1: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 20:56:47.93 ID:LXkdc/FH.net

・果林×彼方
・毎日劇場リスペクト
・地の文

よろしければ



4: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 20:58:56.36 ID:LXkdc/FH.net

がちゃり。
放課後、茜が射し込む部室。汗をタオルで押さえつつドアを開けると、テーブルにくてん、と体重を預け、肩をゆっくりと上下させている彼方がいた。
寝てる。たしか……ダンスの練習は一区切りにして、ステージ演出とか衣装とかを考える、って言ってたかな。
彼方のことだから、動いた後でそういう楽しいことを考えていたから眠気が襲ってきたのね。ふふ、気持ち良さそう。
自然に手が延びて、頬をやわやわとくすぐったり、ふわふわの髪の感触を楽しんだりしてしまう。
本当に幸せそうだし、どうせならしばらくのあいだ眺めていたいくらいだけど、このままにしてはおけないわ。だって。

「彼方、かーなーた!こんなところで寝てたら、風邪ひいちゃうわよ?」

なるべく優しく揺すりながら、声をかける。
寝てしまう前はダンスのあとで暑かったのかもしれないけど、弱風ではあっても扇風機の風を直に浴び続けているのは良くないんじゃないかしら。



5: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:00:02.24 ID:LXkdc/FH.net

「んあ……果林ちゃんだ~。おはよーございますぅ……」

半覚醒、といった感じで返事が返ってくる。ふわ、と可愛らしいあくびをしたあと、ふるりと体を震わせた彼方を見て、扇風機の電源を落とす。
彼方は目をしぱしぱと瞬かせながら、ありがとう、気を付けるね~、と言ってふにゃりと笑った。
風邪はもちろんお腹とか冷やしちゃう前でよかった、という安心感からか、真っ直ぐお礼を言われてしまった照れくささからか、重ねてお小言がこぼれてしまう。

「彼方ってば、本当にどこでも眠っちゃう眠り姫なんだから」

……お小言というには、ちょっとメルヘンな感じだったかもしれない。
そんな考えが顔に出ないようにひとり恥ずかしさに耐えていると、反論が返ってきた。

「彼方ちゃん、眠り姫じゃないよ~」



7: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:00:54.83 ID:LXkdc/FH.net

え?と思わず聞き返して、続きを促す。
歌っている曲やその演出からして、彼方には神秘的な世界で眠り続けるお姫様のイメージがあったから、この反応は意外だった。

「だって、眠り姫はず~っと眠りっぱなしだけど、彼方ちゃんは起こされたらちゃーんと起きるもん」

どことなく真剣な響きを持った返答。ひょっとしたら、ああいう歌を歌うからこそ、憧れが強いからこそ、それに見合うこだわりがあるのかもしれない。

「言われてみればそうね」

「だから彼方ちゃんは眠り姫じゃないの~」



8: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:02:18.59 ID:LXkdc/FH.net

わかってくれた?と、今度は雰囲気を柔らかくして聞く彼方。
……うーん。でも。
夕陽に照らされた彼方の明るめの茶髪が、金色に輝いて見えて。ひかりの中で余裕たっぷりに微笑む姿は、どこか優雅で、綺麗で。自信家な振る舞いは、私にとってはやっぱりワガママなお姫様で。

「じゃ、いっつも眠い、ねむねむ姫ね」

本音半分からかい半分くらいで、それでもあなたはお姫様よ、と言ってみる。
……言ってから、またしてもメルヘンな物言いをしていることに気づく。



9: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:03:47.97 ID:LXkdc/FH.net

もう。彼方と居ると、いつもこのふわふわな空気に飲まれちゃうわ。顔赤くなってないかしら。
ただ彼方の方は、おぉー、とリアクションをとって。

「ねむねむ姫……悪くないかも~」

えへへぇ、とだらしなく笑う。
満足そうでよかった。私らしくない可愛めのネーミングについてどうこう言うつもりもないくらい、気に入ってくれたみたい。
なんていうか、その反応が、笑顔が、すごく嬉しくて、もっともっとこのお姫様を喜ばせたくなって。
こほんと咳払いをひとつしてから、恭しく腰を折って、気取った口調で、手を差しのべた。



10: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:04:53.57 ID:LXkdc/FH.net

「それでは、ねむねむ姫は果林王子と一緒にダンスの練習に参りましょうか。お手をどうぞ」

演劇の基本は役になりきることです。いつだったかしずくちゃんが言っていたこと、いま実践できているのかしら。
息を飲むような音が聞こえたから、きっと成功ね。
……なんて、調子に乗っていたのだけど、ちょっと間があった後に。

「もう、果林ちゃん、突然そんなかっこいいモードにならないでよぉ~」

お姫様が珍しく顔を赤くして、手を取ってくれたものだから。きゅっと握ったその手と指が、なんだか普段より熱い気がしたから。
へっぽこの王子は、自分で始めたはずのこの即興劇が尋常ではなく恥ずかしくなってしまって。
潤んだ上目遣いから逃れるように手の甲にキスを落として、劇に幕を下ろした。



11: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:08:11.21 ID:LXkdc/FH.net

……。
そう、私としては下ろしたつもりなのだけど。
手を引いてレッスン室に向かう途中、誘うところはよかったのに……意気地無し、という後ろから聞こえた呟きが、お姫様のものなのか、彼方自身のものなのか、私にはわからないでいる。
だから何度も言っているけど、メルヘンなんて柄じゃないのよ!
そんな声を出す代わりに、せめてもの抵抗として、繋いだ手のひらに力を込めた。



12: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:09:12.38 ID:LXkdc/FH.net

 
 
果林「メルヘンなんて柄じゃない」
おしまい

 



13: 名無しで叶える物語 2020/03/11(水) 21:15:32.91 ID:LXkdc/FH.net

短い!
きっと果林はガワだけの王子様にしかなれないと思います。根っこの部分がお姫様志望の普通の女の子なので
乙、感想、意見、質問、なんでもお待ちしております。というより無かったら落ちるのでぜひお気軽にどうぞ


元スレ
果林「メルヘンなんて柄じゃない」