【水泳教室編】



232: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:05:13.50 ID:+ZJivdei.net

 朝

 善子の家

 リビング

善子「……」

善子ママ「さ、食べちゃって」コトッ

善子「いただきます」パチ

善子ママ「いただきます」

善子「……」パクッ

善子ママ「……」パクッ

善子「今日は曜さんと出かけてくるわ。夕飯までには戻ってくると思う」モグモグ

善子ママ「あら、デート? 楽しんでらっしゃい」フフッ

善子「ちょっと水泳を習いにね」

善子ママ「善子、水泳苦手じゃなかった?」

善子「だから習うのよ。曜さん泳ぐの得意だから」

善子ママ「確か中学生のときに全国大会で優勝したのよね」

善子「ええ。去年もよ」

善子ママ「……」

善子「せっかくあれだけ泳げるのにもったいないわ」パクッ

善子ママ「今は水泳やってないんだったかしら」

善子「そうよ……。もう大会に出るつもりはないんだって」

善子ママ「そう……」

善子「……」モグモグ

善子ママ「泳いでる曜ちゃん、カッコよかったわよね」フフッ

善子「まあね」

善子ママ「善子、あのときからずっと好きだったんでしょう?」

善子「そんなわけないでしょ。同じ沼津の選手として応援してただけよ」

善子ママ「あら」

善子「ママも一緒に行ったわよね?」

善子ママ「担任だもの」

善子「曜さんの担任だったなら言ってくれればよかったのに」



233: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:05:55.61 ID:+ZJivdei.net

善子ママ「言わなかったかしら?」フフッ

善子「ママはそのときから曜さんのママと付き合ってたのよね……」

善子ママ「そう。誰にも知られたくなかったのよ」

善子「……」パクッ

善子ママ「教え子の親と付き合ってるなんてバレたら問題になるもの」

善子「ママはそういう人よね。知ってたわ」

善子ママ「何怒ってるの?」

善子「怒ってないわよ。大人だもの、世間体を気にするのは仕方ないわよ」

善子ママ「ましてや教師だから……」

善子「同時に教え子にも手を出してるなんてね」

善子ママ「それは誤解よ」

善子「手を出されてた? 同じことだわ」

善子ママ「それは……」

善子「親子で同じ人を好きになるなんて、よほどママって魅力があるのね。私にはさっぱりだけど」

善子ママ「曜ちゃんもどこまで本気だったのか分からないわよ」

善子「本気よ。曜さんは好きなものに一直線だもの」

善子ママ「……」

善子「私も曜さんと同じ学校がよかったわ」

善子ママ「そういえば、中学の時はそこまで仲良くなかったわよね」

善子「仲良くないどころか話したことすらないわよ。曜さんはきっと私が応援席にいたことすら気づいてなかっただろうし」

善子ママ「声くらいかけてみればよかったのに」

善子「……」

善子ママ「善子の性格じゃ無理か」

善子「うるさいわね」ムッ

善子ママ「善子の方から壁を作ってただけだと思うわよ? 曜ちゃんは他校の友達も多かったみたいだから」

善子「……」

善子ママ「ま、でもいいじゃない。今はこうして恋人にまでなれたんだもの」

善子「そうね」

善子ママ「善子は知らないかもしれないけど、中学の時の曜ちゃんはそれはもうモテモテだったんだから」

善子「噂では聞いていたわよ。曜さんの学校、女子校なのに何で……」



234: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:06:29.41 ID:+ZJivdei.net

善子ママ「男子校だったら全員彼氏にしちゃいそうなくらい」

善子「曜さんならやりかねないわね」

善子ママ「でも曜ちゃんは同級生になんて全然興味ないみたいだったわ」

善子「そんなにママのことが好きだったの?」

善子ママ「もっと自分を高いところに連れて行ってくれる人を探してた……って感じかしら」

善子「曜さんらしいわ」フフッ

善子ママ「今もきっと探してるわよ」

善子「ないわね。今の曜さんは現状維持の平和主義だもの」

善子ママ「善子に自分にないものを感じたから好きになったんじゃない?」

善子「私にあって曜さんにないものなんてある?」

善子ママ「あるわよ。たぶん」

善子「……」

善子ママ「もう少し自信を持っていいのよ?」

善子「曜さんみたいなこと言わないで」ムスッ

善子ママ「ふふっ。曜ちゃんに何言われたのかしら」

善子「ごちそうさま。片付けは私がやるわ」スタッ

善子ママ「あ、曜ちゃんとの待ち合わせは大丈夫?」

善子「まだ時間あるから」

善子ママ「じゃあお願いしようかな」

善子「ん。ママも食べ終わったら持ってきてよね」カチャ

スタスタ

善子ママ(まさか善子がお手伝いするようになるなんてね)

善子ママ(曜ちゃんには感謝しなきゃ)フフッ

……

善子「はぁ……」ストンッ

善子ママ「お疲れ様。行く準備はできてるの?」

善子「そうね、着替えてくるわ」

善子ママ「水着は大丈夫?」

善子「大丈夫って?」

善子ママ「その、サイズとか」



235: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:07:02.80 ID:+ZJivdei.net

善子「そんなに太ってないわよ」

善子ママ「ううん……」

善子「心配しなくても昨日着られたから平気」

善子ママ「そう?」

善子「あ、もし曜さんが来たらここで待たせておいて」

善子ママ「何時頃来る約束なの?」

善子「現地に九時集合よ。でも曜さんのことだから必ず私の家まで迎えに来るわ」

善子ママ「なら最初から迎えに来て貰えばいいじゃない」

善子「じゃあ泊まるって言い出しそう」

善子ママ「泊まってもらえば?」

善子「嫌。プールに行くまでにクタクタになっちゃうから」

善子ママ「分かるわ」フフッ

善子「それじゃ、私は着替えてくるから……お願いね?」

善子ママ「止められなかったらごめんなさい」

善子「……」

善子ママ「努力はします」

善子「あと、もし曜さんが抱きついてきても頭撫でたりしないでよね」

善子ママ「どうして?」

善子「調子に乗るからよ」

善子ママ「うーん……」

善子「まあいいわ。さっさと着替えてきちゃえばいいだけのことだし」スタッ

スタスタ

 善子の部屋

ガチャ

善子「さてと……。曜さんが来る前に着替えを済ませないと」

バタン

善子「……」スルッ

善子「……」シュルッ

パサッ スッ

善子(どうせ水着に着替えるなら着ていけばいいか)サッ



236: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:08:06.37 ID:+ZJivdei.net

……

 リビング

ピンポーン

善子ママ(曜ちゃんかしら)スタッ

ピッ

善子ママ「はーい?」

『あ、善子ちゃん? 今日も可愛い声だね』

善子ママ「……」

『ママか。ごめんなさい』

善子ママ「善子が出るとは限らないわよね」

『ママの声も可愛いですよ?』

善子ママ「はぁ……」スタスタ

ガチャ

曜「おはようごさいます」ペコッ

善子ママ「おはよう。待ち合わせは現地って聞いたわよ」

曜「えっ、善子ちゃんもう行っちゃいましたか?」

善子ママ「ううん。中にいるけど……」

曜「よかった……。間違えてママに秘密のレッスンをお願いするところでした」アハハ

善子ママ「朝から元気ね……」ハァ

曜「ママは朝弱いんでしたっけ」

善子ママ「そういう意味じゃなくてね」

曜「善子ちゃんに似て寝相も悪いですし」

善子ママ「とりあえず上がって。玄関先で変なこと言われたらご近所さんに聞こえるわ」

曜「ずいぶん若い彼女ね、って噂になっちゃうかも」

善子ママ「ないわよ」

曜「ないかな」

善子ママ「いいから、上がって」スッ

曜「お邪魔します」スタッ

バタン



237: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:08:39.78 ID:+ZJivdei.net

……

善子ママ「善子は部屋にいるけど、ここで待たせておくように言われてるの。大人しくしててね」

曜「着替え中ですか? それなら……」スタッ

善子ママ「大人しくしててね?」グイ

曜「はい……」シュン

善子ママ「何か飲む?」

曜「お」善子ママ「お茶ね。分かったわ」

曜「エスパーかな?」

善子ママ「本当にお茶だったの? よかった」ホッ

曜「もしかしてママのおしっこが飲みたいとか言うと思いました?」

善子ママ「え、ええ」

曜「会っていきなりなんて、まるでおしっこ目当てに来たみたいじゃないですか」アハハ

善子ママ「……」ハァ

曜「ごめんなさい」

善子ママ「ううん。曜ちゃんと話していると頭が痛くなってくるわね……」

曜「ママに会えて嬉しいんですよ」

善子ママ「調子がいいんだから」

曜「えへへ」

善子ママ「お湯沸かしてくるから待ってて」スタッ

曜「ありがとうごさいます」

……

 善子の部屋

善子「ふぅ……こんな感じかしら」クルッ

善子「うん。なかなか決まってるわね」フフッ

善子「これなら曜さんも……」

善子「……」

善子「えへへ」

ガチャ

曜「善子ちゃん着替え終わった?」

善子「ええ。今終わったとこ……」



239: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:10:51.37 ID:+ZJivdei.net

曜「あ……」

善子「って! 何で曜さんが私の部屋に!?」

曜「その服可愛いね」

善子「か、かわ……」カァアア

曜「すごく似合ってるよ」フフッ

善子「当たり前でしょう!? ってか来てたなら言いなさいよね……」ハァ

曜「ママにリビングで待つように言われたから」

善子「だったら最後まで待ちなさいよ」

曜「早く善子ちゃんに会いたかったの」

善子「……。まあ、着替えは終わったからもう行けるわよ」

曜「ママがお茶淹れてくれてるから、それ飲んだら行こうか」

善子「そうね。ってまだ七時半だけど……」

曜「プール何時からだっけ?」

善子「九時。だから現地に九時集合にしたんでしょう?」

曜「あぁ、そうだった」

善子「曜さんってやっぱり約束守らない人なのね」

曜「え? 私何かしたっけ」

善子「現地に九時集合って約束したわ」

曜「うん。だからこれから現地に集合しようよ」

善子「あのねぇ、どうして私がわざわざ現地に集合って言ったか分かってる?」

曜「善子ちゃんの家に八時半って言ったら、私が『じゃあ泊まる』って言うから?」

善子「それも正解」

曜「私の家に八時半って言ったら、待ち切れなかった私と入れ違いになっちゃうから?」

善子「それもね」

曜「じゃあ……私が善子ちゃんの着替えに乱入するからかなぁ」

善子「しないで」

曜「私はてっきり、現地集合って言っておいて本当は家まで迎えに来てくれることを期待してたのかと思ったよ」

善子「どれだけ面倒くさいのよ私」

曜「実際面倒くさいもん」

善子「何ですって!?」



240: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:11:22.54 ID:+ZJivdei.net

曜「面倒くさい善子ちゃんが好きなんだよ」

善子「……」ハァ

曜「わざわざリビングで私を足止めしておくようにママにお願いしたのもそうだよね?」

善子「は?」

曜「本当は着替え中に私が部屋のドアを開けるのを期待してたんでしょ」

善子「してないわよ」

曜「『きゃー! 曜さんのえっち!!』パーン」

善子「本当にしてない」

曜「心配しなくても善子ちゃんの着替えなんて覗かないよ」ヒリヒリ

善子「そうかしら?」

曜「覗かないよ。見るなら堂々と見るもん」

善子「ダメに決まってるでしょ」

曜「おしっこだって堂々とお願いするよ」

善子「朝からやめてよね」

曜「やっぱり迷惑だったかな……」

善子「ええ。現地でって言ったんだから現地に来てくれればよかったのよ」

曜「私は善子ちゃんが迷子になっちゃうんじゃないかって心配で来たのに……」

善子「むしろ曜さんの思考が迷子よね」

曜「……朝から言うねぇ」アハハ

善子「曜さんと話してたら疲れちゃうもの」

曜「そんなぁ」

善子「せっかく一日曜さんが水泳教えてくれるって言ったのに、私が疲れちゃったら意味ないでしょ?」

曜「……」

善子「約束どおり、プールが閉まるまで丸一日教えなさいよ」

曜「そんな約束してないよ」

善子「したわよ! まさか午前中だけさらっと付き合ってあとはランチに誘って終わりにするつもり?」

曜「ランチには誘われるんだね」

善子「当たり前よ。曜さんのおごりで」

曜「よく思い出して。私は善子ちゃんの好きなときに好きなだけ教えるって約束したよね」

善子「ええ。まあ、今日一日付き合ってくれればそれでいいわよ」



242: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:12:54.30 ID:+ZJivdei.net

曜「それじゃ私が納得いかない」

善子「何で」

曜「たった一日で泳げるようになったら苦労しないよ」

善子「私、全く泳げないわけじゃないわよ?」

曜「あ、そうなの?」

善子「カナヅチかと思った?」

曜「大工さん?」

善子「全く泳げない人のこと」

曜「あぁ、そっちの」

善子「水泳でカナヅチと言えばそれしかないわよ」

曜「善子ちゃんがカナヅチなら私は五寸釘だね」アハハ

善子「意味が分からないわ」

曜「引っ叩かれても嫌いにならないってこと」

善子「……」

曜「だから遠慮なく叩いてね? 五寸釘は思いっきり叩かないと全然入っていかないよ」

善子「私を暴力キャラみたいにしないで。前にも言ったわよね」

曜「あはは。他の子には暴力振るっちゃダメだよ?」

善子「心配しなくても他の人は叩かれるようなことしないわよ」

曜「善子ちゃんも私と同じだね」フフッ

善子「どこが」

曜「私はおしっこでしか好きって伝えられないけど、善子ちゃんは暴力でしか伝えられないじゃん」

善子「曜さんと同列で語られたらお終いだわ」

曜「暴力キャラな善子ちゃんも好きだから」

善子「私は嫌い! って言うか本当に暴力なんて振るってないから!」

曜「冗談が通じないのも善子ちゃんの可愛いところだね」

善子「……」

曜「可愛いよ?」

善子「もう勝手にして。やっぱり疲れたわ」ハァ

曜「私は善子ちゃんと話すの楽しいけどな」

善子「私もよ。そろそろ行きましょ」



243: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:13:27.29 ID:+ZJivdei.net

……

 リビング

善子ママ「あ……善子、私はできるだけ足止めしたわよ」

善子「知ってるわ。着替えは済んでたから十分よ」

曜「親子揃って私を何だと思ってるんですかね」

善子「変態」

善子ママ「まあ、そういう面もあるわね」

曜「酷いな。おしっこが好きなだけで変態なんかじゃないよ」

善子「それ、みんなの前でも言える?」

曜「……」

善子「いや、言わなくていいからね。一応言っておくわ」

曜「言わないよ。二人が知っていてくれればそれでいいもん」

善子ママ「二人って……私も?」

曜「ママは私が中学生の頃から知ってましたよね」

善子ママ「そうね。あの親にしてこの子あり、と思ったわ」

曜「やけに冷静だと思ったら、私のお母さんとそういう関係だったからなんですね」

善子「最低ね」

善子ママ「そ、それはいいじゃない! 誰を好きになろうと私の勝手でしょう?」

曜「私のことは受け入れてくれなかったくせに」

善子ママ「無茶言わないで。私は担任なのよ? 生徒に手を出すなんて言語道断だわ」

曜「生徒じゃなかったら受け入れてくれた?」

善子ママ「……」

善子「そこははっきりノーと言って」

曜「あんまりママをいじめちゃ可哀想だよ」

善子「いじめてるの曜さんよね」

曜「たっぷりいじめられたから、そのお返しかな」アハハ

善子「いじめたの?」

善子ママ「まさか。少し厳しく指導したのは確かだけれど」

曜「この前、ママに本気で怒られたとき……昔に戻ったみたいで嬉しかったなぁ」

善子「この前……っていつ?」



244: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:14:02.07 ID:+ZJivdei.net

善子ママ「ここで盛大に漏らしたときね。ほら、善子が曜ちゃんのお母さんとお風呂に入っている間に」

善子「あぁ、そのときの」

曜「私、中学の時はママに怒られてばっかりでよく漏らしたっけ」エヘヘ

善子ママ「後処理をするのはいつも私だものね」

曜「それはママのせいで漏らしたんだもん、当然だよ」

善子「それ、他の人は気づかなかったの?」

曜「みんなの前では怒らないでくれるから」

善子ママ「逆よ。曜ちゃんが私と二人のときにだけ悪いことをするの」

曜「ママに怒られたかったのかな?」アハハ

善子「やっぱり変態だわ」

曜「そんな。おしっことママが好きなだけだよ」

善子「私は?」

曜「もちろん好きだよ」

善子「そう」

善子ママ「……」

曜「さっ、お茶淹れてくれたんですよね? 冷めないうちに頂きます」スッ

善子「それじゃ私も」スッ

曜「はぁ……温かい」

善子ママ「あ、そうそう。まだ熱いから気をつけ」善子「あっつ!!!」

善子ママ「気をつけてね」

善子「遅いわよ!!」

曜「善子ちゃん猫舌だもんね」

善子「熱くしないでっていつも言ってるのに……」フーフー

善子ママ「そんなこと言われてもね。熱くないと出ないじゃない」

曜「お茶がいちばん美味しく出せるのは約七十度ですよ」

善子「それでも熱いわよ」

曜「私が淹れるときは、善子ちゃんのだけ軽く冷ましてから出してるからね」

善子「助かるわ」

曜「ちなみにママのは熱めに出してます」

善子ママ「わざわざ? よくそこまで気が回るわね」



245: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:14:31.81 ID:+ZJivdei.net

曜「好きな人のためなので」

善子「……」カァアア

善子ママ「私はそこまでできないもの。そこそこの熱さで出して、あとは各々好みに応じて冷まして飲めばいいと思うわ」

曜「ごめんね。今度ママが淹れるときは私が冷ましてあげるから」

善子「いいわよ。ママが曜さんを見習ってくれればいいだけのことだもの」

善子ママ「善子が冷ましてから飲めばいいだけのような」

善子「何か言った?」

善子ママ「普通は温度を確認してから口をつけない?」

善子「……」

曜「善子ちゃんって意外と後先考えないよね」

善子ママ「そうよ。善子はいつも行き当たりばったり」

善子「いいじゃない。明日生きてるかも分からないんだし、今を楽しまなきゃ」

曜「善子ちゃんにしては珍しくポジティブだね」

善子ママ「……ポジティブ?」

善子「いつもネガティブじゃ嫌になるでしょ」

曜「ならないよ」

善子「私が嫌になるのよ」

曜「そっか」

善子ママ「これも曜ちゃんのおかげかしら」

善子「そんなに変わって見える?」

曜「善子ちゃんは変わったよ。前は自分なんて不幸な人間だからって何をするにも後ろ向きだったのに」

善子「そこまで後ろ向きじゃないわよ」

曜「私は善子ちゃんのおかげで少し後ろも見られるようになったかな」

善子ママ「よかったじゃない。お互い変われて」

善子「……」

曜「安心してよ。私を手に入れたこと以上に不幸なことなんてないんだからさ」

善子「不幸なの?」

曜「じゃあ幸せ?」

善子「……幸せ」ボソッ

曜「えへへ。私も!」



247: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:16:07.40 ID:+ZJivdei.net

善子ママ「……」

曜「ママの前でも平然と惚気るようになったよね」

善子ママ「それは言えてるわ」

善子「曜さんが振ってくるからよ!」カァアア

曜「あとはみんなの前でもこのくらい素直になってくれればね」

善子「ならない」

曜「私の前では特別? それは嬉しいけど……」

善子「いいから早く行きましょ。このままお喋りしてたら一日終わっちゃいそうだもの」グイ

曜「それはそれで」

善子「ごちそうさま。行ってくるわね」

善子ママ「気をつけてね。まあ、曜ちゃんがいれば大丈夫か」

曜「はい!」

善子「逆に心配にはならないのね……」

……

……

 プール

 更衣室

曜「じゃ、早速着替えちゃおうか」

善子「ふふ」

曜「実は善子ちゃんの分も用意してきたんだよね」ガサゴソ

善子「……」ヌギヌギ

曜「あ、これこれ。私が中学のとき着てたやつだけど善子ちゃん合うかな?」サッ

善子「じゃーん! もう下に着てるわ」

曜「え」

善子「どう? 似合ってるかしら?」クルッ

曜「えっと……その」

善子「何よ、嬉しすぎて言葉にならない?」

曜「可愛いよ? だけど……」

善子「実はこれ、去年買ったはいいけど一度も着てなかったのよね。だから見せるのは曜さんが初めてよ」

曜「うん、だからね……」



248: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:16:41.48 ID:+ZJivdei.net

善子「さ、曜さんも早く着替えちゃいなさい」

曜「それで泳ぐの?」

善子「ん?」

曜「その水着で」

善子「ええそうよ。そのために着てきたんだから」

曜「そんな抵抗のありそうな水着で……」

善子「そりゃ少しは恥ずかしいし抵抗もあるわよ? でもせっかく買ったのに着ないなんてもったいないじゃない」

曜「……」

善子「それに曜さん……見たがってたし」カァアア

曜「プール、見た?」

善子「へ? 何よ」

曜「流れるプールで遊ぶわけじゃないんだよ。私たちが行くのは五十メートルプール」

善子「だから? そんなの分かってるわよ」

曜「他の人たち、みんな競泳水着だよ」

善子「え……」

曜「そんな水着の人誰もいないよ」

善子「そ、そう……」

曜「善子ちゃん、競泳水着なんて持ってないでしょ。私が中学の時着てたやつ貸してあげるから……」スッ

善子「……」

曜「ごめんね、中古で」

善子「うん……」スッ

曜「ゴーグルは持ってきた? なければ貸すよ」

善子「……」スッ

曜「空いてるロッカーは……」キョロキョロ

善子「……」

曜「うわ、意外と混んでるのかな? なかなか空いてないぞ」スタスタ

「せっかく……」

曜「あっ、ここ! 善子ちゃん!」

「……」タッ

……



250: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:18:05.84 ID:+ZJivdei.net

