1: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 19:48:00.99 ID:hurr/2pv.net
虎太郎(15)「え、いや、大丈夫です…」
絵里(29)「え~、そんなこと言わないでよぉ~!これでも結構有名な大学でてるんだからぁ。」
絵里さんがずいっと体を寄せて机の上を覗きこんでくる。
絵里「あら~!なつかしいわぁ~!この問題昔やったことある!なんちゃって~ww」
虎太郎「あ、あの…ほんとに大丈夫ですから…」
絵里「いいじゃないのよぉ、つれないわねぇ。お姉さん悲しいわあ。」
絵里さんが僕の肩に手をかける。大人の人なのに意外に小さな手をしてることに驚いた。
虎太郎(…お酒臭いな。)
虎太郎「あ、いや、その…にこに…姉ちゃんは?」
絵里「え?にこ?ああ、ここあちゃん迎えに行っちゃった。いいわよねえ、大学生満喫してるって感じで。」
虎太郎「そっすね、はは…」
4: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 19:53:28.09 ID:hurr/2pv.net
絵里「ね、ここあちゃん彼氏かな?気になるわね?」
虎太郎「いや、別に…」
絵里「え~?つまんな~い。こたろーくんは?彼女とかいないの?」
絵里さんがファサッと髪をなびかせながら僕の顔を覗きこんでくる。
…近い。
絵里「ね、どうなの?にこには絶対言わないから教えて?ね、ね、どうなの?」
虎太郎「あ、その…」
絵里「ん?」
クオーターだからだろうか、絵里さんは体臭が強い。
誤解のないように言っておくけど、臭いとか、嫌な匂いとかではない。
むしろ、なんていうか、すごくモヤモヤする匂いだ。
学校で時々女子が通った後にふわっと香るあの匂い。あれを何倍も濃くしたような濃密なフェロモン。
だから僕は絵里さんが来た日は居間には居たくない。お腹の下のほうがもやもやした変な感じになるからだ。
虎太郎「えと…いないっす…」
絵里「ふ~ん。じゃあ好きな子は?いいなって思う子とかいないの?」
絵里さんが教科書の背表紙をつつ、となぞりながらつぶやく。
――よかった。離れてくれた。
虎太郎「いや、よくわかんなくって…」
絵里「なによぉ、こたろーくん男子校目指してるんでしょ?今のうちにいっぱい恋しとかないとだめよぉ?」
絵里「…って私もそんな経験ないんだけど!」
そう言って何が面白いのかケラケラ笑いながら僕の背中をバシバシと叩く。
絵里「あはは…そんじゃ勉強頑張ってね。邪魔しちゃってごめんね~w」
よかった、そう思った次の瞬間。
希(29)「あっ♪エリチはっけぇ~ん♪」
酔っぱらいが二人に増えた。
希「も~、ウチがちょっと寝とる隙に虎太郎くんとデートしとったん?やるなあ~w」
絵里「違うわよ。お勉強見てあげようと思ったの。」
希「ホンマにぃ?保健体育の授業中だったんやないのぉ~?」
希さんが絵里さんの肩にしなだれかかってとろん、とした声で絡む。
絵里「オヤジ臭いわよ、希。こたくんにはまだ早いもんねぇ~?」
虎太郎「はは…」 (あ、今のかわいい。)
希「いやいや、そんなことあらへんやろ。虎太郎くんだってお年ごろやもんなあ?」
絵里「そんなことありますう~。ね?こたくん?」ギュッ
虎太郎(!?)
絵里さんが僕の頭を軽く抱えた。
それはつまり、僕が頭をあとすこし傾ければ、その、絵里さんの胸に…つまり…
希「おっ…ふ~ん?なあなあ虎太郎くん…引き出しの下の本、ウチにも見せてくれへんかなあ?」
虎太郎「えっ?」
一瞬、なんのことかわからなかった。
希「隠さなくてもええんよ?そういうの見るのは恥ずかしいことやないんやから。」
虎太郎「…っ!」
絵里「ええ?なになに?なんのはなし?」
希「ふふふ、エリチも一緒に見いひん?…え・っ・ち・な・お・い・しゃ・さ・ん♪」
絵里「え?なになに?お医者さんがどうしたの?」
虎太郎「あ…」
希「ふふっ、真っ赤になっちゃってかわええなあ。お姉ちゃんたちそういうの見たことないから見せてくれへんかなあ?」
虎太郎「ぁ…ぁぅ…」
絵里「もー!二人だけで盛り上がらないでよ!」ユッサユッサ
希「…まきちゃんがええの?」ボソッ
虎太郎「…っ!」ビクッ
希「にこっち心配してたよ?趣味が偏ってるんじゃないかって。」
絵里「真姫?真姫がどうかしたの?」ユッサユッサ
虎太郎「…」
希「まあ、なあ、気持ちはわからんでもないけど…」
ガチャ
「たっらいまぁ~!」
にこ(29)「こらここあ!靴はちゃんと揃えて脱ぎなさい!」
ここあ「え~?いいじゃんべつにい~こころは~?」
にこ「もうとっくに寝たわよ!さっさとお風呂はいっちゃって!」
ここあ「はあ~い」
にこ「…ったく、誰に似たのかしら…っと、何やってるのよ二人共。」
絵里「あっ、おかえり~にこ~♪」
希「ちょっと、虎太郎くんのお勉強見てあげてたんよ。」
にこ「はあ…アンタ達ねえ、人の弟をおもちゃにすんじゃないわよ…悪かったわね虎太郎。」
虎太郎「ううん、大丈夫。おかえりにこにー。」
絵里「ふふっ♪」
虎太郎「?」
絵里「『にこにー』だって♪かーわいっ♪」ギュッ
虎太郎「あっ…///」
にこ「あっ、こら!」
絵里「いいじゃないの。最近亜里沙もかまってくれないし…エリチカ寂しいのよ。」
希「それはエリチの酒癖が悪いせいやろ…さ、もういい加減にしよな。にこっちももう飲めるんやろ?」
にこ「ええ、ここあも帰ってきたしね。ママはまだ遅いって言うから、タクシーで帰るでしょ。」
絵里「わぁ~い♪にこと飲むの久しぶりぃ~♪」
にこ「ちょっと!くっつかないでよ!…ごめんね虎太郎。なるべく静かにするから…」
虎太郎「平気だよ。日課でやってるだけだからさ。」
にこ「…あんま無理すんじゃないわよ。」
虎太郎「うん。にこに、姉ちゃんもたまにはゆっくりしなよ。」
絵里「あーん!こたくんいい子ぉ~!」
希「はいはい、もうダメやで。」
にこ「ありがとね。虎太郎。」
虎太郎「うん。」
虎太郎「…」
虎太郎「…」ゴソゴソ
虎太郎「…んっ…」
虎太郎「…」クシャクシャ
にこ「――たろ、虎太郎?」
虎太郎「え?」
ヘッドフォンをしていたから気付かなかった。
にこ「ごめんね。邪魔しちゃって…ちょっと手伝ってくれない?」
虎太郎「?」
なんだろう、そう思いながらにこにーに続いてリビングに向かう。
するとそこには――
虎太郎「うわ…何本飲んだの、これ…」
にこ「しょうがないでしょ…なんだか盛り上がっちゃって…」
絵里「zzz…」
希「う゛うぅ…にご、にご、にごっち…水…水ちょうだい…」
にこ「ちょっと希!ここで吐かないでよ!絶対やめてよ!」
希「あがん…ヴエェ…」
にこ「ちょ!待って!ほらトイレ行くわよ!」
希「うう…」ヨロヨロ
にこ「ごめん、絵里のこと運んでくれない?にこの部屋でいいから。」
虎太郎「え…ちょっと!」
にこ「ほら、しゃっきり立って!」
希「ごめんな、ごめんなあ…」
虎太郎「あ…」 ポツーン
虎太郎「――…っと」ボスン
絵里「zzz…」
絵里さんをゆっくりと下ろして額の汗を拭う。
さすがにベッドの上に上げるのは無理だったからクッションの上だけど…
虎太郎(…よく寝てるから大丈夫だよな。)
絵里「…すぅ…すぅ……」
虎太郎(…本当に綺麗な人だな…)
起きてる時にはそんなことできないので思わずじっと見てしまう。
虎太郎(恋愛したことないなんて言ってたけど…本当かな…)
まるで女優やモデルみたいに綺麗で…スタイルだって―
―しまった。
運ぶときにも絶対に触れないようにしてきた胸の膨らみ。
規則正しく上下しているそれが目に止まった。
虎太郎「…」ムクリ
虎太郎(あ、やばい。)
にこ「――ほら、吐いても大丈夫だから、出しちゃいなさい。」
希「うう…ううう…」
虎太郎(…僕は、なんで聞き耳なんか立ててるんだろう。)
絵里「…zzz」
虎太郎「…」
虎太郎(…なんで誰も来ないことを確認してるんだろう。)
絵里「…ううん…」
虎太郎「!!」
虎太郎「…」
ドックン ドックン
虎太郎(…バレない、よな…)
虎太郎「はあ…はあ…」
虎太郎(撫でるだけ…撫でるだけなんだ…)
スッ
絶対に押し込まないように。当たっただけって言い訳できるように軽く、軽く手を動かす。
虎太郎「ハア…ハア…」
何度も 何度も 上から下へ
綺麗な形を何度も撫ぜる。
虎太郎(…思ったより、固いんだな。)
絵里さんの胸は、そういう本で想像していたよりも固くて、ゴワゴワした手触りだった。
虎太郎(…マシュマロみたいってよく言うのにな。)
リビングから漏れてくる光。
つけっぱなしのテレビから流れる音に耳を澄ましながら、少しだけ、指先に力を込めた。
ふにょ
虎太郎「あ…」
絵里「…ん…」
虎太郎「!」
絵里「…」
虎太郎(…心臓が止まるかと思った…)
つつ―― ふにょ
つつ―― ふにょ
何度も何度も繰り返す。揉んでなんかない。僕は…これは…たまたまなんだ…
虎太郎(やわらかいとこと、跳ね返ってくるとこがある…)
つつ―― ふにょふにょ
つつ―― ふにょふにょ
虎太郎(ああ、そうか…ブラだ。)
洗濯物をたたんでいる時のことを思い出した。
虎太郎「ハア…ハア…」
頭の何処かは冷静で でも手の動きはどんどん大胆になっていって――
虎太郎「すご…」
手の中でぐにぐにと形を変える絵里さんの胸をぼーっと見ていた。
絵里さん、絵里さん…
いつも僕のことを子供扱いする絵里さんが僕に好き放題されてる。
絵里「…」
どうだ、僕のほうが体も大きいし力も強いんだぞ。
そんな暗い気持ちが心のなかを満たしていく。
絵里「…」
荒い息づかい。汗ばんだ絵里さんの肌からうっすらと立ち上る香り。
もう我慢出来ない――直接…
虎太郎「ハア…ハア…え?」
絵里「…」
絵里さんと 目が あった
虎太郎「あ…」
絵里「…」
虎太郎(終わった…)
急速に体が冷えていく。
絵里「…」スッ
虎太郎「…え?」
絵里「…すぅ…すぅ…」
虎太郎(え?なんで?今絶対…)
絵里「う~ん…苦しい…」
虎太郎「え?」
絵里「……む、胸…苦しい…///」
虎太郎「…え?」
虎太郎(ああ、そうか…やんわりと注意してくれてるんだ。)
なかったことにしてくれるのかな…少しホッとして手を放す。
絵里「…」
絵里「……う~ん……あの…ほら…」
ごろん、と絵里さんが寝返りをうった。
虎太郎「?」
絵里「…ラ……」
虎太郎「?」
絵里「…ブ…ブ…ブラ…苦しい…///」
虎太郎「っ!」
え?今、ブラって ブラジャー…だよな… え?なんで?だって?
絵里さんは今背中向けてて、え?いいの?本当に?
そんな、嘘だろ、AVじゃあるまいし 嘘だろ?
僕が混乱していると――
絵里「ううん…///」ズリズリ
ずりずりと床を這って――
――絵里さんの背中があらわになった
虎太郎(え?嘘だろマジで!)
絵里「…」
絵里さんの顔は見えないけど…これ、いいんだよな。
合意の上?とかいうやつだよな。
緊張に震える手をもう一本の手で抑えながら手を伸ばす。
虎太郎「あ…えと…」
絵里「…」コクン
絵里さんが――小さく――頷いた気がした。
プチン
やけに大きく響いたその音と同時に
にこ「―アンタ、何やってんの?」
…今度は本当に心臓が止まった。
にこ「――ほんっとうにごめんね!色々ストレス溜まってたみたいだから…許してもらえるものじゃないかもしれないけど…」
絵里「だから、別にいいってば。私酔っててなんにも覚えてないし…」
にこ「それでも…人として許されることじゃないわ…もう二度とこんなことさせないから。」
絵里「いいってば!男の子ってこういうの仕方ないことなんでしょ?あんまり叱らないであげて、ね?」
にこ「…でも…」
希「まあまあ、エリチがええって言ってるんやから、な?人んちで酔っ払ったウチらにも責任あるんやし。」
にこ「アンタがそれ言うの…?ま、それなら…でも本当にごめんね、絵里。」
絵里「いいのよ、私虎太郎君好きだし。ほら、顔上げて、ね?」
虎太郎「はい…」
床に擦り付けてた頭を恐る恐る上げる。
絵里「ほら、これで仲直り。ね?」
絵里さんにぽんぽんと頭を叩かれる…そして。
絵里「――今度は、お姉ちゃんの留守の時に、ね?」
ぼそっと、耳元で呟かれた。
「――甘いっ!」
ずだん、と派手な音を立てて畳に転がされる。
虎太郎「っ…」
僕よりも小さな師範代が僕を見下ろす。
海未(28)「もう終わりですか?さっさと立ちなさい。」
虎太郎「…お願いします!」
虎太郎「ありがとうございました!」
海未「ありがとうございました…今日は随分と気合が入っていましたね。何かあったのですか?」
虎太郎「あ、いえ…」
虎太郎(師範代には言えないよな…あんなこと…)
海未「にこからも連絡がありましたよ。足腰立たなくなるまで厳しくしてやってくれ、骨が折れても構わない、と。」
虎太郎「はは…」
虎太郎(当然だよな…最低だ、僕…)
あの感触がフラッシュバックする。
虎太郎(ダメだ!もう二度とあんな気を起こさないように師範代に鍛えなおしてもらわないと!)
海未「とはいえ、虎太郎も随分と強くなったのでそこまでするのは少々難しいのですけどね。ふふ。」
海未「あなたが初めて来た日はまるで小さなにこみたいだったのに、いつの間にか私より大きくなって―」
虎太郎「…」
海未「女ばかりの家だから、少し男らしくしてやってくれと、なぜか女の私ににこが…虎太郎?」
虎太郎「…」
海未「虎太郎!聞いているのですか!」
虎太郎「はいっ!」ビクッ
海未「師の話を上の空で聞き流すとは何事ですか!すこし上達したからといえどそのような慢心は~~~~!」クドクド
――
――――
――――――
虎太郎「すみません…今日はお休みだったのに。」
海未「構いませんよ。どの道日々の鍛錬はするのです。相手が居たほうが張り合いが出ます。」
虎太郎「…すごいですね。」
海未「園田の跡取りとして当然のことですから。」ズズズ…
おまんじゅうがありますから、師範代はそう言って僕のことを引き止めた。
道場の隅に作られた4畳半ほどの小さな控室、ピンと背筋を伸ばした師範代と向い合ってお茶を飲む。
虎太郎(…かっこいい。)
武道だけじゃない、日舞の名手でもある師範代のことを僕は尊敬している。
師範代は女の人だから変な話だけど…こんな男になれたらって密かに思ってるんだ。
海未「…痛みますか?」
虎太郎「え?」
海未「その…少しやりすぎてしまったのではないかと…」
虎太郎「いえ!全然平気です!…っつ!」
海未「あっ!」
師範代がちゃぶ台のこちら側に素早く回りこむ。
虎太郎「あ、大丈夫ですから…」
海未「駄目です!見せてご覧なさい!」
師範代の剣幕に押されてシャツをはだけ、胸を晒した。
エアコンの効いた部屋の空気に一瞬だけヒヤッとする。
海未「…少し腫れてますね…申し訳ありません…まだまだ私も未熟ですね。」
――師範代の冷たい指先がつつ、と僕の鎖骨をなぞる。
虎太郎「そんな!未熟なのは僕の方です!きちんと師範代の技を受けられれば…」
そこまで言ってはっとした。師範代の顔が近い。
海未「あ…」
虎太郎「…」
師範代の目が大きく見開かれる。
虎太郎「す、すみません!」
弾かれるように顔の距離を離す。
海未「い、いえ!今湿布を取ってきますから少し待っていてくださいね!」
そそくさ、と師範代が立ち上がった瞬間――
海未「――え?揺れてる?」
地震だ。しかも、かなり大きい。
大変だ、まずは机の下に――学校での避難訓練を思い出そうとした時。
海未「~~~~~っ!」
師範代が、僕にしがみついてきた。
虎太郎「え?」
突然のことでわけが分からなかった。
海未「あ、あ…ゆ、揺れてます…どうしましょう、どうしましょう―」
師範代はむき出しになったままの僕の胸に顔をぴたりとくっつけながらオロオロと繰り返す。
海未「ああ、もう、まだ揺れてる、まだ揺れてます…」
師範代がボソボソとつぶやくたびに僕の胸に吐息がかかってくすぐったい。
虎太郎「…」
虎太郎(馬鹿野郎、何考えてるんだ。)
沸き上がってきた妙な感情を必死でおさえる。
海未「早く、早く止まって――」
虎太郎(師範代…地震苦手だったのか…)
普段だったら絶対に見ることのできない師範代の意外な一面に驚いた。
虎太郎「…」
どうしようか、失礼なんじゃないだろうか…そう思いながらも、師範代の肩に手を置く。
虎太郎「大丈夫ですよ。」(なんの根拠もないけど。)
海未「あ…」
胸に置かれた師範代の手がぎゅっ、と握られる。
虎太郎「っ…」
刺激されて思わず声が出そうになるのをなんとかこらえる。
――地震、長いな…
師範代、いい匂いする…
髪、すごくつやつやしてる…にこにーのサラサラとは違うのかな…
触ったら怒られるかな…
でも…
海未「…」ガクガク
怖がってるもんな、師範代…いいよな、落ち着かせるために…
虎太郎「…」スッ
師範代の髪は、しっとりとしていて、ママが一枚だけ持ってるシルクのスカーフみたいだった。
海未「あっ…」
虎太郎「!」
やばい。調子に乗りすぎたか?
海未「…」
でも、師範代は何も言わずに、体をぴたりと寄せてきた。
虎太郎(え…)
海未「…」
小さな小さな4畳半。半裸の僕に寄り添う師範代…海未さん。
自分の息も、海未さんの吐息もはっきりと聞こえてくる。
海未さんの手に僕の手を重ねると、海未さんの方から指を絡めてきた。
指と指を何度も何度も、まるで情事のように摺り合わせる。
虎太郎「師範だ…海未さん…」
海未「…はい。」
海未さんがうっすらと染まった顔を上げる…そして…
―地震がおさまった。
虎太郎「あ…」
海未「…」
次の瞬間、僕は障子戸ごと道場に投げ出された。
こころ「―まったく、少しやりすぎではありませんこと?」
虎太郎「痛っ!」
消毒液の刺激にビクッと体が反応する。
こころ「お姉さま、いくらなんでもこれでは虎太郎がかわいそうです!お姉さまからも―」
虎太郎「いいんだ。姉さん。」
こころ「え?」
にこ「そ、いいのよ。それでも足りないくらいだわ。」
こころ「お姉さま…そんな!」
ぷい、と顔を背けて立ち去るにこにーをこころが追いかけていった。
虎太郎「…しばらく道場にはいけないな…」ハア
~ 海未編 完 ~
虎太郎「――ただいまー…ただいまー…にこにー?誰もいないの?」
テーブルの上には一枚のメモ。
『テストお疲れ様!花陽と会ってきます。おにぎりがあるからおなかすいたら食べるニコ! P.S 汚れ物は洗濯機に入れておくこと!』
文鎮代わりにお皿に乗ったおにぎりが3つ、ラップをされていた。
虎太郎「なんだ…今日はお休みって言ってたのに…」
カバンを床に落として、椅子に座り、のりたまがまぶされたおにぎりを食べ始める。
虎太郎(あ、手洗ってない…まあいいか)
学校から帰ってもこころ姉さんもここあ姉さんもいない、今では普通になってしまった静かな部屋。
テレビもつけずにおにぎりを食べた。
虎太郎(…おかかがよかったな。)
ふと窓を見ると、鉛色の雲が向こうのビルのてっぺんにまで下がってきていた。
「――……」
「――……るいよ…」
「――…………よ…別に…」
なんだろう…誰か、話してる声がする…
虎太郎「んぁっ!?」ガバッ
虎太郎(……あー…部屋のベッドか…一瞬どこかわからなかった…)
虎太郎(…たしか、すごく眠くなって…昨日一夜漬けしたせいかな…)
ボーっとする頭を振って記憶を整理する。
虎太郎「あ、そうだ…」
ノソノソと立ち上がり、カバンを開き、おぼつかない足でぼんやりと脱衣所に向かう。
虎太郎(汚れ物入れないと…)
~~~♪
虎太郎(…鼻歌?)
間違いない。誰か風呂場でシャワーを浴びて歌ってる。にこにーかな…
すりガラスの向こうは曇っててよく見えないけど…ふと脱衣カゴの中を見る。
黒い…なんだこれ…つまみあげて…パンスト?
虎太郎「!!」
一瞬で目が覚めた。
間違いない、さっきのにこにーのメモ…それからこの声…
虎太郎(…まだほんのりあったかい。)
…柔らかいんだな。それに、少しだけ湿ってる。
神経を最大限研ぎ澄ませて、ゆっくりと『それ』を引き寄せる。
――おい、なにを考えてるんだ? 大丈夫さ、まだ向こうには気づかれていない――
――だからってそんな変態みたいなこと! すぐに『済ませて』戻してしまえばわからないさ――
――だめだ!やめろ!それはヤバイ!
…そんな刹那の交錯の後、僕は思い切り花陽さんの香りを吸い込んだ。
甘酸っぱい…というよりもホワっとした甘い香りだった。落ち着くような、お母さんみたいな香り。
何度も、何度も吸っては吐いてを繰り返す――いつしか僕は前かがみになっていた。
虎太郎「ふう…ふう…」
ああ、ずっとこうしていたい。こうしていたいけど…ズボンのジッパーを下ろそうとしたその時。
ガラッ
花陽(26)「…え?」
虎太郎「あ…」
タオルで申し訳程度に前を隠した花陽さんがきょとんとしている。
花陽「…虎太郎くん…?え、それ、私の…」
虎太郎「あ、あ…あn!」
まずい、言い訳しないと、そう思って口を開いた時。
花陽「シッ!」
―素早く、花陽さんに口を塞がれた。
虎太郎「?」
意味もわからず混乱していると、向こうからにこにーの声がする
「――花陽?あがった?」
花陽「…」
花陽さんが目で僕に『喋っちゃダメだよ』と合図する。
「――花陽?」
花陽「あ、う、うん!あがったよ!ありがとうね!」
「――そう?バスタオルあった?」
花陽「うん!うん!あったよ!ありがとう!」
花陽さんは右手でタオル、左手で僕の口をおさえながらドアの向こうのにこにーと話し続ける。
ぽたり、ぽたりと花陽さんの体からしずくが落ちて、ぼくの靴下を濡らしていく。
…僕の角度からはタオル一枚じゃとても隠し切れない花陽さんの谷間が見えていた。
「――入ってもいい?冷えてきちゃった。」
虎太郎「…!」
血の気がサアっと引く。こんなところを見られたら今度こそただじゃすまない。
花陽「…!え、えっと、もう、ちょっと!もうちょっとだけ待って!」
「――いいじゃない、女同士なんだし。入るわよ」
花陽「ダメッ!!」
虎太郎「っ!」 「――っ!」
花陽「あ…ご、ごめん…その、太っちゃって恥ずかしいから…」
「――ああ、何よ今更…まあいいわ。さっさと代わってよね。」
…ゆっくりと足音が遠ざかる。花陽さんもゆっくりと手を離してくれた。
花陽(だ・い・じょ・う・ぶ)
花陽さんが口をパクパクさせる。よかった、ともかくは助かったんだ。
花陽(そ・れ・は・か・え・し・て)
…脱衣所を出ようとした僕のシャツを花陽さんが空いた手で掴んでいた。
――コンコン
虎太郎「っ!!」ビクッ!
