――射撃訓練場――

加賀「失礼……げほっ。はぁ……はぁ。失礼……します」

瑞鶴「ちょっと、大丈夫!? どうしたのよ!」

加賀「なんでも、はぁ……はぁ。ないわ。けほっ。ただ走りこみを……していただけよ」

瑞鶴「……艤装付けたまま走りこみをする艦娘なんていないわよ。鳳翔さんだって長門さんだって、走りこみをするときは体操服に着替えているじゃない」

加賀「……私くらいになると行住坐臥よ。心配いらないわ」

瑞鶴「えぇ……。赤城さんだってちゃんと体操服に着替えているのに?」

加賀「……ところで稽古は終わったのかしら」

瑞鶴「まだ続けてるわ」

加賀「そう」

瑞鶴「……」

加賀「……」

瑞鶴「ねぇ、加賀」

加賀「何かしら」

瑞鶴「稽古、付けてくれない?」

加賀「別に、構いませんが」

瑞鶴「ん。ありがと」

流星改を一手取り、射位に立つ。

件の胴造りも素晴らしいの一言だった。

質実剛健。

容姿凛然たる姿。

言葉は何でもよいが、中身が伴ったものはかくも美しい。

甲矢は残念ながら上にそれたようだ。

2本目も同様に素晴らしい射だったが、残念ながら上にそれてしまった。

加賀は瑞鶴の成長を喜ぶ。わずかな時間であれ、艦娘というものは突然成長してしまうものだ。

成長のきっかけは鳳翔による指導であった。

できれば加賀自身が指導して気づかせてやりたかったが、それは慢心であると理解している。

自己満足の域をでることはなく、本当に大切なことは後輩の成長だからだ。

今回は的を外してしまった。これは実は良い外し方だった。

同じ狙いのまま艦体が振れることなく艦載機が発艦したため、勢いが落ちることなく的に到達したからだ。

小手先の的中とは一線を画するものだった。

及第点どころか、本質的な所で満点だった。

加賀は何も言わない。

弓倒しを終えた瑞鶴が加賀に話しかける。

瑞鶴「今もそうだけど、加賀は何も言ってくれないよね。たまに一言二言はあったけど」

加賀は怪訝な顔をする。指摘を出す必要がない素晴らしい射だったのだ、何を言う必要があるのだろうか。

瑞鶴「加賀は私のことを何も期待していないからだとずっと思っていた。だからさ、昨日よくやっているって言ってくれた時はすごく嬉しかった。少なくとも見てくれているってわかったから」

加賀は自身を振り返る。昨日の稽古では、五航戦の2人を手放しで賞賛したはずだった。

瑞鶴「今朝だって直接稽古を付けてもらえて嬉しかった。指導内容はよくわかんなかんなくて怒鳴り散らしちゃったけど本当は感謝してる。まぁ、鳳翔さんがあんたの意図を教えてくれてようやくわかったんだけど」

加賀は訝る、瑞鶴は素直に指導に従いより良くなっていた。他に指摘できる箇所が見当たらなかったので、しかたなく高難度の指摘を続けてしまった。流石に難度が高すぎたため瑞鶴は焦燥感を加賀にぶつけて来たが、当然の反応だと思い気にしていなかった。

瑞鶴「別に甘やかして欲しいわけじゃないんだ。ほんの少しでもいいから加賀に褒めて欲しかった。さっき四立分皆中したのも初めてだったんだよ?」





207: ◆zqJl2dhSHw 2016/01/10(日) 22:48:14.59 ID:Vl0atwsQ0


加賀は俯き、自分自身が今の瑞鶴と同じ頃の時期を思い出していた。

『素晴らしいです。稽古を始めたばかりとは、とても思えませんね』

始まりの正規空母は時間を割いて稽古を付けてくれた。

稽古終わりの間宮アイスも楽しみのひとつだった。

『流石は加賀さんね』

かつての相棒で、いまもまた相棒の彼女。

切磋琢磨し合える関係はとても素敵なものだった。

的中率で負け、的中数で勝ち、その他にも競いあったものだ。

おひつを何杯おかわりできるかの勝負では辛くも勝利できた。

『加賀! 今日はよう頑張ったな。そろそろこれは加賀が使うべきやな。流星改、大事に使ってな。妖精さんも頼んだで?』

かつての同僚、いまの秘書艦はことある毎に頭を撫で、褒めてくれた。

当時、妖精の声はまだ聞こえていなかったが、秘書艦の声が大きいのであまり気にならなかった。

小さなことでも大きな声で褒められ、多少の恥ずかしさはあったことは疑いようがない。

しかし、気分が高揚したこともまた事実だった。

この鎮守府で先輩空母から受け取ったものはこんなにもあった。

後輩空母には何を与えられただろうか。

瑞鶴「けどもう大丈夫。加賀が気に掛けてくれていることだけは分かったから。あとは私が褒めてもらえるくらいになるだけだから」

加賀「……そう」

何も与えられてはなかった。褒めたつもりになって、指導できたつもりになっていた。

感情表現が苦手なことは自覚していた。

自覚していたが、矯正する努力を怠っていた。

その結果が今につながっている。

乗り越える時が来た。

『妾の子にでもできたんだから』

加賀は否定する、これは自分の言葉ではないと。

本当に否定したいのであれば行動で示す必要がある。

簡単なことだ、事実を伝えてやればよい。

頭を撫でて今の射は良かったというだけでよい。

加賀「……」

加賀はそのような自分を見なければいけない恥ずかしさで行動に移すことができなかった。

加賀「なんという無様でしょうか……」

瑞鶴「顔真っ赤だけど本当に大丈夫?」

加賀「えい」

顔を見られた事が引き金になった。

瑞鶴の顔を加賀の胸部装甲に押し付ける。これで瑞鶴は加賀の顔を見ることはできない。

加賀「いいですか、瑞鶴。今から話すことをよく聞きなさい」

今までの分を清算する時が来た。





208: ◆zqJl2dhSHw 2016/01/10(日) 22:49:17.97 ID:Vl0atwsQ0


――半時間後――

加賀「そういうことよ。あなたは素晴らしい後輩です」

瑞鶴「……」

加賀「話を聞いていたのかしら?」

瑞鶴「次もちゃんと稽古つけてくれる?」

加賀「当然です。まだまだ練度を上げて貰います」

瑞鶴「また褒めてくれる?」

加賀「今以上を私に見せなさい。あなたならできます」

瑞鶴「……うん」

こんなにも簡単なことだった。もっと早くにするべきだった。

加賀はまだ理解できていなかったが、とうとう教え導く段階へと達したのだ。

今まではその領域に達していなかったからできていなかった。

教えるということはまさに教わるということだ。

ひとまず加賀は午前の稽古を締めくくる。

加賀『やりました」




209: ◆zqJl2dhSHw 2016/01/17(日) 22:38:13.93 ID:aN6QjdXx0

――食堂――

瑞鶴「ねぇ、加賀。今度やる劇のことなんだけど」

加賀「あなたが主役でしたね。主役抜擢おめでとう」

瑞鶴「ありがとう。えっ? この前と反応が違うんじゃない?」

加賀「これだから五航戦は」

瑞鶴「待って! 今のは私悪くないわよ!」

加賀「まぁいいでしょう。それで何か気になることでも?」

瑞鶴「いや、私の恩人役? 師匠役? だったら龍驤……さんよりも加賀になるんじゃないかって思って」

加賀「ふん」

瑞鶴「その表情で頭なでないでよ。まぁいいんだけどさ」

加賀「基準を履き違えています。主役はあなたですがこの劇は龍驤さんを中心に用意されています」

瑞鶴「やっぱそうだよね」

加賀「龍驤さんはあなたと翔鶴と一緒に蟻を討伐しに行きます。道中の蟻は、いうなればエリート級の重巡や空母並の脅威でしょう」

瑞鶴「うん」

加賀「龍驤さんは当然として、あなた達も十分に渡り合えます」

瑞鶴「うん」

加賀「ところが、最奥にいた蟻は想像を絶するものです。いわば姫級の深海棲艦に相当するでしょう」

瑞鶴「姫級ってそんなにすごいの? 見たことがないから想像もつかないんだけど」

加賀「ある姫はただの一盃で連合艦隊を相手取る事ができます」

瑞鶴「は?」

加賀「ある姫は私達空母機動部隊の艦載機を壊滅に追いやることができます」

瑞鶴「それ勝てないじゃん」

加賀「だからあなた達は龍驤さんを囮にして逃げ帰ります。囮になった龍驤さんの戦闘場面が今回の山場でしょうか」

瑞鶴「今更だけど、台本ひどくない? 龍驤さん轟沈しちゃうし。私もなんというか、あんまり気分が良くないのよ」

加賀「劇だと割り切りなさい。真剣に考えることは良いですが、深淵まで飛び込んではいけません」

瑞鶴「わかったわよ。けど何でこんな演目にしたんだろうね。他にもっと楽しいやつがあるんじゃない」

加賀「青猫と射撃王なら子供も楽しめるかもしれないわね。しかし、慢心はいけません。短編はともかく長編になると当然のように戦争が発生しているわ」

瑞鶴「そうなの?」

加賀「なぜ知らないのかしら。座学であったでしょう」

瑞鶴「ちょっと、別に寝てなんかなかったんだからね!」

加賀「まだ何も言っていませんが」

瑞鶴「あう」

加賀「まぁいいでしょう。長編の一つに錻の星で人間が作ったからくりが反乱するというものがあります。身から出た錆、教訓としても十分な話です。龍驤さんが轟沈する際の台詞はこれから引用されています」

瑞鶴「なんであんな台詞を引用したのかしら。なくても何も変わらないわよ」

加賀「提督の我儘でしょう。最期の時に自分を思い出して欲しいといった類のものです」

瑞鶴「提督さんって龍驤さんのこと大好きだからね。もしかして、劇もその台詞を言わせたいだけなんじゃないの」

加賀「大いにありえます。2人とも阿呆ですから、それくらいのお膳立てをしなくてはいけないのでしょう」

瑞鶴「ちょっと、いいの? そんなこと言っちゃって」

加賀「構いません。いい加減先に進む必要があります。それは提督然り、龍驤さん然り。当然私達もです」

瑞鶴「わかってるって」




210: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/11(木) 22:29:41.33 ID:qKqc1knq0

――船渠――

加賀「まさかあなたが背中を流してくれるなんて、殊勝な心掛けです」

瑞鶴「なんでそんなに上からなのよ」

加賀「何を話せばいいかよくわからないのよ。まったく、五航戦はそんなことも察することができないのかしら」

瑞鶴「嘘でしょ? 私ぜんぜん悪くないじゃん。全部加賀の問題じゃん」

加賀「そういうことにしておきます。もういいわ、次は私が変わりましょう」

瑞鶴「うん」

加賀は大量に泡を立てて瑞鶴の背中を流す。

加賀「あなた、ずいぶんと細いですけれど。ちゃんと食べているのかしら」

瑞鶴「食べてるわよ!? 一航戦とおんなじ食事とってるじゃない」

加賀「それでは足りません。私と赤城さんはほぼ待機中です。いわばアイドリング状態の燃費です」

瑞鶴「うん」

加賀「あなたち五航戦は今まさに訓練をしている最中です。実戦に近い燃費でしょう」

瑞鶴「待って、昨日は出撃がなくて一航戦も五航戦も同じだけ訓練をしたんだけど? 今日も稽古つけてくれたじゃん」

加賀「そうです。それが何か?」

瑞鶴「何か? じゃないわよ、加賀も訓練してるじゃない」

加賀「私達にとっては待機と変わらないわ」

瑞鶴「マジ? 私、すっごく疲れたんだけど」

加賀「マジです。練度の差を嘆いてもしかたありません。今のあなたはより消費をしているので、より補給をする必要があります」

瑞鶴「ご飯、美味しいけど。あの量でも限界一杯食べているんだけど」





211: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/11(木) 22:30:46.93 ID:qKqc1knq0

加賀「足りていません。足りていないからあなたの体は細いままなのです」

瑞鶴「う〜ん」

加賀「それに、今は昔と違って食べることには困っていないでしょう」

瑞鶴「……うん。そうだね」

加賀「そうです」

瑞鶴「あれ、細いっていえば龍驤はどうなのよ。あの人もめっちゃ細いじゃん」

加賀「あの人の場合は、いえ、この話はもういいでしょう」

瑞鶴「なんでよ、中途半端に止めないでよ。駆逐艦並の容姿でしょ? 食べる量が少ないってこと? それとも訓練をしないから体躯が成長しないの?」

隼鷹「人それぞれってことでいいんじゃない? 加賀さんなんか着任した時から今くらいの容姿だったからねぇ、ひゃはは」

瑞鶴「あれ? 隼鷹さん? こんにちは。いつ入って来たんですか、全然気づきませんでした」

隼鷹「あー、ごめんごめん。ちょっと気配を殺しながら来ちゃったから」

瑞鶴「器用ですね。式神を操るとそんな感じになるんですか?」

隼鷹「式神は関係ないさ。中で加賀さんと瑞鶴さんが楽しそうにしているから邪魔したらあかんって言われてね」

瑞鶴「はぁ」

隼鷹「それより龍驤が細いのが気になるとはねぇ。なかなか目の付け所が違うね」

瑞鶴「練度の高い空母は体躯もしっかりしてるじゃないですか。加賀さんもそうだし隼鷹さんもだし。その理屈だと、龍驤さんはどうなのかなって」

隼鷹「なるほどねぇ。何でかなぁ? 本人に聞いてみたらいいんじゃない?」

瑞鶴「いやよ。駆逐艦並の体躯で練度が高いんですか? なんて聞けるわけないじゃない」

隼鷹「聞きゃあ答えると思うけどねぇ」

瑞鶴「多分そうでしょうけど。ちょっと加賀! 自分から話を始めて置いて何で黙ってるのよ!」

隼鷹「うん? 加賀さんは湯船に浸かってるから仕方ないんじゃない?」

瑞鶴「へ? じゃあ背中を流してくれているのは誰なのよ」

龍驤「うちや」




212: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/27(土) 23:16:29.04 ID:JciRooOY0


龍驤「なーんか聞きたいことがあったみたいやな。言うてみ?」

瑞鶴「ふーっ。龍驤、体調大丈夫なの? 急に休みになったけど」

龍驤「あははー、ありがとな。皆にはごめんやけど、二日酔いやったんやわ」

瑞鶴「そうなんだ。大丈夫ならいいんだけど」

龍驤「瑞鶴、ちょっち見ん間にずいぶん雰囲気がかわったな。何があったん?」

瑞鶴「別に何もないわよ。それより、稽古つけてくれるって言ったのはいつになるのよ」

龍驤「あれは無しやわ」

瑞鶴「昨日あんだけ脅しておいて今さらなしってどういうこと」

龍驤「脅しとらんわ! なんや瑞鶴、えらい言うようになったなぁ?」

瑞鶴「いつもと同じよ。でもなんで稽古の話を撤回するの?」

龍驤「キミを纏う空気見たら一発や、もうウチの稽古はいらんわ。加賀がなんかしたんやろな。その調子やと妖精さんの声も聞こえるようになったんとちゃう?」

瑞鶴「なんで顔も背中越しでそこまでわかるのよ」

龍驤「だてに秘書艦やってないで? この鎮守府最強の艦娘はウチやからな!」

瑞鶴「はいはい、さすがにそれは無いわよ。同時に操れる艦載機の数は加賀に勝てないし、軍艦としての純粋な性能だったら長門さんに勝てないでしょ?」

龍驤「あっちゃー、龍驤さんジョークは通じんかったか。けどな、秘書艦やから結構な裁量を与えられとんのやで?」

瑞鶴「まさか! 龍驤だけいい物を食べているとかじゃないでしょうね? 私にも食べさせてよ」

龍驤「なぁ、加賀ぁ。キミは瑞鶴に何を教えたんや? こんなこと言う娘やなかったやろ」

加賀「来る日に備えたくさん食べて体を作りなさいとは言いましたが、そのような解釈になるとは思いませんでした」

加賀の横で隼鷹が声を上げて笑い、とてもよく揺れていた。

龍驤「そういうことか。ごめんな、瑞鶴。秘書艦に期待してたみたいやけど、食べとるもんはみんなと一緒やで」

瑞鶴「そう、それならいいのよ」

龍驤「けど今日はお土産あるからな。この地域の名物、寒天菓子。果物が入った奴が美味しかったで」

瑞鶴「やった、ごちそうさまです! ん? なんでお土産があるのよ。どこかに行っていたの?」

龍驤「今日、休みにしたやろ? それで海運も漁連も海に出られんようななったからなぁ。急に予定を変えてしまったことへの謝罪に行っとった」

瑞鶴「秘書艦ってそんなことまでするの?」

龍驤「そうやで。漁連の方は顔馴染みやから謝って終わりやったんやけど、海運のほうがなぁ」

瑞鶴「何かあった?」

龍驤「初めて見る管理職の人間が出てきて、急に予定が変わったことに憤慨しとったわ」

瑞鶴「まぁ、向こうも仕事があるだろうから仕方がないでしょ」

龍驤「仕方ないわな。それで、膝をついて謝罪しろ言うから、ウチが謝ったんや」

瑞鶴「よくもそんなことをしたわね。ムカつかなかったの?」

龍驤「さすがに休みの原因がウチやったからしゃあないやろ。けどそれに飽きたらず、提督にも同じこと言うたんはちょっちなぁ」




213: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/27(土) 23:16:56.48 ID:JciRooOY0




「「はぁ?」」






214: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/27(土) 23:18:08.80 ID:JciRooOY0


湯船の方から怒気が発せられた。

あまりに想定外の状況に瑞鶴は身を縮める。

隼鷹「なんだよ、龍驤? あたしそれ聞いてないんだけど」

龍驤「言うとらんからな。言うたらキミら怒るやろ」

加賀「当然です。まさか、その様な暴挙を許した訳ではないでしょうね」

龍驤「許したで」

隼鷹「まさかお前が横にいてその体たらくなんて。何やってんだよ、秘書艦様」

龍驤「あのさぁ、逆に聞くけど、この鎮守府で誰が提督を止められるんや」

隼鷹「そりゃ龍驤だけだろ」

加賀「その通りです」

龍驤「買いかぶり過ぎや。キミらの期待に応えられやんでごめんやけど、2人で謝ったわけや」

瑞鶴「ふぅん」

龍驤「あんまがっかりせんといてぇ。さすがにその後に起きかけた惨劇は未然に防いだで?」

加賀「それは何ですか?」

龍驤「海運の取締役が割腹しかけたのを止めた」

瑞鶴「え? カップクって何よ?」

加賀「切腹、腹切りです」

瑞鶴「ちょっと龍驤! なんでそんなに血生臭いことになるよの」

龍驤「なってない、なってない。ちゃーんと止めたで?」

瑞鶴「意味がわかんないんだけど。ねぇ、加賀。なんでこうなるの?」

加賀「恐喝、侮辱、公務執行妨害。ぱっと思いつく当たりでこれが該当するのかしら?」

瑞鶴「え?」

隼鷹「やっちまった内容を近辺の住人に知られたら、生きていけなくなるだろうしねぇ。当然、海運も解体せざる得ないだろうね。自分とこの人間がそんなことやったら、それくらいは頭をよぎんるんじゃない?」

瑞鶴「え? え?」




215: ◆zqJl2dhSHw 2016/02/27(土) 23:19:47.94 ID:JciRooOY0


龍驤「瑞鶴、内におったら気づかんかもしれんけど、ウチらの提督は連合艦隊を預かっとるんやで?」

瑞鶴「わかってるわよ、そのくらい」

龍驤「わかとらんわ。キミが片手間で薙ぎ払えるイ級駆逐艦ですら通常兵力やと中破すら不可能な戦況なんや。そんな戦力をもっとる艦娘を一個人が指揮しとんのや。どう考えても恐怖やろ」

瑞鶴「別に提督さんは怖くないわよ」

龍驤「それは身内やからや。なんて言えばええんやろ、この地域で電を侮辱したようなもんって言えばわかるか?」

瑞鶴「何言ってんの。する人間なんていないしできるわけないわよ」

龍驤「それをしたんやって」

瑞鶴「はぁ? 龍驤はそんな暴挙を許したっていうの?」

龍驤「許したで、ってなんやこの天丼は。提督が是と言えば当然それは是なんやで? 提督が怒っとらんからなんも問題はないわ。言い訳させてもらうと止めさす間も無いくらい提督の謝罪は早かったからな?」

加賀「容易に想像できます」

隼鷹「だよなぁ」

龍驤「そのタイミングで向こうの上役が来たわけや。現場を見て開口一番、『彼の行動の責任は私にあります。声も漏らさずやりとげますゆえ、どうか』」

瑞鶴「ちょっとちょっと、なにそれ?」

龍驤「座して、匕首握って。腹に当てるまでまったく躊躇しとらんかったから本気やったな」

瑞鶴「死んじゃうわよ! なんで止めないのよ!」

龍驤「止めた言うたやんか。火克金! ってな感じで匕首を殺したわ」

瑞鶴「よかった、間に合ったんだ。けど龍驤が止めなきゃ死んじゃってたんじゃないの。提督さんは何してたのよ」

龍驤「うん? ウチが横におったからな、心配する必要はなんもないやろ。提督も言うとったしな、お前が横にいると安心だ、って」

加賀と隼鷹は小さく笑うが、よく揺れていた。

どうやら提督はやると決めたことをやり通しただけのようだった。

龍驤が原因であっても、休港を決定したのは提督だ。

その責任を果たすための謝罪を躊躇するような者ではない。

そして龍驤のこの話は、言わなくとも通じあっているという遠回りな惚気だったと判断した。

瑞鶴「人死がなくてよかった。その後はどうなったの?」

龍驤「依頼をひとつ受けてその場をあとにしたで」

隼鷹「もしかしてその依頼は、那珂ちゃん、島風、潮、漣が急に準備して出てったやつ?」

龍驤「ようわかったな。海運の彼らが本土に戻るため、海上護衛に出てもらったわ」

加賀「更迭、でしょうか。けれど、それだけで済んでよかったですね」

隼鷹「いやぁ、『那珂ちゃんにはオフはないんだね……。お仕事行ってきまーす!』って言ってたから、何事もなくはないんじゃない?」

龍驤「那珂にはまた有給とって貰わんとなぁ」

瑞鶴「秘書艦って大変だね」

龍驤「そうやで、けどそんな秘書艦をぼちぼち瑞鶴に引き継いでこう思っとる」

瑞鶴「どういうこと?」





216: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:39:23.19 ID:Ng8I11rZ0

龍驤「危機管理の一環やな。今日みたいなんが何回もあったらアカンやろ?」

瑞鶴「そう、かな」

龍驤「そうや。それにや、この立ち位置はそろそろキミに渡さんとなぁ」

瑞鶴「えっ?」

加賀「瑞鶴!」

瑞鶴「はいっ!!」

加賀「そろそろ上がります。龍驤さん、菓子いただきます」

龍驤「うん? おぉ! 食べて食べてぇ。第4保冷室の右から3番目の棚、中下段に置いといたで」

加賀「わかりました。瑞鶴、早くしなさい」

瑞鶴「まだ湯船に入ってないだけど……」

加賀「いいから来なさい」

瑞鶴「えぇ……。じゃあ、失礼します」

龍驤「またなー」

隼鷹「じゃあねー」

加賀と瑞鶴は一礼して船渠を後にする。






217: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:40:33.90 ID:Ng8I11rZ0


隼鷹「なぁ、龍驤よぉ」

龍驤「なんや」

隼鷹「秘書艦引き継ぎって提督の命令?」

龍驤「ちゃうで、命令が出た時に何も準備できとらんだら格好つかんやろ? できる龍驤さんはその時に備えとんのや」

隼鷹「うん、そうだよな。お前はそういう奴だよな」

龍驤「そうやで」

隼鷹「ふーん。あのさぁ、龍驤」

龍驤「なぁに?」

隼鷹「もう提督と既成事実作っちまえよ」

龍驤「……おもろいこと言うな。それやった所でどうなるんや? ウチら艦娘やで?」

隼鷹「そうだけどさ。行動できる間にしておかないと、後悔しか残らないからなぁ」

隼鷹は落胆していた。

持てる技能をつぎ込んで龍驤の髪を編みこみ、フレグランスも南西任務で手に入れたバンレイシの精油を惜しげもなく使った。それにも関わらず成果は無し。

提督に問題があることも考えたが、やはり最期の一歩を踏み出すべきなのは龍驤の方だろう。

隼鷹「まぁいいか。なんかイベントなかったの?」

龍驤「特になかったなぁ、一応謝罪に出てただけやからな。まぁ、甘味処でお土産選ぶのにいろいろ食べ比べて、酒保に補充するもの見繕って、服探して、珈琲飲んで……」

隼鷹「よーし、龍驤わかったわかった。特にイベントはなかったんだな」

龍驤「そうや。むしろ帰ってきてびっくり。高速修復剤がごっそり減っとった」

隼鷹「マジで? いや、いいだろう別に。大規模作戦にも参加しないような鎮守府だからさ」

龍驤「そうなんかな。けど、六駆の娘らが頑張った結果やからなぁ」

隼鷹「ふぃー、酒が呑みたい」

龍驤「突然やな。いやゴメン、昨日呑んどらんだな。あとで瑞鶴のところにたかりに行こか。まだ残っとるやろ」

隼鷹「行こうぜ〜。そうだ、鳳翔さんに生ハムメロンを作ってもらおう。洋食の作法を教えてやんよ」

龍驤「別にええよ。箸があるやん」

隼鷹「いつか、大本営に招集を掛けられた時、食事会で提督は冷たい目で見られるんだろうな。『キミのところではテーブルマナーも教えられていないのか』。もちろん龍驤は責められないから安心しろよ」

