なでしこ「恵那ちゃんとリンちゃんってどういう関係なの?」


なでしこ(正月、浜松のおばあちゃん家に向かう電車内にて)

なでしこ(ぼんやりと外を眺めていたリンちゃんは、脈絡なくぶつけられた質問にぱちくり瞬きした)



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2: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:42:38.10 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(目をほんの少し細め、咎めるように訊いてくる)


リン「何だよ、いきなり」

なでしこ「ええとね、」


なでしこ(慌てて、私は台詞を付け足した)

なでしこ(声がぶれないように、早口になりすぎないように)

なでしこ(いつもの各務原なでしこに見えるように)

なでしこ(悟られないように、気をつけながら)


なでしこ「なんとなく気になっちゃって。恵那ちゃん、昔からリンちゃんと仲良しじゃない? でも、リンちゃんは頑なに恵那ちゃんを"斉藤"って呼んでるから。あきちゃんやあおいちゃんだって下の名前で呼んでるのに」

リン「えっ、犬山さん達も? あいつ、いつの間に仲良くなってたんだな」

なでしこ「……リンちゃんって、あんまり周りを見てないよね」


なでしこ(じとっとした視線を送ると、リンちゃんはばつの悪そうな表情を浮かべた。どうやら自覚はあるらしい)





3: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:45:05.62 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(咳払いをしてから、私は話を再開する)


なでしこ「ともあれ、一番付き合いの長いリンちゃんだけが名前呼びじゃないから、なんか気になっちゃったんだよ」

リン「なるほど、そういうことか」


なでしこ(得心のいったようにこくこく頷くリンちゃん)

なでしこ(その様子を見ながら、私はこっそり胸をなで下ろした)

なでしこ(よかった、あの様子だと、多分気づいていない)

なでしこ(私が知りたいのは、リンちゃんの恵那ちゃんに対する想いだ)

なでしこ(リンちゃんは恵那ちゃんにどういう気持ちを抱いているか、どういう関係だと思っているか)

なでしこ(……恵那ちゃんがどれくらい大事な存在なのか。それが知りたいだけだった)

なでしこ(そのまま尋ねても教えてくれないだろうから、婉曲的な訊き方をせざるを得なかったんだけど)

なでしこ(でも、リンちゃんは気づかなかったみたいだ)





4: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:46:58.00 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(溜め込んだ息をゆっくり吐くと、いつの間にか下がっていた頭を持ち上げる)

なでしこ(拍子に窓の外の景色が目に飛び込んできた。住宅、土、木、川、橋、緑)

なでしこ(がたんごとんという音に乗せて流れ行くそれらは、寒さのせいか妙に白んで見えた)

なでしこ(首を傾げ、私はリンちゃんの目を見て言う)


なでしこ「どうして"斉藤"って呼んでるの?」

リン「そうだなあ……」


なでしこ(リンちゃんは腕を組むと、空を仰いで「う〜ん」と唸る)


リン「なんだろうなあ。そう聞かれても、「これ!」って断定できるような理由はないんだよな」

なでしこ「そうなの?」

リン「うん。強いて言うなら、なんとなく、かなあ」





5: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:48:30.12 ID:RgVBGVgV0



なでしこ「ふうん」


なでしこ(私は眉尻を下げた)

なでしこ(駄目だよ、リンちゃん。それじゃ足りない。そんな漠然とした理由じゃ私は満足しない。満足出来ない)

なでしこ(とはいえ、リンちゃんはこういう駆け引きに鈍感なように思える)

なでしこ(私が何を求めているか見抜いていて、敢えて答えをはぐらかしているようには見えない)

なでしこ(リンちゃんは恵那ちゃんではないのだ。もちろん私でもない。……当たり前だけどね)





6: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:49:56.58 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(となると、これはリンちゃんにも答えが分かっていないと見るべきで)

なでしこ(だから、私は答えが出るように誘導しなければならない)

なでしこ(揺さぶりをかけ、心の奥深くに眠る答えを引き出さなければならない)

なでしこ(ショック療法を試みるのだ)


なでしこ「じゃあさ、リンちゃんは――」


なでしこ(極めて何でもないことのように、私は問いかける)


なでしこ「――恵那ちゃんのことが好き?」





7: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:51:56.38 ID:RgVBGVgV0



リン「好きだよ」


なでしこ(即答。さっきとは対照的だ)


リン「斉藤は、私の大切な友人だよ。あいつとくだらない話をしてる時間が私は好きだ。たまにちくわの写真を見せてくれるのも好きだ」
 

なでしこ(リンちゃんは緩やかに笑う)


リン「……最近はキャンプに興味を持ってくれるようになって、ちょっと嬉しかったりする」


なでしこ(その口調、態度に、私は面食らった)


なでしこ「そ、そうなんだ。リンちゃん、恵那ちゃんのことが大好きなんだね」

リン「大好きってほどじゃ……。……いや、そうかもしれないな」


なでしこ(頬を少しだけ赤くし、首元をぽりぽりと掻くリンちゃん)





8: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:54:28.48 ID:RgVBGVgV0

なでしこ(そっか、と思った。リンちゃん、恵那ちゃんが大好きなのか)

なでしこ(嫌いなわけないだろうと踏んではいたけれど、これは予想外だった)

なでしこ(予想以上に、リンちゃんは恵那ちゃんのことを好いていた)

なでしこ(……でも、それなら)


なでしこ「それなら、どうして頑なに名前呼びなの? 私やあきちゃんは名前呼びなのに」


なでしこ(尋ねると、リンちゃんはぽかんと口を開けた)


