1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 20:45:08.202 ID:qWFgE+UV0.net
<会社>
面接官「では……あなたの特技をお答え下さい」
糸使い「はいっ! 私は糸を扱うのが得意です!」
面接官「ふぅ~ん、糸をねえ……」
糸使い(お、好感触!?)
面接官「で、当社で働く上でどういったメリットがありますか?」
糸使い「え……」
5: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 20:48:16.135 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「あの……その……」
糸使い「たとえば、あやとりで……同僚を楽しませることができます」
面接官「はぁ……」
面接官「もう結構です」
糸使い「え」
面接官「私もあなたのような方を相手しているほど暇じゃないんです」
面接官「そもそもうちの会社はイベント企画や運営が主な業務ですから」
面接官「糸を扱う技能なんか全く必要じゃないしねえ」
面接官「席を立ってお帰り下さい」
糸使い「は、はい……失礼します……」
バタン……
糸使い(またダメだったか……)
男「おや、いかがでしたか?」
糸使い「いやー、全然ダメでしたね」
男「採用面接なんてのは縁ですよ、縁! すぐに切り替えた方がいいですよ!」
糸使い「ありがとうございます……」
糸使い(この人、俺より前に面接受けてた人だよな。なんでまだいるんだろ)
糸使い(もしかして、採用されたのかな……いいなぁ)
<会社の外>
妹「お兄ちゃーん!」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「おお、我が愛しき妹と愛しきペットよ!」
妹「面接、どうだった?」
糸使い「いやー……この顔見れば分かるだろ?」
妹「あらら……」
蜘蛛「ダメダッタノネ」
…………
……
……
妹「ったく、ダメだなー」
妹「そういう時はさ、『糸を扱って培った器用さを生かします』とか」
妹「いくらでも言いようがあるじゃない!」
妹「そこで詰まっちゃうから、いつまでたっても面接で受からないんだよ」
蜘蛛「ソウソウ」
糸使い「そういうもんか……」
妹「ったく、いつまでもくよくよしない! あたしのハサミで切っちゃうよ!?」チョキチョキ
糸使い「あぶねっ!」
妹「お、少し元気出たね。一緒に帰ろ」
糸使い「ああ、ありがとう」
<糸使いの自宅>
テレビ『昨夜、またしても怪盗が現れ……綿密な計画があったものと……』
糸使い「ええい、テレビうるさい!」ピッ
糸使い「あーあ、やべえよ……」
糸使い「お前と二人暮らしするようになって、糸専門店なんて始めたけど、客全然来ないし」
糸使い「なんとか普通の会社に就職しようとしても、糸使いなんて需要がなさすぎる……」
妹「糸専門店は閑古鳥だけど、もう一つの商売は順調じゃん」
糸使い「俺あれあまりやりたくないんだよ。やっぱり糸って平和的に使うもんだし」
糸使い「はぁ……糸使いなんて時代遅れなのかもな。女にもモテないし」
妹「まあまあいつまでも愚痴ってないで。一緒に納豆食べよ?」
糸使い「お、納豆あるのか! 食う食う!」
糸使い「やっぱり納豆は500回以上混ぜないとな!」マゼマゼマゼ
蜘蛛「ロサンジンキドリカヨ」
糸使い「うるせえ!」マゼマゼマゼ
糸使い「ほーれ、ネバネバ~」ネバァァァ
糸使い「ネバネバ~」ネバァァァァァ
妹「……お兄ちゃんが女にモテないのって、糸使いだからじゃなくて、性格の問題だと思う」
蜘蛛「ウン」
糸使い「うるせえよ!」
糸使い「いいよな、お前は彼氏がいるから!」
糸使い「あの……カッターナイフが好きな彼氏! あいつとはどうなんだよ?」
妹「んー……ボチボチってとこかな」
糸使い「そういやあいつとは一度会ったけど……」
妹彼氏『こんにちは、お兄さん!』
妹彼氏『ボク、カッターナイフの刃をポキッて折る時に最高にエクスタシーを感じちゃうんです!』
糸使い「……なかなかの好青年だった。あいつならお前を任せられる」
妹「そりゃどうも」
糸使い「さて、納豆食うか!」モグモグ
糸使い「あ~……美味かった」
糸使い「さっそく糸で……」シーハーシーハー
妹「やだ! あっち向いてやってよ!」
蜘蛛「キタナイナー」
糸使い「ほれ、こんなに歯クソが取れたぞ! すげえだろ!」
妹「汚いっての!」ビュオンッ
糸使い「あぶねっ! ハサミ振り回すなよ!」
……
糸使い「食後のコーヒーでも飲むか」
糸使い「コーヒー出してくれよ」
妹「あ、ごめん。切らしたまま買ってないや」
糸使い「マジで!?」
糸使い「仕方ない。近くのコンビニで一杯やってくるか」
妹「まーたイートイン? お兄ちゃんも好きだねえ」
糸使い「なにしろ俺は糸使いだからな」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「お前も来るか?」
蜘蛛「イクイク」
糸使い「よし、ついてこい!」
<コンビニ>
店長「お、糸使い君、いらっしゃい。就職活動はどうだい?」
糸使い「いやー、全然ダメですね」
蜘蛛「…………」カサカサ
店長「ま、気長にやるこった」
糸使い「はい……」
店長「蜘蛛君も、ご主人を支えてあげてな」
蜘蛛「モチロン!」
糸使い「コーヒーうめえ~」グビグビ
蜘蛛「ガムシロウメー」ペロペロ…
糸使い「――ん?」
女「…………」
糸使い「あそこで買い物してる女の人……おしとやかそうで、すげえ美人じゃないか!?」
蜘蛛「タシカニ」
糸使い「ちょっと声かけてきてくれよ」
蜘蛛「ナンデヤネン」
糸使い「いいじゃんか、頼むよ~」
蜘蛛「ヤダヨ」
女「…………」チラッ
糸使い(ゲ、俺の視線に気づいた!?)
女「…………」スタスタ
糸使い(やべえ、こっちに来た! どうしよう!?)