龍驤「どうか作法を教えてください」

隼鷹「ひゃはっは、もちろんいいぜ〜。けど船渠で土下座はやめろよ」

龍驤「ああ、危ないとこやった。これでウチも安心やわ。ん? 誰か来たみたいやな」






218: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:45:43.24 ID:Ng8I11rZ0

――執務室――

龍驤「ふんふーん、よっしゃできた。キミ、はいこれ」

提督「なんだこれは?」

龍驤「嘆願書や。巡洋艦をもう1人増やして欲しいんや」

提督「ふーむ、龍驤もか。これは本格的に交渉をする必要があるようだな」

龍驤「も?」

提督「うむ、電が突然やって来てな。お前と同じように嘆願書を持ってきた。しばらくしてから阿武隈と隼鷹がやって来た。何があったんだろうな」

龍驤「北上と話をしたんや。普段から達観しとるし、メチャクチャ安定した戦果を出しとるから気づけんだけど、あれは『同型艦に会いたい病』やわ」

提督は頭を抱え俯く。

また、気づくことができなかったからだった。

龍驤「自虐する暇はあげやんで。どうする? 電の時はわーわー喚いてくれたからわかりやすかったけど、今回は北上や」

提督「これは想定しておくべき問題だった。どんなに安定していても、どんなに練度が高くとも、もともとは軽巡だ。いや、違うな。高練度になって周囲を観る余裕ができたからこそか」

龍驤「そうや、今日なんか休みにしたのに六駆の訓練をしとったんや。それが引き金になったんかもしれん」

提督「あいつらは姉妹仲良しの見本を地で行くからな。どう考えてもそうなるな」

龍驤「どうすんの? もう保有枠はないで。もし大井を着任させるんやったら……」

提督「保有枠に最低1盃。しかも雷巡だよな、戦力制限でさらに軽巡1、もしくは駆逐2と引き換え、か?」

龍驤「それくらいになるやろ。決断の時や。先に言うとくけど、大井を着任させられんだとしても、北上は絶対に怒らんし、任務を放棄したりはしやんよ」




219: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:46:09.06 ID:Ng8I11rZ0




提督「大井を着任させる」






220: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:46:49.76 ID:Ng8I11rZ0

龍驤「りょーかい。通信式符を用意するわ。交渉に失敗したらどうしよか?」

提督「必ず要望を押し通す。武力を使わず交渉でだ。25盃目の保有枠を認めさせ、引き換えの艦はやらん」

龍驤「ほんま格好ええわ」

提督「もっと褒めてくれ」

龍驤「大井が着任できたらな。他には何を用意しとく?」

提督「ぬるめの珈琲とゼドリンを頼む」

龍驤「……本気でやるんやな」

提督「当然だ。俺はいつでも本気だ」

龍驤「じゃあ頑張ろか」

提督「あぁ」






221: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/06(日) 13:47:36.09 ID:Ng8I11rZ0

――母港――

提督「やはり阿武隈は一水戦旗艦にふさわしいな」

龍驤「ほんまやな」

夜戦に向かう水雷戦隊を見送る。そして、残ったそれぞれに入渠、練習航海、観艦式の振り付けを指示する。

提督「どうだ龍驤。俺はやりきったぞ!」

龍驤「そうやな、めっちゃ格好よかったで」

提督「そうだろう、そうだろう。……スマンが限界だ。後のことはよろしく頼む」

糸が切れたジョルリの人形を真似たかのようだった。

倒れ込む提督を龍驤が支える。

龍驤「こんなキミやからこそ、ウチは……」

音にならない程度の声で話しかける。

龍驤「明日からは劇の練習、しばらくしたら長門との演習、最期に大元帥を招いて劇本番や。これぞ龍驤を見せたるからな」

提督を抱え執務室に向かう。

劇当日まで数える程になった。




223: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:14:27.76 ID:pWRMy71s0

――劇の練習――

龍驤「はい、もういっかいや」

瑞鶴「皆、ゴメン!」

暁「大丈夫ですよ、瑞鶴さん」

龍驤「じゃあ初めて出会う場面やるでー」

「「はい」」

再度練習を始める。

瑞鶴「『龍驤は今何をやってるの?』」

龍驤「『生物調査や。資源やら生態系の変遷を見とんのやで』」

翔鶴「『へぇ、そうなんですか』」

龍驤「『けど今はこいつらの対応や。隔離指定の蟻なんやけど、最近勢力を伸ばしてきとる』」

翔鶴「『龍驤さんはこの辺りで駆除作業をしようとしているんですか?』」

龍驤「『いや、今は仲間と行動しとるとこやから戦闘はせえへん。そろそろ合流することになっとんのやけど……』」

雷「『龍驤さん! その人たち誰ですか?』」

龍驤「『あぁ来たな。この娘らはウチの友達や、旅の途中で寄ってくれたんやで』」

雷「『わざわざこんなところまで来てくれてありがとう! 私は暁型3番艦、雷よ! かみなりじゃないわ! そこのとこもよろしく頼むわねっ!』」

瑞鶴「え? 知ってるけど、……あ!」

龍驤「はーい、もっかいやり直しや」




224: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:16:29.80 ID:pWRMy71s0


瑞鶴「皆、本っ当にゴメン!」

暁「まだ会ったことが無い設定なんだから!」

雷「もっとちゃんとしてよね!」

瑞鶴「ごめんってば!」

響「もっとだね」

電「もっとなのです」

同じ失敗をした瑞鶴を囃し立てる。

瑞鶴「んぐにいぃい!」

「「わー、瑞鶴さんが怒ったー」」

瑞鶴「待てー!」

龍驤「あー、もう。電まで一緒になって」

翔鶴「瑞鶴がご迷惑おかけします」

龍驤「ええって。子供に好かれて、仲間にも慕われる。これがええ艦娘の条件やからな」

翔鶴「ふふっ、そうですね。あ、彩雲が」

龍驤「こるぁー、瑞鶴!! 艦載機で遊んどんなぁっ!」

瑞鶴「やばっ、龍驤だ! 逃げろー」

「「おー」」

翔鶴「あぁ、龍驤さんまで……」




225: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:17:17.18 ID:pWRMy71s0


日向「追いかけっこは満足できたか? この後出撃が控えているから、終わってもいいか?」

龍驤「待ってぇ! ウチひとりやとあの数はさばけんのや!」

日向「なら先に緒戦の場面をやろう。私の艦載機に式付を貼り付けてくれ」

龍驤「うん、仮想ニ級elite符、ホ級eliteにおまけでリ級eliteも付けたで」

瑞鶴「ねぇ、龍驤」

龍驤「なんや」

瑞鶴「蟻なのになんで深海悽艦なの?」

龍驤「劇やからな。なんでもかんでもそのまま適用できるわけやないで。ほら、どこやったかの鎮守府の出し物で駆逐艦の娘らが惑星を模した戦士を上演しとったやろ?」

瑞鶴「やってたね、星の守護を受けた戦士? 睦月型の娘達が演じたんだっけ?」

龍驤「そうや、ビデオ見てどうやった? 魔法みたいなんはなしで砲雷撃で置き換えてたし、敵役も深海悽艦を模したものや」

瑞鶴「あれってなんでなんだろうね」

日向「皇国海軍の広報活動の一環だからだな。強大な敵、恐ろしい敵に立ち向かう姿を民間に伝える必要があるわけだ」

瑞鶴「なるほど」

龍驤「後は古典やからな、時代に合わせて表現を変えることもあるで」

瑞鶴「『睦月に代わって、お仕置きだよ!』 うん、確かに上手だったし面白かったね」

龍驤「やろ? それじゃ、敵に囲まれた所をやるで。キミらは見学しとってな」

第六駆逐隊は肩で息をして、震えながら頷く。

瑞鶴からは余裕で逃げ切っていた。

龍驤が瑞鶴を囚えた瞬間、第六駆逐隊は全員が最大戦速に切り替えてすぐさま龍驤の元へ戻った。

現在、瑞鶴が余裕な顔をしているのはその時の記憶が飛んでしまっているからか。

龍驤「じゃあ、よろしく頼むで」

日向「心得た」

都合47機の水上爆撃機が深海悽艦を演じる。

誰もが知っている、高性能な多用途機であり、この鎮守府では日向のみが取り扱うことができる。

それらは深海悽艦(仮)となり、連合艦隊を組み、さらに支援まで出していた。




226: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:20:00.83 ID:pWRMy71s0


龍驤「『願ってもない機会や。キミらの内で覚悟が決まった方からやるんや』」

翔鶴「『私が行きます』」

瑞鶴「『いや、私が!』」

順番を決めるため、羅針盤を回す。

瑞鶴「『よし! ラッキー』」

翔鶴は不満そうに羅針盤娘を睨めつけた。

日向がホ級(仮)を前に進める。

雰囲気や動きまでが精巧だった。

むしろ発する圧力だけは、本物を上回っている。

瑞鶴「『勝敗の付け方なんだけど……話しは通じなさそうね』」

瑞鶴が艦載機を発艦させるより早く、ホ級(仮)は砲を放つ。

こと戦闘において瑞鶴は冷静だった。

回避ができないのであれば、受け止めるまで。

甲板を避け胸部装甲に着弾。

赤城や加賀と比べ非常に薄くはあるが、覚悟を決めた状態であればそれは優秀な装甲である。

小破にも満たない被害からの反撃。

彗星一二型甲による爆撃だった。

艦攻ではなく、より疾い艦爆を選び、放つ。




227: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:21:21.68 ID:pWRMy71s0




ホ級(仮):轟沈






228: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:22:02.19 ID:pWRMy71s0

日向「ほぅ」

瑞鶴は艦攻を好んで使っているにも関わらず、今回は艦爆を放った。

不意打ちに近い攻撃に対して反射ではなく、有効な手段を選択し反撃する。

その選択は、ただ運が良いだけでは説明ができない。訓練の積み重ねを感じさせた。

翔鶴「『次は私ね』」



日向がリ級(仮)を前に進める。



翔鶴は先制の急降下爆撃を実行した。

リ級(仮)「……」

重巡のelite級は軽巡と比べて装甲が強固だった。

翔鶴「『へぇ、そうですか』」

教科書通りであれば、より火力が高い艦攻に切り替える。

翔鶴はさらに艦爆を投入し続けた。

その数、24機。




229: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:22:56.47 ID:pWRMy71s0




リ級(仮):中破






230: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:24:02.58 ID:pWRMy71s0


龍驤「『嬉しい誤算や。ふたりとも実戦でこそ力を発揮できるみたいやな』」

瑞鶴の成長もさることながら、翔鶴が素晴らしかった。

艦爆で装甲を貫けなかった場合、通常判断なら艦攻に切り替える。

爆弾より魚雷の方が攻撃力が高いからだ。

ただし、艦攻を使った雷撃はその成果にムラがある。

期待以上の成果を発揮すれば戦艦を撃沈することができる。

裏目を引いた場合、艦爆の爆撃以下の損傷しか与えられない。

瑞鶴が撃沈させたことにも触発されず、正確な爆撃で重巡を中破にする。

中破となった重巡は戦闘離脱時の雷撃を放つことができない。

随伴艦との連携を考えると、確実に無力化できることこそ肝要であった。

日向「まるで赤城のようだな。しかし……」

龍驤は首を振り、日向を制する。この場では話す必要は無いということだった。

龍驤「『瑞鶴、翔鶴。3秒後に離脱や』」

龍驤は羅針盤を回す。

翔鶴「『瑞鶴、あれはヤバイわね」

瑞鶴「『そうだね、翔鶴姉』」

龍驤「『あぁもう、ハズレや!』」

羅針盤娘「『ハズレとかいってんじゃねー』」

草を刈り取るための大鎌のようなものが見えた。

勅令の光を灯して振り抜き、46盃の深海悽艦(仮)を送還する。

龍驤「『回すまで進めやんし戻れやん。まったく役に立たんやっちゃな』」

羅針盤娘「『文句いってんじゃねー!』」

そう言い残し羅針盤ごと霧散する。

龍驤「『2人とも良かったで。これならやってけそうやな』」

翔鶴「『まだ練度を上げないといけませんが』」

龍驤「『こんな場所や、練度は嫌でも上がるで。瑞鶴は大丈夫か?』」

瑞鶴「『意思疎通ができない相手なんてどうにでもできるって』」

龍驤「『それが心配なんや。会話が成り立つ相手が出てきたらどうすんの』」






231: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:24:49.34 ID:pWRMy71s0


龍驤「はい、ここまでー。ご苦労さん」

雷「翔鶴さん、すごいわ!」

電「瑞鶴さんもいつの間にこんなになったのですか?」

雷、電は五航戦姉妹に駆け寄る。

駆逐隊にとって戦艦や空母は護衛対象であり、護衛対象が強く可憐であればより士気が上がるというものだ。

暁「なんで? 何で爆撃に耐えられたの?」

響「それはとても気になるね」

暁、響は日向に駆け寄る。

駆逐隊にとって日向は何故かはわからないが、戦艦や空母よりも信頼できる艦娘だった。

暁「日向さん! なんで艦載機が爆撃に耐えられるんですか? もしかして、それがあの有名な特別な瑞……」

日向「暁」

暁「はい!」

日向「その名をみだりに呼んではいけない。君は淑女だからわかるだろう?」

暁「と、当然よ。響も聞いちゃダメなんだからね!」

響「わかったよ、暁。でも日向さん。なぜ水上爆撃機を使うのかな。あなたは長門さんよりも序列が上の艦娘だよね。大型の主砲で闘うだけじゃだめなのかな」

日向「ふむ、なるほど。その質問も最もだな。逆に響。私が純粋な大艦巨砲主義で長門に挑んだ場合、果たして勝てるだろうか?」

響「その、申し訳ないけれど、多分長門さんが勝つと思うよ」

日向「的確な分析だ。まぁ、悪くないな」

日向は響の頭を撫でてやる。暁はそれを見て何かを考える。

日向「重ねて聞くが、我々は単艦で出撃するだろうか」

響「絶対にしないね。深海悽艦も艦隊を組んでいるし、戦略的に不利になるばかりだ」

日向「そうなるな。さて、長門との力比べで劣る私の序列が上な理由はわかったか?」

暁「はい! 艦の性能じゃなくて、戦果を上げたから!」

日向「ふむ、わるくない。やはり姉というものはよく見ているものだな」

日向は暁の頭を撫でてやる。暁はご満悦だった。

日向「私に求められた闘いは長門にはできないものだったわけだ。水雷戦隊と鳳翔や龍驤、そして私。徐々に君たちも参加することになっている。響とは先に行ったな」

響は頷く。

暁「長門さんができないのに暁にできるの?」

日向「まぁ、そうなるな。想像してみてくれ、長門を旗艦に、比叡、妙高、赤城、加賀、翔鶴で艦隊を組むとしよう」

暁「レディだわ! すっごくレディだわ!」

日向「今後君に求められる闘いは、彼女たちにはさせられない闘いだ。なぜかわかるか?」

暁「燃費が悪いとか? ひよーたいこーかってやつね」

日向「その通りだ。彼女たちではただの一撃も与えられないまま一方的にやられてしまう。出撃しても戦果は皆無だ」

暁「え? なにそれこわい」

日向「それだけこの仕事は重要なわけだ。暁よ、君には期待しているぞ」

暁「暁の出番ね! 頑張るわ!」







232: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/21(月) 23:26:55.35 ID:pWRMy71s0


龍驤「おーい、暁。出撃やから準備してー」

暁「わかったわ! 編成はどうなっていますか?」

龍驤「暁が旗艦で、ウチと漣と日向や。みんな待っとるからちょっち急いでな」

暁「え? 日向さんはここにいるんだけど」

日向「いや、これは私ではないな」

目の前から日向が消えた。

暁「きゃーっ! 響! 日向さんが!」

響「……これ対魚雷用デコイだ」

暁「じゃあ、日向さんのデコイが劇の練習をしていたっていうの?」

響「……まぁ、そうなるな」

暁「真似してるんじゃないわよ」

響「ごめん。ねぇ、暁。日向さんと長門さん、単騎で決戦して本当に日向さんは負けるのかな」

暁「暁に聞かないでよ。ところで響、日向さんが言ってた闘いって何のこと?」

響「私は潮と行ったんだけど、鎮守府近海の対潜哨戒のことだよ」

暁「潜水艦は怖いものね」

響「そうだね」

暁「それじゃあ、いってきます」

響「いってらっしゃい」




233: ◆zqJl2dhSHw 2016/03/27(日) 23:14:16.79 ID:TIqwJd5t0

――劇の練習――

鳳翔「では交代して。私達の稽古を始めましょうか。場面は私達が翔鶴さん達に合流する所からです」

「「はい」」



雷「『翔鶴さんから入電だわ! ワレ・ズヰカクヲ・エイコウシ・キカン・リウジヤウハ・コウセンチウ ちょっと!? どう言うことなの! ねぇ、翔鶴さん何が起きたの!』」

響「『電話じゃないから話してもだめだよ。貸して』」

雷「『ちょっと、なにするのよ!』」

響「『キョテンニ・ゴウリウサレタシ・オウエンブタイヲツレテイク』」

暁は対潜哨戒に出てしまったが、つつがなく劇の練習に臨む。

調査隊役の彼女たちは応援部隊役の空母を拠点に案内する所を演じていた。



加賀「『なんですか? 五航戦ではないですか。物見遊山で首を突っ込むからやけどをするのよ。さっさと鎮守府に帰りなさい』」

赤城「『やめてあげてください、加賀さん。可哀想でしょう』」

加賀は赤城を見る。

赤城「『相手はただの五航戦なのですから』」

加賀「赤城さん、さすがにその言い方は……」

鳳翔「はい、やり直しです」

加賀「あ……、すみません」

駆逐隊は加賀と瑞鶴を見比べ、何か合点がいったようだった。

赤城「そういうこともありますよ。翔鶴さん、演技ですから泣かないでください」

翔鶴「あ、いえ。違うんです。この場面そのものが、何か胸の奥で引っかかると言いますか」

赤城「演技とはいえ仲間を置いて逃げ帰っていますからね。腑に落ちないこともあるでしょう。こちらへおいでなさい」

駆逐艦から翔鶴の顔が見えないように、赤城の胸で隠してやる。

赤城「大丈夫です。今は資源もまかなえています、訓練もできています、仲間も居ます。未だ終わりが見えない闘いでは有りますが……」

一呼吸置いてから澱みなく宣言する。

赤城「今度はあなた達を残して逝ったりはしません」

翔鶴「はい!」

航空母艦を眺める駆逐艦。

少し横で鳳翔が手招きをしていることに気が付き、我先にと駆けて行く。

手持ち無沙汰になった加賀は気絶する演技をしている瑞鶴を眺める。

演技ではなく本当に寝ているように見えた。

加賀「……」

呼吸音に乱れはないので寝ているようだ。

誰も加賀を見ていないことを確認した後、瑞鶴の頭を撫でてやる。

加賀「……」

瑞鶴「……」

瑞鶴の顔が赤くなった。





234: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:46:26.57 ID:AITBL+Oo0

――劇の練習――

鳳翔「『派手にやられたようですね。敵はそんなにも手強かったですか』」

翔鶴「『今まで出会ったどんな敵よりも薄気味悪い空気を纏っていました。現界して、再び艦載機を操れるようになったからわかります』」

伏せていた顔を上げて、鳳翔達を見る。

翔鶴「『あなた達もすごく強い。それでも……アレに勝てる気はしません』」

赤城「『あはは、艦娘も人と同じで得体の知れないものに会ってしまうとそれを過大に評価してしまいますからね。あなたは今、一種の恐慌状態に陥っているのですよ。あとは私達に任せてゆっくり休んでください』」

加賀「『ふふ。結局私と同じことを言っているではないですか、赤城さん』」

笑った後に翔鶴に顔を向ける。

加賀「『五航戦。機動部隊同士の闘いに勝ち目の有り無しを問う事自体が間違っています。敵艦載機の種別、練度はわからなくて当たり前、ほんの一瞬の緩み、慢心が一発逆転の致命傷になります』」

