―数日後・部室―
ダイヤ「やれやれ、勝手にエントリーしてしまうとは」
曜「あはは、すみません」
ダイヤ「できれば相談ぐらいはしておいてほしかったものです」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
梨子「これからはちゃんと曜ちゃんを見張っておくんで……」
416: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:24:20.36 ID:7DyGwOWR.net
ダイヤ「……まあ、過ぎたことは仕方ありません」
ダイヤ「出場するからには、頑張ってください」
ダイヤ「おそらく、応援へは行く予定ですので」
千歌「は、はい」
ダイヤ「……ルビィ」
ルビィ「は、はい」
ダイヤ「なにがあっても、気持ちを強く持つのですよ」
ルビィ「うゅ?」
ダイヤ「これは皆さんにも言えることです」
ダイヤ「しかし、心の弱い貴女は特に心に留めておきなさい」
ルビィ「う、うん」
善子「どういう意味よ」
花丸「分からないよ」
ダイヤ「では、私は生徒会の仕事があるので失礼しますわ」
ダイヤ「書類が完成したら、生徒会室へ持ってきてくださいね」
曜「了解であります!」
ダイヤ「では――」ガララ
梨子「なんか、意味深な感じだったね」
曜「だね」
千歌「まあともかく――きました、正式な書類!」
曜「待ってました!」
梨子「内容はどんな感じ?」
千歌「えっと学校名、部員数――チーム名?」
ルビィ「えっと、女子は男子と差別化するために、チーム名をつけるんです」
千歌「へぇ」
曜「そういや、前の日中高校はドラゴンズっていうらしいね」
善子「ドラゴン――なんか格好いい!」
ルビィ「でも、同じチーム名は駄目だよ」
善子「えー、何でよ」
ルビィ「ただでさえ同地区なんだから、紛らわしいもん」
梨子「そもそも私たちにはドラゴンとか似合わないでしょ」
花丸「そんな迫力、どこにもないずら」
善子「えー、でも曜さんとか――」
梨子「いやー、でも曜ちゃんの場合」
ルビィ「ドラゴンというより」
千歌「猫?」
曜「な、なんでそうなるのさ」
千歌「気まぐれなところとか」
梨子「性格が面倒なところとか」
ルビィ「勝手にどこか行っちゃうところとか」
花丸「動いているボールに何でも反応しちゃうところとか」
曜「よ、善子ちゃん~」にゃー
善子「あー、よしよし」
善子(案外寂しがり屋で甘えん坊なところとか)
善子(目もそれっぽい吊り目だし)
花丸「でも善子ちゃんも猫っぽいとこあるよね」
善子「にゃっ」
千歌「まあ猫ちゃんたちはともかく――早速案を出し合っていこう!」
千歌「まずは曜ちゃん!」
曜「えっと、そうだね」
曜「無難に野球少女隊とかどうかな」
千歌「却下!」
曜「えー、何でさ」
千歌「ダサいから、あと昭和」
曜「ぶーぶー」
千歌「お次は――善子ちゃん」
善子「フッ、決まっているわ」
善子「その名はヨハネリトル――
千歌「次は花丸ちゃんね」
善子「ちょっと!」
千歌「なにさ」
善子「せめて最後まで言わせなさいよ!」
千歌「時間の無駄だよ」
花丸「善子ちゃん、諦めるずら」
花丸「頭おかしいいつものは置いておいて、後はマルに任せて」
千歌「おお、自信あり?」
花丸「ふふっ、これでもゲームだけじゃなくて本も読むからね」
花丸「文字については任せるずら!」
曜「な、なんかプレー中には感じられないオーラを感じる」
ルビィ「マルちゃん、実際文字には強いんですよ」
千歌「それで、どんなチーム名?」
花丸「いくつか候補があって――」
花丸「一つ目がモグラ○ズ」
善子「はい?」
花丸「あと、ホッパ○ズ」
花丸「一応、パワ○ルズとかもあるずら」
善子「色々と直球すぎるわよ!」
ルビィ「しかもパクリばかり……」
善子「私より普通に酷いじゃない」
千歌「えっと、ルビィちゃんは?」
ルビィ「えー――キャンディーズとか?」
千歌「なんか芸人みたいだから駄目」
ルビィ「ピギィ……」
曜「ちなみに千歌ちゃんは何か案があるの?」
千歌「みかんーず」
梨子「論外」
千歌「えー」
梨子「今までで一番あり得ない名前だわ」
千歌「……そこまで言うなら、梨子ちゃんは素晴らしい案を持っているんだよね」
梨子「へっ」
千歌「やっぱりこういうのは東京出身のセンスがある子じゃないとね」
千歌「というわけで、よろしく!」
梨子「え、えっと……」
千歌「えっと?」
梨子「ナインマーメイド、とか?」
「「「…………」」」
千歌「それ、本気で言ってる?」
梨子「え、えっと」
千歌「もし本気だとしたら、私は梨子ちゃんのこと軽蔑する」
梨子「……ごめん、忘れて」
曜「千歌ちゃん怖いよ、抑えて」
ルビィ「うゅゅ」ササッ
花丸「わっ、ルビィちゃん」
曜「ルビィちゃんも怯えて花丸ちゃんの後ろに隠れちゃったし」
千歌「だって、ろくな案がないんだもん!」
梨子「千歌ちゃんも含めてでしょ」
千歌「このままじゃ埒があかないから、誰かいい案を――
ルビィ「Aqours……」
千歌「ふぇ?」
花丸「ずら?」
曜「ルビィちゃん?」
ルビィ「Aqoursは、駄目ですか」
花丸「ルビィちゃん、その名前――」
ルビィ「……」コクッ
善子「アクア?」
ルビィ「えっと水にかけた造語なんだけど」サラサラ
ルビィ「ここは海に近い学校だし、そういうのもいいかなって」
曜「へぇ、いいじゃん」
千歌「何か私たちらしい感じがする!」
善子「そう、それはまさに――」
花丸「それ以上は言わせないずら」
梨子「でもこれは、決まりね」
千歌「よーし、私たちは今日からAqoursだ!」
※
―東京・某ホール―
千歌「来たぞ、東京!」
千歌「目指すは聖地――
曜「神宮球場!」
千歌「あれぇ」ガクッ
千歌「そこはアキバドームでしょ!」
曜「いやほら、歴史が違うよ」
千歌「そりゃそうかもだけどさ……」
ザワザワ
梨子「その前に抽選会だね」
千歌「くじは誰が引く?」
曜「そりゃ千歌ちゃんでしょ、キャプテンなんだし」
千歌「えー、でも不安だよぉ」
善子「仕方ないわね」ジャラ
千歌「な、なにそれ」
善子「私が念を込めた、このお守りをあげるわ」
梨子「何よこの黒い物体……」
曜「見るからにヤバそうなんだけど……」
善子「いやいや、せめて梨子さんは信じてよ!」
善子「イップスを治してあげた仲でしょ」
梨子「まあ、そうなんだけど」
梨子「あの後、変な占いみたいなのを色々薦められるから、若干不信感が」
善子「な、なんでよ~」
ルビィ「善子ちゃん、可哀想」
花丸「受け入れてくれる相手には、調子に乗っちゃうタイプだから、仕方ないよ」
ルビィ「……花丸ちゃんも、似てるとこあるよ」
花丸「ずらっ!?」
千歌「ま、まあ、せっかく用意してくれたんだから、ありがたくいただくよ」
曜「そうだね、どうせ抽選結果には関係ないだろうし」
梨子「ええ、ごちゃごちゃ言われるよりはマシだわ」
梨子「さっきから、周りの視線が集まって恥ずかしいし」
善子「だ、駄目よ」
善子「そんな姿勢では、運命は手に入らないわ!」
花丸「善子ちゃん」
ルビィ「ちょっと黙るビィ」
係員「浦の星女学院さんは次にお願いします」
千歌「あっ、はい」
千歌(確かにこのお守りは怪しい雰囲気満点)
千歌(だけど得体の知れない力を感じるのは事実なんだよね)
千歌(何だろう、謎の迫力みたいな?)
千歌(外れることも多い善子ちゃんのオカルト)
千歌(けど案外、信じていればプラスの効果も少なくない気もする)
係員「ではくじをどうぞ」
千歌「あっ、はい」
ガサガサ
千歌(あれ)
千歌(凄い、勝手に手が導いてくれる)
千歌(まるで、良いくじに吸い寄せられるように)
千歌(これ、これを引けば――)
ガタッ
千歌(あれ、手前にも――ついこっちを引いて)
ワッ
千歌「えっ」
『浦の星女学院、グループAに入りました』
曜「相手は、音ノ木坂学院と函館聖泉女子高等学院」
むつ「あちゃー」
よしみ「これは」
いつき「やっちゃったね」
ルビィ「ゆ、優勝候補が固まった最悪の組……」バタン
花丸「ルビィちゃん!」
千歌「そ、そんな~」
善子「あ、あれ」
花丸「善子ちゃんの変なお守りの所為ずら!」
善子「し、知らないわよぉ」
曜「でも強敵とできるなんて、最高のくじだね!」
曜「千歌ちゃん、流石だよ!」
花丸「そんなポジティブでいられるのは曜さんだけずら……」
善子「まったくよ……」
千歌「ごめん、ヤバいの引いちゃった」
曜「気にしないで――ねっ、梨子ちゃん」
梨子(音ノ木坂……)
千歌「梨子ちゃん、大丈夫?」
曜「顔色、凄く悪いよ」
梨子「……ええ」
千歌「もしかして、音ノ木坂と当たること意識しちゃってるのかな」ヒソヒソ
曜「確かに、色々あったみたいだしね」ヒソヒソ
千歌「だ、大丈夫」
千歌「私たちはこれまでチーム結成から全勝だよ」
千歌「この試合も、勝てはしなくても何とかなるって」
善子「そ、そうよね」
善子「負けて元々、成長のためのはむしろ全国トップとやれるのは悪くない話よね」
花丸「まあ、そうだよね」
花丸「これ以上、善子ちゃんを責めるのも可哀想だし」
千歌「そうそう」
千歌「3チーム中、2チームがトーナメントに上がれるグループ」
千歌「どっちかに勝てれば、上へはいけるわけだし」
千歌「だから元気出してね、梨子ちゃんも」
梨子「……うん」
千歌「よーし、初戦は音ノ木坂戦、頑張ろう!」
よしまる「おー!」
曜「…………」
ルビィ「曜さん?」
曜「……ごめん、気にしないで」
ルビィ「は、はい」
―音ノ木坂学院戦・当日―
ルビィ「わーい、綺麗な芝生だよぉ」ボフッ
花丸「本当だね~」ボフッ
善子「ちょっと、あんたたち恥ずかしいわよ」
花丸「ぶー、善子ちゃんノリ悪いよ~」
ルビィ「気持ちいいよ、一緒においでよ」
善子「そ、そうね」ボフッ
梨子「ああもう、善子ちゃんまで」
曜「そういや、ちゃんとしたグラウンドでの試合初めてだっけ」
梨子「言われてみると、そうかも」
曜「それならはしゃぎたくなる気持ちも分かるよ」
曜「最初に芝の球場で野球をした時は感動したもん」
曜「よし、私も混ざってきちゃおうかな~」
梨子「それは流石に止めようね」
千歌「あはは――でも流石は東京の球場」
千歌「凄く整備されていて、綺麗だね~」
??「ははっ、カッペ丸出しだな」
梨子「っ」
千歌「えっと、貴女は?」
??「私? 私は――」
曜「板ちゃんじゃん、何してんの」
??「知り合いがいるから、試合前に挨拶と思ってさ」
千歌「あの、音ノ木坂の選手だよね」
曜「ああ、千歌ちゃんは知らないんだっけ」
曜「この人は板本さん、私と同じ日本代表候補」
板本「私のこと、知らない同年代がいたんだな」
曜「千歌ちゃん、あんまり詳しくないからさ」
千歌「す、すいません」
板本「ふーん、まあいいや」
板本「でもビックリした、曜が高校野球を始めるなんて」
曜「いやー、ちょっと事情があってさ」
板本「気まぐれだもんな、お前」
曜「うーん、最近よく言われるから否定しにくいなぁ」
板本「でもありがたいよ」
板本「代表でポジションを取られたリベンジをここで出来るなんてな」
曜「えー、お手柔らかに頼むよ」
曜「こっちは創部間もない野球部なんだからさ」
板本「それでも、お前が投げたらそう簡単に点は取れねえだろ」
板本「正直今年のチーム、速球に強くない奴だらけだし」
曜「いやいや、私は先発じゃないから」
板本「はっ?」
曜「基本リリーフだもん、このチームでは」
板本「じゃあ先発では誰が投げるのさ」
板本「外野で転がってる可愛い連中はなさそうだし」
板本「もしかして、このボケっとしたオレンジちゃん?」
千歌「いや、私はキャッチャーで」
板本「マジかよ、つまり投手は――」
板本「さっきから黙ってる、そのバッティングピッチャーかよ」
梨子「……」
曜「ちょっと、その言い方は」
板本「仕方ないだろ、事実だったんだから」
板本「鳴り物入りで入ってきたのに、すぐにイップスで投げられなくなって」
板本「たまに練習で投げても小学生みたいなボール」
板本「どう頑張っても、バッピにしかなりゃしない」
板本「結局、最後には野手に転向して、気づいたらいなくなってた」
板本「そんな奴だぞ、こいつ」
梨子「……」
板本「少しはまともな球、投げられるようになったのか」
板本「レベルの高い試合をできるはずの大会なんだ」
板本「初戦から大差コールドは勘弁だぞ」
曜「ちょっとその辺にしといてよ」
曜「おかげで空気が最悪なんだけど」
板本「悪い、色々思うところがあってつい」
板本「私そろそろ行くわ――お互い頑張ろうな」タタッ
曜「ごめんね、口の悪い奴で」
梨子「……あの人は、そんなに悪い人じゃないわ」
梨子「昔も私によく気を遣ってくれた」
梨子「ただ素直に、思ったことを口に出しちゃうだけ」
梨子「見返すには、結果を出すしかない」
梨子「見ていて、二人とも」
梨子「私は音ノ木坂を、μ’sを抑え込んで、自分の過去を払拭する」
千歌「……うん、その意気だよ!」
よしみ「おーい、三人とも」
いつき「話しているのもいいけど」
むつ「早くしないと練習時間終わっちゃうよ」
千歌「あっ、ごめん」
千歌「それにしても、今日の相手の先発……」
バンッ
花丸「わっ」
ルビィ「な、何の音?」
???「……」シュッ
バンッ
???「ナイスボール、ここあ」
千歌「ふぇぇ、曜ちゃんほどじゃないけど早いねぇ」
ククッ――バンッ
花丸「なにあのスライダー……」
善子「む、無理よ、あんなの」
曜「矢澤姉妹、健在だね」
千歌「えっと、ダイヤさん情報によると」
『日本代表候補の捕手である矢澤こころと、その双子の妹ここあのバッテリー』
『120キロ台中盤から後半のストレートと、切れ味鋭いスライダーが武器』
千歌「だって」
ルビィ「ちなみにあの二人、初代μ’sの主将だった矢澤にこさんの妹さんたちです」
千歌「マジで!?」
ルビィ「はい」
千歌「どうりで小さいと思った……」
曜「そこなんだ」
ルビィ「曜さんはこころさんと、年代別代表でバッテリーを組んだことがありますよね」
曜「そうだね」
曜「凄く頭のいい選手で、色々助けられた記憶があるよ」
曜「ここあちゃんも代表とは縁がないけど、対戦したことは何度かある」
曜「まあ、私は得意なタイプだけどね、ここあちゃんみたいな本格派」
善子「ちなみに苦手なタイプは?」
曜「梨子ちゃんみたいな球種の多いタイプ」
曜「なんか感覚が狂うんだ」
千歌「今年の音ノ木坂は、凄く強いんだっけ」
ルビィ「はい」
ルビィ「昨年、冬の全国大会で優勝」
ルビィ「今年も夏と冬、それぞれ優勝候補の筆頭にあげられています」
ルビィ「今年は、今の仕組みになってから10回目の記念大会」
ルビィ「今の音ノ木坂は、それに向けて全国から選手をかき集めた世代です」
ルビィ「だから3年と2年には例年以上の戦力が整っています」
ルビィ「投手はここあさんと三年で130キロ台中盤の速球が武器の笠野さんの二枚看板」
ルビィ「野手も板本さんは日本代表候補」
ルビィ「さらに長崎選手や岡野選手、村田選手など、年代別代表候補クラスが揃っています」
ルビィ「その中でもこころさんは二年生ながらキャプテンにして、実質監督に近い立場」
ルビィ「まさに司令塔であり、精神的主柱ですね」
千歌「精神的、シチュー?」
善子「意味、全然分かってなさそうね」
花丸「千歌さんには関係ない話ずら」
千歌「まあともかく、最強のチームってことでいいんだよね」
ルビィ「はい」
千歌「それならいい勝負をすれば、私たちもそれなりのレベルってことでしょ」
ルビィ「たぶん、そうなりますね」
千歌「じゃあ目標は、コールド回避とか?」
花丸「確かにその辺りが無難かも」
善子「まあ、いいんじゃないかしら」
千歌「確か5~6回で10点、7~8回だと7点だったっけ」
千歌「ひとまず、それは回避できるぐらいに抑えて――」
曜「駄目だよ!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「最初から負けるつもりで挑むなんて、絶対に」
曜「勝つんだよ」
曜「どんな相手だとしても、勝つつもりで挑まないと!」
ルビィ「そ、そうですよ」
ルビィ「最初から諦めるなんて駄目です!」
ルビィ「あれ、でも音ノ木坂に勝つ――想像したら……」バタン
花丸「る、ルビィちゃん、試合前に気絶はマズいずら!」
千歌「で、でもそうだよね」
千歌「勝つ気でいかなきゃだよね!」
曜「その意気だよ!」
曜「私はどんな相手にも負けたくない」
曜「同じ高校生なんだ、きっと勝てる」
曜「勝てる、はずなんだよ」
千歌「よーし、じゃあ皆行くよ!」
全員「「「うん!」」」
〔春季女子野球大会 グループA初戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS音ノ木坂学院『μ's』】
先発メンバー
Aqours
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
μ’s
1:中・長崎 3年
2:捕・矢澤こころ 2年
3:遊・板本 2年
4:一・岡野 3年
5:左・ぺゲロ 3年
6:三・村田 3年
7:投・矢澤ここあ 2年
8:ニ・吉田 3年
9:右・立本 3年
【一回表】
『一番センター津島さん』
善子(ちゃんとウグイス嬢付きなのは凄いわね……)
善子(さて、初回)
善子(いつもより多いお客さん)
善子(ルビィじゃなくても緊張するわ)
善子(そもそも、実質初めての公式戦)
善子(簡単に凡退は嫌ね)
ここあ「……」シュッ
ストライク!
善子「うわっ」
善子(インコースいっぱい)
善子(ヤバい、こんなの打てないわよ……)
ストライク!
善子(ああ、今度は外)
善子(駄目だ、混乱してる)
善子(せめて次、振らないと――)
ここあ「ふっ!」シュッ
善子「えっ、ぶつか――」
ククッ――パシッ
ストライク、バッターアウト!
善子「す、スライダー……」
こころ「ワンナウト!」
曜「ドンマイ、善子ちゃん」
善子「洒落にならないわよ、あれ」
善子「ストレートとほとんど変わらない球速なのに、鋭く曲がってくる」
曜「あー、そうだったね」
善子「なんか余裕っぽいけど、打てるの、あれ」
曜「まあ任せて」
曜「とりあえず、軽く打ってくるよ!」
善子(か、カッコいい!)
『二番ショート渡辺さん』
曜(実際、球速に差がないここあちゃんみたいなタイプは得意なんだよね)
曜(割と本能のままに振っても打てちゃうし)
曜(偉そうなことを言った手前、しっかり打たないと)
曜「よし、こい!」
こころ「……」スッ
曜(え、こころちゃん外に構えて――)
千歌「もしかして、敬遠?」
花丸「で、でも1アウトランナー無しだよ」
ボールフォア!
曜「えー、つまんない」
こころ(渡辺曜さん? 敬遠に決まってるでしょ)
ザワザワ
こころ(ざわつく会場、でも知ったこっちゃない)
こころ(私たちは常に勝ちを義務付けられたチーム)
こころ(一度負けただけで、大きな批判にさらされる)
こころ(それなのになぜ勝負しなければならないんですか)
こころ(Aqoursの中で、『唯一』打たれる可能性がある選手と)
こころ(彼女にさえ打たれなければ、『確実』に勝利できる試合なのに)
『三番ピッチャー桜内さん』
曜(次は梨子ちゃん、私が走ってしまえばヒット一本で先制)
梨子(大丈夫、私は大丈夫……)
曜(でもあの様子だと、無理か)
バッターアウト!
曜(初見じゃ、千歌ちゃんも)
バッターアウト!
千歌「くぅ~、ちっちゃいのあんなに凄い球を」
こころ「ここあ、ナイスピッチ」
ここあ「渡辺曜とも勝負したかったんだけど」
こころ「それは点差がついてからね」
ここあ「なら大丈夫か」
ここあ「梨子が相手なら、すぐに出番がくるだろうし」
曜(……マズいかも、この試合)
【一回裏】 Aqours0-0μ’s
キンッ
梨子「あっ」
ここあ「よし、先頭出た!」
板本「やっぱりあいつはチョロいな」
梨子「……」ザッザッ
千歌(梨子ちゃん、ブルペンから全然球が来てないよ)
千歌(やっぱり、緊張してるのかな)
『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「お願いします」ニコッ
千歌「あっ、はい」
千歌(流石妹さん、笑った姿が映像で見たにこさんにそっくり)
千歌(でもプレースタイルまで似ていたら嫌だな)
千歌(にこさんは相手の嫌がる打撃が得意だった)
千歌(打順も同じ二番だし、怖いなぁ)
千歌(とりあえず、外にストレートで――)
梨子『コクッ』
ダダッ
曜「走った!」
千歌「初球から盗塁!?」
キンッ
千歌「じゃなくてエンドラン!?」
ルビィ「ピギッ」
千歌「あ、空いた場所を綺麗に抜かれた……」
こころ「よし、完璧です」
曜(経験の浅い私たちの弱点を突いてくるしたたかさ)
曜(相変わらず、相手の隙を突くのが上手い)
梨子「一・三塁……」
『三番ショート板本さん』
板本「いやー、いきなりチャンスじゃん」
千歌「た、タイムお願いします」
千歌「ごめん梨子ちゃん」
千歌「牽制もなしに軽率だった」
梨子「う、ううん、謝らないで」
梨子「私の方こそ、ぼんやりと投げちゃって」
千歌「でも次はあのムカつく人だよ」
千歌「しっかり押さえていこう」
梨子「……ええ」
千歌(どうせこの手のタイプは口だけなんだ)
千歌(一点は仕方ない、低めの変化球をひっかけさせてゲッツーを狙おう)
梨子『コクッ』シュッ
曜(今の調子だったら、無理に勝負は避けた方がいいかも)
曜(板ちゃんは、天才だからなぁ)
千歌「よし、いいところ――」
カキーン!
千歌「あ、あんな難しいコースを」
曜「いっちゃん!」
いつき「あ、あわわ」
セーフ!
曜「ツーベース……」
板本「いきなり二打点は美味しいねぇ」
板本「やっぱりあいつはバッピだわ」
曜「相変わらず、上手いね」
板本「あの球じゃ当然よ」
板本「早く交代しろよ、曜」
曜「……」
ボールフォア!
千歌「うぅ」
梨子「っ」
板本「あの様子じゃ、アウトを取るのも難しそうだぜ」
曜「ううん、まだ早いよ」
曜「梨子ちゃんはそんな簡単に折れる子じゃない」
曜「板ちゃんも、知ってるでしょ」
板本「……まあな」
バッターアウト!
梨子「よしっ」
千歌「ナイス梨子ちゃん!」
千歌(このぺゲロさんはインコースが明確な弱点で良かった)
千歌(梨子ちゃんみたいに制球のいいタイプには、いいカモだよね)
『六番サード村田さん』
村田「こいっ」
千歌(そして次の村田さんも)
梨子「えいっ」シュッ
村田「!」カキーン
千歌「あっ」
千歌(そんなに甘くはない――)
ルビィ「うゅ!」バッ――パシッ
板本「捕った!?」
ルビィ「曜さん!」シュッ
曜「ナイス」パシッ――アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ずら!」パシッ
アウト!
板本「マジかよ、ゲッツーとか」
梨子「ナイスルビィちゃん!」
千歌「凄いよ! ファインプレー!」バシバシ
ルビィ「い、痛いよ千歌さん」
善子「いつもの緊張はどこへ行ったのよ、もう!」
ルビィ「な、一週回って緊張が解けたっていうか」
花丸「流石ルビィちゃんずら!」
板本「ファインプレーじゃん、やるね~」
ルビィ「ピギッ――あ、ありがとうござます」
梨子「でも助かったわ、本当に」
千歌「うん、おかげで守備は何とかなりそうだね」
ここあ「あーあ、二点だけかぁ」
こころ「初回だから、仕方ないわよ」
曜「あとは、攻撃さえ何とかできれば」
【4回表】 Aqours0-3μ’s
千歌(試合は進む)
千歌(相変わらず攻撃は絶望的)
千歌(誰一人、まともにバットがボールに当たっていない状態)
千歌(守備は梨子ちゃんが大量のランナーを出しながらも粘りのピッチング)
千歌(曜ちゃんとルビィちゃん、善子ちゃんの三人の好守にも助けられて何とか抑えているけど――)
ボールフォア!
曜「またか――もうっ!」
善子「曜さん、また敬遠……」
ルビィ「今までの練習試合、曜さんの打点がチームの7割近いのに……」
花丸「でも、この後も二人は期待できるし」
曜(今日の梨子ちゃんは打撃どころじゃない)
曜(点を取るなら、私が無理やりでも三塁へ行かないと)
曜(でも相手は矢澤姉妹、盗塁阻止率は驚異的な高さ)
こころ「ふふっ」
曜「むっ」
曜(挑発的な目)
曜(走れるものなら走ってみろと、喧嘩を売られているみたい)
曜(やってやろうじゃないか――)
ここあ「――」グッ
曜「いける!」ババッ
こころ「!」パシッ――シュッ
アウト!
曜「あー、駄目かぁ」
板本「ははっ、ごくろーさん」
ここあ「ナイスこころ!」
こころ「ここあも、いいクイックだったわよ」
こころ(私の送球もほぼ完ぺき)
こころ(それなのにギリギリだった辺り、相変わらず恐ろしい走力ね)
【4回裏】 Aqours0-3μ’s
千歌(後続の私と梨子ちゃんは凡退で、結果的に三者凡退)
千歌(流れが、悪いな)
花丸「あれ」
ルビィ「音ノ木坂が円陣を組んでる」
曜「この状況で……」
こころ「板本さん」
板本「な、なんだよ」
こころ「貴女は試合前、梨子さんのことをバッピと馬鹿にしましたね」
こころ「しかし現状の得点は、平均すると一イニング一点ずつ」
こころ「ありえない得点数です」
こころ「本当にバッティングピッチャーを相手にしているなら」
板本「いやいや、私は打ってるんだからいいだろ」
こころ「はいっ?」
音ノ木坂ナイン『ビクッ』
こころ「そういう問題ではありません」
こころ「貴女のそのような態度が、チーム内に油断を蔓延させているのです」
こころ「もちろん、私にも油断がありました」
こころ「忘れてはいけません」
こころ「彼女は本来、私たちが確実に夏冬連覇をするために、3本柱の一角を担う予定だった人」
こころ「ここからは、本気です」
こころ「一流の投手を相手にする意識で、彼女を叩き潰します」
板本「……おう」
こころ「ではいきますよ」
こころ「μ's、Baseball――」
音ノ木坂ナイン「「「スタート!」」」
『一番センター長崎さん』
長崎「よっしゃ!」
梨子『ビクッ』
ルビィ「ピギッ」
千歌(さ、さっきまでと全然雰囲気が違う)
千歌(ど、どうしよう。何を投げても打たれそうな雰囲気だよ)
梨子「っ」シュッ
長崎「いただき!」カキーン!
曜「センター!」
千歌「よ、善子ちゃん」
善子「くっくっくっ、堕天キャッチ!」パシッ
アウト!
ルビィ「ナイス善子ちゃん!」
花丸「変な言葉は余計だけどね」
千歌「た、助かった」
千歌(当たりは凄く良かったけど、守備範囲だった……)
長崎「すまん」
こころ「いえ、今のは運がなかっただけです」
こころ「とてもいい打撃でしたよ」
『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「……」グッ
梨子「っ」ゾクッ
梨子(凄く、嫌な予感がする)
梨子(でも逃げられない、マウンドに立っている以上)
梨子「えいっ」シュッ
こころ(打ちごろ!)
こころ「ふっ」カキーン
千歌「一塁線――抜かれた!」
ルビィ「よしみさん、早く!」
よしこ「ちょ、ちょっと待って」
こころ(これは行ける!)
千歌「ヤバいよ、三塁打――って三塁蹴った!」
曜「バックホーム急いで!」
セーフ!
千歌「ランニングホームラン……」
板本「こころ、ナイスラン!」
こころ「一塁方向は穴です」
こころ「ファーストは素人同然、ライトもそれに近い」
こころ「しっかり狙っていきましょう」
板本「了解!」
キン!
曜「花丸ちゃん!」
花丸「と、捕れないよこんなの――」
よしみ「またこっち来たの!?」
千歌「三塁、急いで!」
ルビィ「駄目、間に合わないっ」
セーフ!
梨子「くっ」
千歌「今度は三塁打……」
『四番ファースト岡野さん』
カキーン!
梨子「!」
千歌「ヤバッ」
曜「でも風に押し戻されて――」
善子「くっ」パシッ
アウト!
ここあ「あー、ついてない」
こころ「でも、犠飛に十分ね」
千歌「5対0……」
板本「センターの変な奴、そこそこ上手いな」
こころ「そうですね、センターラインはよく守れています」
こころ「流石に渡辺さんのチーム」
こころ「いくら寄せ集めでも、重要な部分はしっかり埋めていますね」
こころ「狙うなら、はっきりと左右どちらかを狙うべきでしょう」
ぺゲロ「ヨクワカラン、テキトウ二ウツヨ?」
こころ「……貴女はそれでいいです」
板本「得意のランナー無しの場面だしな」
『五番レフト・ぺゲロさん』
千歌(留学生、一発が怖い打者)
千歌(でもこの人は内角、内角に投げれば何とかなる)
シュッ
千歌(少し甘い――でもこれぐらいなら)
カッキ――ン!
