SS速報VIP:千早「私の始まりの日へ」



1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:38:07.51 ID:jzroVq22o

-都内・ライブハウス-

P(小さなライブハウスだな)

千早「プロデューサー、ここ……ですか?」

P「そうだ、ここでお別れコンサートを行う」

千早「お客さんとの距離が近くていいですね」

P「ああ、ここを埋めれられるように頑張ろう」

千早「そう……ですね。私、これまでの活動の全てをそそぎます」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361799487




2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:40:11.13 ID:jzroVq22o

千早はどこか虚ろな目をしていた。言葉とは裏腹に。

仕方ない、こんな無能なプロデューサーに人生を預けたんだから。

如月千早は俺がアイドルプロデューサーとして初めて担当した子だった。

俺は、それはもう必死だった。でもそれは空回り、動くほどにがんじがらめ。

千早には確かな才能があった。もっとも大きいのは努力をする才能を持っていたことだと俺は思う。

でもこの世界は才能を持ち合わせていたとしても開花しないことがあるのだ。それを身をもって知った。




3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:40:56.77 ID:jzroVq22o

P「千早、覚えてる?最初のCDを発売したときのこと」

千早「もちろん覚えてます。販促に奔走して……あの時は忙しかったですね」

P「それももう1年前か」

千早「ええ、もう昔のこと……」

P「千早、もう一度聞くけど本当に引退してもいいのか」

千早「はい。これだけ芽が出ないのなら潔く諦めます」

P「そうか……」



4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:42:17.63 ID:jzroVq22o

千早「それに、こういう考え方もあると思うんです。
何もマスに向けて歌う必要なんてないんです、そんな実力を誇示するようなこと必要ないんです。
例えば誰かひとりの前で歌うだけでも、それは歌を愛しているといえるのだと思うんです」

P「わかった、じゃあせめて千早の歌を愛してくれる人を魅了しよう」

千早「そのつもりです」

それからライブまではお互いに死に物狂いだった。今までの努力なんて目じゃないぐらいに。

その集中の密度に応じた速さで時間は過ぎていく。時間は平等になど流れていないのだと時折思う。



5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:42:45.27 ID:jzroVq22o

-2/25 ライブハウス・ラストコンサート-

P「ラストコンサートが千早の誕生日なんて何の因果なんだろうな」

千早「ええと、その日に合わせたってわけではないんですね」

P「頭にはあったが、たまたまなんだよこれが」

千早「それにしても嬉しいです、私の誕生日を覚えててくださったなんて」

P「当たり前だろ、担当プロデューサーなんだからさ。プレゼントもあるからさ、終演後に」



6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:43:17.61 ID:jzroVq22o

千早「嬉しいです本当に。楽しみにしてますから」

P「千早、そろそろ時間だ」

千早「……いってきます」

P「大丈夫だ、綺麗に幕を下ろせるよ」

千早「プロデューサー、私のこと見ていてください、見失わないでください」

P「うん、最後の舞台だ、俺も関係者席から見てるよ」



7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:44:31.97 ID:jzroVq22o

端的にいうと千早のステージは完璧だった。十八番の歌はもとよりダンスのキレが違った。

こんなにも千早という人間は内にエネルギーを秘めているのだと思うと胸が熱くなった。

だからだ、こんな素晴らしいのに花開かないなんて何かの手違いなのじゃないかとも思う。

強大な才能が俺という出力からうまく放出されてないのではないか、そうでないなら、世の中救いようのない見る目の無さだ。



8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:45:25.29 ID:jzroVq22o

……

舞台はアンコール、最後の曲へ。

千早「みなさんありがとうございます。ここで少しお話をさせてください。
私はアイドルとしてはお世辞にも成功したとはいえないでしょう。
だけど、みなさんが、みなさんが応援してくれたから私はここにいるんです。
本当に今日までありがとうございました。次の曲が本当に最後の歌です。
この曲を歌い終えたらみなさんとはお別れです。私は私は……」

