1: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:10:05.78 ID:bsJhP9C/.net
侑「えっ!? かすみちゃんがストーカー被害に!?」
歩夢「うん……かすみちゃん、警察に被害届を出そうかって……相当参ってるみたいで。力になってあげられないかな?」
侑「そんな……と、とにかく会いに行かないと! お昼休みなら一年の教室にいるはずだよね⁉」
歩夢「うん、多分璃奈ちゃんが一緒にいてくれてると思う」
侑「よーし、こうしてたって始まらない! 歩夢、かすみちゃんの教室に行こう!」ガタン
2: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:11:12.77 ID:bsJhP9C/.net
侑「かすみちゃーん!」ガラガラ
かすみ「侑先輩……? どうしたんですか、そんなに慌てて。あっ! もしかしてぇ、かすみんに会いたくなっちゃったんですかぁ~? 仕方がないですねえ」
侑「い、いや、別にそういうのじゃなくて」
かすみ「そこはそうだって言ってくださいよぉ!」
璃奈「かすみちゃん……多分、侑さんは」
侑「ストーカーのことだよ! ストーカーっ!」
かすみ「ぎくっ!」
歩夢「侑ちゃん、ちょっと声が大きいよ」ヒソヒソ
侑「あ、うん、ゴメン……。でも、ストーカーだなんて許せないよ。かすみちゃん、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
かすみ「な、なな、なんのことですかぁ? かすみんちょっと分かんないですよぅ」
歩夢「ごめんね、侑ちゃんに伝えちゃって。でも、抱え込むのは良くないと思うんだ。きっと少しは楽になると思うし、話してくれないかな……?」
かすみ「う、う~っ。できればあんまり大事にはしたくないんですけど……迷惑もたくさんかけちゃいますし。最悪、同好会の活動にも影響とか……」
侑「そんなことないよっ! 私はかすみちゃんが苦しいなら力になってあげたい。みんなもきっと同じ。悪いのはかすみちゃんじゃないんだから、遠慮なんてしなくてもいいんだよ」
璃奈「うん。その通りだと思う」
かすみ「ゆ、侑先輩……歩夢先輩……りな子……」ジーン
かすみ「……分かりました。かすみん話します。あれは、ちょうど二週間前のことです──」
かすみ『ルンルンルルン♪ 笑顔の魔法、か、け、よ~♪ と……』
かすみ『それにしても、日が落ちるのが早くなってきたなあ。夏だとまだまだ明るかったのに、もう真っ暗』
かすみ『……なんだか人気もないし、怖くなってきちゃった。とっとと帰ろう』
かすみ『……⁉』ザリッ
かすみ(な、なんだか、後ろから足音がする。別に警戒するようなことでもないと思うけど……ここらへんは人気があんまりないし、ちょっと怖いかも)
かすみ『………………』ザッザッ
かすみ(一度意識しちゃうと気になる……振り返ってみようかな……いや、もし目が合うと気まずいし……)
かすみ(うー、もういいや。早くお家に帰っちゃおう)タッタッ…
かすみ「……という事があったんです」
侑「それだけ? ストーカーって感じはあまりしないけど」
かすみ「違うんですよぉ。これは始まりに過ぎなかったんです。それ以来、同じところを通るたびに視線を感じて、いつも後ろに誰かがついてくる気配がするんです」
璃奈「同じ場所っていうのが、怪しい。少し調べてみたんだけど、ストーカー被害でよく言われる「待ち伏せ」にあたるのかも。ストーカーは特定の場所で待ち伏せする事が多い」
侑「なるほど……今、このことを知ってるのは?」
かすみ「とりあえず、りな子としず子には相談して、歩夢先輩と侑先輩にも話しました。それだけです」
侑「……なるほど。かすみちゃん、まずは然るべきところに相談すべきだと思う。その上で、これはみんなにも話しておくべきだと思うんだ」
かすみ「で、でもっ!」ガタン
侑「同好会の活動に影響が出る? ううん、そんな事ないよ。私はこういう時、みんなで団結して問題に取り組めるアイドルグループになるべきだと思う。かすみちゃんだって、他の誰かが同じように悩んでいたら、力になりたいって思うでしょ?」
かすみ「それは、そうですけど……本当に、いいんですか?」
侑「もちろん! そうと決まれば今日の放課後、みんなに情報共有して私たちにも出来るような対策を考えよう! かすみちゃんをばっちりガードして、ストーカーを撃退するんだ!」ウオーッ!
しずく「皆さん。どうしたんですか?」ガラガラ
侑「あ、しずくちゃん! それがね、私もかすみちゃんからストーカー被害のことを聞いて……いま、対策を考えよう! って話をしてたんだ」
しずく「……私もかすみさんからお話は聞きました。心配なのは私も同じです」
かすみ「し、しず子」
しずく「だから、そういうことであれば私も協力させてください。かすみさん、遠慮しないで、できる事があったら私にも言って。力になるから、ね?」ニコッ
かすみ「うん……!」
侑「よーし! そうと決まれば頑張るぞー!」
しずく「…………………」ジッ…
エマ「えぇっ? ストーカー……?」
かすみ「はい……」
愛「そんな事が起きてただなんて……」アワアワ
果林「でも、別に不思議な事じゃないわ。スクールアイドルとはいえ、私達は多くの人に見てもらう存在だから。中にはそういう人が出てきても不思議じゃない。……だからといって、仕方がないで受け入れるべきではないことも確かだけど」
せつ奈「むむむ……難しい問題です……」ウーン
彼方「う~ん、まさかとは思ってたけどねえ~。でもこうなった以上、なんとかしないと~」
侑「一応、警察に相談はしたよ。話も聞いてくれて、色々アドバイスは貰えたけど、やっぱりハッキリした被害がないと警察も動けないみたい。ここは私達でできることをするしかない」
璃奈「対策として考えられるのは……「個人情報管理の徹底」「帰宅時のタクシー利用」「帰宅時間帯をずらす」「防犯グッズの利用」「誰かと行動する」……とかが挙げられる、らしい」カタカタッターン
せつ奈「誰かと行動する、は私達でも出来るんではないでしょうか⁉」グイッ
愛「そうだね~、毎日人を変えてかすかすを家まで送るだけでも効果はありそうじゃないかな?」
果林「といっても、せめて万事の備えくらいは用意しておきたいわね」
璃奈「それに関しては、問題ない。いま、璃奈ちゃん特製超凶悪スタンガンの開発に取り組んでる」璃奈ちゃんボード『覚悟の準備をしておいて下さい』
歩夢「帰宅時間帯をずらすのも有効かも。練習の時間をなんとか変えられないかな?」
侑「うん! なんとか調整してみる! しばらくはそれで様子を見てみよう」
かすみ「みなさん、ありがとうございますっ! かすみんの問題に、こんなに真剣になってもらって……」カンゲキ
エマ「ううん、いいんだよかすみちゃん。怖いよね、不安だよね。でも、大丈夫。かすみちゃんは一人じゃないんだよ。同好会のみんながついてるんだから」
かすみ「び、び……びえーっ! エマせんばぁーい!」ダキッ
エマ「よしよし……いい子いい子……」ナデナデ
果林「流石はエマね。誰かを癒す、慰める技術に関しては他の追随を許さない「母性」が在るッ!」
彼方(なんで果林ちゃんが得意げなんだろう……まあいいか、とりあえずは立て直したみたいだし~……)zzz…
それからというもの──、
愛「──よーし、張り切って愛さんがかすかすを警護しちゃうぞ~! 今日はかすかすのSPなので敬語も使うよ! 警護だけに! つって! あはははは‼」
侑「んびゅwww ゆぶぶぶぶっwwwwww」
かすみ「だからぁ、かすみんはかすみんなんですよぉ! でもありがとうございますっ! あと侑先輩はなんですかその笑い方!」
エマ「────今日は私の番だね~。しっかり守ってあげるから、安心して帰ろうね~?」
かすみ「は、はいぃ……なんだかお母さんに引率されてるみたいでちょっと恥ずかしいですけど……」
せつ菜「────今日は!!!!!!私が!!!!!かすみさんをしっかりと送り届けますよ!!!!!!!!!」ゴゥッ!
かすみ「わかっ、わかりましたから! 張り切ってもらえるのは嬉しいんですけどもうちょっと声のボリュームを落としてくださいーっ!」
メンバーとの帰宅を行うようにして以来、かすみが視線や足音を感じるといった事はパタリと止んだ。
そうして、数日が経った頃──。
侑「じゃあ今日の練習は終わり。今日はしずくちゃんがお見送りしてくれるって言ってたけど、大丈夫?」
しずく「大丈夫ですっ。私、万が一に備えて防犯ブザーも持っていますから」エヘン
かすみ「ごめんねぇ、しず子ぉ。かすみん本当に心強いよ」
しずく「うん、今日はしっかり私が付いてるからね」
侑「じゃあ、今日のところはお願いするね。最近は被害が落ち着いてきたようだけど、気を付けて」
バイバーイ
~電車内~
かすみ「ねえ、しず子。いつもありがとね。思い返してみると、しず子は最初に相談に乗ってくれたんだよね」
しずく「いいの。これでも嬉しかったんだよ? かすみさんが最初に打ち明けてくれて。だからあんまり思い詰めないで、ね?」
かすみ「うんっ。きっと大丈夫だよね! これはかすみんの有り余る可愛さが引き起こしてしまった悲劇だけど~、みんなのおかげで被害も無くなったしっ!」
しずく「……ふふっ。なんだかいつものかすみさんに戻ってきたみたい。私も嬉しい」
かすみ「そーぉ? それじゃあ可愛さも元通り……いや、一度落ち込んだ分5割り増しかなぁ? ねぇ~?」
しずく「うん、かわいいんじゃないかな?」
かすみ「もーっ! しず子はいつもそうじゃーん! かわいいって断言してほしいのにー!」プンスコ
しずく「あははは…………」
しずこ「──────本当に、かすみさんは可愛いよ」ボソッ
かすみ「とうちゃーく!」
しずく「今日も気配や視線の類は感じなかった?」
かすみ「うん、ここ最近はそんな感じ。家が遠いのにわざわざありがとね、しず子」
しずく「どういたしまして。じゃあ私は帰るけど、かすみさん、調子に乗って夜更かししたりしちゃダメだからね? まだストーカーさんが諦めたとも限らないんだから」
かすみ「お家に帰っちゃえばこっちのものだよ! しず子も気をつけてねーっ!」バイバーイ
しずく「うん、また明日」ニコッ
しずく「………………………………」
しずく「…………………………」
しずく「………………」タッタッ…
かすみ「うーん、しず子はああ言ってたけどぉ、今日はテンション高いし夜通し映画鑑賞でも……にひひ」
プルルルルルルッ!
かすみ「あれ、電話だ」
かすみ「珍しいなー、こんな時間に。一体誰だろ?」
かすみ「……もしもし。中須でーす」ガチャ
かすみ「…………………………」
かすみ「あれっ? もしもーし?」
かすみ「………………おかしいなぁ」
かすみ「もしもーし」
かすみ「………………あのー、もしもー
???「お帰りなさい、かすみちゃん……♡」
かすみ「ひッ⁉」
???『無駄だよ。見てるよ。ずっと見てるよ。私はかすみちゃんだけを見てるんだよ。今日は帰りが30分くらい遅かったね。昨日は一時間早かったよね。最近一緒に帰っているのはお友達かな? 可愛いね。可愛いねかすみちゃん』
かすみ「あ、や……や、」
かすみ「ッ‼‼」ガチャン!
