1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:30:37.82 ID:Mi8zjoZE0

ちょっとした短レスSSです。地の文です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372339837




2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:32:29.95 ID:Mi8zjoZEo


 ――しとしとと降る雨が、ささやかな音と共に湿度を届けている事務所。

 ここ最近は降水確率が常に半分を超えているようで、水音を聞かない日は無い。


 そんな梅雨の日。


 こういう季節は本当に外に出るのが億劫だと思いながら、今日のスケジュールを確認するついでにパソコンの電源を入れて代わり映えのしない雲に覆われた景色を外を眺めていると、事務所の扉が開く音がした。

「おはようございます、Pさん」

 暑い夏に涼しさを与えるような声が聞こえて振り向くと、長い髪を後ろに束ねたアイドルが居た。

「おはよう。今日は朝からだったか」
「いえ。ですが、梅雨ですから早めに来てみました」

 細いながら黒い髪と対比して鮮やかな色をしたリボンが彩るポニーテールを揺らし、アイドル――水野翠は、そう答えた。

「ああ、梅雨だからな」
 蒸し暑い時もあれば、雨で服や荷物が濡れて極めて不愉快になるのが梅雨である。
 翠は濡れた鞄の角をタオルで包んで乾かしながら、事務所に備え付けられたソファに座った。

 億劫なのは翠もきっと例外ではない。
 濡れたまますぐ再び出て行くよりは、早めに来て身の回りを乾かしてから良い状態でまた出て行きたい。そう考えているのだろう。

 我が事務所を支える事務員のちひろさんは今日は休みである。


 こうして、早朝の事務所には俺達二人だけが滞在していた。







3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:33:37.16 ID:Mi8zjoZEo



「…学校の宿題か?」
 雨でさぞ不快だろうと思ったので、お茶と共に事務所に常備しているタオルを翠に手渡そうして近づくと、翠はソファ前のテーブルに出したプリントを見て悩んでいるようだった。

「あ…ありがとうございます」
 俺からの提供物を素直に受け取って使いつつ、翠は続ける。

「実は先日出された宿題なんですが、これが難しくて……」
 高校の宿題か。

 翠の学年からしても、受験を意識したハイレベルな問題が並んでいるのだろうな、と思ってそのプリントを読んでみると、存外おかしな文章が記されていた。

 俺は翠の隣に座って、おもむろに文字を音読する。
「なになに……、『雨の色とは何かを答えなさい』だって?」
 国語であれば難読漢字や熟語の正誤、古文であったり、数学なら文字を含んだ数式であったりなどを予想していたのだが、A4のわら半紙に印刷された文字は逆に二度見させる程の至って簡素な文章であった。

「先生の遊びのような個人的な宿題で、回答内容も自由らしいのですが、それが却って中々書きづらくて」
 シャーペンを取り出したまま手にとって悩む翠。

 梅雨の時期だから早く来て、雨を見ながら答えを探そう、そう考えたのかもしれない。
 それにしても高校でもこんな宿題を出す先生がいるんだな、と俺は感心する。

 きっとこの宿題を出した先生は国語の先生だろう。
 生徒の感性をどう表現するか、それを楽しみに提出を待っているような気がする。

「Pさんはどう思いますか?」
 綺麗な手を膝に置いて、翠は俺を見る。
 さしずめギブアップ、といった所だろう。






4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:34:27.93 ID:Mi8zjoZEo



「雨の色、か」
 しかし先生も難しい問題を出す。

 ある種の言葉遊びのような雰囲気を漂わせるこの問いには、どう答えるのが正解なのだろう。
「翠は何色だと思う?」
 まあ、遊びのような宿題と翠も言っているのだから、点数や正解に囚われない回答でもきっと大丈夫なはずだ。
 それでも真剣に悩んでしまうのが翠らしいな、と整った可愛らしい顔を見て思った。

「考えたのですが…水色とか、透明とかしか思いつきませんでした」
 再び悩む仕草を見せた後、翠はそう答える。

 なるほど、妥当な回答だ。
 むしろ殆どの人間はそのどちらかを答えるのではないか、とすら思う。

 しかし、そこで俺は先生の立場に立って考えてみたい。

 もしも出す側の人間からすれば、水色だとか無色だとか、ありふれた回答は恐らく退屈に感じてしまうのではないだろうか?

