4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:18:22.08 ID:R9zAvj1S0


―きっと、浮かれていたんだと思う。

俺は、もっと慎重になるべきだった・・・・・

過去改変のツケ・・・・・・それだけで十分に懲りていた筈だったのに・・・・・・



――――追憶のランダムウォーカー



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:21:40.60 ID:R9zAvj1S0


―久々にみんなで集まってワイワイ騒ぐ。
アイツに言わせればスイーツ(笑)の女子会(笑) ってところか。

研究一辺倒だった私に対して向けられる、世間一般の色眼鏡で見ずに接してくれる・・・・・・
そんな人達と引き合わせてくれたアイツには感謝している。
日々のアイツに言いたい事は山ほどあるけど。              ・・・・・・そう、山ほど。


U「僕も・・・・・・そろそろ、失礼します。 ・・・・・・結局、間に合いませんでしたね・・・・・・」

女「・・・・・・まあね」

女「なんか研究も忙しいみたいだし。 ようやく『らしく』なってきたんじゃないかしら?」

こんな皮肉を言える事も、今は嬉しい。

女「“思索中だー!”とか言って一日ゴロゴロしてた時よりよっぽどマシ」

F「ニャニャ?それはノロケなのかニャ?」

女「―ッ! そ、そんなんじゃないッテ!」

F「ニャニャーンw 声が裏返ってるニャ それに・・・・・・」

女「な、なに?」

F「目を見ればバレバレニャ☆」                 IDが変わってたorz

女(///



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:24:26.60 ID:R9zAvj1S0

―楽しい時間は過ぎ、ひとりで町を歩く。
午後6時21分
末広町駅から、御徒町方面へ5分ほど歩いたところにある古い喫茶店。
流行を追わない、どこか懐かしい作りのお気に入りの店。
レトロな出窓が可愛い。
窓際の席に座って、届いたメールを読み返し 不覚にも口元が緩む。


件名:俺だ
本分:会議は終わってしまったか? 今向かっているがまだいるのか?!


女「必死だな(w」


尊大に振舞う癖に、変に律儀で小心者で・・・  まったくw カチカチ・・・


件名:Re:俺だ
本分:みんなは帰っちゃったよ。 私はまだこっちにいるから、来るなら早く。


女(送信・・・と) Pi



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:26:47.68 ID:R9zAvj1S0



大体30分くらいだろうか?このコーヒーを飲んで出れば丁度くらいか。


女「あ・・・雨・・・」


薄暗い空から 舐めるように雨水が路面を覆っていく―


女(ああ、ちょっと疲れたかも・・・・・・)


ぼんやりと外を眺めていくうち、ふぅっと意識が遠のいていく


女(どうしよう・・・・・・ 結構・・・・・・降ってきたなぁ・・・・・・)

女(傘・・・・・・持って・・・・・・ここまで・・・・・・来て・・・・・・もらうか・・・・・・な・・・・・・)






8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:29:11.40 ID:R9zAvj1S0

Doooooon!!

女「!?」

凄まじい雷の音に意識が引き戻されると、店内は一瞬停電していたようだった。
うす暗い照明がチカチカと瞬いている。
私はというと、まどろみの心地よさと凄まじい刺激のギャップからか、軽い眩暈を催していた。
・・・・・・驚きすぎだ、私。 ああ・・・・・・心臓がバクバクしている。

轟々と響き渡る程の雨と風。 アイツは大丈夫だろうか?
この様子だと、列車も止まりかねないが・・・・・・
そんな事を考えながら窓の外を見ていた私の背後に、ふと異質な視線を感じた。

客は私一人だと思っていた。 広くはない店内。入店時に人は居なかった筈だった。
だが・・・・・・少し離れた奥の席から、じっとこちらを見ている。 ・・・・・・男。
くたびれた服。目深に被ったハンチング
はみ出す髭も髪も長く伸び、手入れされている様子はない。

歳は40くらいだろうか。いや、30? ・・・・・・だが本当はもっと若いようにも思えた。
ただ、およそ若さを感じられない。そんな暗い瞳でこちらをずっと見ているのだった。




9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:31:19.89 ID:R9zAvj1S0



女(やだ・・・・・・なんか怖い・・・・・・)


ただならぬ、どこか現実離れした男の雰囲気に私の心が警鐘を鳴らす。
頭の中で別の私が「関わるな」と訴えかける。


女「あの・・・・・・」

男「!?」


―悪い癖だ。
首を擡げた好奇心は、私の心を満たしていた警戒心も恐怖も押しのけ、私を支配していた。
気付けば男の方へ近寄り、声を掛けていた。


男「-ッ 俺を・・・・・・」


男は目を丸くし、まるで縋るような目で私を見上げてきた。


男「・・・・・・覚えているのか?」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:34:00.92 ID:R9zAvj1S0

? 覚えている? 私が? この人を? いや、覚えのない感じだが・・・・・・


女「いいえ・・・・・・ごめんなさい、どこかでお会いしましたっけ?」

男「・・・・・・そうか・・・・・・すまなかった」

男「・・・・・・覚えていないということは、つまり俺たちは知り合いじゃなかったって事だろう。」

女「変に引っかかる言い方されますね。つまり人違いだったんでしょう?」

男「いや、俺はお前を知っている。大切な・・・・・・仲間だった」

男「だが、お前が俺を知らないって事は、つまり知り合いじゃなかったって事だ」

女「? 変な事を仰いますね。仲間だったのに知らないだなんて」

男「そうだったかも知れないって事だ。だが、そうじゃないって事は、違うんだろう」






12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:36:02.65 ID:R9zAvj1S0

段々腹が立ってきた。この男、私をからかっているんだろうか?


