1: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:01:51.08 ID:98xiGd13.net

SS
ようよし



2: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:02:24.08 ID:98xiGd13.net

   1


善子(私の夏休みは、いつもひとりぼっち)

善子(家に引きこもってゲームや生配信)

善子(それがちょうどいい過ごし方)

善子(津島善子は、そういう人間)



3: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:03:23.38 ID:98xiGd13.net

善子(それは仲のいい相手できた今年も変わらない)

善子(夏休みに入り)

善子(二人で早速お出かけ中の友達)

善子(送られてきた、たどたどしい自撮り写真)

善子(彼女たちからのラインに、笑いながら返信)


善子(私も誘われたけど断った)

善子(長期休みの早々ぐらい、自由を満喫したかった)

善子(ルビィは少し残念そうに、花丸は理解を示しながら)

善子(それを受け入れてくれて)



5: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:04:04.57 ID:98xiGd13.net

善子(……今度は、一緒に行こうかな)

善子(あんまり断るのも、悪いし)

善子(けどやっぱり面倒?)

善子(一人の時間は大切だし)

善子(まあそれも私らしさ――)


 ブブブ

善子(あれ、通知)

善子(誰からだろ)



6: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:04:42.11 ID:98xiGd13.net

【渡辺曜】


善子(……曜、さん?)

善子(珍しい、連絡をくれるなんて)

善子(部活のこと?)



『今日用事ある?』


善子「用事……」

『特にないわよ』


『それならさ、私と遊びに行かない?』



7: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:06:01.22 ID:98xiGd13.net

   ※


善子「はぁ」

善子(待ち合わせ場所で、ため息)

善子(返事の仕方)

善子(完全に間違ったかも)


善子(確かに用事はないけど)

善子(今日は家に引きこもるつもりだったのに)

善子(出かけるつもりなんて、微塵もなかったのに)



8: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:06:48.88 ID:98xiGd13.net

善子(これなら、花丸たちと遊びに行けばよかった)

善子(でも先輩だし、逆らえないし)

善子(返事をした私が悪いから)


善子(だけど)

善子(せっかく一人の時間)

善子(ああ)

善子(憂鬱)



9: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:07:35.11 ID:98xiGd13.net

善子(そもそも)

善子(どうしてあの人は私を誘ったのよ)


善子(そんな接点があるわけじゃない)

善子(家の関係で一緒に帰るけど)

善子(そこでよく話すけど)

善子(……私的には、案外仲良しな方?)

善子(だけど、あの人からすれば)

善子(ただの後輩の一人、だろうし)



10: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:08:35.14 ID:98xiGd13.net

曜「おまたせー!」

善子(ああ、来た)


善子「……遅かったわね」

曜「ごめんごめん!」

曜「急だったから、善子ちゃんはもうちょい時間かかるかな~と」

善子「……これでも、時間はそれなりに守る方よ」

曜「みたいだね」

曜「いい子いい子」ナデナデ



11: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:09:14.91 ID:98xiGd13.net

善子「なっ、なに?」

曜「いや、後輩を褒めてあげたくて」

善子「そ、そう」


善子(ビックリした)

善子(いつも距離の近い人)

善子(だけど今日は、特別に)

善子(近い気が、する)



12: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:10:00.97 ID:98xiGd13.net

善子「今日は、どこへ行く予定なのよ」

善子(誘ったからには、目的があるはず)


曜「えっ、ノープランだよ」

善子「はい?」

曜「なーんにも考えてない」

善子「いやいや」

善子(自分から誘っておいて、なによそれ)



13: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:10:50.88 ID:98xiGd13.net

曜「その場のノリで遊ぶの好きなんだけど」

曜「善子ちゃんは、嫌い?」

善子「……というか、やったことないから分かんない」

善子(これでも予定はきっちり決めちゃうタイプだし……)


曜「別に今から考えてもいいけどさ」

曜「流れに身を任せて遊ぶのも楽しいものだよ」

善子「そうなの?」

曜「うん、私の経験上は」



14: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:11:20.13 ID:98xiGd13.net

善子(曜さんなりのやり方?)

善子(というかリア充の思考回路?)

善子(それなら、ありなのかな)

善子(うーん……)


曜「まあ難しいことは考えないで、とにかく行こうよ!」

善子「わっ」

善子(手、思い切り引かれる)



15: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:11:48.22 ID:98xiGd13.net

曜「善子ちゃんが好きなことはなんだっけ」

善子「え、えっと」

曜「おしゃれさんだから服でも見る?」

善子「い、いや、それは」

曜「任せて! 曜ちゃん先輩が見繕ってあげるから!」

善子「ちょ」

善子(肯定も否定もしてないのに)



16: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:12:25.88 ID:98xiGd13.net

曜「よーし、じゃあ駅まで行くぞー」

善子「ま、待って」

曜「全速前進よーしこー!」

善子「待ちなさいよ!」


善子(ああもう)

善子(勢いが凄い)


善子(これ、ついていけるのかな……)



17: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:13:42.04 ID:98xiGd13.net

   ※

曜「あー、色々買えたね」

善子「ええ」

善子(どちらかといえば)

善子(というより、殆ど)

善子(買い物をしていたのは私だけど)


善子(連れていかれた店は、私の好みの系統ばかり)

善子(曜さんは、笑顔で)

善子(私の買い物に付き合ってくれただけ、みたいな)



18: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:14:16.26 ID:98xiGd13.net

善子「曜さん、私と同じような趣味あったの?」

曜「いや、そうでも」

善子「その割に、お店のチョイス」

曜「あー、前から気になってたんだよね」

曜「衣装の参考にもなるかなぁとか考えてたり」

善子「あー」

曜「うん、なかなか興味深かったよ」



19: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:15:08.86 ID:98xiGd13.net

善子(だから私と一緒に来たかったのかしら?)

