1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:52:09.35 ID:VOPfvVQp0
憂達が高校三年生になって、早数ヶ月――――……
昼休み 教室
憂「梓ちゃんって、今年はライブやるの? 学園祭で」
梓「まさか。軽音部もつぶれたしね」
憂「そっか、そうだよね……」
梓「学園祭まで、あと二週間くらいかな?」
2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:53:15.50 ID:VOPfvVQp0
憂「うん」
純「何の話?」
憂「梓ちゃんが、学園祭でライブやるかって話だよ」
純「へ? 梓やるの?」
梓「やらないよ。受験勉強で忙しいしね」
純「なーんだ。やらないのか」
梓「純だって、受験あるんだから。頑張んなさいよ」
純「わかってるけどさー」
梓「わかってるなら、やった方がいいわよ。あとで浪人しても遅いんだし」
純「うーん、それはそうなんだけどさ」
純「文化祭も最後なわけじゃん?」
純「もっとはっちゃけたいって言うか」
憂「私も、かな。思い出くらい作っておきたいし……」
純「あ、そうだ! 私達三人でバンドやらない?」
梓「え?」
純「私はベース、梓はギター、憂は……何やりたい?」
憂「うーん、ギターなら出来るけど……」
梓「ギター二人いてもねぇ」
憂「あ、キーボードなら!」
純「じゃあ、憂はキーボード! 完璧じゃん!」
梓「ま、待ってよ! マジでやる気?」
純「もちろん!」
梓「で、でも勉強が……」
純「ねえ、梓。友達と勉強、どっちが大事?」
梓「……その質問は卑怯だよ」
純「勉強なんて、いつでも出来るでしょ? でも文化祭は今しかないわけで」
梓「まあ、そうだけど」
純「ね? だからやろうよ、バンド! 私たち三人でさ!」
梓「でも、今からじゃ体育館の使用届けとか……」
純「飛び入り参加OKじゃん!」
憂「今からでも学園祭でライブ出来るってこと?」
純「そういうこと!」
梓「でも、練習してないし……」
純「大丈夫! ある程度は指が覚えてるでしょ!」
梓「そ、そうだけど……」
純「けど?」
梓「……わかったわよ! やるわよ! バンド!」
純「始めっからそういえばいいのにー」
梓「で? 何の曲弾くの?」
純「うわぁ、早速やる気」
梓「やるんだったら、早めに取り組んだ方がいいでしょ」
純「まあね」
梓「で。何の曲やるのよ」
純「うーん、あ! 『U&I』は?」
梓「唯先輩が作った?」
純「うん。そう!」
梓「まあ、いいかもね」
純「あれ? 歌詞ある?」
梓「歌詞は……憂、ある?」
憂「うん。お姉ちゃんからもらったんだ、歌詞のコピー」
梓「よかった~」
純「これで、演奏する曲は決まったね」
梓「他に決めることは?」
純(梓、意外とノリノリ?)
憂「あとは……生徒会に参加届け出すくらいかな?」
梓「じゃあ、私が出してくるよ!」
憂「えーと、職員室行ったら参加届けの紙がもらえるから、それにメンバー名とか記入して……」
梓「行ってくる!」
梓は教室から出て行った。
純「お昼休み終わるまでに帰ってくるかなぁ?」
憂「さあ、どうだろ」
純「意外とやる気出てるよね、梓」
憂「ライブ、やりたかったんだね」
純「うん。軽音部もなくなって、暇そうにしてたからね」
憂「今回のライブ成功させてさ、梓ちゃんを喜ばせようよ!」
純「――うん。頑張ろうね」
梓「ただいま~」
純憂「はやっ」
梓「なんかすんなりOKされたよ」
憂「へえー」
梓「三年生は優先的に参加できるみたい」
純「ああー、だからか」
梓「うん。あ、あとバンド名なんだけど。勝手に決めたから」
純「なににしたの?」
梓「昼時ランチタイム」
純憂「………………」
梓「え? なんか変?」
純「いや、変じゃないけど……ナンセンス?」
梓「で、でも、ぴゅあ☆ぴゅあ、とか、ハニースィートティータイム、とかよりは良くない?」
憂「ま、まあ……」
梓「ば、バンド名くらいいいじゃん! 名前なんて飾りで、演奏が大事なんだよ! ね?」
純「まあ、そうだけどね」
梓「でしょ? 演奏頑張ろうよ!」
純「うん、まあ、そうだね! 頑張ろうか!」
憂「だね!」
梓「あれ? 私達どこで練習するの?」
純「音楽室は?」
梓「うーん、あそこは器楽部にのっとられたんだよねー」
純「ジャズ研部室、使う?」
梓「え、いいの?」
純「うん。多分使わせてもらえると思うよ」
梓「今日の放課後から?」
純「うん。あ、でも楽器持ってきてないじゃん」
梓「あー、そうだった。じゃあ、明日からかな。練習」
純「うん。そうしよっか」
****************************************
翌日
放課後 ジャズ研部室
純「と、いうわけでここ使わせてもらうぞ」
二年「あ、どうぞ……」
純「あ、気にしないで練習続けてて。ほら、梓、端っこの方使うぞ」
梓「あ、うん」
憂(なんか純ちゃんが格好よくみえるよう!)
