過去作
二宮飛鳥「スポイル」

【飛鳥の地方巡業】 かりんとう饅頭 黒まるこ



72: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:11:15 ID:l9u

二宮飛鳥「ボクを殺してくれ」



73: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:12:16 ID:l9u

・飛鳥と唯の絡み
・百合ではありません
・ほのぼのです
・地の文ありです



74: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:12:32 ID:l9u

ボクはバスの窓を開けて、吹き込む風に身体を任せた。

車内の喧騒による胸焼けを癒すために。

所属アイドル達の親睦会。

スケジュールなし。

現地解散、日帰り箱根観光。

これも仕事の一環と割り切っている。

割り切ってはいるけど…。



75: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:13:24 ID:l9u

親睦っていうのは自発的に深めるものであって、

他者が企画するのは違和感を覚える。

“さあみなさん、仲良くなりましょう”

まるで小学校の遠足。

浅薄で、軽薄で、幼稚だ。

だけど、ボク以外のアイドルは、

他のアイドルと会話に興じたり、

バスのカラオケで歌ったり

持ち寄ったお菓子を交換している。



76: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:13:49 ID:l9u

ボクはなんとなく外の風景を眺めていた。

それに飽きると、隣の座席に放ってあるバッグをまさぐり、

アイマスクを取り出した。

耳にはイヤホンをはめて、ウォークマンを再生。

視覚と聴覚を外界から遮断。

ボクは一人だ。

一人が、いいんだ。



77: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:14:54 ID:l9u

現地に着くと、各々5人くらいのグループが出来て、

移動が始まった。

ボクはイヤホンをはめたまま、集団から離れて、

単独行動を開始した。

温泉と旧跡が有名な土地だと聞いているけど、

他のグループと遭遇するのも煩わしい。

ボクは、バス停から離れたところにある商店街を徘徊することにした。



78: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:15:25 ID:l9u


ショーウィンドウが曇った婦人服店。

入り口の前に、「処分品」が無造作に積まれた靴屋。

薄暗い、湿った空気の匂いがする駄菓子屋。

錆びついて、グロテスクな表情をしたマスコットの看板。

訪れる者を拒絶する、白いシャッター。

歓楽地のそばとは思えない、退廃的な景観。

愉快ではない…それでも妙に心が惹きつけられるセカイが広がってる。



79: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:15:50 ID:l9u

だけど、大半の店が閉まっているから、ボクはすぐに手持ち無沙汰になった。

スケジュールなし、現地解散。

スマートフォンで駅の場所を手早く調べて、踵を返す。

時刻は13時過ぎ。

昼食はまだ取ってない。

キオスクで適当に……。

Google MAPで自分が動いているのを確認していると、

前方から声が、脳髄に響いた。



80: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:16:45 ID:l9u

「飛鳥ちゃんみ~けたっ!!」

驚いて顔を上げると、赤いキャップに、ふわふわと長い金髪が揺らめく女がいた。

誰だ?

「ボクはキミのことを知らないけど、

キミはボクのことを知っているのかい?」

「ちょいつめた~い!

同じプロダクションの仲間じゃ~ん?」

緩急と、文章だったら感嘆符だらけになりそうな声量。

ギャル言葉ってやつだろうか。

ちょっと奇妙だ。



81: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:17:45 ID:l9u

「本当に申し訳ないけど、名前が思い出せないんだ。

キミの名は?」

「美城プロダクション所属!

埼玉生まれ!

そんで~、今年で17歳!

血液型はB型で、マイペースってよく言われるけど…」

回りくどい話し方。

というか、ボクより3つも年上なのか…。

敬語とか使った方がいいのかな…。



82: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:18:34 ID:l9u

「誕生日が5月7日で~、牡牛座ね。

メスだけどね!

きゃははっ!!」

それから、プロダクションに所属する経緯や

カラオケが趣味であること、好きなバンド、

今日のコーディネートのこだわりについて話したあと、

彼女は“大槻唯”と名乗った。

「それで、大槻さんは」

「唯でいいよ~!