千歌「えっ」
善子「……追うまでもないわね」
ルビィ「特大の、ホームラン……」
梨子「あ、ぁぁ」ガクッ
曜(6対0)
曜(いつも冷静な梨子ちゃんが、あんなに取り乱してる)
千歌「た、タイム!」
千歌「り、梨子ちゃん」
梨子「……」
曜「駄目だ、交代しよう」
千歌「で、でもいつもは5回か6回で交代なのに」
曜「これ以上失点したら、試合が壊れる」
千歌「でも、梨子ちゃんは音ノ木坂を見返すって……」
曜「もう無理だよ、これ以上は梨子ちゃんの為にもならない」
曜「まだリベンジには早かったんだよ、これじゃあ傷を抉るだけ」
曜「これでイップスが再発したりしたら、目も当てられない」
花丸「ずら……」
ルビィ「うゅ……」
むつ「そ、そうだよ、とりあえず曜に交代しよう」
むつ「リベンジする機会は、またあるって」
千歌「……分かった」
曜「梨子ちゃん、交代!」
梨子「……うん」
選手交代
【曜:遊→投】
【梨子:投→左】
【いつき:左→中】
【善子:中→遊】
ここあ「お、投手交代っぽいね」
板本「あーあ、曜になっちゃったか」
板本「相変わらずバッピにもならないな、梨子は」
こころ「板本さん、その言い方は反感を買いますよ」
板本「でも否定はできないだろ」
こころ「……そうですね」
ここあ「曜ってどんなスペックだっけ」
ここあ「あたし、打者として対戦したことないから分かんないんだけど」
こころ「とにかく力で押してくるパワーピッチャー」
こころ「球速は130キロ台だけど、140以上に見えるとも言われる質の高いストレート」
こころ「本人は好きじゃないみたいだけど、縦に大きく割れるカーブも素晴らしいわ」
こころ「私たちみたいに体格もパワーもないタイプだと打つのは厳しいわね」
ここあ「諦めるの早いな」
バンッ
ここあ「でも確かに、速い」
こころ「まあ点差も十分についたし、ここあは交代しましょう」
こころ「他のメンバーもベンチ入りしてる1・2年生に交代」
こころ「好投手との実戦経験を積む貴重な機会です」
こころ「投手を笠野さんにしておけば、まず問題は起こらないでしょうから」
ここあ「えー、私も打ちたいんだけど!」
こころ「駄目よ、あの人の場合、デッドボールもあるから」
ここあ「えっ、あの球速でノーコンなの?」
こころ「ええ」
こころ「しかも投手相手でも平然とインコースに投げ込んでくるわ」
ここあ「わ、私怖いからパス」
笠野「面倒だなぁ、投げるの」
こころ「文句言ってないで、準備してください」
こころ「ベンチに居てもプロ野球の結果を予想して遊んでるだけでしょ」
笠野「はーい、りょーかい」
板本「私はそのままでいいよな」
板本「曜と対戦できないのは勘弁だぞ」
こころ「ええ」
こころ「私と板本さんはそのまま出ましょう」
こころ「念のための保険にもなります」
こころ「控えメンバーでは、渡辺さんからの得点は難しいかもしれませんから」
【7回表】 Aqours0-6μ’s
千歌(何とかコールドを回避しながら試合は進んでる)
千歌(曜ちゃんはランナーを出しながらも、下級生主体の音ノ木坂を0に抑える)
千歌(でも攻撃は相変わらずヒットすら出ない)
千歌(代わった笠野さんは、ほぼストレートのみながら圧倒的な投球で――)
曜(また敬遠臭いけど、完全に外されてはいない)
曜(ボール球でも無理やり食らいつけば)ブンッ
バッターアウト!
曜「ああ、駄目かぁ」
こころ(渡辺さん、いい選手だけど相変わらず荒いわね)
『三番レフト桜内さん』
梨子「くっ」
カツン
花丸「あ、当たった!」
善子「しかも転がったの三遊間深いところよ!」
ルビィ「梨子さん走って!」
板本「よっこら――しょ!」パシッ――シュッ
アウト!
善子「う、上手い……」
ルビィ「あれをアウトにするなんて……」
『四番キャッチャー高海さん』
笠野「おら!」ビュッ
ストライク!
千歌「球速――135キロ!?」
千歌(こ、こんなの打てないよ)
千歌(で、でも何とか当てないと)
千歌(バットを短く持って、コンパクトに)ビュッ
ガン
こころ「オーライ!」パシッ
アウト!
笠野「よっしゃ!」
板本「ナイスピッチ!」
こころ(態度は悪いけどピッチングはいいんですよね、この人)
千歌「キャッチャーフライ……」
千歌(手が凄く痺れてる)
千歌(当たったけど、ボールは見えていないほぼマグレ当たり)
千歌(この人、本当に二番手なの)
千歌(今すぐプロに入っても通用しそうな球を投げてるのに)
千歌(無理だよ、こんなの……)
【8回裏】 Aqours0-6μ’s
千歌(先頭にフォアボールで無死ランナー一塁)
千歌(ここでバッターは――)
こころ(結局、もう8回)
こころ(今日の渡辺さんは調子が良いとはいえ、流石に一点も取れないのは想定外)
こころ(選手を入れ替えすぎました、反省です)
こころ(けど流石にそろそろ、試合を決めたいですね)
千歌(また何か仕掛けられたら嫌だな)
千歌(慎重に入りたいけど、曜ちゃんの事だから――)
曜(ストレ――――ト!)シュッ
こころ「くっ」キン
曜「よし、ゲッツーコース!」
善子「ルビィ!」パシッ――シュッ
アウト!
ルビィ「マルちゃん!」シュッ
ガッ
花丸「あっ、バウンドして」ポロッ
セーフ!
こころ「た、助かった……」
こころ(やっぱり渡辺さんとは相性が悪いわね)
ルビィ「ご、ごめんなさい」
花丸「ち、違うよ」
花丸「今のは、普通のバウンドを捕れなかったマルの所為だから」
曜「二人とも気にしないで!」
曜「この後しっかりお願いね!」
ルビまる「は、はい!」
『三番ショート板本さん』
曜(でもランナー置いて板ちゃんか)
曜(嫌な状況だな)
板本(一打席目、ストレートを捉えられずに三振)
板本(でも野手視点では二打席目で打てれば勝ったようなものだ)
板本「今度は打つ!」
曜「させるか!」シュッ
板本(いける!)カキーン
曜「!」
千歌「あー、綺麗にセンター前」
曜「くそっ」
曜(これで一・二塁)
曜(でもここからは、控えの一年生)
『四番ファースト大井さん』
曜(このクラス、三振は取れなくても抑えるだけなら――)
キン
曜「げっ」
千歌「ファーストにボテボテのゴロ――」
花丸「え、えっと」パシッ
千歌「ベースカバーの曜ちゃんに!」
曜「花丸ちゃん!」
花丸「は、はい!」
フワッ
千歌「マズい、送球逸れて――」
曜「おっ――とと」タタッ――パシッ
セーフ!
曜「また、えらい方向にボールを……」
花丸「ご、ごめんなさい」
曜「ドンマイ、大丈夫」
曜(けどあと一点でコールドの場面で満塁……)
曜(四死球が許されないのは、ちょっときついな)
『五番レフト石田さん』
曜(こうなったら、思い切り真ん中に投げ込むしかない!)シュッ
カキーン!
千歌「ピッチャー返し――」
曜「!」パシッ
アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ず、ずらっ」パシッ
アウト!
板本「バカ大井、なんでこの場面で飛び出してんだよ……」
こころ(後で説教ですね……)
ここあ「こ、こころ、何か怖いぞ」
笠野「あーあ、一イニング余計に仕事増えたよ」
曜「はぁ、助かった」
千歌「曜ちゃん、ナイスキャッチ!」
花丸「す、すいません、助かりました……」
曜「いやいや、花丸ちゃんもとっさの送球をよく捕ったね」
千歌(とりあえずコールドは回避できた)
千歌(あとは何とか――)
曜「このままだとノーヒットノーランだよ!」
ルビィ「そそそ、そうですね」
千歌(1人でも、ヒットを打たなきゃ)
千歌(そして一点でも返さなきゃ)
曜「とにかくランナーを貯めて私に回して」
曜「試合の大勢は決まった状況、きっと勝負してくるはずだから」
曜「一点でも返せればきっと投手は動揺する」
曜「6点差なんだ、そうすればまだ試合も分からないよ!」
よいむつよしまるびぃ「「「おお!」」」
【9回表】 Aqours0-6μ’s
花丸(とは言ったものの、これは流石にマルにはちょっと――)
バッターアウト!
いつき「あ、あっさり三球三振」
むつ「いやぁ、あれはしゃあないよ」
よしみ「私たちと花丸ちゃん、一球もバットに当たってないもんね……」
ルビィ「ま、マルちゃ~ん」ブルブル
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて」
花丸「平常心なら、何とかなるはずだから」
ルビィ「で、でもぉ」
『九番セカンド黒澤さん』
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
笠野(投げにくいなぁ、この手のタイプは)
笠野(何か、弱い者いじめしてるみたいで嫌なんだよ……)
ボール ボール ボール ボールフォア!
笠野「ほらぁ」
花丸「ルビィちゃん出た!」
曜「よし!」
千歌「これであとは善子ちゃんも出れば……」
『一番ショート津島さん』
善子「くっくっくっ、あなたも私の魔力の前には子ども同然のようね!」
笠野「はっ?」
笠野(お前は関係ねーよ。雑魚の癖に――)シュッ
善子「グェッ」ドスッ
笠野「あ」
笠野(ムカついて、つい力が)
花丸「出た! 善子ちゃん得意の身体を張った出塁!」
千歌「こ、今回に限ればナイスだよ!」
千歌(これでバッターは曜ちゃん!)
千歌(曜ちゃんなら打ってくれる!)
千歌(初ヒットも初得点も――)
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(キタキタ!)
曜(笠野さんは短気な性格)
曜(ただでさえ荒れ球傾向にあるんだ)
曜(ここでノーヒットノーランと完封を同時に打ち破れば、まだ分からない――)
こころ「……」スッ
曜「えっ」
よしみ「きゃ、キャッチャーが外に構えて……」
いつき「この状況で」
むつ「敬遠?」
曜「な、なんでさ!」
こころ(ごめんなさい)
こころ(本当は勝負させたい気持ちもある)
こころ(けどノーヒットノーランがかかった状況)
こころ(創部間もない相手にコールドを逃した)
こころ(その事実で批判されることを避けるには、ノーノ―しか考えられない)
ボールフォア!
曜「梨子ちゃん! 千歌ちゃん! あとは任せたよ!」
梨子「う、うん」
千歌「任せて!」
こころ(梨子さんはともかく、高海さんは流石主将、凄い気合いの入り方)
こころ(でもね、世の中は残酷なんですよ)
バッターアウト!
梨子「やっぱり私には……」
バッターアウト!
千歌「あ、当たらない……」
こころ「生まれ持った才能と長期間の努力で築かれた壁は、簡単には超えられないんです」
【試合終了】 Aqours0-6μ’s
―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
曜「うん」
善子「ええ」
花丸「ずら……」
梨子「……」
千歌(空気が重いな……)
ルビィ「すぅすぅ」
善子「ルビィ、この状況でよく眠れるわね」
花丸「ずっと緊張しっぱなしで疲れたんだよ」
花丸「メンタル面を考えれば、よく最後までプレーしてたよ」
善子「でもあんたも大変でしょ」
善子「移動中ずっと、ルビィをおぶってたじゃない」
花丸「これぐらい、たいしたことないよ」
花丸「今日だけで3エラーに3三振」
花丸「せめてこれぐらいはしないと、逆に居た堪れないよ」
善子「花丸……」
梨子「ごめん、ごめんね、みんな」
梨子「私が、ちゃんと投げてれば」
梨子「ううん、それだけじゃない」
梨子「変な意地を張らずに、最初から曜ちゃんに先発をお願いしてれば……」
曜「関係ないよ」
曜「私だって、レギュラー相手に投げてたら失点してたと思う」
梨子「違うよ、私の所為なの」
梨子「バッティングピッチャー同然の私が、全部悪いの」
千歌「梨子ちゃん……」
千歌(無理もない)
千歌(あんなに気合いを入れていた音の木坂との試合だったのに)
千歌(何もできず、あっさりとKOされて)
千歌(連勝で浮かれて忘れていたけど、思い知らされた)
千歌(私たちは所詮、曜ちゃんに依存したチームだと)
千歌(彼女の存在がなければ、どうしようもないと)
千歌(かろうじて通用していたのは、投手以外だとルビィちゃんと善子ちゃんだけ)
千歌(その2人だって、相手に比べれば圧倒的に劣ってる)
千歌(最強と言われるチーム相手にいい勝負をするなんて考えは、都合が良すぎたんだ)
千歌(だけど、気にし過ぎちゃ駄目)
千歌(とにかく今はこの空気を何とかしないと)
千歌「まあさ、今は一生懸命やることが大事だよ」
千歌「まだ三年生もいない、最初はみんなこんなもの」
千歌「私たちは小さい頃から野球に全てを賭けてきたわけじゃない」
千歌「初心者もたくさんいるチームなんだよ」
千歌「今は勝敗なんて気にせず、何事も経験」
千歌「せっかく大舞台に上がれたんだよ、みんなで楽しまなきゃ」
善子「いや、でもそれは」
曜「千歌ちゃん――」
こころ「すみません、浦の星女学院のみなさんですよね」
千歌「あ、あなたは」
梨子「こ、こころちゃん」
曜「……何しに来たのさ」
こころ「そんな冷たい態度取らないでくださいよ」
こころ「そりゃ気持ちは分かりますが」
曜「最初からまともに勝負しないなんてあり得ないでしょ」
曜「強豪校の癖に」
こころ「仕方ないじゃないですか」
こころ「プレッシャーなんですよ、一戦一戦」
こころ「真姫さんの世代まで圧倒的な強さを誇っていたせいで、周囲の期待値は異常に高い」
こころ「『音ノ木坂は勝って当たり前』なんて、平然と言われるですよ」
こころ「にこお姉さまの妹である私たちに対しては、特に強く」
千歌「だからって、あの敬遠は流石に」
こころ「所詮はテレビどころかネット中継もない大会ですから」
こころ「あの四球、別に立ち上がったわけでも極端に外したわけでもないですし」
こころ「状況を考えれば敬遠だと分かっても、確固たる証拠はありません」
こころ「ここあは年代別代表にも入れないクラスの投手ですよ」
こころ「そんなあの子が、相性の悪い世代を代表する選手と勝負」
こころ「長打を避けようとアウトコースを攻めた結果、慎重になり過ぎてフォアボールになった」
こころ「そんな言い訳も簡単に出来ます」
こころ「渡辺さんに打たれて失点し、早い段階でマウンドにも上がられて負ける」
こころ「そんな最悪のシナリオを考えれば、妥当な判断だと思いませんか」
こころ「世の中、結構面倒なんですよ」
こころ「私たちが負けるだけでなく、少し苦戦しただけで鬼の首でも取ったかのように騒ぐ人がたくさんいる」
こころ「これがなかなかつらくて、その批判でメンタルを崩す選手もいます」
こころ「今回の件でも、多少は批判を受けるでしょう」
こころ「ですが、勝てばいいんです」
こころ「勝てば、結果を残せばすべて正当化される」
こころ「勝手な外野の批判を大方抑え込める」
こころ「それが野球でしょう、渡辺さん」
曜「……それはそうだね」
曜「それでも、納得したわけじゃないけど」
こころ「でしょうね」
こころ「逆の立場なら、そう簡単に納得できる話ではありません」
こころ「けど貴女なら少しは分かるでしょう」
こころ「私たちの失敗が許されない厳しさを」
こころ「年代別代表で、嫌というほど経験してきたんですから」
曜「まあ、ね」
こころ「実際、そのプレッシャーに潰されてしまった選手も少なくありません」
こころ「本来エースを争うはずだった選手にも、その影響もあって辞めた人がいました」
千歌「それって……」
こころ「梨子さん、お久しぶりです」
梨子「うん、久しぶり」
こころ「投げられるようになったみたいでよかったです」
こころ「突然転校した後、心配していましたから」
梨子「ありがとう」
梨子「連絡もせずに、ごめんね」
こころ「いえ、気にしないでください」
こころ「貴女がイップスを悪化させ、転校にまで至ったのは私が助けになれなかったことも原因です」
こころ「むしろ謝らなければいけないぐらいですよ」
梨子「謝るなんて、そんな」
こころ「まあ、そうですね」
こころ「これ以上この話をしても、お互いに気を遣いあって生産性がありません」
こころ「私がここへ来た理由でもある、本題に入りましょうか」
千歌「本題?」
曜「今日の試合について皮肉を言いに来たんじゃないの」
こころ「違いますよ」
こころ「渡辺さんの中の私のイメージ、どうなってるんですか」
曜「いやぁ、性格が悪い人的な」
こころ「それは勝利を最優先にしなければならないプレー中だけです」
こころ「別にルールや倫理の範囲での行動だけで、反則とかはしないですから」
曜「確かにそうだけどさ」
こころ「まあともかく本題ですが」
こころ「梨子さん、イップスは完治したようですね」
こころ「昔と変わらない美しいフォーム、同様の芸術性のある球」
こころ「今でも十分に一流選手でしょう――時間も一緒に止まっていれば」
梨子「時間が止まっていれば?」
こころ「今の貴女は入学時――中学生の全盛期と変わらない球を投げている」
こころ「逆に言えば、成長もしていないんですよ」
梨子「っ」
こころ「勿体ないです」
こころ「本来は高校で成長しているはずの時間が、イップスで止まってしまった」
こころ「中学時代は一流の投手でも、成長せずに高校で投げれば中の上程度の選手」
こころ「それは貴女も気づいていたでしょう」
こころ「経験があることを考えれば、一流半に近いレベルの投球はできているかもですが」
梨子「……かも、しれないわね」
千歌「曜ちゃん、本当なの」ヒソヒソ
曜「うん」ヒソヒソ
曜「正直梨子ちゃんの球は、昔と何も変わっていない」ヒソヒソ
曜「下手をすれば、一番良かった時期より劣っているかもしれないぐらい」ヒソヒソ
こころ「けど、あまり気にすることはないと思うんです」
梨子「えっ」
こころ「梨子さんはトレーニングなどを怠っていたわけではありません」
こころ「まだ身体と頭のイメージや、力の出し方の点で問題があるだけ」
こころ「今日私たち相手に通用しなかったのも、それが原因です」
こころ「特に球速、今どき120も出ないようでは強豪校には通用しません」
こころ「まずはゆっくり、高校仕様の投球を出来るようになることを目指すべきです」
こころ「少なくとも体格的には、私よりだいぶ恵まれています」
こころ「きちんと感覚を修正すれば、高校レベルでも一流の投手になれるはずです」
梨子「こころちゃん……」
こころ「今、試合で投げるのは逆効果になるかもしれません」
こころ「ひとまず、そちらは渡辺さんに任せればいいと思います」
こころ「彼女なら一試合、問題なく投げきれますから」
こころ「言い方は悪いですけど、貴女よりも良い結果が出ることは間違いありませんし」
梨子「……そこをはっきり言われると、少し傷つくかも」
こころ「すみません、元チームメイトなのでつい」
梨子「ふふっ、変わってないのね」
千歌「あの、矢澤さん?」
こころ「あっ、こころかこころちゃんでいいですよ」
こころ「基本的にみんなそう呼ぶんで」
千歌「えっと、じゃあこころちゃん」
千歌「本題って、梨子ちゃんを励ましに来たってこと?」
こころ「はい、そうですよ」
曜「なんで、梨子ちゃんを助けに来たの」
こころ「私だって本意じゃないんですよ」
こころ「かつての仲間の心の傷を抉ることなんて」
こころ「試合中の様子がおかしかったので、気になっていたんです」
こころ「実際、今も凄く落ち込んでいましたし」
こころ「そんな姿を見たら、居ても立っても居られないでしょ」
曜「こころちゃん……」
こころ「皆さんにも言えることですが、今日の試合は落ち込むような内容ではないですよ」
こころ「調べても、過去のデータがあるのは梨子さんと渡辺さんのみ」
こころ「そう考えれば、色々と仕方のない部分はあります」
こころ「試合後では皮肉に聞こえてしまうかもしれませんが、皆さんはいいチームでしたよ」
こころ「特に津島さんと黒澤さん」
こころ「あなた達二人には、ずいぶんやられてしまいましたね」
善子「ふぇ」
こころ「実は津島さんの存在は元から少し知っていました」
こころ「ネットで時々、動画や生放送を観ていまして」
こころ「独特の野球論、とても勉強になります」
善子「そ、そう」
千歌「善子ちゃん、こころちゃんに知られてるなんて凄いね!」
こころ「世間的にはあまり知られていませんが、毎回なかなか興味深い内容なんですよ」
こころ「最近新作が上がらないのは、野球を始めたからだったんですね」
こころ「実際プレーの質も一年生とは思えない内容でした、流石です」
善子「ま、まあ、私レベルになると当然よね」
花丸「あはは、分かりやすく嬉しそうだね」
善子「……そりゃね、嬉しくないわけないでしょ」
こころ「しかしそれ以上に驚いたのは黒澤さんです」
こころ「初回や、それ以降の見事な守備」
こころ「多少の粗さやプレーの波は見られますが、むしろそこに将来性を感じる」
こころ「どこに隠していたんですか、こんな子」
こころ「狭い女子野球の世界、全く無名だったのは信じられません」
花丸「それはちょっと、色々な事情があって」
こころ「いいですよ、そこまで深く聞いたりはしません」
こころ「悪い子でないのは、今の無邪気な寝顔を見ればわかります」
こころ「素行に問題があるとか、突然現れた天才であるとか、そんな類の話でないのも」
こころ「黒澤さんが本当に野球を好きで努力も重ねてきたのは、守備などのプレーと――」スッ
ルビィ「ぅゅ」スヤスヤ
こころ「この可愛らしい見た目に反した、ゴツゴツの手を見れば分かります」
こころ「日ごろから相当振り込んでいるのでしょう」
こころ「体格的に恵まれない物同士の親近感もあります」
こころ「この子は応援したくなりますよ、本当に」ナデナデ
千歌「なんか、お姉さんみたいだね」
曜「……こころちゃんの方がルビィちゃんよりちっちゃいけどね」
こころ「い、言わないでください」
こころ「これでも結構気にしてるんですから」
曜「あっ、そうだよね、ごめん」
こころ「いえ、渡辺さんに悪気がないのは分かりますし、よくあることです」」
こころ「もう私はとっくに割り切れています」
こころ「ここあは未だに足掻いていますがね」
こころ「あの体格で投手は限界があると何度言っても、聞き分けがなくて」
花丸「体格……」
こころ「ごめんなさい、国木田さんと黒澤さんも気になる問題でしたね」
こころ「でもあなたは大丈夫ですよ」
こころ「まだ身長も伸びそうですし、体質的にパワーも付きそうです」
こころ「黒澤さんもそう、少なくとも現時点でさえ私よりは体格はあるんですから」
こころ「まだ一年生、きちんと努力すれば相応に上手くなれますよ」
花丸「は、はい」
こころ「では私はそろそろ帰ります」
こころ「早く戻らないと、お姉さまたちに心配されてしまうので」
千歌「あっ、はい」
梨子「色々ありがとう、こころちゃん」
こころ「いえ、私の方こそ」
こころ「明日試合がある皆さんに付き合っていただけて、ありがたかったです」
こころ「相手が聖泉女子なので苦労するとは思いますが、健闘を祈っています」
千歌「うん、ありがとう」
こころ「渡辺さん、期待してますよ」
こころ「鹿角さんとの対決、私だけではなく多くの人が」
曜「……うん」
―グラウンド―
ルビィ「ふわぁ」
花丸「ルビィちゃん、眠たそうだね」
ルビィ「うゅ、昨日変な時間に寝ちゃったから」
梨子「ルビィちゃん、元気そうでよかったね」
千歌「他の皆と違って、こころちゃんに励ましてもらえなかったのに」
善子「あんな臆病なのに、案外図太いわよね、ルビィは」
千歌「ルビィちゃん、今日の相手のデータは」
ルビィ「えっと、学校名は函館聖泉女子高等学院」
ルビィ「チーム名はSaint Snowです」
ルビィ「昨年の冬季全国大会でベスト8」
ルビィ「三年生のエース、鹿角聖良の加入と共に力を付けてきた高校です」
ルビィ「昨年までは彼女による典型的なワンマンチーム」
ルビィ「しかし今年は有望な一年生の加入も選手層が厚くなりました」
ルビィ「特に4番を打つ柳澤選手、そして聖良さんの妹の理亞さんに注意です」
ルビィ「柳澤さんは年代別代表にも入っています」
曜「私や現三年生の代表とは、一世代ずれてるけどね」
ルビィ「チームの特徴として、投手は聖良さんが投げきる形が多いです」
ルビィ「一応二番手投手には、ショートの間宮さんがいます」
ルビィ「間宮さんも130近いストレートが武器です」
ルビィ「打線は音ノ木坂に比べれば劣りますが協力」
ルビィ「特に速球を得意としています」
ルビィ「落ちる球に弱いですが、ストレートの安打率が圧倒的に高い」
ルビィ「おそらく、曜さんは相性があまりよくない相手です」
千歌「それでこころちゃんは、苦労するって」
ルビィ「あとは比較対象ということもあります」
千歌「比較対象?」
ルビィ「今の高校生の世代は、三人のスター選手がいます」
ルビィ「その中で誰が最も優秀か、ファンの間でよく議論になるんです」
ルビィ「一人目が曜さん」
ルビィ「二人目が音ノ木坂の板本さん」
ルビィ「そして三人目が、鹿角聖良さんなんです」
千歌「へぇ」
ルビィ「特に曜さんと聖良さん二人は一学年年齢が違いますが、よく比較されます」
ルビィ「二人とも投手としては本格派、高い身体能力が売りです」
ルビィ「投球スタイルは130キロ台の速球」
ルビィ「そして落ち方は小さいけど速球と同じぐらいの球速のスプリットで圧倒します」
ルビィ「球種は違いますけど、音ノ木坂のここあさんと笠野さんを組み合わせたような選手かも」
ルビィ「打撃については、確実性はやや欠けますが体格の良さもあってパワーが凄いです」
ルビィ「μ’sに詳しい人なら、希さんに近いといえば分かりやすいかもしれません」
千歌「それは、凄そうだね」
曜「凄いよ、聖良さんは」
曜「実際私も、年代別代表でエースの座を奪われてるから」
千歌「えっ」
曜「嘘じゃないよね、梨子ちゃん」
梨子「ええ」
梨子「私が知っている範囲ではね」
梨子「もちろん、聖良さんが一学年上という事実も関係はしているけど」
ルビィ「そのような実績がありながら、音ノ木坂やUTXなどの強豪からの誘いを断って地元の進学校へ進学」
ルビィ「相当自分に自信があるのでしょう」
ルビィ「今年は理亞さんの加入もあり、本気で全国優勝が狙えると言われています」
千歌「姉妹バッテリーなんだよね」
ルビィ「はい」
ルビィ「絶対サインに首を振らないといわれるほどの信頼関係で結ばれているみたいです」
曜「私だって千歌ちゃんのサインには絶対に首を振らないよ!」
千歌「いやいや、そもそも私からサイン出してないじゃん」
曜「ま、まあね、基本ノーサインだし」
善子「えっ、曜さんと千歌さん、ノーサインだったの?」
曜「そうだよ! 私と千歌ちゃんの絆の証!」
??「なるほど、彼女が理由でしたか」
曜「あっ」
梨子「あなたは」
曜「聖良さん!」
聖良「自分のやりたい方向へ一直線」
聖良「分かりやすいですねぇ、貴女は」
ルビィ「ほ、本物の聖良さん……」
??「ふふん、どうやら姉さまに見惚れているようね」
ルビィ「えっと、貴女は」
理亞「鹿角理亞」
理亞「これでも貴女たちと同じ世代の代表よ」
理亞「つまり、レベルの違う選手ということね」
善子「なんか痛い奴ねぇ」
花丸「可哀想なタイプなんだよ」
理亞「聴こえてるわよ」
花丸「ずらっ」
理亞「まあいいわ、いくら言っても負け犬の遠吠え」
善子「試合前から負け犬って」
理亞「見てなさい、私たちSaint Snowの野球を」
理亞「あなたたち素人軍団なんて、粉砕してやるんだから」
曜「へぇ……」
理亞「ひっ」
聖良「理亞、いい加減にしなさい」
聖良「挨拶に来たはずなのに、なぜ喧嘩を売っているんですか」
理亞「だって、ムカつくから」
理亞「たいした力もない癖に、こんなところにいて」
ルビィ「そ、そんなこと――」
聖良「すみません、愚妹が色々と失礼を」
聖良「私たちはそろそろ行きますね――理亞」
理亞「はい、姉さま」
聖良「楽しみにしていますよ、今日の試合」
千歌「は、はぁ」
千歌「キャラの濃い妹さんだったね」
善子「くっくっくっ、あれの素はおそらく人見知りね」
善子「姉がいるから強気だったけど、一人じゃまともに話せもしないわ」
曜「へぇ、なんでわかるの?」
花丸「善子ちゃんも同じタイプだからでしょ」
善子「そ、それはあんたもでしょ」
花丸「……知らないずら」
曜「まあとにかく、今日は頑張っていこう」
曜「いくら聖泉女子が強くても、音ノ木坂が負けるとは思えない」
曜「今日勝てば、決勝トーナメントに進める」
曜「昨日の負けを帳消しにできる」
曜「絶対に負けられないよ!」
ルビィ「はい!」
善子「ええ!」
梨子「そうね!」
〔春季女子野球大会 グループA第二戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS函館聖泉女子高等学院『Saint Snow』】
先発メンバー
Aqours
1:遊・善子
2:投・曜
3:捕・千歌
4:左・梨子
5:右・よしみ
6:中・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
Saint Snow
1:捕・鹿角理亞 一年
2:遊・間宮 一年
3:投・鹿角聖良 三年
4:中・柳澤 一年
5:一・内村 三年
6:三・松尾 一年
7:右・下林 一年
8:左・江戸川 三年
9:二・牧田 三年
【1回表】
『一番ショート津島さん』
善子(鹿角聖良……)
聖良「……」
善子(スペックを聞くと恐ろしい投手)
善子(135以上の直球)
善子(昨日、笠野にぶつけられた時は凄く痛かった)
善子(ほとんど見えなくて避けることもできなかったのと同クラスの球を、私は打てるの?)
聖良「ふっ」シュッ
ストライク!
善子(やっぱり速い)
善子(でもこれと同じぐらいの球速を落ちる球もある)
善子(とにかく手を出さないと!)
シュッ
善子(えーい、当たれ!)
キン
理亞「オーライ!」
アウト!
花丸「あぁ」
千歌「キャッチャーフライかぁ」
曜「善子ちゃん、どんな感じ?」
善子「やっぱり速いわね」
善子「昨日の笠野とほぼ変わらないわ」
曜「ふむ、了解」
善子(あれ、今日の曜さんはあんまり余裕がなさそう)
善子(やっぱり、相手はそれだけの投手ってこと……)
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜「……」
理亞(この人、やっぱり雰囲気あるわね)
理亞(でもデータ的に、真っ向勝負する必要はない)
理亞(初球は――)
シュッ
曜「っ」
ストライク!
曜「カーブ……」
曜(完全に裏をかかれた)
理亞(よし、これでいける)
理亞(次はストレートで)
キン
曜(ファール、追い込まれた)
理亞(カウントに余裕あるし、一球インハイに釣り球を)
ボール!
理亞(流石に手は出さない)
理亞(でも次のボールは――)
聖良「ふっ!」シュッ
曜「っ」ブン
バッターアウト!
曜「フォークか……」
善子「よ、曜さんが」
花丸「三振……」
ルビィ「初めて見たかも……」
曜「ごめん千歌ちゃん、あとよろしく」
千歌「う、うん」
『三番キャッチャー高海さん』
千歌「お、お願いします!」
理亞(こいつは……適当にストレート三つで充分でしょ)
バッターアウト!
千歌「当たらないよぉ」
【1回裏】 Aqours0-0Saint Snow
『一番キャッチャー鹿角理亞さん』
曜(今日は打席で敬遠はされそうにない)
曜(でもしっかり抑えないと、勝てそうにないな)
曜「よしっ!」
プレイ!
曜(この子は身体が小さい、とにかくストレートで押そう!)シュッ
ストライク!
理亞(速い)
理亞(これを捉えるのは、なかなか骨が折れそうね)
ストライクツー!
理亞(でも――)
キン――ファールボール!