 そう答えるのも本人の個性なのだから非難されるいわれは無いが、多分先生は面白い回答を望んでいるのだろう。
 …もはやそこまで行くと大喜利にすべきではないのかという疑問も微かに沸き上がってくるが、敢えて見ないことにする。

 感性を確かめるというのなら、国語的に考えるのが良いに違いない。






5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:35:13.61 ID:Mi8zjoZEo



 ではどんな回答が国語的かという事について翠と話し合っていると、聞き慣れた扉の音が再び事務所内に響き渡る。

「おはようございます…と、翠さんも来てらしたんですね」
「あ、ゆかりさん」
 こんな梅雨の日に二番目に現れたのは、水本ゆかりだった。

 水を落とした傘を傘置きに仕舞うと、服を軽くはたきながら、ゆったりとした足取りでこちらに向かってきた。

「翠もそうだが…今日は早いな」
 はっきりいってまだ仕事に向かう時間では全くないはずである。
 にも関わらず事務所に早く来てしまうのは、これも梅雨の魔翌力なのだろうか。

「寮にいても雨で気持ちが落ちてしまって…事務所ならプロデューサーさんが居てお話できるかな、と思って来たんです」
「はは、そうなのか」
 俺の仕事ぶりを認めてくれたのか、ゆかりはいつしか俺のことを慕ってくれるようになっていた。
 同様に翠の方も俺に懐いてくれていて、この事務所に所属するアイドル達の中でも二人は際立って俺とよく接していた。

 そんなゆかりの顔を、翠は喜怒哀楽のどれにも値しない何やら複雑な表情で眺めていると、不意に翠はゆかりを招き入れる。
「ゆかりさんも、よかったら考えてみてくれませんか?」

 疑問符を浮かべるゆかりに、翠は例のプリントを手渡すと、ニ、三度頷いて、すぐにそれを返却する。
 たった数行しか記されていない文字なので、瞬く間にゆかりは本題を理解したようだ。

「中々面白い質問ですね」
 向かいのソファに座ると、ゆかりはそう表現する。
 その感想が先ほど俺が感じた物と似ていて、思わず笑ってしまう。






6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:36:07.17 ID:Mi8zjoZEo



「ああ、いや。思った事が一緒だったな、ってなったらつい…な」
 不思議そうな表情で俺を見るゆかりに対して弁明をする。

「プロデューサーさんと考えが一緒…ふふ、ご指導のおかげでしょうか」
 飼い主に似るとか何とかいう話はよく聞くが、アイドルがプロデューサーに似てどうする。
 女声できゃぴきゃぴする自分の姿を想像すると予想以上に気味が悪かったので急いでイメージを消そうと雲を掻いていると、隣に座っている翠がいつのまにか俺の袖を無言で摘んでいる事に気づく。

 本題に入れ、という抗議だろうか。

 こほん、と一つ咳を吐いて、改めてゆかりにも問うてみる。

「…それで、ゆかりならどう答える?」
 感性を問うのであれば、俺達が助言すること自体が些かミスチョイスなのではないかとも思うが、本人が助けを求めているのだから先生には申し訳ないが全力で手伝わせてもらいたい。

