1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 21:45:30.38 ID:O6t5Z8WWO

「貴音さん!」

事務所を出て帰路に着こうかというその時、明るくて愛らしい声に呼び止められました

「高槻やよいではありませんか。あなたもこれからお帰りですか?」

「はい!良かったら途中までご一緒しませんか?」

「ええ、構いませんよ」

わたくしたちは、夕暮れ時の雑踏の中を並んで歩き始めました




2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 21:49:48.11 ID:O6t5Z8WWO

「貴音さん、また背が伸びましたか?」

「いえ、変わらぬはずですが」

「じゃあ私が縮んだのかなぁ?」

「ふふ、あなたはいまが伸び盛りではありませんか」

不思議な人ですね、あなたは
他愛のない会話を交わしているだけだというのに、何故か心が弾んでしまいます





3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 21:55:32.97 ID:O6t5Z8WWO

10分ほど歩いた頃でした

「あれ?」

そう言って足を止めた高槻やよい

「どうしましたか?」

何か美味しい物でも?
わたくし、今宵はどちらかというと"こってり"とした物が

「貴音さん、こっちです!」

あっ!
急に走り出すと危険ですよ!



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:02:44.62 ID:O6t5Z8WWO

「はぁ…はぁ…一体何事なのです?」

わたくしは息を切らしながら高槻やよいを追いかけました

彼女がようやく走ることを止めたのは…

「見失っちゃったのかなぁ…」

小さなお寺に辿り着いたときでした
都会のざわめきを拒否するかのように、境内は静謐な空気に包まれています



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:11:21.05 ID:O6t5Z8WWO

「あ、ごめんなさい貴音さん。急に走りだしちゃって」

まるで、今までわたくしのことなど忘れていたかのような口ぶり

「それは良いのですが、事情を説明して頂けませんか?」

「えっと…女の人が立ってたんです。悲しそうな目をして」

「あれだけ人で溢れていれば、そのような方もいらっしゃるでしょう」

「だけど消えちゃったんです。パッ、て。私と目が合った途端」





9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:19:03.58 ID:O6t5Z8WWO

「消えた?」

「はい」

「み、見間違えたのではありませんか?」

「いえ、ホントに消えちゃったんです」

突然境内に響いたカラスの声
驚いて飛び上がりそうになったのを、懸命に堪えました

「それで、気付いたらここに来ちゃってました」

高槻やよいが言い終わると、境内の中を冷たい風が吹き抜けて行きました



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:24:28.93 ID:O6t5Z8WWO

「わ、わたくしは」

「?」

「こ、怖くなどありませんよ?」

「何がですかぁ?」

「その…物の怪の類など」

「へ?私、そんなこと言いましたっけ?」

あ、あなたが"突然消えた"などと仰るから!

「あっ!」

な、何事です!?



