1: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:17:47.06 ID:Sjljkzyd0
「助けてください!」
絵里(街中に響く一人の少女の叫び声。しかしその叫び声は虚しく人々の耳を左から右へと突き抜けていき皆揃いも揃って見て見ぬふりをする)
絵里(今日の降水確率は100パーセントで外は当然ながら酷い雨だった、風も酷く吹き荒れていてとても外出出来たものではなかったと思う)
絵里「……あぅ、あ」
絵里(…そして、大都会の大きな横断歩道から成る歩行者天国で倒れる私はどうして倒れているのだろう)
絵里(倒れる私の周りにはこんなにも人がいるというのに、通る人全ては私を心配することもない)
「どうして助けないんですか!?」
絵里(…ただ“珍しい人”もいるみたい)
絵里(誰一人として倒れた私を助けようとしないのに、この人はだけは私を助けようとしていた)
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2: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:19:34.05 ID:Sjljkzyd0
絵里「あなた…っ」
「大丈夫ですか!?今私の家に…!」
絵里(なんで、私を助ける人がいないんだろう)
絵里(そんなの答えは簡単だった)
「F-613…もしかしてあなたは……」
絵里「………」
絵里(私の首元についた数字が今私の前にいるこの人との決定的な違いだった)
絵里「…そうよ」
絵里(じゃあ答え合わせをしましょうか)
絵里(なんで私を助けてくれる人がいないのか、今も数百といる人が皆私を無視する理由、それは……)
絵里(私がアンドロイド――いわば造られた命を宿すロボットだからよ)
~次の日
絵里「…はぁ」
「どうしたの?絵里さん」
絵里「ん…あぁ千歌、いや昨日ちょっとあったのよ」
千歌「何かあったんですか?」
絵里「ちょっとトラブルで体が動かなくなっちゃって…」
千歌「えっ!?大丈夫だったんですか!?」
絵里「ええ、少ししたら動けるようにはなったけどこういうことがあると正直移動が不安なのよね」
絵里(次の日、私は何事もなくオシャレなカフェテリアで溜め息をつく)
絵里(あの後、すぐに私はあそこから去った。助けてくれるのは嬉しかったけど、無様に助けてもらうのはなんだか私のプライドが許せなかった)
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「……変な人」
千歌「ん?何がですか?」
絵里「いえ、なんでもないわ」
絵里(それでこの子は千歌、高海千歌という子)
絵里(彼女は私と同じ造られた命を宿すアンドロイドだ、だから彼女の首にもF-083という識別番号が刻まれている)
絵里「あ、またその歌聞いてる」
千歌「えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?」
絵里「かよちゃん?」
千歌「知らないんですか?今人気ナンバーワンといっても過言じゃないアイドルですよ!」
絵里「へー」
千歌「もうまさに私の推しアイドル! 絵里さんも直で見たら絶対に心奪われますよ!」
絵里(携帯から流れる“かよちゃん”と呼ばれる人の歌、聞いてると癒される優しい声と元気が出るような明るい曲調になんとなく千歌がはまってしまう理由もわかる気がした)
千歌「あ、そういえばその…」
絵里「ん?何かしら?」
千歌「倒れた場所って…」
絵里「あぁ、アキバのど真ん中よ、歩行者天国に埋もれてたわ」
千歌「え、じゃあそれってつまり…」
絵里「……ええ」
絵里(誰も助けてくれなかったのか、千歌はそう言いたいのよね)
絵里(この世界はそうよ、アンドロイドという存在が栄えるとたちまち不思議なカーストが生まれた)
絵里(アンドロイドは人間より下の存在で、しかもある意味でいえば家畜と同等の存在とも言えた)
絵里「…仕方ないのよ、私たちがアンドロイドとして生まれた以上は」
絵里(私たちはアンドロイド、それは造られた命。そしてつまりそれは生命が宿ってると認識されない“モノ”でしかない)
絵里(単なる造り物に思いやる気持ちなんてこの世にはなくて、救済の手を差し伸べるに値しない理不尽さがそこにはあって、例えアンドロイドがどれだけ可愛くても“所詮”アンドロイドである以上人間と同等の立場になることはない)
絵里(だから私はどこで倒れようとも放置されるだけだ)
絵里(そしてそれはこの街だからこその光景だった)
絵里(“アンドロイド隔離都市”であった東京ならではのね…)
千歌「私は……」
千歌「…私はそうは思いません」
絵里「……知ってるわ」
絵里(しかし私たちは人として分類される生き物であるのは確たる事実、涎や汗、かさぶたや流血など人間として体の機能は本物と瓜二つ)
絵里(だから外見も、ましてや深層部にいかない程度の内部でさえ人間と同じなのに、どうして私たちは差別されるのだろうか)
絵里(子供だって作れるし、リストカットをすればちゃんと死ぬ。機械としてのトラブルはもちろんあるけど痛みだって感じれるし、病気だってちゃんとある)
絵里(なのに…なのに…!)
絵里(どうして私たちはこんなにも低く見られるのかしら…)
「おまたせ」
千歌「ん?あ、真姫ちゃん!」
絵里「こんにちは真姫、随分と遅かったわね」
真姫「ごめんなさいね、授業が長引いたの」
千歌「ううん!全然大丈夫!」
絵里「そう、大変ね」
真姫「まぁね」
絵里(…しかしまぁ例外ももちろんある、この子は真姫。識別番号は――って真姫にはないんだったわ)
絵里(真姫は識別番号がない正真正銘の人間、人間にも私たちロボットを見下すことなく平等な立場で接してくれる人がいる。それが真姫なのよ)
真姫「二人は大丈夫?」
絵里「ええ、まあ」
千歌「えへへ、大丈夫だよ」
絵里(何が大丈夫かって?そんなのアンドロイドだからいじめられたりしてない?っていう隠語なのよ、不幸中の幸いというべきなのかしら、私の顔つきや体はほぼ完璧と言ってもいいほどに整ってた)
絵里(アンドロイドとはいえど顔や体の良し悪しはもちろん存在してて、その中でも私は大当たりを引いたのだと思う)
絵里(だからこそいじめはないし、むしろ学校じゃ憧れの存在だったりする)
真姫「そう、ならいいけど」チューチュー
絵里「随分とオシャレなもの持ってきてるじゃない」
真姫「あぁこれ?今話題のジュースショップで買ってきたのよ、オレンジジュース」
千歌「オレンジジュース!?うわー!私も飲みたい!」キラキラ
真姫「……飲む?」
千歌「飲むー!」チューチュー
絵里「あはは…全部飲まないようにね」
千歌「うんうん!」
真姫「ふふふっ」
絵里「ごめんなさいね、私の可愛い可愛い後輩が」
真姫「いいのよ、というか私も…その…絵里の可愛い可愛い後輩のはず…なんだけど?」
絵里「ふふっそうね」クスッ
真姫「笑わないで!」
真姫「…というか絵里の食べてるものも随分とオシャレね」
絵里「あぁなんか無性にタンパク質を摂取したくてね、つまりはお肉が食べたかったのよ」
真姫「それでステーキを選んだと」
絵里「そうそう、私このステーキを食べる時のナイフとフォークを使う上品な感じが好きなの」
千歌「えー私はばばっとすぐに食べたいなー」
真姫「千歌はそんな感じよね」クスッ
千歌「あー!今私の事バカにしたでしょー!」
絵里「ふふふっ」クスクス
絵里(学校という場所は外の世界とは違って意外にも快適なの、私を人間と並べて見てくれる人間はたくさんいるし居心地がすごくいい)
「あの子、ロボットと仲良くしちゃって…」クスクス
「ただのロボット相手に何を思ってるんだか」
真姫「!」
千歌「!」
絵里「………」
絵里(……ただ、正義がいるなら悪がいるのもまた当然。平等は不平等という言葉と一緒に生まれたのよね、この学校にも私をただのモノとしか見ていない人も少なくはない)
絵里(そして何故か、白羽の矢は私に立つのではなくアンドロイドと関わった真姫が標的になる。アンドロイドがモノという固定概念があるせいか、今度はそんなモノとおしゃべりしてる人間がおかしいと思われるみたい)
絵里(だからこそ、こんなアンドロイドとして生まれた私に腹が立つし、下等な存在だと見下されただけではなく真姫にまで被害が及ぶ理不尽さにも怒り心頭だった)
真姫「いいわよ、気にしないで」
千歌「ご、ごめん」
真姫「だからいいって」
「あら、ごめんなさい。もしかして可愛い可愛いロボットちゃんを傷つけちゃった?」クスクス
真姫「っ…」
絵里(世界にはいるのよ、心無い発言をする人間が)
絵里(そりゃあもちろんそういう人間にも慣性があって、考えがあるのは否定しない)
ダッ
千歌「絵里さん!?」
真姫「何やってるのよ!?」
「っ!どうなっても知らないからっ!」
絵里(…ただ、それを私が受け止められるかはまた別の話だ)
バァン!
絵里(響く銃声、銃弾は私たちの後ろのテーブルで火花を散らして床へ落ちてゆく。この世界なんてゴミ溜め同然、既に道徳的退廃を迎えてる世界に救いようなどなくて、つまり私も退廃を迎えてるのよ)
『射線確認。推測距離3メートル、目的へ無傷で到達出来る可能性…』
タッ
『100パーセント』
絵里(彼女の言葉を聞いてる最中にもう体は動き出してた、怒りは私を動かす理由へと変わっていく、ダメだと分かっていてもやはり機械の体は言うことを効かないものなの)
絵里(……ううん、別に、機械の体じゃなくて私は動くのだろうけど)
真姫「絵里!今すぐにでもいいから止まって!」
絵里(地面を蹴って素早い跳躍で相手に近づいていく。それに反応した相手は懐からM1911――――いわば拳銃と聞いて誰もが想像するような外見と性能をした標準的な拳銃を出して私に向けて発砲した)
絵里「ふっ!」
絵里(そして私は机を利用して回避する、ここの机は銃弾さえ弾くものだから机を遮蔽物として扱えば拳銃程度怖くもない)
絵里(世の中便利なモノが多いのよね、アンドロイドもそうだし今は科学の力でいくらでも魔法の応用ができる)
絵里(…ただ、ここみたいに拳銃が使いにくいフィールドなら拳銃は便利とは言えないの)
千歌「絵里さんっ!」
タッタッタッ!
「……っ!」
絵里(拳銃は弱点がありフィールドによって強弱が左右される、しかしさっきからずっと持っていたこのナイフはどこのフィールドでも同じ戦果を出し人間相手に私を裏切ることはない)
絵里(回避に専念し散々撃たせてリロードをさせたら後の祭り。机を飛び越え、床を強く蹴って相手との距離を一瞬にして詰めた)
絵里「今ここで死になさい」
絵里(そして姿勢を低くしナイフを片手に相手の喉元に――――)
「……ぁ」
絵里「…これに懲りたら見境も無く人をバカにすることはやめることね」
絵里(――突き付けて警告をした。いくら怒ってるとはいえ殺すなんてそこまで殺戮に飢えてるわけじゃない)
絵里(相手は拳銃を地面に落として戦意喪失しているのを見て私は静かに真姫と千歌のところへ戻った)
絵里「ふう」
真姫「絵里…別にそこまでしなくてもよかったのに…」
千歌「そ、そうですよ」
絵里「いいの、今咎めておくべきだと思ったから」
千歌「んあははは…にしてもやっぱり絵里さんはすごいや、あんな動き出来ないよ」
真姫「ホント、見てて惚れ惚れするわ」
絵里「んーあはは、自分でもなんであんな動きが出来るのかよく分からないのよね」
千歌「銃弾を回避する術とか距離を詰める業とかホントにすごい!私もあんなかっこいい動きしたいなぁ…」
真姫「千歌じゃ無理ね」クスッ
千歌「あ、酷い!」
絵里「……銃弾を回避する術か」
絵里(この世界では銃火器を持ってる人が普通にいる)
絵里(だからといって全員が持ってるわけではないの、護身用とかそんな軽い感覚で持てるものではなくてちゃんと訓練やらをして資格を持ってる人じゃないと持てないの)
絵里(まぁ警官とかいるじゃない?そういう類の人間なのよ、今みたいに銃を持ってる人間というのは)
絵里(…それと或いは……)
千歌「絵里さんは何かやってたんですか?武術とか」
絵里「んー特にそういうのは」
真姫「じゃあ生まれつきであんな動きが出来たってこと?」
絵里「そうねなのかしら……でも私は標準型のアンドロイドだから戦闘特化の機能は搭載されてないはずなのよね…」
真姫「まぁ確かに…」
絵里(アンドロイドというのは大きく分けて種類が三つある、一つは私や千歌みたいな標準型、つまりは人間として生まれたアンドロイド。これが造られた意図は少子化対策——並んで人口の増加だ、そしていざ戦争などの大きな戦いが起こった時に歩兵として使う貯金でもある)
絵里(二つ目は仕事などをする業務用アンドロイド、これに関して言えばこれはアンドロイドというよりかは単なるロボットでしかない。これは同じロボットの私からしてもそれ以上のない発展性の無いモノだ)
絵里(何故ならそのアンドロイドは人であるのは変わりないけど、頭の中にあることは全てその仕事に関することだから。自己学習機能は搭載されてはいるけど自立型ではない為に仕事だけをこなすちょっと可哀想なロボットね)
絵里(そして三つ目、それは――――)
「面白いことしてるね」
千歌「あ、果南ちゃん!」
果南「ふふふっ相変わらず絵里の動きは凄まじいね」
絵里「果南…見てたの?」
果南「そりゃあ戦いの匂いでやってくるのが私だから♪」
絵里「…そうだったわね」
絵里(三つ目、それは戦うことに特化した戦闘型アンドロイドで、今私の目の前にいる果南がそれに該当する)
絵里(このアンドロイドは運動神経や頭の良さなどの能力値が高く、またほとんどの戦闘型アンドロイドが親を必要としない自立型である為に学習能力が非常に高い。そして私たち標準型と比べて耳が良い為物音に敏感で、銃声や剣撃の音などに反応してやってくる平和を守るヒーロー兼バーサーカーのようなアンドロイドね)
真姫「それであんたは何しに来たの?」
果南「あんた呼ばわりは納得いかないけどまぁいっか、別に何かしに来たわけじゃないよ、銃声がしたからやってきたけどもう解決してたみたいだし」
絵里「ごめんなさいね、果南の大好きなバトルを奪っちゃって」
果南「あはは、全然いいよ」
千歌「今お昼食べてたんだけど果南ちゃんもどう?」
果南「うんっじゃあご一緒させてもらおうかな」
絵里(基本的に街にいるのは標準型のアンドロイドなんだけど、たまに混ざってるの、戦闘型アンドロイドがね)
絵里(戦闘型アンドロイドは元より戦闘をする為に生まれたアンドロイドだから、人生において必ず自己防衛について努める時期があるの、そこでほとんどの戦闘型アンドロイドは“自分だけの武器”を確立させるの)
絵里(だからこの都市で銃火器を持ってるのは警官の類だけではなく)
絵里(戦闘型アンドロイドも銃火器を持っているの)
千歌「んー!ここの料理はやっぱりおいしい!」
絵里「あ、それ私のお肉!」
千歌「えへへ、なんかもう見てたら手が動いてて…」
果南「ご飯くらい自分で頼もうよ」アハハ
真姫「ホントね…」
千歌「えへへっ」
絵里(…と、まぁいざこざあっても何事もなかったかのように時は動き出す。銃声が響けば悲鳴の一つ二つはもちろんあるけど、見慣れてる人もいるくらいには危ない場所でもある)
絵里(私は気性が荒いもので怒り任せに戦いを仕掛けることはよくあるけど、私は他のアンドロイドと比べてかなり性能が良かったみたいで思ったように動けてる)
絵里(それ故か、私は本当に学校じゃ有名なの。それはいい意味でも悪い意味でも)
果南「こうして絵里ファンクラブの一ページが刻まれたわけだね」
絵里「か、からかわないでっ」
千歌「そりゃああんな絵里さんみたいな美人があんなかっこいい動きしたらファンも出来ますって!」
真姫「まぁ…ね」
絵里「別にファンを作りたくてあんなことしてるわけじゃないんだけどね」アハハ
絵里(まぁ、こんなことしててファンが増える一方なのはある意味でいえば平和な証拠なのかもしれない)
絵里(しかし色んな意味で変わった世の中よね、何かある度に私はそう思うばかりだわ)
スタスタスタ
「絵里」
絵里「!」
絵里「善子…どうしたの?」
絵里(お昼休みが終わり教室へと戻る際、見知った顔から声をかけられた)
善子「見た?あいつのこと」
絵里「……ええ、見たわ」
善子「…どう思った?」
絵里「もう知らないわ、あんなやつ」
善子「それ、本気で言ってる?」
絵里「触らぬ神に祟りなしって言うでしょ?無視が一番なのよ」
善子「…私はそうは思わない」
絵里「……知ってる」
絵里(こんなやりとりをさっきもやった気がする、アンドロイド同士の話はどうもいつも暗くて重い)
善子「私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの」
善子「戦いは戦った分の傷を生み、罪を作る。私はそれが嫌いなの」
絵里「………」
善子「でも、正直今は人々が戦う意味も理由も分かる気がする。戦って変わるものがあるのなら、傷も罪も増えようとも戦うことを厭わない私になれる気がする」
絵里「………」
絵里(この子が何を言ってるのか理解出来てない人がほとんどだろう、当然よ。だって理解出来るのはアンドロイドだけだもの)
絵里(人間にも個人的に嫌いだとかで出来る敵がいるけど、アンドロイドにも同じように敵がいるのよ)
絵里「…じゃあ何?善子は」
絵里「小原鞠莉と殺し合いでもするの?」
善子「………」
絵里「勝ち目なんてないわよ、それを一番分かってるのは戦闘型アンドロイドである善子のはずだけど」
絵里(小原鞠莉――――それは私たちアンドロイドを造った生みの親、つまり私たちの母と言ってもいい人)
絵里(…まぁ母とはいっても私と鞠莉は“ある意味”同年齢、しかも通ってる学校まで同じの案外身近な存在だったりする)
絵里(しかしそれは返ってマイナスな事でしかなかった、何故ならそれは……)
善子「…ならどうしろっていうの!?」
善子「あんなやつ生かしておけるわけないじゃない!?」
善子「私たちを作ったくせに私たちが低く見られる原因を作ったのがあいつだなんて、それだけでも憎いのに今でも低く見られる原因を作り続けてるのは何!?なんで私たちを生んだの!?」
絵里「……所詮造られた命なのよ、むしろ今こうやって自由の場を設けてもらってるだけでも感謝すべきなのかもしれないわ」
善子「…堕天使って何なのよ、私の頭にインプットされてるこの堕天使っていう記憶は何なのよ……」
絵里「………」
絵里(鞠莉は私たちを道具として造った、それ故か鞠莉は私たちの事を道具と公言し続ける一方で、それなら私たちに心を与えなければよかったのにわざわざ心を与える鞠莉の残忍さは多くのアンドロイドを敵に回す原因となっている)
絵里(しかし鞠莉は弱冠12歳にしてアンドロイドを作り上げた天才、そんな鞠莉を殺すには警備が厚く鞠莉自身も戦闘経験が豊富という噂から反旗を翻すアンドロイドはほとんどいない)
絵里(だから私たちはずっといじめに似た何かを受けながら生活していくのかもしれない)
絵里「仮に叛逆するにしても、今はまだ早いと思うの」
絵里「だからもうちょっと穏やかに行きましょう?」
善子「……怖いだけのくせに!」ダッ
絵里「あ、ちょっと!」
絵里(この事をあまり大事にはしたくない、だからなだらかに話を収めようしたけど善子は私に心に刺さる銃弾のようなものを放って走り去っていった)
絵里「…別に怖くなんかないもん」
絵里(怖くないっていったウソになるけど、私にだって覚悟や考えはある)
絵里(だけどそれが銃弾に変わるのはいつなのかしら)
~家
絵里「…はぁ」
絵里(今日も悪い意味で濃い一日だった)
絵里(私の周りで何か起きては毎日何かについて考えさせられる、今日考えたのは小原鞠莉の事とアンドロイドの存在意義)
絵里「……むー」
絵里(でも、そんなことを考えて気分がよくなるはずもなくベッドの枕に顔を埋めて頭を真っ白にさせた)
絵里(今日の事を振り返ればこの世界のことが分からない人でも多少は理解してもらえるんじゃないかしら、人間とアンドロイドが歪な形を成して共存する世界で、物騒な世界。ただそれだけの世界)
絵里(こんなどうしようもない世界で私は生きていく)
絵里(ここで必要なのは物理的強さなんじゃなくて、相手を理解する気持ちと非情を受け止める気持ち。心を広く持っていかないと多分精神はすぐに壊れちゃうから)
トントン
「お姉ちゃーん、ご飯だよー」
絵里「あ、はーい。今いくわね」
「はーい」
絵里(扉の外から聞こえる心地の良い声、その声の正体は紛れもない私の妹――――)
ガチャッ
絵里「あ、待って」
絵里「亜里沙」
亜里沙「ん?どうしたの?」
ギュッ
絵里「…やっぱり亜里沙は抱き心地最高ね、ハラショーよ」
絵里(亜里沙は私の妹として造られた識別番号A-0613の戦闘型アンドロイドで、この退廃的世界の癒しでもある)
亜里沙「お姉ちゃん…また何かあったの?」
絵里「ううん何もないわ、ちょっと亜里沙に抱き着きたくなっただけ」
絵里(ご飯を作ってくれたりお風呂を沸かしてくれたりですごく出来る自慢の妹なんだけど、中学三年生ということもあって純粋でまだまだ可愛いお年頃だから私が守っていかないといけない)
絵里(だから日々、理不尽なことが起こったとしても亜里沙がいるから生きていられるといっても過言じゃないの)
亜里沙「そっか、まぁとりあえずご飯出来てるからいこう?」
絵里「ええ、そうね」
絵里(亜里沙は可愛いし、千歌は元気をくれるし、真姫はいい相談相手になってくれたりで充実してるところはたくさんあるけどやっぱり明日という日は憂鬱で仕方がない)
絵里(もし武力で世界を変えられるというのなら、今頃はどういう世界になってたのかしら)
絵里(人間とアンドロイドが気持ち的な意味で上下が無くなったとしても、立場上アンドロイドは人間の手中にあることを否めない)
絵里(死は救済ってよく言うけど、今の私にはそれがよく分からない。例えこんなゴミ溜めの世界だとしてもそこは分からないままで、もし答えが見つかるというのなら今すぐにでも私の胸を撃ち抜いてほしい)
絵里(見つかるのなら、だけどね…)
ザワザワザワザワ
絵里「…何?」
絵里(憂鬱であった次の日、それは登校してる最中の時で特に意識せずとも人だかりが目に留まって私も通行人と同じよう足を止めた)
絵里「ちょっとすいません、すいませんどいてください」
絵里(みんなが注目するものが気になるのは心を持つ者の性よね、人混みをくぐりぬけてその中心部に辿り着けばすぐに人混みの答えは現れた)
「ふふふっ人間のクセに生意気だね♪あなた」
絵里「なにあれ…」
絵里(見えるのは私と同じ女子高校くらいの女の子がスーツを着た中年男性の顔を踏み潰してるところ、どういう経緯でああなったのかは分からないけど傍から見て普通ではなかった)
絵里(地面に血が浸蝕してるのを見て殴ったり蹴ったりしたんだなっていうのが容易に想像できる、しかし何故こういう事態になったかはよく分からない)
「ほらほらっ♪これが欲しかったんでしょ?」
絵里「っ!何をやってるの!やめなさい!」ダッ
絵里(顔を踏みつける足の力が強くなったのを確認してすぐ行動を起こした、若干人の影に隠れながら見てたけど“行かなきゃ”と思った瞬間には目の前の人なんか気にする暇もなく押しのけ今も顔を踏みつけている彼女の元へ向かった)
「ん?あ、はぁ…♪私に挑んでくる人がいるなんて…♪」
絵里(ただ、向かっただけじゃない。彼女の暴力的行為を止めるべく格闘術で止めようとした)
タッタッタッ!
絵里「はぁっ!」
絵里(接近するスピードはおそらく最速、姿勢を低くして彼女のお腹に掌底を打ち込もうとした)
「ふっ」
絵里「っ!」
絵里(だけどどういうわけか彼女はお腹に掌底が打ち込まれるギリギリで反応をし、私の手首を掴んで見事に止めてみせた)
「強くてごめんねっ!」
絵里「まずっ…!」
絵里(掴まれた私は一方的な展開を迎えることを強いられた。強く手首を引っ張られ仕返しと言わんばかりに私のお腹に彼女の跳び膝蹴りがヒット)
絵里「がっ…!」
「ふふふっ今のは加減間違えちゃったかも~ごめんね?」
絵里「っあ……くそ…っ」
「汚い言葉使っちゃダメだよ?女の子なんだから♪」
絵里「別に使ったつもりはないわ…っ、とにかくその男の人を踏みつけるのをやめなさい」
絵里(膝蹴りをされた私は後方へと吹っ飛び地面に叩きつけられる、この時の痛さといったらアンドロイド特有のもので吹き飛ばされた後すぐに起き上がることは出来たけど、常人の蹴りが人を吹っ飛ばせるわけもなく……)
絵里「…戦闘型アンドロイド」
「あれ?今更気付いたの?てっきり気付いて挑んできてくれたと思ったんだけど」
絵里「……ごめんなさいね、敵も把握できないようなバカで」
「あははっそんなこと言ってないよぉ」
「…それでどうする?まだやる?お腹痛かったら帰ってもいいよ?」
絵里「…いいや、やりましょうか」
絵里「負けたままじゃ終われないからね」
「…あはっ面白いこと言うんだね、あなた」
絵里「何か変なことでもいったかしら?」
「私に勝つなんて無理だよぉ、第一あなたは標準型だよ?標準型が戦闘型に勝つのは別にありえないことじゃないけど、標準型が私相手に勝つのは無理かなぁ」
絵里「…やってみなきゃわからないでしょ」
「うんうんっでもやっても結果は変わらないと思うけどね」
絵里「…どうかしらねっ!」ダッ
絵里(相手である彼女に向かって突っ走った、そうして蹴りが届く位置にまでいけばすかさず回し蹴りを頭狙いで炸裂させた)
「甘いかな」
絵里(そして彼女はそれを片腕でガード、威力はそこそこあったはずなんだけどそれを軽々しくガードしてるのを見るに余裕なんだなと思う)
絵里「ふっ、せやあッ!」
絵里(しかし受け止めるのは予想済み、受け止められたのを確認して私はすぐにもう片方の足を使って後ろ回し蹴りをした)
「うっ、くっ…!」
絵里(これに対して彼女は腕をクロスさせてガードしたけど、流石に私の蹴りもやわなものじゃないから余裕で受け止めるのは無理なようで、その証拠に顔は少し力んでた)
絵里(また、そんな私の攻撃を受けて流石に遊んでられないと感じたのか彼女は凄まじくキレのよい中国拳法のような肘打ちから体を逆さに横回転させてもう一回肘打ち、そして空中で回し蹴りと格闘ゲームのコンボのような連続攻撃をしてきて、それに対して私は受け流すことを選んだけど、素早い行動故にことりの連続攻撃から離れるのは無理だった)
「これでっ!」
絵里「っ!?」
絵里(そして今までのまだ序の口、彼女の着てるカーディガンの裏から出てきたのは不思議な形をした拳銃で、何はともあれあんなのを直で食らえば死んだも同然だった)
「しんじゃえっ!」
絵里「まだっ…!」
絵里(向けられた銃口の方向から外れる為回避をしようとしたけど、私の瞳があの銃口から放たれる弾を避けられる確率を3%と示していた)
絵里「なんで…!?」
絵里(拳銃を手に持って構えるまでの時間はおよそ二秒、その間で私は射線から外れたというのに何故私の瞳は死を悟ってるのだろう)
「ふっ…照準型には今見えてる光景の意味が分からないだろうねっ!」
果南「諦めるにはまだ早いんじゃないかな?」
「!」
絵里「!」
絵里(次の瞬間に聞こえてきたのは果南の声――――ではなくて銃声が先だった)
絵里(銃声がした瞬間、私の目の前では火花を散らせて相手の持っていた拳銃が吹っ飛んだ)
絵里(銃弾の飛んできた方向を見れば拳銃を片手で構える果南の姿があって、そこで初めて果南が相手の持つ拳銃を狙撃したことを理解した)
果南「戦いの音がするから来てみれば絵里がいるなんて」
果南「それに……」
果南「あの南ことりまでいるなんてね」
絵里「南ことり…?」
ことり「へー私の事知ってるんだね」
果南「そりゃあ戦闘型アンドロイドなら知らない方が珍しいくらいだからね」
ことり「ふーん…あなたも戦闘型アンドロイドなんだ」
果南「随分と殺意の高いモノを持ってるんだね、その拳銃」
ことり「私のお気に入り♪」
果南「趣味悪いね…」
絵里「果南、こいつは…」
果南「南ことり、識別番号はA-82のかなり初期に造られた戦闘型アンドロイドだね」
絵里「初期型…!」
ことり「多分設定上あなたたちより年下だけど、戦闘経験はあなたたちの倍はあるかなぁ」
果南「そうだね、ことりの持ってるその銃はタウルス・ジャッジっていう拳銃で、トリガーを引くと散弾が出るんだ。だから絵里は回避がほぼ不可能だった」
絵里「そういうこと…」
果南「後、さっき見た感じあなた中国拳法知ってるでしょ?それに指の形までそれぞれちゃんと決まっててほぼ完璧と言ってもいい身のこなし」
ことり「あはっよく見てるんだね」
果南「私、眼がいいって言われてるから」
ことり「そっかぁ、それであなたたちは私を――――んん、ことりをどうしたいの?」
絵里「…なんで一人称は変えたの?」
ことり「えへっだってそれはぁ…」
ことり「モードの切り替えの為だからだよっ!!」ドドドド
絵里「なっ…!」
果南「させるかっ!」
絵里(ことりが喋りだした瞬間、背中にかけてあったアサルトライフルで私たちに発砲してきた。アンドロイドだから可能であった反射神経で初弾と二発目を回避したところで果南がことりへ向かって発砲した)
ことり「はっ」
絵里(ことりはそれに対して地面を蹴り、右側へ跳躍して回避を行いながら再び発砲をして攻撃に転じた)
果南「遮蔽物を上手く使って!」
絵里「分かってる!」
絵里(その一瞬で私たちは木やらイスやらを使ってなんとか回避する、もう野次を飛ばしていた通行人も周りにはいない。私たち三人だけのフィールドになった)
ことり「ちっ…こんな時に…!」
果南「絵里!今のうちに逃げよう!」
絵里「言われなくても!」
ことり「させない!」ブンッ!
絵里(弾の切れ目が命の切れ目とはよく言ったもの、ことりがリロードをするタイミングで私たちはことりから見た死角へと走り出したけど、そんな逃げる私たちを逃さないとことりはナイフを投げつけてきた)
果南「はっ!」
カンッ!
絵里「や、やるわね…」
果南「ふふふ、私拳銃は使えないけどこの拳銃だけは扱えるんだよね」
絵里(そんな投げナイフに向かって果南は発砲し、見事にヒット。ナイフは別方向へ吹っ飛んでいった)
ことり「なにあの子…!」
絵里「とりあえず一安心ね…」
果南「そんなわけないじゃん、ことりは執念深いって聞くから追ってくるよ」
絵里「えっじゃあ逃げないと」
果南「はい、これ」
絵里「えっ…なにこれ」
果南「デザートイーグルだよ、私が唯一使える拳銃」
絵里「これを私に渡して何のつもり?」
ことり「そこに隠れてるのは分かってるよー」
果南「逃げるのは絵里だけだよ、私はことりと戦う」
果南「もしことりや他の誰かに襲われたらその拳銃を使ってよ、でも反動が大きいから連射すると肩外れるよ」
絵里「いや、果南が残るなら私も残るわ。あいつに恨みはないけど私だけ逃げるなんてそんなのやだわ」
果南「ダメ」
絵里「いや私もダ」
果南「絵里は逃げてッ!!」
絵里「!?」
果南「ことりは強い、私の眼がそう言ってる」
絵里「舐めないで、私だって戦闘に自信はあるわ」
果南「生半可な戦闘経験は死を生むだけだよ、とにかく逃げて」
絵里「イヤよ、このまま逃げてカッコ悪いままなんかより果敢に挑んでカッコよく死んだ方が私はマシ」
絵里(何回も逃げろと警告はされたけど私だけ逃げるなんてそんなのは私のプライドが許さない、元はといえば自分から売った喧嘩を人になんか任せたくない)
果南「そっか」
絵里「…?ええ」
絵里(しかし果南は突然何かを悟ったような態度をし始めて淡々と鞄に入ってた銃を取り出した)
果南「ふんっ!」
絵里「かっ…ぁ…!?」
絵里(そして次の瞬間、果南は長めの銃――おそらくアサルトライフルであろう銃を使って私のお腹を殴ってきた)
絵里「な…んで…!?」
果南「ことりと戦ったらどうせ傷は出来る、なら今私が代わりに傷を与えとくからここで寝ときなよ」
果南「絵里は今戦うべきじゃない」
絵里「ふざ…っけ…かはっ…な……い…でっ」
果南「じゃあね」
スタスタスタ
絵里「ま…て」
絵里(突然の裏切りと言ってもいいほどに唐突で、果南の銃を使った打撃は激痛を通り越して死に至る痛みでもあった。銃という名の鈍器を使ったからね、横になっても目を瞑っても痛みは消えなかった)
絵里「…ぁ…なん」
絵里(諦めきれない思いと、果南への怒りが痛みを超えて私の意識を覚醒させてくる)
絵里(だけどすぐに視界は真っ暗になった。次の瞬間には意識も無かったかしら、流石戦闘型アンドロイドはパワーが強すぎた)
絵里(私はことりと戦う前に、果南に敗北した)
「ねえ、起きてる?」
絵里「ん……」
絵里(私が倒れてどのくらいが経ったのかしら、今私がどこにいるのかも、どういう体勢を取ってるのかも、目を開けてるのか開けてないのかすら分からないけど声が聞こえた)
絵里「誰?」
絵里(生きてる心地さえしてないけど、声は出せた。今私の中の世界にあるのは声という音だけだった)
「気付いたら私もここにいたの」
絵里「…?どういうこと?」
「アンドロイドの異常なのかしら」
「私はあなたの心の中で生まれたもう一人のあなた…と言えばいいかしら?」
絵里「…は?」
「私もよく分からないのよ、でも私はあなた、あなたは私…それだけは分かるの」
絵里「………」
絵里(何なのかしらこれは、言ってることはとにかく意味不明、だけど聞こえてくる声は紛れもない私の声だった)
「今あなたは意識を失ってる状態にある、だからあなたは私と会話が出来るの」
絵里「ちょっと待って、なんで私の状態が分かるの?」
「それは私があなただからよ、システムの異常であなたのデータにいる私と考えて」
絵里「えぇ…」
えりち「…後、あなたも私もいっちゃえば絵里だし私はえりちってことでどう?」
絵里「え、えりち?」
えりち「ええ、可愛い名前でしょ?これで私とあなたの差別化が出来るじゃない」フフフッ
絵里「そ、そうね…」
絵里(もし仮にこの相手が私だとしたら、“えりち”ってネーミングセンスには絶望しそうになる。私ってこんな人なのかしら…)
絵里「それでそんな私が何の用?」
えりち「別に用はないわよ、というかさっき私という自分がいることに気付いたんだから用もへちまもないわよ」
絵里「…そうね」
えりち「とりあえずあなたの中に私がいるってこと、覚えておいてね。またあなたが意識を失った時は多分逢うと思う」
絵里「……気持ち悪い」
えりち「やめてよ、相手は私なのよ?」
絵里「相手が私だからこそよ…」
絵里(絵里、という私はこういう人物なのかと少し考えさせられた。しかし相手が私でも私ではない――何を言ってるのか分からないと思うけど言ってることは間違ってないはず)
絵里(まぁ、何はともあれこの相手の事が理解出来たとしても“えりち”っていうネーミングセンスだけは納得いかない)
絵里「…!なんか視界が段々明るくなってる…?」
えりち「意識が戻ってるのよ、絵里の状態も異常から正常に戻ってる。だからここで私とは一時のお別れね、次いつ逢うのかは分からないけど」
絵里「そう…よく分からないけどありがとう」
えりち「いいわよ、また逢った時はたくさんお話しましょう」
絵里「…余裕があったらね」
えりち「了解よ♪」
絵里「………」
絵里(機嫌が良さそうな私の声を聞くのは何とも複雑な気持ち、目の前が真っ白になった自覚を持つとようやく体の感覚が戻ってきた)
絵里「…ん、く…」
千歌「絵里さんっ!」ギューッ
絵里「わっ」
絵里(目がやっと半分開いた頃、突然として包容は私を弄ぶ)
絵里(目が覚めたらここはどこ?周りを見渡す限りそれは見慣れた保健室だった)
真姫「よかった…絵里が運ばれたなんて聞いてビックリしたわよ」
絵里「あぁ…いや…」
絵里(果南にやられた、と言おうとしたけどよくよく考えれば果南のことをいって面倒な事になっても困るし喉にまで上がった言葉をギリギリで止めた)
絵里「私はなんでここに?」
真姫「対アンドロイド特殊部隊の一人が近くにいたみたいで、その人が絵里をここまで運んできたのよ」
絵里「対アンドロイド特殊部隊?そんなのがあるの?」
真姫「ええ、あるらしいわ」
絵里「へえ…」
絵里「その人は今どこに?」
真姫「もう帰っちゃったわ、仕事があるとかで」
絵里「そ、そう」
絵里(そんな部隊があるのね、と不思議に思ったけどそりゃあアンドロイドに対抗する手段はいくつも必要よね、しかしどういう人がいるのかしら、対アンドロイド特殊部隊って)
絵里「…!果南は!?」
真姫「…病院に送られたわ」
絵里「どうして!?」
千歌「…撃たれた」
絵里「ど、どこを?」
真姫「肩を撃たれたらしいわ、死には至らなかったけどそれでもダメージは大きいと思う」
絵里「肩か…」
絵里(果南が負けるなんて私にとっては信じられなかった)
絵里(果南は私の周りにいる人物の中なら間違いなく最強だった、しかしそんな最強は私が思ってる以上に案外脆い最強だったのかもしれない)
真姫「…でも、果南はいい方よ」
絵里「どういうこと?」
真姫「問題は果南と戦ってた相手よ、相手は左肩、左足、右の横っ腹…」
真姫「そして胸を撃ち抜かれた」
絵里「…!それって…!」
真姫「…ええ、果南が撃ち抜いたんでしょうね」
真姫「胸を貫いても相手はアンドロイドらしいから死にはしないけど、損傷はかなりのものよ」
絵里「胸は私たちアンドロイドの心を保管する大切な場所だもの…それが欠けつつあるということは…」
真姫「果南の相手をしたアンドロイド…感情に乏しい部分が出てくるかもしれないわね」
絵里「………」
絵里(戦いで失うモノはたくさんある)
絵里(一番多く減るのは命――でも、大体それは人間が絡むことが多い)
絵里(人間同士が戦えば失われるものは命だけど、アンドロイド同士が戦えば話はまた変わってくる)
絵里(アンドロイドも人間と同じで、命はたった一つしかないの)
絵里(だけど、アンドロイドの命は人間の命より繊細なのよ)
絵里(人間みたいに命と心が同義ではないので胸を撃たれても死なない、心臓は存在してないから)
絵里(…いや、心臓はある。だけどそれは心臓とは言わないの、記憶保存領域である頭を撃ち抜けば私たちは死ぬ)
絵里(ただ待って、私たちはその死でさえ人間とは意味が違う)
絵里(死ぬのは私たちの記憶と意識、体は直せばまた動くでしょう。でも再度動いたところで私たちはそこにはいない、もう別の誰かが私たちの体に住み着いてるだろうから)
絵里(だから今回みたいに感情を保存する心が欠ければそれは修復不可能になる、今回の戦いで南ことりは確実に何かを失った)
絵里(それは何なのか、いずれにせよ人間なんかより失うモノはアンドロイドの方が断然多いの)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、酸いも甘いも最後は惨劇でしかない)
絵里(何故なら戦って手に入れたものがあったとしても、失ったものの数に勝ることはないからよ)
千歌「…近々果南ちゃんのお見舞いにいこっか」
絵里「……行っても平気なの?」
真姫「大丈夫よ、私の病院だし」
絵里「そう…なら近々行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(保健室の空気は重かった、理由のない戦いに意味などない――今回の戦いで得たものがないというに果南は何の為に戦ったのだろう。あの状況なら逃げてもよかったのに、私にはよく分からない)
スタスタスタ
絵里「……はぁ」
絵里(私の傷は果南やことりと比べれば浅すぎるものだった、故に私は目が覚めてからは普通に授業を受けることにした。真姫や千歌には何度もやめろって言われたけど、別に問題ないしやるって言って押し通した)
「南ことりと戦ったそうね」
絵里「!」
絵里(そうして廊下は歩く最中、後ろから忌々しい声が聞こえた)
絵里「……ええ、そうよ」
「ことりは手強かったでしょうに、戦闘型アンドロイドの中でも特にActiveなやつだからね、ことりって」
絵里「…そんなことはどうでもいいわ、それよりあなたが何の用?」
絵里「小原鞠莉」
鞠莉「ふふふっことりとbattleしたのに随分と余裕そうね、傷が一つもない」
絵里「私は果南に気絶させられた、それだけの話よ」
鞠莉「そう」
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(こんなやつとなんか話しても時間の無駄、声を聞くだけでも頭がおかしくなりそうだわ)
鞠莉「wait!もちろん用無しで来たわけじゃないわ」
絵里「…何?」
鞠莉「はい、これ」
絵里「…何、これ?」
絵里(突然近づいて懐から出したのは一つの拳銃、それを私に渡してきた)
鞠莉「PR-15って言うの、私なりにCustomizeしといたから是非使って」
絵里「…何のつもり?」
絵里(こんなやつから貰い物があるなんてそこだけでも疑う理由はあったけど、鞠莉の警戒の無さが一番ひっかかった)
絵里(鞠莉の心拍数は通常と全然変わってないし無理矢理渡されてから拳銃をまじまじと見れば弾が既に入ってる。それなのに鞠莉はニコニコとしてる)
鞠莉「あなたにも武器は必要でしょ?今回みたいにことりと戦うなんてことになった時、銃が無ければ負けはほぼ確実よ、それを一番分かってるのは今日ことりと戦ったあなたでしょう?」
絵里「………」
鞠莉「とりあえずそれは貰って。別に捨ててもいいわよ、あなたの為に作った物を今更返されてもどの道ゴミ箱行きだから」
鞠莉「それじゃあね」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(返す言葉が無かった、それは鞠莉の言うことが正論でもあって、今の鞠莉相手に何を言っていいのかがよく分からない)
絵里「PR-15…」
絵里(鞠莉なりにカスタマイズした、と言っていたが確かにみんなの持ってる拳銃とちょっと違うところがある。具体的どこが違うのかと言われれば言葉は詰まるけど、一つ私でも言えることがあるなら拳銃のくせにサイトがあることかしら)
絵里(みんなサイト無しの拳銃を使ってるせいかすごくカッコよく見えたのがとても悔しい)
絵里「……仕方ないわね」
絵里(捨てるにしてもとりあえず今は持っておくことにする、なんであんなやつが私に武器を渡したんだろう)
絵里(しかもご丁寧にカスタマイズまでして何が目的なのかしら…)
~放課後、図書室
真姫「ふーん…あの鞠莉がねぇ」
絵里「どう思う?」
真姫「どう考えても怪しいでしょ、第一なんで今になってそのハンドガンを渡すのよ」
絵里「それが分からないから聞いてるじゃない…」
真姫「私にだって分からないわよ、そんなの」
絵里(時刻は放課後、鞠莉のあの行動にもどかしさを感じる私はあまり人のいない図書室で真姫と話をしてた)
真姫「というかハンドガンってどんなものを貰ったの?」
絵里「これよ、PR-15って言うらしいわ」
真姫「へぇ…いい趣味してるのね、鞠莉って」
絵里「冗談でもあいつを褒めないでよ…」
真姫「ご、ごめんなさい。でも私もこういうスタイリッシュな銃が好きなの」
真姫「茶色を含まないシックな感じがたまらないわ」
絵里「ふーん…」
真姫「でも、性能は良さそうね。生意気にサイトまでつけちゃって」
「ずら~!?」
絵里「っ!?」ピクッ
真姫「!」
絵里(真姫に鞠莉から貰った拳銃を見てもらってたら突然真姫の手元から拳銃が消えた)
「この銃すごいずらー!」
絵里「ちょ、ちょっとそれ奪わないで」
「あ、ごめんなさい…ついこの拳銃が目に留まって…」
絵里「別に良いけど…」
真姫「あなたは…花丸さん?」
花丸「あ、はい!図書委員なのでいつも放課後はここにいるんです」
絵里「なるほど、図書委員なのね」
絵里(突然奪われたのはビックリしたけどあまり悪い子には見えなさそうだからとりあえず許すことにした、縦長のテーブルで真姫の隣にすとんっと座ってPR-15に目をキラキラさせてた)
絵里「ねえ花丸さん」
花丸「はい、なんでしょう?」
絵里「この銃、すごいとか言ってたけど具体的に何がすごいの?」
花丸「それはもうモデルずら!!」
真姫「も、モデル?」
花丸「PR-15――――それはもう弱点無しの高基準なハンドガンずら!反動がそこまで大きくないから連射も出来て装弾数は10発のところをこのPR-15はマガジンを拡張させて15発まで込められて、尚且つドットサイトをつけて狙いやすくした最高に使いやすいハンドガン!」
絵里「へぇ…そんなにすごいの…」
花丸「それにこのロゴはどう見てもオハラモデル…ずら!」
真姫「オハラモデル?」
花丸「あの小原社が作った銃はこのようなロゴがつくずら、これがつくだけでどんな銃も桁が一つ変わると言われるくらいに質感とか、後出来がいいんです!」
花丸「……あ、ごめんなさい。これお返しします」
真姫「ど、どうも」
絵里「なるほど、そんな代物なのね、これ」
真姫「みたいね」
真姫「…どうするの?それ」
絵里「使いやすいらしいし貰っておくわ、確かに相手だけ銃を持ってるのに私だけ銃がないのは分が悪いもの」
真姫「…そう」
花丸「お二人はこういうのをいっぱい持ってるんですか?」
絵里「いえ、私はないわ」
真姫「私も特に。銃はいっぱい持ってるけどオハラモデルとかこだわりはないわ」
花丸「あ、そうなんですか」
絵里「あなた、銃は詳しいの?」
花丸「はいっ!だけど怖くて撃てないずら…」アハハ
絵里「そうなの…それは残念ね」
花丸「はい、ただそれでも銃は大好きなので銃の知識は誰にも負けないつもりずら!」
真姫「へぇ…」
絵里(不本意だったけどこの鞠莉のくれた拳銃の事が知れてよかった、バランスの良い拳銃ならいい武器になってくれそうね)
絵里「今日はありがとう、また来るわね」
花丸「はいっ是非またずら」
絵里「ええ」
絵里(図書委員の子とはよく分からないけど仲良くなれたわ、銃のことなら相当な知識を持ってるみたいだから銃で困ったら図書室へいけばいいのかも)
スタスタスタ
真姫「マガジンは私に任せて、絵里のそのハンドガン用のマガジンを発注してあげるわ」
絵里「いいの?」
真姫「いいわよ、どうせお金なんて有り余ってるし」
絵里「なんか悪いわね…」
真姫「いいわよ別に、その代わり今度なんか奢りなさいよ?絵里イチオシの店でね」
絵里「ふふふっ分かったわ」
絵里(私の周りには優秀な人たちが集まってる、気性が荒くて不器用な私にとってこの奇跡のような集まりは本当に嬉しくて、一人舞い上がってしまいそうだった)
絵里「あ、帰り果南のお見舞い行ってもいい?」
真姫「いいわよ」
絵里「じゃあ千歌を連れていきましょうか」
真姫「いや、多分もう千歌は行ってるわよ。お見舞いに」
絵里「え、そうなの?」
真姫「ええ、図書室に行くとき突っ走ってるのを見たわ」
絵里「そうなの、じゃあ私たちも行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(銃の話が落ち着けば次は果南のお見舞いに行くことが決まった、あの南ことりと戦ったのよ、傷は相当なはず――――)
果南「あ、絵里と真姫、お見舞いにきてくれたの?嬉しいな~♪」
絵里(――だと思ってたんだけど…)
千歌「あ、絵里さんと真姫ちゃん!」
真姫「こんばんは、果南具合はどう?」
果南「うん、ばっちしだよ、特に痛むところもないしいつもと変わりないかな!」
絵里「えぇ…肩を撃たれたのでしょう?」
果南「撃たれたっていってもかすり傷みたいなものだよ、肩はちゃんと動くし痛くないし大丈夫!」
絵里「すごいわね…」
絵里(肩を撃たれたと聞いていたけど全然元気そうで安心した、ことりは相当な傷を負ったみたいだけど果南はこれほどに元気だと流石と思えてくる)
果南「へーあの鞠莉がハンドガンをかー」
絵里「そうなのよ」
千歌「かっこいいー!」
真姫「かっこいいわよね、私も好きだわ」
絵里(今日の朝はあんな大惨事だったというのに、今はこうやって会話に花を咲かせてるのが当たり前すぎて不思議に思わなかった、今は…ね)
絵里(ここにいるみんなはアットホームな関係でありたい人たちだから、常に笑いがあって退屈しないものだった)
絵里(だからこそ今みたいな状況から一転する時は、空気の違いがよく分かった)
ガララ
絵里「!」
千歌「!」
「こんばんは、ここが松浦果南さんのお部屋ですか?」
「ふーん、あんたが松浦果南ね」
絵里「あなたは…」
海未「こんばんは、私は対アンドロイド特殊部隊の指揮を務めています、園田海未と申します」
にこ「同じく矢澤にこよ」
果南「…対アンドロイド特殊部隊のお二人が私に何の用?」
海未「今日の朝の件で南ことりと一戦交えたそうですね」
果南「そうだよ」
海未「南ことりは私たち特殊部隊で危険度Aの上から二番目に危険なランクに該当するアンドロイドです」
海未「しかしそんなことりに四発の弾丸を撃ち込んで尚目立った損傷をきたさない松浦果南というアンドロイドは、あなたから見れば誠に不本意ながら相対的に危険度Sに該当されることとなりました」
真姫「危険度S…!?」
果南「…それで?」
にこ「危険度Aは私たちの監視下に置かれることになってること、知ってる?」
果南「…知らない」
にこ「そう、なら危険度Sってどうなると思う?」
果南「………」
海未「答えは見つかったようですね」
絵里「ちょ、ちょっと待って!果南は悪くないわ!」
千歌「そうだよ!悪くないよ!」
絵里(オシャレな服を着た二人組が突然来て何を言いだすかと思ったら果南が危険度Sに該当されたなんてそんなの横暴すぎるわ、しかも次第に二人が黒い手袋をつけてるのを見て私は察した)
絵里(危険度Sがどうなるかを)
海未「ごめんなさい果南さん、これは鞠莉からの命令なのです」
果南「鞠莉…」
絵里「鞠莉…ッ!」
絵里(今日は拳銃をくれたし、少しは感謝したけどやっぱりあいつはあいつのままだった)
絵里(自分から作り出したくせに、今度は自分から破滅を及ぼすなんて命の冒涜――いや、アンドロイドへの侮辱そのものよ)
海未「では……」
果南「…何?」
海未「さよならですねっ!」バァンッ!
果南「っ!?」
真姫「はやっ…!?」
絵里(まさに早業、そして不意の一手だった)
絵里(懐から拳銃を出した瞬間左へ跳躍、だから私たちアンドロイドは銃弾に反応して回避を行うのだけど、今ここにいたアンドロイドは全員同じように体が動かなかったでしょう)
絵里(それは何故か?答えは簡単で、私たちアンドロイドが反応したのは銃弾ではなく先に高速移動をした海未本人の方だった。だから銃弾への反応は遅れて回避が間に合わない)
絵里(いわばそれは詰みの状態だった)
ダッ
千歌「果南ちゃん! っあ……」
絵里「千歌!?」
絵里(そうして次の瞬間には何が起こったんだろう、海未が撃った銃弾は果南の頭を貫くことはなかった)
果南「っ…千歌…?」
絵里(海未の撃った銃弾から一番近くて、一番銃弾への反応が早かったのはおそらく千歌だった。だから千歌は咄嗟の判断で海未の射線上にわざと飛び出した)
真姫「なっ…あっ……え…?」
絵里(…結果、千歌は頭を射貫かれた。それは紛れもない――――)
絵里(――死、そのものだった)
千歌「……ぁ」
バタッ
果南「千歌!?ねえ千歌!」
海未「ちっ今度こそ!」
絵里「させないっ!」バンッ!
絵里(今こそ収束/終息の時――――次第に湧き出る怒りはアドレナリンを発生させ続けた)
絵里(だから私は)
絵里(始まりのトリガーを引いた)
海未「くっ…」スッ
真姫「…!何やってるの早く逃げて!」
果南「分かってる!くっ…いたたっ…」
絵里「…!」
絵里(果南は肩を押さえてる、なんとなくわかってた。やっぱり強がってたんだ、やはりあのことり相手にかすり傷じゃ済まされないのよ)
絵里「っ!いくわよっ!」ダッ
果南「うわっ!」
パリーン!
絵里(それを見て私は迷う事なく果南を連れて逃げる事を選んだ)
絵里(腕を引っ張って力強く跳躍、外へと続く窓ガラスを突き破って二階から飛び降りた)
絵里「逃げるわよ!」
果南「絵里…!なんでっ…!」
絵里「……いいのよ」
絵里(その行為は紛れもない対アンドロイド特殊部隊――そして鞠莉への宣戦布告だった)
絵里(私は今日からレジスタンスになる、今日から世界の人々は敵になったのよ)
にこ「まてっ!」
絵里「そこで止まってなさいっ!」バンッ!
にこ「ちっ…厄介ね、あれ」
絵里(追随を許さないよう窓から顔を出すにこへと数発発砲した、あぁ…マガジンに15発の弾があって尚且つ連射出来て良かった。この使いやすさのおかげで牽制はほぼ完璧、だから私は果南を連れて走り出した)
パリーン!
海未「どこを見てるんですか?」
絵里「何っ…!?」
絵里(その動きはまさに奇想天外で、果南のいた病室の隣の病室の窓から飛び出してきた海未。これには想定外すぎて足が止まってしまった)
パリーン!
善子「そっちがね!」バンッ!
海未「!」
海未「っあ…ッ」
絵里「善子!?」
絵里(そしてこれまた想定外で、海未の出てきた下の病室の窓から善子が飛び出し両手に持ってた拳銃で海未の右足を射貫いた)
海未「あぁ…くぅ……!」
善子「地面にキスでもしてなさい、この堕天使ヨハネの前では……ってまたやっちゃったぁ!」
果南「何やってるの善子!」
善子「!逃げるわよ!」
絵里「え、でも」
善子「いいからいくの!ほら!」ダッ
絵里「え、ええ!」
絵里(足を撃たれた海未は空中で体勢を崩しそのまま地面へと叩きつけられた。だから今のうちに逃げ出した)
タッタッタッ!
絵里「なんで善子がここに!?」
善子「…ルビィのお見舞いよ」
絵里「…!ごめんなさい」
善子「いいわよ、それよりも今はあの二人から逃げる事が先よ」
果南「どこへ逃げるつもり?」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「…!電話よ」
果南「私が出るの?」
絵里「私は果南をおんぶするのに必死だから」
果南「分かったよ…」
ピッ
果南「もしもし?」
真姫『もしもし』
果南「あれ、真姫じゃん、そっち大丈夫?」
真姫『それはこっちのセリフよ!そっちは大丈夫?』
果南「うん、大丈夫だよ」
真姫『そ、そう…これからどうするつもり?』
果南「分からないからとりあえず行き先も考えずに逃げてるところだよ」
真姫『なら私の別荘を使って、森の奥だからしばらくの間は身を隠せるはずだわ』
果南「え、ホント?でも場所が分からないよ」
真姫『私の家にいて、玄関からは鍵がかかって入れないけど、二階の私の部屋に通じる窓は鍵がかかってないから入れるはずだわ』
果南「えっ…それ防犯的に大丈夫なの?」
真姫『私の家庭は多大な権力を有しているのよ、そんなところで盗みを働かせる間抜けはいないし、アンドロイドは金銀財宝に興味がないと聞いてるから、それを信じての行為よ』
果南「あはは…なにそれ」
真姫『とりあえず私の家にいて、私も時機にいくわ』
果南「うん、分かった」
果南「…あ、後そんなべらべら喋ってもいいの?近くに対アンドロイドの人いるんでしょ?」
真姫『………』
にこ『海未!しっかりして!』
海未『やられました…まさか三人目が…ぐっ…!』
にこ『あいつら…!』
真姫『…あの様子じゃ絵里たちを追う余裕は今のとこないと思うわ』
果南「??? よく分からないけど大丈夫なんだよね?」
真姫『ええ』
果南「そっか、分かったよ。じゃあ真姫の家で落ち合おうか」
真姫『ええ、よろしくね』
ブツッ
果南「真姫の家に向かおう、真姫が別荘を貸してくれるって」
善子「別荘…!?真姫ってどんだけお金持ちなの…?」
絵里「一生遊んでいけるくらいのお金は持ってるでしょ、伊達に大きな病院の娘なだけあってお金の使い方はサバサバしてるし」
果南「…でも、お金に興味ないのが私たちアンドロイドなんだよね」アハハ
善子「……分かるのが悔しいわ」
絵里「ほんとにね」
絵里(なんだかんだ善子とは付き合いが長いし、果南は親友って言えるくらいに仲が良いからこんな状況でも話すことは案外軽かった)
絵里(しかしやってることは人生最大の過ちと言ってもいいだろう、私も果南も、そして善子も真姫も…もう立派なレジスタンスになってしまったのだから)
絵里(だから…これからどうやって生きていくか、考えるだけでも頭は痛かった)
~真姫家
果南「ふう…いたたた……」
絵里「…強がる必要なんてなかったのに」
果南「絵里はともかく千歌がいたんだもん、千歌にはかっこいいところを見せたかったんだよ」
絵里「……もういないけどね」
果南「………」
善子「…え?何どういうこと?」
絵里「…千歌は死んだ、海未に殺された」
善子「っ!?はぁ!?」
絵里「果南を庇って死んだの、頭を撃ち抜かれたからおそらく即死だったわ…」
善子「そんなっ…あの千歌が…!」
絵里(私に“始まり”をくれた千歌は終わりを迎えた。失ったものの代償は大きかった、心とか体とかそんなちんけなものじゃなくて千歌はあらゆるものを総じて命を失った)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、死なんて些細なことに過ぎない)
絵里(でもそれはあまりにも突然で、理解も間に合わない死だった)
絵里「…なんでっ!」
絵里(床を思いっきり叩いた、何故今日になって死人が出ないといけないのか、きっとそれは誰にも分からない)
千歌『絵里さん!』
千歌『絵里さーん!』
千歌『絵里さーんっ!!』
絵里「千歌…!」
ポロポロ……
絵里(私はその日から神を信じるのをやめた)
絵里(千歌の事を考える度に毎日見せてくれた千歌の笑顔が瞼の裏で鮮明に映る)
絵里(例えこの先、高海千歌というアンドロイドが存在しようとも私たちの知ってる高海千歌はもういない)
善子「…あり得ない」
絵里(アンドロイドの命は美徳と語られることが多々ある)
絵里(何故ならアンドロイドの命は記憶と同義であるから、記憶が消えることこそアンドロイドの死を意味するから)
絵里(…だけどそこに美しさなんてどこにも存在しない、あるのは血まみれの死体と虚ろな瞳だけ)
絵里(そうして人は神様神様って奇跡を信じようとするの)
絵里(しかし私は断じて否、神様なんかに縋るから何かを失うのよ)
絵里(銃弾で物語を語るのならそれは私自身が放った銃弾で語るの、神様に代行してもらった運任せの銃弾なんて要らない)
絵里(私が…その心——心臓を撃ち抜くのよ)
果南「…やめよ、千歌のことは考えたくない」
絵里「…そうね」
善子「でも!」
果南「やめてッ!」
善子「っ…」
果南「…千歌のことはもういいよ、今は今で私たちが危ないんだから」
善子「……そうよね、ごめんなさい」
果南「………」
絵里「………」
絵里(当たり前だけど、空気は随分と重いものだった)
絵里(果南は物理的にも精神的にも強いけど小さい時から一緒だった千歌が死んだ喪失感は誰よりも大きいと思う、それに肩は痛いだろうしイライラは加速する一方だろう)
善子「…私、トイレ行ってくる」
ガチャンッ
絵里(空気の重さに耐えられなくなった善子はその場を抜け出した、トイレとか言ってるけどどうせトイレには行ってないでしょうね)
絵里「…果南はこれからどうするつもり?」
果南「仕返しに行く、千歌の命を奪った罪は重いよ」
絵里「その傷であの二人に勝てると思う?第一私たちは海未にやられてるといっても間違ってないのよ?」
絵里(対アンドロイドならではの動きだった、私たちはアンドロイド故に危険なものや動くものには即座に反応する、それを逆手に取り先に海未本人が目にも留まらぬ速さで跳躍し、私たちが海未に反応をしてから発砲する)
絵里(千歌がいなければ果南が死んでた、何がどうあったとしてもあそこで一人は死んでいた。それはもう間違いなく敗北の二文字だった)
果南「…そんなの関係ない」
絵里「……気持ちはわかるけどやめておきなさい、無理よ」
絵里(にこという人物は分からないけど海未という人物がかなりの手練れなのは事実、コンディションの整った果南なら分からないけど傷を負った状態じゃあいつに勝つのはほぼ無理、私の瞳も一桁代の確立を示してる)
果南「なんで……」
絵里「…何?」
果南「うるさいんだよッ!」スッ
絵里「っ!?」
絵里(突然気でも触れたかのように果南は立ち上がりと同時に私へと横蹴りをかましてきた)
果南「千歌を失った気持ちが絵里には分かる!?」
果南「勝てるとか勝てないとかそんなの気にしてられないんだよ!」
果南「勝てないなんて知ってるよ!勝てないのは眼がいい私自身が一番分かってるつもりだからッ!」
絵里(何の計算性もない左ストレートから左回りの後ろ回し蹴り、そしてそのままサマーソルトキックともう力任せな怒りの攻撃だった)
絵里「…動きが鈍いわ、やっぱり無理よ」
果南「舐めないでっ!肩が負傷してても私は戦える!ほらっ!これが証拠だよッ!!」
絵里「なら銃を使ってみなさいよ、今ここで」
絵里「私を殺してみなさいよ」
果南「っ!」
バンッ!
果南「っあ…痛ッ…!?」
絵里(…突然の結果だったわ、私の挑発に乗った果南は懐からすぐにデザートイーグルを出して発砲、だけど反動から来る肩の痛みで私は避けずとも果南から外してくれたし、強まる痛みに果南はすぐにデザートイーグルを手放した)
スタスタスタ
絵里「…ゲームセットね、私が敵ならここで果南は死んでるわ」カチャッ
絵里(地に落ちたデザートイーグルを拾って銃口を果南に向ける、アイアンサイトから見える果南の諦めきれない悔しそうな顔が、敗北の証拠だった)
果南「くそっ…!なんでっ…!なんでぇ…!!」ポロポロ
絵里「…諦めなさい」
絵里(果南はそのまま崩れ落ちて泣き出した。滅多に見せない果南の涙は実にブルーで、哀歌はとても力強かった)
~数時間後
真姫「…人の家で殺し合いとかやめてくれる?」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私たちが真姫の家に来て数時間後、ようやく真姫が家に帰ってきた。あの後すぐに帰ったら怪しまれると思ったんでしょうね、おそらく真姫の事だから迫真の演技とかを数時間してきたのでしょう)
真姫「別にいいけど…果南は大丈夫?」
果南「うぅううううぅう…あああぁ…!」
善子「…ダメでしょ、こういう時は気が済むまで泣かせとくのが一番よ」
絵里「善子…戻ってきてたの」
絵里(善子は部屋を出てから今に至るまでずっと戻ってこなかった、おそらく外には出てないでしょうけどこの真姫の家に一人でいるだけというのも随分と退屈なものよ)
善子「真姫が来たからね」
絵里(泣きじゃくる果南を前に廊下の壁に腕を組みながら背中を寄せる善子と片手を横っ腹において堂々と立つ真姫、そしてデザートイーグルを片手に持って立つ私が集まり、レジスタンス四人が揃った)
真姫「…あなたたちは良かったの?」
絵里「何が?」
真姫「別に私は何もしてないから普段通り過ごすけど、善子と絵里と果南は多分無理よ」
絵里「知ってるわ、もう戻れないなんて承知の上よ」
善子「私もやっちゃったからには戻れないわ、だからもう既に覚悟は決めてるつもり」
真姫「…そう、ならいいけど」
真姫「…さっきも言ったけど私は何もしてないから普段通り過ごす。けど支援はするわ、お金で解決できることは私に任せて、私は武力はないけど財力ならあるんだから」
絵里「…助かるわ」
真姫「このくらいとーぜんよ」
絵里(外もまともに歩けないであろう私たちにとって真姫の存在は大きすぎた、もうしばらくは妹の亜里沙にも会えない、学校で仲のいい友達にも会えない)
絵里(犯罪を犯した代償は重すぎた)
善子「ここが…」
絵里「相変わらず大きいわね…」
真姫「ええ、不便のない生活は出来ると思うわ」
絵里(それからして深夜の三時、私たちは夜道を高速で走り別荘へ辿り着いた)
果南「ここに私たち住むの?」
真姫「ええ」
果南「おー!私こういうところに住んでみたかったんだ!」
善子「ここが堕天使の住処…!」
絵里「また堕天使モード入ってるわよ…」
絵里(数時間泣きじゃくってた果南もとりあえず立ち直ったみたいで今では普通の状態、真姫の別荘を見てはしゃいでるのを見て私はなんとなく安心した)
真姫「とりあえず入って、色々と設備を紹介するわ」
絵里「ええ」
善子「分かったわ!」
絵里(それで真姫に案内されるがままに別荘へと入った、大きさは一般の一軒家の二倍程度で二階建て、リビングは相も変わらず広々としてて真姫の言う通り不便の生活が約束されてるような場所だった)
真姫「…と、まぁここの説明はこのくらいよ」
真姫「何か質問ある?」
絵里「ここの存在がばれた場合どうすればいい?」
善子「それは私も聞きたかった」
真姫「切り捨ててもらって結構よ、逃げることが第一だからね」
果南「分かったよ」
真姫「他はある?」
絵里「私は特に」
善子「私も」
果南「私もないよ」
真姫「分かったわ、じゃあ今日のところは帰るわね。流石に私が家にいないと親に怪しまれるから」
絵里「分かったわ、ホントにありがとう真姫」
真姫「いいわよ、それじゃあね。そこにあるの家の鍵だから」
善子「ええ」
果南「りょうかいっ」
真姫「じゃあね」
スタスタスタ
絵里(時刻は四時、真姫はレジスタンスだけどあくまでも一般人、だから私たちと違って怪しまれるような変な行動は出来ないし真姫は武術の心得がなく戦闘面に関して言えば無力に等しい、つまり何かあった時抵抗する手段がない)
絵里(だからここは安牌として家に帰ることを選んだ、だからここからは私たちだけだ)
果南「これからどうする?」
絵里「寝る場所を決めましょう、寝室が二つしかないらしいの」
果南「え?みんなで一緒に寝るんじゃないの?」
絵里「えっそうなの?」
善子「いや違うと思う」
果南「じゃあどうするの?」
善子「…私は一人で寝たい、少なくとも今日と明日は」
果南「…?よく分からないけど、分かった」
果南「絵里はどうする?」
絵里「私はどこでもいいわよ」
果南「じゃあ一緒に寝ようよ、一緒に寝た方がお泊り感あって好きなんだぁ」
絵里「遊びでここに来てるんじゃないのよ私たち…」
果南「知ってる知ってる」
スタスタスタ
絵里「善子、どこいくの?」
善子「私の家に一度行く、こうなった以上武器は持っておかないと安心なんて出来ない」
善子「…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない」
絵里「善子…」
絵里(片手に持つ拳銃を悲しそうに見ながら善子はそう言った、確かに拳銃一つじゃ手数も火力も出来ることの数も少ない)
絵里(拳銃の強みは軽いからどこにでも持ち運べて、小さいから運用が簡単なこと)
絵里(だけど、拳銃はそれ以外の強みがない。火力は人を殺すには充分すぎるものではあるけどそれでもまだ足りないものなのよ)
絵里「でも外は危険よ…?」
善子「分かってる、でも拳銃一つじゃ戦えない。ならまだ監視の目が酷くならないうちに危険を冒して家から武器を持ってくる方が賢いわ」
善子「堕天使ヨハネは常に一手先を考えてるの」
果南「…言ってることは正しいけど堕天使ヨハネいる?」
善子「あーもう!仕方ないの!これプログラムだから!」
絵里「ふふふっまぁいいわ、じゃあ行ってきていいわよ」
絵里「私も行きたいけど果南を一人にさせるわけにはいかないから、くれぐれも気を付けて」
善子「ええ、じゃあね」
タッタッタッ
果南「…行っちゃった」
絵里「やっぱり善子はすごいわね」
果南「ホントだよ、とても一年生とは思えない頭の良さだよね」
絵里「ええ」
果南「…二年前だよね、善子と私たちが出会ったのって」
絵里「ええ、善子がいじめられてたのを助けた時からだったわね」
果南「懐かしいなぁ絵里が単身っていじめっ子のグループに突っ込むもんだから見てられなくて私もついていった覚えがあるなぁ」
絵里「あ、あれは仕方なかったのよ!だって千歌とか他の友達巻き込みたくなかったし…果南に知られたらまためんどうなことになりそうだし…」
果南「あはは、酷い言われようだなぁ」
絵里「果南は解決の仕方が暴力的すぎるのよ」
果南「それ、絵里が言う?」
絵里「果南よりかはマシよ」
果南「…ふふっ」
絵里「ふふふっ」
かなえり「あはははははっ!」
絵里(前から一緒の私たちの絆は何よりも堅かった)
絵里(善子は中学二年生の時に善子をいじめていた子を私と果南でやっつけた事で知り合った、何事にも真摯な対応をする子だけど、生まれた時からインプットされていた堕天使ヨハネというプログラムが彼女の特徴でもある)
絵里(今思えば、善子も成長したけど悪い方向で成長したともいえる。しかしもちろん理由はあって、善子を変えた原因はおそらく二つあるの)
絵里(一つはいわずも鞠莉のせい、あいつがアンドロイドの品格を下げ続けてるから意図せずとも恨みや邪念など生まれてしまった)
絵里(そして二つ目は――――)
絵里「……善子、大丈夫かしら」
果南「…やっぱり心配?」
絵里「ええ、身の危険もそうだけどもう一つあるの」
果南「ん?何かあるの?」
絵里「…真姫の病院にね、ルビィって子がいるのよ」
果南「ルビィ?」
絵里「ええ、その子は」
グゥ~…
絵里「………」
果南「…あはははは…ごめんお腹空いてて…」
絵里「はぁ…仕方ないわね、何か食べる?私もお腹空いてるし」
果南「ホント!?じゃあ巷で噂の絢瀬絵里特製料理をもらおうかな~!」
絵里「なによそれ」フフフッ
絵里(…はぁ、なんか果南のお腹の音を聞いたら気が抜けちゃった。ごめんなさい、この話はまた今度になりそう)
絵里「えっと、冷蔵庫の中は…っと」
絵里(とりあえず私はキッチンにいって料理の準備をする、亜里沙ほど料理は上手くないけど私だってちょっとは出来るんだからっ)
果南「うはーすごい食材の量」
絵里「お金持ちって感じね…」
果南「何作るの?」
絵里「亜里沙に教えてもらったオムライスを作るわ」
果南「お、いいね」
絵里「果南はソファでも座ってなさい、邪魔だから」
果南「そんな直球に言わなくてもいいじゃん…」ブー
絵里「ふふふっごめんなさいね」
絵里(冷蔵庫やその周辺にある食材を見て、果南に何を作るか聞かれて出てきたのはオムライスだった)
絵里(なんでこの料理かは分からないけど、とりあえず作ってみた)
果南「あっはは!不出来~」クスクス
絵里「し、仕方ないじゃない!私は料理得意じゃないの!」
果南「亜里沙ちゃんはやっぱり出来る子だなぁ」
絵里「そうよ、亜里沙は自慢の妹なんだから!」フンスッ
果南「いやいや絵里が威張るところじゃないよ…」
絵里「……とりあえず食べる!ほら早く!」
果南「はいはい」パクパク
果南「ん、意外にもおいしい」
絵里「意外とは失礼な」
果南「んあはは、オムライスにレモンを盛り付けるなんてちょっと変わってて不安だったんだよ」
絵里「そ、そう?レモンのトッピングは私のアレンジなんだけど」
果南「あ、そうなの?でもこのレモンの酸っぱさが良い味出してるね」
絵里「あ、ありがとう」
果南「あ、もしかして照れてる?」クスッ
絵里「照れてない!」
果南「ふふふっそうだね、ごめんね」クスクス
絵里「腹のたつやつね…」
絵里(状況は最悪でも、果南との会話は千歌や善子とは違ってすごく明るかった)
絵里(果南は悪く言えば何事にもバッサリしてるけど、良く言えば楽観的で優しくてムードメーカーのような人)
絵里(だから果南は今の私たちにとってはすごく大切な存在だったと思う)
絵里(それで少しは…気が楽になった気がした)
ガチャッ
善子「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
果南「おかえり」
絵里「おかえりなさい、大丈夫だった?」
善子「私は大丈夫だけど街の方はやばいわ……」
果南「何?何かあったの?」
善子「監視の目が多くなってる、私が海未とかいうやつを撃ったせいで警戒レベルがMAXに近くなってるのだと思う…」
絵里「それはー……そう…」
果南「………」
善子「…でも武器は手に入れたわ、今行かなきゃもう一生取れないと思ったから」
善子「……後お母さんにもお別れを言っておいた」
絵里「お、お別れってまさか死ぬわけでもないのにそんな大げさな…」
善子「……今回ばかりは分からないわ、果南ならわかるでしょ?」
善子「私たちだけじゃあの二人に勝てないって」
絵里「…!なんで!?」
果南「…いや、絶対に勝てないってわけじゃないよ」
果南「私は怪我をしてるから戦力には入れないとして、善子と絵里があの二人と戦って勝てる確率は…」
果南「半分よりちょっと低いくらいの確立かな……」
絵里「………」
絵里(果南は他のアンドロイドと比べて眼が非常に良い、眼に見える確率は細かくより正確に割り出すことができ、それ以前に単純に視力だとかがよく敵の細かなの動きも見る事が出来る)
絵里(だからこそ果南の言う“半分よりちょっと低いくらいの確率”っていうのはだいぶオブラートに包んだけど、負けが濃いということになる。しかも果南が言うことでその線は更に濃くなる一方だった)
果南「…でも、敗北が確定したわけでもないのに負けを認めるなんて私はそんなこと絶対にしたくない」
果南「私は仮にも戦闘型アンドロイド」
果南「死ぬなら戦って死ぬよ」
果南「それが戦闘型アンドロイドの生き様であり、名誉ある死に方だろうからね」
絵里「………」
善子「……何が名誉よ、バカらしい」
果南「先入観に囚われて保身に走ってる臆病者には分からないだろうね」
善子「考える力もない脳筋バカの事が正しいとでもいうわけ?」
果南「へえ、じゃあ善子はいじめっ子を一人で倒せるんだ?考える力のある善子はこの状況で勝算を見出してくれるんだ?」
善子「怪我してる無力は黙っててくれる?関係ないことりとなんか戦って傷を負って口だけ達者なのは流石に弱く見えるわよ?」
善子「戦いたさだけでことりとおっぱじめて、余計な傷を負った上で事実上千歌まで殺してねえ何のために戦ったの?全部の果南のせいよね?」
善子「この人殺し」
善子「堕天使ヨハネの言う事に間違い、あるかしら?」
果南「っ!」
果南「…へえ、善子変わったね」
果南「可愛らしい堕天使から、憎たらしい堕天使へとね」
善子「ええ、そうよ」
果南「流石に頭に来たよ、ここは一つ私から提案なんだけど」
果南「…私と一戦交えない?」
絵里「ふざけないでっ!!」ドンッ!
