1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:02:15.185 ID:wtcqmvjF0.net
-薄暗い石畳の部屋-
ガヴリール「ん……」
ガヴリール「あれ、私……寝ていたのでしょうか」
ガヴリール「……それにここは、どこでしょう」
ガヴリール「どこかの地下、のように思えますが……」
ガヴリール「部屋の中には何もありませんし」
ガヴリール「どうして、私はこんなところに……」
ガヴリール「あ、あれ……うそ……」
ガヴリール「何も……思い出せない」
3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:05:00.949 ID:wtcqmvjF0.net
ドンドンッ
ガヴリール「誰か! 誰かいませんか!」
ガヴリール「……」
ガヴリール「はぁ、ドアも外から鍵がかけられているみたいですし」
ガヴリール「壁にも特に細工などはありませんね……」
ガヴリール「ど、どうすれば……」
ガヴリール「でも、慌てても仕方がありません」
ガヴリール「大人しく座って、思い出せることがないか、考えてみましょう」
――
ガヴリール「……あれ」
ガヴリール「いけない、少し眠って……」
ガチャ
ガヴリール「ッ!? ド、ドアが……」
ギィッ
ガヴリール「……だ、誰?」
タプリス「……やっと、見つけました」
タプリス「まさか、こんなところに、いらっしゃるなんて……」
タプリス「探すのに手間取ってしまって、ごめんなさい」
タプリス「随分、お待たせしてしまいましたよね」
タプリス「……でも、もう大丈夫ですから」
タプリス「さぁ、行きましょうか」
ガヴリール「あの……」
タプリス「どうしました? 天真先輩」
タプリス「あ、どこか調子が悪かったりします?」
タプリス「でしたら、少し休んでからでも……」
ガヴリール「えっと……」
タプリス「……?」
ガヴリール「あなた……どなたですか?」
タプリス「……ッ」
ガヴリール「ごめんなさい、私、自分の名前以外、思い出せなくて……」
ガヴリール「あなたは、私のお知り合いみたいですけど……」
タプリス「……そうですね、こういう可能性だってあったんですよね」
タプリス「わかってたとしても、やっぱりつらいです……」
ガヴリール「あの……、どうしました?」
タプリス「い、いえ、何でもありませんっ」
タプリス「わたしはですね、天真先輩の後輩で」
タプリス「とても、とーっても、先輩にお世話になった者です」
タプリス「ですから、その恩を少しでも返したくて……」
ガヴリール「……」
タプリス「だから、その……ですね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「天真先輩、あなたを助けにきました」
タプリス「とはいえ、いきなり知らない人にこんなこと言われても」
タプリス「怖いだけですよね、あははは……」
ガヴリール「そ、そんなことは……」
タプリス「で、でも、これだけは信じてください」
タプリス「わたしは絶対に、先輩を裏切ったりしません」
タプリス「絶対に先輩を、ここから救い出してみせますから!」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしが言えるのはここまでです」
タプリス「……それでも、わたしを信じてくれるなら」
タプリス「わたしの手をとってください」スッ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「……ごめんなさい」
タプリス「そ、そうですよね……」
タプリス「そんな、すぐに見ず知らずの人を信じるなんて、無理ですよね」
ガヴリール「いいえ、そうじゃないの」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私なんかのために、ありがとう」
ガヴリール「なぜかはわからないけど、あなたの言葉は……」
ガヴリール「すっ、と胸の中に入ってきて、私を安心させてくれる」
ガヴリール「そんな気がしますから」
タプリス「先輩……」
ガヴリール「それに……ここに一人で居たって、何も始まらないし」
ガヴリール「だったら私は、あなたに賭けてみたい」
タプリス「あ、ありがとうございます、先輩」
ガヴリール「お礼を言うのはこちらの方。改めて、本当にありがとう」
ガヴリール「こんな私ですが、よろしくお願いしますね」
ぎゅっ
タプリス「はい、任されました」
タプリス「……絶対に、手を離さないでくださいね」
-薄暗い通路-
タプリス「ここを抜けると、吹き抜けになっている塔の一階に出ます」
ガヴリール「塔、ですか?」
タプリス「はい、高い高い塔です。100階まであると言われています」
ガヴリール「すごい高さですね……」
タプリス「ええ、それをわたしたちは今から、上っていくんです」
ガヴリール「えっ……ど、どこまでですか?」
タプリス「もちろん、一番上までですよ」
ガヴリール「そ、そうですか。上りきる自信がないですけど……」
タプリス「大丈夫です、階段の傾斜はそこまできつくありませんし」
タプリス「ちゃんと休憩も挟みます」
ガヴリール「一番上には何があるんですか?」
タプリス「それは……ごめんなさい」
タプリス「わたしの口からは言えないんです」
タプリス「でも、先輩にとって、とても大切なものですから」
-塔1階 はじまりの広間-
ガヴリール「すごいですね……上は、本当に吹き抜けになっています」
ガヴリール「床に彫られているのは、フクロウですかね」
ガヴリール「今にも動き出しそうで美しいです……」
タプリス「わたしたちが歩くのは、あそこからです」
ガヴリール「か、壁に沿って、螺旋のように階段が続いているみたいですが」
ガヴリール「一番上が、全然見えませんね……」
タプリス「ここからだと……少し見えづらいかも、ですね」
ガヴリール「あなたは、ここを上ったことがあるんですか?」
タプリス「いえ、厳密にはありませんが……」
タプリス「似たような塔なら、一度だけ上ったことがあります」
ガヴリール「なるほど。それで、そんなに詳しかったのですね」
タプリス「あはは、ある程度はですけどね」
タプリス「準備がよろしければ、出発しましょうか」
ガヴリール「はい、大丈夫です。もともと、何も持っていませんしね」
タプリス「わかりました、では行きましょう」
タプリス「つらくなったら、いつでも言ってくださいね、休憩しますから」
ガヴリール「はい、ありがとう」
-塔11階-
コツコツコツ
タプリス「大丈夫ですか? きつくありませんか?」
ガヴリール「ふふっ、あなたったら、さっきからそればっかり」
ガヴリール「もしかしたら、一階上がるごとに言ってるんじゃないかしら」
タプリス「そ、そうですかね。そんなつもりはなかったんですが」
ガヴリール「大丈夫です、全く問題ありませんよ」
ガヴリール「あなたが前で、私の手を引いてくれていますから」
ガヴリール「あなたの方こそ、疲れたら言ってくださいね」
タプリス「わ、わかりました。ありがとうございます」
ガヴリール「いえいえ、どういたしまして」
タプリス「ふふっ」
ガヴリール「どうしました? 笑ったりして」
タプリス「記憶を失ってても、やっぱり先輩は先輩だなって」
ガヴリール「えっ、どういうことですか?」
タプリス「いえ、何でもありません。先を急ぎましょうか」
-塔25階 赤の回廊-
ガヴリール「あれ、階段がここで途切れていますね」
タプリス「やはり、ここにもありましたか……」
ガヴリール「えっ」
タプリス「この塔にはこうやって、回廊になっている階がいくつかありまして」
タプリス「反対側に回らないと、次の階に行けないんです」
ガヴリール「そうなんですか……でも、今まで階段ばかりでしたし」
ガヴリール「こうやって平坦な場所を歩くのも、気分転換になって」
ガヴリール「良いかもしれませんね」
タプリス「……そうでもないんです、ここは」
ガヴリール「ど、どういうことですか?」
タプリス「先輩、今からわたしが言うことを、絶対に守ってくださいね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「この回廊では、何が起こったとしても……」
タプリス「絶対に、振り返らないでください」
ガヴリール「わ、わかりました……ですけど」
ガヴリール「もし……振り返ってしまったら、どうなるんです?」
タプリス「先輩にとって、よくないことが起こります」
ガヴリール「よくないこと……」
タプリス「それはきっと、取り返しがつかないことです」
ガヴリール「わ、わかりました……気をつけますね」
タプリス「大丈夫です。わたしと手を繋いで、しっかり歩けば」
タプリス「すぐ次の階段に着きますから」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「では行きましょうか」
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
『ようやくここまでたどり着いたのね、ガヴリール』
ガヴリール「う、後ろから誰かの声が……」
タプリス「駄目です、天真先輩。彼女の言葉を聞いてはいけません」
