1: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:09:12.85 ID:IR7y4gVA.net
野球もの
長編予定です
2: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:11:03.70 ID:IR7y4gVA.net
―1―
千歌(私はずっと、退屈な日々を過ごしていた)
千歌(面白みのない日常)
千歌(色々なことに挑戦してみたけど、どれも長続きしない)
千歌(途中で壁にぶつかると、つい投げ出してしまうから)
千歌(そんな風に何もできない普通怪獣のまま、私は高校二年生になっていた)
千歌(でも、そんな私に運命の出会いが訪れた)
千歌(幼馴染の野球少女、曜ちゃんの応援で行った東京で存在を知った、美しい9人の女子野球選手、μ’s)
千歌(ありとあらゆる野球に関する知識を持つデータの鬼、小泉)
千歌(圧倒的な快足で塁を奪っていく、星空)
千歌(人を惹きつけるスター性を持つ天才、西木野)
千歌(あらゆるプレーを寸分の狂いもなくこなす精密機械、園田)
千歌(柔軟な身体を生かしてあらゆる方向へ打ち分ける打撃を持つ魔術師、南)
千歌(小柄ながら堅実な守備と技術の高さが光る、矢澤)
千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)
千歌(走攻守三拍子揃った一流選手、絢瀬)
千歌(そしてそんな最強のチームをまとめるキャプテンにしてエース、高坂)
千歌(動画で見た彼女たちの姿は、とても輝いていた)
千歌(私に今までになかった刺激を与えてくれた)
千歌(今までずっと追い求めていたものがそこにある、そんな気がして)
千歌(私はそれからすぐに決断した、野球を始めることを)
千歌(彼女たちのように輝きたかったから)
千歌(この場所で輝きたいと、強く想ったから)
-浦の星女学院・グラウンド-
曜「相変わらず、千歌ちゃんは思い込んだら一直線だね」
千歌「むぅ、何だか馬鹿にされてるみたいなんだけど」
曜「でもさ、ちょっと刺激を受けただけでいきなりキャッチボールをしようなんて」
千歌「ちょっとじゃないよ、凄いんだよ!」
曜「そんなに?」
千歌「うん! なんかこう、キラキラと輝いてて!」
曜「でも、今まで何度野球に誘っても断ってきた千歌ちゃんをそこまで惹きつけるなんて」
曜「μ’sって人たちはよっぽど凄いんだね」
千歌「曜ちゃん、μ’s知らないの!?」
曜「いや、名前ぐらいは知ってるけどさ」
千歌「じゃあ知ってはいるんだ」
曜「そこまで詳しくはないけどね」
千歌「え~、女子野球をやってるのに」
曜「そうかなぁ」
曜「案外選手のことなんて知らないもんだよ」
千歌「あの人たちを知らないなんて、曜ちゃんは人生損してるよ」
曜「大丈夫、私は千歌ちゃんがいれば幸せだよ」
千歌「何それ、変なの」
曜「私は真面目なんだけどなぁ」
曜「でもさ、本当に私は野球部に入らなくてもいいの?」
千歌「だってクラブチームと掛け持ちじゃ大変でしょ」
曜「それは、そうかもしれないけど」
千歌「日本代表候補にもなってる渡辺曜ちゃんだよ」
千歌「無理させて何かあったら大変だよ」
曜「でも……」
千歌「いいから気にしないで」
千歌「本当に困ったらお願いするからさ」
曜「……分かった」
曜「でも、困ったことがあったら言ってね」
曜「名前も貸すし、助っ人ぐらいはするから」
千歌「うん、ありがとう! 曜ちゃん大好き!」
曜「もう、千歌ちゃんってば~」
-十千万-
千歌(でも実際問題、部員を集めるのは大変なんだよね)
千歌(部として認められるのには最低5人、試合をするには9人)
千歌(在校生のあてはほとんどない)
千歌(むっちゃんたちは頼めば協力してくれるかもだけど)
千歌(あとは、もうすぐ入ってくる新入生)
千歌(だけど、野球部のない浦の星に入ってくる人間に期待するのは難しい)
千歌「せめて経験者の果南ちゃんを誘えればなぁ」
千歌(でもお父さんが怪我したせいで、実家のスポーツショップも大変そうだし……)
千歌「もう、上手くいかない!」
美渡「千歌、うるさいよ!」
千歌「ご、ごめんなさい」
美渡「全く、どうしたのさ」
千歌「いやぁ、野球部に人が集まりそうになくて……」
美渡「まだ野球?」
千歌「まだってなにさ~」
美渡「初心者が高校生になって始めるなんて無理だから、いい加減諦めな」
千歌「ソフトボールの経験はあるし……」
美渡「そもそもこんな田舎で人が集まるわけないでしょ」
千歌「そうかもしれないけど……」
美渡「馬鹿な事考えている暇があったら手伝いでもしな」
バタン
千歌(むう、痛いところばっかり突いてきて)
千歌(だけど事実だから反論できないのが……)
千歌(新入生も相当少ないらしいし、人集めは難しいのかも)
千歌「うぅ、前途多難だなぁ」
千歌(まあ嘆いても仕方ない)
千歌(まずは勧誘頑張ろう!)
-入学式当日・校門前-
千歌「野球部~。大人気、女子野球部ですよ~」
モブ1「……」スルー
曜「君も一緒に白球を追いかけてみよう!」
モブ2「あ、いえ、私は」
曜「そこの君、ぜひ野球部に!」
モブ「すいません、私はもうバスケ部に」
ようちか「……」
曜「全然人集まらないね」
千歌「うん」
曜「そもそも今年の一年生、数が少ない気も……」
千歌「うぅ曜ちゃん、どうしよう」
曜「とにかくもう少し声かけてみるしか」
千歌「そうだね――あ、ちなみに今のは『曜』ちゃんとどうし『よう』をかけた――」
曜「お、あの子たちに声かけてみよう!」
千歌「無視しないでよ!」
曜「すいませ~ん、ちょっといいですか」
???「ピギィ!」
曜「ピギィ?」
??「は、はい。何でしょうか」
曜「私たち野球部の者なんですけど、野球に興味ありませんか?」
??「いや、おらは別に……」
曜「おら?」
??「いや、私は……」
???「野球部……ですか」
曜「うん、そうだよ」
???「あ、あのぉ」
千歌「もしかして、野球に興味あるの!」
???「部員はどれぐらい居るんですか?」
千歌「まだ1人なの、だから部員募集中でさ」
???「なるほど……」
千歌「だからあなたみたいに有望そうな子に入ってほしいんだよ!」 ガシッ
???「ピッ」
千歌「ピ?」
???「ピギャ――――!」
千歌「うわっ」
曜「な、なに!? どうしたの」
??「す、すいません」
??「ルビィちゃんはプレッシャーに弱くて……」
曜「いやいや、これってそんなレベルじゃ……」
ルビィ「うわぁん、おねぇちゃーん!」 ダッ
??「る、ルビィちゃん!? ちょっと待つずら~」
曜「……なんか凄い子たちだったね」
千歌「でもルビィちゃんって子、凄い逃走スピードだったよ」
千歌「またスカウトしに行かなきゃ」
曜「あのメンタルだと、なかなか苦労しそうだけど……」
千歌「でもさ、せっかく興味を持ってくれてたんだから」
千歌「貴重な野球が好きな子かもなんだもん!」
曜「うん、そうだね!」
曜「そういえばさ、自己紹介で野球のスイングについて語りだした子のうわさ、知ってる?」
千歌「ううん、知らない」
曜「一年生なんだけどね。凄い勢いで話してたらしいよ」
曜「だけど途中で恥ずかしくなったのか教室を飛び出しちゃったんだって」
千歌「そ、それはまた……」
千歌「でもそこまで熱くなるぐらいだから、その子は野球好きなんだよね」
千歌「スカウトに行けばもしかしたら」
曜「私もそう思ったんだけどさ」
曜「その噂だと逃げ出した後、学校に帰ってこなかったみたいで」
千歌「そうなんだ、それは残念だなぁ」
曜「まあ、どこかで誘う機会はあるでしょ」
千歌「そうだね」
千歌「引きこもりにでもならない限り、学校に来るわけだから――」
???「そこのあなた、少しいいかしら」
ようちか「!」
千歌「もしかして入部希望ですか!」
???「いえ、このチラシの件でお話がありまして」
千歌「ふぇ」
曜「! ヤバいよ千歌ちゃん」
曜「この人、生徒会長の黒澤ダイヤさん!」
千歌「へっ」
―生徒会室―
ダイヤ「なるほど」
ダイヤ「野球部を作る為に、無許可で勧誘をしていたと」
千歌「は、はい」
曜「ち、千歌ちゃん、無許可だったの!?」ヒソヒソ
千歌「いやー、ばれたら怒られると思ってさ……」ヒソヒソ
ダイヤ「……部の設立には最低でも5人の部員が必要だとは分かってますよね」
千歌「は、はい」
ダイヤ「ちなみに今の部員数は?」
千歌「え、えっと、私と」
曜「私だけです……」
ダイヤ「ほぅ、なるほど」
千歌「どうしよう曜ちゃん、生徒会長怒ってるよ!」ヒソヒソ
曜「い、今からでも謝った方が」ヒソヒソ
千歌「だ、だよね――あ、あの」
ダイヤ「素晴らしいですわね」
ようちか「へっ」
ダイヤ「私も常日頃から嘆いていたのですよ」
ダイヤ「浦の星に野球部がない、この惨憺たる現状を」
千歌「は、はぁ」
ダイヤ「以前から、いつの日か部の設立を夢見ていました」
ダイヤ「しかしただでさえ生徒数の少ない学校。現実的に難しいと諦めていました」
ダイヤ「しかし貴女のような、ルールを破ってでも野球部を作るという高い志を持った人がいるなら話は別です」
千歌(高い志?)
ダイヤ「生徒会長という立場上、大手を振って助けることはできません」
ダイヤ「しかし、個人的に出来る範囲で部員集めに協力しましょう」
千歌「本当ですか!」
ダイヤ「ええ、今回の件についても生徒会長権限で不問とします」
千歌「ありがとうございます!」
曜「い、いいんですか、それ」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「これは将来的に学校にも利益をもたらす話」
ダイヤ「だって、あの渡辺曜が所属しようとしている野球部なのですから」
曜「へっ」
ダイヤ「貴女の事はよく知っています」
ダイヤ「その類稀な野球センスに抜群の身体能力」
ダイヤ「ショートとピッチャーをハイレベルにこなし、将来は代表を引っ張る存在とも目されている」
曜「い、いやいや、私はそんなたいした選手じゃないというか」
ダイヤ「謙遜しなくてもいいですよ」
ダイヤ「一部では、あの高坂穂乃果の後継者とまで言われている選手なのですから」
千歌「よ、曜ちゃんってそんなに凄い選手だったんですか」
ダイヤ「ええ、貴女は知らなかったんですか」
ダイヤ「様子を見ている限り、とても親しいようなのに」
千歌「も、もちろん上手なことは知ってましたけど」
曜「というか生徒会長、詳しいですね」
曜「野球好きなんですか?」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「プロからアマまで、男女関係なくあらゆるデータを網羅してますわ」
曜「そ、それはまた」
ダイヤ「特にμ’sと出会ってからは女子の高校野球に夢中でして」
ダイヤ「毎年のように東京でおこなわれる全国大会には駆けつけていますの」
千歌「す、すごいですね」
ダイヤ「当然です、私を誰だと思っているのですか!」ドヤァ
曜「……ねえ千歌ちゃん」
曜「もしかして生徒会長って野球オタク?」
千歌「みたいだね」
曜「誘ったら入ってくれないかな」
千歌「どうだろう、三年生だから難しいかも」
ダイヤ「やれやれ、二人で内緒話とは、本当に仲がよさそうですね」
千歌「す、すみません」
ダイヤ「とにかく、2人共頑張って部員を集めてください」
ダイヤ「私も応援してますから」
ようちか「は、はい!」
―バス車内―
千歌「いやー、無事で済んで良かったね」
曜「そうだね、理解のある人で助かったよ」
千歌「帰り際、曜ちゃんにサインと握手を要求したのはびっくりしたけどね」
曜「あはは、確かに」
曜「でもあそこまでされると悪い気はしないよ」
千歌「いいなぁ、私も人からサインを求められてみたいよ」
曜「千歌ちゃんならできるよ」
曜「昔、ソフトボールは得意だったでしょ」
千歌「そんなに甘いものなのかなぁ」
曜「大丈夫だよ!」
千歌「でも……」
曜「じゃあ諦める?」
千歌「もちろん諦めない!」
曜「だよね!」
千歌「でも少し困ったよね」
曜「なにが?」
千歌「ダイヤさん、完全に曜ちゃんを部員として誤解してたよ」
千歌「もし曜ちゃんが幽霊部員だってばれたら怒られるかなぁ」
曜「それはそうかもね」
千歌「うぅ、そうなったら協力もしてくれなくなっちゃうかも……」
曜「……それなら、正式に入っちゃえばいいんじゃないかな」
千歌「え?」
曜「私ね、昨日クラブチーム辞めてきたの」
千歌「な、なんで」
千歌「曜ちゃん有名選手なんでしょ、そんなことしたら――」
曜「いいんだよ」
曜「部があれば、野球ができなくなるわけじゃない」
千歌「だけど、まだ正式な部になれるかも分からないのに」
曜「大丈夫だよ、千歌ちゃんなら」
千歌「そんなこと……」
曜「夢だったの、千歌ちゃんと一緒に野球をやることが」
曜「もう叶わないと思ってたその夢が、手の届くところにある」
曜「私は絶対にそのチャンスを逃したくない」
曜「その為には、片手間なんて中途半端じゃ駄目、そう思ったから」
千歌「曜ちゃん……」
曜「なんて、ちょっと重いかな?」
曜「引いちゃうよね、こんなこと言われても」
千歌「ううん、そんなことない」
千歌「曜ちゃんが一緒にやってくれれば、何とかなる」
千歌「不思議とそんな気がする!」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「生徒会長の協力もあるんだから、きっとできる!」
曜「うん!」
千歌「よーし、明日からまた勧誘頑張ろー!」
曜「おー!」
―2―
―十千万前・海岸―
千歌「あーあ、集まらないなぁ、部員」
千歌(始業式から一週間)
千歌(せっかく曜ちゃんが入部してくれたのに、その後勧誘で来た部員はゼロ)
千歌(ルビィちゃんには逃げられっぱなしだし、他に目ぼしい子は見つからない)
千歌「あー、どうしよう」
千歌(せっかくダイヤさんがグラウンドの都合を付けてくれて、明日から練習できるのに)
千歌「どっかに都合よく経験者でも落ちてないかなぁ」
バンッ
千歌「んっ、あれは……」
??「あぁ、また変なところに……」 パシッ
千歌(珍しい、防波堤で壁当てをやってる人なんて)
千歌(酷いコントロールだけど、その後の捕球は完璧なのが、凄いギャップ)
??「もう、これじゃあ私はまた……」
千歌(見慣れない子だけど、同年代?)
千歌(この辺の子だったら浦女の生徒の可能性も――)
曜『自己紹介で野球のスイングについて語りだした――』
千歌(そういえば例の子を一度も見かけてない)
千歌(2年生以上だったら顔ぐらい分かるだろうし、もしかしたらこの子なのかな)
千歌(声をかけるだけかけてみてもいいかも)
千歌「す、すいませーん」
??「へっ、わ、私?」
千歌「はい!」
??「な、なんでしょうか」
千歌「えっと――」
千歌(あれ)
千歌(だけどよく考えたら浦女の生徒じゃなかったら恥ずかしいかも)
千歌(そもそも合っていたとしても、こんなところでいきなり勧誘したら嫌がるかな)
??「あ、あの……」
千歌「キャッ」
??「キャッ?」
千歌「キャッチボール、しませんか?」
??「はぁ」
―――――
――――
―――
千歌「へぇ、梨子ちゃんって言うんだ」シュッ
梨子「うん、千歌ちゃんと同じ、高校二年生」パシッ
千歌「高校はどこなの?」
梨子「東京のね、音ノ木坂って高校だったんだけど」シュッ
千歌「東京、凄いね!」パシッ
千歌(やっぱり他校生じゃん、勧誘しなくてよかった~)
千歌「なんで内浦に来たの?」シュッ
梨子「え、えっと、その……」パシッ
千歌「あっ、何か言いにくい理由だった?」
梨子「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
千歌「梨子ちゃん?」
千歌(ありゃ、地雷踏んじゃったかな)
千歌(都会の子は結構繊細って言うもんね)
千歌(でも音ノ木坂かぁ、どこかで聞いたことあるような――)
千歌「!」
千歌「音ノ木坂ってμ’sの母校!?」
梨子「う、うん」
千歌「女子野球部の名門だよね!」
梨子「まあね」
千歌「でも音ノ木坂のの選手……」
千歌「もしかして梨子ちゃん野球エリート!?」
梨子「……元、ね」
千歌「元?」
梨子「ねえ千歌ちゃん、イップスって知ってる?」
千歌「イップス?」
梨子「主にスポーツ選手が患う、精神的な病気」
梨子「簡単に言えば、当たり前に出来ていた動作が、急にできなくなるの」
梨子「投げる、打つみたいな、基本的な動作さえも」
千歌「……もしかして、さっきの壁当て」
梨子「うん、そう」
梨子「私ね、投球イップスなんだ」
梨子「これでもね、結構有望な投手だったの」
梨子「小さい頃から、周囲からは天才だって称されて」
梨子「野球人生も順調だった」
梨子「実際に結果を残して、名門の音ノ木坂に進学して」
梨子「でもね、ある日突然、投げられなくなった」
梨子「それまで自然とできていた投球動作が、できなくなって」
梨子「必死に治そうとしたよ」
梨子「でも考えれば考えるほど、症状は悪化して」
梨子「投手を辞めてね、外野手に転向しようともしたの」
梨子「けど次第に、外野からの送球ですらまともに投げられなくなって」
千歌「でも、今はキャッチボールできてたよね」
梨子「普通に会話ができる程度の距離ならね」
梨子「でももう少し離れるだけで、それさえもできなくなる」
梨子「キャッチボールもできない、小学生以下の選手」
梨子「私は天才から練習もまともに出来ないお荷物になっちゃったの」
梨子「結局、そんな状況に耐えられなくて野球部は辞めちゃったしね」
千歌「そんな……」
梨子「学校も音ノ木坂って言ったけど、もうすぐ転校予定なの」
千歌「そうなんだ……」
梨子「周囲からは野球を辞めてでも残るべきって止められた」
梨子「けど、あそこにはもう私の居場所はなかったから」
千歌「だったら、何でまだ壁当てをしてるの」
千歌「野球、やめるんだよね」
梨子「やめないよ」
梨子「私は諦めきれないから、小さい頃からやってきた野球の道を」
千歌「苦しい想いをしてまで、続けるんだ、野球」
梨子「そうね」
梨子「正直、少し意地もある」
梨子「ここで投げ出したくないって、そんな気持ち」
梨子「でも何より、例え普通に投げられなくなっても、私は野球が大好きだから」
梨子「好きだからこそ、続けるの」
千歌「……なんか素敵だね、そういうの」
梨子「千歌ちゃんはどこかの野球部員?」
千歌「うん」
梨子「それならどこかで対戦することもあるかもね」
梨子「転校する予定の学校、この辺りだから」
千歌「そうなんだ、楽しみだね!」
千歌(浦の星だったら嬉しいけど、廃校の噂もある学校にはこないだろうしなぁ)
梨子「そういえば千歌ちゃんのポジションはどこなの?」
千歌「え、えっと……」
千歌(よく考えたら決めてなかったような)
千歌(向いているところ――昔から曜ちゃんの投球練習に付き合うことはあったし)
千歌「たぶん、キャッチャーかな」
梨子「たぶん?」
千歌「実は本格的に野球を始めたのは最近なんだ」
千歌「だからちゃんとしたポジションは決まってなくて」
梨子「えっ、でもその割に上手よね」
千歌「ソフトボールの経験はあったからね」
千歌「野球も幼馴染に凄い上手な子がいて、時々練習に付き合ったりはしてたから」
梨子「なんか、特殊な環境ね」
千歌「うん」
梨子「何で今さら、本格的に始めようと思ったの?」
千歌「始めた理由はね、出会ったから」
千歌「凄くキラキラと、輝いている人たちに」
梨子「輝いている人たち?」
千歌「梨子ちゃんも音ノ木坂出身なら知ってるでしょ、μ’s」
梨子「もちろん、伝説のOGだもん」
千歌「私は最近になってね、μ'sの存在を知ったの」
千歌「それで動画を観ている内に憧れて、私もこんな風に輝きたいと思って」
梨子「分かるよ、その気持ち」
梨子「私も千歌ちゃんと同じ、μ'sに憧れているから」
千歌「おぉ、仲間だね!」
梨子「千歌ちゃんはあれかな、穂乃果さんのファンでしょ」
千歌「な、なんで分かったの?」
梨子「うーん、雰囲気が少し似てたからかな」
千歌「雰囲気?」
梨子「はっきりとした根拠があるわけじゃないけどね」
千歌「それなら梨子ちゃんは誰が好きなの」
千歌「やっぱり穂乃果さんのファン?」
梨子「私は、西木野真姫さんかな」
千歌「あー、何かそれっぽい」
千歌「自分で天才とか言っちゃう辺りとか似てるもんね」
梨子「べ、別に自分で天才って言ってるわけじゃないわよ」
千歌「えへへ、分かってるよ」
梨子「もうっ」
千歌「でもさ、ちゃんとした理由もあるんだよ」
梨子「え、そうなの?」
千歌「真姫さんがさ、イップスみたいな病気持ちだったって知ってる?」
梨子「ううん、初めて聞いた」
千歌「彼女もね、梨子ちゃんみたいに天才って呼ばれてた」
千歌「でも家が大きなお医者さんでしょ」
千歌「ご両親からはいつも野球をやることを反対されていたの」
千歌「それが結構辛かったみたいで、精神的に追い詰められて」
千歌「中学三年生の頃、まともにボールが投げられなくなっちゃったんだって」
梨子「……私と似たような状態ね」
千歌「でもね、高校に入って、何かのきっかけで立ち直れたみたい」
梨子「きっかけ?」
千歌「えへへ、実はそこからはよく知らなくて」
千歌(この前ダイヤさんから教えてもらった話だからなぁ)
千歌(詳しいこと、ちゃんと聞いておけばよかった)
梨子「それならなんでこの話を?」
千歌「えっとね、私が言いたいのは、きっとイップスは治る病気だってこと」
千歌「真姫さんだって、高校で復活できたんだから」
梨子「……」
千歌「大丈夫だよ、真姫さんは治ったんだから、不治の病ってわけじゃないよ」
千歌「梨子ちゃんなら、また投げられるようになるよ!」
梨子「……変な人ね、千歌ちゃんって」
千歌「あはは、よく言われる」
梨子「でもありがとう、おかげで少し元気が出た」
千歌「力になれたなら良かったよ!」
梨子「――じゃあ私は行くわね、お父さんたちが待ってると思うから」
千歌「うん――あ、そうだ」
梨子「どうしたの?」
千歌「せっかくだし、サイン頂戴!」
梨子「……本当に、変な人」クスッ
とりあえずこの辺で
一応、自分は過去に野球の話を書いていた方とは別人です
補足
あまり本編に関係ありませんが、μ'sのオーダーはこんな感じ
1:左・凛
2:二・にこ
3:投・穂乃果
4:遊・絵里
5:右・希
6:三・海未
7:中・真姫
8:一・ことり
9:捕・花陽
(投手の控えが真姫で、交代時は絵里がセンター、穂乃果がショート)
―浦の星女学院・二年生教室―
曜「おはヨ―ソロー!」
千歌「おはよう!」
曜「おお、今日は元気だね」
千歌「昨日ちょっといいことがあってね」
曜「いいこと?」
千歌「実はね、音ノ木坂の子と話したんだ」
曜「東京の? そりゃまた珍しいね」
千歌「うん、それも野球部の子でね~」
曜「へぇ、私も会ってみたかったな」
曜「音ノ木坂の野球部なら知り合いも何人かいるし」
千歌「あー、代表の子とかいそうだもんね」
千歌「あとね、さっきむっちゃん達に入部できないか聞いたの」
千歌「そしたら入るのは無理でも、試合の時に助っ人をしてくれるらしくてさ」
曜「本当!?」
よしみ「うん」
むつ「まあ私ら、全然上手くはないけどさ」
いつき「2人共頑張ってるみたいだし、それぐらいは協力しようかなーって」
曜「3人とも、ありがとう!」
千歌「一応全員経験者みたいだよ」
曜「おぉ、それは頼りになるね」
よしみ「あはは、期待はしないでよ」
むつ「本当に経験はある程度だからさ」
曜「でもこれで、あと4人揃えば試合ができる!」
千歌「ふふふ、形になってきたね」
曜「この調子で部員集めを全速前進――
ガラッ
教師「おーい、全員席につけー」
千歌「ありゃ、先生来ちゃったね」
曜「むぅ、いいところだったのに」
教師「今日は転校生を紹介するぞ~」
ザワザワ
千歌「こんな時期に珍しいね」
千歌「曜ちゃん、何か聞いてる?」
曜「ううん、全然」
ガラッ
梨子「……」
千歌「あ、あの子は……」
教師「じゃあ、自己紹介して」
梨子「えっと、東京の音ノ木坂高校から転校してきた、桜内梨子です」
梨子「みなさんよろしくお願いします」ペコリ
千歌「梨子ちゃ――」
曜「梨子ちゃん!」
梨子「よ、曜ちゃん!?」
千歌「ふぇ」
――――
―――
―放課後―
千歌「2人は知り合いだったの?」
曜「うん、中学の時に年代別代表の合宿でね」
梨子「まさか曜ちゃんがいるなんて、ビックリしたよ」
曜「私の方こそ」
曜「最近は代表でも見かけなかったから、心配してたんだよ」
梨子「あはは、ちょっと色々あってね」
千歌「梨子ちゃん、曜ちゃんと同じぐらい野球が上手だったんだね」
梨子「いやいや、私と曜ちゃんじゃ格が違うわよ」
梨子「だって曜ちゃんは、世代を代表する選手だもの」
曜「えー、そんなことはないと思うけど」
梨子「でも驚いたわ」
梨子「千歌ちゃんの野球が上手な幼馴染って曜ちゃんのことだったのね」
千歌「あはは、まあね」
梨子「それなら経験が浅いのに上手なのも納得ね」
曜「梨子ちゃん、こっちではどこのチームに入るの?」
梨子「一応ね、学校の野球部に入ろうと思ってるんだけど」
曜「マジで! じゃあ私とチームメイトじゃん!」
梨子「あれ、曜ちゃんってどこかのチームに所属してなかった?」
曜「最近部活に専念するために辞めたの」
梨子「……もしかして、浦の星って強豪校?」
千歌「ううん」
曜「まだ部員が2人で、正式な部にもなってないよ」
梨子「えっ」
曜「あれ、知らなかった?」
梨子「え、ええ」
梨子「入学前に会った生徒会長さんからは、ちゃんとした野球部があるって聞いたんだけど……」
千歌(ダイヤさん、また無責任なことを……)
曜(しっかりしているようで、ちょこちょこ残念だよね、あの人)
曜「まあその辺はおいおい考えるとして――」
曜「とりあえず今日から練習だよ!」
千歌「あっ、そうだよね!」
千歌「部員集めに必死で忘れてた!」
曜「梨子ちゃんも部に入るつもりだったなら練習着ぐらい持ってきてるでしょ」
梨子「う、うん」
曜「じゃあ早速行こう!」
曜「久しぶりに梨子ちゃんの球を打ってみたいし!」
梨子「え、えっ」
千歌「よーし、出発だ!」
曜「ヨ―ソロー!」
梨子「ま、待ってよ2人共~」
―グラウンド―
曜「さて、アップも終わったところで――早速勝負だよ、梨子ちゃん!」
千歌「いやいや、もっと基礎的な練習とかさ」
千歌「私たち、3人しかいないんだし」
曜「いいじゃん! せっかく初練習日なんだから楽しいことやりたい!」
千歌「気持ちは分からなくもないけど……」
千歌(そもそも、梨子ちゃんはイップスで投げられないんだよね)
曜「梨子ちゃんはピッチャーで、私がバッターね!」
梨子「う、うん、分かった」
曜「千歌ちゃんはキャッチャーよろしく!」
千歌「えっ、でも――」
梨子「私は大丈夫だよ、千歌ちゃん」
千歌「投げられるの?」
梨子「まあ、やってみる」
千歌「でも……」
梨子「何かね、身体が軽いの」
梨子「千歌ちゃんに励ましてもらってから、投げられるようになった気がするのよ」
千歌「そうなの?」
梨子「うん、だからお願いね」
曜「一打席勝負ね!」
梨子「うん」
千歌「……」
千歌(梨子ちゃん、どんな球投げるんだろう)
梨子(うぅ、緊張する)
梨子(でも懐かしいな、マウンドの感触)
梨子(やっぱりここに立つと、少し不安かも)
梨子(でもキャッチボールをした時、そして帰ってから軽く投げてみた時の感触)
梨子(大丈夫、私は投げられる)
曜「よーし、こい!」
梨子「んー」ググッ
千歌(確かに、ぎこちないけど昨日よりは綺麗なフォーム)
梨子「えいっ」シュッ
千歌「おっ、本当にストライクが――」
曜「!」
カッキーン!
