2: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:26:51.05 ID:hcckxS+c0
初めて好きって気持ちに気付いたのはいつ?
第104期訓練兵団の解散式が終わり、それぞれが思い思いの夜を過ごす中、食堂のテーブルを挟んで向かい合わせたミーナが好奇心で問いかけてきた。
「いつっていうか・・・」
私が答えに詰まっている様子が彼女には珍しいようで目を丸くしている。
「なんにせよお似合いのカップルだと思うよ!」
本心から言ってくれているのだろう。私と彼女は親しくはないが本心で言ってくれている事くらいはわかる。
例えそれが上辺だけの言葉だとしても悪い気はしない。
「でもアニは憲兵団に行くんだよね?じゃあエレンとは・・・」
ミーナは言って後悔したのか口をつぐんだ。
「ゴメン・・・当事者でもない私が言う事じゃないのに・・・」
バツが悪そうにミーナは黙りこくってしまった。
4: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:28:53.71 ID:hcckxS+c0
「気にする事ないよ、それが別れじゃないから」
ミーナの緊張を解いた私はじゃあねと席を立った。
いつもより食堂が騒がしいのは皆ですごす最後の夜だからだろう。
皆が知っている。二度と全員が顔を合わせる事の無いことを。
賑やかなのは嫌いじゃない、けど私の柄じゃない。
出口のドアに手を掛けた時、視界にエレンが入った。
アルミン、ミカサと楽しそうにうお喋りをしている。
三人は昔からの幼馴染であり苦楽を共にした仲間だ。話も弾むだろう。
そんなところに水を差すほど私は無粋ではない。
ドアを開け私はかがり火が照らす薄闇の中に出た。澄んだ空気が心地よい。
私は広場の中心に組まれた焚き火の前に腰を下ろした。
燃える炎を見つめながらエレンの顔を、しぐさを思い浮かべる
「最初はただの暇つぶしだったのに・・・」
エレンと初めて向かい合ったのは対人格闘の訓練だった。
適当に流してやり過ごそうとしていた私に突っかかってきた事が全ての始まりだった。
もちろん私はそんなエレンを一蹴した。
父さんから教わった技術は期待を裏切らない。
女に負かされた顔はさぞかし滑稽だろう、私は鼻で笑ってやろうとした。
「今の技、凄いな!誰かに教わったのか!?」
ぎょっとした。エレンは痛みも忘れ私に近づくと目を輝かせながらそう言った。
「・・・お父さんに・・・」後ずさりながら私は答えた。
それからエレンは事ある毎に私の所へ来ては這いつくばらされていた。
「懲りない奴」「猪突猛進」当時はそんな印象しかなかった。
だが繰り返えされる習慣。慣れとは恐ろしいものだ。何度も何度も倒されるだけだったエレンは
次第に私の動きを、癖を、技術に順応し先手を打った
膝をつく私に息を弾ませながら勝利を確信したエレン
瞬間、彼は悲鳴と共に地面に転がされていた。小手先の技を見切ったからといって調子にのらないでほしい。
悔しがる彼にちょっよした気紛れを覚えたのか私は本来なら口にしないであろう台詞を口にした。
「そんなにこの技を教えてほしいの?」
訓練兵団をその熱『弁』で指導したキース教官はエレン・イェーガーを努力の人と評した。
その人物評価は確かな物だった。
一年後、エレンは私と対等に渡り合える唯一の同期生へと成長していた。
膂力だけならば同期の中でも首席を争うミカサ、ライナー、ベルトルトの三人もひけをとらないが――
積み重ねてきた努力、私と同等の技術はその比ではない。
私は感情をコントロールする事を得意としていた。感情は私情を生む。
心が波立つと隙を生む。目的を果たすために私は心を閉ざしたはずなのに・・・
戦士としての自覚と誇りを持っていた・・・それなのに・・・
私はいつしかエレンと過ごす時間を楽しみと感じていた。
「アニ、俺はお前が好きだ」
あくる日の休暇にエレン私を呼び出したかと思うと公衆の面前できっぱりと言い切った。
「・・・・・・っ!」
絶句した私は思うが先か移すが先か、エレンに平手を振りかざした。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」
