217: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:19:30.31 ID:hGyrOzpP0

■第七幕 異論を強く唱えるもの■



ーーー翌月曜日 学校ーーー

猫又娘「さてさて、お元気ですかなお二人さん?」

包帯少女「……」

少年「……」

猫又娘「なーんでそうどんよりしてるんかなぁ」

少年「なんでって…また何人か消えて…」

猫又娘「…それを止めるための、私たちでしょうに」

猫又娘「少しでも早く現状を打開する!今はそれだけを考える!」

少年「……それもそうかな」

猫又娘「消えちゃった人だって、きっと元に戻ってくるさ」

包帯少女「そうは言っても、昨日は何の成果も無かったし……外で少年君連れ回すのは辞めた方がいいかもね。危険だよ」

猫又娘「寄ってきた妖禍子(アヤカシ)は私らで撃退したじゃん?」

包帯少女「そうだけど……少年君、身体平気?何ともない?」

少年「今のところは」

猫又娘「私が付いてるんだからノープロブレムです!」

包帯少女「………」

猫又娘「…その目はなんですか。さては信用してないな?」

包帯少女「ううん。ただ、あなた抜けてるところがありそうでハラハラするから」

包帯少女「夜、ちゃんと見張れてる?」

猫又娘「もちろん」

猫又娘「だって一緒に寝てるもん」




218: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:21:21.90 ID:hGyrOzpP0


包帯少女「……………は?」

少年「あ…!ち、違うから少女さん!猫の姿で丸まってるだけだから!」

猫又娘「ふふ~ん♪あったかいでしょー?」

少年「今の季節だとちょっと暑苦しいかな…」

猫又娘「うぬぬ」

猫又娘「昨日あれだけじゃれてきたくせに」

少年「尻尾を少し触っただけだろ!?」

少年「あんなにパタパタ動かされちゃ気になるよ」

猫又娘「えー?その後毛並みがどうこうとか言って撫でてきたじゃなーい?」

少年「ゔ……猫又の毛並みなんて誰だって気に──」ハッ

包帯少女「………」

包帯少女「…楽しそうだね??」

少年「あ、遊んでたわけじゃなくて…!」

包帯少女「へぇー…」ジロ

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「警護は真面目にやってるから、ね?」

包帯少女「……」

包帯少女「いいけどさ」ボソッ

猫又娘(…素直なんだか素直じゃないんだか)

猫又娘「さって、それよりも!」

猫又娘「今日の本題に入るとしますか」

少年「本当にやるの…?」

猫又娘「えぇえぇ。気持ちはよーく分かります…でも私らの中に引き込めれば絶っっ対心強い味方になる、それは間違いないよ!」

包帯少女「引き込めれば、ね」

三人「………」



派手娘「」ホオヅエ



少年(なんでもあの人もアヤカシと戦ってる人間……らしい)

少年(…アヤカシをちぎっては投げている姿を想像してもあんまり違和感がない)




219: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:22:31.46 ID:hGyrOzpP0


猫又娘「派手娘さん攻略作戦」

猫又娘「いよいよ発動する時だよ」

包帯少女「説得作戦とか言ってなかった?」

猫又娘「同じ同じ」

猫又娘「作戦はこう」

猫又娘「まず一人ずつ派手娘さんと話をして説得する」

猫又娘「その時点で納得してくれればよし。それでもダメなら三人で行く」

包帯少女「初めから全員で行けばいいんじゃない?」

猫又娘「……ほら、そこで断られたら一発アウトでしょ?」

包帯少女「何回も話しかけるのも大概だと思うけど…」

猫又娘「と、とにかく!一対一で行った方が礼儀とかなんとかで上手くいくんよ!」

猫又娘「あとは誰から行くかだけど…」

少年・包帯少女「「……」」

猫又娘(うむむ…言い出しっぺの法則で私になりそう…)

少年「…僕が行く」

猫又娘「!」

少年「僕だけ何も出来てないんだ。せめてこういう時くらい力になりたい」

猫又娘「少年君…!」

包帯少女(…なんだか少し、頼もしくなったね)

猫又娘「そう言ってくれると私は信じてたよ」ウンウン

猫又娘「ではトップバッターの少年君、よろしくお願いします」

少年「うん」

猫又娘「」ホッ...

包帯少女(こっちはこっちで、苦手な相手だから後にして欲しいって言えばいいのに)

少年「じゃあ行ってくる」



キーンコーンカーンコーン



少年「……次の授業の後に」








220: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:25:01.42 ID:hGyrOzpP0

ーーー休み時間1ーーー



ガヤガヤ



少年「……」

少年(…派手娘さんか…)

少年(この前のことがあるから少し怖いけど……逆にそれが話すきっかけくらいにはなってくれるはず)

少年「──あの」

派手娘「?」

派手娘「あんたか。何?あの本なら貸さないわよ。こう見えてちゃんと読んでるんだから」

派手娘「それとも、この前の仕返しでもしに来た?」ニヤ

少年「そういうのじゃなくて、その…」

少年「……アヤカシのことで……」

派手娘「え?声小さくてよく聞こえないけど」ズイッ

少年「…いや、派手娘さんもアヤカシが見えるんだって聞いて…」

ガヤガヤガヤ

派手娘「だから聞こえないっての」ズズイッ

少年「…!」

少年「…え、えっと…出来るなら派手娘さんにも協力して…」ゴニョゴニョ

派手娘「………」

派手娘「きーこーえーまーせーん!!」

少年「──!?!?」グワァン

少年(み、耳元で……)

ナニナニ?

ハデムスメサンガマタオコッテル

派手娘「言いたいことがあんならはっきり言いなさいよ。ったく」テクテク...

少年「」フラフラ



.........








221: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:26:19.51 ID:hGyrOzpP0


派手娘(朝から無駄に腹立たしいわね)

派手娘(なんでもっと"まっすぐに"こないのよ)

派手娘(弱々しい自己主張。そんなだからバカどもに目付けられるんじゃないの?)

派手娘(この前の騒音野郎とはまったくの逆ね)





===6月某日===



ガタンゴトン ガタンゴトン



派手娘「ふぁーあ…」

派手娘(ねっむい)

派手娘(電車通学失敗だったわ。朝起きるの早いし、この時間座れないし)



プシュー

ゴジョウシャアリガトウゴザイマス



ゾロゾロ

音漏れ男「」~~♪

派手娘「……」

~~♪

派手娘(……はぁ?)

乗客たち「………」

音漏れ男「」~~♪

派手娘「……チッ」



バッ(イヤホンをぶんどる)



音漏れ男「!おい、なにすん──」

派手娘「うっさいのよ!!その雑音!!」

派手娘「自分で分かんないわけ?頭沸いてんじゃない??」

音漏れ男「っ……な、なんだ偉そうに…」

派手娘「あ?」ギロッ

音漏れ男「」ウッ

音漏れ男「…はいはい、俺が悪かったよ。…めんどいやつに絡まれた…」テクテク...

乗客たち「」ポカン

派手娘(ふん、ダサい捨て台詞)

「ねぇあの子の制服って…」

「思った…私たちと同じ学校の…」

=======








222: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:27:44.50 ID:hGyrOzpP0


派手娘(気に入らないのよね、ああいうのも)

派手娘(あたしは、納得いかないものに見て見ぬフリをすることが出来ない)

派手娘(ガツンと言ってやらないと気が済まないのよ)



カサッ...(床を這う妖禍子)



派手娘(例えばそう、こいつみたいな捻じくれた奴らとか──)

派手娘(ね!!)



グシャッ








223: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:29:00.16 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー

少年「ごめん、役に立てなかった…」

猫又娘「まさかああも足蹴にされるとはねぇ」

猫又娘「やはり強敵だよ……むぅ…」

包帯少女「まぁ…意気込みやよし、だったよ」

猫又娘「そもそも気になってたんだけどさ」

猫又娘「派手娘さんて昔からあんなに怒りっぽい性格だったの?」

包帯少女「どうかな。ぼくは3年になって初めて同じクラスになったから」

少年「同じく。この前まで話したこともなかった」

猫又娘「この前?派手娘さんと話してみたんだ?」

少年「……ちょっとね」

包帯少女「でもあの人が笑ってるところなら時々見かけるね」

猫又娘「…それ、主に私をいじめてる時でしょ」

包帯少女「……」

猫又娘「……」

包帯少女「…みんなを笑顔にさせたいんでしょ?」

猫又娘「それはなんか違うよね!?」

包帯少女「ま、次はぼくがやってみる」

猫又娘「ん…その、勝算の程は?」

包帯少女「全く分かんない。ぼくは喋ったこともないから」

包帯少女「けど、後に控えてる人が不安そうな目してるし、ぼくが派手娘さんを連れてくるよ」

猫又娘「少女さん…」ウルウル








224: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:30:40.65 ID:hGyrOzpP0

ーーー休み時間2ーーー

包帯少女「派手娘さん」

派手娘「あん?」

包帯少女「話があるんだけど、いいかな」

派手娘「嫌」

包帯少女「……」

派手娘「……」

包帯少女「………」

派手娘「………」



.........





包帯少女「ダメだった」

猫又娘「いやいやいやいや」

猫又娘「え?何もしてないよね?門前払いでおしまいだよね??」

猫又娘「せめてもう少し食らいついてさぁ!」

猫又娘「……うぅ…さっきの感動を返しておくれ…」

包帯少女「…なんというか、取りつく島もないって感じで」

少年「うん、そう。すごい分かる。人を寄せ付けないオーラが出てるんだよね」

包帯少女「これ以上邪魔するなって暗に言われてるみたいだった」

猫又娘「?そう?」

猫又娘(確かに普段から怒ってるのはよく見るけど)

猫又娘(何でもかんでも否定してるわけじゃないと思うんだよなぁ)

猫又娘「……ふぅ。分かったよ、私に託されたってことね」

少年「結局また猫又娘さんに任せることになっちゃうな…」

猫又娘「気にしない気にしない」

猫又娘「どうせいつかは派手娘さんと話をつけないとって思ってたから」

猫又娘「私を誰だと思ってるん?愛と勇気のトラブルシューター猫又娘ちゃんだよ」

猫又娘「本気を出せば派手娘さんの一人や二人、なんのその!」

包帯少女「本当は?」

猫又娘「………」

猫又娘「ちょっとだけ、おっかないです」アハハ...








225: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:31:58.76 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー

女生徒「ねー、夏休みどこ行こっか?」

男子生徒「俺はどこだっていいぜ。行きたいとこ言ってくれれば」

女生徒「無気力人間か!一緒に考えようよー」

ワイワイ



派手娘(夏休み)

派手娘「……」

派手娘(今年の夏はどうしてこう気に食わないのが多いのよ)



ーーーーー

同級生A「」クスクス

同級生B「」ケラケラ

少年「……」

ーーーーー



派手娘(目障りな連中が居たり)



ーーーーー

包帯少女「……」

ーーーーー



派手娘(…どっか拗らせたようなやつが湧いたり)

派手娘(あの子が包帯を着けるようになった日と、"奴ら"が見え隠れするようになったのは同じ日だった)

派手娘「…!」



女生徒「それでねー、──」

男子生徒「そのチョイスはなかなか──」

妖禍子「」カサカサ



派手娘「……」

ガタッ テクテク







226: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:34:54.23 ID:hGyrOzpP0


男子生徒「南町神社の祭りもたまにはいいかも──ん?」

女生徒「…派手娘さん?」

派手娘「どいて、邪魔」

女生徒「ごめんなさ……いえ、なんでわざわざどかなくちゃ──」

派手娘「なに?」ジロッ

男子生徒「…素直にどいとこう」

女生徒「あ、ちょっと…!もう…」

派手娘「……はー」

妖禍子「ギ…」カササ

派手娘「」スッ



グシャッ(踏み潰す)



派手娘(いきなり現れて、無断であたしらの世界を掻き乱してさ)

派手娘(誰も気付かないからってもっと調子付いてきてるわよね)



サラサラ...(消えていく妖禍子)



派手娘「…1匹ならただの雑魚ね」フンッ

派手娘(群れたところで負けるつもりはないけど)

派手娘(…いいわ)

派手娘(やってやろうじゃない)

派手娘(ただでさえ捻くれたこの世界を、あんたらがもっとひん曲げるって言うんなら)

派手娘(あたしはあたしの目の前に現れたあんたらをぶっ飛ばす)

派手娘(先に仕掛けてきたのはそっちなんだからこれは立派な正当防衛よね?)

派手娘(こそこそちまちまと動いてる人たちも居るみたいだけど、あんなんじゃ話にならない)

派手娘(要は納得しないのよ、あたしが!それだけ!)

派手娘(気に入らないものは片っ端から消し飛ばしてやるわ!)




227: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:37:03.74 ID:hGyrOzpP0


ポンポン

派手娘「あん?」フリムキ



イケメン「これ、落としたよ。君のでしょ?」



「あれは、クラスで一番モテる爽やか好青年のイケメン君…!」

「派手娘さんにも分け隔てなく接するなんて…仏か…!」



派手娘「ぁ……」

イケメン「ん?」ニコッ

派手娘「……やす……き……」モジッ

イケメン「ははっ、何だい?もっと落ち着いて喋ってごらん」

派手娘「っ……」グッ

派手娘「き、気安く触んな!!」バシーン!



「おおーっとイケメン君吹っ飛ばされたー!?」

「あぁやっぱり鬼の派手娘さんには近付かない方が吉なんだね…」



イケメン「」ピクッ、ピクッ

派手娘「あ……その……」

派手娘(っ…)

派手娘「」タッタッタッ








228: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:41:49.84 ID:hGyrOzpP0

ーーー昼休みーーー

「イケメン君大丈夫なの?」

イケメン「平気平気。怪我とかしたわけじゃないから」

「ほんと、怖いよね…派手娘さん。人の親切を暴力で返すなんて」

イケメン「そう言わないであげてよ。彼女には彼女なりの理由があるんだよきっと」



派手娘「……」モヤモヤ

派手娘(理由なんかないっつーの!)

派手娘(んもー…調子狂う…)

派手娘(んな絵に描いたような善人…)

派手娘(いるわけないじゃん)

派手娘(どうせこの世はみんな天邪鬼。心の中で何考えてるかなんてそいつにしか分かりゃしないのよ)

派手娘「……もう一人いたわね」

派手娘(このクラスのお調子者)

派手娘(張りぼてみたいな笑みをひっさげてるあのバカが──)



猫又娘「派ー手ー娘さん♪」



派手娘「うわ」

猫又娘「うわって何…!そんなに私のこと嫌いなの!」

派手娘「…あんた、あたしの神経逆撫するのだけは上手よね」

猫又娘「理不尽だ…まだ何もしてないのに!今日という今日は私に対するその扱い、断固抗議するよ!」プンプン

派手娘(う、鬱陶しい…)

派手娘「はいはいしょうもない抗議なら一人でやってな。何の用?」

猫又娘「……スー…ハー…」

猫又娘「派手娘さん、折り入ってお願いが──」

派手娘「嫌よ帰ってさようなら」

猫又娘「ありま、す…」

猫又娘「……」

派手娘「……」

猫又娘「派手娘さん、折り入ってお願いがあります」

派手娘「なかったことにするんじゃないわよ」

猫又娘「そんなこと言わずにぃ~!話くらい聞いてちょうだいよー!」バッ

派手娘「ちょっ、なんでまとわり付いてくんの!暑苦しいっての…!」

猫又娘「へへっ!派手娘さんが大人しく言うことを聞いてくれるまで離れませんよぉ!」ギュー

派手娘「ウッザ!この上なくウザい!離れないと逆さ吊りにするわよ!」

猫又娘「やれるものならどーぞ♪本気出した私を捕まえられるかな?」

猫又娘(これぞ私の考え出した戦略!)

猫又娘(名付けて……勢いのままなんとかいっちゃおう作戦!)

猫又娘(押せ押せ私!このままじゃじゃ馬さんを丸め込むんだ!)




229: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:43:50.56 ID:hGyrOzpP0


派手娘「──あ゙ー!分かったわよ、聞いてやるから離しなさい!」

猫又娘「!ほんと!」

派手娘「本当本当」

パッ

派手娘「髪が崩れるわ、まったく…」

猫又娘(…よし、最初にして最大の関門は突破)

猫又娘(後は事情の共有だけ)

猫又娘「…それじゃ、単刀直入に言うね」

猫又娘「あなたの力を貸して欲しい」

派手娘「……」

猫又娘「この町に起きてる異変…派手娘さんも気が付いてるよね?」

猫又娘「化け物たち──妖禍子が闊歩したり、同じクラスの子が消えたり…」

猫又娘「今、私と少年君と少女さんの三人でこの事件を解決する手立てを探してる。そしてあと一歩のところまで来たんよ」

猫又娘「あとは時間との勝負…」

猫又娘「…派手娘さん、妖禍子に触れてもなんともないんね。さっき踏み潰してたの、見えたから」

猫又娘「その力を見込んでお願い!手を貸して!あなたがいれば比喩抜きで百人力なの!」

猫又娘「派手娘さんだってこんなおかしな世のままにしておきたくないでしょ?」

派手娘「………」

猫又娘「ね?」

派手娘(……)

派手娘「はい、聞いてあげた」

派手娘「用は済んだ?じゃ、回れ右してさよなら」

猫又娘「……へ?」

派手娘「無駄に疲れさせることしないで欲しいわ…ったく」

猫又娘「………」

猫又娘(~~!)

猫又娘「な、なな…!」

猫又娘「なんなんそれ!?」

猫又娘「ひとがせっかく真面目に話してるのになんなのその態度!」ガシッ

派手娘「だからひっついてくんなって──」

猫又娘「ははーん、さては怖いんだね?お化けとかそういうの。」

猫又娘「プクク、見かけに寄らずかわいいとこあるんね」

派手娘「フンッ、やっすい挑発。いつの時代の漫画よ」

派手娘「さっきから精一杯強がっちゃって、かわいいのはどっちかしらね?」クスッ

猫又娘「ぬぬぬ…!」




230: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:45:53.16 ID:hGyrOzpP0


猫又娘「…いいさ、そっちがそのつもりなら本当に怖いものなしなのか試してあげる…!」フッフッフッ



少年「!猫又娘さん、まさかここでアレに化けるつもりなんじゃ…」

包帯少女「アレ?」

少年「大きな骸骨みたいな妖怪」



猫又娘「腰抜かしても知らないかんね!」

猫又娘「そいや──」

派手娘「いいからとにかく離せっ」パシッ

猫又娘「──!?」グラッ

ドロン



「うお!なんだ何の騒ぎだ!?」

「あそこ。猫又娘さんと派手娘さんが何かしてたみたいだけど」



猫又娘「いつつ…」アタマサスリ

猫又娘「あれ?変わってない…」

猫又娘「ん?」



派手娘「……」テカー



「ハゲ頭…?」

猫又娘(あ)

派手娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘「…んくっ」プルプル



「おい見ろよあれ…」クスス

「やめとけって。後で因縁付けられても……ぶふっ」



猫又娘「くく……くふっ…!」

猫又娘「なっはは!ごめ、ごめん!派手娘さん…!グフッ、ちょっと失敗しちゃったみたいで…!」

猫又娘「今、戻すから!…クク」

ドロン

派手娘「……」(元の髪型)




231: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:46:49.45 ID:hGyrOzpP0


猫又娘「ひーっ!ダメだ、ツボに入った…!はは、あははは!」

猫又娘(なんでスキンヘッド?がしゃどくろ→骸骨→髪はないってことぉ?スキンはあるのに)

猫又娘(なんにしても)

猫又娘「絶望的に、似合わな過ぎる…!」ゲラゲラ

派手娘「………」



「あ…」

「…ちょっとベランダに避難すっか」



猫又娘「はー、ひー…笑った…」

猫又娘「いやぁ、悪い悪い。あんなことするつもりはなくってさ……プフッ」

猫又娘「ちょっとしたハプニングってことで許しておくれよ」

猫又娘「でもさっきの、ちょっとおいしいなとか思ったでしょ?あはは」チラッ



派手娘「………」ゴゴゴゴ



猫又娘「……はは……」








232: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:48:32.62 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー



...ドドドド



教師「……?」



猫又娘「」ドドド!



教師「おい!廊下を全速力で走る奴があるか」

猫又娘「あ!先生!」

猫又娘「お願いです匿って下さい職員室とかでいいんです!これから勉強も頑張りますからどうか頼みます…!」

教師「は…?ん?どういうことだ?」



シュバババ!



派手娘「せーんせ♪」

教師「おう?今度は派手娘か」

派手娘「ちょっとそこの、後ろに隠れてる子渡してくれません?」

派手娘「"オハナシ"がしたいので」ニッコリ

猫又娘「ひっ…!」

教師「なんだお前たち、喧嘩か?中三になってマジもんの喧嘩とはなぁ…てっきり仲良いと思ってたが――」

派手娘「先生」 ← 虎をも殺せそうな目

教師「……」

教師「…そうだ、午後の授業準備しとかんとな、うん」スタスタスタ

猫又娘「えっ。ちょ、ちょっ!」

派手娘「……」ニコッ

猫又娘「」ダッ

派手娘「」ダッ



ダダダッ



派手娘「ねーなんで逃げんのー?まだ話の途中だったのよねー?止まってくれないと続き話せないわよー?」

猫又娘「だったらその手に持ってる物騒な縄はなに!?何の"ハナシ"をする気なんでしょうか!?」

派手娘「すこーし実験に使うだけよ?」

派手娘「ねー止まってくんない??今なら…」

派手娘「…半殺しで済ませてあげるから」

猫又娘「やだぁ!」

猫又娘(殺される…!)

猫又娘「ほんとに悪気は無かったんだよぉ!許して…!」



ダダダダッ...








233: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:49:28.27 ID:hGyrOzpP0

ーーー教室ーーー

少年「……行っちゃったね」

包帯少女「…そうだね」

少年・包帯少女「「……」」

包帯少女「うん、まぁあれは自業自得としか」

少年「あの二人仲良いんだか悪いんだか分かんないね」

少年「これで全敗。あとは…僕たち全員での説得だっけ」

包帯少女「あの子が無事に帰ってこれればね」

少年「1抜けたとか言い出さなきゃいいけど」

包帯少女「そしたら門前払い組二人ででも行ってみる?案外上手くいったりして」

少年「猫又娘さんを差し出すのと引き換えに…とか」

包帯少女「んー?少年君いつからそんな黒い発想をするようになったのかな?」

少年「本気じゃないって」ハハッ

包帯少女「分かってる」フフッ

包帯少女「ひとまずあの子が戻ってくるまで待ってようか」

少年「うん」

少年(……けどそもそも)

少年(本当にそこまでして協力してもらう必要があるのだろうか)

少年(いやもちろん、こんな異常時に助けは一人でも居た方がいいっていうのは理解してるけど)

少年(…派手娘さんのこと教えてくれたのは確か、夢見娘さん…)チラリ



夢見娘「……」スー..スー..



少年「……」

少年(あの人が、僕の作り出した妖禍子だなんて)

少年(気になる。話をしてみたいけど、僕たちの近くには居れないって言ってたらしい…)








234: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:50:38.68 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー



………。



苦しい。



………。



悲しい。



………。



──憎い。



……違うの。

その感情は。

煮えたぎる怒りの奔流は、私じゃなくて──。







ーーーーーーー

「……さん………見娘さん!」

夢見娘「…ん」

同級生C「大丈夫?うなされてたよ」

同級生C「辛い夢でも見てた…?」

夢見娘「………」

夢見娘「……平気……」

同級生C「…嘘だよ」

同級生C「だって涙、出てる」

夢見娘(…!)

夢見娘「」コスコス

夢見娘「……ただのあくび、だから……」

同級生C「………」

夢見娘「………」




235: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:51:59.51 ID:hGyrOzpP0


同級生C「……お菓子、いる?」

夢見娘「……」コク

スッ...

夢見娘「………」ジー...

夢見娘(そういえば少し…お腹が空いてる…)

夢見娘(……今、何時?時計、時計……)

同級生C「――1時10分。もうすぐ昼休みも終わるとこ」

夢見娘「!」

同級生C「…で、よかった?」

夢見娘「……なんで……」

同級生C「分かったのかって?」

同級生C「ちょびっとだけだけど、夢見娘さんが何考えてるのか分かるようになってきたんだぜぃ」

同級生C「へへっ、これで夢見娘さん検定二級くらいは合格かな」

夢見娘「……」

同級生C「…そのさ、何かあったら気負わず吐き出してよ」

同級生C「愚痴でも弱音でも溜め込んでる方がよっぽど辛いっしょ」

同級生C「俺に出来ることなら……あー、夢見娘さんの助けになりたいから、さ」ポリポリ

夢見娘「………」

同級生C「………」

同級生C(これは…驚いてる顔だろうな)

同級生C(今更ながらあんなクサイ台詞、恥ずかしくなってきた…)

同級生C(けどま、暗い雰囲気は消えたしこれでよかったんだ。うん)

同級生C「さて、次はなんの授業だったかねー」



…クイッ(袖を掴む)



同級生C「…!」

夢見娘「………チャイム、なるまで」

夢見娘「そばに居て…」

同級生C(………!?)

同級生C(夢見娘さん…?)

夢見娘「………」ジッ

同級生C(…この上目遣いは反則だ)

同級生C「喜んで」ニッ








236: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:53:04.29 ID:hGyrOzpP0

ーーー放課後ーーー



ガヤガヤ



派手娘「……ふぅ」

派手娘(どこかのアホのせいでいやに疲れる日になったわね)

派手娘(逃げ足だけは速いくせして)

派手娘「…行くか」スクッ



「今日さー部活に顔出してみようと思うんだよね」

「OBとして?いいんじゃない楽しそう」

「夏の大会も近いし、置いてきた後輩たちの成長を見てやろうってね~」

テクテク



...ポトッ



派手娘「?」ヒロイアゲ

派手娘「ねぇ、ちょっと」

派手娘「財布落としたわよ」

「!…あ、派手娘さん…」

「ご、ごめんなさい。変な手をかけさせちゃって…」

「…お願いです、普通に返してあげてください」

派手娘「そりゃ構わないけど」スッ

「」パッ

「行こ」

「う、うん…」



スタスタスタ...



「なに、また派手娘さんが…?」

「こわ…目付けられないようにしないと…」

ヒソヒソ



派手娘「………」








237: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:54:34.38 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー

猫又娘「」ソローリ

猫又娘「…あれ?派手娘さんは…」

少年「あ、いつの間に戻ってきてたんだ」

包帯少女「もう居なかったよ。帰っちゃったのかも」

猫又娘「ほ、ほんと…?」キョロキョロ

包帯少女「ぼくたちもちょうど二人で説得しようかって考えてたとこなんだけどね」

猫又娘(………)

猫又娘「探そ」

猫又娘「探し出して、なんとしても協力してもらおう」

猫又娘「作戦最終フェーズ、全員でこっち側に引きずり込む!」

少年「その言い方じゃあまるで悪者みたいだな…」

包帯少女「平気?あなた捕まったら今度こそ何されるか分からないんじゃ」

猫又娘「うぐ……そのときは」

猫又娘「お二人が頼みの綱です」メソラシ

少年「え、本当に猫又娘さんと引き換えにしていいの?」

猫又娘「!?そこは助けて欲しいとこだから!」

包帯少女「少年君…」ハハ...

猫又娘「そりゃあ私も悪かったけどさぁ、あそこまで怒んなくてもいいじゃん…?」

猫又娘「…でも、もっと不満なのは私の話をはぐらかしたこと」

猫又娘「妖禍子のこと絶対気付いているはずなのにあの態度だよ。せめて協力したくないならそうとはっきり言えって感じ!」

猫又娘「だからちゃんと返事もらうまで私は引き下がらないよ!」








238: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:56:56.71 ID:hGyrOzpP0

ーーー石段麓ーーー

派手娘「……」(体育座り)

派手娘「……」

派手娘(……)



ーーーーー

「──行こ」

「──う、うん…」

ーーーーー



派手娘「……なによ」

派手娘「んな警戒しなくたって何もしないっての」

派手娘「………」

派手娘(…分かってるわよ)

派手娘(腫れ物扱いが自業自得なんてこと)

派手娘(だって仕方ないじゃん。納得いかないものはいかないの!)

派手娘(電車の音漏れ野郎も)

派手娘(不味い料理を平然と出してくる店も)

派手娘("友達"なんて、都合良く利用する奴らも)



ーーーーー

「──ねー、お願い!明日までの宿題、終わったら手伝って!」

「ちょっとは自分でやればー?ってか、あんたいつも二つ編みに見せてもらってなかった?」

「だって今のあの人使えなさそうなんだもん。たまに変な独り言言ってて不気味だしぃ」

「友達じゃなかったの?」

「まっさかー(笑)」



二つ編み「……」テクテク

テクテク...



「あーあ、聞こえてたんじゃない?どっか行っちゃったよ?」

「根暗さんに悪いことしちゃったわぁ。ごめんなさーい」

「全っ然謝る気ないでしょ」

クスクス




239: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 04:58:59.54 ID:hGyrOzpP0


派手娘「…あのさ、さっきからうるさいんだけど」

「は?なにいきなり」

派手娘「耳障りなのよ消えてくんない?」

「あ、もしかしてぇ…二つ編みちゃんのお友達なんですかぁー?」

「いがーい!性格とか真逆そうなのに」

「友達料貰ってたりしてます?(笑)」

派手娘「…….」

...ガシッ

「!?」

グググッ メリ...

「い、痛い痛いやめて!」

派手娘「」グリッ

「んぎっ!?いだぁ!!やめて爪剥がれる…!!」

「ちょっと、何して──」

パッ

「ん゙ぅ…!」フラッ

「っと」トサッ

派手娘「…何回も言わせんな。とっとと失せろ」

派手娘「次は剥ぐ」

「ひぃ…!」

スササッ...