あと、タメ語での~ぷろぶれむだかんね!」

「……唯は、どうしてボクを探していたのかな」

旅のしおりに名前が記してあったとはいえ、ボクらに面識はない。

いや、ひょっとしたらボクが記憶してないだけで、

彼女はボクのことを覚えているのかもしれない。



83: 名無しさん@おーぷん 2018/05/23(水)23:19:01 ID:l9u

「そりゃ~コンプのためっしょ!」

「コンプ?」

「今日は親睦会っしょ?

ゆいはさ、み~んなと仲良くなりたいの!

仲良くなってないの、あと飛鳥ちゃんだけなんよ~」

「ボクはレアカードか何かか?」

「見つけんのマジ苦労したし、プレミアかもしんないね!

きゃははっ!」

なんだか、ゴールデン・レトリーバーに懐かれているような感覚がした。



86: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:05:12 ID:eZ3

「飛鳥ちゃんはさ、お昼まだ~?」

「まだだけど……」

「んじゃさ、ゆいと一緒に食べよ!」

嫌だ、とは言えない。

年長者からの誘いだ。

「さっきさ、路地裏んとこにいいカンジのお店見っけたんよ~♪」

唯は返事を待たずに、ボクの腕を優しく引っ張った。




87: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:05:34 ID:eZ3

彼女の言う店は、先刻通りかかった洋服店の裏側にあった。

扉を開けると、温かな木の香りがした。

控えめな、いらっしゃいませの声。

テーブルが4つ、奥にキッチン。

店内はあまり広くない。

けれど、アンティークなのだろうか、内装から主人の深い造詣が伝わってくる。

だから窮屈さより、“綺麗にまとまっている”という印象が強い。

唯の言う通り、“いいカンジ”。

彼女のキャラクタアからは意外だけど…。



88: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:05:57 ID:eZ3

「何にする~?

好きなの選んでいいよ」

「……自分で払うよ」

「遠慮すんなよ~☆

 お姉さんはカッコつけたいんだぞ!」

断る方が面倒なことになりそうだったので、

ボクは黙って『ペペロンチーノ』を指差した。

シンプルであるつつも、

作り手の力量が如実に現れる、大人のパスタだ。




89: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:07:47 ID:eZ3

「飲み物はー?」

「……マンデリン」

「はいはい♪」

唯は手を上げて、手早く注文を終えた。

「唯は…」

「ん~?」

「唯は、どうしてそんなに楽しそうなんだい?」

彼女は、出会った時から眩しいくらいの笑顔だった。

一体全体、何がそんなに愉快なんだろう。

脳内麻薬が絶えず分泌されているのだろうか。



90: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:08:44 ID:eZ3

「笑う角には福来る、って言うじゃん?

 ゆいにはさ、必要なの」

「福が?」

「うん」

唯は人差し指で、自分の?を撫でた。

「今は戦国時代っしょ?

 アイドルの」

それは、ボクらにとって逃れようのない現実。

現在のアイドルは大量生産され、かつ大量に消費されていく。

グループ単位での売り出しが基本となり、

そのグループは代替可能なメンバーで構成される。




91: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:09:14 ID:eZ3

供給はほぼ暴走状態に陥っているような状態で、

最低限のレッスンを受けた一般人に、

アイドルのラベルが次々に貼られていく。

あたかも、個性の価値を抹殺するように。

そんな残酷なセカイで、ボクらは。

「ボクらは、生き残らなくちゃいけない」

それがたとえ、同じプロダクションの人間であっても。

無慈悲に、容赦なく。

「だから、唯は“福”を求めるのかな」

唯は笑った。

胸が締めつけられるくらい、甘く、悲しげに。



92: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:09:32 ID:eZ3

「ゆいはさ」

「うん」

「ゆいは多分、いろんな子を傷つけることになるんだろうね。

…そんで多分、傷つくこともあるんだろうね」

ボクも。

“あの子さえいなければ、私はアイドルを続けられたのに”