梨子「あー、これは……」
曜「よっしゃ、ホームラン!」
千歌「容赦なさすぎるよ!」
曜「えー、でも真剣勝負だし」
梨子「あはは、流石曜ちゃんだね」
曜「ところでさ、今のストレート?」
梨子「うん」
曜「梨子ちゃん、球遅くなったんじゃない」
曜「なんかフォームも変だし、怪我でもしてるの?」
梨子「ちょっと、色々あってね」
千歌「てか誰もいないのにあんなに飛ばして、ボールはどうするのさ」
曜「あー……取ってくる?」
千歌「どこへいったのか分からないよ~」
おーい
千歌「ん、ボールが飛んでいった方から何か」
??「おーい」
曜「おっ、あの声は」
??「千歌、いくよ~」
ヒューン
梨子「わっ、ボールが」パシッ
??「ごめーん、めっちゃ逸れたー」タッタッ
千歌「もぅ、果南ちゃんは相変わらずノーコンだねぇ」
果南「あはは、それはもう病気みたいなもんだからさ」
曜「それにしても悪化してない?}
果南「それはほら、最近あんまり練習できてないからさ」
梨子「でもあんなところから、凄い肩……」
果南「捕ってくれて助かったよ、ありがとう」
梨子「い、いえ」
曜「でも珍しいね、学校に来てるなんて」
果南「いやー、ダイヤに野球部の備品を頼まれてさ」
曜「あー、それでもう道具があったんだね」
果南「2人が部を作ったなんて驚いたけど、うち的には助かったよ」
果南「こんな大型注文貰っちゃってさ~、みんな大喜び」
千歌「部員も揃ってない部とは思えない部費の使い方だねぇ」
曜「これは個人的な協力の範囲なのかなぁ」
千歌「……都合の悪いことは考えないようにしよう」
果南「あ、そっちの子はもしかして新入部員」
千歌「うん。桜内梨子ちゃん」
千歌「転校生で、凄い上手なんだよ!」
果南「へぇ、それは期待できる。よろしくね!」ハグッ
梨子「え、ええ」
千歌「もう、初対面の子に抱き着いたら驚かれるよ」
曜「果南ちゃんのハグは挨拶みたいなもんだから、気にしないで」
梨子「う、うん」
果南「ヤバい、早く戻らないと時間無くなる――じゃあね!」タッタッ
千歌「バイバイ~」
曜「またね~」
梨子「……豪快な人だったね」
曜「あはは、梨子ちゃんとはだいぶ性格が違うよね」
千歌「でも良い人だよ、野球も大好きだし」
曜「昔はプレーもしてたよね」
千歌「最近は家の手伝いが忙しくてあんまりみたいだけど」
梨子「あの果南さんって人、上手なの?」
千歌「……まあ、実力はあるんだけど」
曜「上手かと言われると、微妙かも」
梨子「どういうこと?」
曜「いつかプレーを見ればわかるよ」
梨子「何だか気になるわね」
千歌「まあまあ、今は練習中だし」
曜「そうそう、じゃあ練習再開――あれ?」
千歌「どうしたの?」
曜「いや、今人影が見えたような……」
???「ピギッ」
―公園―
ゲーム画面『祝・日本一!』
花丸「よしっ」
花丸(これで最高難易度、高卒ルーキー縛りのペナントも優勝)
花丸(いんたーねっと?の使い方がよく分からないから対人戦はほとんどできない)
花丸(でもCPUにはもう負ける気がしない)
花丸(ふふっ、早くルビィちゃんに報告しないといけないずら~)
花丸「ルビィちゃん、早くこないかなぁ」
花丸(マルは昔から、目立たない子だった)
花丸(みんなが遊んでいる中、いつも隅でゲームばかり)
花丸(特にその中でも野球ゲームが大好きで)
花丸(小学校に入った時からパ○ポケに夢中)
花丸(高学年になるとパ○プロやプロ○ピにも手を出して)
花丸(気づけば一人でゲームばかりやっていた)
花丸(でもある日、運命に巡り合った)
花丸(いつものように公園でゲームをしていた時、出会ったのだ)
花丸(一人きりでレッスン本を見ながら練習をする、ルビィちゃんと)
花丸(マルたちはすぐに意気投合した)
花丸(そしてそれ以来放課後はいつも2人で集まって)
花丸(ルビィちゃんの練習を手伝ったり、ゲームをしたりして過ごしている)
花丸(もちろん今日みたいに、野球を観に行くルビィちゃんと別行動をすることもあるけど――)
ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「あ、ルビィちゃん」
ルビィ「やっぱり野球部できてた!」
花丸「えっ、部員集まってたの?」
ルビィ「ううん、見かけたのは3人だけ」
ルビィ「でもちゃんと、練習始めてたよ」
花丸「本当に作っちゃったんだ、凄いねぇ」
ルビィ「あぁ、これで母校の応援ができる~」
花丸「応援?」
ルビィ「うん」
花丸「プレーじゃないの」
ルビィ「駄目かな?」
花丸「ううん、駄目じゃないよ」
花丸「でもルビィちゃんはやりたいんでしょ、野球」
ルビィ「うん、そうだね」
ルビィ「だけどほら、ルビィ、プレッシャーに弱すぎるし」
花丸「そうかもだけど」
ルビィ「それにね、お姉ちゃんに悪い気がして」
花丸「ダイヤさんに?」
ルビィ「お姉ちゃんが昔、野球をやっていたのは知ってるでしょ」
花丸「うん」
ルビィ「本当はね、今もやりたいはずなの」
ルビィ「でもお母さんから禁止されちゃってるの」
ルビィ「家を継ぐ長女が、そんなことに現を抜かしてはいけないって」
花丸「でも、ルビィちゃんはやってもいいんだよね」
ルビィ「駄目だよ」
ルビィ「お姉ちゃんができないのにルビィだけなんて、可哀想だもん」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「それにね、そんなに悪いことばかりじゃないんだよ」
ルビィ「ルビィはこうやって、花丸ちゃんと2人で野球をやっている時が一番楽しいから」
花丸「マルと?」
ルビィ「仲の良い親友と2人でキャッチボールして、ノックを受けて、バントの練習をして」
ルビィ「休憩時間になったら一緒にゲームで遊ぶ」
ルビィ「こんな楽しい時間、凄く貴重だって思わない?」
花丸「……うん、そうだね」
ルビィ「じゃあ早速練習始めようよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」
花丸「うん!」
花丸(ルビィちゃん、やっぱり良い子)
花丸(それに、きっと現状に満足しているのは本当)
ルビィ「今日は何をする予定だっけ」
花丸「ノックだよ」
ルビィ「あ、そうだったね」
ルビィ「じゃあお願いできるかな」
花丸「了解ずら!」
花丸「ルビィちゃん、いくよ~」
ルビィ「はーい」
花丸「それっ」キン
ルビィ「ほっ」パシッ
花丸「ほい」キン
ルビィ「やっ」パシッ
花丸「あっ、ミスった」キーン
ルビィ「わっと」タタッ――パシッ
花丸「ナイスキャッチずら!」
花丸(マルは下手だから変なところにノックをしちゃうこともある)
花丸(でもルビィちゃんはどこへ行っても、全部捕ってくれる)
花丸(守備や走塁だけ見れば、相当レベルは高いはず)
花丸(マルはプレイ経験がないから、贔屓目なのかもしれないけど)
ルビィ「もっと強くていいよ!」
花丸「分かった!」カキーン
ルビィ「うん、そんな感じ!」パシッ
花丸(でもやっぱりこのままプレーできないなんて、勿体ないよ)
花丸(このままじゃ駄目、やっぱりなんとかしないと――)
―翌々日・浦の星女学院―
ルビィ「助っ人?」
花丸「うん」
花丸「千歌さんたちに聞いてみたらね、やっぱり試合に出れる人数が足りないんだって」
ルビィ「うゅ、三人しかいなかったもんね」
花丸「だからね、お願いされたの」
花丸「野球経験のあるルビィちゃんに、試合だけでも出てくれないかって」
ルビィ「で、でも……」
花丸「やっぱり嫌?」
ルビィ「だ、だって、昨日も言ったけど――」
花丸「ダイヤさんにもね、お願いされたんだ」
花丸「母校のチームが試合もできないなんて嫌だから、協力してほしいって」
ルビィ「お姉ちゃんが……」
花丸「それにね、ルビィちゃんがいてくれないと困る人がいるんだよね」
ルビィ「困る人?」
花丸「実はね、マルも助っ人として参加することになったんだ」
ルビィ「マルちゃんが!?」
花丸「うん」
ルビィ「な、なんで……」
花丸「前から実際のプレーにも興味はあったんだ」
花丸「それでやってみたかったから――じゃ駄目?」
ルビィ「駄目じゃないけど……」
花丸「でもね、1人だと心細いんだよ」
花丸「今日ね、早速練習に参加することになってるの」
花丸「最初に実力を図るために、プレーを見ておきたいんだって」
花丸「だけどほら、マルは初心者でしょ」
花丸「だから、ルビィちゃんがいてくれると心強いんだよね」
ルビィ「マルちゃん……」
花丸「友達としてのお願い、駄目かな?」
ルビィ「……分かったよ」
花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「助っ人は分からないけど、今日練習だけでも出てみるよ」
花丸「ありがとう! 今度ちゃんとお礼はするから」ギュー
ルビィ「ま、マルちゃん、痛いよ」
花丸「ルビィちゃん大好きずら~」
ルビィ「も、もう」
花丸(上手くいった!)
花丸(これで、あとはルビィちゃんを――)
―グラウンド―
千歌「やあやあ、よく来たね!」ガシッ
ルビィ「ピギッ」
曜「話は花丸ちゃんから聞いてるよ」
梨子「とっても上手なんだって」
ルビィ「そ、そんなことは……」
千歌「いやぁ、助かるよ、ほんと。まさに期待の星!」
ルビィ「う、うぅ」
ルビィ「ま、マルちゃぁん」ヒシッ
花丸「よしよし、落ち着いて」
ルビィ「うぅ」
曜「ありゃ、後ろに隠れちゃった」
梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん怖がってるよ」
千歌「あはは、ごめん」
千歌「つい興奮しちゃって」
ルビィ「い、いえ、すいません、ルビィの方こそ……」
花丸「大丈夫」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃん、がんばルビィだよ」
ルビィ「う、うん!」
曜「もう大丈夫そう?」
ルビィ「はい!」
千歌「よーし、じゃあ練習開始だ!」
―――
――
―
花丸「も、もう駄目ずらぁ……」
花丸(ランニングの時点でもう限界、運動不足にもほどがあるよ……)
花丸(これだったら体力トレもルビィちゃんと一緒にやっておけばよかったかも……)
ルビィ「だ、大丈夫?」
花丸「大丈夫じゃ……ない……」
曜「あはは、最初はそんなもんだよね」
梨子「でもルビィちゃんは元気ね」
ルビィ「あっ、はい」
ルビィ「一応、体力トレーニングは毎日欠かさずやってるんで」
千歌「おぉ、偉いねぇ」
曜「でもこの後の練習どうする?」
曜「花丸ちゃんが回復するまで一回休憩にしようか?」
花丸「い、いえ、マルの事は気にせず続けてください」
花丸「動けるようになったら戻りますから」
千歌「分かったよ、じゃあ続けようか!」
曜「了解ヨ―ソロー!」
ルビィ「ま、マルちゃん」
花丸「どうしたの?」
ルビィ「ルビィ1人だとちょっと……」
花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃんなら」
ルビィ「でもぉ」
花丸「ほらほら、すぐに合流するから頑張って」
ルビィ「……うん」
曜「そういやルビィちゃん、ポジションはどこなの?」
ルビィ「え、えっと」
ルビィ(決まってないけど、ルビィの適性的には……)
ルビィ「たぶん、セカンドです」
曜「おっ、セカンドかぁ。私と二遊間だね!」
ルビィ「えっ」
ルビィ(そっか、曜さんは内野もやるんだ)
ルビィ(あの有名人と二遊間)
ルビィ(そんなの絶対に目立っちゃうよ……)
ルビィ「あ、あの、やっぱり――」
曜「よし、なら早速ノックしてみよう!」
ルビィ「ピッ」
曜「私が打つから、ルビィちゃんはセカンドに入って」
曜「返球はキャッチャーに千歌ちゃんにすればいいから」
梨子「あっ、じゃあ私は後ろで逸れたボールを回収しておくね」
曜「ありがとう」
ルビィ「ぴぃ……」
花丸(どうしよう、ルビィちゃんだいぶきちゃってる……)
ルビィ(うぅ、緊張する)
ルビィ(よく考えたらグラウンドで野球をするのは始めてだよぉ)
曜「じゃあ行くよ~」
ルビィ「は、はい」
曜「それ」キン
ルビィ「あっ」ポロッ
曜「もう一丁!」キン
ルビィ「あぅ」ポロ
ルビィ(駄目だ、緊張で身体が上手く動かない)
梨子「ルビィちゃん、落ち着いて!」
千歌「次は捕れるよ!」
ルビィ(……注目されてる)
曜「……」
ルビィ(曜さん、ガッカリした顔してる)
ルビィ(嫌だよ、みんなルビィを見ないでよぉ……)
―――
――
―
ルビィ「ハァ、ハァ」
花丸「ルビィちゃん……」
花丸(ここまでの数十球、ルビィちゃんは一球も捕れてない)
花丸(最初はグローブには当てられていたのに、今はかすりもしなくなって)
花丸(それどころか、動くことさえ……)
曜「どうしよう、もう止めた方がいいかな」
千歌「で、でも、流石にマズいよ」
千歌「一球も捕れないまま止めるはちょっと」
曜「……あの様子だと、いつまでたっても捕れないかもしれないよ」
曜「私はむしろここで止めてあげた方がいいと思う」
曜「下手に続けても、ルビィちゃんは苦しむだけだよ」
千歌「……そうだね、このままだと逆効果――」
花丸「ま、待ってください!」
千歌「!」
曜「花丸ちゃん、もう回復したの?」
花丸「はい」
花丸「あの、マルもノックを受けさせてください」
花丸「ルビィちゃんと一緒に、同じように」
曜「えっ、でも花丸ちゃんは初心者だったよね?」
花丸「だ、大丈夫です」
花丸「一応、ルビィちゃんと一緒に練習はしてましたから」
曜「いや、でも」
千歌「いいんじゃないかな」
曜「千歌ちゃん?」
千歌「本人がやりたいっていうんだから」
千歌「確かに危ないかもしれない」
千歌「どっちにしろ、試合になればボールは飛んでくるんだよ」
千歌「今のうちに練習しておいた方がいいよ」
曜「まあ、千歌ちゃんがそう言うなら」
花丸「ありがとうございます!」
※
ルビィ(頭がグルグルして、前もよく見えない)
ルビィ(何度かボールもぶつかって、身体痛い)
ルビィ(……そういえば、ボールが来なくなったなぁ)
ルビィ(終わったのかな)
ルビィ(最後まで、一球もボールが取れないまま)
ルビィ(……)
ルビィ(まあ、いっか)
ルビィ(やっぱりルビィには向いてなかったんだよ、野球は――)
花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「……マルちゃん、どうしたの?」
花丸「一緒にやろう!」
ルビィ「一緒に?」
花丸「ずら!」
ルビィ「でもマルちゃん、ノックは打ってくれるばかりで、受けたことなんてほとんど――」
花丸「ふふん、甘いよ」
花丸「これでもゲームではファインプレーを連続してるずら!」
ルビィ「……もぅ、ゲームと現実の世界は違うよ」
花丸「それでもイメージはできてるずら!」
ルビィ「ふふっ、そっかぁ」
花丸「見ててね、マルの華麗な守備を」
千歌(不思議)
千歌(二人で話している内に、ルビィちゃんの表情が和らいできた)
千歌(本当に仲良しなんだね、あの2人は)
曜「順番にいくよ!」
花丸「はい!」
曜「花丸ちゃん!」キン
花丸「わっと――あれ」
ドスッ
千歌「へっ」
梨子「あ……」
曜「あら?」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「――――!」ジタバタ
梨子「顔面直撃……、あれは痛そうね……」
千歌「よ、曜ちゃん、強く打ち過ぎだよ!」
曜「ご、ごめん、大丈夫?」
花丸「だ、大丈夫れす」
ルビィ「駄目だよぉ、ちゃんとボールを見なきゃ」
花丸「あはは、やっぱりゲームとは違うね」
ルビィ「マルちゃんは意外とやんちゃさんなんだから」
花丸「むぅ、いけると思ったんだけどなぁ」
曜「大丈夫そうなら――ルビィちゃんいくよ~」
ルビィ「あ、はい!」
曜「それ!」カキーン
千歌「ちょっ」
曜「あっ、また強く――」
ルビィ「!」パシッ
曜「えっ、あれを捕った!?」
ルビィ「千歌さん!」シュ
千歌「えっ」
ドスッ
千歌「ぐぇ」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
千歌「……しまった、ボーっとしてた」
ルビィ「だ、大丈夫ですか!?」
千歌「あはは、大丈夫大丈夫……」
千歌「それよりも――凄いよルビィちゃん!」
ルビィ「ふぇ?」
曜「そうだよ!」
曜「あんな私でも捕れるか分からないボールだったのに!」
ルビィ「そ、そうですか?」
曜「今の感じで続けて――でも次は花丸ちゃんか」
花丸「あ、マルはぶつかったところが痛むんで、少し休んでもいいですか?」
曜「分かった――じゃあルビィちゃん、続けよう!」
ルビィ「はい!」
―帰り道―
花丸「うぅ、体中が痛いずら……」
ルビィ「守備の後も自打球当てたりしてたもんねぇ」
花丸「あんなにふんわりとしたボールを打つのが、こんなにも難しいなんて」
ルビィ「公園じゃ打撃練習とかはできなかったから、仕方ないよ」
花丸「でもその分、バントの練習はたくさんしてきたからそこは褒められたよね~」
ルビィ「えへへ、ルビィも『バント職人』なんて言われちゃったし」
花丸「2年生の先輩たち、凄かったよね」
ルビィ「そうだよね!」
ルビィ「千歌さん、野球を始めたばかりなのに普通にプレーできてたし」
花丸「梨子さんも流石は元名門校って感じの華麗な動きだったずら~」
ルビィ「何といっても曜さん!」
ルビィ「動き一つ一つが、まさにスターって感じだよねぇ」
花丸「だよね、まるで別世界の人みたいだった」
ルビィ「どうやったらあんな風に動けるんだろうなぁ」
ルビィ「本当に凄かったなぁ、今日は」
花丸「2人じゃできない事もたくさんできたもんね」
ルビィ「うん!」
ルビィ「いつものマルちゃんとの野球も楽しい」
ルビィ「けど、たくさんの人と一緒に練習するのも面白いんだね」
花丸「うんうん」
花丸「だから、これからも――」
ダイヤ「2人とも、お疲れ様です」
ルビィ「!」ビクッ
花丸「……ダイヤさん」
ダイヤ「ルビィ、少しいいですか」
ルビィ「えっと、その」
花丸「……ルビィちゃん」
花丸「マルは待ってるから、行ってきなよ」
ルビィ「だけど……」
花丸「大丈夫だから、ね」
ルビィ「う、うん」
ダイヤ「練習、楽しかったですか」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「そうでしょうね」
ダイヤ「二人であんなに楽しそうに話していたんですもの」
ルビィ「……」
ダイヤ「話は花丸さんから聞きました」
ルビィ「マルちゃんから?」
ダイヤ「私に気を遣って野球部をしてこなかったそうですね」
ルビィ「そんな、ことは」
ダイヤ「否定しなくても大丈夫で」
ダイヤ「私も、以前から知っていましたから」
ルビィ「えっ」
ダイヤ「貴女は自分よりも他人を優先することができる、とてもやさしい子」
ダイヤ「私に見つからないよう、陰に隠れて一生懸命努力してきましたよね」
ダイヤ「いつもは花丸さんと2人で練習し、1人でも素振りや体力トレーニングを欠かさない」
ダイヤ「貯めたお小遣いを使ってバッティングセンターに通う」
ダイヤ「参考にするために、色々な試合を観に行っている事」
ダイヤ「隠しているつもりかもしれませんが、全部知っていますよ」
ルビィ「お姉ちゃん……」
ダイヤ「ルビィは本当に野球をするのが大好きですね」
ダイヤ「自分の弱い心を技術と努力で補おうと頑張る」
ダイヤ「多くの人が嫌がるような基礎練習も、いつも楽しそうにおこなう」
ダイヤ「その姿をずっと陰で観てきました」
ダイヤ「そうしている内に、私も貴女のプレーに引き込まれるようになりました」
ダイヤ「姉ではなく、一人の野球好きとして」
ダイヤ「贔屓目もなく、ファンになってしまったのです」
ダイヤ「だって心から楽しんで野球をするルビィは、とても魅力的だもの」
ダイヤ「今日練習も、密かに見学していたんですよ」
ダイヤ「最初は緊張している、弱々しいいつもの貴女」
ダイヤ「でも一度それが解けると、生き生きと、宝石のように輝いていた」
ダイヤ「その姿に、思わず涙してしまいました」
ダイヤ「私は見たいのです」
ダイヤ「姉として、一ファンとして、貴女が輝く姿を」
ダイヤ「だって素敵でしょう」
ダイヤ「大好きな妹が、私の大好きな舞台で躍動するなんて」
ルビィ「……」
ダイヤ「もちろん、強制ではありません」
ダイヤ「この後の選択はあなたの自由です」
ダイヤ「けれども、私の為に我慢する」
ダイヤ「そんな事だけは、絶対にしないで」
―翌日・野球部部室―
ルビィ「これで――よし!」
『入部届:黒澤ルビィ』
ルビィ「よろしくお願いします!」
梨子「うん、よろしくね」
曜「初めての後輩ゲットだよ!」ギュー
ルビィ「うゅ、痛いですよぉ」
曜「嬉しいなぁ」
曜「練習の時からルビィちゃんと一緒に二遊間を組みたいって思ってたんだよね~」
梨子「あら、投手はもういいの?」
曜「どっちもやるからいいの!」
梨子「ふふっ、相変わらず欲張りね」
曜「そりゃあ、千歌ちゃんとのバッテリーは外せないもんね!」
梨子「そうね――そういえば千歌ちゃんは?」
曜「あれ、確かにいないね」
ルビィ「……」
―図書室―
花丸「無事、終わりましたね」
千歌「うん」
花丸「協力してくれて、ありがとうございます」
千歌「ううん。私の方こそ」
千歌「おかげで貴重な部員を確保できたんだから」
花丸「ルビィちゃんのこと、大事にしてあげてください」
千歌「うん、もちろんだよ」
花丸「マルも陰ながら、応援しますから――」
千歌「入るよね、花丸ちゃんも」
花丸「えっ」
千歌「花丸ちゃんも好きなんでしょ、野球」
花丸「そ、そんなことは」
千歌「あるよね」
花丸「……だってマル、運動神経ないし」
千歌「普通出来ないよ」
千歌「好きじゃない人が、何時間も練習をするなんて」
花丸「それは、ルビィちゃんの為に」
千歌「それも本当なのは分かる」
千歌「ルビィちゃんの為に行動する姿は散々見てきたから」
千歌「でもね、私は見てた」
千歌「ルビィちゃんの横で、花丸ちゃんも楽しそうにプレーする姿を」
花丸「それは、その……」
千歌「いいじゃん、好きなら始めちゃえば」
千歌「部員は足りないからね、どんな初心者でも大歓迎なんだよ」
千歌「きっと、花丸ちゃんが入ってくれた方がルビィちゃんも喜ぶと思う」
花丸「だけど、マルじゃ足を引っ張るだけなのは目に見えてるから」
花丸「せっかく野球を始められたルビィちゃんも、マルに気を遣ったりしたら……」
千歌「……もう、じれったいなぁ」
千歌「じゃあ別の理由を作ろうか――」
千歌「ねっ、ルビィちゃん」
花丸「へっ」
ルビィ「えへへ、マルちゃん」
花丸「ルビィちゃん、なんで」
ルビィ「千歌さんに聴いたんだ」
ルビィ「花丸ちゃんがルビィの為に動いてくれていたこと」
ルビィ「ありがとね、ルビィの為に色々してくれて」
花丸「ち、千歌さん、内緒だって約束が」
千歌「ごめんね、最初は私も内緒にしておくつもりだったんだ」
千歌「でも必要だと思ったから、今の花丸ちゃんには」
ルビィ「花丸ちゃん、言ってたよね」
ルビィ「ルビィが一緒に練習に参加する時、『お礼はする』って」
花丸「う、うん」
ルビィ「だからあの時のお礼に、ルビィのお願いをきいてほしいんだ」
花丸「……お願いって?」
ルビィ「ルビィ、花丸ちゃんと一緒に野球がやりたいの」
ルビィ「だから一緒に、野球部に入って」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「駄目、かな?」
花丸「……分かった、マルの負けだよ」
ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「ルビィちゃんのお願いを、無下にするわけにはいかないもんね」
ルビィ「えへへ、ありがとう」
花丸「……お礼を言うのは、マルの方だよ」
千歌「じゃあ、入部するってことでいいのかな」
花丸「はい」
花丸「改めて、よろしくお願いします」
千歌「うん、よろしくね!」
ルビィ「マルちゃん、一緒に頑張ろうね!」
花丸「うん!」
千歌「それじゃあ早速、練習へ行こうか!」
ルビまる「「はい!」」
※
―沼津市内・某所―
善子「感じます」
善子「津島式修正法により、あなたの投球が進化するのを」
善子「自分でも理解できる筈です」
善子「貴女が投げるボールのキレが増していることを」
善子「野球界に降臨した堕天使ヨハネの魔眼は、全てのプレイヤーを高みへと導きます」
善子「すべてのリトルデーモンに授ける、津島式野球メソッド!」
善子「信じるのです、あのダル○ッシュも参考にした、堕天使の力を!」
注:勝手にDVDを送りつけただけです
善子「さすれば、あなたの道は開かれるでしょう――」
『放送は終了しました』
―浦の星女学院2年生教室―
千歌「うーん」
梨子「どうしたの、変な顔して」
千歌「部員の勧誘について、ちょっとね」
梨子「部員?」
梨子「5人揃ったから正式な部にはなったよね」
千歌「そうなんだけど、まだ試合をするには一人足りないし」
梨子「確かにね」
千歌「それでね、実は勧誘しようと目をつけていた子がいるんだよ」
梨子「うん」
千歌「でも、いつまでたってもその子が見つからなくてさぁ」
梨子「どんな子なの?」
千歌「自己紹介で自分の野球理論を語りだすような子」
梨子「そ、それはなかなか強烈ね」
千歌「でもそこまでするような子なら、即戦力になりそうでしょ」
千歌「今日もね、曜ちゃんが探しに行ってくれているんだけど、見つかるかなぁ」
―バッティングセンター―
カァン
善子「違う」
カァン
善子「こうでもない」
カキーン!
善子「!」
善子「今のは良かったわ!」
善子「くっくっくっ、徐々に新しいスイングが見つかってきたわね――
ドスッ
善子「ぼ、ボールが……、痛い……」
子供「パパ―、あそこに変なお姉ちゃんがいるー」
父親「しっ、絡まれると面倒だぞ」
子供「でも凄く綺麗だよ」
父親「あれは残念美人っていう、一番関わっちゃいけないタイプの人なんだ」
善子(学校をサボって、誰もいないバッティングセンターに来る)
善子(最初はドキドキしていたけど、すっかり馴染んできたわね)
善子(沼津寄りのここなら、浦の星の生徒が来ることもないし、安心してバッティングに集中できる)
善子(まさに私の為にあるような、理想的な環境――)
曜「ラッキー、人が全然いないじゃん」
善子(と思ったらうちの制服を着た人が)
善子(まあ制服的に上級生みたいだし、気にしなければ大丈夫でしょう)
善子(私の顔なんて知られてるわけないし)
曜(流石にバッセンに探しに来たは無理があるかな)
曜(でも探してくるとは言ったけど、結局見つからないしなぁ)
曜(そもそも学校に来ない子をノーヒントで探すのは無理があるよね)
曜(千歌ちゃんの頼みだから、断らなかったけど)
曜(……)
曜(気分転換も必要だし、たまにはいいよねっ)
曜(とりあえず、140辺りで――)
善子(あ、あの人、女子なのに140キロを打つ気なの?)
善子(そんなに出る人はいないし、そもそも女の子が普通に打ち返せる球速じゃない)
善子(始めて見る顔だし、よく分かってない初心者なのかな)
善子(浦の星は野球部もないし、経験者じゃないわよね)
善子(教えてあげた方がいいのかな)
カーン! カーン!
善子「えっ」
善子(凄い、平然と打ち返してる)
曜「うーん、いまいち」
善子(しかも恐ろしいこと呟いている)
善子(綺麗なスイング……もしかしてプロなのかな)
善子(だけど浦の星に居たら流石に気づくような)
善子(でも女子プロ野球は詳しくないから、チェック漏れしててもおかしくないし)
カキーン!
善子(どちらにしろ、あれは参考になるわ!)
善子(もっと、もっと近くで観なきゃ)
花丸「――まずは打撃からだよね」
ルビィ「マルちゃんの場合、ほとんど打撃経験がないからね」
善子『ビクッ』
花丸「前の練習の時も恥ずかしかったずら……」
ルビィ「最初はみんなそうなんだから、大丈夫だよ」
花丸「でもちょっと緊張するかも」
ルビィ「ここなら遅い球から打てるから、慣れるにはちょうどいいよ」
花丸「でも最初は、ルビィちゃんにお手本を見せてほしいずら~」
ルビィ「えぇ、恥ずかしいよぉ」
善子「あの2人、クラスメイトの……」
善子(何でこんなところにいるの)
善子(全然野球をやるようなタイプには見えないのに)
善子(もしかして、最近世間では野球ブームとか?)
カキーン!
