6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:29:20.02 ID:DcmOn1T+0

 常盤台寮内、御坂・白井部屋。
 ここではいつものように、いつも通りの光景が繰り広げられていた。

黒子「お姉様ぁーん! お風呂上りでホコホコのいい匂いのお姉様をカリカリモフモフしたいですわー!」

御坂「ええいやめんか!」

 風呂上りの御坂に飛びつく黒子。それに電撃を放つ御坂。いつも通りの光景である。

黒子「お姉様は本当につれないんですのね。たまには羽目をはずしてみてはいかがですか?」

御坂「羽目を外したらナニをハメられるかわかったもんじゃないわ」

黒子「お姉様ったら卑猥ですのね。でもそんなお姉様も――もぎゃっ!」

 くねくねと身を捩りながら近づく黒子に、御坂は再び電撃を浴びせる。
 多少強めに撃ったつもりだったが、黒子は不気味に喘ぐばかりだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:31:01.27 ID:DcmOn1T+0

黒子「お姉様の愛のムチかと思えばこれくらい快感の範疇ですわ! もっとくださいましお姉様ぁ!」

御坂「……はぁ。もう疲れたわ。寝る」

黒子「一緒に、でございますの?」

御坂「誰が寝るか。もし寝てる間に変なことしたら超電磁砲だからね」

 言いながらもそもそとベッドに潜る御坂。しかしふと動きを止め、黒子に向き直り、

御坂「黒子のこと……信じてるからね」

 などと言い、あまつさえ優しく微笑むのである。これには黒子も赤面せずにはいられず、脳内メモリに永久保存作業に移行せざるを得なかった。
 そしてこの一言が決定的で、丑三つ時に御坂に不埒を働こうとした黒子は良心の呵責に耐えられず、結局何もせずに夜が明けてしまった。
 そんな日常。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:32:19.20 ID:DcmOn1T+0

 翌日の夕方、風紀委員の仕事を終えた黒子を伴った御坂は、上条当麻に出会った。
 そうしていつも通り闘いを挑み、有耶無耶にされて終わる。いつも通りのことだったのだが。

黒子「お姉様は、よほどあの方がお好きみたいですのね」

御坂「は、はぁ!? なな、なに言ってるのよ!」

 ふと漏らした言葉に御坂はあっという間に赤面する。わかりやすすぎるほどにわかりやすいのだが、それでも気づかない者が世の中にはいるものだ。

黒子「もういっそ正直に打ち明けてみてはいかがですの? 真正面から向かえば、いくら鈍くてもわからざるを得ませんわよ」

御坂「だって、その、は……恥ずかしいじゃない、そんなの」

黒子「もじもじするお姉様も最高ですわ――ひでぶっ!」

 そうしてまた電撃。何を言えば電撃が飛ぶかわかっているだろうに、黒子は敢えて言う。黒子は女だが変態と言う名の紳士なのである。
 電撃を食らった後冴えた頭で黒子は考える。どうしたらこのツンデレビリビリガールを幸せにできるのかを。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:34:06.56 ID:DcmOn1T+0

黒子(性別の壁なんか越えて私が幸せにしてあげますわ、と言いたいところですけど)

 黒子はちらりと御坂を見やる。
 電撃を発したことでいくらか落ち着きを取り戻したようだが、顔は赤いままだ。

黒子(自分の幸せを押し付けることが愛だとは、私は思いませんのよ。お姉様にとって一番の道を探すのが、お姉様に恋する私の務め)

黒子(では……あの殿方とくっつけるのが一番?)

 そう考えた途端、黒子の胸がじくりと痛む。

黒子(……それがお姉様にとっての幸せなら、黒子はいくらでも応援しますわよ、お姉様)

御坂「……黒子? なんか泣きそうな顔してるけど……大丈夫? 強く撃ちすぎちゃった?」

 御坂が心配そうに顔を覗き込んでくる。いけない。愛する人を心配などさせては。
 黒子は一瞬で判断し、快感に歪ませた顔を作り上げた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:36:08.83 ID:DcmOn1T+0

黒子「お姉様の愛のムチが気持ち良過ぎて……ちょっと天国を見ていただけですわ。あはぁん、ハァハァ」

御坂「……ちょっとでも心配した私が馬鹿だったわ。それじゃ、帰りましょ」

黒子「ああん待って下さいお姉様ぁ! 黒子はもっとお姉様の愛のムチが欲しいんですわー!」

 黒子は考える。もしも自分が無理矢理御坂のことを振り向かせた場合のことを。
 もしもそうなった時、世間の風当たりに晒されるのは自分だけではないのだ。
 自分が愛する人が、忌み嫌われる。それだけは、嫌だ。
 別に完璧少女たる御坂美琴に惚れたのではない。しかし、愛する者には幸せであって欲しいだけだ。

黒子(……本当に、そうですの?)

