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 01:10:23.89 ID:QabpkdOQ0
~工廠~
提督「さて、建造妖精」
建造妖精「ん? やーやー提督さん。建造かい?」
提督「うむ。総司令部からの指示で一隻分の特別資材を送られてきていると思う」
建造妖精「あー、うん来てるねー。にしても、何アレ? 本当にあんなので建造できるの?」
瑞鶴「…………」
提督「総司令部の考える事はよく分からん。私も出来るとは思っていない」
提督「なのでそれとは別にもう一隻、造ってもらおうと思っている」
建造妖精「なるほどねー。資材はどれくらい使うんだい?」
提督「総司令部が指示した各資材投入量はこうなっている。二つとも同じで頼む」
建造妖精「はいよー」
提督「ああ、総司令部からの指示で送られてきた資材と、普通の資材は混合して建造しないようにしてくれ」
建造「総司令部用と普通のとで分けたら良いんだね? りょーかいー」テッテッテッ
瑞鶴「……提督さん」
提督「諦めろ、瑞鶴。ここを指示通りに動かなかったら流石に上も黙っちゃいないだろう」
瑞鶴「うん……そうだけど、一つ言いたい事があるの」
瑞鶴「あれ、絶対に造れないと思うよ」
……………………
…………
……
342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 01:23:30.34 ID:QabpkdOQ0
建造妖精「提督さん、できたよー」
提督「ご苦労。どうだった?」
建造妖精「普通の資材の方はきちんと出来たよ。でも、総司令部からの特別資材は無理だったよ」
建造妖精「いやぁ、びっくりしたね。だって、艦娘の魂が入ってこないんだもん。あれじゃただの船だよ」
提督「やはりか」
建造妖精「あれ、どうする?」
提督「総司令部からの指示によると、建造できなかった場合は解体して送り返せとの事だ」
建造妖精「えー……造りたてなのに解体しなきゃいけないのー……?」
提督「そのようだ。面倒を掛けてしまうな」
建造妖精「提督さんが悪いんじゃないさ。総司令部が残念なんだよ」
提督「お詫びといってはなんだが、間宮アイスクリーム券だ」
建造妖精「なんだって!? ひゃっほぉぉぉおおおおお!!!」
建造妖精「本当に提督さんは優しいなぁ」
提督「ありがとう。そして、建造できた艦娘はどこかな?」
ヒュ──ガシッ!
島風「お゙ぅ!?」
344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 01:33:33.86 ID:QabpkdOQ0
提督「ん? ああすまん。つい捕まえてしまった」
島風「こ、この私が捕まるなんてー……」
瑞鶴(何この子……速過ぎでしょ……)
提督「…………」スッ
島風「あなた何者? 今の結構全力だったんだよ?」
提督「…………」
島風「…………? ねえ、何か喋ってくれませんか?」
瑞鶴(あ、あぁぁ……これはマズい……)
提督「どうやら教育が成っていないらしい」
島風「──え? な、なんかやばい……?」
提督「吊るしてやるから覚悟しろ」
島風「て、撤退ッ!!」ビュン
瑞鶴「うわっ! 速っ!!」
提督「瑞鶴、この帽子を持っててくれ」ポスッ
瑞鶴「──わっ。え? はい……」
瑞鶴(あ……提督さんの帽子が私の頭に……)
345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 01:47:53.42 ID:QabpkdOQ0
提督「身体を激しく動かすのは久し振りだ。衰えていなかったら良いのだが」グッグッ
提督「ん、調子は良いみたいだな」
提督「──さて」ダンッ
瑞鶴「高ッ!?」
瑞鶴(ええええ……あの窓って10mはあるわよね……? 提督さん何者……?)
瑞鶴「……ん?」
島風「へ、へへーん! 島風には、誰にも追いつけないんだから!」ヒョコッ
提督「…………」スッ
瑞鶴(え!? あの高さから降りて音が無い……!? あの島風って子も、後ろに降りたのに気付いてないし……)
瑞鶴(……提督さんの帽子)ホッコリ
提督「そうかそうか」
島風「ひゃんっ!? …………っ」ソー
提督「…………」ジッ
島風「────ッ!!」ビクッシュバッ
提督「…………」タン──スッ
島風「ひゃあッ!!? 上から!? 目の前に!?」
347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 02:05:18.09 ID:QabpkdOQ0
提督「…………」ジッ
島風「あ、ああ……あぁああ、の……」ビクビクビク
島風「ひぃっ!!」ダッシュ
提督「…………」タッ
──ガシッ!
島風「お゙ぅっ!!?」
提督「…………」ジッ
島風「に、逃げる事すら……できない、なんて……」ガタガタ
提督「────吊るす」
島風「ひっ──!」
きゃあああああああああああああああああ────ッッッ!!!!!!!
355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 02:48:21.53 ID:QabpkdOQ0
金剛「なっ、なんの声デスか今のは!?」タタタ
川内・那珂「…………あー」タタ…
島風「やーめーてー!! やーめーてーよー!!!」ブラーン
提督「反省が足らんようだな」
島風「人!! 人が集まってきてるってば!!」
提督「ああそうだな」
島風「スカートの中が見えちゃう! 恥ずかしいってーっ!!!」
提督「…………」ジッ
島風「ひぃッ!?」ビクッ
那珂「……君、何をしたの?」
島風「なーにーもーしーてーまーせーんー!!」
金剛「……何もしなかった?」
瑞鶴「そう。何もしなかったの……」
金剛「ああー……何もしなかったのネ……」
川内「なるほどねー……」
那珂「那珂ちゃん納得……」
島風「どうして納得してるのーッ!?」
356: 遅くなったお詫びにもう一個投下 2013/10/21(月) 02:49:34.01 ID:QabpkdOQ0
提督「島風」
島風「ひゃぅッ!? な、なんですか……?」ビクビク
提督「私がどんな立場の人間か答えろ」
島風「て、提督……です……」ビクビク
提督「自分の立場をなんだ」ジッ
島風「くち、く……駆逐艦、です」ビクビク
提督「上官に対しての第一声、貴様はなんと言った」
島風「あ……あぁぁあぁぁぁ…………」ビクビク
提督「答えよ」
島風「あ、あなた……何者……と、言いまし……た…………」ビクビクビク
金剛・瑞鶴・川内・那珂(こうなって当たり前よね……)
提督「何か言う事は」
島風「──ごめんなさい!! 提督に不敬を働いてごめんなさいっ!!」
提督「よろしい」クルクルホドキホドキ
島風「う、ぅぅ……」
357: 上げる為にもう一個 2013/10/21(月) 02:50:34.20 ID:QabpkdOQ0
提督「…………」ジッ
島風「ヒッ──!」ビクッ
島風「あ、あの……何か、罰が与えられるのですか……?」ビクビクビク
提督「うん? 既に罰は与えただろう」
島風「え……?」
提督「お前は私に不敬を働いた」
島風「はい……」ビクッ
提督「私は捕まえて吊るした」
島風「…………」ビクビク
提督「お前は自分の過ちを認め、そして謝っただろう」
島風「…………?」
提督「罰はそれで終わりだ」
島風「……え!? か、軽すぎじゃないですか!?」
金剛(やっぱり最初はそう思いますよネー)
提督「知らん。この鎮守府は私の城だ。私のやりたいようにやらせてもらう」
島風「……なんだか凄い人ですね」
提督「…………」
島風「──申し遅れました! 私、駆逐艦の島風です! スピードなら誰にも……提督以外に負けません! 速きこと、島風の如し、です!」ピシッ
