提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【前編】
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【中編】
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【後編】
SS速報R:提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1476205490/
316: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/04(日) 16:33:46.23 ID:nUuoGGn20
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【中編】
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【後編】
SS速報R:提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1476205490/
316: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/04(日) 16:33:46.23 ID:nUuoGGn20
~
川内「本当にいいんですか!?明らかに提督はおかしいですよ!!」
瑞鶴「私も川内に賛成、このままじゃまずいよ」
長門「だが、提督がもう少しだけ待ってくれと言っているのだぞ?ここはあの方を信じて待つべきだろう」
愛宕「そうよぉ、提督は約束してくれたわ。本当に助けが必要になったら躊躇わず言ってくれるって」
川内「私達に言いにくいだけかもしれないじゃないですか!!提督がおかしくなっているのは今なんですよ!?」
川内「提督は今苦しんでいるはず……!!なら、私たちが自分から動かないとダメなんじゃないですか!?」
長門「……だから動いた結果が、信じて待ってくれとのことだったのだろう」
川内「そんなの!!動いたに入るんですか!?」
翔鶴「川内ちゃん、落ち着いて!!」ガシッ
川内「っ……!!すいません……」
大和「……そもそも、提督は何であの子だけは近くに置いているんですか?どうやら提督が抱えている問題も知っているようですし……」ギリッ
加賀「そうね、それは確かに納得できないわ」
大和「ロマノフ朝のラスプーチンよろしく、あの子が提督を狂わせているんじゃないですか?」
加賀「だとしたら、一刻も早く提督を助け出さなくては……」
赤城「ちょっと、お二人とも!さすがにそれは早計ですよ。共に肩を並べて戦ってきましたが、彼女はそんな人とは思えません」
加賀「っ そう……ですね。すいません」
大和「いえ、取り繕っているだけで腹の中は真っ黒かもしれません」
瑞鶴「……まあ、けど私達より何かを知っていることは確実でしょ。これは一度話を聞いてみないと」
317: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/04(日) 16:47:10.05 ID:nUuoGGn20
川内「……!!あいつ!!」グッ
翔鶴「川内ちゃん!!止めなさい!!っ!?瑞鶴!?大和さん!?」グググッ
プリンツ「……」スタスタ
大和「プリンツ・オイゲン!!」
プリンツ「!?えっ大和さん!?瑞鶴さん!?どうしたんでっ!?」
瑞鶴「……」ガシッ グイ
プリンツ「つぅ……!!」ドン
瑞鶴「貴女、何を知っているの……?」 グッ ハイライトオフ
プリンツ「くぅ……くるし……!!な、何と言われても……分かりません……!!」
大和「とぼけないで?提督がおかしい理由を知っているはずでしょう?貴女は……!!」ギロリ ハイライトオフ
プリンツ「あ、アトミラール……!?な、何も知りませんよ……」
瑞鶴「ふざけないで……!!」ギリッ
プリンツ「うっ……くっ……放して……」
瑞鶴「チッ話さないなら……!!」ギュッ
大和「……」ドスッ
プリンツ「ぐぅっ!?うげぇ……」
長門「止めろ二人とも!!」ガシッ
愛宕「落ち着いて!!」ダキッ
瑞鶴「っ!!」パッ
プリンツ「うぐっ、ごほっ!!ごほっ!!ごほっ!!」ドサッ
大和「愛宕さん!!放してください!!」ググッ
愛宕「落ち着いてくれたらねぇ……!!」ググッ
赤城「大丈夫ですか、オイゲンさん」
加賀「今のはさすがにやりすぎです。二人とも」
瑞鶴「……こいつが悪いんだからね」
大和「そうです、この女が悪いんです」
翔鶴「瑞鶴!!大和!!いい加減にしなさい!!どう考えてもいきなり首を絞めたりお腹を殴ったりする方が悪いでしょう!!」
瑞鶴「だって……」
大和「……」プイッ
翔鶴「だってじゃあありません!!大和も、何ですかその態度は!!ちゃんと謝りなさい!!」
瑞鶴「……」グスッ
大和「死んでもお断りです」
翔鶴「っ!!この……!!」
川内「……プリンツ・オイゲンさん。知っていないわけないですよね?どうして嘘なんてつくんですか?」
プリンツ「……嘘じゃないです。本当に知らないんです」フルフルフル
川内「っ!!」
赤城「待って!!……どうやらオイゲンさんも本当に何が起こっているのか知らないみたいじゃないですか」
大和「どうして分かるんですか?」
赤城「こんなに怯えて、震えて……何よりオイゲンさんの顔を見れば分かります。これが悪事を企んでいる人間がする顔ですか?」
大和「っ……」
プリンツ「本当に、知らないんです……分からないんです、私にも……」ポロポロポロ
長門「……ビスマルクなら知っているんじゃないか?彼女に話を聞きに行くべきだろう」
加賀「そうね。けど、今どこにいるのか……知っているかしら?」
オイゲン「分かりません……」
瑞鶴「どうして!?」
オイゲン「分からないんです……私だって……私だって!!何がどうなってるのか聞きたいですよ!!」
瑞鶴「!?」
赤城「……すいません、オイゲンさん。みんな提督が心配なんです。何が起きているのか分からないことがもどかしくて」ギリッ
プリンツ「……いいですよ、許します。私も同じ気持ちですから、皆さんの気持ちも分かります」
赤城「……ありがとう」
プリンツ「じゃあ、私は用事があるので。失礼します」
赤城「ええ」
大和「行かせるんですか!?許しません!!」グッ
瑞鶴「そうだよ!!絶対に知っていることを隠してる!!」キッ
長門「いい加減にしろ、二人とも!!」
愛宕「お話するにしてもぉ……一度頭を冷やしてからの方がいいわよぉ……!?」グググッ
大和「っ……!!なんで、どうして……!!みんな提督が大切じゃないんですか!?」ジワッ
瑞鶴「だって……だってぇ……!!」ポロポロポロ
翔鶴「本当にごめんなさい……」シュン
プリンツ「いいんです。では」スタ スタ
瑞鶴「提督……ぐすっ……ひっく……」
大和「提督……どうして、私を頼ってくれないのですか……大和は……っ」ボロボロボロ
長門「……」ギリッ
~
プリンツ「いたい……」ズキッ
プリンツ「アトミラール……ビスマルクお姉さま……辛いですよぅ……」グスッ
~
提督「来たか」
ビスマルク「女は準備に時間がかかるものなのよ、なんてね。ごめんなさい、時間を取ったわ」
提督「気にしないでくれ、そんなつもりはない。よし、行こうか」
~
ビスマルク「ごちそうさま、美味しかったわ!!」
提督「気に入って貰えて何よりだ。さて、帰るか」
ビスマルク「そうね、行きましょう」
提督「今日は疲れた……」
ビスマルク「その割には仕事が進んでいないようだけど?」
提督「まあな、この後頑張らなくては」
ビスマルク「はぁ……しょうがないから、付き合ってあげるわよ」
提督「それは助かるが……いいのか?」
ビスマルク「ここで、『じゃあ頑張ってね』と言って自分だけ休む人間だと思った?」
提督「ははっそうだな、君は優しいからな。ありがとう」
ビスマルク「ん、じゃあ早く帰って片付けてしまいましょう」
提督「ああ」
~
提督(やれやれ、どうにか無事に仕事を片付けることができた。頑張ってくれたビスマルクのおかげだな)
提督「何とか終わらせられたな、お疲れ様。手伝ってくれてありがとう。コーヒーでも飲むか?」
ビスマルク「お疲れ様、どういたしまして。頂くわね」
提督「了解」コトッ
ビスマルク「……?貴方は飲まないの?」
提督「俺が炭酸ジュース好きなのは知っているだろう?疲れた頭によく効くからな」
ビスマルク「ああ、そうだったわね。何を飲むの?」
提督「これだ。ドイツ発祥のジュースだろ?」
ビスマルク「ファンタ!!今ではグレープ味とかいろいろあるけど、ドイツで飲まれていたのはもっと違う奴なのよ」
提督「そうなのか?」
ビスマルク「そうよ。私もコーヒーよりもそっちがいいわ!」
提督「ん?君、ジュースは甘すぎて嫌いとか言っていなかったか?」
ビスマルク「えっ、……そうだっけ?まあ、今日はそんな気分なのよ」
提督「ふむ。それで、何を飲むんだ?」
ビスマルク「何があるの?」
提督「いつでも好きなのが飲めるように、一通り揃えておいてあるって言ったろ?このマイ冷蔵庫を見るがいい!どれでも好きなのを選んでくれ」
ビスマルク「そうね、どれどれ……Ach, Gut(よし)!見ていなさい!」
提督「コーラ、スプライトそれにファンタオレンジ?そんなに出してどうするつもりだ?まさか……」
ビスマルク「あなたに本物のファンタを飲ませてあげるの。もちろん全部飲むわけじゃないわ!……あけてもいい?」
提督「ほぅ……興味深い!構わないぞ」
ビスマルク「Danke! 」
提督(そう言うと、ビスマルクはコップにそれらを4:1:4でコップ注いで炭酸が抜けないように軽く混ぜた)
ビスマルク「はい、完成!元祖ファンタよ!飲んでみなさい!」
提督「どれ、頂こうか。……なるほど、良いお手前で!!」ゴク ゴク
ビスマルク「良いオテマエ?」
提督「美味しいってことだ!!元の味がこんなんだとは知らなかったな。しかもこんなに簡単に作れるのか」
ビスマルク「ふふん!でしょう?ちなみに、スプライトも元はファンタのフレーバーの1つだったのよ?」
提督「そうなのか!?へぇ~知らなかった。よく知っているな!さすがだ、ビスマルク!」
ビスマルク「えへへ……ちょっと褒め過ぎじゃないかしら……?」モジモジ
提督「おや、謙遜するとは珍しい。明日は槍でも振るかな?」
ビスマルク「……よくわからないけど、馬鹿にしているのは分かったわ。これはお預けね」
提督「すまんすまん!謝るよ」
ビスマルク「もぅ……仕方ないわね……ほら」
提督「Danke!」
~
提督「……おっと、もうこんな時間か。明日は東京だ。そろそろ寝るとしよう」
ビスマルク「ええ、そうね。じゃあ私も部屋に戻るわ」
提督「ん……そうだな。お休み、ビスマルク」
ビスマルク「Gute Nacht, アトミラール。……」ニコッ
提督「……?」
提督(なぜか儚げな笑顔でこちらに微笑むビスマルク。そして一瞬、こちらを悲しげな顔で見つめた)
提督(それが気になってしまう。オーロラのような緑の瞳に、悲痛な感情が揺らめいていた)
提督「? どうした、ビスマルク?」
ビスマルク「何でもないわ、また明日」
提督「あ、ああ」
提督(……何か、凄い違和感だ。何かがおかしい。この状況に、そしてビスマルクに違和感を覚えた)
提督(訳が分からないまま帰宅し、入浴を済ませ、寝支度を完了する。一人では広すぎるベッドに入っても、ますます違和感が大きくなるばかりだ)
提督(とても寂しい感じがした。気分がとても悪くなってくる。なぜだ?……分からない)
提督(ラブクラフト全集がまずかったかな?この年でホラーにビビることになるとは……)
提督(……だめだ、こういうことは深く考えないほうが良い。早く寝よう。疲れているしな)
提督(それに明日は、東京へ行かなくては。大切な会議がある。いよいよ始まるんだ……)
~
提督(戦況は、我々に優位に進んでいた。敵の勢力圏はますます縮小されており、遂には珊瑚海から敵を追い出す寸前まで来ている)
提督(俺は、今からおよそ一か月後に予定されている南方海域最後の敵拠点、すなわちガダルカナルとツラギへの攻勢作戦の指揮を執る)
提督(前回のポートモレスビー攻略作戦での活躍で、中将へ昇進した上で、総司令官に抜擢されたのだ)
提督(この戦争から南部戦線が消える日もそう遠くない。俺たちが、この手で終わらせるのだ)
ビスマルク「提督、準備できてるかしら?」
提督「ああ、大丈夫だ。行くとしようか」
~
提督(ってなわけで作戦会議のために東京までやってきた。軍用の特別列車のおかげで列車内は快適だったが、駅構内はそうもいかない)
提督(……いつも思うが、東京の駅は入り組みすぎだと思う。もう少し何とかならなかったのだろうか)
ビスマルク「アトミラール、車は表で待っているんでしょ?早く行きましょう」
提督「ああ。すまんが、ちょっと手洗いに行ってくる。ここで待っていてくれ」
ビスマルク「そう、分かったわ。じゃあここで待っているから」
提督「頼むぞ」
提督(……それにしても本当に人が多いな。さすがは天下の帝都東京か)
提督(用を済ませ、ビスマルクの所へ向かう。すると聞き覚えのある声が聞こえてきた)
「よし、その東京ばな○を頂こうか」
提督「この声……!?やはり!!友!!友じゃないか!!」ハッ
友「お、提督か!?ひと月ぶりだな!!会えると思っていたが、まさかここでとは!!」
提督「ああ、本当に奇遇だな!!元気か?」
友「もちろん!!それにしても、今回の作戦の指揮官は貴様か。流石だな」
提督「ありがとう!!奴らを珊瑚海から蹴散らしてやるよ!!」
友「この前の作戦で、お前の艦隊は大活躍したからな。いろいろあって、心配していたが……大丈夫そうでよかった。期待しているぞ」
提督「ありがとう!貴様は東部方面、ミッドウェーの拠点への牽制を担当だったよな?近頃は敵の抵抗も激しさを増してきている。気を付けてくれ」
友「そうだな、ありがとう。だが、ここが正念場だ。やってやるさ!側面の防御は任せてくれ!」
提督「おう、頼りにしているぞ!」
飛龍「おーい!!友!!買い物、まだ時間かかるの!?早く行こうよ!!」
友「あ、ああ!!ちょっと幼馴染の親友に会ってな!!すぐ行くから、先行っていてくれ!!」
飛龍「分かった!!じゃあ先に行ってるからね!!」
友「車でな!!」
提督「ほうほう、友か……付き合っているのか?」
友「ま、まあな……」
提督「お前もとうとう身を固めるか?」ニヤニヤ
友「やめろやい!」
提督「ははっ今度ダブルデートに行こうか?」
友「今はそんな暇ないだろ!」
提督「ははは、冗談だよ!」
ビスマルク「アトミラール?何をしているの?用が済んだのなら早く来なさいよ」
提督「おお、ビスマルク!悪いな、偶然そこで友と会ってな。お前も面識があるだろう?」
友「ビスマルク……?」
ビスマルク「え、友? ……! ……おはよう、少将」
友「え、え、え? えっと……」
ビスマルク「私を忘れたかしら?ビスマルクよ」
提督「おい!?貴様、俺の彼女を覚えていなかったのかよ!?」
友「彼女!?あ、いや、すまんな……少し会っただけだったからな……」
提督「まったく。ってそうだ、すまないが飲み物を買いに行ってくる。喉が渇いてな。すぐに済むから待っていてくれ」
ビスマルク「……そう、分かったわ」
友「ああ……すまないが、俺もドクペが欲しいから買ってきてくれ」
提督「ドクペ!?ここらで売ってるのか……?」
友「向こうの売店に行けばあるかもしれん。貴様の分も奢るから、頼む」
提督「了解」スタスタ
ビスマルク「……」
友「……何、してるんだよ」
ビスマルク「……何って何よ。質問の意図が分からないわ」
友「ふざけるなよ! それとも、お前までおかしくなっちまってるのか?」
ビスマルク「……そんなわけ、ないでしょ?」
友「なら!」
ビスマルク?「けど、他に何ができるっていうんですか? 私にできることはこれぐらいしかないんですよ!」
友「くっ……どうやら、あいつは今、精神崩壊しかけているみたいだ……くそっ……お前のしているそれは、ますますあいつの心を蝕んでいっているんだよ!!」
ビスマルク?「いいえ、違います!!私はアトミラールを守っているんです!!あの人は酷く傷ついて苦しんでいるんです!!」
ビスマルク?「無理に残酷な現実を見せれば、提督を本当に壊してしまいます!!どうしてそれが分からないんですか!?」
友「ふざけるな! !そんな事、間違ってる!! ……それにな、この方法はあいつを犠牲にするだけじゃない!!」
ビスマルク?「何が言いたいんですか!?」
友「自分の顔を見てみろ!!これはお前もまた緩やかに壊れていく方法なんだよ、プリンツ・オイゲン!!」
プリンツ「っ……!! 」
~
瑞鶴『提督の様子がおかしいよ……顔色が凄い悪いし、無理して気丈に振舞ってる』
翔鶴『どうしたのでしょうか……』
長門『攻勢作戦が控えている。大事なければいいのだが……』
陸奥『医者を呼んだ方がいいわよ。絶対、病気だから』
赤城『もうお呼びしたのですが、悪いところはないと……』
加賀『おそらく疲労とストレスだろうとのことで、栄養剤を処方されたわ』
プリンツ《提督、具合悪いんだ。お見舞いに行こうかな。看病してあげたりとか!……って、ビスマルクお姉さまの役目か》
プリンツ《……お似合いの、二人だよね。尊敬するアトミラールとビスマルクお姉さまが夫婦だなんて、素敵》
プリンツ《だからこの気持ちは、封印しなくちゃ。そう、忘れなくちゃいけない……》
~
ドイツ軍将校『ビスマルクから定時連絡がない』
プリンツ『えっ本当ですか?』
ドイツ軍将校『残念ながらな。彼女の所在はどこだ?』
プリンツ『家にいると思いますけど……』
ドイツ軍将校『そうか。現在、作戦直前ということで提督と連絡が取れない。しかし、君なら可能なはずだ。確認してみてくれ』
プリンツ『Jawohl, Herr Kapitän (了解しました、大佐).』
~
プリンツ『提督』コンコン
提督『……入れ』
プリンツ『失礼します』ガチャッ
提督『ビスマルク!?』
プリンツ『!?』
提督『あ、いや……すまない、プリンツ。どうしたんだ?』
プリンツ『いえ、大丈夫です。ビスマルクお姉さまから定時連絡がないと本国から連絡が来たのですが……』
提督『っ!!……そうか。君には話さなくてはならなっ、おえぇぇ……!!』ゲボッ
プリンツ『アトミラール!?大丈夫ですか!?』ダッ
提督『げほっげほっぐっ……すまない、大丈夫だ……プリンツ、これからいうことには緘口令を敷く。いいな?』
プリンツ『J,Ja……』
~
プリンツ『……つまり、ビスマルクお姉さまは、あの整備兵と浮気……„ Seitensprung“したんですか……?お腹の子も、その人の……?』
提督『……そうだ』
プリンツ『……!!』
提督『すまないが、この件に関してはドイツ側に黙っていてほしい。こんなことを報告したら……まずいことになるだろう?』
プリンツ『……っ!!わ、分かりました』
提督『すまない、ありがとう』
プリンツ『アトミラール……』
プリンツ《嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。そんな事、信じられない。あのビスマルクお姉さまが……?ありえないよ……どういう事……?》
~
提督『作戦は順調とは言い難い。敵との航空戦で我が軍は予想以上の被害を出している。敵の空戦力は予想以上だ』ゲッソリ
提督『だが、そのかわりに敵拠点及び艦隊の打撃力は低いことが判明した』
提督『そこで、俺が上層部に戦艦主体の打撃艦隊による夜襲を打診して承認され、実行することとなった』
川内『夜戦!?今、夜戦って言った!?』パァッ
神通『ね、姉さん!!静かに!!』ビクッ
提督『よって諸君には敵艦隊を蹴散らし、ポートモレスビーの敵拠点を焼き尽くしてもらう。頼んだぞ』
大和『はい!!提督が最高の司令官であること、そして我が艦隊が世界最強である事を証明して見せます!!』
提督『うむ。第一艦隊、出撃せよ!!』
大和『了解!!第一艦隊出撃!!』
プリンツ《提督……あんなにやつれてしまって……ビスマルクお姉さま!!何故なんですか……!?》
~
元帥『素晴らしい作戦だった!!君のおかげで作戦は無事成功した!!昇進が君を待っているぞ』
提督『はっ光栄です!!……っ』クラッ ドサッ
元帥『少将!?どうしたんだ!!』
大和『提督!?』
瑞鶴『提督!!』
プリンツ『そんな……提督!!』
~
プリンツ《結局、アトミラールは念のためということで数日入院することになった。作戦後のごたごたを片付けて、今日やっとお見舞いにいける》
プリンツ『アトミラール、失礼しますね』
提督『ああ、……ビスマルク?ビスマルクか。どうした、そんなにかしこまって』
プリンツ『!?』
提督『すまないな、心配をかけた。すぐに退院できるよ』
プリンツ『アトミラール……?』
提督『ん?何だ、ビスマルク』
プリンツ《アトミラール……こんなことって……神様、こんなに素晴らしい、頑張っている人にどうしてこんな仕打ちを……》
プリンツ《アトミラールのために私ができること……ひどい仕打ちを受けたこの人の、壊れそうな心を守るには……》
プリンツ『……いえ、何でもないわ、アトミラール』
提督『そうか?』
プリンツ『ええ。それより、リンゴを持ってきたのよ。剥いてあげるわ』
提督『おお、ありがたい!……迷惑をかけるな』
プリンツ『そんな事言わないで。貴方は頑張った。当然じゃない』ニコッ
~
プリンツ「……」
~
提督『その書類を取ってくれ、ビスマルク』
プリンツ『ん』
提督『ありがとう』ニコッ
~
翔鶴『美味しい!!さすが提督のお母さまですね』
瑞鶴『うん!!私干し柿って初めて食べたかも』
提督『そうか?最近の子は干し柿知らないのか……あ、ビスマルク!ちょうどよかった。これ食べるか?実家から送ってきたんだ』
翔鶴&瑞鶴『『!?』』
プリンツ『あら、何よコレ?』
提督『干し柿だ』
プリンツ『……食べられるの?』
提督『美味しいぞ?』
プリンツ『……!美味しい!』パクッ
提督『だろう?そうだ、書類で確認したいことがある。来てくれ』
プリンツ『分かったわ』
提督『ではまた後でな』
翔鶴『あ、はい。ごちそうさまでした』
瑞鶴『うん、また後で。干し柿ありがとうね』
翔鶴『……えっと』
瑞鶴『どういうことなの……?え?プリンツ・オイゲンってプリンツ・オイゲンだよね?』
翔鶴『ええ、オイゲンさんだと思うけど……ビスマルクって呼んでたわよね?』
瑞鶴『うん。……?』
~
プリンツ《私が、ビスマルクお姉さまの代わりになる。お姉さまが帰ってくるまで。……きっと、帰ってくるから》
提督『ビスマルク』
プリンツ『何かしら?』
プリンツ《私が、アトミラールを守る。アトミラールを傷つけるモノから、守り切って見せる》
提督『ビスマルク』
プリンツ『ん』
プリンツ《これ以上アトミラールが傷つけられて、苦しむところは見たくない。だって、私はアトミラールが……好きだから》
提督『ビスマルク』
プリンツ《でも、アトミラールはビスマルクお姉さまが好き。お姉さまを選んだ。今、アトミラールは私を見て、ビスマルクお姉さまの名前を呼ぶ》
提督『ビスマルク!』
プリンツ《アトミラールの目に、私は……プリンツ・オイゲンは映っていない。私は見えていない。私を通してビスマルクお姉さまを見ている》
提督『ビスマルク!!』
プリンツ《私は、存在しない。だったら……私は、何処にいるの……?私は、誰なの……?》
プリンツ《もし、お姉さまが帰ってきたら……私はどうなるの?アトミラールはどうするの?私は……》
~
プリンツ「っ!!」
プリンツ(駄目だ!!変なことを考えるな!!これが私にできる最善だ!!こいつの言うことに耳を貸してはいけない!!)
プリンツ「貴方に何が分かるというのですか!?知ったような口を利かないでください!!それとも、何かいいアイデアがあるんですか!?」
友「それはっ……!!」
プリンツ「Na, toll! 凄いですね、他にいいアイデアがないけどそれはダメですか?じゃあ何もせずにアトミラールを放っておけと?」
友「違う……!!俺があいつと可能な限り一緒にいる!! 近くで支えてやる!!」
プリンツ「あなたがですか!?どうやって!?少将がアトミラールと一緒にいる!?無理に決まっているでしょう!!」
友「なら……俺があいつの副官になってやる!! それなら一緒にいられる!!」
プリンツ「アトミラールのために自分の軍歴を棒に振るつもりですか!?」
友「……ああ、俺はその覚悟だ。あいつがあんな状態なら、俺の人生は色あせちまう。何ができるか分からないが、でもこんなのは嫌だ」
プリンツ「……そこまで、アトミラールのことを思っているんですか?」
友「お前にだっているだろう? 自分のことのように大切な大親友ってのは。俺とあいつはガキの頃に仲良くなってからずっと一緒だった」
友「あいつは、もし俺が助けを必要としていたら自分のことを構わず俺を助ける。そして、俺もまたあいつのためなら、自分の軍歴やらなんやらぐらいどうでもいいんだよ」
プリンツ「……あの人の心はいつまでもビスマルク姉さまのもとにあるんです。あの人が愛し、あの人が助けを求めるのはビスマルクお姉さまなんです」
友「なら、お前がビスマルクになると? 本当にそれでいいのか?」
プリンツ「いいわけ、ないじゃないですか! 私を見てほしいに決まってるじゃないですか!」
プリンツ「……私は、私はアトミラールが好きです。あの人を助けたい、支えてあげたい!でも……私じゃダメなんです……私じゃ……」ウルッ
プリンツ「もう……私じゃどうしていいかわからないんです……お姉さまもどこへ消えたのか分からないし……」ポロポロ
友「……あいつの時間はあの時から止まっている、氷のようにな。それを解かすことができるのは、人の温もりか、怒りの業火だけだ」
友「……俺は目が覚めたぜ。あいつが無理してるのに気がつかないなんて……俺が、怒りを担当してやる。だからお前が温もりを担当しろ」
プリンツ「……どうするつもりなんですか?」
友「俺の大親友に手を出したことを後悔させてやるさ。あいつから聞いた話じゃ、ビスマルクは洗脳されたみたいじゃないか」
友「調教だとか反吐が出る。しかし、ストックホルム症候群ってのがあるようにまあ実在するんだろうな」
友「簡単に洗脳されるような、頭のねじが数本とんでるクソビッチの方も問題だ。だが、どちらにせよあのクソ野郎はたとえ法律が裁けなくても俺が裁く」
プリンツ「まさか……」
友「乗り込んでやるさ、あいつらの所に。痛めつけられるだけ痛めつけたうえで、あのクソ野郎をぶっ殺してやる」
プリンツ「っ……!! 人を殺すんですか……?貴方のすべてが終わりますよ!?」
友「気にするものか。罪だというか? それもそうだろうな。俺も普通に暮らしていくうえで法律は守るべきだと思う。だがな」
友「その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!」
友「そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうと生きているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!」
プリンツ「大切なものを傷つけて守らないなら、守る義理はない…… 黙って見てるなんて、耐えられない……」
提督「ただいま、何を騒いでいるんだ?警備員がやってくるぞ」
友&プリンツ「「!?」」
提督「って、どうしたんだ!?……泣いていたのか?」
プリンツ「ちょっと目にゴミが入って……大丈夫よ。友とコーヒーか紅茶かで議論になって。つい、ね……」
友「あ、ああ、そうなんだ……貴様だって紅茶の方がいいよな?」
プリンツ「コーヒーに決まってるわよね?」
提督「そうだな、気分によるが……決められないな。それより、ほら、ドクペだ」
友「おお、ありがたい」
提督「さて、そろそろ行かなくてはと言いたいところなのだが、もう一度トイレに行ってくる。少し緊張しているみたいでな、ははっ」
プリンツ「大丈夫?」
友「貴様のことだ、どうせうまくやる。胸を張れよ、親友」
提督「ああ、ありがとう。……貴様が俺の親友で良かったよ」
友「どうした、いきなり。らしくなく緊張しているな?お前がそうなるのは珍s」
飛龍「友ー!!遅いよ!!話長すぎ!!」
友「飛龍!?すまない!!……悪いが、先に行かせてもらうぞ」
提督「ああ、また向こうでな。先に車まで行ってるか?ここらは人混みが凄いだろう」
プリンツ「何を言っているのよ。待ってるから早くしてね」
提督「分かった、ありがとう」
~
提督「待たせたな」
プリンツ「ん、行きましょう」
提督「ああ」
~
提督「都会に高速道路、東京って感じだ。本当に久しぶりだな……おっフェラーリ」
プリンツ「嘘、どれどれ?」スッ
提督「おい、危ないからちゃんと座ってろ」
プリンツ「いいじゃない。……あ、良い匂い。ガム食べてるの?」
提督「ああ、まあな」
プリンツ「私にも頂戴」
提督「悪いが、さっきのが最後の一個なんだ」
プリンツ「ああ、そう……残念」
提督「!とうとう来たな……総司令部だ」
プリンツ「……緊張しているの?」
提督「それはな。まあ、当たり前だろう」
プリンツ「……ん」ギュッ
提督「!!」
プリンツ「大丈夫よ、アトミラール。私がついてるからね」ナデナデ
提督「……助かる」
プリンツ「……」
~
提督「他にご質問が無ければ、私からは以上です」
元帥「よし、分かった。では、以上でい号作戦前の最終会議を終了する!中将、良い報告を待っているぞ」
提督「お任せください、元帥。必ずや期待に応えて見せましょう」
元帥「うむ!」
プリンツ(アトミラール!!良かった……!!)グッ
~
プリンツ(作戦会議も無事に終わり、会食を経て今は帰路についている。専用列車の窓から眺める空は、気味の悪い三日月だ)
プリンツ(友さんの言っていたこと、本気なのかな……?まさかそんなわけないと思うけど……)
プリンツ(『アトミラールの心をますます蝕んでいく』……そんな訳ない。それに、他にできることも思いつかない)
プリンツ(『私もまた緩やかに壊れていく』……それも違う。確かに思うことがない訳じゃないけど、私はそんなやわじゃない)
プリンツ(……ビスマルクお姉さまは、一体どうしてこんなことをしたのだろうか?未だに信じられない。信じたくない)
プリンツ(あのビスマルクお姉さまがこんなひどい裏切りを?しかも……あんな人と?冗談でしょ……連絡をとりたいけど、方法がない)
プリンツ(携帯はずっと電源が入っていない。"SNS"とかは、もともとやっていない。……そもそも、ビスマルクお姉さまはこれからどうするつもりなんだろう)
プリンツ(どっかに隠れてこそこそ暮らすのだろうか?日本とドイツのお尋ね者になって?)
プリンツ(それ以前に、定時連絡がないとすぐに問題になると分からなかったのだろうか?そんなわけないと思うけど……)
プリンツ(『作戦に関係しているから』と言って何とか誤魔化したけど、定時連絡がないのはいつまでも誤魔化せはしない)
プリンツ(……あ!いや、そういえばもっと不味いことになってるんだった……将校から呼び出しされた。おそらく、その件だろう)
プリンツ(まだアトミラールが正気だったとき、いざとなったら『提督からそう言われていた。何も知らなかった』と言えと言われたけど……)
プリンツ(……もう本当に訳が分からない。嫌だ。これ以上考えたくない。全部やめて引きこもりたい。全部夢だったらいいのに)
プリンツ(……そうだ、夢なんだ。だってビスマルクお姉さまがそんな事するわけないもの!……なんてね、意味のない事だよね)
プリンツ(とにかく、このままじゃまずい。何か考えなくちゃ。考えたくないけど、考えなくちゃ。何か打開策を……)
提督「これを食べてくれ。元気が出るぞ」
プリンツ「え?あ、HARIBO!!」パァッ
プリンツ(しかもハッピーコーラだ!!私が一番大好きな奴!!)
プリンツ「ん~おいしい!!ゴルトベーレンじゃなくてこっちを選ぶのはいいセンスね」
提督「Danke, 喜んでもらえて何よりだ。ジュースもあるぞ」
プリンツ「Super!!どうしたのよ、至れり尽くせりじゃない?」
提督「ああ、いろいろ助けてもらってるからな」
プリンツ「あら、それなら毎日こうしてもらわなくちゃ」
提督「そうするとありがたみがなくなるだろ?」
プリンツ「かもね、ふふっ」ニコッ
プリンツ(ずっとこうしていられればいいのに。……嫌なことを考えるのは、今は止めておこう。明日だ。明日から考える。そうしよう)
~
プリンツ(あれから数日、私は未だに何の策も考えられていない。だというのに将校と会う日だ)
プリンツ(こうなったら、作戦に関わるから言えないと強引に押し通そう。それで時間を稼ぐ)
プリンツ(そうして次の時までにいい案を考えておく。それしかない。大丈夫、きっとうまくいく)
プリンツ「……それにしても、遅いな。確か待ち合わせはこのスタバだったはずなんだけど」
「Prinz Eugen」
プリンツ「えっ?っ!?あ、貴女は……!!」
女「Guten Morgen. Ich habe dich so lange nicht gesehen. (おはよう、久しく君とは会っていなかったな)」
プリンツ「なんで……大佐はどうしたんですか……!?」
女「……一応、日本語も話せるようになったんだ。元気だよ。それにしても、よく私が昇進したことを知っているな?」
女「親友が私を気にかけてくれていたようでうれしいよ。君のほうは最近どうなんだい?」ニコッ
プリンツ「ふざけないで!!誰が親友だ!?私が聞いているのはKapitän Schneider(シュナイダー大佐)のことだ!!」
女「ああ、そういう意味か。やはり経験不足だな……周りは日本人だらけだし、いろいろと良くないからドイツ語で話そうか」
プリンツ「Wo ist Herr Kapitän!? (大佐はどこにいるんですか!?)」
女「Ach, 彼は本国へ帰還したよ。これからは私が連絡将校になる」
プリンツ「何ですって……!?貴女のような人格破綻者が……!?」ガーン
女「そんな顔をするな。さすがに傷つくぞ……」
プリンツ「マッドサイエンティストに人体実験の検体にされそうになれば、私の気持ちが分かりますよ。大佐」
女「大佐じゃなくてメンゲレと呼んでくれ。マッドサイエンティストのつもりはないんだがなぁ……」
プリンツ「人を泥酔させて人体実験をしようとした方の言葉とは思えませんね、大佐?」ジロッ
メンゲレ「……なら、せめてドクトルと呼んでくれ。あれは悪かったよ。私も、君が酔ってないときに頼むべきだったと後悔している」
メンゲレ「だが気になって仕方がなかったんだ。君が艦娘になれて、私がなれなかった理由がね」
プリンツ「……それで、ドクトルが一体何の御用ですか?定時連絡はまだ先ですけど」
メンゲレ「着任を君と祝いたくてね」
プリンツ「おめでとうございます、ドクトル。では失礼しますね」
メンゲレ「まあ待て、本題が終わったところで早速ガールズトークをしようじゃないか」
プリンツ「お断りします」
メンゲレ「ビスマルクについてだ」
プリンツ「……何ですか?」
メンゲレ「単刀直入に聞くぞ。どこまで知っている?」
プリンツ「……作戦に関わるから言えません」
メンゲレ「本当に?彼女は作戦に参加するのか?」
プリンツ「言えません」
メンゲレ「……プリンツ、君は彼女が何をしたのか知っているのか?」
プリンツ「何のことですか?」
メンゲレ「私が着任したのは二種間ほど前、ちょうど君がビスマルクは作戦の為に現在連絡できないと大佐に報告した翌日だった」
メンゲレ「かなり急なことだったよ。それこそ、君たちに前もって連絡することができないぐらいにね」
プリンツ「何が言いたいんですか?」
メンゲレ「そしてその着任当日に、ビスマルクからいわゆる『良心的兵役拒否』を希望された」
プリンツ「!!??」ビクッ
メンゲレ「……まあ、そういうことだ。だから彼女に関してはもう心配する必要はないとだけ伝えておくよ」ジッ
プリンツ「そう、ですか……」
メンゲレ「……これを飲むといい。なに、ヘンなものは入れてないし、口をつけてはいないよ」
プリンツ「……Danke」
メンゲレ「さて、それでは私は戻るとする。今度の作戦は君も出撃だろう?頑張ってくれ。ではな」スタスタスタ
プリンツ「はい、ありがとうございます……」
プリンツ(……それが貴女の選択なのですか、ビスマルクお姉さま。本当に……本当に……どうして……なんで……)
プリンツ「……」
プリンツ「……」ユラッ フラフラフラフラ
メンゲレ「……」ジッ
メンゲレ「……」クルッ スタスタスタ
~
プリンツ(それから、私は抜け殻のようになった。張りつめていた気持ちも、空気が抜けたようだった)
プリンツ(ここ数日、ただ機械のように生きている。何の目標も喜びも見いだせない、灰色の日々。私は、壊れてしまったのだろうか?)
プリンツ(久しぶりに感じる追い詰められていないという感覚。これは、安心……いや、諦観というべきだろう)
プリンツ(たぶんそうだ。こんなものが安心であってほしくない。穏やかだが、最悪な気分)
~
ピピピピ ピピピピ
プリンツ「……」バンッ
プリンツ「……朝」ヌッ
~
プリンツ(確定したと言える。正式に良心的兵役拒否を希望したんだ……しかも、どうやら通りそうな雰囲気だ……)
プリンツ「……」ユラユラ
愛宕「あら、……おはよう、オイゲン」
プリンツ「……おはよう、愛宕」ボー
愛宕「ちょっと。大丈夫なの?すごい体調悪そうよ」
プリンツ「平気。じゃあ私、秘書艦の仕事があるから」
愛宕「ええ。……本当に大丈夫かしら」
~
プリンツ(ビスマルクお姉さまはもう戻ってこない。……そうだ、もう戻ってこないんだ)
提督「すまないが、この書類を纏めておいてくれ」
プリンツ「ええ、任せて」
提督「ありがとう」
~
プリンツ(アトミラールはどうなるんだろう?ずっとこのまま?そんなの嫌……)
提督「そろそろ昼休みだ。食事に行ってこい」
プリンツ「分かったわ。……貴方はどうするの?」
提督「忙しいからここで軽く済ませるよ。君はちゃんと休んでくれ」
プリンツ「そう……じゃあ失礼するわね」
~
プリンツ(もう嫌だ。何も考えたくない。吐きそうだ。気持ち悪い、気持ち悪い……)
プリンツ「……砂みたい」モグモグ
武蔵「提督、良くなったのか?変なことを言わなくなったそうじゃないか」
大和「そうね……」ボー
武蔵「そういえば、最近あいつは読書を始めたらしいぞ?暇があれば何かの本を読んでいる」
大和「そうね……」ボー
武蔵「……いい加減、立ち直ったらどうだ?一時的な配置転換という話だろう」
大和「……それでも、離れることには変わらないじゃない。提督は私を選んでくれなかった……」
大和「どうして私が東部戦線送りなの……提督の下で戦いたかった……」
武蔵「東部は少ない兵力で敵を引き付けなくてはならないからな。私達は提督に信頼されているんだ。誇りに思おうじゃないか」
大和「……それでも、好きな人と一緒にいたいのが乙女心なの!!」
プリンツ(なんて平和な悩みなんだろう。本当にうらやましい。そんなくだらないことで悩んでいられるなんて)
プリンツ「……ごちそうさま」
~
プリンツ「アトミラール、今戻ったわ」
提督「ああ、お帰り。じゃあ午後の仕事を始めるか」パタン
プリンツ「何を読んでたの?」
提督「アガサ・クリスティだ」
プリンツ「へえ、そう」
提督「そうだ。早速だが、この敵の戦力評価を纏めておいてくれ」
プリンツ「ん」
~
提督「よし、今日は終わりだ。お疲れ様」
プリンツ「お疲れ。じゃあ、私は帰るわね」
提督「ああ、じゃあな……ありがとう!」
プリンツ「……」テヲヒラヒラ
~
プリンツ(部屋に戻って、夕食と入浴を済ませる。いつもやっていた音楽を聴きながらのストレッチも、やる気がしない)
プリンツ(歯を磨き、寝支度を済ます。暗闇の中、ベッドに入る。分からない先のことを、考える)
プリンツ(アトミラール……私は……)
プリンツ(……決めた。私は……プリンツ・オイゲンは死ぬ。私がビスマルクとしてアトミラールと生きる)
プリンツ(良い事だよね。諦めなくちゃいけないはずだった好きな人と、一緒にいることができるんだもの)
プリンツ(私が割り切れさえすればきっと全部うまくいくから……だから……)
プリンツ「うぅ……ぐすっ……ひっく……」
プリンツ(今日だけは、泣きたい)
~
ザー ゴロゴロゴロ……
ピピピピ ピピピピ
プリンツ「……」パチッ ピッ
プリンツ「……おはよう、ビスマルク。今日もいい天気ね」
~
瑞鶴「意味わかんないよ!!どういうことなの!?」
翔鶴「落ち着きなさい!!瑞鶴!!」
大和「何を知っているんですか?赤城さん。事と次第によっては……!!」ギリッ
加賀「させません。身の程を弁えなさい、大和。誰に向かって口を聞いているの……?」メホソメ
武蔵「止めろ!!大和!!冷静になれ!!」
大鳳「加賀先輩、駄目!!抑えてください!!」
プリンツ「……おはよ、どうしたの?」
高雄「ああ、オイゲン。おはよう」
愛宕「おはよう。それがぁ……」
赤城「気を付け!!」
「「「「!!」」」」
赤城「皆さん、状況が分からないのは私も一緒です。ですが、とりあえずやるべきことはやらなくてはなりません」
赤城「どうやら、光栄なことに提督は私をひとまずの指揮官に任命したようです」
赤城「よって私には提督が戻られるまでの間、皆さんの指揮を執る義務と権限があります」
赤城「……ここで問題を起こしては、提督は処分を免れないでしょう。提督がいきなりいなくなったことにも、きっと理由があります」
赤城「今は提督を信じて、各自の義務を果たしなさい。力を合わせてこの難局を乗り切るのです。いいですね?」
「「「「了解」」」」
加賀「……分かったのなら返事をしなさい、大和」
大和「っ!!」
赤城「止めなさい、加賀!!大和、あなたが不満に感じるのも致し方ありません。ですが、どうか堪えてもらえませんか?」
大和「……了解です。赤城さんに従います。……すいませんでした」
赤城「とんでもない!ありがとうございます。どうぞよろしくお願いしますね」
プリンツ「提督がいなくなったの……!?」
愛宕「私が戻るまではぁすべての指揮権を赤城に移譲するって置手紙とぉ、指揮書を残してね」
高雄「何故いなくなったのか、何処へ行ったのか、何時戻るのか、誰にも伝えずにね。ってオイゲン!」
赤城「オイゲンさん」
プリンツ「赤城さん、おはようございます……どういうことなんですか……!?」
赤城「話は聞いているわね?私が知っていることもそれ以上のことはありません」
赤城「ですが、貴女なら何か知っていると思ったのですけど……知らないようですね」
プリンツ「はい……」
赤城「では、とりあえずプリンツさんには私の補佐をお願いします。たぶん私よりも詳しいでしょうから」
プリンツ「わ、分かりました……」
プリンツ(アトミラール……アトミラールまで……!!いったいどこに消えちゃったの!?意味わかんないよ!!)
~
赤城「もうこんな時間……ちょっとかかりすぎましたね。お昼休憩にしましょうか」
プリンツ「そうですね。あ」Was ich sah auf meiner Reise♪
赤城「電話ですか?構いませんよ。出てください。私は先に食堂へ行ってますね」
プリンツ「ありがとうございます。……青葉から?もしもし?」
青葉『あ~プリンツさん?お久しぶりですぅ』
プリンツ「ええ、久しぶり。どうしたの?」
青葉『それがですねぇ、何でもウチの提督がお話ししたいってあぁ!!ちょっ!?』
友『……プリンツ・オイゲンか!?』
プリンツ「友さん、そうです。もしかして提督について何か話が……!?」
友『そうだ!!あいつは今どこにいる!?』
プリンツ「それが、どこかへ行ってしまって居ないんです……」
友『くっ!!遅かったか……!!』
~
SS兵士「連絡です」スッ
メンゲレ「ご苦労。……」カサカサッ ジッ
メンゲレ「……『ブランデンブルク』に出撃命令を。発砲、及び交戦を許可する。必要な手段を躊躇うな。ただし、我々の仕業という証拠は残すなよ」
SS兵士「了解しました、大佐殿」
メンゲレ「さて、我々も行くとするか……」
~
ビスマルク「……綺麗な満月。さっきまでの嵐が嘘みたい」
男「何か言った?」
ビスマルク「月が綺麗って言ったのよ。まん丸で、とても大きい」
男「へえ。月が綺麗ってのは、日本じゃあなたを愛しているって意味もあるんだ」
ビスマルク「そうなの?ロマンティックね」
男「だろう。それにしても、随分とおおきくなったね」
ビスマルク「ふふっ、あ、今動いたわ」
男「いいねぇ。けど、僕としてはこっちの方が嬉しいけど」モミッ
ビスマルク「あん、もう……これは赤ちゃんのものよ」
男「安心しなよ。飲んだ分、こっちからミルクを補給してあげるから」ナデッ
ビスマルク「あっ……」
ガチャリッ ガチャン
男「え……!?」
ビスマルク「……!!」
ビスマルク(……とうとうこの時が来たか。どうやったのか知らないけど、住人がいるのに堂々と鍵を開けて入ってくるなんて)
ビスマルク(そんな事するのは何処の誰か、考えるまでもないわ。どうにかならないかと思ったけど、やっぱりこうなるわよね。覚悟は、できてる)
カツカツカツ
ビスマルク(この足音、一人だけ?まあ私を消すのに部隊を動かすまでもないということかしら)
男「な……だ……ど……」ブルブルブル
ビスマルク「……」チラッ
ビスマルク(せめて、この人だけでも守らないと……この命に代えても……)
カツカツカツ ピタッ
ビスマルク「……誰かしら?」
提督「……久しぶり、というべきか」
男「!?」
ビスマルク「!!??」
提督「……」ガチャッ
ビスマルク「アト……ミラール……!!」
提督「ビスマルク、壮健そうで何よりだ」ニコッ
ビスマルク「……っ!!それはどうも。けど何のつもりなの?いきなりドアを開けて入ってくるなんて」ハッ ギロリ
男「ふ、不法侵入だぞ……!!」
ビスマルク「そうよ。しかるべき礼をもって来るのであれば、客人として迎える。けれど、今の貴方はただの犯罪者よ?……失望したわ」
提督「奇遇だな、俺も君には失望していたんだ。何をされていたのか知らんが、性欲に負けてしまうとは」
ビスマルク「……あなたが私を満足させてくれなかったのがいけないんでしょ?男としての甲斐性で勝てないからって次は暴力でねじ伏せるのかしら?」
提督「……かもな。あまり経験がなかったんだ。あいつとは……前の妻とは互いに愛し合うだけで十分で、性技を鍛えたことなんてなかった。それに関しては、すまなかった」
ビスマルク「……謝罪に来たわけ?じゃあ許してあげるから帰って。もう二度と私たちの前に現れないで!!」
提督「ふっ……ははははっ……はははははは!!謝罪に来ただって?何を言うかと思えば……!!笑わせてくれる」
ビスマルク「……!!」ゴクリ
提督「教えてあげるよ、ビスマルク。俺が、なんのためにここに来たのかを」
ビスマルク「……復讐しに来たわけ?」
提督「いや……俺は、お前の悪夢を終わらせに来たんだよ」
~
提督『まったく。ってそうだ、すまないが飲み物を買いに行ってくる。喉が渇いてな。すぐに済むから待っていてくれ』
プリンツ『……そう、分かったわ』
友『ああ……すまないが、俺もドクペが欲しいから買ってきてくれ』
提督『ドクペ!?ここらで売ってるのか……?』
友『向こうの売店に行けばあるかもしれん。貴様の分も奢るから頼む』
提督『了解』スタスタ
提督《そういえば、あいつはドクペやらルートビアやらよくわからんものが好きだったな。売ってるといいのだが……ん?》
提督『おお……!!』
提督《なんとまあ!!ここの自販機はドクペがあるのか!!優秀な奴だ。俺は……ジンジャーエールにでもしておこうか》
提督《……よし、じゃあ戻るか》
プリンツ『貴方に何が分かるというのですか!?知ったような口を利かないでください!!それとも、何かいいアイデアがあるんですか!?』
提督『!?ビスマルク……?一体何を怒鳴っているんだ……!?』
友『それはっ……!!』
プリンツ『Na, toll! 凄いですね、他にいいアイデアがないけどそれはダメですか?じゃあ何もせずにアトミラールを放っておけと?』
友『違う……!!俺があいつと可能な限り一緒にいる!! 近くで支えてやる!!』
提督『!!??な、何の話をしているんだ……あいつらは……!?』
~
プリンツ『もう……私じゃどうしていいかわからないんです……お姉さまもどこへ消えたのか分からないし……』ポロポロ
友『……あいつの時間はあの時から止まっている、氷のようにな。それを解かすことができるのは、人の温もりか、怒りの業火だけだ』
提督『……』
提督《思い……出した……》
~
ジリリリリ ジリリリリ
提督【……】ガチャッ
友【もしもし、提督か?俺だ、友だ。明後日からの作戦について最終確認したいのだが】
提督【……友か】カスレゴエ
友【!?おい、どうしたんだ!?大丈夫か!!】
提督【ああ。それで、どうしたんだ】
友【馬鹿!!貴様、明らかに様子がおかしいぞ!?どうしたんだ!!】
提督【友……実は、な……】
~
友【馬鹿な……その、大丈夫か?】
提督【ああ。話して、少し楽になった。そんな事よりあ号作戦だ。何を確認したいんだ?】
友【あ、ああ。そうだな。俺たちの担当箇所なんだが……】
~
プリンツ【いえ、大丈夫です。ビスマルクお姉さまから定時連絡がないと本国から連絡が来たのですが……】
提督【っ!!……そうか。君には話さなくてはならなっ、おえぇぇ……!!】ゲボッ
プリンツ【アトミラール!?大丈夫ですか!?】
提督【ぐっ……すまない、大丈夫だ……プリンツ、これからいうことには緘口令を敷く。いいな?】
プリンツ【J,Ja……】
~
プリンツ【……つまり、ビスマルクお姉さまは、あの整備兵と浮気……„ Seitensprung“したんですか……?お腹の子も、その人の……?】
提督【……そうだ】
プリンツ【……!!】
提督【すまないが、この件に関してはドイツ側に黙っていてほしい。こんなことを報告したら……まずいことになるだろう?】
プリンツ【……っ!!わ、分かりました】
提督【すまない、ありがとう】
プリンツ【アトミラール……】
~
プリンツ【アトミラール、失礼しますね】
提督【ああ、……ビスマルク?ビスマルクか。どうした、そんなにかしこまって】
プリンツ【!?】
提督【すまないな、心配をかけた。すぐに退院できるよ】
プリンツ【アトミラール……?】
提督【ん?何だ、ビスマルク】
プリンツ【……いえ、何でもないわ、アトミラール】
~
友『気にするものか。罪だというか? それもそうだろうな。俺も普通に暮らしていくうえで法律は守るべきだと思う。だがな』
友『その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!』
友『そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうとしているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!』
提督《俺は……なんて馬鹿なことを……いくらあんなことがあったと言え、こんな状態になってしまったなんて》
提督《プリンツをビスマルクと認識するなんてひどい扱いをして、苦労を掛けたうえに泣かせ、大親友にあんなことを言わせてしまった……》
提督《自分が情けない……だが、それでも耐えがたい苦痛、絶望が俺を蝕む。ビスマルクは……クソッ、どうして……どこで俺は間違えたんだ……》
~
友【調教だとか反吐が出る。しかし、ストックホルム症候群ってのがあるようにまあ実在するんだろうな】
~
提督《っ!!ストックホルム症候群……!!……確か、被害者が極限状態で犯人と過ごすうちに、過度の好意を抱くことだ》
提督《……うぷっ!!》
~
ビスマルク【提督ぅ。愛してるわ…本当よ?でも、あなたとのセックス少しも気持ちよくなかった】
ビスマルク【ううん、苦痛だったの。ほら…私のここ提督の時と全然違うでしょ?】
~
提督《っ……!!……堪えろっ!!よく思い出してみろ、あの時のビスマルクの顔を!!》
提督《俺など眼中になかったか?違う!!俺を嘲笑していた?違う!!快楽に蕩けていた?それも違う!!》
提督《……とても、とても悲しそうな、何かをやらかしてしまって、どうすればわからないって顔だったろうが!!涙を、流していただろうがっ!!》
提督《俺は……あの時、ショックで動けなかった……だが、俺は……今なら……!!》
提督《時間が経っている?だが、行動しなくては後悔してもしきれない!!遅すぎるなど言っていては、何もできん!!》
提督《それに、あんなことは普通じゃない。これはビスマルクにとっても悪い夢だ……だから俺は!!》
提督『……』チラッ
提督《……二人には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。今すぐに正気に戻ったことを伝えたい》
提督《だが、そうなればあの二人に隠れて行動することは難しくなる》
提督《まだ何とも言えないが、場合によっては俺は……自分のすべてを犠牲にしても……》
提督《そうなれば、巻き込むわけにはいかない。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない》
提督《心は痛むが、ここはまだ隠しておく。打ち明けるのはいつでもできる。……すまない、二人とも》
提督『……ただいま、何を騒いでいるんだ?警備員がやってくるぞ?』
~
提督《……耐えられると思ったが、無理だった》
提督『さて、そろそろ行かなくてはと言いたいところなのだが、もう一度トイレに行ってくる。少し緊張しているみたいでな、ははっ』ダラダラ
プリンツ『大丈夫?』
~
提督『おえぇぇ……げぇぇ……っ!!はぁ~……はぁ~……』
提督《何とか治まったか。とりあえず、匂いでバレたらまずい。口を濯いで、ブレスケアを買って噛んでおこう》
提督『……』
提督『絶対に負けるものか、やってやる……!!』ボソリ
~
提督『……』ペラ ペラ
武蔵『提督、失礼するぞ』
提督『武蔵か、入れ。どうしたんだ?』パタン
武蔵『次回の作戦、東部方面の戦力はあれでいいのか?』
提督『まわせる最大限の戦力をまわした。何か意見があるか?』
武蔵『航空母艦が二航戦のみということに疑問がある。……制空権の確保は出来るのか?』
提督『基地航空隊も頑張ってくれるはずだ。船団護衛や西部戦線、北部戦線のことも考えるとな……残念だが、これ以上は無理だ』
武蔵『そうか……分かった』
提督『安心しろ。十分制空権を確保できるはずだ。それに、君たちの対空戦闘能力も強化されている』
武蔵『提督……そうだな、この武蔵の力を見せてやろう。決して蚊トンボごときに負けはしない!』
提督『期待しているぞ。俺は貴様と大和ならやってくれると信じている』
武蔵『ああ、任せてもらおうか!ところで、本を読むのだな、貴様は。』
提督『ああ、最近の趣味だ』
武蔵『そうか。何を読んでいるんだ?』
提督『……アガサ・クリスティだよ。好きなんだ。そして誰もいなくなったとかな』
武蔵『そうか。よければ今度貸してくれ。私も読んでみたい』
提督『ああ』
武蔵『ありがたい。では、失礼するぞ』
提督『うむ……』スッ ペラ ペラ
提督《……上官がストックホルム症候群やらなんやらの本を読んでいたら心配させてしまうからな。すまん、武蔵。嘘を吐いた》
提督《アガサ・クリスティか。子供の頃はあの不気味な感じが好きだったんだ。落ち着いたらまた読んでみるか》
~
提督《調べた結果、ストックホルム症候群のようなものの根本的治療には、本人が自分でおかしいことに気がつかなくてはならないようだ》
提督《ビスマルクは、整備と称して調教されていたらしいが……自分が何をされてああなったのかを思い出させるのがよさそうだな》
提督《それに、帰る場所があると思えることが救いになると。心当たりは、ある。泣いていたのはもう帰れないと思ったからじゃないか?》
提督《だからアレに依存するしかないと考えたのだろう。あの時、ビスマルクが頼れたのはアレだけだったのだ》
提督《また、治療にあたっては環境を変えるのが一番いいらしい。だが、これは難しいな……》
提督《おそらく、ビスマルクのことだから意志は強いはずだ。説得に成功させないと、アレから離れようとしないだろう》
提督《状況を考えるに、チャンスは一度だけだ。そこで決めなくては……いや、決めるんだ。やってやるさ》
提督《……ビスマルクの、惚れた女のためだからな》
~
提督(そうだ、やってやる!!俺にならできる!!自分と、そしてビスマルクを信じろ!!)
提督(つい失望したとか言ってしまったが、気にするな!!諦めたらそこで試合終了だ!!)
ビスマルク「私の悪夢を終わらせに来た?意味が分からないわね」
提督「言葉の通りだ。お前は今、悪夢を見ている」
ビスマルク「まあ、そうね。ストーカー化した元夫が家に乗り込んできて、何をされるか分からないなんて悪夢ね」
提督「……安心しろ。暴力を振るいはしない」
ビスマルク「どうかしら?」
提督「俺の名誉にかけて誓おう。……そして、悪夢ってのはもちろんそれじゃない。君自身、本当は気がついているんじゃないか?」
ビスマルク「本当に意味がわからないわよ。貴方こそ、悪夢を見てるのじゃないのかしら?いい加減目を覚ましなさい」
ビスマルク「私は、貴方とはもう離婚するの。そしてこの人と一緒になるんだから。いつまでも昔のことを引きずっていないで!!」
ビスマルク「!そうよ、丁度いい機会だわ。そこに離婚届がしまってあるの。それにサインして、早く帰ってもらえるかしら」
提督「断る」
ビスマルク「なら、裁判かしら?日本では」
提督「それも断る。どうして愛し合っている二人が離婚などしなくてはならない?」
ビスマルク「愛し合ってないから離婚するのよ!!私が愛しているのは」
提督「そいつだというのか!?」
ビスマルク「っ!?そうよ!!この人を愛しているの!!もうすぐ私たちは親になるわ。だかr」
提督「本当に愛しているのか!?心から!?心からそう言えるのか!?」
ビスマルク「っ!!言えるわよ!!」
提督「どうかな!?思い出してみろ、ビスマルク!!初めて俺の艦隊に配属された時を!!あの時、お前が好きだったのは誰だ!?」
ビスマルク「っ!!それは……」
提督「……お前が手料理を披露したのは誰だった?一緒に祭りへ行ったのは誰だった?」
ビスマルク「……」
提督「……俺だったろう?ビスマルク。そいつじゃない。この俺だ」
ビスマルク「……」
提督「……違うか?」
ビスマルク「違わないけど、でも……」
提督「難しい事を考えるな。俺は今、自分のすべてを取り繕わずさらけ出している。だから、……惨めにもここでこうしている」
提督「だからお前も自分に素直になってくれ。お前の気持ちが何なのか、自分自身でもう一度考えてみろ」
ビスマルク「……」
提督「……今のことは聞いていない。あの時だ。あの時、お前が好きだったのは俺だった。……そうだな?」
ビスマルク「……あの時はね」
提督「そうか……!!では次にいこうか。俺たちはその後、結婚したな?」
ビスマルク「……」コクッ
提督「なぜだ?ビスマルク。どうして結婚した?」
ビスマルク「そ、それ……は……」フルフルフル
提督「俺は君が好きで、愛していたからだ。だから結婚を申し込んだ」
ビスマルク「!!」
提督「君は何故、俺のプロポーズを受けた?それは、君が俺を愛していたからじゃないのか?君が俺を好きだったから、だから受けたんじゃないのか?」
ビスマルク「ぁ……」
提督「俺はよく覚えている。君のウエディングドレス姿、美しかった。君は、笑っていたよな?」
ビスマルク「っ!!」
提督「なぜなんだ……どうして笑った……?」
ビスマルク「わ、分からないわ……あっ!?いや、そんなの、愛想……笑い……」
提督「……本当にそうなのか?」
ビスマルク「……」ギュッ
提督(ビスマルクは、自分を抱きしめるように己の肩を掻き抱く。先ほどまで俺を敵意のこもった瞳で睨み付けていた視線は、床に落ちている)
提督「俺は、嬉しかった。幸せな気分だった。だから俺は笑ったんだ。君は違ったのか?」
ビスマルク「私は……」
提督「……教えてくれ、ビスマルク」
ビスマルク「……」ブルブルブル
提督「……そうか、なら、いい」
ビスマルク「!」ハッ
提督「その後、君は俺の元から去ったな」
ビスマルク「っ!!」ビクッ
提督「君は、あの日医務室でそいつとセックスしていた」
ビスマルク「あ……ぅ……」
提督「そして俺じゃ満足できないと、お腹の子供も俺との子じゃないと言っていた」
ビスマルク「……!!」
提督「そう言ったんだ、君は。よもや、忘れたわけじゃあるまいな?」
ビスマルク「わ、私は……ええ……そ、そう言ったわ……私は……」
提督「もしそうであれば、君はいつから不貞を働いていたんだ?」
ビスマルク「ふ、不貞……」
提督「そうだ、不貞だ。俺たちが結婚する以前から、君はそいつのほうが良いと言って、そいつと愛し合っていたのか?」
ビスマルク「違っ!!っ!?……わ、私は?今、何を……?」
提督「……思い出せ、ビスマルク。そいつに何をされた?」
ビスマルク「……」サッ
提督(両手を口元に添えて、真っ青な顔で目を見開き、瞳を揺らしている。呼吸は荒く、明らかに動揺していた)
提督「思い返せ、君の気持ちを。思い出せ、あった出来事を。それを知っているのは君しかいない」
ビスマルク「……ずっとこの人を、……愛していたわ」カスレゴエ
提督「本当に?じゃあなぜ一度俺と結婚した」
ビスマルク「……」ガクガクガク
提督「あの日、お前は言ったな?私のセックスでは満足できず、苦痛だったと」
ビスマルク「っ!!」
提督「言ったな?」
ビスマルク「……ええ」
提督「だが、俺はよく覚えている。あの時の君の表情を。……なぜあんなに悲しそうな顔をしていた?」
ビスマルク「っ……!!」
提督「俺はよく覚えてる。あの時の君の言葉を。……俺を愛しているのは本当だと言ったな?」ニコッ
ビスマルク「!!!!」ハッ
提督「そいつは自分専用に調教したと言っていたが、何をされた?俺が知っている誇り高い戦艦ビスマルクから、いつ、何があって、どうしてそうなってしまった?」
ビスマルク「それ、……は……」
提督「あの時は腰を振ることに夢中でそれどころじゃなかったろうからな。だから、もう一度その冷静な頭で考えてみろ、思い返してみろ」
ビスマルク「あ……私……は……」
男「黙れぇ!!ビスマルク、そいつの言うことを聞くな!!」
ビスマルク「あなた……!!」
提督「!!ほう……女の後ろに隠れているばかりかと思っていたが。どうした、整備士?私は中将だぞ?敬語で話せ」
男「うるさい!!僕はもう整備士じゃない!!あんたの部下じゃないぞ!!不法侵入した挙句、人の妻を惑わすな!!」
提督「惑わしたのはどっちかな!?ビスマルクを騙して、嵌めるような真似をした奴に言われたくないわ!!」
男「うるさい!!お前みたいなやつは所詮、頭や顔だけだ!女を悦ばすことをできやしない!!」
提督「お前みたいに変態なわけじゃなかったんでな!!普通に愛し合うだけでいいよかったんだ!!」
男「っ!!ふん、その結果がこれだろ!!」グイッ
ビスマルク「きゃっ!」
男「ビスマルクが孕んだのは僕の子だ!!そしてビスマルクは僕の妻だ!!」ブチュッ
ビスマルク「んっふぅ……」チュゥゥゥゥ
提督「くっ……! そうして宣言していないと不安か?だろうな。俺からビスマルクを奪うときだって、まともにやったら勝ち目がなかったろうからな!!」
男「!!」
提督「だから卑劣な手段を取ったんだろ?お前が俺に勝てるのは性技くらいしかないから!!」
男「っ!!黙れぇぇぇぇ!!」ブン バキッ
提督「ぐっ!!」
ビスマルク「ちょ、止めて!!」
男「黙れ!!黙れ!!黙れ!!僕に嫁を!!寝取られた!!欠陥男のくせに!!」ドカ バキッ ドゴッ
提督「ぐっ!!がっ!!っ!!うっ!!はっ!!くぅっ!!」ドンッ
ビスマルク「止めてぇ!!あなた!!」
男「はぁ……はぁ……」
提督(クソッ……体がデカいだけあって、パワーが強いな……予想外だった)
提督「びす……まるく……すべて、まやかしだったんだ。お前はまだ、悪い夢に囚われている……!!もう自分でもわかっているだろう……?」
男「くそ!!くそ!!まだ言うのか!?黙れ!!」ゴスッ ドスッ
提督「っ!!……効かんな、雑魚め!!」ギロッ
ビスマルク「ワルイ……ユメ……」
男「っ!!くそっ!!」タッタッタッ
ビスマルク「私は……私、はぁ……!!」
~
男「提督……!!僕はお前みたいな野郎が大っ嫌いなんだ!!少し顔と頭がいいからって!!僕みたいな人間を見下している!!」
男「ビスマルクを取るつもりなら、もう容赦はしない!!殺してやる!!」カチリ ガラッ
男「ははっ!!こんなこともあろうかと用意しておいたんだ!!これさえあれば、あんな奴に負けはしない!!」チャキッ
~
提督「っ……ごほっ!!ごほっ!!がはっ!!」ゴボッ
ビスマルク「あ、アトミラール!!」サッ
提督「口が切れたかな……」
ビスマルク「そんな血の量じゃないわよ……!!窒息するから全部吐き出しなさい!!」スッ
提督(アレはどこかへ消え、残ったビスマルクが俺に駆け寄ってきた。倒れ伏す俺の上体を抱き起す)
提督(視界が若干おかしいが、久しぶりに近くからビスマルクと見つめあう)
提督(今にも泣きだしそうな表情、その一級品のサファイアのような瞳と目が会う。俺も泣きそうだった)
提督「そんな顔するな、大丈夫だ……ありがとう」
ビスマルク「アトミラール……私……私……」
提督「……もし俺が、見当違いなことを言っているのなら、申し訳がない」
提督「あいつとの結婚式の写真で、君は確かにこの上ない笑顔だった。たぶん俺とのときよりも」
提督「同封されていた手紙も、読んだ。君は、あるいは本当に幸せなのかもしれないと思った」
ビスマルク「……」
提督「もしそうなら、許されないことをした。だから、そうであるなら俺は消えるよ。君のことも、上へは俺からとりなす」
ビスマルク「!!」
提督「そして俺は二度と君の前に現れない。離婚届も書こう。そう誓う。だが……」
提督「だが、俺は君が見せたあの悲しそうな笑顔が忘れられなかった……!!もし君の魂が助けを欲しているのなら、俺はその助けになりたい」
ビスマルク「……私は、……貴方に、ほ、本当にっ……酷いことを……」ウルッ
提督「いいんだ。……俺の方こそ、気付いてやれなくてすまなかった。サインを送ってくれていたのに……」
ビスマルク「アトミラール……!!」ポロポロポロ
提督「今日、君と話して確信した。やはり君は助けを欲している。あの時のあれは、あいつにそうさせられていただけなんだ」
提督「俺は、今でも待っているんだ。だから、戻ってきてくれ。俺には君が必要だ。そして、きっと君にも俺が必要だろ?」
ビスマルク「アトミラール……ぐすっ……本当に、いいの……?わ、私は……貴方に、ひ、酷いことをして……穢されちゃったのよ……?」
提督「当たり前のことを聞くな。良いに決まってる」
ビスマルク「アトミラール……アトミラール……!!」
男「お前!!妻から離れろ!!」
ビスマルク「っ!? あなた!!何を持っているの!?本当にやめて!!」バッ
男「どけ、ビスマルク!!こいつは殺さないとダメだ!!」グイッ
ビスマルク「きゃぁ!」
提督「やめろ!!」グッ ガクガクガクガク
男「うるさぁい!!」チャキッ
提督「!!……トカレフ、いや、黒星か?銃刀法違反だぞ」
男「知るか、そんな事!!ここでお前を殺してやる!!」ギロリ
ビスマルク「止めてぇ!!」
バンッ
提督「ぐっ!?つぁああ……!!」ドンッ ズルズルズル
提督(肩を撃たれた……!!くっ……だが、致命的な所に当たらなかったことを嬉しく思わなくてはな……!!)