善子(衣装係、色々と考えてるのね)


曜「そういえば前、この辺りでお洒落なカフェ見つけてさ」

善子「へぇ」

曜「ちょうどいいから、今日行こうよ!」

善子「いいわね」

善子(反対する理由もない)

善子(だって)



20: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:15:47.62 ID:98xiGd13.net

曜「ほら、あそこに見えるお店!」

善子「ふむ、なかなか良さそうなお店ね」

曜「でしょー」


善子(このお店もそう)

善子(やっぱり、ノリで動くなんて言いながら)

善子(私の好みに合わせて動いてくれてる)

善子(照れ隠しとか、見栄とか)

善子(そんな理由もあるかもだけど)



21: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:16:26.43 ID:98xiGd13.net

曜「お、善子ちゃんの好きそうなチョコレートケーキもあるみたいだよ」

善子(一番は)

善子(素直じゃない私に、気を使わせないため)

善子(私を純粋に楽しませてくれる為)

善子(全部偶然で、私の都合のいい解釈かもしれないけど)

善子(聞いても、とぼけられるだけだろうけど)

善子(この人なら、きっと)



22: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:17:08.80 ID:98xiGd13.net

   ※

善子(気づけば、すっかり日は暮れていて)


曜「よーし、満足した!」

善子「そう」

曜「あれ、お疲れ?」

善子「まあ」

善子(そうよ)

善子(あんたに振り回されたから)

善子(疲れちゃったのよ)



23: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:17:46.61 ID:98xiGd13.net

善子(結局、最後まで連れ回されて)

善子(もう時間も遅いし、ママに怒られちゃうかもだし)

善子(疲れたし、歩き過ぎて足痛いし)

善子(いろいろ最悪)


善子(だけど)

善子(やっぱり)

善子(……楽しかった、のかな)



24: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:18:45.75 ID:98xiGd13.net

曜「ごめんごめん、ちょっとはしゃぎすぎた――


善子「……ねえ」

曜「ん?」

善子「どうして、私を誘ったの?」

曜「どうしてって?」

善子「誘う理由、ないでしょ」

曜「そう?」

善子「私には、思いつかない」



25: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:19:34.23 ID:98xiGd13.net

曜「いやまあ、今日は水泳の練習の予定が潰れてさ」

曜「せっかくだし、誰かと遊びたくて」

善子「それで、暇そうな私に声をかけたと」

曜「うん、そう」

善子「やっぱり、そんな理由なんだ」


善子(分かってたけど)

善子(この人もホント、わざわざ言わなきゃいいのに)



26: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:20:05.99 ID:98xiGd13.net

曜「いい機会だと思ったんだよ」

曜「前から善子ちゃんを誘うチャンスを窺っててね」

曜「いつも一緒に帰ってもさ、まっすぐ家に帰っちゃうじゃん」

曜「だから夏休みは、ちょうどいいかなって」

善子「つまり、なによ」


曜「簡潔に言えば」

曜「善子ちゃんと遊びたかっただけ、みたいな」

善子「……」



27: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:20:42.45 ID:98xiGd13.net

曜「うーん、理由になってないかな」

曜「私、こういうノリも多いからさ」

曜「迷惑だったら、ごめん――


善子「……また、誘ってよ」

曜「ん?」

善子「楽しかったのよ! 私も!」



28: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:21:13.70 ID:98xiGd13.net

善子(迷惑なわけもなく)

善子(心の中さえも素直じゃなかったけど)

善子(私は本当に)

善子(楽しんでいた)


善子(だってこの時間は)

善子(今まで人とかかわってきた中で)

善子(生きてきた中でも)

善子(とても、素敵な部類に入る)

善子(そんな時間で)



29: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:21:50.14 ID:98xiGd13.net

曜「……気を使うのは、らしくないよ?」

善子「違うわよ!」

善子「素直な私の言葉!」

善子「私の気持ちよ!」

曜「えっ」

善子「なによその反応」

曜「マジ?」

善子「マジ!」



30: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:22:24.00 ID:98xiGd13.net

曜「素直な善子ちゃん」

曜「これはあれだ、レアだね」

善子「べ、別に、そんなこと」


曜「いや、だけどさ」

曜「素直じゃないのが堕天使」

曜「いつもの堕天使ヨハネちゃんの、違う姿」

曜「つまりこれは――そうだ!」



31: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:23:06.90 ID:98xiGd13.net

善子「な、なに」

曜「ごめん、もう一軒付き合って!」

善子「えっ、だけど時間が」

善子(これ以上は流石にマズいような)

曜「すぐ終わるから!」

善子「ど、どうしたのよ」

曜「この瞬間を保存しなきゃ、勿体ないなって!」



32: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:23:52.25 ID:98xiGd13.net

善子(手を引かれる)