女「あのー……」
糸使い「は、はいっ!」
女「とても素敵な蜘蛛ちゃんですね」ニコッ
糸使い「あ、はいっ! あ、こいつ、俺のペットでして……アハハ……」
糸使い「女性はこいつ見たら大抵ビビるのに……もしかしてあなた、蜘蛛オタクですか?」
女「いえ、そうではなく……」
女「私、ファッションデザイナーをしているんです」
糸使い「へえ、そうなんですか!」
女「自分で裁縫をして、服を仕立てることもするので、よく糸を扱ったりするんです」
女「だから、自分で糸を出す蜘蛛は、怖いというよりむしろ尊敬してるんです」
糸使い「なるほど~(分かるような分からんような)」
女「でも、悩みがありまして……」
糸使い「悩み?」
女「実は今、大きなファッションショーに出展するためのドレスを作っているんです」
糸使い「すごい! 売れっ子なんですね!」
女「ですが、いい布はあるんですけど、いい糸がなくて困ってるんです……」
糸使い「!」
糸使い「あ、あのっ……でしたらっ!」
女「はい?」
糸使い「俺、糸専門店を営んでおりまして、品質には自信があるんです!」
糸使い「ぜひ一度ご覧になって下さい!」
女「本当ですか? ぜひ!」
蜘蛛「オモワヌチャンス」
<糸使いの自宅>
妹「お帰りー……ってあれ? お兄ちゃん、その女の人は?」
糸使い「ああ、ついさっき知り合ってね。俺の店の糸を見たいっていうんだ」
妹「へえ~、珍しいこともあるもんだ」
女「あなたが妹さんね? こんばんは」
妹「こんばんは!」
妹「お兄ちゃんは糸に関してだけは誰にも負けませんから! 品質は保証しますよ!」
糸使い「あんまハードル上げるなよ」
女「ふふっ、期待してます」
糸使い「店はこちらになります。さ、どうぞ!」
<糸使いの店>
糸使い「自宅の一部を改装して開業したんですけど……」
糸使い「今までに来たお客の数は……ほんの数人といったところでして」
糸使い「……いかがです?」
女「……すごい」
糸使い「え?」
女「一目で分かります! どれもこれもすごい糸ばかりだわ!」
糸使い「ほ、本当ですか!?」
女「もちろんです!」
糸使い(うう……長年の苦労がやっと報われた。生きててよかったぁ~)
女「ぜひ、こちらの店の糸を、私が今作っているドレスに使わせて下さい!」
糸使い「え、いいんですか!?」
女「はい、この店の糸なら……あなたの糸なら、最高のドレスが作れると思います!」
糸使い「ありがとうございます!」
妹「おお……いい感じだよ」
蜘蛛「ウン」
女「ところで……またお会いできませんか?」
糸使い「え……」
女「ぜひまた……あなたとお話ししたいので……」
糸使い「え、あ……そりゃもう! もちろんかまいませんとも!」
糸使い「でも俺、携帯電話とか持ってないんですよ」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「だから、この糸電話を差し上げます!」
糸使い「ものすごく細くて長い糸なんで、どこからでも俺に通話していただけます!」
女「本当ですか? ありがとうございます」
妹「今時携帯電話もスマホも持ってないって、ありえないよねー」
蜘蛛「ネー」
妹「――あ、お兄ちゃん、服がほつれてるよ」
糸使い「あ、ホントだ」
妹「あたしが縫ったげる」
女「いえいえ、ここは私が」シュバババッ
女「できました」
糸使い「え、もう!? ありがとうございます!」
妹「ふえぇ~……すごい早さ! さっすがファッションデザイナー!」
女「じゃあ今夜はこれで……」
糸使い「さようならー!」
妹「お兄ちゃん、よかったねえ。いい人そうじゃない」
糸使い「ああ、俺にもやっと春が来たんだ!」
蜘蛛「センテンススプリング!」
数日後――
<糸使いの自宅>
糸使い「ふんふ~ん」
妹「お兄ちゃん、やけにはりきってるね。どうしたの?」
糸使い「実は……明日デートなんだ」
妹「え、マジ? やったじゃん!」
糸使い「頑張るぜ!」
妹「ちょっと……いやかなり不安……」
妹「そっとついていこっか」
蜘蛛「オウ」
翌日――
<駅前>
糸使い「お待ちしておりました!」
糸使い「今日は……俺が寝ずに考えたデートスポットをご案内しますよ!」
女「まぁっ、とても楽しみです」
妹「…………」コソッ
蜘蛛「…………」カサカサ…
妹「自分から“寝ずに考えた”とかいっちゃうところがもう、センスないよね」ハァ…
蜘蛛「マッタクデスナ」
糸使い「見て下さい、あの電線を! 複雑に交じり合って、とても美しいでしょう?」
女「まぁ、とてもステキですね」
~
糸使い「コーヒーでも飲みましょうか……コンビニのイートインで!」
女「ええ、そうしましょう」
~
糸使い「この店の糸こんにゃくは格別なんですよ!」
女「あら、とても楽しみですわ」
妹「ひどい、ひどすぎるよ……。こんな悲惨なデートコース、あたし見たことないよ……」
蜘蛛「オワッタナ」
デートが終わり――
女「今日は楽しかったです。こんなに楽しい一日は久しぶりでした」
糸使い「本当ですか!? ありがとうございます!」
妹「あのデートが楽しかっただって! ……信じらんない!」
蜘蛛「アリエンナ」
妹「うん……なんか、あの女の人……ちょっと怪しいかも」
妹「もしかしたら……結婚詐欺師とか」
妹(お兄ちゃん……お兄ちゃんはあたしが守るからね! このハサミで!)チョキンッ
デートから一週間後――
<糸使いの自宅>
糸使い「明日はちゃんとした服装しないとな。ジャケットに……ネクタイに……」
妹「ずいぶんはりきってるけど、どうしたの、お兄ちゃん?」
糸使い「実は明日、高級レストランでデートなんだ」
糸使い「……で、きちんと俺の気持ちをぶつけるつもりだ」
妹「へぇ~、ちなみにレストランの名前は?」