私の手を取りエレンは哀願した。
「頼むから落ち着いてくれ!話だけでも聞いてくれよ!」
やがて落ち着きを取り戻した私は手の力を抜く事で戦意の喪失を示した。
そして無言の私を公園のベンチへ促すとエレンは話を続けた。
「・・・最初はさ、スゴイ奴だって思ってたんだ。」
「まがりなりにも男の俺を簡単にいなしたんだからさ?」
「まがりなりにもか弱い乙女に投げられるアンタが弱すぎるんだろう?」
意地の悪い返しをしたはずなのにエレンの表情は緩んでいた。
「ようやく笑ってくれたな」
私は鳩尾がひやりとした。
したと同時に激しい動悸を覚えた。
「続けるぞ?」
エレンは遠くを見つめながら言った。
「人より優れた力があるのにそれを表に出さない」
「それどころか親父さんの教えを無意味と言った」
「けどアニはそう吐き捨てた時、他の誰よりもいきいきとしていたし嬉しそうだった」
胸がちくりとする。
「嘘をつくのが下手な奴って思った。そしたらさ・・・」
「毎日アニと他愛無い話をしたり、一緒に訓練をするのが楽しくて」
心臓の鼓動が早まる。
「でも強くなっていく度に、アニを怪我させたくない、傷つけたくないって」
「アニを仲間としてじゃなく、女の子として意識していたんだ」
涼やかな風が吹いた。
私はエレンの横顔を眺めながら相槌をうつ。
「それにこんな時代だ、何時、誰が命を落としても不思議じゃない」
「そう思ったら、どんな結果になろうとこの気持ちだけは伝えなきゃって・・・」
「あ、いや、あれだぞ!?別に俺は付きあいたいとかじゃ、」
「いいよ付き合おうよ」
エレンが言い終わる前に私は返事をしていた。
きょとんとするエレン
まるで信じられないといった彼にしては珍しい、間の抜けた表情だった。
「ほっ、ほんとにいいのか!?」
エレンの再度の問いに私はうんざりとした口調と態度で手を差し出した。
「はいはい、これからよろしくねエレン」
その日、部屋に戻った私は誰にも見られないようにベッドへ潜り込んだ。
そして明け方まで眠れず、それからの数日間エレンとまともに顔をあわすことすらできなかった。
「なんとなくから始まったんだね・・・」
私は誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
ほんの気まぐれから始まった関係は少しずつ、少しずつ育まれていった。
「そうだ・・・あの頃はまだ引き返せたんだ・・・」
それから私とエレンは周りに冷やかされながらも今日まで特別な関係でいた。
もっとも男女の付き合いなんてのはそこにはなく気兼ねのない付き合い程度なものだった。
エレン、ミカサ、アルミン。この三人の輪にエレンを介して私が溶け込んだ狎れ合い。
ただそんな日々は確実に私の心へ沁み渡って行った。
やがて訪れる解散式の日。そしてその後はそれぞれの道へ・・・それでお別れにすればいい。
私は憲兵団へ。エレンは調査兵団へ。何も問題は無い。これが私の進む道・・・
なのに・・・どうして心がざわつくのだろう?こんなにも苦しいのだろう?
焦燥感や苛立ち、不安。別離の日が近づくにつれ私は冷静でいられなくなった。
私は・・・何を望んでいるのだろう?
答えの出ない問いかけにため息をついたその時、聞きなれた声が私を呼ぶ。
「ここにいたのか」
その声を聞いた瞬間、それまでの心のざわめきはやんだ。
「よ・・っと」
エレンは私の横に腰かけるとグラスを手渡した。
女を一人にさせてごめんの一言もないのかと噛みついてやる。
「悪かったよ、ただこれが皆で過ごす最後の夜だと思うと・・・さ」
そう言われれば私が矛を収めるしかないだろうと分かっていなくても言えるのがエレンの才能なんだろう。
と言ってやりたかったがさすがにこれは胸の内にしまった。
どうにもエレンは私の心のツボを知らず知らずの内に押す。
それよりもエレンのくれたグラスの中身に気付く。
酒のしたたかな匂いがした。
「とある先輩からの受け売りなんだけど・・・」
「特別な日に特別な人と酒を酌み交わしてこそ一人前の兵士の嗜みって聞いてさ」