女「はいはい。じゃあ、お聞きしますけど、私の名前くらい言えますよね?『仲間』なら」

男「マキセ・・・・・・クリス」

紅莉栖「!!」(いや、名前くらい分るはず。論文とか見てた人かも知れないし)

男「7月25日生まれ。」

―ドクンと心臓が脈を強める

男「血液型はA。身長160cm・・・・・・体重は、教えてくれなかった」


そう言うと、男は口元を歪ませた。笑ったようにも、泣いたようにも見えた。




13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:38:20.40 ID:R9zAvj1S0

紅莉栖「・・・・・・オ、オーケー。少なくとも、私を知ってることは分りました。でも、貴方が言ってる事が
正しいとして、貴方は私を覚えているのに、何故私は貴方を知らないの?」

男「・・・・・・残念だが、それを答える意味は無い」

紅莉栖「無責任だわ。貴方に話しかけたのは私だけど、一方的な情報を出しておいて詳細は伝えない
     とか、私は納得できない。ちゃんと説明して下さい」

男「お前には分らない事かもしれないが、たとえ話したとしてもお前は忘れてしまう。少なくとも
  俺の主観では。明日には無かったことになってしまう・・・・・・だから話す意味は無い。」

紅莉栖「全然わからないし、納得できない。説明をすることが、例え貴方の主観で無意味だとしても
     私にとっては無意味なことなんかじゃない。・・・・・・説明して」

男「・・・・・・」

男「荒唐無稽だ・・・・・・信じられないと思うかもしれないが・・・・・・仮定と思って聞いてくれ」

紅莉栖「かまわないわ」

男「・・・・・・そうか・・・・・・」

男「・・・・・・2010年・・・・・・8月。・・・・・・俺と・・・・・・お前・・・・・・牧瀬紅莉栖は、この秋葉原の一角に
  俺が構えた『ラボ』で世界線に関わる研究をしていた・・・・・・・・・」




15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:40:22.11 ID:R9zAvj1S0




岡部「リーディングシュタイナーを再現する?」

紅莉栖「そう。そのリーディングなんたら」

岡部「リーディングシュタイナーだ」

紅莉栖「はいはい厨二乙。 名前なんてどうでもいいの」

岡部「 」

紅莉栖「いい?岡部。 アンタにこの間、簡易だけど脳マッピングをしてもらったでしょ?」

岡部「ああ。 タイムリープマシンによる脳へのパルス送信用モデルを作るんだったか」

紅莉栖「そう。 その過程でわかったんだけど。 アンタの脳に特異な反応を見つけたの」

岡部「フ・・・・・・フゥーハハハ! 当然だ! 何しろ俺は
紅莉栖「黙って聞け」

岡部「 」

紅莉栖「結論から言う。 岡部の脳と普通の人の脳は、モノの認識に大きな差がある」

紅莉栖「岡部にある、主に右脳の空間認識中枢と海馬の特異なリンク構造を再現しようと思うの」

岡部「・・・・・・つまり ・・・・・・どういう事だ?」




17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:42:33.16 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「まず、岡部は空間把握の仕方がちょっと違う」

岡部「どういう意味だ?」

紅莉栖「空間認識能力って聞いた事あるでしょ?」

紅莉栖「この能力自体は脳細胞全体に散らばってて、三半規管や視覚からの情報を加味したりして、    
     右脳にある空間認識中枢で処理している」


紅莉栖「これは先天的に優れていなくても、経験と訓練でも獲得できるものでもある。でも、
    それはあくまで主観による方向で、実際の方向であるとは限らない。相対的なものなの。
    この認識のズレが起こす事故の代表が飛行機パイロットの空間失調、『バーティゴ』ね」

紅莉栖「そして同時にこの能力は時間感覚とも密接な関係にある」

橋田「体内時計って奴かぉ?」


PCに向かっていたダルが不意に話題に加わってきた。 エロゲ三昧は相変わらずか。
こいつめ。最近は外出ばかりして未来ガジェットの製作もおざなりである。




18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:44:46.68 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「混同されやすいけど、ちょっと違う。体内時計は、単純なのは細菌にもあるくらい。
    時間認識は、ええと・・・・・・例えば、朝ご飯食べてからどのくらい経ったか? ・・・・・・とか。
    そういった、特定時間点からの経過時間を判断する力のこと」

岡部「・・・・・・腹が減っているのか?」

紅莉栖「ーッ!! うるさいな! 少しよ、少し!」


紅莉栖が頬を膨らませて抗議する。 なるほど、11時47分。  正確なもんだ。


まゆり「あのね~ まゆしぃ☆もお腹がすいてきちゃったのです☆」
 

まゆりは相変わらずコス作りに精を出している。 
ところで、気のせいでなければまゆりは30分前に唐揚げを食べているのだが。


岡部「フッ・・・・・・まぁいい。 確かに丁度いい頃合いだ」

岡部「俺も腹が減った。続きは飯の後だ」




19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:47:26.64 ID:R9zAvj1S0




紅莉栖「この・・・・・・『男の極み』ってカップ麺、一体どこから・・・・・・」

橋田「オイラの謎肉入りヌードルと替えるかぉ?」


そう言って差し出したカップ麺は、既に半分程まで減っており、件の「謎肉」も存在が危ぶまれる。
しかし、紅莉栖のカップ麺熱も中々のものだ。ダル秘蔵のカップ麺コレクションの中から、目聡くも幻のキムチカレーラーメンをチョイスするとは・・・・・・


紅莉栖「いや、これはこれで」 ズルズル

岡部「ほえで(それで)、さっひ(さっき)の話だが・・・・・・」

紅莉栖「食べながら話さないでよ・・・。 時間感覚の話ね」

紅莉栖「まず脳内は空間認識と時間認識を同じ中枢部位で処理してる訳。ここまでOK?」

岡部「ああ」

紅莉栖「で、アンタの海馬の記憶中枢と右脳の空間認識中枢は特異なシンクロ二ティを見せている。それこそホットラインと呼んでいいくらいにね」

紅莉栖「実証してないから仮定の域を出ないけど、この中枢同士のホットラインがアンタの言う 『能力』と関係してるは間違いないと思う」





20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:49:46.51 ID:R9zAvj1S0

少々分りにくいが、その時は何となく合点がいった。
強固に直接繋がれた記憶と時間・空間認識が、世界線という「空間」の移動後も
自我と記憶を保つ為のキーになっているのだ と。