善子「!」ピクッ
果南「!」
絵里「こんな状況で争ってる場合じゃないでしょう…?」
ポロポロ…
絵里(涙を我慢する力は私には無かった、今でさえ絶望的状況なのにこのまま内紛でも起こされたら私たちは自ら死に堕ちてゆく)
絵里「私たちは仲間なのよ…?仲間なのにお互い責め合ってたら私たち勝てないじゃない…」
絵里「私怖いの…!死ぬのが…誰かを失うのが怖いの…!!」
絵里「もう既に千歌を失った…それから果南や善子、真姫まで失ったら私…私っ…!!」
絵里「だから二人とも争わないでぇ…!」ポロポロ
絵里(その場に崩れて泣いて、和解を懇願した。他人の心配ばっかしてたけど、今度死ぬのは私かもしれない、それなのに今こんなことしてる場合じゃないって私の本能が警鐘を鳴らし続けてた)
果南「ご、ごめん……善子、絵里…」
善子「…私こそごめん」
絵里「うわああああぁ…!」
果南「あはは…泣かないの、絵里は強いんだから」
絵里「私は強くないわよぉ…!」
絵里(果南にはハグを、善子にはナデナデをされたけどそれでも涙は止まらなかった。だから気が済むまでずっと泣いてた)
絵里「あああぁあぁ…!!」
善子「だ、堕天使ヨハネ参上よ!そこのお嬢さん何かお困りですか?」キリッ
果南「いやそこで堕天使かい…しかもなりきれてないし…」
絵里(善い子と書いて善子――は、突然堕天使モードに入って私を笑わせようとしてくれて、果南も乗っかって色々してくれたけど、やっぱり涙は止まらない。けど、そう優しくしてくれるだけで私は両手から溢れ出るほどの幸せを感じた)
絵里「すぅ…すぅ…」
善子「…寝ちゃったわね」
果南「絵里、案外溜め込むタイプだから吐き出して疲れちゃったんだよ」
善子「ならいいけど…」
果南「ふふふっ可愛い寝顔」プニプニ
絵里「んん…」
善子「絵里に怒られても知らないわよ?」
果南「あはは、大丈夫だよ」
グゥ~
善子「…お腹空いたわね」
果南「あ、それなら絵里がオムライス作ってくれてるよ、ほらっあそこのラップに包まれてるやつ善子のだよ」
善子「ホント!?堕天使ヨハネの為に食事を用意してくれるとは流石はリトルデーモン…」
果南「…そういえば善子の武器って何なの?あんまり戦ってるところ見たことないから分からないんだけど」
善子「ん?あぁMX4 Stormって言うの」
果南「へーサブマシンガンか」
善子「そうよ、連射速度が早めだから火力が高いの、だけどその分弾持ちが悪いからちょっと運用が難しいのよね」
果南「なるほどね、でもいいじゃん。サブマシンガンだし小回り利くからだいぶ動きやすいでしょ」
善子「まぁそうね」
絵里(次の日、起きてみればテーブルにはMX4 Stormと大量のマガジンが散らかってた。サブマシンガンの強みはアサルトライフルなどと比べて重量がそこまで無く小回りが利き、尚且つ拳銃よりも火力が高いこと)
絵里(しかし銃にもよるけど大体は中距離辺りで精度――いわば弾の集弾率が悪くなるから近距離の向けの武器になるわ、その分近距離は比類なき強さを発揮する。動きやすいからね)
絵里(だから銃を知らない人もこれだけは覚えておいて)
絵里(サブマシンガンは近距離が強く遠距離に弱い銃、だということを)
絵里「おはよう…」
果南「おはよう」
善子「おはよう絵里」
絵里「二人とも早いのね…」
絵里「…あれ、朝ごはんは?」
善子「…私料理出来ない」
果南「同じく」
絵里「…はぁ、また不出来な料理になるわよ?」
果南「それでもいいよ♪」
善子「同じく」
絵里「何よその一体感は…」
絵里(朝、目覚めは良かったけど現実はまだ退廃的で絶望的。これからどうやって生きていくか、考えるだけでも憂鬱な気分になる)
善子「今日は何するの?」モグモグ
絵里「これからどうするか話し合いましょう、いつまでもここにいれるわけじゃない、いずれ見つかるのだから今のうちに次の行動を決めておきましょう」
果南「了解だよ」パクパク
善子「…じゃあ聞くけど、私たちこのまま逃亡生活するの?」
絵里「それしかない…と思うのだけれど」
果南「選択はもう一つあるよ、敵の基地に突っ込んで壊滅させるとか」
絵里「それは悪手だしまず勝ち目が薄すぎるわ…」
果南「誰も本拠地に行くなんて言ってないよ、外壁から壊していけば戦力も落とせると思う」
善子「外壁?」
果南「小隊が潜む基地だよ、どうせそこら辺に色々機器だってあるだろうしそれをぶっ壊していけば統率は取れなくなるし戦力も目に見えて落ちてくる」
絵里「なるほど…」
果南「それなら勝ち目は無くはないよ」
善子「……ふむ」
果南「このまま弱気になっててもいずれは見つかるんだからそれならこっちから向かった方が良いと私は思う」
絵里「…なるほどね、確かにそれはいいわね」
善子「だとしたらどこを攻める?さっきAAの事調べたけど少数精鋭の部隊らしいから基地は多分ないわよ?」
絵里「AA?」
善子「Anti AndroidでAA、つまりは海未ってやつがいる対アンドロイド特殊部隊のことよ」
絵里「なるほどね、まぁ確かに対アンドロイド特殊部隊って長いからAAでいいかもね」
果南「そうだね」
善子「それでどこを攻めるの?目標となる場所は多分本拠地以外に存在しない」
絵里「…困ったわね」
果南「うーん…」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん、真姫から電話だわ」
果南「出ていいよ」
絵里「ええ」
ピッ
絵里「もしもし?」
真姫『もしもし、絵里?』
絵里「ええ私よ、何か用かしら?」
真姫『ええ、あの病院の一件から対アンドロイド特殊部隊はあなたたちに首ったけよ、まだ警察全体を動かすことにはなってないけど特殊部隊の方が動いてるだけでも動きはかなり制限されるはず』
真姫『となるとおそらくだけどこれから色々していくうちに戦闘は避けられないわ』
真姫『だから武器が必要じゃない?』
絵里「武器?」
真姫『果南と善子は自分だけの武器を所持してるはずよ、分かるでしょ?』
絵里「武器…」チラッ
善子「…ん?何?」
果南「どうかした?」
絵里(確かに二人とも自分だけの武器を所持してる、善子は病院の時に持ってた拳銃や今そこの机に置かれてるサブマシンガンだって善子だけの武器、果南もデザートイーグルを常備してるしことりの件の時は鞄からアサルトライフルを出してた)
絵里(それに比べて私は格闘だけで戦ってる身で、この前貰ったPR-15で初めて自分だけの武器を手に入れた)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(しかし、拳銃一つじゃ戦えないみたい)
絵里(…だから私にも必要になってくるのだろう)
絵里(私だけの武器が)
絵里「…ええ、そのようね」
真姫『でっしょー?だから私が武器を提供するわ、好きなのをあげる』
絵里「えっいいの?」
真姫『いいわよ、だけど一度私の家に行かないといけないの。だから迎えに行くわ』
絵里「迎え…」
善子『……後お母さんにもお別れを言っておいた』
絵里「……いや、一人で行く」
真姫『は?何言ってるのよ、確かに街はそこまで危険ではないけど見つかった時が厄介よ?』
絵里「…お願い、やりたいことがあるの」
真姫『やりたいこと…?』
絵里「……言わなきゃダメ?」
真姫『ダメよ、もしも何かあった時絵里がどこにいるか分からないじゃない』
絵里「…亜里沙に会いたい、多分もう会えないから」
真姫『……なるほどね』
絵里「…いいでしょ?」
真姫『…分かった、でも気を付けてよ?』
絵里「もちろんよ」
真姫『それじゃあね、いつでも待ってるわ。家にいなかったら私の部屋で待ってて』
絵里「分かったわ」
プツッ
絵里「……ふう」
絵里(善子の言葉に感化されたっていえば多分そうなんだと思う)
絵里(ここから先は死ぬかもしれないというのに、亜里沙にお別れも無しに死ぬのは悔いが残る。なら私も亜里沙にお別れを言って未来を生きることにする)
果南「何だった?」
絵里「武器が必要だろうから真姫が提供するっていう話よ」
善子「武器、か。堕天使ヨハネにはあまり関係のない話かしら」
果南「私も武器は持ってるから大丈夫かな」
絵里「ええ、だから私宛なのよ」
果南「なるほど、じゃあどうするの?」
絵里「真姫の家にいくわ、この足を使って」
善子「は?いや危ないでしょ、もっと他の移動手段あるでしょ?」
絵里「真姫からは迎えに来るって言ってたけど断った、私も亜里沙にお別れを言いにいきたいから」
果南「…そっか、なら私は何も言わないよ」
善子「……ならついていくわ」
絵里「ダメ、善子がついてきたら果南が危ない」
果南「いや、いいよ私は。別に動けないわけじゃないんだし」
絵里「それでもダメ」
善子「じゃあ絵里は…一人で戦場に突っ込むっていうの?」
絵里「戦場ってそんな大げさな…ちゃちゃっと私の家と真姫の家行って帰ってくるだけよ」
善子「……納得できない」
絵里「そこは腹をくくって」
善子「………」
果南「なんか…ごめん」
絵里「果南は謝る必要はないわ」
ガチャッ
絵里「とりあえず行ってくるわね」
善子「…絵里っ!」
絵里「ん?何かしら?」
善子「……困ったら堕天使ヨハネに連絡しなさいよ、終わりなきジハードはもう始まってるのよ」
絵里「…ええ、もちろんよ」ダッ
絵里(善子の言葉を聞いて安心した私はキッチンに置いてあったPR-15を取って玄関を抜け外へと飛び出した。いくら監視の目があろうとも私を見つけて誰かがそこに向かうまでにはタイムラグがある、だから素早く移動すればまず捕捉されることはない)
絵里(それに私はアンドロイド、普通の人間とは違うの)
絵里(あらゆる物事を数値化出来て、銃弾を避けれるポテンシャルがある)
絵里(人間にも銃弾を避ける技術がある、とは聞くけどアンドロイドという自分自身に身についたものは裏切らない)
タッタッタッ
絵里「…きっつ」
絵里(別荘がかなりの山奥なもので私の家兼真姫の家に行くには走りっぱなしじゃないと時間がかかる、アンドロイドとはいえ体力の概念はもちろんあるからただ単純にいって辛いモノがあった)
絵里「ふう」
絵里(別荘を出て数十分経った頃にようやく街へと辿り着いた。何もない緑の世界から人工物だらけの汚れた/穢れた世界を見れば心はやるせない気持ちでいっぱいになる)
絵里(ここはすごいところよホントに。今やジェットパックとかいって人が空を飛べたり宙に電子の板が出てきたりで科学の発展というのは昔と比べれば実に目覚ましいものよ)
絵里(でも、そんな加速する科学に後れを取らない銃火器というモノがどれだけ強力な武器なのかがこの街ではよく分かる。レイガンとかライトセーバーとかそんな未来な武器が存在していても、実際にはコスパや燃費が悪くて銃火器に劣るのよね)
絵里(だからこそこの世界の戦いは銃が中心なのよ)
バンッ!
絵里「!」ピクッ
絵里「銃声…?」
絵里(路地裏を利用して移動してる時、かなり近場で銃声が聞こえた)
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(銃声の方へ行くか行かないか、少し迷ったけど行くことにした)
絵里(向かう最中も銃声は度々聞こえてくる、でも聞こえてくる銃声の種類は一つだけで銃撃戦をしてるわけではなさそうだった)
カンッ!
絵里「っ!?」
絵里(路地裏を抜けその一歩目を歩もうとした時、突然として私の目先に銃弾が通った)
絵里(通った銃弾は私のすぐ横にあった壁に当たり鋭い音を立てて地に落ちていく、少し怯んだ後銃弾の方向を見ると…)
タッタッタッ
にこ「待てっ!」
ことり「いやっ!」
絵里「ことり…?にこ…?」
絵里(公道なんてなんのその、車道のど真ん中でにこはことりを追い、ことりはにこから逃げる光景が私の瞳には映ってた)
ことり「ん…んん…いっ…」
絵里(この銃撃で出来たものなのか、ことりには大量の傷がある)
絵里(つまり私の見ている光景は)
絵里(にこがことりを殺そうとしてる光景だった)
絵里「…?何?」
絵里(ふと二人を観察していると、にこの拳銃からではなくどこからともなく飛んでくる弾丸が混ざっていて疑問符が浮かんだ。その弾丸は拳銃の弾丸とは比べ物にならないくらい速く、コンクリートを抉るほど威力の高い一発で、でもことりはアンドロイド故にその銃弾すらも回避する)
絵里「スナイパーか…!」
絵里(弾丸が飛んできた方向を見れば日光に反射するスコープの光が見えた、場所は数十メートル離れたビルの上でことりはにこに追われながらスナイパーに狙撃をされてるようだった)
にこ「今っ!」バンッ!
ことり「当たらないっ!」
ドォン!
ことり「かっ…ぁ!?」
絵里「っ!上手い…」
絵里(コンビネーションプレイというべきかしら、にこがことりに向かって発砲しもちろんことりはそれを避けるために右へ跳躍)
絵里(だけどそれを見越してスナイパーはそのことりの跳躍先を撃ち、結果的にことりは肩を射貫かれた)
絵里(流石はAAで、その技量と頭は舐められたものじゃない)
ことり「あ…ぁぁ…」
絵里「ことり…」
絵里(肩を射貫かれたことりは派手に体勢を崩し仰向けになって倒れた。足は動くけど、肩に痛みが渡ってはそれどころじゃないでしょう)
にこ「終わりね、ことり」
ことり「く…そッ…!」
にこ「今まで犯した罪の償いだと思いなさい、もはやあんたはアンドロイドじゃなくて」
にこ「ただの鉄くずよ」
ことり「っ!ふざけないでッ!」
ことり「私を生んだのはお前たち人間で、私をこうしたのは人間でしょ!?」
ことり「それを今になって悪行を犯したから殺すだなんて理不尽すぎるよ!」
ことり「アンドロイドなんかより人間の方がクズだよっ!」
にこ「うるさい」
絵里「っ!」
絵里(ことりの息の根を止めるべくにこは手に持ってる拳銃のトリガーを引こうとしたのが確認出来た、それを見て私は何を思ったのだろう)
絵里「………」
絵里(反射的に懐にあったPR-15を取り出して銃口をにこへと向けた)
絵里「……ぃ」
絵里(…でも、怖かった。何が怖いのか、そんなの拳銃を持つ人なら誰でも思うことだと思う)
絵里(人を殺すのが怖かった)
絵里(私はこの人生という名の戦場で幾度となく争いをしてきた。けどその全ては峰打ちで終わってるの、争いにおいて人を殺すことに意味があるんじゃなくて、自分の行いを見直すべく調べであると私は思っていた)
絵里(今ここで私が撃ったらにこは死ぬだろう、完全なる不意打ちで、胸でも頭でも射貫けば死は確定)
絵里(そうとまで分かっていたら、このトリガーを引くのが怖くて…唾を飲んだ)
ことり「っ!」
にこ「! ほう、タウルス・ジャッジなんて持ってるのね」
ことり「……そうだよ」
にこ「それを私に向けて何のつもり?」
ことり「…撃つ」
にこ「なら撃ってみなさいよ、壊れた肩でどう撃つ?前の果南との戦闘でもう片方の肩も今はあまり機能してないというのにどうやって私に撃つのかしら?」
ことり「…っ」
絵里「…!」
絵里(トリガーを引こうとしてるのは伝わってくるけどことりの手は震えていた、それはつまり上手いように力が入らないようでトリガーを引くにも引けないようだった)
絵里「私が…私が…!」
絵里(私が代わりにトリガーを引く、私の何もかも全てがその答えを示していた)
絵里(でも怖い、恐怖心はそう簡単には断ち切れない。でも、ここでことりを見殺しにしてしまったら私は一生後悔すると思う)
果南『諦めるにはまだ早いんじゃないかな?』
絵里「!」
絵里(そんな時、果南のあの時の言葉が脳裏を過った)
絵里(私も諦めたくなんかない、そんな時果南は何をしてくれた?)
絵里(私を助けてくれた、だけどそれはただ助けたんじゃない)
絵里(相手の持つ拳銃を撃って間接的に相手を無力化した)
絵里(…なら私も同じ事をするだけよ)
絵里「………」
ドクンッ
絵里(加速する鼓動が私の標準をずらす、だから一度目を瞑って息を整えてから目を見開く。時間はもうない、震える手と張り詰める精神に抗って私は――――)
絵里「いっけー!」
絵里(トリガーを勢いよく引いた)ダッ
にこ「わっ!?」
ことり「!」
タッタッタッ
絵里「ことりっ!」
絵里(その行為は一体何から起こったものなのかしら。アンドロイドという仲間意識からきたものなのか、殺されそうになってたから助けなきゃという正義感からなのか、それともただ個人的にことりを助けたかったっていう私の意志なのか)
絵里(それは今でも分からないけど、とにかくことりを助けたかった)
絵里(だから私はトリガーを引いた後すぐにことりのところへ向かって、ことりをおんぶして逃げた)
にこ「絢瀬絵里…!?待てっ!」
ことり「右へ避けて…」
絵里「え、ええ!」
絵里(突然ことりの口から出てきた指示を信じて私は右へ避ける、避けた直後左を見ればご丁寧にスナイパーの弾道が残っててここで私は初めてスナイパーに狙撃されたことを知った)
ことり「これでもくらえっ…!」
にこ「っ!」
絵里(ことりは穿いてるスカートの中から何かを二つ出してにこへと投げつけた)
絵里「うわっ!?」
ことり「ひるまないで、なんでもないからっ…」
絵里(そして次の瞬間には甲高い音が後ろから鳴って一瞬だけ後ろを振り返ると眩い閃光が街中を照らしてた)
絵里「何を投げたの?」
ことり「スタングレネード…あのツインテールの足を止めるために投げた」
ことり「そしてもう一つは…」
プシュー!
絵里「!」
ことり「…スモークグレネードを投げた、これで逃げれるはず……」
絵里「そんなものを…」
絵里(走りながら後ろを見れば緑色の煙幕が壁を作ってた、これなら狙撃の心配はないしスタングレネードで足止めされてるにこも追ってくる可能性は低い)
絵里(満身創痍とはいえことりのこの道具の捌き方は流石だと思った、というかこんなものを常備してることりに驚いた)
バチバチッ
絵里「!」
ことり「!」
絵里「なにこれ…」
絵里(そんな中で煙幕の中突然後ろから飛んできた投擲物に私は思わず足を止めた、飛んできたものは一般的に見る手榴弾やことりが投げたスタングレネードやスモークグレネードのようには見えないし微妙に電気を帯びてた)
ことり「っ!ダメッ!」ドカッ
絵里「っあ!?」
絵里(そして何かに気付いたのかことりはおんぶを無理矢理抜け私の背中に強烈なキックを浴びせてきた)
絵里「っく、あッ…!」
バチンッ!
絵里「!」
絵里(その影響で私は数メートル吹っ飛ばされ俯けに倒れる、それで次の瞬間には後ろから激しい電撃の音が聞こえてくるからすぐに立ち上がって後ろを見れば膝をつくことりがいて、私が走り出した瞬間にはことりは力なく倒れた)
絵里「ことり!?」
絵里(すぐさまことりのところへ向かえば倒れることりには電流が流れてておんぶをしたら私も感電しそうでとてもおんぶ出来る状況じゃなかった)
にこ「捕まえなさい!あいつらを逃がなさいで!」
絵里「どうすれば…」
絵里(万事休すだった、私が助かるには私だけで逃げるしかない。でもこのままことりだけを置いて逃げるなんてそんなことしたくない)
絵里(私がそうするべきと思ったからそうしたいだけ)
絵里(それに従えば、ことりを置いて逃げるなんて選択肢は何万回、何億回と同じことを繰り返してもないと私は思う)
絵里「………」
絵里(…でもどうすればいいのかしら)
「こっちですっ!」
絵里「!」
絵里(もはや選択の余地なんかなくて、このままことりをおんぶして運ぼうとした時、それはまた突然に声が聞こえた)
絵里(ことりでもなければにこでもない、ましてやスナイパーの人の声でもないだろう。だからそうと分かって声のなる右へ顔を向ければ路地裏の陰で手を振る誰かがいて、その人が私を呼んだのだと認識した)
絵里「…はっ!」ダッ
絵里(もう考えてる暇なんてない、私は電流の流れることりのスカートの内側にくっついてるスモークグレネードを真下に投げてすぐことりをおんぶしてそこへと突っ込んだ)
絵里「ぐあぁあっ…!」
絵里(痛かった、痛みで足や手の感覚が麻痺してしまいそうなほどに)
「後少しです!頑張ってください!」
タッタッタッ
絵里「…っええ!」
絵里(それでも私は走る、手を振る誰かの元へ向かって)
絵里「…ぅはぁ…はぁ…」
「こっちです、ついてきてください」
絵里「あなたは…」
「えへへ、覚えてますか?」
絵里「…!もしかして…!」
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「——花陽、さん?」
花陽「えへへ、正解です」
絵里「どうしてあなたが…」
花陽「話は後です、ついてきてください」
絵里「え、ええ…」
スタスタスタ
絵里(感動の再開……?なのかしら。あの時は救済を拒んだけど、今は拒む理由もない。だから花陽さんについていった)
絵里「………」
花陽「そんな後ろをちらちらと見なくても大丈夫ですよ、追手はいません」
絵里「ど、どうしてわかるの?」
花陽「ここの路地裏は普段はただの壁で、みんなここに路地裏があることに気付いてませんから」
絵里「え?どういうこと?」
花陽「上を見てもらえれば分かると思います」
絵里「上…?」
絵里(上を見ると建物と建物の間から見える青い空が見えたのけどよく見ると空が歪んでた)
絵里「なにこれ…!?」
花陽「光学迷彩って言うんです、ここは安らぎをくれる私だけの秘密の隠れ場所でよく仕事をほったらかしてここで休んでるんです♪」
絵里「光学迷彩…」
絵里(光学迷彩――――それは分かりやすく言えばカメレオンのようなものかしら。カモフラージュの為に対象の物体を同化させるもの、それは相対的に対象の物体を透明に出来ていわば透明になる技術とでもいえば大体は伝わるかしら)
スタスタスタ
絵里「…! ここは…」
花陽「私だけの秘密基地です、私はいつもここを」
花陽「部室って呼んでます♪」
絵里「部室?部活動の?」
花陽「はい、アイドル部です♪」
絵里「アイドル部…?」
絵里(部室、という割には全然部屋とかじゃなくてビルの立ち並ぶ間に出来た真四角の空間で一際違う雰囲気を漂わせている木々と幻想的に映る日光に目を奪われる)
絵里(地面は草が生い茂っててここだけまるで森の中のようだった)
花陽「そこ、座ってください。そこの方はそこのベンチで寝かせてあげてください」
絵里「あ、すいません…」
絵里(真四角の森の中心には白色の丸いテーブルと白色の木のイスが二つ置かれていて、私が座ったイスの後ろには長いベンチがあった)
絵里「ここって…」
花陽「私が作ったんです、ここの自然も、何もかも」
絵里「す、すごい…」
花陽「えへへ、ありがとうございます。ここならあの人たちにばれる心配もありません、だから気が済むまでゆっくりしてってください」
花陽「あ、お茶とかいります?用意しますよ」
絵里「い、いえお気遣いなく」
花陽「いえいえ、多分まだあの人たちはここら辺をどかないと思うので用意しますね」
絵里「あ、はい…」
絵里(角にある食材置き場みたいなところからオシャレなティーカップと紅茶のパックを出して紅茶を作り出す花陽さん、何やら鼻歌を歌っててちょっと話しかけづらくて周りを見てるとハンガーにかかったアイドルの衣装のようなものが目に留まった)
絵里「衣装?」
花陽「ん?あ、はい!私が始めてステージに立った時に使った衣装です」
絵里「ステージに立った?」
花陽「えへへ、恥ずかしい話ですけど私、実はアイドルをしてるんです。かよって聞いたことありませんか?」
『えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?』
絵里「かよ…聞いたことある、千歌が言ってた」
絵里「でも確かかよって人気ナンバーワンといっても過言じゃないスーパーアイドルって…」
花陽「はい、当たりです。人気ナンバーワンかは分からないですけど、最近はたくさんの人に応援してもらってます」
絵里「そんなすごいの…」
花陽「はい!えへへ…」
絵里「…でも、なんでそんなあなたが私を?」
花陽「私、絵里さんのファンなんです!音ノ木坂高校のビューティフルスター!」
絵里「え、なにそれ…」
花陽「ファンの間で通ってる絵里さんの二つ名の一つですよ」
絵里「ビューティフルスター…」
絵里(なんだそれ、と思ったけどとりあえずこの二つ名は置いておきましょう)
花陽「えへへ、そんなファンである私が絵里さんの力になりたいのは当然というか…それ以前に困ってる人を見捨てておけないんです」
絵里「…そ、そう」テレッ
花陽「ふふふっ照れてる絵里さんも可愛いですね」クスッ
絵里「か、からかわないで!」
絵里(花陽さんがクスクスと笑ってると鳥の可愛らしいさえずりが聞こえて花陽さんが人差し指を空を掲げると飛んでる鳥は花陽さんの人差し指に留まって羽休めをしてた)
絵里(木漏れ日に鳥と笑う花陽さんはまさに幻想そのものだったと思う)
花陽「どうして絵里さんはあの方たちにそんな目の敵にされてるんですか?」
絵里「私は……」
絵里「………」
絵里(言ってもいいのかと不安になった。いくら助けてもらったとはいえ相手は他人だ、それなのにべらべらと自分の事を言っていいことにはならない)
花陽「大丈夫ですっ私は誰にもいいません」
絵里「………」
絵里(どうだろうか、この可愛い笑顔には裏があるのかしら。でも、この人にそんなものがあるとは思えない)
絵里「…私はね」
絵里(……だから、信じてみることにした)
絵里「犯罪者なの」
花陽「……ふふふっ知ってますよ」
絵里「え?」
花陽「対アンドロイド特殊部隊ってところに喧嘩を売ってしまったんですよね?」
絵里「え、ええ」
花陽「だから私は絵里さんを助けたんですよ、あそこの部隊は限りなく強いですから」
絵里「知ってるの?」
花陽「はい、私、鞠莉さんに気に入られてるみたいで、鞠莉さん直属の対アンドロイド特殊部隊っていうのは対アンドロイドの前に特殊部隊であるので、SPみたいなボディーガードをすることもあるんですよ」
花陽「少数精鋭ですけど、それでも完璧な作戦を立てて私を守ってくれる時があります」
絵里「そんなことが…」
花陽「これからどうするんですか?あそこの部隊は遅かれ早かれ確実に絵里さんたちを見つけて殺しに来ますよ」
花陽「対アンドロイド特殊部隊に敗北の文字はありませんから」
絵里「…そうなのね」
絵里(やはりとんでもない集団ね、あそこは)
ことり「………」
絵里(私より戦闘は優れていたであろうことりがあんなになってるようじゃ私に勝ち目があるわけもなく、善子や真姫の力を借りても勝てるかどうかが危ういところ)
花陽「ことりさん、EMPグレネードを食らったんですね」
絵里「EMPグレネード?」
花陽「最近開発されたオーバーテクノロジーの産物です、爆発すると辺りの電子全てを一定時間機能を停止させることが出来るんです」
絵里「それは……あっ」
花陽「気付きました?アンドロイドは電子から出来てるものなのでEMPグレネードを食らうと少しの間は死と同義の状態になります」
花陽「だから今のことりさんは仮死の状態にあります」
絵里「仮死…」
花陽「だからEMPグレネードというのはアンドロイドに対して絶大な効果を発揮するんです」
絵里「なるほど…」
ことり『っ!ダメッ!』ドカッ
絵里『っあ!?』
絵里「だからあの時…」
絵里(あの時ことりが私の背中を全力で蹴った理由が分かった)
絵里(私を助けるために蹴ったんだ)
絵里(ことりの反応を見るにことりはあれが何なのか知ってたのでしょう、だから自分を犠牲にしてまで私を助けた)
絵里(…これが考えすぎじゃなければいいけどね)
花陽「…これ、ことりさんに使ってあげてください」
絵里「あ、ありがとう」
絵里(花陽さんかた包帯を貰ったからことりの肩にそれを巻いた、ことりも果南と一緒で当分は戦えないだろう)
花陽「これからどうするんですか?」
絵里「……分からない、けど逃げるよりかは攻める、その方針だけは固まってると思う」
花陽「逃げるより攻める…なるほど、でしたらY.O.L.Oに行ってみてはいかがですか?」
絵里「よーろ?」
花陽「はい、You Only Live Onceの略らしくて人生は一度きりという意味らしいですが、戦いの中だとY.O.L.Oというのは最前線へ突っ込むことを意味するらしいです、だから一部に兵士や偉人は攻める時に“Y.O.L.O!”と叫びながら敵の本陣へ走ったと聞きます」
絵里「へぇ…」
花陽「…あ、すいません。Y.O.L.Oというのは対アンドロイド特殊部隊兼それ以外の部隊などに武器や道具を作っている研究所みたいなところです」
花陽「つまりは武器庫です」
絵里「なるほど…武器庫…もしそこを落とせれば…」
花陽「はい!根本的な戦力の低下を強いることが出来ると思います」
絵里「…いいわね、そうしようかしら」
花陽「爆破でもなんでもしちゃえばいいと思いますっ私は戦闘には参加できませんけど、情報くらいなら提供できますのでどうぞ気になることがあったら聞いてください」
絵里「ありがとう、助かるわ」
絵里(いい情報を手に入れた、よく分からないけど花陽さんは私の力になってくれるらしい)
『花陽です!私…花陽って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「………」
絵里(あの時から思ったけど、こうやって話して犯罪者である私に協力するなんて改めて変な人だと思った)
絵里(見た目や話的に単純そうに見えたけど、笑顔から零れる宝石のような瞳は何か深いモノを持っているような気がしてならなかった)
花陽「え?もう行っちゃうんですか?」
絵里「とりあえず戻るわ」
花陽「でも外は…」
絵里「分かってる、でもここでうかうかなんかしてられない」
絵里「私には仲間がいる、その仲間に心配をかけられないわ」
花陽「…分かりました」
絵里(紅茶を半分飲み終えた頃、私はことりをおんぶして出口へと向かった)
絵里「今日はありがとう、この恩は忘れないわ」
花陽「いえ、恩とかそんなのは気にしなくて大丈夫です」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私の言いたいことを全部まとめた上で出てきた言葉は“ごめんなさい”だった)
絵里(今は花陽さんにお返しする余裕がない、自分のことだけで精一杯だった)
スタスタスタ
花陽「…あ、あの!」
絵里「ん、何?」
花陽「…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います」
花陽「明日には死んでるかもしれない、些細な出来事で全てが崩れてしまうかもしれない」
花陽「もしかしたら私が裏切り者かもしれない」
花陽「…それでも、絵里さんは戦いにいくのですか?」
絵里「……ええ、もちろんよ」
絵里「もうトリガーを引いたからには戻れないの、これは生半可な覚悟でやってる遊びじゃない」
絵里「殺し合いを今――――私たちはしてるの」
絵里「…そこにルールなんてない、勝った者が正義と言われ、負けた者が悪と言われるそんな理不尽極まりないクソまみれの世界で私たちは戦っているの」
絵里「もはやあなたが裏切り者だろうと関係無い」
絵里「相手が人間だろうとアンドロイドだろうと、銃弾で貫けば終わりなんだから」
花陽「…そうですか、流石絵里さんです。聞いた私がバカでした」
花陽「…次いつ会えるかは分かりません。でも、“また今度”はあると思います」
花陽「だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪」
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(どこか意味深では儚げな顔をして花陽さんは私を見送ってくれた、出口を抜けた私は真姫にメールで今日はいけないとメッセージを送り私たちの家である別荘へ向かった。武器はまた今度になりそうね)
タッタッタッ
絵里(路地裏を使って監視の目をやり過ごす、クソみたいな街のクソみたいな警備なんてちょろいもんよ)
絵里(街を抜ければ後は別荘へ戻るだけ、森の奥だから誰もいないし後は歩きながら帰った)
スタスタスタ
絵里「…ふぅ」
絵里(今日のことを見て、やっぱり一筋縄ではいかないなと実感する。にことあのスナイパーは脅威、直線状のフィールドで目をつけられたらひとたまりもないでしょう)
絵里(だからこそ今は戦力が欲しい。現状戦えるのは私と善子しかいないし、まさかこの期に及んで果南を戦力にいれるなんて世迷言をいうはずもない)
ことり「………」
絵里「………」
絵里(ことりだって無理だろう、そもそも仲間ですらないし)
絵里「どうしたものかしら…」
絵里(後一人いるだけでもだいぶ違う、でも私の知り合いに戦ってくれそうな人はいない)
花陽『…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います』
絵里(Y.O.L.Oへ向かうかもとは言ったけど、今戦える私と善子の二人だけで向かうのもまた無茶のある話。こんな閉鎖的な状況だけど負け戦上等なわけじゃない、何か…何か状況を変えてくれるトリガーが欲しかった)
ことり「ん……」
絵里「!」
ことり「……あれ、ここは」
絵里「目が覚めた?」
ことり「あなたは…っていったた……」
絵里「肩を撃たれたんだから痛いに決まってるわよ」
ことり「………」
絵里『ことりっ!』
ことり「…助けてくれてありがとう」
絵里「……いいのよ」
ことり「なんで私を助けたの?」
絵里「…なんでかしら」
絵里(自分でもよく分からなかった、なんでだろう、なんでなんだろう。考えれば考えるほど、疑問は深みに落ちてゆく)
絵里「…助けるのに、理由なんてあるのかしら」
ことり「え?」
絵里「…ごめんなさい、私もよく分からないの」
絵里「殺されそうになったことりを見たら、この前のこととかどうでもよくなってとにかく助けなきゃって思ったの」
ことり「…そっか」
ことり「……でも、良かったの?あなたはますますあそこの部隊に目をつけられることになったんだよ?」
絵里「いいの、結果でどうであろうとあそこでことりを見殺しにしたら私は一生後悔すると思うから」
ことり「…変な人だね」
絵里「…ええ、そうかもしれないわ」
ことり「これからどうするつもり?」
絵里「家に帰るわ」
ことり「家?」
絵里「私の知り合いの別荘を借りてるの、もういつも住んでた場所にも住めないもの」
ことり「…そうだね」
絵里「ことりもしばらくは私たちの住んでる別荘にいなさい、経緯でどうであり同じ状況にいるんだから」
ことり「…私たち?」
絵里「…果南って覚えてる?」
ことり「…!うん」
絵里「その子と、善子って子と私の三人で住んでるの」
ことり「………」
絵里「…大丈夫よ、果南も善子も優しいから」
ことり「……うん」
絵里(果南と殺し合いをしたことりの気持ちはよく分かる、それにことりは…)
絵里「…そういえばさ」
ことり「何?」
絵里「…私の知り合いから胸を撃たれたって聞いたの、大丈夫?」
ことり「……大丈夫なわけないじゃん」
ことり「大丈夫なわけないじゃん!?」
絵里「わっ…!」
絵里(逆鱗にしまったのかもしれない、ことりは怒号を私に散らした)
ことり「私ね…笑えなくなったの…!」
絵里「笑えなくなった?」
ことり「感情の欠如だよ、果南って人に胸を撃たれて私の心から喜びという感情が消えた」
ことり「だから私は笑えない、怒るとか泣くとか悲しむとかは出来ても喜ぶことは出来ないの…」
絵里「それは…ごめんなさい」
ことり「…いいよ、もう」
絵里(失ったモノはイヤでも現実を見せてくる、銃弾は命だけでなく心を溶かし、視界を赤で染める)
絵里(力強く引かれたトリガーを始まりとして放たれた銃弾は運命を変える、それはいい意味でも悪い意味でも)
絵里「…果南とは居づらいと思う、なるべく私がいるようにする。だからことりもそこは我慢して」
絵里「ことりに死んでほしくないの」
ことり「…分かってる、私だって死にたくない」
絵里「ありがとう」
ことり「…それ私のセリフ」
絵里「ふふふっごめんなさい」
絵里(道徳的に優れてるとは言えないけど、ことりはしっかりしてる人だ。だから理解はちゃんとあるしこういう時わがままを言う性格ではない)
絵里(これからどうなるのか不安になる半面、またあそこが賑わうかもしれないと思い嬉しいところもあった。仲間はいっぱいいてくれた方が安心できるしね)
ガチャッ
絵里「ただいま~」
善子「おかえ……」
ことり「…おじゃまします」
善子「…り?」
果南「おーおかえー…ってあれ?南ことり?」
ことり「………」
絵里「…あはは、ごめんなさい。向こうでちょっとあってことりも一緒に住むことになったの」
善子「はぁ!?」
果南「あははっ!いいじゃん面白そう」
善子「別に住むのはいいけど大丈夫なの?果南とやり合ったって聞いてたけど…」
絵里「むしろ果南とやり合ってこうして生きてるんだから大丈夫に決まってるじゃない」
善子「いやそういう問題じゃなくてね…」
果南「別に大丈夫だよ、善子も見ればわかるでしょ?ことりは私と同じで大きな傷を負ってる、つまり戦えないんだよ」
善子「あ、そっか。やっぱり堕天使ヨハネには敵わないのね…」
ことり「…?」
絵里「あはは…気にしないで、善子のプログラムちょっとバグってるから…」
善子「バグってなんかない!後ヨハネ!」
果南「まぁお荷物同士仲良くやってこうよ、私も生憎戦えない体だから」
ことり「お、お荷物……」
善子「…あれ?そういえば武器は?」
絵里「ことりを運ぶのを優先したわ、だから今日はいけないって真姫に連絡しといたわ」
果南「そっか、まぁ仕方ないね」
絵里「ええ」
絵里(果南も善子も正直受け入れてくれるか心配だったけど思いのほか納得が早くて助かった。話が終われば二人はリビングの方に行くから私とことりもリビングに向かった)
絵里「あ、ごめんなさいお茶いれるわね」
ことり「…ごめん」
絵里「謝らなくたっていいわよ、普段通り過ごしてて」
果南「何があったの?」
絵里「にこに殺されそうになってることりを助けたのよ」
善子「…は?にこに殺されそうになってるってどういうこと?」
ことり「…私は処分対象になったらしい、だから殺すって」
果南「なにそれ…」
善子「…果南と同じね」
絵里「…もしかしたらアンドロイドの大量殺戮は始まってるかもしれないわね」
善子「大量殺戮ってそんなまさか…」
果南「少なくともここにいる四人は殺戮対象だね」
ことり「………」
善子「…どうする?ますます私たちじっとしていられないわよ」
絵里「そのことなんだけど、Y.O.L.Oってところを攻めたいの」
果南「Y.O.L.O?」
ことり「…!知ってる、政府の武器庫でしょ」
絵里「ええ、AAの武器や道具を作ってるところよ」
善子「政府の武器庫…確かにそこを落とせれば大きいけど戦力があまりにも少なすぎない?果南とことりは戦えないじゃない」
絵里「…そこなのよ、だからどうしようか悩んでるのよ」
ことり「…ごめん」
果南「あはは…ちょっと笑えないかも」
絵里「二人はそんな気負う必要はないわ、仕方のないことよ」
善子「…ダメ、私と絵里じゃ多分落とせないわ、政府の武器庫なんて言われてるようじゃそこに武力を割いてるに決まってる。一般的に訓練された兵ならともかく超一流が三人でもこられたら私たちどうすることも出来ないじゃない、絶対に攻める場所を変えるべきだわ」
絵里「…ふむ」
ことり「…なら私から提案がある」
果南「何?」
ことり「……渡辺曜を殺すべきだよ」
善子「渡辺曜?」
絵里「誰それ」
ことり「絢瀬絵里ならわかるでしょ?さっきのスナイパーだよ」
絵里「! あいつが…」
ことり「渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊の主力だよ、攻めあぐねてるなら今すぐにでも渡辺曜を殺すべきだよ」
果南「ちょっと待って、主力って具体的に何を意味して主力って言ってるの?」
ことり「…あいつは化け物だよ、一回だけ戦ったことがある」
善子「渡辺曜ってやつと?」
ことり「うん、生意気にも人間のクセに私に挑んできたからね」
絵里「それで何がすごいの?その渡辺曜って人は」
ことり「…渡辺曜はほぼ全ての武器が使える」
果南「わお」
善子「なるほどね」
絵里「そういうこと…」
ことり「私は近距離ならこのタウルス・ジャッジと格闘術を使うけど、中距離以上ならアサルトライフルで対応する。そうやって人それぞれ戦術があるの、あなたたちもそうでしょ?」
善子「まぁ確かに…」
果南「あはは、私はそういうの考えたことないや。火力があれば何でもいいって感じだったから」
善子「やっぱり脳筋じゃない…」
ことり「…私たちにはそういう不向きとかがあっても渡辺曜は違う、あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う」
絵里「そんななの…」
ことり「しかも渡辺曜が化け物なのはそれだけじゃない」
果南「何?まだなんかあるの?」
ことり「…あいつがEMPグレネードを作った」
絵里「EMPグレネードを!?」
ことり「うん…渡辺曜は私と同じで投擲物大好きな人だからそこで閃いた…んだと思う」
絵里「閃いたって…閃いたとしてもそれを可能とする技術が」
ことり「ある」
絵里「!」
ことり「渡辺曜にはあった、元々渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊に入る前は戦闘員じゃなくて銃火器を設計したりアタッチメントを開発したりしてた、だから何かを創ることに対しては長けてる」
ことり「渡辺曜の口癖はヨーソロー…うん、ようそろ」
ことり「そんなようそろという言葉からうそを抜けば“よろ”という言葉が残る、それをローマ字に変換してYOLOで、YOLOっていう言葉には“人生は一度きり”という意味がある」
ことり「…ここまで言えばわかるよね?」
善子「…さっき言った政府の武器庫のこと?」
ことり「そうだよ、渡辺曜は私に言ったよ」
ことり「ヨーソローという言葉が私に答えをくれる、と」
果南「…深いんだね」
ことり「うん、つまりY.O.L.Oというのは渡辺曜が創った基地、EMPグレネードを作るし戦闘面でも相当だしそんな人を生かしておいたらどんどん不利になっていくと思う」
絵里「…なるほど、それはまずいわね」
善子「相手が一人だけなら私たち二人でも戦える…うん、それがいいわ」
善子「渡辺曜ってやつを殺しに行きましょう」
絵里「…了解、いいわよ」
ことり「……油断しちゃダメだからね」
果南「なんか不安だね…」
絵里「大丈夫よ、こっちは二人なのよ、有利は取れるはず」
ことり「…それを油断って言うんだよ」
果南「確かに」
絵里「………」
善子「…とりあえず作戦の決行はいつ?」
絵里「どう考えても夜中ね、というか家とか分かるの?」
ことり「任せて、渡辺曜、矢澤にこ、園田海未の家ならわかる」
絵里「おお、流石ね」
果南「なんで知ってるの?」
ことり「……寝てる時に殺そうと思ってつけたことがある」
善子「うわー執念深っ…」
ことり「あそこの部隊は一生私の敵だろうから」
絵里(この思い切った作戦にことりがいてくれてよかった、ことりの過去に幾度となく戦ってきたであろうそこから得た知識は計り知れない価値があって利益を求めてたわけじゃないけど、ことりを助けてよかったって思った)
善子「絵里は武器どうするの?」
果南「攻めるなら早いうちに攻めた方がいいよね、膠着状態にならないように」
絵里「…明日真姫の家に行って武器貰って決行?」
ことり「いや、いい」
絵里「え?」
ことり「私の銃を使って、決行は今日。図られないうちに行こう」
絵里「え、でもいきなり渡されてもブレとかレートとかよく分からないし…」
ことり「…そこはなんとかして」
善子「なんとかしてって…」
絵里「ちなみにどんなの持ってるの?」
ことり「これ」
善子「アサルトライフルよね?」
ことり「そうだよ、QBZ-03っていうの」
果南「へー…タウルス・ジャッジなんて持ってるんだからもっと特徴的なの持ってるのかと思ったら意外にもスタンダードなんだね」
ことり「タウルス・ジャッジは近距離を強くするために使ってるだけだもん、アサルトライフルは使いやすいやつを選ぶに決まってるよ」
果南「まぁそうだね」
ことり「マガジンはあるよっ」
善子「どっから出してんのよ…」
ことり「スカートの裏側につけてるの、マガジンポケットの為に武装なんてしてたら目立つし仕方ないの」
善子「でもプライバシーってものがあるでしょ?パンツとか見られても大丈夫なわけ?」
ことり「…えっ確かに私パンツ見られてるのかな…?そう考えたら急に恥ずかしくなってきた…」
善子「はぁ?」
果南「あはは、なにそれ」
絵里「あははは…」
ことり「むーとにかく私の銃を使って、クセとかないから多分使えると思うから」
絵里「うーむ…」
果南「…まぁいいんじゃない?QBZ-03はことりの言う通りクセが無くて使いやすい銃だから初めて使う絵里でも問題なく使えると思う」
善子「…ノーコメントで」
絵里(迷いに迷った結果ことりの銃で戦う事が決まった、そうと決まれば色々準備が必要だった)
絵里「もしここに攻めて来たら全力で逃げて、追手をまけそうだったら真姫の家に向かって。状況を説明すれば匿ってくれるはずだから」
果南「了解だよ」
カチャッ
善子「…私は準備いいわよ」
果南「わお、様になってるね」
絵里「善子似合いすぎでしょ…」
絵里(私たちが通ってる制服の上に防弾チョッキを着て、そこから更に紺色のマガジンポーチをつけて腰に拳銃をかけて両手でサブマシンガンを持つ、そしてカチューシャのように頭につけるマイク付き通信機をはめて、まさに善子の姿は戦闘員だった)
果南「そういう絵里も似合ってるけどね」クスッ
絵里「そうかしら?」
絵里(私も善子同様制服の上に防弾チョッキとマガジンポーチをつけてるのだけど、頭につけてるものは違う。私はカチューシャのようなものではなくてヘッドホンタイプの通信機をつけて、更にリュックを背負っている)
絵里(このリュックは普通のリュックとは違って肩にかけるだけじゃなくてかけた後に腰にベルトを巻くリュックで、こうすることで激しい動きをしてもリュックが体から離れることはない)
絵里(そしてそのリュックには通信機のアンテナと投擲物や怪我の応急処置が出来る物などとりあえず持っておいて損はないであろうものが入ってる)
果南「大丈夫?忘れ物はない?」
絵里「ええ、大丈夫よ」
善子「私も」
ことり「…気を付けてね、渡辺曜は強いから」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ここから先は遊びじゃない、私たちの命を賭けた最初で最後になるかもしれない戦い)
絵里(必要な情報は出揃ってる、後は実行に移すだけ)
ことり「…いってらっしゃい」
果南「死なないでよね」
絵里「ええ」
善子「もちろんよ!堕天使ヨハネに敗北の二文字は」
絵里「じゃあいくわね」
善子「最後まで言わせなさいよぉ!」
絵里(真姫に連絡をした、今日でお別れかもしれないってただその一言だけを送った)
タッタッタッ
絵里「………」
善子「…緊張してる?」
絵里「…当然よ」
善子「どうする?ここで私たち死んじゃったら」
絵里「…アンドロイドは一生モノであり続けるでしょうね」
絵里「アンドロイドは頭の良い生物よ、頭の良い生物なら負け戦なんてしようとは思わないでしょ?」
絵里「死ぬリスクを背負うより、差別を受けながらも生きれる道を選びたいものなのよ」
善子「……じゃあ私たちはバカなのかしら?」
絵里「…バカなのかもしれない」
絵里「けど、正義がどうであるべきか分からない臆病なアンドロイドにはなりたくない」
絵里「私は変わらないこれまでよりも変わってくこれからがみたいの」
絵里「…それがバカな私なりの考え」
善子「……間違ってないと思うわよ、それ」
善子「…この前言ったわよね、戦う事に意味があるとは思えないって」
善子『私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの』
絵里「ええ」
善子「もう、そうは思わない」
善子「…ねえ、なんで私が戦いをしたくないか知ってるでしょ?」
絵里「…ルビィよね」
善子「正解、ルビィよ」
タッタッタッ
善子「……懐かしいわね、もう数年喋ってないわ」
絵里「…ええ、喋ってないわね」
善子「“あの時”からもう戦わないって心に誓った、戦闘型アンドロイドは戦闘をするアンドロイド、だけどそんな戦闘型アンドロイドの私が戦闘をしないっていうイレギュラーを発生させたのは――」
善子「――――どうにもこうにも、ルビィのせいなのよ…」
絵里「…やめましょう?あなたの過去は美しいものじゃないはずよ」
善子「…ええ、でもこれだけは言わせて」
善子「……私はルビィとの約束を守れない」
絵里「…良いと思うわ、ルビィもきっと許してくれる」
善子「…そうだといいんだけどね」
絵里(暗い話をしながら夜の街を駆ける私たちに街灯の淡い光は眩さを描いてた、曜の家は住宅街にある一軒家らしくて真っ暗な夜道の闇に紛れ着々と曜の家との距離を縮めていった)
絵里(私は毎時賑わう大都会のマンションに住んでたからよく分からなかったんだけど、こういう住宅街っていうのは夜中だと私たちを照らしてくれる光があまりなく視界があまりよくなかった)
絵里(…それ故か、いや関係無いかしら。次の瞬間には闇に映るたった一つの光が状況を変えた)
キランッ
絵里「っ!」
善子「スナイパーよ!隠れて!」
プスッ
絵里「…!スナイパーってこんな銃声だっけ?」
善子「…いや違う、多分サプレッサーをつけてる」
絵里「サプレッサー?」
善子「銃声を抑えるアタッチメントよ、これで銃声による位置の捕捉がされにくくなるの。ただその分弾の威力を減らすからリスクもあるわ」
善子「…もちろん人を殺す威力であるのは変わらないけど」
絵里「…なるほど、厄介ね」
絵里(向かい右側にある屋根から見えた煌く白の光に私たちはすぐ反応してすぐそばにあった曲がり角を曲がって死角へと逃げた)
善子「めんどくさいわね、どうする?」
絵里「どうしましょう…か、難しい選択ね」
絵里(相手がスナイパーじゃ容易に顔を出すことが出来なくて視界も悪いし無防備に前へ出れるはずもなく中々動ける状態じゃなかった、これはゲームじゃない、死んでも復活しないし銃弾を受けてもすぐに回復なんかできない)
絵里(だからこの選択は非常に重要なものだった、一つ間違えただけで死が待ってる。脳死な行動は出来ないしよく考える必要があると私は思った)
「悩んでる暇なんてあるん?」
絵里(深く考えてる時、声がした。それは不意によく反響して)
絵里「!」
絵里「っ!どこっ!?何!?」
絵里(反響のせいか、声の発生した場所が分からなかった。左なような右なような曖昧な感覚だけが私を引っ張ってパニックになった)
絵里(けど、電柱にくっつく防犯灯の光が答えをくれて揺れだした気持ちはすぐに収まった)
絵里「…!上…!」
絵里(私の影に誰かの影が重なったのを見て気付いた。そしてそれは一目見て善子じゃないことが分かった、何故ならそいつは宙に浮いていたから)
「悪く思わんといてねっ!」
絵里「そんなっ!」
絵里(上を見て私が思わず叫んだ、善子は今どうしようとしてるのかしら。それを確認することすら出来ないくらいに刹那の出来事で、私たちはどこを向いてようとどんなスピードだろうとアンドロイドだけが見える銃口から放たれる射線さえ確認すれば回避行動に移れるけど今回はその射線が確認出来なかった)
絵里「そんなのあり…?」
絵里(そして上を見て今更ながら相手の銃口の向きを見て射線を確認出来ない理由を知った)
絵里(相手の持っていた銃はショットガン二丁で、それをそれぞれ片手で持ち腕をクロスさせた状態で私の頭上に来た、それはつまり銃口は空を向いてるのだから私が射線を確認出来るわけがない)
絵里「…っ」
絵里(上を見た瞬間横向きに高速回転をしながら落ちてきたもので面食らって怯んでしまった。こんな動きが出来るやつがこの世にはいるんだ、世界の広さと私の知ってる世界の狭さを知った気がした)
絵里(二つのトリガーを引くことで数えきれない散弾が私に向かって飛んでくる、一つの跳躍じゃ完全に回避しきるのも無理がある)
絵里(なんで世界は私を嫌うのだろう、なんで世界は私を殺したがるんだろう。なんで神様は私を生んだんだろう)
絵里(死を悟った瞬間、目が光を通さなくなった。戦いってこんなあっけなく終わってしまうものなのね、理解した私は今までの人生がバカらしく思えた)
絵里(千歌との出会いも、亜里沙との出会いも、果南との出会いも、全て全て無駄だったって思うと私の全てが石になってしまうような気がした)
善子「絵里!もうなんでもいいからとにかく避けて!避けなさいよっ!」
絵里「!」
絵里(後ろから声が聞こえる、善子の声…今の善子はどんな顔をしてるんだろう)
絵里(分からないけど必死だった、きっと善子にも見えてるのだろう、私があのショットガン二丁の散弾を避けれる確率が。だからこそ必死だ)
絵里(でも私だって必死よ。アンドロイドとして誇らしく行きたくて、人間と並んで行きたくて、いつか夢見てたいつだって笑顔になれる日々を目指して引いたトリガーはこんなにも浅かったのかしら)
絵里「…違う」
絵里(それは断じて否、命を賭けてまで果南を助けて、原因も分からずに湧き上がる心の何かに感化されことりまでを助けてここまで来てやっと引導を渡すって時に)
絵里(散弾を体に埋め込まれて死亡なんてそんな最悪な終わり方は……ごめんでしょ!?)
絵里「まだ終わってないッ!」
『回避行動分析、射線を計18本確認、存在する回避ルートは一つ』
絵里(ありふれたハッピーエンドでもいいの、ただ私はバッドエンドじゃなきゃよかったの)
絵里(諦めきれない気持ちは私に再び光を宿した)
絵里(このまま終わるだなんて、そんな最低な終わり方を迎えたくない)
絵里(神にはもう頼らない、私自身が…私の引いたトリガーで――)
絵里(――――運命を変えるの)
『回避率99.9パーセント』
絵里「はっ!」ドドドド
「えぇっ!?なんやそれ!?」
絵里(覚悟を決めた私は素早く後ろへと飛び退け、その瞬間に前へアサルトライフルを発砲した。するとどうだろう、微量とはいえ発砲した勢いから作られる慣性が私の跳躍を勢いづけた)
絵里(ある程度宙に浮いてることに自覚が持てた頃には地面に叩きつけられるよう落ちる複数の銃弾が光に反射して良く見えた、まるでそれは雨のようだった)
絵里(また、その光景を見て尚体が動くのならきっと私は生き延びたのでしょう)
絵里「…くっ!」
絵里(そして私は吹き飛ばされたかのように背中から地面へと不時着する)
善子「絵里、大丈夫?」
絵里「なんとかね」
絵里(善子は駆けよって私を起こしてくれた、ただ安心してる暇などない)
「あなた面白いやんねっ!」ブンブンッ!
絵里(空からやってきた謎の相手は私たちに超接近して、姿勢を低くし舞うように二丁のショットガンを振り回しながらショットガンを撃ってた)
絵里「っ!」
善子「なによそれ!?」
絵里(するとどうだろう、放たれた銃弾は壁や地面に穴を開けるものもあれば跳弾して様々な方向へ飛び散るものもあり、そんな跳弾は右から左へ、左から右へと舞ってた)
善子「絵里!」
絵里「分かってる!」
絵里(平面で回避するのは無理があるというのはアンドロイドなら誰しもが分かること、だから私たちは近くにあった一軒家の塀を上ってそのまま屋根へと飛び移った)
善子「何なのあいつ…」
絵里「果南以上に攻撃的なやつね…」
絵里(黒色のショットガンを二丁下げてマネキンのような顔をした真っ黒の仮面をかぶって私たちを見てた、相手の周りに出来た無残な穴を見ると寒気がする)
「ウチのあの攻撃を初めてみてあの避け方は流石アンドロイドやね」
絵里「…あなたは誰?」
「んー?ウチかー死神かなぁ」
善子「死神?随分と厨二なのね」
絵里「いやそれ善子が言えたことじゃないでしょ…」
善子「これはプログラムなのよ!」
「ふふふっ仲がいいんやね」
善子「っ…仮面をしてるのは何故?」
「生きとし生ける者、顔は大事なんやで?戦うモノとして顔を相手に教えて戦うなんて意識が低いもいいところ、日常で狙われたらどうするん?」
絵里「…なるほどね」
「…それに、生憎ウチは殺し屋をやってるもんでね。尚更顔は見せられないんよ」
善子「ふーん殺し屋ね…殺害対象は私たち?」
「ご名答やね」
絵里「そう、でも生憎私たちは殺されるつもりはないわ」
「知ってる知ってる、でもそういう意思を持ってる人を殺すのが」
「殺し屋の流儀ってもんやない?」クスッ
善子「…狂ってるわ」
「ふふふっありがとな」
善子「ちっ…何なのこいつ…」
絵里「………」
絵里(私たちは今とんでもない相手と対峙してるのでしょう、あの舞うような動きは訓練しても尚そう簡単には出来ない動き、それにショットガンを片手に持って何発も撃つのよ、どう考えても普通じゃないわよ)
絵里「…あなたアンドロイド?」
「…どっちだと思う?」
絵里「……アンドロイドかしら」
「ふふふっ答えはね…」
絵里「………」
「…ウチを殺して首を見れば分かるよっ!」ポイッ
善子「っ!」
絵里(そう言った瞬間ピンを抜いた手榴弾が飛んできた、すぐに反応した私はPR-15でその手榴弾に向かって発砲、私たちに届く前に弾が命中して空中で大爆発を起こした)
絵里「くっ…」
善子「絵里、反応早かったわね…」
絵里「負けたくないからね…んん…」
絵里(爆風は近場だったから相当なもので、風圧がとにかくすごかった。気を抜いたら吹き飛ばされてしまいそうなほどに)
絵里「…!おっと」
絵里(そして次に襲ってきたのはどこからか飛んできたスナイパーの弾、銃声は爆風とかも相まってほとんどしなかったけど何故か回避出来た…いや、そもそも私は避けたのかしら?)
絵里(ともかく、この時点で敵は二人いることになる。ショットガンの相手は紺色の武装はしてたけどスナイパーは持ってなかった、つまりどこかに二人目がいる)
「よっと、あれを打ち落とすとはますますあなたが気になるやん!?」ドカッ!
絵里(爆風で怯んである間に相手も屋根の上に上ってきて今度はショットガンを鈍器として扱ってきた、それはまるで二つの剣を持っているようなガンソード二刀流だった)
絵里「っ…」
絵里(私はその二つのショットガンの打撃をアサルトライフルのグリップと銃口を掴んで、アサルトライフルを盾代わりにして受け止めた、爆風が無くなった頃に突然来たから避けるという選択肢は無くて銃が壊れてしまうのではないかと不安になる猛攻に思わず冷や汗が流れた)
絵里「はぁっ!」
「ぐあっ」
絵里(しかし私も受け手に回ったままではない、攻撃に集中してたせいか下半身ががら空きだったからすかさず足払いをして相手を宙に浮かせた)
善子「はっ!」ドカッ
絵里(そして相手の後ろを取っていた善子は宙に浮いた相手の背中に飛び膝蹴りをかまして相手は声も出せなかったのか勢いよく吹っ飛び屋根から落ちていった)
善子「…流石に死んだでしょ」
絵里「す、すごいわね今の」
カランッ
絵里「!」
絵里(そんな時足元で嫌な音がした、すぐさま下を見れば月のアイコンが刻まれたピン抜きの手榴弾が転がっててすぐに察した)
絵里「逃げてッ!」
善子「嘘でしょ!?」
ドカーンッ!
絵里(大爆発――もはやあの時点でダメージを受けるのは確定的で、その受けるダメージを減らす為に私と善子はすぐさま後ろへ飛び退けた、そしてそれでどうなったのかしら)
絵里「ぐ…けっ…ええ…」
善子「きっ……ぐぅううう……!あの紫髪のやつ…!けほっ…!」
絵里(私も善子も爆発で屋根から突き落とされ固い地面へと叩き落された。善子は胸から叩きつけられたもので肺に衝撃が渡って呼吸がとても不規則な状態に陥り、私は地面に叩きつけられた後塀にぶつかったもので口からは赤が出てきた)
「あれーあんまりダメージ食らってないやん」
善子「あんたこそなんでそんなけろっとしてるのよ…」
「元々ウチは受け手やから」クスッ
絵里「…くっあれのどこが受け手よ」
絵里(なんとか立ち上がって相手を睨む、確かにあの時ダメージを与えたはずなのに今の様子を見る限りあんまり効いてる感じがしない。やはり一筋縄ではいかないようね)
「どこ見てるのかな!」
絵里「!」
絵里(アサルトライフルのマガジンはあるものの、リロードするタイミングがない。だからアサルトライフルは背中にかけて拳銃を片手に持った時、それはまた今見えてる相手とは別の声が聞こえた)
絵里「後ろ!?」
絵里(先に後ろを向いたのは私だった、そしてらすぐそばまで近づいてる相手の姿があって次の瞬間には私のお腹目掛けて右ストレートが飛んできた)
絵里「させないっ」
「受け止めるよねっ!知ってるよっ!」ガツッ
絵里「うあっ…!?」
絵里(もちろん私はそれに反応してお腹に当たる直前で受け止めるけど、相手が次に取った行動はその受け止められた右腕を使ってそのまま肘打ちに変更、結果私は胸に肘打ちを受けて後ろへとよろめいた)
「はいはい今度はウチの番だよねっ!」
絵里(そして後ろから聞こえる紫髪の声)
『射線確認、回避出来る可能性は――』
絵里(射線を確認した時点でショットガン二丁が私に向けられてることが理解出来た)
絵里(…でも、今の状況はどうしようもなかった。肘打ちを食らって怯んでる状況ですぐに回避に移せるわけがない、アンドロイドは平均より優れてるだけであって万能でも無敵でもない。だからこの状況で突然超スピード回避とかそんな空想上の事が出来るわけない)
善子「はいはい、相手は私よ紫髪」ドドドド
「うおっと、サブマシンガンなんて持ってたんやね」
善子「久々に使うから練習相手になってくれない?」
「…いいよ、最初で最後の練習試合にしようか」
善子「ええ、あなたを殺して次から本番ね」
「ふふふっそうなるといいね」
善子「……絵里」
絵里「な、何?」
絵里(お互い背中を寄せて銃を構える、私の構える先にいるのはスナイパーを使っていたであろう相手、善子の構える先にいるのは超攻撃的な紫髪の相手。どちらもおそらくは最強レベルでしょう)
善子「ここから先は一対一でやりましょう、下手にごちゃごちゃするより邪魔が入らない一対一の方が勝てるでしょ?」
絵里「…ええ、そうね」
善子「……信じてるから」
絵里「…勝って会いましょうね」
善子「もちろんよっ!堕天使ヨハネ任せなさい」
善子「…では、堕天っ!」ダッ
絵里「ええっ!」ダッ
絵里(反撃の狼煙はここから上がる、お互い相手へと走り出して発砲する)
絵里「せやぁっ!」
「あまり勝てるとは思わないほうがいいよっ!」スッ
絵里(相手は私と同じよう銃弾を避けるもので、近づいて格闘術で攻める。拳銃のグリップの部分を使って喉元を叩こうとするが簡単に手首を掴まれてしまう――けどそれは知ってる、ことりと戦った時も同じ事を思ったはず)
絵里「そっちがねっ!」
絵里(この戦いにおいては攻めた方が勝ち、なら無理やりにでも攻撃を通すのがいいと判断した私はそのまま前方宙返りをしてかかと落としをした)
「ふふふっ分かってるよ、あなたがそれをやるのだって」
絵里「っ!?」
絵里(しかし次の瞬間には相手が私の作った回転の慣性を利用して私の手首を掴んだまま宙返り、その結果私は地面へと強く叩きつけられた)
絵里「いぎっ…」
「これでフィニッシュ!」バンッ
絵里「…!ふっ」
絵里(休む暇なんてない、叩きつけられうつ伏せで倒れる私に放たれた拳銃の銃弾に対して左に転がり回避してすぐに起き上がり銃を構える。相手は笑ってるけど私は至って真剣な表情、これが今の実力の差を表していた)
「それを回避するなんて、やるね」
絵里「それはどうも」
「私知ってるよ、あなた絵里さんでしょ?」
絵里「…じゃああなたは渡辺曜?」
曜「そうだよ、私は渡辺曜だよ」
絵里「あなたが…」
曜「私の事は多分ことりちゃんから聞いてるんじゃない?」
絵里「…ことりちゃん?」
曜「気にしないで、私がそう呼んでるだけだから」
絵里「ふーん…」
曜「…にしてもやっぱり絵里さんは頭がいいね」
曜「作戦実行のタイミングと、その作戦内容。そうだよね、EMPグレネードを作ってる私を殺すのが一番頭のいい行動だと思う」
曜「…でも、だからこそその作戦は読めてたよ」
絵里「なるほどね、だから先手を打たれたわけね」
絵里「…でも、おかしくない?それならにこや海未…その他の特殊部隊の人を呼んでくればよかったじゃない、穏便に済ませたいっていうならあの紫髪みたいに手榴弾なんて使わないでしょ?」
曜「あはは、流石にどこから来るかは読めないからそこまで高度な事は出来ないし、みんながみんな毎時に動けるわけじゃないよ」
曜「…っていうのは建前、私ね、この特殊部隊に入ってると同時に飛び込みもやってるんだ」
絵里「…それで?」
曜「私にもスポーツマンシップっていうものがあるんだよ、飛び込みは反則なんてほとんどないけどね。だから私は罠とかそんな姑息な手を使って殺すより面と面を向き合う真剣勝負で勝ちたいんだよ」
絵里「スナイパーの狙撃が真剣勝負って言えるのかしら?」
曜「アンドロイドは音が無くても銃口が向いてるだけ射線を確認するからあれは元から当たらないと思っての狙撃、そもそも対アンドロイドの狙撃っていうのは当てる事を目的とするんじゃなくて動きを制限させるために存在するんだよ」
絵里「へぇ、そんなこと私に教えてもいいの?」
曜「別に教えたところで関係無いと思ったからね、というか本来スナイパーはああいう戦い方をするんだからね?あれで真剣なんだから真剣勝負だよ」
曜「そして、最低限フェアでありたいのが渡辺曜でありますっ!」
絵里「…変わった人」
曜「あははっよく言われるよ、でもそう言った人は全員死んでったけどね」
曜「私に殺されて」
絵里「さぞ悔しいでしょうね、こんなのにやられては」
曜「生憎私は弱くないんでね、この街で一番必要なのは強さだって絵里さんなら分かるでしょ?」
カチャッ
絵里「…どうかしらね」
絵里(相手の武装はおそらく防弾チョッキの上にマガジンポーチをつけて、私と同じでリュックを背負ってる。頭も私と同じヘッドホン型の通信機をつけてて、青色の不思議なゴーグルをかけてた、多分フラッシュに備えたものだと思う)
絵里「随分と武装が厚いのね」
曜「使えるものは使う主義なんでね」
ことり『あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う』
絵里「………」
絵里(曜が片手に下げてるのは大きさ的におそらくサブマシンガン、そしてそのサブマシンガンにはレーザーサイトやホロサイトがついていて、よくよく見ると銃のフレームの部分には“YOU”とロイヤリティ溢れるフォントが刻まれていた)
絵里「…スナイパーはどこにやった?」
曜「置いてきたよ、近距離スナイパーなんて出来るはずないしどう考えても弱いからね」
絵里「ふーん…」
曜「…さて、希ちゃんがグレネード使っちゃったからあまり長期戦はしたくないから始めよっか!」
絵里「ええそうねっ!」バンバンッ!