「まあ俺も飲むのは初めてだけど折角ならアニと。ってな」
訓練兵を卒業する者達への先輩達からの粋な計らいとは聞いていたが・・・
それみしても随分と砕けた風習もあるものだ。
もっともそうでもなければこの世界でやっていけないのだろう。
抗議の声をあげるもそれは空しい徒労に終わった。
『抗議』といえば聞こえが悪いが私自身エレンと杯を酌み交わす事に不満はなかった。
素直に言ってしまえば私なりの照れ隠しなのだ。
そんな内心を悟られていると知りつつも呆れ顔の私はやれやれと言わんばかりにグラスを挙げる。
「それでイェーガー訓練兵殿、何に乾杯を?」
皮肉を込めて言ってみる。
「そうだな・・・あっ」
エレンが頭上を見上げた。
「・・・!」
見渡す限りの空に星が輝いていた。
最後に空を見上げたのはいつだったろう。
思えば私は何もかもが宙ぶらりんのままだった・・・
無言の私にエレンが話しかけた。
「なあアニ」
「何?」
「お前さ、憲兵団に行くんだよな」
ドキリとする。
「・・・うん」
「俺は調査兵団だ・・・結構離れちまうよな」
胸が締め付けられる
「・・・そうだね」
「この空ってさ壁の外も内も包んでいるんだよな距離なんか超えて」
「俺はどこにいてもお前を思って空を見上げる。だからお前も・・・」
この馬鹿さ加減がいつだって私を巻き込む。
「わかったよエレン。じゃあ・・・」
「「この空に・・・」」
グラスの中身を一息に飲み干した私はふとエレンの顔を見た。
いっそ見なければよかったのかもしれない。
エレンは真っ直ぐに私を見つめていた。
お互い、酔いにかまけている余裕なんてなかったのだろう。
初めての飲酒なんて比較にならないくらい甘美な空気が流れていた。
「アニ・・・」
そっと私の顔に手を伸ばす。
私は一瞬迷ったがエレンのまっすぐな瞳を見ると意を決した。
私は初めてエレンの唇を受け入れた。
それはごく自然な――とても当たり前の事のように。
どれくらいの時間が過ぎただろう
エレンとの口づけは数秒にも、数分にも感じられた。
そっと離れる唇。私とエレンはお互いの視線を絡ませたままだった。
「のっ、喉っ、渇いたな!俺、水持ってくるよ!」
エレンは早口にまくし立てると逃げるように駆け出した。
分かりやすい照れ隠しだ。けどそれは私にとっても好都合だ。
早鐘を打つ心臓、震える足。今にも消えてしまいたくなる程の恥じらいと私は戦っていたのだから。
呼吸を整え座りこむ。ゆっくりと息を吸い、吐く。
恋人としての二人の行いに私は静かに浸っていた。
「こんな所にいたのか。探したぞ」
背後から浴びせられる聞き覚えのある声
私は背を向けたまま無言で応えた。
「エレンには随分と骨抜きにされたようだな?どうやらお前は戦士である事よりも女である方が・・・」
言葉は遮られた。私が振り向きざまに渾身の力を込めて地面の砂を投げつけたたからだ。
ゆっくりと立ち上がり私は声の主を、ライナーを睨み付ける。
丸太のような太い腕で砂つぶてを防いだライナーは私の目をみるやそれに応える。
「今にも俺に襲いかかりそうだな」
私の殺気を理解しているのだろう
無言の押し問答の中ライナーが口を開く
「悪ふざけが過ぎたな、すまない。用件を伝えに来たんだ」
私の反応に意を介する事なくライナーは淡々と事務的に続けた。
「近々、ベルトルトが事を起こす。チャンスとみれば俺がそれに続くつもりだ」
幸せな夢から冷たい現実に引きずりだされたような気持ちだった。
「お前は俺と同じ班だ。・・・『誰が相手であろうが』その時は頼むぞ」
「それまでは・・・精々、束の間の蜜月を楽しんでくれ」
ライナーは無言の私に念押しをすると闇へと沈んで行った。
膝が崩れる。
私はその場にへたれこんだ。
何も考えれない。何も考えたくない。
五感全てが失われたようだ。
「・・ニ!アニ!」
エレンが私の肩を掴んで呼び掛ける
。
はっとした私は目覚めていながら意識を遮断していた事にようやく気付いた。
「エ・・・レン・・・」
エレンの顔を見ながら答える私
「驚かせないでくれよ。声をかけても近付いても上の空だったからさ」
「ごめん・・・考え事してて・・・」
「・・・そっか」