提督(わざとなのか、それとも単純にこいつが素人なのか……まあ、どっちでもいい……)
ビスマルク「いやああああ!!アトミラール!!」
男「……は……はははっ!!どうだ、提督!?やってやったぞ!?はははははは!!」
提督(……本来の目標は達成した、はずだ。だがこれは完全に想定外だ。迂闊だったな……こいつ、予想上の力どころか銃まで持っているとは)
提督「はぁ……はぁ……」
ビスマルク「もう止めて!!お願いだから!!」ポロポロポロ
男「黙ってろビスマルク!!お前は誰の味方なんだ!?」ハァー ハァー
提督(しかも極度の緊張状態にある。人を撃ったことのない新兵にありがちな、危険な状態だ)
提督(何かのはずみで、誰を撃っても……ビスマルクを撃ってもおかしくないぞ……クソッ!!)
ビスマルク「私は!!」
提督「っ!!おいどうした!?俺はまだ生きているぞ?臆病者」
ビスマルク「!!??」
男「な……なんて言ったお前!!」
提督「お前が撃ったのは肩だ。俺を殺すんじゃなかったのか?だったらもっと撃つべき場所があるだろう」
男「くっ……お前!!」チャキ ブルブルブル
ビスマルク「アトミラール!?何を言っているの!?止めて!!この人を刺激しないで!!」
提督「どうした、震えているぞ?この腰抜けめ。撃てよ!!」
提督(俺を撃てば落ち着くはずだ。どちらにせよ、ダメージで動けない俺にできるのは、これぐらいしかない)
ビスマルク「止めてって言ってるでしょ!!」
提督「黙ってろ!!」キッ
ビスマルク「っ!!」ビクッ
提督「……」ニコッ
提督[あ い し て る] パクパク
ビスマルク「!!!!」ハッ
男「う、うわああああ!!死ねぇええええ!!」
ビスマルク「っ!!止めてええええ!!」
ガシャーン
提督「!?」
ビスマルク「!!」
男「ええええっ!?」
ガッ カチッ カラン バンッ バキィ
男「」グシャァ
ビスマルク「……っ!!あ、貴女……?」
提督「……!!」
提督(そこに立っていたのは、全身がびっしょり濡れた、黒ずくめの、まるで死神のような少女だった)
提督(黒いロングブーツ、黒いソックス、黒いレインコート、黒いグローブ、……そして、黒いシュタールヘルム)
提督(左腕の紅い腕章を除けば、顔だけが黒に覆われていない箇所だった)
提督(月のように白い肌。日のように輝く金髪。そして、あのオーロラのように煌めく瞳)
提督(ヘルメットの縁から、髪の先から、ぽたりぽたりと滴が垂れている。こちらへ向き直り、じっと見つめてくる)
プリンツ「アトミラール……!!」
提督(背にした窓から覗く、地平線へ沈みゆく紅い月を背負ったプリンツが、俺を呼ぶ。それは、とても幻想的だった)
どうも、作者です
皆さん既にご察しかと思われますが、このSSは例の某ウ=ス異本でSAN値直葬されたことで書き始めました
なので、その物語が下地にあります
オススメなので、本当にオススメなので是非読んで欲しいのですが、
ちょっと特殊なジャンル故に某ウ=ス異本を読むのに抵抗のある方もいらっしゃると思います
また、完璧にそれから派生したわけではありません。例えば某PEちゃんですね
なので分かりずらいところがいくつかあります
よって、分かりやすくするためにこのSSの前日譚を簡単に解説させていただこうと思います
・某戦艦B(処女)は配属日?に某海軍軍人Tに一目ぼれする
・某戦艦BはキモデブSに整備と称してクン○やらなんやらを受ける
・某戦艦Bは嫌がるも、日本式整備(笑)と言われ不承不承、受け入れる
・が、やはり嫌なので某キモデブSを殴りとばして、整備を受けることを拒否
・で、某海軍軍人Tに手料理を振舞ったり一緒に浴衣で祭りに行ったりする
・しかし、やはり整備を受けないとちゃんと戦えないらしく、戦績が悪化
・某キモデブSの進言もあり、事情を知らない某海軍軍人Tは某戦艦Bに整備を受けることを命令する
・命令には従わなくてはならないので、泣く泣く某キモデブSの整備を受ける某戦艦B
・某戦艦Bは、「あんなのにイかされても、私は汚れてなんかいない(意訳)」と健気?に堪える
・が、某海軍軍人Tの前妻と子供(若い女性と赤子。ともに戦火?で死亡)の写真を見てしまい、絶望、自暴自棄に
・そして整備を受ける際に不貞寝しようとする
・そこで、某キモデブSに、「寝ているなら何をするか分からない。入れるぞ(意訳)」と言われる
・某戦艦Bは、それを聞いていたにもかかわらず抵抗しない(意味不明)
・入れる瞬間に某キモデブSに「今までの整備は全部嘘だった」と言われる
・某戦艦Bはそれを聞いて「なっ」っと驚き、飛び起きようとしたところで入れられる(処女喪失)
・何やかんやあって「ホントは某男性Tとしたかったけど、もう某キモデブSのモノになっちゃった(意訳)」と騎乗位で腰を振る某戦艦B
・中田氏され、妊娠する
・「この想いを終わらせなくちゃ」と某海軍軍人Tを覗き見ていたところ普通に見つかる
・まさかそんなことになっていると知らない某海軍軍人Tに「妻子が死亡しており、彼女たちのことを思うとなかなか踏み切れなかったがやっと決心した」とのことで告白される
・某戦艦Bは泣きながら「ワルイユメ」と零す
・その後、おそらく某キモデブSの子供を妊娠していることを確信しているのに、「悪いとは思うが、きっと忘れて幸せになれるから」(!?)とそれを黙って何も知らない某海軍軍人Tと結婚する某戦艦B(!!??)。曰く「お腹の子がどちらの子か考えないようにした」( Die blöde Sau)
・そんなことを知らない周りは祝福する。もちろんPEちゃんも
・その後も某海軍軍人Tとセックスするが、気持ちよくなれなず、某戦艦Bは某キモデブSが忘れられない様子
・仕方ないので一人で慰めるも、性欲はたまる一方
・ある日、妊婦検診を受けている最中、医者が席を外している間に某キモデブSが現れる
・たいした抵抗もせずに(心理と声だけ)犯される某戦艦B。曰く「嫌なはずなのに」「体が思い出しちゃった」
・異変を察した医者に呼ばれた某海軍軍人Tは、某キモデブSが某戦艦Bを犯している所を目撃する
・某キモデブSを殴り飛ばし、切り捨てようとしたところで某戦艦Bが止めに入る。曰く「このチン○なしじゃもう生きられない」
・ショックを受ける某海軍軍人Tに対して、某キモデブSに言うように言われた某戦艦Bは「貴方よりこの人の方がいい」と言う
・何やかんやでどうやら二人で無事逃げ果せた某キモデブSと某戦艦Bは某海軍軍人Tにタキシードとウェディングドレス姿のツーショット写真とやたら長そうな手紙を送る
・提督の精神に大ダメージ。曰く「ワルイユメ」
以上が前日譚です。その後、某海軍軍人Tは「あ号作戦」やらもあってストレス過多で精神崩壊してしまうって感じでこのSSにつながると考えてください。お願いします
私をSAN値直葬した全ての元凶たる某ウ=ス異本では、某PEちゃんの立ち位置が違うので気になる方はどうぞ読んでみてください
本当にオススメします。そしてみんなでCrazy9様にイチャラブ本を出して下さいとお願いしましょう
Crazy9様と読んで下さっている皆様に感謝を。よろしければ、どうぞ今しばらくお付き合いくださいませ
~
友『くっ!!遅かったか……!!』
プリンツ「待って!!切らないで!!私にも貴方の知っていることを教えて!!」
友『悪いがそんなことしている時間h』
プリンツ「少将!!……お願いです!!どうか教えてください……!!」
友『……七時までにこれからいう場所に来られれば教えてやる。いいな?』
プリンツ「っ!!Ja!!」
~
プリンツ(友さんが言っていた集合場所は、今から急いで行っても間に合うか間に合わないかぎりぎりな遠く離れた場所だった)
プリンツ(私は急いで部屋に戻り、支度をする。外は強い雨が降っていて、雷もなっている)
プリンツ(通常勤務用の短靴を脱いで、黒革のブーツに履き替える。クローゼットの中を探って、官給の黒いレインコートを引っ張り出す)
プリンツ(オートバイ兵用の奴で、脛まである裾を足に巻き付けられるタイプだ。財布やスマホを入れたポーチを方から掛け、レインコートを着た)
プリンツ(すぐにバイクに乗れるようあらかじめ足に裾を巻き付けておく。そしてゴーグルをつけて、黒く塗装されたシュタールヘルムを被った)
プリンツ(最後に、少し迷ったが、左腕に軍属であることを示す赤い腕章をつける。目立つが、これで扱いは緊急車両だ)
プリンツ(今の私は、見る人が見たら卒倒するだろう。が、幸いなことにここは日本だ。気にしないようにしよう)
プリンツ(バイクのキーを握りしめ、部屋を飛び出して駐車場へ走る。運よく誰にも見つからなかった)
プリンツ(そして相棒のBMW R1200 RTに飛び乗り、エンジンをかける。すぐに体に響くエンジンの音と振動が伝わってきた)
プリンツ(よし、出発!!時間ぎりぎりなんだ。もう一刻たりとも時間を無駄にするわけにはいかない)
プリンツ(しかし、相棒に乗ったことで焦る気持ちがだいぶ楽になった。大丈夫、間に合う)
プリンツ(私の相棒、R1200 RTは最高のバイクだ。まるで車のように快適で、安定感がある)
プリンツ(もっと詳しく言うと、サイズから考えられないほど軽く感じられ、コーナリング特性が良い。この時点で素晴らしい)
プリンツ(そして、その1170ccの……正確には1169ccらしいが、ともかくそのエンジンパワーによる加速力と最高速度は圧倒的なのだ)
プリンツ(特に、空水冷ボクサー故にごく低回転域でエンジンに高負荷をかけても全くギクシャクすることは無い)
プリンツ(つまり、停止と発進を繰り返す日本のような狭く入り組んだ道の多いところに最適な子だということだ)
プリンツ(さらに高速巡行も得意で、アウトバーンでも平気で使える。もっとも、今みたいに路面が濡れているとスピード出せないけど……)
プリンツ(ライディングプロはレインに。雨の中、風と水を切り裂きながら進んでいく)
プリンツ「……寒い」
プリンツ(この季節とは思えない寒さ。そして冷たい雨、悪い視界。北海の荒れた海を思い出した)
プリンツ「アトミラール……アトミラール……!!」ギリッ
プリンツ(友さんは何を知っているのだろうか……アトミラールが心配でたまらなかった。ずっと一緒に居れば良かった)
~
飛龍『ええっ!?ちょっ、本当にどうしたの!?私に指揮任せるなんて……何処に行くの!?』
友『親友を助けに行ってくるんだ!!すまない飛龍!!今日だけだ!!頼んだぞ!!』
飛龍『頼んだぞって……もう!!帰ってきたらちゃんと話してもらいますからね!!』
~
友(訝しむ飛龍にひとまずの指揮を任せ、車を飛ばしてきた。合流地点に到着し、時計を見るともう数分で7時だった)
友(危うく俺が遅刻する所だった……満月が辺りを照らしている。日中の嵐が嘘のように快晴だ)
友(俺は集合地点に来ていた。本当は今すぐにあいつの元へむかいたいところだが、プリンツの熱意に負けてああいってしまったのだから仕方がない)
友(近くの自販機でコーラを買う。ゴクッと飲むと爽快な炭酸と甘さに脳がリフレッシュされる。少し気分が落ち着いた)
友(残りを一気に飲み干して缶を捨てた。時計を確認するともう七時だ。プリンツは来ていない)
友(まあ、どんなに飛ばしても時間的に厳しかったからな。残念だが、約束は約束だ。大事な親友が俺を待っている)スタスタスタ
ヴゥゥゥゥン キュルルルル
友「っ!?」
友(車に戻ろうと歩き出したら、一台の大型バイクが猛スピードでやってきた。そして、すぐそこにドリフトしつつ止まった)
友(乗っていたのは……ドイツ兵だ。黒ずくめの軍服に黒いロングブーツ。そして特徴的な黒いシュタールヘルム)
友(暗い上にゴーグルをしているので顔はよく見えない。腕に巻いた赤い腕章が、式典で見たドイツ軍の士官を思い出させる)
友(ドイツ兵が何でこんなところに……!?まさかビスマルクを逮捕しに来たのか!?だとしたら、あいつも巻き込まれるかもしれん!!)
プリンツ「友さん!!」
友「!?お前……プリンツ・オイゲンか!?」
プリンツ「Ja!! 来ましたよ友さん!!教えてください!!何を知っているんですか!?」
友「時間がない!!とりあえずそれをそこらに停めて俺の車に乗れ!!走りながら話そう!!」
プリンツ「っ、了解!!」
友(一瞬バイクを見て躊躇ったようだったが、すぐに降りて路肩に停める。助手席に飛び乗ってきたところで車を出す)
プリンツ「友さん!!教えてください!!」
友(プリンツはゴーグルを外し、脚に巻いたコートの裾を解きつつ、怒鳴るように声をかけてくる)
友(相当追い詰められているようで表情には余裕がない。精神的に酷く打ちのめされているようだった)
友「落ち着け!!今あいつが居るであろう所に向かっている!!」
プリンツ「っ!!すいません……そこは何処なんですか?」
友「あいつの敵の所だ……クソ整備士とビッチ戦艦の所だよ」
プリンツ「っ!?どうして……」
友「俺が知っていることを話してやる。舌を噛むなよ?」ブゥゥン
~
友「もうそろそろその家のはずだ」
プリンツ「……」
プリンツ(いつのまにか雨が降っていた。周りは晴れているのに、このあたりだけ雲に覆われている)
プリンツ(オレンジ色に染まった沈みかけの満月が空に浮かんでいる。不気味な夜だった)
~
友『あの作戦会議の後、俺はあるつてを頼って密かにあの二人の行方を捜していた。時間が経っていたうえ、工作もされていたそうだが無事に見つかった』
友『だが、それと同時に同じくその二人を追っている同業者も発見したそうだ。そいつの方が先に探していたことが幸いした』
友『俺はもちろん誰が探しているのかも突き止めるように頼んだ。予想では、お前らドイツ軍の連中だと思っていた』
友『だが違った。今朝、そのつてから連絡が来て報告を電話越しに聞いたんだ』
プリンツ『探していたのはアトミラールだったんですね……?』
友『ああ。今日の午後一時にある場所で直接会って報告しているのを確認したらしい』
友『たった一日違い、おそらくあいつは作戦会議の日までには正気に戻っていたんだろうな』
プリンツ『……』
友『運が良かった。あいつが報告を直接会って伝えるよう依頼していたこと、俺のつてが優秀だったこと』
友『いろんな幸運が俺たちを助けてくれた。一歩間違えれば、俺たちがこの事実を知るのはすべてが終わった後になっていただろうからな』
プリンツ『そうですね……』
友『あいつは恐らく一人で決着をつけるつもりだろう。だがどう考えてもまずいことになる可能性が大きい』
友『それこそ、あいつの経歴に致命傷をつけるぐらいのことをしでかすかもしれん。だから、止めなくちゃならない』
プリンツ『ぶっ殺してやるとか言っていた人の発言とは思えませんね』
友『俺ならいい。だが、これ以上クソ野郎どもにあいつをどんな方法であれ傷つけさせはしない』
友『あいつは本当にいい奴なんだ。それがどうしてこうもひどい目にあう……あんまりじゃないか……』
プリンツ『……同感です』
~
プリンツ「……」
プリンツ(アトミラールは、たぶんあの作戦会議の日に正気に戻ったんだ。だって、思い返せばあの日以来、私をビスマルクと呼んでいない)
プリンツ(……おそらく、アトミラールは私と友さんの話を聞いていたんだ。それしか考えられない)
プリンツ(正気に戻ってくれて本当に嬉しい。だけど、ならどうして言ってくれなかったの?そんなに私は、アトミラールにとって他人だったの?)ズキン
プリンツ(……ビスマルクお姉さまは、どうしてこんなに思ってくれているアトミラールを裏切ったの?)
プリンツ(私がいくらアトミラールを思って望んでも、いくらアトミラールに尽くしても、アトミラールは私をそれほど思ってくれることは無いのに)ズキン
プリンツ(っ!!いけない、そんな事考えちゃダメだ。そうだよ。私はただの部下で、お姉さまは提督の……好きな人なんだから)ギュッ
友「あれだ!!あそこのはずだ!!」
プリンツ「っ!!」
プリンツ(友さんの声にハッとする。慌てて顔をあげると確かにそこにはなかなか大きな家があった)
プリンツ(ひとつだけ灯りのともった窓には薄いレースのカーテンが閉まっているが、中が見える)
プリンツ「!!?? Scheiße!! 」
プリンツ(それを見た時、全身に衝撃が走る。引きちぎるようにシートベルトを外し、警告音に構わず扉の鍵を開ける)
友「あっ!?おい!!」
プリンツ(まだ走ってる車から飛び降りる。水たまりの中に落ちるが、仕方ない。受け身をとってそのままの勢いで飛び起き、駆けだす)
プリンツ「嘘だ、嘘だ、嘘だ!!信じられない!!信じられない!!」
プリンツ(窓を通して見る部屋の中には、アトミラールに向けて銃を構えたあの男が見えたのだった……)
プリンツ(私が馬鹿だった!!ずっとアトミラールについていればよかった!!間に合って!!)
プリンツ(あの男が指先に力を少し入れるだけで、最悪の結末を迎えてしまう。そんなことは絶対に嫌だ!!)
プリンツ(主よ、どうかお願いですから私を光よりも早く走らせてください!!お願いですからどうか間に合わせてください!!)
プリンツ(アトミラールまでの数十メートルの距離が、遥か彼方に感じる。アトミラールの苦悶に満ちた表情まではっきり見えるというのに……!!)
バンッ
プリンツ「……ぇ?」
プリンツ(それは唐突だった。銃口が光り、あの男の手が跳ね上がる。轟く爆音に、壁に叩きつけられるアトミラール。紅い液体が飛び散る)
プリンツ「あぁ……あぁ……」
プリンツ(そのワインのような滴の1つ1つまで見える気がした。何が起きたのか、嫌でも理解してしまう)
プリンツ「いやぁ……!!」
プリンツ(アトミラールが、撃たれた)
~
友『簡単に洗脳されるような、頭のねじが数本とんでるクソビッチの方も問題だ。だが、どちらにせよあのクソ野郎はたとえ法律が裁けなくても俺が裁く』
友『乗り込んでやるさ、あいつらの所に。痛めつけられるだけ痛めつけたうえで、あのクソ野郎をぶっ殺してやる』
友『その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!』
友『そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうと生きているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!』
~
プリンツ「……」
プリンツ(いつか聞いたその言葉は、今、私の心を打った。私は現代の律法に囚われ、仇を討つことをしなかった。できなかった)
プリンツ(傷ついた大切な人を癒すことも、……その命を守ることも、できなかった)
プリンツ(落雷のような衝撃に、地獄の業火のような怒りと海よりも深い悲しみ)
プリンツ(そして、たまりにたまった不満がないまぜになった、言葉にできない感情が一気に爆発する)
プリンツ(ニーベルンゲンの歌。私の好きな叙事詩に謳われる、英雄である夫を殺された美しい乙女の復讐の物語を思い出した)
プリンツ(血を啜って復讐を誓ったクリームヒルトのように、私もまたここに誓おう)
プリンツ(失われてしまった愛する者の為、何か譲れない大切なものの為、仇を討つことを何故に躊躇う必要があろうか?)
プリンツ(そうだ、愚かな私は忘れていた、私の中に流れるものを。ドクンと心臓が痛いほどに鼓動を打った。自分が変わっていくのを感じる)
プリンツ(私の中でくだらない常識が壊れ、崩れ去っていく。長い時の流れの中で眠りについていたゲルマン民族の、その苛烈で誇り高い血統が目覚めた)
プリンツ(もう躊躇わない。もう迷わない。私はあの人のために私のすべてをささげる)
プリンツ(アトミラールを傷つけたモノを、私は決して許さない。自分が何をしてしまったのか、そして誰を敵にしたのかを知らしめてやる)
プリンツ(力が抜けかけた脚に、逆に力を込めて今まで以上に強く地面を蹴る。落としかけた視線をあげた)
プリンツ「っ!!!!」ハッ
プリンツ(そして、気がついた。アトミラールはまだ生きている!!撃たれたのは肩だ!!動脈が傷ついた様子もない!!)
プリンツ(なんという幸運だろうか!!クリームヒルトは夫を失ったが、私はまだアトミラールを失っていない!!)
プリンツ(アトミラールを守れるかどうかは私にかかっている。するべきことは、分かり切っていた)
プリンツ(窓へ突進し、腕を顔の前でクロスさせる。破片対策だ。そのまま窓へ体当たり。ガラスが砕け散り、カーテンを突き破る)
ガシャーン
提督「!?」
ビスマルク「!!」
男「ええええっ!?」
プリンツ「……!!」
プリンツ(両手を広げ、構える。そのまま止まることなく、あの忌々しい男の元へ突っ込む)
プリンツ(再び銃を構えて何事か叫んでいたそいつは、驚いて振り向きかけている。弾みで撃たれなくてよかった。それだけが賭けで、私はそれに勝った!!)
プリンツ(左手でそいつの髪の毛を掴み、右手をそいつが握る銃へ伸ばす)ガッ
プリンツ(急ブレーキするも止まり切れるわけもなく、そのまま後ろから抱き付くような形となってしまった。気持ち悪い……)
プリンツ(が、ともかく無事止まって銃を下から支えるように掴むことに成功した)
プリンツ(人差し指で強引にマガジンキャッチのボタンを押し、力を入れて銃口を上へ逸らせることでマガジンを脱落させた)カチッ
プリンツ(そしてそれが落下する音を聞きつつ親指で強引に引き金を引かせ、発砲させる。弾丸は天井を貫通しどこかへ消えた)カラン バンッ
プリンツ(そして、右手を離しながら、髪を掴んだ左手を後ろへ引き、右足を前へ出して床を踏みしめる)
プリンツ「ぁああっ!!」バキィ
男「」グシャァ
プリンツ(後ろへ倒れかけるそいつの顔面に向かって、握りしめた右手をぶち込んだ。確かな感触。左手で掴んでいた髪がごっそりと抜け、そいつは吹き飛んで床に沈んだ)
プリンツ「はぁ……はぁ……!!」
プリンツ(やった……!!やった!!アトミラールを守れた!!握りしめていた手を開き、気持ち悪い髪の毛を手放す)
ビスマルク「……っ!!あ、貴女……?」
提督「……!!」
プリンツ(振り向き、改めてアトミラールを確認する。アトミラールは驚きに目を見開いていた。顔に残る殴られた跡と血痕に怒りが燃え盛る。)
プリンツ(しかし、肩の傷を含めて命に別状はなさそうだ。アトミラールと目が合う。もう何年も会っていなかったような錯覚を覚えた)
プリンツ「アトミラール……!!」
プリンツ(思わず、目が潤む。涙があふれそうだった。今すぐに抱きしめたい。アトミラールを全身で感じたい)
プリンツ(だけど、それにはまだやらなくてはならないことがある。私は頭を切り替えてもう一人の仇の方へ向き直る)
プリンツ(その醜く腹を膨らませて、驚きの表情でこちらを見上げる売女を睨みつける。私の心がまた激しい怒りの業火をともした)
~
プリンツ「……」ギロッ
提督(プリンツ……!?馬鹿な、なぜ彼女がここにいるんだ?どうしてこの場所が分かったんだ?)
提督「プリンツ……?」
ビスマルク「プリンツ……」
プリンツ「Du Scheißfotze(この卑しい売女め). 民族、血統の汚辱!呪われるべき裏切り者!!そんなお前にお似合いの、醜い豚。その腹の中も、醜い豚の子!!」ギリッ
ビスマルク「っ」ビクッ
プリンツ「よくも……よくもアトミラールを……!!お前を切り刻んで地獄へ落としてやる!!」ツゥー
提督(プリンツは怒りと嫌悪感をみなぎらせた眼差しでビスマルクを睨みつけていた。そして、早口のドイツ語で何かを捲し立てている)
提督(信じがたい。あのプリンツが……?俺もドイツ語は話せるが、あくまで日常会話と軍事関係のみだ。何を言っているかまでは理解できない……)
ビスマルク「アトミラール……!! そうよ!!アトミラールが撃たれて……!!救急車!!」
プリンツ「っ!!そうだ……!!救急車……私が呼ぶ!!……っ!?」クルッ
ビスマルク「……?何してるのよ!?早くして!!」
プリンツ「見られている……?っ!!」ジッ ハッ
ガチャリ カツカツカツ
提督(プリンツが窓の外を警戒し始めたところで、ドアが開く音が響く。そして足音も。誰が入ってきたんだ!?全く状況がつかめない)
プリンツ「……友さん?」
提督「友……!?あいつまで来ているのか……!?」
ビスマルク「……誰!?」
メンゲレ「……さて、諸君。積もる話もあるだろうが、そこまでだ」
友「……」リョウテアゲ
提督「!?友……!!」
プリンツ「ドクトル……!!」
ビスマルク「……!!」
提督(入ってきたのはドイツ軍の制服に白衣を纏った、プリンツと同じぐらいの年頃の少女だった)
提督(そしてその後ろには何人もの戦闘服を着た兵士が控えている。ドイツ軍の部隊だ)
提督(そしてそんなやつらが何をしに来たのか。言われなくても分かる。ビスマルクを捕まえに来たのだろう)
提督「ビスマルク……!!」ズリ ズリ
ビスマルク「アトミラール!!」ペタ ペタ
提督(俺は、残念ながら立てない。這いずりながら近づいていく。そしてビスマルクもまた顔を蒼白にしながら四つん這いで這いよってくる)
プリンツ「アトミラール!?……っ!!」ギリッ
メンゲレ「おっと、動かないで貰おうか?」チャキッ
プリンツ「っ!!ドクトル、アトミラールに銃を向けるな……!!」
メンゲレ「誰にものを言っている?と言いたいところだが、親友の頼みとあれば仕方ない。が、限度はあることを理解しておくように」スッ
提督「くっ……何者だ?」
メンゲレ「おっと、これは失礼しました。初めまして中将。私はヨゼフィーネ・メンゲレ大佐です。今月からの連絡将校を務めさせていただいております」
ビスマルク「貴女が……」
メンゲレ「さて、まずは貴方です。中将」
提督「何の用だ……?」
メンゲレ「治療ですよ。それとも、救急車でも呼びましょうか?Sanitäter(衛生兵)」
衛生兵「Jawohl. 見せてください、中将。Danke…… 深刻ではありません。応急処置をすれば移動に堪えられます」
メンゲレ「よろしい、では応急処置を」
衛生兵「了解です」
提督「待て。移動と言ったか?どこへ連れていくつもりだ?」
メンゲレ「我々の拠点、遣日ドイツ軍司令部です。そこらの病院よりよほど設備が良いですよ。それに、このことを公にするのはまずいでしょう?」
提督「っ」
メンゲレ「悪いようにはしません。ここは我々に預からせてください」
提督「……悪いようにしないとは?」
メンゲレ「このような騒ぎに巻き込まれたと知られれば、あなた方のキャリアに傷がつくでしょう?」
メンゲレ「ですから、今日のことは無かったことにします。中将と少将、そしてプリンツ・オイゲンは今日ここに居ませんでした」
メンゲレ「そして我々は、逃亡兵とその協力者を秘密裏に逮捕しました。ただ、それだけです。悪くない取引ではありませんか?」
ビスマルク「……」
提督「断る!!」
友「!?」
プリンツ「っ」
ビスマルク「!!」
メンゲレ「……何故でしょうか?」
提督「ビスマルクをどうするつもりだ?」
メンゲレ「……許可なく部隊から逃亡した士官は銃殺です。お前もその覚悟があったのではないか?」
ビスマルク「っ。……ええ」
提督「止めろ!!それは赦さないぞ!!」
メンゲレ「……なら、どうするというのですか?」
提督「この件を告発する!!そのうえで減刑を求める!!そうなれば、ビスマルクの功績からして死刑だけは避けられるはずだ」
メンゲレ「貴方のキャリアを犠牲にしてですか?痴情のもつれからこんな問題を起こしたと知られれば、未来が消えますよ」
提督「それでもいいに決まっているだろう。……」
~
ザワザワ
テレビ【ご覧くださいこの廃墟を!!信じられませんが、ここはお台場です!!もはや無事な建物は一つもないかと思われます!!】
「嘘だろう……?」「信じられん……」「みんな、無事でいてくれよ……!!」
提督『こんな手紙なんて……嘘だ……そんなの嘘だ……妻と子が空襲で死んだなんて……!!』グシャリ ボロボロボロ
友『提督……』
テレビ【この一連の大規模な空襲で被害を受けた都市は12都市にのぼります。死亡者数は現時点で10万人を超え、さらに増加する見込みです。この件について海軍省は~】
~
提督「愛する女一人守れないで、何が帝国軍人か……!!今、俺が行動すれば何とかできるかもしれないのなら、躊躇うことは無い!!」ギリッ ツゥ
友「提督……」
プリンツ「……」ギュッ
ビスマルク「アトミラール……もういいの。貴方がそう言ってくれただけで、もう救われたわ……だから、」
提督「そんなことを言わないでくれ!!君は生きたくないのか……?俺は君とこんな形で別れるなんて嫌だ!!」
ビスマルク「わ、私だって……!!けど、それであなたが犠牲になるのなら……死ぬ方がマシよ……!!」ボロボロボロ
メンゲレ「……では、貴方はどうしたいのですか?中将」
提督「ビスマルクを保護したい!!」
ビスマルク「アトミラール……!!」
プリンツ「っ、アトミラール……」
メンゲレ「なるほど……ふむ……」
メンゲレ(素晴らしいぞ……!!うまくいけば、2体も確保できる……!!)
男「……」ピクッ
プリンツ「!」
メンゲレ「つまり、この一連の出来事はなかったことにするという認識でいいですね?」
「「「「!?」」」」
メンゲレ「ビスマルクは逃亡などしていない……あなたの元から去っていない。この男はただ軍を一人で去っただけ」
メンゲレ「そして行方不明になった。そういうことでいいですね?」
提督「あ、ああ。だが、なぜいきなりそんな提案をする?」
メンゲレ「コレが不祥事を起こしたとなれば私の責任問題にもなります。それは御免ですから」
メンゲレ「ですが、誓ってもらえますね?このことは決して他言しないと。もちろん、ここにいる全員です」
提督「分かった、誓う」
メンゲレ「いいでしょう。貴方はどうですか、少将?」
友「貴様を裏切ったそいつを保護する。……本当にそれでいいのか、提督?俺は反対するぞ」
提督「いいんだ、それがいい。……迷惑をかけた。ありがとう、友」
友「……なら、もう言うことは無い。誓おう」
メンゲレ「分かりました。プリンツ?」
プリンツ「……誓いますよ」
メンゲレ「Gut. で、お前は?Versager(愚か者) 」
ビスマルク「私は」
男「ぅぅ……ビスマルク……助けてくれ……!!」
ビスマルク「っ!?」
メンゲレ「意識が戻っていたか。どうする?」
男「いいのか……?あんな奴にお前を幸せにすることなんか……悦ばせることなんかできるものか……!!」
男「お前は僕専用なんだ……!!異物を入れたって前のようになるだけだぞ……!?」
提督「っ」
男「それにお腹の子は僕の子だ!!僕はその子の父親で、お前の夫だろ!?」
ビスマルク「っ!!」
男「ドイツ人!!僕を殺すな!!僕の命を保証するなら、僕が知ることを全て話してやる!!機密まで全部だ!!」
男「僕は整備士として優秀だった!!それこそ、ビスマルクの整備を任されるぐらいに!!だから様々な機密に詳しいぞ!!」
メンゲレ「ほぅ……興味深い……」
男「僕を助けるなら知っている情報をドイツ軍に全て提供する!!だから僕を助けろ!!」
メンゲレ「ふむ……」
男「提督、言ったな!?ビスマルクが望むようにすると!!ビスマルクが僕と逃げることを選べば、お前はそれを支援すると言った!!」
提督「ああ、そうだ」
男「ならビスマルクが望めば僕たちがドイツへ逃げることを支援しろ!!」
提督「……分かった」
友「っ」
メンゲレ「なら、望むようにしようじゃないか。すべては我らが祖国、ドイツの為にだ。どうする、ビスマルク?」
ビスマルク「ぁ……わ、たし……」マッサオ
男「お腹の子だってそうしたいはずだ。ビスマルク……!!」
提督「……君が望むようにしてくれ。帝国軍人として、約束は必ず守る。例え、君が俺の元を去ってそいつと行くと言ってもだ」
ビスマルク「私、は……私はっ……」ドクン ドクン ドクン
ビスマルク「……っ!!はぁっ……!!……あ、貴方と……アトミラールといたい……!!アトミラールがいいなら……」ギュッ
ビスマルク「アトミラールが赦してくれるなら……アトミラールが受け入れてくれるなら……アトミラールといたい……ぐすっ……!!」ツゥー
男「あぁ……!!ビスマルク!!お腹の子はどうするんだ!!」
ビスマルク「っ!!そんなの!!分からないわよ!!けどアトミラールがいいの!!」
男「僕を殺すのか!?見殺しにするのか!?お前の夫だろう!!」
ビスマルク「違う……違う!!元はと言えばあなたが私を騙してっ……!!」
男「受け入れたのはお前だ!!ビスマルク!!」
ビスマルク「うるさいうるさい!!今は何も考えたくない!!けど私はアトミラールといたい!!」
ビスマルク「あなたなんか……お前なんか大っ嫌い!!」
メンゲレ「決まったな。ヴォルフガング、そいつを黙らせろ」
兵士「 Einverstanden(了解しました). 」
男「ビスマルク!!な、止めろ!!放っんん!!」
メンゲレ「……さて、睡眠薬もすぐに効くだろう。いいのだな、Versager?」
ビスマルク「勿論よ……!!」フルフルフル
メンゲレ「ふん、そいつを運び出せ。予定通りにな」
兵士「分かりました」
提督「ビスマルク!!」ダキッ
ビスマルク「アトミラール、私……!!」ギュッ
提督「もう二度と話さないからな。だから、もう二度といなくならないでくれ……!!」
ビスマルク「うん……うん……!!ごめんなさい……!!ありがとう……!!」
メンゲレ「……では、ヘリが待っていますので移動をお願いします。少将とプリンツはどうされますか?」
提督「っ!!待っててくれビスマルク」バッ
ビスマルク「ええ、分かったわ」コクリ
提督「待ってくれ!!プリンツと話がしたい」
プリンツ「!!」
メンゲレ「そうですか。では簡単にお願いしますね。貴方は負傷者ですから」
提督「ああ。……プリンツ」
プリンツ「アトミラール……」
提督「迷惑をかけた。すまない……」
プリンツ「言いたいことはたくさんあります。けど、生きていてよかった。今はそれだけ伝えられれば十分です」
提督「ありがとう、プリンツ……本当にありがとう……!!」
プリンツ「ドクトル、アトミラールはいつ戻れるのですか?」
メンゲレ「傷が癒えるのに時間はかかるだろうが、入院が必須なわけではないだろう。明日にでもな」
プリンツ「なら私が迎えに行きます」
メンゲレ「構わんよ。後で連絡する」
プリンツ「いえ、この後に話しましょう」
メンゲレ「……手短にな」
プリンツ「ええ。では、アトミラール。名残惜しいですが、傷に障ってはいけませんから今日の所はこれで」
提督「そうか……分かった」
プリンツ「ただし、明日からは覚悟してもらいますからね?」
提督「ああ、首を洗って待っているよ」
メンゲレ「終わったようですね。では、少将は?」
友「俺はもう帰るよ。車もあるしな」
メンゲレ「分かりました。では、各員行動開始。集合地点のヘリにて待機。私は少し話がある。問題発生の場合は合図して離脱しろ。私は自分で戻る」
「「「「 Jawohl. 」」」」
~
プリンツ(アトミラールと少将、強襲班、そして仇2人が去り、私はメンゲレと二人でいる)
プリンツ(他にこの家にいるのは証拠隠滅班だけだ。私達は別室にいて、話を聞かれる心配もない)
メンゲレ「それで、何の用かな?」
プリンツ「このことを本国に知られても貴方に不利益なんかないでしょ?」
メンゲレ「だがドイツ本国には不利益がある」
プリンツ「だとしても、こんなやり方はおかしい。やるなら有無を言わさず事故死とかにするはずなのにどうしてこんな方法を?何を企んでいるの?」
メンゲレ「……私は医者だ。常に医学の発展に力を尽くしている。なぜなら、それが今の私の目標だからだ」
メンゲレ「だが、やはり卓上で計算やら理論やらで予測したり、合法的な実験だけでは話にならない」
メンゲレ「使える検体が必要なんだ。……何をしても問題にならない、人間がな」
プリンツ「……!!」
メンゲレ「どうせ奴は処刑される。なら、是非人類の役に立って貰おうじゃないか。そう思うだろう?」
プリンツ「……」
メンゲレ「……そうだな、道徳的に考えれば難しい問題だろう。よくない事だと感じないわけではない」
メンゲレ「だが、私は割り切る。なぜならそれが一番だからだ。最善だからだ」
メンゲレ「くよくよ悩んでいても、時間の無駄だ。なら早く割り切って行動すべきだろう?」
メンゲレ「過剰な倫理観で下らん言い訳を並べて……限りある時間を無為にするのが人格者ならば、私は人格破綻者であるほうが良い」
プリンツ「……メンゲレ。私で実験しようとしたことは赦さない。けど、私は貴女のことが少し好きになったかも」
メンゲレ「!?そ、そうか……?それは嬉しい……!!それと、一つ言わせておらいたいのだが、あの時私は君を殺そうとしていたわけじゃないぞ?ただ」
プリンツ「分かってる。じゃあ私も先に戻るね。艦隊の皆が混乱しているだろうから。何時にアトミラールを迎えに行けばいい?」
メンゲレ「そ、そうか……正午に来てくれ。分かってると思うが、どういう事にするかは決まっていない。迂闊な発言には気を付けろよ」
プリンツ「当然。じゃあね、メンゲレ」
メンゲレ「!!ああ。また今度、プリンツ。……Gut!!」
~
プリンツ「……あ」
友「来たか」
プリンツ「友さん……どうしたんですか?何か用ですか?」
友「用があるのはお前の方じゃないか?」
プリンツ「はい……?あっ」
プリンツ(私のバイク……あの自販機のとこだ……危うく帰れなくなるところだった)
友「乗れよ」
プリンツ「待っていてくれたんですか?ありがとうございます……」
友「気にするな」
~
メンゲレ「待たせた。では出発してくれ」
パイロット「了解しました、大佐殿」
提督(ヘリがゆっくりと離陸していく。俺の隣の席にはビスマルクが座っていた。手を繋ぎ、互いに頭を相手にもたれている)
提督「ビスマルク……」
ビスマルク「何かしら……」
提督「いや、呼んでみただけだ」
ビスマルク「そう」
提督「……ここにいるんだな」
ビスマルク「ええ。……もう二度と離れないわ」
提督「ああ……」ギュッ
ビスマルク「ん」
提督(本当に辛い出来事だった。俺にとっても、そしてきっとビスマルクにとっても、だ)
提督(だが、終わった。決着をつけた。このことはもう忘れよう。これからはきっとビスマルクとの幸せな生活が待っているはずだ)
提督「ビスマルク……俺はもう眠い……」
ビスマルク「大丈夫?」
提督「少し、仮眠させてもらう……」
ビスマルク「分かったわ。お休み、アトミラール」
提督「ああ……」
提督(一気に疲れが溢れ、眠気に瞼が重くなる)
提督「……」
提督(ワルイユメは、もう醒めた。俺はすがすがしい気持ちで、本当に久しぶりの安らかな眠りに落ちていった)
~
友「そろそろ都市部に戻ってきたな」
プリンツ「……友さん」
友「どうした」
プリンツ「どう思いますか?アトミラールとアレとの……ビスマルクとのこと」
友「気に食わない。だが、あいつがそれを望んだのなら仕方ない」
プリンツ「仕方ないって……あんなひどい女に親友が引っかかっていいんですか?」
友「ひどい女か……まあそうだ。赦しがたい裏切りをしたからな。だが……あいつの態度を見て考えを少し改めた」
プリンツ「態度って……」
友「ひどく後悔しているようだったし、どうやら本当にストックホルム症候群のようなものだったみたいじゃないか」
友「あいつのクソ整備士に対する言葉を聞いて、許せはしないがまあ一回ぐらいチャンスをやってもいいかと思った」
プリンツ「……そうですか」
友「まあ、一発ガツンと殴ってやりたい気分は収まらないがな」
プリンツ「……」
友「納得できないか?」
プリンツ「ええ……あんなのより私の方がアトミラールを……」ボソリ
友「ん?何て言った?」
プリンツ「何でもないです。それにしても、今からまた六時間近くかけて戻るのはさすがに億劫ですね」
友「だろうな。バイクだと余計辛いだろう」
プリンツ「はい……」
プリンツ(……あ、ホテルだ。こんなに煌びやかで、なんかクラブとかカジノとかみたい。へぇ、休憩ねぇ。……)
プリンツ「……今日は疲れました。あのホテルで少し休憩していきたいです」
友「お前……まさかとは思うが、分かって言ってるわけじゃないよな?」
~
提督(遣日ドイツ軍司令部は何度か訪れたことがあったが、こんな病院があったとはな。知らなかった)
提督(無事に到着し、そこで本格的な治療を受けた俺は割り当てられた寝室へ戻る。まるで高級ホテルだ)
提督(しばらくボーっとして過ごす。今日一日が夢幻のように感じられた。すると、ノックの音が聞こえる)
提督「どうぞ」
ビスマルク「アトミラール、ただいま」
提督「事情聴取とメディカルチェックは終わったか?」
ビスマルク「ひとまずは……精神的なストレスが酷いから続きは明日からだって」
提督「そうか……い号作戦が近くて、俺は戻らなくてはならない。もし何かあれば、すぐに連絡しろ」
ビスマルク「ええ。……アトミラール、ごめんなさい」
提督「もう何も謝るな。すべて終わったことだ」
ビスマルク「けど、それでも……いいえ。こんなこと繰り返したって、自己満足でしかないものね」
提督「君は悪くないよ。悪いのは全部あいつだった。あいつが君を騙さなければ始まらなかった」
ビスマルク「……どうすれば償えるのかしら」
提督「ずっと一緒に居てくれればそれでいい。もう考えるのは止めよう。今日はいろいろありすぎた」
提督「寝て、気持ちを切り替えよう。寝支度は終わっているな?」
ビスマルク「そうね…… 終わっているわ」
提督「じゃあ、寝よう。……どうする?」
提督(俺は灯りを消し、二つ並んだクイーンサイズのベッドの1つに入る。そしてビスマルクを見る)
ビスマルク「……行ってもいいの?私……穢れt」
提督「良いに決まってる!そんなことを言わないでくれ……!来てくれないか」ポンポン
ビスマルク「!は、はい……!」
提督(ビスマルクは泣きそうな顔で躊躇っていたが、俺が声をかけるとおずおずと言った感じでベッドに入ってきた)
提督「……」スッ
ビスマルク「! ……」ギュッ
提督(手を伸ばしてビスマルクの手を取ると、握り返してくる。暗闇の中、涙を流しながら微笑んでいた)
ビスマルク「私、今とてもしあわせ……」
提督「俺もだ」
提督(俺たちは眠りに落ちるまで……いや、眠りに落ちてからもずっと手を握っていた)
~
提督「……んん」
ビスマルク「ん、起きたかしら?」
提督「ああ」
ビスマルク「コーヒーが入ってるけど、飲む?」
提督「ああ、頂くよ」
ビスマルク「分かったわ。……はい、どうぞ」
提督「ありがたい。……苦い、とても。君のコーヒーだ」ニコッ
ビスマルク「お口に合えばいいけれど。貴方は甘党だから」
提督「苦いのもたまにはいいさ」
ビスマルク「私も、甘いのもたまにはいいと思うわ。ふふっ」
提督(こうして俺たちは、まだ事件が起きる前の頃のような幸せな朝を過ごしたのだった)
~
メンゲレ「さて。では中将、武運を祈る。い号作戦の成功を信じているよ。ビスマルクも、1、2か月の間には必ずそちらへ戻らせる」
提督「任せてくれ、大佐。……いろいろと世話になった。ありがとう」
メンゲレ「どういたしまして、中将」
提督「ではな、ビスマルク。また後で」
ビスマルク「ええ、アトミラール。すぐ連絡するから。作戦、応援しているわ。頑張ってね」
提督「今、勝利を確信したよ。褒美を何にするか考えていてくれ」
提督(名残惜しそうな顔で手を振るビスマルクに手を振り返し、階段を下りていく。そのままエントランスを出た)
プリンツ「……!!アトミラール!!」ダッ
提督「プリンツ!!」
プリンツ「アトミラール!!」ダキッ
提督「!!プリンツ……?」
プリンツ「アトミラール!!アトミラール!!アトミラール!!」ギュッ
提督「プリンツ……よしよし」ナデナデ
プリンツ「アトミラールに会うまで、何かあったら……またいなくなっちゃたらどうしようって……!!ずっと怖くて……!!」
提督「……大丈夫だ、俺はここにいる。本当にありがとう。君にはなんて感謝すればいいか」
プリンツ「いえ、いいんです。アトミラールがこうして私の近くにいてくれれば…… っ!!」
提督「いや、それじゃ俺の気持ちが収まらないよ。俺にできることなら何でもする。だから、何でも言ってくれ」
プリンツ「……はい、分かりました。ありがとうございます。では、行きましょうか。他の皆さんもとても心配していますから」
提督「ああ、そうだな」
提督(最後にもう一度、二階の窓を振り返る。ビスマルクがこちらを見送っていた。俺が見ていることに気がつくと、笑顔で手を振る)
提督(微笑んで、振り返す。そして車に乗った。少し遅れてプリンツも乗り込んでくる)
プリンツ「では、出発しますね」
提督「ああ、頼む」
提督(さて、気持ちを切り替えよう。とりあえず、俺は友と緊急の作戦会議を開いていたことになった)
提督(戻ったらみんなに謝ってい号作戦の準備だ。忙しくなる……。だが、今の俺は負ける気がしない。やってやるさ)
~
プリンツ「……っ!!」ハッ ギロリ
ビスマルク「!」
ビスマルク(アトミラールに飛びついたプリンツが、私が見ていることに気がつくと目を見開いて驚いた)
ビスマルク(そして、嫌悪と激しい敵意を孕んだ瞳で睨みつけてきた。それこそ、憎い敵を睨みつけるように……)
ビスマルク「……」
ビスマルク(私がしたことを考えれば、当然のことだ。けど、それでもとても悲しく辛い事だった)
プリンツ「……」ジッ
ビスマルク(笑顔で手を振ったアトミラールが車に乗り込みプリンツが運転席へ乗る前、再び睨みつけられる)
ビスマルク(その表情は明らかに私を威嚇していた。食いしばられた歯に上目遣いの睨みが憎しみの程を語っていた)
メンゲレ「……さて、ビスマルク。そろそろ現実に戻る時だ。まずは一刻を争うことを話そうか?」
ビスマルク「……何かしら?」
メンゲレ「そのお腹のことだ」
ビスマルク「っ!?」
メンゲレ「どうしたい?中絶は可能だ。違法だが、ここで手術する分には問題ない」
ビスマルク「私は……」
ビスマルク(正直に言うと、本当にわからなかった。考えたくない問題だから、考えることを避けていた)
メンゲレ「……」
ビスマルク「私はっ……」タラリ
ビスマルク(本音を言うと、私は……私は……堕ろしたかった。だって、あんな男の子供だ。好きで妊娠したわけじゃない)
ビスマルク(人として最低なことを言っていることは分かっている。でも、それでも私は……堕ろしたかった)
メンゲレ「……堕胎するかしないかだろうが。早く決めろ。先送りにしても何の意味もないぞ」
ビスマルク「っ……!!はぁ……はぁ……」ブルブルブル
ビスマルク(でも、この子に罪はない。そんな子を殺してしまうことなんて、したくない。できない)
ビスマルク(でも、産みたくない。この子のことを愛せる自信がない。けど、産んであげたい。愛したい)
ビスマルク(……分からない。分からない!分からない!!どうすればいいの?どうすればいいの!?)
メンゲレ「そんなに悩むのなら、産めばどうだ?」
ビスマルク「!?」ビクッ
メンゲレ「中将も昨日君のしたいようにしろと言っていただろう?」
ビスマルク「!!」
ビスマルク(……もし、アトミラールが一緒に居てくれるなら。そしてこの子を受け入れてくれるのなら。私は……)
ビスマルク「いいの、かな……?」
メンゲレ「さあな。お前たちの問題だ」
ビスマルク「私……」
メンゲレ「だが、あれが熱に浮かされていただけのものかもしれない可能性はある」
ビスマルク「!?」
メンゲレ「お前自身も、身に覚えがあるのではないか?熱に浮かされていたらどんな馬鹿なことでも簡単にいえてしまう」
メンゲレ「だが、後で冷静になってから後悔する。そして、その場合は十中八九、手遅れだ。……覚えがあるだろう」
ビスマルク「……!!」
メンゲレ「……中将はいい男だったな」
ビスマルク「……何のつもり?」
メンゲレ「あんな人に愛されて、女として羨ましいばかりだ」
ビスマルク「何が言いたいの!?」
メンゲレ「プリンツが彼に惚れこんでいるのも分かるよ」
ビスマルク「っ!」
メンゲレ「方や一途に尽くしてくれる清らかな処女。方やほかの男に寝取られて自らの元を去ったビッチ」
メンゲレ「しかも寝取った憎い男の子供までついてくるとなれば……一体どっちが男としていいのかな?」
ビスマルク「!!」
メンゲレ「……冷静になった後の彼はどう思うのかな?プリンツが彼を誘惑したらどうなるかな?」
~
プリンツ『アトミラール、ずっと好きでした。結婚してください……!!私を選んでください……!!』
提督『君のことは好ましく思っているが、あくまで部下だ。俺には、ビスマルクが……』
プリンツ『……あんなビッチがどうしたっていうんですか?』ギリッ
提督『!!』
プリンツ『あいつは浮気した挙句、一度そいつと逃げているんですよ?しかも、そいつの子供もいます』ジッ
提督『だが、あいつは騙されて……』
プリンツ『騙されたとしても、事実は事実です。……あなたを裏切ったことも』
提督『っ』
プリンツ『……アトミラール、私は貴方をずっと支えてきました。あの時助けたのも私です』
提督『……ああ』
プリンツ『あの女が貴方に何をしましたか?銃で撃たれそうになった時、撃たれて負傷した時、どうしてくれましたか?』
提督『……』
プリンツ『私は一途に貴方に尽くしてきました。信じて下さい。貴方を裏切るような真似は、私はしない』
提督『プリンツ……!!』
プリンツ『この体も、誰にも触れさせたことはありません。貴方が初めてで、そして最後です』スルリ ナガシメ
提督『っ!!……プリンツ、俺は目が覚めた。……君が好きだ!!あんな奴なんて、好きじゃない。あれは、昔の想いの残滓を勘違いしていただけだった』
プリンツ『アトミラール……!!嬉しいです』ニコッ
提督『プリンツ!!』ダキッ チュッ
プリンツ『んっ……ふぅ……だいすきぃ……』ギュッ
~
ビスマルク「……」ガタガタガタ マッサオ
ビスマルク(そ、そんなことになったら……私……!!)
メンゲレ「……だが、やはり堕胎はよくない事だ。命を粗末に弄ぶのだからな。当たり前の選択だ」
メンゲレ「まあ、身から出た錆だろう。頑張ってくれ。きっと中将も良くしてくれるさ」
ビスマルク「待って!!」
メンゲレ「……何かな?」
ビスマルク「……して」ボソリ
メンゲレ「何だって?もっと大きな声で言ってくれ」
ビスマルク「堕ろして」
メンゲレ「聞こえんよ。もっと大きな声ではっきりと話したまえ」
ビスマルク「堕ろして!!」
メンゲレ「……罪なる人殺しめ。本当にそれでいいのか?地獄へ堕ちるぞ」
ビスマルク「……もう、堕ちてる。だから、何をしても私は……アトミラールだけには捨てられたくないの……だから、堕ろしてください……」
メンゲレ「……分かった。後で連絡しよう。ただし、一つだけ命令するぞ」
ビスマルク「……なに?」
メンゲレ「このことで悲しみ、嘆き、涙を流すことは赦さん。お前にその資格はない。ではまた後で」ツカツカツカ
ビスマルク「……っ ぐすっ……ふぐぅ……」ボロボロボロ
~
メンゲレ「ふふふふーん♪ふふふふーん♪ふむ、素晴らしい結果だ。さて、次の実験に付き合ってもらうぞ」
メンゲレ「ああ、そうだ。お前に加えてお前の子供も私の研究に協力してくれることになったよ。何をするかは、言わないでおいてやろう」
メンゲレ「私の望み通りの結果だ。プリンツと中将、そしてあのビスマルクに感謝しなくてはな」
メンゲレ「何、誇りたまえ。君たち親子の犠牲で、医学は発展し、きっとどこかの誰かを救う」
メンゲレ「だから安心しろ。……って、もう話せないか。まあ、生きていて、反応すればそれでいい。……十分な成果が出るまでの間な」
~
提督(帰るまでの道、プリンツとは様々ことを話した。俺がおかしくなっている間のこと、そして俺が正気に戻ってから今日までのこと)
プリンツ「なんで言ってくれなかったんですか……?私は、そんなに信用に足りませんでしたか……?」
提督「まさか!!俺は、君を巻き込みたくなかったんだ。場合によっては、俺はすべてを捨てることになったかもしれない」
提督「そうなった時、俺は君を巻き込みたくなかった。だから俺は言えなかった……」
プリンツ「そのすべてに、命も含まれていましたか?」
提督「っ……」
プリンツ「……一人で抱え込まないでください。私を頼って下さい。きっと私は貴方を守ります。守れます」
提督「ああ、すまなかった」
プリンツ「もう二度とこんなことをせず、私をちゃんと頼ると約束するのであれば許してあげましょう」
提督「分かった、約束するよ」
プリンツ「はい、よろしい!では許してあげます。……約束ですからね」
提督「ありがとう」
提督(……こんなにも俺を助けてくれたプリンツに、俺は何をしてあげられるのだろうか。何をしてあげればいのだろうか?)
提督(ふと、運転に集中するプリンツの横顔を見る。日の出を思い出す、金色の綺麗な長い髪を黒いリボンで留めておさげにしている)
提督(形の良い眉毛、すっと通った高い鼻。長い睫毛に彩られた大きな目はオーロラを湛えている。それらがその整った顔立ちを飾り立てていた)
提督(空高くに浮かぶ満月のような白い肌は、瑞々しくシミ一つない。分かっていたが、改めて見るととてつもない美人だ)
提督(っていかん!!俺にはビスマルクがいる!!帝国軍人たるもの、二股やら浮気など言語道断だぞ!!)
