SS速報VIP:あの子「アイデンティティ・クライシス」



1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:36:33.98 ID:ArxwcA/d0


小梅ちゃんとあの子の捏造ストーリー。

モチーフは同名のボカロ曲です、すまない。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374230193




2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:37:47.54 ID:ArxwcA/d0


 僕は、なにもかもが曖昧だった。

 自分の名前すら思い出せない。目的も、帰る場所も。
 
 ただあてもなく、ローカル線に乗ってさまよっている。


 誰も僕を気にしないし、僕は誰も気にしない。

 かんからと、こわれた風車のよう。


 雪も雨も降らない、寒がりの中。

 ふと電車を降りて、街に向かってみた。

 雑踏にまぎれて、くらりくらり。

 やっぱり誰も僕を気にしないし、僕は誰も気にしない。





3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:38:21.65 ID:ArxwcA/d0


 辿り着いたのは……遊園地。
 
 人気はない、音楽もない。

 サビついた観覧車、ズタボロの回転木馬。

 まるで全体がホーンテッドハウス……潰れた遊園地。

 意味もなく、溜息が出た。




4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:39:06.17 ID:ArxwcA/d0


 ふと、視線を感じた。

 視線の主は、女の子。

 薄い金髪、薄い白肌。

 なんだか……何もかもが薄い。

 うっすらと隈で縁取られた目でこっちを見つめている。


 おかしいな? 

 誰も僕を気にしてないし、僕は誰も気にしてないはずなのに。

 女の子は、ふるふると唇をふるわせて、たどたどしく喋り始めた。




5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:39:37.52 ID:ArxwcA/d0


「あの……ここに……つ、憑いてる……わけじゃないみたいだね……」

 ――ああ、僕にむかって喋っていたのか。

「……ここには……留まらないほうがいい……」

 ――別に、ここに用があるってわけじゃ……。

「引き寄せられている……原因はわからない……けど、きっと良くない」

 ――……? 

「ここ……良くないモノが集まってる……ここにいたら……貴方も……悪霊に」

 ――……悪霊?

「もしかして……気付いてない……? 貴方……」

 ――ああ、察しがついた。なるほど、僕は幽霊……もう死んだ身か。




6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:40:31.06 ID:ArxwcA/d0


 今明かされる、衝撃の真実。僕は幽霊だった。

 そりゃあ、誰も僕を気にしないわけだ。

「そ……そんなわけで……ここから離れることをおススメする……」

 ――でも、行くところもない。

「え……えっと……それじゃあ……」

 わたわたとちょっと困ったような少女。

 ――じゃあ、君に憑いていこうかな。

「え……」

 ――いや、とりあえずの目標は必要かなと。

「えぅ……で、でも……」




7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:41:11.39 ID:ArxwcA/d0


 ――別に悪さをしようとは思ってない。
 ――なんにもできないお化けだよ。

「でも……無意味に留まるのは……」

 ――じゃあ、君の友達になるってのはどう?