力ない返事。エレンがそんな私の態度に気付きながらも深く追求してくれなかったのは幸いだ。
「ん・・・じゃあ、はい、水・・・・・・アニ・・・」
エレンは私を見つめると静かに口を開いた。
「・・・どうして・・・泣いてんだ?」
「えっ?」
そう言いながら私は咄嗟に自分の目に手をやった。
・・・冷たい感触。
私はエレンに指摘されて、初めて自分が泣いている事に気付いた。
「あっ・・・あのっ、これっ・・・ち、違うの!」
何が違うのだろうか。
「やっ・・・こ、れっ、は・・・」
言葉を取り繕うとすればするほど言葉にならない
「アニっ!」
エレンは私の名を言うと抱きしめた。
振りほどこうとする私の腕。それを遮るエレンはそっと口を開く。
「・・・俺には言えない事があるんだろ?」
私は答えることが出来ずにいた。
離れなければ。今、別れなければ私は・・・
エレンは続ける。
「それがどれだけアニを悩ませてるか俺にはわかってやれないけど・・・」
「それでも俺はアニと一緒にいたいんだ」
涙は目に溢れ、やがてこぼれた。同時に私の腕から力が抜けた。
「お前と生きて行きたいんだ」
限界だ。
私はひゅうっと息を吸った。
そして次に鳴いた。大声をあげて鳴いた。
溢れる涙と叫び声。エレンはそんな私を優しく抱きながらゆっくりと身体を揺らしてくれた。
それは恋人同士が抱きあうというよりも我が子をあやす親のような優しさだった。
やがて涙は枯れ、鳴き声は泣き声となり嗚咽となり止んだ。
私は泣き腫らした目のままエレンをまじまじと見つめる。
エレンは優しく微笑んでいた。
「・・・エレンのせいよ・・・」
エレンは不思議そうに私を見つめる。
「・・・エレンを想えば想うほど、私は私でいられなくなる」
「けど・・・私はそれが幸せよ」
エレンは相変わらず不思議そうだ
私は何度も、何度も壁を作った。誰も触れる事の出来ない壁を。
心を許してしまえば決心が鈍る。
私は戦士なのだから。
それなのに・・・エレンは私の壁を壊す。何度も何度も私の心を包みこむ。
私がずっと探していたものをエレンは持っていた。
「エレン・・・」
私はエレンの目を見つめて呟いた。
エレンは何も言わず優しく私を見つめる
私は今までの人生で一番の勇気を振り絞った。
唇が重なりあう。二度目の口づけは私からだ。
この先、何が起ころうと私は悔いを残したくない。
エレンの背に回した腕に力を込める。
ラストです
―――随分と長く抱き合っていたのだろう。
風に乗って微かに流れてきた喧騒も今では静寂に包まれている。
夜の闇は一段と濃さを増していた
「エレン・・・」
私は事切れたエレンに話し掛ける。
誰よりも愛しいからこそ私は私の望む答えを選んだ。
後悔はしない。私はエレンを背負って生きて行こう。罪も愛も全て含めて。
―――私は戦士なのだから―――
おわり
くう~疲れ・・・・・てないのでもいっこのラストいきます
随分と長く抱き合っていたのだろう。
風に乗って微かに流れてきた喧騒も今では静寂に包まれている。
私はエレンの背中に回した腕からそっと力を抜く。
エレンは名残惜しそうに私から腕を離した。
かがり火の前に寄り添う私達はたった一夜にして深く結びつけられた恋人にほかならなかった。
エレンの肩に頭を乗せる私は何も言わない事にした。想いを言葉にするよりも今はこうしていたかったからだ。
「・・・なあ、アニ」
ふいにエレンは口を開いた。
「巨人を駆逐して全部終わったら・・・」
唐突にエレンが口を開く
「迎えに行くから、さ」
叶わない想いでも、儚い願いでも、そう言われるだけで私は幸せを感じる。
感じるからこそ耐えがたい悲しみがある。
私はそれでも――戦士なのだから――
私はエレンの手を強く握る。
エレンは優しくそれを包み込む。
「エレン・・・」
私は・・・目的は・・・
「ん?なんだ?」
「強くなってね。私よりも、誰よりも」
――あなたは必ず強くなる――
――それはあなたのひたむきな心と同じ新しい世界を切り拓いていく力――
「あたり前だ。必ず外の世界にいくからな」
――私『達』の力は滅ぼす為に――
「約束だぞ?アニ、俺達は・・・」
それを知った時、あなたはどんな答えを出すの?
