SS速報R:天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ~」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1589206619/



1: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:16:59.42 ID:i9qakCF1o

・仮まえがき
P×天空橋朋花

あらすじ:なんやかんや(捏造設定多め)→イラマ(夢)→逆レイプ(現実)→孕ませ(現実、♥多め)→孕ませポリネシアンセックス(現実)
本文はぜんぶで>>52までありますが、逆レイプから読みたい方は >>27 まで読み飛ばしてください。

天空橋朋花
https://i.imgur.com/4jrMk9y.png
https://i.imgur.com/FJPZRbz.jpg



2: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:17:36.34 ID:i9qakCF1o



 誰に似たのか、『聖母』は自分のことを救えないらしかった。






3: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:18:27.95 ID:i9qakCF1o


※01

「あのね、おとうさんっ。おかあさんは、むかし、アイドルだったんだって」

 どたどたフローリングを叩く足音と、りんりん高い鈴のような声をぶつけられる。
 まだ3歳と何ヶ月かの娘に『アイドル』の概念がわかるんだろうか?

「そうか。お父さんは、知らなかったな」
「むっ、おとうさーん。おかあさんに『ウソはいけませんよ~』っていわれちゃうよ?」

 ウソはあっさりバレた。
 勘の良いところは、もう母親に似ている。

「ところで、『おかあさんは、むかし、アイドルだった』って、誰から教えてもらった?」
「えぇと、その……きれいなおねえさん!」

 ……昔の知り合いだろうか。

「亜利沙さんのことですよ、あなた。さっき外を歩いていたら、顔を合わせることがありまして」
「ああ、ありがとう朋花……『ありさ』って、まさか、松田の亜利沙さん?
 あの人が、こんなところに来る用事でもあったのか」

 咎めるように俺の膝を叩く娘の手を握り、リビングに行くと、朋花が麦茶を注いでくれていた。
 麦茶を作り始める季節。アイドル業界は真夏~晩夏の書き入れ時に向け、準備に追われている時分のはず。

「39プロジェクトが、10周年ですから。そのイベントがらみと聞きました」
「それで、朋花が……もしかして『天空橋朋花』が? えぇ……?」
「どうでしょうかね~。なにせ765プロは『みんなまとめてアイドルマスター』ですから」

 朋花はニコニコと柔和に笑っていた。
 その笑いが、喜んでいるのか、呆れているのか、怒っているのか、
 それともほかの感情の上にかぶせられたものか、わからない。
 まるでアイドルだった頃のような微笑だった。





4: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:19:01.69 ID:i9qakCF1o


※02

「ねえ! わたし、おかあさんのアイドルだったところ、みたい!」
「お母さんにお願いして、見せてもらいなさい」

 娘のせがむ顔をちらと見た。
 『聖母』の子供……豚を2千頭ばかり崖から飛び降りさせてしまうかもしれない、
 などと悪趣味な冗談が浮かんで消えた。

「あなたは、見たくないのでしょうか~?」
「見なきゃおしおきっ! って程度なら、おしおきをもらう」
「であれば、亜利沙さんのお話は、お断りしておきましょうか」

 朋花が独り言のようにつぶやく――『お話』か。

「松田さんからどのぐらい『お話』聞けた?
 あの人、だいぶえらくなったらしいから、すごく忙しいはずだが」

 松田亜利沙は、アイドルオタクが昂じて自分もアイドルになったクチで、
 朋花とは765プロのほぼ同期・同世代にあたる。

 俺や朋花がいなくなったあとは、アイドルのプロデューサーまで兼任して、
 自分がアイドルやりながら後進をプロデュースしているというムチャをやっていると聞く。
 しかもそれが調子いいとの評判だ。そんなヒマじゃないはず。

 この街は、めぼしいハコもないし、765プロゆかりの人間もいないし、交通の便もよろしくない。
 売れっ子のアイドル兼プロデューサーがやってくる理由が思いつかなかった。

 ……朋花を除いては。

「今の私から『聖母』の面影を見つけられて、私の金縛りに抗える人……ということで、
 亜里沙さんがお越しくださった……と、うかがいました。話しぶりは、相変わらずでしたね~。
 『せめて、名刺だけでも――ふ、ふぉぉぉぉ……! い、一度言ってみたかったんです! この台詞!』
 などとおっしゃっておりました」

 俺は、松田亜利沙の周りで仕事をする人間の苦労を思わずにいられなかった。
 彼女のオタク基質がそのままだったら、仕事の詳細まで口を出すだろう。
 たぶん実績や人徳も持っているから、口を出される側が『いいから黙って見てろ』と言い返しにくい。

 俺や朋花を39プロジェクトに引っ張り込んだ……765プロ最初のプロデューサーも似たノリだった。
 高木社長ぐらいデーンと構えてくれたほうがよっぽどやりやすかったのに。

「もっとも、亜里沙さんも年の功で、人並みにずる賢くなったかもしれません~。
 私が邪険に扱いにくいよう、わざわざこの子と一緒の時を狙って、声をかけてきたようですから。」
「そこまでするって、まさか本気で朋花をステージに引き戻そうとしてるとか?」

 朋花は微笑のまま顔を近づけてくる。俺の目や頭蓋骨の裏を覗かん勢い。
 いつもなら、そんな詰問じみた視線なしに、こちらの内心など看破してくるのに。





5: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:19:40.10 ID:i9qakCF1o


※03

「……これはこれは、あなたは本当に、お嫌そうですね」

 娘は、俺の視界の下の方で『おかあさんのステージ、みたい!』と言いたげな風だったが、
 それを言いかけながら俺の顔を見上げ、声がへし折れたように黙ってしまった。
 俺はそんなに険しい表情をしていたらしい。

「やるとしたら、俺は見ないつもり」
「では、それはお断りします。あなたの目がないと、張り合いが足りないので~」

 朋花は、かつて『聖母はこれから何回も、何度だって、ステージに立ちますからね~』
 などと宣(のたま)っていたのに比べると、変われば変わるものだった。

「……とはいえ、ただお断りも不躾というか不義理と言うか。
 朋花がこっち来た時、秋月さんにはたいそう世話になった」
「そうやって、情に訴える算段かもしれません~。
 実際、私も亜里沙さんのお顔を拝見して、懐かしいという気持ちには、なりましたから」

 朋花は微笑のままこちらを眺めていた。

「……花で、どうか」
「フラワースタンド、ですね」

 それぐらいが落とし所として無難だろうか。
 ひとまず『絶縁ではありませんよ』のメッセージにはなる。
 39プロジェクトも大きくなったらしいので、何かおいしい仕事につながらないかなぁ、と下心もあった。

「大きいのがいいな。半分出すから俺も連名にしてくれないか」
「……載せてもよろしいのですか?」
「広告宣伝費とか接待交際費で落ちたらいいな。先生に相談する」

 朋花が『もういいか』とでも言いそうな、ちょっとぞんざいな感じで、ようやく俺から目線を外す。
 そんなに疑うならお上手な口で問い詰めてくれれば……いや、娘の前だとしづらい話だった。

「ところで……『天空橋朋花』のお名前、今も使えるんでしょうか?
 芸名としては、処理をあなたに丸投げしてしまいましたし」

 それも確認をとらなければならなかった。765プロだけの問題ではなかったし。

「……もう天空橋でなくなってから、それなりに経ちますので~」




6: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:20:26.53 ID:i9qakCF1o

※04

「……どうしても、糸で吊って宙を?」

 昔の俺は、疑問文にしてはかなり刺々しい声音を出してしまっていた。

 俺と朋花が初めて顔を突き合わせたのは、
 朋花のデビュー曲『Maria Trap』のお披露目公演のための打ち合わせだった。

「ええ。聖母は、可能な限り平等に、子豚ちゃんたちへ恵みが届くようにするものです。
 客席後列の子豚ちゃんにも……となると、そういう手が必要なんです……ですよね? プロデューサー」

 俺は『Maria Trap』の作詞作曲からミックスダウンまでを担当していた。
 そしてこのぶんだと、お披露目公演の音響も口を出さざるを得なくなりそうだった。

「音屋さんとしては、不本意かも知れませんが、演出として汲んでいただきたいのです」

 朋花の当時の担当プロデューサー――朋花をオーディションで採用した、765プロ生え抜き――が、横からダメ押ししてきた。
 彼の『音屋』というおおざっぱな呼ばれ方に、在りし日の765プロの懐事情が透けていた。

 俺が関わり始めた頃の765プロは、高木社長、所属アイドルが10人かそこら、
 プロデューサーと事務員が一人ずつというささやかなアイドル事務所だった。

 俺は765プロから外注で楽曲作り『など』を受けていた。
 765プロは制作費が少なく、上流から下流まで可能な限りすべて面倒見る器用貧乏を必要とし、
 そのうちの音関係を駆け出しだった俺がよく受けていた。

 765プロの高木社長やプロデューサーは、作詞作曲から音場づくりまでまとめて『音屋さん』な人だった。
 ……スマートフォンを何でもiPhoneと言ったりするオジサン・オバサンみたいだ。
 違い意識してないせいで、俺にすべて丸投げだったのかもしれない。ムチャを言う。

「自分、アウトボードや音源を買いすぎて財布が薄かった頃、現場で日雇いやってたんです。
 そこじゃ『1メートルは一命取る』って言いましたよ」

 朋花と、彼女のプロデューサーは、ピンときていないようだった。
 確かに、建設業や製造業ならともかく、アイドル事務所で掲げる標語ではない。

 人に乱暴な丸投げの仕方をする代わりなのか、高木社長には人集め・金集め、
 プロデューサーには企画・営業の能力がエグいほどあった。
 彼らのプロデュースするアイドルは、数年もせずアイドル戦国時代の台風の目となった。
 俺も印税で潤い、業界で名前を売ることができて、『音屋』の活動を軌道に乗せることができた。

 そのぐらいの時期に朋花たちがやってきた。

「ご心配はありがたいのですが、安全確保はあなたの仕事・責任ではございませんよね~」
「……飛び回っているときは、まともに歌えないと思ってください。
 こちとら、もとはDTMerですので。凝った音場がほしければ、本職へご相談ください」

 朋花――天空橋朋花――は、765プロが勢力拡大のため発足させた『39プロジェクト』で、
 新たに採用されたアイドルの一人だった。俺は彼女のデビュー曲を発注された。それで、こうなった。
 765プロが少数精鋭(?)から、それなりの規模と体制を築くまでの過渡期にあたって、
 どうも朋花のデビュー周りの流れは、まだ小世帯だった折のやり方を引きずっていた。

 朋花と出会って間もない頃の印象は、正直に言うと『歌はうまいが、なんだこいつ』であった。

「天空橋朋花は、一言でいうと、聖母なんですよ」

 曲を発注された時、プロデューサーから朋花のイメージについて、
 『聖母』とか『騎士団』とか『子豚ちゃん』の設定を説明された。
 俺はその説明を丸呑みして曲作りを進めた。

 その後、レコーディングで朋花の歌を聞いたとき、
 『如月千早ぐらいの見込みがありそうだ』『正統派で売れよ』と思った。

 俺は『日本でそんなこってりしたキャラづけでシーン作った歌手、あまりいないですよ』と、
 プロデューサーへ『今からでも遅くないから方針を変えろ』と暗に突っ込んだ。

 突っ込みが通ったら『Maria Trap』は調整し直しだが……
 朋花の歌声は、そのくらいの手間は払ってやっていいものだった。

 プロデューサーは苦笑いしながら『そうは行かないんです』とだけ返事した。

 それから俺は、プロデューサーの苦笑いの意味を、嫌ほど味わう羽目になる。
 しかも『天空橋朋花の担当プロデューサー』として。




7: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:21:05.52 ID:i9qakCF1o


※05

 39プロジェクトが順調に売上を伸ばすと、いよいよプロデュースする手が足りなくなったせいか、
 朋花のほか、如月千早やジュリアなど、ヴォーカル重視のアイドルを担当してほしい、
 との話が俺にやってきた(松田亜利沙とも、そのときからの付き合いだった)。

 俺はプロデュース業が未経験で、先のプロデューサーほどうまくできる気もしなかったが、
 あとに活きる業界の人脈が作れそう……という打算多めで、契約社員で引き受けた。

 俺の魂胆を見抜いていたのか、『聖母』天空橋朋花と俺はソリが合わなかった。

「あなたは堅実で計画的な感じですが、行動原理が少し不純な方のようですね」
「細工は流々仕上げを御覧じろ、と言いますよ。天空橋さん」
「朋花で……呼び捨てで構いません」

 天空橋朋花という少女は、その不満をズケズケと俺に言う。

「あなたにも、説明が必要ですね~。私がアイドルとなった理由は、子豚ちゃんたちに愛を与えるため。
 子豚ちゃんというのは、私のことが好きで好きで仕方がない、困ったちゃんなファンのことです。
 中でも特に熱心な人たちは天空騎士団と呼ばれていますね。ファンクラブとか、親衛隊的なものでしょうか」
「親衛隊がいるアイドルは、大昔はよく居たようですが、
 デビュー前から親衛隊を率いているアイドルは、寡聞にして存じません」

 朋花にとってアイドルは、『聖母』として『子豚ちゃん』『天空騎士団』を統率・拡大する手段らしかった。

「困ったことに、私のことが好きすぎて、時々ケンカをしてしまう子豚ちゃんがいたんです。
 それを同級生に相談したらアイドルになることを勧められたんです。
 アイドルになれば、聖母の愛を、平等に分け与えることができるのではないかと」
「それで、空を飛びたがったんですか。俺はおかげでたいそう苦労しました」

 俺が『あんなムチャは二度とやらないでくださいよ』と釘を差したら、
 『私がアイドルを続けているのは、子豚ちゃんたちのためですよ~』と、つれない返事。

 朋花の『聖母』というのは、自称であり、『子豚ちゃん』たちが奉る称号でもある。
 『子豚ちゃん』の熱狂と統制は名高く、俺が担当を引き継いだ時点で、もう一部に知られていた。

「子豚ちゃんたちがケンカをしないよう、指導する……それが、天空騎士団の紳士淑女のお役目なのです~。
 集団でも、個人でも、ある程度の規律というのは大切ですからね~」
「担当プロデューサーとしては、ファンが自発的に治安維持に取り組んでくれるのはありがたいことですね」

 規律は確かに重要だ。
 しかし、ファンコミュニティに『指導する/される』という序列の構造がある――しかも、名目上は平等である――なんだそりゃ。
 朋花は15歳らしからぬカリスマ性を持つ……が、まさか彼女だけでこんな手が込むシステムは作れまい。
 悪いオトナが後ろに居て、ツボだの水だの売ってそうな薄気味悪さを覚えてしまう。

「……何か言いたげですね。あなたに差し支えがなければ、遠慮なくどうぞ。
 あなたは子豚ちゃんではありませんから、気にすることはありません」
「あの『聖母』に遠慮せず物を言ってもいいと? 王様が抱えていた宮廷道化師みたいですね」

 お似合いなことに、音楽は宮廷道化師の芸の一つだった。
 しかし俺の立場はプロデューサーになってしまった。道化師では、いけない。

「これからは、『聖母』らしからぬ役割も、演じてもらいますよ」
「あなたが何の役割を考えているのか、楽しみにさせていただきます~」



8: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:21:39.64 ID:i9qakCF1o


※06

 俺は、朋花に『聖母』の枠を外れた仕事をふるようにした。
 サーベルを振り回す女騎士、番町皿屋敷のごときお化け、金棒を握り虎皮をまとう鬼……

「なかなか、多彩な役柄ですね」
「目が回りそうですか?」
「……いいえ」

 それから、チアリーダー、女番長、魔王、女装少年ヴァンパイア……

「……演じる、というのは興味深い体験ですね。
 ヴァンパイアのクリスが、エドガーと出会って世界の見方がかわったように、
 私も、世界の見方が少し変わったような気がします」

 俺がふった仕事の意義を、朋花は取り組む前はいささか訝しんでいたが、
 やってみるとそれなりに楽しみや収穫を感じた様子だった。

「俺も『子豚ちゃん』たちの欲しがり具合が、多少は分かってきた気がしました。
 『今は満ち足りていても、刺激には慣れて、すぐに次を求めるようになってしまう』と」

 かつて朋花が聞かせてくれた言葉だった。
 『聖母』だけあって、朋花はファン――つまり崇拝者――の移ろいやすさを、俺に先んじて喝破していた。
 熱心な崇拝者は、当人以外から見ると奇妙なほど、崇拝対象の乗り換えがお上手でいらっしゃる。

「そのとおりです。ですから私達は、現状で満足していてはいけないのですよ~。
 常に二手、三手先を読み、子豚ちゃんたちを幸せにする方法を、ともに考えてもらわなくては」

 ただ、演じる役がいかに多様でも、それはまだ『聖母』という幹を彩る花と枝葉にすぎない。

「……朋花」
「なんでしょうか~?」

 あの『Maria Trap』は、ある意味で台無しにされた。次こそ俺の意を汲んでもらう。

「次の曲では、鳥籠に閉じ込められてもらいます」




9: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:22:27.76 ID:i9qakCF1o


※07

「――デューサー、プロデューサー?」

 FitEarのBluetoothイヤホンを、いきなり耳から引っこ抜かれた。
 ここは劇場内、関係者以外は立入禁止な部屋、そんな狼藉を働くのは誰だ……? と思ったら、

「朋花ですか。いま、良いところなんです。あとにしてください」
「聖母の問いより優先すべきことがおありですか?」

 俺は仕方なく、ノートパソコンとKORGのnanoKEY2から、声のほうへ顔を向けた。
 左手にイヤホンをつまんだままの朋花と、その後ろに半分隠れたジュリアがいた。

「ジュリアも――公演の打ち上げ、もう終わったんですかね」
「打ち上げは……たぶん、まだあっちの部屋でやってるだろ。でも、プロデューサーがいないから……」
「何かトラブルでもありましたか」
「そういうワケじゃない、が……その、あたしと朋花はね。もう少し、担当プロデューサーとして……
 その、今回の反省点とか? もっとコメント、聞きたかったんだけど……」

 ジュリアは気まずそうに、朋花は当然のような顔をして、椅子に座ったままの俺を見下ろしていた。

「今回の公演は、ファンの反応も上々。担当プロデューサーからしても、大いに刺激となりました。
 おかげさまで……その答えは、うまくすれば、もうすぐ形になります」
「カタチに……とは?」
「デモ音源なら明日にでも聞かせて差し上げましょう、ということです。朋花」

 二人は、開きっぱなしだった俺のノートのモニターへ目をやった。

「……プロデューサー、あんたがDTMerとは知ってたけど、作業を見るのは初めてだ」
「ふだんはノートで作業しないです。これだって、前にTraks BoysのCrystalが、
 『東京から長野に帰る間の新幹線で作業すると、なぜかすごくはかどる』って言ってたの聞いて、
 真似できたら面白いと思って持ち歩いてただけです」
「……DTMer、ってなんです?」