曜(確かに速い球には強いみたいだけど――)シュッ
理亞(えっ、カーブ――)
ブン
千歌「あっ」ポロッ
間宮「キャッチャーこぼしてる!」
聖良「走って!」
理亞「!」
千歌「し、しまった」
セーフ
理亞「た、助かった……」
千歌「曜ちゃん、ごめん」
曜「ううん、私の方こそ」
曜「ちょっと低め狙って弾ませちゃったよ」
千歌「うん……」
千歌(けど、別に難しいボールでもなかった)
千歌(ああは言ってくれるけど、今のぐらいは止めないと)
『二番ショート間宮さん』
曜(バント……)
曜(素直にさせて一死貰おう)シュッ
コン
曜「花丸ちゃん――えっ」
花丸「わわっ」ポロッ――コロコロ
千歌(でもまだファースト――)パシッ
曜「投げるな!」
千歌「えっ」ピタッ
曜「ベースカバー、入ってない」
ルビィ「あっ」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
曜「大丈夫、気にしないで」
曜(実戦経験が少ない弱点が出ちゃったか)
曜(いくらルビィちゃんが努力を重ねてきたとはいえ、二人で出来る範囲)
曜(投内連係とかの練習は不足してるもんね)
曜(花丸ちゃんやむっちゃんもそう)
曜(バント処理は基本、自分でやるぐらいのつもりでいこう)
『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(聖良さん……)
曜(投手対投手では劣っているかもだけど、投手対野手なら私の方が上のはず)
曜(抑えることは!)シュッ
コツン
曜「げっ」
千歌「バント!?」
曜(転がったのはいいとこだけど、私なら守備範囲)パシッ
曜(ストレートな分打球は強いし、三塁刺せる!)ビュッ
むつ「あ、ありゃ」ポロッ
セーフ!
曜「あっ」
曜(強く投げ過ぎた)
曜(あれだとむっちゃんは取れないじゃん……)
むつ「曜――」
曜「ごめん、私の所為!」
聖良「ふふっ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「大丈夫、まだ点は取られてない」
曜「とにかくアウト一つ、そうすれば落ち着くはずだから」
千歌「う、うん」
千歌(でも守備の弱点、完全にばれてる)
千歌(しかも聖泉女子の選手みんな、バント上手いよ)
千歌(練習試合の相手だと、曜ちゃんの球を全然上手くバントできなかったのに)
千歌(これが全国トップレベル……)
『四番センター柳澤さん』
柳澤「あっす!」
千歌(うわっ、おっきい)
千歌(見るからに飛ばしそう、本当に一年生?)
千歌(この人も、年代別代表だっけ……)
曜(とにかく三振)
曜(高めで押し込もう!)シュッ
千歌(あっ、真ん中に)
キン!
千歌(でも押し切った――ライト浅い!)
よしみ「よしっ」パシッ
理亞「っ」ダッ
曜「タッチアップした!」
ルビィ「よしみさん!」
よしみ「え、えい!」スポッ
花丸「あ、あらぬ方向に」
善子「ど、どこ投げてんのよ!」
よしみ「ご、ごめん」
梨子「早く拾って!」
千歌(うぅ、結局犠飛、しかもニ・三塁だよ……)
曜「ワンナウト! 落ち着いていこう!」
柳澤「ナイスラン、マジでパなかった!」
理亞「ありがとう」
理亞「でもらしくないわね」
理亞「貴女がストレートに差し込まれるなんて」
柳澤「いやいや、あのストレートマジパないんだぜ!」
柳澤「スゲエぐわーっと来て、パないわ!」
柳澤「本当にスゲエ、パねえ!」
理亞「相変わらず、語彙力が壊滅的ね……」
『五番ファースト内村さん』
曜「このっ」シュッ
キン!
千歌(三遊間――抜かれた!)
千歌(でも打球強い、二塁ランナーが回ってもホーム刺せる!)
聖良「――」ダッ
善子「三塁蹴った!」
曜「梨子ちゃん、バックホーム!」
梨子「えいっ!」シュッ
千歌「いい球、これなら――」
聖良「――」ギラッ
千歌「っ」
千歌(凄い勢いで、迫ってきて――)
ポロッ
千歌「し、しまった」
セーフ!
内村(よしっ)ダッ
曜「千歌ちゃん、セカンド!」
千歌「えっ」
千歌(投げっ――握り損ねっ)スポッ
ルビィ「わっ」
善子「どこ投げてるのよぉ!」
よしみ「あ、フォロー忘れて……」
いつき「誰もいないよっ」
内村「ラッキー!」ダッ
千歌「サード――いやホーム、急いで!」
セーフ!
千歌(ば、バッターまで帰ってきちゃった……)
曜(4-0……)
曜(まともなヒット一つで、4失点……)
曜「くそ――」
曜(いやいや、駄目だよ)
曜(私がキレたら、試合が終わる)
曜(みんな経験もない、実力的にも仕方ない)
曜(勝つためには、私が冷静でいないと)
【4回表】 Aqours0-5Saint Snow
ボール!
善子(よし、これでスリーボール)
善子(この回の先頭で、次は曜さんなんだ)
善子(何とか出塁して繋げないと)
聖良「――」シュッ
善子(際どい)
善子(でも打つより――)
ボールフォア!
善子「よしっ」
曜「よーしこー!」
理亞「ちっ」
理亞(この球審、辛過ぎでしょ)
理亞(この状況じゃ、多少の肩入れしたくなる気持ちは分かるけど)
聖良「理亞、落ち着いて」
理亞「あ、ごめんなさい」
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(初回以降、守備は頑張ってくれてる)
曜(失点も私が普通に打たれただけ)
曜(少なくとも、自責点の分ぐらい取り返さないと)
聖良(曜さん――抑える!)シュッ
曜(昨日の試合から今まで、チームは無安打)
曜(ここで私が――)
曜「流れを――変える!」
カッキ―ン!
理亞「!」
千歌「大きい!」
梨子「いった!?」
ビュッ
花丸「あっ」
ルビィ「でも逆風……」
柳澤「うおっ」パシッ
アウト!
善子「フェンス際……」
曜「あー、広い球場じゃなかったら入ってたのに!」
柳澤「やっぱアイツパねえ!」
柳澤「この風で聖良先輩の球をアレとか、マジリスペクト!」
理亞「助かった……」
聖良「流石曜さんですね」
聖良「あそこまで飛ばされるなんて」
理亞(でもこれで大丈夫)
理亞(一番怖いバッターは切り抜けたんだもの)
バッターアウト!
千歌「……私、打撃センスないなぁ」
梨子「仕方ないよ」
梨子「聖良さんは、女子球界全体で考えてもかなりのレベルの投手なんだから」
千歌「うぅ――でも梨子ちゃん、何とか打って!」
梨子「うん、頑張ってみる」
梨子「今日は外野で4番だから、その分の仕事はしなきゃだからね」
『四番レフト桜内さん』
梨子(今日は投げる予定がない分、野手として頑張らないと)
梨子(一応、曜ちゃんの次に打てる可能性がありそうなのは私)
梨子(そして後続は打てる可能性が低い、ここは――)スッ
善子(まあ、それしかないわね)
聖良(梨子さん、昔は決して打撃が苦手な選手ではなかったはず)
聖良(四番を打つぐらいですから、警戒しないと)グッ
善子(!)ダッ
聖良「スチール!?」シュッ
梨子「当たって!」キン!
曜「叩きつけた!」
千歌「ショート深い、これなら余裕で内野安打――」
間宮「しゃっ」パッ――ビュッ
アウト!
千歌「う、うそぉ」
むつ「あ、あの打球で一塁刺すなんて……」
いつき「す、凄い」
よしみ「曜や、音ノ木の板本さんみたい」
ルビィ(……たぶんその2人でもあの打球をアウトにするのは難しい)
ルビィ(あの人、一年生なのに守備だけならトップクラスなのかも……)
【5回裏】 Aqours0-5Saint Snow
千歌(気づけば5回裏)
千歌(何とか守備は建て直し、踏ん張ってきた)
千歌(でも流石は速球に強いと評判のSaint Snow)
千歌(序盤のドタバタ劇のせいか疲れが出てきた曜ちゃんをついに捕らえて――)
カキーン!
曜「くっ」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「これで二連打」
善子「無死一・ニ塁……」
『六番サード松尾さん』
曜(ストレート、球威が落ちてきてる)
曜(カーブをもっと使っていかないと、抑えられない)
曜(本当は使いたくないけど、一応サインを出して投げれば――)シュッ
千歌「カーブ……」
バンッ
曜「しまった、バウンドさせて――」
千歌「あぅ」ポロッ
曜(……そう、なるよね)
千歌「ごめん、二人とも進塁しちゃった」
曜「私こそ、ちょっと軽率だった」
ボールフォア!
曜(駄目だ、動揺してる)
曜(気持ち、立て直さないと)
曜(これ以上の失点は致命傷になる)
千歌(どうしよう、あと二点で7回コールド圏内)
千歌(それどころか、5回コールドだって……)
善子「満塁……」
ルビィ「ぴ、ぴぃ」フラフラ
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて!」
『七番ライト下林さん』
曜(カーブは危ない)
曜(千歌ちゃん、まだ変化球の捕球には慣れてないもの)
曜(けど、ストレートだけだと……)
曜(このクラス相手だと――)シュッ
カキーン!
曜「センター!」
曜(駄目か、これじゃ犠飛に――)
いつき「こ、これは無理っ」
曜「ツーベース……」
曜(ただのセンターフライでしょ)
曜(普通の経験者なら、誰でも取れるような)
千歌「走者一掃で、0対8……」
『八番レフト江戸川さん』
曜「このやろっ」シュッ
カキン!
曜「ルビィちゃん!」
ルビィ「あっ」ポロッ
曜(今度はエラー……)
ルビィ「す、すみません」
曜「ドンマイ」
曜(ルビィちゃん、もう頼りにならないモードになってる)
曜(過剰に信頼しちゃ駄目だ)
『九番セカンド牧田さん』
曜(けどここは併殺が欲しい)
曜(スライダーでタイミングを外そう)
曜(私のスライダーを相手は想定してないはずから、上手くいくはず)シュッ
カツン
牧田「しまったっ」
曜(ショートゴロ、これなら――)
善子「やばっ」イレギュラー
曜「っ」
千歌「ファースト、間に合う!」
善子「花丸!」シュッ
花丸「あ、あれっ」ポロッ
曜「はい!?」
千歌(な、なんでもない送球を……)
曜「っ~~~~~~~」バンッ
千歌(ぐ、グラブを叩きつけた)
千歌「よ、曜ちゃん、落ち着いて」
曜「分かってる、分かってるよ!」
曜(駄目だ、打たせちゃ)
曜(今は自分以外信用しちゃいけない)
曜(三振、三振を取らなきゃ)
理亞「くっ」
バッターアウト!
間宮「どうした」
理亞「ここへきて、また速くなってる」
間宮「マジか」
バッターアウト!
間宮「確かに、これは凄いな」
理亞「けど、この二打席で分かったわ――姉さま!」
聖良「どうしたの、理亞」
理亞「たぶん、渡辺曜が投げる球は――」
『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(ツーアウト)
曜(次の回はルビィちゃん、善子ちゃんに回る)
曜(二人が出て、私が打てばまだ試合は分からない)
曜「ここを、三振で切り抜けられれば!」シュッ
カッキ――――ン!
曜「あっ……」
千歌「ほ、ホームラン」
ルビィ「11、点目」
花丸「コールド負け……」
善子「あの曜さんが、そんな……」
聖良「くすっ」
聖良「確かに理亞の言うとおり、三振を狙った高めのストレートのみ」
聖良「分かりやすいですね、曜さんは」
【試合終了】 Aqours0-11Saint Snow (5回コールド)
―グラウンド外―
曜「くそっ」バンッ
曜「ああもう!」バンッ
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
善子「よ、曜さん、落ち着いて」
曜「落ち着いてるよ!」
善子「だ、駄目よ、ユニフォームとか、色々叩きつけたりしたら」
梨子「そうよ、暴れる時も利き手には注意しないと」
むつ「梨子ちゃん、そこじゃないよっ」
花丸「ごめんなさい、マルがエラーばっかりするから……」
ルビィ「る、ルビィも……」
よしみ「それは、私たちもだし」
いつき「うん……」
千歌「そう、だよね」
千歌(怒るのも無理ない)
千歌(今日のは、いくらなんでも酷過ぎた)
千歌(記録に残らないエラーも含めれば、余裕で二桁に達する)
千歌(これじゃあ、野球にならない)
聖良「あの、すみません」
千歌「聖良さんと――理亞ちゃん」
理亞「ほら言ったでしょ」
理亞「あなた達を粉砕するって、宣言どおり」
曜「はっ!?」
曜「理亞ちゃんだっけ? 君無安打でしょ」
曜「なに偉そうに言ってるのさ!」
理亞「ひっ」
善子「なんでビビってるのに毎回煽るのよ……」
花丸「もう性分なんだよ……」
千歌「あの、なにかご用ですか?」
千歌「たいしたことじゃなければ、後にしてもらいたいんですけど」
千歌「見てのとおり、曜ちゃんがあんな感じなので……」
聖良「いや、用事があるのは私ではなくて」
理亞「私よ」
善子「なによ、今充分に煽ったでしょ」
理亞「違うわよ、それとは別件」
理亞「そこの主将さんに話があるの」
千歌「えっ、私?」
理亞「高海千歌」
千歌「は、はい」
理亞「あなた、キャッチャーのことを馬鹿にしてるでしょ」
千歌「そ、そんなこと」
理亞「確かにストライクゾーンのキャッチングは上手」
理亞「でもそれ以外は落第、最悪」
理亞「枠に来たボールを捕れればいいと思っているようにしか見えない」
理亞「存在自体が、ポジションへの冒涜よ」
善子「ちょっと、そこまで言わなくても」
理亞「でもそうでしょ」
理亞「例えばこの二試合、投手はバウンドするようなボールをまともに投げられていない」
理亞「そのせいで、変化球自体も少なくなってる」
理亞「桜内梨子なんて、ほぼ変化球中心じゃなきゃいけない技巧派の投手なのに」
千歌「そ、それは」
理亞「私たちが渡辺曜を打ち込めたのもそうよ」
理亞「貴女が信頼されずに、カーブを有効活用できていないから」
理亞「基本的にストレートしか来ないと分かってたら、そりゃ打つわよ」
理亞「姉さまがホームランを打った場面もそうだったでしょ」
理亞「しかもなに、打たれた後」
理亞「ほとんど励ましにも行かず、毎回投手よりもオロオロして」
千歌「っ」
理亞「貴女、才能ないのよ」
理亞「センスも、頭も、それを補おうとする気概も」
理亞「どんなことがあっても、私以上になることは絶対にありえない」
理亞「二流止まりが精々でしょ」
千歌「……」
理亞「そもそも舐めてるのよ」
理亞「9人ギリギリ、お遊戯会みたいな面子で乗り込んできて」
理亞「負けて当然、そんな感じでヘラヘラと野球をしてる連中を見ると、本当に腹が立つ」
理亞「馬鹿にしないで」
理亞「野球は、キャッチャーは遊びじゃない!」
曜「お前、それ以上は!」
聖良「理亞!」
理亞『ビクッ』
聖良「ごめんなさい」
聖良「この子、昔から口が悪くて」
曜「そういう問題じゃ――」
聖良「でもそれだけ、真剣に野球をしているんです」
聖良「真摯に、野球に向き合っているんです」
聖良「私は野球を辞めろとは、大会に出るなとは言いません」
聖良「けど皆さん、大きな舞台を目指すのは諦めた方がいいかもしれませんね」
聖良「そこを本気で目指している人が、どれほどいるかも分かりませんが」
曜「っ」
聖良「厳しい言い方をしましたが、今年度創部でここまでに仕上げたのは見事だと思います」
聖良「私はその意味ではあなた方をリスペクトしている」
聖良「それは、忘れないでください」
―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
ルビィ「はい……」
花丸「ずら……」
梨子「……」
善子「……」
よしみ「……」
いつき「……」
むつ「……」
千歌(流石に全員、落ち込んでる)
千歌(無理ないよね、酷い負け方をして、あんなことまで言われて)
千歌(私も、あんな言われ方――)
千歌「っ」グッ
梨子「……ねえ、千歌ちゃん」
千歌「し、仕方ないよ」
千歌「まだ私たちは始めたばっかりだし、こんな結果になっても」
梨子「千歌ちゃん……」
千歌「帰って練習しよう」
千歌「そしてまた、一から頑張ろう」
ルビィ「うゅ……」
梨子「そう、よね」
千歌「一応、今日の分までは部屋取ってあるから、泊まっていいって」
千歌「明日はさ、みんなで観光とかしに行こうよ」
千歌「そうすれば、少しは気が晴れるよ、きっと」
梨子「でも、曜ちゃんが……」
千歌「それは」
善子「曜さん、部屋に籠ったままなのよね」
花丸「やっぱりまだ、怒ってるのかな」
ルビィ「分からない」
ルビィ「だけど、本当に悔しかったんだと思う」
ルビィ「それだけは、分かるよ」
千歌「とりあえず、私が様子見てくる」
千歌「もし今の状態が明日まで続くようなら、一緒にいる」
千歌「みんなは普通に観光してきなよ」
ルビィ「でも……」
千歌「曜ちゃんと同部屋なのは私でしょ」
千歌「たぶん一番仲が良いのも私」
千歌「それに一応、曜ちゃんの女房役だし」
千歌「それぐらいは、ね」
梨子「……そうね」
梨子「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
善子「ちょ、ちょっと」
梨子「いいから」
梨子「みんなは、私が東京を案内してあげるわよ」
よしみ「ごめん、私たちは朝には帰るよ」
いつき「三人とも家の用事があるからさ」
むつ「だからみんなは楽しんできて」
梨子「そ、そう?」
ルビィ「……」
花丸「……」
トントン
千歌「曜ちゃん、調子どう?」
ガチャ
曜「ごめん、寝てた」
千歌「もう、大丈夫?」
曜「うん」
千歌「今日はごめんね、私たちが足引っ張っちゃって」
千歌「あれは怒るのも無理ないよね」
曜「違うよ、私はみんなに怒っていたわけじゃない」
千歌「えっ?」
曜「言い方は悪いけど、エラーとかはある程度は想定してた」
曜「怒りは、それでも勝てると過信していた私自身へのもの」
曜「あの子の言うとおり、ちょっと馬鹿にしてたかも、野球を」
千歌「曜ちゃん……」
千歌(顔、泣いた痕が残ってる)
千歌(それを見せたくなくて、部屋に残ってたのかな)
曜「どうしたの?」
千歌「その、顔……」
曜「あっ――顔洗うの忘れた」
千歌「やっぱり、泣いてたの」
曜「まあ、悔し泣き」
曜「あとまだ少し、荒れてた」
千歌「そ、そっか」
曜「千歌ちゃんだって、悔しかったでしょ」
曜「試合に負けたこと、色々言われたこと」
千歌「そりゃ、まあね」
千歌「負けたのは仕方ないけど、言われたことはちょっと」
曜「……」
千歌「あのね、一応もう一日泊まってもいいんだって」
千歌「だから明日さ、みんなで東京観光しないかって――」
曜「ねえ」
千歌「ど、どうしたの」
曜「私たちだけでも、明日の試合を観に行こう」
千歌「曜ちゃん?」
曜「音ノ木坂と、聖泉女子の試合」
曜「見なきゃ駄目だと思う。この先の現実も、しっかりと」
曜「そうしないと、先へ進めないよ」
曜「日本一は、狙えないよ」
千歌「それは……」
千歌(正直、気が進まない)
千歌(でも、曜ちゃんがそれで満足するなら――)
千歌「分かった、いいよ」
千歌「行こう、試合を観に」
―翌日・神宮外苑―
善子「こ、これは!?」
ガシャン――シュッ
善子「ス○ノ、オ○ワ、ノリ○ト……各球団のエースがびっしり」
梨子「どうかしら、これが都会のバッティングセンター」
梨子「いえ、バッティ○グドームよ!」
善子「ドーム――か、カッコいい……」
梨子「もちろんピッチングに、卓球まであるわ!」
善子「おぉ!」
梨子「この後は水道橋の野球殿○博物館、それが終わったら秋葉原に直行よ!」
善子「秋葉原、堕天使グッズまで買える……」
善子「最高よ、貴女は最高よ!」
善子「ぜひリリーと呼ばせて!」
梨子「そ、それはちょっと恥ずかしいかな」
善子「ちょ、急に素に戻らないでよリリー!」
梨子「あっ、結局呼ぶのね」
花丸「二人とも楽しそうだね」
ルビィ「う、うん」
花丸「よかった、元気になって」
ルビィ「そうだね」
花丸「でもここ、本当に凄い設備」
花丸「こんなに近代的な設備――まさに未来ずら~」
ルビィ「あはは」
ルビィ「花丸ちゃんも、楽しそうだね」
花丸「ルビィちゃん、楽しめてない?」
ルビィ「ううん、そんなことはない」
ルビィ「でもね、近くに神宮があるとどうしても思い出しちゃう」
ルビィ「もしかしたら、あそこへ行けるのかな」
ルビィ「一番上の舞台まで勝ち進んだら、さらにドームまで……」
ルビィ「そんな風に夢を見ていた、ここに来る前の自分のこと」
ルビィ「恥ずかしいよね、本当に」
ルビィ「昨日、あそこまではっきり言われても、仕方ないぐらい」
花丸「ルビィちゃん……」
善子「ちょっと、何を辛気臭い話してるのよ」
花丸「辛気臭いって」
善子「今はそれを忘れて、楽しむときでしょ」
ルビィ「そうだけど……」
善子「私だって、辛いわよ」
善子「反省しなきゃいけないこともたくさんある」
善子「でも今はその時じゃない」
善子「今後の為に必要なエネルギーを養うときでしょ」
善子「とにかく、馬鹿みたいにはしゃぎましょうよ」
花丸「……うん」
ルビィ「そ、そうだね」
善子「じゃあ早速打ちましょう」
善子「本物の投手と対戦できるみたいで凄いわよ!」
花丸「あはは」
ルビィ「善子ちゃん、子どもみたい」
善子「とりあえず私はスガ○に――」
梨子「ごめんなさい、そこは私の打席よ」
善子「じゃあオガ○――」
花丸「面白いフォーム、未来ずら~」
善子「ノ○モト――」
ルビィ「うゅ!」
善子「な、なんでよ~」
―某球場―
曜「開始前に間に合ったね」
千歌「うん」
曜「なんか変な感じ」
曜「昨日まであそこで試合してたなんて」
千歌「確かにね」
曜「それで、待ち合わせはどの辺の席だっけ――」
ダイヤ「お二人ともここですわ」
千歌「あっ、ダイヤさん」
曜「おぉ、バックネット裏特等席……」
ダイヤ「流石に女子の春季大会では人も少ないですからね」
ダイヤ「朝一番に来れば、余裕で座ることができました」
ダイヤ「しっかり三人分確保してあります」
曜「第一試合から見ていたんですか?」
ダイヤ「もちろん」
曜「本当に好きなんですね、野球」
ダイヤ「そりゃもう、私の生き甲斐ですからね」
こころ「あら、曜さん」
板本「おっ、本当だ――おーい」
曜「こころちゃん、板ちゃんも」
曜「すいません、ちょっと行ってきます」
ダイヤ「はい、私のことは気になさらず」
板本「おっ、11失点投手が来たぞ」
曜「あー、言ったなぁ~」
こころ「全く、相変わらず落ち着きのない……」
ダイヤ「千歌さんは行かなくてもいいのですか」
千歌「いやぁ、私はちょっと」
ダイヤ「まあ、仕方ないでしょう」
ダイヤ「あの三人は、μ’sとA-RISE効果で競技人口が増えた世代」
ダイヤ「その中でもトップ、つまり将来日本の女子野球界を背負う存在」
ダイヤ「気後れしてしまう気持ちも分かりますわ」
千歌「そうですよね」
千歌「私には関係のない、想像もつかないような世界の人たち」
ダイヤ「…………」
千歌「ダイヤさん、私たちの試合は観に来なかったんですか」
ダイヤ「いえ、もちろんいました」
ダイヤ「見守ってきたチームの、妹の晴れ舞台ですから」
ダイヤ「ただ、声をかけるタイミングを逃して」
ダイヤ「というか、正直に言えば雰囲気的にはばかられて……」
千歌「あはは、昨日はあんな感じでしたし」
ダイヤ「曜さん、割と温厚なイメージでしたが、あんな風に怒りを表に出すのですね」
千歌「私もあそこまで怒った曜ちゃんは初めて見たかもです」
ダイヤ「それだけ負けず嫌い、勝ちへの執念が強いということでしょうか」
千歌「勝ちへの、執念」
曜「すいません、お待たせしました」
ダイヤ「あら、話はもういいのですか?」
曜「練習中にあんまり話してるわけにもいかないので」
ダイヤ「それもそうですわね」
曜「散々煽られちゃいましたよー」
曜「昨日の投球は酷かったんで、仕方ないですけど」
ダイヤ「あら、それなのによく大人しくしていられましたわね」
ダイヤ「昨日の様子だと、怒り狂ってそうですのに」
曜「うっ、昨日の今日だと否定しずらい」
千歌(曜ちゃんとダイヤさん、楽しそうだな)
千歌(でも、私はグラウンドから目が離せない)
千歌(客観的に、この場所から練習を見ればわかる)
千歌(そこにいるのは、まるで別世界の人たち)
千歌(そりゃ勝てないよね、勝てるわけない)
千歌(昨日、改めてスコアブックを見た時の数字が忘れられない)
『0勝、0得点、0安打』
千歌(途方もない差を象徴するように並ぶ、0)
千歌(嫌でも見せつけられる、現実の数字)
千歌(鹿角姉妹が言っていたように、諦めた方がいいんだろうな)
千歌(全国とか、優勝とか、夢みたいな話は)
千歌(でもいいよね)
千歌(私は野球をしてたかっただけ)
千歌(μ'sみたいに、グラウンドで輝くために)
千歌(その輝きは、別に大舞台じゃなくても、手に入る――はず)
千歌(身の丈に合った世界で楽しめれば、それでいいんだ)
曜「……」
―東京某駅―
『まもなく○○番線に~』
千歌「あー、待ち合わせ時間過ぎちゃった」
ダイヤ「楽しんでいるのでしょう、いいことではありませんか」
ダイヤ「楽しむ気力があるなら、まだ安心できます」
千歌「そっか、それもそうですね」
曜「あっ、噂をしたら来たかも」
梨子「ごめん2人とも、遅れちゃって――」
善子「あっ」
花丸「ダイヤ、さん」
ダイヤ「みなさん、お疲れ様でした」
梨子「来てくれていたんですが」
ダイヤ「ええ」
花丸「じゃあ、試合も」
ダイヤ「もちろん見ていました」
ルビィ「お姉、ちゃん」
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「あ、あの」
ダイヤ「いいのです、言葉にしなくても」
ルビィ「う、うぅ」
ダイヤ「私は、分かっていますから」
ルビィ「ううぅ――」ダキッ
ダイヤ「よく、頑張りましたね」
ルビィ「うわぁぁ――ん」
花丸「ルビィちゃん……」
善子「ルビィ……」
千歌「……」
梨子「……」
―沼津・渡辺家―
曜「すみません、わざわざ送ってもらっちゃって」
美渡「ううん、気にしないで」
美渡「ついでだから、このぐらい大丈夫よ」
千歌「じゃあね曜ちゃん、また学校で――」
曜「あの、少し千歌ちゃんと二人で話してもいいですか」
千歌「曜ちゃん?」
美渡「大事な話?」
曜「はい」
美渡「分かった、じゃあ車で待ってるわね」
バタン
千歌「曜ちゃん、話って――」
曜「夏の予選まで、あと二か月と少しぐらいだね」
千歌「あっ、もうそんなに近いんだっけ」
曜「勝ちたいよね」
曜「勝って、今度こそ音ノ木坂や聖泉女子にリベンジしなきゃ」
千歌「いやぁ、でも流石に厳しいよ」
千歌「とりあえず、今年はそこそこ勝ち進む感じでさ」
千歌「来年地区の決勝を目指すとか、それぐらいが現実的じゃない?」
曜「……千歌ちゃん」
千歌「流石にさ、今回で思い知ったよ」
千歌「非現実的な理想を掲げても、無謀だって――
曜「ねえ、千歌ちゃん」
曜「悔しくないの?」
千歌「えっ」
曜「千歌ちゃんは、悔しくないの?」
千歌「え、いや、そりゃ悔しいけど、仕方ない部分は――」
曜「仕方ない!?」
千歌「っ」ビクッ
曜「私たち、負けたんだよ」
曜「その上で理亞って子にあんなこと言われて、何でそんな態度でいられるの」
曜「ゼロ、ゼロ、ゼロ――これが私たちの現実だよ」
曜「私は悔しい、悔しいよ」
曜「勝てなかった、手も足も出なかった」
曜「それどころかヒットすら打てずに、試合後には馬鹿にされて」
曜「それなのに千歌ちゃんは、全然悔しそうに見えない」
千歌「そ、そんなこと」
曜「あるでしょ」
曜「次は勝とう、リベンジしよう、そんな言葉も、態度も千歌ちゃんからは出てこない」
曜「それどころか、先に進むことを諦めてしまっているみたい」
千歌「それは……」
曜「ずっと違和感はあった」
曜「私が目指している舞台と、千歌ちゃんが目指している舞台」
曜「同じようで、どこか違う感じがして」
曜「でも一緒に野球をやりたいから、気づいても直視しないようにしてた」
曜「けどね大会中やその後、千歌ちゃんの態度を見て確信しちゃったんだ」
曜「そこには、大きなギャップがある」
曜「私と千歌ちゃんは、相いれない存在なんじゃないかって」
千歌「曜ちゃん?」
曜「ごめん、私は明日から練習行かない」
千歌「えっ」
曜「しばらく、部活は休むよ」
千歌「そ、それはあれだよね」
千歌「ちょっと疲れたから休むとか、そんな感じの」
曜「……どうかな」
曜「少し考えないと、分からない」
千歌「よ、曜ちゃん?」
曜「……ごめん」ダッ
千歌「ちょ、ちょっと待って!」
ガチャン
千歌「曜ちゃん、曜ちゃん!?」
曜『悪いけど、帰って』
千歌「えっ……」
曜『今は千歌ちゃんと話したくない』
曜『落ち着いたら、ちゃんと話すから』
千歌「曜ちゃん……」
―浦の星女学院・グラウンド―
善子「ちょっと、本当にやるの」
花丸「うん」
善子「でも、こんな時間にノックなんて」
善子「いくら照明があっても、疲れてるし」
花丸「いいからっ!」
善子「花丸、無理は駄目よ」
善子「怪我したら、どうしようもないわよ」
花丸「無理、しなきゃなんだよ」
花丸「マルは今までずっと、みんなの足を引っ張ってきた」
花丸「一番下手なのは、一番足を引っ張っているのは、間違いなくマル」
花丸「助っ人の三人よりも、ずっと下手なんだ」
花丸「今回の大会だってそう」
花丸「あんなにポロポロエラーしなきゃ、曜ちゃんが怒ることもなかった」
花丸「みんなだって、あんなに落ち込むことはなかった」
花丸「それに、ルビィちゃんが泣くことも……」
花丸「マルの所為で、チームが滅茶苦茶になってる」
花丸「みんなは初心者だから仕方ないって言ってくれる」
花丸「けどそれに甘えてちゃ駄目なんだ」
花丸「もうあんな思い、絶対にしたくない」
花丸「だから、だからっ――」
善子「分かった、分かったから」
善子「でもこの時間は本当に危ないわ」
善子「せめて素振りとかランニングとか、ボールを使わない事をしましょう」
花丸「でも――」
善子「いいからっ」
善子「あんたが怪我したら、またルビィは落ち込むわよ」
善子「あの子の事だから、きっとあんたの怪我も自分の所為だって抱えこむ」
善子「それでもいいの?」
善子「よくないでしょ」
花丸「それは……」
善子「守備はちゃんと人数が揃ってる時に、みんなと一緒にやればいい」
善子「普通の練習以外にもルビィにも声をかけて、明るい時間に三人で自主練すればいいでしょ」
善子「その方が効率もいいし、みんな練習にもなる」
花丸「う、うん」
善子「大丈夫、とことん付き合うわよ」
善子「私たちはまだ一年生」
善子「ちゃんと練習すれば、じきに上手くなるはずよ」
善子「焦る気持ちも分かるけど、少しずつ、一緒に頑張っていきましょう」
花丸「善子ちゃん……ありがとう」
善子「えっ、えっと――ヨハネよ」
―黒澤家―
ルビィ「…………」
ダイヤ「ルビィ、早く寝なさい」
ダイヤ「疲れを取るのも、アスリートには大切なことですわよ」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「やはり、試合のショックは大きいのですか」
ダイヤ「初公式戦があれでは、無理もありませんが――」
ルビィ「ううん、違うの」
ルビィ「考えてるのは、別のこと」
ダイヤ「別の?」
ルビィ「曜さんね、野球部を辞めちゃうかもしれない」
ダイヤ「曜さんが?」
ルビィ「うん」
ダイヤ「なぜ、そう思ったのですか」
ルビィ「……ずっとね、違うと思ってた」
ルビィ「他の皆と、見ている世界が、目指している場所が」
ルビィ「どこか噛みあわない部分があったの」
ルビィ「常に、どんな相手でも勝利を目指す曜さんと、他のみんな」
ルビィ「東京の大会、曜さんは全部勝つつもりで戦ってた」
ルビィ「けど他のみんなは、千歌さんは、最初から勝ちなんて考えてもなくて」
ルビィ「何とか善戦できればいい、楽しめればいいって」
ルビィ「それが、当たり前なんだけどね」
ルビィ「たぶんね、曜さんは耐えられない」
ルビィ「Aqoursの野球と、自分がやってきた野球とのギャップに」
ルビィ「でもね、それが分かっているのに、ルビィは何もできない」
ルビィ「曜さんの助けにも、千歌さんの助けにもなれない」
ルビィ「大切なチームの崩壊を、止められないの」
ダイヤ「そうですか……」
ダイヤ(それを感じ取れる)
ダイヤ(それはつまり、あなたも曜さんと同じ世界を垣間見ていたということ)
ダイヤ(恐らく、自分では気づいてはいないのでしょうが)