「ええ、分かっているわ」
それでも敢えて私の手をとってくれるの?――
おわり
これで終わりです
代行してくださった花太郎さん改めてありがとうございました
支援してくださった方、読んでくださった方に心から感謝です
続きのネタもあるので機会があればまた代行依頼、投下させていただきたく存じますのでその時は何卒、よろしくお願いします
アニとミーナはホンマ女神さまやでぇ
「気にする事ないよ、それが別れじゃないから」
ミーナの緊張を解いた私はじゃあねと席を立った。
いつもより食堂が騒がしいのは皆ですごす最後の夜だからだろう。
皆が知っている。二度と全員が顔を合わせる事の無いことを。
賑やかなのは嫌いじゃない、けど私の柄じゃない。
出口のドアに手を掛けた時、視界にエレンが入った。
アルミン、ミカサと楽しそうにうお喋りをしている。
三人は昔からの幼馴染であり苦楽を共にした仲間だ。話も弾むだろう。
そんなところに水を差すほど私は無粋ではない。
ドアを開け私はかがり火が照らす薄闇の中に出た。澄んだ空気が心地よい。
私は広場の中心に組まれた焚き火の前に腰を下ろした。
5: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:31:14.95 ID:hcckxS+c0
燃える炎を見つめながらエレンの顔を、しぐさを思い浮かべる
「最初はただの暇つぶしだったのに・・・」
エレンと初めて向かい合ったのは対人格闘の訓練だった。
適当に流してやり過ごそうとしていた私に突っかかってきた事が全ての始まりだった。
もちろん私はそんなエレンを一蹴した。
父さんから教わった技術は期待を裏切らない。
女に負かされた顔はさぞかし滑稽だろう、私は鼻で笑ってやろうとした。
「今の技、凄いな!誰かに教わったのか!?」
ぎょっとした。エレンは痛みも忘れ私に近づくと目を輝かせながらそう言った。
「・・・お父さんに・・・」後ずさりながら私は答えた。
10: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:33:40.95 ID:hcckxS+c0
それからエレンは事ある毎に私の所へ来ては這いつくばらされていた。
「懲りない奴」「猪突猛進」当時はそんな印象しかなかった。
だが繰り返えされる習慣。慣れとは恐ろしいものだ。何度も何度も倒されるだけだったエレンは
次第に私の動きを、癖を、技術に順応し先手を打った
膝をつく私に息を弾ませながら勝利を確信したエレン
瞬間、彼は悲鳴と共に地面に転がされていた。小手先の技を見切ったからといって調子にのらないでほしい。
悔しがる彼にちょっよした気紛れを覚えたのか私は本来なら口にしないであろう台詞を口にした。
「そんなにこの技を教えてほしいの?」
11: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:36:06.51 ID:hcckxS+c0
訓練兵団をその熱『弁』で指導したキース教官はエレン・イェーガーを努力の人と評した。
その人物評価は確かな物だった。
一年後、エレンは私と対等に渡り合える唯一の同期生へと成長していた。
膂力だけならば同期の中でも首席を争うミカサ、ライナー、ベルトルトの三人もひけをとらないが――
積み重ねてきた努力、私と同等の技術はその比ではない。
私は感情をコントロールする事を得意としていた。感情は私情を生む。
心が波立つと隙を生む。目的を果たすために私は心を閉ざしたはずなのに・・・
戦士としての自覚と誇りを持っていた・・・それなのに・・・
私はいつしかエレンと過ごす時間を楽しみと感じていた。
「アニ、俺はお前が好きだ」
あくる日の休暇にエレン私を呼び出したかと思うと公衆の面前できっぱりと言い切った。
「・・・・・・っ!」
絶句した私は思うが先か移すが先か、エレンに平手を振りかざした。
12: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:41:50.82 ID:hcckxS+c0
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」
私の手を取りエレンは哀願した。
「頼むから落ち着いてくれ!話だけでも聞いてくれよ!」
やがて落ち着きを取り戻した私は手の力を抜く事で戦意の喪失を示した。
そして無言の私を公園のベンチへ促すとエレンは話を続けた。
「・・・最初はさ、スゴイ奴だって思ってたんだ。」
「まがりなりにも男の俺を簡単にいなしたんだからさ?」
「まがりなりにもか弱い乙女に投げられるアンタが弱すぎるんだろう?」
意地の悪い返しをしたはずなのにエレンの表情は緩んでいた。
「ようやく笑ってくれたな」
私は鳩尾がひやりとした。
したと同時に激しい動悸を覚えた。
「続けるぞ?」
エレンは遠くを見つめながら言った。
16: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:46:47.89 ID:hcckxS+c0
「人より優れた力があるのにそれを表に出さない」
「それどころか親父さんの教えを無意味と言った」
「けどアニはそう吐き捨てた時、他の誰よりもいきいきとしていたし嬉しそうだった」
胸がちくりとする。
