1: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:00:40.89 ID:DLjPDHC3.net
まだ夏らしいことをしていません。
これはいけないと思いました。私はすぐさま立ち上がっておばあさまに声をかけます。
海未「少し出かけてきます」
祖母「気をつけてねぇ。どこへ行くんだい?」
海未「夏の始まりへ」
見送りはいらないと言ったのに、祖母はわざわざ玄関まで来てくれます。これはこれで夏らしい。
2: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:01:23.80 ID:DLjPDHC3.net
祖母「帽子はいらないかい?」
海未「いりません。夏ですから」
祖母「麦わら帽子が、一つあるよ」
海未「頂きましょう」
夏ですから。
私は麦わら帽子をかぶって外に出ました。
セミの声。
太陽。
むせ返るような濃密な夏の気配に心が躍ります。
静岡県沼津市内浦。
私、園田海未の夏を、始めましょう。
まずは駄菓子屋です。祖父母の家の近くにあります。
ですが私、この駄菓子屋にはあまり来たことがありません。
私はおそるおそる店内を覗き込みました。
海未「こんにちはー」
誰も応えてくれません。
カウンターにはこう書かれてありました。
『お金はここに↓』
いいでしょう。
少し期待外れというか、悲しいというか、世界に一人取り残された感じはしましたが、これもまた田舎の夏。
私は品物を手にとって、代わりにお金を受け皿に落としました。
ラムネを買いました。
炭酸は苦手ですが、夏といえばラムネかサイダーという気がします。風鈴、朽ち果てたバス停の停留所、日照り、冷えたラムネ。スイカ
残念ながらスイカと停留所はなかったので、私は店先に座ってラムネをグビリ。夏ですね。
善子「あら、どうもこんにちは」
海未「こんにびわっぷ」
おっとげっぷが。
善子「失礼。こんにびわっぷ」
真似しなくていいです。
黒髪の頭にお団子を乗っけた女の子でした。とても可愛らしいです。
善子「それは何を飲んでいるの?」
海未「夏です。私は夏を味わっているのぶぇっぷ」
善子「それはいいことね。私もラムネ買おうかしら」
海未「よろしければ、私の飲みかけをあげましょう」
善子「夏はもういいの?」
海未「夏は分け合うべきなのです。私は他の夏を探しに出かけます」
善子「そう。ありがとう、頂くわ」
女の子はラムネを勢いよく傾けてぐびりぐびり。いい飲みっぷりです。
善子「ありがぽうっぷ」
海未「どういたしまいっぷ」
うみよし『ふふふふふ』
少しだけ笑い合います。私の夏の、最初の出会いです。
駄菓子屋を離れ、私は海の方へ繰り出して行きました。
夏といえば海です。サンダルを脱いで砂浜を歩くと、熱いのです。東京では味わえません。ふふふふ。
素足で砂の感触を楽しんでいると、後ろからわおんわおんと何者かが近づいてきました。
千歌「わーーー! しいたけ止まってーーー!」
何やら不穏な気配。私はちらりと背後をふごっ。
千歌「しいたけーーーー!?」
わおんわおん。
海未「大変でした」
千歌「ぅう……。すみません」
海未「いえ、大丈夫ですよ」
どうやら散歩中にリードを離してしまったようです。
まあ失敗は誰にでもあること。私は夏らしい寛容な心で彼女を許しました。
わおんわおん。
わおんわおんじゃありません。
海未「ところであなたは」
千歌「千歌です! 高海千歌!」
海未「千歌さん。私は夏を探しているのです」
千歌「夏ですか! それなら今夜、友達と花火大会をやるんです。ええと、」
海未「ルシフェルです」
千歌「ルシフェルさんも一緒に花火しませんか? 花火、とても夏だと思います!」
海未「私が参加してもいいのですか?」
千歌「はい。夏は寛容ですから」
海未「それは素晴らしいです」
開始時間と場所を教えて貰って、私は千歌さんと別れました。
しばらく砂浜を歩いていたのですが、コンビニを見かけたので私は休憩することにしました。
なにせ暑いのです。
夏だからといえばそれまでですが、夏の暑さに耐えかねてコンビニへ逃げ込むのもそれはそれで夏らしいと私は思うのです。
みなさんはコンビニに来た時、まずどこに向かいますか? 私は飲み物コーナーです。何故かは分かりません。
あ、にごりほのか。
コンビニで涼んでいると、アイスコーナーから声が聞こえてきました。
あら可愛らしい。
姉妹でしょうか?仲良く並んでアイスケースをのぞき込む姿は、とても仲が良さそうに見えます。私は背後から声をかけました。
海未「もし、お二人」
ルビィ「うゅ?」
ダイヤ「はい? なんでしょう」
海未「私は夏を探しているのです。心当たりはありませんか?」
ダイヤ「探す、というとペットか何かでしょうか」
海未「夏は夏です。始めねばなりません」
それならば、と赤髪ツインテールさんはおもむろにケースに手を突っ込んである物を取り出しました。
ルビィ「うゅ!」
海未「スイカバー、ですか。私はメロンバー派なのですが」
ルビィ「うゅ」
邪道だ、と言わんばかりに首を振られます。いいでしょう。たしかにメロンは夏ではありません。私は受け取って会計を済ませました。
海未「ありがとうございます、お二人。良い夏を」
ダイヤ「良い夏を」
ルビィ「うゅ」
背を向けようとしたその時、レジから物騒な声が聞こえてきました。
強盗「オラッ、金出せやっ!」
あらあら、強盗でしょうか。夏らしくありませんね。
レジの店員がそのならず者にどういった対応をしたかは知れません。
ともかく彼はナイフを持ち、さながら獣のように走り出しました。
強盗「テメッ、どけや!」
ルビィ「うゆっ!?」
ダイヤ「ルビィ伏せて!」
ああ美しきかな姉妹愛。それを見た瞬間、私の心は悪を許さぬ夏の炎に燃え上がったのです。めらめら。
海未「ていっ」
振り回される手首の軌道に呼吸を合わせ、懐に体を重ね、裾を引きつけ、軸足を跳ね飛ばし、地面に叩きつけて自由を奪います。ウィナー! 一瞬でした。
ダイヤ「ああ、なんと素晴らしいのでしょう。素敵ですわ!」
ルビィ「うゅ」