曜「よし、最後はいい感じで――」
花丸「あれ、曜ちゃん?」
曜「げっ、花丸ちゃん」
ルビィ「何をしてるんですか?」
曜「えっと、バッティング?」
花丸「あれ、でも今日は新入部員を探しに行くって」
ルビィ「もしかして、サボり?」
曜「え、いや、その――」
善子(何か話してるわね、知り合いなのかしら……)
曜「!」
善子(ヤバっ、目が合った)
曜「……」ズンズン
善子(な、なに、こっちに来た)
善子(もしかして、凝視してたのがばれたとか)
善子(ど、どうしよう、絡まれる前に逃げなきゃ――
曜「この子だよ」
善子「はっ?」
曜「この子をスカウトしに来たんだよ!」
善子「はい!?」
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「ってことは、あなたが例の!」
曜「そう、自己紹介で野球を語りだした子!」
千歌「凄いよ曜ちゃん! 本当に見つけてくるなんて!」
曜「えへへ」
千歌「これはまさに奇跡だよ~」
花丸(絶対たまたまだろうけど、ツッコんだら負けなんだろうなぁ)
善子「なによ、いきなり連れてきて」
梨子「曜ちゃん、説明とかしてなかったの?」
曜「あはは、勢いで引っ張ってきたからさ」
梨子「え、えっと、私たちは野球部なんだけど」
善子「野球部?」
善子「この学校にはなかったはずよね」
曜「最近できたんだよ」
曜「正式な部になったのもほんの数日前だし」
善子「へぇ」
千歌「というわけで津島善子ちゃん!」
善子「ヨハネよ!」
曜「はい?」
善子「あ、いや、何でもないわ」
ルビィ「ヨハネって?」
善子「何でもないわよ!」
千歌「ともかく――野球部にようこそ!」
善子「いや、私は入らないわよ」
千歌「えー、なんでー」
善子「だって野球部に入ったら学校へ来なきゃいけないじゃない」
千歌「確かにそうだね」
善子「それは嫌よ」
善子「自己紹介の所為で、クラスでは絶対ヤバい奴だと思われてるし」
ルビィ「そんなことないと思うけど」
花丸「みんな心配はしてるけど、ヤバいなんて言ってる人はいないよ」
善子「えっ、そうなの?」
ルビィ「うん」
花丸「そもそもそこまで自分が注目されていると考えてる辺り、自意識過剰ずら」
善子「うぐっ」
千歌「うわぁ、きつい」ヒソヒソ
梨子「花丸ちゃん、結構きつい言い方するわよね」ヒソヒソ
曜「でもさ、野球部に入ればみんな自己紹介の件も好意的に受け取ってくれるんじゃないかな」
曜「よっぽど野球に熱心な子だと思ってさ」
善子「言われてみると……」
曜「しかも今なら部員も5人しかいないからレギュラー確定だよ~」
善子「れ、レギュラー……」
善子(試合に出れる、選手にとって魅力的な話)
善子(野球はプレーしてこそだもの)
善子(でもやっぱり、学校へ行くのは気まずいし……)
千歌「どうする、善子ちゃん」
善子「さすがにそんな簡単に決められないわよ」
千歌「じゃあ練習に出てみるのはどう?」
善子「練習に?」
千歌「今から軽く練習する予定だったからさ」
千歌「それに参加して、考えてみればいいんじゃない」
―グラウンド―
善子「新しい野球部にしては、ずいぶん立派なグラウンドね」
千歌「何か学校側が協力的でさ」
曜「とりあえずキャッチボールでもしようか」
千歌「善子ちゃんは梨子ちゃんと組んでね」
梨子「よろしくね、善子ちゃん」
善子「ええ」
善子(キャッチボール、久しぶりかも)
善子(何か、変に緊張するわね)
善子「じゃあ、行くわよ」シュッ
善子(あっ、悪送球)
梨子「よっと」パシッ
善子「あっ、ナイス」
善子(上手いわね、この人)
梨子「それっ」シュッ
善子「んっ」パシッ
善子(今のは……)
梨子「善子ちゃん?」
善子「ねえ、少しいいかしら」
梨子「どうしたの」
善子「梨子さん、投げる動作になると妙にぎこちなくなるわね」
善子「捕球動作とのギャップが凄いんだけど」
梨子「あ、よくわかったね」
千歌「梨子ちゃんね、イップスなんだよ」
善子「イップス……」
梨子「これでもだいぶマシにはなったんだけど、まだ完璧じゃなくて」
善子(イップス、か)
善子「くっくっくっ」
梨子「よ、善子ちゃん?」
梨子(この子、どこか変な部分があるわね)
善子「ねえ梨子さん」
善子「私、イップスに利く良い方法を知ってるんだけど、興味ない?」
梨子「!」
善子「知りたくないなら、別に構わないけど」
梨子「……本当なら、もちろん教えてもらいたいわ」
善子「いいわよ、教えてあげましょう」
曜「ねえ、どうしたの?」
ルビィ「何かあったんですか?」
梨子「なんかね、善子ちゃんがイップスに利く方法を知ってるって」
千歌「本当!?」
善子「ええ、もちろんよ」
千歌「なになに、どんな方法?」
善子「落ち着きなさい」
善子「少し準備が必要だから」
梨子「準備?」
善子「それはね」ゴソゴソ
『津島式野球メソッド』
善子「これよ!」
千歌「な、なに、その真っ黒な仰々しい本は」
善子「私の野球に関する理論が全て詰まった魔本よ!」
千歌「は、はぁ」
善子「さて、症例に照らし合わせると、あなたに必要なのは――催眠術!」
梨子「さ、催眠術?」
曜「それって、5円玉を揺らすあれ?」
善子「違うわよ、もっと本格的なもの」
花丸「怪しさ満点ずら……」
善子「うっさいわね」
ルビィ「それ、効果あるの?」
善子「あるわよ、騙されたと思って受けてみなさい」
梨子「まあ、薬とかじゃないものね」
善子「物分かりが良いじゃない」
梨子「それで、催眠術っていうのはどこでやればいいの?」
善子「そうね……とりあえず一度部室に戻りましょう」
千歌「私たちはどうすればいいの?」
善子「練習を続けてていいわよ」
善子「順調にすすめば、そんなに時間かからないから」
千歌「分かったー」
―部室―
善子「さて、じゃあそこの椅子に座って」
梨子「う、うん」
善子「それでこのボールを持って」
梨子「えっと、どっちの手で?」
善子「梨子さん、元から右利きよね」
梨子「そうだよ」
善子「じゃあ右手で」
梨子「握りは?」
善子「自分が野球を始めたばかりの頃にしていた握り方でいいわよ」
梨子「握りに何か意味があるの?」
善子「話してしまうと意味がなくなるから、後でね」
善子「とりあえず目をつぶってくれる?」
善子「始める前に、電気を消したいから」
梨子「うん」
善子「さて、まずは深呼吸をしてくれるかしら」
梨子「す――は――」
善子「いい感じね」
善子「それじゃあ、自分が野球を始めたばかりの頃を思い出して」
梨子「野球を?」
善子「鮮明に思い出す必要はないわ、アバウトでいいの」
善子「誰にでも最初、何も知らずにボールを握ってた事があるでしょ」
善子「何も考えずに投げて、捕って、そんな頃のこと」
善子「昔の自分をよみがえらせるの」
梨子「昔の、私」
―――
――
―
千歌「梨子ちゃん、大丈夫かな」
花丸「流石に2人きりはマズかったんじゃ……」
ルビィ「うゅ……」
曜「まあ今さら気にしても仕方ないし――あ、戻って来たんじゃない」
善子「ふっ、魔界から帰還してきたわ」
梨子「ただいま」
花丸「梨子さん、大丈夫?」
梨子「ええ」
曜「効果はありそうかな」
梨子「どうだろう、とりあえず投げてみないと」
曜「じゃあちゃちゃっとアップ済ませて、一度投げてみようか」
梨子「うん」
―――
――
―
梨子(マウンドの感触、不思議と前よりも馴染んでるように感じる)
梨子(これは、本当に)
千歌「梨子ちゃん、無理なくね」
梨子「うん」
曜「ねえ、実際催眠術って効果あるの?」
善子「正直、人によるわね」
善子「でも梨子さんみたいなタイプはきっと効果があるはずよ」
曜「梨子ちゃんみたいなタイプ?」
善子「たぶんあの人は、他人の言葉の影響を受けやすい人だから」
梨子(善子ちゃんの催眠術を受けた後、不思議と身体が軽い)
梨子(まるで昔の私に戻ったみたいな感覚)ググッ
千歌(投球動作が、前よりもスムーズになって――)
シュッ
千歌「!」バシッ
梨子「あっ……」
千歌「本当に、投げられるようになってる」
曜「凄いっ」
曜「あれは昔見た、梨子ちゃん本来の球に近いよ」
梨子「ち、千歌ちゃん、もう一球」
千歌「う、うん」
シュッ バシッ
梨子「投げられる」
梨子「私、普通に投げられる!」
千歌「梨子ちゃん!」
善子「ふっ、これぞ津島式野球メソッドの力」
曜「凄いよ、善子ちゃん!」
ルビィ「うゅ!」
花丸「見直したずら!」
曜「ねえ、私にも何か教えて!」
善子「じゃあ津島式スイング理論を……」
曜「おぉ、何か逆方向に鋭い打球が打てるようになった!」
千歌「す、すごいよ、善子ちゃん!」
善子「ざっとこんなものよ」
千歌「私にも教えて!」
花丸「ま、マルにも!」
善子「任せなさい!」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃんはいいの?」
ルビィ「えっと、ルビィは自分のやり方を崩したくないから」
善子「くっくっく、そんなことを言っていると、後で後悔するわよ――
―――
――
―
千歌「心なしか前より打てなくなった……」 ボコッ
花丸「マルも全然変わらないずら……」 スカッ
善子「あれ?」
曜「うーん、上手くいく人といかない人がいるのかな」
花丸「むぅ、やっぱり善子ちゃんの理論は欠陥品ずら」
善子「う、うるさいわね!」
善子「完璧じゃないのは仕方ないじゃない!」
善子「充分でしょ、イップス治したんだから」
梨子「そうよ、人それぞれ理論が合う合わないはあるんだから、仕方ないわ」
花丸「まあ、それはそうだけど」
曜「でも野球に関する情報をこんなに持ってるなんて凄いね」
善子「そう?」
曜「うん」
曜「ここまで野球に詳しい同年代の人なんて、他にほとんど知らないよ」
千歌「善子ちゃん、中学はどこのチームでプレーしてたの?」
千歌「ここまで詳しいなら、結構凄いところに――」
善子「どこにも所属してないわよ」
千歌「へっ」
善子「どこへいっても上手くいかなかったのよ、私は」
千歌「な、なんで?」
善子「色々あったのよ、色々」
千歌「色々……」
善子「……」ごめん」
善子「悪いけど私、帰るわね」
千歌「よ、善子ちゃん?」
善子「気にしないで」
善子「久しぶりに人と話したら、ちょっと疲れちゃっただけ」
千歌「そう……」
花丸「ねえ、野球部には入るの」
善子「うーん、どうしようかしら」
千歌「私は善子ちゃんに入ってもらいたいと思ってるよ」
梨子「私も大歓迎よ、イップスを治してくれた恩人だもの」
善子「……ありがとう、今日は楽しかったわ」
花丸「善子ちゃん……」
善子「じゃあね、また学校に来ることがあったら会いましょう」
タッタッ
千歌「無神経な事聞いちゃったのかな、私」
花丸「千歌ちゃんの所為じゃないよ」
花丸「マルも厳しい言い方が多かったし……」
梨子「2人の所為じゃないわよ」
ルビィ「そうだよ、いまのは不可抗力だもん」
千歌「そうかも、しれないけど」
「「「「……」」」」
曜(ふむ……)
―バス車内―
善子「はぁ……」
善子(何であんな出て行き方しちゃったんだろう)
善子(みんな私を受け入れてくれて、楽しく野球をしていたのに)
善子(千歌さんだって悪気があって言ったわけじゃない)
善子(それなのに私はついキツイ返答をして)
善子(しかもパニックになって逃げだしてきて……)
善子「はぁぁぁ」
曜「リストラされた中年サラリーマンみたいなため息だね、若者よ」
善子「うわっ!」
曜「同じ方面だったんね、ちょうどよかったよ」
善子「い、いつの間に乗ってたの?」
曜「善子ちゃんが出てった後、全力で走って先回りしたのさ」
善子「なによそれ……」
善子(バッセンの時といい、本当に滅茶苦茶だわ、この人……)
善子「それで、何の用なの?」
曜「よう? 曜は私だよ!」
善子「そうじゃなくて……」
曜「あはは、分かってるよ」
善子「ふざけないでよ、もう」
曜「ごめんごめん」
曜「でもこうした方が少しは元気になるかなぁと思って」
善子「……悪いわね、わざわざ」
曜「みんな心配してたよ」
善子「そりゃそうよね、あんな出て行き方をしたら」
曜「やっぱり、昔の話に突っ込まれたのが嫌だったの?」
善子「ハッキリ聞くわね、あなた」
曜「その方がいいかなって」
曜「私で良ければ話を聴くよ」
曜「もちろん、誰かにいいふらしたりもしないし」
善子(……本当に不思議な人)
善子「なら、少しだけ昔話をしてもいいかしら」
曜「うん」
善子「私はね、お母さんが野球のコーチを務めるような人なの」
善子「だから小さい頃から野球が身近にある環境だった」
善子「そんな中で育ったせいか、昔から野球が大好き」
善子「どんな時でも、ずっと野球のことばかり考えて」
善子「実際そこそこセンスもあったし、始めた時期も早かったから、最初にチームに入った時はもてはやされたわ」
善子「天才、流石はお母さんの娘だって」」
善子「でも、良かったのはそこまで」
善子「私はとてもこだわりが強い人間でしょ」
善子「だから自分の考え方を譲れなかった」
善子「中途半端に知識があったせいで、色んな動作が我流で」
善子「ちゃんと教わってなかったから、普通とは全然違う動きをしていた」
善子「当然、コーチはそれを正そうとする」
善子「でも私は指導を拒否した」
善子「その上で自分自信の研究を重ねるの」
善子「どうすれば自分のやり方で上手なプレーができるかを、ひたすら探求して」
善子「それで結果的に理想のスイングを作り出しても、大人たちはそれを否定する」
善子「そしてさらに意地になって――そんな繰り返し」
善子「結局、監督やコーチと不仲になって、チームメイトからも孤立して」
善子「実力的には十分でも、試合では使ってもらえなくて」
善子「たまに試合に出れても、謎の不運が私に付き纏う」
善子「打席に立てば何故かデッドボールを当てられてばかり」
善子「守備では打球が不思議とイレギュラーを繰り返す」
善子「いくら努力しても、周りはそれを認めてくれない」
善子「結果で見返そうとしても、不運に阻まれる」
善子「そんなことを繰り返し、色々なチームを転々としている内に、私が入れるチームは一つも無くなっていたの」
曜「……なるほどね」
善子「どう、馬鹿みたいな話でしょ」
曜「傍からみれば、そうかもね」
善子「別に理解してほしいわけじゃないの」
善子「きっと分からない感覚でしょうから」
善子「貴女みたいな、輝かしい場所を歩いてきたであろう人には」
曜「いやいや、そんなことないよ」
善子「えっ?」
曜「私もさ、そんなに協調性があるほうじゃないんだよね」
曜「止められても勝手に練習始めるし、必要ないことだと思ったら積極的にやらないし」
曜「色んなところが結構自己流で」
曜「自分のやりたいようにやって、勝手に突っ走ってさ」
曜「前に教わっていたコーチにもよく皮肉言われたものだよ」
曜「『個人競技の方が向いてるんじゃないの』なんて」
善子「意外ね、協調性高そうなのに」
曜「あはは、野球は別なんだよ」
曜「私は自分の感覚に従って努力していけば、上手くなると信じてる」
曜「そして成長していって、世界で一番の選手になるの」
曜「誰に負けない、凄い選手に」
善子「世界一の選手……」
曜「善子ちゃんはさ、上手くなりたい?」
善子「もちろんよ」
曜「だろうね」
曜「私と善子ちゃん、考え方がどこか似てるもの」
曜「きっと普通に野球ができてたら、いい選手になっていたと思うよ」
善子「……何が言いたいの」
曜「私と善子ちゃんは違うってこと」
曜「私はトラブルはあっても、最終的にチームで受け入れられてきた」
曜「今まで追い出されるように辞めたことは、一度もないよ」
善子「なんで?」
曜「他の子に比べて、実力があったから」
曜「私は集中力がない方だから変なエラーとかよくする」
曜「監督やコーチ、チームメイトとも揉めたことも当然ある」
曜「でも実力があったから、使ってもらえた」
曜「周囲から受け入れてもらえた」
善子「それ、私に実力がないっていう皮肉かしら」
曜「そんなことはないよ」
曜「そこまで多くのプレーを見たわけじゃないけど、善子ちゃんは十分実力はあると思う」
曜「野球が好きで、頭もいい」
曜「きっと充分な才能もある」
曜「不運っていう問題もあるから、私よりも大変だろうし」
善子「それなら、なんで」
曜「キミの一番の問題はね、チームを変え続けること」
曜「すぐに辞めちゃうその癖が、良くないんだよ」
善子「仕方ないでしょ、居辛くなったらまともに練習だって――」
曜「私だって最初はそうだったよ」
曜「主張が強いから、みんなが私を非難した」
曜「軽いいじめみたいなことをされた経験もある」
曜「でもね、そこで我慢したの」
曜「すぐに逃げることなく耐えて、1人でも必死に練習した」
曜「そして実力をつけて、みんなから認められるようになった」
曜「善子ちゃんもね、きっとそれができる」
曜「だからね、今回は辞めないでほしい」
曜「ひきこもり、最初の悪印象、学校内での人間関係、きっと大変なことだらけ」
曜「でもそこで頑張って、耐えてほしいんだ」
曜「そうすれば、善子ちゃんは自分の欲しかった物を手に入れられると思う」
曜「私も協力できることは何でもする」
曜「きっと花丸ちゃんとルビィちゃんも助けてくれる」
曜「これでも運はいい方だから、私といれば不運も吹き飛ばしちゃうよ!」
善子「曜さん……」
曜「だからさ、野球部に入ってよ」
曜「絶対に、みんな歓迎するから」
善子「……ねえ、なんで出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの」
曜「正直に言っちゃえばね、部員が欲しいっていうのはあるかな」
善子「まだ5人しかいないなら、そうでしょうね」
曜「でも一番の理由は、善子ちゃんと一緒に野球がやりたいから」
曜「初めてなんだよ、こんなに面白そうな選手に出会ったの」
曜「その上野球理論も合うし、相性も良さそうだしさ」
善子「――分かった」
善子「入るわよ、野球部に」
曜「善子ちゃん!」
善子「勘違いしないで、私は最初から入るつもりだったのよ」
善子「貴女がおせっかいを焼かなくても、最初から」
曜「ふふっ、そっか、余計な事しちゃったかな」
善子「グラウンドに降臨する堕天使ヨハネを舐めない事ね」
善子「そんなにやわなメンタルしてないわよ」
『次は○○~』
曜「あ、私ここで降りなきゃ!」
善子「あら、そうなの」
曜「じゃあまたね、善子ちゃん」
善子「ええ」
善子「ねえ、曜さん」
曜「なに?」
善子「……ありがとう」
曜「――うん!」
序章的な部分はここまでです、次から試合へと入る予定です
やはりこっちで書くと割と反応があるので楽しいですね(ないのは少し寂しい)
以前書いたように投稿ペースは多少落ちるとは思いますが、できるだけサクサク進めていければと思います
以下、少し補足
現時点でのパワプロ的に例えた能力(女子野球基準)
女子野球の平均球速は120に満たないと考えてください
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕D
:球速133 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D
:球速115 コンC スタD カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB
ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩F 守C 捕E
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスF エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パF 走C 肩F 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守G 捕E
エラー バント○
善子:弾道2 ミE パE 走D 肩E 守D 捕E
選球眼 悪球打ち 意外性 エラー
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F
設定
・μ’sとA-RISEの活躍で女子野球の人気が出ている世界
・全国には300校を超える女子野球部がある(μ's、A-RISEの活躍以前は全国で30校程度)
・道具の進化などにより、女子でも高いパフォーマンスが発揮できるようになっている
―3―
―生徒会室―
ダイヤ「千歌さん、あなたは素晴らしいですわ」
ダイヤ「まさかこんな短期間で部員を集めきってしまうなんて」
千歌「えへへ、それほどでも――あるかな」
梨子「こら、調子に乗らないの」
曜「まあいいじゃん、実際上手くやったんだし」
ダイヤ「そうですよ」
ダイヤ「助っ人も含めれば9人、試合ができる状態になったんですから」
ダイヤ「正直あまり期待してなかったんですよ、部員集めは」
ダイヤ「今だから言えることですがね」
曜「その割に、諸々の環境を整えるの早かったですよね」
ダイヤ「いざとなれば、私が部員を用意するつもりでしたので」
千歌「えっ、ダイヤさんに当てがあったんですか」
ダイヤ「2人ほどですがね」
千歌「それなら最初からお願いすればよかったかも……」
ダイヤ「いいじゃないですか、おかげで質の高い部員が集まったんですから」
梨子「質の高い、部員――」
ルビィ「ノック行くよ」カーン
善子「ちょ、どこに打ってるの――ってまたイレギュラー!?」
ドスッ
花丸「あはは、また善子ちゃんにボールがぶつかってるずら」
善子「私の所為じゃないわよ!」
善子「少なくとも、あんたには笑われたくないわよ!」
善子「さっきから自分へのボールを私に処理させてるじゃない」
花丸「……マルは初心者だから仕方ないんだよ」
善子「言い訳するな!」
ルビィ「け、喧嘩しないでよぉ」
ダイヤ「……」
曜「あ、あはは」
千歌「さ、最初はあんなものだよ。みんな一年生なんだし」
梨子「そ、そうね」
ダイヤ「まあ、気を取り直して」
ダイヤ「ここからが本題なのですが」
千歌「あ、はい」
ダイヤ「試合をできる人数が揃ったということで、早速練習試合を組んでおきました」
曜「おぉ、流石ダイヤさん」
梨子「早いですね」
千歌「相手はどんな高校なんですか?」
ダイヤ「全国大会に出場したこともある、沼津の高校です」
梨子「えっ、それって大丈夫なんですか」
梨子「あんまり実力差があると、試合にならないような」
ダイヤ「確かにそれなりの相手ではあります」
ダイヤ「ただ静岡は女子野球が強い地域ではないので、何とかなるレベルのはずです」
千歌「まあ、私たちには曜ちゃんと梨子ちゃんが居るからね」
ダイヤ「それに練習試合は負けてもいいのですよ」
ダイヤ「負けは負けで、とてもいい経験になります」
ダイヤ「それに皆さんはまだ二年生、他の部員も一年生です」」
ダイヤ「今年一年じっくりと練習して、来年に賭けるぐらいの余裕を持ちましょう」
千歌「えー、でも負けたくないよ」
曜「そうだよ」
曜「今年からいきなり全国へ行くぐらいの意気込みじゃないと!」
梨子「ぜ、全国は流石に」
千歌「そ、そうだね、ちょっと現実的じゃないような」
曜「駄目だよ二人とも、そんな弱気じゃ」
曜「私はどんな相手でも絶対に勝つつもりなんだから」
千歌「そ、そうだよね!」
ダイヤ「ふふっ、その意気で頑張ってください」
―部室―
千歌「というわけで、練習試合をすることになりましたー」
ルビィ「し、試合……」バタン
花丸「あ、ルビィちゃんが緊張のあまり気絶しちゃったずら」
善子「本当にメンタル弱いわね、この子……」
ルビィ「ぴぃ……」
曜「気合入るよね、私たちの初試合!」
善子「確かに」
善子「何といっても、この堕天使ヨハネのデビュー戦だもの!」
曜「ねえ、時々入るその堕天使って何なの?」
善子「真顔で聞かないで、回答に困るから」
千歌「でも試合前に色々と決めなきゃいけないね」
曜「例えば?」
千歌「えーと、打順とか?」
曜「あー」
梨子「そういえば、みんなのポジションは決まってたっけ?」
千歌「あ、忘れてた!」
梨子「忘れないで……」
善子「ある意味一番肝心なことよ……」
千歌「じゃあそれぞれ、希望ポジションを出していこう」
梨子「それでいいの?」
千歌「明確に決まっている人も少ないしね」
千歌「被ったら話し合って決めればいいかな」
曜「私は当然ピッチャーとショートで!」
梨子「投手は私と曜ちゃんの二人制だね」
梨子「投げない時、私はレフトかライトかな」
花丸「じゃあマルは残った方の外野?」
千歌「ううん、花丸ちゃんはファースト」
千歌「内野の動きの知識はあるし、捕球は上手いから」
花丸「でもそれ以外は自信ないずら……」
曜「そこはほら、セカンドのルビィちゃんがフォローしてくれるからさ!」
ルビィ「う、うん」
千歌(そもそも、花丸ちゃんの傍からルビィちゃんを離すと色々心配なんだよね……)
曜「それで、当然キャッチャーは」
善子「私ね!」
千歌「ふぇ」
梨子「へっ」
花丸「ずら?」
ルビィ「ピギィ!」
曜「はっ?」
善子「ひっ」
梨子「よ、曜ちゃん、善子ちゃん怖がってる」
曜「いやいや、どう考えてもキャッチャーは千歌ちゃんでしょ」
善子「い、いいじゃない」
善子「私だって津島式配球理論が通用するか試したいのよ」
善子(あとちょっとだけ、曜さんとバッテリーを組んでみたいし)
曜「むぅ、じゃあ私の球を捕れたら考えるよ」
善子「捕るだけ? そんなの余裕よ」
曜「ほー、言ったな、早速グラウンドへ行こうか」
―グラウンド―
梨子「ねえ、善子ちゃん大丈夫かな?」
千歌「まあ捕るだけならそこまで難しくない、はず」
梨子「でもいいの、簡単にポジション譲っちゃって」
千歌「大丈夫だよ」
千歌「そもそも曜ちゃんも『考える』としか言ってないし」
梨子「あー、言われてみれば」
曜「さー、行くよ」
善子「ふっ、いつでも来なさい」
曜「喰らえよーしこー!」シュッ
善子「へっ、はやっ」
ドカッ
曜「うわっ」
善子「だ、堕天……」バタン
ルビィ「よ、善子ちゃん!?」
千歌「うわぁ、あれは痛い……」
花丸「自業自得ずら」
梨子(そういえば善子ちゃん、曜ちゃんが投げるのを見るの初めてだったかも)
梨子(予測できてないと、あの浮き上がるようなストレートを捕るのは難しいわね)
曜「ご、ごめん」
曜「本当に当てる気はなかったんだけど」
善子「……怖かった」ヒシッ
曜「ちょ、善子ちゃん」
善子「グスッ」
花丸「善子ちゃん、何か幼児化してるずら」
ルビィ「不謹慎だけど、ちょっと可愛いかも」
梨子「確かにね」
―――
――
―
曜「というわけで、キャッチャーは千歌ちゃんになりました」
全員「わ~」
千歌「善子ちゃんはセンターね」
善子「なるほど、この堕天使は中心こそが相応しいと――」
曜「外野だったらイレギュラーしても防ぎやすいからだよ」
花丸「やっぱり自意識過剰ずら」
善子「分かってるわよ! 最後まで言わせないさいよ!」
ルビィ「あはは」
千歌「さて、ポジションはこれで決まり」
千歌「あとは帰ってゆっくりと――」
ブンッ
千歌「あれ、素振りの音?」
曜「でも全員いるよね」
千歌「じゃあ誰が?」
梨子「もしかして、まだ他に野球をする人が?」
曜「見に行ってみよう!」
ダイヤ「……」ブンッ
梨子「えっ、あれって……」
千歌「ダイヤさん?」
ダイヤ「……」ブンッ
善子「綺麗なスイング……」
曜「ダイヤさん、もしかして野球上手なのかな」
千歌「かも、ね」
梨子「だけど家庭の事情でプレー出来ないんでしょ?」
千歌「でも、お願いすれば助っ人ぐらいなら――」
ルビィ「駄目っ!」
千歌「ルビィちゃん!?」
ルビィ「ごめんなさい、それだけは……」
千歌「な、なんで?」
ルビィ「その、理由は……」
千歌「あ、いや、別に無理に話さなくてもいいよ」
ルビィ「すみません……」
全員「…………」
ダイヤ「あら、みなさんどうされたのですか」
千歌「ダ、ダイヤさん」
ダイヤ「もしかして、見られてしまいました」
千歌「えっと、その……」
ダイヤ「いいのですよ、気にしなくても」
ダイヤ「なんてことない、ただの遊びですから」
曜「遊び?」
ダイヤ「昨日、プロ野球を観ていたら素晴らしいプレーを目にしまして」
ダイヤ「あるでしょう、その後に無性にバットを振りたくなることが」
千歌「でも――」
善子「あー、分かるわ」
善子「私も時々やるもの」
梨子「そ、そうよね」
千歌「ちょっと、善子ちゃん」ヒソヒソ
善子「空気読みなさいよ」ヒソヒソ
梨子「気になるのは分かるけど、ルビィちゃんの為にも、ね」ヒソヒソ
千歌「うん、そうだね……」ヒソヒソ
ダイヤ「どうかしましたか?」
千歌「い、いえ、大丈夫です」
ダイヤ「そうですか、ならいいのですが」
ダイヤ「そろそろ私は帰ります、皆さんも気をつけて帰ってくださいね」
千歌「は、はい」
千歌(ルビィちゃんの反応的にも、興味本位で聞いていい話じゃないのかもしれない)
千歌(凄く気になるけど、仕方ないよね)
千歌(それよりも今は、試合に向けて集中していかないと)
―試合当日・沼津、グラウンド―
千歌「ついにこの日が来たよ!」
梨子「はぁ、緊張するわね」
花丸「ですね……」
千歌「あれ、そういえばルビィちゃんは?」
梨子「一番緊張してそうなのに、反応がないわね」
花丸「あ、ここです」クルリ
ルビィ「」
千歌「う、後ろに背負ってる……」
曜「ずいぶんシュールな絵だね」
花丸「緊張がピークに達したみたいで……」
梨子(花丸ちゃん、身長の割にパワーがあるのはこれのせい?)
善子「ま、全く、情けにゃいわにぇ」
善子「これだから人間風じぇいは」
花丸「善子ちゃんも大概ずら」
曜「一年生はみんな試合慣れしてないから仕方ないよ」
梨子「そうね」
梨子「慣れればもう少し平常心を保てるようになるでしょう」
曜「ちなみに千歌ちゃん、オーダーはどんな感じ?」
千歌「ふっふっふっ」
曜「おお、自信満々だね!」
梨子「なんか逆に不安なんだけど……」
千歌「まあまあ、千歌ちゃん監督の有能さを観るがいい!」
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
梨子「こ、これは」
ルビィ「うゅ……」
花丸「あっ、ルビィちゃんおはよう」
善子「曜さんが2番?」
千歌「ネットで見た『2番打者最強説』だよ!」
善子「打てる方のルビィが9番なのよ」
千歌「その方がプレッシャーも小さいかなって」
千歌「それに9番に打てる打者を置くのは、有名なラミ○ス監督も好む戦術なんだよ!」
善子「ネットに流されやす過ぎでしょ……」
梨子「しかもさらっと自分を四番に置いてるし」
千歌「ギクッ」
ルビィ「諸々の理由付け、自分が四番を打ちたかっただけなんじゃ……」
花丸「うわぁ」
千歌「そ、そんなことないって」
曜「わ、私はいいと思うよ」
梨子「曜ちゃんは黙ってて」
曜「はい……」
梨子(でも千歌ちゃんの組んだ打順は案外理に適ってる)
梨子(実際、ルビィちゃんのメンタルで目立つ上位は難しい)
梨子(ただでさえ打てる選手が少ないチーム)
梨子(出塁できそうなルビィちゃんと善子ちゃんの2人を並べて、私たち2年生で返す)
梨子(それが理想的であることも確かなのよね)
梨子(こっちには曜ちゃんがいるんだから、大量点は必要ないもの)
梨子(いくら守備が不安でも、数点取ればなんとかなる)
梨子(……まあ、私が余計な点を取られなければだけど)
梨子「そういえば、今日の対戦相手はどんなチームなの」
千歌「えっと、ダイヤさんからもらったデータによると――」
『日中高校:投手力が高い反面、打撃は標準レベル』
『左のエース中野は特に注意 伝統的に守りが強いチーム』
千歌「だって」
梨子「へぇ、じゃあ大敗の心配はなさそうね」
曜「ダイヤさんも、その辺を考えての選んだ相手なのかな」
梨子「かもね」
千歌「ちなみに相手のオーダーはこんな感じだって」
1:中・小島
2:遊・東田
3:右・凸田
4:一・ヴィシー
5:三・福井
6:ニ・高平
7:左・藤田
8:捕・梅井
9:投・中野
千歌「4番の留学生、ヴィシーさんが要注意らしいよ」
曜「留学生か……対戦してみたい!」
梨子「曜ちゃんは本当にメンタル強いわね」
梨子「私はそんな前向きに考えられないわよ」
曜「梨子ちゃんは強打者を相手にするのが嫌なの?」
梨子「そりゃ嫌よ」
梨子「そんな強打者が居れば、打たれる可能性が上がるわけだから」
曜「むぅ、弱気だね」
千歌「梨子ちゃんの場合、久々のマウンドだから仕方ないよ」
曜「あー、それはそうかもね」
梨子「そもそも、何で私が先発なのよ」
千歌「それはほら、練習試合だから色々試さないとだし」
千歌「梨子ちゃんは実践の勘を取り戻さなきゃでしょ」
千歌「あと私も含めて試合経験少ない子が多いから、打たせて取るタイプの梨子ちゃんの方がいい練習になると思うんだよね」
曜「な、なるほど」
ルビィ「流石千歌さん、考えてますね」
善子「正直見直したわ」
千歌「いやー、実は全部ダイヤさんの受け売りなんだけどね」
善子「あらっ」ガクッ
花丸「千歌さん……」
梨子「あれ、じゃあ打順も」
千歌「それは私」
梨子「でしょうね……」
千歌「いやぁ、ダイヤさんの案だと梨子ちゃんと私の打順が逆だったからさ」
曜「と、とにかくそろそろ行かないと」
曜「早くしないと相手を待たせちゃうよ」
千歌「あ、そうだね」
千歌「よーし、行くよ浦の星ナイン!」
ようりこ「おー!」
よしまる「おー!」
千歌「あれ、ルビィちゃんは?」
花丸「試合が迫ったことを意識してまた気を失ったみたいです」
千歌「あらら……悪いけど花丸ちゃんまた運んであげて
花丸「了解ずら!」
梨子(……本当に大丈夫なのかな)
【一回表】
千歌「よーし、初回に先制するぞ~」
曜「善子ちゃん、頼むよ!」
善子「ええ、任せて!」
ルビィ「善子ちゃん、気合入ってるね」
花丸「だね」
ルビィ「あれなら期待できるかな」
花丸「でも、何か嫌な予感が……」
善子(久しぶりの試合――そして何より初めての一番!)