提督「うむ。よろしく」
……………………
…………
……
358: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 03:07:01.09 ID:QabpkdOQ0
提督「──さて、第二艦隊も見送ったところで第一艦隊の編成を発表する」
提督「カムラン半島へ出撃する第一艦隊の旗艦を金剛。続いて瑞鶴、島風。以上だ」
金剛「提督。一つよろしいデスか」
提督「なんだね?」
金剛「建造直後の島風をいきなり出撃に出すのは少々、酷じゃないデスか?」
提督「私が留守の間、この母港を守ってもらわないといけない。そこに島風を置く方が酷だろう」
提督「そして、私のやり方を覚えて貰い、尚且つ経験を積ませたいから連れて行く。金剛と瑞鶴が一緒ならば大丈夫であろう」
金剛「ナルホド……」
提督「他に質問のあるものは居ないか? …………居ないようだな。では、第一艦隊、出撃」
提督「川内、那珂。 私が居ない間、母港を守ってくれ」
川内・那珂「はい!」
……………………
…………
……
360: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 03:34:12.46 ID:QabpkdOQ0
島風「提督もついてくるんですね」
提督「そうだ」
島風「…………なんか納得しました」
金剛「あんまり驚かないのデスね?」
島風「提督の凄さはもう身に染みてますから……」ブルブル
瑞鶴(そりゃあ、あんな事されたらねー……)
提督「──敵も近くに居ないようだ。今の内に島風に海の上での決まりを教えておこう」
~提督説明中~
提督「守らなかったら吊るす」
島風「はいっ!!」ピシッ
提督「…………瑞鶴」
瑞鶴「うん。偵察機を飛ばすわね」
島風「え?」
金剛「敵よ、島風」
島風「え、ど、どこ?」
362: 投下が遅かったからもう一個 2013/10/21(月) 03:38:05.59 ID:QabpkdOQ0
瑞鶴「──提督さん、二時の方向に重巡リ級一隻、軽巡へ級二隻、駆逐イ級一隻、ロ級二隻。陣形は単縦陣みたい」
提督「…………重巡に艦攻、軽巡一隻に艦爆で先制攻撃。その間に金剛と島風は戦闘準備をしなさい」
瑞鶴「了解!」
金剛「──準備オッケーネー!」
島風「は、はやっ! 連装砲ちゃん、お願い!」
提督「…………準備ができたようだな」
──ッドォォォン!!
瑞鶴「提督さん、艦攻の攻撃を駆逐イ級が庇ったみたい。軽巡、駆逐、共に一隻撃沈よ!」
提督「よし、総員戦闘開始。金剛、敵重巡へ斉射。瑞鶴、第二次攻撃隊発艦。島風、蛇行を繰り返して最後尾の駆逐艦へ付かず離れずの距離を維持できるか?」
島風「……ちょっと怖いけど、行きます!」
提督「良い返事だ。瑞鶴の攻撃で一隻だけ切り離す。切り離せたら主砲で斉射しろ」
金剛・瑞鶴・島風「はい!」
リ級・前方ロ級・後方ロ級「!!」ドンドンッ!
島風「へへーん! そんな攻撃、当たらないんだから!!」ヒョイヒョイ
363: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 03:43:24.70 ID:QabpkdOQ0
提督「金剛、今だ。放て」
金剛「バーニング・ラァァアアブ!!」
リ級「!?」 撃沈
提督「瑞鶴、敵進行方向の逆側から前方駆逐ロ級を攻撃。後方の駆逐ロ級を引き剥がせ」
瑞鶴「はい!!」
提督「そして──」
島風「どこ狙ってるのー!? 遅いおそーい!!」
島風「!! 前方の駆逐艦が大破炎上して、後ろの駆逐艦が回避行動を取った! ここね!! 逃がさないんだから!!!」
後方駆逐ロ級「ピ、ギ──!!」 中破
島風「あっ! 倒せなかった……! 砲身がこっちに──か、回避!!」
後方駆逐ロ級「ガ──ッ!?」ドゴドゴッ 撃沈
島風「──え?」
島風「今の……艦載機の攻撃? ……護ってくれたんだ。ありがとう……」
島風「よーし! 島風、もっと頑張ります!!」
……………………
…………
……
375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 14:02:29.63 ID:krTs1wnk0
提督「戦闘終了、ご苦労」
金剛・瑞鶴・島風「周囲に敵は居ません!」
提督「よろしい」
島風「あの、瑞鶴さん」
瑞鶴「ん、なにかしら?」
島風「さっきは護ってくれて、ありがとう。おかげで助かっちゃった」
瑞鶴「それなら提督さんに言ってあげて? 島風の護衛に艦載機を割くよう指示をしたのは提督さんなの」
島風「提督さんが……?」チラ
提督「…………」
島風「──助けてくれてありがとう! 嬉しかったよ!」
提督「艦を護るのは私の務めだ」
島風「むー。素直じゃないんだから」
提督「時に島風。お前はヒットアンドアウェイを知っているか?」
島風「え? んー……攻撃してすぐに離れるって戦法ですか?」
376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 14:24:36.14 ID:krTs1wnk0
提督「そうだ。島風は他のどの艦よりも速い。その長所を生かしてヒットアンドアウェイで戦ってみると良いだろう」
提督「攻撃を避けつつ射程に入り、攻撃をしてすぐに回避しつつ離れる。そうやって敵を撹乱できるのは恐らく、お前だけだ」
島風「私だけ……?」
提督「そうだ。島風が一番速いからだ。もしお前を追ってきたとしても、誰も追いつく事すらできんだろう」
島風「私が、一番……」
島風「────はい!! やっぱりそうよね! だって速いもん!」
提督「だが、調子に乗ったら……」
島風「しません! 吊るさないで!」ビクッ
提督「うむ。心得ておけ。慢心は敵だ。僅かな慢心が艦隊の全滅を引き起こす事さえあるだろう」
島風「はい!!」ピシッ
……………………
…………
……
377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 14:36:43.19 ID:krTs1wnk0
提督「今帰った」
川内・那珂「おかえりなさいー」
川内「提督、あの島風って子、どうだった?」
提督「役に立ってくれたよ。そして、あの通りだ」
島風「ハー……ハー……もう、走れない……疲れた……」グッタリ
那珂「何があったのー?」
提督「敵に空母が三隻居てな。輪形陣を組んでいて中々倒せそうになかったから制空権争いをしている時、島風に全力で避けてもらいつつ一番近くの空母に肉薄して、攻撃してもらった」
川内「そんなに近く!? それって危なくない!?」
提督「肉薄さえ出来れば逆に敵が盾となるからな。見事に指揮が崩れ、その間に制空権を取って空母の護衛艦を沈め、金剛と島風の砲雷撃で空母を撃沈してくれたよ」
川内「島風が可哀想じゃないかな……」
島風「無理矢理じゃないもん……はぁ……私が、希望したんだもん……へぅぅ……」
那珂「え、自分から?」
提督「ほら、水だ」
島風「ありがと……。ん……」コクコク
島風「ふー……。そうだよ、私から希望したんだよ」
378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 14:46:48.45 ID:krTs1wnk0
那珂「そんな危ない役、どうして買って出たの? 近付く時に沈んじゃうかもしれないのにー……」
島風「だって、島風にしか出来ない事だって、提督が、認めてくれたんだもん!」
島風「それに、提督だったら絶対、ぜーったいに島風を沈ませないから!」
川内(……ね、どうしてあんなに提督を信用してるの? 島風ってついさっき来た子のはずよね?)
