6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 04:38:08.54 ID:TjYT2z9O0
憩「宥さんは極度の冷え症でしたね。その後調子はどない?」
宥「はい…ごめんなさい…よく分からないです…」フルフル
憩「うーん、良く変わらないってとこかな? よく分からないって言われたらこっちもなんも分かれへんよ」ポリポリ
宥「ごめんなさい…」フルフル
憩「あーいやいや、こっちこそごめんな?
大丈夫、ゆーっくり治していけばええよ。お薬は飲んでるんやんね?」
宥「はい…」
憩「効き目はどう?」
宥「はい…飲んでからしばらくすると…少しだけ寒気が取れますけど…
またしばらくすると元に戻ります…」フルフル
憩「そかー。中々手強いみたいやねぇ。」
>>2いや、違います。荒川さんは普通の町医者の設定
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 04:44:41.05 ID:TjYT2z9O0
宥「すいません…」フルフル
憩「もー、せやから謝らんといてーなー。謝りたいのは早く宥さんのお病気を治せへんこっちなんやから。
ともかく、しばらくこのお薬続けましょっか。時間かかるかもしれへんけど、頑張ろなー?」
宥「は、はい…!」グッ
憩「にしても、うーん。何が原因なんやろか…。それが分かったら少しは前進なんやけどなぁ
宥さん何か心当たりはあれへん?」
宥「心当たり…ですか…」フルフル
―――『ははは、可愛いお嬢ちゃんちゃんじゃねえか!』
―――『おいで嬢ちゃん、頭撫でてやるから!』
―――『え、えへへ…』オズオズ
―――『へへ…』ガッ
宥「―――!」ゾクッ
宥「え、えへへ…ちょ、ちょっと分かんないです…ごめ…あ…」モゴモゴ
憩「そっかそっか、ええよ気にせんで!その辺もゆっくり考えていくさかい。
あ、謝らんといてといてって言うのは分かってくれたみたいやね」ニコ
宥「はい…」ニコ
憩「ほな今日の診察はここまでゆうことで。前と同じお薬出しときますね。
次はまた今度の金曜日で大丈夫?」
宥「はい、大丈夫です」
憩「ほなまた、一週間後に。お大事にねー。」フリフリ
宥「ありがとうございました。失礼します。」ぺっこりん ガラ
「次、福路さんどうぞー」
美穂子「上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん…」ブツブツフラフラ
宥(この人も重いのね…)
―――病院の外
宥(…ふぅ。今日も寒いなぁ…)
宥(インハイが終わってから、さすがに治さなきゃって思って、玄ちゃんには秘密で通い始めたけど…)
宥(正直、一向によくなる気配はないよ…)
宥(荒川先生もいい人なのに…治さなきゃ申し訳ないよね…)
宥(普段から体も暖かくして…自分から人に暖かく接するようにして…)
宥(周りの人も暖かくしてくれて…そんな風にしてたら、治ると思ってたけど…)
宥(この何年間、ずっと何も変わってない…)
宥(暖かくしてくれる周りの人にも申し訳ないよ…)
宥(原因、か…)
宥(やっぱり、あの出来事以来…だよね…っ…!)カタカタ
宥(ダメ…!先生に、話さなきゃいけないのに…やっぱり怖いよ…!)ブルブル
宥(今日だって、本当は話さなきゃいけなかったのに…っ…!思い出すのが、怖くて…)ガタガタ
宥(話さなきゃ…話さなきゃ、前に進めない…でも誰に…? 先生? 玄ちゃん…?
ダメだよ…玄ちゃんにこれ以上、心配は…かけられない、し…)ガクガク
シロ「…」ボー
シロ(あの人、確か阿知賀の…テレビで見た…なんか震えてるけど、大丈夫かな?)
宥(…あれ…あのベンチに座ってる人…インハイ…テレビで、見た、ような…)ガクガク
宥(確か、東北の方の…薄着…寒そう…)ガクガク
宥(だけど…なん、だか、暖かいそうな…ひと…だ…な…)フラ…
宥(あ…だめ…)フッ
シロ「!?」ダッ
ポスッ
『………うん………ばらく、………から………帰れな………』
宥(…)
宥(あれ…ここは…なんだろ、暖かい…)
宥(あんなに、寒かった、のに)
宥(私は…そう、麻雀が好きで…名前は宥で…)
宥(えっと、病気、を、治す為に、荒川先生の所に行って、その帰り…)
宥(…)ボー
『やれやれ、いきなり奈良に行きたいって飛び出したと思ったら…どんなだけ自由なのさあんたは!』
『いつまでいるつもりなの!?』
『お金はどーするのさー?』
『シロ!心配サセナイノ!』
シロ「一遍に喋らないで…ダルい…」
宥(電話…? というか、この人は…?)