 ジュリアは自分も作曲をやるせいか、朋花と違って、
 俺がDTM(デスク・トップ・ミュージック)の作業中だということを察していたようだ。

 そういえば、ラップトップで作業をしててもデスクトップって言うのだろうか?
 今じゃLogicもタブレットで動かせるご時世なのに。

「要はパソコン上で、作曲や編曲やミックスやらをしているということです」
「……譜面が見えないので、私が見ても、どんな曲か想像もつきませんね。
 それに、そういう機材は、ものすごく大掛かりなものだと思っていましたが」
「私も画面だけではわかりません。いじるのは、音波ですから、五線譜も鳥籠も映っていないです。
 ハイレゾで細かい場合、トラックごとの音量を0.05デシベル刻みぐらいで……デモは、そこまでしませんが。
 機材は……昔は、そういう大きなのが必須でした。今でも愛用者はいます」

 朋花は作曲というと、楽器を鳴らしたり、楽譜に鉛筆を走らせたりのイメージだったようだが、
 DTMでは楽器ができなくてもスコアが読めなくてもコード名がわからなくても、一人で音が作れる。

 作れてしまうので、必要になるまで勉強しないまま……なんてことも。
 自分で作った曲について『このコードの名前なんですか?』と聞かれ、耳でしか覚えていないので、
 名前がわからず慌ててネットで調べる人が、プロにもぼちぼちいる。

「作業スタイルは人によりけりですが、私は思いついたらその瞬間にiPhoneにボイスメモで録りためて、
 作る必要が出てきたときに取り出して、機材の前で弄り回して……というのがいつもの手順です。
 今は、あんたがたの公演のおかげで気分ができたから、手持ちの道具で勢いでやってます」
「もしかして、あなたが時々、電話が来たふりをしながら鼻歌を歌っていたのは……」

 朋花はようやく合点した顔つき……合点する前、俺は何をやってたと思われてたんだろうか。

「デモ音源なら明日にでも……ってプロデューサーさっきアッサリ言ったけど……新曲か?」
「朋花のソロですが」
「私の……ですか」

 朋花は、指で摘みっぱなしのイヤホンと、ミニキーと、モニターに何度か目線を行き来させた、
 もっとも、モニターはスクリーンセーバーが立ち上がっていたが。

「DTM、面白いですよ。俺なんて、学生時代からこのかたコレより面白いことが見つからず、この有様です。
 興味があるなら、機材を譲ります。ちょうど、あんたがたの稼ぎのおかげで、買い足すつもりでしたし」
「そりゃ気前のいい話だけど……あたしは、いいや。スコアとギターが、あたしのやり方だから」



10: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:23:00.65 ID:i9qakCF1o


※08

 ジュリアがもごつくところから視線をずらすと、朋花がモニターをじっと見ていた。
 いつの間にか、スクリーンセーバーが解除されている。

「――し、失礼しました~。その、私の曲と聞いて、つい……」

 ジュリアと対照的に、朋花の視線はいつになく心惹かれている風だった。

「朋花の家には、マシン……パソコンは、ありましたか」
「い……いいえ~、私個人のものは」
「では明日、デモを仕上げるついでに、Mac Bookと、ミニキーで余っているのを掃除して持っていきます」

 朋花は、俺の言葉の意味を飲み込みかねるように首をかしげたが、
 ジュリアに何やら耳打ちされて、いよいよ困惑をあらわにする。

「……もしかして、私が、その、それで、作曲……を? からかわないでください。
 私、音楽は……歌う以外は、さっぱりなのですよ」

 たいていは『聖母』に相応しき泰然自若の面持ちを維持している朋花が、
 俺に対して初めて、15歳らしい狼狽(うろた)え気味の気色を見せていた。

「DTMでは、最初はそんな人がよくいます。
 例えばsugar meなんか、オーディションでレコード会社のディレクターから『曲も書いてみたら?』
 って言われたのがキッカケで、今のジュリアや朋花より年上のときにはじめたんです」

 作曲と聞くと、小学校中学校でやられている音楽の授業のせいか、
 モーツァルトやベートーヴェンの仕事と同じだと思われているフシもある。
 ただ、あの人たちは18世紀生まれ。現代と同じ扱いはいささか強引じゃないか?
 現代の料理人だって皆が皆、木炭で煮炊きして王様へ料理を出してるわけじゃないだろう。

「いいですか。楽器ムリ、理論からきし、機材おんぼろ、仲間ゼロ。
 それでも時たまウケる曲が作れてしまうのが、今のDTMです。
 朋花なんて歌ができる時点で初心者通り越して半分ぐらい中級者です」
「は、はぁ」

 ……半分ぐらい中級者、というのだけは、ちょっと大げさかもしれない。

「……まぁ、朋花にハンデがないわけではありません」
「ハンデ、ですか?」
「DTMはトライ・アンド・エラーを重ねて良くしていくものです。どうしたって時間がかかる」

 いつか『DTMは積み木を積み上げるようにクオリティを上げる』という言葉を、
 誰か――確かtofubeatsだったはず――が語っていて、それが腑に落ちて、今も腹の底に残っている。

「朋花は、学業とアイドルで二足のわらじだから……」

 アイドルのようなパフォーマーに比べ、クリエイターは経験重視の傾向がある。
 天才歌手や演奏家は、探せば毎年どこかしらに十代のイキの良い人間が生えてくる。
 作曲家だとそういう人は十年に一人出てくるかどうかじゃないか?

「ただ、アイドル活動の糧にはなります。歌は確実に深くモノになります。
 さらに腕を磨いて、例えば『完パケ納品できる』ぐらいになれたら、真似できない強みになるでしょう」
「……それが『子豚ちゃん』たちのためになりうるのであれば。
 あなたが、そこまで言うのであれば、やらずには、いられませんね」

 朋花がうなずいた。

 誰かにDTMを勧めて、それで『やる』と言わせたのは初めてだった。
 俺は765プロと関わりはじめてから一番興奮していた。

「私のプロデュースをしているあなたが、そのお仕事より『面白い』と言ったんです。
 くだらないものであったら、承知しませんから」
「もし『くだらない』と思ったら、朋花が俺のプロデュースから卒業するときです」

 俺は、765プロが公演の打ち上げに酔いしれている隣の隣ぐらいの部屋で、朋花に向かって、
 DTMの基本的な概念、譲ることにした機材、参考になるサイトなどについて話したり質問に答えたりした。

「……プロデューサー。ふだんの仕事で、今の半分ぐらいの熱さでも出してくれていいのに」

 ジュリアの苦言は聞き流した。

 アイドルのプロデューサー業を、俺がDTMの半分以上の熱意を持って取り組む機会は、
 その夜以前も、その夜よりあとも、ついぞ無かった。




11: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:23:34.02 ID:i9qakCF1o


※09

「貴方が全てを捧げるなら、私は貴方を護りましょう……永劫、共にありますよ~?
 ふふっ。さあ、見せてくださいね……貴方の、覚悟を――♪」

 俺が朋花に渡したソロ曲として、『鳥籠スクリプチュア』は2曲目となった。
 朋花にDTMを手ほどきするついでに、相談を重ね、意見をぶつけ合い、いっしょに積み上げ作り込んだ。
 そのせいか、俺のこれまでのプロデュースでは考えられないほど、朋花の『聖母』性が強く濃く現れている。

「羽ばたく自由に飽きて囚われたいのなら……私のため生きたらいい。
 鳥籠に包まれて――Maiden cage♪」

 ……鳥籠だけは譲らなかった。
 『聖母』だからといって、ほいほい宙吊りになってもらっては困る。

 落差6メートルだと、どんな姿勢で着地しても、衝撃で首が強く振られ折れるか、脳挫傷か、脊柱が脳幹に刺さってお陀仏だ。
 それ以上から転落して生きてた人は、下が柔らかかったとか、奇跡的なケースだからよく言及されるだけ。

 俺には担当アイドルを宙吊りにする度胸はなかった。それを面白がる感性だってなかった。

「子豚ちゃんも天空騎士団のみなさんも……私の父と母さえも、
 懐かしくも新しい『聖母』の声に、前にもまして深く感銘を受けてくださっているようです。
 プロデューサーさん、褒めて差し上げましょう~」

 DTMを教えるついでに、天空橋家に足を運ぶ機会が増えた。
 俺は『どんな家だったら、朋花のような人間が育つのか……?』と最初は興味津々だった。

 天空橋邸は、山手線の某駅を降りて文教地区に入っていった先の、
 存在感たっぷりな礼拝堂(?)付きのお屋敷だった。

「……どこからどこまでが、敷地なんだか」

 俺はまず家のでかさに驚かされた。
 出入りするうちに、さらに理解しがたいことに気づかされた。

 天空橋邸では、なにかと催し物をやっていたが、
 朋花の母親がやっている華道関係を除き、俺には一目では趣旨がわからなかった。
 明らかに天空橋の血縁以外と見える人間が、頻繁に出入りしていた。
 朋花もまったく気にしないで挨拶している。アイドルの自宅として、いかがなものか。

 ……一人娘が『聖母』とか名乗りながらアイドル活動してて、どこかからクレームがつかないのだろうか?
 前任プロデューサーが敷いた『聖母』路線に乗ってしまっている俺は、いまさら怖くなってきた。

 そしてその恐怖は、ある意味では手遅れだった。





12: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:24:13.06 ID:i9qakCF1o


※10

「空は、飛びます」

 朋花が順調に売上を伸ばし、39プロジェクトの劇場を飛び出し、
 大きなハコでのライブを入れてやれそうだった。
 それで、セトリに『Maria Trap』をどう配置しようか……という話題になったとき、これだった。

「ダメです。飛びません」

 プロデュース業をやっているうちに、どうもあっちの人と俺の間で、
 『飛ぶ』という単語への解釈に致命的なズレがあるのでは? と思わざるを得なくなった。

 飛ぶ――鳥や虫が羽ばたいて自律的に空中を移動する行為のこと。
 けっして、糸に吊られて空中を引き回される行為ではない、と思っていたんだが。

 しかしアーティストのライブ演出としての宙吊りは、珍しくない。代々木だの幕張だのでもやっている。
 まるで当然のことのよう。それを否定する俺が誤っているのか? 俺自身でさえ、そう思わなくもない。

「……あなたは『Maria Trap』のお披露目のときも、最後まで反対しておられましたね」

 当時の朋花とプロデューサーとは違い、今の朋花は聞く耳があるようだ。

「砂を噛むんですよ。空は遠いんですよ。月に見下されているんですよ。囚われのマリア様は」

 だから飛ぶんじゃないって。
 演出だけを考えるなら、『空を飛ぶ』ほうが良いのは確かだ。
 とはいえ、あの曲と詞をこね回しているとき、歌い手が宙吊りになるとは想定してなかった。

「……『聖母』は平等なんです~。
 あの時に飛んで、今は飛ばないというのであれば、埋め合わせの代案が必要です。
 しかし、それは簡単なことではありません」

 俺は俺にできる代案を今までやってきた。『鳥籠スクリプチュア』だけじゃない。
 ソロライブ数時間か持たせるぐらいに曲を作ったり作らせたりし、
 青葉さんたちに衣装もあつらえてもらった。ねぇ、『聖母』様。不足でしょうか。

「あなたには、詳しく話したことがないかもしれませんが……『聖母』は、飛ぶのです」
「高いところが好きだから、とか言わないでしょうね」

 俺のけんか腰に、朋花は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑へ戻った。

「マリアは青き天の女王ゆえ。由来からして、ミリアム(高められたもの)ですからね~」

 『本当か……?』と疑って、後でネットで調べたら、確かに通説はそうだった。
 ほかに「マラ(=苦い、苦しい)」が語源との説もあるらしかった。知らなかった。
 素人の俺には、どちらも同じくらいロクなもんじゃない、としか思えなかった。

 そうして朋花は、衣装――ナイツ・オブ・テンペランスをまとい、空を『飛』んで、それから落っこちた。
 比喩ではなく、物理的に、落ちた。その瞬間と事後処理は、未だに思い出したくない。

 作詞だの作曲だのをやってきたなかで、これほど消し去りたいと思った曲は、未だにない。





13: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:24:46.76 ID:i9qakCF1o


※11

「……あら~、プロデューサー。遅かったですね。『聖母』が、首を長くして待っておりましたのに」

 落ちてケガをした朋花は、都内某所の大病院で、病棟最上階の個室に入院していた。
 ベッド代がとんでもないことになりそうだ……と心配になったが、
 どうやら、この特別待遇は天空橋家のコネによるものらしかった。恐るべし。

「……先に、朋花のおうちにも、顔を出してきましたんで」

 事務所としては、そういう部屋のほうが、変な人が押しかけてこなくて助かる。

「退屈そうですね、朋花」
「退屈だなんて~、そんな……」

 朋花のケガは、身体的な後遺症は免れた。
 飛ぶ高さをギリギリまで下げておいたおかげか、墜落の衝撃もそれなりに収まったらしい。
 どうせなら、衣装は3Mあたりにフルハーネスで作ってもらってればよかった。

「静かで、お見舞いもご遠慮いただいているおかげか、お勉強がはかどりそうです」

 朋花は『勉強』といったが、ベッドの上にはMac bookとミニキーを乗せていた。
 俺が譲ったのはシルバーだったが、朋花はお好みでなかったらしく青いカバーをつけている。

「父なる神は乗り越えることができる試練だけを賜います。焦らずしっかり療養してください。
 みなさんは『聖母』の帰りをいつまでも待っています……ですって、朋花」

 朋花は珍しく目を丸くした。

「……『ですって』、とは?」
「朋花のうちで、お父さん・お母さん・『天空騎士団』と『子豚ちゃん』の皆々様から、伝言を頼まれました」

 俺は伝言をもらったとき、『皆々様』がたが、事態をイマイチ理解していないと思い、何度か聞き返した。
 朋花が『聖母』どころか危うくホトケさんになりそうだったんだが。再説明しても伝言はそのままだった。

「いつまでも待って……ですか。プロデューサー。あなた、どう思われます?」
「いつ……死がふたりを分かつまで、よりかは早いと思いますよ」

 ふだんの朋花なら気分を害する茶化し方をしたのに、今の朋花はため息一つで流した。

「時は、私についた傷を癒やし、そして私のことを忘れさせもします。甘え過ぎは、禁物です」

 生き急いでるったらない。親鸞聖人みたいだ。宗教家(?)ってそうなるものなのか。
 生き急げるのは、アイドルの才能の一つだが。

「……朋花は元気そうで」
「おかげさまで~。お医者様もご尽力くださいましたし、あなたが高さを下げてくださったおかげか、
 治りも早いようで、近いうちにダンスレッスンにも復帰できる見込みです~」

 朋花の転落事故はけっこう話題になっている。
 朋花のキャラと衣装・演出的にも、墜落はインパクトがあった。
 業界全体で、宙吊りパフォーマンスが自粛ムードになりつつあるとのウワサも聞く。

 そういえば『聖母』って労災がおりるのだろうか。

「まぁ、私はあまりアテにしないことにします」
「あなた、『聖母』の言葉が信じられないとおっしゃるんですか?」
「朋花のような心優しい人は、落ち込んでいるときに誰かから励まされると、
 別に元気が出ても居ないのに励ましてくれた人を気遣ってカラ元気出してしまうもんですから」





14: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:25:21.10 ID:i9qakCF1o


※12

 驚くべきことに、俺と765プロの契約は残っている(契約解除だと俺は勝手に思っていた)。
 俺が『空を飛ぶ』ことを渋っていたことや、リスク軽減のため高さをギリギリまで下げたことが、
(朋花には『低いほうが観客に近くてパフォーマンスが強く伝わる』と言いくるめた)
 彼らから見ると、ある種の免責に値するらしい。

 事故原因なんてもっとちゃんと調べんとわからんはずだが。
 会場の人は「イレギュラーな低さでやるからおかしなことになった」ぐらいの文句は言いたいだろう。

 ともあれ俺には、朋花やその周りともうしばらく付き合う義務が残っている。

「……困りましたね~。
 あなたが信じてくださらないのであれば……私は、きゅうり畑のカカシです。
 幸を下す力がなくなってしまいます」

 朋花はMac Bookをぱたんと閉じて、あざといほど可愛らしく小首をかしげた。

 そんな力、もともとないだろうと言ってやりたかった。
 十人や百人ならともかく、数千や数万以上の他人に『幸を下す』力がふつうの少年少女へ宿るものか。

 しかし言えなかった。
 アイドルとそのプロデューサーは、そういう無いものをあると思わせる職業だから。

「なに、俺もハナから朋花を信じないわけじゃありません。
 その証拠に、朋花がそんなに元気だったなら……と思って、キツめの課題を用意してきました。
 受けるかどうかは朋花しだい、ですが」

 俺は朋花に、クリップ留めの企画書とUSBメモリを手渡して読ませる。

「……私が、私の歌を……作る……?」
「もちろん私も面倒を見ますが、クレジットはあなた名義になります。
 私だけだと甘くなりそうなんで、辛く見てくれそうなアレンジャーに渡りをつけています」

 入院の暇つぶしのために朋花にDTMを勧めたわけじゃなかった。

 ただ、今となっては、俺が喜んで与えられて、かつ朋花が喜んで受け取ってくれそうなものは、
 それしか思い浮かばなかった。少なくとも、765プロにいる間はそうだった。




15: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:25:56.49 ID:i9qakCF1o


※13

「……『Nicola Copernicus』?」

 俺はすぐ、朋花の作曲家としてのペンネームを用意した。

「ニコラ・コペルニクスって読めばいいんでしょうか。コペルニクスは……あの、地動説の?」

 地動説でマリア(=天の女王)をひっくり返したって洒落だった。
 元ネタをラテン語表記するならNicola『us』なんだが、それだと男性形だし、
 表記を揺らしてやったほうが検索エンジンに引っかかりやすいので、女性形らしくした。

「あの、まさかとは思いますけど」
「気に入りませんか?」
「……この名前を考えついた時、Galileo Galileiを聴いてませんでしたか~?」

 図星だった。プレイリストを眺めながら、3秒で考えた名前だ。

 朋花が図星をついてくれて嬉しかった。Galileo GalileiがBBHFになってからもう何年も経つ。
 アイドルと関係が薄く、自分の世代からも少しズレた音楽も、朋花は聞くようになったらしかった。
 DTMを始めたおかげだったら嬉しかった。DTMerは手広く曲を聴き込んでなんぼである。

「コペルニクスは、ああ見えてカトリックの司祭です。世渡り上手でもあります。
 ガリレオと違って、宗教裁判にもかけられませんでしたし、本を禁書にもされていません」

 だからコペルニクスにあやかったほうが縁起がいいんだ、と言い訳した。
 俺の考える『縁起』を朋花が気にするのか? と不安だったが、朋花は軽くうなずいた。
 ひとまず追及は止んだ。