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:30:25.10 ID:O6t5Z8WWO

わたくしの後方を指差した高槻やよい

「さっきの女の人です!」

脚が震えているのを悟られぬよう、ゆっくりと振り向きました

石畳を挟むように立てられた、苔の蒸した幾本かの灯籠
そのうちの一本に寄りかかるように、その"人"は佇んでおりました

悲しげな表情で



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:39:09.05 ID:O6t5Z8WWO

「話しかけてみます!」

「ま、待ちなさい高槻やよい!」

わたくしの声など聞こえていないのでしょうか?
まるで何かに憑かれてしまったかのように、一本の灯籠に向かい歩みよる高槻やよい

わたくしはただ、その場に立ち尽くすことしか出来ませんでした



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:45:41.65 ID:O6t5Z8WWO

「あの…」

わたくしの場所からようやく聞き取れるほどの声で、高槻やよいが語りかけ始めました

「さっき…私と目が合いましたよね?」

「…」

「えっと、急に消えちゃいましたよね?」

「私が…」

「は、はい」

「見えるんですか?」

熱を感じさせないその声に、わたくしの肌は粟立ちました



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:51:52.89 ID:O6t5Z8WWO

「見えます…けど」

「あちらのお嬢さんも?」

突然こちらに向けられた視線
わたくしは慌てて目を伏せました

「見えているみたいですね、あのお嬢さんにも」

「そう…みたいです」

「怖がっているみたいですね、あなたと違って」





18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 22:58:19.77 ID:O6t5Z8WWO

「なぜ追いかけてきたんですか?」

「え?なんて言うか…悲しそうだったから…」

「私のことが怖くはないんですか?」

「怖くないです、ぜんぜん」

「私がどんな存在なのか分かっていますか?」

「お化けさん…ですか?」

「…ふふ。面白いお嬢さんね」

"お化け"という言葉を否定しようともせず、その人は静かに笑いました




20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:07:23.12 ID:O6t5Z8WWO

「なんでそんなに悲しそうなんですか?」

「…お化けだから、かしら?ふふ」

その笑い声にさえ、多くの悲しみが湛えられていました
長い年月の中で、"悲しみそのもの"になってしまったかのように…

「貴音さん」

「な、何でしょう?」

「貴音さんもこちらに来ませんか?」

再びこちらに向けられた視線
今度は受け止めることが出来ました

先程よりも、一瞬だけ長く



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:13:43.69 ID:O6t5Z8WWO

「わ、わたくしは…」

「悪いお化けさんじゃないですよ?」

その言葉を受け、小さな笑い声がまた一つ

そして初めて、わたくしに向けられた声

「怖いのなら無理をしなくてもいいんですよ?」

何故なのでしょう?
その声に促されるように、脚はひとりでに動き始めました
わたくしの意思など無視するかのように



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:22:07.91 ID:O6t5Z8WWO

「貴音さん…と言うんですね?」

「…はい」

側にまで来たものの、相変わらず目を伏せたままのわたくし

「私はやよい、高槻やよいです!」

「あら…私も弥生なんですよ?」

「わぁ!同じ名前ですね!」

同じ名前の二人
ですがその声音は、対照的なものでした
まるで…
太陽と月の如く



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:27:18.98 ID:O6t5Z8WWO

「やよいさんに貴音さん」

「はい!」

「な、何でしょう?」

やはり顔は上げられぬまま、わたくしは次の言葉を待ちました

「あそこに座りませんか?その…」

指差した先には本堂の階

「立ち話も何ですから」

私はお化けだから平気だけど

その後にそう続けて、また小さく笑いました



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:33:34.71 ID:O6t5Z8WWO

高槻やよいに手を引かれ、わたくしは階に腰を下ろしました

わたくしは意気地が無いのでしょうか?
無邪気に笑っている高槻やよいを見ていると、そんなふうに思えてきます

「弥生さんはおいくつなんですか?」

「生きていたら?それとも死んでしまう前?」

「えっと…両方教えてほしいですぅ!」





33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:40:34.93 ID:O6t5Z8WWO

「生きていたら63、死んでしまったのは23のときです」

「わぁ、大先輩ですね!」

何の先輩なのかはよく存じませぬが…

「やよいさんはお幾つ?」

「14歳の中学二年生です!貴音さんは…」

わたくしに発言を促すように、言葉を切った高槻やよい

「じゅ、18です」





35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:45:41.34 ID:O6t5Z8WWO

「まぁ。2人ともお若いのね」

「はい!いまが伸び盛りなんですよ!」

先程わたくしが申したことを、嬉しそうに語る高槻やよい

「ふふ。やよいさんは将来美人になりますよ?」

「ホントですかぁ?じゃあ、貴音さんみたいになれますか?」

わ、わたくしは別にそのような…




36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/11(日) 23:54:17.44 ID:O6t5Z8WWO

