3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:04:57.35 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「――あ」

P「どうした?」

雪歩「雪ですよ、プロデューサー」

雪歩は、まるで水を掬(すく)うように、両手を出した。

空を見上げると、雪歩の言うとおり、ちらちらと雪が舞い始めている。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:07:02.76 ID:sd+V4Q4m0

レッスンの帰り、俺と雪歩は事務所までの道を並んで歩いていた。

雪歩「プロデューサー……」

雪歩は照れながら、そっと俺に体を寄せてきた。

P「雪歩、近い」

雪歩「聞こえません」

雪歩は意地悪く微笑んでいる。腕まで、絡めてきた。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:09:04.64 ID:sd+V4Q4m0

昔とは大違いだ。あの臆病で、常に自信の無かった姿はもうどこにもない。

男性が苦手なのは相変わらずだが、それでも、相手の目を見て話すまでできるようになった。

雪歩「プロデューサー……好きです」

P「……」

雪歩「えへへ……」

雪歩の真っ赤になった頬は、白い街に、いっそう深く映えている。

街の喧騒の間で、しゃりしゃりと雪を踏みしめる音が、俺の耳に切なくついた。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:11:04.17 ID:sd+V4Q4m0

ある日、母親から一本の電話が来た。

P「え、お見合い?」

お見合いという言葉に、事務所のみんなが一斉に俺を見た。
慌てて腰をかがめて、ひそひそ声になる。

P「無理だよ。いくら祝日でも、クリスマスシーズンは忙しいんだ」

特に、その日は大事な仕事が入っていた。
一ヶ月後のクリスマスイヴ。ある人気ゴールデン番組で、雪歩が歌うのだ。

その番組は、アイドルや歌手なら誰もが出演を望む。憧れる。
トップアイドルになるための、登竜門と言ってもいい。

何かトラブルが起こった時に、フォローできる人が側にいないといけない。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:13:04.44 ID:sd+V4Q4m0

P「母さんだって、俺の仕事は分かってるだろう?」

母親はまだ何か言っているようだったが、俺は半ば強引に電話を切った。

雪歩「プロデューサー、お見合い、するんですか……?」

雪歩が心配そうな顔をして、俺を見上げてくる。
ほんの一瞬だが、昔の雪歩を見たような気がした。

P「しないよ。その日は、雪歩にとって大事な日じゃないか」

雪歩「プロデューサー……!」

P「雪歩、レッスンは?」

雪歩「え……あ、ああ!」

雪歩は時計を見て、びっくりする。
事務所を出るいつもの時間を、だいぶ過ぎていた。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:15:06.42 ID:sd+V4Q4m0

P「ほら、まだ走れば間に合うぞ?」

雪歩「い、行ってきますー!」

雪歩はジャージが入ったカバンを引ったくり、大慌てで事務所から出て行った。

P「さて、俺も仕事に……あれ?」

ふと、ソファーの片隅に、見覚えのある可愛いピンクの水筒を見つけた。
これは、雪歩のものだ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:17:06.00 ID:sd+V4Q4m0

P「あいつ、忘れていったな」

後で届けてやろう。
そう思った俺は、その水筒を手に取った。

高木社長「おほん。あー…Pくん、ちょっといいかね?」

P「あ、はい。何でしょう?」

高木社長「ちょっと、社長室まで来てくれないか」

分かりました、と返事をして、俺はとりあえず持っていた水筒を自分の鞄に入れた。
そして、社長に促されるまま、社長室に向かった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:19:26.04 ID:sd+V4Q4m0

P「……何ですって?」

社長室で俺は、つい聞き返してしまった。

高木社長「お見合いに、行ってきなさいと言ったのだ」

高木社長は、いつもの冗談めいた態度ではなかった。
だからこそ、俺は真面目に、失礼を承知で言い返した。

P「それは、できません。その日は、大切な収録があるのです」

高木社長「律子君に代わりを頼む」

P「しかし! 雪歩は俺がいないと――」

高木社長「君は!」

P「うっ」

今まで聞いたことがない高木社長の声に、俺はひるんでしまった。
社長は俺に、鋭い目を向けてきた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:21:09.72 ID:sd+V4Q4m0

高木社長「君は、雪歩君のプロデューサーじゃないのか?」

P「そうです! 俺は、雪歩のプロデューサーです!」

俺は、力強く言った。言い聞かせた。
握った拳が、小刻みに震える。

高木社長「雪歩君は、君をずいぶん信頼しているようだ」

P「それは、あくまでプロデューサーとして、です」

高木社長「本当に、君はそう思っているのかね?」

P「……それは、どういう意味ですか」

高木社長「そのままの意味だ。君は、プロデューサー失格だ」

P「!」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:23:16.54 ID:sd+V4Q4m0

P「!」

プロデューサー失格。
その言葉は、今までのどんな辛い経験よりも、重く俺の心に突き刺さった。


P「俺と雪歩は何でもありません!! ただのアイドルとプロデューサーです!!!」


大声で、そう否定する。

ただでさえ薄い社長室の壁だ。
律子や小鳥さんは、多分びっくりしているだろう。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:25:04.14 ID:sd+V4Q4m0

高木社長「P君、私が言いたいのは」

P「失礼します!」

高木社長「待ちたまえ、P君!」

俺は高木社長の制止も聞かず、社長室を飛び出した。
自分の鞄を引ったくる。

勢いよくドアを開け、わき目も振らずに事務所から出て行った。
水筒を、雪歩に届けに行こう。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:27:04.20 ID:sd+V4Q4m0

P「まだ来てない?」

水筒を届けに来たのだが、レッスンスタジオに雪歩はいなかった。

真「うん。何か忘れ物したって、ここに来る途中で……プロデューサー、事務所で会わなかった?」

P「いや……」

真「おっかしいなー。本当に会いませんでした?」

事務所からレッスンスタジオまでの道は、ほぼ決まっている。
今日に限って、雪歩が違う道を通ることがあるだろうか。

俺はそんなことを考えながら、とりあえず水筒だけでも置いて帰ろうとした。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:29:04.37 ID:sd+V4Q4m0