絵里(希ちゃん…?よく分からないけど、私は曜へ向かって二発発砲した)
曜「ほ、よっと。ふふふっやっぱり銃弾って遅いね」
絵里「…何?あなたもしかしてアンドロイド?」
絵里(しかし華麗に躱して本人は至って余裕の表情、銃弾を回避するなんてアンドロイドでしか無理なはず)
曜「人間だよ、純度100パーセントの」
絵里「説明になってないわね、ならなぜ銃弾を回避出来た?」
曜「あのさぁアンドロイドっていうのは人間が作ったんだよ?アンドロイドが出来ることは人間も出来るに決まってるじゃん、私たちのしてることは魔法じゃないんだからさ」
絵里「じゃあ何?曜には射線が見えている、とでも言いたいの?」
曜「ふふっ正解だよ、絵里さんと同じような光景が私も見えるんだから」
曜「だから…」
曜「絵里さんも私と同じように避けてよねっ!」ドドドドッ
絵里「!」
絵里(突然放たれる無数の銃弾、それに反応してすぐに私は左へ跳躍、この時点で四発は避けた。そして直地際曜のいる前方向へスライディングをしてすれすれで次来る五発を避ける)
絵里「いけっ!」バンッ
絵里(そして一瞬の間も空けずにPR-15を使って三発発砲した、これに対して曜は私に近づくように前転回避を繰り返す)
曜「せやっ!」
絵里(そしてパンチやキックが届く距離まで届けばたちまち起こる接近戦、この場合では銃火器よりも自分の拳の方が信頼できるパートナーとなる。それを分かってる私はもちろん応戦する)
絵里「甘いっ!」
絵里(曜の走りながらの裏拳を体を仰け反らせて回避し、体を後ろに流した勢いをつかってそのままサマーソルトキックを曜の顎にぶつけた)
曜「っ…よっと、流石に浅すぎたかな!」ドドドド
絵里(私のサマーソルトキックを受けた曜は体を仰け反らせて吹っ飛んだけど、すぐに体勢を立て直し着地は両手から入り、そのまま素早く後ろへ飛び退け片手で持ってたサブマシンガンを撃つ)
絵里(私はそれに対し右方向へ移動しながら家の塀を蹴ってバク転をし、計9発の弾を回避した)
曜「そんな避け方ある!?」
絵里「あまりアンドロイドを舐めないで」バンッ
曜「くっ…」スッ
絵里(そしてバク転をしてすぐさま曜の方向を向き発砲、曜は体を少し捻らせて回避をしたけど少しの焦りからか足がよろめいてた)
タッタッタッ
絵里(だから私はその一瞬のよろめきを逃しはしない)
絵里「はァッ!」
絵里(わずかながらよろめいて何も出来ない曜に近づいて拳銃のグリップの部分を使って顔目掛けて殴ろうとした。殴る前の動作である勢い付けで拳銃を片手に持ち逆側の肩の後ろ辺りにまで上げてから殴るのだけど、その時見えた曜の顔は力んでいて私は確信した)
絵里(少なくともダメージは入ってるんだってね)
曜「ふぐぅっ…!いっ……き…」
絵里「! 痛くないの?」
曜「痛いよ…!でもこんなの慣れっこだから…ッ!」
絵里(動けない状況だったから限られた選択だったとはいえ曜は片腕で受け止める選択をした。そのせいで受け止めた曜の腕は真っ赤になり、私のダメ押しの力と曜の力が相殺しその中で曜は苦し紛れに笑っていた)
曜「…一つ聞いていい?」
絵里「何?」
曜「どうして絵里さんは戦うの?」
絵里「…自分がそうするべきと思ったからかしら」
曜「…答えになってないかな」
絵里「このクソみたいな都市で生きていくには、戦う事も必要なのよ」
曜「あはは、それは私もそう思う」
曜「酷いところだよね」
曜「隔離都市東京――――どうしてこんなに酷いんだろうって今でも時々思うよ」
絵里「………」
曜「ここは過激で、野蛮で、色んなモノに対して冒涜的だよね。治安は悪くないけどぶっちゃけ銃刀法違反とかあんまり機能してない無法地帯だし、正義の味方である警察も独裁的で私から見ても終わってるって思う」
曜「それに、毎日駅前やコンビニで人が銃によって死んでるって思うと滑稽じゃない?可哀想だなって、誰がこの都市のルールを決めたんだろうってそう思わない?」
曜「私毎回思うんだけど、ここは殺戮の美形だよ」
絵里「……意味が分からないわ、そう思うならなぜあなたは戦うの?その考え方はどちらかというと私たち寄りだと思うんだけど」
曜「私は別に戦いたくて戦ってるわけじゃない、この都市だって来たくて来たわけじゃない。元は静岡の内浦ってところでのどかな暮らしを送ってたからね」
絵里「…ならどうしてここにきたの?」
曜「…お金が欲しかったんだよ」
絵里「お金?」
曜「この都市は人間とアンドロイドという混沌が存在してた、だからこそここは常に何かで盛り上がってる、最近話題のアイドルってやつもステージはほとんどがここ東京だよ」
曜「そして何より技術が他のところと比べて先行してた。何に対しても盛んな場所により優れた人物が集まるのは世の理とでも言っておこうかな、銃や機器も静岡と比べたら月とスッポンだった」
曜「…でもここは戦闘のプロもたくさんいたよ、人間っていう戦闘のプロとアンドロイドっていう戦闘のプロがね」
絵里「…そうね」
曜「私は小さい頃から銃が好きで、そして何かを作るのが好きだった。だからよく動物を銃で殺してたし爆薬を作ったりして空き地で爆破させてた、ただ勝手に殺すと犯罪になるからなんちゃらハンターとかいってわざわざ資格まで取ったし、何か作るっていう点では機器に興味を持ってそこら辺を学んだ」
曜「そのおかげで私はハンドガンだけじゃなくてスナイパーやライフルも使えるようになった、アタッチメントや装備品なんかにも詳しくなったよ。なんでかって言ったら殺す動物によって使うものが違ったから」
絵里「…なるほど、じゃあ攻撃を受けてもすぐに体勢を立て直して攻撃に転じたり、銃弾を避けたりする運動神経はそのハンターと飛び込みで培ったわけ?」
曜「ふふふっ正解。その頭の回転速度は流石だね、対アンドロイド特殊部隊にも絵里さんみたいな人がいればもっと強かったんだろうなって思うよ」
絵里「…無理ね」
曜「知ってる知ってる。それで私は戦闘においてのその腕と技術を買われて対アンドロイド特殊部隊に入ったよ。それと同時に東京へと引っ越した」
曜「そのおかげでお金は使いきれないほどあるし、そのお金で最近はEMPグレネードを作った」
絵里「………」
曜「私はやりたいことを可能にするためのお金が欲しかった、対アンドロイド特殊部隊という命を賭けた戦いをしなきゃならない仕事なだけあってお金は即座に満たされたよ」
曜「生憎私は機器に詳しかったから対アンドロイドにも自信があった、色んな動物の行動パターンを見たりしてそして最後は殺したからある程度それを当てはめてみればなんとかなるものだよ」
絵里「…なるほどね」
曜「でもね、違うだろとかふざけるなとか思うかもだけど、これだけは言わせてよ」
曜「私は銃が好きなだけで、人を殺すのは好きじゃないよ」
曜「…まぁ、対アンドロイド特殊部隊に入って慣れちゃったけどね」
曜「でも人を殺す仕事をしてる私からすればアンドロイドも人間も同じだよ、どっちを殺しても同じように心は痛むし同じような結果を迎える」
曜「こんな事を言っちゃあ台無しだけど私にとってこの都市は踏み台でしかない、アンドロイドが市民権を得てるというのならそれは人と同等に扱われるべきと思ってるしこんなゴミを寄せ集めただけの警察なんか早く滅びてしまうべきだよ」
絵里「………」
曜「でも、人間もアンドロイドも全員が正義なわけじゃない。私たちはそいつらを殺すことが仕事、松浦果南は別に悪くないと思うよ、私個人としてはね」
絵里「…なら」
曜「でも私一人の意見で全てが動くわけじゃない、言っとくけど対アンドロイド特殊部隊の中で一番まともなのはどう考えても私だからね、それ以外はみんな狂ってる。だからこそ私の意見なんぞ雀の涙にすらならないよ」
絵里「……ならなんでやめないのよ、お金はもうたっぷりあるんでしょ?ならやめなさいよ……」
曜「そう簡単にはやめれないんだよ、だから今日も私は戦う」
曜「絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ」
曜「死ぬなら、正々堂々戦って死にたいから」
絵里「…つくづく変わった人ね」
絵里(相手がこんな考えを持ってるんじゃやりづらい一方だった。ここまでルール無用の戦いで律儀に戦おうとする人がいるのだろうか)
絵里(正直に言えば仲間にしたかった、いや出来ると思った。考え方は私たちと全く同じだったし今は戦力が恋しい、曜が来てくれれば戦力の増加は計り知れないものだと思った)
曜「…じゃあ、始めようか」
絵里(ただ、彼女にその気はないらしい)
絵里(曜がそう言った瞬間には曜から放たれるスタングレネードに目がいった)
絵里「…!っは!」
絵里(私にぶつけるよう飛んで来たらキックで跳ね返した、そうして青白い光が辺りを包み私は両腕で顔を隠しながら後ろへ飛び退く)
絵里「っぶな…」
絵里(着地した頃に眩い光から突き抜けてくる銃弾を体をねじってその勢いのままに近くの壁を蹴って再びバク転で躱し、それでも飛んでくる銃弾はしゃがんで避けて消えゆく閃光へと突っ走り反撃を図った)
タッタッタッ
絵里(走りながらQBZ-03をリロードし、微妙に見える人影に向かって数発発砲した。そしたら予想通りそれを回避してきて、ますます曜は何なのか分からなくなってきた)
絵里「はっ!」
絵里(腰にかけてた拳銃で一発撃ち、曜に回避を強要させ隙を作る――その間に曜との距離を詰めてお腹目掛けてパンチをした)
曜「そんなものっ!」
絵里(しかし曜はそのパンチを手のひらで受け止めそのまま私を引っ張り怒涛の膝蹴りを数回放った)
曜「ほらほらっ!」
絵里「ぎゃ…はっ…」
曜「おい…しょっとっ!」
絵里(そしてフィニッシュに飛び膝蹴りで私は宙に浮く)
曜「はいこれで終わりっ!」ドドドド
絵里(吹き飛ぶ私にサブマシンガンを構えて発砲――――もはや奇跡も願えない絶望的状況だった)
絵里「……まだ」
絵里「アンドロイドを舐めないでっ!」ドドドドッ!
絵里(もうダメージを食らうのは確定的、なら死ぬのだけを避けるしかない)
絵里(そう考えを固めた私はアサルトライフルを、私に歯向かう射線に向かって発砲した)
曜「っ!?」
絵里(するとどうだろう、向かってくる銃弾は私の銃弾とぶつかって上へ下へと跳弾していく)
絵里「んぐっ…!」
絵里(しかしそれで全て避けられれば最初からそうしてる、銃弾と銃弾がぶつかってわずかに飛ぶ位置は変えただけで私を掠める銃弾もあり、掠めて出来た傷口からは一周回って気持ち悪いほどに潤った綺麗で赤い密が出ていた)
絵里(射線はまだ見えるけど死に至らしめる銃弾は回避したはず、そう思った時にはQBZ-03も弾切れでそのまま私は地面に背中から落ちていった――――)
曜「っ!」バンッ!
絵里(――はずだったの。角度の問題か、いや曜は焦っていたのか曜の拳銃から放たれたダメ押しの一撃は私の心臓部にあったQBZ-03に当たった)
絵里「っ!?」
絵里(私はビックリして半分閉じていた目を見開いた、この銃が無ければ死んでたかもしれない。防弾チョッキという存在もあったけど、そんなもの忘れてたしあまり信用にすらならなかった)
絵里(今ので警戒付いた私は背中から着地した途端すぐさま後転してPR-15で発砲をした)
曜「なんで!」バンッ
絵里「くらえっ!」バンッ
絵里(曜の拳銃の発砲と私の拳銃の発砲はほぼ同時だった、刹那には静まり返る戦場に私も曜も息を飲んだでしょう)
絵里(そしてその結末は――――)
~同時刻、別荘
グゥ~
果南「あはは、お腹空いたね」
ことり「絢瀬絵里や津島善子が頑張ってるというのに呑気だね…」
果南「仕方ないじゃん、どうせ私が戦場に行っても今はお荷物なんだから」
ことり「確かにそうだけど…」
果南「なんか食べようよ、確かポテトチップスあったよね」
ことり「えっ…なんかカロリー高そう…」
果南「アンドロイドなのにそんなの気にするの?」
ことり「アンドロイドも人間と同じなのっ食べた分太るんだから気にするに決まってるでしょっ」
果南「私太らない体質だから気にしたことないなー」
ことり「…死ねばいいのに」
果南「そこまでいう?」
果南「…まぁいいや、ポテトたーべよっと」
ことり「えぇ…絶対太るよぉ」
果南「私は運動してるから太らない太らない」
果南「別腹形態へと変形!」
ことり「なにそれ…」
果南「んー、あ、そういえばさ、ことりってモード変更みたいなやつあったよね?」
ことり『モードの切り替えの為だからだよっ!!』ドドドド
ことり「これまた唐突だね…」
果南「別にいいでしょ?」
ことり「まぁいいけど…それでモード切替だよね、あるよ」
果南「やっぱりあるんだ、でも私にはそんなのないよ?」
ことり「だって私特別だもん」
果南「なんかその言い方は腹が立つね…」
ことり「まあまあ。モード切替って言っても大それたものじゃないよ?私の思考に補助を入れるだけだから」
果南「補助?なにそれ?」
ことり「単純に言ってしまえば攻撃モードか防御モードかみたいなそんな感じ、でも切り替えたことで攻撃力が上がるわけでもないし装甲が固くなるわけでもない。私の考え方が変わるだけ」
果南「へー」
ことり「それを自由化させたのが今の戦闘型アンドロイドだよ?そんなモード切替とかめんどくさいことしなくて羨ましいよぉ」
果南「ふーん不便なんだ、じゃあそれ」
ことり「まぁブレーキは今のアンドロイドより利くだろうけど、自由度は劣るかな」
果南「初期型って複雑なんだね」
ことり「まぁね、でも早く生まれたおかげで色々経験出来たし初期型がイヤとは思ってないよ」
果南「ごもっともだね」
ことり「松浦果南はどうして戦ってるの?」
果南「ん、どうしてかぁ」
果南「んー…戦うのが好きだからかな」
ことり「えー…面白くない」
果南「でもでも戦いたくなるのは戦闘型アンドロイドなら仕方ないでしょ?そういうように出来てるんだから」
ことり「……違うかなぁ」
果南「何が違うのさ」
ことり「って言いながらポテトチップス開けないでよ」
果南「ごめんごめん」
ペリッ
果南「ってうわっ入ってるの弾薬じゃん…」
ことり「おぉ、画期的な隠し方だね」
果南「いやそこ関心するところじゃないでしょ…」
果南「生憎鉄を食べて分解する機能は私には無いからなぁ、これは要らないや」
ことり「サブマシンガン用の弾かな、つまりは津島善子用だね」
果南「そっか、善子の持ってるMX4 Stormはサブマシンガンだもんね」
果南「…今頃どうしてるのかな、二人とも」
ことり「…殺されてるかもしれないね」
果南「そうだったら私たちが死ぬのも時間の問題かな」
ことり「…いや、助かる方法はあるにはあるよ」
果南「え?」
ことり「………」
『あなた……誰?』
ことり「松浦果南は殺し屋って本当にいると思う?」
果南「どうしたのさ急に」
ことり「いいからっ」
果南「…まぁいるんじゃない?アンドロイドとかいるんだし何いてもおかしくないでしょ」
ことり「……そっか、理由が適当なのがちょっと気に入らないかもだけど、結論から言えばいるよ。殺し屋は」
果南「へーやっぱりいるんだ、強いの?」
ことり「……あんなの生き物じゃない」
果南「え?」
ことり「ごめん、絢瀬絵里や津島善子の前でこれを言うのはナンセンスだと思ったから松浦果南に言うね」
果南「え、うん」
ことり「殺し屋っていうのは具体的に言えば二人、或いは三人の組織なの。一人は人間、一人はアンドロイド…そして後もう一人いるって聞いたことあるけど、その子は知らない」
果南「へぇ小規模なんだ」
ことり「そうだよ、でもどちらとも戦闘面での技術は多分誰よりも強い、対アンドロイド特殊部隊よりも」
果南「…ふーん、それで?」
ことり「私はアンドロイドの方と親友だった」
果南「……だった?」
ことり「…お察しの通りだよ」
果南「何があったの?」
ことり「ただ単純に言ってしまえば私の親友は殺されちゃった、そして新しい記憶を埋め込まれた。その成れの果てが殺し屋だった、それだけのお話」
果南「……それで?」
ことり「私の親友の最大の特徴は業務用アンドロイドだったこと」
果南「業務用アンドロイド…よくそんなアンドロイドと親友になれたね」
ことり「業務とはいっても軍人として生まれたアンドロイドだったからね、私は戦闘型アンドロイドで生まれてこの方戦って生きてきた身だから触れ合う機会は結構あったよ」
ことり「軍人のくせに誰よりも優しくて、誰よりも勇気があって、誰よりも決意が強く、何物にも恐れないそんな人だった」
ことり「だけど軍人故に死はホントにあっけなかったかな、仲間の裏切りであっという間に死んじゃった」
果南「裏切り…」
ことり「意志が強い人は周りを見ることが出来ないの」
ことり「私はそれをあの時学んだ、警戒すれば気付きそうなものだけど色々考えこんでて分からなかったのかな」
ことり「それからしばらくして親友が生き返ったと聞いて向かったけど、案の定記憶は消滅してた」
ことり「そして代わりに埋め込まれた残酷なまでに変わり果てたその姿を見て、私は何を想像したんだろう…?」
ことり「悪魔でも見てるのかなって錯覚しちゃった、もう二度と見たくないかな…」
果南「…ことりがそこまで言うんじゃ相当なんだろうね」
ことり「…それでここから本題だよ」
ことり「私ね、それを見てその親友を殺そうって思った。アンドロイド相手で悪いけど、あんなのを生き物としては分類しちゃいけないから」
果南「…なるほど、だから私に言ったんだね。善子とかに言えば……」
ことり「そう、差別が脳裏を過るだろうから」
果南「あはは、それは賢明な判断だよ」
ことり「…それで戦ったけど…結果はボロボロだった。ありとあらゆるところに銃弾が突き通って目の前が真っ暗になった時には血だまりが出来てたと思う」
ことり「…ただ、近くにいてくれた人がなんとか助けてくれて助かったけど」
ことり「あいつには二度と近づかないほうがいいって警告された」
ことり「…正直肯定しちゃった、あんな殺戮マシーンとなんかいたくないって本能が叫んでて…それ以来会ってない」
果南「………」
ことり「業務用アンドロイドだからね、軍人として生まれたならざっくり言って人を殺すことをまず最初に考えるアンドロイドだから余計に親友だったアンドロイドの状況は悪化してったよ。思い出したくもないよ」
ことり「…けど、どこで何をやってるかは知ってる。だからホントにピンチって時に助けを求めてみるのも手だよ。助けてくれるかは分からないけどね」
果南「…私はあまり賛成できないかな」
ことり「それは私もだよ」
果南「大体殺し屋って何なのさ?お金稼ぎが目的なの?」
ことり「…人間の方は人を探してるって言ってた」
果南「人?」
ことり「昔、この都市で大規模な銃撃戦が起こったの覚えてる?」
果南「あぁ覚えてるよ、私も参加したし」
ことり「そっか、隔離都市東京が大きく変わる原因を作った出来事だったね」
果南「そうだね、あれで極悪な政府が滅んだからね。東京も一気に住みやすくなったものだよ、まだ酷いけど」
果南「それでそれと何の関係が?」
ことり「うん、あの銃撃戦で民間人側として参加した」
ことり「殺し屋っていう異名がついた人、知らない?」
果南「あ、聞いたことある。確かスナイパーを使ってたって聞いたよ」
ことり「そうだよ、狙った獲物は逃がさない――計算高い狙撃が特徴で偏差撃ちが得意なんだって」
果南「へぇ偏差撃ちか、相手にされちゃあ厄介だね」
ことり「うん、ただ民間人側についてたってだけで誰とも話してないらしいんだ」
果南「謎多き人物なんだね」
ことり「そうそう、だから同じ殺し屋として会ってお話がしたいんだって」
果南「…ん?今思ったけどなんでそんなこと知ってるの?」
ことり「戦ったことがあるから直接聞いた」
果南「あははは……流石ことりだね…」
ことり「…私の親友だったアンドロイドも人探しで活動してるんだって、だから方向性の一致で協力してるんだとか」
果南「ふーん、その人間ってどんな人なの?」
ことり「……複数の顔を持つ人かな」
~同時刻、住宅街
絵里「………」
曜「………」
絵里「…くっ」
絵里(私は腕を撃たれた、手で出血を止めようとしてもぽたぽたと血が重力に沿って落ちていく)
曜「……かはっ」
バタッ
絵里「……勝負ありね」
絵里(そして私は曜の横っ腹を撃った、私は膝を地面につける程度だけど曜は拳銃を手放してその場で倒れた。出血の量は明らかな差があって逆流したのか曜の口からは少量ながら血が出ていた)
曜「く…そ…っ!」
絵里「私の勝ちね、曜」
曜「…ま、けた」
曜「いい…よ…殺してっ…よ、けほっ」
絵里「………」
絵里(仰向けで倒れてるというのに口から漏れ出す血はきっと敗北の味がするだろう、死を目の前としてるのに清々しいほどに笑顔でいる曜はただ単純に言って殺しにくかった)
絵里「………」
絵里(…いや、きっとどんな状況でも殺しにくいだろう。人を殺すことに対しての恐怖心を未だに拭えていないのだから)
絵里(きっと殺し合いっていう体でなら殺せるんだと思う、流れってものがあるから。だけどいざ改まって一方的に殺せる状況になったら再び脳は恐怖心で覆われた)
絵里(拳銃を曜に向けるとたちまちトリガーを引く指が動かなくなる、鳴らすの銃声ではなくて私の鼓動――刻まれたビートはきっと私を罵る音でしょう。今も苦しそうに顔を歪ませては笑顔に変える曜を見ると自然と歯に力が入ってしまう)
絵里「……っ!」
絵里(このご時世で人一人殺せない私が情けなくて、殺し合いという本気の戦いをしてるというのに情けみたいなものをかけてしまう私の甘さが許せなくて…いや、どうすればいいのか分からなくて瞳が潤んだ)
曜「どうした……さ、はや…く、ころ、して…よ」
絵里「っ……」
絵里(曜に声をかけられると余計にトリガーを引くのが怖くなる、この恐怖心は一体来てるのかしら)
絵里(ただ単に私が臆病なだけなの?それとも拳銃を持つ者の性なの?)
絵里(誰か教えてほしい、私が普通だってことを誰か証明してほしい)
絵里(……あくせくしたっても今ここで曜を殺すことが出来ない)
絵里「……なんで」
絵里(…導をくれる光はないけど、私は拳銃を構えて答えを待つだけだった)
ドカーン!
絵里「!」
曜「…!?」
絵里(そんな時後ろで大爆発が起こった、手榴弾なんか目じゃないほどの赤い煙が立つ凄まじい爆裂だった)
絵里「何!?」
善子「絵里!」
絵里「善子!?」
「うわー!あれはやばいでー!」
絵里「紫髪!?」カチャッ
善子「待って!今はそいつを撃たないで!」
絵里「何、どういうこと!?」
善子「対アンドロイド特殊部隊が来た!逃げるわよ!」
絵里「逃げる!?どうして!?」
善子「決まってるじゃない!数で負けるからよ!」
絵里「何人いるの?」
善子「三人!曜含めないで三人よ!」
絵里「三人…!」
絵里(それはおそらく勝てないでしょう、善子の逃げの選択は賢明と言える)
絵里「というかなんで紫髪のやつが…」
曜「あはは…希ちゃ…んは対アンドロイド特殊部隊と仲良く…ないから」
希「ちょ、ちょっとウチの名前呼ばないでや…」
曜「ご、めんごめん」
善子「絵里、曜は…」
絵里「…私が撃った」
ドカーン!
絵里「!」
希「!」
善子「あーもう曜の事は後!曜を連れて逃げるわよ!いざとなれば捕虜として使えるんだから!」
絵里「え、ええ!」
希「おー曜ちゃんは捕虜か」
曜「ぜん…そくせんし、んよーそろー…」
希「た、達者でな…」
希「…あ、そうそう。曜ちゃんから出てる血とあなたから出てる血、ちゃんと止めてから逃げた方がいいよ。走ってる時に垂れて地面にでも落ちたら特定されるから」
希「それじゃあね」
タッタッタッ
絵里(希と呼ばれる人物はそう言って私たちとは別の方向へ逃げていった)
絵里「この爆発は何?」
善子「グレネードランチャーを連射してるのよ、にこが持ってきたと思う」
絵里「また随分と派手なものを…」
絵里「というかあの紫髪とはなんで和解してるのよ?」
曜「のぞ…み、ちゃんだよ」
善子「お互い対アンドロイド特殊部隊と戦うのはイヤだから利害の一致で戦いをやめて逃げることにしたのよ」
絵里「そ、そう…」
善子「…そんなことより逃げるわよ!堕天っ!」ダッ
絵里「ええ!」ダッ
絵里(爆発に急かされて私たちもその場から逃げ出した、曜はどういうわけか抵抗する気はないようでずっと私におんぶされるがまま。むしろ私の背中で気持ちよさそうに眠ってる…これ死んでないわよね…?)
絵里「スタン!スモーク!」
善子「お、いいわね!」
絵里(ことりから学んだスタングレネードとスモークグレネードを使った隠伏術、眩い光は時に壁となるのをこの前知ったからそれをそっくりそのまま使わせてもらうことにした)
タッタッタッ
絵里「はぁ…はぁ…はぁ…」
善子「まいたわね…」
絵里「ええ…」
絵里「いったた…」
善子「絵里大丈夫?私が曜をおんぶしようか?」
絵里「頼んでもいいかしら…」
善子「任せなさいっ」
絵里「はぁ…とりあえず別荘へ戻りましょう」
善子「ええそうね」
絵里(そうして走り続ければ既に私たちの足は森の中、希って人の助言のおかげで曜の横っ腹には私の背負っているリュックに入ってる包帯を巻いて、私は袖を上手く使ってなんとか血を落とさずに済んだ)
絵里(流石に行動が早かったから追ってこれるはずもなく、私たちは傷を負いながらもなんとか帰還することが出来そうだった)
絵里「希ってやつはどうだった?」
善子「すぐにAAが来たからそこまで戦ってないけど、まぁあれはやばいわね。武器もさることながら身体能力や頭の回転速度も侮れない、一瞬アンドロイドを疑ったけど首元は何も無かった」
絵里「見たの?」
善子「見たというよりかは見えたの、数字は何も無かったから人間ね」
絵里「あれで人間…」
『悪く思わんといてねっ!』
絵里「……嘘でしょ」
絵里(人間であそこまでの動きが出来るとなるとAAの人間も警戒を強める必要がありそうだった、精鋭とは何を意味して精鋭と呼ぶのか、それを人それぞれだろうけどAAという組織に存在してる精鋭は常識外れの定義が存在してるでしょう)
善子「…今回の戦いで、得たモノってあったのかしら」
絵里「渡辺曜でしょ」
善子「……どうするこいつ?」
絵里「…正直に言うとね、殺したくない」
絵里「……うん、殺せないって言っても正しいけど」
善子「殺せない?どうして?」
絵里「曜はね、限りなく私たちに近い思想を抱いてるの」
絵里「アンドロイド差別はなくなるべきだし、果南は別に悪くないって言ってたし、警察の事が大嫌いって言ってた」
善子「そんなことを…」
絵里「…仲間に出来ないかな」
善子「それはぁ…そうね…なってくれるならそうしてほしいけど」
絵里「………」
絵里(…人を殺すという行為が怖くて殺せなかったとは言えなかった。もし善子や果南があの状況にいたら迷わず殺してたと思う、あの二人は優しいけど甘くはないから)
絵里(私はきっとそういうのに弱いのよね、戦う事は厭わないけど誰よりも平和的な解決を望んでるはずだから)
曜『絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ』
絵里(戦ってる時に笑うなんて私には出来ない、だからそれだけ曜が強くて曜が優しい証拠だった)
絵里(そんな綺麗な笑顔を見せられては殺すなんて出来ない、死ねば誰もが無の表情になるのだから)
絵里(そんなものを見てしまっては私の心が壊れてしまいそうよ)
善子「私たちがクーデターを起こせるのはいつかしら」
絵里「…当分先かもね、まだ近づいてもいない気がするわ」
善子「アンドロイドの人生っていうのは険しいものね」
絵里「…アンドロイドだからね」
善子「………」
絵里(戦いは終わった、けど帰り道に会話をすることはほとんどなかった。負けた――とも言えないけど勝ったとも言えない結果で言葉を話すためにある口も今は言葉が生み出せなかった)
ガチャッ
絵里「ただいまー」
善子「堕天使降臨…!」
タッタッタッ!
果南「おかえりっ!」
ことり「…生きてたんだ」
絵里「ええ、当たり前よ」
ことり「…それでその津島善子がおんぶってる渡辺曜は何?」
絵里「私が殺す直前でトラブルがあって一応まだ生きてるから連れてきたの」
ことり「えぇ…それで位置とかばれたらどうするの…」
絵里「そ、そうだけどAAに回収されて再度戦うことになるよりかはマシでしょ!」
果南「まぁまぁ、絵里もなんかあったから曜を連れてきたんでしょ?だって曜を殺すなら殺すで帰り道で殺せばよかったんだから」
ことり「あ、確かに…」
絵里「ええ、もしかしたら仲間に出来ないかなって…」
ことり「仲間!?」
果南「なにそれ」
絵里(そのまま言っても理解できるはずがないのでことりと果南にも曜のことを話した、そしたら果南は何も考えずに肯定してくれて、ことりはちょっと警戒しながら“まぁ、良いと思う”と言ってくれた)
絵里「とりあえず曜は武器をとりあげてそこのソファで横にさせといて」
善子「ええ」
ことり「待って、手当しないとまずいから私がするよ」
ことり「絢瀬絵里も後で腕貸してよ?その傷を放置しとくと戦えなくなっちゃうから」
果南「おお、流石女子力が高いね」
ことり「…このくらいしなきゃ助けてもらった恩返せないでしょっ」
絵里「ふふふっ分かったわ、ありがとうことり」
絵里「…あ、そういえばごめんなさいことり」
ことり「ん?何が?」
絵里「あなたのアサルトライフル…ボロボロになっちゃったわ」
果南「うわ、なにこれところどころ欠けてるし」
絵里「曜ともう一人、敵がいたの。そいつがあまりに攻撃的で…」
善子「ショットガン二丁持ちで、そのショットガンを鈍器みたいに扱うから銃でガードすると必然的にこうなるのよ」
果南「ショットガン二丁持ちってそれはやばいね…」
ことり「…!ショットガン二丁持ちってもしかして紫色の髪してない?」
絵里「ええそうよ、確か希っていう名前だったわ」
ことり「やっぱり…あいつだ」
果南「あいつ?さっき言ってた殺し屋の?」
ことり「そうだよ、人間の方の殺し屋」
絵里「知ってるの?」
ことり「うん、知ってる。昔戦ったことがあるから」
絵里「へぇ…流石ことりね」
ことり「…うん、でもまぁいいや。この話はまた今度」
ことり「アサルトライフルの件は別にいいよ、東條希と戦ったなら仕方ないよ」
絵里「そう…ごめんなさいね」
絵里(この戦いで色々あったけど、とりあえずこうしてまたことりと果南に会えるのが嬉しかった。元より今日は死ぬつもりで戦ってたからね、お腹も空いたし目もしょぼしょぼするし私も曜と同じようにソファで横になった)
ことり「はい、手当終わったよ」
絵里「ありがとうことり」
果南「おーこれがEMPグレネードかぁ」
ことり「それ、スイッチを入れてから数秒後に爆発するから間違ってでもスイッチをONにしないでね?」
果南「了解了解」
善子「絵里の怪我は大丈夫そう?」
ことり「うん大丈夫だよ、撃たれたとはいっても腕だからそこまで酷くはないしすぐに戦えるようになるよ」
果南「いやー私もことりも肩を撃たれなければ今頃戦場にいるんだけどなー」アハハ
ことり「…私を撃ったのは松浦果南だよね」
果南「それはごめんって…」
ことり「…別にいいよ。どうせ怒ったところで戦えないから」
ことり「…でもまぁ絢瀬絵里も無理はしないでね?」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ことりに手当をしてもらって再び体を動かせば、まぁだいぶ楽に腕も動かすが出来た)
グゥ~
ことり「………」
善子「………」
絵里「………」
果南「…ん?今のことりのだよね?」
ことり「言わないでよっ!」
絵里「果南、そこは空気を読みましょう」
果南「え?私が悪いの?」
ことり「悪いのっ!」
善子「まったく…」
果南「えー…なんか納得いかないな…」
絵里「…まぁいいわ、お腹空いてるのなら私が何か作りましょうか?」
善子「腕は大丈夫なの?」
絵里「ええ平気よ、任せなさい!」
ことり「…料理出来たんだ」
絵里「そこまでできるわけじゃないけど、ここで料理出来るのが私以外いないからね」クスッ
善子「堕天使に食事など要らないのよ…」
果南「私はおいしく食べれればなんでもいいからなー」
絵里「はぁ…」
ことり「心中お察しします…」
絵里(食に関心のない二人はまぁ困ったものよ、溜め息を吐いた私はとりあえずキッチンに向かって料理を作る。今日作るのはつい最近亜里沙に教えてもらったハンバーグで、時間はかかるけど丁寧にやることにした)
善子「あー!今攻撃したやつ誰よ!」
果南「ふふふっ私だよー残念だったね善子」
ことり「うぇええちょっとこのゲーム難しくない!?」
絵里「三人は一体何をやってるのよ…」
絵里(私が料理をしてる間、テレビの前ではゲームではしゃぐ三人がいた)
善子「マリカーに決まってるでしょマリカーよ!」
善子「パーティープレイにうってつけでしょ!堕天使も愛するゲームよ!」
果南「やっぱり真姫もゲームは好きなんだね、テレビの横にゲーム機があったらやるしかないでしょ」
善子「ちっあーもう!果南のせいで六位じゃない!」
果南「堕天使ヨハネは先の事を考えてるんじゃなかったの?一位になるというリスクを考えてプレイするべきだったね」クスクス
善子「はー腹立つ!」
ことり「ここを右に曲がってえっと…」
絵里「ことりはなんで体まで動かしてるのよ…」
ことり「仕方ないのっ!ゲーム初めてやるんだから!」
絵里「戦闘はあんなに強いのに…」
ことり「うぅなんで抜かせないの…」
絵里「というかそんな体動かしても大丈夫なの?」
果南「激しく動くわけじゃないし、動かすの指だけだし大丈夫だよ」
ことり「私も別に…」
絵里「ことりは体動いてるけどね」
ことり「動いちゃうの!」
絵里「ええそうね…」
絵里(ことりは戦闘は鬼の如く強いのにゲームに関しては動きが初心者のソレ。ただ学習能力は高いからやり方を模索して色々頑張ってるのがちょっと可愛かった)
ことり「食らえっサンダーだっ!」
善子「はー…落ちたー…」
果南「ふふふっ私はことりの画面を見てたから安全なところで待ってたよ」
善子「はぁ?ただの反則じゃない!」
果南「私たちは常にルールなんてない戦いをしてるんだからこれにもルールはないんだよ善子」
善子「納得いかない」
ことり「やった!五位まで来た!」
絵里「ふふふふっ」
絵里(そして三人がゲームでバトルするのを見るのはとても楽しかった、こんな日常が毎日続いたらな…千歌はいないしこの世は相変わらず退廃的だし悪いことだらけだけどそんなダメダメな世界でこんな幸せを味わえるというのなら是非この幸せが永遠に続くことを願いたい)
絵里(…ただその願いがどれだけ儚くて寂しくて無謀な願いなのか知ってる私は、どうにもこうにも夢を見ることは出来なかった)
曜「ん…んん…」
絵里「!」
善子「!」
果南「!」
ことり「!」
絵里(ゲームに盛り上がる最中で、ゆっくりと意識を覚醒させる曜に注目がいくのはもはや当然だった。全員が同じ顔をして同じ場所を見ていた)
曜「ん……って、え?」
ことり「とうとう起きた…」
果南「あはは、どうも」
善子「死にかけからその目覚めは随分と気持ちのいいものだったでしょうに」
絵里「目が覚めた?」
曜「…あれ?私死んだの?」
善子「死んでないわよ」
曜「じゃあなんで絵里さんたちが…」
絵里「あの後のこと覚えてないの?」
曜「絵里さんに横っ腹撃たれてその辺りからもう何にも…」
絵里「そうなの…」
善子「その横っ腹撃たれた後すぐにAAのやつらが来てあんたを連れてここまで逃げたのよ」
曜「そ、そうなんだ」
曜「…なんで私こんな手当された上に身が自由なの?普通捕虜として扱うよね?手錠なりなんなりして」
果南「…そういえばなんで?」
ことり「えっ…私に聞かれても…」
善子「あんたらの頭がゆるゆるだからよ」
果南「いや分かってるならそれを指摘しない善子もゆるゆるでしょ?」
絵里「はいはいストップ、私は曜に仲間になってほしいの」
曜「仲間?私が?」
絵里「ええ、限りなく私たちに近い思想を抱いてるのなら是非協力してほしくて」
絵里「だから今曜は自由、その自由こそ私たちを信頼する理由になるでしょ?こっちはリスクを伴ってあなたを自由にさせてるの」
曜「…なるほどね」
曜「でも、その行動は感心できないかな。いくらなんでもリスクが大きすぎるからね」
絵里「…ええ知ってる、だけど曜なら大丈夫と判断したのよ」
曜「私なら…か」
絵里「ええ」
曜「私もそこまで優しい人じゃないんだけどね」
絵里「…つまり?」
曜「………いいよ、一緒に警察滅ぼそうか」
果南「おお、発言が物騒だね」
絵里「…こんなこと聞いたらおかしいかもだけど、なんで私たちに協力してくれるの?」
曜「絵里さんには言ったよね、もうお金は充分あるって。だからあそこにつく理由はないし、別にあそこに執着する必要もないってわけ」
曜「元はない命だったからね、助けてもらったならこの命は絵里さんたちに捧げるさ」
絵里「……そう、ありがとう」
曜「私の発言が嘘だとは思わないんだ?」
絵里「ええ、信じてるから」
曜「へー…なんか分かる気がするな…あの戦闘の鬼と言われたことりちゃんがこうやって仲間のようにみんなと暮らしてるのも」
ことり「…!何?」
曜「ふふふっなんでもないよ」
曜「まぁこれからよろしくね、精一杯頑張るよ」
善子「え、ええ」
果南「うんっよろしくね」
ことり「…なんかあまりに上手く行き過ぎてて怪しんだけど」
曜「うーん…じゃあどうやったら潔白の証明が出来るのかな」
絵里「いやいいわよそんなことしなくても」
絵里(確かにことりの言う通り仲間になるのもすんなりすぎて正直怪しいところはある、だけど戦いであんな律儀に振舞う人がこの期に及んで裏切るというのも考えづらくてめんどくさいことはとりあえず避けることにした)
絵里(…まぁ、小さい頃から色々学んで経験してる猛者なら演技ってやつも上手いのかもしれないけどね)
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん…あ、真姫から電話ね」
善子「…絶対怒ってるわよ」
絵里「いや…まぁ……そうね」
絵里(今日でお別れかもしれないっていうメッセージだけ送って戦いに言ったわけだから、電話に出て開口一番のセリフは容易に想像できる)
真姫『何やってるのよ!?』
絵里「…ごめんなさい」
真姫『心配したんだから!いみわかんないメッセージ送ってこないでよね!』
絵里「……?真姫、泣いてるの?」
真姫『!! な、泣いてないわよ!…ぐすっ」
絵里(真姫は我慢の出来る人、だけど涙ぐんだ声は我慢できないようだった。我が子を叱るような必死な声と、嬉しさ含んだ安堵の声が混ざって真姫の声はとにかくおかしなものだった)
絵里「ごめんなさい真姫」
真姫『…許さないわよ』
絵里「……どうしたら許してくれる?」
真姫『…私だって物分かりが悪いわけじゃない。絵里が戦うのは仕方ないのは分かってる、だから戦うなら…絶対に勝って戻ってくるなら許してあげる…』
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(真姫は我慢の出来る子だけどとっても寂しがり屋な子だ。だからきっと今の言葉も本心ではないのだと思う)
絵里(出来ることならみんなが笑いあえる日常で、幸せに過ごしたい。けどそうは問屋が卸さないのよね、それを分かってる真姫は、実に大人だ)
絵里(その後真姫はもう寝るだとか言ってすぐに電話を切った。電話を切った途端世界が変わったみたいに後ろから喧騒が聞こえてくるから後ろを見ればゲームをしてる人数が三人から四人になってて私は色んな意味を込めた溜め息を吐いた)
~同時刻、???
「…面白くないね」
希「んー?何が?その本が?」
「確かにこれは面白くないよ、字がいっぱいなんだもん」
希「小説本やもん、字がいっぱいなのは当たり前やろ?」
「希ちゃんが面白いって言うから私は読んだんだよ?」
希「面白いやん、スクールアイドルっていう限られた時間の中で輝こうとする少女の物語やで?」
「……半分くらいまで読んだけど、私はこんなことしたいとは思わない」
希「そりゃあ業務用アンドロイドやからねぇ…」
「…確かに私は戦うこと以外に興味がないからこの本は面白くない、けど私が言いたいのはこの本が面白いかどうかじゃないよ」
「…いつになったら見つかるの?」
「私の探してる人は」
希「それはウチが聞きたいよ、ウチだってあの殺し屋と呼ばれたスナイパー使いに会いたいっていうのにどこにもいないんやもーん…というか情報すらないし」
「……面白くない」
希「ふふふっまぁ確かに事が上手くいかなさすぎなのは分かる、だからウチが退屈を解消する情報をもってきたよ」
「なにそれ」
希「最近な、ちょ~っと厄介な集団が一ついるんよ」
「厄介な集団…対アンドロイド特殊部隊じゃないの?」
希「いや、違う」
「じゃあ今日戦ってた人たちでしょ、ニュース見てたけど相当派手にやったよね」
希「あれは大体途中から入ってきたにこっちのせいかなぁ」
希「でも確かにあそこも厄介やね、知ってる限りだと堕天使がいたしことりちゃんもいるらしいしウチらと対峙することになったら無傷じゃ済まされないやろうね」
「堕天使…なんか聞いたことある、ものすごい強いんだよね、それだけは知ってる」
希「そうだよ、昔ここ東京のデパートに十数人の海外系の武装集団が乗り込んできた時があって、そいつらを一人で壊滅させたのが堕天使と呼ばれるアンドロイドだった」
希「当時堕天使は13歳という若さで普通じゃ考えられない事を起こしてしまったが故にアンドロイドという存在がとても危険なモノであるということが世に知れ渡った根本的な原因とも言えよう」
「ふーん…とにかく強いんだね」
希「まぁね」
絵里『まだ終わってないッ!』
希「…ただ、今はあの金髪の子が一番気になるんよなぁ」ボソッ
「…?何か言った?」
希「ううん、なんでもない。それよりさっきの話やけど」
希「厄介なのは他にいるんよ」
~同時刻、別荘
曜「ほー!流石絵里さんは料理の腕もいいなー!」
果南「でしょ?絵里の料理はおいしいんだよ」
善子「いやなんで果南が威張ってるのよ…」
ことり「…まぁまぁかな」
絵里「あのねぇ…」
絵里(料理が出来ればゲームを強制終了させて五人で食卓を囲んだ)
絵里(始まりのトリガーを引いた時には予想も出来なかったこのメンツに、ちょっとだけ…そして勝手に運命を感じちゃった)
ことり「…それで、渡辺曜もお荷物なの?」
果南「お荷物の会へようこそ!」
曜「お荷物の会…?」
善子「怪我をしてて戦えない人のことよ、家でお留守番してるニートね」
曜「いや、私は戦えるよ。もちろん受けた弾丸の大きさにも寄るけど、横っ腹は戦闘に関してはそこまで支障をきたさない部分なんだよ、撃たれて問題なのは肩と足」
絵里「そうなの?」
曜「ちゃんと包帯とか巻いてくれてるから平気平気!」
曜「……まぁ痛いのは変わりないけど」
絵里「そ、そう……」
曜「人を殺すんだったら.308弾が使える銃とかで肉を抉らないと仕留めきれないかもね」
善子「うわえげつな……」
ことり「でもそれだと銃が重いのを使わないといけないから機動力を犠牲にしないといけないね」
曜「うん、だから大体の場合人間相手にそういうのを使うのはあんまり意味がないんだよね、使うべき相手はアンドロイドだよ」
果南「あー分かった、“再生能力”でしょ」
曜「そうそう、アンドロイドは人間を模して造られただけであって完璧な人間ではないんだよね。人間の不便なところもなるべく改善して出来上がったのがアンドロイド、つまり人間の進化形みたいなものなんだ」
絵里「……」
絵里(全ては曜の言う通りだ。これは私たちアンドロイドが人間と並びたいという反旗を翻すにあたって弁えなきゃいけないことだ。アンドロイドは人間ではない、人間と瓜二つなだけだ、その理由は様々あるがそのうちの一つ——再生能力はアンドロイドと人間を差別化させるくらいの大きな特徴だった)
ことり「再生能力が高い私たちアンドロイドは……」
善子「肉でも抉られない限り、例え致命傷でも数か月で完治する」
曜「そう、その通り、銃弾で貫かれる程度じゃ痛いくらいにしか感じないんだよね、まぁ貫かれる場所が横っ腹とか腕とかだったら人間も同じだけど、アンドロイドは頭以外だったら死なないから仕留めるなら確実な武器じゃないといけないね」
果南「ふむ……」
絵里「………」
絵里(再生能力——いえば来した傷がどれだけ早いスピードで完治するかの能力だ)
絵里(人間もアンドロイドも腕を切断されたら当然ながら再生することはない、ただしアンドロイドは腕を切断されない場合のみどんなに深い切り傷を入れられても半年くらいで何事もなかったかのように完治するのだ)
絵里(アンドロイドには皮膚の元である角化細胞より始まる四つの層と人間にはない“複素層”という五つ目の層を有していて、これは皮下組織の働きを増幅させる他角化細胞が分裂し、それが外側へ放出され皮膚になる際に角化細胞を増やし再生を早める効果がある)
絵里(つまり人間にはない体の働きをアンドロイドは有していて、それ故に再生が早いのだ)
曜「……っていうのはアンドロイドと戦う時の話!卓越した再生能力を持ってるとはいえ命は有限だ!だからみんな命は大事にね、さくせんはいのちをだいじに、だ!」
善子「だそうよ、現在お荷物のお二人さん」
ことり「うぅ~!私だってあと少しで戦えるもん!」
果南「私はガンガンいこうぜが好きなんだけどな~」
善子「いや誰もそんなこと聞いてないわよ……」
絵里「あはは…」
絵里(アンドロイドの再生能力について復習するような形になったが、これから色々していくうちにアンドロイドと戦う可能性もなくはない。その時は確実に仕留められるよう頭を打ち抜くか経口の大きい銃を使わなければならなそうだ)
絵里(…そしてそれは自分にも言い聞かせておかなければならない。憧れた人間とかけ離れているのは少し耐え難いモノだけど、頭以外を撃ち抜かれなければ即死は回避できるアドバンテージは活かさなければならない)
絵里(だから人間より色んな意味で優れていると自覚している以上、“それ”を多用する以上、私たちアンドロイドは人間とは別であることを弁えないといけないのだ)
曜「そういえばみんな私の事知ってるんだね、私もアンドロイド界では有名人なのかな?」
善子「いや、少なくとも私は知らなかったわ。ことりから聞いて初めて知ったくらいよ」
曜「へーことりちゃんは何話したの?」
ことり「…何も話してないよ」
曜「え…なにそれ」
絵里「んーと、曜は武器が何でも使えるとかEMPグレネードを作ったとかそういうことを聞いたの」
曜「あ、そういうこと」
ことり「……なんでEMPグレネードなんて作ったの?」
曜「いうまでもなくアンドロイドの無力化のためだよ、EMPグレネードがオーバーテクノロジーって言われるの、正直私からすれば意味不明なんだよね」
果南「どういうこと?」
曜「アンドロイドという存在はイレギュラーすぎたんだよ、人間よりも高い戦闘力を有したことでアンドロイドは武力で解決しようとする」
曜「…ただ、別にそこまではよかったんだよ。でもね、アンドロイドは限りなく人間に似せて造ってある、だからこそちゃんと個人差があって得意不得意があるんだよ」
善子「…?」
曜「つまり、アンドロイドにもどうやったっても殺せないような天才がいるんだよ」
曜「そういうのを無力化する有効な術が何故か今まで無かった、だからEMPグレネードを作ったんだよ」
絵里「天才…例えば?」
曜「……希ちゃんのところにいる業務用アンドロイド二人かな」
ことり「…!一人は知ってる」
曜「だろうね、有名だもん」
ことり「うん…」
善子「…業務用アンドロイドなんかが天才なの?」
曜「戦闘に特化した業務用アンドロイドだからね、戦う事を生業にしてるアンドロイドはそりゃあ強いよ」
果南「ふーん…」
曜「まぁEMPグレネードはそんなところだよ」
ことり「…そっか、わざわざ答えてくれてありがとう」
曜「いえいえ」
絵里「………」
絵里(あの希という人の周りにどんな人がいるのかは知らないけど、もし戦う事になれば無傷は無理でしょうね、もはや一方的に殺される可能性だってある)
善子「…これからどうする?戦える人が三人に増えたとはいえまさかY.O.L.Oに行くわけにもいかないし攻める場所が分からないわ」
曜「Y.O.L.Oはやめた方がいいよ、下手したらそこで全滅なんてこともあり得るからね」
善子「分かってる、だからどこを攻めるべきか聞いてるじゃない」
曜「…焦る必要はないんじゃないかな」
果南「というと?」
曜「様子を見るっていう選択もあるよ、無理して攻めるより果南さんやことりちゃんの傷が癒えるのを待ったり武器の補充をしたりで準備の時間があるといいと思う」
曜「平和を求めるなら、戦いに備えよ」
曜「…これは希ちゃんの言ってたことだけどね、案外間違ってないと思う」
絵里「なるほど」
果南「確かに」
善子「…そうね、少しは休む時間があるといいかもしれないわ」
ことり「そうだね」
果南「…ふふふっじゃあお泊り会と行こうか!」
ことり「遊びじゃないんだけどなぁ…」
絵里(大きな事はしてないけど、とりあえず私たちは羽休めをすることにした。これから何が起こっていくのか正直想像が出来ない)
絵里(トリガーを初めて引いたあの日から、明日ある未来なんて捨ててしまった)
絵里(…そして、その代わりに掴み取った私の望む未来を創るためのチケット)
絵里(人生は一度切り、だからこのチケットは無駄にはしない)
善子「…は?誰がどこで寝るか?」
果南「ことりと曜がどこで寝るか決まってないでしょ?」
絵里「寝室が二つしかないのよね」
ことり「…私は一人がいい」
曜「私はどこでもいいよ」
果南「じゃあ私と絵里と曜は一緒だね♪」
絵里「ええ、曜はいい?」
曜「うん、いいよ」
ことり「津島善子はどうするの?」
善子「私もおそらくことりと同じ考えをしてるもんでね、堕天使ヨハネの睡眠は誰にも見せてはいけない決まりなのよ…」
ことり「…?」
果南「ようするに、寝顔を見られたくないってやつ」
善子「堕天使ヨハネにそんな不毛な理由はない!」
ことり「…まぁそれはどうでもいいかな」
曜「いいんだ…」
善子「よくない!」
ことり「とりあえず私はこのリビングで寝るよ、津島善子はもう一つの寝室使って」
善子「え?ええ」
果南「決まりだね」
絵里「ええ」
曜「みんな何時ごろ寝るの?」
曜「なんだかんだ夜中の四時だしもう空が少し明るいよ?」
果南「私はもう寝るよ」
ことり「同じく」
絵里「私はお風呂入ってから寝るわ」
善子「私はまだ寝ない」
曜「んーそっか」
スタスタスタ
絵里「とりあえず私はお風呂に入るわね、あなたたちも寝るなら早く寝なさい」
ことり「言われなくても分かってるよっ」
果南「絵里はお母さんかな…」
絵里(とりあえずあの戦いで汗水流したのだから体はベトベト、傷は痛むかもしれないけどまさか入らないなんて選択は無いしとりあえずお風呂に入った)
絵里「相変わらず広いわね…」
絵里(お風呂は一般的に言えばまず考えられないであろう広さで、まさか大浴場とまではいかないけど広く四角い空間の三辺にはなぜかシャワーと鏡がついてるし、ご丁寧にシャンプーリンスボディソープも配置してあってあるべきものはしっかりある模様)
絵里「ふー…」
絵里「疲れた……」
絵里(とりあえず何かする前に湯船に浸かった、傷は染みて痛いけど耐えられないほどじゃない)
曜「お邪魔しまーす」
絵里「!」
バシャーン!
曜「うわっ!?急に酷いよー!」
絵里「びっくりした…勝手に入らないでよ!」
絵里(突然バスタオルを巻いた曜が入ってきて驚いてお湯をかけてしまった、突然というタイミングで入ったのにも驚いたけど何よりお風呂というプライベートを曝け出す時に勝手に入られたのが一番の驚きだった)
曜「勝手にってここのお風呂は一人用じゃないじゃん…」
絵里「例え相手が女でも見られて恥ずかしいモノは恥ずかしいのよ!」バシャバシャ!
曜「じゃ、じゃあ見ないから!お湯かけるのやめて!熱い!」
絵里「はぁ…はぁ…」
絵里(…まぁここは我慢するしかない、そう思い妥協した。そしたら曜は私から見て向かいのシャワーの場所に座った)
曜「ふー…いってて……」
絵里「横っ腹?」
曜「そうだよ、水は染みるね…」
絵里「…そうね」
曜「おーすごい、このシャンプー高級なやつでしょ」
絵里「多分そうよ、真姫の家だし」
曜「私もこんな贅沢出来るお金があったら対アンドロイド特殊部隊なんてところには入ってなかったんだけどなー」
絵里「でもいいじゃない、そこに入れたおかげで強くなれたんだから」
曜「別に私は強くなりたかったわけじゃないから何とも言えないかな…」
絵里「…そう」
曜「…絵里さんはさ」
絵里「…何?」
曜「私が裏切って、次確実に仕留められる状況になったら私を殺す?」
絵里「もちろん殺すわよ」
曜「…うん、それは知ってる」
曜「……一応さ、ありがとうって言っておくよ」
絵里「…?意味が分からないんだけど」
曜「絵里さんはね、優しすぎるんだよ」
絵里「…そんなことはないわよ」
曜「なら、なんであの時私を殺さなかった?」
絵里「!」
曜「……殺せなかったんでしょ?」
曜「人を殺すのが怖いんでしょ」
絵里「…どうしてそう思うの?」
曜「…瞳、かな」
絵里「瞳?」
曜「私に銃口を向けてから絵里さんの瞳は揺れるばかりだったじゃん、明確な殺意があったならあそこで殺すのを躊躇う理由なんて何一つないし」
絵里「………」
曜「それにね、ことりちゃんを助けようとしてた時だってにこさんを殺せてたじゃん」
絵里「あ、あれはたまたま拳銃に当たっただけで――」
曜「それは違うね、なら連射をすればよかった。違う?」
絵里「………」
曜「いくら相手が超一流とはいえにこさんはアンドロイドじゃないからね、完全なる不意打ちで初弾が当たらなかったとはいえ二発目が避けられるかといえばそれはNOだよ」
曜「…きっと殺す覚悟はあるんだと思う、流れとかに任せちゃえばきっと殺せるんだと思う。けど致命的に絵里さんは相手を痛めつけることは出来ても殺すことのできない情がある」
曜「……正直言って、戦場に立つには向いてないかな」
絵里「…なら」
曜「いや別にいいんだよ、絵里さんは強いから。戦場に立ったって」
曜「でも不安なんだよ」
曜「あの時みたいに確実に仕留められる状況で、いつまでも殺すことを躊躇っていたら相手が何かしてきて絵里さんを殺してしまうかもしれない、助けが来て絵里さんが殺されてしまうかもしれない」
曜「優しすぎる故に、不安なんだよ」
絵里「………」
曜「…いや、まぁだからさ…そのさ……」
絵里「…?」
曜「…私が代わりに殺してあげようって思ったの、相手を」
絵里「…なにそれ」
曜「絵里さんの戦闘は不安だらけなの!だからいざという時は私が殺してあげるって言ってるの!」
絵里「………」
絵里(どうしてなんだろう。曜は…曜はどうしてそこまでしてくれるんだろう、数時間前までは敵だったのに、今ではこんなこと言ってくれるなんて意味が分からないわよ)
絵里「…どうしてそこまでしてくれるの?」
曜「…正直言うとね、お金はたっぷりあるんだけど引き下ろせないんだ」
絵里「なんで?」
曜「絵里さんに協力しちゃったからね」
絵里「!」
曜「協力したのは私の意志だよ、まぁ協力せざるを得ない状況にいたのも否めないけど」
曜「だからどの道私は絵里さんの背中を追うことしかできないんだよ、お金が欲しいなら絵里さんに協力して平和に暮らせるまで戦わないといけないんだよ。それなら本気で、出来ること全てをこなして生きなきゃって思ったの」
曜「私渡辺曜は、絵里さんの背中に全速前進ヨーソロー!ってね」
絵里「曜…」
曜「…まぁ、だから少しは私のこと信用してもらえると嬉しいかな」
曜「ことりちゃんにはものすごい警戒されてたし、善子さんにもかなり鋭い目で見られてたから…」
絵里「…そう、でも安心して」
絵里「私は曜の事信じてるから」
曜「…ふふっありがとう」
絵里「……あははっ」
絵里(頬を赤らめて嬉しそうに微笑む曜を見てたら、私も喜びの表れで照れ笑いをしてしまった)
絵里(まぁ、この事を曜に言われなくても私は曜のことを信じてたけど、こう改めて言うとなんか小恥ずかしいものがあるわね…)
曜「そろそろ戦うのはやめたいなって思ってたけど、まだまだ私は現役かな」
絵里「ええそうね」
絵里「当分は……」
~???
カランカランッ
にこ「…!随分と珍しい面がいるじゃない」
「あ、こんばんはにこさん」
にこ「このバーの場所が分かるってことはたまたまここへ来たわけじゃないのでしょう?」
「そうですね、この時間ににこさんがここへ来るというのを知ったいたのでここへ来ました」
にこ「…やっぱりあんた気持ち悪いわね」
「えへへ、殺し屋ですから」
にこ「それで何の用?私はここのイチゴジュースを飲んですぐに帰りたいのだけど」
「ふむ…では簡潔にまとめて言いますと」
「にこさんたちの敵はあの金髪ポニーテールの人たちだけじゃありませんよ?」
にこ「…それは絢瀬絵里率いる集団とは別にあんたらが敵だと言いたいわけ?」
「いえいえ違いますってば!例えあなたたちに敵愾心がなけれどいずれ戦う事になるだろう相手のことです」
にこ「それを私に教えて何のつもり?」
「気を付けてほしい、という私個人からの忠告ですよ」
にこ「ふーん…やっぱりあんたら殺し屋って考えてることがまったくもって理解出来ないわね」
「でも、にこさんは対アンドロイド特殊部隊の中ではかなり理解のある人ですよね」
にこ「…ええそうかもね、もしかして私のところにきたのもそう思ったから?」
「当たり前じゃないですか、対アンドロイド特殊部隊でまともなのといえばにこさんか曜さんしかいませんから」
「でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました」
「あ、後にこさんは数少ない私たち殺し屋と友好な関係にある人じゃないですか」
にこ「友好ねぇ…」
「間違ってませんよね?」
にこ「…どうかしらね」
にこ「……でもまぁありがとうと言っておくわ」
「えへへ…」
カランカランッ
海未「はぁ……ってあなたは…!」
「あ、海未さんこんばんは」
海未「…何の用ですか?」キッ
「あ、えーっと…海未さんが来たなら私はおいとまさせてもらいます」
「それじゃあ!」
タッタッタッ
「…あ、でも一つ、海未さんにもにこさんにも言っておきますね」
にこ「何?」
「今日からあなたたちが敵にする相手は全員、最強レベルですよ」
「例え化け物染みた海未さんや頭のおかしいあの人たちをもってしてもそれは変わりません」
海未「…つまりは希たちということですか?」
「…もしかしたらそうかもしれません、でも他にも敵がいることを忘れないでくださいね」
「ではっ」
カランカランッ
海未「…何なんですかあれは」
にこ「さぁね、でも間違ったことを言ってるわけじゃ無さそうよ」
海未「曜が行方不明という時に不安を募らせないでほしいですね」
にこ「………」
『でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました』
にこ「先客がいた、とか言ってたわね」
海未「え?」
にこ「…いや、なんでもないわ」
にこ「これからどうしましょうかね」
海未「とりあえずは曜の捜索でしょう、それ以外にあるとは思えません」
にこ「まぁそうよね」
にこ(だけど手がかりもないのにどうやって見つけるのかしら…それに私たちだって暇じゃないから曜だけに焦点を当てられるわけじゃないし、私としては曜よりも絢瀬絵里の行方の方が気になるわね……)
海未「…なんですか、にこ?」
にこ「ちょっと考え事」
海未「そうですか」
にこ「ええ」
にこ「………」
にこ(…希に会ってみるか)
~別荘、寝室
曜(しばらくは海未さんたちは私を探しに色々まわるはず…ならやっぱり動かないのがいいかな)
果南「何考えてるの?」
曜「うーんちょっとこれからをね」
果南「そっか」
曜「絵里さんは?」
果南「武器について色々調べてる」
曜「武器?」
果南「知り合いに真姫っていうお金持ちの子がいて、その子が絵里に好きな武器をくれるらしいから絵里もどの武器がいいか色々見てるんだと思うよ」
曜「へー武器か」
果南「絵里の戦法にあった銃を使わないとね」
曜「うん、その通りだね」
果南「確か曜はほとんどの武器が使えるんだっけ?」
曜「そうだよ、ライトマシンガン以外は使えるよ」
果南「へーどうやって武器選んだの?色々使えるならやっぱり迷うでしょ」
曜「やっぱり実際使ってみていいと思ったやつを使ってるかな、子供の頃から動物とバトってたから試し打ちはいくらでも出来たし」
果南「なるほどね」
曜「…でもまぁ、今はそういうことできないだろうね」
果南「難しいかもね」
曜「となると絵里さんは迷うと思うよ、同じ武器種でも性能は大きく違うわけだし」
果南「まぁね」
曜「…ん?でも絵里さん確かアサルトライフル持ってたよね?」
果南「あぁあれはことりのだよ」
曜「そっか、じゃあ借りたんだね」
果南「そうそう、ちゃんと使えてた?」
曜「うーん絵里さん自身が攻撃的じゃないってのもあるけどあんまり撃ってなかったかな」
果南「そっか、やっぱりいきなりは無理だったのかも」
曜「どうだろうね」
曜「…あ、でもそういうわけじゃないと私は思う」
果南「ん、なんで?」
曜「絵里さんはどっちかっていうと近距離で戦う方がいけるって思ってるんじゃないかな、だから近距離に対してことりちゃんの持ってるあのアサルトライフルは弱いんだよ、連射速度はそこまで高くないしアサルトライフルってそもそも重いし」
曜「それを理解した上での行動なんじゃないかな」
果南「なるほどね、じゃあ絵里は善子と同じでサブマシンガンがいいわけだ」
曜「そうだね、私はそう思う。連射速度が早くて瞬時火力が高い銃を使うべき」
果南「となるとどういう銃?」
曜「……お金があれば今すぐにでも私が最適な銃を作るんだけどね」
果南「んー…お金ならあるよ」
曜「え?」
果南「真姫に頼めばお金はくれるよ、絵里が生きている以上はね」
曜「…その真姫さんっていう人は絵里さんとどういう関係?」
果南「うーん…」
果南「パートナー、のような関係かな」
曜「パートナー?」
果南「まぁ昔色々あったんだよ、でも私はよく知らないんだよね」
曜「そ、そっか」
果南「まぁお金の件、絵里に行ってみようか?」
ガチャッ
絵里「ふぁ~…」
果南「ほら丁度来たみたいだし」
絵里「ん?どうしたの?」
果南「実はさ――」
絵里(突然持ち掛けられた話、聞けば曜が私に最適な銃を作ってくれるとのことで、どんなものかは教えてくれなかったけど、戦闘経験豊富な曜が私に最適な銃を作ってくれるなら是非ともそうしてもらいたい)
絵里(調べてネットで得た知識なんかより曜の持ってる知識を使った方が何十倍もいいだろうからね)
果南「はー!このベットはやっぱり広いなー三人一緒でもまだ広いや」
絵里「随分と楽しそうね」
果南「そりゃあ楽しいよ」
曜「…私も分かるかも、このドキドキ感と謎の高揚感がいいよね」
果南「いいねぇ曜は分かってるよ」
絵里「私は分からないわ…」
果南「ふふふっーぎゅー!」
絵里「むぐっ…苦しいわよ」
曜「同じく…」
果南「いいじゃーん、せっかく一緒に寝てるんだし」
絵里「子供か…」
曜「ふふふっ果南さんって面白いね」
果南「毎日を精一杯楽しみたい人だからさ」
曜「…そっか、すごくいい人だね」
絵里「…ふふふっ」
絵里(やっぱり果南には敵わない、人を笑わせてくれるその明るさはホントに感謝すべきで見習うべきモノだ)
絵里(それでいて強いというのだから果南は卑怯、もっとも今は戦えないけどね)
~夕方
真姫「訳の分からない話を聞いて色々来てみたけど…」
ことり「おはよう♪」
曜「おはよう!」
真姫「…なんか増えてない?私の錯覚?」
絵里「ん?錯覚?」
善子「残念ながらそれは錯覚じゃないのよ…そう、堕天使ヨハネが作り出したげんえ」
果南「本物だよ」
善子「私が喋ってる時に割り込むな!」
真姫「絵里からメールが来てなんか銃の部品をめちゃめちゃ発注してくるから急いで揃えたけど…渡す前に状況を説明してくれる?」
絵里「ええ、もちろんよ」
絵里(その日の夕方、真姫がこの別荘へ来た)
絵里(来た理由はもちろん朝起きてすぐに送った曜の作りたい銃の部品を持ってきてもらうためよ)
真姫「えぇ…仲間にしたって…」
絵里「いいじゃない、それで今がこうやって平和なんだから」
真姫「まぁ別に絵里がいいなら私はいいけど…でも大丈夫なんでしょうね?」
真姫「特に元対アンドロイド特殊部隊に入ってたと言われるあなた」ジロッ
曜「あはは…大丈夫だよ…」
真姫「というかあなたは退院してすぐに戦ったのね…」
ことり「戦ったんじゃなくて戦わされただけだもんっ!」
真姫「そう…」
真姫「…まぁいいわ、はい部品」
絵里「ありがとう」
真姫「大切にしてよね」
絵里「ええ」
真姫「…それでみんなはこれからどうするの?」
果南「とりあえず様子見ってことでみんなここでくつろいでる状態だよ」
真姫「そ、そう…」
絵里「真姫の方は大丈夫?」
真姫「ええ、おそらく私は警戒されてないはず」
絵里「ならいいけど」
絵里「…あ、はい。曜、これ部品ね」
曜「はい、預かったよーじゃあ後は私にお任せ!あ、後ここにある機械色々借りるね!」
タッタッタッ
善子「…行っちゃった」
ことり「流石行動が早いね」
果南「どんな銃が出来るんだろう?」
絵里「…分からないわ」
真姫「サブマシンガンでしょうね、部品的に」
果南「それは私も分かるよ、ただどんなサブマシンガンかが分からないんだよ」
真姫「…それは私もよく」
ことり「同じサブマシンガンでも性能は大きく違うからね、武器種を聞いたところで一概にどんなものか想像は出来ないね」
善子「そうね」
絵里「…まぁその話はいいわ、それより真姫はどうする?もう帰る?」
真姫「ええ、本当はもっといたいけど流石に長居は危険だからね、帰らせてもらうわ」
果南「はーい、気を付けて帰ってよ?」
真姫「言われなくてもそのつもりよ」
絵里「じゃあね」
真姫「ええ、また」
スタスタスタ ガチャンッ
絵里「…お金は全額真姫負担な上にわざわざ部品を持ってきてもらうなんてなんか申し訳ないわね……」
ことり「西木野真姫の性格を見るにイヤなら断ってるから大丈夫だと思うよ」
果南「私もそれは同意見かな」
善子「同じく」
絵里「…戦闘型アンドロイドと標準型アンドロイドは感受性が違うのかしら」
絵里(夕方のわずかな時間で話は一気に進んだ、部品が届き曜は私の銃を作ってくれるということで家の機械やら何やらを使って一室にこもってるし真姫はすぐに帰ってしまった)
ことり「あ、ずるいよ!」
善子「ふふふっ…これは早いもの勝ちなのよ…」
果南「いっけー!これでもくらえっ!」
絵里「ふふふっ」
絵里(それで残された私たちはそれぞれ自由な時間が出来るわけだけど、私を除いた三人はゲーム三昧の様子)
果南「絵里はゲームしないの?」
絵里「お皿洗ってお風呂沸かしたらね」
善子「あ、ごめん…」
絵里「いいわよ別に、三人は遊んでて」
絵里(私も遊びたいけど、色々やることあるしそれを先にやってから)
絵里(だからキッチンで皿洗いをしながら三人の姿を見てるけど、この時間は不思議と私の人生が充実してるなって思ってしまう。間違ってはないのだろうけど、でもどこかが違うそんな充実は実に甘味で……)
絵里(銃弾一つで壊れてしまうような、硝子で出来た秘密の楽園。そんな場所なのかもしれない、ここって)
善子「そういえばことり」
ことり「何?」
善子「ことりって人の名前を呼ぶ時って必ずフルネームで言うわよね、なんで?」
ことり「その呼び方が一番しっくりくるからだよ」
果南「えー私たちのことちゃん付けしてよー果南ちゃん♪って」
ことり「…絵里ちゃん」
絵里「! え、ええ?」
ことり「……善子ちゃん」
善子「ええ!後ヨハネちゃんでもいいわよ!」
ことり「………」
ことり「松浦果南」
果南「なんで!?」
ことり「松浦果南は松浦果南の方がしっくりくる」
善子「ぷっ…くすくす…」
果南「えぇ…なんか納得いかない」
果南「後そこの堕天使野郎笑うな」
善子「ヨハネよ!」
ことり「松浦果南にちゃん付けは似合わないよ」
果南「納得いかない…」
絵里「あははは…」
~同時刻、某カフェ
にこ「…遅かったわね」
希「ごめんごめんって、色々あって遅れちゃった」
にこ「そう」
希「よいしょっと、にこっちがウチに連絡なんて珍しいやん?明日は槍でも降るんやない?」
にこ「降るなら銃弾ね」
希「うーんまぁあり得なくもない」
希「…そういえばあの住宅街のやつはよくもやってくれたね」
にこ「希がグレネードを使った時点で被害は大きかったからあの状況は何を使っても許されたでしょうに」
希「それでグレネードランチャーを使っていいなんてことにはならないやん?第一にこっちは正義の味方やん」
にこ「はっ私は正義の味方なんてやってるつもりはないわよ、勝つための常套手段を使っただけ。爆破で人が死ぬとか知ったこっちゃないわよ」
希「……よくそんなんで対アンドロイド特殊部隊で一番か二番目に常識人なんて言われたものやね」
にこ「他が頭おかしすぎるのよ、そのせいで対アンドロイド特殊部隊のメンツも仲がいいわけじゃないし」
希「…確かにウチもあそこの子たちとはあまり関わりたくないかなぁ」
にこ「ええそうね、でもそんなことより私は聞きたいことがあるのだけど」
希「あ、そうやったね。じゃあ改めてウチに何の用?」
にこ「曜の行方とあんたの連れであるあのお茶目なアンドロイドが言う絢瀬絵里率いる集団でもあんたら殺し屋でもない敵というのを知りたい」
希「うーん、なるほどね」
希「まぁ結論から言うと曜ちゃんの行方は言えないかな」
にこ「…どうしてよ?」
希「ウチとにこっちは友達という関係ではあるけど仲間ではない、いくらウチが無関係とはいえにこっちだけ有利に進む情報はあげれないかな。にこっちが不利っていうならあげてもいいけど、にこっちの周りは海未ちゃんを始めとした頭おかしい人が集まってるから有利になる情報をべらべら言っても面白くないんよね」
希(…というか、今の状況はあの金髪の子の方が圧倒的に不利だし尚更教えるわけにもいかないやんね)
にこ「…あんたってホント意味不明ね」
希「ウチは殺し屋だけど、これでも常識人で相手の立場を尊重してるから♪」
にこ「…それで常識人なら世界のほとんどの人間が常識人ね」
希「実力行使で聞きにこないんだ?」
にこ「あんたら殺し屋に喧嘩を売るととんでもなくめんどうなことになるからね、しかも今はあまり戦力を削れない状況だし」
希「んーまぁそうやね」
にこ「それでどうなの?曜の事はさておきもう一つの方は」
希「いいよ、そっちは教えたげる」
希「でも謎なところもかなり多いからあまり期待しないでね」
にこ「ええ」
希「――ちゃん曰く相手の人数はおそらく三人、それでウチらと同じように殺し屋をやってるらしいよ」
にこ「また殺し屋か…」
希「戦闘は一回もしてないから使用武器とかは分からないけど、まぁ手練れやろうね。動いてるのをわざとちらつかせてるから何かを企んでると考えた方がいいかもしれん」
にこ「…希はそいつらをどうするつもり?」
希「正直邪魔だけど、変に手は出せんからなぁ」
希「しばらくは様子見かなぁ」
にこ「…そう」
希「はぁ…何個も何個も問題を持ってこないでほしいね」
にこ「それはこっちのセリフよ、敵は一つだけ充分よ」
希「全くやね」
希「…まぁいいや、ねえにこっち」
にこ「何?」
希「ウチはにこっちに情報を提供したんだからにこっちもウチに情報を提供すべきだよね?」
にこ「…何が欲しいの?」
希「あの金髪の子のこと……いや欲張り言うならあの金髪の子そのものが欲しいかな」
にこ「金髪?絢瀬絵里のこと?」
希「そう、多分その子」
にこ「…絢瀬絵里が欲しいっていうのは何?部下にでもしたいの?」
希「そうそう!あの子はウチにとって魅力そのものでしかないね、アンドロイドに詳しいウチなら分かる、あの子は“未知の力”を有している」
にこ「未知の力?」
希「なんというか…潜在的っていうんかな?一回戦うだけじゃいまいち力が把握出来ないんよね」
にこ「ふむ…」
希「…まぁいいや、ウチが聞きたいのはそういうことじゃないんよ」
にこ「…何?」
希「その絢瀬絵里って子は何型のアンドロイド?」
にこ「標準型アンドロイドよ」
希「…なるほどね、ありがとうにこっち。ウチが戦ったのは金髪の子じゃなかったから分からなかったんよね」
にこ「…どうするつもり?」
希「……ノーコメントやね」
にこ「殺しに行くなら手伝うわよ、私たちも殺すことを目標としてるし」
希「残念だけどにこっちたちと組むつもりはない、それにウチはその絵里って子を殺したいとは思ってないし。さっきも言ったやん?部下にしたいって」
にこ「…そう、残念だわ」
希「さて、用件は済んだみたいだしウチはここらでおいとまさせてもらうよ、あまり長居はしたくないんでね」
にこ「ええ、じゃあね」
希「ほい、じゃあ」
スタスタスタ
にこ「………」
にこ(絢瀬絵里と希が組んだら……まずいわね)
にこ(その場合は……どうするかしら)
にこ(お互いの総力を費やして戦う総力戦か、それとも私も希の方へ寝返った方がいいのかしら)
にこ「…はぁ、殺し屋は一人だけで充分よ……」
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
ことり「だから対アンドロイド特殊部隊にいる人もそうだしあの殺し屋の集団もそうだけど今使ってる武器が最適な事が多いんだよ」
絵里「じゃあスナイパーを使ってる人はスナイパーが一番いいのね」
ことり「うん、そうだよ。でも私にはよく分からないかな、スナイパーをメインにしてる人の気持ちが」
果南「色々あるんだと思うよ、性格とかもそうだしスナイパーって大して動かなくていいからそういうのも関係してると思う」
絵里「あぁなるほど」
善子「人それぞれよね、使う武器にもちゃんと理由があるしその武器の中で更に種類があってそれにも理由があるんだから」
果南「アサルトライフルにサブマシンガン、ショットガンやスナイパー、そしてライトマシンガンやマークスマンライフルなんてものもあるんだからそりゃあみんな使う武器も違うよ」
絵里「みんな色々考えてるのね…」
絵里(銃なんてとりあえず持っておけばいいって考えてたけど、そんなことは全然ないみたい)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(何度も頭の中で響くこの言葉、善子も果南も、そしてことりも自分の最適な銃を使ってると聞くけど私にとって最適な銃っていうのはどういうものなのかしら)
絵里(希って人のショットガン二丁もそうだし、曜の使える武器の多さもそうだし、きっとそこに個性だって求められるのだと私は思う。こういう時に銃を使った戦闘経験の浅さが滲み出るのが悔しかった)
絵里『私が…私が…!』
絵里『……なんで』
曜『人を殺すのが怖いんでしょ』
絵里「………」
絵里(人を殺すのに躊躇いがあるのも、それが関係してるのかしら…)
善子「それで結局どうするの?その銃は」
ことり「…考える。どうせまだ戦えないんだし」
絵里「傷酷いしね…」
ことり「そうそう、いざという時は別の銃を使うし」
果南「ことりって他の銃使えるの?」
ことり「サブマシンガンなら使えるよ、アサルトライフルならバースト銃じゃなければほぼ使えるはず。ブレが酷い銃はちょっと厳しいけど…」
絵里「バースト銃?」
善子「多分三点バーストの事を言ってるんじゃない?」
絵里「あぁなるほど」
絵里「…ん?三点バーストってトリガーを引くと弾が三発出る銃よね」
善子「そうよ、こういうバースト銃の利点はブレを抑制しやすく弾の消費を抑え銃の部品へのダメージを少なくできること、フルオートじゃない分トリガーを引いた時照準がぐんと上がることはないし、リロードの頻度も落ちる、トリガーを引くことでの銃への負担も少ないから長く使える、これに限るわ」
善子「だけど単純な手数で言えばフルオートに劣るわ、フルオートはトリガーを引きっぱなしでいいけどバースト銃は一回一回引き直さないといけないから絶対に手数負けする」
絵里「ふむ…難しいわね。でもバースト銃はブレを抑制しやすいんでしょ?ブレが酷い銃が使えないっていうならことり向けじゃない」
ことり「そういう問題じゃないよ、私は昔から立ち回りが丁寧だって言われてあまり決定打が無くて、だから今の私に必要なのは火力なの、だけど火力が高い銃ってどうしてもブレが酷い銃しかなくて、私どうしても扱えなくて…」
ことり「だけどやっぱり火力は欲しいからだからバースト銃っていう小回りが利く銃を使うよりかはこのQBZ-03のようなちゃんと手数があるフルオートでブレもそこまでない素直な性能をした武器が私にとって一番の銃なのっ」
絵里「へ、へぇ…」
絵里(やはりにわかが口を出すものではないと思った、私の武器については曜に任せようそうしよう…)
絵里「銃って奥が深いのね…」
果南「あはは、ホントにね」
善子「こんな話してたら曜がどんな銃を作ってくるのか気になってきたわ…」
ことり「ねっ」
絵里「ええ」
絵里(これからを生き抜くためには銃の知識も少なからずは必要になるでしょう、だからその時のために、今色々準備する必要がありそうね)
~二日後夜、公園
海未「希」
希「……ん?」
海未「ようやく見つけましたよ、希」
希「何か用?ウチの少ない休み時間を邪魔しないでほしいんやけど」
海未「にこから聞きました、曜の居場所を知ってるそうですね」
希「さあね」
希「というか、今日はフードまで被ってどうしたん?夏真っ只中だって言ってるのに暑くないん?」
海未「心頭滅却すれば火もまた涼し、またその逆も然りです」
希「ひゅーすごいねぇ、剣術を歩む者ってのは」
カチャッ
希「…なんでウチに銃口を向けるん?」
海未「曜の居場所を言ってください」
希「イヤだね」
海未「…では、死がお望みで?」
希「……海未ちゃんさ、足を撃たれたって聞いてたけどなんで平然と動いてるん?」
海未「あなたなら知っているでしょう?」
希「…海未ちゃんって本当に人間なんだよね?実はアンドロイドでしたってオチあるよね?」
希「その再生能力、即時回復とは言わないけど数日経てば治っちゃうソレは軽蔑もんだね」
海未「ありがとうございます、私の体を褒めていただいて」
希「…気持ち悪いね」
海未「ええ、それで教えていただけるのですか?」
希「………」
希(向けられた銃口はほぼウチの真横にあった、下手な抵抗をすればウチは死ぬだろう)
希「……それは無理な出来事やねっ!」
海未「っ!?」
バァンッ!