プリンツ「あ、アトミラール?」
提督「!?ど、どうした!?」
プリンツ「えっと……さすがに長い間運転して疲れちゃいました……」
~
友『お前……まさかとは思うが、分かって言ってるわけじゃないよな?』
プリンツ『はい?なんかおかしなことを言いましたか?』
友『そうか。ドイツにラブホはないのか』
プリンツ『らぶほ?何ですかソレ?』
友『アレだよ。あのホテル』
プリンツ『ホテル?ああ、もしかしてラブホってラブホテルの略ですか?なんかロマンティックそうなホテルですね』
友『ロマンティックねぇ……まあ、そう言えないこともないだろうがな。あれはセックスするためのホテルだ』
プリンツ『……はい?』
友『二度は言わんぞ』
プリンツ『今、聞き違いでなければセックスするためのホテルだと言いました?』
友『言った』
プリンツ『!?なんて破廉恥な!!何ですかソレ!?』
友『うるさいから叫ぶな。まあ、こればかりはな……何も言えん。だけどドイツには娼館があるだろう?』
友『愛し合う相手とする分だけ、それよりいくらか良くないか?まあ娼館も日本にもあるが』
プリンツ『だからって……!!日本じゃ、ああいうところでセックスするのが普通なんですか!?』
友『ああ。まあ、何だ。好きな相手とそういうことをするのは割と普通だし、やることやっときゃ寛容だ。キリスト教がそこまで普及していないからかな?』
プリンツ『何てこと……これが日本……!!』
友『ちなみに、さっきのお前の発言は日本語訳すると。【ねえ、ここで私といい事しようよ】になる』
プリンツ『違います!!言ってません!!そんなことは言ってません!!そんなつもりじゃありません!!』
友『知ってる。だが悪い奴に引っかかると厄介だから知っておけ。ああいうところに連れ込もうとする輩はそれが目的だ』
プリンツ『私にはもう心に決めた人が居るんです!!』
友『そうか。なら安心だな』
プリンツ『っ!!』
~
友『じゃあ、俺は戻る。無理はするなよ』
プリンツ『はい。少将もお気をつけて』
プリンツ《なんてことだろうか。日本とドイツでそこまで恋愛に違いがあるとは思わなかった》
プリンツ《私はバイクに乗る前に、スマホとヘッドセットを繋げる。そして青葉に電話をかけ、急発進した》
青葉【はい、プリンツさん?どうしました?】
プリンツ【青葉、日本での恋愛について教えて!!】
青葉【はい!?恋愛ですか!?】
プリンツ【そう!!】
プリンツ《深夜のおかしなテンションで青葉に尋ねる。事故を起こさない程度にバイクをかっ飛ばした》
プリンツ《あんな奴に負けてたまるものか!!私は必ずアトミラールを振り向かせて見せる。躊躇う必要はない》
プリンツ【私、絶対に振り向かせて、幸せにしてあげたい人がいるの!!どうすればいいと思う!?】
プリンツ《アトミラールを幸せにして、そして私も幸せになるんだ!!きっとやって見せる!!》
~
プリンツ【……つまり、その告白ってのが重要で、結婚する前にそういうことするのは寛容なんだ】
青葉【そうですよ。それにしても、欧米は恋愛に日本より積極的なものと思っていましたが……割とお堅いんですね?】
プリンツ【一線を越えるとなるとだけどね。でも本当に人によるよ?特に最近は。……そういえば、女性から男性に積極的にアピールしても問題ないんだよね?】
青葉【そうですね。ただ、さっきも言いましたが限度がありますよ?常識の範囲です。あまりはしたなく迫ったら、大抵の人は引いていきますから】
プリンツ【なるほど……じゃあさ、私が仕事で前日の夜中に六時間かけてバイクで移動していたりしてすごい疲れてるとするよ?】
青葉【はい】
プリンツ【次の日、車でその人を迎えに行く約束してるんだけど、やっぱり途中で疲れちゃっても不自然じゃないよね?】
青葉【……それって明日その人と会うってことですか?】
プリンツ【かもね。それでさ、……ら……ラブホテルの前で、『疲れたからここで休憩したいな』ってのはどう……かな……?】
青葉【!?なっ……それは……】
プリンツ【もちろん。私はラブホテルってこと知らないふりしてるよ?ただ単に休憩したいなって感じで自然に聞くの】
プリンツ【そこでいいよってなったらかなりいいかなって思うんだけど……どうかな?やっぱりはしたないかな?】
青葉【うーん……その人とは悪くない関係なんですよね?なら……けど、そんな事をするなら普通に告白した方がいいんじゃないですかね?】
プリンツ【んー……確かにそうかも。もう一度考えてみるよ。ありがとね、青葉】
青葉【いえいえ、とんでもないですよ!このお返しに期待してますからね!なんて。あはは】
青葉【ただ、あくまで私の思う一般論だったので、そこのところはよろしくお願いしますね】
プリンツ【分かった。じゃあお休み、青葉。じゃあね】
青葉【はい。プリンツさんもお気をつけて。特に事故には、ですよ】
プリンツ『……普通に告白した方がいいんじゃない、か』
プリンツ《でも、アトミラールは今あの女に……すごい誠実で素敵な人だから、私が今、普通にアピールして告白しても断るはず……》
プリンツ《それこそ、ラブホテルに入るなんて!けど、私の疲労を癒すためなら優しいあの人は……チャンスは、ある……》
プリンツ《アトミラールだってきっとあの女に裏切られたことに傷ついている!それを押し殺してビスマルクなんかに……!!》
プリンツ《あの女より私の方がアトミラールにふさわしい!!アトミラールを幸せにできる!!アトミラールのことを愛している!!》
プリンツ《アトミラールもきっとそれに気づいてくれるはず……!!きっと私を選んでくれる……!!》
プリンツ《そのためなら、私は何でもできる。だって、好きな人の為だから》
~
ヴゥゥゥゥン
プリンツ《はぁ……ようやく戻ってこれた。今は……深夜の二時だ。本当に疲れた……さっさとシャワーを浴びて寝よう》
プリンツ《正午にドイツ司令部に……三時間ぐらいかな。やることもあるし、準備ができたらすぐでなくちゃ》
プリンツ『……!』
プリンツ《誰か来る……》
川内『へえ、気がついたんだ。すごいね』
大和『……話してくれますよね?プリンツ・オイゲン』
瑞鶴『どこで何をしていたのか、ね?』
加賀『事と次第によっては……覚悟はできていますね?』
赤城『……とりあえず、中へ入りましょう。ゆっくり話さなくてはならないかもしれません』
プリンツ『……分かりました』
~
赤城『つまり、ドイツ軍司令部に呼び出されていたと?』
プリンツ『はい。緊急の呼び出しでしたので……連絡する時間もありませんでした。申し訳ありません』
瑞鶴『もしそうだとして、なんで終わった後すぐに連絡しなかったの?』
プリンツ『夜中でしたから……』
瑞鶴『……そう』
大和『内容は話せないんですね?』
プリンツ『緘口令が敷かれていますから……けど、ドイツの問題であってアトミラールに関係することではありません』
大和『……ふぅん、そうですか』
加賀『提督については何も知らないのかしら?……あなたはここ最近、ずっと秘書艦を務めていたでしょう?』
川内『そうだよ。何か手掛かりとか知らないの?いきなりいなくなるなんて、こんなの普通じゃないよ。きっと何かあるはず……!』
プリンツ『……もし知っているのなら、こんなところでじっとしていませんよ。皆さんだってそうでしょう?』
加賀『……そうね』
川内『……』ギュッ
赤城『……さて、ではこれ以上のことは分からなそうですし、今日はもう寝ましょう。提督が戻らない場合は、昼にまた話すこととします』
プリンツ『あ、赤城さん。私、また司令部へ行かなくてはならないので明日も出ますね』
赤城『そうですか、分かりました。なら後で必要書類を提出するようにお願いします』
プリンツ『はい』
赤城『では解散。皆さん、おやすみなさい』
~
プリンツ『ふぅ……』
プリンツ《寝支度がすべて整い、私はベッドに入った。明日のことを考える》
プリンツ『あの女が戻ってくるまで短ければあとひと月、長くともふた月。時間がないんだ……やるしかない』
プリンツ《アトミラールとホテルインする。何もなくても、それだけで関係を深められる。そしてあわよくば、私は……》
~
提督【プリンツ、ここがどういうとこか知っているか?】
プリンツ【えっ?ホテルじゃないんですか?】
提督【ああ、ホテルだ。だが、ただのホテルじゃない。……恋人同士が愛し合うためのホテルなんだ】
プリンツ【……!!】
提督【プリンツ……俺は、辛かった。あんなことになって……けどビスマルクを取り戻すことができた。それでいいはずだった】
提督【けど、駄目なんだ……まだ辛い。俺は、ビスマルクが好きだった。けど、それは前までだ】
提督【ビスマルクをとり返したのは、ただの復讐の為だけだったんだ……全部終わって気がついた。人として最悪だ】
提督【あいつには悪いことをしたと思ってる。でも、駄目だった……苦しいんだ……プリンツ……】
プリンツ【アトミラール……悪いのはアトミラールじゃありませんよ。あいつらが悪いんです。気にすること必要はありません】
提督【プリンツ……君は、俺が辛い時にずっと近くで支えてくれた。助けてくれた。本当にありがとう】
提督【……気がついたんだ。俺は、君が好きだ。君が欲しい】
プリンツ【……!!アトミラール……!!】ウルッ
提督【どうか、これからも一番近くで俺を支えてくれないか?】
プリンツ【はい……!!もちろんです。私も、ずっと好きでした!本当に……ずっと好きで、辛かったんです】ポロポロポロ
提督【プリンツ、目を閉じて】
プリンツ【!!……】パチリ
提督【……】チュッ
プリンツ【んふぅ……はぁ……んむぅ……】ダキッ
提督【……】ギュッ サワッ
プリンツ【!!】ピクッ
提督【嫌か……?】
プリンツ【……いいえ】ジュン
提督【プリンツ、大好きだ。愛してる】ナデナデ ツプッ クチュクチュ
プリンツ【ぁん……アトミラール……私も大好きです……はぁっ……愛してる……やぁ……!!】ピクンピクン
~
プリンツ『……』ムラッ
プリンツ『……』スルリ ピトッ モミ
~
プリンツ【ふあぁ……あとみらーる……切ないです……】キュンキュン
提督【初めてか?】
プリンツ【は、はい……】カァッ
提督【なら、優しく慣らさなくてはな。……俺を信じて、力を抜いてくれ】ピトッ
プリンツ【あとみらーる……こわいです……わたし……】
提督【大丈夫だ。俺がついてる】
プリンツ【ん……手を。手を握ってください……】コクッ
提督【プリンツ、愛してる】グイッ ブツッ
プリンツ【わたしも、っはぁああ!!くぅぅっ……!!】ギュッ
提督【っ……キツイ、な……】ズプププププ
プリンツ【ああっつぅ……!!あとみらーるのが……はいってきてる……!!】
提督【プリンツ、これでお前は俺の女だ。君一人を愛し続けると誓う。だから、俺と結婚してくれ】
プリンツ【はいっ……はい!!私、嬉しいです!!嬉しすぎて、おかしくなちゃうっ……!!】
提督【そうか……!!痛みがなくなるまで、しばらくこうしていよう。んっ】チュッ
プリンツ【んむぅ……んちゅ……はぁん……れろれろれろ……】ダキッ ギュッ
~
プリンツ『はぁ……はぁ……』クチュクチュ モミモミ クリクリ
プリンツ『んふぅ……』
~
プリンツ【あん!!はぁん!!あ、あとみ!!あとみらーるっ!!わたしぃっ!!なにか!!なにかきちゃいますぅ!!】ズッチュズッチュズッチュ
提督【俺もだっ……プリンツ……!!中で出してもいいか……!?】パンパンパンパン
プリンツ【っ……!!あ、あかちゃん……できちゃいますよぅ……?】
提督【いいんだ、そうしたい……君さえよければ……君に俺の子供を、産んで欲しい……!!】
プリンツ【アトミラール……!!私……!!産みます!!頑張って元気な赤ちゃん産みます!!】
提督【ああ……!!ああ!!くっ……はぁっ……!!】ビュルルルルルルルル
プリンツ【っはあああああ!!あっ……はぁっ……アトミラールのが……たくさん、中に出て……あつい……】ビクンビクン
提督【プリンツ……もう一回たのむ】チュッ
プリンツ【ああっ中でまた大きく……んふぅ……はむっ……ちゅぅ……】
~
プリンツ『っ……はぁ……はぁ……』ネトォ
プリンツ『ぅ……ティッシュ……』ガサガサ
プリンツ『寝ないと……あした遅刻しちゃう……』
~
ジリリリリリ
プリンツ『……』ピッ
プリンツ『……眠い。シャワー浴びないと』ノソリ
プリンツ『……あれ、メールだ。メンゲレから?……ふーん』
~
赤城『皆さん、集合していますね』
長門『ああ。それで、話というのは?』
赤城『提督についてです』
『『『『!!??』』』』ザワザワ
大和『赤城さん!!話してください!!』
瑞鶴『何が分かったの!?』
赤城『今朝、提督から私に連絡がありました。提督はい号作戦に関して緊急の打ち合わせがあり、友少将の元へいらっしゃっていたそうです』
大和『そ、そうなんだ……』
瑞鶴『良かった……見つかって。本当に良かった……』
長門『それで、いつ戻ってくるのだ?』
赤城『今日です。オイゲンさんがドイツ軍司令部へ行く用事があるので、彼女の車で戻ってくるそうです。時間は午後になるとのことでした』
大和『っ!!』ガーン
瑞鶴『っ……』ズキッ
赤城『ですので、お戻りになられるまでは引き続き私が指揮を執ります。以上、解散!各員の務めを果たしなさい』
『『『『了解』』』』
赤城『ではオイゲンさん。頼みましたよ』
プリンツ『はい、任せてください』
~
プリンツ『……このあたりかな?』
プリンツ《あの後、すぐに準備を済ませて出発した。時間は早かったけどやることがあった。それは……》
プリンツ『うーん……どこにしようかな?』
プリンツ《アトミラールと入るのにいい感じのラブホテルを探すことだ。恥ずかしいけど仕方がない》
プリンツ《もちろん、目立たないように持ってきていた私服に着替えている。軍人がこんな所をうろうろしていたら、目立つことになるから……》
プリンツ『外観はなかなかよさそうだし……位置的にもここなら自然に入れるかも。ちょっとスマホで調べてみよう……』
プリンツ《変な所は嫌だし、そういうことを考えているなんて知られたら恥ずかしくて死んでしまう。不自然にならないように気を付けなくちゃ》
プリンツ『……うん、よさげかな。ここにしよう。……あっ』
プリンツ《カフェか……ちょっとお腹すいたし、眠気覚ましにカフェインが欲しいかな。時間に余裕があるし、よっていこう》
プリンツ《車を停めて、カフェに入る。サンドイッチとカフェオレを頼んで、席に座った。そこそこイケる。束の間のコーヒーブレイクを楽しむ》
プリンツ『……おいし』
チャラ男『Excuse me?』
プリンツ《……なに、この人。英語?》
プリンツ『……Yes?』
チャラ男『こんなところで何やってんの?もしかして暇してる?』
プリンツ『いえ、そういう訳ではありませんよ』
チャラ男『そうなの?じゃあ君みたいな美人が一体なんでこんなラブホ街にいるわけ?』
プリンツ『ラブホ街?私はただカフェに入っただけですよ』
チャラ男『そうなんだ。ねえ、もしよければこの後俺といいことしない?』
プリンツ《なるほど……そういう輩か。反吐が出る。もっと他に大切なことがあるだろうに》
プリンツ『暇でないといったはずですが?』
チャラ男『少しでいいからさ?そうだ、このあたりにいいケーキ屋あるんだよね。奢ってあげるからさ、一緒に行かない?』
プリンツ『お断りします。では』ツカツカツカ
プリンツ《そう言って残りを一気に飲み干し、サンドイッチを持って店を出ようとする》
チャラ男『ちょっと待ってよ!話はまだ終わってないよ!』グイッ
プリンツ『っ!放してください』
チャラ男『いいじゃん、旅先での一夜の夢ってやつ?俺って結構うまいんだよ?試してみない?』
プリンツ『結構です!私には心に決めた人が居て、その人以外とどうこうするつもりなんて絶対にありませんから』バッ
チャラ男『っ!だから待ってって言ってるだろ!っ!?』ガシッ
プリンツ《再び肩を掴んできた軽薄そうな男の手を取り、捻りあげる。簡単な護身術だ。するとそいつは日本語で怒声をあげた》
チャラ男『痛い痛い痛い!!止めろ!!』
プリンツ『これに懲りたらさっさと失せなさい』パッ
チャラ男『んだよ日本語喋れんのかよ!!お前ただで済むと思うなよ?』
プリンツ『へえ、どうしようって言うの?』
チャラ男『シメて、俺の腕捻った分謝罪してもらうからな?逃げたって無駄だから。このあたりは俺らのたまり場だし』
プリンツ『はぁ……』
プリンツ《仕方ない。私はこれ以上面倒なことになる前に、さっさと事態を終わらせることにした。身分証をカバンから取り出し、見せる》
プリンツ『さっきも言ったけど私は先を急いでいるの。通しなさい』スッ
チャラ男『んだよ。何だそれ……っ!?ドイツ軍!?』
プリンツ『……通しなさい』
チャラ男『は、はい……』
プリンツ『どうもありがとう』
プリンツ《とても不快な気分で店を出る。私がアトミラール以外の人とそういうことをするわけがない》
プリンツ《すこし早いけど、使うホテルも決まった。もう他に用事はないし、さっさと司令部へ向かうことにしよう》
~
プリンツ《何事もなく司令部へ到着し、アトミラールを待つ。その時間が一日千秋のように感じられた》
プリンツ《何かあって、またアトミラールが居なくなってしまっていたりとか……ありえないはずの想像が何故か唐突に脳裏に浮かぶ》
プリンツ『……!!アトミラール!!』ダッ
プリンツ《だから、エントランスから現れたその姿に安心し、こみ上げるものがあった。昨日は、血気に逸っていたこともあって、それどころじゃなかった》
プリンツ《けど本当は、すぐにでもその旨に飛び込みたかった……全身で感じたかった……!強く抱きしめてほしかった……!!》
プリンツ《もう我慢できなかった!!》
提督『プリンツ!!』
プリンツ『アトミラール!!』ダキッ
提督『!!プリンツ……?』
プリンツ『アトミラール!!アトミラール!!アトミラール!!』ギュッ
提督『プリンツ……よしよし』ナデナデ
プリンツ『アトミラールに会うまで、何かあったら……またいなくなっちゃたらどうしようって……!!ずっと怖くて……!!』
提督『……大丈夫だ、俺はここにいる。本当にありがとう。君にはなんて感謝すればいいか』
プリンツ『いえ、いいんです。アトミラールがこうして私の近くにいてくれれば…… っ!!』
プリンツ《視界に入る、不快なもの。じっと窓からこちらを見下ろす、呪われるべき敵、なぜこいつが赦されたのか》
プリンツ《私はありったけの敵意、憎しみを込めてそいつを睨みつける。するとそいつは、傷ついたような表情をする》
ビスマルク『!』
プリンツ《ふんっまるで被害者のように振舞っているが、お前も大きな十字架を背負っていることを忘れるな!!》
提督『いや、それじゃ俺の気持ちが収まらないよ。俺にできることなら何でもする。だから、何でも言ってくれ』
プリンツ『……はい、分かりました。ありがとうございます。では、行きましょうか。他の皆さんもとても心配していますから』
プリンツ《一刻も早くあの女からアトミラールを連れて去りたかった。ここにいるだけで何か悪いことが起きそうだ》
提督『ああ、そうだな』
プリンツ『っ』ギリッ
プリンツ《笑顔であいつに手を振るアトミラール。私の心に狂おしいまでの狂気が渦巻いた》
プリンツ《車に乗る前に、もう一度あいつを睨みつける。悲しそうな顔をしていることに、むき出しの神経をなでられたような不快感》
プリンツ『では、出発しますね』
提督『ああ、頼む』
プリンツ《必ずお前の元からアトミラールを解放してやる!アトミラールと一緒に幸せになってやる!!》
~
プリンツ(そろそろだ、そろそろ仕掛ける時。落ち着いて、Andere Länder, andere Sitten(郷に入っては郷に従え) だ)
プリンツ(セックスは普通なことなんだ。自然に、怪しまれることなく……私ならできる。頑張れ、プリンツ・オイゲン!)
プリンツ「あ、アトミラール?」
提督「!?ど、どうした!?」
プリンツ「えっと……さすがに長い間運転して疲れちゃいました……」
提督「そうか?なら運転を代わろうか」
プリンツ「い、いや、アトミラールは肩を撃たれていますから!だから安静にしていたほうが良いですよ!」
提督「そうだな……確かにそうだ」
プリンツ「そうですよ!本来ならもっと頑張れるんですが、昨日バイクで往復12時間だったので……」
提督「バイクで往復12時間……!?そういえば、プリンツがどうやってあそこへ来たのか考えてなかった……あの天気でか……!!」
提督(プリンツ……お前はそこまでして……俺は……)
プリンツ「ですから、やはり少し休憩すべきかなって思うんですが……どうですか?」
提督「もちろんだ!お前の体が一番だからな」
プリンツ「ありがとうございます。どうしようかな……」
プリンツ(もう少しだ、もう少し……来た!!)
プリンツ「あ、見てください。なんかあのホテル、休憩なんてあるみたいですよ。ちょっとよってもいいですか?」
提督「!?」
提督(あ、あれは……!!っ…… だが、別に変なことをするわけじゃないし……)
提督「プ、プリンツ……あれはラブホと言ってな?恋人同士がそういうことをするための場所なんだ」
プリンツ「……え、えー!?そうなんですか?じゃあどうしましょうか……」チラッ
提督「……ま、まあ普通に寝ることもできるはずだ。ちゃんとしたベッドもあるしな。だからプリンツさえ良ければ……」ドキッ
プリンツ「じ、じゃあ行きましょうか!はい!居眠り運転とか危ないですしね!」
提督「あ、ああ」
プリンツ(……きた!!勝った!!これってつまり、アトミラールは既に私とこういうところに入ってもいいぐらいには私のことを……!!)
プリンツ(もしかしたら、本当に今日……私はアトミラールと、本当に……!!プリンツ・オイゲン、行きます!!)
提督(落ち着け、落ち着くんだ。プリンツはあくまで休憩したいだけだ。そもそもラブホなんて知らなかったみたいだし)
提督(誘ってるわけじゃない。勘違いするなよ、俺。……いや、それ以前に俺にはビスマルクがいる!!)
ビスマルク『アトミラール!!』ニコッ
提督(そうだ、俺には心に決めた人が居る。……だから駄目だ、そんなことは!!)
プリンツ『アトミラール……!!』ダキッ
提督(……それでも、駄目なんだ。俺は本当にビスマルクが好きなんだ。心から愛している)
~
プリンツ「へぇ……なんかすごくお洒落ですね。たしかに、雰囲気あるかも……」
提督「そ、そうだな。じゃあ、プリンツ。お休み。今日中に帰ればいいんだ。18時に起こすからゆっくり休んでくれ」
プリンツ「はい。ありがとうございます。けど、この服で寝るのは……あ、クローゼット。バスローブがありますね。これは……へぇ、下着まで売ってるんですか」
提督「あ、ああ。着替えるか?なら俺はトイレにでも籠るから終わったら言ってくれ」
プリンツ「……アトミラール。私、シャワー浴びてもいいですか?」
提督「しゃ、シャワーか……!?」
提督(クソ!!なんで風呂が透けてるんだ!!これじゃはっきりとは見えないがシルエットが丸見えじゃないか!!)
プリンツ「せっかくなので……駄目ですか?」モジッ
提督「……っ!!」
提督(プリンツは、恥じらうように顔を赤らめ少し俯かせている。そしてちらりと上目遣いでこちらを伺う)
提督(まるで映画やドラマで見るようなシチュエーションだ。ただし、場所が校舎裏やらで、内容が好きですという告白ならだが)
プリンツ「……」
提督「……あ、ああ。分かった。いいぞ。俺はトイレに籠ってr」
プリンツ「そんな!申し訳ないです!アトミラールなら、私は大丈夫ですから。くつろいでいてください。では」
提督「!」
提督(プリンツは俺を遮るようにそう言うと、バスローブを掴んで脱衣所に早歩きで行ってしまった)
プリンツ「……」シュルシュル パサッ
提督「……ごくり」
提督(ぼんやりと見えるシルエット。灰色の軍服が脱げていき、肌色が露わになる。この向こうでは、今、プリンツが……)
提督「……!!」ブンブンブン
提督(駄目だ駄目だ駄目だ!!落ち着け!!どうする?そうだ、歌を歌おう!!朝だ夜明けだ潮の息吹き!!うんと吸い込むあかがね色!!)
~
プリンツ「ふぅ……上がりました、アトミラール。失礼しました」
提督(いつもと違って髪を下ろした姿に、またどきりとした。いつものかわいらしい姿からは信じられない大人っぽさだった)
提督「そ、そうか!良かった。じゃあ一息ついて寝るか?」
プリンツ「そうですね。けど、その前に……ちょっと下着を買わないと……」
提督「!?」
提督(ということは……今、プリンツはバスローブ以外何も……!!)
プリンツ「何種類かあるんですね……へぇ……あ、アトミラールはどれが良いと思いますか?」
提督「お、俺に聞くのか!?」
プリンツ「はい。是非選んでほしいなって思いまして」
提督「……っ!!そ、そうだな、その黒いのが良いと思うぞ!?」
プリンツ「これですか?……結構、大胆な奴ですね……?」チラリ
提督(しまった!!ついとっさに好みで選んでしまった!!)
提督「あ、いや……お、思ってたのと違うな?そっちの白い奴の方がいいんじゃないか?」
プリンツ「こっちですか……?ふぅん……」
プリンツ(方や煽情的なレースの黒い下着。方やシンプルな白い下着。アトミラールの反応からして、黒い方が……)
プリンツ(でも、ここで黒いのを買うと不自然だし……そういうことを期待してるってバレるかも。なら)
プリンツ「じゃあ、こっちにしよう……かな……?」
提督「あ、ああ、それがいい!俺が買おう」
プリンツ「え、そんな!悪いですよ」
提督「気にするな。君には感謝してもしきれないほど感謝しているんだ。これぐらい当たり前だ」
プリンツ「そ、そうですか?なら……」
提督「ああ、そうしてくれ。……ほら、これで」
プリンツ「ありがとうございます。……では、ちょっと身に着けてきますね」
提督「あ、ああ」
提督(この場所の雰囲気のせいか、妙に気分が浮つく。だが、俺にはビスマルクがいるんだ。馬鹿なことはできない)
提督「気を引き締めなくては……」ボソリ
プリンツ「……おまたせしました」
提督「いや、大丈夫だ。……じゃあそろそろ寝るか?」
プリンツ「……アトミラールはどうするんですか?」
提督「俺か?そうだな……とりあえず、俺もそこのソファーで昼寝するよ」
プリンツ「えっ!?ソファーでですか?」
提督「ああ」
プリンツ「そんなの申し訳ないですよ!」
提督「だが同じベッドで寝るわけにはいかないだろう?」
プリンツ「……一人で寝るのが怖いんです」ギュッ
提督「!」
プリンツ「アトミラールが正気を失って以来、ずっと心休まる日がありませんでした……」シュン
プリンツ「本当に……本当に怖かったんです。いつか提督が本当に壊れていなくなってしまうかもしれないと思って」ウルッ
プリンツ「昨日、急にいなくなってしまったときはもうだめかもしれないと思いました。……私も限界だったんです」フルフルフル
提督「すまない……本当にすまない、プリンツ……俺は……」
プリンツ「いいんです。今、アトミラールは、正気に戻ってここにいる。だからもう大丈夫です。けど……」
プリンツ「だけどもしアトミラールさえよければ……どうか今日だけ、一緒に寝てくれませんか?……アトミラールを感じさせてくれませんか?」チラッ
提督(それは悲痛からか、あるいは別の感情か。プリンツは表情を曇らせ、目に涙を浮かべつつ上目遣いでこちらを伺っていた)
提督(俺のために、我が身も顧みずにひたすら尽くしてくれた。そして今、その緊張の糸が切れて、秘めていた自分をさらけ出している)
提督(そんな健気な少女のために、俺ができることは……)
提督「わかった。是非、添い寝させてくれ」
プリンツ「アトミラール……!!はい、ありがとうございます……!!」パァッ
プリンツ(ようやく話せた自分の気持ちに満足する。何より、アトミラールがこうも優しく受け入れてくれたことが一番うれしい)
プリンツ(アトミラールが上着と靴下を脱ぎ、ズボンと下着姿になった。目覚ましをセットする)
プリンツ(私は促されてベッドに入り、アトミラールがすぐに隣に入る。感じるアトミラールの……男の人の体温に、匂い。胸がドキドキする)
提督「お休み、プリンツ」
プリンツ「はい。……」ニギッ
提督「!……」ギュッ
プリンツ(向かい合って眠る。手を伸ばし、アトミラールの手を握ると、握り返される。本当に幸せだ)
プリンツ(どっと疲れが、精神的なものも身体的なものも全て溢れ出てきた。緊張が解けたのだと思う)
プリンツ(瞼が重くなる。……最初は、もっと肉欲的なものを求めていた。けど、今はこれでいい。そう、今だけは)
プリンツ(本当に純粋な気持ちだった。こんな気持ちになれるだなんて。私は、本当に久しぶりの安らかな眠りに落ちて行った)
~
プリンツ「ん……」
提督「起きたか?」
プリンツ「あ。……アトミラール?」
提督「眠ければまだ眠っていていい。時間は延長するよ」
プリンツ「いや、起きますよ。起きますから……もう少しだけ……」ダキッ ギュッ
提督「!」
プリンツ「アトミラール……すぅ……すぅ……」
提督「……」ナデナデ
プリンツ「だい……すき……」
提督「っ……」
提督(もしかしたらと考えたことがない訳ではない。いや、かなり確信していた。どうしてプリンツがこうまで俺を助けてくれたのか)
提督(プリンツの、そのあどけない寝顔を見る。文句なしの可愛い美少女だ。幼さを残しつつも大人へと成長しつつある整った顔立ちは、きっと誰もが振り向くだろう)
提督(外見も良い。だが、プリンツの一番のいいところはその優しい性格だ。彼女が居なければ、俺はきっと倒れていただろう)
提督(そんな子にここまで思われてうれしくないわけがない。もし俺が独り身なら絶対に告白していただろう)
提督(今だってその白い肌と年の割に豊かな体つき、特に腰回りとローブの胸元から覗く豊かな双丘に目が釘つけになりそうだった)
提督(漂ってくる甘い良い匂いに心臓が早鐘を打っている。……だが、俺には愛するビスマルクがいる)
提督(形の良い眉に飾られた凛々しい印象を覚える釣り目は、透き通るような蒼穹のように青く常に自信に満ち溢れていた)
提督(若々しくとも妖艶な大人の色香を纏ったその様は、あの卑しいデブが卑劣にも騙して、洗脳まがいのことをしてまで欲したのも分かる)
提督(いつだって頼りがいがあって、何があっても諦めず、ビスマルクに任せれば何とかなると思わせてくれた)
提督(そして、とても純粋で仲間を信じて戦っていたんだ。だからこそ、あの男につけ入れられてしまったのだが……)
提督(ともかく、俺はビスマルクが誰よりも好きだ。本当に心から愛している。だから、俺は……)
~
プリンツ(一度目が覚めた記憶があるが、結果的に二度寝してしまった……目が覚めた時にはもう夜だった)
プリンツ(予定がとても遅れてしまった。謝る私に、しかしアトミラールは優しく謝るような事じゃないと言ってくれた)
プリンツ(……それにしても、とっても気分のいい目覚めだった。幸せだった。アトミラールと一緒になれれば、きっと毎日がこんななのだろう)
プリンツ(支度をして、ホテルを出る。時間が時間だったから、イタリアンの店でディネーをとった。無事に帰還したころには、すでに23時近くだった)
プリンツ(待っていた赤城や大和、瑞鶴たちはまず提督の傷に驚き、心配した。提督は打ち合わせ通りにみんなへ説明して、なんとか納得してもらえたみたいだった)
プリンツ(アトミラールは罪悪感があるようだったけど、仕方ないことだもの。悪いのは全部あいつらだ)
プリンツ(すべてが終わった後、私は部屋に戻ってシャワーを浴び、寝支度を済ませてベッドに入った。あまり眠くないが、寝ないといけない)
プリンツ(……今日、私はアトミラールと一緒になる事の幸せを改めて知った。本当に素晴らしい、至福のひと時だった)
プリンツ(それを知ってしまった今、もう絶対に後戻りできない。必ずアトミラールと添い遂げて見せる)
プリンツ(青葉に話を聞いたことを実践する。それに、そういうサイトや本、映画やドラマでさらにいろいろ調べるんだ)
プリンツ(絶対にアトミラールを振り向かせて見せる。あんなひどい娼婦なんかにアトミラールは相応しくない。絶対に……)
~
ピピピピ ピピピピ
提督「っ……今日も暑いな」ピッ
提督(あの日無事に帰還してから今まで、俺はとても忙しかった。い号作戦の為だ)
提督(みんなが俺を支えてくれた。特に、プリンツはずっと付きっきりで秘書艦を務めてくれていた。本当に助かった)
提督(そして現在、俺たちはポートモレスビーに来ている。昨晩到着したばっかりだ。作戦開始まであと一週間もない)
提督(ここはとても暑く、マラリアに気を付けなくてはならない。住むのには向いていないな。しかも、作戦のために急ピッチで築かれた拠点だ。最低限なものしかないが、まあ作戦の為には十分だ)
提督(俺はこの前までおかしくなっていたとはいえ、それはビスマルクのことに関してだけだ。作戦を確認してみたが、おかしなところはない)
提督(まあ、記憶には残っていたし、作戦会議で承認されたのだからあまり心配していなかったが。それでも、良かった)
提督(きっと成功する。そうすれば、南部戦線は消滅するはずだ。勝利への大きな一歩になってくれる)
提督(俺は支度を済ますと、司令部へ向けて出発した。片道10分ほどの道のりだ)
提督「……ん?あれはプリンツか?何をしているんだあんなところで」
提督(司令部まであと半分ほどの所で、プリンツが立っている。ちょうど艦娘の宿舎への道が合流する所だ)
プリンツ「……! アトミラール!おはようございます」
提督「おはよう、プリンツ。どうしたんだ?何か用か?」
プリンツ「いえ、一緒に司令部まで行こうと思いまして」
提督「そのためだけにわざわざこんな暑い中待っていたのか!?」
プリンツ「どうしても一緒に行きたかったんです。……駄目でしたか?」シュン
提督「い、いやまさか!!……じゃあ向かうとするか」
プリンツ「ありがとうございます!!」
提督(隣を歩くプリンツに歩調を合わせる。風向きからか、かすかに漂ってくる甘い香りにプリンツの存在を感じた。思い返してみると、ここ最近いつものことだった)
~
[参謀本部より第十艦隊へレンラク。敵に大規模攻勢のヨチョウあり。第十艦隊は南部方面からの威力偵察をジッコウせよ]
[本作戦のモクテキは敵の攻勢方面の確認である。北部戦線では第十三艦隊が、太平洋戦線では第十二艦隊が]
[そしてインド洋方面戦線では第十五艦隊がタントウする。以上、ブウンを祈る]
[艦隊司令部よりTF109へレンラク。TF109はR-16より敵領域へ侵入、威力偵察をジッコウせよ]
[本作戦のモクテキは敵戦力及び敵の反応のカクニンである。以上、ブウンを祈る]
「サテ、やるとするゾ。TF109. カクイン、戦闘準備」
「敵はまたコウセイをするつもりなのカ……」
「今度はきっと勝てル。主戦線ヨリ戦力が引き抜かれてくるラシイ」
「南にはもうコナイデ欲しいな。ずっとゲキセン続きだ。モウたくさんダヨ……」
「キタとしてもはじき返してヤルサ。遅れずについてコイヨ?バツビョウ!!」
~
提督『どうやら敵も我々の動きに気がついたらしい。各戦線にて敵の威力偵察と思われる侵入が始まった』
提督『無論、我々はこれに対抗せざるを得ない。よって迎撃のために艦隊を編成する。第一艦隊は旗艦愛宕、第二艦隊は~』
プリンツ(というわけで、私は敵艦隊迎撃に出撃することとなった。提督の期待に全力で答えて、できる女アピールだ!)
プリンツ(私がいる限り、ここを抜かせはしない!と、思っていたけれど……)
プリンツ「……」
川内「……」
電「はわわわ!川内さんとオイゲンさんがなぜか険悪な雰囲気です!」ボソリ
雷「どうしたのかしら……?」ボソリ
暁「何よ。任務中に私情を挟まないで欲しいわね」ボソリ
響「困ったね……」ボソリ
プリンツ(川内はどうやら私のことを嫌っているみたい……まあ当然かもね。私の行動は事情を知らない川内達から見れば怪しい事このうえないだろうし)
プリンツ「……!」ハッ
川内「敵艦隊発見、だね」
電「え……あ!見つけました!」
電「重巡洋艦が四隻もいるわ!」
響「それに駆逐艦も二隻確認できるね。かなり強力だよ」
暁「戦力的には不利。どうするんですか、オイゲンさん?」
プリンツ「勿論、ここで迎撃するよ。戦闘準備!」
「「「「了解!」」」」
川内「大丈夫だよ、特III型駆逐艦。あんなの私たちにかかれば魚の餌だから」ニッ
プリンツ「単縦陣!遅れないで!」
プリンツ(敵もこちらに気がついた。この状況じゃ距離を詰めて戦うしかない。なら……)
川内「オイゲンさん、提案があります」
プリンツ「!……突撃?」
川内「距離をとって打ち合ってもジリ貧でしょ?駆逐艦を連れて私が突撃します。だから、援護をお願いします」
プリンツ(! さすが川内というべきかな。とても勇敢だ。Japanの軽巡洋艦には本当に驚かされる)
プリンツ「分かった、気を付けてね」
川内「了解、聞いてたねみんな!!水雷戦隊魂見せてやるよ!!」
「「「「了解!!やってやるわ(よ)(のです)!!」」」」
プリンツ(さて、目的は突撃の援護。沈める必要はない。砲塔は四基あるし、敵も四隻。簡単なことだ)
プリンツ(頭の中で、すべてが分かる。敵の動き、砲弾の軌道、私がどうすればいいのか)
プリンツ(あの日、提督が撃たれそうになった時から私は少し変わったのだと思う。戦いのときに、頭の中が切り替わる感覚)
プリンツ(負けるわけがない。必ず勝てると確信できる。……ゲルマン民族の戦闘本能とかだったら少しカッコいいかもね)
プリンツ「敵が照準してから……撃つとしたら……今」ドゴォン
プリンツ(SKC/34が火を噴き、砲弾が敵へ向かっていく。そして、吸い込まれるように……着弾)
「!?」
「……!!」
「……!?」
プリンツ(発砲前に不意の攻撃を喰らった敵は、攻撃を中止するか、的外れな方向へ誤射した。混乱ぶりが手に取るように分かる)
響「まさか……四隻それぞれに同時攻撃……!?」
雷「すごい!!こんなに練度が高かったの!?」
川内「良し、攻撃開始!!てぇー!!」
プリンツ(川内達が攻撃を開始し、砲弾と魚雷が敵を襲った。混乱している所に肉薄された敵は、しかし驚異的な反応で即座に態勢を立て直して反撃に移る)
プリンツ(駆逐艦二隻が砲撃し、魚雷を発射しながら重巡の前に躍り出た。ちゃんと狙わない攻撃は牽制にしかならない。しかし、自らを犠牲にして重巡洋艦を庇うことに成功する)
プリンツ(そのため、重巡洋艦は一隻が中破したのみで健在だ。反撃の攻撃が始まる。しかし、敵は焦りすぎた)
プリンツ(すこし待てばいいのにすぐさま発砲した。その攻撃は、敵の行く手を横切るようにして離脱していく川内達を捉えることは無かった)
川内「ははっ!チャンスだ!再装填まで時間ができた!反転して再攻撃するよ!」
プリンツ(私も舵を切って全速前進。敵へ突撃した。再装填が終わり、敵のうちの一隻に照準……発砲)
リ級A「あっ!?」ドガァン
リ級B「ヤラレタ……!?嘘だああああああ!!」
リ級C「くそ!!ハサミウチか!?落ち着け!まだ終わったわけじゃない!冷静に対処するんだ!」
リ級D「キカンの出力が上がらない!このままじゃやられる!」
川内「どこ見てんのさ!?こっちだよ!!」ニタァ
プリンツ(私の砲弾は敵の装甲を貫き、爆発、炎上した。敵は憎しみを込めてこちらを睨みつける。そこへすかさず川内達が攻撃を加えた)
暁「沈みなさい!!」
響「До свидания 」
プリンツ(砲弾の嵐と魚雷が残った敵へ襲い掛かる。今度は庇う駆逐艦が居ない。その攻撃で残りの敵がすべて撃破された。あるものは沈みゆき、あるものは炎上しつつ漂っている)
雷「やったわ!」
電「ふぅ……みんな無事でよかったのです」
リ級B「……!!」グググ
プリンツ「!!」
プリンツ(しかし、気がついた。炎上している敵、その一隻はまだぎりぎりで戦える。沈みかけの大破といったところか)
リ級B「みんなの……カタキ!!せめてイッシ報いて!!」
プリンツ(炎上しつつもその紅く発光する目をぎらつかせ、口から吐血しながら砲を構えた。その狙いは一番後ろを航行していた暁だ)
プリンツ(直感的にわかる。これは、あたる。意識する前に体が動いた。舵を切り、全速で暁のもとへと向かう)
川内「!?暁!!」
暁「えっ?っ!!」
プリンツ(横目に見える。後ろを確認した川内が事態に気がついて声をあげた。暁も自分が狙われていることに気がついたが、もう遅い)
リ級B「死ねええええ!!」ドゴォン
プリンツ(敵が発砲し、砲弾が暁へと吸い込まれる。その寸前)
プリンツ「やああああっ!!」ガギィン
プリンツ(すべてがスローモーションに感じる。間に合った私の飛び蹴りが砲弾の側面を捉えた)
プリンツ(砲弾は火花を散らして軌道をかえ、暁を掠めるように飛んで海へ吸い込まれていった)
リ級B「なっ……馬鹿な……」
プリンツ(衝撃に顔を歪めるそいつに向かって、私は着地と同時に滑りながら敵へ向き直り、砲を構えた)
リ級B「……っ!!チ、チクショオオオオオオ!!」
プリンツ「……」ドゴォン
プリンツ(事態を把握したそいつの、怨嗟の絶叫が響き渡る。再装填が完了した私は、悪夢を終わらせてあげた)
プリンツ(爆音が響き、後には静寂が残された。波の音と炎の音が静かに響き、潮の香りと硝煙の匂いが漂う)
プリンツ(周囲を確認した私は、敵が全滅していることを確認する)
プリンツ「……よし、集合!!」
「「「「……っ!!了解」」」」
プリンツ(呆然としていた川内達は、私の号令にハッとして集合する)
プリンツ「被害は?」
川内「あ、ありません」
プリンツ「良かった。……司令部へ連絡。こちら第三艦隊、戦闘終了。我が方に被害なし」ニコッ
提督『……こちら司令部。了解、よくやってくれた!帰投せよ』
プリンツ「了解、アトミラール。帰投します。……貴方のもとに。なんてね」
暁「あ、あの……オイゲンさん。ありがとうございました」
プリンツ「え?」
響「本当にありがとう、オイゲンさん。暁を守ってくれて」
雷「さすがに胆が冷えたわ……ありがとう、オイゲンさん!!」
電「ありがとうございます!!ぐすっ……本当に良かったよぅ……!!」
プリンツ「そんな!当たり前のことをしただけだよ!」
川内「オイゲンさん……ありがとうございました」
プリンツ「川内……」
川内「……ずっとひどい態度をとって、ごめんなさい。私、貴女を信用できないヤな奴だと思ってたけど、間違いでした」
プリンツ「いいよ、気にしないで。私も、あの時は誤解されるようなことをしていたからね」
川内「……ありがとうございます」
プリンツ「そんな顔しないで。アトミラールを心配していたんでしょ?……そうだ、仲直りの握手しようよ!」ニコッ スッ
川内「オイゲンさん……はい」ニコッ ガシッ
プリンツ「ん!じゃあ戻ろうか」
「「「「了解!」」」」
~
提督「……ん、もうこんな時間か」
瑞鶴「あれ?ホントだ。時間が経つのが早いね……」
提督「少し休憩するとしようか」
瑞鶴「あ!ならお茶入れてくるね!」
提督「そうか?ありがたい。では俺は外の空気でも吸ってくるよ」
瑞鶴「ん、分かった」
提督(そろそろ日も暮れる時間帯だ。夕陽を見に行くのも悪くないなと歩いていた俺は、珍しいものを見た)
提督(駆逐艦娘は、滅多に巡洋艦以上の艦娘とくっついて仲睦まじく何かの雑誌を読んだりはしない)
暁「ねえねえ、プリンツ!これってどう思う?」
響「子供っぽいんじゃないかな?ねえ、プリンツ」
雷「私はこっちの方がいいわ!プリンツもそう思うわうよね?」
雷「全部いいと思うけど……プリンツさんはどれがいいと思いますか?」
プリンツ「うーん……暁のも雷のも悪くないと思うけど……」
雷「あ、司令官!」
プリンツ「えっ?アトミラール?」
提督「ああ、どうしたんだ、皆?」
雷「今、皆で秋のコーデを考えているのよ!」
提督「なるほどな」
暁「それよりも聞いてよ、司令官!今日のプリンツ、とてもすごかったのよ!」
響「うん。プリンツほどすごい艦娘は見たことないね。金剛さんは裏拳でやったことがあるって聞いたこともあるけど」
暁「でも見たのは初めてだわ!しかも飛び蹴りの方がかっこいいわよ!」
プリンツ「二人とも……恥ずかしいよ……」カァッ
雷「恥ずかしがることないわよ!称賛されて当然のことなんだから!」
電「そうですよ!」
提督「何があったんだ?」
暁「今日ね、敵の重巡に私が撃たれそうになったの」
提督「!?」
雷「そしたらね!プリンツが敵の砲弾を蹴り飛ばして暁を守ったのよ!」
提督「蹴り飛ばして……!?」
響「プリンツは暁を守ってくれた恩人だよ。感謝してもしきれない」
電「私もプリンツさんのような艦娘になれるように頑張ります!」
提督「そうか……プリンツ」
プリンツ「は、はい……?」チラッ
提督「暁を守ってくれてありがとう。感謝するよ」
プリンツ「いえ!仲間を守るって当然のことをしたまでですよ」
提督「それでも、だ。そうだ、これで今度みんなで間宮でも行ってくるといい」
暁「間宮券だわ!!」パァッ
提督「これからもよろしく頼むぞ、プリンツ」
プリンツ「アトミラール……ありがとうございます。私も、これからも頑張りますから。よろしくお願いしますね」ニコッ
提督「っ!こちらこそだ。では、俺は行くよ」ドキッ
プリンツ「はい、お疲れ様です!」
「「「「お疲れ様(なの)です!」」」」
提督「……」
提督(外へ出て、少しの間夕陽を眺める。ため息が出る美しさだ。そして執務室に戻ると瑞鶴が日本茶を入れて待っていた)
瑞鶴「あ、提督さん!お帰り!お茶入ってるよ」
提督「ああ、頂くよ」グイッ
瑞鶴「ちょっ!?熱くないの!?」
提督「……少しな。瑞鶴」
瑞鶴「火傷しちゃうよ?もう……何?」
提督「とびっきり苦いコーヒーを入れてきてくれないか?」
瑞鶴「コーヒー?そっちの方が良かった……?」シュン
提督「まさか!瑞鶴のお茶は最高だ!ただ、急に苦いコーヒーが飲みたくなったんだ。入れてきてくれないか?」
瑞鶴「そうかな……?えへへ。分かったよ。じゃあ少し待っててね」
提督「ああ、頼むよ」
提督(プリンツの笑顔に、どきりとした。胸の中でモヤモヤが渦巻いている。これを消すには、おそらくそれが一番のはずだった)
~
提督(明後日には作戦発動だ。敵の威力偵察はもう止んだ。果たしてどのように評価したのだろうか)
提督(これは嵐の前の静けさなのだろう。だが、その静けさを利用しない手はない。皆には可能な限り休息をとるように言った)
提督(俺はと言えば、更新された天気予報や敵の戦力評価を踏まえて作戦の最終調整に忙しい)
提督「……もう昼か、食堂へ行くとしようか」
~
プリンツ「……そろそろかな」
プリンツ(第一の作戦『朝待ち合わせして一緒に行こう作戦』は順調に進んでいた。あの日以来、毎日朝は一緒に行っている)
プリンツ(そして、とうとう第二の作戦『手作り弁当作戦』が発動される。敵のせいで忙しくて発動が遅れたけれど)
プリンツ(この作戦はアトミラールとの関係をさらに深めるとともに、胃袋を掴む!それこそがオトコを堕とすテクニック!……らしい)
プリンツ「……!来た!」
提督「さて、今日の昼飯は何かな?」
加賀「……!提督だわ」
赤城「まあ、本当ですね。お昼休みかしら」
加賀「提t」
プリンツ「アトミラール!」
提督「ん?プリンツか。どうした?」
プリンツ「はい、これをどうぞ!」
提督「何だ、これは?」
プリンツ「お弁当です!」
加賀「!?」
提督「弁当!?いいのか?」
プリンツ「ええ、どうぞ!アトミラールのために作って来ましたから!」
提督「そうか、それはありがたい。どれどれ、何かな?」ニコッ
プリンツ「……♪」ニコニコ
プリンツ(ふふふ……知ってますよ?ちゃんと青葉に聞きましたから。日本じゃお弁当箱はただの箱じゃない!)
プリンツ(そう、それは一つの料理になると!味はもちろんのこと、見た目もまた重要!だから頑張って考えた!)
プリンツ(美味しくて栄養バランスも理想的に!かつ見た目的にも色とりどりで美しいものを!)
プリンツ(その結果、サンドイッチに決定しました!それにうさぎリンゴもつけて、飲み物の準備もバッチリ!完璧なはず……!)
提督「おお、サンドイッチか!しかも食パンじゃない。店で買うものみたいだな!」
プリンツ「日本じゃほとんど食パンですからね。コンビニとか」
提督「ああ、subwayとかに行かないとないな。……おお、それにリンゴまで!飾り切りも上手いものだ。早速いただくとしよう。いただきます!」
プリンツ「えへへ……どうぞ、召し上がれ!」
提督「どれどれ……美味しい!そこらで売ってるのよりはるかに美味いぞ!売れるんじゃないか、これは?」
プリンツ「そんなぁ……褒め過ぎですよぅ……」テレッ テレッ
提督「うむ、美味しい!……ありがとう、プリンツ。わざわざ弁当を作ってくれて」
プリンツ「どういたしまして!実は飲み物もあるんですよ?今日は紅茶です」
提督「はは、至れり尽くせりだな」
加賀「……頭に来ました」ムスッ
赤城「なるほど……弁当ですか。そういえば久しく作っていませんでしたね」
~
プリンツ(今日もお昼の時間がやってきた。昨日はサンドイッチだったし、今日はおにぎりだ。お米は日本人のソウルフードだからね!)
プリンツ(色彩が単調だけど、おにぎりはこんなものだから仕方ない。お新香があるからなんとかなるはず)
提督「……」スタスタスタ
プリンツ「……あ、アトミr」
加賀「提督、これを。私の自信作です」スッ
提督「おお、今日は加賀か。最近は弁当が流行っているのか?」
プリンツ「!?」
プリンツ(加賀さん……どうしていきなり……!先を越された!もしかして、昨日のを見ていたから!?)
加賀「かもしれませんね。どうぞ召し上がってみてください」
提督「ああ、頂くよ。……釜飯か!暫く食べていなかった!」
加賀「そうですか?ならよかったです。久しぶりの釜飯を堪能してください」
提督「君の料理だ、美味しいだろうな。どれ、いただきます……ああ、美味しい!さすがだな、加賀」
加賀「言ったでしょう?自信作だと。味わって食べてくださいね。丹精込めて作ったのですから」
提督「やはり日本食が一番だな。身に染みるよ」
プリンツ「っ!!」ガーン
プリンツ(日本食が……一番……!!そんな……)
加賀「でしょう?言ってくだされば、いつでもご用意しますからね」チラッ クスッ
プリンツ「!!」ハッ
提督「ありがとう、加賀」
加賀「は、はい……ふふっ」フニャッ
プリンツ「……!!」ダッ ギリッ
~
鳳翔「ええ!?日本食を教えて欲しいですか?」
プリンツ「はい!お願いします!まずは何かお弁当にできるものを!お弁当を作りたいんです!」
鳳翔「うーん……お弁当ですか……なら、幕の内弁当を目指しますか?」
プリンツ「まくのうちべんとう、ですか?」
鳳翔「そうですよ。日本の弁当と言えばおそらくそれを思い浮かべる人が多いでしょう」
プリンツ「! はい、是非それをお願いします!」
鳳翔「よろしい!では、ちょうど夕食も近いですし一緒に作ってみますか」
プリンツ「よろしくお願いします、先生!」
~
プリンツ「……」チラッ
加賀「……」メヲトジ
赤城「もぐもぐ」
瑞鶴「……?何かあったの、あの二人」
愛宕「さあぁ?分からないけれど……何か変な緊張感があるわね」
高雄「食べにくいことこの上ないわ……」
翔鶴「うっ……胃が……」
プリンツ「……っ!」ハッ タッタッタッ
加賀「……?」チラッ
高雄「あ、動きがあったわよ」
愛宕「どうでもいいから早く終わってほしいわぁ……」
提督「……へえ、日本食を勉強したのか」
プリンツ「はい!それでマクノウチ弁当を作ってみたので、食べてみてくれませんか?」
提督「分かった。ありがたくいただくよ」
加賀「!?」ガタッ
「「「「!?」」」」
プリンツ「はい、どうぞ!これです!」
提督「どれどれ、いただきます。ふむふむ……ほうほう……なるほどなるほど……美味い!」
プリンツ「ホントですか!」
提督「ああ!焼き鮭の味加減が絶妙だ!煮物も理想的な柔らかさだし、味もよくしみ込んでいる!卵焼きが甘くないのも俺好みだ!」
瑞鶴「!へぇ……提督さん、卵焼き甘くないのが好みなんだ……ふぅん」ニタァ
愛宕「甘党だから甘いのが好きかと思っていたけど……いいこと聞いたわぁ」ニタァ
加賀「……卑怯者。正々堂々勝負することもなく、このようなだまし討ちなんて。腹が立ちました」ギリッ ボソリッ
プリンツ(加賀さんは目を細め、歯を食いしばりながらこちらを睨みつけていた。大方、私がアトミラールを迎えに行ったことが気に食わないのだろう)
プリンツ(加賀さんだって、気がつけばそうできた。やらなかった自分が悪い。それに、恋は戦争。油断した奴から死んでいくんだ)
プリンツ(アトミラールを誰にも渡すつもりはない。悪く思わないでね)クスッ
加賀「……!!」ピキッ
提督「それにしても、料理が上手いものだな。どれも凄くおいしいよ」
プリンツ「あ、そうですか?昨日頑張って練習した甲斐がありました!」
提督「昨日!?一日練習しただけでこんなに美味く作れるのか……」
プリンツ「鳳翔さんのおかげですよ。鳳翔さんに習ったんです」
提督「ああ、通りで!鳳翔の面影があると思った!だが、これは君の味だな。何か工夫したのか?」
プリンツ「そうですか?うーん……もしかしたら調味料の違いかもしれませんね?」
提督「なるほど……これがドイツの味なのかもな」
プリンツ「そうですね。それに、とっておきのスパイスを使いましたから」
提督「とっておき?それは興味深い!何なんだ?」
プリンツ「……気持ちですよ。アトミラールに喜んでほしいって私の願いです」ボソリッ
提督「!?そ、そうか……!!」
プリンツ「ふふっ」ニコッ
提督(耳元でそう囁かれる。一気に味が分からなくなった。プリンツの顔が直視できない。何とか平静を装って完食する)
提督「ごちそうさま。では、仕事に戻るよ」
プリンツ「お粗末さまです。お手伝いしましょうか?」
提督「いや、明日から作戦開始だ。今日はゆっくり休んでくれ」
プリンツ「……そうですね、分かりました。ではお仕事頑張ってください」
提督「ああ、ありがとう。じゃあな」
プリンツ「はい、また後で」
提督(そうだ、明日には作戦が発動される。集中しろ。スイッチを切り替えるんだ。……失敗は許されない。人類の悲願なのだから)
提督「これよりい号作戦を発動する!第一艦隊へ連絡!突入開始!」
長門『了解!ビッグ7の力、存分に知らしめてやろう!』
提督「第二・第三艦隊へ連絡!第一次攻撃隊を発艦させろ!目標は敵艦隊及び空戦力だ!第一艦隊に道を切り開け!」
赤城『第二艦隊、了解いたしました。一航戦が世界最強であることを証明して見せましょう』
翔鶴『第三艦隊、了解です!必ずや勝利の栄光を!五航戦の活躍に期待していてください!』
提督(とうとう始まった。い号作戦が発動された。目標はガダルカナル及びツラギの敵拠点の撃破だ)
提督(少し前から東部戦線で友の指揮の陽動攻撃がAFに対して実行されている。すこしでも戦力がそっちに流れてくれればいいのだが)
提督(敵もガダルカナルとツラギを失ったらまずいことになるとは気がついている。確認された敵戦力は今までで一番強力だった)
提督(だが俺は信じている。我ら帝国海軍の前にはいかなる敵であろうとも立ちはだかることはできないのだと)
~
赤城『我が航空隊はソロモン海にて敵艦隊に攻撃を敢行!!現在までに判明せる戦果は~』
翔鶴『我が航空隊はアイアンボトムサウンドにて敵艦隊へ攻撃を敢行しました!!敵の損害は~』
長門『第一艦隊、突入成功!!これより敵拠点へ攻撃を開始する!!』
提督(作戦は順調だった。第一次攻撃は大変満足できる結果となってくれた。しかし、すべてが計画通りに進行しているわけではない)
提督「それは本当か?」
伊168『うん。少なくとも重巡四隻を含む中規模の敵艦隊が東部戦線からそっちへ向かったよ』
提督「分かった、報告ありがとう。引き続き偵察を頼む」
伊168『了解!任せて!』
提督「さて、どうするか……」
~
提督「という訳だ。現在、陸奥率いる第四艦隊と大鳳率いる第五艦隊が第二次攻撃を実行しているが、大きな障害たりうる」
長門「そうか、厄介だな……」
提督「だが、位置関係や予想される敵の航路から、今すぐ出撃すれば合流前に会敵することが可能だ」
翔鶴「なら、私が出ましょうか?第三艦隊を率いて撃破して御覧に入れましょう」
提督「いや、第一から第三艦隊までは再補給の後すぐに三次攻撃へ向かってもらう。敵拠点へのダメージはまだ足りない。計画の遅れは致命的になる」
赤城「では、どういたしますか?」
提督「各艦隊から重巡と駆逐艦を引き抜いて、臨時に特務戦隊を編成する。そうだな……編成はこれでいい。これで対処する」
長門「分かった。では各員に通達する」
翔鶴「了解です」
赤城「分かりました」
提督「うむ、頼んだぞ」
~
加古「ふぁ……」
古鷹「加古!居眠りしないで!」
加古「起きてるよぉ」
プリンツ(敵の増援艦隊の到着を阻止するために私達が派遣されることになった。規模は重巡四隻を含む中規模の艦隊だとか)
プリンツ(それに対してこちらは重巡四隻と駆逐艦二隻。数の差はあるけれども私たちの練度なら十分戦える)
プリンツ「!」ザワッ
プリンツ(この感覚……殺気が凄い。本当に重巡四隻が主幹なの?)