岡部「・・・・・・つまり、俺の脳にあるホットラインを再現することで第三者にも俺の持っているような
   リーディングシュタイナーの能力を発現させる訳だな?」

紅莉栖「・・・・・・理論上は、ね」

岡部「設備はどうする?」

紅莉栖「被験者を私と岡部に限定するなら、電話レンジにオプション付ける程度で済むと思う。
    脳内マッピングも済んでるし、プログラムもさほど難しくないと思う」

岡部「!? -つまり、お前が被験者になるという事か?」

紅莉栖「長期的な研究なら他に被験者を頼むこともできるかも知れないけど、まず無理だもの」

紅莉栖「第三者に頼むのが普通だけど、当然相応に倫理問題がからんでくるし、お金もかかる。
    そうなれば正規の研究機関が不可欠になってくるもの。それは難しいでしょ?」


もっともな話だ。 世間一般からしたらトンデモの部類に入る理論を基にした研究で 
『脳を弄らせてくれ』といって素直に弄らせてくれる人がどれ程いるだろう。

岡部「・・・・・・」

まゆり「ねぇねぇ紅莉栖ちゃん?わたしは紅莉栖ちゃんの言ってることよくわかんないけど・・・・・・
    あぶない事は好きじゃないのです・・・・・・



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:51:52.76 ID:R9zAvj1S0

それまで黙っていたまゆりが心配そうに口を開いた
言い知れぬ不安を顕わにした俺の顔色を見ていて、思うところがあったのだろう。
タイムリープマシン然り、脳内に直接作用させるものだ。 不安で無い訳が無い。


紅莉栖「大丈夫よ、まゆり。 まあ、実験の為の実験みたいなもんだから」

まゆり「でも、頭の中イジるって、考えただけでぞわぞわ~ってなるよ・・・・・・」

紅莉栖「弄るっていっても岡部の脳に似せるだけだし、当の岡部の脳はちゃんと生きてるし、
    心配ないわよ」

紅莉栖「もっとも、岡部みたいになるってのはちょっとキモイけどw」

橋田「-!!」

岡部「失礼な奴だな。このIQ170の天才的頭脳に向かって『キモイ』とは」


橋田「・・・・・・牧瀬氏、『キモイ』ってもう一回。できたら蔑んだ眼で」

岡部「・・・・・・ダル、自重しろ」

橋田「フヒヒ」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:55:07.84 ID:R9zAvj1S0

勤めて明るく答える紅莉栖に、まゆりは少し安心したようだ。同時に、俺の不安も和らげてくれた。


まゆり「ん~じゃぁ2人とも、無理はしないでね~。
    それじゃあ、まゆしぃ☆はちょっと出かけてきます☆」

岡部「ん? ルカ子のところか?」

まゆり「ううん、由季ちゃんとこ。 コスの仕上げに行くのです☆」

岡部「そうか。気をつけてな」

橋田「ェエ工!? オイラ何も聞いてないぉ?」




23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 02:57:19.81 ID:R9zAvj1S0

ダルはマジ泣きしそうな勢いだ。 
・・・・・・まったく。予定通りとはいえ、この魔法使いへのクラスチェンジが確実視されていたダルが、
コスプレ界の綺羅星・街を歩けば10人が10人振り返るような美少女と連れ添う日が来ようとは。
そういえばアレ以来、アキバの街のあちこちで壁の亀裂が増えたという話を聞いたが。 

・・・・・・何か関係があるのだろうか。


まゆり「大丈夫だよ~ダル君☆ 
    由季ちゃんからちゃんと『一緒に居たらつれてきてー』って言われてるから」

橋田「ウホッ!mjd?」

まゆり「ダル君は愛されてるねー エッヘヘー☆」

橋田「じゃぁオカリン 悪いけどオイラも言ってくるでゴザル!」ビシッ☆


体に似合わず見事な敬礼。 ミリオタの気は無い筈だが、それはそれ。オタの素養ってやつか。


岡部「フ・・・・・・ ああ、気をつけてな」

さて・・・・・・紅莉栖と2人っきりになってしまった。
だが、まゆり達には内緒で聞きたい事があった分、結果としてこれは好都合だった。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:02:13.57 ID:R9zAvj1S0




岡部「―紅莉栖」

紅莉栖「ふぇっ? なにっ?」


まゆり達がラボを後にして、突如訪れた静寂
至極自然に声を掛けたつもりだったのだが、紅莉栖はに驚いたのか、頓狂な声を上げる。


岡部「正直に言ってくれ。何故いまリーディングシュタイナーを再現する必要がある?」

紅莉栖「それは、その・・・・・・」

岡部「お前には話をした筈だ。お前に記憶が無くても、俺はお前をもう傷つけたくない」

紅莉栖「岡部・・・・・・」


―紅莉栖とラジ館前で再開し、ラボメンとして迎え入れてから暫くして、俺は紅莉栖に
世界線移動に関する俺の顛末をかいつまんで話していた。

―全てがゼロになった筈だった。
・・・・・・だが、結果として再びラボには電話レンジ(仮)が製造され、タイムリープマシンの完成も目前だった。
正直これは誤算だった。
どこかの世界線の鈴羽が言っていたように、紅莉栖もまたマッドサイエンティストの気質があったという事なのだろう。
自身の知的好奇心には勝てなかった訳だ。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:06:32.30 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「有り難う。でも、これは岡部の話を聞いた上で決めた事だから」

岡部「・・・・・・正直、これまでの話をすべきだったのか、今でも悩んでいる」

紅莉栖「私もね・・・・・・」

紅莉栖「最初は岡部が言う世界線がどうとか、過去改変がどうとか。
      一体コイツは何をトンチンカンな事を言ってるのかと思った」

岡部「そう・・・・・・だろうな」


最もな感想だ。・・・・・・だが、面と向かって言われるとやはり凹む。


(ダルの1人称は「ボク」でしたね。 まぁ、この後もう出てくる予定無いけどw)



