1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:03:50.10 ID:rs2HI0+b0
『1 非日常』
ある日。上条当麻は打ち止めと一緒に帰宅した。
「ただいま。インデックス」
「おかえり~。今日は帰ってくるの早かったんだね」
「ちょっとわけありでな。
予定を繰り上げて帰ってきた」
「ふ~ん」
インデックスは気のない返事をした。
ダルそうに床に寝転びながら雑誌を読んでいる。
それはいつもと変わらない日常。上条は安堵のため息をついた。
(ふぅ。やっぱり家は落ち着くぜ。禁書もいることだし、
夕飯まで三人で遊んで時間をつぶすとしよう)
3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:07:40.65 ID:rs2HI0+b0
今日は休日。
とある事情により一方通行から打ち止めを預かった。
といっても今日限定の付き合いだが、
最寄のショッピングモールまで買い物に連れて行ってやった。
フードコートで好きな食べ物を食べさせてやったりと
色々と世話をしたのだが、途中で御坂美琴に遭遇したので走って逃げてきた。
超電磁砲に関わると面倒なことになりそうだったからだ。
打ち止めのことを詮索されてロリコン扱いされるのは目に見えていた。
ちなみに本当のことを言えば、一方通行にロリコン雑誌1000冊を寄贈して
取引しただけなのだ。不幸体質で世の女性に絶望した上条にとって、
幼女は天使のような存在だった。
「おーい。みんなでトランプでもして遊ばないか?」
「うん。やるー!!」
打ち止めは乗り気の様子だ。
元気に話す姿が子供特有の無邪気さを感じさせる。
その笑顔が上条の元気の源だった。
(ふぉおお。すごく可愛いけど、いずれは。はは…)
彼女がいずれ美琴のように成長するのかと思うと
せつない気持ちで胸が締め付けられそうになった。
「まあ、たまにはいいかも。どうせ暇だったし」
禁書は重い腰を上げてくれた。意外と面倒見がいいのだ。
彼女との同棲生活にもすっかり慣れたが、最近では淡白に
なってきた。ここに来た当初はもっと明るくて文句ばかり
言っていたが、すっかり大人しくなってしまった。
だが、それは悪い意味ではなく、むしろ成長が見受けられた。
家事を積極的に手伝ってくれるなど、傍若無人さは息を潜めた。
上条たちは三人でテーブルを囲み、トランプを切り始めた。
三人はババ抜きや七並べして遊んだ。上条と禁書は
手加減して、できるだけ打ち止めが勝てるように調整してやった。
上条達にとっては何でもない遊びだが、
幼い打ち止めは十分楽しんでくれた。
やがてトランプにも飽きてきたのでテレビを見ながら
ボーっとしていたら眠くなってきた。
「ぐがー、ほげー」 「すぴー」
下品に寝息を立てているがインデックス。打ち止めは静かに眠っていた。
打ち止めほどでないにしても禁書の外見も幼い。
実年齢を上条に教えてくれなかったが、英国人としては
信じられないほど童顔だった。
寝ている時の無防備な顔は上条の好みだった。
打ち止めと並んで横になっている姿は姉妹のようだった。
「ふぁ。俺も眠くなってきたな。
まだ夕飯の支度まで時間あるし、寝ておくかな」
上条が時計を確認しながらあくびを噛み殺した。
そして床に横になって目を閉じようとした。
その時である。
トン トン トン
何事かと思って勢いよく起き上がる。
眠気がすっかり覚めてしまった。
トン トン トン
明らかに扉が叩かれている音だった。聞き間違いではなかった。
上条がその音を探るため眼を細める。
「…」
音は玄関から発せられているようだった。
「なんだ…?」
来客の可能性が高いが、何か嫌な予感がした。
胃の中がきゅっと締め付けられるような
痛みを感じて気持ち悪くなる。
慎重に扉まで歩いて近づいて
耳を当ててみる。
……
……
音はしなくなった。
人の気配もしない。
不気味な静寂だった。
「誰かのいたずらか?」
不審に思いながら再び部屋の中央に戻る。
インデックスと打ち止めは眠ったままだ。
カチ カチ カチ
時計の針は正常通り時間を刻んでいる。
(気のせいだったのか? 疲れてるせいかな…)
肩を撫で下ろした上条が再び横になろうとしたその時。
『~~~~~~~hkjdhlajhgdjlsgs!」
今度は人の声と獣の鳴き声を混ぜたような奇妙な音が聞こえていた。
(一体何が起きてる?)
上条はいよいよ恐怖し始めた。
普通に生活していて聞けるような音ではなかった。
不可解という意味では、魔術師や能力者の存在を疑うべきだ。
だが、彼の直感はそれとは違う答えを導こうとしていた。
それを裏付けるように新たな異変が発生した。
『キキキキキキキキキキキキキキキキ』
その引っかくような音はバスルームの方から聞こえてきた。
思わず耳を塞ぎたくなるような不快音。
それに伴って自覚できるほど動悸が激しくなってきた。
上条は震える手を押さえながらそこの扉をゆっくり開く。
彼はこれ異常ないほど目を見開いた。
わずかに開けられた口から言葉を発しようとしたが、
それすらできないほどの衝撃を受けていた。
『キキィ… キキィ…』
それは人の指がタイルを引っかく音だった。
浴槽は何者かの血で真っ赤になっている。
そのお湯の上に千切れた人の手が浮いていた。
それはまるで生きているかのように指先をわずかに動かして音を奏でていた。
「…っ!!」
上条は一瞬で血の気が引いてしまった。
尻餅をついた情けない格好のまま禁書たちのもとへ戻る。
「おい起きろ! 大変なことになったんだぞ!!」
うつ伏せで寝ている禁書目録の身体を揺さぶる。
なりふりなど構ってられない。
気が動転しておかしくなりそうだった。
早く彼女に事情を知って欲しくて、一緒に悩む仲間が欲しくて、
力を込めた両手で彼女の肩を握っていた。
しかし、どれだけ激しく揺さぶっても彼女が目覚めることはなかった。
「……?」
上条の手にはべっとりと真っ赤な血がついている。
手のひらからあふれるようにドロドロの液体が床へ落ちていった。
よく見ると、禁書の胸元を中心に血だまりが広がっている。
彼女の顔は青ざめた死人の色をしていた。
「…ぅ!!」
猛烈な吐き気が上条を襲った。
つい先程まで禁書目録は生きていたはずだった。
仮にこれが殺人だとしたら、上条がバスルームに
行った間に犯行を実施したことになる。
それに加えてまだこの家の中に潜んでいる可能性が高い。
だが、人の犯行と仮定するとあまりにも迅速すぎるのだ。
よって計画犯罪だと考えられるわけだが…
(落ち着け……落ち着くんだ……!)
上条は深呼吸して少しでも平常心を保とうとした。
そういえば打ち止めはどうなったのかと思って部屋を見渡した。
(なっ……!!)
その光景を目にした上条は、叫ばずにいるのが精一杯だった。
信じられないことに、片腕を切り落とされた打ち止めが宙を浮いていた。
禁書と同じように青白い顔をしており、そのまますーっと水平方向に移動していた。
明らかに人間の動きではない。
人間の犯行を前提とした論理を組み立てる余裕などなかった。
打ち止めは一瞬だけ上条の方を振り返った後、
玄関の扉に吸い込まれてしまった。
つまり閉じられた玄関をそのまま通り抜けてしまったのである。
(……な……なな……なにが……おきて……)
手が振るえ、歯の噛みあわせが合わない。
気絶してしまえばどれだけ楽になるだろうと思っていた。
すると…
『aghfaslgkshajkfhjshfajklsfafjasadfasdadadadsa!!』
またしても様々な音が混じったような基地外じみた音が発せられる。
何が起きているのか確認する勇気はなかった。
頭を抱えながら室内でうずくまる。
できるだけ禁書の死体が視界に入らないようにした。
『gagagagagagagagahuhughghghghghghghghghgahghahgah!!』
音は鳴り続けて止まらなかった。
しかもすさまじい大音量を発生させており、
耳を塞いでも耐え切れるものではなかった。
うるさいのを通り越して頭痛がしてきた。
もう我慢の限界だった。
(ちくしょう!!)
もう部屋の中にいるのは限界だった。
半ばヤケクソになりながら玄関を開けて外に出る。
(……はは。何だよこれ)
もはや苦笑いするしかなかった。
そこは見慣れた通路ではなかった。
古い病院の廊下になっていた。
老朽化が進み、壁や床には所々ひびが入っている。
薄暗い廊下の先は全く見えず、天井に付けられた
頼りないランプがわずかに照らしているだけだ。
見えない恐怖。
長く、どこまでも続いてく地平線のような廊下。
今自分が立っているこの場所ですら危うく感じられる。
次の瞬間に床が抜け落ちてしまいそうな錯覚を感じるほど怖かった。
(う……)
それはあくまで見た目の問題だが、何より耐えられないのが匂いだった。
一瞬もどしそうになったのを必死で堪える。
血や薬品の匂いが充満していてこの世の地獄のようだった。
目をつむろうとすれば余計に匂って気分を害する。
肺の中まで汚染されてしまいそうな嫌悪感を感じていた。
カッカッカッカッ…
甲高く響くのは人の足音だった。
キュルキュルキュル……
まもなくして汚れた白衣を着た看護士が車椅子を押してきた。
頼りない足取りで歩いており、車椅子には髪の長い少女が乗せられていた。
キュルキュルキュル……
看護士は上条のことを無視して脇を通り過ぎていった。
まるで上条の姿が見えないかのように。
そして右手に見える手術室のような部屋に入っていった。
すぐにその部屋の明かりが点いた。
中からは数人の男性の話し声が聞こえてきた。
低くてよく響く声は、男性医師のものかと思われた。
グチョ グチャ ピチャ チャ
まるで臓器を取り出すような気持ち悪い音が断続的に鳴り響いた。
あの施術室の扉の向こうでは悪魔の宴が行われているようだ。
何が起きているのか視認することはできないが、
それがかえって恐怖を倍増させる結果となった。
(ううぅぅぅ…!)