プリンツ「……敵は近いと思います」
愛宕「あらぁ。何で分かるのかしら?」
夕立「私もそう思う。けど、この感じ……」
時雨「どうしたんだい?」
夕立「重巡四隻どころじゃないっぽい……?」
古鷹「……っ!!敵艦隊発見!!」
加古「……私が寝ぼけてるだけかもしれないけどさ、戦艦四隻も見えるのは何かの間違い?」
愛宕「寝ぼけてるだけならよかったわねぇ……生憎、これは現実よ。悪夢みたいだけどね」
古鷹「情報と違う……戦艦が四隻……!?こんなの、どうすればいいの……!?」
時雨「……どうするんですか、古鷹さん」
古鷹「くっ……司令部へ連絡を。ここで食い止めなくては作戦失敗に繋がります。それに第四、第五艦隊が撃破される事態になるかもしれません……!!」
加古「ってことは……戦うの?」
古鷹「せめて戦力を削れるだけ削る!!そうすれば皆ならきっとやってくれる……!!」
夕立「うふふ。重巡四隻と駆逐艦二隻で、戦艦四隻と重巡六隻を含む敵の大艦隊と戦うとか……燃えるっぽい!!」
プリンツ「アトミラールの栄光の為、奴らの血で海を満たしましょう……!!」
愛宕「やるしかないってことかしらねぇ……高雄、私帰れないかも……」
時雨「縁起でもないことは言わないほうが良いですよ、愛宕さん」
古鷹「何も全滅するまで戦うわけじゃありません!回避を最優先にして戦えるだけ戦ったら撤退します」
夕立「えー!?そんなんじゃ勝てないっぽい!!」
古鷹「勝つのは何も敵を倒すことだけじゃないよ!!敵戦力を削ぐだけでも十分貢献になるんだから!!」
古鷹「何より、私たちが沈んだら戦力が大幅にそがれる!!そうなればこの作戦だけじゃなくて戦争全体に響く!!」
プリンツ「なら沈まなければいいだけです。そして敵も壊滅させる。両方こなさなくてはならないのが私たちの辛いところですね」
プリンツ「けど、覚悟はできてます。それに、私にならできる。突撃して皆殺しにしてやりますから、援護を」
夕立「それに賛成っぽい!!私も行くわ!!」
古鷹「ちょっ!?何を言ってるの!?」
プリンツ「最大戦速!!フルタカさん、援護して!!」
夕立「お願いします!!」
古鷹「ま、待って!!あぁ……もう!!援護射撃!!覚悟を決めるよ!!」
~
タ級A「ヤツら二隻だけでトツゲキしてくるぞ!!」
タ級B「愚か者メ!!他の奴はホウッテおけ!!重巡のシャテイに入ったらシュウチュウホウカで沈めてやる」
「「「「リョウカイ」」」」
タ級B「……ヨシ!Make ready (構え)! Take aim (狙え)!……Shoot (撃て)!!」ドゴォン
ドンドンドゴォンドン
~
プリンツ(敵が発砲する。けど、私の頭は氷のように冷静だった。敵の砲弾の軌道が見えた。数発が直撃コース)
プリンツ(敵はかなり優秀だ。初撃から当ててくるとは。私は少し進路を変え、体を逸らせて砲弾を避ける)
プリンツ(この前、暁を守った時も感じた自分以外がスローモーションになったような感覚)
タ級A「ハズシタ!?」
タ級B「マサカ。落ち着け。りろーどスルンダ」
プリンツ(敵は冷静に再装填する。早いな。けど全速力で進めば問題ない。装填が終わるまでの間に十分近づける)
古鷹「くっ……!!」
加古「あの二人で狙いにくい!!」
愛宕「もう!!」
古鷹「誤射を避けるように!!牽制できればいい!!……撃て!!」ドゴォン
ザブン ザブン ザブン
ネ級A「残りのテキがハッポウしてきました」
タ級B「カマウナ。重要なのはセッキンチュウのやつらだ」
プリンツ(古鷹たちの援護射撃が始まったけど、距離があるうえに私達が邪魔になっていて、敵に当たることは無かった)
夕立「プリンさんプリンさん」
プリンツ「ぷりん?」
夕立「皆、右利きだよ。私が面舵で回り込むからプリンさんは取り舵ね」
プリンツ「ああ、私のこと?分かった。……大丈夫?」
夕立「大丈夫だ、問題ないっぽい!!」
プリンツ「そう。じゃあよろしくね」
夕立「うん!!」
プリンツ(そうこうしているうちに、敵は再装填を終えた。照準されている。針のような視線がこちらを刺すみたいだ)
プリンツ(狙いを定めて……発砲するなら……今)グイッ
ドゴォン ブンブンブゥン
プリンツ(示し合わさなくても夕立とは分かり合っていた。敵の発砲の瞬間、弾けるように二手に別れる)
プリンツ(私たちは、敵を中心に円周をなぞるように進む。それに数瞬遅れて、鋼鉄の嵐が私と夕立が居た空間をずたずたに引き裂いた)
タ級A「バカな!?」
タ級C「フザケヤガッテ!!りろーど!!」
タ級B「Fire at will (各自で自由に攻撃)!!水雷戦隊はクチクカンを!!打撃部隊はジュンヨウカンを!!」
タ級D「ナンナンダコイツラ!!」
プリンツ(今度こそ驚きの表情を浮かべる敵だが、それでも落ち着いて展開していく。だが、)
夕立「あははっ!!さあ、ステキなパーティーしましょ!!」ドボン ドン
プリンツ「攻撃開始、Feuer!!」ドボン ドボン ドゴォン
プリンツ(魚雷を発射しつつ、牽制の砲撃を加える。相手の行動をコントロールして、魚雷へ追い込む)
リ級A「アブナイ!!」
ネ級A「ナニシテル!?止まるな!!ギョライが来る!!」
リ級A「エッ?」ゴォッシャァン
イ級A「グギャアアアア!!」ゴォッシャァン
リ級B「アッ」ゴォッシャァン
プリンツ(数本が敵に吸い込まれ、大きな水柱をあげる。沈んだのは重巡二隻に……駆逐艦二隻か。好都合)
プリンツ(肉薄したら戦艦より手数の多い巡洋艦や駆逐艦の方が怖い。私は敵の反撃を避けつつ面舵、敵へと突っ込んでいく)
リ級C「なんてヤツだ!!クルゾ!!」
ネ級A「ウテウテウテ!!」
ネ級B「ムリダ!!味方にアタルゾ!?」
リ級D「シャセンに立つな!!イドウしろ!!」
プリンツ(慌てふためく敵、なんとか反撃しようとしている。抵抗なんて、無駄なのに)
プリンツ(敵の真っただ中に飛び込んだ私に対して、敵は誤射を恐れて迂闊に発砲できない)
プリンツ(射線はすべて把握している。私はすぐそばのリ級に肉薄する)
リ級C「ウワアアアアアア!?」
プリンツ(私と目が合った獲物は、恐怖に顔を歪めて砲を構える。本能的に構えた主砲は、その練度の高さをうかがわせる正確さと素早さ)
プリンツ(私は半身になって身を逸らす。続いて砲声、風切り音。分かっていた。敵は焦っている。狙いをつけたらすぐに撃つ)
リ級C「!!??」
プリンツ(さらに接近。手が届きそう。一斉に発砲して、どれが当たればなんてのは必要ない距離)
プリンツ「グラーツ!!」ドン
リ級C「ダレカ!!タスっ」ボシュッ
プリンツ(ぎりぎりまで近づいたところで一番砲塔『グラーツ』を撃つ。リ級の首から上が消し飛び、血が噴き出す)
プリンツ(スプリンクラーのようなそれを浴びながら、崩れ落ちた首なし死体の脇を通り過ぎる。膝を曲げ、姿勢を落としつつ急ターンで振り向き)
プリンツ「ブラウナウ!!」ドン
リ級D「っ……えっ……?」シュボッ
プリンツ(こちらに狙いをつけていた別のリ級へ向けて発砲。この距離なら重巡程度の装甲は意味がない)
プリンツ(放たれた砲弾は相手の胸を貫き、膝を折った敵は不思議そうにかつて自分の胸があった箇所に手を伸ばし、触れようとした)
リ級D「……がふ。……」バシャッ
ネ級B「モラッタアアアアアア!!」ドゴォン
プリンツ(そこで、左にいたネ級が発砲。砲弾はこのままだと直撃コース。が、曲げていた膝を伸ばし、回転ジャンプ)
ネ級B「ナニイイイイイイ!?」
プリンツ(アイススケートで言うところのアクセルジャンプだ。誰かが私たちを見て水上スキーと言ったらしい)
プリンツ(だけど、それは間違っている。これはアイススケートなんだ。私達は大海原という特別な舞台で踊る戦乙女とでも言おうか!)
プリンツ「インスブルック!!」
ネ級B「あぐっ……つぅ……」バシャ バシャン
プリンツ(回転中、敵を捕らえる刹那。しかし私には長い。狙って発砲、そして着弾。腹部を貫かれたネ級は、そのまましりもちをつき後ろへ倒れ込む)
プリンツ(視界がゆっくりと回転する。飛び散る血肉、弾ける水飛沫、たゆたう硝煙。そのすべてがゆっくりな世界)
プリンツ(少し離れた所では夕立が敵の駆逐艦や軽巡相手に暴れている。この分なら問題ないだろう)
ネ級A「!!」ニタァ ドゴォン
プリンツ(そして気がつく。最後の重巡が狂気の笑みを浮かべてこちらを捉えている。着地の瞬間を狙われていた。発砲される)
プリンツ(そのうち一発がどうあがいてもよけられない。相手は勝利を確信していた。このままなすすべもなくやられる?この私が?)
プリンツ(はっ!そんなわけない。私は今、全力で恋愛しているんだ!こんなところで死んでやるものか!)
プリンツ「ウィーン!!」ドンッ
ガキィン
ネ級A「っ」バスッ ドガァン
プリンツ(敵が発砲し、事態を把握した直後、私も発砲した。砲弾と砲弾がゆっくりと近づいていき、そして激突)
プリンツ(どうしても避けられなかった一発は弾道を下にずらして海へ消えた。そして上から撃ちおろした私の砲弾はそのまま弾道を上に、つまり敵の方へずれた)
プリンツ(そして敵の砲を貫く。それが内側から破裂するように膨れ上がり、亀裂から閃光が漏れた)
プリンツ(やがてそれは大きな爆炎となり噴き出し、勝利の笑みを浮かべたままの敵を飲み込んだ)
プリンツ(私は着水し、勢いを受け流すために滑りながら何回か回転して止まる。残された戦艦四隻が呆然と立ちすくんでいた)
プリンツ(私はゆっくりとそちらへ向き直る。敵戦艦はもう少しで再装填が終わる。敵の目は私に釘つけだった)
タ級B「……お前は、ナニモノだ?シニガミなのか?」
プリンツ(震える声、話せない目線、表情は何とか取り繕っているが、恐れを感じているのは確かだ)
プリンツ「……私たちが出港するとき、誰もが私達を一目見ようとする。望遠カメラまで用意して、ご苦労様だよね」
タ級B「……?」
プリンツ「だけど、それはただの移動。観艦式でさえも行進でしかない。この戦い……いや、踊りこそが本番だと思わない?」
タ級B「何をイッテいる!?」
プリンツ「私は死神なんかじゃない、ただの恋する乙女だよ。そう、アトミラールに仕える戦乙女(ヴァルキュリヤ)!!」
タ級B「ヴァルキュリヤ!?意味がワカラナイぞ!!」
プリンツ「北欧神話って知らないか。まあいいや。これは私からアトミラールに捧げる踊りなの!」
プリンツ「だからさ、私と一緒に踊ろうよ!すべてはアトミラールのために!あの女がいなくたって、戦艦四隻ぐらい余裕で撃沈だ!」サッ
タ級B「!?アクマ!!シニガミめ!!」ガチャリ
プリンツ(敵がいよいよ再装填を完了し、撃とうとしたその瞬間、砲弾が奴らに降り注ぐ)
古鷹「オイゲンさん!!無理しないで!!」
プリンツ(古鷹さんたちの援護だ。接近してきていた艦隊の仲間が、斉射をくらわせる。完璧、予想通り)
タ級B「ナニ!?」
タ級A「ヤラレタ!?テナイ!!」
プリンツ(敵は混乱に陥り、視線を艦隊に向ける。その隙を逃さない。姿勢を低くして突撃。まずは一番近いお前だ!)
タ級C「イヤアアアアアア!!」
プリンツ(それに気がついた敵は私に狙われていることに気がつくと絶叫する。さっきと同じだ)
プリンツ(砲撃をジャンプでよけて、やつの真上へ。体をひねり、魚雷発射管を真下の敵へ。魚雷を発射する)
タ級C「ヒイッ!?」
プリンツ(向かってくる魚雷を、しかし敵はかがんで避けようとする。けどまあ、当てようと思っていたわけじゃない)
プリンツ(再装填が済んでいるのはグラーツだけだ。それじゃ足りない火力を補うための魚雷だ)
プリンツ「Bye!」
タ級C「マ、マッテ!!」
プリンツ(グラーツが火を噴き、砲弾が魚雷を貫く。爆発が他の魚雷を誘爆させ、敵戦艦を吹き飛ばした)
プリンツ(爆風で加速しつつ着水、それ以上煽られないように姿勢を低くして旋回。次の生贄はどれにしようかな。……あ)
タ級A「ホントウにバケモノだ!!」
タ級B「オチツケ!!当たればシヌんだ!!あいつさえ何とかすればカテル!!」
タ級D「ホカはザコだ!!キニスルナ!!」
夕立「それは酷いっぽい。夕立とも遊んでよ」
タ級D「ナッ!?」
夕立「うふふっ!」ドン
タ級D「ガッ!!」
プリンツ(真後ろに接近していた夕立に驚愕した敵、それに対して腹部に砲撃を加える夕立。しかし装甲を抜くことはできない)
タ級D「っ……ナメルナ!!っ!?」
夕立「歌って見せてよ……!!」ニタァ ウィィィィン
プリンツ(衝撃に前かがみになり、しかしそう怒声を張り上げて顔をあげた敵の前に突き付けられたのは点火した魚雷のスクリューだった)
タ級D「ギャアアアアアア!!」グチャグチャグチャ
夕立「あはははははは!!」
プリンツ(飛び散る骨肉、響く悲鳴と笑い声。私でも背筋が冷たくなる)
夕立「すごい!お歌が上手ね!けど残念、もう行かなくちゃ」グイッ
タ級D「オオオオオオ!!オオオオオオ!!」
夕立「じゃあね、それはプレゼントっぽい!」バラバラ
プリンツ(魚雷を相手に押し付けた夕立は爆雷を投げつける。もはや言葉を発することさえできなくなったそいつが、爆発に巻き込まれて消え去ったのはその直後だった)
~
タ級A「チクショウ!!アクマドモメ!!」
タ級B「ハズスナヨ!!ハズシタラオワリダ!!」
タ級B(クソッ!!コンナハズデハ……!!片や氷のヨウナ冷たいビショウの重巡!!片やクルッタようなエミをウカベル駆逐艦!!)
タ級B(キョウツウしているのは、フタリトモ仲間のチニマミレて濃厚なシノ匂いをタダヨワセテいるということだ!)ヒューン
ザブン ザブン
タ級B「っ!?」
タ級A「ぎゃあ!!」ドガン
タ級B(シマッタ!!ほかの奴らをワスレテイタ!!ここまでセッキンサレテいたか!?)
タ級A「イヤダ!!シニタクナイ!!シニタクナイ!!」
タ級B「マテ!!逃げるのかオクビョウモノ!!」
プリンツ「……うふふ」
夕立「あはは!そろそろフィナーレっぽい!」
タ級B「このワタシガ……このワタシガアアアアアア!!」ドガァン
プリンツ「……残念」ヒョイ ザパン
タ級B「……っ!あ……あなた……」
プリンツ「Feuer!!」ドゴォン
夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげる!!」ドン
~
プリンツ「ふぅ……次……っと!?」
夕立「やったー!!プリンさーん!!」ダキッ
プリンツ(最後に何事か呟いた気がするが、気にしても仕方がない。逃げた一隻を追おうとした瞬間、夕立が飛びついてきた)
夕立「すっごく楽しかったよ!!こんなの初めてっぽい!!」
プリンツ「そう?でもあと一隻残ってるよ」
夕立「ああ、あいつはどうでもいいっぽい。もう終わってるから」
古鷹「撃て!!」ドゴォン
プリンツ「!!」
タ級A「っぁ!?」ドガァン
プリンツ(どういうことか真意を問おうとした時、砲声が響いた。古鷹さんたちだ。そして逃げていく敵に着弾し、相手は沈んでいく)
夕立「さすが古鷹さん、命中!」
プリンツ「そうだね、良かった。これでアトミラールも喜んでくれるよ」
古鷹「二人とも!!」
プリンツ「古鷹さん」チマミレ
夕立「何かしら?」チマミレ
古鷹「ひっ!?ぶ、無事で良かった……!!けど勝手に突撃するなんて!!旗艦の命令にちゃんと従って!!」
夕立「ごめんなさぁい……でも、夕立たちのおかげで大勝利っぽい!!だから褒めて欲しいかも。ね、プリンさん?」
プリンツ「けど、確かに待ってって言われたのに突撃しちゃったから……ごめんなさい。軍法会議ですか?」
夕立「えー!?そんなぁ……夕立、頑張ったのに怒られるっぽい……?」
古鷹「い、いや、そこまではしないけど……でもあんな無茶な戦い方!!」
プリンツ「ごめんなさい……」
夕立「うー……ごめんなさい……」グスッ
古鷹「……とりあえず任務も完了したし、帰還しようか。二人ともよく頑張ったけど、無茶はしない事!!」」
プリンツ「はい、ありがとう」ニコッ
夕立「ホント!?やっぱり古鷹さん優しいっぽい!!ありがとうございます!!」
愛宕「で、でも、その前にぃ……その返り血をどうにかした方がいいんじゃないかしらぁ?」
プリンツ「ああ、確かにそうだね」
夕立「うへぇ……早く帰ってお風呂に入りたいっぽい」
プリンツ(とりあえず、海の水で体を洗う。べったりして気持ち悪いけど、敵の血よりは全然いいよね)
プリンツ(私は、帰還したらアトミラールがどんなに喜んで褒めてくれるだろうかと考えながら、舵をポートモレスビーへ切った)
~
カ級「……!!アノTF21がたった六隻……イヤ、二隻に……!?ホンブへレンラクしなくては……」
~
提督「そうか……にわかには信じがたいな……」
古鷹「ですが、本当にそうだったんです」
提督「戦艦一隻及び重巡四隻の単独撃沈が確実。戦艦二隻と重巡二隻が共同撃沈。それに軽巡以下の戦果多数、か……」
古鷹「プリンツ・オイゲンは戦闘中にまるで別人のように好戦的になりました。圧倒的な戦力差に物怖じすることなく突撃していきましたから」
古鷹「以前の彼女も優秀でしたがここまででは……正直、なんといえばいいのか……何か映画でも見ている気分でした」
提督「分かった。ともかく、ご苦労だった。君たちのおかげで我々は窮地を脱した」
古鷹「はい、ありがとうございます!」
提督(プリンツが……だが、そういえばあの男を殴り飛ばした時……プリンツの動きは尋常じゃなかった)
提督(艦娘とはいえ、対人戦闘は専門でないはずなのに。組手でもそこまでの成績ではなかった。一体プリンツに何があったのだろうか?)
提督(だが、今はまだ作戦の最中だ。そんなことを考えている暇はない。そろそろ、終わりの時間のはずだった)
~
タ級『ソロモン海でテキカンタイとコウセンチュウ!!我らユウセイ!!ソロモン海でゲキタイできます!!』
飛行場姫「ソウカ、分かった。引き続きガンバッテくれ!」
タ級『了解!』
飛行場姫「っ……はぁ……はぁ……うふふ……タエタ……タエキッタ!!ジョウホウではこれ以上のコウゲキはない!!」
飛行場姫「ぽーともれすびーの敵艦隊はマンシンソウイ!!ソロモン海のカンタイをヌケハシナイ!!」
飛行場姫「あははははは!!ヤッタワ……!!三日三晩!!キビシイ戦いだった……けど、タエタ!!私達のショウリよ!!」
飛行場姫「皆のギセイは無駄じゃなかった!!ここは南部でのハンコウの要になるわ!!ミテいてね、皆!!」
リ級「タイヘンです!!敵の……敵のカンタイがセッキンチュウです!!」
飛行場姫「なぁっ……!?バカナ!!ドコから!?」
リ級「北カラです!!カクニンされたのはコンゴウとハルナが主幹のカンタイ!!共に太平洋戦線にイタはずの奴らです!!」
飛行場姫「バカナ……トチュウデ転進したというの……!!直援カンタイは消耗している……マモリきれそうなの?」
リ級「ザンネンながら厳しいかと……しかも、ソロモン海のカンタイは今からヒキカエシテきてもマニアイません……ドウシマスカ、りこりす様!?」
飛行場姫「ああ、ソコクよ……サイゴまで戦うしかないデショウ……!!ワレワレの誇りをミセツケテやれ!!」
リ級「リョウカイしました……!!」
飛行場姫「ゾウエンカンタイさえ……ゾウエンカンタイさえ到着していれば!!オノレ……ハイイロのアクマめ!!」
~
金剛「涼しいネー!対電探用の隠蔽シートはToo hot デシタ」
榛名「そうですね。ですが、その甲斐あって発見されなかったようです。敵の直援は見当たりません!有力な敵艦隊は全部ソロモン海のはずです!」
金剛「Enemyはもう勝ったつもりでしょうネ。けど、これでFinish!?な訳無いデショ!!この戦いで決めてやりマス!!提督の期待に応えるためにも、頑張りマスヨー!!」
榛名「はい、お姉さま!!榛名、全力で参ります!!……っ!!敵艦隊が出てきました!!」
金剛「Good!!敵はボロボロデース!!みんなの頑張りを無駄にしないためにも、Do our best!!やっつけますヨ!!突入!!」
榛名「はい!!勝利を、提督に!!」
金剛「Burning love!!」
~
提督(作戦は成功に終わった。正攻法で敵を攻撃し、撃破しきれないと判断した場合は十分な損害を与えた後、わざと敵艦隊を引き付けつつ戦場をソロモン海まで下げる)
提督(その間に東部戦線から高速艦で編成した打撃艦隊を南下させ、敵拠点に止めを刺すという内容だった)
提督(しかし、敵艦隊の戦力が予想以上だった。特務戦隊、特にプリンツの活躍が無くては作戦の成功はなかっただろう)
提督「よって金剛に乙種勲章を授与する。ご苦労だった」
金剛「ありがとうございマース!!もっと頑張るから目を離しちゃNo!なんだからネ!」
提督(そして今、勲章の授与式が行われている。皆、本当に良く頑張ってくれた。何より、戦死者がでなくてよかった)
提督「うむ。……ドイツ海軍、遣日部隊所属、プリンツ・オイゲン」
プリンツ「はい!」
提督(プリンツが大きな声で返事をする。その顔には微笑みが浮かばせ、瞳を期待にキラキラと輝かせている)
提督「君は本作戦において、非常に重要な役割を果たした。特に、特務戦隊として敵の増援部隊を撃破した際の貢献は計り知れない」
提督「よってプリンツ・オイゲンに甲種勲章を授与する。ご苦労だった」
「「「「!!」」」」
プリンツ「アトミラール……Danke schön!!とても嬉しいです!!これからも引き続き頑張ります!!」
提督(初の外国艦娘に対する甲種勲章授与にざわめく。だが、当然のことだ。それほどの活躍をしてくれた)
提督(プリンツはまるで無垢な少女のように愛らしい満面の笑みを浮かべ、そして誇らしげに胸を張って見せる)
プリンツ「……♪」ジッ
提督「っ!」
提督(微笑ましく思っていたところで、唐突にプリンツが少しだけ顎を引き、若干上目遣いの流し目でこちらを見つめる)
提督(誘うような微笑。先ほどまでの可愛らしい少女から一転、まるで妖艶な大人のような色香を漂わせる)
提督(その妖しく輝く緑の瞳に吸い込まれそうになったところで、正気に戻った)
提督「う、うむ。期待しているぞ。以上で授与式を終了する。皆、本当にありがとう。よく頑張ってくれた」
提督「短いが、皆には休暇が待っている。ゆっくりと休んでいくれ。以上、解散」
長門「敬礼!」
提督(危ないところだった。あのままプリンツを見つめていたら、一体どうなっていたのだろうか。いや、考えるな)
提督(さて、執務室へ戻らなくては。作戦の評価を纏めて提出するまでが俺のい号作戦だ)
提督(これからはまた忙しくなる。まあ、艦娘たちの命の危険がないだけで作戦中よりだいぶマシだ)
~
プリンツ(授与式の後、祝宴が開かれた。攻撃艦隊の皆は美味しい料理とお酒を楽しむことができた)
プリンツ(アトミラールは少し食べただけで、すぐにいなくなってしまった。お話ししたかったけど、いろいろあってできなかった)
プリンツ『アトミラー』
金剛『Hey!!提督ぅー!!お久しぶりデース!!貴方の金剛が戻って来ましたヨ!!』
榛名『提督、お久しぶりです。榛名がお酌を務めさせていただきますね』
提督『久しぶりだな、金剛、榛名。二人とも、壮健そうで何よりだ。できればゆっくり話をしたい報告書を書かなくてはならないんだ』
金剛『No!!そんなぁ……』
榛名『そうですか……そうですよね……榛名にお手伝いできることはありますか?』
提督『ありがたいが、君たちはもう十分頑張った。休暇の間はゆっくりしていてくれ。ではな』
プリンツ『あぅ……どうしよう……』
夕立『プリンさーん!』
暁『ちょっと夕立!プリンさんって何よ!ちゃんとプリンツって呼びなさい!』
雷『そうよ!失礼じゃない!』
響『プリンツ、こっちで一緒に食べないかい?皆プリンツの話を聞きたがっているんだ』
電『夕立ちゃんがとってもすごかったって!是非、お話してくれませんか?』
プリンツ『そうだね……分かった。いいよ』ニコッ
プリンツ(それもお開きになって、寝ようと思ってベッドに入った。けど、どうも体が火照っている。疼きが止まりそうもない)
プリンツ「んん……」ジンジン ムラムラ
プリンツ(たぶんこの前の戦闘で、なんというか……本能?のようなものがむき出しになったからだと思う)
プリンツ(今思い返しても、ぞくぞくする。それほどにまで興奮した。生と死の境目に立つ感覚。命を懸けて戦うということに)
プリンツ(だからなのかな。この体の疼きは本能的に異性を、アトミラールを求めていた。けど今はまだ自分で何とかするしかない)
プリンツ「んふっ……アトミラール……」クチッ クチュ クチュ
プリンツ(授与式の時、視線で誘いかけてみたらアトミラールの反応は悪くなかった。アトミラールは私を意識している。上手くいっている)
プリンツ(もうすぐ。順調に関係を深められている。きっともうすぐでアトミラールは私を選んでくれるはず……!!)
プリンツ(ああ、アトミラール……!!待ちきれない……!!……この疼きが治まるまで、まだ時間がかかりそうだった)
~
提督「……」カリカリ
提督(作戦後の報告書の作成や全体の評価。発生した問題点やその改善策の提案など。やることは山ほどあり、時間は全く足りない)
提督「今日も頑張らなくてはな……」
プリンツ「失礼します。アトミラール」
提督「プリンツか。どうした?」
プリンツ「手伝いに来ました」
提督「手伝い?休暇は休めと言ったろう」
プリンツ「気遣ってくれているんですよね?ありがとうございます。でも、私が前に言ったことを覚えていますか?」
提督「前に?……ああ、頼ってくれって言ってくれたことだな。覚えているよ」
プリンツ「はい。見た所、仕事の量はとても多そうですが」
提督「……プリンツ。すまないが、頼まれてくれるか?」
プリンツ「はい、喜んで!」
~
提督「よし、今日はここまでにしよう。手伝ってくれてありがとう」
プリンツ「いえ、当たり前のことをしただけですよ。それにしても量が多いですね。大丈夫ですか?」
提督「なに、朝から晩まで頑張れば期日までには……明々後日までには終わる。」
プリンツ「そうですか。私も手伝いますよ」
提督「今日やってくれただけでもう大丈夫だ。徹夜する必要がなくなったからな」
プリンツ「でも……」
提督「君は優しいからな。いつも助けられている。休むこともまた重要だ。気持ちだけもらっておこう」
プリンツ「……なら、私がご飯とか作りましょうか?」
提督「!?」
プリンツ「料理とかも結構時間を取りますよね?だから、それを私がやりますよ。そうすればアトミラールも少し楽でしょう?」
提督「だが……」
プリンツ「どうせ自分の分はやっているんですし。それに休暇と言っても明々後日、日本に戻るまでは特にやることがないですよ」
提督「そうか……なら頼もうかな」
プリンツ「あ、ただ……もしよろしければアトミラールの家でやってもいいですか?」
提督「俺の家で?」
プリンツ「私の所でやってもいいんですけど……どうせならアトミラールの所のキッチンを使わせてくれると楽なんです」
提督「そうか。もちろんだ。明日、合鍵を持ってくるよ」
プリンツ「いえ、今日取りに行きますよ!朝ごはんとかも作れますし」
提督「朝ごはん!?夜だけじゃないのか?」
プリンツ「夜はもちろん!朝も、昼のお弁当も任せてください!お風呂だって沸かせちゃいますよ!」
提督「し、しかし、そこまでしてもらうのはさすがに悪いだろう……」
プリンツ「いいんです!それぐらいやらせてください!」
提督(家の合鍵を渡して家事をして貰うなんて、まるで恋人みたいだな……いや、ヘンなことを考えるな!)
提督(プリンツは善意で言ってくれているんだ。それに、今は本当に忙しい。確かに助かる。この上ない提案だ!)
提督「分かった。頼むぞ」
プリンツ「はい!」
~
提督『とりあえず帰る前に食事でもしていくか?と言っても食堂ぐらいしかないのだが……』
プリンツ『いえ、私が作りますよ。食材はあるんですよね?』
提督『そ、そうか。それはありがたい。一応あるが、必要な物があるかは分からんぞ』
プリンツ『あるもので作りますよ。では行きましょうか』
提督『ああ、行こうか』
プリンツ(という訳で、その後アトミラールの家について行き、夜ご飯を作って一緒に食べた)
プリンツ(美味しいと笑って食べてくれた。それだけで幸せだ。そして食後はゆっくり話して過ごす。まるで夫婦のよう)
プリンツ(この幸せ、いつか必ず手に入れて見せる……!!)
提督「おっと、もうこんな時間か。さて、これが合鍵だ。家まで送ろう」
プリンツ「はい、ありがとうございます。……!」ハッ
提督「じゃあ行こうか。車を出すよ」
プリンツ「お願いしますね」ニコッ
プリンツ(そして気がつく可能性。遅くまでいると送ってもらえるが、それは明らかに手間だ)
プリンツ(ならばいっその事、泊めてもらえればいいんじゃない……!?同棲なんて……ステキ!)
プリンツ(そうと決まれば明日は着替えとかを持ってこないと。ああ、なんで持ってこなかったんだろう!)
プリンツ(もし持ってきていれば、今日から泊まり込めたのに!そしたらあんなことやこんなことが……!!えへへっ!!)
提督「……ンツ。……プリンツ?着いたぞ」
プリンツ「!?は、はい!!」
提督「じゃあまた明日。頼むぞ。……けど、朝ごはんはやはりきつくないか?」
プリンツ「大丈夫です!では、また明日お会いしましょう! Gute Nacht!」
提督「ああ、お休み」
プリンツ(……今日もちょっと発散させなくちゃダメかな。いけない、自重しなくちゃ)
~
プリンツ「アトミラール、起きてください。朝ですよ」
提督「……ああ、今起きる。……ってプリンツ!?何しているんだ!!」
プリンツ「何って……朝ごはんを作りに来たんですよ。はら、もうできてますよ」
提督「ああ、そうだったか……そうだった。悪いな。ありがとう、プリンツ」
プリンツ「はい、どういたしまして!」
~
プリンツ「食器はそのままでいいですよ。洗濯物は出しておいてください。洗濯しておきますから」
提督「洗濯までしてくれるのか!いや、さすがにそれは……」
プリンツ「気にしないでください!このかごですよね?洗濯物入れ。これに入れておいてください」
提督「っ……じ、じゃあお願いしよう」
提督(下着は別にまとめておいて、今度洗濯しよう……)
~
提督「では行ってくる」
プリンツ「あ、待ってください!お弁当をどうぞ!」
提督「ありがとう」
プリンツ「外まで見送りますよ。今日はいつお帰りになりますか?」
提督「そうだな……十時には戻りたいところだ」
プリンツ「分かりました。では、お仕事頑張ってきてください」
提督「ああ、行ってくるよ」
プリンツ「行ってらっしゃい!」フリフリ
提督「……」
提督(何だこれは!?まるで夫婦じゃないか!!なんというか……幸せだ。だが、いけないぞ俺!)
提督(思い出せ!ビスマルクだって最初の頃はこうして……っ!いや、思い出すな!もう訳が分からん!)
提督(……とりあえずやるべきことに集中しよう。それが一番だ)
~
プリンツ「ふんふんふ~ん♪」
プリンツ(よし、洗濯物も干したしお掃除も終わった!あとは夕方お買い物に行くまでは暇だな)
プリンツ(何しようかな。……そういえば、誰も居ないんだよね?そしてここはアトミラールの家……)
プリンツ(私の足は勝手に動き始めた。アトミラールの寝室の扉を開け、そこにあるベッドに目が釘つけになる)
プリンツ「……ごくっ」
プリンツ「……」キョロキョロ
プリンツ(遮るものは何もない。目撃者も誰もいない。……)
プリンツ「えい!」ボスッ
プリンツ(気がついたら飛び込んでいた。アトミラールの匂いに包まれる。まるで抱かれているみたい)
プリンツ「んはぁ……んぅ……や、やば……すごいぃ……」ゴロゴロ スリスリ
プリンツ(湧き上がる情動、火照るからだ、鈍る思考。布団に包まりながら手が伸びかける。まずい、それだけは駄目だ!バレちゃう!)
プリンツ「はぁ……はぁ……っ!!」ムラッ ガラッ ビクッ
プリンツ(……見つけてしまった。気を紛らわせるためにたまたま開けたベッドサイドチェストの中)
プリンツ(そこに透明なビニールに入れられて置いてあったのはなんと……アトミラールの下着だ!!)
プリンツ(洗濯物に下着はなかった。まあ、私に配慮して後で洗うつもり、といったところかな)
プリンツ(しかも、化粧水やらに交じってタオルまで……タオル……これを下に敷けばあるいは……)
プリンツ「……Nein. Nein nein nein…… Das ist nicht gut…(駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ……そんなことしちゃいけない……)」
プリンツ(そんなの、変態だ。しちゃいけないことだ。分かっている、そんなことは……)
プリンツ(けど、手が止まらない。震える手でビニールとタオルを取り出す。ビニールは縛られていない)
プリンツ(タオルを腰の下に敷いて、震える手で中からそれを取り出す。もはや止めることはできなかった)
プリンツ(それを鼻にあてる。濃厚な男の人の、アトミラールの匂い。まるで、麻薬のよう)
プリンツ(……私は、スカートをずり下ろし、下着も下げて指をあてがう。指が動くのが止められない)
プリンツ(気がついた時には胸元もはだけさせて、ブラのホックを外してずり上げ、空いている方の手で揉みしだいていた)
~
提督「ただいま」
プリンツ「あ、アトミラール!お帰りなさい」
提督「ああ、良い匂いだ!」
プリンツ「ご飯にしますか?それともお風呂ですか?」
提督「そうだな、まずは食事にしようかな」
プリンツ「分かりました。おカバンをどうぞ!」
提督「ははっ、大丈夫だよ。自分で片付ける」
プリンツ「そうですか?分かりました」
提督(自分の部屋に戻って、カバンを置いて部屋着に着替えよう。と思って歩いていると、プリンツがついてくる)
提督「リビングで待っていてくれていいんだぞ?」
プリンツ「いえ、お構いなく」
提督「?」
提督(……どういうことだ?不思議に思いながらも自室に戻る。すると変化に気がついた)
提督「この香り……」
プリンツ「……!」ドキッ バクッ バクッ
提督「芳香剤か?良い匂いだな」
プリンツ「そうですか……!良かったです!私のお気に入りなんですよ!」
提督「……もしかして、臭ってたか?」
プリンツ「!?まさか!!違いますよ!!ただ、何の香りもないのはちょっと寂しいかなって思って……」
提督「そうか!ならよかった。……さては、これの感想が聞きたくてついてきていたんだな?」
プリンツ「えっ、そ、そうですよ。流石ですね、アトミラール。どうですか?」
提督「甘くて、けど自然な香りだ。良い香りだな、気に入ったよ」
プリンツ「それは良かったです!」
提督「さて、食事にしようか」
プリンツ「そうですね、もうお腹ペコペコです」
提督「待っていたのか?先に食べてくれてよかったのに」
プリンツ「そんな事言わないでください。一緒に食べたかったんです」
提督「悪いな、ありがとう」
~
提督「さて、そろそろ帰るか?送っていこう」
プリンツ「アトミラール、一つ提案があるんですけど」
提督「何だ?」
プリンツ「アトミラールさえ良ければ、私もここに住まわせてくれませんか?」
提督「!?」
プリンツ「その方がいろいろと便利ですし、アトミラールも毎晩送っていくのは手間ですよね?」
提督「い、いや!それはまずい!年頃の女の子がみだりに男の所に泊まるなと言われただろう?それに、俺にはビスマルクが……!」
プリンツ「……それこそ、大丈夫ですよ。アトミラールはそういった間違いをする人ではありませんよね?」
プリンツ「ただ、部下を部屋に泊めるだけです。空き部屋もありましたし、ね?実はもう荷物を持ってきているんです」
提督「なん……だと……」
プリンツ「……たった二日。今日と明日だけですよ?明後日には帰国じゃないですか」
プリンツ「お仕事のために、ですから。ね?……けれど、もしそれでもとおっしゃるのであれば、送っていただかなくても結構です」
プリンツ「それこそ、その分の時間がもったいないですから。私だって、子供ではないので一人で帰れますよ」
提督(っ……ここまでしてくれているプリンツを一人で帰らせるなんてできない。それに、この関係に心地よさを感じてもいた)
提督(別に浮気ではない。ただの上司と献身的な部下だ。親しい友人と言ってもいい。それなら悪くはないだろう)
提督(プリンツだって、きっとそう思っていてくれてるはずだ。俺がビスマルクと結婚していることは知っているのだから)
提督「……分かった。その方が君にとってもいいのならそうしよう。俺は問題ないからな」
プリンツ「ありがとうございます!……では、時間も時間ですしお風呂に入りたいかと思うのですけど……先に入ります、か?」
提督「!!あ、ああ。君が決めてくれ。俺はどっちでもいい」
プリンツ「では、先にいただきますね」
提督「わ、分かった……」
提督(この前のホテルの時を思い出してしまうな……だが、落ち着け。あの時はホテルだったが、ここは普通の家だ)
~
プリンツ「ぶくぶくぶく……」
プリンツ(未だにアトミラールの中では、あの女が大きく居座っている。予想よりも、大きく)
プリンツ(アトミラールは一度、客観的に自分が何をされたのか考えてみたほうが良いと思う)
プリンツ(そして周りを見渡して、本当にふさわしいのが誰か早く気がつくべきじゃないかな)
プリンツ(……けど、家に泊めてくれるぐらいにまで関係は発展しているんだ。すぐに私が目を覚まさせてあげる)
プリンツ「ん、あがろ」ザパッ
~
提督(プリンツの助けもあって、俺は無事に帰国までに報告書をまとめることができた。それを提出し、帰国の途につく)
提督(そして直接司令部まで赴き、報告を行う。すべては滞りなく行われた。そして勝利の凱旋、観艦式が行われる)
提督(俺も挨拶などで忙しかったが、なんとか無事に終わらせることができた。ようやく休暇に入ることができる)
提督(それはつまり、連絡できていなかったビスマルクに連絡することができるということだ。きっと時間が長くかかる)
提督(俺はすぐに電話をしたい衝動を抑えて自宅に戻り、すぐさまビスマルクへ電話をかけた)
ビスマルク『アトミラール!!』
提督「ビスマルク!!久しぶり……になってしまったな」
ビスマルク『ええ。連絡してもつながらないし、確認したら作戦前で連絡が取れないって……』
提督「ああ、俺もあの時は作戦で連絡できなくなることを忘れていた……連絡できなくてすまなかった……」
ビスマルク『いいの、気にしないで。こうして、終わってすぐに連絡してくれたじゃない』
提督「そう言ってもらえるとありがたい。……声が聞けて良かった。それで、いつ戻ってくるんだ?」
ビスマルク「再来週には戻れるわ!」
提督「そうか!楽しみだ!」
ビスマルク「私もよ!……っ……あの、ね?アトミラール」
提督(声音の変化に話題が面白いものではないことを察する。一体なんだろうか?)
提督「どうした?」
ビスマルク『あのね……私、……私、ね』
提督「……ああ」
ビスマルク『私……堕ろしたの』
提督「……!!っ……そ、そうか」
ビスマルク『……』
提督「……ビスマルク。俺は、……人として最悪だが、それを聞いて……安心した。……嬉しいよ」
ビスマルク『アトミラール……ごめんなさい……そんな事言わせてしまって……私……』
提督「いいんだ!それよりも、聞いてくれ。もう知っていると思うが、い号作戦は成功した!」
ビスマルク『っ、そ、そうね!知っているわ!おめでとう、アトミラール!!』
提督「言っただろう?成功を確信したと。褒美を期待しているからな」
ビスマルク『ええ、期待していてね!きっと喜んでもらえるはずだから!』
提督(その後、いろいろと雑談をした。電話を切った時には通話時間が二時間に迫っていた。俺は、ラガヴーリンとショットグラスを持って自室へ戻る)
提督(蓋をあけようとしたところで、自分の手が震えていることに気がつく。強引に蓋をあけ、グラスに注いで一気に呷る)
提督「……」
提督(ビスマルクが堕胎を選んだというのは、俺にとって本当に衝撃的だった。まさか、そうするとは思っていなかったからだ)
提督(……俺が思ったことは、先ほどビスマルクに言ったとおりだ。そう思って当然だと思う)
提督(育てるしかないかという気持ちはあった。諸説あるが、かつてあのモンゴル帝国を築いたチンギス・ハン)
提督(その長男とされているジョチは妻が敵にさらわれた時に孕まされた子供であるという)
提督(しかし、チンギス・ハンはその子を実の息子として育て、実子たちがジョチを敵の子と罵っても自らの長男として扱ったという)
提督(俺は、歴史の偉人と比ぶべくもない。しかし、そんな心の広く寛容な男になりたいと思っていた)
提督(だが、やはり嫌なものは嫌だ。俺は、嬉しかった。せいせいしたと言わざるを得ない)
提督(堕胎なんてという人も大勢いるだろう。子供の命を何だと思っているのだと言うのもわかる)
提督(だが、それは当事者の心境を無視しているのではないだろうか?少なくとも、俺はそう思った)
提督(どちらにせよ、このことできっとビスマルクが一番深く傷ついている。そんなあの子を支えるのは俺の役目だ)
提督(震える手でもう一杯注ぎ、呷る。早く酔って、寝てしまいたかった)
~
プリンツ(日本での休暇が始まった。それはつまり、いつものように司令部でアトミラールに会えないということだ)
プリンツ(つまり、会うためには自分から会う予定を作らなくてはならない。けど、貴重なこの機会に焦らしもまた必要)
プリンツ(考えた私は、偶然にも一週間後にある好きなドイツのメタルバンドの来日公演にアトミラールを誘うことにした)
プリンツ(知り合いのファンが急用で行けなくなり、ペアチケットで良ければ譲るという連絡があったのだ)
プリンツ(以前にドイツで販売しているグッズを買ってあげただけの、顔も知らない人だったけど。情けは人の為ならずだ)
プリンツ(もちろん譲ってもらった。これはまさに天啓だ!主は仰られている。アトミラールをライブに連れて行けと!)
プリンツ(前に聞かせてあげた時に好きだって言ってたし!怖いのは予定が埋まっていた場合だが、それならそれで他に考えればいい)
プリンツ(一週間会わないという焦らしにもなるしね!攻めばかりが恋愛ではない!という訳で、電話する。もう遅いけど、きっと起きているはずだ)
提督『……プリンツか?どうした』
プリンツ(!……結構、酔っている?お酒を飲んでるんだ……誰と?)
プリンツ「あ、アトミラールですか?すいません、ちょっと聞きたいことがあって連絡したんですけど……酔ってます?」
提督『さあ……酔えているのなら、飲まないほうが良かったな……』
プリンツ「アトミラール……?大丈夫ですか?周りに誰かいますか?もし助けが必要ならすぐに行きますよ?」
提督『いや、大丈夫だ。今、自宅で一人呑みをしていてな。悪く酔ってしまったみたいだ。それで、何の用だ?』
プリンツ「そうですか、分かりました。……アトミラールって今週末何か予定がありますか?」
提督『今週末……いや、何もなかったと思うが。どうした?』
プリンツ「実は、私の好きなメタルバンドの来日公演があるんですよ。ほら、前に聞いた時に好きって言ってましたよね?」
プリンツ「なので、是非一緒に行きませんか?こっちじゃマイナーなんでライブハウスでなんですけど」
提督『そうか……悪いが、今はそんな気分じゃ……いや、やはり行こうかな。リフレッシュするにはちょうどいいかもしれん』
プリンツ「そうですか!Gut!では後で詳細をメールしますね」
提督『ああ、分かった』
プリンツ「私、とても楽しみです!では失礼しますね。おやすみなさい!」
提督『ああ……お休み……』
プリンツ「アトミラール、すごく元気なかったな。どうしたんだろ……でも、行く約束できた!Super!」
プリンツ(楽しみで仕方がない!それに、もしアトミラールに何か嫌なことがあって元気がないのなら、私が癒してあげられる!)
プリンツ(私はその日の予定をワクワクしながら考える。ベッドに入ってもすぐには寝れなかった)
~
提督(久しぶりに里帰りして両親と会い、旧友たちと親交を温めていたらあっという間に約束の日だった)
提督(ビスマルクとは毎日電話をしたが、今日ライブに行くことは話さなかった。別にそこまで悪い事ではないはずだが、なんとなく言い出せなかったのだ)
提督(さて、夕方の繁華街で待ち合わせの時間を待つ。遊びに出てきた若者たちやカップルたちの中にいると戦時ということを忘れそうになる)
提督(おそらくここにいる人たちにとって戦争とはテレビの中だけの話になっているのだろうなと思うと、複雑な気分だ)
プリンツ「あ、アトミラール!!」
提督「プリンツか。……っ!?」
提督(声をかけられ、そちらを向く。そこにいたのは確かにプリンツだったが、服装が凄かった)
提督(ブーツを履き、ガーターストッキングにミニの柄入りプリーツスカート。そして、おそらくそのバンドのモノであろうシャツを着ている)
提督(しかも、へそ出しだ。綺麗な白い肌と形の良いへそが惜しげもなく晒されている)
提督(そしてプリンツの左下腹部にはなんとタトゥーが彫ってあった。全部は見えないが、手のひらぐらいの大きさで雪の結晶のような模様だ)
提督(シャツの上には革製のジャケットを羽織り、山岳帽を被っている。色はすべて黒やそれに準ずる色だ)
提督(さらに言うと、腰にはチェーンがついており、首元には鉄十字のアクセサリーをかけている)
提督(たまにこんな感じの服装の人間を見かけるが、大体が服に負けて痛々しいことこの上ないことになっている)
提督(しかし、プリンツはスタイルが良くて美人であるためか見事に着こなしていた。圧倒的な存在感を放っている)
提督(周りは皆プリンツに見惚れており、そしてその待ち合わせ相手である俺にも嫉妬や羨望の視線が集中した)
提督「何というか……すごい格好だな。もしかしてこの格好じゃまずいか?」
プリンツ「いえ、大丈夫ですよ。向こうでシャツを買ってそれに着替えればいいんです。もちろん、私がお金出しますよ」
提督「何言ってるんだ、自分で買うよ。もちろんチケット代も出すからな。……それにしても、本当にすごい格好だ」
プリンツ「えっ、似合ってませんか……?」チラッ
提督「まさか!すごい着こなせてるよ。けど、普段の君からは想像がつかなかった」
プリンツ「そうですか?ならよかったです!今日はライブですから。普段からこんな格好しているわけじゃないですよ?」
提督「そうか。まあ、似合ってるからいいと思うが。……タトゥーしているんだな」
プリンツ「えっ?あ……もしかして、嫌でしたか?」
提督「まさか。個人的にはあまり下品じゃなければ、むしろ好きな部類かもな。それに、向こうじゃ普通なんだろ?」
プリンツ「はい。なんで日本じゃこんなに嫌われているんですかね?」
提督「分からん。柄の悪い連中がよくしているからかな。……そのタトゥーは雪の結晶なのか?」
プリンツ「これですか?いえ、Galsterですよ。ルーン文字を組み合わせたものです。日本で言うと……魔法陣っていうんですかね?」
プリンツ「願いや想いを込めてルーン文字を記号にしたものです。ヨーロッパではポピュラーですよ。これは、『守る力、挫けぬ意志、栄光ある運命』です」
提督「へぇ……なるほどな。他にもタトゥーはしているのか?」
プリンツ「え?はい、あと右肩のところにもありますよ。見ますか?」
提督「いいのか?」
プリンツ「もちろんです!ん……ほら、これですよ」グイッ
提督(プリンツは上着を脱いで、袖を捲って見せる。そこには見たことのない記号、おそらくルーン文字が彫られていた)
提督「へぇ……これもルーン文字か?」
プリンツ「はい、飾り文字になってますけど。PerthroとEhwazでPEです。Prinz Eugenですよ」
提督「なるほどな……」
提督(まあ、タトゥーも悪くないものだ。大事なのはその人自身だからな。と思っていたところで気がついてしまう)
提督「!!」
提督(捲り上げた袖から覗く脇に、気がついてしまった。俺はそんなフェチやらではないが、だが……確かに彼らの気持ちも分からんでもないな)
プリンツ「あ、あの、アトミラール?そろそろいいですか?」
提督「あ、ああ!もちろんだ!すまなかったな」
プリンツ「いえ、大丈夫です。ただ、ちょっと周りの視線が……」
提督「っ!そうだな、すまない。では行くとしよう。夜は食べてから行くのか?」
プリンツ「ええ、ライブは0時からですからね」
提督「0時!?やけに遅いな……」
プリンツ「はい、それが彼らのこだわりなんですよ。ただ、9時ころからからライブハウスは開いていて、ライブ会場以外のスペースはクラブみたいになってるんです」
プリンツ「なので夜を食べてから少し飲んで、それで9時ころからもう入っちゃおうかと思ってるんですけど、どうですか?」
提督「なるほど、分かった。ではどこで食べようか?」
プリンツ「実は行ってみたかったところがあるんです。ついてきてくれますか?」
提督「もちろんだ」
~
提督(プリンツの言ってみたかったところとは、回転寿司だった。と言っても一皿100円の所ではなく、上品な感じの雰囲気の店だったが)
プリンツ『すごい……!本当にお寿司が回ってますよ!私、誇張だろうと思っていました!』
提督『そうか、それは良かったな』
提督(そこで食事を済ませ、手ごろなバーに入った。軽く酒を飲んで時間を潰す。飲みすぎないように注意しなくてはな)
提督(そして、9時を少し過ぎたところでライブハウスへ向かった。広さはそこそこだが、想像よりは狭く、広めの会議室程度しかなかった)
提督(まあその広さの部屋がいくつかある時点で広いか。それぞれの部屋ではDJが音楽を流していてスモークのようなものが焚かれている)
提督(あとは酒を買うためのカウンターがあり、いくつかの机や椅子、座るためのバリカーみたいなものがある)
提督「結構人が居るな」
プリンツ「まあ、今日はライブですからね。これからもっと混んでくるんじゃないですか?」
提督「ふむ……とりあえず何か飲むか?」
プリンツ「はい!」
提督(適当に飲み物を買って、しかし席は開いていない。隅の方で音楽を聴きながら飲む)
プリンツ「アトミラール、これをどうぞ」
提督「……耳栓か?」
プリンツ「ライブの時とDJが本気で音楽を流し始めた時は、そのまま聞くと耳が聞こえなくなっちゃいますから」
提督「なんとまあ……」
プリンツ「つけてても十分聞こえますし、好きな曲の時は取ればいいんですよ」
提督「そういうものか、ありがたく受け取っておこう」
プリンツ「はい。……そろそろ向こうへ行きませんか?踊りたいです」
提督「踊る!?……何を踊ればいいんだ?まさかワルツじゃないよな」
プリンツ「あー……ワルツ踊れるんですか?なら今度一緒に踊りましょう。……まあ、リズムに合わせて体を揺らすだけでいいんですよ」
提督「そうか……」
プリンツ「適当でいいんですよ!みんな適当です!さあ、行きましょう」
提督「分かった」
提督(人だかりの中にはいっていく。混んでいるがまあ何とか進めないほどではない)
提督(いい感じの場所に来たところで、プリンツと談笑しながらリズムに乗っている。しばらくしてから、トイレに行きたくなった)
提督「すまないがトイレに行ってくる。ちょっと待っていてくれ」
プリンツ「そうですか?分かりました」
提督「すぐ戻る」
提督(トイレらしき方向へ向かっていく。何とか見つけたが、かなり並んでいた。とりあえず他の場所のトイレを確認してみよう)
提督(部屋を移ると、無事に空いているトイレを発見した。が、凄いものを目撃した)
提督「おお……なんて奴らだ……」
提督(それは白人のカップルだった。部屋の真ん中、割とダンスが上手い連中たちが踊っている所にいる)
提督(彼らはまるで立ちバックをしているように踊っていた。女性が男性の前に立ち、臀部を相手の下腹部に擦り付けるような感じだ)
提督(男性は男性で女性の体をなでまわし、手を握り、もはややりたい放題だ。なんて卑猥なのだろうか!)
提督「これがカルチャーギャップか……まあ、どうでもいい。トイレだ、トイレ」
提督(トイレを済ませ、プリンツの元へ戻る。すると、面倒なことになっていた)
男「いいじゃん、向こうで俺と飲まない?」
プリンツ「お断りします」プイッ
提督(プリンツが知らない男に絡まれていた。まあ、こういう場所だ。そう言う人間もいるのだろうな)
提督「プリンツ、待たせたな」
プリンツ「アトミラール!!」バッ
男「男連れかよ……そんなイケてない格好の奴より俺と遊ぼうぜ?」
プリンツ「ちっ……アトミラール、ちょっと失礼しますね」ボソッ ダキッ
提督「こういう輩と真面目に取り合わない方がいいぞ。っ!?」
男「っ!!」
プリンツ「悪いけど、私は貴方みたいな似合わないのに髪を染めてたり、ピアスをつけてたり、服に着られているような奴に興味ないから」ギュッ
プリンツ「この人みたいに、カッコよくて、凛々しくて、真面目な人が好きなの。私はこの人のモノなの」ジッ
プリンツ「分かったらさっさと失せて?邪魔だから。まあ、見ていたいって言うならそこらで覗いていれば?」チラッ
提督(プリンツは、ぼそりと俺に謝ると抱き付いてきた。そして脚を絡ませ、強く抱きしめて体を擦りつける。熱っぽい瞳で見つめられた)
提督(そして、憐れみと蔑みの混じった視線でちらりと絡んできていた男を見下す。俺は、驚きの余り固まってしまっていた)
男「こ、この……!!」
プリンツ「さあ、踊りましょ?アトミラール!」
男「待tっ!?」
提督「!!」
提督(タイミングよく流れ出す大音量の音楽、そして有名らしいDJの登場に歓声が上がる。他の場所からも人が集まってきたのか、いつの間にか大混雑だ)
プリンツ「……♪」ペロッ
提督(プリンツを見ると、いたずらっぽく微笑みながら舌を出す。そして俺に背を向けると、なんと臀部を俺の下腹部に押し付けてきた)
提督(そして手を恋人つなぎにし、体を妖艶にくねらせ、その年の割に大きな胸を揺らしながら、肩越しにこちらを振り返る)
提督(いつもの、いわば天使のようなプリンツからは想像のできない、まるでサキュバスのような微笑み)
提督(細められた目から覗く緑の瞳はキラリと光り、薄紅色のプリッとした唇は色っぽく開かれ、それを舐める舌が誘うようにチラチラと揺れている)
提督(これはさっき見た……!!いつのまにか、俺とプリンツの周りには人だかりができていた。プリンツに視線が集中する)
提督(絡んできていた男は、屈辱と嫉妬に肩を揺らして人ごみの中に消えていった。さて、俺はどうすればいいのか……)
プリンツ「っはぁ……アトミラール……触ってください……」ギュッ
提督「な、なんだって……!?」
提督(プリンツは手を放すと、両手を上げて肩越しに俺の顔に触れる。頭と全身をすりつけてくる)
提督(俺は、とりあえず片手でプリンツの頭を抱えてもう片方の手で……一番大丈夫そうなプリンツの腹部に触れる)
プリンツ「んっ……はぁ……」スリスリ
提督「……!!」ナデナデ
提督(先ほど見た白人カップルを参考に、無心でプリンツを愛撫する。もちろん、大丈夫な範囲でだ)
提督(まるでAVにでも出ている気分だ。しかし、その卑猥なダンスも曲の終了と共に終わりを告げた)
プリンツ「……の、喉が渇きましたね?ちょっと飲みにもどりませんか?」
提督「あ、ああ、そうだな……」
提督(恥ずかしさの余り部屋も変えるが、男どもがぞろぞろとついてくる。プリンツのあれに期待してだろう)
提督(くそっ……お前ら、もう少しさりげなくできないのか!?バレバレなんだよ!!)
