1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:08:00.36 ID:mutaV8Wm0
結衣「……」
あかり「……」
雨降ってきちゃったね。
ぽつりと漏らすと、隣にぼんやり立っていたあかりは「そうだねー」と呑気なふりをして
頷いた。それでもどことなくいつもと違う様子は見て取れて、私はなにを言えばいいのか
わからずに空いていた片手で髪をぐしゃぐしゃした。
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:08:58.83 ID:mutaV8Wm0
それに気付いたあかりが、「結衣ちゃん、ごめんね」と突然。
え、なんで?
謝られる理由がわからずに本気でそう訊ねると、あかりは「だって」と言って
言葉を濁した。
あかり「結衣ちゃんの癖……困ったときはいつもそうやって頭くしゃくしゃするから」
結衣「あ……」
いつのまに気付かれていたんだろう、私でも気付いたのはつい最近のことなのに。
さすが幼馴染、というよりもさすがあかり、と言うべきなのかも知れない。
私は「ごめん、私こそ。……こういうの、初めてだし」と途切れ途切れになりながら
伝えると、あかりは知ってるよぉと笑ってくれた。
あかり「だからごめんね。あかりも京子ちゃんやちなつちゃんみたいに誰かを
引っ張ることなんてできないから……」
結衣「ちなつちゃんはいいとして、京子みたいなのはただのわがまま。あかりまで
京子みたいだったら私はもっと大変だったよ」
あかり「あはは、そっかぁ」
それからまた沈黙。
あかりと手、繋ぐのはいつぶりだろうか。そんなことを考えた。
さっきから繋ぎっぱなしの左手が、そろそろ手汗をかいてないか心配だ。
◆
あかり「ほんとにあかりで良かったの?」
雨が本格的に強くなってきたところだった。
誰もいない昇降口の端っこ。やっぱり手を繋いだまま、ふいにあかりはそう言った。
私は少しだけ迷いながらも、「うん」と頷いた。はっきり、頷いてみせた。
結衣「いいからいいって言ったんだろ」
あかり「……うん、そうだよね」
結衣「あかりは心配しすぎ」
こつんとあかりの頭を叩く真似をすると、あかりは「えへへ」とようやく
笑ってくれた。
雨はもう少し止みそうに無い。
あかり「明日、ちなつちゃんや京子ちゃんになんて言おっか」
結衣「別に言わなくてもいいんじゃない?」
あかり「……うん、そうかな」
結衣「いいよ」
わかった、とあかりは頷いて。
少し不安げに私を見上げてきた。私はその視線からすっと逃れて、「あかりこそ」と
前を向いたまま、言った。
結衣「あかりこそ、良かったの?」
あかり「へ?」
結衣「私で、良かったの?」
たとえば、京子とちなつちゃんの関係を知ってしまった私が落ち込んでるとか、
二人の世界が出来上がっている部室でお互い一人ずつだったからとかそんな理由ではないと
わかってはいるけど。
私がまだ京子に気があるんじゃないか。
きっとそんなことを考えてるんだろうなとは思う。
そして私だって、もしかしてあかりはちなつちゃんのことが好きだったんじゃないか、
なんてことを考えて。
あかり「……良くなかったら好きなんて言えないよ」
結衣「……そっか」
こんな恥ずかしいこと二回も言わせないでよぉ。
あかりが言葉通り恥ずかしそうに俯いて、言った。そんなあかりを見ていると
私までなんだか頬が火照ってくるようだった。
可愛いなって思う。
今までただの幼馴染で、友達で、後輩で。そのときだって可愛いと思っていたのに、
こうして特別な関係で手を繋いでいたりすると、そんなあかりがもっともっと可愛いいなと
思えてしまう。
あかり「……結衣ちゃん」
結衣「うん?」
あかり「えへへ、呼んでみただけ」
京子みたいだ。
そう思った自分に、少しだけ驚いて。私はぐっと繋いだあかりの手を握りなおした。
あかりもそれよりもっともっと強く私の手を握りなおしてきて。
あぁ、きっと私たちは別の人のことを考えてるんだなって思った。それでもいちいち
言葉になんて出さないし、出せない。
私たち二人とも、お人好しなんだ。
結衣「ねえ、あかり」
あかり「なあに?」
結衣「走ろっか」
あかり「えっ、雨の中を?」
結衣「うん、走ろう」
私が言うと、あかりはそっと暗い雨の降る外を見た。
その目はもう、不安げでも迷ってもいなかった。
お人好しの私たちは、お互いのために二人でいるのだ。嘘みたいな好きを繰り返して。
だけど、その嘘みたいな好きがいつか、本物の好きに変わってしまえばいい。
あかり「びしょびしょになっちゃうね」
結衣「たまにはいいんじゃない?」
あかり「えへへ、そうだね」
私たちはどちらともなく雨に打たれに飛び出た。
この雨がずっとこびり付いている古い気持ちを洗い流してくれることを祈りながら。
私たちは手を繋いだまま、お互い離れないよう、離さないよう、走り出す。
終わり
思ったより短すぎたのでもう一本適当に
スレ落ちてると思ってためしに書き込んでみたら……