曜「うっ……久しぶりだと意外とキツい」ギュッ

善子「私はそうでもないわ」スルッ

曜「特に胸のあたりが……」ムニュ

善子「私は全然……」

曜「まあ、競泳水着は少しキツいくらいがちょうどいいからね。善子ちゃんも……うん、少し緩そうに見えるけど大丈夫でしょ」

善子「……」

曜「ほら、鏡見て。似合ってるよ」

鏡「……」

善子「これが私……」

曜「帽子も貸してあげる」サッ

善子「……」ギュッ

曜「ゴーグルつけて」サッ

善子「……」グッ

曜「おお、選手っぽい!」パチパチ

善子「これ、ずいぶん体のラインが出るのね……」

曜「水の抵抗を減らすために体にフィットするようにできてるからね」

善子「そうじゃなくて、その……股のラインとか」カァアア

曜「え? 善子ちゃんさっき超ビキニ着てたよね?」

善子「超って何よ」

曜「超可愛いの超」

善子「あ……うん。ありがと」

曜「あれじゃ水泳を教えるどころじゃなくなっちゃうね」アハハ

善子「……」

曜「どうかした?」

善子「それさっき聞きたかったわ」

曜「可愛いって言ったよ?」

善子「あんな愛想笑いしながらじゃなくて!」

曜「愛想笑いしてた?」

善子「もしくは苦笑い」

曜「それは、善子ちゃんが場違いな水着だったから」



251: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:18:39.72 ID:+ZJivdei.net

善子「うっ……悪かったわね」

曜「今日は水泳をしに来たんだからね。ああいうのは今度遊びで来たときにゆっくり見せてくれれば」

善子「また来るの?」

曜「来ないの?」

善子「来る……」

曜「うん。じゃあ準備運動して始めようか」

善子「……」エヘヘ

……

 プール

チャプ

曜「うん、さすが温水プール。冬でも温かいや」

善子「そう? よかったわ」

曜「あー気持ちいい」

善子「それじゃ私も……」スッ

ザブン

善子「冷たっ!!」

曜「え?」

善子「どこが温水よ! 全然冷たいじゃない!」

曜「もしかして善子ちゃん、温泉だと思った?」

善子「いや、温水なんだからもっと温かいお湯かと……」

曜「それじゃのぼせちゃうよ」

善子「確かに」

曜「少し泳いでいればちょうどよくなるから」

善子「そうかしら……」

曜「うん。あ、先にレーンのこと教えておくね」

善子「レーン?」

曜「向こう側の一・ニレーンは上級者用。タイムを測ったりするところだよ」

善子「ああ、確かに速そうな選手ばっかりね」

曜「三から六はそこそこの人たち用。そこそこ泳げる人たちが練習に使ってる」

善子「なるほど」



252: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:19:18.97 ID:+ZJivdei.net

曜「私たちがいる七・八レーンは、言ってみれば子ども用。特に八レーンは小さな子でも安心なように床が高くなってるんだ」

善子「あ、それで水深が浅いのね」

曜「善子ちゃんにはちょうどいいでしょ」アハハ

善子「むっ。七レーンにするわ」

曜「そう? じゃあ七レーンに」

善子「全く泳げないわけじゃないの。言ったでしょ……わっ!」ザブン

曜「七レーンは床がないから深いよ」

善子「ぷはっ……。足が滑ったわ」ゲホッ

曜「水の中だと境目が分かりにくいよね」

善子「レーン跨ぐのって禁止なんだっけ」

曜「あぁ、うん。よく知ってるね。でも七と八の間は仕切りがないから大丈夫」

善子「仕切り作ってほしいわね」

曜「それだと二人しか使えないじゃん」

善子「まあ、確かに」

曜「色んなレベルの子が同時に練習できるようになってるんだよ」

善子「その一角を私たちが使ってるってわけね……」

曜「周りの子はせいぜい小学生低学年の子ばかりだけど、恥ずかしがることはないよ」アハハ

善子「うっ……泳げるって言ってるのに」

曜「ウォーミングアップも兼ねて、まずはここで泳いでみて」

善子「分かったわ。でも子どもたちにぶつかったら困るわね」

曜「それなら大丈夫。私が隣で歩くから」

善子「私、そんなに遅くないわよ」

曜「そうなの? うーん、じゃあ私も泳ぐよ。子どもたちが前に来たら止まってくれれば」

善子「ちゃんと止めてよね。水の中じゃ聞こえないかも」

曜「抱きつけば気づくかな?」

善子「普通に止めて」

曜「はいはい。じゃあ準備ができたらいつでもどうぞ」

善子「行くわよ……」スッ

曜「……」

善子「……」



253: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:20:02.99 ID:+ZJivdei.net

曜「……」

善子「えっと、何で泳げばいい?」

曜「ん? 何でもいいよ。善子ちゃんの好きな泳ぎ方で」

善子「じゃ、じゃあクロールで」

曜「うん」

善子「……」チャプ

曜「……」

「……」タッ

曜「おっ、いい蹴り出し」

「……」スー

曜「伸びるね」

「……」

曜「ん?」

善子「ぷはぁっ!」ザバッ

曜「どうしたの」

善子「やっぱり先に曜さんがお手本やって」

曜「善子ちゃんがどのくらい泳げるのか見たいだけなんだけどな」

善子「いいから」

曜「んー、じゃあゆっくり目に泳ぐ」

善子「ええ」

曜「……」ザブン

タッ

善子「……」

スー

善子「けっこう深く泳ぐのね」

スー

善子「泳ぎなさいよ」

「……」バシャ バシャ

善子「……」

「……」バシャ バシャ



254: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:20:33.97 ID:+ZJivdei.net

善子「あっ、子ども」

ザバッ

曜「っと、こんな感じだよ」

子ども「おねーちゃんかっこいー」パチパチ

曜「えへへ。ごめんね、付き合ってる子がいるから」

善子「なっ!?」カァアア

子ども「??」

曜「何でもないよ」アハハ

善子「子どもに変なこと言うのやめなさいよ!」

曜「冗談なのに」

善子「あの子、困ってたじゃない」

曜「じゃあ今度は善子ちゃんの番ね。はい泳いで」

善子「え……うん。じゃあ行くわ」

曜「……」

善子「……」ゴクリ

曜「いつでもいいよ」

善子「……」ザブン

タッ

曜「蹴り出しはいいんだけどな」

「……」バシャバシャ

曜「ん?」

「よ、曜さ……」バシャバシャ

曜「何?」

「ど、どう? 泳げてる?」バシャバシャ

曜「溺れてるみたいに見える」

「えっ」ザバッ

曜「善子ちゃん、本当に泳げるの?」

善子「泳げてたわよね」

曜「これを泳げるとは言わないよ」

善子「沈んでなかったしちょっとずつ前に進んでたでしょ」



255: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:21:08.33 ID:+ZJivdei.net

曜「まあ、一応は」

善子「……こんな程度よ。だから教わりたかったの」

曜「泳げないなら泳げないって言えばいいのに」

善子「だから泳げて……」

曜「ちょっと待ってて。ビート板借りてくる」ザバッ

善子「そんなのなくても泳げるってば!」

善子「……」

……

 用具室

曜「えっと、ビート板は……」ガサゴソ

「曜?」

曜「ん? 何、善子ちゃん」クルッ

「こんなところで何してるの」

曜「あ……」

「水泳、まだやってたんだ」

曜「……」

「とっくにやめたかと思ったよ」

曜「もうやめたよ」

「競泳水着なんか着て」

曜「今日はね、水泳を教えに来てるの。選手じゃないよ」

「ふーん……」

曜「あっ、あったあった。ってこれは小さい子用か……」ガサゴソ

「あの子、曜の知り合い?」

曜「え?」

「そこから見てる子」スッ

曜「……」クルッ

善子「……」

曜「よ、善子ちゃんどうしたの」

善子「ビート板、見つかりそう?」

曜「今探してるところ……」ガサゴソ



256: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:21:39.96 ID:+ZJivdei.net

「……」ジー

善子「な、何よ」

曜「小さいのばっかりだな……」ガサゴソ

「それ、曜の水着だよね」

善子「そ、そうよ。何か?」

「妹?」

善子「違うわ」

「……」

曜「あった! うん、善子ちゃんにぴったりだね!」サッ

善子「こんなのなくても大丈夫なのに」

曜「何言ってるの。さっきのはただ溺れてるだけだよ」アハハ

善子「……」

曜「行こっか」グイ

善子「え? ええ」タッ

「……」

……

 プール

曜「ビート板は使ったことある?」

善子「あるわよ。こう持って……バタ足の練習するのよね」

曜「そう。善子ちゃん、全然足を使えてなかったから」

善子「久しぶりすぎて忘れたのよ」

曜「あはは。じゃあビート板使えば思い出せるかも」

善子「……」ザブン

曜「よっと」ザブン

善子「いくわよ」

曜「うん」

善子「……」タッ

善子「……」バシャバシャ

善子「……」バシャバシャ

曜「もう少し体を伸ばして」



258: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:23:09.55 ID:+ZJivdei.net

善子「こう?」バシャバシャ

曜「うん。いい感じ」

善子「こんなので……泳げるようになるのかしら」バシャバシャ

曜「なるよ」

善子「ならいいけど」バシャバシャ

曜「膝はなるべく曲げずに……もっと太ももを使って」

善子「こ、こう? すごく疲れるわ」バシャバシャ

曜「その方が断然早く泳げる」

善子「うん……」バシャバシャ

曜「……」

善子「……」バシャバシャ

曜「……」

善子「……」バシャバシャ

曜「……」

善子「疲れたわ。少し休憩」

曜「え? あ、うん。休憩にしよっか」

善子「大丈夫?」

曜「何が?」

善子「何かボーッとしてるわよ」

曜「善子ちゃんに見惚れてただけだよ」アハハ

善子「も、もう……」カァアア

……

 プールサイド

曜「水分補給はしっかりね。水の中だとつい忘れがちだけど……」

善子「意外と汗もかくし脱水になりやすいんだったわね」キュッ

曜「うん。私も何度か気持ち悪くなったことあるから」

善子「気をつけるわ」ゴクッ

曜「……」

善子「……」ゴクッゴクッ

曜「……」



259: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:24:14.16 ID:+ZJivdei.net

.



260: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:24:41.01 ID:+ZJivdei.net

善子「ぷはぁ」

曜「……」

善子「曜さん?」

曜「何?」

善子「さっきの人に何か言われたの?」

曜「さっきの人って?」

善子「用具室で話していた人よ。曜さんの知り合い?」

曜「あはは。中学のときの同級生だよ。大丈夫、そういう関係じゃないから」

善子「そういう心配はしてないんだけど」

曜「……」

善子「……」

曜「もう少し休む?」

善子「いえ、練習しましょう。まだバタ足しかやってないわ」

……

 プール

善子「……」バシャバシャ

曜「いいよ。さっきよりいい感じ」

善子「……」バシャバシャ

曜「だいぶスムーズになってきたね」

善子「そうかしら……」バシャバシャ

曜「これなら今日だけでも何とか泳げるようになるかも」

善子「頑張る」バシャバシャ

……

 プールサイド

善子「ふぅ……さすがに疲れたわね」

曜「バタ足ばっかりで飽きたかな? 次は違う練習にしようか」

善子「だいぶコツが掴めてきた感じするわ」

曜「ビート板使って正解だったでしょ」

善子「ええ。曜さんが手を掴んでくれてもよかったんだけど」

曜「ダメ。それは次のステップだからね」



261: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:25:12.92 ID:+ZJivdei.net

善子「同じじゃないの?」

曜「ビート板の方が安定してて簡単なんだよ」

善子「そう……」

曜「そんなに私の手がよかったの? 困ったなぁ」アハハ

善子「別に。ビート板でいいわ」

曜「じゃあ次は、ビート板を足に挟んで練習しようか」

善子「足に挟むの?」

曜「バタ足はなし。上半身と腰だけで泳ぐ練習だよ」

善子「ふぅん」

曜「これができるようになれば、ビート板なしでも泳げるようになるはずだから」

善子「そういうものかしら」

曜「あー、でももうお昼だね。お腹空いてるならご飯にしてもいいよ」

善子「もうちょっとやってから」

曜「分かった。ちょうど子どもたちもお昼でいないみたいだし、今なら伸び伸び使えるね」

善子「ええ。五十メートル泳ぎきりたいわね」

曜「善子ちゃんならできるよ! ……たぶん」

善子「どうして半信半疑なの! 曜さんがついててできないなんてあるわけないじゃない」

曜「うん。その意気だよ」

……

 プール

善子「ビート板を足に……」ピョンッ

善子「このっ! 大人しく挟まりなさいよ!」ピョンッ

善子「くっ……」

曜「うまく挟めない? 足を載せるのでもいいよ」

善子「曜さん載せてくれる? 自分だとうまく行かなくて……」

曜「うん。じゃあそこに捕まって」

善子「ええ」

曜「それっ」ヒョイ

善子「おっ……」フラッ

曜「そのまま手をゆっくり離して。沈まないから」



262: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:25:43.75 ID:+ZJivdei.net

善子「本当? 絶対溺れるわよ」

曜「じっとしてれば自然と浮くよ」

善子「……」

曜「怖い?」

善子「これじゃ足もつけないし……」

曜「じゃあ私の手を掴んでいいから」

善子「そ、それなら……」

曜「はい」スッ

善子「ん」ギュッ

曜「行くよ……」

善子「わ……変な感覚」プカ

曜「いい?」

善子「ええ」

曜「離すね」パッ

善子「きゃっ!?」バシャッ

ツルッ ピョンッ

曜「あいてっ!」

「~~!」バシャバシャ

曜「ビート板が顔面に……」ヒリヒリ

「ちょっ……早く助け」バシャバシャ

曜「あ、ごめんごめん」グイ

善子「ぷはっ! げほっ……」

曜「うまくいかないね」

善子「曜さん、ビート板と足を押さえててくれないかしら」

曜「あっ、そうか」

善子「顔、大丈夫?」

曜「意外と痛い……」ヒリヒリ

善子「じゃあもう一度」

曜「うん」

……



263: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:26:16.51 ID:+ZJivdei.net

 プールサイド

善子「はぁぁ……もう疲れたわ。これ以上泳げない……」フゥ

曜「お疲れ様。もうそろそろビート板なしでも泳げそうかな?」

善子「どうかしら? まだちょっと不安ね」

曜「どうする? 今日はこのくらいにしてお昼食べて帰ろうか」

善子「何でよ。せっかくここまでやったんだもの、午後も教えなさいよ」

曜「無理してない?」

善子「してない」

曜「本当に?」

善子「ほ、本当によ」

曜「まあ、とりあえずお昼食べようか」

善子「ええ。曜さん、どうしても食べたくて仕方ないみたいだし」

曜「ここの食堂、意外と美味しいんだよー?」

善子「知ってるわよ。私も食べたことあるから」

曜「じゃあ行こう」スタッ

善子「え? そのまま??」

曜「もちろん体は拭くよ」

善子「水着のまま食べるの?」

曜「上着は羽織るよ」アハハ

善子「……」

曜「お昼食べて帰るならともかく、午後もやる人はいちいち着替えてないよ」

善子「そうなの?」

曜「うん。上着すら羽織らない人もいるくらいだし」

善子「それは恥ずかしいような……」

曜「プールの中だと恥ずかしくないのに不思議だよねぇ」アハハ

善子「水着じゃない人もいるからじゃない?」

曜「そっか。作ってるおばちゃんたちは水着じゃないもんね」

善子「水着だったら逆に嫌ね」

曜「考えたこともなかったよ。さすが善子ちゃん」パチパチ

善子「いや、別に水着で作ってほしいなんて言ってないんだけど」



264: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:26:47.41 ID:+ZJivdei.net

曜「お願いしたら着てくれるかなぁ」

善子「しなくていいから……」

……

 食堂

ザワザワ

曜「わっ、意外と人がいるね」

善子「流れるプールの方に来てるお客さんもいるものね」

曜「そっか。休みの日だから」

善子「お昼はもう少し後にする?」

曜「うん……」

善子「そんなに食べたいの?」

曜「善子ちゃん、少し休んだ方がいいよ」

善子「もしかして私の心配してくれてるの? ありがとう」

曜「まあね」エヘヘ

善子「そういえば曜さん、お昼持ってこなかったのね。珍しいじゃない」

曜「あ」

善子「いいわよ、私も全然考えてなかったし」

曜「お弁当持ってきたんだった」

善子「え? 忘れてたの?」

曜「ロッカーにあるよ」

善子「更衣室、暖房入ってたわよね。食べられるかしら」

曜「ちゃんと保冷剤入れてクーラーバッグに入れてきたよ」

善子「それなら大丈夫ね」

曜「一旦更衣室戻ろうか」

善子「でも、ここ以外に食べるところある?」

曜「うーん、誰もいなければ更衣室でも」

善子「更衣室で!? ちょっと非常識じゃないかしら……」

曜「プールサイドよりはまし」

善子「それはそうだけど……」

……



265: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:27:24.24 ID:+ZJivdei.net

 更衣室

ガチャ

曜「うん、冷えてる冷えてる」

善子「本当? 傷んでたら許さないわよ」

曜「触ってみなよ。保冷剤まだ冷たいでしょ」ピトッ

善子「冷たいっ!!」バッ

曜「あはは。冷たくて気持ちいいよね」

善子「これじゃお弁当まで冷たくなってそうね……」

曜「あ、そっか。レンジは食堂に行かないとなかったような……」

善子「仕方ないわよ。少し冷たいけど傷んでるよりはましね」

曜「ごめんね? 冬なんだからこんなに保冷剤いらなかったのに……」

善子「何言ってるの。動いた後だからちょうどいいんじゃない?」

曜「じゃあその辺で座って食べよう」

善子「あ……そういえばシャワーあったわよね」

曜「うん。奥の方にあるよ」

善子「ちょっと浴びてきてもいいかしら?」

曜「またご飯食べたらプール入るよね?」

善子「そうだけど……汗で水着がベタベタするし、髪とか塩素の匂いで気持ち悪いし」

曜「どれどれ……」クンクン

善子「ひゃあ!? 嗅がなくていいから!」

曜「私はこの匂い好きだけどな」

善子「塩素の匂いが?」

曜「プール入りたての善子ちゃんの匂いが」

善子「あっそ……」カァアア

曜「シャワー浴びるなら私も行くよ」

善子「そう。変なことしないでよね」

……

 シャワー

曜「もう少し詰めて」

善子「ええ」



266: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:28:00.29 ID:+ZJivdei.net

曜「ありがと」

善子「って、他にも空いてるのにどうして一緒に入るわけ」

曜「節水だよ」

善子「は?」

曜「二人で浴びれば水が節約できるでしょ? これでも地球環境に配慮してるんだ」

善子「また適当なことを」

曜「善子ちゃんだって私の水着姿見たいんじゃないの?」

善子「曜さんのはいつも見てるし……」

曜「あぁ、ポスターの撮影とかで着てたもんね」

善子「そうよ。何だってあんなポスター……」

曜「ちょっとやりすぎかなとは思ったよ。いかにもグラビアって感じで恥ずかしかったり……」

善子「校内のポスター、いつの間にか全部なくなってたわね」

曜「私の隠れファンが持ってっちゃったのかなぁ」

善子「えぇ……」

曜「もしかして善子ちゃんが?」

善子「ないわよ」

曜「善子ちゃんには本物があるもんね」

善子「ええ、まあ」

曜「好きなだけ見ていいよ」クルッ

善子「……」ゴクリ

曜「触ってもいいよ?」

善子「さわ……るわけないじゃない。シャワー浴びなきゃ」クイ

ザー

曜「脱ぐ?」

善子「脱がない。軽く流すだけだもの」

曜「そう。脱ぐとき言ってね。手伝ってあげる」

善子「一人で脱げるわよ」

曜「ほう……」

善子「えっ、脱げないの?」

曜「私はもちろん脱げるよ。でも競泳水着初体験の善子ちゃんが一人で脱げるかなぁ」



268: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:29:25.49 ID:+ZJivdei.net

善子「う……確かに汗で張り付いて脱ぎにくそう」

曜「まずはね、シャワーをこうやって……」クイ

善子「ちょっと! どこに突っ込んでるのよ!」

曜「水着と肌の間を流すんだよ。決して変なことをしているわけでは」

善子「あ、そうなのね……」ホッ

曜「これでだいぶ脱ぎやすくなるんだ」

善子「そうなの? ちょっとやってみようかしら……」クイ

曜「あー、ダメダメ。そんなに恥ずかしがってちゃ」

善子「そんなこと言われても」

曜「もっとこう! 胸元を開けてシャワーを突っ込む!」グイ

善子「ひゃああ!!?」ビクッ

曜「水着が肌から浮くのが分かる?」

善子「き、気持ち悪い!」

曜「何で?」

善子「全身を撫でられてるみたいな……ううっ」ブルッ

曜「あー、分かる」クイ

善子「だからやめなさいってば!」バッ

曜「あとそれでも脱ぎにくいときはね……」クイ

善子「ちょっ、まさか」

曜「そう。下からだよ」

善子「や、やめなさいよ……」カァアア

曜「何を恥ずかしがってるの。お風呂で散々私の裸見てるじゃん」

善子「水着の隙間から見るのとは違うじゃない!」

曜「善子ちゃんってこういうの好き?」クイ

善子「好きとか嫌いとか、そういうんじゃなくて……」カァアア

曜「善子ちゃんが見たければ家でも着てあげるけどな」

善子「……」カァアア

曜「恥ずかしがり過ぎだよ」

善子「もういいから! 髪洗ってお昼食べましょ」

曜「うん」



269: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:29:58.44 ID:+ZJivdei.net

