1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:30:38 ID:seiOQ2/g

男「電車に乗ってると、たまに思うことがあるんだけどさ」

友人「なんだよ」

男「よく、電車にギリギリ乗れなかった人が、急にすまし顔することあるじゃん」

友人「……?」

友人「なんだそりゃ。いまいちピンとこないんだけど」



2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:34:22 ID:seiOQ2/g

男「たとえば、電車がもう駅にやってきてる」

友人「うん」

男「そこに駆け込みってほどじゃないけど、なんとか急いで乗ろうとする」

友人「うん」

男「だけど、残念ながらあと一歩のところで電車のドアは閉まってしまう」

友人「あるある」

男「内心、めっちゃ悔しい、もっと急いでれば、って思ってるはずなんだけど」

男「そこで、全然悔しくないしー、次のに乗ればいいしー、みたいな顔をする現象だよ」

友人「ああー、分かった分かった! オレもよくやるわ!」



3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:37:26 ID:seiOQ2/g

男「あれって、なんであんなすまし顔するんだろうな?」

友人「そりゃあれだろ。みっともないからだろ」

男「うーん……俺はそうは思わないんだけどな」

男「変に取り繕うより、悔しいことは悔しいって表に出した方が健全だと思う」

男「あんなすまし顔する方が、かえってみっともないよ」

友人「まあ……そういう考え方もあるかもな」



4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:40:01 ID:seiOQ2/g

男「なんつーか、悪い意味で日本人的だよな」

男「感情を表にさらけ出すのは恥ずかしい……恥の文化、っつうの?」

男「外国人ならきっと、素直に“ガッデム!”とか“サノバビッチ!”とか口ずさむよ」

友人「そ、そうかな」

男「とにかく俺は、今度から電車に乗り損ねたら素直に悔しがることにする」

男「それも全力でな! そっちの方が絶対健全だし、かっこいいもん!」



5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:43:04 ID:seiOQ2/g

― 駅 ―

『まもなく、ドアが閉まります。ご注意ください』プルルルル…



男「わぁぁっ! 待ってくれえっ!」タタタッ



プシュー……



男「あああ……閉まっちゃった……」

男(俺はすまし顔なんかしないぞ! 思いっきり悔しがる!)



6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:45:29 ID:seiOQ2/g

男「くそぉぉぉぉぉっ!」ガクッ

男「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

男「あと一歩……っ! あと少しだったのに……っ!」

男「なんで乗れなかったんだぁっ!」

男「もっと全力疾走してれば……もしかしたら、乗れたかもしれないのに……!」



7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:48:01 ID:seiOQ2/g

老人「どうしたのかね、お若いの」

男「ううっ……! 実は、今走り去っていった電車に……乗れなかったんです!」

老人「ほっほ、そんなに気にすることはなかろう」

老人「もう5、6分もすれば次の電車が来るじゃろうて」

男「いえっ……! そんなことはなんの慰めにもならないんですっ!」

男「俺は……どうしても……今の電車に乗りたかったんだ……!」

男「乗らなければならなかったんだ……!」



8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:51:35 ID:seiOQ2/g

ザワザワ…… ドヨドヨ……

老人「ううむ、それほどまでに悔いておるとは……」

女子高生「え、え? どうしたの、あの人」

青年「元気出せよ……」

幼女「あのおにいちゃん、かわいそー」



男(お、なんか注目を浴びてるぞ……? 悲劇のヒーローにでもなった気分だ)

男(ようし、もっと悔しがってみるか)