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:10:30.14 ID:R9zAvj1S0



紅莉栖「だけど、アンタ何時になく真剣そうだった。・・・・・凄く辛そうだった」

紅莉栖「だから、何となく信じられた。岡部の脳内マップの違いに気付いたとき、確信に変わった。
    私には他の世界線での記憶は無いけど、私のために凄く苦しんでくれたのがわかったから」

岡部「・・・・・・そうか」

紅莉栖「だから・・・・・・そんな岡部の気持ちを、ちょっとでも知りたいから・・・・・・かな」ゴニョゴニョ

岡部「ん?声が小さくてよく聞こえんが」

紅莉栖「こっ、これはあくまで今後また世界線にアンタが関わった時に移動の度に説明をする手間を省く、
     あくまで効率化の為の処置で、別に今までの事を忘れるような事になりたくないとか、
     悩むならこの先も一緒に悩んであげたいとか・・・・・・そんなんじゃないんだからな!」


岡部(なんというツンデレだ・・・・・・それは)




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:12:46.22 ID:R9zAvj1S0

岡部「と、兎に角。お前が興味本位でやろうとしてるんじゃない事はわかった」

紅莉栖「納得?」

岡部「そもそも、お前の頭脳は信頼しているからな」

紅莉栖「サンキュー。でも、それだと信頼できないものもあるみたいないい方ね?」

岡部「・・・・・・どうだろうな(・・・・・・料理だとは言えん)」

岡部「―では、俺は何をすればいい?」

紅莉栖「そうね、じゃぁ・・・・・・」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:15:50.03 ID:R9zAvj1S0




紅莉栖「最初に説明した通り、設備は電話レンジの改造で足りたわ」


配線作業を終え、紅莉栖がPCの影から顔を出したとき、時刻は夜の10時を回っていた。
ラボには俺と紅莉栖だけが残っていた。ラボにはPCのモーター音だけが響いている・・・・・・
改良には2日を要した。いや、2日で済んだ。と言うべきか。
この2日間でダルはプログラムを組んでくれた。流石我が右腕。この世界線でも頼りになる男だ。

紅莉栖は機材を片手に解説を始める。
タイムリープマシン用に改造されたヘッドセットには、新たに複数のセンサーと端子が追加されていた。

紅莉栖「これで脳内をモニターしつつ、空間中枢と記憶中枢にパルス信号を送る。
    脳に送られた信号はシナプスの変成を促して中枢同士の『バイパス』を作る。
    バイパスは通常の人間より時間記憶の結びつきを強くしてくれる
    これで、もし世界線の移動が起きたとしても、空間の変異に作用されず記憶を維持できる」

紅莉栖「世界線を移動しても移動前の記憶を保ち続ける能力とその再現・・・・・・ これが私の解よ」


紅莉栖は得意気に腕組みして、少し大げさに無い胸を仰け反らせた。


岡部「・・・・・・そのキメポーズ、立派にマッドサイエンティストだなクリスティーナ」

紅莉栖「なっ・・・・・・!」(カァァッ

やはり無意識か。耳まで赤いぞ、紅莉栖。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:18:34.85 ID:R9zAvj1S0


岡部「・・・・・・最初の被験者には俺がなろう」


マッドサイエンティスト呼ばわりされ狼狽する紅莉栖に、俺はソファからゆっくりと歩み寄った。


紅莉栖「えっ?」

岡部「俺の脳を再現するという事は、失敗しても俺ならプラスマイナスゼロということだろう?」

紅莉栖「・・・・・・多分」

岡部「それに・・・・・・お前が先に実験をしたとして、万が一があった場合、俺にタイムリープマシンを
   完成させるのは難しいだろう。 ・・・・・・お前ならわかる筈だ。」
   
紅莉栖「理屈ではね。・・・・・・でも」

岡部「俺も・・・・・・お前の決意に答えたいだけだ」

紅莉栖「!! 聞こえてたんじゃないかっ!バカっ!市ねDT!」

岡部「なっ!?・・・・・どっ どどど、どの口が言うか!」

紅莉栖「五月蝿い!HENTAI!やるなら早くしろ!」

岡部「む、むぅ・・・・・・」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:22:27.64 ID:R9zAvj1S0




岡部「では、頼んだぞ」


俺はヘッドセットを被りスイッチに手をかけた。

・・・・・・ジリジリとラジオのノイズのような音が響く。
それは耳からではなく直接脳内に届き、痺れにも似た感覚が覆っていく・・・・・・ 

ぼんやりとした感覚、暗くなる視界の先に仄かな光球が見えたように思えた、その刹那

「バチンッ」と音を立てるように光球は爆散し、同時に脳は激しくシェイクされた


岡部「ぐっ・・・・・・うぉぉぉぉぉ!」


懐かしくも忌まわしいあの感覚。世界線を移動した、あの時のような脳内を掻き回される感覚。
頭が痛い・・・・・・目を見開くも、前を見る事などマトモに出来ない。視界が歪む・・・・・・




40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:24:48.51 ID:R9zAvj1S0




頭痛と眩暈がゆっくりと収まり、俺は必至で呼吸を整えた。深呼吸したところで、やっと楽になる。

・・・・・・まだ少しぼやけた視界の先で紅莉栖が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた


岡部「紅莉・・・・・・栖?」

紅莉栖「岡部? ・・・・・・大丈夫?なんとも無い?」


視界がはっきりしてくると、紅莉栖が少し涙目なのが見てとれた。まぁ、あれだけ大声を出せばな。


岡部「・・・・・・その話しぶりだと、俺は世界線を移動してはいないようだな・・・・・・」

紅莉栖「・・・・・・う、うん。多分だけど」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:27:22.58 ID:R9zAvj1S0