リン「……確かに。何でだろう」


なでしこ(言うと、リンちゃんは顎に手を当て、難しい顔で俯いた)





9: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 11:57:12.73 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(獲物を探す肉食獣のような目付きだった)

なでしこ(誰にそれを向けるわけでもない。多分、それは自分に向けている)

なでしこ(何かいい答えはないのか、頭の中という広大なサバンナをくまなく探しているのだ)

なでしこ(今のリンちゃんは考える人だった。外見的にも、内実的にも)
 
なでしこ(私は何も言わなかった。物言わず、ひたすら思考の海に沈んでいるリンちゃんが目の前にいるのだ。どうして言葉なんて発することが出来よう)

なでしこ(リンちゃんの考えを邪魔してはいけない。私は何も言えなかった)

なでしこ(車内に響き渡るのは、線路の上で打ち鳴らされる列車のステップの音だけだった)

なでしこ(がたんごとん、がたんごとん、がたん、ごとん)


リン「……違うんだよな」

なでしこ(不意に、リンちゃんが語り始める)





11: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:00:47.21 ID:RgVBGVgV0



リン「なんか違うんだよ、斉藤となでしこじゃ。言葉にできないんだけど、何かが絶対的に違う」


なでしこ(私はリンちゃんの顔を見る)


なでしこ「何かっていうのは、その。……向ける気持ちが違うってこと?」

リン「そうじゃない」


なでしこ(リンちゃんは首を振る。そして、真顔で言った)


リン「斉藤を下の名前で呼んだら、何かが終わる。何が終わるかは分からない。友情が終わるのかもしれないし、キャンプ仲間とか愛犬家とかのある側面での付き合いが終わるだけかもしれない。世界が終わるくらいの衝撃的なことかもしれない。でも、何かが終わることは間違いない。そういう確信があるんだよ」

なでしこ「…………そっか」


なでしこ(私は、リンちゃんから目を背けた。極めていつも通りを装って言う)


なでしこ「リンちゃんにとって、恵那ちゃんは大事な、特別な友達なんだね」

リン「別に、特別視してるわけじゃないけど」
 

なでしこ(真顔が崩れた。不機嫌そうに、照れくさそうにリンちゃんは言う)





12: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:10:35.87 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(嘘だよ、と思った)

なでしこ(私やあきちゃんを名前呼びにしている一方で、「何かが終わるから」と名字呼びを貫き続けるだなんて)

なでしこ(そんなの、特別視以外の何物でもない)

なでしこ(大体、名前呼びしたくらいで何かが終わるなんてあるだろうか)

なでしこ(急に友達が名前呼びをしてきて、怒って友情が崩壊するだなんて。そんなのよっぽどの特例じゃないと起こり得ないよ)

なでしこ(むしろ、逆だ。嬉しいと感じるのが普通だろう)

なでしこ(少なくとも、私がその立場だったら間違いなく喜ぶ)

なでしこ(つまり、これは気持ちの問題。リンちゃんは否定していたけど、明らかに理由はリンちゃんの気持ちのせいだ)

なでしこ(友情が終わるわけはない、終わるのはリンちゃんの気持ち)

なでしこ(今恵那ちゃんに向けている、特別な"友人"という気持ちが終わる。そして、新たな気持ちが生まれる)

なでしこ(リンちゃんが言ったのは、つまりはこういうことだった)

なでしこ(……本人は気づいていないみたいだけど)






13: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:13:48.34 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(はあ、と息を吐く)

なでしこ(リンちゃんは、恵那ちゃんのことが大好きだった。私が思っていたよりもずっと)

なでしこ(リンちゃんの一等星は恵那ちゃんだったのだ。それが、痛くなるくらいわかった)

なでしこ(……でも、それ)


なでしこ「リンちゃん。その話、恵那ちゃんにしたことある?」

リン「その話って?」

なでしこ「恵那ちゃんが大切な友達だってこと」

リン「え? いや、別に。付き合い長いし伝わってるだろ」


なでしこ(平然と、リンちゃんはそんなことを宣わった)





14: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:14:59.85 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(私は唾を飲んだ)

なでしこ(やっぱり、リンちゃんは周りを見ていない)

なでしこ(あんなに近くにいる恵那ちゃんのことでさえまるで分かっていない)

なでしこ(盲目と言っていいぐらいの鈍感具合だ。私は、いっそ戦慄さえ覚えた)





15: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:15:55.44 ID:RgVBGVgV0



なでしこ(列車がトンネルに入った)

なでしこ(車内は急に暗くなり、窓の外には暗闇が蔓延るばかりだ。木も家も川も土も橋も、緑もない)

なでしこ(がたんごとんというステップが車内に響き渡る)


なでしこ(トンネルを抜け出すのはいつになるのだろうかと、私は考えた)





16: ◆mL2ZRk1cK. 2018/06/27(水) 12:24:02.70 ID:RgVBGVgV0



これで終わりです。リンちゃんはキャンプと美味い飯と顔のいい女のことしか考えていない。

なんかまとめサイトのコメントで私の作品がドロドロしているとかいう指摘を受けたんですけど、ドロドロしてる……? と首を捻りました。
明るい話とまでは言いませんが、ドロドロ書いてるつもりは全くなかったんですが……。



17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/06/27(水) 12:54:06.92 ID:HFqrWiaBO

最高だからまた書いてな!!


元スレ
SS速報VIP:【ゆるキャン△】なでしこ「リンちゃん、恵那ちゃんのことが大好きなんだね」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530067214/