泣いていた、あの気丈な千早が、だ。

千早「私は、みなさんのこと、今日のこと、忘れたく……ありません。だから最後の曲、歌います」




9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:46:36.10 ID:jzroVq22o

……

千早は曲の最後の一小節まで惜しむように歌った。

最後のダンスの振りを終えてポーズを決める、千早が涙ながらに笑顔で手を振る。

そして千早たっての希望で―――名残惜しくてどのタイミングではければよいかわからなくなってしまうから―――舞台が暗転するはずだった。

だが、実際には暗転したものの千早がそのまま気を失って舞台上で倒れてしまったのだ。
俺は関係者席から見ていたのでわからなかったが裏手に戻った途端大騒ぎで事の顛末をスタッフに聞いた。



10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:47:15.84 ID:jzroVq22o

-病院-

千早はそれから時間がたっても目を覚まさなかった。

ちょっと疲れただけだろうと希望的観測をしていたが、結局救急車を呼んで病院へ搬送してもらった。

俺が付き添い人だった。救急車に同乗するなんて初めての経験だった。

病院に着くなり急患として医者にみてもらった。

いくつかの検査が行われているらしい。俺は気が気でなかった。

待合室の椅子で貧乏揺すりをしながらとにかく待った。こんな時だけ時間の進みが遅い。

そして病院に来てから三時間が経過したころだった。



11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:48:13.59 ID:jzroVq22o

千早「プロデューサー」

P「千早!お前!大丈夫なのか!?いつ目を覚ましたんだ?」

千早「つい先程です。お医者さんが付き添いの人に会って来なさいと」

P「どこも痛くないのか?手は足はお腹は……頭は?」

千早「ええと、ちょっと頭に違和感があるんですがそれ以外は大丈夫……だと思います。
これからまだ検査するんですが……今日は念の為に泊まっていけと」

P「入院するってことか?」

千早「一応そうなりますね」



12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:48:42.33 ID:jzroVq22o

P「フムン、じゃあ打ち上げとかは後日ということで……千早の検査が終わるまではここにいるよ」

千早「あの、プロデューサー……いっしょに泊まってくれませんか!」

P「え?」

千早「私病院には怖い思い出しかなくて」

P「まあ、普通病院にいい思い出はないわな」

千早「だからプロデューサーが一緒にいてくれると心強いな……なんて。あの無理にとはいいませんよ、無理にとは」

P(うっ、千早が子犬のような目で見てくる)

P「うむ、俺は死ぬまで千早のプロデューサーであり続けるから願いを聞き入れよう」

千早「ありがとうございます……うれしいです」

P(清く澄んだ目玉が俺を射抜く……)