善子(またなすがまま)

善子(だって、抵抗する気なんて)

善子(起きるはずもなくて)

善子(心の中は笑っている)

善子(一緒に居たかった)

善子(この時間が、続いてほしかった)

善子(だから)



33: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:24:24.47 ID:98xiGd13.net

   ※


善子「た、ただいま……」

善子(だけど幸せな時間の後、すぐに待っている現実)

善子(すっかり遅くなって)

善子(結局怖くて連絡もできずに)

善子(ご飯とか、門限とか)


善子(うぅ、どうしよう)



34: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:24:58.58 ID:98xiGd13.net

善子母「善子! 帰ったの!」

善子「う、うん」

善子(玄関の鍵を開けると、飛び出してくるお母さん)


善子母「もう心配したじゃない」

善子「えっと、うん」

善子母「連絡ぐらいしなさいよ」

善子母「事故にでも遭ったのかと思ったわ」



35: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:25:36.74 ID:98xiGd13.net

善子(やっぱり、マズかったよね)

善子(基本、いい子ちゃんだったし)

善子(連絡もなく門限を破ったことも、たぶんない)

善子(だからこそ今日みたいなことをすると)

善子(余計に心配をかけちゃう)


善子母「今日はなにをしていたの?」

善子母「怒らないから、正直に話してみなさい」



36: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:26:04.94 ID:98xiGd13.net

善子「えっとね」

善子母「うん」

善子(説明)

善子(先輩と、じゃ変かな)

善子(やっぱり)

善子「友達と」

善子「友達と、遊んでて」



37: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:26:36.47 ID:98xiGd13.net

善子母「……そう」

善子「お母さん?」

善子(急に表情が緩んだ)


善子母「お風呂沸いてるから、入ってきなさい」

善子母「ご飯はまだでしょ。出たら食べましょう」

善子「う、うん」



38: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:27:20.34 ID:98xiGd13.net

善子(お説教を覚悟してたけど、助かった?)

善子(うーん、だけど怒らせたら怖いし)

善子(早く入らないと)


善子(色々買った物)

善子(整理は、あとでいいかな)

善子(服とか、そんなのばかりだし――)

善子「……そうだ」



39: 名無しで叶える物語 2019/09/13(金) 22:28:06.47 ID:98xiGd13.net

善子(鞄に、大切にしまっていた紙を取り出して)

善子(ぺたりと、机の目立つ部分に貼ってみる)

善子(勝手に装飾された)

善子(エンジェルの文字と、私の写真)


善子(連れていかれたゲームセンター)

善子(そこで撮ったプリクラ)

善子(切り取った)

善子(今日の大切な時間の証)



54: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:06:22.98 ID:tqZhQmT6.net

 2


善子(沼津駅近くのバス停)

善子(一緒に遊んだ友達たちをお見送り)


花丸「じゃあね、善子ちゃん」

ルビィ「バイバイ~」

善子「ええ」



55: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:07:07.97 ID:tqZhQmT6.net

善子(ああ)

善子(バスに乗り込んで)

善子(去っていく2人の姿を眺めるのは、少し寂しいけど)

善子(今日も楽しかったな)


善子(夏休みも後半)

善子(始まる前は、ずっとダラダラするつもりだったのに)

善子(想定外に忙しい日々を過ごしている)



56: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:07:46.05 ID:tqZhQmT6.net

善子(その原因は部活と)

善子(空いている日は、毎日遊んでいるから)

善子(花丸とルビィ)

善子(Aqoursのみんな)

善子(一人ではない)

善子(いつも、誰かと)

善子(一番はやっぱり、あの人だけど)



57: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:08:24.24 ID:tqZhQmT6.net

善子(別に一人が嫌になったわけじゃない)

善子(知らなかったから)

善子(人と共にある時間の楽しさを)


善子(それを、曜が教えてくれた)

善子(私に、教えてくれた)

善子(だから夢中になってる)

善子(初めておもちゃを手に入れた、子どものように)

善子(夢中に)



58: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:08:52.84 ID:tqZhQmT6.net

善子(毎日が本当に楽しい)

善子(楽しすぎて、他の事は目に入らないぐらい)

善子(埃をかぶり始めた配信機器や堕天使の衣装)

善子(捨ててしまうわけじゃないけど)

善子(しばらくはきっと、そのままね)

善子(少なくとも、この夏の間は)



59: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:09:19.85 ID:tqZhQmT6.net

善子(明日は、どうしようかな)

善子(曜を誘って、遊びに行くのもあり?)

善子(だけどあの人、私より遊びまわってるから)

善子(暇しているといいんだけど)

善子(連絡してから、考えればいいかな)


善子「ただいまー」

善子母「あら、おかえり」



60: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:09:55.00 ID:tqZhQmT6.net

善子母「今日は早かったのね」

善子「うん、ルビィ達と遊んでいたから」

善子母「あら、曜ちゃんじゃなかったのね」

善子(曜と遊ぶ時は、お互いに沼津だからそこまで時間を気にしなくてもいいけど)

善子(内浦住みの相手、特にルビィの家は厳しいから)

善子(どうしても解散する時間が早くなる)

善子母「明日の予定は?」

善子「特に決まってないけど」



61: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:10:26.72 ID:tqZhQmT6.net

善子母「それなら、ちょうどいいわね」

善子「ふぇ?」

善子(どういうこと?)


