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2: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 21:52:38.06 ID:LAg/w2cp.net

商店街の片隅、ひっそりと佇む小さな飲み屋がある。

『小料理居酒屋こいずみ』

小さなL字カウンター、9人も座るのが精一杯のお店。
季節の肴に季節の酒、そして締めには最高のご飯を提供する居酒屋だ。
若き店主が一人で切り盛りする酒場には、今日も客が集う。

午後5時、看板に灯りをともせば本日も開店。


花陽「よし!今日も張り切っていきましょう!」

小料理居酒屋こいずみ開店です!



3: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 21:54:33.58 ID:LAg/w2cp.net

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花陽「ありがとうございました~、気をつけて帰ってくださいね」

常連のお客さんを送り出して、店内は静まり返ります。
開店してから一度は満席になったけれど、さっきのお客さんでちょうど一巡、今のお店には私一人です。

花陽「・・・さてと、お片づけしましょうか」

つけ場から出て、カウンターに残された食器やグラスを片付けます。
狭いお店とは言ってもなんだかんだで一人で切り盛りするのって大変なんだよね・・・だからこそこういった空き時間に洗い物を済ませなくちゃいけません。

ガラガラッ!
そして食器を流しに置いて、ちょうど洗い物を始めようとした時、お店のドアが開く音が聞えました。

花陽「いらっしゃいませ~、お好きな席へどうぞ」

そう言いながら、入り口のほうに目をやると・・・

ツバサ「久しぶりね、小泉さん」

花陽「つ、ツバサさんっ!?」

今や世間を賑わすスーパーアイドル、A-RISEの綺羅ツバサさんが立っていたのでした・・・。



4: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 21:57:18.39 ID:LAg/w2cp.net

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花陽「もう・・・来るなら来るって連絡してくださいよ・・・」

ツバサ「ふふ、ごめんなさいね。さっき仕事が終わって、一杯飲みたくなってつい足が向いちゃったの」

誰もいないカウンターの真ん中の席に座ったツバサさんは、そう言いながら悪戯っぽい微笑を見せた。
あれから急いで暖簾を外し、看板の電気も落とし、扉には「臨時休業」の張り紙を貼り付けました。
A-RISEのツバサさんがこんな所で飲んでるなんて知れたら大騒ぎになっちゃうもんね・・・。

花陽「ご注文はどうしますか?」

突然の来店と入っても、大事なお客様です。
ツバサさんは忙しい中でも2,3ヶ月に一回は足を運んでくれてるし、うちの準常連と言ってもいいかもしれません。
・・・まあ、その度に貸切営業になっちゃうんだけどね。

ツバサ「そうね・・・何か季節のお勧めのお酒と、それにあわせたおつまみをもらえるかしら?」

花陽「かしこまりました、お客様♪」

季節のおすすめ・・・この時期ならやっぱりあれですよね!



7: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 21:58:59.95 ID:LAg/w2cp.net

花陽「お待たせしました、まずはお酒から・・・『五橋 純米 ひやおろし』です」

そう言ってツバサさんにお酒の入ったグラスを差し出します。
やっぱり秋のお酒といえばひやおろしだよね。
そんな中から私が選んだのは、山口県の銘酒、五橋のひやおろし。
重い味わいが多いひやおろしのなかでも、比較的軽やかで味わいのお酒です。

花陽「それから・・・はい!こちら、お酒に合わせたおつまみです」

ツバサ「ありがとう。これは・・・サンマかしら?」

花陽「はい、サンマのお刺身に肝醤油を塗って軽く炙ってみました。きっとこのお酒と合うと思いますよ」

おつまみは、サンマのお刺身炙り肝醤油味。
今朝仕入れたばかりの新鮮なサンマのお刺身に、お酒とお醤油で慣らしたサンマの肝を塗ってバーナーで炙った一品です。



8: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:00:59.21 ID:LAg/w2cp.net

花陽「お醤油と肝の味があるから、まずは何も付けずにお召し上がりください」

ツバサ「へえ、このまま食べればいいのね。・・・いただきます」

私に促されるがまま、ツバサさんがサンマを口に運びます。

ツバサ「・・・小泉さん、あなた性格悪いわね」

花陽「え・・・?」

サンマを口にしたツバサさんが、唐突にそう呟きます。
もしかして、美味しくなかったかな・・・?
割と自信あったんだけど・・・



10: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:02:55.12 ID:LAg/w2cp.net