加賀はさらに話を続ける。

加賀「『一見した艦載機数の多寡は気休めにもなりません。勝敗は揺蕩っていて当然です。しかし、それでも……』」

加賀「『完全勝利をおさめる気でやる、それが空母の気概と言うものです。相手の空気に気圧され、逃げ帰った時点であなたは失格。敗者以下です』」

赤城「『加賀さん、もういいです』」

鳳翔「『瑞鶴さんはどうなっていますか』」

翔鶴「『敵に攻撃を仕掛けようとしたから力づくで止めました。手加減をしなかったのでいつ目覚めるかはわかりません』」

加賀「『ふふっ、そっちの五航戦はまだ見込みがありますね』」

赤城「『加賀さん』」

鳳翔「『深海悽艦と艦娘の関係上、中途半端な戦力では敵に取り込まれる恐れがあります。わかりますね』」

翔鶴「『……はい』」

そのための少数精鋭の部隊だ。

鳳翔「『最寄りの泊地に2人、刺客を放ちました。やるかやらないかは自由です。しかし、倒してからおいでなさい』」

鳳翔の姿勢には芯が通っていた。その見た目以上に力強い声で伝える。




235: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:47:40.16 ID:AITBL+Oo0




「『艦娘として生きるのであれば』」






236: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:49:49.34 ID:AITBL+Oo0

鳳翔は割符を2つ投げ渡す。

鳳翔「『猫の手は要りません。必要なのは強者のみです』」

精鋭の機動部隊は悽地へ、五航戦は駆逐隊に護衛され泊地へ向かう。

暗転。

瑞鶴は目を覚ます。

瑞鶴「『ありがとう』」

翔鶴「『ありがとうって何?』」

瑞鶴「『私を止めてくれたのは翔鶴姉でしょ。あのまま私が暴走してたら龍驤の邪魔をしていた。そうなったら3人共危なかった』」

翔鶴「『けど! 私は龍驤さんを見殺しにした』」

瑞鶴「『龍驤は生きてるわよ。あんな奴には絶対、絶対に負けない』」

疑うことなど一つもない。

瑞鶴「『だけどあれだけの損傷だから、奴を倒してもすぐには動けないわ。多分どこかに身を潜めて待ってるよ』」

瑞鶴「『私達が戻ってくるのをね。だから早く戻ろう。強くなって。龍驤を助けに』」

語り部「翔鶴の心の内、『あぁ、瑞鶴。あなたは光よ。時々、まぶしすぎて真っ直ぐに見られないけれど、それでもそばにいていいかしら』」

翔鶴「『行きましょう! 強くなって』」






237: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:51:45.86 ID:AITBL+Oo0

鳳翔「はい、ここまでです。皆さんお疲れ様でした」

電「やったのです。ようやく、通しでできたのです!」

島風「……加賀さん、瑞鶴さんおっそーい」

加賀「面目次第もないです」

瑞鶴「本当にごめんね」

直情型の瑞鶴と隠れ直情型の加賀。演技は苦手だった。

那珂「島風ちゃん、語り部お疲れ様! すっごく上手だったから那珂ちゃんびっくり」

島風「那珂さん、ありがとうございます。あれ? 観艦式部隊の皆は?」

那珂「皆一生懸命、操舵訓練(レッスン)に着いてきてくれたよ! 潮ちゃんと隼鷹さんは最後までやりきってくれたんだよ☆」

ぞっとしない話だった。参加者の長門と祥鳳は那珂の訓練に耐え切ることはできなかったと言っている。

戦艦も空母も普段の訓練は非常に厳しい。

搭乗員妖精が「全なる一」に戻ってしまうこともままある。

那珂が水雷戦隊を訓練する時は、それらの訓練に負けず劣らずの上、常に『笑顔』を要求される。

疲労の蓄積が桁違いだった。

隼鷹に連れられ、長門と祥鳳は入渠中。

潮と漣は劇部隊と話をしている。

那珂「そうだ! 漣ちゃんは途中で対潜哨戒に出ちゃってたよね☆ 今から追加の操舵訓練(レッスン)をしよう!」

漣「はにゃ〜っ! ナカバレ〜※2」 ※2:那珂ちゃんにバレちゃったよ、やっべ〜

水雷戦隊は常に仲間とともに闘う。

それが海戦であろうといたずらであろうとも、だ。

那珂の意識が漣に向かった刹那、最速の艦娘が起動した。

島風は那珂の精神的スイッチを切る。第四水雷戦隊旗艦のお団子が解け、垂れ髪となった。

漣「島風殿、良い仕事ですぞ! お礼は間宮なのです!」

漣と島風は互いに敬礼を交わす。

那珂「……漣さん、時間は十分ありますがうまく使わなければなりません。さっそく始めましょう」

生まれながらのアイドルは存在しない。

アイドルであろうとする心こそが那珂を艦隊のアイドルへと導いていた。

アイドルとはいえ、本質はやはり水雷戦隊旗艦の軽巡洋艦だった。

漣「徹底的にやっちまうのねっ!」

漣と潮は第六駆逐隊とは別の系譜としてここにいる。

ふざけているように見えたり、怯えたように見えたりしても、心意気は赤城と加賀にも匹敵する。

漣「駆逐艦漣、出るっ!」




238: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:54:21.89 ID:AITBL+Oo0




時を同じくして。






239: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/02(土) 23:56:46.57 ID:AITBL+Oo0

――劇の練習――

「『格納庫ヲ用意セヨ。艦載機ガ100機以上格納デキル規模ガイイ』」

「『ゼロガサビナイヨウニネ』」

戦利品を抱えたまま呟く。

「『ウン。ワタシ、チョットツヨイカモ』」



【姫様、お疲れ様です。以上で稽古終了です】

【わたしのせりふ、これだけ……】

【とても重要な役ですから】

【うん、がんばればきっとゼロがもらえる! ……ほぽぅ、つかれちゃった】

【はい、戦艦が運んできた羊羹です、召し上がってください。あと姉姫様から入電です】

【マミヤたべる! おねぇちゃんなんていってる?】

【『南方から戦艦が迎えに来てくれます、それまでに準備をしておいてください』だそうです】

【はーい、じゅんびしておくね】



劇当日、ゲストは龍驤と出会うことになる。




241: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/10(日) 23:07:36.78 ID:fna7Hy4H0

――船渠――

雷「いやー、出撃後のお風呂は気持ちがいいわね!」

雷は劇の練習が終わった後、阿武隈、鳳翔、日向と共に対潜哨戒へ向かった。

旗艦としての初出撃であり、緊張がなかったといえば嘘になるが、任務を全うできた。

雷「暁もそう思わない!?」

戦意高揚のまま姉に同意を求める。

暁「そうね」

雷「何よ、元気ないじゃない」

暁は出撃した時のことを思い出していた。

仕留め損ねた潜水艦からの雷撃。随伴艦はそれから暁を庇う。

撃ち漏らしたことや回避できなかった事の悔しさ、仲間が傷つく事への焦燥感が募っていた。

そんな暁に仲間は異口同音に伝える。

『共に闘い、共に帰ろう』

その言葉を胸に、暁は最奥に潜むヨ級flagshipを撃退する事ができた。

暁「仲間がいないと闘えないわね」

雷「あたりまえじゃない。単横陣が組めないんだから」

暁「そういう意味じゃないわよ」

雷「じゃあ、どういう意味よ。けど、仲間って大事よね。雷達が力を合わせたら長門さんだって追い詰められたんだもの」

暁「そうね。長門さん、今度加賀さんと龍驤さんを相手に演習するんだけど、勝てるのかしら」

長門「勝てないな」

雷「長門さん!」

長門「不覚にも軽く気絶していた。那珂の訓練はなかなか堪えるな。祥鳳はすでに上がっているようだが」

雷「それより長門さん、勝てないってどういうことなの」

長門「文字通りの意味だ。私では彼女達には勝てない」

雷「だったら何で」

長門「勝てないからと言って避けては通ることができないからだ。結局の所、深海悽艦の空母機動部隊は待ってはくれない。その時に備えるために練度の高い空母と訓練をしたいのだ」

演習はあくまでも演習であり、長門はその先を見ていた。

負けること自体は当然悔しいが、本当の敗北に比べればどうということはなかった。

暁「じゃあ私が長門さんの随伴艦に付くわ! 実戦を想定するなら艦隊を組んだほうがいいもの」

雷「なら雷も付くわね。長門さん1人で出撃なんてさせないんだから!」

長門「ふふふっ」

暁「何か変なことを言っちゃったかしら?」

雷「そんなことないと思うけれど」






242: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/10(日) 23:09:44.20 ID:fna7Hy4H0


長門「いや、すまない。その通りだ。たった1人で彼女たちに挑もうとしたのは私の我儘だった」

雷「もっと私に頼っていいのよ?」

長門「頼りにしているさ。だが今回は私に任せて欲しい。お前たちに守られる私ではなく、お前たちを守れる私になりたい。それに私を応援してくれるということは、共に闘うのと同じではないか?」

暁「そうかしら?」

長門「そうさ」

雷「じゃあせめて、長門さんの髪を洗ってあげるわ」

長門「そうか? ではお願いする」

暁「私は背中を流してあげる」

長門「あぁ、頼む」

湯船から上がり、洗い場へ向かう。

電「お待たせしたのです」

響「こんばんは」

電「はわわっ! 暁ちゃんがおっきくなっているのです!」

響「そんな馬鹿な。まるで超弩級戦艦じゃないか」

長門「それは私のことを言っているのか?」

響「話し方まで。まるで長門さんみたいだ」

暁「響、この人が暁なら私は誰なのよ」

響「暁だね。紛らわしいことしないでよ」

暁「まぁ、暁は1人前のレディだから。長門さんと見間違えるのも仕方がないわ」

電「けど、同じ艦娘とは思えないほど大きさが違うのです」

長門「どうした? そこで止まっていないでこちらに来てはどうか?」

入り口にいる響と電を手招きする。手の動きに従ってよく揺れていた。

長門「さて、あの2人に訓練を頼んでから演習に臨むとするか」






243: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/10(日) 23:11:41.99 ID:fna7Hy4H0


――射撃訓練場――

瑞鶴「ねぇ、加賀」

加賀「何かしら」

瑞鶴「今日って長門さんと演習するんでしょ、休んでなくていいの?」

加賀「まさか本気でそんなことを聞いているのではないでしょうね」

瑞鶴「本気で聞いてるわよ。いくら2体1でも相手は長門さんよ。疲れた状態で勝てるの?」

加賀「ただ勝つだけなら、間宮でアイスクリンでも頬張ってから臨むべきでしょう」

瑞鶴「でしょ?」

加賀「しかし、ただ演習に勝つことは目的ではありません。いつ出撃しても良いように、かと言って訓練をおろそかにするわけでもなく。平常心のまま臨み、そして勝つことが目的です」

瑞鶴「だけど」

加賀は射位から下がり、弽を取り外す。

加賀「劇の稽古の時、赤城さんはあなた達を残して先に沈みはしないといいましたが、私は違います」

瑞鶴「……え?」

加賀「私が先駆けます。私が矢面に立ちます。沈むときは私からです。ですが必ず敵勢力は削り取ります、ただでは沈みません」

その眼はただただ恐ろしい光を灯していた。

加賀「その時はあなたが決着をつけなさい」

瑞鶴「や、やだ! 何で加賀が沈まないといけないのよ」

加賀「最近、あなたのことを甘やかしすぎたかしら。五航戦、私達がどういった存在かを言ってみなさい」

瑞鶴「深海悽艦の脅威から皇国を護るための兵器よ」

加賀「そうよ。わかっているようね」

瑞鶴「けど」

加賀「はぁ。どうしようもないわね。いつか私も轟沈する時が来るでしょう。ですが、今日ではないですし、明日でもありません。それは深海悽艦を最後の1盃に至るまで沈めきった時です」

勝手を瑞鶴の頭に置きながら続ける。

加賀「人のことをとやかく言う前に、まずはあなたが頑張りなさい」

瑞鶴「わかったわよ、もう!」

怒る瑞鶴、口の端で笑う加賀。

瑞鶴「……ねぇ、今日も勝てるんだよね」

加賀「安心なさい。鎧袖一触よ」






244: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/10(日) 23:13:27.02 ID:fna7Hy4H0


――試着――

比叡「これなんてどうですか!」

龍驤「ええなぁ。ビーズレースを非対称に流すとこがええでぇ。けど、比叡ならこっちもええんとちゃう?」

比叡「おぉ! モザイク模様に刺繍を入れていますね。こうなったらもっと攻めて行きましょう!」

龍驤「ほっほー、ならこれや! 絶対、比叡に似合うでー」

比叡「ひえ〜っ! ビスチェドレスじゃないですか!? さっすがですねぇ!」

龍驤「やろやろ! ウチやとフルフラット過ぎて着られんけど、比叡やったらぴったりや!」

比叡「では、このドレスです! 妖精さん、試着お願いしますね!」

工廠妖精が集まってくる。

比叡の艤装を御召艦仕様に換装するため手際よく動いた。

比叡「どうですか、龍驤さん!」

龍驤「おぉ〜! めっちゃ綺麗や」

比叡「当然です!」

普段控えめな比叡にしては、非常に勝ち気な回答だった。

比叡「私は金剛型戦艦2番艦の比叡です! 金剛お姉様譲りの装備と大和さんのために用意した艦橋。今の私に恥じる所など1つもありません! それはあの2人を恥じるのも同義ですから」

龍驤「かっこえぇ。ウチもこんな風に言えるようにならんとな」

比叡「そうですよ。せっかくの機会なので龍驤さんも試着してみましょう。どれにしますか?」

龍驤「ええんかな、ウチも着てみてえんかな」

比叡「もちろんです!」

龍驤「え〜と、これがええな」

比叡「おぉ〜! アンピールラインのドレスですね」

龍驤「ウチ、ちょっち背が低いからこれがええ気がすんのやけど、どうやろ?」

比叡「似合いますよ絶対! 妖精さん、こっちもお願いします!」

工廠妖精により、龍驤はシルクのドレスに身を包む。

龍驤「……ええなぁ。これ着たいなぁ」

鏡に映る艦娘に正直な心情を述べた。

比叡「いいですね!」

龍驤が姿見を注視している間に、比叡は工廠妖精達に目配せのみで指示を出す。

正確な採寸と並行して、次々に装飾を取り替え記録する。

比叡「青葉さん!」

青葉「あいあい! 龍驤さん、これ持ってください」

青葉は白を基調としたブーケを手渡す。

続いて青葉の搭乗員が各々の役割を果たす。

ある妖精は龍驤に化粧を。

ある妖精はブルースクリーンを展開。

ある妖精はレフ板を。





245: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/10(日) 23:14:50.37 ID:fna7Hy4H0


龍驤「あれ? ウチなにやっとんの?」

青葉「広報誌に載せるんです。秘書艦の仕事ですよ?」

龍驤「そやったっけか」

青葉「そうです」

龍驤「そうか」

青葉「はい」

初めて聞いた仕事を言われるがままにこなす。

青葉「龍驤さん、今日は大丈夫ですか?」

青葉は加賀と龍驤、そして長門の演習のことを聞いた。

何も準備をしていないように見えたからだ。

龍驤「もちろん大丈夫やで〜。第3哨戒線より内に来たんはロ級が2体だけで、そのまま外に戻ったしな。即出撃可能な艦娘は鳳翔、那珂、妙高、島風、祥鳳、潮やから、よっぽどが起きても対応できる」

青葉「……おぉ」

予想外の答えが返ってきた。

秘書艦はまったく浮ついていなかった。

純白のドレスに浮ついていることは事実だろうが、並行して臨戦状態でもあった。

龍驤「むしろ青葉の方こそ大丈夫か? 全然寝てないやろ?」

青葉「いえ! 青葉は大丈夫です。慰労会は楽しかったですし、何より電様と鎮守府の歴史を編纂する任務もできましたので!」

龍驤「絶対寝不足や。今日の演習は司会実況いらんから。もう休み」

青葉「きょーしゅくです! けど、心配御無用ですよ。よーし、もっと働けます!」

比叡「えぇいっ!」

比叡は裂帛の気合で青葉の意識を刈り取り、そのまま抱え上げる。

龍驤「ありがとぉ、比叡」

比叡「お安い御用です」

龍驤「今日の司会実況はないけど、日向に解説して貰って隣に瑞鶴を座らせとこ」

比叡「とてもいい看取り稽古になりますね」

龍驤「そうやろ? もっと瑞鶴には育ってもらわんとな」

比叡「……そうですね」

おそらく龍驤の勘違いは、龍驤自身が気がつくまでは正せないだろう。

比叡「指令、腕の見せ所ですよ」

龍驤「おっ? そうやな」






246: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/24(日) 22:33:31.73 ID:OuFKJnQo0

――演習~加賀・龍驤VS長門――

瑞鶴「……」

左を見ると、鳳翔、赤城、隼鷹、祥鳳、翔鶴と空母機動部隊が並んでいる。

瑞鶴「……」

右を見ると、北上、比叡、那珂、妙高、川内と水上打撃部隊が並んでいる。

瑞鶴「……えぇ」

前を見ると、阿武隈と大井が駆逐艦の相手をしている。意外なことに潮が大井に懐いていた。

そして真横には。

日向「まぁ、私というわけだ」

瑞鶴「あの、日向さん。何で私はここに座っているのでしょうか」

日向「面白い質問だ。君の隣に私が座っていることではなく、君自身が座っていることに疑問を持ったということか」

瑞鶴「はい」

日向「答えは至って単純。君に成長してもらうためだな。そんな君に、私は航空戦と砲撃戦の解説をするというわけだ」

瑞鶴「それって何でですか」

日向「秘書艦候補なのだろう? 秘書艦に強さを求められるのは当然だからな」

瑞鶴「あの、日向さん。それなんですけども」

言葉を遮る形で瑞鶴の頭の中に声が響いた。

分かっているが、現秘書艦が指令代行権を発動させての指示だから無碍にできないとのことだった。

瑞鶴「あ、え? 今、頭の中に……」

日向は涼し気な顔で、唇に人差し指を当てていた。

艤装に駆逐艦が2盃よじ登っているにも関わらず余裕の表情だった。

日向「しかし、瑞鶴か。君は実に良い名を授かっているな」

これは完全に日向の独り言だった。

瑞鶴「あと所属の艦娘が全員揃っているんでしょう? 遠征や出撃は?」

日向「全員ではない、青葉が船渠で眠っている。厳しい日程をこなしていたからな、そのまま休ませてやろう。提督もまだ眠っているな。また、今日、演習するのは彼女たちだからだ。見ることもまた重要な訓練と言うわけだ」

長門「加賀よ、楽しみにしていたぞ。今日こそは封殺させてもらおう」

加賀「私もそれなりに楽しみにしていたわ。前のようには行きません。完封は確定かしら」

戦艦と空母の間に火花が散った。

龍驤「一応、ウチも参加するで〜。一応」

大切なことなので2回言った。

龍驤「まぁ、ちゃっちゃとやってしまおか。瑞鶴、合図出して〜」

瑞鶴「え? うん。いいのそんなに軽く始めちゃって?」

長門「かまわんよ」

加賀「かまいません」

笑顔の長門と表情が読めない加賀。

一見して似ていない彼女たちだったが、内にある隠し切れない熱さは同じだった。

もう1秒たりとも待てなかった。

瑞鶴「じゃあ、はい。演習開始です!」






247: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/26(火) 21:28:11.19 ID:gXSTJlEZ0

――加賀・龍驤――

龍驤「ほんまに完全勝利狙いでいくん?」

加賀「はい。後先を考えずに全力で行ける機会なんてそうはありませんから」

龍驤「けど負けるかもしれんで? 消極的やけど、長門を削り取るように攻め立てたら確実に勝てるんやで?」

加賀「それでもです。あの人は1人で背負いすぎるきらいがありますから。それは美しいことかも知れませんが、必ずしも正しいとは言えません」

龍驤「そうかもなぁ。けど、あはは。最近の加賀は面倒見がええのが素直に出ててええなぁ」

加賀は顔をそらす。

加賀「まぁ、陸奥さんが着任していないこの鎮守府なので。あの人に言うのは私の役目でしょう」

龍驤「うんうん。よっしゃ! ほんじゃま開幕に全力かけてな。索敵はウチがやるよ」

背後に龍驤の甲板である『航空式鬼神召喚方陣龍驤大符改弐』が展開される。

龍驤「艦載機のみんな! お仕事、お仕事!」

二式艦上偵察機を都合18機発艦させた。

同時に眼に光を灯し、艦載機との同期を開始した。

加賀「……相も変わらず。そればかりは真似られません」

龍驤「適材適所やな。キミ等がここの花形やからしっかり攻撃頼むで」

加賀「宜候(よーそろー)」

龍驤「……長門みっけ! 零観がこっちに向かっとるわ」

やりますね。では、皆さん。行きましょう」

肚に息を落とし込み胴を造る。番えた艦載機は彗星と九七式艦攻、どちらも限界練度と評された熟練妖精が乗り込んでいた。

龍驤もそれに合わせて発艦準備を完了させる。その式符は零式艦戦62型、通称『爆戦』だった。

龍驤「ほいじゃ、妖精さん達。たのんだで」

熟練員「承知」

新米員「自分頑張るっす!」



加賀「第一次攻撃隊、発艦します」





248: ◆zqJl2dhSHw 2016/04/26(火) 21:31:23.62 ID:gXSTJlEZ0

――瑞鶴・日向――

瑞鶴「2人共艦戦は積んでないのね」

日向「相手が航空戦力を持たない戦艦だからな」

瑞鶴「長門さんが瑞……水上爆撃機を積んでいたらどうするのかしら。龍驤が爆戦を発艦しているから大丈夫か」

日向「即座にその可能性を考慮できるとはな。瑞鶴も偵察機を出すといい」

瑞鶴「何でですか?」

日向「思ったよりも早く終わるからだ。目視だけでは心もとないからな」

そう言いつつ、14機の水上偵察機を発艦させた。

他の見学者を見ると、同じように電探を起動させたり偵察機を発艦させたりしていた。

瑞鶴「急がなきゃ」

瑞鶴は彩雲を番え、3機だけ発艦する。この時、わずかに眼に黄金色の輝きが現れた。

日向「それだけでいいのか? 君ならもっと多くの艦載機を扱えるだろう」

瑞鶴「その、お恥ずかしながら、同期できる数は3機まででして。でも! 龍驤の訓練をサボっているわけでは無くですね」

日向「もう一度言ってくれ、同時に3機に意識を通せると言ったか?」

瑞鶴「呆れないでくださいよ、私も頑張ってるんです。操作自体は84機はいけるんですけども」

日向「いや、すまない。ただ、おどろいただけなんだ。責めているわけでも呆れているわけでもないのだが。瑞鶴よ、例えば赤城や加賀は何機同期できるか知っているか?」

瑞鶴「あの人たちだったら搭載機全部なんじゃないですか?」

日向「1機だけだ」

瑞鶴「嘘でしょ? 一航戦ですよ?」

日向「彼女たちに限らない話なんだがな。私達が艦載機を操るときはTSS※3でしかない」 ※3 time sharing system:細かく切り替えることで複数の処理を同時に実行しているようにみせる。

瑞鶴「え? てぃーえすえす?」

日向「ごく一部の艦娘だけがMT※4で操ることができる。龍驤を見てみるといい」 ※4 multi task:複数の処理を同時に実行する。

瑞鶴「なんか……眼の色が……というか光ってる?」

日向「今の君も、ほら」

胸部装甲から手鏡を取り出し、瑞鶴に渡す。

瑞鶴「わっ! 何ですかこれ!」

日向「わかったか? これは……」

瑞鶴「この鏡ものすごく可愛いです! どこで手に入れたんですか? 今度連れて行ってくださいよ」

日向「あ、あぁ。いつでもいいぞ。というか恥ずかしいな、なんだこれは?」

不意の一撃に日向は狼狽え、彼女にしては珍しい表情を見せた。そしてその鏡は実際カワイイ。

瑞鶴「すみません、話がそれちゃいました。わっ、なにこれ? 眼が光ってる」

日向「私達は勝手に虎視(トラノメ)と呼んでいるが、君はこんなにも低い練度でこれを使うことができるのか。もしかすると龍驤は本気で秘書艦の任を受け渡そうとしているのかもしれんな」