13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:49:23.88 ID:jzroVq22o

……

千早の検査にはそれから更に二時間ほどかかった。ライブが終わってから既に五時間以上が経過してもう夜になっていた。

待っている間は雑誌を読んだり、俺と千早の晩ご飯をコンビニで買ったりして時間を潰していた。

P「あ、メール」

From:千早
本文:先ほど検査が終わって病棟に移りました。病室は765号室なので待ってます。

P「よしさっさと向かうか」



14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:50:43.68 ID:jzroVq22o

-病棟・765号室-

P「それで検査の結果どうだったんだ」

千早「先生が言うには異常は見当たらなかったそうです」

P「そうか、よかったよ、本当に心配したんだからな」

千早「すみません。でもプロデューサーがいてくれて安心できました」

P「ご飯買ってきたんだよ。食べるか?コンビニ弁当だけどさ」

千早「そうですね、ずっと食べてなかったのでさすがにお腹が空きました」

それから二人でコンビニ弁当を食べた。まあ、まずくもないしうまくもない。

せめて弁当屋でも見つけるべきだったか。そんなこと食べながら考えても仕方ないか。



15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:51:33.95 ID:jzroVq22o

P「個室なのは都合がいいな」

千早「ええ、大部屋だと一緒に泊まってもらうのはちょっとむずかしいですね」

P「……まったく、千早は寂しがり屋なんだから」

千早「なっ!今更そんなこと言わないでください!」

P「あーあ、ちーちゃんをからかうの楽しいなぁ」

千早「もう、プロデューサー、意地が悪いんだから」

P「はは、ごめんごめん。幸いソファーが置いてあるし、俺はそっちで寝るよ」

千早「あの、プロデューサー、今日はなんだかいろいろあって、私そろそろ眠くなって……」

P「そうだな、早く寝るのが一番だよ。俺もさっさと寝るからさ」

千早「せっかくのふたりきり」ボソッ

P「ん、なんかいった?」

千早「い、いえ。もう寝ます。おやすみなさい」

P「はい、おやすみー。俺も寝るよ」



16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:52:42.42 ID:jzroVq22o

-翌日-

P「ふわあ、ソファで寝たからか体が痛いな……」

P「千早はまだ寝てるみたい」

P「よし、いまのうちに寝顔を撮影だな!」カシャ

千早「ん、んー」

P「シャッター音で目が覚めたみたい。おはよう千早」

千早「えっ、なんでプロデューサーが?それにここ……どこ?」

P「いやだな寝ぼけてるのか?」

千早「今日はお別れコンサートのリハが……」

P「それはもう昨日で終わっちゃったよ?」

千早「ど、どういことですかプロデューサー!?」



17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:53:35.45 ID:jzroVq22o

……

P「つまり、千早は昨日のこと覚えてないのか」

千早「ええ、信じられませんけど……」

P「健忘の一種か何かか?でも丸一日のことを忘れるなんて」

千早「あの、お別れコンサートの映像か何か残ってますか?」

P「ああ、一応持ってるけど、取りにいこうかな……」

千早「どうしてもお願いします。まだ信じられてないので」

しかし、ここで千早を一人にするのは危険な気がした。

看護師さんに見てもらうということも考えついたがつきっきりというわけには行かないだろう。

それよりも、映像を持ってきてもらうのがいい。

P「そうだな、じゃあ音無さんに持ってきてもらおう」




18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:54:20.53 ID:jzroVq22o

-1時間後-

コンコン

P「音無さん来たみたいだな。どうぞー」

小鳥「失礼します。千早ちゃん、プロデューサーさん、おはようございます」

千早「おはようございます」P「おはようございます」

小鳥「千早ちゃん、どうなの具合は……」

千早「きわめて良好と言いたいところですが……他の人からみると異様なようです」

P「電話で話した通りなんですが、昨日の記憶が無いみたいで、ライブの映像が見たいと」

小鳥「はい、ちゃーんと持って来ましたよ。このノートパソコンに入ってますから」

P「さっそく見てみましょう」



19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:55:03.18 ID:jzroVq22o

……

千早「うそ、私が歌ってる……」

P「だろー」

千早「ステージもセットリストも予定していたもの……」

P「まあ、ちょっと疲れてるんだよ」

千早「……わかりました、とりあえず私がステージを終えているということは信じます。それと休養が必要だということも」

小鳥「大丈夫よ千早ちゃん、少ししたらきっとよくなるから」




20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:56:43.61 ID:jzroVq22o

-午後-

P(午後になって診察に行ってきたんだが)

P「記憶の方はしばらく様子見か」

千早「ええ、先生もなんともいえないと……」

P「専門家がそう言うなら素直に従うしかないな」

千早「ところで、プロデューサー、少し散歩に出ませんか」

P「いいね、少しは外に出たほうが気が晴れるよな」

千早「この辺はあまり知らないので色々発見があるかもしれませんし」

P「よしじゃあ一緒に行こう」



21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:57:45.25 ID:jzroVq22o

……

P「なんだここは、随分と昭和の臭いがする商店街だな」

千早「魚屋さん、八百屋さん、お肉屋さん」

P「駄菓子屋もあるな。ひょえー、すっごいばあさんがいるぞ」

千早「おもちゃ屋さんありますね」

P「こういうおもちゃ屋には味のあるものが売ってたりするんだよ、ちょっと見ていこう」



22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 22:58:11.89 ID:jzroVq22o

イラッシャイマセー

P「うわ、[たぬき]のドンジャラとか懐かしい」

千早「こっちにはバトルドームが山積みに……」

P「このクマのぬいぐるみとか千早好きじゃない?」

千早「ええと、はい好きです……」

P「じゃあ買おうかな。入院には相棒が必要だろ?」

千早「でも私、プロデューサーさえいてくれれば……」

P「そういうな、賑やかなほうがいいだろ?」

千早「そう、ですね。確かに」

P「名前とかつけてやってくれよ」

千早「考えておきます」



23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:01:39.46 ID:jzroVq22o

-夜・病室-

千早「プロデューサー、家に帰らなくても大丈夫ですか?」

P「明日あたり一旦戻るよ。着替えもないし」

P(千早が心配で目をはなしてらんないんだよな)

