1: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:27:55.54 ID:T/TaB/3h.net

海辺の道は変わらない
 
押しては返す波の音
垣根を越えて咲く向日葵
アスファルトに浮かぶ陽炎
大きなあくびをしながら糸をたらす釣り人
 
小さな頃から見てきたこの風景が私は好きだ
 
虫取り網片手に麦わら帽子を被って
セミの鳴き声を追いかけまわしていたあの頃とは
自分は随分と変わったように感じる
 
だけど
私の側にいた、私が育ったこの風景はずっと変わらない



3: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:29:24.57 ID:T/TaB/3h.net

曜『千歌ちゃん、進路希望調査の紙ってもう提出した?』
 
千歌『うん!第一希望しか書いてないけど提出したよ』
 
曜『それは......再提出になっちゃうんじゃないかな
  ちなみにどこ受けるの?』
 
千歌『浦の星女学院!志満姉も美渡姉もここ出身だし
   今は果南ちゃんも通ってるしね
   曜ちゃんは決まってるの?』
 
曜『もちろん決まってるよ
  私も浦の星!』
 
千歌『ホントに!また一緒に通えるね
 
   でも曜ちゃん家からだとちょっと遠くない』
 
曜『大丈夫、家からでもちゃ~んとバスは通ってるから
  下調べは万端であります!
  また一緒の学校に通えたらうれしいね
 
  まあ受験はまだだからもしもの話になっちゃうけどね』



5: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:31:12.27 ID:T/TaB/3h.net

曜ちゃんとは生まれた時からずっと一緒にいた
身長も好きな食べ物だって一緒
お泊まりだって何回もしたし
喧嘩も仲直りもいっぱいした
だから相手の考えてることだって手に取るようにわかる
曜ちゃんはすごいんだよ
高飛び込みの選手でスポーツ万能
友達だって沢っ山いるんだから
 
だからなのかな、時々思うんだ
私たちは変わらずにいられるのかなって
これからもずっと一緒にいられるのかなって
 
 
そんなことを考えながら
家の前の砂浜からボーっと海を眺めていると
まだ昇ったばかりの太陽に照らされた2羽のカモメが
岬に向かって飛んでいくのが見えた
雲がまばらな青い空に交わるよう浮んでいる
離れて近づいて、また離れては近づいて
 
夏の日差しに目をそむけると
見返したときにはもういなくなっていた
 
あの子たちはいつまで一緒にいられるのかな



6: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:35:08.67 ID:T/TaB/3h.net

「おはよう!千歌にしては早起きだね」
 
千歌「おはよう、果南ちゃん
   今日もランニング?」
 
果南「そっ、ダイビングもなんにしても体力づくりは基本だからね
   それよりこんな朝っぱらからぼーっとしちゃってどうしたの?」
 
千歌「ちょっと悩みがあって色々考えてたの」
 
果南「千歌が?珍しいこともあるもんだね
   こんなに晴れてるのに今日は雨が降るのかなん」
 
千歌「もー、果南ちゃーん」
 
果南「ごめんごめん
   お詫びにお姉さんが話を聞いてあげよう」
 
千歌「ランニングはもういいの?」
 
果南「うん、可愛い後輩のためだ
   そういえばそろそろだよね進路希望調査
   行きたい学校は決まった?」
 
千歌「多分浦の星をうけると思うよ」
 
果南「おっ、おいでおいで
   またおんなじ学校に通えるね
   曜は決まってるって?」
 
千歌「...うん
   曜ちゃんも浦の星を受けるんだって」
 
果南「そっか、じゃあまた三人揃うんだね
   小中高と三連続だ」
 
千歌「気が早いよ果南ちゃん
   千歌達受験もまだなんだから」
 
果南「ふふっ、ごめんごめん」



7: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:39:36.65 ID:T/TaB/3h.net

千歌「......ねえ果南ちゃん
   私たちって変わらないのかな
   変わらないでいられるのかな」
 
果南「そうだね...
 
