【モバマスss】あい、くるしい

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【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;酒鍋










1: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:17:09 ID:4nG

甘奈のssです。失敗しても、きっと甘奈ならこうやって明日に進んでいくんだろうなという強い妄想を趣味全開で描きました。よろしければぜひ。
よろしくお願いします。



2: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:18:17 ID:4nG

【あまりもの】



 ────風吹く坂道を登って、街を見下げる。冷めた空気がフタをしたかのように、目の前の解像度を落とす。しかしそれでも街の全貌は掴み取れた気がした。

 少し怒りが湧いてしまうくらいの空模様だった。青く澄んで、高くそびえて、どうしようもないくらいに優しかった。
 私の気持ちとは裏腹に、なんて心地の良い風が吹くのだろう。八つ当たりかもしれないが、それはそれ。少し空気を読んでくれてもいいではないか。あまり声にしないし表情には出してはいないけど、それでも確実にオーディションに落ちたショックは今の私を支配する感情なのだから。



3: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:18:35 ID:4nG

 頑張った。それはもう頑張った。頑張って頑張って、もう呆れるほど頑張った。
 
 このオーディションがあると伝えられたのは、二ヶ月前だったか。「甘奈になら」と、プロデューサーさんが推薦してくれたお仕事だった。
 勝ち取れるはずだと思っていた。油断は全くしていなかった。でも、できるはずだと信じていたのだ。
 それは、プロデューサさんが言ってくれたからだ。「根拠はないよ」と。
 続けて、「でも、甘奈の積み上げたものは誰にも負けない。それは何かを生むわけじゃないけど、でも事実として、それは間違いなくあるものだから」と。
 今日までに努力した。積み上げたものがある。でもそれは明日の歩みを担保するものではない。でも、疲れた時にちょっと横を見て、自分を慰められるものがあったら、真っ白な明日だって歩いていける気がするじゃないかと。彼は最後にそう締めた。



4: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:18:50 ID:4nG

 正直、プロデューサーがアイドルを勇気付けるセリフにしては落第点だと思う。「大丈夫」とか、「俺は甘奈を信じている」とか、そんな簡単なセリフで良かったと思う。歯の浮くような気の利いた言葉でなくても、素朴なあなたの言葉で。
 
 でも、だから私はこの二ヶ月、笑いながら頑張れてこれたのだと思う。プロデューサーさんのためにでもあるし、そして何より、自分のために。
 ──そう。昨日までの私は今の私を作っているが、明日の私はどうなるかわからない。同じような一歩をつなげた私になるかもしれない。打って変わって、まるで違う私になるかもしれない。それとも……とにかく、予想のつかない様々な姿の”わたし”が、私の先にある。

「どんな甘奈だって、甘奈だよ」と。彼はわたしに、そう言ったに違いないのだ。

 ────でも、ごめん。待ってもらったのに、期待してもらったのに、信じてもらったのに、ダメだった。負けちゃった。もしかしたら、負けてすらいなくて──あの時の彼女たちみたいな立場に、今の私がなったのかもしれない。
 でもそれだとあんまり悲しいし、プロデューサーさんも”そういうの”はすっごく嫌いなはずだから、純粋に私が負けてしまったと信じることにしよう。

 だから今の私は、傷心なのです。



5: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:19:06 ID:4nG


 
 ゆっくりと、丘の上にある駅へ向けて足を進める。歩いて行こう、と提案したのは私だ。あんまりにもきれいな空だったから──それに、ゆっくりと近づいて行きたかったのだ。
 プロデューサーさんは私の歩幅に合わせて、歩いてくれている。いつものプロデューサーさんは、もう少し早くきびきびと歩くことを知っている。こんなに緩く、のんびりと歩いているのは、ひとえに私を慮ってのことに他ならなかった。
 ──相変わらず、優しいなあ。
 逆に私はいつもより少し足早に歩を進める。春に跳ねるように地面を蹴り、透明を抱きしめるように足を着く。一言で言ってしまえば、中途半端な浮かれ気分というやつだ。不思議なくらい涙が出てこない。心に反比例するように、今の私は文学的だ。



6: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:19:20 ID:4nG


 坂の中腹に来たときに、今日一番の爽やかな風が吹いた。
 それはびゅんと心を駆け抜け、しっとり体に巻き付いた。
 
 緑が揺れた。
 頭の中にある言葉はぷつりと途切れた。
 しばらく立ち止まり、風を吹かれて目を閉じる。
 どれくらい、立ち止まっていただろう。わからない。
 思いを馳せた今の時間は、誰かに共有されることもなく消えていく。次から次へと。

