【モバマスss】あい、くるしい

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【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;酒鍋





















1: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:09:47 ID:YOC

円香の甘めのssです。
軽い未成年飲酒のシーンがあるので、苦手な方はご注意ください。
話自体はふわっとしてますが、趣味全開を保ちつつ、全体的に甘くなるように努めました。
良ければぜひ。よろしくお願いします。



2: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:10:22 ID:YOC

【微睡】



「……もうこんな時間か」

 時計は真夜中を指している。大学生だった頃はここから二次会三次会、果ては四次会だって軽くこなしたものだが、社会人になって数年もすればそんな体力は失われる。酒を飲めるようになる時期が人生の体力のピークに当たるのだから、下り坂になるのは当たり前だ。
 加えて、精神的な負担が比ではない。あの頃は責任がついて回らなかったからだ。アルバイトをしていたがそのくらいだ。自分がいなくても支障はなく、俺の代わりはどこでだって誰にだってつとまる。
 今は違う。……と思いたい。
 少なくとも、俺なんかよりずっと未来がある少女たちの人生を預かっていることは事実だ。俺がヘマをしたら、さっさと消えれば元どおりなんて事はない──いや、実際はどうにかなってしまうのかもしれないけど──それでもちょっとは時間と労力がかかる。
 だからその意味で、俺は俺にしかできないことをやらせてもらっている。それは光栄なことであり、同時に疲労を溜めるものでもある。
 今なんてまさに、その格好の例だ。



3: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:10:35 ID:YOC



『え、弊社のノクチルをですか……! はい、はい! ありがとうございます……メンバーの資料ですか? 明日までに。……はい、もちろんです。はい、はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします……』
 当然、受けない理由などない。しかも先方がこちらを望んでの仕事だ。
 彼女たちも最初はどうなることかと思ったけれど、業界でも見てくれる人は見てくれているらしい。持っているものは一流なのだ、それを活かせるように働きかけるのは俺の仕事だ。
 数日前から着るようになったジャケットを再び脱ぎ、四人の顔を思い浮かべながらパソコンを起動する。

 それが数時間前のことだった。



4: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:11:41 ID:YOC



「ちょっとくらい飲んでも、許されるよな……」
 資料作成も終わりメールも送信した。あとは帰るだけ……なのだが。もうどんなに急いで走っても終電には間に合わない。ここに泊まるかタクシーを使って帰るかのどっちかだ。
でもわざわざタクシー会社に電話するのは面倒だ。流しのタクシーは道路に出ればすぐに捉(つか)まるはずなのに、そんな気力すら今はない。
 帰ったほうがいいに決まっている。
 熱いシャワーを浴びて、
 軽いものに着替えて、
 ベッドに身体を投げ出すほうが休まるに決まっている。
 そんなことは体も頭もわかっている。
 なのに心が動かないのはどうしてだろう。
 よくあることだ。自分と会話をしながら、給湯室の食器棚を開く。一番上の棚の食器を右に避けると薄緑色の箱が横たわっている。手に取ると、半分ほど残っている琥珀色の液体が音なく揺れた。
「あ、社長もだいぶ飲んでるな……」
 社長と俺だけが知っている、隠してもいないような隠し場所。「男なら秘密の一つくらい持っておけ」と、社長自身の秘密を一つ教えてもらった。その時は二人でワンボトルを開けたんだよな、と新しい瓶を取り出すたびに思い出す。
「安物だから気を使うな。気持ちよく酔えればいいんだ」
 銘柄が隠されたウィスキー。そのまま口に含むと苦さの中にほのかな木の甘みを感じる。本当のところがどうであっても、これこそが上等な物なのだと俺は信じている。



5: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:11:59 ID:YOC

 百円ショップのグラスにコンビニで買いだめた氷を三つ注ぐ。冷蔵庫には炭酸水の類はなかったが、調味料棚の中にレモン汁を見つけた。これで十分だ。
 机に親指の腹を軽くつけ、横にグラスをぴたりと置く。
 氷が溶け出してグラスの側面を濡らしている。
 親指の付け根付近までウィスキーを注ぐ。
 最後にレモン汁を三滴垂らして、軽くグラス全体を揺らす。
 机に戻って一口、くくっと喉に通す。煙った匂いだ。
 大学時代の先輩がタバコを吸いながらウイスキーを飲んでいた。それに憧れもしたけれど、コンビニでタバコを買う度胸がついぞなかった俺は、代わりに安い酒を飲み耽っていた。そんなポエミーな思い出話を社長にしたら随分と笑われたな、なんて。
 
 事務所で酒を飲む時は、そんなことばかり思い出す。
 愚痴を聞きながら、たまには言いながら。そしてここにはいない人のことを考えながら。
 ──────また、時間を口に含む。



6: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:12:17 ID:YOC



 ──────柔らかい。
 だいぶ飲みすぎたか。
 でも、随分と気分が良い。

「目が覚めましたか」

 声に影を見た。見知った顔……のはずだ。
 まだ頭がうまく働いてくれない。
 ああ、と生返事だけを返し、首の力を抜く。
 後頭部に感じる感触は、少しだけ硬くなったあとふわりと優しくなった。