タプリス「彼女は惑わす者、なんですから」
ガヴリール「惑わす者?」
タプリス「ええ、先輩を永久にここに閉じ込めるべくして、生まれた存在です」
タプリス「だから、どんな言葉であろうと、耳を傾けてはいけません」
『ずっとここで待っていたのよ、あんたの永遠のライバルとしてね』
ガヴリール「なんでしょう、思い出せないはずなのに」
ガヴリール「なんだかとても、懐かしい感じがします……」
タプリス「それも、彼女の狙いです、だから……」
『私は長い時間をかけて、ついに世界のすべてを、この手中に収めたわ』
『これで私の心は全て、満たされるはずだった』
『……でも、そうはならなかった。一つだけ、心にぽっかりと穴が空いていたの』
『そう、それはね。あんたにだけ……、一度も勝てなかったことよ』
『このままじゃ私は、悔やんでも悔やみきれない』
『勝ち逃げだなんて、絶対に許さない』
『……私と勝負しなさい、ガヴリール』
ガヴリール「……」
『もちろん、ただでとは言わない……もしあんたが勝てば……』
『私の世界の半分を、あんたにくれてあげるわ』
『だからもう一度だけ、私と勝負を――』
ガヴリール「……ごめんなさい」
ガヴリール「私、世界になんて興味はないし」
ガヴリール「勝負なんてもっとそう。あなたと争うくらいなら」
ガヴリール「私の負けで構わない」
『……そう、それがあんたの答えなのね』
ガヴリール「ええ、ごめんなさい……そして、さようなら」
『ふんっ……せいぜい、後悔するといいわ』
タプリス「せ、先輩……」
ガヴリール「さ、行きましょう」
-塔42階-
コツコツコツ
ガヴリール「……ありがとうね」
タプリス「えっ、突然どうしました?」
ガヴリール「いえ、さっきの回廊を抜けられたのは」
ガヴリール「あなたのおかげ。だから、ありがとう」
タプリス「そ、そんな、違いますよ。天真先輩の心が強かったからです」
タプリス「わたしはただ、少し助言をしただけですから」
ガヴリール「……あなたがずっと、手を握っていてくれたから」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私も、心を強く持てたんだと思うの」
ガヴリール「だから、私を助けてくれて、ありがとう」
タプリス「は、はい。ど、どういたしまして、です」カァァ
ガヴリール「ふふっ、すっかり照れてしまって、かわいい」ナデナデ
タプリス「……ッ」
ガヴリール「あら、ごめんなさい。頭を撫でられるのは嫌でしたか?」
タプリス「い、いえっ、そうではなくて、その……」
タプリス「もしかして、無意識だったんですか?」
ガヴリール「そうですね、確かに」
ガヴリール「自然と、手が伸びてしまいました」
タプリス「先輩はよく、わたしの頭を撫でてくれたんです、だから……」
タプリス「何か思い出してもらえたのかなって思って」
ガヴリール「ごめんなさい、そこまでは……」
タプリス「そ、そうですよね。大丈夫です、ゆっくり焦らずにいきましょう」
-塔50階 白の回廊-
タプリス「ようやく50階、半分到達ですね」
ガヴリール「また階段が途切れている……ということは」
タプリス「ええ。ここも、です」
タプリス「一度、乗り越えている先輩でしたら、大丈夫ですよ」
タプリス「さぁ、行きましょう」
ぎゅっ
ガヴリール「は、はい」
コツコツコツ
『やっと、お会いできましたね、ガヴちゃん』
ガヴリール「……ッ」
タプリス「天真先輩、優しい声色に騙されてはいけません」
『私はあなたのことをずっとずっと、待っていたんです』
『そして、ずっとずっと、会いたかった……』
『だって私は、あなたと一番お付き合いが長い……』
『言わば、幼馴染のようなものですから』
ガヴリール「……幼馴染?」
『あなたは、全てを忘れてしまいましたが』
『私はあなたのことを、小さい頃から知っているんです』
『初めてお会いした時も、そして、お友達になった時も』
『……あなたの記憶が失われてしまったことは、本当に仕方のないこと』
『ですから、私が一から、あなたに教えてあげます』
『私の知る、あなたの全てを……』
ガヴリール「私の、全て……」
タプリス「……」
『……今、あなたと一緒にいる子』
ガヴリール「えっ?」
『その子は、いったい何者なのでしょうか』
『私は、その子のことを何も知りません』
ガヴリール「そ、そんな……」
『もしかすると、記憶を失ったガヴちゃんに取り入り、騙して』
『陥れようとしているのかもしれません』
ガヴリール「違います! この子はそんなんじゃ……」
『そうではない、と本当に言えますか?』
ガヴリール「えっ……」
『あなたは今、その子に言われて、この塔を上っていますが』
『最上階に何があるのか、知っていますか?』
ガヴリール「そ、それは……」
『やましい理由がなければ、隠す必要なんてないはず』
『真実を言わないということは、あなたを騙していることと同義なんです』
ガヴリール「……」
『さぁ、私と行きましょう、ガヴちゃん』
タプリス「……天真先輩」
ガヴリール「……」
タプリス「……全ては、先輩にお任せします」
タプリス「ですが……ですけど、これだけは、信じてください」
ぎゅっ
タプリス「わたしは絶対、先輩に嘘はつきません」
ガヴリール「……」
『この世に<絶対>ほど、信用のできない言葉はありません』
『ですから、私と一緒に――』
ガヴリール「……お断りします」
『今なんと言って……』
ガヴリール「お断りします、と言ったんです」
『どうしてですか、そんな子を信じるというのですか』
ガヴリール「この子が本当に、私を陥れようとしているなら」
ガヴリール「こんなにも震えた手で、私の手を握るはず、ありません」
タプリス「……ッ」
ガヴリール「信じてください、という強い決心の裏で」
ガヴリール「私の言葉を待ちながら、こんなにも怯えている」
ガヴリール「この子の情味あふれる仕草や、私への思いやりの心は」
ガヴリール「私にとって、信じるに値します」
ガヴリール「ですから、あなたとは一緒に行けません」
『そうですか、わかりました』
『そこまで言うのでしたら、私は止めません』
『どうぞご自分の目で、真実を確かめてきてください』
ガヴリール「えぇ、ご忠告、感謝します」
ガヴリール「それでは……さようなら]
ガヴリール「……あなたとは、もっと違う形でお会いしたかった」
『ええ、私もです。それでは、ごきげんよう』
ガヴリール「さぁ、行きましょうか」
タプリス「は、はい……」
-塔64階-
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ぎゅっ
ガヴリール「……どうしました?」
タプリス「えっ、あ、その……す、すみません」
タプリス「ちょっと考え事をして、力んでしまって……何でもないですからっ」
ガヴリール「……そうですか」
タプリス「は、はい」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「すみません、ちょっといいですか?」
タプリス「えっと、何でしょう」
ガヴリール「私、足に疲れが溜まってきてしまって」
ガヴリール「ここ、ちょうど踊り場になっていますし」
ガヴリール「少し休憩しませんか?」
タプリス「あ……ごめんなさい、気づかなくて。わ、わかりました」
ガヴリール「見てください。下がもう、ほとんど見えません」
タプリス「ええ、もう64階ですから」
ガヴリール「……お隣、座ってもいいですか?」
タプリス「は、はい、どうぞ」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「あの」
タプリス「あのっ」
ガヴリール「あ、あなたからどうぞ」
タプリス「いえ、先輩の方から」
ガヴリール「……ふふっ」
タプリス「……あははっ」
ガヴリール「……この手のぬくもりと」
ガヴリール「あなたがどれだけ、私を大事に思ってくれているかという気持ちから」
ガヴリール「私にとっても、あなたがどれだけ大切な存在だったのかが、よくわかります」
ガヴリール「たとえ記憶を失ってても、私のどこかで、それを憶えている」
ガヴリール「そんな気がするんです」
タプリス「先輩……」
ガヴリール「最上階で、何が待っていようとも」
ガヴリール「あなたとならきっと……乗り越えられる気がします」
タプリス「はい……、わたしの決意も固まりました」
タプリス「先輩を必ずや、最上階までお連れします」
タプリス「それがわたしの……使命であり、望みですから」
ガヴリール「ええ、ありがとう。でも……」
ガヴリール「私たちは、先輩と後輩の仲だったんでしょう?」
タプリス「は、はい、そうですけど」
ガヴリール「だったら、そんな使命とか、堅苦しいことは抜きにしましょう」
ガヴリール「そうですね……、手繋ぎデートなんてどうでしょうか」
タプリス「て、てててっ、手繋ぎデートですかっ」
ガヴリール「ええ。その方が、気楽に楽しく進めそうで良いじゃないですか」
タプリス「そ、そうです、かね。そ、そうですね……、恐縮です」カァァ
ガヴリール「ふふっ、顔を真っ赤にしちゃって、かわいいんだから」ナデナデ
ガヴリール「それでは、そろそろ行きましょうか」
タプリス「あ……」
ガヴリール「どうしました?」
タプリス「あの……、えっと……もう少しだけ……」