ノックの音が電撃のように全身を駆け巡った。
「――虎太郎くん、花陽です…入ってもいい?」
虎太郎「…どうぞ。」
おずおずと花陽さんが入ってくる。
花陽「えと…お邪魔しますね。」
まだ髪は湿ってるけど…きちんと服を着た花陽さんは僕の正面に腰を下ろす。
花陽「…久し振りだね。この部屋も。」
虎太郎「…にこにーは?」
花陽「にこちゃん?お風呂入ってるよ。参っちゃうよね、突然降りだすんだもん。だからちょっとシャワーをお借りしたんだけど…虎太郎君がいるって気づかなくて…ごめんね?」
虎太郎「…」
花陽「えっと…わあ、あの写真まだ飾ってくれてるの?うれしいな。」
ミニスカートから伸びた足を組み替えながら部屋を見回す。脚は…黒のパンストだ。
虎太郎「…」
花陽「虎太郎君おっきくなったけどお部屋はあんまり変わらないんだね。えへへ、なんだか嬉しいかも。」
虎太郎「…っ」
花陽「えっ?」
虎太郎「…っ…グスッ…」
花陽「え?え?どうしたの?何かいやなこと言っちゃった?」
虎太郎「ごめ…なさい…ごめん、なさい…」
花陽「あ…」
虎太郎「ごめんなさい…ごめんなさい…」
薄暗い部屋の中で、僕はひたすら花陽さんに謝り続けた。
情けなくって、みじめで、死んでしまいたかった。
花陽「…」
虎太郎「…っ…ひぐっ…うぅ…」
キュッ
虎太郎「え?」
花陽「…怒ってないよ。」
虎太郎「…?」
花陽「ちっとも怒ってないし、虎太郎くんのこと嫌いになったりしてないよ?」
そのまま、丸っこい両手でそっと僕の手を包んでくれる。
虎太郎「あ…で、でも気持ち悪い…」
花陽「全然!…気持ち悪かったらこんなことしないでしょ?」
そう言って花陽さんはにっこり笑った。
虎太郎「うう…あああ…!!ごめんなさい…!!」
花陽「うん…いいんだよ…いいんだよ…」
――
――――
――――――
花陽「――落ち着いた?」
虎太郎「…はい。」
花陽「えっとね…それじゃ…ひとつだけ聞いていい?」 ゴホンゴホン
花陽「あ、あのね…何か悩み事とかあるの?」
虎太郎「え…?」
花陽「何か嫌なこととか…困ったこととか…その…いじめとか…」
虎太郎「…ないです、けど…」
花陽「本当?…もし言いにくかったらにこちゃんには言わないよ?」
虎太郎「…ないです。」
花陽「…えと……そんな…だって、じゃあ、なんで…なんで?」
虎太郎(…何が言いたいんだろう。)
花陽「あ、あのね…虎太郎くん。私、もう26で…今年は27になるんだよ?」
虎太郎「えっと…はい。」
花陽「そ、そんなオバサンの…えっと…あぅ……///」
花陽「…楽しいの?」
虎太郎「え?」
花陽「欲しかったの?…学校にもっと可愛い子いっぱいいるでしょ?」
虎太郎「あ、あの…それは…なんていうか…つい…」
花陽「…何もこんなオバサンのなんて…あ!ち、違うよ!同級生の子のなら取っていいとかじゃないからね!」
虎太郎「は、はい!」
花陽「…すうー…はあー…」
虎太郎「…」
花陽「ね、ねえ…にこちゃんやこころちゃんやここあちゃん達のには…して、ないよね?」
虎太郎「そんな…えと…絶対ないですよ…僕が言っても説得力ないかもだけど…」
花陽「そっか、わかった…」
何かを決意したかのように、すっくと花陽さんが立ち上がる。
なんだろう、そう思う間もなくスカートの中に手を差し込むと、
む ち り と音を立てそうな真っ白な脚があらわになった。
え?え?なんで?薄暗い部屋の中、眩しいくらいの花陽さんの太ももが目の前で揺れている。
それはあまりにも非現実的で、扇情的で、魅力的で…目が離せなかった。
花陽「…後ろ向いててくれる?」
虎太郎「あ、ご、ごめんなさい!」
言われるがままに後ろを向く。
しゅる
しゅる
ぱさり
衣擦れの音がいやがおうにも背後の光景を想像させる。
花陽「…いいよ。」
ひどく卑猥に聞こえる言葉に振り返るとむちむちとした脚を窮屈そうに揃えて、花陽さんが正座していた。
うつむいたまま、花陽さんがスッと何か小さく折りたたまれたものを差し出す。
花陽「…えと…あげるね。」
花陽「いらなくなったら捨てていいから…だから、もうこんなことしちゃだめだよ?」
虎太郎「…」
ちがう、そうじゃない!何か言わなくちゃ、そう思った瞬間。
「――花陽?どこー?」
花陽「あ…もう行くね。」
有無をいわさない態度で花陽さんが立ち上がった。
花陽「…私じゃ頼りないかもしれないけど、何か悩みがあったらいつでも言ってね。」
最後に、ドアの手前で振り向いてそうつぶやいた後、花陽さんはパタン、とドアの向こうに消えていった。
「――ごめんね、虎太郎くんに挨拶しようと思ったんだけど、寝ちゃってたみたい。」
「――ああ、ごめんね。遅くまで勉強してたみたいだから寝かせてやって…アンタパンストは?」
「――――なんか伝線しちゃって…」
「――――そうなの、まだ雨も降ってるから車で送ってくわよ。」
「――――――りがとう…ごめんね。にこちゃん。」
「――――――――ってんのよこのくらい…」
雨は、大分ひどくなって、窓を叩いていた。
再び静かになった暗い部屋の中で、涙がぽつ、ぽつと黒い小さな布切れに染みこんでいった。
~第3話 完~
※ 補足…キャラの誕生日を考慮して年齢を修正しました。
虎太郎「――ごめんね。気持ちは嬉しいけど、今はそういうのちょっと…」
なるべく優しいトーンで拒絶の意思を伝えると、後輩の女の子はラブレターをおずおずと引っ込めた。
「あ、そ、そうですよね…先輩、受験で忙しいですもんね…」
虎太郎「うん、ごめんね…ありがとう…えっと……それじゃ。」
女の子がくしゃ、とラブレターを握りつぶす音がする。
おそらくこの後、そこの陰に控えている友だちが出てきて慰めるのだろう。
僕にかけてあげられる言葉なんて何もない。足早にそこから立ち去った。
――
――――
虎太郎(…我ながら嫌なやつだよな…)
「こらっ」ポカッ
虎太郎「てっ」
突然後ろから頭を小突かれた。
凛(26)「見てたよ~?どうして受け取ってあげなかったの?せっかく勇気を出したのに…」
虎太郎「別に…凛姉ちゃんには関係ないし…」
凛「せ・ん・せ・え!」ムッ
虎太郎「…星空先生には関係ないじゃないですか。」
凛「関係あるよぉ、こたくんの担任だもん!」エヘン
虎太郎「副担任でしょ。」
凛「むう…あ…ねえ、ちょっと耳貸して?」
凛姉ちゃんが僕の方に手をかけてつま先立ちになる。
凛「…こたくんさ、ひょっとして男の子が好きなの?」
虎太郎「は?」
凛「だって…凛がこの学校に来てからもう3回は告白されてるよね?すっごい可愛い子とかもいたのに…なんで?」
…本当は4回だけど…黙っとこう。
虎太郎「別に…そういうのめんどくさい、っていうか、うまくできないっていうか…」
凛「えー?なんでなんで?そんなこと言わないでちょっと付き合ってみればいいのに~」グリグリ
虎太郎「…人のことより、自分のことを心配しなよ。」
凛「えっ…り、凛のことは関係ないにゃ…でしょ!…先生いつも言ってるよね? できない、なんてあきらめないこと!」
凛姉ちゃんが『ほら、続きは?』と言わんばかりにキラキラした目で覗きこんでくる。
虎太郎「…無理だなんて簡単にいわないこと。」
凛・虎太郎『 誰だって変身できる! 』
渋々答えてあげると、凛姉ちゃんは満足そうにムフー、と鼻息を荒くした。
虎太郎「そんな大げさな…」
凛「まあまあ、細かいことはいいのっ!…それじゃね!寄り道しないで帰るんだよ!」
虎太郎(凛姉ちゃんはああ言うけどさ…)
今年うちの中学に来たばかりの凛姉ちゃんは知らないけど…女の子とデートしたことなら何回かある。
最初はクラスの子だった。一緒に海辺の公園でピクニックをした。手作りのお弁当を持ってきてくれた。
―――― にこにーのお弁当のほうが美味しいな、と思った。
次はモデルをやってるとかいう子だった。僕がデートのプランを考えた。どこに行ってもつまらなそうにしていた。
―――― 穂乃果さんだったらこっちまで楽しくなるくらい笑うのにな、と思った。
部活の先輩と二人きりで一緒に勉強したこともある。
―――― 真姫さんの方が何倍もわかりやすくて、綺麗で、ドキドキした。
女の子がみんなことりさんや花陽さんみたいに優しかったらいいのに
絵里さんや師範代みたいにかっこよかったらいいのに
希さんみたいに甘えさせてくれたらいいのに
凛姉ちゃんみたいに裏表がなかったらいいのに
そんなことを何度も思ううちに、女の子達の好意に答えるのも億劫になった。
――
――――
―――――――
「虎太郎くんっ♪」
虎太郎「あ…」
ことり(27)「どうしたの?元気ないね?」
ことりさんが可愛らしい車の窓から手を振る。
虎太郎「あ、いえ…すみません。遅くなっちゃって。」
ことり「ううん、平気だよ。乗って乗って♪」
虎太郎「失礼します。」
促されるままに助手席に乗り込むと、ゆっくりと車が走りだした。
ことり「――ごめんね、受験生なのにまたお願いしちゃって。」
虎太郎「大丈夫です。○○高校なら今のままでも大丈夫だって言われてますし。」
ことり「虎太郎くんならもっといい学校行けると思うのになあ…」
虎太郎「そんなことないですよ、男子校の方が気楽そうですしね。」
ことり「もったいないなあ…」
ことりさんがゆっくりとハンドルを切る。
虎太郎「あれ?」
ことり「ああ、ごめんね。今日はいつものスタジオが使えなくて…違うところなんだ。」
虎太郎「あ、はい。」
ことりさんがガチャガチャとギアを変えると車は一気に加速してバイパスに上っていった。
時々、ことりさんに頼まれてモデルのバイトをしている。
モデル、と言っても試作品の服を着て、感想を言ったり、少し写真を撮るだけだ。雑誌に載ったりはしない。
バイト代もお金じゃなくて、そのまま着た服をもらうっていう…まあ、要はお手伝いだ。
虎太郎「ことりさんのブランド、また特集組まれてましたね。クラスの女子が可愛いって言ってました。」
ことり「ありがと♪今度テレビにも出るんだよぉ。」
虎太郎「すごいじゃないですか!絶対見ますよ!」
ことり「すごくないよ~、にこちゃんの方がずっとテレビに出てるし…」
虎太郎「…今は別に…」
ことり「…私なんかが出たらみんながっかりしちゃうんじゃないかな?μ'sのこと覚えてる人もいるかもだし…」
虎太郎「そんなことないですよ。ことりさんは…あの…」
ことり「?」
虎太郎「美人、ですし…」
ことり「ふふ、ありがと。お世辞でもうれしいな♪」
お世辞じゃないです、って言いたかったけど面と向かって女の人を褒めるのは恥ずかしくて、窓の外を見てごまかした。
ことり「さっ、どうぞ。誰もいないから気にしないでいいよ~。」
虎太郎「あ、あの…ここって…」
オートロックの玄関を抜け、ピカピカのエレベーターで最上階へ、ことりさんが指をかざすとドアがスッと開いた。
ことり「私のアトリエ兼スタジオ兼ホテル…って感じかな?忙しいとほとんどここに引きこもっちゃうんだけどね。」
虎太郎「…」
うちの何倍もあるリビングや窓の向こうに広がる景色にあっけにとられる。
ことり「座って?今お茶をだすね。」
虎太郎「は、はい…」
いかにも高そうな椅子とテーブルに小さくなって腰掛けた。
ことり「おいしい?いただきものなんだけど…」
やたらと高そうなお菓子と複雑な香りのするお茶を緊張しながらすする。
虎太郎「あ、えと…」(正直なんだかよくわからない…)
ことり「ふふ、穂乃果ちゃんちのおまんじゅうの方が美味しいです、って顔にでてるよ?」
虎太郎「あ!いえ!そんなこと…!」
ことり「ことりもそう思う!」ニコッ
虎太郎「あ…」
ことり「えへへ、そんなに緊張しなくていいよ。いつもと場所が違うだけだから。」
優しく笑うことりさんのおかげで少し緊張がほぐれた。
虎太郎「はい…あ、そうだ!これ!」
ことり「?」
虎太郎「あの…にこに、姉からです。いつも洋服頂いて悪いからって。」
ことり「ええ!?ダメだよ!本当だったらことりがお金払わないといけないんだから!」
ブンブンと手をふることりさんに茶色い封筒を押し付ける。
虎太郎「いや、でも…あんなにたくさん…」
ことり「お洋服じゃたりないくらいだよ!モデルの子より虎太郎くんの方がイメージ膨らむから…私のワガママなのに…」
虎太郎「そんな…」グイ
ことり「うけとれないよぉ…」グイ
そんな押し問答の末に
ことり「うぅ…じゃあ、もらうね。ありがとう…ちょっとしまってくるね。」
ようやく、封筒を受け取ってくれた。
ことり「――はい、虎太郎くん。」
戻ってきたことりさんから可愛らしい封筒を手渡された。
虎太郎「え?」
ことり「モデル代だよ。いつもありがとう。」
虎太郎「え、あの…困ります…さっきも言ったとおり…」
ことり「ううん、違うよ。」
虎太郎「え?」
ことり「これは、”もうひとつの方のモデル”のお礼だよ。」
虎太郎「あ…」
怪しい笑顔にドキッとする。
ことり「ふふ…♪それじゃ、そろそろ始めよっか♪」
ことりさんが部屋の奥に僕の手を引いていった。
※長くなったので切ります。
――パシャリ
ことり「うんうん!いいよいいよぉ~!すっごく似合ってる!」
――パシャリ
ひとつフラッシュが瞬く度に僕はポーズを取りなおす。
――パシャリ
ことり「あ~~ん!素敵!ゲームの世界から飛び出てきたみたい!」
虎太郎「あ、そ、そうですか…?」
がちゃり、と侍の鎧を模したコスチュームを鳴らしながら頭をかく。
そう、これが”もうひとつの方のモデル”…コスプレだ。
『お仕事に関係無いものを作るのってストレス解消になるから』
そう言って、時々僕の好きなアニメや漫画のヒーローのコスチュームをプレゼントしてくれたことりさん。
さすがに、本人も好きだったとは思わなかったけど…こうやって密かに憧れるヒーローの格好をするのは嫌いじゃない。
もちろん絶対に家族や友達には見せられないけど…
ことり「ふう、よかったあ…次は私も着替えてくるから、ちょっと休憩しててね。」
虎太郎「あ、はい…ふう。」 (助かった。結構暑いなこの部屋。照明のせいかな。)
虎太郎(すごいよな…個人の家にこんな本格的なスタジオがあるんだから…)
用意されたスポーツドリンクを飲んでいると。
ことり「お待たせ~」
虎太郎「っ!」
思わずドリンクを噴き出しそうになった。
全身黒いエナメル、大きく開けられた胸元、すらりと伸びた脚を限界まで見せた短パン。
虎太郎(…まるで女王様だ。)
ことり「えへへ~、虎太郎くんのキャラのライバルなんだよ?どう?」
虎太郎「あ、その…綺麗です。よく、似合ってます…」(ちょっと目のやり場に困るけど)
ことり「よかったあ~!えっとね、それで、こういうポーズが撮りたいんだけど…」
一枚のイラストを見せられる。ことりさんの演じる女の子が、後ろから侍に絡みつくようにしていた。
虎太郎「え!いや…その、これは…」
ことり「…10秒毎にシャッターが切れるようにしておくね~」
虎太郎「あ、あの…さすがに…」
ことり「?」
虎太郎「恥ずかしいっていうか…その…」
ことり「え~?平気だよお、女の子キャラ同士だもん。」
虎太郎「え?」
ことり「あれ?知らなかった?虎太郎くんのキャラ、男装してる女の子なんだよ。渡した下着も女の子用だったでしょ?」
虎太郎「え?え?」
なんで?なんでなんで?わけがわからない―――クラスの女子が騒いでたからてっきり男キャラだと思ってたけど――
僕が本当は男だけど、女の子の下着をつけていて、でもそのキャラは本当は女の子だから当然のことで――
ことり「…なーんて、ユニセックスっていって、男の子でも女の子でも平気な下着なんだけどね?」
虎太郎「え?でも僕は男だから男のキャラで…」
混乱してことりさんの話がよく入ってこない。
ことり「違うよ~、男の子の格好した女の子のキャラ!」
無邪気に笑いながらことりさんが背中に身を寄せてきた。
虎太郎「あ…」
ことり「えへへ、ごめんね、だましちゃって。」
虎太郎「あ、いえ…あっ!」
するり、とことりさんの手が僕の胸板に伸びてきた。
ことり「びっくりした?」
虎太郎「少し…」
さす さす ゆっくりとことりさんの手が僕の胸をなで上げる。
ことり「筋肉ついてるね…さすが男の子。」
くすぐったくて思わず声が出そうになる。偶然か、それとも故意か、胸の先端を爪が軽くひっかく。
虎太郎「っ!」ビクッ
ことり「…♪」
背中だから顔は見えないけど ことりさんが笑ったような気がした。
ことり「――じゃあ、もう一つ、隠してること――教えてあげるね?」
虎太郎「!」
耳元でささやかれてぞくり、と体が震える。
ことり「ことりのちょっと恥ずかしい秘密…誰にも言わないでね…?」
甘い声が 吐息が 耳朶を愛撫する。
ことり「ことりね――ヒーローさんが負けて泣いてるのが大好きなの――」
ど ろ り と
耳を通して 蜜 が流れ込んできた。
虎太郎「へ…?」
ことり「うん…」
頷いたことりさんの微かな吐息が耳に入り込む。
虎太郎「っ!!」ゾクゾク
ことり「海未ちゃんとか…虎太郎くんみたいに……凛々しくてかっこいい子がね…悔しそうにして泣いちゃってるところ…」
ゆっくり ゆっくり 胸をさする手が下に降りてくる。
虎太郎「ぁ…っ…ぁ…」
ことり「そういうの…ちょっと…見てみたいなあっ、て……」
ぴたり、とへその下の方で止まった手がゆっくり ゆっくりと 這いまわりはじめる。
虎太郎「あ…あ…」
やばい これは絶対にやばい どうしよう ああ そうだ 後ろから組みつかれたときには――
ことり「…♪」
キュッ
空いてる方の手が絡め取られる。
そのまま―――ことりさんの細くてしなやかな指が――つう、と舐めあげるように僕の指を――
虎太郎「ん…!ぁ…!」
ことり「ふふ?くすぐったい?」
最初は親指、次に人差し指、一本一本丁寧にさすられていく。
根本からねっとりと、絡みつくようにさすられ、先端がくりくりと掻き回される。
虎太郎「あ…!ぅっ、あ…!」
ことり「気持ちいい?指のマッサージ…ことりもよくやるんだ♪」
師範代…海未さんに教わった……あれ…どうするんだっけ…?
ことり「ほらぁ…カメラ目線だよ?」
虎太郎「ふぁ…はい…」
顎をくい、と持ち上げられ、そのままなで上げられる。
ことり「虎太郎くん……力抜いて…」
ゆっくり ゆっくり 意思を持つ生き物のようにことりさんの手が僕をほぐしていく
証明の熱 断続的に響くシャッター音が判断力を奪っていく
ことり「…もっと……そう……うん…」
耳から 流し込まれる 蜜が 脳をドロドロに溶かす
もう 何も考えられない
下腹部に溜まった 熱くて ドロドロしたものを 今すぐ吐き出したい
耳にかかる吐息を
かすかに触れる胸を
指先への愛撫を
ことりさんの手から伝わる温もりを
ただただ 感じることだけで頭がいっぱいになる
早く 早く ―――
僕のアソコはもう痛いくらいに大きくなっていて 下着を突き破りそうだったけれども
ことりさんは絶対にそこには触れてくれなかった。
女の子の下着をつけた僕は ただただ ことりさんの与えてくれる快楽に溺れて――
早く 早く 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!
そして、偶然か、それともわざとなのか
――ことりさんの指先がズボンの隙間に引っかかった瞬間、
やった!!思わず本能がそう叫んだ――
ピーーーーーー
虎太郎「え…?」
ことり「あ…バッテリー、切れちゃったね。」
虎太郎「っ!」
ことりさんの手が一瞬止まった隙をついて素早く離れる。
ことり「きゃっ!」
虎太郎「あっ、すみません!」
ことり「うん…平気だよ。」
虎太郎「あ…えと…その…ト、トイレ!トイレどこですか!」
ことり「え…」
虎太郎「あ、あの…ごめんなさい。おなか冷えちゃって…」
下半身の膨らみを悟られないように必死でおなかをおさえて誤魔化す。
ことり「…くす。そっか、ごめんね、出て左だよ。後片付けしておくからゆっくりしてきていいよ。」
虎太郎「すみません!」
あとはもう、逃げるように部屋を出た。
どうにかバレずに済んだけど…紳士な自分に戻るには少し時間がかかりそうだった。
――
――――
―――――――
ことり「…怒ってる?」
虎太郎「…怒ってません。」
帰りの車内で、僕はずっと窓の外を見ていた。
ことり「あはは…ごめんね?虎太郎君疲れてそうだったからつい…」
虎太郎「…」
ことり「ふ~っ♪」
虎太郎「わっ!」
耳の穴に息を吹きかけられた。
ことり「…うん。元気でたみたいだね。」
信号待ちしていた車が再び発進する。
虎太郎「あ…」
ことり「私もね、同じような服とか、アイディアばっかり出てくることがあるの。」
虎太郎「…」
ことり「うー…もうやだ!こんなの全然ダメ!同じことしかできない!って狭い鳥かごに閉じ込められたみたいにうーっってなるんだけどね。」
虎太郎「はい…」
ことり「そういう時、思い切って別の自分になってみるんだ。そうするとね、色々と見え方が違ってくるの。」
虎太郎「別の自分…?」
ことり「うん♪…楽しかったでしょ?コスプレ。」
虎太郎「…いや、その…」
ことり「ん?」
虎太郎「…はい。」
ことり「うん!まあ、コスプレだけじゃなくてね、新しい世界を見るって、大事なことなんだなって…ことりは思うんだ。」
虎太郎「新しい世界…」
『 ――誰だって変身できる 』
虎太郎(…凛姉ちゃんも言ってたな…)
――
――――
ことり「それじゃね、虎太郎くん。」
虎太郎「はい、今日はありがとうございました。」
マンションの前で、紙袋に詰められた洋服を受け取ってお礼を言う。
ことり「にこちゃんによろしくね」
虎太郎「はい。」
ことり「ああ、それからこれ、あげるね。」
虎太郎「え?」
ことり「布が余ったから作ってみたの。かわいがってあげてね。」
虎太郎「…人形?」
ことり「それじゃ、バイバイ♪」
遠ざかることりさんの車に頭を下げる。
車が角を曲がって見えなくなってからゆっくりと手の中のものを確認する。
虎太郎「――なんだこれ。」
それは、さも悔しそうに泣いている、おそらく僕に似せて作ったであろうマスコットだった――
~ 第4話 完 ~
にこ「――そうですね、本人の希望を尊重して…」
「そうですか、虎太郎くんの学力でしたら最上位の私立高校も十分合格ラインなのですが…」
凛「そうだよ!にこちゃんからもこたくんに薦めてよ~。」
「…星空先生。」
凛「あ…ぜ、ぜひ、お姉さまからも弟様におすすめになってくださいませんことかしら?」
虎太郎「…ふふっ。」
にこ「…日本の教育が心配になるわね…。」
「面目ない…じゃあ矢澤、進路はこのまま○○高校でいいんだな?」
虎太郎「はい。徒歩で通える距離ですし。」
「うむ…そうか…いつでも変更していいからな。」
虎太郎「はい、ありがとうございます。」
「…ところで話は変わりますが。その…私、実はその昔、お姉さんの大ファンでして…」
凛「えーっ!?初めて聞いたにゃ!…です!」
にこ「え~っ?今はファンじゃないんですかぁ~?」
「あ、いや!そんなことはなくて!もちろん昔から今でもずっと……」
――
――――
――――――
にこ「ふう…久々に学校なんか来ると肩がこるわね。」クイクイ
虎太郎「ありがとうにこにー。忙しいのに…」
にこ「別に、今は忙しくないわよ。…にこもすっかり【懐かしのアイドル】みたいだし?」
虎太郎「あはは…そんなことないよ。先生すっごく喜んでたもの。」
にこ「ま、とーぜんよね…どうする?一緒に帰る?」
虎太郎「ううん、図書館で勉強して帰るよ。」
にこ「そ、頑張ってね。夕飯何がいい?」
虎太郎「…えっと、にこにー特製ハンバーグがいいな。」
にこ「はーいっ、腕によりをかけて作るニコっ☆」
虎太郎「えへへ…楽しみだな。それじゃね、今日はありがとう。」
にこ「…どうにかしないとね。」
――
――――
――――――
凛「あっ…」
夕暮れの色に沈む校舎の廊下の向こうにダンボールを抱えた凛姉ちゃんがいた。
虎太郎「あれ、もう面談終わったの?」
凛「…ふんだ。」
虎太郎「凛姉ちゃん?」
凛「?」
違うでしょ、という目つきで僕を見上げてくる。
虎太郎「…星空先生はもう面談を終えられたのでございますかしら?」
凛「っ!~~~~~!」
ダンボールを抱えたままぴょこん、と体当りされる。
虎太郎「痛いなあ、体罰でございますわよ。」
凛「…こたくんのせいだからね。」
虎太郎「え?」
凛「こたくんのせいで怒られた。」
ぶう、と口を突き出す。
凛「おかげで教材を持ってくる羽目になったにゃ。」
虎太郎(…僕は何も悪く無いと思うけど…)
凛「あーあ。まったくもう…教材室暗くて怖いんだよねー。」チラッ
虎太郎「…」
凛「この時間だとあっちの方は誰もいないしさー。」チラッ
虎太郎「…」
凛「ああ、重い重い。こんなの凛一人じゃ運べないなあ。」ハア
虎太郎「…」ヒョイ
凛「おっ、軽くなった~♪それじゃ、そのまま4階まで行こっか!」
虎太郎(凛姉ちゃんは怒られて当然な気がする…)
クラスの連中は凛姉ちゃん、もとい星空先生と二人きりなんて言ったらうらやましがるんだろうなあ。
そんなことを考えてるうちに校舎の最上階、一番端の教材室の前にたどり着く。
凛「ちょっと待ってね?」
いつものジャージとは違う、ピチっとしたスーツに手を突っ込んでなにやらゴソゴソやってる。
凛「あ、あれ…?ここかな?それとも…あ、あった!」
どうやら鍵を探していたらしい。お目当てのものをニヒヒ、といった顔で見せつけて、扉を開いた。
凛「ありがと、それこっちにおろして。」
虎太郎「よっと…」
薄暗い部屋の隅にダンボールを下ろす。
凛「あとは、ここに書いてあるファイルを持っていかないといけないんだけど…」
虎太郎「…手伝うよ。」
期待に満ちた目についそう言ってしまう。
凛「えへへーありがとっ!」
ニパッと笑う凛姉ちゃんにどっちが先生だかわからなくってしまう。
――
――――
それから少しして
凛「あ、あった!」
虎太郎「え?」
凛「あれ!ほら!」
凛姉ちゃんが指差す方、棚の一番上のさらに上にお目当てのものはあった。
虎太郎「ああ…どうしよっか、脚立借りてくる?」
凛「ん~~~…あ、そうだ!」
凛姉ちゃんがトトト、と僕の後ろに回りこんできた。
凛「よっ!ほっ!」
虎太郎「ちょ!え?」
僕の肩をつかんでいきなりピョンピョンはね出した凛姉ちゃんがもどかしそうに叫ぶ。
凛「もう!しゃがんでよ!乗っかれないじゃん!」
虎太郎「え?」
凛「いいから!」
肩をぐっと押される。言われるがままにしゃがみこむと…
凛「ほっ!」
顔の横に にょきっ とスレンダーな脚が飛び出した。
虎太郎「…なんだ、肩車か…」
凛「いいよ!立って立って!」
凛姉ちゃんが僕の頭をペチペチと叩く。
虎太郎「はいはい…気をつけてね。」
凛姉ちゃんが落ちないようにむき出しの脚に手をかける。
虎太郎「あ…」
瞬間、その温かさにドキッとした。
凛「?」
虎太郎(え?素足…?普通こういうOLさんみたいなスーツて何か履くんじゃないの?)