金剛(沈まないようにテートクが密かにサポート指示していたのデス。それを瑞鶴がバラしたのヨ)
金剛(下手したら轟沈する状況だったのデスが、間一髪で助かりまシタ)
川内(なるほどねぇ……。吊り橋効果ってヤツだっけ?)
金剛(結果的にそうなりましたケド、絶対に考えてなかったでしょうネ。テートクですから)クス
川内(提督だしねー)クス
提督「ん、呼んだか?」
金剛「イイエー?」ニコニコ
川内「微笑ましい会話をしていただけですよー」ニコニコ
提督「……そうか」
……………………
…………
……
380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 15:02:27.59 ID:krTs1wnk0
提督「──よし、今日の書類の片付けは終わりだ」
金剛「現在フタサンマルマル。凄いデス! 今まででベストタイムです!!」
提督「秘書が有能で助かるよ」
金剛「まだまだデース。いつか提督のスピードに追いつけるようになりマース!」
提督「楽しみにしておこう」
金剛「──あと、ここにも早くキスが欲しいですね。その先も勿論」
提督「唇に指を当ててまあ積極的なことで」
金剛「だってー。瑞鶴に負けてしまいますもんー」
提督「なんの話だ」
金剛「『提督になら身体を預けて良い』とか『艦娘は生殖能力が無いから戦闘に影響は無い』って聴こえましたよー?」
提督「……どこまで聴いた」
金剛「今言った所だけです。前後の話は聴いてませんけど、明らかにそういう話じゃないですか」
金剛「髪を梳いたりするのは良いですけど、流石にそれだけは誰にも譲りたくないです」
金剛「──提督、瑞鶴の誘い……受け取ったのですか?」
381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 15:31:03.85 ID:krTs1wnk0
提督「勿論、拒否した」
提督「それより、金剛が盗み聞きをするとはな。お前はそんな奴だったか?」
金剛「言い出せなくてごめんなさい。シャワーを浴びようと通りかかった時、とても瑞鶴の大きな声が聴こえました」
金剛「なんて言ったのかは分かりませんでしたが、何があったんだろうと思ってドアに手を掛けた時、さっき言った言葉が聴こえてきたのです」
金剛「これは邪魔をしてはいけないなーと思ってその場をすぐに去りました」
提督「成程。たしかに金剛らしいな」
金剛「ぅー……信じてくれないですか……?」
提督「言い方が悪かった。信用するよ、金剛」
提督「だから昨日、急に甘えてきたのか」
金剛「そうです……。私へ振り向いてもらおうと、少しだけ自分に素直になりました……」
提督「うん?」
金剛「あっ……」
提督「聞かせてもらおうか」
金剛「あう……ここ最近で一番の失敗でーす……」
382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 15:41:12.80 ID:krTs1wnk0
提督「…………」
金剛「…………」
提督「……喉が渇きそうだな。金剛、新しく紅茶を淹れてくれ。新しい茶葉でな」
金剛「えと……それは、私のも、ですか……?」
提督「無論だ」
金剛「くす……はい、少々お待ちくださいね」
……………………。
提督「うむ。やはり茶葉が新しいと舌触りが良い。これは口が滑りそうだ」ズズッ
金剛「…………」コクコク
金剛「…………」フゥ
金剛「……私ですね、本当は甘えん坊なのです」
383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 16:04:27.97 ID:krTs1wnk0
金剛「できるなら、提督と四六時中くっついていたい、もっと提督に触れたい、髪を梳いてもらいたい──それくらい提督が大好きで、それくらい甘えん坊なのです」
金剛「提督なら知っていると思いますが、私は金剛型戦艦の長女です。それ故、私には甘えれる相手が居ませんでした」
金剛「榛名からは慕われ、比叡からは甘えられ、霧島からは頼りにされました。だから私は、妹達の望む姉になる為、頑張りました」
金剛「強く、凛々しく、頼れる──そんな姉に、です」
金剛「でも、私だって弱い心はあります。強い優しい人に憧れて、弱い自分を曝け出し、人に甘えたい気持ちなんていくらでもあります」
金剛「だから、私は提督に心を惹かれました。提督は強く優しく、甘えさせてくれました。今も、弱い私を目の前にして真剣に話を聞いてくれています」
金剛「……正直、怖いです、どんどん提督にのめり込んでいく自分が。いつか本当の私を曝け出した時、拒絶されるかもしれないんじゃ……と思っています」
金剛「──あはっ、これが私の本性です」
提督「…………」
金剛「……ごめんなさい。普段、気丈に振舞っている私は、本当の私であって本当の私ではないのです……」
384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 16:21:19.41 ID:krTs1wnk0
提督「……たしかに、普段の金剛からは予測が付かないな。だが、人などというものはそういうモノだろう?」
提督「強い面と弱い面がある。矛盾した、本音と建前がある」
提督「そう、私もだ」
金剛「──え?」
提督「先程、金剛は私を強い人と言った。だが、それは間違っている」
提督「弱いなんてものではない。私は既に負けているのだ」
金剛「…………ごめんなさい。私の頭では分からないようです……」
提督「よい」
金剛「……いつか、提督が良かったら教えてくれますか?」
提督「……そうだな。約束しよう」
金剛「…………」
提督「…………」
金剛「……………………提督、弱い私からのお願いです。その腕の中に、私を収めてもらって良いですか?」
提督「……構わんよ」スッ
金剛「ぁ──。…………ありがとう、優しい提督……」ソッ
提督「紅茶が悪い」
金剛「?」
提督「紅茶が悪いんだ」
金剛「くす──。そうですね、紅茶が悪いです────」
……………………
…………
……
385: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 16:42:14.37 ID:krTs1wnk0
~翌日~
提督「さて……昨日忘れていた、新しい艦娘の実体化をしようか」
金剛「誰が来るんでしょうかネー?」
瑞鶴「空母系列と戦艦以外だったらなんでも良さそうよね」
川内「できれば駆逐艦とか軽巡とかが良いのかな? 資材的にも」
金剛「そうなんですよネー……もう少し良い遠征にも出ないと資材がカツカツなのデース……。かといって戦艦や空母を遠征に出すわけにはいきまセンし……」
……………………。
天龍「俺の名は天龍。フフフ……提督、怖いか?」フンス
龍田「…………」
提督「…………」
天龍「……あれ、どうした二人共?」
瑞鶴(ちょっとちょっとちょっと!? あそこ物凄く怖いんだけど!?)
響(背筋が凍りそうだ……ここはいつから北国より冷たくなったんだい……)
電(な、何か龍と虎が見える気がするのです!!)
金剛(あの天龍って子、そこが一番危険な場所と気付いていないのデスか……?)
386: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 16:56:15.50 ID:krTs1wnk0
龍田「…………」
提督「…………」
龍田「…………」タジ…
提督「…………」
龍田「…………!」ピシッ
龍田「天龍型二番艦、軽巡洋艦の龍田です。提督さん、よろしくお願いします」
提督「うむ。二人共よろしく」
全員(何かの決着がついた──!!)