   私は変わらないものなんてないと思うな
   変わらないように見えても少しずつ変化してる」
 
千歌「...だよね」
 
果南「でもさ
 
   なにかを好きだって気持ちとか
   誰かと一緒にいたいっていう想い
   そういう大切なものって
   他がどんなに変わってもずっと変わらない、
   ずっと隣にいてくれるって信じたいな」
 
千歌「大切なもの......」
 
果南「たとえ誰か大切な人が変わってしまったように感じても
   遠くにいってしまったように感じても
   きっとどこかで繋がってる
   変わらないものもある
   それは心だったり、縁だったり、思い出だったり...形は様々
 
   変わるって怖いかもしれない、
   一歩踏み出すのは大変かもしれない
   でも変化を受け入れることって大事だと思う
    
   だからさ
   私たちは怖くても一歩進むべきなんだ
   本当に大切な、変わらないものがあるって信じて」
 
千歌「果南ちゃんも変わることが怖いって思ったことあるの?」
 
果南「もちろんあるよ
   もう取り返しのつかないような
   変化をおこしちゃったこともある
 
   ...でもね私にとって本当に大切なもの
   変わってほしくないものは守れたから後悔はしてないよ
 
   同じ場所で同じ人と同じ景色は見れないかもしれない
   みんな変わって行くからね
   それでもいつかきっとが届くって信じてる
   変わってしまったものと変わらない大切なものが織り交ざった
   新しい大切なものに」



8: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:44:02.53 ID:T/TaB/3h.net

果南「っとそろそろ家に帰らなきゃ学校に遅れちゃう
 
 
   ...ねえ千歌
 
   大丈夫だよ
   たとえいろんなものが変わったとしても
   千歌が本当に大切だって思うものはきっと変わらない
   ずっと側にいてくれるはず
   だからもしもこれだってものがあったら、今だって感じたら
   怖がらずに一歩踏み出して見てね」
 
    
そう言って果南ちゃんは誇らしげに笑った
海辺の道にポニーテールが揺れている
遠ざかっていく後ろ姿が少し寂しそうだって感じたのは
慣れない早起きをしたせいなのかな



10: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 00:51:49.22 ID:T/TaB/3h.net

千歌「うぅ、再提出くらった......」
 
曜「あはは、やっぱりか」
 
千歌「第三希望まで埋めなさい!って言ったってこの辺り他に高校ないよね」
 
曜「まあ沼津のほうまで行けばあるにはあるけどね、とりあえず埋めるだけ埋めちゃいなよ」
 
千歌「そうするしかないかー
 
   ねえ曜ちゃん、絶対合格できるようにいっぱい勉強して
   また一緒の学校に通おうね」
 
曜「賛成であります!
  わからないとこがあっても私たちには現役高校生の果南ちゃんっていう強ーい味方がいるし」
 
千歌「うん!
   さあ、レッツ勉強だーーー!」
 
曜「千歌ちゃんは先に調査票を提出しなきゃだけどね」
 
千歌「.........」
 
曜「どうしたの?千歌ちゃん」
 
千歌「...曜ちゃん
   私たちって変わらないでいられるよね、ずっと一緒にいられるよね」
 
曜「......変わらないでいられるかはわからないなぁ
   
  でも、ずーっと一緒だよ約束する!
  もし私が変わったとしても、千歌ちゃんが変わったとしても新しいあり方できっと一緒にいられるはず」
 
千歌「そうだよね...
   うん、きっとそうだ!私たちずっと一緒にいられるよね」



11: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:02:56.30 ID:T/TaB/3h.net

クーラーなんてないし風通しの悪い蒸し暑い教室だったけど
心地よい風が私をなでていくのを感じた
私たちは変わってしまうかもしれない
学校?身長?好きな食べ物?
 
でも...
変わらない大切なものがあるって確かに感じられた
きっとこれからも一緒にいられるよね
もし私が変わってしまったとしても
その隣にはきっと曜ちゃんがいてくれる
一緒に歩んでいける
 
小さな私の小さな悩みは
夏の灼けるような強い日差しが氷を溶かしていくように
きれいさっぱり消えていった
 
『だからもしもこれだってものがあったら、今だって感じたら
 怖がらずに一歩踏み出して見てね』
 
見つけられたらいいな
始められたらいいな
キラキラ輝く心躍るなにかを



13: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:16:04.08 ID:T/TaB/3h.net