宥(えっと、確か、そう、宮守高校の…なんでここに…なんでこの人の所に私いるんだろ…)
宥(私、東北に来てたっけ…来てないよね…)
シロ「多分もう二週間くらい…ホテルに泊まる…お金は、お父さんが送ってくれるから問題ない…」
『早くシロに会いたいよー!えーん!』
『はぁ…ごめん豊音、こうなったこいつは言っても聞かないから…』
『とにかく!気が済んだらさっさと帰ってくること!心配するからこまめに連絡もしてね!』
シロ「うん、うん…分かった…じゃあそろそろ切るから」ピッ
宥(確か、ベンチにこの人が座ってたのを見て…そこで気を失って…)
宥(寝てる…柔らかくて、暖かい…って)
宥「ひざ!?」ガバッ
宥「はわわっ…///」アセアセ
シロ「あ、起きたね」
宥「あ、あのう…えっと…」オズオズ
シロ「?」
宥「えっと、ご迷惑を、おかけしたんでしょうか…?」
シロ「んー、たいしたことはしてないよ」
シロ「そこのベンチに座ってたら、あなたが震えながら歩いてきて、急に気を失ったから」
シロ「介抱って呼べるほどじゃないけど、取り敢えず寝かせてた」
シロ「ベンチに直だと固いし」
宥「うう…すいません…やっぱりご迷惑を…」カァァ
シロ「…」
シロ「迷惑なんかじゃ、ない」
シロ「あんな風になっちゃう時は、誰かに頼らざるを得ないし」
シロ「その時そこにいたのが私だから、私が出来ることをしただけ」
シロ「単純なことだよ。そんなことで、迷惑だ、なんて言っても始まらない」
シロ「でしょ。」
シロ「それに…私もあなたを寝かせてる間、暖かかったし」
シロ「イーブン、イーブン」
宥「いーぶん…」
シロ「そう。イーブン」
宥「あ…りがとう、ございます…」
シロ「うん。どうしたしまして」
宥「私、見たら分かると思うんですけど、暖かいの大好きで」
シロ「それはもう焚き火の火を見るように」
宥「だから、暖かいなぁって思ったらつい口に出しちゃうんです」
シロ「いや、その恰好で暖かくないってことは有り得ないでしょ」
宥「あの、えと、そうじゃなくて…」
シロ「…」
宥「…あの、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか…」
シロ「あ、うん。白望。小瀬川、白望。白に、希望の望で、しろみ。」
シロ「あなたは?」
宥「…松実、宥です。それで、その…」
宥「…その、白望さんが、すごく、暖かいなぁ、って…」
シロ「…え」
宥「その、白望さんの膝の上が、すごく暖かくて、それで、つい…」
シロ「…うー」ガシガシ
シロ「…ちょいタンマ」
宥「…たんま?」
シロ「…んん…うん。その…」
シロ「ありがと。その…私も、あなたを温められて、嬉しい、です…」フイッ
宥「あ…いえ…本当のことなので…」
宥(あうう…困らせちゃったかな…)
宥「…」ホゥ
シロ「…さすがに、寒いね」
宥「…そうですね」
シロ「…そろそろ、帰った方がいいんじゃない?」
シロ「あ、何か用事だったのかもしれないけど、その用事はキャンセルして、ね…」
宥「あ、いえ…ご心配ありがとうございます…ちょうど帰る所だったので…」
シロ「うん…まだ帰れそうになかったら、私の泊まってるホテルが近くにあるから、休んでいってね」
宥「ありがとうございます。大丈夫です。それじゃ…」スッ
ヒュウウウウウウ
シロ「わ、寒、風…」
宥(…!)ドクン
宥「う、あ、うあ、ああああうう…!」ガクガク
シロ「ちょ…!あなた、また、震えて…!」
宥「あ、あの、白望…さん…?」ガクガク
シロ「…はい」
宥「や…やっぱり…その…休ませてもらってもいいですかぁ!?」ガクガクウルウル
シロ「…ふぅ。嫌だって言っても無理矢理連れてくよ」
―――奈良県某所ホテル・シロの部屋
宥「…」ガタガタ
シロ(…宥さん…暖かい所に入ったのに震えたまんまで…)
シロ「…ソファ、座って」
宥「…ありがと…ございます…」ブルブル
シロ(取り敢えず休める所に連れて来たのはいいけど…)
シロ(震えを止める方法が分からない…)
シロ(このまま震えが止まるのを待つ? それとも何かした方がいいんだろうか?)
シロ(待つ…なんて嫌だ。こんなに苦しんでるこの人を前に、何もしてあげられないなんて…)ギュッ(宥の手を握る)
宥「…」ギュウ
シロ(宥さんが提げてるビニール袋…さっきは気付かなかったけど、病院の袋みたいだ。
つまり、宥さんは既に専門家に見てもらった後…私は何も知らないただの一般人…)
シロ(…分からない。私に出来ることはないのかな)
シロ(…何だか、麻雀に似てるな。こんな時になんだけど)フゥ
シロ(どうにかしたいのに、どうにかする方法がない。ただ待つしか出来ない)
シロ(…)ガシガシ
シロ(…私に、出来ること…。震え、か…)
シロ「…ごめんね。ちょっとだけ手、放す」
シロ「ホテルの人に、暖かい飲み物持ってきてもらうから…コーヒーでいい?」
宥「…」コクン
シロ「分かった…」スッ
シロ「…もしもし、203号室の小瀬川ですけど…」
宥(ダメだな…私、先生にもちゃんと治してもらえずに、また今会ったばかりの小瀬川さんに迷惑かけちゃうなんて…)
宥(あの時、お母さんにも玄ちゃんにも、沢山迷惑かけたのに…)
宥(…でも…)
宥(ダメだよ…私、こんなこと思っちゃ…でも…)
宥(小瀬川さん…すごく、暖かい…こんな状態の私でも、傍にいていいって思っちゃうくらい…)
宥(…この部屋…とても暖かい…)
シロ「…、はい、よろしくお願いします」
シロ「ふぅ。ただいま」
宥「…」ギュッ
シロ「!…」ギュ
宥「…」
シロ「…」
宥「…あの…」
シロ「…何?」
宥「…ごめんなさい…」
シロ「…」
シロ「大丈夫だよ」
シロ「私達は、会ったばかりかもしれないけど」
シロ「私は、宥さんの味方、だから」
シロ「謝らないで。」
宥「…ごめんなさい」
シロ「…ごめんね」ギュ
宥「…!」
シロ「私は、抱き締めることくらいしか出来ないけど…」
シロ「傍にいることくらいしか、出来ないけど」
シロ「それでも、私に出来ることなら、何でもするから…」
宥「…あ…」
宥「ありが…とう…」グッ
シロ「…うん。」
宥「…」
コンコン
シロ「はい」タッ
「失礼するし!小瀬川様、コーヒーお持ちだし!300円だし!」
シロ「はい。300円ですね」ジャラ
「ありがとうございましただし!失礼しました、ごゆっくりだし!」
バタム
シロ「さ、飲んで」
宥「ありがとうございます…」
シロ(…幼稚園児並の発想だけど…取り敢えず、体を中から暖めれば震えがマシになるかもしれない…)
宥「…」ズズ…コク…
宥(静か…私がコーヒーを飲む音、だけ)
宥(まるで時間が流れてないみたい…)
宥「…ほぅ」コト
シロ「…手、握るね」ギュッ
宥「…はい」
シロ「…」ニコ
シロ「よかった…震え、止まってる」
宥「…はい!」
宥(…シロさんが笑ってくれた…暖かい…)
シロ「…その袋。荒川医院の、だよね?」
宥「…うん」
シロ「…これは、病気、なの?」
宥「…病気だと思います」
シロ「先生は、なんて?」