善子母「善子」

善子「は、はい」

善子母「私はね、あなたが連日遊びに行く事には反対する気はないの」

善子母「だけどね、一つだけ気になることがあって」

善子「気になること?」



62: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:11:04.96 ID:tqZhQmT6.net

善子母「宿題、進めてる?」

善子「あっ」

善子(連日、遊び惚けている時点で)

善子(当然、やってない)


善子母「その反応は、やっぱり」

善子「……やってないです」

善子(うぅ)

善子(遊び過ぎた)



63: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:11:40.79 ID:tqZhQmT6.net

善子母「やれやれ」

善子母「部活もあって、全然勉強している様子が見えなかったから」

善子母「そんな事だと思ったわ」

善子「ご、ごめんなさい」

善子(私より先に危機に気づくなんて)

善子(流石現役の教師……)



64: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:12:14.27 ID:tqZhQmT6.net

善子母「謝ることはないわ」

善子母「今から、ちゃんと終わらせられるなら」

善子「それは」

善子(宿題の量)

善子(結構、多かったような)

善子(最初の引きこもり期間で積まれた分もあるし……)



65: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:12:51.71 ID:tqZhQmT6.net

善子母「なかなか大変そうね」

善子「うん……」

善子母「仕方ないわね」


善子(も、もしかして)

善子(お母さんがスパルタ指導とか言い出す?)

善子(現役教師の、身内に対する容赦のない指導)

善子(過去に経験した時は――ああ)

善子(それだけは嫌だ)



66: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:13:28.59 ID:tqZhQmT6.net

善子母「なにを震えているの?」

善子「だ、だって」

善子母「私に教わりたくない?」

善子「ぎくっ」


善子母「大丈夫よ、私もそんなに暇じゃないから」

善子「へっ」

善子母「今回はね、外部から助っ人を頼んだの」

善子母「明日から手伝いに来てくれるそうよ」



67: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:13:57.84 ID:tqZhQmT6.net

   ※


善子(助っ人)

善子(なんていうから、どんな人が来るのかと緊張していたけど)


曜「へーい、善子ちゃん」

善子「……」

善子(この人なのね。緊張して損した)



68: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:14:33.49 ID:tqZhQmT6.net

善子母「わざわざ来てくれてありがとう」

曜「いえいえ」

善子母「というわけで、あなたの宿題を手伝ってくれる渡辺先生よ」

曜「よーろしく~」

善子(……なにこの茶番)


善子母「曜ちゃん、私は出かけるからあとはよろしくね」

曜「了解であります!」

善子母「善子も遊んだりしないで、ちゃんと勉強を教えてもらうのよ」

善子「分かっているわよ!」



69: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:15:13.37 ID:tqZhQmT6.net

善子(……はあ)

善子(とりあえず、お母さんは行ったわね)

曜「いやー、ここが善子ちゃんの家か~」

曜「初上陸だなー」

善子(助っ人のはずの曜も、家中を物色し始めるし)


善子「ねえ」

曜「ん?」

善子「どうして、助っ人なんて」



70: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:15:52.24 ID:tqZhQmT6.net

曜「……責任、取れって」

善子「責任?」

曜「この夏、善子ちゃんを連れ回して遊んだり」

曜「遊びを教えて勉学を怠らせた、責任」

善子「……ああ」

善子(それで断れなかったと)

善子(それはまた申し訳ないような)



71: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:16:21.75 ID:tqZhQmT6.net

善子「ちなみに、あんたの宿題は」

曜「終わったよ、とっくに」

善子「そ、そう」


善子(この人、私以上に遊びまわっていたはずなのに)

善子(体力の違い?)

善子(遊びや部活の後、きちんと勉強していたとか)

善子(それだけじゃない気もするけど)



73: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:17:43.15 ID:tqZhQmT6.net

曜「とにかくやろうか」

曜「今日から数日で終わらせるよう、頼まれたし」

善子「す、数日で?」

曜「うん」

曜「ほら、予選もあるしさ」

曜「そんな日程、余裕ないじゃん」

善子「だ、だけど」



72: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:16:56.86 ID:tqZhQmT6.net

曜「大丈夫だよ」

曜「私はやさしく教えてあげるから」

曜「全然辛くないように、ちゃんと」

善子「ちょ、その言い方は逆に怖いんだけど」

曜「気のせいだよ」

曜「別に体育会系の扱きとかしないからさ」

善子「いやいや、その言い方がもう予告!」



74: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:18:21.25 ID:tqZhQmT6.net

曜「そんなことないよ」

善子「い、嫌よ」

善子「信じられないわ」


曜「……いいから、やるよ」

善子「は、はい」

善子(駄目だ、迫力に負ける)

善子(なんでこんなときだけ、無駄に先輩らしいの)

善子(こうなったら覚悟、決めるしかない……)



75: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:19:03.54 ID:tqZhQmT6.net

   ※


曜「……よし、今日はこの辺までにしようか」

善子「……うん」

善子(……疲れた)

善子(すっかり、外は暗くなっている)

善子(朝から晩まで、机の前に座って)

善子(テキストに齧りついて)

善子(こんなにまとめて勉強したのは、初めてかも……)



76: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:19:41.17 ID:tqZhQmT6.net