虎視は、ある日龍驤が確立した艦載機操作術だった。

同時に見るということは、威圧をかけるのとほぼ同じ意味を持っている。

艦体に影響はないが、それを操るのは心持つ艦娘だ。練度次第では直視できない程の重圧を受けることになる。

瑞鶴「日向さん、航空戦に突入します!」




249: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:23:36.48 ID:8hlHK6Es0

――長門――

長門「お前たちならきっとそうしてくると信じていたぞ」

零観を通して、龍驤の二式偵察機とそれに続く加賀の主力艦載機を捉えた。

長門「消極的な勝利では満足できないよな、加賀。訓練とは言え、半分は全力を出しきるためだけの場だからな」

長門は三式弾を装填し備える。

長門「戦略だけでいえば零観を無視して、私への攻撃に全力を注ぐべきだろう。だが、今この瞬間だけは想像せずともわかる。お前は確実に零観も殲滅しようとする」

目視できない有効射程内という微妙な距離。14号対空電探と、確信とも言える勘に従い長門は射撃員に指示を出す。

長門「三式弾一斉射!」

さらに零観が加賀達の飛行部隊に会敵する直前、長門は方向転換指示した。






250: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:24:42.30 ID:8hlHK6Es0

――第一次攻撃隊――

ある程度の間隔を保ち艦載機は航行しており、そう長くない時間が過ぎた時に零観を視認した。



完全勝利。



これを実現するために零観も撃墜する必要があった。

優秀な観測機だが、複葉機の域は超えていない。これと対峙するために艦戦は役不足だった。

零観が急に進行方向を変える。

艦攻部隊は直進、艦爆部隊は零観に合わせて方向転換をする。

非常に高い練度を誇る彼らは同じ方向へまったく同時に操縦桿を倒した

対空迎撃を想定していなかったわけではない。その時を、加賀は急降下爆撃と予想していた。

有効な爆撃を与えるため皆が同じタイミングで動き、行動の予想がつけやすいからだ。

急降下爆撃時は5機で8小隊を組み、波状攻撃を仕掛け対空迎撃に備える手はずだった。

長門の戦術はそれを上回った。

最高練度を誇る艦爆妖精達はとっさに同じ判断をして、同じタイミングで方向を転換した。その瞬間、長門から見た艦爆隊は面ではなく点となっていた。






251: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:26:03.92 ID:8hlHK6Es0




戦艦長門
対空迎撃成果
加賀:彗星40機全滅
龍驤:爆戦26機撃墜






252: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:26:39.33 ID:8hlHK6Es0

龍驤「テツ! チュウ! 頼んだで!!」

熟練員「了解」

新米員「了解っす!」



非常に練度が高い艦爆隊は、操縦精度の高さを長門に付けこまれた。

それすら回避した2名の妖精は龍驤とともにあった。

『全なる一』から湧き出る妖精であるが、訓練を通じて個性が現れてくることもままある。

熟練員の彼は鎮守府黎明期から存在し続ける古参中の古参。

過去から現在まで、艦戦乗りとして他の追随を許していない。

新米員の彼は文字通りの新米。

ただし、龍驤との相性が異常に良く、瞬く間に飛行部隊の一角を担うこととなった。



熟練員は長門へ向かい、新米員は爆弾を投棄して加賀の直掩へ向かう。






253: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:27:46.67 ID:8hlHK6Es0

――長門――

長門「こうも上手く嵌るとは、彼女達に感謝だ」

1人で戦わせないと言ってくれた駆逐艦達、そして演習前に訓練を付けてくれた空母達のお陰だと確信する。

爆戦2機を取り漏らしたが、まず目前の危機に意識を向ける。

長門「問題はここだな」

艦爆を退けたとはいえ、加賀の艦攻部隊が遅れてやってくる。

その数46機。

この鎮守府が誇る雷巡が扱う魚雷は40門、それを考えると途方もない数だと言わざるを得ない。

それにも関わらず、長門は笑っていた。

敵に会った時の戦意剥き出しの顔ではなく、楽しげで肩の力が抜けた笑顔だった。

自分の体を使って、全力で表現するためには常に笑顔でいられる胆力が要だという。

言葉よりもその軽巡の在り方そのものが説得力となっていた。

艦攻部隊が次々に魚雷を投下する。魚雷は方向転換できない。



長門「右舷投錨、 最大戦速!」






254: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:29:26.17 ID:8hlHK6Es0

――加賀・龍驤――

加賀「やられました」

龍驤「最初っから読みが外れたな」

加賀「えぇ、今の長門さんはまったく単騎に見えません。まるで第六艦隊や那珂さんが随伴しているようです。それに、ことごとくこちらの動きを読んでいることから……」

龍驤「赤城と隼鷹やわ。予想外すぎやろ。キミと演習する準備に、キミより序列が上の2人と事前訓練しとくとか」

加賀「私の慢心です。終わった後に船渠で反省します。が、勝ちは譲りません」

龍驤「そやな」

加賀「第一次攻撃隊の彗星が全滅。続く艦攻は全て回避されると見て間違いないでしょう」

加賀は呼吸を整え覚悟を決める。

長門の狙いは旗艦の加賀であることは疑いようがなく、加賀の艦体の大きさと速力では長門の射撃からは逃れることはまずできない。

龍驤は舵を切り、長門へ向かう。

龍驤「足掻いてくるわ。後は頼むで」

艦載機を発艦し尽くした空母が戦艦に挑む。






255: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:31:30.55 ID:8hlHK6Es0

――長門――

長門「九一式徹甲弾装填完了。目標加賀! ……むっ?」

爆戦が1機迫って来た。

長門は冷静に爆弾投下の瞬間を待つ。12.7cm連装高角砲はいつでも発射可能だ。

長門「今だ! 対空一斉射!!」

爆戦相手に過剰な弾幕を展開した。

長門「何! すり抜けただと!?」

錐揉み回転状態になり弾幕を回避し急降下する。

機体こそ零戦だが、爆弾という錘を抱えているのにもかかわらずだ。


長門「くっ、三番砲塔がやられた。しかし、目標は変わらん! 第一、てぇっー!!」

弾着の手応えを確かに感じ取った。厳しく見積もっても加賀は中破だった。

長門「……応答がないな、観測機は落とされたのか? 第二、打つなっ!」

長門は目標を加賀から切り替えた。

長門「ずいぶんと速かったな」

龍驤「楽しみにしとったんやろ? ウチも楽しみにしとったからな。目標長門、斉射!」

12.7cm連装高角砲が火を吹いた。

二式妖精「弾着修正なし、もう一発!」

龍驤「あいよ〜、斉射!」

空母にも関わらず、2度も弾着させた。

当然、長門の装甲を抜くことはできない。それほどに長門型の胸部装甲は豊満だったからだ。

長門「ふふふ、楽しいなぁ! 龍驤、お前は一体何なんだ! 目標龍驤、第ニ、てぇっー!」

龍驤「おわっち、危ないわぁ」

回避成功。着弾点は龍驤の後方だった。

長門「速力を上げたか! 次は外さん。第四、てぇっー!」

さらに回避精巧。またもや着弾点は龍驤の後方だった。

長門「……」

龍驤の速度上限を試算して砲を放ったにも関わらず後方へ外す。

これはさらに速力を上げたということだったが、はたして可能なのか。

長門が鷹の眼で龍驤の船底を睨みつける。

喫水線が通常では考えられないほど浅かった。

長門「……バルジを外してあったのか」

長門は沈着冷静になる。半分祭り気分でいた自分を恥じた。

演習を願った長門に応えるため、龍驤は入念な準備をしてくれていたからだ。

長門「お前たちとの演習に浮かれてしまっていたようだ。価値ある一戦をありがとう」

龍驤の前方気味を狙い、次発装填した第一主砲を向ける。

速力を上げられなければ的中、もう最大戦速の龍驤には不可能だった。

旋回できなければ的中、バルジまで外した龍驤は転舵即転覆。不可能だった。

長門「第一、てぇっー!」






256: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:32:13.09 ID:8hlHK6Es0




龍驤「ほい来た! 面舵いっぱーい!!」






257: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/01(日) 20:33:25.82 ID:8hlHK6Es0

方向転換し回避、長門に砲を向ける。

龍驤「構え」

長門「馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な!! なぜ転覆しない!?」

龍驤「ウチの搭乗員はみーんな優秀やからな!」

艦体の中で、射撃員が砲弾を抱え、割烹員が鍋を担ぎ、そのた搭乗員も重い荷物を抱えていた。

操舵員の号と共に、皆一斉に右舷側へ向かい走ったのだった。

搭乗員による艦体の重心移動。

龍驤は艦体の制約を搭乗員の練度でねじ伏せた。

長門「龍驤っ! 第二……」

その意識は龍驤のみにに集中し、次発装填されていない主砲も全て龍驤に向けられた。

龍驤「長門、ウチは囮やで?」



加賀「第二次攻撃隊、発艦します」




258: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:54:26.74 ID:oV1bedW40

長門「龍驤、私は一体どこで失敗したんだ?」

長門の意識は完全に龍驤に向かっていた、対空防御はもう間に合わない。

徹甲弾を装填し、全主砲を加賀に向け直す。

龍驤「失敗? 何言うとんの、本当やったら開幕爆撃でお終いやったんや。演習としては大成功やろ」

長門「そうか。つまらないことをこぼしてしまった。まだ、負ける気はないがな」

龍驤「それでこそや。最後まで頑張り」

長門「あぁ。全主砲、一斉射。てぇーっ!」





259: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:55:54.81 ID:oV1bedW40

加賀の艦爆隊が一糸乱れぬ陣形で長門へ攻撃を加えた。

都合32発の爆撃だった。

長門「長門型の装甲は伊達ではないよ」



長門:大破






260: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:56:52.33 ID:oV1bedW40

加賀「長門さんの姿は見えず、それは向こうも同じ」

呼吸を整え備える。

加賀「ですが、彼女は確実に中ててくるでしょう。零観がこちらを見ているのは困りました。まぁ、なんとかしますが」

長門の気迫が胸を貫き、実弾は後少しで着弾する。

足が遅い加賀はおそらく避けることはできない、できないのであれば。

加賀はその豊満な胸部装甲で真正面から受けた。



加賀:中破






261: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:57:55.73 ID:oV1bedW40

新米員「加賀姐さーん」

龍驤からの直掩が、瞬く間に長門の観測機を撃ち落とす。

加賀「やりました。さすがに優秀な子ね」

長門の眼を担っていた零観が落ちた。

弾着修正ができない2撃目は避けられる。

新米員「2撃目は来ないようね、龍驤さんが上手にやってくれているわ。全機爆装、第二次攻撃隊準備」




262: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:59:00.43 ID:oV1bedW40

新米員「中破だけど大丈夫っすか?」

加賀「問題ないわ。飛行甲板は盾ではないもの。甲板ではなく胸部装甲で直接受け止めたから。紙一重で飛ばせられるわね」

龍驤の爆戦を着艦させる。

加賀「装甲空母以上に艦体が強靭な空母は、まぁ、私か赤城さんくらいのものね」

新米員「これが、一航戦っすね!」

加賀「あなたも爆装しておきなさい。まだ、何が起きるかわからないわ」

新米員「了解っす!」




263: ◆zqJl2dhSHw 2016/05/29(日) 20:59:56.13 ID:oV1bedW40

加賀「第二次攻撃隊、発艦します」

おそらくこれで勝負がつくと分かっていた。

彗星との同期で長門への爆撃結果を知る。

加賀「足りませんでしたね」

知ると同時に二度目の徹甲弾が加賀を貫く。



加賀:大破(轟沈判定)






267: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:47:42.64 ID:cgQedAPK0

日向「見事な昼戦だったな。瑞鶴、遅くなったが解説をしよう。……ん?」

瑞鶴「なんでよ、なんで囮なんか。そんな作戦って……かはっ、……っ」

日向「これはいかんな。心身艦がばらばらになりかけている」

瑞鶴「……大丈夫、ですから。大丈……」

日向「瑞雲ッ!」

瑞鶴「私、それは……」

日向「あぁ、装備はできないな。ただ保持するだけでいい。目を閉じなさい」

水上爆撃機をひとつ、瑞鶴に持たせてやる。

日向「過去を追ってはいけない。未来を待ってはいけない。ただ今この時だけを感じ取るんだ」

瑞鶴「……今」

日向「君の手には何がある?」

瑞鶴「瑞雲……です」

日向「そうだ。五航戦の栄光でもなく、未来への希望でもない。ただの瑞雲だ」

瑞鶴「はい」

日向「君は聡い娘だ。かつて様々なものを背負わざるを得なかっただろう。そして今後様々なものを背負っていくことになるだろう。だが、君にできることは何だ?」

瑞鶴「今を生きることだけ、です。日向さん、もう大丈夫です」

日向「そうか。この演習だが」

瑞鶴「加賀と長門さんが自身を鍛え上げ、限界いっぱいまで自分を使い切ることを。龍驤が私達の最大戦力である艦載機を鍛えあげることの必要性を見せてくれました」

日向「悪くない」

瑞鶴「昼戦が終了したので夜戦なしで長門さんの勝ち。だけど、どっちも今日の勝敗は気にしないと思う。次に備えてまた強くなるわ。私も訓練しなきゃ」

日向「悪くない。いや、素晴らしい」

瑞鶴「演習は終了よね」

日向「いや、まだだな」

瑞鶴「何でですか?」






268: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:48:40.07 ID:cgQedAPK0

提督「間に合ったか?」

日向「ようやく起きたのか」

瑞鶴「提督さん、全然間に合ってないわよ」

提督「瑞鶴、状況を教えてくれ」

瑞鶴「えっと、昼戦が終了しました。長門さんは大破、加賀が大破轟沈判定、龍驤は無傷だけど攻撃機はほぼ撃墜されているわ」

日向「瑞鶴」

瑞鶴「何ですか」

日向「報告は正確にするんだ。君が旗艦として出撃する場合を想定するといい」

提督「日向の言うとおり正確に頼む」

瑞鶴「長門さんの零観3機が全墜。加賀は彗星が40機墜落、予備の彗星12機は爆撃を終えて空中で待機。九七式艦攻は雷撃後に46の内20機が爆弾に装備換装して爆撃。今は空中で待機している」

提督「ふむ」

瑞鶴「龍驤の爆戦は26機墜落、1機が長門さんに爆撃後空中待機、1機が加賀の直掩後に加賀に着艦したわ」

提督「なるほど、わかった。まだ始まったばかりということだな」

瑞鶴「何言ってるのよ。もう夜戦しても意味ないわよ」




269: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:49:06.31 ID:cgQedAPK0



龍驤「我、夜戦に突入する!」






270: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:49:51.98 ID:cgQedAPK0

瑞鶴「は? 龍驤、何言ってんのよ」

提督「どうした、瑞鶴。夜戦開始してやれ」

瑞鶴「いや、でも。長門さんは大破で加賀と龍驤は空母ですよ」

提督「そうだな」

瑞鶴「だから!」

提督「あぁ、そうか。演習の規則を気にしているのか。長門が拒否すれば夜戦はなしだ。聞いてみよう」

通信式符を長門へ飛ばす。

長門「提督からの通信か。夜戦で加賀から発艦させてよいか、だと? 是非もない。加賀のことだ、たとえ1秒後に轟沈しようとも決して諦めないだろう」

提督「さすがは長門だ。瑞鶴、夜戦開始を頼む」

瑞鶴「まぁ、やるけど。柏手2つ、と。夜戦開始です」




271: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:52:24.27 ID:cgQedAPK0

加賀「……夜戦ですか」

新米員「おぉ、姐さんから指示が来たっす! 自分行ってきます」

加賀「待ちなさい。長門さんが発艦してもいいとは言いましたが、すでに私は速力(あし)をだせません。それに甲板はボロボロで明かりをつけることもできません。飛ばせられないのは私の力不足ですが、むざむざとあなたを海に落とすわけにはいかないわ」

新米員「大丈夫っす! 末席とはいえ、自分は龍驤飛行部隊員っす!」

誇らしげに宣言しつつ、広い加賀の甲板からわずかに活きた経路を見つけ出す。

加賀「そう。もう何も言わないわ」

肚をくくり、胴造りを決める。

加賀は今はこれだけしかできないとは言ったが、万全の状態でこれだけの水準を維持できる空母は一体どれだけいるだろうか。

加賀「いきなさい」

新米員「いきます!」







272: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/06(月) 22:55:23.45 ID:cgQedAPK0

長門「夜間無灯停泊発艦だと!? バカな!」

長門は狼狽するしかなかった。見たこともないどころか、考えたことすらない戦術だった。

一航戦赤城の搭乗員ですらそんな真似はしない。

長門「……くっ」

上には墨をこぼしたような空が広がるだけで、爆戦は視認できない。

音を捉えようとしても、その速さに追いつくことはできなかった。

長門「ははは! 次は負けん!」

たった1発の爆弾が、長門型の装甲を貫いた。



長門:大破(轟沈判定)






273: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/07(火) 22:04:22.16 ID:2VZyhD7e0

長門「してやられたな」

加賀「双方旗艦は轟沈判定。龍驤さんが無傷な分、私達の勝利のようです」

長門「そのようだな」

龍驤「ごめんな2人とも。水さすような真似して」

長門「かまわないさ、提督が始まったばかりと言ったわけだからな。むしろ貴重な経験をさせてもらった。夜の航空戦力があれほど視えないとは思いもしなかった」

龍驤「暗いと見えんもんな」

長門「それに加賀だ。中破でなお戦闘続行できるとはな。ははは、赤城と隼鷹に申し訳がたたんな」

加賀「それはこちらも同じことです。まさか開幕の航空戦を乗り越えられるとは思いもしませんでした。第二次攻撃すら大破で耐えられましたし」

長門「これでも対空迎撃には自信があるからな」

加賀「えぇ、隼鷹さんと呑むたびに聞かせてもらっています」

長門「それにだ、皇国の誇りとまで謳ってもらった長門型の身体だ。そうやすやすと装甲は貫けんよ」

不可思議な構えで胸部装甲を誇示する。

豊満なそれにはこの国の思いが多く詰まっていた。

加賀「それは私も同じこと。改長門型として生を受けたこの身体です。改装空母となってもその強度は保持されているわ」

徐々に奇妙な構えに移行して胸部装甲を強調する。

この鎮守府で長門を上回る唯一の艦娘が彼女だった。

加賀「負けた身で言うのもなんですが。義姉さん、目は醒めましたか?」

長門「あぁ、単艦で挑むのはこれっきりだ。次は艦隊同士の戦いだ」

加賀「はい、一緒に戦いましょう」

龍驤「ええ雰囲気になったとこ悪いんやけど、曳航してくれん? バルジも外したから燃料もないし転覆しそうなんやけど」

加賀「長門さん、私もおねがいします」

長門「いや、私も動けないんだが」

龍驤「……」

加賀「……」

長門「……」

龍驤「日向! 日向、助けて!」





274: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/07(火) 22:05:42.99 ID:2VZyhD7e0

日向「まったく、しかたのない奴らだ」

瑞鶴「日向さん。私行きますよ」

潮「私が行きます!」

瑞鶴「はい?」

漣「ちょま、潮。何張り切ってるのヨ?」

潮「漣(さざ)さん、これは私達の仕事でしょう?」

漣「うっは、ペタワロス。潮さんはちょっと宴会大賞の高揚が抜けてないみたいっす」

日向「慰労会か。まさか長門や鳳翔を差し置いて大賞を取るとは思わなかったからな」

漣「あれ、赤城さんが延々と演技指導してくれたんですヨ」

瑞鶴「嘘でしょ!? 赤城さんがそんなことしてたの?」

日向「まぁ、劇の練習でも一度も間違えなかったからな。演技は得意なのだろう」

瑞鶴「えぇ、興味なさげだったのに?」

日向「一航戦だからな」

瑞鶴「やめてください。ものすごい説得力です」

漣「じゃあ、皆を連れてちょっといってきますね」

漣は一度髪を解き、サイドテールに結び直した。

潮「一航戦、潮が命じます! 第六駆逐隊はトンボ釣りを! 漣(さざ)さんと島風さんは私と共に演習組の曳航に向かってください!」

第六駆逐隊「「了解」」

島風「はーい!」

潮「一航戦、潮。出ます!」

漣「漣(さざ)、出撃します」

走り回ったり、日向の艤装によじ登っていた駆逐艦が一斉に行動を開始した。

瑞鶴「統率取れすぎでしょ、駆逐隊はどうなってるのよ。というか漣のモノマネが似すぎててムカつくんだけど」

提督「そう言うな。潮たちは非常に連携が取れているからな。遠征任務、対空防衛、対潜哨戒、どれをするにも頼りになる」

瑞鶴「そのとおりですけど」

提督「さて、戻ってきたら講評だが、直前まで寝ていたから無理だな。どうしよう?」

日向「まぁ、無理だな」

提督「やっぱりか」

瑞鶴「そんなんでいいの? もう戻ってくるんだけど」





275: ◆zqJl2dhSHw 2016/06/07(火) 22:06:48.30 ID:2VZyhD7e0

龍驤「おぉ、おはようさん。よう寝られた?」

提督「おはよう、おかげさまでな。ただ、直前まで寝てたから講評ができん、すまん」

龍驤「ええよ。けど皆頑張ったから声だけかけたって」

提督「うむ。まず、長門」

長門「はい」

提督「妙高の真似はやめてくれ。わかってくれていると思うが、実戦で実践してしまうとお前の艦体は耐えられない」

長門「そうだな、この図体では耐えられないだろう。演習で浮かれてしまったようだ」

提督「しかし! 今までできなかったことができた事はすごいな! 独力だけではないな、那珂か? 操舵力が格段に向上するのは那珂の訓練だな」

長門「ご名答」

提督「秋津洲流戦闘航海術を使う選択をしたのは、事前に作戦を練ったんだな。隼鷹、いや赤城にも助けを求めたか」

長門「そのとおりだ」

提督「仲間に助けを求められるのは素敵だ。やはり連合艦隊旗艦はお前のものだな! よーしよしよしよし」

長門「ふふ、ありがたく頂戴しよう」

提督「次は加賀」

加賀「はい」

提督「なんで大破でも発艦できるんだ? 装甲空母であれば中破で発艦可能とは聞いているんだが。加賀は違うよな?」

加賀「違います。ですが私は一航戦ですから」

提督「なるほどなぁ! 一航戦だもんな。いい娘だ、加賀! よくできた」

加賀「ふふっ」

提督「航空甲板を盾にもせず、たとえ一歩足りとも動けない状態でも信じられないほどの水準を保ったり。教科書通りにできないことが常なのに、本当にすごいな!」

加賀「さすがに気分が高揚します」

提督「最後は龍驤だな。龍驤!」

龍驤「はいはい」

龍驤を褒めるときはどのようになるのか。

提督にとって龍驤が特別であることは周知の事実だが、褒めているところを目撃する機会は殆ど無かった。

皆はどのような状況になるか、密かに楽しみにしていた。

龍驤「よしよしよし。よう頑張ったな。やるべきこと全部やって演習にも間に合ったやん」

提督「あぁ!」

龍驤「めっちゃカッコ良かったで。流石やな!」

提督「そうだろう、そうだろう!」

全員の頭に疑問符が浮かんでいたが、一部艦娘、日向以上の古参組は笑っていた。

漣「ナニコレ?」

潮「龍驤さんが別格ってことだけはわかるね」

漣「まぁ、そうねぇ」

提督「では、加賀、龍驤と長門の演習を終了する。双方、今後もよくよく努めてほしい」

日向「全員、礼!」

「「ありがとうございました」」




276: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/04(月) 22:47:49.00 ID:KMLw2te40

龍驤「……朝か。提督のとこ行こかな」

いつもと同じ時刻に目覚め、同じように執務室へ移動する。

龍驤「失礼します。龍驤入ります」

提督「入ってくれ」

龍驤「おはようさん」

提督「あぁ、おはよう。とうとうこの日がやってきた」

龍驤「そうやな、準備はどうなん? ちゃんとできとる?」

提督「当然だ。あまりに楽しみが過ぎて眠られなかったことは、しかたないよな」

龍驤「しかたないな」

提督「そう言ってくれると思っていた。龍驤は俺と比べて余裕がありそうだな」

龍驤「キミがあわあわしとんのにウチまで慌ててもしゃーないやんか」

提督「こんな時まで世話をかける。今日は出撃と遠征はないから作戦をたてることもないな。珈琲を飲むか?」

龍驤「その前に一つ用事が」

瑞鶴「失礼します」

提督「入ってくれ」

瑞鶴「ちょっと、龍驤。なんでこんなに早くに呼ばれなくちゃいけないのよ」

龍驤「ごめんごめん。けど今やっとかんとな。てっちゃん」

熟練員「ここに」

龍驤「はい、瑞鶴。今からこの子はキミとこの所属や。ウチにとって虎の子やからな。よろしくたのむで」

熟練員「よろしく頼む」

瑞鶴「え、ちょっと。何?」

龍驤「比叡の準備に行かんと。瑞鶴、提督に珈琲いれたって」

龍驤は執務室を後にする。





277: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/04(月) 22:48:45.59 ID:KMLw2te40