その時、スタジオのドアが開いた。雪歩だ。

P「ゆ、雪歩!」

雪歩「……プ、プロデューサー!」

雪歩は俺と目が合うと、いつもの笑顔で、俺に走り寄ってきた。

雪歩「どうしたんですか、こんなところで」

P「雪歩こそ、どこに行ってたんだ?」

雪歩「すいません、事務所に忘れ物しちゃって……」

P「それって、これだろ?」

俺は、鞄からあの水筒を取り出した。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:31:05.39 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「そ、それです!」

雪歩は俺の手から水筒を取ると、嬉しそうに腕に抱えた。

P「……なあ雪歩、どの道を通ったんだ?」

雪歩「え? いつもの道ですよ?」

雪歩は水筒のお茶を一杯、俺に差し出した。

雪歩「美味しいですよ?」

普段の俺なら、そのお茶を喜んで受け取るだろう。
だけど、今はそれよりも聞きたいことが、雪歩にあった。

P「俺は、一度も雪歩に会わなかった」

雪歩「……」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:33:09.04 ID:sd+V4Q4m0

すると、雪歩の笑みが急に消え、俺から目を逸らした。
心臓の鼓動が、高鳴った。

P「どこに、いたんだ……?」

時間にすると、ほんの数秒だったのかもしれないが、雪歩の言葉を待つ時間は、その何倍にも感じた。

雪歩「じ、実は……」

雪歩「実は、犬に追いかけられてしまって、怖くて側のお店に避難したんです」

雪歩は体を縮ませて、震える声でそう言った。

P「な、なんだ。そうだったのか」

俺は肩すかしを喰らって、変な調子の声を出してしまった。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:36:09.33 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「それじゃあ私、レッスンがあるので……」

P「あ、ああすまない。邪魔したな」

これ以上レッスンの時間を割くわけにはいかないので、俺はそそくさとその場を後にする。

帰りに、雪歩にプレゼントとしてシャベルを買った。
クリスマスと誕生日を兼ねてだけど。

店の外に出て、冬の冷たい空気を胸いっぱいに吸う。
雪歩、喜んでくれるだろうか。








小鳥さん「え? 雪歩ちゃん、事務所には戻って来てませんよ?」

P「…………は?」

思わず、手に持ったシャベルを滑り落とした。
冷たい事務所の床に、良く響いた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:38:04.73 ID:sd+V4Q4m0

雪歩が忘れ物をしたあの日から、4日経った。

雪歩「それじゃあプロデューサー、レッスン行ってきます」

P「気をつけろよ。帰りは迎えに行くから」

雪歩に、特に変わったことはなかった。
あれから社長も、何も言わない。
クリスマスイヴの番組に向けて、レッスンが忙しくなってきたぐらいか。

あの日だって、一度戻ってきた雪歩に、小鳥さんが気付かなかっただけだろう。
今はそんなことをかんがえるよりも、仕事や、忙しい雪歩のサポートをするべきなんだ。

P「さて、仕事だ仕事!」

腕まくりをして気合を入れたものの、すぐに寒くなってくしゃみをしてしまった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:40:03.41 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「あ、プロデューサー!」

P「お疲れ、雪歩」

いつも通り、俺はレッスンスタジオまで雪歩を迎えに行った。
スタジオから出てきた雪歩の頬は、ほんのりと薄紅色に染まっていた。

P「レッスンはどうだ。順調か?」

雪歩「はい、バッチリです」

雪歩は、にこにこと、控えめにピースまでしてきた。
それを見て俺はほっと肩をなでおろした。
これなら、クリスマスイヴの収録も大丈夫だろう。

俺は、事務所までの帰り道を歩きだした。
雪歩も、いつも通り、俺の横についてきた。




いつも通りではなかった。
しばらく歩いて、俺は違和感を感じた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:42:13.38 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「プロデューサー、最近私、少しですけど、犬に触(さわ)れるようになったんですよ!」

もともと、雪歩は積極的に喋ることはない。
帰るまでに一言、二言しか言わないこともよくある。

雪歩「私、プロデューサーのおかげで、昔とは比べ物にならないぐらいましに……」

雪歩が、あまりにも喋り過ぎていた。
それに、さっきから前を向いたまま、俺の方を見ようとしない。

P「……なあ雪歩、何か、あったのか?」

雪歩「……」

雪歩の足が、止まった。うつむいて、両手をこまねいている。
やっぱり、何かあったのか。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:44:04.94 ID:sd+V4Q4m0

P「何か、不安なことでもあるのか? 遠慮なんてしなくていい。言ってみろ」

しばらく、雪歩はぎこちなく両手を弄ばせていた。
この間、俺は昔を思い出していた。

雪歩と会って初めての頃は、よくこんなことがあった。
たいていは父親が厳しいだの、自分に自信がないだの、そういった悩み相談だった。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:46:20.64 ID:sd+V4Q4m0

今回だって、多分クリスマスイヴの収録が上手くいくかどうか不安なのだろう。
大丈夫さ。雪歩は、あの頃と比べてずいぶん変わったのだから。
俺は今まで通り、雪歩をサポートしていくさ。






雪歩「クリスマスイヴの収録、律子さんにお願いしましたから……」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:48:15.72 ID:sd+V4Q4m0

P「……どうしたんだ、雪歩」

やっと絞り出せたのは、蚊の鳴くようなかすれ声だった。

雪歩「プロデューサー、最近働き過ぎですよ。休んでください」

P「何を言ってるんだ。その日は雪歩にとって大事な日じゃないか」

雪歩「私は、大丈夫です」

P「何が大丈夫なんだ!」

人目も気にせず、俺はつい大声で怒鳴ってしまった。
雪歩がビクッと体を震わせた。

P「あ……す、すまない」

雪歩は顔をうつむけたまま、体をぎゅっと抱きしめていた。
俺は、おそるおそる、雪歩にそっと手を伸ばした。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:50:02.31 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「……です……」