凛「どしたの?」
虎太郎「あ、いや…」
虎太郎(やばいやばい…相手は凛姉ちゃんだぞ。変なことなんか考えるなよな。)
凛「こたくん、ちょっとくすぐったいwもう少し強く抑えていいよ。」」
思ったより肉付きが良くて柔らかいふくらはぎとか
そこに食い込んでる自分の指とか
凛「…う~ん…これ、じゃないよね…」ゴソゴソ
頭の後ろに感じる凛姉ちゃんのスカートの生地の感触とか(多分めくれ上がってるんだろうなあ。)
凛姉ちゃんが手を伸ばす度に近づくその奥の場所とか
凛「あ、これかな?っと!」
両肩にずしりと感じる柔らかさとかほんのりとした温かさとか
時々落ちないようにギュッと挟み込んでくる太もものこととか
―――もうとにかくそういうことを絶対考えないようにして、歯をくいしばった。
凛「うん、うん…平成○○年度…これで間違いなし!ありがと!こたくん、もういいよ!」
虎太郎(相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん)
凛「聞こえてる?もういいってば。」
虎太郎(エロくないエロくないいい匂いなんてしない柔らかくなんてないすべすべなんかじゃない)
凛「もー!こたくん!いたずらしないで!」
虎太郎(勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け)
凛「…」
――僕が必死で数学の公式とか歴史の重要人物とかブサイクな芸人の顔を思い浮かべてると
凛「ん~~~!」ギュッ
両側から 何か 柔らかいもので 思い切り頭を押しつぶされた。
虎太郎「!?!?!?!?」
凛「もう!見つかったって言ってるでしょ!」
凛姉ちゃんが体を折り曲げて僕の顔を覗きこんでくる。
つまり、そういった体勢をとるということは 必然的に前の方に体を乗り出すことになるわけで。
虎太郎(あ…首の後ろに何か感じる…あったかい……ていうか熱い…?)
もう、おしりの近くぐらいまで脚は乗っかっていて
なにかよくわからない柔らかいもの (絶対に僕は認めない)
が頭にふにょふにょとくっついたり離れたりして。
虎太郎「あ…うわ…///」
凛「ちょ、ちょっと!うわわわわ!」
――もう限界だった。
虎太郎「うわ!」ダダダッ
凛「きゃっ!!」ギュウ
狭い部屋の中で思いっきりたたらを踏む。
虎太郎(ダメだ!絶対に落としちゃダメだ!)
脚に力を入れて転倒をこらえる。手はとっさに近くのカーテンを握りしめた。
ビリッ、と少しいやな音がする。
凛「…っ…」
虎太郎「…っ」
よかった。なんとか転ばずに済んだ。凛姉ちゃんも……無事だ。
凛「…はあ~っ」
大きなため息をついて僕の頭に両肘をのせる。
凛「もう、気をつけてにゃ……」
虎太郎「うん、ごめん……カーテン…」
上の方から破れ、床にだらしなく落ちたカーテンを見やる。
そして、二人同時に
「「……あっ」」
と声をあげた。
凛「すごい…」
それは どこまでも続くかのような 夕焼けの街の風景
幻想的な影絵のように 全てが赤と黒に染め上げられ 空に浮かぶ雲だけが光を受けて輝いていた
虎太郎「…」
凛「…」
お互い、無言で外を眺める。
凛「…すごいね。」
虎太郎「うん…」
凛姉ちゃんが僕の頭に手を乗せてつぶやく。
凛「こんな景色、知らなかったにゃ…」
虎太郎「…」
凛「――ね、こたくんさ。」
虎太郎「?」
僕の髪を優しくすきながら、凛姉ちゃんが話しかける。
凛「……本当のこと、話しなよ。にこちゃんに。」
虎太郎「…」
凛「ううん、話さなくてもわかってると思うけど…」
さらさらと髪をなでる手が気持ちいい。
虎太郎「…別に、隠し事とかないし…」
凛「…もうっ」
上から すっ と頬に両手が添えられる。
凛「可愛くないにゃあ。昔はな~んでも話してくれたし、凛のいうこと聞いてくれたのにね。」
虎太郎「…そんなの、子どもの頃だし…」
今でも子どもじゃないか、そう自分で突っ込んだけど。
凛「…そっか、そだね。背だってこんなにおっきくなって…もう、立派な男の子なんだね。」
虎太郎「…うん、そうだよ。」
凛「そっか…」
ゆっくり、凛姉ちゃんの手が僕の顔を愛おしそうに撫でる。
凛「…ひげ、残ってるよ。ちゃんと剃らないと。」
虎太郎「…うん」
凛「みんな、こたくんの味方だよ。」
虎太郎「うん。」
凛「絶対、応援するよ。」
虎太郎「うん。」
凛「…もっとお姉ちゃんのこと頼ってもいいんだよ。凛だって、ね。」
虎太郎「うん…」
その後はもう何も言わずに、二人で空を眺めた。
~第5話 完~
※ 凛ちゃんが香水をつけてるというネタを入れ忘れました。
虎太郎(ふむふむ…相場は…大体3万円前後か…)ペラ
虎太郎(ことりさんからもらったのが…だめだ、たりないなあ…)
「…?」
虎太郎(う~ん…でも、あまり子どもっぽいものは渡せないし…)
「…」ソーッ
虎太郎(…そもそもどういうものがいいのかもよくわからない…どれも同じように見える…)
「…」ヒョイ
虎太郎(…高いほうがいいのか?でも…)
「中学生にてふぁにーはまだ早いんじゃない?」
虎太郎「おわっ!!」
穂乃果(28) 「久しぶり~っ!何見てるの?」
虎太郎「ほ、穂乃果さん…びっくりした…」
穂乃果「なになに?彼女にクリスマスプレゼント?いやあ~、虎太郎君もとうとうそんな年になったか~!」ニヒヒ
虎太郎「あ、いや…そんなんじゃなくて…」
穂乃果「照れなくていいよぉ~。虎太郎君にこちゃんみたいでかっこいいもんね!…で、誰?どんな子?後輩?先輩?写真見せて?」
虎太郎「えと…そうじゃなくって…」
穂乃果「もぉ~!いいじゃんいいじゃん!もったいぶらないでよ!」
虎太郎「あ…その…ただ、プレゼントするだけっていうか…」
穂乃果「おぉ~!いいねいいね!青春だねえ!プレゼントを渡して告白かぁ~!」
虎太郎「いや、そういうのじゃなくって…ただ、いいなあ、って憧れてる人に…」
穂乃果「え、ひょっとして…年上?嘘!もしかして私?」
虎太郎「…違います。」
虎太郎(…しまった、つい穂乃果さんのペースに乗せられてしまった…)
それから、しつこい穂乃果さんの攻撃を適当にはぐらかすうちに
穂乃果「――虎太郎君の恋を甘く切なくサポートしてあげる!」
虎太郎「えっ、いや、いいです…」(絶対楽しんでるな…)
穂乃果「いいからいいから!悪いようにはしないからさぁ~」ニシシ
その穂乃果さんの勢いを押し返せるはずもなく…
――
――――
――――――
虎太郎「あ…あ…」
バタリ、と床にへたりこむ。
穂乃果さんのサポート、とはこの辺で行われる秋祭りのお手伝いのことだった。
虎太郎(…今思うとアレは都合のいい労働力を見つけたっていう笑顔だったんだなあ…)
『穂むら』の居間に体を横たえる。
バイト代も弾んでくれるそうだし、一日程度ならかえっていい運動不足の解消になるだろう、そう思ったのだけど。
虎太郎(…働くのってこんなにキツイんだな…)
思わずため息が漏れた
穂乃果「――お疲れ様。もうウチでやることはないから、一休みしたら帰ってもいいよ。」
虎太郎「あ、すみません。」ガバ
穂乃果「あはは、いいよいいよ。横になってて。」
こと、と穂乃果さんが湯のみを置く。
虎太郎「いえ、大丈夫です…いただきます。」
穂乃果「はいどうぞ。売れ残りで悪いけど、和菓子も食べてね。」
虎太郎「すみません……あ、美味しいです。」
穂乃果「ほう?」
僕に和菓子を薦めた当の本人は、どこから出したのかチョコレートを頬張っていた。
虎太郎「…」
穂乃果「あ、遠慮しないでいいよ?全部食べて?」
虎太郎「はあ…」
なにか釈然としないものを感じるけど…
――
――――
穂乃果「…へえ、今の中学生ってそんなことまで習うんだあ。」
虎太郎「いや、昔からやってたと思いますけど…」
穂乃果「え?そうだっけ?…あはは。」
くだらない雑談をして時間をつぶす。なんてことない話だけど、穂乃果さんと話してると元気が出てくる気がする。
虎太郎(さすが、にこにーが一目置くだけあるなあ。)
~~~♪
虎太郎「あ、すみません……にこに、姉さんからだ。いつ帰るのって。」
穂乃果「そっか、帰る?」
虎太郎「はい、今日はありがとうございました……あの…帰る前に…」
穂乃果「…?ああ、トイレね、今誰も居ないから遠慮せずどうぞ。場所わかるよね?」
虎太郎「はい。」
ギシギシ、と音が響く。みんな祭に行ってしまったのか、家の中どころかこの近辺に誰も居ないかのような静けさだった。
虎太郎「――ふう。」ジャー
虎太郎(しかし、本当に静かだな…)
――ぁ―――ぁっ…――
虎太郎「…ん?」
――ぃぃ―――ぅん…――
虎太郎「!?」
え、なんだ、この艶かしい声は!?
――ぃぃ!―――イッチャウ!…――
虎太郎(間違いない――これは――)
僕は居間に急ぐ。
虎太郎(穂乃果さん…まさか……)
居間の前で短く深呼吸
『いいっ!気持ちいいのぉ!もっとしてえっ!』
虎太郎(間違いない これは――)
そして――勢い良く開け放った障子の向こうには――
穂乃果「っ!!」ビクッ!
『ああ~ん!すごい!もう私イミワカンナアイ!』
僕の携帯で、アダルト動画を見ている穂乃果さんがいた。
穂乃果「こ、虎太郎君!?これはね!?」
虎太郎「っ!」バッ
穂乃果「きゃっ!」
虎太郎(――間違いない…僕のお気に入り動画No.1 ヌレヌレ診察室だ……) 「じゃなくて!!」
穂乃果「…あ、あはは…」
虎太郎「なんで勝手に人の携帯見てるんですか!」
穂乃果「あ、えっとね、その…メールが来てね?バイブでちゃぶ台から落ちそうだったからキャッチしたら変なとこ触っちゃって…」
虎太郎「…」
不審に思い、調べてみる。
虎太郎「…確かに、メールが来てます。」
穂乃果「ね?ね?…でしょ?そしたら急にね、その、始まっちゃってさ、どうやって止めたらいいのかもわかんなくって…」エヘヘ
虎太郎(思いっきり見入ってた気もするけど…)
まあ、考えてみればすぐ再生できるようにしておいた僕も悪い……のか?
穂乃果「てへへ…ま、まあまあ、座って座って?お詫びにお茶でも飲んでよ。」
虎太郎「…はあ。」
虎太郎(…このまま帰るのも確かに気まずいよな…)
渋々、腰を下ろす。
穂乃果「ご、ごめんね?本当に…」
虎太郎「…」
穂乃果「…」
気まずい…
穂乃果「―――あれって本物のお医者さん?」
虎太郎「…知りませんよ、セットじゃないんですか?」
穂乃果「へー、そっか…ほーん……あ、じゃあさ!」
虎太郎「なんですか…」
穂乃果「ああいうのってお金かかるの?」
虎太郎「知りませんよ…」
穂乃果「そっか、まあ、その…ほどほどにね!」
虎太郎「…もともと悪いのは穂乃果さんじゃないですか…」ハア
穂乃果「しかし、ねえ…」ニマニマ
虎太郎「…なんですか。」
穂乃果「いや、そんなお年ごろになったんだな~って。」ニヤニヤ
虎太郎「――あ、あの、一応言っときますけど、そっちが悪いんですから、にこにーとか師範代には…」
穂乃果「黙っててほしい?」ニヤニヤ
虎太郎「…」
…この人はどうしてこう、強いんだろうか。ある意味見習わないとな…
――
――――
穂乃果「あ゛~~~~っ!そこ!そこ効くっ!」
虎太郎「変な声出さないでくださいよ…」グイグイ
穂乃果「いやあ…歳かなあ。最近こっちゃってさ…」
虎太郎「…運動不足じゃないですか?たまには師範代のとこでも…」グイグイ
穂乃果「あ…海未ちゃんと言えばね、なにか知ってる?」
虎太郎「?」
穂乃果「なんか最近さ児童心理とか思春期について、とか、そんな本ばっか読んでるの。」
虎太郎「へえ」グイグイ
穂乃果「先生にでもなるのって聞いたらなんか赤くなっちゃってさ…『年上として責任をとるべきでしょうか』なんて言ってるの。」
虎太郎「へえ、どうしたんでしょうね」グイグイ
穂乃果「ねー…あ、次は脚お願い。」
穂乃果さんがゴロン、とうつぶせになる。
虎太郎(…ジーンズでよかった。)
ふと思い出した凛姉ちゃんの温もりを慌てて追い出す。
細身のジーンズだからかな、ムチムチとした穂乃果さんの脚が余計強調されてる。
虎太郎(結構お尻おっきいんだな…)
なるべくそっちは見ないようにして脚に手をかける。すると――
ぐにょ
虎太郎「えっ」
穂乃果「あーっ!今えっ、って言ったでしょ!」
虎太郎「あ、いや…」(ぐにょぐにょだ…)
穂乃果「…」ジトー
虎太郎「あ…こんな感じでいいですか?」グニョグニョ
穂乃果「…ふんだ。どうせおばさんの体ですよ…」
虎太郎「そ、そんなこと…」(おお…弾力がない…なんていうか…しっとりと沈んでいくな…)
穂乃果「そりゃさ、まずいとは思うけどさー、なんか億劫でさー…」
虎太郎「はあ…とりあえず腹筋でもしたらどうですか?」
穂乃果「…どういう意味?」
虎太郎「あ、いや…」
穂乃果「もー!じゃあやるよ!腹筋するよ!」ガバッ
虎太郎「おわっ!」
穂乃果さんが突然仰向けになる。
穂乃果「ん」ポンポン
虎太郎(え、どうしたんだろう、たぬきのマネなんかして。)
穂乃果「手、おいて。」
虎太郎「?」
穂乃果「お腹に手おいて。そうするとそこを意識するようになって効果的なんだってさ。」
ああ、そういうことか。それなら師範代から聞いたことがある。
穂乃果「ん…」
手をそっとあてると、穂乃果さんの体温が薄手のセーターを通して伝わってきた。
虎太郎(…あ、気持ちいいな、これ…)
なんていうか、格別の柔らかさだ。その、なんていうか…脚、とか胸、とかとは全然別種の…
思わずふにふに、と指を動かしたくなる。
穂乃果「ふぐーっ!んぐーっ!!」グググ
虎太郎(うわ、なんだろうこれ、マシュマロ?お餅?すごく柔らかいぞ。)フニフニ
穂乃果「―ふうーっ…ふうーっ…おし!いい感じ!」
ちなみにあんまり頭はあがってない。10回もやってない。
穂乃果「もうちょっと手を下に置いて?…もっともっと…うん、そうそう、そこそこ。」
虎太郎(うわ…なんだこれ!さっきよりももっと気持ちいいぞ!)
穂乃果「最近下っ腹が出てきちゃってさ…いくよぉっ!」グググ
虎太郎(ああ、確かにこれならジーンズに腹が乗っかりそうだな…)
穂乃果「ふーーーっ!んーーーっ!!」グググ
虎太郎「…」
穂乃果「んむむむむーーーーっ!!」グググ
虎太郎「…」
グッ
穂乃果「あんっ!」
虎太郎(え?)
なんだ?ちょっとしたイタズラでお腹を押しただけなのに…
穂乃果「ちょ、ちょっと…」
虎太郎「…」グッ
穂乃果「ひゃうんっ!!」ビクッ!
虎太郎「…」グッ グッ
穂乃果「あっ……!んっ……やだっ!」ビクンビクン
虎太郎「…」グリグリ
穂乃果「はうっ!?…あっ!あっ!あっ!」
虎太郎(…なんだこれ?)
下腹部を押す度に穂乃果さんが高い声を上げて身をくねらせる。
穂乃果「ちょ…ちょっと……・いい加減に…」
虎太郎「…」ブブブブ
小刻みに揺すってみる。
穂乃果「ふぁあっ!?」ビクッ
――穂乃果さんが…大人の女の人が僕の思い通りになっている…そのことが心の暗いところに火をつけた。
グリグリ
穂乃果「あっ…!!んっ…!」ビクッ
穂乃果さんが必死に口を抑えて声を我慢する。
ブルブル
穂乃果「おねっ……!がっ……やっ……んんっ!!」
切なそうに脚を擦り合わせて逃げようとするのを執拗におさえる。
サスリサスリ
穂乃果「はあ…ん…あっ……」
さっきまで散々からかわれたお返しに執拗に責める。
虎太郎(…穂乃果さん、くすぐり弱かったんだな。)
最後のとどめとばかりに連続で振動させる。
穂乃果「あっ!やだ!やだ!やだやだやだやだ!…あああああんっ!!」ビクビクン!
穂乃果「――ハア…ハア……」
虎太郎「あ…」
涙ぐんでいる穂乃果さんを見て急に冷静になる。
虎太郎「あ、す、すみません……」
穂乃果「ハア…ハア…グスッ…」
虎太郎「あの、大丈夫ですか…?」
穂乃果「…」
穂乃果さんがのっそりと起き上がる。
上気した頬、涙ぐんだ目、うっすらと汗をかいた首筋が妙に色っぽい。
穂乃果「…シャワー行く…」
虎太郎「あ、あの…わっ!」ボスッ
追いかけようとすると、座布団を顔に投げつけられた
穂乃果「……えっち。」
虎太郎「……え?」
―その日自分のした行為の意味を知るのはずっと後のことだった。
~第6話 完~
虎太郎「――え?なんで…」
にこ「だからね、ママの会社の人が知り合いのお仕事を紹介してくれたの。」
虎太郎「だから、なんで…」
にこ「…にこの歳を考えたらとっても良い条件だしね。それに、家にいてばっかりも退屈だし。」
にこ「だから、お金の事なら心配しなくていいわよ。こころもここあも大学まで行ったんだし…」
虎太郎「そうじゃなくって!」
にこ「…」
虎太郎「ア、アイドルは…?にこにーはアイドルなんだよね?それなのに…」
にこ「…しばらくお休み。って言っても最近はずっとお休みだったけどね。」
虎太郎「いやだよ!僕のことなんて気にしないでいいから…」
にこ「…これ、ごめんね。部屋掃除した時に見つけちゃったの。」スッ
虎太郎「あ…」
にこ「あのね、虎太郎。アンタが本当に○○高校に行きたいならそうしてほしい。でもね…」
虎太郎「…」
にこ「にこはね…アンタが”本当に”やりたいこと、したいことをしてほしい。だから…」
虎太郎「…わかった。」
にこ「え?そ、そう?随分と素直ね…」
虎太郎「……ごめんね、にこにー。」
にこ「え?」
虎太郎「僕が…僕が…にこにーの足を引っ張ってるんだ…」
にこ「え、ちょっと、何言ってるのよ!」
虎太郎「ねえ、にこにー、僕が進学しなかったらまたアイドルしてくれる?」
にこ「あ、あのね、虎太郎、そういうことじゃなくて…」
虎太郎「にこにーは宇宙ナンバーワンアイドルだよね?絶対にそうだよね?ずっと、ずっとだよね?」
にこ「虎太郎、落ち着いて!――虎太郎!」
―――そうだ、こんなことしている場合じゃない。
―――
――――――
―――――――――
凛「――あれ?こたく…… 矢澤君、どうしたの?」
凛「え?進路希望の用紙?ちょっと待ってね……」
凛「…ねえ、ひょっとして、にこちゃ、じゃなくて、家族の人とお話したの?」
凛「――よかった~!!ずっとずぅ~っと心配してたんだよ!」
凛「実は矢澤くんの家の人ともこっそりお話して……え?書けたって…」
凛「うんうん。もちろん希望は……え……何これ……」
凛「『就職』って……どういうこと?にこちゃんはそんなこと一言も…」
凛「あ!ちょっと!待って!待ちなさい!…こたくん!」
――走った、とにかく走った。走って何が変わるわけでもないけど、じっとしてられなかった。
にこにーは宇宙ナンバーワンアイドルなんだ。
それはずっと変わらなくて ずっと ずっとそうなんだって思ってた。
『――ごめんなさい、弟が熱を出して…はい…はい……』
ごめんね、にこにー、ごめんなさい。
『――申し訳ございません、きちんと言って聞かせますので…』
ごめん、僕がいつもいつも…
『――お金のことは心配しなくていいわよ、アンタの好きな道に―』
ごめん…
いつの間にか降りだした雨が染み込み、コートが重くなる。
ビルの壁に手をついて荒い息を吐くと、そのままうずくまった。
誰も歩いていない街には冷たい雨がどこまでもどこまでも降り続いている。
このままどこにも帰れなければいいのに――僕がいなくなれば きっとみんな――
「――――……これまた、おっきな捨て猫さんやねえ。」
ウチの家においで――半ば無理矢理に希さんの家に連れて来られる。
希『ほら!シャキッとして!若い男の子連れ込んでるなんて噂されたらウチだって困るんやから!』
エレベーターの中で希さんが顔を拭いてくれた。
希『そのままやと困るからシャワー浴びて?服は乾かしとくから。』
…一人暮らしの女の人の家に上がり込んでシャワーを浴びるなんて、落ち着かなかった。
希「――だから、来ないでええよ、うん、今は少し距離を置いたほうがええと思う…」
虎太郎「あの…」
希「あっ…ごめんな?また後で…」ピッ
希「お~、小さいかと思ったけど着られるやん。パンツは…まあ流石にないから堪忍してな?
