1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:13:02.72 ID:QUlWcG1j0.net

 夜空を見上げて思わず溜め息を吐いた。秋が深まりもうそろそろ冬の足音が近づきつつある空には無数の星が瞬いていた。
昼間雨が降ったせいもあり、空気がいつもより澄んでいるのか今日はよく星が見える。

 もう一度溜め息を吐いた。僅かに濁った吐息が消えていく。俺は再び足を動かし始めた。
日々の労働で疲れの抜け切らぬ体を引きずって出勤。そしてさらに疲労を蓄積する毎日。
学生時代に登ったあの坂道のほうがどれほど楽だっただろう。
そういう意味でもいかに学生が恵まれていたのか思い知らされる。
そう、ハルヒに引きずり回されたことだって今ではいい思い出に変わっている。

 そういえば、アイツは今何をやっているんだろう。

 そんな疑問がふと頭の隅に湧いた。高校を卒業した後、SOS団の面々は揃いも揃って同じ大学へと進学した。
今思えば、よくアイツらと同じ大学に受かったものだ。もしかして古泉や長門辺りが何かやったのかと聞いてみたことがある。



4: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:16:42.34 ID:QUlWcG1j0.net

「いえ、我々機関はまだ何もしていませんよ。何かするつもりだったのかと……
ええ、もし貴方が不合格だった場合は涼宮さんが機嫌を損ねられる前に手を打つつもりでしたが、杞憂に終わって何よりですよ」

 相変わらず涼しい笑みを浮かべた元超能力者がそう言っていた。
別に俺のためだとか、そういうことではなくハルヒの無くなりかけていたあのとんでもパワー復活なんてことになったりでもしたら確かに目も当てられない。

「僕個人としては必要無いだろうと踏んでいましたよ。何故って……
それは、涼宮さんが貴方と同じ大学に進学することを望んでいることもありますが、
貴方が涼宮さんの期待を裏切るような真似をするはずがありませんから」

 そんな風に言われ、俺は思わず肩を竦めていた。実際のところ、古泉の言葉は真実だったのかもしれない。

 高3の夏、とある事件を機にハルヒの力はさらなる安定と弱体化を見せ始めた。
そのおかげもあってか古泉の超能力も次第に弱まっていき、ハルヒの力の消滅とともに完全に消え去った。

これでお役御免ですね、なんて笑った古泉の笑顔は、普段の作ったような爽やかな笑みとはどことなく違い、
アイツ自身の笑顔だったような気がする。



5: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:20:42.01 ID:QUlWcG1j0.net

 長門もハルヒの観察という任務を終え、現在は俺たちと同じ地球人として生活をしている。
その際一悶着どころか二悶着ぐらい長門の親玉とあったのだが、長門自身の強い意志によってその問題も解決され、穏やかな日々を送ることになった。
しかし、今でも宇宙的パワーは保持しているらしく、何かあったらいつでも頼ってほしいと言っていた。
その時に何と答えたかは今となっては定かではないが、あの時の長門の微笑みを俺は一生忘れないだろう。

 朝比奈さんは、もう未来に帰ってしまった。大学を卒業と同時にハルヒの観察の任を解かれ、未来に帰還と相成った。
実際、ハルヒの能力が消えた時点で帰還命令は出ていたらしかったのだが、大学を卒業するまでは、と朝比奈さんが頼み込んだらしい。
別れの日、朝比奈さんのことだから泣きながらのお別れかなと思っていた。しかし、予想に反して泣いていたのはハルヒで朝比奈さんは笑っていた。

 きっとまた会いに来ます。

 朝比奈さんは最後に力強くそう言った。あの人なら大丈夫。朝比奈さん(大)に会ったからとか、
そういうのではなく、朝比奈さん自身の強さを俺は知っている。

 そして、ハルヒ。大学の卒業を控えたある日、ハルヒと俺は卒業後のことについてなんとなく話していた。
俺は地元の企業に内定が決まっており、ハルヒはまだ何も決まっていなかった。



6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:25:04.16 ID:QUlWcG1j0.net

「キョンは就職するのよね」

「ああ」

「それって本当にやりたいことなの?」

 俺は答えなかった。本当にやりたいことでは絶対になかった。だが、それを口にするのは躊躇われた。

「あたしはまだ見つかってない。宇宙人にも未来人にも超能力者にも異世界人にも会えてないんだもの。そんなのつまらない」

「じゃあ、どうするんだ?」

「そうね……試しに世界中を旅行してみるとか?アマゾンの奥地に地底人とかいそうだし」

 ハルヒは至極真面目な顔でそんなことを言った。俺は思わずハルヒの顔をまじまじと見つめてしまった。
何も変わってない。出会ったあの日から何一つ。コイツは何時だって一生懸命に世界を関わっている。
つまらないなら面白くすればいい。自分自身で世界を多いに盛り上げる。そんなガキみたいなユメをいつまでも信じている。