提督(飲み物を購入し、しばし談笑。それからまた前の方に出て二人で向かい合いながら軽くリズムを取る)
提督(周りの奴らはアレを期待しているようだが、頼まれたってやってやるものか!これ以上プリンツをいやらしい目で見させるわけにはいかない)
提督(普通に踊る。周りでやっている人が居たから、何度か手を上にあげてくるりとプリンツを回転させてみた。誰よりも綺麗に回っていた)
提督(そしてライブの時間が近づき、二人で並んで待機、チケットを渡してシャツを買い、その場で着替える)
プリンツ「はぅ……すごいからだ……」ウットリ
提督「よいしょっと……ふぅ……ん?どうした?」
プリンツ「い、いえ!何でもありませんよ。では行きましょうか!」
提督「ああ」
提督(タイミングが良かったようで、入場開始と共に会場へ着いた。最前列を取ることに成功する)
提督(三十分程話しながら待って、ようやくライブが始まった。プリンツは大興奮だった)
提督(プリンツのお気に入りというジャーマンメタルの演奏を聴く。確かに耳栓があってよかったな)
提督(大きな映画館のシアターほどの広間が、人で埋め尽くされている。席などない。後ろから押される)
提督(俺はプリンツを守るために、前にすっぽりと抱きかかえるようにする)
提督(プリンツは何かを言っていたが音楽と大歓声で聞き取れない。しかし、のばされた手を握った)
提督(すべてが終わった時にはもう明け方だった。電車も動き始めている)
プリンツ「いやぁ~サイコーでしたね!」
提督「ああ、良いメロディーだった」
プリンツ「好きな曲全部演奏してくれたし、大満足ですよ!」
提督「よかったな。俺も前に聞かせてもらったのが流れて良かったよ。あれが一番良かった」
プリンツ「ああ、あれですか!あれはイントロが良いんですよね!」
提督「そうだな。ところでプリンツ、君はこの後どうするんだ?」
プリンツ「そうですね……もしよければ、これから飲みなおしませんか?目が冴えちゃいました」
提督「なるほどな。まだぎりぎりほろ酔いって感じだし、それもありだ。だが、こんな時間からどこで飲む?」
プリンツ「アトミラールの家とかどうですか?実は私、ウォークマンに曲を入れてきてるんですよ。二人でゆっくりしたところで聞きたいです」
提督「俺の家か……分かった、そうしよう」
プリンツ「っ!!Gut!!じゃあさっそく行きましょう!!」
提督(適当にタクシーを拾って自宅へ向かう。ライブの話をしていたらいつのまにか着いていた)
提督(プリンツを客間に待たせて、とりあえず酒を見繕う。何がいいか……アイリッシュ・クリームにクヘーム・ドゥ・カシス)
提督(あとはハイネケンを数本と何かワインを……ベルンカステラーがあるか。これだ)
提督(待てよ、蒸留酒がないぞ。何か……スブロッカでいいか。それにコップやソーダ、ジンジャーエール、レモン類)
提督(そして牛乳にコップをいくつか。氷、後はつまめるものを。栓抜きとコルク抜きも忘れずに)
提督(これでいいだろう。文句なし、完璧だ。案外量が多くなったが……氷を入れたワインクーラーに酒を突っ込んで、お盆でその他を運ぶ)
提督「待たせたな、プリンツ」
プリンツ「アトミラール!?……すごくたくさん飲むんです、ね?スナックまで……」チラッ
提督「っ!!」
提督(やってしまった……いや、俺は飲みたいのがないと困るなと思っていろいろ持ってきただけなんだ)
提督(決して酔い潰そうだとかそういうつもりじゃ……ってそう言えばいいじゃないか。いや、その通りじゃないか)
提督「い、いろいろあったほうが楽しめるだろう?全部飲むわけじゃないさ」
プリンツ「そ、そうですよね……あ、ドイッチュヴァイン、ドイツワインですね!」
提督「ああ、たまたまあってな」
プリンツ「へぇ……いろいろありますね!ハイネケン!ベイリーズまで!」
提督「お、知っていたか」
プリンツ「私、カルーアよりも好きですよ!」
提督「俺もだ!」
プリンツ「スブロッカ!これも爽やかでいいですよね!」
提督「ソーダもいいが、これでモスコミュールを作るのが好きなんだ」
プリンツ「へぇー!そうなんですか?」
提督「試してみるか?」
プリンツ「はい!あ、そうだ。はい、アトミラール!右耳にどうぞ!」
提督「イヤホンか。スピーカーがあるぞ?」
プリンツ「セットするのが面倒ですし、これの方がお話しやすいですよ。ほら、どうぞ」
提督「そうか、ありがとう」
提督(プリンツとイヤホンを片方ずつ使いながら音楽を聴き、酒もいろいろと試していく)
提督(好きな音楽、好きな酒、いろいろなことを話す。酔いが回り、途中から何を話しているのか分からなくなっていた)
提督(だが、それでも心休まるひと時を過ごす。これほど美味しい酒を飲んだのは久しぶりだ。幸せな気持ちで意識が溶けていった)
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【後編】に続く
元スレ
SS速報R:提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1476205490/
川内「……!!あいつ!!」グッ
翔鶴「川内ちゃん!!止めなさい!!っ!?瑞鶴!?大和さん!?」グググッ
プリンツ「……」スタスタ
大和「プリンツ・オイゲン!!」
プリンツ「!?えっ大和さん!?瑞鶴さん!?どうしたんでっ!?」
瑞鶴「……」ガシッ グイ
プリンツ「つぅ……!!」ドン
瑞鶴「貴女、何を知っているの……?」 グッ ハイライトオフ
プリンツ「くぅ……くるし……!!な、何と言われても……分かりません……!!」
大和「とぼけないで?提督がおかしい理由を知っているはずでしょう?貴女は……!!」ギロリ ハイライトオフ
プリンツ「あ、アトミラール……!?な、何も知りませんよ……」
瑞鶴「ふざけないで……!!」ギリッ
プリンツ「うっ……くっ……放して……」
瑞鶴「チッ話さないなら……!!」ギュッ
大和「……」ドスッ
プリンツ「ぐぅっ!?うげぇ……」
長門「止めろ二人とも!!」ガシッ
愛宕「落ち着いて!!」ダキッ
瑞鶴「っ!!」パッ
プリンツ「うぐっ、ごほっ!!ごほっ!!ごほっ!!」ドサッ
大和「愛宕さん!!放してください!!」ググッ
愛宕「落ち着いてくれたらねぇ……!!」ググッ
318: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/04(日) 16:49:19.85 ID:nUuoGGn20
赤城「大丈夫ですか、オイゲンさん」
加賀「今のはさすがにやりすぎです。二人とも」
瑞鶴「……こいつが悪いんだからね」
大和「そうです、この女が悪いんです」
翔鶴「瑞鶴!!大和!!いい加減にしなさい!!どう考えてもいきなり首を絞めたりお腹を殴ったりする方が悪いでしょう!!」
瑞鶴「だって……」
大和「……」プイッ
翔鶴「だってじゃあありません!!大和も、何ですかその態度は!!ちゃんと謝りなさい!!」
瑞鶴「……」グスッ
大和「死んでもお断りです」
翔鶴「っ!!この……!!」
川内「……プリンツ・オイゲンさん。知っていないわけないですよね?どうして嘘なんてつくんですか?」
プリンツ「……嘘じゃないです。本当に知らないんです」フルフルフル
川内「っ!!」
赤城「待って!!……どうやらオイゲンさんも本当に何が起こっているのか知らないみたいじゃないですか」
大和「どうして分かるんですか?」
赤城「こんなに怯えて、震えて……何よりオイゲンさんの顔を見れば分かります。これが悪事を企んでいる人間がする顔ですか?」
大和「っ……」
プリンツ「本当に、知らないんです……分からないんです、私にも……」ポロポロポロ
319: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/04(日) 17:06:21.48 ID:nUuoGGn20
長門「……ビスマルクなら知っているんじゃないか?彼女に話を聞きに行くべきだろう」
加賀「そうね。けど、今どこにいるのか……知っているかしら?」
オイゲン「分かりません……」
瑞鶴「どうして!?」
オイゲン「分からないんです……私だって……私だって!!何がどうなってるのか聞きたいですよ!!」
瑞鶴「!?」
赤城「……すいません、オイゲンさん。みんな提督が心配なんです。何が起きているのか分からないことがもどかしくて」ギリッ
プリンツ「……いいですよ、許します。私も同じ気持ちですから、皆さんの気持ちも分かります」
赤城「……ありがとう」
プリンツ「じゃあ、私は用事があるので。失礼します」
赤城「ええ」
大和「行かせるんですか!?許しません!!」グッ
瑞鶴「そうだよ!!絶対に知っていることを隠してる!!」キッ
長門「いい加減にしろ、二人とも!!」
愛宕「お話するにしてもぉ……一度頭を冷やしてからの方がいいわよぉ……!?」グググッ
大和「っ……!!なんで、どうして……!!みんな提督が大切じゃないんですか!?」ジワッ
瑞鶴「だって……だってぇ……!!」ポロポロポロ
翔鶴「本当にごめんなさい……」シュン
プリンツ「いいんです。では」スタ スタ
瑞鶴「提督……ぐすっ……ひっく……」
大和「提督……どうして、私を頼ってくれないのですか……大和は……っ」ボロボロボロ
長門「……」ギリッ
~
プリンツ「いたい……」ズキッ
プリンツ「アトミラール……ビスマルクお姉さま……辛いですよぅ……」グスッ
323: saga sage 2016/12/05(月) 00:34:37.38 ID:0luyHjV80
~
提督「来たか」
ビスマルク「女は準備に時間がかかるものなのよ、なんてね。ごめんなさい、時間を取ったわ」
提督「気にしないでくれ、そんなつもりはない。よし、行こうか」
~
ビスマルク「ごちそうさま、美味しかったわ!!」
提督「気に入って貰えて何よりだ。さて、帰るか」
ビスマルク「そうね、行きましょう」
提督「今日は疲れた……」
ビスマルク「その割には仕事が進んでいないようだけど?」
提督「まあな、この後頑張らなくては」
ビスマルク「はぁ……しょうがないから、付き合ってあげるわよ」
提督「それは助かるが……いいのか?」
ビスマルク「ここで、『じゃあ頑張ってね』と言って自分だけ休む人間だと思った?」
提督「ははっそうだな、君は優しいからな。ありがとう」
ビスマルク「ん、じゃあ早く帰って片付けてしまいましょう」
提督「ああ」
324: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/05(月) 00:40:45.36 ID:0luyHjV80
~
提督(やれやれ、どうにか無事に仕事を片付けることができた。頑張ってくれたビスマルクのおかげだな)
提督「何とか終わらせられたな、お疲れ様。手伝ってくれてありがとう。コーヒーでも飲むか?」
ビスマルク「お疲れ様、どういたしまして。頂くわね」
提督「了解」コトッ
ビスマルク「……?貴方は飲まないの?」
提督「俺が炭酸ジュース好きなのは知っているだろう?疲れた頭によく効くからな」
ビスマルク「ああ、そうだったわね。何を飲むの?」
提督「これだ。ドイツ発祥のジュースだろ?」
ビスマルク「ファンタ!!今ではグレープ味とかいろいろあるけど、ドイツで飲まれていたのはもっと違う奴なのよ」
提督「そうなのか?」
ビスマルク「そうよ。私もコーヒーよりもそっちがいいわ!」
提督「ん?君、ジュースは甘すぎて嫌いとか言っていなかったか?」
ビスマルク「えっ、……そうだっけ?まあ、今日はそんな気分なのよ」
提督「ふむ。それで、何を飲むんだ?」
ビスマルク「何があるの?」
提督「いつでも好きなのが飲めるように、一通り揃えておいてあるって言ったろ?このマイ冷蔵庫を見るがいい!どれでも好きなのを選んでくれ」
ビスマルク「そうね、どれどれ……Ach, Gut(よし)!見ていなさい!」
提督「コーラ、スプライトそれにファンタオレンジ?そんなに出してどうするつもりだ?まさか……」
ビスマルク「あなたに本物のファンタを飲ませてあげるの。もちろん全部飲むわけじゃないわ!……あけてもいい?」
提督「ほぅ……興味深い!構わないぞ」
ビスマルク「Danke! 」
325: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/05(月) 00:43:20.23 ID:0luyHjV80
提督(そう言うと、ビスマルクはコップにそれらを4:1:4でコップ注いで炭酸が抜けないように軽く混ぜた)
ビスマルク「はい、完成!元祖ファンタよ!飲んでみなさい!」
提督「どれ、頂こうか。……なるほど、良いお手前で!!」ゴク ゴク
ビスマルク「良いオテマエ?」
提督「美味しいってことだ!!元の味がこんなんだとは知らなかったな。しかもこんなに簡単に作れるのか」
ビスマルク「ふふん!でしょう?ちなみに、スプライトも元はファンタのフレーバーの1つだったのよ?」
提督「そうなのか!?へぇ~知らなかった。よく知っているな!さすがだ、ビスマルク!」
ビスマルク「えへへ……ちょっと褒め過ぎじゃないかしら……?」モジモジ
提督「おや、謙遜するとは珍しい。明日は槍でも振るかな?」
ビスマルク「……よくわからないけど、馬鹿にしているのは分かったわ。これはお預けね」
提督「すまんすまん!謝るよ」
ビスマルク「もぅ……仕方ないわね……ほら」
提督「Danke!」
326: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/05(月) 00:50:21.58 ID:0luyHjV80
~
提督「……おっと、もうこんな時間か。明日は東京だ。そろそろ寝るとしよう」
ビスマルク「ええ、そうね。じゃあ私も部屋に戻るわ」
提督「ん……そうだな。お休み、ビスマルク」
ビスマルク「Gute Nacht, アトミラール。……」ニコッ
提督「……?」
提督(なぜか儚げな笑顔でこちらに微笑むビスマルク。そして一瞬、こちらを悲しげな顔で見つめた)
提督(それが気になってしまう。オーロラのような緑の瞳に、悲痛な感情が揺らめいていた)
提督「? どうした、ビスマルク?」
ビスマルク「何でもないわ、また明日」
提督「あ、ああ」
提督(……何か、凄い違和感だ。何かがおかしい。この状況に、そしてビスマルクに違和感を覚えた)
提督(訳が分からないまま帰宅し、入浴を済ませ、寝支度を完了する。一人では広すぎるベッドに入っても、ますます違和感が大きくなるばかりだ)
提督(とても寂しい感じがした。気分がとても悪くなってくる。なぜだ?……分からない)
提督(ラブクラフト全集がまずかったかな?この年でホラーにビビることになるとは……)
提督(……だめだ、こういうことは深く考えないほうが良い。早く寝よう。疲れているしな)
提督(それに明日は、東京へ行かなくては。大切な会議がある。いよいよ始まるんだ……)
333: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:04:18.86 ID:YwuzwP2d0
~
提督(戦況は、我々に優位に進んでいた。敵の勢力圏はますます縮小されており、遂には珊瑚海から敵を追い出す寸前まで来ている)
提督(俺は、今からおよそ一か月後に予定されている南方海域最後の敵拠点、すなわちガダルカナルとツラギへの攻勢作戦の指揮を執る)
提督(前回のポートモレスビー攻略作戦での活躍で、中将へ昇進した上で、総司令官に抜擢されたのだ)
提督(この戦争から南部戦線が消える日もそう遠くない。俺たちが、この手で終わらせるのだ)
ビスマルク「提督、準備できてるかしら?」
提督「ああ、大丈夫だ。行くとしようか」
~
提督(ってなわけで作戦会議のために東京までやってきた。軍用の特別列車のおかげで列車内は快適だったが、駅構内はそうもいかない)
提督(……いつも思うが、東京の駅は入り組みすぎだと思う。もう少し何とかならなかったのだろうか)
ビスマルク「アトミラール、車は表で待っているんでしょ?早く行きましょう」
提督「ああ。すまんが、ちょっと手洗いに行ってくる。ここで待っていてくれ」
ビスマルク「そう、分かったわ。じゃあここで待っているから」
提督「頼むぞ」
提督(……それにしても本当に人が多いな。さすがは天下の帝都東京か)
提督(用を済ませ、ビスマルクの所へ向かう。すると聞き覚えのある声が聞こえてきた)
「よし、その東京ばな○を頂こうか」
提督「この声……!?やはり!!友!!友じゃないか!!」ハッ
友「お、提督か!?ひと月ぶりだな!!会えると思っていたが、まさかここでとは!!」
334: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:10:01.29 ID:YwuzwP2d0
提督「ああ、本当に奇遇だな!!元気か?」
友「もちろん!!それにしても、今回の作戦の指揮官は貴様か。流石だな」
提督「ありがとう!!奴らを珊瑚海から蹴散らしてやるよ!!」
友「この前の作戦で、お前の艦隊は大活躍したからな。いろいろあって、心配していたが……大丈夫そうでよかった。期待しているぞ」
提督「ありがとう!貴様は東部方面、ミッドウェーの拠点への牽制を担当だったよな?近頃は敵の抵抗も激しさを増してきている。気を付けてくれ」
友「そうだな、ありがとう。だが、ここが正念場だ。やってやるさ!側面の防御は任せてくれ!」
提督「おう、頼りにしているぞ!」
飛龍「おーい!!友!!買い物、まだ時間かかるの!?早く行こうよ!!」
友「あ、ああ!!ちょっと幼馴染の親友に会ってな!!すぐ行くから、先行っていてくれ!!」
飛龍「分かった!!じゃあ先に行ってるからね!!」
友「車でな!!」
提督「ほうほう、友か……付き合っているのか?」
友「ま、まあな……」
提督「お前もとうとう身を固めるか?」ニヤニヤ
友「やめろやい!」
提督「ははっ今度ダブルデートに行こうか?」
友「今はそんな暇ないだろ!」
提督「ははは、冗談だよ!」
ビスマルク「アトミラール?何をしているの?用が済んだのなら早く来なさいよ」
提督「おお、ビスマルク!悪いな、偶然そこで友と会ってな。お前も面識があるだろう?」
友「ビスマルク……?」
ビスマルク「え、友? ……! ……おはよう、少将」
友「え、え、え? えっと……」
335: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:12:18.80 ID:YwuzwP2d0
ビスマルク「私を忘れたかしら?ビスマルクよ」
提督「おい!?貴様、俺の彼女を覚えていなかったのかよ!?」
友「彼女!?あ、いや、すまんな……少し会っただけだったからな……」
提督「まったく。ってそうだ、すまないが飲み物を買いに行ってくる。喉が渇いてな。すぐに済むから待っていてくれ」
ビスマルク「……そう、分かったわ」
友「ああ……すまないが、俺もドクペが欲しいから買ってきてくれ」
提督「ドクペ!?ここらで売ってるのか……?」
友「向こうの売店に行けばあるかもしれん。貴様の分も奢るから、頼む」
提督「了解」スタスタ
ビスマルク「……」
友「……何、してるんだよ」
ビスマルク「……何って何よ。質問の意図が分からないわ」
友「ふざけるなよ! それとも、お前までおかしくなっちまってるのか?」
ビスマルク「……そんなわけ、ないでしょ?」
336: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:13:50.66 ID:YwuzwP2d0
友「なら!」
ビスマルク?「けど、他に何ができるっていうんですか? 私にできることはこれぐらいしかないんですよ!」
友「くっ……どうやら、あいつは今、精神崩壊しかけているみたいだ……くそっ……お前のしているそれは、ますますあいつの心を蝕んでいっているんだよ!!」
ビスマルク?「いいえ、違います!!私はアトミラールを守っているんです!!あの人は酷く傷ついて苦しんでいるんです!!」
ビスマルク?「無理に残酷な現実を見せれば、提督を本当に壊してしまいます!!どうしてそれが分からないんですか!?」
友「ふざけるな! !そんな事、間違ってる!! ……それにな、この方法はあいつを犠牲にするだけじゃない!!」
ビスマルク?「何が言いたいんですか!?」
友「自分の顔を見てみろ!!これはお前もまた緩やかに壊れていく方法なんだよ、プリンツ・オイゲン!!」
プリンツ「っ……!! 」
337: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:18:31.09 ID:YwuzwP2d0
~
瑞鶴『提督の様子がおかしいよ……顔色が凄い悪いし、無理して気丈に振舞ってる』
翔鶴『どうしたのでしょうか……』
長門『攻勢作戦が控えている。大事なければいいのだが……』
陸奥『医者を呼んだ方がいいわよ。絶対、病気だから』
赤城『もうお呼びしたのですが、悪いところはないと……』
加賀『おそらく疲労とストレスだろうとのことで、栄養剤を処方されたわ』
プリンツ《提督、具合悪いんだ。お見舞いに行こうかな。看病してあげたりとか!……って、ビスマルクお姉さまの役目か》
プリンツ《……お似合いの、二人だよね。尊敬するアトミラールとビスマルクお姉さまが夫婦だなんて、素敵》
プリンツ《だからこの気持ちは、封印しなくちゃ。そう、忘れなくちゃいけない……》
~
ドイツ軍将校『ビスマルクから定時連絡がない』
プリンツ『えっ本当ですか?』
ドイツ軍将校『残念ながらな。彼女の所在はどこだ?』
プリンツ『家にいると思いますけど……』
ドイツ軍将校『そうか。現在、作戦直前ということで提督と連絡が取れない。しかし、君なら可能なはずだ。確認してみてくれ』
プリンツ『Jawohl, Herr Kapitän (了解しました、大佐).』
338: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:20:58.54 ID:YwuzwP2d0
~
プリンツ『提督』コンコン
提督『……入れ』
プリンツ『失礼します』ガチャッ
提督『ビスマルク!?』
プリンツ『!?』
提督『あ、いや……すまない、プリンツ。どうしたんだ?』
プリンツ『いえ、大丈夫です。ビスマルクお姉さまから定時連絡がないと本国から連絡が来たのですが……』
提督『っ!!……そうか。君には話さなくてはならなっ、おえぇぇ……!!』ゲボッ
プリンツ『アトミラール!?大丈夫ですか!?』ダッ
提督『げほっげほっぐっ……すまない、大丈夫だ……プリンツ、これからいうことには緘口令を敷く。いいな?』
プリンツ『J,Ja……』
~
プリンツ『……つまり、ビスマルクお姉さまは、あの整備兵と浮気……„ Seitensprung“したんですか……?お腹の子も、その人の……?』
提督『……そうだ』
プリンツ『……!!』
提督『すまないが、この件に関してはドイツ側に黙っていてほしい。こんなことを報告したら……まずいことになるだろう?』
プリンツ『……っ!!わ、分かりました』
提督『すまない、ありがとう』
プリンツ『アトミラール……』
プリンツ《嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。そんな事、信じられない。あのビスマルクお姉さまが……?ありえないよ……どういう事……?》
339: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:27:23.81 ID:YwuzwP2d0
~
提督『作戦は順調とは言い難い。敵との航空戦で我が軍は予想以上の被害を出している。敵の空戦力は予想以上だ』ゲッソリ
提督『だが、そのかわりに敵拠点及び艦隊の打撃力は低いことが判明した』
提督『そこで、俺が上層部に戦艦主体の打撃艦隊による夜襲を打診して承認され、実行することとなった』
川内『夜戦!?今、夜戦って言った!?』パァッ
神通『ね、姉さん!!静かに!!』ビクッ
提督『よって諸君には敵艦隊を蹴散らし、ポートモレスビーの敵拠点を焼き尽くしてもらう。頼んだぞ』
大和『はい!!提督が最高の司令官であること、そして我が艦隊が世界最強である事を証明して見せます!!』
提督『うむ。第一艦隊、出撃せよ!!』
大和『了解!!第一艦隊出撃!!』
プリンツ《提督……あんなにやつれてしまって……ビスマルクお姉さま!!何故なんですか……!?》
~
元帥『素晴らしい作戦だった!!君のおかげで作戦は無事成功した!!昇進が君を待っているぞ』
提督『はっ光栄です!!……っ』クラッ ドサッ
元帥『少将!?どうしたんだ!!』
大和『提督!?』
瑞鶴『提督!!』
プリンツ『そんな……提督!!』
340: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:30:24.13 ID:YwuzwP2d0
~
プリンツ《結局、アトミラールは念のためということで数日入院することになった。作戦後のごたごたを片付けて、今日やっとお見舞いにいける》
プリンツ『アトミラール、失礼しますね』
提督『ああ、……ビスマルク?ビスマルクか。どうした、そんなにかしこまって』
プリンツ『!?』
提督『すまないな、心配をかけた。すぐに退院できるよ』
プリンツ『アトミラール……?』
提督『ん?何だ、ビスマルク』
プリンツ《アトミラール……こんなことって……神様、こんなに素晴らしい、頑張っている人にどうしてこんな仕打ちを……》
プリンツ《アトミラールのために私ができること……ひどい仕打ちを受けたこの人の、壊れそうな心を守るには……》
プリンツ『……いえ、何でもないわ、アトミラール』
提督『そうか?』
プリンツ『ええ。それより、リンゴを持ってきたのよ。剥いてあげるわ』
提督『おお、ありがたい!……迷惑をかけるな』
プリンツ『そんな事言わないで。貴方は頑張った。当然じゃない』ニコッ
341: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:54:51.55 ID:YwuzwP2d0
~
プリンツ「……」
~
提督『その書類を取ってくれ、ビスマルク』
プリンツ『ん』
提督『ありがとう』ニコッ
~
翔鶴『美味しい!!さすが提督のお母さまですね』
瑞鶴『うん!!私干し柿って初めて食べたかも』
提督『そうか?最近の子は干し柿知らないのか……あ、ビスマルク!ちょうどよかった。これ食べるか?実家から送ってきたんだ』
翔鶴&瑞鶴『『!?』』
プリンツ『あら、何よコレ?』
提督『干し柿だ』
プリンツ『……食べられるの?』
提督『美味しいぞ?』
プリンツ『……!美味しい!』パクッ
提督『だろう?そうだ、書類で確認したいことがある。来てくれ』
プリンツ『分かったわ』
提督『ではまた後でな』
翔鶴『あ、はい。ごちそうさまでした』
瑞鶴『うん、また後で。干し柿ありがとうね』
翔鶴『……えっと』
瑞鶴『どういうことなの……?え?プリンツ・オイゲンってプリンツ・オイゲンだよね?』
翔鶴『ええ、オイゲンさんだと思うけど……ビスマルクって呼んでたわよね?』
瑞鶴『うん。……?』
342: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/06(火) 03:57:00.30 ID:YwuzwP2d0
~
プリンツ《私が、ビスマルクお姉さまの代わりになる。お姉さまが帰ってくるまで。……きっと、帰ってくるから》
提督『ビスマルク』
プリンツ『何かしら?』
プリンツ《私が、アトミラールを守る。アトミラールを傷つけるモノから、守り切って見せる》
提督『ビスマルク』
プリンツ『ん』
プリンツ《これ以上アトミラールが傷つけられて、苦しむところは見たくない。だって、私はアトミラールが……好きだから》
提督『ビスマルク』
プリンツ《でも、アトミラールはビスマルクお姉さまが好き。お姉さまを選んだ。今、アトミラールは私を見て、ビスマルクお姉さまの名前を呼ぶ》
提督『ビスマルク!』
プリンツ《アトミラールの目に、私は……プリンツ・オイゲンは映っていない。私は見えていない。私を通してビスマルクお姉さまを見ている》
提督『ビスマルク!!』
プリンツ《私は、存在しない。だったら……私は、何処にいるの……?私は、誰なの……?》
プリンツ《もし、お姉さまが帰ってきたら……私はどうなるの?アトミラールはどうするの?私は……》
352: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:10:19.25 ID:AObqY72j0
~
プリンツ「っ!!」
プリンツ(駄目だ!!変なことを考えるな!!これが私にできる最善だ!!こいつの言うことに耳を貸してはいけない!!)
プリンツ「貴方に何が分かるというのですか!?知ったような口を利かないでください!!それとも、何かいいアイデアがあるんですか!?」
友「それはっ……!!」
プリンツ「Na, toll! 凄いですね、他にいいアイデアがないけどそれはダメですか?じゃあ何もせずにアトミラールを放っておけと?」
友「違う……!!俺があいつと可能な限り一緒にいる!! 近くで支えてやる!!」
プリンツ「あなたがですか!?どうやって!?少将がアトミラールと一緒にいる!?無理に決まっているでしょう!!」
友「なら……俺があいつの副官になってやる!! それなら一緒にいられる!!」
プリンツ「アトミラールのために自分の軍歴を棒に振るつもりですか!?」
友「……ああ、俺はその覚悟だ。あいつがあんな状態なら、俺の人生は色あせちまう。何ができるか分からないが、でもこんなのは嫌だ」
プリンツ「……そこまで、アトミラールのことを思っているんですか?」
友「お前にだっているだろう? 自分のことのように大切な大親友ってのは。俺とあいつはガキの頃に仲良くなってからずっと一緒だった」
友「あいつは、もし俺が助けを必要としていたら自分のことを構わず俺を助ける。そして、俺もまたあいつのためなら、自分の軍歴やらなんやらぐらいどうでもいいんだよ」
プリンツ「……あの人の心はいつまでもビスマルク姉さまのもとにあるんです。あの人が愛し、あの人が助けを求めるのはビスマルクお姉さまなんです」
友「なら、お前がビスマルクになると? 本当にそれでいいのか?」
プリンツ「いいわけ、ないじゃないですか! 私を見てほしいに決まってるじゃないですか!」
プリンツ「……私は、私はアトミラールが好きです。あの人を助けたい、支えてあげたい!でも……私じゃダメなんです……私じゃ……」ウルッ
353: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:13:47.66 ID:AObqY72j0
プリンツ「もう……私じゃどうしていいかわからないんです……お姉さまもどこへ消えたのか分からないし……」ポロポロ
友「……あいつの時間はあの時から止まっている、氷のようにな。それを解かすことができるのは、人の温もりか、怒りの業火だけだ」
友「……俺は目が覚めたぜ。あいつが無理してるのに気がつかないなんて……俺が、怒りを担当してやる。だからお前が温もりを担当しろ」
プリンツ「……どうするつもりなんですか?」
友「俺の大親友に手を出したことを後悔させてやるさ。あいつから聞いた話じゃ、ビスマルクは洗脳されたみたいじゃないか」
友「調教だとか反吐が出る。しかし、ストックホルム症候群ってのがあるようにまあ実在するんだろうな」
友「簡単に洗脳されるような、頭のねじが数本とんでるクソビッチの方も問題だ。だが、どちらにせよあのクソ野郎はたとえ法律が裁けなくても俺が裁く」
プリンツ「まさか……」
友「乗り込んでやるさ、あいつらの所に。痛めつけられるだけ痛めつけたうえで、あのクソ野郎をぶっ殺してやる」
プリンツ「っ……!! 人を殺すんですか……?貴方のすべてが終わりますよ!?」
友「気にするものか。罪だというか? それもそうだろうな。俺も普通に暮らしていくうえで法律は守るべきだと思う。だがな」
友「その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!」
友「そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうと生きているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!」
354: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:15:41.95 ID:AObqY72j0
プリンツ「大切なものを傷つけて守らないなら、守る義理はない…… 黙って見てるなんて、耐えられない……」
提督「ただいま、何を騒いでいるんだ?警備員がやってくるぞ」
友&プリンツ「「!?」」
提督「って、どうしたんだ!?……泣いていたのか?」
プリンツ「ちょっと目にゴミが入って……大丈夫よ。友とコーヒーか紅茶かで議論になって。つい、ね……」
友「あ、ああ、そうなんだ……貴様だって紅茶の方がいいよな?」
プリンツ「コーヒーに決まってるわよね?」
提督「そうだな、気分によるが……決められないな。それより、ほら、ドクペだ」
友「おお、ありがたい」
提督「さて、そろそろ行かなくてはと言いたいところなのだが、もう一度トイレに行ってくる。少し緊張しているみたいでな、ははっ」
プリンツ「大丈夫?」
友「貴様のことだ、どうせうまくやる。胸を張れよ、親友」
提督「ああ、ありがとう。……貴様が俺の親友で良かったよ」
友「どうした、いきなり。らしくなく緊張しているな?お前がそうなるのは珍s」
飛龍「友ー!!遅いよ!!話長すぎ!!」
友「飛龍!?すまない!!……悪いが、先に行かせてもらうぞ」
提督「ああ、また向こうでな。先に車まで行ってるか?ここらは人混みが凄いだろう」
プリンツ「何を言っているのよ。待ってるから早くしてね」
提督「分かった、ありがとう」
355: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:17:42.63 ID:AObqY72j0
~
提督「待たせたな」
プリンツ「ん、行きましょう」
提督「ああ」
~
提督「都会に高速道路、東京って感じだ。本当に久しぶりだな……おっフェラーリ」
プリンツ「嘘、どれどれ?」スッ
提督「おい、危ないからちゃんと座ってろ」
プリンツ「いいじゃない。……あ、良い匂い。ガム食べてるの?」
提督「ああ、まあな」
プリンツ「私にも頂戴」
提督「悪いが、さっきのが最後の一個なんだ」
プリンツ「ああ、そう……残念」
提督「!とうとう来たな……総司令部だ」
プリンツ「……緊張しているの?」
提督「それはな。まあ、当たり前だろう」
プリンツ「……ん」ギュッ
提督「!!」
プリンツ「大丈夫よ、アトミラール。私がついてるからね」ナデナデ
提督「……助かる」
プリンツ「……」
356: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:22:42.38 ID:AObqY72j0
~
提督「他にご質問が無ければ、私からは以上です」
元帥「よし、分かった。では、以上でい号作戦前の最終会議を終了する!中将、良い報告を待っているぞ」
提督「お任せください、元帥。必ずや期待に応えて見せましょう」
元帥「うむ!」
プリンツ(アトミラール!!良かった……!!)グッ
~
プリンツ(作戦会議も無事に終わり、会食を経て今は帰路についている。専用列車の窓から眺める空は、気味の悪い三日月だ)
プリンツ(友さんの言っていたこと、本気なのかな……?まさかそんなわけないと思うけど……)
プリンツ(『アトミラールの心をますます蝕んでいく』……そんな訳ない。それに、他にできることも思いつかない)
プリンツ(『私もまた緩やかに壊れていく』……それも違う。確かに思うことがない訳じゃないけど、私はそんなやわじゃない)
プリンツ(……ビスマルクお姉さまは、一体どうしてこんなことをしたのだろうか?未だに信じられない。信じたくない)
プリンツ(あのビスマルクお姉さまがこんなひどい裏切りを?しかも……あんな人と?冗談でしょ……連絡をとりたいけど、方法がない)
プリンツ(携帯はずっと電源が入っていない。"SNS"とかは、もともとやっていない。……そもそも、ビスマルクお姉さまはこれからどうするつもりなんだろう)
プリンツ(どっかに隠れてこそこそ暮らすのだろうか?日本とドイツのお尋ね者になって?)
プリンツ(それ以前に、定時連絡がないとすぐに問題になると分からなかったのだろうか?そんなわけないと思うけど……)
プリンツ(『作戦に関係しているから』と言って何とか誤魔化したけど、定時連絡がないのはいつまでも誤魔化せはしない)
プリンツ(……あ!いや、そういえばもっと不味いことになってるんだった……将校から呼び出しされた。おそらく、その件だろう)
プリンツ(まだアトミラールが正気だったとき、いざとなったら『提督からそう言われていた。何も知らなかった』と言えと言われたけど……)
プリンツ(……もう本当に訳が分からない。嫌だ。これ以上考えたくない。全部やめて引きこもりたい。全部夢だったらいいのに)
プリンツ(……そうだ、夢なんだ。だってビスマルクお姉さまがそんな事するわけないもの!……なんてね、意味のない事だよね)
プリンツ(とにかく、このままじゃまずい。何か考えなくちゃ。考えたくないけど、考えなくちゃ。何か打開策を……)
357: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:23:58.03 ID:AObqY72j0
提督「これを食べてくれ。元気が出るぞ」
プリンツ「え?あ、HARIBO!!」パァッ
プリンツ(しかもハッピーコーラだ!!私が一番大好きな奴!!)
プリンツ「ん~おいしい!!ゴルトベーレンじゃなくてこっちを選ぶのはいいセンスね」
提督「Danke, 喜んでもらえて何よりだ。ジュースもあるぞ」
プリンツ「Super!!どうしたのよ、至れり尽くせりじゃない?」
提督「ああ、いろいろ助けてもらってるからな」
プリンツ「あら、それなら毎日こうしてもらわなくちゃ」
提督「そうするとありがたみがなくなるだろ?」
プリンツ「かもね、ふふっ」ニコッ
プリンツ(ずっとこうしていられればいいのに。……嫌なことを考えるのは、今は止めておこう。明日だ。明日から考える。そうしよう)
358: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:28:47.45 ID:AObqY72j0
~
プリンツ(あれから数日、私は未だに何の策も考えられていない。だというのに将校と会う日だ)
プリンツ(こうなったら、作戦に関わるから言えないと強引に押し通そう。それで時間を稼ぐ)
プリンツ(そうして次の時までにいい案を考えておく。それしかない。大丈夫、きっとうまくいく)
プリンツ「……それにしても、遅いな。確か待ち合わせはこのスタバだったはずなんだけど」
「Prinz Eugen」
プリンツ「えっ?っ!?あ、貴女は……!!」
女「Guten Morgen. Ich habe dich so lange nicht gesehen. (おはよう、久しく君とは会っていなかったな)」
プリンツ「なんで……大佐はどうしたんですか……!?」
女「……一応、日本語も話せるようになったんだ。元気だよ。それにしても、よく私が昇進したことを知っているな?」
女「親友が私を気にかけてくれていたようでうれしいよ。君のほうは最近どうなんだい?」ニコッ
プリンツ「ふざけないで!!誰が親友だ!?私が聞いているのはKapitän Schneider(シュナイダー大佐)のことだ!!」
女「ああ、そういう意味か。やはり経験不足だな……周りは日本人だらけだし、いろいろと良くないからドイツ語で話そうか」
プリンツ「Wo ist Herr Kapitän!? (大佐はどこにいるんですか!?)」
女「Ach, 彼は本国へ帰還したよ。これからは私が連絡将校になる」
プリンツ「何ですって……!?貴女のような人格破綻者が……!?」ガーン
女「そんな顔をするな。さすがに傷つくぞ……」
359: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:31:24.56 ID:AObqY72j0
プリンツ「マッドサイエンティストに人体実験の検体にされそうになれば、私の気持ちが分かりますよ。大佐」
女「大佐じゃなくてメンゲレと呼んでくれ。マッドサイエンティストのつもりはないんだがなぁ……」
プリンツ「人を泥酔させて人体実験をしようとした方の言葉とは思えませんね、大佐?」ジロッ
メンゲレ「……なら、せめてドクトルと呼んでくれ。あれは悪かったよ。私も、君が酔ってないときに頼むべきだったと後悔している」
メンゲレ「だが気になって仕方がなかったんだ。君が艦娘になれて、私がなれなかった理由がね」
プリンツ「……それで、ドクトルが一体何の御用ですか?定時連絡はまだ先ですけど」
メンゲレ「着任を君と祝いたくてね」
プリンツ「おめでとうございます、ドクトル。では失礼しますね」
メンゲレ「まあ待て、本題が終わったところで早速ガールズトークをしようじゃないか」
プリンツ「お断りします」
メンゲレ「ビスマルクについてだ」
プリンツ「……何ですか?」
メンゲレ「単刀直入に聞くぞ。どこまで知っている?」
プリンツ「……作戦に関わるから言えません」
メンゲレ「本当に?彼女は作戦に参加するのか?」
プリンツ「言えません」
360: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 03:34:55.84 ID:AObqY72j0
メンゲレ「……プリンツ、君は彼女が何をしたのか知っているのか?」
プリンツ「何のことですか?」
メンゲレ「私が着任したのは二種間ほど前、ちょうど君がビスマルクは作戦の為に現在連絡できないと大佐に報告した翌日だった」
メンゲレ「かなり急なことだったよ。それこそ、君たちに前もって連絡することができないぐらいにね」
プリンツ「何が言いたいんですか?」
メンゲレ「そしてその着任当日に、ビスマルクからいわゆる『良心的兵役拒否』を希望された」
プリンツ「!!??」ビクッ
メンゲレ「……まあ、そういうことだ。だから彼女に関してはもう心配する必要はないとだけ伝えておくよ」ジッ
プリンツ「そう、ですか……」
メンゲレ「……これを飲むといい。なに、ヘンなものは入れてないし、口をつけてはいないよ」
プリンツ「……Danke」
メンゲレ「さて、それでは私は戻るとする。今度の作戦は君も出撃だろう?頑張ってくれ。ではな」スタスタスタ
プリンツ「はい、ありがとうございます……」
プリンツ(……それが貴女の選択なのですか、ビスマルクお姉さま。本当に……本当に……どうして……なんで……)
プリンツ「……」
プリンツ「……」ユラッ フラフラフラフラ
メンゲレ「……」ジッ
メンゲレ「……」クルッ スタスタスタ
368: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 21:45:28.17 ID:AObqY72j0
~
プリンツ(それから、私は抜け殻のようになった。張りつめていた気持ちも、空気が抜けたようだった)
プリンツ(ここ数日、ただ機械のように生きている。何の目標も喜びも見いだせない、灰色の日々。私は、壊れてしまったのだろうか?)
プリンツ(久しぶりに感じる追い詰められていないという感覚。これは、安心……いや、諦観というべきだろう)
プリンツ(たぶんそうだ。こんなものが安心であってほしくない。穏やかだが、最悪な気分)
~
ピピピピ ピピピピ
プリンツ「……」バンッ
プリンツ「……朝」ヌッ
~
プリンツ(確定したと言える。正式に良心的兵役拒否を希望したんだ……しかも、どうやら通りそうな雰囲気だ……)
プリンツ「……」ユラユラ
愛宕「あら、……おはよう、オイゲン」
プリンツ「……おはよう、愛宕」ボー
愛宕「ちょっと。大丈夫なの?すごい体調悪そうよ」
プリンツ「平気。じゃあ私、秘書艦の仕事があるから」
愛宕「ええ。……本当に大丈夫かしら」
369: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 21:47:09.32 ID:AObqY72j0
~
プリンツ(ビスマルクお姉さまはもう戻ってこない。……そうだ、もう戻ってこないんだ)
提督「すまないが、この書類を纏めておいてくれ」
プリンツ「ええ、任せて」
提督「ありがとう」
~
プリンツ(アトミラールはどうなるんだろう?ずっとこのまま?そんなの嫌……)
提督「そろそろ昼休みだ。食事に行ってこい」
プリンツ「分かったわ。……貴方はどうするの?」
提督「忙しいからここで軽く済ませるよ。君はちゃんと休んでくれ」
プリンツ「そう……じゃあ失礼するわね」
~
プリンツ(もう嫌だ。何も考えたくない。吐きそうだ。気持ち悪い、気持ち悪い……)
プリンツ「……砂みたい」モグモグ
武蔵「提督、良くなったのか?変なことを言わなくなったそうじゃないか」
大和「そうね……」ボー
武蔵「そういえば、最近あいつは読書を始めたらしいぞ?暇があれば何かの本を読んでいる」
大和「そうね……」ボー
武蔵「……いい加減、立ち直ったらどうだ?一時的な配置転換という話だろう」
大和「……それでも、離れることには変わらないじゃない。提督は私を選んでくれなかった……」
大和「どうして私が東部戦線送りなの……提督の下で戦いたかった……」
武蔵「東部は少ない兵力で敵を引き付けなくてはならないからな。私達は提督に信頼されているんだ。誇りに思おうじゃないか」
大和「……それでも、好きな人と一緒にいたいのが乙女心なの!!」
プリンツ(なんて平和な悩みなんだろう。本当にうらやましい。そんなくだらないことで悩んでいられるなんて)
プリンツ「……ごちそうさま」
370: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/08(木) 21:51:09.60 ID:AObqY72j0
~
プリンツ「アトミラール、今戻ったわ」
提督「ああ、お帰り。じゃあ午後の仕事を始めるか」パタン
プリンツ「何を読んでたの?」
提督「アガサ・クリスティだ」
プリンツ「へえ、そう」
提督「そうだ。早速だが、この敵の戦力評価を纏めておいてくれ」
プリンツ「ん」
~
提督「よし、今日は終わりだ。お疲れ様」
プリンツ「お疲れ。じゃあ、私は帰るわね」
提督「ああ、じゃあな……ありがとう!」
プリンツ「……」テヲヒラヒラ
~
プリンツ(部屋に戻って、夕食と入浴を済ませる。いつもやっていた音楽を聴きながらのストレッチも、やる気がしない)
プリンツ(歯を磨き、寝支度を済ます。暗闇の中、ベッドに入る。分からない先のことを、考える)
プリンツ(アトミラール……私は……)
プリンツ(……決めた。私は……プリンツ・オイゲンは死ぬ。私がビスマルクとしてアトミラールと生きる)
プリンツ(良い事だよね。諦めなくちゃいけないはずだった好きな人と、一緒にいることができるんだもの)
プリンツ(私が割り切れさえすればきっと全部うまくいくから……だから……)
プリンツ「うぅ……ぐすっ……ひっく……」
プリンツ(今日だけは、泣きたい)
373: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:30:08.18 ID:NhbtjLDr0
~
ザー ゴロゴロゴロ……
ピピピピ ピピピピ
プリンツ「……」パチッ ピッ
プリンツ「……おはよう、ビスマルク。今日もいい天気ね」
~
瑞鶴「意味わかんないよ!!どういうことなの!?」
翔鶴「落ち着きなさい!!瑞鶴!!」
大和「何を知っているんですか?赤城さん。事と次第によっては……!!」ギリッ
加賀「させません。身の程を弁えなさい、大和。誰に向かって口を聞いているの……?」メホソメ
武蔵「止めろ!!大和!!冷静になれ!!」
大鳳「加賀先輩、駄目!!抑えてください!!」
プリンツ「……おはよ、どうしたの?」
高雄「ああ、オイゲン。おはよう」
愛宕「おはよう。それがぁ……」
赤城「気を付け!!」
「「「「!!」」」」
赤城「皆さん、状況が分からないのは私も一緒です。ですが、とりあえずやるべきことはやらなくてはなりません」
赤城「どうやら、光栄なことに提督は私をひとまずの指揮官に任命したようです」
赤城「よって私には提督が戻られるまでの間、皆さんの指揮を執る義務と権限があります」
赤城「……ここで問題を起こしては、提督は処分を免れないでしょう。提督がいきなりいなくなったことにも、きっと理由があります」
374: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:31:59.27 ID:NhbtjLDr0
赤城「今は提督を信じて、各自の義務を果たしなさい。力を合わせてこの難局を乗り切るのです。いいですね?」
「「「「了解」」」」
加賀「……分かったのなら返事をしなさい、大和」
大和「っ!!」
赤城「止めなさい、加賀!!大和、あなたが不満に感じるのも致し方ありません。ですが、どうか堪えてもらえませんか?」
大和「……了解です。赤城さんに従います。……すいませんでした」
赤城「とんでもない!ありがとうございます。どうぞよろしくお願いしますね」
プリンツ「提督がいなくなったの……!?」
愛宕「私が戻るまではぁすべての指揮権を赤城に移譲するって置手紙とぉ、指揮書を残してね」
高雄「何故いなくなったのか、何処へ行ったのか、何時戻るのか、誰にも伝えずにね。ってオイゲン!」
赤城「オイゲンさん」
プリンツ「赤城さん、おはようございます……どういうことなんですか……!?」
赤城「話は聞いているわね?私が知っていることもそれ以上のことはありません」
赤城「ですが、貴女なら何か知っていると思ったのですけど……知らないようですね」
プリンツ「はい……」
赤城「では、とりあえずプリンツさんには私の補佐をお願いします。たぶん私よりも詳しいでしょうから」
プリンツ「わ、分かりました……」
プリンツ(アトミラール……アトミラールまで……!!いったいどこに消えちゃったの!?意味わかんないよ!!)
375: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:33:12.01 ID:NhbtjLDr0
~
赤城「もうこんな時間……ちょっとかかりすぎましたね。お昼休憩にしましょうか」
プリンツ「そうですね。あ」Was ich sah auf meiner Reise♪
赤城「電話ですか?構いませんよ。出てください。私は先に食堂へ行ってますね」
プリンツ「ありがとうございます。……青葉から?もしもし?」
青葉『あ~プリンツさん?お久しぶりですぅ』
プリンツ「ええ、久しぶり。どうしたの?」
青葉『それがですねぇ、何でもウチの提督がお話ししたいってあぁ!!ちょっ!?』
友『……プリンツ・オイゲンか!?』
プリンツ「友さん、そうです。もしかして提督について何か話が……!?」
友『そうだ!!あいつは今どこにいる!?』
プリンツ「それが、どこかへ行ってしまって居ないんです……」
友『くっ!!遅かったか……!!』
376: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:46:18.00 ID:NhbtjLDr0
~
SS兵士「連絡です」スッ
メンゲレ「ご苦労。……」カサカサッ ジッ
メンゲレ「……『ブランデンブルク』に出撃命令を。発砲、及び交戦を許可する。必要な手段を躊躇うな。ただし、我々の仕業という証拠は残すなよ」
SS兵士「了解しました、大佐殿」
メンゲレ「さて、我々も行くとするか……」
377: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:48:48.95 ID:NhbtjLDr0
~
ビスマルク「……綺麗な満月。さっきまでの嵐が嘘みたい」
男「何か言った?」
ビスマルク「月が綺麗って言ったのよ。まん丸で、とても大きい」
男「へえ。月が綺麗ってのは、日本じゃあなたを愛しているって意味もあるんだ」
ビスマルク「そうなの?ロマンティックね」
男「だろう。それにしても、随分とおおきくなったね」
ビスマルク「ふふっ、あ、今動いたわ」
男「いいねぇ。けど、僕としてはこっちの方が嬉しいけど」モミッ
ビスマルク「あん、もう……これは赤ちゃんのものよ」
男「安心しなよ。飲んだ分、こっちからミルクを補給してあげるから」ナデッ
ビスマルク「あっ……」
ガチャリッ ガチャン
男「え……!?」
ビスマルク「……!!」
ビスマルク(……とうとうこの時が来たか。どうやったのか知らないけど、住人がいるのに堂々と鍵を開けて入ってくるなんて)
ビスマルク(そんな事するのは何処の誰か、考えるまでもないわ。どうにかならないかと思ったけど、やっぱりこうなるわよね。覚悟は、できてる)
378: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/09(金) 08:56:09.26 ID:NhbtjLDr0
カツカツカツ
ビスマルク(この足音、一人だけ?まあ私を消すのに部隊を動かすまでもないということかしら)
男「な……だ……ど……」ブルブルブル
ビスマルク「……」チラッ
ビスマルク(せめて、この人だけでも守らないと……この命に代えても……)
カツカツカツ ピタッ
ビスマルク「……誰かしら?」
提督「……久しぶり、というべきか」
男「!?」
ビスマルク「!!??」
提督「……」ガチャッ
ビスマルク「アト……ミラール……!!」
提督「ビスマルク、壮健そうで何よりだ」ニコッ
ビスマルク「……っ!!それはどうも。けど何のつもりなの?いきなりドアを開けて入ってくるなんて」ハッ ギロリ
男「ふ、不法侵入だぞ……!!」
ビスマルク「そうよ。しかるべき礼をもって来るのであれば、客人として迎える。けれど、今の貴方はただの犯罪者よ?……失望したわ」
提督「奇遇だな、俺も君には失望していたんだ。何をされていたのか知らんが、性欲に負けてしまうとは」
ビスマルク「……あなたが私を満足させてくれなかったのがいけないんでしょ?男としての甲斐性で勝てないからって次は暴力でねじ伏せるのかしら?」
提督「……かもな。あまり経験がなかったんだ。あいつとは……前の妻とは互いに愛し合うだけで十分で、性技を鍛えたことなんてなかった。それに関しては、すまなかった」
ビスマルク「……謝罪に来たわけ?じゃあ許してあげるから帰って。もう二度と私たちの前に現れないで!!」
提督「ふっ……ははははっ……はははははは!!謝罪に来ただって?何を言うかと思えば……!!笑わせてくれる」
ビスマルク「……!!」ゴクリ
提督「教えてあげるよ、ビスマルク。俺が、なんのためにここに来たのかを」
ビスマルク「……復讐しに来たわけ?」
提督「いや……俺は、お前の悪夢を終わらせに来たんだよ」
383: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:08:24.94 ID:JUQFTxnn0
~
提督『まったく。ってそうだ、すまないが飲み物を買いに行ってくる。喉が渇いてな。すぐに済むから待っていてくれ』
プリンツ『……そう、分かったわ』
友『ああ……すまないが、俺もドクペが欲しいから買ってきてくれ』
提督『ドクペ!?ここらで売ってるのか……?』
友『向こうの売店に行けばあるかもしれん。貴様の分も奢るから頼む』
提督『了解』スタスタ
提督《そういえば、あいつはドクペやらルートビアやらよくわからんものが好きだったな。売ってるといいのだが……ん?》
提督『おお……!!』
提督《なんとまあ!!ここの自販機はドクペがあるのか!!優秀な奴だ。俺は……ジンジャーエールにでもしておこうか》
提督《……よし、じゃあ戻るか》
プリンツ『貴方に何が分かるというのですか!?知ったような口を利かないでください!!それとも、何かいいアイデアがあるんですか!?』
提督『!?ビスマルク……?一体何を怒鳴っているんだ……!?』
友『それはっ……!!』
プリンツ『Na, toll! 凄いですね、他にいいアイデアがないけどそれはダメですか?じゃあ何もせずにアトミラールを放っておけと?』
友『違う……!!俺があいつと可能な限り一緒にいる!! 近くで支えてやる!!』
提督『!!??な、何の話をしているんだ……あいつらは……!?』
384: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:11:18.00 ID:JUQFTxnn0
~
プリンツ『もう……私じゃどうしていいかわからないんです……お姉さまもどこへ消えたのか分からないし……』ポロポロ
友『……あいつの時間はあの時から止まっている、氷のようにな。それを解かすことができるのは、人の温もりか、怒りの業火だけだ』
提督『……』
提督《思い……出した……》
~
ジリリリリ ジリリリリ
提督【……】ガチャッ
友【もしもし、提督か?俺だ、友だ。明後日からの作戦について最終確認したいのだが】
提督【……友か】カスレゴエ
友【!?おい、どうしたんだ!?大丈夫か!!】
提督【ああ。それで、どうしたんだ】
友【馬鹿!!貴様、明らかに様子がおかしいぞ!?どうしたんだ!!】
提督【友……実は、な……】
~
友【馬鹿な……その、大丈夫か?】
提督【ああ。話して、少し楽になった。そんな事よりあ号作戦だ。何を確認したいんだ?】
友【あ、ああ。そうだな。俺たちの担当箇所なんだが……】
385: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:12:25.09 ID:JUQFTxnn0
~
プリンツ【いえ、大丈夫です。ビスマルクお姉さまから定時連絡がないと本国から連絡が来たのですが……】
提督【っ!!……そうか。君には話さなくてはならなっ、おえぇぇ……!!】ゲボッ
プリンツ【アトミラール!?大丈夫ですか!?】
提督【ぐっ……すまない、大丈夫だ……プリンツ、これからいうことには緘口令を敷く。いいな?】
プリンツ【J,Ja……】
~
プリンツ【……つまり、ビスマルクお姉さまは、あの整備兵と浮気……„ Seitensprung“したんですか……?お腹の子も、その人の……?】
提督【……そうだ】
プリンツ【……!!】
提督【すまないが、この件に関してはドイツ側に黙っていてほしい。こんなことを報告したら……まずいことになるだろう?】
プリンツ【……っ!!わ、分かりました】
提督【すまない、ありがとう】
プリンツ【アトミラール……】
386: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:16:37.39 ID:JUQFTxnn0
~
プリンツ【アトミラール、失礼しますね】
提督【ああ、……ビスマルク?ビスマルクか。どうした、そんなにかしこまって】
プリンツ【!?】
提督【すまないな、心配をかけた。すぐに退院できるよ】
プリンツ【アトミラール……?】
提督【ん?何だ、ビスマルク】
プリンツ【……いえ、何でもないわ、アトミラール】
~
友『気にするものか。罪だというか? それもそうだろうな。俺も普通に暮らしていくうえで法律は守るべきだと思う。だがな』
友『その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!』
友『そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうとしているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!』
提督《俺は……なんて馬鹿なことを……いくらあんなことがあったと言え、こんな状態になってしまったなんて》
提督《プリンツをビスマルクと認識するなんてひどい扱いをして、苦労を掛けたうえに泣かせ、大親友にあんなことを言わせてしまった……》
提督《自分が情けない……だが、それでも耐えがたい苦痛、絶望が俺を蝕む。ビスマルクは……クソッ、どうして……どこで俺は間違えたんだ……》
387: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:20:23.09 ID:JUQFTxnn0
~
友【調教だとか反吐が出る。しかし、ストックホルム症候群ってのがあるようにまあ実在するんだろうな】
~
提督《っ!!ストックホルム症候群……!!……確か、被害者が極限状態で犯人と過ごすうちに、過度の好意を抱くことだ》
提督《……うぷっ!!》
~
ビスマルク【提督ぅ。愛してるわ…本当よ?でも、あなたとのセックス少しも気持ちよくなかった】
ビスマルク【ううん、苦痛だったの。ほら…私のここ提督の時と全然違うでしょ?】
~
提督《っ……!!……堪えろっ!!よく思い出してみろ、あの時のビスマルクの顔を!!》
提督《俺など眼中になかったか?違う!!俺を嘲笑していた?違う!!快楽に蕩けていた?それも違う!!》
提督《……とても、とても悲しそうな、何かをやらかしてしまって、どうすればわからないって顔だったろうが!!涙を、流していただろうがっ!!》
提督《俺は……あの時、ショックで動けなかった……だが、俺は……今なら……!!》
提督《時間が経っている?だが、行動しなくては後悔してもしきれない!!遅すぎるなど言っていては、何もできん!!》
提督《それに、あんなことは普通じゃない。これはビスマルクにとっても悪い夢だ……だから俺は!!》
提督『……』チラッ
提督《……二人には本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。今すぐに正気に戻ったことを伝えたい》
提督《だが、そうなればあの二人に隠れて行動することは難しくなる》
提督《まだ何とも言えないが、場合によっては俺は……自分のすべてを犠牲にしても……》
提督《そうなれば、巻き込むわけにはいかない。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない》
提督《心は痛むが、ここはまだ隠しておく。打ち明けるのはいつでもできる。……すまない、二人とも》
提督『……ただいま、何を騒いでいるんだ?警備員がやってくるぞ?』
388: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:22:22.49 ID:JUQFTxnn0
~
提督《……耐えられると思ったが、無理だった》
提督『さて、そろそろ行かなくてはと言いたいところなのだが、もう一度トイレに行ってくる。少し緊張しているみたいでな、ははっ』ダラダラ
プリンツ『大丈夫?』
~
提督『おえぇぇ……げぇぇ……っ!!はぁ~……はぁ~……』
提督《何とか治まったか。とりあえず、匂いでバレたらまずい。口を濯いで、ブレスケアを買って噛んでおこう》
提督『……』
提督『絶対に負けるものか、やってやる……!!』ボソリ
389: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:25:53.68 ID:JUQFTxnn0
~
提督『……』ペラ ペラ
武蔵『提督、失礼するぞ』
提督『武蔵か、入れ。どうしたんだ?』パタン
武蔵『次回の作戦、東部方面の戦力はあれでいいのか?』
提督『まわせる最大限の戦力をまわした。何か意見があるか?』
武蔵『航空母艦が二航戦のみということに疑問がある。……制空権の確保は出来るのか?』
提督『基地航空隊も頑張ってくれるはずだ。船団護衛や西部戦線、北部戦線のことも考えるとな……残念だが、これ以上は無理だ』
武蔵『そうか……分かった』
提督『安心しろ。十分制空権を確保できるはずだ。それに、君たちの対空戦闘能力も強化されている』
武蔵『提督……そうだな、この武蔵の力を見せてやろう。決して蚊トンボごときに負けはしない!』
提督『期待しているぞ。俺は貴様と大和ならやってくれると信じている』
武蔵『ああ、任せてもらおうか!ところで、本を読むのだな、貴様は。』
提督『ああ、最近の趣味だ』
武蔵『そうか。何を読んでいるんだ?』
提督『……アガサ・クリスティだよ。好きなんだ。そして誰もいなくなったとかな』
武蔵『そうか。よければ今度貸してくれ。私も読んでみたい』
提督『ああ』
武蔵『ありがたい。では、失礼するぞ』
提督『うむ……』スッ ペラ ペラ
提督《……上官がストックホルム症候群やらなんやらの本を読んでいたら心配させてしまうからな。すまん、武蔵。嘘を吐いた》
提督《アガサ・クリスティか。子供の頃はあの不気味な感じが好きだったんだ。落ち着いたらまた読んでみるか》
390: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/10(土) 01:27:27.33 ID:JUQFTxnn0
~
提督《調べた結果、ストックホルム症候群のようなものの根本的治療には、本人が自分でおかしいことに気がつかなくてはならないようだ》
提督《ビスマルクは、整備と称して調教されていたらしいが……自分が何をされてああなったのかを思い出させるのがよさそうだな》
提督《それに、帰る場所があると思えることが救いになると。心当たりは、ある。泣いていたのはもう帰れないと思ったからじゃないか?》
提督《だからアレに依存するしかないと考えたのだろう。あの時、ビスマルクが頼れたのはアレだけだったのだ》
提督《また、治療にあたっては環境を変えるのが一番いいらしい。だが、これは難しいな……》
提督《おそらく、ビスマルクのことだから意志は強いはずだ。説得に成功させないと、アレから離れようとしないだろう》
提督《状況を考えるに、チャンスは一度だけだ。そこで決めなくては……いや、決めるんだ。やってやるさ》
提督《……ビスマルクの、惚れた女のためだからな》
399: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:42:49.25 ID:XRgIGGLg0
~
提督(そうだ、やってやる!!俺にならできる!!自分と、そしてビスマルクを信じろ!!)
提督(つい失望したとか言ってしまったが、気にするな!!諦めたらそこで試合終了だ!!)
ビスマルク「私の悪夢を終わらせに来た?意味が分からないわね」
提督「言葉の通りだ。お前は今、悪夢を見ている」
ビスマルク「まあ、そうね。ストーカー化した元夫が家に乗り込んできて、何をされるか分からないなんて悪夢ね」
提督「……安心しろ。暴力を振るいはしない」
ビスマルク「どうかしら?」
提督「俺の名誉にかけて誓おう。……そして、悪夢ってのはもちろんそれじゃない。君自身、本当は気がついているんじゃないか?」
ビスマルク「本当に意味がわからないわよ。貴方こそ、悪夢を見てるのじゃないのかしら?いい加減目を覚ましなさい」
ビスマルク「私は、貴方とはもう離婚するの。そしてこの人と一緒になるんだから。いつまでも昔のことを引きずっていないで!!」
ビスマルク「!そうよ、丁度いい機会だわ。そこに離婚届がしまってあるの。それにサインして、早く帰ってもらえるかしら」
提督「断る」
ビスマルク「なら、裁判かしら?日本では」
提督「それも断る。どうして愛し合っている二人が離婚などしなくてはならない?」
ビスマルク「愛し合ってないから離婚するのよ!!私が愛しているのは」
提督「そいつだというのか!?」
400: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:45:43.73 ID:XRgIGGLg0
ビスマルク「っ!?そうよ!!この人を愛しているの!!もうすぐ私たちは親になるわ。だかr」
提督「本当に愛しているのか!?心から!?心からそう言えるのか!?」
ビスマルク「っ!!言えるわよ!!」
提督「どうかな!?思い出してみろ、ビスマルク!!初めて俺の艦隊に配属された時を!!あの時、お前が好きだったのは誰だ!?」
ビスマルク「っ!!それは……」
提督「……お前が手料理を披露したのは誰だった?一緒に祭りへ行ったのは誰だった?」
ビスマルク「……」
提督「……俺だったろう?ビスマルク。そいつじゃない。この俺だ」
ビスマルク「……」
提督「……違うか?」
ビスマルク「違わないけど、でも……」
提督「難しい事を考えるな。俺は今、自分のすべてを取り繕わずさらけ出している。だから、……惨めにもここでこうしている」
提督「だからお前も自分に素直になってくれ。お前の気持ちが何なのか、自分自身でもう一度考えてみろ」
ビスマルク「……」
提督「……今のことは聞いていない。あの時だ。あの時、お前が好きだったのは俺だった。……そうだな?」
ビスマルク「……あの時はね」
提督「そうか……!!では次にいこうか。俺たちはその後、結婚したな?」
ビスマルク「……」コクッ
提督「なぜだ?ビスマルク。どうして結婚した?」
401: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:47:26.37 ID:XRgIGGLg0
ビスマルク「そ、それ……は……」フルフルフル
提督「俺は君が好きで、愛していたからだ。だから結婚を申し込んだ」
ビスマルク「!!」
提督「君は何故、俺のプロポーズを受けた?それは、君が俺を愛していたからじゃないのか?君が俺を好きだったから、だから受けたんじゃないのか?」
ビスマルク「ぁ……」
提督「俺はよく覚えている。君のウエディングドレス姿、美しかった。君は、笑っていたよな?」
ビスマルク「っ!!」
提督「なぜなんだ……どうして笑った……?」
ビスマルク「わ、分からないわ……あっ!?いや、そんなの、愛想……笑い……」
提督「……本当にそうなのか?」
ビスマルク「……」ギュッ
提督(ビスマルクは、自分を抱きしめるように己の肩を掻き抱く。先ほどまで俺を敵意のこもった瞳で睨み付けていた視線は、床に落ちている)
提督「俺は、嬉しかった。幸せな気分だった。だから俺は笑ったんだ。君は違ったのか?」
ビスマルク「私は……」
提督「……教えてくれ、ビスマルク」
ビスマルク「……」ブルブルブル
提督「……そうか、なら、いい」
402: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:48:58.58 ID:XRgIGGLg0
ビスマルク「!」ハッ
提督「その後、君は俺の元から去ったな」
ビスマルク「っ!!」ビクッ
提督「君は、あの日医務室でそいつとセックスしていた」
ビスマルク「あ……ぅ……」
提督「そして俺じゃ満足できないと、お腹の子供も俺との子じゃないと言っていた」
ビスマルク「……!!」
提督「そう言ったんだ、君は。よもや、忘れたわけじゃあるまいな?」
ビスマルク「わ、私は……ええ……そ、そう言ったわ……私は……」
提督「もしそうであれば、君はいつから不貞を働いていたんだ?」
ビスマルク「ふ、不貞……」
提督「そうだ、不貞だ。俺たちが結婚する以前から、君はそいつのほうが良いと言って、そいつと愛し合っていたのか?」
ビスマルク「違っ!!っ!?……わ、私は?今、何を……?」
提督「……思い出せ、ビスマルク。そいつに何をされた?」
ビスマルク「……」サッ
提督(両手を口元に添えて、真っ青な顔で目を見開き、瞳を揺らしている。呼吸は荒く、明らかに動揺していた)
403: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:50:55.63 ID:XRgIGGLg0
提督「思い返せ、君の気持ちを。思い出せ、あった出来事を。それを知っているのは君しかいない」
ビスマルク「……ずっとこの人を、……愛していたわ」カスレゴエ
提督「本当に?じゃあなぜ一度俺と結婚した」
ビスマルク「……」ガクガクガク
提督「あの日、お前は言ったな?私のセックスでは満足できず、苦痛だったと」
ビスマルク「っ!!」
提督「言ったな?」
ビスマルク「……ええ」
提督「だが、俺はよく覚えている。あの時の君の表情を。……なぜあんなに悲しそうな顔をしていた?」
ビスマルク「っ……!!」
提督「俺はよく覚えてる。あの時の君の言葉を。……俺を愛しているのは本当だと言ったな?」ニコッ
ビスマルク「!!!!」ハッ
提督「そいつは自分専用に調教したと言っていたが、何をされた?俺が知っている誇り高い戦艦ビスマルクから、いつ、何があって、どうしてそうなってしまった?」
ビスマルク「それ、……は……」
提督「あの時は腰を振ることに夢中でそれどころじゃなかったろうからな。だから、もう一度その冷静な頭で考えてみろ、思い返してみろ」
ビスマルク「あ……私……は……」
404: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:52:24.65 ID:XRgIGGLg0
男「黙れぇ!!ビスマルク、そいつの言うことを聞くな!!」
ビスマルク「あなた……!!」
提督「!!ほう……女の後ろに隠れているばかりかと思っていたが。どうした、整備士?私は中将だぞ?敬語で話せ」
男「うるさい!!僕はもう整備士じゃない!!あんたの部下じゃないぞ!!不法侵入した挙句、人の妻を惑わすな!!」
提督「惑わしたのはどっちかな!?ビスマルクを騙して、嵌めるような真似をした奴に言われたくないわ!!」
男「うるさい!!お前みたいなやつは所詮、頭や顔だけだ!女を悦ばすことをできやしない!!」
提督「お前みたいに変態なわけじゃなかったんでな!!普通に愛し合うだけでいいよかったんだ!!」
男「っ!!ふん、その結果がこれだろ!!」グイッ
ビスマルク「きゃっ!」
男「ビスマルクが孕んだのは僕の子だ!!そしてビスマルクは僕の妻だ!!」ブチュッ
ビスマルク「んっふぅ……」チュゥゥゥゥ
提督「くっ……! そうして宣言していないと不安か?だろうな。俺からビスマルクを奪うときだって、まともにやったら勝ち目がなかったろうからな!!」
男「!!」
405: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:54:27.42 ID:XRgIGGLg0
提督「だから卑劣な手段を取ったんだろ?お前が俺に勝てるのは性技くらいしかないから!!」
男「っ!!黙れぇぇぇぇ!!」ブン バキッ
提督「ぐっ!!」
ビスマルク「ちょ、止めて!!」
男「黙れ!!黙れ!!黙れ!!僕に嫁を!!寝取られた!!欠陥男のくせに!!」ドカ バキッ ドゴッ
提督「ぐっ!!がっ!!っ!!うっ!!はっ!!くぅっ!!」ドンッ
ビスマルク「止めてぇ!!あなた!!」
男「はぁ……はぁ……」
提督(クソッ……体がデカいだけあって、パワーが強いな……予想外だった)
提督「びす……まるく……すべて、まやかしだったんだ。お前はまだ、悪い夢に囚われている……!!もう自分でもわかっているだろう……?」
男「くそ!!くそ!!まだ言うのか!?黙れ!!」ゴスッ ドスッ
提督「っ!!……効かんな、雑魚め!!」ギロッ
ビスマルク「ワルイ……ユメ……」
男「っ!!くそっ!!」タッタッタッ
ビスマルク「私は……私、はぁ……!!」
406: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:56:50.09 ID:XRgIGGLg0
~
男「提督……!!僕はお前みたいな野郎が大っ嫌いなんだ!!少し顔と頭がいいからって!!僕みたいな人間を見下している!!」
男「ビスマルクを取るつもりなら、もう容赦はしない!!殺してやる!!」カチリ ガラッ
男「ははっ!!こんなこともあろうかと用意しておいたんだ!!これさえあれば、あんな奴に負けはしない!!」チャキッ
~
提督「っ……ごほっ!!ごほっ!!がはっ!!」ゴボッ
ビスマルク「あ、アトミラール!!」サッ
提督「口が切れたかな……」
ビスマルク「そんな血の量じゃないわよ……!!窒息するから全部吐き出しなさい!!」スッ
提督(アレはどこかへ消え、残ったビスマルクが俺に駆け寄ってきた。倒れ伏す俺の上体を抱き起す)
提督(視界が若干おかしいが、久しぶりに近くからビスマルクと見つめあう)
提督(今にも泣きだしそうな表情、その一級品のサファイアのような瞳と目が会う。俺も泣きそうだった)
提督「そんな顔するな、大丈夫だ……ありがとう」
ビスマルク「アトミラール……私……私……」
407: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 00:58:33.04 ID:XRgIGGLg0
提督「……もし俺が、見当違いなことを言っているのなら、申し訳がない」
提督「あいつとの結婚式の写真で、君は確かにこの上ない笑顔だった。たぶん俺とのときよりも」
提督「同封されていた手紙も、読んだ。君は、あるいは本当に幸せなのかもしれないと思った」
ビスマルク「……」
提督「もしそうなら、許されないことをした。だから、そうであるなら俺は消えるよ。君のことも、上へは俺からとりなす」
ビスマルク「!!」
提督「そして俺は二度と君の前に現れない。離婚届も書こう。そう誓う。だが……」
提督「だが、俺は君が見せたあの悲しそうな笑顔が忘れられなかった……!!もし君の魂が助けを欲しているのなら、俺はその助けになりたい」
ビスマルク「……私は、……貴方に、ほ、本当にっ……酷いことを……」ウルッ
提督「いいんだ。……俺の方こそ、気付いてやれなくてすまなかった。サインを送ってくれていたのに……」
ビスマルク「アトミラール……!!」ポロポロポロ
提督「今日、君と話して確信した。やはり君は助けを欲している。あの時のあれは、あいつにそうさせられていただけなんだ」
提督「俺は、今でも待っているんだ。だから、戻ってきてくれ。俺には君が必要だ。そして、きっと君にも俺が必要だろ?」
ビスマルク「アトミラール……ぐすっ……本当に、いいの……?わ、私は……貴方に、ひ、酷いことをして……穢されちゃったのよ……?」
提督「当たり前のことを聞くな。良いに決まってる」
ビスマルク「アトミラール……アトミラール……!!」
409: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 01:03:00.90 ID:XRgIGGLg0
男「お前!!妻から離れろ!!」
ビスマルク「っ!? あなた!!何を持っているの!?本当にやめて!!」バッ
男「どけ、ビスマルク!!こいつは殺さないとダメだ!!」グイッ
ビスマルク「きゃぁ!」
提督「やめろ!!」グッ ガクガクガクガク
男「うるさぁい!!」チャキッ
提督「!!……トカレフ、いや、黒星か?銃刀法違反だぞ」
男「知るか、そんな事!!ここでお前を殺してやる!!」ギロリ
ビスマルク「止めてぇ!!」
バンッ
提督「ぐっ!?つぁああ……!!」ドンッ ズルズルズル
提督(肩を撃たれた……!!くっ……だが、致命的な所に当たらなかったことを嬉しく思わなくてはな……!!)