「嘘をつくのが下手な奴って思った。そしたらさ・・・」
「毎日アニと他愛無い話をしたり、一緒に訓練をするのが楽しくて」
心臓の鼓動が早まる。
「でも強くなっていく度に、アニを怪我させたくない、傷つけたくないって」
「アニを仲間としてじゃなく、女の子として意識していたんだ」
涼やかな風が吹いた。
私はエレンの横顔を眺めながら相槌をうつ。
17: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:49:35.90 ID:hcckxS+c0
「それにこんな時代だ、何時、誰が命を落としても不思議じゃない」
「そう思ったら、どんな結果になろうとこの気持ちだけは伝えなきゃって・・・」
「あ、いや、あれだぞ!?別に俺は付きあいたいとかじゃ、」
「いいよ付き合おうよ」
エレンが言い終わる前に私は返事をしていた。
きょとんとするエレン
まるで信じられないといった彼にしては珍しい、間の抜けた表情だった。
「ほっ、ほんとにいいのか!?」
エレンの再度の問いに私はうんざりとした口調と態度で手を差し出した。
「はいはい、これからよろしくねエレン」
その日、部屋に戻った私は誰にも見られないようにベッドへ潜り込んだ。
そして明け方まで眠れず、それからの数日間エレンとまともに顔をあわすことすらできなかった。
18: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:53:12.83 ID:hcckxS+c0
「なんとなくから始まったんだね・・・」
私は誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
ほんの気まぐれから始まった関係は少しずつ、少しずつ育まれていった。
「そうだ・・・あの頃はまだ引き返せたんだ・・・」
それから私とエレンは周りに冷やかされながらも今日まで特別な関係でいた。
もっとも男女の付き合いなんてのはそこにはなく気兼ねのない付き合い程度なものだった。
エレン、ミカサ、アルミン。この三人の輪にエレンを介して私が溶け込んだ狎れ合い。
ただそんな日々は確実に私の心へ沁み渡って行った。
やがて訪れる解散式の日。そしてその後はそれぞれの道へ・・・それでお別れにすればいい。
私は憲兵団へ。エレンは調査兵団へ。何も問題は無い。これが私の進む道・・・
なのに・・・どうして心がざわつくのだろう?こんなにも苦しいのだろう?
焦燥感や苛立ち、不安。別離の日が近づくにつれ私は冷静でいられなくなった。
20: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 03:57:08.21 ID:hcckxS+c0
私は・・・何を望んでいるのだろう?
答えの出ない問いかけにため息をついたその時、聞きなれた声が私を呼ぶ。
「ここにいたのか」
その声を聞いた瞬間、それまでの心のざわめきはやんだ。
「よ・・っと」
エレンは私の横に腰かけるとグラスを手渡した。
女を一人にさせてごめんの一言もないのかと噛みついてやる。
「悪かったよ、ただこれが皆で過ごす最後の夜だと思うと・・・さ」
そう言われれば私が矛を収めるしかないだろうと分かっていなくても言えるのがエレンの才能なんだろう。
と言ってやりたかったがさすがにこれは胸の内にしまった。
どうにもエレンは私の心のツボを知らず知らずの内に押す。
それよりもエレンのくれたグラスの中身に気付く。
酒のしたたかな匂いがした。
21: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:01:10.08 ID:hcckxS+c0
「とある先輩からの受け売りなんだけど・・・」
「特別な日に特別な人と酒を酌み交わしてこそ一人前の兵士の嗜みって聞いてさ」
「まあ俺も飲むのは初めてだけど折角ならアニと。ってな」
訓練兵を卒業する者達への先輩達からの粋な計らいとは聞いていたが・・・
それみしても随分と砕けた風習もあるものだ。
もっともそうでもなければこの世界でやっていけないのだろう。
抗議の声をあげるもそれは空しい徒労に終わった。
『抗議』といえば聞こえが悪いが私自身エレンと杯を酌み交わす事に不満はなかった。
素直に言ってしまえば私なりの照れ隠しなのだ。
そんな内心を悟られていると知りつつも呆れ顔の私はやれやれと言わんばかりにグラスを挙げる。
「それでイェーガー訓練兵殿、何に乾杯を?」
皮肉を込めて言ってみる。
「そうだな・・・あっ」
エレンが頭上を見上げた。
「・・・!」
見渡す限りの空に星が輝いていた。
最後に空を見上げたのはいつだったろう。
22: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:06:55.38 ID:hcckxS+c0
思えば私は何もかもが宙ぶらりんのままだった・・・
無言の私にエレンが話しかけた。
「なあアニ」
「何?」
「お前さ、憲兵団に行くんだよな」
ドキリとする。
「・・・うん」
「俺は調査兵団だ・・・結構離れちまうよな」
胸が締め付けられる
「・・・そうだね」
「この空ってさ壁の外も内も包んでいるんだよな距離なんか超えて」
「俺はどこにいてもお前を思って空を見上げる。だからお前も・・・」