糸使い「『レストラン○×』だったかな」
妹「そこってたしか、前にお兄ちゃんが落ちた会社の近くじゃん」
糸使い「あ、そういえばそうだな……。嫌なこと思い出しちまった」
妹「――で、どうやって告白するつもり?」
糸使い「この赤い糸を、俺の小指と彼女の小指に結び付けて……」
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてるよね……って」
妹「ええ……」
蜘蛛「ダサーイ」
糸使い「なんだよ、その反応は!」
妹「やめた方がいいよ、絶対」
糸使い「いーや、絶対やる! 明日が楽しみだぜ!」
妹「…………」
次の日の夜――
<レストラン>
女「今日はありがとうございます」
女「こんな立派なレストランに招待していただいて」
女「でも、お金の方は……」
糸使い「あ、大丈夫! 俺の仕事は糸専門店だけじゃないんで」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「ってわけで、カンパイ!」
女「はい!」
カチンッ
<レストランの外>
妹「お兄ちゃんが心配だから、レストランの近くまで来ちゃうなんて」
妹「いやー、あたしらも兄想いだねえ」
蜘蛛「ホントホント」カサカサ
妹「でも、レストランに入るわけにはいかないし、どうしよう……」
妹「とりあえず、二人が出てくるのを待とうか」
妹「――ん?」
妹(あれ? お兄ちゃんが落とされた会社のビルに、怪しい集団が入っていく……)
<レストラン>
糸使い「俺、最近はあやとりに凝ってて……。のび太君は心の師匠ですよ!」
女「まぁっ、ステキな趣味ですね」
糸使い「ところで、例のドレスは完成したんですか?」
女「ええ、おかげさまで」
女「ついさっき、すぐそこにあるファッションショーを運営する会社に、納入したところです」
女「これもあなたの糸のおかげです」
糸使い「いやいや、そんなことありませんよ~」
糸使い(そろそろ告白したいけど、なかなかタイミングが掴めないな……)
糸使い(果たして、俺とこの人は、本当に赤い糸で結ばれてるんだろうか……)
<会社>
妹「気配を殺して、と……」ササッ
妹「さっきの集団は一体なんだったんだろう……?」
蜘蛛「アッチニダレカイル」カサカサ
妹「うん……そっと近づこう」
妹「――あっ!」
怪盗「おやおや、これは素晴らしい!」
怪盗「今をときめくファッションデザイナーの未発表のドレス!」
怪盗「私のコレクションにするに相応しい一品です……!」
部下A「ビルに残っていた社員たちは全員縛り上げました」
怪盗「ご苦労」
社員A「くそっ、ファッションショーはもう間近だというのに!」
社員B「うちのビルのセキュリティが、こうも簡単に解除されるなんて……」
面接官「あれが盗まれたら、うちの会社は終わりだ……!」
妹「こいつら……今話題になってる怪盗一味だ!」
妹「ようし……あたしが捕えてやる! あんたはここで待ってて!」
蜘蛛「キヲツケナヨ」
妹「待ちなさいよ!」
怪盗「おや、あなたは?」
妹「あたしは『ハサミ使い』よ! あんたらの悪事はあたしがチョキッと切ってやるわ!」チョキチョキ
怪盗「ほう……もしやあなたは“仕事人”ですか?」
妹「そうよ、よく知ってるわね」
部下A「……なんですか、仕事人というのは?」
怪盗「政府から“独断で犯罪者を退治していい”と強力な特権を与えられた人間のことです」
怪盗「仕事人はそれぞれ『○○使い』というコードネームを持っているのだとか」
部下A「あんな小娘が……?」
怪盗「人は見かけによらない、というものですよ」
部下B「ですが、相手は一人! ここは我々にお任せ下さい!」
妹「かかってきなさい!」チョキチョキ
妹「えーいっ!」
ザシュッ! ズバッ! ザクッ!
「ぐわぁっ!」 「ぐぎゃっ!」 「いでぇぇっ!」
妹「さあさあ、こんなもんなの!?」チョキチョキ
部下A「つ、強い……!」
部下B「我らとて、一人一人が並のボディガード10人分の力があるのに……!」
怪盗「おやおや、なるほどなるほど……さすがですね」
怪盗「これ以上、部下に傷を負わせるわけにはいきません」
怪盗「私自ら相手をして差し上げましょう……このサーベルでね」ジャキッ
妹(こいつ……メチャクチャ強い!)
<レストラン>
ブチッ!
糸使い「!」
女「どうしました?」
糸使い(俺がいつも手首に巻いてる糸が……ひとりでに切れた! 不吉だ……)
糸使い(まさか……妹たちになにかあったんじゃ!?)
女「もうすぐメインディッシュですね。楽しみです」
糸使い(だけど、せっかくデートがいいムードだし……ただの偶然かもしれないし……)
糸使い(――いや!)
糸使い「すみません! 俺、ちょっと席をはずします!」ガタッ
女「えっ!」
<会社>
妹「たあああああっ!」
怪盗「はあっ!」
キィンッ! キィンッ! ガキンッ!
ガキィンッ!
妹「きゃあっ!」ドサッ…
妹(やっぱり強い! あたしじゃ……勝てない!)
怪盗「おやおや、どうやらここまでのようですね」
怪盗「仕事人の中にはどんな悪党も敵わない、恐るべき使い手が二人いるらしいですが」
怪盗「あなたはその二人のうちのどちらかではなかったようだ」
怪盗「しかし、あなたは将来、私の脅威になるおそれがある」
怪盗「殺しはしません、が……腕の腱を切断して、『ハサミ使い』としては死んでもらいましょう」
怪盗「彼女を押さえておきなさい」
部下A「はい」ガシッ
妹「は、はなしてっ!」ジタバタ
怪盗「これからは平凡な女子として幸せに生きていくことです」
妹(お兄ちゃん……っ!)
怪盗「それでは、トドメを――」チャキッ
グルグルッ!
怪盗「!」ビンッ
怪盗(サーベルが、細い糸に絡め取られた!?)