P「えっ」

雪歩「好きです、プロデューサー」

俺は、伸ばした手を止めてしまった。
雪歩は黙っている。目に、うっすらと涙を浮かべている。

P「……」

雪歩が俺に好意を持っているのは知っていた。
それが、男と女のそれということも。
だけど、それは許されない。
なぜなら、俺は、俺は……


P「俺は、雪歩のプロデューサーなんだ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:52:09.38 ID:sd+V4Q4m0

雪歩「!」

俺は、プロデューサー。
ましてや、アイドルのプロデューサーだ。

やっと、ここまできたんだ。
今までの雪歩との努力を、無駄にしたくはない。しては、いけない。

雪歩「そう、ですか……」

雪歩はそれだけ言うと、再び歩きだした。
俺も、後ろからついていく。

事務所に帰るまで、それっきり会話はなかった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:54:10.70 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「雪歩ちゃん、しばらく休むそうです……」

P「そう、ですか……」

小鳥さん「クリスマスイヴの収録も近いのに、大丈夫かしら……」

体調不良。
事務所に連絡してきた雪歩の母親は、雪歩の欠勤の理由について、そう言ったらしい。

俺は自分の携帯電話を開いた。
やはり、何度確認しても、雪歩からの着信は無い。
メールも、来てなかった。

小鳥さん「プロデューサーさん、何か心当たりありませんか?」

P「風邪じゃないでしょうか。最近、冷えましたし」

小鳥さん「……プロデューサーさん」

小鳥さんは、猛禽類そっくりな鋭い目で、俺をじっと睨んできた。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:56:03.85 ID:sd+V4Q4m0

P「な、なんですか」

小鳥さん「今夜、飲みにいきませんか」

P「いや、今日は雪歩の見舞いに行こうと思ってるんで……」

すると、小鳥さんは椅子から立ち上がり、ズカズカと大股で俺ににじり寄ってきた。

小鳥さん「ならなおさらです。飲みにいきましょう」

そう言って、小鳥さんは俺のネクタイを強く掴んできた。
そして、ぎりぎりと締めあげてくる。

小鳥さん「これは、命令です」

P「わ、分かりました……」

首の締め付けよりも何よりも、小鳥さんの形相が恐ろしかった。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 22:58:47.30 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「はい、お疲れさまでーす」

P「お疲れ様です」

小鳥さんは手に持ったビールをぐびぐび飲んでいく。
俺もとりあえず一口飲んだ。

仕事終わり。俺と小鳥さんは、たるき亭の奥座敷にいた。

P「カウンターで良かったんじゃないですか? 二人だけですよ」

小鳥さん「大事な話をカウンターでできますか!」

半分ほどに減ったジョッキをドンと机に置いて、小鳥さんは口にできた「ひげ」
も拭かずにそう言った。

P「その大事な話って、もしかして雪歩のことですか?」

小鳥さん「もしかしなくても雪歩ちゃんのことです!」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:00:38.91 ID:sd+V4Q4m0

P「俺は、雪歩とは何も……」

小鳥さん「あーあー今更そんなこと言わなくても結構です。みーんな知ってます!」

小鳥さんはビールをぐびぐび飲んでいく。
あっという間にジョッキは空になってしまった。

小鳥さん「見てりゃー分かりますよ。雪歩ちゃんとプロデューサーが相思相愛なのは!」

P「俺はあくまで雪歩のプロデューサーです。そんなことは……」

小鳥さん「まーだそんなこと言ってんのかこの若造!」

今日は小鳥さんの悪酔いを止めてくれる人は誰もいない。
長い夜になりそうだった……。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:04:26.56 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「だーかーら! あんたはヒック雪歩ちゃんのことが好きなんでしょお~!?」

P「そうですよお~! 好きにヒックきまってるじゃあ、ないですか~!」

小鳥さん「なら何で好きって言わない~?」

P「俺は~、プ・ロ・デュー・サー・なんです! アイドルとぉ~、恋仲になれますか~!?」

小鳥さん「古い! 古いぞその考えは~! 男ならド~ンと当たって砕けんか~い!」

P「砕けちゃ駄目でしょ~? それに雪歩は俺の事を好きってー……」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:07:06.87 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「おう、なんじゃいそれ~! 雪歩ちゃんがあんたを好きだって~!?」

P「もう何度も言われてますよ~! この前だって好き好き大好き~って!」

小鳥さん「それでぇ~、あんたは何て返したんだい!?」

P「だ~か~らぁ~! 俺は、雪歩のプロデューサーだ! って言ったんですよ~!」

小鳥さん「……こぉ~の馬鹿野郎ぉ~!!」

P「痛っ!? な、なんですかぁ、いきなり~」

小鳥さん「あんた最低だよぉ~! この男失格!」

P「小鳥さんに言われたくありませんよぉ~! 早く結婚しろ~!」

小鳥さん「にゃんだとぉ~! 女失格って言いたいのか~!」

律子「何やってるんですか……」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:09:17.72 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「あ、律子ひゃん~!」

P「おお、律子ぉ~!」

律子「二人ともベロンベロンじゃないですか……」

小鳥さん「へいタクシ~!」

律子「はいはい、もう呼んでますよ」

P「律子ぉ~!」

律子「ちょっ、抱きつかないでくださいよ、酒臭い!」

P「雪歩を、雪歩を取らないでくれぇ~!」

律子「はぁ?」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:11:48.31 ID:sd+V4Q4m0

P「俺は雪歩が大好きなんだよぉ!」

P「トップアイドルになった、あいつの笑顔を見たいんだぁ~!」

P「俺なんかと一緒になったら、あいつは、あいつは~!」

律子「だ、大の男が泣かないでくださいよ!」

P「俺は、いったいどうしたらいいんだ~!」

小鳥さん「こぉ~の鈍感ダメ男が~!! ヒック」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:13:46.89 ID:sd+V4Q4m0