「そもそも『天空橋朋花』名義では、いけないのですか?」

 一呼吸だけ置いて追及再開。

「アイドル活動の余技でよい……というスタンスなら、それでよろしいでしょうね」

 わざと癇に障る言い方をしたおかげで、朋花が――あの朋花が――顔をしかめてくれた。

「その『天空橋朋花』名義だと、『創造は始まり~』とか『昏き星~』とか、
 『百花は月下に~』とか、挑戦しにくくなります。人への提供も作りづらいですよ。
 荒井由実が一時期、呉田軽穂なんて遊びみたいな名前を使ってたのも、確かそのせいです」
「……なるほど。作る側にも、作る側の制約があるんですね~」

 朋花の響きは、制約を面倒くさがるというより、むしろ面白がっているよう聞こえた。
 もともと朋花は規律やらルールやら「縛り」的なものによく親しんでいる。
 いつもと違った制約は、新鮮な味わいがするのか。

「あと、ほかのDTMerにネットで音の質問する時に『天空橋朋花』の名前だと、ギョッとされてしまいます」
「……ネットで質問、してもよろしいのですか?」
「もちろん『あなたの音を真剣に聴いている』と伝わる質問です。運が良ければ教えてもらえます」

 俺がDTMをかじり始めた頃の界隈は、まだフロンティア的な空気があって、
 さして親しくない人同士でも、ネットでダイレクトメッセージ送ってノウハウを教えあっていた。
 もし、その空気が残っているなら……朋花には、それを吸ってみてほしかった。

「……身分を隠す仮の名を持つのも、良いかも知れません。
 『Nicola Copernicus』……ふふっ。ジュリアさんと比べると、いかめしいですね」
「お気に召されたようで幸いです」

 朋花は膝上に置いた企画書へ目を戻した。今度こそ追及を止めたらしい。

 手持ち無沙汰になって、病室に不釣り合いなほどの大開口窓の外をみやった。
 空が近く太陽が眩しい――ブラインドを閉めようと思ったら、やり方が分からない。

「……ああ、プロデューサー。それ、リモコン以外で動かしちゃダメらしいです~」

 朋花がリモコンを向けてボタンを押すと、するすると、電動の割に静かな音でブラインドが閉じられていく。

「ありがとう」
「どういたしまして~」

 朋花が『聖母』じゃなかったら、もう少し、尽くしてやれた。尽くしてやりたかった。

 朋花が綴ってよこした初めての曲――『Sister』の歌詞に、
 初稿から最後まで『聖母』の文字は記されなかった。




16: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:26:41.34 ID:i9qakCF1o


※14

 765プロとの残る契約期間、俺は朋花にナレーターやラジオやコラムなどの仕事を振ってお茶を濁した。
 ほかの担当アイドルに対しても、わざとライブ以外の仕事を優先して入れた。
 ヴォーカル路線重視のアイドル担当のプロデューサーなのに。

 契約満了に向けた引き継ぎも、どんどん進める。

「朋花の次のプロデューサーは……できれば、秋月さんでよろしくお願いします」
「……私が、ですか」

 秋月さん――秋月律子は、もともと事務員として765プロに入社した。
 経営に興味があって、わざと小規模なプロダクションを選んだのだとか。
 そのあと、なぜかアイドルデビューしたり、プロデューサーになったり、またアイドルに戻ったり、
 型破りな765プロの中でも波乱万丈な経歴を持つ、異端児中の異端児だった。

「理由、うかがってもよろしいですか」

 その割に、彼女は俺よりよほど堅実なやり方を好むタイプと見えたが。

「朋花は、もう一度ライブをやりたいと言っています」
「それはすでに聞いています。朋花本人からも」
「……ご両親や、『子豚ちゃん』や『天空騎士団』も、ライブを望んでいるようです」
「もともとあの子、ライブ重視のスタンスでしたからね」

 朋花は最初のソロライブの直後、ファンへのメッセージとして、
 『きょう劇場に来られなかった子豚ちゃんも、落ち込む必要はありません~。
  聖母はこれから何回も、何度だって、ステージに立ちますからね~』などと綴ったこともあった。

「俺は、朋花たちの希望を叶えてやれません。叶える気もありません。
 プロデューサー業は、おしまいです。『音屋』に戻ります」
「朋花は、悲しむでしょうよ。もっとも、表には出さないと思いますが」
「秋月さんが、朋花たちの希望をいちばん汲んでやれます」

 ステージには、どうしても離れがたい――『聖母』でさえ抗えない――魔力があるのかも知れない。
 それをかつて味わっていた秋月さんは、俺より抑えを利かせやすいはず。

 秋月さんは、黒縁オーバルのメガネごしに、俺の顔をじろじろと無遠慮に眺めていた。

「……なんで、アナタは、そんなにライブをさせたがらないんですか?」

 今の秋月女史の歳は、俺が朋花の担当を拝命した年齢と、さして変わらなかった。
 つい、プロデューサーをやる羽目になったばかりの頃が思い出した。

「……朋花には、気をつけたほうが良いですよ」
「そうですか? アイドルだった頃の私より、よほどしっかりして見えます」

 かつての自分が重なると、教えてやらないのが悪い気がした。
 引き継ぎ資料に書けないような、俺の憶測を。

「朋花のファンは、外から見えるほど一枚岩じゃなくなっています。
 古参は原理主義的にライブを望んでいて、ライト層はライブ以外の露出も欲しいようです」
「原理主義って、そんな。宗教じゃないんですから」

 秋月さんはカラカラと気安い笑い声をたてた。

「宗教だと思いますよ、俺は。あの人らのやっているコト。
 だから、一回ステージ上で死んだんで、ステージ上で復活してもらわなきゃ困るんですって。
 こっちの都合なんかお構いなしに。まるでイエス・キリストです」
「死んだ、って」
「いや、笑ってもいいですよ。もしかしたら、俺の妄想かもしれないし」

 笑っていいと言ったそばから、秋月さんはカラカラ笑いを引っ込めていた。
 笑ってくれてたままのが話しやすかったのに。

 本当にいまさらだが、そもそも朋花はちょっとおかしかった。
 『聖母』とは、なんだったのか。

 日本のクリスチャンの中には、たまに、アンナだのナオミだのシモンだの、
 聖書から引っ張ってきても日本人の耳に馴染みやすい名前をシレっと子供につける人がいる。
 朋花の自称・他称の『聖母』も、そのぐらい軽い意味合いの愛称……と、自分に言い聞かせてきた。

「朋花のおうちは……そう、なんです?」
「どうでしょうかねぇ?」
「ハッキリしない言い方しますね」
「……じゃあ、なるべくハッキリいいますよ」



17: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:27:18.14 ID:i9qakCF1o


※15

 アイドル親衛隊とその模倣文化が廃れてずいぶん経つ今日このごろ、
 デビュー前からあれだけ組織された親衛隊を従えている15歳が、そうそういるものか。

「天空橋家ってプロテスタントもどきの新宗教やってて、たぶん朋花のお祖父さんが開祖で、
 朋花にくっついてる人たちは、ファンというか、文字通りの信者(ファナティック)ですよ」
「え……ええっ?」

 いくらお金持ちだからって、山の手の屋敷に礼拝堂をつける家がそうそうあるものか。

「デビューしてしばらくは、そんなカルト臭さはなかったんで、スルーできたんですけどね。
 去る者は追わず来る者は拒まず、とか……朋花風に言うなら『規律』がなってました」
「……なってまし『た』って、アナタ」

 朋花のプロデュース方針が、もともとの『聖母』という軸からあっちこっち揺れたり、
 朋花がステージ中に墜落して療養を余儀なくされたり、それで朋花との絆(締め付けともいう)が緩んだり、
 さらに俺が活動内容を広げてファン層を新規開拓――言い換えれば、異分子の流入――を進めたり……

「たぶん『天空騎士団』の皆さんにとってみれば、弾圧されてるユダヤ人の気分なんでしょうね。
 それで、自治に気張らなきゃいけないって義務感にかられて、行き過ぎて内ゲバを起こし始めた」

 非合理的な序列と、それからくる内ゲバは、カルトのお約束だ。
 そして天空橋家をうがって見るようにして、ようやく気づいたのだが、
 天空橋家の取り巻きに『アイドルなんてけしからん、天空橋だけの聖母でいてほしい』派もいるらしい。
 それは今まで朋花のアイドルとしての勢いで火消ししてきたのだが、転落事故を機にくすぶり始めたとか。

「あの、プロデューサー殿は……それを、切り回していたんですか?」
「朋花からは、そもそも内ゲバをなんとかするためにアイドルになったって話も聞いてます。
 今思えば、前任のあの人から俺が引き継いだ時の『切り回されている』状態が特別だった気がしてます」

 ともあれ、朋花は彼ら・彼女らのためにステージに立ち続けたい……らしい。
 また朋花は、それを成立させるほどの才能を持ってしまっている。

「昔は、歌の才能に恵まれたせいで、舞台と引き換えに自分の心臓を食う羽目になった人もいたらしいですが、
 どうも俺は朋花がその類の人間に見えてなりません。ならば、それを担ぎ上げるファンは……?
 そうそう、もっとも熱心な冒瀆者は、もっとも熱心な崇拝者……なんて言葉もあります」
「それはそれは……文学的で、アイドルのプロデューサーらしからぬお言葉ですね」

 俺は統合失調症じみた見解を垂れ流してるのに、秋月さんったら、うまい相槌を打つ。
 俺自身でさえ、証拠を集める前に辞める見通しがついたから放置した程度の説だってのに。

「どっちも昔の小説家の受け売りですから。最近、がんばって本を読むようにしてるんです。
 作詞をやってたら、教養がないせいでひどい目を見たもんで」

 うまい相槌うってくれるものだから、整理しないまんま吐き出してしまっている。

「秋月さん。俺はもう、朋花とその取り巻きを切り回す自信がないんです」

 あの人たちは、アイドルを、登山家や軍人といった危険不可避の職業と勘違いしているかもしれない。
 あるいは、俺が知らないだけで『聖母』はそういう職業なのかもしれない。

 何も言うことが無くなった。秋月さんは下アゴを指でさすって思案に耽っていた。
 俺にとって、ここまでが、アイドル・天空橋朋花の、資料に書き残せない引き継ぎ事項だった。

「……朋花以外のプロデュースも、辞めてしまわれますよね。
 それは、朋花だけあなたの担当を外されると、角が立つからですか?」

 そう言われると、千早や、ジュリアや、亜里沙……他の担当アイドルに対して申し訳なさが滲んでくる。
 一番ソリが合わなかったのが朋花なせいか、俺はきっと朋花ばっかり構っていた。
 ただ彼女らへの罪悪感は湧いても、何かで償おうという気力は湧かなかった。

「俺は音楽が一番おもしろいんで、DTMで食っていけるなら、それ以外はなるべくしないんです。
 今度お声がけいただけるチャンスがあるなら、作曲や編曲の発注とかにしてくださいね」

 朋花が聞いたら嫌な顔するだろうが、今でも俺はプロデュース業よりDTMのほうが面白かった。

「……もしかして、なんですけどね。プロデューサー殿。
 私のこれから言うこと、私の見当違いだったら、ゲラゲラ笑い飛ばしてほしいんですけどね」

 秋月さんがもったいをつけるので、俺は奥歯を噛み締め身構えてしまった。
 いったい、何が飛んでくるのやら。
 冗談の前フリに聞こえたが、秋月さんから冗談を聞かされた記憶はない。

「朋花の事故は……アナタが一番深い心的外傷(トラウマ)を負っているのでは?」





18: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:28:07.25 ID:i9qakCF1o


※16

 秋月さんのそれは、純粋な疑問だったのか、
 あるいは他人の心配する前に自分の心を癒してこい、というありがたい忠告だったのか。

 俺は765プロを辞めて、ついでに地元へ帰ることにした。
 朋花は復帰ステージに向けて忙しい中、
 浜松町まで(羽田まではさすがにムリだったようだ)見送りにきてくれた。

「あなたは……天空騎士団でも、子豚ちゃんでもありませんでした。
 ですが……私を、支えてくださいました。感謝しています……とっても……私は……」

 朋花の言葉につられて、プロデューサーとしての仕事のことがぼちぼち脳裏に浮かんだ。
 もし俺が『聖母』よりマシな道を、敷いてやれていたら。

「わからないことがあったら、メールや、ダイレクトメッセージでもいいから、送ってください」
「……?」

 アイドル活動のことは、もうよかった。
 復帰ライブでは『Sister』のお披露目もやるらしいが、懸念はない。
 秋月さんなら俺よりソツなくまとめられる。

 だから、俺が朋花になにか言うとしたら、これだけ。

「作曲とかアレンジとか機材とか、音関係すべてです。『音屋』は、あちらでも続けるので」

 言い残して、モノレールの改札へ乗り換える。

 俺が『聖母』たる朋花と交わした言葉は、それが最後となった。





19: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:28:50.48 ID:i9qakCF1o


※17

「この空港、『タヌキにエサを与えないでください』って看板があちこち立っていますが……出るんですか?
 ……私、野生のタヌキちゃんって見たことがありませんね~」
「都内は出ませんか? 皇居とか、神宮とか……ここで見たければ、夜にどうぞ。
 連中は夜行性で、暗くなれば我が物顔でたむろしています」

 俺が765プロを辞めて以来、久しぶり、という言葉を使うか否か……
 人によって分かれるぐらいの月日が経ってから、朋花と顔を合わせた。

 某地方空港では、まだ日の出間もない弱めの日差しと、内海のゆるい海陸風が、
 朋花の下ろし髪とパステル・グリーンのワンピースを、ひらひらと撫でつけていた。
 朋花は吹き流される髪と裾とを、鬱陶しげに手で抑えていた。

「顔、痩せてませんか」
「今の私が髪を下ろしているから、そう見えてるだけでしょう」
「前は、いつも高めのシニヨンかポニーテールでしたね」

 朋花の外見で、俺が東京で最後に見たときから変化したとわかるのは、それぐらいだった。

「あんな文面を送りつけてくれましたから、朋花は変わり果てているかと心配しましたが」






20: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:29:24.59 ID:i9qakCF1o


※18

 前夜、Nicola Copernicusからダイレクトメッセージが届いた。

『前略御免下さい ご多忙とは存じますが、ぜひともご相談したき儀……』

 折り目正しく頭語で起筆されたお手紙を頂戴したのは初めてだった。

 偽アカウントのなりすましを疑い、IDを照合した。
 一致していた。少なくともアカウントに間違いはない。
 本当に朋花が書いた文なのか。朋花は、ファン向けのメールやブログをもっと無難に書いていたのだが。

 アカウント乗っ取りを疑いながら、つらつらと『かしこ』まで読み進めた。

 送信されてきた繁文縟礼を要約すると『いつ会えますか?』だった。
 知らなかった。俺はもう朋花のスケジュールを把握できる身分じゃない。
 俺だってもう頻繁にあちらへ行く機会はない。

『次に東京へ行く日取りが決まったら連絡します』

 朋花=Nicola Copernicusだと匂わせてしまうと、もし乗っ取りだったときにイヤなので、
(『Sister』の印税処理のときから、『天空橋朋花』と『Nicola Copernicus』は別名義にしていた)
 俺はフォームに打った文面を読み直し、やりすぎなほど切り詰めて送った。

 恐ろしいことに、チャットボットもかくやという早さで返信が飛んできた。

『私がそちらに行くのであれば、あした会えますか』

 返信内容は早さより恐ろしかった。この強引さは朋花を追想しなくもなかった。

『もし来るのであれば、目印代わりに、なにか私があなたに差し上げたものを持ってきてください』

 合言葉の類いを定めていなかったので、こんな言い方になった。
 このNicola Copernicusが乗っ取りだったら、見当がつかなくてゴチャゴチャ言うだろうから、
 そうなったらあとで秋月さんに連絡して朋花に――

『サムシング・フォーみたいですね~。わかりました、持っていきます』

 ――判断に困る展開だった。

『Mac BookとKORGのミニキーはもっていけそうです』
『ちょっと時間がないので、ふたつでご了承ください』
『飛行機の席を予約しました』

 いきなりメッセージの刻み方が細かくなった。
 なんだ、普通のダイレクトメッセージっぽいやり取りもできるじゃないか。

『便名と到着時刻は……』

 検索すると、黄緑色がイメージカラーの航空会社だった。
 『聖母』が空を飛ぶ時、LCCでもいいんだ。知らなかった。

 時刻を告げたということは、迎えに来いという意味だろう。
 妙に時刻が早かったのでよく見直すと朝一だった。
 クルマを出すしかない。こっちの都合お構いなしだ。

『もし、自家用車用のゲートが空いていなかったら、遅れますよ』

 俺は念のため、秋月さんを含め信頼できる何人か宛に、メールの送信予約を設定した。
 あれは朋花かもしれないし朋花でないかもしれないが、どちらにせよ危ない匂いがした。
 もしパソコンも触れない事態になったら……何事もなく済んだら消せばいい。

『では、おやすみなさい。あなたも、明日に備えて早寝してくださいね~』

 メッセージの送り主が……最悪、朋花でなくてもよいので、
 どうか話の通じる状態でありますように……と、俺は神仏に祈りながら眠った。



21: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:30:02.49 ID:i9qakCF1o


※19

「あんな文面……そうですね。ご無理、申し上げました。
 すみません……そして、ありがとうございます」

 そのような感じで、俺はできるだけの警戒をしていた……のに、
 朋花は時間通り空港にやってきて、一見まともな風体だから、俺は少し拍子抜けした。

「どこか行きたいところがあれば、乗ってください」
「座って、落ち着いて話せるところであれば、どこでも」

 こっちは東京と違って、アイドルが都合よく使える隠れ家など無い。
 この街は、俺が家に籠もってDTMやるぐらいしか楽しみを見つけられなかったぐらい、何も無い。

「朝早いし、なかなかありませんよ……俺の家でいいですか」
「あなたがよろしいのであれば、そこでお願いいたします」

 朋花を乗せようとして、ふと、彼女が両腕で抱えている大振りなカバンが気になった。

「ところで……あれ、持ってきましたか」

 本当に、Mac Bookとミニキーを持ってきたんだろうか。
 だとしたら、坂道や段差でガチャつかないように積まねばならない。
 そうヤワではないはずだが『機材は運べば壊れる』という言葉がある。

「ええ……この通り」

 朋花が、パチンと音を立ててカバンを開けて見せてくれる。
 中にはMac Bookとミニキーしか入っていなかった。
 ご丁寧なことに、朋花が後付けしていた青いカバーは剥がされていた。

「俺はやったことがないので、知ってたら教えてほしいんですが」
「……なんでしょうか」
「空を飛んでるとき、作曲はできました?」
「はかどりませんでした。オススメしません」

 機材をふたりで固定してから、朋花を席に座らせる。
 そういえば、俺が天空橋家の門をくぐることはぼちぼちあったが、
 朋花にうちの敷居をまたがせることは今までなかった。うちと言っても俺の実家じゃないが。

