1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:19:20.22 ID:4RgNRzAU0

 よっ、と。小さく気を入れつつ、木を登る。
 桜の薄い白が消えて、すっかり緑に染まった山の木々。
 そのなかに、葉のない枯れ木がひとり、いつも立っている。
 木登りに手ごろな、彼のからだが在る此処は、昔からのお気に入りの場処だった。

 天気の良い日は、ほとんど毎日ここに来ている。
 身体を動かすのは好き。走ることにも、跳ぶことにも、人並み以上の体力はあると思う。
 でも、ここでじっと座っているのも、好きだ。

 高い枝のうえから、陽と土と葉と花の混じり合った美味しい匂いの空気に包まれて。
 季節に移ろうひかりと色を、ここからなんど眺めてきただろう。

 赤土先生が旅立って。こども麻雀クラブのみんなともそう会わなくなって。
 憧と別れて、和と別れて。そうして、大好きだった麻雀からも、すっかり離れた。

 それでも、日々の穏やかさは変わらず。時間は流れて。麻雀に関わらない日々を楽しむことにもすっかり慣れきった、とある日のこと。
 自分ひとりが来るだけのこの山にめずらしく、私以外の人影がおとずれた。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:20:00.23 ID:4RgNRzAU0

 /

 枝の上から見下ろすその姿は、ちょっと変わったものだった。春を越えて、夏に入りかけたこの時期。確かに肌寒いと感じるひとも多い時期だけれど。
 それでもセーターにマフラーに手袋に。完全に冬の装いのままのかっこうをした女のひと。
 ぼんやりと、周囲の葉や、花を眺めながら、あてどもなく歩を進めている様子。
 そんな散歩の姿に、なにか、記憶に触れるものがあった。

 いつかの通学バスで、みかけたことがある。

 ――――思い当たって、あ、と声が漏れた。

 真夏なのに、マフラーしていた上級生―――― 


 声を漏らし、身じろぐ私の動きを視界に捉えたのか、彼女の視線は私へと向く。
 こちらもちいさく会釈して、ある程度木を降りる。そこから地面に飛び降りて、私はそのひとへと向き合う。
 近づく私に、すこし、警戒した様子で身構えているのがわかったので、こちらから、挨拶をしてみる。

「え、と。こんにちは、こんなところにひとが来るの、珍しいですね?」
「あ、あの、こんにちは。私も、人がいるとは、思ってなかったです……」
「ああ、私、ここよく来るんですよ。景色眺めるのが好きで」
「うわあ……、木の上からの景色、良さそうですね。私はあんなとこ、登れないなあ……」

 ぎこちなさを残して、私と彼女はことばを交わす。
 ときおり寒そうに身体を震わせる彼女と、ここで突っ立ち続けるのもなんだったので、いったん、山を降りることを提案しつつ。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:20:48.64 ID:4RgNRzAU0

 /

「……山に来たのは、ただの気まぐれなんです」
「ありゃ、そうなんですか?」

 木漏れ日の光と、風に揺れる影。葉擦れの音と、私たちの足音。
 自然のいろが山道を横切って、私たちの間にあるぎこちないかたまりを撫でていく。

「私、通ってる学校の園芸委員で、温室当番をやってて……。だからほんとは、室内の植物がメインというか……」
「ああ、温室……」
 それはすんなり、納得。
「もう、山の桜は散っちゃって、ここには花はないけれど……。天気のいい今日は、太陽に光る緑がきれいに見えて」

 でも、と彼女は続ける。
「……入ってみると、日陰も多くて、ちょっと寒かった……」
 気まぐれで起こした行動の、自分の失敗を恥じるように。彼女は頬を赤らめてうつむいた。
「あはは、そうなんですよねー。木漏れ日はきれいだけど、たしかにひんやりした影も多いかも」

 山道を降りて、道路へ出る。歩道まで寄って、そのまんなかで立ち止まる。
 会話が止まる。お互いさっきが初対面の相手。ここからいっしょに連れだって帰る仲でもないけれど、かといってこのまますぱっと別れるのもなんだか違う気がして、困った。

「あ、の。いっしょに歩いてくれて、ありがとうございました……」
「や。いやいやいや、そんな大げさな」
 それはなんか違う。道に迷っていたわけでもあるまいし。
「なんかむしろ、私のほうが散歩のじゃまをしちゃったような」
「いえ。そんなこと、ないです……」
 よくわからないやりとりをして、私たちはそれぞれ別々の帰路へと足を向ける。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:21:34.80 ID:4RgNRzAU0

 /

 お別れ。ここでこのまま、なにごともなく。なんでか、私の足が重くなる。
 歩き出した足を止めて、私は遠ざかる背中に声をかける。
「真夏になったら」
「……え?」
「真夏になったら、気温もちょうどいいと思いますし、よかったら来てみてください」
 ――――あそこ、いい場処ですから。
 独り占めするのも、もったいない場処。
 植物に好きで関わっているという彼女なら、気温が低くさえなければ、良い散歩コースになると思う。