善子(そもそも上位打線を打つのが初めてだもん、もう最高!)
プレイボール!
善子(でも頭は冷静に)
善子(一番なんだから、しっかり球種を見極めて――)
ドンッ
千歌「うわっ」
梨子「初球からデッドボール……」
善子「もう、なんでよ!」
ルビィ(なんとなく)
花丸(そんな気はしてたよね)
梨子(ある意味期待を裏切らないわね、善子ちゃんは)
千歌「でも曜ちゃんの前でランナーが出たよ!」
梨子「そ、そうね」
千歌「ふっふっふっ、これは先制点貰った!」
梨子「ねえ、千歌ちゃん」
千歌「なぁに?」
梨子「実は期待したでしょ、このデッドボール」
千歌「……そんなことないよ」
梨子(千歌ちゃん、何も考えていないようで案外したたかよね)
曜「……」ニコニコ
梨子(それよりも、目の前で死球を見ながら満面の笑みの曜ちゃんの方が怖いし)
曜(ふふふ、初回からランナーがいるなんて嬉しい誤算だよ)
曜(善子ちゃん、後で褒めてあげないと)
プレイ!
曜「よし、こい!」
中野(この子は有名な渡辺曜……)
梅井(とりあえず、慎重にくさいところを――)シュッ
曜「!」
カッキーン!
千歌「打った!」
ルビィ「大きいよ!」
花丸「これは――――入った!」
千歌「ホームランだ!」
善子「う、嘘っ」アゼン
曜「ちょっとよーしこー」
曜「早く走らないと追い抜いちゃうよ」
善子「ご、ごめんなさい」
善子(あんな難しいコースを、逆方向へホームラン)
善子(女子野球ではあり得ないような現象なのに、何で平然としてるのよ……)
善子(この人は化け物じみてるわね、本当に)
梅井「そんな……」
中野「……」ボーゼン
梨子「ナイスバッティング、曜ちゃん」
曜「えへへ~、上手く打てたよっ」
千歌「凄いよ! これで二点先制!」
ルビィ「相手も動揺してる、チャンスかも!」
千歌「よーし、この回に大量得点だ!」
【一回裏】 2-0
千歌(梨子ちゃんのフォアボールの後、初球ゲッツーはマズかったなぁ)
千歌(後続は3球三振、立ち直られちゃったかもだし)
千歌(でも切り替えて守備に集中しないと)
プレイ!
千歌(梨子ちゃんは低めにボールを集めてゴロを打たせるタイプ)
千歌(とりあえず外にストレートを)
梨子『コクリ』
シュッ
小島「!」キンッ
千歌「曜ちゃん!」
曜「!」パシッ――シュッ
アウト!
梨子「ワンナウト!」
千歌(よしよし、いい感じだね)
千歌(次も同じ感じで、今度はカーブで)
梨子「えい!」シュッ
ボール
千歌(反応しないな、まだ変化球の調子はいまいちかも)
千歌(じゃあやっぱりストレートを)
シュッ――キン
千歌「よし、ファーストゴロ――」
花丸「あっ」トンネル
ルビィ「よ、よしみさん、フォローを――」
よしみ「う、うん」モタモタ
千歌(しまった、あそこは初心者地帯……)
千歌(ランナーも三塁まで行っちゃったよ……)
花丸「ご、ごめんなさい」
梨子「最初は仕方ないわよ、気にしないで」
千歌(でも梨子ちゃんも思ったより気にしてなさそう)
千歌(これなら大丈夫かな)
千歌(次は三番だけど、三振が欲しい)
千歌(この人はお腹も出てるし、一球内角にストレートを投げてみよう)
梨子(内角……私の球威だと甘く入ると怖いわね)
梨子(でもここは千歌ちゃんを信じてっ)シュッ
梨子「あっ」
千歌「真ん中に――」
カキーン
千歌「センター!」
梨子(案外浅い、これなら――)
善子(ギリギリ、でも私の肩じゃ――)パシッ
曜「中継!」
善子「!」シュッ
曜「ヨ――ソロー!」パシッ――シュッ
千歌(いいボール!)パシッ
東田「うおっ」タッチ
アウト!
千歌「二人とも、ナイス連携!」
梨子「ありがとう、助かったわ」
曜「いやぁ、助けになれてよかったよ」
善子「私はほとんど何もしてないけどね」
曜「そんなことないって」
曜「二人で完成させたんだから、半分は善子ちゃんの手柄さ」
千歌「でもいい感じじゃん、久しぶりのマウンドなのに」
梨子「まあ、それなりね」
善子「この調子でお願いね」
梨子「ええ!」
【5回表】 浦2-1日
千歌(試合はサクサクと進んで5回)
千歌(守備は梨子ちゃんの好投もあって順調)
千歌(留学生のヴィシーさんにはホームランを一本打たれちゃったけど、そこは仕方ないよね)
千歌(だけど攻撃は上位の3人以外出塁できないまま)
花丸「ずらっ」ブンッ
バッターアウト!
花丸「また三球三振だよ……」
ルビィ「あの投手じゃ仕方ないよ」
花丸「うぅ、あんなの初心者には反則だよ……」
花丸「ルビィちゃん、マルの敵を取ってぇ」
ルビィ「う、うん、頑張ってみる」
ルビィ(実際、段々身体は動くようになってきた)
ルビィ(一打席目は緊張し過ぎてバットも振れなかったけど、今度は大丈夫かな)
ルビィ(打てるかは分からないけど、とにかくがんばルビィ!」
中野(独り言?)
梅井(変な子ね)
中野(でも下位二人は見るからに打たなそうね)
梅井(たぶん人数合わせなんでしょう)
梅井(真ん中に手を抜いたストレートでいいわよ)
中野(了解)シュッ
ルビィ「あっ、いい球――」
カッキ―ン!
梨子「完璧!」
曜「右中間――抜けた!」
ルビィ(三塁、行ける!)
善子「ちょ、暴走――
セーフ
善子「じゃなかったわね」
千歌「ルビィちゃん、足速いね!」
梨子「確かに足も速いけど、走塁が上手よね」
梨子「実戦経験が乏しい割に、状況判断が的確だわ」
花丸「流石ルビィちゃん、やるときはやれる子ずら!」
千歌「さて、これでランナー三塁」
千歌「次の次は曜ちゃんだけど、これは練習試合だから――」
善子(スクイズ――か)
善子(バント、あんまり得意じゃないのよね)
善子(多分人並みだとは思うけど、コーチに反抗して二塁打を打ったりした記憶しかないわ)
善子(でもここはちゃんと役割を果たさないと!)ブンブン
善子「よし、こい!」
梅井(なんとも分かりやすい……)
千歌「よーし、じゃあ初球からいっちゃえ!」
梨子「えっ、ちょっとそのサインは待って千歌ちゃん――
シュッ
善子(ヤバッ、外され――)
梅井「うわっ」
千歌「暴投だ!」
ルビィ「えっと、いいのかな」ホームイン
曜「いいんだよ、追加点だ!」
梨子「何が起こったの……」
千歌「さあ?」
花丸「善子ちゃんの不運属性の所為で普通に投げても外れるボールが、さらに外れていった的な?」
千歌「善子ちゃんの不運がいい方向に働いた――ってことでいいのかな」
梨子「たぶん……」
花丸「あんまり深く考えたら負けなんですよ、きっと」
【6回裏】 3-1
―選手交代―
『曜:遊→投』
『梨子:投→左』
『モブ:左→中』
『善子:中→遊』
千歌「ここで曜ちゃんに投手交代だね」
曜「ようやくマウンドだよ!」
曜「サインはいつもどおり無しでいいかな」
千歌「うん、曜ちゃんに任せるよ」
曜「まあ私には球種以外関係ないからさ」
千歌「あっ、でもゴロは注意ね」
千歌「正直、善子ちゃんのところでのイレギュラーが心配だから、特にショートは」
曜「つまり――三振を取ればいいんだね!」
千歌「そうそう」
曜「分かりやすくていいじゃん、流石は千歌ちゃん」
千歌(3番から――でも曜ちゃんなら大丈夫かな)
プレイ!
千歌(曜ちゃんの投球スタイルは梨子ちゃんとは対照的)
千歌(コントロールはアバウト、球種も実質二つだけ)
千歌(でも女子野球では10人投げられる人がいないであろ130キロ台の球速を生かして――)
曜「フッ」シュッ
バシッ
ストライク!
千歌「三振を――取る!」ビリビリ
千歌(まるで浮き上がるように伸びるストレート)
千歌(速球での空振り率だ圧倒的に高い)
千歌(高校野球なら、男子でも通用するであろう速球)
千歌(並みの女子選手では手も足も出ない)
千歌(まあ、これもやっぱりダイヤさんの受け売りだけど)
千歌(小さい頃から傍で見てきた分、あんまり実感が湧かないんだよね)
千歌(そりゃ、凄い投手なのは分かるけど)
ストライク!
千歌(でも改めて考えてみると、曜ちゃんより早いストレート投げる人ってほぼいないよね)
千歌(もし漫画みたいに、早い球を受けてるからある程度は打てるとかあれば、千歌ももう少しいい成績を残せそうなのに)
ストライク! バッターアウト!
千歌「ナイスボール、曜ちゃん!」
千歌(っていつの間にか三振だよ)
千歌(ちゃんと試合に集中しないと)
ヴィシー「……OH」
千歌(でもこの、留学生さんの青ざめた顔を見る限り、大丈夫そうかな)
千歌(打たれそうな気、全然しないもんね)
※
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「それでは浦の星女学院野球部の初勝利を祝して――
全員「「「カンパーイ」」」
ごくっごくっ
曜「いやー、今日もプロテインが美味い!」
善子「いやいや、何でプロテインなのよ」
花丸「そうずら、もっと他にジュースとか――
ダイヤ「ブッブーですわ!」
ルビィ「ピギッ」
ダイヤ「アスリートはジュースなど厳禁!」
善子「でも、果汁100%ジュースとかはみんな飲んでるし……」
ダイヤ「偉そうなことは試合で活躍してから言いなさい!」
善子「は、はい」
ダイヤ「あっ、でもルビィは特別にアイスを食べていいですわよ」
善子「なにそれ、ダブスタよダブスタ!」
花丸「そうずら、マルものっぽパン食べたいのに」
ダイヤ「二安打と一死の差ですわよ――あっ、のっぽパンなら食べてもいいですわよ」
花丸「流石ダイヤさん、最高ずら~」
善子「あー、裏切り者!」
梨子「みんな、ダイヤさんにはかなわないわね」
千歌「環境の面とか、色々お世話になりっぱなしだもんね」
梨子「本当にね」
梨子「もしダイヤさんがいなかったら、まともに機能しない野球部になってたかも」
千歌「梨子ちゃんを引き込んでくれたのもダイヤさんだしね」
梨子「ああ、そんなこともあったわね」
千歌「騙されたー、みたいな感じだったもんね」
梨子「結果的に、感謝しかないけどね」
梨子「みんなと出会えて、イップスも治って」
千歌(結局、試合は5対2で勝利した)
千歌(内野の三連続エラーで一時一点差に詰め寄られたけど、リリーフの田馬さんを9~3番で打ち込んで2点を追加、完勝だった)
千歌(私を含めて、4~8番が無安打だったのは結構な問題かもだけど)
ダイヤ「しかし流石我が妹、デビュー戦から活躍とは素晴らしいですわね~」ヨシヨシ
ルビィ「お、お姉ちゃん」
花丸「善子ちゃん、当たったところ大丈夫?」
善子「ええ、慣れてるもの」
曜「結局、イニング数を考えたら梨子ちゃんに結果で負けちゃったかぁ」
梨子「被安打も自責も0なんだから、曜ちゃんの勝ちよ」
千歌(でも、この様子なら何とかなるかな)
千歌(きっとみんな、順調に成長――
ガラッ
千歌「ふぇ」
???「……」
千歌「えっと、どなたですか」
???「ごめんなさい、貴女に用じゃないの」
千歌「はぁ」
???「渡辺さん、少しいいかしら」
曜「あ……」
千歌「曜ちゃん、知り合い?」
曜「……前に所属していたチームのコーチ」
コーチ「見たわよ、今日の試合」
コーチ「相変わらず貴女は素晴らしいわ」
コーチ「逆方向へのホームランを見る限り、さらに成長もしたようね」
曜「どうも」
ダイヤ「あの、申し訳ないのですが部外者の方は」
コーチ「あら、ごめんなさい」
コーチ「でも私は、部外者ではありませんから」
ダイヤ「と、いいますと?」
コーチ「実は、野球部員の保護者なんです」
千歌「保護者?」
コーチ「はい――ねっ、善子」
善子「……ヨハネよ」
善子母「貴方はまたそんなこと言って……」
善子「ふん」
千歌「えっ」
ルビィ「というか」
梨子「善子ちゃんの」
ダイヤ「お母様!?」
曜「そういえば、コーチも苗字が津島だった……」
善子母「あら、てっきり私は知っているものだとばかり」
善子母「でも善子、良かったわね」
善子母「貴女みたいな問題児でも試合に出れるレベルのチームで」
善子「うっさいわね」
千歌「ねえ、皮肉言われてる?」
梨子「皮肉というか、直球というか……」
曜「普段は嫌味をいうような人じゃないんだけど……」
ダイヤ「根に持っているのでしょう」
千歌「根に持つ?」
ダイヤ「曜さんを引き抜かれ、自分ではコントロールできない娘まで手なずけられ、プライドが傷ついてしまったのでしょう」
善子母「……貴女も大概失礼ね」
善子母「ほとんど当たっている分、妙に腹が立つわ」
ダイヤ「すみません、私も根に持つタイプなのです」
ダイヤ「母校の、妹も所属する大切な野球部を貶められたことが許せなくて」
善子母「どちらかといえば、貴女は私に同意してくれると思ったのだけど」
善子母「一番冷静に、現実が見えていそうなのに」
千歌「現実?」
ダイヤ「……気にしてはいけません」
ダイヤ「更年期にありがちな戯言です」
善子母「……覚えてなさい」
善子母「他校とはいえ、私は教師でもあるのよ」
ダイヤ「そうですか」
ダイヤ「しかし私は黒澤家の人間――これ以上言わなくても意味は分かりますわよね」
善子母「なるほど、性質が悪いわけね」
善子母「バックに黒澤家がいたなら、話が妙に順調に進んだのも納得だわ」
ダイヤ「ではそろそろお引き取り願えますか?」
ダイヤ「私たちはまだ、祝勝会の途中なので」
善子母「そうね、水を差して悪かったわ」
善子母「でもじきに、あなた達は思い知ることになる」
善子母「残酷な現実と、自分たちの愚かさについて」
善子母「特に渡辺さんは予めよく考えておくことね」
善子母「ここでの野球と、貴女が今までやってきた野球の、決定的な違いを」
善子「捨て台詞、カッコワルイ」
善子母「……善子」
善子「は、はい」
善子母「ちゃんと遅くなる前に帰ってくるのよ」
善子「わ、分かっているわよ!」
善子母「今後も浦の星女学院野球部の健闘を祈っているわ」
ガララッ――ピシャッ
千歌「……なんか、滅茶苦茶な人だったね」
梨子「流石、善子ちゃんのお母さんって感じ」
善子「なんかごめんね、迷惑かけて」
曜「いやいや、原因は私かもだし」
善子「でも私の母親だから」
善子「曜さんには日ごろから迷惑かけてるかもだし……」
曜「別に善子ちゃんが謝ることじゃないって」
ダイヤ「それにしても、申し訳ありませんでした善子さん」
善子「なんで謝ってるのよ」
ダイヤ「お母様に対して、大人げない態度をとってしまって――」
善子「気にしないで――というか最高だったわ!」
ダイヤ「はい?」
善子「あんな悔しそうなお母さんの姿、初めて見た」
善子「凄くスカッとして、むしろお礼を言いたいぐらい」
善子「私、ダイヤがこんな凄い人なんて知らなかった」
善子「貴女は最高よ!」
ダイヤ「は、はぁ」
ルビィ「善子ちゃん、親子仲悪いのかな」
花丸「昔はそんなことなかったのに」
ルビィ「あれ、花丸ちゃんは善子ちゃんのお母さんのこと知ってたの?」
花丸「うん、一応幼稚園が一緒だったから」
ルビィ「へぇ」
花丸「親子二人で野球について楽しく語り合ってた記憶があるよ」
花丸「その頃は、普通に仲良しだったのに」
ルビィ「それは流石に古すぎて参考にならないかも……」
善子「でも驚いたわ」
善子「まさか曜さんが教わっていたコーチがお母さんだったなんて」
曜「私の方こそ」
曜「よくよく考えたら、性格も結構似てる気がするけどさ」
善子「どの辺がよ」
曜「色々とこだわりの強いところとか」
善子「ぐっ」
曜「まああれで、コーチとは結構馬が合うからさ」
曜「善子ちゃんとも仲良くなれそうでよかったよ」ギュー
善子「な、なんで抱きつくのよ!?」
千歌「曜ちゃんだけズルい、私も!」ギュー
善子「ちょ、千歌さん」
花丸「それならマルも」ギュー
ルビィ「る、ルビィも」ギュー
善子「ルビィまで!?」
ダイヤ「やれやれ、騒がしいこと」
梨子「でも、すぐに元気になって良かったです」
ダイヤ「ふふっ、そうですわね」
梨子(ここまでは凄く順調)
梨子(初心者だらけのメンバーだけど、チームも完成して、試合にも勝って)
梨子(けど気になるのは、さっきの会話の中)
梨子(善子ちゃんのお母さんが話して、ダイヤさんも否定しなかった『現実』)
梨子(それはいったい、どんな意味なんだろう)
―4―
―部室―
曜「あー、今日も疲れたぁ」
梨子「その割には元気そうね」
曜「いやほら、練習後の定型文みたいなもんだし」
梨子「まあ、そうね――」
花丸「ずらぁ……」
ルビィ「ピギィ……」
善子「堕天……」
梨子「本当に疲れている子もいるみたいだけど」
千歌「まあまあ、一年生は仕方ないよ」
千歌「今日の練習は曜ちゃんが気合い入ってて、いつもより厳しかったし」
曜「あはは、ごめんごめん」
千歌「でも、みんな体力はついてきたよね」
千歌「こんな風に疲れ切ってはいても、最後まで練習に参加し通してたし」
曜「確かに、花丸ちゃんも途中で休まずに練習できるようになったもんね」
千歌「でしょ!」
梨子「あら、千歌ちゃんはずいぶん元気みたいね」
千歌「それだけが取り柄だからね!」
千歌(野球部の結成から少しの時が経った)
千歌(曜ちゃんの力もあって、練習試合は全勝)
千歌(私もヒットを打てたし、花丸ちゃんも一度バットにボールが当たった)
千歌(梨子ちゃんもイップスから順調に回復して、再発もなさそう)
千歌(善子ちゃんは出塁率4割近いし、ルビィちゃんも試合前に気絶しなくなった)
千歌(全てが順調、怖すぎるぐらいに)
千歌「そうだ、みんな居るうちに次の練習試合の予定についてなんだけど――」
曜「ちょっと待った!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「ねえ、この大会に出てみない?」
『春季女子高校野球大会』
千歌「これは?」
曜「女子には男子みたいに春季大会がないから、それの代わりみたいなイベント」
曜「要するに、夏大前の余興みたいなものかな!」
千歌「おー、そりゃいいね!」
ルビィ「うゅ……」
花丸「どうしたの、ルビィちゃん」
ルビィ「この大会、それなりの強豪校じゃなきゃ出られないはずだよ」
善子「そうなの?」
ルビィ「確か……」
ルビィ「お姉ちゃんもプロ野球の試合と被ってもこっちを観に行くぐらいだし」
千歌「梨子ちゃん、知ってる?」
梨子「そうね、ルビィちゃんの言うとおり」
梨子「少なくとも、創部間もない私たちが出られる大会じゃ――
曜「でももう、エントリー済ませたよ」
梨子「えっ」
ルビィ「うゅ?」
曜「むしろ主催者から参加を薦められたぐらい」
善子「な、なんでそうなるのよ」
曜「私も気になって色々聞いてみたんだけどさ」
曜「善子ちゃんのお母さんが推薦してくれたみたいなんだよね」
善子「お母さんが?」
千歌「どうしたんだろうね、急に」
曜「きっとアレだよ」
曜「これで現実を見せてやるとか、そんな感じ」
千歌「うへぇ、感じ悪い……」
梨子「だ、駄目よ」
梨子「証拠もないのに、推測でそんなこと言っちゃ」
善子「けど、お母さんなら考えそうなことよ」
梨子「娘にそう言われると否定しずらいわね……」
千歌「でも大会かぁ」
千歌「楽しみだなぁ、東京」
梨子「そう?」
千歌「しかも野球の大会でしょ」
千歌「もしかしたら、μ’sに会えるかもだし!」
ルビィ「それは流石に……」
千歌「分かんないじゃん、東京の大会だもん!」
梨子「ふふっ、そうかもね」
千歌(本当に楽しみ)
千歌(少し前、応援で行った東京に、選手として行けるなんて)
千歌(素敵な旅になる、そんな予感がするよ!)
―1―
千歌(私はずっと、退屈な日々を過ごしていた)
千歌(面白みのない日常)
千歌(色々なことに挑戦してみたけど、どれも長続きしない)
千歌(途中で壁にぶつかると、つい投げ出してしまうから)
千歌(そんな風に何もできない普通怪獣のまま、私は高校二年生になっていた)
千歌(でも、そんな私に運命の出会いが訪れた)
3: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:11:50.54 ID:IR7y4gVA.net
千歌(幼馴染の野球少女、曜ちゃんの応援で行った東京で存在を知った、美しい9人の女子野球選手、μ’s)
千歌(ありとあらゆる野球に関する知識を持つデータの鬼、小泉)
千歌(圧倒的な快足で塁を奪っていく、星空)
千歌(人を惹きつけるスター性を持つ天才、西木野)
千歌(あらゆるプレーを寸分の狂いもなくこなす精密機械、園田)
千歌(柔軟な身体を生かしてあらゆる方向へ打ち分ける打撃を持つ魔術師、南)
千歌(小柄ながら堅実な守備と技術の高さが光る、矢澤)
千歌(恵まれた体格から生み出される圧倒的なパワーを持つ、東條)
千歌(走攻守三拍子揃った一流選手、絢瀬)
千歌(そしてそんな最強のチームをまとめるキャプテンにしてエース、高坂)
4: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:14:07.73 ID:IR7y4gVA.net
千歌(動画で見た彼女たちの姿は、とても輝いていた)
千歌(私に今までになかった刺激を与えてくれた)
千歌(今までずっと追い求めていたものがそこにある、そんな気がして)
千歌(私はそれからすぐに決断した、野球を始めることを)
千歌(彼女たちのように輝きたかったから)
千歌(この場所で輝きたいと、強く想ったから)
5: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:14:56.50 ID:IR7y4gVA.net
-浦の星女学院・グラウンド-
曜「相変わらず、千歌ちゃんは思い込んだら一直線だね」
千歌「むぅ、何だか馬鹿にされてるみたいなんだけど」
曜「でもさ、ちょっと刺激を受けただけでいきなりキャッチボールをしようなんて」
千歌「ちょっとじゃないよ、凄いんだよ!」
曜「そんなに?」
千歌「うん! なんかこう、キラキラと輝いてて!」
6: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:16:58.50 ID:IR7y4gVA.net
曜「でも、今まで何度野球に誘っても断ってきた千歌ちゃんをそこまで惹きつけるなんて」
曜「μ’sって人たちはよっぽど凄いんだね」
千歌「曜ちゃん、μ’s知らないの!?」
曜「いや、名前ぐらいは知ってるけどさ」
千歌「じゃあ知ってはいるんだ」
曜「そこまで詳しくはないけどね」
千歌「え~、女子野球をやってるのに」
曜「そうかなぁ」
曜「案外選手のことなんて知らないもんだよ」
7: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:18:29.04 ID:IR7y4gVA.net
千歌「あの人たちを知らないなんて、曜ちゃんは人生損してるよ」
曜「大丈夫、私は千歌ちゃんがいれば幸せだよ」
千歌「何それ、変なの」
曜「私は真面目なんだけどなぁ」
曜「でもさ、本当に私は野球部に入らなくてもいいの?」
千歌「だってクラブチームと掛け持ちじゃ大変でしょ」
曜「それは、そうかもしれないけど」
千歌「日本代表候補にもなってる渡辺曜ちゃんだよ」
千歌「無理させて何かあったら大変だよ」
9: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:19:35.04 ID:IR7y4gVA.net
曜「でも……」
千歌「いいから気にしないで」
千歌「本当に困ったらお願いするからさ」
曜「……分かった」
曜「でも、困ったことがあったら言ってね」
曜「名前も貸すし、助っ人ぐらいはするから」
千歌「うん、ありがとう! 曜ちゃん大好き!」
曜「もう、千歌ちゃんってば~」
10: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:21:47.59 ID:IR7y4gVA.net
-十千万-
千歌(でも実際問題、部員を集めるのは大変なんだよね)
千歌(部として認められるのには最低5人、試合をするには9人)
千歌(在校生のあてはほとんどない)
千歌(むっちゃんたちは頼めば協力してくれるかもだけど)
千歌(あとは、もうすぐ入ってくる新入生)
千歌(だけど、野球部のない浦の星に入ってくる人間に期待するのは難しい)
千歌「せめて経験者の果南ちゃんを誘えればなぁ」
千歌(でもお父さんが怪我したせいで、実家のスポーツショップも大変そうだし……)
千歌「もう、上手くいかない!」
13: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:23:49.02 ID:IR7y4gVA.net
美渡「千歌、うるさいよ!」
千歌「ご、ごめんなさい」
美渡「全く、どうしたのさ」
千歌「いやぁ、野球部に人が集まりそうになくて……」
美渡「まだ野球?」
千歌「まだってなにさ~」
美渡「初心者が高校生になって始めるなんて無理だから、いい加減諦めな」
千歌「ソフトボールの経験はあるし……」
14: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:25:51.22 ID:IR7y4gVA.net
美渡「そもそもこんな田舎で人が集まるわけないでしょ」
千歌「そうかもしれないけど……」
美渡「馬鹿な事考えている暇があったら手伝いでもしな」
バタン
千歌(むう、痛いところばっかり突いてきて)
千歌(だけど事実だから反論できないのが……)
千歌(新入生も相当少ないらしいし、人集めは難しいのかも)
千歌「うぅ、前途多難だなぁ」
千歌(まあ嘆いても仕方ない)
千歌(まずは勧誘頑張ろう!)
15: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:26:55.30 ID:IR7y4gVA.net
-入学式当日・校門前-
千歌「野球部~。大人気、女子野球部ですよ~」
モブ1「……」スルー
曜「君も一緒に白球を追いかけてみよう!」
モブ2「あ、いえ、私は」
曜「そこの君、ぜひ野球部に!」
モブ「すいません、私はもうバスケ部に」
ようちか「……」
17: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:28:11.81 ID:IR7y4gVA.net
曜「全然人集まらないね」
千歌「うん」
曜「そもそも今年の一年生、数が少ない気も……」
千歌「うぅ曜ちゃん、どうしよう」
曜「とにかくもう少し声かけてみるしか」
千歌「そうだね――あ、ちなみに今のは『曜』ちゃんとどうし『よう』をかけた――」
曜「お、あの子たちに声かけてみよう!」
千歌「無視しないでよ!」
18: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:29:10.54 ID:IR7y4gVA.net
曜「すいませ~ん、ちょっといいですか」
???「ピギィ!」
曜「ピギィ?」
??「は、はい。何でしょうか」
曜「私たち野球部の者なんですけど、野球に興味ありませんか?」
??「いや、おらは別に……」
曜「おら?」
??「いや、私は……」
20: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:30:53.12 ID:IR7y4gVA.net
???「野球部……ですか」
曜「うん、そうだよ」
???「あ、あのぉ」
千歌「もしかして、野球に興味あるの!」
???「部員はどれぐらい居るんですか?」
千歌「まだ1人なの、だから部員募集中でさ」
???「なるほど……」
千歌「だからあなたみたいに有望そうな子に入ってほしいんだよ!」 ガシッ
21: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:32:36.73 ID:IR7y4gVA.net
???「ピッ」
千歌「ピ?」
???「ピギャ――――!」
千歌「うわっ」
曜「な、なに!? どうしたの」
??「す、すいません」
??「ルビィちゃんはプレッシャーに弱くて……」
曜「いやいや、これってそんなレベルじゃ……」
ルビィ「うわぁん、おねぇちゃーん!」 ダッ
??「る、ルビィちゃん!? ちょっと待つずら~」
22: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:34:29.80 ID:IR7y4gVA.net
曜「……なんか凄い子たちだったね」
千歌「でもルビィちゃんって子、凄い逃走スピードだったよ」
千歌「またスカウトしに行かなきゃ」
曜「あのメンタルだと、なかなか苦労しそうだけど……」
千歌「でもさ、せっかく興味を持ってくれてたんだから」
千歌「貴重な野球が好きな子かもなんだもん!」
曜「うん、そうだね!」
25: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:36:49.95 ID:IR7y4gVA.net
曜「そういえばさ、自己紹介で野球のスイングについて語りだした子のうわさ、知ってる?」
千歌「ううん、知らない」
曜「一年生なんだけどね。凄い勢いで話してたらしいよ」
曜「だけど途中で恥ずかしくなったのか教室を飛び出しちゃったんだって」
千歌「そ、それはまた……」
千歌「でもそこまで熱くなるぐらいだから、その子は野球好きなんだよね」
千歌「スカウトに行けばもしかしたら」
曜「私もそう思ったんだけどさ」
曜「その噂だと逃げ出した後、学校に帰ってこなかったみたいで」
千歌「そうなんだ、それは残念だなぁ」
曜「まあ、どこかで誘う機会はあるでしょ」
27: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:38:51.78 ID:IR7y4gVA.net
千歌「そうだね」
千歌「引きこもりにでもならない限り、学校に来るわけだから――」
???「そこのあなた、少しいいかしら」
ようちか「!」
千歌「もしかして入部希望ですか!」
???「いえ、このチラシの件でお話がありまして」
千歌「ふぇ」
曜「! ヤバいよ千歌ちゃん」
曜「この人、生徒会長の黒澤ダイヤさん!」
千歌「へっ」
29: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:40:01.48 ID:IR7y4gVA.net
―生徒会室―
ダイヤ「なるほど」
ダイヤ「野球部を作る為に、無許可で勧誘をしていたと」
千歌「は、はい」
曜「ち、千歌ちゃん、無許可だったの!?」ヒソヒソ
千歌「いやー、ばれたら怒られると思ってさ……」ヒソヒソ
ダイヤ「……部の設立には最低でも5人の部員が必要だとは分かってますよね」
千歌「は、はい」
30: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:40:45.40 ID:IR7y4gVA.net
ダイヤ「ちなみに今の部員数は?」
千歌「え、えっと、私と」
曜「私だけです……」
ダイヤ「ほぅ、なるほど」
千歌「どうしよう曜ちゃん、生徒会長怒ってるよ!」ヒソヒソ
曜「い、今からでも謝った方が」ヒソヒソ
千歌「だ、だよね――あ、あの」
ダイヤ「素晴らしいですわね」
32: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:42:44.75 ID:IR7y4gVA.net
ようちか「へっ」
ダイヤ「私も常日頃から嘆いていたのですよ」
ダイヤ「浦の星に野球部がない、この惨憺たる現状を」
千歌「は、はぁ」
ダイヤ「以前から、いつの日か部の設立を夢見ていました」
ダイヤ「しかしただでさえ生徒数の少ない学校。現実的に難しいと諦めていました」
ダイヤ「しかし貴女のような、ルールを破ってでも野球部を作るという高い志を持った人がいるなら話は別です」
千歌(高い志?)