良いことをして鼻は高いですが、私は不満でした。強盗を退治するなど夏ではありません。
何か夏らしいことをしなければ。私は立ち上がります。
海未「私は行きます。夏が呼んでいるのです」
ダイヤ「待ってください! せめてお名前だけでも」
海未「田中です。さらば」
スイカバーを舐めながら去りました。甘いですです。
再び浜辺を歩いていると、女の子が仰向けに寝ているのを見つけました。
夏の気配を感じます。私は尋ねました。
海未「あなたはなにをしているのですか?」
曜「入道雲に包まれているのです」
女の子は寝たまま、頭上の雲を指さしました。
海未「素晴らしいです。私もご一緒していいですか?」
曜「はい。雲はみんなのものですから」
私は仰向けになりました。
眩しさに目を細め、熱せられた浜の砂の熱さに思わず腰を浮かべそうになります。あっつ。
曜「夏ですね」
海未「夏です。素晴らしいです」
曜「しかし、これは一日五分しかしてはいけないんです」
海未「それはなぜですか?」
曜「終わらないラジオ体操はありません」
海未「あっつ」
曜「それに、目が痛くなります」
海未「道理です」
麦わら帽子を顔にかぶせて夏を感じます。
それから五分。会話はありませんでしたが、私は充実した気持ちでした。
海未「素晴らしい夏をありがとうございます」
曜「いえいえ。それでは、全速前進ヨーソロー!」
個性的な挨拶です。私は小さくヨーソローと返して夏を探しに戻りました。
海辺を離れて歩いて行くと、石段を見つけました。
その先にはお寺があるようです。海が夏なら山も夏。森も夏。セミの声を感じながら私は石段を登っていきます。
花丸「こんにちは」
海未「こんにちは」
登りきった所に、一人の少女がいました。私は尋ねます。
海未「掃除をしているのですか?」
花丸「はい。私の日課です」
海未「手伝ってもいいですか?」
少女は驚きました。
花丸「何故ですか?」
海未「探し物があるのです。見つかるかもしれません」
そういうことならば、と少女は竹箒をもう一つ持ってきました。
花丸「頑張りましょう」
海未「はい。ところで、私は夏を探しているのです」
花丸「夏ですね。たくさん見つけたいのですか?」
海未「はい。心当たりはありませんか?」
少女は少し考えて、竹箒を示して微笑みました。
海未「掃除が夏ですか?」
花丸「はい。落ちているゴミは季節によって様々なのです」
海未「そうなのですか」
花丸「秋は落ち葉。冬はホッカイロ。春はチリ紙に夏はアイスの包装です」
海未「夏を奪ってしまいませんか?」
花丸「私は明日も夏を感じるでしょう。構いませんよ」
海未「では、お言葉に甘えて」
気がつけば日が暮れかけていました。
太陽がオレンジ色に燃えています。
花丸「お疲れ様でした。夏は見つかりましたか?」
海未「はい。堪能させていただきました」
花丸「粗末なものですが、いかがですか?」
二つのおまんじゅうでした。
「こしあん」「つぶあん」と書かれています。
海未「私はどちらでも」
花丸「私もどちらでも」
「こしあん」を手に取りました。ベンチに並んで座ります。
花丸「夏の夕焼けと冬の夕焼けの違いを知っていますか?」
海未「いいえ。知りません。違うのですか?」
花丸「見え方が違うのです。湿度の関係で、冬はすっきりシャープに、夏はぼやけたオレンジになります」
空を見上げました。水に滲んだようなオレンジの太陽。私は嬉しくなってきます。
海未「夏なのですね」
花丸「はい」
海未「夏と冬の夕焼け。どちらが好きですか?」
花丸「どちらも好きです。何故なら、本質は変わりませんから。見え方が違うだけです」
海未「難しいです」
花丸「お姉さんはどちらが好きですか?」
お姉さん、という呼び方にくすぐったくなります。
海未「私も、どちらも好きなんです」
花丸「それは何故ですか?」
海未「こしあんもつぶあんも、両方好き。そういうことです」
ふふっ、と少女は笑いました。
花丸「欲張りさんですね?」
海未「はい。おまんじゅう、とても美味しかったです」
私は礼をして石段を下りて行きました。セミの声が遠ざかっていきます。夏は残りもあまりありません。
千歌さんと約束した花火が、そろそろ始まります。
海岸を歩いていると、困っている風の女の子三人組を見つけました。私は声をかけます。
海未「なにかお困りですか?」
梨子「レジ袋の底が破けてしまったのです」
なるほど、花火のパッケージが砂にまみれていくつか転がっています。
果南「どっかの壁で引っ掛けちゃったのかもね」
鞠莉「困ったわね」
三人は見れば見るほど大荷物で、花火の他にもバーベキューの機器や食材まで運んでいるようです。
海未「よろしければ手伝いましょうか?」
梨子「いいのですか?」
海未「夏ですから」
花火を半分持たせてもらいます。その量はまさにどっちゃりといった感じで、10人はいないと使い切ることすら難しそうです。
海未「すごい量ですね。花火でもするんですか?」
梨子「はい。海辺で、ご飯を食べながら」
果南「私たち、スクールアイドルをやってるんです。そのみんなで花火をすることになって」
ほう、と私は驚きました。その懐かしい響きに頬が緩みます。
海未「スクールアイドルは楽しいですか?」
梨子「はい。……ふふっ、最初は半ば無理やりだったんですけど」
鞠莉「私が入った時には、すでにノリノリだったみたいだケド?」
果南「あれだね。即落ちってやつ」
梨子「もう、からかわないでくださいよ」
仲がいいんだな、と思います。
果南「ところでお姉さん。地元の人?」
海未「いえ、祖父母の家が近くにあるんです」
果南「そうなんだ。うーん、どっかで見たことがある気がするんだけど」
海未「ふふっ、……かもしれませんね」
しばらく歩いていると、前方に見覚えのある人影がありました。
善子「遅かったわね。三人とサイダーの人」
海未「ちょっと前ぶりですこんばんわ。そしてあれは、サイダーではなくラムネです」
善子「ラムネとサイダーは中身同じだけど」
海未「それは不粋というものです」
鞠莉「ん? 二人は知り合い?」
海未「夏を分け合った仲なのです」
お団子頭の少女に荷物を少し持ってもらいます。