 真横、静かで心地の良い声が聞こえた。多分それはプロデューサーさんの声だ。
 はーい、と軽く返事をして駆けていく。

 追いかけるように、少し足早に。



7: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:19:38 ID:4nG

「あ────。」 私が駆けたのとほぼ同時に、坂の下の林から、鳥が空へと羽ばたいていく。どこかの木に留まっていたはずの鳥たちは、もうあんなに小さく──。
 そんな何の変哲もない、ポラロイド写真のような一瞬が、今この時の私を惹きつけてやまなかった。

「不思議だよね、プロデューサーさん……。」
 何がだ、と短く返す彼。
「あの鳥たちってさ、さっきまで下の林にいたわけじゃん。」
 うん、と次を促すように。
「その時はさ、見えなかったんだよ。近くにいたはずなのに、見えなかった。でも、飛び立った今は、あんなに遠くにいるのに、姿が見えるから。」
 ああ、と。
 短い返答は変わらないが、その後に少し空気を吸い込んだ音がした。
「そうだな。そりゃ遠いものは見えにくいし、近いものは見やすい。……でも、『遠いから見えない』ってのも、『近いから見える』っていうのも、違うよな。」
「……あの子たちは、どっちがいいのかな。」
「……どうだろうな。案外、何も考えていないのかもしれない。」
「もう、そんなこと言ったら台無しじゃん。」
「……そうでもないさ。」
 頭をくしゃりと撫でられる。どうやら私が寂しそうに見えたのだろうか。その手つきは、想像していたよりもずっと優しく、長い。
 それは時間的な意味合いでもあり、彼の指の長さでもあった。



8: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:19:54 ID:4nG

「でもな」
 と前置きしてから、彼はいう。
 その目はどこか寂しげで、隣にいるはずの私ではない誰かを見ていた。
 どこか、ここではない何時(いつ)かを見て、彼はいう。

「飛び立つには、理由があるんだ。」
 ────なんであれ、な。
 ぴたりと、私の頭を撫でる彼の手の動きが止まる。こうしてみて、初めてわかったことがある。誰かの指の長さは、それが止まっている時よりも動いている時の方が、長く感じる。
 もしかしたら今後一生使わない知識かもしれない。でも今の私にとっては大きな発見で、大切で、大事にしたい知識だった。



9: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:20:10 ID:4nG

「────また、飛べるかな。」
 左手で、彼の手を取る。彼の表情は見えない。ああ、あなたは今私に、どんな顔を向けているだろう。慈愛だろうか。憐憫だろうか。それとも後悔か。きっと笑ってはいないだろうけど───。

「ああ、もちろんだろ。これから先、たくさん飛んで、その度に休んで──その繰り返しなんだ。」
 最後にぽんと、頭を軽くはたかれる。
 もうあの鳥たちは見えない。会話の最中に見失ってしまったようだ。
「うん────。よし、プロデューサーさん! 早く事務所帰って、明日からの予定一緒に見直そ!」
 努めて明るく声を出した。彼には全てバレてしまっているはずだけど。強がりだって、見抜かれているはずだけど、それでも明るく振る舞った。
 そうする理由はなかった。
 そうしなければいけない理由もなかった。
 だからこの行為は余分だ。余剰だ。割り切れない気持ちの、最後に少し残った濁りなのかもしれない。
 
 でも。
 そうしたかったから、そうする。
 純粋なあまりものの気持ちを私は大切にしよう。

 きっとそれが、明日の私からの贈り物なのだろうから。
 いつか消えてくれるのか、それとも相変わらず残り続けるのか。
 いつまでなのか、こんなことすらわからないけど。
 私はそれに向き合うことに決めた。緑色は、さっきよりも少し重く見えた。



10: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:20:23 ID:4nG

【明るい黒色】



 夕陽が落ちていくのが窓から見えた。比喩ではなく、今まさに私の目の前で夕陽が落ちていく。たくさんのビルの向こう、地平線の先から、夜がやってくる。
 騒がしい街も静かに、静かな街はより静かに落ちていく。