ダイヤ「大丈夫です、私が何とかします」
ダイヤ「時間はかかるかもしれませんが、任せてください」
ルビィ「本当?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「今までも、私はそうやって貴女を助けてきたでしょう」
ダイヤ「私を信じなさい」
ルビィ「……うん!」
ダイヤ「では早く休みなさい」
ダイヤ「明日からまた、部活は始まるのでしょう」
ルビィ「ありがとう、お姉ちゃん」タッタッタッ
ダイヤ(どうやら早急に、動き出さなければいけないようですね)
ダイヤ(もう悠長なことは言っていられません)
ダイヤ(問題は、野球部だけの事ではありませんから)ピラッ
【浦の星女学院、統廃合についてのお知らせ】
―某グラウンド―
コーチ「ラスト!」キンッ
曜「やっ」パシッ――シュッ
選手A「いいね!」パシッ
コーチ「OK、上がっていいわよ!」
曜「はい!」
曜「はぁ、疲れたぁ」
選手B「お疲れさん」
選手C「相変わらずいい動きしてるわね~」
曜「ありがとうございます」
選手B「今日はどうしたの、部活は休みとか?」
曜「まあそんな感じです」
選手C「あれ、そうなんだ」
選手C「私はてっきり、チームに戻ってきたのかと」
選手B「いやいや、流石に早いって」
選手B「少し心配ではあったけど、上手くやってんだろ」
曜「あはは、それなりに」
選手C「えー、期待して損したわ」
選手C「戦力的には曜ちゃんが居るといないじゃ大違いなのに」
選手B「まあ、帰ってきたかったらいつでも待ってるから」
曜「ありがとうございます」
曜「じゃあ私はこの辺で」
選手C「はーい」
選手B「お疲れさん~」
曜(……戻ってくると、安心するな)
曜(部活の練習を休むようになって数日)
曜(身体がなまらないように、監督に頼んでクラブチームの練習に混ぜてもらって)
曜(正直、物足りなさのあった部活より、しっくりくる)
善子母「渡辺さん」
曜「あっ、どうも」
善子母「大会、残念だったわね」
曜「……そうですね」
善子母「思ったより頑張ったんじゃないかしら」
善子母「二戦目はともかく、一戦目はコールド回避できるなんて驚いたわ」
曜「いや、勝てなかったし、負けは負けなんで」
善子母「勝つ?」
善子母「あの面子じゃ、それは絶対無理だわ」
曜「……」
善子母「気持ちは分からなくはないわよ」
善子母「貴女は今まで、困難な状況を何度も覆してきた」
善子母「その成功体験があるから、何とかなる気はしたんでしょ」
善子母「でもね、それは渡辺さん一人の力じゃない」
善子母「貴女よりは影響力は少なくても、微力ながらチームメイトの力もあってこそ」
善子母「あそこじゃ、浦の星じゃそれすら望めないもの」
曜「否定はできませんよ」
曜「たぶん、コーチの言うとおりでしょうから」
善子母「えらい素直になったわね」
善子母「よほどショックだったのかしら」
曜「誰の所為だと――」
善子母「そうね、ごめんなさい」
善子母「こうなると分かっていてそそのかしたのは私」
善子母「指導者――大人としてその点は謝るわ」
曜「コーチ……」
善子母「それで、戻ってくる気になったの?」
曜「こうなることまで、分かっていたんですか?」
善子母「そりゃね」
善子母「貴女が求める野球があそこにはないことは知っていたから」
善子母「早速練習に出る?」
曜「少し、考えさせてください」
善子母「分かったわ」
善子母「満足いくまで、ゆっくり考えなさい」
曜「ありがとうございます」
善子母「一応、理解してるわよね」
善子母「私が何度失礼な態度を取られてもあなたにやさしいのは、特別な才能を持っているからだって」
曜「ええ」
善子母「特別な才能を持つ人は、特別な場所で輝かなければいけない義務があるのよ」
善子母「それだけはちゃんと、理解しておいて」
―帰路―
曜「はぁ」
曜(ずっと千歌ちゃんと一緒に野球をやりたいと思ってた)
曜(それができれば、満足だって思ってた)
曜(でも、自分の本能的な部分がそれを否定する)
曜(勝ちたい、負けたくない)
曜(その為には、千歌ちゃんと一緒に野球をやっていたら駄目)
曜(矛盾した二つの感情に、心を乱される)
曜(浦の星で野球部を始めたのは千歌ちゃん)
曜(千歌ちゃんが望まないなら、私は無理やり自分の考えを押し通すことはできない)
曜(あの場所にいることは、出来ない)
ダイヤ「曜さん」
曜「へっ」
ダイヤ「練習、お疲れ様です」
曜「どうして、こんなところに」
ダイヤ「貴女を待っていたのです」
果南「少し、話があるからさ」
曜「果南ちゃんまで……」
ダイヤ「少し時間よろしいですか」
曜「えっと、その話で?」
ダイヤ「はい」
曜「サボりのお説教とかだったらまた今度に――」
果南「違うよ」
曜「違う?」
ダイヤ「今後の、浦の星についてです」
ダイヤ「野球部、そして学校全体について」
曜「は、はぁ」
―同刻・内浦海岸沿い―
千歌「はぁ」
千歌(気まずいなぁ、練習に出るのも)
千歌(曜ちゃんの件、ちゃんと説明ができていないまま)
千歌(みんな明らかに不審に思っているのに、適当に誤魔化して)
千歌(でも私も話せていないんだから、どうしようも――
??「ハァイ」
千歌「へっ」
??「あなた、高海千歌よね」
千歌「そ、そうですけど」
千歌(何この金髪の人)
千歌(喋り方も含めて、怪しい雰囲気がプンプンする)
千歌(一応、外国人ではなさそうだけど)
千歌「あの、私に何か?」
??「ええ、そうなの」
??「今、時間あるかしら」
千歌「えっと、時間――」
千歌(ど、どこかに連れ去られるとか)
千歌(逃げた方がいいのかな)
??「その様子だと問題なさそうね」
??「では来てもらいましょうか」グィ
千歌「へっ、ちょっとなにを――」
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「えっと……、部室?」
??「連れてきたわよ!」
ダイヤ「鞠莉さん、いらっしゃい」
千歌「ダイヤさん、この人知り合いですか?」
ダイヤ「……その反応、説明さえしてなさそうですね」
鞠莉「あー、忘れてた」テヘペロ
果南「相変わらずだね、鞠莉は」
鞠莉「あら果南、シャイニー!」ハグ
果南「おー、よしよし」ハグ
千歌「あのぉ」
ダイヤ「すみません、いつもこの二人はこんな感じでして」
千歌「あはは、仲良いんですね」
ダイヤ「ええ、私も含めて幼馴染ですので」
千歌「へぇ」
千歌(面識なかったけど、果南ちゃんは他にも幼馴染がいたんだな)
ダイヤ「今さらですが紹介します」
ダイヤ「この方は浦の星の新理事長で、アメリカへ野球留学をしていた小原鞠莉さん」
鞠莉「よろしくね~」
善子「ちょ、ちょっと待って」
花丸「理事長って、どういうことずら?」
鞠莉「そのままの意味よ」
梨子「ダイヤさんたちと同い年、なんですよね」
鞠莉「ええ、だから生徒も兼任の理事長」
善子「そんなの聞いたことないわよ」
花丸「ずら」
ルビィ「え、えっとね」
ルビィ「鞠莉ちゃん、世界的にも有名な大企業のお嬢様だから」
善子「お嬢様」
花丸「それは未来ずらね~」
梨子(何が未来なんだろう)
ルビィ「確か浦の星の経営にもかかわってるから、そんなにおかしい話ではないのかも」
ルビィ「元々、何でもありの変な人だし」ボソッ
鞠莉「あらルビィ、ずいぶん立派になったわね」ハグっ
ルビィ「ピギッ」
鞠莉「色々と成長して――小さいのは変わらないけど」ワシワシ
ルビィ「ピ、ピィ―――――」ダッ
ルビィ「マルちゃ~~~~ん」ダキッ
花丸「おー、よしよし、怖かったねぇ」ナデナデ
ダイヤ「鞠莉さん、妹をからかうのもほどほどにしてくださいまし」
鞠莉「ごめんごめん、可愛いからつい」
ダイヤ「まあとにかく、全員揃いましたわね」
花丸「あの、曜さんは?」
ダイヤ「少し、お休みしています」
ダイヤ「東京でずいぶん疲れてしまったようなので」
善子「そうなの?」
ダイヤ「ええ」
花丸「それで最近の練習休んでたんだ」
ダイヤ「さて、本題に戻りますが」
千歌「はい」
ダイヤ「今日、皆さんに集まっていただいたのは、ある大事なお話があるからです」
千歌「大事な」
梨子「お話?」
善子「それはそこの鞠莉さんが理事長になったのと、何か関係があるの」
鞠莉「もちろん」
鞠莉「私が理事長兼任として戻ってきたのは、学校を救うためだから」
千歌「学校を、救う?」
ダイヤ「……皆さんには話していませんでしたね」
ダイヤ「現在、この学校には統廃合の話が持ち上がっています」
梨子「えっ……」
鞠莉「相手は、沼津にある高校よ」
千歌「それは聞いたことあるけど、噂だって」
ダイヤ「今年の新入生の数が、例年にも増して少なかった為、話が進行したのです」
鞠莉「新入生が一クラス分も確保できない現状では、仕方のないことだけどね」
鞠莉「一応、今は私が新理事長としてその話を遅らせている状態」
千歌「でも、何で私たちにその話を?」
鞠莉「簡単な話よ」
果南「野球で廃校を覆して、学校を救うためだよ」
善子「野球で廃校を覆して」
花丸「学校を」
ルビィ「救う?」
鞠莉「ええ」
ダイヤ「実は2年前、既にこの学校には廃校の話が持ち上がっていました」
鞠莉「それを聞いた私たち3人は部を設立したのよ」
果南「人気上昇中の女子野球で有名になれば生徒が集まる、そう思ってね」
ダイヤ「鞠莉さんと果南さんの力もあり、私たちは創部間もなく頭角を現します」
千歌「ダイヤさんもいたんですか」
ダイヤ「もちろんです」
ダイヤ「2人のように、特別に上手なわけではないですけどね」
ダイヤ「まあその野球部は、私の実家の事情もあり、大手を振って活動はできませんでしたが」
果南「周囲にばれないように、出来るだけこっそりと」
果南「他の助っ人や先輩も含めて集まって、鞠莉の家ので練習したりさ」
ダイヤ「両親が野球に関心がないのも幸いでしたわ」
鞠莉「でもね、静岡県予選を目前にしたところで事故が起きた」
鞠莉「念願の大会直前の練習試合」
鞠莉「当時キャッチャーだった私が、クロスプレーで負傷したの」
果南「投手だった私の球を捕れる人は、他にいなかった」
果南「さらに悪いことは重なって、黒澤家に部活のことがばれちゃったんだよ」
ダイヤ「そして私は部を退部させられました」
ダイヤ「二度とプレーをしないという近いと共に」
ルビィ「……」
千歌「そんな……」
ダイヤ「約束を破ったのは私、仕方のないことです」
ダイヤ「それに、悪い話ばかりではなかったのですよ」
ダイヤ「退部以降、多少ガス抜きをするためにと、観戦については両親ともに寛容になりました」
ダイヤ「そのおかげでさらに野球に詳しくなり、曜さんの存在を認知出来て、野球部の再興に繋がったのです」
果南「その時は色々あって、統廃合の話も立ち消えになったしね」
鞠莉「私と果南もね、ダイヤから話を聞いて新生Aqoursの事は気にかけていたのよ」
千歌「新生Aqours?」
善子「どういうこと?」
梨子「Aqoursって、元々あったチーム名だったんですか」
果南「そうだよ、私たち3人で野球部を作った時にも使っていた名前」
ダイヤ「最初に聞いたときは驚きましたわ」
ダイヤ「いったい、誰がこの名前付けてくれたのでしょうね」チラッ
ルビィ「……」フィ
千歌「あっ」
千歌(それで、ルビィちゃんは)
ダイヤ「つまり話というのは、皆さんへのお願いです」
ダイヤ「何とか全国大会で、優勝してほしいという」
花丸「全国優勝って」
善子「最近強豪校相手にあんな試合をしたばかりなのに」
ダイヤ「もちろん全力で支援はするつもりです」
ダイヤ「優勝すれば、入学希望者などいくらでも集まります」
ダイヤ「例え少なくても、窮状を知ったファンからの寄付金も期待できる」
ダイヤ「優勝して、学校を救う」
ダイヤ「その為には、協力を惜しみません」
千歌「でも、私たちが優勝できるとはとても」
ダイヤ「大丈夫です」
ダイヤ「みなさん、きちんと練習すれば上達します」
ダイヤ「すぐには無理でも、0を1へ、1を10へと積み重ねていくことはできる」
千歌「0から、1へ」
ダイヤ「もちろん、それだけではなく――」
果南「私たち三人も」
鞠莉「野球部に入りま~す」
千歌「だ、ダイヤさん達が!?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「現実的に考えれば、確かに優勝は厳しい」
ダイヤ「強豪相手に手も足も出なかった現有戦力だけではなおさらです」
ダイヤ「しかし私はともかく、果南さんと鞠莉さんは全国クラスに匹敵する選手」
ダイヤ「Aqoursには元々、全国でも戦えるレベルの投手が存在するのです」
ダイヤ「私たちが加われば、可能性が0とは言えないでしょう」
ルビィ「でもお姉ちゃん、野球は禁止されてるんじゃ」
ダイヤ「この夏だけ許可を頂けました」
ダイヤ「お母様は私の野球への情熱を買って」
ダイヤ「お父様も全国大会優勝者の肩書を手に入れると誓ったら、折れてくださいましたわ」
千歌「全国大会――」
梨子「優勝――」
ダイヤ「優勝です」
ダイヤ「黒澤家に敗北の二文字は許されません」
鞠莉「私と果南が戻ってきたのも、ダイヤが復帰できることが決まったから」
果南「一緒に失ったあの時を取り戻し、大切なもの守り抜くために」
ダイヤ「廃校を阻止するためには、冬の大会で結果を残すのでは遅い」
ダイヤ「夏に結果を出さなければおしまいです」
ダイヤ「これから求められるのは、勝利のための野球」
ダイヤ「楽しむ、それだけではいけません」
ダイヤ「辛い想い、苦しい想い、することは何度もあるでしょう」
ダイヤ「それでも、あなた達は協力してくれますか」
ダイヤ「一緒に、私たちと夢を追っていただけますか」
千歌「……私、やるよ」
ダイヤ「千歌さん」
千歌「私だって、本当は悔しかった」
千歌「負けたのも、何もできなかったのも、言葉で現実を突きつけられたのも」
千歌「でも現実に立ち向かうのが怖くて、不可能だって逃げて」
千歌「それで無意識の内に、仲間を苦しめて」
千歌「本当は怖いよ」
千歌「ただ普通に、野球を楽しんでいたい」
千歌「でも母校の廃校、お世話になったダイヤさんの立場」
千歌(そして、曜ちゃんのこと――)
千歌「それらがあれば、頑張れる気がする」
千歌「0から1へ、一歩を踏み出せる気がする」
千歌「梨子ちゃんも、一緒に目指してくれるよね」
梨子「もちろん」
梨子「私は最初からその気よ」
花丸「マルも頑張る!」
善子「私だって!」
花丸「ルビィちゃんも、だよね」
ルビィ「うん!」
ダイヤ「ありがとうございます、みなさん」
ダイヤ「さて、ということですがどうしますか――曜さん」
梨子「えっ」
千歌「曜ちゃん?」
ガチャ
曜「……」チラッ
千歌「曜ちゃん……」
善子「隠れてるなんて趣味悪いわよ」
曜「うん、ごめん」
花丸「心配してたんだよ、みんな」
善子「でもよかったわ、無事で」
善子「曜さんもいれば、今の話もあながち世迷い言とも言い切れないもの」
曜「いやその、私は……」
千歌「曜ちゃん」ガシッ
曜「千歌ちゃん……」
千歌「一緒にやろう」
千歌「私、もう逃げない」
千歌「本気で勝ちたい、勝って廃校を阻止したい」
千歌「だからお願い、力を貸して」
曜(千歌ちゃん、真剣な顔)
曜(本気なんだな、きっと)
曜(でも私は、私は――――)
曜「……分かったよ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「正直、まだモヤモヤが晴れたわけじゃない」
曜「でもやっぱり私は、千歌ちゃんと一緒に野球をやりたい」
曜「一緒に頂を目指したい」
曜「だから、やるよ」
千歌「うん、ありがとう!」
善子「なによ2人とも、喧嘩でもしてたの」
千歌「ううん、たいしたことじゃないよ」
善子「でも、今のは――」
梨子「善子ちゃん空気を読んで」ガシッ
花丸「そうずら」ガシッ
善子「ちょ、離しなさいよ!」
ルビィ「善子ちゃん、黙るビィだよ」クチフサギ
善子「むー」
果南「やれやれ、騒々しいね」
鞠莉「いいじゃない、これぐらい元気があるほうが」
ダイヤ「そうですよ、私たちは野球部なのですから」
果南「まあ、それもそうか」
ダイヤ「何はともあれ、これで正式な部員が9人揃いました」
ダイヤ「ある意味で、Aqoursが完成した日」
ダイヤ「きっとこれから、数多くの困難が待ち受けているでしょう」
ダイヤ「でもそれらはを全員で一緒に乗り超えていく」
ダイヤ「その為によろしくお願いしますわね、みなさん」
ダイヤ以外「「「おー!」」」
ここで前編完結ということで、一区切り――いったん投稿を中断させていただきます
理由は単純で、少し書き溜めてから投稿しないと量的に辛そうということ
最初の練習試合後ぐらいから書き溜め無しでやっていたのですが、流石に色々と厳しい感じで……
物語自体は最後まで構築済みなので、そんなに時間はかからないはずです
遅くとも野球のCSが始まる前ぐらいには再開できればと考えています
残りの量や空白期間から考えて、続きは新しいスレッドで投稿する予定です
疑問点や質問などはここに投げておいていただければ、可能な範囲で再開後に解説、回答します(今日中ならここで出来るかもです)
以下補足
○○代表~的な表記がありますが、これについては
日本代表>代表候補>年代別代表>年代別代表候補
のという感じの差があります
各自能力値
(あくまで基準値。ゲームではないので、常にその通りの力を発揮できるわけではないです)
見方
野手能力 弾道 ミート パワー 走力 肩力 守備力 捕球 利き手(投打の順) ポジション
投手能力 球速 コントロール スタミナ 変化球
表記はG~A(最高でSもあり、特殊能力はAまで)で、Gに近いほど低く、Aに近いほど高い
特殊能力欄はほぼ表記のまま受け取っていただければ
球速はMax 120で男子の140、130で150ぐらいの凄さ
基本的に伸びしろは学年が下の方があります
ただ伸び方には個人差はあります
(基礎ができている善子とルビィは伸びやすく、運動が苦手な花丸は伸びにくいなど)
Aqours(前編終了時点)
ダイヤ:弾道2 ミD パG 走D 肩E 守D 捕D 右左 左(ニ・遊・中)
アベレージヒッター 流し打ち いぶし銀 逆境○ チャンスA 粘り打ち
鞠莉:弾道3 ミD パB 走D 肩C 守C 捕D 右右 右(捕・一)
悪球打ち 連打
果南:弾道4 ミE パA 走B 肩A 守E 捕E 右右 三(投・左)
:球速138 コンG スタS
強振多用 積極打法 プルヒッター 送球E 扇風機 盗塁F 走塁E
四球 短気 闘志
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C 右右 捕(一・三)
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕C 右右 投/遊
:球速134 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
速球中心 テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D 右右 投(左)
:球速117 コンC スタC カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB
ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩E 守C 捕E 右左 二(遊)
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスE エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パE 走C 肩E 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守F 捕E 右右 一
エラー バント○
善子:弾道2 ミD パE 走D 肩E 守D 捕D 右右 中(遊・右・左)
選球眼 悪球打ち 意外性
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F 右右 三
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F 右右 中(左)
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F 右右 右(中)
μ’s
こころ:弾道2 ミA パE 走D 肩C 守S 捕S 右右 捕
キャッチャーA チャンスB 流し打ち 人気者
板本:弾道3 ミB パC 走C 肩B 守A 捕C 右右 遊(一・ニ・三)
チャンスB 流し打ち 固め打ち 広角打法 人気者
ここあ:弾道2 ミE パE 走D 肩C 守B 捕C 右右 投
:球速126 コンC スタC 高速スライダー5 シンカー1 フォーク1
対左C ピンチB
笠野:弾道4 ミG パB 走F 肩A 守E 捕E 右右 投
:球速137 コンF スタC カーブ2 チェンジアップ2
速球中心 短気 乱調 四球 重い球 闘志
Saint Snow
聖良:弾道4 ミD パA 走D 肩A 守C 捕C 右右 投(一・右)
:球速135 コンD スタS スプリット5 カーブ2
パワーヒッター 威圧感 人気者
重い球 キレC 打たれ強さE
理亞:弾道2 ミC パD 走B 肩C 守B 捕C 右左 捕(左・中・右)
キャッチャーB チャンスメーカー 三振 チャンスE エラー
間宮:弾道3 ミE パD 走C 肩S 守A 捕D 右右 遊(投・ニ・三)
:球速130 コンE スタD カーブ2 スライダー2
守備職人 バント職人 チャンスE 粘り打ち
柳澤:弾道4 ミB パB 走B 肩B 守E 捕E 左左 中(右)
三振 パワーヒッター
乙
ついに3年組も加入か
鞠莉ちゃんが捕手もやれるのは助かるな
果南は変化球皆無なのね
後半も気長に待ってます
おつ
1期9話の途中まできた感じか
9人の試合が早く読みたいww
元スレ
ダイヤ「……まあ、過ぎたことは仕方ありません」
ダイヤ「出場するからには、頑張ってください」
ダイヤ「おそらく、応援へは行く予定ですので」
千歌「は、はい」
ダイヤ「……ルビィ」
ルビィ「は、はい」
ダイヤ「なにがあっても、気持ちを強く持つのですよ」
ルビィ「うゅ?」
417: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:25:05.32 ID:7DyGwOWR.net
ダイヤ「これは皆さんにも言えることです」
ダイヤ「しかし、心の弱い貴女は特に心に留めておきなさい」
ルビィ「う、うん」
善子「どういう意味よ」
花丸「分からないよ」
ダイヤ「では、私は生徒会の仕事があるので失礼しますわ」
ダイヤ「書類が完成したら、生徒会室へ持ってきてくださいね」
曜「了解であります!」
ダイヤ「では――」ガララ
418: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:26:11.08 ID:7DyGwOWR.net
梨子「なんか、意味深な感じだったね」
曜「だね」
千歌「まあともかく――きました、正式な書類!」
曜「待ってました!」
梨子「内容はどんな感じ?」
千歌「えっと学校名、部員数――チーム名?」
ルビィ「えっと、女子は男子と差別化するために、チーム名をつけるんです」
千歌「へぇ」
419: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:27:27.20 ID:7DyGwOWR.net
曜「そういや、前の日中高校はドラゴンズっていうらしいね」
善子「ドラゴン――なんか格好いい!」
ルビィ「でも、同じチーム名は駄目だよ」
善子「えー、何でよ」
ルビィ「ただでさえ同地区なんだから、紛らわしいもん」
梨子「そもそも私たちにはドラゴンとか似合わないでしょ」
花丸「そんな迫力、どこにもないずら」
善子「えー、でも曜さんとか――」
梨子「いやー、でも曜ちゃんの場合」
ルビィ「ドラゴンというより」
千歌「猫?」
420: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:29:07.35 ID:7DyGwOWR.net
曜「な、なんでそうなるのさ」
千歌「気まぐれなところとか」
梨子「性格が面倒なところとか」
ルビィ「勝手にどこか行っちゃうところとか」
花丸「動いているボールに何でも反応しちゃうところとか」
曜「よ、善子ちゃん~」にゃー
善子「あー、よしよし」
善子(案外寂しがり屋で甘えん坊なところとか)
善子(目もそれっぽい吊り目だし)
花丸「でも善子ちゃんも猫っぽいとこあるよね」
善子「にゃっ」
421: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:29:59.13 ID:7DyGwOWR.net
千歌「まあ猫ちゃんたちはともかく――早速案を出し合っていこう!」
千歌「まずは曜ちゃん!」
曜「えっと、そうだね」
曜「無難に野球少女隊とかどうかな」
千歌「却下!」
曜「えー、何でさ」
千歌「ダサいから、あと昭和」
曜「ぶーぶー」
422: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:30:29.22 ID:7DyGwOWR.net
千歌「お次は――善子ちゃん」
善子「フッ、決まっているわ」
善子「その名はヨハネリトル――
千歌「次は花丸ちゃんね」
善子「ちょっと!」
千歌「なにさ」
善子「せめて最後まで言わせなさいよ!」
千歌「時間の無駄だよ」
423: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:31:03.62 ID:7DyGwOWR.net
花丸「善子ちゃん、諦めるずら」
花丸「頭おかしいいつものは置いておいて、後はマルに任せて」
千歌「おお、自信あり?」
花丸「ふふっ、これでもゲームだけじゃなくて本も読むからね」
花丸「文字については任せるずら!」
曜「な、なんかプレー中には感じられないオーラを感じる」
ルビィ「マルちゃん、実際文字には強いんですよ」
424: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:31:51.43 ID:7DyGwOWR.net
千歌「それで、どんなチーム名?」
花丸「いくつか候補があって――」
花丸「一つ目がモグラ○ズ」
善子「はい?」
花丸「あと、ホッパ○ズ」
花丸「一応、パワ○ルズとかもあるずら」
善子「色々と直球すぎるわよ!」
ルビィ「しかもパクリばかり……」
善子「私より普通に酷いじゃない」
425: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:32:22.91 ID:7DyGwOWR.net
千歌「えっと、ルビィちゃんは?」
ルビィ「えー――キャンディーズとか?」
千歌「なんか芸人みたいだから駄目」
ルビィ「ピギィ……」
曜「ちなみに千歌ちゃんは何か案があるの?」
千歌「みかんーず」
梨子「論外」
千歌「えー」
梨子「今までで一番あり得ない名前だわ」
426: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:33:26.58 ID:7DyGwOWR.net
千歌「……そこまで言うなら、梨子ちゃんは素晴らしい案を持っているんだよね」
梨子「へっ」
千歌「やっぱりこういうのは東京出身のセンスがある子じゃないとね」
千歌「というわけで、よろしく!」
梨子「え、えっと……」
千歌「えっと?」
梨子「ナインマーメイド、とか?」
「「「…………」」」
427: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:34:16.24 ID:7DyGwOWR.net
千歌「それ、本気で言ってる?」
梨子「え、えっと」
千歌「もし本気だとしたら、私は梨子ちゃんのこと軽蔑する」
梨子「……ごめん、忘れて」
曜「千歌ちゃん怖いよ、抑えて」
ルビィ「うゅゅ」ササッ
花丸「わっ、ルビィちゃん」
曜「ルビィちゃんも怯えて花丸ちゃんの後ろに隠れちゃったし」
428: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:34:57.73 ID:7DyGwOWR.net
千歌「だって、ろくな案がないんだもん!」
梨子「千歌ちゃんも含めてでしょ」
千歌「このままじゃ埒があかないから、誰かいい案を――
ルビィ「Aqours……」
千歌「ふぇ?」
花丸「ずら?」
曜「ルビィちゃん?」
ルビィ「Aqoursは、駄目ですか」
429: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:36:40.98 ID:7DyGwOWR.net
花丸「ルビィちゃん、その名前――」
ルビィ「……」コクッ
善子「アクア?」
ルビィ「えっと水にかけた造語なんだけど」サラサラ
ルビィ「ここは海に近い学校だし、そういうのもいいかなって」
曜「へぇ、いいじゃん」
千歌「何か私たちらしい感じがする!」
善子「そう、それはまさに――」
花丸「それ以上は言わせないずら」
梨子「でもこれは、決まりね」
千歌「よーし、私たちは今日からAqoursだ!」
430: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:38:50.02 ID:7DyGwOWR.net
※
―東京・某ホール―
千歌「来たぞ、東京!」
千歌「目指すは聖地――
曜「神宮球場!」
千歌「あれぇ」ガクッ
千歌「そこはアキバドームでしょ!」
曜「いやほら、歴史が違うよ」
千歌「そりゃそうかもだけどさ……」
431: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:39:37.81 ID:7DyGwOWR.net
ザワザワ
梨子「その前に抽選会だね」
千歌「くじは誰が引く?」
曜「そりゃ千歌ちゃんでしょ、キャプテンなんだし」
千歌「えー、でも不安だよぉ」
善子「仕方ないわね」ジャラ
千歌「な、なにそれ」
善子「私が念を込めた、このお守りをあげるわ」
梨子「何よこの黒い物体……」
曜「見るからにヤバそうなんだけど……」
432: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:41:19.65 ID:7DyGwOWR.net
善子「いやいや、せめて梨子さんは信じてよ!」
善子「イップスを治してあげた仲でしょ」
梨子「まあ、そうなんだけど」
梨子「あの後、変な占いみたいなのを色々薦められるから、若干不信感が」
善子「な、なんでよ~」
ルビィ「善子ちゃん、可哀想」
花丸「受け入れてくれる相手には、調子に乗っちゃうタイプだから、仕方ないよ」
ルビィ「……花丸ちゃんも、似てるとこあるよ」
花丸「ずらっ!?」
433: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:42:04.78 ID:7DyGwOWR.net
千歌「ま、まあ、せっかく用意してくれたんだから、ありがたくいただくよ」
曜「そうだね、どうせ抽選結果には関係ないだろうし」
梨子「ええ、ごちゃごちゃ言われるよりはマシだわ」
梨子「さっきから、周りの視線が集まって恥ずかしいし」
善子「だ、駄目よ」
善子「そんな姿勢では、運命は手に入らないわ!」
花丸「善子ちゃん」
ルビィ「ちょっと黙るビィ」
434: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:43:02.21 ID:7DyGwOWR.net
係員「浦の星女学院さんは次にお願いします」
千歌「あっ、はい」
千歌(確かにこのお守りは怪しい雰囲気満点)
千歌(だけど得体の知れない力を感じるのは事実なんだよね)
千歌(何だろう、謎の迫力みたいな?)