 少し湿気を伴った長い髪をゆらゆらと小さく動かしつつ考えて、ゆかりは口を開く。

「私なら…そうですね、白色にしましょうか」
「白色?」
 ゆかりの意見は、俺達から同時に疑問を返すのに十分な程不思議であった。

「どういうことか、教えてくれませんか?」
 聞き返した後、翠は続けて請う。
「俺も気になるな」

 雨の色という質問に対して白色と答えるのは全く予想していなかった。
 個人的にもどういう理由でそう答えたのか興味がある。

 そういった視線を向けると、ゆかりは静かに考えを述べ始める。






7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:36:36.53 ID:Mi8zjoZEo



「まず、先生がわざわざ『雨』の色、と限定したことから考えます」
「水でもなく、雨だからなあ」
 顎に手を当てて、ゆかりの言葉に従って思考を連鎖させる。

「先生が敢えてそうしたのは純粋な色を訊いているのではなくて、雨という存在に対して私達がどう見えているのか、という部分を知りたかったのではないかと思います」

 その声色には流れるような旋律を伴っていて、梅雨の暗い気分を穏やかにさせてくれる、微かな心地よさがあった。

「とすれば、雨という現象はそれを捉える人によって感覚は大きく違っている、と考えても変ではありません」
「ああ、だから『何色にも化ける色』である白色を選択したのか」
 俺がそう答えると、ゆかりは小さく微笑んだ。

「やっぱり、プロデューサーさんは私の事がわかってくれていますね」

 15歳にしてこの柔らかな笑みは、世界広しと言えどもそうそう出せる人は居ない。
 一見規律正しい丁寧な雰囲気を装いつつ、接していると人懐っこい一面が段々見えてくるというのがゆかりの魅力でもある。

 しかし、白色とは思い切った意見だ。

 所謂キャンパスの白を連想して答えたのだろうが、国語的感覚から言ってもゆかりの回答は十分説得力があった。

「なるほど…そういう観点もあるんですね」
 翠も俺と同様に驚いたようで、ゆかりの意見をうんうんと頷いて聞いていた。






8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:37:04.67 ID:Mi8zjoZEo



「…でも、そのまま意見をもらうのは何だか卑怯ですね」
 しかし翠はすんなりと記述はしなかった。

 年上の意地っ張りとも言えるが、他者の意見を丸々転写するのはよくないという考えは大いに俺も賛同する。

 『自分の考え』という所がミソだ。
 この宿題を出した先生も、きっとそれを願っているに違いない。

 他者の真似をするだけで満足しては、この先成長することは叶わないのだから。

「じゃあ翠は、ゆかりの意見を聞いた上で…どう思う?」
 写すことを固辞したのだから、その道で結果を導いて欲しいと思い、俺は翠を誘導する。

 シャーペンをテーブルに置くと、再び翠は熟考する。


 ああ、そういえばゆかりにお茶を渡してなかったな、と今更ながら気づき、翠の考えているのを邪魔するわけにも行かないので静かに立ち上がって準備をする。

 いつもであればちひろさんがいつの間にか置いてくれるのだが、生憎今日はいないのだ、手馴れなくとも俺がすべきなのである。






9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:37:30.33 ID:Mi8zjoZEo



「ありがとうございます、プロデューサーさん」
 翠にもしたように、お茶と、ついでにもう遅いだろうがタオルを渡すと、ゆかりは柔和な笑みを浮かべる。
 まだまだ風貌は幼いが、言動や思考といった面では少女の範疇を既に超えている。
 …あと、思わせぶりな態度を取らせれば事務所でも随一だろうとも思う。

 プロデューサーたる俺ですら、何度ドギマギさせられたことか。
 ゆかりの魅力を十分に知っているからこそ、男としてその気にさせられそうになるのだ。

「……鏡、でしょうか」

 俺の視線をよくわかっていないような素振りで首をかしげるゆかりの反対側、翠が幾分が唸った後で一つ呟いた。

「鏡…って反射する?」
 雨の色を問われて鏡を答えるのは理由次第では大変興味深い。
 色ではないという指摘は趣がないと言えるだろう、続きを促すと翠はぽつぽつと言葉を漂わせる。

「ゆかりさんの回答は、あくまで見る人によって思う所が違うので、雨自体が変化している、という考えでした」
「はい、その通りです」

 俺と同様、翠の声に耳を傾ける。
 新たな視点を知るという事は誰だって面白く感じるのだろう、ゆかりの表情も知的好奇心に溢れていた。

「ですが、いくら感じる内容が変わろうとも雨は雨でしかなく、結局雨はただの水ですから、変わっているのは雨ではなく見る人自身なのだと思います」
 ゆかりの意見と違うのはそこか、と一人納得する。