「ではうちに回します。家畜小屋よりマシだといいのですが」

 当てこすりのつもりだった。『聖母』がいきなり押しかけるといったら家畜小屋だ。

「ありがたいことです~……『聖母』には、戻れそうもないので」

 朋花は当てこすりと受け取ってくれなかった。

「……続きは茶を淹れたあとにしてください。それ、ノドが乾きそうな話でしょう」

 メールの送信予約をそのままにするべきか考えながら、クルマもまばらな市道を家まで流した。




22: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:30:37.36 ID:i9qakCF1o


※20

「嬉野、八女、知覧。お好みをどうぞ」
「日本茶、お好きなんですか?」
「もらったんですが、なかなか飲みきれないんです。こちらから選んでください」
「では……あなたと同じものを」

 俺はヤカンから吹きこぼれる寸前まで湯を沸かし、茶匙にたっぷりと茶葉を乗せた。

 額がくっつくほど……というと大げさだが、狭い部屋に小さい座卓。
 濃く淹れすぎた茶を吹いて波打たせる朋花は、今までになく近かった。

 いちばん広い機材部屋ならもっとゆとりがある……が、そこに朋花を招くのは嫌だった。

「茶請け、ヨックモックでいいですか?」
「あなたのおうち、よほどお客さんが来ないんですね~」
「ええ、来ません」

 念のため賞味期限を確認する。これも誰かにおみやげで貰ったきり放置していた品だった。
 門前市をなす天空橋家のお嬢様にとっては、カルチャーショックだったらしい。

「お茶は茶葉の限り飲んで構いませんが、お話はお早めにお願いします。
 仕事にかかると、このとおり、耳が塞がるんで」

 朋花は黙って湯気の立つ茶を冷ましていた。
 『鳥籠スクリプチュア』の作業中だった俺からイヤホンをいきなり引っこ抜いた時と比べて、
 ずいぶんしおらしくなったものだった。

「……そういう軽い扱いが、今はありがたいですよ~」

 俺がいなくなったあとも、朋花は『天空騎士団』たちの扱いに気苦労したらしかった。
 連中は『聖母』を高々と掲げるくせに重々しく仕える。
 祭り上げられる側からしたら、バランスとりがたいへんだ。

 朋花は、これまでまったく異なるボソボソと歯切れの悪い口振りで、
 きのうのきょう、わざわざ飛行機まで使って俺を訪ねてきた理由をこぼしはじめた。
 つっかえつっかえだったので正確な言い回しは失念したが、朋花の周りの誰かがやらかしたらしかった。

「……私が、『聖母』で……ステージに、立って……立って、いた、せい、でっ」

 朋花は、俺が担当していた時期にライブのステージで転落事故を起こしたあと、
 秋月さんに担当が変わってライブに復帰し、以前にもまして力を注いでいた。
 
 それを見ていた『子豚ちゃん』だか『天空騎士団』の一部が、『聖母』のように苦難を乗り越える――!
 と『聖母』に事寄せて、弱ってるところにムチャやって、何人かへし折れ、
 それを朋花は自分の責任だと思っている、とか。

 お気の毒だった。
 秋月さんのサポートもなく俺のような退路もなし、プレッシャーだけかかってる、では……。
 確認しなかったが、首かどこかへし折って文字通り死んだのかもしれない。

「つまり、朋花は『聖母』が懲り懲りなんですね」

 俺が乱暴に要約する。
 これで朋花が怒ってくれれば、その勢いでもっとスルスル言葉が出てくるんじゃないかと期待した。
 期待は外れた。朋花の弁舌は錆びついたまま、ギシギシと軋みながら回る。

「……祖父が、私たちに、規律を重んじるよう言い残した、その趣旨は……
 地の塩になれ、という心だったと、私は解いています」

 地の塩は世の規範。
 俺が朋花と同じ年だった時、そんな言葉は知らなかった。

「私みたいな子供でも……例えばジャンヌ・ダルクみたいに、思い一つで、世の中を良くできる……と、
 本気で……そう思っていなければ……聖母とは自称できませんし、他人に呼ばせるなんてなおさら」

 そう、朋花の年。子供、と言われて久しぶりに思い出した。朋花はまだ酒も飲めない歳だ。

「それだって、最初は……おままごと、お姫様ごっこみたいなものだったんです。
 ジャンヌが、最初のお告げからフランス軍に投じるまで、3年以上かかったみたいな。それが、だんだん……」
「朋花、火炙りは真似しないでください。こっちの寝覚めが悪くなるので」



23: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:31:22.84 ID:i9qakCF1o


※21

 朋花はジャンヌを引き合いに出したが、ジャンヌの後追いはできないだろう。
 たぶんジャンヌは、フランス兵に「イギリス兵を殺してお前も死んでこい」って命令していた。
 彼女はそれに罪悪感を抱いた……としても、信仰かなにかで心の整理をつけて、戦いを続けた。

 朋花はそういう心の整理を自力でつけることができなさそうだった。
 天空橋家か765プロか、誰かの手を借りればできたかもしれないが、そうもしたくなかったようだ。
 そうしたくないあまりに東京を飛び出し、ここで苦い茶を舐めている。

 それはアイドルとしては致命的だ。

「私も、昔話をしましょうか……百年戦争ほど昔じゃないですよ。
 朋花のお父さんお母さん世代はご存知かも……そのあたりの、芸能界の話です」
「……私の両親は、そういったことに疎くて……」
「昔の芸能人のファンって、よく自殺してたんですって」

 朋花は、自分の耳の聞き違いか、俺の口の言い間違いを疑いつつ、
 それを確認するほど気がすすまないようだった。

「ここの近所の話……近所というには遠いか……とにかく、ある音楽グループが解散を発表したら、
 そしたら『××が解散するならどうなってもいい』って遺書を残して、
 女子高生が上京して飛び降り自殺して、全国ニュースを何日か騒がせました」

 朋花が骨を折った時と、この案件と、どちらが大きなスキャンダルになるだろう?

「そういうの、聞かなくなってだいぶ経ちました。
 マスコミが取り上げまくって後追い自殺が増えてしまったとかで、
 警察が怒って表に出さなくなりました」
「……何をおっしゃりたいんですか、あなたは」
「その音楽グループのメンバーは、元気に芸能界で活動されています」

 そうやって、芸能界は人の世の生き血をすすって儲かるお仕事。
 ときどきしくじって血を抜かれすぎた死人が出てくるんで葬って後始末する。
 そのせいか『眩しさの裏は冥界の様』になってしまうらしい。

 朋花は、自分の心臓は食えたし、吸血鬼はうまく演じたけれど、
 生かさず殺さず良い加減に血をすすったり、死者を冥界へ葬ったりするのは不得意なようだった。
 これはアイドルだけではなく、宗教家としても致命的な弱点かもしれない。

「だから俺は『聖母』が懲り懲りというのは、わからないでもないです」

 朋花は怒らなかった。なんで怒らないんだろう。
 俺はお前のプロデューサーだった。なのに他人事みたいな口を聞いた。
 あなた『聖母』に乗っかって儲けてたでしょうが、ぐらい言えばいいのに。

「もう……い、いや、イヤ、いやぁ、ぁ」

 朋花は何か言おうとして、声にならず、くちびるだけ虚しくぱくぱくさせて、
 それからがっくり折れたように首を傾けて震えていた。
 震えが病的だったので近寄って触れると、朋花はされるがまま。
 肩の細さ、髪や首から匂う甘ったるさ、胸の柔らかさ、頬の熱さなどが、初めて五感で伝わってきた。

「……終わりに、して、ください……ッ、耐えられそうも、ない、です……っ」

 朋花は世を儚んだ目や顔をして震えていたが、不思議と自殺しそうな気配はなかった。
 肩を抱いたままの距離で、クシャクシャのうわごとが漏れてくるが、
 それに耳を澄ませても「死にたい」とは聞こえなかった。「殺して」とは聞こえた気がした。

 散りぬべき時知りてこそ……じゃないが、宗教のせいで自殺できない?
 そんな妄想が降って湧いた。時に信心も身を助く、なんて。

 ここで朋花を犯してやったら『聖母』は死んで終わりかな、なんて妄想がどんどん広がる。
 さすがに朋花はアイドルで、こんな錯乱状態のくせに色気を帯びていた。
 若く美しい女が戦慄でがくがくしている様は、か弱さがすぎて今までソソらなかったが、
 朋花の場合はむしろその凄惨な錯乱が、女としての魅力にぴりりとアクセントとして効いていた。

「終わりって……俺に、始末をつけろ、と。それで、朋花は、わざわざここまで?」

 腫れた目蓋、凍った瞳。肌の脂汗が横髪を磔にしていた。
 パステル・グリーンのワンピースの胸ぐらを引っ掴んで、
 敷物もない冷えたフローリングに押し倒したら、ごとんと硬く痛そうな響きが耳障りだった。

「……朋花、期待してたか? 俺に、こうされるの。
 想像はしたはずだ。『綺麗でしょう強いでしょう、さぁ汚してみせて』ってやつさ」



24: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:31:57.34 ID:i9qakCF1o


※22

 朋花は怒らなかった。逆に俺の腹の底からむかつきが突き上げてくる。
 朋花には、クソほど似合ってない哀れっぽいツラが鼻につく。

 朋花は可哀想ぶっていた。
 恵まれた才能と積み重ねたレッスンの賜物か、可哀想ぶりは綺麗で強くて俺は気圧されていた。
 このまま朋花を汚してやれば『聖母』は死んで晴れて悲劇のヒロインだ。
 
「……もう、どうでもいいことです」
 
 朋花はそれを望んでいそうだ。

「あんたにとっちゃどうでもいいでしょうけどね――ねぇ?」

 俺はまっぴらごめんだった。
 朋花の熱と匂いは、甘く、つけすぎの香水のように不愉快だった。

「俺は、まだ根に持ってるぞ。お前、俺が反対しているって知ってて、二回も空を飛びやがった」

 今しがた『Maria Trap』をうっかり口ずさんだせいか、あの時の憤懣までぶり返す。
 この『聖母』の亡骸か枯尾花のような朋花に何を言っても今更遅いのに、出てきてしまう。

「お前『聖母』が嫌になったと言うなら、こっちもなかったことにしてくれよ。
 そのためにわざわざこっちに来てくれたんじゃないのか、なぁ、朋花――聞いてるか俺の話――」
「――く、ぁ、ぅあ……わ、私、は……ぁ……ッ」
「そうだな、無理だな。『代案が必要です』とはこのことだ」

 暑苦しくなってきたので、朋花の体を剥がして立ち上がる。
 狭い部屋。小さい座卓に、冷めた知覧とヨックモック。
 朋花のそばにMac Bookとミニキー。

「腹減った。朝メシ買ってくる……そういえば、朋花は? 朝食べたの?」

 満足な朝食を摂ってきた顔にはとても見えなかった。

「……あらあらお腹がグルグル歌ってる、あれれれ頭がクラクラ踊る」

 腹の虫の音なんか聞こえなかったが、いっそ鳴ってくれと気分で口ずさんだ。
 そのまま朋花の顔をじっと見つめていると、やがてかすれ声で俺に続ける。

「……忘れず食べよ、きょうの朝ごはん」

 ぜんぜん『聖母』らしくない。素の朋花、そんな歌い方するのか。
 もう俺にとってもどうでもよくなった。

「居座るんなら、食費と光熱費は出してくれ。もう『聖母』なんか知らない。
 『Nicola Copernicus』――そこにいるでしょう、できるでしょう。さぁ作って見せて。
 ……俺にとっては名付けた子なんだから。たかが1曲2曲で死なれたらがっかりだ」

 そうして俺から見た朋花からは、それだけが残った。
 以前には用意できなかった代案になるのか……さぁ? それしか投げつけてやる案がなかった。

「あぁ、できるんなら、マナを降らせてくれたりパンを増やしてくれてもいいぞ」
「……そんなことできないってわかってるくせに」
「本当にできない? 残念だ……」
「人を何だと思ってるんですかっ」

 ぷりぷりしはじめた朋花を部屋に残すのが不安だったので、いっしょに朝餉を食べに行った。
 空腹が解消されたらしき朋花は、帰ってそうそう俺の部屋にあったイヤホンの一つを、
 勝手に自分のMac Bookにペアリングしてミニキーをいじりはじめた。俺も仕事を始めた。




25: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:32:37.75 ID:i9qakCF1o


※23

「うふふ、う~ふふっ、いいですね。いい匂いですね~。あなたも、そうは思いませんか~♪」

 朋花は、うちの小さな座卓に乗り切らないほど皿を並べ、
 その上のアルミに包まれたままのホイル焼きの封を開けているところだった。

「ああ、美味しそうなのは、いい……んだが」

 スーパーで旬の物と切り身を適当に買い、バターだか醤油だか味噌だかを、乗せたり塗ったり垂らしたり。
 アルミホイルに包んで、あとはオーブンレンジにおまかせ。朋花のお気に入りだ。

 このやり方だと『うっかり焦がしてしまうことが、だいぶ減りました~』なのがいいとか。
 匂いからして、どうもキノコ系の存在感がひときわ強かった。秋真っ盛りらしい。

「なぁ、朋花」
「は~い♪」
「朋花。俺は、プレゼントは赤ワインがいい、って聞いていたはずだ」

 俺は、コンビニ留めにしておいた朋花へのプレゼントを受け取り、帰ってきたところだった。
 朋花は20歳になるせいか、こちらがなにか言う前に『赤ワインがいいです~』とわざわざ教えてくれた。
 せっかくなので、朋花の生まれ年の銘が入ったコートドールのどこかの赤と、グラスを取り寄せていた。

「はい~。確かに、あなたにお願いしました」
「じゃあ、そこにずらずら並んでる瓶は、なんなのかな?」

 ホイル焼きづくしの晩餐を整えている朋花の周りには、赤ワインの瓶が林立していた。
 赤ワインをミニッツメイドかなにかと勘違いしちゃいないか。

「赤ワインです~。ワインって、とっても素敵だと思いませんか~?
 私なんか、飲まなくても、見ているだけで、なんだか胸がわくわくして~」

 朋花は恍惚とした瞳で、つるりとしたワイン瓶の深紅を撫でさすっていた。
 ラベルは南ア、ニュージー、オージー、チリ、アルゼンチン……なぜか南半球ばかり。
 なるほどコスパはよさそうだ。財布への心配は薄くなり、朋花への疑念は濃くなった。

「人生最初の酒になるなら、と思って奮発したんだが」
「はじめてですよ~? 楽しみにしてて……ちょっと楽しみにしすぎたかも、ですが」

 背景が『毎晩つるつる飲んで気持ちよく酔いたいですっ』ってラインナップなせいで、説得力はゼロだった。




26: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:33:09.74 ID:i9qakCF1o

※24

 朋花が我が物顔でうちの台所やら食卓やらを占拠するようになるまでには、
 俺の多少の時間と、秋月さんの多大な苦労を要した。

 朋花が押しかけてきた日、俺が秋月さんに連絡を入れると、彼女は、

『いや~、美希ならともかく、朋花がそうするとは思いませんでしたね~。
 え? 引き抜きじゃない? あ、そうですか。早とちりしてすみませんっ。前に似たようなことがあって』

 と軽々とした調子で、この件の処理の大部分を引き受けてくれた。
 しかし『天空橋朋花』が一夜にして消えた事件は、マスコミにもそれなりに騒がれたし、
 おそらく天空橋家も大騒ぎになった。秋月さんの口調を鵜呑みにはできなかった。

『まぁ、こっちはお任せください。ただ……そっちは、くれぐれもお願いしますよ?
 あの子、私の担当アイドルでもあったんですから』

 しかし電話やビデオで会話していた秋月さんは、ずっとこの調子だった。
 高木社長たちがサポートしていたんだ、と信じたい。とりあえず朋花には謝らせた。

 朋花は『聖母』の過去を完全に隠し『Nicola Copernicus』の仕事を探しているようだった。
 有名人だとおちおちバイトもできなくて苦労するとか昔の平沢さんみたいだった。

 ただ朋花の場合、彼の時代よりコンペやスポットの仕事を探しやすくなっていたのが幸いして、
 食費と光熱費ぐらいはすぐ入れてくれるようになり、それにつれて振る舞いも我が物顔となった。

「はぁ~い、では、私の生誕を祝して……À ta santé♪」
「ハッピーバースデー朋花、おめでとう。あ・た・さんてっ」

 À ta santé(キミの健やかさに乾杯)か。朋花はだいぶその台詞が似つかわしい顔つきになっていて、しんみりしてしまう。

 対して朋花は、一瓶目の栓を開ける前からふわふわとしたテンションだった。アイドル時代からは想像もつかない浮かれようだ。
 ちりりとグラスを合わせ、赤ワインでくちびるを濡らす。ノドが鳴るのも見える近さ。

「あらら~、もしかして、見惚れてしまいました~?」

 朋花はワイングラスを離さないまま、寒サワラや鶏ムネやエリンギやタマネギやジャガイモや、
 マリアージュもへったくれもないホイル焼きに舌鼓を打っている。食レポよりずっと美味そうに食う。

「朋花は、赤ワイン好きなのか?」
「いただくのは、きょうがはじめてなんですけど~?」
「……朋花は、赤ワインが好きになれそう?」
「ええ、とってもっ」

 朋花はアイドルにも曲を提供し始めたらしい。アイドル、といってもいろいろあるが、さて……。

 自分がアイドルとして祀り上げられるのは、逃げ出すぐらい嫌がったのに、
 曲を通してアイドルを祀り上げさせる側になるのは、楽しんでいるらしい。都合のいい女だ。

「真っ赤な液体をそんなに美味そうに飲んでると、ヴァンパイアみたいだ」
「うふふ~、そんなコトを言うあなたは、ガッとやってチュッと吸って、眷属にしてしまいますよ~♪」

 あるいは、朋花は単に『聖母』の孤高さに倦んでいたのか。

 もしも朋花が、恒常的に、ユニットの一員として活動してたら、今頃、こんな地方の狭い安普請で庶民的な赤をかっ食らっては……。

「あら~。あなたは、ゆっくりなペースですね」
「……弱いんだ、酒」

 そういう朋花も、頻繁にグラスを口に運ぶ割には、ペースが遅い。
 朋花のペースも控えめだとしたら、あの赤ワインの群れを飲み干すのなんて、いつになるのやら。

「そう、ですか~?」

 朋花は、いきなり俺の肩口をつかんで、酔眼でぐいと俺の目を覗き込んできた。
 一気に、近く……まさか、本当に『ガッとやってチュッと吸って』なんて……

「私の酒が、飲めないっていうんですか~?」

 朋花……昔の音無さんや馬場さんだってそんな大学生みたいな煽りはしなかったぞ。
 が、朋花はきょう二十歳になったんだった……むしろ歳相応か。

「もっと美味しそうに飲んでくださいっ。私の最初のお酒なのですから」

 朋花はいつになく上機嫌で、いつになく甲斐甲斐しくグラスに注いでくれて、
 俺は注いでくれるがままにつるつる飲んで気持ちよく酔った。



27: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:33:53.46 ID:i9qakCF1o


※25

『あらら~、プロデューサー。お久しぶりですね~』

 ここがどこかわからないが、昔の朋花――『聖母』が、たたずんで笑っていた。
 ステージ衣装だろうか。後頭部に光輪だったかニンバスだったかを浮かせている。
 シニヨンのためにあつらえた小さなベールや、頬や肩に触れてくすぐったそうな横髪や、
 背から生えた薄紅の翼や、白と水色のドレスが、そよ風を浴びているように小さくはためく。