千歌(外れることも多い善子ちゃんのオカルト)
千歌(けど案外、信じていればプラスの効果も少なくない気もする)
435: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:43:56.00 ID:7DyGwOWR.net
係員「ではくじをどうぞ」
千歌「あっ、はい」
ガサガサ
千歌(あれ)
千歌(凄い、勝手に手が導いてくれる)
千歌(まるで、良いくじに吸い寄せられるように)
千歌(これ、これを引けば――)
ガタッ
千歌(あれ、手前にも――ついこっちを引いて)
436: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:45:49.34 ID:7DyGwOWR.net
ワッ
千歌「えっ」
『浦の星女学院、グループAに入りました』
曜「相手は、音ノ木坂学院と函館聖泉女子高等学院」
むつ「あちゃー」
よしみ「これは」
いつき「やっちゃったね」
ルビィ「ゆ、優勝候補が固まった最悪の組……」バタン
花丸「ルビィちゃん!」
437: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:46:45.54 ID:7DyGwOWR.net
千歌「そ、そんな~」
善子「あ、あれ」
花丸「善子ちゃんの変なお守りの所為ずら!」
善子「し、知らないわよぉ」
曜「でも強敵とできるなんて、最高のくじだね!」
曜「千歌ちゃん、流石だよ!」
花丸「そんなポジティブでいられるのは曜さんだけずら……」
善子「まったくよ……」
438: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:48:35.27 ID:7DyGwOWR.net
千歌「ごめん、ヤバいの引いちゃった」
曜「気にしないで――ねっ、梨子ちゃん」
梨子(音ノ木坂……)
千歌「梨子ちゃん、大丈夫?」
曜「顔色、凄く悪いよ」
梨子「……ええ」
千歌「もしかして、音ノ木坂と当たること意識しちゃってるのかな」ヒソヒソ
曜「確かに、色々あったみたいだしね」ヒソヒソ
439: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:49:47.38 ID:7DyGwOWR.net
千歌「だ、大丈夫」
千歌「私たちはこれまでチーム結成から全勝だよ」
千歌「この試合も、勝てはしなくても何とかなるって」
善子「そ、そうよね」
善子「負けて元々、成長のためのはむしろ全国トップとやれるのは悪くない話よね」
花丸「まあ、そうだよね」
花丸「これ以上、善子ちゃんを責めるのも可哀想だし」
千歌「そうそう」
440: 名無しで叶える物語 2018/08/27(月) 12:51:59.01 ID:7DyGwOWR.net
千歌「3チーム中、2チームがトーナメントに上がれるグループ」
千歌「どっちかに勝てれば、上へはいけるわけだし」
千歌「だから元気出してね、梨子ちゃんも」
梨子「……うん」
千歌「よーし、初戦は音ノ木坂戦、頑張ろう!」
よしまる「おー!」
曜「…………」
ルビィ「曜さん?」
曜「……ごめん、気にしないで」
ルビィ「は、はい」
448: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:30:56.63 ID:2JL3I46V.net
―音ノ木坂学院戦・当日―
ルビィ「わーい、綺麗な芝生だよぉ」ボフッ
花丸「本当だね~」ボフッ
善子「ちょっと、あんたたち恥ずかしいわよ」
花丸「ぶー、善子ちゃんノリ悪いよ~」
ルビィ「気持ちいいよ、一緒においでよ」
善子「そ、そうね」ボフッ
449: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:32:37.39 ID:2JL3I46V.net
梨子「ああもう、善子ちゃんまで」
曜「そういや、ちゃんとしたグラウンドでの試合初めてだっけ」
梨子「言われてみると、そうかも」
曜「それならはしゃぎたくなる気持ちも分かるよ」
曜「最初に芝の球場で野球をした時は感動したもん」
曜「よし、私も混ざってきちゃおうかな~」
梨子「それは流石に止めようね」
千歌「あはは――でも流石は東京の球場」
千歌「凄く整備されていて、綺麗だね~」
450: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:33:29.24 ID:2JL3I46V.net
??「ははっ、カッペ丸出しだな」
梨子「っ」
千歌「えっと、貴女は?」
??「私? 私は――」
曜「板ちゃんじゃん、何してんの」
??「知り合いがいるから、試合前に挨拶と思ってさ」
千歌「あの、音ノ木坂の選手だよね」
曜「ああ、千歌ちゃんは知らないんだっけ」
曜「この人は板本さん、私と同じ日本代表候補」
451: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:34:39.65 ID:2JL3I46V.net
板本「私のこと、知らない同年代がいたんだな」
曜「千歌ちゃん、あんまり詳しくないからさ」
千歌「す、すいません」
板本「ふーん、まあいいや」
板本「でもビックリした、曜が高校野球を始めるなんて」
曜「いやー、ちょっと事情があってさ」
板本「気まぐれだもんな、お前」
曜「うーん、最近よく言われるから否定しにくいなぁ」
452: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:35:26.14 ID:2JL3I46V.net
板本「でもありがたいよ」
板本「代表でポジションを取られたリベンジをここで出来るなんてな」
曜「えー、お手柔らかに頼むよ」
曜「こっちは創部間もない野球部なんだからさ」
板本「それでも、お前が投げたらそう簡単に点は取れねえだろ」
板本「正直今年のチーム、速球に強くない奴だらけだし」
曜「いやいや、私は先発じゃないから」
板本「はっ?」
曜「基本リリーフだもん、このチームでは」
453: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:36:21.75 ID:2JL3I46V.net
板本「じゃあ先発では誰が投げるのさ」
板本「外野で転がってる可愛い連中はなさそうだし」
板本「もしかして、このボケっとしたオレンジちゃん?」
千歌「いや、私はキャッチャーで」
板本「マジかよ、つまり投手は――」
板本「さっきから黙ってる、そのバッティングピッチャーかよ」
梨子「……」
曜「ちょっと、その言い方は」
板本「仕方ないだろ、事実だったんだから」
454: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:37:52.11 ID:2JL3I46V.net
板本「鳴り物入りで入ってきたのに、すぐにイップスで投げられなくなって」
板本「たまに練習で投げても小学生みたいなボール」
板本「どう頑張っても、バッピにしかなりゃしない」
板本「結局、最後には野手に転向して、気づいたらいなくなってた」
板本「そんな奴だぞ、こいつ」
梨子「……」
板本「少しはまともな球、投げられるようになったのか」
板本「レベルの高い試合をできるはずの大会なんだ」
板本「初戦から大差コールドは勘弁だぞ」
455: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:40:08.32 ID:2JL3I46V.net
曜「ちょっとその辺にしといてよ」
曜「おかげで空気が最悪なんだけど」
板本「悪い、色々思うところがあってつい」
板本「私そろそろ行くわ――お互い頑張ろうな」タタッ
曜「ごめんね、口の悪い奴で」
梨子「……あの人は、そんなに悪い人じゃないわ」
梨子「昔も私によく気を遣ってくれた」
梨子「ただ素直に、思ったことを口に出しちゃうだけ」
456: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:40:36.76 ID:2JL3I46V.net
梨子「見返すには、結果を出すしかない」
梨子「見ていて、二人とも」
梨子「私は音ノ木坂を、μ’sを抑え込んで、自分の過去を払拭する」
千歌「……うん、その意気だよ!」
よしみ「おーい、三人とも」
いつき「話しているのもいいけど」
むつ「早くしないと練習時間終わっちゃうよ」
千歌「あっ、ごめん」
457: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:41:47.97 ID:2JL3I46V.net
千歌「それにしても、今日の相手の先発……」
バンッ
花丸「わっ」
ルビィ「な、何の音?」
???「……」シュッ
バンッ
???「ナイスボール、ここあ」
458: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:42:56.56 ID:2JL3I46V.net
千歌「ふぇぇ、曜ちゃんほどじゃないけど早いねぇ」
ククッ――バンッ
花丸「なにあのスライダー……」
善子「む、無理よ、あんなの」
曜「矢澤姉妹、健在だね」
千歌「えっと、ダイヤさん情報によると」
『日本代表候補の捕手である矢澤こころと、その双子の妹ここあのバッテリー』
『120キロ台中盤から後半のストレートと、切れ味鋭いスライダーが武器』
千歌「だって」
459: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:44:42.60 ID:2JL3I46V.net
ルビィ「ちなみにあの二人、初代μ’sの主将だった矢澤にこさんの妹さんたちです」
千歌「マジで!?」
ルビィ「はい」
千歌「どうりで小さいと思った……」
曜「そこなんだ」
ルビィ「曜さんはこころさんと、年代別代表でバッテリーを組んだことがありますよね」
曜「そうだね」
曜「凄く頭のいい選手で、色々助けられた記憶があるよ」
曜「ここあちゃんも代表とは縁がないけど、対戦したことは何度かある」
460: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:45:35.38 ID:2JL3I46V.net
曜「まあ、私は得意なタイプだけどね、ここあちゃんみたいな本格派」
善子「ちなみに苦手なタイプは?」
曜「梨子ちゃんみたいな球種の多いタイプ」
曜「なんか感覚が狂うんだ」
千歌「今年の音ノ木坂は、凄く強いんだっけ」
ルビィ「はい」
ルビィ「昨年、冬の全国大会で優勝」
ルビィ「今年も夏と冬、それぞれ優勝候補の筆頭にあげられています」
461: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:46:45.26 ID:2JL3I46V.net
ルビィ「今年は、今の仕組みになってから10回目の記念大会」
ルビィ「今の音ノ木坂は、それに向けて全国から選手をかき集めた世代です」
ルビィ「だから3年と2年には例年以上の戦力が整っています」
ルビィ「投手はここあさんと三年で130キロ台中盤の速球が武器の笠野さんの二枚看板」
ルビィ「野手も板本さんは日本代表候補」
ルビィ「さらに長崎選手や岡野選手、村田選手など、年代別代表候補クラスが揃っています」
ルビィ「その中でもこころさんは二年生ながらキャプテンにして、実質監督に近い立場」
ルビィ「まさに司令塔であり、精神的主柱ですね」
千歌「精神的、シチュー?」
善子「意味、全然分かってなさそうね」
花丸「千歌さんには関係ない話ずら」
462: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:48:25.52 ID:2JL3I46V.net
千歌「まあともかく、最強のチームってことでいいんだよね」
ルビィ「はい」
千歌「それならいい勝負をすれば、私たちもそれなりのレベルってことでしょ」
ルビィ「たぶん、そうなりますね」
千歌「じゃあ目標は、コールド回避とか?」
花丸「確かにその辺りが無難かも」
善子「まあ、いいんじゃないかしら」
千歌「確か5~6回で10点、7~8回だと7点だったっけ」
千歌「ひとまず、それは回避できるぐらいに抑えて――」
463: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:49:12.87 ID:2JL3I46V.net
曜「駄目だよ!」
千歌「曜ちゃん?」
曜「最初から負けるつもりで挑むなんて、絶対に」
曜「勝つんだよ」
曜「どんな相手だとしても、勝つつもりで挑まないと!」
ルビィ「そ、そうですよ」
ルビィ「最初から諦めるなんて駄目です!」
ルビィ「あれ、でも音ノ木坂に勝つ――想像したら……」バタン
花丸「る、ルビィちゃん、試合前に気絶はマズいずら!」
464: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:49:47.55 ID:2JL3I46V.net
千歌「で、でもそうだよね」
千歌「勝つ気でいかなきゃだよね!」
曜「その意気だよ!」
曜「私はどんな相手にも負けたくない」
曜「同じ高校生なんだ、きっと勝てる」
曜「勝てる、はずなんだよ」
千歌「よーし、じゃあ皆行くよ!」
全員「「「うん!」」」
465: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:50:45.01 ID:2JL3I46V.net
〔春季女子野球大会 グループA初戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS音ノ木坂学院『μ's』】
先発メンバー
Aqours
1:中・善子
2:遊・曜
3:投・梨子
4:捕・千歌
5:右・よしみ
6:左・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
μ’s
1:中・長崎 3年
2:捕・矢澤こころ 2年
3:遊・板本 2年
4:一・岡野 3年
5:左・ぺゲロ 3年
6:三・村田 3年
7:投・矢澤ここあ 2年
8:ニ・吉田 3年
9:右・立本 3年
466: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:53:40.36 ID:2JL3I46V.net
【一回表】
『一番センター津島さん』
善子(ちゃんとウグイス嬢付きなのは凄いわね……)
善子(さて、初回)
善子(いつもより多いお客さん)
善子(ルビィじゃなくても緊張するわ)
善子(そもそも、実質初めての公式戦)
善子(簡単に凡退は嫌ね)
ここあ「……」シュッ
ストライク!
467: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:54:43.24 ID:2JL3I46V.net
善子「うわっ」
善子(インコースいっぱい)
善子(ヤバい、こんなの打てないわよ……)
ストライク!
善子(ああ、今度は外)
善子(駄目だ、混乱してる)
善子(せめて次、振らないと――)
ここあ「ふっ!」シュッ
善子「えっ、ぶつか――」
ククッ――パシッ
ストライク、バッターアウト!
善子「す、スライダー……」
こころ「ワンナウト!」
468: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:55:27.07 ID:2JL3I46V.net
曜「ドンマイ、善子ちゃん」
善子「洒落にならないわよ、あれ」
善子「ストレートとほとんど変わらない球速なのに、鋭く曲がってくる」
曜「あー、そうだったね」
善子「なんか余裕っぽいけど、打てるの、あれ」
曜「まあ任せて」
曜「とりあえず、軽く打ってくるよ!」
善子(か、カッコいい!)
469: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:57:47.77 ID:2JL3I46V.net
『二番ショート渡辺さん』
曜(実際、球速に差がないここあちゃんみたいなタイプは得意なんだよね)
曜(割と本能のままに振っても打てちゃうし)
曜(偉そうなことを言った手前、しっかり打たないと)
曜「よし、こい!」
こころ「……」スッ
曜(え、こころちゃん外に構えて――)
千歌「もしかして、敬遠?」
花丸「で、でも1アウトランナー無しだよ」
ボールフォア!
曜「えー、つまんない」
470: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 00:59:04.59 ID:2JL3I46V.net
こころ(渡辺曜さん? 敬遠に決まってるでしょ)
ザワザワ
こころ(ざわつく会場、でも知ったこっちゃない)
こころ(私たちは常に勝ちを義務付けられたチーム)
こころ(一度負けただけで、大きな批判にさらされる)
こころ(それなのになぜ勝負しなければならないんですか)
こころ(Aqoursの中で、『唯一』打たれる可能性がある選手と)
こころ(彼女にさえ打たれなければ、『確実』に勝利できる試合なのに)
471: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:00:29.18 ID:2JL3I46V.net
『三番ピッチャー桜内さん』
曜(次は梨子ちゃん、私が走ってしまえばヒット一本で先制)
梨子(大丈夫、私は大丈夫……)
曜(でもあの様子だと、無理か)
バッターアウト!
曜(初見じゃ、千歌ちゃんも)
バッターアウト!
千歌「くぅ~、ちっちゃいのあんなに凄い球を」
こころ「ここあ、ナイスピッチ」
ここあ「渡辺曜とも勝負したかったんだけど」
こころ「それは点差がついてからね」
ここあ「なら大丈夫か」
ここあ「梨子が相手なら、すぐに出番がくるだろうし」
曜(……マズいかも、この試合)
472: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:01:43.27 ID:2JL3I46V.net
【一回裏】 Aqours0-0μ’s
キンッ
梨子「あっ」
ここあ「よし、先頭出た!」
板本「やっぱりあいつはチョロいな」
梨子「……」ザッザッ
千歌(梨子ちゃん、ブルペンから全然球が来てないよ)
千歌(やっぱり、緊張してるのかな)
473: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:03:01.61 ID:2JL3I46V.net
『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「お願いします」ニコッ
千歌「あっ、はい」
千歌(流石妹さん、笑った姿が映像で見たにこさんにそっくり)
千歌(でもプレースタイルまで似ていたら嫌だな)
千歌(にこさんは相手の嫌がる打撃が得意だった)
千歌(打順も同じ二番だし、怖いなぁ)
千歌(とりあえず、外にストレートで――)
梨子『コクッ』
474: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:04:29.36 ID:2JL3I46V.net
ダダッ
曜「走った!」
千歌「初球から盗塁!?」
キンッ
千歌「じゃなくてエンドラン!?」
ルビィ「ピギッ」
千歌「あ、空いた場所を綺麗に抜かれた……」
こころ「よし、完璧です」
曜(経験の浅い私たちの弱点を突いてくるしたたかさ)
曜(相変わらず、相手の隙を突くのが上手い)
475: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:05:39.12 ID:2JL3I46V.net
梨子「一・三塁……」
『三番ショート板本さん』
板本「いやー、いきなりチャンスじゃん」
千歌「た、タイムお願いします」
千歌「ごめん梨子ちゃん」
千歌「牽制もなしに軽率だった」
梨子「う、ううん、謝らないで」
梨子「私の方こそ、ぼんやりと投げちゃって」
千歌「でも次はあのムカつく人だよ」
千歌「しっかり押さえていこう」
梨子「……ええ」
476: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:06:32.84 ID:2JL3I46V.net
千歌(どうせこの手のタイプは口だけなんだ)
千歌(一点は仕方ない、低めの変化球をひっかけさせてゲッツーを狙おう)
梨子『コクッ』シュッ
曜(今の調子だったら、無理に勝負は避けた方がいいかも)
曜(板ちゃんは、天才だからなぁ)
千歌「よし、いいところ――」
カキーン!
千歌「あ、あんな難しいコースを」
曜「いっちゃん!」
いつき「あ、あわわ」
セーフ!
477: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:07:14.36 ID:2JL3I46V.net
曜「ツーベース……」
板本「いきなり二打点は美味しいねぇ」
板本「やっぱりあいつはバッピだわ」
曜「相変わらず、上手いね」
板本「あの球じゃ当然よ」
板本「早く交代しろよ、曜」
曜「……」
ボールフォア!
千歌「うぅ」
梨子「っ」
478: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:08:25.47 ID:2JL3I46V.net
板本「あの様子じゃ、アウトを取るのも難しそうだぜ」
曜「ううん、まだ早いよ」
曜「梨子ちゃんはそんな簡単に折れる子じゃない」
曜「板ちゃんも、知ってるでしょ」
板本「……まあな」
バッターアウト!
梨子「よしっ」
千歌「ナイス梨子ちゃん!」
千歌(このぺゲロさんはインコースが明確な弱点で良かった)
千歌(梨子ちゃんみたいに制球のいいタイプには、いいカモだよね)
479: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:09:22.86 ID:2JL3I46V.net
『六番サード村田さん』
村田「こいっ」
千歌(そして次の村田さんも)
梨子「えいっ」シュッ
村田「!」カキーン
千歌「あっ」
千歌(そんなに甘くはない――)
ルビィ「うゅ!」バッ――パシッ
板本「捕った!?」
480: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:10:23.11 ID:2JL3I46V.net
ルビィ「曜さん!」シュッ
曜「ナイス」パシッ――アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ずら!」パシッ
アウト!
板本「マジかよ、ゲッツーとか」
梨子「ナイスルビィちゃん!」
千歌「凄いよ! ファインプレー!」バシバシ
ルビィ「い、痛いよ千歌さん」
481: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 01:12:36.24 ID:2JL3I46V.net
善子「いつもの緊張はどこへ行ったのよ、もう!」
ルビィ「な、一週回って緊張が解けたっていうか」
花丸「流石ルビィちゃんずら!」
板本「ファインプレーじゃん、やるね~」
ルビィ「ピギッ――あ、ありがとうござます」
梨子「でも助かったわ、本当に」
千歌「うん、おかげで守備は何とかなりそうだね」
ここあ「あーあ、二点だけかぁ」
こころ「初回だから、仕方ないわよ」
曜「あとは、攻撃さえ何とかできれば」
489: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:28:09.77 ID:BmozrY52.net
【4回表】 Aqours0-3μ’s
千歌(試合は進む)
千歌(相変わらず攻撃は絶望的)
千歌(誰一人、まともにバットがボールに当たっていない状態)
千歌(守備は梨子ちゃんが大量のランナーを出しながらも粘りのピッチング)
千歌(曜ちゃんとルビィちゃん、善子ちゃんの三人の好守にも助けられて何とか抑えているけど――)
ボールフォア!
曜「またか――もうっ!」
490: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:30:51.21 ID:BmozrY52.net
善子「曜さん、また敬遠……」
ルビィ「今までの練習試合、曜さんの打点がチームの7割近いのに……」
花丸「でも、この後も二人は期待できるし」
曜(今日の梨子ちゃんは打撃どころじゃない)
曜(点を取るなら、私が無理やりでも三塁へ行かないと)
曜(でも相手は矢澤姉妹、盗塁阻止率は驚異的な高さ)
こころ「ふふっ」
曜「むっ」
曜(挑発的な目)
曜(走れるものなら走ってみろと、喧嘩を売られているみたい)
曜(やってやろうじゃないか――)
491: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:31:47.29 ID:BmozrY52.net
ここあ「――」グッ
曜「いける!」ババッ
こころ「!」パシッ――シュッ
アウト!
曜「あー、駄目かぁ」
板本「ははっ、ごくろーさん」
ここあ「ナイスこころ!」
こころ「ここあも、いいクイックだったわよ」
こころ(私の送球もほぼ完ぺき)
こころ(それなのにギリギリだった辺り、相変わらず恐ろしい走力ね)
492: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:32:38.41 ID:BmozrY52.net
【4回裏】 Aqours0-3μ’s
千歌(後続の私と梨子ちゃんは凡退で、結果的に三者凡退)
千歌(流れが、悪いな)
花丸「あれ」
ルビィ「音ノ木坂が円陣を組んでる」
曜「この状況で……」
493: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:34:13.15 ID:BmozrY52.net
こころ「板本さん」
板本「な、なんだよ」
こころ「貴女は試合前、梨子さんのことをバッピと馬鹿にしましたね」
こころ「しかし現状の得点は、平均すると一イニング一点ずつ」
こころ「ありえない得点数です」
こころ「本当にバッティングピッチャーを相手にしているなら」
板本「いやいや、私は打ってるんだからいいだろ」
こころ「はいっ?」
音ノ木坂ナイン『ビクッ』
こころ「そういう問題ではありません」
こころ「貴女のそのような態度が、チーム内に油断を蔓延させているのです」
494: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:35:41.38 ID:BmozrY52.net
こころ「もちろん、私にも油断がありました」
こころ「忘れてはいけません」
こころ「彼女は本来、私たちが確実に夏冬連覇をするために、3本柱の一角を担う予定だった人」
こころ「ここからは、本気です」
こころ「一流の投手を相手にする意識で、彼女を叩き潰します」
板本「……おう」
こころ「ではいきますよ」
こころ「μ's、Baseball――」
音ノ木坂ナイン「「「スタート!」」」
495: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:36:51.40 ID:BmozrY52.net
『一番センター長崎さん』
長崎「よっしゃ!」
梨子『ビクッ』
ルビィ「ピギッ」
千歌(さ、さっきまでと全然雰囲気が違う)
千歌(ど、どうしよう。何を投げても打たれそうな雰囲気だよ)
梨子「っ」シュッ
長崎「いただき!」カキーン!
曜「センター!」
千歌「よ、善子ちゃん」
496: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:38:07.91 ID:BmozrY52.net
善子「くっくっくっ、堕天キャッチ!」パシッ
アウト!
ルビィ「ナイス善子ちゃん!」
花丸「変な言葉は余計だけどね」
千歌「た、助かった」
千歌(当たりは凄く良かったけど、守備範囲だった……)
長崎「すまん」
こころ「いえ、今のは運がなかっただけです」
こころ「とてもいい打撃でしたよ」
497: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:39:24.58 ID:BmozrY52.net
『二番キャッチャー矢澤こころさん』
こころ「……」グッ
梨子「っ」ゾクッ
梨子(凄く、嫌な予感がする)
梨子(でも逃げられない、マウンドに立っている以上)
梨子「えいっ」シュッ
こころ(打ちごろ!)
こころ「ふっ」カキーン
千歌「一塁線――抜かれた!」
498: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:41:16.61 ID:BmozrY52.net
ルビィ「よしみさん、早く!」
よしこ「ちょ、ちょっと待って」
こころ(これは行ける!)
千歌「ヤバいよ、三塁打――って三塁蹴った!」
曜「バックホーム急いで!」
セーフ!
千歌「ランニングホームラン……」
板本「こころ、ナイスラン!」
こころ「一塁方向は穴です」
こころ「ファーストは素人同然、ライトもそれに近い」
こころ「しっかり狙っていきましょう」
板本「了解!」
499: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:42:38.63 ID:BmozrY52.net
キン!
曜「花丸ちゃん!」
花丸「と、捕れないよこんなの――」
よしみ「またこっち来たの!?」
千歌「三塁、急いで!」
ルビィ「駄目、間に合わないっ」
セーフ!
梨子「くっ」
千歌「今度は三塁打……」
500: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:44:12.36 ID:BmozrY52.net
『四番ファースト岡野さん』
カキーン!
梨子「!」
千歌「ヤバッ」
曜「でも風に押し戻されて――」
善子「くっ」パシッ
アウト!
ここあ「あー、ついてない」
こころ「でも、犠飛に十分ね」
千歌「5対0……」
501: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:45:26.19 ID:BmozrY52.net
板本「センターの変な奴、そこそこ上手いな」
こころ「そうですね、センターラインはよく守れています」
こころ「流石に渡辺さんのチーム」
こころ「いくら寄せ集めでも、重要な部分はしっかり埋めていますね」
こころ「狙うなら、はっきりと左右どちらかを狙うべきでしょう」
ぺゲロ「ヨクワカラン、テキトウ二ウツヨ?」
こころ「……貴女はそれでいいです」
板本「得意のランナー無しの場面だしな」
502: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:47:27.09 ID:BmozrY52.net
『五番レフト・ぺゲロさん』
千歌(留学生、一発が怖い打者)
千歌(でもこの人は内角、内角に投げれば何とかなる)
シュッ
千歌(少し甘い――でもこれぐらいなら)
カッキ――ン!
千歌「えっ」
善子「……追うまでもないわね」
ルビィ「特大の、ホームラン……」
503: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:48:41.03 ID:BmozrY52.net
梨子「あ、ぁぁ」ガクッ
曜(6対0)
曜(いつも冷静な梨子ちゃんが、あんなに取り乱してる)
千歌「た、タイム!」
千歌「り、梨子ちゃん」
梨子「……」
曜「駄目だ、交代しよう」
千歌「で、でもいつもは5回か6回で交代なのに」
曜「これ以上失点したら、試合が壊れる」
千歌「でも、梨子ちゃんは音ノ木坂を見返すって……」
504: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:50:30.89 ID:BmozrY52.net
曜「もう無理だよ、これ以上は梨子ちゃんの為にもならない」
曜「まだリベンジには早かったんだよ、これじゃあ傷を抉るだけ」
曜「これでイップスが再発したりしたら、目も当てられない」
花丸「ずら……」
ルビィ「うゅ……」
むつ「そ、そうだよ、とりあえず曜に交代しよう」
むつ「リベンジする機会は、またあるって」
千歌「……分かった」
曜「梨子ちゃん、交代!」
梨子「……うん」
505: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:53:00.70 ID:BmozrY52.net
選手交代
【曜:遊→投】
【梨子:投→左】
【いつき:左→中】
【善子:中→遊】
ここあ「お、投手交代っぽいね」
板本「あーあ、曜になっちゃったか」
板本「相変わらずバッピにもならないな、梨子は」
こころ「板本さん、その言い方は反感を買いますよ」
板本「でも否定はできないだろ」
こころ「……そうですね」
506: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:55:31.86 ID:BmozrY52.net
ここあ「曜ってどんなスペックだっけ」
ここあ「あたし、打者として対戦したことないから分かんないんだけど」
こころ「とにかく力で押してくるパワーピッチャー」
こころ「球速は130キロ台だけど、140以上に見えるとも言われる質の高いストレート」
こころ「本人は好きじゃないみたいだけど、縦に大きく割れるカーブも素晴らしいわ」
こころ「私たちみたいに体格もパワーもないタイプだと打つのは厳しいわね」
ここあ「諦めるの早いな」
507: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:56:53.67 ID:BmozrY52.net
バンッ
ここあ「でも確かに、速い」
こころ「まあ点差も十分についたし、ここあは交代しましょう」
こころ「他のメンバーもベンチ入りしてる1・2年生に交代」
こころ「好投手との実戦経験を積む貴重な機会です」
こころ「投手を笠野さんにしておけば、まず問題は起こらないでしょうから」
ここあ「えー、私も打ちたいんだけど!」
こころ「駄目よ、あの人の場合、デッドボールもあるから」
ここあ「えっ、あの球速でノーコンなの?」
こころ「ええ」
こころ「しかも投手相手でも平然とインコースに投げ込んでくるわ」
ここあ「わ、私怖いからパス」
508: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:57:34.20 ID:BmozrY52.net
笠野「面倒だなぁ、投げるの」
こころ「文句言ってないで、準備してください」
こころ「ベンチに居てもプロ野球の結果を予想して遊んでるだけでしょ」
笠野「はーい、りょーかい」
板本「私はそのままでいいよな」
板本「曜と対戦できないのは勘弁だぞ」
こころ「ええ」
こころ「私と板本さんはそのまま出ましょう」
こころ「念のための保険にもなります」
こころ「控えメンバーでは、渡辺さんからの得点は難しいかもしれませんから」
509: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 21:59:21.64 ID:BmozrY52.net
【7回表】 Aqours0-6μ’s
千歌(何とかコールドを回避しながら試合は進んでる)
千歌(曜ちゃんはランナーを出しながらも、下級生主体の音ノ木坂を0に抑える)
千歌(でも攻撃は相変わらずヒットすら出ない)
千歌(代わった笠野さんは、ほぼストレートのみながら圧倒的な投球で――)
曜(また敬遠臭いけど、完全に外されてはいない)
曜(ボール球でも無理やり食らいつけば)ブンッ
バッターアウト!
曜「ああ、駄目かぁ」
こころ(渡辺さん、いい選手だけど相変わらず荒いわね)
510: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:00:19.73 ID:BmozrY52.net
『三番レフト桜内さん』
梨子「くっ」
カツン
花丸「あ、当たった!」
善子「しかも転がったの三遊間深いところよ!」
ルビィ「梨子さん走って!」
板本「よっこら――しょ!」パシッ――シュッ
アウト!
善子「う、上手い……」
ルビィ「あれをアウトにするなんて……」
511: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:01:16.97 ID:BmozrY52.net
『四番キャッチャー高海さん』
笠野「おら!」ビュッ
ストライク!
千歌「球速――135キロ!?」
千歌(こ、こんなの打てないよ)
千歌(で、でも何とか当てないと)
千歌(バットを短く持って、コンパクトに)ビュッ
ガン
こころ「オーライ!」パシッ
アウト!