「ええ。2人とも美人になるわ」

「えへへ。弥生さんもお綺麗ですよ?」

「ふふ。ありがとうございます」

横目でチラリと弥生殿のお顔を見てみました

透けるような白い肌に美しく流れる黒髪
睫毛は淡く濡れ、小ぶりな唇は言葉を紡ぐたびに可愛らしく動いています

全身に艶やかな気品を湛えたながら、しかしその瞳には…

やはり、多量の悲しみを宿していました



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:02:19.46 ID:jHmw5xAeO

「なんで亡くなったんですか?」

高槻やよいがそう聞いたとき、瞳に宿した悲しみが一層濃くなったように思えました

「…心中ってわかりますか?」

「えっと…貴音さん?」

わたくしに救いを求めないで頂きたいのですが…

「俗世間に堪えきれなくなった者たちが、何人かで命を絶ってしまうことです」

弥生殿の場合はおそらく…

「そう。私はね…愛していた人と」

…やはり、ですか



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:10:29.35 ID:jHmw5xAeO

「そうなんですか…私には、まだよく分かりません」

「分からない方がいいですよ、こんなことは」

わたくしには…
少し分かる気が致します

小娘が何を、と笑われてしまうかもしれませんが

「でもね、死んでしまったのは私だけ」

雲に隠れていた弓張り月が、ようやく顔を覗かせました

「そう、私一人…」

その月を見上げながら、弥生殿はポツリと呟きました



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:17:25.61 ID:jHmw5xAeO

「お相手の方は生きてるんですか?」

「えぇ。山奥の吊り橋から一緒に身を投げたんですけどね」

殿方は生き長らえた、と

「それを…えっと…恨んでるんですか?」

「最初は恨んでました。途中からは…そんな気持ちは消えましたけどね」

では何故、この俗世にいまだに身を置いているのでしょう?
最初に高槻やよいが見つけたという、雑踏の中に佇みながら



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:25:47.54 ID:jHmw5xAeO

「最初はね、呪ってやろうかと思ったんです」

こ、怖いことを言わないで下さい!

「だけど…途中で気付いたんです。あぁ、私が重荷になっていたんだ、って」

「重荷ってどういうことですか?」

「身体が弱かったんですよ、私」

確かに華奢な身体つきをなさっていますが…





46: グレン・ミラーの曲です 2012/03/12(月) 00:31:39.37 ID:jHmw5xAeO

「あの人は5つ年上だったけど、小さな会社を始めたんです。私が21の頃にね」

「弥生さんもお手伝いしてたんですか?」

「えぇ、出来る限り。だけど、私の方が先に身体を壊してしまって…」

「ご結婚はしてなかったんですか?」

「そのときはまだ…籍を入れたのは心中する直前でした」

直前ということは、もしや?

「夫婦として死のうって、そう言ってくれたんです」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:42:11.89 ID:jHmw5xAeO

「夫婦として…」

「ふふ…よくよく考えれば、あの人にそこまでする義理は無かったんですけどね」

義理…ですか

「黙って捨てられていたとしても、文句は言えなかったと思います」

小さな雲が月の端を覆い、弥生殿の顔に影を作りました

「けれど、それが分からなかったんです。まだ子供だった私には。だから一緒に死のうと言われたことが嬉しかった…」

影の中から涙が一滴、零れ落ちていきました



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:49:20.76 ID:jHmw5xAeO

「いまは…」

わたくしが口を開いたことに、2人とも驚いていました
喋れるのですよ、わたくしは?

「いまは何を思い、この世にいらっしゃるのですか?」

間に座った高槻やよいが、わたくしと弥生殿の顔を交互に眺めています

「あの辺りにね…あの人の会社があったんです。あそこに立っていればもう一度会えそうな気がして」

「亡くなってから今日まで?」

「死んでからすぐというわけではないですけど…30年ほどにはなります」



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 00:56:19.43 ID:jHmw5xAeO

「30年…ですかぁ…」

高槻やよいが生きてきた年月の倍以上…

弥生殿はあの場所に独り立ち、来る日も来る日も目を凝らし続けてきたのですね?

雑踏の中に、その人の姿を探すために
次第に変わってゆく街並みを、悲しげなその瞳に映しながら…



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:03:55.85 ID:jHmw5xAeO

「見つけられたのは初めてです」

高槻やよいに視線を移し、少しだけ嬉しそうに言いました

「もちろん、声をかけられたのも」

30年の孤独…

寄る辺もなく、話す相手とていない
永遠とも呼べるその年月の中を、弥生殿は過ごした来たのですね?

きっと…
もう会うことは叶わぬと知りつつも



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:12:59.22 ID:jHmw5xAeO

「これからもずっと…あそこに立ち続けるんですか?」

涙声になったしまった高槻やよい

あなたにはそのような声は似合いませんよ?
皐月の草花を照らす太陽のように、いつでも柔らかく輝いているべきです

弥生殿もわたくしと同じ心持ちだったのでしょう

困ったような表情で、しかし出来る限りの優しさを込めて言いました

「もう、潮時かもしれませんね。やよいさんが私を見つけてくれたから」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:19:52.40 ID:jHmw5xAeO

「私は何もしてません…」

「ふふ…あなたは優しい人ですね。そして貴音さんも」

「わたくしは…」

優しさとは何なのか、まだ分からないのです
それに…

「失礼かもしれませんが、まだ怖いのです。弥生殿が…」

「仕方ありませんよ。だってお化けですから」

無理に繕った笑顔が、わたくしの胸を締め付けます
やはりわたくしは、優しくなど…



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:27:04.32 ID:jHmw5xAeO

「それにね」

階から立ち上がり、再び顔を出した月を見上げた弥生殿

「老けてしまったあの人を見ても、仕様がないですものね」

それが本心ではないことぐらい、わたくしにも分かります

その証拠に、細い肩は小刻みに震えていました
青白い月明かりを浴びながら…



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:38:22.21 ID:jHmw5xAeO

わたくしと高槻やよいは何も言葉に出来ないまま、弥生殿の後ろ姿をただただ見つめていました

正確を期すならば、見とれていたのです

月に照らされ佇む、その人に


まるで30年分の悲しみを彫り上げたかのような、その後ろ姿に…





62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:49:17.40 ID:jHmw5xAeO

再びわたくしたちの方を振り向いたとき、その瞳からは悲しみが薄らいでいました

何事かを、月に返したのですね?