タプリス「もう少しだけ……このままでも、いいですか?」
ガヴリール「……ええ、もちろんですよ」
-塔75階 紫の回廊-
タプリス「おそらくここが、最後の回廊です」
ガヴリール「そうですか……、なんだか前の二つと雰囲気が違いますね」
タプリス「ですが、ここまで乗り切ってきた先輩なら、問題ありません」
タプリス「わたしの手を、離さないでくださいね」
ガヴリール「ええ、もちろん」
コツコツコツ
『久しぶりね……ガヴ』
ガヴリール「……ッ」
『こんな形でも、また、あなたに会うことができて、よかった』
『だって本当なら、あの時点で……』
『私たちはもう、二度と会うことはできなくなってたんだもの』
『だから、本当に嬉しい』
ガヴリール「記憶に無いはずなのに……どうして……」
『ねえ、ガヴ。憶えてる? 私たちが初めてあった時のこと』
『私が下界に来て早々、道に迷って困っていた時に』
『あなたは優しく、声をかけてくれたよね』
『そして、友達になってくださいって、言ってくれたよね』
『私、あの時、本当に嬉しかった』
ガヴリール「この声は……特に、頭に響いてきて……」
タプリス「先輩……」
『堕天してしまってからは、本当に手がかかる子だったけど』
『素っ気ない態度をとりつつも、大事なときにはいつも』
『一緒に、付き合ってくれた』
『私が落ち込んでいるときにはいつも、励ましてくれて』
『そして、優しく……してくれた』
『私が風邪を引いたときなんか、一目散に駆けつけてきて』
『普段は料理なんてしないのに、張り切っちゃって……』
『正直、味は微妙だったけど、本当に、本当においしかった』
『だって、あなたの真心がこもっていたんだもの』
ガヴリール「……」
『だからね、ガヴ。あなたにはお礼を言いたい』
『私と友達になってくれて、ありがとう』
『私と出会ってくれて、ありがとう』
『そして、あなたと過ごした日々に、ありがとう』
ガヴリール「……本当に」
タプリス「えっ」
ガヴリール「この子の言っていることは……本当に嘘なんでしょうか……」
タプリス「そ、それは……」
ガヴリール「頭ではいけないってわかってるのに」
ガヴリール「心のどこかで……この子の優しさを憶えてる……」
ガヴリール「本当に迷惑をかけたって、憶えてる……」
タプリス「先輩……」
『私はここで、あなたをずっと見守っているから』
『たとえ一人になっても、あなたの幸せをずっと願っているから』
ガヴリール「……ッ」
『最後に、ずっと伝えることができなかったけど』
『私は、そんな不器用で優しいあなたのことが……』
『大好きでした』
ガヴリール「……ッ!」クルッ
タプリス「先輩っ!?」
『ありがとうね、私を選んでくれて』
『これからは二人で、ここにいましょう?』
『そう、永遠に――』
ガヴリール「うそ……、何も、ない……?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「いけない! 先輩、急いで! 天井がっ!!」
ガヴリール「なっ!?」
ピシッ ピシピシッ
ガヴリール「だめっ、間に合わな――」
タプリス「先輩、危ないっ!!」ガバッ
からんからん
ガヴリール「せ、背中が……」
タプリス「……先輩、無事ですか?」
ガヴリール「ええ、なんとか……って……」
タプリス「えへへ、ゴホッ……間に合って、よかった」
ガヴリール「う、うそ……あなた、両脚が……」
ガヴリール「い、今、瓦礫をどけるから!」
ガヴリール「ぐっ……ぐぐぐぐっ……」
タプリス「無理です……こんな大きいの、とても動かせません」
ガヴリール「どうして……どうして、私なんかをかばって……」
タプリス「身体が勝手に……ゴホッ、動いて、しまったんです」
タプリス「仕方がないじゃないですか」
ガヴリール「……私のせいなのに」
ガヴリール「私があなたの言いつけを破って、振り返ってしまったせいなのに」
タプリス「……それも、仕方がないんです」
ガヴリール「えっ」
タプリス「あの方が言っていたことに、嘘偽りはなかった」
タプリス「ですからわたしは……」
タプリス「改めて先輩が、ほんとに本当に優しい方なんだってわかって」
タプリス「嬉しかったです」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
ガヴリール「この音は……」
タプリス「じきに、ここも完全に、崩れます……」
タプリス「どうやら、わたしは……ここまでの、ようです」
ガヴリール「だめです! あなたを置いてなんて行けません!」
タプリス「もう時間が、ありませんから……よく聞いてください」
タプリス「これから、最後の力を、振り絞って……」
タプリス「先輩を……階段まで、転移させます」
ガヴリール「なっ!?」
タプリス「本当は……使いたく、なかったんですけどね」
タプリス「わたし、動けなく、なっちゃうから」
タプリス「でも……今なら、使うことができそうです」
ガヴリール「やめて、お願いだから……」
タプリス「一緒に行くって約束……守れなくて、ごめんなさい」
ガヴリール「……ッ」
タプリス「すみません、先輩……まだ、そこに、いますか?」
ガヴリール「えっ……」
タプリス「もう、目が、よく見えなくて……」
ガヴリール「……ッ」
ぎゅぅぅ
タプリス「あっ……」
ガヴリール「いやっ! 絶対に嫌っ! あなたを置いて行くくらいなら、私もここに――」
タプリス「それ、以上は、だめです。先輩……」
タプリス「先輩は……進まないと、いけないから」
タプリス「最上階へ、たどり着かないと、いけないから」
ガヴリール「どうして!? 最上階にいったい、何があるっていうの!?」
ガヴリール「あなたを見捨ててまで行く価値なんて、本当にあるっていうの!?」
タプリス「……はい」
ガヴリール「……ッ」
タプリス「わたしは……そのために、来たんですから」
タプリス「そうだ、最後にこれを……」スッ
ガヴリール「これは……あなたの髪飾り……」
タプリス「はい……これ、先輩に、もらったもの、なんですよ」
ガヴリール「私が……?」
ガヴリール「……ッ」
ガヴリール「これは……あぁっ、そんな……」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「……時間です、先輩」
タプリス「神よ、我に力を」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ、やめてっ!!」
タプリス「今まで、本当にありがとう、ございました」
ガヴリール「お願いだからっ……、タプリスッ!!」
タプリス「……ッ」
ガヴリール「私もう、絶対に忘れない! あなたのこと、忘れないからっ!」
ガヴリール「だからお願い! こんなこと、やめてっ!」
ガヴリール「お願い、だからぁ……」
タプリス「やっと、わたしの名前……呼んでくれましたね」
タプリス「これで、思い残すことは……ありません」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ……いやぁぁぁぁぁっっ!!」
ガヴリール「タプリスーーーーッ!!」
タプリス「さようなら、天真先輩」ニコッ
ゴゴゴゴゴッ ズドンッ
-塔76階-
シュンッ
ガヴリール「あぁ、あぁぁっ……」
ガヴリール「わ、私が……タプリスを……」
ガヴリール「私が、守ってあげなくちゃ……いけなかったのに」
ガヴリール「大切な後輩を……守ってあげなくちゃ、いけなかったのに……」
ガヴリール「……」
ガヴリール「ごめっ……ぐすっ……ごめんなさい、タプリス……」
ガヴリール「本当にごめんなさい……」
パサッ
ガヴリール「これは……あの子の、髪飾り」
ガヴリール「……」スッ
ぎゅぅ
ガヴリール「……」
ガヴリール「……タプリス、そうですよね」
ガヴリール「あの子が望んでいたことを、叶えなきゃ……」
ガヴリール「私が、叶えなくちゃ……」
-塔85階-
タッタッタッ
ガヴリール「急がないと……、もっと急がないと……」
ガクッ
ガヴリール「……ッ」
バタンッ パサッ
ガヴリール「いたっ……あっ……」
ぎゅっ
ガヴリール「……これは、絶対に落とさない」
ガヴリール「大丈夫……まだ走れる」
ガヴリール「こんなの、あの子の痛みに比べたら、なんでもない」
ガヴリール「絶対に、たどり着いてみせる」
タッタッタッ
-塔100階-
ガヴリール「はぁ……はぁ……やっと、着いた」
ガヴリール「ここは……庭園? 空が眩しい……」
天使「遅かったな」
ガヴリール「えっ……あ、あなたは……」
天使「待ちくたびれたぞ」
ガヴリール「私、なの……?」
天使「ああ、そうだよ。お前は、私だ」
ガヴリール「ねぇ、教えて! ここはいったい何なの!?」
ガヴリール「どうして、私がもう一人、ここにいるの!?」
ガヴリール「私はどうして、ここに来なければならなかったの!?」
天使「おいおい、質問は一つずつにしろよ」
ガヴリール「あ、ごめんなさい……」
天使「その様子だと、あいつはここまで、来られなかったようだな」
ガヴリール「タプリスのことを知っているの?」
天使「……まずは順に話していこうか」
天使「ここは私の記憶の遺跡、お前らは塔って呼んでたけど」
天使「実際はここがスタート地点。お前のいたところが、おそらく最下」
天使「そして、私はお前を見つけて、ここに連れて来なければならなかった」