この馬鹿さ加減がいつだって私を巻き込む。
23: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:09:02.74 ID:hcckxS+c0
「わかったよエレン。じゃあ・・・」
「「この空に・・・」」
グラスの中身を一息に飲み干した私はふとエレンの顔を見た。
いっそ見なければよかったのかもしれない。
エレンは真っ直ぐに私を見つめていた。
お互い、酔いにかまけている余裕なんてなかったのだろう。
初めての飲酒なんて比較にならないくらい甘美な空気が流れていた。
「アニ・・・」
そっと私の顔に手を伸ばす。
私は一瞬迷ったがエレンのまっすぐな瞳を見ると意を決した。
私は初めてエレンの唇を受け入れた。
それはごく自然な――とても当たり前の事のように。
26: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:14:53.71 ID:hcckxS+c0
どれくらいの時間が過ぎただろう
エレンとの口づけは数秒にも、数分にも感じられた。
そっと離れる唇。私とエレンはお互いの視線を絡ませたままだった。
「のっ、喉っ、渇いたな!俺、水持ってくるよ!」
エレンは早口にまくし立てると逃げるように駆け出した。
分かりやすい照れ隠しだ。けどそれは私にとっても好都合だ。
早鐘を打つ心臓、震える足。今にも消えてしまいたくなる程の恥じらいと私は戦っていたのだから。
呼吸を整え座りこむ。ゆっくりと息を吸い、吐く。
恋人としての二人の行いに私は静かに浸っていた。
29: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:19:49.76 ID:hcckxS+c0
「こんな所にいたのか。探したぞ」
背後から浴びせられる聞き覚えのある声
私は背を向けたまま無言で応えた。
「エレンには随分と骨抜きにされたようだな?どうやらお前は戦士である事よりも女である方が・・・」
言葉は遮られた。私が振り向きざまに渾身の力を込めて地面の砂を投げつけたたからだ。
ゆっくりと立ち上がり私は声の主を、ライナーを睨み付ける。
丸太のような太い腕で砂つぶてを防いだライナーは私の目をみるやそれに応える。
「今にも俺に襲いかかりそうだな」
私の殺気を理解しているのだろう
34: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:23:08.91 ID:hcckxS+c0
無言の押し問答の中ライナーが口を開く
「悪ふざけが過ぎたな、すまない。用件を伝えに来たんだ」
私の反応に意を介する事なくライナーは淡々と事務的に続けた。
「近々、ベルトルトが事を起こす。チャンスとみれば俺がそれに続くつもりだ」
幸せな夢から冷たい現実に引きずりだされたような気持ちだった。
「お前は俺と同じ班だ。・・・『誰が相手であろうが』その時は頼むぞ」
「それまでは・・・精々、束の間の蜜月を楽しんでくれ」
ライナーは無言の私に念押しをすると闇へと沈んで行った。
35: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:26:35.80 ID:hcckxS+c0
膝が崩れる。
私はその場にへたれこんだ。
何も考えれない。何も考えたくない。
五感全てが失われたようだ。
「・・ニ!アニ!」
エレンが私の肩を掴んで呼び掛ける
。
はっとした私は目覚めていながら意識を遮断していた事にようやく気付いた。
「エ・・・レン・・・」
エレンの顔を見ながら答える私
「驚かせないでくれよ。声をかけても近付いても上の空だったからさ」
36: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:29:15.84 ID:hcckxS+c0
「ごめん・・・考え事してて・・・」
「・・・そっか」
力ない返事。エレンがそんな私の態度に気付きながらも深く追求してくれなかったのは幸いだ。
「ん・・・じゃあ、はい、水・・・・・・アニ・・・」
エレンは私を見つめると静かに口を開いた。
「・・・どうして・・・泣いてんだ?」
40: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:33:36.40 ID:hcckxS+c0
「えっ?」
そう言いながら私は咄嗟に自分の目に手をやった。
・・・冷たい感触。
私はエレンに指摘されて、初めて自分が泣いている事に気付いた。
「あっ・・・あのっ、これっ・・・ち、違うの!」
何が違うのだろうか。
「やっ・・・こ、れっ、は・・・」
言葉を取り繕うとすればするほど言葉にならない
「アニっ!」
42: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:39:35.10 ID:hcckxS+c0
エレンは私の名を言うと抱きしめた。
振りほどこうとする私の腕。それを遮るエレンはそっと口を開く。
「・・・俺には言えない事があるんだろ?」
私は答えることが出来ずにいた。
離れなければ。今、別れなければ私は・・・
エレンは続ける。
「それがどれだけアニを悩ませてるか俺にはわかってやれないけど・・・」