どうやら千歌さんから、私が飛び入り参加することは聞いていたみたいです。
海未「すみません、急な話で」
果南「構いませんよ。夏ですから」
梨子「私たち、みんなで9人なんですけど、きっと仲良くなれると思います」
千歌「ルシフェルさーーーん」
会場に着くと、そこには見覚えのある方々がいました。
ダイヤ「田中さんこんばんは。先ほどは助けていただいてありがとうございます」
ルビィ「うゅ。ありがとうございます」
海未「いえいえ。スイカバー美味しかったです。良い夏でした」
花丸「こんばんわ。偶然ですね」
海未「そうですね。また会うとは思ってませんでした」
特に花丸さんはつい半時間前に分かれたばかり。夏休みの神様は運命がお好きですね。
千歌「わたしお腹すいたよー!」
曜「じゃあさっさとバーベキューの準備しよっか」
果南「手伝うよ」
曜「お、助かりますー」
千歌「わたしもバーベキューするー!」
梨子「はいはい千歌ちゃんは向こうでみんなと遊んでてねー」
善子「火の精霊よ、我に力を貸したまえ! ていっ!」シュボッ
ダイヤ「ちょっ、花火始めるの早くありせん!?」
善子「ふふふはは! これぞ夏の輝き! ……ふふふ、これもいつか朽ち果てる運命……」
鞠莉「せめてバケツに水用意してからがいいんじゃナイ?」
善子「あっ」
ルビィ「水! 水がないと善子ちゃん燃えちゃう!?」
花丸「水道どこずら!? 消防車に連絡!」
善子「燃えないわよ!」
梨子「はいはい海から汲んできたよー」
9人が集まって、陽の落ちた海辺はにわかに騒がしくなります。
早速とばかりに花火で遊び始める者、談笑しながらバーベキューの準備をする者、隙あらばつまみ食いを企む者、その手をぺちんと叩く者。
そして私。
千歌「ルシフェルさん、楽しんでますか?」
千歌さんが話しかけてきました。なんとか奪取に成功したのか、口から生タコの足がぴょろんとはみ出ています。
海未「みなさん仲がいいですね。見ていて楽しくなります」
千歌「田舎ですから、こういうイベントも多いんですもぐもぐ」
海未「スクールアイドルをやってると聞きました」
千歌「はい。Aqoursっていうグループなんです。実はリーダー私で」
海未「やはりそうでしたか」
千歌「やはり、というと?」
海未「友人にいるんです。千歌さんに似た人が」
千歌さんがキョトンと目を丸くしました。
その目と視線がかち合って、しかし千歌さんは照れくさそうに目をそらしてしまいます。
千歌「私なんか、リーダーとしてまだまだです」
曜「そろそろお肉焼けるよー!」
千歌「!! わーい肉だー!」
なんと変わり身の早い。
しょぼくれた顔をしたのは一瞬で、次の瞬間にはバーベキューの明かりの方へ走り出してしまいました。
果南「お姉さん、花火どうですか?」
線香花火がずいっと差し出されました。私は遠慮なく受け取ります。
海未「ありがとうございます。お名前を伺っても?」
果南「松浦果南です。火どうぞー」
果南さんの線香花火から火を貰います。
なんだかE.T.を思い出しますね。指と指を合わせて、と、も、だ、ち。本編にこのシーンはないそうですが。
線香花火の、うっすらとした火薬の匂いの共に、色とりどりの火花がパチパチと弾けます。緑、赤、青、光。果南さんと並んで二つの光。
千歌「おー焼けてる焼けてる! じゅわじゅわしてる!」
曜「バーベキューの火だけでもずいぶん明るくなるもんだねー」
梨子「浜辺は灯りが少ないからね」
ダイヤ「ぅう……。暑いですわ……。夏なのに、火の近くは……」
道路をバイクが走り抜けていきます。夏の虫がどこかで泣いています。
善子「Hey! Shinyyyyyyyyyy!」
ルビィ「線香花火を、5本同時展開!?」
花火「こ、これがセレブ花火ずら!」
善子「わびさび儚さ夏の風情がカケラも感じられない! 最高の無駄遣いね!」
ざざーん、ざざーんと真っ黒な波が浜辺に打ち寄せます。
果南「そういえば、お姉さん」
海未「はい」
果南「思い出したんですよ。μ'sの園田海未さんですよね」
私は微笑みました。
海未「はい」
果南「驚きました」
海未「ふふっ、そうですか?」
そりゃもう、と果南さんは少し頬を膨らませます。
果南「どうして言ってくれなかったんですか」
海未「もう引退しましたから」
今の私はμ'sのメンバー園田海未ではありません。田中でルシフェル、夏の探求者なのです。ふふふふ。
果南「アホっぽい顔してます」
海未「夏が私を狂わせるのです」
千歌「一番! 高海千歌! コーラを一気飲みします!」
梨子「わーわー!」
曜「よっ、男だね千歌ちゃん!」
善子「ちょっと! 私の分のコーラも残しといてよね!」
ダイヤ「やめなさい! はしたないですわよ!?」
千歌さんは構わずコーラを喉に流し込みました。うわわわわ、炭酸苦手な私としては見ていて心配になる程です。
千歌「ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ」
千歌「………………けふ、げ、げぷぅぅぅぅう」
アイドルの喉からは間違っても出してはいけないような、間延びした音でした。
ルビィ「す、すごい、……のかなぁ?」
花丸「真似はしたくないずら」
千歌「やり遂げたよ、最後まげっぷ!」
鞠莉「最高にcoolよ千歌ちゃん!」
果南「アンコール! アンコール!」
千歌「よぅし! じゃあ次は、ペットボトルを頭に乗っけたままスノーハレーション踊りまずっぷぅえ」
『いええええええええい!』
宴も次第にボルテージが上がっていきます。
ある人はイントロを口ずさみ、またある人は同じように頭にペットボトルを乗せ、線香花火を何本もまとめて振り回して場を盛り上げます。
とーどーけてー、せーつーなーさーにはー♪
もう一本のボトルをマイクにして、千歌さんは歌います。
指先を空にかざして、横顔をバーベキューのオレンジの光に照らされて、とてもとても楽しそうに笑います。
まあ頭にペットボトルが乗ったままなんですけどね。
まもなくstarrrrrrrrrt。
夜の浜辺に歌声が通ります。
ふふふふ。
懐かしさに胸が震えました。