千早「今日の商店街に銭湯ありましたね」

P「俺はさすがに病院の浴室使えないからな、ここに滞在するときはそこを使うことになるだろうな」

千早「……明日はきっと今日より良くなりますよね」

P「良くなる……と思いたい。ごめんな、断言してやれなくて」

千早「私こそ、すいません。迷惑ばかりかけて……」

P「千早のことなんだから迷惑だなんて思ってないよ」



25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:02:48.73 ID:jzroVq22o

……

千早「今日も遅いのでそろそろ寝ますね」

P「ちょっといいかな、寝る前にプレゼントがあるんだけど」

千早「ぬいぐるみも頂いたのに」

P「はい、日記帳。なんだか記憶を忘れるなんて悲しいなと思ってさ。すぐに良くなるとは思うけど、またこういうことが起こっても大丈夫なようにさ」

千早「あの……ありがとうございます」

P「どんなこと書くの?」

千早「今日はいっしょに散歩に行ったこととかプロデューサーがプレゼントをくれたこととか……」

P「なんだ俺のことばっかだな」

千早「ふふっ、それもそうですね。ずっとプロデューサーと一緒にいましたから」



27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:03:27.02 ID:jzroVq22o

……

P(日記書き終わったみたい)

P「日記、みせてくれないの?」

千早「ダメです。私の日記ですから」

P「……それもそうだな」

千早「そろそろ寝ましょうか」

P「そうだね、寝るよ、おやすみ」

千早「おやすみなさい、プロデューサー」



28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:05:11.91 ID:jzroVq22o

-翌日・朝-

自然と目が覚めた。昔から朝には弱かったが、心配事があるときだけ妙に早く目が覚めてしまう質だった。

今日は夢を見ていた。千早についての夢。抽象的でうまく言語化できない夢だった。

昨日よりは体が痛くない。千早の様子をうかがってみよう。

P「相変わらずかわいい寝顔をしてる」

千早がゆっくりとまぶたを開ける。

千早「プロデューサー……、プロデューサー?」

千早「なんでここに?ここは?」

P(どうやら寝ぼけているわけではなさそうだな)

千早「プロデューサー、今日は」

P「ああ」



29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:09:07.56 ID:jzroVq22o

千早「お別れコンサートのリハーサルの前日ですよね」

P「……どういうことだ」

千早「『どういうこと』というのはどういう……」

P「昨日の記憶ない?」

千早「昨日は、確かライブの告知のネット配信を……」

P(それはリハの前々日のことだ……)

P「俺と散歩したことは?そのぬいぐるみ、覚えてない!?」

千早「……いいえ」

P「もしかして……千早は記憶を遡っているのか」

千早「それは、どういうことですか」



30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:10:43.58 ID:jzroVq22o

……

P(千早には昨日と同様にコンサートの映像を見せ、さらに日記も渡した)