 ナイツ・オブ・テンペランス。
 青葉さんと朋花には悪いが、俺にとっては胸糞悪い衣装と微笑だった。

 だいたい俺はもうプロデューサーじゃない。お前だってもう死んでいる。
 文句を言ってやろうと思うが、しゃべれない。しゃべってる気はするが、自分の声が聞こえない。

『私が、死んでいる? ふふっ、面白い冗談です』

 死んでいるだろうが。
 お前は朋花に捨てられ消え失せた。
 お前の立つステージもない。

『いいえ~。聖母は、子豚ちゃんと、騎士団の皆さんの心のなかでは、不滅です~』

 さいですか、Ave Maria(めでたしマリア)。でも俺は『聖母』にうんざりだ。

『素直じゃありませんね~。あなたの心のなかにも、聖母はおりますよ~』

 前に朋花から『ジャンヌ・ダルクはミカエルにお告げを受け、3年ぐらいは何もしなかった』
 というような話を聞いたのを思い出した。

 実はジャンヌって、大天使ミカエルを『うるせーこのペテン師』と思ってて、
 ミカエルがしつこくつきまとってきたのに根負けしたんじゃないだろうか。嫌な与太話だ。

『あなたはいつもそう。聞きかじりの知識をこね回してお茶を濁すのがお得意』

 お前は、俺が知りたくなかったことをいろいろ教えてくれるようで。

『あなたは、私のせいで、あの子がひどい目に遭ったと憤慨して見せますが、
 私を一番近く一番長く祀り上げていたのはあなたです。いやもっとひどい。祀り上げ<させ>てもいた。
 これは、アダムとイヴと、エデンの蛇をあわせた罪業ですよ?』

 こいつホントに『聖母』だろうか。姿はそっくりなんだけど、言葉がずっと説教臭い。
 しかもそんな、俺が創造説や原罪を信じてる前提の言い方して……。

『ではプロデューサー。はっきり申し上げます。
 あなたは、あの子を持ち上げて、あなたのもとへ落ちる道筋をつけた』

 目の前で『聖母』がゆらゆら飛ぶ。『Maria Trap』のサビ〆みたいだ。

『あなたがあの子を止めたのは、すべてフリ。だから最後は、あの子に行かせた。
 あの子が高さに耐えかねたとき、下りる道はどうなってました?
 あなたが先んじ閉じていた……たった一筋を除いて。善意を敷き詰めた堕天の道。
 あなたが唯一楽しむ――」

 『聖母』の細い首に手が伸びていた。手を伸ばしていた。
 首は見た目よりさらに細かった。両手で絞めると指が余る。
 飛んでた『聖母』が落っこちた。咳き込みながら俺を見上げていた。

『……聖母の絲を切り落として……翼を圧し折って……楽しい、ですか……?』

 ちゃんちゃらおかしかった。俺がエデンの蛇だと言ったな?
 地を這う蛇に首絞められる天の女王は御座(おわ)せまい。蛇はカカトを噛むもんだ。

 頭に焼き付いてた、朋花の感覚が立ち上る。顔。歌声。その上に重なってくる。
 肩の細いのとか、髪や首の甘ったるい匂いとか、胸の柔らかさとか、頬の熱さとか。

 お前が、空とか飛ばなけりゃ。

『うふ、へ――へぁ、か、はッ、あ、が……っ、う、ぅぅくっ……』

 減らず口を塞いでやることにした。手は首にかけてしまっている。

 昔、正教の神品(しんぴん)だか学僧だかが、マリアの聖画像を陵辱して破門された時、
 ペニスを突っ込んだのは口だった……なんて逸話があったっけ。本は読んでおくもの……か?



28: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:34:27.10 ID:i9qakCF1o


※26

『ガ、ぁあっ……く、ぶ、ふッ……!』

 水色がだいぶ赤くなっている。突っ込めそう、面白そうだ。
 男のペニスをかじった口じゃ『聖母』のアリアは歌えまい。

『お――ごォっ!?』

 汚い悲鳴。光輪と『聖母』の頬がひしゃげる。ベールはクシャクシャ。いい気味だ。
 おかしなぐらい勃起している。それに任せてノド奥深くを突く。

『ご、ぉぁあ゛――ぉえおえ゛お゛ッ――』

 苦しいのか、口内がペニスを締め付けてくる。歪みが頬から額、目尻まで波及する。

『う゛ん゛んぅむゥ……ぶ、あッ……っ』

 音声が濁る。瞳は、光ってるのと曇ってるのが入れ代わり立ち代わり。
 昼と夜の空を早回ししてるみたいだ。額のシワが深くなる。
 怖いかい? 俺もあんたが怖かったよ。仲間かな? これでもう孤高じゃない。

『う゛――ぁあっ……お、オおぇお゛え゛――ッ』

 頭蓋骨とか歯とかがあるはずなんだが、硬さよりも、
 唾液と粘膜のねっとりした柔らかさか、味蕾と口蓋の細かいザラつきを強く感じる。
 つまり気持ちいい。『聖母』のくせに、オナホみたいな味の穴。

『う゛ん゛んぅっ、お、ぅ゛うっ――え゛ぇほっ、おぉオ゛……』

 ノド奥をがたがたいじめてから、引き抜いてみると、
 透明なスライムのようにおびただしい粘りが絡んだり垂れ落ちたりして、
 ひゅうひゅうと波打ち、鎖骨の陰が見え隠れする彼女のデコルテを襲った。
 彼女の吐息は気管支がヤラれてしまったように、荒く乱れて弱々しい。

『か……はぁあっ……はあぁあァあ……あぁ、ああっ、あっ……』

 美しいものの苦悶ってやつを見て、初めてソソった。
 あの『天空騎士団』も、これを見ていたのか。彼らを責められん気がしてきた。

『おごぇっ、が……えごっ――んッ――も゛ぉオォお゛お゛う゛え゛え゛――ッ』

 姿勢を変えて、またノド奥へ挿入。
 今度は、腕を頑張って伸ばせば、イラマチオしながらでも彼女の首筋に触れられた。
 アゴの硬さの向こう。頸動脈だか気道だか知らないがぶるぶると震える。
 見下ろせば彼女はヨダレどころか涙も鼻水も垂らし、濡れた前髪や横髪が力なく肌にべったりしている。

『んっ、んんぃい゛っ――ぅぐ、ぐ……ッ!』

 ペニスだけでなく指も加わったせいで、いよいよ圧迫に耐えかねたのか、
 彼女のもがきのたうつ様は、切羽詰まって引き攣れる。

 別に、拷問的に陰惨に殺したいわけじゃない。
 不格好な彼女を見ると、半分は楽しいが、残り半分はげんなりだ。
 朋花のかおかたちで、泣いたりむせたりしないでほしい。
 でもあんた空から落ちても死なないんでしょう。だから手ひどくやる。尊いと苦労も多い。

『えっ……お゛ぉっ、ええ゛――うえっ、こふっ……へぉえ゛え゛っ……』

 亀頭あたりで、きゅううっと締まった奥まで感じられる。
 えづきは弱々しくなっていく。彼女の目は夜ばかりになっていた。
 口ほどにもない。朋花の口ならもっと手強かったはず。
 なにせ朋花と口げんかしたことは『聖母』だった頃もそのあともたくさんあるが一度も勝った例がない。

 えづきと反対に、口内の摩擦というか吸引というか、とにかく刺激が強くなっていく。
 俺が追い詰められていく――追い詰められる? ペニスを刺激されて? なんの窮地か。いいじゃないか。
 食らわせて。止めを刺してやれる。跳ねる。ペニスどころか、下半身ぜんぶ食らわす勢いで、彼女を叩く。

『ん゛ぇ、あ、っ……く……あ、ぁ、っ……か、ほ……』

 射精、した。第一射は、確実に。
 それから、射精感が溶けて延びて――おかしな話。
 意識が朦朧として、ずるずるとペニスが滑って、なにか硬い感触が、食い込む。



29: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:35:14.48 ID:i9qakCF1o


※27

「あ……ぁ、い、いた、痛ぁ――っ」
「けほっ、かほ、ごほっ……んぐ、くっ、んくっ……ぅううぅ……っ」

 痛い。甘ったるい。酒臭い。暑苦しい。吐き気がする。頭痛もする。どうして?

「……あぁ、浅いけど、傷、ついちゃいましたね~……血も、少し。
 すみません、出た時、びっくりして、歯をぶつけちゃったみたいで……」
「……でた……? なに、が?」

 目を開けると、口元を白濁と半透明の粘液でべたべたさせた朋花が、
 昼のようにギラつく目で俺を見据えていた。



「ん~……おっきくて、あついまま、ですね。機能的には、問題ないようで。頼もしいことです~」

 頭がぐらぐらする。頭蓋骨の中で鐘をごんごん鳴らされ迷惑きわまりない頭痛がする。
 鼻の奥とかノドとか食道だか胃のあたりがカラカラに乾いて燃えるように熱い。
 おかしいな。俺は彼女の口にペニスを突っ込んでたほうで、俺の口には何も。

「……朋花?」
「はい~? なんでしょう」

 俺を覗き込んでくる朋花には、光輪がなかった。シニヨンもベールもなかった。
 下ろした長い後ろ髪が、デコルテで横髪とごっちゃにくるくるなってたり、肩甲骨あたりに流れたりしていた。
 翼もドレスもなかった。紅潮した素肌が見えた。何も着ていなかった。

「酔ってるな?」
「そうですね~。でも、あなたのほうが、ワインをたくさん召し上がっているはずです」

 そうか。頭が痛くて粘膜が熱いのはアルコールのせいか。
 朋花が飲め飲め~って、わあわあ騒いで、グラスに注ぐもんだから、つい飲みすぎた。
 朋花は酩酊して……どうだか。フリだったのかも。
 確か『うふふ、う~ふふっ』とか乾杯前からアルコール回ってたようなテンションだったし。

「……朋花、俺の……咥えてなかった?」
「ええ。準備に必要だったので」

 なんで。準備、なんの?

「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ~。聖書にもそう書かれています」

 そんな馬鹿な。

「ロトの娘たち、ってご存知ですか~? ほら、創世記で、ソドムから脱出した人たちです~。
 逃げる途中で、奥さんが塩の柱になってしまった話のほうが有名でしょうか」

 ……あぁ、見るなって言われたのに振り返って見ちゃったから、ってやつか。

「ロトと2人の娘は、洞窟に隠れます。そのあと、ロトの娘たちはこうして……」

 朋花は俺のペニスに、自分の性器をずるずるとこすりつける。
 舐め回される。朋花の粘膜と肌と吐息がくすぐってくる。
 熱くて柔らかいものに包まれる。捉えられる。されるがまま。

「ロトを葡萄酒で酔い潰して、セックスして、子供を産むんです~」

 朋花の膣内は、『聖母』の口内に負けないキツさで俺を攻め立てる。
 ペニスを飲み込み、ずしりと体重をかけてホールド。跳ね除けるなんて、考えさえできない。

「あなた、前に私へ……『期待してたか?』と聞きましたね……。
 ……『綺麗でしょう強いでしょう、さぁ汚してみせて』?
 わかりません。してた気もします。してなかった気もします。忘れました」

 朋花が、俺の部屋に駆け込んできた朝のことだ……と気づくのに、俺はまばたき何回かぶん時間がかかった。

「覚えてるのは、死にたくなった気持ちの一部と、生きたくなった気持ちの全部が、あなたのせいだということ」

 えっ。一部――全部? 稲葉さんの真似?

 ……あ、こら朋花。『勢いで言ってしまいました』って顔に書いてあるぞ。
 お前も酔ってるだろ。



30: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:35:48.72 ID:i9qakCF1o


※28

「……そ、それとっ、あなたは私を犯した。心で犯した。私の心を犯したっ」

 朋花が俺に馬乗りになって見下ろしてくる。その笑みに癒やしは無さそうだった。

「淫らな目で女を見るものは、すでに心のなかで、その女を犯しているのです……なんてっ」

 捕食者の口と歯と舌。内心が溢れ出ている。図々しくなった。如才が無くなった。
 自分の欲望のために、さして信じていないであろうドグマを使い倒すようになった。
 ゾクゾクと背筋から後頭部をせり上がる戦慄で言葉を奪われる。

「あ、ああっ、ああっ……!?」

 しごきあげられる。ペニスが窒息するんじゃないかってぐらいの勢い。
 射精直後の亀頭に痛いぐらい。

「や、ぁ、ああぁっ! 奥、シて、もっと、ふかくっ」
「ほ、ぉ……あぉ、おおうっ……!」

 朋花が俺に打ち付ける律動は、音だけは、たんったんっと軽やかだった。
 熱は焼かれるようで、匂いは押し付けられるようで、衝撃は殴られるようで、性液は沈められるようだった。

「とも、か、や、め……ぁ、あ、おっ……ぐ、うぉっ……」
「やめません。ぜったい」

 朋花の膣内に、ぎゅうぎゅうされたり、みちみちされたりする。
 朋花に覆われているのはペニスだけのはずなのに、感覚は頭から足まで占領されている。

「く、ぁ、んぁ――あ、あっ……あなたも……もっと、私で、気持ちよく、なって……っ!」

 オナホのように陵辱されるがままだった『聖母』の口内と大違いで、
 朋花の膣内やら腰やら両脚やら……とにかく下半身にもう一つ意志が宿っているように、
 ずりゅずりゅ、くいくい、ぎしぎし、俺の一器官を抱きしめたり引きずり回したりする。

「ふ、ふふっ、黙っていても……あなたの、顔と、おちんちんで、伝わってきます……。
 また、出してくれますね。今度は、こちらに……私の、子宮に……」
「そ、それは、だ、め、だ、ぁ……」
「口答えは、いやですっ」
「んぎゅうぅうぅっ」

 釘付けにされる。ペニスだけじゃなく、オスとしての生殺与奪を握られる。





31: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:36:23.22 ID:i9qakCF1o


※29

「ねぇ、ほら、私の、なかっ、気持ちいい、ですか?」
「き、ひっ、い……きもち、いいからっ、や、めっ」
「きもちいい、なら、だして――今、だけでも、いいです――素直になって、だしなさいっ」

 朋花は、俺より年下なのに、なんだか自分が幼児退行して、
 お姉さんに叱られてビクビクしてる男児の気分になる。おかしいな。
 こんなきれいで、つよくて、わるいおねえさんなんていなかったはず。

「ぜったい、やめない、やめませんっ、だって、わたし――っ」

 たんったんって朋花にヤられるたびに、自分が真っ平らにされていく。
 しごかれ、しごかれ続けて、朋花のためのモノにされていく。
 限界が近づいてきて、恐ろし――そう思う気力さえ、こそげ取られる。

「あ、あ゛、あっ……!」

 真っ平らにされて、理性も力も朋花に抗えず、射精。
 あの……誰かがセックスの『せ』の字でも匂わせようものなら、
 声と目線でぴしゃんと――それだけで朋花には十分だった――はたき落とす朋花に。
 出会ったときからずっと――あぁ、あの空港の朝だけは別だったが――そんな朋花に、膣内射精した。

「あ、あっあっ……ふふっ、あはは、はぁっ……お口のときと、同じ、ビクビク、シてます」

 朋花は、彼女にしては、はしたないぐらい口を開けて笑い声を立て、そのくせ涙を幾筋か垂らしていた。
 涙が慈雨のように降ってきて、朋花に種付けした達成感が、じわじわと真っ平らの俺を濡らした。

「ふぁ、ぁ、は……あぁ、失礼……すみません、いま、のけます……」

 朋花は上半身をがっくりと傾げ、俺に向かって突っ伏しそうになったのを、どこかに手をついて止めた。
 が、朋花の長い髪は傾いだ勢いのまま俺に降り掛かって、肌をくすぐったくさせた。

 朋花はそれが気になるらしく、ペニスを突っ込んだまま背中をまっすぐに戻し、後ろ髪を結ぼうとしていた。
 が、ゴムもリボンも手元にないからか、満足する具合に決まらず、もぞもぞ、はらはら、波打つばかり。
 まとまる気配がない。

 朋花には珍しいまごつき具合が、俺は無性に女らしく見えて、目が離せなかった。

「な、なんです? じろじろと、面白そうな目つき……恥ずかしいじゃないですか」

 あぁ、そうか、恥じらいか。
 なんか、首や後頭部のあたりをフワフワさせる、穏やかだけど心惹かれる雰囲気。

「……可愛い、な」
「かわい……っ!?」

 ……浜松のピアノ屋さんじゃないぞ。

「……カ・ワ・イ・イっ」

 可愛いってズルい。褒めるのと腐すのがまぜこぜになる。
 ムチャクチャ言われても、ムチャクチャされても、受け入れてしまいたくなる。

「言い直さなくたって、わかって――んンんっ!?」
「あ゛ぅうっ」

 朋花の膣内が、くしゃみされたときみたいにいきなりギュッとキて、俺まで声が出る。
 ペニスがまたゾクゾクと震える。固いままだった。
 朋花が家に居座ってから処理しづらくて溜まってたせいか……?