天龍「ど、どうしたんだよ龍田? いつもと口調が違うぞ?」
龍田「提督さん、天龍ちゃんのご無礼、私がお詫び申します。許してください」
天龍「龍田!? こ、こんの野郎!! 龍田に何しやがった!!?」ジャキッ
瑞鶴(あ)
提督「…………」ジッ
天龍「ひっ──! お、おおお俺は、負けないぞ!?」ビクッ
提督「…………」
天龍「…………っ」ガタガタガタガタ
387: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 17:18:40.57 ID:krTs1wnk0
龍田「あ、あの~……」ビクビク
提督「龍田」
龍田「──はい!」ピシッ
提督「良い姉妹を持ったな」
龍田「え? はい……?」
提督「大切にするように」
龍田「────勿論ですよ~」
提督「さて……どうしてくれようか、天龍?」ジッ
天龍「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!!」ビクン
提督「…………」
天龍「~~~~!」ビクビク
提督「龍田を護ろうとするその意思に免じて罰は無しだ」
天龍・龍田「…………」
天龍・龍田(良かったぁ~!)
389: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 17:30:14.46 ID:krTs1wnk0
提督「だが、次はない」
天龍・龍田「はいっ!」
提督「ああそれと、天龍、龍田。礼儀さえ弁えておれば口調などは素で構わん」
天龍「おう!」
龍田「は~い」
島風「……順応が早いわね」
瑞鶴「ある意味島風と同じね」
島風「私が速さで負けるなんてー……」
金剛「いや……漢字が違いますからネ?」
提督「では天龍と龍田はこれから出撃してもらおう。編成は──」
……………………
…………
……
392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 17:53:24.63 ID:krTs1wnk0
~艦隊帰投後~
川内「提督ー、おかえりーっ!」ブンブン
提督「うむ。今帰った」
天龍・龍田「…………!」ガタガタガタ
那珂「ど、どうしたの一体……?」
金剛「それがー……」
天龍『なんでだよ提督!! あとちょっとでアイツを落とせるんだ!! 死ぬまで戦わせろよぉ!!』 中破
龍田『肉を切らせて骨を断つ……ふふっ……ふふふふっ…………え、提督さん……?』 中破
金剛「という事がありましてー……」
川内「ああ……提督なら絶対に認めないね、それ……」
提督「吊るしてくる」
天龍「あう……あぁぁ……」ビクビクビク
龍田「だ、大丈夫よ、天龍ちゃん……私も一緒……一緒だから……」ビクビク
……………………
…………
……
393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 18:07:50.12 ID:krTs1wnk0
~翌日~
提督「まーた沖ノ島海域で大規模な戦闘か……」ズズッ
金剛「またデスか?」
提督「どうやら遠方偵察機が大量の敵艦を発見し、それの殲滅の為に元帥殿の艦隊が出撃したらしい」
提督「戦術的には勝利したらしいが、元帥殿の艦隊も相当な痛手を負ったようだ」
金剛「本当に、私達の管轄じゃなくて良かったデスね……」
提督「まったくだ。まあ、今のところ私達の管轄になる事はないよ。なにせ戦力が足りないからな」
金剛「あー……そういうのを考えたら戦力が小さいのも良いものですネー」
提督「そうも言ってられないのが懐事情だがな」
提督「それよりも気になるのがこっちだ」ガサッ
金剛「? 南方海域にて非常に強力な敵艦が現る?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、夜戦など、全ての攻撃を兼ね揃え、火力、装甲共に最高水準クラスのバケモノという話だ」
金剛「なんデスかそれ……どうやって勝つんデスか……」
394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 18:24:07.21 ID:krTs1wnk0
提督「出撃、撤退を繰り返して削りきるしかないだろうな。まったく、厄介なものだ」
提督「どうやらこのバケモノ。この鎮守府の方面へ微速移動をしているらしい」
金剛「ハァ!?」
提督「あくまで作戦部の進路予測だが、この鎮守府が危ないと判断するのに充分だ」
提督「できれば早く地盤と戦力を固めたいよ」
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──
任務嬢「提督さん、元帥がお見えになりました」
金剛「!」
提督「お通ししろ」
金剛「……………………」
金剛(なんだか嫌な予感がするネ……)
395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 18:35:19.74 ID:krTs1wnk0
元帥「やあ、大将。久し振りだね」
提督「はっ」ピシッ
金剛「……」ピシッ
提督「数日前にお会いしたばかりですよ、元帥殿」
元帥「そうだったかな? ハッハッハッ。この歳になると流れる時間が速くて敵わんよ」
元帥「……うん? この艦娘は君の秘書かね?」
金剛「ハッ! 英国ヴィッカース社より建造された高速戦艦金剛型一番艦、金剛デス!」ピシッ
元帥「ふむ……。秘書としての板がしっかりと付いているみたいだね」
金剛「ありがとうございマス。お茶をお出ししマスので、こちらに掛けてお待ちくだサイ」
元帥「うむ。──ところで大将よ」
提督「はっ。なんでしょうか」
元帥「──なぜ瑞鶴が秘書でない?」
金剛「────────!!」
396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 18:46:43.14 ID:krTs1wnk0
元帥「君の報告書を見る限り、瑞鶴がこの鎮守府での最大戦力であろう?」
金剛(…………ッ)ギリ
提督「元帥殿、それは彼女の淹れたお茶を口にしつつ話をしましょう」
提督「きっと納得されると思います」
……………………。
元帥「ほう、これは美味い! こんなに美味い紅茶を飲んだのはいつ振りだろうか」
金剛「光栄デス」
提督「この通り、彼女はお茶を淹れるのがこの鎮守府で群を抜いています。仕事中での気力維持に欠かせません」
提督「そして何よりも、瑞鶴と比べて仕事の出来が違います。艦娘全員を集え、二人を秘書としての評価を競った事がありますが、満場一致で彼女──金剛へ軍配が上がりました」
元帥「なるほどなるほど。戦果を上回る功績がこの艦娘にあるのか」
提督「はい。戦果についても目を通して頂いている通り、瑞鶴には及ばないものの非常に素晴らしいと言えます」
元帥「なるほど、良く分かった」
399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 19:02:35.29 ID:krTs1wnk0
提督「話は変わりますが、元帥殿がどうしてこの小さな鎮守府へ? 今はお忙しいと伺っておりますが」
元帥「儂が忙しいと知っておるのならば、どうしてここへ来たのかも分かっておろう」
提督「…………南方の強力な敵艦ですか」
元帥「うむ。アレは非常に厄介だ。現存するどの艦娘よりも秀でた戦闘能力を持っておる」
提督「仰るとおりです。倒すには複数の大規模艦隊を用いて出撃、撤退をし、敵に休む間を与えず繰り返すしかないかと」
元帥「なるほど。敵を疲弊させて確実に討ち取る、か」
提督「はい。複数に分ける事で待機中の艦娘は休みを取る事ができ、損傷した場合でも修復する時間が得られます」
元帥「──だが、それをより確実に打開する方法を大将は知っておろう」
金剛(え?)
提督「……はい」
元帥「建造の方はどうなっている?」
提督「残念ながら、上手くいっていないです」
金剛(……建造が上手くいっていない? それって本当なのデスか? あんなに速い艦娘が進水しましたよネ……?)