上条は両手で口を押さえながら吐き気と戦っていた。
キュル……
気がついたら上条の背後に車椅子が用意されていた。
その気配にすら気がつかないほどの一瞬の出来事だった。
これだけ静かな病院内なのだから、近づいてくれば
少しは音がしてもいいはずだった。
だが、それはワープしてきたかのように背後に
現れて、かすかにタイヤの音を鳴らしただけだった。
異変はそれだけではない。
それを押しているはずの人がいなかった。
さらに上条の体が後ろから引っ張られて車椅子に座らされる。
見えない何かに引っ張られたのだ。
無論。人の気配は全くない。
キュルキュルキュル……
もはや自身の正気を疑うほかなかった。
車椅子は勝手に動き始めたように思えた。
否。
今度はそれを押している人影があった。
その女はミサカミコトに瓜二つだった。
血走った目つきは彼を地獄にいざなう死神のように思えた。
上条はすでに腰が抜けていて一歩も動けなかった。
無常にも車椅子は手術室の目前まで進もうとしたとき、
上条は喉が焼け付くほど叫び始めた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
視界が回り始めた。
意識がぐるぐると螺旋のように回転する。
全ての思考回路を停止させて死を受け入れようとしたとき。
「はっ!」
上条は目を覚ました。
そしてショッピングモール内の喧騒が耳に入ってくる。
『いらっしゃいませー』 『またのご来店をお待ちしております』 『~~~~~♪』
店員の声や流行の音楽など。どれも存在したはずの日常の音だった。
「そうか…俺は…」
上条は買い物の途中で昼寝したことを思い出したのだった。
財布の中には買ってくるものが書かれたメモが入っている。
「大丈夫?」
美琴が心配そうな顔で問いかけてくる。
そのすぐ横には打ち止めの姿。アイスを食べながら
上条の顔を怪訝な表情で見ていた。
「え…? 御坂がなんで一緒に?」
「あんた。何も覚えてないの?」
彼女の話によると、今日は三人でモールで遊んでいたらしい。
美琴とは店内で偶然会ったので途中から一緒になったとのこと。
適当にゲームショップやら洋服売り場などをブラブラして
いたら、眠気を訴えた上条がベンチで寝初めたので驚嘆したらしい。
美琴は真剣な顔で上条の容態を気にしてくれたが、
上条は心配ない旨を必死で伝えた。
スーパーで食料品を買った後、
その日は早く帰って寝た。
次の日。
学校はいつも通りの日常だった。
何気ない気持ちで授業を聞き流しながら、
昨日の嫌な夢は忘れようと決心したのだった。
だが、今日の体調は万全とはいえず、猛烈に眠くて困っていた。
先生に注意されながらも、何とか授業をやり過ごしたが、
放課後になるともう限界だった。
一緒に帰ろうと誘う土御門達を無視しながら机に伏せ、
目を閉じたら一瞬で夢の世界へと誘われた。
『2 狂った少女』
「今日からここで一緒に暮らしましょう」
美琴が上条の手に手錠をかけた。
「…!?」
上条が困惑するのも無理はなかった。
以前から美琴の傍若無人さに呆れるばかりであったが、
今回はとうとう一線を越えてしまったという印象だ。
人の自由を侵害する権利がどこにあるのかと考え、
怒りで大声を出してしまう。
「ふざけるな! なんで俺がおまえなんかと暮らさなきゃならないんだ!?
いい加減にしないと…」
胸の中がムカムカして怒りが炎のように湧き出てきた。
「こんなことしてただで済むと思うなよ!? だいたい、おまえは
以前からちょっとおかしいと感じてた。やっぱりおまえは…」
怒鳴りながらも周囲を見渡してみた。
見覚えのないこの場所はどうやら美琴の部屋らしく、
お嬢様らしい格式のある部屋である。
永遠に続くかと思った彼の説教を止めさせたのは美琴の
凍てつくような一言だった。
「当麻」
「―っ!」
空気が張り詰めるとはこのことだった。
美琴は大きな声を発して上条を脅したわけではない。
だが、その一言が異常な説得力を持っていた。
チッ チッ チッ
時計の針の音が妙に大きく聞こえた。
不気味な静寂に包まれる室内。
上条は悪寒と未知の恐怖から動悸が激しくなっていた。
何か自分から話をするべきかと思っていると、
美琴が口を開いた。
「お願いだから私を怒らせないでほしいの。
私ね、今とっても精神的に不安定なの。できれば当麻を傷つけたくない」
彼の頬に触れる美琴の手も冷たかった。
まるで異世界からの使者のように思える彼女から感じる雰囲気は、
上条に底知れない恐怖を与えていた。
下の名前で呼ばれるのも初めてだったので余計に緊張した。
「脅すようなことを言ってごめんね。そんなに緊張しないで大丈夫よ?」
一転して甘い声だった。
彼女は明らかに作り物と分かる下手糞な笑みを浮かべている。
欠落した感情と人としての常識。
まるで人形だった。
「あなたと仲直りしたいの。
……今なら二人だけだし。いいよね?」
それはキスの許可を求める言葉だった。
上条の返事など待たずに顔を接近させてから一言呟く。
「動かないでね」
押し付けられた唇の感触は柔らかかった。
美琴がわずかに口を開くだけで熱い吐息が漏れる。
息継ぎするタイミングが見つからずに苦しむ上条だが、
目を開けていると狂気に染まった美琴の顔が見えてしまうのできつく目をつむった。
「っぷは!」
たっぷり30秒ほど時間をかけてから唇を離してくれた。
美琴が舌舐めずりして彼の唾液がついた部分を味わっていた。
その姿は妖艶でとても中学2年生の女子には見えなかった。
「どうして泣いているの?」
美琴が涙を流している上条を抱きしめながら聞いた。
上条はなぜ自分がこんな目に合うのかと考えていたら
くやしくなって耐えられなくなったのだ。
好意を抱いていないし、付き合ってすらいない年下の女の子に
いじめられているのは我慢できるものではなかった。
抵抗しようかと思ったが手錠の感触があまりにも
硬くて冷たくて、諦めてしまうのだった。
「よしよし。大丈夫だよとーま。私がずっと一緒にいてあげるんだから」
美琴の言葉は全く慰めになっていなかった。
優しく頭を撫でてくるその手を振り払えればどんなに
楽になるだろうかと上条は考えた。
これからどれだけ彼女と過ごせばいいのか分からないが、
戻ることが出来ない現実世界のことを考えると、
枯れ果てたはずの涙がもう一度頬を伝うのだった。
「インデックス……」
大食いのシスターのことを思い出したので不意に口に出してしまった。
この学園都市での生活で最も上条に影響を及ぼしたのが彼女だ。
嫌というほど事件に巻き込まれたし、彼女の世話焼きもした。
おいしいご飯を作って彼女を喜ばせることは、気がついたら
生きがいの一つになっていた。
「だれ? そのひと? もしかしてあのシスターさんのことなのかな?」
「ぐ……うぉ……はっ……」
「聞きたいのはね。どうして私と愛し合ってるのに他の女の名前が出てくるかってこと。
その無神経さ、すっごくムカツクよ? 殺したいくらいにね」
「……ぅぅ……っ……」
「私を怒らせないでって言ったはずよね? ねえ。本当に分かってる?」
締め上げられた首の痛み以上に彼女の眼光が恐ろしかった。
射抜くような眼光という表現で言い表せるほどのものではない。
心臓を鷲掴みにされるような悪寒と絶対の死の恐怖を呼び起こすものだった。
上条が知っていた美琴はこれほど恐ろしい少女ではなかったはずだった。
勝負勝負と喧嘩を仕掛けてくるのはまだ可愛い方だったと、
今になって気づかされるのは皮肉な話だった。
「……あ。ごめんね。やりすぎたよ」
上条の手足が震えだしたところで開放してくれた。
彼は口を大きく開けて酸素を求める。
地獄から生還した兵隊のように深刻な顔をして
力なくその場に倒れてしまった。
首筋に残った真っ赤な手の跡には、美琴の怨念がこもっているような気がした。
「あれぇ。大丈夫?」
倒れている彼の上に覆いかぶさるように美琴が乗ってきた。
汗をかいている彼の顔を取り出したハンカチでふきながら
本当に心配そうな顔をしている。
「俺に恨みがあるんだろ? でなけりゃこんなことするわけないもんな。
もう殺せよ。その方が気が楽だ」
「どこまで当麻は朴念仁なの? あなたのことが大好きだから
こんなことをするのよ?」
「…悪いが迷惑だ。おまえみたいな暴力的な女と付き合うなら死んだ方がマシだ」
「ふふ。うふふふ……ふふ。そんな生意気なこと言われたら
殺したくなるじゃない。いいから黙って私の言う通りにしてなさい」
美琴は自身のサマーセーターに手をかけて脱いでしまった。
次にYシャツのボタンを一つずつ外していき、脱いだものはその辺に放り捨てる。
スカートを脱ぐためにチャックに手をかけたところで、上条が声を張り上げた。
「待て。やめろ!! おまえは正気じゃない。後で必ず後悔するぞ?」
「もう手遅れだよ。当麻をここまで連れてきたのだって犯罪だもん。
苦労したんだよ? 黒子にも手伝ってもらったし」
「何でもいいからすぐにやめろ。それ以外のことなら何でもしてやるから」
「ガタガタうるさいなぁ。いいから黙ってなさいよ」
まもなくして美琴は一糸纏わぬ姿になった。
中学生としては高めの身長に、細身の身体のラインが特徴的だった。
余裕のある笑みを浮かべながら上条に接近して…
「どう? 私の裸を見て興奮した?」
「あいにくだがな、おまえのような子供に興味はない」
「うふふふふ。本当にそうかしら?」
美琴はズボン越しに上条の股間を撫で始めた。円を描くように
ゆっくりと手を動かすと次第に上条のそこが反応してきた。
「や…やめろ」
「身体は正直だよね。私ね、これでも常磐台では美少女と呼ばれてる
人種なんだけど。私を見て本当に興奮しないの?」
「……」
「私の身体。全て当麻のものなんだよ? 胸もお尻も。
全て滅茶苦茶に犯してくれていいんだよ?」
彼の視界に彼女の美しい乳房が映る。
怪しい言葉を吐く美琴の唇に目線が吸い寄せられる。
すらりと伸びた下半身をつい見てしまいそうになる。
「楽にさせてあげるね」
それを確認した美琴がズボンのチャックを開けて彼のモノを露出させる。
おもむろにそれを口に含み、舌を伸ばして愛しそうに舐める。
「……」
美琴の舌の動きは官能的だった。
整った顔を崩すことなく一心不乱に作業に没頭していた。
嫌でも艶かしい彼女の肢体が視界に入ってくる。
少し視線を下げれば上目遣いの美琴の顔がすぐそこにあるのだ。
上条はすぐにでも達しそうになるが、必死で耐えていた。
(インデックス……。おまえに会いたい。おまえは今どうしてる?)