512: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:03:52.05 ID:BmozrY52.net
笠野「よっしゃ!」
板本「ナイスピッチ!」
こころ(態度は悪いけどピッチングはいいんですよね、この人)
千歌「キャッチャーフライ……」
千歌(手が凄く痺れてる)
千歌(当たったけど、ボールは見えていないほぼマグレ当たり)
千歌(この人、本当に二番手なの)
千歌(今すぐプロに入っても通用しそうな球を投げてるのに)
千歌(無理だよ、こんなの……)
513: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:05:10.60 ID:BmozrY52.net
【8回裏】 Aqours0-6μ’s
千歌(先頭にフォアボールで無死ランナー一塁)
千歌(ここでバッターは――)
こころ(結局、もう8回)
こころ(今日の渡辺さんは調子が良いとはいえ、流石に一点も取れないのは想定外)
こころ(選手を入れ替えすぎました、反省です)
こころ(けど流石にそろそろ、試合を決めたいですね)
514: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:06:17.13 ID:BmozrY52.net
千歌(また何か仕掛けられたら嫌だな)
千歌(慎重に入りたいけど、曜ちゃんの事だから――)
曜(ストレ――――ト!)シュッ
こころ「くっ」キン
曜「よし、ゲッツーコース!」
善子「ルビィ!」パシッ――シュッ
アウト!
ルビィ「マルちゃん!」シュッ
ガッ
花丸「あっ、バウンドして」ポロッ
セーフ!
515: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:07:05.61 ID:BmozrY52.net
こころ「た、助かった……」
こころ(やっぱり渡辺さんとは相性が悪いわね)
ルビィ「ご、ごめんなさい」
花丸「ち、違うよ」
花丸「今のは、普通のバウンドを捕れなかったマルの所為だから」
曜「二人とも気にしないで!」
曜「この後しっかりお願いね!」
ルビまる「は、はい!」
516: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:08:32.95 ID:BmozrY52.net
『三番ショート板本さん』
曜(でもランナー置いて板ちゃんか)
曜(嫌な状況だな)
板本(一打席目、ストレートを捉えられずに三振)
板本(でも野手視点では二打席目で打てれば勝ったようなものだ)
板本「今度は打つ!」
曜「させるか!」シュッ
板本(いける!)カキーン
曜「!」
千歌「あー、綺麗にセンター前」
517: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:10:29.21 ID:BmozrY52.net
曜「くそっ」
曜(これで一・二塁)
曜(でもここからは、控えの一年生)
『四番ファースト大井さん』
曜(このクラス、三振は取れなくても抑えるだけなら――)
キン
曜「げっ」
千歌「ファーストにボテボテのゴロ――」
花丸「え、えっと」パシッ
千歌「ベースカバーの曜ちゃんに!」
曜「花丸ちゃん!」
花丸「は、はい!」
フワッ
千歌「マズい、送球逸れて――」
曜「おっ――とと」タタッ――パシッ
セーフ!
518: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:11:33.41 ID:BmozrY52.net
曜「また、えらい方向にボールを……」
花丸「ご、ごめんなさい」
曜「ドンマイ、大丈夫」
曜(けどあと一点でコールドの場面で満塁……)
曜(四死球が許されないのは、ちょっときついな)
『五番レフト石田さん』
曜(こうなったら、思い切り真ん中に投げ込むしかない!)シュッ
カキーン!
千歌「ピッチャー返し――」
519: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:12:56.12 ID:BmozrY52.net
曜「!」パシッ
アウト!
曜「花丸ちゃん!」シュッ
花丸「ず、ずらっ」パシッ
アウト!
板本「バカ大井、なんでこの場面で飛び出してんだよ……」
こころ(後で説教ですね……)
ここあ「こ、こころ、何か怖いぞ」
笠野「あーあ、一イニング余計に仕事増えたよ」
520: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:14:42.71 ID:BmozrY52.net
曜「はぁ、助かった」
千歌「曜ちゃん、ナイスキャッチ!」
花丸「す、すいません、助かりました……」
曜「いやいや、花丸ちゃんもとっさの送球をよく捕ったね」
千歌(とりあえずコールドは回避できた)
千歌(あとは何とか――)
曜「このままだとノーヒットノーランだよ!」
ルビィ「そそそ、そうですね」
千歌(1人でも、ヒットを打たなきゃ)
千歌(そして一点でも返さなきゃ)
曜「とにかくランナーを貯めて私に回して」
曜「試合の大勢は決まった状況、きっと勝負してくるはずだから」
曜「一点でも返せればきっと投手は動揺する」
曜「6点差なんだ、そうすればまだ試合も分からないよ!」
よいむつよしまるびぃ「「「おお!」」」
521: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:15:30.18 ID:BmozrY52.net
【9回表】 Aqours0-6μ’s
花丸(とは言ったものの、これは流石にマルにはちょっと――)
バッターアウト!
いつき「あ、あっさり三球三振」
むつ「いやぁ、あれはしゃあないよ」
よしみ「私たちと花丸ちゃん、一球もバットに当たってないもんね……」
522: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:16:19.96 ID:BmozrY52.net
ルビィ「ま、マルちゃ~ん」ブルブル
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて」
花丸「平常心なら、何とかなるはずだから」
ルビィ「で、でもぉ」
『九番セカンド黒澤さん』
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
笠野(投げにくいなぁ、この手のタイプは)
笠野(何か、弱い者いじめしてるみたいで嫌なんだよ……)
ボール ボール ボール ボールフォア!
笠野「ほらぁ」
523: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:17:23.15 ID:BmozrY52.net
花丸「ルビィちゃん出た!」
曜「よし!」
千歌「これであとは善子ちゃんも出れば……」
『一番ショート津島さん』
善子「くっくっくっ、あなたも私の魔力の前には子ども同然のようね!」
笠野「はっ?」
笠野(お前は関係ねーよ。雑魚の癖に――)シュッ
善子「グェッ」ドスッ
笠野「あ」
笠野(ムカついて、つい力が)
524: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:18:29.98 ID:BmozrY52.net
花丸「出た! 善子ちゃん得意の身体を張った出塁!」
千歌「こ、今回に限ればナイスだよ!」
千歌(これでバッターは曜ちゃん!)
千歌(曜ちゃんなら打ってくれる!)
千歌(初ヒットも初得点も――)
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(キタキタ!)
曜(笠野さんは短気な性格)
曜(ただでさえ荒れ球傾向にあるんだ)
曜(ここでノーヒットノーランと完封を同時に打ち破れば、まだ分からない――)
こころ「……」スッ
曜「えっ」
525: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:20:17.18 ID:BmozrY52.net
よしみ「きゃ、キャッチャーが外に構えて……」
いつき「この状況で」
むつ「敬遠?」
曜「な、なんでさ!」
こころ(ごめんなさい)
こころ(本当は勝負させたい気持ちもある)
こころ(けどノーヒットノーランがかかった状況)
こころ(創部間もない相手にコールドを逃した)
こころ(その事実で批判されることを避けるには、ノーノ―しか考えられない)
ボールフォア!
526: 名無しで叶える物語 2018/08/28(火) 22:21:31.00 ID:BmozrY52.net
曜「梨子ちゃん! 千歌ちゃん! あとは任せたよ!」
梨子「う、うん」
千歌「任せて!」
こころ(梨子さんはともかく、高海さんは流石主将、凄い気合いの入り方)
こころ(でもね、世の中は残酷なんですよ)
バッターアウト!
梨子「やっぱり私には……」
バッターアウト!
千歌「あ、当たらない……」
こころ「生まれ持った才能と長期間の努力で築かれた壁は、簡単には超えられないんです」
【試合終了】 Aqours0-6μ’s
549: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:36:02.51 ID:xAigQ+J8.net
―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
曜「うん」
善子「ええ」
花丸「ずら……」
梨子「……」
千歌(空気が重いな……)
550: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:36:57.51 ID:xAigQ+J8.net
ルビィ「すぅすぅ」
善子「ルビィ、この状況でよく眠れるわね」
花丸「ずっと緊張しっぱなしで疲れたんだよ」
花丸「メンタル面を考えれば、よく最後までプレーしてたよ」
善子「でもあんたも大変でしょ」
善子「移動中ずっと、ルビィをおぶってたじゃない」
花丸「これぐらい、たいしたことないよ」
花丸「今日だけで3エラーに3三振」
花丸「せめてこれぐらいはしないと、逆に居た堪れないよ」
善子「花丸……」
551: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:37:36.59 ID:xAigQ+J8.net
梨子「ごめん、ごめんね、みんな」
梨子「私が、ちゃんと投げてれば」
梨子「ううん、それだけじゃない」
梨子「変な意地を張らずに、最初から曜ちゃんに先発をお願いしてれば……」
曜「関係ないよ」
曜「私だって、レギュラー相手に投げてたら失点してたと思う」
梨子「違うよ、私の所為なの」
梨子「バッティングピッチャー同然の私が、全部悪いの」
千歌「梨子ちゃん……」
552: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:39:29.84 ID:xAigQ+J8.net
千歌(無理もない)
千歌(あんなに気合いを入れていた音の木坂との試合だったのに)
千歌(何もできず、あっさりとKOされて)
千歌(連勝で浮かれて忘れていたけど、思い知らされた)
千歌(私たちは所詮、曜ちゃんに依存したチームだと)
千歌(彼女の存在がなければ、どうしようもないと)
千歌(かろうじて通用していたのは、投手以外だとルビィちゃんと善子ちゃんだけ)
千歌(その2人だって、相手に比べれば圧倒的に劣ってる)
千歌(最強と言われるチーム相手にいい勝負をするなんて考えは、都合が良すぎたんだ)
千歌(だけど、気にし過ぎちゃ駄目)
千歌(とにかく今はこの空気を何とかしないと)
553: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:40:55.01 ID:xAigQ+J8.net
千歌「まあさ、今は一生懸命やることが大事だよ」
千歌「まだ三年生もいない、最初はみんなこんなもの」
千歌「私たちは小さい頃から野球に全てを賭けてきたわけじゃない」
千歌「初心者もたくさんいるチームなんだよ」
千歌「今は勝敗なんて気にせず、何事も経験」
千歌「せっかく大舞台に上がれたんだよ、みんなで楽しまなきゃ」
善子「いや、でもそれは」
曜「千歌ちゃん――」
こころ「すみません、浦の星女学院のみなさんですよね」
554: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:43:50.32 ID:xAigQ+J8.net
千歌「あ、あなたは」
梨子「こ、こころちゃん」
曜「……何しに来たのさ」
こころ「そんな冷たい態度取らないでくださいよ」
こころ「そりゃ気持ちは分かりますが」
曜「最初からまともに勝負しないなんてあり得ないでしょ」
曜「強豪校の癖に」
こころ「仕方ないじゃないですか」
こころ「プレッシャーなんですよ、一戦一戦」
こころ「真姫さんの世代まで圧倒的な強さを誇っていたせいで、周囲の期待値は異常に高い」
こころ「『音ノ木坂は勝って当たり前』なんて、平然と言われるですよ」
こころ「にこお姉さまの妹である私たちに対しては、特に強く」
555: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:45:53.99 ID:xAigQ+J8.net
千歌「だからって、あの敬遠は流石に」
こころ「所詮はテレビどころかネット中継もない大会ですから」
こころ「あの四球、別に立ち上がったわけでも極端に外したわけでもないですし」
こころ「状況を考えれば敬遠だと分かっても、確固たる証拠はありません」
こころ「ここあは年代別代表にも入れないクラスの投手ですよ」
こころ「そんなあの子が、相性の悪い世代を代表する選手と勝負」
こころ「長打を避けようとアウトコースを攻めた結果、慎重になり過ぎてフォアボールになった」
こころ「そんな言い訳も簡単に出来ます」
こころ「渡辺さんに打たれて失点し、早い段階でマウンドにも上がられて負ける」
こころ「そんな最悪のシナリオを考えれば、妥当な判断だと思いませんか」
556: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:49:06.71 ID:xAigQ+J8.net
こころ「世の中、結構面倒なんですよ」
こころ「私たちが負けるだけでなく、少し苦戦しただけで鬼の首でも取ったかのように騒ぐ人がたくさんいる」
こころ「これがなかなかつらくて、その批判でメンタルを崩す選手もいます」
こころ「今回の件でも、多少は批判を受けるでしょう」
こころ「ですが、勝てばいいんです」
こころ「勝てば、結果を残せばすべて正当化される」
こころ「勝手な外野の批判を大方抑え込める」
こころ「それが野球でしょう、渡辺さん」
曜「……それはそうだね」
曜「それでも、納得したわけじゃないけど」
557: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:50:22.72 ID:xAigQ+J8.net
こころ「でしょうね」
こころ「逆の立場なら、そう簡単に納得できる話ではありません」
こころ「けど貴女なら少しは分かるでしょう」
こころ「私たちの失敗が許されない厳しさを」
こころ「年代別代表で、嫌というほど経験してきたんですから」
曜「まあ、ね」
こころ「実際、そのプレッシャーに潰されてしまった選手も少なくありません」
こころ「本来エースを争うはずだった選手にも、その影響もあって辞めた人がいました」
558: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:51:22.77 ID:xAigQ+J8.net
千歌「それって……」
こころ「梨子さん、お久しぶりです」
梨子「うん、久しぶり」
こころ「投げられるようになったみたいでよかったです」
こころ「突然転校した後、心配していましたから」
梨子「ありがとう」
梨子「連絡もせずに、ごめんね」
こころ「いえ、気にしないでください」
こころ「貴女がイップスを悪化させ、転校にまで至ったのは私が助けになれなかったことも原因です」
こころ「むしろ謝らなければいけないぐらいですよ」
559: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:52:40.73 ID:xAigQ+J8.net
梨子「謝るなんて、そんな」
こころ「まあ、そうですね」
こころ「これ以上この話をしても、お互いに気を遣いあって生産性がありません」
こころ「私がここへ来た理由でもある、本題に入りましょうか」
千歌「本題?」
曜「今日の試合について皮肉を言いに来たんじゃないの」
こころ「違いますよ」
こころ「渡辺さんの中の私のイメージ、どうなってるんですか」
曜「いやぁ、性格が悪い人的な」
こころ「それは勝利を最優先にしなければならないプレー中だけです」
こころ「別にルールや倫理の範囲での行動だけで、反則とかはしないですから」
曜「確かにそうだけどさ」
560: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:53:49.38 ID:xAigQ+J8.net
こころ「まあともかく本題ですが」
こころ「梨子さん、イップスは完治したようですね」
こころ「昔と変わらない美しいフォーム、同様の芸術性のある球」
こころ「今でも十分に一流選手でしょう――時間も一緒に止まっていれば」
梨子「時間が止まっていれば?」
こころ「今の貴女は入学時――中学生の全盛期と変わらない球を投げている」
こころ「逆に言えば、成長もしていないんですよ」
梨子「っ」
こころ「勿体ないです」
こころ「本来は高校で成長しているはずの時間が、イップスで止まってしまった」
561: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:54:50.69 ID:xAigQ+J8.net
こころ「中学時代は一流の投手でも、成長せずに高校で投げれば中の上程度の選手」
こころ「それは貴女も気づいていたでしょう」
こころ「経験があることを考えれば、一流半に近いレベルの投球はできているかもですが」
梨子「……かも、しれないわね」
千歌「曜ちゃん、本当なの」ヒソヒソ
曜「うん」ヒソヒソ
曜「正直梨子ちゃんの球は、昔と何も変わっていない」ヒソヒソ
曜「下手をすれば、一番良かった時期より劣っているかもしれないぐらい」ヒソヒソ
562: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:55:37.47 ID:xAigQ+J8.net
こころ「けど、あまり気にすることはないと思うんです」
梨子「えっ」
こころ「梨子さんはトレーニングなどを怠っていたわけではありません」
こころ「まだ身体と頭のイメージや、力の出し方の点で問題があるだけ」
こころ「今日私たち相手に通用しなかったのも、それが原因です」
こころ「特に球速、今どき120も出ないようでは強豪校には通用しません」
こころ「まずはゆっくり、高校仕様の投球を出来るようになることを目指すべきです」
こころ「少なくとも体格的には、私よりだいぶ恵まれています」
こころ「きちんと感覚を修正すれば、高校レベルでも一流の投手になれるはずです」
梨子「こころちゃん……」
563: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:57:12.75 ID:xAigQ+J8.net
こころ「今、試合で投げるのは逆効果になるかもしれません」
こころ「ひとまず、そちらは渡辺さんに任せればいいと思います」
こころ「彼女なら一試合、問題なく投げきれますから」
こころ「言い方は悪いですけど、貴女よりも良い結果が出ることは間違いありませんし」
梨子「……そこをはっきり言われると、少し傷つくかも」
こころ「すみません、元チームメイトなのでつい」
梨子「ふふっ、変わってないのね」
千歌「あの、矢澤さん?」
こころ「あっ、こころかこころちゃんでいいですよ」
こころ「基本的にみんなそう呼ぶんで」
564: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:58:04.08 ID:xAigQ+J8.net
千歌「えっと、じゃあこころちゃん」
千歌「本題って、梨子ちゃんを励ましに来たってこと?」
こころ「はい、そうですよ」
曜「なんで、梨子ちゃんを助けに来たの」
こころ「私だって本意じゃないんですよ」
こころ「かつての仲間の心の傷を抉ることなんて」
こころ「試合中の様子がおかしかったので、気になっていたんです」
こころ「実際、今も凄く落ち込んでいましたし」
こころ「そんな姿を見たら、居ても立っても居られないでしょ」
曜「こころちゃん……」
565: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 02:59:38.67 ID:xAigQ+J8.net
こころ「皆さんにも言えることですが、今日の試合は落ち込むような内容ではないですよ」
こころ「調べても、過去のデータがあるのは梨子さんと渡辺さんのみ」
こころ「そう考えれば、色々と仕方のない部分はあります」
こころ「試合後では皮肉に聞こえてしまうかもしれませんが、皆さんはいいチームでしたよ」
こころ「特に津島さんと黒澤さん」
こころ「あなた達二人には、ずいぶんやられてしまいましたね」
善子「ふぇ」
こころ「実は津島さんの存在は元から少し知っていました」
こころ「ネットで時々、動画や生放送を観ていまして」
こころ「独特の野球論、とても勉強になります」
566: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 03:00:53.45 ID:xAigQ+J8.net
善子「そ、そう」
千歌「善子ちゃん、こころちゃんに知られてるなんて凄いね!」
こころ「世間的にはあまり知られていませんが、毎回なかなか興味深い内容なんですよ」
こころ「最近新作が上がらないのは、野球を始めたからだったんですね」
こころ「実際プレーの質も一年生とは思えない内容でした、流石です」
善子「ま、まあ、私レベルになると当然よね」
花丸「あはは、分かりやすく嬉しそうだね」
善子「……そりゃね、嬉しくないわけないでしょ」
567: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 03:02:41.34 ID:xAigQ+J8.net
こころ「しかしそれ以上に驚いたのは黒澤さんです」
こころ「初回や、それ以降の見事な守備」
こころ「多少の粗さやプレーの波は見られますが、むしろそこに将来性を感じる」
こころ「どこに隠していたんですか、こんな子」
こころ「狭い女子野球の世界、全く無名だったのは信じられません」
花丸「それはちょっと、色々な事情があって」
こころ「いいですよ、そこまで深く聞いたりはしません」
こころ「悪い子でないのは、今の無邪気な寝顔を見ればわかります」
こころ「素行に問題があるとか、突然現れた天才であるとか、そんな類の話でないのも」
568: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 03:03:23.04 ID:xAigQ+J8.net
こころ「黒澤さんが本当に野球を好きで努力も重ねてきたのは、守備などのプレーと――」スッ
ルビィ「ぅゅ」スヤスヤ
こころ「この可愛らしい見た目に反した、ゴツゴツの手を見れば分かります」
こころ「日ごろから相当振り込んでいるのでしょう」
こころ「体格的に恵まれない物同士の親近感もあります」
こころ「この子は応援したくなりますよ、本当に」ナデナデ
千歌「なんか、お姉さんみたいだね」
曜「……こころちゃんの方がルビィちゃんよりちっちゃいけどね」
こころ「い、言わないでください」
こころ「これでも結構気にしてるんですから」
569: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 03:05:37.49 ID:xAigQ+J8.net
曜「あっ、そうだよね、ごめん」
こころ「いえ、渡辺さんに悪気がないのは分かりますし、よくあることです」」
こころ「もう私はとっくに割り切れています」
こころ「ここあは未だに足掻いていますがね」
こころ「あの体格で投手は限界があると何度言っても、聞き分けがなくて」
花丸「体格……」
こころ「ごめんなさい、国木田さんと黒澤さんも気になる問題でしたね」
こころ「でもあなたは大丈夫ですよ」
こころ「まだ身長も伸びそうですし、体質的にパワーも付きそうです」
こころ「黒澤さんもそう、少なくとも現時点でさえ私よりは体格はあるんですから」
こころ「まだ一年生、きちんと努力すれば相応に上手くなれますよ」
花丸「は、はい」
570: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 03:06:38.90 ID:xAigQ+J8.net
こころ「では私はそろそろ帰ります」
こころ「早く戻らないと、お姉さまたちに心配されてしまうので」
千歌「あっ、はい」
梨子「色々ありがとう、こころちゃん」
こころ「いえ、私の方こそ」
こころ「明日試合がある皆さんに付き合っていただけて、ありがたかったです」
こころ「相手が聖泉女子なので苦労するとは思いますが、健闘を祈っています」
千歌「うん、ありがとう」
こころ「渡辺さん、期待してますよ」
こころ「鹿角さんとの対決、私だけではなく多くの人が」
曜「……うん」
574: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:15:08.58 ID:4bCUi9CU.net
―グラウンド―
ルビィ「ふわぁ」
花丸「ルビィちゃん、眠たそうだね」
ルビィ「うゅ、昨日変な時間に寝ちゃったから」
梨子「ルビィちゃん、元気そうでよかったね」
千歌「他の皆と違って、こころちゃんに励ましてもらえなかったのに」
善子「あんな臆病なのに、案外図太いわよね、ルビィは」
575: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:16:47.84 ID:4bCUi9CU.net
千歌「ルビィちゃん、今日の相手のデータは」
ルビィ「えっと、学校名は函館聖泉女子高等学院」
ルビィ「チーム名はSaint Snowです」
ルビィ「昨年の冬季全国大会でベスト8」
ルビィ「三年生のエース、鹿角聖良の加入と共に力を付けてきた高校です」
ルビィ「昨年までは彼女による典型的なワンマンチーム」
ルビィ「しかし今年は有望な一年生の加入も選手層が厚くなりました」
ルビィ「特に4番を打つ柳澤選手、そして聖良さんの妹の理亞さんに注意です」
ルビィ「柳澤さんは年代別代表にも入っています」
曜「私や現三年生の代表とは、一世代ずれてるけどね」
576: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:17:36.12 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「チームの特徴として、投手は聖良さんが投げきる形が多いです」
ルビィ「一応二番手投手には、ショートの間宮さんがいます」
ルビィ「間宮さんも130近いストレートが武器です」
ルビィ「打線は音ノ木坂に比べれば劣りますが協力」
ルビィ「特に速球を得意としています」
ルビィ「落ちる球に弱いですが、ストレートの安打率が圧倒的に高い」
ルビィ「おそらく、曜さんは相性があまりよくない相手です」
577: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:18:12.77 ID:4bCUi9CU.net
千歌「それでこころちゃんは、苦労するって」
ルビィ「あとは比較対象ということもあります」
千歌「比較対象?」
ルビィ「今の高校生の世代は、三人のスター選手がいます」
ルビィ「その中で誰が最も優秀か、ファンの間でよく議論になるんです」
ルビィ「一人目が曜さん」
ルビィ「二人目が音ノ木坂の板本さん」
ルビィ「そして三人目が、鹿角聖良さんなんです」
千歌「へぇ」
578: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:18:52.54 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「特に曜さんと聖良さん二人は一学年年齢が違いますが、よく比較されます」
ルビィ「二人とも投手としては本格派、高い身体能力が売りです」
ルビィ「投球スタイルは130キロ台の速球」
ルビィ「そして落ち方は小さいけど速球と同じぐらいの球速のスプリットで圧倒します」
ルビィ「球種は違いますけど、音ノ木坂のここあさんと笠野さんを組み合わせたような選手かも」
ルビィ「打撃については、確実性はやや欠けますが体格の良さもあってパワーが凄いです」
ルビィ「μ’sに詳しい人なら、希さんに近いといえば分かりやすいかもしれません」
千歌「それは、凄そうだね」
579: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:19:23.17 ID:4bCUi9CU.net
曜「凄いよ、聖良さんは」
曜「実際私も、年代別代表でエースの座を奪われてるから」
千歌「えっ」
曜「嘘じゃないよね、梨子ちゃん」
梨子「ええ」
梨子「私が知っている範囲ではね」
梨子「もちろん、聖良さんが一学年上という事実も関係はしているけど」
580: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:21:02.55 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「そのような実績がありながら、音ノ木坂やUTXなどの強豪からの誘いを断って地元の進学校へ進学」
ルビィ「相当自分に自信があるのでしょう」
ルビィ「今年は理亞さんの加入もあり、本気で全国優勝が狙えると言われています」
千歌「姉妹バッテリーなんだよね」
ルビィ「はい」
ルビィ「絶対サインに首を振らないといわれるほどの信頼関係で結ばれているみたいです」
曜「私だって千歌ちゃんのサインには絶対に首を振らないよ!」
千歌「いやいや、そもそも私からサイン出してないじゃん」
曜「ま、まあね、基本ノーサインだし」
善子「えっ、曜さんと千歌さん、ノーサインだったの?」
曜「そうだよ! 私と千歌ちゃんの絆の証!」
581: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:21:43.87 ID:4bCUi9CU.net
??「なるほど、彼女が理由でしたか」
曜「あっ」
梨子「あなたは」
曜「聖良さん!」
聖良「自分のやりたい方向へ一直線」
聖良「分かりやすいですねぇ、貴女は」
ルビィ「ほ、本物の聖良さん……」
??「ふふん、どうやら姉さまに見惚れているようね」
582: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:22:51.81 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「えっと、貴女は」
理亞「鹿角理亞」
理亞「これでも貴女たちと同じ世代の代表よ」
理亞「つまり、レベルの違う選手ということね」
善子「なんか痛い奴ねぇ」
花丸「可哀想なタイプなんだよ」
理亞「聴こえてるわよ」
花丸「ずらっ」
583: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:23:28.74 ID:4bCUi9CU.net
理亞「まあいいわ、いくら言っても負け犬の遠吠え」
善子「試合前から負け犬って」
理亞「見てなさい、私たちSaint Snowの野球を」
理亞「あなたたち素人軍団なんて、粉砕してやるんだから」
曜「へぇ……」
理亞「ひっ」
聖良「理亞、いい加減にしなさい」
聖良「挨拶に来たはずなのに、なぜ喧嘩を売っているんですか」
584: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:23:59.45 ID:4bCUi9CU.net
理亞「だって、ムカつくから」
理亞「たいした力もない癖に、こんなところにいて」
ルビィ「そ、そんなこと――」
聖良「すみません、愚妹が色々と失礼を」
聖良「私たちはそろそろ行きますね――理亞」
理亞「はい、姉さま」
聖良「楽しみにしていますよ、今日の試合」
千歌「は、はぁ」
585: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:24:42.72 ID:4bCUi9CU.net
千歌「キャラの濃い妹さんだったね」
善子「くっくっくっ、あれの素はおそらく人見知りね」
善子「姉がいるから強気だったけど、一人じゃまともに話せもしないわ」
曜「へぇ、なんでわかるの?」
花丸「善子ちゃんも同じタイプだからでしょ」
善子「そ、それはあんたもでしょ」
花丸「……知らないずら」
586: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:25:18.06 ID:4bCUi9CU.net
曜「まあとにかく、今日は頑張っていこう」
曜「いくら聖泉女子が強くても、音ノ木坂が負けるとは思えない」
曜「今日勝てば、決勝トーナメントに進める」
曜「昨日の負けを帳消しにできる」
曜「絶対に負けられないよ!」
ルビィ「はい!」
善子「ええ!」
梨子「そうね!」
587: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:26:09.80 ID:4bCUi9CU.net
〔春季女子野球大会 グループA第二戦〕
【浦の星女学院『Aqours』VS函館聖泉女子高等学院『Saint Snow』】
先発メンバー
Aqours
1:遊・善子
2:投・曜
3:捕・千歌
4:左・梨子
5:右・よしみ
6:中・いつき
7:三・むつ
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ
Saint Snow
1:捕・鹿角理亞 一年
2:遊・間宮 一年
3:投・鹿角聖良 三年
4:中・柳澤 一年
5:一・内村 三年
6:三・松尾 一年
7:右・下林 一年
8:左・江戸川 三年
9:二・牧田 三年
588: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:27:31.52 ID:4bCUi9CU.net
【1回表】
『一番ショート津島さん』
善子(鹿角聖良……)
聖良「……」
善子(スペックを聞くと恐ろしい投手)
善子(135以上の直球)
善子(昨日、笠野にぶつけられた時は凄く痛かった)
善子(ほとんど見えなくて避けることもできなかったのと同クラスの球を、私は打てるの?)
589: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:28:26.86 ID:4bCUi9CU.net
聖良「ふっ」シュッ
ストライク!
善子(やっぱり速い)
善子(でもこれと同じぐらいの球速を落ちる球もある)
善子(とにかく手を出さないと!)
シュッ
善子(えーい、当たれ!)
キン
理亞「オーライ!」
アウト!
590: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:29:09.27 ID:4bCUi9CU.net
花丸「あぁ」
千歌「キャッチャーフライかぁ」
曜「善子ちゃん、どんな感じ?」
善子「やっぱり速いわね」
善子「昨日の笠野とほぼ変わらないわ」
曜「ふむ、了解」
善子(あれ、今日の曜さんはあんまり余裕がなさそう)
善子(やっぱり、相手はそれだけの投手ってこと……)
591: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:30:27.04 ID:4bCUi9CU.net
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜「……」
理亞(この人、やっぱり雰囲気あるわね)
理亞(でもデータ的に、真っ向勝負する必要はない)
理亞(初球は――)
シュッ
曜「っ」
ストライク!
曜「カーブ……」
曜(完全に裏をかかれた)
592: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:31:26.44 ID:4bCUi9CU.net
理亞(よし、これでいける)
理亞(次はストレートで)
キン
曜(ファール、追い込まれた)
理亞(カウントに余裕あるし、一球インハイに釣り球を)
ボール!
理亞(流石に手は出さない)
理亞(でも次のボールは――)
聖良「ふっ!」シュッ
曜「っ」ブン
バッターアウト!
曜「フォークか……」
593: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:32:13.85 ID:4bCUi9CU.net
善子「よ、曜さんが」
花丸「三振……」
ルビィ「初めて見たかも……」
曜「ごめん千歌ちゃん、あとよろしく」
千歌「う、うん」
『三番キャッチャー高海さん』
千歌「お、お願いします!」
理亞(こいつは……適当にストレート三つで充分でしょ)
バッターアウト!
千歌「当たらないよぉ」
594: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:35:23.01 ID:4bCUi9CU.net
【1回裏】 Aqours0-0Saint Snow
『一番キャッチャー鹿角理亞さん』
曜(今日は打席で敬遠はされそうにない)
曜(でもしっかり抑えないと、勝てそうにないな)
曜「よしっ!」
プレイ!
曜(この子は身体が小さい、とにかくストレートで押そう!)シュッ
ストライク!
595: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:36:43.21 ID:4bCUi9CU.net
理亞(速い)
理亞(これを捉えるのは、なかなか骨が折れそうね)
ストライクツー!
理亞(でも――)
キン――ファールボール!