「……私としたことが、思いを残していくところでした」

 捕食者は満足していない。



32: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:36:59.21 ID:i9qakCF1o


※30

「はっ、あ、はっ、はぁぉ、んっ……くっ、ふぅ……っ、い、やっ、いっ、は、ぁんっ」

 朋花から感じる重圧は、目覚めたばかりと比べて明らかに軽く、もう心地いいぐらいなのに、
 抵抗するどころか、金縛りにでもあったように、なんの反応も返せない。
 朋花以外何も感じられない? 自分の体さえも。しこたま飲まされたはずの赤ワインの酔いは忘れた。
 うめき声ぐらい出してるか……? 自分が声を漏らしてるかどうかすらあやふやだ。

「あ、ぁっ……なか……奥まで、とどいて……うれしい、です――ん、んっ、ぁ、あぁぅっ……っ」

 自分があやふやなのと逆に、朋花の痴態は、俺の肌や粘膜へよく届き、俺の中でよく響いた。
 腰の動きは、ストロークは小さく、細かい刻み方になって、奥の同じような場所をこつこつと突かせた。

「わ、私の……そこ、し――きゅう、いり――ぁああっ……きて、ます、ぅ……ん――っ」

 子宮口と言っている気がする。確かに、きゅうきゅうと抱擁してくる膣襞のザラつきにまぎれて、
 鈴口あたりにふかふかした感触がある。そこ、なんだろうか。男にはわからない。女には感じ取れるのか。

「……あぁ、んぅぁっ……!」

 いい感じの当たり方をすると、朋花の体は福音をはしゃいで伝えてくれる。
 すると膣襞が、よしよしいい子いい子と撫でるようにペニスをしゃぶって、
 それに合わせて臍のあたりがくねったり骨盤の端っこや肋骨の一番下や太腿の筋が浮き沈みする。

「き、きて……くる、と、あなた――かんじ――ぁ、んぁっ……――もっと、したく、なっ――」

 手にぎりぎり覆えそうな乳房の膨らみ。さっきの『たんったんっ』に比べると揺れは慎ましいが、
 背中が反ってるのか肩が開いてるのか、こちらに向かって誇示するように突き出されている。
 膨らみの頂点、色素が薄く肌に半分溶けかかっている乳首が、小指の先ぐらいにがんばってシコりたっていて、
 触って触ってと宙をこすってせがんでくるが、俺の手は動かない。

 胸や肩がそんな感じなので、朋花の顔は仰け反られたり横髪に絡まれたりで、見えつ隠れつ。
 嬌声の母音が、次第に『あ』や『お』から『え』に染まってるので、舌が回らなくなってるんだろう。
 回らなくなったのは思考回路かもしれない。これなら口げんか演じても引き分けになりそうだ。

 くちゃっくちゃっと行儀の悪い結合部。
 白いどろどろが糸を引いて切れ、透明な膜が張られて破れる。
 何回、膣内射精した? わからない。ペニスはまだ奥のふかふかに触ってやれるぐらい勃起してた。
 朋花がまた、嬉しいのか苦しいのか判断しかねる悶え。こっちの内側までうずうずする。

「ま――ナカ、に――……だし――ぇっ……わたし、の――」

 濡れる。当たる。しまって、ふるえる。
 朋花以外が消え失せて、朋花さえもどこかへ行ってしまう。
 いや、俺を連れ去っていく。『聖母』を犯してたときよりも周りが無い。
 浮いてるのか落ちてるのか。夢よりおかしくて心地いい。

「ぁ、あぁ、は――」

 人間の五感で最後まで残るのは聴覚、という俗説を俺は信じるようになった。




33: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:37:33.19 ID:i9qakCF1o


※31

 翌朝、俺は朋花に揺り起こされると、『おはよう』と返事してすぐスマートフォンを拾い、
 ウェブ上の新共同訳で『ロト』と検索した。本当に葡萄酒で眠らされて勝手に子供作られてた。

「なぁ朋花。もし妊娠してたら……」
「……してたら?」
「子供の名前を『モアブ』とか『ベン・アミ』にするなんて言わないよな?」

 俺は初めて朋花から『おしおき』を受けた。朋花は妊娠した。籍を入れた。
 式はどうしようか聞いたら『家が先です~』と言われた。広い家に移った。

 家計がいっしょになって気付かされたのだが、稼ぎの額を、朋花にかなり追い上げられていた。
 後生畏るべし。






34: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:38:39.06 ID:i9qakCF1o


※32

「あら、こんな遅くまでお仕事ですか。あの子は寝てしまいましたよ」

 イヤーチップの隙間から入ってくる朋花の声は、軽い驚きを含んでいた。

 夕食も後片付けも入浴も済んで、あとは寝るだけ、というときだったが、
 俺はリビングの端っこで、鍵盤に指を這わせながらメロディを練っていた。

 鍵盤といっても、型落ちで投げ売りされていて衝動買いしたD-DECK。
 『使う機会、あるのですか?』と朋花に呆れられ、ポータブルなのに半分インテリアと化している。

「子供の歌って、なかなか聞かないからか、いろいろ湧いてきて。9割5分は使えないっていつもの感じだが」

 俺はEtymotic Research(D-DECKに挿しっぱなし。もちろん型落ち)を耳から外し、朋花のほうを向いた。
 メロディを練るといっても、iPhoneに鼻歌を録っておくのと大差ない軽さだった。
 朋花もそれを察していて声をかけたのだろうし、俺もあっさり作業を中断した。

「早く、寝たほうがよろしいですよ」

 朋花も湯上がりで、ピンクチェックの薄い寝間着。
 ソファに座り、長い髪をタオルに押し当て水を吸わせている。

 昼間、亜利沙の話のせいで『聖母』に興味を持ったらしい娘は、朋花にせがんで。
 『聖母』のかつてのライブなどを収めた映像を見ていたらしかった。

 俺は『聖母』を見聞きしたくなかったので、席を外して、税理士の先生にメールを打ったり、
 不要不急の買い出しに出たり、洗濯物を取り込んだり、風呂掃除したりしていた。

 『聖母』を堪能した娘はいたく感銘を受けたのか、
 『きれいでしょ~、すごいでしょ~、さぁよごしてみせて~♪』と歌詞の意味も知らず真似をしたがった。
 それで防音にしている機材部屋に入って、朋花といっしょに娘のリサイタルにつき合った。

 機材部屋に娘を入れたのは初めてだった。娘は、歌いまくってノドがかすれてきたと思ったら、
 今度はROLIのLUMI(これも衝動買いしたまま置きっぱなしだった)に目をつけた。
 LUMIの、鍵盤がピカピカしながら鳴るガジェットらしい派手なレスポンスがお気に召したらしく、
 夕食の時間寸前まで離さずたっぷり遊んだ結果、疲れ切っていつもより早くぐっすり寝入っている。

「あなたは見ないで済ませましたが……昔の私を見るの、きつかったですよ」
「……そうか」
「だって下手っぴなんですもの。当時は一生懸命でしたが」

 俺はぎょっとした。D-DECKの椅子から立ち上がって、ソファの朋花が座る隣まで寄って、
 朋花の顔を見つめたが、冗談や洒落の様子はうかがえない。
 俺がいうのもなんだが、あれを『下手っぴ』とはシビアだ。俺まで時を超えてダメ出しされた気がする。




35: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:39:45.43 ID:i9qakCF1o


※33

「朋花、楽曲提供先を泣かせてたりしてないよな」
「もちろん。Nicola Copernicusは、私よりず~っと寛容ですよ」

 仕事は「相談したい件を、相談したいときだけ」と決めていたので、朋花のそれを詳しくはしらない。
 歌手や演奏者をビシバシしごく朋花の画が浮かんでしまうと、頭からなかなか離れそうもなかった。

「あの子が、アイドルになりたい……と言ったら、どうします?」
「やりたいと言ったら、やらせよう。ここは、音楽以外は楽しいことあまりない土地だから。
 それこそフロリダだったかキャッツキルだったかみたいに。ただし、宙吊りは勘弁で」
「……私のステージは、金輪際見たくないって目をしてたのに」

 朋花は大げさに頬を膨らませた。

「見ると……ぶち犯したくなるから。『聖母』は」

 朋花は冗談だと思って口を緩めることも、本気だと思って目をしかめることもしなかった。
 しばらく頬を膨らませたままだった。

「あなたって、本当に根に持つタイプなんですね」

 俺と比べると、朋花は『聖母』にさっぱりと折り合いをつけているようだ。
 内心はともかく、表情や言動や仕草はそうだった。なんだか釈然としない。ズルい。

「俺のせいばかりじゃない。生まれてこの方こんだけ深く根に持ってるのは、朋花がらみだけだ」

 朋花こそ『聖母』について何も引きずってないのか? と、至近距離で朋花の目を覗き込み返す。
 朋花は「ん、んっ」なんて、喉の奥で、呼気とも音声ともとれるかすかな響きを籠もらせる。

「……半分くらい、私のせいでしょうか~?」

 俺が恨みがましい言葉と視線を投げつけたのに、投げつけられた朋花は乙女のようにはにかんだ。
 風呂上がりの髪と肌はしっとりとした匂い。ピンクチェックの薄物の向こうは、もっと濃密だろうか。
 『聖母』がどうとか考えたせいか、本物の乳香って朋花みたいな匂いしてそうだ、などと妄想がよぎる。

「いや、ぜんぶ俺のせいだな」

 朋花の肩に手を回す。
 乳香の匂いは、濃くなったわけでもないのに、淡いまま俺の肺腑奥深くに沁み入る。
 朋花の長く下がり気味の上まぶたが、恥じるのか媚びるのか細められ、
 そのくせ、くちびるは爪先ぐらい開いたまま。

 朋花がこっちに向かって投げかけてきたり発散してきたりするものに曝されていると、
 こっちの体がすべて透明にされて、嬉しいような、怖いような、胸苦しいような、温かいような――

「いけません、あなた、いけませんよ、すご~く、いけません……っ」

 ――ありていにいうとムラムラ来た。

「その髪のお手入れが終わるぐらいまでしか、待てそうもない」

 朋花が手を止めてしまったので、逸る気分を頑張って抑えて俺が続きをした。
 が、手を添えるたびに誘うソフトトーンを聞かされ、辛抱しきれなくなって結局押し倒した。




36: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:40:18.81 ID:i9qakCF1o


※34

「ん、ぅ――ぁ、あ、ぁ……ふ、ぅ、んんぅうっ……!」

 朋花とは、娘が生まれてからも体を重ねていたが、
 する時はいつも娘を園に送り出して家事を終えた後、つまり真っ昼間に寝室でしていた。
 俺も朋花もだいたい家で仕事を進めるので、しやすいときにすると、そうなる。

「朋花、ともかっ」

 寝室でベッド……と比べるとソファは心細い。さりとて場所を移すと朋花の気配が薄れて惜しい気がした。
 本当に奇妙な感覚だが、例えば朋花を抱き上げてどこかへ運ぼうとしたら、
 腕の中からぽたぽた垂れ落ちていって、朋花の一部が置き去りになってしまう感じだ。

 ソファで並んだ体勢の不安定さを和らげるため、朋花の首と腰に手を回して抱き寄せる。
 俺自身の体重も使うと、朋花の身体は軽いを通り越してこちらの上に転がってくる勢い。

「はぁっ、ひぁっ――だ、だいてて、くださ――んんんぅうっ」

 腕と、腿と、肩から腰ぐらいまでが朋花と寝間着越しにくっついて、
 朋花がなにかを怖がっているような震えがこっちの肌にも伝わってくる。
 それは、蜜のように糸を引いて滴りそうな匂いや、さっきのお湯より熱く感じる体温や、
 俺の肩口をくすぐってくる吐息と比べて、それだけが妙に切羽詰まっていた。

「ぁ……っ、だ、めぇ、ごめん、なさいっ、こ、れ、これ、すき、です……っ」

 朋花が腕を絡め、爪を立ててきた……気がした。
 爪が短いし寝衣の布越しなせいか、指の腹や腕や骨の圧を感じても、ちくちくキリキリした痛みはない。

「キス、したい。いいか?」
「ま、ぁ……い、いま、されたら、わたし、ん、んンぅぁ……んっんぷっ!?」

 肩と腕をずらして、下から朋花のくちびるを奪う。
 くちびるの表面はさらさらしていて、馴染み深い歯磨きクリームの爽やかさが一瞬ひらめいて、
 朋花の甘酸っぱい中に消えた。こっちまでヨダレを垂らしてしまう煽りの色がついた味。

「んぷっむっ、ちゅむっ――ぁんんっ……ふ、あぅうっ、ふぅー……っ」

 こっちが下なので、朋花はその扇情的な体液をちゅうちゅうと優しく注ぎ込んでくれる。
 お返しに、こっちのくちびるを朋花のくちびるで甘噛みしたり、
 舌先で前歯あたりのエナメル質に触れてやると、朋花は呼吸を動揺させたり、
 胸やウエストや腰あたりをくすぐったげに力ませたりよじったりする。

「……朋花、キスされるの、好きだよな……なぁ、どんな感じになるんだ?」
「ど、どんな感じ、と、言われましても――んぁぅ……っ」

 くちびるを離して、耳元に囁く――俺は朋花の耳元へ囁いたつもりだったのだが、
 朋花は髪の生え際や首元――子供まで作った今でも、朋花はおいそれと触らせてくれない――あたりで、
 俺の荒くなった呼気を感じてか、首筋や鎖骨を浮かせ沈ませ、四肢をびくつかせた。





37: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:40:52.92 ID:i9qakCF1o


※35

「こうして、キスしたり、抱きしめてると……朋花、すごく嬉しそうな感じに見えるから」

 朋花の匂いや味や熱や柔らかさをまともに注がれて、すでにペニスは勃っていた。
 その上でキスや抱擁のたび、朋花が悩ましげに肌を寄せて擦りつけてしがみついて……などされると、
 それだけで射精感が迫って危なかった。

 俺がいきなり会話を始めた理由は、それを取り繕うのが半分。

「う、うれし……っ!? そ、そうですね~……ひ、否定は、しません」

 もう半分は、朋花が口を啜られたり腕で抱きしめられたりという刺激によく反応するので、
 それは心地よいのか? という疑問だった。男だと心地よくなくても反応してしまうことがままあるし。

「……どんな感じになるの、聞きたい」
「言わないと……止めて、しまいますか?」

 そんな意地悪はしない。しかし、

「言わなくても、する。言ってくれたら、もっとしてしまうかもしれない」

 どうなるかなぁと案じた。言ってから、うまい言い方じゃないと反省した。
 これだと黙って腕や腿を絡めてきて無言でねだるほうへ流れてしまうかも。そうなると射精が危ない。
 惜しいのでこっちから仕掛ける。朋花の髪、後頭部から、うなじをそろそろと撫でる。

「ひぁぁあっ!? は、ああっ、そこ、だめ――ぇ……っ!」

 言いながら朋花は、もうほとんどない俺の肌との空間を擂り潰すように、ずるずる、きしきし。

「朋花、首が……首の近く、このあたり……どこも、敏感だ」
「あなた、知っててこの扱い、ですよね……?」

 前から朋花は首あたりが弱点だったが、こっちに来て、髪をアップにまとめず下ろすようになってから、
 その弱さが際立つようになった気がする。ふだん後ろ髪で守られるようになったせいか?

「だから、聞きたい。朋花の口から」
「なにが、だからなんで――あ、ぅぅう、ひぅぁ……っ!」

 朋花が上半身を悶えさせ、髪の毛をふわりと押し付けてくる。
 朋花の毛髪は、まとまりとして見ると、ツヤと長さと量感で豪奢なほど。
 髪の一房や一本一本に目をこらすと、俺の髪の半分ぐらいの細さかなぁという繊細さ。
 手が触りたがる。触る。朋花の髪の、豊かなのにおぼつかない矛盾を、欲張って両取りしたい。
 指の間をくぐらせ、手のひらを押し付ける。朋花の陶酔も掬いたくなる。

「そこっ、だっ……ぁあっ、ま、まって――ん、んーっ、ふ、ぅぅ、ううぅ……っ!」

 慣れないソファで体勢を崩したら嫌だ……と、朋花と俺の重心を近く保持して愛撫に興じている。
 視覚的には寂しいが、それ以外の4つの感覚が朋花の催情に占領され、やっぱりペニスがうずく。
 たまらない。これで目まで刺激されたら脳が飽和しそうなので助かった。

「男性の、かた、は……ぁあっ、その、胸や、お尻のほうが、好きでは……ないのですか?」

 窮したのか、朋花があさっての方向へ話を投げる。
 娘を産んでから、大きくなったのかどうなのか……今はこちらの胸板に押し付けられて揉めない。
 朋花のバスト。手でぎりぎり覆える程度の大きさと形は、昔のままどこかぴりぴりしているが、
 触れると柔らかくなった印象はある。



38: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:41:26.92 ID:i9qakCF1o


※36

「それはそれ、これはこれ、なんだ」

 それもまとめてホールドする。
 俺は片方の手を朋花の首に、もう片方を朋花の腰とお尻あたりに這わせる。
 お尻は『聖母』の頃より一回りぐらいもっちり豊かになった。
 なのに揉むと嫌がられる――朋花は気にしているらしい――ので、しこたま触れるのは久しぶり。

「ぁ、んんっ……そんな――ぎゅって、ずっと、され……あなたに、される、と……っ」
「で、朋花はどんな感じがする?」

 抑えながら引き戻す。逃さない。囁く。
 こっちは動いていないが、朋花は心臓の鼓動や肺の伸縮が全身に及んでいるように、
 あいからわず肩や腰や四肢をもぞつかせる。吐息はキスのときより荒くなっていた。

「な、なんで……あなた、こんなに、ぎゅーって……いつもと、違……ぁ……っ」

 どうなんだろう。
 ソファでするのに不慣れなので、互いの重心が近くないと転げ落ちそうで怖い。
 それと、朋花の匂いや反応がどうにも蠱惑的でしょうがない。それとも……

「わたしが……私が、戻ってしまうって、思ったから、ですか……?」

 黙ってると、朋花が面白い解釈を聞かせてくれる。
 朋花が『聖母』に戻る素振りを匂わせたから、戻らないでくれ……って、
 俺が縋ってるのが、体勢に出てるとか。言われるまで考えなかったが、言われるとそんな気もした。

「――ないで、行かないで、くれ……朋花っ」

 考えたら口から出てしまった。もう遅かった。
 今、もし朋花が……そう考えてしまうと、情けないが、俺は……。

「ま、たぁっ、ぎゅって、さ――ぁ、あぁあぁっ、だめ、ですっ、これ、されて、
 私、わたしっ、ナカ、まで……っ、きゅうってキて、ぇ――ぁ、あっ、うぁっ……!」

 朋花のほうも、自分で口に出した推測に感化されてか、感極まったようにすすり泣く。

「だめ……っ、わ、私、あ、ぁ――ごめんなさいぃ……もう、だ、め、ぇ……っ」

 何が『ダメ』で何が『ごめんなさい』なのかわからないまま、
 朋花の体は悶えるのを通り越して、小さな痙攣じみた動きと涙声をにじませた。
 油断すると離れてしまいそうなのでいっそう強く抱く。朋花のノドが高く細く響く。

「ひぁ、う、ぁ――んんんぅうぁっ、ぁ、ひっ、んく、ぅうぅー……っ」

 首か、鎖骨か、肩甲骨のあたりか、ほの温かい感触が幾筋も流れて落ちた。
 こっちまで涙腺が緩む。一瞬だけ、これが涙じゃなくて汗やヨダレだったらどうしようと首が回って、
 なんだかおかしくて笑い泣きになって、俺まで腕や肺あたりの震えが止まらなかった。




39: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:41:59.41 ID:i9qakCF1o


※37

「き、気持ちいい、です、か……? ふぁ♥ わ、わたし、も……ですっ。
 ふふっ、わかって、わかってます――き、てぇ、あ゛っ♥ ぅううっ、あぁ……っ♥」

 抱き合い始めてしばらくは受け身だった朋花も、挿入のお膳立てが進むにつれて快楽を露わにしていき、
 ついに……という段になると、俺が飲まれそうになるほど上げ潮になっていく。



 上げ始めの朋花は静かだった。
 啜り泣きが収まってきた風の朋花に、俺はしつこく『どんな感じがする』か、
 聞かせて欲しい聞かせて欲しいと、我ながら聞き分け悪くねだりつづけていると、
 朋花はしおしおと小さくなりながら、途切れ途切れで、

『……あなたに、ぎゅってされると、お腹の奥が、きゅうきゅうって、火照ってしまうんです。
 また、また赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ないんです。でも……』