曜「いやー、ところどころ抜けてはいるけどさ」

曜「善子ちゃん、地頭がいいのかな」

曜「理解が早くて助かるよ」

善子「そう?」

曜「うん!」


善子(結局、最初に脅してきた割に)

善子(普通に)

善子(むしろやさしく教えてくれた、曜)



77: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:20:18.98 ID:tqZhQmT6.net

善子(説明も分かりやすいし)

善子(限界の一歩手前でちゃんと休憩も入れてくれる)

善子(なにをやらせても)

善子(できる人よね、本当に)


曜「どうしたの? 私を見つめて」

善子「いや、別に」

曜「あれかな、見惚れちゃった?」

善子「そんなわけないでしょ」

曜「えー、いけずー」



78: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:20:58.22 ID:tqZhQmT6.net

善子(そう言って)

善子(ぴょっと跳ねるように立ち上がる)


曜「そういや、来た時から思ってたんだけどさ」

善子「なに?」

曜「この部屋、結構見晴らしがいいよね」

善子「ああ」

善子(川沿いで、視界を遮る建物もない)

善子(お母さんもここに住むことを決めた理由の一つに、景観をあげていたし)



79: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:21:38.22 ID:tqZhQmT6.net

曜「いいなー、私の家じゃかろうじて川が見える程度なのに」

善子「ちょっと、勝手に窓開けないでよ」

善子(冷気が逃げちゃう)

曜「いいじゃん少しぐらい」

善子「もう……」

善子(夏なのに、普段から外ではしゃぎまわってるような人だから)



80: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:22:07.91 ID:tqZhQmT6.net

曜「あはは、この時間でもまだ暑い~」

善子「そりゃねぇ」

曜「ずっと冷房の中にいたから、身体が馬鹿になってるよ」

曜「明日は海――は行けないんだよね」

善子「ごめん、私のせいで」

曜「いやー、元をたどれば完全に自分が原因だからさ」

曜「謝ることじゃないって」



81: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:22:48.68 ID:tqZhQmT6.net

曜「さっさと宿題を片付けて」

曜「また遊ぼうよ、一緒に」

曜「もうちょいでさ、花火大会とかもあるし」

善子「嫌よ、人混みは」

曜「えー」

善子「苦手なのよ、ああいう場所」

曜「……そっかぁ」



82: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:23:24.91 ID:tqZhQmT6.net

善子(うーん)

善子(あんまり表情に出さないようにしてくれてるのに)

善子(寂しそうだな)

善子(お祭りとか、好きそうだし)

善子(花火も――あっ)

善子(そうだ)



83: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:24:15.76 ID:tqZhQmT6.net

善子「ねえ」

曜「ん~」

善子「外に行くのは嫌だけど」

善子「ここで花火を一緒に見るだけならいいわよ」

曜「へっ、見えるの」

善子「うん、このベランダから綺麗に」

曜「おお、凄いじゃん!」



84: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:24:56.84 ID:tqZhQmT6.net

曜「それなら賛成!」

曜「高い所から花火鑑賞とか、一度やってみたかったし!」

善子「なら決まりね」

曜「うん!」

善子(大袈裟なまでの喜びよう)

善子(子どもっぽいな、曜は)

善子(というより、純粋かな)



85: 名無しで叶える物語 2019/09/15(日) 06:25:32.71 ID:tqZhQmT6.net

曜「よーし、そうと決まれば明日からも勉強頑張らないと」

曜「しっかり終わらせて、花火に集中!」

曜「今日は早く帰って休もう!」

善子「そうね――って」

善子(なんか突然、ベランダから身を乗り出そうと)


曜「時間が勿体ない、ここから私の家まで飛び込んで――」

善子「いやいや無茶よ! 冷静になって!」

曜「全速前進――」

善子「しちゃ駄目だから!」



95: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:36:56.99 ID:6o1PGlW8.net

   ※


善子(数日の集中期間の末)

善子(私は無事に宿題を終わらせて)

善子(夏休みも順調に過ぎていき)

善子(週末の花火大会も迫ってきた)



96: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:37:34.60 ID:6o1PGlW8.net

善子「ふわぁ」


善子(もうすぐお昼ごはんかなぁ)

善子(今日は久しぶりのおやすみ)

善子(大会も終わって、みんな疲れているだろうからと練習は無し)

善子(遊ぼうにも、宿題に追われている人(千歌やルビィ)やお疲れモードの人も多くて)

善子(だから私も素直に休むことにした)

善子(よく考えれば、一日中ダラダラできる日もしばらくないわけだし)

善子(たまにはいいかな、なんて)



97: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:38:12.67 ID:6o1PGlW8.net

善子「おかーさーん、ご飯は~?」

善子母「もう少しかかるわよ」

善子「えー」

善子母「二人分作る要領を忘れちゃったのよ」

善子母「久しぶりでしょ」

善子母「善子がお昼間から家にいるなんて」

善子「そう?」



98: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:38:56.17 ID:6o1PGlW8.net

善子母「もう、遊びまわっていたから」

善子「ちゃんと宿題もやったもん」

善子母「そうね」

善子母「偉かったわ」

善子母「曜ちゃんには迷惑をかけちゃったけど」

善子「ちゃんとお礼は言ったわよ」

善子母「……本当にいい先輩を持ったわね」

善子「うん」



99: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:39:25.78 ID:6o1PGlW8.net