宥「…よく分かりません…お薬を飲んで、としか…」
シロ「…い…」
シロ「…」
シロ「…いつから、なの?」
宥「っ―――!」ビクン
シロ「宥さん! ごめん、大丈夫!? 無神経な質問したよね、答えられないことなら答えないで――」
宥「ごめんなさい!」
シロ「…どうして謝るの?」
宥「私、前に進まなきゃ…シロさんにこんなに優しくしてもらって、玄ちゃんや麻雀部の皆にいつも暖かさをもらってて」
宥「なのに、まだ怖いの…まだ怖さが消えないの!!」
宥「弱い私でごめんなさい…」
宥「弱くて…こんなに皆の力を貰っても、まだ前に進むのが怖くって…」
宥「でも…だからこそ、前に進みたい。ううん、進まなきゃ」
宥「ごめんなさい。こんなに迷惑かけて、その上勝手なお願いなんですけど」
宥「シロさん。私の昔の話…聞いてください…」
シロ(…なんて)
シロ(…なんて綺麗で、まっすぐで…それでいて、揺れて、儚げな、瞳…)
シロ(…美しい…)
シロ「…こんな私でも、宥さんの話を聞くことで、宥さんが前に進む力になれるなら」
シロ「私からお願い。宥さんの過去…聞かせて、ください」
宥「…はい…」
確か、10歳か11歳くらいの時だったと思います…
家は宿をやってるんですが、忙しい時は私たちも…あ、妹がいるんですけど…
シロ「インハイに出てたよね…確か、松実玄さん」
宥「はい、玄ちゃんです…」
忙しいときは宿の手伝いをしていました、部屋を掃除したり、お料理を運んだり…
それで、観光シーズンの休日、秋も深まってきた頃だったと思います…
いつものように私もお手伝いをしていました…
それで、その時男の方二人組のお客さんがいらっしゃって…
そのお二人の注文で、私がお部屋にお酒を持っていくことになって…
宥「げほっ!けほ、げほ、げほ!はぁ、はぁ…」
シロ「宥さん!?大丈夫!?無理しなくていいから、ゆっくり…」
宥「大丈夫です、ありがとうございます…続けますね…」
『ははは、可愛いお嬢ちゃんちゃんじゃねえか!』
『おいで嬢ちゃん、頭撫でてやるから!』
『え、えへへ…』オズオズ
『へへ…』ガッ
『ほぇ?』
『へへ、おいお前よく見ろよ!可愛いとは言ったが、見れば見るほど可愛い顔してるぜこの嬢ちゃん!』
『ああ、そうだなぁ。たまんねぇなぁ。俺はこういうおっとり系のがたまんねぇんだよ』
『ふぇ…あ、あの…離して下さい…』
『おい聞いたか今の、声まで最高じゃねぇか』
『ああ、本当だなぁ。浴衣もよく似合ってるし最高だなぁ。俺ぁもう辛抱たまんなくなって来たぜ』ガシッ
ドサッ ガシャン
『やぁ!お、お酒が…!冷たい!な、何するんですか…ダメですよ…』フルフル
『おいお前ここ触ってみろよ、たまんねぇぜ』サワサワ
『どれどれ…おお、これはたまんねぇ、こんなに小さいのに立派に育ってやがる』サワサワ
『あぁ…お願いします…やめてください…』カタカタ
『なぁ、もう脱がしちまおうぜ』スルスル
『そりゃ最高だな、そうしよう』スルスル
『いや…いや…』ガタガタ
『ひょぉ!俺ぁこんないいもん見たことねぇぜ!』
『旅館で働く美少女の裸かぁ、こりゃ一生もんだな、たまんねぇぜ!』
『はは、ちげえねぇ!』
『『ははははは!』』
『いや、いやだよ…!触らないで…!手、冷たい…!寒いよ…!嫌だよぉぉ…っ!』
『ちょっと!あなたたち、何してるんですか!』
それで、私はなんとか危ないところを免れて…
でもその時の記憶は頭の中にこびりついて、離れなくて…
特にあの手やかかったお酒の冷たさ、空気の寒さが恐怖と結びついてずっと残ってて…
その周辺の記憶はあまりないんですけど、お母さんや玄ちゃんにすっごく慰めてもらって…
カウンセラーさんにも通って…
寒さを感じるとあの時のことを思い出して辛くなるから、うんと厚着もするようになって…
しばらくは不安定だったけど、皆が良くしてくれて、段々落ち着いてきて…
宥「だけど…」フルフル
シロ「…うん」
宥「そんな時、お母さんが突然亡くなって…」
シロ「!…うん」
宥「私が不安になったり辛くなったりした時に一番頼りにしていたのがお母さんでした…」
宥「そのお母さんがいなくなって…お父さんと、玄ちゃんと、頑張って乗り越えて行こうね、って何度も言い合って…」
宥「玄ちゃんなんか、体の弱い私を守るんだって、張り切ってくれて…実際玄ちゃんには何度も助けられて」
宥「私も皆を心配させるわけには行かないって、思って、もうあの時のことはなんともないと思い込んで」
宥「そうやっていれば大丈夫だと思って生きてました…」
宥「でも…!まだ、あの時のことが忘れられなくて…!」
宥「ことあるごとに思い出して…でも、皆を心配させたくなくて…」
宥「だから私、辛くっても隠すようにしてずっとやってきたんですけど…」
宥「隠せば隠すほど辛さは増していって…もう限界で…!」
宥「最近は荒川さんの所…病院にも通っているんですけど、それでよくなるかも不安で…」
シロ「そう…そうだったんだ」
シロ「大変だったね…辛かったね」
宥「う…あ…」
シロ「でも、ここなら大丈夫だから…何も気にしなくていい。好きなだけ辛くなればいい」
シロ「好きなだけ泣いていいから…」
宥「うぁ…ああああああああ!」ぽろぽろ
シロ「大丈夫だよ…」
宥「うわああああああああああ!シロさん…!シロさあああああん!」ぎゅっ
シロ「うん…」ぎゅう
―――三十分後
宥「ありがとうございます…シロさん」
シロ「ううん…」
シロ「ていうか、もう敬語とさん付けはダルい」
宥「あっ、うん…分か、分かったよ、シロちゃん」
シロ「ん…」
シロ「泣き疲れたよね…コーヒー、もう一杯飲む? 私も飲みたいし…」
宥「あ、うん。頂くよ」
―――
シロ「…」ズズ
宥「暖かい…」ズズ
シロ「うん…」
宥「…」ホゥ
宥「あの…手紙書くから…もしよかったら住所教えてくれないかな…」
宥「あ、ていうか携帯の番号登録すればいいよね!でも手紙も書きたいし…」
シロ「ふふ、分かったよ…ありがと」
シロ「これが住所で…ん、携帯出して…送信完了っと…次は受信して…」
シロ「それと…まだ私しばらくはここにいるから」
宥「ほぇ!? えっと、シロちゃんは旅行中、じゃないの…?」
シロ「そんな感じだったけど…」
シロ「用事が出来たから」
宥「えっ…それって、あの…」
シロ「そんな簡単には、忘れらないと思うし、まだ辛くなることはあると思うから…」
シロ「また、辛くなればここに来ればいい…出かけてても、メールくれればすぐに帰るから」
宥「シロちゃん…」
宥「ありがとう…!」ウルウル
シロ「ううん…」
シロ「でも、ちゃんと家族の人にも話すこと。ずっとはいられないし、これから自分の力で乗り越えていかなきゃならないことだから」
シロ「その為にも、家族の力は必要だと思うから。妹さんにも、ね」
宥「シロちゃん…分かった、そうするね」
シロ「…」ズズ
―――
宥「…それで、小瀬川さんに話を聞いてもらって、慰めてもらったの」
玄「ふぇ…っ…シロさん!シロさああああああん!うわあああああん!