虎太郎「すみません…」
希「ええよ、それウチのお父さんの忘れ物なんよ。普段はウチがパジャマにしてるからちょっと匂いするかもしれんけどな。」
虎太郎「…」
希「匂ってもええんよ?」
虎太郎「…」
希「ありゃ…重症やんなあ。」
虎太郎「あの…すみませんでした。すぐに出ていきますので…」
希「出て行くってどこに?もう虎太郎君の服は乾燥機に放り込んじゃったよ?」
虎太郎「でも…」
希「…?ああ、さっきの電話気にしてるの?」
虎太郎「…」
希「安心して、にこっちやないよ。……ウチの『良い人♪』」
虎太郎「えっ」
希「なんよその反応~ウチやってええ歳なんやからそういう人の一人や二人おってもおかしくないやん?」
虎太郎「あ、あの!それじゃやっぱり…!」
慌てて席を立つ僕の手を希さんが引っ張る。
希「ええってば!ほら、こっち座り?」
そのまま、少し大きめのソファに座らせられる。
希「ほら、せっかく淹れたお茶が冷めてまうよ。」
そういって僕の手にカップを握らせる。
虎太郎(…柔らかいな。)
少しだけ心が安らいだ。
希「…」
虎太郎「…」
そのまま、お互いに無言でお茶を飲んだ。
虎太郎「…あの…」
希「ん?」
虎太郎「いえ…」
どうして何も聞かないんだろう。
希さんはテレビをつけるわけでもなく、雑誌を読むでもなく、ただ僕のそばにいてくれた。
二人で並んで雨の音を聞く。
そして、カップが空になってからどのくらい時間がたったのだろう。
虎太郎「――にこにー、アイドルやめるって…」
気づくと、僕は話し始めていた。
一度話したら、後はどんどん言葉が出てきた。
本当はもっと上の学校に進学したいこと。でもそのせいで家族に迷惑をかけたくないこと。
にこにーが夢を諦めたり、ママが遅くまで働いたりするのを見ること。
こころ姉さんやここあ姉さんが気を遣って家を空けてくれること。
そういった僕が感じる全ての辛いことを、希さんはなんでもないことのように、静かに聞いてくれた。
希「――真面目な子やねえ。」
希「ウチなあ、虎太郎君みたいな子、よく知っとるんよ。真面目で、優しくって…『自分はこうじゃないといけない』って思い込んでしまう…」
希「ホンマはそんなことないのにね。そんなんしたら自分も周りも苦しいだけなのに。」
虎太郎「…でも…」
希「でも、迷惑をかけたくない?だから早く一人前になりたい?」
虎太郎「…はい。僕が一人で行きていけるようになったら、きっと…」
希「…あんなあ……いや……」
希さんが深い溜息をついた。
希「――ほんなら、手っ取り早く大人にしたげよか?」
虎太郎「え?」
突然、ソファに押し倒される。
虎太郎「え、あの…」
希「じっとしてて…」
覆いかぶさる希さんの長い髪が頬に触れる。
虎太郎(あ…)
するり、と希さんの脚が僕の脚の間に入り込む。ロングスカートから開放された脚が僕の脚を挟みこんで体温を伝えてくる。
たゆん とたれた胸が僕の体についたり離れたりする度に形を変えるのがわかる。
希「ウチなあ…最近ご無沙汰なんよ…」
ゆっくりと顔が近づいてくる。つやつやした唇から目が離せない。
希「ええやろ?絶対気持ちええから…」
希さんの目が怪しく光る。ごくり、とつばを飲む。
もう唇がくっつきそうな距離まで顔が近づき、思わず目を閉じる。
希「……んっ。」
ぽふ
虎太郎(え?)
何か、とてつもなく柔らかいものに包まれた。
虎太郎「??」
希「あんっ、動いたらアカンよw」
虎太郎「あ……」
――理解した。今、僕の顔は希さんの大きな胸の中に…
希「…無理して大人になんかならんでええよ。」
ぽんぽん、と僕の頭を希さんが撫でる。
虎太郎(……気持ちいい。)
全身を大きくて、柔らかいもので包まれて心が安らいでくる。
虎太郎「…」
希「…」
虎太郎(…不思議だな。全然いやらしい気持ちにならない…)
虎太郎(…昔、ママに抱っこしてもらっていた時のような…そんな…)
希「…虎太郎君な、ホンマに虎太郎君が虎太郎君の思うようにして、にこっちが喜ぶと思う?」
優しく希さんが僕を抱きしめる。
希「にこっちもなあ、ものすごく悩んだ末の決断やったと思うんよ。」
希「せやからなあ…ホンマに応援が必要なんは、虎太郎君やなくて、にこっちの方なんとちゃうかなあ…」
虎太郎「…」
希「虎太郎くんがにこっちを安心させてあげること。それが一番の応援なんちゃうかなあ…」
虎太郎「…」
希「それにな、アイドルは笑顔を見せる仕事じゃなくて、笑顔にさせる仕事なんやろ?」
虎太郎(…にこにーの…)
希「だから…一番身近にいる虎太郎君がそないな顔してたら、にこっちはアイドルじゃなくなってまうよ。」
希「――虎太郎君、にこっちを最後までアイドルでいさせてあげよ?」
虎太郎「…っ」ギュ
返事の代わりに、より深く希さんの胸に顔を埋めた。
――
――――
――――――
虎太郎「あの…すみませんでした。」
希「ええよええよ。ウチも一人でいるの寂しかったから丁度よかったわ。」
すっかり雨が上がり太陽が差し始めた空の下、希さんに見送られる。
希「…ちゃんとお話するんよ。」
虎太郎「…はい…ありがとうございました。」
希「ええってば…あ、ひょっとしてありがとうってそっちの事?もう~、元気やなあ~」
虎太郎「?……あっ!あの…その…あっ、えと、!か、彼氏さんによろしく!」
希「…へ? え、ああ、ああ!…も~、違うやろ?そうじゃなくて『またよろしく頼みますよ奥さん、ゲッヘッヘw』やろ!」
虎太郎「?」
希「ありゃ…通じんか…ま、ええわ。それじゃね、気をつけて。」
虎太郎「はい―――」
―――………
「…」コク
希「…」コク
「…」タッタッタ
希「さて、と……」
ピッ
希「…ああ、にこっち?今帰ったよ。」
希「うん、うん。あの様子ならまあ、大丈夫やろ。一応凛ちゃんも後ろからついてってるしな。」
希「…何よ、お互い様やって。気にしないで。…まあ、あんまり怒らんであげてよ。」
希「うん…それじゃ、また…ああ、そうそう。虎太郎くんから伝言やけど…『よろしく』やって。」
希「え?何をよろしく…なのかは知らんけど…『これからもよろしくお願いします』ってことやないかな――」
~第7話 完~ 次回最終回
「――――でよ!私だったらにこちゃんのことを――」
「――――りがとう、気持ちは嬉しいけどね。まだ――」
「――からといって、無理にアイドルを――」
「――無理なんかじゃないわ――」
虎太郎(…誰か来ているのかな?)
ドアの向こうで誰かが言い争う声がする。
虎太郎「――ただいま。」
そのまま、リビングの奥に向かうと
にこ「あっ……おかえり、虎太郎。」
真姫(27)「…あ…ひ、久しぶりね…」
僕の、憧れの人が居た。
虎太郎「真姫さん!お久しぶりです!」
恥ずかしいけど、声が高くなるのが自分でもわかる。
真姫「ああ、うん…そうね。」
虎太郎「はい!あっ、おかげさまで志望校に受かりました!真姫さんのすすめてくれた参考書のおかげです!」
真姫「聞いたわ。合格おめでとう。よかったわね。」
虎太郎「はい!ありがとうございます!」
にこ「…ごめん、虎太郎。ちょっと真姫と話があるから――」
真姫「――そうだわ!お祝いしてあげないとね!」
ポン、と真姫さんが手を打った。
虎太郎「え?」
真姫「今日暇?なにか美味しいものでもご馳走するわ。」
にこ「ちょっと真姫!」
真姫「ね、いいわよね?ごめんねにこちゃん、虎太郎君借りるわね。」
にこ「……」
―――
――――――嘘だろ?夢みたいだ。
真姫「もう、そわそわしないの。」
だって、こんなの落ち着いていられるわけがないだろう?
真姫「そうね、それじゃこれを頂戴。ええ、この子には何かノンアルコールのものを。」
真姫さんと、あの真姫さんと二人だけでデートだなんて!
真姫「こら、少し落ち着きなさい。みっともないわよ。」
虎太郎「あ、はい…すごいですね!こんなのテレビでも見たことないですよ!」
真姫「別に…普通じゃない?ここ、顔なじみの店だからそんなに緊張しなくてもいいわよ。」
虎太郎(…やっぱり真姫さんはすごいな。)
真姫「―おいしい?遠慮しなくていいわよ。おなか一杯になるまで食べて頂戴。」
そう言う真姫さんはほとんど食べていない。運ばれてきた料理にも一口、二口口をつけただけだ。
虎太郎「あの、真姫さんはいいんですか?」
真姫「…私はいいの。あんまり食欲ないから。」
そう言うと、キラキラと輝くグラスをまた一息で飲み干す。
虎太郎(…真姫さん。お酒強いのかな?)
僕はそんなことを考えながら、新しいボトルが運ばれてくるのを眺めていた。
真姫「――ふう、夜風が気持ちいいわね。」
確かに、夜を渡ってくる風にはもう春の気配があった。
真姫「これから高校生活か…いいわね…虎太郎君。」
一歩、また一歩 歩きながら真姫さんがつぶやく。
真姫「…楽しかったなあ……」
右に、左に、揺らめく真姫さんをとっさに支える。
真姫「……ふふ、平気よ。」
僕の手をやんわりと突き放して、ベンチに腰掛ける。
虎太郎「大丈夫ですか?その…」
真姫「ううん、平気、全然酔ってなんかないから。ちょっと、ね、疲れちゃって…」
虎太郎「…」
いつもとは違って、少し弱気な真姫さんをみて、今なら、言える気がした。
虎太郎「真姫さん。」
真姫「ん?」
とろん、とした目で僕を見上げる。
虎太郎「…僕、真姫さんのことが好きです。」
真姫「――え?」
虎太郎「これ、真姫さんに、本当はクリスマスの時に渡そうと――」
用意してきた包を渡す。
真姫「…」
真姫さんは戸惑った顔で包みを見つめた後、
真姫「――ありがとう。嬉しいわ。」
虎太郎「…あ、はい。」
そう言って少しだけ寂しそうに笑った。
虎太郎「あ、あの…」
虎太郎(え、なんだこれ、コレってOKってことなのか?付き合うとかそういうことでいいのか?)
虎太郎(でも、大人の人ってあんまり付き合うとかそういうのないのか?でも…)
真姫「ねえ、虎太郎君。」
真姫「合格祝い、もうひとつあげましょうか。」
―――
――――――
――――――――――――
虎太郎「あ、あの……シャワー、出ました。」
真姫「…そう」
まさか、まさか、こんなことになるなんて。
――ベッドしかない簡素な部屋で、憧れの人と二人きりなんて全く予想していなかった。
虎太郎「…」
薄暗い照明の中、下着姿の真姫さんがベッドに腰掛けている。
虎太郎(うわ……)
真姫「……あんまりジロジロ見ないでくれる?」
虎太郎「あ、す、すみません!」
真姫「……座れば?」
虎太郎「あ、はい…」
…こういう時、すごく大きくなるかと思ったけど…意外とそうでもないものだな。
虎太郎(うわ…大丈夫かな…さっき、シャワーの時もダメだったし…)
虎太郎「…失礼します。」
隣にそっと腰掛ける。二人分の体重を受けてベッドがぎしり、と沈み込んだ。
虎太郎「あ、あの…」
真姫「…」
真姫さんの体から、香水とアルコールの混ざった匂いがうっすらとたちのぼってくる。
虎太郎(ほ、本当に、これから…)
心臓は爆発しそうに脈打ち、震える手は必死に膝を握りしめる。
虎太郎「…」
真姫「…」
お互い、無言。
散々助平なことをしておきながらこういう場面でどう振る舞えばいいのか、見当もつかない。
虎太郎(えっと、あの…これは…そうだよな、まずは…キス、からだよな…)
マンガやドラマの知識を総動員して、手を握る
真姫「…っ!」ビクッ
虎太郎「あ、す、すみません!」
真姫「…」フルフル
ふるふる、と首を振る真姫さんの顔はよく見えない。 もう一度、今度はそっと。
そのまま手を引くと真姫さんはゆっくりと僕に体を預け――
―――てこなかった。
虎太郎(…あれ?)
固い。
真姫さんの体がカチカチに強張って僕のことを拒絶する。
虎太郎(えっと、もっと引っ張っていいのかな…)
ドラマではもっと自然に倒れこんできていたのに。
虎太郎(女の人って結構力あるんだな…)
そう思いながら少しだけ、でも傷つけないように力をこめてぐいっと抱き寄せる。
真姫「あっ…」
軽い抵抗の後、真姫さんが僕の腕の中に収まった。
虎太郎(…温かい…)
むき出しの肌と肌が触れ合い、心が愛しさでいっぱいになる。
虎太郎「――真姫さん、真姫さん、真姫さん…」
愛しい人の名を何度も呼びながら、乱暴に体を撫で付けた。
美しい赤毛に手を差し込み、頭を抱き寄せる。背中に手を添え、もっと肌を密着させる。
すらりと伸びた脚を何度も確かめるようになぞる。
もっと決定的な場所に触りたい、でもその勇気がなくて何度も何度も手を近づけたり遠ざけたりする。
虎太郎(ああ……いいのかな……本当に触ってもいいのかな……?)
はあはあと荒い息をつき、滅茶苦茶に真姫さんの香りを吸い込む。
――そんな必死な僕とは裏腹に、真姫さんはただ、顔を隠してじっとしていた。
虎太郎「真姫さん…?」
真姫「…っ…ぅ……こちゃ……ちゃん……」
――その時、ようやく気づいた。
虎太郎(真姫さん、震えてる…)
虎太郎「あの、真姫さん…」
真姫「…」
虎太郎「大丈夫ですか?その…あまり…無理は…しなくても」
真姫「――何よ、引く?この歳になって経験もないような女って。」
虎太郎「あ、いや…」
なんと言えばいいのだろう。僕の胸の中で固くなって震える真姫さんはまるで小さな女の子のようで――
真姫「えっ、遠慮しなくていいのよ、こんなの、別に、なんてことないんだから…」
虎太郎「…」
――馬鹿、名残惜しいなんて思うな。もったいないなんて思うな!
真姫「――え?」
虎太郎「…やめましょう、真姫さん。」
渾身の力を込めてぐい、と突き放す。
真姫「…何よ…何よそれ!バカにしないでよ!いいって言ってるでしょ!」
虎太郎「…馬鹿になんかしてません。」
真姫「してるじゃない!それともこんなおばさんなんか抱きたくない!?」
虎太郎「違います!」
真姫「じゃあ何よ!」
虎太郎「…」
虎太郎「…僕は…僕は…にこにーじゃ……姉さんじゃないからです。」
それから――
真姫「――いつから気づいてたの?」
虎太郎「……多分、最初から。」
一つのベッドで一つの布団にくるまって、お互い壁に向かって話す。
真姫「そう…」
虎太郎「心の何処かでは知っていたんだと思います。真姫さんが姉のことを…」
真姫「…」
真姫さんが身じろぎする音がする。
虎太郎「…でも、それでも、好きだったんです。真姫さんのことが。本当に。」
真姫「…ごめん。」
虎太郎「…それでも僕はやっぱり真姫さんのことが好きです。」
真姫「……ごめん。」
虎太郎「…好きです。」
真姫「………ごめん。」
夜更けに、真姫さんが姉さんに電話してるのが聞こえたけど 僕は何も聞こえないふりをした。
―――
――――――
――――――――――――
朝、マンションの下で僕達を出迎えてくれた姉さんはいつもより顔色が明らかに悪かった。
にこ「…」
虎太郎「…姉さん、ごめん。」
にこ「…っ!」
頬に衝撃が走り、乾いた音が大きく響く。
真姫「にこちゃん!」
にこ「…どんだけ心配したかわかってんの?」
虎太郎「…ごめん」
真姫「違うの!私が!私が悪いの!」
にこ「アンタもよ!!」
真姫「!」
にこ「虎太郎も、真姫も……大事なんだから……やめてよ……もう…」
にこ「――アンタ、最近こんなんばっかね。」
ようやく泣き止んだ姉さんが顔をあげる。
虎太郎「ごめん…」
にこ「もういいわよ。」
真姫「…私も……ごめんなさい。変なこと言って…」
にこ「……その話はまた今度ね。」
真姫「うん…」
一瞬、寂しそうな顔。それから、
にこ「ま、いいわ。朝ごはんくらい食べていけば?」
そう言って、姉さんがマンションへと入っていった。
――
――――
――――――
絵里(もうすぐ30) 「こったろ~く~ん♪高校生活どう?エンジョイしてる?彼女できたぁ?」
虎太郎(もうすぐ16)「あ、いや…」
絵里「もしよかったらぁ~~~…お姉ちゃんが彼女になってあげよっかぁ~~~?」グリグリ
希(もうすぐ30)「こらエリチ、いい加減にせんと…」
虎太郎「…」ピッピッ
絵里「えっ、何何何?ひょっとしてラブコール?うそ、だって、高校生よ?ねえ、いいの?」
希「エリチ…」
~~~~~♪
絵里「あれ?真姫からメールだわ…なになに?」
『 私の彼に手だしてんじゃないわよ 』
絵里「 」
絵里「え?何?なんで?え?どういうこと?」
希「ほお…これは…」
絵里「え?え?」
希「はいはい、そういうことみたいやから、エリチは向こうで飲み直そうな?」
絵里「え?え?なんで?どうして?やだやだ!」
希「ああ、もう……・よかったな、虎太郎君。」
虎太郎「はは…」
ぺこり、と頭を下げる。
『助かりました』
『別に、酔っぱらいが嫌いなだけよ』
『真姫さんがそれ言いますか?』
『うるさいわね!明日行かなくてもいいの?』
『ごめんなさい。……それと、嘘でも嬉しかったです。』
『面倒臭かっただけ、じゃあね。いそがしいの』
虎太郎「…」
自然と、顔がにやけてくる。
――
――――
――――――
真姫「…こんなの食べたの高校生の時以来だわ…」
ハンバーガーをしげしげと眺めて真姫さんがつぶやく。
虎太郎「…すみません。これが精一杯で…」
真姫「…だから、私がお金出すって言ったでしょ?」
虎太郎「あ、でも、やっぱり一応、あの……デート、ですから…」
真姫「…っ、別に、デートじゃないわよ。友達の弟と遊んであげてるだけ。」
虎太郎「はは…」
厳しい言葉に思わず頭をかく。その時、窓の外の大型ビジョンに姉さんが映った。
『矢澤にこ 女優として復活!今度は宇宙ナンバーワン女優を目指す!』
虎太郎「…」
真姫「…」
真姫「…なんとなく、こうなるとは思ったけどね。」
虎太郎「いや、たまたま仕事の営業先に映画会社の方がいて…」
真姫「で、それがにこちゃんのファンだったって言うんでしょ?……最初からこのつもりだったんじゃないの?」
虎太郎「…」
まさか、いや……
真姫「ま、年がら年中演技しているような人だもの、天職なんじゃないの?」
虎太郎「はは…」
真姫さんがビジョンに見入っている隙に、そっと手をとってみた。
真姫「こら。」
ぺし、と手を叩かれる。
真姫「調子に乗りすぎ。別に君と私は恋人でもなんでもないんだから。」
虎太郎「あ、すみません…」
真姫「…さっさと若い子に乗り換えたら?」
虎太郎「それは…ないです…絶対。」
真姫「はあ…そういう頑固なとこはにこちゃんにそっくりね。」
虎太郎「え?」
真姫「何喜んでるのよ…キモチワルイ…」
真姫「そうね、せめてにこちゃんの半分でもいい男になってご覧なさい。そしたら、まあ…考えてあげないこともない…かも、しれないわ。」
虎太郎「…姉さんの…」
『はい、この役を演じるにあたって――』
ビジョンの中の姉さんはまるでずっと女優をしていたかのような自信と落ち着きに満ちていた。
虎太郎(…結構キツイな、それ。)
真姫「ふふっ、何よその顔。」
情けない僕の顔を見てくすくすと笑い出す。
真姫「………かわいそうだから、期待しないで待っててあげるわ。」
そう言って、優しく笑う真姫さんは、やっぱり、とても綺麗だった。
~ 最終話 完 ~
微妙なオチで申し訳ない。保守してくれた人、読んでくれた人感謝。
元スレ
絵里「ね、ここあちゃん彼氏かな?気になるわね?」
虎太郎「いや、別に…」
絵里「え~?つまんな~い。こたろーくんは?彼女とかいないの?」
絵里さんがファサッと髪をなびかせながら僕の顔を覗きこんでくる。
…近い。
絵里「ね、どうなの?にこには絶対言わないから教えて?ね、ね、どうなの?」
虎太郎「あ、その…」
絵里「ん?」
クオーターだからだろうか、絵里さんは体臭が強い。
誤解のないように言っておくけど、臭いとか、嫌な匂いとかではない。
むしろ、なんていうか、すごくモヤモヤする匂いだ。
学校で時々女子が通った後にふわっと香るあの匂い。あれを何倍も濃くしたような濃密なフェロモン。
だから僕は絵里さんが来た日は居間には居たくない。お腹の下のほうがもやもやした変な感じになるからだ。
8: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 20:00:54.86 ID:hurr/2pv.net
虎太郎「えと…いないっす…」
絵里「ふ~ん。じゃあ好きな子は?いいなって思う子とかいないの?」
絵里さんが教科書の背表紙をつつ、となぞりながらつぶやく。
――よかった。離れてくれた。
虎太郎「いや、よくわかんなくって…」
絵里「なによぉ、こたろーくん男子校目指してるんでしょ?今のうちにいっぱい恋しとかないとだめよぉ?」
絵里「…って私もそんな経験ないんだけど!」
そう言って何が面白いのかケラケラ笑いながら僕の背中をバシバシと叩く。
絵里「あはは…そんじゃ勉強頑張ってね。邪魔しちゃってごめんね~w」
よかった、そう思った次の瞬間。
希(29)「あっ♪エリチはっけぇ~ん♪」
酔っぱらいが二人に増えた。
11: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 20:09:16.75 ID:hurr/2pv.net
希「も~、ウチがちょっと寝とる隙に虎太郎くんとデートしとったん?やるなあ~w」
絵里「違うわよ。お勉強見てあげようと思ったの。」
希「ホンマにぃ?保健体育の授業中だったんやないのぉ~?」
希さんが絵里さんの肩にしなだれかかってとろん、とした声で絡む。
絵里「オヤジ臭いわよ、希。こたくんにはまだ早いもんねぇ~?」
虎太郎「はは…」 (あ、今のかわいい。)
希「いやいや、そんなことあらへんやろ。虎太郎くんだってお年ごろやもんなあ?」
絵里「そんなことありますう~。ね?こたくん?」ギュッ
虎太郎(!?)