 じくり。
 また胸が痛む。
 それは詭弁ではないのか。自分ができないから逃げ道を用意しているだけではないのか。
 自分は本当に御坂美琴を愛しているのか。自分は本当に御坂美琴を幸せにできないのか。
 ……それはきっと、正しい。愛なら、誰にも負けない自信がある。でも、幸せにできるか否かと訊かれたら、黒子はきっと答えられない。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:38:05.80 ID:DcmOn1T+0

 自信が、無いのだ。未来が、見えないのだ。同姓たる自分と恋人になっても、あの自由奔放で底抜けに明るい笑顔が見られるのか、わからないのだ。
 だからこそ黒子は最後の一線を越えない。無理矢理迫ることもできた。貞操を奪うことさえ簡単だった。でも、そうしなかったのは。

黒子(私は……恐れているだけですの)

 越えてはいけない一線。破ってはならない決まり。
 御坂美琴と接する内、気づかない内にも黒子はそういった決まりを作っていた。
 いつでも逃げれるように。ふざけたように近付いて。電撃を食らって。本気ではないように、必死で見せ掛けて。
 そうして、逃げてきた。逃げて、逃げて、逃げて。たどり着いたのは、何だ?

御坂「寮に着いたわよー。黒子、本当に大丈夫?」

 考えてる内に寮に着いていたらしい。呆けていた黒子は慌てて取り繕う。

黒子「風紀委員の仕事で疲れていたみたいですわね。これはお姉様分を補充しなければ治りませんわ!」

 そう言い、抱きつくしぐさをする。避けられるように。反撃されるように。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:40:09.71 ID:DcmOn1T+0

黒子「……?」

 しかし、避けられることも電撃を飛ばされることもなかった。御坂はただなすがままにされ、それでも、黒子から目をそむけない。

御坂「黒子、何かあったら言ってね。私達はパートナーなんだから」

 笑顔でそう言う御坂。そのまま、抱きついている黒子の背中に手を伸ばし抱きしめ返そうとするが――

黒子「お姉様分補充っ! お肌に張りとツヤが出てきましたわよっ!」

 ――黒子は自ら離れる。胸の痛みに耐えかねて、だ。

黒子「さあお姉様、早く戻りましょう。もう寮監に首を狩られるのはころごりですのよ!」

御坂「あ……そ、そうね。うん……そうだね」

 いつもならそのまますりついてくるであろうはずの黒子が、自ら離れた。
 それは、御坂に疑問を抱かせるのには十分であった。
 しかし、疑問がそれ以上募ることはなく、静かに夜は更けていった。そう、静かに……。




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:42:05.51 ID:DcmOn1T+0

 翌日。駅前に新しくできたという喫茶店に、初春飾利と佐天涙子が黒子に呼び出されていた。
 その呼び出した内容というのは。

初春「え? 御坂さんに彼氏を作る?」

 初春お馴染の、飴玉を転がすような甘ったるい声も、この時ばかりはなりを潜めていた。

佐天「どういうことですか、白井さん」

 全く事情が飲み込めていない佐天は、首を傾げながら訊く。

黒子「どうもこうもありませんの。お姉様の想い人と、くっつけて差し上げようというだけのことですわ」

 それを聞いた二人は、しばし御坂の想い人の話で熱中していたが、ふと気づいたように初春が口を開く。

初春「でも白井さん……御坂さんのことが」

佐天「あ、そっか。そうだよね……」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:43:25.07 ID:DcmOn1T+0