 それが羨ましかった。



7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:27:54.48 ID:QUlWcG1j0.net

「どうしたのよ?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」

「いや、何でもない」

「ねぇ、キョン。キョンがもし良かったら――」

「良かったら?」

「――……ううん、何でもない。今のは忘れなさい」

「……そうか」

 俺とハルヒはお互いに意味もなく笑った。ハルヒも俺も何かを誤魔化ように。

 本当、ハルヒは今誰と何をやっていることやら。今夜は何時になく感傷的になっている自分自身が少しだけおかしかった。



10: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:34:15.33 ID:QUlWcG1j0.net

 昨日のことである。久しぶりにハルヒの夢を観た。懐かしい、あの灰色の世界の日のことを。もしかしたら俺はハルヒに会いたいのかもしれない。
伝えたかったことを伝えられなかった。ぬるま湯のような関係に浸っていた。あの世界の記憶は何時でも鮮明に思い出すことが出来た。

 少しセンチになってしまったせいか、先程寄ったレンタルショップで以前ハルヒと観た映画を貸りていた。
もうどんな内容だったかは忘れてしまっている。だが、今夜この映画を観るとその時の俺になれるかもしれない。
あの時の気持ちを感じることができるかもしれない。ずっと、ずっと心の奥底にしまっていた大事な気持ちを。

「ねぇ、キョン。もしキョンが良かったら……」

 あの日、ハルヒは俺に何を言おうとしたのか。

 あの日、俺はハルヒに何を言ってもらいたかったのか。

 今となってはそんなことを考えても意味はない。ハルヒの旅立ちの日。俺は、ハルヒにずっと待ってるとだけ伝えた。
それをどこまで本気で言ったのか、ハルヒがそれをどこまで本気で受け取ったのかはわからない。それでも、俺はハルヒを待ち続けていた。
ハルヒはそんな約束とも言えないようなものを忘れてしまっているかもしれない。

 別にそれでも構わなかった。

 ただ、俺はハルヒを待っていた。



11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:38:09.07 ID:QUlWcG1j0.net

I still I still I love you!
I'm waiting wating forever
I still I still I love you!
止まらないのよ Hi!!


 ハルヒがカラオケなんかでよく歌っていた曲の一節を口ずさむ。ハルヒに会いたい。心の底から俺はそう思った。

「――何湿気た顔してんのよ」

 薄暗い街灯の下で、居るはずの人物が立っていた。不機嫌そうに口を尖らして、一本に纏められた髪が風に揺れている。

 夢か、幻か。フィルターがかかったようにおよそ現実感を伴わない。



12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:41:23.14 ID:QUlWcG1j0.net

「――ったく、いつまで待たせるのよ。キョンの実家に顔出したらここの住所教えてくれたから、アンタが帰ってくるの待っててあげてたら全然帰ってこないし。まさかあの時待ってるって言ったのを忘れてたとか言うんじゃないでしょうね?」

 ハルヒの声が聞こえる。

 神が起こした奇跡なのか、はたまたハルヒのとんでもパワーのおかげなのか。そんなものはどっちだていい。そんなことは大した問題じゃない。とにかく、俺が夢や幻を見ているのでなければ、目の前にいるのは俺が恋い焦がれたハルヒである。

「ちゃんと聞いてるの?」

 ハルヒの表情がさらに不機嫌さを増す。

 俺はハルヒを前にして何も考えられない。ただ、今一言だけ言えるとしたらこれしかない。




――お帰り、ハルヒ



 薄暗がりの中、ハルヒの笑顔がやけに眩しかった――



13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:42:13.56 ID:QUlWcG1j0.net

終わり



14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:49:46.17 ID:QUlWcG1j0.net

「キョンくんあたしもオレンジジュースちょうだい!」

 日曜日の昼下がりのことである。
ちょうどコップにオレンジジュースを注いでいるところに妹がやってきた。
部屋着ではなく私服を着ていることから、この後どこかに出掛けるようだ。

「ミヨちゃんの家に行ってくるから、シャミの面倒見ててねー」

 オレンジジュースを勢いよく飲み干し、そう言い残して妹は家を出て行った。
相も変わらず元気なこって。週末の元気は毎週土曜日に使い果たしてしまう俺には、
日曜日というものは安息日であり、その午後ともなれば最も心安らぐ一時であると言っても過言ではない。