岡部「はっきりとは分らんが、実験は成功したと見ていいだろう。少なくとも俺はなんとも無い」

紅莉栖「そ、そう」(ホッ

岡部「丁度、リーディングシュタイナーが発動した感覚とよく似ていた。そう言えば分るだろう?」

紅莉栖「うん、なんとなくだけど・・・・・・」

岡部「どうした?浮かない顔だな」

紅莉栖「・・・・・・ごめん。ちょっと心配しちゃったかr・・・・・・なんでもない!」

岡部「・・・・・・すまんな。前にも説明したと思うが、あの感覚は気分のいい物じゃないんでな」

紅莉栖「・・・・・」

岡部「・・・・・・無理にお前が実験する必要はないぞ。怖いならやめておけ」

紅莉栖「ううん。岡部にだけ任せてられないよ。
     ・・・・・・それにこの実験自体失敗で期待した効果が得られなくても、岡部の感覚を擬似体験出来ることはわかったから」

岡部「 」

紅莉栖「・・・・・・アホ面に磨きかけてないでw私もやるから、手伝って」

岡部「う、うむ」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:30:02.31 ID:R9zAvj1S0




紅莉栖「くぅ・・・・・・ああぁぁぁぁあっ・・・・・・」

時間にして約1分。ふらつきながら紅莉栖がヘッドセットを外して振り返った

紅莉栖「き、きつぅ・・・・・・アンタよくこんなのに耐えてられるわね・・・・・・」

岡部「望んで体験しているわけじゃないぞ」

紅莉栖「それもそうね。てことは、物好きは私のほうか・・・・・・」

岡部「フッ・・・・・・そうなるな。 コーヒーでも飲むか?」

紅莉栖「サンキュー。いただくわ」

コーヒーを入れ、ソファに腰掛ける。顔を洗って戻ってきた紅莉栖がストンと隣に腰掛けた。

紅莉栖「・・・・・あぁ、まだクラクラする。でも、貴重な体験させてもらったわ」

岡部「随分コストはかかったがな」

事実、この「追加装備」に費やした費用は電話レンジをタイムリープマシンへとアップグレードした費用を上回っていた。
この1ヵ月でラボの財政は火の車である。




45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:32:26.55 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「研究にお金はかかるものよ。マッドサイエンティストならご存知じゃなくって?」

岡部「ついに自分の脳まで弄ったお前に言われたくはない」

紅莉栖「・・・・・・(クスッ」

岡部「? なんだ?」

紅莉栖「・・・・・・ちょっと安心しただけ。何も起きなかったのを喜ぶなんて、科学者失格ね」

岡部「それでもいいさ」

紅莉栖(フフッ・・・)

岡部「/// -ッ んー、あー、今日はもう遅いぞ。どうするんだ?」

紅莉栖「・・・・・・そうね、ちょっと洗濯物も溜まってるし。・・・・・・今日はホテルに戻るわ」

岡部「ん、そうか。」

紅莉栖「なんてマヌケ面w明日はオフなんでしょ?お昼には来るから。じゃあね」(チュッ

岡部「-!! ななななななあqwせdrftgyふj」


動揺する俺を尻目に、紅莉栖は手をひらひらさせてラボを出て行った。
唇型に熱を持つ頬をさすりながら、俺は閉じたドアを見つめていた・・・・・・



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:35:07.29 ID:R9zAvj1S0




―轟々と音を立てて雨が降る。
静かな店内は余りに対称的で、ここが隔離された世界であるかの様にさえ思わせる。
冷めたコーヒーの苦味が、辛うじてここが現実である事を確認させてくれた。

紅莉栖「貴方のお話を聞く限り、私達は随分仲が宜しかったようですね。」

男「・・・・・・」

男は答えなかった。その代わりだろうか。視線を窓へ逸らせ、短く溜め息を付いた。

紅莉栖「実験は事実上失敗だった。何も起きなかった」

紅莉栖「それなら、貴方を忘れる様な事にはならないと思いますけど。最も、貴方の言う・・・・・・
    アトラクタ・・・・・・フィールド?世界線理論ってのが正しければの話ですけど」

男「・・・・・・」

男「・・・・・・そうだな」

男「・・・・・・結論から言えば、正しかったし、間違っていた」

紅莉栖「またそういう言い方をするんですね。私をからかってるんですか?」


いい加減、この男の遠まわしな言い方には辟易していた。語尾も強くなろうものだ。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:38:28.80 ID:R9zAvj1S0


男「・・・・・・言い方が悪かった」

男「実験による、期待された結果は得られていた。・・・・・・だが、それだけじゃなかった」

紅莉栖「?」

男「異変に気付いたのは翌日になってからだった。」

男「その時の俺は・・・・・・前日の実験以来、眠れぬまま過ごしていた・・・・・・」




52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:40:37.90 ID:R9zAvj1S0




岡部(・・・・・・結局、一睡もできなかった)

岡部(おのれ紅莉栖。強力な精神攻撃をしていきおって・・・・・・)




岡部(・・・・・・しかし、・・・・・・・どうしたんだ?)


そろそろ夕方に差し掛かろうというのに、紅莉栖は顔を見せなかった。時間には正確な筈だが・・・・・・
昼から幾度となく携帯に連絡を取ったものの、応答はなかった。

落ち着かない気持ちを紛らわそうと窓の外を見る。雲が多いせいか普段より薄暗く感じる。
・・・・・・胸がざわつく。「あの日」の記憶が蘇る まさか。そんな事は。


俺はラボを飛び出し、紅莉栖の泊まるホテルへと向かった。
あの紅莉栖がここまで連絡を寄越さないのはおかしい。何があったんだ。まさか・・・・・・SERN?



電車に乗ろうと駅まで来た時だった。

今は閉鎖されたラジ館。明かりも何も無いシャッターの下にうずくまる、見慣れた姿を見つけた。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:42:42.24 ID:R9zAvj1S0


岡部「紅莉栖?」


俺の声に力なく顔を上げる。その顔は、見慣れた気丈さの欠片も無いほど虚ろだった。


岡部「おい、紅莉栖! どうした!? 俺だ!わかるか?」


声を掛けると、少しずつ紅莉栖の焦点があっていく


紅莉栖「岡・・・・・・部?」

岡部「紅莉栖・・・・・・あれから何があった? ラボから帰った後、ホテルで何か起きたのか?」

紅莉栖「ラボ・・・・・・ホテル・・・・・・ あ・・・・・・あぁ・・・・・・ 岡部?『あの日』の岡部なの?」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:45:05.62 ID:R9zAvj1S0


華奢な体からは想像も出来ないような力で両腕を掴まれた。 
「あの日」って何だ?昨日の実験の事を言っているんだろうか?