なんで冬の歌を夏に歌うのか。季節外れにもほどがあります。それでも、嬉しくて、たまらなくて。
海未「2番! 園田海未!」
『……へ?』
みんなが呆気にとられた顔をしました。
海未「もう一つ花火ください」
火種の消えてしまった一つ目をバケツにねじ込んで、二つ目の線香花火に火をつけます。赤、青、緑の光。私はそれを、空高くに掲げ、叫びました。
海未「私をこの場に招いてくれた、高海千歌さんにこの歌を捧げます! 園田海未! START DASH!」
呆気にとられていたのも一瞬でした。
善子「ひゅーひゅー!!」
鞠莉「待ってましターー!」
曜「カッコいいとこ見せてくださーい!」
イントロが始まります。
サンダルを脱ぎ捨てました。
さらさらとした砂浜に素足でリズムを刻みながら、私は叫びます。Yeaeeeeh!!
産毛のことりーたちーもー♪
歌声が始まります。千歌さんを手招きで呼び寄せて、指と指を繋ぎ合わせて、二人で共に歌います。
楽しくて、楽しくて。夏の始まりをカラダいっぱいに感じて。
…………
………
……
Hey! Hey! Hey! Start dash!
海未「千歌さん」
千歌「はい」
海未「スクールアイドルは楽しいですか?」
千歌「…はいっ!」
海未「なら、それで、いいんだと思います」
間奏。
海未「リーダーだから責任があるとか、そういうことは考えなくていいんです。きっとみんな、助けてくれますから」
千歌「はい」
海未「あなたの信じたメンバーはきっと、あなたが迷って躓いた時、助けてくれますから」
千歌「はい!」
火が燃え盛ります。夏の虫が鳴き、私たちは歌い、夏の始まりが浜辺に打ち寄せてくるのです。
これが、私の夏の始まりの出来事です。
…………
………
……
海未「お二人とも、久しぶりです」
穂乃果「海未ちゃーん! ことりちゃーーーん! ひっさしぶりーーー!」
ことり「久しぶり穂乃果ちゃん、海未ちゃん」
海未「祖父母の家からおみやげがあるんです。どうぞ」
穂乃果「おおーーっ! ……なにこれ?」
海未「ご当地スクールアイドルのキーホルダーです」
ことり「スクールアイドル? 懐かしいね」
海未「田舎の夏というのは、いつだって懐かしいものです」
穂乃果「ねえ海未ちゃん、夏休み、楽しかった?」
海未「はい。……ふふっ」
祖母「帽子はいらないかい?」
海未「いりません。夏ですから」
祖母「麦わら帽子が、一つあるよ」
海未「頂きましょう」
夏ですから。
私は麦わら帽子をかぶって外に出ました。
セミの声。
太陽。
むせ返るような濃密な夏の気配に心が躍ります。
静岡県沼津市内浦。
私、園田海未の夏を、始めましょう。
3: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:02:37.40 ID:DLjPDHC3.net
まずは駄菓子屋です。祖父母の家の近くにあります。
ですが私、この駄菓子屋にはあまり来たことがありません。
私はおそるおそる店内を覗き込みました。
海未「こんにちはー」
誰も応えてくれません。
カウンターにはこう書かれてありました。
『お金はここに↓』
いいでしょう。
少し期待外れというか、悲しいというか、世界に一人取り残された感じはしましたが、これもまた田舎の夏。
私は品物を手にとって、代わりにお金を受け皿に落としました。
4: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:03:30.53 ID:DLjPDHC3.net
ラムネを買いました。
炭酸は苦手ですが、夏といえばラムネかサイダーという気がします。風鈴、朽ち果てたバス停の停留所、日照り、冷えたラムネ。スイカ
残念ながらスイカと停留所はなかったので、私は店先に座ってラムネをグビリ。夏ですね。
善子「あら、どうもこんにちは」
海未「こんにびわっぷ」
おっとげっぷが。
善子「失礼。こんにびわっぷ」
真似しなくていいです。
黒髪の頭にお団子を乗っけた女の子でした。とても可愛らしいです。
6: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:05:27.68 ID:DLjPDHC3.net
善子「それは何を飲んでいるの?」
海未「夏です。私は夏を味わっているのぶぇっぷ」
善子「それはいいことね。私もラムネ買おうかしら」
海未「よろしければ、私の飲みかけをあげましょう」
善子「夏はもういいの?」
海未「夏は分け合うべきなのです。私は他の夏を探しに出かけます」
善子「そう。ありがとう、頂くわ」
女の子はラムネを勢いよく傾けてぐびりぐびり。いい飲みっぷりです。
善子「ありがぽうっぷ」
海未「どういたしまいっぷ」
うみよし『ふふふふふ』
少しだけ笑い合います。私の夏の、最初の出会いです。
8: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:07:33.43 ID:DLjPDHC3.net
駄菓子屋を離れ、私は海の方へ繰り出して行きました。
夏といえば海です。サンダルを脱いで砂浜を歩くと、熱いのです。東京では味わえません。ふふふふ。
素足で砂の感触を楽しんでいると、後ろからわおんわおんと何者かが近づいてきました。
千歌「わーーー! しいたけ止まってーーー!」
何やら不穏な気配。私はちらりと背後をふごっ。
千歌「しいたけーーーー!?」
わおんわおん。
11: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:10:47.16 ID:DLjPDHC3.net
海未「大変でした」
千歌「ぅう……。すみません」
海未「いえ、大丈夫ですよ」
どうやら散歩中にリードを離してしまったようです。
まあ失敗は誰にでもあること。私は夏らしい寛容な心で彼女を許しました。
わおんわおん。
わおんわおんじゃありません。
海未「ところであなたは」
千歌「千歌です! 高海千歌!」
12: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:11:22.31 ID:DLjPDHC3.net