雨テーマでちなあかを
ちなつ「雨だ」
ちなつちゃんの声に顔を上げると、確かに気付かないくらいの細い雨がぱらぱらと
空から降って来ていた。
あかり「雨の日ってじめじめするよねー……」
ちなつ「あかりちゃんは雨って嫌い?」
あかり「うん、あんまり好きじゃないなぁ」
私はベッドで寝転んでいた身体を起こして答える。
ちなつちゃんが、「えー」と不思議そうに持っていた雑誌を机に置いて。
ちなつ「あかりちゃんって雨の日ってすごく好きそうなんだけどなあ」
あかり「どうして?」
「だって」とちなつちゃんはくるくるまわる椅子の上で膝を抱えながら、
あかりちゃんは世界の全てを愛してそう。
あかり「……えっ」
ちなつ「なーんて、京子先輩の受け売り?」
こんなこと言うなんて私のキャラじゃないもんね、とちなつちゃんが笑う。
私も小さく笑い返して。
一瞬、どきりとしてしまったことを気付かれていないことにほっとして、それから
気付いて欲しかったとも思ってしまう矛盾した気持ち。
あかり「……あかりだって、そんなことはないよ」
嫌いな天気もあるし、ほんとは苦手な食べ物や、虫さんだっていっぱいいる。
あかりは良い子なんてよく言われるけれど、ほんとはそんなことないんだよ。
ちなつちゃんにそう言いたくても、私の口は重く動かない。
あかりは世界の全てなんか愛してない。
ただ、ちなつちゃんのことはこんなにも好き。
世界のなにより、ちなつちゃんのことが好き。
ちなつ「ふーん、そっかあ」
意外だなあ、とちなつちゃんが首を傾げた。
その肩越しに、相変わらず細い雨が映る。
あかり「ちなつちゃんは?」
なんだか会話が途切れそうで怖くなった。
私は訊ね返した。
ちなつちゃんは「え?」とぽかんとしたあと、すぐに「あぁ」と納得したような
顔をした。
ちなつ「雨のこと?」
あかり「あ、うん……」
ちなつ「私はあかりちゃんとは逆かな」
あかり「好き?」
ちなつ「うん」
ちなつちゃんが頷くのを見て、私は少しだけ、雨のことが羨ましくなった。
あかりのことも、そんなふうに好きだって言ってくれたら、どれほど嬉しいだろう。
ちなつ「なんか好きなんだよねー」
あかり「へぇ……」
ちなつ「雨の日ってさ」
あかり「うん」
ちなつ「なんだか優しくなれそうな気がする」
詩の朗読でもしているような口調でちなつちゃんはそう言って。
すぐに照れたように笑った。
ちなつ「なんてねー」
あかり「……優しく、なれそうな」
私はそれでも、ちなつちゃんの言葉を繰り返した。
優しくなれそうな気がする。
途端に、今にも突き刺してきそうに思えた細い雨が、優しい流れに変わったような
気がした。
ちなつ「もうー、べつに繰り返さなくたっていいってばー」
あかり「……えへへ」
私は曖昧に笑った。
雨はずっと、小さい頃から嫌いだった。
なんだか、怖くて仕方が無かった。大事なものが洗い流されていきそうな、
そんな気がして怖かった。たぶん、アリさんのお家が雨の後、洪水してしまっていたのを
見たときからだったと思う。あのときから、すごくすごく怖くて。
あかり「……ちなつちゃんがそう言うなら、あかりも」
ちなつ「え?」
あかり「雨、好きになれそうな気がする」
そういうと、ちなつちゃんは「ほんと?」と嬉しそうに言って。
私はそんなちなつちゃんの声を聞くのが好きだった。
ちなつちゃんの嬉しそうな声を聞けるなら、自分が一番じゃなくてもいいと思えてしまうほど。
ちなつ「ほんとは雨、昔はあんまり好きじゃなかったんだけどね」
あかり「え……?」
ちなつ「最近、好きになってきちゃって」
あぁ、でも。
私は今度はずきんと痛み始めた胸を無視して、「京子ちゃん?」訊ねた。
ちなつ「ど、どうしてわかるの!?」
あかり「だって、ちなつちゃんだもん」
そう言って笑って見せると、「あかりちゃんには隠し事できないかも……」と
呟いてちなつちゃんは。
ちなつ「京子先輩をね、好きになっちゃったのも雨の日だったの」
あかり「……うん」
ちなつ「結衣先輩のことが好きだったはずなのにね」
雨の日。
傘をさして歩く二人の背中を思い出す。
ちなつ「好きな人を好きになった日の天気まで好きになっちゃうなんて」
不思議だよね。
ちなつちゃんが言った。
私は頭を振って。
不思議なんかじゃないよ。おかしくなんてないよ。
好きな人の好きなものを好きになろうとするあかりのほうがきっと。
最後の言葉は、言えなかったけど。
ちなつ「そっか」
あかり「うん」
ちなつちゃんは安心したように笑ってくれた。
嬉しそうな声だった。
私はそれを聞きながら、窓の外を見て。雨は本降りになってきていた。
やっぱり雨は、大事なものを、全部全部どこかへ流し去ってしまう気がした。
けれど、ちなつちゃんの好きな雨をもう、嫌いになるなんてことはきっと
出来ない。
あかり「雨、止まなきゃいいね」
ちなつ「そうしたら私帰れなくなっちゃうよ」
うん、そうだったね。
だけど帰らなくてもいいのに。そんなことも思って。
こんなにも好きな気持ち、いっそ雨が洗い流してくれればいいのにと思う。