有難うございます…!お姉ちゃんを慰めてくれて…!
私もうなんてお礼を言ったらいいか…!ぐすっ…
私バカだ…寒がりのお姉ちゃんを見て…ずっと見てて…まだ傷が癒えてないことにも
気付かないなんて…妹失格です…ぐすっ…」
シロ「そんな、お礼なんて…宥をこれまで守っていてくれたのは玄ちゃんでしょ。
私にお礼なんて言わなくていい。玄ちゃんは今まで通り宥を守ってあげて。
私は私の出来ることをしただけ。
玄ちゃんがしてきたこと、出来ることは、とても立派なことだよ」
玄「スン…うん…ありがとうございます…シロさん…本当に!」
宥「ごめんね…二人とも…ありがとう…」
シロ「謝らないで。これから悪いのは宥に乱暴したその男なんだから」
玄「そうだよ!お姉ちゃんは悪くないから!」
玄「これから私、もっとお姉ちゃんのこと守るから!だからお願いだよ、なんでも話してね…?」
宥「玄ちゃん…ありがとうー!大好きだよお!」ぎゅっ
玄「私の方が大好きだもんー!お姉ちゃあああん
玄「私の方が大好きだもんー!お姉ちゃあああああん!」ぎゅう
―――
宥「…明日で、二週間になるね」
シロ「うん…明日には帰らなきゃ」
宥「ほんとにありがとうね」
宥「もう辛くなることも全然なくなったし、世界が全部違って見えるよ」
宥「何より、玄ちゃんともっと仲良くなれて…えへへ…」
宥「これも全て、シロちゃんが傍にいてくれたおかげだよ?」
シロ「どういたしまして…そこまでストレートに言われると、何か照れるけど」
シロ「私は、私が出来ること、したいことをしただけだから…」
宥「シロちゃんは、そういう人なんだね」
シロ「…」ポリポリ
シロ「暖かい」
宥「え?」
シロ「恥ずかしいけど、宥にお礼言ってもらえて、なんかすごい暖かい、と思ったんだ」
シロ「それだけじゃない、宥と過ごしたこの二週間、宥と一緒にいた時間」
シロ「いつも、いつにも感じたことのないくらい暖かい気持ちになれた」
シロ「だから私も。ありがと、宥」フイッ
宥「シロちゃん…」カァァ
宥「…」ズズ
シロ「…」ズズ
宥「…あの」
シロ「何?」
宥「はい、えっと、その…っしょに…えと…」ゴニョゴニョ
シロ「もう、何さ?」
宥「はい!そ、その…お互い大人になって…自分たちで暮らしていけるくらいになったら…その…」
宥「い、一緒に、暮らしませんか!?」カァァー
シロ「え…」カァ
シロ「そ、その…」
シロ「私も、その…宥と、一緒に暮らしたいな…」
シロ「だから、うん…その提案には頷きで返したいっていうか…」
シロ「よ、よろしくお願いします…」カァァァ
宥「シロちゃん…!」パァァ
宥「ふふっ、顔あかーい」
シロ「ゆ、宥だって…」
宥「珍しいね、シロちゃんがそんな風になるの」
シロ「ダルい…」
宥「ふふっ…」ギュ
シロ「…」ギュウ
宥「暖かいねー…」
シロ「…うん」
―――とある家の庭
少女「うわああああああああああん!わあああああああああああん!」
少女「ゆう…ゆう…なんで死んじゃったの?」
少女「あんなに元気だったのに…」
少女「あんなに遊んだのに…」
少女「もうボールを投げて遊んだり、一緒にかけっこしたり出来ないの…?」
少女「嫌だよ…!ゆう、ゆう…!ねえ、起きて、また一緒に遊んでよ、ゆう…!」
少女「ねえ!お母さん!お父さん!ゆうはなんで死んじゃったの!?」
少女「お母さん!お父さん!居ないの!?どこに居るの!?」
母「あなた、また麻雀なの?本当に好きなのねぇ」
父「お前こそまたあのママ友方とお料理教室だろ?」
父・母「「ふふっ」」
少女「お父さん!お母さん!聞いてるの!?ねえ!」
父「そういうことだから、いい子でお留守番してるんだぞ」
母「ゆうがいなくなって寂しいけど、一人で遊んでいてね」
少女「ねえ!お父さん!お母さん!行かないで!」
少女「寂しいよ…辛いよ…側にいて…」
少女「お願い…ゆう…側に…」
――――
白望「ゆう…ゆう…」モゾモゾ
『シロちゃーん?まだ起きないのー?』
白望「ん…ゆう…宥…?」
宥「もう、お休みだからっていつまで寝てるの? もうお昼だよ?」
白望「宥…」
白望「おはよ…」
宥「おはよ、シロちゃん。ご飯出来てるよ」ニコッ
白望「ありがと…今食べに行く…」
宥「そんなに遅くまで寝てたらめっ!だからね?」
白望「ごめんよ…この低血圧は生来のものでして…」
宥「ほんとに、仕方ないなぁ…お寝坊の罰として、お皿はシロちゃんが洗ってね?」
白望「えぇー…マジすか…」
白望「ダルい…」
カン
元スレ
宥「すいません…」フルフル
憩「もー、せやから謝らんといてーなー。謝りたいのは早く宥さんのお病気を治せへんこっちなんやから。
ともかく、しばらくこのお薬続けましょっか。時間かかるかもしれへんけど、頑張ろなー?」
宥「は、はい…!」グッ
憩「にしても、うーん。何が原因なんやろか…。それが分かったら少しは前進なんやけどなぁ
宥さん何か心当たりはあれへん?」
宥「心当たり…ですか…」フルフル
―――『ははは、可愛いお嬢ちゃんちゃんじゃねえか!』
―――『おいで嬢ちゃん、頭撫でてやるから!』
―――『え、えへへ…』オズオズ
―――『へへ…』ガッ
宥「―――!」ゾクッ
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 04:53:35.35 ID:TjYT2z9O0
宥「え、えへへ…ちょ、ちょっと分かんないです…ごめ…あ…」モゴモゴ
憩「そっかそっか、ええよ気にせんで!その辺もゆっくり考えていくさかい。
あ、謝らんといてといてって言うのは分かってくれたみたいやね」ニコ
宥「はい…」ニコ
憩「ほな今日の診察はここまでゆうことで。前と同じお薬出しときますね。
次はまた今度の金曜日で大丈夫?」
宥「はい、大丈夫です」
憩「ほなまた、一週間後に。お大事にねー。」フリフリ
宥「ありがとうございました。失礼します。」ぺっこりん ガラ
「次、福路さんどうぞー」
美穂子「上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん…」ブツブツフラフラ
宥(この人も重いのね…)
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:00:11.88 ID:TjYT2z9O0
―――病院の外
宥(…ふぅ。今日も寒いなぁ…)
宥(インハイが終わってから、さすがに治さなきゃって思って、玄ちゃんには秘密で通い始めたけど…)
宥(正直、一向によくなる気配はないよ…)
宥(荒川先生もいい人なのに…治さなきゃ申し訳ないよね…)
宥(普段から体も暖かくして…自分から人に暖かく接するようにして…)
宥(周りの人も暖かくしてくれて…そんな風にしてたら、治ると思ってたけど…)
宥(この何年間、ずっと何も変わってない…)
宥(暖かくしてくれる周りの人にも申し訳ないよ…)
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:08:07.38 ID:TjYT2z9O0
宥(原因、か…)
宥(やっぱり、あの出来事以来…だよね…っ…!)カタカタ
宥(ダメ…!先生に、話さなきゃいけないのに…やっぱり怖いよ…!)ブルブル