 朋花は、言葉では泣いていた。声音は儚げなくせに熱っぽかった。
 本当に、この天空橋朋花という女は――もう天空橋ではないが――矛盾に満ちていて、
 その両方が、俺を彼女の懐に向けて抗い難く引っ張ってくれる。

『……でも、私は……あの夜、勝手に、シてしまったんです……あなたが、首を縦に振る前に……。
 悪いと思うなら、やらなければいいのに……でも、私、は……』

 そう朋花にこぼされた。
 それで俺は、朋花にセックスをせがんだことはあっても避妊は欠かさずしていて、
 朋花に向かって『孕ませたい』と言動や行動で伝えた覚えがないことに気づいた。

『後悔するには、幸せすぎて……』

 もしかしてそのせいで『勝手に子供を作ってしまった』と、ずっと思っていたとか。
 その心境は正直、男には想像しづらいものがある。分かった、とは言えない。

『朋花……っ』

 しかし黙っているのも……。
 俺が、なにか言えるとしたら――

『つまり、二人目がほしい、と』
『……ぁ、その~……まぁ、なんと、いいますか……』

 ――ありえないだろ、と自分を叱責したくなるほど明け透けに出てしまった。
 言葉をぶつけられた朋花も、びっくりして声が詰まっていた。

『俺もほしい。子供』
『……ぁ……っ♥』

 たぶんちょっとだけなにかがずれてる気がした。疑念がちらちらした。

 でも、朋花に『赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ない』とか至近距離で浴びせられて、
 しかもペニスが朋花にアテられ準備良く精液出したい出したいとうるさくて、
 そんなごちゃごちゃしてるうちに疑念は落ちてどこかへ消えていった。

『あの、あなた、その……』

 孕ませる。孕んでください。孕め。たぶんそんな感じのことを口走った。

『き、ききました、よ……そんなこと、あなたが、ね、私、に……♥
 うそなんて、言わせない、いわせませんからぁ、ふぁあ――っ……♥」

 失禁したようなじわじわ広がる温度が、肌に張り付いて俺の意識まで占領していった。




40: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:42:35.44 ID:i9qakCF1o


※38

「朋花は、その……くちびるとか、キス、やっぱり、好きなんだ?」

 お互いの寝衣どころかソファのカバーまで色が変わるほど、濡れてしまっていた。
 そういえば朋花は『あの夜、勝手に、シてしまった』とき、
 俺が愛撫しないうちに、ペニスくわえるだけで濡らしてたっけ。

「……ぃ、や、あなた……やっぱり、恥ずかし、い……。
 それに、あなただって……大きくしてるじゃないですか」
「だって、朋花から『お腹の奥が、きゅうきゅうって、火照って』――」
「あーあーっ! もうっ……そもそも、私がそれ言っちゃう前から、ぜったい大きくしてました」

 朋花は口を尖らせるが、俺が彼女の寝衣に手をかけると、腰を浮かせてくれる。
 離れれば簡単に脱げるが、ぴったりくっついてる雰囲気に浸ったままでいたい。
 早く挿れたい気持ちと、そうして焦れるのが楽しむ自分がいる。

「ありがとう」
「ど、どういたし、ましてっ」

 朋花の愛液(いちおう俺の先走りや、汗とかも混じっているだろうが)で、
 俺達がこすり合わせていた所――特に下半身は、びちゃびちゃに濡れている。
 それも肌触りで筒抜けなのだが、俺が首を曲げてそっちに視線を向けようとすると、

「み、みないで、くださいっ」

 朋花は、両肩をぴったりくっつけるようにして阻む。

「ここからは、私が、シます、から」

 確かにあの夜だって泥酔状態で座り込んでる俺に、朋花は抱きついてほぼ独力で挿れてくれたけれども、

「ぁ……さ、さわ――ぁ、んんぅうっ♥」
「キスしたり、ハグしたり、だけで……興奮してくれたのか、濡らしてくれちゃったのか」

 見た目は細いが、触るとみっちりと弾力のある腿――ここの肌も、もう濡れてる。
 たどる。上がる。俺の耳元で朋花が息を呑むのが、聞こえる。

「期待してくれた……のかな?」
「んぅ、きゃぁあっ、ん、あぁあぁ……っ」

 ぴっちりしたゴムと肌の食い込みに、指を引っ掛ける。

「のっ伸びちゃいますから……もう、自分でやりますっ」
「……でも、俺に見せたくないんでしょう?」
「そ、それは……あ、んんぁぅ……っ♥」

 薄い下着、デリケートゾーンを指先で探ると、濡れそぼるあまりそこに張り付いている感触。
 こっちがくすぐったくなるほど、朋花は呼吸を荒げ、上も下も肌や粘膜をそわそわさせる。




41: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:43:08.94 ID:i9qakCF1o


※39

「朋花が、どんな感じしてるのか、また、聞きたい」
「いじわる、です……」
「そうしてくれると、興奮しちゃうから」

 朋花が吐息の流れと温度さえ、甘ったるさと恨めしさに染まっている気がする。

「これ以上、興奮するおつもりですか……? そうなったら、私、は……。
 ……いいですよ、いいですとも、お付き合いします、どこまで、だって……♥」

 朋花が言ってくれる。
 しかも俺が興奮するから、と言った後に、折れてくれたので、倍ほど嬉しかった。
 まるで俺を煽って、精子出させて、孕むための、妊娠欲もあらわな……
 
 ――『また、また赤ちゃん欲しいって、泣きたくなるぐらいに、切ないんです』

 どうしてそんなことを俺に聞かせてくるんだ――言ってくれって頼んだせいだ。
 さっきもそう言われて、頭が茹だるかと思った。

「やっぱりずらして挿れるよ」
「ぁ、んんぁあっ、そ、そんな、ぁ……いじわるで、わがまま――し、しょうがない人です、あなた、は……」
「ごめんなぁ、わがままで」
「……ぁ、うっ……♥」

 とりあえずムリヤリでもなにか囁いて今のこの朋花の耳に流し込んでやると、
 朋花はさっき首や髪を撫でた時のように呼吸を波打たせる。またナカが切なくなってるのか。
 挿れたらわかる、楽しみだ。

「ぁ、わ、あっ♥ そ、そんなに、がっつかなくても……い、いま、いきます、いきますからっ」

 楽しみすぎて、朋花の腿やお尻あたりを、催促するように揉んでしまった。
 緊張か、期待か、それとも触れる前から興奮が抜け駆けしているのか。

「んっ……♥ さきっぽ、きて……ゆ、ゆっくり、しますから、ね……?」
「賛成、そうしよう……ゆっくりじゃないと、ちょっと危ない」
「危ない、って」
「こらえられないで、すぐ出ちゃいそう」
「……で、できるだけがまんしてくださいっ……ん、ぅ、ふぁ、あぁあっ……♥」

 朋花の控えめな口振りに相反して、膣道は熱さと、ぬらぬらした潤みと、きりきりする締りが、
 もう亀頭をしゃぶってきた時点で、射精をこらえるあまり足の付根や尻が力んでしまう。





42: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:43:42.78 ID:i9qakCF1o


※40

「ぅ、ぅうううっ……ナカ、もう、せいし――精子、期待、シちゃって、ます……」
「と、ともか……ぁあ、ぅあっ」

 ……嬉しい、確かに嬉しい。
 俺は、朋花にどんな感じか言葉で教えてくれるよう頼んだ……が。
 今か。今からか。言うのか。あっさり追い詰められる。
 朋花にそう言われるだけで、そのままペニスが精液を出してしまいそう。

「んくっ、あっ――ぎゅ、ぎゅって、シちゃ、あぁああああっ――♥」

 反撃のように、つい腕に力を入れて朋花の体を締め付けてしまう。
 即座に、甘く逆らい難いペニスへの抱擁が返ってくる。
 くちゅぅぅっ、つぷぅぅって音まで鼓膜を犯してくる。

「ん゛っ、く、はぁ、あぁっ♥ なかの、ごつごつって、ひろげ、られ――んんぅうぁっ……♥
 息も、できない、のに……嬉しい、です、ぜんぶ、ぎゅって、なって――ふぁ、ぅう……っ♥」

 肉の塊を軽く10センチ以上も突っ込まれながら、体の奥の方を引き攣れさせながら、
 息を吸って吐いてもままならないなかで、俺に伝えようとしてくれる朋花が健気だった。
 そのくせ膣内は、早く出して早く出してと擦ったりくねったり貪欲に俺を急き立てる。

「き、気持ちいい、です、か……? ふぁあっ♥
 ふふっ、わかって、わかってます――き、てぇ、あ゛っ♥ ぅううっ、あ、ぁあぅっ……♥
 わ、私の、外も、こす、こすれ、てっ、びりびりって、く、くるんですっ……♥」

 俺が膣内の奥に突っ込んだら、その根本あたりが、朋花のクリトリスあたりに効いてしまうのか、
 朋花のどろどろした喘ぎに、くすぐったそうな色が混じる。

「も、もっと――あぁうっ♥ んんーっ♥ し、して、ずっと、ぉ、ぁ、あ゛っ……♥」

 じゅる、じゅる、ずちゅずちゅっ――上から下からしがみつかれる。
 私のものだ、って主張される。図ったように、ペニスの先が、奥に嵌る。

「ああ゛ぅぅっ……! そ、そこ、きちゃって、ぇ、へぅっ♥ ぁあ゛ぅう、ぁあ゛ぁっ……♥」

 朋花のそれに返事をするように、俺はそこを突く――腰の可動域が狭いので、
 突くとか叩くとかそんな力強いものではなく、撫でるに近い加減だった。
 それでも俺の孕ませる意志というか、精子ぶちまけたい欲望は伝わったらしく、

「そ、そこ――し、子宮、ですっ、たぶん、ぜったい――お、覚えてますっ、私、
 だって、あなた、の、ぉ、ぉお゛っ♥ した、しました、からぁ――ぉ、ぁ、あ゛っ……♥」

 軟骨のようにこりこりしているのか、リラックスした筋肉のようにふかふかしているのか、
 どっちとも取れそうな感触に亀頭が包まれて、そこをこつこつ撫でる。
 ざらざら、つぷつぷと貪欲な膣内粘膜に囲まれてる中で、そこだけ異質なほど慎ましい。




43: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:44:16.04 ID:i9qakCF1o


※41

「あ――あなたっ、そこ、ですっ……♥ うぅう゛っ、そこ、なんです、ぁ、んんん゛ぅうっ……♥」

 朋花が教えてくれる所によるとそこが子宮口らしい。やっぱり男には想像もつかない話だ。
 代わりにペニスを駆り立てる。もう先走りぐらいは塗り込んでしまっているはず。
 もっと、撫でる。繰り返し。ぎりぎりのところまで。

「あなたっ、あな、た……、きて、くだ、さ――んく、ぁあっ! っん……ぅ――♥」

 射精、促されて、そのまま。
 女の子宮を男の遺伝子で征服する行為のはずなのに、
 その高揚が、何か許された安堵に飲み込まれていく。

「ふぁ――ぁ! ぁ、っあっ……♥ でて、だしてっ、だされちゃって……ぁは、はぁっ……♥」

 息するのが楽になっていて、射精は終わったんだと知った。
 自分の体のことなのに、半分ぐらい朋花へ突っ込んだぶんがそっちに行ってしまって、
 なのに喪失感どころか、真逆の、自分が溢れかえってるんじゃないかという気分だった。

「ぁ、ふぁ、ぁあ……♥ おやすみ、ですか~? それなら……んンっ……♥
 その、わたしは、まだ、このまま……っ♥」

 朋花が漏らす恍惚の声につられて、俺も落ちようとしたら――ぎゅうっ、ずりゅずりゅ、ぬちぬち……っ。

「あ、あぅっ……あ、ははっ……」

 ペニスは膣内の愛撫で嬉しそうに跳ねた。

「……どこまでも、お付き合いします……ねぇ、あなた……っ♥」



 尽き果てて、終わって、朋花にシャワーを先に浴びさせている間、
 俺は朦朧とした意識と身体に鞭打って、派手に濡らしたソファのカバーを剥がし洗濯機に放り込んだ。

 翌朝、娘が起きてリビングに入った瞬間、カバーのついてないソファを不思議そうに見ていた。

「ちょっと、こぼしてしまって。赤ワインとか」

 ……これで、残り香があってもごまかせたと思う。




44: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:44:53.53 ID:i9qakCF1o


※42

「ポリネシアンセックス、ですか?」

 つい数日前、世界の終わりのような嬌声を浴びせ精液を搾り取ってきた面影をまったく見せず、
 朋花は俺の提案にじっとりと上まぶたを下げて答えてきた。

 この間、衝動的に朋花に種付けしたあと体温を測ってもらって知ったのだが、
 危険日からはけっこうずれていたらしい。じゃあ当たるまでやろうか……と考え、
 『危険日まで射精を避けたほうが良いのか? それともある程度射精はしたほうがいいのか?』
 などと(我ながら)怪しげな思考のままいろいろ調べて、ポリネシアンセックスが引っかかった。

「本当にポリネシア人がやってるかは分からなかったが、やり方をみると、朋花が好きそうだと思って」
「何を言ってるんですか、あなた」

 朋花の表情は、怒ったほうが良いのか呆れたほうが良いのかとうろうろしていたが、
 俺がそれを黙殺して説明を進めると、目を俯けたり口元を手で隠したりして、もじもじし始めた。

「……つまり、その……えっちを5日間に区切って、最初の1~4日だけは、会話と愛撫だけにするんですね?」
「ざっくり言えば、そのとおりだ」

 いろいろやり方に差はあるが、だいたいどこの解説でも、
 愛撫も1~4日目は性器に触らない、裸同士で素肌をなるべく密着させる、
 5日目も最初の1時間は1~4日目の愛撫と同じ、挿入しても30分は動かない、満腹状態ではやらない、
 電話など気が散る要素を排した静かな環境で行う……などなど、
 ちょっと縛りや辛抱の多いセックスとされている。

「ちょっと怪しげですが……試す価値のじゅうぶんある提案だとは……思いますよ~。ただ……」
「ただ?」
「……どうして、これを私が好きそうだって思ったんですか?」

 朋花の言う通り、セックスに関するほかの情報と同じくらい、
 ポリネシアンセックスについての情報は怪しげな記述が溢れていた。

「言っていいか、ちょっと迷うんだが」
「いくら奥さん相手とは言え、女性に向かって『セックスが好きそう』以上にNGな言葉があるんですか」
「……朋花、こういう『規律』が多いの、性に合ってそうだと思って」

 朋花は、少なくとも仕事や日常生活では、ルールや秩序を重んじるタチである。
 出会ってから今日までずっとそうだった。明らかに、天空橋家の薫陶の賜物である。
 天空橋家をいささか虚仮にしすぎた俺の立場から『規律』を持ち出すのは、自分でも皮肉な感じだ。

「ためしに……」
「朋花?」
「試しにするぐらいなら、構いませんっ。
 何日か時間をかけて準備ができていたほうが……という気も、しますし」

 そのすぐあと、朋花は「駅のほうへ行ってきますが、ついでに買ってくるものはありますか」と言い、
 何かと思ったら、わざわざインテリアショップに行って、水色の砂がさらさら落ちる砂時計を買ってきた。

「30分ですが、こちらのほうが可愛い大きさでしたので。アラームより、風情があると思いませんか~?」

 砂時計にドキリとさせられたのは初めてだった。




45: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:45:26.88 ID:i9qakCF1o



※43

「ねぇ、おとうさん」
「どうした?」
「おかあさんのほう、ちらちらみてるけど、なにかあるの?」

 びっくりして、畳んでいた洗濯物を一枚くしゃくしゃにしてしまった。

「……そうかな」
「うん。いつもより、ちらちらみてる」

 娘が俺に何気なく(何気なく、と信じたい)ぶつけてきた疑問。

「あ、また、みてる~」

 朋花は夕食の準備でキッチンに立っている。
 リビングと対面するキッチンなので、こちらからは朋花がいったり来たりする姿は見える。
 ただ表情まではうかがえない。あの問いが、聞こえてただろうか?

「……そういう気分なのかも知れない」
「きぶん……?」

 かも知れない、どころではなかった。
 ポリネシアンセックスが始まってから、だいたい常に『そういう』気分だった。





46: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:45:59.75 ID:i9qakCF1o


※44

『するなら、お昼のほうが、いいでしょうね~♪』

 日本の一般的な夫婦は、昼間はだいたい仕事場で過ごしているだろうが、
 俺と朋花の場合は仕事の大部分を自宅で進める上、時間的制約も少ない。
 なので娘が登園して家を開けている午前中~昼過ぎにすることになった。

『あなた。なんだか、いつもより家事がはかどっている気がしますが?』
『気のせいだよ、気のせい』
『……すけべ、です』

 家事の振り分けは日によって変わる。朋花はたった2人の当番表のために毎週ホワイトボードを書く。
 昔の765プロに掛かっていた大判スケジュールボードを少しだけ連想させ懐かしい。

 ポリネシアンセックス初日の俺に割り当てられたのはお掃除洗濯。朋花は料理とお買い物。

 朋花の下着を干しているとき、何度もしたことがある作業なのに、ノドのあたりがざわついた。
 家族も増やすことだし、大きい乾燥機の導入を……と朋花に持ちかけるため予算を考えた。

『する前に、電気は消しますよ』
『……回覧板とか来たら、居留守を使いたいしなぁ。
 いっそブレーカーを落としておくか? そうしたら電話もならなくなる』
『それなら、パソコンや機材の電源チェックをお願いします~』

 田舎であったら近所の人が『作りすぎちゃったので』とかいきなり何か持ってくるのかも知れないが、
 ここは都会とも田舎とも言い難いベッドタウンもどきで、心配と言ったら回覧板ぐらい。

『……ちょっと、おかしな気分になりますね』

 ルーチンワークの家事を進めているだけなのに、それがセックスのお膳立てだと思わされている。
 ポリネシアンセックスは時間のゆとりが必要で、そのために家事を時短にする必要があるから、
 お膳立てと言えばお膳立てなのだが……。

『確かに、ふだんやっていることなのに、なんだか……』

 浮ついた気分のままベッドを整え直して、朋花と並んで座る。
 セックスを意識しまくってるのに、裸になるのが不思議と恥ずかしくて、服を着たまま。

『で、では、始めます……ね……』

 朋花が、ベッド脇のサイドテーブルの上で、砂時計をひっくり返す。
 コトリという置いた瞬間の軽い響きや、水色の砂のざらつきまでが聞こえる静けさ。

『手、を……』

 手をつないでから指先を絡めるまで、付き合いたての中学生ぐらいの時間がかかった気がする。
 ハンドクリームが混じった体温と指腹のつやが伝わる。朋花の手はこんなに小さかっただろうか?