希(…ただ、上手に抵抗すればどうってことない)
希(ジャングルジムに寄りかかりながらコーヒーを飲んでたウチはしゃがみと同時に海未ちゃんに向かって足払いをした、結果海未ちゃんの持つ拳銃から放たれた銃弾は空へと向かいウチは見事に銃弾を回避することに成功、そしてそのまま浮いた海未ちゃんの背中をキックし、ジャングルジムに叩きつけ攻撃に転じた)
海未「がッ…あっ!」
希「今ここで死ぬのは海未ちゃんだよ」
海未「…っ!」ブンッ!
希「おっと」
希(叩きつけられた海未ちゃんはすぐさまジャングルジムの棒を掴んで体勢を立て直してそのまま突き蹴りをしてきたもんで、ウチは顔を少し横に逸らして回避した)
海未「あまり私を怒らせない方がいいですよ、死にたくないなら早めに曜の居場所を言った方が希の為でもあると思うのですが」
希「心配してくれるのはありがたいけど生憎曜ちゃんの居場所を言うつもりはないかなぁ」
海未「ならやはり死んでもらわないとダメなようですね」シュッ
希「そんなのお断りやねっ!」
希(海未ちゃん特有の超スピードの跳躍は人間の反応速度じゃほぼ回避不可能、だから受け止めるしかないんやけどウチはこの跳躍を何回も見てきたものでね)
希「知ってるよ!海未ちゃんが跳躍をするタイミングなんてっ!」
希(ある程度タイミングさえ読めば返り討ちだってできるんよ。海未ちゃんと距離を置いて、その距離を詰めるべく跳躍をした海未ちゃんに対しウチは蹴り上げをした、結果海未ちゃんのお腹に蹴りがヒットして跳躍の勢いは止まり海未ちゃんは背中から地に落ちていった)
希「まだまだいくよっ!」
希(倒れる海未ちゃんの心臓目掛けてショットガンを一丁突き刺しに行ったけど、海未ちゃんは横に転がり回避――そしてそこからウチは地面に突き刺さったショットガンを抜いて海未ちゃんに向かって片手で発砲、だけど案の定海未ちゃんは超スピードの跳躍でウチが撃つ前に射線から外れてた)
海未「後ろですよっ」
希「はいはい」
希(一瞬でウチの後ろを取るのは流石に人間とは思えないけど、これが海未ちゃんなんだろうね)
希(後ろから声がした時はウチも避けることも受け止めることも諦めて食らうことを選んだよ)
希(戦闘経験が浅い人ならここで発砲をする為に銃を構えて反撃の隙を作ってくれるんやけど、海未ちゃんはそうしてこなかった)
海未「はぁッ!」ドカッ!
希「ぐ…ぎっ…!」
希(お返しと言いたげな背中への強烈な飛び横蹴り、この威力ときたらやっぱり人間とは思えない威力だよ)
希(蹴りを食らったウチは前方へと吹っ飛んだ)
希「はぁ…いったた……」
海未「随分と余裕そうですね」
希「ウチは常に受け手なもんでね」
海未「あの蹴りを食らってもそこまでダメージが通ってないのはもはやアンドロイドと疑ってしまいますね」
希「それはお互い様やん?」
カランッ
海未「!?」
希「あ、気付いちゃった?」
海未「なっ…」
ドカーン!
希「…まぁもう遅いけど」
希「……海未ちゃん相手にはもっと別の場所で使いたかったんだけどね」
希(ウチの十八番と言っても過言じゃない技…なんかな?)
希(ウチは小さい時は占いや手品が好きだった、神秘学が好きでただそれに似たモノで尚且つウチでも出来た手品にハマると人を騙す行為に詳しくなった)
希(相手が一番油断するのは勝利を確信する時じゃなくて勝利を確信するキッカケが出来た時、ウチに蹴りを浴びせた海未ちゃんはウチの事しか考えてなくて、ウチの手元にあったピンの抜かれた手榴弾には目もいかなかっただろうね)
希(ウチ自身の体を犠牲にしてピン抜きグレネードを足元に転がすこの技は様々な人を葬ったよ)
希(だからウチは常に受け手なんよ)
海未「…その程度ですか?」
希「…!」
海未「私はその辺の有象無象とは違いますよ、グレネードと手品一つでくだばってたら対アンドロイド特殊部隊にはもういませんからね」
希「あはは…やっぱり海未ちゃんとは関わるべきじゃないね」
海未「ふふふっ降参しますか?」
希「いいや、生憎ウチはまだ死ねないんでね」
希「降参はやめとくよ」
海未「そうですか」
希「じゃあ第二ラウンド開始といこうやん?」
海未「ええ、そうですね」
希「ふう」
希(ウチ深い息を吐きながら二丁のショットガンを下げた)
キランッ
希「…相変わらずやね、その武器」
海未「私の相棒ですから」
希「……そっか」
希(街灯の光に照らされ黒光りする刃物――それを見れば人間だろうとアンドロイドだろうと海未ちゃんの明確な殺意を感じ取ることは可能だった)
希「…にしてもやっぱり珍しいね、銃剣なんて」
海未「私からすればむしろなんでみんなつけないのか不思議ですね」
希「銃が頂点に立ってるというのにわざわざ剣術を嗜む異端者なんているはずないやん?」
海未「そうですか、ですがそれは私にとっては好都合ですね」
海未「誰も使わない分、対策が出来ませんから」
海未「希も素晴らしいと思いません?このロンズデーライトで出来た剣は」
希「……そうやね」
希(ロンズデーライトというダイヤモンドより硬い鉱物で出来たその剣はデュランダルの如く壊れない剣と化している)
希(海未ちゃんは銃を学ぶと同時に剣術も嗜んでいた為にこのようなガンソードスタイルが出来上がった)
希(ここで問題なのは――)
希(ウチの戦闘スタイルとほとんど同じということ)
希(ただウチの持つショットガンの銃口には刃物がなく鈍器として扱う型だから根本的には一緒なだけ)
希(…ただ、そこだけでも一緒というのなら……)
海未「先手必勝!」
希「させんよ!」ポイッ
希(銃口がウチに向いてきたもんですぐにスタングレネードを投げた、ウチは人間だし曜ちゃんのような銃弾を回避するための補助装置を持ってるわけじゃないし、海未ちゃんのような人間らしからぬ運動神経を持ってるわけじゃないから銃弾は避けれない)
希(だからまず前提として弾を撃たせないという立ち回りをしないといけないんよ)
海未「くっ…」
希「はっ!」ダッ
タッタッタッ
希(海未ちゃんが後ろへ跳躍するのを見てウチは眩い閃光の中に突っ込んだ、ウチは投擲物が大好きなもんでフラッシュに備えたゴーグルをいつもおでこにつけてる、だからこういう時関係無く行動できるのがウチの強みだ)
希「ウチのダンスを見てね海未ちゃん!」
海未「出ましたね…!」
希(ショットガン二丁を乱射しながらバレエのように舞った、近距離でウチのショットガン二丁と平面でやり合うのは誰であろうと無理に等しい、それでいてウチは乱射しながら相手に近づくんだからスナイパーでもいない限りはこの戦法が崩されることはない)
希(もちろんリロード時は止めないといけないけどね)
海未「ホントに頭の悪い武器ですね」タッ
希「ウチの相棒の悪口は言わんといてほしいねっ!」バンバンッ
希(飛び退く海未ちゃんを追うようにウチも跳躍を繰り返しながら発砲する、ウチのショットガンはどちらもAA-12と呼ばれるフルオート式のショットガンで尚且つドラムマガジンだから一つの弾倉に31発の弾が入ってるんよ)
希(だから弾切れも頻繁には起こさないし手数はどのショットガンよりもどのサブマシンガンより強く近距離最強ともいえる、そんな力強いこのAA-12二丁がウチの相棒や)
海未「まぁこちらも逃げてるだけじゃないですけどね!」ドドドド
希「はいはい知ってるよ!」ポイッ
希(横っ腹についてるスモークグレネードを辺りにばらまいた、次の瞬間には公園の半分が煙に覆われてお互いにお互いの居場所を分からなくさせた)
希(だから今のウチにリロードをして、よく耳を澄ませた。目を瞑り、音にだけ集中すれば微かに足音が聞こえてくる)
海未「そこですねっ!」スッ
希「うおっと…」
希(足音に気付き目を見開く頃にはもうそこまで海未ちゃんは近づいてた、目で確認出来ない情報は音で確認するのが基本中の基本、それを知ってるウチらは互いに同じ事をして、海未ちゃんはウチを捕捉することが出来たしウチは海未ちゃんの銃剣の一閃を回避することが出来た)
海未「逃がしません!」ドドドド
希「きっ…」
希(一閃を跳躍で回避した後、無理矢理体を左へとねじりその勢いを利用してスライディングをして海未ちゃんが放つ銃弾を回避した)
希「いつっ…!」
希(だけど如何せん、アンドロイドみたく射線が見えてるわけでもないし運動神経も劣るために銃弾がウチの頬を掠めた。でも、ここは当たらなかっただけマシやろうね)
希「仕方ないからウチと一緒におみくじやろかっ!」ポイッ
希(そういいながらグレネード、スタングレネード、スモークグレネードを周りにばらまいた)
希(煙で前が見えない状況でなら転がる物体も何かは確認できない、だから必ず避けることを強いることが出来る。そして煙でどこに何が転がってるか分からないからどこに避けていいのかも分からない、それでいてウチは動かないでいいから安全におみくじの行方を見守ることができる)
希(海未ちゃんが引くのは大吉であるスモークグレネードか、吉であるスタングレネードか、凶であるグレネードか)
希(結果は全て海未ちゃん次第やね)
ドカーン!
海未「ぐああぁっ!」
希「ヒット♪今迎えにいくで海未ちゃん!」ダッ
希(そして海未ちゃんが引いたのは凶であるグレネードだった、大きな爆発と共に海未ちゃんの苦しそうな叫び声が聞こえて声の成る方へショットガンを下げて突っ走った)
海未「こんなんでくたばれませんよッ!」ブンッ!
希「あっと」
カンッ!
希「…相変わらずやね」
海未「死ねませんから」
希(突っ走った先、頭から血を流す海未ちゃんはすかさずウチに銃剣を振り下ろすもんでウチは二丁のショットガンをクロスさせて受け止めた)
海未「このっ!」カンカンッ
希「ん…いっ…!」
希(左から右から上から下から――――ショットガンを撃つ暇も与えない無数の斬撃を苦し紛れに受け止めた、流石剣術を嗜む者はチャンバラごっこのようにただ振り回すだけじゃないのが厭らしい)
希(そして十数回に及ぶ斬撃の後、強烈な飛び回し蹴りをウチに浴びせ、ウチが後退した隙を狙ってアサルトライフルを発砲)
希「…っ!」
希(流石に死を悟った)
希「はっ!」
希(だけどそのまま死を受け入れるはずもなく、ウチは体を無理矢理動かし右へと跳躍した)
希「っぎ、ああぁっ!」
希(死ぬのは避けた、だけどそれでも死に至る痛みだった)
希(海未ちゃんのアサルトライフルから放たれた二発目の銃弾がウチの横っ腹にヒット、ただここで立ち止まってたらウチは死ぬ。経験がウチに語り掛けた)
希(だからそのまま跳躍途中で片方のショットガンを使って海未ちゃんに向かって発砲した)
海未「はっ」ダッ
希「……ぁ」
希(そして次の瞬間には人間とは思えない素早い跳躍を二回繰り返してウチの目の前にやってきた)
希(あぁ…だから海未ちゃんとは関わりたくないんよ。海未ちゃんみたいな常識外れの動きをする人と一対一で本気で戦えば)
希(死ぬに決まってるやん)
海未「ばいばいですね希ッ!」
ザクッ!
希「っか……」
希(超一流相手なら、銃を構えて発砲する時間でさえ隙になる)
希(焦っちゃったのかなぁ、ぶっちゃけあの状況は撃っても撃たなくても同じだったかな…)
希(…でも、あえて何もせずに相手が攻めてくるのを待った方が助かる可能性も増えたかもしれない)
希(……ほら、ウチ常に受け手やし)
希「………ぁ」
海未「無様ですね、希」
希「ぁ…ぁァ……」
海未「今ここで曜の居場所を吐いてくれるのなら、助けてあげますよ」
海未「…まぁ、その状態で言うのは無理でしょうけどね」フフフッ
海未「にしても、希にしては珍しいですね」
希「……ぁ?」
海未「…いや、曜の技術が上回っただけなのでしょうか」
海未「いくら私の跳躍が並外れていても、近距離でショットガンの弾を躱せるはずがないでしょう?」
希(そういいながら不気味に笑って踵を上げながら靴を指さす海未ちゃんを見て、ウチは察したよ)
海未「流石曜の跳躍アシストは希相手には効果絶大だったようですね」
海未「それを見落とすなんて、希もまだまだですね」
希(靴の裏が仄かに光ってるもんで、仕組みは分からないけど何かからくりがあるんやろうね)
希(やられたなぁ、鬼に金棒…今更知ったところで何の意味もないけどね)
海未「…では、そろそろお別れの時間と行きましょうか」
カチャッ
希「………」
希(死を受け入れたウチはゆっくりと瞼を閉じた)
カランッ
海未「ッ!?グレネード!?」
希「ぃ……しょに……しの…か」
希(最後にウチは海未ちゃんの足を掴んで、海未ちゃんに笑顔を見せた)
ドカーン!
「希ちゃーん!!?」
希(声が聞こえた、ウチの優秀な部下の声。太陽のように明るく、でも時に月を宿す暗き闇を持つ声の持ち主)
希(その声が聞こえた瞬間、ウチは安心して力を抜くことが出来た)
海未「か…ぁ……」
「希ちゃん!?ねぇ希ちゃん!?」
「ほ、穂乃果ちゃんおちつ」
穂乃果「落ち着けないよ!間に合わなかった…!花丸ちゃん!希ちゃんを持って帰るよ!」
花丸「は、はいずら!」
穂乃果「…後、こいつは私が止めを刺す」
海未「…ぃ…いぃ…!」
穂乃果「…よくも希ちゃんを」カチャッ
「はいストップー!」バァン!
穂乃果「っ!」シュッ
「やっぱり流石だね、その身のこなし。バイオレットムーンの右腕と呼ばれながら、軍神という異名を持つ穂乃果ちゃんは」
穂乃果「……誰?」
梨子「桜内梨子、対アンドロイド特殊部隊所属だよ」
穂乃果「…そっか、だから何?」
梨子「海未さんを回収にしに来たんです、ここで殺されては困るので」
穂乃果「…あっそ」バンッ
梨子「……どこを撃ってるんですか?海未さんに当たってませんよ?」
穂乃果「!?」
花丸「あれ!?海未さんは!?」
海未「はぁ…はぁ…ここですよ!」
穂乃果「なんで…」
梨子「…ふっ…ふふふっあははははっ!」
花丸「…ずら!?」
梨子「あははははっはははははーあ…」
梨子「ねえせっかくあなたたちのリーダーが命を犠牲にしてまで与えたダメージが無意味だったって知った今の気持ちはどう?」フフフッ
梨子「悔しいよねぇ辛いよねぇあなたたちのリーダーの命、無駄だったね…んふふふ…あはははははっ!」
梨子「あっはっはっはっは!あーすごい気持ちいいなぁ、人が死んだ後にこういうことが出来るから対アンドロイド特殊部隊ってやめられないよね」
梨子「んふふふ、まぁそんな私をよろしくね、穂乃果さん」ニコー
穂乃果「……へぇ、死にたいんだ。よく分かったよ」
梨子「そんな、今穂乃果さんたちと戦うつもりはないですよっ」アセアセ
花丸(さっきまで狂ったように笑ってたのに急に控えめになって気持ち悪いずら…)
梨子「にこ先輩!」
にこ「あいよ」ポンポンッ
穂乃果「グレネードランチャー…!花丸ちゃん逃げるよ!」ダッ
花丸「あ、うん!」ダッ
タッタッタッ
花丸「あの、穂乃果ちゃ…」
穂乃果「………」
花丸「………」
花丸(今話しかけるのはやめておくずら…)
穂乃果「…貸して」
花丸「え?」
穂乃果「希ちゃんのショットガン持ちながら希ちゃんをおんぶするのは辛いでしょ」
花丸「あ、うん…」
穂乃果「……仕方ないけどあの夢追い人を呼ぶよ」
花丸「…そうだね、流石に来てくれるよ」
花丸「希ちゃんの左腕だもん」
穂乃果「……海未、とか言ったっけ」
花丸「あの青い髪の人?」
穂乃果「それ、希ちゃんからはやばいやばいとは言われてたけどあいつは何?なんでグレネードの爆破を間近で受けても生きてるの?」
花丸「マルの情報が確かなら海未という人は他の人間と比べて魔法でも使ってるかのような再生能力と生命力があるらしいずら、だから銃弾一発貫かれたくらいじゃ死にはしないっぽくて、それ同様グレネードも耐えたんだと思う」
穂乃果「……化け物じゃん」
花丸「………」
花丸(…穂乃果ちゃんも充分化け物だけどね……)
穂乃果「……なんでこんな時にあいつはいないの?」
花丸「あの人はさすらい人だから…」
穂乃果「…いくら散歩が好きとはいっても、その間に飼い主が死んじゃったら何の意味もないじゃん」
花丸「それは……そうだね」
花丸(……今あの人は何をしてるんだろう)
花丸「……ごめんね、穂乃果ちゃん」
穂乃果「…なんで花丸ちゃんが謝るの?」
花丸「マルが銃を扱えたらきっと、戦力差はそこまで生まれなかっただろうから」
穂乃果「…いいよ、花丸ちゃんの過去は知ってる。無理に銃を使う必要なんかないよ」
花丸「……今日の穂乃果ちゃんは優しいんだね」
穂乃果「………」
穂乃果「…こうなった以上、死ぬまで引き下がれないよ」
花丸「…もちろんずら!」
~同時刻、別荘
コンコンッ
絵里「曜、いる?」
曜「いるよー」
絵里「入ってもいいかしら?」
曜「うん、いいよ」
ガチャッ
絵里「失礼しま…ってうわ…すごい隈じゃない…」
曜「あはは…かれこれ徹夜続きだからね…」
絵里「あなたねぇ…」
絵里(二日間ずっと部屋にこもりっぱなしでちょっと心配になって見に行ったら酷い有様、そこら中に部品や紙切れが転がってて髪はぼさぼさ、別に急いでるわけじゃないんだから休めばいいのにと一目見て思った)
曜「…なんかさ、寝ぼけてるだけかもなんだけど…変な予感がするんだ」
絵里「変な予感?」
曜「戦況が大きく変わりそうな予感がする」
絵里「…何を根拠に言ってるの?」
曜「…ただの勘だよ、悪寒がしただけ」
絵里「そ、そう…」
絵里「…そういえば曜は戦えるのよね?」
曜「うん、戦えるよ」
絵里「今でも銃弾は避けれるの?」
曜「もちろん避けれるよ」
絵里「どうやって?」
曜「アンドロイドの原理とはまた違うけど、私の靴には重力を利用したブースト機能があるんだ。だから跳躍すれば銃弾を避けれるようになるそれ相応の勢いがプラスされる、それで避けるんだ」
絵里「へぇ…」
曜「このゴーグルはアンドロイドと同じで射線が見えるようになる、この二つのアイテムで銃弾を避けるんだ」
絵里「なるほどね…人間相手はそこまで警戒する必要ないと思ってたけどやっぱり侮れないわね…」
曜「当たり前だよ、特に希ちゃんとか対アンドロイド特殊部隊の人は舐めてかかったら死ぬよ」
曜「海未さんとかと関わったりでもしたらほぼ死は確定だよ」
絵里「…そこまですごいの?」
曜「…まぁね」
曜「……あ、出来た」
絵里「え?」
曜「はい、絵里さんの武器」
絵里「え、これが?」
曜「そうだよ、どうかな?」
絵里(突然渡された一つの銃、どんな銃かは分からないけどとりあえずコメントするならグリップの部分にYOUというロゴが入ってた)
曜「スコーピオンEVO A1————それがその銃の名前だよ」
絵里「すこーぴおんえぼえいわん…」
曜「発射レートはかなり早めの銃で、善子さんの持ってる銃よりも早いよ。装弾数は52発のサブマシンガン」
曜「他のと比べてとびぬけた連射速度を持ってるから瞬時火力は並外れたものになってるよ、その分ブレも結構酷いけど、一応コンペンセイターとかアタッチメントをつけてブレを軽減させてるから最適の状態ではあると思う」
絵里「へ、へえ…」
曜「それが今の絵里さんにとって最適の武器だと私は思うよ」
絵里「これが……」
絵里(これが将来私の相棒になるのだろうか、曜の話を聞けばすごく攻撃的な銃らしい)
絵里(クセは強いけど、使いこなせれば人間だろうとアンドロイドだろうと瞬殺で、例え射線が見える相手だろうとそう簡単に銃弾を避けさせない銃でもあるから対人でも対アンドロイドでも非常に有効と豪語してた)
善子「これが……」
果南「絵里の武器…」
ことり「趣味悪っ……」
果南「…それことりが言うことじゃないよね」
絵里「どうかしら…?」
ことり「スコーピオンEVO A1ってあの瞬時火力がすごい銃でしょ?初めて見たよ」
善子「私も…これレアな銃よね…」
絵里「え、そうなの?」
ことり「名前だけは結構広まってるんだけど、肝心の実物が出回ってないの。危険な銃だからね」
果南「撃ってみれば分かるよ、トリガーを一瞬引くだけで何発の弾が出ることか…」
絵里「そんなにすごい銃なの?これって…」
曜「戦い慣れしてない人には到底扱うことは無理であろう代物だよ、銃社会においてもこういう危険な銃が増えると作る側としても使う側としても厄介だから誰も作ろうとはしないんだよ」
絵里「どうして?」
ことり「スコーピオンEVO A1を一から作った人間は貴重な人材として狙われるからだよ、こんなもの作れる人早々いないからね。それにその銃は連射速度が速すぎて射線が見えても避けれないことがあるんだよ、だからアンドロイドにとってそれは勝負においての懸念材料だし、ましてやアンドロイドが避けれない銃弾を人間が避けれるはずもなく、みんなそれを忌み嫌ってるんだよ」
果南「私もその銃にいい思い出はないかな…」
絵里「そこまでなのね…」
曜「そうだよ、まぁそれで頑張ってよ」
絵里「え、ええ」
絵里(この後家の地下にある射撃場で試し撃ちをしたけど、曜の言う通りブレがあまりにも強くて確かに戦闘慣れしてない人には無理がある銃だと感じたわ)
絵里(それにこの銃の何がすごいってトリガーを引くとすぐに一マガジンが無くなる上に、その後私の目先数mにある的を見れば蜂の巣の如く数えきれない黒い穴が無残にも残っていて、こんなのを人に向かって撃ったらすぐに死ぬに決まってるわよ…)
果南「どうだった?絵里の相棒になる予定の銃は」
絵里「あれはすごいわね…いくらなんでも火力が高すぎるわ」
ことり「その分クセも強いから上手く扱わなきゃだね」
絵里「ええ」
曜「ふー…じゃあ私は寝るよ、おやすみ…zzz」
善子「寝るのはやっ…」
絵里「徹夜だったらしいからね…」
果南「あはは、お疲れ様だよ」
ことり「…絵里ちゃんの武器が出来たわけだけど、それでどうするの?これから」
絵里「とりあえず様子見だけど、動けるようならもちろん動くわよ」
善子「でも相手が何かしてこない限りは動けないわね」
果南「そうだね、こうやって今会話してるうちも何か動いてるかもよ?」
ことり「…それはそうだね、対アンドロイド特殊部隊は今も渡辺曜を探してるだろうし」
絵里「…ええ」
絵里(いくら私の銃が強いとはいえ、それが勝敗に直接的に繋がるかと言われたらNOだ)
絵里(今AAの総戦力が私たちのところに来たりでもしたら勝ちはまずないでしょう、果南とことりが戦えるならまだしも戦えないというのだから現在も戦況は超劣勢のまま)
絵里(何回も言うけど、負け戦上等ではないからね。劣勢の状態で攻めるのは悪手であり自殺行為、おとなしく傷が癒えるのを待つのが最善の択なのよ)
絵里(……でも、私たちがこうやって何かをしている間に、誰かが廻した歯車が狂い始めてた)
絵里(それは私たちにとって、良い意味でも悪い意味でも転機であった)
~次の日
穂乃果「……なにこれ」
「本です!漫画ですよ!」
穂乃果「…なんで女の人と女の人が付き合ってるの?」
「そういう漫画だからですよ!」
花丸「はわぁ…えっちずら…」
穂乃果「……まぁいいよ、そんなことよりね、なんで今日ここに呼んだか分かる?」
「いえ、全く」
「でも珍しいですよね、穂乃果さんが私を呼ぶなんて。いつもは花丸さんが呼んでくれるのに明日は槍でも降るんじゃないんでしょうか?」
穂乃果「…緊急事態なんだよ」
花丸「………」
「…緊急事態?」
花丸(穂乃果ちゃんや私の顔を見て、何かを察したのか——ちゃんの顔も引き締まったものになった)
穂乃果「…希ちゃんが死んだ」
「…え?」
「……嘘…ですよね?」
穂乃果「…ホントだよ、——ちゃんが業務用アンドロイドというのなら私が嘘を言ってないって分かるでしょ?」
穂乃果「あなたも私と同じ、軍人として生まれたアンドロイドなんだから」
「………」
「…分かりました。では希さんを殺したのはどこのどいつですか?」
花丸「対アンドロイド特殊部隊、園田海未さんだよ」
「……そうですか」
「悲しいです、あそことは戦いたくなかったんですけどね」
カチャッ
穂乃果「…やる気なんだね」
「当たり前ですよ、業務用アンドロイドは主がいないとやっていけない生き物ですからね」
「主が殺された今、主を殺した人物を殺しに行くのが部下ってもので、システムってやつで、本能っていうでしょう?」
穂乃果「…もちろんだよ」
「花丸さんはいつも通り情報収集をお願いします、穂乃果さんは私と共に行きましょう」
花丸「わ、分かったずら!」
穂乃果「…二人じゃ勝てないよ、数で負ける」
「知ってます、だから準備をしましょう。せっかくこの希さんの住んでたマンションという拠点もあることですし」
穂乃果「準備?」
「助っ人を探しに行くんですよ」
穂乃果「…誰か候補はいるの?」
「もちろんです、二人います」
穂乃果「…助っ人に出来る確率は?」
「…80%といったところですね」
穂乃果「ふーん……」
「……この銃、久々に持ちました」
穂乃果「私も、——ちゃんがその銃持ってるの久々に見た」
「私は戦いがあまり好きじゃありませんからね、普段はハンドガンしか持ちません」
花丸「…それ使えるずら?壊れてない?」
「はい、使えますよ」
花丸「……ハニーバジャー、やっぱりいつ見てもかっこいいずら」
穂乃果「…相手にしたくないね」
「希さんの言葉を使わせてもらうなら、ウチの相棒ってやつですから」
「…まぁそんなことより早速行きましょうか」
穂乃果「…うん、ついてくよ」
花丸「マルも!」
せつ菜「私、優木せつ菜は本気ですよ。希さん」
せつ菜「あなたの仇は絶対にとります」
せつ菜「……絶対に」グッ
「じゃあ、その前に私たちと遊びましょうか?」
せつ菜「!?」
穂乃果「っ!?」
花丸「ずらっ?」
パリーン!
せつ菜(ベランダからガラスを突き破って飛び出てきたのは見知らぬ誰か、でも相手の顔を見て明らかな“敵意”と“殺意”を感じた私はテーブルに置いてあったアーミーナイフを逆手持ちで振った)
「はっ!」
カンッ!
せつ菜「きっ…」
穂乃果「このっ…!」バンッ!
「!」シュッ
せつ菜(だけど案の定、相手もナイフを取り出して相殺。そして次の瞬間には穂乃果さんが手に持ってた拳銃を撃ったから刃が軋むことなく相手との距離が空いた)
穂乃果「…誰?」
せつ菜「…!もしかしてあなたは最近この辺をちょろちょろしてる…あの…!」
「ちょろちょろしてるなんて失礼ね」
ツバサ「私は綺羅ツバサ、あなたたちと同じ殺し屋よ。よろしくね」
せつ菜「殺し屋が私たちに何の用ですか?殺しの依頼を受けて私たちを殺しに来たんですか?」
ツバサ「違うわね」
穂乃果「ならなんで?私たち今暇じゃないんだけど」
ツバサ「それは私も同じ、だからこうやってあなたたちを殺しに来てるじゃない」
穂乃果「……だからそれをどうしてってさっきから聞いてるんだけど」
ツバサ「殺し屋は一つでいいの、そこまで言えば分かるでしょ?」
せつ菜「…理不尽極まりないですね、希さんが死んだ今が攻め時ってことですか」
ツバサ「ええ、その通りよ」
穂乃果「…あなたがどれだけ強いのかは知らないけど、私とせつ菜ちゃんに勝てるとは思わないほうがいいよ」
穂乃果「侮るつもりはないけど、仮にもこちらは殺すことに全てを置いたアンドロイドだからね」
ツバサ「ええ、でもこちらも一人で来てるわけじゃないのよ?」
穂乃果「…!」
せつ菜「スナイパーです!避けてくださいっ!」
せつ菜(風で靡くカーテンが大きく揺れ始め外を映した時に見えた一つの煌き——それを見た瞬間体が動いた。穂乃果さんもそれ同様、花丸さんだって戦えないとはいえ戦闘経験はあるから私が声をかける頃には死角へと逃げてた)
シュンッ
せつ菜「くっ…」
せつ菜(私がスナイパーの弾丸を躱すと、ご丁寧に白い軌跡と鋭い射撃音まで残して私の後ろにあった花瓶を貫いていった)
ツバサ「休んでる暇はないわよ!」
せつ菜「ええですよねっ!」
せつ菜(相手も私と同じCQCを得意とする人のようで、銃を持ってるのにも関わらずキックやパンチを使って攻めてきた)
せつ菜(だから私へと伸びる相手の腕を掴んだけどすぐに弾かれてしまい、そう簡単には反撃をさせてくれなさそうだった)
花丸「あ、あんまり深追いはいけないずら!」
せつ菜「分かってます!」
せつ菜(スナイパーに見られていると分かっているなら深追いは絶対にダメです、スナイパーの弾丸はアサルトライフルやハンドガンの弾丸と違って弾速が比べ物にならないので弾道予測線が発生した直後に行動を移さないと避けきれず致命傷か或いはそこで死亡してしまいます、なので弾かれた直後は飛び退き様子を窺おうと思ったのですが……)
穂乃果「くらえ!」
せつ菜(その直後には穂乃果さんが私にカバーをするように足元に転がってたショットガンを連射しだした)
ツバサ「ひゅーAA-12は相変わらず派手ねぇ」
せつ菜(室内で、しかも平面でショットガンと対峙するのは誰であろうと不可能、だから相手はベランダへと逃げ出してそのまま飛び降りた)
せつ菜(しかしここは高層マンションの上階、そうと分かっていて自分から飛び降りるということは助かることが分かっての投身だったのでしょう)
せつ菜「穂乃果さんッ!」
せつ菜(私は考える間もなくベランダから飛び降りて相手を追った。だけどこのままだとスナイパーの的になってしまう、だから私はテレパシーを信じてあのスナイパーをどうにかして、と穂乃果さんの名前を呼んで以心伝心を願った)
穂乃果「分かったよっ!」
花丸「マルも手伝うずら!」
せつ菜(流石穂乃果さんは天才です、私の言いたいことを理解した穂乃果さんは私に続くようベランダから飛び降りスナイパーの方向に向かってアサルトライフルを使いちゃんとした殺意を込めて発砲した)
穂乃果「花丸ちゃん!」
花丸「はいっ!」スッ
ボンッ!
せつ菜(そして連なる銃撃音の間を縫うように入り込む低い音はスナイパーの弾道を捻じ曲げた)
せつ菜(大都会の大きな公道の上空で“煙る”白い壁——その平和に入り込む違和感ですら気にせず下へ落ちる私たちには驚く暇も喜ぶ暇もない
せつ菜(花丸さんが投げたスモークグレネードは上空に厚い煙の壁を残して穂乃果さんと私へと歯向かう射線を遮った。これでスナイパーは私たちの居場所が分からず撃つことが出来ない、言葉無しでここまでの連携が出来るのは私たちの心が通っている証拠だった)
せつ菜「待てーっ!」
ツバサ「よっ…せいやっと!」ポイッ
せつ菜(空中に浮いた状態じゃろくに体を動かすことが出来ない、だからそれを利用してピン抜きグレネードをある程度溜めてから放すことで私たちは確実にグレネードの爆発に飲まれてしまう)
穂乃果「甘い」バンッ
ドカーン!
ツバサ「ぐあっ!?」
せつ菜(でも、穂乃果さんがいるから安心出来る私がいた。放たれたグレネードは穂乃果さんのたった一発の発砲ですぐに爆発し、その爆発で相手は重力場であるこの空中で、更に重力を加速させ勢いよく落ちていった)
せつ菜「穂乃果さん!」
穂乃果「了解だよっ!」
せつ菜(以心伝心——穂乃果さんの名前を呼ぶだけで私のやりたいことを理解してくれて、次第に穂乃果さんは空に足を向けた私の上にやってきて、足の裏を合わせ、私を地に落とすように、また私を踏み台にするように私の足の裏を踏みしめた)
せつ菜(するとどうなるでしょう、地に落ちる私はメテオの如く凄まじい速度で落下していき、次の瞬間には丁度下にある店から飛び出ているシートのような屋根に落ちて落下の衝撃をやわらげ、トランポリンのように一度跳ね上がってから地面へと着地し、何故かピンピンしてる相手に向かって発砲した)
ツバサ「はっ」シュッ
せつ菜「やはり銃弾は避けますか…」
せつ菜(しかし案の定というべきか、車が通る公道で大きく半円を描くように走り銃弾を躱すその姿はやはりアンドロイドです。仕方ないので私も大きく半円を描くよう走って発砲をしてはリロードを繰り返しました)
せつ菜「ほっと」シュッ
せつ菜(もちろん相手も私と同じ事をしてきました)
穂乃果「…っと」
せつ菜(そうして半円を描いてるうちに穂乃果さんも背中に希さんのショットガン二丁という二つの翼と、その間にあるアサルトライフルを背負って、この地に堕天使の如く落ちてきました)
ドドドドッ!
せつ菜「! 穂乃果さんっ!」
穂乃果「私の事は心配しないでっ!」
せつ菜(私と相手が対向する中で、その相手の後ろの路地裏から飛んできた無数の銃弾。自身がアンドロイドであるならその銃弾が私ではなく穂乃果さんに向かって飛んでいるというのは一目瞭然だった)
せつ菜(だから穂乃果さんに声をかけたけど、流石にこの程度で死ぬほど穂乃果さんも弱くはない。少しの危なっかしさも見せない華麗な回避で銃弾を全て避けきった)
せつ菜「大丈夫ですか?穂乃果さん」
穂乃果「当たり前だよ、こんなんでやられてなんかいられない」
「大丈夫か?ツバサ」
ツバサ「ええ、でも別に助けなんかいらなかったのに」
「バカをいえ、失敗は誰にでもあるものだ。如何なる時も最善であることが重要だ」
ツバサ「…そうね、ありがとう」
ツバサ「英玲奈」
英玲奈「礼はいい、それよりあの二人だ」
ツバサ「ええ、やっぱり一筋縄じゃ行かなそうね」
英玲奈「どちらも生産中止になった軍人生まれの業務用アンドロイドの残骸と聞く、つまりは殺すことに関しては超一流だ。どのアンドロイド、どの人間よりも強い、簡単には殺させてくれないだろう」
穂乃果「…簡単には殺させてくれない?勝つ前提なんだね」
ツバサ「わお、聞こえてるみたいよ」
英玲奈「耳が良いのだろう」
せつ菜「勝つ気でいるのはいいですけど、足元掬われないように気を付けてくださいね」
ツバサ「ふふふっどうも忠告ありがとう、でも勝つ前提でいるのはあなたたちも同じよね?」
穂乃果「当たり前だよ、私たちは常にこの姿勢で戦ってきたからね、“いつも”を変えるつもりはないし、常に殺すことだけを考えてるのが殺し屋の矜持ってものだと思うんだけど」
ツバサ「ふふふっこれは失礼、一本取られたわ」
英玲奈「業務用アンドロイドのくせに口が達者なんだな」
穂乃果「私やせつ菜ちゃんは他のとは違うから」
英玲奈「…そうか」
穂乃果「…じゃあ、そろそろ始めようか」カチャッ
ツバサ「ええ、そうね」
せつ菜(穂乃果さんが銃のチャージハンドルを引くと同時に高まる緊張感——お話は終わりです)
せつ菜(そしてここから始まるのは殺し合い——私たち殺し屋が幾度なく経験してきた過ちであり運命)
せつ菜「………」
せつ菜(互いが睨み合い沈黙に返る公道、周りには銃を持った警官もいるでしょうが、生憎三流が私たちのフィールドに踏み込めるほど、ここは生半可な場所じゃない)
せつ菜(死にたがりな人だけ、ここに来ればいい)
パーンッ!
せつ菜「はっ!」
ツバサ「今ね!」ダッ
英玲奈「戦闘開始」
穂乃果「負けないっ」ダッ
せつ菜(私に向かってきたスナイパーの銃弾が始まりの合図だった。私がそれを避けたと同時に緊張で止まった時が動き出し、銃を構えたり走り出したりで、とうとう戦いは火蓋を切って落とされた)
ドカーン!
せつ菜「!」
英玲奈「余所見してていいのか?」
せつ菜「しまっ…!」
せつ菜(始まったですぐに聞こえる爆発音、体感ではそう遠くない場所で発生した爆発だと思うのでもしかしたら私たち関係なのではと思った)
せつ菜(しかし兎にも角にも爆発が起こりほぼ反射的に上を見てしまった私は相手の超接近に気付けなくて、そのまま飛び横蹴りを食らってしまった)
せつ菜「ぐあっ!」
せつ菜(そして吹っ飛ぶ私、相手の首を見てアンドロイドとは分かっていていましたが、この相手の蹴りは一味違った)
せつ菜(通常のアンドロイド——ましてや戦闘型のアンドロイド以上の威力に、私は後ろにあったデパートの入り口のガラスを突き破ってその奥の壁に叩きつけられた)
ドカーン!
せつ菜「ふう…」
せつ菜(そして相手がいるであろう、そして私が蹴りを受けた辺りで飛び散るコンクリート、それを見て私はわずかに肩やスカートに積もった瓦礫を払いながらゆっくりと体を起こした)
英玲奈「随分と小癪な真似をしてくれるな」
せつ菜「…私は受け手の方が得意ですから」
せつ菜(希さんの十八番——近接攻撃をわざと食らってピン抜きグレネードを地面に落とす)
せつ菜(伊達に希さんの奥義の一つであったが故にその効果は絶大で、相手にダメージはそこまで通ってないものの、腕から流れる少量の血を見て私は少し微笑んだ)
せつ菜(私や希さんのような意表を突くトリッキーなタイプじゃないと出来ない技で、ポーカーフェイスと演技は必須アイテムです)
英玲奈「受け手が得意、というがその頭から流してる血はなんだ?」
せつ菜「頭から血を流す程度じゃダメージの範疇に入りませんよ、損傷してても動くんですから」
英玲奈「…恐ろしいな、その損傷を厭わない覚悟が」
せつ菜「ここで負けてなんかいられませんから」
英玲奈「…そうか、だがどうだろうな」
せつ菜「…ええ、どうでしょうねッ!」パサパサパサ
せつ菜(私の相棒——ハニーバジャーというアサルトライフルには“サプレッサー”という銃声を抑えるアタッチメントがついています。だから、他の銃と比べて銃声が小さく、何より音が特殊なんです)
英玲奈「ほっ!」シュッ
せつ菜「まだまだぁ!」
せつ菜(トリガーを引きながら銃弾を躱す相手に近づいて後ちょっとの距離を一回の跳躍で詰めて、ハニーバジャーを背中にやって、腰にかけてある刃渡り12cmのスペツナズナイフで素早い横斬りを行った)
英玲奈「ほっと、危ないな」
せつ菜(後ろに大きく体を反って回避する相手、そして次に相手の取った行動は右フックで、それを私は片腕で受け止め流れるように後ろ回し蹴り、これに対して相手は片手で手にしていたアサルトライフルで受け止めたけど、本命はこれじゃない)
バンッ!
英玲奈「何っ!?」
せつ菜「はぁっ!」
せつ菜(向こう側から飛んでくる一つの銃弾と銃声がデパート内で残響した、それを確認した私はダメ押しに回し蹴りをして銃弾と挟み撃ちをした)
英玲奈「くっ…」シュッ
せつ菜「遅いっ!」
せつ菜(どこまでも穂乃果さんは私の相棒であり親友です、穂乃果さんも戦ってるというのに私の方を見てハンドガンで一発、ベストなタイミングで撃ってくれて私も攻撃のタイミングを作れました)
せつ菜(そうしてその結果として、回し蹴りと銃弾を避けた相手に私は追撃の肘打ちで怯ませ、トドメの飛び膝蹴りで相手を吹っ飛ばした)
せつ菜「よしっ!」グッ
タッタッタッ!
穂乃果「死んじゃえっ!」
せつ菜(そうして突然こっちへやってきた穂乃果さんが倒れる相手の胸に向かってナイフを一突き、しかしもちろん相手は横に転がり避けると同時にすぐに起き上がり、ブレイクダンスのように低姿勢で回転しつつ全方向に対して連続で蹴りを繰り出し、近づく私と近づいた穂乃果さんを退けさせた)
タッタッタッ
ツバサ「どこ行ってるのよ!」ドドドド
穂乃果「ふっ」シュッ
せつ菜「よっと」シュッ
せつ菜(私と穂乃果さんに飛んでくる銃弾を避けて相手の持つ銃が弾切れを起こすであろうタイミングに私と穂乃果さんは手の届く距離にまで近づいて固まった、そしてそれは相手も同様)
ツバサ「大丈夫?英玲奈」
英玲奈「ああ、だがやはり強いな」
英玲奈「お前らほどの実力を持ったアンドロイドが何故手品師の下につくのか不思議で仕方ないな」
穂乃果「強さが全てじゃないってことだよ」
英玲奈「…一つのことしか考えられない業務用アンドロイドがその言葉を発するとは実に興味深いな」
せつ菜「ならそれは希さんがすごかったのでしょう、私たちを変えてくれたお方ですから」
英玲奈「……よく分からないがやけに希というやつを上げたがるな、何故だ?」
穂乃果「分からなくていいよ、分かる必要性も意味もないから」
「お話のところ、ちょっといいですか?」
ツバサ「!」
せつ菜「!」
英玲奈「誰だ?」
穂乃果「…何か用?」
せつ菜(それぞれがそれぞれを睨み合う中で突然混ざった声、その声に反応して全員が同じ方向を向いた)
「お初にお目にかかりますわ、殺し屋さんの皆さん」
ダイヤ「わたくしは黒澤ダイヤ、あなたたちを殺しにわたくしも馳せ参じましたわ」
穂乃果「…面白いこというね」
ツバサ「死にに来たの間違いじゃない?」
せつ菜「…いや、そうでもないみたいですよ」
英玲奈「あぁ、少なくとも仲間が二人いるらしい」
ダイヤ「あら、どうしてお気づきに?」
せつ菜「射線が二つ、現在もこちらへ向かってますね」
英玲奈「あぁ、私も射線を感じる」
ダイヤ「ふふふっ流石アンドロイドですわね」
スタスタスタ
せつ菜「…!」
せつ菜(ダイヤ、と名乗る人物が薄気味悪く笑うと後ろから二丁のハンドガンを腰にかけた何気なく誰かが近づいてきた)
スタスタスタ
ダイヤ「この子はわたくしの部下、そして妹のような存在」ポンッ
ダイヤ「ほらっご挨拶を」
「………」
凛「凛は星空凛!よろしくにゃんっ♪」ニコッ
ツバサ「うわっ…」
穂乃果「あざとい…」
せつ菜「なるほど…そういうことですか」
英玲奈「対アンドロイド特殊部隊のやつらか、めんどくさいな」
せつ菜(凛という子の胸元についてるバッジを見て察した相手の情報、この戦い…死ぬと思ってやらないと勝てなさそうです)
ダイヤ「わたくし、実は殺し屋という二つ名がありますの」
ダイヤ「ここはわたくし達殺し屋で、殺し屋頂上決戦をやりませんか?」
穂乃果「やだね」
ツバサ「無理なことね」
せつ菜(食い気味に拒否して、私に“行こう”と耳打ちをして立ち去ろうとする穂乃果さんについていけば後ろから飛んでくる弾丸。それを避けて後ろを向けば凛さんがもうすぐそこまで迫ってきてるもので咄嗟に姿勢を低くしてすぐに戦える構えを取れば、次に相手のしてきた行動は私に向けての右ストレートだった)
凛「と、思うじゃん?」
せつ菜「っ!?フェイント…!?」
せつ菜(飛んできた右ストレートは私の顔の前を横切り、左手で腰にかけてたハンドガンを一つ取り、そのまま右ストレートの勢いを利用して横回転し背面からの変則撃ちで私の胸を狙って発砲してみせた)
せつ菜「当たりませんっ!」
凛「だよね、でも後ろの人はどうかな?」
穂乃果「…っ!?」シュッ
せつ菜「穂乃果さん!?」
せつ菜(迂闊でした。私の胸に向かった射線は、凛さんが発砲したと同時に、そして私が避けたせいで突然として射線は私の後ろにいた穂乃果さんの胸へと移る、すると穂乃果さんが射線を感じ取るに相当な遅れが生じて穂乃果さんが避けれなくなってしまう。それを見込んでたであろう相手の策に見事はまってしまいました)
穂乃果「きっ…あぶなっ…」
せつ菜「だ、大丈夫ですか穂乃果さん」
穂乃果「なんとかね…」
せつ菜「すいません…」
穂乃果「いいよ、この場合は…」
凛「ん?ふふふっ凛の強さ分かった?」
穂乃果「あいつのせいだから」
せつ菜(頬から赤い涙を流す穂乃果さんを見てこの状況がいかにまずいものであるかを分からせてくれる、横を見ればダイヤと言う人も先ほどまで私と戦っていたアンドロイドの人と戦っていて、突然の超一流の襲来に焦りは加速していく一方だった)
英玲奈「はぁっ!」
ダイヤ「おっと危ないですわね、銃を鈍器にして扱うとはナンセンスですわ」
英玲奈「別に何を思われようが構わないがこれが私のやり方なものでな、しかしながらそちらこそ銃を背中につけてるというのにナイフだけで戦おうなんてナンセンスではないのか?」
ダイヤ「あら気付きませんの?あなたほどの相手ならナイフで充分という意思表示ですよ」
英玲奈「…舐められたものだな、いくら人を殺すことに特化した集団とはいえ銃無しで私たちを殺そうなんてお前は夢追い人か何かか?」
ダイヤ「別に冗談を言ってるつもりはありませんのに」
英玲奈「…なら、尚更タチが悪い」
せつ菜「………」
凛「分かったかにゃ?あなたたちは逃げられないよ、少なくとも凛が生きている以上は」
せつ菜(相手の後ろからスタスタと歩いてくる新しい二人を見てそう簡単には逃げさせてくれないことを分からせてくれる、この場合二対三で私たちが不利になる上に相手はおそらく超一流、それは幾度となく戦場を駆けた私たちでも負けは充分にあり得た)
穂乃果「…腹が立つね、その余裕そうな態度」
凛「余裕だからね」
穂乃果「なんで私たちの邪魔をするの?」
凛「それは凛たちが平和を守る対アンドロイド特殊部隊だからだよ」
穂乃果「平和を守るヒーローがこんなぶっきらぼうなやり方をして市民の信用を得られるの?」
凛「平和を守るヒーローは性格が良いなんて決まりはどこにもないし、凛は市民を守る為にここにいるわけじゃないにゃ」
凛「市民が死のうが死なないが凛にとってはどうでもいいことだよ、大体死ぬのなんて弱い自分が悪いんだし」
穂乃果「……ホントにつまらない回答をするね、あなた」
凛「期待してた答えでしょ?」
穂乃果「………」
せつ菜「……こんな時に…」
せつ菜(きっと、私も穂乃果さんも考えてたことは同じだった)
せつ菜(こんな時に希さんがいてくれたら解決なのに)
せつ菜(対アンドロイド特殊部隊の化け物にやられてしまったけど、私たちの主の力は偉大だった。自らを殺し屋と名乗ってはいるけど、大層優しい人で、この人といればどんな窮地も乗り越えられそうな安心感があった)
せつ菜(私と同じトリッキーで、追いかけててすごく楽しかったし、一般人と比べてネジが少し外れてるから普通じゃ思いつかないようなことをしてきてホントに追いかけ甲斐があった)
せつ菜(ここに希さんがいれば、きっと私や穂乃果さんじゃ思いつかないことをして乗り越えらせてくれたんだろう、このまま戦うのは分が悪いし、ここで消耗したくない)
せつ菜(反撃の狼煙はまだ上がってない、こんなところでつまずきたくなんかなかった。この相手は強い、動きが素早いし何より対アンドロイドに慣れ過ぎている、こんなのを相手にしたらノーダメージは無理がある)
せつ菜(だから希さんがいてくれたら……そんな叶わぬ希望は光を見せることもなく心の中で潰えた)
せつ菜「…穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「……やるしかないようですね」
穂乃果「…そうだね」
スタスタスタ
海未「…昨日ぶりですね、穂乃果さん」
穂乃果「…昨日の傷はどこにいったの?」
海未「治りましたよ、全部」
穂乃果「…化け物だね」
海未「ふふふっありがとうございます」
梨子「私も一日ぶりだね、穂乃果さん」
穂乃果「………」
梨子「なんか返事してよ!」
穂乃果「二重人格?」
梨子「ううん、私の心は一つだけ」
穂乃果「…なら本当に狂ってるんだね、あなた」
梨子「梨子って名前で呼んでよ?私は桜内梨子だよ?」
梨子「…あ、そういえばあの死んだ紫髪の人の部下は全員プライドが高いって聞いたなぁ」
梨子「……ふふふふっあぁ楽しみだなぁ、あなたたちの絶望に満ちた顔を見るのが」ウットリ
梨子「ふふふひひっ…泣き顔でもいいよ?生け捕りにして拷問でもしたら見せてくれるよね?」フフフッ
せつ菜「…っ」ジタッ
穂乃果「……希ちゃんがあなたたちを避ける理由がよく分かったよ」
せつ菜(狂気の権化…と形容しておきましょう、殺すことに全てを置いた私たちでさえたじろいでしまうほど、そして人間とは思えないほど穢れた/汚れた考えに冷や汗が出た)
せつ菜(こんなのがいる部隊に近寄ろうなんて思わないし、こんなのがいる部隊がまともな部隊とは到底言えない)
せつ菜(視界に移る最奥を見れば殺し屋と名乗るアンドロイドの人たちと対峙するダイヤさんと誰か。わざわざ私たちを殺しに五人掛かりでやってきたのですね)
せつ菜「…私たちだけ三人なんですね」
海未「軍神とトリックスターですよ?持ってこれる戦力を使うのは当然じゃないですか」
せつ菜「高く評価してもらえるのがこんなに憎らしいなんて思いたくなかったですね」
梨子「ふふふっあなたたちの飼い主に褒めてもらえたらよかったね?」
せつ菜「…つくづくイラつきますね、それ」
凛「お話はいいからとっとと始めない?凛長話は嫌いだからさー」
海未「そうですね、じゃあ」カチャッ
せつ菜「…!」
穂乃果「…勝つよ、せつ菜ちゃん」
せつ菜「…もちろんです」
せつ菜(一斉に銃を構えだす相手に、私たちも同じように銃を構え穂乃果さんは私に耳打ちをした)
せつ菜(こんなところで負けて拷問なんてされたくない、もし負けそうになったなら自害を選ぶまである)
せつ菜(こんなに戦いの記憶を研ぎ澄ましたのはいつぶりだろう、ここまで本気で戦うということをする日は今まででも数回しかなかったはず)
せつ菜「…行きますか」
穂乃果「うん…」
せつ菜(肌がひりつく緊張感、この戦いは絶対に負けられない)
せつ菜「………」
穂乃果「………」
凛「…出ないなら凛から行くよっ!」ダッ
海未「梨子!カバー頼みます!」ダッ
梨子「もちろんです!」ドドドド
穂乃果「あの二人は私に任せてせつ菜ちゃんはあの猫女をやって!」ダッ
せつ菜「え、でも!」
穂乃果「私が負けると思う?」
せつ菜「…!」
せつ菜(穂乃果さんは強い、それは限りなく最強に近い強さ)
せつ菜(軍神と謳われたその才能は、頼り甲斐があるってそんなレベルじゃないでしょう)
せつ菜「…思いません、あの二人はお願いします」
穂乃果「もちろんだよ」ドドドド!
せつ菜「はっ」タッ
せつ菜(穂乃果さんは相手の方に跳躍しながらトリガーを引くに対し私は一度後ろへ飛び退き受けの態勢に回った)
凛「あなたは軍神さんと違って逃げるんだねっ!いいよ受けて立つにゃ!」ダッ
せつ菜(凛さんも私のところに来てくれたのでそのままエスカレーターをジャンプで上って戦うフィールドを変えた)
せつ菜「ここで戦いましょうか!」パサパサパサ
凛「うんいいよっ!」ズサー
せつ菜(二階にあがって最初の跳躍と同時に発砲、私に引っ付くように二階へ走って上がってきた相手も私の跳躍に反応して、よく出来た笑顔を歪ませることなくスライディングをして私に近づきながら二丁のハンドガンで私に向かって発砲を行った)
せつ菜(ただ、もちろん銃弾は私にも相手にも当たることはなく、私は跳躍の着地直後すぐにスライディングをして私の体全体に残るこの慣性を残しながら再び横方向へ跳躍し凛さんの放つ銃弾を躱し、相手はすぐさまブレーキをかけ照準を前方向から私が避けた方向である横方向へ向け発砲の対応をして休む暇も与えない展開を作り出した)
凛「はい、せーのっ!」カーンッ
せつ菜(身軽に、でも固く染め上げられた紺色のその姿。私服の上に防弾チョッキを着て、腰からマントをかけ、その上にベルト型のマガジンポーチをつけて、その姿でどこからともなく出てきて宙に浮いたピン抜きグレネードグレネードを私に向かって蹴ってきた)
せつ菜「っ!?」バンッ
ドカーン!
せつ菜(相手の突飛な行動に驚いた私は案の定即座に反応して発砲、そうすればその後は大爆発————天井や床には穴が開き、広い範囲で砂煙が立ち込め始めた)
せつ菜「なんて手荒な真似を…」
タッタッタッ!
凛「よーしっ!いっくにゃー!」
せつ菜「…! そこですか!」
せつ菜(近づく足音を頼りに相手の位置を見破った私は腕を使って受け止める体勢に入った)
海未「ええ、ですが相手が違いますね」
せつ菜「えっ…!?」
せつ菜(気付いた頃には遅かった、濃い砂煙の中でも見える銃剣の一閃に目が眩んだ)
ザクッ
せつ菜「きっ…あああああぁッ!?」
タッタッタッ!
穂乃果「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜「あぁ…ああああ……!」
せつ菜(痛い、いたい。イタイ……)
せつ菜(一閃で目が眩んだその直後には私の左腕に鋭い斬撃が飛び込んできて大量の血液が噴出した)
せつ菜(この退廃的で厭世的な痛みが懐かしい。痛みを我慢しようとしても声が——体が痛みを我慢出来ず切羽詰まって息が出来なくなり、斬られたその左腕はとうに機能を失っていた)
穂乃果「せつ菜ちゃん大丈夫!?」
せつ菜「ア…あぁ…穂乃果さん…っ!」
穂乃果「ちっ…なんて厄介な…」
タッタッタッ!
凛「仲間の心配もいいけど自分の心配もした方がいいよー?」
穂乃果「ああそうだよ————」
せつ菜(声の成る方へ銃と顔を向けたであろう穂乃果さんは、何故か言葉を止めた)
せつ菜(私は手の痛みを我慢するのに必死で、それどころじゃなくて何が起ころうとしてるのか全く分からなかった)
穂乃果「——ね…?」
せつ菜(砂煙が濃い中で声も足音もしたんだから、銃を向けるのは当然だ)
せつ菜(だけど銃を向けて見えるのはピンが抜かれたグレネードだった)
穂乃果「…ぁ!」
せつ菜(……そして、それが即座に爆発するものであるというのはアンドロイドで尚且ついくつもの戦場を駆けた穂乃果さんならすぐに分かったでしょう)
せつ菜(だからこそ穂乃果さんは感じ取ってしまった。このどうしようもない状況の絶望感を)
ドカーン!
せつ菜(私も穂乃果さんも避けれるはずがなかった、相手の煙と足音と声の使い方が上手すぎた。あんなの分かるわけありませんよ…!)
せつ菜「けっ…はっ…!」
穂乃果「……うぅ」
せつ菜(吹っ飛ばされた私たちはどちらもひどい傷だった。穂乃果さんはすぐに立ち上がってたからまだ死なずとも、まず強烈な蹴りで壁に叩きつけられ、次に剣で腕を斬られ、最後に爆発を直で受け体の至る所から血を流す私は失血死が近かった)
せつ菜(久々に感じた、これが死の味なんですね)
せつ菜(こんなにも死の味が絶望感に満ちてるなんて、もう忘れてた。そして思い出したくなかった)
穂乃果「せつ菜ちゃん…だい、じょうぶ…?」
せつ菜「こんな…ところで…ッ!」
せつ菜(…でも、まだ死んでない)
せつ菜(こんなところで負けてなんかいられない、死ねない理由が私には合って、死にたくない心が私にはまだある)
せつ菜(だから私はその心で無限に輝きを放つ希望を抱いてゆっくりと立ち上がった)
梨子「あ、いましたよ」
凛「爆発で肉片もなく吹き飛んだのかと思ったよ」
海未「この場合肉片ではなく部品でしょう」
穂乃果「…どうする」
せつ菜「……あの二人はどうでしたか」
穂乃果「一対一なら負けない、けど二対一でやってる以上不利だし上手く攻めれない」
せつ菜「…私でも戦えそうですか?」
穂乃果「……今のせつ菜ちゃんには無理かな」
せつ菜「…そうですか」
せつ菜「…でしたら穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「お願いがあります」
穂乃果「…言ってみてよ」
せつ菜「時間を稼いでほしいんです、私に…私に時間をください」
穂乃果「…任せて」
せつ菜「…そしてもう一つ、あるんです」
穂乃果「…何?」
せつ菜「………」
せつ菜「私を信じてほしいんです、今から何が起こったとしても」
穂乃果「…もちろんだよ、せつ菜ちゃんは私にとって——」
穂乃果「——家族みたいなものなんだから」
せつ菜「…ありがとうございますっ」ニコッ
せつ菜(穂乃果さんにとびっきりの笑顔を見せた後、穂乃果さんはすぐに三人に向かって発砲しだした)
せつ菜(その時の穂乃果さんの目といえば本気だった、手慣れたリロードや全く隙の無い身のこなし、相手の弱点を探るような多彩な攻め方をしてて、そんな穂乃果さんを見れば私も出し惜しみをしている場合じゃないと奮いを立ててすぐさま行動へ移した)
せつ菜(これが最終兵器になるかといえば、それは違うけど、でも今の私たちにはこれしか方法がなかった)
せつ菜(私は懐にあった携帯を耳に当て、この戦場から背を向けて逃げだした)
絵里「あなた…っ」
「大丈夫ですか!?今私の家に…!」
絵里(なんで、私を助ける人がいないんだろう)
絵里(そんなの答えは簡単だった)
「F-613…もしかしてあなたは……」
絵里「………」
絵里(私の首元についた数字が今私の前にいるこの人との決定的な違いだった)
絵里「…そうよ」
絵里(じゃあ答え合わせをしましょうか)
絵里(なんで私を助けてくれる人がいないのか、今も数百といる人が皆私を無視する理由、それは……)
絵里(私がアンドロイド――いわば造られた命を宿すロボットだからよ)
3: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:21:11.13 ID:Sjljkzyd0
~次の日
絵里「…はぁ」
「どうしたの?絵里さん」
絵里「ん…あぁ千歌、いや昨日ちょっとあったのよ」
千歌「何かあったんですか?」
絵里「ちょっとトラブルで体が動かなくなっちゃって…」
千歌「えっ!?大丈夫だったんですか!?」
絵里「ええ、少ししたら動けるようにはなったけどこういうことがあると正直移動が不安なのよね」
絵里(次の日、私は何事もなくオシャレなカフェテリアで溜め息をつく)
絵里(あの後、すぐに私はあそこから去った。助けてくれるのは嬉しかったけど、無様に助けてもらうのはなんだか私のプライドが許せなかった)
4: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:23:02.76 ID:Sjljkzyd0
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「……変な人」
千歌「ん?何がですか?」
絵里「いえ、なんでもないわ」
絵里(それでこの子は千歌、高海千歌という子)
絵里(彼女は私と同じ造られた命を宿すアンドロイドだ、だから彼女の首にもF-083という識別番号が刻まれている)
絵里「あ、またその歌聞いてる」
千歌「えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?」
絵里「かよちゃん?」
千歌「知らないんですか?今人気ナンバーワンといっても過言じゃないアイドルですよ!」
絵里「へー」
千歌「もうまさに私の推しアイドル! 絵里さんも直で見たら絶対に心奪われますよ!」
絵里(携帯から流れる“かよちゃん”と呼ばれる人の歌、聞いてると癒される優しい声と元気が出るような明るい曲調になんとなく千歌がはまってしまう理由もわかる気がした)
5: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:24:54.13 ID:Sjljkzyd0
千歌「あ、そういえばその…」
絵里「ん?何かしら?」
千歌「倒れた場所って…」
絵里「あぁ、アキバのど真ん中よ、歩行者天国に埋もれてたわ」
千歌「え、じゃあそれってつまり…」
絵里「……ええ」
絵里(誰も助けてくれなかったのか、千歌はそう言いたいのよね)
絵里(この世界はそうよ、アンドロイドという存在が栄えるとたちまち不思議なカーストが生まれた)
絵里(アンドロイドは人間より下の存在で、しかもある意味でいえば家畜と同等の存在とも言えた)
絵里「…仕方ないのよ、私たちがアンドロイドとして生まれた以上は」
絵里(私たちはアンドロイド、それは造られた命。そしてつまりそれは生命が宿ってると認識されない“モノ”でしかない)
絵里(単なる造り物に思いやる気持ちなんてこの世にはなくて、救済の手を差し伸べるに値しない理不尽さがそこにはあって、例えアンドロイドがどれだけ可愛くても“所詮”アンドロイドである以上人間と同等の立場になることはない)
絵里(だから私はどこで倒れようとも放置されるだけだ)
絵里(そしてそれはこの街だからこその光景だった)
絵里(“アンドロイド隔離都市”であった東京ならではのね…)
6: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:26:14.02 ID:Sjljkzyd0
千歌「私は……」
千歌「…私はそうは思いません」
絵里「……知ってるわ」
絵里(しかし私たちは人として分類される生き物であるのは確たる事実、涎や汗、かさぶたや流血など人間として体の機能は本物と瓜二つ)
絵里(だから外見も、ましてや深層部にいかない程度の内部でさえ人間と同じなのに、どうして私たちは差別されるのだろうか)
絵里(子供だって作れるし、リストカットをすればちゃんと死ぬ。機械としてのトラブルはもちろんあるけど痛みだって感じれるし、病気だってちゃんとある)
絵里(なのに…なのに…!)
絵里(どうして私たちはこんなにも低く見られるのかしら…)
7: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:27:51.64 ID:Sjljkzyd0
「おまたせ」
千歌「ん?あ、真姫ちゃん!」
絵里「こんにちは真姫、随分と遅かったわね」
真姫「ごめんなさいね、授業が長引いたの」
千歌「ううん!全然大丈夫!」
絵里「そう、大変ね」
真姫「まぁね」
絵里(…しかしまぁ例外ももちろんある、この子は真姫。識別番号は――って真姫にはないんだったわ)
絵里(真姫は識別番号がない正真正銘の人間、人間にも私たちロボットを見下すことなく平等な立場で接してくれる人がいる。それが真姫なのよ)
真姫「二人は大丈夫?」
絵里「ええ、まあ」
千歌「えへへ、大丈夫だよ」
絵里(何が大丈夫かって?そんなのアンドロイドだからいじめられたりしてない?っていう隠語なのよ、不幸中の幸いというべきなのかしら、私の顔つきや体はほぼ完璧と言ってもいいほどに整ってた)
絵里(アンドロイドとはいえど顔や体の良し悪しはもちろん存在してて、その中でも私は大当たりを引いたのだと思う)
絵里(だからこそいじめはないし、むしろ学校じゃ憧れの存在だったりする)
8: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:29:29.51 ID:Sjljkzyd0
真姫「そう、ならいいけど」チューチュー
絵里「随分とオシャレなもの持ってきてるじゃない」
真姫「あぁこれ?今話題のジュースショップで買ってきたのよ、オレンジジュース」
千歌「オレンジジュース!?うわー!私も飲みたい!」キラキラ
真姫「……飲む?」
千歌「飲むー!」チューチュー
絵里「あはは…全部飲まないようにね」
千歌「うんうん!」
真姫「ふふふっ」
絵里「ごめんなさいね、私の可愛い可愛い後輩が」
真姫「いいのよ、というか私も…その…絵里の可愛い可愛い後輩のはず…なんだけど?」
絵里「ふふっそうね」クスッ
真姫「笑わないで!」
9: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:31:03.10 ID:Sjljkzyd0
真姫「…というか絵里の食べてるものも随分とオシャレね」
絵里「あぁなんか無性にタンパク質を摂取したくてね、つまりはお肉が食べたかったのよ」
真姫「それでステーキを選んだと」
絵里「そうそう、私このステーキを食べる時のナイフとフォークを使う上品な感じが好きなの」
千歌「えー私はばばっとすぐに食べたいなー」
真姫「千歌はそんな感じよね」クスッ
千歌「あー!今私の事バカにしたでしょー!」
絵里「ふふふっ」クスクス
絵里(学校という場所は外の世界とは違って意外にも快適なの、私を人間と並べて見てくれる人間はたくさんいるし居心地がすごくいい)
10: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:33:07.45 ID:Sjljkzyd0
「あの子、ロボットと仲良くしちゃって…」クスクス
「ただのロボット相手に何を思ってるんだか」
真姫「!」
千歌「!」
絵里「………」
絵里(……ただ、正義がいるなら悪がいるのもまた当然。平等は不平等という言葉と一緒に生まれたのよね、この学校にも私をただのモノとしか見ていない人も少なくはない)
絵里(そして何故か、白羽の矢は私に立つのではなくアンドロイドと関わった真姫が標的になる。アンドロイドがモノという固定概念があるせいか、今度はそんなモノとおしゃべりしてる人間がおかしいと思われるみたい)
絵里(だからこそ、こんなアンドロイドとして生まれた私に腹が立つし、下等な存在だと見下されただけではなく真姫にまで被害が及ぶ理不尽さにも怒り心頭だった)
真姫「いいわよ、気にしないで」
千歌「ご、ごめん」
真姫「だからいいって」
「あら、ごめんなさい。もしかして可愛い可愛いロボットちゃんを傷つけちゃった?」クスクス
真姫「っ…」
絵里(世界にはいるのよ、心無い発言をする人間が)
絵里(そりゃあもちろんそういう人間にも慣性があって、考えがあるのは否定しない)
ダッ
千歌「絵里さん!?」
真姫「何やってるのよ!?」
「っ!どうなっても知らないからっ!」
絵里(…ただ、それを私が受け止められるかはまた別の話だ)
11: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:35:15.33 ID:Sjljkzyd0
バァン!