ーーーーー



派手娘(共に生きてく気もないくせに薄っぺらい言葉をいいように振りかざす)

派手娘(あたしが嫌いなタイプ)



ーーーーー

少年「──、───」

猫又娘「──♪」

包帯少女「…──?──」

ーーーーー



派手娘「………」

派手娘(………)

派手娘「……ふん……」

派手娘「……」

派手娘「別に、友達とか…」

派手娘(羨ましくなんか、ないし)








240: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:00:05.60 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー

猫又娘「…!居た、あそこ!」



派手娘「……」



少年「まさか本当にここにいるなんて…」

猫又娘「妖禍子を倒し続けてるならたくさん集まる神社に居るかも…って、少女さんの洞察力には感服ですな」

包帯少女「大袈裟だって。…現に妖禍子を相手にしてるわけじゃなさそうだしね」

少年(妖禍子自体はそこらに湧いてるのに……異常な光景だ)

猫又娘「うーむ、むしろあれは」

猫又娘「…落ち込んでる?」



派手娘「……別に、友達とか…」



三人「!」

少年「今の…」

包帯少女「…うん」

猫又娘「ばっちり聞こえた」

少年(やっぱり、派手娘さんでもひとりは寂しいんだ)

包帯少女(あの子も人の子ってことだね)

猫又娘(強がってるのはそっちじゃん。本当は人恋しいくせにさ)

猫又娘「…二人とも!」





派手娘「……」

トットットッ

猫又娘「や、さっきぶり」

少年・包帯少女「「……」」

派手娘「…あんたら…」

派手娘「…よくノコノコあたしの前に出てこれたわね」

猫又娘「……」

猫又娘「いいよ、別に」

猫又娘「私を締め上げるっていうんでしょ?ちょっと理不尽だけど、それくらいであなたの鬱憤が晴れるなら付き合ってあげる」

猫又娘「私は心が広いからねっ」

猫又娘「そん代わし」



スッ(手を差し出す)



猫又娘「あなたのこと、もっと教えてよ」




241: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:02:11.36 ID:hGyrOzpP0


派手娘「…?」

猫又娘「いや、何というか、頼み事をするならお互いのことも知っといた方がいいしさ……えー……はい……」

猫又娘「──もとい、派手娘さんと仲良くなりたいの!それだけ!」

猫又娘「その後でさ、さっきの返事も聞かせてよ」ニヒッ

派手娘「……」

派手娘「……バカ、じゃないの…」

派手娘「ほんと…」

猫又娘「バカで結構」

猫又娘「それできみの笑顔が見れるなら安いものよ」

猫又娘「ってね」

派手娘「……」チラリ

少年「……」コクリ

派手娘「……」チラッ

包帯少女「」フフッ

派手娘(……)



(差し伸べられた手)



派手娘「……」ソッ...

ギュッ

猫又娘「…!」パァア





幼女「」スッ...





派手娘(──っ!)

...ムンズッ

猫又娘「んぇ?」

派手娘「本に書いてあったの」

派手娘「あいつら物の怪は、大きい音が弱点らしいわよ?」スッ

猫又娘「…その手に持ってるものは…?」

派手娘「……」ニヤ

派手娘「こいつはね、あたし手製の…」






242: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:03:09.84 ID:hGyrOzpP0




派手娘「──爆竹よ!」



ヒョイ

パァン!

三人「!?」

派手娘「…らぁああああ!」ヒョイヒョイヒョイ

パァン!

猫又娘「に゙ゃぃ!?」

派手娘「いっつもコソコソコソコソ鬱陶しい!イラつかせるんじゃないわよ!!」

パン!パァン!

少年「こ、鼓膜が…!」

派手娘「こんなこじれた世界なんてねぇ!!」

パァン!バチバチッパァンッ!

包帯少女「…、…」(耳を塞ぐ)

派手娘「いっそ全部吹っ飛んじまえっ!!」



パァン!パァン!パン、バチッ!パァン!!



.........








243: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:04:57.72 ID:hGyrOzpP0


タッタッタッ

ザッ...

派手娘「やっと見つけた…!」

幼女「……」フリカエリ

派手娘「……」

派手娘「…あんたなんでしょ?こいつら使ってバカげたことしようとしてんの」



(そこら中で気絶している妖禍子たち)



派手娘「お仲間はこの様。消さないだけ有情と思って欲しいわ」

幼女「………」

派手娘「あたし、あんたらの存在が気に食わない」

派手娘「見えないところで静かに暮らしてるだけなら構いやしないのよ」

派手娘「急に出張ってきてあたしらの日常に介入してんのが気に入らないって言ってんの」

派手娘「誰の許可を得てやってるって?少なくともあたしは許すつもりはないから」

派手娘「化け物は化け物の世界に帰りなさい」

幼女「……」

派手娘「……はん、あたしに見つかったのが運の尽きね」

派手娘「あんたにゃここで」

派手娘「──退場してもらうわ!」ダッ

ブンッ

派手娘(こいつさえいなくなれば──!)



スカッ



派手娘「!?」

ズテーン!

派手娘「いっ…たぁ……」

派手娘(今、すり抜けた…?)

派手娘「……」

ヒュッ(小石を投げる)

幼女「……」スルッ...

派手娘「…あんた、霊か何か?」

幼女「………」

派手娘(触れない物の怪とか…)

派手娘(聞いてないわよそんなの。どうしろってのよ)




244: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:06:13.71 ID:hGyrOzpP0


幼女「………」



スッ



派手娘「………あ?」

派手娘「…なに、その手」

幼女「……」



ーーーーー

猫又娘「」スッ(手を差し伸べる)

ーーーーー



派手娘(……)

派手娘「まさか、あのバカの真似事なんて言わないわよね?」

派手娘「…あたしをおちょくってる?」

幼女「………」

派手娘「ふざけんな」

派手娘「もー…!」グシャグシャ

派手娘「わっかんない、納得できない!」

派手娘「何がしたいの、あんたら!?」

幼女「……」

派手娘「……」

幼女「………」ジッ...

派手娘「……っ」

派手娘(どうせその手、触れないじゃない…)

派手娘「……今日はこれで引き下がってやるわ」

派手娘「けど覚えときなさい!次会うときは絶対あんたを…!」

派手娘「…あんたを…」

幼女「……?」

派手娘「……ただで済むと思わないことね!!」ピューッ



タッタッタッ...






245: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:07:25.95 ID:hGyrOzpP0




幼女「………」

幼女「………」

幼女(…そうだ)

幼女(あれが"人"らしい人間なのだろう)

幼女(異物を廃し、己が領域の秩序を守らんとする)

幼女(ある意味で最も生物としての本能に従順)

幼女「……」



三人「」バタンキュー



幼女「……」チラリ



イロヌリ瘴女「」ピク..ピク..

イイフラシ「」シロメ

カネクイ蟲「……」モゾ...



幼女("創造主"──其の手で自らの世界を描こうとしていた少年よ)

幼女(世界の綻びに立ち会うか)

幼女(そなたらに責はない。遥か昔の軋轢を理不尽に被ったに過ぎぬ)

幼女(然し尚、全てを奪い去らんとする激昂を止めようと言うか)

幼女(妖禍子を有す者とさえ、共闘し…誰が為にこの世界を守る?)

幼女(……誠、摩訶不可思議である)

幼女「………」

幼女(……)

幼女(…我に何が出来よう)

幼女(かの者の憤りに屈し、其の書物一つ奪わせることを許した我が)

幼女(魅えざる"張り裂け"の深潭)

幼女(終焉を告げる夜、其のネジレを直す力など初めから在りもしなかった)

幼女(…だが)

幼女「……そなたの道を敷くことなら可能やもしれぬ」

スッ...








246: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:08:47.94 ID:hGyrOzpP0

ーーーーーーー

三人「」

少年「……う、あぁ…」ノソ...

包帯少女「……ん…ケホッ」

少年「…大丈夫?」

包帯少女「なんとかね…。まだ耳がガンガン言ってる気がするけど」

猫又娘「」ピョンッ

猫又娘「あー!死ぬかと思った…!」

猫又娘「なんなのなんなのあいつ!?ああまでするほど私が嫌いか!?」

少年「手製の爆竹とか言ってた。思った以上にとんでもない人だね…」

猫又娘「対妖禍子用のものなんだろうけど、そんなことは関係ない!」

猫又娘「話は聞かない、文句しか言わない、果てにゃこの仕打ちって…いくらなんでも私らをバカにし過ぎだ!」

包帯少女「…うん。全くもって同意」

包帯少女「これはさすがにやり過ぎてるよねぇ…」ゴゴゴ

猫又娘「いつまでも下手に出てると思ったら大間違いだよ…」ゴゴゴ

少年(おぉ…)

少年(今の二人、絶対敵に回したくないな…)







ーーーーーーー

派手娘「……」テクテク

派手娘「……」テクテク

派手娘「…むしゃくしゃする」

派手娘「ん゙ー!」

派手娘「嫌い…嫌いだわ」

派手娘(人を小馬鹿にしたようなこんな世界も)

派手娘(…それに惑わされるあたし自身も)



ーーーーー

スッ(手を差し伸べる)

ーーーーー



派手娘(…なんだったのよあいつ)

派手娘(あんなのにあたしの何が分かるっていうのよ)

派手娘「……」



──ホントはみんなと仲良くしたい?



派手娘「………」

派手娘「……なわけ」






247: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:12:50.54 ID:hGyrOzpP0




ズイッ



派手娘「!」ピタッ

派手娘「っぶな」

派手娘「ちょっと、どこ見て歩いてんの──って」

猫又娘「……」

包帯少女「……」

少年「……」

派手娘「…あぁ?」

派手娘(……)

派手娘「……なに?わざわざあたしを追いかけたきたの?相当暇人なのねあんたら」

派手娘「生憎だけど今日はもう話すことなんかないわ。そこ通してくれないかし……ら…?」

猫又娘「………」ポン..ポン..

派手娘(杓子…?)

派手娘(にしてもでか過ぎる…)

包帯少女「……」カツッ...

派手娘(こっちはバット)

派手娘「…野球でもするの?」

少年「」アセアセ

派手娘(こいつはなによ)

少年「…そ、その、早く謝ってくれた方が…」

派手娘「はぁ?なんであたしが──」



ガキンッ!



派手娘・少年「「」」ビクッ

猫又娘「……そうだねぇ……派手娘さんには同じ目を味わってもらった方が理解出来るんじゃないかなぁ」

猫又娘「話も聞かずにぶっ飛ばされる気持ちがさぁ…」ユラァ...

包帯少女「野球、興味ある?いいね…丁度"ボール"が足りなかったとこだから」ジリ...

少年「派手娘さん…!」

派手娘「ぅ……」

派手娘(……っ……)

派手娘「……す」

派手娘「すいませんでしたぁ!」

派手娘「いくらなんでもやり過ぎました!あの化け物共にストレスが溜まってたんです!」

派手娘「…これでいいっ!?」




248: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:15:31.17 ID:hGyrOzpP0


派手娘「…これでいいっ!?」

猫又娘・包帯少女「「……」」

派手娘「な、なに…」

猫又娘「…ほんとに」

猫又娘「ほんっとーに!素直じゃないよねきみ!」

猫又娘「あんね、さっき派手娘さんが呟いてた独り言、私ら聞こえてたんよ」

派手娘「独り言……あ」



ーーーーー

派手娘「──別に、友達とか……」

ーーーーー



猫又娘「私さ、派手娘さんがどういう性格なのかってある程度分かってるつもり。…不本意ながらね」

猫又娘「自分が許せないと思ったものには口を出さずにいられない。違う?」

派手娘「……」

猫又娘「…きっとそんなだから、おいそれと近付いてきてくれる人なんて居なかった」

少年(そっか。自分が理不尽だと思うようなことに、強く反論してただけなんだ)

少年(……僕にその気概の一部でもあれば、あいつらにちょっかい出されることもなかったのかな)

派手娘「………」

派手娘「…見てて苛つくのよ」

派手娘「隠したり、誤魔化したり、理不尽を強要する奴、ましてそれを受け入れてる奴なんかも」

派手娘「この化け物共なんて一番嫌い」

派手娘「…爆竹も、元はあんたらに使う気なんかなかったわ」

派手娘「ただ、化け物のボスみたいのが見えたから…全部吹き飛ばしたくなっただけ」

猫又娘「えっ!?」

少年「ボス…!」

包帯少女「ってことは…会ったんだね!?あの男に!」

派手娘「男?なに言ってんの、こんくらいのちっさい女の子よ」

派手娘「不気味なくらい何も喋んない…おまけに立体映像よろしく身体がすり抜けるわけのわかんない生き物」

派手娘「…あんたの言うあの男って?」

猫又娘「この事件の元凶なんだって。顔も知らないんですけどね…」

包帯少女「……派手娘さんの言うそれってもしかしてさ」

少年「──トドノツマリ様」

猫又娘・包帯少女「「!」」

少年「…あ、いやそうじゃないかなって…」

猫又娘「ふむ…確かに少女さんが借りてきた本にそんな容姿で描かれてたね」

包帯少女(古書店で借りたあの本……二つ編みさん……)




249: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:17:48.04 ID:hGyrOzpP0


猫又娘「やっぱりこの山に居たんだ!というか今さっき私らのすぐ近くまで来てたなんて…くぅ…」

猫又娘「派手娘さんっ!」

派手娘「っ…あによ」

猫又娘「ありがとっ!あなたのおかげで一つ懸念点がなくなった!」

猫又娘「間違いなくここらを探せば見つかるってことよね」

派手娘「……つくづく謎だわ、あんた。さっきまで怒ってた相手にお礼?」

猫又娘「それとこれとは別」

猫又娘「もう派手娘さんの返事は聞かないからね。あなたは私たちに協力する!」

猫又娘「…それと、私と友達になること」ニシッ

派手娘「……」

派手娘(………)

派手娘「……悪いけど──」



──シュルルッ



少年(妖禍子…!?)

少年「危ない!」

派手娘「─?」

少年(間に合わない…!まさかこのまま目の前で派手娘さんが消される…?)

少年「──そんなのダメだっ!!」





ピカッ!





少年(眩しっ…!)

包帯少女「ん…!」

猫又娘「にゃっ!?」



ヒュオオオォ!

妖禍子「グウウウゥゥ…!」

ヒュオオォ...



...ストッ






250: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:19:19.15 ID:hGyrOzpP0




全員「………」

猫又娘「……これ、アヤカシノート…?」

少年「!」ガサゴソ

少年「僕のカバンに入ってたやつだ」

包帯少女「今、吸い込まれていった…ね」

三人「……」

猫又娘「…す、すごい!」

猫又娘「これ私があげたやつだよね!こんな力があったの!?」

包帯少女「ってことは本物は」

猫又娘「うん。もっと強い力を持ってるに違いないよ」

猫又娘「ねぇねぇ少年君!もっかいやってみせて!」

少年「…今の、僕が狙って起こしたんじゃないんだ」

猫又娘「?じゃあなんでいきなり…」

少年「……」

スッ パラパラ

少年「……あ」

包帯少女「今の妖禍子だね」

猫又娘「どれどれ…」ノゾキコミ

猫又娘「…絵?になっちゃったんだ」

猫又娘「本物のノートは書いた妖禍子が出てくるけど、こっちのノートは妖禍子を吸い込む、と?」

猫又娘(我ながら凄まじいものを作ってしまったのでは)

少年「逆にこれを何冊も使えば奴らを封印出来たりしないかな」

猫又娘「!なるほど!量産なら簡単に出来るから──」

猫又娘「…けど、用意したところで使いこなせるかも分かんないしなぁ。この辺の妖禍子全部となるといくつ必要になるんだろ」

包帯少女「結局のところ、ますます本物を見つけ出さなきゃいけなくなったってことだね」

猫又娘「うむ、そうなるね」

猫又娘「この奇妙な生活もいよいよもって終わりが見えてきたわけだ!」

ワイワイ




251: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:20:15.65 ID:hGyrOzpP0


派手娘「……」

派手娘「」クルッ

猫又娘「──ちょっと、どこ行くんよ!」

派手娘「帰るのよ」

猫又娘「もちっと待って。今、明日からの行動予定を決めちゃおうと思うから」

猫又娘「派手娘さんは私と一緒にお山探索してもらおっかなぁ。私らなら大胆に動けそうだし!」

派手娘「…あのね、誰があんたたちに付き合うって言った?」

猫又娘「むっ、この後に及んでまだそんなこと──」

派手娘「あたしに付いてきて欲しいなら、まずその嘘くさい空元気をやめなさいよ」

猫又娘「…え?」

派手娘「作り物みたいに不自然な笑いとか、見苦しくてしょうがない」

派手娘「そういうの嫌いだって言ったばっかでしょうが」

派手娘「」ジロリ

少年・包帯少女「「……」」

派手娘「…人を騙してまで仲良しごっこするの、楽しい?」

猫又娘「──……」

派手娘「……ふん」



スタスタスタ...



猫又娘「………」

猫又娘(……っ……)








252: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:22:43.39 ID:hGyrOzpP0

ーーー夜 神社ーーー

幼女「……」



(びっしりと札の張られた社)



幼女「……毒を制すのは、これもまた毒」

幼女「かの者に奪われた者よりも濃密で暗澹たる意思共」

幼女(かつて人に迫害され、封じられた妖禍子を人の世の為に用いる所業など……なんと皮肉なものか)

幼女(妖禍子が人の世に混じればそこには必ず理不尽が生まれ出ずる)

幼女(其の理不尽を防遏していた…はずであった)

幼女(……)

幼女(我の力だけでこの者共を御しきれるか、読めぬところである)

幼女(…そうであろうと、我は見届けたいと思ったのだ)

幼女(彼らの行く末)

幼女(吹きすさぶ激情の終着点──)



幼女(──あの時かの者の命を繋いだ我の選択は、正しかったか否かを)



幼女「……」ソッ...



...カタ、ガタガタガタ



幼女「……」



ビリ、ビリッ、ビリリッ



幼女「……く……」



ベリベリベリッ!





ドタァン!








253: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:24:07.29 ID:hGyrOzpP0

ーーー翌朝 学校ーーー



ガラッ



派手娘「……」テクテク



猫又娘「──やることは変わらないさ。これからは二手に分かれて動いてくよ」

少年「僕と猫又娘さん?」

猫又娘「んにゃ、私が一人で。きみらはペアでね」

猫又娘「少女さんの方が、もっと積極的に少年君のこと守ってくれそうよね」ニヒッ

派手娘「」テクテク

猫又娘「あ…」

派手娘「……」テクテク

猫又娘「……」

派手娘「」スッ(席に着く)

猫又娘「………」

猫又娘「…んで、明日から夏休みに入っちゃうし、集まる場所とか細かい予定も──」

少年(……猫又娘さん……)

少年(昨日派手娘さんが去ってから、猫又娘さんはいつものように勝気な声で言っていた)



ーーーーー

猫又娘「──私がきみらを騙すだのなんだの、そんなことあるわけないからねっ!」

猫又娘「失礼しちゃうよまったく、あの人は!もう知らない!」

ーーーーー



少年(…確かに僕は、猫又娘さんが僕らを裏切ってどうこうするだとか、そんな考えが浮かんだことはなかった)

少年(派手娘さん……この人には何が見えているんだろう)






254: ◆YBa9bwlj/c 2019/12/22(日) 05:25:16.60 ID:hGyrOzpP0




ガララ



教師「悪い悪い、遅れそうになったな」

教師「とりあえず出席だけとってくぞ。この後すぐ体育館に移動だからな」

少年(体育館…終業式の場所もうちょっとマシなところにならないかな。暑いんだよなあそこ)

少年「……?」

少年(あれ…?)

少年「先生!…今日休みの人多くないですか?」

少年(クラスの半分くらいが来てないなんて)

教師「なんだ、寝ぼけてるのか?」





教師「全員居るじゃないか」





少年「──っ」

教師「まぁ、少し無駄な席が多い気もするが…」

派手娘「……チッ」

教師「そうこう言ってる間にもう移動の時間だ。準備しろ準備!」



ガタ、ガタッ



夢見娘「……」



(空席の同級生C)



夢見娘「………」








257: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:12:14.31 ID:hBUPAlst0

■第八幕 ヒトとアヤカシ■



ーーー神社 境内ーーー



カー、カー...



包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「少年君」

少年「ん?」

包帯少女「今何時かな」

少年「今?えっと…」

包帯少女「当てっこしようよ。ぼく17時ね」

少年「んー、じゃあ…16時半?」

包帯少女「正解は…」スマホトリダシ

包帯少女「16時45──あ、46分になった」

包帯少女「…ぼくの勝ち」

少年「えぇ?そんな図ったようなタイミング…」

包帯少女「ふふっ」

包帯少女「すると今日はざっと6時間くらい、山の周りを駆けずり回ってたんだ」

少年「…そうなるね」

包帯少女「……」

少年「……」

少年「……猫又娘さん、遅いね」

包帯少女「うん」






258: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:14:06.69 ID:hBUPAlst0




仔猫「」スタタタッ



ドロン

猫又娘「ごめんごめん、怪しそうなところがあったからちょびっと寄り道してた」

少年「怪しそうな?」

猫又娘「ま、何もなかったんですけどね」

猫又娘「そっちはどう?」

包帯少女「ぼくたちも同じ。怪しい影どころか…通行人もほとんど居なかったような」

猫又娘「そうかぁ」

猫又娘「うーん、夏休みに入ってそろそろ一週間でしょ?ここまで足取りが掴めないのも変だよね」

猫又娘「…あと一歩、もう少しなのに…」

少年「……」

少年(猫又娘さんの言う通り、終業式の日からもう6日も経ってる。…のに、まったく進展がない)

少年(トドノツマリ様に、ノートに、黒幕の男の、過去)

少年(連日こうやって猫又娘さんが山を、僕と少女さんでこの町を探索してるんだけど、それももう限界なのかもしれない)

猫又娘「むー……」アタマオサエ

少年(猫又娘さんは派手娘さんとの一件以来、こうして悩むことが多くなった気がする)

包帯少女「………」

少年(少女さんも時折、辛そうな顔を見せることがある…)

包帯少女「…ぼくたち、意図的に避けられてる?」

猫又娘「どうしてさ。避ける理由が見当たらないじゃんか」

包帯少女「でも派手娘さんとは顔を合わせたんだよね?ぼくたちがこれだけ探しても見つけられないのはもうさ…」

猫又娘「……だったらどうすればいいんよ」

包帯少女「う、ん……もしそうだとしたら、あっちからの接触は絶望的だから」

包帯少女「アプローチの仕方を変えるしかないかもね」

猫又娘「アプローチねー」

猫又娘「気配はすれども姿は見せない。そんなシャイな子を引っ張り出す方法…」

猫又娘「…あ、そうだ」

猫又娘「例えば神社のお社にイタズラすれば出て来てくれるんかな」

少年「落書きでもする?」

猫又娘「いーや、もっと…」

猫又娘「叩き壊すとか?」

少年「え」

猫又娘「……冗談に決まってるでしょー?そんな罰当たりなことするわけないじゃん」




259: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:16:17.42 ID:hBUPAlst0


猫又娘「とはいえもしかしたらこの中で隠れんぼしてたり…………っ!!」

包帯少女「どうしたの?」

猫又娘「……あれ……」ユビサシ



(散り散りになった無数の紙札)



少年「ひどい、なんだこれ…」

包帯少女「…先週の土曜だっけ、来た時破けてるのは一枚だけだったけど」

少年「まさか…」チラッ

猫又娘「んーんー!私じゃないよ!?私だって今気付いたんだから!」

少年「…だよね。こんな乱暴に千切るような真似、よっぽど恨みのある人がやったのかな」

包帯少女(…確信に近いものがある。これをやったのはきっと"人"じゃない)

猫又娘「……」

包帯少女(ここまで派手な痕跡なんだから何かしら感じ取れてるよね)

包帯少女「」チョンチョン

猫又娘「!」

包帯少女「……」ジッ...チラリ

猫又娘「……」フルフル

包帯少女(……そっか)

少年「どうしたの?」

包帯少女「ちょっとね…この社、元々何かを封印してる雰囲気があったから」

少年「…中の妖禍子が出てきたってこと…?」

猫又娘「どうかねぇ。今となってはもう分からんね」

猫又娘「…にしては妙なんだよね」

猫又娘「私が山ん中見てた限り、むしろ最近は妖禍子減ってきてると思ってたんだけど」

包帯少女「…今もほとんど居ないね」

猫又娘「でしょ?」

三人「………」

少年「…この神社って随分昔からあるんだ」

包帯少女「ん。伝承に出てくるくらいには古いみたい…どうかした?」

少年「社がさ、相当ボロボロだから…」

猫又娘「中も無残だねこれ」

少年「…あれだ」

少年「いつかの轢き逃げ事件を思い出すよ」

猫又娘(──!)




260: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:18:22.31 ID:hBUPAlst0


包帯少女「少年君、見てたの?」

少年「偶々下校途中だったんだ。そのトラックがどっかの家に突っ込んで凄まじい状況になってたのはよく覚えてるよ」

包帯少女「……友達は平気だった?」

少年「僕の周りはね。近くの学校の子が轢かれたらしいって話は聞いたけど」

包帯少女「そう…」

包帯少女「良かった…って手放しに言っちゃいけないんだろうね」

包帯少女「その事件の被害者が運良くぼくたちじゃなかっただけで、どこかの誰かにとってはきっと大切な人だったはずだから」



ーーーーー

老婆「──あの子の親はね、あの子が中学に上がる前に交通事故で亡くなってしまってねぇ」

ーーーーー



包帯少女(……)

少年「!…うん」

包帯少女「あ、ごめん。話逸らしちゃって………猫又娘さん?」

猫又娘「………!」

猫又娘「な、なになに?」

包帯少女「?平気?」

猫又娘「なにが?」

包帯少女「今、少し──」

猫又娘「なんでもなーいっ。明日からどう探していこうか、考えてただけ!」

猫又娘「探す場所を変えるか、探す方法、つまりさっきのアプローチを変えるか……何をどうしたらいいかなぁ。正直私一人だとこれだ!ってものが思い付かなくて」

包帯少女「本当に社壊すわけにもいかないもんね」

包帯少女「既に半壊してるとはいえ」

少年「……あの」

猫又娘「うむ?」

少年「もしも…もしもだよ」

少年「トドノツマリ様も、例の男ももうこの町に居ないんだとしたら…?」

包帯少女「別の町に?」

少年「だってこんなしらみ潰しにして見つからないのもそうだし、なのに妖禍子は減ってるって言うならそれってさ…」

猫又娘「…この山も離れて、違う場所へ侵略しに行ったと?」

少年「そういう可能性もあるんじゃないかなって」

猫又娘「………」

包帯少女「だからってここを離れるのも危ない気はする」

包帯少女「今ぼくたちが居なくなったらこの町は…みんなはどうなっちゃう?」




261: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:19:31.12 ID:hBUPAlst0


少年「それは……考えたくないけど」

少年「……最悪、見放すことになるのか──」



猫又娘「絶対嫌だっ!!」



少年「!」ビクッ

猫又娘「信じられない、何言ってんのっ!?」

猫又娘「きみに大切な人は居ないの!?親は?親戚は?友達は?」

猫又娘「きみを大切にしてくれた人を、きみはみんな見捨てるってことだよね?例えば明日みんな死んじゃうかもしれないことが分かってるのに放置するんだ!?」

猫又娘「奴らが違うとこに行っちゃったんなら、探す範囲を広げればいいだけじゃん!」

猫又娘「そんな、この町を切り捨てる真似…私は許さないよ!!」

包帯少女「………」

少年「ご、ごめん……」

猫又娘「…!」

猫又娘「あ……いや……」

猫又娘(何してるの、私)ギリ...

猫又娘「……今日は、帰ろ」

猫又娘「少し頭冷やしたい」クルッ

ドロン

仔猫「……」



サッサッサッ...






262: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:20:16.42 ID:hBUPAlst0




包帯少女「……」

少年「猫又娘、さん…」

少年「僕、こんなつもりじゃ…」

包帯少女「分かってる。分かってるよ」

包帯少女「きっとあの子も」

少年「……」グッ...