「と、友達……?」

 ――そ。なに、騙して取り憑いて、君の名前を拝借……なんて考えてないよ。

「あ、私の名前……白坂小梅……です」

 ――あ、これはどうもご丁寧に……
 ――僕の名前は……あ、そうだ。忘れてたんだった……。
 ――ついでに年齢、性別すらわからなくなってるよ……。




8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:41:39.32 ID:ArxwcA/d0

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:44:17.22 ID:ArxwcA/d0


小梅「え、えと……友達なら……いいかな」

 ――あれ、意外と前向きに考えてくれたんだ。
 ――いたずら心から言ってみただけなのに。

小梅「ん……わ、私、その……他に友達いないし……わ、悪い子じゃ……なさそうだし」

 ――なんだか、コメントに困ることを聞いちゃったよ。

小梅「……だ、だから……いい子……にするなら……いいよ、一緒にいこう」

 ――いい子にするって……もしかして、僕は小梅よりもちっちゃいのだろうか。

小梅「ん……たぶん……だけど……そ、そう見える、よ……?」

 ――なんだろう、世の中の不条理を感じた気がするよ。

小梅「ふふ……こ、小梅お姉ちゃんに、お、おまかせ……最初のお友達……!」




10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:46:12.12 ID:ArxwcA/d0


 そんなわけで、友達ができた。

 誰も気にしないはずだった僕は、ちょっとお休みだ。

 彼女の名前は白坂小梅。年齢13歳。

 趣味はホラー・スプラッタ映画鑑賞。
 
 それと、心霊スポット巡り……その途中で、僕と出会ったわけだ。

 彼女はいわゆる霊感があるらしく……僕の他にも、イロイロ見えていた。

 でも、彼女と親しくしてるのは……親を除けば僕くらいだ。

 それは相手が生きてる、死んでるに関わらず。




11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:47:13.39 ID:ArxwcA/d0


 彼女に寂しくないの? と聞いてみた事がある。

小梅「い、いいもん……ホラー映画観てたら、そ、それで満足……」

 うるさい人、うるさい場所……というか、明るい感じの所は基本的に好まない。

 「爆発すれば……いいのに……」って考えてたことを、僕は知っている。




12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 19:48:01.60 ID:ArxwcA/d0


 そんな彼女の毎日が、一変することが起こった。

小梅「……ほ、ホラー映画を見ているときが、い、一番幸せです……けど」

 いつものように、街に繰り出した彼女の目の前に現れた闖入者。

 ちんまい彼女に熱心に語りかけたのは、スーツ姿の男性。

 アイドル事務所の、プロデューサー。
 
小梅「ア、アイドルに……な、なれたら、もっと楽しい…です…か?

 彼は熱意を持って、彼女に語りかける。それはアイドルへのスカウト。
 
 たぶん、彼は彼女がちょっと苦手とするタイプ……と思っていたのだが。

小梅「プ、プロデューサーさん……が、お、教えて……くれるんですか? なら……ア、ア、アイドル…」  

 まるで啖呵を切る様に、説得を続け……真摯さのおまじないに、彼女の警戒は散っていった。

 晴れてここに……アイドル、白坂小梅が誕生した。




13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:03:30.84 ID:ArxwcA/d0

 
 そうして彼女はめくるめく、明るい世界へ……とはならず。

 熱心なプロデューサーと一緒に地味な活動から始めたが、伸び悩む。

 同期のアイドルからは、あいもかわらずなホラー趣味で敬遠される。

 輝く舞台は未だ遠い……みたいだった。


 ……そのことに、ちょっと安心しちゃったのは、小梅に内緒。

 僕はまだ、君と遊んでいたかったから。




14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:04:09.17 ID:ArxwcA/d0


 だけど。

涼「へえ……アタシもホラー映画は好きな方だよ」

小梅「じゃ……い、一緒にみ、観ませんか……?」

涼「はは、年こそ上だけど、ほとんど同期なんだ……敬語はいいよ!」

小梅「は、はい! 涼さん! じゃ、じゃあ……一緒に……いこう……」

涼「……小梅、なんで何にもないとこ見ながら喋ってんの? フレーゲンシュターミング現象 ?」




15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:15:50.81 ID:ArxwcA/d0


 アイドルとしての活動は。

小梅「メ、メイド服……はず、恥ずかしい……」

フレデリカ「大ジョーブ! 小梅ちゃんのメイド服、とっても似合ってるよ!」

小梅「そ、そっかな……」

フレデリカ「そうそう♪ だから、そのカワイイ小梅ちゃんのセンスで、デコレーションもいってみよ~~!」

小梅「な、なら……ここに……目玉を……」

フレデリカ「ウワーオ♪ いいよいいよ、かっわいいよ~~~!!」

小梅「ふふ……み、みんなと一緒……う、うれしい……」

志保「ちょ、ちょっと~~~! いくらなんでも個性出し過ぎよ~~!!」

小梅「あ、あの子も……お腹空かせてる……?」




16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:21:46.48 ID:ArxwcA/d0


 着実に、着実に。

小梅「こ、コテージでの……お仕事……」

P「……結構、雰囲気あるなぁ……」

小梅「……わっ……」ギュ

P「ヒッ!」ビクッ

小梅「……びっくりさせるの……おもしろい……」

P「小梅、心臓に悪いから、そういうの控えて、お願いします」




17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:22:57.03 ID:ArxwcA/d0


確実に、確実に。

幸子「142’sって……なんだか単純ですね。頭に“カワイイボクと”を付けましょう!」

P「お前なぁ……」

幸子「どんなユニットだろうと、ボクが可愛いのは変わらないですがね!」フフン!