宥(今日だって、本当は話さなきゃいけなかったのに…っ…!思い出すのが、怖くて…)ガタガタ
宥(話さなきゃ…話さなきゃ、前に進めない…でも誰に…? 先生? 玄ちゃん…?
ダメだよ…玄ちゃんにこれ以上、心配は…かけられない、し…)ガクガク
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:15:04.70 ID:TjYT2z9O0
シロ「…」ボー
シロ(あの人、確か阿知賀の…テレビで見た…なんか震えてるけど、大丈夫かな?)
宥(…あれ…あのベンチに座ってる人…インハイ…テレビで、見た、ような…)ガクガク
宥(確か、東北の方の…薄着…寒そう…)ガクガク
宥(だけど…なん、だか、暖かいそうな…ひと…だ…な…)フラ…
宥(あ…だめ…)フッ
シロ「!?」ダッ
ポスッ
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:22:28.63 ID:TjYT2z9O0
『………うん………ばらく、………から………帰れな………』
宥(…)
宥(あれ…ここは…なんだろ、暖かい…)
宥(あんなに、寒かった、のに)
宥(私は…そう、麻雀が好きで…名前は宥で…)
宥(えっと、病気、を、治す為に、荒川先生の所に行って、その帰り…)
宥(…)ボー
『やれやれ、いきなり奈良に行きたいって飛び出したと思ったら…どんなだけ自由なのさあんたは!』
『いつまでいるつもりなの!?』
『お金はどーするのさー?』
『シロ!心配サセナイノ!』
シロ「一遍に喋らないで…ダルい…」
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:29:03.92 ID:TjYT2z9O0
宥(電話…? というか、この人は…?)
宥(えっと、確か、そう、宮守高校の…なんでここに…なんでこの人の所に私いるんだろ…)
宥(私、東北に来てたっけ…来てないよね…)
シロ「多分もう二週間くらい…ホテルに泊まる…お金は、お父さんが送ってくれるから問題ない…」
『早くシロに会いたいよー!えーん!』
『はぁ…ごめん豊音、こうなったこいつは言っても聞かないから…』
『とにかく!気が済んだらさっさと帰ってくること!心配するからこまめに連絡もしてね!』
シロ「うん、うん…分かった…じゃあそろそろ切るから」ピッ
宥(確か、ベンチにこの人が座ってたのを見て…そこで気を失って…)
宥(寝てる…柔らかくて、暖かい…って)
宥「ひざ!?」ガバッ
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:36:35.30 ID:TjYT2z9O0
宥「はわわっ…///」アセアセ
シロ「あ、起きたね」
宥「あ、あのう…えっと…」オズオズ
シロ「?」
宥「えっと、ご迷惑を、おかけしたんでしょうか…?」
シロ「んー、たいしたことはしてないよ」
シロ「そこのベンチに座ってたら、あなたが震えながら歩いてきて、急に気を失ったから」
シロ「介抱って呼べるほどじゃないけど、取り敢えず寝かせてた」
シロ「ベンチに直だと固いし」
宥「うう…すいません…やっぱりご迷惑を…」カァァ
シロ「…」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:45:46.61 ID:TjYT2z9O0
シロ「迷惑なんかじゃ、ない」
シロ「あんな風になっちゃう時は、誰かに頼らざるを得ないし」
シロ「その時そこにいたのが私だから、私が出来ることをしただけ」
シロ「単純なことだよ。そんなことで、迷惑だ、なんて言っても始まらない」
シロ「でしょ。」
シロ「それに…私もあなたを寝かせてる間、暖かかったし」
シロ「イーブン、イーブン」
宥「いーぶん…」
シロ「そう。イーブン」
宥「あ…りがとう、ございます…」
シロ「うん。どうしたしまして」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 05:52:56.09 ID:TjYT2z9O0
宥「私、見たら分かると思うんですけど、暖かいの大好きで」
シロ「それはもう焚き火の火を見るように」
宥「だから、暖かいなぁって思ったらつい口に出しちゃうんです」
シロ「いや、その恰好で暖かくないってことは有り得ないでしょ」
宥「あの、えと、そうじゃなくて…」
シロ「…」
宥「…あの、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか…」
シロ「あ、うん。白望。小瀬川、白望。白に、希望の望で、しろみ。」
シロ「あなたは?」
宥「…松実、宥です。それで、その…」
宥「…その、白望さんが、すごく、暖かいなぁ、って…」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:00:17.73 ID:TjYT2z9O0
シロ「…え」
宥「その、白望さんの膝の上が、すごく暖かくて、それで、つい…」
シロ「…うー」ガシガシ
シロ「…ちょいタンマ」
宥「…たんま?」
シロ「…んん…うん。その…」
シロ「ありがと。その…私も、あなたを温められて、嬉しい、です…」フイッ
宥「あ…いえ…本当のことなので…」
宥(あうう…困らせちゃったかな…)
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:07:01.33 ID:TjYT2z9O0
宥「…」ホゥ
シロ「…さすがに、寒いね」
宥「…そうですね」
シロ「…そろそろ、帰った方がいいんじゃない?」
シロ「あ、何か用事だったのかもしれないけど、その用事はキャンセルして、ね…」
宥「あ、いえ…ご心配ありがとうございます…ちょうど帰る所だったので…」
シロ「うん…まだ帰れそうになかったら、私の泊まってるホテルが近くにあるから、休んでいってね」
宥「ありがとうございます。大丈夫です。それじゃ…」スッ
ヒュウウウウウウ
シロ「わ、寒、風…」
宥(…!)ドクン
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:14:38.07 ID:TjYT2z9O0
宥「う、あ、うあ、ああああうう…!」ガクガク
シロ「ちょ…!あなた、また、震えて…!」
宥「あ、あの、白望…さん…?」ガクガク
シロ「…はい」
宥「や…やっぱり…その…休ませてもらってもいいですかぁ!?」ガクガクウルウル
シロ「…ふぅ。嫌だって言っても無理矢理連れてくよ」
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:21:31.83 ID:TjYT2z9O0
―――奈良県某所ホテル・シロの部屋
宥「…」ガタガタ
シロ(…宥さん…暖かい所に入ったのに震えたまんまで…)
シロ「…ソファ、座って」
宥「…ありがと…ございます…」ブルブル
シロ(取り敢えず休める所に連れて来たのはいいけど…)
シロ(震えを止める方法が分からない…)
シロ(このまま震えが止まるのを待つ? それとも何かした方がいいんだろうか?)