海未「千歌さん。私は夏を探しているのです」
千歌「夏ですか! それなら今夜、友達と花火大会をやるんです。ええと、」
海未「ルシフェルです」
千歌「ルシフェルさんも一緒に花火しませんか? 花火、とても夏だと思います!」
海未「私が参加してもいいのですか?」
千歌「はい。夏は寛容ですから」
海未「それは素晴らしいです」
開始時間と場所を教えて貰って、私は千歌さんと別れました。
13: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:12:12.26 ID:DLjPDHC3.net
しばらく砂浜を歩いていたのですが、コンビニを見かけたので私は休憩することにしました。
なにせ暑いのです。
夏だからといえばそれまでですが、夏の暑さに耐えかねてコンビニへ逃げ込むのもそれはそれで夏らしいと私は思うのです。
みなさんはコンビニに来た時、まずどこに向かいますか? 私は飲み物コーナーです。何故かは分かりません。
あ、にごりほのか。
コンビニで涼んでいると、アイスコーナーから声が聞こえてきました。
15: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:17:31.99 ID:DLjPDHC3.net
あら可愛らしい。
姉妹でしょうか?仲良く並んでアイスケースをのぞき込む姿は、とても仲が良さそうに見えます。私は背後から声をかけました。
海未「もし、お二人」
ルビィ「うゅ?」
ダイヤ「はい? なんでしょう」
海未「私は夏を探しているのです。心当たりはありませんか?」
ダイヤ「探す、というとペットか何かでしょうか」
海未「夏は夏です。始めねばなりません」
16: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:18:59.75 ID:DLjPDHC3.net
それならば、と赤髪ツインテールさんはおもむろにケースに手を突っ込んである物を取り出しました。
ルビィ「うゅ!」
海未「スイカバー、ですか。私はメロンバー派なのですが」
ルビィ「うゅ」
邪道だ、と言わんばかりに首を振られます。いいでしょう。たしかにメロンは夏ではありません。私は受け取って会計を済ませました。
海未「ありがとうございます、お二人。良い夏を」
ダイヤ「良い夏を」
ルビィ「うゅ」
背を向けようとしたその時、レジから物騒な声が聞こえてきました。
21: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:24:52.20 ID:DLjPDHC3.net
強盗「オラッ、金出せやっ!」
あらあら、強盗でしょうか。夏らしくありませんね。
レジの店員がそのならず者にどういった対応をしたかは知れません。
ともかく彼はナイフを持ち、さながら獣のように走り出しました。
強盗「テメッ、どけや!」
ルビィ「うゆっ!?」
ダイヤ「ルビィ伏せて!」
ああ美しきかな姉妹愛。それを見た瞬間、私の心は悪を許さぬ夏の炎に燃え上がったのです。めらめら。
22: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/05(金) 23:25:41.45 ID:DLjPDHC3.net
海未「ていっ」
振り回される手首の軌道に呼吸を合わせ、懐に体を重ね、裾を引きつけ、軸足を跳ね飛ばし、地面に叩きつけて自由を奪います。ウィナー! 一瞬でした。
ダイヤ「ああ、なんと素晴らしいのでしょう。素敵ですわ!」
ルビィ「うゅ」
良いことをして鼻は高いですが、私は不満でした。強盗を退治するなど夏ではありません。
何か夏らしいことをしなければ。私は立ち上がります。
海未「私は行きます。夏が呼んでいるのです」
ダイヤ「待ってください! せめてお名前だけでも」
海未「田中です。さらば」
スイカバーを舐めながら去りました。甘いですです。
55: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/06(土) 16:15:41.83 ID:u2Xz7ypw.net
再び浜辺を歩いていると、女の子が仰向けに寝ているのを見つけました。
夏の気配を感じます。私は尋ねました。
海未「あなたはなにをしているのですか?」
曜「入道雲に包まれているのです」
女の子は寝たまま、頭上の雲を指さしました。
海未「素晴らしいです。私もご一緒していいですか?」
曜「はい。雲はみんなのものですから」
56: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/06(土) 16:16:22.90 ID:u2Xz7ypw.net
私は仰向けになりました。
眩しさに目を細め、熱せられた浜の砂の熱さに思わず腰を浮かべそうになります。あっつ。
曜「夏ですね」
海未「夏です。素晴らしいです」
曜「しかし、これは一日五分しかしてはいけないんです」
海未「それはなぜですか?」
曜「終わらないラジオ体操はありません」
海未「あっつ」
曜「それに、目が痛くなります」
海未「道理です」
麦わら帽子を顔にかぶせて夏を感じます。
57: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/06(土) 16:17:03.40 ID:u2Xz7ypw.net
それから五分。会話はありませんでしたが、私は充実した気持ちでした。
海未「素晴らしい夏をありがとうございます」
曜「いえいえ。それでは、全速前進ヨーソロー!」
個性的な挨拶です。私は小さくヨーソローと返して夏を探しに戻りました。
69: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 20:59:58.53 ID:g3HKJLdJ.net
海辺を離れて歩いて行くと、石段を見つけました。
その先にはお寺があるようです。海が夏なら山も夏。森も夏。セミの声を感じながら私は石段を登っていきます。