ダイヤ「生徒会長という立場上、大手を振って助けることはできません」
ダイヤ「しかし、個人的に出来る範囲で部員集めに協力しましょう」
34: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:45:38.68 ID:IR7y4gVA.net
千歌「本当ですか!」
ダイヤ「ええ、今回の件についても生徒会長権限で不問とします」
千歌「ありがとうございます!」
曜「い、いいんですか、それ」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「これは将来的に学校にも利益をもたらす話」
ダイヤ「だって、あの渡辺曜が所属しようとしている野球部なのですから」
曜「へっ」
35: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:48:43.90 ID:IR7y4gVA.net
ダイヤ「貴女の事はよく知っています」
ダイヤ「その類稀な野球センスに抜群の身体能力」
ダイヤ「ショートとピッチャーをハイレベルにこなし、将来は代表を引っ張る存在とも目されている」
曜「い、いやいや、私はそんなたいした選手じゃないというか」
ダイヤ「謙遜しなくてもいいですよ」
ダイヤ「一部では、あの高坂穂乃果の後継者とまで言われている選手なのですから」
千歌「よ、曜ちゃんってそんなに凄い選手だったんですか」
ダイヤ「ええ、貴女は知らなかったんですか」
ダイヤ「様子を見ている限り、とても親しいようなのに」
千歌「も、もちろん上手なことは知ってましたけど」
36: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:50:04.74 ID:IR7y4gVA.net
曜「というか生徒会長、詳しいですね」
曜「野球好きなんですか?」
ダイヤ「ええ、もちろんです」
ダイヤ「プロからアマまで、男女関係なくあらゆるデータを網羅してますわ」
曜「そ、それはまた」
ダイヤ「特にμ’sと出会ってからは女子の高校野球に夢中でして」
ダイヤ「毎年のように東京でおこなわれる全国大会には駆けつけていますの」
千歌「す、すごいですね」
ダイヤ「当然です、私を誰だと思っているのですか!」ドヤァ
38: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:52:30.69 ID:IR7y4gVA.net
曜「……ねえ千歌ちゃん」
曜「もしかして生徒会長って野球オタク?」
千歌「みたいだね」
曜「誘ったら入ってくれないかな」
千歌「どうだろう、三年生だから難しいかも」
ダイヤ「やれやれ、二人で内緒話とは、本当に仲がよさそうですね」
千歌「す、すみません」
ダイヤ「とにかく、2人共頑張って部員を集めてください」
ダイヤ「私も応援してますから」
ようちか「は、はい!」
40: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:54:22.83 ID:IR7y4gVA.net
―バス車内―
千歌「いやー、無事で済んで良かったね」
曜「そうだね、理解のある人で助かったよ」
千歌「帰り際、曜ちゃんにサインと握手を要求したのはびっくりしたけどね」
曜「あはは、確かに」
曜「でもあそこまでされると悪い気はしないよ」
千歌「いいなぁ、私も人からサインを求められてみたいよ」
41: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:55:34.36 ID:IR7y4gVA.net
曜「千歌ちゃんならできるよ」
曜「昔、ソフトボールは得意だったでしょ」
千歌「そんなに甘いものなのかなぁ」
曜「大丈夫だよ!」
千歌「でも……」
曜「じゃあ諦める?」
千歌「もちろん諦めない!」
曜「だよね!」
42: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:57:41.10 ID:IR7y4gVA.net
千歌「でも少し困ったよね」
曜「なにが?」
千歌「ダイヤさん、完全に曜ちゃんを部員として誤解してたよ」
千歌「もし曜ちゃんが幽霊部員だってばれたら怒られるかなぁ」
曜「それはそうかもね」
千歌「うぅ、そうなったら協力もしてくれなくなっちゃうかも……」
曜「……それなら、正式に入っちゃえばいいんじゃないかな」
千歌「え?」
43: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 00:59:43.54 ID:IR7y4gVA.net
曜「私ね、昨日クラブチーム辞めてきたの」
千歌「な、なんで」
千歌「曜ちゃん有名選手なんでしょ、そんなことしたら――」
曜「いいんだよ」
曜「部があれば、野球ができなくなるわけじゃない」
千歌「だけど、まだ正式な部になれるかも分からないのに」
曜「大丈夫だよ、千歌ちゃんなら」
千歌「そんなこと……」
44: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 01:02:05.84 ID:IR7y4gVA.net
曜「夢だったの、千歌ちゃんと一緒に野球をやることが」
曜「もう叶わないと思ってたその夢が、手の届くところにある」
曜「私は絶対にそのチャンスを逃したくない」
曜「その為には、片手間なんて中途半端じゃ駄目、そう思ったから」
千歌「曜ちゃん……」
曜「なんて、ちょっと重いかな?」
曜「引いちゃうよね、こんなこと言われても」
千歌「ううん、そんなことない」
45: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 01:02:44.00 ID:IR7y4gVA.net
千歌「曜ちゃんが一緒にやってくれれば、何とかなる」
千歌「不思議とそんな気がする!」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「生徒会長の協力もあるんだから、きっとできる!」
曜「うん!」
千歌「よーし、明日からまた勧誘頑張ろー!」
曜「おー!」
62: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:06:31.42 ID:IR7y4gVA.net
―2―
―十千万前・海岸―
千歌「あーあ、集まらないなぁ、部員」
千歌(始業式から一週間)
千歌(せっかく曜ちゃんが入部してくれたのに、その後勧誘で来た部員はゼロ)
千歌(ルビィちゃんには逃げられっぱなしだし、他に目ぼしい子は見つからない)
千歌「あー、どうしよう」
千歌(せっかくダイヤさんがグラウンドの都合を付けてくれて、明日から練習できるのに)
63: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:11:57.28 ID:IR7y4gVA.net
千歌「どっかに都合よく経験者でも落ちてないかなぁ」
バンッ
千歌「んっ、あれは……」
??「あぁ、また変なところに……」 パシッ
千歌(珍しい、防波堤で壁当てをやってる人なんて)
千歌(酷いコントロールだけど、その後の捕球は完璧なのが、凄いギャップ)
??「もう、これじゃあ私はまた……」
千歌(見慣れない子だけど、同年代?)
千歌(この辺の子だったら浦女の生徒の可能性も――)
曜『自己紹介で野球のスイングについて語りだした――』
64: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:13:12.92 ID:IR7y4gVA.net
千歌(そういえば例の子を一度も見かけてない)
千歌(2年生以上だったら顔ぐらい分かるだろうし、もしかしたらこの子なのかな)
千歌(声をかけるだけかけてみてもいいかも)
千歌「す、すいませーん」
??「へっ、わ、私?」
千歌「はい!」
??「な、なんでしょうか」
千歌「えっと――」
65: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:14:45.39 ID:IR7y4gVA.net
千歌(あれ)
千歌(だけどよく考えたら浦女の生徒じゃなかったら恥ずかしいかも)
千歌(そもそも合っていたとしても、こんなところでいきなり勧誘したら嫌がるかな)
??「あ、あの……」
千歌「キャッ」
??「キャッ?」
千歌「キャッチボール、しませんか?」
??「はぁ」
66: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:15:46.01 ID:IR7y4gVA.net
―――――
――――
―――
千歌「へぇ、梨子ちゃんって言うんだ」シュッ
梨子「うん、千歌ちゃんと同じ、高校二年生」パシッ
千歌「高校はどこなの?」
梨子「東京のね、音ノ木坂って高校だったんだけど」シュッ
千歌「東京、凄いね!」パシッ
千歌(やっぱり他校生じゃん、勧誘しなくてよかった~)
67: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:17:31.89 ID:IR7y4gVA.net
千歌「なんで内浦に来たの?」シュッ
梨子「え、えっと、その……」パシッ
千歌「あっ、何か言いにくい理由だった?」
梨子「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
千歌「梨子ちゃん?」
千歌(ありゃ、地雷踏んじゃったかな)
千歌(都会の子は結構繊細って言うもんね)
千歌(でも音ノ木坂かぁ、どこかで聞いたことあるような――)
千歌「!」
68: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:20:33.80 ID:IR7y4gVA.net
千歌「音ノ木坂ってμ’sの母校!?」
梨子「う、うん」
千歌「女子野球部の名門だよね!」
梨子「まあね」
千歌「でも音ノ木坂のの選手……」
千歌「もしかして梨子ちゃん野球エリート!?」
梨子「……元、ね」
千歌「元?」
69: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:22:48.88 ID:IR7y4gVA.net
梨子「ねえ千歌ちゃん、イップスって知ってる?」
千歌「イップス?」
梨子「主にスポーツ選手が患う、精神的な病気」
梨子「簡単に言えば、当たり前に出来ていた動作が、急にできなくなるの」
梨子「投げる、打つみたいな、基本的な動作さえも」
千歌「……もしかして、さっきの壁当て」
梨子「うん、そう」
梨子「私ね、投球イップスなんだ」
70: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:25:17.38 ID:IR7y4gVA.net
梨子「これでもね、結構有望な投手だったの」
梨子「小さい頃から、周囲からは天才だって称されて」
梨子「野球人生も順調だった」
梨子「実際に結果を残して、名門の音ノ木坂に進学して」
梨子「でもね、ある日突然、投げられなくなった」
梨子「それまで自然とできていた投球動作が、できなくなって」
梨子「必死に治そうとしたよ」
梨子「でも考えれば考えるほど、症状は悪化して」
梨子「投手を辞めてね、外野手に転向しようともしたの」
梨子「けど次第に、外野からの送球ですらまともに投げられなくなって」
71: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:29:24.51 ID:IR7y4gVA.net
千歌「でも、今はキャッチボールできてたよね」
梨子「普通に会話ができる程度の距離ならね」
梨子「でももう少し離れるだけで、それさえもできなくなる」
梨子「キャッチボールもできない、小学生以下の選手」
梨子「私は天才から練習もまともに出来ないお荷物になっちゃったの」
梨子「結局、そんな状況に耐えられなくて野球部は辞めちゃったしね」
千歌「そんな……」
74: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:32:22.24 ID:IR7y4gVA.net
梨子「学校も音ノ木坂って言ったけど、もうすぐ転校予定なの」
千歌「そうなんだ……」
梨子「周囲からは野球を辞めてでも残るべきって止められた」
梨子「けど、あそこにはもう私の居場所はなかったから」
千歌「だったら、何でまだ壁当てをしてるの」
千歌「野球、やめるんだよね」
梨子「やめないよ」
梨子「私は諦めきれないから、小さい頃からやってきた野球の道を」
75: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:35:22.21 ID:IR7y4gVA.net
千歌「苦しい想いをしてまで、続けるんだ、野球」
梨子「そうね」
梨子「正直、少し意地もある」
梨子「ここで投げ出したくないって、そんな気持ち」
梨子「でも何より、例え普通に投げられなくなっても、私は野球が大好きだから」
梨子「好きだからこそ、続けるの」
千歌「……なんか素敵だね、そういうの」
梨子「千歌ちゃんはどこかの野球部員?」
千歌「うん」
76: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:37:22.67 ID:IR7y4gVA.net
梨子「それならどこかで対戦することもあるかもね」
梨子「転校する予定の学校、この辺りだから」
千歌「そうなんだ、楽しみだね!」
千歌(浦の星だったら嬉しいけど、廃校の噂もある学校にはこないだろうしなぁ)
梨子「そういえば千歌ちゃんのポジションはどこなの?」
千歌「え、えっと……」
千歌(よく考えたら決めてなかったような)
千歌(向いているところ――昔から曜ちゃんの投球練習に付き合うことはあったし)
77: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:42:34.27 ID:IR7y4gVA.net
千歌「たぶん、キャッチャーかな」
梨子「たぶん?」
千歌「実は本格的に野球を始めたのは最近なんだ」
千歌「だからちゃんとしたポジションは決まってなくて」
梨子「えっ、でもその割に上手よね」
千歌「ソフトボールの経験はあったからね」
千歌「野球も幼馴染に凄い上手な子がいて、時々練習に付き合ったりはしてたから」
梨子「なんか、特殊な環境ね」
千歌「うん」
78: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:45:29.76 ID:IR7y4gVA.net
梨子「何で今さら、本格的に始めようと思ったの?」
千歌「始めた理由はね、出会ったから」
千歌「凄くキラキラと、輝いている人たちに」
梨子「輝いている人たち?」
千歌「梨子ちゃんも音ノ木坂出身なら知ってるでしょ、μ’s」
梨子「もちろん、伝説のOGだもん」
千歌「私は最近になってね、μ'sの存在を知ったの」
千歌「それで動画を観ている内に憧れて、私もこんな風に輝きたいと思って」
79: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:46:53.96 ID:IR7y4gVA.net
梨子「分かるよ、その気持ち」
梨子「私も千歌ちゃんと同じ、μ'sに憧れているから」
千歌「おぉ、仲間だね!」
梨子「千歌ちゃんはあれかな、穂乃果さんのファンでしょ」
千歌「な、なんで分かったの?」
梨子「うーん、雰囲気が少し似てたからかな」
千歌「雰囲気?」
梨子「はっきりとした根拠があるわけじゃないけどね」
80: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:49:45.23 ID:IR7y4gVA.net
千歌「それなら梨子ちゃんは誰が好きなの」
千歌「やっぱり穂乃果さんのファン?」
梨子「私は、西木野真姫さんかな」
千歌「あー、何かそれっぽい」
千歌「自分で天才とか言っちゃう辺りとか似てるもんね」
梨子「べ、別に自分で天才って言ってるわけじゃないわよ」
千歌「えへへ、分かってるよ」
梨子「もうっ」
81: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:53:06.20 ID:IR7y4gVA.net
千歌「でもさ、ちゃんとした理由もあるんだよ」
梨子「え、そうなの?」
千歌「真姫さんがさ、イップスみたいな病気持ちだったって知ってる?」
梨子「ううん、初めて聞いた」
千歌「彼女もね、梨子ちゃんみたいに天才って呼ばれてた」
千歌「でも家が大きなお医者さんでしょ」
千歌「ご両親からはいつも野球をやることを反対されていたの」
千歌「それが結構辛かったみたいで、精神的に追い詰められて」
千歌「中学三年生の頃、まともにボールが投げられなくなっちゃったんだって」
梨子「……私と似たような状態ね」
82: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:56:25.79 ID:IR7y4gVA.net
千歌「でもね、高校に入って、何かのきっかけで立ち直れたみたい」
梨子「きっかけ?」
千歌「えへへ、実はそこからはよく知らなくて」
千歌(この前ダイヤさんから教えてもらった話だからなぁ)
千歌(詳しいこと、ちゃんと聞いておけばよかった)
梨子「それならなんでこの話を?」
千歌「えっとね、私が言いたいのは、きっとイップスは治る病気だってこと」
千歌「真姫さんだって、高校で復活できたんだから」
梨子「……」
83: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 19:58:19.80 ID:IR7y4gVA.net
千歌「大丈夫だよ、真姫さんは治ったんだから、不治の病ってわけじゃないよ」
千歌「梨子ちゃんなら、また投げられるようになるよ!」
梨子「……変な人ね、千歌ちゃんって」
千歌「あはは、よく言われる」
梨子「でもありがとう、おかげで少し元気が出た」
千歌「力になれたなら良かったよ!」
梨子「――じゃあ私は行くわね、お父さんたちが待ってると思うから」
千歌「うん――あ、そうだ」
梨子「どうしたの?」
千歌「せっかくだし、サイン頂戴!」
梨子「……本当に、変な人」クスッ
84: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 20:08:39.76 ID:IR7y4gVA.net
とりあえずこの辺で
一応、自分は過去に野球の話を書いていた方とは別人です
補足
あまり本編に関係ありませんが、μ'sのオーダーはこんな感じ
1:左・凛
2:二・にこ
3:投・穂乃果
4:遊・絵里
5:右・希
6:三・海未
7:中・真姫
8:一・ことり
9:捕・花陽
(投手の控えが真姫で、交代時は絵里がセンター、穂乃果がショート)
91: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:02:32.02 ID:IR7y4gVA.net
―浦の星女学院・二年生教室―
曜「おはヨ―ソロー!」
千歌「おはよう!」
曜「おお、今日は元気だね」
千歌「昨日ちょっといいことがあってね」
曜「いいこと?」
千歌「実はね、音ノ木坂の子と話したんだ」
92: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:05:11.54 ID:IR7y4gVA.net
曜「東京の? そりゃまた珍しいね」
千歌「うん、それも野球部の子でね~」
曜「へぇ、私も会ってみたかったな」
曜「音ノ木坂の野球部なら知り合いも何人かいるし」
千歌「あー、代表の子とかいそうだもんね」
千歌「あとね、さっきむっちゃん達に入部できないか聞いたの」
千歌「そしたら入るのは無理でも、試合の時に助っ人をしてくれるらしくてさ」
曜「本当!?」
93: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:06:58.56 ID:IR7y4gVA.net
よしみ「うん」
むつ「まあ私ら、全然上手くはないけどさ」
いつき「2人共頑張ってるみたいだし、それぐらいは協力しようかなーって」
曜「3人とも、ありがとう!」
千歌「一応全員経験者みたいだよ」
曜「おぉ、それは頼りになるね」
よしみ「あはは、期待はしないでよ」
むつ「本当に経験はある程度だからさ」
94: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:08:08.28 ID:IR7y4gVA.net
曜「でもこれで、あと4人揃えば試合ができる!」
千歌「ふふふ、形になってきたね」
曜「この調子で部員集めを全速前進――
ガラッ
教師「おーい、全員席につけー」
千歌「ありゃ、先生来ちゃったね」
曜「むぅ、いいところだったのに」
95: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:08:58.27 ID:IR7y4gVA.net
教師「今日は転校生を紹介するぞ~」
ザワザワ
千歌「こんな時期に珍しいね」
千歌「曜ちゃん、何か聞いてる?」
曜「ううん、全然」
ガラッ
梨子「……」
千歌「あ、あの子は……」
96: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:10:44.78 ID:IR7y4gVA.net
教師「じゃあ、自己紹介して」
梨子「えっと、東京の音ノ木坂高校から転校してきた、桜内梨子です」
梨子「みなさんよろしくお願いします」ペコリ
千歌「梨子ちゃ――」
曜「梨子ちゃん!」
梨子「よ、曜ちゃん!?」
千歌「ふぇ」
97: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:11:41.85 ID:IR7y4gVA.net
――――
―――
―放課後―
千歌「2人は知り合いだったの?」
曜「うん、中学の時に年代別代表の合宿でね」
梨子「まさか曜ちゃんがいるなんて、ビックリしたよ」
曜「私の方こそ」
曜「最近は代表でも見かけなかったから、心配してたんだよ」
梨子「あはは、ちょっと色々あってね」
98: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:14:24.52 ID:IR7y4gVA.net
千歌「梨子ちゃん、曜ちゃんと同じぐらい野球が上手だったんだね」
梨子「いやいや、私と曜ちゃんじゃ格が違うわよ」
梨子「だって曜ちゃんは、世代を代表する選手だもの」
曜「えー、そんなことはないと思うけど」
梨子「でも驚いたわ」
梨子「千歌ちゃんの野球が上手な幼馴染って曜ちゃんのことだったのね」
千歌「あはは、まあね」
梨子「それなら経験が浅いのに上手なのも納得ね」
99: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:16:05.69 ID:IR7y4gVA.net
曜「梨子ちゃん、こっちではどこのチームに入るの?」
梨子「一応ね、学校の野球部に入ろうと思ってるんだけど」
曜「マジで! じゃあ私とチームメイトじゃん!」
梨子「あれ、曜ちゃんってどこかのチームに所属してなかった?」
曜「最近部活に専念するために辞めたの」
梨子「……もしかして、浦の星って強豪校?」
千歌「ううん」
曜「まだ部員が2人で、正式な部にもなってないよ」
梨子「えっ」
100: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:18:37.60 ID:IR7y4gVA.net
曜「あれ、知らなかった?」
梨子「え、ええ」
梨子「入学前に会った生徒会長さんからは、ちゃんとした野球部があるって聞いたんだけど……」
千歌(ダイヤさん、また無責任なことを……)
曜(しっかりしているようで、ちょこちょこ残念だよね、あの人)
曜「まあその辺はおいおい考えるとして――」
曜「とりあえず今日から練習だよ!」
千歌「あっ、そうだよね!」
千歌「部員集めに必死で忘れてた!」
101: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:20:35.03 ID:IR7y4gVA.net
曜「梨子ちゃんも部に入るつもりだったなら練習着ぐらい持ってきてるでしょ」
梨子「う、うん」
曜「じゃあ早速行こう!」
曜「久しぶりに梨子ちゃんの球を打ってみたいし!」
梨子「え、えっ」
千歌「よーし、出発だ!」
曜「ヨ―ソロー!」
梨子「ま、待ってよ2人共~」
102: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:21:54.64 ID:IR7y4gVA.net
―グラウンド―
曜「さて、アップも終わったところで――早速勝負だよ、梨子ちゃん!」
千歌「いやいや、もっと基礎的な練習とかさ」
千歌「私たち、3人しかいないんだし」
曜「いいじゃん! せっかく初練習日なんだから楽しいことやりたい!」
千歌「気持ちは分からなくもないけど……」
千歌(そもそも、梨子ちゃんはイップスで投げられないんだよね)
103: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:22:48.04 ID:IR7y4gVA.net
曜「梨子ちゃんはピッチャーで、私がバッターね!」
梨子「う、うん、分かった」
曜「千歌ちゃんはキャッチャーよろしく!」
千歌「えっ、でも――」
梨子「私は大丈夫だよ、千歌ちゃん」
千歌「投げられるの?」
梨子「まあ、やってみる」
千歌「でも……」
104: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:24:44.75 ID:IR7y4gVA.net
梨子「何かね、身体が軽いの」
梨子「千歌ちゃんに励ましてもらってから、投げられるようになった気がするのよ」
千歌「そうなの?」
梨子「うん、だからお願いね」
曜「一打席勝負ね!」
梨子「うん」
千歌「……」
千歌(梨子ちゃん、どんな球投げるんだろう)
105: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:26:12.48 ID:IR7y4gVA.net
梨子(うぅ、緊張する)
梨子(でも懐かしいな、マウンドの感触)
梨子(やっぱりここに立つと、少し不安かも)
梨子(でもキャッチボールをした時、そして帰ってから軽く投げてみた時の感触)
梨子(大丈夫、私は投げられる)
曜「よーし、こい!」
梨子「んー」ググッ
千歌(確かに、ぎこちないけど昨日よりは綺麗なフォーム)
梨子「えいっ」シュッ
106: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:27:28.25 ID:IR7y4gVA.net
千歌「おっ、本当にストライクが――」
曜「!」
カッキーン!
梨子「あー、これは……」
曜「よっしゃ、ホームラン!」
千歌「容赦なさすぎるよ!」
曜「えー、でも真剣勝負だし」
梨子「あはは、流石曜ちゃんだね」
107: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:28:37.99 ID:IR7y4gVA.net
曜「ところでさ、今のストレート?」
梨子「うん」
曜「梨子ちゃん、球遅くなったんじゃない」
曜「なんかフォームも変だし、怪我でもしてるの?」
梨子「ちょっと、色々あってね」
千歌「てか誰もいないのにあんなに飛ばして、ボールはどうするのさ」
曜「あー……取ってくる?」
千歌「どこへいったのか分からないよ~」
108: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:30:09.31 ID:IR7y4gVA.net
おーい
千歌「ん、ボールが飛んでいった方から何か」
??「おーい」
曜「おっ、あの声は」
??「千歌、いくよ~」
ヒューン
梨子「わっ、ボールが」パシッ
109: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:32:18.70 ID:IR7y4gVA.net
??「ごめーん、めっちゃ逸れたー」タッタッ
千歌「もぅ、果南ちゃんは相変わらずノーコンだねぇ」
果南「あはは、それはもう病気みたいなもんだからさ」
曜「それにしても悪化してない?}
果南「それはほら、最近あんまり練習できてないからさ」
梨子「でもあんなところから、凄い肩……」
果南「捕ってくれて助かったよ、ありがとう」
梨子「い、いえ」
曜「でも珍しいね、学校に来てるなんて」
110: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:34:51.02 ID:IR7y4gVA.net
果南「いやー、ダイヤに野球部の備品を頼まれてさ」
曜「あー、それでもう道具があったんだね」
果南「2人が部を作ったなんて驚いたけど、うち的には助かったよ」
果南「こんな大型注文貰っちゃってさ~、みんな大喜び」
千歌「部員も揃ってない部とは思えない部費の使い方だねぇ」
曜「これは個人的な協力の範囲なのかなぁ」
千歌「……都合の悪いことは考えないようにしよう」
果南「あ、そっちの子はもしかして新入部員」
千歌「うん。桜内梨子ちゃん」
千歌「転校生で、凄い上手なんだよ!」
111: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:36:25.71 ID:IR7y4gVA.net
果南「へぇ、それは期待できる。よろしくね!」ハグッ
梨子「え、ええ」
千歌「もう、初対面の子に抱き着いたら驚かれるよ」
曜「果南ちゃんのハグは挨拶みたいなもんだから、気にしないで」
梨子「う、うん」
果南「ヤバい、早く戻らないと時間無くなる――じゃあね!」タッタッ
千歌「バイバイ~」
曜「またね~」
112: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:38:21.56 ID:IR7y4gVA.net
梨子「……豪快な人だったね」
曜「あはは、梨子ちゃんとはだいぶ性格が違うよね」
千歌「でも良い人だよ、野球も大好きだし」
曜「昔はプレーもしてたよね」
千歌「最近は家の手伝いが忙しくてあんまりみたいだけど」
梨子「あの果南さんって人、上手なの?」
千歌「……まあ、実力はあるんだけど」
曜「上手かと言われると、微妙かも」
113: 名無しで叶える物語 2018/08/13(月) 23:38:58.50 ID:IR7y4gVA.net
梨子「どういうこと?」
曜「いつかプレーを見ればわかるよ」
梨子「何だか気になるわね」
千歌「まあまあ、今は練習中だし」
曜「そうそう、じゃあ練習再開――あれ?」
千歌「どうしたの?」
曜「いや、今人影が見えたような……」
???「ピギッ」
123: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:11:36.18 ID:Ge/RmKSz.net
―公園―
ゲーム画面『祝・日本一!』
花丸「よしっ」
花丸(これで最高難易度、高卒ルーキー縛りのペナントも優勝)
花丸(いんたーねっと?の使い方がよく分からないから対人戦はほとんどできない)
花丸(でもCPUにはもう負ける気がしない)
花丸(ふふっ、早くルビィちゃんに報告しないといけないずら~)
124: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:14:36.41 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「ルビィちゃん、早くこないかなぁ」
花丸(マルは昔から、目立たない子だった)
花丸(みんなが遊んでいる中、いつも隅でゲームばかり)
花丸(特にその中でも野球ゲームが大好きで)
花丸(小学校に入った時からパ○ポケに夢中)
花丸(高学年になるとパ○プロやプロ○ピにも手を出して)
花丸(気づけば一人でゲームばかりやっていた)
125: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:25:08.51 ID:Ge/RmKSz.net
花丸(でもある日、運命に巡り合った)
花丸(いつものように公園でゲームをしていた時、出会ったのだ)
花丸(一人きりでレッスン本を見ながら練習をする、ルビィちゃんと)
花丸(マルたちはすぐに意気投合した)
花丸(そしてそれ以来放課後はいつも2人で集まって)
花丸(ルビィちゃんの練習を手伝ったり、ゲームをしたりして過ごしている)
花丸(もちろん今日みたいに、野球を観に行くルビィちゃんと別行動をすることもあるけど――)
126: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:26:14.94 ID:Ge/RmKSz.net
ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「あ、ルビィちゃん」
ルビィ「やっぱり野球部できてた!」
花丸「えっ、部員集まってたの?」
ルビィ「ううん、見かけたのは3人だけ」
ルビィ「でもちゃんと、練習始めてたよ」
花丸「本当に作っちゃったんだ、凄いねぇ」
ルビィ「あぁ、これで母校の応援ができる~」
127: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:32:07.78 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「応援?」
ルビィ「うん」
花丸「プレーじゃないの」
ルビィ「駄目かな?」
花丸「ううん、駄目じゃないよ」
花丸「でもルビィちゃんはやりたいんでしょ、野球」
ルビィ「うん、そうだね」
ルビィ「だけどほら、ルビィ、プレッシャーに弱すぎるし」
花丸「そうかもだけど」
128: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:41:07.18 ID:Ge/RmKSz.net
ルビィ「それにね、お姉ちゃんに悪い気がして」
花丸「ダイヤさんに?」
ルビィ「お姉ちゃんが昔、野球をやっていたのは知ってるでしょ」
花丸「うん」
ルビィ「本当はね、今もやりたいはずなの」
ルビィ「でもお母さんから禁止されちゃってるの」
ルビィ「家を継ぐ長女が、そんなことに現を抜かしてはいけないって」
花丸「でも、ルビィちゃんはやってもいいんだよね」
129: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:43:40.56 ID:Ge/RmKSz.net
ルビィ「駄目だよ」
ルビィ「お姉ちゃんができないのにルビィだけなんて、可哀想だもん」
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「それにね、そんなに悪いことばかりじゃないんだよ」
ルビィ「ルビィはこうやって、花丸ちゃんと2人で野球をやっている時が一番楽しいから」
花丸「マルと?」
ルビィ「仲の良い親友と2人でキャッチボールして、ノックを受けて、バントの練習をして」
ルビィ「休憩時間になったら一緒にゲームで遊ぶ」
ルビィ「こんな楽しい時間、凄く貴重だって思わない?」
花丸「……うん、そうだね」
130: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 22:58:19.71 ID:Ge/RmKSz.net
ルビィ「じゃあ早速練習始めようよ! 早くしないと日が暮れちゃう!」
花丸「うん!」
花丸(ルビィちゃん、やっぱり良い子)
花丸(それに、きっと現状に満足しているのは本当)
ルビィ「今日は何をする予定だっけ」
花丸「ノックだよ」
ルビィ「あ、そうだったね」
ルビィ「じゃあお願いできるかな」
花丸「了解ずら!」
131: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:06:09.52 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「ルビィちゃん、いくよ~」
ルビィ「はーい」
花丸「それっ」キン
ルビィ「ほっ」パシッ
花丸「ほい」キン
ルビィ「やっ」パシッ
花丸「あっ、ミスった」キーン
ルビィ「わっと」タタッ――パシッ
花丸「ナイスキャッチずら!」
132: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:11:38.19 ID:Ge/RmKSz.net
花丸(マルは下手だから変なところにノックをしちゃうこともある)
花丸(でもルビィちゃんはどこへ行っても、全部捕ってくれる)
花丸(守備や走塁だけ見れば、相当レベルは高いはず)
花丸(マルはプレイ経験がないから、贔屓目なのかもしれないけど)
ルビィ「もっと強くていいよ!」
花丸「分かった!」カキーン
ルビィ「うん、そんな感じ!」パシッ
花丸(でもやっぱりこのままプレーできないなんて、勿体ないよ)
花丸(このままじゃ駄目、やっぱりなんとかしないと――)
133: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:16:53.04 ID:Ge/RmKSz.net
―翌々日・浦の星女学院―
ルビィ「助っ人?」
花丸「うん」
花丸「千歌さんたちに聞いてみたらね、やっぱり試合に出れる人数が足りないんだって」
ルビィ「うゅ、三人しかいなかったもんね」
花丸「だからね、お願いされたの」
花丸「野球経験のあるルビィちゃんに、試合だけでも出てくれないかって」
134: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:17:56.03 ID:Ge/RmKSz.net
ルビィ「で、でも……」
花丸「やっぱり嫌?」
ルビィ「だ、だって、昨日も言ったけど――」
花丸「ダイヤさんにもね、お願いされたんだ」
花丸「母校のチームが試合もできないなんて嫌だから、協力してほしいって」
ルビィ「お姉ちゃんが……」
花丸「それにね、ルビィちゃんがいてくれないと困る人がいるんだよね」
ルビィ「困る人?」
135: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:21:15.82 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「実はね、マルも助っ人として参加することになったんだ」
ルビィ「マルちゃんが!?」
花丸「うん」
ルビィ「な、なんで……」
花丸「前から実際のプレーにも興味はあったんだ」
花丸「それでやってみたかったから――じゃ駄目?」
ルビィ「駄目じゃないけど……」
花丸「でもね、1人だと心細いんだよ」
136: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:22:53.88 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「今日ね、早速練習に参加することになってるの」
花丸「最初に実力を図るために、プレーを見ておきたいんだって」
花丸「だけどほら、マルは初心者でしょ」
花丸「だから、ルビィちゃんがいてくれると心強いんだよね」
ルビィ「マルちゃん……」
花丸「友達としてのお願い、駄目かな?」
ルビィ「……分かったよ」
137: 名無しで叶える物語 2018/08/14(火) 23:24:07.67 ID:Ge/RmKSz.net
花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「助っ人は分からないけど、今日練習だけでも出てみるよ」
花丸「ありがとう! 今度ちゃんとお礼はするから」ギュー
ルビィ「ま、マルちゃん、痛いよ」
花丸「ルビィちゃん大好きずら~」
ルビィ「も、もう」
花丸(上手くいった!)