 思い出の中にある一日よりも、都会におけるそれの方がだいぶ長い。かくついていて、パッチワークのようにつぎはぎの姿をしている。色は強い原色に彩られ、それが素早くアニメーションのように移り変わっている。
 昔は、日々というものはなめらかに繰り返すものだと思っていた。もちろんここでも、その一面は保持している。……でも、そうでない一面の方に気を持っていかれてしまう。
 
 都会では季節や日々は繰り返すものではなく、始まって終わりがあるものだ。朝に目覚め、夜に溶けて、その一日は終わる。時間についての話ではなく、概念的にその一日はそこで閉じてしまうのだ。
 終わった毎日はアルミホイルを丸めた球体のようになって、心のディスプレイ・ラックへと置かれる。それは最上段へと次々に置かれていく。入り切らなくなったら、一番下にある球がいつの間にかなくなっていく。誰もそれに気づくものはいない。当然だけど、自分でさえも。

 大事にされているのは何か心に強く残る出来事があった日のものだけだ。ガラス製のケースにラベリングされ、部屋の片隅へと置かれている。必要だったら、中のものを取り出せばいい。
 不思議なことではあるけども、錆びて昔のような輝きは失われているのに、誰もがみんな、それを”美しい”という。

 そんな機械的な毎日の中にあって、でもこの夕陽は人間的だった。これが唯一というわけではないけど、でも今の私の目に入っているものの中ではこれが全てで、さらにこれしかなかった。

 夕陽はどうして、朝陽よりも昼陽よりも明るく輝くのだろう。きっと光の強度の問題ではない。数値の、科学の問題ではないのだ。あの光は、どうして燃えるように心を包むのだろう。



11: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:20:43 ID:4nG


 
 レッスンはさらに多く、激しくなった。ダンス途中の完全な静止や安定した高音、一瞬の表情。さらに磨きをかけて次のチャンスを待つ。

 一週間前に受けたオーディションは、ダメだったみたい。あの日のオーディションから続けて三度目だ。今日受けてきたオーディションでも、私よりずっと素敵なアイドルがいた。結果はまだ出ていないけど、推して知るべきだろう。
 率直に言えばスランプというものだ。レッスンでは十分に成果が確認できている。本番だって、それを十全に発揮できているはずだ。だというのに、受からない。原因がわかれば対策のしようもあるが、しかしだからこそのスランプなのだろう。

 最近は千雪さんや甜花ちゃんと一緒の仕事も少ない。三人でやらせてもらっているラジオ番組は継続しているが、考えてみればこの一ヶ月、三人一緒のお仕事はこれだけだ。
 千雪さんは雑誌のコラムなどの仕事が次から次へと舞い込んでくるらしい。それに合わせた取材の話も多い。
 甜花ちゃんはある雑誌の評判がすごく良かったらしくて、モデル業の仕事が多くなっているらしい。プロデューサーさんによると、甜花ちゃんの持つ独特な世界観がだんだんと認知されてきているらしい。今度は、ドラマにも出演すると聞いた。

 翻って私は────。



12: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:21:00 ID:4nG

 お仕事がないというほどではないけども、確実にこの一ヶ月の仕事量は私だけ目に見えて少ない。それだけレッスンする時間が増える。だから毎日毎日、必死にレッスンをする。負荷を上げて、自分を追い込む。確実に昨日の自分より進歩しているはずだけど、それは概念上のものだ。
 きっと私というクラウドがあれば、そのデータはホットに更新されているに違いない。しかし毎日を過ごす表面である端末の私に、そのアップデートが届いていない──だから私は毎日に追い抜かれ、後退しているのだと思う。

 当然だろう。始まりがあって終わりがある毎日は、動いているのだから。
 その速度に追いつけなければ──止まってなどいれば──あっという間に過去の自分に追い抜かれてしまう。錆びたものに美しさを感じるというのだから、それは自明の理だ。



13: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:21:11 ID:4nG

「プロデューサーさん、お疲れ様ー。」
「ああ、甘奈。ちょっといいか。」
 ……表情が曇っている。それもそうだろう。
「うん……何?」
 休め、とでも言われるのだろうか。ちょっと視点を変えてみよう、とでもいうのだろうか。優しいあなたは、つまずいた私にどんな言葉をかけてくれるのだろう────。
「……プリン、食べに行こう。」
「……へ?」