純「じゃ、はじめよう」
梓「うん」
純「えーと、あ、忘れてた」
梓「何を?」
純「ボーカル」
梓「あ! 誰やるの?」
純「梓やってみる?」
梓「わ、私声には自信がないな」
純「私も。……憂、やってみない?」
憂「え? 私?」
梓「うん、いいね。憂ならきっとうまく歌えるよ」
憂「うーん、じゃあ……やってみようかな」
梓「ありがとう! よし、これでボーカルも決まったし、完璧じゃん?」
純「あとは練習するだけだね」
梓「うん。練習頑張ろう! おー!」
純憂「おー!」
二年一同(うるさいなぁ……)
数時間後
梓「今日はここまでにしようか?」
純「うん。そうだね」
憂「ジャズ研の子達、皆帰っちゃったしね」
純「本当だ。あー、鍵取りに行かないと」
梓「え? 何で?」
純「最後に部室を出た人が鍵を閉めることになってるんだよね、ここ」
梓「ふーん」
純「じゃ、私取りに行ってくるから」
梓「んー」
純はジャズ研部室から出て行った。
梓「いやー、ギター弾くの久々だけど、思いのほかうまく出来たよ」
憂「私のキーボード、どうだった?」
梓「かなりうまいよ。ぶっつけ本番でもいけるんじゃない?」
憂「えへへ」
梓「あーあ、あと一人入ってくれれば、軽音部も廃部にならなくてすんだのにな」
憂「うん……私と純ちゃんが入っても、あと一人足りなかったもんね」
梓「うん。残念だったなぁ」
憂「…………」
梓「ま、でもさ。まだ軽音部があったら、こうやって三人でライブする機会なんてなかったわけだから」
憂「そうだね」
梓「こうやって、高校最後の文化祭で、親友とライブやるってのもいいと思うんだ」
憂「……だね」
純「お待たせ」
梓「あ、早いね」
純「そう? まあいいや。帰ろう」
憂「ちょっと外、暗いね」
梓「あれ? 鍵はどうするの?」
純「刺したままでいいって」
梓「無用心だね」
純「まあまあ」
ガチャリ
純「よし、帰ろっか」
****************************************
翌日からも、梓たちの練習は行われた。
そして、土曜日
梓「今日は学校もあいてないし……どこで練習しようか?」
憂「うーん。私もキーボードないしなぁ」
純「梓、家にキーボードあったりしない?」
梓「あるわけないでしょ」
純「だよね……」
憂「じゃあさ、今日は思い切って遊ばない?」
梓「あ、いいね。昨日まで必死に練習してたんだから、今日くらいはいいよね」
純「うん。遊ぼう!」
憂「どこ行こうか?」
梓「あ、この前出来た水族館は?」
純「いいね。そこにしようか」
****************************************
水族館
純「こうやって、友達と水族館行くのって初めてだなぁ」
梓「うん。修学旅行とかでしか行かないからね。水族館って」
純「なんか、幻想的な雰囲気だね」
憂「だね」
梓「あ、亀……トンちゃんみたい」
憂「そういえば、トンちゃんってどうしたの?」
梓「紬先輩がひきとってくれてる」
純「あ、私向こうのエイがいるとこ行ってるね」
梓「迷子にならないでね」
純「まさか。子供じゃないんだから」
憂「じゃあ、私は熱帯魚のところ行くね」
梓「うん、いってらー」
憂は熱帯魚のスペースに、純はエイやマンタのスペースに向かった。
梓(一人になっちゃったな)
梓(たまにはいいかもね、一人で水族館歩くの)
水族館の中は薄暗く、水槽から放たれる光だけが眩しかった。
梓(あ、クラゲ……)
藻のように漂うその姿に、梓は眼を奪われた。
梓(……可愛い)
梓(…………よく考えたら、クラゲをこうやって、まじまじ見るの初めてだなあ)
クラゲのいる水槽だけは、闇のように暗かった。
代わりに青白い光輝を、クラゲ自身が発していた。
梓(何だかとても、神秘的……)
何分経っただろう。
純「あーずさっ!」
梓「うひゃうっ!」
梓「な、何だ純か。びっくりさせないでよ」
純「いや、何度呼んでも反応なかったんだ」
梓「え? 何度も呼んだ?」
梓「うん。とりつかれたように見入ってたよ」
梓「そ、そう……」
純「でもまあ、梓が目を引かれるのも無理はないかもね」
梓「でしょ? こんなに綺麗なんだよ」
純「うん。クラゲって思ったより綺麗だね」
梓「うん――」
純「何かの本で読んだんだけどさ。ベニクラゲって死なないらしいよ」
梓「へえ、そんなクラゲいるんだ」
純「うん。死ねないクラゲなんだって」
梓「死ねない、か」
純「可愛そうだよね。死にたくても死ねないなんて」
梓「かもね」
純「――ねえ、もし私が死んだらさ、泣いてくれる?」
梓「何? いきなり」
純「何となく、感傷的になったんだよ」
梓「そういうのは感傷的って言うの?」
純「私の中では言うよ。それで、梓は泣いてくれる? 私が死んだら」
梓「純が死んだってわかったら、私は泣くでしょうね。だから誰にも知られずに死んでね、そのときは」
純「そんな死に方あるの?」
梓「死なないでって言ってるんだよ」
純「……そっか」
梓「それにしても、クラゲって見ていても飽きないね」
純「だね」
梓「ねえ、純」
純「ん?」
梓「今回のライブ、成功させようね」
純「うん」
梓「怒涛の拍手もらえるようなさ、演奏しようよ」
純「うん」
梓「ずーっと記憶に残るようなさ、そんなライブにしようね」