絵里(響く銃声、銃弾は私たちの後ろのテーブルで火花を散らして床へ落ちてゆく。この世界なんてゴミ溜め同然、既に道徳的退廃を迎えてる世界に救いようなどなくて、つまり私も退廃を迎えてるのよ)
『射線確認。推測距離3メートル、目的へ無傷で到達出来る可能性…』
タッ
『100パーセント』
絵里(彼女の言葉を聞いてる最中にもう体は動き出してた、怒りは私を動かす理由へと変わっていく、ダメだと分かっていてもやはり機械の体は言うことを効かないものなの)
絵里(……ううん、別に、機械の体じゃなくて私は動くのだろうけど)
真姫「絵里!今すぐにでもいいから止まって!」
絵里(地面を蹴って素早い跳躍で相手に近づいていく。それに反応した相手は懐からM1911――――いわば拳銃と聞いて誰もが想像するような外見と性能をした標準的な拳銃を出して私に向けて発砲した)
12: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:36:55.90 ID:Sjljkzyd0
絵里「ふっ!」
絵里(そして私は机を利用して回避する、ここの机は銃弾さえ弾くものだから机を遮蔽物として扱えば拳銃程度怖くもない)
絵里(世の中便利なモノが多いのよね、アンドロイドもそうだし今は科学の力でいくらでも魔法の応用ができる)
絵里(…ただ、ここみたいに拳銃が使いにくいフィールドなら拳銃は便利とは言えないの)
千歌「絵里さんっ!」
タッタッタッ!
「……っ!」
絵里(拳銃は弱点がありフィールドによって強弱が左右される、しかしさっきからずっと持っていたこのナイフはどこのフィールドでも同じ戦果を出し人間相手に私を裏切ることはない)
絵里(回避に専念し散々撃たせてリロードをさせたら後の祭り。机を飛び越え、床を強く蹴って相手との距離を一瞬にして詰めた)
絵里「今ここで死になさい」
絵里(そして姿勢を低くしナイフを片手に相手の喉元に――――)
「……ぁ」
絵里「…これに懲りたら見境も無く人をバカにすることはやめることね」
絵里(――突き付けて警告をした。いくら怒ってるとはいえ殺すなんてそこまで殺戮に飢えてるわけじゃない)
絵里(相手は拳銃を地面に落として戦意喪失しているのを見て私は静かに真姫と千歌のところへ戻った)
13: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:38:00.33 ID:Sjljkzyd0
絵里「ふう」
真姫「絵里…別にそこまでしなくてもよかったのに…」
千歌「そ、そうですよ」
絵里「いいの、今咎めておくべきだと思ったから」
千歌「んあははは…にしてもやっぱり絵里さんはすごいや、あんな動き出来ないよ」
真姫「ホント、見てて惚れ惚れするわ」
絵里「んーあはは、自分でもなんであんな動きが出来るのかよく分からないのよね」
千歌「銃弾を回避する術とか距離を詰める業とかホントにすごい!私もあんなかっこいい動きしたいなぁ…」
真姫「千歌じゃ無理ね」クスッ
千歌「あ、酷い!」
14: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:39:42.70 ID:Sjljkzyd0
絵里「……銃弾を回避する術か」
絵里(この世界では銃火器を持ってる人が普通にいる)
絵里(だからといって全員が持ってるわけではないの、護身用とかそんな軽い感覚で持てるものではなくてちゃんと訓練やらをして資格を持ってる人じゃないと持てないの)
絵里(まぁ警官とかいるじゃない?そういう類の人間なのよ、今みたいに銃を持ってる人間というのは)
絵里(…それと或いは……)
千歌「絵里さんは何かやってたんですか?武術とか」
絵里「んー特にそういうのは」
真姫「じゃあ生まれつきであんな動きが出来たってこと?」
絵里「そうねなのかしら……でも私は標準型のアンドロイドだから戦闘特化の機能は搭載されてないはずなのよね…」
真姫「まぁ確かに…」
絵里(アンドロイドというのは大きく分けて種類が三つある、一つは私や千歌みたいな標準型、つまりは人間として生まれたアンドロイド。これが造られた意図は少子化対策——並んで人口の増加だ、そしていざ戦争などの大きな戦いが起こった時に歩兵として使う貯金でもある)
絵里(二つ目は仕事などをする業務用アンドロイド、これに関して言えばこれはアンドロイドというよりかは単なるロボットでしかない。これは同じロボットの私からしてもそれ以上のない発展性の無いモノだ)
絵里(何故ならそのアンドロイドは人であるのは変わりないけど、頭の中にあることは全てその仕事に関することだから。自己学習機能は搭載されてはいるけど自立型ではない為に仕事だけをこなすちょっと可哀想なロボットね)
絵里(そして三つ目、それは――――)
15: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:40:58.91 ID:Sjljkzyd0
「面白いことしてるね」
千歌「あ、果南ちゃん!」
果南「ふふふっ相変わらず絵里の動きは凄まじいね」
絵里「果南…見てたの?」
果南「そりゃあ戦いの匂いでやってくるのが私だから♪」
絵里「…そうだったわね」
絵里(三つ目、それは戦うことに特化した戦闘型アンドロイドで、今私の目の前にいる果南がそれに該当する)
絵里(このアンドロイドは運動神経や頭の良さなどの能力値が高く、またほとんどの戦闘型アンドロイドが親を必要としない自立型である為に学習能力が非常に高い。そして私たち標準型と比べて耳が良い為物音に敏感で、銃声や剣撃の音などに反応してやってくる平和を守るヒーロー兼バーサーカーのようなアンドロイドね)
16: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:42:33.78 ID:Sjljkzyd0
真姫「それであんたは何しに来たの?」
果南「あんた呼ばわりは納得いかないけどまぁいっか、別に何かしに来たわけじゃないよ、銃声がしたからやってきたけどもう解決してたみたいだし」
絵里「ごめんなさいね、果南の大好きなバトルを奪っちゃって」
果南「あはは、全然いいよ」
千歌「今お昼食べてたんだけど果南ちゃんもどう?」
果南「うんっじゃあご一緒させてもらおうかな」
絵里(基本的に街にいるのは標準型のアンドロイドなんだけど、たまに混ざってるの、戦闘型アンドロイドがね)
絵里(戦闘型アンドロイドは元より戦闘をする為に生まれたアンドロイドだから、人生において必ず自己防衛について努める時期があるの、そこでほとんどの戦闘型アンドロイドは“自分だけの武器”を確立させるの)
絵里(だからこの都市で銃火器を持ってるのは警官の類だけではなく)
絵里(戦闘型アンドロイドも銃火器を持っているの)
17: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:44:01.92 ID:Sjljkzyd0
千歌「んー!ここの料理はやっぱりおいしい!」
絵里「あ、それ私のお肉!」
千歌「えへへ、なんかもう見てたら手が動いてて…」
果南「ご飯くらい自分で頼もうよ」アハハ
真姫「ホントね…」
千歌「えへへっ」
絵里(…と、まぁいざこざあっても何事もなかったかのように時は動き出す。銃声が響けば悲鳴の一つ二つはもちろんあるけど、見慣れてる人もいるくらいには危ない場所でもある)
絵里(私は気性が荒いもので怒り任せに戦いを仕掛けることはよくあるけど、私は他のアンドロイドと比べてかなり性能が良かったみたいで思ったように動けてる)
絵里(それ故か、私は本当に学校じゃ有名なの。それはいい意味でも悪い意味でも)
18: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:45:05.68 ID:Sjljkzyd0
果南「こうして絵里ファンクラブの一ページが刻まれたわけだね」
絵里「か、からかわないでっ」
千歌「そりゃああんな絵里さんみたいな美人があんなかっこいい動きしたらファンも出来ますって!」
真姫「まぁ…ね」
絵里「別にファンを作りたくてあんなことしてるわけじゃないんだけどね」アハハ
絵里(まぁ、こんなことしててファンが増える一方なのはある意味でいえば平和な証拠なのかもしれない)
絵里(しかし色んな意味で変わった世の中よね、何かある度に私はそう思うばかりだわ)
スタスタスタ
「絵里」
絵里「!」
絵里「善子…どうしたの?」
絵里(お昼休みが終わり教室へと戻る際、見知った顔から声をかけられた)
19: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:46:01.88 ID:Sjljkzyd0
善子「見た?あいつのこと」
絵里「……ええ、見たわ」
善子「…どう思った?」
絵里「もう知らないわ、あんなやつ」
善子「それ、本気で言ってる?」
絵里「触らぬ神に祟りなしって言うでしょ?無視が一番なのよ」
善子「…私はそうは思わない」
絵里「……知ってる」
絵里(こんなやりとりをさっきもやった気がする、アンドロイド同士の話はどうもいつも暗くて重い)
善子「私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの」
善子「戦いは戦った分の傷を生み、罪を作る。私はそれが嫌いなの」
絵里「………」
善子「でも、正直今は人々が戦う意味も理由も分かる気がする。戦って変わるものがあるのなら、傷も罪も増えようとも戦うことを厭わない私になれる気がする」
絵里「………」
絵里(この子が何を言ってるのか理解出来てない人がほとんどだろう、当然よ。だって理解出来るのはアンドロイドだけだもの)
絵里(人間にも個人的に嫌いだとかで出来る敵がいるけど、アンドロイドにも同じように敵がいるのよ)
20: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:48:13.00 ID:Sjljkzyd0
絵里「…じゃあ何?善子は」
絵里「小原鞠莉と殺し合いでもするの?」
善子「………」
絵里「勝ち目なんてないわよ、それを一番分かってるのは戦闘型アンドロイドである善子のはずだけど」
絵里(小原鞠莉――――それは私たちアンドロイドを造った生みの親、つまり私たちの母と言ってもいい人)
絵里(…まぁ母とはいっても私と鞠莉は“ある意味”同年齢、しかも通ってる学校まで同じの案外身近な存在だったりする)
絵里(しかしそれは返ってマイナスな事でしかなかった、何故ならそれは……)
善子「…ならどうしろっていうの!?」
善子「あんなやつ生かしておけるわけないじゃない!?」
善子「私たちを作ったくせに私たちが低く見られる原因を作ったのがあいつだなんて、それだけでも憎いのに今でも低く見られる原因を作り続けてるのは何!?なんで私たちを生んだの!?」
絵里「……所詮造られた命なのよ、むしろ今こうやって自由の場を設けてもらってるだけでも感謝すべきなのかもしれないわ」
善子「…堕天使って何なのよ、私の頭にインプットされてるこの堕天使っていう記憶は何なのよ……」
絵里「………」
絵里(鞠莉は私たちを道具として造った、それ故か鞠莉は私たちの事を道具と公言し続ける一方で、それなら私たちに心を与えなければよかったのにわざわざ心を与える鞠莉の残忍さは多くのアンドロイドを敵に回す原因となっている)
絵里(しかし鞠莉は弱冠12歳にしてアンドロイドを作り上げた天才、そんな鞠莉を殺すには警備が厚く鞠莉自身も戦闘経験が豊富という噂から反旗を翻すアンドロイドはほとんどいない)
絵里(だから私たちはずっといじめに似た何かを受けながら生活していくのかもしれない)
21: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:49:16.51 ID:Sjljkzyd0
絵里「仮に叛逆するにしても、今はまだ早いと思うの」
絵里「だからもうちょっと穏やかに行きましょう?」
善子「……怖いだけのくせに!」ダッ
絵里「あ、ちょっと!」
絵里(この事をあまり大事にはしたくない、だからなだらかに話を収めようしたけど善子は私に心に刺さる銃弾のようなものを放って走り去っていった)
絵里「…別に怖くなんかないもん」
絵里(怖くないっていったウソになるけど、私にだって覚悟や考えはある)
絵里(だけどそれが銃弾に変わるのはいつなのかしら)
22: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:50:44.11 ID:Sjljkzyd0
~家
絵里「…はぁ」
絵里(今日も悪い意味で濃い一日だった)
絵里(私の周りで何か起きては毎日何かについて考えさせられる、今日考えたのは小原鞠莉の事とアンドロイドの存在意義)
絵里「……むー」
絵里(でも、そんなことを考えて気分がよくなるはずもなくベッドの枕に顔を埋めて頭を真っ白にさせた)
絵里(今日の事を振り返ればこの世界のことが分からない人でも多少は理解してもらえるんじゃないかしら、人間とアンドロイドが歪な形を成して共存する世界で、物騒な世界。ただそれだけの世界)
絵里(こんなどうしようもない世界で私は生きていく)
絵里(ここで必要なのは物理的強さなんじゃなくて、相手を理解する気持ちと非情を受け止める気持ち。心を広く持っていかないと多分精神はすぐに壊れちゃうから)
23: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:51:58.63 ID:Sjljkzyd0
トントン
「お姉ちゃーん、ご飯だよー」
絵里「あ、はーい。今いくわね」
「はーい」
絵里(扉の外から聞こえる心地の良い声、その声の正体は紛れもない私の妹――――)
ガチャッ
絵里「あ、待って」
絵里「亜里沙」
亜里沙「ん?どうしたの?」
ギュッ
絵里「…やっぱり亜里沙は抱き心地最高ね、ハラショーよ」
絵里(亜里沙は私の妹として造られた識別番号A-0613の戦闘型アンドロイドで、この退廃的世界の癒しでもある)
亜里沙「お姉ちゃん…また何かあったの?」
絵里「ううん何もないわ、ちょっと亜里沙に抱き着きたくなっただけ」
絵里(ご飯を作ってくれたりお風呂を沸かしてくれたりですごく出来る自慢の妹なんだけど、中学三年生ということもあって純粋でまだまだ可愛いお年頃だから私が守っていかないといけない)
絵里(だから日々、理不尽なことが起こったとしても亜里沙がいるから生きていられるといっても過言じゃないの)
24: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:53:30.33 ID:Sjljkzyd0
亜里沙「そっか、まぁとりあえずご飯出来てるからいこう?」
絵里「ええ、そうね」
絵里(亜里沙は可愛いし、千歌は元気をくれるし、真姫はいい相談相手になってくれたりで充実してるところはたくさんあるけどやっぱり明日という日は憂鬱で仕方がない)
絵里(もし武力で世界を変えられるというのなら、今頃はどういう世界になってたのかしら)
絵里(人間とアンドロイドが気持ち的な意味で上下が無くなったとしても、立場上アンドロイドは人間の手中にあることを否めない)
絵里(死は救済ってよく言うけど、今の私にはそれがよく分からない。例えこんなゴミ溜めの世界だとしてもそこは分からないままで、もし答えが見つかるというのなら今すぐにでも私の胸を撃ち抜いてほしい)
絵里(見つかるのなら、だけどね…)
ザワザワザワザワ
絵里「…何?」
絵里(憂鬱であった次の日、それは登校してる最中の時で特に意識せずとも人だかりが目に留まって私も通行人と同じよう足を止めた)
絵里「ちょっとすいません、すいませんどいてください」
絵里(みんなが注目するものが気になるのは心を持つ者の性よね、人混みをくぐりぬけてその中心部に辿り着けばすぐに人混みの答えは現れた)
25: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:55:29.52 ID:Sjljkzyd0
「ふふふっ人間のクセに生意気だね♪あなた」
絵里「なにあれ…」
絵里(見えるのは私と同じ女子高校くらいの女の子がスーツを着た中年男性の顔を踏み潰してるところ、どういう経緯でああなったのかは分からないけど傍から見て普通ではなかった)
絵里(地面に血が浸蝕してるのを見て殴ったり蹴ったりしたんだなっていうのが容易に想像できる、しかし何故こういう事態になったかはよく分からない)
「ほらほらっ♪これが欲しかったんでしょ?」
絵里「っ!何をやってるの!やめなさい!」ダッ
絵里(顔を踏みつける足の力が強くなったのを確認してすぐ行動を起こした、若干人の影に隠れながら見てたけど“行かなきゃ”と思った瞬間には目の前の人なんか気にする暇もなく押しのけ今も顔を踏みつけている彼女の元へ向かった)
「ん?あ、はぁ…♪私に挑んでくる人がいるなんて…♪」
絵里(ただ、向かっただけじゃない。彼女の暴力的行為を止めるべく格闘術で止めようとした)
26: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 17:58:10.83 ID:Sjljkzyd0
タッタッタッ!
絵里「はぁっ!」
絵里(接近するスピードはおそらく最速、姿勢を低くして彼女のお腹に掌底を打ち込もうとした)
「ふっ」
絵里「っ!」
絵里(だけどどういうわけか彼女はお腹に掌底が打ち込まれるギリギリで反応をし、私の手首を掴んで見事に止めてみせた)
「強くてごめんねっ!」
絵里「まずっ…!」
絵里(掴まれた私は一方的な展開を迎えることを強いられた。強く手首を引っ張られ仕返しと言わんばかりに私のお腹に彼女の跳び膝蹴りがヒット)
絵里「がっ…!」
「ふふふっ今のは加減間違えちゃったかも~ごめんね?」
絵里「っあ……くそ…っ」
「汚い言葉使っちゃダメだよ?女の子なんだから♪」
絵里「別に使ったつもりはないわ…っ、とにかくその男の人を踏みつけるのをやめなさい」
絵里(膝蹴りをされた私は後方へと吹っ飛び地面に叩きつけられる、この時の痛さといったらアンドロイド特有のもので吹き飛ばされた後すぐに起き上がることは出来たけど、常人の蹴りが人を吹っ飛ばせるわけもなく……)
絵里「…戦闘型アンドロイド」
「あれ?今更気付いたの?てっきり気付いて挑んできてくれたと思ったんだけど」
絵里「……ごめんなさいね、敵も把握できないようなバカで」
「あははっそんなこと言ってないよぉ」
27: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:02:11.16 ID:Sjljkzyd0
「…それでどうする?まだやる?お腹痛かったら帰ってもいいよ?」
絵里「…いいや、やりましょうか」
絵里「負けたままじゃ終われないからね」
「…あはっ面白いこと言うんだね、あなた」
絵里「何か変なことでもいったかしら?」
「私に勝つなんて無理だよぉ、第一あなたは標準型だよ?標準型が戦闘型に勝つのは別にありえないことじゃないけど、標準型が私相手に勝つのは無理かなぁ」
絵里「…やってみなきゃわからないでしょ」
「うんうんっでもやっても結果は変わらないと思うけどね」
絵里「…どうかしらねっ!」ダッ
絵里(相手である彼女に向かって突っ走った、そうして蹴りが届く位置にまでいけばすかさず回し蹴りを頭狙いで炸裂させた)
「甘いかな」
絵里(そして彼女はそれを片腕でガード、威力はそこそこあったはずなんだけどそれを軽々しくガードしてるのを見るに余裕なんだなと思う)
絵里「ふっ、せやあッ!」
絵里(しかし受け止めるのは予想済み、受け止められたのを確認して私はすぐにもう片方の足を使って後ろ回し蹴りをした)
「うっ、くっ…!」
絵里(これに対して彼女は腕をクロスさせてガードしたけど、流石に私の蹴りもやわなものじゃないから余裕で受け止めるのは無理なようで、その証拠に顔は少し力んでた)
絵里(また、そんな私の攻撃を受けて流石に遊んでられないと感じたのか彼女は凄まじくキレのよい中国拳法のような肘打ちから体を逆さに横回転させてもう一回肘打ち、そして空中で回し蹴りと格闘ゲームのコンボのような連続攻撃をしてきて、それに対して私は受け流すことを選んだけど、素早い行動故にことりの連続攻撃から離れるのは無理だった)
「これでっ!」
絵里「っ!?」
絵里(そして今までのまだ序の口、彼女の着てるカーディガンの裏から出てきたのは不思議な形をした拳銃で、何はともあれあんなのを直で食らえば死んだも同然だった)
「しんじゃえっ!」
絵里「まだっ…!」
絵里(向けられた銃口の方向から外れる為回避をしようとしたけど、私の瞳があの銃口から放たれる弾を避けられる確率を3%と示していた)
絵里「なんで…!?」
絵里(拳銃を手に持って構えるまでの時間はおよそ二秒、その間で私は射線から外れたというのに何故私の瞳は死を悟ってるのだろう)
28: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:04:43.56 ID:Sjljkzyd0
「ふっ…照準型には今見えてる光景の意味が分からないだろうねっ!」
果南「諦めるにはまだ早いんじゃないかな?」
「!」
絵里「!」
絵里(次の瞬間に聞こえてきたのは果南の声――――ではなくて銃声が先だった)
絵里(銃声がした瞬間、私の目の前では火花を散らせて相手の持っていた拳銃が吹っ飛んだ)
絵里(銃弾の飛んできた方向を見れば拳銃を片手で構える果南の姿があって、そこで初めて果南が相手の持つ拳銃を狙撃したことを理解した)
果南「戦いの音がするから来てみれば絵里がいるなんて」
果南「それに……」
果南「あの南ことりまでいるなんてね」
絵里「南ことり…?」
ことり「へー私の事知ってるんだね」
果南「そりゃあ戦闘型アンドロイドなら知らない方が珍しいくらいだからね」
ことり「ふーん…あなたも戦闘型アンドロイドなんだ」
果南「随分と殺意の高いモノを持ってるんだね、その拳銃」
ことり「私のお気に入り♪」
果南「趣味悪いね…」
29: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:08:44.77 ID:Sjljkzyd0
絵里「果南、こいつは…」
果南「南ことり、識別番号はA-82のかなり初期に造られた戦闘型アンドロイドだね」
絵里「初期型…!」
ことり「多分設定上あなたたちより年下だけど、戦闘経験はあなたたちの倍はあるかなぁ」
果南「そうだね、ことりの持ってるその銃はタウルス・ジャッジっていう拳銃で、トリガーを引くと散弾が出るんだ。だから絵里は回避がほぼ不可能だった」
絵里「そういうこと…」
果南「後、さっき見た感じあなた中国拳法知ってるでしょ?それに指の形までそれぞれちゃんと決まっててほぼ完璧と言ってもいい身のこなし」
ことり「あはっよく見てるんだね」
果南「私、眼がいいって言われてるから」
ことり「そっかぁ、それであなたたちは私を――――んん、ことりをどうしたいの?」
絵里「…なんで一人称は変えたの?」
ことり「えへっだってそれはぁ…」
ことり「モードの切り替えの為だからだよっ!!」ドドドド
絵里「なっ…!」
果南「させるかっ!」
絵里(ことりが喋りだした瞬間、背中にかけてあったアサルトライフルで私たちに発砲してきた。アンドロイドだから可能であった反射神経で初弾と二発目を回避したところで果南がことりへ向かって発砲した)
ことり「はっ」
絵里(ことりはそれに対して地面を蹴り、右側へ跳躍して回避を行いながら再び発砲をして攻撃に転じた)
果南「遮蔽物を上手く使って!」
絵里「分かってる!」
絵里(その一瞬で私たちは木やらイスやらを使ってなんとか回避する、もう野次を飛ばしていた通行人も周りにはいない。私たち三人だけのフィールドになった)
30: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:11:22.18 ID:Sjljkzyd0
ことり「ちっ…こんな時に…!」
果南「絵里!今のうちに逃げよう!」
絵里「言われなくても!」
ことり「させない!」ブンッ!
絵里(弾の切れ目が命の切れ目とはよく言ったもの、ことりがリロードをするタイミングで私たちはことりから見た死角へと走り出したけど、そんな逃げる私たちを逃さないとことりはナイフを投げつけてきた)
果南「はっ!」
カンッ!
絵里「や、やるわね…」
果南「ふふふ、私拳銃は使えないけどこの拳銃だけは扱えるんだよね」
絵里(そんな投げナイフに向かって果南は発砲し、見事にヒット。ナイフは別方向へ吹っ飛んでいった)
ことり「なにあの子…!」
絵里「とりあえず一安心ね…」
果南「そんなわけないじゃん、ことりは執念深いって聞くから追ってくるよ」
絵里「えっじゃあ逃げないと」
果南「はい、これ」
絵里「えっ…なにこれ」
果南「デザートイーグルだよ、私が唯一使える拳銃」
絵里「これを私に渡して何のつもり?」
ことり「そこに隠れてるのは分かってるよー」
果南「逃げるのは絵里だけだよ、私はことりと戦う」
果南「もしことりや他の誰かに襲われたらその拳銃を使ってよ、でも反動が大きいから連射すると肩外れるよ」
31: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:14:50.75 ID:Sjljkzyd0
絵里「いや、果南が残るなら私も残るわ。あいつに恨みはないけど私だけ逃げるなんてそんなのやだわ」
果南「ダメ」
絵里「いや私もダ」
果南「絵里は逃げてッ!!」
絵里「!?」
果南「ことりは強い、私の眼がそう言ってる」
絵里「舐めないで、私だって戦闘に自信はあるわ」
果南「生半可な戦闘経験は死を生むだけだよ、とにかく逃げて」
絵里「イヤよ、このまま逃げてカッコ悪いままなんかより果敢に挑んでカッコよく死んだ方が私はマシ」
絵里(何回も逃げろと警告はされたけど私だけ逃げるなんてそんなのは私のプライドが許さない、元はといえば自分から売った喧嘩を人になんか任せたくない)
果南「そっか」
絵里「…?ええ」
絵里(しかし果南は突然何かを悟ったような態度をし始めて淡々と鞄に入ってた銃を取り出した)
果南「ふんっ!」
絵里「かっ…ぁ…!?」
絵里(そして次の瞬間、果南は長めの銃――おそらくアサルトライフルであろう銃を使って私のお腹を殴ってきた)
絵里「な…んで…!?」
果南「ことりと戦ったらどうせ傷は出来る、なら今私が代わりに傷を与えとくからここで寝ときなよ」
果南「絵里は今戦うべきじゃない」
絵里「ふざ…っけ…かはっ…な……い…でっ」
果南「じゃあね」
スタスタスタ
絵里「ま…て」
絵里(突然の裏切りと言ってもいいほどに唐突で、果南の銃を使った打撃は激痛を通り越して死に至る痛みでもあった。銃という名の鈍器を使ったからね、横になっても目を瞑っても痛みは消えなかった)
絵里「…ぁ…なん」
絵里(諦めきれない思いと、果南への怒りが痛みを超えて私の意識を覚醒させてくる)
絵里(だけどすぐに視界は真っ暗になった。次の瞬間には意識も無かったかしら、流石戦闘型アンドロイドはパワーが強すぎた)
絵里(私はことりと戦う前に、果南に敗北した)
32: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:16:53.01 ID:Sjljkzyd0
「ねえ、起きてる?」
絵里「ん……」
絵里(私が倒れてどのくらいが経ったのかしら、今私がどこにいるのかも、どういう体勢を取ってるのかも、目を開けてるのか開けてないのかすら分からないけど声が聞こえた)
絵里「誰?」
絵里(生きてる心地さえしてないけど、声は出せた。今私の中の世界にあるのは声という音だけだった)
「気付いたら私もここにいたの」
絵里「…?どういうこと?」
「アンドロイドの異常なのかしら」
「私はあなたの心の中で生まれたもう一人のあなた…と言えばいいかしら?」
絵里「…は?」
「私もよく分からないのよ、でも私はあなた、あなたは私…それだけは分かるの」
絵里「………」
絵里(何なのかしらこれは、言ってることはとにかく意味不明、だけど聞こえてくる声は紛れもない私の声だった)
33: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:18:41.47 ID:Sjljkzyd0
「今あなたは意識を失ってる状態にある、だからあなたは私と会話が出来るの」
絵里「ちょっと待って、なんで私の状態が分かるの?」
「それは私があなただからよ、システムの異常であなたのデータにいる私と考えて」
絵里「えぇ…」
えりち「…後、あなたも私もいっちゃえば絵里だし私はえりちってことでどう?」
絵里「え、えりち?」
えりち「ええ、可愛い名前でしょ?これで私とあなたの差別化が出来るじゃない」フフフッ
絵里「そ、そうね…」
絵里(もし仮にこの相手が私だとしたら、“えりち”ってネーミングセンスには絶望しそうになる。私ってこんな人なのかしら…)
絵里「それでそんな私が何の用?」
えりち「別に用はないわよ、というかさっき私という自分がいることに気付いたんだから用もへちまもないわよ」
絵里「…そうね」
えりち「とりあえずあなたの中に私がいるってこと、覚えておいてね。またあなたが意識を失った時は多分逢うと思う」
絵里「……気持ち悪い」
えりち「やめてよ、相手は私なのよ?」
絵里「相手が私だからこそよ…」
絵里(絵里、という私はこういう人物なのかと少し考えさせられた。しかし相手が私でも私ではない――何を言ってるのか分からないと思うけど言ってることは間違ってないはず)
絵里(まぁ、何はともあれこの相手の事が理解出来たとしても“えりち”っていうネーミングセンスだけは納得いかない)
34: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:20:20.46 ID:Sjljkzyd0
絵里「…!なんか視界が段々明るくなってる…?」
えりち「意識が戻ってるのよ、絵里の状態も異常から正常に戻ってる。だからここで私とは一時のお別れね、次いつ逢うのかは分からないけど」
絵里「そう…よく分からないけどありがとう」
えりち「いいわよ、また逢った時はたくさんお話しましょう」
絵里「…余裕があったらね」
えりち「了解よ♪」
絵里「………」
絵里(機嫌が良さそうな私の声を聞くのは何とも複雑な気持ち、目の前が真っ白になった自覚を持つとようやく体の感覚が戻ってきた)
絵里「…ん、く…」
千歌「絵里さんっ!」ギューッ
絵里「わっ」
絵里(目がやっと半分開いた頃、突然として包容は私を弄ぶ)
絵里(目が覚めたらここはどこ?周りを見渡す限りそれは見慣れた保健室だった)
真姫「よかった…絵里が運ばれたなんて聞いてビックリしたわよ」
絵里「あぁ…いや…」
絵里(果南にやられた、と言おうとしたけどよくよく考えれば果南のことをいって面倒な事になっても困るし喉にまで上がった言葉をギリギリで止めた)
35: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:22:12.69 ID:Sjljkzyd0
絵里「私はなんでここに?」
真姫「対アンドロイド特殊部隊の一人が近くにいたみたいで、その人が絵里をここまで運んできたのよ」
絵里「対アンドロイド特殊部隊?そんなのがあるの?」
真姫「ええ、あるらしいわ」
絵里「へえ…」
絵里「その人は今どこに?」
真姫「もう帰っちゃったわ、仕事があるとかで」
絵里「そ、そう」
絵里(そんな部隊があるのね、と不思議に思ったけどそりゃあアンドロイドに対抗する手段はいくつも必要よね、しかしどういう人がいるのかしら、対アンドロイド特殊部隊って)
絵里「…!果南は!?」
真姫「…病院に送られたわ」
絵里「どうして!?」
千歌「…撃たれた」
絵里「ど、どこを?」
真姫「肩を撃たれたらしいわ、死には至らなかったけどそれでもダメージは大きいと思う」
絵里「肩か…」
絵里(果南が負けるなんて私にとっては信じられなかった)
絵里(果南は私の周りにいる人物の中なら間違いなく最強だった、しかしそんな最強は私が思ってる以上に案外脆い最強だったのかもしれない)
36: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:25:40.45 ID:Sjljkzyd0
真姫「…でも、果南はいい方よ」
絵里「どういうこと?」
真姫「問題は果南と戦ってた相手よ、相手は左肩、左足、右の横っ腹…」
真姫「そして胸を撃ち抜かれた」
絵里「…!それって…!」
真姫「…ええ、果南が撃ち抜いたんでしょうね」
真姫「胸を貫いても相手はアンドロイドらしいから死にはしないけど、損傷はかなりのものよ」
絵里「胸は私たちアンドロイドの心を保管する大切な場所だもの…それが欠けつつあるということは…」
真姫「果南の相手をしたアンドロイド…感情に乏しい部分が出てくるかもしれないわね」
絵里「………」
絵里(戦いで失うモノはたくさんある)
絵里(一番多く減るのは命――でも、大体それは人間が絡むことが多い)
絵里(人間同士が戦えば失われるものは命だけど、アンドロイド同士が戦えば話はまた変わってくる)
絵里(アンドロイドも人間と同じで、命はたった一つしかないの)
絵里(だけど、アンドロイドの命は人間の命より繊細なのよ)
絵里(人間みたいに命と心が同義ではないので胸を撃たれても死なない、心臓は存在してないから)
37: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:27:34.91 ID:Sjljkzyd0
絵里(…いや、心臓はある。だけどそれは心臓とは言わないの、記憶保存領域である頭を撃ち抜けば私たちは死ぬ)
絵里(ただ待って、私たちはその死でさえ人間とは意味が違う)
絵里(死ぬのは私たちの記憶と意識、体は直せばまた動くでしょう。でも再度動いたところで私たちはそこにはいない、もう別の誰かが私たちの体に住み着いてるだろうから)
絵里(だから今回みたいに感情を保存する心が欠ければそれは修復不可能になる、今回の戦いで南ことりは確実に何かを失った)
絵里(それは何なのか、いずれにせよ人間なんかより失うモノはアンドロイドの方が断然多いの)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、酸いも甘いも最後は惨劇でしかない)
絵里(何故なら戦って手に入れたものがあったとしても、失ったものの数に勝ることはないからよ)
38: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:29:47.21 ID:Sjljkzyd0
千歌「…近々果南ちゃんのお見舞いにいこっか」
絵里「……行っても平気なの?」
真姫「大丈夫よ、私の病院だし」
絵里「そう…なら近々行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(保健室の空気は重かった、理由のない戦いに意味などない――今回の戦いで得たものがないというに果南は何の為に戦ったのだろう。あの状況なら逃げてもよかったのに、私にはよく分からない)
スタスタスタ
絵里「……はぁ」
絵里(私の傷は果南やことりと比べれば浅すぎるものだった、故に私は目が覚めてからは普通に授業を受けることにした。真姫や千歌には何度もやめろって言われたけど、別に問題ないしやるって言って押し通した)
「南ことりと戦ったそうね」
絵里「!」
絵里(そうして廊下は歩く最中、後ろから忌々しい声が聞こえた)
絵里「……ええ、そうよ」
「ことりは手強かったでしょうに、戦闘型アンドロイドの中でも特にActiveなやつだからね、ことりって」
絵里「…そんなことはどうでもいいわ、それよりあなたが何の用?」
絵里「小原鞠莉」
鞠莉「ふふふっことりとbattleしたのに随分と余裕そうね、傷が一つもない」
絵里「私は果南に気絶させられた、それだけの話よ」
鞠莉「そう」
39: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:33:01.29 ID:Sjljkzyd0
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(こんなやつとなんか話しても時間の無駄、声を聞くだけでも頭がおかしくなりそうだわ)
鞠莉「wait!もちろん用無しで来たわけじゃないわ」
絵里「…何?」
鞠莉「はい、これ」
絵里「…何、これ?」
絵里(突然近づいて懐から出したのは一つの拳銃、それを私に渡してきた)
鞠莉「PR-15って言うの、私なりにCustomizeしといたから是非使って」
絵里「…何のつもり?」
絵里(こんなやつから貰い物があるなんてそこだけでも疑う理由はあったけど、鞠莉の警戒の無さが一番ひっかかった)
絵里(鞠莉の心拍数は通常と全然変わってないし無理矢理渡されてから拳銃をまじまじと見れば弾が既に入ってる。それなのに鞠莉はニコニコとしてる)
鞠莉「あなたにも武器は必要でしょ?今回みたいにことりと戦うなんてことになった時、銃が無ければ負けはほぼ確実よ、それを一番分かってるのは今日ことりと戦ったあなたでしょう?」
絵里「………」
鞠莉「とりあえずそれは貰って。別に捨ててもいいわよ、あなたの為に作った物を今更返されてもどの道ゴミ箱行きだから」
鞠莉「それじゃあね」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(返す言葉が無かった、それは鞠莉の言うことが正論でもあって、今の鞠莉相手に何を言っていいのかがよく分からない)
40: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:34:14.40 ID:Sjljkzyd0
絵里「PR-15…」
絵里(鞠莉なりにカスタマイズした、と言っていたが確かにみんなの持ってる拳銃とちょっと違うところがある。具体的どこが違うのかと言われれば言葉は詰まるけど、一つ私でも言えることがあるなら拳銃のくせにサイトがあることかしら)
絵里(みんなサイト無しの拳銃を使ってるせいかすごくカッコよく見えたのがとても悔しい)
絵里「……仕方ないわね」
絵里(捨てるにしてもとりあえず今は持っておくことにする、なんであんなやつが私に武器を渡したんだろう)
絵里(しかもご丁寧にカスタマイズまでして何が目的なのかしら…)
41: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:36:52.51 ID:Sjljkzyd0
~放課後、図書室
真姫「ふーん…あの鞠莉がねぇ」
絵里「どう思う?」
真姫「どう考えても怪しいでしょ、第一なんで今になってそのハンドガンを渡すのよ」
絵里「それが分からないから聞いてるじゃない…」
真姫「私にだって分からないわよ、そんなの」
絵里(時刻は放課後、鞠莉のあの行動にもどかしさを感じる私はあまり人のいない図書室で真姫と話をしてた)
真姫「というかハンドガンってどんなものを貰ったの?」
絵里「これよ、PR-15って言うらしいわ」
真姫「へぇ…いい趣味してるのね、鞠莉って」
絵里「冗談でもあいつを褒めないでよ…」
真姫「ご、ごめんなさい。でも私もこういうスタイリッシュな銃が好きなの」
真姫「茶色を含まないシックな感じがたまらないわ」
絵里「ふーん…」
42: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:39:28.99 ID:Sjljkzyd0
真姫「でも、性能は良さそうね。生意気にサイトまでつけちゃって」
「ずら~!?」
絵里「っ!?」ピクッ
真姫「!」
絵里(真姫に鞠莉から貰った拳銃を見てもらってたら突然真姫の手元から拳銃が消えた)
「この銃すごいずらー!」
絵里「ちょ、ちょっとそれ奪わないで」
「あ、ごめんなさい…ついこの拳銃が目に留まって…」
絵里「別に良いけど…」
真姫「あなたは…花丸さん?」
花丸「あ、はい!図書委員なのでいつも放課後はここにいるんです」
絵里「なるほど、図書委員なのね」
絵里(突然奪われたのはビックリしたけどあまり悪い子には見えなさそうだからとりあえず許すことにした、縦長のテーブルで真姫の隣にすとんっと座ってPR-15に目をキラキラさせてた)
43: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:42:05.12 ID:Sjljkzyd0
絵里「ねえ花丸さん」
花丸「はい、なんでしょう?」
絵里「この銃、すごいとか言ってたけど具体的に何がすごいの?」
花丸「それはもうモデルずら!!」
真姫「も、モデル?」
花丸「PR-15――――それはもう弱点無しの高基準なハンドガンずら!反動がそこまで大きくないから連射も出来て装弾数は10発のところをこのPR-15はマガジンを拡張させて15発まで込められて、尚且つドットサイトをつけて狙いやすくした最高に使いやすいハンドガン!」
絵里「へぇ…そんなにすごいの…」
花丸「それにこのロゴはどう見てもオハラモデル…ずら!」
真姫「オハラモデル?」
花丸「あの小原社が作った銃はこのようなロゴがつくずら、これがつくだけでどんな銃も桁が一つ変わると言われるくらいに質感とか、後出来がいいんです!」
花丸「……あ、ごめんなさい。これお返しします」
真姫「ど、どうも」
絵里「なるほど、そんな代物なのね、これ」
真姫「みたいね」
真姫「…どうするの?それ」
絵里「使いやすいらしいし貰っておくわ、確かに相手だけ銃を持ってるのに私だけ銃がないのは分が悪いもの」
真姫「…そう」
44: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:45:47.08 ID:Sjljkzyd0
花丸「お二人はこういうのをいっぱい持ってるんですか?」
絵里「いえ、私はないわ」
真姫「私も特に。銃はいっぱい持ってるけどオハラモデルとかこだわりはないわ」
花丸「あ、そうなんですか」
絵里「あなた、銃は詳しいの?」
花丸「はいっ!だけど怖くて撃てないずら…」アハハ
絵里「そうなの…それは残念ね」
花丸「はい、ただそれでも銃は大好きなので銃の知識は誰にも負けないつもりずら!」
真姫「へぇ…」
絵里(不本意だったけどこの鞠莉のくれた拳銃の事が知れてよかった、バランスの良い拳銃ならいい武器になってくれそうね)
絵里「今日はありがとう、また来るわね」
花丸「はいっ是非またずら」
絵里「ええ」
絵里(図書委員の子とはよく分からないけど仲良くなれたわ、銃のことなら相当な知識を持ってるみたいだから銃で困ったら図書室へいけばいいのかも)
45: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:48:14.14 ID:Sjljkzyd0
スタスタスタ
真姫「マガジンは私に任せて、絵里のそのハンドガン用のマガジンを発注してあげるわ」
絵里「いいの?」
真姫「いいわよ、どうせお金なんて有り余ってるし」
絵里「なんか悪いわね…」
真姫「いいわよ別に、その代わり今度なんか奢りなさいよ?絵里イチオシの店でね」
絵里「ふふふっ分かったわ」
絵里(私の周りには優秀な人たちが集まってる、気性が荒くて不器用な私にとってこの奇跡のような集まりは本当に嬉しくて、一人舞い上がってしまいそうだった)
絵里「あ、帰り果南のお見舞い行ってもいい?」
真姫「いいわよ」
絵里「じゃあ千歌を連れていきましょうか」
真姫「いや、多分もう千歌は行ってるわよ。お見舞いに」
絵里「え、そうなの?」
真姫「ええ、図書室に行くとき突っ走ってるのを見たわ」
絵里「そうなの、じゃあ私たちも行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(銃の話が落ち着けば次は果南のお見舞いに行くことが決まった、あの南ことりと戦ったのよ、傷は相当なはず――――)
果南「あ、絵里と真姫、お見舞いにきてくれたの?嬉しいな~♪」
絵里(――だと思ってたんだけど…)
46: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:50:26.94 ID:Sjljkzyd0
千歌「あ、絵里さんと真姫ちゃん!」
真姫「こんばんは、果南具合はどう?」
果南「うん、ばっちしだよ、特に痛むところもないしいつもと変わりないかな!」
絵里「えぇ…肩を撃たれたのでしょう?」
果南「撃たれたっていってもかすり傷みたいなものだよ、肩はちゃんと動くし痛くないし大丈夫!」
絵里「すごいわね…」
絵里(肩を撃たれたと聞いていたけど全然元気そうで安心した、ことりは相当な傷を負ったみたいだけど果南はこれほどに元気だと流石と思えてくる)
果南「へーあの鞠莉がハンドガンをかー」
絵里「そうなのよ」
千歌「かっこいいー!」
真姫「かっこいいわよね、私も好きだわ」
絵里(今日の朝はあんな大惨事だったというのに、今はこうやって会話に花を咲かせてるのが当たり前すぎて不思議に思わなかった、今は…ね)
絵里(ここにいるみんなはアットホームな関係でありたい人たちだから、常に笑いがあって退屈しないものだった)
絵里(だからこそ今みたいな状況から一転する時は、空気の違いがよく分かった)
ガララ
絵里「!」
千歌「!」
「こんばんは、ここが松浦果南さんのお部屋ですか?」
「ふーん、あんたが松浦果南ね」
絵里「あなたは…」
海未「こんばんは、私は対アンドロイド特殊部隊の指揮を務めています、園田海未と申します」
にこ「同じく矢澤にこよ」
47: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:52:43.07 ID:Sjljkzyd0
果南「…対アンドロイド特殊部隊のお二人が私に何の用?」
海未「今日の朝の件で南ことりと一戦交えたそうですね」
果南「そうだよ」
海未「南ことりは私たち特殊部隊で危険度Aの上から二番目に危険なランクに該当するアンドロイドです」
海未「しかしそんなことりに四発の弾丸を撃ち込んで尚目立った損傷をきたさない松浦果南というアンドロイドは、あなたから見れば誠に不本意ながら相対的に危険度Sに該当されることとなりました」
真姫「危険度S…!?」
果南「…それで?」
にこ「危険度Aは私たちの監視下に置かれることになってること、知ってる?」
果南「…知らない」
にこ「そう、なら危険度Sってどうなると思う?」
果南「………」
海未「答えは見つかったようですね」
絵里「ちょ、ちょっと待って!果南は悪くないわ!」
千歌「そうだよ!悪くないよ!」
絵里(オシャレな服を着た二人組が突然来て何を言いだすかと思ったら果南が危険度Sに該当されたなんてそんなの横暴すぎるわ、しかも次第に二人が黒い手袋をつけてるのを見て私は察した)
絵里(危険度Sがどうなるかを)
48: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:56:21.78 ID:Sjljkzyd0
海未「ごめんなさい果南さん、これは鞠莉からの命令なのです」
果南「鞠莉…」
絵里「鞠莉…ッ!」
絵里(今日は拳銃をくれたし、少しは感謝したけどやっぱりあいつはあいつのままだった)
絵里(自分から作り出したくせに、今度は自分から破滅を及ぼすなんて命の冒涜――いや、アンドロイドへの侮辱そのものよ)
海未「では……」
果南「…何?」
海未「さよならですねっ!」バァンッ!
果南「っ!?」
真姫「はやっ…!?」
絵里(まさに早業、そして不意の一手だった)
絵里(懐から拳銃を出した瞬間左へ跳躍、だから私たちアンドロイドは銃弾に反応して回避を行うのだけど、今ここにいたアンドロイドは全員同じように体が動かなかったでしょう)
絵里(それは何故か?答えは簡単で、私たちアンドロイドが反応したのは銃弾ではなく先に高速移動をした海未本人の方だった。だから銃弾への反応は遅れて回避が間に合わない)
絵里(いわばそれは詰みの状態だった)
49: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 18:59:00.67 ID:Sjljkzyd0
ダッ
千歌「果南ちゃん! っあ……」
絵里「千歌!?」
絵里(そうして次の瞬間には何が起こったんだろう、海未が撃った銃弾は果南の頭を貫くことはなかった)
果南「っ…千歌…?」
絵里(海未の撃った銃弾から一番近くて、一番銃弾への反応が早かったのはおそらく千歌だった。だから千歌は咄嗟の判断で海未の射線上にわざと飛び出した)
真姫「なっ…あっ……え…?」
絵里(…結果、千歌は頭を射貫かれた。それは紛れもない――――)
絵里(――死、そのものだった)
千歌「……ぁ」
バタッ
果南「千歌!?ねえ千歌!」
海未「ちっ今度こそ!」
絵里「させないっ!」バンッ!
絵里(今こそ収束/終息の時――――次第に湧き出る怒りはアドレナリンを発生させ続けた)
絵里(だから私は)
絵里(始まりのトリガーを引いた)
50: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 19:00:37.05 ID:Sjljkzyd0
海未「くっ…」スッ
真姫「…!何やってるの早く逃げて!」
果南「分かってる!くっ…いたたっ…」
絵里「…!」
絵里(果南は肩を押さえてる、なんとなくわかってた。やっぱり強がってたんだ、やはりあのことり相手にかすり傷じゃ済まされないのよ)
絵里「っ!いくわよっ!」ダッ
果南「うわっ!」
パリーン!
絵里(それを見て私は迷う事なく果南を連れて逃げる事を選んだ)
絵里(腕を引っ張って力強く跳躍、外へと続く窓ガラスを突き破って二階から飛び降りた)
絵里「逃げるわよ!」
果南「絵里…!なんでっ…!」
絵里「……いいのよ」
絵里(その行為は紛れもない対アンドロイド特殊部隊――そして鞠莉への宣戦布告だった)
絵里(私は今日からレジスタンスになる、今日から世界の人々は敵になったのよ)
53: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:04:35.17 ID:Sjljkzyd0
にこ「まてっ!」
絵里「そこで止まってなさいっ!」バンッ!
にこ「ちっ…厄介ね、あれ」
絵里(追随を許さないよう窓から顔を出すにこへと数発発砲した、あぁ…マガジンに15発の弾があって尚且つ連射出来て良かった。この使いやすさのおかげで牽制はほぼ完璧、だから私は果南を連れて走り出した)
パリーン!
海未「どこを見てるんですか?」
絵里「何っ…!?」
絵里(その動きはまさに奇想天外で、果南のいた病室の隣の病室の窓から飛び出してきた海未。これには想定外すぎて足が止まってしまった)
パリーン!
善子「そっちがね!」バンッ!
海未「!」
海未「っあ…ッ」
絵里「善子!?」
絵里(そしてこれまた想定外で、海未の出てきた下の病室の窓から善子が飛び出し両手に持ってた拳銃で海未の右足を射貫いた)
54: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:06:28.28 ID:Sjljkzyd0
海未「あぁ…くぅ……!」
善子「地面にキスでもしてなさい、この堕天使ヨハネの前では……ってまたやっちゃったぁ!」
果南「何やってるの善子!」
善子「!逃げるわよ!」
絵里「え、でも」
善子「いいからいくの!ほら!」ダッ
絵里「え、ええ!」
絵里(足を撃たれた海未は空中で体勢を崩しそのまま地面へと叩きつけられた。だから今のうちに逃げ出した)
タッタッタッ!
絵里「なんで善子がここに!?」
善子「…ルビィのお見舞いよ」
絵里「…!ごめんなさい」
善子「いいわよ、それよりも今はあの二人から逃げる事が先よ」
55: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:08:08.94 ID:Sjljkzyd0
果南「どこへ逃げるつもり?」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「…!電話よ」
果南「私が出るの?」
絵里「私は果南をおんぶするのに必死だから」
果南「分かったよ…」
ピッ
果南「もしもし?」
真姫『もしもし』
果南「あれ、真姫じゃん、そっち大丈夫?」
真姫『それはこっちのセリフよ!そっちは大丈夫?』
果南「うん、大丈夫だよ」
真姫『そ、そう…これからどうするつもり?』
果南「分からないからとりあえず行き先も考えずに逃げてるところだよ」
真姫『なら私の別荘を使って、森の奥だからしばらくの間は身を隠せるはずだわ』
果南「え、ホント?でも場所が分からないよ」
56: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:12:02.30 ID:Sjljkzyd0
真姫『私の家にいて、玄関からは鍵がかかって入れないけど、二階の私の部屋に通じる窓は鍵がかかってないから入れるはずだわ』
果南「えっ…それ防犯的に大丈夫なの?」
真姫『私の家庭は多大な権力を有しているのよ、そんなところで盗みを働かせる間抜けはいないし、アンドロイドは金銀財宝に興味がないと聞いてるから、それを信じての行為よ』
果南「あはは…なにそれ」
真姫『とりあえず私の家にいて、私も時機にいくわ』
果南「うん、分かった」
果南「…あ、後そんなべらべら喋ってもいいの?近くに対アンドロイドの人いるんでしょ?」
真姫『………』
にこ『海未!しっかりして!』
海未『やられました…まさか三人目が…ぐっ…!』
にこ『あいつら…!』
真姫『…あの様子じゃ絵里たちを追う余裕は今のとこないと思うわ』
果南「??? よく分からないけど大丈夫なんだよね?」
真姫『ええ』
果南「そっか、分かったよ。じゃあ真姫の家で落ち合おうか」
真姫『ええ、よろしくね』
ブツッ
57: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:12:49.94 ID:Sjljkzyd0
果南「真姫の家に向かおう、真姫が別荘を貸してくれるって」
善子「別荘…!?真姫ってどんだけお金持ちなの…?」
絵里「一生遊んでいけるくらいのお金は持ってるでしょ、伊達に大きな病院の娘なだけあってお金の使い方はサバサバしてるし」
果南「…でも、お金に興味ないのが私たちアンドロイドなんだよね」アハハ
善子「……分かるのが悔しいわ」
絵里「ほんとにね」
絵里(なんだかんだ善子とは付き合いが長いし、果南は親友って言えるくらいに仲が良いからこんな状況でも話すことは案外軽かった)
絵里(しかしやってることは人生最大の過ちと言ってもいいだろう、私も果南も、そして善子も真姫も…もう立派なレジスタンスになってしまったのだから)
絵里(だから…これからどうやって生きていくか、考えるだけでも頭は痛かった)
58: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:14:25.67 ID:Sjljkzyd0
~真姫家
果南「ふう…いたたた……」
絵里「…強がる必要なんてなかったのに」
果南「絵里はともかく千歌がいたんだもん、千歌にはかっこいいところを見せたかったんだよ」
絵里「……もういないけどね」
果南「………」
善子「…え?何どういうこと?」
絵里「…千歌は死んだ、海未に殺された」
善子「っ!?はぁ!?」
絵里「果南を庇って死んだの、頭を撃ち抜かれたからおそらく即死だったわ…」
善子「そんなっ…あの千歌が…!」
絵里(私に“始まり”をくれた千歌は終わりを迎えた。失ったものの代償は大きかった、心とか体とかそんなちんけなものじゃなくて千歌はあらゆるものを総じて命を失った)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、死なんて些細なことに過ぎない)
絵里(でもそれはあまりにも突然で、理解も間に合わない死だった)
59: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:16:50.56 ID:Sjljkzyd0
絵里「…なんでっ!」
絵里(床を思いっきり叩いた、何故今日になって死人が出ないといけないのか、きっとそれは誰にも分からない)
千歌『絵里さん!』
千歌『絵里さーん!』
千歌『絵里さーんっ!!』
絵里「千歌…!」
ポロポロ……
絵里(私はその日から神を信じるのをやめた)
絵里(千歌の事を考える度に毎日見せてくれた千歌の笑顔が瞼の裏で鮮明に映る)
絵里(例えこの先、高海千歌というアンドロイドが存在しようとも私たちの知ってる高海千歌はもういない)
善子「…あり得ない」
絵里(アンドロイドの命は美徳と語られることが多々ある)
絵里(何故ならアンドロイドの命は記憶と同義であるから、記憶が消えることこそアンドロイドの死を意味するから)
絵里(…だけどそこに美しさなんてどこにも存在しない、あるのは血まみれの死体と虚ろな瞳だけ)
絵里(そうして人は神様神様って奇跡を信じようとするの)
絵里(しかし私は断じて否、神様なんかに縋るから何かを失うのよ)
絵里(銃弾で物語を語るのならそれは私自身が放った銃弾で語るの、神様に代行してもらった運任せの銃弾なんて要らない)
絵里(私が…その心——心臓を撃ち抜くのよ)
60: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:18:15.08 ID:Sjljkzyd0
果南「…やめよ、千歌のことは考えたくない」
絵里「…そうね」
善子「でも!」
果南「やめてッ!」
善子「っ…」
果南「…千歌のことはもういいよ、今は今で私たちが危ないんだから」
善子「……そうよね、ごめんなさい」
果南「………」
絵里「………」
絵里(当たり前だけど、空気は随分と重いものだった)
絵里(果南は物理的にも精神的にも強いけど小さい時から一緒だった千歌が死んだ喪失感は誰よりも大きいと思う、それに肩は痛いだろうしイライラは加速する一方だろう)
善子「…私、トイレ行ってくる」
ガチャンッ
絵里(空気の重さに耐えられなくなった善子はその場を抜け出した、トイレとか言ってるけどどうせトイレには行ってないでしょうね)
61: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:20:47.36 ID:Sjljkzyd0
絵里「…果南はこれからどうするつもり?」
果南「仕返しに行く、千歌の命を奪った罪は重いよ」
絵里「その傷であの二人に勝てると思う?第一私たちは海未にやられてるといっても間違ってないのよ?」
絵里(対アンドロイドならではの動きだった、私たちはアンドロイド故に危険なものや動くものには即座に反応する、それを逆手に取り先に海未本人が目にも留まらぬ速さで跳躍し、私たちが海未に反応をしてから発砲する)
絵里(千歌がいなければ果南が死んでた、何がどうあったとしてもあそこで一人は死んでいた。それはもう間違いなく敗北の二文字だった)
果南「…そんなの関係ない」
絵里「……気持ちはわかるけどやめておきなさい、無理よ」
絵里(にこという人物は分からないけど海未という人物がかなりの手練れなのは事実、コンディションの整った果南なら分からないけど傷を負った状態じゃあいつに勝つのはほぼ無理、私の瞳も一桁代の確立を示してる)
果南「なんで……」
絵里「…何?」
果南「うるさいんだよッ!」スッ
絵里「っ!?」
絵里(突然気でも触れたかのように果南は立ち上がりと同時に私へと横蹴りをかましてきた)
果南「千歌を失った気持ちが絵里には分かる!?」
果南「勝てるとか勝てないとかそんなの気にしてられないんだよ!」
果南「勝てないなんて知ってるよ!勝てないのは眼がいい私自身が一番分かってるつもりだからッ!」
絵里(何の計算性もない左ストレートから左回りの後ろ回し蹴り、そしてそのままサマーソルトキックともう力任せな怒りの攻撃だった)
絵里「…動きが鈍いわ、やっぱり無理よ」
果南「舐めないでっ!肩が負傷してても私は戦える!ほらっ!これが証拠だよッ!!」
62: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:22:27.90 ID:Sjljkzyd0
絵里「なら銃を使ってみなさいよ、今ここで」
絵里「私を殺してみなさいよ」
果南「っ!」
バンッ!
果南「っあ…痛ッ…!?」
絵里(…突然の結果だったわ、私の挑発に乗った果南は懐からすぐにデザートイーグルを出して発砲、だけど反動から来る肩の痛みで私は避けずとも果南から外してくれたし、強まる痛みに果南はすぐにデザートイーグルを手放した)
スタスタスタ
絵里「…ゲームセットね、私が敵ならここで果南は死んでるわ」カチャッ
絵里(地に落ちたデザートイーグルを拾って銃口を果南に向ける、アイアンサイトから見える果南の諦めきれない悔しそうな顔が、敗北の証拠だった)
果南「くそっ…!なんでっ…!なんでぇ…!!」ポロポロ
絵里「…諦めなさい」
絵里(果南はそのまま崩れ落ちて泣き出した。滅多に見せない果南の涙は実にブルーで、哀歌はとても力強かった)
63: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:26:45.03 ID:Sjljkzyd0
~数時間後
真姫「…人の家で殺し合いとかやめてくれる?」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私たちが真姫の家に来て数時間後、ようやく真姫が家に帰ってきた。あの後すぐに帰ったら怪しまれると思ったんでしょうね、おそらく真姫の事だから迫真の演技とかを数時間してきたのでしょう)
真姫「別にいいけど…果南は大丈夫?」
果南「うぅううううぅう…あああぁ…!」
善子「…ダメでしょ、こういう時は気が済むまで泣かせとくのが一番よ」
絵里「善子…戻ってきてたの」
絵里(善子は部屋を出てから今に至るまでずっと戻ってこなかった、おそらく外には出てないでしょうけどこの真姫の家に一人でいるだけというのも随分と退屈なものよ)
善子「真姫が来たからね」
絵里(泣きじゃくる果南を前に廊下の壁に腕を組みながら背中を寄せる善子と片手を横っ腹において堂々と立つ真姫、そしてデザートイーグルを片手に持って立つ私が集まり、レジスタンス四人が揃った)
64: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:28:37.10 ID:Sjljkzyd0
真姫「…あなたたちは良かったの?」
絵里「何が?」
真姫「別に私は何もしてないから普段通り過ごすけど、善子と絵里と果南は多分無理よ」
絵里「知ってるわ、もう戻れないなんて承知の上よ」
善子「私もやっちゃったからには戻れないわ、だからもう既に覚悟は決めてるつもり」
真姫「…そう、ならいいけど」
真姫「…さっきも言ったけど私は何もしてないから普段通り過ごす。けど支援はするわ、お金で解決できることは私に任せて、私は武力はないけど財力ならあるんだから」
絵里「…助かるわ」
真姫「このくらいとーぜんよ」
絵里(外もまともに歩けないであろう私たちにとって真姫の存在は大きすぎた、もうしばらくは妹の亜里沙にも会えない、学校で仲のいい友達にも会えない)
絵里(犯罪を犯した代償は重すぎた)
善子「ここが…」
絵里「相変わらず大きいわね…」
真姫「ええ、不便のない生活は出来ると思うわ」
絵里(それからして深夜の三時、私たちは夜道を高速で走り別荘へ辿り着いた)
果南「ここに私たち住むの?」
真姫「ええ」
果南「おー!私こういうところに住んでみたかったんだ!」
善子「ここが堕天使の住処…!」
絵里「また堕天使モード入ってるわよ…」
絵里(数時間泣きじゃくってた果南もとりあえず立ち直ったみたいで今では普通の状態、真姫の別荘を見てはしゃいでるのを見て私はなんとなく安心した)
65: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:29:43.20 ID:Sjljkzyd0
真姫「とりあえず入って、色々と設備を紹介するわ」
絵里「ええ」
善子「分かったわ!」
絵里(それで真姫に案内されるがままに別荘へと入った、大きさは一般の一軒家の二倍程度で二階建て、リビングは相も変わらず広々としてて真姫の言う通り不便の生活が約束されてるような場所だった)
真姫「…と、まぁここの説明はこのくらいよ」
真姫「何か質問ある?」
絵里「ここの存在がばれた場合どうすればいい?」
善子「それは私も聞きたかった」
真姫「切り捨ててもらって結構よ、逃げることが第一だからね」
果南「分かったよ」
真姫「他はある?」
絵里「私は特に」
善子「私も」
果南「私もないよ」
真姫「分かったわ、じゃあ今日のところは帰るわね。流石に私が家にいないと親に怪しまれるから」
絵里「分かったわ、ホントにありがとう真姫」
真姫「いいわよ、それじゃあね。そこにあるの家の鍵だから」
善子「ええ」
果南「りょうかいっ」
真姫「じゃあね」
スタスタスタ
絵里(時刻は四時、真姫はレジスタンスだけどあくまでも一般人、だから私たちと違って怪しまれるような変な行動は出来ないし真姫は武術の心得がなく戦闘面に関して言えば無力に等しい、つまり何かあった時抵抗する手段がない)
絵里(だからここは安牌として家に帰ることを選んだ、だからここからは私たちだけだ)
66: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:30:31.28 ID:Sjljkzyd0
果南「これからどうする?」
絵里「寝る場所を決めましょう、寝室が二つしかないらしいの」
果南「え?みんなで一緒に寝るんじゃないの?」
絵里「えっそうなの?」
善子「いや違うと思う」
果南「じゃあどうするの?」
善子「…私は一人で寝たい、少なくとも今日と明日は」
果南「…?よく分からないけど、分かった」
果南「絵里はどうする?」
絵里「私はどこでもいいわよ」
果南「じゃあ一緒に寝ようよ、一緒に寝た方がお泊り感あって好きなんだぁ」
絵里「遊びでここに来てるんじゃないのよ私たち…」
果南「知ってる知ってる」
67: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:31:59.18 ID:Sjljkzyd0
スタスタスタ
絵里「善子、どこいくの?」
善子「私の家に一度行く、こうなった以上武器は持っておかないと安心なんて出来ない」
善子「…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない」
絵里「善子…」
絵里(片手に持つ拳銃を悲しそうに見ながら善子はそう言った、確かに拳銃一つじゃ手数も火力も出来ることの数も少ない)
絵里(拳銃の強みは軽いからどこにでも持ち運べて、小さいから運用が簡単なこと)
絵里(だけど、拳銃はそれ以外の強みがない。火力は人を殺すには充分すぎるものではあるけどそれでもまだ足りないものなのよ)
68: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:32:56.42 ID:Sjljkzyd0
絵里「でも外は危険よ…?」
善子「分かってる、でも拳銃一つじゃ戦えない。ならまだ監視の目が酷くならないうちに危険を冒して家から武器を持ってくる方が賢いわ」
善子「堕天使ヨハネは常に一手先を考えてるの」
果南「…言ってることは正しいけど堕天使ヨハネいる?」
善子「あーもう!仕方ないの!これプログラムだから!」
絵里「ふふふっまぁいいわ、じゃあ行ってきていいわよ」
絵里「私も行きたいけど果南を一人にさせるわけにはいかないから、くれぐれも気を付けて」
善子「ええ、じゃあね」
タッタッタッ
果南「…行っちゃった」
絵里「やっぱり善子はすごいわね」
果南「ホントだよ、とても一年生とは思えない頭の良さだよね」
絵里「ええ」
69: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:34:57.85 ID:Sjljkzyd0
果南「…二年前だよね、善子と私たちが出会ったのって」
絵里「ええ、善子がいじめられてたのを助けた時からだったわね」
果南「懐かしいなぁ絵里が単身っていじめっ子のグループに突っ込むもんだから見てられなくて私もついていった覚えがあるなぁ」
絵里「あ、あれは仕方なかったのよ!だって千歌とか他の友達巻き込みたくなかったし…果南に知られたらまためんどうなことになりそうだし…」
果南「あはは、酷い言われようだなぁ」
絵里「果南は解決の仕方が暴力的すぎるのよ」
果南「それ、絵里が言う?」
絵里「果南よりかはマシよ」
果南「…ふふっ」
絵里「ふふふっ」
かなえり「あはははははっ!」
絵里(前から一緒の私たちの絆は何よりも堅かった)
絵里(善子は中学二年生の時に善子をいじめていた子を私と果南でやっつけた事で知り合った、何事にも真摯な対応をする子だけど、生まれた時からインプットされていた堕天使ヨハネというプログラムが彼女の特徴でもある)
絵里(今思えば、善子も成長したけど悪い方向で成長したともいえる。しかしもちろん理由はあって、善子を変えた原因はおそらく二つあるの)
絵里(一つはいわずも鞠莉のせい、あいつがアンドロイドの品格を下げ続けてるから意図せずとも恨みや邪念など生まれてしまった)
絵里(そして二つ目は――――)
絵里「……善子、大丈夫かしら」
果南「…やっぱり心配?」
絵里「ええ、身の危険もそうだけどもう一つあるの」
果南「ん?何かあるの?」
70: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:35:58.66 ID:Sjljkzyd0
絵里「…真姫の病院にね、ルビィって子がいるのよ」
果南「ルビィ?」
絵里「ええ、その子は」
グゥ~…
絵里「………」
果南「…あはははは…ごめんお腹空いてて…」
絵里「はぁ…仕方ないわね、何か食べる?私もお腹空いてるし」
果南「ホント!?じゃあ巷で噂の絢瀬絵里特製料理をもらおうかな~!」
絵里「なによそれ」フフフッ
絵里(…はぁ、なんか果南のお腹の音を聞いたら気が抜けちゃった。ごめんなさい、この話はまた今度になりそう)
71: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:37:29.07 ID:Sjljkzyd0
絵里「えっと、冷蔵庫の中は…っと」
絵里(とりあえず私はキッチンにいって料理の準備をする、亜里沙ほど料理は上手くないけど私だってちょっとは出来るんだからっ)
果南「うはーすごい食材の量」
絵里「お金持ちって感じね…」
果南「何作るの?」
絵里「亜里沙に教えてもらったオムライスを作るわ」
果南「お、いいね」
絵里「果南はソファでも座ってなさい、邪魔だから」
果南「そんな直球に言わなくてもいいじゃん…」ブー
絵里「ふふふっごめんなさいね」
絵里(冷蔵庫やその周辺にある食材を見て、果南に何を作るか聞かれて出てきたのはオムライスだった)
絵里(なんでこの料理かは分からないけど、とりあえず作ってみた)
72: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:38:55.56 ID:Sjljkzyd0
果南「あっはは!不出来~」クスクス
絵里「し、仕方ないじゃない!私は料理得意じゃないの!」
果南「亜里沙ちゃんはやっぱり出来る子だなぁ」
絵里「そうよ、亜里沙は自慢の妹なんだから!」フンスッ
果南「いやいや絵里が威張るところじゃないよ…」
絵里「……とりあえず食べる!ほら早く!」
果南「はいはい」パクパク
果南「ん、意外にもおいしい」
絵里「意外とは失礼な」
果南「んあはは、オムライスにレモンを盛り付けるなんてちょっと変わってて不安だったんだよ」
絵里「そ、そう?レモンのトッピングは私のアレンジなんだけど」
果南「あ、そうなの?でもこのレモンの酸っぱさが良い味出してるね」
絵里「あ、ありがとう」
73: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:40:20.92 ID:Sjljkzyd0
果南「あ、もしかして照れてる?」クスッ
絵里「照れてない!」
果南「ふふふっそうだね、ごめんね」クスクス
絵里「腹のたつやつね…」
絵里(状況は最悪でも、果南との会話は千歌や善子とは違ってすごく明るかった)
絵里(果南は悪く言えば何事にもバッサリしてるけど、良く言えば楽観的で優しくてムードメーカーのような人)
絵里(だから果南は今の私たちにとってはすごく大切な存在だったと思う)
絵里(それで少しは…気が楽になった気がした)
ガチャッ
善子「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
果南「おかえり」
絵里「おかえりなさい、大丈夫だった?」
善子「私は大丈夫だけど街の方はやばいわ……」
果南「何?何かあったの?」
善子「監視の目が多くなってる、私が海未とかいうやつを撃ったせいで警戒レベルがMAXに近くなってるのだと思う…」
74: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:41:57.19 ID:Sjljkzyd0
絵里「それはー……そう…」
果南「………」
善子「…でも武器は手に入れたわ、今行かなきゃもう一生取れないと思ったから」
善子「……後お母さんにもお別れを言っておいた」
絵里「お、お別れってまさか死ぬわけでもないのにそんな大げさな…」
善子「……今回ばかりは分からないわ、果南ならわかるでしょ?」
善子「私たちだけじゃあの二人に勝てないって」
絵里「…!なんで!?」
果南「…いや、絶対に勝てないってわけじゃないよ」
果南「私は怪我をしてるから戦力には入れないとして、善子と絵里があの二人と戦って勝てる確率は…」
果南「半分よりちょっと低いくらいの確立かな……」
絵里「………」
絵里(果南は他のアンドロイドと比べて眼が非常に良い、眼に見える確率は細かくより正確に割り出すことができ、それ以前に単純に視力だとかがよく敵の細かなの動きも見る事が出来る)
絵里(だからこそ果南の言う“半分よりちょっと低いくらいの確率”っていうのはだいぶオブラートに包んだけど、負けが濃いということになる。しかも果南が言うことでその線は更に濃くなる一方だった)
75: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:43:28.84 ID:Sjljkzyd0
果南「…でも、敗北が確定したわけでもないのに負けを認めるなんて私はそんなこと絶対にしたくない」
果南「私は仮にも戦闘型アンドロイド」
果南「死ぬなら戦って死ぬよ」
果南「それが戦闘型アンドロイドの生き様であり、名誉ある死に方だろうからね」
絵里「………」
善子「……何が名誉よ、バカらしい」
果南「先入観に囚われて保身に走ってる臆病者には分からないだろうね」
善子「考える力もない脳筋バカの事が正しいとでもいうわけ?」
果南「へえ、じゃあ善子はいじめっ子を一人で倒せるんだ?考える力のある善子はこの状況で勝算を見出してくれるんだ?」
76: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:44:47.10 ID:Sjljkzyd0
善子「怪我してる無力は黙っててくれる?関係ないことりとなんか戦って傷を負って口だけ達者なのは流石に弱く見えるわよ?」
善子「戦いたさだけでことりとおっぱじめて、余計な傷を負った上で事実上千歌まで殺してねえ何のために戦ったの?全部の果南のせいよね?」
善子「この人殺し」
善子「堕天使ヨハネの言う事に間違い、あるかしら?」
果南「っ!」
果南「…へえ、善子変わったね」
果南「可愛らしい堕天使から、憎たらしい堕天使へとね」
善子「ええ、そうよ」
果南「流石に頭に来たよ、ここは一つ私から提案なんだけど」
果南「…私と一戦交えない?」
絵里「ふざけないでっ!!」ドンッ!
