SS速報VIP:【SideM】九十九「あれは……鷺沢さん?」【越境要素有り】
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1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:02:05.23 ID:90oVfUlV0

今日は日曜日。
仕事も休みなので久方ぶりに本を読もうと思ったのだが、あいにく今ある手待ちの本は全部読みきってしまっていた。
名作をもう一度読み直してみてもよいのだが、なんとなく今日は新しい話が読みたい気分なので、街へと出かけてみた。
雲もなく、綺麗に晴れた青空が気持ちよかった。

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:02:38.88 ID:90oVfUlV0

「……新刊、出ていたのか」

アイドルの活動の裏で、好みの作家が新刊を出していた。

「いい買い物をしたな」

思わず頬が緩む。
街に出てきてよかった。
しかもなかなかのボリュームだ、一週間は楽しめるだろう。



3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:03:07.67 ID:90oVfUlV0

「……あれは?」

車道を挟んで反対側に見覚えのある姿を見つけた。
鷺沢文香、その人だ。
以前「本」という共通点で番組に呼ばれ、対談したのだが、本の趣味が合い、また同い年ということもあって親しくさせてもらっていた。
そしてその隣には、男性の姿が。
見知らぬ顔ではなかった。
鷺沢文香のプロデューサーの彼であった。
おれが見たこともない笑顔を、彼に向けているのが無性に悔しくて思わず走って、その場を離れてしまった。




4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:03:49.78 ID:90oVfUlV0

気持ちを表す言葉なら千だって万だって思いついた。
この感情の正体なんて考えずともすぐ分かる。だというのに。
「お前の好きな女はお前を好いてはいない」
そんな剥き出しの言葉と感情がおれを殴りつけてくる。
そうなのかもしれないと思った。
そうであってほしくないと願った。
しかし現実はそうではなかった。
鷺沢文香が好きなのは、九十九一希ではなく、彼女のプロデューサー。
ただの事実の確認。
どうして、あの人なのだろうか。
どうして、おれは彼女を好きになってしまったんだろうか。



5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:04:26.38 ID:90oVfUlV0

家にまっすぐ帰ろうとしたが、そちらに歩みは進まず、おれはなぜか事務所に向かっていた。
事務所にはプロデューサーがいた。
「せっかくのお休みなのに仕事熱心だね」と言うのをかわし、事務所のソファに座る。
事務所で買った本を読めば立ち直れる、と思った。思っただけだったが。

文章は読んでいるはずなのに、物語が入ってこない。
ページをめくっても心が少しも震えない。



6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:06:14.35 ID:90oVfUlV0

「お茶、飲みます?」
お盆に湯のみを二つ乗っけて、プロデューサーがおれにそう尋ねてきた。
どうせ最初から読み直すことになるだろうから、栞は挟まずに本を閉じ、おれはプロデューサーの誘いに応じた。

「何かありましたか?」
お茶を一口啜り、プロデューサーはそう聞いてきた。
心配されるほど暗い顔をしていたのか、おれは。



7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:06:43.79 ID:90oVfUlV0

「……恋の悩み、かな」

どうしてそれを、と言おうとしたのが顔に出たのだろう。九十九くんみたいな歳の子が悩むのは、だいたい友情か恋愛だからね、とおれが聞く前に答えられた。
観念して、おれは事の顛末を話した。

「まぁアイドルに恋愛はご法度っていう建前は置いといて……」

少し小声で、キョロキョロと近くに社長の姿が無いのを確認して、プロデューサーはそう切り出した。



8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:07:34.45 ID:90oVfUlV0

「好きだったの?」

「……そう言われると、自信がないな。ただ鷺沢さんが見たことない顔で楽しそうだったのが、」

「ショックだったんだ」

「あぁ。……その時に感じたのが嫉妬なら、おれが鷺沢さんに抱いていたのは『恋』だったんじゃないかと思う」

「そっか。……いっそ告白できてたほうが楽だったのかもね」



9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:08:50.67 ID:90oVfUlV0

ポツリと呟くようにプロデューサーはそう言った。
恐らくそうだろうとおれも思う。
勝負して負けたならまだ気持ちに納得がいったことだろう。
ただおれはその勝負の土俵に立つことさえ出来なかった。
告白もしないうちに振られて、でもその想いが無くなるわけでもなくて。
苦しいのに、何も出来ない。それでも恋しくてたまらない。
かと言って、今鷺沢さんに伝えるというのも違う。
彼女の表示を見れば、そこにおれが入り込む余地など無いことなど明白だ。
振られるために、自分がスッキリするために彼女に辛い思いはさせたくはない。
前にも後ろにも行けない。
そして、袋小路。
だから辛いんだ。



10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:10:06.04 ID:90oVfUlV0

「かもな……。プロデューサーもそういう経験あるのか」

「どうだと思う?」

「あったんじゃないかなって、……思う」

「正解。ねぇ、九十九さん?」

「うん?」

「泣きたいくらい、叫びたいならそうしたっていいんですよ。……私はあなたの傷は癒せないし、埋められない。でもあなたの声だけは聞いてあげられますから」

プロデューサーはそう言い、微笑んだ。




11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:10:34.49 ID:90oVfUlV0

泣いて叫んで、自分の気持ちを吐き出して。
どうにか忘れて、忘れたようなフリをしたよ。
自嘲気味にそう言ってプロデューサーは笑った。
おれもそれに倣うことにした。



12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:11:39.47 ID:90oVfUlV0

初めてかと思うほど、大声で泣いた。
泣いて、泣いて、涙が枯れ果てるほど泣いて。
そうしたら少しスッキリした。
きっとこの傷はいつか癒えるだろう。
何でもないことのように振る舞えるだろう。
嗚呼。
なんで人は、好きになってくれる人だけを、……好きになれないんだろうか。



13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/11(木) 00:12:51.22 ID:90oVfUlV0

お読みいただきまして、ありがとうございました。


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