14: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:21:23 ID:4nG



 一時間後に閉店を迎える店内。それでも人の数はそれなりに多い。注文はしておくから、と言われたので、私は席を探す。窓の外を向いたカウンター席──だから、カウンターとは言わないかもしれないけど──を二つ確保する。
 マスクはしているけど、店内でサングラスをする方が余計に目立ってしまう。少し抑え目の服装をしているものの、バレる危険性はゼロではないだろう。
 だから本当はガラス窓に面した席ではなく、店内の複数がけの席を確保するべきなんだけど──そしてそれが空いているにもかかわらず、私はこの席を選んだ。理由は、自分がわかっていないだけで、あるのだろう、きっと。

 足をぷらぷらと揺らしながら、何を呟くわけではないが、スマートフォンでツイスタを見る。タイムラインには283プロダクションのアイドルの話題がちらほらと散見された。そこには確かに自分の名前も載っている。



15: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:21:37 ID:4nG

 ……小さくため息を吐くと、プロデューサーさんが「幸せが逃げるぞ」と言いながらやってきた。「何それ」ととうと、「あったんだよ昔は、そういうの」と軽くいい、私の隣に腰掛ける。
 プロデューサーさんが買ってきてくれたのは、いつものプリンと──昼の間には売り切れ必至の、限定ゴージャスプリンだった。
「あれ、なんでまだあるの。」
「とっておいてもらったんだよ。昼の間に電話して。」
「え、そうなんだ。……プロデューサーさん、今日私が来れなかったらどうするつもりだったの?」
「ん? その時は二つ食べるだけさ。」
 何を当たり前のことを、と笑いながらカラメルソースをプリンにかけるプロデューサーさん。甘いものの取りすぎは体に悪いんだよと言いながら、私の頬の緩みは深まるばかりだった。
 ──そのあと、私たちの間に行われた会話について、特筆すべきことはない。レッスン後の甘いものは美味しいな、とか。甘いものはいつだって美味しい、とか。お酒だって同じようなものだ、とか。私が大人になったら、一緒にお酒を飲もう、とか。そんな会話の応酬だった。
 プリンを食べ終わった後、プロデューサーさんがカフェラテを注文してきてくれた。さすがにここまでしてくれて申し訳なくなったので財布を出そうとすると、子供が気を使うもんじゃない、と窘められた。



16: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:22:01 ID:4nG

 ──ガラス越しに見る信号機の赤、青、黄色。目を細めると、丸いはずの光が少し重なって見えた。そのまま目を瞑ると、色は全部黒色に変わってしまうが、外の夜色よりも、だいぶ明るい黒だ。

「甘奈、そのまま目を閉じて聞いてくれるか?」

 プロデューサーさんがこのカフェに来てから、一番鋭い声を出す。体がぴくりと小さく跳ねるが、わかった、と言って体の力を抜く。

「────その色で、いいんだ。」
「え────?」

 ……その一言を私の耳元で行ってから、プロデューサーさんは言葉を継がなかった。代わりにもういいよ、と。目を開けると、これが今日ここに来た意味なんだよと言いたげな少しキザっぽい笑みを浮かべている。何それ。プロデューサーさんには似合わないよ。……でも。

「────そっか。思ってたより、きれいだね。」

 二人、声を交わさずカフェラテを飲む。まだ最後の一口が残っていたけれど、店員さんが閉店のお時間ですので、と声をかけてきた。私たちははい、と返事をして最後に一口、残りを吸い込む。きれいに片付いたカップは店員さんが回収してくれた。



17: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:22:13 ID:4nG

 夜の色は重く。でも私の中の黒は夕陽に負けないくらい、輝いていた。
 
 今日が終わる。ラベリングも必要がないくらい、それは輝いていた。



18: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:22:34 ID:4nG

【きっとでいいから】



「甘奈、おめでとう。」
「やっっ…………たーーーー~~~~!!!!」

 いつかの日から、二ヶ月がすぎた。ちょうどあの日を境に折り返すと、プロデューサーさんから私なら、と声をかけられた日くらいになるだろう。
 スランプというものは原因がなく、どうすれば治るのかもわからない代物だけど、それでも治る時は一瞬だ。訳がわからず苦しんで、それは随分と理不尽だと思うけど、超えてしまえばそれは記録にしか残らない。