ツバサ「こんなのお酒に合わないわけないじゃない!」

花陽「へ?」

そう言いながらお酒を煽るツバサさん。

ツバサ「くぅ~!肝のコクと苦味が最っ高!この組み合わせだったらいくらでも飲めちゃうわ!」

花陽「あはは・・・ありがとうございます」

よかったぁ・・・お料理が気に入らなかったわけじゃなかったんだね・・・。

ツバサ「はぁ・・・生きててよかったわ・・・」

でも、お酒を飲みながらだらしない表情をしているツバサさんは、やっぱり世間の皆様にはお見せできないなぁ・・・とか思っちゃったりしたのでした・・・。



11: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:05:40.14 ID:LAg/w2cp.net

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花陽「あっ、そういえば先週発売になった新曲買いました!」

私はA-RISEの新曲のことを思い出して、そう口にしました。

ツバサ「あら、わざわざ買わなくても言ってくれれば一枚あげたのに」

そう言いながらお酒を飲むツバサさん。
ちなみにこれで4杯目です。

花陽「そういってもらえるのは嬉しいですけど・・・これでも私はA-RISEのファンですから!やっぱり自分で買いたいんです」

ツバサ「・・・小泉さんみたいなファンに支えてもらえてるんだから、私たちは幸せ者ね・・・」

そう言いながら微笑むツバサさんの顔は、なぜかすこし悲しげに見えて・・・

ツバサ「ねえ、小泉さん。私たちのファンであるあなたに、ひとつ質問してもいいかしら?」

花陽「・・・なんですか?」

ツバサ「あなたの目には、今の私たちは・・・どう見えてる?」

そして、ツバサさんは私にそう問いかけた。



12: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:07:15.65 ID:LAg/w2cp.net

ツバサ「なんでもいいわ。歌でも衣装でも、今の私たちがファンからどう見えているか知りたいの」

頬は少し赤く染まっているけれど、ツバサさんの瞳は真剣だった。

花陽「素敵だと思いますよ。・・・でも」

この瞳には、私も本心で返さなくちゃいけない、そう思いました。

花陽「いまのA-RISEを見ていると・・・すこし寂しいです」

ツバサ「寂しい?」

花陽「はい、曲もちょっと毛色が変わっちゃったし、テレビで見るのはA-RISEとしてではなくて、ソロばかり・・・」

ツバサ「・・・」

3人が揃うのは、今となってはそのほとんどが大型の歌番組ばかり。
歌う曲や歌詞も、スクールアイドル時代とは似ても似つかない、落ち着いたものになっていました。

花陽「それに、なんだか上手く言えないですけど・・・いつからか私の知っていたA-RISEじゃなくなっちゃったような気もして・・・」

私の言葉を聞いたツバサさんは、少し自虐的な笑みを浮かべながら

ツバサ「そっか、やっぱりわかっちゃうものなんだね」

そう口にした。



14: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:10:58.00 ID:LAg/w2cp.net

ツバサ「実はね、A-RISEを解散しようかと思ってるの」

花陽「えっ!?」

ツバサさんのその言葉に、私は動揺を隠しきれませんでした。

ツバサ「小泉さんだってわかってるでしょ?今のA-RISEはもうA-RISEじゃないの」

花陽「そんな・・・」

ツバサ「ずっと三人で変わらずやっていけると思ってた。でもね、仕事が増えて忙しくなって・・・気付いたら英玲奈ともあんじゅともほとんど会えない日々になってたの」

ツバサ「それでも、私たちには歌があった。三人で作る歌があれば、心は繋がっていられる、そう思ってた」

花陽「そうですよ!三人の歌があればA-RISEは・・・」

ツバサ「でもね、今はもうそれすら無くなってしまったの」

グラスをクルクルと回しながら、ツバサさんは悲しげな表情で話す。



15: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:13:46.78 ID:LAg/w2cp.net

ツバサ「さっき曲の毛色が変わったって言ってたけど、その通りなのよ。事務所の方針でね、今のA-RISEの曲は私たちが作っているのもではないわ。もう、三人の歌も無くなってしまったの・・・」

花陽「ツバサさん・・・」

ツバサ「今となって思えば、あの時あなたたちと同じ道を選ぶべきだったかもしれないって思う・・・こうして自分たちらしさを失うくらいなら、続けるべきじゃ無かったって・・・」