77: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:45:47.88 ID:Sjljkzyd0
善子「!」ピクッ
果南「!」
絵里「こんな状況で争ってる場合じゃないでしょう…?」
ポロポロ…
絵里(涙を我慢する力は私には無かった、今でさえ絶望的状況なのにこのまま内紛でも起こされたら私たちは自ら死に堕ちてゆく)
絵里「私たちは仲間なのよ…?仲間なのにお互い責め合ってたら私たち勝てないじゃない…」
絵里「私怖いの…!死ぬのが…誰かを失うのが怖いの…!!」
絵里「もう既に千歌を失った…それから果南や善子、真姫まで失ったら私…私っ…!!」
絵里「だから二人とも争わないでぇ…!」ポロポロ
絵里(その場に崩れて泣いて、和解を懇願した。他人の心配ばっかしてたけど、今度死ぬのは私かもしれない、それなのに今こんなことしてる場合じゃないって私の本能が警鐘を鳴らし続けてた)
78: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:48:43.62 ID:Sjljkzyd0
果南「ご、ごめん……善子、絵里…」
善子「…私こそごめん」
絵里「うわああああぁ…!」
果南「あはは…泣かないの、絵里は強いんだから」
絵里「私は強くないわよぉ…!」
絵里(果南にはハグを、善子にはナデナデをされたけどそれでも涙は止まらなかった。だから気が済むまでずっと泣いてた)
絵里「あああぁあぁ…!!」
善子「だ、堕天使ヨハネ参上よ!そこのお嬢さん何かお困りですか?」キリッ
果南「いやそこで堕天使かい…しかもなりきれてないし…」
絵里(善い子と書いて善子――は、突然堕天使モードに入って私を笑わせようとしてくれて、果南も乗っかって色々してくれたけど、やっぱり涙は止まらない。けど、そう優しくしてくれるだけで私は両手から溢れ出るほどの幸せを感じた)
絵里「すぅ…すぅ…」
善子「…寝ちゃったわね」
果南「絵里、案外溜め込むタイプだから吐き出して疲れちゃったんだよ」
善子「ならいいけど…」
79: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:50:42.15 ID:Sjljkzyd0
果南「ふふふっ可愛い寝顔」プニプニ
絵里「んん…」
善子「絵里に怒られても知らないわよ?」
果南「あはは、大丈夫だよ」
グゥ~
善子「…お腹空いたわね」
果南「あ、それなら絵里がオムライス作ってくれてるよ、ほらっあそこのラップに包まれてるやつ善子のだよ」
善子「ホント!?堕天使ヨハネの為に食事を用意してくれるとは流石はリトルデーモン…」
果南「…そういえば善子の武器って何なの?あんまり戦ってるところ見たことないから分からないんだけど」
善子「ん?あぁMX4 Stormって言うの」
果南「へーサブマシンガンか」
善子「そうよ、連射速度が早めだから火力が高いの、だけどその分弾持ちが悪いからちょっと運用が難しいのよね」
果南「なるほどね、でもいいじゃん。サブマシンガンだし小回り利くからだいぶ動きやすいでしょ」
善子「まぁそうね」
絵里(次の日、起きてみればテーブルにはMX4 Stormと大量のマガジンが散らかってた。サブマシンガンの強みはアサルトライフルなどと比べて重量がそこまで無く小回りが利き、尚且つ拳銃よりも火力が高いこと)
絵里(しかし銃にもよるけど大体は中距離辺りで精度――いわば弾の集弾率が悪くなるから近距離の向けの武器になるわ、その分近距離は比類なき強さを発揮する。動きやすいからね)
絵里(だから銃を知らない人もこれだけは覚えておいて)
絵里(サブマシンガンは近距離が強く遠距離に弱い銃、だということを)
80: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:51:19.05 ID:Sjljkzyd0
絵里「おはよう…」
果南「おはよう」
善子「おはよう絵里」
絵里「二人とも早いのね…」
絵里「…あれ、朝ごはんは?」
善子「…私料理出来ない」
果南「同じく」
絵里「…はぁ、また不出来な料理になるわよ?」
果南「それでもいいよ♪」
善子「同じく」
絵里「何よその一体感は…」
絵里(朝、目覚めは良かったけど現実はまだ退廃的で絶望的。これからどうやって生きていくか、考えるだけでも憂鬱な気分になる)
81: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:52:17.12 ID:Sjljkzyd0
善子「今日は何するの?」モグモグ
絵里「これからどうするか話し合いましょう、いつまでもここにいれるわけじゃない、いずれ見つかるのだから今のうちに次の行動を決めておきましょう」
果南「了解だよ」パクパク
善子「…じゃあ聞くけど、私たちこのまま逃亡生活するの?」
絵里「それしかない…と思うのだけれど」
果南「選択はもう一つあるよ、敵の基地に突っ込んで壊滅させるとか」
絵里「それは悪手だしまず勝ち目が薄すぎるわ…」
果南「誰も本拠地に行くなんて言ってないよ、外壁から壊していけば戦力も落とせると思う」
善子「外壁?」
果南「小隊が潜む基地だよ、どうせそこら辺に色々機器だってあるだろうしそれをぶっ壊していけば統率は取れなくなるし戦力も目に見えて落ちてくる」
絵里「なるほど…」
果南「それなら勝ち目は無くはないよ」
善子「……ふむ」
果南「このまま弱気になっててもいずれは見つかるんだからそれならこっちから向かった方が良いと私は思う」
絵里「…なるほどね、確かにそれはいいわね」
82: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:53:27.85 ID:Sjljkzyd0
善子「だとしたらどこを攻める?さっきAAの事調べたけど少数精鋭の部隊らしいから基地は多分ないわよ?」
絵里「AA?」
善子「Anti AndroidでAA、つまりは海未ってやつがいる対アンドロイド特殊部隊のことよ」
絵里「なるほどね、まぁ確かに対アンドロイド特殊部隊って長いからAAでいいかもね」
果南「そうだね」
善子「それでどこを攻めるの?目標となる場所は多分本拠地以外に存在しない」
絵里「…困ったわね」
果南「うーん…」
83: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:56:24.13 ID:Sjljkzyd0
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん、真姫から電話だわ」
果南「出ていいよ」
絵里「ええ」
ピッ
絵里「もしもし?」
真姫『もしもし、絵里?』
絵里「ええ私よ、何か用かしら?」
真姫『ええ、あの病院の一件から対アンドロイド特殊部隊はあなたたちに首ったけよ、まだ警察全体を動かすことにはなってないけど特殊部隊の方が動いてるだけでも動きはかなり制限されるはず』
真姫『となるとおそらくだけどこれから色々していくうちに戦闘は避けられないわ』
真姫『だから武器が必要じゃない?』
絵里「武器?」
真姫『果南と善子は自分だけの武器を所持してるはずよ、分かるでしょ?』
絵里「武器…」チラッ
善子「…ん?何?」
果南「どうかした?」
絵里(確かに二人とも自分だけの武器を所持してる、善子は病院の時に持ってた拳銃や今そこの机に置かれてるサブマシンガンだって善子だけの武器、果南もデザートイーグルを常備してるしことりの件の時は鞄からアサルトライフルを出してた)
絵里(それに比べて私は格闘だけで戦ってる身で、この前貰ったPR-15で初めて自分だけの武器を手に入れた)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(しかし、拳銃一つじゃ戦えないみたい)
絵里(…だから私にも必要になってくるのだろう)
絵里(私だけの武器が)
84: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:57:27.96 ID:Sjljkzyd0
絵里「…ええ、そのようね」
真姫『でっしょー?だから私が武器を提供するわ、好きなのをあげる』
絵里「えっいいの?」
真姫『いいわよ、だけど一度私の家に行かないといけないの。だから迎えに行くわ』
絵里「迎え…」
善子『……後お母さんにもお別れを言っておいた』
絵里「……いや、一人で行く」
真姫『は?何言ってるのよ、確かに街はそこまで危険ではないけど見つかった時が厄介よ?』
絵里「…お願い、やりたいことがあるの」
真姫『やりたいこと…?』
絵里「……言わなきゃダメ?」
真姫『ダメよ、もしも何かあった時絵里がどこにいるか分からないじゃない』
絵里「…亜里沙に会いたい、多分もう会えないから」
真姫『……なるほどね』
85: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 20:58:51.92 ID:Sjljkzyd0
絵里「…いいでしょ?」
真姫『…分かった、でも気を付けてよ?』
絵里「もちろんよ」
真姫『それじゃあね、いつでも待ってるわ。家にいなかったら私の部屋で待ってて』
絵里「分かったわ」
プツッ
絵里「……ふう」
絵里(善子の言葉に感化されたっていえば多分そうなんだと思う)
絵里(ここから先は死ぬかもしれないというのに、亜里沙にお別れも無しに死ぬのは悔いが残る。なら私も亜里沙にお別れを言って未来を生きることにする)
果南「何だった?」
絵里「武器が必要だろうから真姫が提供するっていう話よ」
善子「武器、か。堕天使ヨハネにはあまり関係のない話かしら」
果南「私も武器は持ってるから大丈夫かな」
絵里「ええ、だから私宛なのよ」
86: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:01:05.74 ID:Sjljkzyd0
果南「なるほど、じゃあどうするの?」
絵里「真姫の家にいくわ、この足を使って」
善子「は?いや危ないでしょ、もっと他の移動手段あるでしょ?」
絵里「真姫からは迎えに来るって言ってたけど断った、私も亜里沙にお別れを言いにいきたいから」
果南「…そっか、なら私は何も言わないよ」
善子「……ならついていくわ」
絵里「ダメ、善子がついてきたら果南が危ない」
果南「いや、いいよ私は。別に動けないわけじゃないんだし」
絵里「それでもダメ」
善子「じゃあ絵里は…一人で戦場に突っ込むっていうの?」
絵里「戦場ってそんな大げさな…ちゃちゃっと私の家と真姫の家行って帰ってくるだけよ」
善子「……納得できない」
絵里「そこは腹をくくって」
善子「………」
果南「なんか…ごめん」
絵里「果南は謝る必要はないわ」
87: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:01:55.42 ID:Sjljkzyd0
ガチャッ
絵里「とりあえず行ってくるわね」
善子「…絵里っ!」
絵里「ん?何かしら?」
善子「……困ったら堕天使ヨハネに連絡しなさいよ、終わりなきジハードはもう始まってるのよ」
絵里「…ええ、もちろんよ」ダッ
絵里(善子の言葉を聞いて安心した私はキッチンに置いてあったPR-15を取って玄関を抜け外へと飛び出した。いくら監視の目があろうとも私を見つけて誰かがそこに向かうまでにはタイムラグがある、だから素早く移動すればまず捕捉されることはない)
絵里(それに私はアンドロイド、普通の人間とは違うの)
絵里(あらゆる物事を数値化出来て、銃弾を避けれるポテンシャルがある)
絵里(人間にも銃弾を避ける技術がある、とは聞くけどアンドロイドという自分自身に身についたものは裏切らない)
88: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:03:19.68 ID:Sjljkzyd0
タッタッタッ
絵里「…きっつ」
絵里(別荘がかなりの山奥なもので私の家兼真姫の家に行くには走りっぱなしじゃないと時間がかかる、アンドロイドとはいえ体力の概念はもちろんあるからただ単純にいって辛いモノがあった)
絵里「ふう」
絵里(別荘を出て数十分経った頃にようやく街へと辿り着いた。何もない緑の世界から人工物だらけの汚れた/穢れた世界を見れば心はやるせない気持ちでいっぱいになる)
絵里(ここはすごいところよホントに。今やジェットパックとかいって人が空を飛べたり宙に電子の板が出てきたりで科学の発展というのは昔と比べれば実に目覚ましいものよ)
絵里(でも、そんな加速する科学に後れを取らない銃火器というモノがどれだけ強力な武器なのかがこの街ではよく分かる。レイガンとかライトセーバーとかそんな未来な武器が存在していても、実際にはコスパや燃費が悪くて銃火器に劣るのよね)
絵里(だからこそこの世界の戦いは銃が中心なのよ)
バンッ!
絵里「!」ピクッ
絵里「銃声…?」
絵里(路地裏を利用して移動してる時、かなり近場で銃声が聞こえた)
89: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:04:50.80 ID:Sjljkzyd0
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(銃声の方へ行くか行かないか、少し迷ったけど行くことにした)
絵里(向かう最中も銃声は度々聞こえてくる、でも聞こえてくる銃声の種類は一つだけで銃撃戦をしてるわけではなさそうだった)
カンッ!
絵里「っ!?」
絵里(路地裏を抜けその一歩目を歩もうとした時、突然として私の目先に銃弾が通った)
絵里(通った銃弾は私のすぐ横にあった壁に当たり鋭い音を立てて地に落ちていく、少し怯んだ後銃弾の方向を見ると…)
タッタッタッ
にこ「待てっ!」
ことり「いやっ!」
絵里「ことり…?にこ…?」
絵里(公道なんてなんのその、車道のど真ん中でにこはことりを追い、ことりはにこから逃げる光景が私の瞳には映ってた)
90: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:06:12.67 ID:Sjljkzyd0
ことり「ん…んん…いっ…」
絵里(この銃撃で出来たものなのか、ことりには大量の傷がある)
絵里(つまり私の見ている光景は)
絵里(にこがことりを殺そうとしてる光景だった)
絵里「…?何?」
絵里(ふと二人を観察していると、にこの拳銃からではなくどこからともなく飛んでくる弾丸が混ざっていて疑問符が浮かんだ。その弾丸は拳銃の弾丸とは比べ物にならないくらい速く、コンクリートを抉るほど威力の高い一発で、でもことりはアンドロイド故にその銃弾すらも回避する)
91: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:07:47.64 ID:Sjljkzyd0
絵里「スナイパーか…!」
絵里(弾丸が飛んできた方向を見れば日光に反射するスコープの光が見えた、場所は数十メートル離れたビルの上でことりはにこに追われながらスナイパーに狙撃をされてるようだった)
にこ「今っ!」バンッ!
ことり「当たらないっ!」
ドォン!
ことり「かっ…ぁ!?」
絵里「っ!上手い…」
絵里(コンビネーションプレイというべきかしら、にこがことりに向かって発砲しもちろんことりはそれを避けるために右へ跳躍)
絵里(だけどそれを見越してスナイパーはそのことりの跳躍先を撃ち、結果的にことりは肩を射貫かれた)
絵里(流石はAAで、その技量と頭は舐められたものじゃない)
ことり「あ…ぁぁ…」
絵里「ことり…」
絵里(肩を射貫かれたことりは派手に体勢を崩し仰向けになって倒れた。足は動くけど、肩に痛みが渡ってはそれどころじゃないでしょう)
92: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:09:13.25 ID:Sjljkzyd0
にこ「終わりね、ことり」
ことり「く…そッ…!」
にこ「今まで犯した罪の償いだと思いなさい、もはやあんたはアンドロイドじゃなくて」
にこ「ただの鉄くずよ」
ことり「っ!ふざけないでッ!」
ことり「私を生んだのはお前たち人間で、私をこうしたのは人間でしょ!?」
ことり「それを今になって悪行を犯したから殺すだなんて理不尽すぎるよ!」
ことり「アンドロイドなんかより人間の方がクズだよっ!」
にこ「うるさい」
絵里「っ!」
絵里(ことりの息の根を止めるべくにこは手に持ってる拳銃のトリガーを引こうとしたのが確認出来た、それを見て私は何を思ったのだろう)
絵里「………」
絵里(反射的に懐にあったPR-15を取り出して銃口をにこへと向けた)
93: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:10:51.52 ID:Sjljkzyd0
絵里「……ぃ」
絵里(…でも、怖かった。何が怖いのか、そんなの拳銃を持つ人なら誰でも思うことだと思う)
絵里(人を殺すのが怖かった)
絵里(私はこの人生という名の戦場で幾度となく争いをしてきた。けどその全ては峰打ちで終わってるの、争いにおいて人を殺すことに意味があるんじゃなくて、自分の行いを見直すべく調べであると私は思っていた)
絵里(今ここで私が撃ったらにこは死ぬだろう、完全なる不意打ちで、胸でも頭でも射貫けば死は確定)
絵里(そうとまで分かっていたら、このトリガーを引くのが怖くて…唾を飲んだ)
ことり「っ!」
にこ「! ほう、タウルス・ジャッジなんて持ってるのね」
ことり「……そうだよ」
にこ「それを私に向けて何のつもり?」
ことり「…撃つ」
にこ「なら撃ってみなさいよ、壊れた肩でどう撃つ?前の果南との戦闘でもう片方の肩も今はあまり機能してないというのにどうやって私に撃つのかしら?」
ことり「…っ」
絵里「…!」
絵里(トリガーを引こうとしてるのは伝わってくるけどことりの手は震えていた、それはつまり上手いように力が入らないようでトリガーを引くにも引けないようだった)
94: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:12:01.33 ID:Sjljkzyd0
絵里「私が…私が…!」
絵里(私が代わりにトリガーを引く、私の何もかも全てがその答えを示していた)
絵里(でも怖い、恐怖心はそう簡単には断ち切れない。でも、ここでことりを見殺しにしてしまったら私は一生後悔すると思う)
果南『諦めるにはまだ早いんじゃないかな?』
絵里「!」
絵里(そんな時、果南のあの時の言葉が脳裏を過った)
絵里(私も諦めたくなんかない、そんな時果南は何をしてくれた?)
絵里(私を助けてくれた、だけどそれはただ助けたんじゃない)
絵里(相手の持つ拳銃を撃って間接的に相手を無力化した)
絵里(…なら私も同じ事をするだけよ)
絵里「………」
ドクンッ
絵里(加速する鼓動が私の標準をずらす、だから一度目を瞑って息を整えてから目を見開く。時間はもうない、震える手と張り詰める精神に抗って私は――――)
絵里「いっけー!」
絵里(トリガーを勢いよく引いた)ダッ
95: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:13:48.09 ID:Sjljkzyd0
にこ「わっ!?」
ことり「!」
タッタッタッ
絵里「ことりっ!」
絵里(その行為は一体何から起こったものなのかしら。アンドロイドという仲間意識からきたものなのか、殺されそうになってたから助けなきゃという正義感からなのか、それともただ個人的にことりを助けたかったっていう私の意志なのか)
絵里(それは今でも分からないけど、とにかくことりを助けたかった)
絵里(だから私はトリガーを引いた後すぐにことりのところへ向かって、ことりをおんぶして逃げた)
にこ「絢瀬絵里…!?待てっ!」
ことり「右へ避けて…」
絵里「え、ええ!」
絵里(突然ことりの口から出てきた指示を信じて私は右へ避ける、避けた直後左を見ればご丁寧にスナイパーの弾道が残っててここで私は初めてスナイパーに狙撃されたことを知った)
ことり「これでもくらえっ…!」
にこ「っ!」
絵里(ことりは穿いてるスカートの中から何かを二つ出してにこへと投げつけた)
絵里「うわっ!?」
ことり「ひるまないで、なんでもないからっ…」
絵里(そして次の瞬間には甲高い音が後ろから鳴って一瞬だけ後ろを振り返ると眩い閃光が街中を照らしてた)
96: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:15:09.67 ID:Sjljkzyd0
絵里「何を投げたの?」
ことり「スタングレネード…あのツインテールの足を止めるために投げた」
ことり「そしてもう一つは…」
プシュー!
絵里「!」
ことり「…スモークグレネードを投げた、これで逃げれるはず……」
絵里「そんなものを…」
絵里(走りながら後ろを見れば緑色の煙幕が壁を作ってた、これなら狙撃の心配はないしスタングレネードで足止めされてるにこも追ってくる可能性は低い)
絵里(満身創痍とはいえことりのこの道具の捌き方は流石だと思った、というかこんなものを常備してることりに驚いた)
バチバチッ
絵里「!」
ことり「!」
絵里「なにこれ…」
絵里(そんな中で煙幕の中突然後ろから飛んできた投擲物に私は思わず足を止めた、飛んできたものは一般的に見る手榴弾やことりが投げたスタングレネードやスモークグレネードのようには見えないし微妙に電気を帯びてた)
97: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:16:40.71 ID:Sjljkzyd0
ことり「っ!ダメッ!」ドカッ
絵里「っあ!?」
絵里(そして何かに気付いたのかことりはおんぶを無理矢理抜け私の背中に強烈なキックを浴びせてきた)
絵里「っく、あッ…!」
バチンッ!
絵里「!」
絵里(その影響で私は数メートル吹っ飛ばされ俯けに倒れる、それで次の瞬間には後ろから激しい電撃の音が聞こえてくるからすぐに立ち上がって後ろを見れば膝をつくことりがいて、私が走り出した瞬間にはことりは力なく倒れた)
絵里「ことり!?」
絵里(すぐさまことりのところへ向かえば倒れることりには電流が流れてておんぶをしたら私も感電しそうでとてもおんぶ出来る状況じゃなかった)
98: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:17:10.36 ID:Sjljkzyd0
にこ「捕まえなさい!あいつらを逃がなさいで!」
絵里「どうすれば…」
絵里(万事休すだった、私が助かるには私だけで逃げるしかない。でもこのままことりだけを置いて逃げるなんてそんなことしたくない)
絵里(私がそうするべきと思ったからそうしたいだけ)
絵里(それに従えば、ことりを置いて逃げるなんて選択肢は何万回、何億回と同じことを繰り返してもないと私は思う)
絵里「………」
絵里(…でもどうすればいいのかしら)
99: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:18:34.86 ID:Sjljkzyd0
「こっちですっ!」
絵里「!」
絵里(もはや選択の余地なんかなくて、このままことりをおんぶして運ぼうとした時、それはまた突然に声が聞こえた)
絵里(ことりでもなければにこでもない、ましてやスナイパーの人の声でもないだろう。だからそうと分かって声のなる右へ顔を向ければ路地裏の陰で手を振る誰かがいて、その人が私を呼んだのだと認識した)
絵里「…はっ!」ダッ
絵里(もう考えてる暇なんてない、私は電流の流れることりのスカートの内側にくっついてるスモークグレネードを真下に投げてすぐことりをおんぶしてそこへと突っ込んだ)
絵里「ぐあぁあっ…!」
絵里(痛かった、痛みで足や手の感覚が麻痺してしまいそうなほどに)
「後少しです!頑張ってください!」
タッタッタッ
絵里「…っええ!」
絵里(それでも私は走る、手を振る誰かの元へ向かって)
100: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:19:45.68 ID:Sjljkzyd0
絵里「…ぅはぁ…はぁ…」
「こっちです、ついてきてください」
絵里「あなたは…」
「えへへ、覚えてますか?」
絵里「…!もしかして…!」
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「——花陽、さん?」
花陽「えへへ、正解です」
絵里「どうしてあなたが…」
花陽「話は後です、ついてきてください」
絵里「え、ええ…」
スタスタスタ
絵里(感動の再開……?なのかしら。あの時は救済を拒んだけど、今は拒む理由もない。だから花陽さんについていった)
101: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:21:12.82 ID:Sjljkzyd0
絵里「………」
花陽「そんな後ろをちらちらと見なくても大丈夫ですよ、追手はいません」
絵里「ど、どうしてわかるの?」
花陽「ここの路地裏は普段はただの壁で、みんなここに路地裏があることに気付いてませんから」
絵里「え?どういうこと?」
花陽「上を見てもらえれば分かると思います」
絵里「上…?」
絵里(上を見ると建物と建物の間から見える青い空が見えたのけどよく見ると空が歪んでた)
絵里「なにこれ…!?」
花陽「光学迷彩って言うんです、ここは安らぎをくれる私だけの秘密の隠れ場所でよく仕事をほったらかしてここで休んでるんです♪」
絵里「光学迷彩…」
絵里(光学迷彩――――それは分かりやすく言えばカメレオンのようなものかしら。カモフラージュの為に対象の物体を同化させるもの、それは相対的に対象の物体を透明に出来ていわば透明になる技術とでもいえば大体は伝わるかしら)
102: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:22:02.65 ID:Sjljkzyd0
スタスタスタ
絵里「…! ここは…」
花陽「私だけの秘密基地です、私はいつもここを」
花陽「部室って呼んでます♪」
絵里「部室?部活動の?」
花陽「はい、アイドル部です♪」
絵里「アイドル部…?」
絵里(部室、という割には全然部屋とかじゃなくてビルの立ち並ぶ間に出来た真四角の空間で一際違う雰囲気を漂わせている木々と幻想的に映る日光に目を奪われる)
絵里(地面は草が生い茂っててここだけまるで森の中のようだった)
花陽「そこ、座ってください。そこの方はそこのベンチで寝かせてあげてください」
絵里「あ、すいません…」
絵里(真四角の森の中心には白色の丸いテーブルと白色の木のイスが二つ置かれていて、私が座ったイスの後ろには長いベンチがあった)
103: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:23:37.66 ID:Sjljkzyd0
絵里「ここって…」
花陽「私が作ったんです、ここの自然も、何もかも」
絵里「す、すごい…」
花陽「えへへ、ありがとうございます。ここならあの人たちにばれる心配もありません、だから気が済むまでゆっくりしてってください」
花陽「あ、お茶とかいります?用意しますよ」
絵里「い、いえお気遣いなく」
花陽「いえいえ、多分まだあの人たちはここら辺をどかないと思うので用意しますね」
絵里「あ、はい…」
絵里(角にある食材置き場みたいなところからオシャレなティーカップと紅茶のパックを出して紅茶を作り出す花陽さん、何やら鼻歌を歌っててちょっと話しかけづらくて周りを見てるとハンガーにかかったアイドルの衣装のようなものが目に留まった)
絵里「衣装?」
花陽「ん?あ、はい!私が始めてステージに立った時に使った衣装です」
絵里「ステージに立った?」
花陽「えへへ、恥ずかしい話ですけど私、実はアイドルをしてるんです。かよって聞いたことありませんか?」
『えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?』
絵里「かよ…聞いたことある、千歌が言ってた」
絵里「でも確かかよって人気ナンバーワンといっても過言じゃないスーパーアイドルって…」
104: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:24:39.95 ID:Sjljkzyd0
花陽「はい、当たりです。人気ナンバーワンかは分からないですけど、最近はたくさんの人に応援してもらってます」
絵里「そんなすごいの…」
花陽「はい!えへへ…」
絵里「…でも、なんでそんなあなたが私を?」
花陽「私、絵里さんのファンなんです!音ノ木坂高校のビューティフルスター!」
絵里「え、なにそれ…」
花陽「ファンの間で通ってる絵里さんの二つ名の一つですよ」
絵里「ビューティフルスター…」
絵里(なんだそれ、と思ったけどとりあえずこの二つ名は置いておきましょう)
花陽「えへへ、そんなファンである私が絵里さんの力になりたいのは当然というか…それ以前に困ってる人を見捨てておけないんです」
絵里「…そ、そう」テレッ
花陽「ふふふっ照れてる絵里さんも可愛いですね」クスッ
絵里「か、からかわないで!」
絵里(花陽さんがクスクスと笑ってると鳥の可愛らしいさえずりが聞こえて花陽さんが人差し指を空を掲げると飛んでる鳥は花陽さんの人差し指に留まって羽休めをしてた)
絵里(木漏れ日に鳥と笑う花陽さんはまさに幻想そのものだったと思う)
105: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:26:00.19 ID:Sjljkzyd0
花陽「どうして絵里さんはあの方たちにそんな目の敵にされてるんですか?」
絵里「私は……」
絵里「………」
絵里(言ってもいいのかと不安になった。いくら助けてもらったとはいえ相手は他人だ、それなのにべらべらと自分の事を言っていいことにはならない)
花陽「大丈夫ですっ私は誰にもいいません」
絵里「………」
絵里(どうだろうか、この可愛い笑顔には裏があるのかしら。でも、この人にそんなものがあるとは思えない)
絵里「…私はね」
絵里(……だから、信じてみることにした)
絵里「犯罪者なの」
花陽「……ふふふっ知ってますよ」
106: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:27:10.62 ID:Sjljkzyd0
絵里「え?」
花陽「対アンドロイド特殊部隊ってところに喧嘩を売ってしまったんですよね?」
絵里「え、ええ」
花陽「だから私は絵里さんを助けたんですよ、あそこの部隊は限りなく強いですから」
絵里「知ってるの?」
花陽「はい、私、鞠莉さんに気に入られてるみたいで、鞠莉さん直属の対アンドロイド特殊部隊っていうのは対アンドロイドの前に特殊部隊であるので、SPみたいなボディーガードをすることもあるんですよ」
花陽「少数精鋭ですけど、それでも完璧な作戦を立てて私を守ってくれる時があります」
絵里「そんなことが…」
花陽「これからどうするんですか?あそこの部隊は遅かれ早かれ確実に絵里さんたちを見つけて殺しに来ますよ」
花陽「対アンドロイド特殊部隊に敗北の文字はありませんから」
絵里「…そうなのね」
絵里(やはりとんでもない集団ね、あそこは)
ことり「………」
絵里(私より戦闘は優れていたであろうことりがあんなになってるようじゃ私に勝ち目があるわけもなく、善子や真姫の力を借りても勝てるかどうかが危ういところ)
107: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:28:03.50 ID:Sjljkzyd0
花陽「ことりさん、EMPグレネードを食らったんですね」
絵里「EMPグレネード?」
花陽「最近開発されたオーバーテクノロジーの産物です、爆発すると辺りの電子全てを一定時間機能を停止させることが出来るんです」
絵里「それは……あっ」
花陽「気付きました?アンドロイドは電子から出来てるものなのでEMPグレネードを食らうと少しの間は死と同義の状態になります」
花陽「だから今のことりさんは仮死の状態にあります」
絵里「仮死…」
花陽「だからEMPグレネードというのはアンドロイドに対して絶大な効果を発揮するんです」
絵里「なるほど…」
ことり『っ!ダメッ!』ドカッ
絵里『っあ!?』
絵里「だからあの時…」
絵里(あの時ことりが私の背中を全力で蹴った理由が分かった)
絵里(私を助けるために蹴ったんだ)
絵里(ことりの反応を見るにことりはあれが何なのか知ってたのでしょう、だから自分を犠牲にしてまで私を助けた)
絵里(…これが考えすぎじゃなければいいけどね)
108: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:29:35.18 ID:Sjljkzyd0
花陽「…これ、ことりさんに使ってあげてください」
絵里「あ、ありがとう」
絵里(花陽さんかた包帯を貰ったからことりの肩にそれを巻いた、ことりも果南と一緒で当分は戦えないだろう)
花陽「これからどうするんですか?」
絵里「……分からない、けど逃げるよりかは攻める、その方針だけは固まってると思う」
花陽「逃げるより攻める…なるほど、でしたらY.O.L.Oに行ってみてはいかがですか?」
絵里「よーろ?」
花陽「はい、You Only Live Onceの略らしくて人生は一度きりという意味らしいですが、戦いの中だとY.O.L.Oというのは最前線へ突っ込むことを意味するらしいです、だから一部に兵士や偉人は攻める時に“Y.O.L.O!”と叫びながら敵の本陣へ走ったと聞きます」
絵里「へぇ…」
花陽「…あ、すいません。Y.O.L.Oというのは対アンドロイド特殊部隊兼それ以外の部隊などに武器や道具を作っている研究所みたいなところです」
花陽「つまりは武器庫です」
絵里「なるほど…武器庫…もしそこを落とせれば…」
花陽「はい!根本的な戦力の低下を強いることが出来ると思います」
絵里「…いいわね、そうしようかしら」
109: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:31:14.02 ID:Sjljkzyd0
花陽「爆破でもなんでもしちゃえばいいと思いますっ私は戦闘には参加できませんけど、情報くらいなら提供できますのでどうぞ気になることがあったら聞いてください」
絵里「ありがとう、助かるわ」
絵里(いい情報を手に入れた、よく分からないけど花陽さんは私の力になってくれるらしい)
『花陽です!私…花陽って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「………」
絵里(あの時から思ったけど、こうやって話して犯罪者である私に協力するなんて改めて変な人だと思った)
絵里(見た目や話的に単純そうに見えたけど、笑顔から零れる宝石のような瞳は何か深いモノを持っているような気がしてならなかった)
花陽「え?もう行っちゃうんですか?」
絵里「とりあえず戻るわ」
花陽「でも外は…」
絵里「分かってる、でもここでうかうかなんかしてられない」
絵里「私には仲間がいる、その仲間に心配をかけられないわ」
花陽「…分かりました」
絵里(紅茶を半分飲み終えた頃、私はことりをおんぶして出口へと向かった)
110: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:32:47.65 ID:Sjljkzyd0
絵里「今日はありがとう、この恩は忘れないわ」
花陽「いえ、恩とかそんなのは気にしなくて大丈夫です」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私の言いたいことを全部まとめた上で出てきた言葉は“ごめんなさい”だった)
絵里(今は花陽さんにお返しする余裕がない、自分のことだけで精一杯だった)
スタスタスタ
花陽「…あ、あの!」
絵里「ん、何?」
花陽「…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います」
花陽「明日には死んでるかもしれない、些細な出来事で全てが崩れてしまうかもしれない」
花陽「もしかしたら私が裏切り者かもしれない」
花陽「…それでも、絵里さんは戦いにいくのですか?」
絵里「……ええ、もちろんよ」
絵里「もうトリガーを引いたからには戻れないの、これは生半可な覚悟でやってる遊びじゃない」
絵里「殺し合いを今――――私たちはしてるの」
絵里「…そこにルールなんてない、勝った者が正義と言われ、負けた者が悪と言われるそんな理不尽極まりないクソまみれの世界で私たちは戦っているの」
絵里「もはやあなたが裏切り者だろうと関係無い」
絵里「相手が人間だろうとアンドロイドだろうと、銃弾で貫けば終わりなんだから」
111: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:34:28.11 ID:Sjljkzyd0
花陽「…そうですか、流石絵里さんです。聞いた私がバカでした」
花陽「…次いつ会えるかは分かりません。でも、“また今度”はあると思います」
花陽「だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪」
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(どこか意味深では儚げな顔をして花陽さんは私を見送ってくれた、出口を抜けた私は真姫にメールで今日はいけないとメッセージを送り私たちの家である別荘へ向かった。武器はまた今度になりそうね)
タッタッタッ
絵里(路地裏を使って監視の目をやり過ごす、クソみたいな街のクソみたいな警備なんてちょろいもんよ)
絵里(街を抜ければ後は別荘へ戻るだけ、森の奥だから誰もいないし後は歩きながら帰った)
スタスタスタ
絵里「…ふぅ」
絵里(今日のことを見て、やっぱり一筋縄ではいかないなと実感する。にことあのスナイパーは脅威、直線状のフィールドで目をつけられたらひとたまりもないでしょう)
絵里(だからこそ今は戦力が欲しい。現状戦えるのは私と善子しかいないし、まさかこの期に及んで果南を戦力にいれるなんて世迷言をいうはずもない)
112: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 21:36:11.35 ID:Sjljkzyd0
ことり「………」
絵里「………」
絵里(ことりだって無理だろう、そもそも仲間ですらないし)
絵里「どうしたものかしら…」
絵里(後一人いるだけでもだいぶ違う、でも私の知り合いに戦ってくれそうな人はいない)
花陽『…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います』
絵里(Y.O.L.Oへ向かうかもとは言ったけど、今戦える私と善子の二人だけで向かうのもまた無茶のある話。こんな閉鎖的な状況だけど負け戦上等なわけじゃない、何か…何か状況を変えてくれるトリガーが欲しかった)
114: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:17:09.54 ID:Sjljkzyd0
ことり「ん……」
絵里「!」
ことり「……あれ、ここは」
絵里「目が覚めた?」
ことり「あなたは…っていったた……」
絵里「肩を撃たれたんだから痛いに決まってるわよ」
ことり「………」
絵里『ことりっ!』
ことり「…助けてくれてありがとう」
絵里「……いいのよ」
ことり「なんで私を助けたの?」
絵里「…なんでかしら」
絵里(自分でもよく分からなかった、なんでだろう、なんでなんだろう。考えれば考えるほど、疑問は深みに落ちてゆく)
115: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:18:19.75 ID:Sjljkzyd0
絵里「…助けるのに、理由なんてあるのかしら」
ことり「え?」
絵里「…ごめんなさい、私もよく分からないの」
絵里「殺されそうになったことりを見たら、この前のこととかどうでもよくなってとにかく助けなきゃって思ったの」
ことり「…そっか」
ことり「……でも、良かったの?あなたはますますあそこの部隊に目をつけられることになったんだよ?」
絵里「いいの、結果でどうであろうとあそこでことりを見殺しにしたら私は一生後悔すると思うから」
ことり「…変な人だね」
絵里「…ええ、そうかもしれないわ」
ことり「これからどうするつもり?」
絵里「家に帰るわ」
ことり「家?」
絵里「私の知り合いの別荘を借りてるの、もういつも住んでた場所にも住めないもの」
ことり「…そうだね」
116: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:19:10.16 ID:Sjljkzyd0
絵里「ことりもしばらくは私たちの住んでる別荘にいなさい、経緯でどうであり同じ状況にいるんだから」
ことり「…私たち?」
絵里「…果南って覚えてる?」
ことり「…!うん」
絵里「その子と、善子って子と私の三人で住んでるの」
ことり「………」
絵里「…大丈夫よ、果南も善子も優しいから」
ことり「……うん」
絵里(果南と殺し合いをしたことりの気持ちはよく分かる、それにことりは…)
絵里「…そういえばさ」
ことり「何?」
絵里「…私の知り合いから胸を撃たれたって聞いたの、大丈夫?」
ことり「……大丈夫なわけないじゃん」
ことり「大丈夫なわけないじゃん!?」
絵里「わっ…!」
絵里(逆鱗にしまったのかもしれない、ことりは怒号を私に散らした)
117: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:20:24.15 ID:Sjljkzyd0
ことり「私ね…笑えなくなったの…!」
絵里「笑えなくなった?」
ことり「感情の欠如だよ、果南って人に胸を撃たれて私の心から喜びという感情が消えた」
ことり「だから私は笑えない、怒るとか泣くとか悲しむとかは出来ても喜ぶことは出来ないの…」
絵里「それは…ごめんなさい」
ことり「…いいよ、もう」
絵里(失ったモノはイヤでも現実を見せてくる、銃弾は命だけでなく心を溶かし、視界を赤で染める)
絵里(力強く引かれたトリガーを始まりとして放たれた銃弾は運命を変える、それはいい意味でも悪い意味でも)
絵里「…果南とは居づらいと思う、なるべく私がいるようにする。だからことりもそこは我慢して」
絵里「ことりに死んでほしくないの」
ことり「…分かってる、私だって死にたくない」
絵里「ありがとう」
ことり「…それ私のセリフ」
絵里「ふふふっごめんなさい」
絵里(道徳的に優れてるとは言えないけど、ことりはしっかりしてる人だ。だから理解はちゃんとあるしこういう時わがままを言う性格ではない)
絵里(これからどうなるのか不安になる半面、またあそこが賑わうかもしれないと思い嬉しいところもあった。仲間はいっぱいいてくれた方が安心できるしね)
118: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:21:21.35 ID:Sjljkzyd0
ガチャッ
絵里「ただいま~」
善子「おかえ……」
ことり「…おじゃまします」
善子「…り?」
果南「おーおかえー…ってあれ?南ことり?」
ことり「………」
絵里「…あはは、ごめんなさい。向こうでちょっとあってことりも一緒に住むことになったの」
善子「はぁ!?」
果南「あははっ!いいじゃん面白そう」
善子「別に住むのはいいけど大丈夫なの?果南とやり合ったって聞いてたけど…」
絵里「むしろ果南とやり合ってこうして生きてるんだから大丈夫に決まってるじゃない」
善子「いやそういう問題じゃなくてね…」
119: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:22:04.26 ID:Sjljkzyd0
果南「別に大丈夫だよ、善子も見ればわかるでしょ?ことりは私と同じで大きな傷を負ってる、つまり戦えないんだよ」
善子「あ、そっか。やっぱり堕天使ヨハネには敵わないのね…」
ことり「…?」
絵里「あはは…気にしないで、善子のプログラムちょっとバグってるから…」
善子「バグってなんかない!後ヨハネ!」
果南「まぁお荷物同士仲良くやってこうよ、私も生憎戦えない体だから」
ことり「お、お荷物……」
善子「…あれ?そういえば武器は?」
絵里「ことりを運ぶのを優先したわ、だから今日はいけないって真姫に連絡しといたわ」
果南「そっか、まぁ仕方ないね」
絵里「ええ」
絵里(果南も善子も正直受け入れてくれるか心配だったけど思いのほか納得が早くて助かった。話が終われば二人はリビングの方に行くから私とことりもリビングに向かった)
120: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:22:53.66 ID:Sjljkzyd0
絵里「あ、ごめんなさいお茶いれるわね」
ことり「…ごめん」
絵里「謝らなくたっていいわよ、普段通り過ごしてて」
果南「何があったの?」
絵里「にこに殺されそうになってることりを助けたのよ」
善子「…は?にこに殺されそうになってるってどういうこと?」
ことり「…私は処分対象になったらしい、だから殺すって」
果南「なにそれ…」
善子「…果南と同じね」
絵里「…もしかしたらアンドロイドの大量殺戮は始まってるかもしれないわね」
善子「大量殺戮ってそんなまさか…」
果南「少なくともここにいる四人は殺戮対象だね」
ことり「………」
121: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:23:49.28 ID:Sjljkzyd0
善子「…どうする?ますます私たちじっとしていられないわよ」
絵里「そのことなんだけど、Y.O.L.Oってところを攻めたいの」
果南「Y.O.L.O?」
ことり「…!知ってる、政府の武器庫でしょ」
絵里「ええ、AAの武器や道具を作ってるところよ」
善子「政府の武器庫…確かにそこを落とせれば大きいけど戦力があまりにも少なすぎない?果南とことりは戦えないじゃない」
絵里「…そこなのよ、だからどうしようか悩んでるのよ」
ことり「…ごめん」
果南「あはは…ちょっと笑えないかも」
絵里「二人はそんな気負う必要はないわ、仕方のないことよ」
善子「…ダメ、私と絵里じゃ多分落とせないわ、政府の武器庫なんて言われてるようじゃそこに武力を割いてるに決まってる。一般的に訓練された兵ならともかく超一流が三人でもこられたら私たちどうすることも出来ないじゃない、絶対に攻める場所を変えるべきだわ」
絵里「…ふむ」
122: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:25:09.17 ID:Sjljkzyd0
ことり「…なら私から提案がある」
果南「何?」
ことり「……渡辺曜を殺すべきだよ」
善子「渡辺曜?」
絵里「誰それ」
ことり「絢瀬絵里ならわかるでしょ?さっきのスナイパーだよ」
絵里「! あいつが…」
ことり「渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊の主力だよ、攻めあぐねてるなら今すぐにでも渡辺曜を殺すべきだよ」
123: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:26:29.50 ID:Sjljkzyd0
果南「ちょっと待って、主力って具体的に何を意味して主力って言ってるの?」
ことり「…あいつは化け物だよ、一回だけ戦ったことがある」
善子「渡辺曜ってやつと?」
ことり「うん、生意気にも人間のクセに私に挑んできたからね」
絵里「それで何がすごいの?その渡辺曜って人は」
ことり「…渡辺曜はほぼ全ての武器が使える」
果南「わお」
善子「なるほどね」
絵里「そういうこと…」
ことり「私は近距離ならこのタウルス・ジャッジと格闘術を使うけど、中距離以上ならアサルトライフルで対応する。そうやって人それぞれ戦術があるの、あなたたちもそうでしょ?」
善子「まぁ確かに…」
果南「あはは、私はそういうの考えたことないや。火力があれば何でもいいって感じだったから」
善子「やっぱり脳筋じゃない…」
ことり「…私たちにはそういう不向きとかがあっても渡辺曜は違う、あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う」
絵里「そんななの…」
124: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:28:28.68 ID:Sjljkzyd0
ことり「しかも渡辺曜が化け物なのはそれだけじゃない」
果南「何?まだなんかあるの?」
ことり「…あいつがEMPグレネードを作った」
絵里「EMPグレネードを!?」
ことり「うん…渡辺曜は私と同じで投擲物大好きな人だからそこで閃いた…んだと思う」
絵里「閃いたって…閃いたとしてもそれを可能とする技術が」
ことり「ある」
絵里「!」
ことり「渡辺曜にはあった、元々渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊に入る前は戦闘員じゃなくて銃火器を設計したりアタッチメントを開発したりしてた、だから何かを創ることに対しては長けてる」
125: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:30:05.27 ID:Sjljkzyd0
ことり「渡辺曜の口癖はヨーソロー…うん、ようそろ」
ことり「そんなようそろという言葉からうそを抜けば“よろ”という言葉が残る、それをローマ字に変換してYOLOで、YOLOっていう言葉には“人生は一度きり”という意味がある」
ことり「…ここまで言えばわかるよね?」
善子「…さっき言った政府の武器庫のこと?」
ことり「そうだよ、渡辺曜は私に言ったよ」
ことり「ヨーソローという言葉が私に答えをくれる、と」
果南「…深いんだね」
ことり「うん、つまりY.O.L.Oというのは渡辺曜が創った基地、EMPグレネードを作るし戦闘面でも相当だしそんな人を生かしておいたらどんどん不利になっていくと思う」
絵里「…なるほど、それはまずいわね」
126: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:30:38.45 ID:Sjljkzyd0
善子「相手が一人だけなら私たち二人でも戦える…うん、それがいいわ」
善子「渡辺曜ってやつを殺しに行きましょう」
絵里「…了解、いいわよ」
ことり「……油断しちゃダメだからね」
果南「なんか不安だね…」
絵里「大丈夫よ、こっちは二人なのよ、有利は取れるはず」
ことり「…それを油断って言うんだよ」
果南「確かに」
絵里「………」
127: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:31:54.92 ID:Sjljkzyd0
善子「…とりあえず作戦の決行はいつ?」
絵里「どう考えても夜中ね、というか家とか分かるの?」
ことり「任せて、渡辺曜、矢澤にこ、園田海未の家ならわかる」
絵里「おお、流石ね」
果南「なんで知ってるの?」
ことり「……寝てる時に殺そうと思ってつけたことがある」
善子「うわー執念深っ…」
ことり「あそこの部隊は一生私の敵だろうから」
絵里(この思い切った作戦にことりがいてくれてよかった、ことりの過去に幾度となく戦ってきたであろうそこから得た知識は計り知れない価値があって利益を求めてたわけじゃないけど、ことりを助けてよかったって思った)
128: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:32:46.18 ID:Sjljkzyd0
善子「絵里は武器どうするの?」
果南「攻めるなら早いうちに攻めた方がいいよね、膠着状態にならないように」
絵里「…明日真姫の家に行って武器貰って決行?」
ことり「いや、いい」
絵里「え?」
ことり「私の銃を使って、決行は今日。図られないうちに行こう」
絵里「え、でもいきなり渡されてもブレとかレートとかよく分からないし…」
ことり「…そこはなんとかして」
善子「なんとかしてって…」
129: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:33:57.94 ID:Sjljkzyd0
絵里「ちなみにどんなの持ってるの?」
ことり「これ」
善子「アサルトライフルよね?」
ことり「そうだよ、QBZ-03っていうの」
果南「へー…タウルス・ジャッジなんて持ってるんだからもっと特徴的なの持ってるのかと思ったら意外にもスタンダードなんだね」
ことり「タウルス・ジャッジは近距離を強くするために使ってるだけだもん、アサルトライフルは使いやすいやつを選ぶに決まってるよ」
果南「まぁそうだね」
ことり「マガジンはあるよっ」
善子「どっから出してんのよ…」
ことり「スカートの裏側につけてるの、マガジンポケットの為に武装なんてしてたら目立つし仕方ないの」
善子「でもプライバシーってものがあるでしょ?パンツとか見られても大丈夫なわけ?」
ことり「…えっ確かに私パンツ見られてるのかな…?そう考えたら急に恥ずかしくなってきた…」
善子「はぁ?」
果南「あはは、なにそれ」
絵里「あははは…」
130: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:35:56.08 ID:Sjljkzyd0
ことり「むーとにかく私の銃を使って、クセとかないから多分使えると思うから」
絵里「うーむ…」
果南「…まぁいいんじゃない?QBZ-03はことりの言う通りクセが無くて使いやすい銃だから初めて使う絵里でも問題なく使えると思う」
善子「…ノーコメントで」
絵里(迷いに迷った結果ことりの銃で戦う事が決まった、そうと決まれば色々準備が必要だった)
絵里「もしここに攻めて来たら全力で逃げて、追手をまけそうだったら真姫の家に向かって。状況を説明すれば匿ってくれるはずだから」
果南「了解だよ」
カチャッ
善子「…私は準備いいわよ」
果南「わお、様になってるね」
絵里「善子似合いすぎでしょ…」
絵里(私たちが通ってる制服の上に防弾チョッキを着て、そこから更に紺色のマガジンポーチをつけて腰に拳銃をかけて両手でサブマシンガンを持つ、そしてカチューシャのように頭につけるマイク付き通信機をはめて、まさに善子の姿は戦闘員だった)
131: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:36:44.46 ID:Sjljkzyd0
果南「そういう絵里も似合ってるけどね」クスッ
絵里「そうかしら?」
絵里(私も善子同様制服の上に防弾チョッキとマガジンポーチをつけてるのだけど、頭につけてるものは違う。私はカチューシャのようなものではなくてヘッドホンタイプの通信機をつけて、更にリュックを背負っている)
絵里(このリュックは普通のリュックとは違って肩にかけるだけじゃなくてかけた後に腰にベルトを巻くリュックで、こうすることで激しい動きをしてもリュックが体から離れることはない)
絵里(そしてそのリュックには通信機のアンテナと投擲物や怪我の応急処置が出来る物などとりあえず持っておいて損はないであろうものが入ってる)
果南「大丈夫?忘れ物はない?」
絵里「ええ、大丈夫よ」
善子「私も」
ことり「…気を付けてね、渡辺曜は強いから」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ここから先は遊びじゃない、私たちの命を賭けた最初で最後になるかもしれない戦い)
絵里(必要な情報は出揃ってる、後は実行に移すだけ)
132: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:37:39.69 ID:Sjljkzyd0
ことり「…いってらっしゃい」
果南「死なないでよね」
絵里「ええ」
善子「もちろんよ!堕天使ヨハネに敗北の二文字は」
絵里「じゃあいくわね」
善子「最後まで言わせなさいよぉ!」
絵里(真姫に連絡をした、今日でお別れかもしれないってただその一言だけを送った)
133: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:38:42.23 ID:Sjljkzyd0
タッタッタッ
絵里「………」
善子「…緊張してる?」
絵里「…当然よ」
善子「どうする?ここで私たち死んじゃったら」
絵里「…アンドロイドは一生モノであり続けるでしょうね」
絵里「アンドロイドは頭の良い生物よ、頭の良い生物なら負け戦なんてしようとは思わないでしょ?」
絵里「死ぬリスクを背負うより、差別を受けながらも生きれる道を選びたいものなのよ」
善子「……じゃあ私たちはバカなのかしら?」
絵里「…バカなのかもしれない」
絵里「けど、正義がどうであるべきか分からない臆病なアンドロイドにはなりたくない」
絵里「私は変わらないこれまでよりも変わってくこれからがみたいの」
絵里「…それがバカな私なりの考え」
善子「……間違ってないと思うわよ、それ」
134: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:40:47.13 ID:Sjljkzyd0
善子「…この前言ったわよね、戦う事に意味があるとは思えないって」
善子『私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの』
絵里「ええ」
善子「もう、そうは思わない」
善子「…ねえ、なんで私が戦いをしたくないか知ってるでしょ?」
絵里「…ルビィよね」
善子「正解、ルビィよ」
タッタッタッ
善子「……懐かしいわね、もう数年喋ってないわ」
絵里「…ええ、喋ってないわね」
善子「“あの時”からもう戦わないって心に誓った、戦闘型アンドロイドは戦闘をするアンドロイド、だけどそんな戦闘型アンドロイドの私が戦闘をしないっていうイレギュラーを発生させたのは――」
善子「――――どうにもこうにも、ルビィのせいなのよ…」
絵里「…やめましょう?あなたの過去は美しいものじゃないはずよ」
善子「…ええ、でもこれだけは言わせて」
善子「……私はルビィとの約束を守れない」
絵里「…良いと思うわ、ルビィもきっと許してくれる」
善子「…そうだといいんだけどね」
135: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:43:30.90 ID:Sjljkzyd0
絵里(暗い話をしながら夜の街を駆ける私たちに街灯の淡い光は眩さを描いてた、曜の家は住宅街にある一軒家らしくて真っ暗な夜道の闇に紛れ着々と曜の家との距離を縮めていった)
絵里(私は毎時賑わう大都会のマンションに住んでたからよく分からなかったんだけど、こういう住宅街っていうのは夜中だと私たちを照らしてくれる光があまりなく視界があまりよくなかった)
絵里(…それ故か、いや関係無いかしら。次の瞬間には闇に映るたった一つの光が状況を変えた)
キランッ
絵里「っ!」
善子「スナイパーよ!隠れて!」
プスッ
絵里「…!スナイパーってこんな銃声だっけ?」
善子「…いや違う、多分サプレッサーをつけてる」
絵里「サプレッサー?」
善子「銃声を抑えるアタッチメントよ、これで銃声による位置の捕捉がされにくくなるの。ただその分弾の威力を減らすからリスクもあるわ」
善子「…もちろん人を殺す威力であるのは変わらないけど」
絵里「…なるほど、厄介ね」
絵里(向かい右側にある屋根から見えた煌く白の光に私たちはすぐ反応してすぐそばにあった曲がり角を曲がって死角へと逃げた)
136: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:44:58.79 ID:Sjljkzyd0
善子「めんどくさいわね、どうする?」
絵里「どうしましょう…か、難しい選択ね」
絵里(相手がスナイパーじゃ容易に顔を出すことが出来なくて視界も悪いし無防備に前へ出れるはずもなく中々動ける状態じゃなかった、これはゲームじゃない、死んでも復活しないし銃弾を受けてもすぐに回復なんかできない)
絵里(だからこの選択は非常に重要なものだった、一つ間違えただけで死が待ってる。脳死な行動は出来ないしよく考える必要があると私は思った)
「悩んでる暇なんてあるん?」
絵里(深く考えてる時、声がした。それは不意によく反響して)
絵里「!」
絵里「っ!どこっ!?何!?」
絵里(反響のせいか、声の発生した場所が分からなかった。左なような右なような曖昧な感覚だけが私を引っ張ってパニックになった)
絵里(けど、電柱にくっつく防犯灯の光が答えをくれて揺れだした気持ちはすぐに収まった)
絵里「…!上…!」
絵里(私の影に誰かの影が重なったのを見て気付いた。そしてそれは一目見て善子じゃないことが分かった、何故ならそいつは宙に浮いていたから)
137: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:48:38.78 ID:Sjljkzyd0
「悪く思わんといてねっ!」
絵里「そんなっ!」
絵里(上を見て私が思わず叫んだ、善子は今どうしようとしてるのかしら。それを確認することすら出来ないくらいに刹那の出来事で、私たちはどこを向いてようとどんなスピードだろうとアンドロイドだけが見える銃口から放たれる射線さえ確認すれば回避行動に移れるけど今回はその射線が確認出来なかった)
絵里「そんなのあり…?」
絵里(そして上を見て今更ながら相手の銃口の向きを見て射線を確認出来ない理由を知った)
絵里(相手の持っていた銃はショットガン二丁で、それをそれぞれ片手で持ち腕をクロスさせた状態で私の頭上に来た、それはつまり銃口は空を向いてるのだから私が射線を確認出来るわけがない)
絵里「…っ」
絵里(上を見た瞬間横向きに高速回転をしながら落ちてきたもので面食らって怯んでしまった。こんな動きが出来るやつがこの世にはいるんだ、世界の広さと私の知ってる世界の狭さを知った気がした)
絵里(二つのトリガーを引くことで数えきれない散弾が私に向かって飛んでくる、一つの跳躍じゃ完全に回避しきるのも無理がある)
絵里(なんで世界は私を嫌うのだろう、なんで世界は私を殺したがるんだろう。なんで神様は私を生んだんだろう)
絵里(死を悟った瞬間、目が光を通さなくなった。戦いってこんなあっけなく終わってしまうものなのね、理解した私は今までの人生がバカらしく思えた)
絵里(千歌との出会いも、亜里沙との出会いも、果南との出会いも、全て全て無駄だったって思うと私の全てが石になってしまうような気がした)
138: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:50:05.76 ID:Sjljkzyd0
善子「絵里!もうなんでもいいからとにかく避けて!避けなさいよっ!」
絵里「!」
絵里(後ろから声が聞こえる、善子の声…今の善子はどんな顔をしてるんだろう)
絵里(分からないけど必死だった、きっと善子にも見えてるのだろう、私があのショットガン二丁の散弾を避けれる確率が。だからこそ必死だ)
絵里(でも私だって必死よ。アンドロイドとして誇らしく行きたくて、人間と並んで行きたくて、いつか夢見てたいつだって笑顔になれる日々を目指して引いたトリガーはこんなにも浅かったのかしら)
絵里「…違う」
絵里(それは断じて否、命を賭けてまで果南を助けて、原因も分からずに湧き上がる心の何かに感化されことりまでを助けてここまで来てやっと引導を渡すって時に)
絵里(散弾を体に埋め込まれて死亡なんてそんな最悪な終わり方は……ごめんでしょ!?)
139: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:51:33.84 ID:Sjljkzyd0
絵里「まだ終わってないッ!」
『回避行動分析、射線を計18本確認、存在する回避ルートは一つ』
絵里(ありふれたハッピーエンドでもいいの、ただ私はバッドエンドじゃなきゃよかったの)
絵里(諦めきれない気持ちは私に再び光を宿した)
絵里(このまま終わるだなんて、そんな最低な終わり方を迎えたくない)
絵里(神にはもう頼らない、私自身が…私の引いたトリガーで――)
絵里(――――運命を変えるの)
『回避率99.9パーセント』
絵里「はっ!」ドドドド
「えぇっ!?なんやそれ!?」
絵里(覚悟を決めた私は素早く後ろへと飛び退け、その瞬間に前へアサルトライフルを発砲した。するとどうだろう、微量とはいえ発砲した勢いから作られる慣性が私の跳躍を勢いづけた)
絵里(ある程度宙に浮いてることに自覚が持てた頃には地面に叩きつけられるよう落ちる複数の銃弾が光に反射して良く見えた、まるでそれは雨のようだった)
絵里(また、その光景を見て尚体が動くのならきっと私は生き延びたのでしょう)
140: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:53:55.60 ID:Sjljkzyd0
絵里「…くっ!」
絵里(そして私は吹き飛ばされたかのように背中から地面へと不時着する)
善子「絵里、大丈夫?」
絵里「なんとかね」
絵里(善子は駆けよって私を起こしてくれた、ただ安心してる暇などない)
「あなた面白いやんねっ!」ブンブンッ!
絵里(空からやってきた謎の相手は私たちに超接近して、姿勢を低くし舞うように二丁のショットガンを振り回しながらショットガンを撃ってた)
絵里「っ!」
善子「なによそれ!?」
絵里(するとどうだろう、放たれた銃弾は壁や地面に穴を開けるものもあれば跳弾して様々な方向へ飛び散るものもあり、そんな跳弾は右から左へ、左から右へと舞ってた)
善子「絵里!」
絵里「分かってる!」
絵里(平面で回避するのは無理があるというのはアンドロイドなら誰しもが分かること、だから私たちは近くにあった一軒家の塀を上ってそのまま屋根へと飛び移った)
141: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:55:16.79 ID:Sjljkzyd0
善子「何なのあいつ…」
絵里「果南以上に攻撃的なやつね…」
絵里(黒色のショットガンを二丁下げてマネキンのような顔をした真っ黒の仮面をかぶって私たちを見てた、相手の周りに出来た無残な穴を見ると寒気がする)
「ウチのあの攻撃を初めてみてあの避け方は流石アンドロイドやね」
絵里「…あなたは誰?」
「んー?ウチかー死神かなぁ」
善子「死神?随分と厨二なのね」
絵里「いやそれ善子が言えたことじゃないでしょ…」
善子「これはプログラムなのよ!」
142: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:56:20.34 ID:Sjljkzyd0
「ふふふっ仲がいいんやね」
善子「っ…仮面をしてるのは何故?」
「生きとし生ける者、顔は大事なんやで?戦うモノとして顔を相手に教えて戦うなんて意識が低いもいいところ、日常で狙われたらどうするん?」
絵里「…なるほどね」
「…それに、生憎ウチは殺し屋をやってるもんでね。尚更顔は見せられないんよ」
善子「ふーん殺し屋ね…殺害対象は私たち?」
「ご名答やね」
絵里「そう、でも生憎私たちは殺されるつもりはないわ」
「知ってる知ってる、でもそういう意思を持ってる人を殺すのが」
「殺し屋の流儀ってもんやない?」クスッ
善子「…狂ってるわ」
「ふふふっありがとな」
善子「ちっ…何なのこいつ…」
絵里「………」
絵里(私たちは今とんでもない相手と対峙してるのでしょう、あの舞うような動きは訓練しても尚そう簡単には出来ない動き、それにショットガンを片手に持って何発も撃つのよ、どう考えても普通じゃないわよ)
143: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 22:57:51.61 ID:Sjljkzyd0
絵里「…あなたアンドロイド?」
「…どっちだと思う?」
絵里「……アンドロイドかしら」
「ふふふっ答えはね…」
絵里「………」
「…ウチを殺して首を見れば分かるよっ!」ポイッ
善子「っ!」
絵里(そう言った瞬間ピンを抜いた手榴弾が飛んできた、すぐに反応した私はPR-15でその手榴弾に向かって発砲、私たちに届く前に弾が命中して空中で大爆発を起こした)
絵里「くっ…」
善子「絵里、反応早かったわね…」
絵里「負けたくないからね…んん…」
絵里(爆風は近場だったから相当なもので、風圧がとにかくすごかった。気を抜いたら吹き飛ばされてしまいそうなほどに)
144: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:00:08.43 ID:Sjljkzyd0
絵里「…!おっと」
絵里(そして次に襲ってきたのはどこからか飛んできたスナイパーの弾、銃声は爆風とかも相まってほとんどしなかったけど何故か回避出来た…いや、そもそも私は避けたのかしら?)
絵里(ともかく、この時点で敵は二人いることになる。ショットガンの相手は紺色の武装はしてたけどスナイパーは持ってなかった、つまりどこかに二人目がいる)
「よっと、あれを打ち落とすとはますますあなたが気になるやん!?」ドカッ!
絵里(爆風で怯んである間に相手も屋根の上に上ってきて今度はショットガンを鈍器として扱ってきた、それはまるで二つの剣を持っているようなガンソード二刀流だった)
絵里「っ…」
絵里(私はその二つのショットガンの打撃をアサルトライフルのグリップと銃口を掴んで、アサルトライフルを盾代わりにして受け止めた、爆風が無くなった頃に突然来たから避けるという選択肢は無くて銃が壊れてしまうのではないかと不安になる猛攻に思わず冷や汗が流れた)
絵里「はぁっ!」
「ぐあっ」
絵里(しかし私も受け手に回ったままではない、攻撃に集中してたせいか下半身ががら空きだったからすかさず足払いをして相手を宙に浮かせた)
善子「はっ!」ドカッ
絵里(そして相手の後ろを取っていた善子は宙に浮いた相手の背中に飛び膝蹴りをかまして相手は声も出せなかったのか勢いよく吹っ飛び屋根から落ちていった)
善子「…流石に死んだでしょ」
絵里「す、すごいわね今の」
145: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:04:44.93 ID:Sjljkzyd0
カランッ
絵里「!」
絵里(そんな時足元で嫌な音がした、すぐさま下を見れば月のアイコンが刻まれたピン抜きの手榴弾が転がっててすぐに察した)
絵里「逃げてッ!」
善子「嘘でしょ!?」
ドカーンッ!
絵里(大爆発――もはやあの時点でダメージを受けるのは確定的で、その受けるダメージを減らす為に私と善子はすぐさま後ろへ飛び退けた、そしてそれでどうなったのかしら)
絵里「ぐ…けっ…ええ…」
善子「きっ……ぐぅううう……!あの紫髪のやつ…!けほっ…!」
絵里(私も善子も爆発で屋根から突き落とされ固い地面へと叩き落された。善子は胸から叩きつけられたもので肺に衝撃が渡って呼吸がとても不規則な状態に陥り、私は地面に叩きつけられた後塀にぶつかったもので口からは赤が出てきた)
146: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:06:42.05 ID:Sjljkzyd0
「あれーあんまりダメージ食らってないやん」
善子「あんたこそなんでそんなけろっとしてるのよ…」
「元々ウチは受け手やから」クスッ
絵里「…くっあれのどこが受け手よ」
絵里(なんとか立ち上がって相手を睨む、確かにあの時ダメージを与えたはずなのに今の様子を見る限りあんまり効いてる感じがしない。やはり一筋縄ではいかないようね)
「どこ見てるのかな!」
絵里「!」
絵里(アサルトライフルのマガジンはあるものの、リロードするタイミングがない。だからアサルトライフルは背中にかけて拳銃を片手に持った時、それはまた今見えてる相手とは別の声が聞こえた)
絵里「後ろ!?」
絵里(先に後ろを向いたのは私だった、そしてらすぐそばまで近づいてる相手の姿があって次の瞬間には私のお腹目掛けて右ストレートが飛んできた)
絵里「させないっ」
「受け止めるよねっ!知ってるよっ!」ガツッ
絵里「うあっ…!?」
絵里(もちろん私はそれに反応してお腹に当たる直前で受け止めるけど、相手が次に取った行動はその受け止められた右腕を使ってそのまま肘打ちに変更、結果私は胸に肘打ちを受けて後ろへとよろめいた)
147: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:07:32.76 ID:Sjljkzyd0
「はいはい今度はウチの番だよねっ!」
絵里(そして後ろから聞こえる紫髪の声)
『射線確認、回避出来る可能性は――』
絵里(射線を確認した時点でショットガン二丁が私に向けられてることが理解出来た)
絵里(…でも、今の状況はどうしようもなかった。肘打ちを食らって怯んでる状況ですぐに回避に移せるわけがない、アンドロイドは平均より優れてるだけであって万能でも無敵でもない。だからこの状況で突然超スピード回避とかそんな空想上の事が出来るわけない)
148: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:09:17.38 ID:Sjljkzyd0
善子「はいはい、相手は私よ紫髪」ドドドド
「うおっと、サブマシンガンなんて持ってたんやね」
善子「久々に使うから練習相手になってくれない?」
「…いいよ、最初で最後の練習試合にしようか」
善子「ええ、あなたを殺して次から本番ね」
「ふふふっそうなるといいね」
善子「……絵里」
絵里「な、何?」
絵里(お互い背中を寄せて銃を構える、私の構える先にいるのはスナイパーを使っていたであろう相手、善子の構える先にいるのは超攻撃的な紫髪の相手。どちらもおそらくは最強レベルでしょう)
善子「ここから先は一対一でやりましょう、下手にごちゃごちゃするより邪魔が入らない一対一の方が勝てるでしょ?」
絵里「…ええ、そうね」
善子「……信じてるから」
絵里「…勝って会いましょうね」
善子「もちろんよっ!堕天使ヨハネ任せなさい」
善子「…では、堕天っ!」ダッ
絵里「ええっ!」ダッ
絵里(反撃の狼煙はここから上がる、お互い相手へと走り出して発砲する)
149: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:13:54.33 ID:Sjljkzyd0
絵里「せやぁっ!」
「あまり勝てるとは思わないほうがいいよっ!」スッ
絵里(相手は私と同じよう銃弾を避けるもので、近づいて格闘術で攻める。拳銃のグリップの部分を使って喉元を叩こうとするが簡単に手首を掴まれてしまう――けどそれは知ってる、ことりと戦った時も同じ事を思ったはず)
絵里「そっちがねっ!」
絵里(この戦いにおいては攻めた方が勝ち、なら無理やりにでも攻撃を通すのがいいと判断した私はそのまま前方宙返りをしてかかと落としをした)
「ふふふっ分かってるよ、あなたがそれをやるのだって」
絵里「っ!?」
絵里(しかし次の瞬間には相手が私の作った回転の慣性を利用して私の手首を掴んだまま宙返り、その結果私は地面へと強く叩きつけられた)
絵里「いぎっ…」
「これでフィニッシュ!」バンッ
絵里「…!ふっ」
絵里(休む暇なんてない、叩きつけられうつ伏せで倒れる私に放たれた拳銃の銃弾に対して左に転がり回避してすぐに起き上がり銃を構える。相手は笑ってるけど私は至って真剣な表情、これが今の実力の差を表していた)
「それを回避するなんて、やるね」
絵里「それはどうも」
「私知ってるよ、あなた絵里さんでしょ?」
絵里「…じゃああなたは渡辺曜?」
曜「そうだよ、私は渡辺曜だよ」
150: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:15:36.73 ID:Sjljkzyd0
絵里「あなたが…」
曜「私の事は多分ことりちゃんから聞いてるんじゃない?」
絵里「…ことりちゃん?」
曜「気にしないで、私がそう呼んでるだけだから」
絵里「ふーん…」
曜「…にしてもやっぱり絵里さんは頭がいいね」
曜「作戦実行のタイミングと、その作戦内容。そうだよね、EMPグレネードを作ってる私を殺すのが一番頭のいい行動だと思う」
曜「…でも、だからこそその作戦は読めてたよ」
絵里「なるほどね、だから先手を打たれたわけね」
絵里「…でも、おかしくない?それならにこや海未…その他の特殊部隊の人を呼んでくればよかったじゃない、穏便に済ませたいっていうならあの紫髪みたいに手榴弾なんて使わないでしょ?」
曜「あはは、流石にどこから来るかは読めないからそこまで高度な事は出来ないし、みんながみんな毎時に動けるわけじゃないよ」
151: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:19:25.71 ID:Sjljkzyd0
曜「…っていうのは建前、私ね、この特殊部隊に入ってると同時に飛び込みもやってるんだ」
絵里「…それで?」
曜「私にもスポーツマンシップっていうものがあるんだよ、飛び込みは反則なんてほとんどないけどね。だから私は罠とかそんな姑息な手を使って殺すより面と面を向き合う真剣勝負で勝ちたいんだよ」
絵里「スナイパーの狙撃が真剣勝負って言えるのかしら?」
曜「アンドロイドは音が無くても銃口が向いてるだけ射線を確認するからあれは元から当たらないと思っての狙撃、そもそも対アンドロイドの狙撃っていうのは当てる事を目的とするんじゃなくて動きを制限させるために存在するんだよ」
絵里「へぇ、そんなこと私に教えてもいいの?」
曜「別に教えたところで関係無いと思ったからね、というか本来スナイパーはああいう戦い方をするんだからね?あれで真剣なんだから真剣勝負だよ」
曜「そして、最低限フェアでありたいのが渡辺曜でありますっ!」
絵里「…変わった人」
曜「あははっよく言われるよ、でもそう言った人は全員死んでったけどね」
曜「私に殺されて」
絵里「さぞ悔しいでしょうね、こんなのにやられては」
曜「生憎私は弱くないんでね、この街で一番必要なのは強さだって絵里さんなら分かるでしょ?」
カチャッ
絵里「…どうかしらね」
絵里(相手の武装はおそらく防弾チョッキの上にマガジンポーチをつけて、私と同じでリュックを背負ってる。頭も私と同じヘッドホン型の通信機をつけてて、青色の不思議なゴーグルをかけてた、多分フラッシュに備えたものだと思う)
152: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:20:55.08 ID:Sjljkzyd0
絵里「随分と武装が厚いのね」
曜「使えるものは使う主義なんでね」
ことり『あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う』
絵里「………」
絵里(曜が片手に下げてるのは大きさ的におそらくサブマシンガン、そしてそのサブマシンガンにはレーザーサイトやホロサイトがついていて、よくよく見ると銃のフレームの部分には“YOU”とロイヤリティ溢れるフォントが刻まれていた)
絵里「…スナイパーはどこにやった?」
曜「置いてきたよ、近距離スナイパーなんて出来るはずないしどう考えても弱いからね」
絵里「ふーん…」
曜「…さて、希ちゃんがグレネード使っちゃったからあまり長期戦はしたくないから始めよっか!」
絵里「ええそうねっ!」バンバンッ!
