2: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)00:11:49 ID:84y

二宮飛鳥「スポイル」



3: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)00:14:25 ID:84y

・微エロです
・気分を害するかも
・胸糞というほどではない…ようにします
・地の文



4: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)00:17:11 ID:84y

アイドルになって2年目の夏、ボクは台無しにされた。




5: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)00:28:34 ID:84y

原因は背伸びと好奇心。

結果は後悔と、悲しみと、取り返しのつかない傷。

“事”の発端は16という数字。

2の4乗だったり、ポンドが16進法だったり。

アメリカ合衆国の、16代目大統領がエイブラハム・リンカーンだったり…。

そして、女性が結婚できる年齢だったりする。



6: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)00:33:50 ID:84y

「飛鳥は来年16か」

そうプロデューサーに言われたとき、ボクは不意にドキっとした。

将来の夢がお嫁さんなんてさ、

頭の中が見下げ果てる程フラワーでハッピーだった頃、知った。

女の子は、16歳になったら……。



8: 名無しさん@おーぷん 2018/05/14(月)14:56:53 ID:84y

ボクが濃密な時間を共に過ごす異性といったら、

父親以外にはプロデューサーしかいない。

ボクは、疑いようもなく彼に依存していた。

こっちが少々痛いところのある小娘だからって、

ボクの話を無視したりしなかった。

そして、そんな小娘でも、世界が変えられるって

教えてくれたから。



9: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)00:06:03 ID:cG4

だから、ボクはプロデューサーに聞いた。

「それは、ボクと結婚したいってことかな?」

精一杯、冗談めかして聞いたんだ。

そしたら、プロデューサーはなんだか変な目でボクを見て、黙った。

気まずくなって、話はそこで流れた。

その日から、始まったんだと思う。

いや、終わっていたのかも。

まどろっこしい言い方だけれど…。




10: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)00:13:19 ID:cG4

ボクの高校はアイドル活動に理解があって、

いや、そういう高校を選んだんだけど、

なにかとユウヅウを利かせてくれた。

好きなだけ休ませてくれるってわけじゃないけど、

授業に出ないことをとがめることもなく、

補修を組んでくれるし、

委員会にも、部活にも入らなくてよかった。

でも、高校生をサボっていたツケは、

浅からぬ痛みをボクに与えた。



11: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)00:26:05 ID:cG4

学校には居場所がなかった。

当然だ。作らなかったんだから。

ボクはライブ会場を観客で埋めることはできたけれど、

クラスメイトとの距離を埋めることはできなかった。

思い出したように学校に行って…すっかり置いてけぼりになった授業を

形だけは真面目に聞いていた。

落第はしなかったけど、成績は下から数えたほうが早かった。

ボクには高校生とアイドルを両立する気が無かった。

中退してもいいとすら思っていた。

社会に出るための準備?

いい大学に行くため?

いい仕事にありつくため?