現実逃避するために目を閉じてすぐに浮かんだのが、愛らしい禁書目録の笑顔だった。
財政事情の苦しい中、昨晩は奮発してお肉をたくさん焼いて
やると、上機嫌で完食してくれた。
それがうれしかったので自分の分の焼肉も分け与えてやったら、
子供のような笑顔で喜んでくれた。
(どうしてこんな気持ちに…)
上条の精神は幼い子供のように不安定になってしまった。
一方的な可逆に耐え切れなくなった精神が退行している結果だった。
それは人間に備わった自衛機能だ。
「うふ」
美琴はフェラチオを中断して上条に馬乗りになる体制に入った。
すでに愛液で濡れている秘所を指で開き、上条のモノに押し付ける。
抵抗なくすんなりと挿入されてしまった。
彼女とついに繋がってしまったのだ。
「はぁ……はぁ……」
上下運動する美琴の体が激しく揺れる。
上条の視線は彼女の控えめな胸に釘付けになってしまった。
美琴の身体はスリムで腰回りなどは折れてしまいそうなほど細い。
暖かい膣内が上条のモノをきつく締め付けて離さない。
彼女の奥まで挿入されるたびに快楽で頭がおかしくなりそうだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
部屋の空気が変わっていく。
この部屋には二人しかいない。
せつなそうに吐息をもらす美琴と苦しそうな上条。
汗の臭いと性と匂いが充満して異様な空間となった。
「とう……ま……」
快楽に酔った彼女の視線は宙をさまよっている。
ひたすら官能的な刺激を求める若い身体は止まることを知らなかった。
蛍光灯の光を浴び、十代の美しい肌が汗でなまめかしく輝く。
ショートカットの髪の毛が肌に張り付いているのが刺激的だった。
(耐えろ。まだチャンスはある。これは神がくれたチャンスだ)
上条は奇跡的に外すことに成功した手錠を見ていた。
手錠に不備でもあったのか、気がついたら緩んでいることに気がついたのだ。
美琴は行為に夢中で全く気がついてない。
それから自分と美琴が絶頂に達するまで待った。
荒い息を整えるために床に横になった美琴の背中を叩き、
驚嘆して振り返った彼女を思い切り引っ叩いた。
「きゃぁ!」
彼女は短い声を発して吹き飛ぶように倒れた。
乱れた髪の毛のせいでその表情は見えない。
「今までよくもやってくれたな」
「なにを…」
「黙れ。おまえは最低のクズだ。このキチガイ女め!」
上条は物に対して行うように美琴を蹴った。
一切の手加減なしだ。
腰のあたりを押さえてうずくまる彼女に対する
同情心は微塵もなく、さらに追い討ちをかける。
「おまえなんか死んだ方がいい!」
「…!」
感情が爆発していた。
上条は美琴の髪の毛を引っ張りながら平手打ちを何度も喰らわした。
本来なら抵抗できたはずの美琴だが、突然の事態に付いていけず、
殴られるままだ。
さらにお返しとばかりに、顔が真っ青になるまで首を絞められてしまう。
「ぐるし……やめて……」
「ふ。いい顔だな。首絞められるのがどれだけ苦しいか分かったか?」
「ぁ……うぅ……がは……」
それから首を開放しては呼吸をさせ、
また締め直すなどして地獄に突き落としてやった。
「どうだ? 少しは俺の痛みが分かったか?」
「……っ……うっ……ぐすっ……」
流れ続ける涙と鼻水で顔を汚した美琴は、上条に頭を踏まれていた。
大好きな彼に嫌われてしまったことと、殴られた体の痛みとが重なり、
心がずたずたに引き裂かれてしまった。
涙で視界が曇ってしまって何も見えなかった。
「ふん」
上条はしゃがんで美琴の湿った髪の毛に触れる。
派手に乱れて顔を隠してしまっているそれを優しく掻き分ける。
「おい御坂。おまえ、クズのくせに顔だけは可愛いよな」
「……ひぐっ……っ……お願い。嫌いにならないで……」
諦めの悪い美琴はまだそんなことを言っていた。
両手を伸ばして上条の足元にすがりつく。
そして潤った瞳で彼を見上げながらこう懇願した。
「…わ、…私に……何しても……いい。…あなたの奴隷にでも
なります……。だから……嫌いにならないでください……」
嗚咽交じりで必死に発した言葉だった。
暴力を振るわれても彼を慕おうとするのは異常者の考えだ。
美琴にとって、上条以外の存在など何もいらなかったのだ。
上条は悪魔のように笑いながら、彼女をさらに
追い詰めるために言葉の毒を吐くのだった。
「御坂。前から言おうと思ってんだが。俺はおまえのことが…」
「やめて…お願い。やめ」
「大嫌いだ。二度と関わりたくないほどにな」
「……!」
美琴にとっては心臓をナイフで刺されたに等しい事実だった。
落胆を通り越して身体中が震え出して真っ青になる。
「……いやだよ……そんなの……いやだぁ……」
まるで幼児のようになってしまった。
両手で顔を押さえながら目を痛いほど見開いている。
「そんなに嫌か?」
「うん……。もう死んじゃいたいくらい……怖くて……不安なの…」
「なら、白井を呼んで俺をテレポートさせろ。寮の外まで
逃がしてくれたら絶交するのは勘弁してやる」
それを聞いた美琴が一変して目を輝かせる。
「本当に…? 本当に 本当?」
「ああ。素直に言うことを聞いてくれる美琴なら好きになってもいい」
「……!」
上条は彼女の顔を引き寄せて唇を強引に重ねてやった。
美琴は両手をだらりと垂らして一切抵抗せずに上条に身を任せる。
数秒して上条がキスを止めたので不満そうな顔をしたが、
上条から睨まれたので、彼の命令を忠実に実行するために黒子を召集した。
「分かりましたわ。仰せのままに」
事務的に言った黒子が上条に触れて空間移動の能力を発動させた。
ようやく開放された上条は背伸びしながら帰り道を歩いていたのだが、
途中で凄まじい吐き気に襲われた。
「ぐ…」
気持ち悪いのをを通り越して視界がかすむほどだった。
目の前が真っ暗になり、思考回路がマヒしてしまう。
「な……なにが……」
全身から力が抜けて真っ青になる。
血流が逆流するかのような奇妙な体験だった。
もう我慢の限界に達して胃の中のものを全て吐き出そうとした時…
意識が覚醒した。
「あ…?」
間抜けな顔で周囲を見渡す。
ここは夕暮れの教室だった。
机の上でよだれを垂らしながら居眠りしていたのだ。
生徒達は全て帰ってしまったのか、教室にいるのは上条だけ。
時刻を確認すると、まもなく完全下校時刻になるところだった。
「なんだ…今の夢は…?」
夢にしてはあまりにも現実感が強かった。
まるで過去の世界に逆行してそれを再体験したかのようだった。
魔術と科学が交差するこの町でさえ、このような
体験をしたことは一度もなかった。
もしかしたら悪意のある第三者からの攻撃を受けているのかも
しれないと思った。例えば精神操作系の能力であれば筋は通る。
だが、何か違うと思った。
能力や敵の攻撃など。
そんな容易いものではなく、それよりもはるかに恐ろしい
事態に直面している気がしてならなかった。
その日は気分転換をかねてスーパーで買い物して家に帰った。
時刻はすでに夜になっていた。
「おかえりなさいなんだよ。今日はいつもより遅かったんだね」
禁書が優しい微笑を浮かべながら迎えてくれた。
今日はいつもより帰る時間が遅くなったので、必然的に
夕食を作るのも遅い時間になる。
だが、禁書は寛容だった。
「ごめんな。すぐに夕飯の支度するからな」
「気にしなくていいよ。テレビでも見ながら待ってるね」
彼女は基本的に無趣味だが、テレビだけは熱心に見ていた。
見るジャンルはニュースから子供向けのアニメやドラマまで
幅広いが、引きこもり生活を送る彼女にとってはいい暇つぶしに
なっているのだろう。
そして深夜。
上条はベッドで禁書と寝ていた。
「とうま。今日はしないの?」
「すまん。学校で嫌な夢を見たせいで気分が乗らないんだ」
「どんな夢?」
「……それは言えない。というか本当に忘れたい夢だったんだ。
いつか気が向いたら話してやるよ」
「ふぅん…」
「ごめんな」
それからまもなくして禁書目録は寝息を立て始めた。
禁書とは長い同棲生活を送っているが、別々の場所で
寝ていたのは初めのうちだけだ。
互いを意識するようになるのに時間は掛からなかった。
一つのベッドを共有するようになってから何度も二人は
結ばれていたが、上条は今日は遠慮させてもらった。
上条は禁書の背中を抱きしめた。
彼女は規則正しい寝息を立てて眠っていた。
子供っぽい体つきなので抱き心地がよくて暖かかった。
彼女の髪の毛から香るシャンプーの匂いに不思議と
安心感を感じながら、上条も眠りについた。
夢の中の上条は家に帰ったところだった。
彼を待っていたのは、昔のわがままな禁書目録だった。
「遅いんだよ! とうまぁ! どれだけ私が待ったと思ってるの!?
せめて連絡くらいしてくれてもよかったのに!!」
「うるせえ」
「へ……。何が?」
「うるせえって言ったんだよ」
インデックスは思い切り突き飛ばされてテーブルを巻き込んで倒れた。
まだ何が起きたの理解できなかったが、立ち上がろうとする前に…。
「おら。まだ終ってねえぞ」
胸倉を掴まれて苦しんでいる禁書の顔に容赦のない拳が叩き込まれる。
体重の軽い彼女は仰向けに倒れてしまった。
初めて味わう暴力の痛みと衝撃に、視界が涙で一杯になっていた。
乱された前髪を掻き分けながら彼の顔を見て絶句した。
「ふふふふふふ。はははははははははははははははははは。
あはははははははははははは」
上条は笑い始めた。
完全に狂ってしまっているのは一目瞭然だった。
「た…たすけて…」
異常性を感じたインデックスが四つんばいの体勢のまま玄関を
目指して脱出しようとしていた。
だが、上条が許すはずがなかった。
「ナニ逃げヨウと シテんだ?」
「ひ…!?」
涎を垂らした上条が禁書の襟を掴んで持ち上げる。
その体勢はまるで飼い主に持ち上げられたネコを彷彿とさせた。
「躾のなってないネコさんには……お仕置きが必要だよな?」
にっこりと笑いながら言うので禁書は恐怖を通り越して絶句してしまった。
だが、彼女には秘策があった。
「えい!」
突き出したのは小型のナイフだった。
敵に襲われたの時の最悪の事態を考慮して服の中に忍ばせておいたのだ。
「それがどうした?」
上条は左の手のひらでそれを受け止めていた。
正確には貫通してしまっているのだが、流れ続ける血を
処理するよりも禁書に罰を与えるのが先だった。
「殺してやろうか?」
ナイフを引き抜き、禁書の顔を殴り飛ばした。
痛そうに頬を押さえている彼女に覆いかぶさり、
太ももを思い切り上りつねりあげた。
「うわああああああああ!!」
悲鳴という名の極上の音楽を奏でるインデックス。
上条の指はもっと痛むように力を入れて、
彼女を絶望に淵に突き落としてやった。
「あああああ! うああああああ!! やめてえええええええええ!!」
「ひひひ」
叫びながら上条の手を押さえても意味はなかった。
上条は禁書の苦痛に歪む顔と惨めな
抵抗に快楽を覚えていたからだ。
「あはははははあはははは。あははは。あははははっはははははははh」
禁書を蹴り飛ばした後、天を仰ぎながら高笑いを始めた。
(やめろ…!!)