怪盗「――誰だ!?」
糸使い「『糸使い』……参上!」
妹「お兄ちゃん!? なんでここにいるの!?」
糸使い「嫌な予感がしてレストランを出たら、こいつが糸で道案内してくれてたんだよ」
蜘蛛「キキイッパツ」カサカサ
妹「そうじゃなくて……デートは!?」
糸使い「すっぽかしちゃった」
妹「なにやってんの! ったく、本当にバカなんだから……!」
妹「でも……ありがとう、お兄ちゃん」
糸使い「いいってことよ」
部下A「新手か!」バッ
部下B「始末してやる!」バッ
糸使い「ほれっ」ヒュバッ
ザシュシュッ!
部下AB「ぐはぁ……っ!」ドザザッ
糸使い「さて、残るはお前一人だな」ヒュルルッ
怪盗「ほう……妹さんも強かったが、あなたはそれ以上だ」
糸使い(――って、こいつ、たしかこないだの面接の時に見たツラだな)
糸使い(そうか……あの時は求職者のふりをして、このビルを下見に来てたってわけか)
怪盗「なるほど、仕事人の中でも特に優秀な二人……あなたが“そのうちの一人”というわけですか」
糸使い「あいにく、この仕事はあまり好きじゃないんだけどな」
糸使い「糸は戦うためのもんじゃないと思ってるから」
怪盗「ふっ、あなたほどの使い手に出会えるとは嬉しいですよ! さぁ、勝負です!」
ビンッ!
怪盗「あれ……?」ギシッ…
糸使い「残念だが、もう勝負はついてる」
糸使い「ここに姿を現す前に、お前の全身は糸で縛りつけておいた。手強そうだし」
怪盗「な、なんですとぉ!? くっ……こんなもの、こんなものっ!」グッグッ…
糸使い「無理無理、妹のハサミじゃなきゃ俺の糸は切れねえよ」
怪盗「う、ぐぐ……!」
怪盗「私は……すでに負けていた、ということか……!」
妹「お兄ちゃん、やったーっ!」
蜘蛛「ヤルジャン」
怪盗「さすがです……『糸使い』……」
怪盗「しかし……ただでは負けませんよ……。手に入らないのならいっそ……」
糸使い「?」
怪盗「部下よ、そのドレスを破り捨ててしまいなさい!」
部下C「はいっ!」タタタッ
妹「ゲッ、さっきあたしが倒した奴! ――お兄ちゃん!」
糸使い「ちっ!」ヒュルルッ
グササササッ!
部下C「か、体が動かな……!」ドサッ
糸使い(俺の糸より早く、何本もの針があいつに刺さりやがった!)
糸使い(しかも……正確にツボに刺さってやがる! とんでもねえ腕前だ!)
糸使い「――何者だ!?」バッ
女「あ、どうも……」ニコッ
糸使い「――え!?」
妹「なんで!?」
蜘蛛「アンタガココニ」
女「ありがとうございました」
女「あなたたちがいなければ、私のドレスは盗まれていたでしょう」
糸使い「今の針さばき……あなたもまさか!?」
女「はい……副業で仕事人をしております。『針使い』として」
妹「『針使い』っていえば、仕事人の中でお兄ちゃんに並ぶ凄腕ってウワサの……」
蜘蛛「コリャタマゲタ」
怪盗(まさか、仕事人の最上位二名とばったり出くわすことになろうとは……)
怪盗(やれやれ、私の悪運も尽きたということだな……)
…………
……
怪盗一味は逮捕され――
面接官「あ、あのっ!」
糸使い「なんでしょう?」
面接官「このたびは本当にありがとうございました! 先日はすみませんでした!」
面接官「大変ムシのいい話ですが、是非我が社で……」
糸使い「いえいえ、そういう意図があって、怪盗を捕えたわけじゃありませんから」
糸使い「糸使いだけに」ニヤッ
面接官「…………」
妹「うわ……さっむ」
蜘蛛「シカモワカリニクイ」
糸使い「それにしても驚きでした。あなたが『針使い』だったとは」
女「私も驚きです。あなたが『糸使い』だったなんて」
女「やっぱり私たち、お似合いみたいですね!」
糸使い「そうですね!」
糸使い「あ、あの……」
女「はい?」
糸使い「…………」シュルルッ
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてますよね!」ギュッ
女「はい……私という針の穴に、あなたという糸を通して下さいませ!」
妹「あー……あの二人がなんで相性がいいのか、やっと分かったよ」
蜘蛛「ナンデ?」
妹「二人とも、根本的なところのセンスが同レベルなんだ」
蜘蛛「ナルホド」
妹「で、晴れて恋人ができたところで、今後どうすんの、お兄ちゃん?」
妹「就活続けるの? それともコンビで仕事人すんの?」
糸使い「ん~……俺としてはやっぱり糸専門店を頑張りたいんだけど」
妹「それじゃ全然稼げないじゃん」
女「大丈夫ですよ、私がデザイナーの仕事で養ってあげますから。お店に専念して下さい」
糸使い「それはいくらなんでも情けなすぎる……男として」
蜘蛛「ヒモダナ」
妹「いいんじゃない? ヒモでも。糸使いなんだし、ピッタリじゃん!」
糸使い「おいおい、そいつは勘弁してくれ~!」
アッハッハッハッハ……!