花丸「こんにちは」
海未「こんにちは」
登りきった所に、一人の少女がいました。私は尋ねます。
海未「掃除をしているのですか?」
花丸「はい。私の日課です」
海未「手伝ってもいいですか?」
少女は驚きました。
70: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 21:00:52.65 ID:g3HKJLdJ.net
花丸「何故ですか?」
海未「探し物があるのです。見つかるかもしれません」
そういうことならば、と少女は竹箒をもう一つ持ってきました。
花丸「頑張りましょう」
海未「はい。ところで、私は夏を探しているのです」
花丸「夏ですね。たくさん見つけたいのですか?」
海未「はい。心当たりはありませんか?」
少女は少し考えて、竹箒を示して微笑みました。
71: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 21:02:02.81 ID:g3HKJLdJ.net
海未「掃除が夏ですか?」
花丸「はい。落ちているゴミは季節によって様々なのです」
海未「そうなのですか」
花丸「秋は落ち葉。冬はホッカイロ。春はチリ紙に夏はアイスの包装です」
海未「夏を奪ってしまいませんか?」
花丸「私は明日も夏を感じるでしょう。構いませんよ」
海未「では、お言葉に甘えて」
72: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 21:21:35.08 ID:g3HKJLdJ.net
気がつけば日が暮れかけていました。
太陽がオレンジ色に燃えています。
花丸「お疲れ様でした。夏は見つかりましたか?」
海未「はい。堪能させていただきました」
花丸「粗末なものですが、いかがですか?」
二つのおまんじゅうでした。
「こしあん」「つぶあん」と書かれています。
海未「私はどちらでも」
花丸「私もどちらでも」
「こしあん」を手に取りました。ベンチに並んで座ります。
73: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 21:32:57.31 ID:g3HKJLdJ.net
花丸「夏の夕焼けと冬の夕焼けの違いを知っていますか?」
海未「いいえ。知りません。違うのですか?」
花丸「見え方が違うのです。湿度の関係で、冬はすっきりシャープに、夏はぼやけたオレンジになります」
空を見上げました。水に滲んだようなオレンジの太陽。私は嬉しくなってきます。
海未「夏なのですね」
花丸「はい」
海未「夏と冬の夕焼け。どちらが好きですか?」
花丸「どちらも好きです。何故なら、本質は変わりませんから。見え方が違うだけです」
海未「難しいです」
花丸「お姉さんはどちらが好きですか?」
お姉さん、という呼び方にくすぐったくなります。
74: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/07(日) 21:36:55.20 ID:g3HKJLdJ.net
海未「私も、どちらも好きなんです」
花丸「それは何故ですか?」
海未「こしあんもつぶあんも、両方好き。そういうことです」
ふふっ、と少女は笑いました。
花丸「欲張りさんですね?」
海未「はい。おまんじゅう、とても美味しかったです」
私は礼をして石段を下りて行きました。セミの声が遠ざかっていきます。夏は残りもあまりありません。
81: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/08(月) 22:58:28.72 ID:hOc9yqbf.net
千歌さんと約束した花火が、そろそろ始まります。
海岸を歩いていると、困っている風の女の子三人組を見つけました。私は声をかけます。
海未「なにかお困りですか?」
梨子「レジ袋の底が破けてしまったのです」
なるほど、花火のパッケージが砂にまみれていくつか転がっています。
果南「どっかの壁で引っ掛けちゃったのかもね」
鞠莉「困ったわね」
三人は見れば見るほど大荷物で、花火の他にもバーベキューの機器や食材まで運んでいるようです。
海未「よろしければ手伝いましょうか?」
梨子「いいのですか?」
海未「夏ですから」
85: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/09(火) 21:39:49.97 ID:O5vITcfq.net
花火を半分持たせてもらいます。その量はまさにどっちゃりといった感じで、10人はいないと使い切ることすら難しそうです。
海未「すごい量ですね。花火でもするんですか?」
梨子「はい。海辺で、ご飯を食べながら」
果南「私たち、スクールアイドルをやってるんです。そのみんなで花火をすることになって」
ほう、と私は驚きました。その懐かしい響きに頬が緩みます。
海未「スクールアイドルは楽しいですか?」
86: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/09(火) 21:41:12.53 ID:O5vITcfq.net
梨子「はい。……ふふっ、最初は半ば無理やりだったんですけど」
鞠莉「私が入った時には、すでにノリノリだったみたいだケド?」
果南「あれだね。即落ちってやつ」
梨子「もう、からかわないでくださいよ」
仲がいいんだな、と思います。
果南「ところでお姉さん。地元の人?」
海未「いえ、祖父母の家が近くにあるんです」
果南「そうなんだ。うーん、どっかで見たことがある気がするんだけど」
海未「ふふっ、……かもしれませんね」
87: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/09(火) 22:48:34.14 ID:O5vITcfq.net
しばらく歩いていると、前方に見覚えのある人影がありました。
善子「遅かったわね。三人とサイダーの人」