善子「……」チラ

曜「……」

善子「あ、あの……いつまでシャワー当ててるの?」

曜「え? 別に」

善子「一応聞いておくけど、まさかシャワーで」

曜「シャワーで?」

善子「その、ええと」

曜「??」

善子「何でもないわ」カァアア

曜「ちょっとおしっこしたくなっちゃってさ」

善子「あぁ、それで刺激を」

曜「刺激って」アハハ

善子「そういうのはトイレでしなさいよ」

曜「私、いつもシャワー浴びながらしちゃうけどな」

善子「いや、家ではそれでいいけどここはシャワー室だし」

曜「流れるから大丈夫」

善子「……」

曜「こうやって少し水着をずらせばね」クイ

善子「え……」

曜「水着を汚さずにできるんだよ」

善子「そ、そうなの……」ドキドキ

曜「水着の中でするのもすごく気持ちいいんだけどね?」

善子「気持ち悪いわね」

曜「善子ちゃんも一度やってみなよ。競泳水着じゃないと味わえない感覚だよ」

善子「嫌よ。私は普通にトイレでするわ」

曜「じゃあ失礼して……」

ショワァ

善子「本当に気持ちよさそうな顔するのね」

曜「うん……。競泳水着で善子ちゃんとおしっこする日がくるなんて夢みたいだよ」

ジョボボ



270: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:30:28.11 ID:+ZJivdei.net

善子「そんな夢嫌よ」

曜「善子ちゃんのは私が飲むからね」

善子「飲ませないわよ」

曜「何で」

ジョボボ

善子「もう水泳教室代は飲ませたわ」

曜「じゃあオプションもつけるよ」

善子「何よそれ」

曜「水着の私を好きにできる権利」

ジョボボ

善子「そ、そんなのずるいわ」

曜「善子ちゃん、泳ぐ練習しながらずっと私のこと見てたよね」

善子「目の前にいるんだもの、仕方ないじゃない」

曜「そんなに私の水着が見たかったのかな」

ジョボボ

善子「曜さんこそ、私の水着姿を見たくて仕方なかったんじゃないの」

曜「私は別に」

善子「……」

曜「見たいか見たくないかで言えば見たいよ。思ったよりバッチリ似合ってて私も嬉しいし」

ジョボボ

善子「そんなに似合ってるかしら?」

曜「似合ってるよ」

チョロロ

善子「さっきの人、私を曜さんの妹と間違えてたわね」

曜「私の水着だったからじゃない?」

善子「学校のと違って名前が大きく書いてあるわけでもないのに、どうして分かったのかしら?」

曜「あれ? そういえば何でだろう」

善子「私と曜さんが本当の姉妹に見えたとか?」

曜「全然似てないよね」

善子「ええ」



273: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:33:31.97 ID:+ZJivdei.net

曜「後で聞いてみようかな」

善子「そうね。私も気になるわ」

ザー

バシャバシャ

曜「ふぅ……。気持ちよかった」

善子「きちんとシャワーで流してよね。匂いでバレないように」

曜「うん」

ザー

曜「善子ちゃんは?」

善子「え?」

曜「おしっこ、しないの?」

善子「しないわよ」

曜「トイレ、すごく混んでたよね」

善子「混んでたわね」

曜「ここでしちゃえば楽だよ?」

善子「しないってば」

曜「トイレに並んでて漏らしちゃうのとどっちがいいかな」

善子「どうして間に合わない前提なのよ」

曜「慣れない競泳水着をスムーズに脱げると思う?」

善子「それは……」

曜「私なんてタイツでさえ慣れてなくて間に合わなかったのに」

善子「……」

曜「しかも混んでるトイレだよ。私が手伝ってあげてもいいけどみんなに見られちゃうよね」

善子「わ、分かったわよ! ここでするわ」

曜「うん!」

善子「言っとくけど飲むのは禁止! 匂いだけで我慢しなさい」

曜「我慢できるかな……」

善子「本当は匂いだって嫌なんだからね」

曜「嫌なの?」

善子「そもそも個室って一人用でしょう? 二人で入ること自体間違いなのよ」



274: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:34:07.29 ID:+ZJivdei.net

曜「いや……善子ちゃんさっきすごい見てたよね」

善子「目の前でされたら見るしかないじゃないの」

曜「さっ、早く」

善子「……」

曜「わくわく」

善子「ねぇ」

曜「何?」

善子「本当に好きにしていいの?」

曜「へっ?」

善子「何でもないわ。そこで大人しく見てなさい」

曜「見るのはいいんだね」

善子「あっ……やっぱりダメ! 匂いだけって約束!」

曜「はいはい」

善子「もう……」スッ

曜「……」

善子「……」

ショワァ

善子「あっ」

曜「まさか水着をずらさずにやるとは」

善子「待って、ずらすの忘れたわ!」

ショワァ

曜「止めたら?」

善子「止められるわけ……」

曜「止めてあげようか」

善子「え……」

曜「ふー♡」

善子「ひゃああ♡♡」ビクッ

ジョボボ

曜「えへ……」

善子「よ、曜さん……」ドキドキ



275: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:34:39.67 ID:+ZJivdei.net

曜「善子ちゃん、耳弱いよね」

ジョボボ

善子「止めてくれるんじゃなかったの」

曜「口をつけてもよければ」

善子「ダメに決まってるでしょう」

曜「……」

善子「水着をずらすのよね。こう……」

善子「ん? うまくいかないわ」

曜「貸して。一旦少し引っ張ってからじゃないと」クイ

善子「あっ……♡」ビクッ

ジョボボ

曜「今の声、録音したかったな」

善子「気持ち悪いのよ……」

曜「あーあ、善子ちゃんのおしっこが手にかかっちゃったよ」

善子「ご、ごめんなさい……」

曜「これは舐めてもいいよね? 私の手だもんね?」

善子「好きにして」

曜「えへへ。それじゃ遠慮なく」ペロッ

善子「……」

曜「れろっ……ちゅるっ」

曜「はむっ……」

善子「……」カァアア

曜「どうしたの?」

善子「いちいち舐め方がいやらしいのよ」

曜「自分の手くらい好きに舐めさせてくれても」

善子「……」

曜「善子ちゃんの手も舐めていい?」

善子「わ、私の手を?」

曜「おしっこ、たっぷりついてるから」

善子「……」



276: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:35:13.25 ID:+ZJivdei.net

ザー

曜「あぁ……もったいない」

善子「何がよ。私の手まで舐めていいなんて言ってないわ」

曜「これじゃ水着の私はあげられないな」

善子「くれなくていいから」

曜「……」

善子「あぁ……水着の中が気持ち悪い。最初からトイレですればよかったわ」

曜「一旦脱ごうか。洗ったほうがいいよ」

善子「……」

曜「洗わないの?」

善子「洗うけど曜さんの前では嫌」

曜「善子ちゃんの裸なんて見慣れてるよ」

善子「むっ」

曜「それより、誰かが来る前に済ませちゃった方がいい気がするけどな」

善子「一人でやるから曜さんは出て行って」

曜「一人で脱げるの?」

善子「やってみるわ」

曜「うん……」

……

「善子ちゃんどう?」

善子「うぐぐ……」

「さっき教えたでしょ。シャワーを突っ込んで水着を浮かすんだよ」

善子「あ、そうだったわね」

ザー

善子「んっ……」ビクッ

「あとは肩から脱ぐだけだよ」

善子「分かってる……」

「脱げそう?」

善子「か、肩が攣りそう……」

「体硬すぎだよ」アハハ



277: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:35:45.97 ID:+ZJivdei.net

善子「さっき肩を使いすぎたせいよ!」

「私のせい?」

善子「そうよ」

「手伝ってって言えばいいのに……」ハァ

善子「あーもう! 全然脱げないじゃない!」

曜「貸して」クイ

善子「あっ……」

曜「ほら、ちゃんとシャワーで浮かせてないから」

ザー

善子「っ……」ビクッ

曜「肩の力抜いて」

善子「……」

曜「脱がすよ」スッ

善子「ええ」

スルッ

曜「……」

善子「あんまり見ないでよ……」カァアア

曜「見てない」

善子「……」

曜「ほら、足上げて」

善子「……」スッ

曜「腰まで脱げれば自分でも脱げそうだけどね……」クイ

善子「そ、そうよね。もういいわ」

曜「……」

善子「よいしょっと……」スルッ

曜「はぁ……舐めたい」

善子「ダメ!!」

曜「あっ、変な意味じゃないよ! 純粋におしっこの味を……」

ザー

バシャバシャ



278: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:36:18.13 ID:+ZJivdei.net

善子「はぁ……」

曜「水着、交換しようか」

善子「は?」

曜「おしっこまみれの水着なんて嫌でしょ。私のと交換しよう」

善子「嫌よ! どう見てもサイズ合わないし!」

曜「……」

善子「目の前に裸の私がいるのよ? それなのに水着の方が欲しいって……」ボソボソ

曜「ん?」

善子「何でもないわよ。手伝ってくれてありがとう」

曜「着るのは自分でできるかな?」

善子「ええ」

……

 更衣室

善子「さっぱりしたわ」フキフキ

曜「さっぱりしてたね」

善子「何が?」

曜「善子ちゃんが」

善子「……」

曜「おしっこの味まではごめん、シャワーでほとんど流れちゃってたから」

善子「てっきり味の感想かと思ったわ」

曜「塩素と混ざって甘い匂いがしたんだろうなぁ」

善子「……」

曜「そんなに気持ち悪そうな顔しないでよ」

善子「本当に気持ち悪いもの」

曜「お昼食べようか」

善子「ええ。冷たいままだけど」

曜「今日のお弁当の中身は何かなー」パカッ

善子「美味しそう……」

曜「冷めてもいいように工夫はしたつもりだよ」

善子「思ったよりボリューム少なめなのね」



279: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:36:51.79 ID:+ZJivdei.net

曜「ダイエット中だからね」

善子「まだ体重戻ってなかったの?」

曜「私はまだ」

善子「曜さんって意外と太りやすいタイプ?」

曜「油断するとね、すぐお腹がぷにっと」プニ

善子「体脂肪率は低そうなのに」

曜「一応これでも一桁キープしてるよ」

善子「え!? お腹のこれは?」

曜「これも含めて」プニ

善子「そんなに痩せてて大丈夫? 骨粗鬆症になっても知らないわよ」

曜「筋肉があるせいで体重は多めなんだけどね」アハハ

善子「はぁ……。その体型の維持って大変なのね」

曜「まあね。善子ちゃんも筋肉がつけばもっとカッコよくなれるよ」

善子「私は別に」

曜「やっぱり果南ちゃんに鍛えてもらうか……」

善子「今のままでいいわよ」

曜「ううん、私が」

善子「私じゃないのね。よかった」ホッ

曜「もしよかったら一緒にどう?」

善子「私と一緒じゃ曜さんのトレーニングにならないわよ」

曜「そんなことないよ」

善子「曜さんに合わせたら私にはキツすぎるし」

曜「うーん……」

善子「いいから、早く食べましょ」

曜「そうだね。はい、あーん」つ

善子「あ、あーん……」パクッ

「何かいい匂いがする……」クンクン

善子「誰か来たわ」

曜「大丈夫。気にしないで」つ

善子「あむっ……怒られたりしないわよね?」モグモグ



280: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:37:25.09 ID:+ZJivdei.net

曜「何で怒るの」

善子「こんなところでお弁当食べるなって」

曜「図書室じゃないんだから」

善子「……」モグモグ

「また曜か」ハァ

曜「その声」

「何、今度は妹にお弁当食べさせてあげてるの? 大変だねぇ」クスクス

善子「妹じゃないわよ」

曜「そうだよ! 善子ちゃんは私の……」

「更衣室でお弁当食べるなんて」

曜「ここ、飲食禁止なんて書いてない」

「食堂か選手の控え室で食べればいいのに」

曜「食堂は混んでたし……控え室は」

「あぁ、ごめんごめん。もう選手じゃないんだった」アハハ

善子「むっ」

曜「そうだよ。私はもう選手じゃない」

「控え室、空いてるよ?」

曜「いいよ、ここで食べるから」

「冷たそうなお弁当だね。向こうならレンジもあるのに……」

曜「本当?」ガタッ

善子「えっ」

「どうしてもって言うなら入れてあげないこともないけど?」

曜「……」

善子「さっきから何なのよ。どうして曜さんにちょっかい出すわけ?」

「何この子、曜の親戚?」

曜「善子ちゃんは私の……こ、恋人だよ」カァアア

善子「……」カァアア

「ぷっ……。面白い冗談だね」クスクス

曜「本当だもん!」

「それじゃ今すぐ警察を呼ばなくちゃ」



281: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:37:58.90 ID:+ZJivdei.net

曜「善子ちゃんは女の子だよ! 見ればわかるでしょ!?」

「……」

曜「ほら、胸もあるし……」ムニュ

善子「きゃあ!!? 何すんのよバカ!」ブンッ

バチーン!

「うわ……」

曜「ほ、ほらね……」ポタポタ

善子「あっ、曜さん鼻血!」

曜「プールで鼻の粘膜がふやけてるから……叩くのはやめてほしいな」

善子「ごめんなさい! えっと、ティッシュ……」

「はぁ……。来なよ、控え室にティッシュあるから」

曜「うん……」スタッ

善子「で、でもいきなり胸触ってくる曜さんが悪いのよ?」

曜「そうだけどさぁ」

……

 控え室

「はい、ティッシュ」サッ

曜「ありがと」

善子「ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」

「あんた、敬語使えるんだ?」

善子「あっ……それは」チラ

「いいよ。私のこと、いじわるな人だと思ったんでしょ」

善子「う……」

曜「紹介するね。この子は私の元同級生。水泳の実力はそこそこあるんだ」

「この前の大会でも優勝したんだから」エヘン

善子「すごい……」

曜「私に一度でも勝ったことあったっけ?」

「ないけど」

曜「つまりその程度なんだよ」

善子「そうなの? 驚いて損したわ」



282: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:38:34.03 ID:+ZJivdei.net

「むかっ……。これでも大学に推薦決まってるんだからね!?」

曜「え? すごいじゃん」

「向こうからスカウトされたの。曜も水泳やめてなければ声をかけてもらえたかもしれないのに」

善子「曜さんだって声かけられてるわよね?」

「え?」

曜「あ……ううん。何でもないの」

「曜は浦女に行ったくらいだもん、頭だけはいいもんね」

曜「そ、そうだよ。私ならセンター九割余裕だし」

善子「……」ジー

曜「な、何」

善子「いや、別に」

「しかし曜が水泳やめちゃうなんてなぁ」

曜「ところでレンジは? お弁当温めに来たんだけど」

「あ、冷蔵庫の上だよ。業務用だから時間は気をつけてね」

曜「うん」スタッ

善子「……」

「ねぇ。曜の恋人って本当?」

善子「へ? ほ、本当よ」

「あんなやつのどこがいいの?」

善子「どこって……」

「頭はいいけど態度悪いし、毎日のように先生に怒られてたし」

善子「やっぱり本当だったのね……」ハァ

「もっといい人紹介してあげるよ?」

善子「間に合ってるわ」

「くっ……確かにちょっと可愛いよねあんた」

善子「そ、そうでしょ? 曜さんにぴったりじゃない」

「……」

善子「何よ! 今のは笑うところ!」カァアア

「はぁ……」

善子「えぇ……ため息?」



283: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:39:05.20 ID:+ZJivdei.net

「曜、すっかり変わっちゃったね」

善子「そう……なの?」

「昔はもっとストイックに上ばかり見てた」

善子「……」

「自分より下の人のことなんて見向きもしないで、ましてや泳げない人に教えてあげるなんて絶対にありえない」

善子「曜さんと仲よかったの?」

「……」チラ

善子「……」

「あんたさぁ」クイ

善子「はい?」

「キスとかしたことある?」

善子「か、関係ないでしょう……?」カァアア

「ないんだ?」

善子「……」

「あるの?」

善子「どっちでもいいじゃない!」

「私はあるよ」

善子「そう。どうでもいいわ」

「曜とね」

善子「」

「嘘だと思う? 本当だよ」

善子「う、嘘ね」

「本当」

善子「だったら何なのよ。曜さんが昔誰と付き合っていようと関係ないし……」チラ

曜「まだかなー?」ワクワク

レンジ「……」ブーン

「曜は誰とでもよかったんだよ」

善子「は?」

「他の子ともキスしてるの見たことあるし」

善子「……そ、そんな話信じない」



284: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:39:43.36 ID:+ZJivdei.net

「担任と付き合ってるって噂もあったくらいなんだから」

善子「げっ」

「そういうやつだよ、曜は」

善子「今は違うわ。私のことだけを好きって……言ってはくれないけど」

善子「私さえいればいい……とも言ってくれないけど」

善子「でも、私に大好きって言ってくれるし……その」

善子「わ、私も曜さんのこと……好きだし?」チラ

曜「ん? もう少し待っててねー」

レンジ「……」ブーン

「はぁ……」

善子「何よ」

「いつか後悔するときが来るよ。絶対に」

善子「そんなの分からないじゃない」

「私は後悔してる」

善子「知らないわよ! あなたが勝手に振られただけじゃない!」

「え? 私別に曜と付き合ってなんかないけど?」

善子「そ、そう……」

「私は好きっていうより憧れの方が強かったから……」

善子「憧れ?」

「何でもできちゃう子だったからね」

善子「曜さんみたいになりたかった……?」

「それだけはない」

善子「何でよ」

「ああなったら人間はお終いだよ」

善子「そこまで言う?」

「平気で人を裏切るようなやつだよ。私との約束だって、もうとっくに忘れてるんだろうな」

善子「聞いてみたら?」

「覚えてたら水泳やめてないよ」

善子「……」

「私が勝つまで絶対にやめないって約束したのに」



286: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:41:18.24 ID:+ZJivdei.net

善子「そんな約束を」

「去年の夏、いきなり引退しやがって」

善子「ずいぶん口が悪いのね」

「おっと失礼。でも腹立つんだよ」

善子「勝負したらいいじゃない」

「今更?」

善子「曜さんに勝って、それでスッキリするなら」

「今の曜に勝ったって嬉しくも何ともないよ。あのときの曜に勝てないんじゃ意味がない」

善子「……」

「去年の夏に曜が出したタイム、未だに私は超えられてないんだ」

善子「そう。頑張って」

「もう少し真面目に聞いてよ」

善子「だって興味ないもの」

「酷いなぁ」シュン

曜「そろそろ温まったかな?」ピッ

善子「ずいぶん長く温めたわね。調子が悪いの?」

「まさか。この前新調したばかりだよ」

曜「さてと……」パカッ

プシュー

曜「あっ……」

善子「え」

「焦げ臭い……」

曜「わ、わぁ……これだけ温まれば食べられるねぇ」アハハ

善子「何分やったのよ」

曜「スタートボタンを押しただけだよ」

「あぁ……適当にストップしないと」

善子「お弁当の入れ物が溶けてる……」

曜「捨てよう」

善子「さすがにね」

「料理はちっとも上手くなってないね。今度教えてあげようか?」



287: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:42:03.08 ID:+ZJivdei.net

曜「上手くなったもん! 善子ちゃんだって美味しいって言ってくれるし」

善子「ええ」

「それは恋人だから美味しいって言ってくれてるんだよ」アハハ

曜「そんなことない。善子ちゃんは本当に……」

善子「美味しいわよ」

曜「食べすぎて太っちゃうくらいだもん!」

善子「余計なこと言うな!」

「……」

曜「今度作ってくるから食べてみなよ」

「曜、レンジの前でずっと見てたよね? 途中で普通気づかないかな」

曜「あぅ……」カァアア

善子「曜さんにしては珍しいわね」

曜「二人の会話が気になっちゃって」

善子「聞いてたの!?」

曜「少しね」エヘヘ

善子「……」

「もういいよ。私のお昼分けてあげるからさ……」

曜「いいよいいよ。食堂で買ってくるね」タッ

善子「えっ、ちょっと……」

曜「善子ちゃんは何がいい? ハンバーグ? 分かった!」

ガチャ バタンッ

善子「聞きなさいよ」

「くっくっ……昔と全然変わってない」クスクス

善子「はぁ……」ストンッ

「行かないの?」

善子「お弁当の燃えカス、片付けとかないとだから」

「とりあえず水につけて冷ましたほうがいいね」

善子「そうね……」

……

「……」パクッ



288: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:42:41.58 ID:+ZJivdei.net