輝子「フヒ!? さっちゃん……レモンティーが……!!」

幸子「え……フギャー!! 不自然な軌道でレモンティーがブッカかったァアアーー!!」

P「なんで少しジョ○ョ風なんだよ……」

小梅「め! ……だ、だめだよ……イタズラしちゃ……」

幸子「……小梅さん、もしかして“あの子”の仕業……!?」




18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:28:44.64 ID:ArxwcA/d0


 小梅の世界を広げていった。

P「ふう……流石に、あっついなあ……小梅、大丈夫か?」

小梅「う、うん……でも……」

P「ん?」

小梅「あ、あのね……プロデューサーさんのおかげで……そ、外に出るのも……あんまり嫌じゃなくなったかも……えへへ」

P「……そうか……」

小梅「うん……えへへ……でも……、や、やっぱり……つ、次のフェスは……緊張しちゃう……かな……」

P「……大丈夫、小梅ならこのユニットでのフェスも、絶対成功できる」

小梅「う、うん……が、頑張る……! ……あ、あの子……」

P「? どうした、小梅」

小梅「な、なんでもない……?」




19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:29:28.49 ID:ArxwcA/d0


 この時になって、やっと気付いたんだ。

 誰も僕の姿は見えていなかった。

 だけど、小梅は……最初の友達である僕を無視しなかった。

 ずっと一人で、何もない方向いて一人で笑ってた。
 
 周りからすれば君は「可笑しな子」だった……他でもない、僕のせいで。

 ああ、ごめん。許してね。

 
 だから僕は……小梅の前から、離れることにした。




20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:32:36.42 ID:ArxwcA/d0


 夕立の中を、彷徨い歩く。

 おかえり、誰も気にしない僕。

 少し前は、こんなの当たり前だった。

 僕自身が伽藍堂なのは、当たり前だった。

 遠くで、雷が鳴る。

 僕には、何も響かない。




21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:36:21.60 ID:ArxwcA/d0


 空っぽのまま、彷徨っていたとき。

 ふと、熱気を感じた。

 視線のずっと先に、巨大な人の集まり。

 ああ……小梅の言っていたフェスとやらか。

 だけど……もう、僕には関係ない話だ。




22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:40:05.74 ID:ArxwcA/d0


 だけど、その時。

 小梅に呼ばれたような気がした。

 ……僕はいるだけで、彼女は奇異の目に曝されるのに?
 それなのに、彼女が僕をよんでいるだって?

 僕の都合のいい思い込みじゃないんだろうか。でも……。

 ああ、なんという豆腐メンタル。

 いっそコイントスで決めようか。

 そんな風に迷いながらも……彼女のことが気にかかり……

 小梅の元に向かっていた。




23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:43:32.05 ID:ArxwcA/d0


 ああ、僕はなんて支離滅裂な行動を取ってるんだ。

 勝手に彼女に憑いて……離れて。

 だけど、彼女は……覚えてる限り、僕の友達なんだ。

 だから……彼女のためになりたい、助け出したい。

 この気持ちだけは残っていた……僕は、まだ伽藍堂じゃなかった。




24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:48:09.93 ID:ArxwcA/d0


輝子「こ、小梅ちゃん……大丈夫……?」

幸子「弱りましたね……こんな時に、ストレス性の胃痛だなんて……」

P「(……昨日までは、緊張しながらも、そこまで体調は崩れてなかった筈だ……なにか……見落としたか……?)」



小梅「うう……お腹……いたい……」

小梅「(……どうしよう……これから本番なのに……このままじゃ……みんなに……迷惑が……)」

小梅「(……あの子……どこいっちゃったんだろう……と、友達なのに……)」

小梅「(うう……どうしよう……どうしよう……!)」




25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:51:54.84 ID:ArxwcA/d0


――小梅!