善子母「さて、できたわよ」

善子母「ご飯にしましょうか、お皿出してくれる」

善子「はーい」


善子(そうだ)

善子(今のうちに、曜のこと)

善子(花火大会の日のこと)

善子(話しておいた方がいいかな)



100: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:40:15.93 ID:6o1PGlW8.net

善子「ねえ、お母さん」

善子母「なに?」

善子「今度の花火の日。曜が遊びに来るかもしれないんだけど」

善子母「あら、そうなの」

善子「うん、この前一緒に花火を見ようって話して」

善子母「もちろん構わないわよ」

善子「本当に!?」

善子母「曜ちゃんなら大歓迎」



101: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:40:42.71 ID:6o1PGlW8.net

善子(よかった)

善子(これでもし、駄目なんて言われたら合わせる顔がないもんね)

善子母「ふふ、善子の友達が遊びに来るなんて」

善子「なによ」

善子母「ただ、楽しみだなって」

善子母「曜ちゃんも、最後に良い思い出になってくれるといいんだけど」

善子「最後?」



102: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 01:41:43.60 ID:6o1PGlW8.net

善子母「そろそろ終わるでしょ、夏休み」

善子「あっ」



善子(そうだ)

善子(もうすぐ、終わる)

善子(夏が)

善子(輝いていた季節が)

善子(この時間が全部)

善子(終わってしまう)



107: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:48:26.61 ID:oZjAnIQq.net

   ※


善子(そして)

善子(やってきてしまった)

善子(花火大会の日)


曜「ヨ―ソロー!」

善子「……うん」

善子(笑顔でうちへやってきた曜)

善子(出迎えるのは、対照的な私)



108: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:49:11.75 ID:oZjAnIQq.net

曜「あれ、元気ない?」

善子「そんなこと、ないけど」

曜「あー、もうすぐおやすみ終わっちゃうからおセンチな気分ってやつ?」

善子「まあ、そうね」

善子(間違ってはいない)


曜「分かるよー、私もちょっと憂鬱」

曜「だけどさ、学校は学校で楽しいからさ、元気出しな」

善子「ええ、そうね」



109: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:49:52.72 ID:oZjAnIQq.net

善子母「曜ちゃん、いらっしゃい」

曜「あっ、お邪魔しまーす」

善子母「相変わらず元気ねー」

曜「えへへ、それが取り柄ですから」

善子母「うちの子にもその明るさを分けてあげて」

善子母「最近ずっとこんな感じなのよ」

曜「了解であります! 任せてください!」



110: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:50:34.16 ID:oZjAnIQq.net

善子(落ち込んだ様子もなく)

善子(いつものように明るく、元気で)

善子(曜は)

善子(曜は、寂しくないの?)

善子(こんな夏は当たり前で)

善子(今までも同じような夏を、過ごしてきたから?)

善子(寂しく、ないのかな)



111: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:51:15.64 ID:oZjAnIQq.net

善子母「花火はね、善子の部屋からが一番綺麗に見えるわよ」

曜「へー、善子ちゃん特等席」

善子母「もう少し時間あるけど、二人で楽しんでね」

曜「あれ、ママさんは?」

善子母「私が居たら若い二人にはお邪魔でしょ」

曜「えー、そんなことないですよー」

善子母「一人で自分の部屋から楽しむから」

善子母「善子のことはよろしくね」



112: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:51:49.28 ID:oZjAnIQq.net

善子(お母さん、気を使ってくれてる)

善子(最後の思い出、だものね)

曜「ねえねえ、善子ちゃん」

善子「なによ」

曜「なんか駅の方で屋台出てたんだけどさ」

曜「花火が終わったら行かない? もう人も少なくなってるだろうし」

善子「嫌よ。家に引きこもった意味がないでしょ」

曜「むー」



113: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:52:38.91 ID:oZjAnIQq.net

曜「いいもん、それなら私一人で行くから」

善子「駄目よ、うちでご飯食べていく予定じゃない」

善子「お母さん、張り切って準備していたんだから」

曜「マジで?」

善子「ええ」

曜「ふふっ、それは期待しちゃうな」


善子(ああ)

善子(もうすぐ、始まってしまう)



114: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:53:26.67 ID:oZjAnIQq.net

曜「善子ちゃんはそんなに楽しみじゃないの?」

曜「見慣れてるし、そんなもん?」

善子「そんなことないって」

曜「えー、だけどやっぱテンション低いよ」

善子「そんなことないわよ」

善子「ほら、カメラも持ってる」

曜「本当だ、準備バッチリじゃん!」

善子「私は私なりに楽しむから、あなたも――」



115: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:54:19.75 ID:oZjAnIQq.net

曜「おっ」

善子「あっ……」


善子(爆音と)

善子(真っ暗な夜空に散る、鮮やかな火花)


曜「始まった!」

善子(曜は飛び出すように、ベランダへ出る)

善子(私も無言で、後に続く)

善子(離れたくなかった)

善子(最後だから、離れたくなかった)



116: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:54:57.57 ID:oZjAnIQq.net

曜「綺麗だね~」

善子「……うん」

善子(ああ、笑ってる)

善子(輝いている)

善子(太陽のように眩しい笑顔を浮かべている)