~おわり~
元スレ
糸使い「あの……その……」
糸使い「たとえば、あやとりで……同僚を楽しませることができます」
面接官「はぁ……」
面接官「もう結構です」
糸使い「え」
面接官「私もあなたのような方を相手しているほど暇じゃないんです」
面接官「そもそもうちの会社はイベント企画や運営が主な業務ですから」
面接官「糸を扱う技能なんか全く必要じゃないしねえ」
面接官「席を立ってお帰り下さい」
糸使い「は、はい……失礼します……」
11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 20:51:19.726 ID:qWFgE+UV0.net
バタン……
糸使い(またダメだったか……)
男「おや、いかがでしたか?」
糸使い「いやー、全然ダメでしたね」
男「採用面接なんてのは縁ですよ、縁! すぐに切り替えた方がいいですよ!」
糸使い「ありがとうございます……」
糸使い(この人、俺より前に面接受けてた人だよな。なんでまだいるんだろ)
糸使い(もしかして、採用されたのかな……いいなぁ)
13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 20:54:21.425 ID:qWFgE+UV0.net
<会社の外>
妹「お兄ちゃーん!」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「おお、我が愛しき妹と愛しきペットよ!」
妹「面接、どうだった?」
糸使い「いやー……この顔見れば分かるだろ?」
妹「あらら……」
蜘蛛「ダメダッタノネ」
…………
……
19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 20:57:32.020 ID:qWFgE+UV0.net
……
妹「ったく、ダメだなー」
妹「そういう時はさ、『糸を扱って培った器用さを生かします』とか」
妹「いくらでも言いようがあるじゃない!」
妹「そこで詰まっちゃうから、いつまでたっても面接で受からないんだよ」
蜘蛛「ソウソウ」
糸使い「そういうもんか……」
妹「ったく、いつまでもくよくよしない! あたしのハサミで切っちゃうよ!?」チョキチョキ
糸使い「あぶねっ!」
妹「お、少し元気出たね。一緒に帰ろ」
糸使い「ああ、ありがとう」
22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:00:38.821 ID:qWFgE+UV0.net
<糸使いの自宅>
テレビ『昨夜、またしても怪盗が現れ……綿密な計画があったものと……』
糸使い「ええい、テレビうるさい!」ピッ
糸使い「あーあ、やべえよ……」
糸使い「お前と二人暮らしするようになって、糸専門店なんて始めたけど、客全然来ないし」
糸使い「なんとか普通の会社に就職しようとしても、糸使いなんて需要がなさすぎる……」
妹「糸専門店は閑古鳥だけど、もう一つの商売は順調じゃん」
糸使い「俺あれあまりやりたくないんだよ。やっぱり糸って平和的に使うもんだし」
糸使い「はぁ……糸使いなんて時代遅れなのかもな。女にもモテないし」
妹「まあまあいつまでも愚痴ってないで。一緒に納豆食べよ?」
糸使い「お、納豆あるのか! 食う食う!」
23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:03:31.673 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「やっぱり納豆は500回以上混ぜないとな!」マゼマゼマゼ
蜘蛛「ロサンジンキドリカヨ」
糸使い「うるせえ!」マゼマゼマゼ
糸使い「ほーれ、ネバネバ~」ネバァァァ
糸使い「ネバネバ~」ネバァァァァァ
妹「……お兄ちゃんが女にモテないのって、糸使いだからじゃなくて、性格の問題だと思う」
蜘蛛「ウン」
糸使い「うるせえよ!」
24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:06:27.205 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「いいよな、お前は彼氏がいるから!」
糸使い「あの……カッターナイフが好きな彼氏! あいつとはどうなんだよ?」
妹「んー……ボチボチってとこかな」
糸使い「そういやあいつとは一度会ったけど……」
妹彼氏『こんにちは、お兄さん!』
妹彼氏『ボク、カッターナイフの刃をポキッて折る時に最高にエクスタシーを感じちゃうんです!』
糸使い「……なかなかの好青年だった。あいつならお前を任せられる」
妹「そりゃどうも」
糸使い「さて、納豆食うか!」モグモグ
26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:09:20.715 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「あ~……美味かった」
糸使い「さっそく糸で……」シーハーシーハー
妹「やだ! あっち向いてやってよ!」
蜘蛛「キタナイナー」
糸使い「ほれ、こんなに歯クソが取れたぞ! すげえだろ!」
妹「汚いっての!」ビュオンッ
糸使い「あぶねっ! ハサミ振り回すなよ!」
27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:13:14.307 ID:qWFgE+UV0.net
……
糸使い「食後のコーヒーでも飲むか」
糸使い「コーヒー出してくれよ」
妹「あ、ごめん。切らしたまま買ってないや」
糸使い「マジで!?」
糸使い「仕方ない。近くのコンビニで一杯やってくるか」
妹「まーたイートイン? お兄ちゃんも好きだねえ」
糸使い「なにしろ俺は糸使いだからな」
蜘蛛「…………」カサカサ
糸使い「お前も来るか?」
蜘蛛「イクイク」
糸使い「よし、ついてこい!」
28: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:16:20.895 ID:qWFgE+UV0.net
<コンビニ>
店長「お、糸使い君、いらっしゃい。就職活動はどうだい?」
糸使い「いやー、全然ダメですね」
蜘蛛「…………」カサカサ
店長「ま、気長にやるこった」
糸使い「はい……」
店長「蜘蛛君も、ご主人を支えてあげてな」
蜘蛛「モチロン!」
29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:19:30.018 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「コーヒーうめえ~」グビグビ
蜘蛛「ガムシロウメー」ペロペロ…
糸使い「――ん?」
女「…………」
糸使い「あそこで買い物してる女の人……おしとやかそうで、すげえ美人じゃないか!?」
蜘蛛「タシカニ」
糸使い「ちょっと声かけてきてくれよ」
蜘蛛「ナンデヤネン」
糸使い「いいじゃんか、頼むよ~」
蜘蛛「ヤダヨ」
30: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:23:03.001 ID:qWFgE+UV0.net
女「…………」チラッ
糸使い(ゲ、俺の視線に気づいた!?)
女「…………」スタスタ
糸使い(やべえ、こっちに来た! どうしよう!?)