かすみ「…………はァ、はァッ…………」
かすみ「……な、んで、こんな、」トサ…
かすみ「………………………………」ジワッ
かすみ「う゛うぅぅっ……なんでぇ……怖い……怖いよぉ……!」ブルブル
~部室・お昼休み~
侑「え、え゛ぇっ⁉ 今度は監視電話⁉」
かすみ「はい……かすみん、それを聞いて体の震えが止まらなくなって……誰かに見られてるんだって、怖くなって、家の中なのに安心できなくて……!」
歩夢「そんな……」
璃奈「ここ最近の対策を踏まえて……相手がつきまとい方を変えてきたとしたら、意味がない。また新しい対策を考える必要がある。だから、集まってもらった」
せつ菜「ストーカーと言っても、手口は一つではない、という事ですか……」
果林「……確かに、電話もストーカーによく見られる行為の一つよ。といっても無言電話が多くて、ベラベラ喋るっていうのは結構大胆なケースだと思うけど……」
侑「と、とにかく家の電話には不用意に出ないようにして……それからもう一度警察に行って……今度こそ動いてくれるかもしれないし」
彼方「しずくちゃ~ん、昨日特に不審な人影を見たりはしなかったんだよね~?」
しずく「はい……私も気を配っていましたが、特にそういった怪しい人はなく……電話の声も、くぐもっていて性別が女であることくらいしか判別できなかったそうですし……」
エマ「でも……かすみちゃんの帰宅に合わせて電話をかけられるってことは、どこからか監視してるって事だよね~……?」
かすみ「ひぃっ……!」ゾワ
エマ「あっ! ご、ごめんね、変なこと言っちゃったよね。大丈夫、大丈夫だから……」アワアワ
侑「今日の練習、なんだけど……かすみちゃん、難しそうならお休みしていいからね。家まで私が送っていくから」
かすみ「…………い、いえっ! かすみんはやります! 練習させてくださいっ!」
侑「ええっ⁉」
璃奈「かすみちゃん……本当に? 顔色、悪いよ。無理しない方がいいと思う」璃奈ちゃんボード『心配』
かすみ「確かにそうかも、ですけど……でも、かすみんにとってこの同好会は一番大好きな場所なんですっ。それまで無くなっちゃったら……かすみんは本当に、どうにかなっちゃいます」
せつ菜「……かすみさんにとって、スクールアイドル活動が日々の活力になる。そう言ってくれるのでしたら、俄然行うべきです。このまま引きこもっても事態は好転しません!」
彼方「そうだよ~。こんな時だからこそたくさん歌ってたくさん動いて、たくさん笑わなくちゃね~?」
侑「そっか、そうだよね……うん、わかった、やろうっ! ストーカーなんて気にならなくなっちゃうくらい、みんなで楽しんで活動しよう‼」
一同「「「「おーっ‼」」」」
しずく「…………………………………………」
~夜、かすみん宅~
侑「かすみちゃん、お疲れ様!」
かすみ「侑先輩、今日もとっても楽しかったです。かすみんパワーは十分に貯められました! また元気にやっていきますよ~?」
侑「……辛くなったらいつでも言ってね、かすみちゃん。私はちょっと近辺をパトロールしてから帰るよ。大丈夫、私たちがついてるから」
かすみ「せんぱぁい……はい、はいっ! かすみんは幸せ者ですっ!」ギュゥ
侑「えへへ、甘えん坊さんなかすみちゃんも可愛いなぁ~」エヘエヘ
かすみ「ありがとうございました~っ!」パタン
かすみ「……ふぅ。ただいま~っ」
かすみ「お父さんもお母さんも、帰るまでもうちょっとあるよね。うぅ、一人でいる時間が一番怖いのに」
かすみ「とりあえず、お風呂を沸かして……」
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
かすみ「‼‼‼」ビクッ!
かすみ「────は、はぁ……は、はッ……‼」
かすみ「やっぱり……私が帰る時間、知って……」バクバク
かすみ「おかしいよ…! 周りは先輩がパトロールしてくれてて…! 部屋の明かりだって消して、外からは分からないようにしてるのにっ…! なんで…⁉」
かすみ「どこですかっ⁉ どこから見てるんですかっ⁉」
かすみ「……………っ」ハァハァ
かすみ「……出ちゃだめ、出ちゃだめ、出ちゃだめ、出ちゃだめ……」ブツブツ
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
電話は毎日きっちり一回、かすみの帰宅時間を狙うようにしてかかってきた。
練習時間をいくら変えようと、いつもとは違う道で帰ろうと意味がなかった。
かすみ「────わん、つー! わん、つー! 侑先輩見ててくださいっ! かすみんは今日も絶好調ですよ~っ!」フリフリ
かすみ「────今日は帰りにパンケーキ食べて帰ろう? ねぇねぇしず子~、りな子~、いいでしょ~っ?」
かすみ「────ぎえーっ! ごめんなさいごめんなさいつい魔が刺してしまったんですぅっ! おしおきは軽めでお願いします~っ!」
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
どんなに楽しくても、帰るたびに鳴り響く電話の音が、かすみの精神を追い詰めていく。
かすみ「…………………っ」ギュゥ
~約一週間後・朝~
かすみ「あ、もうこんな時間」
かすみ「うぅ~っ。最近あんまり眠れてないなぁ……」
かすみ「行ってきます……」ボソッ
かすみ「流石に朝は大丈夫だろうけど、家から出るのもちょっと怖いかも……」
かすみ「これ、いつまで続くんだろう……」ゲソッ
かすみ「……いやいやっ! 何を弱気になってるの! かすみんたるもの、笑顔を絶やさず可愛いを貫くべし! 落ち込んでたりなんかしてられないですよねっ‼」
かすみ「訂正っ! 今日も可愛さよし元気よし忘れ物なしっ! 行ってきまーす‼」ニパー
かすみ「ふんふふ~~ん♪」ガチャ
かすみ「えっ」
かすみ「…………………………………え?」
いつもとは違う「それ」を見て、かすみの足はぴたりと停止した。
頭が真っ白になって、動けなくなったのだ。
かすみの目に入ったのは、玄関口に無造作にばら撒かれた、他ならぬ中須かすみを映した写真の数々だった。
撮られた記憶などなかった。どれもがやけに遠いアングルから撮られていて、隠し撮り写真であることは明らかだった。中には練習中の写真すらあって、かすみの胸中に、大切な同好会を穢された嫌悪感が嵐となって吹き抜けた。
かすみ「わ、わたしの……写真、えっ、こんなに、なんで」
かすみ(────うそだ、おかしい、おかしいよ……だってついさっきお父さんが家を出たばっかりなのに。お父さんが気づかないはずがないのに)
かすみ(ちがう。違う! 気づかなかったんじゃない! お父さんが家を出て私が家を出るまで……ほんの10分くらいの僅かな間に、ストーカーがここに来て写真を置いていったんだ!)
かすみ「はッ……はッ……はぁッ……‼‼⁉」バクバク
かすみ(朝だからって油断してた。ストーカーはいるんだ。もう、すぐそこに潜んでるんだ‼)
かすみ「う、う゛うぇっ…………ッ⁉」ゲェッ
その事実を認識してしまった途端、かすみの全身を恐怖という感情が縛りつけた。食べたばかりの朝食が食道を逆流して、気がついた時には嘔吐していた。
怖かった。
ただひたすらに怖くて、怖くて、すぐ目の前の表札の奥にすらストーカーが潜んでいる気がして、かすみは写真を拾うことすらできずに家の中へと飛び込んでいた。
かすみ「──なんで、なんでっ、なんでぇっ‼」バタンッ
かすみ「いやだよ……怖いよ……っ! 助けてぇっ!」
かすみ「はあっ、はあっ、はあっ! おかあさん! おとうさん! 先輩っ! しず子! りな子ぉっ!」
かすみ「電話、電話しなくちゃ、電話っ」ガチャガチャ
かすみ「はやくっ、誰でも、誰でもいいからっ、誰か……」グズッ
かすみ「誰かわたしを、助けてよぉ……‼‼」
~お昼休み・部室~
侑「……………………連絡が、ありました。やっぱり今日、かすみちゃんは学校をお休みしたそうです」
侑「一時は軽い錯乱状態にまで陥ってて、落ち着いてから聞けた話によると、かすみちゃんが家を出るタイミングで玄関に写真がばら撒かれていたそうです」
侑「かすみちゃんは家から出ることも嫌がっていて……必然的に、学校に登校できるような状態じゃありません」
一同「「「「「……………………………………」」」」」シーン
侑「……だから、今日のところはひとまずかすみちゃん抜きで……練習、を」
果林「なんでよッ!」バンッ
エマ「か、果林ちゃん、落ち着いて!」
果林「落ち着いてられるわけがないでしょう! かすみちゃんが! この同好会で一番明るいあの子がっ……! 姿も見せない卑怯者に追い詰められて、家から出ることすら出来なくなっているのよ⁉」ガタン
愛「アタシだって怒り心頭だよ……こんなに怒ったこと、はじめてかもしれないくらいに」ギュ
せつ菜「もうこれはイタズラや過剰な好意の域を超えています。犯人には罰が与えられるべきです!」
歩夢「み、みんな、一旦落ち着こうよ……! 気持ちは十分分かるけど、流石にヒートアップし過ぎてるよ……!」ワタワタ
璃奈「……警察はどう言ってるの?」
侑「うん、警察もようやく動いてくれたよ。かすみちゃん宅周辺のパトロール強化とか、捜査とか。色々やってくれるみたい」
しずく「でも、かすみさんは……」
侑「うん。かすみちゃんが、それで家を出れるようになるかどうかは……まだ分からない」
彼方「ここまで来ると女子高生になんとかできる範疇を超えちゃったねぇ……あとはおまわりさんを信じるしかないのかな~?」
侑「いや……まだ、出来ることはあると思う。もちろん、かすみちゃんの意思次第だと思うけど……」
璃奈「というと、どんなこと?」
侑「かすみちゃんは言ってたよね。怖くて、家の中なのに安心できない……って。だったら安心できるようにすればいいんだよっ!」
せつ菜「…………!!!!!」ハッ
愛「なるほど……それは確かにいい考えかも」
璃奈「かすみちゃんも賛成してくれると思う」璃奈ちゃんボード『ディモールト良いぞ』
歩夢「早速電話してみようよ。今晩にでも、さっそく!」
ガヤガヤ
果林「……………………………………えっと、」
エマ「果林ちゃん? 侑ちゃんはね、かすみちゃんがお家にいても不安になっちゃうなら、お泊りに行って不安を解消しよう! って言いたいんじゃないかな?」
果林「あ、え、ええ。分かっていたけれど、うん、説明助かったわ」
彼方(……果林ちゃん……)
~お昼・かすみ宅~
かすみ「……………………うぅ。気が晴れない」
かすみ「学校休んで、警察呼んで、お母さんにもお父さんにも、迷惑かけちゃった……お母さんはお仕事休んでくれたし……」
かすみ「……なんで、わたしが、こんな目に」
かすみ「うぅ……怖いよ……誰かに見られてる気がする……いやだ……」オフトンクルマリ
かすみ「……………………………………」グスッ
ガサガサッ
かすみ「っ⁉」ビクッ
かすみ「なんか音聞こえたっ……いや、来た、来たっ! 助けてっ、お母さんっ、いやっ……」
……オーイ!ボールドコイッター? アッタゾー!