花丸(これで、あとはルビィちゃんを――)
144: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:33:55.28 ID:TJvK0/Io.net
―グラウンド―
千歌「やあやあ、よく来たね!」ガシッ
ルビィ「ピギッ」
曜「話は花丸ちゃんから聞いてるよ」
梨子「とっても上手なんだって」
ルビィ「そ、そんなことは……」
千歌「いやぁ、助かるよ、ほんと。まさに期待の星!」
ルビィ「う、うぅ」
145: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:35:19.95 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「ま、マルちゃぁん」ヒシッ
花丸「よしよし、落ち着いて」
ルビィ「うぅ」
曜「ありゃ、後ろに隠れちゃった」
梨子「千歌ちゃん、ルビィちゃん怖がってるよ」
千歌「あはは、ごめん」
千歌「つい興奮しちゃって」
ルビィ「い、いえ、すいません、ルビィの方こそ……」
146: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:36:51.02 ID:TJvK0/Io.net
花丸「大丈夫」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃん、がんばルビィだよ」
ルビィ「う、うん!」
曜「もう大丈夫そう?」
ルビィ「はい!」
千歌「よーし、じゃあ練習開始だ!」
147: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:38:33.77 ID:TJvK0/Io.net
―――
――
―
花丸「も、もう駄目ずらぁ……」
花丸(ランニングの時点でもう限界、運動不足にもほどがあるよ……)
花丸(これだったら体力トレもルビィちゃんと一緒にやっておけばよかったかも……)
ルビィ「だ、大丈夫?」
花丸「大丈夫じゃ……ない……」
148: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:39:41.11 ID:TJvK0/Io.net
曜「あはは、最初はそんなもんだよね」
梨子「でもルビィちゃんは元気ね」
ルビィ「あっ、はい」
ルビィ「一応、体力トレーニングは毎日欠かさずやってるんで」
千歌「おぉ、偉いねぇ」
曜「でもこの後の練習どうする?」
曜「花丸ちゃんが回復するまで一回休憩にしようか?」
花丸「い、いえ、マルの事は気にせず続けてください」
花丸「動けるようになったら戻りますから」
149: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:44:44.13 ID:TJvK0/Io.net
千歌「分かったよ、じゃあ続けようか!」
曜「了解ヨ―ソロー!」
ルビィ「ま、マルちゃん」
花丸「どうしたの?」
ルビィ「ルビィ1人だとちょっと……」
花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃんなら」
ルビィ「でもぉ」
花丸「ほらほら、すぐに合流するから頑張って」
ルビィ「……うん」
150: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:46:19.91 ID:TJvK0/Io.net
曜「そういやルビィちゃん、ポジションはどこなの?」
ルビィ「え、えっと」
ルビィ(決まってないけど、ルビィの適性的には……)
ルビィ「たぶん、セカンドです」
曜「おっ、セカンドかぁ。私と二遊間だね!」
ルビィ「えっ」
ルビィ(そっか、曜さんは内野もやるんだ)
ルビィ(あの有名人と二遊間)
ルビィ(そんなの絶対に目立っちゃうよ……)
151: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:47:45.73 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「あ、あの、やっぱり――」
曜「よし、なら早速ノックしてみよう!」
ルビィ「ピッ」
曜「私が打つから、ルビィちゃんはセカンドに入って」
曜「返球はキャッチャーに千歌ちゃんにすればいいから」
梨子「あっ、じゃあ私は後ろで逸れたボールを回収しておくね」
曜「ありがとう」
ルビィ「ぴぃ……」
花丸(どうしよう、ルビィちゃんだいぶきちゃってる……)
152: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:53:00.77 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ(うぅ、緊張する)
ルビィ(よく考えたらグラウンドで野球をするのは始めてだよぉ)
曜「じゃあ行くよ~」
ルビィ「は、はい」
曜「それ」キン
ルビィ「あっ」ポロッ
曜「もう一丁!」キン
ルビィ「あぅ」ポロ
153: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:54:50.42 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ(駄目だ、緊張で身体が上手く動かない)
梨子「ルビィちゃん、落ち着いて!」
千歌「次は捕れるよ!」
ルビィ(……注目されてる)
曜「……」
ルビィ(曜さん、ガッカリした顔してる)
ルビィ(嫌だよ、みんなルビィを見ないでよぉ……)
154: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:56:31.61 ID:TJvK0/Io.net
―――
――
―
ルビィ「ハァ、ハァ」
花丸「ルビィちゃん……」
花丸(ここまでの数十球、ルビィちゃんは一球も捕れてない)
花丸(最初はグローブには当てられていたのに、今はかすりもしなくなって)
花丸(それどころか、動くことさえ……)
155: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:58:25.91 ID:TJvK0/Io.net
曜「どうしよう、もう止めた方がいいかな」
千歌「で、でも、流石にマズいよ」
千歌「一球も捕れないまま止めるはちょっと」
曜「……あの様子だと、いつまでたっても捕れないかもしれないよ」
曜「私はむしろここで止めてあげた方がいいと思う」
曜「下手に続けても、ルビィちゃんは苦しむだけだよ」
千歌「……そうだね、このままだと逆効果――」
花丸「ま、待ってください!」
156: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 13:59:53.24 ID:TJvK0/Io.net
千歌「!」
曜「花丸ちゃん、もう回復したの?」
花丸「はい」
花丸「あの、マルもノックを受けさせてください」
花丸「ルビィちゃんと一緒に、同じように」
曜「えっ、でも花丸ちゃんは初心者だったよね?」
花丸「だ、大丈夫です」
花丸「一応、ルビィちゃんと一緒に練習はしてましたから」
曜「いや、でも」
157: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:02:21.75 ID:TJvK0/Io.net
千歌「いいんじゃないかな」
曜「千歌ちゃん?」
千歌「本人がやりたいっていうんだから」
千歌「確かに危ないかもしれない」
千歌「どっちにしろ、試合になればボールは飛んでくるんだよ」
千歌「今のうちに練習しておいた方がいいよ」
曜「まあ、千歌ちゃんがそう言うなら」
花丸「ありがとうございます!」
158: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:03:42.25 ID:TJvK0/Io.net
※
ルビィ(頭がグルグルして、前もよく見えない)
ルビィ(何度かボールもぶつかって、身体痛い)
ルビィ(……そういえば、ボールが来なくなったなぁ)
ルビィ(終わったのかな)
ルビィ(最後まで、一球もボールが取れないまま)
ルビィ(……)
ルビィ(まあ、いっか)
ルビィ(やっぱりルビィには向いてなかったんだよ、野球は――)
159: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:05:14.97 ID:TJvK0/Io.net
花丸「ルビィちゃん!」
ルビィ「……マルちゃん、どうしたの?」
花丸「一緒にやろう!」
ルビィ「一緒に?」
花丸「ずら!」
ルビィ「でもマルちゃん、ノックは打ってくれるばかりで、受けたことなんてほとんど――」
花丸「ふふん、甘いよ」
花丸「これでもゲームではファインプレーを連続してるずら!」
ルビィ「……もぅ、ゲームと現実の世界は違うよ」
160: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:06:39.67 ID:TJvK0/Io.net
花丸「それでもイメージはできてるずら!」
ルビィ「ふふっ、そっかぁ」
花丸「見ててね、マルの華麗な守備を」
千歌(不思議)
千歌(二人で話している内に、ルビィちゃんの表情が和らいできた)
千歌(本当に仲良しなんだね、あの2人は)
曜「順番にいくよ!」
花丸「はい!」
曜「花丸ちゃん!」キン
161: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:08:07.00 ID:TJvK0/Io.net
花丸「わっと――あれ」
ドスッ
千歌「へっ」
梨子「あ……」
曜「あら?」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「――――!」ジタバタ
162: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:09:19.57 ID:TJvK0/Io.net
梨子「顔面直撃……、あれは痛そうね……」
千歌「よ、曜ちゃん、強く打ち過ぎだよ!」
曜「ご、ごめん、大丈夫?」
花丸「だ、大丈夫れす」
ルビィ「駄目だよぉ、ちゃんとボールを見なきゃ」
花丸「あはは、やっぱりゲームとは違うね」
ルビィ「マルちゃんは意外とやんちゃさんなんだから」
花丸「むぅ、いけると思ったんだけどなぁ」
163: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:10:26.19 ID:TJvK0/Io.net
曜「大丈夫そうなら――ルビィちゃんいくよ~」
ルビィ「あ、はい!」
曜「それ!」カキーン
千歌「ちょっ」
曜「あっ、また強く――」
ルビィ「!」パシッ
曜「えっ、あれを捕った!?」
164: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:11:47.05 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「千歌さん!」シュ
千歌「えっ」
ドスッ
千歌「ぐぇ」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
千歌「……しまった、ボーっとしてた」
ルビィ「だ、大丈夫ですか!?」
千歌「あはは、大丈夫大丈夫……」
165: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 14:12:42.68 ID:TJvK0/Io.net
千歌「それよりも――凄いよルビィちゃん!」
ルビィ「ふぇ?」
曜「そうだよ!」
曜「あんな私でも捕れるか分からないボールだったのに!」
ルビィ「そ、そうですか?」
曜「今の感じで続けて――でも次は花丸ちゃんか」
花丸「あ、マルはぶつかったところが痛むんで、少し休んでもいいですか?」
曜「分かった――じゃあルビィちゃん、続けよう!」
ルビィ「はい!」
167: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 20:15:39.79 ID:TJvK0/Io.net
―帰り道―
花丸「うぅ、体中が痛いずら……」
ルビィ「守備の後も自打球当てたりしてたもんねぇ」
花丸「あんなにふんわりとしたボールを打つのが、こんなにも難しいなんて」
ルビィ「公園じゃ打撃練習とかはできなかったから、仕方ないよ」
花丸「でもその分、バントの練習はたくさんしてきたからそこは褒められたよね~」
ルビィ「えへへ、ルビィも『バント職人』なんて言われちゃったし」
168: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 20:23:58.94 ID:TJvK0/Io.net
花丸「2年生の先輩たち、凄かったよね」
ルビィ「そうだよね!」
ルビィ「千歌さん、野球を始めたばかりなのに普通にプレーできてたし」
花丸「梨子さんも流石は元名門校って感じの華麗な動きだったずら~」
ルビィ「何といっても曜さん!」
ルビィ「動き一つ一つが、まさにスターって感じだよねぇ」
花丸「だよね、まるで別世界の人みたいだった」
ルビィ「どうやったらあんな風に動けるんだろうなぁ」
169: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 20:30:46.80 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「本当に凄かったなぁ、今日は」
花丸「2人じゃできない事もたくさんできたもんね」
ルビィ「うん!」
ルビィ「いつものマルちゃんとの野球も楽しい」
ルビィ「けど、たくさんの人と一緒に練習するのも面白いんだね」
花丸「うんうん」
花丸「だから、これからも――」
ダイヤ「2人とも、お疲れ様です」
170: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 20:33:51.13 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「!」ビクッ
花丸「……ダイヤさん」
ダイヤ「ルビィ、少しいいですか」
ルビィ「えっと、その」
花丸「……ルビィちゃん」
花丸「マルは待ってるから、行ってきなよ」
ルビィ「だけど……」
花丸「大丈夫だから、ね」
ルビィ「う、うん」
171: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 22:59:55.65 ID:TJvK0/Io.net
ダイヤ「練習、楽しかったですか」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「そうでしょうね」
ダイヤ「二人であんなに楽しそうに話していたんですもの」
ルビィ「……」
ダイヤ「話は花丸さんから聞きました」
ルビィ「マルちゃんから?」
ダイヤ「私に気を遣って野球部をしてこなかったそうですね」
ルビィ「そんな、ことは」
172: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:05:10.27 ID:TJvK0/Io.net
ダイヤ「否定しなくても大丈夫で」
ダイヤ「私も、以前から知っていましたから」
ルビィ「えっ」
ダイヤ「貴女は自分よりも他人を優先することができる、とてもやさしい子」
ダイヤ「私に見つからないよう、陰に隠れて一生懸命努力してきましたよね」
ダイヤ「いつもは花丸さんと2人で練習し、1人でも素振りや体力トレーニングを欠かさない」
ダイヤ「貯めたお小遣いを使ってバッティングセンターに通う」
ダイヤ「参考にするために、色々な試合を観に行っている事」
ダイヤ「隠しているつもりかもしれませんが、全部知っていますよ」
ルビィ「お姉ちゃん……」
173: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:09:47.78 ID:TJvK0/Io.net
ダイヤ「ルビィは本当に野球をするのが大好きですね」
ダイヤ「自分の弱い心を技術と努力で補おうと頑張る」
ダイヤ「多くの人が嫌がるような基礎練習も、いつも楽しそうにおこなう」
ダイヤ「その姿をずっと陰で観てきました」
ダイヤ「そうしている内に、私も貴女のプレーに引き込まれるようになりました」
ダイヤ「姉ではなく、一人の野球好きとして」
ダイヤ「贔屓目もなく、ファンになってしまったのです」
ダイヤ「だって心から楽しんで野球をするルビィは、とても魅力的だもの」
174: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:21:35.19 ID:TJvK0/Io.net
ダイヤ「今日練習も、密かに見学していたんですよ」
ダイヤ「最初は緊張している、弱々しいいつもの貴女」
ダイヤ「でも一度それが解けると、生き生きと、宝石のように輝いていた」
ダイヤ「その姿に、思わず涙してしまいました」
ダイヤ「私は見たいのです」
ダイヤ「姉として、一ファンとして、貴女が輝く姿を」
ダイヤ「だって素敵でしょう」
ダイヤ「大好きな妹が、私の大好きな舞台で躍動するなんて」
ルビィ「……」
ダイヤ「もちろん、強制ではありません」
ダイヤ「この後の選択はあなたの自由です」
ダイヤ「けれども、私の為に我慢する」
ダイヤ「そんな事だけは、絶対にしないで」
175: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:22:35.17 ID:TJvK0/Io.net
―翌日・野球部部室―
ルビィ「これで――よし!」
『入部届:黒澤ルビィ』
ルビィ「よろしくお願いします!」
梨子「うん、よろしくね」
曜「初めての後輩ゲットだよ!」ギュー
ルビィ「うゅ、痛いですよぉ」
176: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:24:56.16 ID:TJvK0/Io.net
曜「嬉しいなぁ」
曜「練習の時からルビィちゃんと一緒に二遊間を組みたいって思ってたんだよね~」
梨子「あら、投手はもういいの?」
曜「どっちもやるからいいの!」
梨子「ふふっ、相変わらず欲張りね」
曜「そりゃあ、千歌ちゃんとのバッテリーは外せないもんね!」
梨子「そうね――そういえば千歌ちゃんは?」
曜「あれ、確かにいないね」
ルビィ「……」
177: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:26:12.21 ID:TJvK0/Io.net
―図書室―
花丸「無事、終わりましたね」
千歌「うん」
花丸「協力してくれて、ありがとうございます」
千歌「ううん。私の方こそ」
千歌「おかげで貴重な部員を確保できたんだから」
178: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:28:28.41 ID:TJvK0/Io.net
花丸「ルビィちゃんのこと、大事にしてあげてください」
千歌「うん、もちろんだよ」
花丸「マルも陰ながら、応援しますから――」
千歌「入るよね、花丸ちゃんも」
花丸「えっ」
千歌「花丸ちゃんも好きなんでしょ、野球」
花丸「そ、そんなことは」
千歌「あるよね」
花丸「……だってマル、運動神経ないし」
179: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:31:12.47 ID:TJvK0/Io.net
千歌「普通出来ないよ」
千歌「好きじゃない人が、何時間も練習をするなんて」
花丸「それは、ルビィちゃんの為に」
千歌「それも本当なのは分かる」
千歌「ルビィちゃんの為に行動する姿は散々見てきたから」
千歌「でもね、私は見てた」
千歌「ルビィちゃんの横で、花丸ちゃんも楽しそうにプレーする姿を」
花丸「それは、その……」
180: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:36:20.96 ID:TJvK0/Io.net
千歌「いいじゃん、好きなら始めちゃえば」
千歌「部員は足りないからね、どんな初心者でも大歓迎なんだよ」
千歌「きっと、花丸ちゃんが入ってくれた方がルビィちゃんも喜ぶと思う」
花丸「だけど、マルじゃ足を引っ張るだけなのは目に見えてるから」
花丸「せっかく野球を始められたルビィちゃんも、マルに気を遣ったりしたら……」
千歌「……もう、じれったいなぁ」
千歌「じゃあ別の理由を作ろうか――」
千歌「ねっ、ルビィちゃん」
花丸「へっ」
181: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:41:07.04 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「えへへ、マルちゃん」
花丸「ルビィちゃん、なんで」
ルビィ「千歌さんに聴いたんだ」
ルビィ「花丸ちゃんがルビィの為に動いてくれていたこと」
ルビィ「ありがとね、ルビィの為に色々してくれて」
花丸「ち、千歌さん、内緒だって約束が」
千歌「ごめんね、最初は私も内緒にしておくつもりだったんだ」
千歌「でも必要だと思ったから、今の花丸ちゃんには」
182: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:43:57.97 ID:TJvK0/Io.net
ルビィ「花丸ちゃん、言ってたよね」
ルビィ「ルビィが一緒に練習に参加する時、『お礼はする』って」
花丸「う、うん」
ルビィ「だからあの時のお礼に、ルビィのお願いをきいてほしいんだ」
花丸「……お願いって?」
ルビィ「ルビィ、花丸ちゃんと一緒に野球がやりたいの」
ルビィ「だから一緒に、野球部に入って」
183: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:47:30.02 ID:TJvK0/Io.net
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィ「駄目、かな?」
花丸「……分かった、マルの負けだよ」
ルビィ「花丸ちゃん!」
花丸「ルビィちゃんのお願いを、無下にするわけにはいかないもんね」
ルビィ「えへへ、ありがとう」
花丸「……お礼を言うのは、マルの方だよ」
184: 名無しで叶える物語 2018/08/15(水) 23:48:20.09 ID:TJvK0/Io.net
千歌「じゃあ、入部するってことでいいのかな」
花丸「はい」
花丸「改めて、よろしくお願いします」
千歌「うん、よろしくね!」
ルビィ「マルちゃん、一緒に頑張ろうね!」
花丸「うん!」
千歌「それじゃあ早速、練習へ行こうか!」
ルビまる「「はい!」」
185: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 00:31:40.93 ID:W80XV/b4.net
※
―沼津市内・某所―
善子「感じます」
善子「津島式修正法により、あなたの投球が進化するのを」
善子「自分でも理解できる筈です」
善子「貴女が投げるボールのキレが増していることを」
善子「野球界に降臨した堕天使ヨハネの魔眼は、全てのプレイヤーを高みへと導きます」
善子「すべてのリトルデーモンに授ける、津島式野球メソッド!」
善子「信じるのです、あのダル○ッシュも参考にした、堕天使の力を!」
注:勝手にDVDを送りつけただけです
善子「さすれば、あなたの道は開かれるでしょう――」
『放送は終了しました』
190: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:50:22.98 ID:W80XV/b4.net
―浦の星女学院2年生教室―
千歌「うーん」
梨子「どうしたの、変な顔して」
千歌「部員の勧誘について、ちょっとね」
梨子「部員?」
梨子「5人揃ったから正式な部にはなったよね」
千歌「そうなんだけど、まだ試合をするには一人足りないし」
梨子「確かにね」
191: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:51:11.05 ID:W80XV/b4.net
千歌「それでね、実は勧誘しようと目をつけていた子がいるんだよ」
梨子「うん」
千歌「でも、いつまでたってもその子が見つからなくてさぁ」
梨子「どんな子なの?」
千歌「自己紹介で自分の野球理論を語りだすような子」
梨子「そ、それはなかなか強烈ね」
千歌「でもそこまでするような子なら、即戦力になりそうでしょ」
千歌「今日もね、曜ちゃんが探しに行ってくれているんだけど、見つかるかなぁ」
192: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:51:50.35 ID:W80XV/b4.net
―バッティングセンター―
カァン
善子「違う」
カァン
善子「こうでもない」
カキーン!
善子「!」
193: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:54:18.09 ID:W80XV/b4.net
善子「今のは良かったわ!」
善子「くっくっくっ、徐々に新しいスイングが見つかってきたわね――
ドスッ
善子「ぼ、ボールが……、痛い……」
子供「パパ―、あそこに変なお姉ちゃんがいるー」
父親「しっ、絡まれると面倒だぞ」
子供「でも凄く綺麗だよ」
父親「あれは残念美人っていう、一番関わっちゃいけないタイプの人なんだ」
194: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:56:46.29 ID:W80XV/b4.net
善子(学校をサボって、誰もいないバッティングセンターに来る)
善子(最初はドキドキしていたけど、すっかり馴染んできたわね)
善子(沼津寄りのここなら、浦の星の生徒が来ることもないし、安心してバッティングに集中できる)
善子(まさに私の為にあるような、理想的な環境――)
曜「ラッキー、人が全然いないじゃん」
善子(と思ったらうちの制服を着た人が)
善子(まあ制服的に上級生みたいだし、気にしなければ大丈夫でしょう)
善子(私の顔なんて知られてるわけないし)
195: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 09:58:20.14 ID:W80XV/b4.net
曜(流石にバッセンに探しに来たは無理があるかな)
曜(でも探してくるとは言ったけど、結局見つからないしなぁ)
曜(そもそも学校に来ない子をノーヒントで探すのは無理があるよね)
曜(千歌ちゃんの頼みだから、断らなかったけど)
曜(……)
曜(気分転換も必要だし、たまにはいいよねっ)
曜(とりあえず、140辺りで――)
196: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:00:14.35 ID:W80XV/b4.net
善子(あ、あの人、女子なのに140キロを打つ気なの?)
善子(そんなに出る人はいないし、そもそも女の子が普通に打ち返せる球速じゃない)
善子(始めて見る顔だし、よく分かってない初心者なのかな)
善子(浦の星は野球部もないし、経験者じゃないわよね)
善子(教えてあげた方がいいのかな)
カーン! カーン!
善子「えっ」
善子(凄い、平然と打ち返してる)
197: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:02:01.16 ID:W80XV/b4.net
曜「うーん、いまいち」
善子(しかも恐ろしいこと呟いている)
善子(綺麗なスイング……もしかしてプロなのかな)
善子(だけど浦の星に居たら流石に気づくような)
善子(でも女子プロ野球は詳しくないから、チェック漏れしててもおかしくないし)
カキーン!
善子(どちらにしろ、あれは参考になるわ!)
善子(もっと、もっと近くで観なきゃ)
198: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:07:08.43 ID:W80XV/b4.net
花丸「――まずは打撃からだよね」
ルビィ「マルちゃんの場合、ほとんど打撃経験がないからね」
善子『ビクッ』
花丸「前の練習の時も恥ずかしかったずら……」
ルビィ「最初はみんなそうなんだから、大丈夫だよ」
花丸「でもちょっと緊張するかも」
ルビィ「ここなら遅い球から打てるから、慣れるにはちょうどいいよ」
花丸「でも最初は、ルビィちゃんにお手本を見せてほしいずら~」
ルビィ「えぇ、恥ずかしいよぉ」
199: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:09:45.29 ID:W80XV/b4.net
善子「あの2人、クラスメイトの……」
善子(何でこんなところにいるの)
善子(全然野球をやるようなタイプには見えないのに)
善子(もしかして、最近世間では野球ブームとか?)
カキーン!