翌朝、俺は知らない部屋で目が覚めた。

P「痛た……頭が……」

律子「目が覚めました?」

P「え、なんで、律子?」

律子「ここは私の部屋です。昨日のこと、覚えてないんですか?」

律子は腕を組んだまま、ベッドにいる俺を厳しい目で見下ろしてきた。
俺は律子から目を逸らし、必死で頭を回転させて、昨日の記憶を必死で手繰り寄せた。

P「…………真に申し訳ありませんでした」

昨日のたるき亭での失態を、断片的ではあるが思い出した。
小鳥さんの悪酔いを止めるどころか、なぜか自分まで一緒になって飲んでしまった。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:16:05.44 ID:sd+V4Q4m0

律子「家の住所聞こうと思ったら、小鳥さん共々泥酔してるんだもの」

P「本当にご迷惑を……え、共々?」

小鳥さん「痛た……頭……」

俺のいるベッドの布団の中から、ひどく髪を乱せた小鳥さんが、頭を押さえながら起き上ってきた。

P「こ、小鳥さん!?」

小鳥さん「あ、おはようございます、プロデューサーさん」

意外にあっさりとした態度に、俺は慌ててベッドから飛びのいた。

P「おはようじゃないですよ! どうして小鳥さんがベッドに!?」

律子「床に寝かせるわけにもいかないでしょう。それとも、プロデューサーが冷たいフローリングで、風邪をひきたかったですか?」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:18:03.78 ID:sd+V4Q4m0

P「……り、律子はどこで寝たんだ?」

律子「床です」

P「ほ、本当に、その……申し訳ありませんでした……」

俺は最大限の謝罪の意を込めて、律子に土下座をした。

律子「やめてください。情けないったらありゃしない」

律子が呆れた声を出しても、俺は頭を下げ続けた。

律子「……雪歩、今日も休むそうですよ」

そこで俺は、初めて頭をあげた。
律子は、どこか悲しそうな顔をして、俺に言った。

律子「謝るなら、私じゃなくて雪歩に謝ってください」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:20:05.06 ID:sd+V4Q4m0

痛む頭を押さえながら、なんとか俺は事務所で仕事についていた。
今日の仕事はアイドル達の送り迎えぐらいで、大半が事務仕事だった。

小鳥さん「いやあ、昨日はちょっと酔い過ぎましたね」

対面の机にいた小鳥さんが、同じく頭を押さえながらそう言った。

P「ちょっとどころじゃないですよ。完全に悪酔いですよ」

律子「まったく、二人とも自重してください」

律子は目の前のパソコンをカタカタ打ちながら溜息をついた。

P「それで、今日こそは仕事終わりに雪歩の見舞いに行こうと思う」

律子「……大丈夫なんですか?」

P「あー…その頃には二日酔いもマシになってるさ」



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:22:06.27 ID:sd+V4Q4m0

律子「違いますよ。プロデューサー、分かってますか?」

キーボードを打つ手を止めて、律子は俺をじっと見てきた。

P「何を?」

小鳥さん「昨日あれだけ言ってたじゃないですか。雪歩大好きだぁ~! って」

P「そ、そんなこと俺は」

律子「言いました。私に抱きついてまで、大声で叫んでました」

律子がジト目で俺を睨んできた。
そ、そういえば、そうだった……かな?

律子「プロデューサー……もちろん、アイドルとの恋なんてご法度ですが」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:24:40.55 ID:sd+V4Q4m0

律子「そのアイドルを悲しませるのは、プロデューサーとして本末転倒じゃないですか?」

その律子の言葉に、俺は非常に腹立たしい気持ちになった。
そんなこと、俺だって分かっている。
だけど、だけど……

P「雪歩を面と向かって愛してしまうと、今まで雪歩と築き上げてきたものが、全部崩れてしまう」

アイドルとプロデューサーの熱愛なんて、雪歩の身を滅ぼす行為だ。
仮に大きな騒ぎにならなくても、それが尾を引いて、もう決してトップアイドルになることはできないだろう。

小鳥さん「そんなものが、どうしたというのですか?」

P「そ、そんなもの!?」

小鳥さん「あなたが言った一言で『一人の女の子としての』雪歩ちゃんは、崩れたんですよ?」

P「そんな、まさか……」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:27:08.85 ID:sd+V4Q4m0

小鳥さん「まさかもなにも、現に雪歩ちゃん、体調不良で休んでるじゃないですか」

P「でも、俺は、あいつの幸せを思って……」

小鳥さん「嘘ですね」

P「嘘なわけがないでしょう!」

小鳥さん「お姉さんだから分かります。あなたは雪歩ちゃんを理由にして逃げてるだけです」

P「何から逃げてるっていうんですか!」

俺は思わず、椅子から立ち上がった。
それでも小鳥さんは、俺から目を逸らさない。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:29:08.92 ID:sd+V4Q4m0

律子「プロデューサー!」

律子の声に、俺はハッと我に返った。

P「すまん。つい……」

あの雪歩の時といい、俺はいったい、どうしたのだろう。

律子「これ」

律子は財布から千円札を取り出し、俺にずいと押しつけてきた。
よく見ると、メモも一緒だ。

律子「おつかいにでも行って、頭冷やしてきてください」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:31:16.14 ID:sd+V4Q4m0

俺は、公園のベンチに座り、ぼーっと呆けていた。
傍らには、頼まれたものが入った袋がある。カサカサと微かな風に揺れている。

小鳥さんが俺に言ったことが、まだ頭の中を回っている。
だけど、俺にはまだ分からない。なぜ、なにから、逃げているのか分からない。

P「ああ、どうしたら……!」

ベンチにだらしなく預けた体を、ぶん、と反動で起こす。
そして、そのまま頭を抱え、うずくまる。

??「プロデューサー……?」

聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔を上げる。
目の前に、見覚えのある姿が、あった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:33:27.11 ID:sd+V4Q4m0