シロ(待つ…なんて嫌だ。こんなに苦しんでるこの人を前に、何もしてあげられないなんて…)ギュッ(宥の手を握る)
宥「…」ギュウ
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:33:51.14 ID:TjYT2z9O0
シロ(宥さんが提げてるビニール袋…さっきは気付かなかったけど、病院の袋みたいだ。
つまり、宥さんは既に専門家に見てもらった後…私は何も知らないただの一般人…)
シロ(…分からない。私に出来ることはないのかな)
シロ(…何だか、麻雀に似てるな。こんな時になんだけど)フゥ
シロ(どうにかしたいのに、どうにかする方法がない。ただ待つしか出来ない)
シロ(…)ガシガシ
シロ(…私に、出来ること…。震え、か…)
シロ「…ごめんね。ちょっとだけ手、放す」
シロ「ホテルの人に、暖かい飲み物持ってきてもらうから…コーヒーでいい?」
宥「…」コクン
シロ「分かった…」スッ
シロ「…もしもし、203号室の小瀬川ですけど…」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:40:19.59 ID:TjYT2z9O0
宥(ダメだな…私、先生にもちゃんと治してもらえずに、また今会ったばかりの小瀬川さんに迷惑かけちゃうなんて…)
宥(あの時、お母さんにも玄ちゃんにも、沢山迷惑かけたのに…)
宥(…でも…)
宥(ダメだよ…私、こんなこと思っちゃ…でも…)
宥(小瀬川さん…すごく、暖かい…こんな状態の私でも、傍にいていいって思っちゃうくらい…)
宥(…この部屋…とても暖かい…)
シロ「…、はい、よろしくお願いします」
シロ「ふぅ。ただいま」
宥「…」ギュッ
シロ「!…」ギュ
宥「…」
シロ「…」
37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:47:07.81 ID:TjYT2z9O0
宥「…あの…」
シロ「…何?」
宥「…ごめんなさい…」
シロ「…」
シロ「大丈夫だよ」
シロ「私達は、会ったばかりかもしれないけど」
シロ「私は、宥さんの味方、だから」
シロ「謝らないで。」
宥「…ごめんなさい」
シロ「…ごめんね」ギュ
宥「…!」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 06:54:01.35 ID:TjYT2z9O0
シロ「私は、抱き締めることくらいしか出来ないけど…」
シロ「傍にいることくらいしか、出来ないけど」
シロ「それでも、私に出来ることなら、何でもするから…」
宥「…あ…」
宥「ありが…とう…」グッ
シロ「…うん。」
宥「…」
コンコン
シロ「はい」タッ
「失礼するし!小瀬川様、コーヒーお持ちだし!300円だし!」
シロ「はい。300円ですね」ジャラ
「ありがとうございましただし!失礼しました、ごゆっくりだし!」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:08:07.94 ID:TjYT2z9O0
バタム
シロ「さ、飲んで」
宥「ありがとうございます…」
シロ(…幼稚園児並の発想だけど…取り敢えず、体を中から暖めれば震えがマシになるかもしれない…)
宥「…」ズズ…コク…
宥(静か…私がコーヒーを飲む音、だけ)
宥(まるで時間が流れてないみたい…)
宥「…ほぅ」コト
シロ「…手、握るね」ギュッ
宥「…はい」
シロ「…」ニコ
シロ「よかった…震え、止まってる」
宥「…はい!」
42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:10:28.33 ID:TjYT2z9O0
宥(…シロさんが笑ってくれた…暖かい…)
シロ「…その袋。荒川医院の、だよね?」
宥「…うん」
シロ「…これは、病気、なの?」
宥「…病気だと思います」
シロ「先生は、なんて?」
宥「…よく分かりません…お薬を飲んで、としか…」
シロ「…い…」
シロ「…」
シロ「…いつから、なの?」
宥「っ―――!」ビクン
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:17:06.65 ID:TjYT2z9O0
シロ「宥さん! ごめん、大丈夫!? 無神経な質問したよね、答えられないことなら答えないで――」
宥「ごめんなさい!」
シロ「…どうして謝るの?」
宥「私、前に進まなきゃ…シロさんにこんなに優しくしてもらって、玄ちゃんや麻雀部の皆にいつも暖かさをもらってて」
宥「なのに、まだ怖いの…まだ怖さが消えないの!!」
宥「弱い私でごめんなさい…」
宥「弱くて…こんなに皆の力を貰っても、まだ前に進むのが怖くって…」
宥「でも…だからこそ、前に進みたい。ううん、進まなきゃ」
宥「ごめんなさい。こんなに迷惑かけて、その上勝手なお願いなんですけど」
宥「シロさん。私の昔の話…聞いてください…」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:24:24.53 ID:TjYT2z9O0
シロ(…なんて)
シロ(…なんて綺麗で、まっすぐで…それでいて、揺れて、儚げな、瞳…)
シロ(…美しい…)
シロ「…こんな私でも、宥さんの話を聞くことで、宥さんが前に進む力になれるなら」
シロ「私からお願い。宥さんの過去…聞かせて、ください」
宥「…はい…」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:31:54.80 ID:TjYT2z9O0
確か、10歳か11歳くらいの時だったと思います…
家は宿をやってるんですが、忙しい時は私たちも…あ、妹がいるんですけど…
シロ「インハイに出てたよね…確か、松実玄さん」
宥「はい、玄ちゃんです…」
忙しいときは宿の手伝いをしていました、部屋を掃除したり、お料理を運んだり…
それで、観光シーズンの休日、秋も深まってきた頃だったと思います…
いつものように私もお手伝いをしていました…
それで、その時男の方二人組のお客さんがいらっしゃって…
そのお二人の注文で、私がお部屋にお酒を持っていくことになって…
宥「げほっ!けほ、げほ、げほ!はぁ、はぁ…」
シロ「宥さん!?大丈夫!?無理しなくていいから、ゆっくり…」
宥「大丈夫です、ありがとうございます…続けますね…」
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:37:58.46 ID:TjYT2z9O0