かすみ「はーっ、はーっ……」
かすみ「あ……な、なんだ、近所の子供か……わたし、てっきり……」
かすみ「てっきり…………………………」
かすみ「…………っ」ポロ
かすみ「怖いよ……怖いよぉ…………………っ」ポロポロ…
~放課後・部室~
侑「ということで、厳正なる抽選の結果……今日のお泊まりはしずくちゃんと璃奈ちゃんにお願いすることになりました。かすみちゃんにもオーケーは貰えたよ」
璃奈「かすみちゃんを励ましてくるね」璃奈ちゃんボード『わが心と行動に一点の曇りなし』
しずく「一年生同士、頑張りましょう!」
せつ菜「私達のぶんまでお願いします。かすみさんのことですから、きっと一緒にいてあげるだけでも効果があるかと」
歩夢「そうだ! かすみちゃんの好きそうなお菓子とか、色々差し入れで持っていこうよ」
彼方「お……じゃあ、調理室を借りて何か作っちゃおうかな~? ササっと作れそうなものは……」ムクリ
愛「映画とか借りて行くのもいいかもねー!」
エマ「なんだか何とかなりそうな気がしてきたね、果林ちゃん」
果林「えぇ。……でも、心の傷の浅し深しを知る事ができるのは本人だけよ。もし、かすみちゃんが私たちの想像よりも苦しんでいたとしたら……私たちだけが盛り上がって、かすみちゃんをかえって苦しめてしまう結果になるかもしれない」
侑「うっ。そ、そうだよね、なんだか楽しい雰囲気になってたけど、かすみちゃんは苦しんでるんだもんね……」
果林「いいえ、別に楽しむなと言ってる訳じゃないのよ? 私達はかすみちゃんを楽しませるために行動するんだから、まずは私達が楽しまないと。その上で、どうするべきかをしっかりと見定めることが必要になるわ。難しいことを言うようだけど……」
璃奈「うん、そうだよね。ありがとう、果林さん」
しずく「はい、重々気を付けます!」
果林「……どういたしまして。楽しんで、精一杯励ましてくるのよ」
エマ「こういう時、果林ちゃんは偉いよねぇ」
果林「えっ⁉ な、なんで急にっ⁉」ドキッ
エマ「だって~、果林ちゃんはこういう時冷静に判断して、みんなとは違う意見を出してくれるでしょう? 私には出来ないことだな~、って」
果林「……も、もう。私はただ、体裁を繕おうと必死なだけよ。過大評価だわ」
エマ「照れちゃって~っ。優しい果林ちゃんにはいいこいいこしてあげる」ヨシヨシ…
果林「わっ、ちょ、やめて! せめて寮に帰ってから──」
しずく「……………………………………」ニコッ…
~夕方・かすみ宅~
璃奈「いざ参る」ピンポーン!
しずく「ちょっと緊張してきちゃった……かすみさん、元気になってくれるといいんだけど……」
かすみ「…………はーい! しず子、りな子、かすみんの家にようこそっ!」ガチャ!
璃奈(思ったより、元気そうだけど……)
しずく(うん……顔は笑ってるけど、なんだか雰囲気がいつもと全然違う……まるでかすみさんじゃないみたい)
かすみ「どーしたのー、突っ立ってないで入りなよー! かすみん心細かったから、二人が来てくれてとっても嬉しい!」
璃奈「じゃあ、おじゃまします」
しずく「お邪魔します」パタン
かすみ「しず子は何回か来てるけどぉ、りな子は初めてだよね。あがってあがって~」
璃奈「おぉー。ここがかすみちゃんの部屋。意外と片付いてる」璃奈ちゃんボード『グッド!』
しずく「やっぱりそう思うよね~、最初は」フフッ
かすみ「ちょっとぉ! どういうこと~、それはっ⁉ まるでかすみんが片付け出来ない子みたいじゃん!」
璃奈「そういえば、かすみちゃんのお母さんは?」
かすみ「ちょっとお買い物。あれからなるべく一緒にいてくれるんだ。すぐに戻るんじゃないかな~? ……かすみん、お茶淹れてくるね! 変なところ触ったら許さないよっ!」パタパタ
しずく「ありがとう、かすみさん」
しずく「……………………璃奈さん、どう思う?」コソッ
璃奈「やっぱり、無理に頑張ってるというか、笑顔を作ってる感じ。わたしも似たような経験があるから……」璃奈ちゃんボード『嘘をついている味だぜ』
しずく「だよね……。かすみさん、やっぱり……」
かすみ「なになに? 何の話?」バターン!
璃奈「速いっ」
しずく「あ、あの……その、かすみさんの、話で」
かすみ「えーっ? かすみんの話ならかすみんも混ぜてするのが普通でしょーっ? で、どーしたの?」
璃奈「──────……それは、」
しずく「かすみさん……その、大丈夫……?」
かすみ「……だ、大丈夫かって、かすみんに問題があるように見えるっ? かすみんはかすみんだよ! なーんにも問題ないよっ‼」
しずく「だって、今のかすみさんはおかしいよ。無理してるのが伝わってくる……! 今くらい、素直になってもいいはずだよ、かすみさん!」
かすみ「ちが……かすみんは、いつも通り、いつも通りで……」
璃奈「そんな事ないはず。だって、かすみちゃん、今日は学校も休んで……」
かすみ「────────────────────────────────────────」プツン
かすみ「………あはっ、ははっ、はははははっ」
しずく「か、かすみさん?」
かすみ「大丈夫、って聞いたよね、しず子。まさか本当にわたしが「大丈夫」だと思ってそれを聞いたの? こんな状況で」
しずく「え、あ、いやっ、そんなつもりじゃ」
かすみ「そんなつもりじゃないなら黙っててよっ‼」バンッ
璃奈「っ‼」ビクッ
かすみ「……………………しず子はさぁ、いいよね」
しずく「えっ?」
かすみ「だってそんな質問、どれだけ怖いか本当に分かってたら出てこないはずだもん。つきまとわれて、止んだと思ったら今度は気持ち悪い電話をされて、写真までばら撒かれて、大丈夫なわけがないんだよ‼‼」
しずく「あ、か、かすみさ」
かすみ「結局他人事なんだよ! しず子にとっては! 私がどれだけ怖いかなんて分かりっこない‼ そうだよね、しず子は一日一緒に帰ってくれただけで、ストーカーの姿も声も知らないんだもんね‼‼」ドンッ!
かすみ「りな子もそうだよっ‼ スタンガンなんて渡して自分の仕事は終わった気になって‼ あんなの結局一回も使ってないっ……‼ こんなに怖くて苦しいのに、何の役にも立ってないっ‼‼」ダンダンッ!
しずく「やめて、かすみさん、お願い、やめてえっ‼」ガシッ
かすみ「ふーーっ……、ふーっ………………‼」
璃奈「か、かすみ、ちゃん」
しずく「お願い……お願いっ……」
かすみ「…………………」
かすみ「………………………………………あ、」
かすみ「………………あれ、あれ? なんで、わたし、こんな事」ポロッ
かすみ「う、ううっ、違う……違うの……! しず子もりな子も、わたしが心配で、来てくれたのに! なんで、なんでわたし、こんな……ひどいこと、言って」ポロポロ
かすみ「うあ、あぁぁ…………ぁ……」
璃奈「かすみちゃん、疲れてる。ストーカーにあんなことまでされて、精神状態も限界に近い。些細なことで暴発してしまうのは、仕方がない」
かすみ「でもぉっ! わたし、最低だよ……‼ 他人事だなんて、役に立ってないだなん゛て、友達に……本当に、最低っ……‼ わだじ、っ、最低っ、最低最低最低っ、う゛ぅぅ……う……‼」
かすみ「ごめ゛ん……ごめん゛ね゛ぇ、しず子……りな子ぉ……っ……」グズッグズッ
しずく「………………………………」ギュッ
しずく「かすみさん、いいんです。かすみさんはそんなことを言うような人じゃないって、私も璃奈さんも知ってるから。だから、謝らないで」
璃奈「……うん」ギュッ
かすみ「えぐっ、え゛ぐ……ちょっと……二人とも……苦しいよぉ……前と後ろから抱きつかれたら、コッペパンの具みたいになっちゃうよ……」
しずく「かすみさん、安心して。もう、私達がいるから、本当の本当に大丈夫」ナデナデ
かすみ「…………ひぐっ、うえっ、う゛ぅぅえ゛えぇぇぇぇ…………」
しずく「安心して、いいんだよ────」
~深夜、かすみん宅~
しずく「──そろそろ夜も更けてきちゃったし、寝ないと」
かすみ「えぇーっ? まだかすみんりな子に一回も勝ててないのにーっ」
璃奈「かすみちゃん。基礎的なコンボが組めないようじゃ、まだまだ……それじゃ私のゼロサムには勝てないよ」璃奈ちゃんボード『やれやれだぜ』
かすみ「う~……そもそもりな子が上手すぎなの! ズルじゃん! 復帰阻止コンボは!」
しずく「もう。電源切るからね」ポチ
かすみ「あ゛あ゛ぁぁ~~~~っ!!!」
かすみ「いや~さすがに三人でベッドは無理があったかなあ~?」ギチギチ
璃奈「か、壁が、近い……」グムム
しずく「か、かすみさん! あんまり押さないで落ちちゃうからっ!」
かすみ「あはは。でもぎゅうぎゅうで楽しいじゃん!」
しずく「もうっ……真ん中だからって」
璃奈「り、璃奈ちゃんボード……あっ届かない……」
かすみ「………しず子、りな子ぉ。ありがとね」
二人「「!」」
かすみ「わたし、酷いこと言っちゃったのに。許してくれて、励ましてくれて、本当に嬉しかった。すっごくすっごく、嬉しかったよ」
璃奈「……良かった。私も、とっても嬉しい」
しずく「ずっと見ていてあげるからね。ずっと……だから、おやすみ、かすみさん……」スッ…
かすみ「うん…二人とも、ありが……とう……」
かすみ「…………………………」クカー
璃奈「すぐに寝ちゃった」
しずく「きっと不安で眠れてなかったんだよ。私達も寝よう、璃奈さん」
璃奈「うん……そうだね、しずくちゃん。おやすみ」
しずく「おやすみなさい」
璃奈「………………………………………………」
璃奈「………………………………」ゴソゴソ
璃奈「……………眠れない」アボーン
璃奈(寝ようとしてるけど、寝れない。……理由はもう分かってる。しずくちゃんのさっきの言葉が、頭から離れないから)
璃奈(まさか、とは思う。九割九分違うと思うし、本当はこんなこと考えたくない。でも考えてしまう。良くない方向に想像が膨らんでしまう。だから、寝れない)
璃奈(『ずっと見ていてあげる』……)
璃奈(よく考えてみるとおかしい点が幾つかある。犯人はかすみちゃんの帰宅時間を毎日正確に把握していた。練習時間を大きくずらしても、欠かさず電話がかかってきた)
璃奈(はじめて、今日、電話がかかってこなかった)ゴクリ
璃奈(かすみちゃんが外に出なかったからと言えばそれまで。でも、毎日欠かさず電話をしていたような人が、なんで今日は電話をかけなかったのか)
璃奈(────もし、かけなかったんじゃなくて、「かけられなかった」んだとしたら?)
璃奈(そう考えると辻褄が合う。合ってしまう。どうしてかすみちゃんの帰宅時間を把握できたのか。どうして学園内にいるかすみちゃんの写真を怪しまれずに撮る事ができたのか)
璃奈(全部、合う。犯人が、しずくちゃんだと考えたら)
璃奈(…あり得ない。友達を疑いたくない。もしかしたら、わたしは最低なことを考えているのかも。だって、こんなことあっていいはずがない)
璃奈(でも、そうだとしたら)
璃奈(しずくちゃんが全ての元凶なのだとしたら、私は、いったいどうしたらいいんだろう…?)