400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 19:16:21.05 ID:krTs1wnk0
元帥「ふむ……」
提督「…………」
元帥「…………」
元帥「儂の方も同じだ。良い艦船は出来上がるが、どれも問題のある物ばかりでな」
元帥「南方の敵艦がこっちへ向かっている状況で、儂の艦隊も強化せねばならない。それゆえ、役目を果たせそうにない艦娘は──」
元帥「──解体を繰り返すという事も辞さない程だよ」
金剛(…………)
提督「……心中、お察しします」
元帥「ああ……儂も心が苦しい。大量の艦娘が解体され、普通の女子として暮らしているのだが……」
元帥「不思議な事に、解体された艦娘はある日、忽然と姿を消す」
提督「…………」
元帥「それが艦娘というものなのだろう。特に手塩に掛けていた艦娘が消えるのは、とてもとても悲しいものだ」
提督「はい。その気持ちはよく分かります。失うというのは、取り戻せないという事ですから」
金剛(…………)
401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 19:29:24.72 ID:krTs1wnk0
元帥「金剛、と言ったな?」
金剛「! はっ!」ピシッ
元帥「ああ良い。楽にしたまえ」
元帥「大将は、艦娘をどう扱っておる」
金剛「……とても大切にしていマス。轟沈する可能性があるのならば、その可能性を徹底的に取り除き、私達が沈まない事を第一に作戦を立ててくれていマス。テートクへの信頼はとても厚いと言えマス」
金剛「これは私だけではなく、この鎮守府の艦娘全員の総意でショウ」
元帥「ふむ、なるほど。良い提督として働いてくれているようだな」
元帥「それだけ大切に思っているのであれば、絶対に沈ませれないな」
提督「……はい。私の大事な者達です」
元帥「良い返事だ」
元帥「ああそうそう。君に贈り物を届けに来た」
提督「元帥自らがですか? 郵送で宜しかったのでは……」
元帥「なに。あの厄介な敵を倒す方法と君の姿を見るついでだ。顔色を見るに、少々疲れているようじゃないか」
提督「管理が行き届いていない証拠です。申し訳ありません」
元帥「いや、君はむしろ働きすぎなぐらいだろう。もう少し休息を増やしてみたらどうかね」
元帥「いやはや、やはり持ってきて良かった」コト
404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 19:42:05.83 ID:krTs1wnk0
提督「……これは? 見た所、ただの水の入った小瓶ですが……」
元帥「見た目はそうだが、実際は全く別の代物だ」
元帥「滋養強壮の漢方を使った薬だ。長く眠る前に飲むと良いだろう。……非常に苦いのが欠点だがのう」
元帥「漢方薬は現在、非常に入手しにくくなっておる。よって二つしか渡せん。決して無駄遣いをするんじゃないぞ?」
元帥「身体が弱ると指揮も鈍る。そうなる前にしっかりと休みを取りなさい」
元帥「取り扱い説明はこの紙に書いてある。注意を払って読みなさい」
提督「……はっ。お心遣い、感謝します」
元帥「では、儂はこれで失礼するよ。金剛、美味な茶であった」
金剛「光栄です」ピシッ
提督「お気を付けて」ピシッ
406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 19:58:11.09 ID:krTs1wnk0
ガチャ──
金剛「どうぞ」
元帥「うむ」
元帥「…………」チラ
提督「…………」
元帥「…………」
──パタン
提督「…………」
金剛「…………」
提督「…………ふぅ」
金剛「はぁー…………」
金剛「物凄く神経を使いまシタ……」グッタリ
提督「まったくだ」
金剛「テートクー……私、あの元帥が苦手デス……」
提督「私もだ。出来れば関わりたくない。……だが、立場上どうしても関わらないといけない」
金剛「テートクが可哀想デース……」
407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 20:17:55.81 ID:krTs1wnk0
金剛「その漢方薬を今すぐ飲み干したい気分ネー……」
提督「やめておけ。相当貴重な物らしいからな」
金剛「はーい……」
金剛「そういえば、建造が上手くいっていないってどういう事デスか? 島風って駆逐艦ではかなり良い艦娘デスよね?」
提督「強大な敵と戦う時、金剛なら駆逐艦と戦艦、どっちで戦う」
金剛「ああー……そういう事デスか……」
提督「まったく……元帥も人が悪い」
提督「──本当、色々と困るよ」
……………………
…………
……
408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 20:29:39.44 ID:krTs1wnk0
コンコン──コン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
瑞鶴「…………提督さん、どうしたの? ドアの隙間から手紙を入れて呼び出すなんて」
提督「非常に残念な知らせがある」
瑞鶴「……総司令部関連?」
提督「ああ。とうとう急かされた」
瑞鶴「────ッ! ……思ったよりも早かったわね」
提督「予想以上に早い。脅しながらこんな物を寄越してきたよ」コト
瑞鶴「……水?」
提督「見た目はな。中身は完全に別の物だ。大きな声を出すなよ」ピラ
瑞鶴「……………………!? ……催淫剤?」
提督「実際に滋養強壮の効果があるらしいが、その本質はそういう事のようだ」
410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 20:57:14.69 ID:krTs1wnk0
提督「まったく……注意を払ってその紙を読めと言ったからまともな物じゃないとは思ったが、まさかこんな物だったとは……」
瑞鶴「……つまり、これを飲んでさっさとヤれと」
提督「端的に言えばそうなるな。本当に何を考えているんだかあのクソジジイは……。深海棲艦とは全く関係ないだろうに……」
瑞鶴「関係が無いようで、何かが関係しているのかしら……」
提督「それなら理由を言えば良い。なのにそれをしないという事は、何か隠したい事でもあるのだろうよ」
提督「それに書いてあるように、期限は一週間。一口飲めば効果があるとあるが……こんなもの、どこで手に入れたのやら……」
瑞鶴「…………」
提督「瑞鶴、その小瓶は二本ともお前に預けておく。お前の判断に任せる」
瑞鶴「…………え? わ、私?」
提督「ああ。心の準備が出来たらそれを持って私の所へ来てくれ」
提督「……私も、色々と腹を括るよ」
瑞鶴「…………ねえ。これ、今飲んでも良いの?」
412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 21:18:20.85 ID:krTs1wnk0
提督「……ああ、構わない。が──」
提督「──震えているぞ、瑞鶴」
瑞鶴「…………!」
瑞鶴「あ、あれ……? なんでだろ……」
提督「さあな。それは私には分からない」
提督「だが、心の奥底ではダメだと言っているんじゃないのか?」
提督「あと一週間しかないが、逆に言えば一週間ある。焦らなくて良い。しっかりと心の整理をしてくるんだ」
瑞鶴「……うん。ごめんね、提督さん」
提督「なぜ謝る」
瑞鶴「だって、私のせいで不本意に……」
提督「誰のせいでもない。強いて言うならこの世界が悪い。大きな流れに逆らえば、身を滅ぼす結果しかないんだ……」
瑞鶴「……うん」
瑞鶴「提督さん、一つ約束して欲しいの」