『ははは、可愛いお嬢ちゃんちゃんじゃねえか!』
『おいで嬢ちゃん、頭撫でてやるから!』
『え、えへへ…』オズオズ
『へへ…』ガッ
『ほぇ?』
『へへ、おいお前よく見ろよ!可愛いとは言ったが、見れば見るほど可愛い顔してるぜこの嬢ちゃん!』
『ああ、そうだなぁ。たまんねぇなぁ。俺はこういうおっとり系のがたまんねぇんだよ』
『ふぇ…あ、あの…離して下さい…』
『おい聞いたか今の、声まで最高じゃねぇか』
『ああ、本当だなぁ。浴衣もよく似合ってるし最高だなぁ。俺ぁもう辛抱たまんなくなって来たぜ』ガシッ
ドサッ ガシャン
『やぁ!お、お酒が…!冷たい!な、何するんですか…ダメですよ…』フルフル
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:44:18.56 ID:TjYT2z9O0
『おいお前ここ触ってみろよ、たまんねぇぜ』サワサワ
『どれどれ…おお、これはたまんねぇ、こんなに小さいのに立派に育ってやがる』サワサワ
『あぁ…お願いします…やめてください…』カタカタ
『なぁ、もう脱がしちまおうぜ』スルスル
『そりゃ最高だな、そうしよう』スルスル
『いや…いや…』ガタガタ
『ひょぉ!俺ぁこんないいもん見たことねぇぜ!』
『旅館で働く美少女の裸かぁ、こりゃ一生もんだな、たまんねぇぜ!』
『はは、ちげえねぇ!』
『『ははははは!』』
『いや、いやだよ…!触らないで…!手、冷たい…!寒いよ…!嫌だよぉぉ…っ!』
『ちょっと!あなたたち、何してるんですか!』
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:51:21.65 ID:TjYT2z9O0
それで、私はなんとか危ないところを免れて…
でもその時の記憶は頭の中にこびりついて、離れなくて…
特にあの手やかかったお酒の冷たさ、空気の寒さが恐怖と結びついてずっと残ってて…
その周辺の記憶はあまりないんですけど、お母さんや玄ちゃんにすっごく慰めてもらって…
カウンセラーさんにも通って…
寒さを感じるとあの時のことを思い出して辛くなるから、うんと厚着もするようになって…
しばらくは不安定だったけど、皆が良くしてくれて、段々落ち着いてきて…
宥「だけど…」フルフル
シロ「…うん」
宥「そんな時、お母さんが突然亡くなって…」
シロ「!…うん」
宥「私が不安になったり辛くなったりした時に一番頼りにしていたのがお母さんでした…」
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 07:58:03.24 ID:TjYT2z9O0
宥「そのお母さんがいなくなって…お父さんと、玄ちゃんと、頑張って乗り越えて行こうね、って何度も言い合って…」
宥「玄ちゃんなんか、体の弱い私を守るんだって、張り切ってくれて…実際玄ちゃんには何度も助けられて」
宥「私も皆を心配させるわけには行かないって、思って、もうあの時のことはなんともないと思い込んで」
宥「そうやっていれば大丈夫だと思って生きてました…」
宥「でも…!まだ、あの時のことが忘れられなくて…!」
宥「ことあるごとに思い出して…でも、皆を心配させたくなくて…」
宥「だから私、辛くっても隠すようにしてずっとやってきたんですけど…」
宥「隠せば隠すほど辛さは増していって…もう限界で…!」
宥「最近は荒川さんの所…病院にも通っているんですけど、それでよくなるかも不安で…」
シロ「そう…そうだったんだ」
58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:05:33.42 ID:TjYT2z9O0
シロ「大変だったね…辛かったね」
宥「う…あ…」
シロ「でも、ここなら大丈夫だから…何も気にしなくていい。好きなだけ辛くなればいい」
シロ「好きなだけ泣いていいから…」
宥「うぁ…ああああああああ!」ぽろぽろ
シロ「大丈夫だよ…」
宥「うわああああああああああ!シロさん…!シロさあああああん!」ぎゅっ
シロ「うん…」ぎゅう
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:12:16.30 ID:TjYT2z9O0
―――三十分後
宥「ありがとうございます…シロさん」
シロ「ううん…」
シロ「ていうか、もう敬語とさん付けはダルい」
宥「あっ、うん…分か、分かったよ、シロちゃん」
シロ「ん…」
シロ「泣き疲れたよね…コーヒー、もう一杯飲む? 私も飲みたいし…」
宥「あ、うん。頂くよ」
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:19:13.56 ID:TjYT2z9O0
―――
シロ「…」ズズ
宥「暖かい…」ズズ
シロ「うん…」
宥「…」ホゥ
宥「あの…手紙書くから…もしよかったら住所教えてくれないかな…」
宥「あ、ていうか携帯の番号登録すればいいよね!でも手紙も書きたいし…」
シロ「ふふ、分かったよ…ありがと」
シロ「これが住所で…ん、携帯出して…送信完了っと…次は受信して…」
シロ「それと…まだ私しばらくはここにいるから」
宥「ほぇ!? えっと、シロちゃんは旅行中、じゃないの…?」
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:26:05.15 ID:TjYT2z9O0
シロ「そんな感じだったけど…」
シロ「用事が出来たから」
宥「えっ…それって、あの…」
シロ「そんな簡単には、忘れらないと思うし、まだ辛くなることはあると思うから…」
シロ「また、辛くなればここに来ればいい…出かけてても、メールくれればすぐに帰るから」
宥「シロちゃん…」
宥「ありがとう…!」ウルウル
シロ「ううん…」
シロ「でも、ちゃんと家族の人にも話すこと。ずっとはいられないし、これから自分の力で乗り越えていかなきゃならないことだから」
シロ「その為にも、家族の力は必要だと思うから。妹さんにも、ね」
宥「シロちゃん…分かった、そうするね」
シロ「…」ズズ
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:33:28.05 ID:TjYT2z9O0
―――
宥「…それで、小瀬川さんに話を聞いてもらって、慰めてもらったの」
玄「ふぇ…っ…シロさん!シロさああああああん!うわあああああん!