善子「……」

「……」モグモグ

善子「曜さん遅いわね……」

「食堂、混んでたんでしょ。仕方ないよ」パクッ

善子「……」

「食べる?」

善子「え? いいわよそんなの」

「酷い……」シュン

善子「あっ、気を遣って貰わなくてもって意味よ!」

「これでも自信作なんだからね?」つ

善子「いらないってば」

「食べなよ。誰かに食べてもらいたくてさ」

善子「曜さんにでも食べさせたら?」

「あいつは何かムカつくから嫌」

善子「そう」

「あーん」つ

善子「……」

「ほら、私があーんしてるんだから食べなよ。先輩だよ?」

善子「私の先輩じゃないわよ」

「うるさいな。いいから口開けなよ」

善子「……」

「……」カシャン

善子「?」

「いいよもう! どうせ私の料理なんて美味しくないんだろ!? 曜だって食べてくれなかったし……」グスッ

善子「えっ? どうしたのよ急に」

「ううっ……私なんてどうせ曜に何一つ勝てやしないんだよ……」

善子「えっと……大丈夫?」

「私があんないじわる言ったのに嫌な顔ひとつしないでさぁ! 昔の曜なら絶対ケンカになったのに!」

善子「あなた、曜さんとケンカしたかったの?」

「したかったよ! いや、したくない!」



289: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:43:18.87 ID:+ZJivdei.net

善子「どっちよ」

「もういいよ……今日は帰る」スタッ

善子「そう。気をつけてね」

「……」スタスタ

善子「お弁当は? 持って帰らないの?」

「食べていいよ」

善子「いらないけど」

「やっぱり私の料理なんて……」グスッ

善子「あぁもう! 面倒くさいわねあなた!」スッ

パクッ

善子「……」モグモグ

「え……?」

善子「……」モグモグ

「も、もしかして私のお弁当……」

善子「……」ゴクンッ

善子「食べてあげたわよ」

「……」パァアア

善子「な、何よその目は」

「もう一度聞いていい? 何であんなやつと付き合ってるの?」

善子「は? 好きだからに決まってるじゃない」

「もったいないよ。えっと、名前何て言ったっけ」

善子「津島よし……ヨハネよ」

「ヨハネちゃん? ずいぶんハイカラな名前だな」

善子「放っといて」

「よく見たらけっこう可愛いし、今度男の子紹介してあげるね」

善子「だからいいってば。興味ない」

「もしかして、レ……」

善子「違うわ。好きになった曜さんがたまたま女の子だっただけよ」

「何だ、違うのか」

善子「レズだと思ったの? って言うかそれだったら男の子紹介しないわよね」



290: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:43:53.03 ID:+ZJivdei.net

「あぁ、えっと……私はどっちもアリだからきっとヨハネちゃんもそうかと思って」

善子「聞きたくないわ」

「ほら、曜ってどっちから見ても魅力的だし……?」カァアア

善子「さっき『あんなやつ』とか言ってなかった?」

「やっぱり好きなんだよ」

善子「ダメよ。今は私が恋人だもの」

「じゃあ二番目でいいや」

善子「ダメに決まってるでしょうが!」バンッ

「ひぃっ!?」ビクッ

善子「あなた、曜さんに負けず劣らず変わってるわね」

「やっぱりそう思う?」

善子「そう言われて嬉しそうにするところとか」

「まあ、元カノの私としては……」

善子「元カノ!? さっき誰とも付き合ってなかったって言ったじゃない!」

「言ってない。誰とでも付き合ってるって言ったの」

善子「それこそ言ってないわ! あんまり嘘ばっかり言ってると怒るわよ!」

「いや、本当なんだってば。曜は誰にも興味なかったけど、来るものは拒まないタイプだったからね」

善子「拒みなさいよ」

「勝手に曜のこと好きになって、半ば無理やりキスしちゃう子、けっこう多かったから」

善子「えぇ……」

「曜はそういうやつだよ」

善子「聞きたくなかったわ……」ハァ

「だからそんなやつと付き合わない方がいいって」

善子「……」

「まあでも、好きならキスくらいはしてから別れるのでもいいかもね」アハハ

曜「ちょっと。善子ちゃんに変なこと言うのやめてくれる?」

善子「あぁ、曜さん……曜さんっ!!?」ガタッ

「遅かったじゃん」

曜「クラブハウスサンド。三つあるから一つずつ食べよう」トサッ

「ハンバーグは?」



291: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:44:34.52 ID:+ZJivdei.net

曜「売り切れだってさ。あとおばちゃんはいつも通りエプロンだったよ」

善子「聞いてないわ」

曜「それと……」クイ

善子「へっ……?」ドキドキ

チュルッ

曜「……」

善子「い、いきなりキスなんて……」カァアア

曜「私がいない間に餌付けするの、卑怯じゃない?」チラ

「……」

善子「餌付けとか言うな」

曜「善子ちゃんのこと好きなの?」

「はっ?」

善子「えっ?」

曜「ダメだよ。善子ちゃんは私の恋人なんだから」

「……」

善子「えっと、その」チラ

「ないよ。マジでない」

善子「でしょうね」

曜「善子ちゃん、何もされてない? 大丈夫?」

善子「されてないけど……」

曜「この子、人に無理やりキスするような子だからさ」

「曜だって満更でもなさそうだったじゃん!」

曜「だって……断ったら傷つけちゃうかなって」

善子「何その優しさ」

曜「善子ちゃんごめんね。善子ちゃんが初めてじゃなくて……」

善子「……いいわよ別に」

「ヨハネちゃん! こいつは私の知る限り十人以上とキスしてるよ!? こんなやつやめたほうがいいって!」

曜「してない!」

「私見たもん!!」

曜「十人はしてない! したのは九人!!」



292: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:45:08.06 ID:+ZJivdei.net

善子「えぇ……」

曜「善子ちゃんが十人目だよ」フフッ

善子「いや、全く嬉しくない」

曜「って言うか私からしたのは善子ちゃんが初めて……だと思うよたぶん」

善子「おい」

「いーや、嘘だね! 曜の方から担任にキスしてるとこ見たもん」

曜「……」

善子「何見られてるのよ」

曜「いや……見られてるとは思わなくて」

「あの担任、口では嫌がってたけど本当は曜のこと好きそうだったし……」

善子「はぁ……」

曜「誤解がないように言っておくね。えっと、あのときの先生は……」

善子「お願い。もう黙ってて」グイ

曜「え? 本当のこと言えばいいじゃん」

善子「ママがクビになっちゃう」

曜「あ……」

「な、何かとんでもないことが聞こえた気もするけど」

善子「気のせいよ」

曜「で、食べるの? 食べないの?」

「お弁当あるから……」

曜「じゃあ半分ずつ食べようか」

「……」コクッ

善子「ダメに決まってるでしょ!?」

曜「別に食べさせ合いっこするわけじゃないよ。手でちぎって分けるだけ」

善子「それでもダメ」

曜「どうして?」

善子「どうしてもよ」

曜「善子ちゃんは食べたのに?」

善子「そ、それは……」

「頂きます」パクッ



294: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:47:10.17 ID:+ZJivdei.net

曜「それじゃ私も」スッ

善子「やめときなさいって!」バッ

曜「えー? もうサンドイッチ食べられちゃってるんだけど」

「はぁぁうめぇ……♡」モグモグ

曜「あむっ」パクッ

善子「あっ」

曜「……」モグモグ

「美味しい? ヨハネちゃんは美味しいって言ってくれたよ」

善子「言ってないわよ」

曜「……」モグモグ

「嫌だったかな」シュン

善子「あんまり可哀想だから仕方なく食べてあげたの」

曜「……」モグモグ

「どう? 美味しい?」

曜「ごめん、正直マズい」

「」

善子「……」

曜「塩と砂糖間違えた?」

「間違えてない!」

曜「もしくは醤油と墨汁」

「料理に墨汁使わないよね!?」

曜「じゃあ生まれてくる世界」

「酷いっ!!?」

善子「ぷっ……」クスクス

曜「最後のは言い過ぎた」

「やっぱり曜って最低だよ」グスッ

曜「よく言われるよ」

善子「反省はしないのね」

曜「後悔と反省だけはしないって決めてるから」

善子「反省はして」



295: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:48:25.99 ID:+ZJivdei.net

「私は……後悔ばっかりだよ」グスッ

善子「うわ、面倒くさいわね」

「曜のこと好きで……無理やりキスだってしたよ? だけどそんなことで曜の気持ちが手に入るなんて……ないって分かってたのに」

曜「あのときのキスはそういう……」

善子「思い出さないで」

「ねぇ、今もう一度……」

曜「仕方ないなぁ。一度だけだよ」スッ

善子「ちょっと!! 何しようとしてるのよ!」

曜「善子ちゃんはあっち向いてて」グイ

善子「いやいや、見なけりゃいいって問題じゃないから!」クルッ

「ごめんねヨハネちゃん」

曜「目、閉じてくれる?」

「うん……」ドキドキ

善子「やめなさいよ? 本気で嫌いになるからね??」

曜「……」スッ

善子「ひゃっ……」

チュッ

「え……?」チラ

曜「ごめん。やっぱりできない」

善子「首筋はやめてって……言ってるじゃない」ビクッ

曜「私は善子ちゃんが好き。だからごめん」

「……」

曜「あのとき……本当のこと言えればよかったね」

「本当のこと……」

曜「先生のことが好きだったんだ」

善子「……」

曜「さすがにみんなにバレたら先生が可哀想だからさ」

「バレバレだったよ」

曜「え?」

「曜が先生のこと好きだって……みんな知ってたよ」



296: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:48:59.42 ID:+ZJivdei.net

善子「……」

曜「私、そんなこと言ったっけ?」

「だからあんなババア嫌いだった」

善子「っ!!」グイッ

曜「善子ちゃん!」

「……あんなやつ、生徒との関係がバレてクビになればよかったんだ」

善子「ママのことババアって言ったわね」グイ

「ママ?」

善子「そうよ。あのときの担任は私のママ」

曜「善子ちゃん、余計なこと言わない方が……」

善子「うるさい! 曜さんは黙ってて!!」バンッ!

曜「ひぇっ」ビクッ

「誰かに似てると思ったら……そういうことか」フフッ

善子「ママのことバカにしたわね。取り消して」

「まあ、先生としてはいいやつだったよ」

善子「ババアって言ったことを取り消せって言ってんの!」グイ

「けほっ……」

曜「善子ちゃん、やめようよ。ママがみんなから慕われてたのは本当なんだから」

「曜は私たちのものだったのに……」

善子「そんなの知らない! 勝手に片想いしてただけじゃないの!」

「……」

曜「……」

善子「早く謝りなさい」グイ

「……」

善子「早く!!」ガシッ

曜「あ、あのね? こうなったら善子ちゃんは絶対許してくれないよ。殺される前に謝るべきだと思う」

善子「そうよ。死んでから後悔したって知らないから」

「……ご、ごめん」

善子「何に対して?」

「ババアなんて言って」



297: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:50:12.23 ID:+ZJivdei.net

善子「もう言わない?」

「言わない」

善子「そう。ならいいわ」パッ

「げほっ!! ごほっ……」ゼェゼェ

曜「大丈夫? 生きてる?」

「見てないで止めてよ!! 本当に死ぬかと思ったじゃん!」

善子「本気で殺すつもりならとっくに死んでるわよ」

曜「そうそう。善子ちゃんに殺されるとしたら私が最初で最後だね」アハハ

善子「ええ」

「……」

曜「あ、否定してくれないんだね……」

「よくこんな子と付き合ってるね」

曜「こういうところも含めて好きなんだよ」

善子「あ、ありがと……」カァアア

「……」

曜「どうしたの?」

「いや……やっぱり曜と付き合わなくて正解だったかな」

曜「負け惜しみかな?」

「かもね」

曜「ごめんね、あのときはちゃんと返事できなくて」

「いいよ、あいつのこと好きなのは分かってたし」

善子「あいつ?」ジロッ

「いやっ、せ、先生のこと好きだって」

曜「だから今返事させて」

曜「ごめんなさい」ペコッ

「……」

善子「……」

「何で今更振られたの私」

善子「ざまあないわね」クスクス

「えぇ……」



299: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:51:50.56 ID:+ZJivdei.net

曜「お昼食べようよ。お弁当は正直マズかったけど」

「酷い」

善子「そうよ。私だって似たようなものじゃない」

曜「いや……私のお母さんといい勝負かも」

善子「そこまでじゃないわよ。何とか食べられたし」

「曜のお母さんって確か……」

曜「私が小学生のときに家を燃やしてる」

善子「え、まさかそれで引っ越しを?」

曜「うん。不慮の事故だから火災保険は降りたんだけどね」

「料理やめようかな……」

善子「そんなことでやめちゃうの?」

「そんなことって……いつか家を燃やしちゃうかも」

善子「そんなことで?」

「……」

善子「曜さんを好きなら、せめて私より美味しい料理を作ってから言うのね」

曜「善子ちゃんは料理じゃないよ」

善子「は?」

曜「あと、昼間からそういう話題はね?」

「……」

善子「ごめんなさい、意味が分からないんだけど」

曜「ううん。分からないならいいや」

「え……マジ?」

曜「恋人って言ったでしょ?」

「……」

善子「え? 何なのよ」

「ごめん、気分が悪いから行くね……」フラッ

曜「あっ、お弁当忘れてるよ! あとサンドイッチ返して!」

「ごちそうさま……」ガチャ

バタンッ

善子「……」



301: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:53:34.49 ID:+ZJivdei.net

曜「食い逃げされたぁ!」

善子「何と言うか……曜さんの知り合いって変な人しかいないの?」

曜「何でだろうね」

善子「私もその一人なのかしら……」ハァ

曜「それは間違いないね」

善子「……」

曜「だって私を好きになるような人だよ? まともな人のはずがないよ」アハハ

善子「うん……」

曜「ちょっ、今のは冗談だって」

善子「サンドイッチ、食べましょうか」スッ

曜「そ、そうだね」

善子「さっきの人、本当に何だったのかしらね。ビート板探してるときも何かこっち見てきたし」

曜「善子ちゃんが可愛いから見惚れてたんじゃない?」

善子「それはないわよ」

曜「じゃあ何? 私のことまだ好きとか?」

善子「それはあるわね」

曜「大丈夫。さっき丁重にお断りしたから」

善子「わざわざキスするふりして目まで閉じさせて、それから私にキスしたわよね」

曜「心なしか嬉しそうだったね」

善子「曜さんの周りって変態しかいないの?」

曜「それだと善子ちゃんも変態ってことになるけどいいのかな」

善子「それは困るわ」

曜「きっと私に勝てずに終わったことが悔しいんだろうね」

善子「分かってるなら勝負してあげなさいよ」

曜「今の私になんて勝っても嬉しくないよ」

善子「さっきの人もそう言ってたけど……本当は勝負したくて仕方がないって感じだったわ」

曜「……」

善子「負けるのが怖い?」

曜「別に。現役の選手になんて負けて当然だよ」

善子「勝負する前から負け惜しみなんて、曜さんらしくもない」



302: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:54:16.26 ID:+ZJivdei.net

曜「善子ちゃんは、私が負けるところなんて見たくないでしょ」

善子「まあ、正直見たくないわね」

曜「だからやらない」

善子「何でよ」

曜「善子ちゃんが見たくないって言ったんだよ?」

善子「曜さんが勝つところを見たいって言ったら?」

曜「……」

善子「逃げるなんて曜さんらしくないわよ」

曜「もう私は選手じゃないんだよ」

善子「関係ないわ」

曜「向こうは全日本強化選手にも選ばれてる。私なんかとは違うよ」

善子「曜さんだって去年は選ばれてたじゃない」

曜「……勝てるわけない」

善子「勝てなくてもいいわ。勝負から逃げないでほしいだけ」

曜「……」

善子「いつまでも逃げてばかりじゃ、いつか本当に大切なものを失うわよ」

曜「それは……善子ちゃんに嫌われるってことかな」

善子「それはないけど」

曜「じゃあいいよ」

善子「……」

曜「善子ちゃんが好きでいてくれるなら、後は別に」

善子「もっと好きになってあげる」

曜「本当?」

善子「本当よ」

曜「……」

善子「水泳を続けてくれなんて言わないわ。もう一度だけちゃんと向き合ってくれれば」

曜「……」

善子「お願い」

曜「お願い、かぁ……」



303: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:54:52.14 ID:+ZJivdei.net

善子「ずるいと思う?」

曜「それなりの報酬を貰えるなら」

善子「何でよ。自分のプライドのためでしょ」

曜「善子ちゃんのためだよ」

善子「……」

曜「善子ちゃんのためだよ?」

善子「私のためでもいいわ。それならやってくれる?」

曜「もちろん。その代わりおしっこは飲ませてくれるんだよね?」

善子「言うと思った……」ハァ

曜「コップ一杯でいいよ」

善子「つい昨日飲ませなかったかしら」

曜「あれは水泳教室の授業料でしょ」

善子「……」

曜「飲ませて」

善子「分かったわ。コップ半分だけね」

曜「一杯じゃなきゃ嫌」

善子「残り半分は成功報酬」

曜「負けても半分は飲めるんだね」

善子「やっぱり勝ったら飲ませる。負けたらナシ」

曜「そんなぁ」

善子「どうしても飲みたいなら勝ってみせなさい。私の前で、現役の全日本強化選手に」

曜「そんな無茶苦茶な……」

善子「今日とは言わないわ。今から練習して……そうね、明日勝てる?」

曜「さすがに無理」

善子「飲みたくないの?」

曜「……私に死ねって言ってる?」

善子「じゃあ来週」

曜「来週学校休んでもよければ」

善子「ダメに決まってるでしょう? 学校が終わってから練習するのよ」

曜「Aqoursの練習は……」



304: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:55:34.91 ID:+ZJivdei.net

善子「もちろんそれも終わってからよ」

曜「えぇ……」

善子「大丈夫よ。ここ、家に近いし……夜は確か九時までやっていたはず」

曜「それは選手の練習時間だよ。一般の人は七時でお終い」

善子「……」

曜「練習が終わってここまで来るだけでもう七時くらいになっちゃう」

善子「八レーン」

曜「ん?」

善子「八レーンは? 床が浅いから選手は使わないでしょう」

曜「いや、浅すぎてぶつかるし……」

善子「スタートの練習はできないわね。でもそのくらい曜さんならカバーできるでしょ」

曜「でも、スタートで差がつくと挽回するのは大変だよ」

善子「……」

曜「気持ちは嬉しいけどさ、無茶だよ。やめようよ」

善子「うるさいわね」

曜「期待させちゃ悪いからはっきり言うね。できないものはできない」

善子「あっそう。この先一生飲ませてあげないけどそれでいいのね?」

曜「……」

善子「……」

曜「飲みたいよ。飲みたいけど……」

善子「ねぇ、本当は分かってるんでしょう? これは私のためでもおしっこのためでもないのよ」

曜「……」

善子「曜さんが前に進むために必要なこと」

曜「私のことなんて知らないくせに」ボソッ

善子「あぁ、そう。それ言っちゃうのね」

曜「善子ちゃんが知ってるのは今の私だけだよ。昔の私のことなんて知らないんだ」

善子「だって教えてくれないじゃない」

曜「教えたくないもん」

善子「どうしてよ」

曜「……教えたくないもん」



305: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:56:09.05 ID:+ZJivdei.net

善子「はぁ……」

曜「今の私だけ見てよ。過去とか未来とかそんなのどうだっていいじゃん」

善子「それ、本気で言ってるの?」

曜「本気だよ?」

善子「この先もずっと曜さんといたいって思ってるのよ」

曜「私も善子ちゃんといたいよ」

善子「だったら教えて」

曜「……」

善子「今すぐにじゃなくていいわ。いつか教えてくれればそれで」

曜「いつかね」

善子「今回は私のお願いを聞くと思って」

曜「善子ちゃんのお願い……」

善子「今は分かってくれなくてもいい。私のこといじわるだって思うかもしれないけど……」

善子「いつか分かってくれればそれでいいの」

曜「善子ちゃんって……本当にいじわるだね」

善子「私なんかを好きになるから悪いのよ」

曜「そうだね……」

善子「……」

曜「分かった。善子ちゃんのお願いだもん、やるよ」

善子「本当!?」

曜「やる。だけど今すぐじゃ準備が足りない」

善子「どのくらいかかる?」

曜「一年」

善子「は?」

曜「いや、半年でいいよ」

善子「ふざけてるの?」

曜「大真面目だよ。そのくらいのブランクがあるもん」

善子「半年も私のおしっこを飲めないのね。あー可哀想」

曜「う……」

善子「半年も私に『好き』って言ってもらえないのね。一緒にお風呂も入れないんだわ」



307: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:57:37.82 ID:+ZJivdei.net

曜「それは善子ちゃんがしたいだけじゃ……」

善子「何ですって!?」ガタッ

曜「な、何でもないよ」

善子「さっきからごちゃごちゃうるさいのよ! 飲みたいの!? 飲みたくないの!?」

曜「……」

善子「……」ジー

曜「の、飲みたいです」

善子「はい決定! 早速始めるわよ」スタッ

曜「えっ、今から?」

善子「今から。向こうだって今頃練習してるわ」

曜「でも……」

善子「勝負は来週の今日。いいわね?」

曜「えぇ!? せめて来月……」

善子「ダメ。これでも譲歩してるのよ? 本当なら明日って言いたいところなんだから」

曜「分かったよ……。その代わり、もし負けても嫌いにならないでね?」

善子「本気でやって負けたんだったらね」

曜「わざと負けるとでも思ってる?」

善子「体調のせいにするのも禁止」

曜「それはカッコ悪いな」

善子「当日どんなに熱が出ていようと、足が折れていようとそれは実力だからね」

曜「厳しいなぁ」

善子「ほら、分かったら無駄口叩いてないで練習するわよ」

曜「善子ちゃんの水泳教室は?」

善子「だから来週の今日って言ってるの!」

曜「あぁ、なるほど」

善子「もし曜さんが負けたらさっきの人に教わることにするわ」

曜「えぇ……」

善子「さすがにいじわるかしら?」

曜「レッスンと称してあんなことやこんなことをされちゃうかも」

善子「されないわよ」



309: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:59:12.09 ID:+ZJivdei.net