ボクはもう、立派に稼いでいる。

アイツらとはちがう。

でも、ほんとうは。

ほんとうはもっと…。



12: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)00:32:21 ID:cG4

試験のヤマを張り合ったり。

くだらないおしゃべりを、みんなとしながら

文化祭の準備をしたり。

隣のクラスの誰々がカッコイイとか、気になるとか…。

そういうことをしたかった。

するべきだった。

いや、できたのに。

ボクはつまらない意地を張って、壁をつくって、

自分がクラスメイトより、いかに優れているか。

そんなことばかり考えるようになってた。



15: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)18:25:46 ID:cG4

ボクは、相手からすれば思いもよらないような、

あやふやなで虚しい劣等感にまみれていた。

そんなボクは、聞いてしまった。

クラスメイトのオンナの子が、彼氏と初体験を済ませた、という話を。

その子が、自慢げに話している様をボクは見た。

“当てつけか”と思った。イライラした。

アイドルが恋愛禁止だと知っていて、そういう話をボクのちかくでしたのか。

そんなわけがない。

当たり前の女子高校生のちかくに、当たり前でないやつがいただけだ。

ボクはムカついて、乱暴に席を去った。

馬鹿にしやがって。



16: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)18:43:36 ID:cG4

その日の放課後、ボクはプロデューサーに電話をかけて、

自分で行けるはずのスタジオまで、わざわざ送ってもらうことにした。

べっとりとした黒色のセダンの車内で、信号待ちの時、

ボクはプロデューサーに言った。

「おかしなことになっている」

「なにが…」

返事がくる前に、

彼の首を後ろにねじり上げるようにして、唇を重ねた。

ロマンチックの欠片もなく、トキメくこともなかった。

ただ息苦しかった。




17: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)19:03:12 ID:cG4

「ボクは、おかしなことになっている」

唇を離したあと、ボクは言った。

プロデューサーは何も言い返さなかった。

正直に打ち明けると、ボクはプロデューサーを心底、

自分の全てを捧げてもいいってくらい、

好きなわけじゃなかった。

でも、彼なら大丈夫だって思った。

何もなかったことにしてくれるって、そう思っていた。



18: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)19:23:15 ID:cG4


そして彼が黙っていたから、ボクは引き返す機会を見失ってしまった。

2人きりの時は、息苦しいキスをした。

2人きりでなくとも、しきりに彼の身体に触れた。

冗談ですむ場所を選んで。

もっと過激なスキンシップをしているアイドルもいたから、

ボクら…いや、ボクの行為は大した問題にならなかった。

けれども、ボクが勝手に抱えこんだ劣等感という問題は、

一向に解決の兆しを見せなかった。

背中をなぞっても。指にふれても。

髪を撫でても、胸の奥で、砂の混じった風が叫んでいる。

ちがう、そうじゃない。




19: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)19:37:10 ID:cG4

ボクのスキンシップは、からっぽだ。

意味がない。価値がない。

血が通っていない。あったかくない……。

むしろ、すればするほど、何かが喪われていくような気さえした。

ボクは解を求める順番も、使う公式も、滅茶苦茶だった。

もっと、数学をきちんと勉強しておけばよかったのかな。




20: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)19:47:39 ID:cG4

ついにボクは、間違った解にたどりついてしまった。

美城プロダクションの東棟、地下2階、予備資材室。

あまり人気のない、かつ、

アイドルとプロデューサーが

長時間2人っきりでいても言い訳がつく場所。

夏なのに 、ひどく底冷えする部屋だった。




21: 名無しさん@おーぷん 2018/05/15(火)19:51:35 ID:cG4

※ここから人によっては不快になるシーンがあります。

ここまでの文章で、「こんなのは飛鳥じゃない」「腹が立つ」「気持ち悪い」

と感じた方はブラウザバック推奨です。




22: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)00:03:54 ID:Trt

建て付けの悪いドアは、小さな悲鳴をあげて開いた。

中には、いつ使われたのか分からない看板や、