善子(きっと曜にも、私にも)

善子(最高の思い出の一ページになる)

善子(そんな、素敵な時間)



117: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:55:52.03 ID:oZjAnIQq.net

善子(だけど花火は、この輝きは)

善子(夏の終わりを告げる)

善子(私と曜の時間を終わらせる)


善子(花火に夢中になってる曜)

善子(私に横でカメラを向けられても気づかない)

善子(私は何度もシャッターを切る)

善子(被写体は花火ではなく)

善子(はしゃぐ先輩の、横顔)



118: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:56:21.21 ID:oZjAnIQq.net

善子(この時間を)

善子(無くしたくなくて)

善子(永遠に、保存しておきたくて)

善子(花火に目を向けることもなく)

善子(カメラの容量がなくなっても)

善子(ずっと横顔を)

善子(曜を、見つめ続ける)



119: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:57:18.74 ID:oZjAnIQq.net

   ※


善子母「楽しかったわね」

善子「うん」

善子母「食器片付けたらお風呂いれるから、入って早めに休みなさいよ」

善子母「新学期、万全の体調で迎えないと」

善子「はーい」



120: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:57:54.57 ID:oZjAnIQq.net

善子(花火の後も)

善子(楽しい時間は続いて)

善子(曜も、お母さんも、私も)

善子(みんな、笑っていた)


善子(だけど)

善子(曜が帰って)

善子(一人になって)

善子(部屋に戻ると)



121: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:58:36.72 ID:oZjAnIQq.net

善子「寂しいよ……」


善子(曜の気配が残る部屋)

善子(さっきまで輝いていたはずの部屋が)

善子(灰色に見える)

善子(彼女の存在が大きかった分)

善子(喪失感も、大きく)

善子(ぽっかりと)

善子(大きな穴を残してしまったみたいで)



122: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 21:59:13.74 ID:oZjAnIQq.net

善子(次に会えるのは、始業式の日)

善子(夏の時間は、もうおしまい)


善子(嫌だ)

善子(消えちゃうなんて、嫌だ)

善子(私はずっと、この夏を過ごしたい)

善子(この夏が、終わってほしくない)

善子(曜と、一緒にいたい)



123: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:00:22.88 ID:oZjAnIQq.net

善子(衝動的に、スマホを開く)

善子(なにか、伝えないと)

善子(終わらせないように、何か)


『会いたい』


善子(送った、一言)

善子(とっさに浮かんだ言葉はそれで)

善子(打って、送って、恥ずかしくなってベッドにスマホを放り投げると)

善子(すぐにブザー音が鳴る)

善子(返信、ではない)



124: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:00:58.79 ID:oZjAnIQq.net

善子「あ……」

善子(曜、スマホを忘れてる)

善子(馬鹿)

善子(台無しじゃない)

善子(取り戻ってくる?)

善子(いや、だけど始業式の日に受け取ればいいって考えるかも)

善子(もし、そうだったら)

善子「っ」



125: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:01:57.53 ID:oZjAnIQq.net

善子(気づけば、身体が動いていて)


善子母「善子、どうしたの?」

善子「ごめん、ちょっと出かけてくる!」

善子母「えっ?」


善子(突然のことに言葉を失うお母さんも無視して)

善子(私は、家を飛び出す)



126: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:02:40.02 ID:oZjAnIQq.net

善子(もう、帰ったのかな)

善子(家の場所、どっち――)


『駅の方に屋台が――』


善子「あっ」

善子(もしかしたら、そっち?)

善子(分からないけど)

善子(浮かんだからには理由があるかもしれない)



127: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:03:16.22 ID:oZjAnIQq.net

善子(走ればいい)

善子(間違っていても、また走って探せばいい)

善子(この夏の、魔法のような時間)

善子(それが終わる前に、伝えないと)

善子(必死に追いかけないと)

善子(無駄かもしれないけど)

善子(走る、全力で――)



128: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:04:00.82 ID:oZjAnIQq.net

「あれ」


善子「……空気、よんでよ」

善子(せっかく、盛り上がってきたのに)

善子(最悪、自分が格好わる)


曜「引きこもり少女が、なんでここに?」

善子「……どうして」

善子(私のことが)



130: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:05:42.54 ID:oZjAnIQq.net

曜「気づいたんだよ、なんとなく」

善子「……意味、分からない」

善子(本当に)

曜「息、切れてるね」

曜「これ飲む?」

曜「まだほとんど残っているよ」


善子(差し出されたラムネの瓶)

善子(曜の瞳のように、透き通った綺麗な水色)



131: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:06:10.61 ID:oZjAnIQq.net

曜「どこのお店も閉まっちゃっていたけど」

曜「これだけ、余ったからってくれたんだ」

曜「でも走ってきたんだよね」

曜「炭酸は微妙かな?」


善子(いつもと同じ)

善子(私の気持ちは、この人には絶対に理解できない)



132: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:07:17.69 ID:oZjAnIQq.net

善子「これ、忘れてたから」

善子(ポケットに入れてきたスマホを渡す)

曜「うわ、マジで?」

善子「部屋に落ちてたのよ」

曜「全然気づいてなかった……」

曜「ありがとう、助かったよ」

善子「別に、気にしないで」

曜「だけどさ、このためにわざわざ走ってくれたんでしょ?」

善子(それは……)