千早「プロデューサー、こんなことって、あり得るんですか?」

P「俺もいまいち信じられないが、千早が本当に覚えてないということなら、確かになるな」

千早「そんな、私は嘘なんてついてないです」

P「俺もそれには同意するけど、どうしたもんだか、これから」

千早「日記、読んでもいいですか」

P「ああ、読んだほうがいいな」



31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:12:23.92 ID:jzroVq22o

……

千早「こんな記憶……私には無いです……」

P「千早、なんで泣いてる……」

千早「記憶が抜け落ちていくんですよ?コンサート当日のファンのみんなとの記憶も、昨日買ってもらったぬいぐるみの記憶も」

P「……」

千早「そして、これから忘れてしまうんです!プロデューサーとの記憶が!なくなっちゃうんですよ!?」

千早「私……忘れたくない……」

P「記録していくしかない。なんらかの外部記憶に頼るしかない。千早が治らない限り……」



32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:13:51.21 ID:jzroVq22o

-夜-

千早「日記、書き終わりました」

P「見せては……くれないんだな」

千早「もはや私の記憶ですから」

P「それもそうだな」

千早「寝るのが怖いです。それにもともと寝ているのってあまり好きではありません。怖い夢ばかりみるんです」

P「例えばどんな?」

千早「親しい人が去っていく夢が一番怖いです。もっとも親しい人なんてあまりいませんが」




33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:14:19.60 ID:jzroVq22o

P「俺も千早が去っていくのは嫌だな」

千早「私だってプロデューサーが去っていくのは……」

千早「……今の場合私が去っていくようなものですね、ごめんなさい」

P「どこまでも追っかけてやるから大丈夫だよ」

千早「私、また一人になってしまいそうで怖いです……これからどうなってしまうんでしょう」

P「……わからん。物事、なるようにしかならんのさ。でも、俺はなるべく千早の隣にいるよ」

千早「プロデューサー……」



34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:14:51.41 ID:jzroVq22o

P「安心できた?」

千早「はい、十分に」

千早「安心したら眠くなってきました」

P「うん、ゆっくり眠るといいよ」

千早「おやすみなさい、いいえ、もしかしたら、さようなら?」

P「おやすみ、でいいんだよ」

千早「はい、おやすみなさい、プロデューサー」

P「おやすみ、千早」



35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:15:20.44 ID:jzroVq22o

-4月-

P(千早が日記を熱心に読んでいる)