天使「けど私は、ここで体の維持をしなくてはならず、ここを動けない」
天使「だから、タプリスにお前を探させたんだよ」
ガヴリール「では、私とあなたは、どういう……」
天使「お前はな、私がはるか昔に捨てた、別の人格」
ガヴリール「なっ……」
天使「今までは必要なかったから、放っておいたんだけど」
天使「そのせいで、記憶まで失ってしまったみたいだな」
ガヴリール「……」
天使「でも、とある理由から、お前が必要になったんだ」
ガヴリール「私が……必要……?」
天使「ああ。でもまさか、あんな奥の、そのまた奥にいるとは思わなかったよ」
天使「お前のことを一番慕っていた、あいつに任せて正解だった」
ガヴリール「……あの子がどうなったか、知っているんですか」
天使「もちろん」
ガヴリール「どうしてそんな……平然としていられるんですか」
ガヴリール「あなたが私なら、あなたにとっても大事な存在じゃないんですか!?」
天使「ああ、そうだよ。だから、お前を呼んだんだ」
ガヴリール「そ、それは、どういう……」
天使「お前と私が、一つになるためにな」
ガヴリール「私とあなたが、一つに、ですって……」
天使「ああ、お前も私の一部だからな」
天使「あいつが慕ってたお前がいないと、あいつも寂しがるだろ」
天使「それに何より、全ての私が揃わないとダメなんだよ」
ガヴリール「全てって、どういうことです……?」
天使「まぁ、それはやってみればすぐにわかる」
ガヴリール「やってみればって……そんな大雑把な」
天使「あいつに会いたくないのか?」
ガヴリール「……ッ」
天使「私は、会いたい。だからこうして頼んでいる」
ガヴリール「……」
天使「あいつにもう一度会うために、協力してくれないか」
ガヴリール「一つになったら、私はどうなるんですか?」
天使「そうだな。たぶん、私が主人格だから……」
天使「お前はあまり、出てこられないだろうな」
ガヴリール「そう、ですか。でも、あの子にもう一度、会えるんですね」
ガヴリール「あの子がもう一度、笑ってくれるんですね」
天使「ああ、約束する」
ガヴリール「……わかりました、お願いします」
天使「手を合わせて……」
ガヴリール「こう、ですか?」
天使「ああ、準備はいいか?」
ガヴリール「はい、いつでも」
天使「それじゃあ、いくぞ」
ガヴリール「あの子のことを、頼みました」
天使「ああ……頼まれた」
パァァァッ
――――――
――――
――
-病室-
ピッ ピッ ピッ
ガヴリール「思い、出した……あの頃の、天使学校時代の……」
ガヴリール「あの子が、慕っていた、私を……」
ガヴリール「ようやく、見つけることができた……」
ガヴリール「これでやっと、みなに……会いにいける」
ガヴリール「サターニャ、ラフィエル、ヴィーネ……」
ガヴリール「そして……タプリス」
ガヴリール「私も、お前たちのところへ……」
ピッ ピッ ピーーーーーッ
ガヴリール「ん……ここは……」
サターニャ「あ、ようやく来たみたいね」
ヴィーネ「まったく遅いのよ、ガヴったら」
ラフィエル「まさか、ガヴちゃんが一番長生きするなんて思いませんでしたね」
ガヴリール「お、お前たち? ってことは、ここが……」
ラフィエル「ええ、ご想像のとおりです。お久しぶりですね」
ガヴリール「そうか……、お前も元気そうで何よりだ、ラフィエル」
サターニャ「来て早々だけど、とりあえず勝負よ!」
ガヴリール「は? 何言ってるんだよ」
サターニャ「景品はそうね、世界の半分なんてどうかしら」
ガヴリール「そんなのやるわけねーだろ」
ガヴリール「お前は何も変わらないな、サターニャ」
ヴィーネ「ガヴ……」
ガヴリール「ヴィーネ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
ガヴリール「私はもう……どこにも行かない」
ヴィーネ「うんっ……うんっ……」
ガヴリール「ところで……あいつは?」
タプリス「……遅いです、天真先輩」
ガヴリール「すまん、ちょっと忘れ物を取りに行っていてな」
ガヴリール「お前は知ってるだろうけど」
タプリス「そうですね、無事にお届けできたみたいで、よかったです」
ガヴリール「あと、もうちょっと、だったけどな」
タプリス「うぅ……先輩の意地悪」
ガヴリール「まぁ、なんだ。その……おほんっ」
ガヴリール「タプリス。また、会えましたね」ニコッ
タプリス「あ、あぁ……あの頃の先輩……」
ガヴリール「これをあなたに、返さないと」
タプリス「これは……わたしの髪飾り?」
ガヴリール「付けてあげますね」スッ
ガヴリール「やっぱりあなたにはこれが、よく似合います。かわいいです」
ぎゅぅぅ
タプリス「えへへ……また先輩に会えて、嬉しいです」
ガヴリール「ええ、私もですよ」
ガヴリール「もう絶対に、タプリスのことを忘れたりしません」
ガヴリール「だから、ずっとずっと、私と一緒にいてくださいね」
タプリス「はいっ、先輩!」
おしまい
タプリスはずっと2人で…
元スレ
ドンドンッ
ガヴリール「誰か! 誰かいませんか!」
ガヴリール「……」
ガヴリール「はぁ、ドアも外から鍵がかけられているみたいですし」
ガヴリール「壁にも特に細工などはありませんね……」
ガヴリール「ど、どうすれば……」
ガヴリール「でも、慌てても仕方がありません」
ガヴリール「大人しく座って、思い出せることがないか、考えてみましょう」
――
ガヴリール「……あれ」
ガヴリール「いけない、少し眠って……」
ガチャ
ガヴリール「ッ!? ド、ドアが……」
ギィッ
ガヴリール「……だ、誰?」
タプリス「……やっと、見つけました」
8: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:07:32.313 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「まさか、こんなところに、いらっしゃるなんて……」
タプリス「探すのに手間取ってしまって、ごめんなさい」
タプリス「随分、お待たせしてしまいましたよね」
タプリス「……でも、もう大丈夫ですから」
タプリス「さぁ、行きましょうか」
ガヴリール「あの……」
タプリス「どうしました? 天真先輩」
タプリス「あ、どこか調子が悪かったりします?」
タプリス「でしたら、少し休んでからでも……」
ガヴリール「えっと……」
タプリス「……?」
ガヴリール「あなた……どなたですか?」
14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:10:12.913 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「……ッ」
ガヴリール「ごめんなさい、私、自分の名前以外、思い出せなくて……」
ガヴリール「あなたは、私のお知り合いみたいですけど……」
タプリス「……そうですね、こういう可能性だってあったんですよね」
タプリス「わかってたとしても、やっぱりつらいです……」
ガヴリール「あの……、どうしました?」
タプリス「い、いえ、何でもありませんっ」
タプリス「わたしはですね、天真先輩の後輩で」
タプリス「とても、とーっても、先輩にお世話になった者です」
タプリス「ですから、その恩を少しでも返したくて……」
ガヴリール「……」
タプリス「だから、その……ですね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「天真先輩、あなたを助けにきました」
17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:12:31.668 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「とはいえ、いきなり知らない人にこんなこと言われても」
タプリス「怖いだけですよね、あははは……」
ガヴリール「そ、そんなことは……」
タプリス「で、でも、これだけは信じてください」
タプリス「わたしは絶対に、先輩を裏切ったりしません」
タプリス「絶対に先輩を、ここから救い出してみせますから!」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしが言えるのはここまでです」
タプリス「……それでも、わたしを信じてくれるなら」
タプリス「わたしの手をとってください」スッ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「……ごめんなさい」
18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:15:11.114 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「そ、そうですよね……」
タプリス「そんな、すぐに見ず知らずの人を信じるなんて、無理ですよね」
ガヴリール「いいえ、そうじゃないの」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私なんかのために、ありがとう」
ガヴリール「なぜかはわからないけど、あなたの言葉は……」