潜在意識の上条は、夢の中であることを自覚していた。
愛する少女に暴行を加えているもう一人の自分が許せなかった。
だが、それも長くは続かなかった。
「…ぐ……ぅえ……」
上条は苦しそうにうめき声をあげた。
異変を感じたのは背中だった。
焼きつくような熱さを感じたので手で触ってみた。
「…ぁに?」
ナイフが刺さっていた。
禁書があらかじめ忍ばせておいた2本目のナイフだ。
上条は1本目を防いだことで完全に油断し、そこを文字通り突かれたわけだ。
「……ぅぅぅ」
上条は力なく床に倒れた。
意識が朦朧として痛みを感じるどころではなかった。
床に広がっていく血だまりが恐ろしくて余計に眩暈がした。
「ひひ。いひひひ」
彼を見下ろしているのは禁書目録とは思えなかった。
その笑い方が御坂美琴にそっくりだった。
まるで美琴が乗り移ったかのように、不気味な笑みを浮かべていた。
上条は全てに絶望して目を閉じた。
次の瞬間。
「はぁ!! ……っはぁ……はぁ…!!」
上条はベッドから飛び上がるように起きた。
全身汗でびっしょりで気持ち悪いほどだった。
「はぁ……!! はぁ……!! な、なんて夢だ…!!」
全力疾走した後のように息が乱れていた。
それ以上に夢の中の自分をぶん殴ってやりたいほどだった。
(なぜ…禁書を…俺が…。なぜ……大好きな禁書を……)
まるで実体験したかのような強烈な現実感を感じていた。
例えるなら映画に出演している自身をテレビで見ているような感覚。
俯瞰視点でゲームの主人公を眺めているような気分だった。
(ちくしょう……いらいらする……!!)
洗面所に直行して顔を洗ったあと、冷たい飲み物を一気飲みした。
それでも気分は少しも優れなかった。
その日は震えながら寝た。
『3 謎の男』
学校の帰り道である。
「当麻~~!!」
「おわっ!」
「会いたかったんだよってミサカはミサカはうれしさのあまり抱きついてみたり!」
背後から抱きつかれたので驚いてしまった。
打ち止めは愛らしい笑顔を浮かべながら上条に甘えていた。
小動物のように可愛らしい彼女の笑顔を見ると救われた気がした。
微笑みながら頭を撫でてやるとますます喜んでくれた。
「はは。可愛いや奴め。今日も一緒にどっか遊びに行くか?」
「うん! パフェが食べたいなってミサカはミサカは…」
そこで邪魔が入る。
「やっぱりアンタってロリコンだったの?」
「な…!」
常磐台の超電磁砲だった。
通学カバンを片手にさげながら冷たい眼差しを向けていた。
「俺はそんなんじゃ……。ただ打ち止めはまだ子供だから
遊び相手がほしいんじゃないかと思ってだな…」
図星だったのだが、上条は見苦しい言い訳を始めた。
そんな態度では少女趣味であると自白しているのと同じだ。
美琴は冷静に問いかけた。
「そうなんだ。で、これからどこ行くの?」
「え? いや別にどこに行くかは決めてないけど…」
「じゃあ。私と一緒にパフェでも食べない? その子も一緒にさ」
美琴は公園の売店を指差しながら言った。
打ち止めも了承してくれたので、3人分注文して
ベンチに座って食べていた。
上条の隣に2人の少女が座っていた。
(あー。平和だなぁ)
上条は流れる雲を見ながらそう思った。
ここ数日は悪夢の連続で最悪な気分になったが、
こうして女の子たちと甘いものを食べていると
全て忘れることが出来そうだった。
食べ終わったパフェの包み紙をゴミ箱に投げ捨てた。
「ねえ」 と美琴が話かける。
「前から気になってたんだけど。聞いてもいい?」
「ん? 別にいいけど…」
「あんた。同居しているシスターがいるわよね?
あの子とはどういう関係なの?」
「……」
上条は黙ってしまった。
詮索してくる美琴の目つきは鋭かった。
嫌でも夢の中の猟奇的な美琴を思い出してしまうので、
実は脅えていた。
それを年下の美琴に悟られたくなかったため、
上条は難しい顔をして沈黙したのだ。
それに元々答えにくい質問でもある。
「ねえってば」
美琴が催促してきた。
「あのシスターさんとも仲良しなのに。今度は打ち止めとも
いい関係になろうっての? 打ち止めは私の妹のような
存在じゃない。幼い子供ばかり好きになって…。やっぱりアンタは…」
「おいおい。落ち着けって」
「落ち着いてるわよ。あんたがはっきりしないのが悪いんでしょ?
あんた、中学生くらいの女の子は眼中にないの?」
「……なんでそんなことを聞くんだよ?」
「私にも少しは脈があるかなって思ったの」
「…?」
「分からないの?」
上条は再び沈黙してしまった。
美琴がいつの間にか腕を絡めてきたのだ。
ささやかな胸の感触が腕に伝わった。
「どうして私があんたに絡んでいるのか。分からないの?」
「…!!」
朴念仁でも彼女の意図を察するのはできた。
美琴は遠回りに告白しているのだ。
「すまん。俺は禁書目録…あのシスターのことな。あいつが一番好きだ」
「…」
「ごめんな」
「…………そう」
もうこれ以上彼女の顔を見ていられなかった。
上条は打ち止めと手を繋ぎながら早足でその場を去っていった。
打ち止めは美琴を振り返りながら「どうしてお姉さまは泣いているの?」
と問いかけてくるのが、適当にあしらった。
その後は打ち止めを一方通行のところまで送ってから家に帰った。
帰宅後。
何気なくカバンを開けてみると、中には見知らぬ写真が2枚入っていた。
「…?」
首をかしげながらそれを手にとって間近で見る。
薄暗くてよく見えないが、目を凝らしてみると…
そこには上条と美琴の姿が映っていた。
「…!? ……!?」
上条は仰天して写真を落としそうになる。
写っていたのはあの時の夢に出てきた美琴だった。
猟奇的な眼差しと狂った微笑みは間違いなくあの時の美琴だ。
1枚目は美琴が上条に手錠をしてる場面。
2枚目は美琴に首を締められている上条の姿。
「なに見てるの、とうまぁ?」
のんきな声のインデックスが覗き込もうとしてくるので、
上条はすぐに身を翻して写真をカバンにしまった。
「な、なんでもない」
「怪しいなぁ。もしかして浮気とかしてないよね?」
「そんなわけないだろ! 俺はおまえだけを愛してるんだ」
「ぁ…」
禁書を抱きしめて黙らすことにする。
怒ったときはこうすれば許してくれるからだ。
頭を撫でながら耳元で甘言をささやき続けてなんとか
ごまかすことに成功したのだった。
食後。
風呂に入りながら写真のことについて考察していた。
(誰かのいたずらに違いない。だが、あれは夢の中の出来事だったはず…。
俺と御坂がそんな関係になったはずがないんだ。今日だって告白されたが
あいつに異常は見られなかった。だが…)
いくら考えようとしても頭痛がして思考を中断させられる。
頭痛はあまりにも激しくて眩暈すら覚えるほどだったので、
上条はもう考えすぎないようにした。
仮にあの写真が存在したところで明日も変わらない1日がやってくるのだ。
あれはたちの悪いいたずらだと思って綺麗に忘れることにした。
だが、そんな彼をさらに追い詰めるような出来事が起きるのだった。
prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
「とうま。電話だよ?」
「ああ。今でるよ」
入浴後、髪の毛をかわかしていたら電話が鳴ったのだ。
上条はドライヤーのスイッチを切ってから受話器を持つ。
「はい。もしもし?」
「……」
「……」
「……」
3秒ほど経過しても返答がないので少しイラついた。
「もしもし? 聞こえてますか? 返事がなければ切りますよ?」
「………見ましたか?」
「…っ!?」
上条は思わず震えてしまった。
その声に聞き覚えはないし、奇妙な声は男か女かも判別がつかなかった。
機械で無理矢理に音声を変えたような声だった。
「見たとは……な、何をですか?」
「2枚。あなたのカバンに入れておきました」
「な…?」
電話の主は間違いなく写真のことを言っていた。
上条は顔面蒼白になって気絶しそうになった。
現実と非現実が入り混じる不思議な感覚だった。
そいつは話し続ける。
「あの時のことを覚えていませんか? 私はあなたが忘れてしまった
のではないかと思ってプレゼントしたのです」
「おまえは…誰だ? なぜ俺の夢のことを?」
「私はいつでもあなたのことを見ています。これだけは忘れないでください。
現実は1つしかありません。いずれお会いする時が来るかもしれませんね」
会話はそれで終わった。
「誰からだったの?」
事情を知らない禁書が涼しい顔で話しかけてきた。
「い、いや。気にするな。ただのイタズラ電話だよ。はは」
上条は汗をぬぐいながらそう言った。
そして禁書に抱きついた。
「あわわ! とうま? どうしたの?」
今は少しでも人の温もりを感じていたかった
不安と恐怖に襲われて気が動転してしまったのだ。
思わず泣き出してしまった上条だが、禁書は優しくなだめてくれた。
「大丈夫だよ。私はいつでもとうまの味方だからね」
「うぅ……うっ……」
彼女に膝枕されながら子供のように泣きじゃくっていた。
上条が眠くなるまでそうしてくれた。
禁書はすごく優しかった。
まるで上条にとって理想の女の子のように。
『4 回帰』
翌日の学校の帰り道だった。
人気の無い路地裏で不審な男と会っていた。
「お会いするのは初めてですね」
「おまえは昨日の…?」
「ええ」
昨夜の不審な電話の主だった。
帰り道を歩いていた上条に声をかけてきて
ここまで案内してきたのだ。
「まさか学生だったとはな。お前も何かの能力者か?