 雨は白色であり、見る人によって雨が変化するとなると雨は雨でなくなってしまう。
 仮にそれを採用するならば、雨ではなく『降ってくる微小な水滴の群れ』と表現すべきだ。
 そこで矛盾が無いように考えると、変わっているのは見る側の人間なのだ、ということらしい。






10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:37:57.98 ID:Mi8zjoZEo



「二人とも、よく思いつくな」
 凝り固まった頭ではその回答へ到達できそうにない。
 改めて二人の若さを感じるとともに、俺も歳をとったかなあ、とひとり息を吐いた。

「でも、鏡色って何なのでしょう?」
 頬に指を当てて、ゆかりは呟く。

「…それもそうですね」
 どうやら翠にとっては盲点だったらしい、遠くへと視線を遣って乾いた笑いをあげた。

 鏡色、か。
 それを問おうと思えば、結局雨の色もどうなのだという疑問に行き着くのだから、堂々巡りと言えばそこまでである。

 雨は誰にとっても雨。
 だが一方で、見る人やその時の状況によって表現は全て違っていく。
 翠はそれを目の前の景色をありのまま映し出す鏡、という風に捉えた。

 ありのまま映す、という表現をそのまま伝えるには……。


 再び沈黙が訪れようとしたその時、不意に事務所の中に電子音が響き渡る。
「Pさんの携帯では?」
「ん…ああ、俺のか。悪い」
 各々所持している携帯のメロディはもう知っているのだろう、翠がそう指摘すると、ソファーの窪みにこぼれ落ちていた携帯を手に取る。

 もう何年も使用している、古くて傷だらけの二つ折りの携帯電話のサブディスプレイには、よく行くレストランのメールマガジンのタイトルがぶつ切りで表示されていた。

 この携帯電話も年季が入ってきたし、そろそろ買い換えるべきだろうか。
 今を生きる人間として、例え電話とメールしか使わないとしても最新の物に触れることで知識も更新出来るかもしれない。

 当然、困ったことが無い訳ではなかった。

 この前遭ったことといえば、他のアイドルとロケに行った時に観光ついで写真を取ろうとしたら、俺の携帯電話では画質が悪すぎて気落ちした事が――。

「……ああ」
 そういう手段もあるのか。






11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:38:25.66 ID:Mi8zjoZEo



「翠、携帯電話のカメラを貸してくれるか?」
「カメラですか? ……はい、大丈夫ですよ」
 突拍子もないお願いに、翠は疑うこと無く俺に携帯電話を差し出した。
 俺のとは違って、翠のものは最新型のスマートフォンだ。

 これで他のアイドルともコミュニケーションアプリを用いてよく交流を深めているらしい。

 化石のような携帯電話を持っていることは事務所に居るアイドルは皆知っているようで、翠も例外ではない。
 恐らく起動にすら躓くと判断したのだろう、ご丁寧にも既にカメラが起動した状態で貸してくれた。

「ありがとう。それじゃ――パシャリ、ってな」
 受け取った携帯電話のカメラスイッチの場所を確認すると、おもむろにレンズをアイドル二人に向け、電子的なシャッター音を響かせた。

「…え?」
 この行動には二人とも予想できなかったようで、頭上に疑問符を一つないし二つ漂わせている。

「おお、流石最新型。画質も良いな…ほら」
 液晶保護のフィルム越しに映る二人の画像は、アイドルの魅力を損なわない美しさを放っていた。

 それを見せると、二人は一瞬覗きこむような仕草をして、そういうことじゃないんです、という前置きを置く。
「いきなりカメラを持って……どうしたんですか?」

 半ば責めるような目つきだ。
 優しげながらも、せっかく貸したのに遊びに使うのは止めてくださいよ、とでも言いたげな声色だ。

「まあまあ、聞いてくれ」
 今しがた行った理解不能の行動について、俺は簡単に説明を始めることにする。






12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:38:54.44 ID:Mi8zjoZEo



「要はさ、本質は変わらないのに、見る人によって感じた事がそれぞれ違うというのを言いたい訳だ」
 傷を付けないように、スマートフォンを丁寧に翠に返して言う。

「だったら、一番端的に表せるのは写真なんじゃないか、と思ってな」

 無論、これは写真でなくとも条件には合致する。
 しかし、雨という現象から喜怒哀楽のいずれも推測出来るように、原始的な思考でそれらを導き出せるのは、ありのままを映しだした写真しか無いと俺は考えた。