 好きな人の為に恋のキューピッド役を自ら務める。振られて諦めたのでもなければ、到底考えられないことだ。
 しかし黒子は、控えめな胸を張って言う。

黒子「お姉さまの幸せが私の幸せですの」

 その堂々とした佇まいは、なるほど、キューピッド役をやる決意がみてとれたであろう。あくまで白井黒子を知らない人間が見たら、の話であるが。

初春「白井さん……」

 初春も佐天も、ある種の哀れみを持った視線を向ける。それもそうだろう。白井黒子を知る彼女達から見れば、黒子は、今にも泣き出しそうな顔に見えたからだ。

黒子「なんて顔をしていますのお二人とも。さぁ、作戦を練りますわよ!」

 黒子はそう言い、自らを鼓舞する。まるでそうしなければ、今にも砕け散ってしまいそうに。
 初春も佐天もそれをわかり、それでも、黒子に形だけの提案をしたり、作戦を練ったりした。
 二人は黒子が何を考え、また、どれだけ悩み、この結論に至ったかは知らない。だからこそ、余計なことは言うべきではないと判断したのだ。
 そうして作戦会議は終わり、黒子は寮に帰る。そうして作戦を御坂に伝え、なんとしてでも成功させるのだ。
 それが、御坂美琴の幸せ。そうに違いない。そうだ。そうなのだ。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:45:52.78 ID:DcmOn1T+0

 黒子の足取りは自然と重くなる。理由は明白だ。しかし黒子は敢えて気付かない振りをして誤魔化す。
 なんでもないと。気のせいだと。
 そうして足を引きずっていた時、件の御坂美琴が目に入った。その想い人たる、上条当麻も一緒に。

上条「よ、ようビリビリ」

御坂「……ああ、アンタか」

上条「アンタかとは失礼だな。……随分元気ないみたいだけど、どうかしたのか?」

御坂「……ちょっと……ね……」

上条「全然ちょっとには見えないぞ。もし良かったら、俺が相談に――」

黒子「お姉様ー!」

 このままでは悪い流れになる。そう判断した黒子は、二人の間に飛び込むこととした。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:48:02.75 ID:DcmOn1T+0

御坂「黒子……!」

上条「ああ、お前、御坂の友達の」

 友達。その言葉にまたも胸がじくりと痛む。自分が聞きたいのは、そんな言葉ではない。
 ならば、どんな言葉が聞きたいというのか? 自分は、応援すると決めた自分は、まだ足と共に未練をも引きずっているのか?

黒子「風紀委員の白井黒子ですの。上条さんにはお姉様がいつもいつもお世話になって……」

上条「いやぁ、こっちこそ、御坂にはビリビリされたりビリビリされたり……あれ?」

 どうやら上条なりのジョークらしかったが、ネタにされた当人はビリビリで突っ込むこともなく、ぼんやりと黒子を見つめているだけだ。

黒子「お姉様? どうかされましたの?」

御坂「いや……なんでもないわ。それじゃ私達、帰るから」

上条「送っていこうか?」

御坂「私を誰だと思ってるの? 私はレベル5、『超電磁砲』よ?」

上条「そうだったな。なら大丈夫か」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:49:48.18 ID:DcmOn1T+0

御坂「それでもアンタみたいなのが襲ってきたらひとたまりもないけどねー」

上条「失礼な。これでも上条さんは紳士ですよ?」

御坂「あっはっは。じゃ、またね」

上条「おう、また。白井も、またな」

黒子「ええ、また。お姉様、待って下さいですのー」

 他愛の無い会話。笑顔。しかし、それらはどこか演技のような滑稽さを持ち合わせている。
 どこかおかしいとわかっているのに、続けなければならない会話。人形劇の人形のように、ただ笑っているだけだ。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:51:40.57 ID:DcmOn1T+0

黒子「お姉様、話がありますの」

 寮に着いた黒子は、黒子と御坂の部屋で、そう言い放った。
 それはどこか義務感じみていて、御坂は違和感を感じる。
 そういえば今日は黒子に触られてないっけ、と関係のないことを考えてしまうくらい、どこかズレた話の切り出し方だった。