曜「あの子、どっちもいける子だから」

善子「……」

曜「って言ってたよ。自己紹介のときに」

善子「酷い事故紹介ね。私が言えたことじゃないけれど」

曜「はぁ……やるだけやってみるよ」

善子「ええ。応援してるわ」

曜「ありがと! 善子ちゃんに応援してもらえるならサメにだって勝てそう」

善子「え? う、うん……」

曜「そうと決まれば宣戦布告だね」

善子「練習は?」

曜「先に退路は絶っておかないと。つい逃げたくなっちゃう」

善子「分かったわ。そういうことなら」

……

 プールサイド

善子「ねぇ、ちょっといい?」

「あ、ヨハネちゃん久しぶり」

善子「さっき会ったばかりよ」

「そっか……ヨハネちゃんは曜に」

「うっ……」

曜「大丈夫?」

「大丈夫……。ちょっと想像しちゃっただけだから」

善子「まあボケは置いといて」

善子「来週、曜さんと勝負しなさい」

「……え?」

曜「私と勝負だよ」

善子「曜さんに勝ちたがってたでしょう?」

「私が勝ちたかったのはあのときの曜で……」

曜「ふーん? 約一年もプールを離れてた私に負けるのが怖いの?」

「は?」

善子「さっきまで自分もビビってたくせに……」ハァ



310: 名無しで叶える物語 2018/03/19(月) 23:59:45.25 ID:+ZJivdei.net

曜「私に勝てたら何でも言うこと聞いてあげるよ」

善子「ちょっ、安請け合いしないで!」

「何でも?」

曜「何でもだよ。あ、善子ちゃんはあげないから」

「何でもじゃないじゃん……」

善子「えっ、もしかして私が欲しかったの!?」

「いや。ないね」

善子「そうよね」ホッ

曜「善子ちゃん以外なら何でもいいよ」

「何でもか……」

善子「本当にいいの?」

曜「私が負けるとでも思ってるの?」

善子「そうは言ってないけど」

曜「じゃあ善子ちゃんだって賭けてもいいよね」

「さすがにそれはやめておいた方がいいんじゃないかな……」

善子「そうよ。別に私なんて欲しくないみたいだし」

曜「善子ちゃんの良さが分からないとは……」ハァ

「えぇ……」

善子「まあいいわ。とにかく私以外でなら何でもいいって言ってるんだもの、今からお願いを考えておくのね」

曜「そうだよ。あ、お金はナシね」

「何でもじゃないじゃん……」

曜「賭博は違法だから」

善子「変な遵法精神」

曜「私にできることでお願いね」

「分かった。考えておくよ」



311: 名無しで叶える物語 2018/03/20(火) 00:06:06.76 ID:w/vmrvb1.net

善子「じゃあ、そういうことだからよろしく。邪魔してごめんなさい」クルッ

スタスタ

「……」

曜「ごめんね。善子ちゃん、言い出したら聞かないから」

「曜も大変だね」アハハ

曜「だから好きなんだけどね」エヘヘ

「……」

曜「じゃ、また来週」タッ

「本気?」

曜「何が?」

「一年近くやってなかったんだよね。そんなんで勝てるって本当に思ってる?」

曜「……思ってるよ」

「ずいぶん舐められたもんだね」

曜「……」

「いいよ。やるからには本気でやる。その代わり」

「曜も本気でやってよね」

曜「もちろん」

「それと、私が勝ったら何でも言うこと聞きなよ」

曜「……あんまりいじわるしないでね?」

「……」

曜「ううん。何だっていいよ、負けなきゃいいんだから」

「楽しみにしてるよ」フフッ

曜「私もだよ」

……



348: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:17:05.92 ID:Cn1blU3f.net

……

……

 日曜日

曜「はぁっ……はぁっ」ザバッ

善子「すごいわ! 昨日の今日でこんなにタイムが縮まるなんて!」

曜「まだこんなもんじゃ勝てないよ……」ハァ

……

 月曜日

曜「げほっ……どうかな」ザバッ

善子「うん……安定したタイムが出てるわね。この調子よ」

曜「……」フゥ

……

 火曜日

曜「どう!?」ザバッ

善子「ちょっとイマイチね。もう少しこう、大きくかいてみたらどうかしら?」

曜「簡単に言ってくれるよね……」

……

 水曜日

曜「ダメだ。全然タイムが縮まらない」

善子「ちょっと休憩しましょ。おやつ持ってきたから……」スッ

曜「そんな時間ないよ。もうあと半分もないんだ……」

……

 木曜日

曜「もうダメだよ」グスッ

善子「何泣いてるのよ。まだ明日も練習できるし、明後日までここから頑張れば……」

曜「うわぁん! このまま負けて善子ちゃんに恥ずかしいところを見られちゃうよー!」ポロポロ

善子「今の姿の方がよっぽど恥ずかしいような……」

曜「何であんなできもしないこと言ったんだろ私」グスッ

善子「どうしてできないって決めつけるわけ? まだ分からないじゃない」

曜「分かるよ! 去年のタイムに遠く及ばないもん……」



349: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:17:36.97 ID:Cn1blU3f.net

善子「そうだけど……」

曜「善子ちゃんはいいの!? あの子私のこと好きなんだよ!? 善子ちゃんの目の前でキスしてとか言うかも!」

善子「……」

曜「お、おしっこ飲ませてって言われるかも……」ビクビク

善子「曜さんじゃないんだから」

曜「私が飲ませるのは後にも先にも善子ちゃんだけだよ? でもどうしよう、もし負けたら……」

善子「そんなお願いするわけないじゃない」

曜「そのときは私を殺してくれる? 善子ちゃん以外に飲まれるくらいなら死ぬよ」

善子「私を殺人犯にするつもり?」

曜「やっぱり今から土下座して謝ろう。キスでも何でもするからおしっこだけは許してもらわないと」

善子「キスもダメよ」

曜「じゃ、じゃあお金? どうしよう私そんなにお金持ってない……」

善子「賭博は違法なんじゃなかったの」

曜「善子ちゃんはいいの!? 水着姿の私を好き放題されちゃっても!」

善子「いいわけないでしょうが」

曜「どんなことされても嫌いにならないでね……お願い」ギュ

善子「曜さんがわざと負けたり、本気を出さなかったりしなければね」

曜「そんなことしないよ」グスッ

善子「めそめそ泣いてる暇があったら練習よ。少しでも勘を取り戻して貰わなきゃ」

曜「うん……」

……

 その夜

 善子の家 リビング

曜「ごちそうさま……」スタッ

善子ママ「曜ちゃん大丈夫? このところ疲れてるみたいだけど……」

善子「……」

曜「ごめんなさい。今日はもう寝ます……」フラッ

善子「あっ、後片付けは私がやっておくから。ゆっくり休んで」

曜「うん……」フラフラ

善子「……」



350: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:19:04.69 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「最近、毎日遅くまでプールに行っているわね」

善子「ええ。やっと水泳に本気になってくれたのよ」

善子ママ「もしかして、善子がやらせてるの?」

善子「え?」

善子ママ「前に曜ちゃん言ってたわ。もう二度と水泳はやらないって」

善子「変な意地張ってただけよ。久しぶりにプールに入ったとき、気持ちよさそうに泳いでたわ」

善子ママ「そう……」

善子「ママも知ってるでしょ。曜さん、大学から推薦の話が来てるのよ。曜さんの頭じゃ絶対行けないようなところなんだから……」

善子ママ「曜ちゃんが行きたいって言ったの?」

善子「言ってないけど」

善子ママ「周りが押し付けるのはよくないと思うわ」

善子「……」

善子ママ「結局は本人が決めることなのよ」

善子「曜さん、未だに進路の希望すら決まってないのよ」

善子ママ「みたいね」

善子「もう二年生も終わるのに、私が聞いても全く決まってないって言うの」

善子ママ「……」

善子「本当は水泳がやりたいんだと思うのよね」

善子ママ「そうなの?」

善子「明後日になれば分かるわ。勝っても負けても、きっと曜さんはもう一度水泳をやりたくなるはず」

善子ママ「明後日、何かあるの?」

善子「現役の選手と勝負するのよ」

善子ママ「えぇ!? 現役のって……」

善子「そういえば名前聞き忘れたわね。でも確か、中学の時の同級生だったって言ってたわ」

善子ママ「……」

善子「ちょっとカッコいい子だった……」

善子ママ「女の子よね?」

善子「も、もちろん曜さんの足元にも及ばないけど? 曜さんなら絶対勝てるって信じてるし」



351: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:19:41.44 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「曜ちゃんのことあんまり強く言えないじゃないの」フフッ

善子「浮気とかじゃないから。カッコいいかカッコよくないかで見ればカッコいい方に入るだけ」

善子ママ「……」

善子「忘れて」

善子ママ「ええ」

善子「とにかく! 曜さんが一歩前に踏み出すいいきっかけだと思うわ。そのためなら私は賞品にだってなるわよ」

善子ママ「賞品?」

善子「あっ、いや別に」

善子ママ「あんまり曜ちゃんに無理させちゃダメよ」

善子「もちろん。でも曜さんはこのくらい全然平気よ。いつも果南さんとトレーニングしてるくらいだもの」

善子ママ「……」

善子「そうだ、明後日の夕飯は曜さんが好きなハンバーグにしましょ。私とママで作ってあげたら喜ぶわ」フフッ

善子ママ「そうね」

善子「また太っちゃうかも?」

善子ママ「曜ちゃんはともかく、善子は気をつけなさいよ。太るとなかなか痩せない体質なんだから」

善子「私、そんなに太ってないわよね?」

善子ママ「ううん。善子みたいに筋肉のない細い体の子は、一旦太ると痩せにくいのよ」

善子「それ、ママの実体験?」

善子ママ「善子を産んだ後に、少しね」フフッ

善子「今はそんなことないわよね」

善子ママ「ここまで戻すのに何年かかったことか……」ハァ

善子「き、気をつけるわ」

善子ママ「それはそうと、善子は進路どうするの?」

善子「えっ」

善子ママ「この前聞いたとき、のらりくらり躱して結局答えなかったじゃない」



352: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:20:09.97 ID:Cn1blU3f.net

善子「まだ考え中なのよ」

善子ママ「もう二年生になるのよ? あっという間に三年になっちゃうんだから」

善子「私は……」

善子ママ「進学? それとも就職?」

善子「まだ決まってないわ」

善子ママ「どっちにしても早く準備しておかないと、後で困るのは善子なんだからね」

善子「分かってるわよ……」

善子ママ「曜ちゃん、お母さんとそういう話しないのかしら」

善子「さあ? こう言っちゃ悪いけど、あんまり曜さんのお母さんって曜さんに興味ないわよね」

善子ママ「そんなわけないでしょう。本当は気になって仕方がないのよ」

善子「そうは見えないけどねぇ」

善子ママ「私にしょっちゅう電話で相談してくるんだから……」

善子「何よ、可愛いところあるじゃない」フフッ

善子ママ「でしょう?」クスクス

善子「……惚気?」

善子ママ「『曜に進路のことそれとなく聞いてみて』って私に頼むのよ」

善子「自分で聞きなさいよ。親なんだから」

善子ママ「そうよ。だから私は曜ちゃんから聞き出すつもりはないわ」

善子「曜さん、本当に迷ってるみたいだしね」

善子ママ「そうみたい。最近はため息ばかりしてるわ」

善子「明後日、答えが出るといいんだけど」

善子ママ「……」

善子「さて、私も片付けたら寝ようかしら。泳ぐのって結構疲れるのよね」スタッ

善子ママ「お風呂は?」

善子「プールでシャワー浴びてきたからいいわ」



353: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:20:37.37 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「そう。たまには湯船に浸かって休んだほうがいいわよ」

善子「そうね。これが終わったらゆっくり入らせてもらうわ」

善子ママ「……あんまり無理しちゃダメよ。曜ちゃんも、善子もね」

善子「分かってるわよ」

……

……

 翌朝

 善子の部屋

善子「……っ!」バサッ

善子(あぁ……やっぱり)

善子(寝る前ちゃんとトイレに行っておいたのに、ついてないわね)ハァ

コンコンッ

善子「ママ? ごめんなさい、シーツ今から洗えるかしら」

ガチャ

善子ママ「また? 今日は天気良くないって天気予報で言ってたわよ」

善子「じゃあ洗濯し終わったら乾燥機かけておいて」

善子ママ「電気代がかかるからダメ」

善子「部屋干し? 臭くなるから嫌よ……」

善子ママ「善子が漏らしたのが悪いんでしょう? 我慢しなさい」

善子「トイレは行ったわ! そもそもこれ、私じゃなくて曜さんのかもしれないじゃない」

善子ママ「曜ちゃんの匂いじゃないわね」

善子「うっ……」

善子ママ「いいから、シャワー浴びてらっしゃい」

善子「曜さんは?」

善子ママ「そういえば姿が見えないわね」



355: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:22:01.66 ID:Cn1blU3f.net

善子「私が寝るときはここにいたはずだけど……」

善子ママ「もしかして家に帰ったのかしら」

善子「何のために?」

善子ママ「教科書を取りに行ったとか」

善子「それはないわよ。そもそも曜さん、基本的に教科書は学校に置いたままだもの」

善子ママ「じゃあ着替えかしら」

善子「帰るなら普通、声をかけて帰るわよね?」

善子ママ「善子、曜ちゃんに何かした?」

善子「してないわよ」

善子ママ「……」

善子「えっ、まさかその、私が曜さんに変なことしたと思ってるの?」

善子ママ「善子、寝相が悪いから」

善子「あぁ、そっちね」ホッ

善子ママ「私も人のことは言えないんだけど」フフッ

善子「嫌われないように気をつけなさいよ」

善子ママ「寝ているときだもの、わざとじゃないわ」

善子「私も気をつけないと……」

善子ママ「別々に寝るくらいしか方法がないわね」

善子「そうなのよね……」ハァ

……

 学校

 二年教室

千歌「あれ? 今日曜ちゃん休みなの?」

梨子「え? そういえばまだ来てないわね」

千歌「もうチャイム鳴っちゃうよ。メールしても全然返事ないし……」



357: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:23:56.48 ID:Cn1blU3f.net

梨子「曜ちゃんのことだから滑り込みで間に合うかも?」

千歌「遅刻しない最終バスはとっくに過ぎてるよ」

梨子「ということは遅刻だね」

千歌「それか学校まで走ってくるかも? 曜ちゃんの足なら間に合うかな」アハハ

梨子「無理じゃないかな……。こんな信号もない田舎でバスより早く着くなんて」

千歌「善子ちゃんなら何か知ってるかも」スッ

 チカ@次期生徒会長:善子ちゃん、曜ちゃんのこと何か聞いてる?

梨子「二人は毎日同じバスで来てるんだっけ」

千歌「そうだよ。ラブラブだよねぇ」

梨子「ちょっと羨ましいな……」

千歌「ん? もしかして梨子ちゃん……」

梨子「ううん。いないよ」

千歌「ありゃ。これは本当にいない反応だ」

ピコンッ

 †堕天使ヨハネ†:えっ? 曜さんまだ来てないの?

 チカ@次期生徒会長:来てないよ。善子ちゃんと一緒かと思った

 †堕天使ヨハネ†:今日は一緒じゃなかったのよ。まあ、そのうち来るでしょ

千歌「思ったより薄情だね」

梨子「善子ちゃん何て?」

千歌「そのうち来るでしょ、だって」

梨子「まだ寝てたりして」

千歌「それはないと思うけどなぁ」

梨子「そうね。千歌ちゃんならともかく、曜ちゃんは早起きだから」

千歌「私だって隣の家の人が起こしてくれれば遅刻しないで済むんだけど?」

梨子「それは千歌ちゃんのためにならないと思う」



358: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:24:28.37 ID:Cn1blU3f.net

千歌「あーあ、私も曜ちゃんみたいな彼氏が欲しいよ」

梨子「彼氏?」

千歌「毎日起こしに来てくれて、美味しいご飯作ってくれて、私のお願い何でも聞いてくれるの……」ウットリ

梨子「それは善子ちゃんだからじゃない?」

千歌「幼なじみの私を差し置いて! 悔しいよぅ……」グスッ

梨子「はいはい」

千歌「あ、今のは『悔しいよう』と曜ちゃんの『よう』をかけてるのだ」エヘヘ

梨子「私も曜ちゃんに電話してみようかな」スッ

千歌「せめて突っ込んでくれても……」シュン

……

 一年教室

善子「……」スッ

 †堕天使ヨハネ†:曜さん、学校遅れるなら連絡しなさいよ

 †堕天使ヨハネ†:無断遅刻は内心に響くわよ。言われなくても分かってるわよね?

善子「はぁ……」

ルビィ「どうしたの? 元気ないね」

善子「あ、ルビィ……」

ルビィ「また曜さん?」

善子「……ええ」

ルビィ「善子ちゃん、曜さんと付き合い始めてから曜さんのことばっかりだね」

善子「そうかしら?」

ルビィ「花丸ちゃんと三人で出かけようって約束したのに全然行けてないよ」

善子「あぁ、そんな約束したような気もするわ」

ルビィ「花丸ちゃんずっとケーキ我慢してるんだよ。善子ちゃんと食べるまで我慢って」

善子「それ、ルビィじゃない?」



359: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:24:55.69 ID:Cn1blU3f.net

ルビィ「花丸ちゃんだよ。ルビィを食いしん坊にしないで」

花丸「誰が食いしん坊って?」

ルビィ「ピギィ!?」ビクッ

花丸「善子ちゃんはマルたちより曜さんの方が大切なんだよ。分かってあげようよ」

善子「二人のことも大切よ。ちょっと後回しにしちゃったのは謝るわ」

ルビィ「本当に悪いと思ってる?」

善子「思ってるわよ」

ルビィ「じゃあ今度の土曜日、ルビィたちにケーキおごってよ」

善子「え? それは無理」

ルビィ「何で!? その日も曜さんとデートとか言うの?」

善子「その日は……デートよりも大切な日なの」

花丸「デートよりも……?」

ルビィ「ってことは……」

善子「あー、勘違いしないでよね。二人が想像してるようなのはないから」

ルビィ「結婚式かなぁ」

善子「ないわよ」

花丸「ウエディングドレス、とっても似合ってたよ」

善子「あれはただのコスプレだから」

ルビィ「ルビィもウエディングドレス着たい!」

花丸「マルも……ちょっとだけ興味あるかな」エヘヘ

ルビィ「曜さん、ルビィたちとも撮ってくれるかなぁ」

善子「やめなさいよ。絶対喜びそうだわ」

花丸「でもお金かかるよね。ドレスのレンタル代だって安くないんじゃないかな」

善子「そういえばいくらかかったのかしら……。曜さんが出したから知らないわね」

花丸「善子ちゃん、曜さんに出させてばかりじゃダメだよ」



360: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:25:23.21 ID:Cn1blU3f.net

ルビィ「そうだよ。たまには善子ちゃんがおごってあげたら?」

善子「そういえばそうね。いつも出してもらってばかりで……」

ルビィ「ルビィたちにもさぁ」

花丸「ルビィちゃん」

善子「分かったわ。日曜日でよければご馳走してあげる」

ルビィ「みんなに? 善子ちゃん太っ腹!」

花丸「みんなってマルも?」

善子「ちょっと待って。ルビィとずら丸だけよね? いくらお小遣いが増えたからってそんなに何人もご馳走できないわよ」

花丸「お小遣い増えたの?」

善子「この前のテストで頑張ったからかしらね。特にお願いはしてないんだけど、いつの間にか増えていたわ」

ルビィ「いいなぁ……」

善子「ルビィはお小遣いなんていらないでしょ」

花丸「たいていのお店は顔パスできたりして」

ルビィ「それ使うとお姉ちゃんにバレるんだよ。何でだろう?」

善子「そりゃ家に請求が行くし……」

花丸「ルビィちゃん、カードとか持ってないの?」

ルビィ「カード? 電子マネーなら持ってるよ」

善子「それ使えばいいじゃない」

ルビィ「いつどこで何を買ったのかお姉ちゃんにバレるんだよ」

花丸「うーん、自由には使えないんだね」

ルビィ「鞠莉さんみたいにブラックカードがあればなぁ」

善子「えっ、鞠莉さんブラックカード持ってるの!?」

ルビィ「それか、小切手をさらさらーっと」カキカキ

花丸「高校生でそんなの持ってて大丈夫なのかな……」

ルビィ「はい、一千万円」つ



361: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:25:50.77 ID:Cn1blU3f.net