『んん……ふふっ』

 隣から、朋花が俺の腕を組んでくる。
 両腕で、きゅううと、あちらに引き寄せるのと、こちらににじり寄るのが混じった加減。

『あなた、すでに興奮していませんか?』
『してる。確かに』

 30分の砂時計が、落ち切ろうとするぐらい。折返しの、少し手前。

『これでは、先が思いやられます~♪』



「――さん、おとうさん?」

 娘の瞳に、俺自身の姿が映るほど覗き込まれていた。

「だいじょうぶ? てつだおうか?」
「ありがとう。すぐ終わらせるから……」

 先が思いやられるどころではなかった。




47: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:46:32.63 ID:i9qakCF1o


※45

「れろっ、んっ……ぢゅるるっ……っ、ふぁ、ぁあっ……♥」

 肌と、粘膜と、吐息を重ね合う。
 朋花は『キスなら、何日目でも、シていいんですよね~♪』と、いつもより積極的なぐらい。
 それで俺を興奮させて、ペニスが大きくなっていると、いたずらを叱りつけるように、

「もう……我慢して、くださいね。できますよね~?」

 キスで食われながら肌どうしをこすられ、柔らかい胸やウエストを誇示するように押し付けられ、
 俺が羞恥をこらえて『射精してしまいそうだから、キスだけでも……』と申し入れると、

「あなたから言い出したことですのに~、困ったお人です……っ」

 と言いながらこちらのお願いを受けてくれるものの、不服だと言わんばかりに、
 これ見よがしに肩や首に歯を立てたり、肌が赤くなってしまうほど吸い付いたりしてくる。
 その軽い痛みで、朋花の欲望を突き刺されてる気がする。

「んきゅっ……!? ふぁ、ぁ、その、そこ、は……♥」

 お返しに、ふわふわと広がる朋花の髪と生え際に顔を埋めながら、首筋と肩甲骨を撫で擦る。

「やぁ……っ、だめ、あらって、ないです、からっ……♥」
「自分の匂いだと嗅ぎたくないのに……朋花のは、こうして嗅ぎたくなる」

 ここまで違うと、本当に同じ人間なんだろうかつくづく疑問になる。
 今にも指先が、肩甲骨あたりから生えた翼の根本に突き当たりはしないか、と妄想してしまう。
 ナイツ・オブ・テンペランスでもそのあたりに翼を吊るしていた。

「ね、ねぇ……おねがいです、あの、また、キスっ……したい、です……」

 おずおずという声音が沁み入ってきて、一気に引き戻される。

「ぁむ……んぅうっ、んっ、ちゅぅっ……♥」

 待ちかねてた、と舌だけで主張するように、すぐくちびるをこじ開けられ、歯も舌も口蓋もむさぼられる。
 そのままじゅるじゅると脳髄やら意識やらを吸いつくされる心地。
 手や腹に力を入れて、朋花の温かく柔らかい肢体を感じて、どうにかベッドの上に自分をつなぎとめる。

「んぢゅっ、ちゅーっ……♥ んくっ、ぁ、んんんぅうっ……!」

 こんなキスを繰り返してたら、そのうち朋花の顔をまともに見ることもできなくなりそうだ。




48: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:47:07.01 ID:i9qakCF1o


※46

「ぢゅ、るる♥ んぢゅ、ぁ、んふっ、はぷっ、ちゅー……んぅんっ♥
 ……あなた、いけませんよ~? こんなに、おっきくして、押し付けるなんて……」

 そうすると、勃起しているペニスを朋花のウエストか腿あたりに押し付けて、
 挿入をねだるジェスチャーになってしまう。

「ほら、いい子ですから、我慢してくださいね~。私、その日まで、あなたを待っていますから……」

 そういう朋花の腿あたりも、すでに蕩けている気配はした。砂時計をひっくり返す。
 いったん体を離したせいで、お互い赤みのさした肌が、斜めの日差しに照らされて丸わかりだ。

「……息、荒くなってますよ。苦しいんですか?」
「苦しいのは、苦しいんだが……」

 朋花が楽しげに――余裕をたっぷり湛えて――笑っているので、俺も無性に張り合いたくなる。

「……我慢するほど、気持ちいいものだからさ。男のコレって」
「不思議ですね、男の人って……♥」

 目の前のメスを孕ませたい性欲と、安らかな午後に漂う睡眠欲と、あとは朋花だけに包まって、
 俺はくらくら震えたりぴりぴり痺れたりしながら、残り半分を過ごす。

「そう言われると……あなたの苦しそうな顔も、好きになってしまいそうです」

 俺はその夜、あまりに睡魔が寄って来ないので、やったこともない寝酒で寝ようとした。
 キッチンを漁る。朋花が好む赤ワインしかなかった。それだけで股間に緊張が走った。

 射精せずに夢精を防ぐ方法をネットで調べていたら、空が白んでいた。
 また娘に怪訝そうな目つきで見られた。

「……あなた。昼まで、お休みになったほうがよろしいのでは?」
「申し訳ございません」

 朋花に『ポリネシアンセックスというのは、夢精もできないんですか?』と聞かれた。
 性器へ愛撫するな、とは書かれていた。夢精についての記述は無かった。

 俺は朋花の残り香を嗅ぎながら、大遅刻の睡魔を迎えた。




49: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:47:43.90 ID:i9qakCF1o



※47

「おはようございます~。きょうは、傘か、合羽がいりそうですよ」

 あの日から5日目の朝が来た。天気予報は昼過ぎから夜にかけて雨。
 ただ、見上げた空は灰白色が塗りたくられていて、朝から一雨来そうな気配だった。

 歯を磨き、ひげをそり、顔を洗い、髪をとかし、着替えて、朝食を噛み締め、皿を食洗機に放り込み、
 娘の手を引いて――「いってきます」――送迎バスに乗せる。

 そこまでは、いつもどおりの要領で進められたと思う。

「……おかえりなさいませ、あなた……ふふっ」

 帰ってきたら、朋花の表情は空より早く濡れていた。
 当番表のホワイトボードが、その日のスペースだけ何も書かれず白かった。

「きょうは、しかたがありませんよね。そういう日も、ありますよね」

 そういう日にしてしまった原因は、俺の提案を朋花が飲んだせいだった。
 なので俺と朋花が合意していれば、ここでひっくり返しても融通無碍の範囲だろう。きっと。

「……お風呂だけは洗っておいたので……あとはお湯を張れば……」

 給湯器から放たれる女性の声のアナウンスが、やたら遠く聞こえた。




50: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:48:30.50 ID:i9qakCF1o


※48

「きゃぁ、あっ……っ! そんなにがっついて、あなたは……イケないひと、ですっ……♥」

 ここまでのポリネシアンセックスの流れだと、砂時計をひっくり返した後、
 朋花とベッドに並んで座ってお互い肩を寄せ合ったり耳元でささやきあったりしつつ、
 言葉が途切れたら身を横たえてキスしたり体を撫で回し合っていた……のだが。

 そんなことをしてたら、朋花の肌にちょっとペニスがずりずりやられたら最後、
 あえなく射精してしまう自信(危惧)があった。むしろキスだけでも危ない。
 なので俺は半ば強引に朋花を座らせ、脚を開かせ、その間に自分の両肩を割り込ませる。

「キスより先に……あそこに、するなんて~。よっぽど、心待ちにしてたんですね……」

 クンニリングスなら、入れる準備と言えば名分が立つ。
 ペニスに不意の刺激を食らうこともなく、挿入解禁まで持ちこたえつつ盛り上げられる。
 万が一にもシックスナインにしようとか言われる前に、朋花に迫る。

「私は、逃げませんから……私だって、待っていたんですから、そ、その――んきゅうぅうぅうっ♥」

 太腿の付け根の表側、鼠径部あたりを指先でなぞっただけで、黄色い嬌声を浴びる。
 ヘソの下の、うっすら妊娠線の残るあたりの肌がきゅうきゅうと浮き沈みするのを見ると、
 無性にそこに触れたくなる。

「や、ぁ、な、なに、これ、ぇ……っ! い、いま、どこさわって――ぁああっううぅうぅっ……っ♥」

 俺は、痙攣のようにぎくしゃくする朋花の太腿を押さえつけ、
 そのまま肌に口づけしたり歯を立てたりする。

「そ、そんな、ぁっ、そこ、されただけ、で――ぇ、うっ……ふぅぅううぁあぅ――っ♥
 い、いっちゃ、あ、だめ、こっこんなのしらないっ♥ おかしく、な、ぁあ――ッ♥」

 朋花の嬌声は、名手に弦をめいっぱい酷使されているストリングスを連想させた。
 アゴや首で感じる粗相は、無性に懐かしく慕わしかった。





51: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:49:22.42 ID:i9qakCF1o


※49

「朋花……ごめん、すみません、すみませんでした」
「逃げません、とは言いました。あなたに、私は、確かに言いましたとも。
 ……そのときは、あなたに、こんなことされるとは、思いませんでしたが」

 朋花はベッドに横座りして、こちらに背中を向けていた。
 うなじから、腰の上のくぼみまでに描かれる背骨の曲線が、ソソる。

「……そんなに感じるとは、思わなくて」
「だって、その……子作り、するから……そのあたり、いつもより深く意識が行ってしまって……」

 朋花は、言動には罪悪感をにじませ、それ以外の態度は不機嫌そのものだった。

 しかし、朋花をセックスでイカせてあげなくて機嫌を損ねるならわかるが、
 朋花をセックスでイカせてしまったことについて、なぜヘソを曲げられるのだろう。

「……私も、その……挿れるまで、我慢したほうが、いいのかな……と……」

 ポリネシアンセックスに、女性の絶頂タイミングの制限はなかったはずだ。
 夢精と同様に。

「う、うるさいですねっ、もうっ……んっ、んひゅっ♥ ひ、ゃ、あっ……♥」

 腕を広げて、後ろから朋花を包み込む。
 ポリネシアンセックスだと並んで座るか寝転がるかだったので、なんだかこの体勢は久しぶりだ。

「……あたって、ますよ……? その、それ、が……♥」

 朋花の背中は、肉が薄く骨が近いせいか、お腹側よりもさらにすべすべしていた。

「ん、ぁあっ、む、むね、まで、っ……ぇぅうっ、んんんぅうっ……♥」

 朋花のアンダーバストと、何本目かの肋骨を指先で感じる。
 まさぐる。心臓が拍ったり肺が膨らんで縮んでとしたり……まで、教えてもらえそうな心地だった。

「……あの子におっぱいあげてたとき、思い出すな」
「あの時より……ちっちゃいですよ。そんな、触って、も――や、ぁふっ……んんくぅ……っ♥」

 朋花のもっとも母親らしい姿であろう授乳の風景を思い出しながら、
 母親というには淫らすぎる熱と柔らかさを堪能する。

「……別に……比べるなら、射精とか、ぜんぜん父親らしくはないですよ~……」

 心中独白のつもりが、声に出てしまっていたらしい。朋花以外ではこうならないんだが。
 しかし朋花の前にいるとよくあることなので慣れてきた。興奮しているといつもそうだ。

「あなただって……私の、隠していることも、隠せなくして、私をダメに、して……
 なすすべもなく、私は、ここまできて……」
「それで、ここからもう一人産んでもらうよ、朋花……二人かもしれないが」

 今度は自分の言葉を自覚したかったので、ゆっくりハッキリ言った。
 それでも俺に余裕はなくて、かすれて囁きよりも細かったので、めいっぱい朋花の耳元に寄せて言った。

「また、そんな……だめ、ですっ、そう、いうのっ」

 さらに続けた。上塗りした。

「それ、ぇっ、私、わたしっ、ナカ、まで……っ、きゅうってキて、ぇ――ぁ、あっ、うぁっ……!」

 朋花の乳房を揉んでいた俺の腕が、ぎゅうっと掴まれて、上にしとしと雨のような雫が降るのを感じた。
 朋花に背中を預けられた。かすかなスキンシップだったので、どうにか射精をこらえられた。



52: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:50:13.04 ID:i9qakCF1o


※50

 さらさらと細い雨音が聞こえた。
 朋花の息遣いと、シーツがしゅっしゅっとよれる響きが聞こえた。
 それ以外は、砂時計の落ちる音が拾えそうなほど静かだった。

「……挿れたら、しばらく静かにしていてくださいね」

 朋花は、ぼんやりしたリクエストをしてきた。

「いま、あなたに何か言われたら、それだけで……ナカ、きつくしちゃいます」

 ……なるほど。

「挿れてから、さんじゅっぷん……ですか……まともに、動けないでしょうね……♥」

 おっしゃるとおり、としか返事ができない。

「私が、仰向けで、寝ますから……あなたのタイミングで、来て、ください」

 正常位は、朋花の髪の毛を背中に敷いてしまいがちなので、シた記憶がほとんどない。

「……いっぱいくっついてると、びくびくって、勝手に、動いちゃいそうですから……」

 朋花の長い髪が、手でたくし上げられて、ふぁさりと向こうへ流される。
 後頭部を要にして、扇を広げたみたいだった。

「これだと……顔、見られてしまいますね。恥ずかしい……」

 顔を隠してほしくなかったので、俺の手で朋花の手を握った。

「……わ、わかり、ました、ぁ……♥ みて、て、ください……そこから、わたし、を……っ」

 今にも飛ばし果てそうな勃起を、朋花の入り口に添えて、沈み込ませる。
 挿れたばかり、まだ亀頭ぐらいしか入っていないのに、

「ふぁ……あ……きて、ます、ね……? 感じ、ますっ……♥」

 さっきキスして叱られた下腹や、そのすぐ内側の膣粘膜が、挨拶か催促か、きりきりと軽く引き攣れる。
 いつか触れた子宮口らしい奥のあたり――思い出す。思い出させられる。
 こっちだって、導いてくる。引っ張ってくる。絡め取られる。

「いったん……このあたりで――」
「――もっと、おく、ですっ」

 ここから砂時計の方へ目線をずらして三十分経ったか確認するなんて不可能だと思った。





53: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:51:00.98 ID:i9qakCF1o


※51

「ん、ふふぁ、んあぅ……♥ は……はぁ、入り、ました、ね~……♥」

 少し尻のあたりを体重移動しただけでも、ペニスが擦れて精子を出してしまいそうだった。
 奥、挿れるだけ挿れて、俺を迎え入れてくれた、朋花の胎の底を感じる。

「でも……また、あなた……そんな、苦しそうなお顔……気持ちいいの、ですか……?」

 そういう朋花は、俺を見上げながら、目尻を下げてにっこりして、
 薄暗い中でもてらてらと光るくちびるを舌舐めずりする。

「で、出そう、射精、しそう、だ……」

 幸せすぎて怖いとの決まり文句を信じたことはないが、気持ちよすぎて怖いだったら真に受けてしまう。
 下半身は動かせないし顔も朋花の視線で釘付け。絡めた指をぎゅうと握るのがやっと。

「……下のほうは、お元気なようで……いいですよ~♥
 あなたも見て、私も見て……感じてっ、ますっ♥ そばで……つながって、ぇ――っ♥」

 朋花は、さっき恥じらっていたのに、恥じらっていた頃の顔の赤さ、瞳と粘膜の濡れそぼった具合のまま、
 みちみちと膣内でこちらのペニスを挑発してくる。

「こえ、だせなくても、伝わってきます……んぁぅうっ♥
 あなたの、ものが♥ わたしに、たまらない――って、ナカで――ん、んぅぁうっ……!」

 朋花のほうだって絶頂が近そう……むしろ、膣内のみちみちと細かいうごめきは、
 もう淡めのオーガズムに浸ってるんじゃないか、なんて。
 朋花のナカを彼女自身より味わったことのある俺でさえ、こんな加減は覚えがない。

「ふ、は……あっ♥ でも、ね、あなたと、わたしの、おやくそく、ですものね……?
 ぁ、へぅっ♥ あなた、がっ♥ わたしのために、がんばって、くれ、てぇ♥」

 朋花が一挙手一投足でステージを支配するところ、DTMでうんうん試行錯誤しているところ、
 陣痛で脂汗にまみれながら俺に笑いかけてきたところ――朋花の温かいねぎらいの流れに乗って、
 朋花の姿がくるくる渦を巻いて回る――走馬灯? 俺、死にやしないだろうか。

 今なら、うれしすぎて、死んでも、いや、そんな……。

「それ、感じちゃうと、わ、私、わら、ひっ、んっ♥
 しあわせ、で、あっ――きゅうって、とま、ら――はっ……あっアッアっ……♥」

 あぁ、もう、止まらないやつだ。射精、我慢できるところを、超えた。
 ペニスが、跳ねて、切っ先を振り上げ、朋花の奥を突いて――

「んぁ――や、ぁ、ぁ、ァ、ァ゛き、キて、ぇ……♥」

 ――睾丸とか、括約筋とか、そのあたりが、否応なく締まる。送り出す。
 ペニスがドクンと、破裂するんじゃないか――鈴口がこじ開けられてなかったら破裂してた――
 どくどくって、射精、朋花の、ナカ、胎内めがけて、押し付けて、妊娠しろと……!

「ぁあ゛ッ、あ、うぅっ――あ、あかちゃん、うみます、うみます、から――んんぅん゛ぁぁっ……♥
 だして、して、ぇ――っはぁぁ、あ、あっあっ……ぁああぅ……っ!」

 我慢を振り捨てた代わりに、射精しながら、燃え尽きながら、腰を駆り立てて突いた。
 膣内と、声と、抱きしめあった指が、やわやわとつるんで、みしみしと交わる。

「ぁ、あ、んンぁ……あ゛はァあ……っ♥ よく、で……でき、ました、ね……♥」

 よろよろと、朋花の横に倒れ伏し、ねぎらいの声を聞いた。
 二人で見上げた窓は、雨雫に叩かれ風に洗われていた。




54: ◆FreegeF7ndth 2020/05/11(月) 23:54:00.86 ID:i9qakCF1o


※52

「お母さん、ここは、なにもかかなくていいの?」
「それは……そのままで、いいんですよ」

 学校の課題なのか、姉の自覚が出てきたのか、『お姉ちゃん』が家事を手伝うと張り切っていた。
 それで朋花が、今週の当番表に『お姉ちゃん』の割当を書き加えようとしていた。

「なんで?」
「い……いいんですっ」

 会話が聞こえてくるほうに目を向けて、俺は驚愕した。
 娘相手とはいえ、あの朋花が、気圧されて、いる……!?

「それは、夫婦会議の時間なんだ」
「お父さんっ――ふうふ、かいぎ? それって、なにしてるの?」
「お父さんとお母さんは、ときどき二人きりで話し合うんだ。
 ……毎日いっしょでも、話し合わないと、わからないことが出てくるんだ。
 おとなになって、誰かと結婚したら、わかるよ」

 嘘は言っていない。

 翌日、当番表のブランクには、めいっぱいの大きさの字で「ふうふかいぎ」と記されていた。



「……これは、本当に話し合いが必要ではありませんか。あなた」
「はい」

 ……嘘は言っていないんだが。

(おしまい)



・あとがき
実際(?)のミリマスだとアイドルはもっと丈夫です。
ご高覧いただきありがとうございました。


元スレ
SS速報R:天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ~」