小梅「! ……あ……!」

――小梅、大丈夫か!

小梅「……! どこ……いってたの……し、心配……したよ……!?」

――もしかして、体調が良くないの、僕のせい?

小梅「わかんないけど……緊張と……寂しさが……」

――でも、小梅はもういっぱい友達がいるし、信頼できるプロデューサーさんも……

小梅「友達が……ひとりでもいなくなったら……心配するよ!」

――!!




26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 20:58:00.38 ID:ArxwcA/d0


――ごめん、ごめんね、小梅、そんな簡単なこと、僕は忘れていた。

小梅「うん……うん……わかってくれたなら……いいよ……」

――小梅、僕は君に憑くよ。守護霊の役割を果たす。

小梅「……え?」

――確証はない……霊が憑いていい影響があるかどうか……僕自身にもわからない。

小梅「……」

――だけど、アイドル白坂小梅に傷を付けるなんて、僕は我慢ならない。
――だから……君を助けさせて欲しい。
――ほかならぬ……僕の頼みだ。

小梅「……うん、わかった……」

――……やっぱり君は、前向きに考えてくれるんだね、小梅。

小梅「うん……ほかならぬ、友達の、言うことだから!」




27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 21:03:28.57 ID:ArxwcA/d0


小梅「も、戻りました!」

P&輝子&幸子「小梅、大丈夫(か?orなんですか?)」

小梅「は、はい……あの子のおk……いやなんでも……と、とにかく、フェスの最後までは……いけます!!」

幸子「で、でも……無理しない方が……」

P「……いけるのか、小梅」

小梅「……はい」

P「……わかった。いざという時のための準備は、こっちでしておく」

幸子「い、いいんですか、プロデューサーさん!?」

P「小梅と……その友達が、頑張るといってるようだからな、信じてみるさ」

小梅「P……さん!?」

P「よし、そろそろ時間だ、準備はいいな、皆!」

皆「「「「はい!!」」」」




28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 21:07:32.97 ID:ArxwcA/d0


 フェスは大盛況だった。
 
 広がる声、躍動するダンス。

 昨日の夕立は嘘のような、深い青空のもとで。
 
 天地を返すような、歌が響き渡る。


 これが……小梅が、いや小梅たちが手を伸ばして、確かに手入れた世界。

 ああ……やっぱり、僕は小梅たちから離れたくないや。

 僕はまだ、君と遊んでいたい。
 



29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 21:13:06.05 ID:ArxwcA/d0


小梅「浴衣……なんだか、変な感じ……」

P「おお、似合ってるぞ、小梅。……体調の方は、もう本当に大丈夫か?」

小梅「うん……も、問題なし……です……」

P「そうか……よかった。輝子と幸子の着替えも、じきに終わるだろう」

小梅「うん……そしたら……みんなで……いこうね……お祭り……!」




30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 21:17:19.67 ID:ArxwcA/d0


小梅「プ、プロデューサーさんが、連れ出してくれたからね……この、太陽の下に」

P「……でも、ここまでやれたのは、小梅自身と、仲間のおかげさ」

小梅「う、うん……わたし……プ、プロデューサーさんも……事務所の皆も、だ、大好き……大好きです……へへ……」

小梅「あの、夜は肝試し、連れていってあげる…… あの子も早く、って言ってるから……!!」

P「!? え……なんか……それ……大丈夫……なのか……!?」

小梅「だいじょうぶ! 今日も助けてくれたし……あの子は……友達だから!!」




31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/07/19(金) 21:18:42.49 ID:ArxwcA/d0

くぅ(略

というわけで、終わりです。

ちなみに、モチーフにした曲はこれです↓
http://www.youtube.com/watch?v=43cifJF-Xro




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