善子「いや、ルビィの家だと本当に効力ありそうだからやめて」

ルビィ「現金があれば何でも欲しいものが買えるのに」グシャ

花丸「ルビィちゃんがお金に物を言わせるような子だったら嫌かも」

善子「友達やめるわね」

ルビィ「酷いっ!」ポイッ

ゴミ箱「」ストッ

善子「まあいいわ。日曜日空けておいてね」

花丸「本当におごってくれるの?」

善子「ええ。但し一人五百円まで」

ルビィ「五百円……」

善子「何よ。不満なら自分で足しなさい」

花丸「お店はマルたちが決めてもいい? ルビィちゃんと話してたお店があるんだ」

ルビィ「あー、あそこね! 善子ちゃん絶対好きそう」

善子「私の知ってるお店?」

ルビィ「どうだろう? 最近できたばかりだからルビィは初めてなんだけど」

花丸「マルもないよ。一人でああいうお店行くのは勇気がいるよね……」

善子「私も今から楽しみだわ」フフッ

……

……

 放課後

 プール

善子(……)

曜「……」バシャ バシャ

曜「はっ……」バシャ

曜「ふぅ……だいぶ形にはなってきたけど、まだまだだな」ザバッ



362: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:26:23.17 ID:Cn1blU3f.net

善子「やっぱり、ここにいたのね」

曜「あ、善子ちゃん。おはよう」

善子「もう夕方よ」

曜「放課後の練習行けなくてごめんね。みんな怒ってなかった?」

善子「風邪引いたなんて言うからみんな心配してたわよ」

曜「ごめん。騙すつもりはなかったんだよ」

善子「何も学校休んでまで練習しなくても……」

曜「もう明日でしょ。最後の追い込みをしようと思ってね」

善子「また内申が悪くなったわ」

曜「私、欠席だけはしたことないんだ」

善子「……こんなことのために皆勤賞捨てたの?」

曜「こんなことって」アハハ

善子「あ……いや、ごめんなさい。私が無理言ってお願いしたのよね」

曜「ううん。善子ちゃんのためじゃないよ」

善子「……」

曜「やるからには中途半端な勝負はしたくない。今の自分を全部出し切って、それで負けたなら仕方ないけど」

曜「努力もしないで負けるなんて、そんなのカッコ悪すぎるもん」

善子「朝起きて曜さんの姿がなかったとき、きっとプールだろうなとは思ったわよ」

曜「ごめんね。声かければよかったかな」

善子「かけてたら学校休ませてない」

曜「だよね。声かけなくてよかった」

善子「……」

曜「今日一日練習してね、だいぶコツが掴めてきたというか……タイムの出し方を思い出してきた感じがするの」

善子「よかったじゃない」

曜「これでも日頃から運動はしてたからね。体力が落ちてなかったのが幸いかな」



363: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:26:52.11 ID:Cn1blU3f.net

善子「あまり無理しないでね」

曜「ん?」

善子「私が言うことじゃないか。でもママも心配してたから」

曜「ママにまで心配かけてたんだね私……」

善子「昨日の夜、曜さんフラフラだったじゃない」

曜「ちょっと頑張りすぎちゃってさ」アハハ

善子「いつもこのくらい頑張ってくれればね……」

曜「ママと同じこと言ってる」

善子「ママにも言われたの?」

曜「ううん。何でもないよ」

善子「……」

曜「さてと、休憩終わり!」

善子「待って。差し入れ持ってきたから……」ガサゴソ

曜「わざわざ? 何だか悪いなぁ」

善子「はい、飲み物とカロリーメイト」つ

曜「フルーツ味! 私フルーツ味好きなんだよね」エヘヘ

善子「どうぞ。溢さないように気をつけなさいよ」

曜「うん」パクッ

善子「……」

曜「……」モグモグ

善子「水泳、やっぱり楽しいでしょ?」

曜「どうかな」

善子「いい笑顔してるわ」

曜「そう? ありがと」パクッ

善子「やっぱり曜さん、本当は水泳やりたいんじゃない?」



365: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:28:15.64 ID:Cn1blU3f.net

曜「たまにはいいかもね」モグモグ

善子「ええ」

曜「……」モグモグ

善子「プールから出ると甘い物が食べたくなるわよね」

曜「何でだろうね? あと塩っぱいものも食べたくなる」

善子「それだけ汗をかいてるってことなのかしら」

曜「……」

善子「何かぼーっとしてるわね。疲れたなら帰ってもいいのよ」

曜「ううん」アハハ

善子「明日に備えて、今日はもう終わりにしたら?」

曜「せっかく来たんだし、善子ちゃんも泳ごうよ」

善子「え? 私はいいわよ」

曜「水着、持ってきてないの?」

善子「一応持ってはいるけど……どう見ても曜さん、疲れてるわよね」

曜「気分転換にさ、善子ちゃんに教えてあげるよ」

善子「……」

曜「嫌かな」

善子「いいの?」

曜「元はといえば善子ちゃんが水泳教えてって言うから来たんだよ。なのに私の練習に付き合わせちゃってるだけじゃん」

善子「私は楽しそうに泳ぐ曜さんを見られればそれでいいのよ」

曜「そんなに楽しそうに見える?」

善子「昨日泣きべそかいてたのが嘘みたいにね」

曜「あはは。昨日のは……恥ずかしいから忘れてほしいな」カァアア

善子「忘れないわ」

曜「いじわる」



366: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:28:43.21 ID:Cn1blU3f.net

善子「じゃあ私、着替えてくるから……」

曜「一人で着られる?」

善子「当たり前よ。もう何回も着てるんだからさすがにね」

曜「トイレも行ける?」

善子「行けるわよ!」

曜「そっか。成長したね」

善子「泳ぎの方だってかなり成長したわよ。ここ何日かはあんまり教わってないけど、八レーンでずっと練習してたから」

曜「たまにチラッと見てたけど可愛かったよ」アハハ

善子「可愛いって言えば何でも許されると思ってるでしょ……」

曜「明日終わったらさ、善子ちゃんの気が済むまで教えてあげるね」

善子「勝ったらね」

曜「負けても教えてあげるよ」

善子「勝った方に教わるわ」

曜「教えてくれるなんて約束したの?」

善子「してない。でも私には分かるの、一見いじわるだけど本当は優しい人よ」

曜「……」

善子「浮気じゃないから」

曜「それは分かってるよ。ただ……」

善子「何」

曜「教わってるうちに好きになったら困るなって」

善子「ないわよ」

曜「分かんないよ? あの子、キスすごい上手だから……もしかしたら善子ちゃんも」

善子「何で上手って分かるのよ」ジロッ

曜「中学の時……その、無理やりされたのに私」カァアア

善子「だああ!! 聞きたくないってば!!」バッ



368: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:30:08.71 ID:Cn1blU3f.net

曜「私のことも好きでいてよね?」

善子「何言ってるのよ。曜さんのことが好きなんだもの、他の人なんて好きにならないわ」

曜「うん。何だか元気が出てきたよ」

善子「よかったわね。それじゃ、私は着替えてくるから」スタッ

曜「行ってらっしゃい」ノシ

……

 トイレ

善子(ふぅ……)スルッ

善子(学校休んだって聞いて心配したけど、元気そうでよかったわ)

善子(でも皆勤賞を逃したのはもったいないわね。私のせいで……)

チョロロ

善子(曜さん……また水泳やってくれるかしら)

チョロロ

善子(……)

「くんくん……これは善子ちゃんの匂いだな」

善子「よ、曜さん? 恥ずかしいからやめてよ」

「着替えるって言うから更衣室に行ったのかと思った」

善子「先にトイレに行っておこうと思ったの」

「……」

善子「曜さんもトイレ?」

「開けてよ」

善子「嫌よ。他の個室空いてるじゃない」

「他が空いてなかったら開けてくれるのかな」

善子「開けない。空くまで待つのね」

「漏らしたら責任取ってくれるの?」



369: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:30:42.43 ID:Cn1blU3f.net

善子「取るわけないでしょ。そもそも早めに行かなかった自分が悪いんだもの」

「プールの中だと尿意を忘れるって言うかさ……ふと気づいたときにはもう限界だったりするじゃん?」

善子「気持ちは分かるわ」

「分かる? じゃあ開けて」グイ

善子「開けない。何回も言わせないで」

「ふーん? だったら私も開けない」

善子「ふぅ……」フキフキ

「……」

善子「……」クイ

ジャー

「終わった?」

善子「ええ。お待たせ」グッ

善子「?」グッ

「……」

善子「ちょっと! 開けなさいよ」グイ

「開けないって言ったよね?」

善子「は? いいからそこ退いて」グイ

「退かないよ」

善子「ねぇ、私出られないんだけど?」

「出なくていいよ。ずっとそこにいれば」

善子「何でよ」

「善子ちゃんだって開けてくれなかったし……」

善子「あのねぇ、普通は誰かが使ってる個室には入らないのよ?」

「普通はね。でも私たち恋人でしょ」

善子「恋人とか関係ないから。個室って意味分かってる? 一人用の部屋のことよ」



370: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:31:10.08 ID:Cn1blU3f.net

「じゃあそこが善子ちゃんの部屋だね」

善子「私が使っているときはね。もう終わったから開けて」

「開けない」

善子「しつこいわね……。どうして今日はこんなにわがままなのよ」

「私いつもわがままだもん」

善子「いつにも増してわがままよ」

「だって……」

善子「いいから開けてよ。練習するんでしょう?」

「……」

善子「はぁ……。分かったわ、何が望みなの」

「……」

善子「私のおしっこ? 見ての通りたった今したばかりよ」

「……」

善子「まさか、次にしたくなるまでここを開けないつもり?」

「もう無理……」グスッ

善子「え?」

「本当に無理なんだよ……」ポロポロ

善子「ど、どうしたのよ急に。泣いてるの?」

「……」グスッ

善子「あの……」

「善子ちゃんが開けてくれなかったからだよ……」

善子「ん?」

「あ……」

チョロロ

善子「えっ」



371: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:31:36.87 ID:Cn1blU3f.net

「やだ……誰か来たら見られちゃう」

ジョボボ

善子「ちょ、ちょっと! そんなところでしないで!」

「ぐすっ……」

ジョボボ

善子「このっ……!」ドンッ

「きゃっ」フラッ

ゴッ!

善子「あっ……大丈夫?」

「」

善子「開けるわよ?」キィ

曜「」

善子「曜さんが開けないのが悪いんだからね? ほら、早く立って……」スッ

曜「」

善子「もしかして気絶してる?」ユサユサ

曜「」ショワァ

善子「わっ、寝ながらしないでよ! 私にかかってるってば!」

曜「」チョロロ

善子「あーもう! 面倒くさいったらありゃしないわ」グイッ

キィ

バタンッ

善子「はぁ……」スッ

ガチャリ

善子「ほら、座って」グイッ

曜「」ストンッ



372: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:32:03.54 ID:Cn1blU3f.net

善子「これはずいぶん派手にやらかしたわね……」

善子「とりあえず起きなさいよ」ユサユサ

曜「」

善子「寝たふりしても無駄よ。その手には乗らないんだから」ペチペチ

曜「」

善子「私に拭けって? ううん、曜さんが自分でやるべきだわ」

キィ

「ふぅ……トイレトイレ」

善子(だ、誰か来た)

「ん?」

善子「……」ドキドキ

「うわ、これ……誰か漏らしたのかな」

善子(私じゃないわよ! 漏らしたのは曜さんで……)

「まあいいや。そのうち誰か片付けるでしょ」ガチャ

バタン

善子(よりによって隣!? 他にも個室空いてるのに……)

チョロロ

「はぁぁ……♡」

善子「……」カァアア

ジョボボ

「気持ちいい……♡」

善子(独り言やめて! 聞いてるこっちが恥ずかしいわ!)

ジョボボ

「そういえば明日は曜と勝負かぁ」

善子(えっ?)



373: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:32:43.32 ID:Cn1blU3f.net

「私が勝ったら何でも言うこと聞いてくれるんだっけ」

ジョボボ

善子(もしかして……あの人?)

「って言われてもなぁ。今更曜に用なんてないし」

善子(曜に用……)クスッ

ジョボボ

「恋人の前で負けるなんて可哀想だし、手加減してやるかな」

善子(えっ?)

「あの子何て名前だっけ……」

善子(ちょ、ちょっと? 手加減ってまさか、わざと負けるってこと?)

「よ、よ……」

善子(ふざけないで! あなたそれでも現役の選手なの!? プライドとかないわけ!?)

「よし……よし何とかちゃんだった気がする」

善子(待って。真面目に勝負してくれなきゃ意味がないじゃない……)

「よしえちゃん! そうだ、思い出した。よしえちゃんだ!」

善子「ヨハネよ!」

「……え?」

善子(やばっ……!? いつものクセで)

「そうそう! ヨハネちゃん! 思い出したわ」

善子(私が隣ってバレた!? ってことはそこのお漏らしも私ってことに……)カァアア

「何で曜なんかと付き合ってるんだろ? もったいないなぁ」

善子(余計なお世話よ! 私が誰を好きになろうと私の自由でしょう?)

「もっといい人たくさんいるのになぁ」

善子(うるさいわね……)

「私とか」カァアア

善子「へっ?」



374: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:33:13.77 ID:Cn1blU3f.net

「やば。隣誰かいるんだった」

善子(……もしかしてバレてない?)

「ふぅ……」フキフキ

善子(何なのよこの人! もういいから早く出て行って!)

「明日、ヨハネちゃんも来るのかな」

善子(ええ、行くわ。だからあなたは早く出て行って)

「ヨハネちゃん」

善子(今度は何よ)

「ヨハネちゃん。可愛い名前」フフッ

善子(か、かわ……)カァアア

「どんな字書くのかな。夜に羽かな」

善子(ええそうよ。って何で分かるのかしら……)

「さてと、私も行かないと」スタッ

ガチャ

善子(やっと行ってくれたわね……)ハァ

「これ……」

善子(……)

「曜? もしかしてそこにいるのって曜なの?」

善子(違います!)

「さっきの独り言聞いてた……?」

善子(聞いてた! でも安心して、曜さんは気絶してるから!)

「……」

善子「……」

「開けるよ……」クイ

善子(は!?)

グッ

「開かない? 曜じゃないのか……」



375: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:33:41.12 ID:Cn1blU3f.net

善子(何その判別方法)

「えーと、誰か分からないけどごめんなさい。友達と間違えたんです」

善子(友達……)

「部屋の前のこれ……あなたの?」

善子(違う! って言うかもういいでしょ? 早く行ってよ……)

「……」

善子(ねぇ本当にいつまでいるのよ! これじゃ出られないわ)

コンコンッ

善子(ひいっ!?)ビクッ

「大丈夫? さっきから返事がないですけど……」

善子(返事したくないのよ! そのくらい察して!)

「あのっ、体調悪いんですか? 救急車呼びますか?」

善子(えっ)

「すみません、開けますね」グイ

善子(無理よ、鍵はちゃんと掛かってるわ)

「ふんっ!」ドンッ

善子(わぁ!? 何こじ開けようとしてるのよ!)

「とりゃっ!」ドシンッ

善子(いやいや、やめなさい! やめなさいってば!)

「このっ! いい加減に! 開けよ!!」ドンッ! バンッ!

善子(こ、このままじゃドアが壊れるわ……)

「くそっ、ダメだ……全然開かない」ハァ

善子(危なかった……)ハァ

「……」スッ

善子(そうよ、諦めてさっさと行きなさい)



376: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:34:07.59 ID:Cn1blU3f.net

「もしもし? ええ、救急車をお願いしたいんですけど」

善子「っておぉい! やめなさい!!」ガチャ

「え?」

善子「私よ! 中にいたのは私!」

「えっと……体調は大丈夫? 今救急車呼ぶから……」

善子「呼ばなくていいから! この通りピンピンしてるし!」

「あ……やっぱり大丈夫みたいです……。はい、すみませんでした……」ピッ

善子「はぁ……危なかったわ」

「隣にいたの、ヨハネちゃんだったんだ……」

善子「返事をしなくてごめんなさい。まさか通報するとは思わなくて……」

「私の方こそしつこくてごめん。あれじゃ返事したくても恥ずかしくてできないよね」

善子「ええ、まあ……」チラ

善子(曜さんにはまだ気づいてないみたいね……)ホッ

「ヨハネちゃんはどうしてここに? ってトイレに決まってるか」

善子「そうよ。トイレに決まってるわ」

「今日も曜と一緒?」

善子「え? きょ、今日は一人よ。その……自主練をしようと思って」

「そうなんだ。少しは泳げるようになった?」

善子「少しはね。まだ一人じゃうまく泳げないんだけど……」

「じゃあ私が教えてあげる」

善子「いいわよ」

「今のはどっちの『いいわよ』かな? 承諾? それとも拒絶?」

善子「遠慮」

「いいわよ」

善子「……」



377: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:34:34.44 ID:Cn1blU3f.net

「ヨハネちゃんの真似」アハハ

善子「全然似てないわね」

「うん。とりあえず出ておいでよ。もう服は着てるんでしょ?」

善子「ええ、着てるわ」

「これ、片付けるの手伝ってあげるから」

善子「あっ……」

「間に合わなかったんだよね。大丈夫、曜もよくやるから」

善子(何で人前で漏らしてるのよ!)

「蛇口にホース繋いでそのまま流すだけなんだけどね」ガサゴソ

善子「……」

「ほら、出ておいでよ」

善子「自分で片付けるからいいわ。もう行って」

「遠慮しないで」

善子「遠慮はしてない」

「じゃあ何」

善子「……恥ずかしいからに決まってるでしょう」

「……」

善子(私のじゃないのに……!)カァアア

「そっか。じゃあ……行くね」

善子「ええ。その……気持ちは嬉しいわ。ありがとう」

「私のこと好きになっちゃう?」アハハ

善子「勝手に言ってなさい」

ギィ

バタンッ

善子「ふぅ……やっと行ってくれたわ」ガチャ



378: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:35:02.36 ID:Cn1blU3f.net

「喰らえっ!」クイ

ジャー!

善子「きゃああ!!?」

「あはは! 引っかかった!」

善子「も、もう! 行ったんじゃなかったの!?」

「ってあれ? ヨハネちゃん水着じゃない……」

善子「あぁ……もう! 下着までびっしょりよ!」

「ごめん! てっきり水着だと思って……」

善子「もういいから……早く行って」シッシッ

「本当にごめんね? 代わりの着替えある?」

善子「ないわよ! 帰りまでに乾くかしら……」

「私のでよければ貸すよ! 大丈夫、曜と違って胸が小さいからヨハネちゃんでも着られるよ」

善子「余計なお世話!」

「……」

善子「はぁ……」

「このあと泳いでいくんだよね?」

善子「ええ。水着に着替えて、その間に服は干しておくわ」

「お詫びになるか分かんないけど……今日は私が水泳教えてあげる」

善子「え? お詫びなんていいわよ」

「お願い。私にはそれくらいしかできないから……」

善子「本当に気にしないで。次やったら怒るけど」

「だけど……このままじゃ私が曜に殺されちゃうよ」

善子「いや、殺しはしないでしょ……」

「ヨハネちゃんなら殺す?」

善子「殺さない。冗談でも殺すとか言わないで」



379: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:35:31.09 ID:Cn1blU3f.net

「えぇ……」

善子「何よ」

「いや、何でもないよ? 曜は優しいからそこまでしないだろうけど……」

善子「大丈夫よ、あなたにやられたってことは言わないから」

「……」

善子「あなたも余計なこと言わないでよね?」

「うん」

善子「はい、もう終わり。片付けは……もう十分流れたみたいね。私も手を洗ったら行くから」

「……」

善子(とりあえずドアは閉めて……っと)キィ

善子(まさか中を覗いたりしないわよね?)チラ

「やっぱり教えさせて。ヨハネちゃん、絶対筋がいいと思うし……すぐ泳げるようになると思う」

善子「はいはい。ありがとう」クイ

ザー

「……」

バシャバシャ

善子「明日あなたと勝負した後、曜さんがまた教えてくれることになってるから」

ゴシゴシ

「じゃあ今日だけ」

善子「……」クルッ

「……」

善子「私、これでも曜さんの恋人なのよ? 気持ちは嬉しいけれど遠慮するわ」

「あの……そうじゃなくて」

善子「私のこと好きって言ってくれるのは正直嬉しい。でもごめんなさい」

「そうじゃなくてね?」



381: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:37:05.56 ID:Cn1blU3f.net

善子「分かったらもう行っていいわよ」クルッ

ザー

「下着、見ちゃったから」

バシャバシャ

善子「え? 何?」

「ヨハネちゃんの下着……見ちゃったから」

キュッ

善子「何か言った? 水の音で聞こえなかったわ」フキフキ

「ヨハネちゃんの下着!!」

善子「私の下着がどうしたのよ」

「か、鏡見てみなよ……」

善子「え……」クルッ

鏡「……」スケスケ

善子「う、嘘」カァアア

「意外と派手な下着なんだね。でも似合ってる」

善子「早く言いなさいよ! バカ!!」バンッ

「わぁあ!? だからごめんってば!」

善子「曜さんに言いつけてやるわ! あなたにホースで水かけられて下着見られたって!」

「言わないで! 水泳教えてあげるから!」

善子「曜さん怒るでしょうね!? 土下座したって絶対許してくれないわよ!」

「ひぇ……」ビクビク

善子「まさか私が制服って知っててわざと……?」

「ない! ないよ!! 曜じゃないんだから!」

善子「……」ジー

「……」ビクビク



382: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:37:32.54 ID:Cn1blU3f.net

善子「それもそうね」

「うん……。落ち着いた?」

善子「まあ、どうせ更衣室で見られてるんだし……いいわよもう。曜さんには言わないであげる」

「本当?」

善子「ええ。だからあなたも絶対に余計なこと言わないで。約束よ」

「約束」

善子「分かったらもう行ってよね。練習に戻らなきゃいけないんじゃないの?」

「えっ? あぁ!! 早く戻らないと怒られちゃう!」ダッ

善子「走ると危ないわよー」

「ありがと! じゃあまたね!」ノシ

善子「はいはい」ノシ

ガチャ

バタンッ

善子「……」

善子「はぁ……。本当に疲れたわ」

善子「何なのよあの人……曜さんと同じくらい自分勝手ね」

「そうだよ。あの子は昔からああいう子だよ」

善子「そうなの? 曜さんの周りって本当に変な人ばっかり」

「まあね」アハハ

善子「……ってええ!!?」ガタッ

ギィ

曜「あの子には気をつけないとダメだよ」

善子「い、いつから起きて……」

曜「すごい音で誰かがドアを壊そうとしてくるんだもん。さすがに気がつくよ」

善子「どうして教えてくれなかったのよ!」



383: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:38:14.54 ID:Cn1blU3f.net

曜「空気を読んで黙ってたんだよ。善子ちゃんも私と個室で二人きりだったなんて知られたくないでしょ?」

善子「それはそうだけど! おかげでドアの前で私が漏らしたことになっちゃったじゃない!」

曜「これに懲りたら次からはすぐにドア開けてね?」

善子「はぁ!? 何で私のせいになるわけ!?」

曜「善子ちゃんがドアを開けてくれてさえいれば、こんなことにはならなかったんだよ」

善子「結果的にはね! でも元はと言えば曜さんが早めにトイレ行かなかったのが悪いわ」

曜「やっぱり私の言った通りになったか」ハァ

善子「何よ、言った通りって」

曜「あの子に関わるとろくなことがないよ。前に言ったよね?」

善子「そんなの聞いてない」

曜「じゃあ今言うね。あの人とはもう喋らないで」

善子「何よ、ヤキモチ?」

曜「……」

善子「あの人、曜さんに勝ったときのお願い決まったみたいよ」

曜「何かな」

善子「私とデートしたい、ですって」クスクス

曜「……」

善子「もちろんいいわよって言ったわ。曜さんが負けるはずないものね?」

曜「わ、私……」

善子「あっ、一日だけって言うの忘れたわ……。もしこの先ずっとって言われたらどうしよう」

曜「……」

善子(ふふ……。そんなこと言われてないわよ)ニヤニヤ

曜「私……行かなきゃ」

善子「え? 私に水泳教えるんじゃ……」



384: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:38:49.70 ID:Cn1blU3f.net

曜「ごめん、そんな時間ない」タッ

善子「何よ! 曜さんが教えないならあの人に教わるわよ!」

ガチャ バタンッ

善子「……」

善子(まあ、本気になってくれたならいいか……)フゥ

……

 プール

曜「はぁっ、はぁ……」ザバッ

曜(こんなんじゃ勝てっこない。かなりタイムは縮まってきたとはいえ相手は全日本強化選手……)

曜「くそっ!」パーン!

