SS速報VIP:小宮果穂「クズミさんがゴミを捨て」
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1: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:20:51.08 ID:sPru/fk9O

『MIU404』の登場人物、久住(演:菅田将暉)と小宮果穂が公園で出会って話をするSSです。

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2: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:23:01.68 ID:sPru/fk9O


「いつもこんなゴミ溜めの中に埋まっていると、それを求めてしまうし、それが安心になるんだわ。」 ──ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『ゴミ、都市そして死』





久住「暑いなぁ~」


 影の無い白く光る通りを歩きながら、久住は紙袋を持った手をぶらぶらさせながらまいったように声をあげた。


久住「あかん、ちょっと休も」


 若々しい緑色が目に入り、そちらに目を向けると桜の木に囲まれた公園が地面に影を作り、避暑地のふりをして人を呼び込んでいるのが見えた。

 そこはすべり台、ブランコ、ジャングルジムといった典型的な遊具がある典型的な公園だった。

 久住は空き缶やペットボトルが無分別のまま溢れ出しているゴミ箱を一瞥してから自販機に小銭をいれた。500mlペットボトルのコーラを買うと、久住はベンチを探して公園を見渡しながら歩いた。




3: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:24:24.68 ID:sPru/fk9O


 その女の子はすらっとした長い脚をピンと伸ばし、木陰になっているベンチで一息ついているように上を向いていた。暑さにまいって脱力しているのか、ベンチに浅く腰掛けいまにもずり落ちてしまいそうだったが90度の角度に足首が曲がっていて、踵のところだけがストッパーの役割をして女の子をベンチに留めいていた。

 女の子は足音に気づくと顔を上げ、仕切りの向こうに置いてあった荷物を自分の膝の上に置き、久住のために座る場所を作った。


久住「ええの?」

果穂「はい。影になってるのこっちだけですから」


 女の子の言う通り、木陰にあるのはそのベンチだけだった。


久住「じゃ、ちょっととなり失礼しますー」


 久住はそう言いベンチに腰掛けると、ペットボトルの蓋を開け黒く泡立つコーラを飲み出した。

 半分以上を一気に飲み下し、爽快な気分とともにゲップをした。

 ペットボトルを口から離した久住は隣の女の子がキラキラした目でこちらを見ていることに気づいた。






4: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:25:44.55 ID:sPru/fk9O


久住「なに?」

果穂「あっ、ごめんなさい。コーラをごくごく飲めるの凄いなって……」

久住「あー、まあこんだけ暑いとなー。そっちは? 水分補給ちゃんとしてる?」

果穂「はい! マイボトルです! これでごみを出さずにすむんです! サステーナボゥ……ディベロップメン……ゴーです!」

久住「声大きいなー」


 久住は果穂に好ましい笑みを向けた。


果穂「えへへ、よく言われます」

久住「ここで何してんの? 待ち合わせ?」

果穂「はい。これから友だちと遊びに行くんです」

久住「こんなあっつい日に外で待ち合わせとか死ぬで。近くにコンビニあるから電話して場所そこに変えたらええのに」

果穂「友だち、スマホまだ持ってなくて」

久住「いまどき珍しいなー。自分、高校生やろ?」

果穂「いえ、小学六年生です!」

久住「ほんまに? うわー、しっかりしとるからもっと大人や思った」


 久住のリアクションは相手の気を良くさせるほど良い大げささを纏っていて、果穂は自分が大人っぽくみられたことに照れくさく思いながらも悪い気はしなかった。




5: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:26:34.29 ID:sPru/fk9O


久住「小六かー。中学なったらめっちゃ部活の勧誘きそうやん。いまなんかスポーツとかやってるん?」

果穂「じつはあたし、アイドルなんです!」

久住「えーっ、マジで? 」

果穂「はいっ! 小宮果穂、放課後クライマックスガールズです!」

久住「小宮の果穂ちゃんか、ちょっとググってええ?」


 久住はスマホで果穂が名乗ったグループ名を検索し、コードレスイヤホンで曲を視聴した。久住は曲に合わせるように頭を小刻みに揺らし、果穂は久住がリズムをとっている様子をドキドキしながら見守っていた。


久住「ええ曲やん。果穂ちゃんの声一発でわかったわ」

果穂「ほんとですか!? ありがとうございます!」

久住「ええもん教えてもろたわー。あ、そや」


 久住は思い出したかのようにベンチに置いてあった紙袋を持ち上げ、袋の口を開いて果穂に差し出した。




6: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:27:58.63 ID:sPru/fk9O


久住「果穂ちゃん、ドーナツ食べる?」

果穂「いいんですか!?」

久住「ええよ、ええ曲教えてくれたお礼」


 紙袋のなかのドーナツはカラフルでとても目を引いた。ストロベリーミルクのピンク、抹茶の濃い緑、チョコレートとホワイトチョコレート、サクサクしていそうな狐色のオールドファッション、スプリンクルがまぶされたおいしそうなドーナツたち。果穂の目は輝き、どれを選ぼうか本気で迷った。ついに果穂がどれにするかを決めドーナツに手を伸ばしたそのとき、久住は紙袋を持った手を引っ込めた。


久住「あ、あかん。知らん人からもの貰うんはよくないわ」

果穂「えーっ」

久住「ごめんなー。てかこのシュチュエーションもあかんな。子どもが知らん人とふたりきりってのは通報もんやで」

果穂「でも、お兄さんは悪い人に見えないです」

久住「果穂ちゃん、おれが悪い人やないってなんで分かるん?」


 久住は笑いながら言った。声はそれまでとまったく変わっていなかった。変わっていなかったにもかかわらず、果穂はさっきまでと同じように久住と話すことができないと唐突に悟った。