海未「ちょっと前ぶりですこんばんわ。そしてあれは、サイダーではなくラムネです」
善子「ラムネとサイダーは中身同じだけど」
海未「それは不粋というものです」
鞠莉「ん? 二人は知り合い?」
海未「夏を分け合った仲なのです」
お団子頭の少女に荷物を少し持ってもらいます。
どうやら千歌さんから、私が飛び入り参加することは聞いていたみたいです。
海未「すみません、急な話で」
果南「構いませんよ。夏ですから」
梨子「私たち、みんなで9人なんですけど、きっと仲良くなれると思います」
99: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/13(土) 01:29:48.37 ID:ZWRczkp4.net
千歌「ルシフェルさーーーん」
会場に着くと、そこには見覚えのある方々がいました。
ダイヤ「田中さんこんばんは。先ほどは助けていただいてありがとうございます」
ルビィ「うゅ。ありがとうございます」
海未「いえいえ。スイカバー美味しかったです。良い夏でした」
花丸「こんばんわ。偶然ですね」
海未「そうですね。また会うとは思ってませんでした」
特に花丸さんはつい半時間前に分かれたばかり。夏休みの神様は運命がお好きですね。
100: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/13(土) 02:11:03.50 ID:ZWRczkp4.net
千歌「わたしお腹すいたよー!」
曜「じゃあさっさとバーベキューの準備しよっか」
果南「手伝うよ」
曜「お、助かりますー」
千歌「わたしもバーベキューするー!」
梨子「はいはい千歌ちゃんは向こうでみんなと遊んでてねー」
善子「火の精霊よ、我に力を貸したまえ! ていっ!」シュボッ
ダイヤ「ちょっ、花火始めるの早くありせん!?」
101: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/13(土) 02:14:46.16 ID:ZWRczkp4.net
善子「ふふふはは! これぞ夏の輝き! ……ふふふ、これもいつか朽ち果てる運命……」
鞠莉「せめてバケツに水用意してからがいいんじゃナイ?」
善子「あっ」
ルビィ「水! 水がないと善子ちゃん燃えちゃう!?」
花丸「水道どこずら!? 消防車に連絡!」
善子「燃えないわよ!」
梨子「はいはい海から汲んできたよー」
9人が集まって、陽の落ちた海辺はにわかに騒がしくなります。
早速とばかりに花火で遊び始める者、談笑しながらバーベキューの準備をする者、隙あらばつまみ食いを企む者、その手をぺちんと叩く者。
そして私。
107: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/14(日) 22:29:26.28 ID:RSskxrpn.net
千歌「ルシフェルさん、楽しんでますか?」
千歌さんが話しかけてきました。なんとか奪取に成功したのか、口から生タコの足がぴょろんとはみ出ています。
海未「みなさん仲がいいですね。見ていて楽しくなります」
千歌「田舎ですから、こういうイベントも多いんですもぐもぐ」
海未「スクールアイドルをやってると聞きました」
千歌「はい。Aqoursっていうグループなんです。実はリーダー私で」
海未「やはりそうでしたか」
108: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/14(日) 23:50:08.85 ID:RSskxrpn.net
千歌「やはり、というと?」
海未「友人にいるんです。千歌さんに似た人が」
千歌さんがキョトンと目を丸くしました。
その目と視線がかち合って、しかし千歌さんは照れくさそうに目をそらしてしまいます。
千歌「私なんか、リーダーとしてまだまだです」
曜「そろそろお肉焼けるよー!」
千歌「!! わーい肉だー!」
なんと変わり身の早い。
しょぼくれた顔をしたのは一瞬で、次の瞬間にはバーベキューの明かりの方へ走り出してしまいました。
109: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 00:01:57.12 ID:j6EzkY85.net
果南「お姉さん、花火どうですか?」
線香花火がずいっと差し出されました。私は遠慮なく受け取ります。
海未「ありがとうございます。お名前を伺っても?」
果南「松浦果南です。火どうぞー」
果南さんの線香花火から火を貰います。
なんだかE.T.を思い出しますね。指と指を合わせて、と、も、だ、ち。本編にこのシーンはないそうですが。
110: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 02:10:02.88 ID:j6EzkY85.net
線香花火の、うっすらとした火薬の匂いの共に、色とりどりの火花がパチパチと弾けます。緑、赤、青、光。果南さんと並んで二つの光。
千歌「おー焼けてる焼けてる! じゅわじゅわしてる!」
曜「バーベキューの火だけでもずいぶん明るくなるもんだねー」
梨子「浜辺は灯りが少ないからね」
ダイヤ「ぅう……。暑いですわ……。夏なのに、火の近くは……」
道路をバイクが走り抜けていきます。夏の虫がどこかで泣いています。
111: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 02:21:13.29 ID:j6EzkY85.net
善子「Hey! Shinyyyyyyyyyy!」
ルビィ「線香花火を、5本同時展開!?」
花火「こ、これがセレブ花火ずら!」
善子「わびさび儚さ夏の風情がカケラも感じられない! 最高の無駄遣いね!」
ざざーん、ざざーんと真っ黒な波が浜辺に打ち寄せます。
果南「そういえば、お姉さん」
海未「はい」
果南「思い出したんですよ。μ'sの園田海未さんですよね」
私は微笑みました。
海未「はい」