純「うん」
梓「ライブ終わったらさ、最高だったねーって笑えるようにさ」
純「うん――絶対」
梓「私、嬉しくて泣くかもしれないけど、その時はよろしくね」
純「そのときは、梓の涙拭いてあげるよ」
梓「純も泣いてるんじゃない?」
純「かもね」
憂「あ、ここにいたんだ。梓ちゃんたち」
梓「憂。もう見終わったの?」
憂「うん。あ、クラゲ?」
梓「うん。クラゲ」
憂「綺麗だね、宝石みたいに輝いて」
梓「でしょ」
憂「ああ、何かロマンティック」
梓「わかる、現実味がなくなるよね」
憂「うん」
三人はクラゲの水槽を見やる。
一緒に仲良く並びながら。
月曜日
梓「来週だよね、学園祭」
純「うん。もう時間もないし、頑張って練習しよう!」
憂「だね! 頑張るぞー!」
純憂梓「おー!」
ジャズ研部員(やかましいなぁ……)
火曜日
純「昨日は全部出来なかったね」
梓「うん。だから今日は通してやってみようか」
憂「それがいいね」
純「よーっし、1、2、1、2、3、4!」
水曜日
梓「あー、日に日に胃が痛くなるなぁ」
憂「緊張しちゃうね、どうも」
純「不安だよね、いくら練習しても」
憂「うん。成功させたいね」
梓「だね。今日も練習頑張ろう!」
木曜日
憂「あとすこし!」
梓「ああー! どきどきする!」
純「もう、勉強なんか手につかないよー」
梓「うん。受験生なのにね」
純「ま、学園祭終わったら頑張ればいいよ! それまでは目下、ライブのことだけ考えよう!」
憂「うん!」
金曜日
梓「いよいよ来週だね」
憂「うん。私達がやれることはやったし、――成功するよ」
純「うん。絶対ね」
梓「じゃあ、今日は最後の確認程度に練習しよっか」
憂「だね。変に根詰めて、体調崩してもなんだしね」
そして――文化祭当日
舞台裏
純(どうしよう……かなり緊張してる)
純(心臓もバクバクしてるし、手もかなり汗かいてる)
純「憂、緊張するね」
憂「うん、かなり」
純「いやー、トチらないか心配だよ」
憂「だよね」
梓「な、なーに辛気く、臭い顔してるの」
純「梓は平気なの?」
梓「も、もちろガッ ……舌噛んだ」
純「やっぱ緊張してるのね」
梓「……うん。そりゃあね」
純「緊張しない方がおかしいよね」
梓「でも、純たちがいるから、すこし心強いかな」
純「え?」
梓「すこしだけどね。すこし」
純「……正直じゃないなあ。かなりって言えばいいのに」
梓「個人の感覚よ」
純「確かに」
アナウンス『それでは、昼時ランチタイムの……』
純「始まるね」
梓「いよいよだね」
憂「絶対、成功させようね」
純梓「――うん」
そして、舞台の幕が開いた。
幾百の視線は、総てステージにいる三人に向けられていた。
期待と好奇の入り混じった視線を、三人は感じていた。
憂「あ、皆さん、こんにちわー!」
憂がMCを始める。
憂「えーと、私達は……」
憂のMCが、体育館にいる全員の耳に響く。
衆人環視に晒されながらも、憂の声は震えることなく轟く。
そして、憂のMCが終わると同時、体育館内の静寂が強まり――。
憂「それじゃあ聞いてください! 『U&I』!!」
――演奏が始まった。
その激しい旋律は、或いは聖歌の様でもあった。
”君がいないと何も出来ないよ
君のご飯が食べたいよ
もし君が帰ってきたら
とびっきりの笑顔で
抱き着くよ”
客席が沸き立つ。
梓のギターが激しさを増す。
”君がいないと謝れないよ
君の声が聞きたいよ
君の笑顔が見れれば
それだけでいいんだよ
君がそばにいるだけで
いつも勇気もらってた
いつまででも
一緒にいたい
この気持ちを伝えたいよ ”
歓喜と驚喜と声援が、客席から聞こえる。
スポットライトを浴びた三人の演奏は続く。
”晴れの日にも雨の日も
きみはそばにいてくれた
目を閉じれば
君の笑顔
輝いてる
君がいないと何もわからないよ
砂糖と醤油はどこだっけ
もし君が帰ってきたら
びっくりさせようと思ったのにな”
天上の天歌のような歌声が、その滑らかな韻律が、体育館にいる人々の心を奪う。
歌詞は続く。
客席にいるしべ手の人が圧倒され、感動に震える。
優雅なメロディが、人の魂を飲み込む。
高揚が伝わってくる。
興奮が伝わってくる。
” 思いよ
届け ”
憂「ありがとう――っ!!!」
憂の科白が終わった瞬間
体育館を吹き飛ばすほどの拍手の豪雨が、三人に浴びせられた。
少しばかり眩しいスポットライトの中で、
憂達は静かな達成感をおぼえていた。
and more…
エピローグ 祭りの後に
憂「学園祭、終わっちゃったね」
三人はジャズ研部室にいた。
三人以外誰もいないそこは、いやに静かだった。
純「うん。終わっちゃった……」
梓「……虚無感がひどいね」
純「心にぽっかり穴が開いたみたい」
梓「陳腐な表現だね」
純「でも、本当にそんな感じ」
純「好きなドラマが終わっちゃったときよりも寂しい感じ」
憂「……これで、最後だもんね」
梓「……うん」
純「泣いても笑っても、最後、か」
梓「……おかしいな、泣きそうだよ」
純「もう泣いてるじゃん。梓」
梓「そういう純こそ、泣いてるよ?」
純「え? 本当?」
純は目元をぬぐう。
純「本当だ……泣いてる」
憂「あはは、純ちゃん泣き虫だな~」
純「……憂もね」
三人全員の声は、震えていた。