133: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:07:49.16 ID:oZjAnIQq.net

善子(理解してくれないなら)

善子(伝えなきゃ)


曜「善子ちゃん?」


善子(その為に、私は)

善子(私は)

善子(私は)



134: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:08:49.86 ID:oZjAnIQq.net

善子「私は」

善子「終わらせたくなかったの」

善子「この夏を、あなたと過ごした大切な時間を」

曜「それ、どういう?」


善子「二学期になって」

善子「日常が戻ってきて」

善子「そうなったらもう戻れない」

善子「だから、この時間を残したくて」



135: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:09:21.77 ID:oZjAnIQq.net

善子「だから」

善子「だから……」

善子(衝動)

善子(感情だけが先走った行動)

善子(適切な理論も)

善子(言葉も)

善子(なにも浮かばない)



136: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:09:57.83 ID:oZjAnIQq.net

善子(私のこれは)

善子(思い通りにならないことを嘆き、癇癪を起こす子どもと同レベル)

善子(いや、それ以下)


善子(時間を止めるんなんて不可能だし)

善子(永遠に夏に留まるなんてあり得ない)

善子(手の出しようのない領域)

善子(そんなことは子どもでも理解できる)

善子(はずなのに)



137: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:10:47.04 ID:oZjAnIQq.net

善子(目が熱くなり)

善子(湿っていくのを感じる)

曜「……善子ちゃん」


善子(ああ、最悪)

善子(せっかく、いい終わり方だったのに)

善子(最高の夏だったのに)

善子(最後にこんな、余計な)



138: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:11:25.65 ID:oZjAnIQq.net

曜「……大丈夫だよ」

善子(そっと)

善子(頭に手を置かれる)


曜「夏が終わってもさ」

曜「私と善子ちゃんは仲良しのまま」

曜「前にも言ったけど、学校だって楽しい」

曜「他の季節も、楽しいよ」



139: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:11:59.53 ID:oZjAnIQq.net

曜「秋になったら焼き芋でもしようか」

曜「冬は雪合戦とか、私強いんだよ」

曜「春になったら、やっぱりお花見かな」

曜「梅雨はちょっと憂鬱だけど、仲良しの人と室内で過ごせる貴重な日だし」

曜「そうやって素敵な時間を過ごして」

曜「気づけばね、また夏は来るよ」



140: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:13:18.61 ID:oZjAnIQq.net

曜「今年の夏は終わっても」

曜「来年、再来年、夏は続いていく」

曜「終わりなんか、来ないんだよ」

曜「この輝く素敵な時間は、続くんだよ」


曜「だからさ」

曜「泣かないで、夏を楽しもうよ」

曜「今回の夏は特別に、最後まで付き合ってあげるから」


善子(……どうしてかな)

善子(どうしていつも、あなたは)



141: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:14:01.35 ID:oZjAnIQq.net

善子「……今回だけじゃ、嫌だ」

善子(もう、恥じらいなんてどこかへ消え去って)

善子「これからもずっと、最後まで付き合って」

善子(私は子どものように、曜に抱きついて)


曜「うーん、我儘な後輩だね」

曜「私は構わないけどさ、そのぐらい」

善子「……約束よ」

曜「うん、約束」

善子(子どもじみた約束に)

善子(子どもじみた指切りで契約をする)



142: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:14:52.00 ID:oZjAnIQq.net

曜「よし、落ち着いたなら――

善子「待って」


善子(もうひとつ、ある)

善子(伝えたい事)



143: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:15:10.91 ID:oZjAnIQq.net

善子「私、知らなかったの」

善子「誰かと過ごす時間が、こんなに素敵だったなんて」

善子「この夏を迎えるまで」

善子「あなたが教えてくれるまで」

善子(きっとあそこで誘ってくれなかったら)

善子(一人、つまらない日々を過ごしていた)

善子(あなたは、くすんだ私を、明るい世界へ引き上げてくれた)

善子(だから)

善子「だから」



善子「ありがとう、曜」



144: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:15:39.63 ID:oZjAnIQq.net

   ※


善子(休み明け)

善子(早々にやらかさないように、何度も確認した持ち物)

善子(今までで一番苦労した宿題も、もちろん入ってる)


善子(先にバスに乗る)

善子(一人で)

善子(それでも寂しさはない)

善子(だって)



145: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:16:16.40 ID:oZjAnIQq.net

曜「おはよう!」

善子(すぐにあなたはやってくる)

善子(いつものように、あなたの姿はそこにある)


善子「おはよう」

曜「おーい、休み明け早々テンション低いよー」

善子「朝から元気なあなたの方が特殊なのよ」

曜「うむむ、それはよく言われる」



146: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:17:07.26 ID:oZjAnIQq.net

善子(まだ暑さは残る)

善子(日差しも眩しい)

善子(だけど着実に、季節は秋へと変化していく)

善子(夏の気配は消えていく)

善子(それでも、私の心は晴れやかなまま)



147: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:18:02.82 ID:oZjAnIQq.net

善子(バイバイ、夏)

善子(また、来年会いましょう)


(これは私が体験した)

(素敵な夏のお話)



148: 名無しで叶える物語 2019/09/17(火) 22:18:31.35 ID:oZjAnIQq.net

以上です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。


元スレ
善子「夏の記憶と」