絵里さんが僕の頭を軽く抱えた。
それはつまり、僕が頭をあとすこし傾ければ、その、絵里さんの胸に…つまり…
希「おっ…ふ~ん?なあなあ虎太郎くん…引き出しの下の本、ウチにも見せてくれへんかなあ?」
14: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 20:15:20.87 ID:hurr/2pv.net
虎太郎「えっ?」
一瞬、なんのことかわからなかった。
希「隠さなくてもええんよ?そういうの見るのは恥ずかしいことやないんやから。」
虎太郎「…っ!」
絵里「ええ?なになに?なんのはなし?」
希「ふふふ、エリチも一緒に見いひん?…え・っ・ち・な・お・い・しゃ・さ・ん♪」
絵里「え?なになに?お医者さんがどうしたの?」
虎太郎「あ…」
希「ふふっ、真っ赤になっちゃってかわええなあ。お姉ちゃんたちそういうの見たことないから見せてくれへんかなあ?」
虎太郎「ぁ…ぁぅ…」
絵里「もー!二人だけで盛り上がらないでよ!」ユッサユッサ
希「…まきちゃんがええの?」ボソッ
虎太郎「…っ!」ビクッ
23: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 20:25:28.33 ID:hurr/2pv.net
希「にこっち心配してたよ?趣味が偏ってるんじゃないかって。」
絵里「真姫?真姫がどうかしたの?」ユッサユッサ
虎太郎「…」
希「まあ、なあ、気持ちはわからんでもないけど…」
ガチャ
「たっらいまぁ~!」
にこ(29)「こらここあ!靴はちゃんと揃えて脱ぎなさい!」
ここあ「え~?いいじゃんべつにい~こころは~?」
にこ「もうとっくに寝たわよ!さっさとお風呂はいっちゃって!」
ここあ「はあ~い」
にこ「…ったく、誰に似たのかしら…っと、何やってるのよ二人共。」
絵里「あっ、おかえり~にこ~♪」
希「ちょっと、虎太郎くんのお勉強見てあげてたんよ。」
にこ「はあ…アンタ達ねえ、人の弟をおもちゃにすんじゃないわよ…悪かったわね虎太郎。」
虎太郎「ううん、大丈夫。おかえりにこにー。」
60: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 22:39:50.85 ID:hurr/2pv.net
絵里「ふふっ♪」
虎太郎「?」
絵里「『にこにー』だって♪かーわいっ♪」ギュッ
虎太郎「あっ…///」
にこ「あっ、こら!」
絵里「いいじゃないの。最近亜里沙もかまってくれないし…エリチカ寂しいのよ。」
希「それはエリチの酒癖が悪いせいやろ…さ、もういい加減にしよな。にこっちももう飲めるんやろ?」
にこ「ええ、ここあも帰ってきたしね。ママはまだ遅いって言うから、タクシーで帰るでしょ。」
絵里「わぁ~い♪にこと飲むの久しぶりぃ~♪」
にこ「ちょっと!くっつかないでよ!…ごめんね虎太郎。なるべく静かにするから…」
虎太郎「平気だよ。日課でやってるだけだからさ。」
にこ「…あんま無理すんじゃないわよ。」
虎太郎「うん。にこに、姉ちゃんもたまにはゆっくりしなよ。」
絵里「あーん!こたくんいい子ぉ~!」
希「はいはい、もうダメやで。」
にこ「ありがとね。虎太郎。」
虎太郎「うん。」
虎太郎「…」
虎太郎「…」ゴソゴソ
虎太郎「…んっ…」
虎太郎「…」クシャクシャ
63: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 22:46:48.56 ID:hurr/2pv.net
にこ「――たろ、虎太郎?」
虎太郎「え?」
ヘッドフォンをしていたから気付かなかった。
にこ「ごめんね。邪魔しちゃって…ちょっと手伝ってくれない?」
虎太郎「?」
なんだろう、そう思いながらにこにーに続いてリビングに向かう。
するとそこには――
虎太郎「うわ…何本飲んだの、これ…」
にこ「しょうがないでしょ…なんだか盛り上がっちゃって…」
絵里「zzz…」
希「う゛うぅ…にご、にご、にごっち…水…水ちょうだい…」
にこ「ちょっと希!ここで吐かないでよ!絶対やめてよ!」
希「あがん…ヴエェ…」
にこ「ちょ!待って!ほらトイレ行くわよ!」
希「うう…」ヨロヨロ
にこ「ごめん、絵里のこと運んでくれない?にこの部屋でいいから。」
虎太郎「え…ちょっと!」
にこ「ほら、しゃっきり立って!」
希「ごめんな、ごめんなあ…」
虎太郎「あ…」 ポツーン
65: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 22:56:51.11 ID:hurr/2pv.net
虎太郎「――…っと」ボスン
絵里「zzz…」
絵里さんをゆっくりと下ろして額の汗を拭う。
さすがにベッドの上に上げるのは無理だったからクッションの上だけど…
虎太郎(…よく寝てるから大丈夫だよな。)
絵里「…すぅ…すぅ……」
虎太郎(…本当に綺麗な人だな…)
起きてる時にはそんなことできないので思わずじっと見てしまう。
虎太郎(恋愛したことないなんて言ってたけど…本当かな…)
まるで女優やモデルみたいに綺麗で…スタイルだって―
―しまった。
運ぶときにも絶対に触れないようにしてきた胸の膨らみ。
規則正しく上下しているそれが目に止まった。
68: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:01:50.59 ID:hurr/2pv.net
虎太郎「…」ムクリ
虎太郎(あ、やばい。)
にこ「――ほら、吐いても大丈夫だから、出しちゃいなさい。」
希「うう…ううう…」
虎太郎(…僕は、なんで聞き耳なんか立ててるんだろう。)
絵里「…zzz」
虎太郎「…」
虎太郎(…なんで誰も来ないことを確認してるんだろう。)
絵里「…ううん…」
虎太郎「!!」
虎太郎「…」
ドックン ドックン
虎太郎(…バレない、よな…)
虎太郎「はあ…はあ…」
虎太郎(撫でるだけ…撫でるだけなんだ…)
71: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:09:01.26 ID:hurr/2pv.net
スッ
絶対に押し込まないように。当たっただけって言い訳できるように軽く、軽く手を動かす。
虎太郎「ハア…ハア…」
何度も 何度も 上から下へ
綺麗な形を何度も撫ぜる。
虎太郎(…思ったより、固いんだな。)
絵里さんの胸は、そういう本で想像していたよりも固くて、ゴワゴワした手触りだった。
虎太郎(…マシュマロみたいってよく言うのにな。)
リビングから漏れてくる光。
つけっぱなしのテレビから流れる音に耳を澄ましながら、少しだけ、指先に力を込めた。
ふにょ
虎太郎「あ…」
絵里「…ん…」
虎太郎「!」
76: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:15:24.64 ID:hurr/2pv.net
絵里「…」
虎太郎(…心臓が止まるかと思った…)
つつ―― ふにょ
つつ―― ふにょ
何度も何度も繰り返す。揉んでなんかない。僕は…これは…たまたまなんだ…
虎太郎(やわらかいとこと、跳ね返ってくるとこがある…)
つつ―― ふにょふにょ
つつ―― ふにょふにょ
虎太郎(ああ、そうか…ブラだ。)
洗濯物をたたんでいる時のことを思い出した。
虎太郎「ハア…ハア…」
頭の何処かは冷静で でも手の動きはどんどん大胆になっていって――
虎太郎「すご…」
手の中でぐにぐにと形を変える絵里さんの胸をぼーっと見ていた。
77: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:20:06.48 ID:hurr/2pv.net
絵里さん、絵里さん…
いつも僕のことを子供扱いする絵里さんが僕に好き放題されてる。
絵里「…」
どうだ、僕のほうが体も大きいし力も強いんだぞ。
そんな暗い気持ちが心のなかを満たしていく。
絵里「…」
荒い息づかい。汗ばんだ絵里さんの肌からうっすらと立ち上る香り。
もう我慢出来ない――直接…
虎太郎「ハア…ハア…え?」
絵里「…」
絵里さんと 目が あった
82: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:24:37.41 ID:hurr/2pv.net
虎太郎「あ…」
絵里「…」
虎太郎(終わった…)
急速に体が冷えていく。
絵里「…」スッ
虎太郎「…え?」
絵里「…すぅ…すぅ…」
虎太郎(え?なんで?今絶対…)
絵里「う~ん…苦しい…」
虎太郎「え?」
絵里「……む、胸…苦しい…///」
虎太郎「…え?」
虎太郎(ああ、そうか…やんわりと注意してくれてるんだ。)
なかったことにしてくれるのかな…少しホッとして手を放す。
絵里「…」
絵里「……う~ん……あの…ほら…」
84: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:29:01.72 ID:hurr/2pv.net
ごろん、と絵里さんが寝返りをうった。
虎太郎「?」
絵里「…ラ……」
虎太郎「?」
絵里「…ブ…ブ…ブラ…苦しい…///」
虎太郎「っ!」
え?今、ブラって ブラジャー…だよな… え?なんで?だって?
絵里さんは今背中向けてて、え?いいの?本当に?
そんな、嘘だろ、AVじゃあるまいし 嘘だろ?
僕が混乱していると――
絵里「ううん…///」ズリズリ
ずりずりと床を這って――
――絵里さんの背中があらわになった
86: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:32:59.97 ID:hurr/2pv.net
虎太郎(え?嘘だろマジで!)
絵里「…」
絵里さんの顔は見えないけど…これ、いいんだよな。
合意の上?とかいうやつだよな。
緊張に震える手をもう一本の手で抑えながら手を伸ばす。
虎太郎「あ…えと…」
絵里「…」コクン
絵里さんが――小さく――頷いた気がした。
プチン
やけに大きく響いたその音と同時に
にこ「―アンタ、何やってんの?」
…今度は本当に心臓が止まった。
104: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/03(金) 23:42:28.97 ID:hurr/2pv.net
にこ「――ほんっとうにごめんね!色々ストレス溜まってたみたいだから…許してもらえるものじゃないかもしれないけど…」
絵里「だから、別にいいってば。私酔っててなんにも覚えてないし…」
にこ「それでも…人として許されることじゃないわ…もう二度とこんなことさせないから。」
絵里「いいってば!男の子ってこういうの仕方ないことなんでしょ?あんまり叱らないであげて、ね?」
にこ「…でも…」
希「まあまあ、エリチがええって言ってるんやから、な?人んちで酔っ払ったウチらにも責任あるんやし。」
にこ「アンタがそれ言うの…?ま、それなら…でも本当にごめんね、絵里。」
絵里「いいのよ、私虎太郎君好きだし。ほら、顔上げて、ね?」
虎太郎「はい…」
床に擦り付けてた頭を恐る恐る上げる。
絵里「ほら、これで仲直り。ね?」
絵里さんにぽんぽんと頭を叩かれる…そして。
絵里「――今度は、お姉ちゃんの留守の時に、ね?」
ぼそっと、耳元で呟かれた。
149: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 09:58:46.86 ID:ncul902p.net
「――甘いっ!」
ずだん、と派手な音を立てて畳に転がされる。
虎太郎「っ…」
僕よりも小さな師範代が僕を見下ろす。
海未(28)「もう終わりですか?さっさと立ちなさい。」
虎太郎「…お願いします!」
虎太郎「ありがとうございました!」
海未「ありがとうございました…今日は随分と気合が入っていましたね。何かあったのですか?」
虎太郎「あ、いえ…」
虎太郎(師範代には言えないよな…あんなこと…)
海未「にこからも連絡がありましたよ。足腰立たなくなるまで厳しくしてやってくれ、骨が折れても構わない、と。」
虎太郎「はは…」
150: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 09:59:41.03 ID:ncul902p.net
虎太郎(当然だよな…最低だ、僕…)
あの感触がフラッシュバックする。
虎太郎(ダメだ!もう二度とあんな気を起こさないように師範代に鍛えなおしてもらわないと!)
海未「とはいえ、虎太郎も随分と強くなったのでそこまでするのは少々難しいのですけどね。ふふ。」
海未「あなたが初めて来た日はまるで小さなにこみたいだったのに、いつの間にか私より大きくなって―」
虎太郎「…」
海未「女ばかりの家だから、少し男らしくしてやってくれと、なぜか女の私ににこが…虎太郎?」
虎太郎「…」
海未「虎太郎!聞いているのですか!」
虎太郎「はいっ!」ビクッ
海未「師の話を上の空で聞き流すとは何事ですか!すこし上達したからといえどそのような慢心は~~~~!」クドクド
151: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:00:40.88 ID:ncul902p.net
――
――――
――――――
虎太郎「すみません…今日はお休みだったのに。」
海未「構いませんよ。どの道日々の鍛錬はするのです。相手が居たほうが張り合いが出ます。」
虎太郎「…すごいですね。」
海未「園田の跡取りとして当然のことですから。」ズズズ…
おまんじゅうがありますから、師範代はそう言って僕のことを引き止めた。
道場の隅に作られた4畳半ほどの小さな控室、ピンと背筋を伸ばした師範代と向い合ってお茶を飲む。
虎太郎(…かっこいい。)
武道だけじゃない、日舞の名手でもある師範代のことを僕は尊敬している。
師範代は女の人だから変な話だけど…こんな男になれたらって密かに思ってるんだ。
152: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:01:15.76 ID:ncul902p.net
海未「…痛みますか?」
虎太郎「え?」
海未「その…少しやりすぎてしまったのではないかと…」
虎太郎「いえ!全然平気です!…っつ!」
海未「あっ!」
師範代がちゃぶ台のこちら側に素早く回りこむ。
虎太郎「あ、大丈夫ですから…」
海未「駄目です!見せてご覧なさい!」
師範代の剣幕に押されてシャツをはだけ、胸を晒した。
エアコンの効いた部屋の空気に一瞬だけヒヤッとする。
海未「…少し腫れてますね…申し訳ありません…まだまだ私も未熟ですね。」
――師範代の冷たい指先がつつ、と僕の鎖骨をなぞる。
153: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:01:44.74 ID:ncul902p.net
虎太郎「そんな!未熟なのは僕の方です!きちんと師範代の技を受けられれば…」
そこまで言ってはっとした。師範代の顔が近い。
海未「あ…」
虎太郎「…」
師範代の目が大きく見開かれる。
虎太郎「す、すみません!」
弾かれるように顔の距離を離す。
海未「い、いえ!今湿布を取ってきますから少し待っていてくださいね!」
そそくさ、と師範代が立ち上がった瞬間――
海未「――え?揺れてる?」
154: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:02:12.53 ID:ncul902p.net
地震だ。しかも、かなり大きい。
大変だ、まずは机の下に――学校での避難訓練を思い出そうとした時。
海未「~~~~~っ!」
師範代が、僕にしがみついてきた。
虎太郎「え?」
突然のことでわけが分からなかった。
海未「あ、あ…ゆ、揺れてます…どうしましょう、どうしましょう―」
師範代はむき出しになったままの僕の胸に顔をぴたりとくっつけながらオロオロと繰り返す。
155: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:02:55.21 ID:ncul902p.net
海未「ああ、もう、まだ揺れてる、まだ揺れてます…」
師範代がボソボソとつぶやくたびに僕の胸に吐息がかかってくすぐったい。
虎太郎「…」
虎太郎(馬鹿野郎、何考えてるんだ。)
沸き上がってきた妙な感情を必死でおさえる。
海未「早く、早く止まって――」
虎太郎(師範代…地震苦手だったのか…)
普段だったら絶対に見ることのできない師範代の意外な一面に驚いた。
虎太郎「…」
どうしようか、失礼なんじゃないだろうか…そう思いながらも、師範代の肩に手を置く。
156: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:03:25.44 ID:ncul902p.net
虎太郎「大丈夫ですよ。」(なんの根拠もないけど。)
海未「あ…」
胸に置かれた師範代の手がぎゅっ、と握られる。
虎太郎「っ…」
刺激されて思わず声が出そうになるのをなんとかこらえる。
157: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:04:00.97 ID:ncul902p.net
――地震、長いな…
師範代、いい匂いする…
髪、すごくつやつやしてる…にこにーのサラサラとは違うのかな…
触ったら怒られるかな…
でも…
海未「…」ガクガク
怖がってるもんな、師範代…いいよな、落ち着かせるために…
虎太郎「…」スッ
師範代の髪は、しっとりとしていて、ママが一枚だけ持ってるシルクのスカーフみたいだった。
158: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:04:46.64 ID:ncul902p.net
海未「あっ…」
虎太郎「!」
やばい。調子に乗りすぎたか?
海未「…」
でも、師範代は何も言わずに、体をぴたりと寄せてきた。
虎太郎(え…)
海未「…」
159: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:06:44.46 ID:ncul902p.net
小さな小さな4畳半。半裸の僕に寄り添う師範代…海未さん。
自分の息も、海未さんの吐息もはっきりと聞こえてくる。
海未さんの手に僕の手を重ねると、海未さんの方から指を絡めてきた。
指と指を何度も何度も、まるで情事のように摺り合わせる。
虎太郎「師範だ…海未さん…」
海未「…はい。」
海未さんがうっすらと染まった顔を上げる…そして…
―地震がおさまった。
160: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/04(土) 10:07:22.07 ID:ncul902p.net
虎太郎「あ…」
海未「…」
次の瞬間、僕は障子戸ごと道場に投げ出された。
こころ「―まったく、少しやりすぎではありませんこと?」
虎太郎「痛っ!」
消毒液の刺激にビクッと体が反応する。
こころ「お姉さま、いくらなんでもこれでは虎太郎がかわいそうです!お姉さまからも―」
虎太郎「いいんだ。姉さん。」
こころ「え?」
にこ「そ、いいのよ。それでも足りないくらいだわ。」
こころ「お姉さま…そんな!」
ぷい、と顔を背けて立ち去るにこにーをこころが追いかけていった。
虎太郎「…しばらく道場にはいけないな…」ハア
~ 海未編 完 ~
246: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:49:48.47 ID:B39mfXqE.net
虎太郎「――ただいまー…ただいまー…にこにー?誰もいないの?」
テーブルの上には一枚のメモ。
『テストお疲れ様!花陽と会ってきます。おにぎりがあるからおなかすいたら食べるニコ! P.S 汚れ物は洗濯機に入れておくこと!』
文鎮代わりにお皿に乗ったおにぎりが3つ、ラップをされていた。
虎太郎「なんだ…今日はお休みって言ってたのに…」
カバンを床に落として、椅子に座り、のりたまがまぶされたおにぎりを食べ始める。
虎太郎(あ、手洗ってない…まあいいか)
学校から帰ってもこころ姉さんもここあ姉さんもいない、今では普通になってしまった静かな部屋。
テレビもつけずにおにぎりを食べた。
虎太郎(…おかかがよかったな。)
ふと窓を見ると、鉛色の雲が向こうのビルのてっぺんにまで下がってきていた。
247: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:51:38.04 ID:B39mfXqE.net
「――……」
「――……るいよ…」
「――…………よ…別に…」
なんだろう…誰か、話してる声がする…
虎太郎「んぁっ!?」ガバッ
虎太郎(……あー…部屋のベッドか…一瞬どこかわからなかった…)
虎太郎(…たしか、すごく眠くなって…昨日一夜漬けしたせいかな…)
ボーっとする頭を振って記憶を整理する。
虎太郎「あ、そうだ…」
ノソノソと立ち上がり、カバンを開き、おぼつかない足でぼんやりと脱衣所に向かう。
虎太郎(汚れ物入れないと…)
~~~♪
虎太郎(…鼻歌?)
間違いない。誰か風呂場でシャワーを浴びて歌ってる。にこにーかな…
すりガラスの向こうは曇っててよく見えないけど…ふと脱衣カゴの中を見る。
249: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:52:36.02 ID:B39mfXqE.net
黒い…なんだこれ…つまみあげて…パンスト?
虎太郎「!!」
一瞬で目が覚めた。
間違いない、さっきのにこにーのメモ…それからこの声…
虎太郎(…まだほんのりあったかい。)
…柔らかいんだな。それに、少しだけ湿ってる。
神経を最大限研ぎ澄ませて、ゆっくりと『それ』を引き寄せる。
――おい、なにを考えてるんだ? 大丈夫さ、まだ向こうには気づかれていない――
――だからってそんな変態みたいなこと! すぐに『済ませて』戻してしまえばわからないさ――
――だめだ!やめろ!それはヤバイ!
…そんな刹那の交錯の後、僕は思い切り花陽さんの香りを吸い込んだ。
250: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:53:51.49 ID:B39mfXqE.net
甘酸っぱい…というよりもホワっとした甘い香りだった。落ち着くような、お母さんみたいな香り。
何度も、何度も吸っては吐いてを繰り返す――いつしか僕は前かがみになっていた。
虎太郎「ふう…ふう…」
ああ、ずっとこうしていたい。こうしていたいけど…ズボンのジッパーを下ろそうとしたその時。
ガラッ
花陽(26)「…え?」
虎太郎「あ…」
タオルで申し訳程度に前を隠した花陽さんがきょとんとしている。
花陽「…虎太郎くん…?え、それ、私の…」
虎太郎「あ、あ…あn!」
まずい、言い訳しないと、そう思って口を開いた時。
花陽「シッ!」
―素早く、花陽さんに口を塞がれた。
254: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:55:28.57 ID:B39mfXqE.net
虎太郎「?」
意味もわからず混乱していると、向こうからにこにーの声がする
「――花陽?あがった?」
花陽「…」
花陽さんが目で僕に『喋っちゃダメだよ』と合図する。
「――花陽?」
花陽「あ、う、うん!あがったよ!ありがとうね!」
「――そう?バスタオルあった?」
花陽「うん!うん!あったよ!ありがとう!」
花陽さんは右手でタオル、左手で僕の口をおさえながらドアの向こうのにこにーと話し続ける。
ぽたり、ぽたりと花陽さんの体からしずくが落ちて、ぼくの靴下を濡らしていく。
…僕の角度からはタオル一枚じゃとても隠し切れない花陽さんの谷間が見えていた。
255: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:57:41.81 ID:B39mfXqE.net
「――入ってもいい?冷えてきちゃった。」
虎太郎「…!」
血の気がサアっと引く。こんなところを見られたら今度こそただじゃすまない。
花陽「…!え、えっと、もう、ちょっと!もうちょっとだけ待って!」
「――いいじゃない、女同士なんだし。入るわよ」
花陽「ダメッ!!」
虎太郎「っ!」 「――っ!」
花陽「あ…ご、ごめん…その、太っちゃって恥ずかしいから…」
「――ああ、何よ今更…まあいいわ。さっさと代わってよね。」
…ゆっくりと足音が遠ざかる。花陽さんもゆっくりと手を離してくれた。
花陽(だ・い・じょ・う・ぶ)
花陽さんが口をパクパクさせる。よかった、ともかくは助かったんだ。
花陽(そ・れ・は・か・え・し・て)
…脱衣所を出ようとした僕のシャツを花陽さんが空いた手で掴んでいた。
258: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:58:53.33 ID:B39mfXqE.net
――コンコン
虎太郎「っ!!」ビクッ!