 ようやく、オーディションに合格した。ネット配信のドラマの、本当に一瞬しか映らない脇役だ。でも、それがどうしようもなく嬉しかった。

「ねぇねぇ! 甜花ちゃんと千雪さんには話してもいい!?」
「もちろん。二人もきっと喜ぶと思うぞ……ってもう電話中か。」



19: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:22:59 ID:4nG

 二人に電話をすると、なぜか向こうのほうから涙声が聞こえた。私も涙声になるかな、なんてその声を聞いた時は冷静に考えたけど、涙は全く浮かんでこなかった。私は笑って、ありがとうと繰り返した。何もしてないと返す二人の言を真っ向から跳ね返すように、何度もありがとうと。



20: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:23:19 ID:4nG

 電話を終えると、プロデューサーさんが笑いながら私の頭を撫でてくれた。その手つきはあの日よりずっと乱暴で粗雑だった。でもその優しさはあの時と同じ、ひょっとしたらもっと深くなっているのではないかと感じられた。

「────んっ……。」

 自分でも予期しなかった声が出てしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。顔は真夏の太陽のように暑く、汗がじわりと背中ににじむ。

「ちょ、ちょっと離れて、プロデューサーさん……!」
 なんで、と問うあなたはちょっと乙女心の解析が甘いのではないでしょうか。……あ、汗の匂いとか、あんまり、その……

 少し距離を取り、改めてプロデューサーさんの顔を見つめる。
 もう陽は落ちて、やや薄暗い。電気でもつけようかと思い立つような微妙な明度と、鈍く統率された彩度の中でも、プロデューサーさんの顔ははっきりと見えた。



21: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:23:33 ID:4nG

「……ありがと。」
「……プロデューサーだから。」
「もう。ありがとって言ったら、どういたしまして、しかダメなんだよ。」
「そうか……いやでもやっぱり、俺はプロデューサーだから。」
「……じゃあ、私の方がどういたしまして。」
 
 言ったそばから、なんだよそれ、とプロデューサーさんがくっくと小さく笑う。拳を軽く握って口に当て、目を細めて。目尻の周りの筋肉がくしゃっとなって、頬が上がって。
「……だってプロデューサーさん、甘奈にありがとうーって、言いたいでしょ?」
「……それは、いつもだよ。今日に限った話じゃない。」
「でも、今日は特に!」
「そうかなぁ。……そうかも。」

 事務所の窓の外がだんだんと橙色に染まっていく。その光はやっぱり、少し暗がりを見せていた部屋を少しだけ明るくする。そんなはずないのに、日は落ちていくばかりなのに。



22: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:23:44 ID:4nG

 ──それでもやっぱり、どうしたって明るくなった。



23: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:24:02 ID:4nG

「ね、プロデューサーさん。」
「……なんだい。」

「この先ね、甘奈、たくさん飛びたい。いろんなこと、したい。やりたい。させてもらいたい。……それでね、たまに、休みたくなくても、休まなきゃいけない時、くると思う。」

 ……プロデューサさんは、何も言わない。

「でもね──甘奈、また、飛ぶから。頑張って頑張って、わからないこととか、できないことばかりだけど、でも、甘奈、飛ぶから。みんなに、見つけてもらえるように。」

 うん、とプロデューサーさんは頷きだけを返す。夕陽はもういっぱいに煌めいていて。


「だから、きっとね。────きっと、その時は、プロデューサーさんも隣にいてね。」



24: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:24:17 ID:4nG

 ああ、という彼の声の奥には、少しだけ水色が見えた気がする。照れ隠しなのかわからないけど、大きく頭を撫でられる。大きく、大きく。

 ────もう部屋は影に染まっている。二人の影も、それに溶けて判別すらつかない。

 だけど、その”ひ”もやっぱり、輝いていた。

 





25: 名無しさん@おーぷん 20/04/14(火)22:30:26 ID:4nG

以上です。

甘奈は可愛い。少しでも表現できていたら嬉しいです。
私が過去に書いた甘奈のss、『Perturbation』とはつながっているような、つながっていないような。そんな感じです(多分時系列的にはPerturbationの前日譚と思っていただいた方が自然かなと)。

他には最近こんなものを書いていました(最近の3つです。渋には掲示板に載せていない作品もあるので厳密ではありませんが)。
これらも含め、過去作もよろしければぜひ。
よろしくお願いします。

【シャニマスss】二人と四人ではんぶんこ【Noctchill 】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1586793119/


【モバマスss】水本女史の麗かな日常【水本ゆかり】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1586692264/


【モバマスss】風想伝導【高垣楓】
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1586085560/l50



元スレ
【シャニマスss】きっとでいいから 【大崎甘奈】