貴音「どうしたのですか? なにやら深刻そうですが……?」

今の自分の悩みを、普通なら、アイドルに話したりはしない。
自分の弱いところを見られただけで恥ずかしいのだ。

しかし、

P「……聞いて、くれるか……?」

そのときの俺は、到底普通じゃなかった。
普通なら、泣き顔なんて見せない。

俺はそれから、貴音に悩んでいる理由(わけ)を話した。
ひどく、支離滅裂だったかもしれない。聞き苦しい愚痴だっただろう。

その間、貴音は俺の隣で、ただずっと座って聞いていた
ただ無表情で、一度も俺のほうを見ることなく、遠くを見ていた。

俺は一通り、今までの顛末を話し終わった。
貴音がスッと、俺の方を向いてきた。相変わらず、微笑みもしない。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:36:39.35 ID:sd+V4Q4m0

貴音「プロデューサー……あなたは、真に身勝手ですね」

俺は、激しく動揺した。
つまりそれは、まったく情けないことだが、貴音は俺に同情してくれると思っていたのだ。

P「俺の、俺のどこが身勝手だというんだ!?」

貴音の目が、一層鋭いものになる。

貴音「さっきから聞いていれば、雪歩殿がトップアイドルになれない等、どうのこうのと雪歩殿のことばかり……自分はどうなるか、考えたことはないのですか?」

P「俺はどうなってもいい。俺よりも、雪歩だ」

貴音「本当に、自分はどうなってもいいのですか?」

P「……そりゃ、雪歩のファンには恨まれるかもしれないが」

貴音「かも、ではありません。十中八九、恨まれます。運が良くても、ファンに襲われるでしょう」

凄みのある貴音の声に、俺は体が底冷えした。
貴音から初めて感じる、恐怖。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:39:05.90 ID:sd+V4Q4m0

P「お、おい。それは考えすぎじゃないか」

貴音「プロデューサー!」

情けない。ただただ情けない。
俺は貴音の怒鳴り声に、怯えてしまった。

貴音「あなたは、甘いです。まるで自分には火の粉がかからぬような言い草」

貴音「私には、あなたが卑怯者にしか見えません」

P「貴音……」

貴音「それでは、失礼いたします」

貴音はベンチから立ち上がり、去ってしまった、一度も俺の方を向くことなく。
俺は貴音の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿をただ眺めるしかできなかった。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:39:03.02 ID:Mpdvs7Iq0

どうでもいいけどお姫ちんはカタカナ→ひらがな表記が基本だった希ガス



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:40:11.10 ID:sd+V4Q4m0

>>60
oh,ご指摘ありがとうございます



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:42:14.33 ID:sd+V4Q4m0

P「卑怯者か……」

P「俺は、ただ雪歩の幸せを考えて……」

その時、静かな公園に不釣り合いなほど軽快なメロディが流れた。
慌てて、俺は携帯電話を取り出す。律子からだ。

P「――もしもし?」

律子「プ、プロデューサー、大変です!!」

思わず、しかめ面で電話から顔を離す。
俺はその顔のまま、電話に戻る。

律子「た、大変なんです! どうしましょう!?」

大変な動揺は伝わってきたが、それしか分からない。
律子をなだめて、落ち着いて聞く、何があったのかと。




P「雪歩が、アイドルを辞める……?」

俺が、崩れた。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:44:39.89 ID:sd+V4Q4m0

俺は急いで、雪歩の家へと向かった。
心臓の動悸は、きっと走ったせいではない。

雪歩の家の、大きな門の前まできた。
俺は、息を整えながら、インターホンを押した。

しばらくして、渋い男の声がした。
雪歩の、父の声だ。

P「な、765プロのプロデューサーです! あの、雪歩に会わせてください!」

雪歩父「……すまないが、帰ってくれ」

ブツリという音と共に、会話はそれで終わった。
俺はもう一度、インターホンを押した。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:47:23.40 ID:sd+V4Q4m0

失礼でも、不作法でも、俺は何度もインターホンを押し続けた。

すると、門がガチャリと、わずかに開いた。
まだ俺と同い年くらいの、黒服に身を包んだ若者が、二人出てきた。

男1「プロデューサーさん、すみませんが、お引き取り願えませんか」

P「雪歩に、会わせてください!」

男2「お嬢は、疲れています。お引き取りを」

男達は、両側から俺の腕を掴み、門の前から引き離そうとする。
俺は抵抗した。

P「離してくれ! 雪歩に会うまで、俺は帰らない!」

男1「……会って、どうするんです?」

P「会って、話を聞くんだ! なぜアイドルを辞めるのか! それを、聞くんだ!」

俺を掴む男達の力が、少し強くなった。
だが、顔は悲しそうに、俺を見ていた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:50:11.78 ID:sd+V4Q4m0

男2「残念です。プロデューサーさん……」

P「本当に残念に思ってるなら、雪歩をそう思う気持ちがあるなら、離してくれ!」

俺の言葉に、男達の表情が、また一層、暗いものになった。
なぜだ。どうして、そんな顔をする!?

男1「……高木社長を、呼べ」

男2「はい……どうしてですか、プロデューサーさん……」

がたいのいい男二人が、涙ぐんでいた。
俺は、わけが分からなかった。

ほどなくして、俺は車で駆け付けた高木社長に胸倉を掴まれ、連行された。
社長まで涙ぐんでいたのを、はっきりと覚えている。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:53:34.61 ID:sd+V4Q4m0

自宅謹慎。
社長から俺に下された処分は、無期限の自宅謹慎だった。

俺は自宅で、まるで廃人のような生活を送った。
起きているのか寝ているのか、生きているのか死んでいるのか……分からない。

雪歩の引退は、社長の根回しのおかげか、まだマスコミにはバレていなかった。
しかし、もうあと二週間を切った、クリスマスイヴの番組に出られないとなると、それがバレるのも時間の問題だろう。

P「…………」

虚ろな目で見る部屋の景色は、灰色。
机の上のカッター、床に放り出された長めのタオル……

俺は何も考えずに、いや、考えすぎて疲れた頭で、手を伸ばす。





もう、何もかも…………どうでもいい。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:56:04.18 ID:sd+V4Q4m0