誰がどのイベントで着たのか、判別がつきかねるほど古びた衣装、

再生できるのか怪しいフィルム、

元がなんだったのか分からない布切れが散乱していた。

不思議と埃は舞っていなかった。

「さて」

ボクは、大人しくついてきたプロデューサーの方を向いた。

「どう、しようか」

声が震えていた。

延髄からつま先に、

鉄棒がつきぬけたみたいに、身体がぎこちなかった。



23: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)00:21:52 ID:Trt

この期に及んで、ボクはプロデューサーに甘えていた。

なんとかしてよ。

彼はボクの服に手をかけた。

ボクは、空のように白いワンピースを着ていた。

襟を広げられると、あっけなく、それは落ちた。

寒かった。

やがて、へその下の方で、赤熱したクギがゆっくりと、

肌と肉の隙間を焼いた。



24: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)00:33:23 ID:Trt

激痛が、ボクの甘い幻想を黒く焦がして、現実に引き戻した。

やめて、とプロデューサーに頼んだ。

冷たい汗と血が、床を汚した。

彼は止まれなかった。

彼の理性も焼け焦げていたのかもしれない。

ボクは叫んで助けを呼ぶことはしなかった。

誰かがやって来たら、いままでの全てが水の泡になると、

頭が妙に冷静だった。

けれども、身体は動揺を隠せていなかった。

ボクは昼食のメニューを再び目にすることになった。



25: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)00:39:45 ID:Trt

部屋の外に出たとき、そばには知らない男がいた。

そして、ボクはボクじゃなかった。

ひどい頭痛がした。

頭の中で、踏切の音が鳴り続いているような。

廊下には、他に誰もいなかった。

地上までの階段がやけに遠く感じた。



28: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)21:39:55 ID:Trt

家に帰った時は、ボクは努めて平静を装った。

演技レッスンの賜物だろうか、父さんも母さんも、

至極いつもどおり、実の娘に接してくれた。

ボクは1週間ほど仕事も学校も休んだ。

熱が出た。身体の節々がギシギシと軋んでいた。

ベッドの上で、プロデューサーのことを考えた。

尊敬と信頼が、気後れと警戒に取って代わっていた。

ボクはその気持ちが一過性であることを祈った。



29: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)21:49:40 ID:Trt


ゴールデンウィークならぬ、シルバーウィークならぬ、

青く錆びついた銅色の一週間を過ごした後、

ボクはいつになく殊勝な顔をして登校した。

補修をどうしようか。そういう気持ちだった。

教室の扉をまたいだ時、クラスメイト達はちらりとボクの顔をみたけれど、

そこから誰に声をかけられるでもない。

教室の人波をすいすいと避けて、ボクは自分の席に着いた。



30: 名無しさん@おーぷん 2018/05/16(水)21:58:06 ID:Trt

異変が始まったのは、担任による出席確認が行われたときだった。

その男は30半ばの、ちょうどプロデューサーと同じ世代の年齢だった。

彼が、二宮飛鳥、と呼んだとき、ボクの頭の中で踏切の音がした。

こめかみがじくじくと、血を流しているような感覚を覚えた。

汗が目尻にたまって、顎から落ちるとき、ボクはようやく、

絞り出すように返事をした。



31: 名無しさん@おーぷん 2018/05/17(木)00:10:13 ID:shF

ボクがいつも通り気だるげにしていると思って、気にかけることはない。

それに対して、場違いな苛立ちをおぼえた。

窓から吹き込む7月のセミの鳴き声だけを聴いて、高校生をやり過ごした。

放課後、プロデューサーにLINEした。

電話をする度胸がなかった。

“おかしなことになっている”

ボクは繰り返した。

“二宮飛鳥は、おかしなことになっている”



32: 名無しさん@おーぷん 2018/05/17(木)00:29:20 ID:shF

既読がついて、小1時間くらいした後、

“ごめん”と返信があった。

責めているつもりはなかったのに。

なんだか可笑しかった。

可笑しくて、階段の踊り場に座りこんで、膝を抱えた。

あの部屋みたいに、床がつめたかった。







35: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)22:10:13 ID:kza

ボクはアンドロフォビアになってしまった?

そんなアイドルがどこにいる?

ライブはどうする? バラエティは?

入院するか? 治るのか?