包帯少女「……」



ギュッ(手を包み込む)



少年「え…」

包帯少女「…大丈夫、焦らないで」

包帯少女「はやる気持ちはぼくにもある。けど、いたずらに急いでちゃ見えるものも見えなくなっちゃうよ」

包帯少女「ぼくはちゃんと、きみの味方だから」

少年(──)

包帯少女「…って感じのこと、あの子にも言っておいてよ」フッ

少年「……はは、伝えとく」

少年「ありがとう。元気付けてくれて」

包帯少女「ぼくたちがへこたれてたら町を救う救わないどころじゃないからね」

少年「あぁ、ほんと」

包帯少女「猫又娘さんが一番、分かってると思うよ」



──ズクンッ



包帯少女「っ……」

少年「?少女さん…?」

包帯少女「ううん、何でもない」



包帯少女(………)








263: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:21:28.25 ID:hBUPAlst0

ーーー夜 少年の自室ーーー

少年「………」

仔猫「………」

少年(猫又娘さん、猫の姿でいるのはいつも通りだけど、こっちに背中を向けてる)

少年(帰ってきてからずっとこの調子だ)

少年「……」

少年「……ねぇ」

仔猫「……」

少年「…夕方のさ、ごめんよ。猫又娘さんの気持ちも考えずに…」

少年「僕も本気でこの町を見捨てようなんて思ってるんじゃなくて……」

少年「…いや、見捨てたくなんかない。ここにあるのは家族とか大切な人もそうだけど、かけがえのない思い出もたくさんあるから」



ーーーーー

少女「──友達になってくれませんか?」

ーーーーー



仔猫「……」

仔猫「………」

ドロン

猫又娘「………」

猫又娘「…私の方こそ、過剰に反応しちゃった」

猫又娘「あんな風に言うつもりは、なかったんよ」

少年「うん」

少年(……)

少年「…僕、猫又娘さんのこと好きだよ」

猫又娘「………え!?」

猫又娘「それはっ…んん!?」

少年「"人"として尊敬してるってことだよ」クスッ

猫又娘「……からかったなー?」

少年「からかい半分、真面目半分かなぁ」

少年「尊敬してるのは本当だからさ」

少年「どんな時でも明るくて眩しくて…みんなを元気付けようとしてくれて」

少年「それってすごく格好いいよ。僕みたいな人間には真似出来ないから……憧れるんだ」

猫又娘「ど、どしたの。そんなに褒めても何も……」

少年「つまりだ」

少年「僕はきみを信じる」

猫又娘「……」

少年「猫又娘さんには何度も勇気をもらってる。だからもう弱音は吐かないよ」

少年「僕たちの手で、絶対この町を取り戻そう」




264: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:22:40.47 ID:hBUPAlst0


猫又娘「……」

猫又娘「…はぁまったく…何言い出すかと思えば」

猫又娘「私も、きみらを信じてるから一緒に居るんだよ」

猫又娘「…そもそも私"人"じゃあないし、本当は憧れてもらうようなとこなんか、ないんよ…」



少年「──本当かウソかなんてどうでもいいんさ」



猫又娘「!」

少年「前、言ってた言葉」

少年「その通り、猫又娘さんが人かそうじゃないかなんて関係ない。僕が見てきたのは"猫又娘"っていうやんちゃなお人好しだからね」

猫又娘「………」

少年「………」

猫又娘「…言うようになったねぇ、きみ」ニッ

少年「だって猫又娘さんが居ないと、僕どうしていいか分からないから…」

猫又娘「えぇ?なにそれ締まんないなー」

少年「それと、少女さんからも。もちろんきみの味方でいる…って、言ってた」

猫又娘「…ありがと」

猫又娘(……)

猫又娘「あー!よもや私が少年君に励まされるなんてね~」

猫又娘「少年君、きみ変わったね」ニコッ

少年「そ、そうかな」

猫又娘「そうだよ!もっと自信持ちなって!」グシャグシャ

少年「ちょ、髪…子供扱いしてる!?」

猫又娘「へへへっ」

少年「親戚のおじさんじゃないんだから…!」

少年(おてんばなところは相変わらずだけど、やっぱり猫又娘さんはこうでなくちゃ)

猫又娘「……この町はさ」

猫又娘「私にとって、私よりも大事なものなんだ」

猫又娘「だからね、この身を賭してもここを守るんだ。…全部全部、変えてみせる」

少年「……」




265: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:23:49.22 ID:hBUPAlst0


猫又娘「よっし!うじうじタイム終わり!」

猫又娘「頭も十分冷やしてもらったし遅ればせながら今後の作戦を考えてこー!」

少年「それなんだけど、一ついい?」

猫又娘「お?」

少年「あの人──夢見娘さんなら何か知らないかな」

猫又娘「ほほぉ…そういえば夏休み入ってから一回も見かけてないね」

少年「手伝いはしてくれるって言ってたんだったよね?この前みたいにまた陰から見ていてくれたりしてさ」

猫又娘「あり得る」

猫又娘「あの子少年君のストーカーさんだし…」ボソッ

少年「問題はいつどこに居るのか謎なことだけど」

猫又娘「きみが呼べば来るんじゃないかなぁ」

少年「僕が…?」

猫又娘(あの不思議ちゃんか…考え付かなかったな)

猫又娘(思えば一緒に居られないなんて言ってた子がどうやって手伝うつもりだったんだろ)

猫又娘(今の私らの現状も見てるんかな)



ーーーーー

派手娘「──いっそ全部吹っ飛んじまえっ!!」

ーーーーー



猫又娘(……あの事も)

猫又娘「」ブンブン

少年「?」

猫又娘「少女さんにも訊いてみようよ。夢見娘さんから何かアクションがあったかどうか」

少年「うん。…今?」

猫又娘「もち」

少年「……」スッ

猫又娘「その機械便利よねー。スマホ?だっけ。実は買おうか迷ってたんよ」

少年「自分で作っちゃえばいいんじゃないか?」スッ、スッ

猫又娘「私が作れるのは精々模型だよ。複雑なものは真似れないからさ」

猫又娘「私の力がそんなに万能だったら、きみにあげたノートで今頃解決出来てたかもね~」ノゾキコミ

少年「少女さんにLINEするけど、何て送る?」

猫又娘(……7/28……)

猫又娘(あ!)

猫又娘「そういえば少年君。あの神社って明日は──」








266: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:25:38.20 ID:hBUPAlst0

ーーー少女の自室ーーー

包帯少女「……」



シュルシュル



包帯少女「……っ」

包帯少女(…いつかこうなってしまうだろうとは思ってた)

包帯少女(包帯の下、一見何も変わってないように見える……けど)

ズクンッ

包帯少女「ぁ……はぁ…!」

ジク..ジク..

包帯少女「ゥグ…!」

包帯少女(お願イ、もう少しダけ保って…!)

包帯少女「……っ……ぃ……」



ピロリン



包帯少女「はぁ、はぁ……?」チラリ



少年『てすてす。猫又娘です』

少年『こんな感じで送れてるの?』



包帯少女(少年君のLINE…)



少年『大丈夫みたい。じゃ、改めて』

少年『さっき勝手に帰っちゃってごめん。でもきみたちに励ましてもらったからもう大丈夫』

少年『でさ!今少年君と話してて出てきた案があるんです!』

少年『まず夢見娘さん』

少年『ここしばらくあの子を見てないんだけど、少女さんは??彼女、何か知ってれば情報提供してもらおうよ』






267: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:26:27.22 ID:hBUPAlst0




包帯少女「……」



少女『ぼくも知らない。明日は夢見娘さんを探しに行くの?』

少年『そうそうそのことについて!』

少年『明日ってさ例の神社で夏祭りやる日なんよね』

少年『それに便乗して最後に神社周りを探してこうよ』

少女『便乗?あのお祭りってトドノツマリ様にまつわるものだっけ?』

少年『夏祭りとか楽しいことが目の前でやってたらポッと出てきてくれないかなーって』

少年『少なくとも私なら目一杯楽しむ』

少年『(ドヤ顔スタンプ)』



包帯少女「思いつきなのね…」



少女『いいんじゃない?夢見娘さんはその後ってことだよね』

少年『まーね。逆に夢見娘さんが見つかっても私ら的にはOKだけどね』



ーーーーー

夢見娘「──少年くんを、お願いします…」

ーーーーー



包帯少女「……ぼくは……何をすればいいんだろう」

包帯少女(……)

包帯少女(一度死に…帰ってきたあの日から、何もかもが思い通りにいかない)

包帯少女(誰かを守ることも怪異を終わらせることも出来ないこんなぼくに…)

包帯少女「っ……いや、ぼくがこんなことを考えてちゃダメ……」

包帯少女(でも)

包帯少女(ぼくがここに居る意味はなに…?)

包帯少女「……少年君……」








268: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:27:24.32 ID:hBUPAlst0

ーーー翌日 夏祭りーーー



ワイワイ ガヤガヤ



少年「おぉ…」

包帯少女「……」

少年「すごい人だね。こんな人混みを見るの久々だ」

少年「ほとんどみんな消えちゃったかと思ってた…」

包帯少女「ここのお祭り、市外からも結構集まってくるからね」

少年(来てる人も気合入ってるなぁ)

少年(女の人どころか男でも浴衣着てる人がちらほら)

少年「……」チラリ

包帯少女「なに?」

少年「な、なんでもない」

少年(少女さんの浴衣姿、ちょっと想像してたなんて言える空気じゃないよな)

包帯少女「じゃあ行こうか」

少年「この人だかりの中に入ってくんだね…」

包帯少女「人のいない場所は猫又娘さんが探してくれてるし、ぼくたちはここにトドノツマリ様が紛れてないかを確認していくのが仕事」

少年「分かってるけどさ。…小さい女の子って言っても家族連れまでいるから、こう人が多いと見分けられるか不安だよ」

少年「妖禍子は全然居ないのが救いかな」

包帯少女「……猫又娘さんに付いていった方がよかった?」

少年「え?そうは言ってないけど」

包帯少女「……」テクテク

少年「……」...テクテク








269: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:29:22.20 ID:hBUPAlst0

ーーー石段前ーーー



「次あっちの屋台行ってみない?」

「すいませーん!通してください!」

「あっ……りんご飴落としちゃった…」グスン



少年「ここなんてもう満員電車みたいだ…」

包帯少女「……」

少年「足元気を付けながら進まないと転びそう……少女さん?」

包帯少女「あ、うん」

少年「大丈夫?気分悪かったり…?」

包帯少女「平気…うん、気にしないで」



テク..テク..



少年(うわ…人多過ぎて全然進めないな。人波に飲まれないようにしないと)

包帯少女「……」スルリ

少年「……」グッ..テクテク

少年(…少女さん、今日は妙に口数が少ない)

少年(周りは騒がしいのに、僕たちだけ違う空気の中に居るみたいだ)

少年(……前にも、こんなことがあったな。あれは、まだ少女さんが包帯を着けるようになる前、僕が少女さんをあの池に突き落と……)

少年(………)

少年「…その、包帯さ」

包帯少女「ん?」

少年「巻いてるとこ、夜になると痛み出すって言ってたけど今はもう治ったの?」

包帯少女「……」

少年「…!ごめん、バカな質問した。まだ痛むから包帯してるんだよね…」

包帯少女「…まだ治ってはないよ」

包帯少女「もうすぐ解放されるかなとは思ってるけどね」

少年「本当っ?」

少年「そしたらさ、また二人で野球出来るよね。少女さんが万全な状況でさ」

包帯少女「そのためには…先にこっちの問題を終わらせないとだよ」

少年「そう…だね」

包帯少女「……」

少年「……」

少年(……)






270: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:30:22.70 ID:hBUPAlst0




グンッ!



少年「!?」

少年(ちょっ…押され…!)

ゴンッ

少年「おぶっ…!」ナガサレー

少年(ま、まずい)

少年「少女さん!少女さーん!」

少年「すいませんそっちに行きたいんです、道空けてください!」

ガヤガヤガヤ...

少年(全然動かない。一つの人波になっちゃってるんだ)

少年(なら)

少年「んっ…!」ググッ

「おい!変に押すなよ!痛いだろ!」

少年「あ、ごめんなさ──」

ドンッ

少年「痛っ」ズテッ

少年(やば、転けちゃった)

少年(どうしよう…ぎゅうぎゅうで立ち上がれない…)

ザワザワ

少年(踏まれる…!?)



「こっちよ、付いてきて」グイッ



少年「え!わ…!」



.........








271: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:32:06.07 ID:hBUPAlst0


「ここなら人もあんまり居ないね」

少年「はぁ、はぁ…あの、ありがとうございます。助けてくれて」

「あの人口密度はもう一種の凶器だよね。怪我はない?」

少年「はい。お姉さんの方も平気ですか?」

「まぁね。浴衣で走るの慣れてるから」フフッ

少年「でも、お祭り楽しんでるの邪魔しちゃいましたよね…」

「いいのいいの。元々人の少ない所で射的やりに行った友達を待つつもりだったしね」

「そういうきみは…もしかして迷子?」

少年「迷子、なんですかね…人混みに揉まれちゃいまして」

「あー…私も、正直ここまで混んでるって知ってたら来なかったかも」

「でも今は便利な時代、私たちにはこれがあるもの」スッ

少年「スマホ…」

「そう。きみも、お友達にここに居るってこと教えておかないと」

少年「……」ゴソゴソ

スッスッ、スッ



少年『ごめん、人に流された。今石段の横のはずれた場所に居るよ。焼きそばと金魚すくいの屋台の間』



少年(……)

少年(……そうすぐには既読にならないか)

「ふぅ。早く戻ってこないかな」

少年「…お姉さんて、この町の人ですか?」

「私?ううん、北市の人だよ」

少年「お姉さん、この町って人少ないなって思いませんでした…?」

「別に思わなかったけど……というかその、お姉さんって言われるのこそばゆいな…」

少年「えっと、それじゃ先輩?」

眼鏡娘「眼鏡娘、でいいよ。私の名前」

少年「眼鏡娘さん…?」

眼鏡娘「はい」ニコッ

少年(綺麗な笑顔……まるで……)



ーーーーー

少女「」フフッ

ーーーーー






272: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:34:26.41 ID:hBUPAlst0


少年「………」

少年「…あの、ちょっとだけ相談してもいいですか…?」

眼鏡娘「?うん。私で良ければ」

少年「……」フリムキ

少年(……あの池は、向こうの方だったっけな……)

少年「例えば…」

少年「例えばの話ですけど」

少年「もし願いを叶えてくれる人が居たら……眼鏡娘さんだったら、お願いをしますか?」

眼鏡娘「…願い事?」

少年「はい」

眼鏡娘「神妙な顔で喋り出すから何かと思ったら…随分メルヘンチックな相談ね」クスッ

少年「理不尽に死んでしまった友達が居たとして」

眼鏡娘「…!」

少年「…その人を生き返して欲しいと願うのは、いけないことなんでしょうか…」

眼鏡娘「……」

少年「……」

眼鏡娘「……なくなった命はね、戻らないよ」

眼鏡娘「願いを叶えてくれるだなんて、そんな都合の良いものはこの世にないの。よしんばあったとしても、必ず犠牲が付いてくる」

眼鏡娘「おいしい話には裏がある、ただ程高いものはない…なんて言うでしょ?」

眼鏡娘「だから私ならそんなものには頼らないかな」

少年「そう、ですか」

眼鏡娘「…意外だった?」

少年「まぁ…少し…」

眼鏡娘「ふふっ。そうね、普通目の前にそんなチャンスが降って湧いたら、誰だって飛びつきたくなるよね」

眼鏡娘「少し前の私なら、迷わずお願いするって答えてたろうなぁ」

少年「…?」

眼鏡娘「ね、ちょっと可笑しな話」

眼鏡娘「私ついこの間までね、重力が嫌いだったの」

少年「え、重力…?」

眼鏡娘「そう。きみにも私にも産まれた時からずーっと降りかかってる重力」

眼鏡娘「重力のせいで転ぶし、重力のせいで気分が沈む……重力がまとわり付いてくるから息苦しいんだーって、うんざりしてた」

眼鏡娘「…けど違った」

眼鏡娘「重力が嫌いだったわけじゃなかった。いつも流されるだけで行動しようとしない自分が、嫌だったの」

眼鏡娘「それを重力のせいにしてたんだよね」




273: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:36:52.52 ID:hBUPAlst0


少年「……」

眼鏡娘「あんまり面白くなかった?」

少年「…どうやって克服したんですか?」

眼鏡娘「克服、というか……気付かせてくれたんだ」

眼鏡娘「私の大事な人たちが…」

少年「……それって、今日一緒に来てる友達さん?」

眼鏡娘「!…すごい、どうして分かったの?」

少年「眼鏡娘さんの顔見てたら、なんとなくそうかなって」

眼鏡娘「へぇ……んふ、なんか少し嬉しいかも」

眼鏡娘「あ、でも」

眼鏡娘「この相談って…もしかしてきみのお友達は……」

少年(………)

少年「いえ、生きてます。さっきのは例えばの話ですから」

眼鏡娘「…そっか」



元気娘「あ!居たー!」テッテッテッ



眼鏡娘「!来た来た」

少年(あの人が眼鏡娘さんの大事な人…?)

元気娘「ねー見て見て!男くんこんなに撃ち落としたの!隠れた才能がーとか言って──む?」

少年・眼鏡娘「「?」」

元気娘「……眼鏡娘ちゃんが」

元気娘「男の子を口説いてる!?」

眼鏡娘「違いますー。人混みで潰されそうになってたからここまで連れてきただけ」

元気娘「なーんだ」

元気娘「こーゆうとこではねぇ、スルスルッて、人の間をうまくすり抜けるのだよお兄さん」ニシシッ

少年「は、はい」

元気娘「眼鏡娘ちゃん行こっ!男くん向こうで待ってるから!」

眼鏡娘「うん」

眼鏡娘「それじゃあね。今度は倒されないように気を付けるんだよ?」

少年「…お話、ありがとうございました」

眼鏡娘「余計なお世話になってたらごめんなさい」

少年「そんなことないです」

眼鏡娘「……」

眼鏡娘「じゃ、余計ついでに最後に一つだけ」

眼鏡娘「──きみときみの愛する人を大切にね」

元気娘「眼鏡娘ちゃん早くー!」

眼鏡娘「はいはい!」



タッタッタッ...






274: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:38:03.42 ID:hBUPAlst0


少年「………」

少年「愛する人…って」

少年(友達は大事にしなさいってこと?)

少年「友達……ともだち……」

少年「……少女さん……」

少年(……………)

少年(懐かしいな、初めて少女さんと話したのがもうずっと前の気がする)

少年(あの時は終わったと思った。僕の情けないノートを見られて、またクラスの笑い者にでもされるんじゃないかなんて)

少年(けど彼女はバカにすることもなく勇気付けてくれた。こんな僕と友達になろうなんて言ってくれてさ…)

少年(…僕があの時差し伸べられた手を握っていたら、未来は少しでも違うものになっていたのかな)

少年「……」

少年(……そう。僕がノートを落としてなければ、あの男に会ってなかったら……あんなノートに頼らないくらい強かったら)

少年(少女さんがあんな目に遭うことはなかったのかもしれない)

少年「……っ」

少年(時間が経つに連れて少女さんは、笑うことが減っていった。もう逃げないって、目を逸らさないって誓ったはずの僕は……それを見ていることしか出来なかった)

少年(流されるままで行動しようとしない……いや、行動はしてるつもりなんだけど…)

少年(…眼鏡娘さんが言ってたのはそういうことじゃないよな)

少年(……あぁ、分かってるよ)

少年(今の僕に足りないのは、向き合うこと)

少年(がむしゃらに怪異を追いかけていればいずれ何もかも丸く収まる?そんなわけないだろ)

少年(一番見過ごしちゃいけない問題から逃げようとしてたんだ)

少年(………)

少年(………)



包帯少女「少年君!」



少年「!」

包帯少女「やっと見つけた」タッタッタッ...




275: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:39:33.61 ID:hBUPAlst0


包帯少女「ここまで酷い混み具合はさすがに予想外…」

包帯少女「悪かったよ、きみが居なくなってるの気付けなくてさ」

少年「……なんで少女さんが謝るんだよ」

少年「ぼくが、勝手に押し流されただけだよ」

包帯少女「…どうかしたの?」

少年「………」

包帯少女「少年君…?」

少年「…謝らなきゃいけないのは僕だ」ソッ

包帯少女「っ」ピクッ

少年「……こんな……包帯なんて……」

少年「ごめん、僕のせいで」

少年「少女さんを苦しめていたくせに、僕はそこから逃げてた…」

包帯少女「………」

少年「……」

少年「…僕がこの神社を訪ねた土曜日、覚えてる?トドノツマリ様の噂を確かめるだとか言って」

包帯少女「……うん」

少年「あの日、さ」

少年「実は僕だけじゃなくて少女さんも一緒にここに来てたんだよ。境内でトドノツマリ様が現れるか確かめて、でも何も出てこなかったから場所を変えてさ」

少年「…近くの池まで行ったんだ。そこで……そこで…………」

少年(……)

少年「変な声に唆されて……いやこれは言い訳だ」

少年「──僕は、きみを池に落とした」

少年「あまつさえそのまま逃げて見捨てようとした…!」

少年「僕はきみを殺したんだ!」

少年「きみが今生きてるのはきっと………僕がトドノツマリ様にお願いをしたから」

少年(そうだよ、社の前で泣き喚いてたあの時、思い返してみれば不可解な現象が起きていたじゃないか)

少年「少女さんを生き返して欲しいって願いを、トドノツマリ様は本当に叶えてくれたんだ…!」

少年「だけどきみは苦痛に苛まれた状態で戻ってきた。それは…願いの代償なのかもしれない…」

包帯少女「……」

少年「僕はさ、きみがあの日のことを覚えてないって言った時、好都合だと思っちゃったんだ」

少年「このままあの事が無かったことになれば……なんて考えてたんだろうね」

少年「何もかも少女さんに押し付けて自分は逃げようとして」

少年「それでも少女さんは僕のことを助けてくれた」

少年「また笑って、一緒に話をしてくれた…」

少年(……っ)




276: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:40:52.39 ID:hBUPAlst0


少年「ごめん、少女さん!僕は卑劣な嘘をついてた!きみとの関係が壊れるのが怖くて…!」

少年「でも結局僕が全部ぶち壊しにした!」

少年「きみから平穏な日常を奪っておきながら、平気な顔して居座り続けた人間が!!」

少年「……僕という奴なんだ……」

少年(弱い人間だ…僕は…)

少年(傷付くのを恐れ、傷付けるのを恐れ……最後には逃げ出す)

少年(その結果どうだ。結局こうして大切な人を傷付けている)

少年「ごめん……ごめんよ……!」

少年「僕は、きみに出会うべきじゃなかったんだ……」

包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「………」



包帯少女「知ってたよ」



少年「……え?」

包帯少女「今話してくれたこと。あの土曜日の出来事」

包帯少女「少年君に突き落とされて溺れたことも、全部ね」

包帯少女「嘘つきはきみだけじゃないの。ぼくも、覚えてないなんて嘘をついた」

少年「な…なんで…」

包帯少女「きみと同じだよ。ぼくだって少年君との関係を壊したくなかったから」

包帯少女「どうして生き返ったのかは、今初めて知ったけどね」クスッ

包帯少女「……少年君。色々言いたいことはあるけど、とりあえず」

包帯少女「きみを恨んではいないよ」

少年「…!」

包帯少女「確かに身体が痛んだり、怖い夢を見ることもあった。普通の女の子じゃなくなったような気がしたよ」

包帯少女「でもね、それ以上にきみと過ごすのが楽しかった。勉強は教え甲斐があったし、仲直りしてくれた時はすごく嬉しかったもん」

包帯少女「だからきみに日常をめちゃくちゃにされたなんて思ってない」

包帯少女「むしろあのまま死んでいたら、それこそ恨むよ。化けて枕元に出てたかもしれないなぁ」

少年「……………」

包帯少女「…ぼくはね、きみと出会えて良かった」

少年「──」

少年(……どうして……きみは、こんな)

包帯少女「こんな弱い自分が恥ずかしい」

少年「っ!」

包帯少女「とか思ってるんでしょ」

少年「…実際その通りだし…」

包帯少女「全然違うよ。だってこうやって、ぼくに洗いざらい打ち明けてくれたじゃない」

包帯少女「ぼくの知る以前の少年君だったら、その罪悪感を最後まで胸にしまったままだったと思う」

包帯少女「今、ちゃんと向き合ってくれた。きみは十分強くなってるよ」




277: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:41:47.11 ID:hBUPAlst0


包帯少女(…ん、そっか。ぼくがここに居る意味なんて至極単純。というより頭のどこかでは分かってた)

包帯少女(この人がこんなだから、ぼくは放って置けなかったんだ)

包帯少女(見守って、側で過ごして、手を貸して……こんな風に成長してくれるのを見届けたかったんだろうな)

包帯少女「……ふふっ」

少年「………」

少年「…怒って、くれよ」

少年「自分を殺した殺人犯が、目の前に居るんだぞ!普通怒り狂うくらい──」



ピトッ(人差し指を唇に押し当てる)



少年「!」

包帯少女「そういうとこかな、ぼくが怒るのは」

包帯少女「全部自分が悪いと思い込むところ」

包帯少女「…少年君さ、ぼくを殺したいと思ったことがあったの?」

少年「あるわけない!そんなこと絶対思うもんか!…あの時はなんか、自分が自分でないような感覚で…」

包帯少女「そう。じゃ、許す」

少年「へ?」

包帯少女「それが聞ければ満足だよ」

包帯少女(水底に沈む間際見えたあの男)

包帯少女(今なら分かる。ぼくを突き落としたのは多分、あいつだ)

少年「少女、さん……」

包帯少女「あれ…泣いちゃう?」

少年「!…泣かない」

少年「強い奴は、泣き顔なんて見せないだろ?」

包帯少女「そうそう、その息だ」

少年(間違いない)

包帯少女(それにしてもこんな時に気付かされるなんて)

少年(やっぱり僕は──)

包帯少女(きっとぼくは──)





少年・包帯少女(この人のことが好きなんだ)








278: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:42:43.15 ID:hBUPAlst0


少年(鬱屈とした日々から救ってくれただけじゃない、こんなにも僕を認めてくれる)

少年(こんなの好きになるなって方が無理だ)

少年「……ありがとう、少女さん」

包帯少女「どういたしまして」

少年(…この人だけは絶対、何がなんでも守り抜いてやる)

包帯少女「さて、捜索再開しよっか。あんまり遅いと猫又娘さんにどやされちゃう。花火の上がる時間までには済ませられるといいね」

少年「花火?もっと混んでくるから?」

包帯少女「ううん。せっかくお祭りに来たんだもん、花火くらい見ていきたくない?」フフッ

少年「…いいね」ハハッ



...ギュ



少年「…!」

少年(手を……)

包帯少女「またはぐれたら、大変だから」

少年「そう……だね」

少年(…♪)

包帯少女「それから、さっきの話もう少し詳しく教えて。きみの身に何が起こってたのか、ぼくが溺れた後何があったのか知っておきたい」

少年「わ、分かった…!」

包帯少女(ありがとう、はこっちの台詞だよ少年君。おかげで踏ん切りがついた)

包帯少女(ぼくはもう迷わない)




279: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:44:19.49 ID:hBUPAlst0




同級生A「あ?少年じゃん」

同級生B「ミイラ女も一緒かよ」ケッ



少年(こいつら…来てたのか)

同級生A「おぅおぅなんだその手。お前ら結局出来てたんかよ(笑)」

同級生B「付き合ってないとか言ってた癖にな?」

同級生A「しっかしまぁ、よくやべぇ奴同士でくっつこうと思ったもんだわ」

同級生A「傷の舐め合いってやつか、え?そこんとこどうよ少年ちゃんよ?」ニタニタ

包帯少女「…あなたたち、よく飽きもせず──」

少年「いいよ少女さん」

包帯少女「…?」

少年「……」

少年「傷の舐め合いじゃない、一緒に居るのが楽しいだけだ」

少年「お前らだって二人でこの祭りに来てるじゃん。わざわざ僕をからかうために来たんじゃあるまいし、僕たちと同じだろ?」

同級生B「はぁ…?」

同級生A「てめぇらと一緒とか…冗談言うな」

少年「じゃあ何しに来たんだよ」

同級生A・B「「………」」

同級生B「…!なぁおい、もう時間が」

同級生A「あ!やっべ、姉貴にボコられる!」



タッタッタッ...



包帯少女「……」

少年「……」

包帯少女「……やるじゃん」

少年「……へへっ」








280: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:45:18.95 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

猫又娘「……」ザッザッ

猫又娘「……」ザッ...

猫又娘「………」



(大きな池)



猫又娘(ここにもいないか)

猫又娘(今日こそはもしかしたらって思ったんだけどなぁ)

猫又娘「……」

猫又娘(…いつ見ても気味悪い所だよ)

猫又娘(ここからそう遠くないとこでお祭りやってるはずなんに、喧騒なんか聞こえやしない)

猫又娘「……ここ、なんよね。きっと」

猫又娘(少年君が少女さんを突き落としたっていう例の池)

猫又娘(池の底からたくさんの手が伸びてくるのを見たって言ってたけど、私が来た限りではそんなの一回もなかった)



ーーーーー

少年「──それに、声が聞こえたんだ。少女さんを、ここで突き落とせって」

ーーーーー



猫又娘(…そんなことも言ってたっけ)

猫又娘「……」

猫又娘「………」

猫又娘「……………」

猫又娘「」グッ...

猫又娘「もー!あとちょっとなのになぁ!」

猫又娘(もうちょっとで何か分かりそうなのに!ここまで出かかってるんよここまで!)

猫又娘(喉につっかえた小骨が取れないときよりもやもやする~!!)




281: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:45:55.13 ID:hBUPAlst0


猫又娘「…………はー」

猫又娘(結局、あの子たちの問題も解決し切れてないんだよね)

猫又娘(少年君も少女さんも、ここで起きたことについて触れないようにしてさ)

猫又娘(…かく言う私も、あれ以上首を突っ込めなかった)

猫又娘(……中途半端な関係に戻すくらいだったら、初めから関わるべきじゃなかったんかなぁ……)



ーーーーー

派手娘「──人を騙してまで仲良しごっこするの、楽しい?」

ーーーーー



猫又娘「………」

猫又娘「……騙してるつもりなんて、ないのに」

猫又娘(でも)

猫又娘(ここに居る私は、いつも失敗ばっか)

猫又娘(…それって…)

猫又娘(………)

猫又娘(私のしてることって、間違ってるのかな…)

猫又娘「……」

猫又娘(…キミの居ない世界は、やっぱり難しいよ…)

猫又娘(私はただ……)



猫又娘「もっとキミと笑いたいだけなんだよ…」








282: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:46:26.59 ID:hBUPAlst0






例えば、子供が大人のフリをして大人になっていくように。
キミのフリをずっと続けていれば私は、キミのようになれると思ったんです。








283: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:47:39.36 ID:hBUPAlst0

===5年前===



……………。



ワイワイ



……………。



キャハハハ!



猫又娘(………!)

猫又娘「…?……?」

猫又娘(ここ、どこ…?)キョロ、キョロ



坊主「」テテテッ

おてんば「もうちょっとー!」テテテッ

ヒョロ「いいぞ!そのまま捕まえちゃえ!」

気弱「」ハラハラ

坊主「くっそー!なんで俺ばっか追いかけんだよ!いろんなやつ狙うのが鬼ごっこだろぉ!?」

おてんば「坊主が一番追いかけやすいのよー!」

坊主「なんじゃそりゃ!?」

ワーワー!