ガヴリール「すっ、と胸の中に入ってきて、私を安心させてくれる」
ガヴリール「そんな気がしますから」
タプリス「先輩……」
ガヴリール「それに……ここに一人で居たって、何も始まらないし」
ガヴリール「だったら私は、あなたに賭けてみたい」
タプリス「あ、ありがとうございます、先輩」
ガヴリール「お礼を言うのはこちらの方。改めて、本当にありがとう」
ガヴリール「こんな私ですが、よろしくお願いしますね」
ぎゅっ
タプリス「はい、任されました」
タプリス「……絶対に、手を離さないでくださいね」
19: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:18:16.267 ID:wtcqmvjF0.net
-薄暗い通路-
タプリス「ここを抜けると、吹き抜けになっている塔の一階に出ます」
ガヴリール「塔、ですか?」
タプリス「はい、高い高い塔です。100階まであると言われています」
ガヴリール「すごい高さですね……」
タプリス「ええ、それをわたしたちは今から、上っていくんです」
ガヴリール「えっ……ど、どこまでですか?」
タプリス「もちろん、一番上までですよ」
ガヴリール「そ、そうですか。上りきる自信がないですけど……」
タプリス「大丈夫です、階段の傾斜はそこまできつくありませんし」
タプリス「ちゃんと休憩も挟みます」
ガヴリール「一番上には何があるんですか?」
タプリス「それは……ごめんなさい」
タプリス「わたしの口からは言えないんです」
タプリス「でも、先輩にとって、とても大切なものですから」
20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:20:45.737 ID:wtcqmvjF0.net
-塔1階 はじまりの広間-
ガヴリール「すごいですね……上は、本当に吹き抜けになっています」
ガヴリール「床に彫られているのは、フクロウですかね」
ガヴリール「今にも動き出しそうで美しいです……」
タプリス「わたしたちが歩くのは、あそこからです」
ガヴリール「か、壁に沿って、螺旋のように階段が続いているみたいですが」
ガヴリール「一番上が、全然見えませんね……」
タプリス「ここからだと……少し見えづらいかも、ですね」
ガヴリール「あなたは、ここを上ったことがあるんですか?」
タプリス「いえ、厳密にはありませんが……」
タプリス「似たような塔なら、一度だけ上ったことがあります」
ガヴリール「なるほど。それで、そんなに詳しかったのですね」
タプリス「あはは、ある程度はですけどね」
タプリス「準備がよろしければ、出発しましょうか」
ガヴリール「はい、大丈夫です。もともと、何も持っていませんしね」
タプリス「わかりました、では行きましょう」
タプリス「つらくなったら、いつでも言ってくださいね、休憩しますから」
ガヴリール「はい、ありがとう」
21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:22:59.018 ID:wtcqmvjF0.net
-塔11階-
コツコツコツ
タプリス「大丈夫ですか? きつくありませんか?」
ガヴリール「ふふっ、あなたったら、さっきからそればっかり」
ガヴリール「もしかしたら、一階上がるごとに言ってるんじゃないかしら」
タプリス「そ、そうですかね。そんなつもりはなかったんですが」
ガヴリール「大丈夫です、全く問題ありませんよ」
ガヴリール「あなたが前で、私の手を引いてくれていますから」
ガヴリール「あなたの方こそ、疲れたら言ってくださいね」
タプリス「わ、わかりました。ありがとうございます」
ガヴリール「いえいえ、どういたしまして」
タプリス「ふふっ」
ガヴリール「どうしました? 笑ったりして」
タプリス「記憶を失ってても、やっぱり先輩は先輩だなって」
ガヴリール「えっ、どういうことですか?」
タプリス「いえ、何でもありません。先を急ぎましょうか」
22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:25:18.165 ID:wtcqmvjF0.net
-塔25階 赤の回廊-
ガヴリール「あれ、階段がここで途切れていますね」
タプリス「やはり、ここにもありましたか……」
ガヴリール「えっ」
タプリス「この塔にはこうやって、回廊になっている階がいくつかありまして」
タプリス「反対側に回らないと、次の階に行けないんです」
ガヴリール「そうなんですか……でも、今まで階段ばかりでしたし」
ガヴリール「こうやって平坦な場所を歩くのも、気分転換になって」
ガヴリール「良いかもしれませんね」
タプリス「……そうでもないんです、ここは」
ガヴリール「ど、どういうことですか?」
タプリス「先輩、今からわたしが言うことを、絶対に守ってくださいね」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「この回廊では、何が起こったとしても……」
タプリス「絶対に、振り返らないでください」
23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:28:19.006 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「わ、わかりました……ですけど」
ガヴリール「もし……振り返ってしまったら、どうなるんです?」
タプリス「先輩にとって、よくないことが起こります」
ガヴリール「よくないこと……」
タプリス「それはきっと、取り返しがつかないことです」
ガヴリール「わ、わかりました……気をつけますね」
タプリス「大丈夫です。わたしと手を繋いで、しっかり歩けば」
タプリス「すぐ次の階段に着きますから」
ガヴリール「は、はい」
タプリス「では行きましょうか」
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
『ようやくここまでたどり着いたのね、ガヴリール』
26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:30:40.160 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「う、後ろから誰かの声が……」
タプリス「駄目です、天真先輩。彼女の言葉を聞いてはいけません」
タプリス「彼女は惑わす者、なんですから」
ガヴリール「惑わす者?」
タプリス「ええ、先輩を永久にここに閉じ込めるべくして、生まれた存在です」
タプリス「だから、どんな言葉であろうと、耳を傾けてはいけません」
『ずっとここで待っていたのよ、あんたの永遠のライバルとしてね』
ガヴリール「なんでしょう、思い出せないはずなのに」
ガヴリール「なんだかとても、懐かしい感じがします……」
タプリス「それも、彼女の狙いです、だから……」
『私は長い時間をかけて、ついに世界のすべてを、この手中に収めたわ』
『これで私の心は全て、満たされるはずだった』
『……でも、そうはならなかった。一つだけ、心にぽっかりと穴が空いていたの』
『そう、それはね。あんたにだけ……、一度も勝てなかったことよ』
27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:33:28.770 ID:wtcqmvjF0.net
『このままじゃ私は、悔やんでも悔やみきれない』
『勝ち逃げだなんて、絶対に許さない』
『……私と勝負しなさい、ガヴリール』
ガヴリール「……」
『もちろん、ただでとは言わない……もしあんたが勝てば……』
『私の世界の半分を、あんたにくれてあげるわ』
『だからもう一度だけ、私と勝負を――』
ガヴリール「……ごめんなさい」
ガヴリール「私、世界になんて興味はないし」
ガヴリール「勝負なんてもっとそう。あなたと争うくらいなら」
ガヴリール「私の負けで構わない」
『……そう、それがあんたの答えなのね』
ガヴリール「ええ、ごめんなさい……そして、さようなら」
『ふんっ……せいぜい、後悔するといいわ』
タプリス「せ、先輩……」
ガヴリール「さ、行きましょう」
29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:36:42.755 ID:wtcqmvjF0.net
-塔42階-
コツコツコツ
ガヴリール「……ありがとうね」
タプリス「えっ、突然どうしました?」
ガヴリール「いえ、さっきの回廊を抜けられたのは」
ガヴリール「あなたのおかげ。だから、ありがとう」
タプリス「そ、そんな、違いますよ。天真先輩の心が強かったからです」
タプリス「わたしはただ、少し助言をしただけですから」
ガヴリール「……あなたがずっと、手を握っていてくれたから」
タプリス「えっ」
ガヴリール「私も、心を強く持てたんだと思うの」
ガヴリール「だから、私を助けてくれて、ありがとう」
タプリス「は、はい。ど、どういたしまして、です」カァァ