終わり
短く纏めたために色々不十分ですが、支援保守ありがとうございました
近いうちにまた長編書けたらいいなと思ってます
それではまた
元スレ
それに気付いたあかりが、「結衣ちゃん、ごめんね」と突然。
え、なんで?
謝られる理由がわからずに本気でそう訊ねると、あかりは「だって」と言って
言葉を濁した。
あかり「結衣ちゃんの癖……困ったときはいつもそうやって頭くしゃくしゃするから」
結衣「あ……」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:09:40.08 ID:mutaV8Wm0
いつのまに気付かれていたんだろう、私でも気付いたのはつい最近のことなのに。
さすが幼馴染、というよりもさすがあかり、と言うべきなのかも知れない。
私は「ごめん、私こそ。……こういうの、初めてだし」と途切れ途切れになりながら
伝えると、あかりは知ってるよぉと笑ってくれた。
あかり「だからごめんね。あかりも京子ちゃんやちなつちゃんみたいに誰かを
引っ張ることなんてできないから……」
結衣「ちなつちゃんはいいとして、京子みたいなのはただのわがまま。あかりまで
京子みたいだったら私はもっと大変だったよ」
あかり「あはは、そっかぁ」
それからまた沈黙。
あかりと手、繋ぐのはいつぶりだろうか。そんなことを考えた。
さっきから繋ぎっぱなしの左手が、そろそろ手汗をかいてないか心配だ。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:10:19.82 ID:mutaV8Wm0
◆
あかり「ほんとにあかりで良かったの?」
雨が本格的に強くなってきたところだった。
誰もいない昇降口の端っこ。やっぱり手を繋いだまま、ふいにあかりはそう言った。
私は少しだけ迷いながらも、「うん」と頷いた。はっきり、頷いてみせた。
結衣「いいからいいって言ったんだろ」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:10:49.86 ID:mutaV8Wm0
あかり「……うん、そうだよね」
結衣「あかりは心配しすぎ」
こつんとあかりの頭を叩く真似をすると、あかりは「えへへ」とようやく
笑ってくれた。
雨はもう少し止みそうに無い。
あかり「明日、ちなつちゃんや京子ちゃんになんて言おっか」
結衣「別に言わなくてもいいんじゃない?」
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:11:15.19 ID:mutaV8Wm0
あかり「……うん、そうかな」
結衣「いいよ」
わかった、とあかりは頷いて。
少し不安げに私を見上げてきた。私はその視線からすっと逃れて、「あかりこそ」と
前を向いたまま、言った。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:11:40.78 ID:mutaV8Wm0
結衣「あかりこそ、良かったの?」
あかり「へ?」
結衣「私で、良かったの?」
たとえば、京子とちなつちゃんの関係を知ってしまった私が落ち込んでるとか、
二人の世界が出来上がっている部室でお互い一人ずつだったからとかそんな理由ではないと
わかってはいるけど。
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:12:05.97 ID:mutaV8Wm0
私がまだ京子に気があるんじゃないか。
きっとそんなことを考えてるんだろうなとは思う。
そして私だって、もしかしてあかりはちなつちゃんのことが好きだったんじゃないか、
なんてことを考えて。
あかり「……良くなかったら好きなんて言えないよ」
結衣「……そっか」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:12:34.58 ID:mutaV8Wm0
こんな恥ずかしいこと二回も言わせないでよぉ。
あかりが言葉通り恥ずかしそうに俯いて、言った。そんなあかりを見ていると
私までなんだか頬が火照ってくるようだった。
可愛いなって思う。
今までただの幼馴染で、友達で、後輩で。そのときだって可愛いと思っていたのに、
こうして特別な関係で手を繋いでいたりすると、そんなあかりがもっともっと可愛いいなと
思えてしまう。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:13:06.23 ID:mutaV8Wm0
あかり「……結衣ちゃん」
結衣「うん?」
あかり「えへへ、呼んでみただけ」
京子みたいだ。
そう思った自分に、少しだけ驚いて。私はぐっと繋いだあかりの手を握りなおした。
あかりもそれよりもっともっと強く私の手を握りなおしてきて。
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:13:34.07 ID:mutaV8Wm0