岡部「何だ? 何を言っているんだ」

紅莉栖「・・・・・・なんとも・・・・・・ないの?」

岡部「徹夜してしまったことで少し眠気があるくらいで、他に問題はない」

紅莉栖「寝て・・・・・・ないの・・・・・・?」

岡部「・・・・・・ま、まぁ、な。」
―うぉっ


それを聞くと紅莉栖は涙を溜めて俺に縋り付いて来た。声を上げて泣く紅莉栖・・・・・・


紅莉栖「岡部っ・・・・・・おかべぇええぇ! うわぁぁぁぁぁっ!!」


外傷はないようだが・・・・・・一体・・・・・・どうしたというのか。
理解が追いつかない俺の腕の中・・・・・・紅莉栖は泣き続けた。

(なるほど ルミ保。 か)



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:47:35.22 ID:R9zAvj1S0




人目も憚らず泣き続ける紅莉栖を抱えるようにラボへ連れ帰った。

ソファに座る頃には幾らか落ち着いたようだったが、話し始めるには更に時間を要した。




・・・・・・日が翳る頃、紅莉栖がつぶやくように話し始めた

紅莉栖「・・・・・・実験は・・・・・・成功してた・・・・・・でも・・・・・・それだけじゃなかった・・・・・・」

岡部「なにが・・・・・・起きたんだ・・・・・・?」

紅莉栖「・・・・・・わからない・・・・・・もう・・・・・・確かめようも無いけど・・・・・・推測なら出来る・・・・・・」

紅莉栖「・・・・・『あの日』の実験で、私たちは脳の構造に干渉した・・・・・・でも・・・・・・
     それはやってはいけない、触ってはいけない領域だったのよ・・・・・・」

岡部「そんな筈はない。2人とも何ともなかったし、現に俺は何とも無いぞ!?」

紅莉栖「・・・・・・それは岡部、アンタが『眠っていない』からよ」

岡部「!?」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:49:37.13 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「・・・・・・実験前の推測は概ね合っていたわ。脳の役割もね・・・・・・」



紅莉栖「違っていたのは、それが時間という存在そのものを決めていたということ・・・・・・」

岡部「なんだそれは?・・・・・・『時間』が、『存在』?」

紅莉栖「世界は世界線に沿って流れていくって・・・・・・そう、言ってたわよね?」

岡部「・・・・・・ああ、俺はそう聞いた。実際にその様に働いているようだしな」

紅莉栖「その前提自体が間違いだったのよ・・・・・・」


そう言い放つと、紅莉栖は天を仰いだ。


その瞳は、闇の中にいる様な暗く光の無い色をしていた。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:53:02.47 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「時間は・・・・・・流れじゃないの」

紅莉栖「今の1秒の世界と、次の1秒の世界は繋がっていない・・・・・・別の世界なのよ」

岡部「なん・・・・・・だと?」

紅莉栖「・・・・・・厳密には1秒よりもっと短い。・・・・・・素粒子の振動レベルで、だろうけど・・・・・・」

紅莉栖「今の世界と・・・・・・それに近しい確率・・・・・・
     つまり、因果律をもつ少しだけ状態の異なる世界を選択し意識と記憶を接続する。
     ・・・・・・連続した『現在』は『意識』という『主観』から見ればコマ撮り写真で動画が出来る様に、繋がって見える・・・・・・
     ・・・・・・これが・・・・・・時間の正体」

岡部「では・・・・・・俺たちは・・・・・・?俺たちがやったことは何だったんだ!?」

紅莉栖「・・・・・・私は・・・・・・私たちがやった『実験』は・・・・・・
     この因果と記憶を順序良く繋げていく、自分という世界を保つ器官を壊しちゃう行為だったの・・・・・・」


紅莉栖は・・・・・・再び目に涙を溜めて声を震わせた。

なんだ・・・・・・? 訳がわからない・・・・・・ 説明は明快であった・・・・・・だが、心に届かない・・・・・・
足が震える・・・・・・ 夏だというのに・・・・・・ やけに・・・・・・ 寒い・・・・・・




62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:55:19.29 ID:R9zAvj1S0


岡部「だッ・・・・・・だが、俺たちはこうして話しているじゃないか!?」

紅莉栖「・・・・・・起きてて意識のある間はね。脳の他の器官が代替するのか、大丈夫みたい・・・・・・」


紅莉栖「でも眠って・・・・・・意識が途絶えると・・・・・・起きた時は・・・・・・違う時間・・・・・・違う世界・・・・・・」

紅莉栖「私も・・・・・・何度もやり直そうとした。ラボのある世界ではDメールも送った・・・・・・
    何度も、何度も繰り返した・・・・・・・ でも、駄目だったみたい・・・・・・」

岡部「・・・・・・まさか・・・・・・お前はずっと移動を続けていたのか?」


紅莉栖はコクリと頷いた。 そして・・・・・・涙を一杯に溜めたまま笑顔を見せた。


紅莉栖「・・・・・・よかった・・・・・・もう・・・・・・会えないかと思ってた・・・・・・」

紅莉栖「あれから沢山の世界で・・・・・・沢山、沢山・・・・・・岡部と会ったけど・・・・・・」

紅莉栖「・・・・・・私の・・・・・・す、好きな岡部は・・・・・・一人だけ・・・・・・だから・・・・・・」

岡部「ーッ!」


爆発しそうな感情のやり場もなく、俺は紅莉栖を抱き締めた。
俺にとってはたった十数時間。紅莉栖は、一体どれだけの時間を過ごしてきたんだろう・・・・・・
・・・・・・嬉しい筈なのに。・・・・・・涙が・・・・・・溢れた。