提督「なんだ」
瑞鶴「……その、する……時さ、嘘でも良いから……私を恋人のように、優しくして……?」
416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 21:31:31.60 ID:krTs1wnk0
提督「…………」
瑞鶴「…………」
提督「……分かった」
瑞鶴「…………!」
提督「約束だ」
……………………
…………
……
提督「……色々と、予定が狂ったな」
提督「そうだな……もう、無理だろう……」
提督「──護ろう。それが、私の────」
……………………
…………
……
419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 22:40:37.42 ID:krTs1wnk0
雷「あら?」
提督「今戻った」
雷「おかえりなさい司令官! 皆! どうしたの? 帰ってくるのがすっごい早いじゃない」
天龍「俺のせいだよ」中破
龍田「も~……お洋服が~…………今度見つけたら切り刻まないと……」大破
島風「うー……」大破
金剛「いたたたた……」中破
瑞鶴「この飛行甲板、もう使い物にならないわね……」大破
提督「誰がお前のせいだと言った」
天龍「……俺がいきなり直撃弾を受けたからこうなっちまったのは、紛れもない事実だ」
龍田「そこに追撃してきた砲撃を、私が独断で庇ったの~。おかげでこの有様。我ながら無様よね~……」
提督「旗艦以外を庇うなと言った憶えはない。下手をしていたら天龍は轟沈していた。庇い方に問題はあれど、良くやってくれたと私は判断している」
提督「そこから島風が囮役になってくれなければ、恐らくどっちかが轟沈していただろう」
420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 22:53:43.78 ID:krTs1wnk0
島風「……提督、ごめんなさい」
提督「なぜ謝る」
島風「だって……私、提督の命令を無視したんだよ?」
提督「しっかりと私の命令をこなしたではないか」
島風「必要以上に敵に近付いたんだよ!?」
提督「私は、沈まないよう回避できる距離で敵の注意を引き付けてくれ、と命令したはずだが?」
島風「普通に考えてよ!! あの距離、普通じゃ回避できないくらいの距離だったでしょ!?」
提督「だが、お前は沈んでいない。あの距離、あの砲弾の雨の中、ギリギリまで回避し続けてくれたじゃないか」
提督「どこが命令違反している?」
島風「でも……でもぉ!!」
提督「お前は、他の誰にも出来ない事を成し遂げたんだ。もっと誇って良い」ポンポン
島風「ぅ……ぅー…………」
龍田「あらあら~。提督さんに褒めてもらえてお顔が真っ赤~」
423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 23:10:02.41 ID:krTs1wnk0
提督「そうだな、龍田にも褒めないといけない」
龍田「あらあら、何かしら~?」
提督「天龍が被弾した時、私は追撃が見えなかった。もし見えていたら、恐らく龍田の行動を指示していただろう」
提督「そして、庇ったのは天龍だけではないのだろう?」
龍田「…………どうしてそこまで分かるのでしょうかね~?」
提督「やはりか。どうりで変な庇い方をする」
金剛「やっぱり、あれってテートクを庇ったのデスか」
龍田「そうよ~。だって、提督さんと提督さんを庇った天龍ちゃんの直線上の敵が攻撃したのですもの。下手をしたら、天龍ちゃんの装甲を貫通して、提督さんに当たったかもしれないでしょ~?」
天龍「……なんで俺が提督を庇ったって分かってるんだよ」
龍田「だって~。本当だったら避けれる弾のはずですもの~。天龍ちゃんは優しいからね~」
龍田「きっとだけど、あの弾は提督さんに当たらなかった。でも、万が一の事を考えて庇ったのでしょ~?」
天龍「ちぇっ……バレてるなんて、カッコ悪いな、俺」
427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 23:29:59.69 ID:krTs1wnk0
提督「いいや、あの時の姿は格好良かったぞ、天龍」
天龍「な!? 何を言ってるんだよ提督!?」
提督「世界水準を軽く超えた庇い方だった」
天龍「う、うぐぐぐぐぐ……!」
島風「やーい、天龍の顔真っ赤ー」
天龍「────ッ!! 沈めてやろうか島風ぇえ!!!」
島風「キャーこわーい!」
天龍「おりゃおりゃおりゃぁあ!!」ポンポン
島風「ひゃんっ! きゃははっ! くすぐったいってばー!」
龍田「…………」
龍田(頭をポンポン。自分でやるのは寂しいものね~)ポムポム
提督「…………」チラ
龍田「!」サッ
提督「…………」ポンポン
龍田「あ、あら? あらあらあらあら?」
提督「…………」スッ
龍田(あらあら……思ったよりも嬉しいものね~……)ホッコリ
金剛・瑞鶴(むー……)
……………………
…………
……
430: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/21(月) 23:47:53.42 ID:krTs1wnk0
コンコン──。
提督「入れ」
ガチャ──パタン
川内「提督ー」
神通「失礼します……」
那珂「こんにちはー!」
提督「どうした、三人共。珍しい」
川内「いやー、ちょっと気になる事があってねー」
提督「話してみよ」
神通「あの……私達って基本的に遠征と母港を守る事しかしてませんよね?」
提督「ああ、そうだな」
那珂「いやー……私達、本当に役に立ってるのかなーって……」
提督「なるほど。役に立っている気がしていないから私に聞きに来た、と」
431: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 00:00:02.90 ID:wDg9yZLd0
神通「はい……それで、もしよろしかったら何か新しくお仕事をくださらないかと思いまして……」
提督「ハッキリ言っておこう。私はお前たち三人が居なかったら非常に困っている」
那珂「……そうなのー? だって、私達ほとんど出撃してないよ?」
提督「出撃だけが仕事ではない。遠征で資源を拾ってくるのも仕事だ。母港を守るなんて最重要任務に等しい」
川内「遠征は分かるんだけど、母港を守るとかそんな感覚が無いんだけどなぁ……」
提督「では川内。明らかに使用されている敵母港を発見したが、艦船が一隻も居なかったらどうする」
川内「そりゃ勿論使えないように破壊するよ」
提督「では、同じように敵母港を発見したが、敵が船着場をウロウロして索敵していたらどうする」
川内「あー、確かに警戒するね。なるほど、私達がしているのって、ちゃんと母港を守ってるんだね」
提督「ああ。そして、それは信頼しているから任せれるんだぞ」
神通「信頼……ですか?」
434: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 00:12:31.75 ID:wDg9yZLd0
提督「そうだ。実際に母港を襲われた際、しっかりと守れないと意味が無いだろう」
川内「でも、基本的に二隻しか居ないよ?」
提督「たかが二隻。されど二隻。居るのと居ないのとでは雲泥の差がある」
提督「それに、お前達なら一人でも敵艦が二~三隻居ようと倒せるだろう?」
那珂「確かにそれくらいなら倒せるねー。二人だったら倍かー!」
提督「そういう事だ。これからも母港を守ってくれ」
川内「私達のやってる事、すっごく大切だったんだね!」
那珂「なんだか、安心しちゃったー!」
神通「私達も、提督をお慕いしていますよ」