あぁ、きっと私たちは別の人のことを考えてるんだなって思った。それでもいちいち
言葉になんて出さないし、出せない。
私たち二人とも、お人好しなんだ。
結衣「ねえ、あかり」
あかり「なあに?」
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:14:06.85 ID:mutaV8Wm0
結衣「走ろっか」
あかり「えっ、雨の中を?」
結衣「うん、走ろう」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:14:34.97 ID:mutaV8Wm0
私が言うと、あかりはそっと暗い雨の降る外を見た。
その目はもう、不安げでも迷ってもいなかった。
お人好しの私たちは、お互いのために二人でいるのだ。嘘みたいな好きを繰り返して。
だけど、その嘘みたいな好きがいつか、本物の好きに変わってしまえばいい。
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:15:01.43 ID:mutaV8Wm0
あかり「びしょびしょになっちゃうね」
結衣「たまにはいいんじゃない?」
あかり「えへへ、そうだね」
私たちはどちらともなく雨に打たれに飛び出た。
この雨がずっとこびり付いている古い気持ちを洗い流してくれることを祈りながら。
私たちは手を繋いだまま、お互い離れないよう、離さないよう、走り出す。
終わり
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:36:57.22 ID:mutaV8Wm0
思ったより短すぎたのでもう一本適当に
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:39:04.51 ID:mutaV8Wm0
スレ落ちてると思ってためしに書き込んでみたら……
雨テーマでちなあかを
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:44:28.27 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「雨だ」
ちなつちゃんの声に顔を上げると、確かに気付かないくらいの細い雨がぱらぱらと
空から降って来ていた。
あかり「雨の日ってじめじめするよねー……」
ちなつ「あかりちゃんは雨って嫌い?」
あかり「うん、あんまり好きじゃないなぁ」
私はベッドで寝転んでいた身体を起こして答える。
ちなつちゃんが、「えー」と不思議そうに持っていた雑誌を机に置いて。
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:49:59.95 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「あかりちゃんって雨の日ってすごく好きそうなんだけどなあ」
あかり「どうして?」
「だって」とちなつちゃんはくるくるまわる椅子の上で膝を抱えながら、
あかりちゃんは世界の全てを愛してそう。
あかり「……えっ」
ちなつ「なーんて、京子先輩の受け売り?」
こんなこと言うなんて私のキャラじゃないもんね、とちなつちゃんが笑う。
私も小さく笑い返して。
一瞬、どきりとしてしまったことを気付かれていないことにほっとして、それから
気付いて欲しかったとも思ってしまう矛盾した気持ち。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 22:53:05.90 ID:mutaV8Wm0
あかり「……あかりだって、そんなことはないよ」
嫌いな天気もあるし、ほんとは苦手な食べ物や、虫さんだっていっぱいいる。
あかりは良い子なんてよく言われるけれど、ほんとはそんなことないんだよ。
ちなつちゃんにそう言いたくても、私の口は重く動かない。
あかりは世界の全てなんか愛してない。
ただ、ちなつちゃんのことはこんなにも好き。
世界のなにより、ちなつちゃんのことが好き。
ちなつ「ふーん、そっかあ」
意外だなあ、とちなつちゃんが首を傾げた。
その肩越しに、相変わらず細い雨が映る。
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:01:11.36 ID:mutaV8Wm0
あかり「ちなつちゃんは?」
なんだか会話が途切れそうで怖くなった。
私は訊ね返した。
ちなつちゃんは「え?」とぽかんとしたあと、すぐに「あぁ」と納得したような
顔をした。
ちなつ「雨のこと?」
あかり「あ、うん……」
ちなつ「私はあかりちゃんとは逆かな」
あかり「好き?」
ちなつ「うん」
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:03:12.80 ID:mutaV8Wm0