63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 03:58:01.49 ID:R9zAvj1S0




どの位そうしていただろう。
外はすっかり暗くなり、雨音が微かに聞こえていた。


静かに・・・・・・ 静かにただ、雨音を聴いていた・・・・・・


胸元に顔を埋める紅莉栖が沈黙を破ったのは、雨音が少し激しさを増した頃だった。


紅莉栖「・・・・・・岡部」

岡部「なんだ・・・・・・?」

紅莉栖「人は・・・・・・眠らずにはいられないわ」

岡部「―ッ!!」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:00:34.79 ID:R9zAvj1S0


「眠れば、この世界から移動してしまう」
・・・・・・そう聞いて恐怖に似た感情を抱くものの、前日から徹夜している俺は、この頃には既に限界に差し掛かっていた。
呼吸が乱れたか? 視線か? 多分、紅莉栖もそれを察したのだろう。


紅莉栖「もう・・・・・・会える事も無いかもしれない」

岡部「!!・・・・・・何を言って
紅莉栖「聞いて」

紅莉栖「・・・・・・貴方もきっと、目覚めた時には違う世界線に居るわ」

紅莉栖「・・・・・・そして、それを繰り返す事になる・・・・・・」

紅莉栖「だからお願い。もし『あの日』に辿り着く事が出来たら、あの日の私達をとめて欲しいの」

岡部「それも可能性の問題か」

紅莉栖「そうね・・・・・・」

紅莉栖「全てはもう遅いのかもしれない・・・・・・でも、それしかないから・・・・・・」

岡部「わかった・・・・・・誓おう・・・・・・」


この先、どれだけ長かろうと『あの日』の紅莉栖を救ってやる。
俺は、残る意識の限り紅莉栖を抱き締めた。




68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:03:17.74 ID:R9zAvj1S0




男「・・・・・・そうして俺は、またも世界線の漂流者になった」

男「時折、大きな跳躍はあるものの。多くは似た世界線の時間点に目覚めるんだ」

男「光を失った脳が必死で似た世界を探しあてる結果なんだろうな。
  1日2日くらいの幅で似た世界を繰り返し続けるんだ。少しずつ違う、同じ毎日をな」


男「学生時代に目覚めた時は、全て夢だったんじゃないかと思えたよ。でもそれも1度だけだ」


男「病床のベッドの上の老人だった時は、身動きすらとれない日々を続けるだけだった」


男「・・・・・・胎児は一番辛かったよ。気付くのだけで1週間分かかった。ぼんやり赤暗くてな。
  碌に動けないし、すぐ眠くなるし。何より退屈で死にそうだった」

紅莉栖「・・・・・・そう」


素っ気無く答えたのは、興味を無くしたからではない。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:05:20.69 ID:R9zAvj1S0



“言葉を失う” そういった表現がしっくり来るだろう。
荒唐無稽な作り話にしては、男の話は余りに出来すぎていると感じたからか。
それとも、私自身もこの男同様、狂気に踏み込んでしまったのか。

・・・・・・虚か、実か。

そのどちらであっても、私はやはりこの男と関わるべきではなかったのではないか。
寒い・・・・・・ 無意識に体を強張らせていたのか。私の体は変に冷えてしまっていた。

ゆらゆらと湯気を出すカップを両手で包むように握ると、掌から熱が伝わってゆく・・・・・・
この男の世界に私が引き込まれるのを守っているような、優しい紅茶の温もり・・・・・・


男「・・・・・・リーディングシュタイナーなんて言って喜んでいた、あの頃の愚かさが懐かしいよ・・・・・・
  あれは・・・・・・能力なんてものじゃなかった・・・・・・あれは・・・・・・『欠陥』だったんだ」

男「生物が時間という世界を生きる為のコンパスとも言うべきものを、俺は失ったんだ・・・・・・」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:08:05.90 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「・・・・・・不謹慎かも・・・・・・知れないけど・・・・・・」

紅莉栖「その・・・・・・死んだりも・・・・・・しないということ・・・・・・?」

男「・・・・・・自暴自棄になったこともあるさ・・・・・・」


男「だが・・・・・・直前、意識が途絶え・・・・・・気付いたら別の世界線で目覚めるんだ」

男「残るのは・・・・・・直前の苦痛の記憶と・・・・・・失敗の絶望感だけだった・・・・・・」




男「俺は・・・・・・俺という世界を永遠に彷徨うんだろう・・・・・・  紅莉栖も・・・・・・きっと・・・・・・」

紅莉栖「・・・・・・」


この男を支配する、深く暗い佇まいの根源が何であるのか。それがわかった気がした。
そして同時に、もう私のかける言葉など、まるで存在しないことも・・・・・・



再び訪れた長い沈黙が、濃霧のように狭い店内を覆いつくしていく



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:10:14.00 ID:R9zAvj1S0


・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

男「・・・・・・すまなかった。・・・・・・こんな話をして」

紅莉栖「・・・・・・え?」

男「全てデマカセだよ。 ・・・・・・ただの妄想だ」


・・・・・・そうだろうか。
信憑性の無い、まるで厨二の夢物語を延々と聞かされていた筈なのに。
ごくありふれた、この男の台詞が信じられないなんて・・・・・・


男「・・・・・・気にする事は無い。・・・・・・お前は、人を待っていたんだろう?」

男「いい時間潰しになっただろう? ・・・・・・お前の名前はネットで見たんだよ。プロフィールもな」

男「・・・・・・そろそろ雨も上がるだろう。 俺はこれで失礼する」


急に雄弁になる男の姿に、私は猜疑心を抑えられずにいた。


男「・・・・・・ありがとう。僅かな時間ではあったが、楽しかった・・・・・・」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:13:09.71 ID:R9zAvj1S0