梓「――成功したよね? ライブ」
純「うん。した」
憂「大成功だよ」
梓「楽しかったよね? ライブ」
憂「うん」
純「楽しかったね」
梓「また……出来るかな?」
純「…………」
憂「…………」
純「……出来るよ、きっと」
梓「いつ?」
純「大学行ったらさ、また、皆で出来るよ」
梓「その時は――」
純「もちろん、唯先輩達と一緒にさ」
梓「……よかった」
純「ねえ。笑おうよ」
梓「え?」
純「だって、泣いてばっかじゃつまらないよ。笑おう」
梓「……うん」
憂「そうだね」
純「ほら、皆もっとスマイルスマイル!」
梓「こう、かな?」
純「そうそう、いい笑顔!」
梓「私、ちゃんと笑えてる?」
純「うん。あ、でも待ってね」
梓「え?」
梓がきょとんとしていると、純がハンカチを取出して、梓の目をこしこしと拭いた。
純「笑顔に涙は似合わないよ」
梓「そう、だね」
純「ほら、憂も笑って!」
憂「う、うん」
純「――うん。やっぱ皆、笑顔の方がいいよ!」
梓「笑顔浮かべてると、何だか自然に楽しくなってくるね」
純「うん。楽しくなってくるんじゃなくて、楽しいんだよ」
梓「だね」
純「ねえ、皆。打ち上げ行かない?」
梓「え?」
純「今日のライブの打ち上げ。ね?」
憂「いいね。カラオケにする?」
純「うん。食べて飲んで歌って、遊ぼうよ!!」
梓「そうしよっか」
純「決まりね! じゃあ、行こう!」
憂梓「うん!」
いつかまた、ライブを三人で出来るよう、今日という日を忘れないでおこう。
口には出さずとも、誰もがそう思っていた。
fin
元スレ
憂「うん」
純「何の話?」
憂「梓ちゃんが、学園祭でライブやるかって話だよ」
純「へ? 梓やるの?」
梓「やらないよ。受験勉強で忙しいしね」
純「なーんだ。やらないのか」
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:53:54.11 ID:VOPfvVQp0
梓「純だって、受験あるんだから。頑張んなさいよ」
純「わかってるけどさー」
梓「わかってるなら、やった方がいいわよ。あとで浪人しても遅いんだし」
純「うーん、それはそうなんだけどさ」
純「文化祭も最後なわけじゃん?」
純「もっとはっちゃけたいって言うか」
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:54:35.17 ID:VOPfvVQp0
憂「私も、かな。思い出くらい作っておきたいし……」
純「あ、そうだ! 私達三人でバンドやらない?」
梓「え?」
純「私はベース、梓はギター、憂は……何やりたい?」
憂「うーん、ギターなら出来るけど……」
梓「ギター二人いてもねぇ」
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:55:17.78 ID:VOPfvVQp0
憂「あ、キーボードなら!」
純「じゃあ、憂はキーボード! 完璧じゃん!」
梓「ま、待ってよ! マジでやる気?」
純「もちろん!」
梓「で、でも勉強が……」
純「ねえ、梓。友達と勉強、どっちが大事?」
6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:55:59.34 ID:VOPfvVQp0
梓「……その質問は卑怯だよ」
純「勉強なんて、いつでも出来るでしょ? でも文化祭は今しかないわけで」
梓「まあ、そうだけど」
純「ね? だからやろうよ、バンド! 私たち三人でさ!」
梓「でも、今からじゃ体育館の使用届けとか……」
純「飛び入り参加OKじゃん!」
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:56:46.65 ID:VOPfvVQp0
憂「今からでも学園祭でライブ出来るってこと?」
純「そういうこと!」
梓「でも、練習してないし……」
純「大丈夫! ある程度は指が覚えてるでしょ!」
梓「そ、そうだけど……」
純「けど?」
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:57:26.07 ID:VOPfvVQp0
梓「……わかったわよ! やるわよ! バンド!」
純「始めっからそういえばいいのにー」
梓「で? 何の曲弾くの?」
純「うわぁ、早速やる気」
梓「やるんだったら、早めに取り組んだ方がいいでしょ」
純「まあね」
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:57:58.53 ID:VOPfvVQp0
梓「で。何の曲やるのよ」
純「うーん、あ! 『U&I』は?」
梓「唯先輩が作った?」
純「うん。そう!」
梓「まあ、いいかもね」
純「あれ? 歌詞ある?」
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:58:33.86 ID:VOPfvVQp0
梓「歌詞は……憂、ある?」
憂「うん。お姉ちゃんからもらったんだ、歌詞のコピー」
梓「よかった~」
純「これで、演奏する曲は決まったね」
梓「他に決めることは?」
純(梓、意外とノリノリ?)