しずく「うぅ~ん……?」チュンチュン
かすみ「くかーっ……ぐごー…………えへぇ、卵かけコッペパン……」
しずく「うわっ、酷い寝息と寝癖……かすみさん、起きて、朝だよ。今日はお休みだけど、早起きは三文の徳って言うでしょう」
かすみ「うぇ……う……あと五分……」
しずく「だめっ。ほら、璃奈ちゃんも起こし…」
しずく「⁉」ギョッ
璃奈「おはよう……二人とも……」ギンギン
しずく「り、璃奈ちゃん⁉ まさかずっと起きて……⁉」
かすみ「うわ目の下のクマ凄っ! 怖っ!」
璃奈「うん……考え事してて、寝れなくて」璃奈ちゃんボード『大切なのは『真実に向かおうとする意思』だ』
~昼・かすみ宅~
かすみ「……えへへ~、二人とも昨日はありがとっ! これでかすみん復活ですっ!」
璃奈「本当に、良かった。今日は侑さんと歩夢さんがお泊まりに来るはず」
しずく「警察がストーカーの犯人を捕まえてくれるまで、なんとかこれで頑張ろう!」
かすみ「うん。二人のおかげで不安も薄れたし、どんとこい! だよ」
しずく「あはは、またそういうこと言って……」
「──────か、かすみっ‼‼」バタバタ
その時、家の奥から突然聞こえてきたのは、かすみの母親が彼女を呼ぶ声だった。
三人がその声に振り返ると、かすみの母親は慌てた様子でこちらに走り寄り、耳に当てたスマートフォンをそのままに言った。
「いま、警察の人から連絡があって。ストーカー捕まったって!」
~数日後、同好会部室~
侑「なんか呆気なかったねえ。こっちは最悪耐久戦どころかローラー作戦まで覚悟してたのに、流石はおまわりさん。本気になれば敵うものなしじゃん」
歩夢「犯人がまさか近所の大学生さんだったなんて……でも、かすみちゃんにしたことは許されないよね」
彼方「とはいっても、いきなり逮捕とはいかないんだよね~。まずは禁止命令が出されるだけだから。それを破ったから今度こそ逮捕だけど……相手も反省しているようだし、そこまではいかないんじゃないかな~」
せつ菜「彼方さん、物知りですね……」
彼方「えへん。意外とこういう知識も入れているのだ~……久々に安心して眠れそうだから、おやすみぃ」パタン
愛「カナちゃん、ここ最近あんまり寝てるところを見なかったからな~。かすかすが心配で熟睡できなかったのかも」ツンツン
果林「それにしても、行ったのは付きまといだけで電話や写真の件に関しては知らず存ぜぬを通しているらしいけど。変なところで諦めが悪いわね」
エマ「まあ、いいんじゃないかな~? 犯人も捕まって、迷惑行為も止んで、かすみちゃんも学校に来れるようになって。万々歳だよ~」
しずく「遅れましたー!」バタンッ!
璃奈「一年廊下が清掃で使えなくて。ごめんなさい」璃奈ちゃんボード『遠回りこそが俺の最短の道だった』
かすみ「かすみん到着です! お待たせしましたっ!」
侑「────うん。かすみちゃん、おかえり」ニコ
オカエリナサイ! オカエリ! オカエリ~!
かすみ「………………………っ、」
かすみ「────はいっ! かすみんは、かすみんはっ! ただいま戻りましたあっ‼ みなさんっ、本当に、ありがとうございましたぁ‼‼」グスンッ
イインダヨー ヨカッタヨカッタ
カスミチャンナイテルー コレハメジルデス! カスミンノナミダハヤスクナインデス!
メジルッテナニ…アハハ…ガヤガヤ…ンビュブブブフブww
かすみ(……また戻って来れて本当に良かったと、みんなの笑顔を見た瞬間に感じました。何回言っても言い切れないありがとうを、言いたいと思いました)
かすみ(辛くて、苦しくて、とっても嫌な経験でした。かすみんが一人だったら、潰れてしまっていたと思います)
かすみ(でも、わたしには同好会がありました! 大好きなみんながいてくれましたっ!)
かすみ(かすみんはこれからも頑張ります)
かすみ(もっともっとこの同好会を盛り上げて、いつか誰かが苦しい時、かすみんも助けられるように。この恩を返せるように、努力していこうと思います)
かすみ「よーし! 今日も頑張りますよー!」
かすみ(わたしは、この同好会が、みんなのことが、とってもとっても大好きです────‼)
~完~
しずく「────なぁんて、ね♡」
~それから数日後・学校中庭~
しずく「……これで終わり。めでたしめでたし、なんて。そんなわけがないのにね。ふふふっ♡」
しずく(虹ヶ咲スクールアイドル同好会を騒がせたストーカー騒動は、もう既に終わりを迎えた……)
しずく(それ以来かすみさんがそういった被害に遭うことはなく、かすみさんもすぐにいつもの調子を取り戻していった。もう今ではすっかり元気で、同好会には元の平穏が戻っている)
しずく(穏やかな日々……)
しずく(かすみさんは笑っている。歌って、喜んで、目一杯楽しんでいる)
しずく(もう、あんな声をあげる必要はない。涙を溢す理由は、ない)
しずく(……………………………)
しずく「……………………………」イヤホンハメ
しずく「………………………………………」ピッ
かすみ『────そんなつもりじゃないなら黙っててよっ‼』
しずく「…………」ピッピッピッ
かすみ『結局他人事なんだよ! しず子にとっては! 私がどれだけ怖いかなんて分かりっこない‼ そうだよね、しず子は一日一緒に帰ってくれただけで、ストーカーの姿も声も知らないんだもんね‼‼』
かすみ『う、ううっ、違う……違うのに……しず子もりな子も、わたしが心配で、来てくれたのに。なんで、なんでわたし、こんな、ひどいこと』
かすみ『わたし、最低だよ……‼ 他人事だなんて、役に立ってないだなん゛て、友達に……本当に、最低っ……‼ わだじ、っ、最低っ、最低最低最低っ、う゛ぅぅ……う……‼』
かすみ『ごめ゛ん……ごめん゛ね゛ぇ、しず子……りな子ぉ……っ』
かすみ『うあ、あぁぁ…………ぁ……』
しずく「…………………~ッッ♡♡」ゾクゾクッ
しずく(私はいま、陽の当たるベンチに腰掛けて、かすみさんの録音した音声を聴いている)
しずく(そう、私はこれを求めていた。精神的に追い詰められて、苦しんで、いつもあんなに明るいかすみさんが見る影もなくボロボロになって絞り出す、あんな声を、すり切れた姿を……切望していた)
しずく(────だから、全てを仕組んだ)
しずく(きっかけを作ったのは私じゃない。実際、最初につきまとい行為を始めたのは例の大学生だった。私はそれに便乗させてもらっただけ)
しずく「何処の馬の骨とも知らない女が私のかすみさんに付きまといを始めたのはとっても不愉快だったけど……そのお陰で望むものを見れました♡ ありがとう、わざわざスケープゴートにまでなってくれて……♡」フフッ
しずく(そうだ。迷惑電話も、写真のばら撒きも、全部私が仕立て上げた。そしてかすみさんを精神的に追い込んで、苦しめ、その姿を眺めて悦に浸った)
しずく(本当に、楽しかった……)
しずく「ふふっ……ふふふふふ……っ♡ このかすみさんの声、何度でも聴けちゃうなあ……♡ 本当に、とっても、とぉっても可愛いよ、かすみさん……♡」
しずく(我を忘れて怒るかすみさん。自分が不甲斐なくて子供みたいに泣きじゃくるかすみさん。恐怖で我を忘れてしまったかすみさん。ぜんぶ、ぜんぶ、大好き)
しずく「かすみさんが声を荒げて、それから自己嫌悪で押し潰されそうになってるところなんて、もう……っ♡ なんて甘美な毒なんだろう……♡」
しずく「あの時、もしわたしがかすみさんを突き放して……これで絶好だ、なんて言っていたら……♡ かすみさん、どんな顔したのかなぁ……♡♡」
しずく(なんて許されざる悪行だろう。世界で一番大好きな人の苦しむ顔を見て声を聞いて悲しみを理解して、それで私は喜んでしまう)
しずく(狂っている。そんな自覚はとうにある。友人の笑顔よりも、友人の泣き顔を見たい。友人の歌声よりも、友人の嗚咽が聞きたい。友人の喜ぶ姿よりも、友人の絶望にうしひしがれる姿をじっくりと眺め回したい)
しずく「……でも、かすみさんがいけないんだよ…?♡ かすみさんが、本当の私が大好きだ、なんて言ってくれたんだから……♡♡」ピッピッ
しずく(きっとどこにも出してはいけなかった「わたし」は、あの雷鳴に打たれて動き出した。揺るがぬ自信を得て、覆い隠す仮面を壊してしまった)
しずく「好き……好きだよ……♡ かすみさん、大好き……もっと、もっと聞きたいよ……苦しんで、泣きじゃくって、喚き散らす姿を……絶望に喘ぐ……そんなかすみさんを見たいよぉ……♡」ゾクゾクッ
しずく(異常な愛に取り憑かれて、もう「わたし」は止まらない。胸を焦がす気持ちはブレーキの壊れた車みたいで、私自身にすら制御できない)
しずく(だから、いつかは終わるのだろう。いつか私の仮面の奥の本性がバレて、何から何まで裏切っていたことを、かすみさんが知るときは必ず来る。いや、わたしがきっと終わらせる)
しずく(でも、まだ早い。もっと、もっともっともっともっとかすみさんと過ごして、遊んで、歌って、そして最後に全てを知った時の顔を見たい。大好きなかすみさんの絶望しきった顔を焼き付けて、死にたい)
しずく(今回の行いが露呈することがなかったのは幸いだった。まだ私はかすみさんと一緒にいる事ができる)
しずく(「楽しむ」ことができる────……)
かすみ「しず子ー? あれ、何聞いてんのー?」ヒョコッ
しずく「ああ、かすみさん。うふふ、ちょっとね」ニコッ
かすみ「えーっ気になる気になる~! アイドルの曲? クラシック音楽とか? かすみんにも聞かせてよ~っ!」
しずく「焦らないで、かすみさん。……いつかきっと、たくさん聞かせてあげるから。今のよりもずっと凄いものを」
かすみ「???」
かすみ「えー、よく分かんない……まあいっか! かすみん楽しみにしてるからねっ。はやく練習いこっ、しず子! 置いていくよ~!」タタッ…
しずく「あっ、もう! 待ってったら~……!」
しずく(…………うん。楽しみにしていてね、かすみさん)
しずく(貴女が私を狂わせたように、私はいつか貴女を壊す。その綺麗な心を折って潰して粉々にして、かすみさんも狂わせてあげる。一緒に狂い果てようね)
しずく(──────ああ。貴女のことが大好きだよ、かすみさん)
~完~
今度こそ本当に終わりです
お付き合い頂きありがとうございました。
元スレ
侑「かすみちゃーん!」ガラガラ
かすみ「侑先輩……? どうしたんですか、そんなに慌てて。あっ! もしかしてぇ、かすみんに会いたくなっちゃったんですかぁ~? 仕方がないですねえ」
侑「い、いや、別にそういうのじゃなくて」
かすみ「そこはそうだって言ってくださいよぉ!」
璃奈「かすみちゃん……多分、侑さんは」
侑「ストーカーのことだよ! ストーカーっ!」
かすみ「ぎくっ!」
3: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:13:47.63 ID:bsJhP9C/.net
歩夢「侑ちゃん、ちょっと声が大きいよ」ヒソヒソ
侑「あ、うん、ゴメン……。でも、ストーカーだなんて許せないよ。かすみちゃん、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
かすみ「な、なな、なんのことですかぁ? かすみんちょっと分かんないですよぅ」
歩夢「ごめんね、侑ちゃんに伝えちゃって。でも、抱え込むのは良くないと思うんだ。きっと少しは楽になると思うし、話してくれないかな……?」
かすみ「う、う~っ。できればあんまり大事にはしたくないんですけど……迷惑もたくさんかけちゃいますし。最悪、同好会の活動にも影響とか……」
侑「そんなことないよっ! 私はかすみちゃんが苦しいなら力になってあげたい。みんなもきっと同じ。悪いのはかすみちゃんじゃないんだから、遠慮なんてしなくてもいいんだよ」
璃奈「うん。その通りだと思う」
かすみ「ゆ、侑先輩……歩夢先輩……りな子……」ジーン
かすみ「……分かりました。かすみん話します。あれは、ちょうど二週間前のことです──」
4: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:17:06.03 ID:bsJhP9C/.net
かすみ『ルンルンルルン♪ 笑顔の魔法、か、け、よ~♪ と……』
かすみ『それにしても、日が落ちるのが早くなってきたなあ。夏だとまだまだ明るかったのに、もう真っ暗』
かすみ『……なんだか人気もないし、怖くなってきちゃった。とっとと帰ろう』
かすみ『……⁉』ザリッ
10: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:28:01.85 ID:bsJhP9C/.net
かすみ(な、なんだか、後ろから足音がする。別に警戒するようなことでもないと思うけど……ここらへんは人気があんまりないし、ちょっと怖いかも)
かすみ『………………』ザッザッ
かすみ(一度意識しちゃうと気になる……振り返ってみようかな……いや、もし目が合うと気まずいし……)
かすみ(うー、もういいや。早くお家に帰っちゃおう)タッタッ…
6: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:18:54.57 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「……という事があったんです」
侑「それだけ? ストーカーって感じはあまりしないけど」
かすみ「違うんですよぉ。これは始まりに過ぎなかったんです。それ以来、同じところを通るたびに視線を感じて、いつも後ろに誰かがついてくる気配がするんです」
璃奈「同じ場所っていうのが、怪しい。少し調べてみたんだけど、ストーカー被害でよく言われる「待ち伏せ」にあたるのかも。ストーカーは特定の場所で待ち伏せする事が多い」
7: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:19:48.43 ID:bsJhP9C/.net
侑「なるほど……今、このことを知ってるのは?」
かすみ「とりあえず、りな子としず子には相談して、歩夢先輩と侑先輩にも話しました。それだけです」
侑「……なるほど。かすみちゃん、まずは然るべきところに相談すべきだと思う。その上で、これはみんなにも話しておくべきだと思うんだ」
かすみ「で、でもっ!」ガタン
侑「同好会の活動に影響が出る? ううん、そんな事ないよ。私はこういう時、みんなで団結して問題に取り組めるアイドルグループになるべきだと思う。かすみちゃんだって、他の誰かが同じように悩んでいたら、力になりたいって思うでしょ?」
8: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:20:58.34 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「それは、そうですけど……本当に、いいんですか?」
侑「もちろん! そうと決まれば今日の放課後、みんなに情報共有して私たちにも出来るような対策を考えよう! かすみちゃんをばっちりガードして、ストーカーを撃退するんだ!」ウオーッ!