 ――……ありがとう、しばらくたったら、また来てみようと思います。

 そう会釈をして、彼女は帰ってゆく。
 去ってゆく背中から、目を離しがたく感じて。その姿が見えなくなるまで、私はみつめ続けた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:22:56.30 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――――そうしてしばらく経ったある夏の日から、彼女とはたびたび会うようになった。
 こんにちは。と木の上の私にちいさく手を振って。
 そのやさしげなしぐさに、なんでか、ほんのちょっと、胸がちくんとなる。
 それを無視して、私は、大きく手を振って彼女に応える。
 そんなやりとりが、定番となった。

 敷物代わりのハンカチを敷いて、大木の根もとに並んで座る。幹に背を預けて。とりとめのない、他愛のないお話。
 花のこと、園芸用の土質のこと、温室のこと、木のこと、森のこと、木登りのこと、学校のこと。

 森に囲まれたこの場処で、なんどか顔を合わせているけれど。話題はまだ、適度な距離感を保ったままの、あたりさわりのないものばかり。
 お互いに名前もまだ名乗りあっていない。わざわざ自己紹介するタイミングを失ったというか、いまさらなんだか切り出しにくい感じがする。
 いっそ、彼女が切り出してくれればいいのだけれど、彼女も名乗ろうとはしなかった。
 会話の端々から、お互い、阿知賀女子に関わっていることは把握し合ってはいるのだけれど。それ以上のことを、知ろうとは思わなかった。

 ――――私はこのひとと、仲良くなりたくないのかな。

 そんなふうに、疑問が浮かぶ。

 だけれど、寒気をおしてこのひとがここまで足を運んでくれることをうれしいと思うことも、別れるときにさびしいと思うのも確かなことで。
 そんな感情を引きずって、また季節は巡る。彼女と会うと、複雑な気もちになる理由は、わからないまま。

 ――――私たちは、親しいのか、そうではないのか。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:23:52.84 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――――そんな平坦な日々を過ごしていたあるとき、テレビで、私は和の姿を見る。
 大会で、麻雀を打っていた。
 胸のうちに、抱えきれない衝動がわいている。全力で走っても、全力で叫んでも、心は晴れない。
 乱れた息を整えて、気がつけば、いつもの木の根元に身体を預けていた。

 どうして、彼女はあそこにいるのだろう。
 どうして、私はあそこにいないのだろう。
 
 どうして、私はこんなに麻雀がしたいんだろう。
 ――――どうしていままで、私は麻雀をやらずにいて平気だったんだろう。

「そんなの」
 そんなの、決まってる。つまんないから。みんないなくなって、つまんなくなったから。
 別れは、さびしい。いっしょに遊んだ仲間たちは、ここにはいない。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:27:04.12 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――――みんなこうして、離ればなれになっていくのかな。

 でも、さびしいのは、私だけじゃなかった。和だって、別れはさびしかったはずで。

 世の中そんなもんかな。なんて割り切って、麻雀を辞めても平気だった私。
 ずっと麻雀を続けて、全国大会まで行った和。
 憧だってこの先、晩成高校に行って麻雀を続けてゆく。

 私とのちがいを突きつけられて、嗚咽が、漏れる。
 麻雀の強さの話じゃない。実績の話じゃない。
 ただ、むかしの友達は、あれからもずっと、おもいでの光のなかで前に進んでいた。そのことそのものが、私の心をかき乱す。

「のどかぁ……」

 そんなすがたをみせられたら、わたし。わたしだって……!

 あなたに、会いたい。みんなに会いたい。
 赤土先生がつくった輪のなかにいた、あのころの私たちに。

「あいたい、よぉ……」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:28:23.41 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――――うずくまる私のとなりに、ひとの重み。
 いつもあったかいかっこうをしたお姉さんが、私のそばに座っている。
 「使って」とハンカチを差し出されて。ぐしゅ、と私は袖口で涙をぬぐう。
「いえ、すいません。だいじょうぶです」
 汚してしまうことを遠慮した私に、彼女は眉根を寄せて。
「いいの。使ってほしいんだ……」
 そう言って、私の涙をぬぐう。

 私の嗚咽がおさまるまで、彼女はなにも言わず見守っていた。
「……ありがとうございます。これ、こんど洗って、返しますから」

 そんなことをしなくても、と彼女は言いかけて。すこし考えた様子で、ううん、と首を振る。
「……わかった。こんど、よろしくね」
「……はい」
 私は、頷いた。


「なにがあったのか、聞いてもいいかな……?」
 彼女は、遠慮がちに言った。
「あなたの名前も知らない私だからこそ、聞き役に、なれると思うから……」
 そのなぐさめのしかたは、すなおにうれしいことだと思った。
 未だ自己紹介していないことが、こんなところで得をすることもなんだかおかしくて。すこし、かなしみがひっこんだ。