御坂「私が……アイツと?」

黒子「そうですの。お姉様も年頃。彼氏の一人や二人、作ったほうがいいではありませんの」

 黒子の口は自然と『彼氏』の部分を強調していた。

御坂「で、それがなんでアイツなんかなのよ」

黒子「見たところ、お姉様と上条さんは大分仲がよろしいではないですの。であれば、くっつけるのは必然、というわけですわ」

御坂「筋が通ってるんだか通ってないんだか、よくわからないわね……」

黒子「いいんですの。それよりもお姉様は、上条さんのことが好きではないんですの?」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:53:28.04 ID:DcmOn1T+0

御坂「ん……好きか嫌いかって言われると……好き、かなぁ? あの、別にそういう意味じゃなくて」

黒子「そう、ですの……」

 じくり。じくり。
 また、胸が痛む。でも、仕方ないことなのだ。
 これで愛しのお姉様は幸せになり、私も幸せなのだ。
 そう考え黒子は気持ちを落ち着かせる。

黒子「いいですの、お姉様。初春や佐天さんと一緒に考えた作戦がございますの。その通りにやっていただければ大丈夫ですの」

御坂「さ……作戦?」

黒子「ですの」

 そうして、作戦は動き出す。
 ただただ、御坂美琴を幸せにする、その為に。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:55:22.36 ID:DcmOn1T+0

 駅前の銅像の前で、御坂美琴はしきりに手を組み替えたり、電撃を迸らせたりしていた。
 日曜の昼頃である。黒子達が考えた作戦とは、なんのことはない、ただのデートである。
 しかし効果は絶大だったようで、御坂はまだ相手も来ていないのにもういっぱいいっぱいに見える。実際そうなのだろうが。
 そんな御坂を、物陰から隠れて見る影が三つ。
 誰あろう、黒子、初春、佐天の三人である。

黒子「お姉様、落ち着くんですのー」

初春「人って字を書いて飲み込むんですよ、御坂さん!」

佐天「なんで私までこんな……」

 黒子がいる理由は言わずもがな。初春は面白そうだから、という建前で、黒子が心配だから、という本音は隠して来ている。
 佐天は初春に引っ張ってこられただけである。
 当初初春は尾行に乗り気ではなかった。ただでさえ悲壮感溢れる今の黒子が、デートする御坂なんかを見たらどうなるのか、恐れていた。
 しかし佐天は尾行を強く勧めた。傷ついた黒子を癒す役が必要であると力説した。
 そうして当日、自分だけはその役を逃れようとしていたところ、初春に怒られ引っ張られてきた。
 かっこいいのか悪いのかわからない少女である。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:57:12.79 ID:DcmOn1T+0

黒子「来ましたわ、上条さんです!」

 一応やるからにはやる気を、という訳で、黒子が指した方向を見る。すると。

上条「すまん御坂、待たせたか?」

御坂「べ、別に。今来たとこだし」

 テンプレートな待ち合わせの台詞が吐き出されていた。

初春「この流れ、やっぱりデフォなんですかね」

佐天「私はベタベタ展開好きだけどなぁ」

黒子「動き出しましたわよ。行きますわよ、お二人とも」

初春・佐天「はーい」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 21:59:15.04 ID:DcmOn1T+0

 二人が向かったのはおしゃれなレストラン。見た目の割に値段が安いので、子供から大人まで幅広い層に人気がある店だ。
 もちろん、上条が貧乏な上にかっこつけしいなことは調査済みである。この店の値段なら、割り勘でもおごりでも大丈夫だろうとの気遣いだ。
 案の定上条はおごると言い張り御坂と口論になり、割り勘という形で決着となった。
 その後に二人が向かった先は、映画館である。チケットはあらかじめ買っておいて御坂に渡してあるので、口論はもう起きない。
 映画の内容は、ありきたりなラブストーリーであった。尾行ついでにと入った黒子達も観ることとした。

御坂「やっぱりポップコーンとコーラよね」

上条「俺ポップコーン歯に詰まるからあんまり好きじゃないんだよなぁ。美味いけど」

 などと、どうでもいいような内容を、まるでカップルのように話す二人。
 それは黒子の耳にも届いていた。
 もう胸は、痛まない。
 いや、痛んでいたのかもしれない。だがそれは、黒子にとってはもうどうでもいいことだ。
 このまま二人がくっついてくれれば、それでハッピーエンドなのだ。
 そう思わなければ、ならないのだ。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:01:29.01 ID:DcmOn1T+0