「おはよう、梨子ちゃん」
「おはよう」
「今日って進路希望調査票の提出日だよねちゃんと書いてきた?」
「うん、書いてきたよ」
「へー、ねえもしよかったらどこ受けるのか教えてくれない?」
「私は音ノ木坂学院を受けようと思ってるの」
「音ノ木坂かぁ渋いねえでもなんで音ノ木坂?」
「音ノ木坂学院って、結構芸術系に力を入れてるらしいから」
「そっか梨子ちゃんピアノやってるもんね
 頑張ってね、応援してるよ」



14: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:16:36.66 ID:T/TaB/3h.net

国立音ノ木坂学院
音楽や美術などの芸術部門に造詣が深いことで知られる古くからある伝統校
物心ついた時からピアノに触れてきた私が
この学校を第一希望にしたことに特に説明は必要ないだろう
数年前には生徒数が足りなくて廃校するなんて情報もあったけど
今はそんなことはなく、伝統校の趣を保っている
 
雑談に満足したクラスメイトがいつも一緒にいるグループに
戻っていくのを手を振って見送った
ほどなく聞こえてきたかしましい話声から避けるようにイヤホンをつける
彼女たちの毎日はきっとキラキラ輝いているのだろう
ずっとピアノしか触ってこなかったかび臭い私の日常は
彼女たちにどう映っているのだろう
そんなくだらないことから目をそらすように窓の外に目をやる
雀が1羽電柱から飛び立つのが見えた
私と一緒だねなんて思いながら新しい曲について考える
 
私の日常はこれからも変わらない
悩みも、大切なものも、ひとりで抱えて生きていくのだろう
だからって今更キラキラ輝くものに手を伸ばそうなんて考えない
地味な私にはきっと無理だから
それでもなにか大きな力で私を変えてくれるものがあったらいいな
そんな他力本願にもほどがある気まぐれな願いを吐き出すように
大きなため息をつくと
ちょうど素敵なメロディが浮かんできた
やっぱり私は変わられないみたいだ



15: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:20:58.13 ID:T/TaB/3h.net

海辺の道は変わらない
 
押しては返す波の音
垣根を越えて咲く向日葵
アスファルトに浮かぶ陽炎
大きなあくびをしながら糸をたらす釣り人
 
小さい頃から見てきたこの景色が私は好きだ
 
あの時から変わらない景色
いや、なにかがきっと少しずつ変わってる景色
 
3羽のカモメが飛んでいく
マリンカラーをその身に映し
目で追いかけてはみたけれど
雲一つない真っ青な空にすーっと溶けて消えちゃった
ほらね、少しずつだけど変わっている
 
あれから1年たった
私も曜ちゃんも無事合格して
今じゃミカン畑に囲まれたあの校舎へつづく坂道を
えっちらおっちら登ってる
 
心躍るなにかは...まだ見つけられていない
でもきっと見つかるよね
たとえ夢の色は違ったとしても
変わらない大切ななにかが



16: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:36:46.85 ID:T/TaB/3h.net

海辺の道を歩いていく
 
陽光を反射して輝く水面
堤防の隅に咲いた小さな花
騒々しくも心地よい蝉の声
待ちきれずに浮き輪をかぶって駆ける小さな子供
それを追う親
 
ここに来てから初めて見る光景なのに
私はなぜか懐かしさを覚えていた
まるでずっとここで育ったような錯覚におちいる
 
9羽のカモメが堤防にとまっている
ふと、あの日の雀を思い出した
あの子も仲間を見つけられたかな
 
私は変われたよ
おっきな力で私を変えてくれる人に出会えたよ
 
だからきっと見つけてみせるね
千歌ちゃんとみんなと一緒に
キラキラ輝く大切なものを



17: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:49:42.94 ID:T/TaB/3h.net

おわり



18: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:51:19.60 ID:T/TaB/3h.net

場面切り替えが伝わり辛く、読みにくかったと思います
もっと精進いたします



19: 名無しで叶える物語 2019/02/26(火) 01:53:32.28 ID:T/TaB/3h.net

お気づきの方がいるかわかりませんが(むしろ読んでくれてる方がいらっしゃるかわかりませんが)一応テーマは「Marine Border Parasol 」です。


元スレ
千歌「海辺の道はいつも変わらない」