瑞鶴「提督さん、何が起きたのか説明してよ」

提督「俺にもわからん。どうして突然」

熟練員「わかりませんか、司令官。姐さんは先を見越しているのですよ」

提督「テツさん、それは一体どういうことだ」

熟練員「ケッコンカッコカリ。その後何があるかは承知していますな」

提督「大抵の鎮守府だと、シンコン旅行に行くようだな」

熟練員「そう、オリョールからリランカまでかなりの行程になります」

提督「うーむ、無理かもしれん。俺の力量ではその期間中鎮守府を離れるわけにはいかないからな」

熟練員「そこです。シンコン旅行を短縮、これすなわち司令の力不足です」

提督「はっきり言ってくれるな」

熟練員「姐さんはそれが我慢ならなかった。そも、この鎮守府にかけられた制限は大きいですからな」

提督「その発言は許可しない。俺は大本営の命を受けてここにいる。それを否定することはできんよ」

熟練員「失礼。それでも姐さんは司令をたてたいのですよ。作戦はこうです。まず、電さんと御母堂が交代で代行指揮をとります」

提督「電と鳳翔なら役不足ですらあるな」

熟練員「ご謙遜を」





278: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/04(月) 22:49:29.56 ID:KMLw2te40


提督「しかし、秘書艦代行に耐えうる艦娘は少々不足している」

熟練員「秘書艦、たしかにその性質から機動部隊に限定されます」

提督「あぁ、自分よりも周りに気を配る必要があるからな。赤城、隼鷹、加賀、祥鳳になら任せられるがこれでは1週間持たない」





279: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/04(月) 22:50:09.87 ID:KMLw2te40


熟練員「翔鶴がおります」

提督「まだ練度不足だ」

熟練員「果たしてそうですかな?」

提督は呼気と共に感覚を研ぎ澄ます。

提督「……馬鹿な。なぜ翔鶴の性能が向上している」

熟練員「日向による特訓が花開いたのです」

提督「そうか、日向ならば納得ができる。つまり、日向も候補なわけだな」

熟練員「ご名答。彼女ならば空母と比肩できましょう」

提督「だが、まだ足りない。あと少しだが」

熟練員「そこで私が異動になったわけです」

提督「瑞鶴にテツさんを載せれば、基準に達したな。龍驤のやつここまで見越して」

熟練員「他ならぬ限界練度の秘書艦ですから。よっ、この色男!」

提督「いかんな、すぐにでも大元帥をお迎えしたいのだが。比叡の準備はできているのだろうか」





280: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/04(月) 22:50:46.68 ID:KMLw2te40


瑞鶴「ねぇ! 置いてけぼりにしないで。戦闘ならまだしも妖精の雑談はまだ完全には聞こえないんだから」

提督「瑞鶴も大丈夫なんだよな」

瑞鶴「無論。姉と同様、優秀な正規空母であると保証しましょう」

提督「おぉ! 比叡、準備はできたか! 早く行こう!」

興奮した様子で執務室を後にする。

残されたのは、正規空母と艦戦妖精。空母の方は会話からも取り残されてしまった。

瑞鶴「えっと、どうぞよろしくおねがいします。珈琲飲みますか?」

熟練員「あぁ、よろしく頼む。牛乳はいらないから砂糖とウヰスキーを入れてくれ」

瑞鶴「お酒は駄目」

熟練員「ふん」





281: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:45:51.96 ID:Soh1Swtt0

――比叡――

比叡「焦りすぎですよ、司令。こんなに急がなくとも大元帥は逃げはしませんって」

提督「そうだよな、すまん」

比叡「いや、別に攻めてませんってば。いまさらなんでそんなに緊張しているんですか」

提督「劇をしたいまではよかった。何で俺は大元帥を招待したんだろうか」

比叡「来てくれるんだから問題ないですよ。大元帥だってとって喰おうなんて思ってませんって」

提督「だといいんだが」

比叡「本気で言ってます? 大元帥を何だと思ってるんですか」

提督「神様?」

比叡「劇に誘っただけで食べられるんだったら、それはもう祟り神ですよ」

提督「なんだと! いくら比叡でもその物言いは許さんぞ」

比叡「いやいや司令が変なことを言ったんですって」

提督「うーむ」

比叡「それはともかく。演劇のゲストこそとんでもないですね。よくもまぁ誘おうと思いましたし、来てくれるってなりましたね」

提督「劇とは関係なしにずっと昔から計画していた。海上での戦闘はお前たちに全て任せているが、この戦争は俺の闘いでもある」

比叡「やりますね! 劇もケッコンカッコカリもしっかりしてくださいよ」

提督「あぁ、全力を尽くすさ」

比叡「おや、あの船団は! 司令、ゲストのようです。礼砲撃っときます」

続けざまに4発の礼砲を放つ。

比叡「向こうも応えてくれました! あ……実弾ですね、これ」









282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/10(日) 23:46:28.24 ID:Soh1Swtt0

――鎮守府――

直前の準備で鎮守府は慌ただしかった。

数名は忙しさとは別の緊張を持っていた。

北上「いやいや、阿武隈。なんでそんなに焦ってんのさ。準備なんてもうできてるじゃん」

阿武隈「北上さん! 何のんびりしてるんですか。今日のゲストが何か知ってるでしょう!」

北上「知ってるけどさ。人事を尽くしたら後はもう待つだけなんだって」

大井「北上さんのいうとおりよ。て言うか改二になったからって北上さんに向かってなんて言う口を聞いているのかしら」

阿武隈「大井さんも! 本来の雷巡仕様じゃないんですよ! もっと緊張感を持ってください!」

大井「ひっ、北上さーん」

北上「あちゃー、阿武隈ってばだいぶテンパってるね。おーおー、駆逐艦も混乱してるじゃん。しかたないなぁ、もう」

北上は島風、潮、響を捕まえる。

北上「何緊張しちゃってんのさ。阿武隈に影響されてんじゃないよ、まったく」

島風「けど」

北上「安心しなよ。今日はゲストとして呼んだんだから。戦闘になったりしないって。ああ、もう。大井っち、こいつらを間宮に連れてくよ」

大井「は、はい。北上さん」





283: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:46:56.24 ID:Soh1Swtt0


隼鷹「おい、龍驤。これ本当に大丈夫なのかよ」

龍驤「何がや」

隼鷹「何がってゲストのことだって。深海棲艦のそれも姫級って」

龍驤「どうもこうもないわ。提督が呼んだ、奴らはそれに応えた。そんだけや」

隼鷹「けどさ」

龍驤「隼鷹、大丈夫かどうかやないやろ。どうやったら大丈夫になるかを考えーや」

隼鷹「そうだよな、わかったよ。おーい、阿武隈さん。ちょっとだけ呑むのつきあってよ」





284: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:47:23.57 ID:Soh1Swtt0


日向「いよいよだな」

鳳翔「作戦規模は過去最小、戦闘ではなく共同で劇をするだけですから」

日向「重要度は」

鳳翔「過去に比較できるものはありません。事例なんてありませんし、最重要と断言できます」

日向「ゲストもそろそろ到着する頃合いか。比叡の方はどうかな」

鳳翔「比叡さんなら大丈夫ですよ。彼女以上の適任はいませんから」





285: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:48:26.16 ID:Soh1Swtt0


電「……対界電たんに感あり、なのです」

鎮守府に緊張が走る。

電「第3哨戒線付近で障壁の展開を確認。発生元は比叡さんです」

長門「私は聞き違えたのか。深海棲艦ではなく比叡が障壁展開をしたというのか」

電「複数の姫級、それに護衛要塞。彼女達をまとめて曳航してきたのはレ級なのです。そのレ級からの砲撃です」

長門「戦争が始まるのか、今日はゲストで呼んだんじゃないのか」

電「長門さん、いまだに戦争は継続しているのです」

長門「くっ。龍驤、作戦展開はどうなるんだ」

龍驤「どうもならん。このまま歓迎するで」

長門「馬鹿な、近海では考えられない規模の敵船団だぞ」

龍驤「ゲストや。深海棲艦には違いないけどな。今日の奴らは敵やない、お客様や」

長門「しかし」

龍驤「提督の決定は絶対や。長門、キミも軍属やろ。それに周りを見てみ、深海悽艦やなくてキミを見て焦っとんのやで」

長門「……すまない」

龍驤「ええってええって。けどまぁ、比叡に16インチ砲ぶち込んだんは事実やからなぁ。ちょっち早めに歓迎しとこか。日向!」

日向「我が艦隊にお客様だ。迎えに行こう」

目の前から日向が霧散する。





286: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:49:27.59 ID:Soh1Swtt0

――鎮守府近海――

海原は凪ぎ、駆逐艦すら見当たらなかった。

海の向こうからやってくる姫級の圧力に耐えかねた結果か、それとも完全武装の航空戦艦から逃げた結果か。

日向「秘書艦の号がでたか」

鎮守府に配備していたデコイを停止させ、航空戦力の展開準備をする。

日向「言葉が届くとは思わないがあえて言わせてもらおう」

比叡に障壁展開を強要させるだけの砲を持つ深海棲艦、最低でも戦艦級は確定だ。

日向は感じ取る、まるで鏡を見ているようだった。

相手はただの戦艦ではない。

日向「航空戦艦日向、推参!」

端的に名乗り上げると同時に全力で展開する。

日向「瑞雲ッ!」

六三四空と翼に描かれた特別な瑞雲だ。

「キャハハハハ」

まるで約束組手のように、同時に航空戦力が展開された。





287: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:50:06.51 ID:Soh1Swtt0

――ゲスト――

北方棲姫【鎮守府ってとおい】

レ級【キャハハハハ、姫ちゃんもうちょっとだから】

北方棲姫【ほぽぅ、がまんする。迎えにきてくれてありがとう】

レ級【もっと私に頼っていいのよ。しかしまぁ、西に向かって北に向かって随分と長旅だったわ】

港湾棲姫【……帰りたい】

レ級【姉姫様、今からでも送ってこうか? 顔色悪いよ】

港湾棲姫【元からこんな色だ】

レ級【ごめんごめん】

北方棲姫【おねぇちゃん帰っちゃうの?】

港湾棲姫【……行く】

北方棲姫【わーい。海をはしるってきもちいいね】

陸上型の姫2体は各々に所属している護衛要塞に搭乗している。

一体のレ級がそれらを曳航して海上を移動しているのだった。

レ級【おやおや? あれは件の司令官じゃない?】

北方棲姫【きゃっ! 撃たれた?】

港湾棲姫【……礼砲だ。歓迎されている】

北方棲姫【ほんとう? レ級! はやくこっちもうって!】

レ級【はいはいっと】

16インチ三連装砲が轟音を奏でた。

レ級【いっけない。実弾だった】

港湾棲姫【流石ね、礼に対して無礼で返すなんて】

北方棲姫【どうなるの?】

港湾棲姫【劇は中止になってこのまま戦闘かしら】

北方棲姫【レ級!】

レ級【ほんっとゴメン。ま、なるようになるでしょ】

港湾棲姫【……障壁を展開したわね】

北方棲姫【艦娘が?】

レ級【いやいや姫ちゃん、ソロモンで見たことあるわ。あれはたしかダイヤモンド系統の戦艦棲鬼ね】

北方棲姫【艦娘じゃない?】

港湾棲姫【私達を招待するような奴らだ。色んな艦が所属しているのだろう】

北方棲姫【ふーん】





288: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:50:39.54 ID:Soh1Swtt0


レ級【……】

北方棲姫【どうしたの?】

レ級【姫ちゃんは手出し無用。あれは私が相手をする】

目的地への進路を遮るように航空戦艦が待ち構えそして名乗りをあげていた。

レ級「キャハハハハ」

空気を震わす歓喜の声。

あの航空戦艦は全力で叩く必要がある。

双方航空戦力を展開し、艦載機が空を覆い尽くす。

『航空劣勢』

一対一での航空戦の結果、レ級の艦載機は三割程撃墜された。

残り七割。その戦力は十分に保たれていることに疑う余地はなかった。





289: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:51:09.09 ID:Soh1Swtt0


港湾棲姫【大丈夫か。手伝いは必要か】

レ級【キャハハハハ、姉姫様も心配症ね。何も心配いらないわ」

水面下ではすでに特殊潜航艇が邁進中だった。

水上艦に向けて空中からの艦爆、海中から魚雷の同時攻撃。

さらには距離を詰めて本命の砲弾を撃ち込む。

その砲は長門型が持つ41cm連装砲に勝るとも劣らない。16インチの三連装砲だった。

全局面対応型の深海からやってきた戦闘兵器。

これがレ級。

深海棲艦の最強種と呼ばれていた。

北方棲姫【すごーい】

港湾棲姫【アクティブデコイか。大したものね】

展開された潜航艇の数に合わせて数を増やした航空戦艦。

姫級の賞賛を受けた彼女たちは同時に砲を構える。

おそらくその砲弾は九一式徹甲弾だろう。

避けたいが直撃したところで大した問題ではない。

本命からであっても、デコイ全てから徹甲弾が飛んできたとしてもだ。

それほどまでに航空戦艦とレ級には性能差がある。

潜航艇はそれぞれ標的に向かう。

耐久力の違いで本体は簡単に判別できる。

レ級が水上爆撃機対策に上方障壁を展開し、砲を構えて時を待つ。

後は本体を見つけて弾着させるだけだった。

潜航艇の魚雷が真偽を暴く直前、レ級は強烈な違和感に襲われた。





290: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/10(日) 23:51:48.10 ID:Soh1Swtt0


レ級は直感に従った。

上方に展開した障壁を解除すると同時に自分の後方、曳航してきた姫とその護衛の前方に再展開する。

さらにデコイを含む砲撃に対して完全に防御を捨て去る。

水上爆撃機が爆弾を投下し始め、その直撃を受けながらも集中した。

九一式徹甲弾は急所に直撃するだろう。

当てられるというより後方への被弾を回避するための苦肉の策だった。

それでもなお空を仰ぎ続ける。

日向「そうだ。放った艦載機からの突撃、これだ」

レ級は読み勝った。

上から降ってきた日向を名乗る航空戦艦は剣をとり、人差し指と中指で柄を挟んでいた。

同時に、添え手の人差し指と中指は刃を締め付けることで初太刀に全力を込めていることも想像が付く。

日向「流れ星!」

日向は航空戦艦の質量を持って斬りかかった。

レ級「キャハ!」

レ級は尾部触手の歯による真剣白刃取りを実行した。

日向に向けて砲を構えたまま防御成功、ただし刃と歯のぶつかり合いにはならなかった。

日向は躊躇なく剣を捨て、予定調和の元36.5cm連装砲を構える。

艦載機を操り、砲を駆使して任務を果たす。

これこそ日向が考える全曲面型の戦闘、航空火力艦のあり方だった。

レ級と日向は水平射撃を互いに喰らわせあう。



日向:大破

レ級:中破



日向「まぁ、そうなるな」






292: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:24:46.12 ID:LPclyByX0

日向とレ級。

双方笑みを絶やすことはなかった。

日向「あっちだ。鎮守府へようこそ」

一瞬前の交戦がなかったかのように深々と頭を下げる。

レ級はそのまま鎮守府へ向かう。

北方棲姫は日向の艦載機を眺めていた。

基地から直接発進できる機体ではないが、それは特別な飛行機に見えた。

「そうか、観る目があるな。仕方ない、特別な瑞雲をやろう。ほら」

北方棲姫は驚きの顔で周囲を見渡す。

自身の内部に響いた声の発信源がわからなかったからだった。

気がつくと抱えていた飛行機がひとつ増えていた。

深緑色に輝く機体、翼に文字が描かれた特別な水上爆撃機だ。

北方棲姫は振り返り、頭を下げたままの日向に向かって手を降った。

やがてゲスト一行の姿が見えなくなると、日向は鎮守府へ入電する。

日向「北上か、日向だ」





293: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:25:49.38 ID:LPclyByX0

――鎮守府――

北上「ほーい、お疲れ様ー。そんじゃ雷撃支援の待機はこれで終わるね。はやく戻っておいでよ、距離はともかく比叡さんの足はけっこう速いからさ。大元帥はさすがに待たせられないでしょ」

日向との通信を終了する。

北上「日向さん無事だって。もう少しでゲストも到着するってさ」

龍驤「はい、ありがとぉ。日向なんて言っとった?」

北上「ゲスト一行の運転手がレ級だったんだけど、あたしと日向さんを足して3を掛けたくらいだってさ。そんでもって、メインゲストはそれ以上だって」

龍驤「うわー、ほんまかいな。うちとこの戦力やと制圧出来んことない?」

北上「多分できないねぇ。どうしよっか」

龍驤「穏便に進められるよう努めよか。北上から見てお客さんはどうやった?」

北上「びっくりするくらい冷静だった。日向さんが歓迎している最中に、あたしのことまで気にしてたんだから。今日、ここが白地図になるなんてことないよね」

龍驤「やめて。不安を煽らんといて」

鳳翔「そろそろ到着のようですね」

龍驤「ほんまに? 思ったより速いな。ごめんやけど、鳳翔が先に出迎えといて。ウチは提督に連絡入れとくから」

鳳翔「はい、先に行ってお迎えしておきますね」






294: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:26:31.13 ID:LPclyByX0

艦娘たちは艤装展開した状態でゲストを迎えた。

数の優位はあるが、ゲストは簡単に覆すことができる。

その恐怖に抗うため臨戦態勢だった。

とうとうこの鎮守府で深海棲艦と邂逅することになる。

レ級「あー、あー。言葉はこれであってる? 私の言っていることは伝わってる?」

練度が低い艦娘は驚く。こちらの言葉を操る深海棲艦を見たのは初めてだったからだ。

鳳翔「はい。遠路遥々来ていただきありがとうございます。当鎮守府序列2位、鳳翔と申します。現在、提督は大元帥をお迎えに上がっております。到着まで今しばらくお待ちください」

レ級「そう、遠路遥々ここまで来たの。それがどう? あの女、随分と素敵な歓迎をしてくれたじゃない」

レ級は鳳翔に砲を向け、同時に艦娘がレ級に照準を合わせた。





295: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:33:40.38 ID:LPclyByX0


鳳翔「うちの比叡に素敵な挨拶をしてくれましたからね」

嫌味をいいながら、鳳翔は艤装を解除し始める。

長門「やめろ、鳳翔!」

長門は叫ぶ。

妖精謹製最大の発明の一つと呼ばれる艦娘の艤装。

これを纏えば、たとえ艤装が破壊されたとしても1回の戦闘中は妖精の加護が得られるというものだった。

深海棲艦のそれと比べて優秀な点はそこに尽きる。

鳳翔は全兵装、艤装を解除。髪留め紐すら付いていない一糸纏わぬ姿になった。

妖精の加護は得られない。

鳳翔「遠路遥々来ていただきありがとうございます。あなたは船渠へ、後ろのお姫様たちは控室へご案内します」

2度目の歓迎を伝える。

レ級「毒気が抜かれちゃったわね」

レ級は膝をつき、両手のひらを上に向ける。

笑っていた口も尾部触手の顎も完全に閉じた。

極度の緊張状態だった艦娘も慌てて礼をし、歓迎の意をしめす。

鳳翔「祥鳳さん。レ級さんを船渠へご案内してください」

祥鳳「は、はい。さぁ、行きましょう」

レ級「よろしくね。それじゃ姫ちゃん、後で控室に行くからね。って聞き取りにくいか」

レ級は連れてきた北方棲姫に再度話しかける。それは艦娘には聞き取れない言葉だった。





296: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:34:14.30 ID:LPclyByX0

隼鷹「いきなりどうなるかとおもったよ。龍驤のやつさっさと来なよ」

完全武装状態で迎えれば、レ級が先制で砲撃を繰り出したかもしれない。

おそらく鳳翔は大破、轟沈には至らず。

迎撃は妙高あたりが先頭に立ち、レ級が轟沈するまで撃ちこんだだろう。

これが大海原での戦闘であればだが。

鎮守府から少し離れた場所には集落がある。

そこは戦闘の余波が十分届く範囲だ。

深海棲艦は沈めました、住民は死にました。

それは論外だ、自身の存在意義すら否定している。

後の先では間に合わない、戦闘を起こすことがすでに負けている。

鳳翔が戦意をそぐ手段を選び、そして勝った。





297: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:34:58.88 ID:LPclyByX0


隼鷹「遠路遥々目的地へ向けての航海、客船じゃないから欲求不満もたまる、か」

他人事とも思えない感想をもらした。

やや和んだ空気に艦娘は艤装を格納していく。

姫級と評されるメインゲストを控室に案内しなくてはいけない。

隼鷹「あれ、おかしいな」

隼鷹は艤装を展開したままだった。

それどころか甲板まで展開して戦闘準備を整えていた。

深海棲艦に戦意は見られない。

では何に対して戦闘準備を整えてしまったのか。





298: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:36:06.39 ID:LPclyByX0




阿武隈「旗艦、先頭、阿武隈! 目標、北方棲姫!」







299: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/17(日) 22:37:58.79 ID:LPclyByX0


「「「了解」」」

冗談みたいな光景だった。

あれだけ鎮守府極近での戦闘を避けようとしたにもかかわらず、この水雷戦隊旗艦は駆逐艦に号を出して、ゲストに戦闘をしかけようとしている。

隼鷹「天地陰陽の理をもって命ず、禁!」

迷わず、加減をせずに仲間に向けて勅令の光を発動させた。

隼鷹「ちょいと、阿武隈さん。マジで何やってるの」

軽巡1,駆逐3を隼鷹だけで制したが、そんなに時間が稼げるわけでもない。

阿武隈「あの娘は、あれは絶対に駄目です! あの艦載機は」

隼鷹「いや深海棲艦だから艦載機くらい持ってるって。わかってて招待してるんだから」

阿武隈「ちゃんと見てください、あれを」

隼鷹「ありゃ日向さんの水上爆撃機じゃん。あの人は気に入った相手に艦載機渡しちゃうの知ってんでしょ」

阿武隈「その横です!」

改めて抱えている艦載機を見る。

左腕には日向の特別な瑞雲が、右腕には明灰白色の艦戦が。

隼鷹「……誰の零式艦上戦闘機21型(ゼロ)だよ、あれは」








300: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/24(日) 23:30:32.94 ID:0ZnhPMBM0

隼鷹は自分に嘘を付いた。

知らないはずはなく、記憶というよりは記録に残っている。

隼鷹の初陣は北方海域。

その時、あの艦載機を確実に見ている。

誰のものかはよく知っている。

そこで合点がいった。

北方棲姫に臨戦してしまった艦娘は北の経験者達だった。

隼鷹自身も反応してしまっているが、拘束する側にまわった。

なぜか。

港湾棲姫「……」

阿武隈が号を出す直前から、港湾棲姫は片手を上げ始めている。

同時に2基の護衛要塞が砲撃準備を完了させていた。

こちらから仕掛けようとしたにもかかわらず、深海棲艦の方が戦闘準備完了が早かったのだ。

北方棲姫への攻撃は絶対に許さないという意思が見えていた。

仮に隼鷹が止めに入っていなければ港湾棲姫は確実に護衛要塞へ号を出していた。

阿武隈に従った艦娘以外は、これ以上刺激しないように艤装展開を諦めざる得なかったのだ。

状況が読めない阿武隈ではないが、その責任感が裏目に出てしまっている。

友軍を北方海域から連れて帰るという責任感、阿武隈に掛けられた呪いのようなものだ。

改二になったことで思いだけでなく、それを果たすだけの実力が伴ってしまっている。

隼鷹「やばい、そろそろ限界」

軽巡1、駆逐3相手とはいえ阿武隈は改二、駆逐1隻は改二、もう1隻は改にもかかわらず改二相当の高性能艦、残り1隻も不死鳥の二つ名を持ち急速に練度を上げている駆逐だった。