初春「佐天さん、私のポップコーンばっかりとらないでくださいよー」

佐天「やっぱりキャラメルポップコーンも美味しいねー。もうちょっとだけもうちょっとだけ」

 などと、本来の目的を忘れ、仲良くポップコーンを食べる二人。
 黒子は色々なものを諦め、自分もポップコーンのバケツに手を伸ばしながら映画を観ることとした。
 ポップコーンにばかり気をとられていたように見えた佐天だが、内心かなり不安であった。
 今正に恋を諦めようとしている黒子にラブストーリーはきついのではないか。そんな心配をしていたのだが。

黒子「いい映画でしたわね。お姉様方も、いい雰囲気ですわ」

 達観したような、それでいて優しい、慈しみのある笑顔を、黒子は浮かべていた。
 胸を痛めるのは、佐天達の番であった。




29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:04:03.48 ID:DcmOn1T+0

 映画館を出た御坂たちは、今度はショッピングに出かけた。
 これまた最近できたらしいデパートで、巨人もかくやといった佇まいのデパートであった。
 御坂がゲコ太のグッズに目を惹かれ、上条がしょうがなさそうに、しかしどこか嬉しそうに、それらを買う。
 そんな微笑ましい空気が流れていた。
 ふと、御坂が足を止めた。携帯のストラップ売り場だ。

上条「なんか欲しいのか?」

御坂「ううん。黒子にも、何かお土産買っていってあげようかと思ってね」

 御坂に名前を呼ばれ、黒子の胸の痛みはかすかに疼く。




30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:06:34.47 ID:DcmOn1T+0

御坂「このデートセッティングしてくれたのも黒子だし……日ごろ、お世話になってるし、ね」

上条「そっか。仲いいんだな」

御坂「……うん、そうね」

 御坂の笑顔に影が差したように見えたが、黒子は胸の痛みが蘇ったことに苦しんでいた。
 なぜ、今更になって。諦めたはずなのに。上条当麻に、託すと決めたのに。
 お姉様を幸せにすると誓ったのに――。
 黒子の内なる叫びはいつまでも残響して消えることはなかった。いつまでも、耳鳴りのように鳴り響く。
 ……お姉様の幸せが私の幸せですの。大丈夫。お姉様は楽しんでいる。
 意識を無理矢理そっちへ持っていき、なんとか落ち着ける。
 大丈夫、大丈夫、と。子供をあやすように、何度も、何度も。




32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:07:55.09 ID:DcmOn1T+0

 日も落ちかけ、街が紅く染まる頃、そろそろお開きということになった。
 御坂たちは、最後に公園に来ている。
 作戦では、ここで御坂が上条に告白する予定だ。

黒子(お姉様が、幸せになる……)

 そのはずなのに。何故か、胸の痛みは益々に強さを増している。
 じくり、じくりとした痛みはいつのまにか、心臓を握り潰そうとせんばかりの痛みに変わっていた。

黒子(お姉様の幸せが、私の……)

 幸せなのだ。そうに違いない。愛する人が笑顔でいて、不快になる人間などいない。
 だから。自分は今、幸せなのだ。御坂美琴はこれからずっと、笑顔でいられるのだ。
 だから――大丈夫。大丈夫なのだ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:09:27.51 ID:DcmOn1T+0

御坂「あのさ、……当麻」

上条「……なんだ?」

御坂「私……今までずっとアンタのこと――」

黒子(――ッ!!)

 全てを聞かない内に、黒子は駆け出していた。何故? 納得していたはず。
 でも、痛いのだ。胸が、心が。じくり、じくりと。潰れそうなのだ。
 気付けば顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。どこをどう走ったのかはわからないが、寮に着いていた。
 黒子は全てを投げ出し、ベッドに突っ伏した。もう、どうでもいい。何もしたくない。
 ふかふかで暖かなベッドは、黒子の心を暖めてはくれない。黒子は、胸に痛みを抱いたまま、考えることをやめた。