30: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:38:24.129 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「ふふっ、すっかり照れてしまって、かわいい」ナデナデ
タプリス「……ッ」
ガヴリール「あら、ごめんなさい。頭を撫でられるのは嫌でしたか?」
タプリス「い、いえっ、そうではなくて、その……」
タプリス「もしかして、無意識だったんですか?」
ガヴリール「そうですね、確かに」
ガヴリール「自然と、手が伸びてしまいました」
タプリス「先輩はよく、わたしの頭を撫でてくれたんです、だから……」
タプリス「何か思い出してもらえたのかなって思って」
ガヴリール「ごめんなさい、そこまでは……」
タプリス「そ、そうですよね。大丈夫です、ゆっくり焦らずにいきましょう」
31: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:41:01.086 ID:wtcqmvjF0.net
-塔50階 白の回廊-
タプリス「ようやく50階、半分到達ですね」
ガヴリール「また階段が途切れている……ということは」
タプリス「ええ。ここも、です」
タプリス「一度、乗り越えている先輩でしたら、大丈夫ですよ」
タプリス「さぁ、行きましょう」
ぎゅっ
ガヴリール「は、はい」
コツコツコツ
『やっと、お会いできましたね、ガヴちゃん』
ガヴリール「……ッ」
タプリス「天真先輩、優しい声色に騙されてはいけません」
『私はあなたのことをずっとずっと、待っていたんです』
『そして、ずっとずっと、会いたかった……』
『だって私は、あなたと一番お付き合いが長い……』
『言わば、幼馴染のようなものですから』
32: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:43:15.119 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「……幼馴染?」
『あなたは、全てを忘れてしまいましたが』
『私はあなたのことを、小さい頃から知っているんです』
『初めてお会いした時も、そして、お友達になった時も』
『……あなたの記憶が失われてしまったことは、本当に仕方のないこと』
『ですから、私が一から、あなたに教えてあげます』
『私の知る、あなたの全てを……』
ガヴリール「私の、全て……」
タプリス「……」
『……今、あなたと一緒にいる子』
ガヴリール「えっ?」
『その子は、いったい何者なのでしょうか』
『私は、その子のことを何も知りません』
ガヴリール「そ、そんな……」
『もしかすると、記憶を失ったガヴちゃんに取り入り、騙して』
『陥れようとしているのかもしれません』
33: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:45:42.981 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「違います! この子はそんなんじゃ……」
『そうではない、と本当に言えますか?』
ガヴリール「えっ……」
『あなたは今、その子に言われて、この塔を上っていますが』
『最上階に何があるのか、知っていますか?』
ガヴリール「そ、それは……」
『やましい理由がなければ、隠す必要なんてないはず』
『真実を言わないということは、あなたを騙していることと同義なんです』
ガヴリール「……」
『さぁ、私と行きましょう、ガヴちゃん』
タプリス「……天真先輩」
ガヴリール「……」
34: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:48:12.386 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「……全ては、先輩にお任せします」
タプリス「ですが……ですけど、これだけは、信じてください」
ぎゅっ
タプリス「わたしは絶対、先輩に嘘はつきません」
ガヴリール「……」
『この世に<絶対>ほど、信用のできない言葉はありません』
『ですから、私と一緒に――』
ガヴリール「……お断りします」
『今なんと言って……』
ガヴリール「お断りします、と言ったんです」
『どうしてですか、そんな子を信じるというのですか』
ガヴリール「この子が本当に、私を陥れようとしているなら」
ガヴリール「こんなにも震えた手で、私の手を握るはず、ありません」
タプリス「……ッ」
35: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:50:56.371 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「信じてください、という強い決心の裏で」
ガヴリール「私の言葉を待ちながら、こんなにも怯えている」
ガヴリール「この子の情味あふれる仕草や、私への思いやりの心は」
ガヴリール「私にとって、信じるに値します」
ガヴリール「ですから、あなたとは一緒に行けません」
『そうですか、わかりました』
『そこまで言うのでしたら、私は止めません』
『どうぞご自分の目で、真実を確かめてきてください』
ガヴリール「えぇ、ご忠告、感謝します」
ガヴリール「それでは……さようなら]
ガヴリール「……あなたとは、もっと違う形でお会いしたかった」
『ええ、私もです。それでは、ごきげんよう』
ガヴリール「さぁ、行きましょうか」
タプリス「は、はい……」
36: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:53:14.639 ID:wtcqmvjF0.net
-塔64階-
コツコツコツ
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ぎゅっ
ガヴリール「……どうしました?」
タプリス「えっ、あ、その……す、すみません」
タプリス「ちょっと考え事をして、力んでしまって……何でもないですからっ」
ガヴリール「……そうですか」
タプリス「は、はい」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「すみません、ちょっといいですか?」
タプリス「えっと、何でしょう」
ガヴリール「私、足に疲れが溜まってきてしまって」
ガヴリール「ここ、ちょうど踊り場になっていますし」
ガヴリール「少し休憩しませんか?」
タプリス「あ……ごめんなさい、気づかなくて。わ、わかりました」
37: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:55:45.016 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「見てください。下がもう、ほとんど見えません」
タプリス「ええ、もう64階ですから」
ガヴリール「……お隣、座ってもいいですか?」
タプリス「は、はい、どうぞ」
ガヴリール「……」
タプリス「……」
ガヴリール「あの」
タプリス「あのっ」
ガヴリール「あ、あなたからどうぞ」
タプリス「いえ、先輩の方から」
ガヴリール「……ふふっ」
タプリス「……あははっ」
ガヴリール「……この手のぬくもりと」
ガヴリール「あなたがどれだけ、私を大事に思ってくれているかという気持ちから」
ガヴリール「私にとっても、あなたがどれだけ大切な存在だったのかが、よくわかります」
ガヴリール「たとえ記憶を失ってても、私のどこかで、それを憶えている」
ガヴリール「そんな気がするんです」
タプリス「先輩……」
38: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 22:58:09.125 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「最上階で、何が待っていようとも」
ガヴリール「あなたとならきっと……乗り越えられる気がします」
タプリス「はい……、わたしの決意も固まりました」
タプリス「先輩を必ずや、最上階までお連れします」
タプリス「それがわたしの……使命であり、望みですから」
ガヴリール「ええ、ありがとう。でも……」
ガヴリール「私たちは、先輩と後輩の仲だったんでしょう?」
タプリス「は、はい、そうですけど」
ガヴリール「だったら、そんな使命とか、堅苦しいことは抜きにしましょう」
ガヴリール「そうですね……、手繋ぎデートなんてどうでしょうか」
タプリス「て、てててっ、手繋ぎデートですかっ」
ガヴリール「ええ。その方が、気楽に楽しく進めそうで良いじゃないですか」
タプリス「そ、そうです、かね。そ、そうですね……、恐縮です」カァァ
ガヴリール「ふふっ、顔を真っ赤にしちゃって、かわいいんだから」ナデナデ
ガヴリール「それでは、そろそろ行きましょうか」
タプリス「あ……」
ガヴリール「どうしました?」
タプリス「あの……、えっと……もう少しだけ……」
タプリス「もう少しだけ……このままでも、いいですか?」
ガヴリール「……ええ、もちろんですよ」
39: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:00:56.861 ID:wtcqmvjF0.net