それとも魔術師の類か?」
「……さあ。どうでしょう」
「…」
「…ふふ」
「……用件を言え」
「ふふふ。失礼…。ではさっそく」
淡々と話すそいつは学生服を着ていた。
夏服のYシャツに紺色のズボン。
中肉中背のごく普通の男子学生。
背丈は上条とほぼ同じだった。
「今、向こうのあなたに繋がってます。お聞きになりますか?」
全く意味不明なことを話す男だった。
そいつは携帯電話を上条に渡そうとしていた。
上条は受け取っていいのか迷ったが、
気になったので携帯を手に取った。
待っていても事態は解決しないからだ。
電話から聞こえてきた音声は恐るべきものだった。
『今日からここで一緒に暮らしましょう』
上条の手が震えだす。
あの時の美琴の発した声そのものだった。
『よしよし。大丈夫だよとーま。私がずっと一緒にいてあげるんだから?』
『だれそのひと? もしかしてあのシスターさんのことなのかな?』
痛いくらいに目を見開いている上条。
その男は脅える上条に近寄って話しかけた。
「あなたはすぐ現実から目を逸らそうとする」
「彼女は今でもあなたを待ち続けています」
そいつはそれだけ言い残して去っていった。
上条は路地裏を飛び出してそいつのあとを追おうとしたが、
人ごみに紛れたので見失ってしまった。
(奴は一体何を言おうとしていたんだ?)
寒気を感じながら思考の迷路に迷い込んだ。
奴の言っていたことを考えるたびに眩暈がして
狂ってしまいそうになる。
それ以上に恐ろしいのは、あの少年が上条当麻にそっくりだったことだ。
分身と言っても過言ではないほどに。
その正体としてドッペルゲンガーを想起させた。
書物でしか読んだことのない程度の知識だが、
それがもたらす悪疫は理解してるつもりだった。
しばらくその場に立ち尽くしたが、
ようやく気持ちが落ち着いたので帰宅した。
「禁書目録…?」
玄関の前で裸の禁書が倒れていた。
うつぶせの状態で出血していた。
すでに死体だった。
「うぷっ……」
上条は耐え切れず吐いてしまった。
生々しい死肉と猛烈な腐臭は耐え切れるものではなかった。
(なぜだ…? なぜ…?)
吐き続けながら疑問が次々と頭に浮かんでいた。
「どうしてだろうね?」
「…!?」
包丁を持った美琴が微笑んでいた。
血塗られた刃は、間違いなく禁書を殺害したことを意味していた。
「戻りなさい」
「ぐ…」
瞬きする余裕すらなかった。
一瞬で接近されて腹部を刃物で刺されてしまった。
「いこう?」
失血量に比例して意識が朦朧としていた。
彼女は小声で何事か話していたが、聞き取ることはできなかった。
(もう……ここにいられないのか…。
またあの世界に行かなくちゃならないのか…。
嫌だ。……嫌だ。受け入れたくない…)
「ふふふ~ん。ふふ~ん♪」
聞こえてきたのは御坂美琴の鼻歌だった。
よほど上機嫌なのか、編み物をしている。
上条は彼女にそのような趣味があるとは知らなかった。
「目が覚めたのね?」
上条の頭を優しく撫でる。
「ずいぶん長く眠っていたわ。もう二日ぐらいは経ってるわよ?」
美琴はファンシーなデザインのカレンダーを見ながら言った。
「そろそろ薬が足りなくなったかな?」
テーブルの上に怪しい薬と注射器がおいてあった。
「苦しくない? 鎖を少し緩めてあげようか?」
それは上条の全身を拘束してあるものだった。
ベッドの上で寝かされていて一歩も動けない状態だった。
ここは美琴の女子寮の部屋だった。
「美琴。聞きたいことがある。禁書と打ち止めは生きているのか?」
「さあね。泥棒ネコのことなんてもう忘れたわ」
「……」
「ところでさ。寝ている間、ずいぶんうなされていたわよ?
まるで現実を教えようとする心と、それを拒否して
逃避しようとする精神のハザマで苦しんでいるみたいに」
美琴は注射器を構えながら言った。
「これはそういう薬なの。当麻が辛い現実に苦しみ続けて
死んでしまわないように幸せな夢を少し見させてくれるの。
楽しかったでしょ? 悪夢もたくさん見れたんじゃない?」
言いながら上条の手に注射器を打ち込む。
そこにいるのは猟奇的に微笑む現実世界の美琴だった。
上条は近くにあった鏡を見て絶望した。
自信の首筋には何者かに締められた跡が残っていた。
顔にはかすかに殴られたようなあざも見受けられる。
「でもね。ここは現実なの」
「あんたは私だけのもの。私が当麻を逃がすわけないでしょ?
たとえあんたに嫌われても諦めないわ。
邪魔な女は全部殺したから問題ないしね」
「大好きよ。当麻」
The end (要望あれば解説する)
解説 読みたい人だけ読んで。
①実は作中で上条が現実世界と思っていた世界が『ただの妄想』 走馬灯のようなもの。
禁書が妙に優しくて素直なのもそのため。
夢と思われた世界は一部が経験した事実。中には捏造(妄想)あり。例えばヤンデレ美琴の夢で
上条は実は脱出できず、監禁されたままだった。美琴ヤンデレ化、逆レイプまでは事実。
冒頭の病院の夢は、監禁生活と麻薬の恐怖が生み出した妄想世界。
あれは真実ではない。
禁書虐待の夢は、今までわがままな禁書に不満を持っていて、
暴力を振るいたいと思っていた願望が生み出した完全な妄想。あれも真実ではない。
②謎の男子学生と会うことで監禁された事実が浮かび上がる。
彼の正体は上条の心の分身。上条に現実を見させる役割を持っている。
2枚の写真。携帯電話での音声の再生。
③現実世界に回帰。上条は美琴に監禁されていた。麻薬を打たれている。
おもしろこわかった
>>1乙
元スレ
今日は休日。
とある事情により一方通行から打ち止めを預かった。
といっても今日限定の付き合いだが、
最寄のショッピングモールまで買い物に連れて行ってやった。
フードコートで好きな食べ物を食べさせてやったりと
色々と世話をしたのだが、途中で御坂美琴に遭遇したので走って逃げてきた。
超電磁砲に関わると面倒なことになりそうだったからだ。
打ち止めのことを詮索されてロリコン扱いされるのは目に見えていた。
ちなみに本当のことを言えば、一方通行にロリコン雑誌1000冊を寄贈して
取引しただけなのだ。不幸体質で世の女性に絶望した上条にとって、
幼女は天使のような存在だった。
4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:11:03.59 ID:rs2HI0+b0
「おーい。みんなでトランプでもして遊ばないか?」
「うん。やるー!!」
打ち止めは乗り気の様子だ。
元気に話す姿が子供特有の無邪気さを感じさせる。
その笑顔が上条の元気の源だった。
(ふぉおお。すごく可愛いけど、いずれは。はは…)
彼女がいずれ美琴のように成長するのかと思うと
せつない気持ちで胸が締め付けられそうになった。
「まあ、たまにはいいかも。どうせ暇だったし」
禁書は重い腰を上げてくれた。意外と面倒見がいいのだ。
彼女との同棲生活にもすっかり慣れたが、最近では淡白に
なってきた。ここに来た当初はもっと明るくて文句ばかり
言っていたが、すっかり大人しくなってしまった。
5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:15:03.20 ID:rs2HI0+b0
だが、それは悪い意味ではなく、むしろ成長が見受けられた。
家事を積極的に手伝ってくれるなど、傍若無人さは息を潜めた。
上条たちは三人でテーブルを囲み、トランプを切り始めた。
三人はババ抜きや七並べして遊んだ。上条と禁書は
手加減して、できるだけ打ち止めが勝てるように調整してやった。
上条達にとっては何でもない遊びだが、
幼い打ち止めは十分楽しんでくれた。
やがてトランプにも飽きてきたのでテレビを見ながら
ボーっとしていたら眠くなってきた。
「ぐがー、ほげー」 「すぴー」
下品に寝息を立てているがインデックス。打ち止めは静かに眠っていた。
打ち止めほどでないにしても禁書の外見も幼い。
実年齢を上条に教えてくれなかったが、英国人としては
信じられないほど童顔だった。
寝ている時の無防備な顔は上条の好みだった。
打ち止めと並んで横になっている姿は姉妹のようだった。
7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:18:58.45 ID:rs2HI0+b0
「ふぁ。俺も眠くなってきたな。
まだ夕飯の支度まで時間あるし、寝ておくかな」
上条が時計を確認しながらあくびを噛み殺した。
そして床に横になって目を閉じようとした。
その時である。
トン トン トン
何事かと思って勢いよく起き上がる。
眠気がすっかり覚めてしまった。
トン トン トン
明らかに扉が叩かれている音だった。聞き間違いではなかった。
上条がその音を探るため眼を細める。
「…」
音は玄関から発せられているようだった。
8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:21:58.25 ID:rs2HI0+b0
「なんだ…?」
来客の可能性が高いが、何か嫌な予感がした。
胃の中がきゅっと締め付けられるような
痛みを感じて気持ち悪くなる。
慎重に扉まで歩いて近づいて
耳を当ててみる。
……
……
音はしなくなった。
人の気配もしない。
不気味な静寂だった。
9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:25:11.13 ID:rs2HI0+b0
「誰かのいたずらか?」
不審に思いながら再び部屋の中央に戻る。
インデックスと打ち止めは眠ったままだ。
カチ カチ カチ
時計の針は正常通り時間を刻んでいる。
(気のせいだったのか? 疲れてるせいかな…)
肩を撫で下ろした上条が再び横になろうとしたその時。
『~~~~~~~hkjdhlajhgdjlsgs!」
今度は人の声と獣の鳴き声を混ぜたような奇妙な音が聞こえていた。
(一体何が起きてる?)