提督(わざとなのか、それとも単純にこいつが素人なのか……まあ、どっちでもいい……)
ビスマルク「いやああああ!!アトミラール!!」
男「……は……はははっ!!どうだ、提督!?やってやったぞ!?はははははは!!」
提督(……本来の目標は達成した、はずだ。だがこれは完全に想定外だ。迂闊だったな……こいつ、予想上の力どころか銃まで持っているとは)
提督「はぁ……はぁ……」
ビスマルク「もう止めて!!お願いだから!!」ポロポロポロ
男「黙ってろビスマルク!!お前は誰の味方なんだ!?」ハァー ハァー
提督(しかも極度の緊張状態にある。人を撃ったことのない新兵にありがちな、危険な状態だ)
提督(何かのはずみで、誰を撃っても……ビスマルクを撃ってもおかしくないぞ……クソッ!!)
410: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 01:04:29.21 ID:XRgIGGLg0
ビスマルク「私は!!」
提督「っ!!おいどうした!?俺はまだ生きているぞ?臆病者」
ビスマルク「!!??」
男「な……なんて言ったお前!!」
提督「お前が撃ったのは肩だ。俺を殺すんじゃなかったのか?だったらもっと撃つべき場所があるだろう」
男「くっ……お前!!」チャキ ブルブルブル
ビスマルク「アトミラール!?何を言っているの!?止めて!!この人を刺激しないで!!」
提督「どうした、震えているぞ?この腰抜けめ。撃てよ!!」
提督(俺を撃てば落ち着くはずだ。どちらにせよ、ダメージで動けない俺にできるのは、これぐらいしかない)
ビスマルク「止めてって言ってるでしょ!!」
提督「黙ってろ!!」キッ
ビスマルク「っ!!」ビクッ
提督「……」ニコッ
提督[あ い し て る] パクパク
ビスマルク「!!!!」ハッ
男「う、うわああああ!!死ねぇええええ!!」
ビスマルク「っ!!止めてええええ!!」
411: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/11(日) 01:06:04.96 ID:XRgIGGLg0
ガシャーン
提督「!?」
ビスマルク「!!」
男「ええええっ!?」
ガッ カチッ カラン バンッ バキィ
男「」グシャァ
ビスマルク「……っ!!あ、貴女……?」
提督「……!!」
提督(そこに立っていたのは、全身がびっしょり濡れた、黒ずくめの、まるで死神のような少女だった)
提督(黒いロングブーツ、黒いソックス、黒いレインコート、黒いグローブ、……そして、黒いシュタールヘルム)
提督(左腕の紅い腕章を除けば、顔だけが黒に覆われていない箇所だった)
提督(月のように白い肌。日のように輝く金髪。そして、あのオーロラのように煌めく瞳)
提督(ヘルメットの縁から、髪の先から、ぽたりぽたりと滴が垂れている。こちらへ向き直り、じっと見つめてくる)
プリンツ「アトミラール……!!」
提督(背にした窓から覗く、地平線へ沈みゆく紅い月を背負ったプリンツが、俺を呼ぶ。それは、とても幻想的だった)
446: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 02:48:47.92 ID:rGhT5DYe0
どうも、作者です
皆さん既にご察しかと思われますが、このSSは例の某ウ=ス異本でSAN値直葬されたことで書き始めました
なので、その物語が下地にあります
オススメなので、本当にオススメなので是非読んで欲しいのですが、
ちょっと特殊なジャンル故に某ウ=ス異本を読むのに抵抗のある方もいらっしゃると思います
また、完璧にそれから派生したわけではありません。例えば某PEちゃんですね
なので分かりずらいところがいくつかあります
よって、分かりやすくするためにこのSSの前日譚を簡単に解説させていただこうと思います
・某戦艦B(処女)は配属日?に某海軍軍人Tに一目ぼれする
・某戦艦BはキモデブSに整備と称してクン○やらなんやらを受ける
・某戦艦Bは嫌がるも、日本式整備(笑)と言われ不承不承、受け入れる
・が、やはり嫌なので某キモデブSを殴りとばして、整備を受けることを拒否
・で、某海軍軍人Tに手料理を振舞ったり一緒に浴衣で祭りに行ったりする
・しかし、やはり整備を受けないとちゃんと戦えないらしく、戦績が悪化
・某キモデブSの進言もあり、事情を知らない某海軍軍人Tは某戦艦Bに整備を受けることを命令する
・命令には従わなくてはならないので、泣く泣く某キモデブSの整備を受ける某戦艦B
・某戦艦Bは、「あんなのにイかされても、私は汚れてなんかいない(意訳)」と健気?に堪える
・が、某海軍軍人Tの前妻と子供(若い女性と赤子。ともに戦火?で死亡)の写真を見てしまい、絶望、自暴自棄に
・そして整備を受ける際に不貞寝しようとする
・そこで、某キモデブSに、「寝ているなら何をするか分からない。入れるぞ(意訳)」と言われる
・某戦艦Bは、それを聞いていたにもかかわらず抵抗しない(意味不明)
・入れる瞬間に某キモデブSに「今までの整備は全部嘘だった」と言われる
・某戦艦Bはそれを聞いて「なっ」っと驚き、飛び起きようとしたところで入れられる(処女喪失)
・何やかんやあって「ホントは某男性Tとしたかったけど、もう某キモデブSのモノになっちゃった(意訳)」と騎乗位で腰を振る某戦艦B
・中田氏され、妊娠する
・「この想いを終わらせなくちゃ」と某海軍軍人Tを覗き見ていたところ普通に見つかる
・まさかそんなことになっていると知らない某海軍軍人Tに「妻子が死亡しており、彼女たちのことを思うとなかなか踏み切れなかったがやっと決心した」とのことで告白される
・某戦艦Bは泣きながら「ワルイユメ」と零す
448: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 03:09:24.43 ID:rGhT5DYe0
・その後、おそらく某キモデブSの子供を妊娠していることを確信しているのに、「悪いとは思うが、きっと忘れて幸せになれるから」(!?)とそれを黙って何も知らない某海軍軍人Tと結婚する某戦艦B(!!??)。曰く「お腹の子がどちらの子か考えないようにした」( Die blöde Sau)
・そんなことを知らない周りは祝福する。もちろんPEちゃんも
・その後も某海軍軍人Tとセックスするが、気持ちよくなれなず、某戦艦Bは某キモデブSが忘れられない様子
・仕方ないので一人で慰めるも、性欲はたまる一方
・ある日、妊婦検診を受けている最中、医者が席を外している間に某キモデブSが現れる
・たいした抵抗もせずに(心理と声だけ)犯される某戦艦B。曰く「嫌なはずなのに」「体が思い出しちゃった」
・異変を察した医者に呼ばれた某海軍軍人Tは、某キモデブSが某戦艦Bを犯している所を目撃する
・某キモデブSを殴り飛ばし、切り捨てようとしたところで某戦艦Bが止めに入る。曰く「このチン○なしじゃもう生きられない」
・ショックを受ける某海軍軍人Tに対して、某キモデブSに言うように言われた某戦艦Bは「貴方よりこの人の方がいい」と言う
・何やかんやでどうやら二人で無事逃げ果せた某キモデブSと某戦艦Bは某海軍軍人Tにタキシードとウェディングドレス姿のツーショット写真とやたら長そうな手紙を送る
・提督の精神に大ダメージ。曰く「ワルイユメ」
以上が前日譚です。その後、某海軍軍人Tは「あ号作戦」やらもあってストレス過多で精神崩壊してしまうって感じでこのSSにつながると考えてください。お願いします
私をSAN値直葬した全ての元凶たる某ウ=ス異本では、某PEちゃんの立ち位置が違うので気になる方はどうぞ読んでみてください
本当にオススメします。そしてみんなでCrazy9様にイチャラブ本を出して下さいとお願いしましょう
Crazy9様と読んで下さっている皆様に感謝を。よろしければ、どうぞ今しばらくお付き合いくださいませ
458: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 21:55:48.06 ID:rGhT5DYe0
~
友『くっ!!遅かったか……!!』
プリンツ「待って!!切らないで!!私にも貴方の知っていることを教えて!!」
友『悪いがそんなことしている時間h』
プリンツ「少将!!……お願いです!!どうか教えてください……!!」
友『……七時までにこれからいう場所に来られれば教えてやる。いいな?』
プリンツ「っ!!Ja!!」
~
プリンツ(友さんが言っていた集合場所は、今から急いで行っても間に合うか間に合わないかぎりぎりな遠く離れた場所だった)
プリンツ(私は急いで部屋に戻り、支度をする。外は強い雨が降っていて、雷もなっている)
プリンツ(通常勤務用の短靴を脱いで、黒革のブーツに履き替える。クローゼットの中を探って、官給の黒いレインコートを引っ張り出す)
プリンツ(オートバイ兵用の奴で、脛まである裾を足に巻き付けられるタイプだ。財布やスマホを入れたポーチを方から掛け、レインコートを着た)
プリンツ(すぐにバイクに乗れるようあらかじめ足に裾を巻き付けておく。そしてゴーグルをつけて、黒く塗装されたシュタールヘルムを被った)
プリンツ(最後に、少し迷ったが、左腕に軍属であることを示す赤い腕章をつける。目立つが、これで扱いは緊急車両だ)
プリンツ(今の私は、見る人が見たら卒倒するだろう。が、幸いなことにここは日本だ。気にしないようにしよう)
プリンツ(バイクのキーを握りしめ、部屋を飛び出して駐車場へ走る。運よく誰にも見つからなかった)
459: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 21:58:02.62 ID:rGhT5DYe0
プリンツ(そして相棒のBMW R1200 RTに飛び乗り、エンジンをかける。すぐに体に響くエンジンの音と振動が伝わってきた)
プリンツ(よし、出発!!時間ぎりぎりなんだ。もう一刻たりとも時間を無駄にするわけにはいかない)
プリンツ(しかし、相棒に乗ったことで焦る気持ちがだいぶ楽になった。大丈夫、間に合う)
プリンツ(私の相棒、R1200 RTは最高のバイクだ。まるで車のように快適で、安定感がある)
プリンツ(もっと詳しく言うと、サイズから考えられないほど軽く感じられ、コーナリング特性が良い。この時点で素晴らしい)
プリンツ(そして、その1170ccの……正確には1169ccらしいが、ともかくそのエンジンパワーによる加速力と最高速度は圧倒的なのだ)
プリンツ(特に、空水冷ボクサー故にごく低回転域でエンジンに高負荷をかけても全くギクシャクすることは無い)
プリンツ(つまり、停止と発進を繰り返す日本のような狭く入り組んだ道の多いところに最適な子だということだ)
プリンツ(さらに高速巡行も得意で、アウトバーンでも平気で使える。もっとも、今みたいに路面が濡れているとスピード出せないけど……)
プリンツ(ライディングプロはレインに。雨の中、風と水を切り裂きながら進んでいく)
プリンツ「……寒い」
プリンツ(この季節とは思えない寒さ。そして冷たい雨、悪い視界。北海の荒れた海を思い出した)
プリンツ「アトミラール……アトミラール……!!」ギリッ
プリンツ(友さんは何を知っているのだろうか……アトミラールが心配でたまらなかった。ずっと一緒に居れば良かった)
460: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 21:59:13.13 ID:rGhT5DYe0
~
飛龍『ええっ!?ちょっ、本当にどうしたの!?私に指揮任せるなんて……何処に行くの!?』
友『親友を助けに行ってくるんだ!!すまない飛龍!!今日だけだ!!頼んだぞ!!』
飛龍『頼んだぞって……もう!!帰ってきたらちゃんと話してもらいますからね!!』
~
友(訝しむ飛龍にひとまずの指揮を任せ、車を飛ばしてきた。合流地点に到着し、時計を見るともう数分で7時だった)
友(危うく俺が遅刻する所だった……満月が辺りを照らしている。日中の嵐が嘘のように快晴だ)
友(俺は集合地点に来ていた。本当は今すぐにあいつの元へむかいたいところだが、プリンツの熱意に負けてああいってしまったのだから仕方がない)
友(近くの自販機でコーラを買う。ゴクッと飲むと爽快な炭酸と甘さに脳がリフレッシュされる。少し気分が落ち着いた)
友(残りを一気に飲み干して缶を捨てた。時計を確認するともう七時だ。プリンツは来ていない)
友(まあ、どんなに飛ばしても時間的に厳しかったからな。残念だが、約束は約束だ。大事な親友が俺を待っている)スタスタスタ
ヴゥゥゥゥン キュルルルル
友「っ!?」
友(車に戻ろうと歩き出したら、一台の大型バイクが猛スピードでやってきた。そして、すぐそこにドリフトしつつ止まった)
461: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:01:01.84 ID:rGhT5DYe0
友(乗っていたのは……ドイツ兵だ。黒ずくめの軍服に黒いロングブーツ。そして特徴的な黒いシュタールヘルム)
友(暗い上にゴーグルをしているので顔はよく見えない。腕に巻いた赤い腕章が、式典で見たドイツ軍の士官を思い出させる)
友(ドイツ兵が何でこんなところに……!?まさかビスマルクを逮捕しに来たのか!?だとしたら、あいつも巻き込まれるかもしれん!!)
プリンツ「友さん!!」
友「!?お前……プリンツ・オイゲンか!?」
プリンツ「Ja!! 来ましたよ友さん!!教えてください!!何を知っているんですか!?」
友「時間がない!!とりあえずそれをそこらに停めて俺の車に乗れ!!走りながら話そう!!」
プリンツ「っ、了解!!」
友(一瞬バイクを見て躊躇ったようだったが、すぐに降りて路肩に停める。助手席に飛び乗ってきたところで車を出す)
プリンツ「友さん!!教えてください!!」
友(プリンツはゴーグルを外し、脚に巻いたコートの裾を解きつつ、怒鳴るように声をかけてくる)
友(相当追い詰められているようで表情には余裕がない。精神的に酷く打ちのめされているようだった)
友「落ち着け!!今あいつが居るであろう所に向かっている!!」
プリンツ「っ!!すいません……そこは何処なんですか?」
友「あいつの敵の所だ……クソ整備士とビッチ戦艦の所だよ」
プリンツ「っ!?どうして……」
友「俺が知っていることを話してやる。舌を噛むなよ?」ブゥゥン
462: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:03:26.82 ID:rGhT5DYe0
~
友「もうそろそろその家のはずだ」
プリンツ「……」
プリンツ(いつのまにか雨が降っていた。周りは晴れているのに、このあたりだけ雲に覆われている)
プリンツ(オレンジ色に染まった沈みかけの満月が空に浮かんでいる。不気味な夜だった)
~
友『あの作戦会議の後、俺はあるつてを頼って密かにあの二人の行方を捜していた。時間が経っていたうえ、工作もされていたそうだが無事に見つかった』
友『だが、それと同時に同じくその二人を追っている同業者も発見したそうだ。そいつの方が先に探していたことが幸いした』
友『俺はもちろん誰が探しているのかも突き止めるように頼んだ。予想では、お前らドイツ軍の連中だと思っていた』
友『だが違った。今朝、そのつてから連絡が来て報告を電話越しに聞いたんだ』
プリンツ『探していたのはアトミラールだったんですね……?』
友『ああ。今日の午後一時にある場所で直接会って報告しているのを確認したらしい』
友『たった一日違い、おそらくあいつは作戦会議の日までには正気に戻っていたんだろうな』
プリンツ『……』
友『運が良かった。あいつが報告を直接会って伝えるよう依頼していたこと、俺のつてが優秀だったこと』
友『いろんな幸運が俺たちを助けてくれた。一歩間違えれば、俺たちがこの事実を知るのはすべてが終わった後になっていただろうからな』
プリンツ『そうですね……』
友『あいつは恐らく一人で決着をつけるつもりだろう。だがどう考えてもまずいことになる可能性が大きい』
友『それこそ、あいつの経歴に致命傷をつけるぐらいのことをしでかすかもしれん。だから、止めなくちゃならない』
プリンツ『ぶっ殺してやるとか言っていた人の発言とは思えませんね』
友『俺ならいい。だが、これ以上クソ野郎どもにあいつをどんな方法であれ傷つけさせはしない』
友『あいつは本当にいい奴なんだ。それがどうしてこうもひどい目にあう……あんまりじゃないか……』
プリンツ『……同感です』
463: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:05:24.17 ID:rGhT5DYe0
~
プリンツ「……」
プリンツ(アトミラールは、たぶんあの作戦会議の日に正気に戻ったんだ。だって、思い返せばあの日以来、私をビスマルクと呼んでいない)
プリンツ(……おそらく、アトミラールは私と友さんの話を聞いていたんだ。それしか考えられない)
プリンツ(正気に戻ってくれて本当に嬉しい。だけど、ならどうして言ってくれなかったの?そんなに私は、アトミラールにとって他人だったの?)ズキン
プリンツ(……ビスマルクお姉さまは、どうしてこんなに思ってくれているアトミラールを裏切ったの?)
プリンツ(私がいくらアトミラールを思って望んでも、いくらアトミラールに尽くしても、アトミラールは私をそれほど思ってくれることは無いのに)ズキン
プリンツ(っ!!いけない、そんな事考えちゃダメだ。そうだよ。私はただの部下で、お姉さまは提督の……好きな人なんだから)ギュッ
友「あれだ!!あそこのはずだ!!」
プリンツ「っ!!」
プリンツ(友さんの声にハッとする。慌てて顔をあげると確かにそこにはなかなか大きな家があった)
プリンツ(ひとつだけ灯りのともった窓には薄いレースのカーテンが閉まっているが、中が見える)
プリンツ「!!?? Scheiße!! 」
464: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:08:45.48 ID:rGhT5DYe0
プリンツ(それを見た時、全身に衝撃が走る。引きちぎるようにシートベルトを外し、警告音に構わず扉の鍵を開ける)
友「あっ!?おい!!」
プリンツ(まだ走ってる車から飛び降りる。水たまりの中に落ちるが、仕方ない。受け身をとってそのままの勢いで飛び起き、駆けだす)
プリンツ「嘘だ、嘘だ、嘘だ!!信じられない!!信じられない!!」
プリンツ(窓を通して見る部屋の中には、アトミラールに向けて銃を構えたあの男が見えたのだった……)
プリンツ(私が馬鹿だった!!ずっとアトミラールについていればよかった!!間に合って!!)
プリンツ(あの男が指先に力を少し入れるだけで、最悪の結末を迎えてしまう。そんなことは絶対に嫌だ!!)
プリンツ(主よ、どうかお願いですから私を光よりも早く走らせてください!!お願いですからどうか間に合わせてください!!)
プリンツ(アトミラールまでの数十メートルの距離が、遥か彼方に感じる。アトミラールの苦悶に満ちた表情まではっきり見えるというのに……!!)
バンッ
プリンツ「……ぇ?」
プリンツ(それは唐突だった。銃口が光り、あの男の手が跳ね上がる。轟く爆音に、壁に叩きつけられるアトミラール。紅い液体が飛び散る)
プリンツ「あぁ……あぁ……」
プリンツ(そのワインのような滴の1つ1つまで見える気がした。何が起きたのか、嫌でも理解してしまう)
プリンツ「いやぁ……!!」
プリンツ(アトミラールが、撃たれた)
465: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:12:26.42 ID:rGhT5DYe0
~
友『簡単に洗脳されるような、頭のねじが数本とんでるクソビッチの方も問題だ。だが、どちらにせよあのクソ野郎はたとえ法律が裁けなくても俺が裁く』
友『乗り込んでやるさ、あいつらの所に。痛めつけられるだけ痛めつけたうえで、あのクソ野郎をぶっ殺してやる』
友『その法律が、俺の大切なものを傷つけて守らないっていうんならそんなもの守る義理はない!!』
友『そんなもののために、大切なものを土足で踏みにじった奴がのうのうと生きているのを黙って見てるだけなんて耐えられないだろう!!』
~
プリンツ「……」
プリンツ(いつか聞いたその言葉は、今、私の心を打った。私は現代の律法に囚われ、仇を討つことをしなかった。できなかった)
プリンツ(傷ついた大切な人を癒すことも、……その命を守ることも、できなかった)
プリンツ(落雷のような衝撃に、地獄の業火のような怒りと海よりも深い悲しみ)
プリンツ(そして、たまりにたまった不満がないまぜになった、言葉にできない感情が一気に爆発する)
プリンツ(ニーベルンゲンの歌。私の好きな叙事詩に謳われる、英雄である夫を殺された美しい乙女の復讐の物語を思い出した)
プリンツ(血を啜って復讐を誓ったクリームヒルトのように、私もまたここに誓おう)
プリンツ(失われてしまった愛する者の為、何か譲れない大切なものの為、仇を討つことを何故に躊躇う必要があろうか?)
プリンツ(そうだ、愚かな私は忘れていた、私の中に流れるものを。ドクンと心臓が痛いほどに鼓動を打った。自分が変わっていくのを感じる)
プリンツ(私の中でくだらない常識が壊れ、崩れ去っていく。長い時の流れの中で眠りについていたゲルマン民族の、その苛烈で誇り高い血統が目覚めた)
プリンツ(もう躊躇わない。もう迷わない。私はあの人のために私のすべてをささげる)
プリンツ(アトミラールを傷つけたモノを、私は決して許さない。自分が何をしてしまったのか、そして誰を敵にしたのかを知らしめてやる)
466: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:14:50.17 ID:rGhT5DYe0
プリンツ(力が抜けかけた脚に、逆に力を込めて今まで以上に強く地面を蹴る。落としかけた視線をあげた)
プリンツ「っ!!!!」ハッ
プリンツ(そして、気がついた。アトミラールはまだ生きている!!撃たれたのは肩だ!!動脈が傷ついた様子もない!!)
プリンツ(なんという幸運だろうか!!クリームヒルトは夫を失ったが、私はまだアトミラールを失っていない!!)
プリンツ(アトミラールを守れるかどうかは私にかかっている。するべきことは、分かり切っていた)
プリンツ(窓へ突進し、腕を顔の前でクロスさせる。破片対策だ。そのまま窓へ体当たり。ガラスが砕け散り、カーテンを突き破る)
ガシャーン
提督「!?」
ビスマルク「!!」
男「ええええっ!?」
プリンツ「……!!」
プリンツ(両手を広げ、構える。そのまま止まることなく、あの忌々しい男の元へ突っ込む)
プリンツ(再び銃を構えて何事か叫んでいたそいつは、驚いて振り向きかけている。弾みで撃たれなくてよかった。それだけが賭けで、私はそれに勝った!!)
467: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/12(月) 22:26:29.93 ID:rGhT5DYe0
プリンツ(左手でそいつの髪の毛を掴み、右手をそいつが握る銃へ伸ばす)ガッ
プリンツ(急ブレーキするも止まり切れるわけもなく、そのまま後ろから抱き付くような形となってしまった。気持ち悪い……)
プリンツ(が、ともかく無事止まって銃を下から支えるように掴むことに成功した)
プリンツ(人差し指で強引にマガジンキャッチのボタンを押し、力を入れて銃口を上へ逸らせることでマガジンを脱落させた)カチッ
プリンツ(そしてそれが落下する音を聞きつつ親指で強引に引き金を引かせ、発砲させる。弾丸は天井を貫通しどこかへ消えた)カラン バンッ
プリンツ(そして、右手を離しながら、髪を掴んだ左手を後ろへ引き、右足を前へ出して床を踏みしめる)
プリンツ「ぁああっ!!」バキィ
男「」グシャァ
プリンツ(後ろへ倒れかけるそいつの顔面に向かって、握りしめた右手をぶち込んだ。確かな感触。左手で掴んでいた髪がごっそりと抜け、そいつは吹き飛んで床に沈んだ)
プリンツ「はぁ……はぁ……!!」
プリンツ(やった……!!やった!!アトミラールを守れた!!握りしめていた手を開き、気持ち悪い髪の毛を手放す)
ビスマルク「……っ!!あ、貴女……?」
提督「……!!」
プリンツ(振り向き、改めてアトミラールを確認する。アトミラールは驚きに目を見開いていた。顔に残る殴られた跡と血痕に怒りが燃え盛る。)
プリンツ(しかし、肩の傷を含めて命に別状はなさそうだ。アトミラールと目が合う。もう何年も会っていなかったような錯覚を覚えた)
プリンツ「アトミラール……!!」
プリンツ(思わず、目が潤む。涙があふれそうだった。今すぐに抱きしめたい。アトミラールを全身で感じたい)
プリンツ(だけど、それにはまだやらなくてはならないことがある。私は頭を切り替えてもう一人の仇の方へ向き直る)
プリンツ(その醜く腹を膨らませて、驚きの表情でこちらを見上げる売女を睨みつける。私の心がまた激しい怒りの業火をともした)
471: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:44:18.19 ID:DQAjaddu0
~
プリンツ「……」ギロッ
提督(プリンツ……!?馬鹿な、なぜ彼女がここにいるんだ?どうしてこの場所が分かったんだ?)
提督「プリンツ……?」
ビスマルク「プリンツ……」
プリンツ「Du Scheißfotze(この卑しい売女め). 民族、血統の汚辱!呪われるべき裏切り者!!そんなお前にお似合いの、醜い豚。その腹の中も、醜い豚の子!!」ギリッ
ビスマルク「っ」ビクッ
プリンツ「よくも……よくもアトミラールを……!!お前を切り刻んで地獄へ落としてやる!!」ツゥー
提督(プリンツは怒りと嫌悪感をみなぎらせた眼差しでビスマルクを睨みつけていた。そして、早口のドイツ語で何かを捲し立てている)
提督(信じがたい。あのプリンツが……?俺もドイツ語は話せるが、あくまで日常会話と軍事関係のみだ。何を言っているかまでは理解できない……)
ビスマルク「アトミラール……!! そうよ!!アトミラールが撃たれて……!!救急車!!」
プリンツ「っ!!そうだ……!!救急車……私が呼ぶ!!……っ!?」クルッ
ビスマルク「……?何してるのよ!?早くして!!」
プリンツ「見られている……?っ!!」ジッ ハッ
ガチャリ カツカツカツ
提督(プリンツが窓の外を警戒し始めたところで、ドアが開く音が響く。そして足音も。誰が入ってきたんだ!?全く状況がつかめない)
472: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:45:58.68 ID:DQAjaddu0
プリンツ「……友さん?」
提督「友……!?あいつまで来ているのか……!?」
ビスマルク「……誰!?」
メンゲレ「……さて、諸君。積もる話もあるだろうが、そこまでだ」
友「……」リョウテアゲ
提督「!?友……!!」
プリンツ「ドクトル……!!」
ビスマルク「……!!」
提督(入ってきたのはドイツ軍の制服に白衣を纏った、プリンツと同じぐらいの年頃の少女だった)
提督(そしてその後ろには何人もの戦闘服を着た兵士が控えている。ドイツ軍の部隊だ)
提督(そしてそんなやつらが何をしに来たのか。言われなくても分かる。ビスマルクを捕まえに来たのだろう)
提督「ビスマルク……!!」ズリ ズリ
ビスマルク「アトミラール!!」ペタ ペタ
提督(俺は、残念ながら立てない。這いずりながら近づいていく。そしてビスマルクもまた顔を蒼白にしながら四つん這いで這いよってくる)
プリンツ「アトミラール!?……っ!!」ギリッ
メンゲレ「おっと、動かないで貰おうか?」チャキッ
プリンツ「っ!!ドクトル、アトミラールに銃を向けるな……!!」
メンゲレ「誰にものを言っている?と言いたいところだが、親友の頼みとあれば仕方ない。が、限度はあることを理解しておくように」スッ
提督「くっ……何者だ?」
メンゲレ「おっと、これは失礼しました。初めまして中将。私はヨゼフィーネ・メンゲレ大佐です。今月からの連絡将校を務めさせていただいております」
ビスマルク「貴女が……」
メンゲレ「さて、まずは貴方です。中将」
473: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:47:10.93 ID:DQAjaddu0
提督「何の用だ……?」
メンゲレ「治療ですよ。それとも、救急車でも呼びましょうか?Sanitäter(衛生兵)」
衛生兵「Jawohl. 見せてください、中将。Danke…… 深刻ではありません。応急処置をすれば移動に堪えられます」
メンゲレ「よろしい、では応急処置を」
衛生兵「了解です」
提督「待て。移動と言ったか?どこへ連れていくつもりだ?」
メンゲレ「我々の拠点、遣日ドイツ軍司令部です。そこらの病院よりよほど設備が良いですよ。それに、このことを公にするのはまずいでしょう?」
提督「っ」
メンゲレ「悪いようにはしません。ここは我々に預からせてください」
提督「……悪いようにしないとは?」
メンゲレ「このような騒ぎに巻き込まれたと知られれば、あなた方のキャリアに傷がつくでしょう?」
メンゲレ「ですから、今日のことは無かったことにします。中将と少将、そしてプリンツ・オイゲンは今日ここに居ませんでした」
メンゲレ「そして我々は、逃亡兵とその協力者を秘密裏に逮捕しました。ただ、それだけです。悪くない取引ではありませんか?」
ビスマルク「……」
提督「断る!!」
友「!?」
プリンツ「っ」
ビスマルク「!!」
メンゲレ「……何故でしょうか?」
474: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:51:43.95 ID:DQAjaddu0
提督「ビスマルクをどうするつもりだ?」
メンゲレ「……許可なく部隊から逃亡した士官は銃殺です。お前もその覚悟があったのではないか?」
ビスマルク「っ。……ええ」
提督「止めろ!!それは赦さないぞ!!」
メンゲレ「……なら、どうするというのですか?」
提督「この件を告発する!!そのうえで減刑を求める!!そうなれば、ビスマルクの功績からして死刑だけは避けられるはずだ」
メンゲレ「貴方のキャリアを犠牲にしてですか?痴情のもつれからこんな問題を起こしたと知られれば、未来が消えますよ」
提督「それでもいいに決まっているだろう。……」
~
ザワザワ
テレビ【ご覧くださいこの廃墟を!!信じられませんが、ここはお台場です!!もはや無事な建物は一つもないかと思われます!!】
「嘘だろう……?」「信じられん……」「みんな、無事でいてくれよ……!!」
提督『こんな手紙なんて……嘘だ……そんなの嘘だ……妻と子が空襲で死んだなんて……!!』グシャリ ボロボロボロ
友『提督……』
テレビ【この一連の大規模な空襲で被害を受けた都市は12都市にのぼります。死亡者数は現時点で10万人を超え、さらに増加する見込みです。この件について海軍省は~】
~
提督「愛する女一人守れないで、何が帝国軍人か……!!今、俺が行動すれば何とかできるかもしれないのなら、躊躇うことは無い!!」ギリッ ツゥ
友「提督……」
プリンツ「……」ギュッ
ビスマルク「アトミラール……もういいの。貴方がそう言ってくれただけで、もう救われたわ……だから、」
提督「そんなことを言わないでくれ!!君は生きたくないのか……?俺は君とこんな形で別れるなんて嫌だ!!」
ビスマルク「わ、私だって……!!けど、それであなたが犠牲になるのなら……死ぬ方がマシよ……!!」ボロボロボロ
475: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:52:29.82 ID:DQAjaddu0
メンゲレ「……では、貴方はどうしたいのですか?中将」
提督「ビスマルクを保護したい!!」
ビスマルク「アトミラール……!!」
プリンツ「っ、アトミラール……」
メンゲレ「なるほど……ふむ……」
メンゲレ(素晴らしいぞ……!!うまくいけば、2体も確保できる……!!)
男「……」ピクッ
プリンツ「!」
メンゲレ「つまり、この一連の出来事はなかったことにするという認識でいいですね?」
「「「「!?」」」」
メンゲレ「ビスマルクは逃亡などしていない……あなたの元から去っていない。この男はただ軍を一人で去っただけ」
メンゲレ「そして行方不明になった。そういうことでいいですね?」
提督「あ、ああ。だが、なぜいきなりそんな提案をする?」
メンゲレ「コレが不祥事を起こしたとなれば私の責任問題にもなります。それは御免ですから」
メンゲレ「ですが、誓ってもらえますね?このことは決して他言しないと。もちろん、ここにいる全員です」
提督「分かった、誓う」
メンゲレ「いいでしょう。貴方はどうですか、少将?」
友「貴様を裏切ったそいつを保護する。……本当にそれでいいのか、提督?俺は反対するぞ」
提督「いいんだ、それがいい。……迷惑をかけた。ありがとう、友」
友「……なら、もう言うことは無い。誓おう」
メンゲレ「分かりました。プリンツ?」
プリンツ「……誓いますよ」
メンゲレ「Gut. で、お前は?Versager(愚か者) 」
ビスマルク「私は」
男「ぅぅ……ビスマルク……助けてくれ……!!」
ビスマルク「っ!?」
476: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:53:43.11 ID:DQAjaddu0
メンゲレ「意識が戻っていたか。どうする?」
男「いいのか……?あんな奴にお前を幸せにすることなんか……悦ばせることなんかできるものか……!!」
男「お前は僕専用なんだ……!!異物を入れたって前のようになるだけだぞ……!?」
提督「っ」
男「それにお腹の子は僕の子だ!!僕はその子の父親で、お前の夫だろ!?」
ビスマルク「っ!!」
男「ドイツ人!!僕を殺すな!!僕の命を保証するなら、僕が知ることを全て話してやる!!機密まで全部だ!!」
男「僕は整備士として優秀だった!!それこそ、ビスマルクの整備を任されるぐらいに!!だから様々な機密に詳しいぞ!!」
メンゲレ「ほぅ……興味深い……」
男「僕を助けるなら知っている情報をドイツ軍に全て提供する!!だから僕を助けろ!!」
メンゲレ「ふむ……」
男「提督、言ったな!?ビスマルクが望むようにすると!!ビスマルクが僕と逃げることを選べば、お前はそれを支援すると言った!!」
提督「ああ、そうだ」
男「ならビスマルクが望めば僕たちがドイツへ逃げることを支援しろ!!」
提督「……分かった」
友「っ」
メンゲレ「なら、望むようにしようじゃないか。すべては我らが祖国、ドイツの為にだ。どうする、ビスマルク?」
477: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:55:41.36 ID:DQAjaddu0
ビスマルク「ぁ……わ、たし……」マッサオ
男「お腹の子だってそうしたいはずだ。ビスマルク……!!」
提督「……君が望むようにしてくれ。帝国軍人として、約束は必ず守る。例え、君が俺の元を去ってそいつと行くと言ってもだ」
ビスマルク「私、は……私はっ……」ドクン ドクン ドクン
ビスマルク「……っ!!はぁっ……!!……あ、貴方と……アトミラールといたい……!!アトミラールがいいなら……」ギュッ
ビスマルク「アトミラールが赦してくれるなら……アトミラールが受け入れてくれるなら……アトミラールといたい……ぐすっ……!!」ツゥー
男「あぁ……!!ビスマルク!!お腹の子はどうするんだ!!」
ビスマルク「っ!!そんなの!!分からないわよ!!けどアトミラールがいいの!!」
男「僕を殺すのか!?見殺しにするのか!?お前の夫だろう!!」
ビスマルク「違う……違う!!元はと言えばあなたが私を騙してっ……!!」
男「受け入れたのはお前だ!!ビスマルク!!」
ビスマルク「うるさいうるさい!!今は何も考えたくない!!けど私はアトミラールといたい!!」
ビスマルク「あなたなんか……お前なんか大っ嫌い!!」
メンゲレ「決まったな。ヴォルフガング、そいつを黙らせろ」
兵士「 Einverstanden(了解しました). 」
男「ビスマルク!!な、止めろ!!放っんん!!」
メンゲレ「……さて、睡眠薬もすぐに効くだろう。いいのだな、Versager?」
ビスマルク「勿論よ……!!」フルフルフル
メンゲレ「ふん、そいつを運び出せ。予定通りにな」
兵士「分かりました」
提督「ビスマルク!!」ダキッ
ビスマルク「アトミラール、私……!!」ギュッ
提督「もう二度と話さないからな。だから、もう二度といなくならないでくれ……!!」
ビスマルク「うん……うん……!!ごめんなさい……!!ありがとう……!!」
478: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 01:58:19.47 ID:DQAjaddu0
メンゲレ「……では、ヘリが待っていますので移動をお願いします。少将とプリンツはどうされますか?」
提督「っ!!待っててくれビスマルク」バッ
ビスマルク「ええ、分かったわ」コクリ
提督「待ってくれ!!プリンツと話がしたい」
プリンツ「!!」
メンゲレ「そうですか。では簡単にお願いしますね。貴方は負傷者ですから」
提督「ああ。……プリンツ」
プリンツ「アトミラール……」
提督「迷惑をかけた。すまない……」
プリンツ「言いたいことはたくさんあります。けど、生きていてよかった。今はそれだけ伝えられれば十分です」
提督「ありがとう、プリンツ……本当にありがとう……!!」
プリンツ「ドクトル、アトミラールはいつ戻れるのですか?」
メンゲレ「傷が癒えるのに時間はかかるだろうが、入院が必須なわけではないだろう。明日にでもな」
プリンツ「なら私が迎えに行きます」
メンゲレ「構わんよ。後で連絡する」
プリンツ「いえ、この後に話しましょう」
メンゲレ「……手短にな」
プリンツ「ええ。では、アトミラール。名残惜しいですが、傷に障ってはいけませんから今日の所はこれで」
提督「そうか……分かった」
プリンツ「ただし、明日からは覚悟してもらいますからね?」
提督「ああ、首を洗って待っているよ」
メンゲレ「終わったようですね。では、少将は?」
友「俺はもう帰るよ。車もあるしな」
メンゲレ「分かりました。では、各員行動開始。集合地点のヘリにて待機。私は少し話がある。問題発生の場合は合図して離脱しろ。私は自分で戻る」
「「「「 Jawohl. 」」」」
479: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 02:02:22.05 ID:DQAjaddu0
~
プリンツ(アトミラールと少将、強襲班、そして仇2人が去り、私はメンゲレと二人でいる)
プリンツ(他にこの家にいるのは証拠隠滅班だけだ。私達は別室にいて、話を聞かれる心配もない)
メンゲレ「それで、何の用かな?」
プリンツ「このことを本国に知られても貴方に不利益なんかないでしょ?」
メンゲレ「だがドイツ本国には不利益がある」
プリンツ「だとしても、こんなやり方はおかしい。やるなら有無を言わさず事故死とかにするはずなのにどうしてこんな方法を?何を企んでいるの?」
メンゲレ「……私は医者だ。常に医学の発展に力を尽くしている。なぜなら、それが今の私の目標だからだ」
メンゲレ「だが、やはり卓上で計算やら理論やらで予測したり、合法的な実験だけでは話にならない」
メンゲレ「使える検体が必要なんだ。……何をしても問題にならない、人間がな」
プリンツ「……!!」
メンゲレ「どうせ奴は処刑される。なら、是非人類の役に立って貰おうじゃないか。そう思うだろう?」
プリンツ「……」
メンゲレ「……そうだな、道徳的に考えれば難しい問題だろう。よくない事だと感じないわけではない」
メンゲレ「だが、私は割り切る。なぜならそれが一番だからだ。最善だからだ」
メンゲレ「くよくよ悩んでいても、時間の無駄だ。なら早く割り切って行動すべきだろう?」
メンゲレ「過剰な倫理観で下らん言い訳を並べて……限りある時間を無為にするのが人格者ならば、私は人格破綻者であるほうが良い」
プリンツ「……メンゲレ。私で実験しようとしたことは赦さない。けど、私は貴女のことが少し好きになったかも」
メンゲレ「!?そ、そうか……?それは嬉しい……!!それと、一つ言わせておらいたいのだが、あの時私は君を殺そうとしていたわけじゃないぞ?ただ」
プリンツ「分かってる。じゃあ私も先に戻るね。艦隊の皆が混乱しているだろうから。何時にアトミラールを迎えに行けばいい?」
メンゲレ「そ、そうか……正午に来てくれ。分かってると思うが、どういう事にするかは決まっていない。迂闊な発言には気を付けろよ」
プリンツ「当然。じゃあね、メンゲレ」
メンゲレ「!!ああ。また今度、プリンツ。……Gut!!」
480: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 02:03:15.36 ID:DQAjaddu0
~
プリンツ「……あ」
友「来たか」
プリンツ「友さん……どうしたんですか?何か用ですか?」
友「用があるのはお前の方じゃないか?」
プリンツ「はい……?あっ」
プリンツ(私のバイク……あの自販機のとこだ……危うく帰れなくなるところだった)
友「乗れよ」
プリンツ「待っていてくれたんですか?ありがとうございます……」
友「気にするな」
481: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 02:04:37.71 ID:DQAjaddu0
~
メンゲレ「待たせた。では出発してくれ」
パイロット「了解しました、大佐殿」
提督(ヘリがゆっくりと離陸していく。俺の隣の席にはビスマルクが座っていた。手を繋ぎ、互いに頭を相手にもたれている)
提督「ビスマルク……」
ビスマルク「何かしら……」
提督「いや、呼んでみただけだ」
ビスマルク「そう」
提督「……ここにいるんだな」
ビスマルク「ええ。……もう二度と離れないわ」
提督「ああ……」ギュッ
ビスマルク「ん」
提督(本当に辛い出来事だった。俺にとっても、そしてきっとビスマルクにとっても、だ)
提督(だが、終わった。決着をつけた。このことはもう忘れよう。これからはきっとビスマルクとの幸せな生活が待っているはずだ)
提督「ビスマルク……俺はもう眠い……」
ビスマルク「大丈夫?」
提督「少し、仮眠させてもらう……」
ビスマルク「分かったわ。お休み、アトミラール」
提督「ああ……」
提督(一気に疲れが溢れ、眠気に瞼が重くなる)
提督「……」
提督(ワルイユメは、もう醒めた。俺はすがすがしい気持ちで、本当に久しぶりの安らかな眠りに落ちていった)
482: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/14(水) 02:05:51.73 ID:DQAjaddu0
~
友「そろそろ都市部に戻ってきたな」
プリンツ「……友さん」
友「どうした」
プリンツ「どう思いますか?アトミラールとアレとの……ビスマルクとのこと」
友「気に食わない。だが、あいつがそれを望んだのなら仕方ない」
プリンツ「仕方ないって……あんなひどい女に親友が引っかかっていいんですか?」
友「ひどい女か……まあそうだ。赦しがたい裏切りをしたからな。だが……あいつの態度を見て考えを少し改めた」
プリンツ「態度って……」
友「ひどく後悔しているようだったし、どうやら本当にストックホルム症候群のようなものだったみたいじゃないか」
友「あいつのクソ整備士に対する言葉を聞いて、許せはしないがまあ一回ぐらいチャンスをやってもいいかと思った」
プリンツ「……そうですか」
友「まあ、一発ガツンと殴ってやりたい気分は収まらないがな」
プリンツ「……」
友「納得できないか?」
プリンツ「ええ……あんなのより私の方がアトミラールを……」ボソリ
友「ん?何て言った?」
プリンツ「何でもないです。それにしても、今からまた六時間近くかけて戻るのはさすがに億劫ですね」
友「だろうな。バイクだと余計辛いだろう」
プリンツ「はい……」
プリンツ(……あ、ホテルだ。こんなに煌びやかで、なんかクラブとかカジノとかみたい。へぇ、休憩ねぇ。……)
プリンツ「……今日は疲れました。あのホテルで少し休憩していきたいです」
友「お前……まさかとは思うが、分かって言ってるわけじゃないよな?」
506: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 00:54:23.25 ID:R2q43YVg0
~
提督(遣日ドイツ軍司令部は何度か訪れたことがあったが、こんな病院があったとはな。知らなかった)
提督(無事に到着し、そこで本格的な治療を受けた俺は割り当てられた寝室へ戻る。まるで高級ホテルだ)
提督(しばらくボーっとして過ごす。今日一日が夢幻のように感じられた。すると、ノックの音が聞こえる)
提督「どうぞ」
ビスマルク「アトミラール、ただいま」
提督「事情聴取とメディカルチェックは終わったか?」
ビスマルク「ひとまずは……精神的なストレスが酷いから続きは明日からだって」
提督「そうか……い号作戦が近くて、俺は戻らなくてはならない。もし何かあれば、すぐに連絡しろ」
ビスマルク「ええ。……アトミラール、ごめんなさい」
提督「もう何も謝るな。すべて終わったことだ」
ビスマルク「けど、それでも……いいえ。こんなこと繰り返したって、自己満足でしかないものね」
提督「君は悪くないよ。悪いのは全部あいつだった。あいつが君を騙さなければ始まらなかった」
ビスマルク「……どうすれば償えるのかしら」
提督「ずっと一緒に居てくれればそれでいい。もう考えるのは止めよう。今日はいろいろありすぎた」
提督「寝て、気持ちを切り替えよう。寝支度は終わっているな?」
ビスマルク「そうね…… 終わっているわ」
提督「じゃあ、寝よう。……どうする?」
提督(俺は灯りを消し、二つ並んだクイーンサイズのベッドの1つに入る。そしてビスマルクを見る)
ビスマルク「……行ってもいいの?私……穢れt」
提督「良いに決まってる!そんなことを言わないでくれ……!来てくれないか」ポンポン
ビスマルク「!は、はい……!」
提督(ビスマルクは泣きそうな顔で躊躇っていたが、俺が声をかけるとおずおずと言った感じでベッドに入ってきた)
提督「……」スッ
ビスマルク「! ……」ギュッ
提督(手を伸ばしてビスマルクの手を取ると、握り返してくる。暗闇の中、涙を流しながら微笑んでいた)
ビスマルク「私、今とてもしあわせ……」
提督「俺もだ」
提督(俺たちは眠りに落ちるまで……いや、眠りに落ちてからもずっと手を握っていた)
507: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 00:55:32.75 ID:R2q43YVg0
~
提督「……んん」
ビスマルク「ん、起きたかしら?」
提督「ああ」
ビスマルク「コーヒーが入ってるけど、飲む?」
提督「ああ、頂くよ」
ビスマルク「分かったわ。……はい、どうぞ」
提督「ありがたい。……苦い、とても。君のコーヒーだ」ニコッ
ビスマルク「お口に合えばいいけれど。貴方は甘党だから」
提督「苦いのもたまにはいいさ」
ビスマルク「私も、甘いのもたまにはいいと思うわ。ふふっ」
提督(こうして俺たちは、まだ事件が起きる前の頃のような幸せな朝を過ごしたのだった)
509: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 00:58:26.88 ID:R2q43YVg0
~
メンゲレ「さて。では中将、武運を祈る。い号作戦の成功を信じているよ。ビスマルクも、1、2か月の間には必ずそちらへ戻らせる」
提督「任せてくれ、大佐。……いろいろと世話になった。ありがとう」
メンゲレ「どういたしまして、中将」
提督「ではな、ビスマルク。また後で」
ビスマルク「ええ、アトミラール。すぐ連絡するから。作戦、応援しているわ。頑張ってね」
提督「今、勝利を確信したよ。褒美を何にするか考えていてくれ」
提督(名残惜しそうな顔で手を振るビスマルクに手を振り返し、階段を下りていく。そのままエントランスを出た)
プリンツ「……!!アトミラール!!」ダッ
提督「プリンツ!!」
プリンツ「アトミラール!!」ダキッ
提督「!!プリンツ……?」
プリンツ「アトミラール!!アトミラール!!アトミラール!!」ギュッ
提督「プリンツ……よしよし」ナデナデ
プリンツ「アトミラールに会うまで、何かあったら……またいなくなっちゃたらどうしようって……!!ずっと怖くて……!!」
提督「……大丈夫だ、俺はここにいる。本当にありがとう。君にはなんて感謝すればいいか」
プリンツ「いえ、いいんです。アトミラールがこうして私の近くにいてくれれば…… っ!!」
提督「いや、それじゃ俺の気持ちが収まらないよ。俺にできることなら何でもする。だから、何でも言ってくれ」
プリンツ「……はい、分かりました。ありがとうございます。では、行きましょうか。他の皆さんもとても心配していますから」
提督「ああ、そうだな」
提督(最後にもう一度、二階の窓を振り返る。ビスマルクがこちらを見送っていた。俺が見ていることに気がつくと、笑顔で手を振る)
提督(微笑んで、振り返す。そして車に乗った。少し遅れてプリンツも乗り込んでくる)
プリンツ「では、出発しますね」
提督「ああ、頼む」
提督(さて、気持ちを切り替えよう。とりあえず、俺は友と緊急の作戦会議を開いていたことになった)
提督(戻ったらみんなに謝ってい号作戦の準備だ。忙しくなる……。だが、今の俺は負ける気がしない。やってやるさ)
510: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:00:33.09 ID:R2q43YVg0
~
プリンツ「……っ!!」ハッ ギロリ
ビスマルク「!」
ビスマルク(アトミラールに飛びついたプリンツが、私が見ていることに気がつくと目を見開いて驚いた)
ビスマルク(そして、嫌悪と激しい敵意を孕んだ瞳で睨みつけてきた。それこそ、憎い敵を睨みつけるように……)
ビスマルク「……」
ビスマルク(私がしたことを考えれば、当然のことだ。けど、それでもとても悲しく辛い事だった)
プリンツ「……」ジッ
ビスマルク(笑顔で手を振ったアトミラールが車に乗り込みプリンツが運転席へ乗る前、再び睨みつけられる)
ビスマルク(その表情は明らかに私を威嚇していた。食いしばられた歯に上目遣いの睨みが憎しみの程を語っていた)
メンゲレ「……さて、ビスマルク。そろそろ現実に戻る時だ。まずは一刻を争うことを話そうか?」
ビスマルク「……何かしら?」
メンゲレ「そのお腹のことだ」
ビスマルク「っ!?」
メンゲレ「どうしたい?中絶は可能だ。違法だが、ここで手術する分には問題ない」
ビスマルク「私は……」
ビスマルク(正直に言うと、本当にわからなかった。考えたくない問題だから、考えることを避けていた)
メンゲレ「……」
ビスマルク「私はっ……」タラリ
512: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:02:13.66 ID:R2q43YVg0
ビスマルク(本音を言うと、私は……私は……堕ろしたかった。だって、あんな男の子供だ。好きで妊娠したわけじゃない)
ビスマルク(人として最低なことを言っていることは分かっている。でも、それでも私は……堕ろしたかった)
メンゲレ「……堕胎するかしないかだろうが。早く決めろ。先送りにしても何の意味もないぞ」
ビスマルク「っ……!!はぁ……はぁ……」ブルブルブル
ビスマルク(でも、この子に罪はない。そんな子を殺してしまうことなんて、したくない。できない)
ビスマルク(でも、産みたくない。この子のことを愛せる自信がない。けど、産んであげたい。愛したい)
ビスマルク(……分からない。分からない!分からない!!どうすればいいの?どうすればいいの!?)
メンゲレ「そんなに悩むのなら、産めばどうだ?」
ビスマルク「!?」ビクッ
メンゲレ「中将も昨日君のしたいようにしろと言っていただろう?」
ビスマルク「!!」
ビスマルク(……もし、アトミラールが一緒に居てくれるなら。そしてこの子を受け入れてくれるのなら。私は……)
ビスマルク「いいの、かな……?」
メンゲレ「さあな。お前たちの問題だ」
ビスマルク「私……」
513: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:03:07.59 ID:R2q43YVg0
メンゲレ「だが、あれが熱に浮かされていただけのものかもしれない可能性はある」
ビスマルク「!?」
メンゲレ「お前自身も、身に覚えがあるのではないか?熱に浮かされていたらどんな馬鹿なことでも簡単にいえてしまう」
メンゲレ「だが、後で冷静になってから後悔する。そして、その場合は十中八九、手遅れだ。……覚えがあるだろう」
ビスマルク「……!!」
メンゲレ「……中将はいい男だったな」
ビスマルク「……何のつもり?」
メンゲレ「あんな人に愛されて、女として羨ましいばかりだ」
ビスマルク「何が言いたいの!?」
メンゲレ「プリンツが彼に惚れこんでいるのも分かるよ」
ビスマルク「っ!」
メンゲレ「方や一途に尽くしてくれる清らかな処女。方やほかの男に寝取られて自らの元を去ったビッチ」
メンゲレ「しかも寝取った憎い男の子供までついてくるとなれば……一体どっちが男としていいのかな?」
ビスマルク「!!」
メンゲレ「……冷静になった後の彼はどう思うのかな?プリンツが彼を誘惑したらどうなるかな?」
514: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:03:54.22 ID:R2q43YVg0
~
プリンツ『アトミラール、ずっと好きでした。結婚してください……!!私を選んでください……!!』
提督『君のことは好ましく思っているが、あくまで部下だ。俺には、ビスマルクが……』
プリンツ『……あんなビッチがどうしたっていうんですか?』ギリッ
提督『!!』
プリンツ『あいつは浮気した挙句、一度そいつと逃げているんですよ?しかも、そいつの子供もいます』ジッ
提督『だが、あいつは騙されて……』
プリンツ『騙されたとしても、事実は事実です。……あなたを裏切ったことも』
提督『っ』
プリンツ『……アトミラール、私は貴方をずっと支えてきました。あの時助けたのも私です』
提督『……ああ』
プリンツ『あの女が貴方に何をしましたか?銃で撃たれそうになった時、撃たれて負傷した時、どうしてくれましたか?』
提督『……』
プリンツ『私は一途に貴方に尽くしてきました。信じて下さい。貴方を裏切るような真似は、私はしない』
提督『プリンツ……!!』
プリンツ『この体も、誰にも触れさせたことはありません。貴方が初めてで、そして最後です』スルリ ナガシメ
提督『っ!!……プリンツ、俺は目が覚めた。……君が好きだ!!あんな奴なんて、好きじゃない。あれは、昔の想いの残滓を勘違いしていただけだった』
プリンツ『アトミラール……!!嬉しいです』ニコッ
提督『プリンツ!!』ダキッ チュッ
プリンツ『んっ……ふぅ……だいすきぃ……』ギュッ
515: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:05:42.29 ID:R2q43YVg0
~
ビスマルク「……」ガタガタガタ マッサオ
ビスマルク(そ、そんなことになったら……私……!!)
メンゲレ「……だが、やはり堕胎はよくない事だ。命を粗末に弄ぶのだからな。当たり前の選択だ」
メンゲレ「まあ、身から出た錆だろう。頑張ってくれ。きっと中将も良くしてくれるさ」
ビスマルク「待って!!」
メンゲレ「……何かな?」
ビスマルク「……して」ボソリ
メンゲレ「何だって?もっと大きな声で言ってくれ」
ビスマルク「堕ろして」
メンゲレ「聞こえんよ。もっと大きな声ではっきりと話したまえ」
ビスマルク「堕ろして!!」
メンゲレ「……罪なる人殺しめ。本当にそれでいいのか?地獄へ堕ちるぞ」
ビスマルク「……もう、堕ちてる。だから、何をしても私は……アトミラールだけには捨てられたくないの……だから、堕ろしてください……」
メンゲレ「……分かった。後で連絡しよう。ただし、一つだけ命令するぞ」
ビスマルク「……なに?」
メンゲレ「このことで悲しみ、嘆き、涙を流すことは赦さん。お前にその資格はない。ではまた後で」ツカツカツカ
ビスマルク「……っ ぐすっ……ふぐぅ……」ボロボロボロ
~
メンゲレ「ふふふふーん♪ふふふふーん♪ふむ、素晴らしい結果だ。さて、次の実験に付き合ってもらうぞ」
メンゲレ「ああ、そうだ。お前に加えてお前の子供も私の研究に協力してくれることになったよ。何をするかは、言わないでおいてやろう」
メンゲレ「私の望み通りの結果だ。プリンツと中将、そしてあのビスマルクに感謝しなくてはな」
メンゲレ「何、誇りたまえ。君たち親子の犠牲で、医学は発展し、きっとどこかの誰かを救う」
メンゲレ「だから安心しろ。……って、もう話せないか。まあ、生きていて、反応すればそれでいい。……十分な成果が出るまでの間な」
517: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 01:58:06.32 ID:R2q43YVg0
~
提督(帰るまでの道、プリンツとは様々ことを話した。俺がおかしくなっている間のこと、そして俺が正気に戻ってから今日までのこと)
プリンツ「なんで言ってくれなかったんですか……?私は、そんなに信用に足りませんでしたか……?」
提督「まさか!!俺は、君を巻き込みたくなかったんだ。場合によっては、俺はすべてを捨てることになったかもしれない」
提督「そうなった時、俺は君を巻き込みたくなかった。だから俺は言えなかった……」
プリンツ「そのすべてに、命も含まれていましたか?」
提督「っ……」
プリンツ「……一人で抱え込まないでください。私を頼って下さい。きっと私は貴方を守ります。守れます」
提督「ああ、すまなかった」
プリンツ「もう二度とこんなことをせず、私をちゃんと頼ると約束するのであれば許してあげましょう」
提督「分かった、約束するよ」
プリンツ「はい、よろしい!では許してあげます。……約束ですからね」
提督「ありがとう」
提督(……こんなにも俺を助けてくれたプリンツに、俺は何をしてあげられるのだろうか。何をしてあげればいのだろうか?)
提督(ふと、運転に集中するプリンツの横顔を見る。日の出を思い出す、金色の綺麗な長い髪を黒いリボンで留めておさげにしている)
提督(形の良い眉毛、すっと通った高い鼻。長い睫毛に彩られた大きな目はオーロラを湛えている。それらがその整った顔立ちを飾り立てていた)
提督(空高くに浮かぶ満月のような白い肌は、瑞々しくシミ一つない。分かっていたが、改めて見るととてつもない美人だ)
提督(っていかん!!俺にはビスマルクがいる!!帝国軍人たるもの、二股やら浮気など言語道断だぞ!!)