「――――麻雀が、したいんです。そして、ともだちに、会いにいきたい」

 だから、私はそれを口にすることができた。
 それはずっとあきらめ続けてきた、私の願い。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:29:10.09 ID:4RgNRzAU0

「麻雀が、したい……。そっ……か。そうなんだね」
 私のことばをゆっくりと受けとめて、彼女は息をつく。
「進学とか転校で、友達と離れることになって、ずっとあきらめてました」
「うん……」
「でも、今日、昔の友達が、全中の大会に出ているのがテレビに映ってて」
「うん……」
「なんか、気もちがどうにもならなくなって……。それで、泣いちゃったんです」
「……そっか、だからなんだね」
 彼女は、静かに私を見て、そう言った。
「あなたは、歩道で私と別れるとき、いつも、私をずっと見てるよね……?」
「え、ああ……、そうですね……」
 たしかに、最後まで、見送っている。彼女は、気づいていた。
「心のどこかで、ひとと別れることが、怖かったんじゃないかな……」
「あー……。ああ、それ、は――」
「あなたが、臆病だっていう意味じゃない、よ……?」
「あ、ええ、それは、わかります」
 あなたの言葉を誤解はしていない、と示す。
「……私、くすぶってたんですね、胸の中」
 ただ、そういうことの、表れだったんだ。
 やさしげな彼女のしぐさに甘えようと思わなかったのも、別れのうしろ姿から目を離せなかったのも。

 離れていくひとを、見送ることが、怖かったんだ。

「――じゃあ、もう、私、無敵ですね」
 私は、笑ってやった。もう、沈む表情を見せて彼女を気遣わせる必要もない。
 とつぜん強がりを見せて、態度をがらりと変える私に、彼女は目を見開く。

「だってもう、トラウマないですもん」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:29:48.76 ID:4RgNRzAU0

 ――――麻雀を、やろう。
 ただ、それだけを考えて、立ち上がる。

 やると決めたら、止まっていられない。
「せっかく、来てくれたのに、ごめんなさい、私、いきます」
 今日は本当にありがとうございましたと、深く頭を下げる。

「……うん、がんばって」
 微笑みを浮かべて、彼女は言った。

 ――――次に会ったとき。あなたの名前を教えてほしいな。

「――はい! じゃあ、また!」

 うなずいて、大きく手を振って、私は走る。
 私を見送るやさしい視線を、背中に感じながら。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:31:42.07 ID:4RgNRzAU0

 /

 走る。吹き抜けてく風すら追い越していく気もちで。おもいでの場処を目指して。
 その、道の途中で。私と同じように全力で走る姿に出会った。ブレーキをかける。地面と靴がこすりあう音をたてて、私たちは立ち止まる。

「しず……!」
「憧!?」
 
 静止した私たちが向かい合う。和とともだちになったあの日、三人で走った道のうえで。
「ひさし、ぶり……」
「ん、うん……」

 なんで走ってるんだ、なんて、野暮なことは聞けない。いまの私たちが全力で走り出す衝動の理由なんて、ひとつしかない。
 ひさしぶりでも、それを持ち合わせたままでいる私たちの関係が、うれしくて、おもはゆくて、むずがゆくて。
 お互いの顔を見合わせた私たちは、口をつぐんでしまう。

 ――――先に立ち直ったのは、憧のほうだった。深呼吸をして。無理矢理速攻で動揺を押し込んだ様子。
 行くんでしょ? とだけ、憧は尋ねた。憧の目を見据えて、私はうなずく。
「でも、いいのか? おまえ晩成に行くんじゃ……」
「ばか。あたしとあんたがふたりそろって、和の前に立つことに意味があるんでしょ」

 ――どっちかひとりだけでは、たりない。
 だから、いこう、と憧は言った。

「そう、だね」
 だから、行こう。再会をなつかしむのはあとにして。スタートを切るための、場処を目指す。
 こども麻雀クラブが使っていた部室は、現在ではもう無いかもしれない。かつてインハイ出場を果たした記念に、学校側が部屋だけは残していたとしても、中はきっと荒れているだろう。あのころ使った道具が、いまも使えるままだとは限らない。
 それでも、まずは其処にいかなきゃ。その場処で、赤土先生が作った輪の残骸を、手にとること。そうしなければ、私たちは始まることができないから。
 
 うなずきあって。私たちはまた、走り出す。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:34:50.74 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――――なつかしい、扉を開けると、そこには記憶のままの光景と、記憶にあるひとが、在った。