13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:29:20.43 ID:rs2HI0+b0
上条はいよいよ恐怖し始めた。
普通に生活していて聞けるような音ではなかった。
不可解という意味では、魔術師や能力者の存在を疑うべきだ。
だが、彼の直感はそれとは違う答えを導こうとしていた。
それを裏付けるように新たな異変が発生した。
『キキキキキキキキキキキキキキキキ』
その引っかくような音はバスルームの方から聞こえてきた。
思わず耳を塞ぎたくなるような不快音。
それに伴って自覚できるほど動悸が激しくなってきた。
上条は震える手を押さえながらそこの扉をゆっくり開く。
彼はこれ異常ないほど目を見開いた。
14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:33:07.35 ID:rs2HI0+b0
わずかに開けられた口から言葉を発しようとしたが、
それすらできないほどの衝撃を受けていた。
『キキィ… キキィ…』
それは人の指がタイルを引っかく音だった。
浴槽は何者かの血で真っ赤になっている。
そのお湯の上に千切れた人の手が浮いていた。
それはまるで生きているかのように指先をわずかに動かして音を奏でていた。
「…っ!!」
上条は一瞬で血の気が引いてしまった。
尻餅をついた情けない格好のまま禁書たちのもとへ戻る。
「おい起きろ! 大変なことになったんだぞ!!」
うつ伏せで寝ている禁書目録の身体を揺さぶる。
15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:37:04.53 ID:rs2HI0+b0
なりふりなど構ってられない。
気が動転しておかしくなりそうだった。
早く彼女に事情を知って欲しくて、一緒に悩む仲間が欲しくて、
力を込めた両手で彼女の肩を握っていた。
しかし、どれだけ激しく揺さぶっても彼女が目覚めることはなかった。
「……?」
上条の手にはべっとりと真っ赤な血がついている。
手のひらからあふれるようにドロドロの液体が床へ落ちていった。
よく見ると、禁書の胸元を中心に血だまりが広がっている。
彼女の顔は青ざめた死人の色をしていた。
「…ぅ!!」
猛烈な吐き気が上条を襲った。
16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:41:07.62 ID:rs2HI0+b0
つい先程まで禁書目録は生きていたはずだった。
仮にこれが殺人だとしたら、上条がバスルームに
行った間に犯行を実施したことになる。
それに加えてまだこの家の中に潜んでいる可能性が高い。
だが、人の犯行と仮定するとあまりにも迅速すぎるのだ。
よって計画犯罪だと考えられるわけだが…
(落ち着け……落ち着くんだ……!)
上条は深呼吸して少しでも平常心を保とうとした。
そういえば打ち止めはどうなったのかと思って部屋を見渡した。
(なっ……!!)
その光景を目にした上条は、叫ばずにいるのが精一杯だった。
17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:46:00.38 ID:rs2HI0+b0
信じられないことに、片腕を切り落とされた打ち止めが宙を浮いていた。
禁書と同じように青白い顔をしており、そのまますーっと水平方向に移動していた。
明らかに人間の動きではない。
人間の犯行を前提とした論理を組み立てる余裕などなかった。
打ち止めは一瞬だけ上条の方を振り返った後、
玄関の扉に吸い込まれてしまった。
つまり閉じられた玄関をそのまま通り抜けてしまったのである。
(……な……なな……なにが……おきて……)
手が振るえ、歯の噛みあわせが合わない。
気絶してしまえばどれだけ楽になるだろうと思っていた。
すると…
18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:50:34.31 ID:rs2HI0+b0
『aghfaslgkshajkfhjshfajklsfafjasadfasdadadadsa!!』
またしても様々な音が混じったような基地外じみた音が発せられる。
何が起きているのか確認する勇気はなかった。
頭を抱えながら室内でうずくまる。
できるだけ禁書の死体が視界に入らないようにした。
『gagagagagagagagahuhughghghghghghghghghgahghahgah!!』
音は鳴り続けて止まらなかった。
しかもすさまじい大音量を発生させており、
耳を塞いでも耐え切れるものではなかった。
うるさいのを通り越して頭痛がしてきた。
もう我慢の限界だった。
(ちくしょう!!)
19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:54:26.97 ID:rs2HI0+b0
もう部屋の中にいるのは限界だった。
半ばヤケクソになりながら玄関を開けて外に出る。
(……はは。何だよこれ)
もはや苦笑いするしかなかった。
そこは見慣れた通路ではなかった。
古い病院の廊下になっていた。
老朽化が進み、壁や床には所々ひびが入っている。
薄暗い廊下の先は全く見えず、天井に付けられた
頼りないランプがわずかに照らしているだけだ。
見えない恐怖。
長く、どこまでも続いてく地平線のような廊下。
今自分が立っているこの場所ですら危うく感じられる。
次の瞬間に床が抜け落ちてしまいそうな錯覚を感じるほど怖かった。
20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 13:59:39.77 ID:rs2HI0+b0
(う……)
それはあくまで見た目の問題だが、何より耐えられないのが匂いだった。
一瞬もどしそうになったのを必死で堪える。
血や薬品の匂いが充満していてこの世の地獄のようだった。
目をつむろうとすれば余計に匂って気分を害する。
肺の中まで汚染されてしまいそうな嫌悪感を感じていた。
カッカッカッカッ…
甲高く響くのは人の足音だった。
キュルキュルキュル……
まもなくして汚れた白衣を着た看護士が車椅子を押してきた。
頼りない足取りで歩いており、車椅子には髪の長い少女が乗せられていた。
21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:03:03.29 ID:rs2HI0+b0
キュルキュルキュル……
看護士は上条のことを無視して脇を通り過ぎていった。
まるで上条の姿が見えないかのように。
そして右手に見える手術室のような部屋に入っていった。
すぐにその部屋の明かりが点いた。
中からは数人の男性の話し声が聞こえてきた。
低くてよく響く声は、男性医師のものかと思われた。
グチョ グチャ ピチャ チャ
まるで臓器を取り出すような気持ち悪い音が断続的に鳴り響いた。
あの施術室の扉の向こうでは悪魔の宴が行われているようだ。
何が起きているのか視認することはできないが、
それがかえって恐怖を倍増させる結果となった。
24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:27:10.66 ID:rs2HI0+b0
(ううぅぅぅ…!)
上条は両手で口を押さえながら吐き気と戦っていた。
キュル……
気がついたら上条の背後に車椅子が用意されていた。
その気配にすら気がつかないほどの一瞬の出来事だった。
これだけ静かな病院内なのだから、近づいてくれば
少しは音がしてもいいはずだった。
だが、それはワープしてきたかのように背後に
現れて、かすかにタイヤの音を鳴らしただけだった。
異変はそれだけではない。
それを押しているはずの人がいなかった。
さらに上条の体が後ろから引っ張られて車椅子に座らされる。
見えない何かに引っ張られたのだ。
25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:30:57.93 ID:rs2HI0+b0
無論。人の気配は全くない。
キュルキュルキュル……
もはや自身の正気を疑うほかなかった。
車椅子は勝手に動き始めたように思えた。
否。
今度はそれを押している人影があった。
その女はミサカミコトに瓜二つだった。
血走った目つきは彼を地獄にいざなう死神のように思えた。
上条はすでに腰が抜けていて一歩も動けなかった。
無常にも車椅子は手術室の目前まで進もうとしたとき、
上条は喉が焼け付くほど叫び始めた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:33:58.95 ID:rs2HI0+b0
視界が回り始めた。
意識がぐるぐると螺旋のように回転する。
全ての思考回路を停止させて死を受け入れようとしたとき。
「はっ!」
上条は目を覚ました。
そしてショッピングモール内の喧騒が耳に入ってくる。
『いらっしゃいませー』 『またのご来店をお待ちしております』 『~~~~~♪』
店員の声や流行の音楽など。どれも存在したはずの日常の音だった。
「そうか…俺は…」
上条は買い物の途中で昼寝したことを思い出したのだった。
財布の中には買ってくるものが書かれたメモが入っている。
27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:37:04.49 ID:rs2HI0+b0
「大丈夫?」
美琴が心配そうな顔で問いかけてくる。
そのすぐ横には打ち止めの姿。アイスを食べながら
上条の顔を怪訝な表情で見ていた。
「え…? 御坂がなんで一緒に?」
「あんた。何も覚えてないの?」
彼女の話によると、今日は三人でモールで遊んでいたらしい。
美琴とは店内で偶然会ったので途中から一緒になったとのこと。
適当にゲームショップやら洋服売り場などをブラブラして
いたら、眠気を訴えた上条がベンチで寝初めたので驚嘆したらしい。
美琴は真剣な顔で上条の容態を気にしてくれたが、
上条は心配ない旨を必死で伝えた。
スーパーで食料品を買った後、
その日は早く帰って寝た。
28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 14:41:05.55 ID:rs2HI0+b0
次の日。
学校はいつも通りの日常だった。
何気ない気持ちで授業を聞き流しながら、
昨日の嫌な夢は忘れようと決心したのだった。
だが、今日の体調は万全とはいえず、猛烈に眠くて困っていた。
先生に注意されながらも、何とか授業をやり過ごしたが、
放課後になるともう限界だった。
一緒に帰ろうと誘う土御門達を無視しながら机に伏せ、
目を閉じたら一瞬で夢の世界へと誘われた。
31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:11:38.71 ID:rs2HI0+b0
『2 狂った少女』
「今日からここで一緒に暮らしましょう」
美琴が上条の手に手錠をかけた。
「…!?」
上条が困惑するのも無理はなかった。
以前から美琴の傍若無人さに呆れるばかりであったが、
今回はとうとう一線を越えてしまったという印象だ。
人の自由を侵害する権利がどこにあるのかと考え、
怒りで大声を出してしまう。
「ふざけるな! なんで俺がおまえなんかと暮らさなきゃならないんだ!?