絵里(希ちゃん…?よく分からないけど、私は曜へ向かって二発発砲した)
153: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:22:40.17 ID:Sjljkzyd0
曜「ほ、よっと。ふふふっやっぱり銃弾って遅いね」
絵里「…何?あなたもしかしてアンドロイド?」
絵里(しかし華麗に躱して本人は至って余裕の表情、銃弾を回避するなんてアンドロイドでしか無理なはず)
曜「人間だよ、純度100パーセントの」
絵里「説明になってないわね、ならなぜ銃弾を回避出来た?」
曜「あのさぁアンドロイドっていうのは人間が作ったんだよ?アンドロイドが出来ることは人間も出来るに決まってるじゃん、私たちのしてることは魔法じゃないんだからさ」
絵里「じゃあ何?曜には射線が見えている、とでも言いたいの?」
曜「ふふっ正解だよ、絵里さんと同じような光景が私も見えるんだから」
曜「だから…」
曜「絵里さんも私と同じように避けてよねっ!」ドドドドッ
絵里「!」
絵里(突然放たれる無数の銃弾、それに反応してすぐに私は左へ跳躍、この時点で四発は避けた。そして直地際曜のいる前方向へスライディングをしてすれすれで次来る五発を避ける)
154: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:28:33.35 ID:Sjljkzyd0
絵里「いけっ!」バンッ
絵里(そして一瞬の間も空けずにPR-15を使って三発発砲した、これに対して曜は私に近づくように前転回避を繰り返す)
曜「せやっ!」
絵里(そしてパンチやキックが届く距離まで届けばたちまち起こる接近戦、この場合では銃火器よりも自分の拳の方が信頼できるパートナーとなる。それを分かってる私はもちろん応戦する)
絵里「甘いっ!」
絵里(曜の走りながらの裏拳を体を仰け反らせて回避し、体を後ろに流した勢いをつかってそのままサマーソルトキックを曜の顎にぶつけた)
曜「っ…よっと、流石に浅すぎたかな!」ドドドド
絵里(私のサマーソルトキックを受けた曜は体を仰け反らせて吹っ飛んだけど、すぐに体勢を立て直し着地は両手から入り、そのまま素早く後ろへ飛び退け片手で持ってたサブマシンガンを撃つ)
絵里(私はそれに対し右方向へ移動しながら家の塀を蹴ってバク転をし、計9発の弾を回避した)
曜「そんな避け方ある!?」
絵里「あまりアンドロイドを舐めないで」バンッ
曜「くっ…」スッ
絵里(そしてバク転をしてすぐさま曜の方向を向き発砲、曜は体を少し捻らせて回避をしたけど少しの焦りからか足がよろめいてた)
155: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:30:20.12 ID:Sjljkzyd0
タッタッタッ
絵里(だから私はその一瞬のよろめきを逃しはしない)
絵里「はァッ!」
絵里(わずかながらよろめいて何も出来ない曜に近づいて拳銃のグリップの部分を使って顔目掛けて殴ろうとした。殴る前の動作である勢い付けで拳銃を片手に持ち逆側の肩の後ろ辺りにまで上げてから殴るのだけど、その時見えた曜の顔は力んでいて私は確信した)
絵里(少なくともダメージは入ってるんだってね)
曜「ふぐぅっ…!いっ……き…」
絵里「! 痛くないの?」
曜「痛いよ…!でもこんなの慣れっこだから…ッ!」
絵里(動けない状況だったから限られた選択だったとはいえ曜は片腕で受け止める選択をした。そのせいで受け止めた曜の腕は真っ赤になり、私のダメ押しの力と曜の力が相殺しその中で曜は苦し紛れに笑っていた)
156: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:31:55.24 ID:Sjljkzyd0
曜「…一つ聞いていい?」
絵里「何?」
曜「どうして絵里さんは戦うの?」
絵里「…自分がそうするべきと思ったからかしら」
曜「…答えになってないかな」
絵里「このクソみたいな都市で生きていくには、戦う事も必要なのよ」
曜「あはは、それは私もそう思う」
曜「酷いところだよね」
曜「隔離都市東京――――どうしてこんなに酷いんだろうって今でも時々思うよ」
絵里「………」
曜「ここは過激で、野蛮で、色んなモノに対して冒涜的だよね。治安は悪くないけどぶっちゃけ銃刀法違反とかあんまり機能してない無法地帯だし、正義の味方である警察も独裁的で私から見ても終わってるって思う」
曜「それに、毎日駅前やコンビニで人が銃によって死んでるって思うと滑稽じゃない?可哀想だなって、誰がこの都市のルールを決めたんだろうってそう思わない?」
曜「私毎回思うんだけど、ここは殺戮の美形だよ」
絵里「……意味が分からないわ、そう思うならなぜあなたは戦うの?その考え方はどちらかというと私たち寄りだと思うんだけど」
曜「私は別に戦いたくて戦ってるわけじゃない、この都市だって来たくて来たわけじゃない。元は静岡の内浦ってところでのどかな暮らしを送ってたからね」
絵里「…ならどうしてここにきたの?」
157: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:33:33.29 ID:Sjljkzyd0
曜「…お金が欲しかったんだよ」
絵里「お金?」
曜「この都市は人間とアンドロイドという混沌が存在してた、だからこそここは常に何かで盛り上がってる、最近話題のアイドルってやつもステージはほとんどがここ東京だよ」
曜「そして何より技術が他のところと比べて先行してた。何に対しても盛んな場所により優れた人物が集まるのは世の理とでも言っておこうかな、銃や機器も静岡と比べたら月とスッポンだった」
曜「…でもここは戦闘のプロもたくさんいたよ、人間っていう戦闘のプロとアンドロイドっていう戦闘のプロがね」
絵里「…そうね」
曜「私は小さい頃から銃が好きで、そして何かを作るのが好きだった。だからよく動物を銃で殺してたし爆薬を作ったりして空き地で爆破させてた、ただ勝手に殺すと犯罪になるからなんちゃらハンターとかいってわざわざ資格まで取ったし、何か作るっていう点では機器に興味を持ってそこら辺を学んだ」
曜「そのおかげで私はハンドガンだけじゃなくてスナイパーやライフルも使えるようになった、アタッチメントや装備品なんかにも詳しくなったよ。なんでかって言ったら殺す動物によって使うものが違ったから」
絵里「…なるほど、じゃあ攻撃を受けてもすぐに体勢を立て直して攻撃に転じたり、銃弾を避けたりする運動神経はそのハンターと飛び込みで培ったわけ?」
曜「ふふふっ正解。その頭の回転速度は流石だね、対アンドロイド特殊部隊にも絵里さんみたいな人がいればもっと強かったんだろうなって思うよ」
絵里「…無理ね」
158: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:34:59.04 ID:Sjljkzyd0
曜「知ってる知ってる。それで私は戦闘においてのその腕と技術を買われて対アンドロイド特殊部隊に入ったよ。それと同時に東京へと引っ越した」
曜「そのおかげでお金は使いきれないほどあるし、そのお金で最近はEMPグレネードを作った」
絵里「………」
曜「私はやりたいことを可能にするためのお金が欲しかった、対アンドロイド特殊部隊という命を賭けた戦いをしなきゃならない仕事なだけあってお金は即座に満たされたよ」
曜「生憎私は機器に詳しかったから対アンドロイドにも自信があった、色んな動物の行動パターンを見たりしてそして最後は殺したからある程度それを当てはめてみればなんとかなるものだよ」
絵里「…なるほどね」
曜「でもね、違うだろとかふざけるなとか思うかもだけど、これだけは言わせてよ」
曜「私は銃が好きなだけで、人を殺すのは好きじゃないよ」
曜「…まぁ、対アンドロイド特殊部隊に入って慣れちゃったけどね」
曜「でも人を殺す仕事をしてる私からすればアンドロイドも人間も同じだよ、どっちを殺しても同じように心は痛むし同じような結果を迎える」
曜「こんな事を言っちゃあ台無しだけど私にとってこの都市は踏み台でしかない、アンドロイドが市民権を得てるというのならそれは人と同等に扱われるべきと思ってるしこんなゴミを寄せ集めただけの警察なんか早く滅びてしまうべきだよ」
絵里「………」
159: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:36:21.77 ID:Sjljkzyd0
曜「でも、人間もアンドロイドも全員が正義なわけじゃない。私たちはそいつらを殺すことが仕事、松浦果南は別に悪くないと思うよ、私個人としてはね」
絵里「…なら」
曜「でも私一人の意見で全てが動くわけじゃない、言っとくけど対アンドロイド特殊部隊の中で一番まともなのはどう考えても私だからね、それ以外はみんな狂ってる。だからこそ私の意見なんぞ雀の涙にすらならないよ」
絵里「……ならなんでやめないのよ、お金はもうたっぷりあるんでしょ?ならやめなさいよ……」
曜「そう簡単にはやめれないんだよ、だから今日も私は戦う」
曜「絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ」
曜「死ぬなら、正々堂々戦って死にたいから」
絵里「…つくづく変わった人ね」
絵里(相手がこんな考えを持ってるんじゃやりづらい一方だった。ここまでルール無用の戦いで律儀に戦おうとする人がいるのだろうか)
絵里(正直に言えば仲間にしたかった、いや出来ると思った。考え方は私たちと全く同じだったし今は戦力が恋しい、曜が来てくれれば戦力の増加は計り知れないものだと思った)
160: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:38:46.33 ID:Sjljkzyd0
曜「…じゃあ、始めようか」
絵里(ただ、彼女にその気はないらしい)
絵里(曜がそう言った瞬間には曜から放たれるスタングレネードに目がいった)
絵里「…!っは!」
絵里(私にぶつけるよう飛んで来たらキックで跳ね返した、そうして青白い光が辺りを包み私は両腕で顔を隠しながら後ろへ飛び退く)
絵里「っぶな…」
絵里(着地した頃に眩い光から突き抜けてくる銃弾を体をねじってその勢いのままに近くの壁を蹴って再びバク転で躱し、それでも飛んでくる銃弾はしゃがんで避けて消えゆく閃光へと突っ走り反撃を図った)
タッタッタッ
絵里(走りながらQBZ-03をリロードし、微妙に見える人影に向かって数発発砲した。そしたら予想通りそれを回避してきて、ますます曜は何なのか分からなくなってきた)
161: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:43:13.93 ID:Sjljkzyd0
絵里「はっ!」
絵里(腰にかけてた拳銃で一発撃ち、曜に回避を強要させ隙を作る――その間に曜との距離を詰めてお腹目掛けてパンチをした)
曜「そんなものっ!」
絵里(しかし曜はそのパンチを手のひらで受け止めそのまま私を引っ張り怒涛の膝蹴りを数回放った)
曜「ほらほらっ!」
絵里「ぎゃ…はっ…」
曜「おい…しょっとっ!」
絵里(そしてフィニッシュに飛び膝蹴りで私は宙に浮く)
曜「はいこれで終わりっ!」ドドドド
絵里(吹き飛ぶ私にサブマシンガンを構えて発砲――――もはや奇跡も願えない絶望的状況だった)
絵里「……まだ」
絵里「アンドロイドを舐めないでっ!」ドドドドッ!
絵里(もうダメージを食らうのは確定的、なら死ぬのだけを避けるしかない)
絵里(そう考えを固めた私はアサルトライフルを、私に歯向かう射線に向かって発砲した)
曜「っ!?」
絵里(するとどうだろう、向かってくる銃弾は私の銃弾とぶつかって上へ下へと跳弾していく)
162: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:45:06.11 ID:Sjljkzyd0
絵里「んぐっ…!」
絵里(しかしそれで全て避けられれば最初からそうしてる、銃弾と銃弾がぶつかってわずかに飛ぶ位置は変えただけで私を掠める銃弾もあり、掠めて出来た傷口からは一周回って気持ち悪いほどに潤った綺麗で赤い密が出ていた)
絵里(射線はまだ見えるけど死に至らしめる銃弾は回避したはず、そう思った時にはQBZ-03も弾切れでそのまま私は地面に背中から落ちていった――――)
曜「っ!」バンッ!
絵里(――はずだったの。角度の問題か、いや曜は焦っていたのか曜の拳銃から放たれたダメ押しの一撃は私の心臓部にあったQBZ-03に当たった)
絵里「っ!?」
絵里(私はビックリして半分閉じていた目を見開いた、この銃が無ければ死んでたかもしれない。防弾チョッキという存在もあったけど、そんなもの忘れてたしあまり信用にすらならなかった)
絵里(今ので警戒付いた私は背中から着地した途端すぐさま後転してPR-15で発砲をした)
曜「なんで!」バンッ
絵里「くらえっ!」バンッ
絵里(曜の拳銃の発砲と私の拳銃の発砲はほぼ同時だった、刹那には静まり返る戦場に私も曜も息を飲んだでしょう)
絵里(そしてその結末は――――)
163: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:46:32.74 ID:Sjljkzyd0
~同時刻、別荘
グゥ~
果南「あはは、お腹空いたね」
ことり「絢瀬絵里や津島善子が頑張ってるというのに呑気だね…」
果南「仕方ないじゃん、どうせ私が戦場に行っても今はお荷物なんだから」
ことり「確かにそうだけど…」
果南「なんか食べようよ、確かポテトチップスあったよね」
ことり「えっ…なんかカロリー高そう…」
果南「アンドロイドなのにそんなの気にするの?」
ことり「アンドロイドも人間と同じなのっ食べた分太るんだから気にするに決まってるでしょっ」
果南「私太らない体質だから気にしたことないなー」
ことり「…死ねばいいのに」
果南「そこまでいう?」
164: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:48:35.28 ID:Sjljkzyd0
果南「…まぁいいや、ポテトたーべよっと」
ことり「えぇ…絶対太るよぉ」
果南「私は運動してるから太らない太らない」
果南「別腹形態へと変形!」
ことり「なにそれ…」
果南「んー、あ、そういえばさ、ことりってモード変更みたいなやつあったよね?」
ことり『モードの切り替えの為だからだよっ!!』ドドドド
ことり「これまた唐突だね…」
果南「別にいいでしょ?」
ことり「まぁいいけど…それでモード切替だよね、あるよ」
果南「やっぱりあるんだ、でも私にはそんなのないよ?」
ことり「だって私特別だもん」
果南「なんかその言い方は腹が立つね…」
165: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:49:23.04 ID:Sjljkzyd0
ことり「まあまあ。モード切替って言っても大それたものじゃないよ?私の思考に補助を入れるだけだから」
果南「補助?なにそれ?」
ことり「単純に言ってしまえば攻撃モードか防御モードかみたいなそんな感じ、でも切り替えたことで攻撃力が上がるわけでもないし装甲が固くなるわけでもない。私の考え方が変わるだけ」
果南「へー」
ことり「それを自由化させたのが今の戦闘型アンドロイドだよ?そんなモード切替とかめんどくさいことしなくて羨ましいよぉ」
果南「ふーん不便なんだ、じゃあそれ」
ことり「まぁブレーキは今のアンドロイドより利くだろうけど、自由度は劣るかな」
果南「初期型って複雑なんだね」
ことり「まぁね、でも早く生まれたおかげで色々経験出来たし初期型がイヤとは思ってないよ」
果南「ごもっともだね」
166: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:50:42.82 ID:Sjljkzyd0
ことり「松浦果南はどうして戦ってるの?」
果南「ん、どうしてかぁ」
果南「んー…戦うのが好きだからかな」
ことり「えー…面白くない」
果南「でもでも戦いたくなるのは戦闘型アンドロイドなら仕方ないでしょ?そういうように出来てるんだから」
ことり「……違うかなぁ」
果南「何が違うのさ」
ことり「って言いながらポテトチップス開けないでよ」
果南「ごめんごめん」
ペリッ
果南「ってうわっ入ってるの弾薬じゃん…」
ことり「おぉ、画期的な隠し方だね」
果南「いやそこ関心するところじゃないでしょ…」
果南「生憎鉄を食べて分解する機能は私には無いからなぁ、これは要らないや」
ことり「サブマシンガン用の弾かな、つまりは津島善子用だね」
果南「そっか、善子の持ってるMX4 Stormはサブマシンガンだもんね」
果南「…今頃どうしてるのかな、二人とも」
ことり「…殺されてるかもしれないね」
果南「そうだったら私たちが死ぬのも時間の問題かな」
167: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:52:07.18 ID:Sjljkzyd0
ことり「…いや、助かる方法はあるにはあるよ」
果南「え?」
ことり「………」
『あなた……誰?』
ことり「松浦果南は殺し屋って本当にいると思う?」
果南「どうしたのさ急に」
ことり「いいからっ」
果南「…まぁいるんじゃない?アンドロイドとかいるんだし何いてもおかしくないでしょ」
ことり「……そっか、理由が適当なのがちょっと気に入らないかもだけど、結論から言えばいるよ。殺し屋は」
果南「へーやっぱりいるんだ、強いの?」
ことり「……あんなの生き物じゃない」
果南「え?」
ことり「ごめん、絢瀬絵里や津島善子の前でこれを言うのはナンセンスだと思ったから松浦果南に言うね」
果南「え、うん」
168: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:53:13.15 ID:Sjljkzyd0
ことり「殺し屋っていうのは具体的に言えば二人、或いは三人の組織なの。一人は人間、一人はアンドロイド…そして後もう一人いるって聞いたことあるけど、その子は知らない」
果南「へぇ小規模なんだ」
ことり「そうだよ、でもどちらとも戦闘面での技術は多分誰よりも強い、対アンドロイド特殊部隊よりも」
果南「…ふーん、それで?」
ことり「私はアンドロイドの方と親友だった」
果南「……だった?」
ことり「…お察しの通りだよ」
169: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:55:13.01 ID:Sjljkzyd0
果南「何があったの?」
ことり「ただ単純に言ってしまえば私の親友は殺されちゃった、そして新しい記憶を埋め込まれた。その成れの果てが殺し屋だった、それだけのお話」
果南「……それで?」
ことり「私の親友の最大の特徴は業務用アンドロイドだったこと」
果南「業務用アンドロイド…よくそんなアンドロイドと親友になれたね」
ことり「業務とはいっても軍人として生まれたアンドロイドだったからね、私は戦闘型アンドロイドで生まれてこの方戦って生きてきた身だから触れ合う機会は結構あったよ」
ことり「軍人のくせに誰よりも優しくて、誰よりも勇気があって、誰よりも決意が強く、何物にも恐れないそんな人だった」
ことり「だけど軍人故に死はホントにあっけなかったかな、仲間の裏切りであっという間に死んじゃった」
果南「裏切り…」
ことり「意志が強い人は周りを見ることが出来ないの」
ことり「私はそれをあの時学んだ、警戒すれば気付きそうなものだけど色々考えこんでて分からなかったのかな」
ことり「それからしばらくして親友が生き返ったと聞いて向かったけど、案の定記憶は消滅してた」
ことり「そして代わりに埋め込まれた残酷なまでに変わり果てたその姿を見て、私は何を想像したんだろう…?」
ことり「悪魔でも見てるのかなって錯覚しちゃった、もう二度と見たくないかな…」
果南「…ことりがそこまで言うんじゃ相当なんだろうね」
170: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:56:54.53 ID:Sjljkzyd0
ことり「…それでここから本題だよ」
ことり「私ね、それを見てその親友を殺そうって思った。アンドロイド相手で悪いけど、あんなのを生き物としては分類しちゃいけないから」
果南「…なるほど、だから私に言ったんだね。善子とかに言えば……」
ことり「そう、差別が脳裏を過るだろうから」
果南「あはは、それは賢明な判断だよ」
ことり「…それで戦ったけど…結果はボロボロだった。ありとあらゆるところに銃弾が突き通って目の前が真っ暗になった時には血だまりが出来てたと思う」
ことり「…ただ、近くにいてくれた人がなんとか助けてくれて助かったけど」
ことり「あいつには二度と近づかないほうがいいって警告された」
ことり「…正直肯定しちゃった、あんな殺戮マシーンとなんかいたくないって本能が叫んでて…それ以来会ってない」
果南「………」
ことり「業務用アンドロイドだからね、軍人として生まれたならざっくり言って人を殺すことをまず最初に考えるアンドロイドだから余計に親友だったアンドロイドの状況は悪化してったよ。思い出したくもないよ」
ことり「…けど、どこで何をやってるかは知ってる。だからホントにピンチって時に助けを求めてみるのも手だよ。助けてくれるかは分からないけどね」
果南「…私はあまり賛成できないかな」
ことり「それは私もだよ」
171: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:58:39.53 ID:Sjljkzyd0
果南「大体殺し屋って何なのさ?お金稼ぎが目的なの?」
ことり「…人間の方は人を探してるって言ってた」
果南「人?」
ことり「昔、この都市で大規模な銃撃戦が起こったの覚えてる?」
果南「あぁ覚えてるよ、私も参加したし」
ことり「そっか、隔離都市東京が大きく変わる原因を作った出来事だったね」
果南「そうだね、あれで極悪な政府が滅んだからね。東京も一気に住みやすくなったものだよ、まだ酷いけど」
果南「それでそれと何の関係が?」
ことり「うん、あの銃撃戦で民間人側として参加した」
ことり「殺し屋っていう異名がついた人、知らない?」
果南「あ、聞いたことある。確かスナイパーを使ってたって聞いたよ」
ことり「そうだよ、狙った獲物は逃がさない――計算高い狙撃が特徴で偏差撃ちが得意なんだって」
果南「へぇ偏差撃ちか、相手にされちゃあ厄介だね」
ことり「うん、ただ民間人側についてたってだけで誰とも話してないらしいんだ」
果南「謎多き人物なんだね」
ことり「そうそう、だから同じ殺し屋として会ってお話がしたいんだって」
172: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/24(火) 23:59:16.28 ID:Sjljkzyd0
果南「…ん?今思ったけどなんでそんなこと知ってるの?」
ことり「戦ったことがあるから直接聞いた」
果南「あははは……流石ことりだね…」
ことり「…私の親友だったアンドロイドも人探しで活動してるんだって、だから方向性の一致で協力してるんだとか」
果南「ふーん、その人間ってどんな人なの?」
ことり「……複数の顔を持つ人かな」
173: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:00:44.53 ID:RR8ZWgfX0
~同時刻、住宅街
絵里「………」
曜「………」
絵里「…くっ」
絵里(私は腕を撃たれた、手で出血を止めようとしてもぽたぽたと血が重力に沿って落ちていく)
曜「……かはっ」
バタッ
絵里「……勝負ありね」
絵里(そして私は曜の横っ腹を撃った、私は膝を地面につける程度だけど曜は拳銃を手放してその場で倒れた。出血の量は明らかな差があって逆流したのか曜の口からは少量ながら血が出ていた)
174: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:02:36.35 ID:RR8ZWgfX0
曜「く…そ…っ!」
絵里「私の勝ちね、曜」
曜「…ま、けた」
曜「いい…よ…殺してっ…よ、けほっ」
絵里「………」
絵里(仰向けで倒れてるというのに口から漏れ出す血はきっと敗北の味がするだろう、死を目の前としてるのに清々しいほどに笑顔でいる曜はただ単純に言って殺しにくかった)
絵里「………」
絵里(…いや、きっとどんな状況でも殺しにくいだろう。人を殺すことに対しての恐怖心を未だに拭えていないのだから)
絵里(きっと殺し合いっていう体でなら殺せるんだと思う、流れってものがあるから。だけどいざ改まって一方的に殺せる状況になったら再び脳は恐怖心で覆われた)
絵里(拳銃を曜に向けるとたちまちトリガーを引く指が動かなくなる、鳴らすの銃声ではなくて私の鼓動――刻まれたビートはきっと私を罵る音でしょう。今も苦しそうに顔を歪ませては笑顔に変える曜を見ると自然と歯に力が入ってしまう)
絵里「……っ!」
絵里(このご時世で人一人殺せない私が情けなくて、殺し合いという本気の戦いをしてるというのに情けみたいなものをかけてしまう私の甘さが許せなくて…いや、どうすればいいのか分からなくて瞳が潤んだ)
175: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:03:41.60 ID:RR8ZWgfX0
曜「どうした……さ、はや…く、ころ、して…よ」
絵里「っ……」
絵里(曜に声をかけられると余計にトリガーを引くのが怖くなる、この恐怖心は一体来てるのかしら)
絵里(ただ単に私が臆病なだけなの?それとも拳銃を持つ者の性なの?)
絵里(誰か教えてほしい、私が普通だってことを誰か証明してほしい)
絵里(……あくせくしたっても今ここで曜を殺すことが出来ない)
絵里「……なんで」
絵里(…導をくれる光はないけど、私は拳銃を構えて答えを待つだけだった)
ドカーン!
絵里「!」
曜「…!?」
絵里(そんな時後ろで大爆発が起こった、手榴弾なんか目じゃないほどの赤い煙が立つ凄まじい爆裂だった)
176: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:04:56.13 ID:RR8ZWgfX0
絵里「何!?」
善子「絵里!」
絵里「善子!?」
「うわー!あれはやばいでー!」
絵里「紫髪!?」カチャッ
善子「待って!今はそいつを撃たないで!」
絵里「何、どういうこと!?」
善子「対アンドロイド特殊部隊が来た!逃げるわよ!」
絵里「逃げる!?どうして!?」
善子「決まってるじゃない!数で負けるからよ!」
絵里「何人いるの?」
善子「三人!曜含めないで三人よ!」
絵里「三人…!」
絵里(それはおそらく勝てないでしょう、善子の逃げの選択は賢明と言える)
177: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:07:18.10 ID:RR8ZWgfX0
絵里「というかなんで紫髪のやつが…」
曜「あはは…希ちゃ…んは対アンドロイド特殊部隊と仲良く…ないから」
希「ちょ、ちょっとウチの名前呼ばないでや…」
曜「ご、めんごめん」
善子「絵里、曜は…」
絵里「…私が撃った」
ドカーン!
絵里「!」
希「!」
善子「あーもう曜の事は後!曜を連れて逃げるわよ!いざとなれば捕虜として使えるんだから!」
絵里「え、ええ!」
希「おー曜ちゃんは捕虜か」
曜「ぜん…そくせんし、んよーそろー…」
希「た、達者でな…」
希「…あ、そうそう。曜ちゃんから出てる血とあなたから出てる血、ちゃんと止めてから逃げた方がいいよ。走ってる時に垂れて地面にでも落ちたら特定されるから」
希「それじゃあね」
タッタッタッ
絵里(希と呼ばれる人物はそう言って私たちとは別の方向へ逃げていった)
178: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:09:32.48 ID:RR8ZWgfX0
絵里「この爆発は何?」
善子「グレネードランチャーを連射してるのよ、にこが持ってきたと思う」
絵里「また随分と派手なものを…」
絵里「というかあの紫髪とはなんで和解してるのよ?」
曜「のぞ…み、ちゃんだよ」
善子「お互い対アンドロイド特殊部隊と戦うのはイヤだから利害の一致で戦いをやめて逃げることにしたのよ」
絵里「そ、そう…」
善子「…そんなことより逃げるわよ!堕天っ!」ダッ
絵里「ええ!」ダッ
絵里(爆発に急かされて私たちもその場から逃げ出した、曜はどういうわけか抵抗する気はないようでずっと私におんぶされるがまま。むしろ私の背中で気持ちよさそうに眠ってる…これ死んでないわよね…?)
絵里「スタン!スモーク!」
善子「お、いいわね!」
絵里(ことりから学んだスタングレネードとスモークグレネードを使った隠伏術、眩い光は時に壁となるのをこの前知ったからそれをそっくりそのまま使わせてもらうことにした)
179: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:11:34.42 ID:RR8ZWgfX0
タッタッタッ
絵里「はぁ…はぁ…はぁ…」
善子「まいたわね…」
絵里「ええ…」
絵里「いったた…」
善子「絵里大丈夫?私が曜をおんぶしようか?」
絵里「頼んでもいいかしら…」
善子「任せなさいっ」
絵里「はぁ…とりあえず別荘へ戻りましょう」
善子「ええそうね」
絵里(そうして走り続ければ既に私たちの足は森の中、希って人の助言のおかげで曜の横っ腹には私の背負っているリュックに入ってる包帯を巻いて、私は袖を上手く使ってなんとか血を落とさずに済んだ)
絵里(流石に行動が早かったから追ってこれるはずもなく、私たちは傷を負いながらもなんとか帰還することが出来そうだった)
180: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:13:33.91 ID:RR8ZWgfX0
絵里「希ってやつはどうだった?」
善子「すぐにAAが来たからそこまで戦ってないけど、まぁあれはやばいわね。武器もさることながら身体能力や頭の回転速度も侮れない、一瞬アンドロイドを疑ったけど首元は何も無かった」
絵里「見たの?」
善子「見たというよりかは見えたの、数字は何も無かったから人間ね」
絵里「あれで人間…」
『悪く思わんといてねっ!』
絵里「……嘘でしょ」
絵里(人間であそこまでの動きが出来るとなるとAAの人間も警戒を強める必要がありそうだった、精鋭とは何を意味して精鋭と呼ぶのか、それを人それぞれだろうけどAAという組織に存在してる精鋭は常識外れの定義が存在してるでしょう)
181: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:14:52.42 ID:RR8ZWgfX0
善子「…今回の戦いで、得たモノってあったのかしら」
絵里「渡辺曜でしょ」
善子「……どうするこいつ?」
絵里「…正直に言うとね、殺したくない」
絵里「……うん、殺せないって言っても正しいけど」
善子「殺せない?どうして?」
絵里「曜はね、限りなく私たちに近い思想を抱いてるの」
絵里「アンドロイド差別はなくなるべきだし、果南は別に悪くないって言ってたし、警察の事が大嫌いって言ってた」
善子「そんなことを…」
絵里「…仲間に出来ないかな」
善子「それはぁ…そうね…なってくれるならそうしてほしいけど」
絵里「………」
絵里(…人を殺すという行為が怖くて殺せなかったとは言えなかった。もし善子や果南があの状況にいたら迷わず殺してたと思う、あの二人は優しいけど甘くはないから)
絵里(私はきっとそういうのに弱いのよね、戦う事は厭わないけど誰よりも平和的な解決を望んでるはずだから)
182: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:17:32.30 ID:RR8ZWgfX0
曜『絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ』
絵里(戦ってる時に笑うなんて私には出来ない、だからそれだけ曜が強くて曜が優しい証拠だった)
絵里(そんな綺麗な笑顔を見せられては殺すなんて出来ない、死ねば誰もが無の表情になるのだから)
絵里(そんなものを見てしまっては私の心が壊れてしまいそうよ)
善子「私たちがクーデターを起こせるのはいつかしら」
絵里「…当分先かもね、まだ近づいてもいない気がするわ」
善子「アンドロイドの人生っていうのは険しいものね」
絵里「…アンドロイドだからね」
善子「………」
絵里(戦いは終わった、けど帰り道に会話をすることはほとんどなかった。負けた――とも言えないけど勝ったとも言えない結果で言葉を話すためにある口も今は言葉が生み出せなかった)
ガチャッ
絵里「ただいまー」
善子「堕天使降臨…!」
183: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:18:57.05 ID:RR8ZWgfX0
タッタッタッ!
果南「おかえりっ!」
ことり「…生きてたんだ」
絵里「ええ、当たり前よ」
ことり「…それでその津島善子がおんぶってる渡辺曜は何?」
絵里「私が殺す直前でトラブルがあって一応まだ生きてるから連れてきたの」
ことり「えぇ…それで位置とかばれたらどうするの…」
絵里「そ、そうだけどAAに回収されて再度戦うことになるよりかはマシでしょ!」
果南「まぁまぁ、絵里もなんかあったから曜を連れてきたんでしょ?だって曜を殺すなら殺すで帰り道で殺せばよかったんだから」
ことり「あ、確かに…」
絵里「ええ、もしかしたら仲間に出来ないかなって…」
ことり「仲間!?」
果南「なにそれ」
絵里(そのまま言っても理解できるはずがないのでことりと果南にも曜のことを話した、そしたら果南は何も考えずに肯定してくれて、ことりはちょっと警戒しながら“まぁ、良いと思う”と言ってくれた)
184: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:24:13.06 ID:RR8ZWgfX0
絵里「とりあえず曜は武器をとりあげてそこのソファで横にさせといて」
善子「ええ」
ことり「待って、手当しないとまずいから私がするよ」
ことり「絢瀬絵里も後で腕貸してよ?その傷を放置しとくと戦えなくなっちゃうから」
果南「おお、流石女子力が高いね」
ことり「…このくらいしなきゃ助けてもらった恩返せないでしょっ」
絵里「ふふふっ分かったわ、ありがとうことり」
絵里「…あ、そういえばごめんなさいことり」
ことり「ん?何が?」
絵里「あなたのアサルトライフル…ボロボロになっちゃったわ」
果南「うわ、なにこれところどころ欠けてるし」
絵里「曜ともう一人、敵がいたの。そいつがあまりに攻撃的で…」
善子「ショットガン二丁持ちで、そのショットガンを鈍器みたいに扱うから銃でガードすると必然的にこうなるのよ」
果南「ショットガン二丁持ちってそれはやばいね…」
185: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:26:47.50 ID:RR8ZWgfX0
ことり「…!ショットガン二丁持ちってもしかして紫色の髪してない?」
絵里「ええそうよ、確か希っていう名前だったわ」
ことり「やっぱり…あいつだ」
果南「あいつ?さっき言ってた殺し屋の?」
ことり「そうだよ、人間の方の殺し屋」
絵里「知ってるの?」
ことり「うん、知ってる。昔戦ったことがあるから」
絵里「へぇ…流石ことりね」
ことり「…うん、でもまぁいいや。この話はまた今度」
ことり「アサルトライフルの件は別にいいよ、東條希と戦ったなら仕方ないよ」
絵里「そう…ごめんなさいね」
絵里(この戦いで色々あったけど、とりあえずこうしてまたことりと果南に会えるのが嬉しかった。元より今日は死ぬつもりで戦ってたからね、お腹も空いたし目もしょぼしょぼするし私も曜と同じようにソファで横になった)
186: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:28:36.48 ID:RR8ZWgfX0
ことり「はい、手当終わったよ」
絵里「ありがとうことり」
果南「おーこれがEMPグレネードかぁ」
ことり「それ、スイッチを入れてから数秒後に爆発するから間違ってでもスイッチをONにしないでね?」
果南「了解了解」
善子「絵里の怪我は大丈夫そう?」
ことり「うん大丈夫だよ、撃たれたとはいっても腕だからそこまで酷くはないしすぐに戦えるようになるよ」
果南「いやー私もことりも肩を撃たれなければ今頃戦場にいるんだけどなー」アハハ
ことり「…私を撃ったのは松浦果南だよね」
果南「それはごめんって…」
ことり「…別にいいよ。どうせ怒ったところで戦えないから」
ことり「…でもまぁ絢瀬絵里も無理はしないでね?」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ことりに手当をしてもらって再び体を動かせば、まぁだいぶ楽に腕も動かすが出来た)
187: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:30:11.36 ID:RR8ZWgfX0
グゥ~
ことり「………」
善子「………」
絵里「………」
果南「…ん?今のことりのだよね?」
ことり「言わないでよっ!」
絵里「果南、そこは空気を読みましょう」
果南「え?私が悪いの?」
ことり「悪いのっ!」
善子「まったく…」
果南「えー…なんか納得いかないな…」
絵里「…まぁいいわ、お腹空いてるのなら私が何か作りましょうか?」
善子「腕は大丈夫なの?」
絵里「ええ平気よ、任せなさい!」
188: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:32:14.34 ID:RR8ZWgfX0
ことり「…料理出来たんだ」
絵里「そこまでできるわけじゃないけど、ここで料理出来るのが私以外いないからね」クスッ
善子「堕天使に食事など要らないのよ…」
果南「私はおいしく食べれればなんでもいいからなー」
絵里「はぁ…」
ことり「心中お察しします…」
絵里(食に関心のない二人はまぁ困ったものよ、溜め息を吐いた私はとりあえずキッチンに向かって料理を作る。今日作るのはつい最近亜里沙に教えてもらったハンバーグで、時間はかかるけど丁寧にやることにした)
善子「あー!今攻撃したやつ誰よ!」
果南「ふふふっ私だよー残念だったね善子」
ことり「うぇええちょっとこのゲーム難しくない!?」
絵里「三人は一体何をやってるのよ…」
絵里(私が料理をしてる間、テレビの前ではゲームではしゃぐ三人がいた)
189: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:33:14.62 ID:RR8ZWgfX0
善子「マリカーに決まってるでしょマリカーよ!」
善子「パーティープレイにうってつけでしょ!堕天使も愛するゲームよ!」
果南「やっぱり真姫もゲームは好きなんだね、テレビの横にゲーム機があったらやるしかないでしょ」
善子「ちっあーもう!果南のせいで六位じゃない!」
果南「堕天使ヨハネは先の事を考えてるんじゃなかったの?一位になるというリスクを考えてプレイするべきだったね」クスクス
善子「はー腹立つ!」
ことり「ここを右に曲がってえっと…」
絵里「ことりはなんで体まで動かしてるのよ…」
ことり「仕方ないのっ!ゲーム初めてやるんだから!」
絵里「戦闘はあんなに強いのに…」
ことり「うぅなんで抜かせないの…」
190: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:34:38.47 ID:RR8ZWgfX0
絵里「というかそんな体動かしても大丈夫なの?」
果南「激しく動くわけじゃないし、動かすの指だけだし大丈夫だよ」
ことり「私も別に…」
絵里「ことりは体動いてるけどね」
ことり「動いちゃうの!」
絵里「ええそうね…」
絵里(ことりは戦闘は鬼の如く強いのにゲームに関しては動きが初心者のソレ。ただ学習能力は高いからやり方を模索して色々頑張ってるのがちょっと可愛かった)
ことり「食らえっサンダーだっ!」
善子「はー…落ちたー…」
果南「ふふふっ私はことりの画面を見てたから安全なところで待ってたよ」
善子「はぁ?ただの反則じゃない!」
果南「私たちは常にルールなんてない戦いをしてるんだからこれにもルールはないんだよ善子」
善子「納得いかない」
ことり「やった!五位まで来た!」
絵里「ふふふふっ」
絵里(そして三人がゲームでバトルするのを見るのはとても楽しかった、こんな日常が毎日続いたらな…千歌はいないしこの世は相変わらず退廃的だし悪いことだらけだけどそんなダメダメな世界でこんな幸せを味わえるというのなら是非この幸せが永遠に続くことを願いたい)
絵里(…ただその願いがどれだけ儚くて寂しくて無謀な願いなのか知ってる私は、どうにもこうにも夢を見ることは出来なかった)
191: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:37:56.30 ID:RR8ZWgfX0
曜「ん…んん…」
絵里「!」
善子「!」
果南「!」
ことり「!」
絵里(ゲームに盛り上がる最中で、ゆっくりと意識を覚醒させる曜に注目がいくのはもはや当然だった。全員が同じ顔をして同じ場所を見ていた)
曜「ん……って、え?」
ことり「とうとう起きた…」
果南「あはは、どうも」
善子「死にかけからその目覚めは随分と気持ちのいいものだったでしょうに」
絵里「目が覚めた?」
曜「…あれ?私死んだの?」
善子「死んでないわよ」
192: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:42:25.55 ID:RR8ZWgfX0
曜「じゃあなんで絵里さんたちが…」
絵里「あの後のこと覚えてないの?」
曜「絵里さんに横っ腹撃たれてその辺りからもう何にも…」
絵里「そうなの…」
善子「その横っ腹撃たれた後すぐにAAのやつらが来てあんたを連れてここまで逃げたのよ」
曜「そ、そうなんだ」
曜「…なんで私こんな手当された上に身が自由なの?普通捕虜として扱うよね?手錠なりなんなりして」
果南「…そういえばなんで?」
ことり「えっ…私に聞かれても…」
善子「あんたらの頭がゆるゆるだからよ」
果南「いや分かってるならそれを指摘しない善子もゆるゆるでしょ?」
絵里「はいはいストップ、私は曜に仲間になってほしいの」
曜「仲間?私が?」
絵里「ええ、限りなく私たちに近い思想を抱いてるのなら是非協力してほしくて」
絵里「だから今曜は自由、その自由こそ私たちを信頼する理由になるでしょ?こっちはリスクを伴ってあなたを自由にさせてるの」
曜「…なるほどね」
193: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:48:10.55 ID:RR8ZWgfX0
曜「でも、その行動は感心できないかな。いくらなんでもリスクが大きすぎるからね」
絵里「…ええ知ってる、だけど曜なら大丈夫と判断したのよ」
曜「私なら…か」
絵里「ええ」
曜「私もそこまで優しい人じゃないんだけどね」
絵里「…つまり?」
曜「………いいよ、一緒に警察滅ぼそうか」
果南「おお、発言が物騒だね」
絵里「…こんなこと聞いたらおかしいかもだけど、なんで私たちに協力してくれるの?」
曜「絵里さんには言ったよね、もうお金は充分あるって。だからあそこにつく理由はないし、別にあそこに執着する必要もないってわけ」
曜「元はない命だったからね、助けてもらったならこの命は絵里さんたちに捧げるさ」
絵里「……そう、ありがとう」
194: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:48:59.40 ID:RR8ZWgfX0
曜「私の発言が嘘だとは思わないんだ?」
絵里「ええ、信じてるから」
曜「へー…なんか分かる気がするな…あの戦闘の鬼と言われたことりちゃんがこうやって仲間のようにみんなと暮らしてるのも」
ことり「…!何?」
曜「ふふふっなんでもないよ」
曜「まぁこれからよろしくね、精一杯頑張るよ」
善子「え、ええ」
果南「うんっよろしくね」
ことり「…なんかあまりに上手く行き過ぎてて怪しんだけど」
曜「うーん…じゃあどうやったら潔白の証明が出来るのかな」
絵里「いやいいわよそんなことしなくても」
絵里(確かにことりの言う通り仲間になるのもすんなりすぎて正直怪しいところはある、だけど戦いであんな律儀に振舞う人がこの期に及んで裏切るというのも考えづらくてめんどくさいことはとりあえず避けることにした)
絵里(…まぁ、小さい頃から色々学んで経験してる猛者なら演技ってやつも上手いのかもしれないけどね)
195: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:50:11.40 ID:RR8ZWgfX0
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん…あ、真姫から電話ね」
善子「…絶対怒ってるわよ」
絵里「いや…まぁ……そうね」
絵里(今日でお別れかもしれないっていうメッセージだけ送って戦いに言ったわけだから、電話に出て開口一番のセリフは容易に想像できる)
真姫『何やってるのよ!?』
絵里「…ごめんなさい」
真姫『心配したんだから!いみわかんないメッセージ送ってこないでよね!』
絵里「……?真姫、泣いてるの?」
真姫『!! な、泣いてないわよ!…ぐすっ」
絵里(真姫は我慢の出来る人、だけど涙ぐんだ声は我慢できないようだった。我が子を叱るような必死な声と、嬉しさ含んだ安堵の声が混ざって真姫の声はとにかくおかしなものだった)
196: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 00:53:33.68 ID:RR8ZWgfX0
絵里「ごめんなさい真姫」
真姫『…許さないわよ』
絵里「……どうしたら許してくれる?」
真姫『…私だって物分かりが悪いわけじゃない。絵里が戦うのは仕方ないのは分かってる、だから戦うなら…絶対に勝って戻ってくるなら許してあげる…』
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(真姫は我慢の出来る子だけどとっても寂しがり屋な子だ。だからきっと今の言葉も本心ではないのだと思う)
絵里(出来ることならみんなが笑いあえる日常で、幸せに過ごしたい。けどそうは問屋が卸さないのよね、それを分かってる真姫は、実に大人だ)
絵里(その後真姫はもう寝るだとか言ってすぐに電話を切った。電話を切った途端世界が変わったみたいに後ろから喧騒が聞こえてくるから後ろを見ればゲームをしてる人数が三人から四人になってて私は色んな意味を込めた溜め息を吐いた)
200: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:28:25.07 ID:RR8ZWgfX0
~同時刻、???
「…面白くないね」
希「んー?何が?その本が?」
「確かにこれは面白くないよ、字がいっぱいなんだもん」
希「小説本やもん、字がいっぱいなのは当たり前やろ?」
「希ちゃんが面白いって言うから私は読んだんだよ?」
希「面白いやん、スクールアイドルっていう限られた時間の中で輝こうとする少女の物語やで?」
「……半分くらいまで読んだけど、私はこんなことしたいとは思わない」
希「そりゃあ業務用アンドロイドやからねぇ…」
「…確かに私は戦うこと以外に興味がないからこの本は面白くない、けど私が言いたいのはこの本が面白いかどうかじゃないよ」
「…いつになったら見つかるの?」
「私の探してる人は」
希「それはウチが聞きたいよ、ウチだってあの殺し屋と呼ばれたスナイパー使いに会いたいっていうのにどこにもいないんやもーん…というか情報すらないし」
「……面白くない」
201: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:31:31.03 ID:RR8ZWgfX0
希「ふふふっまぁ確かに事が上手くいかなさすぎなのは分かる、だからウチが退屈を解消する情報をもってきたよ」
「なにそれ」
希「最近な、ちょ~っと厄介な集団が一ついるんよ」
「厄介な集団…対アンドロイド特殊部隊じゃないの?」
希「いや、違う」
「じゃあ今日戦ってた人たちでしょ、ニュース見てたけど相当派手にやったよね」
希「あれは大体途中から入ってきたにこっちのせいかなぁ」
希「でも確かにあそこも厄介やね、知ってる限りだと堕天使がいたしことりちゃんもいるらしいしウチらと対峙することになったら無傷じゃ済まされないやろうね」
「堕天使…なんか聞いたことある、ものすごい強いんだよね、それだけは知ってる」
希「そうだよ、昔ここ東京のデパートに十数人の海外系の武装集団が乗り込んできた時があって、そいつらを一人で壊滅させたのが堕天使と呼ばれるアンドロイドだった」
希「当時堕天使は13歳という若さで普通じゃ考えられない事を起こしてしまったが故にアンドロイドという存在がとても危険なモノであるということが世に知れ渡った根本的な原因とも言えよう」
「ふーん…とにかく強いんだね」
希「まぁね」
202: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:32:34.43 ID:RR8ZWgfX0
絵里『まだ終わってないッ!』
希「…ただ、今はあの金髪の子が一番気になるんよなぁ」ボソッ
「…?何か言った?」
希「ううん、なんでもない。それよりさっきの話やけど」
希「厄介なのは他にいるんよ」
203: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:33:51.82 ID:RR8ZWgfX0
~同時刻、別荘
曜「ほー!流石絵里さんは料理の腕もいいなー!」
果南「でしょ?絵里の料理はおいしいんだよ」
善子「いやなんで果南が威張ってるのよ…」
ことり「…まぁまぁかな」
絵里「あのねぇ…」
絵里(料理が出来ればゲームを強制終了させて五人で食卓を囲んだ)
絵里(始まりのトリガーを引いた時には予想も出来なかったこのメンツに、ちょっとだけ…そして勝手に運命を感じちゃった)
204: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:35:03.28 ID:RR8ZWgfX0
ことり「…それで、渡辺曜もお荷物なの?」
果南「お荷物の会へようこそ!」
曜「お荷物の会…?」
善子「怪我をしてて戦えない人のことよ、家でお留守番してるニートね」
曜「いや、私は戦えるよ。もちろん受けた弾丸の大きさにも寄るけど、横っ腹は戦闘に関してはそこまで支障をきたさない部分なんだよ、撃たれて問題なのは肩と足」
絵里「そうなの?」
曜「ちゃんと包帯とか巻いてくれてるから平気平気!」
曜「……まぁ痛いのは変わりないけど」
絵里「そ、そう……」
205: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:36:49.14 ID:RR8ZWgfX0
曜「人を殺すんだったら.308弾が使える銃とかで肉を抉らないと仕留めきれないかもね」
善子「うわえげつな……」
ことり「でもそれだと銃が重いのを使わないといけないから機動力を犠牲にしないといけないね」
曜「うん、だから大体の場合人間相手にそういうのを使うのはあんまり意味がないんだよね、使うべき相手はアンドロイドだよ」
果南「あー分かった、“再生能力”でしょ」
曜「そうそう、アンドロイドは人間を模して造られただけであって完璧な人間ではないんだよね。人間の不便なところもなるべく改善して出来上がったのがアンドロイド、つまり人間の進化形みたいなものなんだ」
絵里「……」
絵里(全ては曜の言う通りだ。これは私たちアンドロイドが人間と並びたいという反旗を翻すにあたって弁えなきゃいけないことだ。アンドロイドは人間ではない、人間と瓜二つなだけだ、その理由は様々あるがそのうちの一つ——再生能力はアンドロイドと人間を差別化させるくらいの大きな特徴だった)
ことり「再生能力が高い私たちアンドロイドは……」
善子「肉でも抉られない限り、例え致命傷でも数か月で完治する」
曜「そう、その通り、銃弾で貫かれる程度じゃ痛いくらいにしか感じないんだよね、まぁ貫かれる場所が横っ腹とか腕とかだったら人間も同じだけど、アンドロイドは頭以外だったら死なないから仕留めるなら確実な武器じゃないといけないね」
果南「ふむ……」
206: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:39:39.19 ID:RR8ZWgfX0
絵里「………」
絵里(再生能力——いえば来した傷がどれだけ早いスピードで完治するかの能力だ)
絵里(人間もアンドロイドも腕を切断されたら当然ながら再生することはない、ただしアンドロイドは腕を切断されない場合のみどんなに深い切り傷を入れられても半年くらいで何事もなかったかのように完治するのだ)
絵里(アンドロイドには皮膚の元である角化細胞より始まる四つの層と人間にはない“複素層”という五つ目の層を有していて、これは皮下組織の働きを増幅させる他角化細胞が分裂し、それが外側へ放出され皮膚になる際に角化細胞を増やし再生を早める効果がある)
絵里(つまり人間にはない体の働きをアンドロイドは有していて、それ故に再生が早いのだ)
曜「……っていうのはアンドロイドと戦う時の話!卓越した再生能力を持ってるとはいえ命は有限だ!だからみんな命は大事にね、さくせんはいのちをだいじに、だ!」
善子「だそうよ、現在お荷物のお二人さん」
ことり「うぅ~!私だってあと少しで戦えるもん!」
果南「私はガンガンいこうぜが好きなんだけどな~」
善子「いや誰もそんなこと聞いてないわよ……」
絵里「あはは…」
絵里(アンドロイドの再生能力について復習するような形になったが、これから色々していくうちにアンドロイドと戦う可能性もなくはない。その時は確実に仕留められるよう頭を打ち抜くか経口の大きい銃を使わなければならなそうだ)
絵里(…そしてそれは自分にも言い聞かせておかなければならない。憧れた人間とかけ離れているのは少し耐え難いモノだけど、頭以外を撃ち抜かれなければ即死は回避できるアドバンテージは活かさなければならない)
絵里(だから人間より色んな意味で優れていると自覚している以上、“それ”を多用する以上、私たちアンドロイドは人間とは別であることを弁えないといけないのだ)
207: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:41:38.09 ID:RR8ZWgfX0
曜「そういえばみんな私の事知ってるんだね、私もアンドロイド界では有名人なのかな?」
善子「いや、少なくとも私は知らなかったわ。ことりから聞いて初めて知ったくらいよ」
曜「へーことりちゃんは何話したの?」
ことり「…何も話してないよ」
曜「え…なにそれ」
絵里「んーと、曜は武器が何でも使えるとかEMPグレネードを作ったとかそういうことを聞いたの」
曜「あ、そういうこと」
ことり「……なんでEMPグレネードなんて作ったの?」
曜「いうまでもなくアンドロイドの無力化のためだよ、EMPグレネードがオーバーテクノロジーって言われるの、正直私からすれば意味不明なんだよね」
果南「どういうこと?」
曜「アンドロイドという存在はイレギュラーすぎたんだよ、人間よりも高い戦闘力を有したことでアンドロイドは武力で解決しようとする」
曜「…ただ、別にそこまではよかったんだよ。でもね、アンドロイドは限りなく人間に似せて造ってある、だからこそちゃんと個人差があって得意不得意があるんだよ」
善子「…?」
曜「つまり、アンドロイドにもどうやったっても殺せないような天才がいるんだよ」
曜「そういうのを無力化する有効な術が何故か今まで無かった、だからEMPグレネードを作ったんだよ」
208: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:42:37.01 ID:RR8ZWgfX0
絵里「天才…例えば?」
曜「……希ちゃんのところにいる業務用アンドロイド二人かな」
ことり「…!一人は知ってる」
曜「だろうね、有名だもん」
ことり「うん…」
善子「…業務用アンドロイドなんかが天才なの?」
曜「戦闘に特化した業務用アンドロイドだからね、戦う事を生業にしてるアンドロイドはそりゃあ強いよ」
果南「ふーん…」
曜「まぁEMPグレネードはそんなところだよ」
ことり「…そっか、わざわざ答えてくれてありがとう」
曜「いえいえ」
絵里「………」
絵里(あの希という人の周りにどんな人がいるのかは知らないけど、もし戦う事になれば無傷は無理でしょうね、もはや一方的に殺される可能性だってある)
209: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:44:12.96 ID:RR8ZWgfX0
善子「…これからどうする?戦える人が三人に増えたとはいえまさかY.O.L.Oに行くわけにもいかないし攻める場所が分からないわ」
曜「Y.O.L.Oはやめた方がいいよ、下手したらそこで全滅なんてこともあり得るからね」
善子「分かってる、だからどこを攻めるべきか聞いてるじゃない」
曜「…焦る必要はないんじゃないかな」
果南「というと?」
曜「様子を見るっていう選択もあるよ、無理して攻めるより果南さんやことりちゃんの傷が癒えるのを待ったり武器の補充をしたりで準備の時間があるといいと思う」
曜「平和を求めるなら、戦いに備えよ」
曜「…これは希ちゃんの言ってたことだけどね、案外間違ってないと思う」
絵里「なるほど」
果南「確かに」
210: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:49:38.34 ID:RR8ZWgfX0
善子「…そうね、少しは休む時間があるといいかもしれないわ」
ことり「そうだね」
果南「…ふふふっじゃあお泊り会と行こうか!」
ことり「遊びじゃないんだけどなぁ…」
絵里(大きな事はしてないけど、とりあえず私たちは羽休めをすることにした。これから何が起こっていくのか正直想像が出来ない)
絵里(トリガーを初めて引いたあの日から、明日ある未来なんて捨ててしまった)
絵里(…そして、その代わりに掴み取った私の望む未来を創るためのチケット)
絵里(人生は一度切り、だからこのチケットは無駄にはしない)
211: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:50:41.84 ID:RR8ZWgfX0
善子「…は?誰がどこで寝るか?」
果南「ことりと曜がどこで寝るか決まってないでしょ?」
絵里「寝室が二つしかないのよね」
ことり「…私は一人がいい」
曜「私はどこでもいいよ」
果南「じゃあ私と絵里と曜は一緒だね♪」
絵里「ええ、曜はいい?」
曜「うん、いいよ」
ことり「津島善子はどうするの?」
善子「私もおそらくことりと同じ考えをしてるもんでね、堕天使ヨハネの睡眠は誰にも見せてはいけない決まりなのよ…」
ことり「…?」
果南「ようするに、寝顔を見られたくないってやつ」
善子「堕天使ヨハネにそんな不毛な理由はない!」
ことり「…まぁそれはどうでもいいかな」
曜「いいんだ…」
善子「よくない!」
212: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:52:17.87 ID:RR8ZWgfX0
ことり「とりあえず私はこのリビングで寝るよ、津島善子はもう一つの寝室使って」
善子「え?ええ」
果南「決まりだね」
絵里「ええ」
曜「みんな何時ごろ寝るの?」
曜「なんだかんだ夜中の四時だしもう空が少し明るいよ?」
果南「私はもう寝るよ」
ことり「同じく」
絵里「私はお風呂入ってから寝るわ」
善子「私はまだ寝ない」
曜「んーそっか」
スタスタスタ
絵里「とりあえず私はお風呂に入るわね、あなたたちも寝るなら早く寝なさい」
ことり「言われなくても分かってるよっ」
果南「絵里はお母さんかな…」
絵里(とりあえずあの戦いで汗水流したのだから体はベトベト、傷は痛むかもしれないけどまさか入らないなんて選択は無いしとりあえずお風呂に入った)
213: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:56:00.33 ID:RR8ZWgfX0
絵里「相変わらず広いわね…」
絵里(お風呂は一般的に言えばまず考えられないであろう広さで、まさか大浴場とまではいかないけど広く四角い空間の三辺にはなぜかシャワーと鏡がついてるし、ご丁寧にシャンプーリンスボディソープも配置してあってあるべきものはしっかりある模様)
絵里「ふー…」
絵里「疲れた……」
絵里(とりあえず何かする前に湯船に浸かった、傷は染みて痛いけど耐えられないほどじゃない)
曜「お邪魔しまーす」
絵里「!」
バシャーン!
曜「うわっ!?急に酷いよー!」
絵里「びっくりした…勝手に入らないでよ!」
絵里(突然バスタオルを巻いた曜が入ってきて驚いてお湯をかけてしまった、突然というタイミングで入ったのにも驚いたけど何よりお風呂というプライベートを曝け出す時に勝手に入られたのが一番の驚きだった)
曜「勝手にってここのお風呂は一人用じゃないじゃん…」
絵里「例え相手が女でも見られて恥ずかしいモノは恥ずかしいのよ!」バシャバシャ!
曜「じゃ、じゃあ見ないから!お湯かけるのやめて!熱い!」
絵里「はぁ…はぁ…」
絵里(…まぁここは我慢するしかない、そう思い妥協した。そしたら曜は私から見て向かいのシャワーの場所に座った)
214: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:57:04.95 ID:RR8ZWgfX0
曜「ふー…いってて……」
絵里「横っ腹?」
曜「そうだよ、水は染みるね…」
絵里「…そうね」
曜「おーすごい、このシャンプー高級なやつでしょ」
絵里「多分そうよ、真姫の家だし」
曜「私もこんな贅沢出来るお金があったら対アンドロイド特殊部隊なんてところには入ってなかったんだけどなー」
絵里「でもいいじゃない、そこに入れたおかげで強くなれたんだから」
曜「別に私は強くなりたかったわけじゃないから何とも言えないかな…」
絵里「…そう」
215: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:58:11.18 ID:RR8ZWgfX0
曜「…絵里さんはさ」
絵里「…何?」
曜「私が裏切って、次確実に仕留められる状況になったら私を殺す?」
絵里「もちろん殺すわよ」
曜「…うん、それは知ってる」
曜「……一応さ、ありがとうって言っておくよ」
絵里「…?意味が分からないんだけど」
曜「絵里さんはね、優しすぎるんだよ」
絵里「…そんなことはないわよ」
曜「なら、なんであの時私を殺さなかった?」
絵里「!」
216: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 20:59:28.77 ID:RR8ZWgfX0
曜「……殺せなかったんでしょ?」
曜「人を殺すのが怖いんでしょ」
絵里「…どうしてそう思うの?」
曜「…瞳、かな」
絵里「瞳?」
曜「私に銃口を向けてから絵里さんの瞳は揺れるばかりだったじゃん、明確な殺意があったならあそこで殺すのを躊躇う理由なんて何一つないし」
絵里「………」
曜「それにね、ことりちゃんを助けようとしてた時だってにこさんを殺せてたじゃん」
絵里「あ、あれはたまたま拳銃に当たっただけで――」
曜「それは違うね、なら連射をすればよかった。違う?」
絵里「………」
曜「いくら相手が超一流とはいえにこさんはアンドロイドじゃないからね、完全なる不意打ちで初弾が当たらなかったとはいえ二発目が避けられるかといえばそれはNOだよ」
曜「…きっと殺す覚悟はあるんだと思う、流れとかに任せちゃえばきっと殺せるんだと思う。けど致命的に絵里さんは相手を痛めつけることは出来ても殺すことのできない情がある」
曜「……正直言って、戦場に立つには向いてないかな」
217: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:01:32.67 ID:RR8ZWgfX0
絵里「…なら」
曜「いや別にいいんだよ、絵里さんは強いから。戦場に立ったって」
曜「でも不安なんだよ」
曜「あの時みたいに確実に仕留められる状況で、いつまでも殺すことを躊躇っていたら相手が何かしてきて絵里さんを殺してしまうかもしれない、助けが来て絵里さんが殺されてしまうかもしれない」
曜「優しすぎる故に、不安なんだよ」
絵里「………」
曜「…いや、まぁだからさ…そのさ……」
絵里「…?」
曜「…私が代わりに殺してあげようって思ったの、相手を」
絵里「…なにそれ」
曜「絵里さんの戦闘は不安だらけなの!だからいざという時は私が殺してあげるって言ってるの!」
絵里「………」
絵里(どうしてなんだろう。曜は…曜はどうしてそこまでしてくれるんだろう、数時間前までは敵だったのに、今ではこんなこと言ってくれるなんて意味が分からないわよ)
218: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:02:35.17 ID:RR8ZWgfX0
絵里「…どうしてそこまでしてくれるの?」
曜「…正直言うとね、お金はたっぷりあるんだけど引き下ろせないんだ」
絵里「なんで?」
曜「絵里さんに協力しちゃったからね」
絵里「!」
曜「協力したのは私の意志だよ、まぁ協力せざるを得ない状況にいたのも否めないけど」
曜「だからどの道私は絵里さんの背中を追うことしかできないんだよ、お金が欲しいなら絵里さんに協力して平和に暮らせるまで戦わないといけないんだよ。それなら本気で、出来ること全てをこなして生きなきゃって思ったの」
曜「私渡辺曜は、絵里さんの背中に全速前進ヨーソロー!ってね」
絵里「曜…」
曜「…まぁ、だから少しは私のこと信用してもらえると嬉しいかな」
219: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:03:25.23 ID:RR8ZWgfX0
曜「ことりちゃんにはものすごい警戒されてたし、善子さんにもかなり鋭い目で見られてたから…」
絵里「…そう、でも安心して」
絵里「私は曜の事信じてるから」
曜「…ふふっありがとう」
絵里「……あははっ」
絵里(頬を赤らめて嬉しそうに微笑む曜を見てたら、私も喜びの表れで照れ笑いをしてしまった)
絵里(まぁ、この事を曜に言われなくても私は曜のことを信じてたけど、こう改めて言うとなんか小恥ずかしいものがあるわね…)
曜「そろそろ戦うのはやめたいなって思ってたけど、まだまだ私は現役かな」
絵里「ええそうね」
絵里「当分は……」
220: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:05:52.64 ID:RR8ZWgfX0
~???
カランカランッ
にこ「…!随分と珍しい面がいるじゃない」
「あ、こんばんはにこさん」
にこ「このバーの場所が分かるってことはたまたまここへ来たわけじゃないのでしょう?」
「そうですね、この時間ににこさんがここへ来るというのを知ったいたのでここへ来ました」
にこ「…やっぱりあんた気持ち悪いわね」
「えへへ、殺し屋ですから」
にこ「それで何の用?私はここのイチゴジュースを飲んですぐに帰りたいのだけど」
「ふむ…では簡潔にまとめて言いますと」
「にこさんたちの敵はあの金髪ポニーテールの人たちだけじゃありませんよ?」
にこ「…それは絢瀬絵里率いる集団とは別にあんたらが敵だと言いたいわけ?」
「いえいえ違いますってば!例えあなたたちに敵愾心がなけれどいずれ戦う事になるだろう相手のことです」
221: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:07:47.78 ID:RR8ZWgfX0
にこ「それを私に教えて何のつもり?」
「気を付けてほしい、という私個人からの忠告ですよ」
にこ「ふーん…やっぱりあんたら殺し屋って考えてることがまったくもって理解出来ないわね」
「でも、にこさんは対アンドロイド特殊部隊の中ではかなり理解のある人ですよね」
にこ「…ええそうかもね、もしかして私のところにきたのもそう思ったから?」
「当たり前じゃないですか、対アンドロイド特殊部隊でまともなのといえばにこさんか曜さんしかいませんから」
「でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました」
「あ、後にこさんは数少ない私たち殺し屋と友好な関係にある人じゃないですか」
にこ「友好ねぇ…」
「間違ってませんよね?」
にこ「…どうかしらね」
にこ「……でもまぁありがとうと言っておくわ」
「えへへ…」
222: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:09:40.41 ID:RR8ZWgfX0
カランカランッ
海未「はぁ……ってあなたは…!」
「あ、海未さんこんばんは」
海未「…何の用ですか?」キッ
「あ、えーっと…海未さんが来たなら私はおいとまさせてもらいます」
「それじゃあ!」
タッタッタッ
「…あ、でも一つ、海未さんにもにこさんにも言っておきますね」
にこ「何?」
「今日からあなたたちが敵にする相手は全員、最強レベルですよ」
「例え化け物染みた海未さんや頭のおかしいあの人たちをもってしてもそれは変わりません」
海未「…つまりは希たちということですか?」
「…もしかしたらそうかもしれません、でも他にも敵がいることを忘れないでくださいね」
「ではっ」
カランカランッ
海未「…何なんですかあれは」
にこ「さぁね、でも間違ったことを言ってるわけじゃ無さそうよ」
223: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:12:04.31 ID:RR8ZWgfX0
海未「曜が行方不明という時に不安を募らせないでほしいですね」
にこ「………」
『でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました』
にこ「先客がいた、とか言ってたわね」
海未「え?」
にこ「…いや、なんでもないわ」
にこ「これからどうしましょうかね」
海未「とりあえずは曜の捜索でしょう、それ以外にあるとは思えません」
にこ「まぁそうよね」
にこ(だけど手がかりもないのにどうやって見つけるのかしら…それに私たちだって暇じゃないから曜だけに焦点を当てられるわけじゃないし、私としては曜よりも絢瀬絵里の行方の方が気になるわね……)
海未「…なんですか、にこ?」
にこ「ちょっと考え事」
海未「そうですか」
にこ「ええ」
にこ「………」
にこ(…希に会ってみるか)
224: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:14:22.95 ID:RR8ZWgfX0
~別荘、寝室
曜(しばらくは海未さんたちは私を探しに色々まわるはず…ならやっぱり動かないのがいいかな)
果南「何考えてるの?」
曜「うーんちょっとこれからをね」
果南「そっか」
曜「絵里さんは?」
果南「武器について色々調べてる」
曜「武器?」
果南「知り合いに真姫っていうお金持ちの子がいて、その子が絵里に好きな武器をくれるらしいから絵里もどの武器がいいか色々見てるんだと思うよ」
曜「へー武器か」
果南「絵里の戦法にあった銃を使わないとね」
曜「うん、その通りだね」
225: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:15:59.16 ID:RR8ZWgfX0
果南「確か曜はほとんどの武器が使えるんだっけ?」
曜「そうだよ、ライトマシンガン以外は使えるよ」
果南「へーどうやって武器選んだの?色々使えるならやっぱり迷うでしょ」
曜「やっぱり実際使ってみていいと思ったやつを使ってるかな、子供の頃から動物とバトってたから試し打ちはいくらでも出来たし」
果南「なるほどね」
曜「…でもまぁ、今はそういうことできないだろうね」
果南「難しいかもね」
曜「となると絵里さんは迷うと思うよ、同じ武器種でも性能は大きく違うわけだし」
果南「まぁね」
226: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:18:02.08 ID:RR8ZWgfX0
曜「…ん?でも絵里さん確かアサルトライフル持ってたよね?」
果南「あぁあれはことりのだよ」
曜「そっか、じゃあ借りたんだね」
果南「そうそう、ちゃんと使えてた?」
曜「うーん絵里さん自身が攻撃的じゃないってのもあるけどあんまり撃ってなかったかな」
果南「そっか、やっぱりいきなりは無理だったのかも」
曜「どうだろうね」
曜「…あ、でもそういうわけじゃないと私は思う」
果南「ん、なんで?」
曜「絵里さんはどっちかっていうと近距離で戦う方がいけるって思ってるんじゃないかな、だから近距離に対してことりちゃんの持ってるあのアサルトライフルは弱いんだよ、連射速度はそこまで高くないしアサルトライフルってそもそも重いし」
曜「それを理解した上での行動なんじゃないかな」
果南「なるほどね、じゃあ絵里は善子と同じでサブマシンガンがいいわけだ」
曜「そうだね、私はそう思う。連射速度が早くて瞬時火力が高い銃を使うべき」
227: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:21:40.41 ID:RR8ZWgfX0
果南「となるとどういう銃?」
曜「……お金があれば今すぐにでも私が最適な銃を作るんだけどね」
果南「んー…お金ならあるよ」
曜「え?」
果南「真姫に頼めばお金はくれるよ、絵里が生きている以上はね」
曜「…その真姫さんっていう人は絵里さんとどういう関係?」
果南「うーん…」
果南「パートナー、のような関係かな」
曜「パートナー?」
果南「まぁ昔色々あったんだよ、でも私はよく知らないんだよね」
曜「そ、そっか」
果南「まぁお金の件、絵里に行ってみようか?」
ガチャッ
絵里「ふぁ~…」
果南「ほら丁度来たみたいだし」
絵里「ん?どうしたの?」
果南「実はさ――」
絵里(突然持ち掛けられた話、聞けば曜が私に最適な銃を作ってくれるとのことで、どんなものかは教えてくれなかったけど、戦闘経験豊富な曜が私に最適な銃を作ってくれるなら是非ともそうしてもらいたい)
絵里(調べてネットで得た知識なんかより曜の持ってる知識を使った方が何十倍もいいだろうからね)
228: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:22:50.07 ID:RR8ZWgfX0
果南「はー!このベットはやっぱり広いなー三人一緒でもまだ広いや」
絵里「随分と楽しそうね」
果南「そりゃあ楽しいよ」
曜「…私も分かるかも、このドキドキ感と謎の高揚感がいいよね」
果南「いいねぇ曜は分かってるよ」
絵里「私は分からないわ…」
果南「ふふふっーぎゅー!」
絵里「むぐっ…苦しいわよ」
曜「同じく…」
果南「いいじゃーん、せっかく一緒に寝てるんだし」
絵里「子供か…」
曜「ふふふっ果南さんって面白いね」
果南「毎日を精一杯楽しみたい人だからさ」
曜「…そっか、すごくいい人だね」
絵里「…ふふふっ」
絵里(やっぱり果南には敵わない、人を笑わせてくれるその明るさはホントに感謝すべきで見習うべきモノだ)
絵里(それでいて強いというのだから果南は卑怯、もっとも今は戦えないけどね)
229: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:24:49.06 ID:RR8ZWgfX0
~夕方
真姫「訳の分からない話を聞いて色々来てみたけど…」
ことり「おはよう♪」
曜「おはよう!」
真姫「…なんか増えてない?私の錯覚?」
絵里「ん?錯覚?」
善子「残念ながらそれは錯覚じゃないのよ…そう、堕天使ヨハネが作り出したげんえ」
果南「本物だよ」
善子「私が喋ってる時に割り込むな!」
真姫「絵里からメールが来てなんか銃の部品をめちゃめちゃ発注してくるから急いで揃えたけど…渡す前に状況を説明してくれる?」
絵里「ええ、もちろんよ」
絵里(その日の夕方、真姫がこの別荘へ来た)
絵里(来た理由はもちろん朝起きてすぐに送った曜の作りたい銃の部品を持ってきてもらうためよ)
230: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:27:18.97 ID:RR8ZWgfX0
真姫「えぇ…仲間にしたって…」
絵里「いいじゃない、それで今がこうやって平和なんだから」
真姫「まぁ別に絵里がいいなら私はいいけど…でも大丈夫なんでしょうね?」
真姫「特に元対アンドロイド特殊部隊に入ってたと言われるあなた」ジロッ
曜「あはは…大丈夫だよ…」
真姫「というかあなたは退院してすぐに戦ったのね…」
ことり「戦ったんじゃなくて戦わされただけだもんっ!」
真姫「そう…」
真姫「…まぁいいわ、はい部品」
絵里「ありがとう」
真姫「大切にしてよね」
絵里「ええ」
231: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:30:21.25 ID:RR8ZWgfX0
真姫「…それでみんなはこれからどうするの?」
果南「とりあえず様子見ってことでみんなここでくつろいでる状態だよ」
真姫「そ、そう…」
絵里「真姫の方は大丈夫?」
真姫「ええ、おそらく私は警戒されてないはず」
絵里「ならいいけど」
絵里「…あ、はい。曜、これ部品ね」
曜「はい、預かったよーじゃあ後は私にお任せ!あ、後ここにある機械色々借りるね!」
タッタッタッ
善子「…行っちゃった」
ことり「流石行動が早いね」
果南「どんな銃が出来るんだろう?」
絵里「…分からないわ」
232: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:33:34.02 ID:RR8ZWgfX0
真姫「サブマシンガンでしょうね、部品的に」
果南「それは私も分かるよ、ただどんなサブマシンガンかが分からないんだよ」
真姫「…それは私もよく」
ことり「同じサブマシンガンでも性能は大きく違うからね、武器種を聞いたところで一概にどんなものか想像は出来ないね」
善子「そうね」
絵里「…まぁその話はいいわ、それより真姫はどうする?もう帰る?」
真姫「ええ、本当はもっといたいけど流石に長居は危険だからね、帰らせてもらうわ」
果南「はーい、気を付けて帰ってよ?」
真姫「言われなくてもそのつもりよ」
絵里「じゃあね」
真姫「ええ、また」
スタスタスタ ガチャンッ
233: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 21:35:28.14 ID:RR8ZWgfX0
絵里「…お金は全額真姫負担な上にわざわざ部品を持ってきてもらうなんてなんか申し訳ないわね……」
ことり「西木野真姫の性格を見るにイヤなら断ってるから大丈夫だと思うよ」
果南「私もそれは同意見かな」
善子「同じく」
絵里「…戦闘型アンドロイドと標準型アンドロイドは感受性が違うのかしら」
絵里(夕方のわずかな時間で話は一気に進んだ、部品が届き曜は私の銃を作ってくれるということで家の機械やら何やらを使って一室にこもってるし真姫はすぐに帰ってしまった)
ことり「あ、ずるいよ!」
善子「ふふふっ…これは早いもの勝ちなのよ…」
果南「いっけー!これでもくらえっ!」
絵里「ふふふっ」
絵里(それで残された私たちはそれぞれ自由な時間が出来るわけだけど、私を除いた三人はゲーム三昧の様子)
236: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:09:04.44 ID:RR8ZWgfX0
果南「絵里はゲームしないの?」
絵里「お皿洗ってお風呂沸かしたらね」
善子「あ、ごめん…」
絵里「いいわよ別に、三人は遊んでて」
絵里(私も遊びたいけど、色々やることあるしそれを先にやってから)
絵里(だからキッチンで皿洗いをしながら三人の姿を見てるけど、この時間は不思議と私の人生が充実してるなって思ってしまう。間違ってはないのだろうけど、でもどこかが違うそんな充実は実に甘味で……)
絵里(銃弾一つで壊れてしまうような、硝子で出来た秘密の楽園。そんな場所なのかもしれない、ここって)
237: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:10:47.40 ID:RR8ZWgfX0
善子「そういえばことり」
ことり「何?」
善子「ことりって人の名前を呼ぶ時って必ずフルネームで言うわよね、なんで?」
ことり「その呼び方が一番しっくりくるからだよ」
果南「えー私たちのことちゃん付けしてよー果南ちゃん♪って」
ことり「…絵里ちゃん」
絵里「! え、ええ?」
ことり「……善子ちゃん」
善子「ええ!後ヨハネちゃんでもいいわよ!」
ことり「………」
ことり「松浦果南」
果南「なんで!?」
238: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:11:31.41 ID:RR8ZWgfX0
ことり「松浦果南は松浦果南の方がしっくりくる」
善子「ぷっ…くすくす…」
果南「えぇ…なんか納得いかない」
果南「後そこの堕天使野郎笑うな」
善子「ヨハネよ!」
ことり「松浦果南にちゃん付けは似合わないよ」
果南「納得いかない…」
絵里「あははは…」
239: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:14:41.28 ID:RR8ZWgfX0
~同時刻、某カフェ
にこ「…遅かったわね」
希「ごめんごめんって、色々あって遅れちゃった」
にこ「そう」
希「よいしょっと、にこっちがウチに連絡なんて珍しいやん?明日は槍でも降るんやない?」
にこ「降るなら銃弾ね」
希「うーんまぁあり得なくもない」
希「…そういえばあの住宅街のやつはよくもやってくれたね」
にこ「希がグレネードを使った時点で被害は大きかったからあの状況は何を使っても許されたでしょうに」
希「それでグレネードランチャーを使っていいなんてことにはならないやん?第一にこっちは正義の味方やん」
にこ「はっ私は正義の味方なんてやってるつもりはないわよ、勝つための常套手段を使っただけ。爆破で人が死ぬとか知ったこっちゃないわよ」
希「……よくそんなんで対アンドロイド特殊部隊で一番か二番目に常識人なんて言われたものやね」
にこ「他が頭おかしすぎるのよ、そのせいで対アンドロイド特殊部隊のメンツも仲がいいわけじゃないし」
希「…確かにウチもあそこの子たちとはあまり関わりたくないかなぁ」
240: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:16:20.13 ID:RR8ZWgfX0
にこ「ええそうね、でもそんなことより私は聞きたいことがあるのだけど」
希「あ、そうやったね。じゃあ改めてウチに何の用?」
にこ「曜の行方とあんたの連れであるあのお茶目なアンドロイドが言う絢瀬絵里率いる集団でもあんたら殺し屋でもない敵というのを知りたい」
希「うーん、なるほどね」
希「まぁ結論から言うと曜ちゃんの行方は言えないかな」
にこ「…どうしてよ?」
希「ウチとにこっちは友達という関係ではあるけど仲間ではない、いくらウチが無関係とはいえにこっちだけ有利に進む情報はあげれないかな。にこっちが不利っていうならあげてもいいけど、にこっちの周りは海未ちゃんを始めとした頭おかしい人が集まってるから有利になる情報をべらべら言っても面白くないんよね」
希(…というか、今の状況はあの金髪の子の方が圧倒的に不利だし尚更教えるわけにもいかないやんね)
にこ「…あんたってホント意味不明ね」
希「ウチは殺し屋だけど、これでも常識人で相手の立場を尊重してるから♪」
にこ「…それで常識人なら世界のほとんどの人間が常識人ね」
241: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:17:51.78 ID:RR8ZWgfX0
希「実力行使で聞きにこないんだ?」
にこ「あんたら殺し屋に喧嘩を売るととんでもなくめんどうなことになるからね、しかも今はあまり戦力を削れない状況だし」
希「んーまぁそうやね」
にこ「それでどうなの?曜の事はさておきもう一つの方は」
希「いいよ、そっちは教えたげる」
希「でも謎なところもかなり多いからあまり期待しないでね」
にこ「ええ」
希「――ちゃん曰く相手の人数はおそらく三人、それでウチらと同じように殺し屋をやってるらしいよ」
にこ「また殺し屋か…」
希「戦闘は一回もしてないから使用武器とかは分からないけど、まぁ手練れやろうね。動いてるのをわざとちらつかせてるから何かを企んでると考えた方がいいかもしれん」
にこ「…希はそいつらをどうするつもり?」
希「正直邪魔だけど、変に手は出せんからなぁ」
希「しばらくは様子見かなぁ」
にこ「…そう」
希「はぁ…何個も何個も問題を持ってこないでほしいね」
にこ「それはこっちのセリフよ、敵は一つだけ充分よ」
希「全くやね」
242: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:21:31.46 ID:RR8ZWgfX0
希「…まぁいいや、ねえにこっち」
にこ「何?」
希「ウチはにこっちに情報を提供したんだからにこっちもウチに情報を提供すべきだよね?」
にこ「…何が欲しいの?」
希「あの金髪の子のこと……いや欲張り言うならあの金髪の子そのものが欲しいかな」
にこ「金髪?絢瀬絵里のこと?」
希「そう、多分その子」
にこ「…絢瀬絵里が欲しいっていうのは何?部下にでもしたいの?」
希「そうそう!あの子はウチにとって魅力そのものでしかないね、アンドロイドに詳しいウチなら分かる、あの子は“未知の力”を有している」
にこ「未知の力?」
希「なんというか…潜在的っていうんかな?一回戦うだけじゃいまいち力が把握出来ないんよね」
にこ「ふむ…」
希「…まぁいいや、ウチが聞きたいのはそういうことじゃないんよ」
にこ「…何?」
希「その絢瀬絵里って子は何型のアンドロイド?」
にこ「標準型アンドロイドよ」
希「…なるほどね、ありがとうにこっち。ウチが戦ったのは金髪の子じゃなかったから分からなかったんよね」
243: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:23:16.01 ID:RR8ZWgfX0
にこ「…どうするつもり?」
希「……ノーコメントやね」
にこ「殺しに行くなら手伝うわよ、私たちも殺すことを目標としてるし」
希「残念だけどにこっちたちと組むつもりはない、それにウチはその絵里って子を殺したいとは思ってないし。さっきも言ったやん?部下にしたいって」
にこ「…そう、残念だわ」
希「さて、用件は済んだみたいだしウチはここらでおいとまさせてもらうよ、あまり長居はしたくないんでね」
にこ「ええ、じゃあね」
希「ほい、じゃあ」
スタスタスタ
にこ「………」
にこ(絢瀬絵里と希が組んだら……まずいわね)
にこ(その場合は……どうするかしら)
にこ(お互いの総力を費やして戦う総力戦か、それとも私も希の方へ寝返った方がいいのかしら)
にこ「…はぁ、殺し屋は一人だけで充分よ……」
244: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:25:16.46 ID:RR8ZWgfX0
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
245: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:27:54.10 ID:RR8ZWgfX0
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
246: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:30:03.96 ID:RR8ZWgfX0
ことり「だから対アンドロイド特殊部隊にいる人もそうだしあの殺し屋の集団もそうだけど今使ってる武器が最適な事が多いんだよ」
絵里「じゃあスナイパーを使ってる人はスナイパーが一番いいのね」
ことり「うん、そうだよ。でも私にはよく分からないかな、スナイパーをメインにしてる人の気持ちが」
果南「色々あるんだと思うよ、性格とかもそうだしスナイパーって大して動かなくていいからそういうのも関係してると思う」
絵里「あぁなるほど」
善子「人それぞれよね、使う武器にもちゃんと理由があるしその武器の中で更に種類があってそれにも理由があるんだから」
果南「アサルトライフルにサブマシンガン、ショットガンやスナイパー、そしてライトマシンガンやマークスマンライフルなんてものもあるんだからそりゃあみんな使う武器も違うよ」
絵里「みんな色々考えてるのね…」
絵里(銃なんてとりあえず持っておけばいいって考えてたけど、そんなことは全然ないみたい)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(何度も頭の中で響くこの言葉、善子も果南も、そしてことりも自分の最適な銃を使ってると聞くけど私にとって最適な銃っていうのはどういうものなのかしら)
絵里(希って人のショットガン二丁もそうだし、曜の使える武器の多さもそうだし、きっとそこに個性だって求められるのだと私は思う。こういう時に銃を使った戦闘経験の浅さが滲み出るのが悔しかった)
絵里『私が…私が…!』
絵里『……なんで』
曜『人を殺すのが怖いんでしょ』
絵里「………」
絵里(人を殺すのに躊躇いがあるのも、それが関係してるのかしら…)
247: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:33:41.97 ID:RR8ZWgfX0
善子「それで結局どうするの?その銃は」
ことり「…考える。どうせまだ戦えないんだし」
絵里「傷酷いしね…」
ことり「そうそう、いざという時は別の銃を使うし」
果南「ことりって他の銃使えるの?」
ことり「サブマシンガンなら使えるよ、アサルトライフルならバースト銃じゃなければほぼ使えるはず。ブレが酷い銃はちょっと厳しいけど…」
絵里「バースト銃?」
善子「多分三点バーストの事を言ってるんじゃない?」
絵里「あぁなるほど」
絵里「…ん?三点バーストってトリガーを引くと弾が三発出る銃よね」
善子「そうよ、こういうバースト銃の利点はブレを抑制しやすく弾の消費を抑え銃の部品へのダメージを少なくできること、フルオートじゃない分トリガーを引いた時照準がぐんと上がることはないし、リロードの頻度も落ちる、トリガーを引くことでの銃への負担も少ないから長く使える、これに限るわ」
善子「だけど単純な手数で言えばフルオートに劣るわ、フルオートはトリガーを引きっぱなしでいいけどバースト銃は一回一回引き直さないといけないから絶対に手数負けする」
248: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:35:19.04 ID:RR8ZWgfX0
絵里「ふむ…難しいわね。でもバースト銃はブレを抑制しやすいんでしょ?ブレが酷い銃が使えないっていうならことり向けじゃない」
ことり「そういう問題じゃないよ、私は昔から立ち回りが丁寧だって言われてあまり決定打が無くて、だから今の私に必要なのは火力なの、だけど火力が高い銃ってどうしてもブレが酷い銃しかなくて、私どうしても扱えなくて…」
ことり「だけどやっぱり火力は欲しいからだからバースト銃っていう小回りが利く銃を使うよりかはこのQBZ-03のようなちゃんと手数があるフルオートでブレもそこまでない素直な性能をした武器が私にとって一番の銃なのっ」
絵里「へ、へぇ…」
絵里(やはりにわかが口を出すものではないと思った、私の武器については曜に任せようそうしよう…)
絵里「銃って奥が深いのね…」
果南「あはは、ホントにね」
善子「こんな話してたら曜がどんな銃を作ってくるのか気になってきたわ…」
ことり「ねっ」
絵里「ええ」
絵里(これからを生き抜くためには銃の知識も少なからずは必要になるでしょう、だからその時のために、今色々準備する必要がありそうね)
249: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:36:56.03 ID:RR8ZWgfX0
~二日後夜、公園
海未「希」
希「……ん?」
海未「ようやく見つけましたよ、希」
希「何か用?ウチの少ない休み時間を邪魔しないでほしいんやけど」
海未「にこから聞きました、曜の居場所を知ってるそうですね」
希「さあね」
希「というか、今日はフードまで被ってどうしたん?夏真っ只中だって言ってるのに暑くないん?」
海未「心頭滅却すれば火もまた涼し、またその逆も然りです」
希「ひゅーすごいねぇ、剣術を歩む者ってのは」
カチャッ
希「…なんでウチに銃口を向けるん?」
海未「曜の居場所を言ってください」
希「イヤだね」
250: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:39:42.76 ID:RR8ZWgfX0
海未「…では、死がお望みで?」
希「……海未ちゃんさ、足を撃たれたって聞いてたけどなんで平然と動いてるん?」
海未「あなたなら知っているでしょう?」
希「…海未ちゃんって本当に人間なんだよね?実はアンドロイドでしたってオチあるよね?」
希「その再生能力、即時回復とは言わないけど数日経てば治っちゃうソレは軽蔑もんだね」
海未「ありがとうございます、私の体を褒めていただいて」
希「…気持ち悪いね」
海未「ええ、それで教えていただけるのですか?」
希「………」
希(向けられた銃口はほぼウチの真横にあった、下手な抵抗をすればウチは死ぬだろう)
希「……それは無理な出来事やねっ!」
海未「っ!?」
バァンッ!