提督「うむ」
……………………
…………
……
437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 00:25:29.23 ID:wDg9yZLd0
響「あ、司令官。丁度良かった」
提督「うん? 響……だけではないな。暁に雷、電、どうした? もう夜中だぞ」
雷「あのね! 司令官に渡したい物があるの!」
提督「渡したい物?」
電「はい。いつもお世話になってる司令官さんに、プレゼントなのです」
暁「この掛け軸よ!」バッ
提督「第六駆逐隊……すぱしーば?」
響「スパスィーバ。日本語の発音だとなんて書けば良いのか分からなかったから、なるべく近い言葉で書かせてもらったよ」
提督「ふむ……。すまないが、なんという意味なんだ?」
電「せーのっ──」
暁・響・雷・電「──ありがとう!」
438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 00:43:36.04 ID:wDg9yZLd0
暁「そういう意味よ、司令官」
提督「────」
響「……あ…………お気に召さなかったかい、司令官……」
提督「いや、面食らってしまって声が出なかった」
提督「ありがとう。いつも私の為に動いてくれて、本当にありがとう」
暁「ひゃっ」ナデナデ
響「ん……」ナデナデ
雷「あ……」ナデナデ
電「はわわ……」ナデナデ
提督「この掛け軸は部屋に飾っておこう。皆が書いたのかね?」
響「絵と文字と書いたのは私だよ」
暁「私はこの花飾りを作ったの」
雷「私は材料を集めたわ!」
電「仕上げは私がしました」
提督「そうか。皆が協力して作ったのだな」
439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 00:56:07.55 ID:wDg9yZLd0
暁「大切にしてよね?」
提督「勿論だとも」
響「特に暁が喜ぶよ」
暁「ちょ、ちょっと響!」
雷「なんせ、考案と指揮をしたのって暁だもんね」
電「暁ちゃん、すごく一生懸命だったのです」
暁「あ、あああ……バラしちゃって……もー!!」
提督「こらこら、夜中だから静かにしなさい」
……………………。
金剛「──あら? この掛け軸、どうしたのデスか?」
提督「電たちが作ってくれた。とても素晴らしい品だと思うよ」
金剛「……本当。とても優しい気持ちになりマス。これは愛が詰まってマスね」
提督「ああ。慕われているようで嬉しいよ」
……………………
…………
……
442: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 01:15:42.28 ID:wDg9yZLd0
神通「あの、提督さん……」
提督「うん? どうした神通」
神通「ここ四日ほど、遠征は警備任務だけですけど、大丈夫なのですか……?」
提督「その事か。安心しろ。ただの保険だ」
神通「保険、ですか?」
提督「南方の強力な敵艦がこっちへ進行している、というのは五日前から知っているだろう」
神通「だから、戦力の増強へ?」
提督「そうだ。金剛、瑞鶴を中心に艦隊の錬度を高め、ついでに艦娘のデータも手に入ると思っていたのだが……まさか一隻も手に入らないとはな……」
神通「運が悪かったのでしょうか……」
提督「さてな……ん?」
電報妖精「提督さーん、緊急電報だよー」
447: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 01:25:32.69 ID:wDg9yZLd0
提督「緊急電報? ……暗号で送ってきたのか。一体どこの誰だ」
電報妖精「なんかやたら急いでたよ」
提督「ふむ……」サラサラ
神通「え。復号キーを憶えているんですか……?」
提督「一応な」
神通(それって本当はいけない事なんじゃ……)
提督「……………………」
提督「神通、全員を提督室へ呼べ。演習も全て中断。緊急招集だ」
……………………。
提督「緊急事態だ」
金剛「何があったのデスか?」
提督「……………………」
提督「鎮守府が一つ、襲撃された」
449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 01:37:01.65 ID:wDg9yZLd0
天龍「なっ──!?」
川内「襲撃されたって……」
瑞鶴「どういう事なの!?」
提督「どうしたもこうしたも、そういう事だ。更に、悪い知らせはこれだけではない」
提督「一つ──この襲撃に迎撃をした総司令部長の元帥が行方不明となった」
金剛・瑞鶴「────────!!」
暁「総司令部長……?」
提督「天皇陛下の次に偉い人だと思ってくれて良い。私たち海軍のナンバー2」
提督「そして、海軍で一番実力を持っているお方だ」
響「……そんな人が負けてしまったのかい?」
提督「ああ。完全に敗北だそうだ。艦娘は全て轟沈。敵の46cm級砲撃が元帥の居た部屋に直撃。その建物は勿論、砲弾を雨の如く撃ち込まれ母港全体が崩壊したらしい」
提督「まず生きていないだろう。死体が上がるかどうかさえ怪しい」
451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 01:54:59.16 ID:wDg9yZLd0
島風「うわー……悲惨でしょ……」
瑞鶴「……………………」
金剛「……提督、次の悪い知らせはなんデスか」
川内「ま、まだあるの!?」
提督「……ある」
提督「二つ目は、その敵がこの鎮守府へまっすぐ向かっているという事だ」
天龍「……マジかよ」
提督「本当だ。そして、私達に命令が下った」
提督「『南方棲戦姫を沈めろ』と」
那珂「なんぽーせいせんき……?」
提督「航空戦、砲撃戦、雷撃戦、そして夜戦──全ての戦闘をこなし、最高水準の火力と装甲を誇るバケモノだ」
提督「護衛艦として数十隻の敵も確認されている」
提督「その敵の全てが、黄のオーラを纏っているようだ」
神通「そんな艦隊がこの鎮守府に……。それを迎撃しろと……?」
提督「……そうだ」
455: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 02:04:40.51 ID:wDg9yZLd0
龍田「滅茶苦茶ね~……。まるで死ねと言ってるみたい……」
雷「……提督、勝ち目はあるの?」
提督「ハッキリ言って、無い。数が違いすぎる」
暁「……どうするの?」
提督「…………このような事は言いたくないのだが」
提督「神に祈る他ないだろう…………────」
提督「……一つ、言っておく事がある」
提督「今回の出撃は任意だ。強制は勿論、私が決めもしない」
金剛「────え?」
電「どういう意味なのですか……?」
提督「艦娘は海から離れると死んでしまう。だが、解体をすると普通の女子になると聞く」
提督「今回の戦いは、間違いなく死ぬ。死にたくない者は解体を施すから逃げろ」
456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 02:25:32.15 ID:wDg9yZLd0
提督「海軍刑法によると敵前逃亡は罪に問われる。だがここは私の城だ。そんなモノは最初から存在しない」
提督「全員、目を瞑れ。私が許可するまで開いてはならん」
提督「……………………全員閉じたな。では、十秒与える。解体を希望する者は静かに手を上げろ」
提督「十……九……八……七……六……」
提督「…………」
提督「五……四……三……ニ……一……」
提督「そこまで──。手を下ろしてよい」
金剛(手を下ろしてよい……? 誰かが手を上げたのデスか……?)