春香「プロデューサーさーん!」

P「!」

伸ばした手が、止まる。
玄関から聞こえる。あの声は……・

春香「お願いします! 開けてください! プロデューサーさん!」

チャイムとドアの連打。俺の名前を連呼。
ゆらりと俺は、立ちあがった。

春香「――プロデューサーさん!」

ドアを開けた直後、みぞおち辺りに強い衝撃を感じた。
続いて、強く体を締め付けられる感触。

春香「プロデューサーさん! プロデューサーさん!」

俺の腹に顔をうずめ、泣きじゃくっている。
春香の姿が、そこにあった。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/22(土) 23:58:39.99 ID:sd+V4Q4m0

春香「はい、どうぞ。ろくなもの食べてないんでしょう?」

机の上に、湯気の立った料理が置かれていく。
色鮮やかな料理が、4、5品ほど並ぶ。

春香「食べてください、プロデューサーさん」

P「……」

腹が空いていなかったわけではないが、箸を持つ気力さえ無かった。
それを見て春香は、微笑みながら、自分の箸を取った。

春香「はい、アーン」

春香は、優しい目で笑っていた。
俺は、口を開けた。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:01:05.96 ID:cHw7oz7Q0

口の中に、甘辛い味覚が広がる。
ゆっくり咀嚼する。飲み込む。

春香「はい、アーン」

俺は、再び口を開ける。
まるで、親鳥から餌をもらう、雛。

俺は、泣いた。
遠い昔に枯れ果てたと思っていた涙が、あふれた。

歪む視界の中で、春香はさらに笑顔になったような、そんな気がした。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:03:04.75 ID:sd+V4Q4m0

あれから、春香はほぼ毎日、俺の家に来てくれた。
いつのまにか、俺の心の大部分は、春香が占めていた。

春香「はい、プロデューサーさん。今日はオムライスですよ!」

P「ありがとう、春香」

料理以外にも、洗濯、掃除などの家事を、一手に引き受けてくれた。
もう俺は、春香無しでは生きられないのかもしれない。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:05:29.90 ID:cHw7oz7Q0

何気なくつけていたテレビから、天気予報士の声が聞こえる。

『今日の天気は、曇り時々、雨か雪でしょう』

雪。

スプーンを持ったまま、俺の手は止まった。

春香「……ねえ、プロデューサーさん」

机の対面に座っていた春香が、近づいてきた。
俺の隣に、近すぎるほどくっついてきた。

春香「……忘れましょうよ」

俺は、ゆっくりと首を回した。春香の顔を、見る。
春香は、静かに笑っていた。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:08:07.92 ID:cHw7oz7Q0

春香「辛いことをいつまでも引きずるなんて、体によくありません」

とうとう、俺に抱きついてきた。
スプーンが、手から滑り落ちた。

春香「私は、雪歩と違う。何があっても、一生側に居ます」

P「だけど、俺と、春香は、プロデューサーと、アイドル……」

春香「心配しないでください」

上目づかいで、俺を覗きこんでくる春香。
彼女の口の端が、釣り上った。





春香「ばれても、全部私のせいにしちゃえばいいんです……」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:10:03.60 ID:cHw7oz7Q0

俺は、春香から視線を逸らすことができなかった。
ただ、ただ、固まっていた。

春香「そうすれば、少なくとも非難されるのは私。あなたは傷つかない……」

俺は、傷つかない……

春香「私が、あなたを一生守ってあげます……!」

春香が、俺を守ってくれる……

だんだんと、春香の顔が、近づいてくる。
春香はそっと、目を閉じた。

春香「プロデューサー……好きです」



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:13:41.71 ID:cHw7oz7Q0

そのときだった。向かいの窓に、小さな水滴がぶつかった。
それは、ポツポツと何度も窓を打ち付ける。

春香の頬は、薄紅色に染まっている。
窓が、濡れていく。

うっすらと流れるその様子は、まるで涙のようで……

薄紅色の頬。
うっすらと流れる涙。

――『……です……』

――『好きです、プロデューサー』

P「……ち、違う」

春香「え?」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:15:29.97 ID:cHw7oz7Q0

P「違う!」

俺は、春香を押しのけた。
頭を覆い、かぶりをふる。

P「違う……違う…違う、違う違う違う!!!」

P「そうじゃない!」

初めて、俺は、自分の浅はかさに気がついた。
反吐が、言葉として出る。流れ出る。

P「自分のことしか、考えていなかった……雪歩の幸せを案じるふりをして、自分しか守っていなかった……! 自分の保身しか考えていなかった……」



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:17:12.34 ID:cHw7oz7Q0

P「何が、今まで積み重ねてきたものだ……! そんなもの、只の俺のわがまま……!」

俺は立ち上がり、唇を噛みしめた。
歯がぎりぎりと、音を出す。

春香「プ、プロデューサーさん!?」

P「雪歩ぉ!」

俺は、車の鍵を掴み、そのまま家を飛び出した。
そして、駐車場に止めてある車に飛び乗る。

パジャマだろうが裸足だろうが、そんなことはお構いなしに、俺は車を走らせた。
雪歩の家は、そこまで遠くない。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:20:09.39 ID:cHw7oz7Q0

春香「……」

貴音「これで、良かったのですか……?」

春香「た、貴音さん!? いつのまに玄関に……」

貴音「いくら自分から、悪者役を買って出ると言ったとしても……あまりにも春香が可哀そうです。事務所の皆も、心配しています」

春香「……いいんです。少しの間だけだったけど、私、プロデューサーさんに尽くすことができましたから」

春香「それに、私が好きなプロデューサーは、自宅に引きこもっているんじゃなくて……」

春香「あんな風に、雪歩が好きな、プロデューサーなんですから……!」

貴音「……今ぐらいは、泣いてもいいのですよ?」

春香「…………ひゃい」

貴音「お疲れ様です。春香……」



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:22:23.81 ID:cHw7oz7Q0

ほどなくして、俺は、雪歩の家の近くまできた。
普通に雪歩の家を訪ねても、門前払いされることは容易に想像できた。

ならば、普通に訪ねなければいいこと。
俺は、車のアクセルを目いっぱい踏んだ。

そして、ためらうことなく、門に体当たりをした。
けたたましい音と共に、エアバッグが飛び出し、俺は、激しく体を揺さぶられた。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:25:05.73 ID:cHw7oz7Q0