曜(確かに速い球には強いみたいだけど――)シュッ
理亞(えっ、カーブ――)
ブン
千歌「あっ」ポロッ
596: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:37:43.25 ID:4bCUi9CU.net
間宮「キャッチャーこぼしてる!」
聖良「走って!」
理亞「!」
千歌「し、しまった」
セーフ
理亞「た、助かった……」
千歌「曜ちゃん、ごめん」
曜「ううん、私の方こそ」
曜「ちょっと低め狙って弾ませちゃったよ」
千歌「うん……」
千歌(けど、別に難しいボールでもなかった)
千歌(ああは言ってくれるけど、今のぐらいは止めないと)
597: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:38:33.00 ID:4bCUi9CU.net
『二番ショート間宮さん』
曜(バント……)
曜(素直にさせて一死貰おう)シュッ
コン
曜「花丸ちゃん――えっ」
花丸「わわっ」ポロッ――コロコロ
千歌(でもまだファースト――)パシッ
曜「投げるな!」
千歌「えっ」ピタッ
曜「ベースカバー、入ってない」
598: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:39:48.30 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「あっ」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
曜「大丈夫、気にしないで」
曜(実戦経験が少ない弱点が出ちゃったか)
曜(いくらルビィちゃんが努力を重ねてきたとはいえ、二人で出来る範囲)
曜(投内連係とかの練習は不足してるもんね)
曜(花丸ちゃんやむっちゃんもそう)
曜(バント処理は基本、自分でやるぐらいのつもりでいこう)
599: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:40:57.61 ID:4bCUi9CU.net
『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(聖良さん……)
曜(投手対投手では劣っているかもだけど、投手対野手なら私の方が上のはず)
曜(抑えることは!)シュッ
コツン
曜「げっ」
千歌「バント!?」
曜(転がったのはいいとこだけど、私なら守備範囲)パシッ
曜(ストレートな分打球は強いし、三塁刺せる!)ビュッ
600: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:41:40.30 ID:4bCUi9CU.net
むつ「あ、ありゃ」ポロッ
セーフ!
曜「あっ」
曜(強く投げ過ぎた)
曜(あれだとむっちゃんは取れないじゃん……)
むつ「曜――」
曜「ごめん、私の所為!」
601: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:42:39.59 ID:4bCUi9CU.net
聖良「ふふっ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「大丈夫、まだ点は取られてない」
曜「とにかくアウト一つ、そうすれば落ち着くはずだから」
千歌「う、うん」
千歌(でも守備の弱点、完全にばれてる)
千歌(しかも聖泉女子の選手みんな、バント上手いよ)
千歌(練習試合の相手だと、曜ちゃんの球を全然上手くバントできなかったのに)
千歌(これが全国トップレベル……)
602: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:43:46.23 ID:4bCUi9CU.net
『四番センター柳澤さん』
柳澤「あっす!」
千歌(うわっ、おっきい)
千歌(見るからに飛ばしそう、本当に一年生?)
千歌(この人も、年代別代表だっけ……)
曜(とにかく三振)
曜(高めで押し込もう!)シュッ
千歌(あっ、真ん中に)
キン!
千歌(でも押し切った――ライト浅い!)
よしみ「よしっ」パシッ
理亞「っ」ダッ
603: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:44:32.26 ID:4bCUi9CU.net
曜「タッチアップした!」
ルビィ「よしみさん!」
よしみ「え、えい!」スポッ
花丸「あ、あらぬ方向に」
善子「ど、どこ投げてんのよ!」
よしみ「ご、ごめん」
梨子「早く拾って!」
千歌(うぅ、結局犠飛、しかもニ・三塁だよ……)
曜「ワンナウト! 落ち着いていこう!」
604: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:45:16.91 ID:4bCUi9CU.net
柳澤「ナイスラン、マジでパなかった!」
理亞「ありがとう」
理亞「でもらしくないわね」
理亞「貴女がストレートに差し込まれるなんて」
柳澤「いやいや、あのストレートマジパないんだぜ!」
柳澤「スゲエぐわーっと来て、パないわ!」
柳澤「本当にスゲエ、パねえ!」
理亞「相変わらず、語彙力が壊滅的ね……」
605: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:46:17.03 ID:4bCUi9CU.net
『五番ファースト内村さん』
曜「このっ」シュッ
キン!
千歌(三遊間――抜かれた!)
千歌(でも打球強い、二塁ランナーが回ってもホーム刺せる!)
聖良「――」ダッ
善子「三塁蹴った!」
曜「梨子ちゃん、バックホーム!」
梨子「えいっ!」シュッ
606: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:47:18.30 ID:4bCUi9CU.net
千歌「いい球、これなら――」
聖良「――」ギラッ
千歌「っ」
千歌(凄い勢いで、迫ってきて――)
ポロッ
千歌「し、しまった」
セーフ!
内村(よしっ)ダッ
曜「千歌ちゃん、セカンド!」
千歌「えっ」
千歌(投げっ――握り損ねっ)スポッ
607: 名無しで叶える物語 2018/08/30(木) 22:48:53.87 ID:4bCUi9CU.net
ルビィ「わっ」
善子「どこ投げてるのよぉ!」
よしみ「あ、フォロー忘れて……」
いつき「誰もいないよっ」
内村「ラッキー!」ダッ
千歌「サード――いやホーム、急いで!」
セーフ!
千歌(ば、バッターまで帰ってきちゃった……)
曜(4-0……)
曜(まともなヒット一つで、4失点……)
曜「くそ――」
曜(いやいや、駄目だよ)
曜(私がキレたら、試合が終わる)
曜(みんな経験もない、実力的にも仕方ない)
曜(勝つためには、私が冷静でいないと)
616: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:21:58.75 ID:6V4yWxdJ.net
【4回表】 Aqours0-5Saint Snow
ボール!
善子(よし、これでスリーボール)
善子(この回の先頭で、次は曜さんなんだ)
善子(何とか出塁して繋げないと)
聖良「――」シュッ
善子(際どい)
善子(でも打つより――)
ボールフォア!
善子「よしっ」
曜「よーしこー!」
617: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:23:07.28 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「ちっ」
理亞(この球審、辛過ぎでしょ)
理亞(この状況じゃ、多少の肩入れしたくなる気持ちは分かるけど)
聖良「理亞、落ち着いて」
理亞「あ、ごめんなさい」
『二番ピッチャー渡辺さん』
曜(初回以降、守備は頑張ってくれてる)
曜(失点も私が普通に打たれただけ)
曜(少なくとも、自責点の分ぐらい取り返さないと)
618: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:24:59.48 ID:6V4yWxdJ.net
聖良(曜さん――抑える!)シュッ
曜(昨日の試合から今まで、チームは無安打)
曜(ここで私が――)
曜「流れを――変える!」
カッキ―ン!
理亞「!」
千歌「大きい!」
梨子「いった!?」
ビュッ
花丸「あっ」
ルビィ「でも逆風……」
619: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:26:21.84 ID:6V4yWxdJ.net
柳澤「うおっ」パシッ
アウト!
善子「フェンス際……」
曜「あー、広い球場じゃなかったら入ってたのに!」
柳澤「やっぱアイツパねえ!」
柳澤「この風で聖良先輩の球をアレとか、マジリスペクト!」
理亞「助かった……」
聖良「流石曜さんですね」
聖良「あそこまで飛ばされるなんて」
理亞(でもこれで大丈夫)
理亞(一番怖いバッターは切り抜けたんだもの)
620: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:31:57.22 ID:6V4yWxdJ.net
バッターアウト!
千歌「……私、打撃センスないなぁ」
梨子「仕方ないよ」
梨子「聖良さんは、女子球界全体で考えてもかなりのレベルの投手なんだから」
千歌「うぅ――でも梨子ちゃん、何とか打って!」
梨子「うん、頑張ってみる」
梨子「今日は外野で4番だから、その分の仕事はしなきゃだからね」
621: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:32:50.67 ID:6V4yWxdJ.net
『四番レフト桜内さん』
梨子(今日は投げる予定がない分、野手として頑張らないと)
梨子(一応、曜ちゃんの次に打てる可能性がありそうなのは私)
梨子(そして後続は打てる可能性が低い、ここは――)スッ
善子(まあ、それしかないわね)
聖良(梨子さん、昔は決して打撃が苦手な選手ではなかったはず)
聖良(四番を打つぐらいですから、警戒しないと)グッ
善子(!)ダッ
聖良「スチール!?」シュッ
梨子「当たって!」キン!
622: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:34:02.10 ID:6V4yWxdJ.net
曜「叩きつけた!」
千歌「ショート深い、これなら余裕で内野安打――」
間宮「しゃっ」パッ――ビュッ
アウト!
千歌「う、うそぉ」
むつ「あ、あの打球で一塁刺すなんて……」
いつき「す、凄い」
よしみ「曜や、音ノ木の板本さんみたい」
ルビィ(……たぶんその2人でもあの打球をアウトにするのは難しい)
ルビィ(あの人、一年生なのに守備だけならトップクラスなのかも……)
623: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:35:35.91 ID:6V4yWxdJ.net
【5回裏】 Aqours0-5Saint Snow
千歌(気づけば5回裏)
千歌(何とか守備は建て直し、踏ん張ってきた)
千歌(でも流石は速球に強いと評判のSaint Snow)
千歌(序盤のドタバタ劇のせいか疲れが出てきた曜ちゃんをついに捕らえて――)
カキーン!
曜「くっ」
ルビィ「ピギィ!」
花丸「これで二連打」
善子「無死一・ニ塁……」
624: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:37:08.51 ID:6V4yWxdJ.net
『六番サード松尾さん』
曜(ストレート、球威が落ちてきてる)
曜(カーブをもっと使っていかないと、抑えられない)
曜(本当は使いたくないけど、一応サインを出して投げれば――)シュッ
千歌「カーブ……」
バンッ
曜「しまった、バウンドさせて――」
千歌「あぅ」ポロッ
曜(……そう、なるよね)
千歌「ごめん、二人とも進塁しちゃった」
曜「私こそ、ちょっと軽率だった」
625: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:39:56.07 ID:6V4yWxdJ.net
ボールフォア!
曜(駄目だ、動揺してる)
曜(気持ち、立て直さないと)
曜(これ以上の失点は致命傷になる)
千歌(どうしよう、あと二点で7回コールド圏内)
千歌(それどころか、5回コールドだって……)
善子「満塁……」
ルビィ「ぴ、ぴぃ」フラフラ
花丸「る、ルビィちゃん、落ち着いて!」
626: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:43:12.15 ID:6V4yWxdJ.net
『七番ライト下林さん』
曜(カーブは危ない)
曜(千歌ちゃん、まだ変化球の捕球には慣れてないもの)
曜(けど、ストレートだけだと……)
曜(このクラス相手だと――)シュッ
カキーン!
曜「センター!」
曜(駄目か、これじゃ犠飛に――)
いつき「こ、これは無理っ」
曜「ツーベース……」
曜(ただのセンターフライでしょ)
曜(普通の経験者なら、誰でも取れるような)
千歌「走者一掃で、0対8……」
627: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:44:00.86 ID:6V4yWxdJ.net
『八番レフト江戸川さん』
曜「このやろっ」シュッ
カキン!
曜「ルビィちゃん!」
ルビィ「あっ」ポロッ
曜(今度はエラー……)
ルビィ「す、すみません」
曜「ドンマイ」
曜(ルビィちゃん、もう頼りにならないモードになってる)
曜(過剰に信頼しちゃ駄目だ)
628: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:45:42.01 ID:6V4yWxdJ.net
『九番セカンド牧田さん』
曜(けどここは併殺が欲しい)
曜(スライダーでタイミングを外そう)
曜(私のスライダーを相手は想定してないはずから、上手くいくはず)シュッ
カツン
牧田「しまったっ」
曜(ショートゴロ、これなら――)
善子「やばっ」イレギュラー
曜「っ」
629: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:47:13.18 ID:6V4yWxdJ.net
千歌「ファースト、間に合う!」
善子「花丸!」シュッ
花丸「あ、あれっ」ポロッ
曜「はい!?」
千歌(な、なんでもない送球を……)
曜「っ~~~~~~~」バンッ
千歌(ぐ、グラブを叩きつけた)
千歌「よ、曜ちゃん、落ち着いて」
曜「分かってる、分かってるよ!」
630: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:49:41.67 ID:6V4yWxdJ.net
曜(駄目だ、打たせちゃ)
曜(今は自分以外信用しちゃいけない)
曜(三振、三振を取らなきゃ)
理亞「くっ」
バッターアウト!
間宮「どうした」
理亞「ここへきて、また速くなってる」
間宮「マジか」
バッターアウト!
間宮「確かに、これは凄いな」
631: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:52:33.23 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「けど、この二打席で分かったわ――姉さま!」
聖良「どうしたの、理亞」
理亞「たぶん、渡辺曜が投げる球は――」
『三番ピッチャー鹿角聖良さん』
曜(ツーアウト)
曜(次の回はルビィちゃん、善子ちゃんに回る)
曜(二人が出て、私が打てばまだ試合は分からない)
曜「ここを、三振で切り抜けられれば!」シュッ
カッキ――――ン!
曜「あっ……」
632: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:54:58.41 ID:6V4yWxdJ.net
千歌「ほ、ホームラン」
ルビィ「11、点目」
花丸「コールド負け……」
善子「あの曜さんが、そんな……」
聖良「くすっ」
聖良「確かに理亞の言うとおり、三振を狙った高めのストレートのみ」
聖良「分かりやすいですね、曜さんは」
【試合終了】 Aqours0-11Saint Snow (5回コールド)
633: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:58:08.07 ID:6V4yWxdJ.net
―グラウンド外―
曜「くそっ」バンッ
曜「ああもう!」バンッ
ルビィ「ぴ、ぴぃ」
善子「よ、曜さん、落ち着いて」
曜「落ち着いてるよ!」
善子「だ、駄目よ、ユニフォームとか、色々叩きつけたりしたら」
梨子「そうよ、暴れる時も利き手には注意しないと」
むつ「梨子ちゃん、そこじゃないよっ」
634: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:58:46.03 ID:6V4yWxdJ.net
花丸「ごめんなさい、マルがエラーばっかりするから……」
ルビィ「る、ルビィも……」
よしみ「それは、私たちもだし」
いつき「うん……」
千歌「そう、だよね」
千歌(怒るのも無理ない)
千歌(今日のは、いくらなんでも酷過ぎた)
千歌(記録に残らないエラーも含めれば、余裕で二桁に達する)
千歌(これじゃあ、野球にならない)
635: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 14:59:58.02 ID:6V4yWxdJ.net
聖良「あの、すみません」
千歌「聖良さんと――理亞ちゃん」
理亞「ほら言ったでしょ」
理亞「あなた達を粉砕するって、宣言どおり」
曜「はっ!?」
曜「理亞ちゃんだっけ? 君無安打でしょ」
曜「なに偉そうに言ってるのさ!」
理亞「ひっ」
善子「なんでビビってるのに毎回煽るのよ……」
花丸「もう性分なんだよ……」
636: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:00:51.50 ID:6V4yWxdJ.net
千歌「あの、なにかご用ですか?」
千歌「たいしたことじゃなければ、後にしてもらいたいんですけど」
千歌「見てのとおり、曜ちゃんがあんな感じなので……」
聖良「いや、用事があるのは私ではなくて」
理亞「私よ」
善子「なによ、今充分に煽ったでしょ」
理亞「違うわよ、それとは別件」
理亞「そこの主将さんに話があるの」
千歌「えっ、私?」
637: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:02:07.78 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「高海千歌」
千歌「は、はい」
理亞「あなた、キャッチャーのことを馬鹿にしてるでしょ」
千歌「そ、そんなこと」
理亞「確かにストライクゾーンのキャッチングは上手」
理亞「でもそれ以外は落第、最悪」
理亞「枠に来たボールを捕れればいいと思っているようにしか見えない」
理亞「存在自体が、ポジションへの冒涜よ」
善子「ちょっと、そこまで言わなくても」
638: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:03:06.69 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「でもそうでしょ」
理亞「例えばこの二試合、投手はバウンドするようなボールをまともに投げられていない」
理亞「そのせいで、変化球自体も少なくなってる」
理亞「桜内梨子なんて、ほぼ変化球中心じゃなきゃいけない技巧派の投手なのに」
千歌「そ、それは」
理亞「私たちが渡辺曜を打ち込めたのもそうよ」
理亞「貴女が信頼されずに、カーブを有効活用できていないから」
理亞「基本的にストレートしか来ないと分かってたら、そりゃ打つわよ」
理亞「姉さまがホームランを打った場面もそうだったでしょ」
639: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:03:44.73 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「しかもなに、打たれた後」
理亞「ほとんど励ましにも行かず、毎回投手よりもオロオロして」
千歌「っ」
理亞「貴女、才能ないのよ」
理亞「センスも、頭も、それを補おうとする気概も」
理亞「どんなことがあっても、私以上になることは絶対にありえない」
理亞「二流止まりが精々でしょ」
千歌「……」
640: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:04:49.83 ID:6V4yWxdJ.net
理亞「そもそも舐めてるのよ」
理亞「9人ギリギリ、お遊戯会みたいな面子で乗り込んできて」
理亞「負けて当然、そんな感じでヘラヘラと野球をしてる連中を見ると、本当に腹が立つ」
理亞「馬鹿にしないで」
理亞「野球は、キャッチャーは遊びじゃない!」
曜「お前、それ以上は!」
聖良「理亞!」
理亞『ビクッ』
聖良「ごめんなさい」
聖良「この子、昔から口が悪くて」
曜「そういう問題じゃ――」
641: 名無しで叶える物語 2018/08/31(金) 15:07:02.94 ID:6V4yWxdJ.net
聖良「でもそれだけ、真剣に野球をしているんです」
聖良「真摯に、野球に向き合っているんです」
聖良「私は野球を辞めろとは、大会に出るなとは言いません」
聖良「けど皆さん、大きな舞台を目指すのは諦めた方がいいかもしれませんね」
聖良「そこを本気で目指している人が、どれほどいるかも分かりませんが」
曜「っ」
聖良「厳しい言い方をしましたが、今年度創部でここまでに仕上げたのは見事だと思います」
聖良「私はその意味ではあなた方をリスペクトしている」
聖良「それは、忘れないでください」
653: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 13:59:08.75 ID:ECxzsmoE.net
―宿舎―
千歌「みんな、お疲れ様」
ルビィ「はい……」
花丸「ずら……」
梨子「……」
善子「……」
よしみ「……」
いつき「……」
むつ「……」
654: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:00:31.55 ID:ECxzsmoE.net
千歌(流石に全員、落ち込んでる)
千歌(無理ないよね、酷い負け方をして、あんなことまで言われて)
千歌(私も、あんな言われ方――)
千歌「っ」グッ
梨子「……ねえ、千歌ちゃん」
千歌「し、仕方ないよ」
千歌「まだ私たちは始めたばっかりだし、こんな結果になっても」
梨子「千歌ちゃん……」
千歌「帰って練習しよう」
千歌「そしてまた、一から頑張ろう」
ルビィ「うゅ……」
梨子「そう、よね」
655: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:01:49.25 ID:ECxzsmoE.net
千歌「一応、今日の分までは部屋取ってあるから、泊まっていいって」
千歌「明日はさ、みんなで観光とかしに行こうよ」
千歌「そうすれば、少しは気が晴れるよ、きっと」
梨子「でも、曜ちゃんが……」
千歌「それは」
善子「曜さん、部屋に籠ったままなのよね」
花丸「やっぱりまだ、怒ってるのかな」
ルビィ「分からない」
ルビィ「だけど、本当に悔しかったんだと思う」
ルビィ「それだけは、分かるよ」
656: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:04:27.67 ID:ECxzsmoE.net
千歌「とりあえず、私が様子見てくる」
千歌「もし今の状態が明日まで続くようなら、一緒にいる」
千歌「みんなは普通に観光してきなよ」
ルビィ「でも……」
千歌「曜ちゃんと同部屋なのは私でしょ」
千歌「たぶん一番仲が良いのも私」
千歌「それに一応、曜ちゃんの女房役だし」
千歌「それぐらいは、ね」
657: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:06:02.86 ID:ECxzsmoE.net
梨子「……そうね」
梨子「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
善子「ちょ、ちょっと」
梨子「いいから」
梨子「みんなは、私が東京を案内してあげるわよ」
よしみ「ごめん、私たちは朝には帰るよ」
いつき「三人とも家の用事があるからさ」
むつ「だからみんなは楽しんできて」
梨子「そ、そう?」
ルビィ「……」
花丸「……」
658: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:06:54.42 ID:ECxzsmoE.net
トントン
千歌「曜ちゃん、調子どう?」
ガチャ
曜「ごめん、寝てた」
千歌「もう、大丈夫?」
曜「うん」
千歌「今日はごめんね、私たちが足引っ張っちゃって」
千歌「あれは怒るのも無理ないよね」
659: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:07:38.01 ID:ECxzsmoE.net
曜「違うよ、私はみんなに怒っていたわけじゃない」
千歌「えっ?」
曜「言い方は悪いけど、エラーとかはある程度は想定してた」
曜「怒りは、それでも勝てると過信していた私自身へのもの」
曜「あの子の言うとおり、ちょっと馬鹿にしてたかも、野球を」
千歌「曜ちゃん……」
千歌(顔、泣いた痕が残ってる)
千歌(それを見せたくなくて、部屋に残ってたのかな)
660: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:08:08.41 ID:ECxzsmoE.net
曜「どうしたの?」
千歌「その、顔……」
曜「あっ――顔洗うの忘れた」
千歌「やっぱり、泣いてたの」
曜「まあ、悔し泣き」
曜「あとまだ少し、荒れてた」
千歌「そ、そっか」
661: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:09:09.11 ID:ECxzsmoE.net
曜「千歌ちゃんだって、悔しかったでしょ」
曜「試合に負けたこと、色々言われたこと」
千歌「そりゃ、まあね」
千歌「負けたのは仕方ないけど、言われたことはちょっと」
曜「……」
千歌「あのね、一応もう一日泊まってもいいんだって」
千歌「だから明日さ、みんなで東京観光しないかって――」
曜「ねえ」
千歌「ど、どうしたの」
662: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:09:55.29 ID:ECxzsmoE.net
曜「私たちだけでも、明日の試合を観に行こう」
千歌「曜ちゃん?」
曜「音ノ木坂と、聖泉女子の試合」
曜「見なきゃ駄目だと思う。この先の現実も、しっかりと」
曜「そうしないと、先へ進めないよ」
曜「日本一は、狙えないよ」
千歌「それは……」
千歌(正直、気が進まない)
千歌(でも、曜ちゃんがそれで満足するなら――)
千歌「分かった、いいよ」
千歌「行こう、試合を観に」
663: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:10:53.81 ID:ECxzsmoE.net
―翌日・神宮外苑―
善子「こ、これは!?」
ガシャン――シュッ
善子「ス○ノ、オ○ワ、ノリ○ト……各球団のエースがびっしり」
梨子「どうかしら、これが都会のバッティングセンター」
梨子「いえ、バッティ○グドームよ!」
善子「ドーム――か、カッコいい……」
梨子「もちろんピッチングに、卓球まであるわ!」
善子「おぉ!」
664: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:11:37.12 ID:ECxzsmoE.net
梨子「この後は水道橋の野球殿○博物館、それが終わったら秋葉原に直行よ!」
善子「秋葉原、堕天使グッズまで買える……」
善子「最高よ、貴女は最高よ!」
善子「ぜひリリーと呼ばせて!」
梨子「そ、それはちょっと恥ずかしいかな」
善子「ちょ、急に素に戻らないでよリリー!」
梨子「あっ、結局呼ぶのね」
665: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:12:12.30 ID:ECxzsmoE.net
花丸「二人とも楽しそうだね」
ルビィ「う、うん」
花丸「よかった、元気になって」
ルビィ「そうだね」
花丸「でもここ、本当に凄い設備」
花丸「こんなに近代的な設備――まさに未来ずら~」
ルビィ「あはは」
ルビィ「花丸ちゃんも、楽しそうだね」
666: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:13:01.08 ID:ECxzsmoE.net
花丸「ルビィちゃん、楽しめてない?」
ルビィ「ううん、そんなことはない」
ルビィ「でもね、近くに神宮があるとどうしても思い出しちゃう」
ルビィ「もしかしたら、あそこへ行けるのかな」
ルビィ「一番上の舞台まで勝ち進んだら、さらにドームまで……」
ルビィ「そんな風に夢を見ていた、ここに来る前の自分のこと」
ルビィ「恥ずかしいよね、本当に」
ルビィ「昨日、あそこまではっきり言われても、仕方ないぐらい」
花丸「ルビィちゃん……」
667: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:14:01.64 ID:ECxzsmoE.net
善子「ちょっと、何を辛気臭い話してるのよ」
花丸「辛気臭いって」
善子「今はそれを忘れて、楽しむときでしょ」
ルビィ「そうだけど……」
善子「私だって、辛いわよ」
善子「反省しなきゃいけないこともたくさんある」
善子「でも今はその時じゃない」
善子「今後の為に必要なエネルギーを養うときでしょ」
善子「とにかく、馬鹿みたいにはしゃぎましょうよ」
花丸「……うん」
ルビィ「そ、そうだね」
668: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:15:22.87 ID:ECxzsmoE.net
善子「じゃあ早速打ちましょう」
善子「本物の投手と対戦できるみたいで凄いわよ!」
花丸「あはは」
ルビィ「善子ちゃん、子どもみたい」
善子「とりあえず私はスガ○に――」
梨子「ごめんなさい、そこは私の打席よ」
善子「じゃあオガ○――」
花丸「面白いフォーム、未来ずら~」
善子「ノ○モト――」
ルビィ「うゅ!」
善子「な、なんでよ~」
669: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:16:18.56 ID:ECxzsmoE.net
―某球場―
曜「開始前に間に合ったね」
千歌「うん」
曜「なんか変な感じ」
曜「昨日まであそこで試合してたなんて」
千歌「確かにね」
曜「それで、待ち合わせはどの辺の席だっけ――」
670: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:17:10.03 ID:ECxzsmoE.net
ダイヤ「お二人ともここですわ」
千歌「あっ、ダイヤさん」
曜「おぉ、バックネット裏特等席……」
ダイヤ「流石に女子の春季大会では人も少ないですからね」
ダイヤ「朝一番に来れば、余裕で座ることができました」
ダイヤ「しっかり三人分確保してあります」
曜「第一試合から見ていたんですか?」
ダイヤ「もちろん」
曜「本当に好きなんですね、野球」
ダイヤ「そりゃもう、私の生き甲斐ですからね」
671: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:18:16.97 ID:ECxzsmoE.net
こころ「あら、曜さん」
板本「おっ、本当だ――おーい」
曜「こころちゃん、板ちゃんも」
曜「すいません、ちょっと行ってきます」
ダイヤ「はい、私のことは気になさらず」
板本「おっ、11失点投手が来たぞ」
曜「あー、言ったなぁ~」
こころ「全く、相変わらず落ち着きのない……」
672: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:19:07.22 ID:ECxzsmoE.net
ダイヤ「千歌さんは行かなくてもいいのですか」
千歌「いやぁ、私はちょっと」
ダイヤ「まあ、仕方ないでしょう」
ダイヤ「あの三人は、μ’sとA-RISE効果で競技人口が増えた世代」
ダイヤ「その中でもトップ、つまり将来日本の女子野球界を背負う存在」
ダイヤ「気後れしてしまう気持ちも分かりますわ」
千歌「そうですよね」
千歌「私には関係のない、想像もつかないような世界の人たち」
ダイヤ「…………」
673: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:19:49.96 ID:ECxzsmoE.net
千歌「ダイヤさん、私たちの試合は観に来なかったんですか」
ダイヤ「いえ、もちろんいました」
ダイヤ「見守ってきたチームの、妹の晴れ舞台ですから」
ダイヤ「ただ、声をかけるタイミングを逃して」
ダイヤ「というか、正直に言えば雰囲気的にはばかられて……」
千歌「あはは、昨日はあんな感じでしたし」
ダイヤ「曜さん、割と温厚なイメージでしたが、あんな風に怒りを表に出すのですね」
千歌「私もあそこまで怒った曜ちゃんは初めて見たかもです」
ダイヤ「それだけ負けず嫌い、勝ちへの執念が強いということでしょうか」
千歌「勝ちへの、執念」
674: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:20:52.06 ID:ECxzsmoE.net
曜「すいません、お待たせしました」
ダイヤ「あら、話はもういいのですか?」
曜「練習中にあんまり話してるわけにもいかないので」
ダイヤ「それもそうですわね」
曜「散々煽られちゃいましたよー」
曜「昨日の投球は酷かったんで、仕方ないですけど」
ダイヤ「あら、それなのによく大人しくしていられましたわね」
ダイヤ「昨日の様子だと、怒り狂ってそうですのに」
曜「うっ、昨日の今日だと否定しずらい」
675: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:21:31.39 ID:ECxzsmoE.net
千歌(曜ちゃんとダイヤさん、楽しそうだな)
千歌(でも、私はグラウンドから目が離せない)
千歌(客観的に、この場所から練習を見ればわかる)
千歌(そこにいるのは、まるで別世界の人たち)
千歌(そりゃ勝てないよね、勝てるわけない)
千歌(昨日、改めてスコアブックを見た時の数字が忘れられない)
『0勝、0得点、0安打』
676: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:23:43.34 ID:ECxzsmoE.net
千歌(途方もない差を象徴するように並ぶ、0)
千歌(嫌でも見せつけられる、現実の数字)
千歌(鹿角姉妹が言っていたように、諦めた方がいいんだろうな)
千歌(全国とか、優勝とか、夢みたいな話は)
千歌(でもいいよね)
千歌(私は野球をしてたかっただけ)
千歌(μ'sみたいに、グラウンドで輝くために)
千歌(その輝きは、別に大舞台じゃなくても、手に入る――はず)
千歌(身の丈に合った世界で楽しめれば、それでいいんだ)
曜「……」
677: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:24:23.78 ID:ECxzsmoE.net
―東京某駅―
『まもなく○○番線に~』
千歌「あー、待ち合わせ時間過ぎちゃった」
ダイヤ「楽しんでいるのでしょう、いいことではありませんか」
ダイヤ「楽しむ気力があるなら、まだ安心できます」
千歌「そっか、それもそうですね」
曜「あっ、噂をしたら来たかも」
678: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:25:02.45 ID:ECxzsmoE.net
梨子「ごめん2人とも、遅れちゃって――」
善子「あっ」
花丸「ダイヤ、さん」
ダイヤ「みなさん、お疲れ様でした」
梨子「来てくれていたんですが」
ダイヤ「ええ」
花丸「じゃあ、試合も」
ダイヤ「もちろん見ていました」
679: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:27:30.08 ID:ECxzsmoE.net
ルビィ「お姉、ちゃん」
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「あ、あの」
ダイヤ「いいのです、言葉にしなくても」
ルビィ「う、うぅ」
ダイヤ「私は、分かっていますから」
ルビィ「ううぅ――」ダキッ
ダイヤ「よく、頑張りましたね」
ルビィ「うわぁぁ――ん」
花丸「ルビィちゃん……」
善子「ルビィ……」
千歌「……」
梨子「……」
680: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:28:17.79 ID:ECxzsmoE.net
―沼津・渡辺家―
曜「すみません、わざわざ送ってもらっちゃって」
美渡「ううん、気にしないで」
美渡「ついでだから、このぐらい大丈夫よ」
千歌「じゃあね曜ちゃん、また学校で――」
曜「あの、少し千歌ちゃんと二人で話してもいいですか」
千歌「曜ちゃん?」
美渡「大事な話?」
曜「はい」
美渡「分かった、じゃあ車で待ってるわね」
バタン
681: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:29:05.53 ID:ECxzsmoE.net
千歌「曜ちゃん、話って――」
曜「夏の予選まで、あと二か月と少しぐらいだね」
千歌「あっ、もうそんなに近いんだっけ」
曜「勝ちたいよね」
曜「勝って、今度こそ音ノ木坂や聖泉女子にリベンジしなきゃ」
千歌「いやぁ、でも流石に厳しいよ」
千歌「とりあえず、今年はそこそこ勝ち進む感じでさ」
千歌「来年地区の決勝を目指すとか、それぐらいが現実的じゃない?」
曜「……千歌ちゃん」
682: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:30:01.74 ID:ECxzsmoE.net
千歌「流石にさ、今回で思い知ったよ」
千歌「非現実的な理想を掲げても、無謀だって――
曜「ねえ、千歌ちゃん」