曜「よし、最後はいい感じで――」
花丸「あれ、曜ちゃん?」
200: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:11:15.03 ID:W80XV/b4.net
曜「げっ、花丸ちゃん」
ルビィ「何をしてるんですか?」
曜「えっと、バッティング?」
花丸「あれ、でも今日は新入部員を探しに行くって」
ルビィ「もしかして、サボり?」
曜「え、いや、その――」
善子(何か話してるわね、知り合いなのかしら……)
曜「!」
善子(ヤバっ、目が合った)
201: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:14:03.64 ID:W80XV/b4.net
曜「……」ズンズン
善子(な、なに、こっちに来た)
善子(もしかして、凝視してたのがばれたとか)
善子(ど、どうしよう、絡まれる前に逃げなきゃ――
曜「この子だよ」
善子「はっ?」
曜「この子をスカウトしに来たんだよ!」
善子「はい!?」
202: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 10:40:11.17 ID:W80XV/b4.net
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「ってことは、あなたが例の!」
曜「そう、自己紹介で野球を語りだした子!」
千歌「凄いよ曜ちゃん! 本当に見つけてくるなんて!」
曜「えへへ」
千歌「これはまさに奇跡だよ~」
花丸(絶対たまたまだろうけど、ツッコんだら負けなんだろうなぁ)
203: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 11:56:43.79 ID:W80XV/b4.net
善子「なによ、いきなり連れてきて」
梨子「曜ちゃん、説明とかしてなかったの?」
曜「あはは、勢いで引っ張ってきたからさ」
梨子「え、えっと、私たちは野球部なんだけど」
善子「野球部?」
善子「この学校にはなかったはずよね」
曜「最近できたんだよ」
曜「正式な部になったのもほんの数日前だし」
善子「へぇ」
205: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 17:40:25.61 ID:W80XV/b4.net
千歌「というわけで津島善子ちゃん!」
善子「ヨハネよ!」
曜「はい?」
善子「あ、いや、何でもないわ」
ルビィ「ヨハネって?」
善子「何でもないわよ!」
千歌「ともかく――野球部にようこそ!」
善子「いや、私は入らないわよ」
千歌「えー、なんでー」
206: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:01:28.14 ID:W80XV/b4.net
善子「だって野球部に入ったら学校へ来なきゃいけないじゃない」
千歌「確かにそうだね」
善子「それは嫌よ」
善子「自己紹介の所為で、クラスでは絶対ヤバい奴だと思われてるし」
ルビィ「そんなことないと思うけど」
花丸「みんな心配はしてるけど、ヤバいなんて言ってる人はいないよ」
善子「えっ、そうなの?」
ルビィ「うん」
207: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:04:22.02 ID:W80XV/b4.net
花丸「そもそもそこまで自分が注目されていると考えてる辺り、自意識過剰ずら」
善子「うぐっ」
千歌「うわぁ、きつい」ヒソヒソ
梨子「花丸ちゃん、結構きつい言い方するわよね」ヒソヒソ
曜「でもさ、野球部に入ればみんな自己紹介の件も好意的に受け取ってくれるんじゃないかな」
曜「よっぽど野球に熱心な子だと思ってさ」
善子「言われてみると……」
曜「しかも今なら部員も5人しかいないからレギュラー確定だよ~」
善子「れ、レギュラー……」
208: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:10:00.35 ID:W80XV/b4.net
善子(試合に出れる、選手にとって魅力的な話)
善子(野球はプレーしてこそだもの)
善子(でもやっぱり、学校へ行くのは気まずいし……)
千歌「どうする、善子ちゃん」
善子「さすがにそんな簡単に決められないわよ」
千歌「じゃあ練習に出てみるのはどう?」
善子「練習に?」
千歌「今から軽く練習する予定だったからさ」
千歌「それに参加して、考えてみればいいんじゃない」
209: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:11:04.47 ID:W80XV/b4.net
―グラウンド―
善子「新しい野球部にしては、ずいぶん立派なグラウンドね」
千歌「何か学校側が協力的でさ」
曜「とりあえずキャッチボールでもしようか」
千歌「善子ちゃんは梨子ちゃんと組んでね」
梨子「よろしくね、善子ちゃん」
善子「ええ」
210: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:12:05.68 ID:W80XV/b4.net
善子(キャッチボール、久しぶりかも)
善子(何か、変に緊張するわね)
善子「じゃあ、行くわよ」シュッ
善子(あっ、悪送球)
梨子「よっと」パシッ
善子「あっ、ナイス」
善子(上手いわね、この人)
梨子「それっ」シュッ
211: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:13:16.21 ID:W80XV/b4.net
善子「んっ」パシッ
善子(今のは……)
梨子「善子ちゃん?」
善子「ねえ、少しいいかしら」
梨子「どうしたの」
善子「梨子さん、投げる動作になると妙にぎこちなくなるわね」
善子「捕球動作とのギャップが凄いんだけど」
梨子「あ、よくわかったね」
212: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:14:31.51 ID:W80XV/b4.net
千歌「梨子ちゃんね、イップスなんだよ」
善子「イップス……」
梨子「これでもだいぶマシにはなったんだけど、まだ完璧じゃなくて」
善子(イップス、か)
善子「くっくっくっ」
梨子「よ、善子ちゃん?」
梨子(この子、どこか変な部分があるわね)
善子「ねえ梨子さん」
善子「私、イップスに利く良い方法を知ってるんだけど、興味ない?」
213: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:19:27.36 ID:W80XV/b4.net
梨子「!」
善子「知りたくないなら、別に構わないけど」
梨子「……本当なら、もちろん教えてもらいたいわ」
善子「いいわよ、教えてあげましょう」
曜「ねえ、どうしたの?」
ルビィ「何かあったんですか?」
梨子「なんかね、善子ちゃんがイップスに利く方法を知ってるって」
千歌「本当!?」
214: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:20:50.58 ID:W80XV/b4.net
善子「ええ、もちろんよ」
千歌「なになに、どんな方法?」
善子「落ち着きなさい」
善子「少し準備が必要だから」
梨子「準備?」
善子「それはね」ゴソゴソ
『津島式野球メソッド』
善子「これよ!」
千歌「な、なに、その真っ黒な仰々しい本は」
215: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:22:18.01 ID:W80XV/b4.net
善子「私の野球に関する理論が全て詰まった魔本よ!」
千歌「は、はぁ」
善子「さて、症例に照らし合わせると、あなたに必要なのは――催眠術!」
梨子「さ、催眠術?」
曜「それって、5円玉を揺らすあれ?」
善子「違うわよ、もっと本格的なもの」
花丸「怪しさ満点ずら……」
善子「うっさいわね」
ルビィ「それ、効果あるの?」
善子「あるわよ、騙されたと思って受けてみなさい」
216: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:23:10.29 ID:W80XV/b4.net
梨子「まあ、薬とかじゃないものね」
善子「物分かりが良いじゃない」
梨子「それで、催眠術っていうのはどこでやればいいの?」
善子「そうね……とりあえず一度部室に戻りましょう」
千歌「私たちはどうすればいいの?」
善子「練習を続けてていいわよ」
善子「順調にすすめば、そんなに時間かからないから」
千歌「分かったー」
217: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:26:54.90 ID:W80XV/b4.net
―部室―
善子「さて、じゃあそこの椅子に座って」
梨子「う、うん」
善子「それでこのボールを持って」
梨子「えっと、どっちの手で?」
善子「梨子さん、元から右利きよね」
梨子「そうだよ」
善子「じゃあ右手で」
218: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:28:55.43 ID:W80XV/b4.net
梨子「握りは?」
善子「自分が野球を始めたばかりの頃にしていた握り方でいいわよ」
梨子「握りに何か意味があるの?」
善子「話してしまうと意味がなくなるから、後でね」
善子「とりあえず目をつぶってくれる?」
善子「始める前に、電気を消したいから」
梨子「うん」
219: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:30:37.97 ID:W80XV/b4.net
善子「さて、まずは深呼吸をしてくれるかしら」
梨子「す――は――」
善子「いい感じね」
善子「それじゃあ、自分が野球を始めたばかりの頃を思い出して」
梨子「野球を?」
善子「鮮明に思い出す必要はないわ、アバウトでいいの」
善子「誰にでも最初、何も知らずにボールを握ってた事があるでしょ」
善子「何も考えずに投げて、捕って、そんな頃のこと」
善子「昔の自分をよみがえらせるの」
梨子「昔の、私」
220: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:31:30.10 ID:W80XV/b4.net
―――
――
―
千歌「梨子ちゃん、大丈夫かな」
花丸「流石に2人きりはマズかったんじゃ……」
ルビィ「うゅ……」
曜「まあ今さら気にしても仕方ないし――あ、戻って来たんじゃない」
221: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:32:36.28 ID:W80XV/b4.net
善子「ふっ、魔界から帰還してきたわ」
梨子「ただいま」
花丸「梨子さん、大丈夫?」
梨子「ええ」
曜「効果はありそうかな」
梨子「どうだろう、とりあえず投げてみないと」
曜「じゃあちゃちゃっとアップ済ませて、一度投げてみようか」
梨子「うん」
222: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:35:35.60 ID:W80XV/b4.net
―――
――
―
梨子(マウンドの感触、不思議と前よりも馴染んでるように感じる)
梨子(これは、本当に)
千歌「梨子ちゃん、無理なくね」
梨子「うん」
曜「ねえ、実際催眠術って効果あるの?」
善子「正直、人によるわね」
善子「でも梨子さんみたいなタイプはきっと効果があるはずよ」
223: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:37:52.12 ID:W80XV/b4.net
曜「梨子ちゃんみたいなタイプ?」
善子「たぶんあの人は、他人の言葉の影響を受けやすい人だから」
梨子(善子ちゃんの催眠術を受けた後、不思議と身体が軽い)
梨子(まるで昔の私に戻ったみたいな感覚)ググッ
千歌(投球動作が、前よりもスムーズになって――)
シュッ
千歌「!」バシッ
梨子「あっ……」
千歌「本当に、投げられるようになってる」
224: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:39:21.04 ID:W80XV/b4.net
曜「凄いっ」
曜「あれは昔見た、梨子ちゃん本来の球に近いよ」
梨子「ち、千歌ちゃん、もう一球」
千歌「う、うん」
シュッ バシッ
梨子「投げられる」
梨子「私、普通に投げられる!」
千歌「梨子ちゃん!」
225: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:40:23.80 ID:W80XV/b4.net
善子「ふっ、これぞ津島式野球メソッドの力」
曜「凄いよ、善子ちゃん!」
ルビィ「うゅ!」
花丸「見直したずら!」
曜「ねえ、私にも何か教えて!」
善子「じゃあ津島式スイング理論を……」
曜「おぉ、何か逆方向に鋭い打球が打てるようになった!」
千歌「す、すごいよ、善子ちゃん!」
226: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:41:17.18 ID:W80XV/b4.net
善子「ざっとこんなものよ」
千歌「私にも教えて!」
花丸「ま、マルにも!」
善子「任せなさい!」
ルビィ「うゅ……」
花丸「ルビィちゃんはいいの?」
ルビィ「えっと、ルビィは自分のやり方を崩したくないから」
善子「くっくっく、そんなことを言っていると、後で後悔するわよ――
227: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:42:43.52 ID:W80XV/b4.net
―――
――
―
千歌「心なしか前より打てなくなった……」 ボコッ
花丸「マルも全然変わらないずら……」 スカッ
善子「あれ?」
曜「うーん、上手くいく人といかない人がいるのかな」
花丸「むぅ、やっぱり善子ちゃんの理論は欠陥品ずら」
善子「う、うるさいわね!」
善子「完璧じゃないのは仕方ないじゃない!」
228: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:44:26.47 ID:W80XV/b4.net
善子「充分でしょ、イップス治したんだから」
梨子「そうよ、人それぞれ理論が合う合わないはあるんだから、仕方ないわ」
花丸「まあ、それはそうだけど」
曜「でも野球に関する情報をこんなに持ってるなんて凄いね」
善子「そう?」
曜「うん」
曜「ここまで野球に詳しい同年代の人なんて、他にほとんど知らないよ」
229: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:45:22.04 ID:W80XV/b4.net
千歌「善子ちゃん、中学はどこのチームでプレーしてたの?」
千歌「ここまで詳しいなら、結構凄いところに――」
善子「どこにも所属してないわよ」
千歌「へっ」
善子「どこへいっても上手くいかなかったのよ、私は」
千歌「な、なんで?」
善子「色々あったのよ、色々」
千歌「色々……」
230: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:49:52.93 ID:W80XV/b4.net
善子「……」ごめん」
善子「悪いけど私、帰るわね」
千歌「よ、善子ちゃん?」
善子「気にしないで」
善子「久しぶりに人と話したら、ちょっと疲れちゃっただけ」
千歌「そう……」
花丸「ねえ、野球部には入るの」
善子「うーん、どうしようかしら」
千歌「私は善子ちゃんに入ってもらいたいと思ってるよ」
梨子「私も大歓迎よ、イップスを治してくれた恩人だもの」
231: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:51:14.24 ID:W80XV/b4.net
善子「……ありがとう、今日は楽しかったわ」
花丸「善子ちゃん……」
善子「じゃあね、また学校に来ることがあったら会いましょう」
タッタッ
千歌「無神経な事聞いちゃったのかな、私」
花丸「千歌ちゃんの所為じゃないよ」
花丸「マルも厳しい言い方が多かったし……」
梨子「2人の所為じゃないわよ」
ルビィ「そうだよ、いまのは不可抗力だもん」
千歌「そうかも、しれないけど」
「「「「……」」」」
曜(ふむ……)
232: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:53:24.97 ID:W80XV/b4.net
―バス車内―
善子「はぁ……」
善子(何であんな出て行き方しちゃったんだろう)
善子(みんな私を受け入れてくれて、楽しく野球をしていたのに)
善子(千歌さんだって悪気があって言ったわけじゃない)
善子(それなのに私はついキツイ返答をして)
善子(しかもパニックになって逃げだしてきて……)
233: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:54:38.77 ID:W80XV/b4.net
善子「はぁぁぁ」
曜「リストラされた中年サラリーマンみたいなため息だね、若者よ」
善子「うわっ!」
曜「同じ方面だったんね、ちょうどよかったよ」
善子「い、いつの間に乗ってたの?」
曜「善子ちゃんが出てった後、全力で走って先回りしたのさ」
善子「なによそれ……」
善子(バッセンの時といい、本当に滅茶苦茶だわ、この人……)
234: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 18:58:52.40 ID:W80XV/b4.net
善子「それで、何の用なの?」
曜「よう? 曜は私だよ!」
善子「そうじゃなくて……」
曜「あはは、分かってるよ」
善子「ふざけないでよ、もう」
曜「ごめんごめん」
曜「でもこうした方が少しは元気になるかなぁと思って」
善子「……悪いわね、わざわざ」
235: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:02:00.16 ID:W80XV/b4.net
曜「みんな心配してたよ」
善子「そりゃそうよね、あんな出て行き方をしたら」
曜「やっぱり、昔の話に突っ込まれたのが嫌だったの?」
善子「ハッキリ聞くわね、あなた」
曜「その方がいいかなって」
曜「私で良ければ話を聴くよ」
曜「もちろん、誰かにいいふらしたりもしないし」
善子(……本当に不思議な人)
善子「なら、少しだけ昔話をしてもいいかしら」
曜「うん」
236: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:06:31.25 ID:W80XV/b4.net
善子「私はね、お母さんが野球のコーチを務めるような人なの」
善子「だから小さい頃から野球が身近にある環境だった」
善子「そんな中で育ったせいか、昔から野球が大好き」
善子「どんな時でも、ずっと野球のことばかり考えて」
善子「実際そこそこセンスもあったし、始めた時期も早かったから、最初にチームに入った時はもてはやされたわ」
善子「天才、流石はお母さんの娘だって」」
善子「でも、良かったのはそこまで」
善子「私はとてもこだわりが強い人間でしょ」
善子「だから自分の考え方を譲れなかった」
237: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:09:22.62 ID:W80XV/b4.net
善子「中途半端に知識があったせいで、色んな動作が我流で」
善子「ちゃんと教わってなかったから、普通とは全然違う動きをしていた」
善子「当然、コーチはそれを正そうとする」
善子「でも私は指導を拒否した」
善子「その上で自分自信の研究を重ねるの」
善子「どうすれば自分のやり方で上手なプレーができるかを、ひたすら探求して」
善子「それで結果的に理想のスイングを作り出しても、大人たちはそれを否定する」
善子「そしてさらに意地になって――そんな繰り返し」
238: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:11:45.65 ID:W80XV/b4.net
善子「結局、監督やコーチと不仲になって、チームメイトからも孤立して」
善子「実力的には十分でも、試合では使ってもらえなくて」
善子「たまに試合に出れても、謎の不運が私に付き纏う」
善子「打席に立てば何故かデッドボールを当てられてばかり」
善子「守備では打球が不思議とイレギュラーを繰り返す」
善子「いくら努力しても、周りはそれを認めてくれない」
善子「結果で見返そうとしても、不運に阻まれる」
善子「そんなことを繰り返し、色々なチームを転々としている内に、私が入れるチームは一つも無くなっていたの」
239: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:13:35.40 ID:W80XV/b4.net
曜「……なるほどね」
善子「どう、馬鹿みたいな話でしょ」
曜「傍からみれば、そうかもね」
善子「別に理解してほしいわけじゃないの」
善子「きっと分からない感覚でしょうから」
善子「貴女みたいな、輝かしい場所を歩いてきたであろう人には」
曜「いやいや、そんなことないよ」
善子「えっ?」
240: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:15:41.56 ID:W80XV/b4.net
曜「私もさ、そんなに協調性があるほうじゃないんだよね」
曜「止められても勝手に練習始めるし、必要ないことだと思ったら積極的にやらないし」
曜「色んなところが結構自己流で」
曜「自分のやりたいようにやって、勝手に突っ走ってさ」
曜「前に教わっていたコーチにもよく皮肉言われたものだよ」
曜「『個人競技の方が向いてるんじゃないの』なんて」
善子「意外ね、協調性高そうなのに」
曜「あはは、野球は別なんだよ」
241: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:17:01.65 ID:W80XV/b4.net
曜「私は自分の感覚に従って努力していけば、上手くなると信じてる」
曜「そして成長していって、世界で一番の選手になるの」
曜「誰に負けない、凄い選手に」
善子「世界一の選手……」
曜「善子ちゃんはさ、上手くなりたい?」
善子「もちろんよ」
曜「だろうね」
曜「私と善子ちゃん、考え方がどこか似てるもの」
曜「きっと普通に野球ができてたら、いい選手になっていたと思うよ」
善子「……何が言いたいの」
242: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:19:06.51 ID:W80XV/b4.net
曜「私と善子ちゃんは違うってこと」
曜「私はトラブルはあっても、最終的にチームで受け入れられてきた」
曜「今まで追い出されるように辞めたことは、一度もないよ」
善子「なんで?」
曜「他の子に比べて、実力があったから」
曜「私は集中力がない方だから変なエラーとかよくする」
曜「監督やコーチ、チームメイトとも揉めたことも当然ある」
曜「でも実力があったから、使ってもらえた」
曜「周囲から受け入れてもらえた」
243: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:20:40.99 ID:W80XV/b4.net
善子「それ、私に実力がないっていう皮肉かしら」
曜「そんなことはないよ」
曜「そこまで多くのプレーを見たわけじゃないけど、善子ちゃんは十分実力はあると思う」
曜「野球が好きで、頭もいい」
曜「きっと充分な才能もある」
曜「不運っていう問題もあるから、私よりも大変だろうし」
善子「それなら、なんで」
244: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:22:52.13 ID:W80XV/b4.net
曜「キミの一番の問題はね、チームを変え続けること」
曜「すぐに辞めちゃうその癖が、良くないんだよ」
善子「仕方ないでしょ、居辛くなったらまともに練習だって――」
曜「私だって最初はそうだったよ」
曜「主張が強いから、みんなが私を非難した」
曜「軽いいじめみたいなことをされた経験もある」
曜「でもね、そこで我慢したの」
曜「すぐに逃げることなく耐えて、1人でも必死に練習した」
曜「そして実力をつけて、みんなから認められるようになった」
245: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:24:29.99 ID:W80XV/b4.net
曜「善子ちゃんもね、きっとそれができる」
曜「だからね、今回は辞めないでほしい」
曜「ひきこもり、最初の悪印象、学校内での人間関係、きっと大変なことだらけ」
曜「でもそこで頑張って、耐えてほしいんだ」
曜「そうすれば、善子ちゃんは自分の欲しかった物を手に入れられると思う」
曜「私も協力できることは何でもする」
曜「きっと花丸ちゃんとルビィちゃんも助けてくれる」
曜「これでも運はいい方だから、私といれば不運も吹き飛ばしちゃうよ!」
善子「曜さん……」
246: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:26:45.77 ID:W80XV/b4.net
曜「だからさ、野球部に入ってよ」
曜「絶対に、みんな歓迎するから」
善子「……ねえ、なんで出会ったばかりの私にそこまでしてくれるの」
曜「正直に言っちゃえばね、部員が欲しいっていうのはあるかな」
善子「まだ5人しかいないなら、そうでしょうね」
曜「でも一番の理由は、善子ちゃんと一緒に野球がやりたいから」
曜「初めてなんだよ、こんなに面白そうな選手に出会ったの」
曜「その上野球理論も合うし、相性も良さそうだしさ」
247: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:28:33.61 ID:W80XV/b4.net
善子「――分かった」
善子「入るわよ、野球部に」
曜「善子ちゃん!」
善子「勘違いしないで、私は最初から入るつもりだったのよ」
善子「貴女がおせっかいを焼かなくても、最初から」
曜「ふふっ、そっか、余計な事しちゃったかな」
善子「グラウンドに降臨する堕天使ヨハネを舐めない事ね」
善子「そんなにやわなメンタルしてないわよ」
249: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:30:09.20 ID:W80XV/b4.net
『次は○○~』
曜「あ、私ここで降りなきゃ!」
善子「あら、そうなの」
曜「じゃあまたね、善子ちゃん」
善子「ええ」
善子「ねえ、曜さん」
曜「なに?」
善子「……ありがとう」
曜「――うん!」
250: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:41:46.37 ID:W80XV/b4.net
序章的な部分はここまでです、次から試合へと入る予定です
やはりこっちで書くと割と反応があるので楽しいですね(ないのは少し寂しい)
以前書いたように投稿ペースは多少落ちるとは思いますが、できるだけサクサク進めていければと思います
以下、少し補足
251: 名無しで叶える物語 2018/08/16(木) 19:42:28.99 ID:W80XV/b4.net
現時点でのパワプロ的に例えた能力(女子野球基準)
女子野球の平均球速は120に満たないと考えてください
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕D
:球速133 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D
:球速115 コンC スタD カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB
ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩F 守C 捕E
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスF エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パF 走C 肩F 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守G 捕E
エラー バント○
善子:弾道2 ミE パE 走D 肩E 守D 捕E
選球眼 悪球打ち 意外性 エラー
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F
設定
・μ’sとA-RISEの活躍で女子野球の人気が出ている世界
・全国には300校を超える女子野球部がある(μ's、A-RISEの活躍以前は全国で30校程度)
・道具の進化などにより、女子でも高いパフォーマンスが発揮できるようになっている
259: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:20:44.13 ID:gdg85tt3.net
―3―
―生徒会室―
ダイヤ「千歌さん、あなたは素晴らしいですわ」
ダイヤ「まさかこんな短期間で部員を集めきってしまうなんて」
千歌「えへへ、それほどでも――あるかな」
梨子「こら、調子に乗らないの」
曜「まあいいじゃん、実際上手くやったんだし」
260: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:22:18.37 ID:gdg85tt3.net
ダイヤ「そうですよ」
ダイヤ「助っ人も含めれば9人、試合ができる状態になったんですから」
ダイヤ「正直あまり期待してなかったんですよ、部員集めは」
ダイヤ「今だから言えることですがね」
曜「その割に、諸々の環境を整えるの早かったですよね」
ダイヤ「いざとなれば、私が部員を用意するつもりでしたので」
千歌「えっ、ダイヤさんに当てがあったんですか」
ダイヤ「2人ほどですがね」
261: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:23:42.68 ID:gdg85tt3.net
千歌「それなら最初からお願いすればよかったかも……」
ダイヤ「いいじゃないですか、おかげで質の高い部員が集まったんですから」
梨子「質の高い、部員――」
ルビィ「ノック行くよ」カーン
善子「ちょ、どこに打ってるの――ってまたイレギュラー!?」
ドスッ
花丸「あはは、また善子ちゃんにボールがぶつかってるずら」
善子「私の所為じゃないわよ!」
262: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:25:09.00 ID:gdg85tt3.net
善子「少なくとも、あんたには笑われたくないわよ!」
善子「さっきから自分へのボールを私に処理させてるじゃない」
花丸「……マルは初心者だから仕方ないんだよ」
善子「言い訳するな!」
ルビィ「け、喧嘩しないでよぉ」
ダイヤ「……」
曜「あ、あはは」
千歌「さ、最初はあんなものだよ。みんな一年生なんだし」
梨子「そ、そうね」
263: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:26:51.78 ID:gdg85tt3.net
ダイヤ「まあ、気を取り直して」
ダイヤ「ここからが本題なのですが」
千歌「あ、はい」
ダイヤ「試合をできる人数が揃ったということで、早速練習試合を組んでおきました」
曜「おぉ、流石ダイヤさん」
梨子「早いですね」
千歌「相手はどんな高校なんですか?」
ダイヤ「全国大会に出場したこともある、沼津の高校です」
264: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:29:14.39 ID:gdg85tt3.net
梨子「えっ、それって大丈夫なんですか」
梨子「あんまり実力差があると、試合にならないような」
ダイヤ「確かにそれなりの相手ではあります」
ダイヤ「ただ静岡は女子野球が強い地域ではないので、何とかなるレベルのはずです」
千歌「まあ、私たちには曜ちゃんと梨子ちゃんが居るからね」
ダイヤ「それに練習試合は負けてもいいのですよ」
ダイヤ「負けは負けで、とてもいい経験になります」
ダイヤ「それに皆さんはまだ二年生、他の部員も一年生です」」
ダイヤ「今年一年じっくりと練習して、来年に賭けるぐらいの余裕を持ちましょう」
265: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:32:26.85 ID:gdg85tt3.net
千歌「えー、でも負けたくないよ」
曜「そうだよ」
曜「今年からいきなり全国へ行くぐらいの意気込みじゃないと!」
梨子「ぜ、全国は流石に」
千歌「そ、そうだね、ちょっと現実的じゃないような」
曜「駄目だよ二人とも、そんな弱気じゃ」
曜「私はどんな相手でも絶対に勝つつもりなんだから」
千歌「そ、そうだよね!」
ダイヤ「ふふっ、その意気で頑張ってください」
266: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:33:15.00 ID:gdg85tt3.net
―部室―
千歌「というわけで、練習試合をすることになりましたー」
ルビィ「し、試合……」バタン
花丸「あ、ルビィちゃんが緊張のあまり気絶しちゃったずら」
善子「本当にメンタル弱いわね、この子……」
ルビィ「ぴぃ……」
267: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:34:45.49 ID:gdg85tt3.net
曜「気合入るよね、私たちの初試合!」
善子「確かに」
善子「何といっても、この堕天使ヨハネのデビュー戦だもの!」
曜「ねえ、時々入るその堕天使って何なの?」
善子「真顔で聞かないで、回答に困るから」
千歌「でも試合前に色々と決めなきゃいけないね」
曜「例えば?」
千歌「えーと、打順とか?」
曜「あー」
268: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:36:26.79 ID:gdg85tt3.net
梨子「そういえば、みんなのポジションは決まってたっけ?」
千歌「あ、忘れてた!」
梨子「忘れないで……」
善子「ある意味一番肝心なことよ……」
千歌「じゃあそれぞれ、希望ポジションを出していこう」
梨子「それでいいの?」
千歌「明確に決まっている人も少ないしね」
千歌「被ったら話し合って決めればいいかな」
269: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:38:49.85 ID:gdg85tt3.net
曜「私は当然ピッチャーとショートで!」
梨子「投手は私と曜ちゃんの二人制だね」
梨子「投げない時、私はレフトかライトかな」
花丸「じゃあマルは残った方の外野?」
千歌「ううん、花丸ちゃんはファースト」
千歌「内野の動きの知識はあるし、捕球は上手いから」
花丸「でもそれ以外は自信ないずら……」
曜「そこはほら、セカンドのルビィちゃんがフォローしてくれるからさ!」
ルビィ「う、うん」
千歌(そもそも、花丸ちゃんの傍からルビィちゃんを離すと色々心配なんだよね……)
270: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:39:46.97 ID:gdg85tt3.net
曜「それで、当然キャッチャーは」
善子「私ね!」
千歌「ふぇ」
梨子「へっ」
花丸「ずら?」
ルビィ「ピギィ!」
曜「はっ?」
善子「ひっ」
271: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:40:49.83 ID:gdg85tt3.net
梨子「よ、曜ちゃん、善子ちゃん怖がってる」
曜「いやいや、どう考えてもキャッチャーは千歌ちゃんでしょ」
善子「い、いいじゃない」
善子「私だって津島式配球理論が通用するか試したいのよ」
善子(あとちょっとだけ、曜さんとバッテリーを組んでみたいし)
曜「むぅ、じゃあ私の球を捕れたら考えるよ」
善子「捕るだけ? そんなの余裕よ」
曜「ほー、言ったな、早速グラウンドへ行こうか」
272: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:43:58.75 ID:gdg85tt3.net
―グラウンド―
梨子「ねえ、善子ちゃん大丈夫かな?」
千歌「まあ捕るだけならそこまで難しくない、はず」
梨子「でもいいの、簡単にポジション譲っちゃって」
千歌「大丈夫だよ」
千歌「そもそも曜ちゃんも『考える』としか言ってないし」
梨子「あー、言われてみれば」
曜「さー、行くよ」
善子「ふっ、いつでも来なさい」
273: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:45:44.30 ID:gdg85tt3.net
曜「喰らえよーしこー!」シュッ
善子「へっ、はやっ」
ドカッ
曜「うわっ」
善子「だ、堕天……」バタン
ルビィ「よ、善子ちゃん!?」
千歌「うわぁ、あれは痛い……」
花丸「自業自得ずら」
梨子(そういえば善子ちゃん、曜ちゃんが投げるのを見るの初めてだったかも)
梨子(予測できてないと、あの浮き上がるようなストレートを捕るのは難しいわね)
274: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:47:23.92 ID:gdg85tt3.net
曜「ご、ごめん」
曜「本当に当てる気はなかったんだけど」
善子「……怖かった」ヒシッ
曜「ちょ、善子ちゃん」
善子「グスッ」
花丸「善子ちゃん、何か幼児化してるずら」
ルビィ「不謹慎だけど、ちょっと可愛いかも」
梨子「確かにね」
275: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:50:17.46 ID:gdg85tt3.net
―――
――
―
曜「というわけで、キャッチャーは千歌ちゃんになりました」
全員「わ~」
千歌「善子ちゃんはセンターね」
善子「なるほど、この堕天使は中心こそが相応しいと――」
曜「外野だったらイレギュラーしても防ぎやすいからだよ」
花丸「やっぱり自意識過剰ずら」
善子「分かってるわよ! 最後まで言わせないさいよ!」
ルビィ「あはは」
276: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:51:49.59 ID:gdg85tt3.net
千歌「さて、ポジションはこれで決まり」
千歌「あとは帰ってゆっくりと――」
ブンッ
千歌「あれ、素振りの音?」
曜「でも全員いるよね」
千歌「じゃあ誰が?」
梨子「もしかして、まだ他に野球をする人が?」
曜「見に行ってみよう!」
277: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:54:20.16 ID:gdg85tt3.net
ダイヤ「……」ブンッ
梨子「えっ、あれって……」
千歌「ダイヤさん?」
ダイヤ「……」ブンッ
善子「綺麗なスイング……」
曜「ダイヤさん、もしかして野球上手なのかな」
千歌「かも、ね」
梨子「だけど家庭の事情でプレー出来ないんでしょ?」
千歌「でも、お願いすれば助っ人ぐらいなら――」
278: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:56:47.69 ID:gdg85tt3.net
ルビィ「駄目っ!」
千歌「ルビィちゃん!?」
ルビィ「ごめんなさい、それだけは……」
千歌「な、なんで?」
ルビィ「その、理由は……」
千歌「あ、いや、別に無理に話さなくてもいいよ」
ルビィ「すみません……」
全員「…………」
279: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:58:05.09 ID:gdg85tt3.net
ダイヤ「あら、みなさんどうされたのですか」
千歌「ダ、ダイヤさん」
ダイヤ「もしかして、見られてしまいました」
千歌「えっと、その……」
ダイヤ「いいのですよ、気にしなくても」
ダイヤ「なんてことない、ただの遊びですから」
曜「遊び?」
ダイヤ「昨日、プロ野球を観ていたら素晴らしいプレーを目にしまして」
ダイヤ「あるでしょう、その後に無性にバットを振りたくなることが」
280: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 00:59:05.70 ID:gdg85tt3.net
千歌「でも――」
善子「あー、分かるわ」
善子「私も時々やるもの」
梨子「そ、そうよね」
千歌「ちょっと、善子ちゃん」ヒソヒソ
善子「空気読みなさいよ」ヒソヒソ
梨子「気になるのは分かるけど、ルビィちゃんの為にも、ね」ヒソヒソ
千歌「うん、そうだね……」ヒソヒソ
281: 名無しで叶える物語 2018/08/17(金) 01:01:15.73 ID:gdg85tt3.net
ダイヤ「どうかしましたか?」
千歌「い、いえ、大丈夫です」
ダイヤ「そうですか、ならいいのですが」
ダイヤ「そろそろ私は帰ります、皆さんも気をつけて帰ってくださいね」
千歌「は、はい」
千歌(ルビィちゃんの反応的にも、興味本位で聞いていい話じゃないのかもしれない)
千歌(凄く気になるけど、仕方ないよね)
千歌(それよりも今は、試合に向けて集中していかないと)
300: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:01:56.39 ID:yCE9TXDc.net
―試合当日・沼津、グラウンド―
千歌「ついにこの日が来たよ!」
梨子「はぁ、緊張するわね」
花丸「ですね……」
千歌「あれ、そういえばルビィちゃんは?」
梨子「一番緊張してそうなのに、反応がないわね」
301: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:02:50.30 ID:yCE9TXDc.net
花丸「あ、ここです」クルリ
ルビィ「」
千歌「う、後ろに背負ってる……」
曜「ずいぶんシュールな絵だね」
花丸「緊張がピークに達したみたいで……」
梨子(花丸ちゃん、身長の割にパワーがあるのはこれのせい?)