車が止まり、車体を打つ雨音が、鮮明に聞こえてきた。
門は、車の後ろで、変な形にひしゃげていた。

男1「な、なんですかい!?」

男2「こ、これは……!?」

家屋の方向から、傘もささずに、あの二人の黒服達が走ってきた。
潰れた車と曲がった門を見て、唖然としている。

俺は、驚く黒服二人を尻目に、車から降りた。
幸い、大きな怪我はしていないようだった。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:27:03.51 ID:cHw7oz7Q0

男1「プ、プロデューサーさん……!」

男2「あなた、なんてことを!」

P「雪歩に……雪歩に会わせてくれ」

男1「お嬢を……お嬢を説得しにきたんですか!?」

男2「そんなことしても、決してお嬢は!」

P「違う!!」

俺は、その場に座り込み、頭を下げた。
額を地面にこすりつけて、土下座をする。

P「俺は、雪歩に謝りに来たんだ!」

二人の男の表情は分からないが、あたふたしている様子は伝わってきた。
車で特攻してきたと思ったら、土下座をしている男に、明らかに面喰らっていた。



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:29:12.41 ID:cHw7oz7Q0

雪歩父「何事だ!?」

その声を聞いて、俺は顔を上げた。
雪歩の父が、険しい顔でこちらにやってきた。

俺の顔を見て、さらに表情は厳しいものになった。
殺気が、あふれていた。

雪歩父「どの面さげて来たんだ……!」

ドスの聞いた低い声に、どれほどの怒りを押し殺しているのか量りし得なかった。
しかし、ここで引くわけにはいかなかった。

P「雪歩に、謝罪をさせてください!」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:31:06.87 ID:cHw7oz7Q0

雪歩父「謝って、それからどうしようというんだ!?」

P「雪歩に、アイドルを続けてもらいます……!」

そう言った直後、雪歩父は目を見開き、その顔は真っ赤になった。

雪歩父「こ、この……馬鹿もんがぁ!」

俺は雪歩父に胸倉を掴まれ、そして殴られた。
吹っ飛び、俺は濡れた地面に打ち付けられた。

雪歩父「……結局、お前は雪歩のことを何も分かっていない! 自分のことだけだ!!」

雪歩父は怒りに震えていた。
しかし俺は、倒れた姿勢のまま、雪歩父を見上げる。

P「その通りでした! 俺は、逃げていました! 自分の身可愛さに、逃げていました!」

雪歩父「開き直ったか!!」

雪歩父は、倒れた俺の胸倉を掴み、再び拳を高く上げた。




雪歩「待って!」



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:33:11.21 ID:cHw7oz7Q0

甲高い声が、響いた。
パジャマ姿の雪歩が、裸足のまま、家から走り出してきた。

雪歩父「雪歩!?」

緩んだ雪歩父の手から、俺は滑り落ちた。
そして、雪歩と目が合う。

雪歩「……何をしに、来たんですか」

P「謝りに、来たんだ……」



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:35:12.12 ID:cHw7oz7Q0

雪歩父「雪歩、家の中へ戻っていなさい!」

雪歩「嫌です!」

即答だった。
意外なその返答に、雪歩父はしばし唖然としたようだ。

雪歩父「ぐっ……いいから、自分の部屋に帰れ!」

雪歩「嫌です!」

雪歩父「父さんの言うことが聞けないのか!」

雪歩「お父さんは黙っててぇぇぇぇぇぇ!!!」

ここまで大きな雪歩の声を聞いたのは、初めてだった。
そしてそれは、雪歩父も同じだったのだろう。

問答無用で反抗されるのも、初めてだったのかもしれない。
雪歩父は、完全に言葉を失くしてしまっていた。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:37:08.37 ID:cHw7oz7Q0

P「ゆ、雪歩……」

雪歩「……」

雪歩は俺を見つめたまま、何も言わない。
ずぶぬれの格好で、胸の前に組んだ両手を、ぐっと握りしめている。

……自分を着飾る自分は、もういない。
いるのは、雪歩が好きだという、ただそれだけの自分。

P「雪歩、すまなかった。俺は、自分のことしか考えていなかった……」

P「アイドルとプロデューサーは結ばれない、結ばれてはいけないって、勝手に思い込んで……」

P「ばれたら、雪歩のアイドル生命が傷つくなんて考えて……」

P「でもそれは、自分のプロデューサーとしての評価が傷つくのを恐れていただけだったんだ……」

P「俺が、雪歩を守ってやれば良かったんだ……」

P「何があっても『たとえアイドルじゃなくなっても』雪歩を守ってやれば良かったんだ!!」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:39:03.72 ID:cHw7oz7Q0

雪歩父「口先だけなら、何とでも言える!」

雪歩父が、俺の体を掴み、放り投げた。
俺は、頭から水たまりに突っ込んだ

雪歩父「口だけの男なんて、今まで腐るほど見てきた!」

雪歩父「お前は、雪歩のために何が出来る!? ただの土下座しかできぬのか!」

俺は、泥と擦り傷でひどくなった自分の顔を、ぬぐった。
立ち上がる。

――『雪歩を、必ずトップアイドルにします』――違う。

今、雪歩父が望んでいる答えは、そうじゃない。
望んでいるのは……覚悟。

口先の、未来予想図なんかじゃない。
行動で示す、今の覚悟。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:41:07.50 ID:cHw7oz7Q0

そのとき、後ろから、クラクションが鳴った。
一台の車が、水しぶきをあげながら門から入ってきた。社長の、車だった。

車は、前が潰れた俺の車の横に止まった。
だが、中に乗っていたのは、社長ではなかった。

律子「うーわ。もう、何て事するんですか、プロデューサー!」

小鳥さん「まったく思い込んだら猪突猛進なクセ、やめてください!」

律子と小鳥さんが、車から傘をさしながら出てきた。
二人とも、言葉とは裏腹な、満面の笑顔だった。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:43:10.13 ID:cHw7oz7Q0