-塔75階 紫の回廊-
タプリス「おそらくここが、最後の回廊です」
ガヴリール「そうですか……、なんだか前の二つと雰囲気が違いますね」
タプリス「ですが、ここまで乗り切ってきた先輩なら、問題ありません」
タプリス「わたしの手を、離さないでくださいね」
ガヴリール「ええ、もちろん」
コツコツコツ
『久しぶりね……ガヴ』
ガヴリール「……ッ」
『こんな形でも、また、あなたに会うことができて、よかった』
『だって本当なら、あの時点で……』
『私たちはもう、二度と会うことはできなくなってたんだもの』
『だから、本当に嬉しい』
41: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:03:28.198 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「記憶に無いはずなのに……どうして……」
『ねえ、ガヴ。憶えてる? 私たちが初めてあった時のこと』
『私が下界に来て早々、道に迷って困っていた時に』
『あなたは優しく、声をかけてくれたよね』
『そして、友達になってくださいって、言ってくれたよね』
『私、あの時、本当に嬉しかった』
ガヴリール「この声は……特に、頭に響いてきて……」
タプリス「先輩……」
『堕天してしまってからは、本当に手がかかる子だったけど』
『素っ気ない態度をとりつつも、大事なときにはいつも』
『一緒に、付き合ってくれた』
『私が落ち込んでいるときにはいつも、励ましてくれて』
『そして、優しく……してくれた』
42: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:05:57.136 ID:wtcqmvjF0.net
『私が風邪を引いたときなんか、一目散に駆けつけてきて』
『普段は料理なんてしないのに、張り切っちゃって……』
『正直、味は微妙だったけど、本当に、本当においしかった』
『だって、あなたの真心がこもっていたんだもの』
ガヴリール「……」
『だからね、ガヴ。あなたにはお礼を言いたい』
『私と友達になってくれて、ありがとう』
『私と出会ってくれて、ありがとう』
『そして、あなたと過ごした日々に、ありがとう』
ガヴリール「……本当に」
タプリス「えっ」
ガヴリール「この子の言っていることは……本当に嘘なんでしょうか……」
タプリス「そ、それは……」
43: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:08:21.360 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「頭ではいけないってわかってるのに」
ガヴリール「心のどこかで……この子の優しさを憶えてる……」
ガヴリール「本当に迷惑をかけたって、憶えてる……」
タプリス「先輩……」
『私はここで、あなたをずっと見守っているから』
『たとえ一人になっても、あなたの幸せをずっと願っているから』
ガヴリール「……ッ」
『最後に、ずっと伝えることができなかったけど』
『私は、そんな不器用で優しいあなたのことが……』
『大好きでした』
44: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:11:53.043 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「……ッ!」クルッ
タプリス「先輩っ!?」
『ありがとうね、私を選んでくれて』
『これからは二人で、ここにいましょう?』
『そう、永遠に――』
ガヴリール「うそ……、何も、ない……?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「いけない! 先輩、急いで! 天井がっ!!」
ガヴリール「なっ!?」
ピシッ ピシピシッ
ガヴリール「だめっ、間に合わな――」
タプリス「先輩、危ないっ!!」ガバッ
45: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:14:12.005 ID:wtcqmvjF0.net
からんからん
ガヴリール「せ、背中が……」
タプリス「……先輩、無事ですか?」
ガヴリール「ええ、なんとか……って……」
タプリス「えへへ、ゴホッ……間に合って、よかった」
ガヴリール「う、うそ……あなた、両脚が……」
ガヴリール「い、今、瓦礫をどけるから!」
ガヴリール「ぐっ……ぐぐぐぐっ……」
タプリス「無理です……こんな大きいの、とても動かせません」
ガヴリール「どうして……どうして、私なんかをかばって……」
タプリス「身体が勝手に……ゴホッ、動いて、しまったんです」
タプリス「仕方がないじゃないですか」
ガヴリール「……私のせいなのに」
ガヴリール「私があなたの言いつけを破って、振り返ってしまったせいなのに」
タプリス「……それも、仕方がないんです」
ガヴリール「えっ」
タプリス「あの方が言っていたことに、嘘偽りはなかった」
タプリス「ですからわたしは……」
タプリス「改めて先輩が、ほんとに本当に優しい方なんだってわかって」
タプリス「嬉しかったです」
46: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:17:36.546 ID:wtcqmvjF0.net
ゴゴゴゴゴゴゴッ
ガヴリール「この音は……」
タプリス「じきに、ここも完全に、崩れます……」
タプリス「どうやら、わたしは……ここまでの、ようです」
ガヴリール「だめです! あなたを置いてなんて行けません!」
タプリス「もう時間が、ありませんから……よく聞いてください」
タプリス「これから、最後の力を、振り絞って……」
タプリス「先輩を……階段まで、転移させます」
ガヴリール「なっ!?」
タプリス「本当は……使いたく、なかったんですけどね」
タプリス「わたし、動けなく、なっちゃうから」
タプリス「でも……今なら、使うことができそうです」
ガヴリール「やめて、お願いだから……」
タプリス「一緒に行くって約束……守れなくて、ごめんなさい」
ガヴリール「……ッ」
47: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:19:29.664 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「すみません、先輩……まだ、そこに、いますか?」
ガヴリール「えっ……」
タプリス「もう、目が、よく見えなくて……」
ガヴリール「……ッ」
ぎゅぅぅ
タプリス「あっ……」
ガヴリール「いやっ! 絶対に嫌っ! あなたを置いて行くくらいなら、私もここに――」
タプリス「それ、以上は、だめです。先輩……」
タプリス「先輩は……進まないと、いけないから」
タプリス「最上階へ、たどり着かないと、いけないから」
ガヴリール「どうして!? 最上階にいったい、何があるっていうの!?」
ガヴリール「あなたを見捨ててまで行く価値なんて、本当にあるっていうの!?」
タプリス「……はい」
ガヴリール「……ッ」
タプリス「わたしは……そのために、来たんですから」
49: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:22:26.771 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「そうだ、最後にこれを……」スッ
ガヴリール「これは……あなたの髪飾り……」
タプリス「はい……これ、先輩に、もらったもの、なんですよ」
ガヴリール「私が……?」
ガヴリール「……ッ」
ガヴリール「これは……あぁっ、そんな……」
ゴゴゴゴゴゴゴッ
タプリス「……時間です、先輩」
タプリス「神よ、我に力を」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ、やめてっ!!」
タプリス「今まで、本当にありがとう、ございました」
50: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:26:02.378 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「お願いだからっ……、タプリスッ!!」
タプリス「……ッ」
ガヴリール「私もう、絶対に忘れない! あなたのこと、忘れないからっ!」
ガヴリール「だからお願い! こんなこと、やめてっ!」
ガヴリール「お願い、だからぁ……」
タプリス「やっと、わたしの名前……呼んでくれましたね」
タプリス「これで、思い残すことは……ありません」
パァァァッ
ガヴリール「いやっ……いやぁぁぁぁぁっっ!!」
ガヴリール「タプリスーーーーッ!!」
タプリス「さようなら、天真先輩」ニコッ
51: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:28:28.482 ID:wtcqmvjF0.net