猫又娘(……なんか、楽しそう……)



おてんば「それ捕まえた!」タッチ

坊主「はぁ、はぁ……足はえーよお前…」

坊主「ちくしょー…追いかけやすいやつってんなら、気弱を狙ってやるか」

気弱「え」ピクッ

おてんば「ちょっと!気弱ちゃんいじめたら許さないからね!」

坊主「ふざけんなよおい!?」

ヒョロ「やっば逃げなきゃ」ダッ

坊主「うおおぉ!」タッタッタッ

気弱「……」テテテッ

気弱「…ん?」チラッ

気弱「ねぇみんな、あの子」

坊主「お?」

おてんば「あら?」

猫又娘「!」

ヒョロ「初めて見る子だ!」

猫又娘(あ……ど、どうしよう…)




284: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:48:39.85 ID:hBUPAlst0


気弱「」トコトコ

猫又娘「……」アセアセ

気弱「……あなたも、一緒に遊ぶ?」

猫又娘「え…?」

坊主「いいなそれ!これで鬼じごくから解放されるぜぃ」

おてんば「どーせ次の鬼も坊主になると思うわよー」ニヤニヤ

坊主「なにぃ!?」

ヒョロ男「今日は全員で坊主狙う日だな!」

ワーワーギャーギャー

気弱「ごめんね、ちょっと騒がしいけどみんな面白い人だから。あなたさえ良ければだけど…どうかな?」

猫又娘「……いいの…?」

坊主「あたぼうよ!」

ヒョロ「ウェルカムウェルカム」

気弱「……」ニコッ

猫又娘「………じゃ、じゃあ」

おてんば「決まりね!わたしおてんばって言うの!あなたは?」

猫又娘「私…えっと……」

猫又娘「猫又娘、です」

おてんば「よろしく、猫又娘ちゃん」

坊主「よーし!鬼決め直そうぜー!」

おてんば「それはなしよ。坊主からでしょ?」

ヒョロ「異議なーし」

坊主「くっそおまえら…」

マチヤガレオラー!

ボウズガキレタ!

猫又娘「……」ポカン

気弱「…行こ?」

猫又娘「!うん」








285: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:50:09.93 ID:hBUPAlst0

ーーー夕方ーーー

坊主「──そら!」ビュン!

ヒョロ「ぐはっ」バシン

猫又娘「」ボールキャッチ

坊主「うっし、これで全員外野だな」

ヒョロ「いてて…坊主&猫又娘チーム強過ぎない!?」

おてんば「坊主がドッチボール強いのは知ってるけど、猫又娘ちゃん運動神経いいのね」

気弱「」コクコク

猫又娘「そうかな?…えへへ」

ヒョロ「全然当てらんないんだもんなー。猫みたいにかわしちゃってさー」

おてんば「じゃ、次は猫又娘ちゃんと坊主が分かれて──」



カーン、カーン



坊主「あ、もうそんな時間か。…やべぇ俺帰って宿題やんないと」

ヒョロ「…おれも」

おてんば「宿題くらい遊ぶ前に終わらせとけばいいのに」

おてんば「ま、わたしももうかーえろ。そもそもここ親に来ちゃダメって言われてるし」

ヒョロ「へー。なぜに?」

おてんば「……怖いお化けが出る、とか言ってくるの。知らないとこに連れてかれちゃうんだって」

坊主「あれ、お前お化け苦手じゃなかったか?」

おてんば「べ、別に怖くなんかないですけど何か!?」

坊主「めっちゃ怖がってるよなそれ!そんなんでよくここで遊んでたなぁ」

おてんば「…だってここ丁度いいんだもん。誰もいない手頃な空き地」

気弱「秘密基地…って感じだよね…?」

おてんば「そうそう!さすが気弱ちゃん分かってるー!」

ヒョロ「誰も来ない空き地ならこの山のてっぺんにもあるよね。あそこ、ほら、えーと…お寺のとこ」

おてんば「あそこは、なんか……変なのが出そうじゃないっ」

坊主「お祭り以外じゃ行きたくねーよなー」



286: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:50:47.19 ID:hBUPAlst0


坊主「はー、帰るとすっかー」

ヒョロ「猫又娘っちは家どこなん?」

猫又娘「え!?…とぉー…」

猫又娘(家なんて無い…)

猫又娘「…あっちの方」

気弱「私とおんなじ方向だね」

おてんば「いいないいな。わたしも猫又娘ちゃんとお話しながら帰りたいー」

坊主「また明日も遊ぼうぜ、この五人でよ」

ヒョロ「異議なーし」

猫又娘「!遊びたい!今日すっごく楽しかったから!」

猫又娘「あ……えと、あのね」

猫又娘「ありがと」ニコッ

坊主「俺らも楽しかったぜー」

おてんば「」ウンウン

気弱「……♪」ニコニコ

坊主「んじゃ、まったなー!」

ヒョロ「じゃね~」

おてんば「猫又娘ちゃん、バイバイ!」

猫又娘「うん!バイバイ!」

猫又娘(一緒に遊ぶことは、楽しい)

猫又娘(絶対覚えておこう)








287: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:51:26.19 ID:hBUPAlst0

ーーー帰り道ーーー

気弱「……」トコトコ

猫又娘「……」テクテク

気弱「…猫又娘、ちゃん」

猫又娘「?」

気弱「今日、その…楽しかった、んだよね…?」

猫又娘「もちろんだよ。みんなと遊ぶの一生飽きないかも」

気弱「…良かった。さっき、私が無理に誘っちゃったんじゃないかなって、ちょっと不安だったんだ」

猫又娘「ううん、声かけてくれて嬉しかった!」

気弱「まだまだ元気そうだね」フフッ

気弱「……実を言うとね、私も幽霊みたいな怖いの、全然ダメなの」

猫又娘「そうなの?それじゃあ…」

気弱「うん。あの空き地も怖い」

気弱「…けど、みんなと居れば楽しくて怖さなんて忘れちゃうんだ」

気弱「私もおてんばちゃんに誘われてみんなと遊び始めたからね、一緒だよ猫又娘ちゃんと」

猫又娘「気弱ちゃん…」ジーン

気弱「だ、だからね、その……」

猫又娘「?どしたの?」

気弱「…わ、私と、友達になってくれる…?」

猫又娘「!……なる。ならせて!」

気弱「…!」パアァ

気弱「やた…!どうしよ…とっても嬉しい」

猫又娘「私もだよ。初めてのお友達だもん!」

気弱「初めて…?」

猫又娘「ぁ……私ここにお引越ししてきたばっかりなの」

気弱「そうだったんだ……そういえば、学校はどこにいってるの?」

猫又娘「………あっちの方の……」

気弱「向こうは……中央小学校かな」

猫又娘「そ、そこそこ」

気弱「そっか、残念…。私たち、南小だから学校終わってからじゃないと遊べないね…」

猫又娘「……」

猫又娘「私、放課後時間いっぱいあるからさ、毎日でも遊ぼ!」

気弱「…ふふっ、そうだね。ヘトヘトになるくらい遊ぼうね」

猫又娘「うん!!」








288: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:52:18.81 ID:hBUPAlst0

ーーー数日後ーーー

猫又娘「……」サササッ

猫又娘「」チラリ

猫又娘「……」ササッ

猫又娘「……!」

猫又娘「坊主くん見ーつけた!」

坊主「!?マジかよ!」ダッ

猫又娘「」ダッ



タタタタッ



猫又娘「…むふー」トン

坊主「いや無理!猫又娘の方がはえーのに缶蹴れるわけねーって!」

おてんば「わたしがかけっこで負けちゃうのよ?見つかったら最後、追い付けない!」

ヒョロ「一瞬で捕まりましたはい…」トホホ

気弱「すごいね…どこに隠れても見つかっちゃう」

猫又娘「えへ、みんなの気配で分かっちゃうんだ」

おてんば「気配!なんか忍者みたい!」

坊主「でもヒョロは真っ先に見つかって良かったんじゃね?お前猫又娘のことかわいいなーっつってたもんな」

ヒョロ「なっ!なんでばらすんだよ!?」

おてんば「あら?ヒョロ、まさか猫又娘ちゃんのこと」

ヒョロ「ちがっ…ないから!んなこと!」

猫又娘「……かわいい…私が…?」

気弱「うん…とっても」

おてんば「そうねー、わたしの次くらいにはね!」

坊主「うーわ始まった、おてんばのかわいい自慢」

おてんば「あぁ?」

ギャーギャー

ヒョロ「あーあ、そしていつもの二人の口喧嘩だー」

猫又娘「あはは」

気弱「……」

気弱「…ねぇ、猫又娘ちゃん?」

猫又娘「なーに?」

気弱「……こ、今度、私んちに遊びに来ない?」

猫又娘「気弱ちゃんのおうち…!」

気弱「うん。…私がね、家で猫又娘ちゃんの話してたら、お母さんが今度その子遊びに連れてきなさいって」

気弱「でもでも!嫌ならいいよ!どうせ私の家で遊んでも、面白いものないし…」

猫又娘「行く行く!」

気弱「!」

猫又娘「気弱ちゃんが居るだけで楽しいもん!行くよ!」

気弱「……お母さんに言っとくね」ニコッ





289: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:53:27.08 ID:hBUPAlst0


猫又娘(私が誰なのか、この世界が何なのか、よく分かんないけど)

猫又娘(そんなのどうでもいいや。こうして気弱ちゃんたちと遊べれば、なんもいらないもん)

ヒョロ「おーい、そろそろ別の遊びしようよ」

おてんば「ん?そうね…」

坊主「鬼ヶ島鬼ごっこやろうぜ!」

おてんば「なにそれ」

坊主「今俺が考えた!猫又娘以外全員鬼で、猫又娘を捕まえる鬼ごっこだ!鬼ばっかいるから鬼ヶ島風、みたいな」

猫又娘「え」

気弱「そんなの、すぐ捕まっちゃうよ…」

ヒョロ「4対1はそりゃあねぇ」

おてんば「わっかんないわよ?猫又娘ちゃんすばしっこいから案外苦労するかも」

坊主「そういうことだ。俺らまだ猫又娘に勝てたことないしな!」

ヒョロ「負けず嫌いなだけやんか」

坊主「……そうだよ悪いか!?」

猫又娘「…いいよー?」

坊主「まじ!」

おてんば「ふぅん、自信ありげな顔してるわね!」

気弱「え、え…私、でも猫又娘ちゃんだけ狙うなんて……」

坊主「こんな時にまで遠慮する必要ないんだぜ?」

気弱「そうじゃなくて…」

おてんば「ならこうしない?負けた方は罰ゲーム!」

おてんば「わたしたちが捕まえられなかったらこっちの負け、捕まえられたら猫又娘ちゃんの負け」

おてんば「で!負けた方は言うことを一つ聞かなくちゃいけない!」

ヒョロ「いやーそんなの気弱っちはもっとやりたくなくなるだけじゃ?」

気弱「………」チラリ

猫又娘「…?」

気弱「……そ、それなら」

ヒョロ「なぬっ」

おてんば「なんて命令する気なのかな~?」ニヒッ

気弱「ないしょ…!でも」

気弱「つ、捕まえちゃうから、猫又娘ちゃん」

猫又娘「」ニヤリ

猫又娘「私が勝ったらみんなそれぞれに命令出来るんだよね?」

おてんば「そうよ」

坊主「おいおいまじで逃げ切る気なのか!?」

ヒョロ「絶対捕まえてやろう!」

坊主「おうよ!」

おてんば「覚悟はいい?猫又娘ちゃん??」

気弱「……」ドキドキ




290: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:54:47.30 ID:hBUPAlst0


猫又娘「にっへへー。みんなまだ私の本気を知らないでしょー」

猫又娘「私が本気出したらぜーったい捕まらないもんね!」

おてんば「なぁに?坊主みたいなこと言っちゃって」

ヒョロ「知ってる、それ負けフラグってやつだ!」

猫又娘「ふふふ……では!」

ピョコン!

四人「!?」



猫又娘「さーて!始めよっか!」ネコミミ&シッポ



気弱「…ね、猫の耳…?」

坊主「すげぇ…手品かよ」

猫又娘「手品?違うよー、これが私の真なる姿なのです!」

おてんば「」ソーッ

猫又娘「!」ピクッ

おてんば「う、動いた…」

猫又娘「ちょっとびっくりしちゃって」

坊主「俺も触っていいか…?」

ヒョロ「」チョンチョン

猫又娘「ん……や…ムズムズするぅ…」

坊主「めっちゃふさふさ……っつか生えてんのか、これ…?」

猫又娘「?うん。そうだよ」

猫又娘(みんな、そんなに珍しいのかな?)

坊主「は!?えぇ…!?なんじゃそりゃ!どうやって動かしてんだ!?」

猫又娘「そんなの普通に──」



ギュー!



猫又娘「いだぁい!!」

猫又娘(え、なに?なに…!?)

おてんば「……」

猫又娘「…おてんばちゃん…?今、耳引っ張ったの…?」

おてんば「……すごいのね。その耳どう付けたのか知らないけど頑丈なのね。ねぇどうしたらそれはずせるの?」

猫又娘「これ、私の耳だよ?」

おてんば「うん分かってる分かってる。だからどういう風にくっついてるのか知りたいの」

猫又娘「えっと…だから、これは私の耳で──」

おてんば「そんなわけないでしょ!猫の耳生やした人なんていないもん!!」

おてんば「じゃあなに!?猫又娘ちゃんは人間じゃないって言いたいの!?」

猫又娘「う、うーん……」

猫又娘「……みんなと一緒じゃ、ないかなぁ…」

四人「………」




291: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:55:43.40 ID:hBUPAlst0


猫又娘「………」

おてんば「……人間じゃない……」

おてんば「バケモノ……」

猫又娘「え…」

おてんば「……いやぁ…!」ダッ!

タッタッタッ

坊主「おい!おてんば!」

ヒョロ「な、なぁ坊主。おれらも逃げようよ…なんか怖くなってきた…!」

猫又娘「なんで…?みんな、遊ぶんじゃ…」

坊主「そうな…」

坊主「取り憑くなら俺らじゃないやつにしてくれよ、頼むから!」

タッタッタッ

猫又娘「坊主くん!ヒョロくん!」

気弱「……」

猫又娘「気弱ちゃんどうしよ…おてんばちゃんたち、どっか行っちゃったよ…!」

気弱「ひっ……こ、こないで…!」

猫又娘「気弱、ちゃん…?」



気弱「気持ち悪い…」



猫又娘「──」

気弱「」タッタッタッ

猫又娘「…!」

猫又娘「……待ってよ……行かないで……」



気弱「」タッタッタッ...








292: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:57:17.88 ID:hBUPAlst0

ーーー夕方ーーー

猫又娘「……」トボトボ

猫又娘「……」トボトボ

猫又娘「………」



(誰もいない小さな公園)



猫又娘「………」

トボトボトボ...

猫又娘「……」

猫又娘(これが公園…)

猫又娘(遊べそうなものが、たくさんある)

猫又娘(あの空き地よりも…)

猫又娘「……」ウズクマリ

猫又娘(……)



ーーーーー

おてんば「──バケモノ……」

ーーーーー



猫又娘「……なんでかな……」

猫又娘「私、みんなと遊んじゃダメなのかな……」

猫又娘「……」

フサフサ ギュ...

猫又娘「…こんな耳が付いてるから…?」

猫又娘「みんなと違うから遊べないの…?」



ーーーーー

気弱「──私と、友達になってくれる…?」

ーーーーー



猫又娘「……みんなと同じじゃないと、本当の友達になれないの…?」

猫又娘「ウソの友達にしか…」

猫又娘「………」

猫又娘「……友達って……なんだろう……」

猫又娘「………」

猫又娘(……私って、なんなの……)

猫又娘「……」グッ...

猫又娘(今ここから消えちゃえば、みんなと同じに生まれてこれるかな)




293: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:58:14.91 ID:hBUPAlst0


...ザッザッザッ

猫又娘「…!」カオアゲル

帽子少年(以下、帽子)「……」

猫又娘「……なんですか?」

帽子「……」スッ(手を差し伸べる)



帽子「お困りですか?お嬢さん」ニッ



猫又娘「へ…?」

帽子「こんなとこで落ち込んでたら、ずっと気分はくもりだよ?ほら!元気出して笑って笑って!」

猫又娘「…ほっといて」

帽子「いーや、きみが笑ってくれるまで離れない!」

猫又娘(…っ)

猫又娘「やめてよ!こんなバケモノに構わないで!」

帽子「化け物?…その猫耳とシッポ?」

猫又娘「……」

帽子「かわいいじゃん!天然物の仮装だね、100点だよ!」

猫又娘「─!」

帽子「あんね、きみが誰なのかなんて関係ないんよ。みんなみーんなが笑ってくれれば、みんな楽しくなるじゃん?」

帽子「つまり……そいっ」グイッ

猫又娘「わわっ」

帽子「よし、立ち上がれたね!ほいじゃ次は笑顔を作ろう!こーやって…」ニー

帽子「こう!」ニカッ

帽子「笑って嫌なことも面倒なことも全部吹き飛ばしちゃえ!」

猫又娘「………」

猫又娘「……ぅ……」ジワ...

猫又娘「うええぇぇん…!」ギュッ

帽子「おっとと」ダキトメ

猫又娘「うぅ…ヒック…ああぁ…!」ポロポロ

帽子「…よしよし」

帽子「いっぱい泣いたら、いっぱい笑おうか」ナデナデ



.........








294: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 03:59:32.55 ID:hBUPAlst0


帽子「──それで、その友達は逃げていっちゃったんだ?」

猫又娘「……」コク

帽子「気持ち悪くなんかないけどなぁ。何を怖がったんかな。きみ、悪さでもするん?」

猫又娘「しない……と思う」

帽子「?」

猫又娘「だって分かんないの…ついこの間気が付いた時にはここにいたんだもん」

猫又娘「…もしかしたらひどいこと、するかも…」

帽子「へーきだって。きみ悪い子には見えないしさ」

帽子「……友達が欲しいん?」

猫又娘「っ…」

帽子「友達がいれば、きみは笑ってくれるんかな?」

猫又娘「……でも、どうせみんな私から離れてく…」

帽子「だから僕が友達になるよ」

猫又娘「ふぇ…?」

帽子「僕はきみから離れない。そう言われない限りは。むしろきみに興味があるんです」ヘヘッ

猫又娘「ほんと…?離れて、かない?」

帽子「うむ!」

猫又娘「……じ、じゃあ──」



ーーーーー

気弱「──気持ち悪い…」

ーーーーー



猫又娘「……でも、ダメだよ」

猫又娘「本当の友達にはなれないよ…」

帽子「んー?」

猫又娘「私、みんなと違うから……みんなと同じじゃないからウソの友達にしかなれない…」

帽子「……」

猫又娘「……」ウツムキ




295: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:00:03.86 ID:hBUPAlst0




帽子「本当かウソかなんてどうでもいいんさ」



帽子「きみがここにいて、きみの笑顔が見たいと思ってる僕がここにいてさ、それだけでいいじゃない」

帽子「難しく考え過ぎだって。友達に本当もウソもない!仲良しなら友達でオッケー!」

猫又娘「……」

帽子「…やっぱ、怖いん?」

猫又娘「……怖い、けど……」

猫又娘「ねぇ…ほんとに離れてかない…?」

帽子「もちろん」

猫又娘「私、気持ち悪くないの…?」

帽子「全然」

猫又娘「……」

帽子「……」

猫又娘「…絶対だよ!私を一人にしたら、呪っちゃうから…!」

帽子「おーこわいこわい」ニシシッ

帽子「その調子で明日はもっと元気なきみを見せておくれよ」

帽子「じゃ、帰りますかね~。もう暗くなってきたし」

帽子「きみを家まで送ってしんぜよう」

猫又娘「……家、ない……」

帽子「んぇ?…あー、そか」

猫又娘(……)

帽子「僕の家来る?」

猫又娘「!…いいの?」

帽子「僕んち無駄に広いからきみ一人隠せる部屋くらいいくらでもあるんさ」








296: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:00:33.01 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

帽子「これが僕んち」

猫又娘「大きい…」

帽子「でも住んでんの僕とじいちゃんだけなんだよね。縁側とかも多いから掃除が大変でさー」

帽子「ちょっと隠れててね」

猫又娘「」ササッ

帽子「じいちゃんただいまー!」ガラッ

祖父「……うむ」

祖父「…今日は、少し遅かったな」

帽子「すごーく落ち込んでる子がいてさ、泣き止むまで慰めてた」

祖父「……そうか」

祖父「夕食、出来てるぞ。早く食べなさい」トットットッ...

帽子「はーい!」

帽子「……よし、行こう行こう」

猫又娘「……」

帽子「どしたん?今なら見つからんよ」

ドロン

仔猫「…ニャ」

帽子「おぉ…!すごい、それなら安全に潜入できるな!」

帽子「あ、なんだっけ、確か…」

仔猫「?」

帽子「そうだ!猫又!」

帽子「人に化けられる猫のこと、そう言うんだって!あれ?猫に化けられる人か?…ま、どっちでもいっか!」



祖父「冷めてしまうぞ、早く食べなさい」



帽子「今行くー!」








297: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:01:31.12 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

帽子「さーて、と」

仔猫「」オスワリ

帽子「ご飯、あれだけで足りたん?」

仔猫「……」コクリ

帽子「僕なら絶対お腹空きまくる量だわな」

帽子「んで、部屋決めなー」

帽子「今いるのは大部屋。ここはよくじいちゃんがお客さんとか連れてくるからなしとして」

帽子「向こうの和室3つ、あっちは物置になってる部屋、そこの右行ったとこにもおんなじような部屋があって」

帽子「一応そっちの廊下の奥が僕の部屋」

帽子「うーむ…まぁ物置部屋なんかが布団もいっぱいあるし、悪くないかもな~」

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「…キミの部屋」

帽子「おぅ?」

猫又娘「キミの部屋がいい」

帽子「へ。僕はいいけど、あんま広くないよ?」

猫又娘「……一人は、やだ」

帽子「……」

帽子「よぉーし、では一名様ご案内!」





それからの日々はすごく目まぐるしかった覚えがある。








298: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:02:26.63 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

帽子「お困りですか、おばあさん?」

老婆「荷物が重くて、階段が上がれなくてねぇ…」

帽子「それくらい僕が持ちますよ!上まで一緒に行きましょう!」

老婆「ありがとうねぇ」

帽子「きみはおばあさんがバランス崩さないように支えてあげて!」

猫又娘「うん」





キミは誰彼構わず助けの手を差し出していた。








299: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:03:05.14 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

高学年「ここの公園は俺らが使うんだから他所に行けよ」

帽子「まぁそんなかたいこと言わずにさー、みんなで仲良く、ね?」

低学年の子たち「「「………」」」

高学年「やだよ、狭くなんじゃん」

帽子「あ!ならさ、こういうのはどう?そのボール使ってドッチボール勝負!勝った方が今日この公園を使える!」

高学年「えー?チビ達とやんの?どうせ弱い者いじめしたとか言って先生にチクる気だろ」

帽子「ノンノン。あの子たちの代わりに僕と、この人の二人で相手しますぜ」

猫又娘「わ、私も?」

高学年「……ぎゃはは!たった二人かよ!俺たち六人いるけど、速攻で負けても文句言うなよなー、はははっ!」

高学年「しかも一人は女子かぁ。ま、痛くないように当てっから安心しな」プクク

猫又娘「」ムッ





ーー5分後ーー

高学年「ま、参りました……」

猫又娘「……ふぅ」

帽子「わお…」

高学年「…ちぇ、分かったよ。約束だかんな、今日は俺らが別んとこ行くよ」

テクテク

帽子「また遊ぼうねー!」

高学年「うっせ!バーカ!」

帽子「……にしても、きみすごい機敏──」

テテテッ

低学年女子「お姉ちゃんありがとー!」

低学年男子「すっげー!どうしたらあんな風に動けんの!」

ワーワー!

猫又娘「え、え…!私は、えっと…」

帽子「……はは」

帽子「みんな?公園を取り返してくれたお姉ちゃんにお礼だ!」

低学年の子たち「「「お姉ちゃんありがとうございました!」」」

猫又娘「……どう、いたしまして」テレテレ





キミといるようになってから、この世界に溢れてる愛が、少しずつ見え始めてきた。








300: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:03:51.13 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

帽子「あっちぃ……夏バテかいな…」ナデナデ

帽子「あのーもしもし?そろそろ足が痺れてきたよ?」ナデナデ

仔猫「……」チョコン

帽子「……分かりましたよお姫様」ナデナデ

仔猫「♪」

帽子「家臣はこんな時のために取ってきておいたアイスでも食べますかね」ガサガサ

帽子「んー!やっぱこれが一番だな!」

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「」パクッ

帽子「ちょっ」

猫又娘「冷たくて甘い」

帽子「あー!僕のアイス…」

帽子「なんてむごいことを!」

猫又娘(だって、キミの好きなものは全部知っておきたいから)

猫又娘「…ごちそうさまでした」ニコッ

帽子「!」

帽子「…いいね、その顔」

帽子「いや~、最近よく笑うようになってきて僕は嬉しいよ。初めて笑顔見るまで苦労の日々だったもんなぁ」




301: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:04:30.79 ID:hBUPAlst0


帽子「…しかし、これはこれ、それはそれ。おイタした罰は受けてもらうよ?」ガシッ

猫又娘「な、何する気…」

帽子「ふっふっふ……くらえ!くすぐり攻──!」

猫又娘「…!」

帽子「──げきぃ……」グデ

猫又娘「…?」

帽子「ダメだぁ…気力が暑さに吸い取られる…」

帽子「アイスのことはもういいや…僕はちょっとだけ寝る…」

猫又娘「……」

猫又娘「手伝う」

帽子「ほえー…?」

猫又娘「……ねむれねむれや、ゆらりゆられ」~♪

猫又娘「たなびくくものごとし」~♪

帽子(あー…子守唄かなぁ…)

猫又娘「おやまもさともよるのなか」~♪

猫又娘「はかなきゆめみんとす」~♪

帽子(どことなく…懐かしい唄だなぁ……)

帽子「」スヤスヤ

猫又娘「はやい…」

猫又娘(……かわいい寝顔)

猫又娘「……」クスッ

猫又娘「あわれあわれやだれぞおにか」~♪

猫又娘「てのなるところにおちて」~♪



~~♪





キミといるとなぜか私の心の中は、暖かい光で満たされるようになっていった。








302: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:05:33.03 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

猫又娘「ねーねー」

帽子「なーにー」

猫又娘「真似っこ禁止!」

猫又娘「キミはなんでいつも誰かを助けようとするの?」

帽子「みんなを笑顔にしたいから」

帽子「そんなん夢物語だって分かってんだけどさ、この町の人全員笑顔に出来たらいいなってね」

猫又娘「…なんで?」

帽子「笑ってるとたのしーじゃん?」

猫又娘「……」

帽子「……」

帽子「」ヘンガオ

猫又娘「あはは!もう不意打ちも禁止!」





一度キミの学校までこっそりついて行ったことがあったよ。





ーーーーーーー

帽子「──!──、───♪」

「──?」

帽子「───!!」

ワハハハ



仔猫「……」





キミの周りはいつも笑顔の人でいっぱいだ。

私も……キミと一緒に笑っている時が一番楽しかった。

ずっとこんな日が続けばいいなって、思ってた。








303: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:06:38.14 ID:hBUPAlst0

ーーー夕方 帰り道ーーー

猫又娘「♪」テクテク

帽子「今日めっちゃご機嫌だね、何かあった?」テクテク

猫又娘「なにもー♪」

帽子「いやいや絶対何かあったっしょ!?」

猫又娘(さっき助けたおじいさん、私とキミを見て、かわいい彼女さんだって…)

猫又娘(♪)

猫又娘「ねね!今日のご飯なにかな?」

帽子「なんだろなー。昨日は肉だったから、今日は魚?」

猫又娘「やった」

帽子「魚好きなところはさすが猫だよねぇ」

猫又娘「にゃーん♪」

帽子「それは仔猫姿の方がかわいいな」

猫又娘「……ひっかく」

帽子「そんな!?」

猫又娘(今日も楽しかった。この人といるだけでなんでも楽しく感じられる)



ーーーーー

気弱「──気持ち悪い…」

ーーーーー



猫又娘(…この世界には、辛いこともある。けどきっと、それ以上に楽しくて暖かいことがあるんだ)

猫又娘「明日はどこに行こっか?」

帽子「そうなー、久々にあの公園にでも行ってみるか!きみと出会った公園!」

猫又娘「!…いいかも!」

帽子「あそこでまた泣きそうな子がいたら、今度はきみが励ましてみるかい?」

猫又娘「ぬぬ…それはあんまり自信ないよ…」

帽子「ははっ、まだまだ精進が足りとらんようだな?」



──ブオオォ



帽子「ん?」フリムキ





トラック「」ゴオオオォ!








304: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:12:08.61 ID:hBUPAlst0


帽子「──!」

帽子「危ない!!」ドンッ

猫又娘「え…!?」



ゴスッ!



ゴロン、ゴロンゴロン

ドサッ



ブオオォ...



猫又娘「いたた…」

猫又娘(なに?何が起きて…)



帽子「」



猫又娘「え…………」

猫又娘(……?この腕の千切れたお人形さんは……え?……キミ……?)

猫又娘「……ね、ねぇ、起きて」

帽子「」

猫又娘「嘘だよね…?いつもみたいにまた、笑って起き上がる気なんでしょ?」

帽子「」

猫又娘「ねぇ」

帽子「」

猫又娘「ねぇってば!」

帽子「」

猫又娘「……」

帽子「」

猫又娘「………」

猫又娘「……約束したじゃん……」

猫又娘「離れないって……」

帽子「」

猫又娘「………」

猫又娘「………」



猫又娘(………)








305: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:13:00.47 ID:hBUPAlst0

ーーー帽子少年の家ーーー

テレビ『──次のニュースです。今日夕方、一台の大型トラックが暴走。次々と人を轢いて200メートル程走り続け、最後は民家の塀にぶつかって止まりました。この事故で死傷者が数名出ており、トラックのドライバーは──』



仔猫「……」





運命は残酷だ。







ーーーーーーー



ザー



「やべ、めっちゃ降ってんな…傘入れてくんない?」

「おう」



仔猫「……」トテトテ

仔猫「……」トテトテ



「ママ!」

「どうしたの?」

「あそこの猫ちゃん、びしょびしょ」

「あら…こんな雨なのに…」



仔猫「……」トテトテ

仔猫「……」トテトテ



.........








306: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:13:47.51 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

猫又娘「……」テクテク

猫又娘「……」テクテク

猫又娘(……なんで、キミはこんな私を庇ったの…?)