しずく「皆さん。どうしたんですか?」ガラガラ
9: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:24:52.95 ID:bsJhP9C/.net
侑「あ、しずくちゃん! それがね、私もかすみちゃんからストーカー被害のことを聞いて……いま、対策を考えよう! って話をしてたんだ」
しずく「……私もかすみさんからお話は聞きました。心配なのは私も同じです」
かすみ「し、しず子」
しずく「だから、そういうことであれば私も協力させてください。かすみさん、遠慮しないで、できる事があったら私にも言って。力になるから、ね?」ニコッ
かすみ「うん……!」
侑「よーし! そうと決まれば頑張るぞー!」
しずく「…………………」ジッ…
13: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:31:30.72 ID:bsJhP9C/.net
エマ「えぇっ? ストーカー……?」
かすみ「はい……」
愛「そんな事が起きてただなんて……」アワアワ
果林「でも、別に不思議な事じゃないわ。スクールアイドルとはいえ、私達は多くの人に見てもらう存在だから。中にはそういう人が出てきても不思議じゃない。……だからといって、仕方がないで受け入れるべきではないことも確かだけど」
せつ奈「むむむ……難しい問題です……」ウーン
彼方「う~ん、まさかとは思ってたけどねえ~。でもこうなった以上、なんとかしないと~」
14: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:33:53.66 ID:bsJhP9C/.net
侑「一応、警察に相談はしたよ。話も聞いてくれて、色々アドバイスは貰えたけど、やっぱりハッキリした被害がないと警察も動けないみたい。ここは私達でできることをするしかない」
璃奈「対策として考えられるのは……「個人情報管理の徹底」「帰宅時のタクシー利用」「帰宅時間帯をずらす」「防犯グッズの利用」「誰かと行動する」……とかが挙げられる、らしい」カタカタッターン
せつ奈「誰かと行動する、は私達でも出来るんではないでしょうか⁉」グイッ
愛「そうだね~、毎日人を変えてかすかすを家まで送るだけでも効果はありそうじゃないかな?」
16: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:36:59.94 ID:bsJhP9C/.net
果林「といっても、せめて万事の備えくらいは用意しておきたいわね」
璃奈「それに関しては、問題ない。いま、璃奈ちゃん特製超凶悪スタンガンの開発に取り組んでる」璃奈ちゃんボード『覚悟の準備をしておいて下さい』
歩夢「帰宅時間帯をずらすのも有効かも。練習の時間をなんとか変えられないかな?」
侑「うん! なんとか調整してみる! しばらくはそれで様子を見てみよう」
17: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:42:11.32 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「みなさん、ありがとうございますっ! かすみんの問題に、こんなに真剣になってもらって……」カンゲキ
エマ「ううん、いいんだよかすみちゃん。怖いよね、不安だよね。でも、大丈夫。かすみちゃんは一人じゃないんだよ。同好会のみんながついてるんだから」
かすみ「び、び……びえーっ! エマせんばぁーい!」ダキッ
エマ「よしよし……いい子いい子……」ナデナデ
果林「流石はエマね。誰かを癒す、慰める技術に関しては他の追随を許さない「母性」が在るッ!」
彼方(なんで果林ちゃんが得意げなんだろう……まあいいか、とりあえずは立て直したみたいだし~……)zzz…
18: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:43:55.84 ID:bsJhP9C/.net
それからというもの──、
愛「──よーし、張り切って愛さんがかすかすを警護しちゃうぞ~! 今日はかすかすのSPなので敬語も使うよ! 警護だけに! つって! あはははは‼」
侑「んびゅwww ゆぶぶぶぶっwwwwww」
かすみ「だからぁ、かすみんはかすみんなんですよぉ! でもありがとうございますっ! あと侑先輩はなんですかその笑い方!」
19: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:45:13.57 ID:bsJhP9C/.net
エマ「────今日は私の番だね~。しっかり守ってあげるから、安心して帰ろうね~?」
かすみ「は、はいぃ……なんだかお母さんに引率されてるみたいでちょっと恥ずかしいですけど……」
せつ菜「────今日は!!!!!!私が!!!!!かすみさんをしっかりと送り届けますよ!!!!!!!!!」ゴゥッ!
かすみ「わかっ、わかりましたから! 張り切ってもらえるのは嬉しいんですけどもうちょっと声のボリュームを落としてくださいーっ!」
メンバーとの帰宅を行うようにして以来、かすみが視線や足音を感じるといった事はパタリと止んだ。
そうして、数日が経った頃──。
20: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:46:16.59 ID:bsJhP9C/.net
侑「じゃあ今日の練習は終わり。今日はしずくちゃんがお見送りしてくれるって言ってたけど、大丈夫?」
しずく「大丈夫ですっ。私、万が一に備えて防犯ブザーも持っていますから」エヘン
かすみ「ごめんねぇ、しず子ぉ。かすみん本当に心強いよ」
しずく「うん、今日はしっかり私が付いてるからね」
侑「じゃあ、今日のところはお願いするね。最近は被害が落ち着いてきたようだけど、気を付けて」
バイバーイ
21: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:47:26.10 ID:bsJhP9C/.net
~電車内~
かすみ「ねえ、しず子。いつもありがとね。思い返してみると、しず子は最初に相談に乗ってくれたんだよね」
しずく「いいの。これでも嬉しかったんだよ? かすみさんが最初に打ち明けてくれて。だからあんまり思い詰めないで、ね?」
かすみ「うんっ。きっと大丈夫だよね! これはかすみんの有り余る可愛さが引き起こしてしまった悲劇だけど~、みんなのおかげで被害も無くなったしっ!」
しずく「……ふふっ。なんだかいつものかすみさんに戻ってきたみたい。私も嬉しい」
22: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:48:20.83 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「そーぉ? それじゃあ可愛さも元通り……いや、一度落ち込んだ分5割り増しかなぁ? ねぇ~?」
しずく「うん、かわいいんじゃないかな?」
かすみ「もーっ! しず子はいつもそうじゃーん! かわいいって断言してほしいのにー!」プンスコ
しずく「あははは…………」
しずこ「──────本当に、かすみさんは可愛いよ」ボソッ
23: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:49:14.70 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「とうちゃーく!」
しずく「今日も気配や視線の類は感じなかった?」
かすみ「うん、ここ最近はそんな感じ。家が遠いのにわざわざありがとね、しず子」
しずく「どういたしまして。じゃあ私は帰るけど、かすみさん、調子に乗って夜更かししたりしちゃダメだからね? まだストーカーさんが諦めたとも限らないんだから」
かすみ「お家に帰っちゃえばこっちのものだよ! しず子も気をつけてねーっ!」バイバーイ
しずく「うん、また明日」ニコッ
しずく「………………………………」
しずく「…………………………」
しずく「………………」タッタッ…
24: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:50:27.14 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「うーん、しず子はああ言ってたけどぉ、今日はテンション高いし夜通し映画鑑賞でも……にひひ」
プルルルルルルッ!
かすみ「あれ、電話だ」
かすみ「珍しいなー、こんな時間に。一体誰だろ?」
かすみ「……もしもし。中須でーす」ガチャ
25: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:51:40.91 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「…………………………」
かすみ「あれっ? もしもーし?」
かすみ「………………おかしいなぁ」
かすみ「もしもーし」
かすみ「………………あのー、もしもー
???「お帰りなさい、かすみちゃん……♡」
かすみ「ひッ⁉」
26: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 03:52:47.47 ID:bsJhP9C/.net
???『無駄だよ。見てるよ。ずっと見てるよ。私はかすみちゃんだけを見てるんだよ。今日は帰りが30分くらい遅かったね。昨日は一時間早かったよね。最近一緒に帰っているのはお友達かな? 可愛いね。可愛いねかすみちゃん』
かすみ「あ、や……や、」
かすみ「ッ‼‼」ガチャン!