11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:59:12.16 ID:VOPfvVQp0
憂「あとは……生徒会に参加届け出すくらいかな?」
梓「じゃあ、私が出してくるよ!」
憂「えーと、職員室行ったら参加届けの紙がもらえるから、それにメンバー名とか記入して……」
梓「行ってくる!」
梓は教室から出て行った。
12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 21:59:47.49 ID:VOPfvVQp0
純「お昼休み終わるまでに帰ってくるかなぁ?」
憂「さあ、どうだろ」
純「意外とやる気出てるよね、梓」
憂「ライブ、やりたかったんだね」
純「うん。軽音部もなくなって、暇そうにしてたからね」
憂「今回のライブ成功させてさ、梓ちゃんを喜ばせようよ!」
純「――うん。頑張ろうね」
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:00:40.74 ID:VOPfvVQp0
梓「ただいま~」
純憂「はやっ」
梓「なんかすんなりOKされたよ」
憂「へえー」
梓「三年生は優先的に参加できるみたい」
純「ああー、だからか」
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:01:30.18 ID:VOPfvVQp0
梓「うん。あ、あとバンド名なんだけど。勝手に決めたから」
純「なににしたの?」
梓「昼時ランチタイム」
純憂「………………」
梓「え? なんか変?」
純「いや、変じゃないけど……ナンセンス?」
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:02:22.62 ID:VOPfvVQp0
梓「で、でも、ぴゅあ☆ぴゅあ、とか、ハニースィートティータイム、とかよりは良くない?」
憂「ま、まあ……」
梓「ば、バンド名くらいいいじゃん! 名前なんて飾りで、演奏が大事なんだよ! ね?」
純「まあ、そうだけどね」
梓「でしょ? 演奏頑張ろうよ!」
純「うん、まあ、そうだね! 頑張ろうか!」
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:02:59.59 ID:VOPfvVQp0
憂「だね!」
梓「あれ? 私達どこで練習するの?」
純「音楽室は?」
梓「うーん、あそこは器楽部にのっとられたんだよねー」
純「ジャズ研部室、使う?」
梓「え、いいの?」
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:03:46.79 ID:VOPfvVQp0
純「うん。多分使わせてもらえると思うよ」
梓「今日の放課後から?」
純「うん。あ、でも楽器持ってきてないじゃん」
梓「あー、そうだった。じゃあ、明日からかな。練習」
純「うん。そうしよっか」
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:04:18.34 ID:VOPfvVQp0
****************************************
翌日
放課後 ジャズ研部室
純「と、いうわけでここ使わせてもらうぞ」
二年「あ、どうぞ……」
純「あ、気にしないで練習続けてて。ほら、梓、端っこの方使うぞ」
梓「あ、うん」
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:05:29.91 ID:VOPfvVQp0
憂(なんか純ちゃんが格好よくみえるよう!)