男は立ち上がると、私の横をすり抜けて出て行った。・・・・・・私は、呆然と男を見送るしか出来なかった。


紅莉栖「・・・・・・そうだ、待ち合わせ・・・・・・」

あれから連絡は無い。だが、結構な時間を過ごしてしまったような気がする
慌てて席を立つと、クラリと眩暈がした。低血圧はこういう時辛い。


店員「ありがとうございます。クリームフロートおひとつで、630円です」

紅莉栖「ごちそうさま。(意外と高かったな・・・・・・)」


会計を済ませ、秋葉原の駅へと飛び出すように店を後にした。


紅莉栖(結構時間食っちゃったな・・・・・・まだ居ればいいけど)


雨上がりの街を駅へ急ぐ。


紅莉栖(時間・・・・・・ あっ)


腕時計が無い。


紅莉栖(まいったな・・・・・・喫茶店でレストルームに入ったときに外したのかも・・・・・・)



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:15:11.53 ID:R9zAvj1S0


取りに戻る時間が惜しい。 後日回収することにしよう。
携帯にも時計機能はある。駅に着いた頃確認すると8時手前だった。


紅莉栖(よかった・・・・・・まだ着いてないみたい)

柱にもたれて、軽く弾んだ息を整える。

Mooov!Mooov!Mooov!  

紅莉栖(っと、メールだ)

件名:Re:Re:俺だ
本分:すまないが豪雨で電車が止まっている。1時間はかかると思う

紅莉栖(これから1時間? あれ、これ7時くらいのメールか。遅れて届いたんだ・・・・・・)

腕時計を見ると、8時10分を回ったところだった。 駅の時計と少しズレがあるな・・・・・・






80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:17:20.78 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「―――ッ!?」

私は今、何をした? そう・・・・・・腕時計を確認した。
私はさっき、なんで喫茶店に戻ろうとしたんだっけ・・・・・・?

そろそろと、視線を左腕にやる・・・・・・

紅莉栖「・・・・・・腕時計が              あ・・・・・・る」




84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:19:36.23 ID:R9zAvj1S0


足元から、ザワザワと這い上がる悪寒。
呼吸が苦しい・・・・・・記憶が・・・・・・混乱している?


紅莉栖(あれ・・・・・・? あれ・・・・・・? 私・・・・・? コーヒー飲んだよね?)


紅莉栖(あの店員・・・・・・会計するとき、何て言ったっけ? ・・・・・・あれ?・・・・・・あれ?)


紅莉栖(あの男の話を聞いてるとき・・・・・・何か・・・・・・別のモノ飲んでなかったっけ?)


紅莉栖「・・・・・・あれ? ・・・・・・なんで? ・・・・・・何が?」






?「なにが、『なんで?』なんだ?」

紅莉栖「ひいっ!!」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:21:50.97 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「あ・・・・・・う・・・・・・」

青年「ん?」

紅莉栖「う、後ろからいきなり声をかけないでよ!」

青年「それはすまなかった。待たせて悪かったな、紅莉栖」


そういって彼は悪戯っぽく微笑んだ。憎たらしい、この笑顔に私は弱い。


紅莉栖「別に・・・・・・そんなに待ってない。雨宿りしてたし」

青年「・・・・・・そうか。 こっちはそんなに降ってたのか」


!?


紅莉栖「え・・・・・・?」

青年「?」



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:24:01.22 ID:R9zAvj1S0


紅莉栖「だって・・・・・メールでも雨で電車が止まったって・・・・・・」

青年「・・・・・・遅れたのは悪かったが、それは研究室に書類忘れたからで、メールもそう出したぞ?」

紅莉栖「え・・・・・・? でも、メールは・・・・・・」


妙だ・・・・・・話がかみ合わない。 私は携帯のメール欄を確認する。    ・・・・・・手が震える


件名:Re:Re:俺だ
本分:すまないが書類を取りに研究室へ戻る。1時間はかかると思う 


紅莉栖(嘘・・・・・・何で・・・・・・?)


記憶違い? 違う・・・・・・ 

喫茶店の男の話が脳裏に浮かぶ。


青年「・・・・・・遊び疲れたのか?珍しいな。 まだ体力があるなら、帰る前に飯でも食っていかないか?」

紅莉栖「う、うん・・・・・・」


そう答えるも、さっきのメールの事をもう一度聞くことは出来なかった。




92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:27:01.51 ID:R9zAvj1S0


・・・・・・あの日以来、私は前以上に研究に没頭するようになった。

人と会話をすることも以前より少なくなった。

沈黙の度、会話が噛み合わなくなるかも知れないのが怖かった。

顔を上げるたび、相手が私を「忘れて」しまうのじゃないかと怯えていた。

家への帰り道も、心が休まる事はなかった。


駅の広告・・・・・・いつからあったっけ?


この店は前からあった?


帰り道・・・・・・これで合ってたっけ?


私の家は・・・・・・ここで、大丈夫?



このドアを開けたら・・・・・・



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:30:34.34 ID:R9zAvj1S0




「おかえり」


どんな不安な日々も、彼が暖かく迎えてくれる。

それだけで生きていける気がした。・・・・・・それでいい気がした。

彼の腕の中が・・・・・・私の世界



紅莉栖「・・・・・・ねえ」


「なんだ?」


紅莉栖「・・・・・・大好きだよ」


「俺もだ」



「―――例え、どんな世界でも」

                                ――――― 追憶のランダムウォーカー END ―――――



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:36:02.21 ID:R9zAvj1S0

以上です。支援ありがとう御座いました。
以前から、既存の小説を下敷きにmixしたSSを書きたいと思っての事でした
読んでいて、お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが 小林泰三の「酔歩する男」が基になっています
終わらない、終われない。 すぐ隣にある恐怖。がコンセプトでした。
「オチてねーよ」と、思われる方も多いと思います。 皆さんの納得のいく終わり方に出来なかったのは僕の力量不足です



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/09/15(木) 04:39:52.66 ID:R9zAvj1S0

アニメも終わったし、若干救いの無いストーリーが書きたかったのです。
次があれば厨X2世界線でお会いしたいと思います
最後までお付き合いくださった皆さん、本当にありがとう御座いました!
ではまた。



元スレ
岡部「リーディングシュタイナーを再現する?」