かすみ「…………はァ、はァッ…………」
かすみ「……な、んで、こんな、」トサ…
かすみ「………………………………」ジワッ
かすみ「う゛うぅぅっ……なんでぇ……怖い……怖いよぉ……!」ブルブル
49: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 10:15:41.46 ID:JMeUvg0M.net
~部室・お昼休み~
侑「え、え゛ぇっ⁉ 今度は監視電話⁉」
かすみ「はい……かすみん、それを聞いて体の震えが止まらなくなって……誰かに見られてるんだって、怖くなって、家の中なのに安心できなくて……!」
歩夢「そんな……」
璃奈「ここ最近の対策を踏まえて……相手がつきまとい方を変えてきたとしたら、意味がない。また新しい対策を考える必要がある。だから、集まってもらった」
せつ菜「ストーカーと言っても、手口は一つではない、という事ですか……」
果林「……確かに、電話もストーカーによく見られる行為の一つよ。といっても無言電話が多くて、ベラベラ喋るっていうのは結構大胆なケースだと思うけど……」
50: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 10:23:16.57 ID:JMeUvg0M.net
侑「と、とにかく家の電話には不用意に出ないようにして……それからもう一度警察に行って……今度こそ動いてくれるかもしれないし」
彼方「しずくちゃ~ん、昨日特に不審な人影を見たりはしなかったんだよね~?」
しずく「はい……私も気を配っていましたが、特にそういった怪しい人はなく……電話の声も、くぐもっていて性別が女であることくらいしか判別できなかったそうですし……」
エマ「でも……かすみちゃんの帰宅に合わせて電話をかけられるってことは、どこからか監視してるって事だよね~……?」
かすみ「ひぃっ……!」ゾワ
エマ「あっ! ご、ごめんね、変なこと言っちゃったよね。大丈夫、大丈夫だから……」アワアワ
54: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 11:44:46.90 ID:bsJhP9C/.net
侑「今日の練習、なんだけど……かすみちゃん、難しそうならお休みしていいからね。家まで私が送っていくから」
かすみ「…………い、いえっ! かすみんはやります! 練習させてくださいっ!」
侑「ええっ⁉」
璃奈「かすみちゃん……本当に? 顔色、悪いよ。無理しない方がいいと思う」璃奈ちゃんボード『心配』
かすみ「確かにそうかも、ですけど……でも、かすみんにとってこの同好会は一番大好きな場所なんですっ。それまで無くなっちゃったら……かすみんは本当に、どうにかなっちゃいます」
55: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 11:47:13.23 ID:bsJhP9C/.net
せつ菜「……かすみさんにとって、スクールアイドル活動が日々の活力になる。そう言ってくれるのでしたら、俄然行うべきです。このまま引きこもっても事態は好転しません!」
彼方「そうだよ~。こんな時だからこそたくさん歌ってたくさん動いて、たくさん笑わなくちゃね~?」
侑「そっか、そうだよね……うん、わかった、やろうっ! ストーカーなんて気にならなくなっちゃうくらい、みんなで楽しんで活動しよう‼」
一同「「「「おーっ‼」」」」
しずく「…………………………………………」
56: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:02:10.42 ID:bsJhP9C/.net
~夜、かすみん宅~
侑「かすみちゃん、お疲れ様!」
かすみ「侑先輩、今日もとっても楽しかったです。かすみんパワーは十分に貯められました! また元気にやっていきますよ~?」
侑「……辛くなったらいつでも言ってね、かすみちゃん。私はちょっと近辺をパトロールしてから帰るよ。大丈夫、私たちがついてるから」
かすみ「せんぱぁい……はい、はいっ! かすみんは幸せ者ですっ!」ギュゥ
侑「えへへ、甘えん坊さんなかすみちゃんも可愛いなぁ~」エヘエヘ
58: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:03:13.76 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「ありがとうございました~っ!」パタン
かすみ「……ふぅ。ただいま~っ」
かすみ「お父さんもお母さんも、帰るまでもうちょっとあるよね。うぅ、一人でいる時間が一番怖いのに」
かすみ「とりあえず、お風呂を沸かして……」
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
かすみ「‼‼‼」ビクッ!
60: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:19:15.73 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「────は、はぁ……は、はッ……‼」
かすみ「やっぱり……私が帰る時間、知って……」バクバク
かすみ「おかしいよ…! 周りは先輩がパトロールしてくれてて…! 部屋の明かりだって消して、外からは分からないようにしてるのにっ…! なんで…⁉」
かすみ「どこですかっ⁉ どこから見てるんですかっ⁉」
かすみ「……………っ」ハァハァ
かすみ「……出ちゃだめ、出ちゃだめ、出ちゃだめ、出ちゃだめ……」ブツブツ
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
64: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:26:09.03 ID:bsJhP9C/.net
電話は毎日きっちり一回、かすみの帰宅時間を狙うようにしてかかってきた。
練習時間をいくら変えようと、いつもとは違う道で帰ろうと意味がなかった。
かすみ「────わん、つー! わん、つー! 侑先輩見ててくださいっ! かすみんは今日も絶好調ですよ~っ!」フリフリ
かすみ「────今日は帰りにパンケーキ食べて帰ろう? ねぇねぇしず子~、りな子~、いいでしょ~っ?」
かすみ「────ぎえーっ! ごめんなさいごめんなさいつい魔が刺してしまったんですぅっ! おしおきは軽めでお願いします~っ!」
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
プルルルルルルッ!プルルルルルルッ!
どんなに楽しくても、帰るたびに鳴り響く電話の音が、かすみの精神を追い詰めていく。
かすみ「…………………っ」ギュゥ
72: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:34:16.90 ID:bsJhP9C/.net
~約一週間後・朝~
かすみ「あ、もうこんな時間」
かすみ「うぅ~っ。最近あんまり眠れてないなぁ……」
かすみ「行ってきます……」ボソッ
かすみ「流石に朝は大丈夫だろうけど、家から出るのもちょっと怖いかも……」
かすみ「これ、いつまで続くんだろう……」ゲソッ
71: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:32:02.85 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「……いやいやっ! 何を弱気になってるの! かすみんたるもの、笑顔を絶やさず可愛いを貫くべし! 落ち込んでたりなんかしてられないですよねっ‼」
かすみ「訂正っ! 今日も可愛さよし元気よし忘れ物なしっ! 行ってきまーす‼」ニパー
かすみ「ふんふふ~~ん♪」ガチャ
かすみ「えっ」
かすみ「…………………………………え?」
80: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:51:02.42 ID:bsJhP9C/.net
いつもとは違う「それ」を見て、かすみの足はぴたりと停止した。
頭が真っ白になって、動けなくなったのだ。
かすみの目に入ったのは、玄関口に無造作にばら撒かれた、他ならぬ中須かすみを映した写真の数々だった。
撮られた記憶などなかった。どれもがやけに遠いアングルから撮られていて、隠し撮り写真であることは明らかだった。中には練習中の写真すらあって、かすみの胸中に、大切な同好会を穢された嫌悪感が嵐となって吹き抜けた。
かすみ「わ、わたしの……写真、えっ、こんなに、なんで」
85: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 12:55:31.88 ID:bsJhP9C/.net
かすみ(────うそだ、おかしい、おかしいよ……だってついさっきお父さんが家を出たばっかりなのに。お父さんが気づかないはずがないのに)
かすみ(ちがう。違う! 気づかなかったんじゃない! お父さんが家を出て私が家を出るまで……ほんの10分くらいの僅かな間に、ストーカーがここに来て写真を置いていったんだ!)
かすみ「はッ……はッ……はぁッ……‼‼⁉」バクバク
かすみ(朝だからって油断してた。ストーカーはいるんだ。もう、すぐそこに潜んでるんだ‼)
89: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:00:51.68 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「う、う゛うぇっ…………ッ⁉」ゲェッ
その事実を認識してしまった途端、かすみの全身を恐怖という感情が縛りつけた。食べたばかりの朝食が食道を逆流して、気がついた時には嘔吐していた。
怖かった。
ただひたすらに怖くて、怖くて、すぐ目の前の表札の奥にすらストーカーが潜んでいる気がして、かすみは写真を拾うことすらできずに家の中へと飛び込んでいた。
90: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:11:34.54 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「──なんで、なんでっ、なんでぇっ‼」バタンッ
かすみ「いやだよ……怖いよ……っ! 助けてぇっ!」
かすみ「はあっ、はあっ、はあっ! おかあさん! おとうさん! 先輩っ! しず子! りな子ぉっ!」
かすみ「電話、電話しなくちゃ、電話っ」ガチャガチャ
かすみ「はやくっ、誰でも、誰でもいいからっ、誰か……」グズッ
かすみ「誰かわたしを、助けてよぉ……‼‼」
96: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:24:13.74 ID:bsJhP9C/.net
~お昼休み・部室~
侑「……………………連絡が、ありました。やっぱり今日、かすみちゃんは学校をお休みしたそうです」
侑「一時は軽い錯乱状態にまで陥ってて、落ち着いてから聞けた話によると、かすみちゃんが家を出るタイミングで玄関に写真がばら撒かれていたそうです」
侑「かすみちゃんは家から出ることも嫌がっていて……必然的に、学校に登校できるような状態じゃありません」
一同「「「「「……………………………………」」」」」シーン
101: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:29:13.88 ID:bsJhP9C/.net
侑「……だから、今日のところはひとまずかすみちゃん抜きで……練習、を」
果林「なんでよッ!」バンッ
エマ「か、果林ちゃん、落ち着いて!」
果林「落ち着いてられるわけがないでしょう! かすみちゃんが! この同好会で一番明るいあの子がっ……! 姿も見せない卑怯者に追い詰められて、家から出ることすら出来なくなっているのよ⁉」ガタン
愛「アタシだって怒り心頭だよ……こんなに怒ったこと、はじめてかもしれないくらいに」ギュ
せつ菜「もうこれはイタズラや過剰な好意の域を超えています。犯人には罰が与えられるべきです!」
歩夢「み、みんな、一旦落ち着こうよ……! 気持ちは十分分かるけど、流石にヒートアップし過ぎてるよ……!」ワタワタ
103: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:36:58.45 ID:bsJhP9C/.net
璃奈「……警察はどう言ってるの?」
侑「うん、警察もようやく動いてくれたよ。かすみちゃん宅周辺のパトロール強化とか、捜査とか。色々やってくれるみたい」
しずく「でも、かすみさんは……」
侑「うん。かすみちゃんが、それで家を出れるようになるかどうかは……まだ分からない」
彼方「ここまで来ると女子高生になんとかできる範疇を超えちゃったねぇ……あとはおまわりさんを信じるしかないのかな~?」
侑「いや……まだ、出来ることはあると思う。もちろん、かすみちゃんの意思次第だと思うけど……」
105: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:40:18.06 ID:bsJhP9C/.net
璃奈「というと、どんなこと?」
侑「かすみちゃんは言ってたよね。怖くて、家の中なのに安心できない……って。だったら安心できるようにすればいいんだよっ!」
せつ菜「…………!!!!!」ハッ
愛「なるほど……それは確かにいい考えかも」
璃奈「かすみちゃんも賛成してくれると思う」璃奈ちゃんボード『ディモールト良いぞ』
歩夢「早速電話してみようよ。今晩にでも、さっそく!」
ガヤガヤ
107: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:42:11.27 ID:bsJhP9C/.net
果林「……………………………………えっと、」
エマ「果林ちゃん? 侑ちゃんはね、かすみちゃんがお家にいても不安になっちゃうなら、お泊りに行って不安を解消しよう! って言いたいんじゃないかな?」
果林「あ、え、ええ。分かっていたけれど、うん、説明助かったわ」
彼方(……果林ちゃん……)
108: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:43:04.68 ID:bsJhP9C/.net
~お昼・かすみ宅~
かすみ「……………………うぅ。気が晴れない」
かすみ「学校休んで、警察呼んで、お母さんにもお父さんにも、迷惑かけちゃった……お母さんはお仕事休んでくれたし……」
かすみ「……なんで、わたしが、こんな目に」
かすみ「うぅ……怖いよ……誰かに見られてる気がする……いやだ……」オフトンクルマリ
かすみ「……………………………………」グスッ
112: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 13:56:50.07 ID:bsJhP9C/.net
ガサガサッ
かすみ「っ⁉」ビクッ
かすみ「なんか音聞こえたっ……いや、来た、来たっ! 助けてっ、お母さんっ、いやっ……」
……オーイ!ボールドコイッター? アッタゾー!