15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:51:45.35 ID:QUlWcG1j0.net

「君は可愛いにゃー」

 コップを持って部屋に戻ってくると、中から声がする。いつぞやみたいにシャミセンが話し出したのかと思われるが、
あの時以来シャミセンがしゃべっているのをみたことはない。

 つまりは、だ。シャミセン以外の誰かがシャミセンに向かって話しかけているということだ。
……こんなこと誰でも気付くだろうに、俺は一体全体誰に向かって説明しているんだろうね。

「それにしても随分とご機嫌だな」

 ベッドにシャミセンと一緒に寝そべっている佐々木に声をかける。

「それはもう。僕はこう見えて猫派だから」

 こう見えるもなんも初耳だ。



16: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:53:41.99 ID:QUlWcG1j0.net

「そうだったかい?まぁ、キョンとペットについて語り合ったことはなかったかもしれないね。
いい機会だ、僕が猫派ということを覚えておいてくれ」

「へいへい」

 気のない返事を返し、コップをテーブルの上に置く。佐々木はシャミセンを抱いてベットに座り直し
、俺はベットに持たれかかり、その横に座り込む。その際、シャミセンと目があったが、
それ程嫌がっているわけではなさそうである。まぁ、普段から妹の相手をしているだけがあって、構われるのは慣れている。
ましてや、妹ほど雑に扱われるわけでないから尚更であろう。

「それはそうと。佐々木でも『にゃー』なんて言うんだな」

 先日、偶然にも1年ぶりの再会を果たした俺達ではあるが、中学時代に佐々木がそんな可愛らしい言葉を使っているのには、
ついぞお目にかかったことはない。

「おや、キョンは何か勘違いしてないか?猫と話すときは語尾ににゃーをつけるのが礼儀ってものじゃないか」

 さも当然に言い放つ佐々木。猫派ではそれが当たり前なのであろうか。俺個人としては犬も猫もどちらか一方に傾注することはないので、
そういうことは聞いたことがなかった。



17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:56:05.89 ID:QUlWcG1j0.net

「冗談だよ、キョン」

 佐々木が楽しそうにくつくつと咽を鳴らす。そこでようやく俺はからかわられていることに気が付いた。

 やれやれ。

「キョンのそういうところは相変わらずだね」

「佐々木のそういうところも相変わらずだな」

 1年ぶりの再会ではあるが、昨日もあったような感覚。再会するまでの時間など関係ない。
俺と佐々木はそんな関係である。

 佐々木に撫でられ、シャミセンがごろごろと咽を鳴らす。佐々木も笑う際に咽を鳴らす。
妙な共通点がある。いや、ほんとどうでもいい。

「猫はいいよね。こうやって膝の上に乗っているだけで、こんなにも癒やしてくれるんだから」

「そうか?うちの妹の膝の上に乗せられた時は大抵面倒臭そうな顔してるぞ」

 シャミセンからしてみれば随分な迷惑である。その点佐々木の膝の上ならリラックスできて気持ちいいのではないだろうか。



18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:57:18.12 ID:QUlWcG1j0.net

「キョンも試してみるかい?」

「……遠慮しておく」

「まぁ、そう言わずに」

 やたら楽しそうな佐々木。というか、有無を言わせない。そういのははた迷惑な団長さんだけで十分である。

「ほら、そこに座るんだ」

 指示されるがままベットに腰掛ける。そして、俺の膝の上にぽふっと佐々木が頭を乗せる。
そして、シャミセンは佐々木のほっそりとしたお腹の上に鎮座している。



19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 22:58:42.88 ID:QUlWcG1j0.net

いや、ちょっと待て。お前が猫のほうかよ」

「おや?逆のほうが良かったかい?」

 再び咽を鳴らす。もはや、何も言うまい。

「ほら、キョン。僕を撫でるんだにゃー」

 クールなキャラははるか一万光年先にでも行ってしまったのか。軽く嘆息し、
しょうがないので佐々木の顎から喉を撫でてやる。
 
 佐々木は気持ちいいのか、猫がそうするようにすっと目を細めた。どう表現していいのかわからんが、
今ならなんとなく猫派の気持ちがわかるような気がする。

「にゃー」

 そんなわけで、俺の安らかな日曜日の午後は佐々木を膝に乗せ、撫で続けることで過ぎていくのであった。

 そして、それを帰ってきた妹に発見され、赤っ恥をかいたことを追記しておく。



20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2014/07/17(木) 23:00:06.06 ID:QUlWcG1j0.net

終わり


元スレ
キョン「君を待つ夜?」