わたくしの心の中での呟きが聞こえたのでしょうか?

投げかけられたら視線は、胸が苦しくなってしまうほど優しく、そして儚いものでした

「お仕舞いします。二人に会えたから」

歩み寄った高槻やよいが、弥生殿の頬を撫でています
その光景もやはり、優しく儚いものでした
胸が苦しくなってしまうほどに、どこまでも…



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 01:56:54.60 ID:jHmw5xAeO

翌日は朝からの曇天模様でした
いつ雨が降り出してもおかしくないような、陰鬱な曇り空

仕事を終えたわたくしと高槻やよいは、昨日と同じように雑踏の中を歩いていました

「明日もう一度ここにきて下さい」

そう告げた弥生殿の言葉に従い、あのお寺を目指します
弥生殿が見続けてきた、街並みの中を



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:02:03.65 ID:jHmw5xAeO

厚い雲に月が隠れているせいか、境内は昨日よりも薄暗いようです
しかし、不思議なことに恐怖心はありませんでした

普段なら足を踏み入れることもご遠慮申し上げたい雰囲気なのですが…
いえ、怖いものは怖いですから、やはり

「弥生さんどこですかぁ?」

境内に高槻やよいの声が響きわたります
しかし、返答はありません



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:12:06.13 ID:jHmw5xAeO

昨日と同じ階に腰を下ろし、二人で空を見上げていました

「弥生さん、もういなくなっちゃったのかなぁ…」

その呟きに対して返答の仕様もなく、やはり空を見上げているわたくし

その時でした
頬に冷たいものが触れたのは

とうとう雨が降り出してもきたのでしょうか?

いえ、雨にしては柔らかな気が…

「…雪?」

高槻やよいが、宙に手のひらを差し出して言いました



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:19:03.69 ID:jHmw5xAeO

黒雲に覆われた夜空から落ちてくる、小さな白い雪
わたくしたちは石畳の上に落ち、それを見上げていました

三月ならば、東京に雪が降ることもあるのでしょうが…

「あっ!貴音さん!」

夜空の一点を指差した高槻やよい
その先には、曇天だというのに、月が輝いていました

いえ、正確に期するのならば…
まるで、雲が月を避けているかのように



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:26:28.32 ID:jHmw5xAeO

立ち込めた黒雲の中にポッカリと開いた穴
そこから顔を覗かせた弓張り月


差し込める月明かりが、まるですぽっとらいとの如く境内を照らしています

その灯りの中を、白い雪がひらひらと…

「弥生さん…ですよね?」

月を見上げたまま、わたくしに問うた高槻やよい

わかりません…
ですが…

「まるで弥生殿のようです。儚げで、そして優しく…」

幽玄な光景に心を奪われ、そう返すのがやっとでした



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:33:36.21 ID:jHmw5xAeO

30年もの孤独の中、弥生殿が湛えてきた悲しみが如何ほどのものなのか、わたくしには想像もできません

まだ美しいままの姿で、愛する人の影を追い続けた年月

その悲しみを昨夜の月に返したというのならば、この雪はやは、り弥生殿が降らせたものなのですね?



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:38:33.85 ID:jHmw5xAeO

「むばたまの 夜のみ降れる 白雪は 照る月影の 積もるなりけり」

「…どういう意味ですか?」

「夜降る雪は、きっと月の光が降り積もっているのでしょう」

「…素敵ですね」

「ええ、真に…」





73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:48:40.95 ID:jHmw5xAeO

月影の中をしんしんと降る白雪

もう一人のやよいは、頬を濡らしていました
雪と、そして涙で

月と雪が奏でる、無音の調べ

それは

弥生の夜空の、むぅんらいとせれなぁで



お し ま い



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/03/12(月) 02:49:33.79 ID:jHmw5xAeO

おしまい

やよたかって難しい…

読み返してきます


元スレ
貴音「むぅんらいとせれなぁで」