思った以上に短い時間だったが、隼鷹による拘束はここまでだった。

龍驤「なに遊んどんのや」

龍驤虎視。

阿武隈と駆逐艦達は硬直を禁じ得なかった。





301: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:52:28.71 ID:uwv4RRxW0

ここで阿武隈が我に返った。

完全に命令違反。

今回の命令は劇を成功させることであり、けっしてゲストに攻撃を仕掛けることではなかった。

さらに駆逐艦まで煽動してしまっているため、阿武隈は言い訳することができない。

龍驤「ほらほら、お客さんは長旅で疲れとるんや。はよう控室に案内したって」

阿武隈「えっと」

龍驤「それとな阿武隈、しかめっ面しやんとスマイルや。にぃ」

秘書艦の登場は一気に場の空気を変えてしまった。

阿武隈自身の心情もさることながら、港湾棲姫が再び手を下ろしたことからもそれが伺える。

阿武隈「こちらに来てくださぁい、ご案内します」

血の気が多い水雷戦隊だが、切り替えは速くさっぱりとしている。

罪滅ぼし、というわけでもないだろうが。非常に丁寧な振る舞いをする。

港湾棲姫は北方棲姫の表情を読み取り、軽巡と駆逐艦の咎を海に流した。

価値観の隔たりもあるだろうが、大切なものの順位をよく知っているとも言えた。

護衛要塞はそのまま待機。姫2体が阿武隈と駆逐艦に導かれ控室に移動する。

ここで初めて北方棲姫が動いた。

動くと言っても視線を動かすだけだったが、その視線の先にとらえたのは龍驤だった。

当然龍驤もそれに気が付き視線を交わす。

龍驤の視線は一度だけ北方棲姫の胸元、抱えている飛行機に移動した。

龍驤「……」

北方棲姫「……」

すれ違ったが互いにかける言葉はなかった。





302: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:53:04.61 ID:uwv4RRxW0

――御召艦――

提督「私もとうとうケッコンカッコカリを決意しまして。そこで大元帥に承認いただきたく、御台覧をお願いしました」

大元帥「あ、そう」

提督「地域住民との交流を兼ねた演劇を執り行います。ゲストとして深海棲艦を招くことができ、新しい一歩を踏み出せると存じます」

大元帥「あ、そう」

提督「……はい」

提督に血縁者は一切なく、仮に親と言えるものがあるとすれば大元帥しか存在しなかった。

ケッコンカッコカリはあくまで艦娘の練度上限解放の手続きでしかないが、どうしても直接報告し認めてもらいたかったのだ。

無理を承知で上申したのはただその一点に尽きる。

比叡「……」

比叡は御召艦として同伴しつつ、提督がひどく緊張していることを気にしていた。

普段通りでよいが、そう簡単には行かない。

何しろ相手が大元帥なのだから。

大元帥は司令の話をよくよく聞いてくれているが、司令は大元帥に話を聞いてもらえているとは思っていないだろう。

比叡「ひえぇええ!」

提督「うおぉ!? どうした急に」

大元帥「どうかしましたか?」

比叡「大元帥! うちの司令をあまりビビらせないでください」

提督「ビビらすって、おい比叡なんと言う口の聞き方だ!」

大元帥「あ、そう。いや、そうかい? すまないね、ちゃんと聞いているんだけども」

比叡「私は分かってますよ? けどうちの司令は分かってないんです」

提督「あれ?」

大元帥「比叡くん、君は相も変わらず素晴らしい戦艦です。昔も今も心からそう思っています」

比叡「はい! 金剛型の次女ですから!」

大元帥「そうですね。本日の演劇とケッコンカッコカリの立会いに関する文(ふみ)が提督から届いたんですけども。いつ以来の文だと思いますか」

比叡「不定期に送ってるんじゃないですか? それこそ季節に1通くらいは」

大元帥「電くんを遣わした時以来です」

比叡「うわぁ。司令なに考えてるんですか」

提督「だって大元帥だぞ? おいそれと手紙なんか送れないだろう」

大元帥「良(なが)ちゃんが、知らせがないのは良い知らせと言ってくれていたから良い物を。まぁ、報告書には目を通していたので状況はわかっていましたが」

大元帥は提督を見据える。

大元帥「親は子の心配をするものです」

提督「あ……」

たった一言だ。もしかするとこの言葉をかけてもらいたかっただけなのかもしれない。

比叡「よかったですね、司令!」

提督「あぁ!」





303: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:54:06.80 ID:uwv4RRxW0

大元帥「カッコカリとはいえ結婚ですから。カロルくんに式の進行を依頼してみたのですが断られてしまいました」

比叡「カロル? えっと、あ!」

提督「比叡、もしかしてだが。やはりそうなのか?」

大元帥「『ヒロ、君は親族として出席したいのだろうけれど。式の進行もしつつ、親として祝えばいいじゃないか。それこそ君の国の君だけの祝福だろう』。はたと気付かされましたよ。友というものは素晴らしいですね。そういうわけでカロルくんからは福音だけ頂戴しましたよ」

比叡「司令、とんでもないことになるところでしたね」

提督「ただでさえ俺の許容量を超えていたが。変な言い方になるけれども危ないところだった」

大元帥「ところで相手は誰ですか。比叡くんかな」

提督「いえ、相手はですね」

比叡「司令、入電です。鎮守府からですね」

提督「すみません、失礼します」

提督は通信を始める。

大元帥「ふむ、そういうことですか」

大元帥。

その判断、その決断には国民の命がかかっている。

慎重さも勇猛さも過不足なく持ち、どちらかにかたよることが許されていない。

そのような立場から、心身の鍛錬に加え、勘までもが鋭く磨きあげられていた。

大元帥「楽しみですね」





304: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:54:40.68 ID:uwv4RRxW0

――観艦式――

雷「漣、素敵じゃない!」

漣「いいっしょ、いいっしょ? ふっふーん。もっと見てもいいよ!」

暁「これで漣も立派なレディーね」

漣「まぁちょっと本気は、凄いでしょ、ね?」

直前の準備で盛り上がる駆逐隊。

すでに那珂は準備を終え、長門と共に静かに待機している。

島風「やっちゃったのは仕方ないよ。後で一緒に謝りに行こうよ」

潮「そうだね、島風ちゃん」

響「潮、胸につける飾りは合ってる? 漣のより小さくないかな」

潮「小さくないよ、同じ大きさですっ」

響「わかってて言った。謝りに行く時は私も一緒に行こう」

潮「うん。まずはしっかり歓迎してきます」

誰からも咎められなかったが、当然自身らの振る舞いを反省している。

まずは精一杯の歓迎を見せよう。

隼鷹「祥鳳さんから見て、ここに来た深海棲艦はどうだった」

祥鳳「驚きの一言です。同じ言葉を使って意思疎通が叶うなんて。入渠してもらっている間に日向さんが合流して盛り上がっていました」

隼鷹「そっか」

祥鳳「他の方たちも同じですよね。なんと言うか余裕を持って、いうなれば敵地に入ってくるなんて」

隼鷹「なんで余裕なんだと思う?」

祥鳳「それは、戦闘をしに来たわけではないからでは?」

隼鷹「あの頭数で私達全部を殲滅する自信があるから」

祥鳳「それ本当ですか」

隼鷹「大きくは外れていないね。不意打ちを仕掛けた阿武隈さんより港湾棲姫の方が早かったんだよ」

祥鳳「何とまぁ。住民の安全は守り切れるでしょうか」

隼鷹「こればかりはなんとも」

那珂「もー、ふたりして何の作戦を立ててるのかな☆ 観艦式の旗艦は那珂ちゃんなんだからね!」

隼鷹「あっと、ごめんごめん。柄にもなく緊張しちゃってさ」

祥鳳「すみません、どうしても不安で」

那珂「大丈夫だよ☆ 王様もお姫様も、那珂ちゃんはファンに対してさいっこうの演技でみーんな魅了しちゃうから! キャハ☆」

祥鳳「那珂さん、流石です」

隼鷹「そうだよな。全員那珂ちゃんのファンなんだから、心配なんてすることなかったよ」

この軽巡洋艦は本当に強い。

練度という裏付けもあるが、それ以上に心に芯が通っていた。

那珂「それに、今日は大事な日なんだから。スマイル〜☆」

いつの間にか近くまで来ていた長門も漣も潮も皆笑顔を見せていた。

隼鷹「スマイル〜」

祥鳳「す、スマイル」

準備は整った。

大元帥到着まであと僅か。

住民はすでに待っている。深海棲艦も特別席で待機済みだ。

いざ観艦式へ。





305: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:55:49.55 ID:uwv4RRxW0

住民たちは老若男女とわず礼服を着用していた。

文字通り一生に一度あるかないかの機会だと理解していたからだ。

緊張がないとは言えない。深海棲艦を間近で見る機会は最近ではほとんどなくなっている。

それが比較対象にならないほど、大元帥に会える機会はない。

皆は静まり返っていた。

比叡が帰投した瞬間から開会されるので、その時を待つ。

大きな期待と若干の混乱が心の中を満たしていた。

那珂「みんなー、おまたせ! 観艦式を始めちゃうよ☆」

艦隊のアイドルが宣言し、住民は大歓声をあげる。

戦艦も空母も駆逐艦も観艦式に全力で臨んでおり、ありていに言えば皆うつくしかった。

那珂は瞬きのリズムすら代えずに周囲を見渡し判断する。

住民は熱くなっている。

比叡は着岸しており、大元帥の視線を感じ取ることができた。始めるタイミングとしては及第点だろう。

少し気がかりなのは深海棲艦だった。

レ級や港湾棲姫は感情を読み取れたが、北方棲姫に対しては同じようにできなかったからだ。

初めて出会った姫であろうと、那珂にとってはファンのひとりだ。

全力で楽しんでもらいたい。

ファンに向かって手を振りながら再度視線を巡らすと、笑っているレ級、嫌そうな顔をした港湾棲姫、無表情な北方棲姫が手を振り返していた。

那珂「キャハ☆ さっそく始めちゃうよ。みんな、聞いてね!」

静寂が訪れ、すぐに曲が流れ始める。





306: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:56:18.77 ID:uwv4RRxW0




那珂『There's a place in your heart and I know that it is love〜♪』







307: ◆zqJl2dhSHw 2016/07/31(日) 22:57:06.65 ID:uwv4RRxW0

邦楽ではなかった。

大元帥をも迎えるこの場で、この国のものではない歌が流れた。

那珂の表情に一片の曇りもない。

ただ、いつもの弾けんばかりの笑顔ではなく、慈愛に満ちた笑顔だった。

この時、世界は那珂の愛に包まれていた。

余裕を見せていたレ級が笑みを消し、眉を寄せ歌に聞き入ってしまう。

そして、北方棲姫でさえも眼を閉じ、耳を澄まして聞き入っていた。

那珂『〜You and for me♪』

曲が終わり、観艦式のメンバーは一礼する。

歓声は上がらず、ファンは余韻に浸ったままだったからだ。

北方棲姫が静寂を破り拍手を始める。

我に返ったファンはそれに続き、やがて大喝采となった。

那珂「応援ありがと〜☆」

観艦式での旗艦という大役を果たす。

深海棲艦に心は伝わった。

それを目の当たりにした住民も深海棲艦に対する感情が少し変わったかもしれない。

アイドルの本領は発揮した。

後は劇の成功を信じるだけだった。





308: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:00:54.03 ID:r/A+UUIU0

――劇前――

鳳翔「準備はできましたか」

龍驤「いつでも行けるで」

鳳翔「大事な催しですからね。何か言いたいことがあるでしょう」

龍驤「いや、別にないな」

鳳翔「本当ですか。龍驤、大切なことは口に出して言葉にしないと絶対に伝わりませんよ」

龍驤「ほんまに大丈夫や……いや、そうでもないな。鳳翔にはかなわんなぁ。うん、この劇が終わったら提督にちゃんと言うよ。それで良いでしょう」

鳳翔「はい、是非とも」

結局の所、鳳翔自身も理解できていなかった。

大切なことを言葉にする。

提督の意中の相手について、龍驤が勘違いしているであろう事を知っていたにも関わらずはっきりと訂正せずに濁した。

本人の口から伝えることが最高に素敵だと信じていたからだったし、今日を迎えるまではそれでよかった。

その時が来れば龍驤の勘違いも解け、大団円で終わるはずだった。

龍驤はゲストの北方棲姫に出会ってしまった。

その姫は飛行機を抱えていた。

龍驤はそれを見てしまった。

提督「劇を始めてもらう、そろそろ舞台に集まってくれ」

鳳翔「はい。行きましょう」

龍驤「うん」

提督「龍驤」

龍驤「なぁに?」

提督「頼んだぞ」

龍驤「任せとき。最高の龍驤さんを見せたるで。あと、劇が終わったら話したいことがあるから時間ちょうだい」

提督「うん? あぁ、もちろんだ」

龍驤「じゃあね、行ってきます」






309: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:08:37.42 ID:r/A+UUIU0

――特別席――
観艦式は無事に終え、住民は国旗を掲揚しながら大元帥を迎える。

大元帥の姿を見るのは初めてだが、国を背負う者の格が滲み出ていた。

それに加えて、猫背姿はどこか愛嬌を感じさせるものだった。

劇が開始されるまでほんの少し間が空く。

レ級「ねぇ、ちょびひげ」

大元帥「はい、なんでしょうか」

レ級「こんなことを聞くのもあれだけど。こんな距離にいていいのかしら、私は仮にも深海棲艦なんだけど」

大元帥「貴女方が深海棲艦であることと貴女方が貴賓であることは何の矛盾もありません。迎賓は私の役目でしょう」

レ級「ふぅん」

提督「準備が整いました。まもなく開演です」

大元帥「劇、楽しみですね」

レ級「まぁ、そうね」

レ級が視線を流すと、すぐそばでは港湾棲姫が舞台を睨みつけていた。

港湾世紀は観艦式で歌っていた軽巡から鉢巻と白と赤のサイリウムを渡されていた。

舞台の役者を応援する時に必ず使うものだと艦隊のアイドルが言っていたのだ、北方棲姫を応援するためにいそいそと身につけた。

それらを身につけた彼女は非常に愉快な容姿になる。

要塞の谷間に溢れんばかりのサイリウムが挟み込んであったからだった。

彼女にとって大切なのは北方棲姫であり、自身の見た目も鎮守府も大元帥もどうでも良かった。

レ級「ふぅ」

特に警戒することもないと判断したレ級はおとなしく演劇を鑑賞することにした。






310: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:19:30.39 ID:r/A+UUIU0

――劇本番――

第六艦隊扮する調査隊から龍驤が抜け、翔鶴瑞鶴と合流する。

目標は深海棲艦の中枢たる姫が生まれる前に駆逐すること。

道中のホ級(仮)やリ級(仮)を翔鶴と瑞鶴で撃退しつつ進撃する。

観客は観艦式で本物の深海棲艦を見ていたため、仮初の役者さえも本物に見えていた。

龍驤「『やっこさんはウチらを煙に巻けんことに焦っとるみたいやな』」

対空電探を使った索敵は超高練度艦娘によっては半径500kmの範囲を網羅できるという。

龍驤さん、電探の索敵範囲はどのくらいなのかしら』」

龍驤「『天候やウチの精神状態によるけど、基本は350km前後やな』」

消耗の激しい電探を長時間に渡り起動させつつ行動をする。

これ自体は演技だが、常日頃から哨戒線内側の状況を把握しているのだ。

主缶を温めておくように、当然の如く警戒をしつづける。

瑞鶴「『これが秘書艦級の艦娘……』」

翔鶴「『えぇ、北上さんや日向師匠と比べても異質だわ』」

一同は北方棲姫が現れる予定の方角を確認する。

龍驤「んなアホな……総員撤退!」

瑞鶴「ちょっと、どうしたのよ」

龍驤「何しとんの! 最大戦速で撤退や!」

突然目の前に艦載機が現れた。

索敵範囲外から到達するまでの時間が短すぎた上に、非常に雑な艦載機運用だった。

台本では龍驤のみを狙うはずが、その対象に翔鶴、瑞鶴まで入っていた。

姫級の深海棲艦が戦闘を仕掛けているように見えた。

龍驤はそれが間違えだと理解していた。

北方棲姫は演技用に加減している、加減した上でこれだけの速さだった。

鶴姉妹を狙ったかのように見える艦載機でさえ、本来の狙いが逸れただけだ。

最悪なのはそれらが十分な攻撃力を保持していることだった。





311: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:20:50.69 ID:r/A+UUIU0




龍驤「舐めんな!」






312: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:22:11.80 ID:r/A+UUIU0




14号対空電探



     12.7cm連装高角砲+94式高射装置









313: ◆zqJl2dhSHw 2016/08/13(土) 18:23:31.94 ID:r/A+UUIU0

鶴姉妹に向かった艦載機を吹き飛ばす。

代わりに無防備な状態で龍驤が被弾した。

龍驤「うぐっ」

翔鶴であれば中破、瑞鶴であっても小破は避けられない攻撃だった。

その攻撃を前に、龍驤の艦橋は圧壊。

いや、その独特のシルエットに変化はなかった。

身代わりになったのは94式高射装置であり、引き換えに対空防御力が大幅に低下してしまった。

瑞鶴「うあぁああ!!」

瑞鶴は斜方打起しの速射で弓を引き絞った。

龍驤「アホ!」

翔鶴が瑞鶴に直接魚雷を打ち込み意識を刈り取った。

龍驤「ええ判断や、翔鶴。そのまま瑞鶴を連れてって」

翔鶴は振り返ることなく瑞鶴を曳航していく。

台本通りに進んでいるが、演技ではなかった。

龍驤は演技ではなく本来の使い方で羅針盤を回す。

羅針盤娘「いい目出しなよ、本当に」

妖精謹製最大の発明、羅針盤。

艤装と対で使うことでその効力を発揮する。

その効力は『突然の轟沈』を回避することだ。

妖精の加護を得ているという条件は必要だが、羅針盤の発明以降、艦娘の生存率が飛躍的に向上した。

仮に羅針盤が指し示さない方角へ進んでしまった場合、戦闘の有無に関わらず轟沈発生の危険を孕むことになる。

羅針盤が指し示す方角は常に最高ではないが、指し示さない方角は確実に最低だった。

艦娘が戦闘に向かう前には必ず回すよう定められている。

今回羅針盤妖精が示した方角は北方棲姫の真反対、鶴姉妹が撤退した先だった。

龍驤「提督が立てた作戦目標は劇の成功やからな」

羅針盤を無視して北方棲姫に向かう。

龍驤にとって最優先はいつも同じだった。

いつも、いつも。

大切なものは昔からずっと同じだった。







314: ◆zqJl2dhSHw 2016/09/10(土) 17:02:33.10 ID:ZENM51iK0

――特別席――

レ級「姫ちゃん手加減できてないわね。ねぇ、司令官さん。今からでも中止したらどうかしら?」

提督「何を言っている。俺の艦娘も北方棲姫も完璧な演技ではないか」

レ級「状況がわかっていないわけじゃないでしょう? 2人は姫ちゃんの艦載機に反応すらできていなかったわ」

提督「脚本通りだ」

レ級「旗艦の空母は戦闘に突入してるのよ? あれは演技なんかじゃない。沈んだらどうするつもりなの」

提督「だから何を言っている。北方棲姫も見事な演技ではないか。それに龍驤は沈んでも帰ってくると言っている。お前は何を心配しているんだ」

レ級「それ、ありえないから。ちょびひげも何か言ってあげたらどうなの。あなた上官なんでしょう」

大元帥「上官ですが指揮において命令は出せないですね。それが我が国の決まり事です。この鎮守府の指揮は彼に一任していますので」

レ級「だったらあなたは何のために存在しているのかしら」

大元帥「責任を取るためです。直接の指揮はしなくとも、それを承認したのは間違いなく私ですので」

レ級「だったら……」

提督「レ級よ、お前はさっきから何が言いたいんだ。総合的に見て、俺の持っている戦力ではお前達を殲滅することは不可能だ。北方棲姫の無事は保証されている」

レ級「……えぇ、そのとおりね」

レ級はこれ以上の訴えを諦めた。

彼女にとって、短い時間ではあったがこの鎮守府の居心地は悪くなかった。

もともと話が通じる相手ではなかったと諦める。

ずっと昔からそうだったのだ。

今回こそ変わるかもしれない。

それは今回も変わることはなかった。

それだけのことだった。







315: ◆zqJl2dhSHw 2016/09/11(日) 20:11:54.81 ID:RYM33eIj0

――特別席――

レ級「姫ちゃん手加減できてないわね。ねぇ、司令官さん。今からでも中止したらどうかしら?」

提督「何を言っている。俺の艦娘も北方棲姫も完璧な演技ではないか」

レ級「状況がわかっていないわけじゃないでしょう? 2人は姫ちゃんの艦載機に反応すらできていなかったわ」

提督「脚本通りだ」

レ級「旗艦の空母は戦闘に突入してるのよ? あれは演技なんかじゃない。沈んだらどうするつもりなの」

提督「だから何を言っている。北方棲姫も見事な演技ではないか。それに龍驤は沈んでも帰ってくると言っている。お前は何を心配しているんだ」

レ級「それ、ありえないから。ちょびひげも何か言ってあげたらどうなの。あなた上官なんでしょう」

大元帥「上官ですが指揮において命令は出せないですね。それが我が国の決まり事です。この鎮守府の指揮は彼に一任していますので」

レ級「だったらあなたは何のために存在しているのかしら」

大元帥「責任を取るためです。直接の指揮はしなくとも、それを承認したのは間違いなく私ですので」

レ級「だったら……」

提督「レ級よ、お前はさっきから何が言いたいんだ。総合的に見て、俺の持っている戦力ではお前達を殲滅することは不可能だ。北方棲姫の無事は保証されている」

レ級「……えぇ、そのとおりね」

レ級はこれ以上の訴えを諦めた。

彼女にとって、短い時間ではあったがこの鎮守府の居心地は悪くなかった。

もともと話が通じる相手ではなかったと諦める。

ずっと昔からそうだったのだ。

今回こそ変わるかもしれない。

それは今回も変わることはなかった。

それだけのことだった。







317: ◆zqJl2dhSHw 2016/10/26(水) 20:56:52.47 ID:tGGViKsk0

ーー北方棲姫ーー

北方棲姫は演じながらも龍驤を見て確信した。

自分の一番のお気に入り、一番格好いい素敵な飛行機は間違いなく彼女のものだったと。

北方棲姫は何時も何時も不思議に思っていた。

自分が持っている飛行機はどれもこれも丸くてカワイイ。

そんな中でたったひとつ、キラキラして格好いい飛行機があった。

自意識を得た瞬間から大切に抱えていた飛行機だが、自分のものというよりは誰かから貰ったものだとわかっていた。

誰から貰ったものだろうか、そんな疑問を抱えて生きていた。

そしていつか必ず、飛行機をくれたことに対してお礼を言いたかった。

これだけ格好いい飛行機だ。持ち主も当然格好いいに決まっている。

左手に抱えた水上爆撃機を見ながら考える。

日向と名乗った航空戦艦は本当に格好良かった。

あれだけ脆弱な艦体にもかかわらず、なんとレ級と真っ向から競い合ったのだ。

そして龍驤と呼ばれた正規空母。

あの小さな艦は随伴艦2盃を庇った上に、ほぼ無傷で爆撃を回避した。

随伴艦は飛行機に反応すらできていなかったにも関わらずだ。

間違いなく龍驤こそ探していた艦だった。

お礼を言おう、この時のために言葉も覚えた。

そして、もう1つ飛行機をくださいとお願いをしよう。

北方棲姫は劇の終了を待つことができなかった。




318: ◆zqJl2dhSHw 2016/10/26(水) 20:58:44.42 ID:tGGViKsk0

ーー龍驤ーー

龍驤はあまり運が良い方ではないが、今回は運が良かった。

北方棲姫の開幕爆撃は多大な脅威だったが、それ以降は比較的穏やかな攻撃で済んだ。

龍驤が全身全霊をもって対応することで劇は辛うじて進行している。

一瞬たりとも気が抜けない、一手しくじれば劇が破綻してしまう。

想像通り姫級の戦力は桁違いだった。

さらに、姫が抱えていた飛行機を見て動揺したことも事実だった。

それでも、提督の期待に応えるために奮闘する。

龍驤は一番大切な者のために一生懸命だった。

深海棲艦と艦娘が共同で劇を演じられたなら、戦闘とは別の方向から平和が実現できるかもしれない。

それを大元帥の眼前で実現できるかもしれないのだ。

龍驤は提督を誇りに思う。

自分自身がどうなろうと、この劇は必ず成功させてみせよう。

龍驤と北方棲姫との戦闘が終盤に差し掛かったとき、初めて北方棲姫が口を開いた。

ここに彼女の台詞は用意されていないので訝しんだが、龍驤は耳を傾ける。




319: ◆zqJl2dhSHw 2016/10/26(水) 21:00:15.83 ID:tGGViKsk0



北方棲姫「……ゼロヨコセ」






320: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:21:44.63 ID:il2bUEwd0

――北方棲姫――

とうとう龍驤にお願いをすることができた。

お礼は上手に発声できなかったがきっと伝わっただろう。

劇での役はそろそろ完了だ。

龍驤に爆撃を加え、戦闘不能にした上で回収する。

そして与えられた台詞を述べるだけだった。

丸くてカワイイ爆撃機が龍驤に向かって爆弾を投下する。





321: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:23:46.41 ID:il2bUEwd0




龍驤「……八(はち)」







322: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:24:17.94 ID:il2bUEwd0

北方棲姫「?」

完璧なタイミングで投下した爆弾は、なぜか龍驤に命中しなかった。

とはいえ、北方棲姫はあわてずさわがず次を発進させる。





323: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:27:14.26 ID:il2bUEwd0

――レ級――

レ級「どういうことなの。あの爆弾は確実に命中したわよ」

提督「あれか? あれは八卦に従って吉凶を見たんだ。北方棲姫の凶方に龍驤の吉方を重ねたな」

レ級「意味が分からないわ。そんなものがあるの?」

提督「目の前にあるだろう。うむ、龍驤の真剣さが伝わってよいではないか」

レ級「あの空母、次は四って言ったわよ。何を数えているのよ」

提督「四か? それは四象を唱えているようだ。季節の流れというか、時の流れだな。見ろ、まるで彼女たちだけが別の世界にいるようだろう」

提督が解答を終える前に、レ級は龍驤へ砲撃を開始した。

大人しく劇を眺めているのはここまでだった。

あの空母は今まで出会ったどの艦娘よりも危険だった。

カウント。3、2、1、弾着……ならず。

それどころかこちらを見るそぶりすらない。

レ級「いったい何が起きているっていうの」

提督「レ級よ、俺が書いた脚本に不満があったとしてもだ。舞台に向けての砲撃はさすがに自由すぎるだろう。泣くぞ?」

レ級「そんなことは聞いていない。あの砲弾も確実に命中していた。それにも関わらず、まるで何もなかったかのように消失したのよ」

提督「おぉ、二を数えたか。あれは両儀だな。陰と陽で世界を満たす、北方棲姫と龍驤で一つの世界を作っているわけだ。こちらとあちらを隔てる結界ができているだろう。お前たちの障壁と似たようなものだと思っておけ」