そして俯いたツバサさんは、私が今まで見たことも無いくらい弱々しく見えた。

花陽「・・・だから、A-RISEをやめるんですか?」

ツバサ「ええ、私たちにもA-RISEとしての誇りがあるの。これから先、それを守れないくらいなら、辞めたほうがマシよ」

花陽「そうですか・・・」

気持ちは、わかるような気がしました。
でも、私はなんだか納得できなくて・・・

花陽「ツバサさん・・・私、ツバサさんに飲んで欲しいお酒があります」

私は居酒屋の店主らしいやり方で、自分の気持ちを伝えることにしたんです。



16: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:18:56.24 ID:LAg/w2cp.net

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花陽「どうぞ・・・」

ツバサ「ありがとう」

私の気持ちを込めたお酒を、グラスに注ぎツバサさんに手渡します。
自分の性一杯を相手に味わってもらう・・・私は、品物を手渡す瞬間ってステージと同じだと思うんです。

ツバサ「おいしいお酒ね・・・フルーティーだけど、キレも良い」

手渡されたお酒を一口飲んだツバサさんは、そう言いました。

花陽「とてもバランスのいいお酒ですよね。酸味、甘味、香り・・・どれも自然な形で交わっている・・・きっとA-RISEと同じです」

ツバサ「・・・」

花陽「ツバサさん、お酒の名前にはいろんな意味があるってご存知ですか?」

ツバサ「そうなの?」

花陽「はい、日本酒の名前にもいろんな意味が込められているんです・・・」

そう、このお酒の名前の意味。
それが、私がツバサさんに伝えたかったメッセージ

花陽「このお酒の名前には「過去に囚われず未来に囚われず今をただ精一杯に生きる」という意味が込められているんです」

ツバサ「今をただ精一杯にか・・・」



17: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:21:52.15 ID:LAg/w2cp.net

花陽「これは私の勝手な思い込みかもしれません・・・でもきっとA-RISEには過去のことを悔やむのも、未来に怯えるのも似合いません」

そうです、きっとそんなのA-RISEには似合いっこありません。

ツバサ「そうね・・・あなたの言うとおりだわ。自分たちらしくなくなることに怯えて、私たちは余計に自分たちらしくない選択をしようとしていたのかもしれないわ・・・」

そう呟いたツバサさんは、何かを決意するかのように残ったお酒を一気に飲み干して席を立ちました。

ツバサ「事務所の方針なんて知ったことじゃないわ。どんな手を使ってでも、私たちは私たちらしくやってみせる」

花陽「ツバサさん・・・」

ツバサ「ごちそうさま、小泉さん。今度は三人で来るわ」

そしてカウンターにお金を置いて、ツバサさんはお店から出て行った。
その背中は、紛れも無く私たちが追いかけ続けた、あの背中でした・・・。



19: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:24:15.74 ID:LAg/w2cp.net

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花陽「ふぅ・・・お片づけも終わったし、帰る前に一杯飲んじゃおうかな」

そんなことを言いつつも、もう誰もいない薄暗いカウンターにはしっかりと一人分の晩酌セットが用意してあります。

花陽「さっそくお酒から・・・」

冷蔵庫から出してからすこし時間が経っているので、温度はほぼ常温。
そんなお酒を口に含むと感じるのは、柑橘を思わせる爽やかな甘さ。
きっとツバサさんが飲んだ時よりも温度が上がった分、甘味を強く感じていると思います。

花陽「フルーティーだけど、すっとキレて後に残らない感じだね。甘いけれど穏やか・・・なんだか落ち着いた味わいです」

甘さだけでなく、酸味やキレも良い
火入れだからかとても落ち着きのある、バランスよくまとまったお酒です。
けれど、そんな難しく考えなくても、単純に美味しく感じられます。

花陽「さすがは而今、大人気銘柄は伊達じゃないね・・・」

『而今 純米吟醸 吉川山田錦』
「過去に囚われず未来に囚われず今をただ精一杯に生きる」その思いを込めて醸される、三重県の美酒だ。

花陽「私も次ツバサさんに会うときに恥ずかしくないよう、今を精一杯生きなくちゃね」

誰もいないカウンターで一人グラスを傾けながら、私の夜はふけていった。



20: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/09/27(火) 22:25:17.58 ID:LAg/w2cp.net

おわりです。
代行してくださった方ありがとうございます。

前回
小料理居酒屋 こいずみ

類似品
花陽(26)「夏のはなよ酒」


元スレ
小料理居酒屋こいずみ第二夜