 写真だけ見せられては、明確な感情を知ることは難しい。
 だが、そこで舞台や条件を加えて説明されることで、一気に思想は加速するのである。

 雨も同様だ。
 ただの雨は教科書的、辞書的な雨でしかない。
 しかし、それが今日の俺のような外出前の人間から見れば憂鬱となるし、運動嫌いな小学生から見れば、体育の授業、あるいは運動会が中止になって歓喜となるのだ。

「宿題の問題文も回答は自由と言ってあるんだから文章に拘る必要はないだろ。なら、鏡の事を注釈として付けて写真ごと提出すれば、先生も笑ってくれるんじゃないか?」

 はは、と冗談めかして笑う。

 これが実際の成績に直結する重要な課題であるならば真面目くさった辞書的な回答をすべきだとアドバイスをするが、今回はそういうものではなく、あくまで先生が個人的に知りたいと思った程度の言葉遊びのようなものなのだ。

 恐らく成績に関係ないと解っているのだから、中には適当に答えて提出する生徒もいるとは思うのだが……妥協はしないのが真面目な証拠か。






14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:39:32.10 ID:Mi8zjoZEo



 俺の解説を聞いて、二人は時を同じくして感心したように頷いた。
「そういう事でしたか…流石プロデューサーさん、いつも沢山の女の子を見ているだけありますね」
「…誤解されそうな発言はするんじゃない、翠」
 きっと本人は褒めているつもりなのだろうが、こちらとしては素直すぎるが故にいつ爆弾発言をするか常に肝を冷やしている。

「じゃあ翠さん、今から写真、現像しに行きませんか?」
 写真を眺めていたゆかりは思いついたように提案をした。

 二人とも早くから事務所に来たせいで、まだ仕事には時間がある。
 写真屋の開店時刻から逆算しても、十分に行動できるだろう。

「ふふ、いいですね。行きましょうか」
 対する翠もその誘いには乗り気なようで、こうして話している間に湿気の抜けた髪や衣服を揺らして立ち上がった。

「……いってらっしゃい。気をつけろよ」
 それを止める権利はないので、時間と事故に気をつけるようにだけ二人に言う。

 そういう俺も、二人と話せて少しながら気分転換ができたような気がした。
 これからプロデューサーとしての仕事もうんと待ち受けているだろうし、ここらで切り上げて、本来の作業に戻ったほうがいいだろう。


 ……しかし、自分の机に戻ろうとした俺の袖を、またもや翠がちょんとつまんだ。

「ですが、せっかくですから――」


 その後、再び事務所にシャッター音が響き渡る。







15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/06/27(木) 22:40:27.45 ID:Mi8zjoZEo



 ――――――

 ―――

 ―


 静かな人間でも、二人も集まれば静かな喧騒が起きるものだ。

 事務所にいつのまにか生み出されていた綺麗な声も、今ではパソコンのファンの音とマウスのクリック音に変えられていた。


 梅雨ということもあってか、中々気が入らない。
 ディスプレイを駆けまわるカーソルを眺めていると、不意につい先程の会話を思い出す。


 鏡の色。

 それを表現するのが難しいのであれば、今の翠の姿を写した物を見せればいい。
 答えと呼ぶのには些か無理がない訳でもないが、それが翠から見た鏡色である。

 楽しそうにアイドルをして、友だちと一緒に話しているその姿こそ、今を映しだした鏡なのだ。

 ……ここまでくると、もはや本題である雨の色とはかけ離れているような気もするが、先生が意図を上手く理解してくれることを強く願う。



 ――そんな梅雨のある日の事務所。

 しとしとと降る雨だけの静かな事務所に、爽やかな風が二つ舞い込んだ朝だった。





元スレ
SS速報VIP:モバP「雨の色?」