ちなつちゃんが頷くのを見て、私は少しだけ、雨のことが羨ましくなった。
あかりのことも、そんなふうに好きだって言ってくれたら、どれほど嬉しいだろう。
ちなつ「なんか好きなんだよねー」
あかり「へぇ……」
ちなつ「雨の日ってさ」
あかり「うん」
ちなつ「なんだか優しくなれそうな気がする」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:05:19.84 ID:mutaV8Wm0
詩の朗読でもしているような口調でちなつちゃんはそう言って。
すぐに照れたように笑った。
ちなつ「なんてねー」
あかり「……優しく、なれそうな」
私はそれでも、ちなつちゃんの言葉を繰り返した。
優しくなれそうな気がする。
途端に、今にも突き刺してきそうに思えた細い雨が、優しい流れに変わったような
気がした。
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:09:08.80 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「もうー、べつに繰り返さなくたっていいってばー」
あかり「……えへへ」
私は曖昧に笑った。
雨はずっと、小さい頃から嫌いだった。
なんだか、怖くて仕方が無かった。大事なものが洗い流されていきそうな、
そんな気がして怖かった。たぶん、アリさんのお家が雨の後、洪水してしまっていたのを
見たときからだったと思う。あのときから、すごくすごく怖くて。
あかり「……ちなつちゃんがそう言うなら、あかりも」
ちなつ「え?」
あかり「雨、好きになれそうな気がする」
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:12:07.79 ID:mutaV8Wm0
そういうと、ちなつちゃんは「ほんと?」と嬉しそうに言って。
私はそんなちなつちゃんの声を聞くのが好きだった。
ちなつちゃんの嬉しそうな声を聞けるなら、自分が一番じゃなくてもいいと思えてしまうほど。
ちなつ「ほんとは雨、昔はあんまり好きじゃなかったんだけどね」
あかり「え……?」
ちなつ「最近、好きになってきちゃって」
あぁ、でも。
私は今度はずきんと痛み始めた胸を無視して、「京子ちゃん?」訊ねた。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:14:33.07 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「ど、どうしてわかるの!?」
あかり「だって、ちなつちゃんだもん」
そう言って笑って見せると、「あかりちゃんには隠し事できないかも……」と
呟いてちなつちゃんは。
ちなつ「京子先輩をね、好きになっちゃったのも雨の日だったの」
あかり「……うん」
ちなつ「結衣先輩のことが好きだったはずなのにね」
雨の日。
傘をさして歩く二人の背中を思い出す。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:17:11.62 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「好きな人を好きになった日の天気まで好きになっちゃうなんて」
不思議だよね。
ちなつちゃんが言った。
私は頭を振って。
不思議なんかじゃないよ。おかしくなんてないよ。
好きな人の好きなものを好きになろうとするあかりのほうがきっと。
最後の言葉は、言えなかったけど。
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:19:10.44 ID:mutaV8Wm0
ちなつ「そっか」
あかり「うん」
ちなつちゃんは安心したように笑ってくれた。
嬉しそうな声だった。
私はそれを聞きながら、窓の外を見て。雨は本降りになってきていた。
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:29:26.68 ID:mutaV8Wm0
やっぱり雨は、大事なものを、全部全部どこかへ流し去ってしまう気がした。
けれど、ちなつちゃんの好きな雨をもう、嫌いになるなんてことはきっと
出来ない。
あかり「雨、止まなきゃいいね」
ちなつ「そうしたら私帰れなくなっちゃうよ」
うん、そうだったね。
だけど帰らなくてもいいのに。そんなことも思って。
こんなにも好きな気持ち、いっそ雨が洗い流してくれればいいのにと思う。
終わり
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/10(木) 23:30:31.27 ID:mutaV8Wm0
短く纏めたために色々不十分ですが、支援保守ありがとうございました
近いうちにまた長編書けたらいいなと思ってます
それではまた
結衣「雨」