「それでも俺はアニと一緒にいたいんだ」
涙は目に溢れ、やがてこぼれた。同時に私の腕から力が抜けた。
「お前と生きて行きたいんだ」
限界だ。
44: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:47:07.00 ID:hcckxS+c0
私はひゅうっと息を吸った。
そして次に鳴いた。大声をあげて鳴いた。
溢れる涙と叫び声。エレンはそんな私を優しく抱きながらゆっくりと身体を揺らしてくれた。
それは恋人同士が抱きあうというよりも我が子をあやす親のような優しさだった。
やがて涙は枯れ、鳴き声は泣き声となり嗚咽となり止んだ。
私は泣き腫らした目のままエレンをまじまじと見つめる。
エレンは優しく微笑んでいた。
46: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:52:46.86 ID:hcckxS+c0
「・・・エレンのせいよ・・・」
エレンは不思議そうに私を見つめる。
「・・・エレンを想えば想うほど、私は私でいられなくなる」
「けど・・・私はそれが幸せよ」
エレンは相変わらず不思議そうだ
私は何度も、何度も壁を作った。誰も触れる事の出来ない壁を。
心を許してしまえば決心が鈍る。
私は戦士なのだから。
それなのに・・・エレンは私の壁を壊す。何度も何度も私の心を包みこむ。
私がずっと探していたものをエレンは持っていた。
47: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 04:55:14.18 ID:hcckxS+c0
「エレン・・・」
私はエレンの目を見つめて呟いた。
エレンは何も言わず優しく私を見つめる
私は今までの人生で一番の勇気を振り絞った。
唇が重なりあう。二度目の口づけは私からだ。
この先、何が起ころうと私は悔いを残したくない。
エレンの背に回した腕に力を込める。
48: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 05:00:13.88 ID:hcckxS+c0
ラストです
―――随分と長く抱き合っていたのだろう。
風に乗って微かに流れてきた喧騒も今では静寂に包まれている。
夜の闇は一段と濃さを増していた
「エレン・・・」
私は事切れたエレンに話し掛ける。
誰よりも愛しいからこそ私は私の望む答えを選んだ。
後悔はしない。私はエレンを背負って生きて行こう。罪も愛も全て含めて。
―――私は戦士なのだから―――
おわり
51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/06/15(土) 05:05:36.47 ID:hcckxS+c0
くう~疲れ・・・・・てないのでもいっこのラストいきます
53: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 05:07:44.47 ID:hcckxS+c0
随分と長く抱き合っていたのだろう。
風に乗って微かに流れてきた喧騒も今では静寂に包まれている。
私はエレンの背中に回した腕からそっと力を抜く。
エレンは名残惜しそうに私から腕を離した。
かがり火の前に寄り添う私達はたった一夜にして深く結びつけられた恋人にほかならなかった。
エレンの肩に頭を乗せる私は何も言わない事にした。想いを言葉にするよりも今はこうしていたかったからだ。
「・・・なあ、アニ」
ふいにエレンは口を開いた。
55: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 05:10:02.65 ID:hcckxS+c0
「巨人を駆逐して全部終わったら・・・」
唐突にエレンが口を開く
「迎えに行くから、さ」
叶わない想いでも、儚い願いでも、そう言われるだけで私は幸せを感じる。
感じるからこそ耐えがたい悲しみがある。
私はそれでも――戦士なのだから――
私はエレンの手を強く握る。
エレンは優しくそれを包み込む。
「エレン・・・」
私は・・・目的は・・・
「ん?なんだ?」
「強くなってね。私よりも、誰よりも」
――あなたは必ず強くなる――
――それはあなたのひたむきな心と同じ新しい世界を切り拓いていく力――
「あたり前だ。必ず外の世界にいくからな」
56: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 05:16:48.85 ID:hcckxS+c0
――私『達』の力は滅ぼす為に――
「約束だぞ?アニ、俺達は・・・」
それを知った時、あなたはどんな答えを出すの?
「ええ、分かっているわ」
それでも敢えて私の手をとってくれるの?――
おわり
59: ◆zYQ/uWRKn. 2013/06/15(土) 05:24:48.67 ID:hcckxS+c0
これで終わりです
代行してくださった花太郎さん改めてありがとうございました
支援してくださった方、読んでくださった方に心から感謝です
続きのネタもあるので機会があればまた代行依頼、投下させていただきたく存じますのでその時は何卒、よろしくお願いします
アニとミーナはホンマ女神さまやでぇ
元スレ
ミーナ「そういえば」