女「あのー……」
糸使い「は、はいっ!」
女「とても素敵な蜘蛛ちゃんですね」ニコッ
糸使い「あ、はいっ! あ、こいつ、俺のペットでして……アハハ……」
31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:26:11.150 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「女性はこいつ見たら大抵ビビるのに……もしかしてあなた、蜘蛛オタクですか?」
女「いえ、そうではなく……」
女「私、ファッションデザイナーをしているんです」
糸使い「へえ、そうなんですか!」
女「自分で裁縫をして、服を仕立てることもするので、よく糸を扱ったりするんです」
女「だから、自分で糸を出す蜘蛛は、怖いというよりむしろ尊敬してるんです」
糸使い「なるほど~(分かるような分からんような)」
32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:29:45.652 ID:qWFgE+UV0.net
女「でも、悩みがありまして……」
糸使い「悩み?」
女「実は今、大きなファッションショーに出展するためのドレスを作っているんです」
糸使い「すごい! 売れっ子なんですね!」
女「ですが、いい布はあるんですけど、いい糸がなくて困ってるんです……」
糸使い「!」
糸使い「あ、あのっ……でしたらっ!」
女「はい?」
糸使い「俺、糸専門店を営んでおりまして、品質には自信があるんです!」
糸使い「ぜひ一度ご覧になって下さい!」
女「本当ですか? ぜひ!」
蜘蛛「オモワヌチャンス」
35: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:32:35.592 ID:qWFgE+UV0.net
<糸使いの自宅>
妹「お帰りー……ってあれ? お兄ちゃん、その女の人は?」
糸使い「ああ、ついさっき知り合ってね。俺の店の糸を見たいっていうんだ」
妹「へえ~、珍しいこともあるもんだ」
女「あなたが妹さんね? こんばんは」
妹「こんばんは!」
妹「お兄ちゃんは糸に関してだけは誰にも負けませんから! 品質は保証しますよ!」
糸使い「あんまハードル上げるなよ」
女「ふふっ、期待してます」
糸使い「店はこちらになります。さ、どうぞ!」
37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:35:18.823 ID:qWFgE+UV0.net
<糸使いの店>
糸使い「自宅の一部を改装して開業したんですけど……」
糸使い「今までに来たお客の数は……ほんの数人といったところでして」
糸使い「……いかがです?」
女「……すごい」
糸使い「え?」
女「一目で分かります! どれもこれもすごい糸ばかりだわ!」
糸使い「ほ、本当ですか!?」
女「もちろんです!」
糸使い(うう……長年の苦労がやっと報われた。生きててよかったぁ~)
38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:38:29.471 ID:qWFgE+UV0.net
女「ぜひ、こちらの店の糸を、私が今作っているドレスに使わせて下さい!」
糸使い「え、いいんですか!?」
女「はい、この店の糸なら……あなたの糸なら、最高のドレスが作れると思います!」
糸使い「ありがとうございます!」
妹「おお……いい感じだよ」
蜘蛛「ウン」
41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:41:33.038 ID:qWFgE+UV0.net
女「ところで……またお会いできませんか?」
糸使い「え……」
女「ぜひまた……あなたとお話ししたいので……」
糸使い「え、あ……そりゃもう! もちろんかまいませんとも!」
糸使い「でも俺、携帯電話とか持ってないんですよ」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「だから、この糸電話を差し上げます!」
糸使い「ものすごく細くて長い糸なんで、どこからでも俺に通話していただけます!」
女「本当ですか? ありがとうございます」
妹「今時携帯電話もスマホも持ってないって、ありえないよねー」
蜘蛛「ネー」
42: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:44:25.605 ID:qWFgE+UV0.net
妹「――あ、お兄ちゃん、服がほつれてるよ」
糸使い「あ、ホントだ」
妹「あたしが縫ったげる」
女「いえいえ、ここは私が」シュバババッ
女「できました」
糸使い「え、もう!? ありがとうございます!」
妹「ふえぇ~……すごい早さ! さっすがファッションデザイナー!」
43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:46:18.115 ID:qWFgE+UV0.net
女「じゃあ今夜はこれで……」
糸使い「さようならー!」
妹「お兄ちゃん、よかったねえ。いい人そうじゃない」
糸使い「ああ、俺にもやっと春が来たんだ!」
蜘蛛「センテンススプリング!」
45: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:50:39.640 ID:qWFgE+UV0.net
数日後――
<糸使いの自宅>
糸使い「ふんふ~ん」
妹「お兄ちゃん、やけにはりきってるね。どうしたの?」
糸使い「実は……明日デートなんだ」
妹「え、マジ? やったじゃん!」
糸使い「頑張るぜ!」
妹「ちょっと……いやかなり不安……」
妹「そっとついていこっか」
蜘蛛「オウ」
46: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:53:57.058 ID:qWFgE+UV0.net
翌日――
<駅前>
糸使い「お待ちしておりました!」
糸使い「今日は……俺が寝ずに考えたデートスポットをご案内しますよ!」
女「まぁっ、とても楽しみです」
妹「…………」コソッ
蜘蛛「…………」カサカサ…
妹「自分から“寝ずに考えた”とかいっちゃうところがもう、センスないよね」ハァ…
蜘蛛「マッタクデスナ」
48: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 21:57:07.121 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「見て下さい、あの電線を! 複雑に交じり合って、とても美しいでしょう?」
女「まぁ、とてもステキですね」
~
糸使い「コーヒーでも飲みましょうか……コンビニのイートインで!」
女「ええ、そうしましょう」
~
糸使い「この店の糸こんにゃくは格別なんですよ!」
女「あら、とても楽しみですわ」
妹「ひどい、ひどすぎるよ……。こんな悲惨なデートコース、あたし見たことないよ……」
蜘蛛「オワッタナ」
49: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:00:33.299 ID:qWFgE+UV0.net
デートが終わり――
女「今日は楽しかったです。こんなに楽しい一日は久しぶりでした」
糸使い「本当ですか!? ありがとうございます!」
妹「あのデートが楽しかっただって! ……信じらんない!」
蜘蛛「アリエンナ」
妹「うん……なんか、あの女の人……ちょっと怪しいかも」
妹「もしかしたら……結婚詐欺師とか」
妹(お兄ちゃん……お兄ちゃんはあたしが守るからね! このハサミで!)チョキンッ
50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:03:35.036 ID:qWFgE+UV0.net
デートから一週間後――
<糸使いの自宅>
糸使い「明日はちゃんとした服装しないとな。ジャケットに……ネクタイに……」