7: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:29:22.00 ID:sPru/fk9O


久住「ほんとに悪い奴は悪いことせぇへんで」

久住「悪い奴ほどよく眠るって言うてな、金も権力もある奴は貧乏人のアホどもに悪いことさせんねん」

久住「金ある奴と金ない奴の差はこの先どんどん開いてくからなー、悪いことさせ放題やで」


 久住は残っていたコーラを飲み干すと、「あー、うま」とつぶやきベンチから腰をあげた。


久住「ほな果穂ちゃん、お話できて楽しかったわー」

果穂「あ、あのっ!」


 立ち去ろうとする久住に追いすがるように果穂はベンチから立ち上がり、必死な声で叫んだ。


果穂「わ、悪いひとならヒーローがやっつけてくれます! だから……」

久住「いやー、果穂ちゃん、ヒーローが人殺すのはあかんわ。ザック・スナイダーか」

果穂「えっ……ち、ちがいます! ヒーローはそんなこと……」

久住「ま、どうでもええけどな」


 久住は心の底からどうでもよさそうにつぶやいた。




8: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:30:29.04 ID:sPru/fk9O


 さっきまで果穂の心をはずませ、ウキウキさせてきたものが目の前の青年から一挙に消え去ったことが果穂には一目でわかった。

 それは、果穂にとってとてもおそろしいことだった。


久住「悪い奴も所詮は人間やからな。できることなんて神さまに比べてたらたかが知れとるで。知っとる、果穂ちゃん? 教会の屋根が崩落して一〇〇人以上死んだ信者が祈ってたのも、飛行機乗っ取ってビルに突っ込んだやつらが信じとったのもおんなじ神さまなんやって。いやー、すごいわ。聖書とか人類史上もっとも過激なスプラッターやで。神さまは指先ひとつでどえらい泥水呼んで、一瞬で街も人もぜんぶ浚ろうてまう。いい人も悪い人もぜーんぶのうなってゴミばっか残って、時間がたてばそのゴミのこともみんな忘れて、なかったことになる。ほら、来年にはオリンピックやん? あー、でも神さまは理不尽やからオリンピックものうなったりしてな」


 久住はまた人懐こい笑顔を見せたが、果穂がもうこの男といっしょに笑うことはできなかった。


久住「悪い奴には気ぃつけなー、果穂ちゃん」


 久住は果穂に手を振りながら公園から立ち去った。出口の前まで歩いて行ったとき、ふと思い出したように手に持っていたドーナツの紙袋を自販機横のゴミで溢れたゴミ箱に捨てていった。




9: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:31:32.39 ID:sPru/fk9O


 果穂はベンチにへたりこみ、太陽の光がさんさんと降り注ぎ、清潔で真っ白な公園をただただ見つめていた。暑さのせいで汗だくだったが果穂が感じていたのは悪寒だった。洪水に飲み込まれたかのように全身がびしょ濡れになっていた。陽炎の揺らめきが次第に本物の火に見え、その火は公園の木や遊具や街の人や子どもを焼き始めた。そのあとの光景は社会見学で行ったごみ焼却場で出た灰の山のようだった。

 幻影はすぐに消えたが、その余韻はひどく重く残った。打ちのめされた気分だった。果穂は敗北感を味わっていた。ヒーローのように。

 果穂はヒーローだったらこういうときどうするか考えた。


果穂「ヒーローなら、立ち上がる……」


 果穂はそうひとりごち、そのとおりにした。

 思ったより立ち上がるのは簡単だった。むしろ勢いがつきすぎて前に倒れそうになったくらいだった。立ち上がりはしたが、足元はふらふらしていた。果穂はマイボトルからスポーツドリンクを飲もうとしたが、あまり残っておらず水分を渇望する身体にはまったく足りなかった。

 自販機が目に入り、果穂はふらつきながらそこへ向かって歩き出した。




10: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:32:36.85 ID:sPru/fk9O


 飲み物を買おうとしたとき、果穂は久住が捨てていったドーナツの紙袋に気づいた。

 果穂は紙袋を手に取った。袋の中にはドーナツが手付かずのまま残されていた。

 悲劇に間に合わなかったヒーローのように果穂は涙を流した。ドーナツを捨てることも、食べることもできそうになかった。かといって、ゴミを出した久住を悪い人と責めることもしたくなかった。その人のやったこととその人自身を安易に同一化せず、分別して考えることを果穂は無意識に実行していた。

 果穂は涙で濡れた目元をゴシゴシ拭いた。そして自販機に背を向け、水飲み場へ向かった。蛇口をひねり、吹き上がってきた水をお腹がたぷたぷになるまで飲んだ。

 ドーナツの紙袋はまだ抱えていた。この紙袋をどうするべきか、果穂にはまだわからなかった。それでも果穂は、せめて今日一日だけでも、久住が捨てていったこのドーナツの入った紙袋を抱えていこうと心に決めた。
 





11: ◆eodXldT6W6 2020/09/06(日) 07:40:00.51 ID:sPru/fk9O


以上です。

久住って果穂ちゃんとめっちゃ仲良く話ししてそうだなって思ったあと、五味(ゴミ)やトラッシュといった別名を持つ見た目フィリップの久住がアジェンダ283を経た果穂ちゃんにとってヴィランなるんじゃないかと思って書いてみました。

ちなみに菅田将暉、ミスタードーナツのアンバサダーになったみたいです。タイミング…


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