ノックの音が電撃のように全身を駆け巡った。
「――虎太郎くん、花陽です…入ってもいい?」
虎太郎「…どうぞ。」
おずおずと花陽さんが入ってくる。
花陽「えと…お邪魔しますね。」
まだ髪は湿ってるけど…きちんと服を着た花陽さんは僕の正面に腰を下ろす。
花陽「…久し振りだね。この部屋も。」
虎太郎「…にこにーは?」
花陽「にこちゃん?お風呂入ってるよ。参っちゃうよね、突然降りだすんだもん。だからちょっとシャワーをお借りしたんだけど…虎太郎君がいるって気づかなくて…ごめんね?」
虎太郎「…」
259: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 21:59:43.99 ID:B39mfXqE.net
花陽「えっと…わあ、あの写真まだ飾ってくれてるの?うれしいな。」
ミニスカートから伸びた足を組み替えながら部屋を見回す。脚は…黒のパンストだ。
虎太郎「…」
花陽「虎太郎君おっきくなったけどお部屋はあんまり変わらないんだね。えへへ、なんだか嬉しいかも。」
虎太郎「…っ」
花陽「えっ?」
虎太郎「…っ…グスッ…」
花陽「え?え?どうしたの?何かいやなこと言っちゃった?」
虎太郎「ごめ…なさい…ごめん、なさい…」
花陽「あ…」
虎太郎「ごめんなさい…ごめんなさい…」
薄暗い部屋の中で、僕はひたすら花陽さんに謝り続けた。
情けなくって、みじめで、死んでしまいたかった。
260: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:00:43.82 ID:B39mfXqE.net
花陽「…」
虎太郎「…っ…ひぐっ…うぅ…」
キュッ
虎太郎「え?」
花陽「…怒ってないよ。」
虎太郎「…?」
花陽「ちっとも怒ってないし、虎太郎くんのこと嫌いになったりしてないよ?」
そのまま、丸っこい両手でそっと僕の手を包んでくれる。
虎太郎「あ…で、でも気持ち悪い…」
花陽「全然!…気持ち悪かったらこんなことしないでしょ?」
そう言って花陽さんはにっこり笑った。
虎太郎「うう…あああ…!!ごめんなさい…!!」
花陽「うん…いいんだよ…いいんだよ…」
262: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:04:15.84 ID:B39mfXqE.net
――
――――
――――――
花陽「――落ち着いた?」
虎太郎「…はい。」
花陽「えっとね…それじゃ…ひとつだけ聞いていい?」 ゴホンゴホン
花陽「あ、あのね…何か悩み事とかあるの?」
虎太郎「え…?」
花陽「何か嫌なこととか…困ったこととか…その…いじめとか…」
虎太郎「…ないです、けど…」
花陽「本当?…もし言いにくかったらにこちゃんには言わないよ?」
虎太郎「…ないです。」
花陽「…えと……そんな…だって、じゃあ、なんで…なんで?」
虎太郎(…何が言いたいんだろう。)
花陽「あ、あのね…虎太郎くん。私、もう26で…今年は27になるんだよ?」
263: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:05:55.54 ID:B39mfXqE.net
虎太郎「えっと…はい。」
花陽「そ、そんなオバサンの…えっと…あぅ……///」
花陽「…楽しいの?」
虎太郎「え?」
花陽「欲しかったの?…学校にもっと可愛い子いっぱいいるでしょ?」
虎太郎「あ、あの…それは…なんていうか…つい…」
花陽「…何もこんなオバサンのなんて…あ!ち、違うよ!同級生の子のなら取っていいとかじゃないからね!」
虎太郎「は、はい!」
花陽「…すうー…はあー…」
虎太郎「…」
花陽「ね、ねえ…にこちゃんやこころちゃんやここあちゃん達のには…して、ないよね?」
265: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:08:49.49 ID:B39mfXqE.net
虎太郎「そんな…えと…絶対ないですよ…僕が言っても説得力ないかもだけど…」
花陽「そっか、わかった…」
何かを決意したかのように、すっくと花陽さんが立ち上がる。
なんだろう、そう思う間もなくスカートの中に手を差し込むと、
む ち り と音を立てそうな真っ白な脚があらわになった。
え?え?なんで?薄暗い部屋の中、眩しいくらいの花陽さんの太ももが目の前で揺れている。
それはあまりにも非現実的で、扇情的で、魅力的で…目が離せなかった。
花陽「…後ろ向いててくれる?」
虎太郎「あ、ご、ごめんなさい!」
言われるがままに後ろを向く。
しゅる
しゅる
ぱさり
衣擦れの音がいやがおうにも背後の光景を想像させる。
267: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:10:18.24 ID:B39mfXqE.net
花陽「…いいよ。」
ひどく卑猥に聞こえる言葉に振り返るとむちむちとした脚を窮屈そうに揃えて、花陽さんが正座していた。
うつむいたまま、花陽さんがスッと何か小さく折りたたまれたものを差し出す。
花陽「…えと…あげるね。」
花陽「いらなくなったら捨てていいから…だから、もうこんなことしちゃだめだよ?」
虎太郎「…」
ちがう、そうじゃない!何か言わなくちゃ、そう思った瞬間。
「――花陽?どこー?」
花陽「あ…もう行くね。」
有無をいわさない態度で花陽さんが立ち上がった。
花陽「…私じゃ頼りないかもしれないけど、何か悩みがあったらいつでも言ってね。」
最後に、ドアの手前で振り向いてそうつぶやいた後、花陽さんはパタン、とドアの向こうに消えていった。
268: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/05(日) 22:12:18.55 ID:B39mfXqE.net
「――ごめんね、虎太郎くんに挨拶しようと思ったんだけど、寝ちゃってたみたい。」
「――ああ、ごめんね。遅くまで勉強してたみたいだから寝かせてやって…アンタパンストは?」
「――――なんか伝線しちゃって…」
「――――そうなの、まだ雨も降ってるから車で送ってくわよ。」
「――――――りがとう…ごめんね。にこちゃん。」
「――――――――ってんのよこのくらい…」
雨は、大分ひどくなって、窓を叩いていた。
再び静かになった暗い部屋の中で、涙がぽつ、ぽつと黒い小さな布切れに染みこんでいった。
~第3話 完~
※ 補足…キャラの誕生日を考慮して年齢を修正しました。
306: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 11:59:28.98 ID:ls0tm0Vk.net
虎太郎「――ごめんね。気持ちは嬉しいけど、今はそういうのちょっと…」
なるべく優しいトーンで拒絶の意思を伝えると、後輩の女の子はラブレターをおずおずと引っ込めた。
「あ、そ、そうですよね…先輩、受験で忙しいですもんね…」
虎太郎「うん、ごめんね…ありがとう…えっと……それじゃ。」
女の子がくしゃ、とラブレターを握りつぶす音がする。
おそらくこの後、そこの陰に控えている友だちが出てきて慰めるのだろう。
僕にかけてあげられる言葉なんて何もない。足早にそこから立ち去った。
――
――――
虎太郎(…我ながら嫌なやつだよな…)
「こらっ」ポカッ
虎太郎「てっ」
突然後ろから頭を小突かれた。
凛(26)「見てたよ~?どうして受け取ってあげなかったの?せっかく勇気を出したのに…」
307: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:00:16.91 ID:ls0tm0Vk.net
虎太郎「別に…凛姉ちゃんには関係ないし…」
凛「せ・ん・せ・え!」ムッ
虎太郎「…星空先生には関係ないじゃないですか。」
凛「関係あるよぉ、こたくんの担任だもん!」エヘン
虎太郎「副担任でしょ。」
凛「むう…あ…ねえ、ちょっと耳貸して?」
凛姉ちゃんが僕の方に手をかけてつま先立ちになる。
凛「…こたくんさ、ひょっとして男の子が好きなの?」
虎太郎「は?」
凛「だって…凛がこの学校に来てからもう3回は告白されてるよね?すっごい可愛い子とかもいたのに…なんで?」
…本当は4回だけど…黙っとこう。
虎太郎「別に…そういうのめんどくさい、っていうか、うまくできないっていうか…」
凛「えー?なんでなんで?そんなこと言わないでちょっと付き合ってみればいいのに~」グリグリ
308: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:01:56.22 ID:ls0tm0Vk.net
虎太郎「…人のことより、自分のことを心配しなよ。」
凛「えっ…り、凛のことは関係ないにゃ…でしょ!…先生いつも言ってるよね? できない、なんてあきらめないこと!」
凛姉ちゃんが『ほら、続きは?』と言わんばかりにキラキラした目で覗きこんでくる。
虎太郎「…無理だなんて簡単にいわないこと。」
凛・虎太郎『 誰だって変身できる! 』
渋々答えてあげると、凛姉ちゃんは満足そうにムフー、と鼻息を荒くした。
虎太郎「そんな大げさな…」
凛「まあまあ、細かいことはいいのっ!…それじゃね!寄り道しないで帰るんだよ!」
虎太郎(凛姉ちゃんはああ言うけどさ…)
今年うちの中学に来たばかりの凛姉ちゃんは知らないけど…女の子とデートしたことなら何回かある。
309: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:02:26.72 ID:ls0tm0Vk.net
最初はクラスの子だった。一緒に海辺の公園でピクニックをした。手作りのお弁当を持ってきてくれた。
―――― にこにーのお弁当のほうが美味しいな、と思った。
次はモデルをやってるとかいう子だった。僕がデートのプランを考えた。どこに行ってもつまらなそうにしていた。
―――― 穂乃果さんだったらこっちまで楽しくなるくらい笑うのにな、と思った。
部活の先輩と二人きりで一緒に勉強したこともある。
―――― 真姫さんの方が何倍もわかりやすくて、綺麗で、ドキドキした。
女の子がみんなことりさんや花陽さんみたいに優しかったらいいのに
絵里さんや師範代みたいにかっこよかったらいいのに
希さんみたいに甘えさせてくれたらいいのに
凛姉ちゃんみたいに裏表がなかったらいいのに
そんなことを何度も思ううちに、女の子達の好意に答えるのも億劫になった。
310: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:03:24.58 ID:ls0tm0Vk.net
――
――――
―――――――
「虎太郎くんっ♪」
虎太郎「あ…」
ことり(27)「どうしたの?元気ないね?」
ことりさんが可愛らしい車の窓から手を振る。
虎太郎「あ、いえ…すみません。遅くなっちゃって。」
ことり「ううん、平気だよ。乗って乗って♪」
虎太郎「失礼します。」
促されるままに助手席に乗り込むと、ゆっくりと車が走りだした。
311: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:04:06.97 ID:ls0tm0Vk.net
ことり「――ごめんね、受験生なのにまたお願いしちゃって。」
虎太郎「大丈夫です。○○高校なら今のままでも大丈夫だって言われてますし。」
ことり「虎太郎くんならもっといい学校行けると思うのになあ…」
虎太郎「そんなことないですよ、男子校の方が気楽そうですしね。」
ことり「もったいないなあ…」
ことりさんがゆっくりとハンドルを切る。
虎太郎「あれ?」
ことり「ああ、ごめんね。今日はいつものスタジオが使えなくて…違うところなんだ。」
虎太郎「あ、はい。」
ことりさんがガチャガチャとギアを変えると車は一気に加速してバイパスに上っていった。
時々、ことりさんに頼まれてモデルのバイトをしている。
モデル、と言っても試作品の服を着て、感想を言ったり、少し写真を撮るだけだ。雑誌に載ったりはしない。
バイト代もお金じゃなくて、そのまま着た服をもらうっていう…まあ、要はお手伝いだ。
312: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:04:35.99 ID:ls0tm0Vk.net
虎太郎「ことりさんのブランド、また特集組まれてましたね。クラスの女子が可愛いって言ってました。」
ことり「ありがと♪今度テレビにも出るんだよぉ。」
虎太郎「すごいじゃないですか!絶対見ますよ!」
ことり「すごくないよ~、にこちゃんの方がずっとテレビに出てるし…」
虎太郎「…今は別に…」
ことり「…私なんかが出たらみんながっかりしちゃうんじゃないかな?μ'sのこと覚えてる人もいるかもだし…」
虎太郎「そんなことないですよ。ことりさんは…あの…」
ことり「?」
虎太郎「美人、ですし…」
ことり「ふふ、ありがと。お世辞でもうれしいな♪」
お世辞じゃないです、って言いたかったけど面と向かって女の人を褒めるのは恥ずかしくて、窓の外を見てごまかした。
313: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:06:05.45 ID:ls0tm0Vk.net
ことり「さっ、どうぞ。誰もいないから気にしないでいいよ~。」
虎太郎「あ、あの…ここって…」
オートロックの玄関を抜け、ピカピカのエレベーターで最上階へ、ことりさんが指をかざすとドアがスッと開いた。
ことり「私のアトリエ兼スタジオ兼ホテル…って感じかな?忙しいとほとんどここに引きこもっちゃうんだけどね。」
虎太郎「…」
うちの何倍もあるリビングや窓の向こうに広がる景色にあっけにとられる。
ことり「座って?今お茶をだすね。」
虎太郎「は、はい…」
いかにも高そうな椅子とテーブルに小さくなって腰掛けた。
ことり「おいしい?いただきものなんだけど…」
やたらと高そうなお菓子と複雑な香りのするお茶を緊張しながらすする。
虎太郎「あ、えと…」(正直なんだかよくわからない…)
ことり「ふふ、穂乃果ちゃんちのおまんじゅうの方が美味しいです、って顔にでてるよ?」
虎太郎「あ!いえ!そんなこと…!」
ことり「ことりもそう思う!」ニコッ
虎太郎「あ…」
ことり「えへへ、そんなに緊張しなくていいよ。いつもと場所が違うだけだから。」
優しく笑うことりさんのおかげで少し緊張がほぐれた。
314: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:07:34.83 ID:ls0tm0Vk.net
虎太郎「はい…あ、そうだ!これ!」
ことり「?」
虎太郎「あの…にこに、姉からです。いつも洋服頂いて悪いからって。」
ことり「ええ!?ダメだよ!本当だったらことりがお金払わないといけないんだから!」
ブンブンと手をふることりさんに茶色い封筒を押し付ける。
虎太郎「いや、でも…あんなにたくさん…」
ことり「お洋服じゃたりないくらいだよ!モデルの子より虎太郎くんの方がイメージ膨らむから…私のワガママなのに…」
虎太郎「そんな…」グイ
ことり「うけとれないよぉ…」グイ
そんな押し問答の末に
ことり「うぅ…じゃあ、もらうね。ありがとう…ちょっとしまってくるね。」
ようやく、封筒を受け取ってくれた。
315: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 12:09:13.73 ID:ls0tm0Vk.net
ことり「――はい、虎太郎くん。」
戻ってきたことりさんから可愛らしい封筒を手渡された。
虎太郎「え?」
ことり「モデル代だよ。いつもありがとう。」
虎太郎「え、あの…困ります…さっきも言ったとおり…」
ことり「ううん、違うよ。」
虎太郎「え?」
ことり「これは、”もうひとつの方のモデル”のお礼だよ。」
虎太郎「あ…」
怪しい笑顔にドキッとする。
ことり「ふふ…♪それじゃ、そろそろ始めよっか♪」
ことりさんが部屋の奥に僕の手を引いていった。
※長くなったので切ります。
377: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 23:57:34.66 ID:ls0tm0Vk.net
――パシャリ
ことり「うんうん!いいよいいよぉ~!すっごく似合ってる!」
――パシャリ
ひとつフラッシュが瞬く度に僕はポーズを取りなおす。
――パシャリ
ことり「あ~~ん!素敵!ゲームの世界から飛び出てきたみたい!」
虎太郎「あ、そ、そうですか…?」
がちゃり、と侍の鎧を模したコスチュームを鳴らしながら頭をかく。
そう、これが”もうひとつの方のモデル”…コスプレだ。
『お仕事に関係無いものを作るのってストレス解消になるから』
そう言って、時々僕の好きなアニメや漫画のヒーローのコスチュームをプレゼントしてくれたことりさん。
さすがに、本人も好きだったとは思わなかったけど…こうやって密かに憧れるヒーローの格好をするのは嫌いじゃない。
もちろん絶対に家族や友達には見せられないけど…
379: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 23:58:24.64 ID:ls0tm0Vk.net
ことり「ふう、よかったあ…次は私も着替えてくるから、ちょっと休憩しててね。」
虎太郎「あ、はい…ふう。」 (助かった。結構暑いなこの部屋。照明のせいかな。)
虎太郎(すごいよな…個人の家にこんな本格的なスタジオがあるんだから…)
用意されたスポーツドリンクを飲んでいると。
ことり「お待たせ~」
虎太郎「っ!」
思わずドリンクを噴き出しそうになった。
全身黒いエナメル、大きく開けられた胸元、すらりと伸びた脚を限界まで見せた短パン。
虎太郎(…まるで女王様だ。)
ことり「えへへ~、虎太郎くんのキャラのライバルなんだよ?どう?」
虎太郎「あ、その…綺麗です。よく、似合ってます…」(ちょっと目のやり場に困るけど)
ことり「よかったあ~!えっとね、それで、こういうポーズが撮りたいんだけど…」
380: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/06(月) 23:59:20.86 ID:ls0tm0Vk.net
一枚のイラストを見せられる。ことりさんの演じる女の子が、後ろから侍に絡みつくようにしていた。
虎太郎「え!いや…その、これは…」
ことり「…10秒毎にシャッターが切れるようにしておくね~」
虎太郎「あ、あの…さすがに…」
ことり「?」
虎太郎「恥ずかしいっていうか…その…」
ことり「え~?平気だよお、女の子キャラ同士だもん。」
虎太郎「え?」
ことり「あれ?知らなかった?虎太郎くんのキャラ、男装してる女の子なんだよ。渡した下着も女の子用だったでしょ?」
虎太郎「え?え?」
なんで?なんでなんで?わけがわからない―――クラスの女子が騒いでたからてっきり男キャラだと思ってたけど――
僕が本当は男だけど、女の子の下着をつけていて、でもそのキャラは本当は女の子だから当然のことで――
382: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:01:10.31 ID:b86UCs5f.net
ことり「…なーんて、ユニセックスっていって、男の子でも女の子でも平気な下着なんだけどね?」
虎太郎「え?でも僕は男だから男のキャラで…」
混乱してことりさんの話がよく入ってこない。
ことり「違うよ~、男の子の格好した女の子のキャラ!」
無邪気に笑いながらことりさんが背中に身を寄せてきた。
虎太郎「あ…」
ことり「えへへ、ごめんね、だましちゃって。」
虎太郎「あ、いえ…あっ!」
するり、とことりさんの手が僕の胸板に伸びてきた。
ことり「びっくりした?」
虎太郎「少し…」
さす さす ゆっくりとことりさんの手が僕の胸をなで上げる。
ことり「筋肉ついてるね…さすが男の子。」
くすぐったくて思わず声が出そうになる。偶然か、それとも故意か、胸の先端を爪が軽くひっかく。
虎太郎「っ!」ビクッ
ことり「…♪」
背中だから顔は見えないけど ことりさんが笑ったような気がした。
383: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:01:53.56 ID:b86UCs5f.net
ことり「――じゃあ、もう一つ、隠してること――教えてあげるね?」
虎太郎「!」
耳元でささやかれてぞくり、と体が震える。
ことり「ことりのちょっと恥ずかしい秘密…誰にも言わないでね…?」
甘い声が 吐息が 耳朶を愛撫する。
ことり「ことりね――ヒーローさんが負けて泣いてるのが大好きなの――」
ど ろ り と
耳を通して 蜜 が流れ込んできた。
385: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:02:53.44 ID:b86UCs5f.net
虎太郎「へ…?」
ことり「うん…」
頷いたことりさんの微かな吐息が耳に入り込む。
虎太郎「っ!!」ゾクゾク
ことり「海未ちゃんとか…虎太郎くんみたいに……凛々しくてかっこいい子がね…悔しそうにして泣いちゃってるところ…」
ゆっくり ゆっくり 胸をさする手が下に降りてくる。
虎太郎「ぁ…っ…ぁ…」
ことり「そういうの…ちょっと…見てみたいなあっ、て……」
ぴたり、とへその下の方で止まった手がゆっくり ゆっくりと 這いまわりはじめる。
虎太郎「あ…あ…」
やばい これは絶対にやばい どうしよう ああ そうだ 後ろから組みつかれたときには――
ことり「…♪」
キュッ
空いてる方の手が絡め取られる。
そのまま―――ことりさんの細くてしなやかな指が――つう、と舐めあげるように僕の指を――
387: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:04:05.72 ID:b86UCs5f.net
虎太郎「ん…!ぁ…!」
ことり「ふふ?くすぐったい?」
最初は親指、次に人差し指、一本一本丁寧にさすられていく。
根本からねっとりと、絡みつくようにさすられ、先端がくりくりと掻き回される。
虎太郎「あ…!ぅっ、あ…!」
ことり「気持ちいい?指のマッサージ…ことりもよくやるんだ♪」
師範代…海未さんに教わった……あれ…どうするんだっけ…?
ことり「ほらぁ…カメラ目線だよ?」
虎太郎「ふぁ…はい…」
顎をくい、と持ち上げられ、そのままなで上げられる。
ことり「虎太郎くん……力抜いて…」
ゆっくり ゆっくり 意思を持つ生き物のようにことりさんの手が僕をほぐしていく
証明の熱 断続的に響くシャッター音が判断力を奪っていく
ことり「…もっと……そう……うん…」
388: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:05:13.44 ID:b86UCs5f.net
耳から 流し込まれる 蜜が 脳をドロドロに溶かす
もう 何も考えられない
下腹部に溜まった 熱くて ドロドロしたものを 今すぐ吐き出したい
耳にかかる吐息を
かすかに触れる胸を
指先への愛撫を
ことりさんの手から伝わる温もりを
ただただ 感じることだけで頭がいっぱいになる
389: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:05:49.87 ID:b86UCs5f.net
早く 早く ―――
僕のアソコはもう痛いくらいに大きくなっていて 下着を突き破りそうだったけれども
ことりさんは絶対にそこには触れてくれなかった。
女の子の下着をつけた僕は ただただ ことりさんの与えてくれる快楽に溺れて――
早く 早く 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!
そして、偶然か、それともわざとなのか
――ことりさんの指先がズボンの隙間に引っかかった瞬間、
やった!!思わず本能がそう叫んだ――
390: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:06:21.38 ID:b86UCs5f.net
ピーーーーーー
虎太郎「え…?」
ことり「あ…バッテリー、切れちゃったね。」
虎太郎「っ!」
ことりさんの手が一瞬止まった隙をついて素早く離れる。
ことり「きゃっ!」
虎太郎「あっ、すみません!」
ことり「うん…平気だよ。」
虎太郎「あ…えと…その…ト、トイレ!トイレどこですか!」
ことり「え…」
虎太郎「あ、あの…ごめんなさい。おなか冷えちゃって…」
下半身の膨らみを悟られないように必死でおなかをおさえて誤魔化す。
ことり「…くす。そっか、ごめんね、出て左だよ。後片付けしておくからゆっくりしてきていいよ。」
虎太郎「すみません!」
あとはもう、逃げるように部屋を出た。
どうにかバレずに済んだけど…紳士な自分に戻るには少し時間がかかりそうだった。
394: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:12:04.84 ID:b86UCs5f.net
――
――――
―――――――
ことり「…怒ってる?」
虎太郎「…怒ってません。」
帰りの車内で、僕はずっと窓の外を見ていた。
ことり「あはは…ごめんね?虎太郎君疲れてそうだったからつい…」
虎太郎「…」
ことり「ふ~っ♪」
虎太郎「わっ!」
耳の穴に息を吹きかけられた。
ことり「…うん。元気でたみたいだね。」
信号待ちしていた車が再び発進する。
虎太郎「あ…」
397: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:17:34.39 ID:b86UCs5f.net
ことり「私もね、同じような服とか、アイディアばっかり出てくることがあるの。」
虎太郎「…」
ことり「うー…もうやだ!こんなの全然ダメ!同じことしかできない!って狭い鳥かごに閉じ込められたみたいにうーっってなるんだけどね。」
虎太郎「はい…」
ことり「そういう時、思い切って別の自分になってみるんだ。そうするとね、色々と見え方が違ってくるの。」
虎太郎「別の自分…?」
ことり「うん♪…楽しかったでしょ?コスプレ。」
虎太郎「…いや、その…」
ことり「ん?」
虎太郎「…はい。」
ことり「うん!まあ、コスプレだけじゃなくてね、新しい世界を見るって、大事なことなんだなって…ことりは思うんだ。」
虎太郎「新しい世界…」
『 ――誰だって変身できる 』
虎太郎(…凛姉ちゃんも言ってたな…)
400: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/07(火) 00:23:12.52 ID:b86UCs5f.net
――
――――
ことり「それじゃね、虎太郎くん。」
虎太郎「はい、今日はありがとうございました。」
マンションの前で、紙袋に詰められた洋服を受け取ってお礼を言う。
ことり「にこちゃんによろしくね」
虎太郎「はい。」
ことり「ああ、それからこれ、あげるね。」
虎太郎「え?」
ことり「布が余ったから作ってみたの。かわいがってあげてね。」
虎太郎「…人形?」
ことり「それじゃ、バイバイ♪」
遠ざかることりさんの車に頭を下げる。
車が角を曲がって見えなくなってからゆっくりと手の中のものを確認する。
虎太郎「――なんだこれ。」
それは、さも悔しそうに泣いている、おそらく僕に似せて作ったであろうマスコットだった――
~ 第4話 完 ~
478: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:14:01.76 ID:pfrf5PwT.net
にこ「――そうですね、本人の希望を尊重して…」
「そうですか、虎太郎くんの学力でしたら最上位の私立高校も十分合格ラインなのですが…」
凛「そうだよ!にこちゃんからもこたくんに薦めてよ~。」
「…星空先生。」
凛「あ…ぜ、ぜひ、お姉さまからも弟様におすすめになってくださいませんことかしら?」
虎太郎「…ふふっ。」
にこ「…日本の教育が心配になるわね…。」
「面目ない…じゃあ矢澤、進路はこのまま○○高校でいいんだな?」
虎太郎「はい。徒歩で通える距離ですし。」
「うむ…そうか…いつでも変更していいからな。」
虎太郎「はい、ありがとうございます。」
「…ところで話は変わりますが。その…私、実はその昔、お姉さんの大ファンでして…」
凛「えーっ!?初めて聞いたにゃ!…です!」
にこ「え~っ?今はファンじゃないんですかぁ~?」
「あ、いや!そんなことはなくて!もちろん昔から今でもずっと……」
482: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:21:43.96 ID:pfrf5PwT.net
――
――――
――――――
にこ「ふう…久々に学校なんか来ると肩がこるわね。」クイクイ
虎太郎「ありがとうにこにー。忙しいのに…」
にこ「別に、今は忙しくないわよ。…にこもすっかり【懐かしのアイドル】みたいだし?」
虎太郎「あはは…そんなことないよ。先生すっごく喜んでたもの。」
にこ「ま、とーぜんよね…どうする?一緒に帰る?」
虎太郎「ううん、図書館で勉強して帰るよ。」
にこ「そ、頑張ってね。夕飯何がいい?」
虎太郎「…えっと、にこにー特製ハンバーグがいいな。」
にこ「はーいっ、腕によりをかけて作るニコっ☆」
虎太郎「えへへ…楽しみだな。それじゃね、今日はありがとう。」
にこ「…どうにかしないとね。」
483: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:28:55.74 ID:pfrf5PwT.net
――
――――
――――――
凛「あっ…」
夕暮れの色に沈む校舎の廊下の向こうにダンボールを抱えた凛姉ちゃんがいた。
虎太郎「あれ、もう面談終わったの?」
凛「…ふんだ。」
虎太郎「凛姉ちゃん?」
凛「?」
違うでしょ、という目つきで僕を見上げてくる。
虎太郎「…星空先生はもう面談を終えられたのでございますかしら?」
凛「っ!~~~~~!」
ダンボールを抱えたままぴょこん、と体当りされる。
虎太郎「痛いなあ、体罰でございますわよ。」
凛「…こたくんのせいだからね。」
虎太郎「え?」
凛「こたくんのせいで怒られた。」
ぶう、と口を突き出す。
凛「おかげで教材を持ってくる羽目になったにゃ。」
485: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:36:54.10 ID:pfrf5PwT.net
虎太郎(…僕は何も悪く無いと思うけど…)
凛「あーあ。まったくもう…教材室暗くて怖いんだよねー。」チラッ
虎太郎「…」
凛「この時間だとあっちの方は誰もいないしさー。」チラッ
虎太郎「…」
凛「ああ、重い重い。こんなの凛一人じゃ運べないなあ。」ハア
虎太郎「…」ヒョイ
凛「おっ、軽くなった~♪それじゃ、そのまま4階まで行こっか!」
虎太郎(凛姉ちゃんは怒られて当然な気がする…)
クラスの連中は凛姉ちゃん、もとい星空先生と二人きりなんて言ったらうらやましがるんだろうなあ。
そんなことを考えてるうちに校舎の最上階、一番端の教材室の前にたどり着く。
凛「ちょっと待ってね?」
いつものジャージとは違う、ピチっとしたスーツに手を突っ込んでなにやらゴソゴソやってる。
凛「あ、あれ…?ここかな?それとも…あ、あった!」
どうやら鍵を探していたらしい。お目当てのものをニヒヒ、といった顔で見せつけて、扉を開いた。
488: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:46:39.27 ID:pfrf5PwT.net
凛「ありがと、それこっちにおろして。」
虎太郎「よっと…」
薄暗い部屋の隅にダンボールを下ろす。
凛「あとは、ここに書いてあるファイルを持っていかないといけないんだけど…」
虎太郎「…手伝うよ。」
期待に満ちた目についそう言ってしまう。
凛「えへへーありがとっ!」
ニパッと笑う凛姉ちゃんにどっちが先生だかわからなくってしまう。
――
――――
それから少しして
凛「あ、あった!」
虎太郎「え?」
凛「あれ!ほら!」
凛姉ちゃんが指差す方、棚の一番上のさらに上にお目当てのものはあった。
虎太郎「ああ…どうしよっか、脚立借りてくる?」
凛「ん~~~…あ、そうだ!」
凛姉ちゃんがトトト、と僕の後ろに回りこんできた。
凛「よっ!ほっ!」
虎太郎「ちょ!え?」
491: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 21:52:13.40 ID:pfrf5PwT.net
僕の肩をつかんでいきなりピョンピョンはね出した凛姉ちゃんがもどかしそうに叫ぶ。
凛「もう!しゃがんでよ!乗っかれないじゃん!」
虎太郎「え?」
凛「いいから!」
肩をぐっと押される。言われるがままにしゃがみこむと…
凛「ほっ!」
顔の横に にょきっ とスレンダーな脚が飛び出した。
虎太郎「…なんだ、肩車か…」
凛「いいよ!立って立って!」
凛姉ちゃんが僕の頭をペチペチと叩く。
虎太郎「はいはい…気をつけてね。」
凛姉ちゃんが落ちないようにむき出しの脚に手をかける。
虎太郎「あ…」
瞬間、その温かさにドキッとした。
495: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:02:14.96 ID:pfrf5PwT.net
凛「?」
虎太郎(え?素足…?普通こういうOLさんみたいなスーツて何か履くんじゃないの?)