P「なんか見つかったか?」

千早「いえ、自分の記憶以外、特には」

P「今日は天気もいいし、ちょっと外に出よう」

-神社-

千早「病院の近くにこんなところがあったんですね」

P「ああ、この間見つけたんだよ。桜がキレイだろ」

千早「はい、本当にいい場所ですね」

P「これだけいい桜があると一杯やりたくなるな。昼飯、ここで食べないか?」

千早「それいいですね。でもその前に神様に挨拶していきましょう」

P「そうだな、失礼のないようにな」



36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:16:04.34 ID:jzroVq22o

-病室-

P「今日は楽しかったな」

千早「ええ……とっても」

千早「でも……」

P「この記憶も忘れてしまう……か?」

千早「私にはもうこの日記しかないんです、覚えていられるのはこれだけ……」

P「いや、俺が覚えているよ。俺が千早の記憶になるよ。記憶を埋められるように頑張るからさ」

千早「プロデューサー……そうですね。プロデューサーがいてくれれば……安心です」



37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:18:41.12 ID:jzroVq22o

-7月-

千早「そんなことってあるんですか」

P「信じるか信じないかは千早次第になってしまうんだが、まずはこの日記を読んでくれ」

毎日だ。幾度と無くこの作業を繰り返している。俺の一日は千早への「宣告」から始まる。

「お前は記憶を遡っている。詳しくはこの日記を読め」そう告げる。

はじめはそんなはずはないと千早がいうも、俺の表情と状況的証拠によって納得する。千早は冷静な子だ。

……

千早「私には不幸や理不尽を嘆くしか残されていないのでしょうか」

P「俺からは何も言えないな。俺だって散々無力感を味わってるんだからさ」



38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:19:47.46 ID:jzroVq22o

-10月-

最近千早の様子がちょっとおかしい。記憶に問題が起きているのは確かなこととして。

千早「プロデューサーにわかります、この事が?」

P「今まで一緒にいたんだからわかるさ」

千早「それもどうなんでしょうか。私の記憶が無いのをいいことに嘘ついたりしてないですよね」

P「そんなことはしてない」

千早「それよりも少し一人になりたいのですが」

P「わかった、しばらく出てくるよ」

当たり前のことだろう。記憶を遡っているということは俺との記憶、千早の俺に対する好感度も遡っているのだから。

一応、記憶のことは日記の筆跡から納得はしてくれているみたいだ。

俺の千早への付き合い方も当然変化せざるを得ない。病院に宿泊というのは取りやめて自宅に帰って朝一で出てくることにした。



39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:20:39.45 ID:jzroVq22o

……

千早「プロデューサー」

P「なに?」

千早「私の日記、読んだことありますか」

P「いや、ないよ」

千早「じゃあちょっと読んでください」

・5月4日
今日はプロデューサーとCDショップに行った。日記によるとCDショップに行ったのは一ヶ月ぶりらしい。

とても楽しかった。新譜を試聴したり、プロデューサーの好きな音楽について語ってもらったり。

どこにも出かけない何気ない一日だっていい。とにかくプロデューサーといっしょにいられたら……



40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:22:08.61 ID:jzroVq22o

・8月24日
ダメ、何度も試してけどダメ。私が私でいられない。

今は日記にある記録が私で、私はなるべくそれと同一性や連続性を崩さずに行動しなければならない。

さもなければ私という実体は崩壊してしまうように思う。

守らなければならないものなんて私には少ないのにそれすら守れないというの?

プロデューサーへの気持ちもなくなってしまうの?今はまだ淡い。いえ、むしろ淡かったというべきかしら。

私とプロデューサーの記憶、お別れコンサートの時点ではその想いは最大だったはず。

そんなに大きかったものでも消えてしまうの?これが理不尽でないというならなんだというの。



41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:23:29.60 ID:jzroVq22o

千早「プロデューサー、私って……なんですか?」

P「千早は……千早だ。如月千早であることを俺が保証しているんだ」

千早「私だけ過去に進んでいるみたいです。その一方で周りのみんなは未来に進んでいる、私を置き去りにして……」

P「……」

千早「私は過去にいるはずなのに未来にはもう結果が出ているんです、アイドルとして芽の出なかった私がいるんです。
そんなことを思いながら日々を送っているんです、そう日記に書いてあります……」

P「千早、手だして」

千早「なんですか、いきなり、……はい」

P「手、握ってもいいかな」

千早「……いいですよ」



42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:24:17.64 ID:jzroVq22o

P「わかる?震えてるんだよ、怖いんだよ千早がどっかいっちゃいそうで」

P「今、過去の千早と未来の俺をつないでいるのはあの日記に間違いない。
その内容にまで絶望したらどうなるんだ俺達は、引き裂かれるんだろうか」

千早「……!今、少し思い出しました、プロデューサーへの感情。
もしかすると、再び芽生えたといった方が適切かもしれませんが」

P「俺の怖いという感情、共有してくれるだろうか」

千早「わからなくはないです。人と人同士が共感するなんて一種の幻想だと思っていましたが……」

P「共振現象だよ、きっと」

千早「眠るのが怖いです。過去の、リセットされ続けた私は、何度こんな気持を味わったんでしょうか」

P「千早が怖い時にはいつでも付き添うよ。その恐怖が収まるまで」



43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:25:06.60 ID:jzroVq22o

-2/25-

あっという間の一年だった。千早が記憶を失い始めて一年。千早と出会ったのはそのちょうど一年前。そうだ、因縁深い誕生日だ。

千早が記憶を失い始めて一年たつということは明日になると完全に俺に関する記憶が消失することになる。その後のことは、わからない。

それでも俺は自分に課した、千早に対する責務を実行する。



44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:26:19.82 ID:jzroVq22o

-病室-

千早「おはようございます、プロデューサー」

P「起きてたか、あのな千早、とりえあず混乱しないで欲しいんだが……」

千早「大丈夫です。日記も読みました」

P「おお、そうか。俺に関する記憶、少しはあるんだな」

千早「起きた瞬間は不思議と清々しい気持ちで、日記がそれを確信させてくれました」

P「確信って……なにを?」



45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:26:53.62 ID:jzroVq22o

千早「プロデューサー、私、わかったんです。私という存在は私を覚えていてくれる人のイメージで構成されるんです。
それぞれの人が持つ私の像の結合から成り立っているんです。
私を覚えていてくれた人が私の存在を忘れるにしたがって、段々と私の存在の振れ幅が大きくなったから、私、少しずつ記憶を忘れていったんです」