324: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:28:56.52 ID:il2bUEwd0


レ級「キャハハハ、それって艦娘の限界を超えているから。ちょっと姉姫様、もう劇は中止にするわよ。……姉姫様?」

港湾棲姫「……」

いつのまにか港湾棲姫は北方棲姫とは別の方角を睨み付けていた。

その先では3盃の空母がこちらを睨み付けている。

レ級が気が付くより先に港湾棲姫は戦闘を仕掛けようとしていたが、それは3盃の空母により妨げられていた。

提督「見事としか言えないな。俺の自慢の空母を3人同時に相手どるとは」

レ級「それはこちらの台詞よ。わずか3人だけで拮抗できるなんて」

飛行機を操る者同士の激しい攻防。

後の先では遅すぎる、先の先ですらまだ遅い。

彼女達は互いの一挙手一投足から情報を読み合っている。

制空権の奪い合うための対空値計算を何度も何度も繰り返していた。

戦闘機を単純に増やせば爆装および雷装を減らさざるを得ない。

攻撃手段の減少は第2次、第3次攻撃を許すことになる。

さらに減らし過ぎれば、爆撃機と攻撃機が全滅させられることもあり得る。

この睨み合いの間に、発進準備完了と中止そして再演算が幾度となく繰り返されていた。

レ級「あなたの空母もほどほどにしておきなさいね。姉姫様を相手にして過負荷で廃棄処分なんて嬉しくもなんともないでしょう」

提督「どこへ行く?」





325: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:30:29.32 ID:il2bUEwd0


レ級「姫ちゃんの所よ。対峙している空母を沈めてくる。他の艦娘には手を出さないし、住民にも手を出さない。これで手打ちにしましょう」

提督「それは困る。劇が中断してしまうではないか」

レ級「これでもまだ劇だと言いはるの? まぁ、あなたの指示ではないでしょうしね。あの空母の独断はあの空母に責任を取ってもらいましょう。……何かしら、鳳翔」

鳳翔「行かせるとお思いですか」

レ級「止めるつもりなの? やめておきなさい」

鳳翔「やってみないとわからないでしょう。あなたは私のことを何も知らないのですから」

レ級「逆よ。あなたは驚くほど自分自身を錬り上げている。そんなあなたが彼我の差を読み取れないはずがない」

鳳翔は眉をひそめた。

レ級には逆立ちをしても勝てないことは明白だった。

鳳翔「あなた達が出向いてくださった理由はわかっています。北方棲姫が艦戦を欲しがったのからでしょう」

レ級「まぁ、そうね」

鳳翔「この劇は必ず無事に終わります。その時に艦戦も差し上げます。ですからどうか最後まで続けさせてください」

レ級「あなたも話を聞かないのね。いいわ。ちょっと面倒だけれど、過不足なく完璧な大破にしてあげる。あの空母はその後でいいわ」

鳳翔「感謝します」

鳳翔が袂から式符を取り出して柏手を二つ打つと、レ級と共に姿を消した。

提督「あぁ! これからが龍驤と北方棲姫の見せ場だというのに」

大元帥「君は焦らないんだね」

提督「もちろんです。私は彼女たちを、龍驤を信じております。必ずこの演劇は成し遂げられます」

大元帥「そうかい。おや、龍驤君は一を数え終わったようですね」





326: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:33:01.60 ID:il2bUEwd0

――龍驤――

龍驤「……一(いち)」

両儀を内包する大元を数え終わった。

龍驤は現界して初めて、我を忘れるほどの怒りに身を包んでいた。

北方棲姫の一言は決して許せるものではない。

一番大切なものは提督で間違いないが、唯一、秤に乗せられるものがあった。

それは皇国の空母として戦い抜いたという誇りだ。

龍驤が誇っているものは「龍驤」という艦ではなく、搭乗員。

特に、飛行部隊の面々だ。

鬼さえ後ずさりすると言われた訓練を乗り越えた者たち。

その優秀さゆえに主力部隊への異動も多く、龍驤にはいつも新米が乗っていた。





327: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:33:57.22 ID:il2bUEwd0


そして忘れもしない北方海域。

ある者は敵を撃墜し、ある者は敵に撃墜される。

誰もが懸命に闘っていた。

ある者は、継戦が困難になり島に不時着することになった。

その島でゼロ戦は奪われた。

後の歴史はゼロ戦を解析されたことが敗戦の要因だと語った。

さらにゼロ戦を島に不時着させた搭乗員についても。

そんな馬鹿な話はない。

龍驤は敵国ではなく自国によってこの評価を下されたことで、大切な搭乗員を辱められた怒りを抱えていた。

行き場のない怒りはねじれていく。

そうだ、ゼロ戦を鹵獲した者がいるはずだ。

そいつが鹵獲さえしなければこのようなことにならなかった。

龍驤「……すうぅ」

大きく息を吸う。

今なら引き返せる。

龍驤が目線をあげると、そこには航空基地に回収されてしまったゼロ戦の姿があった。

許せない。




328: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:35:38.59 ID:il2bUEwd0




龍驤「零!!」







329: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:37:08.91 ID:il2bUEwd0

大元はやがて零に収束する。

龍驤は最後のカウントを宣言してしまった。

龍驤「外法、英霊召喚」

龍驤は自分自身を触媒に「龍驤型空母一番艦龍驤」を召喚する。

同様に、妖精を触媒にして神座から正真正銘の英霊を召喚した。

北方棲姫「!?」

極めつけは北方棲姫の腕にあったゼロを触媒にしてゼロを呼び出したことだろう。

当然、その艦戦には彼が搭乗する。

新米員「自分の仇を自分で討つことになるとはな。それに貴様が龍驤か。ははは、なんと美しい娘だ!」

龍驤「悪いけどウチのワガママに付き合ってもらうで。20機の艦攻を18機の艦戦で援護」

「「了解」」

龍驤「艦戦は古賀を中心に展開や。さぁ、仕切るで! 艦載機のみんな! 目標、北方棲姫や」

「「おぉおおおぉお!!」」

概念艤装の最奥、自分自身を運用する。

英霊たちとの連携も空母龍驤との連携も完璧にできている。

龍驤自身、かの英霊たちの思いの結晶だからだ。





330: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:38:45.96 ID:il2bUEwd0


ある者は、母を。

ある者は、妻を。

ある者は、許嫁を。

ある者は、恋人を。

ある者は、姉妹(きょうだい)を。

ある者は、娘を。

誰もが命を懸けて護ろうとし、自身の艦にその姿を重ねていた。

そんな風に生まれた艦娘だ。彼女たちは例外なく美しく、そして強い。

あの時以上に完璧な戦闘ができるだろう。





331: ◆zqJl2dhSHw 2016/11/11(金) 11:39:16.12 ID:il2bUEwd0

――北方棲姫――

北方棲姫「!?」

ここで生まれて初めて焦燥感を得た。

日向の時とは真逆だった、気づかないうちに大切な物が奪われた。

理不尽に奪われた。

ユルセナイ。

北方棲姫「■■■■■■」

怒りに身を任せ、北方棲姫は島一つを展開した。




333: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 12:57:46.71 ID:cNACaCuX0

――鳳翔――

鳳翔「ここなら邪魔は入りません」

レ級「ほんとうにここの空母は器用だわ」

レ級は呆れ顔で感想をもらして、即座に艦載機を発艦させる。

弓を使う空母は予備動作として矢を番え、式を使う空母は符を構える。

レ級はそのどれとも異なる。

やると決めた瞬間、発艦した状態で艦載機を展開することができる。

鳳翔「幾つか手を予想しましたが、それは悪手ではないですか」

レ級が発艦させると決め実際に発動するまでの間に、鳳翔は二式艦上偵察機を展開していた。

レ級「……」

戦闘力は皆無、しかし無視できない状況になっていた。

レ級は船渠での会話を思い出す。





334: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 12:58:28.10 ID:cNACaCuX0




日向『鳳翔と交戦するなら時間の流れを気を付けろ』

日向『開幕から発艦までの流れが非常に滑らかだからな、それを読み取るのは至難の業だ』

日向『私と同じくらいかだと? 馬鹿を言え、航空戦力を操れるとはいえ私は戦艦。奴は先の大戦すら乗り越えた生粋の空母だ。比較にすらならないな』

日向『話を戻すが、一番やっかいになるのはやはり「百式艦載機」だろう』

日向『死に際の集中力というのか? 鳳翔と対峙した側が時間の圧縮を感じさせられるから、気のせいなどではかたつけられない』

日向『注意しろとは言わない、ただ覚悟をするといい』

日向『鳳翔は強いぞ』







335: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 12:58:58.78 ID:cNACaCuX0

レ級「ふぅ」

鳳翔「なぜ構えを解くのですか」

レ級「戦闘は無駄よ。さっきは大破させてあげると言ったけども、それもやめておくわ」

鳳翔「はいそうですか、と言うわけがないでしょう」

レ級「なら話し合いよ。あの空母の首だけで……」

鳳翔「九七式艦攻!」

魚雷が無防備なレ級に直撃した。

レ級「話し合いよ」

鳳翔「装甲を抜くことはできませんか」

レ級「なぜそこまで負け戦に挑みたいのかしら。住民の安全確保、あなたの上司の前で演劇の成功。空母ひとつと引き換えなら十分な成果でしょう」





336: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 12:59:43.81 ID:cNACaCuX0


鳳翔「龍驤は、あの娘は私の妹です」

レ級「そう、引けないのね」

鳳翔「三式指揮連絡機!」

今度はレ級が不意うった特殊潜航艇の展開を潰された。

一度だけでなく二度も後の先を取られてしまい、とうとう戦艦の本能に灯がともる。

レ級「どうして、どうして! やるわね、本当にやるわね! いいわ、完璧な大破にしてあげる! だから……」

レ級「簡単に沈まないでね!」

歯をむき出しにして高らかに笑っていた。

鳳翔「笑いますか」

鳳翔はいつか来る日のために備えておいたとっておきさえここで使い切る覚悟を決めた。





337: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 13:00:26.54 ID:cNACaCuX0

――レ級――

レ級「すごいわ、鳳翔!」

レ級よりも鳳翔の方が早く、レ級の攻撃はことごとく潰されていた。

それに対してレ級が決めた作戦はいたって単純だ。

攻め続けること。

鳳翔が早く攻撃しようともレ級の装甲を抜くことができないのであれば大きな問題はない。

攻撃手段を組み合わせて対処し続けてもいつかは矢が尽きることは明白。

レ級は鳳翔が見せた攻撃手段では対応できない角度からの攻撃を続けた。





338: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 13:01:09.26 ID:cNACaCuX0


そしてついに。

鳳翔「弽が……」

レ級「それがなければもう弦は引けないわね」

鳳翔「舐めないでください!」

素手で取り掛け引き絞る。

レ級「その身を削ってまで戦う意志、見事だわ」

レ級は艦載機、特殊潜航艇、砲撃と持てる攻撃手段を全て展開する。

艦娘ではとうてい制御しきれない物量だった。

鳳翔「百式艦載機、九九式艦爆!」

99柱にも及ぶ英霊を式神として使役する。

鳳翔最大の戦力だった。

膨大な数と数のぶつかり合い、互いの技量と相まって戦闘の枠すら超えた時間が流れた。





339: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 13:02:05.53 ID:cNACaCuX0

――百式の零――

レ級「よくやったわ、鳳翔」

鳳翔「……くぅ」

弽なしで引いた勝手は大破、最後の交戦で弓は弓の体をなしていない。

レ級「あなたはやりきった。胸を張って凱旋できるわ。さあ、ここから戻りましょう」

鳳翔「弓がなければ闘えないとでも?」

発艦は弓を引くに非ず。

その心が正しい節度を持つことこそ八節である。





340: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 13:03:11.57 ID:cNACaCuX0


レ級「……っが」

霧散したかに見えた英霊たちを取り込み、消費する。

その圧倒的な熱量をもって、鳳翔はレ級に徒手空拳を叩きこむ。

爆撃の嵐を上回る打撃をレ級に叩き込み辺りは煙幕の様相となった。

召喚した英霊すらすりつぶす、外道の業。

牙を持たない皇国民を守るためであれば、外道と呼ばれても構わない。

鳳翔はとっくの昔に覚悟完了していた。

これが百式艦載機の零、零式防衛術だ。





341: ◆zqJl2dhSHw 2016/12/19(月) 13:03:41.17 ID:cNACaCuX0


鳳翔「まさか零さえも……」

煙が晴れ、五体満足なレ級が現れた。

鳳翔は業の反動で轟沈寸前だった。

鳳翔「覚悟が足りなかったのでしょうか」

レ級「最強種である私と最小の空母であるあなた。もって生まれたものが違い過ぎたのよ」

鳳翔「そう……ですか」

レ級「安心なさい、鳳翔。あなたは始めから礼儀をわきまえていた。力を持たない口だけの艦娘でもなかった。あの空母の処遇は姉姫様にかけあってあげる。あなたの孤独な戦いは無駄ではなかったわ」

鳳翔「ふふ」

レ級「よかったわね」

鳳翔「いえ、そうではなく。あなたは私と交戦した瞬間にもうすでに詰んでいたのですから」

レ級「?」

鳳翔が倒れこむと同時に辺りは閃光に包まれた。





342: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/17(火) 12:40:18.78 ID:0R/1X8WH0

――引き分け――

ほんのわずかな時間だがレ級は眼を閉じていた。

呼びかけに応じて再び眼を開ける。

男「おい、姉ちゃん。ずいぶんと強いんだな」

レ級「あら? 何のことかしら?」

男「さっきの喧嘩のことだよ。突然吹っかけられてて心配したけどよ、見事に撃退じゃねぇか。大したもんだねぇ」

はっきりと思い出せないがどうやらレ級は喧嘩を仕掛けられて追い払ったらしい。

なぜか自分のことにも関わらず曖昧だった。

レ級「そうね。最強というのは目立つから」

男「それにしてもあんた別嬪さんだねぇ。肌もずいぶん白いし、異人さんかい?」

レ級「面白いことを言うわね。異人、か。なかなかいい表現かもしれないわ」

男「どうだい? 帰ったら俺っちの嫁にならないかい? 食うのには困らせないよ」

女「やめときなさいな。あんたじゃ役者不足もはなはだしいわ」

男「なんてことを言うんだい。おや、あんたもずいぶん別嬪さんだねぇ」

女「あらそう? 悪い気はしないわね」





343: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/17(火) 12:40:46.91 ID:0R/1X8WH0


レ級は改めて周囲を見渡した。

どうやらやつれてぼろをまとった人間がたくさんいるようだった。

疲れ切った表情は実際に疲れているからだろう。

それでも彼らの目は輝いていた。

彼らに何があって、これから何があるのだろうか。

ぼんやりと考えていたレ級は再び呼びかけられた。

女「あのぉ、お姉さん。私たち結婚することになりました」

レ級「キャハハ、おめでとう。決断が早いのはいいことよ」

男「それでよう、あんたに頼みがあるんだが。俺っちの会社で働かないか? これからは人手が必要だし、あんたみたいな強い別嬪さんがいれば男でも集まると思うんだよ」

女「女の人に頼りっぱなしじゃないのよ」

男「馬鹿女郎! 一億総玉砕が崩れ去ったんだ。次は一億総生産の時代だよ、男も女も関係ないねぇ」

レ級「いいわね、とてもいいわ」

男「おっ? 働いてくれるかい? 悪いようにはしないよ」

レ級「いえ、私に何かを創ることはできないわ。けど、あなた達のことは護ってあげる」

女「じゃあどうするの?」

レ級「私は海軍で戦いましょう。ありとあらゆる敵から護ってあげる」

男「それはいいな。別嬪さん頼りにしているぜ!」

レ級「えぇ。もっーと私に頼っていいのよ?」

レ級の口からは至極当然のようにこの言葉が発せられた。

女「早く着かないかしらね」





344: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/17(火) 12:41:26.50 ID:0R/1X8WH0


レ級「ところであなた達はどこに向かっているのかしら?」

男「面白いことを言うねぇ。戦争が終わって、これから国に帰るところじゃねぇか」

女「そうよ。お船にのって帰っているところじゃない」

レ級「そうだったのね、そんな気もしてきたわ。これはなんと言うなの艦かしら」

男「彼女は復員輸送艦」

女「鳳翔です」

レ級「そう、いい名前ね」



戦術は遷移していく。

戦艦による艦隊決戦。

空母による航空戦。



鳳翔「そして情報戦に至るのです。あなたの魂の輝きにつけ込ませて頂きました」

茫然自失しているレ級と無様に這いつくばったままの鳳翔。

鳳翔「このような出会いでなければ、あなたとは間違いなく……言うのはやめましょう」

気を失うまではこのままレ級を制すことができる。

その後は完全無防備になってしまうが時間稼ぎは十分だろう。

鳳翔は自身の意志を押し通すことができた。






345: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 19:59:46.59 ID:ePqt4+4U0

――完全敗北――

艦攻員「先に往きます!」

艦戦員「先に往きます!」

「龍驤」を召喚して「英霊」を召喚してもなお、北方棲姫の堅牢な護りを突破することはできなかった。

北方棲姫が島を一つ展開し、その防御機構は中心に近づくほどに密になっている。

島の外周部に損害を与えたとしても、姫級特有の保有資源により修復が繰り返されてしまう。

針山のような地上砲火は次々と艦載機に突き刺さっていた。

古賀の零戦も例外ではなく、潤滑油系統を打ち抜かれ機体から油が漏れだしていた。

この状態になっても、いまだ撃墜には至らず。

北方棲姫の意識はさらに集中する。

あのゼロを取り返すために。





346: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:00:26.13 ID:ePqt4+4U0


龍驤「……」

北方棲姫の性能であればさらに撃墜されても不思議ではなかった。

龍驤の優位性は北方棲姫の狙いを把握していることだった。

必要以上に古賀の零戦に固執しているため、攻撃が単調になっている。

龍驤は古賀を囮にして、英霊たちを犠牲にしてようやく辿り着いた。

多くの英霊が送還されてしまったため、「龍驤」の維持は限界に近かい。

龍驤自身も外法を適応し続けた結果、姿は白く色褪せその眼からは金色の光が漏れていた。

新米員「ここまでか」

とうとう古賀の零戦はエンジンを停止した。





347: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:01:26.01 ID:ePqt4+4U0


北方棲姫は破顔して、両手を広げて迎える姿勢になる。

そして龍驤は北方棲姫の意識の隙間を捉えた。

艦攻の数も質もタイミングも、北方棲姫を屠るには十分すぎた。

龍驤「ぃやったぁー!! やったでぇ! うち大活躍や! 褒めて褒め……」

完全に意識を取り戻す。

龍驤が受けた命令は何だったか。

龍驤が守るべきものは何だったか。

龍驤は誰に褒めてほしかったのか。





348: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:02:13.64 ID:ePqt4+4U0


北方棲姫「アァアア!!」

龍驤の艦攻隊は魚雷を投下しなかった。

代わりに北方棲姫の地上砲火に全滅させられる。

龍驤が召喚した英霊は残り1柱、もう「龍驤」を維持することはできない。

龍驤も光を捉えられず、音が擦れてきた。

北方棲姫「アハ!」

再び両手を広げ、龍驤最後の艦載機を迎え入れる準備を整えた。

磨き上げられた滑走路だ、湿地などとは比べものにならない着陸心地を保障しよう。





349: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:02:50.18 ID:ePqt4+4U0


新米員「ははは、敵に情報をもらすわけには行かないからな」

古賀は沈みゆく龍驤へ着艦した。

龍驤「ごめんな、古賀。またキミにしんどい思いをさせたわ」

新米員「何を言うか。自分はこうして龍驤に戻ることができた。恨み辛みがあるわけなかろう」

龍驤「そう言ってくれんのはありがたいわ」

新米員「ただな、今の貴様は女としての幸せも享受できるはずだった。それだけが無念だな」

龍驤「そうかぁ」

新米員「それでは先に往く!」

古賀は光となって送還された。

龍驤は何も見えず聞こえない。





350: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:05:10.15 ID:ePqt4+4U0




「提督、もう一目会ってから、ウチ壊れたかったよ……」







351: ◆zqJl2dhSHw 2017/01/24(火) 20:07:14.23 ID:ePqt4+4U0




龍驤:轟沈







352: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:45:45.67 ID:GgwBG6yP0

――港湾棲姫――

港湾棲姫「オ前ハ一体何ヲシタカッタンダ?」

提督「こっちを見ないで北方棲姫を見てやれ。何でお前たちは劇を見ようとしないんだ」

港湾棲姫「阿呆カ? オ前ノ艦娘ガ沈ンダンダ。何ヲ呑気シテイル」

提督「阿呆はお前たちだ。龍驤は一部も隙もなく劇を遂行している。当然、北方棲姫もだ。その素晴らしい劇を何故見ようとしない」

港湾棲姫「呆レテ物モ言エナイ。艦娘ハ沈ンダラ終ワリダ。アレ程高練度ノ戦力ヲ失ッテマデ劇ヲシタイノカ」

提督「失うだと? 龍驤は轟沈しようとも必ず俺の元へ戻ってくるといった。あいつは決してできないことを口にしない。俺は龍驤を信じている」

港湾棲姫「艦娘ニソレハ有リ得ナイ。奴モ憐レダナ。オ前ノ様ナ無能ノ所為デ沈ンダ。オ前ニハ何度モ助ケル機会ガアッタ。劇ノ中止、ソシテオ前ガ発令シテイル戦闘禁止ノ解除ダ。戦艦ニ巡洋艦、空母ニ駆逐艦。劇ニ参加シテイナイ艦娘ヲ導入スレバ奴ヲ回収デキタダロウ」