いい加減にしないと…」
胸の中がムカムカして怒りが炎のように湧き出てきた。
「こんなことしてただで済むと思うなよ!? だいたい、おまえは
以前からちょっとおかしいと感じてた。やっぱりおまえは…」
32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:15:03.63 ID:rs2HI0+b0
怒鳴りながらも周囲を見渡してみた。
見覚えのないこの場所はどうやら美琴の部屋らしく、
お嬢様らしい格式のある部屋である。
永遠に続くかと思った彼の説教を止めさせたのは美琴の
凍てつくような一言だった。
「当麻」
「―っ!」
空気が張り詰めるとはこのことだった。
美琴は大きな声を発して上条を脅したわけではない。
だが、その一言が異常な説得力を持っていた。
チッ チッ チッ
時計の針の音が妙に大きく聞こえた。
33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:18:56.60 ID:rs2HI0+b0
不気味な静寂に包まれる室内。
上条は悪寒と未知の恐怖から動悸が激しくなっていた。
何か自分から話をするべきかと思っていると、
美琴が口を開いた。
「お願いだから私を怒らせないでほしいの。
私ね、今とっても精神的に不安定なの。できれば当麻を傷つけたくない」
彼の頬に触れる美琴の手も冷たかった。
まるで異世界からの使者のように思える彼女から感じる雰囲気は、
上条に底知れない恐怖を与えていた。
下の名前で呼ばれるのも初めてだったので余計に緊張した。
「脅すようなことを言ってごめんね。そんなに緊張しないで大丈夫よ?」
一転して甘い声だった。
彼女は明らかに作り物と分かる下手糞な笑みを浮かべている。
34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:22:16.94 ID:rs2HI0+b0
欠落した感情と人としての常識。
まるで人形だった。
「あなたと仲直りしたいの。
……今なら二人だけだし。いいよね?」
それはキスの許可を求める言葉だった。
上条の返事など待たずに顔を接近させてから一言呟く。
「動かないでね」
押し付けられた唇の感触は柔らかかった。
美琴がわずかに口を開くだけで熱い吐息が漏れる。
息継ぎするタイミングが見つからずに苦しむ上条だが、
目を開けていると狂気に染まった美琴の顔が見えてしまうのできつく目をつむった。
「っぷは!」
たっぷり30秒ほど時間をかけてから唇を離してくれた。
35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:26:23.24 ID:rs2HI0+b0
美琴が舌舐めずりして彼の唾液がついた部分を味わっていた。
その姿は妖艶でとても中学2年生の女子には見えなかった。
「どうして泣いているの?」
美琴が涙を流している上条を抱きしめながら聞いた。
上条はなぜ自分がこんな目に合うのかと考えていたら
くやしくなって耐えられなくなったのだ。
好意を抱いていないし、付き合ってすらいない年下の女の子に
いじめられているのは我慢できるものではなかった。
抵抗しようかと思ったが手錠の感触があまりにも
硬くて冷たくて、諦めてしまうのだった。
「よしよし。大丈夫だよとーま。私がずっと一緒にいてあげるんだから」
美琴の言葉は全く慰めになっていなかった。
優しく頭を撫でてくるその手を振り払えればどんなに
楽になるだろうかと上条は考えた。
36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:30:33.68 ID:rs2HI0+b0
これからどれだけ彼女と過ごせばいいのか分からないが、
戻ることが出来ない現実世界のことを考えると、
枯れ果てたはずの涙がもう一度頬を伝うのだった。
「インデックス……」
大食いのシスターのことを思い出したので不意に口に出してしまった。
この学園都市での生活で最も上条に影響を及ぼしたのが彼女だ。
嫌というほど事件に巻き込まれたし、彼女の世話焼きもした。
おいしいご飯を作って彼女を喜ばせることは、気がついたら
生きがいの一つになっていた。
「だれ? そのひと? もしかしてあのシスターさんのことなのかな?」
「ぐ……うぉ……はっ……」
「聞きたいのはね。どうして私と愛し合ってるのに他の女の名前が出てくるかってこと。
その無神経さ、すっごくムカツクよ? 殺したいくらいにね」
「……ぅぅ……っ……」
38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:34:17.85 ID:rs2HI0+b0
「私を怒らせないでって言ったはずよね? ねえ。本当に分かってる?」
締め上げられた首の痛み以上に彼女の眼光が恐ろしかった。
射抜くような眼光という表現で言い表せるほどのものではない。
心臓を鷲掴みにされるような悪寒と絶対の死の恐怖を呼び起こすものだった。
上条が知っていた美琴はこれほど恐ろしい少女ではなかったはずだった。
勝負勝負と喧嘩を仕掛けてくるのはまだ可愛い方だったと、
今になって気づかされるのは皮肉な話だった。
「……あ。ごめんね。やりすぎたよ」
上条の手足が震えだしたところで開放してくれた。
彼は口を大きく開けて酸素を求める。
地獄から生還した兵隊のように深刻な顔をして
力なくその場に倒れてしまった。
首筋に残った真っ赤な手の跡には、美琴の怨念がこもっているような気がした。
39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:38:12.97 ID:rs2HI0+b0
「あれぇ。大丈夫?」
倒れている彼の上に覆いかぶさるように美琴が乗ってきた。
汗をかいている彼の顔を取り出したハンカチでふきながら
本当に心配そうな顔をしている。
「俺に恨みがあるんだろ? でなけりゃこんなことするわけないもんな。
もう殺せよ。その方が気が楽だ」
「どこまで当麻は朴念仁なの? あなたのことが大好きだから
こんなことをするのよ?」
「…悪いが迷惑だ。おまえみたいな暴力的な女と付き合うなら死んだ方がマシだ」
「ふふ。うふふふ……ふふ。そんな生意気なこと言われたら
殺したくなるじゃない。いいから黙って私の言う通りにしてなさい」
美琴は自身のサマーセーターに手をかけて脱いでしまった。
次にYシャツのボタンを一つずつ外していき、脱いだものはその辺に放り捨てる。
スカートを脱ぐためにチャックに手をかけたところで、上条が声を張り上げた。
40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:42:24.86 ID:rs2HI0+b0
「待て。やめろ!! おまえは正気じゃない。後で必ず後悔するぞ?」
「もう手遅れだよ。当麻をここまで連れてきたのだって犯罪だもん。
苦労したんだよ? 黒子にも手伝ってもらったし」
「何でもいいからすぐにやめろ。それ以外のことなら何でもしてやるから」
「ガタガタうるさいなぁ。いいから黙ってなさいよ」
まもなくして美琴は一糸纏わぬ姿になった。
中学生としては高めの身長に、細身の身体のラインが特徴的だった。
余裕のある笑みを浮かべながら上条に接近して…
「どう? 私の裸を見て興奮した?」
「あいにくだがな、おまえのような子供に興味はない」
「うふふふふ。本当にそうかしら?」
美琴はズボン越しに上条の股間を撫で始めた。円を描くように
ゆっくりと手を動かすと次第に上条のそこが反応してきた。
41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:46:00.15 ID:rs2HI0+b0
「や…やめろ」
「身体は正直だよね。私ね、これでも常磐台では美少女と呼ばれてる
人種なんだけど。私を見て本当に興奮しないの?」
「……」
「私の身体。全て当麻のものなんだよ? 胸もお尻も。
全て滅茶苦茶に犯してくれていいんだよ?」
彼の視界に彼女の美しい乳房が映る。
怪しい言葉を吐く美琴の唇に目線が吸い寄せられる。
すらりと伸びた下半身をつい見てしまいそうになる。
「楽にさせてあげるね」
それを確認した美琴がズボンのチャックを開けて彼のモノを露出させる。
おもむろにそれを口に含み、舌を伸ばして愛しそうに舐める。
「……」
43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:49:58.98 ID:rs2HI0+b0
美琴の舌の動きは官能的だった。
整った顔を崩すことなく一心不乱に作業に没頭していた。
嫌でも艶かしい彼女の肢体が視界に入ってくる。
少し視線を下げれば上目遣いの美琴の顔がすぐそこにあるのだ。
上条はすぐにでも達しそうになるが、必死で耐えていた。
(インデックス……。おまえに会いたい。おまえは今どうしてる?)
現実逃避するために目を閉じてすぐに浮かんだのが、愛らしい禁書目録の笑顔だった。
財政事情の苦しい中、昨晩は奮発してお肉をたくさん焼いて
やると、上機嫌で完食してくれた。
それがうれしかったので自分の分の焼肉も分け与えてやったら、
子供のような笑顔で喜んでくれた。
(どうしてこんな気持ちに…)
上条の精神は幼い子供のように不安定になってしまった。
一方的な可逆に耐え切れなくなった精神が退行している結果だった。
それは人間に備わった自衛機能だ。
44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:53:03.58 ID:rs2HI0+b0
「うふ」
美琴はフェラチオを中断して上条に馬乗りになる体制に入った。
すでに愛液で濡れている秘所を指で開き、上条のモノに押し付ける。
抵抗なくすんなりと挿入されてしまった。
彼女とついに繋がってしまったのだ。
「はぁ……はぁ……」
上下運動する美琴の体が激しく揺れる。
上条の視線は彼女の控えめな胸に釘付けになってしまった。
美琴の身体はスリムで腰回りなどは折れてしまいそうなほど細い。
暖かい膣内が上条のモノをきつく締め付けて離さない。
彼女の奥まで挿入されるたびに快楽で頭がおかしくなりそうだった。
46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 15:57:19.20 ID:rs2HI0+b0
「はぁ……はぁ……はぁ……」
部屋の空気が変わっていく。
この部屋には二人しかいない。
せつなそうに吐息をもらす美琴と苦しそうな上条。
汗の臭いと性と匂いが充満して異様な空間となった。
「とう……ま……」
快楽に酔った彼女の視線は宙をさまよっている。
ひたすら官能的な刺激を求める若い身体は止まることを知らなかった。
蛍光灯の光を浴び、十代の美しい肌が汗でなまめかしく輝く。
ショートカットの髪の毛が肌に張り付いているのが刺激的だった。
47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:01:09.39 ID:rs2HI0+b0
(耐えろ。まだチャンスはある。これは神がくれたチャンスだ)
上条は奇跡的に外すことに成功した手錠を見ていた。
手錠に不備でもあったのか、気がついたら緩んでいることに気がついたのだ。
美琴は行為に夢中で全く気がついてない。
それから自分と美琴が絶頂に達するまで待った。
荒い息を整えるために床に横になった美琴の背中を叩き、
驚嘆して振り返った彼女を思い切り引っ叩いた。
「きゃぁ!」
彼女は短い声を発して吹き飛ぶように倒れた。
乱れた髪の毛のせいでその表情は見えない。
48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:04:59.53 ID:rs2HI0+b0
「今までよくもやってくれたな」
「なにを…」
「黙れ。おまえは最低のクズだ。このキチガイ女め!」
上条は物に対して行うように美琴を蹴った。
一切の手加減なしだ。
腰のあたりを押さえてうずくまる彼女に対する
同情心は微塵もなく、さらに追い討ちをかける。
「おまえなんか死んだ方がいい!」
「…!」
感情が爆発していた。
上条は美琴の髪の毛を引っ張りながら平手打ちを何度も喰らわした。
本来なら抵抗できたはずの美琴だが、突然の事態に付いていけず、
殴られるままだ。