プリンツ「あ、アトミラール?」
提督「!?ど、どうした!?」
プリンツ「えっと……さすがに長い間運転して疲れちゃいました……」
518: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 02:00:58.76 ID:R2q43YVg0
~
友『お前……まさかとは思うが、分かって言ってるわけじゃないよな?』
プリンツ『はい?なんかおかしなことを言いましたか?』
友『そうか。ドイツにラブホはないのか』
プリンツ『らぶほ?何ですかソレ?』
友『アレだよ。あのホテル』
プリンツ『ホテル?ああ、もしかしてラブホってラブホテルの略ですか?なんかロマンティックそうなホテルですね』
友『ロマンティックねぇ……まあ、そう言えないこともないだろうがな。あれはセックスするためのホテルだ』
プリンツ『……はい?』
友『二度は言わんぞ』
プリンツ『今、聞き違いでなければセックスするためのホテルだと言いました?』
友『言った』
プリンツ『!?なんて破廉恥な!!何ですかソレ!?』
友『うるさいから叫ぶな。まあ、こればかりはな……何も言えん。だけどドイツには娼館があるだろう?』
友『愛し合う相手とする分だけ、それよりいくらか良くないか?まあ娼館も日本にもあるが』
プリンツ『だからって……!!日本じゃ、ああいうところでセックスするのが普通なんですか!?』
友『ああ。まあ、何だ。好きな相手とそういうことをするのは割と普通だし、やることやっときゃ寛容だ。キリスト教がそこまで普及していないからかな?』
プリンツ『何てこと……これが日本……!!』
友『ちなみに、さっきのお前の発言は日本語訳すると。【ねえ、ここで私といい事しようよ】になる』
プリンツ『違います!!言ってません!!そんなことは言ってません!!そんなつもりじゃありません!!』
友『知ってる。だが悪い奴に引っかかると厄介だから知っておけ。ああいうところに連れ込もうとする輩はそれが目的だ』
プリンツ『私にはもう心に決めた人が居るんです!!』
友『そうか。なら安心だな』
プリンツ『っ!!』
519: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/15(木) 02:24:49.96 ID:R2q43YVg0
~
友『じゃあ、俺は戻る。無理はするなよ』
プリンツ『はい。少将もお気をつけて』
プリンツ《なんてことだろうか。日本とドイツでそこまで恋愛に違いがあるとは思わなかった》
プリンツ《私はバイクに乗る前に、スマホとヘッドセットを繋げる。そして青葉に電話をかけ、急発進した》
青葉【はい、プリンツさん?どうしました?】
プリンツ【青葉、日本での恋愛について教えて!!】
青葉【はい!?恋愛ですか!?】
プリンツ【そう!!】
プリンツ《深夜のおかしなテンションで青葉に尋ねる。事故を起こさない程度にバイクをかっ飛ばした》
プリンツ《あんな奴に負けてたまるものか!!私は必ずアトミラールを振り向かせて見せる。躊躇う必要はない》
プリンツ【私、絶対に振り向かせて、幸せにしてあげたい人がいるの!!どうすればいいと思う!?】
プリンツ《アトミラールを幸せにして、そして私も幸せになるんだ!!きっとやって見せる!!》
552: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/16(金) 23:42:33.97 ID:BtV3r95C0
~
プリンツ【……つまり、その告白ってのが重要で、結婚する前にそういうことするのは寛容なんだ】
青葉【そうですよ。それにしても、欧米は恋愛に日本より積極的なものと思っていましたが……割とお堅いんですね?】
プリンツ【一線を越えるとなるとだけどね。でも本当に人によるよ?特に最近は。……そういえば、女性から男性に積極的にアピールしても問題ないんだよね?】
青葉【そうですね。ただ、さっきも言いましたが限度がありますよ?常識の範囲です。あまりはしたなく迫ったら、大抵の人は引いていきますから】
プリンツ【なるほど……じゃあさ、私が仕事で前日の夜中に六時間かけてバイクで移動していたりしてすごい疲れてるとするよ?】
青葉【はい】
プリンツ【次の日、車でその人を迎えに行く約束してるんだけど、やっぱり途中で疲れちゃっても不自然じゃないよね?】
青葉【……それって明日その人と会うってことですか?】
プリンツ【かもね。それでさ、……ら……ラブホテルの前で、『疲れたからここで休憩したいな』ってのはどう……かな……?】
青葉【!?なっ……それは……】
プリンツ【もちろん。私はラブホテルってこと知らないふりしてるよ?ただ単に休憩したいなって感じで自然に聞くの】
プリンツ【そこでいいよってなったらかなりいいかなって思うんだけど……どうかな?やっぱりはしたないかな?】
青葉【うーん……その人とは悪くない関係なんですよね?なら……けど、そんな事をするなら普通に告白した方がいいんじゃないですかね?】
プリンツ【んー……確かにそうかも。もう一度考えてみるよ。ありがとね、青葉】
青葉【いえいえ、とんでもないですよ!このお返しに期待してますからね!なんて。あはは】
青葉【ただ、あくまで私の思う一般論だったので、そこのところはよろしくお願いしますね】
プリンツ【分かった。じゃあお休み、青葉。じゃあね】
青葉【はい。プリンツさんもお気をつけて。特に事故には、ですよ】
プリンツ『……普通に告白した方がいいんじゃない、か』
プリンツ《でも、アトミラールは今あの女に……すごい誠実で素敵な人だから、私が今、普通にアピールして告白しても断るはず……》
プリンツ《それこそ、ラブホテルに入るなんて!けど、私の疲労を癒すためなら優しいあの人は……チャンスは、ある……》
プリンツ《アトミラールだってきっとあの女に裏切られたことに傷ついている!それを押し殺してビスマルクなんかに……!!》
プリンツ《あの女より私の方がアトミラールにふさわしい!!アトミラールを幸せにできる!!アトミラールのことを愛している!!》
プリンツ《アトミラールもきっとそれに気づいてくれるはず……!!きっと私を選んでくれる……!!》
プリンツ《そのためなら、私は何でもできる。だって、好きな人の為だから》
553: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/16(金) 23:50:19.01 ID:BtV3r95C0
~
ヴゥゥゥゥン
プリンツ《はぁ……ようやく戻ってこれた。今は……深夜の二時だ。本当に疲れた……さっさとシャワーを浴びて寝よう》
プリンツ《正午にドイツ司令部に……三時間ぐらいかな。やることもあるし、準備ができたらすぐでなくちゃ》
プリンツ『……!』
プリンツ《誰か来る……》
川内『へえ、気がついたんだ。すごいね』
大和『……話してくれますよね?プリンツ・オイゲン』
瑞鶴『どこで何をしていたのか、ね?』
加賀『事と次第によっては……覚悟はできていますね?』
赤城『……とりあえず、中へ入りましょう。ゆっくり話さなくてはならないかもしれません』
プリンツ『……分かりました』
~
赤城『つまり、ドイツ軍司令部に呼び出されていたと?』
プリンツ『はい。緊急の呼び出しでしたので……連絡する時間もありませんでした。申し訳ありません』
瑞鶴『もしそうだとして、なんで終わった後すぐに連絡しなかったの?』
プリンツ『夜中でしたから……』
瑞鶴『……そう』
大和『内容は話せないんですね?』
プリンツ『緘口令が敷かれていますから……けど、ドイツの問題であってアトミラールに関係することではありません』
大和『……ふぅん、そうですか』
加賀『提督については何も知らないのかしら?……あなたはここ最近、ずっと秘書艦を務めていたでしょう?』
川内『そうだよ。何か手掛かりとか知らないの?いきなりいなくなるなんて、こんなの普通じゃないよ。きっと何かあるはず……!』
プリンツ『……もし知っているのなら、こんなところでじっとしていませんよ。皆さんだってそうでしょう?』
加賀『……そうね』
川内『……』ギュッ
赤城『……さて、ではこれ以上のことは分からなそうですし、今日はもう寝ましょう。提督が戻らない場合は、昼にまた話すこととします』
プリンツ『あ、赤城さん。私、また司令部へ行かなくてはならないので明日も出ますね』
赤城『そうですか、分かりました。なら後で必要書類を提出するようにお願いします』
プリンツ『はい』
赤城『では解散。皆さん、おやすみなさい』
554: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/16(金) 23:58:49.31 ID:BtV3r95C0
~
プリンツ『ふぅ……』
プリンツ《寝支度がすべて整い、私はベッドに入った。明日のことを考える》
プリンツ『あの女が戻ってくるまで短ければあとひと月、長くともふた月。時間がないんだ……やるしかない』
プリンツ《アトミラールとホテルインする。何もなくても、それだけで関係を深められる。そしてあわよくば、私は……》
~
提督【プリンツ、ここがどういうとこか知っているか?】
プリンツ【えっ?ホテルじゃないんですか?】
提督【ああ、ホテルだ。だが、ただのホテルじゃない。……恋人同士が愛し合うためのホテルなんだ】
プリンツ【……!!】
提督【プリンツ……俺は、辛かった。あんなことになって……けどビスマルクを取り戻すことができた。それでいいはずだった】
提督【けど、駄目なんだ……まだ辛い。俺は、ビスマルクが好きだった。けど、それは前までだ】
提督【ビスマルクをとり返したのは、ただの復讐の為だけだったんだ……全部終わって気がついた。人として最悪だ】
提督【あいつには悪いことをしたと思ってる。でも、駄目だった……苦しいんだ……プリンツ……】
プリンツ【アトミラール……悪いのはアトミラールじゃありませんよ。あいつらが悪いんです。気にすること必要はありません】
提督【プリンツ……君は、俺が辛い時にずっと近くで支えてくれた。助けてくれた。本当にありがとう】
提督【……気がついたんだ。俺は、君が好きだ。君が欲しい】
プリンツ【……!!アトミラール……!!】ウルッ
提督【どうか、これからも一番近くで俺を支えてくれないか?】
プリンツ【はい……!!もちろんです。私も、ずっと好きでした!本当に……ずっと好きで、辛かったんです】ポロポロポロ
提督【プリンツ、目を閉じて】
プリンツ【!!……】パチリ
提督【……】チュッ
プリンツ【んふぅ……はぁ……んむぅ……】ダキッ
提督【……】ギュッ サワッ
プリンツ【!!】ピクッ
提督【嫌か……?】
プリンツ【……いいえ】ジュン
提督【プリンツ、大好きだ。愛してる】ナデナデ ツプッ クチュクチュ
プリンツ【ぁん……アトミラール……私も大好きです……はぁっ……愛してる……やぁ……!!】ピクンピクン
555: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/17(土) 00:03:39.29 ID:aEXKxsXo0
~
プリンツ『……』ムラッ
プリンツ『……』スルリ ピトッ モミ
~
プリンツ【ふあぁ……あとみらーる……切ないです……】キュンキュン
提督【初めてか?】
プリンツ【は、はい……】カァッ
提督【なら、優しく慣らさなくてはな。……俺を信じて、力を抜いてくれ】ピトッ
プリンツ【あとみらーる……こわいです……わたし……】
提督【大丈夫だ。俺がついてる】
プリンツ【ん……手を。手を握ってください……】コクッ
提督【プリンツ、愛してる】グイッ ブツッ
プリンツ【わたしも、っはぁああ!!くぅぅっ……!!】ギュッ
提督【っ……キツイ、な……】ズプププププ
プリンツ【ああっつぅ……!!あとみらーるのが……はいってきてる……!!】
提督【プリンツ、これでお前は俺の女だ。君一人を愛し続けると誓う。だから、俺と結婚してくれ】
プリンツ【はいっ……はい!!私、嬉しいです!!嬉しすぎて、おかしくなちゃうっ……!!】
提督【そうか……!!痛みがなくなるまで、しばらくこうしていよう。んっ】チュッ
プリンツ【んむぅ……んちゅ……はぁん……れろれろれろ……】ダキッ ギュッ
556: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/17(土) 00:05:26.92 ID:aEXKxsXo0
~
プリンツ『はぁ……はぁ……』クチュクチュ モミモミ クリクリ
プリンツ『んふぅ……』
~
プリンツ【あん!!はぁん!!あ、あとみ!!あとみらーるっ!!わたしぃっ!!なにか!!なにかきちゃいますぅ!!】ズッチュズッチュズッチュ
提督【俺もだっ……プリンツ……!!中で出してもいいか……!?】パンパンパンパン
プリンツ【っ……!!あ、あかちゃん……できちゃいますよぅ……?】
提督【いいんだ、そうしたい……君さえよければ……君に俺の子供を、産んで欲しい……!!】
プリンツ【アトミラール……!!私……!!産みます!!頑張って元気な赤ちゃん産みます!!】
提督【ああ……!!ああ!!くっ……はぁっ……!!】ビュルルルルルルルル
プリンツ【っはあああああ!!あっ……はぁっ……アトミラールのが……たくさん、中に出て……あつい……】ビクンビクン
提督【プリンツ……もう一回たのむ】チュッ
プリンツ【ああっ中でまた大きく……んふぅ……はむっ……ちゅぅ……】
~
プリンツ『っ……はぁ……はぁ……』ネトォ
プリンツ『ぅ……ティッシュ……』ガサガサ
プリンツ『寝ないと……あした遅刻しちゃう……』
560: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 00:54:49.78 ID:olty7XRh0
~
ジリリリリリ
プリンツ『……』ピッ
プリンツ『……眠い。シャワー浴びないと』ノソリ
プリンツ『……あれ、メールだ。メンゲレから?……ふーん』
~
赤城『皆さん、集合していますね』
長門『ああ。それで、話というのは?』
赤城『提督についてです』
『『『『!!??』』』』ザワザワ
大和『赤城さん!!話してください!!』
瑞鶴『何が分かったの!?』
赤城『今朝、提督から私に連絡がありました。提督はい号作戦に関して緊急の打ち合わせがあり、友少将の元へいらっしゃっていたそうです』
大和『そ、そうなんだ……』
瑞鶴『良かった……見つかって。本当に良かった……』
長門『それで、いつ戻ってくるのだ?』
赤城『今日です。オイゲンさんがドイツ軍司令部へ行く用事があるので、彼女の車で戻ってくるそうです。時間は午後になるとのことでした』
大和『っ!!』ガーン
瑞鶴『っ……』ズキッ
赤城『ですので、お戻りになられるまでは引き続き私が指揮を執ります。以上、解散!各員の務めを果たしなさい』
『『『『了解』』』』
赤城『ではオイゲンさん。頼みましたよ』
プリンツ『はい、任せてください』
561: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 00:57:33.25 ID:olty7XRh0
~
プリンツ『……このあたりかな?』
プリンツ《あの後、すぐに準備を済ませて出発した。時間は早かったけどやることがあった。それは……》
プリンツ『うーん……どこにしようかな?』
プリンツ《アトミラールと入るのにいい感じのラブホテルを探すことだ。恥ずかしいけど仕方がない》
プリンツ《もちろん、目立たないように持ってきていた私服に着替えている。軍人がこんな所をうろうろしていたら、目立つことになるから……》
プリンツ『外観はなかなかよさそうだし……位置的にもここなら自然に入れるかも。ちょっとスマホで調べてみよう……』
プリンツ《変な所は嫌だし、そういうことを考えているなんて知られたら恥ずかしくて死んでしまう。不自然にならないように気を付けなくちゃ》
プリンツ『……うん、よさげかな。ここにしよう。……あっ』
プリンツ《カフェか……ちょっとお腹すいたし、眠気覚ましにカフェインが欲しいかな。時間に余裕があるし、よっていこう》
プリンツ《車を停めて、カフェに入る。サンドイッチとカフェオレを頼んで、席に座った。そこそこイケる。束の間のコーヒーブレイクを楽しむ》
プリンツ『……おいし』
チャラ男『Excuse me?』
プリンツ《……なに、この人。英語?》
プリンツ『……Yes?』
チャラ男『こんなところで何やってんの?もしかして暇してる?』
プリンツ『いえ、そういう訳ではありませんよ』
チャラ男『そうなの?じゃあ君みたいな美人が一体なんでこんなラブホ街にいるわけ?』
プリンツ『ラブホ街?私はただカフェに入っただけですよ』
チャラ男『そうなんだ。ねえ、もしよければこの後俺といいことしない?』
プリンツ《なるほど……そういう輩か。反吐が出る。もっと他に大切なことがあるだろうに》
プリンツ『暇でないといったはずですが?』
チャラ男『少しでいいからさ?そうだ、このあたりにいいケーキ屋あるんだよね。奢ってあげるからさ、一緒に行かない?』
プリンツ『お断りします。では』ツカツカツカ
プリンツ《そう言って残りを一気に飲み干し、サンドイッチを持って店を出ようとする》
チャラ男『ちょっと待ってよ!話はまだ終わってないよ!』グイッ
プリンツ『っ!放してください』
562: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 00:59:23.04 ID:olty7XRh0
チャラ男『いいじゃん、旅先での一夜の夢ってやつ?俺って結構うまいんだよ?試してみない?』
プリンツ『結構です!私には心に決めた人が居て、その人以外とどうこうするつもりなんて絶対にありませんから』バッ
チャラ男『っ!だから待ってって言ってるだろ!っ!?』ガシッ
プリンツ《再び肩を掴んできた軽薄そうな男の手を取り、捻りあげる。簡単な護身術だ。するとそいつは日本語で怒声をあげた》
チャラ男『痛い痛い痛い!!止めろ!!』
プリンツ『これに懲りたらさっさと失せなさい』パッ
チャラ男『んだよ日本語喋れんのかよ!!お前ただで済むと思うなよ?』
プリンツ『へえ、どうしようって言うの?』
チャラ男『シメて、俺の腕捻った分謝罪してもらうからな?逃げたって無駄だから。このあたりは俺らのたまり場だし』
プリンツ『はぁ……』
プリンツ《仕方ない。私はこれ以上面倒なことになる前に、さっさと事態を終わらせることにした。身分証をカバンから取り出し、見せる》
プリンツ『さっきも言ったけど私は先を急いでいるの。通しなさい』スッ
チャラ男『んだよ。何だそれ……っ!?ドイツ軍!?』
プリンツ『……通しなさい』
チャラ男『は、はい……』
プリンツ『どうもありがとう』
プリンツ《とても不快な気分で店を出る。私がアトミラール以外の人とそういうことをするわけがない》
プリンツ《すこし早いけど、使うホテルも決まった。もう他に用事はないし、さっさと司令部へ向かうことにしよう》
563: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:01:18.34 ID:olty7XRh0
~
プリンツ《何事もなく司令部へ到着し、アトミラールを待つ。その時間が一日千秋のように感じられた》
プリンツ《何かあって、またアトミラールが居なくなってしまっていたりとか……ありえないはずの想像が何故か唐突に脳裏に浮かぶ》
プリンツ『……!!アトミラール!!』ダッ
プリンツ《だから、エントランスから現れたその姿に安心し、こみ上げるものがあった。昨日は、血気に逸っていたこともあって、それどころじゃなかった》
プリンツ《けど本当は、すぐにでもその旨に飛び込みたかった……全身で感じたかった……!強く抱きしめてほしかった……!!》
プリンツ《もう我慢できなかった!!》
提督『プリンツ!!』
プリンツ『アトミラール!!』ダキッ
提督『!!プリンツ……?』
プリンツ『アトミラール!!アトミラール!!アトミラール!!』ギュッ
提督『プリンツ……よしよし』ナデナデ
プリンツ『アトミラールに会うまで、何かあったら……またいなくなっちゃたらどうしようって……!!ずっと怖くて……!!』
提督『……大丈夫だ、俺はここにいる。本当にありがとう。君にはなんて感謝すればいいか』
プリンツ『いえ、いいんです。アトミラールがこうして私の近くにいてくれれば…… っ!!』
プリンツ《視界に入る、不快なもの。じっと窓からこちらを見下ろす、呪われるべき敵、なぜこいつが赦されたのか》
プリンツ《私はありったけの敵意、憎しみを込めてそいつを睨みつける。するとそいつは、傷ついたような表情をする》
564: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:02:27.49 ID:olty7XRh0
ビスマルク『!』
プリンツ《ふんっまるで被害者のように振舞っているが、お前も大きな十字架を背負っていることを忘れるな!!》
提督『いや、それじゃ俺の気持ちが収まらないよ。俺にできることなら何でもする。だから、何でも言ってくれ』
プリンツ『……はい、分かりました。ありがとうございます。では、行きましょうか。他の皆さんもとても心配していますから』
プリンツ《一刻も早くあの女からアトミラールを連れて去りたかった。ここにいるだけで何か悪いことが起きそうだ》
提督『ああ、そうだな』
プリンツ『っ』ギリッ
プリンツ《笑顔であいつに手を振るアトミラール。私の心に狂おしいまでの狂気が渦巻いた》
プリンツ《車に乗る前に、もう一度あいつを睨みつける。悲しそうな顔をしていることに、むき出しの神経をなでられたような不快感》
プリンツ『では、出発しますね』
提督『ああ、頼む』
プリンツ《必ずお前の元からアトミラールを解放してやる!アトミラールと一緒に幸せになってやる!!》
565: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:04:44.14 ID:olty7XRh0
~
プリンツ(そろそろだ、そろそろ仕掛ける時。落ち着いて、Andere Länder, andere Sitten(郷に入っては郷に従え) だ)
プリンツ(セックスは普通なことなんだ。自然に、怪しまれることなく……私ならできる。頑張れ、プリンツ・オイゲン!)
プリンツ「あ、アトミラール?」
提督「!?ど、どうした!?」
プリンツ「えっと……さすがに長い間運転して疲れちゃいました……」
提督「そうか?なら運転を代わろうか」
プリンツ「い、いや、アトミラールは肩を撃たれていますから!だから安静にしていたほうが良いですよ!」
提督「そうだな……確かにそうだ」
プリンツ「そうですよ!本来ならもっと頑張れるんですが、昨日バイクで往復12時間だったので……」
提督「バイクで往復12時間……!?そういえば、プリンツがどうやってあそこへ来たのか考えてなかった……あの天気でか……!!」
提督(プリンツ……お前はそこまでして……俺は……)
プリンツ「ですから、やはり少し休憩すべきかなって思うんですが……どうですか?」
提督「もちろんだ!お前の体が一番だからな」
プリンツ「ありがとうございます。どうしようかな……」
プリンツ(もう少しだ、もう少し……来た!!)
566: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:06:11.79 ID:olty7XRh0
プリンツ「あ、見てください。なんかあのホテル、休憩なんてあるみたいですよ。ちょっとよってもいいですか?」
提督「!?」
提督(あ、あれは……!!っ…… だが、別に変なことをするわけじゃないし……)
提督「プ、プリンツ……あれはラブホと言ってな?恋人同士がそういうことをするための場所なんだ」
プリンツ「……え、えー!?そうなんですか?じゃあどうしましょうか……」チラッ
提督「……ま、まあ普通に寝ることもできるはずだ。ちゃんとしたベッドもあるしな。だからプリンツさえ良ければ……」ドキッ
プリンツ「じ、じゃあ行きましょうか!はい!居眠り運転とか危ないですしね!」
提督「あ、ああ」
プリンツ(……きた!!勝った!!これってつまり、アトミラールは既に私とこういうところに入ってもいいぐらいには私のことを……!!)
プリンツ(もしかしたら、本当に今日……私はアトミラールと、本当に……!!プリンツ・オイゲン、行きます!!)
提督(落ち着け、落ち着くんだ。プリンツはあくまで休憩したいだけだ。そもそもラブホなんて知らなかったみたいだし)
提督(誘ってるわけじゃない。勘違いするなよ、俺。……いや、それ以前に俺にはビスマルクがいる!!)
ビスマルク『アトミラール!!』ニコッ
提督(そうだ、俺には心に決めた人が居る。……だから駄目だ、そんなことは!!)
プリンツ『アトミラール……!!』ダキッ
提督(……それでも、駄目なんだ。俺は本当にビスマルクが好きなんだ。心から愛している)
567: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:08:49.69 ID:olty7XRh0
~
プリンツ「へぇ……なんかすごくお洒落ですね。たしかに、雰囲気あるかも……」
提督「そ、そうだな。じゃあ、プリンツ。お休み。今日中に帰ればいいんだ。18時に起こすからゆっくり休んでくれ」
プリンツ「はい。ありがとうございます。けど、この服で寝るのは……あ、クローゼット。バスローブがありますね。これは……へぇ、下着まで売ってるんですか」
提督「あ、ああ。着替えるか?なら俺はトイレにでも籠るから終わったら言ってくれ」
プリンツ「……アトミラール。私、シャワー浴びてもいいですか?」
提督「しゃ、シャワーか……!?」
提督(クソ!!なんで風呂が透けてるんだ!!これじゃはっきりとは見えないがシルエットが丸見えじゃないか!!)
プリンツ「せっかくなので……駄目ですか?」モジッ
提督「……っ!!」
提督(プリンツは、恥じらうように顔を赤らめ少し俯かせている。そしてちらりと上目遣いでこちらを伺う)
提督(まるで映画やドラマで見るようなシチュエーションだ。ただし、場所が校舎裏やらで、内容が好きですという告白ならだが)
プリンツ「……」
提督「……あ、ああ。分かった。いいぞ。俺はトイレに籠ってr」
プリンツ「そんな!申し訳ないです!アトミラールなら、私は大丈夫ですから。くつろいでいてください。では」
提督「!」
提督(プリンツは俺を遮るようにそう言うと、バスローブを掴んで脱衣所に早歩きで行ってしまった)
プリンツ「……」シュルシュル パサッ
提督「……ごくり」
提督(ぼんやりと見えるシルエット。灰色の軍服が脱げていき、肌色が露わになる。この向こうでは、今、プリンツが……)
提督「……!!」ブンブンブン
提督(駄目だ駄目だ駄目だ!!落ち着け!!どうする?そうだ、歌を歌おう!!朝だ夜明けだ潮の息吹き!!うんと吸い込むあかがね色!!)
568: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:10:31.16 ID:olty7XRh0
~
プリンツ「ふぅ……上がりました、アトミラール。失礼しました」
提督(いつもと違って髪を下ろした姿に、またどきりとした。いつものかわいらしい姿からは信じられない大人っぽさだった)
提督「そ、そうか!良かった。じゃあ一息ついて寝るか?」
プリンツ「そうですね。けど、その前に……ちょっと下着を買わないと……」
提督「!?」
提督(ということは……今、プリンツはバスローブ以外何も……!!)
プリンツ「何種類かあるんですね……へぇ……あ、アトミラールはどれが良いと思いますか?」
提督「お、俺に聞くのか!?」
プリンツ「はい。是非選んでほしいなって思いまして」
提督「……っ!!そ、そうだな、その黒いのが良いと思うぞ!?」
プリンツ「これですか?……結構、大胆な奴ですね……?」チラリ
提督(しまった!!ついとっさに好みで選んでしまった!!)
提督「あ、いや……お、思ってたのと違うな?そっちの白い奴の方がいいんじゃないか?」
プリンツ「こっちですか……?ふぅん……」
プリンツ(方や煽情的なレースの黒い下着。方やシンプルな白い下着。アトミラールの反応からして、黒い方が……)
プリンツ(でも、ここで黒いのを買うと不自然だし……そういうことを期待してるってバレるかも。なら)
プリンツ「じゃあ、こっちにしよう……かな……?」
提督「あ、ああ、それがいい!俺が買おう」
プリンツ「え、そんな!悪いですよ」
提督「気にするな。君には感謝してもしきれないほど感謝しているんだ。これぐらい当たり前だ」
569: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:11:56.13 ID:olty7XRh0
プリンツ「そ、そうですか?なら……」
提督「ああ、そうしてくれ。……ほら、これで」
プリンツ「ありがとうございます。……では、ちょっと身に着けてきますね」
提督「あ、ああ」
提督(この場所の雰囲気のせいか、妙に気分が浮つく。だが、俺にはビスマルクがいるんだ。馬鹿なことはできない)
提督「気を引き締めなくては……」ボソリ
プリンツ「……おまたせしました」
提督「いや、大丈夫だ。……じゃあそろそろ寝るか?」
プリンツ「……アトミラールはどうするんですか?」
提督「俺か?そうだな……とりあえず、俺もそこのソファーで昼寝するよ」
プリンツ「えっ!?ソファーでですか?」
提督「ああ」
プリンツ「そんなの申し訳ないですよ!」
提督「だが同じベッドで寝るわけにはいかないだろう?」
プリンツ「……一人で寝るのが怖いんです」ギュッ
提督「!」
プリンツ「アトミラールが正気を失って以来、ずっと心休まる日がありませんでした……」シュン
プリンツ「本当に……本当に怖かったんです。いつか提督が本当に壊れていなくなってしまうかもしれないと思って」ウルッ
プリンツ「昨日、急にいなくなってしまったときはもうだめかもしれないと思いました。……私も限界だったんです」フルフルフル
提督「すまない……本当にすまない、プリンツ……俺は……」
570: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:13:25.06 ID:olty7XRh0
プリンツ「いいんです。今、アトミラールは、正気に戻ってここにいる。だからもう大丈夫です。けど……」
プリンツ「だけどもしアトミラールさえよければ……どうか今日だけ、一緒に寝てくれませんか?……アトミラールを感じさせてくれませんか?」チラッ
提督(それは悲痛からか、あるいは別の感情か。プリンツは表情を曇らせ、目に涙を浮かべつつ上目遣いでこちらを伺っていた)
提督(俺のために、我が身も顧みずにひたすら尽くしてくれた。そして今、その緊張の糸が切れて、秘めていた自分をさらけ出している)
提督(そんな健気な少女のために、俺ができることは……)
提督「わかった。是非、添い寝させてくれ」
プリンツ「アトミラール……!!はい、ありがとうございます……!!」パァッ
プリンツ(ようやく話せた自分の気持ちに満足する。何より、アトミラールがこうも優しく受け入れてくれたことが一番うれしい)
プリンツ(アトミラールが上着と靴下を脱ぎ、ズボンと下着姿になった。目覚ましをセットする)
プリンツ(私は促されてベッドに入り、アトミラールがすぐに隣に入る。感じるアトミラールの……男の人の体温に、匂い。胸がドキドキする)
提督「お休み、プリンツ」
プリンツ「はい。……」ニギッ
提督「!……」ギュッ
プリンツ(向かい合って眠る。手を伸ばし、アトミラールの手を握ると、握り返される。本当に幸せだ)
プリンツ(どっと疲れが、精神的なものも身体的なものも全て溢れ出てきた。緊張が解けたのだと思う)
プリンツ(瞼が重くなる。……最初は、もっと肉欲的なものを求めていた。けど、今はこれでいい。そう、今だけは)
プリンツ(本当に純粋な気持ちだった。こんな気持ちになれるだなんて。私は、本当に久しぶりの安らかな眠りに落ちて行った)
571: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:18:28.82 ID:olty7XRh0
~
プリンツ「ん……」
提督「起きたか?」
プリンツ「あ。……アトミラール?」
提督「眠ければまだ眠っていていい。時間は延長するよ」
プリンツ「いや、起きますよ。起きますから……もう少しだけ……」ダキッ ギュッ
提督「!」
プリンツ「アトミラール……すぅ……すぅ……」
提督「……」ナデナデ
プリンツ「だい……すき……」
提督「っ……」
提督(もしかしたらと考えたことがない訳ではない。いや、かなり確信していた。どうしてプリンツがこうまで俺を助けてくれたのか)
提督(プリンツの、そのあどけない寝顔を見る。文句なしの可愛い美少女だ。幼さを残しつつも大人へと成長しつつある整った顔立ちは、きっと誰もが振り向くだろう)
提督(外見も良い。だが、プリンツの一番のいいところはその優しい性格だ。彼女が居なければ、俺はきっと倒れていただろう)
提督(そんな子にここまで思われてうれしくないわけがない。もし俺が独り身なら絶対に告白していただろう)
提督(今だってその白い肌と年の割に豊かな体つき、特に腰回りとローブの胸元から覗く豊かな双丘に目が釘つけになりそうだった)
提督(漂ってくる甘い良い匂いに心臓が早鐘を打っている。……だが、俺には愛するビスマルクがいる)
提督(形の良い眉に飾られた凛々しい印象を覚える釣り目は、透き通るような蒼穹のように青く常に自信に満ち溢れていた)
提督(若々しくとも妖艶な大人の色香を纏ったその様は、あの卑しいデブが卑劣にも騙して、洗脳まがいのことをしてまで欲したのも分かる)
提督(いつだって頼りがいがあって、何があっても諦めず、ビスマルクに任せれば何とかなると思わせてくれた)
提督(そして、とても純粋で仲間を信じて戦っていたんだ。だからこそ、あの男につけ入れられてしまったのだが……)
提督(ともかく、俺はビスマルクが誰よりも好きだ。本当に心から愛している。だから、俺は……)
572: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:20:26.74 ID:olty7XRh0
~
プリンツ(一度目が覚めた記憶があるが、結果的に二度寝してしまった……目が覚めた時にはもう夜だった)
プリンツ(予定がとても遅れてしまった。謝る私に、しかしアトミラールは優しく謝るような事じゃないと言ってくれた)
プリンツ(……それにしても、とっても気分のいい目覚めだった。幸せだった。アトミラールと一緒になれれば、きっと毎日がこんななのだろう)
プリンツ(支度をして、ホテルを出る。時間が時間だったから、イタリアンの店でディネーをとった。無事に帰還したころには、すでに23時近くだった)
プリンツ(待っていた赤城や大和、瑞鶴たちはまず提督の傷に驚き、心配した。提督は打ち合わせ通りにみんなへ説明して、なんとか納得してもらえたみたいだった)
プリンツ(アトミラールは罪悪感があるようだったけど、仕方ないことだもの。悪いのは全部あいつらだ)
プリンツ(すべてが終わった後、私は部屋に戻ってシャワーを浴び、寝支度を済ませてベッドに入った。あまり眠くないが、寝ないといけない)
プリンツ(……今日、私はアトミラールと一緒になる事の幸せを改めて知った。本当に素晴らしい、至福のひと時だった)
プリンツ(それを知ってしまった今、もう絶対に後戻りできない。必ずアトミラールと添い遂げて見せる)
プリンツ(青葉に話を聞いたことを実践する。それに、そういうサイトや本、映画やドラマでさらにいろいろ調べるんだ)
プリンツ(絶対にアトミラールを振り向かせて見せる。あんなひどい娼婦なんかにアトミラールは相応しくない。絶対に……)
573: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:30:33.40 ID:olty7XRh0
~
ピピピピ ピピピピ
提督「っ……今日も暑いな」ピッ
提督(あの日無事に帰還してから今まで、俺はとても忙しかった。い号作戦の為だ)
提督(みんなが俺を支えてくれた。特に、プリンツはずっと付きっきりで秘書艦を務めてくれていた。本当に助かった)
提督(そして現在、俺たちはポートモレスビーに来ている。昨晩到着したばっかりだ。作戦開始まであと一週間もない)
提督(ここはとても暑く、マラリアに気を付けなくてはならない。住むのには向いていないな。しかも、作戦のために急ピッチで築かれた拠点だ。最低限なものしかないが、まあ作戦の為には十分だ)
提督(俺はこの前までおかしくなっていたとはいえ、それはビスマルクのことに関してだけだ。作戦を確認してみたが、おかしなところはない)
提督(まあ、記憶には残っていたし、作戦会議で承認されたのだからあまり心配していなかったが。それでも、良かった)
提督(きっと成功する。そうすれば、南部戦線は消滅するはずだ。勝利への大きな一歩になってくれる)
提督(俺は支度を済ますと、司令部へ向けて出発した。片道10分ほどの道のりだ)
提督「……ん?あれはプリンツか?何をしているんだあんなところで」
提督(司令部まであと半分ほどの所で、プリンツが立っている。ちょうど艦娘の宿舎への道が合流する所だ)
プリンツ「……! アトミラール!おはようございます」
提督「おはよう、プリンツ。どうしたんだ?何か用か?」
プリンツ「いえ、一緒に司令部まで行こうと思いまして」
提督「そのためだけにわざわざこんな暑い中待っていたのか!?」
プリンツ「どうしても一緒に行きたかったんです。……駄目でしたか?」シュン
提督「い、いやまさか!!……じゃあ向かうとするか」
プリンツ「ありがとうございます!!」
提督(隣を歩くプリンツに歩調を合わせる。風向きからか、かすかに漂ってくる甘い香りにプリンツの存在を感じた。思い返してみると、ここ最近いつものことだった)
574: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/19(月) 01:34:21.32 ID:olty7XRh0
~
[参謀本部より第十艦隊へレンラク。敵に大規模攻勢のヨチョウあり。第十艦隊は南部方面からの威力偵察をジッコウせよ]
[本作戦のモクテキは敵の攻勢方面の確認である。北部戦線では第十三艦隊が、太平洋戦線では第十二艦隊が]
[そしてインド洋方面戦線では第十五艦隊がタントウする。以上、ブウンを祈る]
[艦隊司令部よりTF109へレンラク。TF109はR-16より敵領域へ侵入、威力偵察をジッコウせよ]
[本作戦のモクテキは敵戦力及び敵の反応のカクニンである。以上、ブウンを祈る]
「サテ、やるとするゾ。TF109. カクイン、戦闘準備」
「敵はまたコウセイをするつもりなのカ……」
「今度はきっと勝てル。主戦線ヨリ戦力が引き抜かれてくるラシイ」
「南にはもうコナイデ欲しいな。ずっとゲキセン続きだ。モウたくさんダヨ……」
「キタとしてもはじき返してヤルサ。遅れずについてコイヨ?バツビョウ!!」
582: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:07:42.23 ID:hW9oWmVK0
~
提督『どうやら敵も我々の動きに気がついたらしい。各戦線にて敵の威力偵察と思われる侵入が始まった』
提督『無論、我々はこれに対抗せざるを得ない。よって迎撃のために艦隊を編成する。第一艦隊は旗艦愛宕、第二艦隊は~』
プリンツ(というわけで、私は敵艦隊迎撃に出撃することとなった。提督の期待に全力で答えて、できる女アピールだ!)
プリンツ(私がいる限り、ここを抜かせはしない!と、思っていたけれど……)
プリンツ「……」
川内「……」
電「はわわわ!川内さんとオイゲンさんがなぜか険悪な雰囲気です!」ボソリ
雷「どうしたのかしら……?」ボソリ
暁「何よ。任務中に私情を挟まないで欲しいわね」ボソリ
響「困ったね……」ボソリ
プリンツ(川内はどうやら私のことを嫌っているみたい……まあ当然かもね。私の行動は事情を知らない川内達から見れば怪しい事このうえないだろうし)
プリンツ「……!」ハッ
川内「敵艦隊発見、だね」
電「え……あ!見つけました!」
電「重巡洋艦が四隻もいるわ!」
響「それに駆逐艦も二隻確認できるね。かなり強力だよ」
暁「戦力的には不利。どうするんですか、オイゲンさん?」
プリンツ「勿論、ここで迎撃するよ。戦闘準備!」
「「「「了解!」」」」
川内「大丈夫だよ、特III型駆逐艦。あんなの私たちにかかれば魚の餌だから」ニッ
583: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:16:32.92 ID:hW9oWmVK0
プリンツ「単縦陣!遅れないで!」
プリンツ(敵もこちらに気がついた。この状況じゃ距離を詰めて戦うしかない。なら……)
川内「オイゲンさん、提案があります」
プリンツ「!……突撃?」
川内「距離をとって打ち合ってもジリ貧でしょ?駆逐艦を連れて私が突撃します。だから、援護をお願いします」
プリンツ(! さすが川内というべきかな。とても勇敢だ。Japanの軽巡洋艦には本当に驚かされる)
プリンツ「分かった、気を付けてね」
川内「了解、聞いてたねみんな!!水雷戦隊魂見せてやるよ!!」
「「「「了解!!やってやるわ(よ)(のです)!!」」」」
プリンツ(さて、目的は突撃の援護。沈める必要はない。砲塔は四基あるし、敵も四隻。簡単なことだ)
プリンツ(頭の中で、すべてが分かる。敵の動き、砲弾の軌道、私がどうすればいいのか)
プリンツ(あの日、提督が撃たれそうになった時から私は少し変わったのだと思う。戦いのときに、頭の中が切り替わる感覚)
プリンツ(負けるわけがない。必ず勝てると確信できる。……ゲルマン民族の戦闘本能とかだったら少しカッコいいかもね)
プリンツ「敵が照準してから……撃つとしたら……今」ドゴォン
プリンツ(SKC/34が火を噴き、砲弾が敵へ向かっていく。そして、吸い込まれるように……着弾)
「!?」
「……!!」
「……!?」
プリンツ(発砲前に不意の攻撃を喰らった敵は、攻撃を中止するか、的外れな方向へ誤射した。混乱ぶりが手に取るように分かる)
響「まさか……四隻それぞれに同時攻撃……!?」
雷「すごい!!こんなに練度が高かったの!?」
川内「良し、攻撃開始!!てぇー!!」
584: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:26:02.41 ID:hW9oWmVK0
プリンツ(川内達が攻撃を開始し、砲弾と魚雷が敵を襲った。混乱している所に肉薄された敵は、しかし驚異的な反応で即座に態勢を立て直して反撃に移る)
プリンツ(駆逐艦二隻が砲撃し、魚雷を発射しながら重巡の前に躍り出た。ちゃんと狙わない攻撃は牽制にしかならない。しかし、自らを犠牲にして重巡洋艦を庇うことに成功する)
プリンツ(そのため、重巡洋艦は一隻が中破したのみで健在だ。反撃の攻撃が始まる。しかし、敵は焦りすぎた)
プリンツ(すこし待てばいいのにすぐさま発砲した。その攻撃は、敵の行く手を横切るようにして離脱していく川内達を捉えることは無かった)
川内「ははっ!チャンスだ!再装填まで時間ができた!反転して再攻撃するよ!」
プリンツ(私も舵を切って全速前進。敵へ突撃した。再装填が終わり、敵のうちの一隻に照準……発砲)
リ級A「あっ!?」ドガァン
リ級B「ヤラレタ……!?嘘だああああああ!!」
リ級C「くそ!!ハサミウチか!?落ち着け!まだ終わったわけじゃない!冷静に対処するんだ!」
リ級D「キカンの出力が上がらない!このままじゃやられる!」
川内「どこ見てんのさ!?こっちだよ!!」ニタァ
プリンツ(私の砲弾は敵の装甲を貫き、爆発、炎上した。敵は憎しみを込めてこちらを睨みつける。そこへすかさず川内達が攻撃を加えた)
暁「沈みなさい!!」
響「До свидания 」
プリンツ(砲弾の嵐と魚雷が残った敵へ襲い掛かる。今度は庇う駆逐艦が居ない。その攻撃で残りの敵がすべて撃破された。あるものは沈みゆき、あるものは炎上しつつ漂っている)
雷「やったわ!」
電「ふぅ……みんな無事でよかったのです」
リ級B「……!!」グググ
プリンツ「!!」
プリンツ(しかし、気がついた。炎上している敵、その一隻はまだぎりぎりで戦える。沈みかけの大破といったところか)
リ級B「みんなの……カタキ!!せめてイッシ報いて!!」
プリンツ(炎上しつつもその紅く発光する目をぎらつかせ、口から吐血しながら砲を構えた。その狙いは一番後ろを航行していた暁だ)
プリンツ(直感的にわかる。これは、あたる。意識する前に体が動いた。舵を切り、全速で暁のもとへと向かう)
585: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:28:02.21 ID:hW9oWmVK0
川内「!?暁!!」
暁「えっ?っ!!」
プリンツ(横目に見える。後ろを確認した川内が事態に気がついて声をあげた。暁も自分が狙われていることに気がついたが、もう遅い)
リ級B「死ねええええ!!」ドゴォン
プリンツ(敵が発砲し、砲弾が暁へと吸い込まれる。その寸前)
プリンツ「やああああっ!!」ガギィン
プリンツ(すべてがスローモーションに感じる。間に合った私の飛び蹴りが砲弾の側面を捉えた)
プリンツ(砲弾は火花を散らして軌道をかえ、暁を掠めるように飛んで海へ吸い込まれていった)
リ級B「なっ……馬鹿な……」
プリンツ(衝撃に顔を歪めるそいつに向かって、私は着地と同時に滑りながら敵へ向き直り、砲を構えた)
リ級B「……っ!!チ、チクショオオオオオオ!!」
プリンツ「……」ドゴォン
プリンツ(事態を把握したそいつの、怨嗟の絶叫が響き渡る。再装填が完了した私は、悪夢を終わらせてあげた)
プリンツ(爆音が響き、後には静寂が残された。波の音と炎の音が静かに響き、潮の香りと硝煙の匂いが漂う)
プリンツ(周囲を確認した私は、敵が全滅していることを確認する)
プリンツ「……よし、集合!!」
586: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:29:52.13 ID:hW9oWmVK0
「「「「……っ!!了解」」」」
プリンツ(呆然としていた川内達は、私の号令にハッとして集合する)
プリンツ「被害は?」
川内「あ、ありません」
プリンツ「良かった。……司令部へ連絡。こちら第三艦隊、戦闘終了。我が方に被害なし」ニコッ
提督『……こちら司令部。了解、よくやってくれた!帰投せよ』
プリンツ「了解、アトミラール。帰投します。……貴方のもとに。なんてね」
暁「あ、あの……オイゲンさん。ありがとうございました」
プリンツ「え?」
響「本当にありがとう、オイゲンさん。暁を守ってくれて」
雷「さすがに胆が冷えたわ……ありがとう、オイゲンさん!!」
電「ありがとうございます!!ぐすっ……本当に良かったよぅ……!!」
プリンツ「そんな!当たり前のことをしただけだよ!」
川内「オイゲンさん……ありがとうございました」
プリンツ「川内……」
川内「……ずっとひどい態度をとって、ごめんなさい。私、貴女を信用できないヤな奴だと思ってたけど、間違いでした」
プリンツ「いいよ、気にしないで。私も、あの時は誤解されるようなことをしていたからね」
川内「……ありがとうございます」
プリンツ「そんな顔しないで。アトミラールを心配していたんでしょ?……そうだ、仲直りの握手しようよ!」ニコッ スッ
川内「オイゲンさん……はい」ニコッ ガシッ
プリンツ「ん!じゃあ戻ろうか」
「「「「了解!」」」」
587: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:36:04.68 ID:hW9oWmVK0
~
提督「……ん、もうこんな時間か」
瑞鶴「あれ?ホントだ。時間が経つのが早いね……」
提督「少し休憩するとしようか」
瑞鶴「あ!ならお茶入れてくるね!」
提督「そうか?ありがたい。では俺は外の空気でも吸ってくるよ」
瑞鶴「ん、分かった」
提督(そろそろ日も暮れる時間帯だ。夕陽を見に行くのも悪くないなと歩いていた俺は、珍しいものを見た)
提督(駆逐艦娘は、滅多に巡洋艦以上の艦娘とくっついて仲睦まじく何かの雑誌を読んだりはしない)
暁「ねえねえ、プリンツ!これってどう思う?」
響「子供っぽいんじゃないかな?ねえ、プリンツ」
雷「私はこっちの方がいいわ!プリンツもそう思うわうよね?」
雷「全部いいと思うけど……プリンツさんはどれがいいと思いますか?」
プリンツ「うーん……暁のも雷のも悪くないと思うけど……」
雷「あ、司令官!」
プリンツ「えっ?アトミラール?」
提督「ああ、どうしたんだ、皆?」
雷「今、皆で秋のコーデを考えているのよ!」
提督「なるほどな」
暁「それよりも聞いてよ、司令官!今日のプリンツ、とてもすごかったのよ!」
響「うん。プリンツほどすごい艦娘は見たことないね。金剛さんは裏拳でやったことがあるって聞いたこともあるけど」
暁「でも見たのは初めてだわ!しかも飛び蹴りの方がかっこいいわよ!」
プリンツ「二人とも……恥ずかしいよ……」カァッ
雷「恥ずかしがることないわよ!称賛されて当然のことなんだから!」
電「そうですよ!」
提督「何があったんだ?」
暁「今日ね、敵の重巡に私が撃たれそうになったの」
提督「!?」
588: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/20(火) 00:38:24.08 ID:hW9oWmVK0
雷「そしたらね!プリンツが敵の砲弾を蹴り飛ばして暁を守ったのよ!」
提督「蹴り飛ばして……!?」
響「プリンツは暁を守ってくれた恩人だよ。感謝してもしきれない」
電「私もプリンツさんのような艦娘になれるように頑張ります!」
提督「そうか……プリンツ」
プリンツ「は、はい……?」チラッ
提督「暁を守ってくれてありがとう。感謝するよ」
プリンツ「いえ!仲間を守るって当然のことをしたまでですよ」
提督「それでも、だ。そうだ、これで今度みんなで間宮でも行ってくるといい」
暁「間宮券だわ!!」パァッ
提督「これからもよろしく頼むぞ、プリンツ」
プリンツ「アトミラール……ありがとうございます。私も、これからも頑張りますから。よろしくお願いしますね」ニコッ
提督「っ!こちらこそだ。では、俺は行くよ」ドキッ
プリンツ「はい、お疲れ様です!」
「「「「お疲れ様(なの)です!」」」」
提督「……」
提督(外へ出て、少しの間夕陽を眺める。ため息が出る美しさだ。そして執務室に戻ると瑞鶴が日本茶を入れて待っていた)
瑞鶴「あ、提督さん!お帰り!お茶入ってるよ」
提督「ああ、頂くよ」グイッ
瑞鶴「ちょっ!?熱くないの!?」
提督「……少しな。瑞鶴」
瑞鶴「火傷しちゃうよ?もう……何?」
提督「とびっきり苦いコーヒーを入れてきてくれないか?」
瑞鶴「コーヒー?そっちの方が良かった……?」シュン
提督「まさか!瑞鶴のお茶は最高だ!ただ、急に苦いコーヒーが飲みたくなったんだ。入れてきてくれないか?」
瑞鶴「そうかな……?えへへ。分かったよ。じゃあ少し待っててね」
提督「ああ、頼むよ」
提督(プリンツの笑顔に、どきりとした。胸の中でモヤモヤが渦巻いている。これを消すには、おそらくそれが一番のはずだった)
593: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:18:52.24 ID:BPm5EXxn0
~
提督(明後日には作戦発動だ。敵の威力偵察はもう止んだ。果たしてどのように評価したのだろうか)
提督(これは嵐の前の静けさなのだろう。だが、その静けさを利用しない手はない。皆には可能な限り休息をとるように言った)
提督(俺はと言えば、更新された天気予報や敵の戦力評価を踏まえて作戦の最終調整に忙しい)
提督「……もう昼か、食堂へ行くとしようか」
~
プリンツ「……そろそろかな」
プリンツ(第一の作戦『朝待ち合わせして一緒に行こう作戦』は順調に進んでいた。あの日以来、毎日朝は一緒に行っている)
プリンツ(そして、とうとう第二の作戦『手作り弁当作戦』が発動される。敵のせいで忙しくて発動が遅れたけれど)
プリンツ(この作戦はアトミラールとの関係をさらに深めるとともに、胃袋を掴む!それこそがオトコを堕とすテクニック!……らしい)
プリンツ「……!来た!」
提督「さて、今日の昼飯は何かな?」
加賀「……!提督だわ」
赤城「まあ、本当ですね。お昼休みかしら」
加賀「提t」
プリンツ「アトミラール!」
提督「ん?プリンツか。どうした?」
プリンツ「はい、これをどうぞ!」
提督「何だ、これは?」
プリンツ「お弁当です!」
加賀「!?」
594: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:20:39.24 ID:BPm5EXxn0
提督「弁当!?いいのか?」
プリンツ「ええ、どうぞ!アトミラールのために作って来ましたから!」
提督「そうか、それはありがたい。どれどれ、何かな?」ニコッ
プリンツ「……♪」ニコニコ
プリンツ(ふふふ……知ってますよ?ちゃんと青葉に聞きましたから。日本じゃお弁当箱はただの箱じゃない!)
プリンツ(そう、それは一つの料理になると!味はもちろんのこと、見た目もまた重要!だから頑張って考えた!)
プリンツ(美味しくて栄養バランスも理想的に!かつ見た目的にも色とりどりで美しいものを!)
プリンツ(その結果、サンドイッチに決定しました!それにうさぎリンゴもつけて、飲み物の準備もバッチリ!完璧なはず……!)
提督「おお、サンドイッチか!しかも食パンじゃない。店で買うものみたいだな!」
プリンツ「日本じゃほとんど食パンですからね。コンビニとか」
提督「ああ、subwayとかに行かないとないな。……おお、それにリンゴまで!飾り切りも上手いものだ。早速いただくとしよう。いただきます!」
プリンツ「えへへ……どうぞ、召し上がれ!」
提督「どれどれ……美味しい!そこらで売ってるのよりはるかに美味いぞ!売れるんじゃないか、これは?」
プリンツ「そんなぁ……褒め過ぎですよぅ……」テレッ テレッ
提督「うむ、美味しい!……ありがとう、プリンツ。わざわざ弁当を作ってくれて」
プリンツ「どういたしまして!実は飲み物もあるんですよ?今日は紅茶です」
提督「はは、至れり尽くせりだな」
加賀「……頭に来ました」ムスッ
赤城「なるほど……弁当ですか。そういえば久しく作っていませんでしたね」
595: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:24:02.11 ID:BPm5EXxn0
~
プリンツ(今日もお昼の時間がやってきた。昨日はサンドイッチだったし、今日はおにぎりだ。お米は日本人のソウルフードだからね!)
プリンツ(色彩が単調だけど、おにぎりはこんなものだから仕方ない。お新香があるからなんとかなるはず)
提督「……」スタスタスタ
プリンツ「……あ、アトミr」
加賀「提督、これを。私の自信作です」スッ
提督「おお、今日は加賀か。最近は弁当が流行っているのか?」
プリンツ「!?」
プリンツ(加賀さん……どうしていきなり……!先を越された!もしかして、昨日のを見ていたから!?)
加賀「かもしれませんね。どうぞ召し上がってみてください」
提督「ああ、頂くよ。……釜飯か!暫く食べていなかった!」
加賀「そうですか?ならよかったです。久しぶりの釜飯を堪能してください」
提督「君の料理だ、美味しいだろうな。どれ、いただきます……ああ、美味しい!さすがだな、加賀」
加賀「言ったでしょう?自信作だと。味わって食べてくださいね。丹精込めて作ったのですから」
提督「やはり日本食が一番だな。身に染みるよ」
プリンツ「っ!!」ガーン
プリンツ(日本食が……一番……!!そんな……)
加賀「でしょう?言ってくだされば、いつでもご用意しますからね」チラッ クスッ
プリンツ「!!」ハッ
提督「ありがとう、加賀」
加賀「は、はい……ふふっ」フニャッ
プリンツ「……!!」ダッ ギリッ
596: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:25:08.22 ID:BPm5EXxn0
~
鳳翔「ええ!?日本食を教えて欲しいですか?」
プリンツ「はい!お願いします!まずは何かお弁当にできるものを!お弁当を作りたいんです!」
鳳翔「うーん……お弁当ですか……なら、幕の内弁当を目指しますか?」
プリンツ「まくのうちべんとう、ですか?」
鳳翔「そうですよ。日本の弁当と言えばおそらくそれを思い浮かべる人が多いでしょう」
プリンツ「! はい、是非それをお願いします!」
鳳翔「よろしい!では、ちょうど夕食も近いですし一緒に作ってみますか」
プリンツ「よろしくお願いします、先生!」
~
プリンツ「……」チラッ
加賀「……」メヲトジ
赤城「もぐもぐ」
瑞鶴「……?何かあったの、あの二人」
愛宕「さあぁ?分からないけれど……何か変な緊張感があるわね」
高雄「食べにくいことこの上ないわ……」
翔鶴「うっ……胃が……」
プリンツ「……っ!」ハッ タッタッタッ
加賀「……?」チラッ
高雄「あ、動きがあったわよ」
愛宕「どうでもいいから早く終わってほしいわぁ……」
提督「……へえ、日本食を勉強したのか」
プリンツ「はい!それでマクノウチ弁当を作ってみたので、食べてみてくれませんか?」
提督「分かった。ありがたくいただくよ」
加賀「!?」ガタッ
597: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:27:37.68 ID:BPm5EXxn0
「「「「!?」」」」
プリンツ「はい、どうぞ!これです!」
提督「どれどれ、いただきます。ふむふむ……ほうほう……なるほどなるほど……美味い!」
プリンツ「ホントですか!」
提督「ああ!焼き鮭の味加減が絶妙だ!煮物も理想的な柔らかさだし、味もよくしみ込んでいる!卵焼きが甘くないのも俺好みだ!」
瑞鶴「!へぇ……提督さん、卵焼き甘くないのが好みなんだ……ふぅん」ニタァ
愛宕「甘党だから甘いのが好きかと思っていたけど……いいこと聞いたわぁ」ニタァ
加賀「……卑怯者。正々堂々勝負することもなく、このようなだまし討ちなんて。腹が立ちました」ギリッ ボソリッ
プリンツ(加賀さんは目を細め、歯を食いしばりながらこちらを睨みつけていた。大方、私がアトミラールを迎えに行ったことが気に食わないのだろう)
プリンツ(加賀さんだって、気がつけばそうできた。やらなかった自分が悪い。それに、恋は戦争。油断した奴から死んでいくんだ)
プリンツ(アトミラールを誰にも渡すつもりはない。悪く思わないでね)クスッ
加賀「……!!」ピキッ
提督「それにしても、料理が上手いものだな。どれも凄くおいしいよ」
プリンツ「あ、そうですか?昨日頑張って練習した甲斐がありました!」
提督「昨日!?一日練習しただけでこんなに美味く作れるのか……」
プリンツ「鳳翔さんのおかげですよ。鳳翔さんに習ったんです」
提督「ああ、通りで!鳳翔の面影があると思った!だが、これは君の味だな。何か工夫したのか?」
プリンツ「そうですか?うーん……もしかしたら調味料の違いかもしれませんね?」
提督「なるほど……これがドイツの味なのかもな」
プリンツ「そうですね。それに、とっておきのスパイスを使いましたから」
提督「とっておき?それは興味深い!何なんだ?」
プリンツ「……気持ちですよ。アトミラールに喜んでほしいって私の願いです」ボソリッ
提督「!?そ、そうか……!!」
プリンツ「ふふっ」ニコッ
提督(耳元でそう囁かれる。一気に味が分からなくなった。プリンツの顔が直視できない。何とか平静を装って完食する)
提督「ごちそうさま。では、仕事に戻るよ」
プリンツ「お粗末さまです。お手伝いしましょうか?」
提督「いや、明日から作戦開始だ。今日はゆっくり休んでくれ」
プリンツ「……そうですね、分かりました。ではお仕事頑張ってください」
提督「ああ、ありがとう。じゃあな」
プリンツ「はい、また後で」
提督(そうだ、明日には作戦が発動される。集中しろ。スイッチを切り替えるんだ。……失敗は許されない。人類の悲願なのだから)
598: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:45:26.22 ID:BPm5EXxn0
提督「これよりい号作戦を発動する!第一艦隊へ連絡!突入開始!」
長門『了解!ビッグ7の力、存分に知らしめてやろう!』
提督「第二・第三艦隊へ連絡!第一次攻撃隊を発艦させろ!目標は敵艦隊及び空戦力だ!第一艦隊に道を切り開け!」
赤城『第二艦隊、了解いたしました。一航戦が世界最強であることを証明して見せましょう』
翔鶴『第三艦隊、了解です!必ずや勝利の栄光を!五航戦の活躍に期待していてください!』
提督(とうとう始まった。い号作戦が発動された。目標はガダルカナル及びツラギの敵拠点の撃破だ)
提督(少し前から東部戦線で友の指揮の陽動攻撃がAFに対して実行されている。すこしでも戦力がそっちに流れてくれればいいのだが)
提督(敵もガダルカナルとツラギを失ったらまずいことになるとは気がついている。確認された敵戦力は今までで一番強力だった)
提督(だが俺は信じている。我ら帝国海軍の前にはいかなる敵であろうとも立ちはだかることはできないのだと)
~
赤城『我が航空隊はソロモン海にて敵艦隊に攻撃を敢行!!現在までに判明せる戦果は~』
翔鶴『我が航空隊はアイアンボトムサウンドにて敵艦隊へ攻撃を敢行しました!!敵の損害は~』
長門『第一艦隊、突入成功!!これより敵拠点へ攻撃を開始する!!』
提督(作戦は順調だった。第一次攻撃は大変満足できる結果となってくれた。しかし、すべてが計画通りに進行しているわけではない)
提督「それは本当か?」
伊168『うん。少なくとも重巡四隻を含む中規模の敵艦隊が東部戦線からそっちへ向かったよ』
提督「分かった、報告ありがとう。引き続き偵察を頼む」
伊168『了解!任せて!』
提督「さて、どうするか……」
599: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:47:18.05 ID:BPm5EXxn0
~
提督「という訳だ。現在、陸奥率いる第四艦隊と大鳳率いる第五艦隊が第二次攻撃を実行しているが、大きな障害たりうる」
長門「そうか、厄介だな……」
提督「だが、位置関係や予想される敵の航路から、今すぐ出撃すれば合流前に会敵することが可能だ」
翔鶴「なら、私が出ましょうか?第三艦隊を率いて撃破して御覧に入れましょう」
提督「いや、第一から第三艦隊までは再補給の後すぐに三次攻撃へ向かってもらう。敵拠点へのダメージはまだ足りない。計画の遅れは致命的になる」
赤城「では、どういたしますか?」
提督「各艦隊から重巡と駆逐艦を引き抜いて、臨時に特務戦隊を編成する。そうだな……編成はこれでいい。これで対処する」
長門「分かった。では各員に通達する」
翔鶴「了解です」
赤城「分かりました」
提督「うむ、頼んだぞ」
~
加古「ふぁ……」
古鷹「加古!居眠りしないで!」
加古「起きてるよぉ」
プリンツ(敵の増援艦隊の到着を阻止するために私達が派遣されることになった。規模は重巡四隻を含む中規模の艦隊だとか)
プリンツ(それに対してこちらは重巡四隻と駆逐艦二隻。数の差はあるけれども私たちの練度なら十分戦える)
プリンツ「!」ザワッ
プリンツ(この感覚……殺気が凄い。本当に重巡四隻が主幹なの?)