凛「どしたの?」
虎太郎「あ、いや…」
虎太郎(やばいやばい…相手は凛姉ちゃんだぞ。変なことなんか考えるなよな。)
凛「こたくん、ちょっとくすぐったいwもう少し強く抑えていいよ。」」
思ったより肉付きが良くて柔らかいふくらはぎとか
そこに食い込んでる自分の指とか
凛「…う~ん…これ、じゃないよね…」ゴソゴソ
頭の後ろに感じる凛姉ちゃんのスカートの生地の感触とか(多分めくれ上がってるんだろうなあ。)
凛姉ちゃんが手を伸ばす度に近づくその奥の場所とか
凛「あ、これかな?っと!」
両肩にずしりと感じる柔らかさとかほんのりとした温かさとか
時々落ちないようにギュッと挟み込んでくる太もものこととか
―――もうとにかくそういうことを絶対考えないようにして、歯をくいしばった。
500: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:09:38.37 ID:pfrf5PwT.net
凛「うん、うん…平成○○年度…これで間違いなし!ありがと!こたくん、もういいよ!」
虎太郎(相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん相手は凛姉ちゃん)
凛「聞こえてる?もういいってば。」
虎太郎(エロくないエロくないいい匂いなんてしない柔らかくなんてないすべすべなんかじゃない)
凛「もー!こたくん!いたずらしないで!」
虎太郎(勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け勃ったら負け)
凛「…」
――僕が必死で数学の公式とか歴史の重要人物とかブサイクな芸人の顔を思い浮かべてると
凛「ん~~~!」ギュッ
両側から 何か 柔らかいもので 思い切り頭を押しつぶされた。
501: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:14:05.70 ID:pfrf5PwT.net
虎太郎「!?!?!?!?」
凛「もう!見つかったって言ってるでしょ!」
凛姉ちゃんが体を折り曲げて僕の顔を覗きこんでくる。
つまり、そういった体勢をとるということは 必然的に前の方に体を乗り出すことになるわけで。
虎太郎(あ…首の後ろに何か感じる…あったかい……ていうか熱い…?)
もう、おしりの近くぐらいまで脚は乗っかっていて
なにかよくわからない柔らかいもの (絶対に僕は認めない)
が頭にふにょふにょとくっついたり離れたりして。
虎太郎「あ…うわ…///」
凛「ちょ、ちょっと!うわわわわ!」
――もう限界だった。
505: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:20:46.94 ID:pfrf5PwT.net
虎太郎「うわ!」ダダダッ
凛「きゃっ!!」ギュウ
狭い部屋の中で思いっきりたたらを踏む。
虎太郎(ダメだ!絶対に落としちゃダメだ!)
脚に力を入れて転倒をこらえる。手はとっさに近くのカーテンを握りしめた。
ビリッ、と少しいやな音がする。
凛「…っ…」
虎太郎「…っ」
よかった。なんとか転ばずに済んだ。凛姉ちゃんも……無事だ。
凛「…はあ~っ」
大きなため息をついて僕の頭に両肘をのせる。
凛「もう、気をつけてにゃ……」
虎太郎「うん、ごめん……カーテン…」
上の方から破れ、床にだらしなく落ちたカーテンを見やる。
そして、二人同時に
「「……あっ」」
と声をあげた。
506: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:27:37.19 ID:pfrf5PwT.net
凛「すごい…」
それは どこまでも続くかのような 夕焼けの街の風景
幻想的な影絵のように 全てが赤と黒に染め上げられ 空に浮かぶ雲だけが光を受けて輝いていた
虎太郎「…」
凛「…」
お互い、無言で外を眺める。
凛「…すごいね。」
虎太郎「うん…」
凛姉ちゃんが僕の頭に手を乗せてつぶやく。
凛「こんな景色、知らなかったにゃ…」
虎太郎「…」
凛「――ね、こたくんさ。」
虎太郎「?」
僕の髪を優しくすきながら、凛姉ちゃんが話しかける。
凛「……本当のこと、話しなよ。にこちゃんに。」
虎太郎「…」
509: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:33:58.88 ID:pfrf5PwT.net
凛「ううん、話さなくてもわかってると思うけど…」
さらさらと髪をなでる手が気持ちいい。
虎太郎「…別に、隠し事とかないし…」
凛「…もうっ」
上から すっ と頬に両手が添えられる。
凛「可愛くないにゃあ。昔はな~んでも話してくれたし、凛のいうこと聞いてくれたのにね。」
虎太郎「…そんなの、子どもの頃だし…」
今でも子どもじゃないか、そう自分で突っ込んだけど。
凛「…そっか、そだね。背だってこんなにおっきくなって…もう、立派な男の子なんだね。」
虎太郎「…うん、そうだよ。」
凛「そっか…」
510: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/08(水) 22:37:24.60 ID:pfrf5PwT.net
ゆっくり、凛姉ちゃんの手が僕の顔を愛おしそうに撫でる。
凛「…ひげ、残ってるよ。ちゃんと剃らないと。」
虎太郎「…うん」
凛「みんな、こたくんの味方だよ。」
虎太郎「うん。」
凛「絶対、応援するよ。」
虎太郎「うん。」
凛「…もっとお姉ちゃんのこと頼ってもいいんだよ。凛だって、ね。」
虎太郎「うん…」
その後はもう何も言わずに、二人で空を眺めた。
~第5話 完~
※ 凛ちゃんが香水をつけてるというネタを入れ忘れました。
545: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 22:28:06.50 ID:5IHY0xxG.net
虎太郎(ふむふむ…相場は…大体3万円前後か…)ペラ
虎太郎(ことりさんからもらったのが…だめだ、たりないなあ…)
「…?」
虎太郎(う~ん…でも、あまり子どもっぽいものは渡せないし…)
「…」ソーッ
虎太郎(…そもそもどういうものがいいのかもよくわからない…どれも同じように見える…)
「…」ヒョイ
虎太郎(…高いほうがいいのか?でも…)
「中学生にてふぁにーはまだ早いんじゃない?」
虎太郎「おわっ!!」
穂乃果(28) 「久しぶり~っ!何見てるの?」
555: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 22:35:51.40 ID:5IHY0xxG.net
虎太郎「ほ、穂乃果さん…びっくりした…」
穂乃果「なになに?彼女にクリスマスプレゼント?いやあ~、虎太郎君もとうとうそんな年になったか~!」ニヒヒ
虎太郎「あ、いや…そんなんじゃなくて…」
穂乃果「照れなくていいよぉ~。虎太郎君にこちゃんみたいでかっこいいもんね!…で、誰?どんな子?後輩?先輩?写真見せて?」
虎太郎「えと…そうじゃなくって…」
穂乃果「もぉ~!いいじゃんいいじゃん!もったいぶらないでよ!」
虎太郎「あ…その…ただ、プレゼントするだけっていうか…」
穂乃果「おぉ~!いいねいいね!青春だねえ!プレゼントを渡して告白かぁ~!」
虎太郎「いや、そういうのじゃなくって…ただ、いいなあ、って憧れてる人に…」
穂乃果「え、ひょっとして…年上?嘘!もしかして私?」
虎太郎「…違います。」
虎太郎(…しまった、つい穂乃果さんのペースに乗せられてしまった…)
559: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 22:45:39.51 ID:5IHY0xxG.net
それから、しつこい穂乃果さんの攻撃を適当にはぐらかすうちに
穂乃果「――虎太郎君の恋を甘く切なくサポートしてあげる!」
虎太郎「えっ、いや、いいです…」(絶対楽しんでるな…)
穂乃果「いいからいいから!悪いようにはしないからさぁ~」ニシシ
その穂乃果さんの勢いを押し返せるはずもなく…
――
――――
――――――
虎太郎「あ…あ…」
バタリ、と床にへたりこむ。
穂乃果さんのサポート、とはこの辺で行われる秋祭りのお手伝いのことだった。
虎太郎(…今思うとアレは都合のいい労働力を見つけたっていう笑顔だったんだなあ…)
『穂むら』の居間に体を横たえる。
バイト代も弾んでくれるそうだし、一日程度ならかえっていい運動不足の解消になるだろう、そう思ったのだけど。
虎太郎(…働くのってこんなにキツイんだな…)
思わずため息が漏れた
564: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 22:54:05.79 ID:5IHY0xxG.net
穂乃果「――お疲れ様。もうウチでやることはないから、一休みしたら帰ってもいいよ。」
虎太郎「あ、すみません。」ガバ
穂乃果「あはは、いいよいいよ。横になってて。」
こと、と穂乃果さんが湯のみを置く。
虎太郎「いえ、大丈夫です…いただきます。」
穂乃果「はいどうぞ。売れ残りで悪いけど、和菓子も食べてね。」
虎太郎「すみません……あ、美味しいです。」
穂乃果「ほう?」
僕に和菓子を薦めた当の本人は、どこから出したのかチョコレートを頬張っていた。
虎太郎「…」
穂乃果「あ、遠慮しないでいいよ?全部食べて?」
虎太郎「はあ…」
なにか釈然としないものを感じるけど…
566: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:01:59.60 ID:5IHY0xxG.net
――
――――
穂乃果「…へえ、今の中学生ってそんなことまで習うんだあ。」
虎太郎「いや、昔からやってたと思いますけど…」
穂乃果「え?そうだっけ?…あはは。」
くだらない雑談をして時間をつぶす。なんてことない話だけど、穂乃果さんと話してると元気が出てくる気がする。
虎太郎(さすが、にこにーが一目置くだけあるなあ。)
~~~♪
虎太郎「あ、すみません……にこに、姉さんからだ。いつ帰るのって。」
穂乃果「そっか、帰る?」
虎太郎「はい、今日はありがとうございました……あの…帰る前に…」
穂乃果「…?ああ、トイレね、今誰も居ないから遠慮せずどうぞ。場所わかるよね?」
虎太郎「はい。」
ギシギシ、と音が響く。みんな祭に行ってしまったのか、家の中どころかこの近辺に誰も居ないかのような静けさだった。
569: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:09:20.00 ID:5IHY0xxG.net
虎太郎「――ふう。」ジャー
虎太郎(しかし、本当に静かだな…)
――ぁ―――ぁっ…――
虎太郎「…ん?」
――ぃぃ―――ぅん…――
虎太郎「!?」
え、なんだ、この艶かしい声は!?
――ぃぃ!―――イッチャウ!…――
虎太郎(間違いない――これは――)
僕は居間に急ぐ。
虎太郎(穂乃果さん…まさか……)
居間の前で短く深呼吸
『いいっ!気持ちいいのぉ!もっとしてえっ!』
虎太郎(間違いない これは――)
そして――勢い良く開け放った障子の向こうには――
穂乃果「っ!!」ビクッ!
『ああ~ん!すごい!もう私イミワカンナアイ!』
僕の携帯で、アダルト動画を見ている穂乃果さんがいた。
575: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:16:59.93 ID:5IHY0xxG.net
穂乃果「こ、虎太郎君!?これはね!?」
虎太郎「っ!」バッ
穂乃果「きゃっ!」
虎太郎(――間違いない…僕のお気に入り動画No.1 ヌレヌレ診察室だ……) 「じゃなくて!!」
穂乃果「…あ、あはは…」
虎太郎「なんで勝手に人の携帯見てるんですか!」
穂乃果「あ、えっとね、その…メールが来てね?バイブでちゃぶ台から落ちそうだったからキャッチしたら変なとこ触っちゃって…」
虎太郎「…」
不審に思い、調べてみる。
虎太郎「…確かに、メールが来てます。」
穂乃果「ね?ね?…でしょ?そしたら急にね、その、始まっちゃってさ、どうやって止めたらいいのかもわかんなくって…」エヘヘ
虎太郎(思いっきり見入ってた気もするけど…)
まあ、考えてみればすぐ再生できるようにしておいた僕も悪い……のか?
穂乃果「てへへ…ま、まあまあ、座って座って?お詫びにお茶でも飲んでよ。」
虎太郎「…はあ。」
虎太郎(…このまま帰るのも確かに気まずいよな…)
渋々、腰を下ろす。
穂乃果「ご、ごめんね?本当に…」
581: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:23:21.09 ID:5IHY0xxG.net
虎太郎「…」
穂乃果「…」
気まずい…
穂乃果「―――あれって本物のお医者さん?」
虎太郎「…知りませんよ、セットじゃないんですか?」
穂乃果「へー、そっか…ほーん……あ、じゃあさ!」
虎太郎「なんですか…」
穂乃果「ああいうのってお金かかるの?」
虎太郎「知りませんよ…」
穂乃果「そっか、まあ、その…ほどほどにね!」
虎太郎「…もともと悪いのは穂乃果さんじゃないですか…」ハア
穂乃果「しかし、ねえ…」ニマニマ
虎太郎「…なんですか。」
穂乃果「いや、そんなお年ごろになったんだな~って。」ニヤニヤ
虎太郎「――あ、あの、一応言っときますけど、そっちが悪いんですから、にこにーとか師範代には…」
穂乃果「黙っててほしい?」ニヤニヤ
虎太郎「…」
…この人はどうしてこう、強いんだろうか。ある意味見習わないとな…
587: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:29:43.32 ID:5IHY0xxG.net
――
――――
穂乃果「あ゛~~~~っ!そこ!そこ効くっ!」
虎太郎「変な声出さないでくださいよ…」グイグイ
穂乃果「いやあ…歳かなあ。最近こっちゃってさ…」
虎太郎「…運動不足じゃないですか?たまには師範代のとこでも…」グイグイ
穂乃果「あ…海未ちゃんと言えばね、なにか知ってる?」
虎太郎「?」
穂乃果「なんか最近さ児童心理とか思春期について、とか、そんな本ばっか読んでるの。」
虎太郎「へえ」グイグイ
穂乃果「先生にでもなるのって聞いたらなんか赤くなっちゃってさ…『年上として責任をとるべきでしょうか』なんて言ってるの。」
虎太郎「へえ、どうしたんでしょうね」グイグイ
穂乃果「ねー…あ、次は脚お願い。」
穂乃果さんがゴロン、とうつぶせになる。
虎太郎(…ジーンズでよかった。)
ふと思い出した凛姉ちゃんの温もりを慌てて追い出す。
591: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:37:26.71 ID:5IHY0xxG.net
細身のジーンズだからかな、ムチムチとした穂乃果さんの脚が余計強調されてる。
虎太郎(結構お尻おっきいんだな…)
なるべくそっちは見ないようにして脚に手をかける。すると――
ぐにょ
虎太郎「えっ」
穂乃果「あーっ!今えっ、って言ったでしょ!」
虎太郎「あ、いや…」(ぐにょぐにょだ…)
穂乃果「…」ジトー
虎太郎「あ…こんな感じでいいですか?」グニョグニョ
穂乃果「…ふんだ。どうせおばさんの体ですよ…」
虎太郎「そ、そんなこと…」(おお…弾力がない…なんていうか…しっとりと沈んでいくな…)
穂乃果「そりゃさ、まずいとは思うけどさー、なんか億劫でさー…」
虎太郎「はあ…とりあえず腹筋でもしたらどうですか?」
穂乃果「…どういう意味?」
虎太郎「あ、いや…」
597: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:43:48.88 ID:5IHY0xxG.net
穂乃果「もー!じゃあやるよ!腹筋するよ!」ガバッ
虎太郎「おわっ!」
穂乃果さんが突然仰向けになる。
穂乃果「ん」ポンポン
虎太郎(え、どうしたんだろう、たぬきのマネなんかして。)
穂乃果「手、おいて。」
虎太郎「?」
穂乃果「お腹に手おいて。そうするとそこを意識するようになって効果的なんだってさ。」
ああ、そういうことか。それなら師範代から聞いたことがある。
穂乃果「ん…」
手をそっとあてると、穂乃果さんの体温が薄手のセーターを通して伝わってきた。
虎太郎(…あ、気持ちいいな、これ…)
なんていうか、格別の柔らかさだ。その、なんていうか…脚、とか胸、とかとは全然別種の…
思わずふにふに、と指を動かしたくなる。
穂乃果「ふぐーっ!んぐーっ!!」グググ
虎太郎(うわ、なんだろうこれ、マシュマロ?お餅?すごく柔らかいぞ。)フニフニ
599: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:49:39.58 ID:5IHY0xxG.net
穂乃果「―ふうーっ…ふうーっ…おし!いい感じ!」
ちなみにあんまり頭はあがってない。10回もやってない。
穂乃果「もうちょっと手を下に置いて?…もっともっと…うん、そうそう、そこそこ。」
虎太郎(うわ…なんだこれ!さっきよりももっと気持ちいいぞ!)
穂乃果「最近下っ腹が出てきちゃってさ…いくよぉっ!」グググ
虎太郎(ああ、確かにこれならジーンズに腹が乗っかりそうだな…)
穂乃果「ふーーーっ!んーーーっ!!」グググ
虎太郎「…」
穂乃果「んむむむむーーーーっ!!」グググ
虎太郎「…」
グッ
穂乃果「あんっ!」
606: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/09(木) 23:56:05.18 ID:5IHY0xxG.net
虎太郎(え?)
なんだ?ちょっとしたイタズラでお腹を押しただけなのに…
穂乃果「ちょ、ちょっと…」
虎太郎「…」グッ
穂乃果「ひゃうんっ!!」ビクッ!
虎太郎「…」グッ グッ
穂乃果「あっ……!んっ……やだっ!」ビクンビクン
虎太郎「…」グリグリ
穂乃果「はうっ!?…あっ!あっ!あっ!」
虎太郎(…なんだこれ?)
下腹部を押す度に穂乃果さんが高い声を上げて身をくねらせる。
穂乃果「ちょ…ちょっと……・いい加減に…」
虎太郎「…」ブブブブ
小刻みに揺すってみる。
穂乃果「ふぁあっ!?」ビクッ
612: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/10(金) 00:05:02.13 ID:xi7G8aJL.net
――穂乃果さんが…大人の女の人が僕の思い通りになっている…そのことが心の暗いところに火をつけた。
グリグリ
穂乃果「あっ…!!んっ…!」ビクッ
穂乃果さんが必死に口を抑えて声を我慢する。
ブルブル
穂乃果「おねっ……!がっ……やっ……んんっ!!」
切なそうに脚を擦り合わせて逃げようとするのを執拗におさえる。
サスリサスリ
穂乃果「はあ…ん…あっ……」
さっきまで散々からかわれたお返しに執拗に責める。
虎太郎(…穂乃果さん、くすぐり弱かったんだな。)
最後のとどめとばかりに連続で振動させる。
穂乃果「あっ!やだ!やだ!やだやだやだやだ!…あああああんっ!!」ビクビクン!
616: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/10(金) 00:12:02.18 ID:xi7G8aJL.net
穂乃果「――ハア…ハア……」
虎太郎「あ…」
涙ぐんでいる穂乃果さんを見て急に冷静になる。
虎太郎「あ、す、すみません……」
穂乃果「ハア…ハア…グスッ…」
虎太郎「あの、大丈夫ですか…?」
穂乃果「…」
穂乃果さんがのっそりと起き上がる。
上気した頬、涙ぐんだ目、うっすらと汗をかいた首筋が妙に色っぽい。
穂乃果「…シャワー行く…」
虎太郎「あ、あの…わっ!」ボスッ
追いかけようとすると、座布団を顔に投げつけられた
穂乃果「……えっち。」
虎太郎「……え?」
―その日自分のした行為の意味を知るのはずっと後のことだった。
~第6話 完~
736: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:12:53.42 ID:KrNDaJ+r.net
虎太郎「――え?なんで…」
にこ「だからね、ママの会社の人が知り合いのお仕事を紹介してくれたの。」
虎太郎「だから、なんで…」
にこ「…にこの歳を考えたらとっても良い条件だしね。それに、家にいてばっかりも退屈だし。」
にこ「だから、お金の事なら心配しなくていいわよ。こころもここあも大学まで行ったんだし…」
虎太郎「そうじゃなくって!」
にこ「…」
虎太郎「ア、アイドルは…?にこにーはアイドルなんだよね?それなのに…」
にこ「…しばらくお休み。って言っても最近はずっとお休みだったけどね。」
虎太郎「いやだよ!僕のことなんて気にしないでいいから…」
にこ「…これ、ごめんね。部屋掃除した時に見つけちゃったの。」スッ
虎太郎「あ…」
737: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:14:54.31 ID:KrNDaJ+r.net
にこ「あのね、虎太郎。アンタが本当に○○高校に行きたいならそうしてほしい。でもね…」
虎太郎「…」
にこ「にこはね…アンタが”本当に”やりたいこと、したいことをしてほしい。だから…」
虎太郎「…わかった。」
にこ「え?そ、そう?随分と素直ね…」
虎太郎「……ごめんね、にこにー。」
にこ「え?」
虎太郎「僕が…僕が…にこにーの足を引っ張ってるんだ…」
にこ「え、ちょっと、何言ってるのよ!」
虎太郎「ねえ、にこにー、僕が進学しなかったらまたアイドルしてくれる?」
にこ「あ、あのね、虎太郎、そういうことじゃなくて…」
虎太郎「にこにーは宇宙ナンバーワンアイドルだよね?絶対にそうだよね?ずっと、ずっとだよね?」
にこ「虎太郎、落ち着いて!――虎太郎!」
―――そうだ、こんなことしている場合じゃない。
738: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:16:01.07 ID:KrNDaJ+r.net
―――
――――――
―――――――――
凛「――あれ?こたく…… 矢澤君、どうしたの?」
凛「え?進路希望の用紙?ちょっと待ってね……」
凛「…ねえ、ひょっとして、にこちゃ、じゃなくて、家族の人とお話したの?」
凛「――よかった~!!ずっとずぅ~っと心配してたんだよ!」
凛「実は矢澤くんの家の人ともこっそりお話して……え?書けたって…」
凛「うんうん。もちろん希望は……え……何これ……」
凛「『就職』って……どういうこと?にこちゃんはそんなこと一言も…」
凛「あ!ちょっと!待って!待ちなさい!…こたくん!」
739: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:20:05.82 ID:KrNDaJ+r.net
――走った、とにかく走った。走って何が変わるわけでもないけど、じっとしてられなかった。
にこにーは宇宙ナンバーワンアイドルなんだ。
それはずっと変わらなくて ずっと ずっとそうなんだって思ってた。
『――ごめんなさい、弟が熱を出して…はい…はい……』
ごめんね、にこにー、ごめんなさい。
『――申し訳ございません、きちんと言って聞かせますので…』
ごめん、僕がいつもいつも…
『――お金のことは心配しなくていいわよ、アンタの好きな道に―』
ごめん…
いつの間にか降りだした雨が染み込み、コートが重くなる。
ビルの壁に手をついて荒い息を吐くと、そのままうずくまった。
誰も歩いていない街には冷たい雨がどこまでもどこまでも降り続いている。
このままどこにも帰れなければいいのに――僕がいなくなれば きっとみんな――
「――――……これまた、おっきな捨て猫さんやねえ。」
744: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:36:34.97 ID:KrNDaJ+r.net
ウチの家においで――半ば無理矢理に希さんの家に連れて来られる。
希『ほら!シャキッとして!若い男の子連れ込んでるなんて噂されたらウチだって困るんやから!』
エレベーターの中で希さんが顔を拭いてくれた。
希『そのままやと困るからシャワー浴びて?服は乾かしとくから。』
…一人暮らしの女の人の家に上がり込んでシャワーを浴びるなんて、落ち着かなかった。
希「――だから、来ないでええよ、うん、今は少し距離を置いたほうがええと思う…」
虎太郎「あの…」
希「あっ…ごめんな?また後で…」ピッ
希「お~、小さいかと思ったけど着られるやん。パンツは…まあ流石にないから堪忍してな?