 少し考えて気づく。彼女がここにいるはずがない。
 なるほど。ならばこれは夢か。
 彼女が俺の頭を撫でる。空気に梳かれて心地よい。
 夢でなければこんなことあるはずがない。
 だが、夢にしてはあまりに現実的すぎる感触。
 結局答えは出ない。
 現実の手触りを持った、夢のような時間。そんな都合のいい幻想に身を任せているようだ。



7: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:12:35 ID:YOC

「少し、飲みすぎたかな」
「さあ? あなたがどれだけお酒を飲んだかなんて知りませんけど」
「一杯だけだよ」
「……お酒、弱いんですか?」
「いや、弱くはないよ……弱くはない」
「強くはなさそうですね」
「好き、なんだよ」
「…………──────莫迦みたい」
「いいじゃないか。大人になったらわかるよ」
「別に大人にならなくたって、あと数年もしたら飲めるようになりますから」
「それが大人ってことじゃないかな?」
「そうじゃないでしょ」
「そうかな」
「そう」

 ……言葉が流れていく。
 眼前には見たことがないくらい優しい表情を浮かべる彼女。子供の笑みとは質が違う、女性としての情感を携えた微笑み。彼女がこんな表情を見せるなんて、本当に────ああ。
 夢、ならば。



8: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:12:59 ID:YOC

「随分、遅くまで仕事をなさってるんですね」
「ああ、ノクチルにオファーが来てな。資料作りだよ」
「……私たちの資料なら、先月作ったばかりでしょ」
「ああ。先月も前だ」
「──呆れた。あれから身長も体重も……きっとそんなに変わってないし、性格だって趣味だって変わるはずないのに」
「でも、みんな変わったろう?」
「は?」
「変わったって。家にいても、学校に行っても、街を歩いてても、考えることは昨日と同じじゃない。だから毎日変わってるんだよ」
 みんな、な。
 そこまで言って、息をつく。
「何それ。当たり前でしょ、そんなの」
「はは。……──当たり前、だよなぁ。そうなんだ、当たり前のはずなんだ……けど。大人になると、当たり前が当たり前じゃなくなってくるんだよ」
「また大人と子供の話?」
 彼女は少しうんざりした様子だ。いつもの彼女みたいに。
「うん、大人と子供の話。と言っても、暗い話じゃないよ。
 大人になると──今が昨日と同じ物なのか、確認したくなるんだよ。
 あの日はどうだった。今はこうだ。だから良かった、悪かったって。
 大体の場合、同じだったら嬉しくて、変わったら悲しいんだ。
 思い出す記憶は幸せな頃の記憶ばかりで──それと変わっていないことが、幸せなんだ。昔幸せだったことを、今もそう思える自分でいられるんだって、嬉しくなるんだよ。そんなことにさ」
「……──そう」
「別にそれは悪いことじゃない。過去を肯定したくなるって言うといいわけがましいけど……それって、今の自分はちゃんと、幸せだった自分が作ってるってことだろ?」
「でもそれだと……」
「うん。昔経験したことがないものは、幸せだと思えなくなるんだよな。
 それはまずいことだ。とてもまずい。
 でも、老いていくってのはきっとそう言うことなんだと思う。
 昔は良かった、じゃなくてさ。知ってる昔だけを、良かったものにしてるんだよ。
 そんなのがどんどん増えてきて、知ってる幸せよりも多くなって、飲み込まれちゃう日がくる。
 ……その時は、悲しいと思う」
「……それは、なんとなくわかります。なんとなくですけど」
「はは。でもそれは空論でさ。生きてれば一つの考え方ばかりが正解、と言うか真実じゃないだろう? ……最初はさ、こんなのダメだって思うんだ。でも時間が経ったら、なんだかよかったように思えてくる。そんなことがよくあるんだ。
 大人って、時間はあまり残ってないけどたくさん手に持ってるからさ。待つのは楽なんだよ」
「……言ってること、全然意味不明」
「はは、大人になったら……」
「またそれ?」
「また、それ」

 ふう、と一息をつく。指摘は正しい。
 だって自分だって結局何を言ってるか訳がわからないんだから。
 酒の影響だろうか、それとも夢の影響だろうか。
 熱を入れて話していて、だんだんと微睡が体に回ってきたようだ。
 完全に堕ちる前に、最後に聞いておこう。



9: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:13:18 ID:YOC

「そう言えば、なんでここにいるんだ?」
「……別に」
「そっか。どうであれ、気をつけてな」
「……怒らないんですか?」
「どうして?」
「……その理由を考える余裕もないわけですか」
 はあ、とため息が聞こえる。
 失望で覆った表面から、少しだけ親愛の情が見え隠れしている。
 そうであって欲しい。せめて夢の中くらいは。
 
 ……そう。これがもし、夢の中ならば。

「会いたい人がそこにいて、怒るわけないだろ?」
「────────」

 少しくらい素直に、というか。本音、というと少し違うけど。

「……もう眠ったら?」
「そうするよ。夢の中で眠るってのも不思議なものだけど」
「……そう。じゃあ、眠れるまで話をしててあげる」
「ありがとな、円香」
「じゃあ、おやすみなさい」