曜「いったぁ……」ヒリヒリ

「あれ? 曜いたの?」

曜「あっ……ひ、久しぶりだね」

「ヨハネちゃん、一人で練習しに来たみたいだよ」

曜「そ、そうなんだ? 知らなかったよー」アハハ

「曜が教えてくれないからって一人で来たみたい」

曜「……」

「私が教えてあげるって言ったんだけどね……」

曜「やめてよ」

「何で? あの子、かなり筋がいいと思うよ。私が教えればすぐ泳げるようになるんじゃないかな」

曜「善子ちゃんには手を出させないから」

「手を出すって……。本当にそういう目では見てないってば」

曜「そんなことどうでもいい!」

「……どうでもいいの?」

曜「いや、よくはないかな……。でも今はそれどころじゃないよ」



385: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:39:19.00 ID:Cn1blU3f.net

「というと?」

曜「……」

曜「とにかく、善子ちゃんには私が教えるって約束したから」

「だったら教えてあげなよ」

曜「い、今はその」

「明日の勝負のため?」

曜「そうだよ。善子ちゃんの前でカッコ悪い負け方だけはできない」

「ふーん……」

曜「もういい? 私これから練習しないとなんだ。さすがの私でも一年のブランクは厳しいから」

「……」

曜「……」ザバッ

バシャバシャ

……

 更衣室

善子「はぁ……。こんなにびしょ濡れで乾くわけないわね」

善子「気持ち悪いけど帰りもこれ着るしかなさそう」

善子「……」

善子(曜さんに着替えを取りに行かせようかしら?)

善子(そうよ、元はと言えば全部曜さんのせいだもの)

善子(とりあえず着替えましょうか)ハァ

シュルッ

善子「……」

トスッ

善子「……」

善子(本当に下着までびっしょりね)



387: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:40:52.93 ID:Cn1blU3f.net

ヌギッ

善子(濡れて……引っかかって脱ぎづらいわ)グイ

善子「っと! 危ない」フラッ

善子「……」ハァ

善子(さすがに下着は干しておけないわね……)

鏡「……」

善子「きゃっ、誰っ!?」ビクッ

鏡「……」

善子「鏡か」フゥ

善子「……」ガサゴソ

善子(この水着もすっかり馴染んできたわね)

善子(最初は一人で脱ぎ着できなかったけれど……)スッ

スルッ

善子(慣れれば簡単なものだわ)

シュルッ

善子(帽子を被って)グイ

善子(ゴーグルもつけて)キュッ

鏡「……」

善子(こうして見ると本当に選手になった気分)クルッ

鏡「……」クルッ

善子(曜さんみたいに泳げたら気持ちいいでしょうね)

鏡「……」

善子(このまま教われば私も泳げるようになるかしら……)

鏡「善子ちゃん」

善子「何よ」



388: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:41:20.48 ID:Cn1blU3f.net

鏡「『鏡が喋った!』って驚かないんだね」

善子「赤ちゃんじゃないんだから……」

鏡「……」

善子「着替えなら見ての通り終わってるわ。わざわざ来なくてもよかったのに」

「その水着、似合ってるよ」

善子「え? あぁ、うん。最初は脱ぎ着しにくいって思ったけど泳ぐのにはいい感じだわ」

「曜がくれたの?」

善子「ん? 自分でくれたのに忘れるって……」クルッ

「あれ? もしかして曜だと思った?」

善子「またあなたなの? いい加減しつこいわね……」

「声で気づかないなんて、曜が聞いたら泣くよ」

善子「帽子とゴーグルのせいで聞こえづらいのよ。仕方ないわ」

「そっか。言われてみればそうだ」アハハ

善子「練習はいいの?」

「えっと……うん、それよりもさ」

善子「……?」

「水泳、本気でやってみる気ない?」

善子「は?」

「ほら、ヨハネちゃんって絶対筋がいいし……興味もありそうだし、どうかなって」

善子「……」

「曜なんかに教わるよりずっと上手くなるよ」

善子「曜さんのこと悪く言わないで」

「あぁ、そういう意味じゃないよ。ちゃんとプロのコーチに教わった方がいいって意味」

善子「……」

「ヨハネちゃん、全然運動してないでしょ? 水泳なら運動不足の人でも体を傷めにくいし……」



389: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:42:57.23 ID:Cn1blU3f.net

善子「……やっぱり私太った?」プニ

「え? ごめん、この前会ったときと同じかな」

善子「あ、いえこっちの話よ」カァアア

「間違ってもダイエットなんてしちゃダメだよ。今だって痩せすぎなくらいなんだから」

善子「痩せすぎってことはないわよ。見ての通り……筋肉がないだけで」

「そう。水泳なら全身にバランスよく筋肉が付くし、無理せず自然と体力も付くからヨハネちゃんにピッタリだと思う」

善子「通信教育の漫画みたいなことを言うのね」

「まあ、急に決めろなんて言わないよ。もし興味があったらどうかなって話」

善子「私、選手になんてなれないわよ?」

「ヨハネちゃん、選手になりたいの? それはそれで歓迎するけど……」

善子「え? 選手に誘ってるのかと思ったわ」

「まさか。いきなりあんな厳しい練習したら水泳なんて嫌いになっちゃうよ」

善子「そんなに厳しい?」

「まあね。特に私みたいに強化選手にもなるとね……」

善子「……」

「たまにね、もう水泳なんてやめちゃいたくもなるんだ」アハハ

善子「そう……」

「明後日、ここで水泳教室の無料体験やってるからさ。水着と帽子とゴーグルさえあれば本当に無料だからぜひ!」

善子「え? そうね、無料なら来てみようかしら……」

「うん! 待ってるからね」ノシ

善子「ええ」ノシ

「それじゃ、私は行かないと」タッ



390: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:43:28.80 ID:Cn1blU3f.net

善子「……」

善子(水泳かぁ……。学校の授業では楽しいなんて思ったことなかったけれど)

善子(ちょっとやってみるのもいいかも……)

善子(日曜日ね、どうせ曜さんと来るなら曜さんも一緒に)

善子(……)

善子(曜さんはバリバリ泳げるから対象外かしら?)フフッ

……

……

 夜

 善子の家 リビング

善子「ただいまー」

善子ママ「あら、お帰り。どう? 練習の方は」

善子「まあまあってところね。もう少しで泳げるようになりそう」

善子ママ「え? 曜ちゃんのことよ」

善子「あぁ、うん。曜さんは……相変わらずいいペースでタイムを縮めてるわ。明日、本当に勝てちゃうかも」

善子ママ「そう……」

善子「相手も本気で勝負してくれるといいんだけど」

善子ママ「相手の子って……確か全日本強化選手に選ばれてる子よね」

善子「そうよ。よく知ってるじゃない」

善子ママ「中学の時、曜ちゃんに次いでいつも準優勝していたから」

善子「でも曜さんに勝ったことは一度もないって言ってたわ」

善子ママ「……」

善子「何よ。今回は負けるかもしれないって? そんなの私だって分かってるわ」

善子ママ「善子、どうしてこんなことするのよ……」

善子「決まってるでしょ? 曜さんにもう一度水泳をやってもらうためよ」



391: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:44:58.20 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「ねぇ、前にも言ったけれど……それは本当に曜ちゃんが望んだことなの?」

善子「な、何よ。そんなの本人じゃなきゃ分からないわ。曜さんですら迷ってるみたいだし」

善子ママ「……」

善子「だから明日、本気で勝負をしてもらうのよ。勝っても負けても、曜さんはもう逃げられないわ」

善子「水泳をやるのかどうか……ううん、やりたいのかどうかがはっきりするはず」

善子「って、もう曜さんの中では答えが出てるかもしれないわね」

善子ママ「答え?」

善子「私があんな無茶なお願いしたのに、練習してる曜さんはいつになく真剣な顔して、それでも楽しそうで……」

善子「やっぱり曜さんは水泳をやるべきなのよ」

善子ママ「……」

善子「あ、それとね。今度の日曜日に水泳教室の無料体験があるらしいの。曜さんと参加してみてもいい?」

善子ママ「え? いいけど……」

善子「一応未成年だから保護者に申込み書を書いてもらわないといけないのよ。ここ、サインしてくれるかしら」サッ

善子ママ「水泳、やりたいの?」

善子「教室に通わせてだなんて言わないわよ。お金もかかることだし」

善子ママ「ううん。善子はやりたいの?」

善子「興味はあるわ」

善子ママ「そう。それじゃ私も見に行こうかしらね」



392: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:45:25.72 ID:Cn1blU3f.net

善子「え? ママは来なくていいってば」

善子ママ「そういうわけにはいかないわよ。もし入会するとなったら詳しい話を聞かないといけないもの」

善子「まだ決まったわけじゃ」

善子ママ「それに、善子が泳ぐところを見てみたいから」

善子「……」

善子ママ「ここにサインをすればいいのね?」

善子「ええ。お願い」

善子ママ「……」カキカキ

善子ママ「はい」つ

善子「ありがと。もう一枚書いてもらってもいいかしら」

善子ママ「どうして?」

善子「こっちは曜さんの分よ」

善子ママ「曜ちゃんのも私が書くの?」

善子「大人なら親じゃなくてもいいのよ」

善子ママ「うーん……。曜ちゃんからお母さんにお願いするべきじゃないかしら」

善子「……」

善子ママ「善子が曜ちゃんの名前を勝手に使って申し込まないとも限らないし」

善子「そんなことしないわよ」

善子ママ「本当?」

善子「本当よ」



393: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:45:52.47 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「じゃあ信じるわ。明日出すには今日書かないと間に合わないものね」カキカキ

善子「ありがと、ママ」

……

……

 次の日 土曜日

 プール前

善子「ったく遅いわね……」イライラ

善子「まさか逃げたんじゃないでしょうね?」

「おはよう、ヨハネちゃん。今日も練習?」

善子「え? 曜さんを待ってるのよ。あなたも今日は本気でお願いね」

「……」

善子「何よ、本気出さなくても勝てちゃう?」

「いや……」

善子「だとしても本気でやって。そうじゃないと意味がないわ」

「……」

善子「勝ったら曜さんが何でも言うこと聞くって約束よ。本気でやってよね」

「ヨハネちゃん……酷いことするね」

善子「……? あなたも何か知ってるの?」

「知ってるも何も……」

善子「曜さん、昔のこと何にも教えてくれないのよ。ママは何か知ってるみたいだったけど……」



394: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:46:20.70 ID:Cn1blU3f.net

「……」

善子「ねぇ、一体何があったのよ? 曜さんが水泳やめたことと何か関係があるんでしょう?」

「ヨハネちゃん、ごめん。もう行かなきゃ」タッ

善子「あっ、ちょっと! 待ってってば!」

タッタッ

善子「とにかく本気でやってよね! じゃないと言うことなんて聞かないから!」

善子「……」

善子「何なのよもう」

……

 プールサイド

曜「お待たせ! 寝坊しちゃったよ」タッタッ

善子「あ、やっと来たわ。ビビって逃げたのかと思った」

曜「まさかぁ」アハハ

「準備体操とウォーミングアップが終わったら声かけて。それまで練習してるから」

曜「う、うん……」

善子「忙しいのに無理言ってごめんなさい。助かるわ」

「えへへ」

曜「……」

善子「何ぼーっとしてるのよ。準備体操して始めるわよ」

曜「そ、そうだよね。ストレッチ手伝ってくれる?」



395: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:46:48.00 ID:Cn1blU3f.net

善子「もちろん」

曜「……」

善子「ほら、シャキッとしなさい!」

曜「負けても嫌いにならないって約束だよね」

善子「ならないわよ。本気でやって負けたならね」

曜「うん……」

善子「言っとくけど、私にバレないように程よく手を抜こうなんてやめてよ。曜さんの嘘なんてお見通しなんだから」

曜「分かってるよ」

善子「大丈夫、私が見てる限りかなりいい感じに仕上がってるわ。自信を持って」ポンポン

曜「……」

善子「……」

……

……

「準備はいい?」

曜「い、いつでも」

善子「頑張って。応援してるわ」

「確認しておくね。勝負は五十メートルプールを折り返しで百メートル。約束どおりハンデはなし」

曜「うん」

善子「二人とも、本気でやってよね。手を抜いたら本当に怒るから」

「こわ……」



396: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:47:15.47 ID:Cn1blU3f.net

曜「スタートの合図は……善子ちゃん、お願いしてもいい?」

善子「え? でも何も持ってないわよ」

「号砲の代わりに手を叩いてくれればいいよ」

善子「それならいいわ」

曜「すぅ……はぁ……」

善子「曜さん、緊張してるの? さっきから深呼吸ばっかりしてるわね」

曜「別に」

「頑張りなよ、恋人の前なんだから」

善子「そ、そうよ。負けたらタダじゃおかないわよ」

曜「すぅ……」

善子「じゃあいくわよ……」スッ

善子「位置について、用意……」

善子「……」パンッ

曜「……」

「……」

善子「聞こえなかった? もう一度やらせて」

善子「用意……」スッ

パンッ!

曜「っ!」ピョンッ

「……」ピョンッ



397: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:47:47.56 ID:Cn1blU3f.net

ザバッ

曜「はぁっ……」バシャ バシャ

「ふっ……」バシャ バシャ

善子(ふぅ……これでようやく)

曜「……」バシャ バシャ

「はっ……」バシャ バシャ

善子(中々いいペースね。ちょっと遅れてるけど、曜さんもついていけてるわ)

曜(速い……っ)バシャ バシャ

(嘘……ここまでついてくるなんて)バシャ バシャ

曜(負けられないよ……絶対に)バシャ バシャ

(本気出さないとヤバいかも……)バシャ バシャ

善子(もうすぐ折り返しね。ちゃんと二人とも真面目に勝負してくれてるみたい)

(ここまでは私の勝ち……このままいけば)クルッ

曜(まだ勝てる……!)クルッ

善子(残り半分ね。曜さんはここから追い上げられるかしら)

(悪いね、本気出さないとヨハネちゃんに怒られちゃう)バシャ バシャ

曜(……)バシャ バシャ

善子「ん? 曜さん……」

「くっ……」バシャ バシャ

曜「……」バシャ バシャ



398: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:48:14.56 ID:Cn1blU3f.net

善子「これなら勝てるかも……?」

「はぁっ……」バシャ バシャ

曜「……」バシャ バシャ

善子「頑張って! 曜さんなら勝てるわ!!」

(負けてっ……たまるか……!)バシャ バシャ

曜「……」バシャ バシャ

善子「もう少し! もう少しよ!!」

(こんなやつに! 私が!!)バシャ バシャ

曜「……」バシャ バシャ

善子「抜いた! やったわ曜さん!!」

曜「……っ!」ピトッ

「くそっ……!」ピトッ

善子「やったじゃない! 曜さん! まさか勝つなんて思わなかったわ!」ピョンピョンッ

曜「……」

「折り返してからは私も本気だったんだけど……まさか本当に負けるなんて」ハァ

善子「でも驚いたわ。折り返しから一度も息をしないなんて! すごい肺活量ね」

「えっ? まさか本当に……」

曜「勝ったよ……。善子ちゃん、約束通り……」フラッ

善子「ええ! 何でも言うこと聞いてあげるわ!」

「ヨハネちゃん、曜の様子が変だ」



399: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:48:41.56 ID:Cn1blU3f.net

曜「真っ暗で……何も」

善子「え……?」

曜「……」ザブッ

「曜! どうしたの!? ヨハネちゃん、手伝って!」グイ

善子「曜さん? どうしたのよ、そんなに嬉しいの……?」

曜「」

「これは……マズいかも」ザバッ

善子「しっかりしなさいよ。いくら嬉しいからって気絶しなくても」グイ

「医務室へ運ぼう。手伝ってくれるよね?」

善子「え? ええ……」

……

 医務室

曜「」グッタリ

先生「どうしたの? 顔色が悪いわよ……」

善子「ちょっと気絶してるだけよ。すぐ目覚めるわ」

「先生、過換気は放っておけば治るよね?」

先生「過換気? ええ、大丈夫よ」

善子「かかんき? 何よそれ」

「曜、泳ぐ前に深呼吸してた……」

善子「してたわね。緊張してたんでしょう」



400: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:49:19.20 ID:Cn1blU3f.net

先生「一応、状況を聞かせてくれる?」

「……」

善子「曜さんはこの人と百メートルの勝負をしたのよ。勝った方は負けた方に何でもお願いできるの」

先生「そう」

善子「最初は体半分くらい遅れてて負けそうだったんだけど……後半からどんどん追い上げて行って」

善子「ゴール前で抜いたの! カッコよかったわ……」ウットリ

先生「……」

「私も本気で泳いでたからずっと見てたわけじゃないんだけど……折り返した後の曜、たぶん一度も息してなかったと思う」

先生「五十メートルを息継ぎなしで? 本当なの?」

善子「本当よ! 普通ならあり得ないでしょうね。でも曜さんはできたの!」

先生「まさかその途中で溺れて……」

善子「いいえ! 曜さんは泳ぎきったわ。その後も私と話したし……」

「……」

善子「その後急にフラフラし始めて気を失っちゃったみたいなの。でも曜さんが気を失うなんてよくあることだから」

「よくあるんだ……」

善子「嬉しすぎるとね、つい」フフッ

先生「じゃあ……溺れたわけではないのね?」

善子「ええ。一瞬水に沈んだけどすぐ助けてもらったから」

「はい。すぐ引き上げたので溺れてはいない……はずです」



401: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:49:52.06 ID:Cn1blU3f.net

善子「それはそうと、あなた敬語も話せるのね。ぶっきらぼうな喋り方しかできないのかと思ったわ」

「先生にはいつもお世話になってるから……」

先生「……」

善子「ねぇ、曜さんもいい加減に起きなさいよ」ユサユサ

曜「」ユサユサ

先生「ちょっといい?」スッ

善子「ええ。でもたぶんすぐ起きると思うわよ」

先生「……」スッ

曜「」

先生「瞳孔が開いてる……」スッ

「せ、先生……やっぱり救急車呼びますか?」

善子「いいってば! あなたすぐ救急車呼びたがるのね」

先生「そうね……一応呼びましょうか。ただの過換気だといいんだけど」

ガチャッ

善子ママ「はぁっ……」ゼェゼェ

善子「あ、ママ。心配して来てくれたの?」

「せ、先生!?」ガタッ

先生「何?」

「あ、いえ……こっちの先生です」

善子ママ「私が車で連れて行くわ。救急車呼ぶより早いでしょ」ハァハァ



402: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:50:20.68 ID:Cn1blU3f.net

「私が運びます!」グイ

先生「大丈夫? 私も手伝うわね……」グイ

善子「ちょ、ちょっと! どうしたのよ? 曜さんは溺れてないし窒息もしてないわよ」

善子ママ「善子! 曜ちゃんはね……!」

「先生、急いで!」

先生「ええ」

善子ママ「車! こっちよ!」

善子「……」

ガチャッ バタンッ!