純「じゃ、はじめよう」
梓「うん」
純「えーと、あ、忘れてた」
梓「何を?」
純「ボーカル」
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:06:04.11 ID:VOPfvVQp0
梓「あ! 誰やるの?」
純「梓やってみる?」
梓「わ、私声には自信がないな」
純「私も。……憂、やってみない?」
憂「え? 私?」
梓「うん、いいね。憂ならきっとうまく歌えるよ」
22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:06:35.76 ID:VOPfvVQp0
憂「うーん、じゃあ……やってみようかな」
梓「ありがとう! よし、これでボーカルも決まったし、完璧じゃん?」
純「あとは練習するだけだね」
梓「うん。練習頑張ろう! おー!」
純憂「おー!」
二年一同(うるさいなぁ……)
23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:07:23.07 ID:VOPfvVQp0
数時間後
梓「今日はここまでにしようか?」
純「うん。そうだね」
憂「ジャズ研の子達、皆帰っちゃったしね」
純「本当だ。あー、鍵取りに行かないと」
梓「え? 何で?」
純「最後に部室を出た人が鍵を閉めることになってるんだよね、ここ」
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:07:57.27 ID:VOPfvVQp0
梓「ふーん」
純「じゃ、私取りに行ってくるから」
梓「んー」
純はジャズ研部室から出て行った。
梓「いやー、ギター弾くの久々だけど、思いのほかうまく出来たよ」
憂「私のキーボード、どうだった?」
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:09:50.32 ID:VOPfvVQp0
梓「かなりうまいよ。ぶっつけ本番でもいけるんじゃない?」
憂「えへへ」
梓「あーあ、あと一人入ってくれれば、軽音部も廃部にならなくてすんだのにな」
憂「うん……私と純ちゃんが入っても、あと一人足りなかったもんね」
梓「うん。残念だったなぁ」
憂「…………」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:10:43.10 ID:VOPfvVQp0
梓「ま、でもさ。まだ軽音部があったら、こうやって三人でライブする機会なんてなかったわけだから」
憂「そうだね」
梓「こうやって、高校最後の文化祭で、親友とライブやるってのもいいと思うんだ」
憂「……だね」
純「お待たせ」
梓「あ、早いね」
29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:11:42.18 ID:VOPfvVQp0
純「そう? まあいいや。帰ろう」
憂「ちょっと外、暗いね」
梓「あれ? 鍵はどうするの?」
純「刺したままでいいって」
梓「無用心だね」
純「まあまあ」
ガチャリ
純「よし、帰ろっか」
30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:12:40.68 ID:VOPfvVQp0
****************************************
翌日からも、梓たちの練習は行われた。
そして、土曜日
梓「今日は学校もあいてないし……どこで練習しようか?」
憂「うーん。私もキーボードないしなぁ」
純「梓、家にキーボードあったりしない?」
梓「あるわけないでしょ」
純「だよね……」
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:13:19.73 ID:VOPfvVQp0
憂「じゃあさ、今日は思い切って遊ばない?」
梓「あ、いいね。昨日まで必死に練習してたんだから、今日くらいはいいよね」
純「うん。遊ぼう!」
憂「どこ行こうか?」
梓「あ、この前出来た水族館は?」
純「いいね。そこにしようか」
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33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:14:01.20 ID:VOPfvVQp0
水族館
純「こうやって、友達と水族館行くのって初めてだなぁ」
梓「うん。修学旅行とかでしか行かないからね。水族館って」
純「なんか、幻想的な雰囲気だね」
憂「だね」
梓「あ、亀……トンちゃんみたい」
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:15:09.53 ID:VOPfvVQp0
憂「そういえば、トンちゃんってどうしたの?」
梓「紬先輩がひきとってくれてる」
純「あ、私向こうのエイがいるとこ行ってるね」
梓「迷子にならないでね」
純「まさか。子供じゃないんだから」
憂「じゃあ、私は熱帯魚のところ行くね」
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:15:56.23 ID:VOPfvVQp0
梓「うん、いってらー」
憂は熱帯魚のスペースに、純はエイやマンタのスペースに向かった。
梓(一人になっちゃったな)
梓(たまにはいいかもね、一人で水族館歩くの)
水族館の中は薄暗く、水槽から放たれる光だけが眩しかった。
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:16:34.08 ID:VOPfvVQp0
梓(あ、クラゲ……)
藻のように漂うその姿に、梓は眼を奪われた。
梓(……可愛い)
梓(…………よく考えたら、クラゲをこうやって、まじまじ見るの初めてだなあ)
クラゲのいる水槽だけは、闇のように暗かった。
代わりに青白い光輝を、クラゲ自身が発していた。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:17:24.16 ID:VOPfvVQp0
梓(何だかとても、神秘的……)
何分経っただろう。
純「あーずさっ!」
梓「うひゃうっ!」
梓「な、何だ純か。びっくりさせないでよ」
純「いや、何度呼んでも反応なかったんだ」
梓「え? 何度も呼んだ?」
梓「うん。とりつかれたように見入ってたよ」
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:17:59.92 ID:VOPfvVQp0
梓「そ、そう……」
純「でもまあ、梓が目を引かれるのも無理はないかもね」
梓「でしょ? こんなに綺麗なんだよ」
純「うん。クラゲって思ったより綺麗だね」
梓「うん――」