希(…ただ、上手に抵抗すればどうってことない)
希(ジャングルジムに寄りかかりながらコーヒーを飲んでたウチはしゃがみと同時に海未ちゃんに向かって足払いをした、結果海未ちゃんの持つ拳銃から放たれた銃弾は空へと向かいウチは見事に銃弾を回避することに成功、そしてそのまま浮いた海未ちゃんの背中をキックし、ジャングルジムに叩きつけ攻撃に転じた)
251: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:42:42.51 ID:RR8ZWgfX0
海未「がッ…あっ!」
希「今ここで死ぬのは海未ちゃんだよ」
海未「…っ!」ブンッ!
希「おっと」
希(叩きつけられた海未ちゃんはすぐさまジャングルジムの棒を掴んで体勢を立て直してそのまま突き蹴りをしてきたもんで、ウチは顔を少し横に逸らして回避した)
海未「あまり私を怒らせない方がいいですよ、死にたくないなら早めに曜の居場所を言った方が希の為でもあると思うのですが」
希「心配してくれるのはありがたいけど生憎曜ちゃんの居場所を言うつもりはないかなぁ」
海未「ならやはり死んでもらわないとダメなようですね」シュッ
希「そんなのお断りやねっ!」
希(海未ちゃん特有の超スピードの跳躍は人間の反応速度じゃほぼ回避不可能、だから受け止めるしかないんやけどウチはこの跳躍を何回も見てきたものでね)
希「知ってるよ!海未ちゃんが跳躍をするタイミングなんてっ!」
希(ある程度タイミングさえ読めば返り討ちだってできるんよ。海未ちゃんと距離を置いて、その距離を詰めるべく跳躍をした海未ちゃんに対しウチは蹴り上げをした、結果海未ちゃんのお腹に蹴りがヒットして跳躍の勢いは止まり海未ちゃんは背中から地に落ちていった)
252: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:45:21.01 ID:RR8ZWgfX0
希「まだまだいくよっ!」
希(倒れる海未ちゃんの心臓目掛けてショットガンを一丁突き刺しに行ったけど、海未ちゃんは横に転がり回避――そしてそこからウチは地面に突き刺さったショットガンを抜いて海未ちゃんに向かって片手で発砲、だけど案の定海未ちゃんは超スピードの跳躍でウチが撃つ前に射線から外れてた)
海未「後ろですよっ」
希「はいはい」
希(一瞬でウチの後ろを取るのは流石に人間とは思えないけど、これが海未ちゃんなんだろうね)
希(後ろから声がした時はウチも避けることも受け止めることも諦めて食らうことを選んだよ)
希(戦闘経験が浅い人ならここで発砲をする為に銃を構えて反撃の隙を作ってくれるんやけど、海未ちゃんはそうしてこなかった)
海未「はぁッ!」ドカッ!
希「ぐ…ぎっ…!」
希(お返しと言いたげな背中への強烈な飛び横蹴り、この威力ときたらやっぱり人間とは思えない威力だよ)
希(蹴りを食らったウチは前方へと吹っ飛んだ)
希「はぁ…いったた……」
海未「随分と余裕そうですね」
希「ウチは常に受け手なもんでね」
253: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:48:29.90 ID:RR8ZWgfX0
海未「あの蹴りを食らってもそこまでダメージが通ってないのはもはやアンドロイドと疑ってしまいますね」
希「それはお互い様やん?」
カランッ
海未「!?」
希「あ、気付いちゃった?」
海未「なっ…」
ドカーン!
希「…まぁもう遅いけど」
希「……海未ちゃん相手にはもっと別の場所で使いたかったんだけどね」
希(ウチの十八番と言っても過言じゃない技…なんかな?)
希(ウチは小さい時は占いや手品が好きだった、神秘学が好きでただそれに似たモノで尚且つウチでも出来た手品にハマると人を騙す行為に詳しくなった)
希(相手が一番油断するのは勝利を確信する時じゃなくて勝利を確信するキッカケが出来た時、ウチに蹴りを浴びせた海未ちゃんはウチの事しか考えてなくて、ウチの手元にあったピンの抜かれた手榴弾には目もいかなかっただろうね)
希(ウチ自身の体を犠牲にしてピン抜きグレネードを足元に転がすこの技は様々な人を葬ったよ)
希(だからウチは常に受け手なんよ)
254: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:50:45.42 ID:RR8ZWgfX0
海未「…その程度ですか?」
希「…!」
海未「私はその辺の有象無象とは違いますよ、グレネードと手品一つでくだばってたら対アンドロイド特殊部隊にはもういませんからね」
希「あはは…やっぱり海未ちゃんとは関わるべきじゃないね」
海未「ふふふっ降参しますか?」
希「いいや、生憎ウチはまだ死ねないんでね」
希「降参はやめとくよ」
海未「そうですか」
255: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:51:47.07 ID:RR8ZWgfX0
希「じゃあ第二ラウンド開始といこうやん?」
海未「ええ、そうですね」
希「ふう」
希(ウチ深い息を吐きながら二丁のショットガンを下げた)
キランッ
希「…相変わらずやね、その武器」
海未「私の相棒ですから」
希「……そっか」
希(街灯の光に照らされ黒光りする刃物――それを見れば人間だろうとアンドロイドだろうと海未ちゃんの明確な殺意を感じ取ることは可能だった)
希「…にしてもやっぱり珍しいね、銃剣なんて」
海未「私からすればむしろなんでみんなつけないのか不思議ですね」
希「銃が頂点に立ってるというのにわざわざ剣術を嗜む異端者なんているはずないやん?」
海未「そうですか、ですがそれは私にとっては好都合ですね」
海未「誰も使わない分、対策が出来ませんから」
256: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:54:14.20 ID:RR8ZWgfX0
海未「希も素晴らしいと思いません?このロンズデーライトで出来た剣は」
希「……そうやね」
希(ロンズデーライトというダイヤモンドより硬い鉱物で出来たその剣はデュランダルの如く壊れない剣と化している)
希(海未ちゃんは銃を学ぶと同時に剣術も嗜んでいた為にこのようなガンソードスタイルが出来上がった)
希(ここで問題なのは――)
希(ウチの戦闘スタイルとほとんど同じということ)
希(ただウチの持つショットガンの銃口には刃物がなく鈍器として扱う型だから根本的には一緒なだけ)
希(…ただ、そこだけでも一緒というのなら……)
海未「先手必勝!」
希「させんよ!」ポイッ
希(銃口がウチに向いてきたもんですぐにスタングレネードを投げた、ウチは人間だし曜ちゃんのような銃弾を回避するための補助装置を持ってるわけじゃないし、海未ちゃんのような人間らしからぬ運動神経を持ってるわけじゃないから銃弾は避けれない)
希(だからまず前提として弾を撃たせないという立ち回りをしないといけないんよ)
257: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 22:57:05.90 ID:RR8ZWgfX0
海未「くっ…」
希「はっ!」ダッ
タッタッタッ
希(海未ちゃんが後ろへ跳躍するのを見てウチは眩い閃光の中に突っ込んだ、ウチは投擲物が大好きなもんでフラッシュに備えたゴーグルをいつもおでこにつけてる、だからこういう時関係無く行動できるのがウチの強みだ)
希「ウチのダンスを見てね海未ちゃん!」
海未「出ましたね…!」
希(ショットガン二丁を乱射しながらバレエのように舞った、近距離でウチのショットガン二丁と平面でやり合うのは誰であろうと無理に等しい、それでいてウチは乱射しながら相手に近づくんだからスナイパーでもいない限りはこの戦法が崩されることはない)
希(もちろんリロード時は止めないといけないけどね)
海未「ホントに頭の悪い武器ですね」タッ
希「ウチの相棒の悪口は言わんといてほしいねっ!」バンバンッ
希(飛び退く海未ちゃんを追うようにウチも跳躍を繰り返しながら発砲する、ウチのショットガンはどちらもAA-12と呼ばれるフルオート式のショットガンで尚且つドラムマガジンだから一つの弾倉に31発の弾が入ってるんよ)
希(だから弾切れも頻繁には起こさないし手数はどのショットガンよりもどのサブマシンガンより強く近距離最強ともいえる、そんな力強いこのAA-12二丁がウチの相棒や)
258: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:05:45.89 ID:RR8ZWgfX0
海未「まぁこちらも逃げてるだけじゃないですけどね!」ドドドド
希「はいはい知ってるよ!」ポイッ
希(横っ腹についてるスモークグレネードを辺りにばらまいた、次の瞬間には公園の半分が煙に覆われてお互いにお互いの居場所を分からなくさせた)
希(だから今のウチにリロードをして、よく耳を澄ませた。目を瞑り、音にだけ集中すれば微かに足音が聞こえてくる)
海未「そこですねっ!」スッ
希「うおっと…」
希(足音に気付き目を見開く頃にはもうそこまで海未ちゃんは近づいてた、目で確認出来ない情報は音で確認するのが基本中の基本、それを知ってるウチらは互いに同じ事をして、海未ちゃんはウチを捕捉することが出来たしウチは海未ちゃんの銃剣の一閃を回避することが出来た)
海未「逃がしません!」ドドドド
希「きっ…」
希(一閃を跳躍で回避した後、無理矢理体を左へとねじりその勢いを利用してスライディングをして海未ちゃんが放つ銃弾を回避した)
希「いつっ…!」
希(だけど如何せん、アンドロイドみたく射線が見えてるわけでもないし運動神経も劣るために銃弾がウチの頬を掠めた。でも、ここは当たらなかっただけマシやろうね)
260: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:30:20.20 ID:RR8ZWgfX0
希「仕方ないからウチと一緒におみくじやろかっ!」ポイッ
希(そういいながらグレネード、スタングレネード、スモークグレネードを周りにばらまいた)
希(煙で前が見えない状況でなら転がる物体も何かは確認できない、だから必ず避けることを強いることが出来る。そして煙でどこに何が転がってるか分からないからどこに避けていいのかも分からない、それでいてウチは動かないでいいから安全におみくじの行方を見守ることができる)
希(海未ちゃんが引くのは大吉であるスモークグレネードか、吉であるスタングレネードか、凶であるグレネードか)
希(結果は全て海未ちゃん次第やね)
ドカーン!
海未「ぐああぁっ!」
希「ヒット♪今迎えにいくで海未ちゃん!」ダッ
希(そして海未ちゃんが引いたのは凶であるグレネードだった、大きな爆発と共に海未ちゃんの苦しそうな叫び声が聞こえて声の成る方へショットガンを下げて突っ走った)
261: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:34:57.09 ID:RR8ZWgfX0
海未「こんなんでくたばれませんよッ!」ブンッ!
希「あっと」
カンッ!
希「…相変わらずやね」
海未「死ねませんから」
希(突っ走った先、頭から血を流す海未ちゃんはすかさずウチに銃剣を振り下ろすもんでウチは二丁のショットガンをクロスさせて受け止めた)
海未「このっ!」カンカンッ
希「ん…いっ…!」
希(左から右から上から下から――――ショットガンを撃つ暇も与えない無数の斬撃を苦し紛れに受け止めた、流石剣術を嗜む者はチャンバラごっこのようにただ振り回すだけじゃないのが厭らしい)
希(そして十数回に及ぶ斬撃の後、強烈な飛び回し蹴りをウチに浴びせ、ウチが後退した隙を狙ってアサルトライフルを発砲)
希「…っ!」
希(流石に死を悟った)
希「はっ!」
希(だけどそのまま死を受け入れるはずもなく、ウチは体を無理矢理動かし右へと跳躍した)
希「っぎ、ああぁっ!」
希(死ぬのは避けた、だけどそれでも死に至る痛みだった)
希(海未ちゃんのアサルトライフルから放たれた二発目の銃弾がウチの横っ腹にヒット、ただここで立ち止まってたらウチは死ぬ。経験がウチに語り掛けた)
希(だからそのまま跳躍途中で片方のショットガンを使って海未ちゃんに向かって発砲した)
262: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:37:41.09 ID:RR8ZWgfX0
海未「はっ」ダッ
希「……ぁ」
希(そして次の瞬間には人間とは思えない素早い跳躍を二回繰り返してウチの目の前にやってきた)
希(あぁ…だから海未ちゃんとは関わりたくないんよ。海未ちゃんみたいな常識外れの動きをする人と一対一で本気で戦えば)
希(死ぬに決まってるやん)
海未「ばいばいですね希ッ!」
ザクッ!
263: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:38:34.34 ID:RR8ZWgfX0
希「っか……」
希(超一流相手なら、銃を構えて発砲する時間でさえ隙になる)
希(焦っちゃったのかなぁ、ぶっちゃけあの状況は撃っても撃たなくても同じだったかな…)
希(…でも、あえて何もせずに相手が攻めてくるのを待った方が助かる可能性も増えたかもしれない)
希(……ほら、ウチ常に受け手やし)
希「………ぁ」
海未「無様ですね、希」
希「ぁ…ぁァ……」
海未「今ここで曜の居場所を吐いてくれるのなら、助けてあげますよ」
海未「…まぁ、その状態で言うのは無理でしょうけどね」フフフッ
264: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:40:49.52 ID:RR8ZWgfX0
海未「にしても、希にしては珍しいですね」
希「……ぁ?」
海未「…いや、曜の技術が上回っただけなのでしょうか」
海未「いくら私の跳躍が並外れていても、近距離でショットガンの弾を躱せるはずがないでしょう?」
希(そういいながら不気味に笑って踵を上げながら靴を指さす海未ちゃんを見て、ウチは察したよ)
海未「流石曜の跳躍アシストは希相手には効果絶大だったようですね」
海未「それを見落とすなんて、希もまだまだですね」
希(靴の裏が仄かに光ってるもんで、仕組みは分からないけど何かからくりがあるんやろうね)
希(やられたなぁ、鬼に金棒…今更知ったところで何の意味もないけどね)
海未「…では、そろそろお別れの時間と行きましょうか」
カチャッ
希「………」
希(死を受け入れたウチはゆっくりと瞼を閉じた)
265: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:42:49.27 ID:RR8ZWgfX0
カランッ
海未「ッ!?グレネード!?」
希「ぃ……しょに……しの…か」
希(最後にウチは海未ちゃんの足を掴んで、海未ちゃんに笑顔を見せた)
ドカーン!
「希ちゃーん!!?」
希(声が聞こえた、ウチの優秀な部下の声。太陽のように明るく、でも時に月を宿す暗き闇を持つ声の持ち主)
希(その声が聞こえた瞬間、ウチは安心して力を抜くことが出来た)
266: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:47:44.41 ID:RR8ZWgfX0
海未「か…ぁ……」
「希ちゃん!?ねぇ希ちゃん!?」
「ほ、穂乃果ちゃんおちつ」
穂乃果「落ち着けないよ!間に合わなかった…!花丸ちゃん!希ちゃんを持って帰るよ!」
花丸「は、はいずら!」
穂乃果「…後、こいつは私が止めを刺す」
海未「…ぃ…いぃ…!」
穂乃果「…よくも希ちゃんを」カチャッ
267: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:50:44.46 ID:RR8ZWgfX0
「はいストップー!」バァン!
穂乃果「っ!」シュッ
「やっぱり流石だね、その身のこなし。バイオレットムーンの右腕と呼ばれながら、軍神という異名を持つ穂乃果ちゃんは」
穂乃果「……誰?」
梨子「桜内梨子、対アンドロイド特殊部隊所属だよ」
穂乃果「…そっか、だから何?」
梨子「海未さんを回収にしに来たんです、ここで殺されては困るので」
穂乃果「…あっそ」バンッ
梨子「……どこを撃ってるんですか?海未さんに当たってませんよ?」
穂乃果「!?」
花丸「あれ!?海未さんは!?」
268: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:52:23.48 ID:RR8ZWgfX0
海未「はぁ…はぁ…ここですよ!」
穂乃果「なんで…」
梨子「…ふっ…ふふふっあははははっ!」
花丸「…ずら!?」
梨子「あははははっはははははーあ…」
梨子「ねえせっかくあなたたちのリーダーが命を犠牲にしてまで与えたダメージが無意味だったって知った今の気持ちはどう?」フフフッ
梨子「悔しいよねぇ辛いよねぇあなたたちのリーダーの命、無駄だったね…んふふふ…あはははははっ!」
梨子「あっはっはっはっは!あーすごい気持ちいいなぁ、人が死んだ後にこういうことが出来るから対アンドロイド特殊部隊ってやめられないよね」
梨子「んふふふ、まぁそんな私をよろしくね、穂乃果さん」ニコー
穂乃果「……へぇ、死にたいんだ。よく分かったよ」
梨子「そんな、今穂乃果さんたちと戦うつもりはないですよっ」アセアセ
花丸(さっきまで狂ったように笑ってたのに急に控えめになって気持ち悪いずら…)
269: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:53:22.71 ID:RR8ZWgfX0
梨子「にこ先輩!」
にこ「あいよ」ポンポンッ
穂乃果「グレネードランチャー…!花丸ちゃん逃げるよ!」ダッ
花丸「あ、うん!」ダッ
タッタッタッ
花丸「あの、穂乃果ちゃ…」
穂乃果「………」
花丸「………」
花丸(今話しかけるのはやめておくずら…)
270: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:54:01.77 ID:RR8ZWgfX0
穂乃果「…貸して」
花丸「え?」
穂乃果「希ちゃんのショットガン持ちながら希ちゃんをおんぶするのは辛いでしょ」
花丸「あ、うん…」
穂乃果「……仕方ないけどあの夢追い人を呼ぶよ」
花丸「…そうだね、流石に来てくれるよ」
花丸「希ちゃんの左腕だもん」
271: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:55:09.21 ID:RR8ZWgfX0
穂乃果「……海未、とか言ったっけ」
花丸「あの青い髪の人?」
穂乃果「それ、希ちゃんからはやばいやばいとは言われてたけどあいつは何?なんでグレネードの爆破を間近で受けても生きてるの?」
花丸「マルの情報が確かなら海未という人は他の人間と比べて魔法でも使ってるかのような再生能力と生命力があるらしいずら、だから銃弾一発貫かれたくらいじゃ死にはしないっぽくて、それ同様グレネードも耐えたんだと思う」
穂乃果「……化け物じゃん」
花丸「………」
花丸(…穂乃果ちゃんも充分化け物だけどね……)
272: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/25(水) 23:56:29.78 ID:RR8ZWgfX0
穂乃果「……なんでこんな時にあいつはいないの?」
花丸「あの人はさすらい人だから…」
穂乃果「…いくら散歩が好きとはいっても、その間に飼い主が死んじゃったら何の意味もないじゃん」
花丸「それは……そうだね」
花丸(……今あの人は何をしてるんだろう)
花丸「……ごめんね、穂乃果ちゃん」
穂乃果「…なんで花丸ちゃんが謝るの?」
花丸「マルが銃を扱えたらきっと、戦力差はそこまで生まれなかっただろうから」
穂乃果「…いいよ、花丸ちゃんの過去は知ってる。無理に銃を使う必要なんかないよ」
花丸「……今日の穂乃果ちゃんは優しいんだね」
穂乃果「………」
穂乃果「…こうなった以上、死ぬまで引き下がれないよ」
花丸「…もちろんずら!」
273: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:02:49.00 ID:UhZS0BQS0
~同時刻、別荘
コンコンッ
絵里「曜、いる?」
曜「いるよー」
絵里「入ってもいいかしら?」
曜「うん、いいよ」
ガチャッ
絵里「失礼しま…ってうわ…すごい隈じゃない…」
曜「あはは…かれこれ徹夜続きだからね…」
絵里「あなたねぇ…」
絵里(二日間ずっと部屋にこもりっぱなしでちょっと心配になって見に行ったら酷い有様、そこら中に部品や紙切れが転がってて髪はぼさぼさ、別に急いでるわけじゃないんだから休めばいいのにと一目見て思った)
274: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:04:07.41 ID:UhZS0BQS0
曜「…なんかさ、寝ぼけてるだけかもなんだけど…変な予感がするんだ」
絵里「変な予感?」
曜「戦況が大きく変わりそうな予感がする」
絵里「…何を根拠に言ってるの?」
曜「…ただの勘だよ、悪寒がしただけ」
絵里「そ、そう…」
絵里「…そういえば曜は戦えるのよね?」
曜「うん、戦えるよ」
絵里「今でも銃弾は避けれるの?」
曜「もちろん避けれるよ」
絵里「どうやって?」
曜「アンドロイドの原理とはまた違うけど、私の靴には重力を利用したブースト機能があるんだ。だから跳躍すれば銃弾を避けれるようになるそれ相応の勢いがプラスされる、それで避けるんだ」
絵里「へぇ…」
275: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:05:32.31 ID:UhZS0BQS0
曜「このゴーグルはアンドロイドと同じで射線が見えるようになる、この二つのアイテムで銃弾を避けるんだ」
絵里「なるほどね…人間相手はそこまで警戒する必要ないと思ってたけどやっぱり侮れないわね…」
曜「当たり前だよ、特に希ちゃんとか対アンドロイド特殊部隊の人は舐めてかかったら死ぬよ」
曜「海未さんとかと関わったりでもしたらほぼ死は確定だよ」
絵里「…そこまですごいの?」
曜「…まぁね」
曜「……あ、出来た」
絵里「え?」
曜「はい、絵里さんの武器」
絵里「え、これが?」
曜「そうだよ、どうかな?」
絵里(突然渡された一つの銃、どんな銃かは分からないけどとりあえずコメントするならグリップの部分にYOUというロゴが入ってた)
曜「スコーピオンEVO A1————それがその銃の名前だよ」
276: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:07:18.12 ID:UhZS0BQS0
絵里「すこーぴおんえぼえいわん…」
曜「発射レートはかなり早めの銃で、善子さんの持ってる銃よりも早いよ。装弾数は52発のサブマシンガン」
曜「他のと比べてとびぬけた連射速度を持ってるから瞬時火力は並外れたものになってるよ、その分ブレも結構酷いけど、一応コンペンセイターとかアタッチメントをつけてブレを軽減させてるから最適の状態ではあると思う」
絵里「へ、へえ…」
曜「それが今の絵里さんにとって最適の武器だと私は思うよ」
絵里「これが……」
絵里(これが将来私の相棒になるのだろうか、曜の話を聞けばすごく攻撃的な銃らしい)
絵里(クセは強いけど、使いこなせれば人間だろうとアンドロイドだろうと瞬殺で、例え射線が見える相手だろうとそう簡単に銃弾を避けさせない銃でもあるから対人でも対アンドロイドでも非常に有効と豪語してた)
善子「これが……」
果南「絵里の武器…」
ことり「趣味悪っ……」
果南「…それことりが言うことじゃないよね」
277: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:10:02.21 ID:UhZS0BQS0
絵里「どうかしら…?」
ことり「スコーピオンEVO A1ってあの瞬時火力がすごい銃でしょ?初めて見たよ」
善子「私も…これレアな銃よね…」
絵里「え、そうなの?」
ことり「名前だけは結構広まってるんだけど、肝心の実物が出回ってないの。危険な銃だからね」
果南「撃ってみれば分かるよ、トリガーを一瞬引くだけで何発の弾が出ることか…」
絵里「そんなにすごい銃なの?これって…」
曜「戦い慣れしてない人には到底扱うことは無理であろう代物だよ、銃社会においてもこういう危険な銃が増えると作る側としても使う側としても厄介だから誰も作ろうとはしないんだよ」
絵里「どうして?」
ことり「スコーピオンEVO A1を一から作った人間は貴重な人材として狙われるからだよ、こんなもの作れる人早々いないからね。それにその銃は連射速度が速すぎて射線が見えても避けれないことがあるんだよ、だからアンドロイドにとってそれは勝負においての懸念材料だし、ましてやアンドロイドが避けれない銃弾を人間が避けれるはずもなく、みんなそれを忌み嫌ってるんだよ」
果南「私もその銃にいい思い出はないかな…」
絵里「そこまでなのね…」
曜「そうだよ、まぁそれで頑張ってよ」
絵里「え、ええ」
絵里(この後家の地下にある射撃場で試し撃ちをしたけど、曜の言う通りブレがあまりにも強くて確かに戦闘慣れしてない人には無理がある銃だと感じたわ)
絵里(それにこの銃の何がすごいってトリガーを引くとすぐに一マガジンが無くなる上に、その後私の目先数mにある的を見れば蜂の巣の如く数えきれない黒い穴が無残にも残っていて、こんなのを人に向かって撃ったらすぐに死ぬに決まってるわよ…)
278: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:11:18.33 ID:UhZS0BQS0
果南「どうだった?絵里の相棒になる予定の銃は」
絵里「あれはすごいわね…いくらなんでも火力が高すぎるわ」
ことり「その分クセも強いから上手く扱わなきゃだね」
絵里「ええ」
曜「ふー…じゃあ私は寝るよ、おやすみ…zzz」
善子「寝るのはやっ…」
絵里「徹夜だったらしいからね…」
果南「あはは、お疲れ様だよ」
279: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:12:32.67 ID:UhZS0BQS0
ことり「…絵里ちゃんの武器が出来たわけだけど、それでどうするの?これから」
絵里「とりあえず様子見だけど、動けるようならもちろん動くわよ」
善子「でも相手が何かしてこない限りは動けないわね」
果南「そうだね、こうやって今会話してるうちも何か動いてるかもよ?」
ことり「…それはそうだね、対アンドロイド特殊部隊は今も渡辺曜を探してるだろうし」
絵里「…ええ」
絵里(いくら私の銃が強いとはいえ、それが勝敗に直接的に繋がるかと言われたらNOだ)
絵里(今AAの総戦力が私たちのところに来たりでもしたら勝ちはまずないでしょう、果南とことりが戦えるならまだしも戦えないというのだから現在も戦況は超劣勢のまま)
絵里(何回も言うけど、負け戦上等ではないからね。劣勢の状態で攻めるのは悪手であり自殺行為、おとなしく傷が癒えるのを待つのが最善の択なのよ)
絵里(……でも、私たちがこうやって何かをしている間に、誰かが廻した歯車が狂い始めてた)
絵里(それは私たちにとって、良い意味でも悪い意味でも転機であった)
280: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:14:19.14 ID:UhZS0BQS0
~次の日
穂乃果「……なにこれ」
「本です!漫画ですよ!」
穂乃果「…なんで女の人と女の人が付き合ってるの?」
「そういう漫画だからですよ!」
花丸「はわぁ…えっちずら…」
穂乃果「……まぁいいよ、そんなことよりね、なんで今日ここに呼んだか分かる?」
「いえ、全く」
「でも珍しいですよね、穂乃果さんが私を呼ぶなんて。いつもは花丸さんが呼んでくれるのに明日は槍でも降るんじゃないんでしょうか?」
穂乃果「…緊急事態なんだよ」
花丸「………」
「…緊急事態?」
花丸(穂乃果ちゃんや私の顔を見て、何かを察したのか——ちゃんの顔も引き締まったものになった)
281: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:16:22.44 ID:UhZS0BQS0
穂乃果「…希ちゃんが死んだ」
「…え?」
「……嘘…ですよね?」
穂乃果「…ホントだよ、——ちゃんが業務用アンドロイドというのなら私が嘘を言ってないって分かるでしょ?」
穂乃果「あなたも私と同じ、軍人として生まれたアンドロイドなんだから」
「………」
「…分かりました。では希さんを殺したのはどこのどいつですか?」
花丸「対アンドロイド特殊部隊、園田海未さんだよ」
「……そうですか」
「悲しいです、あそことは戦いたくなかったんですけどね」
カチャッ
穂乃果「…やる気なんだね」
「当たり前ですよ、業務用アンドロイドは主がいないとやっていけない生き物ですからね」
「主が殺された今、主を殺した人物を殺しに行くのが部下ってもので、システムってやつで、本能っていうでしょう?」
穂乃果「…もちろんだよ」
282: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:17:37.90 ID:UhZS0BQS0
「花丸さんはいつも通り情報収集をお願いします、穂乃果さんは私と共に行きましょう」
花丸「わ、分かったずら!」
穂乃果「…二人じゃ勝てないよ、数で負ける」
「知ってます、だから準備をしましょう。せっかくこの希さんの住んでたマンションという拠点もあることですし」
穂乃果「準備?」
「助っ人を探しに行くんですよ」
穂乃果「…誰か候補はいるの?」
「もちろんです、二人います」
穂乃果「…助っ人に出来る確率は?」
「…80%といったところですね」
穂乃果「ふーん……」
283: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:19:16.05 ID:UhZS0BQS0
「……この銃、久々に持ちました」
穂乃果「私も、——ちゃんがその銃持ってるの久々に見た」
「私は戦いがあまり好きじゃありませんからね、普段はハンドガンしか持ちません」
花丸「…それ使えるずら?壊れてない?」
「はい、使えますよ」
花丸「……ハニーバジャー、やっぱりいつ見てもかっこいいずら」
穂乃果「…相手にしたくないね」
「希さんの言葉を使わせてもらうなら、ウチの相棒ってやつですから」
「…まぁそんなことより早速行きましょうか」
穂乃果「…うん、ついてくよ」
花丸「マルも!」
284: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/26(木) 00:21:10.59 ID:UhZS0BQS0
せつ菜「私、優木せつ菜は本気ですよ。希さん」
せつ菜「あなたの仇は絶対にとります」
せつ菜「……絶対に」グッ
289: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:29:58.22 ID:SQcoDrlX0
「じゃあ、その前に私たちと遊びましょうか?」
せつ菜「!?」
穂乃果「っ!?」
花丸「ずらっ?」
パリーン!
せつ菜(ベランダからガラスを突き破って飛び出てきたのは見知らぬ誰か、でも相手の顔を見て明らかな“敵意”と“殺意”を感じた私はテーブルに置いてあったアーミーナイフを逆手持ちで振った)
「はっ!」
カンッ!
せつ菜「きっ…」
穂乃果「このっ…!」バンッ!
「!」シュッ
せつ菜(だけど案の定、相手もナイフを取り出して相殺。そして次の瞬間には穂乃果さんが手に持ってた拳銃を撃ったから刃が軋むことなく相手との距離が空いた)
290: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:31:35.61 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「…誰?」
せつ菜「…!もしかしてあなたは最近この辺をちょろちょろしてる…あの…!」
「ちょろちょろしてるなんて失礼ね」
ツバサ「私は綺羅ツバサ、あなたたちと同じ殺し屋よ。よろしくね」
せつ菜「殺し屋が私たちに何の用ですか?殺しの依頼を受けて私たちを殺しに来たんですか?」
ツバサ「違うわね」
穂乃果「ならなんで?私たち今暇じゃないんだけど」
ツバサ「それは私も同じ、だからこうやってあなたたちを殺しに来てるじゃない」
穂乃果「……だからそれをどうしてってさっきから聞いてるんだけど」
ツバサ「殺し屋は一つでいいの、そこまで言えば分かるでしょ?」
せつ菜「…理不尽極まりないですね、希さんが死んだ今が攻め時ってことですか」
ツバサ「ええ、その通りよ」
291: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:33:23.27 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「…あなたがどれだけ強いのかは知らないけど、私とせつ菜ちゃんに勝てるとは思わないほうがいいよ」
穂乃果「侮るつもりはないけど、仮にもこちらは殺すことに全てを置いたアンドロイドだからね」
ツバサ「ええ、でもこちらも一人で来てるわけじゃないのよ?」
穂乃果「…!」
せつ菜「スナイパーです!避けてくださいっ!」
せつ菜(風で靡くカーテンが大きく揺れ始め外を映した時に見えた一つの煌き——それを見た瞬間体が動いた。穂乃果さんもそれ同様、花丸さんだって戦えないとはいえ戦闘経験はあるから私が声をかける頃には死角へと逃げてた)
シュンッ
せつ菜「くっ…」
せつ菜(私がスナイパーの弾丸を躱すと、ご丁寧に白い軌跡と鋭い射撃音まで残して私の後ろにあった花瓶を貫いていった)
ツバサ「休んでる暇はないわよ!」
せつ菜「ええですよねっ!」
せつ菜(相手も私と同じCQCを得意とする人のようで、銃を持ってるのにも関わらずキックやパンチを使って攻めてきた)
せつ菜(だから私へと伸びる相手の腕を掴んだけどすぐに弾かれてしまい、そう簡単には反撃をさせてくれなさそうだった)
292: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:38:25.11 ID:SQcoDrlX0
花丸「あ、あんまり深追いはいけないずら!」
せつ菜「分かってます!」
せつ菜(スナイパーに見られていると分かっているなら深追いは絶対にダメです、スナイパーの弾丸はアサルトライフルやハンドガンの弾丸と違って弾速が比べ物にならないので弾道予測線が発生した直後に行動を移さないと避けきれず致命傷か或いはそこで死亡してしまいます、なので弾かれた直後は飛び退き様子を窺おうと思ったのですが……)
穂乃果「くらえ!」
せつ菜(その直後には穂乃果さんが私にカバーをするように足元に転がってたショットガンを連射しだした)
ツバサ「ひゅーAA-12は相変わらず派手ねぇ」
せつ菜(室内で、しかも平面でショットガンと対峙するのは誰であろうと不可能、だから相手はベランダへと逃げ出してそのまま飛び降りた)
せつ菜(しかしここは高層マンションの上階、そうと分かっていて自分から飛び降りるということは助かることが分かっての投身だったのでしょう)
せつ菜「穂乃果さんッ!」
せつ菜(私は考える間もなくベランダから飛び降りて相手を追った。だけどこのままだとスナイパーの的になってしまう、だから私はテレパシーを信じてあのスナイパーをどうにかして、と穂乃果さんの名前を呼んで以心伝心を願った)
穂乃果「分かったよっ!」
花丸「マルも手伝うずら!」
せつ菜(流石穂乃果さんは天才です、私の言いたいことを理解した穂乃果さんは私に続くようベランダから飛び降りスナイパーの方向に向かってアサルトライフルを使いちゃんとした殺意を込めて発砲した)
293: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:40:34.03 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「花丸ちゃん!」
花丸「はいっ!」スッ
ボンッ!
せつ菜(そして連なる銃撃音の間を縫うように入り込む低い音はスナイパーの弾道を捻じ曲げた)
せつ菜(大都会の大きな公道の上空で“煙る”白い壁——その平和に入り込む違和感ですら気にせず下へ落ちる私たちには驚く暇も喜ぶ暇もない
せつ菜(花丸さんが投げたスモークグレネードは上空に厚い煙の壁を残して穂乃果さんと私へと歯向かう射線を遮った。これでスナイパーは私たちの居場所が分からず撃つことが出来ない、言葉無しでここまでの連携が出来るのは私たちの心が通っている証拠だった)
せつ菜「待てーっ!」
ツバサ「よっ…せいやっと!」ポイッ
せつ菜(空中に浮いた状態じゃろくに体を動かすことが出来ない、だからそれを利用してピン抜きグレネードをある程度溜めてから放すことで私たちは確実にグレネードの爆発に飲まれてしまう)
294: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:48:21.57 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「甘い」バンッ
ドカーン!
ツバサ「ぐあっ!?」
せつ菜(でも、穂乃果さんがいるから安心出来る私がいた。放たれたグレネードは穂乃果さんのたった一発の発砲ですぐに爆発し、その爆発で相手は重力場であるこの空中で、更に重力を加速させ勢いよく落ちていった)
せつ菜「穂乃果さん!」
穂乃果「了解だよっ!」
せつ菜(以心伝心——穂乃果さんの名前を呼ぶだけで私のやりたいことを理解してくれて、次第に穂乃果さんは空に足を向けた私の上にやってきて、足の裏を合わせ、私を地に落とすように、また私を踏み台にするように私の足の裏を踏みしめた)
せつ菜(するとどうなるでしょう、地に落ちる私はメテオの如く凄まじい速度で落下していき、次の瞬間には丁度下にある店から飛び出ているシートのような屋根に落ちて落下の衝撃をやわらげ、トランポリンのように一度跳ね上がってから地面へと着地し、何故かピンピンしてる相手に向かって発砲した)
295: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:50:40.01 ID:SQcoDrlX0
ツバサ「はっ」シュッ
せつ菜「やはり銃弾は避けますか…」
せつ菜(しかし案の定というべきか、車が通る公道で大きく半円を描くように走り銃弾を躱すその姿はやはりアンドロイドです。仕方ないので私も大きく半円を描くよう走って発砲をしてはリロードを繰り返しました)
せつ菜「ほっと」シュッ
せつ菜(もちろん相手も私と同じ事をしてきました)
穂乃果「…っと」
せつ菜(そうして半円を描いてるうちに穂乃果さんも背中に希さんのショットガン二丁という二つの翼と、その間にあるアサルトライフルを背負って、この地に堕天使の如く落ちてきました)
296: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:51:45.06 ID:SQcoDrlX0
ドドドドッ!
せつ菜「! 穂乃果さんっ!」
穂乃果「私の事は心配しないでっ!」
せつ菜(私と相手が対向する中で、その相手の後ろの路地裏から飛んできた無数の銃弾。自身がアンドロイドであるならその銃弾が私ではなく穂乃果さんに向かって飛んでいるというのは一目瞭然だった)
せつ菜(だから穂乃果さんに声をかけたけど、流石にこの程度で死ぬほど穂乃果さんも弱くはない。少しの危なっかしさも見せない華麗な回避で銃弾を全て避けきった)
せつ菜「大丈夫ですか?穂乃果さん」
穂乃果「当たり前だよ、こんなんでやられてなんかいられない」
「大丈夫か?ツバサ」
ツバサ「ええ、でも別に助けなんかいらなかったのに」
「バカをいえ、失敗は誰にでもあるものだ。如何なる時も最善であることが重要だ」
ツバサ「…そうね、ありがとう」
ツバサ「英玲奈」
英玲奈「礼はいい、それよりあの二人だ」
ツバサ「ええ、やっぱり一筋縄じゃ行かなそうね」
英玲奈「どちらも生産中止になった軍人生まれの業務用アンドロイドの残骸と聞く、つまりは殺すことに関しては超一流だ。どのアンドロイド、どの人間よりも強い、簡単には殺させてくれないだろう」
297: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:54:02.42 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「…簡単には殺させてくれない?勝つ前提なんだね」
ツバサ「わお、聞こえてるみたいよ」
英玲奈「耳が良いのだろう」
せつ菜「勝つ気でいるのはいいですけど、足元掬われないように気を付けてくださいね」
ツバサ「ふふふっどうも忠告ありがとう、でも勝つ前提でいるのはあなたたちも同じよね?」
穂乃果「当たり前だよ、私たちは常にこの姿勢で戦ってきたからね、“いつも”を変えるつもりはないし、常に殺すことだけを考えてるのが殺し屋の矜持ってものだと思うんだけど」
ツバサ「ふふふっこれは失礼、一本取られたわ」
英玲奈「業務用アンドロイドのくせに口が達者なんだな」
穂乃果「私やせつ菜ちゃんは他のとは違うから」
英玲奈「…そうか」
穂乃果「…じゃあ、そろそろ始めようか」カチャッ
ツバサ「ええ、そうね」
せつ菜(穂乃果さんが銃のチャージハンドルを引くと同時に高まる緊張感——お話は終わりです)
せつ菜(そしてここから始まるのは殺し合い——私たち殺し屋が幾度なく経験してきた過ちであり運命)
せつ菜「………」
せつ菜(互いが睨み合い沈黙に返る公道、周りには銃を持った警官もいるでしょうが、生憎三流が私たちのフィールドに踏み込めるほど、ここは生半可な場所じゃない)
せつ菜(死にたがりな人だけ、ここに来ればいい)
298: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:57:04.03 ID:SQcoDrlX0
パーンッ!
せつ菜「はっ!」
ツバサ「今ね!」ダッ
英玲奈「戦闘開始」
穂乃果「負けないっ」ダッ
せつ菜(私に向かってきたスナイパーの銃弾が始まりの合図だった。私がそれを避けたと同時に緊張で止まった時が動き出し、銃を構えたり走り出したりで、とうとう戦いは火蓋を切って落とされた)
ドカーン!
せつ菜「!」
英玲奈「余所見してていいのか?」
せつ菜「しまっ…!」
せつ菜(始まったですぐに聞こえる爆発音、体感ではそう遠くない場所で発生した爆発だと思うのでもしかしたら私たち関係なのではと思った)
せつ菜(しかし兎にも角にも爆発が起こりほぼ反射的に上を見てしまった私は相手の超接近に気付けなくて、そのまま飛び横蹴りを食らってしまった)
299: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 17:59:35.20 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「ぐあっ!」
せつ菜(そして吹っ飛ぶ私、相手の首を見てアンドロイドとは分かっていていましたが、この相手の蹴りは一味違った)
せつ菜(通常のアンドロイド——ましてや戦闘型のアンドロイド以上の威力に、私は後ろにあったデパートの入り口のガラスを突き破ってその奥の壁に叩きつけられた)
ドカーン!
せつ菜「ふう…」
せつ菜(そして相手がいるであろう、そして私が蹴りを受けた辺りで飛び散るコンクリート、それを見て私はわずかに肩やスカートに積もった瓦礫を払いながらゆっくりと体を起こした)
英玲奈「随分と小癪な真似をしてくれるな」
せつ菜「…私は受け手の方が得意ですから」
せつ菜(希さんの十八番——近接攻撃をわざと食らってピン抜きグレネードを地面に落とす)
せつ菜(伊達に希さんの奥義の一つであったが故にその効果は絶大で、相手にダメージはそこまで通ってないものの、腕から流れる少量の血を見て私は少し微笑んだ)
せつ菜(私や希さんのような意表を突くトリッキーなタイプじゃないと出来ない技で、ポーカーフェイスと演技は必須アイテムです)
300: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:02:30.72 ID:SQcoDrlX0
英玲奈「受け手が得意、というがその頭から流してる血はなんだ?」
せつ菜「頭から血を流す程度じゃダメージの範疇に入りませんよ、損傷してても動くんですから」
英玲奈「…恐ろしいな、その損傷を厭わない覚悟が」
せつ菜「ここで負けてなんかいられませんから」
英玲奈「…そうか、だがどうだろうな」
せつ菜「…ええ、どうでしょうねッ!」パサパサパサ
せつ菜(私の相棒——ハニーバジャーというアサルトライフルには“サプレッサー”という銃声を抑えるアタッチメントがついています。だから、他の銃と比べて銃声が小さく、何より音が特殊なんです)
301: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:05:11.75 ID:SQcoDrlX0
英玲奈「ほっ!」シュッ
せつ菜「まだまだぁ!」
せつ菜(トリガーを引きながら銃弾を躱す相手に近づいて後ちょっとの距離を一回の跳躍で詰めて、ハニーバジャーを背中にやって、腰にかけてある刃渡り12cmのスペツナズナイフで素早い横斬りを行った)
英玲奈「ほっと、危ないな」
せつ菜(後ろに大きく体を反って回避する相手、そして次に相手の取った行動は右フックで、それを私は片腕で受け止め流れるように後ろ回し蹴り、これに対して相手は片手で手にしていたアサルトライフルで受け止めたけど、本命はこれじゃない)
バンッ!
英玲奈「何っ!?」
せつ菜「はぁっ!」
せつ菜(向こう側から飛んでくる一つの銃弾と銃声がデパート内で残響した、それを確認した私はダメ押しに回し蹴りをして銃弾と挟み撃ちをした)
英玲奈「くっ…」シュッ
せつ菜「遅いっ!」
せつ菜(どこまでも穂乃果さんは私の相棒であり親友です、穂乃果さんも戦ってるというのに私の方を見てハンドガンで一発、ベストなタイミングで撃ってくれて私も攻撃のタイミングを作れました)
せつ菜(そうしてその結果として、回し蹴りと銃弾を避けた相手に私は追撃の肘打ちで怯ませ、トドメの飛び膝蹴りで相手を吹っ飛ばした)
302: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:06:49.37 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「よしっ!」グッ
タッタッタッ!
穂乃果「死んじゃえっ!」
せつ菜(そうして突然こっちへやってきた穂乃果さんが倒れる相手の胸に向かってナイフを一突き、しかしもちろん相手は横に転がり避けると同時にすぐに起き上がり、ブレイクダンスのように低姿勢で回転しつつ全方向に対して連続で蹴りを繰り出し、近づく私と近づいた穂乃果さんを退けさせた)
タッタッタッ
ツバサ「どこ行ってるのよ!」ドドドド
穂乃果「ふっ」シュッ
せつ菜「よっと」シュッ
せつ菜(私と穂乃果さんに飛んでくる銃弾を避けて相手の持つ銃が弾切れを起こすであろうタイミングに私と穂乃果さんは手の届く距離にまで近づいて固まった、そしてそれは相手も同様)
303: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:08:08.36 ID:SQcoDrlX0
ツバサ「大丈夫?英玲奈」
英玲奈「ああ、だがやはり強いな」
英玲奈「お前らほどの実力を持ったアンドロイドが何故手品師の下につくのか不思議で仕方ないな」
穂乃果「強さが全てじゃないってことだよ」
英玲奈「…一つのことしか考えられない業務用アンドロイドがその言葉を発するとは実に興味深いな」
せつ菜「ならそれは希さんがすごかったのでしょう、私たちを変えてくれたお方ですから」
英玲奈「……よく分からないがやけに希というやつを上げたがるな、何故だ?」
穂乃果「分からなくていいよ、分かる必要性も意味もないから」
304: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:10:17.75 ID:SQcoDrlX0
「お話のところ、ちょっといいですか?」
ツバサ「!」
せつ菜「!」
英玲奈「誰だ?」
穂乃果「…何か用?」
せつ菜(それぞれがそれぞれを睨み合う中で突然混ざった声、その声に反応して全員が同じ方向を向いた)
「お初にお目にかかりますわ、殺し屋さんの皆さん」
ダイヤ「わたくしは黒澤ダイヤ、あなたたちを殺しにわたくしも馳せ参じましたわ」
穂乃果「…面白いこというね」
ツバサ「死にに来たの間違いじゃない?」
せつ菜「…いや、そうでもないみたいですよ」
英玲奈「あぁ、少なくとも仲間が二人いるらしい」
ダイヤ「あら、どうしてお気づきに?」
せつ菜「射線が二つ、現在もこちらへ向かってますね」
英玲奈「あぁ、私も射線を感じる」
ダイヤ「ふふふっ流石アンドロイドですわね」
305: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:11:40.82 ID:SQcoDrlX0
スタスタスタ
せつ菜「…!」
せつ菜(ダイヤ、と名乗る人物が薄気味悪く笑うと後ろから二丁のハンドガンを腰にかけた何気なく誰かが近づいてきた)
スタスタスタ
ダイヤ「この子はわたくしの部下、そして妹のような存在」ポンッ
ダイヤ「ほらっご挨拶を」
「………」
凛「凛は星空凛!よろしくにゃんっ♪」ニコッ
ツバサ「うわっ…」
穂乃果「あざとい…」
せつ菜「なるほど…そういうことですか」
英玲奈「対アンドロイド特殊部隊のやつらか、めんどくさいな」
せつ菜(凛という子の胸元についてるバッジを見て察した相手の情報、この戦い…死ぬと思ってやらないと勝てなさそうです)
306: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:16:43.91 ID:SQcoDrlX0
ダイヤ「わたくし、実は殺し屋という二つ名がありますの」
ダイヤ「ここはわたくし達殺し屋で、殺し屋頂上決戦をやりませんか?」
穂乃果「やだね」
ツバサ「無理なことね」
せつ菜(食い気味に拒否して、私に“行こう”と耳打ちをして立ち去ろうとする穂乃果さんについていけば後ろから飛んでくる弾丸。それを避けて後ろを向けば凛さんがもうすぐそこまで迫ってきてるもので咄嗟に姿勢を低くしてすぐに戦える構えを取れば、次に相手のしてきた行動は私に向けての右ストレートだった)
凛「と、思うじゃん?」
せつ菜「っ!?フェイント…!?」
せつ菜(飛んできた右ストレートは私の顔の前を横切り、左手で腰にかけてたハンドガンを一つ取り、そのまま右ストレートの勢いを利用して横回転し背面からの変則撃ちで私の胸を狙って発砲してみせた)
せつ菜「当たりませんっ!」
凛「だよね、でも後ろの人はどうかな?」
穂乃果「…っ!?」シュッ
せつ菜「穂乃果さん!?」
せつ菜(迂闊でした。私の胸に向かった射線は、凛さんが発砲したと同時に、そして私が避けたせいで突然として射線は私の後ろにいた穂乃果さんの胸へと移る、すると穂乃果さんが射線を感じ取るに相当な遅れが生じて穂乃果さんが避けれなくなってしまう。それを見込んでたであろう相手の策に見事はまってしまいました)
307: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:18:13.54 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「きっ…あぶなっ…」
せつ菜「だ、大丈夫ですか穂乃果さん」
穂乃果「なんとかね…」
せつ菜「すいません…」
穂乃果「いいよ、この場合は…」
凛「ん?ふふふっ凛の強さ分かった?」
穂乃果「あいつのせいだから」
せつ菜(頬から赤い涙を流す穂乃果さんを見てこの状況がいかにまずいものであるかを分からせてくれる、横を見ればダイヤと言う人も先ほどまで私と戦っていたアンドロイドの人と戦っていて、突然の超一流の襲来に焦りは加速していく一方だった)
308: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:21:02.04 ID:SQcoDrlX0
英玲奈「はぁっ!」
ダイヤ「おっと危ないですわね、銃を鈍器にして扱うとはナンセンスですわ」
英玲奈「別に何を思われようが構わないがこれが私のやり方なものでな、しかしながらそちらこそ銃を背中につけてるというのにナイフだけで戦おうなんてナンセンスではないのか?」
ダイヤ「あら気付きませんの?あなたほどの相手ならナイフで充分という意思表示ですよ」
英玲奈「…舐められたものだな、いくら人を殺すことに特化した集団とはいえ銃無しで私たちを殺そうなんてお前は夢追い人か何かか?」
ダイヤ「別に冗談を言ってるつもりはありませんのに」
英玲奈「…なら、尚更タチが悪い」
せつ菜「………」
凛「分かったかにゃ?あなたたちは逃げられないよ、少なくとも凛が生きている以上は」
せつ菜(相手の後ろからスタスタと歩いてくる新しい二人を見てそう簡単には逃げさせてくれないことを分からせてくれる、この場合二対三で私たちが不利になる上に相手はおそらく超一流、それは幾度となく戦場を駆けた私たちでも負けは充分にあり得た)
309: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:24:41.67 ID:SQcoDrlX0
穂乃果「…腹が立つね、その余裕そうな態度」
凛「余裕だからね」
穂乃果「なんで私たちの邪魔をするの?」
凛「それは凛たちが平和を守る対アンドロイド特殊部隊だからだよ」
穂乃果「平和を守るヒーローがこんなぶっきらぼうなやり方をして市民の信用を得られるの?」
凛「平和を守るヒーローは性格が良いなんて決まりはどこにもないし、凛は市民を守る為にここにいるわけじゃないにゃ」
凛「市民が死のうが死なないが凛にとってはどうでもいいことだよ、大体死ぬのなんて弱い自分が悪いんだし」
穂乃果「……ホントにつまらない回答をするね、あなた」
凛「期待してた答えでしょ?」
穂乃果「………」
せつ菜「……こんな時に…」
せつ菜(きっと、私も穂乃果さんも考えてたことは同じだった)
せつ菜(こんな時に希さんがいてくれたら解決なのに)
せつ菜(対アンドロイド特殊部隊の化け物にやられてしまったけど、私たちの主の力は偉大だった。自らを殺し屋と名乗ってはいるけど、大層優しい人で、この人といればどんな窮地も乗り越えられそうな安心感があった)
せつ菜(私と同じトリッキーで、追いかけててすごく楽しかったし、一般人と比べてネジが少し外れてるから普通じゃ思いつかないようなことをしてきてホントに追いかけ甲斐があった)
せつ菜(ここに希さんがいれば、きっと私や穂乃果さんじゃ思いつかないことをして乗り越えらせてくれたんだろう、このまま戦うのは分が悪いし、ここで消耗したくない)
せつ菜(反撃の狼煙はまだ上がってない、こんなところでつまずきたくなんかなかった。この相手は強い、動きが素早いし何より対アンドロイドに慣れ過ぎている、こんなのを相手にしたらノーダメージは無理がある)
せつ菜(だから希さんがいてくれたら……そんな叶わぬ希望は光を見せることもなく心の中で潰えた)
310: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:27:26.17 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「…穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「……やるしかないようですね」
穂乃果「…そうだね」
スタスタスタ
海未「…昨日ぶりですね、穂乃果さん」
穂乃果「…昨日の傷はどこにいったの?」
海未「治りましたよ、全部」
穂乃果「…化け物だね」
海未「ふふふっありがとうございます」
梨子「私も一日ぶりだね、穂乃果さん」
穂乃果「………」
梨子「なんか返事してよ!」
穂乃果「二重人格?」
梨子「ううん、私の心は一つだけ」
穂乃果「…なら本当に狂ってるんだね、あなた」
311: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:32:28.23 ID:SQcoDrlX0
梨子「梨子って名前で呼んでよ?私は桜内梨子だよ?」
梨子「…あ、そういえばあの死んだ紫髪の人の部下は全員プライドが高いって聞いたなぁ」
梨子「……ふふふふっあぁ楽しみだなぁ、あなたたちの絶望に満ちた顔を見るのが」ウットリ
梨子「ふふふひひっ…泣き顔でもいいよ?生け捕りにして拷問でもしたら見せてくれるよね?」フフフッ
せつ菜「…っ」ジタッ
穂乃果「……希ちゃんがあなたたちを避ける理由がよく分かったよ」
せつ菜(狂気の権化…と形容しておきましょう、殺すことに全てを置いた私たちでさえたじろいでしまうほど、そして人間とは思えないほど穢れた/汚れた考えに冷や汗が出た)
せつ菜(こんなのがいる部隊に近寄ろうなんて思わないし、こんなのがいる部隊がまともな部隊とは到底言えない)
せつ菜(視界に移る最奥を見れば殺し屋と名乗るアンドロイドの人たちと対峙するダイヤさんと誰か。わざわざ私たちを殺しに五人掛かりでやってきたのですね)
312: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:34:27.91 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「…私たちだけ三人なんですね」
海未「軍神とトリックスターですよ?持ってこれる戦力を使うのは当然じゃないですか」
せつ菜「高く評価してもらえるのがこんなに憎らしいなんて思いたくなかったですね」
梨子「ふふふっあなたたちの飼い主に褒めてもらえたらよかったね?」
せつ菜「…つくづくイラつきますね、それ」
凛「お話はいいからとっとと始めない?凛長話は嫌いだからさー」
海未「そうですね、じゃあ」カチャッ
せつ菜「…!」
穂乃果「…勝つよ、せつ菜ちゃん」
せつ菜「…もちろんです」
せつ菜(一斉に銃を構えだす相手に、私たちも同じように銃を構え穂乃果さんは私に耳打ちをした)
せつ菜(こんなところで負けて拷問なんてされたくない、もし負けそうになったなら自害を選ぶまである)
せつ菜(こんなに戦いの記憶を研ぎ澄ましたのはいつぶりだろう、ここまで本気で戦うということをする日は今まででも数回しかなかったはず)
313: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:36:12.49 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「…行きますか」
穂乃果「うん…」
せつ菜(肌がひりつく緊張感、この戦いは絶対に負けられない)
せつ菜「………」
穂乃果「………」
凛「…出ないなら凛から行くよっ!」ダッ
海未「梨子!カバー頼みます!」ダッ
梨子「もちろんです!」ドドドド
穂乃果「あの二人は私に任せてせつ菜ちゃんはあの猫女をやって!」ダッ
せつ菜「え、でも!」
穂乃果「私が負けると思う?」
せつ菜「…!」
せつ菜(穂乃果さんは強い、それは限りなく最強に近い強さ)
せつ菜(軍神と謳われたその才能は、頼り甲斐があるってそんなレベルじゃないでしょう)
せつ菜「…思いません、あの二人はお願いします」
穂乃果「もちろんだよ」ドドドド!
せつ菜「はっ」タッ
せつ菜(穂乃果さんは相手の方に跳躍しながらトリガーを引くに対し私は一度後ろへ飛び退き受けの態勢に回った)
314: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:44:22.10 ID:SQcoDrlX0
凛「あなたは軍神さんと違って逃げるんだねっ!いいよ受けて立つにゃ!」ダッ
せつ菜(凛さんも私のところに来てくれたのでそのままエスカレーターをジャンプで上って戦うフィールドを変えた)
せつ菜「ここで戦いましょうか!」パサパサパサ
凛「うんいいよっ!」ズサー
せつ菜(二階にあがって最初の跳躍と同時に発砲、私に引っ付くように二階へ走って上がってきた相手も私の跳躍に反応して、よく出来た笑顔を歪ませることなくスライディングをして私に近づきながら二丁のハンドガンで私に向かって発砲を行った)
せつ菜(ただ、もちろん銃弾は私にも相手にも当たることはなく、私は跳躍の着地直後すぐにスライディングをして私の体全体に残るこの慣性を残しながら再び横方向へ跳躍し凛さんの放つ銃弾を躱し、相手はすぐさまブレーキをかけ照準を前方向から私が避けた方向である横方向へ向け発砲の対応をして休む暇も与えない展開を作り出した)
凛「はい、せーのっ!」カーンッ
せつ菜(身軽に、でも固く染め上げられた紺色のその姿。私服の上に防弾チョッキを着て、腰からマントをかけ、その上にベルト型のマガジンポーチをつけて、その姿でどこからともなく出てきて宙に浮いたピン抜きグレネードグレネードを私に向かって蹴ってきた)
せつ菜「っ!?」バンッ
ドカーン!
せつ菜(相手の突飛な行動に驚いた私は案の定即座に反応して発砲、そうすればその後は大爆発————天井や床には穴が開き、広い範囲で砂煙が立ち込め始めた)
315: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:50:07.11 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「なんて手荒な真似を…」
タッタッタッ!
凛「よーしっ!いっくにゃー!」
せつ菜「…! そこですか!」
せつ菜(近づく足音を頼りに相手の位置を見破った私は腕を使って受け止める体勢に入った)
海未「ええ、ですが相手が違いますね」
せつ菜「えっ…!?」
せつ菜(気付いた頃には遅かった、濃い砂煙の中でも見える銃剣の一閃に目が眩んだ)
ザクッ
せつ菜「きっ…あああああぁッ!?」
316: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:53:44.90 ID:SQcoDrlX0
タッタッタッ!
穂乃果「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜「あぁ…ああああ……!」
せつ菜(痛い、いたい。イタイ……)
せつ菜(一閃で目が眩んだその直後には私の左腕に鋭い斬撃が飛び込んできて大量の血液が噴出した)
せつ菜(この退廃的で厭世的な痛みが懐かしい。痛みを我慢しようとしても声が——体が痛みを我慢出来ず切羽詰まって息が出来なくなり、斬られたその左腕はとうに機能を失っていた)
穂乃果「せつ菜ちゃん大丈夫!?」
せつ菜「ア…あぁ…穂乃果さん…っ!」
穂乃果「ちっ…なんて厄介な…」
タッタッタッ!
凛「仲間の心配もいいけど自分の心配もした方がいいよー?」
穂乃果「ああそうだよ————」
せつ菜(声の成る方へ銃と顔を向けたであろう穂乃果さんは、何故か言葉を止めた)
せつ菜(私は手の痛みを我慢するのに必死で、それどころじゃなくて何が起ころうとしてるのか全く分からなかった)
穂乃果「——ね…?」
せつ菜(砂煙が濃い中で声も足音もしたんだから、銃を向けるのは当然だ)
せつ菜(だけど銃を向けて見えるのはピンが抜かれたグレネードだった)
穂乃果「…ぁ!」
せつ菜(……そして、それが即座に爆発するものであるというのはアンドロイドで尚且ついくつもの戦場を駆けた穂乃果さんならすぐに分かったでしょう)
せつ菜(だからこそ穂乃果さんは感じ取ってしまった。このどうしようもない状況の絶望感を)
317: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:57:01.50 ID:SQcoDrlX0
ドカーン!
せつ菜(私も穂乃果さんも避けれるはずがなかった、相手の煙と足音と声の使い方が上手すぎた。あんなの分かるわけありませんよ…!)
せつ菜「けっ…はっ…!」
穂乃果「……うぅ」
せつ菜(吹っ飛ばされた私たちはどちらもひどい傷だった。穂乃果さんはすぐに立ち上がってたからまだ死なずとも、まず強烈な蹴りで壁に叩きつけられ、次に剣で腕を斬られ、最後に爆発を直で受け体の至る所から血を流す私は失血死が近かった)
せつ菜(久々に感じた、これが死の味なんですね)
せつ菜(こんなにも死の味が絶望感に満ちてるなんて、もう忘れてた。そして思い出したくなかった)
穂乃果「せつ菜ちゃん…だい、じょうぶ…?」
せつ菜「こんな…ところで…ッ!」
せつ菜(…でも、まだ死んでない)
せつ菜(こんなところで負けてなんかいられない、死ねない理由が私には合って、死にたくない心が私にはまだある)
せつ菜(だから私はその心で無限に輝きを放つ希望を抱いてゆっくりと立ち上がった)
318: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 18:59:46.98 ID:SQcoDrlX0
梨子「あ、いましたよ」
凛「爆発で肉片もなく吹き飛んだのかと思ったよ」
海未「この場合肉片ではなく部品でしょう」
穂乃果「…どうする」
せつ菜「……あの二人はどうでしたか」
穂乃果「一対一なら負けない、けど二対一でやってる以上不利だし上手く攻めれない」
せつ菜「…私でも戦えそうですか?」
穂乃果「……今のせつ菜ちゃんには無理かな」
せつ菜「…そうですか」
せつ菜「…でしたら穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「お願いがあります」
穂乃果「…言ってみてよ」
せつ菜「時間を稼いでほしいんです、私に…私に時間をください」
穂乃果「…任せて」
319: ◆iEoVz.17Z2 2019/09/27(金) 19:01:43.10 ID:SQcoDrlX0
せつ菜「…そしてもう一つ、あるんです」
穂乃果「…何?」
せつ菜「………」
せつ菜「私を信じてほしいんです、今から何が起こったとしても」
穂乃果「…もちろんだよ、せつ菜ちゃんは私にとって——」
穂乃果「——家族みたいなものなんだから」
せつ菜「…ありがとうございますっ」ニコッ
せつ菜(穂乃果さんにとびっきりの笑顔を見せた後、穂乃果さんはすぐに三人に向かって発砲しだした)
せつ菜(その時の穂乃果さんの目といえば本気だった、手慣れたリロードや全く隙の無い身のこなし、相手の弱点を探るような多彩な攻め方をしてて、そんな穂乃果さんを見れば私も出し惜しみをしている場合じゃないと奮いを立ててすぐさま行動へ移した)
せつ菜(これが最終兵器になるかといえば、それは違うけど、でも今の私たちにはこれしか方法がなかった)
せつ菜(私は懐にあった携帯を耳に当て、この戦場から背を向けて逃げだした)
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