かすみ「はーっ、はーっ……」
かすみ「あ……な、なんだ、近所の子供か……わたし、てっきり……」
かすみ「てっきり…………………………」
かすみ「…………っ」ポロ
かすみ「怖いよ……怖いよぉ…………………っ」ポロポロ…
113: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:09:55.21 ID:bsJhP9C/.net
~放課後・部室~
侑「ということで、厳正なる抽選の結果……今日のお泊まりはしずくちゃんと璃奈ちゃんにお願いすることになりました。かすみちゃんにもオーケーは貰えたよ」
璃奈「かすみちゃんを励ましてくるね」璃奈ちゃんボード『わが心と行動に一点の曇りなし』
しずく「一年生同士、頑張りましょう!」
せつ菜「私達のぶんまでお願いします。かすみさんのことですから、きっと一緒にいてあげるだけでも効果があるかと」
歩夢「そうだ! かすみちゃんの好きそうなお菓子とか、色々差し入れで持っていこうよ」
彼方「お……じゃあ、調理室を借りて何か作っちゃおうかな~? ササっと作れそうなものは……」ムクリ
愛「映画とか借りて行くのもいいかもねー!」
114: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:11:15.87 ID:bsJhP9C/.net
エマ「なんだか何とかなりそうな気がしてきたね、果林ちゃん」
果林「えぇ。……でも、心の傷の浅し深しを知る事ができるのは本人だけよ。もし、かすみちゃんが私たちの想像よりも苦しんでいたとしたら……私たちだけが盛り上がって、かすみちゃんをかえって苦しめてしまう結果になるかもしれない」
侑「うっ。そ、そうだよね、なんだか楽しい雰囲気になってたけど、かすみちゃんは苦しんでるんだもんね……」
果林「いいえ、別に楽しむなと言ってる訳じゃないのよ? 私達はかすみちゃんを楽しませるために行動するんだから、まずは私達が楽しまないと。その上で、どうするべきかをしっかりと見定めることが必要になるわ。難しいことを言うようだけど……」
璃奈「うん、そうだよね。ありがとう、果林さん」
しずく「はい、重々気を付けます!」
118: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:12:02.67 ID:bsJhP9C/.net
果林「……どういたしまして。楽しんで、精一杯励ましてくるのよ」
エマ「こういう時、果林ちゃんは偉いよねぇ」
果林「えっ⁉ な、なんで急にっ⁉」ドキッ
エマ「だって~、果林ちゃんはこういう時冷静に判断して、みんなとは違う意見を出してくれるでしょう? 私には出来ないことだな~、って」
果林「……も、もう。私はただ、体裁を繕おうと必死なだけよ。過大評価だわ」
エマ「照れちゃって~っ。優しい果林ちゃんにはいいこいいこしてあげる」ヨシヨシ…
果林「わっ、ちょ、やめて! せめて寮に帰ってから──」
しずく「……………………………………」ニコッ…
123: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:16:43.63 ID:bsJhP9C/.net
~夕方・かすみ宅~
璃奈「いざ参る」ピンポーン!
しずく「ちょっと緊張してきちゃった……かすみさん、元気になってくれるといいんだけど……」
かすみ「…………はーい! しず子、りな子、かすみんの家にようこそっ!」ガチャ!
璃奈(思ったより、元気そうだけど……)
しずく(うん……顔は笑ってるけど、なんだか雰囲気がいつもと全然違う……まるでかすみさんじゃないみたい)
124: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:17:49.29 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「どーしたのー、突っ立ってないで入りなよー! かすみん心細かったから、二人が来てくれてとっても嬉しい!」
璃奈「じゃあ、おじゃまします」
しずく「お邪魔します」パタン
かすみ「しず子は何回か来てるけどぉ、りな子は初めてだよね。あがってあがって~」
璃奈「おぉー。ここがかすみちゃんの部屋。意外と片付いてる」璃奈ちゃんボード『グッド!』
しずく「やっぱりそう思うよね~、最初は」フフッ
かすみ「ちょっとぉ! どういうこと~、それはっ⁉ まるでかすみんが片付け出来ない子みたいじゃん!」
125: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:19:28.56 ID:bsJhP9C/.net
璃奈「そういえば、かすみちゃんのお母さんは?」
かすみ「ちょっとお買い物。あれからなるべく一緒にいてくれるんだ。すぐに戻るんじゃないかな~? ……かすみん、お茶淹れてくるね! 変なところ触ったら許さないよっ!」パタパタ
しずく「ありがとう、かすみさん」
しずく「……………………璃奈さん、どう思う?」コソッ
璃奈「やっぱり、無理に頑張ってるというか、笑顔を作ってる感じ。わたしも似たような経験があるから……」璃奈ちゃんボード『嘘をついている味だぜ』
しずく「だよね……。かすみさん、やっぱり……」
127: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:22:13.22 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「なになに? 何の話?」バターン!
璃奈「速いっ」
しずく「あ、あの……その、かすみさんの、話で」
かすみ「えーっ? かすみんの話ならかすみんも混ぜてするのが普通でしょーっ? で、どーしたの?」
璃奈「──────……それは、」
しずく「かすみさん……その、大丈夫……?」
128: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:24:46.00 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「……だ、大丈夫かって、かすみんに問題があるように見えるっ? かすみんはかすみんだよ! なーんにも問題ないよっ‼」
しずく「だって、今のかすみさんはおかしいよ。無理してるのが伝わってくる……! 今くらい、素直になってもいいはずだよ、かすみさん!」
かすみ「ちが……かすみんは、いつも通り、いつも通りで……」
璃奈「そんな事ないはず。だって、かすみちゃん、今日は学校も休んで……」
かすみ「────────────────────────────────────────」プツン
131: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:28:11.78 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「………あはっ、ははっ、はははははっ」
しずく「か、かすみさん?」
かすみ「大丈夫、って聞いたよね、しず子。まさか本当にわたしが「大丈夫」だと思ってそれを聞いたの? こんな状況で」
しずく「え、あ、いやっ、そんなつもりじゃ」
かすみ「そんなつもりじゃないなら黙っててよっ‼」バンッ
133: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:31:13.60 ID:bsJhP9C/.net
璃奈「っ‼」ビクッ
かすみ「……………………しず子はさぁ、いいよね」
しずく「えっ?」
かすみ「だってそんな質問、どれだけ怖いか本当に分かってたら出てこないはずだもん。つきまとわれて、止んだと思ったら今度は気持ち悪い電話をされて、写真までばら撒かれて、大丈夫なわけがないんだよ‼‼」
しずく「あ、か、かすみさ」
かすみ「結局他人事なんだよ! しず子にとっては! 私がどれだけ怖いかなんて分かりっこない‼ そうだよね、しず子は一日一緒に帰ってくれただけで、ストーカーの姿も声も知らないんだもんね‼‼」ドンッ!
135: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:36:10.23 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「りな子もそうだよっ‼ スタンガンなんて渡して自分の仕事は終わった気になって‼ あんなの結局一回も使ってないっ……‼ こんなに怖くて苦しいのに、何の役にも立ってないっ‼‼」ダンダンッ!
しずく「やめて、かすみさん、お願い、やめてえっ‼」ガシッ
かすみ「ふーーっ……、ふーっ………………‼」
璃奈「か、かすみ、ちゃん」
しずく「お願い……お願いっ……」
140: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:38:59.34 ID:bsJhP9C/.net
かすみ「…………………」
かすみ「………………………………………あ、」
かすみ「………………あれ、あれ? なんで、わたし、こんな事」ポロッ
かすみ「う、ううっ、違う……違うの……! しず子もりな子も、わたしが心配で、来てくれたのに! なんで、なんでわたし、こんな……ひどいこと、言って」ポロポロ
かすみ「うあ、あぁぁ…………ぁ……」
141: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 14:40:05.13 ID:bsJhP9C/.net
璃奈「かすみちゃん、疲れてる。ストーカーにあんなことまでされて、精神状態も限界に近い。些細なことで暴発してしまうのは、仕方がない」
かすみ「でもぉっ! わたし、最低だよ……‼ 他人事だなんて、役に立ってないだなん゛て、友達に……本当に、最低っ……‼ わだじ、っ、最低っ、最低最低最低っ、う゛ぅぅ……う……‼」
かすみ「ごめ゛ん……ごめん゛ね゛ぇ、しず子……りな子ぉ……っ……」グズッグズッ
しずく「………………………………」ギュッ
169: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 17:13:41.21 ID:JMeUvg0M.net
しずく「かすみさん、いいんです。かすみさんはそんなことを言うような人じゃないって、私も璃奈さんも知ってるから。だから、謝らないで」
璃奈「……うん」ギュッ
かすみ「えぐっ、え゛ぐ……ちょっと……二人とも……苦しいよぉ……前と後ろから抱きつかれたら、コッペパンの具みたいになっちゃうよ……」
しずく「かすみさん、安心して。もう、私達がいるから、本当の本当に大丈夫」ナデナデ
かすみ「…………ひぐっ、うえっ、う゛ぅぅえ゛えぇぇぇぇ…………」
しずく「安心して、いいんだよ────」
173: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 17:32:43.44 ID:JMeUvg0M.net
~深夜、かすみん宅~
しずく「──そろそろ夜も更けてきちゃったし、寝ないと」
かすみ「えぇーっ? まだかすみんりな子に一回も勝ててないのにーっ」
璃奈「かすみちゃん。基礎的なコンボが組めないようじゃ、まだまだ……それじゃ私のゼロサムには勝てないよ」璃奈ちゃんボード『やれやれだぜ』
かすみ「う~……そもそもりな子が上手すぎなの! ズルじゃん! 復帰阻止コンボは!」
しずく「もう。電源切るからね」ポチ
かすみ「あ゛あ゛ぁぁ~~~~っ!!!」
175: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 17:53:39.59 ID:JMeUvg0M.net
かすみ「いや~さすがに三人でベッドは無理があったかなあ~?」ギチギチ
璃奈「か、壁が、近い……」グムム
しずく「か、かすみさん! あんまり押さないで落ちちゃうからっ!」
かすみ「あはは。でもぎゅうぎゅうで楽しいじゃん!」
しずく「もうっ……真ん中だからって」
璃奈「り、璃奈ちゃんボード……あっ届かない……」
176: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 17:54:22.68 ID:JMeUvg0M.net
かすみ「………しず子、りな子ぉ。ありがとね」
二人「「!」」
かすみ「わたし、酷いこと言っちゃったのに。許してくれて、励ましてくれて、本当に嬉しかった。すっごくすっごく、嬉しかったよ」
璃奈「……良かった。私も、とっても嬉しい」
しずく「ずっと見ていてあげるからね。ずっと……だから、おやすみ、かすみさん……」スッ…
かすみ「うん…二人とも、ありが……とう……」
かすみ「…………………………」クカー
179: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:00:50.41 ID:JMeUvg0M.net
璃奈「すぐに寝ちゃった」
しずく「きっと不安で眠れてなかったんだよ。私達も寝よう、璃奈さん」
璃奈「うん……そうだね、しずくちゃん。おやすみ」
しずく「おやすみなさい」
璃奈「………………………………………………」
璃奈「………………………………」ゴソゴソ
璃奈「……………眠れない」アボーン
180: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:05:08.72 ID:JMeUvg0M.net
璃奈(寝ようとしてるけど、寝れない。……理由はもう分かってる。しずくちゃんのさっきの言葉が、頭から離れないから)
璃奈(まさか、とは思う。九割九分違うと思うし、本当はこんなこと考えたくない。でも考えてしまう。良くない方向に想像が膨らんでしまう。だから、寝れない)
璃奈(『ずっと見ていてあげる』……)
璃奈(よく考えてみるとおかしい点が幾つかある。犯人はかすみちゃんの帰宅時間を毎日正確に把握していた。練習時間を大きくずらしても、欠かさず電話がかかってきた)
璃奈(はじめて、今日、電話がかかってこなかった)ゴクリ
190: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:37:52.71 ID:JMeUvg0M.net
璃奈(かすみちゃんが外に出なかったからと言えばそれまで。でも、毎日欠かさず電話をしていたような人が、なんで今日は電話をかけなかったのか)
璃奈(────もし、かけなかったんじゃなくて、「かけられなかった」んだとしたら?)
璃奈(そう考えると辻褄が合う。合ってしまう。どうしてかすみちゃんの帰宅時間を把握できたのか。どうして学園内にいるかすみちゃんの写真を怪しまれずに撮る事ができたのか)
璃奈(全部、合う。犯人が、しずくちゃんだと考えたら)
191: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:48:09.37 ID:JMeUvg0M.net
璃奈(…あり得ない。友達を疑いたくない。もしかしたら、わたしは最低なことを考えているのかも。だって、こんなことあっていいはずがない)
璃奈(でも、そうだとしたら)
璃奈(しずくちゃんが全ての元凶なのだとしたら、私は、いったいどうしたらいいんだろう…?)