353: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:46:29.83 ID:GgwBG6yP0


長門「その通りだ。なぜ我々に指示を出さなかった! なぜ龍驤を沈めた!!」

絶対の命令権により縛り付けられていたため仲間の轟沈をただ見ているだけだった。

何もできず、黒鉄時代と同じ様にただ見ているだけしかできなかった。

提督「長門よ、お前は姫級を侮っている。俺自慢の空母3人が港湾棲姫1人によって壊滅的なダメージを負った。加減をされた上でだ。そこに追加戦力を投入すれば加減すらなくなる。戦闘禁止はお前たちを守るためだ」

長門「私が簡単に沈むとでもいうのか?」

提督「姫級とは天災に等しい。人事を尽くした程度で防げるものではない」

長門「ではなぜ龍驤を守ってやらなかった。奴が、あなたの一番だったのではないか」

提督「その龍驤が劇をやり通すと言った。俺がそれを信じなくてどうなる」

長門「しかし、提督!」

提督「もう黙れ」





354: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:47:16.29 ID:GgwBG6yP0


長門は強制的に口を閉ざされた。

絶対命令である『提督指令』には決してあらがえない。

提督がこれを強行したことはなかったため、長門は悔しさと混乱の渦に巻き込まれた。

提督「逆に俺はお前たちに疑問を持っている。なぜお前たちは仲間を信じない」

長門と港湾棲姫それぞれに語る。

提督「龍驤が嘘を言ったことがあるのか? 冗談は言う奴だが、仲間の命に係わるような冗談を言ったことがあるのか?」

長門は話せなかったが、否定の意志を伝えた。





355: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:48:00.39 ID:GgwBG6yP0


提督「港湾棲姫よ、北方棲姫はここに何をしに来た? 俺が劇への出演を依頼して、それに応えたんだぞ?」

港湾棲姫「ダカラドウシタ」

提督「戦闘をしに来たわけではないだろうが。それをレ級もお前も劇に介入しようとしやがって」

港湾棲姫は怒りの顔から困った顔になってしまった。

言っている意味が本当に分からなかったからだ。

そもそも先に仕掛けたのは龍驤の方ではなかったか。

姫は戦艦に視線を向けてみたが、同じように困った顔をしていた。

根本的なところで見解の相違が存在している。

提督「いいか、よく聞け。お前たちは娘のなりをして娘ではなく、艦の能力を持ちながら艦ではない異形の存在だ。仲間のことだけでなく自分自身すら信じられていないお前たち艦娘を、いったい誰が信じるのだ?」

提督の言葉は狂った内容に思えたが、姫と戦艦は互いに見合う。

見合った後、言葉の続きに耳を傾けた。





356: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:48:38.30 ID:GgwBG6yP0




提督「俺だ! 提督である俺が信じている!!」







357: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:49:15.54 ID:GgwBG6yP0


提督は、はっきりと一切疑いもせずに声を上げる。

提督「俺は龍驤と北方棲姫を信じている。盲信などではない。彼女達こそこの世界の特異点だからだ」

それだけ言い終わると、提督は劇の鑑賞に戻った。

大元帥「君達も座りたまえ。長門君はレ級君の席に座るといい」

長門「はっ!」

予想外の声に、長門は提督の命令すら越えて返事をすることができた。

そしてその敬礼は完璧だった。

大元帥「港湾棲姫君も手を下して座るといい」

港湾棲姫「……ン?」

彼女もまた目元に手を当てており、それは敬礼に見えた。




358: ◆zqJl2dhSHw 2017/02/01(水) 21:49:49.15 ID:GgwBG6yP0




北方棲姫「■■■■■■■■■」



終劇まであと少し。




362: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/19(日) 23:12:59.53 ID:Vq0iMlJH0

ーー終劇ーー

北方棲姫「■■■■■■■■■」

北方棲姫は劇を完遂するため爆撃機に指示を出した。

丸くてカワイイ爆撃機は次々と海中へ飛び込み戦利品を鹵獲する。

格好いい艦戦とそれを格好良く操った空母だ。

北方棲姫は部下に台詞を促した。

護衛要塞(北方棲姫属)「『格納庫ヲ用意セヨ。艦載機ガ100機以上格納デキル規模ガイイ』」

北方棲姫「『ゼロガサビナイヨウニネ』」

戦利品を抱えたまま呟く。

北方棲姫「『ウン。ワタシ、チョットツヨイカモ』」

表情は読み取りにくいが、満足気だった。

見せ場を演り切った事に加えて、生まれて初めて観客から喝采があったからだろう。

観客は信じがたいほど高水準な演技を見て狂喜乱舞寸前だ。

艦娘と姫は在り得ない状況に眼を疑っていた。

轟沈しているにも関わらず、彼女はそこに存在している。

北方棲姫に抱えられてそこにいる。



暗転



語り部は決して遅くならなかった。

未だ劇は続いている。

ならば速やかに進めなければならない。

第六駆逐隊が無傷赤疲労という極限状態の空母を無理やり連れて行く。



暗転



鶴姉妹が演じ終える。



提督「これにて終劇!」

住民の拍手と共に幕を閉じた。





363: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:47:38.47 ID:RE5jK4ru0

――船渠――

龍驤「あぁ、これが地獄か。ウチとこの船渠そっくりや」

北方棲姫「オ前ノトコロノ船渠ダ」

龍驤「キミは……、ウチは沈んだんやな」

北方棲姫「ソウダ。ゼロ返セ」

龍驤「そうやったな、チュウ! どこにおんのー?」

新米員「うわーん、姐さん! 生きててよかったっす!」

龍驤「キミも生きててよかったわ。この娘にゼロを返したって」

新米員「いいんすか? 提督に許可を取ってないっす」

龍驤「大丈夫や。これ以上の醜態は見せられんからな」

新米員「了解っす! しっかり磨いたゼロっす!」





364: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:48:18.86 ID:RE5jK4ru0


北方棲姫「……レップウモヨコセ」

龍驤「烈風はちょっと待ってくれん? 隼鷹にゆうとくわ」

北方棲姫「ウン」

龍驤「キミはええなぁ。言いたいこと素直に言えて」

北方棲姫「オ前モ言エバイイ」

龍驤「そうやな、今度からはそうするわ。手遅れやけどな」

提督「龍驤! 起きたか!?」

龍驤「おー、起きたでー。真っ裸やからいきなり入らんといて」

提督「む、それはすまなかった。しかし、どうしても言いたくてな」

龍驤「勝手に戦闘に入ったことは謝るわ。謝ってどうにかなるもんでもないけどな」

提督「お前らには俺の指示なしでの戦闘許可を与えているだろう。それは不問だ」

龍驤「じゃあなんやろな」

提督「見事な劇が遂行できた。俺はお前を誇りに思う」

龍驤「かなわんなー。なぁ、キミ。言いたいことがあるんやけど」

提督「劇の前に言っていたやつだな。なんだ?」




365: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:49:17.43 ID:RE5jK4ru0




「ウチは君のことが大好きや」







366: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:49:44.18 ID:RE5jK4ru0


提督「そうか。教えてくれてありがとう。閉会式はもうすぐだからな」

龍驤「うん。じゃあ、またあとで」

提督は船渠を後にする。

龍驤「あー、ようやく言えたわ」

北方棲姫「ソレダケカ?」

龍驤「言ってみたら意外と大したことなかったわ。もっと早うゆうとけばよかった」

入渠が終わり偽装を身に着ける。

龍驤「ここまで連れてきてくれてありがとうな。そろそろ閉会式に行くで」

北方棲姫「アイツラハツガイダロウ?」

新米員「その通りっす。姐さんは、いまだに勘違いしてるっす」





367: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:50:11.48 ID:RE5jK4ru0


――閉会式――

提督「……主演女優賞、瑞鶴。講評をいただきます」

大元帥「最後まで力強い演技でした。劇終了後の大立ち回りも大変元気があってよろしい」

瑞鶴「あ、ありがとうございます」

提督「瑞鶴には勲章を贈呈する。また、劇終了後に港湾棲姫に戦闘を仕掛けたことに対して1か月の謹慎処分とする」

「「ははははは」」

瑞鶴「ちょっ、提督さん。あれは不可抗力だって」

港湾棲姫「イタカッタ」

瑞鶴「ごめんなさい」

大元帥「過ちて改めざる是を過ちと謂う。よい姿勢ですよ、瑞鶴君」

瑞鶴「はい!」





368: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:52:00.30 ID:RE5jK4ru0


提督「ありがとうございます。次に助演女優賞、北方棲姫。講評をいただきます」

大元帥「不慣れな環境にも関わらず淑女たる振る舞い。関心いたしました」

北方棲姫「ウン」

提督「北方棲姫には、零戦を21型、52型、53型を贈呈する。なんだ? 烈風もだと? 追加で烈風を贈呈する」

北方棲姫「アリガトウ!」

当然、拍手喝采だった。

提督「さて、ここからが本題だ。龍驤、前に来てくれ」

住民はすべて姿勢を正す。

龍驤「なんやろな。ウチも謹慎処分やろか」

提督「この劇はまさにこの時のために用意したものだ」

龍驤「もったいぶらんと、ほらほら」

提督「そうだな。龍驤!」

龍驤「なぁに?」





369: ◆zqJl2dhSHw 2017/03/27(月) 15:53:58.19 ID:RE5jK4ru0




「愛してる。俺とケッコンして欲しい」







373: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:05:07.78 ID:gFcN22mA0

この言葉と共に指輪を艦娘へ贈ることは、提督として最重要事項の一つだ。

証人はこの場にいる全員。

親としての大元帥を筆頭に住民、仲間、そして敵までもがここにいる。




374: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:06:27.71 ID:gFcN22mA0


空気が読めない龍驤ではなかった。

少し困った顔をした後、艦娘特有の完璧な笑顔を作る。

龍驤「あははー、ありがとうな。うん、ウチはわかっとったで」

完璧な笑顔のまま続ける。

龍驤「限界練度になったんはウチが最初やったからな。上限解放の兵装、ありがたく貰っとくよ」

笑顔が痛々しい。

龍驤「ウチはキミの一番大事な兵器や。たとえこの身が朽ちても欠片も残らずキミのものや」





375: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:08:55.98 ID:gFcN22mA0


龍驤「けど、電も鳳翔も限界練度やで。北上ももうすぐやろ? なぁ、キミ。ウチらの本分は皇国の守護や、みんなにもちゃんとあげてな?」

大元帥の目の前でこの発言は正しい、正しすぎるくらいだ。

艦娘としての本心でもあった。

求められるのは強さだ。

限界を超えられるのであれば全てのものを対価にできる。





376: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:10:35.66 ID:gFcN22mA0


龍驤はその本心で本音を塗りつぶした。

先の劇で自分の感情を最優先してしまったことが、龍驤を自罰的にしてしまっている。

空気が淀む。

護衛要塞すら眉をひそめていた。




377: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:12:32.51 ID:gFcN22mA0


空気が読める提督ではなかった。

提督「俺たちは皇国の守護者だ。戦力強化大いに結構。当然、電にも鳳翔にも、続く艦娘にも指輪を贈ろう」

龍驤はまだ完璧な笑顔を保つ。

提督「だがこの指輪だけはお前に贈ると決めていた。何故だかわかるな?」

龍驤「全然わからんよ、キミ」





378: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:15:06.18 ID:gFcN22mA0


提督「これだけは任務で手に入れた、大本営から支給されたものだからだ!」

龍驤「それは他のと違うん?」

提督「全く違う! いいか、龍驤。これだけは提督と艦娘の名前が正式な記録として海軍に残る」

龍驤の笑顔が崩れ真顔になる。





379: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:17:22.33 ID:gFcN22mA0


提督「なぁ、龍驤。俺たちは皇国を守護するための兵器だ。戸籍なんてものはないからな。皇国民とは違って婚姻という記録も一切合切何も残せない」

提督「これだけだ! この指輪だけが唯一、記録として残すことができるものなんだ!」

龍驤は泣きそうな顔をする。

艦として娘として、任務も規則も全うして上でこんなにも想われていた。

知っていたつもりが、まだ足りなかった。





380: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:21:32.21 ID:gFcN22mA0


龍驤「あのさ……キミ、うちの事どう思うてるの? 今、この場でちゃんと教えてくれん?」

提督「愛してる。これまでもこれからもずっとだ」

龍驤「そうかぁ。ウチも……キミのことが大好きや」

とうとう龍驤は左手を差し出した。





381: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:23:18.22 ID:gFcN22mA0




ケ・ッ・コ・ン・カ・ッ・コ・カ・リ

―艦娘と強い絆を結びました。―







382: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:24:09.43 ID:gFcN22mA0


一時の静寂。

北方棲姫「オメデトウ」

手甲は付けたままのため、いまいちよく聞こえない拍手が送られた。

やがて彼女を中心に拍手は速やかに広がっていった。





383: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:28:05.92 ID:gFcN22mA0


大元帥「まだ終わりません。こちらに署名をしなさい」

提督「はい」

書類一式にサインをする。

大元帥「無理をおして来た甲斐があるというものです。最後に私が名前を呼ぶので返事をしなさい。その後に一言贈ります」

異様な重圧が界を満たし、大元帥は光を放つ。





384: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:29:51.11 ID:gFcN22mA0


大元帥「龍驤型正規空母、龍驤」

龍驤「はい」





385: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:30:52.15 ID:gFcN22mA0


大元帥「神須佐能(カンムスサノヲ)計画零号」

提督「はい」





386: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:32:12.54 ID:gFcN22mA0




「朕、両名ノケッコンヲ認ム」







387: ◆zqJl2dhSHw 2017/07/06(木) 21:33:34.29 ID:gFcN22mA0


承認であり、祝詞であり、祝言である正真正銘の勅令だった。





388: ◆zqJl2dhSHw 2017/08/28(月) 21:08:06.71 ID:Av3ug9Vz0

――第一航空戦隊ソウリュウ編成の演習――

披露宴で泣くものもいれば笑うものもいた。

概ね陽気な空気ではあった。

加賀「赤城さんも泣くなんて。確かにこれは喜ばしいことです」

赤城「いえ、そうではなく。陛下の御前で彼奴を屠れなかったことが悔しくて」

空気を凍り付かす赤城の発言。

そして凍り付く港湾棲姫。

彼女は狙われている。

龍驤「あのさぁ、赤城。さすがにありえんやろ。どんなメンタルしとるの?」

提督「ふむ、確かに直接の戦闘はできなかったからな。ならば演習だ」

提督「深海棲艦に演習を願おう。姫級が相手だからどんと胸を借りていけ」

北方棲姫「イヤ、オ前ラハ絶対ニ勝テナイカラ」

ふよふよと顔の前で手を振る。

提督「そう侮るなよ。こちらの編成は一航戦でいこう」

漣「キタコレ!」

潮「漣ちゃん、絶対に私たちじゃないから」

提督「第一航空戦隊ソウリュウ編成で挑むぞ!」

牙を剥く赤城。その顔にはもう涙は残っていない。

そしてもう一人。

レ級「鳳翔、瓶がくだけたんだけど」

酌をしていた瓶を粉々に砕く鳳翔。

口元は嗤っている。

加賀「嫌です」

龍驤「うちもいやや」

提督「龍驤、頼んだぞ!」

龍驤「おっしゃ! いくで、加賀!」

加賀「……嫌です」

右袖を龍驤につかまれ、左袖を鳳翔につかまれ連行されていく。

北方棲姫「面倒ダカラ嫌ダ」

ほっと胸を撫でおろす港湾棲姫、戦闘は避けられそうだ。






389: ◆zqJl2dhSHw 2017/08/28(月) 21:45:06.93 ID:Av3ug9Vz0

龍驤「そう言うなって。キミが勝ったら電が震えるくらいええ艦載機やるからな」

北方棲姫【お姉ちゃん! お土産が増えるよ!】

護衛要塞に指示を出して港湾棲姫を連行する。

提督「お前はいかないのか?」

レ級「まぁ4対4でいいんじゃない」

アイスクリームに舌鼓を打ちながら回答する。



――演習――

瑞鶴「何なのその艤装」

加賀「黙りなさい」

平常の加賀型ではなく、長門型の艤装よりも際どい線を攻めていた。

赤城も金剛型に似た艤装だった。

極めつけは二人とも弓を持っていないことだ。

鳳翔「瑞鶴さん、いつかあなたにも後輩ができます。その時に備えてよく見ておくのですよ」

矢には式符が結ばれていた。

龍驤は弓を携えている。

瑞鶴「そもそも蒼龍先輩はいないし、龍驤は一航戦じゃないじゃん」

龍驤「まぁ、こんなこともあるっちゅーことで。じゃあ行ってくるわ」

沖に向かう4盃。

港湾棲姫「私タチハ海ニ出ラレナイ」

提督「この鎮守府前で備えてくれ。お前たちが防衛に失敗すると俺たちは住む場所がなくなるからな」

港湾棲姫「エ?」

提督「頼んだぞ!」

港湾棲姫「エ? エェ?」

応援団が楽器を打ち鳴らす。

艦娘を鼓舞するもの、深海棲艦を鼓舞するもの。

誰もが楽しそうだった。

提督「では、演習開始!」

合図とともに沖から啖呵切りが届いた。

龍驤「うちがいるから、これが主力艦隊やね! 一航戦、龍驤。 出撃するで!」

鳳翔「竜飛、出撃致します」

赤城「一航戦赤城、出ます!」

加賀「一航戦、出撃します」




390: ◆zqJl2dhSHw 2017/08/28(月) 21:46:01.24 ID:Av3ug9Vz0




港湾棲姫は困っていた。



北方棲姫と引き分けかけた正規空母が鏑矢を飛ばしてくる。

その唸りは言霊となり爆戦を産み出していく。

レ級と引き分けかけた正規空母が式符を付けた矢を飛ばしてくる。

それは勅令の光を灯して、式神を乗せた艦載機を召喚していく。

港湾棲姫自身を足止めした改装空母が艦載機を飛ばしてこない。

代わりに推定41cm口径の三式弾を発射していく。



狙いはすべて北方棲姫だ。



そして北方棲姫は勝ち急ぎ、防御を全くしていなかった。






391: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:11:49.20 ID:ZC3QoPda0

レ級「こんなこともあるのね。姉姫様がこっちに防御を割くなんて」

無傷の鎮守府を見てつぶやいた。

大元帥「拠点防衛の姫君です。それに加えて彼からのお願いもありましたからね」

レ級「そうかしら」

大元帥「彼らの帰る場所が無事で何よりです」

レ級「帰る場所ねぇ」





392: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:13:03.87 ID:ZC3QoPda0

大元帥「ところで貴女方はどちらの国に帰るのでしょうか」

レ級「笑わせるわね、ちょびひげ。そんなものはないわよ。帰るのは暗くて冷たい海の底よ」

大元帥「そうですか。では諸々の決着がつきましたらこの国に帰ってきなさい」

レ級「はぁ? 正気なの?」

大元帥「……」

レ級「……でも。大丈夫なのかしら」

大元帥「……」

レ級「えっと」

レ級「陛下。御厚情賜ります」

姿勢を正して敬礼をした。





393: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:14:00.10 ID:ZC3QoPda0


日向「助けてくれないか。私たちではそろそろ防衛しきれない」

レ級「何よ、演習は終わったんじゃないの」

日向「見ていなかったのか? 演習はキミたちの勝利だ。ただ北方棲姫は龍驤一点狙いで仕留め損ねた」

レ級「……あの女、指輪を嵌めてから耐久力が上がってるじゃない」

日向「そうだ。僅かではあるが演劇の時よりも耐久性能が上がっている。北方棲姫は見誤ったようだ」

レ級「それでも姫ちゃんは勝ったんでしょ? なんであの娘は暴れているのよ」

日向「港湾棲姫が他3人を大破(轟沈判定)で仕留めたからだ」

レ級「つまりどういうこと?」

日向「演習のMVPは港湾棲姫だ。提督は電が震える程すてきな艦載機を港湾棲姫に手渡した」

日向「見るといい」

レ級「あー、姉姫様がうっとりしている。姫ちゃんに渡す気はなさそうね」





394: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:14:41.12 ID:ZC3QoPda0


北方棲姫壊「■■■■■■!」

レ級「さて、どうしようかしら」

レ級は大元帥を仰ぎ見る。

大元帥「防衛をお願いします。ただし北方棲姫を攻撃してはいけません。疲れるまで暴れさせておやりなさい」

レ級「さすがに無理よ」

大元帥「専守防衛が皇国の華です。それに、貴女にならできます」

レ級「宜候」

日向はこのやり取りを黙って見ていた。

レ級「日向遅いわ。置いてくからね?」

日向「それは困るな」



祭りは続く。







395: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:15:34.89 ID:ZC3QoPda0

―― 夜 ――

提督「どうだ龍驤。俺は計画通りに今日を終えることができたぞ」

龍驤「穴だらけの計画やったけど劇は大成功やったな。ウチはそんなキミを愛しとるで」

提督「五臓六腑に染み渡るなぁ。俺が皇国一の幸せ者だったか」

龍驤「よっしゃ、寝る準備できたよ」

提督「ありがとう。それよりウヰスキーなんかどうだ? 今日というこの日を祝いたい」

龍驤「ええから」

提督「日本酒にするか? ええい、どっちも持ってくか」





396: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:16:07.97 ID:ZC3QoPda0




龍驤「なぁ、こっち見て?」







397: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:17:09.58 ID:ZC3QoPda0


提督「応とも! おぅっ?」

龍驤「わからん事ないよな? ウチらカッコカリとは言え夫婦やで」

提督「……鉄兜はどこだったかな」

龍驤「そんなもんいらないよ」

龍驤「不束者ですがこれからもよろしくお願いします」

爆発四散! 龍驤の言葉は提督の爆発反応装甲を起動させた。

提督「我、夜戦に突入する!」



――――――
――――
――




398: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:17:49.41 ID:ZC3QoPda0

―― 電と鳳翔 ――

鳳翔「これですべて片付けられました」

電「ありがとうなのです。せっかくですので2人で呑みましょう。電が持ってきたのです」

鳳翔「では私もこちらを」

互いにメタノール瓶を差し出す。

電「あ」

鳳翔「あら」

電「今日はどうでしたか。最後まで通してみると司令官さんが本当にやりたかった劇が分かった気がするのです」

鳳翔「奇遇ですね、私にもわかりました。あの披露宴がすべてを物語ってます」

電「答え合わせしちゃいましょう」

鳳翔「はい、せーの」





399: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:19:47.17 ID:ZC3QoPda0




「「茶番劇」」







400: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:20:29.85 ID:ZC3QoPda0


電「『愛してる、龍驤。俺とケッコンしてくれ!』」

鳳翔「『ウチもキミのこと愛しとる。ケッコンお受けします』」

鳳翔「何年かけたんでしょうね、この言葉を言うのに」

電「もう思い出せないのです。それでもおめでたいのです」

鳳翔「乾杯ですね。音頭をお願いします」

電「はいなのです」





401: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:20:55.90 ID:ZC3QoPda0




「「この海の平和に」」







402: ◆zqJl2dhSHw 2017/12/30(土) 07:21:30.61 ID:ZC3QoPda0




おしまい




403: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/12/30(土) 08:45:13.20 ID:4Q4woYlHO




元スレ
SS速報VIP:提督「劇をしたい」龍驤「あのさぁ、さっきからなんなの」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431175708/