有難うございます…!お姉ちゃんを慰めてくれて…!
私もうなんてお礼を言ったらいいか…!ぐすっ…
私バカだ…寒がりのお姉ちゃんを見て…ずっと見てて…まだ傷が癒えてないことにも
気付かないなんて…妹失格です…ぐすっ…」
シロ「そんな、お礼なんて…宥をこれまで守っていてくれたのは玄ちゃんでしょ。
私にお礼なんて言わなくていい。玄ちゃんは今まで通り宥を守ってあげて。
私は私の出来ることをしただけ。
玄ちゃんがしてきたこと、出来ることは、とても立派なことだよ」
玄「スン…うん…ありがとうございます…シロさん…本当に!」
宥「ごめんね…二人とも…ありがとう…」
シロ「謝らないで。これから悪いのは宥に乱暴したその男なんだから」
玄「そうだよ!お姉ちゃんは悪くないから!」
玄「これから私、もっとお姉ちゃんのこと守るから!だからお願いだよ、なんでも話してね…?」
宥「玄ちゃん…ありがとうー!大好きだよお!」ぎゅっ
玄「私の方が大好きだもんー!お姉ちゃあああん
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:40:33.12 ID:TjYT2z9O0
玄「私の方が大好きだもんー!お姉ちゃあああああん!」ぎゅう
―――
宥「…明日で、二週間になるね」
シロ「うん…明日には帰らなきゃ」
宥「ほんとにありがとうね」
宥「もう辛くなることも全然なくなったし、世界が全部違って見えるよ」
宥「何より、玄ちゃんともっと仲良くなれて…えへへ…」
宥「これも全て、シロちゃんが傍にいてくれたおかげだよ?」
シロ「どういたしまして…そこまでストレートに言われると、何か照れるけど」
シロ「私は、私が出来ること、したいことをしただけだから…」
宥「シロちゃんは、そういう人なんだね」
シロ「…」ポリポリ
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:47:25.05 ID:TjYT2z9O0
シロ「暖かい」
宥「え?」
シロ「恥ずかしいけど、宥にお礼言ってもらえて、なんかすごい暖かい、と思ったんだ」
シロ「それだけじゃない、宥と過ごしたこの二週間、宥と一緒にいた時間」
シロ「いつも、いつにも感じたことのないくらい暖かい気持ちになれた」
シロ「だから私も。ありがと、宥」フイッ
宥「シロちゃん…」カァァ
宥「…」ズズ
シロ「…」ズズ
宥「…あの」
シロ「何?」
宥「はい、えっと、その…っしょに…えと…」ゴニョゴニョ
シロ「もう、何さ?」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 08:54:43.00 ID:TjYT2z9O0
宥「はい!そ、その…お互い大人になって…自分たちで暮らしていけるくらいになったら…その…」
宥「い、一緒に、暮らしませんか!?」カァァー
シロ「え…」カァ
シロ「そ、その…」
シロ「私も、その…宥と、一緒に暮らしたいな…」
シロ「だから、うん…その提案には頷きで返したいっていうか…」
シロ「よ、よろしくお願いします…」カァァァ
宥「シロちゃん…!」パァァ
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 09:01:05.81 ID:TjYT2z9O0
宥「ふふっ、顔あかーい」
シロ「ゆ、宥だって…」
宥「珍しいね、シロちゃんがそんな風になるの」
シロ「ダルい…」
宥「ふふっ…」ギュ
シロ「…」ギュウ
宥「暖かいねー…」
シロ「…うん」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 09:08:09.59 ID:TjYT2z9O0
―――とある家の庭
少女「うわああああああああああん!わあああああああああああん!」
少女「ゆう…ゆう…なんで死んじゃったの?」
少女「あんなに元気だったのに…」
少女「あんなに遊んだのに…」
少女「もうボールを投げて遊んだり、一緒にかけっこしたり出来ないの…?」
少女「嫌だよ…!ゆう、ゆう…!ねえ、起きて、また一緒に遊んでよ、ゆう…!」
少女「ねえ!お母さん!お父さん!ゆうはなんで死んじゃったの!?」
少女「お母さん!お父さん!居ないの!?どこに居るの!?」
79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 09:15:25.64 ID:TjYT2z9O0
母「あなた、また麻雀なの?本当に好きなのねぇ」
父「お前こそまたあのママ友方とお料理教室だろ?」
父・母「「ふふっ」」
少女「お父さん!お母さん!聞いてるの!?ねえ!」
父「そういうことだから、いい子でお留守番してるんだぞ」
母「ゆうがいなくなって寂しいけど、一人で遊んでいてね」
少女「ねえ!お父さん!お母さん!行かないで!」
少女「寂しいよ…辛いよ…側にいて…」
少女「お願い…ゆう…側に…」
――――
80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/16(水) 09:22:01.02 ID:TjYT2z9O0
白望「ゆう…ゆう…」モゾモゾ
『シロちゃーん?まだ起きないのー?』
白望「ん…ゆう…宥…?」
宥「もう、お休みだからっていつまで寝てるの? もうお昼だよ?」
白望「宥…」
白望「おはよ…」
宥「おはよ、シロちゃん。ご飯出来てるよ」ニコッ
白望「ありがと…今食べに行く…」
宥「そんなに遅くまで寝てたらめっ!だからね?」
白望「ごめんよ…この低血圧は生来のものでして…」
宥「ほんとに、仕方ないなぁ…お寝坊の罰として、お皿はシロちゃんが洗ってね?」
白望「えぇー…マジすか…」
白望「ダルい…」
カン
宥「こんにちは…」憩「はーい、宥さん。こんにちは」