提督「…………目を開け」
提督「……………………」
457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 02:45:01.58 ID:wDg9yZLd0
提督「…………死にたがりの大馬鹿者共め。馬鹿だよ、お前ら全員」
暁「当たり前でしょ、司令官」
響「……不死鳥も、ここでその名を終えるね」
電「そうです! 私達は皆、馬鹿なのです!」
雷「私達、誰も逃げることなんてしないわ!」
天龍「なんだ、みんな根性あるじゃねーか」
龍田「天龍ちゃんや提督さんと死ぬのなら本望ですよ~」
川内「よーっし! 私達の鎮守府を守るぞー!!」
神通「こんな私でも、やる時はやります」
那珂「那珂ちゃん、本気でいっきまーす!」
瑞鶴「…………?」
金剛「ふふっ……ホント、皆馬鹿デース」
提督「旗艦は金剛に任命する。──金剛、最後の出撃の掛け声を頼んだ」
金剛「ハイ!!」
金剛「私達の最後の出番ネ!! 皆さん! ついてきてくださいネー!!」
瑞鶴「……………………」
……………………
…………
……
458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 02:59:46.08 ID:wDg9yZLd0
ガチャ──
瑞鶴「……提督さん」
パタン
提督「うん? どうした瑞鶴。もう間宮アイスクリームは良いのか?」
瑞鶴「そんな事はどうでも良いの。ねえ、おかしいと思わない?」
提督「…………」
瑞鶴「どうして、総司令部は私を放棄する事にしたのかしら。貴重なサンプルだって言ってたのに……」
提督「瑞鶴」
瑞鶴「ぴゃいっ!」ピシッ
提督「私は一つ、嘘を吐いた」
瑞鶴「……嘘?」
提督「あの電報、胸糞が悪かったからな」
瑞鶴「…………何?」
459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 03:15:08.27 ID:wDg9yZLd0
提督「私と瑞鶴を除く全員で南方棲戦姫に全力突撃をしろ」
提督「それが本当の命令だ」
瑞鶴「……やっぱり」
提督「だが、私はこの命令に従うつもりはない」
提督「私の大事な艦娘達を犠牲にして、サンプルである瑞鶴とその提督である私だけ逃げろなんて命令、誰が聞いてやるものか」
瑞鶴「…………」
提督「すまんな、瑞鶴。本当は生き残れたのだが……」
瑞鶴「ううん! 私は嬉しいわ」
瑞鶴「だって、それって皆を見捨てろって事でしょ? 私はそんなの、絶対に出来ない! そんな事をするくらいなら死んだ方がマシよ!!」
提督「────うむ。良い意思だ」
提督「さて、逝こうか──」
瑞鶴「はい──」
……………………
…………
……
461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 03:35:21.86 ID:wDg9yZLd0
提督「総員、心の準備は出来たか」
全員「はいっ!」
金剛「──あ、ごめんなさい。私、一つだけ心残りがあります」
提督「調子を狂わせるんじゃない。…………まあ良い。なんだ」
金剛「提督、キスしてください」
龍田「あらあらあら~」
暁「お、大人……!」
提督「……金剛、時間と場所を弁えろ」
金剛「──時間と場所なら弁えてますよ」
金剛「残り少ない僅かな時間。二度と戻る事のないこの鎮守府の母港──」
金剛「死に行く私の、ささやかな最後のお願いです」
提督「…………」
金剛「…………」
462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 03:50:41.95 ID:wDg9yZLd0
提督「皆が見ているぞ」
金剛「私には提督しか見えないです」
提督「死にたくなくなるぞ」
金剛「良いことじゃないですか」
提督「何も残らないぞ」
金剛「私の魂に刻まれます」
提督「…………」
金剛「…………」
提督「負けたよ、お手上げだ」
金剛「それではご褒美を」
提督「後悔は?」
金剛「私の辞書には載ってませんね」
463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 04:01:56.90 ID:wDg9yZLd0
──そっと、提督が私の背に手を回しました。
「ぁ──」
服越しに伝わる提督の温もりが、私の心臓を跳ねさせる。
死んだ目をしている提督の目は私の瞳の奥を見据え、私だけを見てくれている。
暴れる心臓を押さえる為、閉じた右手を胸の前へ持っていくと、その手は提督の左手に阻まれた。
優しく、けれど強く──大切な物をその手に収めるかのよう握られた。
だから私は、余っている左手をさっきの右手と同じように胸の前へ持っていく。
──バクバクと飛び出しそうな程の鼓動が、ハッキリと伝わってきた。
「提督……」
そう呟くと、私の愛しい人は右手に力を込めた。
ゆっくり、ゆっくりと提督が近くなるにつれ、私は今更緊張してきた。
身体は強張り、手を固く結び、視線も提督の光の無い目に釘付け──。
そういえば、私はいつからこの不思議な目を追い続けたのだろう。
一緒の毛布に包まった時?
提督の秘書になった時?
──初めて会った時?
いつだったか、もう分からない。
ただ一つ、分かる事は──
「……金剛」
──ほんの一瞬。愛しい人が目を閉じる瞬間、光が宿ったという事。
464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 04:17:13.61 ID:wDg9yZLd0
「ん……」
不意打ちだった。
その瞳の美しさに見惚れているというのに、愛しい人は唇を重ねてきた。
触れ合うだけの、フレンチキス──。
それだけだと思った私だけれど、提督はそのつもりではなかったらしい。
舌で唇をつつかれる。
すぐに私は、閉ざしていた唇を小さく開けた。
そろりと、窺うように舌が入ってくる。
それに対して、控えめに舌で触れ、提督に合図をした。
小さく、腫れ物に触るかのように優しく触れ合っていた愛しい人の舌は、甘い、甘い味がした。
「あ……」
その甘美な即効性の毒は、私の身体から力を抜くのに一秒と掛からなかった。
いや、本当に抜いたのは骨かもしれない。
そんな言葉遊びを痺れる頭に思い浮かべ、私は目を瞑って提督の舌を堪能した。
絡み、絡まれ、唾液を交換する──。
もう、どれが提督の唾液か私の唾液か分からない。
そこで、私の右手の指が提督の左手の指と絡まっているのに気付いた。
互いを貪るように動く舌と同じように、私達の指は絡み合った。
絡まった唾液を呑みこむ度に頭がボーっとする。まるで麻薬だ。
頭が痺れ、脳が蕩け、どこからが私でどこからが提督なのか、もう分からない。
いや、実際に麻薬なのだろう。こんなに気持ちの良くて、もっと欲しくなっているのだから──。
468: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 04:25:22.00 ID:wDg9yZLd0
「は、ぁ…………」
どちらからともなく、舌が、唇が離れる。
提督と私の間に出来た銀のアーチ。それは数瞬だけ形を保って、プッツリと切れてしまった。
「……提督」
──もっと、あの甘く蕩ける麻薬が欲しい──
けれど、それは言えなかった。
私の愛しい人が、悲しそうな顔をしていたから──。
だから私は、笑顔でこう言った。
「────ありがとう」
──I don't mind that everyting is a lie.
(たとえ全てが嘘でも構いません)
──As long as I love you forever.
(私が貴方を愛している限り、永遠に)
……………………
…………
……
465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/10/22(火) 04:19:22.78 ID:Ofcj0Y54o
(フレンチキスってねっとりどっぷりキッスのことやで)
470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 04:29:10.79 ID:wDg9yZLd0
地の文に逃げた挙句、フレンチキスを誤用するこの体たらく。
死にたくなってきた。
472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2013/10/22(火) 04:38:23.35 ID:wDg9yZLd0
金剛「──私は、最後まで沈みません」
金剛「提督が沈むのを見るまで、私は沈みません」
提督「……そうか」
金剛「…………」
提督「約束だ」
金剛「────はいっ!!」
瑞鶴「……あのー、良い所で悪いけど」
瑞鶴「…………見てるこっちが恥ずかしいんだけど……」
暁「お、大人……! 大人のキス……!!」
響「そうだね暁。とても深いキスだったね」
雷「エロいわね」
電「はわわわ……!」
天龍「おぉ……ぉぉぉ……」
龍田「天龍ちゃん、大丈夫~?」
川内「本当だったらこのあと夜戦になるんだろうなぁ」
神通「……夜戦…………や、やせん……」
那珂「神通って初心だねー」
提督「…………」
提督「整列」
全員「ッ!?」ビクゥ
……………………
…………
……
金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」【後編】に続く
元スレ
SS速報VIP:金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」
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