律子「プロデューサー!」

律子が、思い切り振りかぶって、何かを投げてきた。
雨で視界が悪く、それがなんだか、すぐには分からなかった。

P「――っと!」

手にずっしりとした重みがのしかかってきた。
改めてそれを見ると、シャベルだった。

しかも、それはただのシャベルではなかった。
雪歩に用意していた、誕生日プレゼントだ。



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:45:28.65 ID:cHw7oz7Q0

小鳥さん「頑張れ、男の子!!」

その言葉は、俺のこれからの行動を後押しするのに十分だった。
幸い、雨で土は緩んでいる。

P「おおおりゃああああ!!」

一心不乱に、そのシャベルを使って穴を掘り始めた。
新品だからか、それとも奮発していい物を買ったためか、よく掘れる。

突然の行動に、雪歩父や、雪歩までその光景を黙って見ていた。
ものの数分で、深さ3メートルほどの穴ができた。

幅は、大人一人が何とか入ることのできるほどだ。
俺はシャベルを脇に置き、掘った穴に飛び降りた。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:48:23.73 ID:cHw7oz7Q0

そして俺は、



P「見てください、お父さん!」


『地面よりも深く』土下座をした。

穴に駆け寄ってくる足音が、幾多も聞こえた。
俺はその姿勢のまま、叫ぶ。

P「何があっても! 起ころうとも! いつも、いつでも、いつまでも! 俺は雪歩を守ります!!!」

雪歩父「け、結局、土下座しかできないじゃないか! わしは信じない――あがっ!?」

雪歩母「あんた、いい加減にしな! ……プロデューサーさん、顔を上げてください」

俺は、ゆっくりと顔をあげた。
そこには、雪歩父の頬をつねる、雪歩母がいた。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:50:14.74 ID:cHw7oz7Q0

穴の周りには、雪歩や黒服達、小鳥さん、律子も集まっていて、俺を見下ろしていた。
雪歩母が、俺ににっこりと笑いかけてきた。

雪歩母「プロデューサーさん! まだ言いたいことがあるんじゃない!?」

その言葉に、俺は無言でうなづいた。
そして、雪歩を見上げる。

P「雪歩ぉ!!」

雪歩「は、はい!」

雪歩の目を、真っすぐに見つめる。
もう、迷わない。



P「お前を、もう一度プロデュースさせてくれえぇぇぇぇぇ!!!」



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:52:10.46 ID:cHw7oz7Q0

雪歩「!」

雨音をかき消すくらいの、大きな声だった。
だからきっと、雪歩にも十分に届いているだろう。

雪歩「プ、プロ……」

雪歩は、泣きながら、笑っていた。
もしかしたら、笑いながら、泣いていたのかもしれない。


雪歩「プロデューサーァァァァァァ!!!」


そして雪歩は、穴にダイブしてきた。
俺は慌てて、両手を広げた。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:54:09.41 ID:cHw7oz7Q0

腕の中に受け止めた雪歩は、とても軽かった。
あれから痩せたのかと思うと、少し申し訳なくなった。

雪歩「バカ、バカ、バカバカバカバカ!!」

雪歩は、まるで肩たたきをするように拳を打ち付け、俺の中で暴れた。
そんな雪歩を、俺はぐっと引きよせた。

雪歩「ひゃっ」

雪歩の顔をじっと見て、言う。

P「雪歩、好きだ……」

雪歩はその言葉に、微笑んだ。

雪歩「プロデューサー、私も、好きです……」

俺と雪歩は、黙って静かに、お互いを抱きしめた。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:56:09.78 ID:cHw7oz7Q0

雪歩「――あ」

P「どうした?」

雪歩「雪ですよ、プロデューサー」

空を見上げると、雪歩の言うとおり、ちらちらと雪が舞い始めていた。

雨はいつのまにか、雪に変わっていた。

――もうすぐ、クリスマスがやってくる。





おわり



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:57:29.97 ID:cHw7oz7Q0

大変に門が大人気なので、

おまけ

――そして、ためらうことなく、門に体当たりをした。
けたたましい音と共に、エアバッグが飛び出し、俺は、激しく体を揺さぶられた。

車が止まり、雨が車体を打つ音が鮮明に聞こえてきた。
門は、車の後ろで、変な形にひしゃげていた。

男1「な、なんですかい!?」

男2「こ、これは……!?」

家屋の方向から、あの二人の黒服達が走ってきた。
潰れた車と曲がった門を見て、唖然としている。

俺は、驚く黒服二人を尻目に、車から降りた。
幸い、大きな怪我はしていないようだった。

男1「プ、プロデューサーさん……!」

男2「あなた、なんてことを!」

P「すいません、門、壊しちゃいました」

男1,2「「あんた何しにきたんだよ!!」」



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 00:58:01.34 ID:cHw7oz7Q0

P「もう二度とあんな無茶なことは致しません」

男1,2「「だから何しにきたんだよ!!」

そのとき、後ろから、クラクションが鳴った。
一台の車が、水しぶきをあげながら門から入ってきた。社長の、車だった。

車は、前が潰れた俺の車の横に止まった。
中に乗っていたのは、社長だった。

社長「P君、ひどいよキミ~! わたしの突っ込む門も残しておいてくれよ!」

P「あ、社長には裏門を残してあります」

男1「何さらっと言ってるんですか!?」

男2「こいつ絶対反省してねえよ!!」



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 01:01:53.90 ID:cHw7oz7Q0

これでSSを終わります。

みなさん、読んでいただきありがとうございます。

自分はシリアスのつもりで書いたのに、門突撃の場面がどうしてこうなった。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/12/23(日) 01:02:55.29 ID:9gYIMuFt0


面白かった


元スレ
P「もうすぐ、クリスマスがやってくる」