善子「ま、全く、情けにゃいわにぇ」
善子「これだから人間風じぇいは」
花丸「善子ちゃんも大概ずら」
302: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:05:15.31 ID:yCE9TXDc.net
曜「一年生はみんな試合慣れしてないから仕方ないよ」
梨子「そうね」
梨子「慣れればもう少し平常心を保てるようになるでしょう」
曜「ちなみに千歌ちゃん、オーダーはどんな感じ?」
千歌「ふっふっふっ」
曜「おお、自信満々だね!」
梨子「なんか逆に不安なんだけど……」
千歌「まあまあ、千歌ちゃん監督の有能さを観るがいい!」
303: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:06:20.74 ID:yCE9TXDc.net
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
304: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:08:42.18 ID:yCE9TXDc.net
梨子「こ、これは」
ルビィ「うゅ……」
花丸「あっ、ルビィちゃんおはよう」
善子「曜さんが2番?」
千歌「ネットで見た『2番打者最強説』だよ!」
善子「打てる方のルビィが9番なのよ」
千歌「その方がプレッシャーも小さいかなって」
千歌「それに9番に打てる打者を置くのは、有名なラミ○ス監督も好む戦術なんだよ!」
善子「ネットに流されやす過ぎでしょ……」
305: 名無しで叶える物語 2018/08/19(日) 09:10:10.08 ID:yCE9TXDc.net
梨子「しかもさらっと自分を四番に置いてるし」
千歌「ギクッ」
ルビィ「諸々の理由付け、自分が四番を打ちたかっただけなんじゃ……」
花丸「うわぁ」
千歌「そ、そんなことないって」
曜「わ、私はいいと思うよ」
梨子「曜ちゃんは黙ってて」
曜「はい……」
314: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 21:55:45.35 ID:vVD7/3R4.net
梨子(でも千歌ちゃんの組んだ打順は案外理に適ってる)
梨子(実際、ルビィちゃんのメンタルで目立つ上位は難しい)
梨子(ただでさえ打てる選手が少ないチーム)
梨子(出塁できそうなルビィちゃんと善子ちゃんの2人を並べて、私たち2年生で返す)
梨子(それが理想的であることも確かなのよね)
梨子(こっちには曜ちゃんがいるんだから、大量点は必要ないもの)
梨子(いくら守備が不安でも、数点取ればなんとかなる)
梨子(……まあ、私が余計な点を取られなければだけど)
315: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 21:57:07.20 ID:vVD7/3R4.net
梨子「そういえば、今日の対戦相手はどんなチームなの」
千歌「えっと、ダイヤさんからもらったデータによると――」
『日中高校:投手力が高い反面、打撃は標準レベル』
『左のエース中野は特に注意 伝統的に守りが強いチーム』
千歌「だって」
梨子「へぇ、じゃあ大敗の心配はなさそうね」
曜「ダイヤさんも、その辺を考えての選んだ相手なのかな」
梨子「かもね」
316: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:13:21.56 ID:vVD7/3R4.net
千歌「ちなみに相手のオーダーはこんな感じだって」
1:中・小島
2:遊・東田
3:右・凸田
4:一・ヴィシー
5:三・福井
6:ニ・高平
7:左・藤田
8:捕・梅井
9:投・中野
317: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:15:30.24 ID:vVD7/3R4.net
千歌「4番の留学生、ヴィシーさんが要注意らしいよ」
曜「留学生か……対戦してみたい!」
梨子「曜ちゃんは本当にメンタル強いわね」
梨子「私はそんな前向きに考えられないわよ」
曜「梨子ちゃんは強打者を相手にするのが嫌なの?」
梨子「そりゃ嫌よ」
梨子「そんな強打者が居れば、打たれる可能性が上がるわけだから」
318: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:17:06.37 ID:vVD7/3R4.net
曜「むぅ、弱気だね」
千歌「梨子ちゃんの場合、久々のマウンドだから仕方ないよ」
曜「あー、それはそうかもね」
梨子「そもそも、何で私が先発なのよ」
千歌「それはほら、練習試合だから色々試さないとだし」
千歌「梨子ちゃんは実践の勘を取り戻さなきゃでしょ」
千歌「あと私も含めて試合経験少ない子が多いから、打たせて取るタイプの梨子ちゃんの方がいい練習になると思うんだよね」
曜「な、なるほど」
319: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:17:53.23 ID:vVD7/3R4.net
ルビィ「流石千歌さん、考えてますね」
善子「正直見直したわ」
千歌「いやー、実は全部ダイヤさんの受け売りなんだけどね」
善子「あらっ」ガクッ
花丸「千歌さん……」
梨子「あれ、じゃあ打順も」
千歌「それは私」
梨子「でしょうね……」
千歌「いやぁ、ダイヤさんの案だと梨子ちゃんと私の打順が逆だったからさ」
320: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:26:19.89 ID:vVD7/3R4.net
曜「と、とにかくそろそろ行かないと」
曜「早くしないと相手を待たせちゃうよ」
千歌「あ、そうだね」
千歌「よーし、行くよ浦の星ナイン!」
ようりこ「おー!」
よしまる「おー!」
千歌「あれ、ルビィちゃんは?」
花丸「試合が迫ったことを意識してまた気を失ったみたいです」
千歌「あらら……悪いけど花丸ちゃんまた運んであげて
花丸「了解ずら!」
梨子(……本当に大丈夫なのかな)
321: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:38:15.48 ID:vVD7/3R4.net
【一回表】
千歌「よーし、初回に先制するぞ~」
曜「善子ちゃん、頼むよ!」
善子「ええ、任せて!」
ルビィ「善子ちゃん、気合入ってるね」
花丸「だね」
ルビィ「あれなら期待できるかな」
花丸「でも、何か嫌な予感が……」
322: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:40:58.31 ID:vVD7/3R4.net
善子(久しぶりの試合――そして何より初めての一番!)
善子(そもそも上位打線を打つのが初めてだもん、もう最高!)
プレイボール!
善子(でも頭は冷静に)
善子(一番なんだから、しっかり球種を見極めて――)
ドンッ
千歌「うわっ」
梨子「初球からデッドボール……」
323: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:45:12.81 ID:vVD7/3R4.net
善子「もう、なんでよ!」
ルビィ(なんとなく)
花丸(そんな気はしてたよね)
梨子(ある意味期待を裏切らないわね、善子ちゃんは)
千歌「でも曜ちゃんの前でランナーが出たよ!」
梨子「そ、そうね」
千歌「ふっふっふっ、これは先制点貰った!」
324: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:46:25.25 ID:vVD7/3R4.net
梨子「ねえ、千歌ちゃん」
千歌「なぁに?」
梨子「実は期待したでしょ、このデッドボール」
千歌「……そんなことないよ」
梨子(千歌ちゃん、何も考えていないようで案外したたかよね)
曜「……」ニコニコ
梨子(それよりも、目の前で死球を見ながら満面の笑みの曜ちゃんの方が怖いし)
325: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:48:10.28 ID:vVD7/3R4.net
曜(ふふふ、初回からランナーがいるなんて嬉しい誤算だよ)
曜(善子ちゃん、後で褒めてあげないと)
プレイ!
曜「よし、こい!」
中野(この子は有名な渡辺曜……)
梅井(とりあえず、慎重にくさいところを――)シュッ
曜「!」
カッキーン!
326: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:49:41.75 ID:vVD7/3R4.net
千歌「打った!」
ルビィ「大きいよ!」
花丸「これは――――入った!」
千歌「ホームランだ!」
善子「う、嘘っ」アゼン
曜「ちょっとよーしこー」
曜「早く走らないと追い抜いちゃうよ」
善子「ご、ごめんなさい」
327: 名無しで叶える物語 2018/08/20(月) 22:52:06.18 ID:vVD7/3R4.net
善子(あんな難しいコースを、逆方向へホームラン)
善子(女子野球ではあり得ないような現象なのに、何で平然としてるのよ……)
善子(この人は化け物じみてるわね、本当に)
梅井「そんな……」
中野「……」ボーゼン
梨子「ナイスバッティング、曜ちゃん」
曜「えへへ~、上手く打てたよっ」
千歌「凄いよ! これで二点先制!」
ルビィ「相手も動揺してる、チャンスかも!」
千歌「よーし、この回に大量得点だ!」
340: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 10:58:54.20 ID:acFag3YV.net
【一回裏】 2-0
千歌(梨子ちゃんのフォアボールの後、初球ゲッツーはマズかったなぁ)
千歌(後続は3球三振、立ち直られちゃったかもだし)
千歌(でも切り替えて守備に集中しないと)
プレイ!
千歌(梨子ちゃんは低めにボールを集めてゴロを打たせるタイプ)
341: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 10:59:46.82 ID:acFag3YV.net
千歌(とりあえず外にストレートを)
梨子『コクリ』
シュッ
小島「!」キンッ
千歌「曜ちゃん!」
曜「!」パシッ――シュッ
アウト!
342: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:01:16.96 ID:acFag3YV.net
梨子「ワンナウト!」
千歌(よしよし、いい感じだね)
千歌(次も同じ感じで、今度はカーブで)
梨子「えい!」シュッ
ボール
千歌(反応しないな、まだ変化球の調子はいまいちかも)
千歌(じゃあやっぱりストレートを)
シュッ――キン
千歌「よし、ファーストゴロ――」
343: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:02:45.13 ID:acFag3YV.net
花丸「あっ」トンネル
ルビィ「よ、よしみさん、フォローを――」
よしみ「う、うん」モタモタ
千歌(しまった、あそこは初心者地帯……)
千歌(ランナーも三塁まで行っちゃったよ……)
花丸「ご、ごめんなさい」
梨子「最初は仕方ないわよ、気にしないで」
千歌(でも梨子ちゃんも思ったより気にしてなさそう)
千歌(これなら大丈夫かな)
344: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:03:30.98 ID:acFag3YV.net
千歌(次は三番だけど、三振が欲しい)
千歌(この人はお腹も出てるし、一球内角にストレートを投げてみよう)
梨子(内角……私の球威だと甘く入ると怖いわね)
梨子(でもここは千歌ちゃんを信じてっ)シュッ
梨子「あっ」
千歌「真ん中に――」
カキーン
千歌「センター!」
345: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:04:53.18 ID:acFag3YV.net
梨子(案外浅い、これなら――)
善子(ギリギリ、でも私の肩じゃ――)パシッ
曜「中継!」
善子「!」シュッ
曜「ヨ――ソロー!」パシッ――シュッ
千歌(いいボール!)パシッ
東田「うおっ」タッチ
アウト!
346: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:06:07.99 ID:acFag3YV.net
千歌「二人とも、ナイス連携!」
梨子「ありがとう、助かったわ」
曜「いやぁ、助けになれてよかったよ」
善子「私はほとんど何もしてないけどね」
曜「そんなことないって」
曜「二人で完成させたんだから、半分は善子ちゃんの手柄さ」
千歌「でもいい感じじゃん、久しぶりのマウンドなのに」
梨子「まあ、それなりね」
善子「この調子でお願いね」
梨子「ええ!」
348: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:08:07.81 ID:acFag3YV.net
【5回表】 浦2-1日
千歌(試合はサクサクと進んで5回)
千歌(守備は梨子ちゃんの好投もあって順調)
千歌(留学生のヴィシーさんにはホームランを一本打たれちゃったけど、そこは仕方ないよね)
千歌(だけど攻撃は上位の3人以外出塁できないまま)
花丸「ずらっ」ブンッ
バッターアウト!
349: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:11:38.06 ID:acFag3YV.net
花丸「また三球三振だよ……」
ルビィ「あの投手じゃ仕方ないよ」
花丸「うぅ、あんなの初心者には反則だよ……」
花丸「ルビィちゃん、マルの敵を取ってぇ」
ルビィ「う、うん、頑張ってみる」
ルビィ(実際、段々身体は動くようになってきた)
ルビィ(一打席目は緊張し過ぎてバットも振れなかったけど、今度は大丈夫かな)
ルビィ(打てるかは分からないけど、とにかくがんばルビィ!」
350: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:12:34.37 ID:acFag3YV.net
中野(独り言?)
梅井(変な子ね)
中野(でも下位二人は見るからに打たなそうね)
梅井(たぶん人数合わせなんでしょう)
梅井(真ん中に手を抜いたストレートでいいわよ)
中野(了解)シュッ
ルビィ「あっ、いい球――」
カッキ―ン!
351: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:14:29.64 ID:acFag3YV.net
梨子「完璧!」
曜「右中間――抜けた!」
ルビィ(三塁、行ける!)
善子「ちょ、暴走――
セーフ
善子「じゃなかったわね」
千歌「ルビィちゃん、足速いね!」
梨子「確かに足も速いけど、走塁が上手よね」
梨子「実戦経験が乏しい割に、状況判断が的確だわ」
352: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:20:37.69 ID:acFag3YV.net
花丸「流石ルビィちゃん、やるときはやれる子ずら!」
千歌「さて、これでランナー三塁」
千歌「次の次は曜ちゃんだけど、これは練習試合だから――」
善子(スクイズ――か)
善子(バント、あんまり得意じゃないのよね)
善子(多分人並みだとは思うけど、コーチに反抗して二塁打を打ったりした記憶しかないわ)
善子(でもここはちゃんと役割を果たさないと!)ブンブン
善子「よし、こい!」
353: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:23:23.43 ID:acFag3YV.net
梅井(なんとも分かりやすい……)
千歌「よーし、じゃあ初球からいっちゃえ!」
梨子「えっ、ちょっとそのサインは待って千歌ちゃん――
シュッ
善子(ヤバッ、外され――)
梅井「うわっ」
千歌「暴投だ!」
354: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:26:03.02 ID:acFag3YV.net
ルビィ「えっと、いいのかな」ホームイン
曜「いいんだよ、追加点だ!」
梨子「何が起こったの……」
千歌「さあ?」
花丸「善子ちゃんの不運属性の所為で普通に投げても外れるボールが、さらに外れていった的な?」
千歌「善子ちゃんの不運がいい方向に働いた――ってことでいいのかな」
梨子「たぶん……」
花丸「あんまり深く考えたら負けなんですよ、きっと」
355: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:27:33.22 ID:acFag3YV.net
【6回裏】 3-1
―選手交代―
『曜:遊→投』
『梨子:投→左』
『モブ:左→中』
『善子:中→遊』
千歌「ここで曜ちゃんに投手交代だね」
曜「ようやくマウンドだよ!」
356: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:30:13.40 ID:acFag3YV.net
曜「サインはいつもどおり無しでいいかな」
千歌「うん、曜ちゃんに任せるよ」
曜「まあ私には球種以外関係ないからさ」
千歌「あっ、でもゴロは注意ね」
千歌「正直、善子ちゃんのところでのイレギュラーが心配だから、特にショートは」
曜「つまり――三振を取ればいいんだね!」
千歌「そうそう」
曜「分かりやすくていいじゃん、流石は千歌ちゃん」
357: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:31:44.34 ID:acFag3YV.net
千歌(3番から――でも曜ちゃんなら大丈夫かな)
プレイ!
千歌(曜ちゃんの投球スタイルは梨子ちゃんとは対照的)
千歌(コントロールはアバウト、球種も実質二つだけ)
千歌(でも女子野球では10人投げられる人がいないであろ130キロ台の球速を生かして――)
曜「フッ」シュッ
バシッ
ストライク!
千歌「三振を――取る!」ビリビリ
358: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:32:58.53 ID:acFag3YV.net
千歌(まるで浮き上がるように伸びるストレート)
千歌(速球での空振り率だ圧倒的に高い)
千歌(高校野球なら、男子でも通用するであろう速球)
千歌(並みの女子選手では手も足も出ない)
千歌(まあ、これもやっぱりダイヤさんの受け売りだけど)
千歌(小さい頃から傍で見てきた分、あんまり実感が湧かないんだよね)
千歌(そりゃ、凄い投手なのは分かるけど)
ストライク!
359: 名無しで叶える物語 2018/08/22(水) 11:33:50.08 ID:acFag3YV.net
千歌(でも改めて考えてみると、曜ちゃんより早いストレート投げる人ってほぼいないよね)
千歌(もし漫画みたいに、早い球を受けてるからある程度は打てるとかあれば、千歌ももう少しいい成績を残せそうなのに)
ストライク! バッターアウト!
千歌「ナイスボール、曜ちゃん!」
千歌(っていつの間にか三振だよ)
千歌(ちゃんと試合に集中しないと)
ヴィシー「……OH」
千歌(でもこの、留学生さんの青ざめた顔を見る限り、大丈夫そうかな)
千歌(打たれそうな気、全然しないもんね)
377: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:31:14.25 ID:IvocCSs1.net
※
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「それでは浦の星女学院野球部の初勝利を祝して――
全員「「「カンパーイ」」」
ごくっごくっ
曜「いやー、今日もプロテインが美味い!」
善子「いやいや、何でプロテインなのよ」
花丸「そうずら、もっと他にジュースとか――
ダイヤ「ブッブーですわ!」
ルビィ「ピギッ」
378: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:35:29.19 ID:IvocCSs1.net
ダイヤ「アスリートはジュースなど厳禁!」
善子「でも、果汁100%ジュースとかはみんな飲んでるし……」
ダイヤ「偉そうなことは試合で活躍してから言いなさい!」
善子「は、はい」
ダイヤ「あっ、でもルビィは特別にアイスを食べていいですわよ」
善子「なにそれ、ダブスタよダブスタ!」
花丸「そうずら、マルものっぽパン食べたいのに」
ダイヤ「二安打と一死の差ですわよ――あっ、のっぽパンなら食べてもいいですわよ」
花丸「流石ダイヤさん、最高ずら~」
善子「あー、裏切り者!」
379: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:37:23.16 ID:IvocCSs1.net
梨子「みんな、ダイヤさんにはかなわないわね」
千歌「環境の面とか、色々お世話になりっぱなしだもんね」
梨子「本当にね」
梨子「もしダイヤさんがいなかったら、まともに機能しない野球部になってたかも」
千歌「梨子ちゃんを引き込んでくれたのもダイヤさんだしね」
梨子「ああ、そんなこともあったわね」
千歌「騙されたー、みたいな感じだったもんね」
梨子「結果的に、感謝しかないけどね」
梨子「みんなと出会えて、イップスも治って」
380: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:43:22.53 ID:IvocCSs1.net
千歌(結局、試合は5対2で勝利した)
千歌(内野の三連続エラーで一時一点差に詰め寄られたけど、リリーフの田馬さんを9~3番で打ち込んで2点を追加、完勝だった)
千歌(私を含めて、4~8番が無安打だったのは結構な問題かもだけど)
ダイヤ「しかし流石我が妹、デビュー戦から活躍とは素晴らしいですわね~」ヨシヨシ
ルビィ「お、お姉ちゃん」
花丸「善子ちゃん、当たったところ大丈夫?」
善子「ええ、慣れてるもの」
曜「結局、イニング数を考えたら梨子ちゃんに結果で負けちゃったかぁ」
梨子「被安打も自責も0なんだから、曜ちゃんの勝ちよ」
381: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:44:04.70 ID:IvocCSs1.net
千歌(でも、この様子なら何とかなるかな)
千歌(きっとみんな、順調に成長――
ガラッ
千歌「ふぇ」
???「……」
千歌「えっと、どなたですか」
???「ごめんなさい、貴女に用じゃないの」
千歌「はぁ」
382: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:44:45.90 ID:IvocCSs1.net
???「渡辺さん、少しいいかしら」
曜「あ……」
千歌「曜ちゃん、知り合い?」
曜「……前に所属していたチームのコーチ」
コーチ「見たわよ、今日の試合」
コーチ「相変わらず貴女は素晴らしいわ」
コーチ「逆方向へのホームランを見る限り、さらに成長もしたようね」
曜「どうも」
383: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:45:36.14 ID:IvocCSs1.net
ダイヤ「あの、申し訳ないのですが部外者の方は」
コーチ「あら、ごめんなさい」
コーチ「でも私は、部外者ではありませんから」
ダイヤ「と、いいますと?」
コーチ「実は、野球部員の保護者なんです」
千歌「保護者?」
コーチ「はい――ねっ、善子」
善子「……ヨハネよ」
384: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:46:18.70 ID:IvocCSs1.net
善子母「貴方はまたそんなこと言って……」
善子「ふん」
千歌「えっ」
ルビィ「というか」
梨子「善子ちゃんの」
ダイヤ「お母様!?」
曜「そういえば、コーチも苗字が津島だった……」
善子母「あら、てっきり私は知っているものだとばかり」
385: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:48:43.87 ID:IvocCSs1.net
善子母「でも善子、良かったわね」
善子母「貴女みたいな問題児でも試合に出れるレベルのチームで」
善子「うっさいわね」
千歌「ねえ、皮肉言われてる?」
梨子「皮肉というか、直球というか……」
曜「普段は嫌味をいうような人じゃないんだけど……」
ダイヤ「根に持っているのでしょう」
千歌「根に持つ?」
ダイヤ「曜さんを引き抜かれ、自分ではコントロールできない娘まで手なずけられ、プライドが傷ついてしまったのでしょう」
386: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:49:41.08 ID:IvocCSs1.net
善子母「……貴女も大概失礼ね」
善子母「ほとんど当たっている分、妙に腹が立つわ」
ダイヤ「すみません、私も根に持つタイプなのです」
ダイヤ「母校の、妹も所属する大切な野球部を貶められたことが許せなくて」
善子母「どちらかといえば、貴女は私に同意してくれると思ったのだけど」
善子母「一番冷静に、現実が見えていそうなのに」
千歌「現実?」
ダイヤ「……気にしてはいけません」
ダイヤ「更年期にありがちな戯言です」
387: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:50:19.99 ID:IvocCSs1.net
善子母「……覚えてなさい」
善子母「他校とはいえ、私は教師でもあるのよ」
ダイヤ「そうですか」
ダイヤ「しかし私は黒澤家の人間――これ以上言わなくても意味は分かりますわよね」
善子母「なるほど、性質が悪いわけね」
善子母「バックに黒澤家がいたなら、話が妙に順調に進んだのも納得だわ」
ダイヤ「ではそろそろお引き取り願えますか?」
ダイヤ「私たちはまだ、祝勝会の途中なので」
388: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:51:20.32 ID:IvocCSs1.net
善子母「そうね、水を差して悪かったわ」
善子母「でもじきに、あなた達は思い知ることになる」
善子母「残酷な現実と、自分たちの愚かさについて」
善子母「特に渡辺さんは予めよく考えておくことね」
善子母「ここでの野球と、貴女が今までやってきた野球の、決定的な違いを」
善子「捨て台詞、カッコワルイ」
善子母「……善子」
善子「は、はい」
善子母「ちゃんと遅くなる前に帰ってくるのよ」
善子「わ、分かっているわよ!」
389: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:54:18.70 ID:IvocCSs1.net
善子母「今後も浦の星女学院野球部の健闘を祈っているわ」
ガララッ――ピシャッ
千歌「……なんか、滅茶苦茶な人だったね」
梨子「流石、善子ちゃんのお母さんって感じ」
善子「なんかごめんね、迷惑かけて」
曜「いやいや、原因は私かもだし」
善子「でも私の母親だから」
善子「曜さんには日ごろから迷惑かけてるかもだし……」
曜「別に善子ちゃんが謝ることじゃないって」
390: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:57:18.91 ID:IvocCSs1.net
ダイヤ「それにしても、申し訳ありませんでした善子さん」
善子「なんで謝ってるのよ」
ダイヤ「お母様に対して、大人げない態度をとってしまって――」
善子「気にしないで――というか最高だったわ!」
ダイヤ「はい?」
善子「あんな悔しそうなお母さんの姿、初めて見た」
善子「凄くスカッとして、むしろお礼を言いたいぐらい」
善子「私、ダイヤがこんな凄い人なんて知らなかった」
善子「貴女は最高よ!」
ダイヤ「は、はぁ」
391: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 22:59:53.97 ID:IvocCSs1.net
ルビィ「善子ちゃん、親子仲悪いのかな」
花丸「昔はそんなことなかったのに」
ルビィ「あれ、花丸ちゃんは善子ちゃんのお母さんのこと知ってたの?」
花丸「うん、一応幼稚園が一緒だったから」
ルビィ「へぇ」
花丸「親子二人で野球について楽しく語り合ってた記憶があるよ」
花丸「その頃は、普通に仲良しだったのに」
ルビィ「それは流石に古すぎて参考にならないかも……」
392: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 23:11:52.90 ID:IvocCSs1.net
善子「でも驚いたわ」
善子「まさか曜さんが教わっていたコーチがお母さんだったなんて」
曜「私の方こそ」
曜「よくよく考えたら、性格も結構似てる気がするけどさ」
善子「どの辺がよ」
曜「色々とこだわりの強いところとか」
善子「ぐっ」
393: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 23:12:27.28 ID:IvocCSs1.net
曜「まああれで、コーチとは結構馬が合うからさ」
曜「善子ちゃんとも仲良くなれそうでよかったよ」ギュー
善子「な、なんで抱きつくのよ!?」
千歌「曜ちゃんだけズルい、私も!」ギュー
善子「ちょ、千歌さん」
花丸「それならマルも」ギュー
ルビィ「る、ルビィも」ギュー
善子「ルビィまで!?」
394: 名無しで叶える物語 2018/08/25(土) 23:13:01.15 ID:IvocCSs1.net
ダイヤ「やれやれ、騒がしいこと」
梨子「でも、すぐに元気になって良かったです」
ダイヤ「ふふっ、そうですわね」
梨子(ここまでは凄く順調)
梨子(初心者だらけのメンバーだけど、チームも完成して、試合にも勝って)
梨子(けど気になるのは、さっきの会話の中)
梨子(善子ちゃんのお母さんが話して、ダイヤさんも否定しなかった『現実』)
梨子(それはいったい、どんな意味なんだろう)
405: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:06:09.31 ID:7DyGwOWR.net
―4―
―部室―
曜「あー、今日も疲れたぁ」
梨子「その割には元気そうね」
曜「いやほら、練習後の定型文みたいなもんだし」
梨子「まあ、そうね――」
花丸「ずらぁ……」
ルビィ「ピギィ……」
善子「堕天……」
梨子「本当に疲れている子もいるみたいだけど」
406: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:06:46.66 ID:7DyGwOWR.net
千歌「まあまあ、一年生は仕方ないよ」
千歌「今日の練習は曜ちゃんが気合い入ってて、いつもより厳しかったし」
曜「あはは、ごめんごめん」
千歌「でも、みんな体力はついてきたよね」
千歌「こんな風に疲れ切ってはいても、最後まで練習に参加し通してたし」
曜「確かに、花丸ちゃんも途中で休まずに練習できるようになったもんね」
千歌「でしょ!」
407: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:07:53.60 ID:7DyGwOWR.net
梨子「あら、千歌ちゃんはずいぶん元気みたいね」
千歌「それだけが取り柄だからね!」
千歌(野球部の結成から少しの時が経った)
千歌(曜ちゃんの力もあって、練習試合は全勝)
千歌(私もヒットを打てたし、花丸ちゃんも一度バットにボールが当たった)
千歌(梨子ちゃんもイップスから順調に回復して、再発もなさそう)
千歌(善子ちゃんは出塁率4割近いし、ルビィちゃんも試合前に気絶しなくなった)
千歌(全てが順調、怖すぎるぐらいに)
408: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:08:37.95 ID:7DyGwOWR.net
千歌「そうだ、みんな居るうちに次の練習試合の予定についてなんだけど――」
曜「ちょっと待った!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「ねえ、この大会に出てみない?」
『春季女子高校野球大会』
千歌「これは?」
曜「女子には男子みたいに春季大会がないから、それの代わりみたいなイベント」
曜「要するに、夏大前の余興みたいなものかな!」
千歌「おー、そりゃいいね!」
409: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:09:25.00 ID:7DyGwOWR.net
ルビィ「うゅ……」
花丸「どうしたの、ルビィちゃん」
ルビィ「この大会、それなりの強豪校じゃなきゃ出られないはずだよ」
善子「そうなの?」
ルビィ「確か……」
ルビィ「お姉ちゃんもプロ野球の試合と被ってもこっちを観に行くぐらいだし」
千歌「梨子ちゃん、知ってる?」
梨子「そうね、ルビィちゃんの言うとおり」
梨子「少なくとも、創部間もない私たちが出られる大会じゃ――
410: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:16:38.69 ID:7DyGwOWR.net
曜「でももう、エントリー済ませたよ」
梨子「えっ」
ルビィ「うゅ?」
曜「むしろ主催者から参加を薦められたぐらい」
善子「な、なんでそうなるのよ」
曜「私も気になって色々聞いてみたんだけどさ」
曜「善子ちゃんのお母さんが推薦してくれたみたいなんだよね」
善子「お母さんが?」
411: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:18:31.26 ID:7DyGwOWR.net
千歌「どうしたんだろうね、急に」
曜「きっとアレだよ」
曜「これで現実を見せてやるとか、そんな感じ」
千歌「うへぇ、感じ悪い……」
梨子「だ、駄目よ」
梨子「証拠もないのに、推測でそんなこと言っちゃ」
善子「けど、お母さんなら考えそうなことよ」
梨子「娘にそう言われると否定しずらいわね……」
412: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 03:19:45.30 ID:7DyGwOWR.net
千歌「でも大会かぁ」
千歌「楽しみだなぁ、東京」
梨子「そう?」
千歌「しかも野球の大会でしょ」
千歌「もしかしたら、μ’sに会えるかもだし!」
ルビィ「それは流石に……」
千歌「分かんないじゃん、東京の大会だもん!」
梨子「ふふっ、そうかもね」
千歌(本当に楽しみ)
千歌(少し前、応援で行った東京に、選手として行けるなんて)
千歌(素敵な旅になる、そんな予感がするよ!)
千歌「白球を追いかけろ!」【後編】に続く
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千歌「白球を追いかけろ!」