虎太郎「すみません…」
希「ええよ、それウチのお父さんの忘れ物なんよ。普段はウチがパジャマにしてるからちょっと匂いするかもしれんけどな。」
虎太郎「…」
希「匂ってもええんよ?」
虎太郎「…」
希「ありゃ…重症やんなあ。」
752: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:45:10.35 ID:KrNDaJ+r.net
虎太郎「あの…すみませんでした。すぐに出ていきますので…」
希「出て行くってどこに?もう虎太郎君の服は乾燥機に放り込んじゃったよ?」
虎太郎「でも…」
希「…?ああ、さっきの電話気にしてるの?」
虎太郎「…」
希「安心して、にこっちやないよ。……ウチの『良い人♪』」
虎太郎「えっ」
希「なんよその反応~ウチやってええ歳なんやからそういう人の一人や二人おってもおかしくないやん?」
虎太郎「あ、あの!それじゃやっぱり…!」
慌てて席を立つ僕の手を希さんが引っ張る。
希「ええってば!ほら、こっち座り?」
そのまま、少し大きめのソファに座らせられる。
希「ほら、せっかく淹れたお茶が冷めてまうよ。」
そういって僕の手にカップを握らせる。
虎太郎(…柔らかいな。)
少しだけ心が安らいだ。
755: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 08:51:35.57 ID:KrNDaJ+r.net
希「…」
虎太郎「…」
そのまま、お互いに無言でお茶を飲んだ。
虎太郎「…あの…」
希「ん?」
虎太郎「いえ…」
どうして何も聞かないんだろう。
希さんはテレビをつけるわけでもなく、雑誌を読むでもなく、ただ僕のそばにいてくれた。
二人で並んで雨の音を聞く。
そして、カップが空になってからどのくらい時間がたったのだろう。
虎太郎「――にこにー、アイドルやめるって…」
気づくと、僕は話し始めていた。
757: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:04:03.88 ID:KrNDaJ+r.net
一度話したら、後はどんどん言葉が出てきた。
本当はもっと上の学校に進学したいこと。でもそのせいで家族に迷惑をかけたくないこと。
にこにーが夢を諦めたり、ママが遅くまで働いたりするのを見ること。
こころ姉さんやここあ姉さんが気を遣って家を空けてくれること。
そういった僕が感じる全ての辛いことを、希さんはなんでもないことのように、静かに聞いてくれた。
希「――真面目な子やねえ。」
希「ウチなあ、虎太郎君みたいな子、よく知っとるんよ。真面目で、優しくって…『自分はこうじゃないといけない』って思い込んでしまう…」
希「ホンマはそんなことないのにね。そんなんしたら自分も周りも苦しいだけなのに。」
虎太郎「…でも…」
希「でも、迷惑をかけたくない?だから早く一人前になりたい?」
虎太郎「…はい。僕が一人で行きていけるようになったら、きっと…」
希「…あんなあ……いや……」
希さんが深い溜息をついた。
希「――ほんなら、手っ取り早く大人にしたげよか?」
765: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:17:48.35 ID:KrNDaJ+r.net
虎太郎「え?」
突然、ソファに押し倒される。
虎太郎「え、あの…」
希「じっとしてて…」
覆いかぶさる希さんの長い髪が頬に触れる。
虎太郎(あ…)
するり、と希さんの脚が僕の脚の間に入り込む。ロングスカートから開放された脚が僕の脚を挟みこんで体温を伝えてくる。
たゆん とたれた胸が僕の体についたり離れたりする度に形を変えるのがわかる。
希「ウチなあ…最近ご無沙汰なんよ…」
ゆっくりと顔が近づいてくる。つやつやした唇から目が離せない。
希「ええやろ?絶対気持ちええから…」
希さんの目が怪しく光る。ごくり、とつばを飲む。
もう唇がくっつきそうな距離まで顔が近づき、思わず目を閉じる。
768: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:24:30.01 ID:KrNDaJ+r.net
希「……んっ。」
ぽふ
虎太郎(え?)
何か、とてつもなく柔らかいものに包まれた。
虎太郎「??」
希「あんっ、動いたらアカンよw」
虎太郎「あ……」
――理解した。今、僕の顔は希さんの大きな胸の中に…
希「…無理して大人になんかならんでええよ。」
ぽんぽん、と僕の頭を希さんが撫でる。
虎太郎(……気持ちいい。)
全身を大きくて、柔らかいもので包まれて心が安らいでくる。
774: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:35:32.48 ID:KrNDaJ+r.net
虎太郎「…」
希「…」
虎太郎(…不思議だな。全然いやらしい気持ちにならない…)
虎太郎(…昔、ママに抱っこしてもらっていた時のような…そんな…)
希「…虎太郎君な、ホンマに虎太郎君が虎太郎君の思うようにして、にこっちが喜ぶと思う?」
優しく希さんが僕を抱きしめる。
希「にこっちもなあ、ものすごく悩んだ末の決断やったと思うんよ。」
希「せやからなあ…ホンマに応援が必要なんは、虎太郎君やなくて、にこっちの方なんとちゃうかなあ…」
虎太郎「…」
希「虎太郎くんがにこっちを安心させてあげること。それが一番の応援なんちゃうかなあ…」
虎太郎「…」
希「それにな、アイドルは笑顔を見せる仕事じゃなくて、笑顔にさせる仕事なんやろ?」
虎太郎(…にこにーの…)
希「だから…一番身近にいる虎太郎君がそないな顔してたら、にこっちはアイドルじゃなくなってまうよ。」
希「――虎太郎君、にこっちを最後までアイドルでいさせてあげよ?」
虎太郎「…っ」ギュ
返事の代わりに、より深く希さんの胸に顔を埋めた。
776: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:42:45.35 ID:KrNDaJ+r.net
――
――――
――――――
虎太郎「あの…すみませんでした。」
希「ええよええよ。ウチも一人でいるの寂しかったから丁度よかったわ。」
すっかり雨が上がり太陽が差し始めた空の下、希さんに見送られる。
希「…ちゃんとお話するんよ。」
虎太郎「…はい…ありがとうございました。」
希「ええってば…あ、ひょっとしてありがとうってそっちの事?もう~、元気やなあ~」
虎太郎「?……あっ!あの…その…あっ、えと、!か、彼氏さんによろしく!」
希「…へ? え、ああ、ああ!…も~、違うやろ?そうじゃなくて『またよろしく頼みますよ奥さん、ゲッヘッヘw』やろ!」
虎太郎「?」
希「ありゃ…通じんか…ま、ええわ。それじゃね、気をつけて。」
虎太郎「はい―――」
778: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/12(日) 09:44:01.86 ID:KrNDaJ+r.net
―――………
「…」コク
希「…」コク
「…」タッタッタ
希「さて、と……」
ピッ
希「…ああ、にこっち?今帰ったよ。」
希「うん、うん。あの様子ならまあ、大丈夫やろ。一応凛ちゃんも後ろからついてってるしな。」
希「…何よ、お互い様やって。気にしないで。…まあ、あんまり怒らんであげてよ。」
希「うん…それじゃ、また…ああ、そうそう。虎太郎くんから伝言やけど…『よろしく』やって。」
希「え?何をよろしく…なのかは知らんけど…『これからもよろしくお願いします』ってことやないかな――」
~第7話 完~ 次回最終回
851: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:46:28.11 ID:Z0MLwyBv.net
「――――でよ!私だったらにこちゃんのことを――」
「――――りがとう、気持ちは嬉しいけどね。まだ――」
「――からといって、無理にアイドルを――」
「――無理なんかじゃないわ――」
虎太郎(…誰か来ているのかな?)
ドアの向こうで誰かが言い争う声がする。
虎太郎「――ただいま。」
そのまま、リビングの奥に向かうと
にこ「あっ……おかえり、虎太郎。」
真姫(27)「…あ…ひ、久しぶりね…」
僕の、憧れの人が居た。
852: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:46:59.01 ID:Z0MLwyBv.net
虎太郎「真姫さん!お久しぶりです!」
恥ずかしいけど、声が高くなるのが自分でもわかる。
真姫「ああ、うん…そうね。」
虎太郎「はい!あっ、おかげさまで志望校に受かりました!真姫さんのすすめてくれた参考書のおかげです!」
真姫「聞いたわ。合格おめでとう。よかったわね。」
虎太郎「はい!ありがとうございます!」
にこ「…ごめん、虎太郎。ちょっと真姫と話があるから――」
真姫「――そうだわ!お祝いしてあげないとね!」
ポン、と真姫さんが手を打った。
虎太郎「え?」
真姫「今日暇?なにか美味しいものでもご馳走するわ。」
にこ「ちょっと真姫!」
真姫「ね、いいわよね?ごめんねにこちゃん、虎太郎君借りるわね。」
にこ「……」
853: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:47:59.39 ID:Z0MLwyBv.net
―――
――――――嘘だろ?夢みたいだ。
真姫「もう、そわそわしないの。」
だって、こんなの落ち着いていられるわけがないだろう?
真姫「そうね、それじゃこれを頂戴。ええ、この子には何かノンアルコールのものを。」
真姫さんと、あの真姫さんと二人だけでデートだなんて!
真姫「こら、少し落ち着きなさい。みっともないわよ。」
虎太郎「あ、はい…すごいですね!こんなのテレビでも見たことないですよ!」
真姫「別に…普通じゃない?ここ、顔なじみの店だからそんなに緊張しなくてもいいわよ。」
虎太郎(…やっぱり真姫さんはすごいな。)
真姫「―おいしい?遠慮しなくていいわよ。おなか一杯になるまで食べて頂戴。」
そう言う真姫さんはほとんど食べていない。運ばれてきた料理にも一口、二口口をつけただけだ。
虎太郎「あの、真姫さんはいいんですか?」
真姫「…私はいいの。あんまり食欲ないから。」
そう言うと、キラキラと輝くグラスをまた一息で飲み干す。
虎太郎(…真姫さん。お酒強いのかな?)
僕はそんなことを考えながら、新しいボトルが運ばれてくるのを眺めていた。
854: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:48:45.21 ID:Z0MLwyBv.net
真姫「――ふう、夜風が気持ちいいわね。」
確かに、夜を渡ってくる風にはもう春の気配があった。
真姫「これから高校生活か…いいわね…虎太郎君。」
一歩、また一歩 歩きながら真姫さんがつぶやく。
真姫「…楽しかったなあ……」
右に、左に、揺らめく真姫さんをとっさに支える。
真姫「……ふふ、平気よ。」
僕の手をやんわりと突き放して、ベンチに腰掛ける。
虎太郎「大丈夫ですか?その…」
真姫「ううん、平気、全然酔ってなんかないから。ちょっと、ね、疲れちゃって…」
虎太郎「…」
いつもとは違って、少し弱気な真姫さんをみて、今なら、言える気がした。
虎太郎「真姫さん。」
真姫「ん?」
とろん、とした目で僕を見上げる。
虎太郎「…僕、真姫さんのことが好きです。」
855: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:49:50.55 ID:Z0MLwyBv.net
真姫「――え?」
虎太郎「これ、真姫さんに、本当はクリスマスの時に渡そうと――」
用意してきた包を渡す。
真姫「…」
真姫さんは戸惑った顔で包みを見つめた後、
真姫「――ありがとう。嬉しいわ。」
虎太郎「…あ、はい。」
そう言って少しだけ寂しそうに笑った。
虎太郎「あ、あの…」
虎太郎(え、なんだこれ、コレってOKってことなのか?付き合うとかそういうことでいいのか?)
虎太郎(でも、大人の人ってあんまり付き合うとかそういうのないのか?でも…)
真姫「ねえ、虎太郎君。」
真姫「合格祝い、もうひとつあげましょうか。」
856: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:51:04.89 ID:Z0MLwyBv.net
―――
――――――
――――――――――――
虎太郎「あ、あの……シャワー、出ました。」
真姫「…そう」
まさか、まさか、こんなことになるなんて。
――ベッドしかない簡素な部屋で、憧れの人と二人きりなんて全く予想していなかった。
虎太郎「…」
薄暗い照明の中、下着姿の真姫さんがベッドに腰掛けている。
虎太郎(うわ……)
真姫「……あんまりジロジロ見ないでくれる?」
虎太郎「あ、す、すみません!」
真姫「……座れば?」
虎太郎「あ、はい…」
…こういう時、すごく大きくなるかと思ったけど…意外とそうでもないものだな。
虎太郎(うわ…大丈夫かな…さっき、シャワーの時もダメだったし…)
虎太郎「…失礼します。」
隣にそっと腰掛ける。二人分の体重を受けてベッドがぎしり、と沈み込んだ。
857: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:51:58.19 ID:Z0MLwyBv.net
虎太郎「あ、あの…」
真姫「…」
真姫さんの体から、香水とアルコールの混ざった匂いがうっすらとたちのぼってくる。
虎太郎(ほ、本当に、これから…)
心臓は爆発しそうに脈打ち、震える手は必死に膝を握りしめる。
虎太郎「…」
真姫「…」
お互い、無言。
散々助平なことをしておきながらこういう場面でどう振る舞えばいいのか、見当もつかない。
虎太郎(えっと、あの…これは…そうだよな、まずは…キス、からだよな…)
マンガやドラマの知識を総動員して、手を握る
真姫「…っ!」ビクッ
虎太郎「あ、す、すみません!」
真姫「…」フルフル
ふるふる、と首を振る真姫さんの顔はよく見えない。 もう一度、今度はそっと。
そのまま手を引くと真姫さんはゆっくりと僕に体を預け――
858: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:52:44.76 ID:Z0MLwyBv.net
―――てこなかった。
虎太郎(…あれ?)
固い。
真姫さんの体がカチカチに強張って僕のことを拒絶する。
虎太郎(えっと、もっと引っ張っていいのかな…)
ドラマではもっと自然に倒れこんできていたのに。
虎太郎(女の人って結構力あるんだな…)
そう思いながら少しだけ、でも傷つけないように力をこめてぐいっと抱き寄せる。
真姫「あっ…」
軽い抵抗の後、真姫さんが僕の腕の中に収まった。
虎太郎(…温かい…)
むき出しの肌と肌が触れ合い、心が愛しさでいっぱいになる。
861: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:53:32.87 ID:Z0MLwyBv.net
虎太郎「――真姫さん、真姫さん、真姫さん…」
愛しい人の名を何度も呼びながら、乱暴に体を撫で付けた。
美しい赤毛に手を差し込み、頭を抱き寄せる。背中に手を添え、もっと肌を密着させる。
すらりと伸びた脚を何度も確かめるようになぞる。
もっと決定的な場所に触りたい、でもその勇気がなくて何度も何度も手を近づけたり遠ざけたりする。
虎太郎(ああ……いいのかな……本当に触ってもいいのかな……?)
はあはあと荒い息をつき、滅茶苦茶に真姫さんの香りを吸い込む。
――そんな必死な僕とは裏腹に、真姫さんはただ、顔を隠してじっとしていた。
虎太郎「真姫さん…?」
真姫「…っ…ぅ……こちゃ……ちゃん……」
863: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:54:08.83 ID:Z0MLwyBv.net
――その時、ようやく気づいた。
虎太郎(真姫さん、震えてる…)
虎太郎「あの、真姫さん…」
真姫「…」
虎太郎「大丈夫ですか?その…あまり…無理は…しなくても」
真姫「――何よ、引く?この歳になって経験もないような女って。」
虎太郎「あ、いや…」
なんと言えばいいのだろう。僕の胸の中で固くなって震える真姫さんはまるで小さな女の子のようで――
真姫「えっ、遠慮しなくていいのよ、こんなの、別に、なんてことないんだから…」
864: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:54:53.49 ID:Z0MLwyBv.net
虎太郎「…」
――馬鹿、名残惜しいなんて思うな。もったいないなんて思うな!
真姫「――え?」
虎太郎「…やめましょう、真姫さん。」
渾身の力を込めてぐい、と突き放す。
真姫「…何よ…何よそれ!バカにしないでよ!いいって言ってるでしょ!」
虎太郎「…馬鹿になんかしてません。」
真姫「してるじゃない!それともこんなおばさんなんか抱きたくない!?」
虎太郎「違います!」
真姫「じゃあ何よ!」
虎太郎「…」
虎太郎「…僕は…僕は…にこにーじゃ……姉さんじゃないからです。」
865: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:55:31.45 ID:Z0MLwyBv.net
それから――
真姫「――いつから気づいてたの?」
虎太郎「……多分、最初から。」
一つのベッドで一つの布団にくるまって、お互い壁に向かって話す。
真姫「そう…」
虎太郎「心の何処かでは知っていたんだと思います。真姫さんが姉のことを…」
真姫「…」
真姫さんが身じろぎする音がする。
虎太郎「…でも、それでも、好きだったんです。真姫さんのことが。本当に。」
真姫「…ごめん。」
虎太郎「…それでも僕はやっぱり真姫さんのことが好きです。」
真姫「……ごめん。」
虎太郎「…好きです。」
真姫「………ごめん。」
夜更けに、真姫さんが姉さんに電話してるのが聞こえたけど 僕は何も聞こえないふりをした。
866: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:56:34.43 ID:Z0MLwyBv.net
―――
――――――
――――――――――――
朝、マンションの下で僕達を出迎えてくれた姉さんはいつもより顔色が明らかに悪かった。
にこ「…」
虎太郎「…姉さん、ごめん。」
にこ「…っ!」
頬に衝撃が走り、乾いた音が大きく響く。
真姫「にこちゃん!」
にこ「…どんだけ心配したかわかってんの?」
虎太郎「…ごめん」
真姫「違うの!私が!私が悪いの!」
にこ「アンタもよ!!」
真姫「!」
にこ「虎太郎も、真姫も……大事なんだから……やめてよ……もう…」
867: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 20:57:23.35 ID:Z0MLwyBv.net
にこ「――アンタ、最近こんなんばっかね。」
ようやく泣き止んだ姉さんが顔をあげる。
虎太郎「ごめん…」
にこ「もういいわよ。」
真姫「…私も……ごめんなさい。変なこと言って…」
にこ「……その話はまた今度ね。」
真姫「うん…」
一瞬、寂しそうな顔。それから、
にこ「ま、いいわ。朝ごはんくらい食べていけば?」
そう言って、姉さんがマンションへと入っていった。
868: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:01:38.88 ID:Z0MLwyBv.net
――
――――
――――――
絵里(もうすぐ30) 「こったろ~く~ん♪高校生活どう?エンジョイしてる?彼女できたぁ?」
虎太郎(もうすぐ16)「あ、いや…」
絵里「もしよかったらぁ~~~…お姉ちゃんが彼女になってあげよっかぁ~~~?」グリグリ
希(もうすぐ30)「こらエリチ、いい加減にせんと…」
虎太郎「…」ピッピッ
絵里「えっ、何何何?ひょっとしてラブコール?うそ、だって、高校生よ?ねえ、いいの?」
希「エリチ…」
~~~~~♪
絵里「あれ?真姫からメールだわ…なになに?」
『 私の彼に手だしてんじゃないわよ 』
絵里「 」
870: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:05:35.35 ID:Z0MLwyBv.net
絵里「え?何?なんで?え?どういうこと?」
希「ほお…これは…」
絵里「え?え?」
希「はいはい、そういうことみたいやから、エリチは向こうで飲み直そうな?」
絵里「え?え?なんで?どうして?やだやだ!」
希「ああ、もう……・よかったな、虎太郎君。」
虎太郎「はは…」
ぺこり、と頭を下げる。
『助かりました』
『別に、酔っぱらいが嫌いなだけよ』
『真姫さんがそれ言いますか?』
『うるさいわね!明日行かなくてもいいの?』
『ごめんなさい。……それと、嘘でも嬉しかったです。』
『面倒臭かっただけ、じゃあね。いそがしいの』
虎太郎「…」
自然と、顔がにやけてくる。
872: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:10:10.82 ID:Z0MLwyBv.net
――
――――
――――――
真姫「…こんなの食べたの高校生の時以来だわ…」
ハンバーガーをしげしげと眺めて真姫さんがつぶやく。
虎太郎「…すみません。これが精一杯で…」
真姫「…だから、私がお金出すって言ったでしょ?」
虎太郎「あ、でも、やっぱり一応、あの……デート、ですから…」
真姫「…っ、別に、デートじゃないわよ。友達の弟と遊んであげてるだけ。」
虎太郎「はは…」
厳しい言葉に思わず頭をかく。その時、窓の外の大型ビジョンに姉さんが映った。
『矢澤にこ 女優として復活!今度は宇宙ナンバーワン女優を目指す!』
虎太郎「…」
真姫「…」
873: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:12:28.85 ID:Z0MLwyBv.net
真姫「…なんとなく、こうなるとは思ったけどね。」
虎太郎「いや、たまたま仕事の営業先に映画会社の方がいて…」
真姫「で、それがにこちゃんのファンだったって言うんでしょ?……最初からこのつもりだったんじゃないの?」
虎太郎「…」
まさか、いや……
真姫「ま、年がら年中演技しているような人だもの、天職なんじゃないの?」
虎太郎「はは…」
真姫さんがビジョンに見入っている隙に、そっと手をとってみた。
真姫「こら。」
ぺし、と手を叩かれる。
真姫「調子に乗りすぎ。別に君と私は恋人でもなんでもないんだから。」
虎太郎「あ、すみません…」
875: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:13:13.36 ID:Z0MLwyBv.net
真姫「…さっさと若い子に乗り換えたら?」
虎太郎「それは…ないです…絶対。」
真姫「はあ…そういう頑固なとこはにこちゃんにそっくりね。」
虎太郎「え?」
真姫「何喜んでるのよ…キモチワルイ…」
真姫「そうね、せめてにこちゃんの半分でもいい男になってご覧なさい。そしたら、まあ…考えてあげないこともない…かも、しれないわ。」
虎太郎「…姉さんの…」
『はい、この役を演じるにあたって――』
ビジョンの中の姉さんはまるでずっと女優をしていたかのような自信と落ち着きに満ちていた。
虎太郎(…結構キツイな、それ。)
真姫「ふふっ、何よその顔。」
情けない僕の顔を見てくすくすと笑い出す。
真姫「………かわいそうだから、期待しないで待っててあげるわ。」
そう言って、優しく笑う真姫さんは、やっぱり、とても綺麗だった。
~ 最終話 完 ~
876: 名無しで叶える物語(家)@\(^o^)/ 2015/07/13(月) 21:14:32.64 ID:Z0MLwyBv.net
微妙なオチで申し訳ない。保守してくれた人、読んでくれた人感謝。
絵里(29)「こたろうく~ん♪お姉ちゃんがお勉強みてあげよっかぁ♪」