ゴゴゴゴゴッ ズドンッ
-塔76階-
シュンッ
ガヴリール「あぁ、あぁぁっ……」
ガヴリール「わ、私が……タプリスを……」
ガヴリール「私が、守ってあげなくちゃ……いけなかったのに」
ガヴリール「大切な後輩を……守ってあげなくちゃ、いけなかったのに……」
ガヴリール「……」
ガヴリール「ごめっ……ぐすっ……ごめんなさい、タプリス……」
ガヴリール「本当にごめんなさい……」
パサッ
ガヴリール「これは……あの子の、髪飾り」
ガヴリール「……」スッ
ぎゅぅ
ガヴリール「……」
ガヴリール「……タプリス、そうですよね」
ガヴリール「あの子が望んでいたことを、叶えなきゃ……」
ガヴリール「私が、叶えなくちゃ……」
52: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:31:26.499 ID:wtcqmvjF0.net
-塔85階-
タッタッタッ
ガヴリール「急がないと……、もっと急がないと……」
ガクッ
ガヴリール「……ッ」
バタンッ パサッ
ガヴリール「いたっ……あっ……」
ぎゅっ
ガヴリール「……これは、絶対に落とさない」
ガヴリール「大丈夫……まだ走れる」
ガヴリール「こんなの、あの子の痛みに比べたら、なんでもない」
ガヴリール「絶対に、たどり着いてみせる」
タッタッタッ
54: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:34:14.931 ID:wtcqmvjF0.net
-塔100階-
ガヴリール「はぁ……はぁ……やっと、着いた」
ガヴリール「ここは……庭園? 空が眩しい……」
天使「遅かったな」
ガヴリール「えっ……あ、あなたは……」
天使「待ちくたびれたぞ」
ガヴリール「私、なの……?」
天使「ああ、そうだよ。お前は、私だ」
ガヴリール「ねぇ、教えて! ここはいったい何なの!?」
ガヴリール「どうして、私がもう一人、ここにいるの!?」
ガヴリール「私はどうして、ここに来なければならなかったの!?」
天使「おいおい、質問は一つずつにしろよ」
ガヴリール「あ、ごめんなさい……」
天使「その様子だと、あいつはここまで、来られなかったようだな」
ガヴリール「タプリスのことを知っているの?」
天使「……まずは順に話していこうか」
56: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:36:30.205 ID:wtcqmvjF0.net
天使「ここは私の記憶の遺跡、お前らは塔って呼んでたけど」
天使「実際はここがスタート地点。お前のいたところが、おそらく最下」
天使「そして、私はお前を見つけて、ここに連れて来なければならなかった」
天使「けど私は、ここで体の維持をしなくてはならず、ここを動けない」
天使「だから、タプリスにお前を探させたんだよ」
ガヴリール「では、私とあなたは、どういう……」
天使「お前はな、私がはるか昔に捨てた、別の人格」
ガヴリール「なっ……」
天使「今までは必要なかったから、放っておいたんだけど」
天使「そのせいで、記憶まで失ってしまったみたいだな」
ガヴリール「……」
天使「でも、とある理由から、お前が必要になったんだ」
ガヴリール「私が……必要……?」
58: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:39:08.044 ID:wtcqmvjF0.net
天使「ああ。でもまさか、あんな奥の、そのまた奥にいるとは思わなかったよ」
天使「お前のことを一番慕っていた、あいつに任せて正解だった」
ガヴリール「……あの子がどうなったか、知っているんですか」
天使「もちろん」
ガヴリール「どうしてそんな……平然としていられるんですか」
ガヴリール「あなたが私なら、あなたにとっても大事な存在じゃないんですか!?」
天使「ああ、そうだよ。だから、お前を呼んだんだ」
ガヴリール「そ、それは、どういう……」
天使「お前と私が、一つになるためにな」
59: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:41:20.522 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「私とあなたが、一つに、ですって……」
天使「ああ、お前も私の一部だからな」
天使「あいつが慕ってたお前がいないと、あいつも寂しがるだろ」
天使「それに何より、全ての私が揃わないとダメなんだよ」
ガヴリール「全てって、どういうことです……?」
天使「まぁ、それはやってみればすぐにわかる」
ガヴリール「やってみればって……そんな大雑把な」
天使「あいつに会いたくないのか?」
ガヴリール「……ッ」
天使「私は、会いたい。だからこうして頼んでいる」
ガヴリール「……」
天使「あいつにもう一度会うために、協力してくれないか」
ガヴリール「一つになったら、私はどうなるんですか?」
天使「そうだな。たぶん、私が主人格だから……」
天使「お前はあまり、出てこられないだろうな」
ガヴリール「そう、ですか。でも、あの子にもう一度、会えるんですね」
ガヴリール「あの子がもう一度、笑ってくれるんですね」
天使「ああ、約束する」
ガヴリール「……わかりました、お願いします」
60: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:43:45.633 ID:wtcqmvjF0.net
天使「手を合わせて……」
ガヴリール「こう、ですか?」
天使「ああ、準備はいいか?」
ガヴリール「はい、いつでも」
天使「それじゃあ、いくぞ」
ガヴリール「あの子のことを、頼みました」
天使「ああ……頼まれた」
パァァァッ
――――――
――――
――
61: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:46:26.370 ID:wtcqmvjF0.net
-病室-
ピッ ピッ ピッ
ガヴリール「思い、出した……あの頃の、天使学校時代の……」
ガヴリール「あの子が、慕っていた、私を……」
ガヴリール「ようやく、見つけることができた……」
ガヴリール「これでやっと、みなに……会いにいける」
ガヴリール「サターニャ、ラフィエル、ヴィーネ……」
ガヴリール「そして……タプリス」
ガヴリール「私も、お前たちのところへ……」
ピッ ピッ ピーーーーーッ
62: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:48:37.647 ID:wtcqmvjF0.net
ガヴリール「ん……ここは……」
サターニャ「あ、ようやく来たみたいね」
ヴィーネ「まったく遅いのよ、ガヴったら」
ラフィエル「まさか、ガヴちゃんが一番長生きするなんて思いませんでしたね」
ガヴリール「お、お前たち? ってことは、ここが……」
ラフィエル「ええ、ご想像のとおりです。お久しぶりですね」
ガヴリール「そうか……、お前も元気そうで何よりだ、ラフィエル」
サターニャ「来て早々だけど、とりあえず勝負よ!」
ガヴリール「は? 何言ってるんだよ」
サターニャ「景品はそうね、世界の半分なんてどうかしら」
ガヴリール「そんなのやるわけねーだろ」
ガヴリール「お前は何も変わらないな、サターニャ」
ヴィーネ「ガヴ……」
ガヴリール「ヴィーネ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
ガヴリール「私はもう……どこにも行かない」
ヴィーネ「うんっ……うんっ……」
ガヴリール「ところで……あいつは?」
65: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:51:34.736 ID:wtcqmvjF0.net
タプリス「……遅いです、天真先輩」
ガヴリール「すまん、ちょっと忘れ物を取りに行っていてな」
ガヴリール「お前は知ってるだろうけど」
タプリス「そうですね、無事にお届けできたみたいで、よかったです」
ガヴリール「あと、もうちょっと、だったけどな」
タプリス「うぅ……先輩の意地悪」
ガヴリール「まぁ、なんだ。その……おほんっ」
ガヴリール「タプリス。また、会えましたね」ニコッ
タプリス「あ、あぁ……あの頃の先輩……」
ガヴリール「これをあなたに、返さないと」
タプリス「これは……わたしの髪飾り?」
ガヴリール「付けてあげますね」スッ
ガヴリール「やっぱりあなたにはこれが、よく似合います。かわいいです」
ぎゅぅぅ
タプリス「えへへ……また先輩に会えて、嬉しいです」
ガヴリール「ええ、私もですよ」
ガヴリール「もう絶対に、タプリスのことを忘れたりしません」
ガヴリール「だから、ずっとずっと、私と一緒にいてくださいね」
タプリス「はいっ、先輩!」
おしまい
67: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/05/07(日) 23:53:58.682 ID:wtcqmvjF0.net
タプリスはずっと2人で…
ガヴリール「千咲ちゃん、天真先輩と手繋ぎデートする」