9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:54:10 ID:seiOQ2/g

男「俺がっ……! 俺がマヌケだったんだっ……!」ガンッ

男「もう少しだけ、家を早く出てれば……!」

男「もう少しだけ、歩くペースを早めていれば……!」

男「あの電車に乗り遅れることはなかったんだぁぁぁぁぁ……っ!」

男「ううっ……! うううっ……! うぅ……」



10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 01:57:16 ID:seiOQ2/g

老人「……許せぬ」

ザワッ……

老人「ワシは未だかつて、これほどの怒りを感じたことはない」

老人「このように必死な若者を置き去りに、走り去ったあの電車が許せぬ!」

老人「ほんの数秒、出発を待ってやれば、この若者はあの電車に乗れたことじゃろう」

老人「なのに、その数秒を待たなかった無慈悲なあの電車が許せぬ!」



11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:01:14 ID:seiOQ2/g

女子高生「……そうよ! 無慈悲すぎるわ!」

青年「いつだってそうだ! 電車は肝心なところで待ってくれない!」

会社員「そのくせ、ちょっとしたことですぐ運行を休止する!」

茶髪「まったくだぜ! 鉄道会社はあまりに身勝手すぎる!」

幼女「たたかおう、みんな!」

老人「そうじゃ……戦おう!」



12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:04:00 ID:seiOQ2/g

老人「ワシらの手で、無慈悲で身勝手な鉄道会社に鉄槌を下してやるのじゃぁっ!」



ウオオオオオ……!



老人「手始めに、この駅を制圧する! そして、同志を集める!」

老人「兵が揃ったら、本丸たる鉄道会社の本社ビルに攻め込もうぞ!」

老人「これはワシら乗客と、鉄道会社との全面戦争じゃああああああッ!!!」



ウオオオオオ……!



13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:07:09 ID:seiOQ2/g

男「ま、待って下さいっ!」

老人「む」

老人「なんじゃ、お若いの。まさか、邪魔をする気かね?」ギロッ

男「邪魔だなんて、そんな……」

男「だけど……少しだけ俺の話を聞いて欲しいんです」



14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:10:03 ID:seiOQ2/g

男「たしかに俺は……さっき、電車に乗れませんでした」

男「だけど、それはあくまで俺のせいであって……他の誰のせいでもありません」

男「だって、乗り遅れは、俺がしっかりしていれば防げたんですから……」

老人「しかし、あの電車にはおぬしを待つこともできたはずじゃぞ?」

男「……そうかもしれません」



15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:13:24 ID:seiOQ2/g

男「ですが、乗り遅れそうな人がいるからといって、いちいち電車を止めていたら」

男「電車のダイヤはメチャクチャになってしまいます」

青年「いいじゃないか、なったって!」

男「果たしてそうでしょうか?」

男「そうなったら、結局困るのは俺たち自身ですよ?」

男「だって、ようするに常に電車が遅延状態になるようなものなんですから」

青年「ぐっ……!」



16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:16:39 ID:seiOQ2/g

男「日本の鉄道ダイヤは世界一正確ともいわれています」

男「これは鉄道会社の方々の努力はもちろんですが」

男「俺たち乗客のマナーによって支えられている部分もあるのでしょう」

男「だからこそ、俺たちは……たとえ電車に乗り遅れたとしても」

男「しょうがない、次のに乗ろう、の精神を持つことが必要なのではないでしょうか?」

老人「……」

老人「ううむ、そのとおりじゃ!」



17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:20:10 ID:seiOQ2/g

老人「ワシらが間違っておった! おぬしのいうとおりじゃ!」

老人「鉄道を利用する時は、心と行動に余裕を持つことが大切なのじゃなぁ……」



ウオオオオオ……!



男「皆さん……分かってくれてありがとう!」

男(よかった……とんでもないことになるとこだった……)ホッ…



パチパチパチパチパチ……!

……

……

……



18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:23:36 ID:seiOQ2/g

― 駅 ―

『まもなく、ドアが閉まります。ご注意ください』プルルルル…



友人「やべぇ、電車が出ちまう!」タタタッ

男「……」タタタッ



プシュー……



友人「ちぇっ! 間に合わなかったか!」



19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2015/10/25(日) 02:27:40 ID:seiOQ2/g

友人「くそーっ! もうちょっとで乗れたのになぁ!」

友人「……ってあれ、なんでお前は悔しがらないの?」

友人「たしか、これからはこういう時、素直に悔しがるとかいってたような……」

男「いや……これでいいんだ」

男「電車に乗り遅れたら、悔しくても平気なフリをする」

男「これが鉄道利用者のたしなみってもんさ」





~おわり~


元スレ
SS深夜VIP:男「電車にギリギリ乗れなかった人が、急にすまし顔をする現象」