192: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:49:21.66 ID:JMeUvg0M.net
しずく「うぅ~ん……?」チュンチュン
かすみ「くかーっ……ぐごー…………えへぇ、卵かけコッペパン……」
しずく「うわっ、酷い寝息と寝癖……かすみさん、起きて、朝だよ。今日はお休みだけど、早起きは三文の徳って言うでしょう」
かすみ「うぇ……う……あと五分……」
しずく「だめっ。ほら、璃奈ちゃんも起こし…」
197: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 18:55:33.95 ID:JMeUvg0M.net
しずく「⁉」ギョッ
璃奈「おはよう……二人とも……」ギンギン
しずく「り、璃奈ちゃん⁉ まさかずっと起きて……⁉」
かすみ「うわ目の下のクマ凄っ! 怖っ!」
璃奈「うん……考え事してて、寝れなくて」璃奈ちゃんボード『大切なのは『真実に向かおうとする意思』だ』
200: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:07:47.88 ID:JMeUvg0M.net
~昼・かすみ宅~
かすみ「……えへへ~、二人とも昨日はありがとっ! これでかすみん復活ですっ!」
璃奈「本当に、良かった。今日は侑さんと歩夢さんがお泊まりに来るはず」
しずく「警察がストーカーの犯人を捕まえてくれるまで、なんとかこれで頑張ろう!」
かすみ「うん。二人のおかげで不安も薄れたし、どんとこい! だよ」
しずく「あはは、またそういうこと言って……」
201: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:08:19.86 ID:JMeUvg0M.net
「──────か、かすみっ‼‼」バタバタ
その時、家の奥から突然聞こえてきたのは、かすみの母親が彼女を呼ぶ声だった。
三人がその声に振り返ると、かすみの母親は慌てた様子でこちらに走り寄り、耳に当てたスマートフォンをそのままに言った。
「いま、警察の人から連絡があって。ストーカー捕まったって!」
205: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:10:33.81 ID:JMeUvg0M.net
~数日後、同好会部室~
侑「なんか呆気なかったねえ。こっちは最悪耐久戦どころかローラー作戦まで覚悟してたのに、流石はおまわりさん。本気になれば敵うものなしじゃん」
歩夢「犯人がまさか近所の大学生さんだったなんて……でも、かすみちゃんにしたことは許されないよね」
彼方「とはいっても、いきなり逮捕とはいかないんだよね~。まずは禁止命令が出されるだけだから。それを破ったから今度こそ逮捕だけど……相手も反省しているようだし、そこまではいかないんじゃないかな~」
せつ菜「彼方さん、物知りですね……」
211: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:12:09.67 ID:JMeUvg0M.net
彼方「えへん。意外とこういう知識も入れているのだ~……久々に安心して眠れそうだから、おやすみぃ」パタン
愛「カナちゃん、ここ最近あんまり寝てるところを見なかったからな~。かすかすが心配で熟睡できなかったのかも」ツンツン
果林「それにしても、行ったのは付きまといだけで電話や写真の件に関しては知らず存ぜぬを通しているらしいけど。変なところで諦めが悪いわね」
エマ「まあ、いいんじゃないかな~? 犯人も捕まって、迷惑行為も止んで、かすみちゃんも学校に来れるようになって。万々歳だよ~」
221: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:18:55.29 ID:JMeUvg0M.net
しずく「遅れましたー!」バタンッ!
璃奈「一年廊下が清掃で使えなくて。ごめんなさい」璃奈ちゃんボード『遠回りこそが俺の最短の道だった』
かすみ「かすみん到着です! お待たせしましたっ!」
侑「────うん。かすみちゃん、おかえり」ニコ
オカエリナサイ! オカエリ! オカエリ~!
222: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:19:44.97 ID:JMeUvg0M.net
かすみ「………………………っ、」
かすみ「────はいっ! かすみんは、かすみんはっ! ただいま戻りましたあっ‼ みなさんっ、本当に、ありがとうございましたぁ‼‼」グスンッ
イインダヨー ヨカッタヨカッタ
カスミチャンナイテルー コレハメジルデス! カスミンノナミダハヤスクナインデス!
メジルッテナニ…アハハ…ガヤガヤ…ンビュブブブフブww
かすみ(……また戻って来れて本当に良かったと、みんなの笑顔を見た瞬間に感じました。何回言っても言い切れないありがとうを、言いたいと思いました)
223: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:20:23.62 ID:JMeUvg0M.net
かすみ(辛くて、苦しくて、とっても嫌な経験でした。かすみんが一人だったら、潰れてしまっていたと思います)
かすみ(でも、わたしには同好会がありました! 大好きなみんながいてくれましたっ!)
かすみ(かすみんはこれからも頑張ります)
かすみ(もっともっとこの同好会を盛り上げて、いつか誰かが苦しい時、かすみんも助けられるように。この恩を返せるように、努力していこうと思います)
かすみ「よーし! 今日も頑張りますよー!」
かすみ(わたしは、この同好会が、みんなのことが、とってもとっても大好きです────‼)
~完~
238: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:29:29.68 ID:JMeUvg0M.net
しずく「────なぁんて、ね♡」
239: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:29:53.32 ID:JMeUvg0M.net
~それから数日後・学校中庭~
しずく「……これで終わり。めでたしめでたし、なんて。そんなわけがないのにね。ふふふっ♡」
しずく(虹ヶ咲スクールアイドル同好会を騒がせたストーカー騒動は、もう既に終わりを迎えた……)
しずく(それ以来かすみさんがそういった被害に遭うことはなく、かすみさんもすぐにいつもの調子を取り戻していった。もう今ではすっかり元気で、同好会には元の平穏が戻っている)
243: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:34:15.65 ID:JMeUvg0M.net
しずく(穏やかな日々……)
しずく(かすみさんは笑っている。歌って、喜んで、目一杯楽しんでいる)
しずく(もう、あんな声をあげる必要はない。涙を溢す理由は、ない)
しずく(……………………………)
244: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:35:54.07 ID:JMeUvg0M.net
しずく「……………………………」イヤホンハメ
しずく「………………………………………」ピッ
かすみ『────そんなつもりじゃないなら黙っててよっ‼』
しずく「…………」ピッピッピッ
かすみ『結局他人事なんだよ! しず子にとっては! 私がどれだけ怖いかなんて分かりっこない‼ そうだよね、しず子は一日一緒に帰ってくれただけで、ストーカーの姿も声も知らないんだもんね‼‼』
かすみ『う、ううっ、違う……違うのに……しず子もりな子も、わたしが心配で、来てくれたのに。なんで、なんでわたし、こんな、ひどいこと』
かすみ『わたし、最低だよ……‼ 他人事だなんて、役に立ってないだなん゛て、友達に……本当に、最低っ……‼ わだじ、っ、最低っ、最低最低最低っ、う゛ぅぅ……う……‼』
かすみ『ごめ゛ん……ごめん゛ね゛ぇ、しず子……りな子ぉ……っ』
かすみ『うあ、あぁぁ…………ぁ……』
249: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:40:44.41 ID:JMeUvg0M.net
しずく「…………………~ッッ♡♡」ゾクゾクッ
しずく(私はいま、陽の当たるベンチに腰掛けて、かすみさんの録音した音声を聴いている)
しずく(そう、私はこれを求めていた。精神的に追い詰められて、苦しんで、いつもあんなに明るいかすみさんが見る影もなくボロボロになって絞り出す、あんな声を、すり切れた姿を……切望していた)
しずく(────だから、全てを仕組んだ)
257: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 19:51:45.25 ID:JMeUvg0M.net
しずく(きっかけを作ったのは私じゃない。実際、最初につきまとい行為を始めたのは例の大学生だった。私はそれに便乗させてもらっただけ)
しずく「何処の馬の骨とも知らない女が私のかすみさんに付きまといを始めたのはとっても不愉快だったけど……そのお陰で望むものを見れました♡ ありがとう、わざわざスケープゴートにまでなってくれて……♡」フフッ
しずく(そうだ。迷惑電話も、写真のばら撒きも、全部私が仕立て上げた。そしてかすみさんを精神的に追い込んで、苦しめ、その姿を眺めて悦に浸った)
しずく(本当に、楽しかった……)
しずく「ふふっ……ふふふふふ……っ♡ このかすみさんの声、何度でも聴けちゃうなあ……♡ 本当に、とっても、とぉっても可愛いよ、かすみさん……♡」
264: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:00:38.03 ID:JMeUvg0M.net
しずく(我を忘れて怒るかすみさん。自分が不甲斐なくて子供みたいに泣きじゃくるかすみさん。恐怖で我を忘れてしまったかすみさん。ぜんぶ、ぜんぶ、大好き)
しずく「かすみさんが声を荒げて、それから自己嫌悪で押し潰されそうになってるところなんて、もう……っ♡ なんて甘美な毒なんだろう……♡」
しずく「あの時、もしわたしがかすみさんを突き放して……これで絶好だ、なんて言っていたら……♡ かすみさん、どんな顔したのかなぁ……♡♡」
しずく(なんて許されざる悪行だろう。世界で一番大好きな人の苦しむ顔を見て声を聞いて悲しみを理解して、それで私は喜んでしまう)
268: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:08:27.71 ID:JMeUvg0M.net
しずく(狂っている。そんな自覚はとうにある。友人の笑顔よりも、友人の泣き顔を見たい。友人の歌声よりも、友人の嗚咽が聞きたい。友人の喜ぶ姿よりも、友人の絶望にうしひしがれる姿をじっくりと眺め回したい)
しずく「……でも、かすみさんがいけないんだよ…?♡ かすみさんが、本当の私が大好きだ、なんて言ってくれたんだから……♡♡」ピッピッ
しずく(きっとどこにも出してはいけなかった「わたし」は、あの雷鳴に打たれて動き出した。揺るがぬ自信を得て、覆い隠す仮面を壊してしまった)
しずく「好き……好きだよ……♡ かすみさん、大好き……もっと、もっと聞きたいよ……苦しんで、泣きじゃくって、喚き散らす姿を……絶望に喘ぐ……そんなかすみさんを見たいよぉ……♡」ゾクゾクッ
271: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:15:33.55 ID:JMeUvg0M.net
しずく(異常な愛に取り憑かれて、もう「わたし」は止まらない。胸を焦がす気持ちはブレーキの壊れた車みたいで、私自身にすら制御できない)
しずく(だから、いつかは終わるのだろう。いつか私の仮面の奥の本性がバレて、何から何まで裏切っていたことを、かすみさんが知るときは必ず来る。いや、わたしがきっと終わらせる)
しずく(でも、まだ早い。もっと、もっともっともっともっとかすみさんと過ごして、遊んで、歌って、そして最後に全てを知った時の顔を見たい。大好きなかすみさんの絶望しきった顔を焼き付けて、死にたい)
しずく(今回の行いが露呈することがなかったのは幸いだった。まだ私はかすみさんと一緒にいる事ができる)
しずく(「楽しむ」ことができる────……)
277: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:38:56.65 ID:JMeUvg0M.net
かすみ「しず子ー? あれ、何聞いてんのー?」ヒョコッ
しずく「ああ、かすみさん。うふふ、ちょっとね」ニコッ
かすみ「えーっ気になる気になる~! アイドルの曲? クラシック音楽とか? かすみんにも聞かせてよ~っ!」
しずく「焦らないで、かすみさん。……いつかきっと、たくさん聞かせてあげるから。今のよりもずっと凄いものを」
かすみ「???」
283: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:55:05.99 ID:JMeUvg0M.net
かすみ「えー、よく分かんない……まあいっか! かすみん楽しみにしてるからねっ。はやく練習いこっ、しず子! 置いていくよ~!」タタッ…
しずく「あっ、もう! 待ってったら~……!」
しずく(…………うん。楽しみにしていてね、かすみさん)
しずく(貴女が私を狂わせたように、私はいつか貴女を壊す。その綺麗な心を折って潰して粉々にして、かすみさんも狂わせてあげる。一緒に狂い果てようね)
しずく(──────ああ。貴女のことが大好きだよ、かすみさん)
~完~
285: 名無しで叶える物語 2020/11/25(水) 20:56:01.53 ID:JMeUvg0M.net
今度こそ本当に終わりです
お付き合い頂きありがとうございました。
かすみ「ストーカー被害?」