妹「ずいぶんはりきってるけど、どうしたの、お兄ちゃん?」
糸使い「実は明日、高級レストランでデートなんだ」
糸使い「……で、きちんと俺の気持ちをぶつけるつもりだ」
妹「へぇ~、ちなみにレストランの名前は?」
糸使い「『レストラン○×』だったかな」
妹「そこってたしか、前にお兄ちゃんが落ちた会社の近くじゃん」
糸使い「あ、そういえばそうだな……。嫌なこと思い出しちまった」
53: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:06:35.059 ID:qWFgE+UV0.net
妹「――で、どうやって告白するつもり?」
糸使い「この赤い糸を、俺の小指と彼女の小指に結び付けて……」
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてるよね……って」
妹「ええ……」
蜘蛛「ダサーイ」
糸使い「なんだよ、その反応は!」
妹「やめた方がいいよ、絶対」
糸使い「いーや、絶対やる! 明日が楽しみだぜ!」
妹「…………」
54: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:10:22.178 ID:qWFgE+UV0.net
次の日の夜――
<レストラン>
女「今日はありがとうございます」
女「こんな立派なレストランに招待していただいて」
女「でも、お金の方は……」
糸使い「あ、大丈夫! 俺の仕事は糸専門店だけじゃないんで」
女「あら、そうなんですか」
糸使い「ってわけで、カンパイ!」
女「はい!」
カチンッ
55: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:13:53.645 ID:qWFgE+UV0.net
<レストランの外>
妹「お兄ちゃんが心配だから、レストランの近くまで来ちゃうなんて」
妹「いやー、あたしらも兄想いだねえ」
蜘蛛「ホントホント」カサカサ
妹「でも、レストランに入るわけにはいかないし、どうしよう……」
妹「とりあえず、二人が出てくるのを待とうか」
妹「――ん?」
妹(あれ? お兄ちゃんが落とされた会社のビルに、怪しい集団が入っていく……)
56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:16:59.028 ID:qWFgE+UV0.net
<レストラン>
糸使い「俺、最近はあやとりに凝ってて……。のび太君は心の師匠ですよ!」
女「まぁっ、ステキな趣味ですね」
糸使い「ところで、例のドレスは完成したんですか?」
女「ええ、おかげさまで」
女「ついさっき、すぐそこにあるファッションショーを運営する会社に、納入したところです」
女「これもあなたの糸のおかげです」
糸使い「いやいや、そんなことありませんよ~」
糸使い(そろそろ告白したいけど、なかなかタイミングが掴めないな……)
糸使い(果たして、俺とこの人は、本当に赤い糸で結ばれてるんだろうか……)
58: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:20:21.806 ID:qWFgE+UV0.net
<会社>
妹「気配を殺して、と……」ササッ
妹「さっきの集団は一体なんだったんだろう……?」
蜘蛛「アッチニダレカイル」カサカサ
妹「うん……そっと近づこう」
妹「――あっ!」
59: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:23:58.947 ID:qWFgE+UV0.net
怪盗「おやおや、これは素晴らしい!」
怪盗「今をときめくファッションデザイナーの未発表のドレス!」
怪盗「私のコレクションにするに相応しい一品です……!」
部下A「ビルに残っていた社員たちは全員縛り上げました」
怪盗「ご苦労」
社員A「くそっ、ファッションショーはもう間近だというのに!」
社員B「うちのビルのセキュリティが、こうも簡単に解除されるなんて……」
面接官「あれが盗まれたら、うちの会社は終わりだ……!」
妹「こいつら……今話題になってる怪盗一味だ!」
妹「ようし……あたしが捕えてやる! あんたはここで待ってて!」
蜘蛛「キヲツケナヨ」
60: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:27:58.438 ID:qWFgE+UV0.net
妹「待ちなさいよ!」
怪盗「おや、あなたは?」
妹「あたしは『ハサミ使い』よ! あんたらの悪事はあたしがチョキッと切ってやるわ!」チョキチョキ
怪盗「ほう……もしやあなたは“仕事人”ですか?」
妹「そうよ、よく知ってるわね」
部下A「……なんですか、仕事人というのは?」
怪盗「政府から“独断で犯罪者を退治していい”と強力な特権を与えられた人間のことです」
怪盗「仕事人はそれぞれ『○○使い』というコードネームを持っているのだとか」
部下A「あんな小娘が……?」
怪盗「人は見かけによらない、というものですよ」
部下B「ですが、相手は一人! ここは我々にお任せ下さい!」
妹「かかってきなさい!」チョキチョキ
61: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:30:39.983 ID:qWFgE+UV0.net
妹「えーいっ!」
ザシュッ! ズバッ! ザクッ!
「ぐわぁっ!」 「ぐぎゃっ!」 「いでぇぇっ!」
妹「さあさあ、こんなもんなの!?」チョキチョキ
部下A「つ、強い……!」
部下B「我らとて、一人一人が並のボディガード10人分の力があるのに……!」
怪盗「おやおや、なるほどなるほど……さすがですね」
怪盗「これ以上、部下に傷を負わせるわけにはいきません」
怪盗「私自ら相手をして差し上げましょう……このサーベルでね」ジャキッ
妹(こいつ……メチャクチャ強い!)
62: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:34:26.551 ID:qWFgE+UV0.net
<レストラン>
ブチッ!
糸使い「!」
女「どうしました?」
糸使い(俺がいつも手首に巻いてる糸が……ひとりでに切れた! 不吉だ……)
糸使い(まさか……妹たちになにかあったんじゃ!?)
女「もうすぐメインディッシュですね。楽しみです」
糸使い(だけど、せっかくデートがいいムードだし……ただの偶然かもしれないし……)
糸使い(――いや!)
糸使い「すみません! 俺、ちょっと席をはずします!」ガタッ
女「えっ!」
65: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:37:20.541 ID:qWFgE+UV0.net
<会社>
妹「たあああああっ!」
怪盗「はあっ!」
キィンッ! キィンッ! ガキンッ!
ガキィンッ!
妹「きゃあっ!」ドサッ…
妹(やっぱり強い! あたしじゃ……勝てない!)
怪盗「おやおや、どうやらここまでのようですね」
66: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:42:39.001 ID:qWFgE+UV0.net
怪盗「仕事人の中にはどんな悪党も敵わない、恐るべき使い手が二人いるらしいですが」
怪盗「あなたはその二人のうちのどちらかではなかったようだ」
怪盗「しかし、あなたは将来、私の脅威になるおそれがある」
怪盗「殺しはしません、が……腕の腱を切断して、『ハサミ使い』としては死んでもらいましょう」
怪盗「彼女を押さえておきなさい」
部下A「はい」ガシッ
妹「は、はなしてっ!」ジタバタ
怪盗「これからは平凡な女子として幸せに生きていくことです」
妹(お兄ちゃん……っ!)
怪盗「それでは、トドメを――」チャキッ
67: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:45:01.414 ID:qWFgE+UV0.net
グルグルッ!