P「待て千早、仮にそれが正しいとして、千早以外の人間はどうなる?普通、他人に忘れられるだけで記憶がなくなったりはしないぞ」

千早「それは私が特殊だからです、私の像の核は、プロデューサー、あなたが最初に創りだしたんです」

P「俺が千早を生んだ……ということか?」

千早「その通りです、私はプロデューサーの空想の産物なのかもしれませんね」

P「でも、それはなんでわかるんだ」

千早「日記からです。あまりにもプロデューサーの内容に偏り過ぎているんです、まるで他人が存在しないように」

P「それは千早が俺ぐらいとしか会わないから」

千早「それは逆ですむしろ世界がそうさせたと」



46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:27:33.09 ID:jzroVq22o

千早「プロデューサーの空想によって生み出された私の存在はお別れコンサートの時点で極大化してそれ以来しぼんでいく一方なんです。歌をよりどころにしていたんですから……」

P「どうなる、これから?明日はどうなるんだ」

千早「これより過去は恐らく無いんです、プロデューサー」

P「それはみんなが千早のことを忘れてしまって」

千早「消えてしまうでしょう、私の存在が」

P「そんなの……いや、でも。」

千早「でも?」

P「俺が千早を忘れなければいい。千早を忘れることなんて考えられない」



47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:28:19.52 ID:jzroVq22o

……

千早「今日はゆっくりしていましょう」

P「そうだな、何もなくたっていいんだよ、それが一番」

千早「ふふっ、日記に書くことがなくなってしまいます」

P「そうだ、書くことなら俺が作れるぞ」

千早「どういうことですか?」

P「今日は誕生日なんだから、当然、千早にプレゼントがある」

千早「本当ですか?プロデューサー」



48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:28:56.10 ID:jzroVq22o

P「ほら、これ。指輪なんだけど」

千早「プラチナのリング……これ相当高いんじゃ……」

P「給料三ヶ月分ってとこかな」

千早「それ本気ですか?」

P「冗談は言わないさ。俺の目を見るんだ!」

千早「……いやらしい目、してます」

P「そんな馬鹿な」

千早「ふふっ、お受けします」



49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:29:35.60 ID:jzroVq22o

-夜-

千早「プロデューサー、ちょっとこっち来てください」

P「なんだ?」

千早「膝枕してあげます……」

P「なんだと。めちゃくちゃ甘えるぞ」

千早「ええ、どうぞ、ここに」

P「ああー、安らぐ」

千早「だらしない顔してますよ」ナデナデ



50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:30:13.97 ID:jzroVq22o

P「……千早、眠たいんだ、強烈に」

千早「たぶんちょっと疲れちゃったんですよ」

P「でも、俺が眠ると、今日が終わると千早は……」

千早「そろそろ……お別れですね」

P「千早……ち…はや……」

千早「あなたがいたから私がこの世界に定着したんです。あなたが見ていたから私が存在してきたんです。だから、愛しています、プロデューサー」

P「zzz」



51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:30:48.23 ID:jzroVq22o

……

机の上に目をやると一枚のメモ用紙が置いてあった

『如月千早』

綺麗で丁寧な文字。強い気持ちが吹き込まれているように感じた。

「あれ、俺なんで」

視界がにじむ。涙が自然と漏れだしてきた。

「如月千早。千早。千早千早千早千早千早ちはや……」

「あっ」

その瞬間、俺の中で「千早」という文字列の意味は失われた。



52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:31:50.67 ID:jzroVq22o



……

………

「ああ、俺?あのさアイドルプロデューサーなんてやってんだよね」

「アイドルって、あのテレビに出たりするやつだよ」

「いや、道端でスカウトされちゃってさ、ティンときたとか言われて」

「名前も知られてないプロダクションでさ。入社してしばらくしても大したことしないでやんの」

「担当の子もいなくてさ、このままで大丈夫なのかって心配になっちゃうよ」

「でも、時々稲妻のように脳内に走るんだよ、俺のアイドル像」

「スラっとした女の子。スレンダーでめちゃくちゃ歌がうまいの」

「歌を聞いた人がみんなして黙って耳を傾けてしまうようなさぁ」

「そんなのが思い浮かぶのよ」



53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/02/25(月) 23:32:47.98 ID:jzroVq22o

-765プロ事務所-

小鳥「今日やっと765プロに新しいアイドルの子がやってくるんですよ」

P「そう……なんですね」

コンコン

?「失礼します」

俺は目を見張った。そのアイドル候補生はどうみたって逸材なのだから。

Go to Next Produce!



おわり


元スレ
SS速報VIP:千早「私の始まりの日へ」