猫又娘(何も出来ない私なんかより、笑顔を振りまけるキミの方が、生きてなきゃいけないのに)



ーーーーー

帽子「──友達に本当もウソもない!仲良しなら友達でオッケー!」

ーーーーー



猫又娘(………)

猫又娘(……私は、またひとりぼっち……)

猫又娘(………)

猫又娘(……キミと笑うことが出来ないのなら、もういっそ……)

低学年女子「あ!ドッチボールのお姉ちゃん!」

猫又娘(…確か、あの公園の…)

低学年女子「こんにちは!」

猫又娘「…こんにちは」

低学年女子「あのねあのね、お姉ちゃんのおかげでね、あそこの公園いっぱいの人たちと遊べるようになったの!」

猫又娘「…?」

低学年女子「前のこわいおにいさんたちも一緒に遊んでくれるの」エヘヘ

低学年女子「お姉ちゃんが仲良しこよしの魔法をかけてくれたんだよね!ありがとー!」

テッテッテッ...

猫又娘「あ…」

猫又娘(行っちゃった…)

猫又娘「…魔法…」

猫又娘(……そんなことが出来たら、私は今頃キミを……)




307: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:14:49.58 ID:hBUPAlst0


猫又娘「………」

猫又娘「……………」

猫又娘(………ううん、そうじゃない)

ピョコン

猫又娘「……」ネコミミ&シッポ

ドロン

仔猫「……」

ドロン

猫又娘「……」

猫又娘(私にはこれがある)

猫又娘(私自身も"変える"力)

猫又娘「………」

猫又娘(……そうだね)

猫又娘(キミが置き忘れたまっすぐな正義は、私が拾い上げればいい)



ーーーーー

帽子「──みんなを笑顔にしたいから」

帽子「──笑ってるとたのしーじゃん?」

ーーーーー



猫又娘「………」

猫又娘「…本当か嘘かなんてどうでもいいんさ」

猫又娘(だから、私がキミの正義を振りまいてもいいんだよね?)

猫又娘(私がキミのフリをすることで、世界を照らす光になれるなら、キミはきっとまた笑ってくれる──)

猫又娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘「…にゅふふ」





強がる世界にバイバイ。それはみんな、笑顔に変えちゃおう。

キミが望んでいた世界を作れますよう、私は今日も笑う。

笑ってキミのフリをする。





猫又娘「──お困りですか?みなさん!」





=======






308: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:15:38.33 ID:hBUPAlst0






例えば、子供が大人のフリをして大人と笑い合うように。
キミのフリをずっと続けていれば私は、キミとずっと笑えると思ったんです。








309: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:17:49.53 ID:hBUPAlst0

ーーーーーーー

猫又娘「………」



(池に映る自分の姿)



猫又娘「……くふっ」

猫又娘「危ない危ない、危うく見失うところだった」

猫又娘(私がどうしてこの世界を、この町を……彼らを守ろうとしたのか)



ーーーーー

少年「――どんな時でも明るくて眩しくて…みんなを元気付けようとしてくれて」

ーーーーー



猫又娘(私はね少年君、そんなにたいそうなものじゃないんさ。派手娘さんの言う通りある意味きみたちを騙してるのかもしんない)

猫又娘(元々の私は、とっても弱いんだもん)

猫又娘(でもね)

猫又娘(私が持ってるこの気持ちだけはウソじゃないからさ)

猫又娘(私は今日も前を向けるんだ!)

猫又娘「……負けないよ、私」

猫又娘「絶対、ぜーったい負けないから!だから!」

猫又娘(もう少しだけ、キミの勇気を貸してね)




310: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:20:23.45 ID:hBUPAlst0






「何者に勝たんとする?」





猫又娘「!」バッ

黒服男「人と妖禍子の混じるその身体で、何を為そうと言うのか」

猫又娘(…なに、この男)

猫又娘(人間じゃない。それどころか、酷く濃い、禍々しい気配…)

黒服男「お前のその行動理由が、俺はずっと気になっていた」

猫又娘「…私が?」

黒服男「そうだ」

猫又娘「……その前に教えて、あなたは誰?」

黒服男「俺は…そうだな、お前たちが元凶と呼ぶ存在だ」

猫又娘「ー!」

猫又娘(こいつが……この怪異の根源…!)

黒服男「俺の疑問に答えてもらおうか」

猫又娘「私の方が、あなたに聞きたいことは山ほどある!この町を襲った理由、あなたが求めるものも──」

黒服男「──答えろ」

猫又娘「っ……」

猫又娘「……私は、笑顔が見たいだけ。この町のみんなが、笑って過ごしてるのを見れればいい」

黒服男「…笑みとは本来、敵をけん制するための威嚇行動に過ぎぬ」

猫又娘「そんなの知らない!人はね、楽しければ笑う生き物なんよ!」

黒服男「他者を痛めつけて嗤う生き物だな」

猫又娘「違う!」

黒服男「違わぬ。お前にも心当たりがあるだろう」

黒服男「お前が行動を共にするあの男は、如何な仕打ちを受けていた?」

猫又娘「……」

黒服男「人間の本質など、斯様に醜い。お前一人が身を粉にしたところで何を変えられる?」




311: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:22:49.82 ID:hBUPAlst0


猫又娘「…一人じゃないよ。私の側にはいつも、大切な人がついていてくれてるから」

黒服男「……それも人間か?下らぬな」

猫又娘「あなたに言われたくない。あなたのその考えの方がよっぽど下らないよ。この世界から犯罪が無くなることはないから取り締まるだけ無駄だって言ってるようなものじゃない。その先にあるのは…もっとめちゃくちゃになった世界だけ」

黒服男「世界を壊して回っているのは人間だ。俺は世界のゴミを除いてやろうと言うのだぞ」

猫又娘「人はゴミなんかじゃない!この世界に必要な人だってたくさんいる!」

黒服男「ではゴミは俺達の方か?そうだな、奴らにとっては俺達こそ居てはならないゴミであるらしいからな」

猫又娘「なんでそうなんのさ!そもそも何が必要で何が不要かなんて、そんな話じゃないでしょ!みんな、誰かにとっては大切な存在なんだよ」

黒服男「ならば何故、人間は俺達を封じ込めた?何故執拗に排斥しようとする?」

黒服男「俺達は奴らに対し、何もしていない」

黒服男「お前はこの問いの合理的な答えを持っているのか?」

猫又娘「それ、は……」



ーーーーー

おてんば「──バケモノ……」

ーーーーー



猫又娘「………」

黒服男「……所詮お前も人間混じりか」

黒服男「出来もしない妄言を宣い、本質を見ようとしない」

黒服男「…実に下らぬ」

黒服男「お前も、この町諸共消えるがいい」ザッ...

猫又娘「……!!」

猫又娘(今ちょっとだけ見えた、こいつが手に持ってるの……まさか)

猫又娘(アヤカシノート…!)




312: ◆YBa9bwlj/c 2020/01/14(火) 04:23:27.30 ID:hBUPAlst0


猫又娘「……」

ドロン

仔猫「」ダッ



スタッ、スタッ、スタッ!



黒服男「」ギロッ

仔猫「っ」ピタッ...

黒服男「………」



ヒュオオォ...



仔猫「……………」

...ドロン

猫又娘「……」

猫又娘(……今の……)

猫又娘(なんで、あいつは……)



猫又娘(あんなに悲しい目をしていたんだろう)








315: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:03:06.69 ID:L/MaCyf+0

ーーー境内 はずれーーー

猫又娘「……」ソワソワ

猫又娘「」キョロキョロ

猫又娘「……」

猫又娘(まだかな…)

猫又娘「……」ウロウロ

猫又娘「……!」



少年・包帯少女「「……」」テクテク



猫又娘(その瞬間、全部分かっちゃった。二人の間に何があったのか、どんな話をしたのか、とか)

猫又娘(……仲良さそうに手繋いじゃってさー。それでそんな、憑物が落ちた顔してるんだ)

少年「ごめん、待たせた?」

猫又娘「えぇえぇ。それはもう待ちに待ちましたよぉ?きみたちが二人でいちゃいちゃしてる間にも?」

少年「う…あー、これは…」

猫又娘「いいんさいいんさ。言われなくても伝わってくるから」

猫又娘「……ようやく、だね」フフッ

少年「……うん」

少年「お祭り客の中、探してみたけどそれらしい人は見当たらなかった。この人混みだからしらみつぶしに出来たかどうかは微妙なところだけど…少なくとも登ってきた石段には居なさそうだよ」

猫又娘「そうなん…まーそう上手くはいかないよね」

少年「?」

猫又娘「うん、私の方はね」

猫又娘「例の元凶君に会ったんよ」

少年「え!?」

猫又娘「音も無く近づいて来たからびっくりしたんだけど…ねぇ聞いて!」

猫又娘「あの人、アヤカシノートを持ってた!」

少年「!それは…本物の?」

猫又娘「だって私が作った方はきみが持ってるでしょ?」

少年「確かに…」

少年(いつの間に盗られたんだろう…いやそもそも何のためにノートを…?)

少年(…ん…?)

包帯少女「……」

少年「少女さん?」

包帯少女「…!な、なにかな」

少年「大丈夫?顔色悪い気が…」

包帯少女「平気、ありがと」...ニッ

包帯少女「考え事してただけだから」

少年「そう…?」

猫又娘「……?」




316: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:04:56.86 ID:L/MaCyf+0


少年「…けどまずいことになったな。そいつがノートを持ってるなら簡単には返ってこないもんな…」

猫又娘「そーこーは!逆転の発想よ!」

猫又娘「ラスボスが聖剣を持っててくれてるようなものでしょ?ならここでの定石は……一瞬の隙をついて奪う→即カウンターのコンボしかないわけ!」

少年「そんなゲーム感覚で言ってくれちゃって…その役目は誰がやればいいんだ…」

少年「…ん、いや違うか。僕らで、やるんだ」

少年「力を貸してくれる?猫又娘さん、少女さん」

猫又娘「当然!」ニシッ

包帯少女「……」...コクン







ーーーーーーー

黒服男「………」

黒服男「………」



ヒュオオオオォォ...



黒服男「………」

黒服男(……何度問うただろう)



それでも、愛していたのか…?



黒服男(………)

黒服男「………」グッ...!







ーーーーーーー



──ドクン



包帯少女(…っ!)

猫又娘「──とは言ってもトドノツマリ様には会っておきたいんよね。今のままじゃまだまだ危険過ぎる」

少年「そうだね。ノートでどうこうできる確信もないし…」

少年「…そういえば猫又娘さん、その男とどんな話をしたの?」

猫又娘「ん……まぁ、なんで私が人の味方してるんだーとか、人間は居なくなるべきだ、とか」

少年「なんだそれ」

少年(何がそんなに、そいつを駆り立ててるんだ)



317: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:06:55.27 ID:L/MaCyf+0




包帯少女「……ゔっ……あ゙ぁ゙……!」



少年・猫又娘「「!?」」

少年「少女さん!」

包帯少女「だい……じょうぶだ、から……!」

猫又娘「どこが!ねぇどうしたんさ!どこが痛むん!?」

包帯少女「っ……」ガクッ

ドサッ

少年「は…?は!?おい嘘だろ…!」

包帯少女「……ぅ……」

猫又娘「落ち着いて!息はある」

少年「少女さん…!少女さん!聞こえる!?聞こえてたら反応してくれ!」

猫又娘(…恨むよ、神様。こんな次から次へと試練ばっかり。そんなに私らが諦めるのを心待ちにしてるんかね…!)

猫又娘「少年君、あんま派手に動かさないで。取り敢えず私に診させて…………!!」

猫又娘(……少女さんの、この気配……)

猫又娘(間違いない。以前なんかより比べ物にならないくらい……)





「……その子は、そのままじゃ目覚めないよ……」テクテク





少年「…夢見娘さん…」

夢見娘「……」

猫又娘「どういうこと?このままじゃ起きないって…」

猫又娘「ね、あなた何を知ってるの?」

夢見娘「………」

夢見娘「……この子は今、"あのヒト"のユメに囚われてる……」

猫又娘「あの男の、夢…それって少女さんがたまに見てたっていう?」

夢見娘「……」コクリ

少年「夢を見てるってこと?…大騒ぎすれば起きてくれたりしないかな…!?」

夢見娘「……ユメに呑み込まれたら、二度とこっちに帰ってくることは、ないの……」

少年「そんな……」

包帯少女「は……はぁ……っ…」

少年「…頼む。どんな方法でもいい、少女さんを助けることは出来ないか…?」

少年(例え自身と引き換えだとしても…僕は構わない)




318: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:08:07.97 ID:L/MaCyf+0


夢見娘「………ある」

少年「!それは!」ズイッ

夢見娘「!?」

夢見娘「……//」ススス

少年「?」

夢見娘「……この子の見てるユメを分け合うの」

夢見娘「そうすればこの子への負担は減る……呑まれる前にユメが終わればちゃんと目は覚める……」

猫又娘「どうやって夢を分け合うん?んにゃ、第一夢を分けるってどういうこと…」

夢見娘「……そのために、私が居る……」

夢見娘「私たちで、この子が見てるユメを一緒に見てあげればいい……」

少年「やる」

夢見娘「……でもね、分けたユメと言っても、それを見る者もまた、呑まれる可能性はある……」

少年「それでもやるよ」

夢見娘「……うん」

夢見娘「……」チラリ

猫又娘「私も!」

夢見娘「………」

少年(黒幕だの犯人だの、そいつの夢がなんだ。僕は決めたんだ、二度と少女さんを失わないって……それは僕の義務だ)

猫又娘(あの悲しい目……あいつがどんな道を辿ってきたのか、これで分かる…?……キミが居たらなんて言うのかな)

夢見娘(……きみが大切にしているものは、私も大切。…そこに私が居なくても)

夢見娘(私はきみのマヤカシだから)

夢見娘「……いくよ」



スー...



.........








319: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:09:04.84 ID:L/MaCyf+0

===???年前===





『睦月も終わりの頃。それを見過ごす事は私には出来ませんでした。』





スタッ、スタッ、スタッ



ケモノ「」スタッ、スタッ



「くそ、逃げ足の速い化け物だ…!」タッタッ

「右だ!右の方から音がしたぞ!」タッタッ



タッタッタッ



スタッ、スタッ...



「…あ゙ぁ!見失ったか」

「仕方ねぇ…だが奴を手負いにはした、次に見っけた時が最後だ」

ザッザッザッ...



ケモノ「………」ジッ...

ケモノ「………」

ケモノ「……行ったか」

ケモノ「俺としたことが、油断した…」

ケモノ「よもやこんな森の中にまで人を置いているとは」

ズキッ

ケモノ「グッ…」

(腕に刺さった矢)

ケモノ「…毒矢の類ではなさそうだが…鉛を身体に入れたくはないな…」

...グイ

ケモノ「っ……」

ググッ

ズルリ

ケモノ「……ハァ……ハァ……」

ケモノ(血を垂らさぬようにせねば…)

ケモノ(この山も、もう無理か。人間の活動範囲がまた拡大している)

ケモノ(…どこか、我々が静かに暮らせる場所はないものだろうか)




320: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:11:06.71 ID:L/MaCyf+0




ガサッ



ケモノ「!」フリムキ





女「……あ……」





ケモノ(人間の…女?)

ケモノ(……一処に留まってはおけない、か)

ケモノ「……」スッ

女「…!」

女「待って!」

ケモノ「」ザッ

女「あなた、怪我してるのですか…?」

ケモノ「………?」

女「やっぱり!とても痛そう…」

女「待ってて下さい。今手当て致しますから」

ケモノ「!…よせ、俺に近づくな」

女「」スタスタ

ケモノ「…俺はお前を喰い殺すことだって──」

女「怪我人はお静かに、ですよ」

ケモノ「……」

ケモノ(なんだ、この奇特な人間は…)

ポンポンポン

クルクル、ギュ

女「…これでよいでしょう。ひとまず消毒と止血だけですが、しないよりは楽なはずです」

ケモノ「……お前は、俺が怖くないのか」

女「はい」

ケモノ「俺が憎くはないのか」

女「なぜです?」

ケモノ「…人間は皆、俺を殺そうとするからだ」

女「…そうですか」




321: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:12:04.92 ID:L/MaCyf+0


女「それは、あなたが殺めた人の仇討ちでしょうか?」

ケモノ「いや、そんなことはしていない」

女「では、川を氾濫させ、家屋を荒らし人様の生活を脅かしたから?」

ケモノ「するものか。人の世に触れず生きてきたのだ」

女「ほら。あなたを忌避する必要など、ないのです」

ケモノ「…何を言っているんだ?」

女「邪気など微塵も感じませんから」フフッ

ケモノ(──……)

ケモノ「…すまない、世話になった」

ケモノ「ではな」

女「何処へ行くのです?」

ケモノ「ここではない、遠くだ」

女「そんな怪我をしているのに…それにこの時期益々寒さは厳しくなります」

女「…私の家を宿と思ってお使い下さい」

ケモノ「宿、だと…?」

女「その通りです」

ケモノ「……貴様、俺を謀(たばか)るつもりだな?」

女「疑うお気持ちは分かります。ただ、私の家はここよりすぐ近く。そして周りに他の家屋はありません。…居るのは私一人だけ」

女「それでも信じて頂けないようでしたら…この身を差し出しましょう」

ケモノ「……」

ケモノ(燃えるような紅い目…不思議だ、このような目をした人間は初めてだ)

ケモノ「……この傷が癒えるまで、頼む」

女「はい」ニコッ








322: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:13:06.08 ID:L/MaCyf+0

ーーー女の家ーーー

ケモノ(万が一を考えてはいたが…)

ケモノ「本当にお前一人なのだな」

女「えぇ。先程申し上げた通りです」

ケモノ「何故このような場所で暮らしている?」

女「…私の村は、ここを下った小さな集落なのですが、残念なことに村民との反りが合わず半ば飛び出すようにここへ来ていました」

ケモノ「…咎人か?」

女「いえ、そうではありません」

女「彼らは些か、粗暴過ぎるのです。あなたのその怪我もきっと……」

女「…申し訳ありません。同じ村の者でありながら、私にはどうすることも出来ず…」

ケモノ「……お前が頭を下げる必要はなかろう」

女「……」

女「ここには、滅多なことで人が訪ねてくることはありません。私がそう言い含めておりますから」

女「罪滅ぼし…とは虫がいいかもしれませんが、どうか気持ちを休めて頂けないでしょうか?」

ケモノ「………」

ケモノ「…その手」

ケモノ「先の、血が付いている。…洗い落としてくるといい」

女「お優しいのですね」

ケモノ「その言葉、そのまま返してやろう」

女「……」

ケモノ「……」

女「…ふふ」

ケモノ「フッ…」





『憐みが無かったと言ったら嘘になるでしょう。ですが、そう……この方の鮮やかな碧い瞳が、私を突き動かしたのです。』








323: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:13:54.33 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

巫女「御神様、どうぞお聞き下さい」

巫女「また、一つの妖禍子が見かけられたそうでございます」

巫女「彼の者はまだ存命でいるのでしょうか?」



──是である。



巫女「…そうですか。それは良き事」

巫女「では、彼の者の保護に努めましょう。所在の程はどちらにございましょう?」



……………。



巫女「………」

巫女「………」








324: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:14:58.89 ID:L/MaCyf+0

ーーー春ーーー

女「お加減はいかがです?」

ケモノ「大分良くなった。最早外からでは見えぬ程には塞がったな」

女「化膿などもしていないようで、安心しました」

ケモノ「あぁ」

女「……」

ケモノ「……」

女「暖かい時分になりましたね」

ケモノ「そうだな」

女「……これから、川へ向かうのです」

女「越冬の為に取り置いていた水が底を尽きてしまったので。また、暑くなってくれば戸の付け替えもしなければならないでしょう」

女「女手一つでは何かと苦労の絶えない日が続きます」

ケモノ「……」

女「…何処かに、助力をして頂ける方がいらっしゃればいいのですが…」

ケモノ「………」

ケモノ「……俺は、この身が癒えるまではここに居ると、そう言ったな」

女「……」

ケモノ「だが、この身が癒えてからここを去るとは言っていない」

女「!」

ケモノ「貴女と共に居たいと、考えている」

ケモノ「人ではない俺のような者が、貴女の傍に居てもよいだろうか…?」

女「はいっ、勿論です」ニコッ

ケモノ「…感謝する」

女「それでは早速参りましょう!この山に積もった雪は汚れがなく、その雪解けが流れ込むお水は本当に美味しいのですよ!」テテテッ

ケモノ「あぁ理解した。だから雪上を走るのは控えるんだ。危険だぞ…」





『弥生 六

いつの間にかあの人の居る生活が当然となっていました。今日はあの人の口から、共に在りたいと聞く事が出来ました。…これ程心が躍るのは何時振りでしょうか。』








325: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:15:30.66 ID:L/MaCyf+0

ーーー夏ーーー

ザクッ、ザクッ

女「」ザクッ

女「……」

女「…これは、食しても良いものですね」

女「ふぅ…これだけ集めれば十分でしょうか」

女「そちらはどうです?」

ケモノ「こんなものだが、よいか?」ドッサリ

女「まぁ…!」

女「きちんと食せるものですね。これほど多く採ってこれるなんて」

ケモノ「俺は鼻がきくからな」

女「私にもその嗅覚があればこの収穫ももっと楽になるのでしょうね…」

ケモノ「…いや、貴女はそのままでいい。人間である貴女が、きっと最も美しいと俺は思う」

女「……」

女「ふふっ。ではこれからもたくさん、あなたを頼りにさせてもらいます」

ケモノ「任せてくれ」





『葉月 十二

普段の口数は決して多いとは言えませんが、実直に、想いを伝えてくれるあの人が愛しい。言葉を交わし、想いを交わし…そこに姿形の違いなど介在しないのです。』








326: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:16:05.09 ID:L/MaCyf+0

ーーー秋ーーー

女「見て下さいこの葉!赤、橙、黄、緑……ここまで多色が混在しているのは風情がありますね」

ケモノ「そうだな。だが」

スッ

ケモノ「これも、色数は少ないが映えていると思わないか?」

女「あら本当…!」

女「葉が色付いていく様は、いつ見ても良いものです」

ケモノ「毎年必ず訪れるものだが…見ていて飽くことはないのか?」

女「何をおっしゃいます。一日一日少しずつ姿を変えていく山を見るのはとても胸が躍るものです。一年で決まった期間しか見られないのです、飽くことはありませんよ」

女「…それに、誰かと見るこの景色は、また特別なものですから」

ケモノ「!…」

ケモノ「……そう、か」





『神無月 二十五

山があまりに美しく色付いていたものですから、ついその欠片を何枚か採ってきてしまいました。あの人も綺麗だと言って笑ってくれたけれど……あなたのその瞳に敵う葉は、一枚もありませんでしたよ。』








327: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:17:33.65 ID:L/MaCyf+0

ーーー冬ーーー

ケモノ「………」

ケモノ「………」

ケモノ「…ふむ」

ケモノ「なかなかどうして、一人ならばこの家屋も広いと感じられるじゃないか」

ケモノ「……」



ーーーーー

女「──村へ、下りて行こうと思いますね」

女「──顔に出ていますよ。通例のことですから、心配いりません。時々顔を見せてやらないと父が煩いのです」

女「──では、行って参ります」

ーーーーー



ケモノ「………」

ケモノ「少し、寒い」







ーーー村ーーー

コンコンコン

村長「ん?誰じゃ?」

「お父様、私です」

村長「おぉその声、女か。さぁさ、入りなさい」

ガチャリ

女「お久しぶりです、お父様」

村長「実に一年ぶりかの。あまり待たせるものだから、使いの者を出そうか迷っておったところじゃ」

女「ふふっ、それはごめんなさい。忘れていたのではないのです」

村長「お前のことじゃからな。そろそろかとは思っておったよ」

村長「…して、無病息災、平穏に過ごせているのだろうな?」

女「はい。それはもう」

女「この通り、五体満足です」

村長「うむ……」

村長「……」ジッ...

女「……」

村長「……安心したわい」

村長「近頃、よく奴らの目撃報告を耳にするものでな。女の身に何か起こっておらぬか気が気でなくての」




328: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:22:02.29 ID:L/MaCyf+0


村長「のう…やはり警護の者を付ける訳にはいかぬか」

女「お父様」

村長「分かっておる。それが村を出て行かぬ条件であったよな。…じゃがのぅ…」

女「こうして何事も無く生きてゆけてるのです。まだ気がかりだと言うのですか?」

村長「むぅ……いつ何時奴らに襲われるやもしれぬ……そうでなくても女子の独り暮らしなど危険を伴うと言うに……」

女「………」

スッ

村長「…む?なんじゃこれは」

女「秋の頃、葉の標本というものを作ってみたのです」

女「如何でしょう?美しく仕立てられたと思っているのですが」

村長「ふむ、確かにの。艶やかな色遣いじゃ」

女「まるで私のよう……ではありませんか?」

村長「いや、お前の方が綺麗じゃよ」

女「娘を口説いてどうするのですか」フフッ

女「それはお父様に差し上げます。私の代わりとでも思って、持っていて下さいな」

村長「……」

村長「…まったく…お前には敵わんよ。その強かな様、誰に似たんじゃろうな」



ガチャッ



巫女「村長、今戻ったわ」

村長「うむ。丁度よい時に来たの」

女「姉様…!」

巫女「あら、来ていたのね」

女「はい!お元気そうで何よりです」

巫女「お互いにね。昔は私から離れなかった女が、今じゃ独り立ちまでしちゃって」

女「私だって成長しているんです」

村長「わしは独り立ちをさせているつもりはないぞ」

巫女「心配性なところは死んでも変わらなさそうね」

女「…姉様はまだ破邪の巫女を?」

巫女「…不満そうな顔ね?」

女「だって姉様があんな役回りをする必要なんて……」

巫女「仕方がないのよ。奴らを根絶するには大勢の人の力がいるの。それを支える象徴もね」

女「……私、その思想は苦手です。彼らが私達に何をしたというのでしょう。彼ら──妖禍子はそこに居ることさえ許されないのですか…?」

村長「女…ここでそのような発言は」

巫女「大丈夫、外には誰も居ないから。聞かれてないわよ」

巫女「…女、あなたは優し過ぎるのよね。その優しさはあなたの魅力でもある」

巫女「でもね覚えておいて。全てを受容することは出来ないの。生物にとって、自分を脅かす可能性のあるものは遍く除去するべきなのよ」

巫女「私達がこうして平和に生きていくためにもね」

女「……そんなの、私達の都合ではないですか……」

巫女「……」




329: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:23:04.35 ID:L/MaCyf+0


...ギュッ

女「あ…」

巫女「いいのよ、あなたは考えなくて」ナデナデ

巫女「残酷なことは全部私達に任せておいて。あなたは静かに暮らしてくれればいい」

巫女「…安心なさい。彼らを根絶やしにはしないから」ボソッ

女「!」

女「そ、それは…!」

巫女「……」ニコッ

巫女「さ、今日はもう帰りなさい。暗くなる前に戻れなくなるわ」

村長「そうじゃの。本当なら今しばらく寛いでいって欲しいものじゃが…」

村長「次の来訪を半年以内にすると言うのならば、止めはしまい」

女「お父様ったら…えぇ、約束します」

女「それではお父様、姉様、どうかお元気で」

巫女「女、あなたもね」



ガチャ…パタン



村長「……変わらぬな、あの子は。いつまでも心優しい女のままじゃ」

巫女「そうね。全てを愛することが出来るというのも、一つの才能だと思う」

村長「して、巫女よ。あれはどうなっておる?」

巫女「残念だけど、進展は無しよ。返事だけは返ってくるんだけどね」

村長「気難しいお方なのかのぅ…トドノツマリ様というのは」

巫女「それでも辛抱強く続けるしかないわ。あれをどうにかしない限り、私達に先はないのだから」

巫女「それに、胸騒ぎがするのよ」

村長「なんじゃと?」

巫女「覚えてる?一年前仕留め損ねた、例の獣」

村長「あぁ、そのような報告を受けたの。すぐに続報が来ると思っておったが…」

巫女「…逆よ。不気味な程音沙汰がない。捜索範囲も拡げてるはずなのにね」

村長「目立った被害も無いようじゃからの、気に留めておらなんだが…」

巫女「そういう問題じゃないのよ」

巫女「……汚らわしい……」








330: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:24:36.47 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー



ザッ、ザッ、ザッ



ケモノ「!」

女「」ザッ、ザッ

ズボッ

女「きゃっ…!」

ケモノ「女!」ダッ

...ポスッ

女「…!ありがとう、ございます」

ケモノ「雪道は歩き慣れているのではなかったのか?」

女「…少し、上の空でした」

ケモノ「何かあったのか」

女「いえ、おかしなことは何も……」

女(………)

女「……思い出しませんか?」

ケモノ「…?」

女「あの日も、ここは同じような雪化粧を纏っていました」

女「丁度帰路に着いていた私と、手負いのあなたと……運命の神様が引き合わせてくれたのかもしれません」

ケモノ「……」

女「あれから一年が経ちましたね」

ケモノ「そうだな」

ケモノ「…前から訊きたいと思っていた」

ケモノ「貴女は何故、俺と共に居てくれるんだ」

ケモノ「貴女の村は恐らく、俺のような異形の存在を許してはいないのだろう。いや、人は俺達妖禍子を受け入れる事はない……そう思って生きてきた」

ケモノ「しかし貴女は違った」

女「……大層な理由ではありませんよ?」

女「あなたのその、澄んだ碧い瞳が私を惑わしたのです。まるで灯りに引き寄せられる羽虫のように…私は魅せられていました」

ケモノ「………」

ケモノ「驚いた」

ケモノ「俺も同じ事を考えていた」

ケモノ「貴女のその目……その紅い瞳に見惚れなかった日はない」

女「まぁ…!そんなことを考えながら…?」

女「なんだか……ふふっ、恥ずかしい」

女「私達、とても似た者同士なのですね」

ケモノ「──!」




331: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:25:29.10 ID:L/MaCyf+0


ケモノ「…似た者…?俺と、貴女が、か?」

女「はい。世界中の誰より、きっと」

ケモノ「……ハハ。皮肉なものだ。一体誰が、俺と貴女を見て似た者と表するのだろうな」

ケモノ「片や一輪の花、片や異形の化け物」

女「化け物だなんて──」

ケモノ「──あぁ、だが、貴女は認めてくれた。俺を、一つの個として」

...ギュッ

ケモノ「…俺は貴女を…」



──愛している。



女「………」

ケモノ「………」

女「……でしたら」

女「私のお願いを言ってもよいですよね」

ケモノ「持てる力を以て、叶えてやろう」

女「…あなたにしか出来ないことですよ」ポツリ

女「………」





女「私と生涯を共にして頂けませんか?」





『その時のあなたの顔を、私は忘れる事はないでしょう。今までに見た事のない呆けたような表情……一世一代の場面なのに思わずたくさん笑ってしまいました。あなたも連られて笑っていましたね。私とあなたは、そういう生き物なのでしょうね。』








332: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:27:08.50 ID:L/MaCyf+0

ーーー2年後ーーー



『長月 十七

今日は少しだけ喋ってくれました。いつも静かにしてる事が多い子ですから、偶にこうして話しかけてくれた時の喜びは一入ですね。』



女「……んー……」



『何かを伝えようとしてくれてるのですが……まだまだ精進が足りないもので、解してあげられな』



赤子「か…!か!」

女「!」

女「なぁに?」

赤子「……」ジーッ

女「どうしたの?お母さんに何か、言いたかったんでしょ?」ダキアゲ

赤子「…かぁ」

女「もしかして、烏さんの鳴き声かなー?」



ケモノ「貴女を呼んでいるのではないか?」



女「あら…あなた、帰ってたのですね」

ケモノ「たった今な」

女「いつもごめんなさい。あなたにばかり家の仕事を任せてしまって…」

ケモノ「貴女の身に何か起きてしまってはいけない。当然の事だ」

女「それで、私を呼んでいる…ですか?」

ケモノ「あぁ。俺には、お"かあ"さん、の"かぁ"、に聞こえるのだがな」

女「まぁ…!」

女「ふふ、そうなの?」

赤子「……」ジーッ

女「ねぇ、それじゃあ次はお父さんを呼んでみよっか」

赤子「……」

女「向こうのおっきな人がお父さん」

赤子「………」

ケモノ「………」

赤子「」フイッ

ケモノ「…俺は嫌われているらしい」

女「そんなことありません。ほら、抱いてみて下さいな」スッ

ケモノ「うむ…」

赤子「……」ジー...