怪盗「!」ビンッ
怪盗(サーベルが、細い糸に絡め取られた!?)
怪盗「――誰だ!?」
糸使い「『糸使い』……参上!」
69: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:48:32.113 ID:qWFgE+UV0.net
妹「お兄ちゃん!? なんでここにいるの!?」
糸使い「嫌な予感がしてレストランを出たら、こいつが糸で道案内してくれてたんだよ」
蜘蛛「キキイッパツ」カサカサ
妹「そうじゃなくて……デートは!?」
糸使い「すっぽかしちゃった」
妹「なにやってんの! ったく、本当にバカなんだから……!」
妹「でも……ありがとう、お兄ちゃん」
糸使い「いいってことよ」
70: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:52:23.566 ID:qWFgE+UV0.net
部下A「新手か!」バッ
部下B「始末してやる!」バッ
糸使い「ほれっ」ヒュバッ
ザシュシュッ!
部下AB「ぐはぁ……っ!」ドザザッ
糸使い「さて、残るはお前一人だな」ヒュルルッ
怪盗「ほう……妹さんも強かったが、あなたはそれ以上だ」
糸使い(――って、こいつ、たしかこないだの面接の時に見たツラだな)
糸使い(そうか……あの時は求職者のふりをして、このビルを下見に来てたってわけか)
怪盗「なるほど、仕事人の中でも特に優秀な二人……あなたが“そのうちの一人”というわけですか」
糸使い「あいにく、この仕事はあまり好きじゃないんだけどな」
糸使い「糸は戦うためのもんじゃないと思ってるから」
怪盗「ふっ、あなたほどの使い手に出会えるとは嬉しいですよ! さぁ、勝負です!」
71: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 22:56:32.999 ID:qWFgE+UV0.net
ビンッ!
怪盗「あれ……?」ギシッ…
糸使い「残念だが、もう勝負はついてる」
糸使い「ここに姿を現す前に、お前の全身は糸で縛りつけておいた。手強そうだし」
怪盗「な、なんですとぉ!? くっ……こんなもの、こんなものっ!」グッグッ…
糸使い「無理無理、妹のハサミじゃなきゃ俺の糸は切れねえよ」
怪盗「う、ぐぐ……!」
怪盗「私は……すでに負けていた、ということか……!」
妹「お兄ちゃん、やったーっ!」
蜘蛛「ヤルジャン」
73: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:00:11.562 ID:qWFgE+UV0.net
怪盗「さすがです……『糸使い』……」
怪盗「しかし……ただでは負けませんよ……。手に入らないのならいっそ……」
糸使い「?」
怪盗「部下よ、そのドレスを破り捨ててしまいなさい!」
部下C「はいっ!」タタタッ
妹「ゲッ、さっきあたしが倒した奴! ――お兄ちゃん!」
糸使い「ちっ!」ヒュルルッ
グササササッ!
75: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:03:49.582 ID:qWFgE+UV0.net
部下C「か、体が動かな……!」ドサッ
糸使い(俺の糸より早く、何本もの針があいつに刺さりやがった!)
糸使い(しかも……正確にツボに刺さってやがる! とんでもねえ腕前だ!)
糸使い「――何者だ!?」バッ
女「あ、どうも……」ニコッ
糸使い「――え!?」
妹「なんで!?」
蜘蛛「アンタガココニ」
76: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:07:43.654 ID:qWFgE+UV0.net
女「ありがとうございました」
女「あなたたちがいなければ、私のドレスは盗まれていたでしょう」
糸使い「今の針さばき……あなたもまさか!?」
女「はい……副業で仕事人をしております。『針使い』として」
妹「『針使い』っていえば、仕事人の中でお兄ちゃんに並ぶ凄腕ってウワサの……」
蜘蛛「コリャタマゲタ」
怪盗(まさか、仕事人の最上位二名とばったり出くわすことになろうとは……)
怪盗(やれやれ、私の悪運も尽きたということだな……)
…………
……
77: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:11:10.861 ID:qWFgE+UV0.net
怪盗一味は逮捕され――
面接官「あ、あのっ!」
糸使い「なんでしょう?」
面接官「このたびは本当にありがとうございました! 先日はすみませんでした!」
面接官「大変ムシのいい話ですが、是非我が社で……」
糸使い「いえいえ、そういう意図があって、怪盗を捕えたわけじゃありませんから」
糸使い「糸使いだけに」ニヤッ
面接官「…………」
妹「うわ……さっむ」
蜘蛛「シカモワカリニクイ」
78: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:14:38.615 ID:qWFgE+UV0.net
糸使い「それにしても驚きでした。あなたが『針使い』だったとは」
女「私も驚きです。あなたが『糸使い』だったなんて」
女「やっぱり私たち、お似合いみたいですね!」
糸使い「そうですね!」
糸使い「あ、あの……」
女「はい?」
糸使い「…………」シュルルッ
糸使い「俺たち、赤い糸で結ばれてますよね!」ギュッ
女「はい……私という針の穴に、あなたという糸を通して下さいませ!」
妹「あー……あの二人がなんで相性がいいのか、やっと分かったよ」
蜘蛛「ナンデ?」
妹「二人とも、根本的なところのセンスが同レベルなんだ」
蜘蛛「ナルホド」
80: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2016/12/21(水) 23:18:45.924 ID:qWFgE+UV0.net
妹「で、晴れて恋人ができたところで、今後どうすんの、お兄ちゃん?」
妹「就活続けるの? それともコンビで仕事人すんの?」
糸使い「ん~……俺としてはやっぱり糸専門店を頑張りたいんだけど」
妹「それじゃ全然稼げないじゃん」
女「大丈夫ですよ、私がデザイナーの仕事で養ってあげますから。お店に専念して下さい」
糸使い「それはいくらなんでも情けなすぎる……男として」
蜘蛛「ヒモダナ」
妹「いいんじゃない? ヒモでも。糸使いなんだし、ピッタリじゃん!」
糸使い「おいおい、そいつは勘弁してくれ~!」
アッハッハッハッハ……!
~おわり~
糸使い「私は糸を扱うのが得意です」面接官「当社で働く上でのメリットは?」