善子「……」

善子「いや、大げさだってば」

善子「息もしてたし心臓も動いてたし、溺れてすらいないのよ?」

善子「……」

タッ

……

……

 沼津総合病院

ピッ ピッ……

曜「……」

「……」



403: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:50:49.14 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「本当によかったわ……命に別状がなくて」ホッ

「ごめんなさい、先生」

善子ママ「あなたは悪くないわ。曜ちゃんと勝負しただけだもの」

「やっぱり私……手加減してあげた方がよかったんでしょうか」

善子ママ「それじゃ曜ちゃん怒るんじゃないかしら」

「ヨハネちゃんに殺されちゃうかな」

善子ママ「ヨハネ?」

「あぁ、先生の娘……」

善子ママ「善子と知り合いなの?」

「よしこ? そういえば曜もヨハネちゃんのことよしこって呼んでたような」

善子ママ「まあ、あの子がそう言ったならそれでいいわよ」

「……」

善子ママ「どういう経緯だったのか聞いても?」

「経緯も何も、私は曜と勝負しただけだよ」

善子ママ「でしょうね。でも善子が絡んでるのは知ってるのよ。その辺り、何か聞いてない?」

「私が勝ったら、曜が何でも言うことを聞いてくれるって言った」

善子ママ「曜ちゃんが?」

「うん。すごい自信があるみたいな口ぶりだった……」

善子ママ「そう……。あなたは現役の選手で、曜ちゃんは一年もプールを離れていたのに」

「でも曜の手、震えてたよ」



404: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:51:56.21 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「そうなの?」

「きっとヨハネちゃんの前でカッコつけたかったんだと思う。それかヨハネちゃんに言わされたか」

善子ママ「……」

「でも、私だって今更曜にお願いしたいことなんてないよ。そうだね……ジュース一本おごらせるくらいかな」アハハ

善子ママ「曜ちゃん、どうしてもあなたに勝ちたかったのね」

「私も驚いたよ。たったの一週間であそこまでタイムを縮めてくるなんて」

善子ママ「昨日は学校を休んでまで練習してたって聞いたわ」

「えっ……」

善子ママ「……」

「これだけ泳げるならもう一度やればいいのに」ボソッ

善子ママ「……あなたも知っているでしょう?」

「あ……当たり前だよ」

善子ママ「曜ちゃんはまた同じことをしたのよ」

「……」

善子ママ「過換気の怖さはあなたも知っての通り。過度な深呼吸で血中酸素濃度を高めて」

善子ママ「呼吸の回数を減らせるから……その分タイムを縮められるわ」

「まさか一度もしないなんて思わなかったよ。あのときだって何回かはしてたはず」



405: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:53:35.58 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「血液がアルカリ性になって、呼吸中枢は呼吸を止める。呼吸が止まればすぐに大脳皮質は酸欠になるわね」

善子ママ「普通はそこで酸素を欲しくなって、呼吸中枢とのせめぎ合いで過呼吸になるんだけど」

善子ママ「曜ちゃんはどういうわけか最後まで呼吸を止め続けた。その上全力で泳ぎ続けるなんて」

「そんなことできるわけない。呼吸なんて止めたくても止め続けられないし……無理に止めれば手足が痺れて動かなくなるよ」

善子ママ「でも曜ちゃんはやったのよ」

「私だって見てないから分かんないよ。私やヨハネちゃんが気づかなかっただけで一度や二度はしたんじゃないの」

善子ママ「私は上の観客席から見ていたわ。半分を過ぎてからは曜ちゃん、本当にただの一度も息継ぎをしなかった」

「……マジ?」

善子ママ「マジよ。大マジ。だから慌てて医務室まで走っていったの」

「……」

善子ママ「過換気で死ぬ人はいないわ。溺れない限りはね」

「溺れてない」

善子ママ「ええ。だから大事には至らないとは分かっていたつもりよ」

「曜はよく気を失うってヨハネちゃんが言ってたけど、本当?」

善子ママ「そんなわけないでしょう。善子がそんなこと言ったの?」



406: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:54:52.84 ID:Cn1blU3f.net

「うん。だから心配しなくていいって」

善子ママ「それはたぶん……善子が曜ちゃんを気絶させているのね」

「気絶させるってまさか……」

善子ママ「無理をさせすぎたときよ」

「あぁ、そういうこと。ヨハネちゃんが日常的に気絶させてるのかと思った」

善子ママ「え?」

「何でもない」

善子ママ「そう……」

(首を締めてたなんて言えないよなぁ……)ハァ

善子ママ「あの時は自己ベストを更新するため。今回は……あなたに勝つためよ」

「……」

善子ママ「過換気は普通はしばらく休めば回復するけれど、曜ちゃんはちょっとやり過ぎたわね」

「あの時……曜がゴール目前で溺れかけたとき、私も見てたんだ」

善子ママ「その時もあなたが助けてくれたって聞いたわ」

「まあね。それで曜は、もう水泳をやめるって言った」



407: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:55:27.86 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「私も……後から聞いたのだけれど、自分の限界を感じたって言っていたらしいわね」

「ここまでやっても世界記録に届かないならやめるって」

「バカだよ曜は。そのときのまだ子どもの体でどうやって大人の出したタイムに勝てると思ったんだか」

善子ママ「自分の中身の成長に体がついていかなかった……いえ、曜ちゃんが背伸びをしすぎたのかしら」

「それだけ曜は期待されてた。最年少でオリンピックに出られるって言われてたくらいだし」

善子ママ「ええ」

「私は曜を止めなきゃいけなかったのに」

善子ママ「……」

「ヨハネちゃんを見てて思ったの。昔の私みたいだなって」

「曜の泳いでる姿が好きで、頑張ってる姿が好きで」

「それを応援してあげたくて……」

「曜のことが大好きだった」

善子ママ「そうよね……。私も気づいていたわ。あなたは曜ちゃんのことが好きだった」

「あの時の曜は……本当はあんたのために頑張ってたんだよね」

善子ママ「そんなことないわよ。私も期待はしていたけれど……」



408: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:55:54.89 ID:Cn1blU3f.net

「あんたに認めてほしくて曜は……」

善子ママ「世界記録を目指してるって聞いたとき、私は『曜ちゃんならきっとできるわ』って言ったわ。でもそれは今すぐにって意味じゃなくて」

「曜は今すぐにだと思ったみたいだよ」

善子ママ「そんな無茶なこと言うわけないじゃない」

「そうすれば大人として見てくれると思った」

善子ママ「……嘘よね?」

「本当だよ」

善子ママ「そ、そんなの……私は聞いてない」

「気づいてたんだよね?」

善子ママ「本当に知らないわよ!」

「何で気づいてやらなかったんだよ!! あんたは曜と付き合ってただろ!!?」バンッ

善子ママ「っ……」ビクッ

「あんたのせいだからな!! あんたさえいなけりゃ曜は……今ごろ私と一緒に強化選手に選ばれてた!」

善子ママ「……」

「まだ知らないふりすんのかよ」

善子ママ「本当に……知らなかったのよ」

「いいよもう。あんたはやっぱりクソババアだ」



409: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:56:26.11 ID:Cn1blU3f.net

ガラッ

善子ママ「……」

善子「クソババアですって?」

「よ、ヨハネちゃん……」

善子「またママのことババアって言ったわね?」ガシッ

「あぐっ……」

善子ママ「善子、やめなさい」

善子「今すぐ土下座して謝りなさい。じゃないと殺すわよ」グイッ

「ぐぁ……」

善子ママ「善子!」ガシッ

善子「放して! こいつはママのこと二度もババアって言った!」ググッ

善子ママ「やめなさい! 本当に死んじゃうわよ!!」グイッ

「く、苦し……」

善子「曜さんはもっと苦かったのよ!! あんたのせいで!!!」

善子ママ「いい加減にしなさい!!」ブンッ

パーン!

善子「ひっ……」ドサッ

「げっほ! おえっ……」ゼェゼェ

善子ママ「曜ちゃんが私に好意を持っていたのは気づいていたわ。先生としてじゃなく……一人の女性として」

善子ママ「あのとき私がきちんと返事してあげれば……」

善子「仕方ないじゃない。ママは先生、曜さんは生徒。付き合うなんて絶対に許されないわ」



410: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:56:55.70 ID:Cn1blU3f.net

「……」

善子ママ「私がはっきり断れてさえいれば……こんなことにはならなかったのよね?」

善子「えっ……? 曜さんはママに断られたって」

「こいつは断ってなんかない。曜の気持ちを知ってて……あえて返事をしなかったんだ」

善子ママ「……」

「私は見てたんだからな。あんたが曜にキスされて嬉しそうにしてるのを」

善子「っ……」

「曜に耳元で『好きです』って言われて『私も』って言うのを!!」

善子ママ「それは変な意味なんかじゃなくて……っ! 曜ちゃんが誤解しただけよ!」

「誤解するって分かってたくせに! 曜はそういうやつだろ!?」

善子「……」

善子ママ「……」

「あんたも曜のこと好きだったんだよな? それとも……曜に好かれる自分が好きだっただけか」

「どっちにしろ最低の教師だよ」

善子「あんたねぇ……! それ以上ママの悪口言うと本当に」ガシッ

善子ママ「善子、やめて」

善子「でも!」

善子ママ「全部本当のことだから……」

善子「……」パッ

「げほっ……。ヨハネちゃんもだよ」



411: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:57:21.61 ID:Cn1blU3f.net

善子「私が何をしたって言うのよ」

「曜はヨハネちゃんのことが大好きなんだよ。そんなの見てれば誰だって分かる」

善子「ええ、そうよ。ママの代わりみたいで腹立たしいけれど」

善子ママ「そんなことないわよ。善子のことは本当の本当に好きなんだわ」

善子「それ、ママが言う?」ジロッ

善子ママ「あ……いえ」

「ヨハネちゃん、自分のためなら曜は何でもしてくれるって知ってたんだよね?」

善子「そ、それは……」

「だから私と勝負しろなんて言ったんだよね。曜にもう一度水泳をやらせたくて」

善子「どうしてそのことを……。曜さんが言ったの?」

「……やっぱりね。そんなことだろうと思った」

善子「くっ……言わされたのね私」

「これでも私、現役の全日本強化選手だよ? 一年もブランクがある曜になんて勝ち目がないじゃん」

善子「でも曜さんは勝ったわ」

「そうだけど! 勝ち目がないって思わなかったの? ヨハネちゃんって本当にバカ??」

善子「うるさいわね! 勝てたんだからいいじゃない」



412: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:57:48.80 ID:Cn1blU3f.net

「私だって最初から本気を出していれば……」

「ううん、負けたのは認めるよ。後半は私も本気だったし」

善子「そうよ。あなたは本気で曜さんに負けたの」

「曜ならどんな勝ち方でもするって……ヨハネちゃんなら分かったんじゃないの」

善子「……」

「曜は好きな人のためなら何でもするよ。自分が死んだって構わないって……本気で思ってる」

「それはあのときも同じ」

善子ママ「……」

「だから私は止めなきゃいけなかった」

善子「手加減ってそういうことだったのね」

「え?」

善子「トイレでの独り言。全部聞いてたわ」

「あ、あぁ……ヨハネちゃん隣にいたんだっけ」

善子「ええ。恋人の前で負けるなんて可哀想だから手加減してあげようって……」

「そっか……聞かれてたか」アハハ

善子「そんなの私が喜ぶと思う?」

「ヨハネちゃんのためじゃないよ」

善子「し、知ってるわよ。あなたは曜さんが無茶をするって分かってたからわざと負けようとした」

「……まあね」

善子「だったら何で負けなかったの」



413: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:58:50.50 ID:Cn1blU3f.net

「ヨハネちゃんがそれ言うの? 本気でやらなかったら怒るって今朝も言ってきたよね」

善子「……」

「いや、それでも私は負けなきゃいけなかった。或いはこんな勝負自体するべきじゃなかったよね」

善子「そうよ。私が本気で勝負するようにお願いした。曜さんにもあなたにも」

善子ママ「善子は知らなかったのよね。あの時のことなんて何も」

善子「……」

「ヨハネちゃんが知らないってこと、私は分かってた。教えてあげればよかったかな」

「いや、私が言うことじゃないか……」

善子「聞いていたとしても、たぶんやらせたわね」

善子ママ「……」

善子「この勝負は曜さんにとって必要なことだったの。今でも私はそう思ってるわ」

「後悔してないの?」

善子「曜さんに苦しい思いさせたのは本当に悪かったと思ってる……。それでも、これ以上逃げ続ける曜さんを見たくなかった」

善子ママ「そう……。曜ちゃんはあれからずっと逃げていたのね」

善子「ママだって気づいていたでしょう? 本当は心のどこかで水泳を諦めきれずにいた」

善子「だから進路だって未だに決められないでいたのよ」



414: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:59:17.92 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「曜ちゃんなら、それでも推薦を受けると思っていたわ」

「推薦? 何のこと?」

善子「曜さんにもスポーツ推薦の話が来ていたのよ。あなたと同じ大学からね」

「う、嘘だろ? 曜はとっくに水泳なんてやめてる……大学だって知らないわけがない」

善子ママ「大学へ進んで、そこでまた水泳をやるのもいいと思ったわ。もうあの時みたいに子どもじゃないもの、曜ちゃんだって同じことは繰り返さないと……思ってた」

善子「……」

善子ママ「もちろん、私が勝手に思ってたわけじゃないわ。曜ちゃんのお母さんがそう言ってきたのよ」

善子「曜さんのママが?」

善子ママ「進路の相談、何度も受けてたから」

「……」

善子ママ「今回、曜ちゃんが善子に水泳を教えてくれるって聞いたとき……私もいいきっかけだと思った。口では言わなかったけれど、きっと水泳をまたやってくれるって期待していたのよ」

善子「ママ……」

善子ママ「善子があなたと勝負させようとしていたのも……理由が分かっていたから止めなかった」

善子ママ「今の曜ちゃんなら、無理をしたりしないだろうって……」



415: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 19:59:45.32 ID:Cn1blU3f.net

「あの時みたいに?」

善子ママ「ええ」

善子「でも私がまたやらせたのね」

善子ママ「善子はあの時のこと知らないって、私だってそんなこと分かっていたわ! 曜ちゃんが自分から話すわけないし……」

「私だって分かってたよ。でも止めなかった」

善子「……」

善子ママ「善子に全部丸投げしていたのよ」

善子「それはママたちのせいじゃないわ。曜さんが自分で考えることよ」

善子「それに……やめようって言う曜さんを焚き付けたのは私」

「曜がやめようって?」

善子「ダジャレじゃないわよ」

「そんなの分かってるから……」ハァ

善子「ごめんなさい」

「いいよ、続けて」

善子「一昨日、曜さんがいつになく弱気だった……。勝てるわけないって泣いていたわ」

「泣いてた?」



416: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:00:12.60 ID:Cn1blU3f.net

善子「ええ。あのとき、私は曜さんがただ甘えているだけだと思って、嫌がる曜さんを無理やり焚き付けたの」

善子ママ「……」

善子「そうよ……。あのとき、曜さんは本当に嫌だったんだわ。だから私をトイレに閉じ込めたりもして」

善子「なのに私、全然分かってあげられなくて……」グスッ

「ヨハネちゃん」ギュ

善子「全部私のせいじゃない!! 私が曜さんをこんな目に合わせたんだわ!」

「それは違うよ。ヨハネちゃんは昔のことなんて知らなかったんだから」

善子「違わないわよ! 昔のことは知らなかった? 関係ないわ!」

善子「曜さんの気持ちを無視して、無理やり勝負させて……」

善子「ママにも言われてたのに、それでも聞かなくて」

善子ママ「……」

善子「曜さんは水泳をやりたいはずだって勝手に思い込んで」

善子「こんな辛い目に遭わせて……」スッ

曜「……」

善子「ごめんなさい……。私が悪かったわ」



417: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:00:40.03 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「……」

「……」

善子「私って最低よね……」グスッ

「そんなことないよ。ヨハネちゃんなりに曜のことを考えてしたんだから」

善子「そうじゃないわ……。こんなときでも私は自分のことしか考えてないの」

善子ママ「……」

善子「曜さんに嫌われたくないって……。目が覚めて私のこと嫌いになってたらどうしようって」

善子「そうなったら私、本当にどうしたら……」ポロポロ

「ならないよ」

善子「そんなの分からないじゃない!」

善子ママ「ならないわね」

善子「どうして!? どうしてそう言い切れるのよ!」

善子ママ「私のこと、まだ嫌いになっていないでしょう?」

善子「っ……」

「二股かよ。最低だね」



418: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:01:11.25 ID:Cn1blU3f.net

善子ママ「今でも曜ちゃんは私のことも好きでいてくれてるわ。もちろん、いちばんは善子だけどね?」

善子「そ、それはそうかも知れないけど……」

「曜もバカだよね。こんなことしてまで勝って、ヨハネちゃんが喜ぶとでも思ったの?」

善子「私……たぶんここ数年でいちばん喜んだわ。何も知らずにバカみたいに」

善子ママ「プールサイドで飛び跳ねてたものね」

善子「そうよ。そのくらい嬉しかったもの」

「そっか……」

善子「でも曜さんは私以上にバカね」

「間違いないね」

善子「私なんかを好きになるから悪いのよ」

善子ママ「もう嫌いになったかも?」

善子「うっ……」グスッ

善子ママ「冗談よ」フフッ

「いや、ここでその冗談はキツくない……?」

善子ママ「とりあえず、曜ちゃんはこのまま安静にしておくしかないわ。お医者様も特段何ともないって仰ってたから……」

善子「私、今日はここにいる」

「まさか目が覚めるまでずっといるつもり?」



419: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:01:38.29 ID:Cn1blU3f.net

善子「ええ。もちろんよ」

善子ママ「……こう言い出したら善子は聞かないから」ハァ

「……じゃあ、曜のことお願い。何かあったら私にも連絡くれると嬉しいな」

善子「ええ」

善子ママ「曜ちゃんのお母さんには私から連絡しておくわ。遅いって怒られるかもしれないけれど……」

「はい」つ

善子「え?」

「連絡先。ヨハネちゃんのも教えてくれる?」

善子「お、教えるわけないでしょう!?」

「えー」

善子「曜さんの連絡先は知ってるわよね? 起きたら連絡させるから」

「そっか。じゃあそれで」

善子「あなたが助けてくれたって、ちゃんと伝えておくわ」

「いいよ、ヨハネちゃんが助けたことにしても」

善子「それは私が納得行かない」



420: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:02:05.80 ID:Cn1blU3f.net

「私が命の恩人って知ったら今度こそ私のこと好きになるかもよ?」

善子「ないわよ」

「絶対に?」

善子「ない……と思うわ。私のことを嫌いになっていなければね」

「あはは。じゃあ私は行くけど……」

善子「ええ。気をつけてね」ノシ

「……」

善子ママ「どうしたの? 帰りも私が送ってあげるわよ」

「ヨハネちゃんから私に手を振ってくれるなんて……夢かな」

善子「あっ……これは別にそういう意味じゃないわ! 普通に友だちとして振っただけよ!」

「友だち? 友だちって言った!?」

善子「言ってない!」

「これは曜が聞いてたらヤキモチ妬いたかもなぁ」

善子「曜さんは妬かないわよ。たぶんニヤニヤしながら見てるわ」

善子ママ「あぁ……きっとそうでしょうね」



421: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:02:32.47 ID:Cn1blU3f.net

善子「とにかく、今日はありがと。ママもね」

善子ママ「ううん。私はタクシーをしただけよ」

「げっ。運賃はツケといてくれる?」

善子ママ「じゃあね。この子送ったら着替えを持ってくるから……それまでは上着を羽織って待ってて」

善子「あ、うん……。そういえば水着のままだったわ」

善子ママ「それじゃ、曜ちゃんのこと頼むわよ」

善子「ええ」

ガラッ

ストッ

善子「……」

曜「……」

善子「曜さん」ユサユサ

曜「……」ユサユサ

善子「本当に寝てるの? 寝たふりしてない?」ペチペチ

曜「……」



422: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:02:59.38 ID:Cn1blU3f.net

善子「よく眠っているわね。まるで赤ちゃんみたいに……」

曜「……」

善子「おやすみなさい。着替えは起きてからでいいわよね?」

曜「……」

善子「それと……」スッ

チュッ

曜「……」

善子「私のこと、好きでいてよね……」

……

……


水泳教室編 終わり



423: 名無しで叶える物語 2018/03/25(日) 20:43:42.97 ID:Cn1blU3f.net

今回もおしっこ要素は少なめでした
次回はシリアスなしでもう少し入れていきます

あと曜ちゃんは無事です
ご心配なく



545: 名無しで叶える物語 2018/04/10(火) 00:47:56.54 ID:xGJq7B1B.net

1です
保守していただいてありがとうございます
もうしばらくかかりそうなので落としてくださっても結構です

今週末には投下できると思います
立てられなかったらどこかで代行をお願いする予定です



元スレ
曜「善子ちゃんをくすぐり続けたら失禁した」その4
http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1520662630/