112: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 02:28:21.99 ID:j6EzkY85.net
果南「驚きました」
海未「ふふっ、そうですか?」
そりゃもう、と果南さんは少し頬を膨らませます。
果南「どうして言ってくれなかったんですか」
海未「もう引退しましたから」
今の私はμ'sのメンバー園田海未ではありません。田中でルシフェル、夏の探求者なのです。ふふふふ。
果南「アホっぽい顔してます」
海未「夏が私を狂わせるのです」
114: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 17:45:10.26 ID:zW7Z8UJk.net
千歌「一番! 高海千歌! コーラを一気飲みします!」
梨子「わーわー!」
曜「よっ、男だね千歌ちゃん!」
善子「ちょっと! 私の分のコーラも残しといてよね!」
ダイヤ「やめなさい! はしたないですわよ!?」
千歌さんは構わずコーラを喉に流し込みました。うわわわわ、炭酸苦手な私としては見ていて心配になる程です。
千歌「ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ」
千歌「………………けふ、げ、げぷぅぅぅぅう」
アイドルの喉からは間違っても出してはいけないような、間延びした音でした。
115: 名無しで叶える物語(庭)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 17:56:40.01 ID:zW7Z8UJk.net
ルビィ「す、すごい、……のかなぁ?」
花丸「真似はしたくないずら」
千歌「やり遂げたよ、最後まげっぷ!」
鞠莉「最高にcoolよ千歌ちゃん!」
果南「アンコール! アンコール!」
千歌「よぅし! じゃあ次は、ペットボトルを頭に乗っけたままスノーハレーション踊りまずっぷぅえ」
『いええええええええい!』
宴も次第にボルテージが上がっていきます。
ある人はイントロを口ずさみ、またある人は同じように頭にペットボトルを乗せ、線香花火を何本もまとめて振り回して場を盛り上げます。
119: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 21:10:26.48 ID:HX3VUzYy.net
とーどーけてー、せーつーなーさーにはー♪
もう一本のボトルをマイクにして、千歌さんは歌います。
指先を空にかざして、横顔をバーベキューのオレンジの光に照らされて、とてもとても楽しそうに笑います。
まあ頭にペットボトルが乗ったままなんですけどね。
まもなくstarrrrrrrrrt。
夜の浜辺に歌声が通ります。
ふふふふ。
懐かしさに胸が震えました。
なんで冬の歌を夏に歌うのか。季節外れにもほどがあります。それでも、嬉しくて、たまらなくて。
海未「2番! 園田海未!」
121: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 21:16:54.97 ID:HX3VUzYy.net
『……へ?』
みんなが呆気にとられた顔をしました。
海未「もう一つ花火ください」
火種の消えてしまった一つ目をバケツにねじ込んで、二つ目の線香花火に火をつけます。赤、青、緑の光。私はそれを、空高くに掲げ、叫びました。
海未「私をこの場に招いてくれた、高海千歌さんにこの歌を捧げます! 園田海未! START DASH!」
122: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 21:29:15.80 ID:HX3VUzYy.net
呆気にとられていたのも一瞬でした。
善子「ひゅーひゅー!!」
鞠莉「待ってましターー!」
曜「カッコいいとこ見せてくださーい!」
イントロが始まります。
サンダルを脱ぎ捨てました。
さらさらとした砂浜に素足でリズムを刻みながら、私は叫びます。Yeaeeeeh!!
産毛のことりーたちーもー♪
歌声が始まります。千歌さんを手招きで呼び寄せて、指と指を繋ぎ合わせて、二人で共に歌います。
楽しくて、楽しくて。夏の始まりをカラダいっぱいに感じて。
124: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 22:01:01.42 ID:HX3VUzYy.net
…………
………
……
Hey! Hey! Hey! Start dash!
海未「千歌さん」
千歌「はい」
海未「スクールアイドルは楽しいですか?」
千歌「…はいっ!」
海未「なら、それで、いいんだと思います」
間奏。
海未「リーダーだから責任があるとか、そういうことは考えなくていいんです。きっとみんな、助けてくれますから」
千歌「はい」
海未「あなたの信じたメンバーはきっと、あなたが迷って躓いた時、助けてくれますから」
千歌「はい!」
火が燃え盛ります。夏の虫が鳴き、私たちは歌い、夏の始まりが浜辺に打ち寄せてくるのです。
これが、私の夏の始まりの出来事です。
125: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 22:06:58.13 ID:HX3VUzYy.net
…………
………
……
海未「お二人とも、久しぶりです」
穂乃果「海未ちゃーん! ことりちゃーーーん! ひっさしぶりーーー!」
ことり「久しぶり穂乃果ちゃん、海未ちゃん」
海未「祖父母の家からおみやげがあるんです。どうぞ」
穂乃果「おおーーっ! ……なにこれ?」
海未「ご当地スクールアイドルのキーホルダーです」
ことり「スクールアイドル? 懐かしいね」
海未「田舎の夏というのは、いつだって懐かしいものです」
穂乃果「ねえ海未ちゃん、夏休み、楽しかった?」
海未「はい。……ふふっ」
126: 名無しで叶える物語(しまむら)@\(^o^)/ 2016/08/15(月) 22:10:21.71 ID:HX3VUzYy.net
元スレ海未「夏の始まりへ」