ケモノ「……」




333: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:27:40.81 ID:L/MaCyf+0


女「あなたが抱えても、泣き声一つ零しませんよ?」

ケモノ「それはそうだが…」

女「…クスッ。あなた、この子のことになると奥手になりますよね。なんだか可愛いです」

女「忘れないうちに書いておきましょうか」

ケモノ「おい…!また日記というものか?俺の痴態など記録せずによいと言うに…」

赤子「……ぅー……」

ケモノ「む…何事だ?」

赤子「……」ウトウト...

女「もう眠いのですね。そろそろお昼寝の時間ですから」

ケモノ「そうか」

女「あなた、そのまま持っていて下さい」

女「……ねむれねむれや ゆらりゆられ」~♪

女「たなびくくものごとし」~♪

女「おやまもさともよるのなか」~♪

女「はかなきゆめみんとす」~♪



.........





赤子「」スー..スー..

ケモノ「…子守唄か。初めて聴くが、良い唄だ」

女「まだ私が幼い頃に母が教えてくれたのです」

ケモノ「さぞ優しい母親なのだろうな」

女「はい、それはもう……ですから、天が母を必要としたみたいで」

女「流行り病だったのですが、私が十くらいの時に逝ってしまったのです」

ケモノ「……」

ケモノ「こうして貴方を産み落としてくれた。それだけで俺は抱えきれない程の謝意を抱いている」

赤子「……」スゥ..スゥ..

ケモノ「この子と共に生きよう。それが我々に出来る恩返しだ」

女「……はい」

女「私が貰った愛を、次はこの子に…」





「……なんだあれは……何かの冗談か……?」








334: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:28:39.13 ID:L/MaCyf+0

ーーー翌日 村ーーー

村民「村長!村長!いらっしゃいますか!?」

村長「なんじゃ騒々しいの。せめてノックの一つくらいしたらどうじゃ」

村民「す、すみません……いえ!それどころではないのです!」

村民「昨日、村の男が一人、女様の家を見かけたそうなのですが──」

村長「なに?勝手に女の家に近付いたと申すか!」

村民「はい。ですがその責を咎めるより早く、我らに信じられないことを!」

村長「言うてみよ」

村民「男が言うには、その、女様の家に…」

村民「獣のような異形が居た、と。それに産まれたばかりの赤子も」

村長「……ホラを吹かれたのだろう」

村民「男はただならぬ様相でした。瞳孔は開き、額には脂汗が浮き、とても嘘をついているようには…」

村長「………」

村長(…あの子に限って、そのようなことなど…)

村民「村長、如何致しましょう…」

村長「むぅ……」

村長(………)



村長「わしが見てこよう」







ーーーーーーー

女「いい?これが緑色。これが青色」

赤子「……」ジッ

女「こっちが黄色で…赤色」

赤子「かぁ」

女「ん?赤が好き?」

赤子「…かぁ」カオペタペタ

女「なによ、ふふ」

女「どう?綺麗なものよね。色というのはね、今教えたものだけじゃないの。他にもたくさん、混ざって組み合わさって私達の世界を飾り付けてくれてる」

女「紅葉の季節が来たら、お父さんと一緒に見に行こうね」

赤子「……」

女「…お父さん、今日は少し遅いね」ナデナデ

女「お天気が曇ってるせいで元気が出てないのかもね?」ナデナデ

赤子「……」

女「あの人に限ってそんなことあり得ないでしょうけど」フフッ

...ザッザッザッ

女「…!噂をすれば」

コンコン

女(?扉を叩いてる…?)




335: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:29:35.10 ID:L/MaCyf+0




「女よ、居ないのかね」



女「!?」

女「その声……お父様?」

村長「良かった、そこに居るのじゃな」

村長「すまないの。お前との約束があるというに、訪ねてきてしまって」

女「何故お父様が…」

村長「なに、ちと気になることがあっての。中に入らせてもらうが、よいな?」

女「だ、駄目です!今は──」



ガラッ...



女「あ……」

村長「……なんと……」

赤子「?」

村長「…女よ」

村長「その赤子は何じゃ?」

女「………」

村長「お前の、子か?」

女「…………はい」

村長「…よもや、真であったとは…」

女「……」ギュ

赤子「…かぁ?」

村長「相手は誰じゃ」

女「お父様、この事は後ほど必ずお話し致します。ですから──」

村長「誰なのかと訊いておる!」

女「っ……」

村長「…おかしな話を聞いての。なんでも、この家に化け物が住み着いておるとか」

村長「まさかとは思うが、女」

村長「その化け物と子を成したなどと言うまいな?」

女「……」

村長「……」

女「……………」

村長「おぉ……なんということじゃ……」

村長「女、その子を貸しなさい」

女「…何をなさるおつもりですか」

村長「……」スタスタ

女「い、嫌です!来ないで下さい!」




336: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:30:12.89 ID:L/MaCyf+0


村長「…!」

赤子「……」

村長「こやつ、目の色が左右で異なるのか。……紅(あか)と碧(あお)の瞳」

村長「やはり化け物の子か…!」

村長「村へ帰るぞ、女よ」

女「話を聞いて下さい!この子もあの人も、決してお父様方が考えているような悪ではありません!」

村長「これはお前の身を案じて言っておるのじゃぞ!今ならまだお前は妖禍子に誑かされた人間として保護出来る!」

女「この子はどうなるのです…?」

村長「生かすことは許されぬ。いくらお前が愛したと言うても、化け物の間に出来た存在など間違いなく深い禍根を残してゆくからの」

女「…何故いつもいつもお父様方はそうなのですか」

女「この世界に生きているのは私達人間だけではないのに…!気に入らないという理由だけで他者を害せる程、人は偉いのですか!?」

村長「ええい、聞き分けのない子じゃ!」

村長「もうよい!腕尽くでも連れて行くぞ!」ガシッ

女「いや!やめてっ…!」

赤子「……」キィィン

バシュッ

村長「ぐぉっ…!?」

ドシャン!

女「え…?」

女(お父様…吹き飛ばされた…?)

女「…な、何が…」

赤子「かぁ、めっ」

女「貴方がやったの…?」

村長「……ぐっ……」

村長「なんと……危険じゃ……あまりに……邪悪……」ノソッ...

女「あ……あぁ……」

女「」ダッ!

村長「これ!待たんかぁ!!」



タッタッタッ...








337: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:30:49.35 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

巫女「御神様、どうぞお聞き下さい」

巫女「我ら村の者一同、妖禍子の保護に努めておりますが、ご存知の通りこの山の妖禍子も数が減ってきておられます」

巫女「再三の請いとなってしまいますが、どうかそのお力貸して頂けないでしょうか」



……………。



巫女「………」

巫女(……今日も駄目ね)

巫女「…また参ります」

巫女「彼らにあなた様の加護があらんことを」



...スッ



巫女「…!」

幼女「……」

巫女「…あなた様が…」

巫女「──トドノツマリ様……」








338: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:31:25.81 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

ケモノ「少し遅くなったな」ザッザッ

ケモノ「だが仕方あるまい」ザッザッ

ソッ(一輪の紅い花)

ケモノ「貴女に似合う花を見かけてしまったから、と言えば許してもらえるだろうか?」

ケモノ「……フッ」



...タッタッタッ



女「あなたっ…!」タッタッ

ケモノ「!」

女「はぁ……は……」

ケモノ「どうしたんだ」

ケモノ「…すまない、そこまで遅くなっている自覚はなかった」

女「いえ…違うのです…!」

女「どうしましょう……この子が殺されてしまう…!」

ケモノ「……何があった?」

女「お父様が突然、訪ねてこられたのです……あなたの事、知っているかのような口振りで…!この子も見つかってしまいました…」

ケモノ「貴女の父を、説得する事は出来ないか?」

女「無理です…!お父様は私の村の長なのです…」

女「先程だってこの子を生かしてはおけないと……人ならざる者との子はそれだけで深い禍根を残すからと…!」

女「どうして……この子に罪は無いのに……」ツー...

女「私は、あなた達を愛しているだけなのに……」ポロポロ

赤子「…かぁ」

ケモノ「……」

ギュ...

女「うぅ…」ポロポロ

ケモノ「案ずるな。貴女は何一つ間違った事をしていない」

ケモノ「貴方が俺を愛してくれたのと同じように、俺は貴女を愛する事が出来て良かったと思っている」

ケモノ「この子が居ることが、その証だろう?」

女「あなた……」ポロポロ...

ケモノ「周囲がなんと言おうと、三人で過ごしてゆけばいい」

赤子「……とぉ」

ケモノ「!…あぁ、俺もお前の事を愛しているさ」




339: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:32:12.46 ID:L/MaCyf+0


女「でも…もう私達は戻れません……あの家も、既に荒らされているでしょう…」

女「それに執念深い彼らのことです……こうしている今も、私達を殺す為に探し回っているかもしれない……」

ケモノ「………」

ケモノ「逃げよう」

ケモノ「最早それしか道は無い」

ケモノ「誰の干渉も受けず、静かに暮らせる所へ逃げるんだ」

ケモノ「……ともすれば一生人と関わる事が出来なくなってしまうが…それでも付いてきてくれるか?」

女「………はいっ!」








340: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:32:58.14 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

巫女「……お初にお目にかかります。あなた様が妖禍子を束ねておられる、トドノツマリ様でございますね?」

幼女「……」

幼女「妖禍子を統べる者は居ない」

幼女「我は只、自由を与え、此処に彼等の居場所を拵えんとするのみである」

幼女「だが、そなたの言葉通り、此の程彼等の減少が著しい」

幼女「数年祈りを捧げたそなたの信心に応え、我も手を差し出そう」

巫女「感謝致します」

巫女「…もう一つ、あなた様は私共、人の願いを聞き届けて下さる事もあるとお聞きしました」

幼女「人の心というものはまったく興味深い。其の心の震えを覗かせてもらう事は、確かにある」

巫女「そうでしたか。……では、私の願いもここで申し上げさせて頂きましょう」

幼女「妖禍子の保全であれば既に承諾したつもりであるが」

巫女「……」スッ(手を上げる)



ゾロゾロ



凶器を持った男たち「………」

幼女「……この者等は?」

巫女「御神様」

巫女「──どうか、死んで下さいますか」ニタッ

幼女「……貴様……」

巫女「ご安心下さい。お一人ではありません。たった今、今日までしぶとく生きながらえていた獣を追い立てているところです」

巫女「化け物同士仲良く、あの世に送って差し上げましょう」

幼女(……浅はかであったか。人間を安易に信じるなど、してはならなかったと言うのか)

巫女「やりなさい」

「うおぉぉ!」ダッ!

「死ね、化け物!」ブォン!



幼女「」スッ...



「ぬぉ…!」

「消えやがった…!?」

巫女「チッ…。動じるでない!こちらには封魔の札がある!」

サッ(札を掲げる)

巫女「……そちらへ逃げたようね」

「よし、追うぞ!」

巫女「皆の者!これは化け物を消し去る絶好の機会!必ず奴を仕留めるのです!」








341: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:33:40.93 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー



タッタッタッ!



ケモノ「」スタッ、スタッ

女「はぁ…はぁ…」タッタッタッ



「おい!向こうへ逃げたぞ!」

「追えー!化け物を逃すなー!」



ケモノ「む…正面に待ち伏せしているな」

ケモノ「やむを得まい。開けた場所になるが、西へ向かおう」

女「は、はい…」ハァ..ハァ..

ケモノ「…俺の背に乗るか?」

女「平気です…まだ走れます」

ケモノ「分かった。だが無理はするな」



ボォォ…



ケモノ「…!」

女「そんな、山に火が…!」

ケモノ「奴ら、ここまでするか…」

ケモノ「急ごう」



タッタッタッ







ーーー空き地ーーー

ケモノ(ここを過ぎれば、木々の生い茂る森へ入って行ける)

ケモノ(そうすれば奴らを撒くことも出来るだろう)

女「はぁ……はぁ……」

赤子「……」

ケモノ(…もう体力も限界に近いだろうに)

ケモノ「ここが最後の正念場だ。行けるか?」

女「はぁ…はぁ…」コクリ

ケモノ(…追い風に助けられたな。おかげで背後から来る者の臭いが察知出来る)




342: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:34:18.07 ID:L/MaCyf+0


ケモノ「……よし、今だ」スタッ

女「」タッタッ



タッタッタッ



ケモノ「……?」スタッ、スタッ

ケモノ(なんだ…この臭い……油か……?)

ケモノ(…………っ!!)

ケモノ(しまった!そういう事か!)





「──着火!」





カチッ

ブワァ!





女「きゃあっ!」

ケモノ「女!」

ガシッ...ギュ

ケモノ「無事か!?」

女「はい…なんとか…」



村長「ようやく追い詰めたぞ、化け物め」



女「お父、様……」

ケモノ「………」

村長「弓兵隊!構えろ!」

ギチッ...

女「もうやめて下さい!」

女「ねぇお願いです!私達は絶対にあなた方の邪魔は致しません!遠い所で、誰にも迷惑をかけずに生きていきます!」

女「だからもう放っておいて下さい…!」




343: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:35:08.67 ID:L/MaCyf+0


村長「……」

村長「放て!」

シュッ、シュシュッ!

女「嘘っ…」

ケモノ「捕まれ!」グイッ

サッ

ヒラ、ヒラリ

グサッ

ケモノ「ぬぅ…!」

女「あなた!」

村長「仕留め損なったか。……油矢じゃ!火の手を回せ!」

シュッ

ボオォ!

村長「…これで躱せまい」

赤子「……ふぇ」

オギャー!

女「!大丈夫、泣かないで。怖くないよ、お母さんがついてるからね」

ケモノ「……っ」

ケモノ「人間よ!問いたい事がある!」

ケモノ「何故我々を排そうとする!」

ケモノ「姿が異なるからか!或いは我々がお前達に害為す存在だからか!?」

ケモノ「後者であるというのなら、今一度考え直して欲しい!」

村長「…弓兵隊」

ケモノ「──俺と彼女のように、人と妖禍子は手を取り合い生活する事が出来るのだと!」

村長「放てぇい!!」



シュッ、バシュッ!



女(嗚呼…)

ケモノ(駄目か…)

赤子「オギャー!ンギャー!」

女(…だったらせめて)

ケモノ(…だが)

女・ケモノ(貴方だけは──)





──ザクッ、グサッ...








344: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:36:07.08 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー



メラメラ..ボオォ..



ケモノ「」

女「」

赤子「オギャー…!フギャー!」



村長「…赤子を庇ったか」

「村長…あの、良かったのですか?」

村長「何がじゃ」

「……女様の事……」

村長「……」

村長「わしの娘は一人だけじゃ」

村長「それより、赤子がまだ生きておる。息の根を止めてきなさい」

村長「奴らは何人も生かしてはならん。妖禍子は根絶やしにするのじゃ!」

「はっ!」

赤子「オギャー!」

ケモノ「……」

ケモノ(……すまない……俺が、同じ人間であったなら……)

ケモノ(…いや…)

ケモノ(そうではないな……種の壁を越えたからこそ、俺達は深く愛し合えた……)

ケモノ(お前を愛した二つの命があったこと……忘れ得ぬよう、お前に託そう……)

キィィ...

赤子「…ヒック…」

ケモノ(……生きて……くれ……)

...ザッザッ

「おぞましい怪物の子でなければ、お前も生きていけたろうな」

「じゃあな」スッ



ビュオッ!



「な、なんだ…!」

村長「む!?」



幼女「………」



「あのお姿は…!」

「まさか……トドノツマリ様!」






345: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:36:35.55 ID:L/MaCyf+0


幼女「……遅かったか」

赤子「…グスッ…」

オギャー…!



タッタッタッ



巫女「何を呆けているの!あれが妖禍子の頭領とも言うべき存在よ!早く殺しなさい!」

「そうか!奴を殺せば…!」

「人の住みやすい世界になるんだ!」

ドドドドッ!



幼女「……」

シュンッ



「また消えた!?」

「赤子も居ないぞ!」

巫女「往生際の悪い…!」サッ

巫女「……!?」

巫女(札が反応しない…!)

「巫女様、奴はどちらへ!?」

巫女「……追えないわ」

「え?」

巫女「方向が掴めないの」

「…そんな、それでは…」

巫女「……」ギリッ

巫女「口惜しいけど、何処へ行ったか分からない以上、この人数で探すのは現実的じゃない」

「そうですか…」

巫女「……あともう少しで始末出来たものを……!」



ケモノ「」

女「」



巫女「…そこの汚い死体を、早く焼いてしまいなさい」








346: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:37:11.52 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

幼女「……」

赤子「」スー..スー..

幼女「……謝罪しよう」

幼女「我がより賢明であれば、失わずに済んだ命であった」

幼女「……」

幼女「そして誓おう」

幼女「御前の身に危険が及ぶ事は赦さぬと」

幼女「──御前を封印する」

幼女「痛く苦しい封印ではない。平穏と静寂を伴う封印である」

幼女「…いずれ、封印なぞせずとも良い時代が訪れる、その時まで」



.........



=======








347: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:37:56.31 ID:L/MaCyf+0






それでも俺は──。

生まれて来て善かったのか…?

母よ……父よ……。








348: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:38:45.55 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー



ヒュルルルルル...

ドーン!



少年「!」ハッ

少年「ふぅ……ふぅ……」

少年(頭が焦げ付くような怒りと悲しみ……こんなの初めてだ)

少年(……最後に聞こえたあの声)



ーーーーー

──ここでこいつを突き落とせばいい

ーーーーー



少年(あの時の声だ)

少年(そして、繋がった。前に学校で見かけた変な服装の男……これはあいつ声)



ヒュルル...

ドドーン!



猫又娘「うー…花火の音が頭に響くぅ…」

少年(猫又娘さん…)

少年(…!そうだ、そういえば!)

夢見娘「……」ノゾキコミ

少年「うぉ!?」ギョッ

夢見娘「……」チラッ

包帯少女「」スー..スー..

少年「少女さん!」

少年(起きてない…?)

少年「夢見娘さん、少女さんは…!」

夢見娘「……大丈夫。ユメに呑み込まれるのは、回避できた……」

夢見娘「ちゃんと目は覚めるよ……」

少年「良かった…」

少年(………)

少年「…それにしても、今見てたのがあの男の過去ってことなんだよね」

夢見娘「……」コク

少年「あいつが人を消そうとしてる理由は、僕たち人間の身勝手な行い…」

猫又娘「人と妖禍子の間に出来た子供か」




349: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:40:00.66 ID:L/MaCyf+0


猫又娘(周りと違うことがあるだけで迫害される。それはいつの時代も変わらないんだ)

猫又娘(さっき私に近づいてきたのも)



ーーーーー

黒服男「──ならば何故、人間は俺達を封じ込めた?何故執拗に排斥しようとする?」

黒服男「──お前はこの問いの合理的な答えを持っているのか?」

ーーーーー



猫又娘(…あの問いかけの意味も)

猫又娘(あいつはきっと、出口のない理不尽な幻影に囚われ続けてる)

少年「僕さ…あいつの気持ちちょっとだけ分かっちゃう気がするんだ」

少年「自分の呼び方が変わってるからって、面白半分で僕に嫌がらせをしてきた同級生Aの奴ら…消えちゃえって思ったことが何回もあった」

少年「あいつの過去に比べたら、ちっぽけなことかもだけどさ」

猫又娘「少年君…」

猫又娘(……)

猫又娘「……ちょっち気になることがあるんだけどさ」

猫又娘「あの女の人が歌ってた子守唄。あれって何の子守唄なんかな?」

少年「え、子守唄……知らないな。僕、あれは初めて聞いた」

猫又娘「ふーん…」

猫又娘(なんだろう)

猫又娘(物心ついた時から、私が唯一知ってた唄)

猫又娘(……キミが気に入ってくれてた唄)




350: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:40:32.76 ID:L/MaCyf+0


包帯少女「ん……んぅ…」ゴロ...

猫又娘・少年「「!」」

猫又娘「…ま、とにかく今は少女さんをちゃんとしたとこで寝かせてあげよっか」

少年「うん、そうだね。…て、ちゃんとしたところって?」

猫又娘「少年君の部屋でいいじゃない」

少年「!?な、なんで僕の部屋…!」

猫又娘「つべこべ言わない。好きな女の子を地べたに置いとく気?」

少年「う……分かった」

猫又娘「よろしい」

猫又娘「少女さん運んだら、私はまたここで捜索を続けるから」

少年「トドノツマリ様を?…それとも、あいつ?」

猫又娘「………」

猫又娘「…へへ」

少年「………」

少年(猫又娘さん、そんな顔で笑うこともあるんだ…)

少年「…ありがとうね、夢見娘さん。おかげで少女さんを──」

少年「……居ない」

猫又娘「相変わらず幽霊みたいな子だよ…」



ドーン!ドドーン!



猫又娘「花火、綺麗だね」

少年「……うん」








351: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:41:15.95 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

黒服男「………」

黒服男「……母よ」

黒服男「貴女は何故、異形の者に愛を見出した?決して祝福される事はないと、知っていたはず」

黒服男「………」

黒服男「父よ」

黒服男「貴方は何故、俺に記憶を残したのだ。自らが殺される、そのような仕打ちを受ける中で俺に何を期待した?」

黒服男「…それでも人を愛していたと、言いたかったのか」

黒服男「……」

黒服男「……」





黒服男「否」





黒服男(そうではなかろう)

黒服男(俺が為すべき事、貴女方が成しえなかった事)

黒服男「………」

黒服男「人の世が、ただ一つの純然な愛をすら奪う存在と為るのならば…!」

黒服男「俺は人の世の下らぬ業を奪う修羅と為ろう!」

黒服男「貴様ら人間の価値がどれ程矮小なものか、身を以て知るがいい!」



...ゴオォォ



黒服男「あわれあわれや」

黒服男「だれぞおにか」

黒服男「てのなるところ」



ゴゴゴゴゴ...!



黒服男「さいてさいてや」

黒服男「ふたつのかげ」

黒服男「だれなくところ…」








352: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:42:19.90 ID:L/MaCyf+0

ーーー少年の自室ーーー

プルルルル プルルルル

少年「……」

プルルルル...プツッ

『ただいま電話に出ることが出来ません。ピーっという音の後に、用件をお話しください』

少年「…出ない」

少年(少女さんの家、今誰も居ないのかな。少女さんからいざという時のために教えてもらってた家の番号、間違ってることはないはずだけど…)

少年(……誰も居ないといえば、ここに帰ってくる途中、誰ともすれ違わなかったな)

少年(お祭りにはあれだけの人が居たのに、帰り道は不気味なくらい静かだった)

包帯少女「……」スー..スー..

少年「……」

少年(猫又娘さんは今頃あの山に戻ってる頃か…)

少年(僕だけまた何も出来ない…)

少年(──なんてな)

少年(そんな考えはもうしない。僕はきみが目を覚ますまで見守っているよ)

少年「…ん?」

(カバンからはみ出たアヤカシノート)

少年「……」



ーーーーー

猫又娘「──今度は楽しいことでも書いてみなよ」ニッ

ーーーーー



少年「……」スッ



カチカチ

サラサラサラ...



『7月29日  お祭り日和

少女さんとようやく本当の意味で仲直りが出来た。やっぱり僕は少女さんのことが好きなんだ。
お祭りは結局、花火どころじゃなくなっちゃったけど、次は二人で見られたらいいな。』



少年「……よし」パタン

少年「ふぁーあ…」

少年「さすがに、何日も歩き回ってたら疲れるな…」

少年「……」

少年「ちょっとだけ……ほんの仮眠程度だから…」



ゴロン...








353: ◆YBa9bwlj/c 2020/02/03(月) 03:43:25.88 ID:L/MaCyf+0

ーーーーーーー

包帯少女「……んん……」

包帯少女(……!)パチッ

包帯少女「…ここは…?」

仔猫「……」グッスリ

少年「」グー..グー..

包帯少女「………」

包帯少女(少年君の部屋…かな)

包帯少女(昨日、どうしたんだっけ)

包帯少女(確か少年君と境内の方まで行って、それから…)

包帯少女(……)

包帯少女(そっか、多分あのまま倒れちゃったんだ)

包帯少女(…とっても理不尽な物語だった)

包帯少女「……」

包帯少女「…暗いな。今何時だろう」

ゴソゴソ スッ



スマホ『09:00』



包帯少女「…?」

包帯少女(9時?…夜の?)

シャッ(カーテンを開ける)

包帯少女「──っ」

包帯少女「……え……」





ゴゴゴゴ...(一面黒紫色の空)

ウヨウヨ...(跳梁跋扈する妖禍子たち)





包帯少女「……………」

包帯少女(………!)グッ...








355: @ramiasu2270 2020/02/18(火) 22:10:29.41 ID:Yxrt9fKO0

■第九幕 約束■



ーーー少年の自室ーーー

包帯少女「起きて、少年君、猫又娘さん」ユサユサ

少年「う…んー……!」

少年「少女さん…!目、覚めたんだね」

少年(しまったな、そんなに寝ちゃってたか…)

仔猫「……zzZ」

包帯少女「……」

ムンズ

仔猫「!?」ビクゥッ

ドロン

猫又娘「なになにっ!?何が起きたん!?」

猫又娘「……」

猫又娘「気持ち悪い…何なん、この嫌な気配…」



(黒紫色の空、蔓延る妖禍子)



猫又娘「う…わ、通りで…」

包帯少女「ぼくが起きた時にはもうこうなってた」

少年「え、午前9時って…嘘だろ、こんなに暗いのに…」

猫又娘「仕方ないよ。これもう普通の空じゃない」

包帯少女「…!少年君!」

包帯少女「きみの両親は!?」

少年「両親?」

包帯少女「今居るの!?この家に!」

少年「…見てくる!」



.........








356: @ramiasu2270 2020/02/18(火) 22:13:39.31 ID:Yxrt9fKO0


少年「……居ない、どこにも」

少年「携帯も置きっぱなしだった」

包帯少女「……」

少年「…あの、実はさ、昨日の夜少女さんの家に電話した時も誰も出なかったんだ」

包帯少女「…そう、やっぱり…」

猫又娘「もしかして私たち以外全員……」

猫又娘「…ごめん…私が昨日の夜、何も見つけられなかったから」

少年「なんで猫又娘さんのせいなんだよ。昨日は緊急事態のようなものだったんだし、そんな中で捜し出せって方が難しいって」

猫又娘「うん、それでもね……時間は無限に待ってくれるわけじゃないなんて分かってたはずなのに…」

包帯少女「……そんなの――」



パシン!(自分の両頬を叩く)



二人「!?」ギョッ

猫又娘「…ニッシシ」

猫又娘「落ち込んでると思った?はっずれー♪」

猫又娘「こんな土壇場で弱音吐いててもどーしよーもないもん!もうここまできたらやることはひとつ!」

猫又娘「鬼も蛇もいっぱい出るだろうけど、期せずして私らにこの町の命運がかかってしまったんだから……」

猫又娘「――運命共同体!出発せにゃなるまいな!」ビシッ

少年「……」

包帯少女「……」

猫又娘「…あれ」

包帯少女「…ちょっとむかっとした。耳摘んでいい?」

猫又娘「なぜ!?」

少年「…本当、どんな時でもブレないよなぁ」

少年(僕なんてこんな悪夢みたいな世界が怖くてたまらないのに…)

少年(…今だって、足の震えを抑えるのがやっと――)

...ソッ

少年「…!」

包帯少女「大丈夫。きみは強い」

少年「……少女さん……」

包帯少女「…ふふっ」

猫又娘「二人の世界に入ってるとこ悪いけど、早いとこ出よう」

猫又娘「…これは私の勘なんだけどさ。なんとなーく、あの人は私らを待ってる気がするんよね」

包帯少女「敵の期待を裏切っちゃ、悪いね」

猫又娘「そゆことよ」

少年「その感じ、僕にも分かる」

少年「…多分あいつが待ってるのってさ…」



三人「――南町神社だ」








357: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:20:48.77 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー

「キシャア!」

派手娘「ふん!」ドゴッ

「キュー…」ベシャ...



――スルスルスル グイッ



派手娘「!」

「…グォォ…」シメツケ

派手娘「あたしに、触るんじゃないわよ!」ブン!

ビターン!

派手娘「一生這いつくばってなさい」



カツカツ...

ズズズ...