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:18:32.46 ID:VOPfvVQp0
純「何かの本で読んだんだけどさ。ベニクラゲって死なないらしいよ」
梓「へえ、そんなクラゲいるんだ」
純「うん。死ねないクラゲなんだって」
梓「死ねない、か」
純「可愛そうだよね。死にたくても死ねないなんて」
梓「かもね」
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:19:03.90 ID:VOPfvVQp0
純「――ねえ、もし私が死んだらさ、泣いてくれる?」
梓「何? いきなり」
純「何となく、感傷的になったんだよ」
梓「そういうのは感傷的って言うの?」
純「私の中では言うよ。それで、梓は泣いてくれる? 私が死んだら」
梓「純が死んだってわかったら、私は泣くでしょうね。だから誰にも知られずに死んでね、そのときは」
純「そんな死に方あるの?」
梓「死なないでって言ってるんだよ」
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:20:42.48 ID:VOPfvVQp0
純「……そっか」
梓「それにしても、クラゲって見ていても飽きないね」
純「だね」
梓「ねえ、純」
純「ん?」
45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:21:48.87 ID:VOPfvVQp0
梓「今回のライブ、成功させようね」
純「うん」
梓「怒涛の拍手もらえるようなさ、演奏しようよ」
純「うん」
梓「ずーっと記憶に残るようなさ、そんなライブにしようね」
純「うん」
梓「ライブ終わったらさ、最高だったねーって笑えるようにさ」
純「うん――絶対」
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:22:27.48 ID:VOPfvVQp0
梓「私、嬉しくて泣くかもしれないけど、その時はよろしくね」
純「そのときは、梓の涙拭いてあげるよ」
梓「純も泣いてるんじゃない?」
純「かもね」
憂「あ、ここにいたんだ。梓ちゃんたち」
梓「憂。もう見終わったの?」
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:23:17.95 ID:VOPfvVQp0
憂「うん。あ、クラゲ?」
梓「うん。クラゲ」
憂「綺麗だね、宝石みたいに輝いて」
梓「でしょ」
憂「ああ、何かロマンティック」
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:24:06.90 ID:VOPfvVQp0
梓「わかる、現実味がなくなるよね」
憂「うん」
三人はクラゲの水槽を見やる。
一緒に仲良く並びながら。
50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:24:55.04 ID:VOPfvVQp0
月曜日
梓「来週だよね、学園祭」
純「うん。もう時間もないし、頑張って練習しよう!」
憂「だね! 頑張るぞー!」
純憂梓「おー!」
ジャズ研部員(やかましいなぁ……)
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:25:41.01 ID:VOPfvVQp0
火曜日
純「昨日は全部出来なかったね」
梓「うん。だから今日は通してやってみようか」
憂「それがいいね」
純「よーっし、1、2、1、2、3、4!」
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:26:13.98 ID:VOPfvVQp0
水曜日
梓「あー、日に日に胃が痛くなるなぁ」
憂「緊張しちゃうね、どうも」
純「不安だよね、いくら練習しても」
憂「うん。成功させたいね」
梓「だね。今日も練習頑張ろう!」
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:27:10.65 ID:VOPfvVQp0
木曜日
憂「あとすこし!」
梓「ああー! どきどきする!」
純「もう、勉強なんか手につかないよー」
梓「うん。受験生なのにね」
純「ま、学園祭終わったら頑張ればいいよ! それまでは目下、ライブのことだけ考えよう!」
憂「うん!」
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:27:59.42 ID:VOPfvVQp0
金曜日
梓「いよいよ来週だね」
憂「うん。私達がやれることはやったし、――成功するよ」
純「うん。絶対ね」
梓「じゃあ、今日は最後の確認程度に練習しよっか」
憂「だね。変に根詰めて、体調崩してもなんだしね」
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:28:47.54 ID:VOPfvVQp0
そして――文化祭当日
舞台裏
純(どうしよう……かなり緊張してる)
純(心臓もバクバクしてるし、手もかなり汗かいてる)
純「憂、緊張するね」
憂「うん、かなり」
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:29:27.92 ID:VOPfvVQp0
純「いやー、トチらないか心配だよ」
憂「だよね」
梓「な、なーに辛気く、臭い顔してるの」
純「梓は平気なの?」
梓「も、もちろガッ ……舌噛んだ」
純「やっぱ緊張してるのね」
58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:29:57.72 ID:VOPfvVQp0
梓「……うん。そりゃあね」
純「緊張しない方がおかしいよね」
梓「でも、純たちがいるから、すこし心強いかな」
純「え?」
梓「すこしだけどね。すこし」
純「……正直じゃないなあ。かなりって言えばいいのに」
梓「個人の感覚よ」
純「確かに」
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:30:50.57 ID:VOPfvVQp0
アナウンス『それでは、昼時ランチタイムの……』
純「始まるね」
梓「いよいよだね」
憂「絶対、成功させようね」
純梓「――うん」
そして、舞台の幕が開いた。
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:31:46.78 ID:VOPfvVQp0
幾百の視線は、総てステージにいる三人に向けられていた。
期待と好奇の入り混じった視線を、三人は感じていた。
憂「あ、皆さん、こんにちわー!」
憂がMCを始める。
憂「えーと、私達は……」
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:32:22.72 ID:VOPfvVQp0