曜「悔しくないの?」
千歌「えっ」
曜「千歌ちゃんは、悔しくないの?」
千歌「え、いや、そりゃ悔しいけど、仕方ない部分は――」
曜「仕方ない!?」
千歌「っ」ビクッ
683: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:31:12.92 ID:ECxzsmoE.net
曜「私たち、負けたんだよ」
曜「その上で理亞って子にあんなこと言われて、何でそんな態度でいられるの」
曜「ゼロ、ゼロ、ゼロ――これが私たちの現実だよ」
曜「私は悔しい、悔しいよ」
曜「勝てなかった、手も足も出なかった」
曜「それどころかヒットすら打てずに、試合後には馬鹿にされて」
曜「それなのに千歌ちゃんは、全然悔しそうに見えない」
千歌「そ、そんなこと」
曜「あるでしょ」
曜「次は勝とう、リベンジしよう、そんな言葉も、態度も千歌ちゃんからは出てこない」
曜「それどころか、先に進むことを諦めてしまっているみたい」
千歌「それは……」
684: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:31:50.86 ID:ECxzsmoE.net
曜「ずっと違和感はあった」
曜「私が目指している舞台と、千歌ちゃんが目指している舞台」
曜「同じようで、どこか違う感じがして」
曜「でも一緒に野球をやりたいから、気づいても直視しないようにしてた」
曜「けどね大会中やその後、千歌ちゃんの態度を見て確信しちゃったんだ」
曜「そこには、大きなギャップがある」
曜「私と千歌ちゃんは、相いれない存在なんじゃないかって」
千歌「曜ちゃん?」
685: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:32:33.37 ID:ECxzsmoE.net
曜「ごめん、私は明日から練習行かない」
千歌「えっ」
曜「しばらく、部活は休むよ」
千歌「そ、それはあれだよね」
千歌「ちょっと疲れたから休むとか、そんな感じの」
曜「……どうかな」
曜「少し考えないと、分からない」
千歌「よ、曜ちゃん?」
曜「……ごめん」ダッ
686: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:33:04.42 ID:ECxzsmoE.net
千歌「ちょ、ちょっと待って!」
ガチャン
千歌「曜ちゃん、曜ちゃん!?」
曜『悪いけど、帰って』
千歌「えっ……」
曜『今は千歌ちゃんと話したくない』
曜『落ち着いたら、ちゃんと話すから』
千歌「曜ちゃん……」
687: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:33:43.52 ID:ECxzsmoE.net
―浦の星女学院・グラウンド―
善子「ちょっと、本当にやるの」
花丸「うん」
善子「でも、こんな時間にノックなんて」
善子「いくら照明があっても、疲れてるし」
花丸「いいからっ!」
善子「花丸、無理は駄目よ」
善子「怪我したら、どうしようもないわよ」
688: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:34:12.07 ID:ECxzsmoE.net
花丸「無理、しなきゃなんだよ」
花丸「マルは今までずっと、みんなの足を引っ張ってきた」
花丸「一番下手なのは、一番足を引っ張っているのは、間違いなくマル」
花丸「助っ人の三人よりも、ずっと下手なんだ」
花丸「今回の大会だってそう」
花丸「あんなにポロポロエラーしなきゃ、曜ちゃんが怒ることもなかった」
花丸「みんなだって、あんなに落ち込むことはなかった」
花丸「それに、ルビィちゃんが泣くことも……」
689: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:34:40.59 ID:ECxzsmoE.net
花丸「マルの所為で、チームが滅茶苦茶になってる」
花丸「みんなは初心者だから仕方ないって言ってくれる」
花丸「けどそれに甘えてちゃ駄目なんだ」
花丸「もうあんな思い、絶対にしたくない」
花丸「だから、だからっ――」
善子「分かった、分かったから」
善子「でもこの時間は本当に危ないわ」
善子「せめて素振りとかランニングとか、ボールを使わない事をしましょう」
690: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:35:22.76 ID:ECxzsmoE.net
花丸「でも――」
善子「いいからっ」
善子「あんたが怪我したら、またルビィは落ち込むわよ」
善子「あの子の事だから、きっとあんたの怪我も自分の所為だって抱えこむ」
善子「それでもいいの?」
善子「よくないでしょ」
花丸「それは……」
691: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:35:59.79 ID:ECxzsmoE.net
善子「守備はちゃんと人数が揃ってる時に、みんなと一緒にやればいい」
善子「普通の練習以外にもルビィにも声をかけて、明るい時間に三人で自主練すればいいでしょ」
善子「その方が効率もいいし、みんな練習にもなる」
花丸「う、うん」
善子「大丈夫、とことん付き合うわよ」
善子「私たちはまだ一年生」
善子「ちゃんと練習すれば、じきに上手くなるはずよ」
善子「焦る気持ちも分かるけど、少しずつ、一緒に頑張っていきましょう」
花丸「善子ちゃん……ありがとう」
善子「えっ、えっと――ヨハネよ」
692: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:36:34.31 ID:ECxzsmoE.net
―黒澤家―
ルビィ「…………」
ダイヤ「ルビィ、早く寝なさい」
ダイヤ「疲れを取るのも、アスリートには大切なことですわよ」
ルビィ「……うん」
693: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:37:11.78 ID:ECxzsmoE.net
ダイヤ「やはり、試合のショックは大きいのですか」
ダイヤ「初公式戦があれでは、無理もありませんが――」
ルビィ「ううん、違うの」
ルビィ「考えてるのは、別のこと」
ダイヤ「別の?」
ルビィ「曜さんね、野球部を辞めちゃうかもしれない」
ダイヤ「曜さんが?」
ルビィ「うん」
694: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:38:33.77 ID:ECxzsmoE.net
ダイヤ「なぜ、そう思ったのですか」
ルビィ「……ずっとね、違うと思ってた」
ルビィ「他の皆と、見ている世界が、目指している場所が」
ルビィ「どこか噛みあわない部分があったの」
ルビィ「常に、どんな相手でも勝利を目指す曜さんと、他のみんな」
ルビィ「東京の大会、曜さんは全部勝つつもりで戦ってた」
ルビィ「けど他のみんなは、千歌さんは、最初から勝ちなんて考えてもなくて」
ルビィ「何とか善戦できればいい、楽しめればいいって」
ルビィ「それが、当たり前なんだけどね」
695: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:39:46.11 ID:ECxzsmoE.net
ルビィ「たぶんね、曜さんは耐えられない」
ルビィ「Aqoursの野球と、自分がやってきた野球とのギャップに」
ルビィ「でもね、それが分かっているのに、ルビィは何もできない」
ルビィ「曜さんの助けにも、千歌さんの助けにもなれない」
ルビィ「大切なチームの崩壊を、止められないの」
ダイヤ「そうですか……」
ダイヤ(それを感じ取れる)
ダイヤ(それはつまり、あなたも曜さんと同じ世界を垣間見ていたということ)
ダイヤ(恐らく、自分では気づいてはいないのでしょうが)
696: 名無しで叶える物語 2018/09/01(土) 14:49:22.13 ID:ECxzsmoE.net
ダイヤ「大丈夫です、私が何とかします」
ダイヤ「時間はかかるかもしれませんが、任せてください」
ルビィ「本当?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「今までも、私はそうやって貴女を助けてきたでしょう」
ダイヤ「私を信じなさい」
ルビィ「……うん!」
ダイヤ「では早く休みなさい」
ダイヤ「明日からまた、部活は始まるのでしょう」
ルビィ「ありがとう、お姉ちゃん」タッタッタッ
ダイヤ(どうやら早急に、動き出さなければいけないようですね)
ダイヤ(もう悠長なことは言っていられません)
ダイヤ(問題は、野球部だけの事ではありませんから)ピラッ
【浦の星女学院、統廃合についてのお知らせ】
705: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 10:57:51.04 ID:vbM/8w++.net
―某グラウンド―
コーチ「ラスト!」キンッ
曜「やっ」パシッ――シュッ
選手A「いいね!」パシッ
コーチ「OK、上がっていいわよ!」
曜「はい!」
706: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 10:58:30.77 ID:vbM/8w++.net
曜「はぁ、疲れたぁ」
選手B「お疲れさん」
選手C「相変わらずいい動きしてるわね~」
曜「ありがとうございます」
選手B「今日はどうしたの、部活は休みとか?」
曜「まあそんな感じです」
選手C「あれ、そうなんだ」
選手C「私はてっきり、チームに戻ってきたのかと」
707: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 10:59:11.75 ID:vbM/8w++.net
選手B「いやいや、流石に早いって」
選手B「少し心配ではあったけど、上手くやってんだろ」
曜「あはは、それなりに」
選手C「えー、期待して損したわ」
選手C「戦力的には曜ちゃんが居るといないじゃ大違いなのに」
選手B「まあ、帰ってきたかったらいつでも待ってるから」
曜「ありがとうございます」
曜「じゃあ私はこの辺で」
選手C「はーい」
選手B「お疲れさん~」
708: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:00:25.07 ID:vbM/8w++.net
曜(……戻ってくると、安心するな)
曜(部活の練習を休むようになって数日)
曜(身体がなまらないように、監督に頼んでクラブチームの練習に混ぜてもらって)
曜(正直、物足りなさのあった部活より、しっくりくる)
善子母「渡辺さん」
曜「あっ、どうも」
善子母「大会、残念だったわね」
曜「……そうですね」
709: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:01:19.15 ID:vbM/8w++.net
善子母「思ったより頑張ったんじゃないかしら」
善子母「二戦目はともかく、一戦目はコールド回避できるなんて驚いたわ」
曜「いや、勝てなかったし、負けは負けなんで」
善子母「勝つ?」
善子母「あの面子じゃ、それは絶対無理だわ」
曜「……」
善子母「気持ちは分からなくはないわよ」
善子母「貴女は今まで、困難な状況を何度も覆してきた」
善子母「その成功体験があるから、何とかなる気はしたんでしょ」
710: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:02:49.43 ID:vbM/8w++.net
善子母「でもね、それは渡辺さん一人の力じゃない」
善子母「貴女よりは影響力は少なくても、微力ながらチームメイトの力もあってこそ」
善子母「あそこじゃ、浦の星じゃそれすら望めないもの」
曜「否定はできませんよ」
曜「たぶん、コーチの言うとおりでしょうから」
善子母「えらい素直になったわね」
善子母「よほどショックだったのかしら」
711: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:03:54.30 ID:vbM/8w++.net
曜「誰の所為だと――」
善子母「そうね、ごめんなさい」
善子母「こうなると分かっていてそそのかしたのは私」
善子母「指導者――大人としてその点は謝るわ」
曜「コーチ……」
善子母「それで、戻ってくる気になったの?」
曜「こうなることまで、分かっていたんですか?」
善子母「そりゃね」
善子母「貴女が求める野球があそこにはないことは知っていたから」
712: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:05:35.32 ID:vbM/8w++.net
善子母「早速練習に出る?」
曜「少し、考えさせてください」
善子母「分かったわ」
善子母「満足いくまで、ゆっくり考えなさい」
曜「ありがとうございます」
善子母「一応、理解してるわよね」
善子母「私が何度失礼な態度を取られてもあなたにやさしいのは、特別な才能を持っているからだって」
曜「ええ」
善子母「特別な才能を持つ人は、特別な場所で輝かなければいけない義務があるのよ」
善子母「それだけはちゃんと、理解しておいて」
713: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:06:53.05 ID:vbM/8w++.net
―帰路―
曜「はぁ」
曜(ずっと千歌ちゃんと一緒に野球をやりたいと思ってた)
曜(それができれば、満足だって思ってた)
曜(でも、自分の本能的な部分がそれを否定する)
曜(勝ちたい、負けたくない)
曜(その為には、千歌ちゃんと一緒に野球をやっていたら駄目)
曜(矛盾した二つの感情に、心を乱される)
曜(浦の星で野球部を始めたのは千歌ちゃん)
曜(千歌ちゃんが望まないなら、私は無理やり自分の考えを押し通すことはできない)
曜(あの場所にいることは、出来ない)
714: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:07:29.74 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「曜さん」
曜「へっ」
ダイヤ「練習、お疲れ様です」
曜「どうして、こんなところに」
ダイヤ「貴女を待っていたのです」
果南「少し、話があるからさ」
曜「果南ちゃんまで……」
715: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:08:25.98 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「少し時間よろしいですか」
曜「えっと、その話で?」
ダイヤ「はい」
曜「サボりのお説教とかだったらまた今度に――」
果南「違うよ」
曜「違う?」
ダイヤ「今後の、浦の星についてです」
ダイヤ「野球部、そして学校全体について」
曜「は、はぁ」
716: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:08:55.89 ID:vbM/8w++.net
―同刻・内浦海岸沿い―
千歌「はぁ」
千歌(気まずいなぁ、練習に出るのも)
千歌(曜ちゃんの件、ちゃんと説明ができていないまま)
千歌(みんな明らかに不審に思っているのに、適当に誤魔化して)
千歌(でも私も話せていないんだから、どうしようも――
717: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:09:58.29 ID:vbM/8w++.net
??「ハァイ」
千歌「へっ」
??「あなた、高海千歌よね」
千歌「そ、そうですけど」
千歌(何この金髪の人)
千歌(喋り方も含めて、怪しい雰囲気がプンプンする)
千歌(一応、外国人ではなさそうだけど)
718: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:10:27.67 ID:vbM/8w++.net
千歌「あの、私に何か?」
??「ええ、そうなの」
??「今、時間あるかしら」
千歌「えっと、時間――」
千歌(ど、どこかに連れ去られるとか)
千歌(逃げた方がいいのかな)
??「その様子だと問題なさそうね」
??「では来てもらいましょうか」グィ
千歌「へっ、ちょっとなにを――」
719: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:11:07.69 ID:vbM/8w++.net
―浦の星女学院・野球部部室―
千歌「えっと……、部室?」
??「連れてきたわよ!」
ダイヤ「鞠莉さん、いらっしゃい」
千歌「ダイヤさん、この人知り合いですか?」
ダイヤ「……その反応、説明さえしてなさそうですね」
鞠莉「あー、忘れてた」テヘペロ
果南「相変わらずだね、鞠莉は」
鞠莉「あら果南、シャイニー!」ハグ
果南「おー、よしよし」ハグ
720: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:12:10.03 ID:vbM/8w++.net
千歌「あのぉ」
ダイヤ「すみません、いつもこの二人はこんな感じでして」
千歌「あはは、仲良いんですね」
ダイヤ「ええ、私も含めて幼馴染ですので」
千歌「へぇ」
千歌(面識なかったけど、果南ちゃんは他にも幼馴染がいたんだな)
ダイヤ「今さらですが紹介します」
ダイヤ「この方は浦の星の新理事長で、アメリカへ野球留学をしていた小原鞠莉さん」
鞠莉「よろしくね~」
721: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:12:35.67 ID:vbM/8w++.net
善子「ちょ、ちょっと待って」
花丸「理事長って、どういうことずら?」
鞠莉「そのままの意味よ」
梨子「ダイヤさんたちと同い年、なんですよね」
鞠莉「ええ、だから生徒も兼任の理事長」
善子「そんなの聞いたことないわよ」
花丸「ずら」
722: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:13:11.44 ID:vbM/8w++.net
ルビィ「え、えっとね」
ルビィ「鞠莉ちゃん、世界的にも有名な大企業のお嬢様だから」
善子「お嬢様」
花丸「それは未来ずらね~」
梨子(何が未来なんだろう)
ルビィ「確か浦の星の経営にもかかわってるから、そんなにおかしい話ではないのかも」
ルビィ「元々、何でもありの変な人だし」ボソッ
723: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:14:00.48 ID:vbM/8w++.net
鞠莉「あらルビィ、ずいぶん立派になったわね」ハグっ
ルビィ「ピギッ」
鞠莉「色々と成長して――小さいのは変わらないけど」ワシワシ
ルビィ「ピ、ピィ―――――」ダッ
ルビィ「マルちゃ~~~~ん」ダキッ
花丸「おー、よしよし、怖かったねぇ」ナデナデ
ダイヤ「鞠莉さん、妹をからかうのもほどほどにしてくださいまし」
鞠莉「ごめんごめん、可愛いからつい」
724: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:14:39.05 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「まあとにかく、全員揃いましたわね」
花丸「あの、曜さんは?」
ダイヤ「少し、お休みしています」
ダイヤ「東京でずいぶん疲れてしまったようなので」
善子「そうなの?」
ダイヤ「ええ」
花丸「それで最近の練習休んでたんだ」
725: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:15:19.26 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「さて、本題に戻りますが」
千歌「はい」
ダイヤ「今日、皆さんに集まっていただいたのは、ある大事なお話があるからです」
千歌「大事な」
梨子「お話?」
善子「それはそこの鞠莉さんが理事長になったのと、何か関係があるの」
鞠莉「もちろん」
鞠莉「私が理事長兼任として戻ってきたのは、学校を救うためだから」
千歌「学校を、救う?」
726: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:16:23.49 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「……皆さんには話していませんでしたね」
ダイヤ「現在、この学校には統廃合の話が持ち上がっています」
梨子「えっ……」
鞠莉「相手は、沼津にある高校よ」
千歌「それは聞いたことあるけど、噂だって」
ダイヤ「今年の新入生の数が、例年にも増して少なかった為、話が進行したのです」
鞠莉「新入生が一クラス分も確保できない現状では、仕方のないことだけどね」
鞠莉「一応、今は私が新理事長としてその話を遅らせている状態」
727: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:16:56.88 ID:vbM/8w++.net
千歌「でも、何で私たちにその話を?」
鞠莉「簡単な話よ」
果南「野球で廃校を覆して、学校を救うためだよ」
善子「野球で廃校を覆して」
花丸「学校を」
ルビィ「救う?」
鞠莉「ええ」
728: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:17:31.71 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「実は2年前、既にこの学校には廃校の話が持ち上がっていました」
鞠莉「それを聞いた私たち3人は部を設立したのよ」
果南「人気上昇中の女子野球で有名になれば生徒が集まる、そう思ってね」
ダイヤ「鞠莉さんと果南さんの力もあり、私たちは創部間もなく頭角を現します」
千歌「ダイヤさんもいたんですか」
ダイヤ「もちろんです」
ダイヤ「2人のように、特別に上手なわけではないですけどね」
729: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:19:59.80 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「まあその野球部は、私の実家の事情もあり、大手を振って活動はできませんでしたが」
果南「周囲にばれないように、出来るだけこっそりと」
果南「他の助っ人や先輩も含めて集まって、鞠莉の家ので練習したりさ」
ダイヤ「両親が野球に関心がないのも幸いでしたわ」
鞠莉「でもね、静岡県予選を目前にしたところで事故が起きた」
鞠莉「念願の大会直前の練習試合」
鞠莉「当時キャッチャーだった私が、クロスプレーで負傷したの」
果南「投手だった私の球を捕れる人は、他にいなかった」
果南「さらに悪いことは重なって、黒澤家に部活のことがばれちゃったんだよ」
730: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:20:46.93 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「そして私は部を退部させられました」
ダイヤ「二度とプレーをしないという近いと共に」
ルビィ「……」
千歌「そんな……」
ダイヤ「約束を破ったのは私、仕方のないことです」
ダイヤ「それに、悪い話ばかりではなかったのですよ」
ダイヤ「退部以降、多少ガス抜きをするためにと、観戦については両親ともに寛容になりました」
ダイヤ「そのおかげでさらに野球に詳しくなり、曜さんの存在を認知出来て、野球部の再興に繋がったのです」
果南「その時は色々あって、統廃合の話も立ち消えになったしね」
731: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:22:04.42 ID:vbM/8w++.net
鞠莉「私と果南もね、ダイヤから話を聞いて新生Aqoursの事は気にかけていたのよ」
千歌「新生Aqours?」
善子「どういうこと?」
梨子「Aqoursって、元々あったチーム名だったんですか」
果南「そうだよ、私たち3人で野球部を作った時にも使っていた名前」
ダイヤ「最初に聞いたときは驚きましたわ」
ダイヤ「いったい、誰がこの名前付けてくれたのでしょうね」チラッ
ルビィ「……」フィ
千歌「あっ」
千歌(それで、ルビィちゃんは)
732: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:22:43.48 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「つまり話というのは、皆さんへのお願いです」
ダイヤ「何とか全国大会で、優勝してほしいという」
花丸「全国優勝って」
善子「最近強豪校相手にあんな試合をしたばかりなのに」
ダイヤ「もちろん全力で支援はするつもりです」
ダイヤ「優勝すれば、入学希望者などいくらでも集まります」
ダイヤ「例え少なくても、窮状を知ったファンからの寄付金も期待できる」
ダイヤ「優勝して、学校を救う」
ダイヤ「その為には、協力を惜しみません」
733: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:23:18.80 ID:vbM/8w++.net
千歌「でも、私たちが優勝できるとはとても」
ダイヤ「大丈夫です」
ダイヤ「みなさん、きちんと練習すれば上達します」
ダイヤ「すぐには無理でも、0を1へ、1を10へと積み重ねていくことはできる」
千歌「0から、1へ」
ダイヤ「もちろん、それだけではなく――」
果南「私たち三人も」
鞠莉「野球部に入りま~す」
734: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:24:22.43 ID:vbM/8w++.net
千歌「だ、ダイヤさん達が!?」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「現実的に考えれば、確かに優勝は厳しい」
ダイヤ「強豪相手に手も足も出なかった現有戦力だけではなおさらです」
ダイヤ「しかし私はともかく、果南さんと鞠莉さんは全国クラスに匹敵する選手」
ダイヤ「Aqoursには元々、全国でも戦えるレベルの投手が存在するのです」
ダイヤ「私たちが加われば、可能性が0とは言えないでしょう」
735: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:25:19.11 ID:vbM/8w++.net
ルビィ「でもお姉ちゃん、野球は禁止されてるんじゃ」
ダイヤ「この夏だけ許可を頂けました」
ダイヤ「お母様は私の野球への情熱を買って」
ダイヤ「お父様も全国大会優勝者の肩書を手に入れると誓ったら、折れてくださいましたわ」
千歌「全国大会――」
梨子「優勝――」
ダイヤ「優勝です」
ダイヤ「黒澤家に敗北の二文字は許されません」
鞠莉「私と果南が戻ってきたのも、ダイヤが復帰できることが決まったから」
果南「一緒に失ったあの時を取り戻し、大切なもの守り抜くために」
736: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:26:25.66 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「廃校を阻止するためには、冬の大会で結果を残すのでは遅い」
ダイヤ「夏に結果を出さなければおしまいです」
ダイヤ「これから求められるのは、勝利のための野球」
ダイヤ「楽しむ、それだけではいけません」
ダイヤ「辛い想い、苦しい想い、することは何度もあるでしょう」
ダイヤ「それでも、あなた達は協力してくれますか」
ダイヤ「一緒に、私たちと夢を追っていただけますか」
737: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:28:00.93 ID:vbM/8w++.net
千歌「……私、やるよ」
ダイヤ「千歌さん」
千歌「私だって、本当は悔しかった」
千歌「負けたのも、何もできなかったのも、言葉で現実を突きつけられたのも」
千歌「でも現実に立ち向かうのが怖くて、不可能だって逃げて」
千歌「それで無意識の内に、仲間を苦しめて」
千歌「本当は怖いよ」
千歌「ただ普通に、野球を楽しんでいたい」
千歌「でも母校の廃校、お世話になったダイヤさんの立場」
千歌(そして、曜ちゃんのこと――)
千歌「それらがあれば、頑張れる気がする」
千歌「0から1へ、一歩を踏み出せる気がする」
738: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:28:42.59 ID:vbM/8w++.net
千歌「梨子ちゃんも、一緒に目指してくれるよね」
梨子「もちろん」
梨子「私は最初からその気よ」
花丸「マルも頑張る!」
善子「私だって!」
花丸「ルビィちゃんも、だよね」
ルビィ「うん!」
739: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:29:38.66 ID:vbM/8w++.net
ダイヤ「ありがとうございます、みなさん」
ダイヤ「さて、ということですがどうしますか――曜さん」
梨子「えっ」
千歌「曜ちゃん?」
ガチャ
曜「……」チラッ
千歌「曜ちゃん……」
善子「隠れてるなんて趣味悪いわよ」
曜「うん、ごめん」
花丸「心配してたんだよ、みんな」
善子「でもよかったわ、無事で」
善子「曜さんもいれば、今の話もあながち世迷い言とも言い切れないもの」
740: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:30:15.81 ID:vbM/8w++.net
曜「いやその、私は……」
千歌「曜ちゃん」ガシッ
曜「千歌ちゃん……」
千歌「一緒にやろう」
千歌「私、もう逃げない」
千歌「本気で勝ちたい、勝って廃校を阻止したい」
千歌「だからお願い、力を貸して」
曜(千歌ちゃん、真剣な顔)
曜(本気なんだな、きっと)
曜(でも私は、私は――――)
741: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:30:48.79 ID:vbM/8w++.net
曜「……分かったよ」
千歌「曜ちゃん!」
曜「正直、まだモヤモヤが晴れたわけじゃない」
曜「でもやっぱり私は、千歌ちゃんと一緒に野球をやりたい」
曜「一緒に頂を目指したい」
曜「だから、やるよ」
千歌「うん、ありがとう!」
742: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:31:17.54 ID:vbM/8w++.net
善子「なによ2人とも、喧嘩でもしてたの」
千歌「ううん、たいしたことじゃないよ」
善子「でも、今のは――」
梨子「善子ちゃん空気を読んで」ガシッ
花丸「そうずら」ガシッ
善子「ちょ、離しなさいよ!」
ルビィ「善子ちゃん、黙るビィだよ」クチフサギ
善子「むー」
743: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:32:13.58 ID:vbM/8w++.net
果南「やれやれ、騒々しいね」
鞠莉「いいじゃない、これぐらい元気があるほうが」
ダイヤ「そうですよ、私たちは野球部なのですから」
果南「まあ、それもそうか」
ダイヤ「何はともあれ、これで正式な部員が9人揃いました」
ダイヤ「ある意味で、Aqoursが完成した日」
ダイヤ「きっとこれから、数多くの困難が待ち受けているでしょう」
ダイヤ「でもそれらはを全員で一緒に乗り超えていく」
ダイヤ「その為によろしくお願いしますわね、みなさん」
ダイヤ以外「「「おー!」」」
744: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:34:41.95 ID:vbM/8w++.net
ここで前編完結ということで、一区切り――いったん投稿を中断させていただきます
理由は単純で、少し書き溜めてから投稿しないと量的に辛そうということ
最初の練習試合後ぐらいから書き溜め無しでやっていたのですが、流石に色々と厳しい感じで……
物語自体は最後まで構築済みなので、そんなに時間はかからないはずです
遅くとも野球のCSが始まる前ぐらいには再開できればと考えています
残りの量や空白期間から考えて、続きは新しいスレッドで投稿する予定です
疑問点や質問などはここに投げておいていただければ、可能な範囲で再開後に解説、回答します(今日中ならここで出来るかもです)
745: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:35:30.15 ID:vbM/8w++.net
以下補足
○○代表~的な表記がありますが、これについては
日本代表>代表候補>年代別代表>年代別代表候補
のという感じの差があります
各自能力値
(あくまで基準値。ゲームではないので、常にその通りの力を発揮できるわけではないです)
見方
野手能力 弾道 ミート パワー 走力 肩力 守備力 捕球 利き手(投打の順) ポジション
投手能力 球速 コントロール スタミナ 変化球
表記はG~A(最高でSもあり、特殊能力はAまで)で、Gに近いほど低く、Aに近いほど高い
特殊能力欄はほぼ表記のまま受け取っていただければ
球速はMax 120で男子の140、130で150ぐらいの凄さ
基本的に伸びしろは学年が下の方があります
ただ伸び方には個人差はあります
(基礎ができている善子とルビィは伸びやすく、運動が苦手な花丸は伸びにくいなど)
746: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:40:07.32 ID:vbM/8w++.net
Aqours(前編終了時点)
ダイヤ:弾道2 ミD パG 走D 肩E 守D 捕D 右左 左(ニ・遊・中)
アベレージヒッター 流し打ち いぶし銀 逆境○ チャンスA 粘り打ち
鞠莉:弾道3 ミD パB 走D 肩C 守C 捕D 右右 右(捕・一)
悪球打ち 連打
果南:弾道4 ミE パA 走B 肩A 守E 捕E 右右 三(投・左)
:球速138 コンG スタS
強振多用 積極打法 プルヒッター 送球E 扇風機 盗塁F 走塁E
四球 短気 闘志
千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守E 捕C 右右 捕(一・三)
調子安定 チームプレー○
曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕C 右右 投/遊
:球速134 コンF スタB カーブ5 スライダー1
積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
速球中心 テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気
梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D 右右 投(左)
:球速117 コンC スタC カーブ2 シンカー3 スライダー2
キレB
747: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:40:25.21 ID:vbM/8w++.net
ルビィ:弾道1 ミD パF 走C 肩E 守C 捕E 右左 二(遊)
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
三振 チャンスE エラー バント職人
ルビィ(弱気状態)
:弾道1 ミF パE 走C 肩E 守F 捕G
積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C
扇風機 チャンスG エラー バント職人
花丸:弾道4 ミG パF 走G 肩F 守F 捕E 右右 一
エラー バント○
善子:弾道2 ミD パE 走D 肩E 守D 捕D 右右 中(遊・右・左)
選球眼 悪球打ち 意外性
むつ:弾道1 ミG パG 走F 肩E 守E 捕F 右右 三
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守F 捕F 右右 中(左)
よしみ:弾道2 ミF パF 走F 肩F 守F 捕F 右右 右(中)
748: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:43:20.07 ID:vbM/8w++.net
μ’s
こころ:弾道2 ミA パE 走D 肩C 守S 捕S 右右 捕
キャッチャーA チャンスB 流し打ち 人気者
板本:弾道3 ミB パC 走C 肩B 守A 捕C 右右 遊(一・ニ・三)
チャンスB 流し打ち 固め打ち 広角打法 人気者
ここあ:弾道2 ミE パE 走D 肩C 守B 捕C 右右 投
:球速126 コンC スタC 高速スライダー5 シンカー1 フォーク1
対左C ピンチB
笠野:弾道4 ミG パB 走F 肩A 守E 捕E 右右 投
:球速137 コンF スタC カーブ2 チェンジアップ2
速球中心 短気 乱調 四球 重い球 闘志
Saint Snow
聖良:弾道4 ミD パA 走D 肩A 守C 捕C 右右 投(一・右)
:球速135 コンD スタS スプリット5 カーブ2
パワーヒッター 威圧感 人気者
重い球 キレC 打たれ強さE
理亞:弾道2 ミC パD 走B 肩C 守B 捕C 右左 捕(左・中・右)
キャッチャーB チャンスメーカー 三振 チャンスE エラー
間宮:弾道3 ミE パD 走C 肩S 守A 捕D 右右 遊(投・ニ・三)
:球速130 コンE スタD カーブ2 スライダー2
守備職人 バント職人 チャンスE 粘り打ち
柳澤:弾道4 ミB パB 走B 肩B 守E 捕E 左左 中(右)
三振 パワーヒッター
749: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 11:59:53.71 ID:jzWxf0ps.net
乙
ついに3年組も加入か
鞠莉ちゃんが捕手もやれるのは助かるな
果南は変化球皆無なのね
後半も気長に待ってます
750: 名無しで叶える物語 2018/09/02(日) 12:00:40.37 ID:KW1HcdzB.net
おつ
1期9話の途中まできた感じか
9人の試合が早く読みたいww
千歌「白球を追いかけろ!」