派手娘「…あぁもう!キリがないわね!」

派手娘「あんたらどんだけ暇なのよ!外に出てすることが鬼ごっこ?」

ヒュッ

派手娘「あたしにぶっ飛ばされに来たのは感心するけどね」サッ

派手娘「来るならそこに一列に並びなさいっての!」バッ

ドシーン!

派手娘「全員畳んでやるわ。そうすればこの安っぽい三流映画みたいな演出も終わんでしょ?」







トリップミスしていたため、トリップを変更しました。



358: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:23:46.02 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー

猫又娘「ほっ!えい!」ポン、ポン

(ネズミ、ウサギに変えられた妖禍子)

包帯少女「」タッタッタッ

少年「わっ…とと」タッタッ

包帯少女「少年君!」

少年「平気…転びそうになっただけだから」

猫又娘「にしてもこれはやり過ぎだよねぇ…!うじゃうじゃと、こんなにどこに隠れてたんよ」

少年「昨日のお祭りの人が全部妖禍子に化けたみたいだ…」

包帯少女「本当に…ね!」ブォン!

ドシャッ

包帯少女「…っ」ズキッ...

猫又娘(…少女さん、やっぱり…)

少年「あっち!妖禍子が少ない道がある!」

猫又娘「うわ、あからさまに怪しい…」



ゾロゾロゾロ



猫又娘「…ま、他に選択肢もないみたいだね」

猫又娘「行くよ!私から離れないで!」



タッタッタッ...



三人「」タッタッタッ

包帯少女「……っ」タッタッ

猫又娘「……」タッタッ

猫又娘「…少女さん」ボソッ

包帯少女「?」

猫又娘「その包帯の下……今、どうなってるん?」

包帯少女「……」

猫又娘「ここんところずっと感じてたんだ。少女さんが包帯を巻いたとこから、妖禍子の気配がするの」

猫又娘「……少女さん、あなたもしかして――」

包帯少女「しー…」

包帯少女「」フルフル

包帯少女「…ぼくはね、これで満足してる」

包帯少女「彼を最後まで支えることができればそれでいい…そうやって思わせてくれた。今のぼくはそれが全てだから」

猫又娘「……」

包帯少女「…ありがとね」ニッ

猫又娘(………)




359: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:24:39.15 ID:Yxrt9fKO0


少年「は…は……」タッタッ

猫又娘(少年君はきっとこのことを知らない……この子が少年君の支えになってるのは間違いないだろうけど)

猫又娘(じゃあそれが失くなってしまったら…?)

少年「――見て!」

猫又娘「!」

少年「向こう、神社の方向だよな!?」



(小山ほどの巨大な黒塊)



猫又娘「ひゃあ…」

少年「なんだよあれ…まさか神社ごと消されたのか…?」

包帯少女「ううん、よく見て。あれの後ろに神社の山がある」

少年「ってことはあそこを通らないといけないってことか…」

少年「迂回して裏からまわった方がいいかもな」

猫又娘「!…そうも言ってられないみたい」



バサバサ シュルルル

カツカツカツ ズズ..ズ..



包帯少女「…囲まれた」

猫又娘「案の定奴らの罠だったわけだね…分かってたとは言え、この量は骨が折れるなぁ」ウヘェ...

包帯少女「けど、進むしかない」

猫又娘「当然!」

「フシュルルル...」

少年「っ…」ゴクリ

少年「ぼ、僕は何をすればいい?僕も出来るならこいつらと戦いたい…!」

猫又娘「それはちとリスキー過ぎんね」

包帯少女「少年君は、ぼくたちの無事を願っててくれないかな」

少年「それって…僕はまた何も出来ずに…」

包帯少女「そうじゃないよ。きみの力が必要になる場面は絶対にやってくる。それまできみが無事でいてくれることが何より大事なの」

包帯少女「きみはぼくが守る。だからぼくたちが無事でいることを、願っていてほしい」

少年「……分かった」

猫又娘「少女さん、くるよ!」

包帯少女「……」グッ(バットを構える)



サッ!



ポン、ポン

グシャッ



.........






360: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:25:54.38 ID:Yxrt9fKO0


少年「――猫又娘さん後ろ!」

猫又娘「!」パッ

ポン

「…チュー」

猫又娘「いつの間に後ろに…!」

ガッ

包帯少女「いっ…!」

包帯少女「…この!」ブン!

バキッ

少年「大丈夫!?」

包帯少女「うん、ちょっとかすっただけだから」

猫又娘「いやーしっかしまずいね…これまともに相手してたら永遠に終わんないんじゃないの…!?」

猫又娘「なーんかさっきより包囲網も狭まってるしさ…!」

包帯少女「あっちこっち動き回らなくて済むじゃない?」

猫又娘「少女さん、余裕ありますな…」

猫又娘「私もまだまだ負けてらんないねっ!」





――ドゴォ!





猫又娘・少年「「!?」」バッ

包帯少女「……」チラッ

派手娘「邪魔なのよ、あたしの前を塞ぐなっ!」ズシャッ

夢見娘「……」テクテク

猫又娘「えぇ…素手であんなに…」

少年「夢見娘さん!」

夢見娘「……//」ソッ(派手娘の陰に隠れる)

派手娘「?」

猫又娘「…何しに来たんさ?」

派手娘「決まってんじゃない。あんたらの情けない姿を見に来たのよ」

派手娘「なに?友達が消されたからってこんな化け物共と遊んでるわけ?ほんと見てて飽きないわ、あんたら」

猫又娘「なんでそういう言い方しか出来ないん!?事ここに至ってまでさ!」

猫又娘「私のこと嫌いでもいいよ!けどこういうときくらい邪魔しにこないで!」




361: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:26:55.11 ID:Yxrt9fKO0


派手娘「………」

派手娘「どうせ、あの神社に行くとか言うんでしょ?」

「ギャギャギャ!」

派手娘「」ドスッ

「グ…ギャ…」パタ

派手娘「…ふん」ザッ



ジジジジ...



少年(あれは…爆竹!?)

派手娘「耳、塞いでなさい」

派手娘「」ポイポイ、ポイ



パン!パン!パァン!



猫又娘「へ……にゃ……」クラクラ

少年(う…相変わらずすごい音だ)

包帯少女「……!」



(妖禍子の群れの一角に穴が空く)



派手娘「ほら、行くならさっさと行けば?」

猫又娘「……」アゼン

猫又娘「…少年君!少女さん!」

猫又娘「二人とも先に行って!」

少年「猫又娘さんは…!?」

猫又娘「私らはこの子たちの相手をしてから向かう!こんなのに追われてたら元凶君どころじゃないっしょ?」

猫又娘「分かったらとっとと走る!」

少年(……)グッ

包帯少女「ぅ…」ズクン...

少年「少女さん、立てる?」

包帯少女「う、ん……」

少年(やっぱりさっきので怪我を…?)

少年「……」

...ギュ(手を握る)

包帯少女「…!」

少年「…僕についてきて」

包帯少女「ん、エスコートよろしく」ニコッ



タッタッタッ...






362: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:27:40.39 ID:Yxrt9fKO0


猫又娘「ふぅ、ひとまず共倒れは避けられたかね」

猫又娘「で?どういう風の吹き回し?」

派手娘「別に。あんたたち、コレを終わらせる当てがあるのよね?だったら早く終わらせて欲しい、それだけよ」

派手娘「というかあんたも行きなさいよ」

猫又娘「……やーっぱ素直じゃないんねぇ」ポツリ

猫又娘「どーせ、ここの連中は自分だけで十分だとか言うつもりでしょ」

派手娘「分かってんならわざわざ訊くな」

猫又娘「確かに派手娘さんなら吹き飛ぼうが刺されようが死ななそうだけどさ」

「ミィ!」ヒュッ

猫又娘「」ダッ

ポンッ

猫又娘「…と」シュタ

猫又娘「猫の手くらいあっても損はしないよ?」ニシシ

派手娘「……勝手にすれば」








363: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:29:40.61 ID:Yxrt9fKO0

ーーー神社ーーー

(……まだ、足りぬか)

(………)

(更なる怪共の使役を要するというか)

(………)

(…躊躇いなど、一切不要)



...ズォオオオ



巨頭「……」ズシン...

(大小様々な妖禍子達)








364: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:30:10.48 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー



タッタッタッ



少年「思った通り、この辺に奴らはほとんどいない」タッタッ

包帯少女「ほとんどはさっきの所に集まってたみたいだね」タッタッ

少年「そりゃ多いはずだ…」

包帯少女「でもぼくたちも油断は――」

包帯少女「――少年君、止まって!」

少年「っ!」ピタッ...



巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「くそ…こんなときに…!」



巨頭「………」

巨頭「……」ズシ..ズシ..



少年「…?」

少年「襲ってこないのか…?」

包帯少女「こっちに気付いてはいるはずだけど…」



「グォ…」ズルズル

「」バサッ、バサッ

「キュ、キュ」カサカサカサ



包帯少女「それどころか、こっちを避けてる」

少年「さっきの場所に向かってるのかな…もしあそこに集まるように仕組まれてるんだとしたら…」

少年「…猫又娘さん…」

包帯少女「……」

包帯少女「行こう。ぼくたちは後ろを振り返っちゃダメだ」

少年「!…そうだね」



タッタッタッ



.........








365: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:31:58.37 ID:Yxrt9fKO0


少年「なんなんだろう、こいつ」

包帯少女「……」ミアゲ



(鎮座する黒塊)



少年(ドス黒い…って表現が似合う。よく聞く、吸い込まれそうな黒とかじゃなくて、もっと濁った黒)

少年(見てるだけで不安になってくる…)

包帯少女「この道、少年君と神社に来た時にも通ったよね。こんなに広い更地じゃなかったはずだけど」

包帯少女「…ここにあった家も住んでた人も、消されたんだ」

少年「……」

少年(こんな、滅茶苦茶にされた僕らの町が……本当に元に戻るのだろうか…)



ブルッ



二人「!」

包帯少女「…今、これ少し大きくなった?」

少年「僕にも見えた。こいつがここまで大きくなったのって、ちょっとずつ成長してるから…?」

二人「……」





黒服男「その通りだ、人間」





少年「……お前……」

包帯少女「……」








366: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:35:14.58 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー

ガンッ! ズシャッ!

派手娘「」ズガッ

猫又娘(おぉ…鬼神の如き、とはまさしくああいうのを言うのでは)

夢見娘「……」ポワッ

「ゥ゙……」パタン

猫又娘(あれは、眠らせてるんかな?)

夢見娘「……」チラ

夢見娘「……夢を見せてあげてるの。それだけ……」

猫又娘「そ、そなんだ」

猫又娘(気付かれてた…)

派手娘「無駄話してる暇あんなら手動かしなさい!」

猫又娘「なにさ!サボってんじゃないかんね!」ポンッ

派手娘「勝手にここに居残ったんだからもっと役に立ちなさいよ」

猫又娘「派手娘さんのために残ったわけじゃないですしー。自意識過剰なのん??」

派手娘「…あんたも一緒にぶちのめしてもいいのよ」

猫又娘「おーこわ」



ササッ

シュッ ドカッ

ヒョイッ

ポン、ポンッ



猫又娘「……派手娘さんはさ、なんでこいつらと戦ってたの?」

派手娘「あ?」

猫又娘「人助けをしようなんて考えてたんじゃ…ないよねっ」テイッ

派手娘「……」

派手娘「気に入らないのよ」バシ

派手娘「あたしらの前にいきなり現れて、荒らしてく」

派手娘「別に好き勝手生きる分には構わないわ。けどこそこそとあたしにちょっかいかけるってんなら容赦しない」

派手娘「あたしはあたしが気に入らないものをぶっ飛ばしてるだけよ!」ドスッ

派手娘「誰かさんみたく世界を助けるだの高尚な志なんか持ってないわ、残念だったわね!」ズガン

猫又娘「……へんっ」

猫又娘「私とおんなじじゃん」

派手娘「は?バカ言ってんじゃ――」

猫又娘「私だって、私が笑っていられるように」

猫又娘(キミともっと笑っていられるように)

猫又娘「私の世界を守ってるんだ。人のためじゃない、私のために私は動いてる」

猫又娘「だから、おんなじだ」サッ

ポンッ




367: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:36:58.69 ID:Yxrt9fKO0


夢見娘「………」

派手娘「…そういう顔で笑えるんじゃない」

猫又娘「よっ、それっ」ヒョイ、ポスッ

派手娘「だったらここには自己中が二人居るだけってことね」スッ..ドゴッ

猫又娘「え~?三人の間違いじゃなくて?」

夢見娘「……否定はしない……」

派手娘「とんだ烏合の集まりだわ」

猫又娘「とか言いつつ、息はぴったりだと思わない?私ら」

夢見娘「……」テッテッ

派手娘「このアホ共がのろまなだけよ」ガスッ

猫又娘「またまた、照れちゃって~」

派手娘「」ビュンッ

猫又娘「あぶなっ!?」ササッ

派手娘「わるいわるいてがすべったわー」

猫又娘「なんたる棒読み…」

猫又娘「…とは言え」



ゾロゾロ ワラワラ



猫又娘「捌いても捌いてもまるで減りませんな」

猫又娘「いい加減一休みくらいさせてほしいんだけど…」




368: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:37:42.23 ID:Yxrt9fKO0




..ズシン..ズシン



巨頭「……」

猫又娘「…まじ?」

派手娘「チッ、なによあのデカブツ」

猫又娘「ここに来て増援て…ちょっとばかしキツイんじゃないかなぁ…」

夢見娘「……あれは、大丈夫」

猫又娘「どこが!」



巨頭「…ガァア!」ブオッ!

ズシャン!

「キシャア!」



猫又娘「え……妖禍子同士で争ってる…?」

派手娘「ついにイカれたわけ?」

夢見娘「……」



ズシン バキィッ!



猫又娘「…なんだか分かんないけど、私らも便乗させてもらうよ!」

夢見娘「……」コクッ

派手娘「めんど…私の前に立つなら全員潰すわ」



ダッ――








369: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:40:26.05 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー

黒服男「その物体がなんだか、お前には分かるか?」

少年「……少女さん、僕の後ろに」

包帯少女「ありがとう。でも二人で、ね」

黒服男「…ほう。興味深いな」

黒服男「殺し殺された者の築く関係として、実に奇異ではあるまいか?」

少年「……」グッ...

黒服男「これはな、人間」

黒服男「人の憎悪の凝集体だ」

少年「憎悪…?」

黒服男「そうだ。如何なる人間の中にも存在する、人の本質。お前の中にも眠っていたろう。その女を憎く思う感情が」

少年「ふ、ふざけんな!あれはお前がそう仕向けたんじゃないか!」

黒服男「俺は助長をしたまでだ。もし本当に彼女を信頼していれば、あの悲劇は起こらなかっただろう」

少年「信頼って……僕は……」

少年(…僕が少女さんを信じていなかったから…?元を辿れば、結局僕の卑屈さが原因だってことかよ……)

包帯少女「それは違う」

包帯少女「他人を端から信じられる人なんていないんだよ」

包帯少女「みんな誰だって少しずつ相手を知っていって、時間をかけて信用出来る関係になっていく」

包帯少女「あなたがしたのは、その過程を踏みにじって無理矢理憎しみを向けただけ。そんなの、人の本質でも何でもないってあなたも理解していたんでしょう?」

黒服男「…知ったような口を利いてくれるな」

包帯少女「分かるよ。だってあなたのお母さんとお父さんがそうだったはず」

黒服男「っ!」

包帯少女「…ぼくたちは、あなたの過去を見たから」

黒服男「……そうか」

黒服男「ならば、今すぐ自害しろ」

包帯少女「……」

黒服男「俺の心情が分かるのだろう?俺が望むは唯一つ。世界の癌たる人間の根絶」

黒服男「残るはお前達を含めた三人だけ」

黒服男「いや、より正しくは二人と言うべきか」

包帯少女「………」




370: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:42:28.32 ID:Yxrt9fKO0


少年「…なぁ、お前」

少年「――泣いてるのか?」

黒服男「…?」

少年「泣いてはないか。けど…」

少年「さっきからずっと、悲しげな顔をしてる…」

黒服男「………」

黒服男「泣く、だと?」

黒服男「……そうだな。お前のような人間に馬鹿にされる事など、この上なく屈辱でしかない」

黒服男「人間よ、俺が今すぐお前を消せば何が起こるか分かるか?」

黒服男「お前の持つ憎悪が、この醜い塊に飲み込まれるんだ。そして僅かに肥大する……ごく僅かに」

黒服男「これはこの町の人間共が抱え持っていた憎しみの集体だ。どうだ?貴様の抱いた憎悪ですらこれを前には霞む」

黒服男「貴様らのような汚れた存在が俺を哀れむとは、何たる傲慢だ?」

包帯少女「…気付いてる?あなたは今、あなたの嫌う人みたいな考え方しか出来てない」

包帯少女「光があれば陰があるように」

包帯少女「勝者がいれば敗者がいるように」

包帯少女「暖かい感情があれば、目を背けたくなるような感情もある。それが人間なの」

包帯少女「そういう二面性ってね、必死な人ほど片方しか見えてないものなんだよね」

包帯少女「あなたも同じ。視野の狭い、可哀そうな"ヒト"」

黒服男「………小娘」

黒服男「生き損ないのお前が俺を焚き付けることに何の意味がある?」

黒服男「惨たらしい死を所望か?」

黒服男「否、横の男が苦しみのたうつ方がお前には堪えるか」

包帯少女「……」

黒服男「終焉に立ち向かう人間が如何程のものか、見極めるつもりであったが…蛇足だったな」

黒服男「どの道貴様らには消えてもらうが、最後に余興を見せてくれ」

黒服男「――娘、男を殺せ」

少年「っ…」

黒服男「……」ニィ...

黒服男「お前は一度、この男に殺されている。その報復をこやつに受けさせてやるべきだろう」

黒服男「或いはそれが出来ないとあれば…先に同じ、自害を選べ」

黒服男「さて、二つに一つだ」

包帯少女「……」

少年「……」

少年(………)

包帯少女「………いいよ」



包帯少女「――死んであげる」






371: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:44:11.66 ID:Yxrt9fKO0


包帯少女「それであなたの気が済むのなら」

少年「な、何言ってるんだよ!そんなの……!」

少年「少女さんが死ぬくらいなら俺が殺された方がマシだ!もう、きみが死ぬのは…!」

包帯少女「心配しないで」ニコッ

少年「……………」

包帯少女「さぁ、選んだよ。これでぼくが死ねばいいんだね?」

包帯少女「でもその前に聞かせて」

包帯少女「あなたは何のためにこの世界を終わらせるつもり?」

黒服男「…どこまでも、俺を嘲るつもりか?」

包帯少女「人を消すことだ、なんて、ぼくはそんなことが聞きたいんじゃない」

包帯少女「あなたは"誰のため"にそれをしているの?」

黒服男「……」

包帯少女「…お母さんと、お父さんのためだよね?」

包帯少女「ねぇ、もう一回考えてほしいんだ」

包帯少女「あなたがぼくたちを憎む理由にしている両親は、あなたに何をしてあげたのか」

包帯少女「お母さんがあなたを産んだ意味。お父さんがあなたに記憶を残した意味…」

包帯少女「…それでももう、止まれないって言うなら」

包帯少女「その悲しみも嘆きも全部、ぼくが受け止めてあげる」

黒服男(………気に喰わぬ)

黒服男(なんだその泰然とした様は。死が目の前に迫っているのだぞ。一度経験したであろう、苦しい死が)

包帯少女「……」

黒服男「……」ギリ...

黒服男「……気が変わった」

包帯少女「え?」



シュン!



黒服男「」ガシッ(首を掴んで持ち上げる)

包帯少女「あ゙…がっ……」

少年「少女さん!」ダッ

黒服男「っ」キィィン

バシュッ

少年「ぐぁ…!」ドサッ




372: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:45:10.65 ID:Yxrt9fKO0


黒服男「…ふ…はは」

黒服男「苦しいか、娘…!」

包帯少女「ぅ……ケホッ」

黒服男「このまま少しずつ縊り殺してくれようか!」

少年「や…めろ…」グッ...

黒服男「だが一つだけ助かる道をやろう」

黒服男「この男を身代わりにすると言え!そうすればその苦痛から解放してやる…!」

包帯少女「…ぃ…やだ……」

少年「少女さん…!頼む、もういいからっ…!」

黒服男「…っっ!!」

黒服男「何なんだ貴様は!!」ギュゥ!

包帯少女「――……」

黒服男「首を縦に振るだけでよいのだぞ!お前を苦しみの淵に追いやった輩なぞ、同じ目に遭わせてやればいい!」

黒服男(反吐が出る。上辺だけの好感情など今のお前の命を救ってはくれぬ。さぁ醜悪な本性を曝け出すがいい…!)

包帯少女「――」

黒服男(なのに何だ……全てを見透かしたような目……そんな目で)

黒服男「…俺を見るな!」

黒服男「さあ言え!断ればお前を殺し、この書物の妖禍子として朽ちるまで使い潰してやろう!」

少年(アヤカシノートを…!あいつ…!)

包帯少女「……、…」フル..フル..

黒服男「……………そうか」

少年(やめろ……やめてくれ……)

黒服男「なら望み通り…」

黒服男「――死ね」




373: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:45:48.51 ID:Yxrt9fKO0






少年「やめろぉおおおおおおお!!!」





――ピカッ!!





黒服男「!!」

少年(!?ノートが…これって…!)



...ゴォオオオオ!



「キシャアア!」

「」バサ、バサ...

「グゥゥウ…!」



少年(妖禍子が…)



ヒュオオオオオ!



「ギギギ…」

「ジッ!ジィッ!」



少年(吸い込まれていく…!)



.........








374: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:47:00.67 ID:Yxrt9fKO0


少年(………)

少年「………?」



(妖禍子の居ない南町)



少年(……さっきの、本当に全部ノートに…?)

包帯少女「……けほっ…」

少年「!少女さん!」タッタッ

包帯少女「…少年、くん…?」

少年「平気!?死なないよね!?」

包帯少女「…ふふっ、大袈裟だよ」

少年「――!良かった…!」ギュッ

包帯少女「……」...ギュ



黒服男「……」ウナダレ



少年「……あいつ……」

包帯少女「………」

少年「……」

トットットッ

少年「………」

黒服男「……」

少年「」スッ

ガサッ(ノートを手に取る)

少年「……」パラパラ...

少年(…どのページもびっしり、妖禍子で埋まってる)




375: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:47:35.66 ID:Yxrt9fKO0


少年「………」

少年「……お前――」

ポン

少年「!」

包帯少女「少年君」フルフル

少年「…けど」

包帯少女「きっと、もう何もしないよ」

黒服男「……」

少年(……全く動かない。そもそもこいつ、生きてるのか?)

少年(とにかく)

少年「…これで終わったんだよな…?妖禍子の奴らも消えて、いつも通りの日が戻ってくるんだよな?」

包帯少女「……」ミアゲ



(黒紫色の空)



包帯少女「まだ、みたい」

少年「え……」

少年「そんな…これ以上何をしろって…」

包帯少女「……」

包帯少女「…神社へ行かないと」

包帯少女「全てが始まったあの場所で、まだしなくちゃいけないことが残ってるんだ」

包帯少女「もうひと頑張りだね」

少年「……よし」



テクテク...








376: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:48:08.87 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー

猫又娘「おー…」

猫又娘「いやはや、あれだけの妖禍子がぜーんぶ吸い寄せられてくのは圧巻でしたなー」

派手娘「……手、きったな」

夢見娘「………」

猫又娘(上手くやってくれたんだね、少年君、少女さん)

猫又娘「……」フゥ...

夢見娘「」スクッ

...テクテク

猫又娘「あれ?夢見娘さん?」

夢見娘「……まだ、終わってない」

夢見娘「私たちも、行かないと……」

猫又娘「…ま、そうだよね」

猫又娘「ちょっとくらい休憩したかったなぁ…はぁーあ」

猫又娘「派手娘さんはどうする?多分ここに居ても家に帰っても、すぐ町は元通りになると思うけど」

派手娘「あたしも行くわ」

猫又娘「…ん」








377: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:50:04.17 ID:Yxrt9fKO0

ーーー石段麓ーーー

少年「…ここ登るの、何回目だっけ」

包帯少女「さぁ…でももう一生分は登った気がする」

少年「まったくだ」ハハッ

少年「……」キョロ、キョロ

少年「まだ屋台とか残ってるんだ」

包帯少女「お祭りやってたの昨日の今日だよ?人が居なくなって片付けられてないだけじゃないかな」

少年「そうかもね」

少年「…そういえば少女さん、結局昨日の花火見れなかったんだよな」

包帯少女「きみに助けてもらってたからね」

少年「……来年は」

少年「二人で来よう。ぐるっと屋台回って、花火見てさ。普通に楽しもうよ」

包帯少女「…今度は流されないようにね」クスッ

少年「!だ、大丈夫!今年ので学んだから!」

包帯少女「だといいけど、ふふっ」

少年「ぅ…登ろ」

包帯少女「うん」



トットットッ



少年「……」トットッ

包帯少女「……」トットッ



――トクン



包帯少女(…!)

包帯少女「……」トッ...

パッ(繋いでいた手を離す)

少年「…?少女さん?」

包帯少女「………」

包帯少女「…ごめん少年君」

包帯少女「どうやらぼくはここまでみたいだ」

少年「??…何が?」

少年「あ、もしかして手痛かった?悪い、配慮出来てなくて…」

包帯少女「自信を失くさないでね。後はきみ一人でも出来るはず」

少年「…?さっきからなんの話を――」

少年(―!)

少年「…その目は…?」

包帯少女「あぁ通りで。視界がさ、濁ってきたと思ったよ」

少年(包帯に巻かれてない左目が、奴ら…妖禍子の目にそっくりだ…)




378: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:50:42.37 ID:Yxrt9fKO0


...グリュ ビリビリ!

少年「!?」

少年「し、少女さん…腕が…!トゲみたいなのが…!?」

包帯少女「……きみには、あまり見られたくなかったんだけどな」

包帯少女「黙っててごめんね。見ての通り、ぼくはそろそろ行かなきゃいけない時間なんだ」

少年「行かなきゃ…って、どこにだよ!?」

包帯少女「本来居るべき場所に」

包帯少女「一度は死んだ命。きみに蘇してもらって、きみの成長を見守ることが出来て、ぼくは嬉しかったよ」

少年「……そんなこと、言わないでくれよ……」

少年「嘘だよな…?きみは居なくならないよな…?」

包帯少女「……」ニコッ

メリッ!

包帯少女「グゥ…!」

少年「!…やだ……少女さん…!」ポロ..ポロ..

包帯少女「…もう…強い人は、泣かないんじゃナかったの?」

少年「きみと居られないんじゃ強くても意味なんてない!」ポロポロ

少年「なぁ早く上へ行こう!?あの神社でトドノツマリ様が待ってるんだろ!?だったらまた頼めばいい!きみを元に戻してくれって!」ポロポロ

包帯少女「ううん、これは変えられないから」

少年「そんなこと言うなよ…!きみが諦めたら本当に間に合わなくなるだろ…!」

包帯少女「……大丈夫」

包帯少女「きっとまた会エルから」




379: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:51:35.23 ID:Yxrt9fKO0


包帯少女「そうだ、これ」スッ

少年「…バット」

包帯少女「うん。そんなオンボロでもさ、結構昔かラ使い続ケテきた相棒なんだ」

包帯少女「…きみニ預かってイテほしい」

少年「……………」



ベリベリ! バキッ!



包帯少女「ゥ゙ア゙!」

少年「少女さんっ!!」

包帯少女「…さ、ハヤク行っテ…!ぼクをミナイで!」

少年「で、も……」

包帯少女「早クッ!!」

少年「――……、っ……」

少年(……!)ギリッ

少年「」ダッ



タッタッタッ...



包帯少女「……ソレデ、いイノ……」

包帯少女(………)

包帯少女(…神様、聞こえていたら、どうかお願いします)

包帯少女(彼は十分にその責を果たしました。ぼくを守ろうとしてくれました)

包帯少女(ですからどうか…すくわれた結末を下さい)

包帯少女「………」ジッ

包帯少女(――例え繋いだこの手が離れても……大丈夫)

包帯少女(約束だよ)





また会える。





ベキベキッ!

バサッ――








380: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:53:27.52 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー



タッタッタッ



猫又娘「…!」タッタッ

猫又娘(…ちょっとだけ感じるこの気配…妖禍子?)

猫又娘(……)

猫又娘「……!?」ギョッ



黒服男「……」



猫又娘「………」

派手娘「…何してんの、置いてくわよ?」

猫又娘「あー、えと…」

夢見娘「……」ジッ...

猫又娘「先、行ってて。私もすぐ追いつくから」

派手娘「…そ」



タッタッタッ...



猫又娘「……」スタ、スタ

黒服男「……」

猫又娘「………」

ソー...

ポスッ(頭に手を乗せる)

黒服男「………失せろ」

猫又娘「!…びっくりした。てっきりもう植物状態になってるんかと思ってた」

黒服男「……」

猫又娘「あなたの髪、結構柔らかいんね。意外」ナデ..ナデ..

黒服男「何をしに来た。……嗤うなら嗤え、殺すなら殺せ」

猫又娘「んーじゃあ、なんで道の真ん中でへたり込んでたの?」

黒服男「…最早我が身を起こす事すら叶わぬ…骸も同然だ」

黒服男「……お前に情けがあるのなら、俺に構うな」

猫又娘「……」ナデナデ

黒服男「……」




381: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:56:53.87 ID:Yxrt9fKO0


猫又娘「…昨日のあなたの質問、私なりに考えてみたんだ」

猫又娘「人がなんで一方的にあなたたちを排除しようとするのか、だったよね」

猫又娘「……」



猫又娘「怖いから」



猫又娘「…じゃないかなぁ」

黒服男「………」

猫又娘「お化け的な怖さとかじゃないよ?多分それは知らないものに対する怖さなんよ」

猫又娘「何も人に限った話でもなくてさ、例えば臆病なワンちゃんは知らない人が来たら吠えて威嚇するよね?そーいうのと一緒」

猫又娘「得体の知れない存在に周りをうろちょろされるより、消してしまえーってなっちゃったんだよ」

猫又娘「…つまりそれってさ、裏を返せば、お互いちゃんと知ることが出来たら人と妖禍子が一緒に暮らすことも出来るってことなのでは?」

猫又娘「なんて考えてみたり」

黒服男「……また妄言か」

猫又娘「んーん、妄想なんかじゃないよ」

黒服男「人間の持つ俺達への感情は、容易には変えられぬ」

猫又娘「そーだね。だからゆっくりでもさ、歩み寄っていければいいんさ」

猫又娘「私みたいに」ニヒッ

黒服男「………おめでたい奴だ、お前は」

猫又娘「あなたがそれを言う?」

猫又娘「あなたのご両親が、そう出来たのに」

黒服男(――)

猫又娘「……」

黒服男「……」




382: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:57:38.39 ID:Yxrt9fKO0




ナデ..ナデ..