10: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:13:38 ID:YOC

【レモン】



 それから、少しだけ私が言葉を重ねたところで、彼は眠りに落ちた。
 それでも私は言葉を重ねた。そうするためにここにきたからだ。
 
 きっかけは、なんだっただろう。虫の知らせと表現する他にない。
 今日は久々に何もなかったので、学校から帰ってきたあと早めに風呂に入り、早めに夕飯をとった。何か目的があるわけではなく、ぼうっと居間で過ごしていた。
 さあ、寝ようかなんて思った時だった。不意に、スマートフォンが振動した気がした。開けてみても、誰からの連絡もなかった。
 あなたから明日の連絡がきたのかと思った。そうでなかったのは残念だったのだろうか?
 どうでもいい。でも、あなたのことを考えてしまった。
 そこからはほとんど衝動的に体が動いた。部屋で外行き用の服に着替え、親にはコンビニに行ってくるなどと適当な嘘をついた。終電には間に合いそうもないから、タクシーを捕まえて一目散に事務所まで。

 机に突っ伏して寝ていたあなたをみて、少し肝が冷えたことは確かだ。
 私よりずっと大きく、体の力が抜けたあなたをソファまで運ぶのは大変だった。
 なんで私がこんな、と呪いたくなる気持ちもあった。
 やっとの思いでソファに座り、あなたの頭を膝の上に置く。規則正しく上下する身体の厚みと重みが、どうしようもなく男性的だった。こんな彼の姿を見たのは初めてだったから尚更そう思う。
 いつも気を張り詰めていて、心配そうなのに無理して笑う姿が嫌い。
 弱くてもいい、強くなろうだなんて嘯いて、あなた自身は弱みを見せようとしない姿が嫌い。
 私のことを、私以上に知っていて。喜んでくれて、怒ってくれて、悲しんでくれる姿が大嫌い。
 そんなあなたが目の前にいることが、どうしようもなく愛しく思えた。

 あなたの頭を撫でていると、私の心の冷えた部分までもが溶け出すかのようだった。
 あなたが夢うつつであなた自身のことを喋ってくれるのが嬉しかった。
 一貫性のない、ふわっとした話だけど、あなたの本当に触れられた気がしたから。
 そして、できるならば今日の事は全て夢だと思っていて欲しい──そうすれば、この記憶は私だけのものだから。

 私と、あなたの二人のことを。
 私だけが覚えている。
 そう考えただけで、なぜか心に熱が籠もった。



11: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:14:02 ID:YOC



 彼が完全に寝付いたあと、頭をゆっくりと膝から下ろす。
 ……ずっとここにいてもいいのだけど。
 でも、あなたの目が覚めた時私が隣にいたら、きっと二人とも後悔してしまう。
 だからやっぱり、家に戻ることにした。
 すでに数件親から電話がかかってきている。……当然だろう。大丈夫、と短いメールを送信しておく。
 もう少ししたら──私も大人になったら──夜はもう少し、長くなるのだろうか。
 立ち上がり、家の電話ではなく母の携帯に電話をする。
 父には適当に言っておいて欲しいと頼むと、不思議なくらいすんなりと了承を得た。……これはこれで、あとが面倒かもしれない。

 彼の椅子の後ろにあるロッカーからタオルケットを取り出す。途中彼の机を見ると、ディスプレイに私たちのプロフィールが書かれた宣伝資料が映し出されていた。

 透明から、鮮明に。

 悪くないコピーだ。そう思ってしまったことが少し気に食わない。
 タオルケットを乱暴に広げる。薄い生地だが、ないよりはずっとマシだろう。



12: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:14:19 ID:YOC

 ソファ前の応接机に置かれたグラスには下三分の一まで水が浮かんでいる。
 少し気になって舐めてみると、それは本当に水だった。おそらく溶けた氷だろう。
 給湯室に持っていきグラスを洗っていると、ほとんど空になったウイスキー瓶とレモン液が無造作に置かれていた。おそらく彼が注いだあと、そのままにしてあったのだろう。

 ……──瓶を少し傾けると、琥珀が小指の先ほど残っているのが見えた。
 それを舐めてみると、随分と苦い。こんなものをいつか好き好んで飲むようになるのだろうか。
 信じられない、と思いながら横のレモン液に目が移る。


 ──────それは、やはり言いようのない衝動で。
 後から思い返してみても、なぜそんなことをしたのか思い出すことはできなくて。
 だから夜のせいにしておこう。夜を濡らすウイスキーの香りのせいに、しておこう。




13: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:14:29 ID:YOC



 私はレモン液を人差し指にとり、つう、と唇に塗る。
 仰向けに寝ている彼は何も言いはしない。何も見はしない。何も、感じはしない。
 今はそれでいい。今日はそれがいい。
 ゆっくりと、彼に近寄る。



14: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:14:43 ID:YOC



 レモンの刺激は、夢にも届いただろうか。
 




15: 名無しさん@おーぷん 20/10/03(土)14:16:20 ID:YOC
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【シャニマスss】微睡レモン【樋口円香】