34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:11:26.25 ID:DcmOn1T+0

御坂「私……今までずっとアンタのこと――」

 場面は再び公園へと戻る。黒子が駆け出した、その後のことだ。

御坂「私、アンタのことが、好き……だった」

 上条は何も言わず、ただじっと聞いている。

御坂「馬鹿みたいにいい奴で、馬鹿みたいな能力持ってて、馬鹿みたいに不幸で。そんなアンタが、いつのまにか、好きになってた」

 俯きながら言っていた御坂だが、顔をきっと上げ、

御坂「でも! 今は違う! 今は……馬鹿みたいに私にべったりくっついてる、あの馬鹿なパートナーが、心配で心配で、たまらないの……」

 握った拳は震え、頬には涙が伝う。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:13:14.57 ID:DcmOn1T+0

御坂「……どうしてなんだろうね。今までそんなこと思わなかったのに……今は、会いたい。会って、抱きしめて、そして、謝りたい」

上条「……人生にリセットボタンは無い。でも、ゼロからじゃない。1からやりなおすことは、いつだってできるんだぜ」

御坂「……!」

上条「今日は楽しかったぜ。こういう『友達』付き合いも、たまには悪くないかもな」

御坂「アンタ……」

上条「行け、御坂。これはお前にしかできないことだ。お前がその手で幻想をぶち殺してこい!」

御坂「……ありがとう。……全部終わったら、また、遊びに行こうね」

上条「友達同士でそんな遠慮はいらねぇよ。……そうだろ、そこのお二人さん」

 上条が呼びかけた茂みから、おろおろとした様子の初春と佐天が現れる。

初春「あの、あの、白井さんが、白井さんがぁ……」




37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:15:13.73 ID:DcmOn1T+0

御坂「黒子はどっちへ行ったの!?」

佐天「あっちの方向……多分寮だと思います!」

御坂「ありがとう!」

 礼を言うや否や、御坂は弾丸のようにすっ飛ぶ。残された上条は、ため息を吐き頭をぼりぼり掻いた。

佐天「あの、すいません……こんなことになってしまって」

上条「何がだ? 上条さんは、愛する者の為に走れる奴と友達になれて、それだけで満足ですよ」

佐天「上条さん……」

初春「……白井さんは、大丈夫でしょうか……」

上条「大丈夫さ。なんたってあいつは常盤台のエースでレベル5で超電磁砲で。……それに、俺の友達なんだぜ? こう見えても俺、人を見る目はあるつもりだぜ」

佐天「あはは。なら、大丈夫でしょうね」

初春「御坂さん、頑張って……」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:18:12.29 ID:DcmOn1T+0

 御坂は駆ける。
 電磁波で位置を探るとか、誰かに訊くとか、そんなことは頭になかった。あったとしても、この乱れた頭じゃ到底不可能だ。
 御坂はただひたすら、駆ける。
 街を歩く者の奇異の視線も、ぶつかられたことに怒る言葉も。何もかも、聞こえていなかった。
 ただ聞こえていたのは、黒子の言葉。

黒子『お姉様っ』

黒子『お姉様ぁー』

黒子『大好きですわ、お姉様!』

 どうして今まで邪険にしてきたのだろう。どうして今まで気付かなかったのだろう。
 自分をあそこまで慕って。自分をあそこまで愛して。自分をあそこまで理解してくれた、黒子の想いに。
 御坂ははっきりと自覚する。自分は、白井黒子が好きだ。
 彼女を抱きしめたい。そして、謝りたい。もし許されるなら、償いたい。
 今まで彼女の想いを無下にしていたこと。今まで彼女を愛せなかったこと。
 全部全部ひっくるめて。今はともかく一秒でも早く、黒子に会いたい!
 寮に着いた御坂は、寮監からのマナーの注意を適当に聞き流し、自分の、自分と黒子の部屋へと走る。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:20:18.19 ID:DcmOn1T+0

御坂「……黒子ぉッ!!」

 バン! と勢い良く開いた扉の音に、ベッドで丸まっていた黒子は飛び跳ねた。
 そうして次に、扉を開けた人物を目にして、自分がどんな表情を浮かべればいいのかわからない、といった顔をした。

黒子「お姉様。……デートは、もう、いいんですの?」

 泣きはらした目が赤い。それを見ると、御坂の心は音を立てて軋む。
 あの可愛いパートナーを泣かせたバカ野郎は誰だ! そんなバカ野郎は許せない!
 だが、自分に向けた激しい怒りは、黒子の流した大粒の涙で掻き消えた。