猫又娘「……ね。子守唄、覚えてる?」ナデ..ナデ..

黒服男「………」

猫又娘「………」ナデ..ナデ..

猫又娘(………)

猫又娘「…ねむれねむれやゆらりゆられ」~♪

猫又娘「たなびくくものごとし」~♪

黒服男「……」

猫又娘「おやまもさともよるのなか」~♪

猫又娘「はかなきゆめみんとす」~♪

黒服男(……お前は……)

猫又娘「あわれあわれやだれぞおにか」~♪

猫又娘「てのなるところにおちて」~♪

黒服男(……俺と、何が違う……?)

猫又娘「けものもとりもかごのなか」~♪

猫又娘「うたかたのゆめみんとす」~♪

黒服男(人でも、妖禍子でもない……歪な存在……)



広い背中を頼るしろい手

重なる刹那願いをかけた



黒服男(……)



年月も水屑も

流れ流れてめぐるあはれ






383: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:58:26.96 ID:Yxrt9fKO0




ーーーーー

――貴方への愛が途絶える事も無く

ケモノ「――この子と共に生きよう。それが我々に出来る恩返しだ」

――千代に流れ継いで行きますように

女「……はい。私が貰った愛を次はこの子に…」

――其の名を愛したふたつの花を

女「…そうです。この子の名前、今ようやく決まりました」

――どうか覚えてます様に

ケモノ「聞かせてもらおうではないか」

――もしも貴方の嘆きが闇を囲い

女「"ナガレ"。というのはどうです?」

――ヒトを愛せなくなったとしても

女「この子に注ぐ愛が、永遠に流れ継いで行くように…」

――貴方を変わらず愛する花を

女「貴方を愛する私達の事を」



――どうか覚えてます様に



ーーーーー



猫又娘「――どうか覚えてます様に」~♪

黒服男(…知らなかった)

黒服男(己が授かった名……)

黒服男(そこに込められた愛の意味……)

黒服男(……俺の中は、何で満たされていたのだろうか…)

猫又娘「ねむれねむれやゆらりゆられ」~♪

猫又娘「はかなきゆめもかごのなか」~♪

黒服男(………眠い、な………)



ねむれねむれやゆらりゆられ

はかなきゆめもかごのなか…





スー...





猫又娘「……」

猫又娘「……」

猫又娘(………)

猫又娘「おやすみなさい」






384: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 22:59:21.73 ID:Yxrt9fKO0

ーーーーーーー



タッタッタッ!



少年「」タッタッ!



タッタッタッ!



少年「……っ」タッタッ!

少年(くそ……ちくしょう…!)

少年(なんで少女さんが消えなきゃならないんだ!)

少年(あの包帯――結局僕がどう足掻いたところで、こうなることは決まってたのか…!?)

少年「……」タッタッ

少年(……このノートは全部知ってたのかな)

少年(これがあったから少女さんと知り合って…猫又娘さん、派手娘さん、夢見娘さん……普通なら関わることもない人たちと過ごすようになっていって)

少年(…妖禍子を収束させたのもこいつだった)



(物言わぬノート)



少年(お前は一体なんだ。なんで僕の持ち物なんだよ)

少年(僕はどうすれば少女さんを助けることが出来たんだ…)

少年「……はぁ……はぁ」タッタッ




385: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:00:39.29 ID:Yxrt9fKO0


少年(……思えば)

少年(彼女はいつも僕のことを見ていてくれた)



ーーーーー

少女「――諦めないで、ちゃんと精一杯抵抗してるんだなって」

ーーーーー



少年(どんな時でも弱音を吐かずに)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくも、またきみとお喋りしたい」

ーーーーー



少年(ふと気付くと、僕の前に立ってて…それが僕の道しるべになっていた)



ーーーーー

包帯少女「――ぼくはね、きみと出会えて良かった」

ーーーーー



少年(僕だって、少女さんに勉強を教わるのは分かりやすかったし、二人野球も暇つぶしなんかじゃないくらい楽しかったよ)

少年「はぁ…はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……はぁ…」タッタッ

少年「!っと…」ヨロッ...

少年「……はぁ……は…」...タッタッ

少年(………)





――大丈夫。きっとまた会えるから。





少年(……)グッ...!

少年「……約束だよ……はぁ…」タッタッ

少年「はぁ……は…」タッタッ

少年「――絶対、忘れないから!」



タッタッタッタッ...



少年「はぁ……え゙ふっ」

少年「…っはぁ……はぁ……」

少年(着いた…)

少年(…階段、こんな短かったっけ?けど足がものすごく怠い…)




386: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:01:08.70 ID:Yxrt9fKO0


少年「……ふぅ……」

少年「…!」



幼女「……」



少年(……小さな女の子……)

少年(顔を見なくても分かる。きっとあの子が)

少年(トドノツマリ様)

少年「……」...ザッ

幼女「……」

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「………」(そっと振り返る)

少年(!…この子もだ)

少年(あいつと同じ、どこか悲しげな顔をしてる)

少年「……」ザッ、ザッ

幼女「……」

少年(――そうか)

少年(あの時、きみから見た僕もきっと)



その時何を考えたかは正直あまり覚えてない。



少年「……」スッ(手を差し出す)



ただ、どんな疑問よりも先に口を衝いて出ていたんだ。





少年「友達に、なってくれませんか?」








387: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:02:14.94 ID:Yxrt9fKO0


幼女「………」

少年「………」

幼女「……これは、異な事を」

幼女「然し」



...キュ



幼女「感謝する、創造主よ」

少年「……うん」

少年(暖かくも冷たくもない、不思議な手だ…)

幼女「ふむ…」

幼女「付喪神の仕業でもあるまいが、何れも正しく所有者の元へ還る、か」

少年「…?」

幼女「其の書物も然り」

少年「アヤカシノート?」

幼女「些か、実直過ぎる名を付けたものよ」



...タッタッタッ



派手娘「やっぱり、あんたか」

夢見娘「……」

少年「二人とも無事だったんだ。よかった」

少年「…猫又娘さんは…」

派手娘「一緒。後から来るってよ」

少年(……)

少年「あのさ…ここに来る途中、少女さ――」

少年「……人の形をした妖禍子を見なかった?」

派手娘「……」チラリ

夢見娘「………」モジッ...

少年「あ、いや夢見娘さんじゃなくて…」



猫又娘「おい!おーい!」スタッ、スタッ



猫又娘「」バッ

クルクルクルッ シュタ!

猫又娘「…っと」

猫又娘「主役は最後に登場!」

猫又娘「…間に合った?遅刻?」




388: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:03:15.57 ID:Yxrt9fKO0


少年「猫又娘さん!」

少年「間に合ってるよ。僕もついさっき来たばかりだから」

猫又娘「丁度いい時に来れたかなー」

猫又娘「世界を救った英雄さんの話も聞けそうだしね」

少年「……え、僕のこと?」

猫又娘「もち」

猫又娘(……)

猫又娘(少女さんがいない)

猫又娘(さっきのはやっぱり…)

少年「……」

幼女「案ずるでない。役者は揃った」

幼女「嘆きに満ちたこの夜に、終止符を打とうぞ」

四人「……」

猫又娘「で、何をするのでしょうか」

夢見娘「……妖禍子の封印……」

幼女「是」

少年「妖禍子ならここに…」

夢見娘「……」フルフル

夢見娘「その子たちは、単純な存在だったからそこに納まったの……」

夢見娘「……私みたいに、少年くんに創ってもらったり、"違うもの"と混ざってたりすると、話は別……」

猫又娘「……」

幼女「今この世を停滞せしめている歪みは、放たれた妖禍子の消失により除かれる」

幼女「書物も合わせ、封じねばならぬ」

幼女「そして残すは二つ」

夢見娘「……」

猫又娘「……ふー」

猫又娘「なーんとなく、そんな予感はしてたけどねぇ」

猫又娘「封印される前に知っておきたいことがあるんだけど、いい?」

幼女「…言ってみよ」

猫又娘「どうして今になってこんなことが起きたのかなって」




389: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:04:12.04 ID:Yxrt9fKO0


猫又娘「あの男が産まれたのって大分昔なんよね?…あいつの親が殺された時、まだ赤ん坊だったみたいだけど、何百年も後のこの時代で恨みを晴らす理由があったんかな?」

幼女「……」

幼女「……彼の者は元より封じられていた」

少年「あの村長さんたち、あいつだけ殺すんじゃなくて封印したんだ…?」

幼女「封じたのは我だ」

猫又娘「!」

幼女「彼の者をあのまま生かしたとて、人間の手が迫る事は明白」

幼女「ならば、何人も触れられぬ様封ずる事が彼等の安寧となる」

幼女「其の浅慮に囚われた我は、同様にして妖禍子共を封じていった」

幼女「…この社の中へ」

猫又娘「じゃああのお札は」

幼女「我が施したものだ」

幼女「彼等を護る揺籠と思い、長い時の中見続けていた」

幼女「……だが、其れでは何も終わらぬ。彼の者の憎悪は徐々に、然し確実に渦を巻き…」

幼女「いつしか世を歪ませる螺旋となりて、外界へ放出した」

猫又娘「……」

猫又娘「あなたも…よく無事だったね」

幼女「彼の者の記憶に、我は無かったようだ」

幼女「其の事実が吉と出たか凶と出たかは…最早確かめる術はないが」

少年「………結局………」

少年「事の発端は何もかも……人にあったんだな」

少年「妖禍子だ化け物だって騒いでおいて……本当の"アヤカシ"は僕らのこの――」

少年「胸の中にあるんだろうな…」

派手娘「……」

幼女「………」

幼女「妖禍子とは、そなた達が付けた呼称。我等は単調な運動しか出来ぬ者、高度な思索を行う者であろうが、そこに在る事が全て」

幼女「元々善悪なる概念は存在せぬ」

幼女「…この言葉に、納得出来ようか?」

少年「え…納得出来るか、って?」

少年「あぁ…まあ襲ってきた奴らだってあいつに操られてただけで悪意があるようには見えなかった」

少年「むしろ助けてくれる妖禍子さんがいるくらいだし…」

夢見娘「………」

猫又娘「えへへ…」

幼女「…であれば、よいのであろう」

幼女「創造主よ、そなたが其れを忘れずにいれば、人の世の心地は変わって行ける」

幼女「…そう信ずるに値する」

少年「………」




390: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:04:51.39 ID:Yxrt9fKO0


幼女「……我も、そなたに謝罪せねばなるまい」

少年「…?」

幼女「――現世に戻した女。其の命、再び消ゆる事」

幼女「対価を欲したにも関わらず、間に合わせられぬ事」

少年「………」

少年(…少女さん…)

幼女「女の魂魄は…湖沼の底へと戻った」

幼女「あの湖沼には浮かぶ事の無い数々の念が漂っていたが」

幼女「今や一つとして残っておらぬ。何にも邪魔されず、洗われてゆく事だろう」

猫又娘(驚きだ……この子に人を生き返らせる力まであったなんて)

猫又娘(……だったら……そう願えばキミともう一度会うことも……)

猫又娘(………)

猫又娘(…いや、そうじゃないよね)フゥ...

派手娘「……」

派手娘(…善悪がないって何よ。そんなの無機物と変わらないじゃない)

派手娘(んなこじ付けに納得しろなんて…)

幼女「人間」

派手娘「…あたし?」

幼女「約束しよう」

幼女「人の――そなたの領域への侵食が金輪際無い事を」

幼女「人間との衝突は負の結果を生む。我等の存在の固定化が何時終わるかは分からぬ。だが、其れまでは此処で揺蕩い続けようぞ」

派手娘「それで…この町の守り神ってわけ?」

幼女「……我は、斯様な在り様しか見えぬのだ」

派手娘「………」




391: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:05:40.54 ID:Yxrt9fKO0


幼女「閑話休題」

幼女「…猫又よ」

猫又娘「うん、もう十分。サンキューね」

幼女「では…封印は一度に一つずつ」

幼女「先ず其の書物を、此方へ」

少年「はい、どうぞ」

幼女「……」スッ



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...



少年(光が湧いたと思ったら…ノートが消えた)

猫又娘「おぉ…綺麗…」

幼女「苦痛は無い」

幼女「次は――」

猫又娘「はいはい!私が先!」

派手娘「バカなの?給食のデザートじゃないのよ」

猫又娘「あれ?なに?心配してくれてるん?あ!もしかして私が居なくなると寂しいとかー?」ニヤ

派手娘「チッ…うざい…」

少年「――僕は、寂しいよ」

猫又娘「……」

少年「猫又娘さんが居てくれてから、ここまで来れたんだし……少女さんと仲直りするのだって……」

猫又娘「少年君」

少年「!」

猫又娘「湿っぽいお別れはなし!そんな長々と喋んないで、一言にぎゅっとまとめておくれよ」

少年「一言…??」

少年「…さようなら?」

猫又娘「んーん」

少年「お元気で」

猫又娘「変わってないなぁ」

少年「えー……」

少年(……!)

少年「…ありがとう」

猫又娘「いぇい♪」ピース

猫又娘「じゃー、封じちゃってくださいな」

幼女「……」スッ




392: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:06:30.29 ID:Yxrt9fKO0




猫又娘(人間社会は難しい)

猫又娘(色んなものがない交ぜになってて、ぐちゃぐちゃで、最初はびっくりしたっけ)



...フワァ



猫又娘(でも、キミが楽しい処世術を教えてくれたから)

猫又娘(……テストの点数は悪かったけど、私の生き方は何点だったんかなぁ)



ヒュウウゥゥ



夢見娘「……」

ポワァ...



猫又娘(………)

『――なんで暗い顔してるん?笑って笑って!』

猫又娘(……え?)

帽子『へへへっ』

猫又娘(あ……なんで……?)

帽子『お疲れ様』

帽子『僕の代わりにみんなを笑わせてくれたんだって?よく頑張ったね』

猫又娘『……っ……』

タッタッタッ! ギュッ

猫又娘『うん…うん…!頑張った…!』ギュー

猫又娘『私頑張ったんだよ…!』

猫又娘『だって!キミとまた、一緒に笑いたかったから…!』ポロ..ポロ..

帽子『とか言いながら泣いてんじゃん?』

帽子『僕と笑うんでしょ?ほら、せーの!』

帽子『にひひ』ニコッ

猫又娘『……にひひっ』ニッ



フッ...






393: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:06:56.43 ID:Yxrt9fKO0


子猫「……」

子猫「」クシクシ

少年「猫に、変身したのか?」

幼女「其奴は既にただの猫だ」

子猫「……」

ダッ

スタッ、スタッ、スタッ...

少年(行っちゃった…)

派手娘「…あんた、今何したの?」

夢見娘「……夢を見せた……」

夢見娘「それだけ……」

夢見娘「……」...テクテク

少年「…夢見娘さん!」

夢見娘「………」

少年「ずっと僕たちを助けてくれてたんだって、聞いたよ」

少年「ごめん…勝手に僕が作り出しておいて、僕たちの都合で封印なんてさ…」

夢見娘「……私は、きみのものだから、いいの……」

少年「でも…」

夢見娘「……少年くんが私のことを考えてくれた。それだけで嬉しいから」

夢見娘「……」ニコッ

少年「…!」

夢見娘「……お願いします……」

幼女「…もうよいのか?」

夢見娘「……」コクリ

幼女「……」スッ



夢見娘(……いつか……)

夢見娘(きみと同じ、人として生まれ変われたら……)

夢見娘(その時は、きみと一緒に……)



...フワァ

ヒュウウゥゥ

フッ...






394: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:07:36.35 ID:Yxrt9fKO0


少年「………」

幼女「………」

派手娘「………」

少年(これで、今度こそ終わった…?)

幼女「…後ろを見よ」

少年「?」フリムキ

少年「あ…」



(地平線に僅かにのぞく太陽)



少年「朝が……来たんだ」

派手娘「………」

派手娘「……」ザッザッ



ザッザッザッ...



少年(!…派手娘さん…)

少年(ろくに話せなかったな)

幼女「そなたも帰るがよい。直、世の再生が始まる」

幼女「…我が為せるのは此処まで。最早この場所に留まる意味はない」

幼女「さらばだ」...スッ

少年「…あ、あの!」

幼女「……」チラ

少年「さっき、少女さんはあの池に戻ったって言ってましたよね」

少年「それは…少女さんも封印されちゃったってことですか?」

幼女「……」

少年「また会おうって、言ってくれたんです」

少年「少女さんは、また戻ってこれるんですよね…?」

幼女「………我の力のみでは、不可能だ」

少年「……そう、ですか」

幼女「だが」

幼女「嘗てそなたが見せた意思を超え、想い続けられるのならば、或いは」

少年「想い、続ける…」

少年「……それが出来たらどうなり――」

シーン...

少年(…いない…)




395: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:08:08.66 ID:Yxrt9fKO0


少年「……」

少年「……」

少年「………」

少年「………」ミアゲ



(昇りつつある朝日)



少年「……眩しいな」

少年(僕にとってのきみは、この太陽みたいなものだったのかもしれない)

少年「…いや、ちょっと違うか」

少年(太陽に手は届かないけど、きみの手を握ることは出来たんだ)



スッ(手をかざす)



少年「僕の声、聞こえる?」

少年「待ってて。今度は僕がきみの手を引っ張ってさ、連れ出してあげる。きみをひとりにはしないから」

少年「"大丈夫、約束でしょう?"」

少年「だから、また――」





あの綺麗な声で笑って欲しい。








396: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:37:41.77 ID:Yxrt9fKO0

■終幕 友達■


ーーー9月3日 学校ーーー



ガヤガヤ



「おはよ!」

「久しぶりー!なんか焼けたね?」

「夏休み中ずっと外で部活してたからさ~」



ワイワイ



少年「……」テクテク

「あ、先生おはようございます」

教師「おう、おはよう。結構遅刻ギリギリだぞ?始業式の日だからって甘く見てはもらえんからな」

「はーい」

少年「……」テクテク

少年(…皆、すっかり元通りだ)

少年(何事もなかったみたいに学校へやってきて、前と同じ日々を過ごしていく)

少年(事実、皆にとっては何もなかったんだろうけど…)

少年「……」テクテク

少年(夏休みの間、僕は少女さんを探し続けた)

少年(神社には勿論、あの池にも学校にも足を運んだ)

少年(結果は言わずもがな。手掛かりを見つけるどころか、日に日に薄れていく彼女の痕跡を忘れないようにするだけで精一杯だった)

少年(…いつの間にか、少女さんのLINEが消えていた。登録していたはずの電話番号も)

少年(少女さん家を訪ねてはないけど、行ったところできっと……)

少年「………」テクテク

少年(それでもきみは確かに存在していたんだ)

少年(きみから預かったこのバットが、それをはっきりと主張してくれる)

少年「……」テク...



(教室のドア)



少年(……)

ガラッ

「!…なんだ少年か。先生が来たのかと思ったぜ」

「なぁそれより続き話してもいいか!?夏祭りで見かけたそのめっちゃ可愛い子がさ──」

ザワザワ



(空いた少女の席)



少年「………」

少年(……だよな)




397: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:42:43.38 ID:Yxrt9fKO0


派手娘「ちょっと、邪魔」

少年「あ、ごめん」ススッ

派手娘「ボケッと突っ立ってないでとっとと席着けば」トットッ

少年「…うん…」

トットットッ

少年「……」

同級生A「そんでよー、──!」ペチャクチャ

同級生B「またあのアホから──」ケラケラ

少年(あいつらに絡まれなくなったこと以外は、進級したての頃と変わらないな)

少年「……」

少年(…前、何をして過ごしてたっけ)

教師「うーっす。HR始めるぞ」ガララ

教師「お前らちゃんと勉強してたかー?夏サボった奴は冬にかけてやらんと本当に行けるところなくなるからな?」

派手娘「……」フテブテー

教師「…派手娘」

派手娘「なんですか?」

教師「足、直しなさい」

派手娘「………」

ガタン

教師「連絡事項と配布物が大量にあるから、ちゃっちゃと片付けてく──おっと、まず出席か」

教師「あー、初っ端から来てない奴がいるな。あいつは夏期補習もサボってたなそういや…」

教師「まあいい」

教師「同級生A」

同級生A「うぃ」

教師「同級生B」

同級生B「はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」




398: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:44:26.99 ID:Yxrt9fKO0


少年(…やっぱり、もう一回トドノツマリ様に掛け合ってみた方がいいのかな)

少年(あの人だけじゃ難しいって言ってたけど、もうそれくらいしか僕に思い付くのは──)

教師「猫──」





ダッダッダッ ガラッ!





猫又娘「ごめんなさーい!遅れましたー!」





少年「!!」

派手娘「……はぁ…?」

少女「もう…どうせ遅刻なんだから歩いてっても変わらないのに…!」ゼェ..ゼェ..

猫又娘「えー?出席終わるまでに着いたらセーフだよ!それくらいおまけしてくれるよね、先生!」

教師「ダメだ」

猫又娘「」ガーン

少女「ほら」

教師「ま、その心意気は褒めてやろう。早く席に行け」

猫又娘「うー…」トボトボ

教師「猫又娘、お前は後で職員室だ。夏の補習の件について話がある」

猫又娘「あんまりだっ!」

教師「自業自得だ」








399: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:46:47.23 ID:Yxrt9fKO0

ーーー始業式後ーーー

猫又娘「うぇー…少女さーん、信じらんないくらいの量の追加課題出されたー」

少女「気の毒にね。応援してるよ」

猫又娘「手伝ってー!」ウエーン

少女「無理だよ!ぼくも夏の課題全然やれてないのに」

少女「訊くならちゃんと夏休み満喫してた人にしなくちゃ」

少女「ね、少年君」

少年「……あ」

少年「え……少女、さん?」

少女「なに?」

少女「…お」

カラン

少女「バット、ちゃんと持っててくれたんだね」

少女「ありがと」フフッ

少年「ほ、本物?」

少女「……うん」



少女「約束。また会えた」



少年「──!」バッ

──ピタッ...

少年(…あっぶな)

少女「わ…よく自制してくれたね。教室の真ん中で抱き着かれるのはさすがにぼくでも恥ずかしいよ」クスッ

少年「ご、ごめん」

少年「でもなんで…いつから…?」

少女「気が付いたのはついさっき」

少女「起きたら今日だったんだ。戻ってこれたのが本当に今日なのか…そこはあんまりよく分からないけど、すくなくともあの日から今日までの記憶は無いし、宿題も真っさらだったから」

猫又娘「夏の補習もサボってることにされました…うぅ…」

猫又娘「だからせめて遅刻だけは避けたかったのにぃ…」

少女「夏休み過ごせてたところであなた、宿題なんてやらなかったでしょうに」

猫又娘「そそそ、そんなことないよ!生まれ変わった私の切れ味、甘くみてるなっ!?」

少年「切れ味ってそういう使い方するっけ…」

派手娘「ふーーん?是非見てみたいものね」

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「やー…どーもどーも」アハハ...




400: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/18(火) 23:51:05.65 ID:Yxrt9fKO0


派手娘「どうせあのインチキマジックでお茶を濁すだけでしょうが」

派手娘「しかも、なーにさも何でもありませんでしたって顔で居るのよ。封印されたんじゃなかったの?」

猫又娘「封印されたんはさ、妖禍子じゃん?」

猫又娘「だから私も少女さんも人間の部分だけがこうやって戻ってこれたと思ってるんだー」

猫又娘「…まあつまり、私のマジックパワーはもう使えないんよね…」トホホ

派手娘「へぇ、そういうこと」

ガシッ

猫又娘「…にゃ?」

派手娘「じゃあ小賢しい真似はもう出来ないのね。残念だわー、あんたの手品楽しみにしてたのに」ニコニコ

猫又娘「ははは…それはどうも」

猫又娘「あの、この手は…?」

派手娘「ん?安心しなさい。最低限の勉強くらい、あたしが直々に仕込んであげる」ニッコリ

猫又娘「遠慮しますっ!!?」

派手娘「あんたのためを思ってやってやんだから感謝して欲しいわねー」ズルズル

猫又娘「いーやーだー!そもそも仕込むってなにさ!?教える、じゃないん!!?」ヒキズラレー

タスケテー!

少女「あーあ、行っちゃった」

少女「ま、あれくらい荒療治しないとやるようにならないから丁度いいかもね」

少年「………少女さん」

少女「ん?」

少年「また、よろしく」

少女「……」

少女「…友達として?」

少年「え?それはどういう…」

少女「ふふっ。さぁ?」

少年「なんだそれ…!気になる、教えてくれよ!」

少女「知らなーい。きみから言ってくれないならぼくも教えないよ♪」

少年「なっ…」

少年「………僕は………ただ、きみが………」

少年「……………」




401: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/02/18(火) 23:53:31.18 ID:Yxrt9fKO0


少女「…ね」

少女「今日、久々に二人野球しに行こうよ」

少年「!…いいけど」

少女「猫又娘さん、二つ編みさんと、派手娘さんも誘えば来てくれるかな?」

少年「それもう二人ではないよね…」

少女「始まりはきみとぼくの二人だったんだから"二人"でいいじゃない?」

少女「それより、さ!」



ギュッ(手を握られる)



少年(…あ)

少女「声かけに行かないと、二つ編みさん帰っちゃう」

少女「行こ?」

少年「…行くか」






402: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/02/18(火) 23:54:51.92 ID:Yxrt9fKO0






『9月13日  眩しいくらい、夏晴れ

少女さんが案外、ずるい一面を持っていることを知った。包帯を着けていた頃の彼女は何となく大人しかったけど、今日は大分はしゃいでたのかな?でもそんなとこもひっくるめて、僕は……』





パタン

少年「………」

少年「………」

少年「………」

少年「……」フ...








403: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/19(水) 00:13:49.37 ID:qYbXnGr+0

ーーーーーーー

「C、帰ろうぜ……ってなんでそんなに菓子ばっか持ってきてんだ?」

同級生C「あれ…本当だいつの間に」

「どんだけ腹減ってたんだよ」

「ちょっと俺にもくれない?」

同級生C「おぉ、いいよ。あんま取り過ぎんなよ?」

「わーってるって。これとか懐いな~。俺こっちのやつ好きな──…?お前、泣いてんのか?」

同級生C「え…?」ツー...

同級生C「は?え?なんだこりゃ…」ポロポロ

「お、おいおい…悪かったよそんなにお気に入りの菓子だと思わなくて…」

「馬鹿か、そうじゃねぇだろ絶対。どうしたんだよ?」

同級生C「分っかんね。なんだろうな」ポロポロ

同級生C「…あ、これあれだ。何となくだけどさ」ポロポロ

同級生C「──すっごい好きなものを、失くした気分、だ…」ポロポロ

同級生C「なん、だろうな…ほんと……」ポロポロ...

「何があったか知らんけどさ、元気出せよ」ポンポン

「話くらいなら聞いてやるぜ」

同級生C「……サンキューな……」








404: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/19(水) 00:15:02.09 ID:qYbXnGr+0

ーーーーーーー

二つ編み「お二人に話があります」

二つ編み父「おー、どうした?」

二つ編み母「あんまり暇じゃないから手短にね」

二つ編み「わたし、祖母の家で暮らします」

二つ編み母「……は?」

二つ編み父「…本気か?」

二つ編み「諸々の手続きはこちらの方で進めておきました。後はお二人の承諾と印鑑だけです」スッ

二つ編み「金銭のことでも一切あなた方に迷惑をかけないので安心して下さい」



ーーーーー

少女「──それ、あなたが我慢する必要ないよ」

少女「──おばあちゃんにお話してみたら?」



老婆「──ばあちゃんの家でかい?」

老婆「──…長いこと面倒見てあげられないかもしれんけども、それでいいならうちに来なさい」ニコ

ーーーーー



二つ編み(…ありがとう)

二つ編み「今までお世話になりました」ペコリ








405: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/19(水) 00:17:47.30 ID:qYbXnGr+0

ーーー神社ーーー



……………。



スッ...



幼女「………」

幼女「……」ジッ



(長い石段)



幼女「………」

幼女(心とは誠、関心の尽きぬ代物よ)

幼女(どれ程小さき存在であろうと、その在り様で如何様にも魅せる事が出来る)

幼女(…そして其れは、人のみが持つ特権に非ず)

幼女(碧のケモノ)

幼女(彼の者も又、今際の際己が心を強く鳴らし、自らの生涯と番の影を遺していった)

幼女(前者は彼等の子へ)

幼女(後者は猫又へ。……そして彼の書物へも)

幼女(なればこそ、あの書物は創造主の強き心に惹かれ、共鳴したのであろう)

幼女「……世界は、共に在る事を選択したのかもしれぬ」

幼女(そなた達が其の可能性を魅せた様に)

幼女(…住む世界異なれど、心を通わせた二つの命が在った様に)



ーーーーー

少年「──友達に、なってくれませんか?」

ーーーーー



幼女「勇む心を持つ者よ」

幼女「人と妖禍子、共存の道を示した其の所業」

幼女「礼を言う」

幼女(…ふむ、そなた達の言葉を借りるならば)





幼女「──ありがとう」





ー終わりー




406: ◆7jwTcAQqF.Dj 2020/02/19(水) 00:26:07.52 ID:qYbXnGr+0

以上で完結となります。

元にさせていただいたのは、sasakure.UKさんが出しているアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」と「不謌思戯モノユカシー」に収録された楽曲たちです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。


元スレ
SS速報VIP:少年「アヤカシノート」