何日かかる?  その間の活動は…。

ボクは恐慌状態に陥っていた。踏切の音がした。



36: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)22:22:28 ID:kza

自分1人の問題で片がつかないことは、

この、16歳の小娘にだってわかる。

相談しなくちゃいけないだろう。信頼のできる大人に。

ボクがもっとも信頼している大人に。

プロデューサー…。

情けない声が、リノリウムの床に吸い込まれた。




37: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)22:40:11 ID:kza

ボクはプロダクションに歩いて向かった。

電車やバス、タクシーは駄目だった。

プロダクションは学校から17kmほど。

到着には3時間弱かかる。だけど、それがよかった。

途上でボクは“ごめん”の意味を考えていた。

彼の言葉の意味が、ボクにはまるで理解できなかった。



38: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)22:51:46 ID:kza

過去を償うための“ごめん”か、

これから起こることへの“ごめん”なのか。

後者だとしたら、“さようなら”と捉える方が正確かもしれない。

ボクはプロデューサーと共に歩む自信を喪失していた。

けれど、彼以外と一から関係を築く計算もろくにできなかった。



39: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)23:03:30 ID:kza

大通りを避けて歩いていたからか、話しかけてくる者はいない。

ボクはそのことが不思議と悲しかった。

誰にも見つけてほしくないのに、誰かに見ていてもらいたい。

前者は生理的な、先天的な気持ちで、

後者は、いわば職業病のようなものかもしれない。

道端で、ボクは叫び出しそうになった。



40: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)23:27:05 ID:kza

プロダクションについたのは、空がオレンジ色から、

黒々とした紫色に変わった頃だった。

ボクは、途中でスニーカーを買わなかったことを後悔した。

靴擦れがひどく、純白のソックスに赤黒い、

形容しがたい模様ができていた。

美城プロダクションは、ゴシック建築の様式を倣ってつくられている。

ホールには、高齢者・身障者に不寛容な長さの階段がある。





41: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)23:43:11 ID:kza

一段を登ると、冷たい汗が背筋を下へとなぞった。

足取りが落ち着かず、ふらふらしている。

まるで無理な減量をしたボクサーのような気持ちだ。

足がひどく痛む。血が噴きだす。

途中で、美城の女性社員に声をかけられた。

「こんにちは」

ボクは彼女のことを知らないが、彼女はボクのことを知っているようだ。



42: 名無しさん@おーぷん 2018/05/18(金)23:50:18 ID:kza

「大丈夫ですか。様子がおかしいですよ」

全てがカタカナのような、極めて事務的な声色だった。

「魔法がね」

ボクは答えた。

「魔法がね、早く解けすぎたみたいなんだ」

相手は、怪訝な顔をした。



43: 名無しさん@おーぷん 2018/05/19(土)19:31:10 ID:iTn

プロデューサーは総務課にいるという。

本館の6階、廊下の突き当たりだ。

エレベーターを使うことはできず、ボクは這々の態で6階まで登りきった。

墜ちていく。

喉がカラカラに乾いて、視界にフラッシュを焚かれている。

再び、こめかみに痛みを覚えた。

踏切だ。ボクは、踏切の上に立っている。

このままじゃ電車がやってくる。






44: 名無しさん@おーぷん 2018/05/19(土)19:47:59 ID:iTn

ボクは座り込んで、廊下の奥の扉を見つめていた。

もうすぐだ。もうすぐ……。

そう思ったとき、総務課から人が吐き出されてきた。

目と目が逢う。

“ごめん”。ボクは小さく呟いた。

二宮飛鳥は台無しにされた。

他の誰でもない、ボク自身がそうした。



45: 名無しさん@おーぷん 2018/05/19(土)20:01:46 ID:iTn

「アイドルを…」

ボクは、アイドルを辞める。

そう言おうとした。できなかった。

ボクは震え上がっていた。

プロデューサーにじゃない。

アイドルでなくなった自分の未来に。

ボクからドレスを剥ぎ取ったら、何が残る。



46: 名無しさん@おーぷん 2018/05/19(土)20:09:53 ID:iTn

ボクからドレスを剥ぎ取ったら、何が残る。

窮屈なローファーを履いて、黒板の前に立つのか。

そして顔を伏せて、「わかりません」と言って、

自分の席に戻って、縮こまる。

いやだ。

貯めたお金で、誰もボクのことを知らない国へ行って、

誰とも関わらず、孤独に生きるか。

すべてに怯え切って、「ボクは何も知らない」という顔をして、

ロッキングチェアに腰をかけて、外をまぶしそうに眺める。

いやだ。



47: 名無しさん@おーぷん 2018/05/21(月)20:22:15 ID:mhn

「ボクを…、ボクをアイドルにしてくれ」

泣きそうな声が出た。

「もう一度ボクをアイドルに…」

戻ることができないなら、やり直したい。

プロデューサーは、俯いて、

首を左右に弱々しく振った。

そして、力が抜けたように崩れ落ちた。



48: 名無しさん@おーぷん 2018/05/21(月)20:42:51 ID:mhn

ボクは悟った。

本当に、台無しになった。

二宮飛鳥は今、本当に台無しになった。




49: 名無しさん@おーぷん 2018/05/21(月)20:42:59 ID:mhn

おわり


元スレ
二宮飛鳥単独合同SS会場
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1526223834/