黒子「どうしてっ! 戻って来たんですの! あのまま……告白すれば、良かったんですのに!」

 黒子は涙を散らし、顔をくしゃくしゃにしながら叫ぶ。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:21:50.28 ID:DcmOn1T+0

御坂「そうしたら……それが、私の幸せだって言うの?」

黒子「そうですわ。そうに決まってますの。そうですわ、お姉さまの幸せは、私の――」

御坂「知ったような口をきくなッ!!」

 突然の御坂の怒号に黒子は一瞬飛び上がる。しかし、引かない。

黒子「知っていますの! 私の想いが受け入れられないならばせめて! お姉様の幸せを願っ――」

御坂「それが知ったような口だって言ってるのよ!」

 黒子は、知らない。御坂の想いを、何も。




41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:23:16.24 ID:DcmOn1T+0

御坂「私の幸せを、あんたが勝手に決めるなッ! 私は、私は――黒子といたいのっ!!」

黒子「な、何をバカなことを!」

御坂「バカはあんたよ! 勝手に思い込んで、勝手に突っ走って、勝手に自爆して! あんたは、あんたは!」

 御坂は黒子に近付き、そして。

御坂「あんたは、大バカ野郎よ……」

 優しく、抱きしめた。

黒子「だ、めですのお姉様。お姉様の幸せは、こんな、こんな――」

御坂「私は、黒子がいい。黒子じゃなきゃ、駄目なの」

黒子「お、ねえ、さ――」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:25:02.84 ID:DcmOn1T+0

御坂「黒子。はっきり言っとくわ。私は、あんたが好き。大好き。私の幸せは、あんたと一緒にいることよ」

黒子「おねえさ、ま、う、うわぁぁぁん! おねえさまぁぁぁぁ!」

 決壊した堤防の様に、黒子の目から涙が溢れる。御坂はそんな黒子を、優しく、優しく抱きしめた。
 どれだけの時間が経ったのだろうか。そう短くない時間をかけて、黒子は落ち着きを取り戻した。

黒子「お姉様、申し訳ありませんでした。少々、取り乱して、しまいました……ひっく」

御坂「大丈夫、大丈夫。私はいつだって黒子の側にいるから」

黒子「お姉様……いいん、ですの?」




43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:26:51.56 ID:DcmOn1T+0

御坂「くどい。何? 私の胸はそんなに抱きつきづらいの?」

黒子「お姉様……」

 ギュッ、と。今までのふざけ半分の抱擁とは違う、優しい抱擁。
 お互いがそれに答え、暫くの間抱きしめあう。
 ふと、思い出したように御坂がポケットを探る。

御坂「そうだ、これ。黒子に、プレゼント」

黒子「……ストラップ、ですのね。白と黒の」

御坂「あんたにぴったりでしょ?」

黒子「そうですわね……ありがとうございますの、お姉様」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:28:12.35 ID:DcmOn1T+0


黒子「償い……?」

御坂「うん。償い。今まで、ずっと、ずーっと。黒子を苦しめてきた訳だから。これからは、その償いをさせてくれない?」

黒子「償いも何も。お姉様はただ……」

御坂「ストーップ。これは私がしたくてしてることなんだから。返事はハイかYESで」

黒子「なんですのそれ。……うふふ、わかりましたわ。お姉様の償い、全身全霊でお受け致しますわ」

御坂「うん、ありがとう。それで、もし全部償い終えたら……その時からは、純粋な、その、恋人への想い――ってことにしてくれない?」

黒子「……願ったり叶ったりですわ。私も、今までのことで、償わなければならないことがありますもの」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/03/01(火) 22:29:19.96 ID:DcmOn1T+0

御坂「じゃあ、一緒に償っていこう」

黒子「ええ。……ところでお姉様。お姉様は今、幸せですの?」

御坂「幸せ。すごくね。ありがと、黒子」

黒子「黒子は……お姉様の二倍幸せですのよ」

御坂「あら。なんで?」

黒子「何故って、それは……」




黒子「お姉さまの幸せが私の幸せですの」





 終わり。


元スレ
黒子「お姉様の幸せが私の幸せですの」