「しずちゃん、憧ちゃん……!」
 掃除道具を持った玄さんが、驚きの声をあげる。
「玄さん、なんで……? ずっと、掃除を?」
 私の困惑に、玄さんは平然と笑って、応える。

「木曜日は、私の当番だもん」

 こども麻雀クラブの部室は、健在だった。残骸だなんて、とんでもない。
 玄さんも、此処を守り続けてくれていた、あのころの私たちを待ちながら。

 私と同じさびしさを抱えているひとが、ここにもひとり。
 ほんとうに、いままでなにもしていなかった自分がなさけない。

 麻雀から離れた日々を自分なりに楽しんでるつもりでも。でも、心の片隅にいつもある焦燥感に、知らず、限りない不安を覚えていた。
 手を伸ばせば、それはそこにあったのに。その影を、届きそうもない距離に自分で置いてしまっていたんだと気づく。

 ――麻雀が、したい。

「玄さん、私たち、麻雀がしたいんだ」
 ――――此処で、みんなと。

 そう言うと、玄さんは「私も」とはにかんだ。

 ――――そうなったらいいなって、私もずっと思っていたんだよ――――



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:36:10.78 ID:4RgNRzAU0

 /

 ――そうして、私たちは始まる。
 私と憧と玄さん。これで、部員数は3人。残りの部員のあてについて、玄さんが手を挙げる。ひとり、入部希望者がいる。と。

 玄さんのあとを歩いていく。その後ろ姿に、どこか既視感を感じながら。だれかに、似ている。
 そうしてたどり着いた場処をみて、憧は声を漏らした。玄の家じゃん。

「え、入部希望者ってここにいるんですか?」
「そうなの! まあ上がって上がって」

 どきん、と心臓が跳ねる。なにかの、予感。
 私たちを先導する玄さんは、言う。
「入部希望者は、私のおねーちゃんなんだけど、ちょっと穏ちゃんに似てるかな」
「私、に?」
「見た目とか性格とかじゃなくて、今回の動機がね」

 ――きのう、おねーちゃんが話してくれたんだけど、と玄さんは言う。

「ずっと、こども麻雀クラブに行きたかったんだって。でも学年が違うから、遠慮しちゃってて。
 ところが最近、きっかけがあって、麻雀をやりたい気もちがわいたんだって。
 そう、言ってたよ」

 ――思い浮かぶのは、あの決意の日。私の背を見送ってくれたまなざし。
 期待と、わくわくと、どきどきで、心臓の鼓動が止まらない。指先が、ふるえる。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 21:41:13.20 ID:4RgNRzAU0

 そうしてふすまを開けて、こたつのお部屋。
 こたつに入った彼女の、いたずらっぽさを抱えた視線。

 そこではいつもあったかいかっこうをした彼女が、花咲くような笑みを浮かべていた――。



 ――取り戻しにいくんだ。あのころの輪を、もういちど。
 あなたといっしょに、夢を咲かせよう――

 END.



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 22:10:30.12 ID:4RgNRzAU0

おまけ程度ですが宥視点です。


 ――その、走り去る背中を、ずっと見ていた。

 麻雀がしたい、と泣いた彼女のことが、いつまでも胸に残っている。
 
 私も、麻雀がしたかった。
 玄ちゃんが通っていたこども麻雀クラブを、あきらめていた。

 ――だから、なのかもしれない。
 年上だから、行きづらいと感じて足を踏み出せなかったあの日の後悔。
 年下の女の子と、名前さえ知らなくても、仲のいいというこの関係に、「年下の子たちと混ざることをためらわなかったもしもの私」を重ねていた。

 きっと彼女が向かった先は、阿知賀のこども麻雀クラブがあった場処で。
 きっと彼女は、そこで玄ちゃんと再会するのだろう。
 そして、彼女たちが始まる。


 ――私は、どうしようか。
 年下の彼女でさえ、泣いて、後悔を踏み越えて、前を向いて走っているんだ。
  
 そんなすがたをみせられたら、わたしだって。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/09(水) 22:14:56.57 ID:4RgNRzAU0

 きっと、麻雀部はつくられる。時期的に、私に残された時間は、高校三年目の一年間。
 麻雀部ができたとしても、別れは、すぐそこにある。
 大会で負けて引退する日。私が、卒業する日。別れのきっかけは、日々のなかにいくつもあって。

 別れることのつらさは、私だって、知っている。
 それでも、私も、麻雀がしたいと思った。

 みんなといっしょに、麻雀をがんばりたい。
 高校生活最後の一年間を、そのために使ってみたい。
 彼女のように、涙を流すほどの衝動を、持ってみたい。

 そう、思った。

 /

 帰宅した玄ちゃんに、私は言う。
「私も、麻雀クラブに入れてほしいんだ」

 ――みんなの憧憬を取り戻す、ちからになりたいんだ。


 END.


元スレ
穏乃「いつもあったかいかっこうをしたお花」