プリンツ「……敵は近いと思います」
愛宕「あらぁ。何で分かるのかしら?」
夕立「私もそう思う。けど、この感じ……」
時雨「どうしたんだい?」
夕立「重巡四隻どころじゃないっぽい……?」
600: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:50:03.69 ID:BPm5EXxn0
古鷹「……っ!!敵艦隊発見!!」
加古「……私が寝ぼけてるだけかもしれないけどさ、戦艦四隻も見えるのは何かの間違い?」
愛宕「寝ぼけてるだけならよかったわねぇ……生憎、これは現実よ。悪夢みたいだけどね」
古鷹「情報と違う……戦艦が四隻……!?こんなの、どうすればいいの……!?」
時雨「……どうするんですか、古鷹さん」
古鷹「くっ……司令部へ連絡を。ここで食い止めなくては作戦失敗に繋がります。それに第四、第五艦隊が撃破される事態になるかもしれません……!!」
加古「ってことは……戦うの?」
古鷹「せめて戦力を削れるだけ削る!!そうすれば皆ならきっとやってくれる……!!」
夕立「うふふ。重巡四隻と駆逐艦二隻で、戦艦四隻と重巡六隻を含む敵の大艦隊と戦うとか……燃えるっぽい!!」
プリンツ「アトミラールの栄光の為、奴らの血で海を満たしましょう……!!」
愛宕「やるしかないってことかしらねぇ……高雄、私帰れないかも……」
時雨「縁起でもないことは言わないほうが良いですよ、愛宕さん」
古鷹「何も全滅するまで戦うわけじゃありません!回避を最優先にして戦えるだけ戦ったら撤退します」
夕立「えー!?そんなんじゃ勝てないっぽい!!」
古鷹「勝つのは何も敵を倒すことだけじゃないよ!!敵戦力を削ぐだけでも十分貢献になるんだから!!」
古鷹「何より、私たちが沈んだら戦力が大幅にそがれる!!そうなればこの作戦だけじゃなくて戦争全体に響く!!」
プリンツ「なら沈まなければいいだけです。そして敵も壊滅させる。両方こなさなくてはならないのが私たちの辛いところですね」
プリンツ「けど、覚悟はできてます。それに、私にならできる。突撃して皆殺しにしてやりますから、援護を」
夕立「それに賛成っぽい!!私も行くわ!!」
古鷹「ちょっ!?何を言ってるの!?」
プリンツ「最大戦速!!フルタカさん、援護して!!」
夕立「お願いします!!」
古鷹「ま、待って!!あぁ……もう!!援護射撃!!覚悟を決めるよ!!」
601: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 00:55:45.62 ID:BPm5EXxn0
~
タ級A「ヤツら二隻だけでトツゲキしてくるぞ!!」
タ級B「愚か者メ!!他の奴はホウッテおけ!!重巡のシャテイに入ったらシュウチュウホウカで沈めてやる」
「「「「リョウカイ」」」」
タ級B「……ヨシ!Make ready (構え)! Take aim (狙え)!……Shoot (撃て)!!」ドゴォン
ドンドンドゴォンドン
~
プリンツ(敵が発砲する。けど、私の頭は氷のように冷静だった。敵の砲弾の軌道が見えた。数発が直撃コース)
プリンツ(敵はかなり優秀だ。初撃から当ててくるとは。私は少し進路を変え、体を逸らせて砲弾を避ける)
プリンツ(この前、暁を守った時も感じた自分以外がスローモーションになったような感覚)
タ級A「ハズシタ!?」
タ級B「マサカ。落ち着け。りろーどスルンダ」
プリンツ(敵は冷静に再装填する。早いな。けど全速力で進めば問題ない。装填が終わるまでの間に十分近づける)
古鷹「くっ……!!」
加古「あの二人で狙いにくい!!」
愛宕「もう!!」
古鷹「誤射を避けるように!!牽制できればいい!!……撃て!!」ドゴォン
ザブン ザブン ザブン
ネ級A「残りのテキがハッポウしてきました」
タ級B「カマウナ。重要なのはセッキンチュウのやつらだ」
プリンツ(古鷹たちの援護射撃が始まったけど、距離があるうえに私達が邪魔になっていて、敵に当たることは無かった)
602: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:02:32.29 ID:BPm5EXxn0
夕立「プリンさんプリンさん」
プリンツ「ぷりん?」
夕立「皆、右利きだよ。私が面舵で回り込むからプリンさんは取り舵ね」
プリンツ「ああ、私のこと?分かった。……大丈夫?」
夕立「大丈夫だ、問題ないっぽい!!」
プリンツ「そう。じゃあよろしくね」
夕立「うん!!」
プリンツ(そうこうしているうちに、敵は再装填を終えた。照準されている。針のような視線がこちらを刺すみたいだ)
プリンツ(狙いを定めて……発砲するなら……今)グイッ
ドゴォン ブンブンブゥン
プリンツ(示し合わさなくても夕立とは分かり合っていた。敵の発砲の瞬間、弾けるように二手に別れる)
プリンツ(私たちは、敵を中心に円周をなぞるように進む。それに数瞬遅れて、鋼鉄の嵐が私と夕立が居た空間をずたずたに引き裂いた)
タ級A「バカな!?」
タ級C「フザケヤガッテ!!りろーど!!」
タ級B「Fire at will (各自で自由に攻撃)!!水雷戦隊はクチクカンを!!打撃部隊はジュンヨウカンを!!」
タ級D「ナンナンダコイツラ!!」
プリンツ(今度こそ驚きの表情を浮かべる敵だが、それでも落ち着いて展開していく。だが、)
夕立「あははっ!!さあ、ステキなパーティーしましょ!!」ドボン ドン
プリンツ「攻撃開始、Feuer!!」ドボン ドボン ドゴォン
プリンツ(魚雷を発射しつつ、牽制の砲撃を加える。相手の行動をコントロールして、魚雷へ追い込む)
リ級A「アブナイ!!」
ネ級A「ナニシテル!?止まるな!!ギョライが来る!!」
リ級A「エッ?」ゴォッシャァン
イ級A「グギャアアアア!!」ゴォッシャァン
リ級B「アッ」ゴォッシャァン
プリンツ(数本が敵に吸い込まれ、大きな水柱をあげる。沈んだのは重巡二隻に……駆逐艦二隻か。好都合)
603: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:07:17.50 ID:BPm5EXxn0
プリンツ(肉薄したら戦艦より手数の多い巡洋艦や駆逐艦の方が怖い。私は敵の反撃を避けつつ面舵、敵へと突っ込んでいく)
リ級C「なんてヤツだ!!クルゾ!!」
ネ級A「ウテウテウテ!!」
ネ級B「ムリダ!!味方にアタルゾ!?」
リ級D「シャセンに立つな!!イドウしろ!!」
プリンツ(慌てふためく敵、なんとか反撃しようとしている。抵抗なんて、無駄なのに)
プリンツ(敵の真っただ中に飛び込んだ私に対して、敵は誤射を恐れて迂闊に発砲できない)
プリンツ(射線はすべて把握している。私はすぐそばのリ級に肉薄する)
リ級C「ウワアアアアアア!?」
プリンツ(私と目が合った獲物は、恐怖に顔を歪めて砲を構える。本能的に構えた主砲は、その練度の高さをうかがわせる正確さと素早さ)
プリンツ(私は半身になって身を逸らす。続いて砲声、風切り音。分かっていた。敵は焦っている。狙いをつけたらすぐに撃つ)
リ級C「!!??」
プリンツ(さらに接近。手が届きそう。一斉に発砲して、どれが当たればなんてのは必要ない距離)
プリンツ「グラーツ!!」ドン
リ級C「ダレカ!!タスっ」ボシュッ
プリンツ(ぎりぎりまで近づいたところで一番砲塔『グラーツ』を撃つ。リ級の首から上が消し飛び、血が噴き出す)
604: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:10:26.99 ID:BPm5EXxn0
プリンツ(スプリンクラーのようなそれを浴びながら、崩れ落ちた首なし死体の脇を通り過ぎる。膝を曲げ、姿勢を落としつつ急ターンで振り向き)
プリンツ「ブラウナウ!!」ドン
リ級D「っ……えっ……?」シュボッ
プリンツ(こちらに狙いをつけていた別のリ級へ向けて発砲。この距離なら重巡程度の装甲は意味がない)
プリンツ(放たれた砲弾は相手の胸を貫き、膝を折った敵は不思議そうにかつて自分の胸があった箇所に手を伸ばし、触れようとした)
リ級D「……がふ。……」バシャッ
ネ級B「モラッタアアアアアア!!」ドゴォン
プリンツ(そこで、左にいたネ級が発砲。砲弾はこのままだと直撃コース。が、曲げていた膝を伸ばし、回転ジャンプ)
ネ級B「ナニイイイイイイ!?」
プリンツ(アイススケートで言うところのアクセルジャンプだ。誰かが私たちを見て水上スキーと言ったらしい)
プリンツ(だけど、それは間違っている。これはアイススケートなんだ。私達は大海原という特別な舞台で踊る戦乙女とでも言おうか!)
プリンツ「インスブルック!!」
ネ級B「あぐっ……つぅ……」バシャ バシャン
プリンツ(回転中、敵を捕らえる刹那。しかし私には長い。狙って発砲、そして着弾。腹部を貫かれたネ級は、そのまましりもちをつき後ろへ倒れ込む)
プリンツ(視界がゆっくりと回転する。飛び散る血肉、弾ける水飛沫、たゆたう硝煙。そのすべてがゆっくりな世界)
プリンツ(少し離れた所では夕立が敵の駆逐艦や軽巡相手に暴れている。この分なら問題ないだろう)
605: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:16:01.15 ID:BPm5EXxn0
ネ級A「!!」ニタァ ドゴォン
プリンツ(そして気がつく。最後の重巡が狂気の笑みを浮かべてこちらを捉えている。着地の瞬間を狙われていた。発砲される)
プリンツ(そのうち一発がどうあがいてもよけられない。相手は勝利を確信していた。このままなすすべもなくやられる?この私が?)
プリンツ(はっ!そんなわけない。私は今、全力で恋愛しているんだ!こんなところで死んでやるものか!)
プリンツ「ウィーン!!」ドンッ
ガキィン
ネ級A「っ」バスッ ドガァン
プリンツ(敵が発砲し、事態を把握した直後、私も発砲した。砲弾と砲弾がゆっくりと近づいていき、そして激突)
プリンツ(どうしても避けられなかった一発は弾道を下にずらして海へ消えた。そして上から撃ちおろした私の砲弾はそのまま弾道を上に、つまり敵の方へずれた)
プリンツ(そして敵の砲を貫く。それが内側から破裂するように膨れ上がり、亀裂から閃光が漏れた)
プリンツ(やがてそれは大きな爆炎となり噴き出し、勝利の笑みを浮かべたままの敵を飲み込んだ)
プリンツ(私は着水し、勢いを受け流すために滑りながら何回か回転して止まる。残された戦艦四隻が呆然と立ちすくんでいた)
プリンツ(私はゆっくりとそちらへ向き直る。敵戦艦はもう少しで再装填が終わる。敵の目は私に釘つけだった)
タ級B「……お前は、ナニモノだ?シニガミなのか?」
プリンツ(震える声、話せない目線、表情は何とか取り繕っているが、恐れを感じているのは確かだ)
プリンツ「……私たちが出港するとき、誰もが私達を一目見ようとする。望遠カメラまで用意して、ご苦労様だよね」
タ級B「……?」
プリンツ「だけど、それはただの移動。観艦式でさえも行進でしかない。この戦い……いや、踊りこそが本番だと思わない?」
タ級B「何をイッテいる!?」
プリンツ「私は死神なんかじゃない、ただの恋する乙女だよ。そう、アトミラールに仕える戦乙女(ヴァルキュリヤ)!!」
タ級B「ヴァルキュリヤ!?意味がワカラナイぞ!!」
プリンツ「北欧神話って知らないか。まあいいや。これは私からアトミラールに捧げる踊りなの!」
プリンツ「だからさ、私と一緒に踊ろうよ!すべてはアトミラールのために!あの女がいなくたって、戦艦四隻ぐらい余裕で撃沈だ!」サッ
606: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:18:44.59 ID:BPm5EXxn0
タ級B「!?アクマ!!シニガミめ!!」ガチャリ
プリンツ(敵がいよいよ再装填を完了し、撃とうとしたその瞬間、砲弾が奴らに降り注ぐ)
古鷹「オイゲンさん!!無理しないで!!」
プリンツ(古鷹さんたちの援護だ。接近してきていた艦隊の仲間が、斉射をくらわせる。完璧、予想通り)
タ級B「ナニ!?」
タ級A「ヤラレタ!?テナイ!!」
プリンツ(敵は混乱に陥り、視線を艦隊に向ける。その隙を逃さない。姿勢を低くして突撃。まずは一番近いお前だ!)
タ級C「イヤアアアアアア!!」
プリンツ(それに気がついた敵は私に狙われていることに気がつくと絶叫する。さっきと同じだ)
プリンツ(砲撃をジャンプでよけて、やつの真上へ。体をひねり、魚雷発射管を真下の敵へ。魚雷を発射する)
タ級C「ヒイッ!?」
プリンツ(向かってくる魚雷を、しかし敵はかがんで避けようとする。けどまあ、当てようと思っていたわけじゃない)
プリンツ(再装填が済んでいるのはグラーツだけだ。それじゃ足りない火力を補うための魚雷だ)
プリンツ「Bye!」
タ級C「マ、マッテ!!」
プリンツ(グラーツが火を噴き、砲弾が魚雷を貫く。爆発が他の魚雷を誘爆させ、敵戦艦を吹き飛ばした)
プリンツ(爆風で加速しつつ着水、それ以上煽られないように姿勢を低くして旋回。次の生贄はどれにしようかな。……あ)
607: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:22:04.89 ID:BPm5EXxn0
タ級A「ホントウにバケモノだ!!」
タ級B「オチツケ!!当たればシヌんだ!!あいつさえ何とかすればカテル!!」
タ級D「ホカはザコだ!!キニスルナ!!」
夕立「それは酷いっぽい。夕立とも遊んでよ」
タ級D「ナッ!?」
夕立「うふふっ!」ドン
タ級D「ガッ!!」
プリンツ(真後ろに接近していた夕立に驚愕した敵、それに対して腹部に砲撃を加える夕立。しかし装甲を抜くことはできない)
タ級D「っ……ナメルナ!!っ!?」
夕立「歌って見せてよ……!!」ニタァ ウィィィィン
プリンツ(衝撃に前かがみになり、しかしそう怒声を張り上げて顔をあげた敵の前に突き付けられたのは点火した魚雷のスクリューだった)
タ級D「ギャアアアアアア!!」グチャグチャグチャ
夕立「あはははははは!!」
プリンツ(飛び散る骨肉、響く悲鳴と笑い声。私でも背筋が冷たくなる)
夕立「すごい!お歌が上手ね!けど残念、もう行かなくちゃ」グイッ
タ級D「オオオオオオ!!オオオオオオ!!」
夕立「じゃあね、それはプレゼントっぽい!」バラバラ
プリンツ(魚雷を相手に押し付けた夕立は爆雷を投げつける。もはや言葉を発することさえできなくなったそいつが、爆発に巻き込まれて消え去ったのはその直後だった)
608: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:27:09.18 ID:BPm5EXxn0
~
タ級A「チクショウ!!アクマドモメ!!」
タ級B「ハズスナヨ!!ハズシタラオワリダ!!」
タ級B(クソッ!!コンナハズデハ……!!片や氷のヨウナ冷たいビショウの重巡!!片やクルッタようなエミをウカベル駆逐艦!!)
タ級B(キョウツウしているのは、フタリトモ仲間のチニマミレて濃厚なシノ匂いをタダヨワセテいるということだ!)ヒューン
ザブン ザブン
タ級B「っ!?」
タ級A「ぎゃあ!!」ドガン
タ級B(シマッタ!!ほかの奴らをワスレテイタ!!ここまでセッキンサレテいたか!?)
タ級A「イヤダ!!シニタクナイ!!シニタクナイ!!」
タ級B「マテ!!逃げるのかオクビョウモノ!!」
プリンツ「……うふふ」
夕立「あはは!そろそろフィナーレっぽい!」
タ級B「このワタシガ……このワタシガアアアアアア!!」ドガァン
プリンツ「……残念」ヒョイ ザパン
タ級B「……っ!あ……あなた……」
プリンツ「Feuer!!」ドゴォン
夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげる!!」ドン
609: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:29:36.41 ID:BPm5EXxn0
~
プリンツ「ふぅ……次……っと!?」
夕立「やったー!!プリンさーん!!」ダキッ
プリンツ(最後に何事か呟いた気がするが、気にしても仕方がない。逃げた一隻を追おうとした瞬間、夕立が飛びついてきた)
夕立「すっごく楽しかったよ!!こんなの初めてっぽい!!」
プリンツ「そう?でもあと一隻残ってるよ」
夕立「ああ、あいつはどうでもいいっぽい。もう終わってるから」
古鷹「撃て!!」ドゴォン
プリンツ「!!」
タ級A「っぁ!?」ドガァン
プリンツ(どういうことか真意を問おうとした時、砲声が響いた。古鷹さんたちだ。そして逃げていく敵に着弾し、相手は沈んでいく)
夕立「さすが古鷹さん、命中!」
プリンツ「そうだね、良かった。これでアトミラールも喜んでくれるよ」
古鷹「二人とも!!」
プリンツ「古鷹さん」チマミレ
夕立「何かしら?」チマミレ
古鷹「ひっ!?ぶ、無事で良かった……!!けど勝手に突撃するなんて!!旗艦の命令にちゃんと従って!!」
夕立「ごめんなさぁい……でも、夕立たちのおかげで大勝利っぽい!!だから褒めて欲しいかも。ね、プリンさん?」
プリンツ「けど、確かに待ってって言われたのに突撃しちゃったから……ごめんなさい。軍法会議ですか?」
夕立「えー!?そんなぁ……夕立、頑張ったのに怒られるっぽい……?」
610: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/22(木) 01:33:02.04 ID:BPm5EXxn0
古鷹「い、いや、そこまではしないけど……でもあんな無茶な戦い方!!」
プリンツ「ごめんなさい……」
夕立「うー……ごめんなさい……」グスッ
古鷹「……とりあえず任務も完了したし、帰還しようか。二人ともよく頑張ったけど、無茶はしない事!!」」
プリンツ「はい、ありがとう」ニコッ
夕立「ホント!?やっぱり古鷹さん優しいっぽい!!ありがとうございます!!」
愛宕「で、でも、その前にぃ……その返り血をどうにかした方がいいんじゃないかしらぁ?」
プリンツ「ああ、確かにそうだね」
夕立「うへぇ……早く帰ってお風呂に入りたいっぽい」
プリンツ(とりあえず、海の水で体を洗う。べったりして気持ち悪いけど、敵の血よりは全然いいよね)
プリンツ(私は、帰還したらアトミラールがどんなに喜んで褒めてくれるだろうかと考えながら、舵をポートモレスビーへ切った)
~
カ級「……!!アノTF21がたった六隻……イヤ、二隻に……!?ホンブへレンラクしなくては……」
615: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:06:15.14 ID:hgLaaamD0
~
提督「そうか……にわかには信じがたいな……」
古鷹「ですが、本当にそうだったんです」
提督「戦艦一隻及び重巡四隻の単独撃沈が確実。戦艦二隻と重巡二隻が共同撃沈。それに軽巡以下の戦果多数、か……」
古鷹「プリンツ・オイゲンは戦闘中にまるで別人のように好戦的になりました。圧倒的な戦力差に物怖じすることなく突撃していきましたから」
古鷹「以前の彼女も優秀でしたがここまででは……正直、なんといえばいいのか……何か映画でも見ている気分でした」
提督「分かった。ともかく、ご苦労だった。君たちのおかげで我々は窮地を脱した」
古鷹「はい、ありがとうございます!」
提督(プリンツが……だが、そういえばあの男を殴り飛ばした時……プリンツの動きは尋常じゃなかった)
提督(艦娘とはいえ、対人戦闘は専門でないはずなのに。組手でもそこまでの成績ではなかった。一体プリンツに何があったのだろうか?)
提督(だが、今はまだ作戦の最中だ。そんなことを考えている暇はない。そろそろ、終わりの時間のはずだった)
~
タ級『ソロモン海でテキカンタイとコウセンチュウ!!我らユウセイ!!ソロモン海でゲキタイできます!!』
飛行場姫「ソウカ、分かった。引き続きガンバッテくれ!」
タ級『了解!』
飛行場姫「っ……はぁ……はぁ……うふふ……タエタ……タエキッタ!!ジョウホウではこれ以上のコウゲキはない!!」
飛行場姫「ぽーともれすびーの敵艦隊はマンシンソウイ!!ソロモン海のカンタイをヌケハシナイ!!」
飛行場姫「あははははは!!ヤッタワ……!!三日三晩!!キビシイ戦いだった……けど、タエタ!!私達のショウリよ!!」
飛行場姫「皆のギセイは無駄じゃなかった!!ここは南部でのハンコウの要になるわ!!ミテいてね、皆!!」
616: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:08:54.40 ID:hgLaaamD0
リ級「タイヘンです!!敵の……敵のカンタイがセッキンチュウです!!」
飛行場姫「なぁっ……!?バカナ!!ドコから!?」
リ級「北カラです!!カクニンされたのはコンゴウとハルナが主幹のカンタイ!!共に太平洋戦線にイタはずの奴らです!!」
飛行場姫「バカナ……トチュウデ転進したというの……!!直援カンタイは消耗している……マモリきれそうなの?」
リ級「ザンネンながら厳しいかと……しかも、ソロモン海のカンタイは今からヒキカエシテきてもマニアイません……ドウシマスカ、りこりす様!?」
飛行場姫「ああ、ソコクよ……サイゴまで戦うしかないデショウ……!!ワレワレの誇りをミセツケテやれ!!」
リ級「リョウカイしました……!!」
飛行場姫「ゾウエンカンタイさえ……ゾウエンカンタイさえ到着していれば!!オノレ……ハイイロのアクマめ!!」
~
金剛「涼しいネー!対電探用の隠蔽シートはToo hot デシタ」
榛名「そうですね。ですが、その甲斐あって発見されなかったようです。敵の直援は見当たりません!有力な敵艦隊は全部ソロモン海のはずです!」
金剛「Enemyはもう勝ったつもりでしょうネ。けど、これでFinish!?な訳無いデショ!!この戦いで決めてやりマス!!提督の期待に応えるためにも、頑張りマスヨー!!」
榛名「はい、お姉さま!!榛名、全力で参ります!!……っ!!敵艦隊が出てきました!!」
金剛「Good!!敵はボロボロデース!!みんなの頑張りを無駄にしないためにも、Do our best!!やっつけますヨ!!突入!!」
榛名「はい!!勝利を、提督に!!」
金剛「Burning love!!」
618: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:11:08.49 ID:hgLaaamD0
~
提督(作戦は成功に終わった。正攻法で敵を攻撃し、撃破しきれないと判断した場合は十分な損害を与えた後、わざと敵艦隊を引き付けつつ戦場をソロモン海まで下げる)
提督(その間に東部戦線から高速艦で編成した打撃艦隊を南下させ、敵拠点に止めを刺すという内容だった)
提督(しかし、敵艦隊の戦力が予想以上だった。特務戦隊、特にプリンツの活躍が無くては作戦の成功はなかっただろう)
提督「よって金剛に乙種勲章を授与する。ご苦労だった」
金剛「ありがとうございマース!!もっと頑張るから目を離しちゃNo!なんだからネ!」
提督(そして今、勲章の授与式が行われている。皆、本当に良く頑張ってくれた。何より、戦死者がでなくてよかった)
提督「うむ。……ドイツ海軍、遣日部隊所属、プリンツ・オイゲン」
プリンツ「はい!」
提督(プリンツが大きな声で返事をする。その顔には微笑みが浮かばせ、瞳を期待にキラキラと輝かせている)
提督「君は本作戦において、非常に重要な役割を果たした。特に、特務戦隊として敵の増援部隊を撃破した際の貢献は計り知れない」
提督「よってプリンツ・オイゲンに甲種勲章を授与する。ご苦労だった」
「「「「!!」」」」
プリンツ「アトミラール……Danke schön!!とても嬉しいです!!これからも引き続き頑張ります!!」
提督(初の外国艦娘に対する甲種勲章授与にざわめく。だが、当然のことだ。それほどの活躍をしてくれた)
提督(プリンツはまるで無垢な少女のように愛らしい満面の笑みを浮かべ、そして誇らしげに胸を張って見せる)
プリンツ「……♪」ジッ
提督「っ!」
提督(微笑ましく思っていたところで、唐突にプリンツが少しだけ顎を引き、若干上目遣いの流し目でこちらを見つめる)
提督(誘うような微笑。先ほどまでの可愛らしい少女から一転、まるで妖艶な大人のような色香を漂わせる)
提督(その妖しく輝く緑の瞳に吸い込まれそうになったところで、正気に戻った)
提督「う、うむ。期待しているぞ。以上で授与式を終了する。皆、本当にありがとう。よく頑張ってくれた」
提督「短いが、皆には休暇が待っている。ゆっくりと休んでいくれ。以上、解散」
長門「敬礼!」
提督(危ないところだった。あのままプリンツを見つめていたら、一体どうなっていたのだろうか。いや、考えるな)
提督(さて、執務室へ戻らなくては。作戦の評価を纏めて提出するまでが俺のい号作戦だ)
提督(これからはまた忙しくなる。まあ、艦娘たちの命の危険がないだけで作戦中よりだいぶマシだ)
619: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:12:51.61 ID:hgLaaamD0
~
プリンツ(授与式の後、祝宴が開かれた。攻撃艦隊の皆は美味しい料理とお酒を楽しむことができた)
プリンツ(アトミラールは少し食べただけで、すぐにいなくなってしまった。お話ししたかったけど、いろいろあってできなかった)
プリンツ『アトミラー』
金剛『Hey!!提督ぅー!!お久しぶりデース!!貴方の金剛が戻って来ましたヨ!!』
榛名『提督、お久しぶりです。榛名がお酌を務めさせていただきますね』
提督『久しぶりだな、金剛、榛名。二人とも、壮健そうで何よりだ。できればゆっくり話をしたい報告書を書かなくてはならないんだ』
金剛『No!!そんなぁ……』
榛名『そうですか……そうですよね……榛名にお手伝いできることはありますか?』
提督『ありがたいが、君たちはもう十分頑張った。休暇の間はゆっくりしていてくれ。ではな』
プリンツ『あぅ……どうしよう……』
夕立『プリンさーん!』
暁『ちょっと夕立!プリンさんって何よ!ちゃんとプリンツって呼びなさい!』
雷『そうよ!失礼じゃない!』
響『プリンツ、こっちで一緒に食べないかい?皆プリンツの話を聞きたがっているんだ』
電『夕立ちゃんがとってもすごかったって!是非、お話してくれませんか?』
プリンツ『そうだね……分かった。いいよ』ニコッ
プリンツ(それもお開きになって、寝ようと思ってベッドに入った。けど、どうも体が火照っている。疼きが止まりそうもない)
プリンツ「んん……」ジンジン ムラムラ
プリンツ(たぶんこの前の戦闘で、なんというか……本能?のようなものがむき出しになったからだと思う)
プリンツ(今思い返しても、ぞくぞくする。それほどにまで興奮した。生と死の境目に立つ感覚。命を懸けて戦うということに)
プリンツ(だからなのかな。この体の疼きは本能的に異性を、アトミラールを求めていた。けど今はまだ自分で何とかするしかない)
プリンツ「んふっ……アトミラール……」クチッ クチュ クチュ
プリンツ(授与式の時、視線で誘いかけてみたらアトミラールの反応は悪くなかった。アトミラールは私を意識している。上手くいっている)
プリンツ(もうすぐ。順調に関係を深められている。きっともうすぐでアトミラールは私を選んでくれるはず……!!)
プリンツ(ああ、アトミラール……!!待ちきれない……!!……この疼きが治まるまで、まだ時間がかかりそうだった)
620: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:15:53.66 ID:hgLaaamD0
~
提督「……」カリカリ
提督(作戦後の報告書の作成や全体の評価。発生した問題点やその改善策の提案など。やることは山ほどあり、時間は全く足りない)
提督「今日も頑張らなくてはな……」
プリンツ「失礼します。アトミラール」
提督「プリンツか。どうした?」
プリンツ「手伝いに来ました」
提督「手伝い?休暇は休めと言ったろう」
プリンツ「気遣ってくれているんですよね?ありがとうございます。でも、私が前に言ったことを覚えていますか?」
提督「前に?……ああ、頼ってくれって言ってくれたことだな。覚えているよ」
プリンツ「はい。見た所、仕事の量はとても多そうですが」
提督「……プリンツ。すまないが、頼まれてくれるか?」
プリンツ「はい、喜んで!」
~
提督「よし、今日はここまでにしよう。手伝ってくれてありがとう」
プリンツ「いえ、当たり前のことをしただけですよ。それにしても量が多いですね。大丈夫ですか?」
提督「なに、朝から晩まで頑張れば期日までには……明々後日までには終わる。」
プリンツ「そうですか。私も手伝いますよ」
提督「今日やってくれただけでもう大丈夫だ。徹夜する必要がなくなったからな」
プリンツ「でも……」
提督「君は優しいからな。いつも助けられている。休むこともまた重要だ。気持ちだけもらっておこう」
プリンツ「……なら、私がご飯とか作りましょうか?」
提督「!?」
プリンツ「料理とかも結構時間を取りますよね?だから、それを私がやりますよ。そうすればアトミラールも少し楽でしょう?」
提督「だが……」
プリンツ「どうせ自分の分はやっているんですし。それに休暇と言っても明々後日、日本に戻るまでは特にやることがないですよ」
提督「そうか……なら頼もうかな」
621: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:22:56.64 ID:hgLaaamD0
プリンツ「あ、ただ……もしよろしければアトミラールの家でやってもいいですか?」
提督「俺の家で?」
プリンツ「私の所でやってもいいんですけど……どうせならアトミラールの所のキッチンを使わせてくれると楽なんです」
提督「そうか。もちろんだ。明日、合鍵を持ってくるよ」
プリンツ「いえ、今日取りに行きますよ!朝ごはんとかも作れますし」
提督「朝ごはん!?夜だけじゃないのか?」
プリンツ「夜はもちろん!朝も、昼のお弁当も任せてください!お風呂だって沸かせちゃいますよ!」
提督「し、しかし、そこまでしてもらうのはさすがに悪いだろう……」
プリンツ「いいんです!それぐらいやらせてください!」
提督(家の合鍵を渡して家事をして貰うなんて、まるで恋人みたいだな……いや、ヘンなことを考えるな!)
提督(プリンツは善意で言ってくれているんだ。それに、今は本当に忙しい。確かに助かる。この上ない提案だ!)
提督「分かった。頼むぞ」
プリンツ「はい!」
~
提督『とりあえず帰る前に食事でもしていくか?と言っても食堂ぐらいしかないのだが……』
プリンツ『いえ、私が作りますよ。食材はあるんですよね?』
提督『そ、そうか。それはありがたい。一応あるが、必要な物があるかは分からんぞ』
プリンツ『あるもので作りますよ。では行きましょうか』
提督『ああ、行こうか』
プリンツ(という訳で、その後アトミラールの家について行き、夜ご飯を作って一緒に食べた)
プリンツ(美味しいと笑って食べてくれた。それだけで幸せだ。そして食後はゆっくり話して過ごす。まるで夫婦のよう)
プリンツ(この幸せ、いつか必ず手に入れて見せる……!!)
提督「おっと、もうこんな時間か。さて、これが合鍵だ。家まで送ろう」
プリンツ「はい、ありがとうございます。……!」ハッ
提督「じゃあ行こうか。車を出すよ」
プリンツ「お願いしますね」ニコッ
プリンツ(そして気がつく可能性。遅くまでいると送ってもらえるが、それは明らかに手間だ)
プリンツ(ならばいっその事、泊めてもらえればいいんじゃない……!?同棲なんて……ステキ!)
プリンツ(そうと決まれば明日は着替えとかを持ってこないと。ああ、なんで持ってこなかったんだろう!)
プリンツ(もし持ってきていれば、今日から泊まり込めたのに!そしたらあんなことやこんなことが……!!えへへっ!!)
提督「……ンツ。……プリンツ?着いたぞ」
プリンツ「!?は、はい!!」
提督「じゃあまた明日。頼むぞ。……けど、朝ごはんはやはりきつくないか?」
プリンツ「大丈夫です!では、また明日お会いしましょう! Gute Nacht!」
提督「ああ、お休み」
プリンツ(……今日もちょっと発散させなくちゃダメかな。いけない、自重しなくちゃ)
622: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:24:37.78 ID:hgLaaamD0
~
プリンツ「アトミラール、起きてください。朝ですよ」
提督「……ああ、今起きる。……ってプリンツ!?何しているんだ!!」
プリンツ「何って……朝ごはんを作りに来たんですよ。はら、もうできてますよ」
提督「ああ、そうだったか……そうだった。悪いな。ありがとう、プリンツ」
プリンツ「はい、どういたしまして!」
~
プリンツ「食器はそのままでいいですよ。洗濯物は出しておいてください。洗濯しておきますから」
提督「洗濯までしてくれるのか!いや、さすがにそれは……」
プリンツ「気にしないでください!このかごですよね?洗濯物入れ。これに入れておいてください」
提督「っ……じ、じゃあお願いしよう」
提督(下着は別にまとめておいて、今度洗濯しよう……)
~
提督「では行ってくる」
プリンツ「あ、待ってください!お弁当をどうぞ!」
提督「ありがとう」
プリンツ「外まで見送りますよ。今日はいつお帰りになりますか?」
提督「そうだな……十時には戻りたいところだ」
プリンツ「分かりました。では、お仕事頑張ってきてください」
提督「ああ、行ってくるよ」
プリンツ「行ってらっしゃい!」フリフリ
提督「……」
提督(何だこれは!?まるで夫婦じゃないか!!なんというか……幸せだ。だが、いけないぞ俺!)
提督(思い出せ!ビスマルクだって最初の頃はこうして……っ!いや、思い出すな!もう訳が分からん!)
提督(……とりあえずやるべきことに集中しよう。それが一番だ)
623: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:26:47.48 ID:hgLaaamD0
~
プリンツ「ふんふんふ~ん♪」
プリンツ(よし、洗濯物も干したしお掃除も終わった!あとは夕方お買い物に行くまでは暇だな)
プリンツ(何しようかな。……そういえば、誰も居ないんだよね?そしてここはアトミラールの家……)
プリンツ(私の足は勝手に動き始めた。アトミラールの寝室の扉を開け、そこにあるベッドに目が釘つけになる)
プリンツ「……ごくっ」
プリンツ「……」キョロキョロ
プリンツ(遮るものは何もない。目撃者も誰もいない。……)
プリンツ「えい!」ボスッ
プリンツ(気がついたら飛び込んでいた。アトミラールの匂いに包まれる。まるで抱かれているみたい)
プリンツ「んはぁ……んぅ……や、やば……すごいぃ……」ゴロゴロ スリスリ
プリンツ(湧き上がる情動、火照るからだ、鈍る思考。布団に包まりながら手が伸びかける。まずい、それだけは駄目だ!バレちゃう!)
プリンツ「はぁ……はぁ……っ!!」ムラッ ガラッ ビクッ
プリンツ(……見つけてしまった。気を紛らわせるためにたまたま開けたベッドサイドチェストの中)
プリンツ(そこに透明なビニールに入れられて置いてあったのはなんと……アトミラールの下着だ!!)
プリンツ(洗濯物に下着はなかった。まあ、私に配慮して後で洗うつもり、といったところかな)
プリンツ(しかも、化粧水やらに交じってタオルまで……タオル……これを下に敷けばあるいは……)
プリンツ「……Nein. Nein nein nein…… Das ist nicht gut…(駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ……そんなことしちゃいけない……)」
プリンツ(そんなの、変態だ。しちゃいけないことだ。分かっている、そんなことは……)
プリンツ(けど、手が止まらない。震える手でビニールとタオルを取り出す。ビニールは縛られていない)
プリンツ(タオルを腰の下に敷いて、震える手で中からそれを取り出す。もはや止めることはできなかった)
プリンツ(それを鼻にあてる。濃厚な男の人の、アトミラールの匂い。まるで、麻薬のよう)
プリンツ(……私は、スカートをずり下ろし、下着も下げて指をあてがう。指が動くのが止められない)
プリンツ(気がついた時には胸元もはだけさせて、ブラのホックを外してずり上げ、空いている方の手で揉みしだいていた)
624: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:28:57.52 ID:hgLaaamD0
~
提督「ただいま」
プリンツ「あ、アトミラール!お帰りなさい」
提督「ああ、良い匂いだ!」
プリンツ「ご飯にしますか?それともお風呂ですか?」
提督「そうだな、まずは食事にしようかな」
プリンツ「分かりました。おカバンをどうぞ!」
提督「ははっ、大丈夫だよ。自分で片付ける」
プリンツ「そうですか?分かりました」
提督(自分の部屋に戻って、カバンを置いて部屋着に着替えよう。と思って歩いていると、プリンツがついてくる)
提督「リビングで待っていてくれていいんだぞ?」
プリンツ「いえ、お構いなく」
提督「?」
提督(……どういうことだ?不思議に思いながらも自室に戻る。すると変化に気がついた)
提督「この香り……」
プリンツ「……!」ドキッ バクッ バクッ
提督「芳香剤か?良い匂いだな」
プリンツ「そうですか……!良かったです!私のお気に入りなんですよ!」
提督「……もしかして、臭ってたか?」
プリンツ「!?まさか!!違いますよ!!ただ、何の香りもないのはちょっと寂しいかなって思って……」
提督「そうか!ならよかった。……さては、これの感想が聞きたくてついてきていたんだな?」
プリンツ「えっ、そ、そうですよ。流石ですね、アトミラール。どうですか?」
提督「甘くて、けど自然な香りだ。良い香りだな、気に入ったよ」
プリンツ「それは良かったです!」
提督「さて、食事にしようか」
プリンツ「そうですね、もうお腹ペコペコです」
提督「待っていたのか?先に食べてくれてよかったのに」
プリンツ「そんな事言わないでください。一緒に食べたかったんです」
提督「悪いな、ありがとう」
625: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:30:58.80 ID:hgLaaamD0
~
提督「さて、そろそろ帰るか?送っていこう」
プリンツ「アトミラール、一つ提案があるんですけど」
提督「何だ?」
プリンツ「アトミラールさえ良ければ、私もここに住まわせてくれませんか?」
提督「!?」
プリンツ「その方がいろいろと便利ですし、アトミラールも毎晩送っていくのは手間ですよね?」
提督「い、いや!それはまずい!年頃の女の子がみだりに男の所に泊まるなと言われただろう?それに、俺にはビスマルクが……!」
プリンツ「……それこそ、大丈夫ですよ。アトミラールはそういった間違いをする人ではありませんよね?」
プリンツ「ただ、部下を部屋に泊めるだけです。空き部屋もありましたし、ね?実はもう荷物を持ってきているんです」
提督「なん……だと……」
プリンツ「……たった二日。今日と明日だけですよ?明後日には帰国じゃないですか」
プリンツ「お仕事のために、ですから。ね?……けれど、もしそれでもとおっしゃるのであれば、送っていただかなくても結構です」
プリンツ「それこそ、その分の時間がもったいないですから。私だって、子供ではないので一人で帰れますよ」
提督(っ……ここまでしてくれているプリンツを一人で帰らせるなんてできない。それに、この関係に心地よさを感じてもいた)
提督(別に浮気ではない。ただの上司と献身的な部下だ。親しい友人と言ってもいい。それなら悪くはないだろう)
提督(プリンツだって、きっとそう思っていてくれてるはずだ。俺がビスマルクと結婚していることは知っているのだから)
提督「……分かった。その方が君にとってもいいのならそうしよう。俺は問題ないからな」
プリンツ「ありがとうございます!……では、時間も時間ですしお風呂に入りたいかと思うのですけど……先に入ります、か?」
提督「!!あ、ああ。君が決めてくれ。俺はどっちでもいい」
プリンツ「では、先にいただきますね」
提督「わ、分かった……」
提督(この前のホテルの時を思い出してしまうな……だが、落ち着け。あの時はホテルだったが、ここは普通の家だ)
626: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:35:59.03 ID:hgLaaamD0
~
プリンツ「ぶくぶくぶく……」
プリンツ(未だにアトミラールの中では、あの女が大きく居座っている。予想よりも、大きく)
プリンツ(アトミラールは一度、客観的に自分が何をされたのか考えてみたほうが良いと思う)
プリンツ(そして周りを見渡して、本当にふさわしいのが誰か早く気がつくべきじゃないかな)
プリンツ(……けど、家に泊めてくれるぐらいにまで関係は発展しているんだ。すぐに私が目を覚まさせてあげる)
プリンツ「ん、あがろ」ザパッ
~
提督(プリンツの助けもあって、俺は無事に帰国までに報告書をまとめることができた。それを提出し、帰国の途につく)
提督(そして直接司令部まで赴き、報告を行う。すべては滞りなく行われた。そして勝利の凱旋、観艦式が行われる)
提督(俺も挨拶などで忙しかったが、なんとか無事に終わらせることができた。ようやく休暇に入ることができる)
提督(それはつまり、連絡できていなかったビスマルクに連絡することができるということだ。きっと時間が長くかかる)
提督(俺はすぐに電話をしたい衝動を抑えて自宅に戻り、すぐさまビスマルクへ電話をかけた)
ビスマルク『アトミラール!!』
提督「ビスマルク!!久しぶり……になってしまったな」
ビスマルク『ええ。連絡してもつながらないし、確認したら作戦前で連絡が取れないって……』
提督「ああ、俺もあの時は作戦で連絡できなくなることを忘れていた……連絡できなくてすまなかった……」
ビスマルク『いいの、気にしないで。こうして、終わってすぐに連絡してくれたじゃない』
提督「そう言ってもらえるとありがたい。……声が聞けて良かった。それで、いつ戻ってくるんだ?」
ビスマルク「再来週には戻れるわ!」
提督「そうか!楽しみだ!」
ビスマルク「私もよ!……っ……あの、ね?アトミラール」
627: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/26(月) 21:39:09.71 ID:hgLaaamD0
提督(声音の変化に話題が面白いものではないことを察する。一体なんだろうか?)
提督「どうした?」
ビスマルク『あのね……私、……私、ね』
提督「……ああ」
ビスマルク『私……堕ろしたの』
提督「……!!っ……そ、そうか」
ビスマルク『……』
提督「……ビスマルク。俺は、……人として最悪だが、それを聞いて……安心した。……嬉しいよ」
ビスマルク『アトミラール……ごめんなさい……そんな事言わせてしまって……私……』
提督「いいんだ!それよりも、聞いてくれ。もう知っていると思うが、い号作戦は成功した!」
ビスマルク『っ、そ、そうね!知っているわ!おめでとう、アトミラール!!』
提督「言っただろう?成功を確信したと。褒美を期待しているからな」
ビスマルク『ええ、期待していてね!きっと喜んでもらえるはずだから!』
提督(その後、いろいろと雑談をした。電話を切った時には通話時間が二時間に迫っていた。俺は、ラガヴーリンとショットグラスを持って自室へ戻る)
提督(蓋をあけようとしたところで、自分の手が震えていることに気がつく。強引に蓋をあけ、グラスに注いで一気に呷る)
提督「……」
提督(ビスマルクが堕胎を選んだというのは、俺にとって本当に衝撃的だった。まさか、そうするとは思っていなかったからだ)
提督(……俺が思ったことは、先ほどビスマルクに言ったとおりだ。そう思って当然だと思う)
提督(育てるしかないかという気持ちはあった。諸説あるが、かつてあのモンゴル帝国を築いたチンギス・ハン)
提督(その長男とされているジョチは妻が敵にさらわれた時に孕まされた子供であるという)
提督(しかし、チンギス・ハンはその子を実の息子として育て、実子たちがジョチを敵の子と罵っても自らの長男として扱ったという)
提督(俺は、歴史の偉人と比ぶべくもない。しかし、そんな心の広く寛容な男になりたいと思っていた)
提督(だが、やはり嫌なものは嫌だ。俺は、嬉しかった。せいせいしたと言わざるを得ない)
提督(堕胎なんてという人も大勢いるだろう。子供の命を何だと思っているのだと言うのもわかる)
提督(だが、それは当事者の心境を無視しているのではないだろうか?少なくとも、俺はそう思った)
提督(どちらにせよ、このことできっとビスマルクが一番深く傷ついている。そんなあの子を支えるのは俺の役目だ)
提督(震える手でもう一杯注ぎ、呷る。早く酔って、寝てしまいたかった)
633: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 03:36:41.23 ID:XLJw0dqZ0
~
プリンツ(日本での休暇が始まった。それはつまり、いつものように司令部でアトミラールに会えないということだ)
プリンツ(つまり、会うためには自分から会う予定を作らなくてはならない。けど、貴重なこの機会に焦らしもまた必要)
プリンツ(考えた私は、偶然にも一週間後にある好きなドイツのメタルバンドの来日公演にアトミラールを誘うことにした)
プリンツ(知り合いのファンが急用で行けなくなり、ペアチケットで良ければ譲るという連絡があったのだ)
プリンツ(以前にドイツで販売しているグッズを買ってあげただけの、顔も知らない人だったけど。情けは人の為ならずだ)
プリンツ(もちろん譲ってもらった。これはまさに天啓だ!主は仰られている。アトミラールをライブに連れて行けと!)
プリンツ(前に聞かせてあげた時に好きだって言ってたし!怖いのは予定が埋まっていた場合だが、それならそれで他に考えればいい)
プリンツ(一週間会わないという焦らしにもなるしね!攻めばかりが恋愛ではない!という訳で、電話する。もう遅いけど、きっと起きているはずだ)
提督『……プリンツか?どうした』
プリンツ(!……結構、酔っている?お酒を飲んでるんだ……誰と?)
プリンツ「あ、アトミラールですか?すいません、ちょっと聞きたいことがあって連絡したんですけど……酔ってます?」
提督『さあ……酔えているのなら、飲まないほうが良かったな……』
プリンツ「アトミラール……?大丈夫ですか?周りに誰かいますか?もし助けが必要ならすぐに行きますよ?」
提督『いや、大丈夫だ。今、自宅で一人呑みをしていてな。悪く酔ってしまったみたいだ。それで、何の用だ?』
プリンツ「そうですか、分かりました。……アトミラールって今週末何か予定がありますか?」
提督『今週末……いや、何もなかったと思うが。どうした?』
プリンツ「実は、私の好きなメタルバンドの来日公演があるんですよ。ほら、前に聞いた時に好きって言ってましたよね?」
プリンツ「なので、是非一緒に行きませんか?こっちじゃマイナーなんでライブハウスでなんですけど」
提督『そうか……悪いが、今はそんな気分じゃ……いや、やはり行こうかな。リフレッシュするにはちょうどいいかもしれん』
プリンツ「そうですか!Gut!では後で詳細をメールしますね」
提督『ああ、分かった』
プリンツ「私、とても楽しみです!では失礼しますね。おやすみなさい!」
提督『ああ……お休み……』
プリンツ「アトミラール、すごく元気なかったな。どうしたんだろ……でも、行く約束できた!Super!」
プリンツ(楽しみで仕方がない!それに、もしアトミラールに何か嫌なことがあって元気がないのなら、私が癒してあげられる!)
プリンツ(私はその日の予定をワクワクしながら考える。ベッドに入ってもすぐには寝れなかった)
634: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 03:47:28.99 ID:XLJw0dqZ0
~
提督(久しぶりに里帰りして両親と会い、旧友たちと親交を温めていたらあっという間に約束の日だった)
提督(ビスマルクとは毎日電話をしたが、今日ライブに行くことは話さなかった。別にそこまで悪い事ではないはずだが、なんとなく言い出せなかったのだ)
提督(さて、夕方の繁華街で待ち合わせの時間を待つ。遊びに出てきた若者たちやカップルたちの中にいると戦時ということを忘れそうになる)
提督(おそらくここにいる人たちにとって戦争とはテレビの中だけの話になっているのだろうなと思うと、複雑な気分だ)
プリンツ「あ、アトミラール!!」
提督「プリンツか。……っ!?」
提督(声をかけられ、そちらを向く。そこにいたのは確かにプリンツだったが、服装が凄かった)
提督(ブーツを履き、ガーターストッキングにミニの柄入りプリーツスカート。そして、おそらくそのバンドのモノであろうシャツを着ている)
提督(しかも、へそ出しだ。綺麗な白い肌と形の良いへそが惜しげもなく晒されている)
提督(そしてプリンツの左下腹部にはなんとタトゥーが彫ってあった。全部は見えないが、手のひらぐらいの大きさで雪の結晶のような模様だ)
提督(シャツの上には革製のジャケットを羽織り、山岳帽を被っている。色はすべて黒やそれに準ずる色だ)
提督(さらに言うと、腰にはチェーンがついており、首元には鉄十字のアクセサリーをかけている)
提督(たまにこんな感じの服装の人間を見かけるが、大体が服に負けて痛々しいことこの上ないことになっている)
提督(しかし、プリンツはスタイルが良くて美人であるためか見事に着こなしていた。圧倒的な存在感を放っている)
提督(周りは皆プリンツに見惚れており、そしてその待ち合わせ相手である俺にも嫉妬や羨望の視線が集中した)
提督「何というか……すごい格好だな。もしかしてこの格好じゃまずいか?」
プリンツ「いえ、大丈夫ですよ。向こうでシャツを買ってそれに着替えればいいんです。もちろん、私がお金出しますよ」
提督「何言ってるんだ、自分で買うよ。もちろんチケット代も出すからな。……それにしても、本当にすごい格好だ」
プリンツ「えっ、似合ってませんか……?」チラッ
提督「まさか!すごい着こなせてるよ。けど、普段の君からは想像がつかなかった」
プリンツ「そうですか?ならよかったです!今日はライブですから。普段からこんな格好しているわけじゃないですよ?」
提督「そうか。まあ、似合ってるからいいと思うが。……タトゥーしているんだな」
プリンツ「えっ?あ……もしかして、嫌でしたか?」
635: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 03:57:11.67 ID:XLJw0dqZ0
提督「まさか。個人的にはあまり下品じゃなければ、むしろ好きな部類かもな。それに、向こうじゃ普通なんだろ?」
プリンツ「はい。なんで日本じゃこんなに嫌われているんですかね?」
提督「分からん。柄の悪い連中がよくしているからかな。……そのタトゥーは雪の結晶なのか?」
プリンツ「これですか?いえ、Galsterですよ。ルーン文字を組み合わせたものです。日本で言うと……魔法陣っていうんですかね?」
プリンツ「願いや想いを込めてルーン文字を記号にしたものです。ヨーロッパではポピュラーですよ。これは、『守る力、挫けぬ意志、栄光ある運命』です」
提督「へぇ……なるほどな。他にもタトゥーはしているのか?」
プリンツ「え?はい、あと右肩のところにもありますよ。見ますか?」
提督「いいのか?」
プリンツ「もちろんです!ん……ほら、これですよ」グイッ
提督(プリンツは上着を脱いで、袖を捲って見せる。そこには見たことのない記号、おそらくルーン文字が彫られていた)
提督「へぇ……これもルーン文字か?」
プリンツ「はい、飾り文字になってますけど。PerthroとEhwazでPEです。Prinz Eugenですよ」
提督「なるほどな……」
提督(まあ、タトゥーも悪くないものだ。大事なのはその人自身だからな。と思っていたところで気がついてしまう)
提督「!!」
提督(捲り上げた袖から覗く脇に、気がついてしまった。俺はそんなフェチやらではないが、だが……確かに彼らの気持ちも分からんでもないな)
プリンツ「あ、あの、アトミラール?そろそろいいですか?」
提督「あ、ああ!もちろんだ!すまなかったな」
プリンツ「いえ、大丈夫です。ただ、ちょっと周りの視線が……」
提督「っ!そうだな、すまない。では行くとしよう。夜は食べてから行くのか?」
プリンツ「ええ、ライブは0時からですからね」
提督「0時!?やけに遅いな……」
プリンツ「はい、それが彼らのこだわりなんですよ。ただ、9時ころからからライブハウスは開いていて、ライブ会場以外のスペースはクラブみたいになってるんです」
プリンツ「なので夜を食べてから少し飲んで、それで9時ころからもう入っちゃおうかと思ってるんですけど、どうですか?」
提督「なるほど、分かった。ではどこで食べようか?」
プリンツ「実は行ってみたかったところがあるんです。ついてきてくれますか?」
提督「もちろんだ」
636: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 04:04:53.60 ID:XLJw0dqZ0
~
提督(プリンツの言ってみたかったところとは、回転寿司だった。と言っても一皿100円の所ではなく、上品な感じの雰囲気の店だったが)
プリンツ『すごい……!本当にお寿司が回ってますよ!私、誇張だろうと思っていました!』
提督『そうか、それは良かったな』
提督(そこで食事を済ませ、手ごろなバーに入った。軽く酒を飲んで時間を潰す。飲みすぎないように注意しなくてはな)
提督(そして、9時を少し過ぎたところでライブハウスへ向かった。広さはそこそこだが、想像よりは狭く、広めの会議室程度しかなかった)
提督(まあその広さの部屋がいくつかある時点で広いか。それぞれの部屋ではDJが音楽を流していてスモークのようなものが焚かれている)
提督(あとは酒を買うためのカウンターがあり、いくつかの机や椅子、座るためのバリカーみたいなものがある)
提督「結構人が居るな」
プリンツ「まあ、今日はライブですからね。これからもっと混んでくるんじゃないですか?」
提督「ふむ……とりあえず何か飲むか?」
プリンツ「はい!」
提督(適当に飲み物を買って、しかし席は開いていない。隅の方で音楽を聴きながら飲む)
プリンツ「アトミラール、これをどうぞ」
提督「……耳栓か?」
プリンツ「ライブの時とDJが本気で音楽を流し始めた時は、そのまま聞くと耳が聞こえなくなっちゃいますから」
提督「なんとまあ……」
プリンツ「つけてても十分聞こえますし、好きな曲の時は取ればいいんですよ」
提督「そういうものか、ありがたく受け取っておこう」
プリンツ「はい。……そろそろ向こうへ行きませんか?踊りたいです」
提督「踊る!?……何を踊ればいいんだ?まさかワルツじゃないよな」
プリンツ「あー……ワルツ踊れるんですか?なら今度一緒に踊りましょう。……まあ、リズムに合わせて体を揺らすだけでいいんですよ」
提督「そうか……」
プリンツ「適当でいいんですよ!みんな適当です!さあ、行きましょう」
提督「分かった」
提督(人だかりの中にはいっていく。混んでいるがまあ何とか進めないほどではない)
提督(いい感じの場所に来たところで、プリンツと談笑しながらリズムに乗っている。しばらくしてから、トイレに行きたくなった)
637: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 04:12:32.76 ID:XLJw0dqZ0
提督「すまないがトイレに行ってくる。ちょっと待っていてくれ」
プリンツ「そうですか?分かりました」
提督「すぐ戻る」
提督(トイレらしき方向へ向かっていく。何とか見つけたが、かなり並んでいた。とりあえず他の場所のトイレを確認してみよう)
提督(部屋を移ると、無事に空いているトイレを発見した。が、凄いものを目撃した)
提督「おお……なんて奴らだ……」
提督(それは白人のカップルだった。部屋の真ん中、割とダンスが上手い連中たちが踊っている所にいる)
提督(彼らはまるで立ちバックをしているように踊っていた。女性が男性の前に立ち、臀部を相手の下腹部に擦り付けるような感じだ)
提督(男性は男性で女性の体をなでまわし、手を握り、もはややりたい放題だ。なんて卑猥なのだろうか!)
提督「これがカルチャーギャップか……まあ、どうでもいい。トイレだ、トイレ」
提督(トイレを済ませ、プリンツの元へ戻る。すると、面倒なことになっていた)
男「いいじゃん、向こうで俺と飲まない?」
プリンツ「お断りします」プイッ
提督(プリンツが知らない男に絡まれていた。まあ、こういう場所だ。そう言う人間もいるのだろうな)
提督「プリンツ、待たせたな」
プリンツ「アトミラール!!」バッ
男「男連れかよ……そんなイケてない格好の奴より俺と遊ぼうぜ?」
プリンツ「ちっ……アトミラール、ちょっと失礼しますね」ボソッ ダキッ
提督「こういう輩と真面目に取り合わない方がいいぞ。っ!?」
男「っ!!」
プリンツ「悪いけど、私は貴方みたいな似合わないのに髪を染めてたり、ピアスをつけてたり、服に着られているような奴に興味ないから」ギュッ
プリンツ「この人みたいに、カッコよくて、凛々しくて、真面目な人が好きなの。私はこの人のモノなの」ジッ
プリンツ「分かったらさっさと失せて?邪魔だから。まあ、見ていたいって言うならそこらで覗いていれば?」チラッ
提督(プリンツは、ぼそりと俺に謝ると抱き付いてきた。そして脚を絡ませ、強く抱きしめて体を擦りつける。熱っぽい瞳で見つめられた)
提督(そして、憐れみと蔑みの混じった視線でちらりと絡んできていた男を見下す。俺は、驚きの余り固まってしまっていた)
638: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 04:19:16.46 ID:XLJw0dqZ0
男「こ、この……!!」
プリンツ「さあ、踊りましょ?アトミラール!」
男「待tっ!?」
提督「!!」
提督(タイミングよく流れ出す大音量の音楽、そして有名らしいDJの登場に歓声が上がる。他の場所からも人が集まってきたのか、いつの間にか大混雑だ)
プリンツ「……♪」ペロッ
提督(プリンツを見ると、いたずらっぽく微笑みながら舌を出す。そして俺に背を向けると、なんと臀部を俺の下腹部に押し付けてきた)
提督(そして手を恋人つなぎにし、体を妖艶にくねらせ、その年の割に大きな胸を揺らしながら、肩越しにこちらを振り返る)
提督(いつもの、いわば天使のようなプリンツからは想像のできない、まるでサキュバスのような微笑み)
提督(細められた目から覗く緑の瞳はキラリと光り、薄紅色のプリッとした唇は色っぽく開かれ、それを舐める舌が誘うようにチラチラと揺れている)
提督(これはさっき見た……!!いつのまにか、俺とプリンツの周りには人だかりができていた。プリンツに視線が集中する)
提督(絡んできていた男は、屈辱と嫉妬に肩を揺らして人ごみの中に消えていった。さて、俺はどうすればいいのか……)
プリンツ「っはぁ……アトミラール……触ってください……」ギュッ
提督「な、なんだって……!?」
提督(プリンツは手を放すと、両手を上げて肩越しに俺の顔に触れる。頭と全身をすりつけてくる)
提督(俺は、とりあえず片手でプリンツの頭を抱えてもう片方の手で……一番大丈夫そうなプリンツの腹部に触れる)
プリンツ「んっ……はぁ……」スリスリ
提督「……!!」ナデナデ
提督(先ほど見た白人カップルを参考に、無心でプリンツを愛撫する。もちろん、大丈夫な範囲でだ)
提督(まるでAVにでも出ている気分だ。しかし、その卑猥なダンスも曲の終了と共に終わりを告げた)
プリンツ「……の、喉が渇きましたね?ちょっと飲みにもどりませんか?」
提督「あ、ああ、そうだな……」
提督(恥ずかしさの余り部屋も変えるが、男どもがぞろぞろとついてくる。プリンツのあれに期待してだろう)
提督(くそっ……お前ら、もう少しさりげなくできないのか!?バレバレなんだよ!!)
提督(飲み物を購入し、しばし談笑。それからまた前の方に出て二人で向かい合いながら軽くリズムを取る)
提督(周りの奴らはアレを期待しているようだが、頼まれたってやってやるものか!これ以上プリンツをいやらしい目で見させるわけにはいかない)
提督(普通に踊る。周りでやっている人が居たから、何度か手を上にあげてくるりとプリンツを回転させてみた。誰よりも綺麗に回っていた)
639: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 04:26:37.70 ID:XLJw0dqZ0
提督(そしてライブの時間が近づき、二人で並んで待機、チケットを渡してシャツを買い、その場で着替える)
プリンツ「はぅ……すごいからだ……」ウットリ
提督「よいしょっと……ふぅ……ん?どうした?」
プリンツ「い、いえ!何でもありませんよ。では行きましょうか!」
提督「ああ」
提督(タイミングが良かったようで、入場開始と共に会場へ着いた。最前列を取ることに成功する)
提督(三十分程話しながら待って、ようやくライブが始まった。プリンツは大興奮だった)
提督(プリンツのお気に入りというジャーマンメタルの演奏を聴く。確かに耳栓があってよかったな)
提督(大きな映画館のシアターほどの広間が、人で埋め尽くされている。席などない。後ろから押される)
提督(俺はプリンツを守るために、前にすっぽりと抱きかかえるようにする)
提督(プリンツは何かを言っていたが音楽と大歓声で聞き取れない。しかし、のばされた手を握った)
提督(すべてが終わった時にはもう明け方だった。電車も動き始めている)
プリンツ「いやぁ~サイコーでしたね!」
提督「ああ、良いメロディーだった」
プリンツ「好きな曲全部演奏してくれたし、大満足ですよ!」
提督「よかったな。俺も前に聞かせてもらったのが流れて良かったよ。あれが一番良かった」
プリンツ「ああ、あれですか!あれはイントロが良いんですよね!」
提督「そうだな。ところでプリンツ、君はこの後どうするんだ?」
プリンツ「そうですね……もしよければ、これから飲みなおしませんか?目が冴えちゃいました」
提督「なるほどな。まだぎりぎりほろ酔いって感じだし、それもありだ。だが、こんな時間からどこで飲む?」
プリンツ「アトミラールの家とかどうですか?実は私、ウォークマンに曲を入れてきてるんですよ。二人でゆっくりしたところで聞きたいです」
提督「俺の家か……分かった、そうしよう」
プリンツ「っ!!Gut!!じゃあさっそく行きましょう!!」
提督(適当にタクシーを拾って自宅へ向かう。ライブの話をしていたらいつのまにか着いていた)
提督(プリンツを客間に待たせて、とりあえず酒を見繕う。何がいいか……アイリッシュ・クリームにクヘーム・ドゥ・カシス)
提督(あとはハイネケンを数本と何かワインを……ベルンカステラーがあるか。これだ)
提督(待てよ、蒸留酒がないぞ。何か……スブロッカでいいか。それにコップやソーダ、ジンジャーエール、レモン類)
提督(そして牛乳にコップをいくつか。氷、後はつまめるものを。栓抜きとコルク抜きも忘れずに)
提督(これでいいだろう。文句なし、完璧だ。案外量が多くなったが……氷を入れたワインクーラーに酒を突っ込んで、お盆でその他を運ぶ)
640: 以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします 2016/12/27(火) 05:02:23.01 ID:XLJw0dqZ0
提督「待たせたな、プリンツ」
プリンツ「アトミラール!?……すごくたくさん飲むんです、ね?スナックまで……」チラッ
提督「っ!!」
提督(やってしまった……いや、俺は飲みたいのがないと困るなと思っていろいろ持ってきただけなんだ)
提督(決して酔い潰そうだとかそういうつもりじゃ……ってそう言えばいいじゃないか。いや、その通りじゃないか)
提督「い、いろいろあったほうが楽しめるだろう?全部飲むわけじゃないさ」
プリンツ「そ、そうですよね……あ、ドイッチュヴァイン、ドイツワインですね!」
提督「ああ、たまたまあってな」
プリンツ「へぇ……いろいろありますね!ハイネケン!ベイリーズまで!」
提督「お、知っていたか」
プリンツ「私、カルーアよりも好きですよ!」
提督「俺もだ!」
プリンツ「スブロッカ!これも爽やかでいいですよね!」
提督「ソーダもいいが、これでモスコミュールを作るのが好きなんだ」
プリンツ「へぇー!そうなんですか?」
提督「試してみるか?」
プリンツ「はい!あ、そうだ。はい、アトミラール!右耳にどうぞ!」
提督「イヤホンか。スピーカーがあるぞ?」
プリンツ「セットするのが面倒ですし、これの方がお話しやすいですよ。ほら、どうぞ」
提督「そうか、ありがとう」
提督(プリンツとイヤホンを片方ずつ使いながら音楽を聴き、酒もいろいろと試していく)
提督(好きな音楽、好きな酒、いろいろなことを話す。酔いが回り、途中から何を話しているのか分からなくなっていた)
提督(だが、それでも心休まるひと時を過ごす。これほど美味しい酒を飲んだのは久しぶりだ。幸せな気持ちで意識が溶けていった)
提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」【後編】に続く
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SS速報R:提督「という訳なんだ、うむ」 ビスマルク「……」
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