そう思われる日が来る。

思う日も、あるかもしれない。



93: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:10:00 ID:eZ3

「それでもアイドルになったこと、後悔したくないよ。

後悔するようなこと、起こってほしくないよ…。

だから」

唯は笑い続けるだろう。

きっと、“後悔するようなこと”が起こったとしても。

「それに、思い出はキレイな方がいいじゃん?」

彼女はまた、?を人差し指で撫でた。




94: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:10:19 ID:eZ3

パスタがやってきた。

「わっ、美味しそ~!」

唯はボロネーゼを注文していた。

ソースがたっぷりとかかっていて、

挽き肉のジューシで、濃厚な香りがする……全然、羨ましくないけどね。

「いただきます…」

ペペロンチーノをすすると、大蒜とオリーブオイルの甘みが

口いっぱいに広がった。

遅れて、ピリッと唐辛子が引き締める。

素直に美味しい。

きっとボロネーゼも美味しいだろう……

まあ、ボクは全然ペペロンチーノでいいけど。



95: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:10:36 ID:eZ3

「飛鳥ちゃん、ちょっと食べさせて!

 ゆいのもあげるからさ~」

「しょうがないな…」

年長者からの頼みなら断れない。

ボロネーゼをすくって口に含むと、

肉の甘みが舌にじわり、じわりとしみた。

外見からは気づかなかったけれど、

細かく刻まれた蓮根の歯ごたえが小気味好い。

「おいしっしょ?」

「そうだね……まぁボクはペペロンチーノの方が好きかな」

「ふ~ん?」



96: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:11:06 ID:eZ3

パスタを食べ終えると、

ほどなくしてドリンクがやってきて、

皿が取り下げられた。

食事の終わりは、コーヒーで締めくくるのが一番……。

「……ッ!!!」

いつもより、ほ、ん、の少しだけ苦い。

ただ苦いだけではなく、口に含んだ後に甘みや酸味、

香ばしさの奥行きが感じられる。

……強がりじゃないぞ。




97: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:11:38 ID:eZ3

「あ~、ゆいもコーヒー飲んでみたいな~」

「ボクはもう大体分かったから、交換してもいいよ」

「やった~!

飛鳥ちゃんありがとう!」

ジンジャーエールには、既製品とはちがう、

立体的な風味があった。

すりおろした生姜が使われているようで、

ジュースというよりはスムージーを飲んでいるみたいだ。

パスタのこってり感、コーヒーの苦味が残る口の中が

さっぱりして気持ちいい。




98: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:11:57 ID:eZ3

「にっが~!

 飛鳥ちゃんは大人だね!」

「フフ……ごちそうさま」

店を出ると、静かな風が髪を撫でた。

ボクは商店街を歩きながら、唯に色んなことを話した。

プロダクションに所属した経緯や、

漫画を描くのが趣味であること、好きなラジオ番組、

今日のコーディネートのこだわりについて。




99: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:12:14 ID:eZ3

唯はよく笑った。

気づくと夕方になっていて、

ボクらは記念写真を撮って別れることにした。

「飛鳥ちゃん、笑って」

それは何気ない一言だったと思うけれど、家に帰った後も、

ボクの胸の奥で木霊した。



100: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:12:42 ID:eZ3

翌日、ボクは早くにレッスンルームに着いた。

室内には、ダンスのフォームを自分で見るために、

壁の一面が大きな鏡になっていた。

笑う角には福来る。

鏡に向かって微笑みかけると、ぎこちない顔をしたヤツがいた。

笑う、笑う……唯みたいに。

「やっほ~、あすかだよ♪

 今日もボクの笑顔でみんなをメロメロにしちゃうから、 

 覚悟……し、と」

鏡が突然の来訪者を知らせる。

ボクのプロデューサーだ。

「……ボクを殺してくれ」

そう呟いた時のボクは、割と良い笑顔だった。



101: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/05/26(土)21:12:48 ID:eZ3

おわり


元スレ
二宮飛鳥単独合同SS会場
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1526223834/