憂のMCが、体育館にいる全員の耳に響く。
衆人環視に晒されながらも、憂の声は震えることなく轟く。
そして、憂のMCが終わると同時、体育館内の静寂が強まり――。
憂「それじゃあ聞いてください! 『U&I』!!」
――演奏が始まった。
その激しい旋律は、或いは聖歌の様でもあった。
64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:33:55.60 ID:VOPfvVQp0
”君がいないと何も出来ないよ
君のご飯が食べたいよ
もし君が帰ってきたら
とびっきりの笑顔で
抱き着くよ”
客席が沸き立つ。
梓のギターが激しさを増す。
65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:35:52.21 ID:VOPfvVQp0
”君がいないと謝れないよ
君の声が聞きたいよ
君の笑顔が見れれば
それだけでいいんだよ
君がそばにいるだけで
いつも勇気もらってた
いつまででも
一緒にいたい
この気持ちを伝えたいよ ”
歓喜と驚喜と声援が、客席から聞こえる。
スポットライトを浴びた三人の演奏は続く。
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:38:19.59 ID:VOPfvVQp0
”晴れの日にも雨の日も
きみはそばにいてくれた
目を閉じれば
君の笑顔
輝いてる
君がいないと何もわからないよ
砂糖と醤油はどこだっけ
もし君が帰ってきたら
びっくりさせようと思ったのにな”
天上の天歌のような歌声が、その滑らかな韻律が、体育館にいる人々の心を奪う。
67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:40:12.33 ID:VOPfvVQp0
歌詞は続く。
客席にいるしべ手の人が圧倒され、感動に震える。
優雅なメロディが、人の魂を飲み込む。
高揚が伝わってくる。
興奮が伝わってくる。
69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:41:24.32 ID:VOPfvVQp0
” 思いよ
届け ”
憂「ありがとう――っ!!!」
憂の科白が終わった瞬間
体育館を吹き飛ばすほどの拍手の豪雨が、三人に浴びせられた。
少しばかり眩しいスポットライトの中で、
憂達は静かな達成感をおぼえていた。
and more…
70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:42:03.84 ID:VOPfvVQp0
エピローグ 祭りの後に
憂「学園祭、終わっちゃったね」
三人はジャズ研部室にいた。
三人以外誰もいないそこは、いやに静かだった。
純「うん。終わっちゃった……」
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:42:42.25 ID:VOPfvVQp0
梓「……虚無感がひどいね」
純「心にぽっかり穴が開いたみたい」
梓「陳腐な表現だね」
純「でも、本当にそんな感じ」
純「好きなドラマが終わっちゃったときよりも寂しい感じ」
憂「……これで、最後だもんね」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:43:48.30 ID:VOPfvVQp0
梓「……うん」
純「泣いても笑っても、最後、か」
梓「……おかしいな、泣きそうだよ」
純「もう泣いてるじゃん。梓」
梓「そういう純こそ、泣いてるよ?」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:44:30.18 ID:VOPfvVQp0
純「え? 本当?」
純は目元をぬぐう。
純「本当だ……泣いてる」
憂「あはは、純ちゃん泣き虫だな~」
純「……憂もね」
三人全員の声は、震えていた。
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:45:05.91 ID:VOPfvVQp0
梓「――成功したよね? ライブ」
純「うん。した」
憂「大成功だよ」
梓「楽しかったよね? ライブ」
憂「うん」
純「楽しかったね」
75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:46:02.84 ID:VOPfvVQp0
梓「また……出来るかな?」
純「…………」
憂「…………」
純「……出来るよ、きっと」
梓「いつ?」
純「大学行ったらさ、また、皆で出来るよ」
梓「その時は――」
純「もちろん、唯先輩達と一緒にさ」
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:46:55.38 ID:VOPfvVQp0
梓「……よかった」
純「ねえ。笑おうよ」
梓「え?」
純「だって、泣いてばっかじゃつまらないよ。笑おう」
梓「……うん」
憂「そうだね」
77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:47:46.59 ID:VOPfvVQp0
純「ほら、皆もっとスマイルスマイル!」
梓「こう、かな?」
純「そうそう、いい笑顔!」
梓「私、ちゃんと笑えてる?」
純「うん。あ、でも待ってね」
梓「え?」
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:48:32.42 ID:VOPfvVQp0
梓がきょとんとしていると、純がハンカチを取出して、梓の目をこしこしと拭いた。
純「笑顔に涙は似合わないよ」
梓「そう、だね」
純「ほら、憂も笑って!」
憂「う、うん」
純「――うん。やっぱ皆、笑顔の方がいいよ!」
79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:49:17.00 ID:VOPfvVQp0
梓「笑顔浮かべてると、何だか自然に楽しくなってくるね」
純「うん。楽しくなってくるんじゃなくて、楽しいんだよ」
梓「だね」
純「ねえ、皆。打ち上げ行かない?」
梓「え?」
純「今日のライブの打ち上げ。ね?」
80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/13(月) 22:50:01.13 ID:VOPfvVQp0
憂「いいね。カラオケにする?」
純「うん。食べて飲んで歌って、遊ぼうよ!!」
梓「そうしよっか」
純「決まりね! じゃあ、行こう!」
憂梓「うん!」
いつかまた、ライブを三人で出来るよう、今日という日を忘れないでおこう。
口には出さずとも、誰もがそう思っていた。
fin
憂「学園祭」