49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:08:13.11 ID:rs2HI0+b0
さらにお返しとばかりに、顔が真っ青になるまで首を絞められてしまう。
「ぐるし……やめて……」
「ふ。いい顔だな。首絞められるのがどれだけ苦しいか分かったか?」
「ぁ……うぅ……がは……」
それから首を開放しては呼吸をさせ、
また締め直すなどして地獄に突き落としてやった。
「どうだ? 少しは俺の痛みが分かったか?」
「……っ……うっ……ぐすっ……」
流れ続ける涙と鼻水で顔を汚した美琴は、上条に頭を踏まれていた。
大好きな彼に嫌われてしまったことと、殴られた体の痛みとが重なり、
心がずたずたに引き裂かれてしまった。
涙で視界が曇ってしまって何も見えなかった。
52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:12:02.65 ID:rs2HI0+b0
「ふん」
上条はしゃがんで美琴の湿った髪の毛に触れる。
派手に乱れて顔を隠してしまっているそれを優しく掻き分ける。
「おい御坂。おまえ、クズのくせに顔だけは可愛いよな」
「……ひぐっ……っ……お願い。嫌いにならないで……」
諦めの悪い美琴はまだそんなことを言っていた。
両手を伸ばして上条の足元にすがりつく。
そして潤った瞳で彼を見上げながらこう懇願した。
「…わ、…私に……何しても……いい。…あなたの奴隷にでも
なります……。だから……嫌いにならないでください……」
嗚咽交じりで必死に発した言葉だった。
53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:16:08.15 ID:rs2HI0+b0
暴力を振るわれても彼を慕おうとするのは異常者の考えだ。
美琴にとって、上条以外の存在など何もいらなかったのだ。
上条は悪魔のように笑いながら、彼女をさらに
追い詰めるために言葉の毒を吐くのだった。
「御坂。前から言おうと思ってんだが。俺はおまえのことが…」
「やめて…お願い。やめ」
「大嫌いだ。二度と関わりたくないほどにな」
「……!」
美琴にとっては心臓をナイフで刺されたに等しい事実だった。
落胆を通り越して身体中が震え出して真っ青になる。
「……いやだよ……そんなの……いやだぁ……」
まるで幼児のようになってしまった。
両手で顔を押さえながら目を痛いほど見開いている。
54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:20:12.73 ID:rs2HI0+b0
「そんなに嫌か?」
「うん……。もう死んじゃいたいくらい……怖くて……不安なの…」
「なら、白井を呼んで俺をテレポートさせろ。寮の外まで
逃がしてくれたら絶交するのは勘弁してやる」
それを聞いた美琴が一変して目を輝かせる。
「本当に…? 本当に 本当?」
「ああ。素直に言うことを聞いてくれる美琴なら好きになってもいい」
「……!」
上条は彼女の顔を引き寄せて唇を強引に重ねてやった。
美琴は両手をだらりと垂らして一切抵抗せずに上条に身を任せる。
数秒して上条がキスを止めたので不満そうな顔をしたが、
上条から睨まれたので、彼の命令を忠実に実行するために黒子を召集した。
「分かりましたわ。仰せのままに」
事務的に言った黒子が上条に触れて空間移動の能力を発動させた。
55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:24:11.75 ID:rs2HI0+b0
ようやく開放された上条は背伸びしながら帰り道を歩いていたのだが、
途中で凄まじい吐き気に襲われた。
「ぐ…」
気持ち悪いのをを通り越して視界がかすむほどだった。
目の前が真っ暗になり、思考回路がマヒしてしまう。
「な……なにが……」
全身から力が抜けて真っ青になる。
血流が逆流するかのような奇妙な体験だった。
もう我慢の限界に達して胃の中のものを全て吐き出そうとした時…
意識が覚醒した。
56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:27:58.06 ID:rs2HI0+b0
「あ…?」
間抜けな顔で周囲を見渡す。
ここは夕暮れの教室だった。
机の上でよだれを垂らしながら居眠りしていたのだ。
生徒達は全て帰ってしまったのか、教室にいるのは上条だけ。
時刻を確認すると、まもなく完全下校時刻になるところだった。
「なんだ…今の夢は…?」
夢にしてはあまりにも現実感が強かった。
まるで過去の世界に逆行してそれを再体験したかのようだった。
魔術と科学が交差するこの町でさえ、このような
体験をしたことは一度もなかった。
もしかしたら悪意のある第三者からの攻撃を受けているのかも
しれないと思った。例えば精神操作系の能力であれば筋は通る。
57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:30:26.79 ID:rs2HI0+b0
だが、何か違うと思った。
能力や敵の攻撃など。
そんな容易いものではなく、それよりもはるかに恐ろしい
事態に直面している気がしてならなかった。
その日は気分転換をかねてスーパーで買い物して家に帰った。
時刻はすでに夜になっていた。
「おかえりなさいなんだよ。今日はいつもより遅かったんだね」
禁書が優しい微笑を浮かべながら迎えてくれた。
今日はいつもより帰る時間が遅くなったので、必然的に
夕食を作るのも遅い時間になる。
だが、禁書は寛容だった。
「ごめんな。すぐに夕飯の支度するからな」
「気にしなくていいよ。テレビでも見ながら待ってるね」
58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:38:16.18 ID:rs2HI0+b0
彼女は基本的に無趣味だが、テレビだけは熱心に見ていた。
見るジャンルはニュースから子供向けのアニメやドラマまで
幅広いが、引きこもり生活を送る彼女にとってはいい暇つぶしに
なっているのだろう。
そして深夜。
上条はベッドで禁書と寝ていた。
「とうま。今日はしないの?」
「すまん。学校で嫌な夢を見たせいで気分が乗らないんだ」
「どんな夢?」
「……それは言えない。というか本当に忘れたい夢だったんだ。
いつか気が向いたら話してやるよ」
「ふぅん…」
「ごめんな」
それからまもなくして禁書目録は寝息を立て始めた。
59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:42:28.78 ID:rs2HI0+b0
禁書とは長い同棲生活を送っているが、別々の場所で
寝ていたのは初めのうちだけだ。
互いを意識するようになるのに時間は掛からなかった。
一つのベッドを共有するようになってから何度も二人は
結ばれていたが、上条は今日は遠慮させてもらった。
上条は禁書の背中を抱きしめた。
彼女は規則正しい寝息を立てて眠っていた。
子供っぽい体つきなので抱き心地がよくて暖かかった。
彼女の髪の毛から香るシャンプーの匂いに不思議と
安心感を感じながら、上条も眠りについた。
60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:46:00.25 ID:rs2HI0+b0
夢の中の上条は家に帰ったところだった。
彼を待っていたのは、昔のわがままな禁書目録だった。
「遅いんだよ! とうまぁ! どれだけ私が待ったと思ってるの!?
せめて連絡くらいしてくれてもよかったのに!!」
「うるせえ」
「へ……。何が?」
「うるせえって言ったんだよ」
インデックスは思い切り突き飛ばされてテーブルを巻き込んで倒れた。
まだ何が起きたの理解できなかったが、立ち上がろうとする前に…。
「おら。まだ終ってねえぞ」
胸倉を掴まれて苦しんでいる禁書の顔に容赦のない拳が叩き込まれる。
体重の軽い彼女は仰向けに倒れてしまった。
初めて味わう暴力の痛みと衝撃に、視界が涙で一杯になっていた。
61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:51:20.18 ID:rs2HI0+b0
乱された前髪を掻き分けながら彼の顔を見て絶句した。
「ふふふふふふ。はははははははははははははははははは。
あはははははははははははは」
上条は笑い始めた。
完全に狂ってしまっているのは一目瞭然だった。
「た…たすけて…」
異常性を感じたインデックスが四つんばいの体勢のまま玄関を
目指して脱出しようとしていた。
だが、上条が許すはずがなかった。
「ナニ逃げヨウと シテんだ?」
「ひ…!?」
涎を垂らした上条が禁書の襟を掴んで持ち上げる。
その体勢はまるで飼い主に持ち上げられたネコを彷彿とさせた。
62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:54:08.74 ID:rs2HI0+b0
「躾のなってないネコさんには……お仕置きが必要だよな?」
にっこりと笑いながら言うので禁書は恐怖を通り越して絶句してしまった。
だが、彼女には秘策があった。
「えい!」
突き出したのは小型のナイフだった。
敵に襲われたの時の最悪の事態を考慮して服の中に忍ばせておいたのだ。
「それがどうした?」
上条は左の手のひらでそれを受け止めていた。
正確には貫通してしまっているのだが、流れ続ける血を
処理するよりも禁書に罰を与えるのが先だった。
「殺してやろうか?」
ナイフを引き抜き、禁書の顔を殴り飛ばした。
63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 16:58:01.69 ID:rs2HI0+b0
痛そうに頬を押さえている彼女に覆いかぶさり、
太ももを思い切り上りつねりあげた。
「うわああああああああ!!」
悲鳴という名の極上の音楽を奏でるインデックス。
上条の指はもっと痛むように力を入れて、
彼女を絶望に淵に突き落としてやった。
「あああああ! うああああああ!! やめてえええええええええ!!」
「ひひひ」
叫びながら上条の手を押さえても意味はなかった。
上条は禁書の苦痛に歪む顔と惨めな
抵抗に快楽を覚えていたからだ。
「あはははははあはははは。あははは。あははははっはははははははh」
禁書を蹴り飛ばした後、天を仰ぎながら高笑いを始めた。
64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:02:06.64 ID:rs2HI0+b0
(やめろ…!!)
潜在意識の上条は、夢の中であることを自覚していた。
愛する少女に暴行を加えているもう一人の自分が許せなかった。
だが、それも長くは続かなかった。
「…ぐ……ぅえ……」
上条は苦しそうにうめき声をあげた。
異変を感じたのは背中だった。
焼きつくような熱さを感じたので手で触ってみた。
「…ぁに?」
ナイフが刺さっていた。
禁書があらかじめ忍ばせておいた2本目のナイフだ。
上条は1本目を防いだことで完全に油断し、そこを文字通り突かれたわけだ。
66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:06:11.82 ID:rs2HI0+b0
「……ぅぅぅ」
上条は力なく床に倒れた。
意識が朦朧として痛みを感じるどころではなかった。
床に広がっていく血だまりが恐ろしくて余計に眩暈がした。
「ひひ。いひひひ」
彼を見下ろしているのは禁書目録とは思えなかった。
その笑い方が御坂美琴にそっくりだった。
まるで美琴が乗り移ったかのように、不気味な笑みを浮かべていた。
上条は全てに絶望して目を閉じた。
次の瞬間。
68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:10:10.34 ID:rs2HI0+b0
「はぁ!! ……っはぁ……はぁ…!!」
上条はベッドから飛び上がるように起きた。
全身汗でびっしょりで気持ち悪いほどだった。
「はぁ……!! はぁ……!! な、なんて夢だ…!!」
全力疾走した後のように息が乱れていた。
それ以上に夢の中の自分をぶん殴ってやりたいほどだった。
(なぜ…禁書を…俺が…。なぜ……大好きな禁書を……)
まるで実体験したかのような強烈な現実感を感じていた。
例えるなら映画に出演している自身をテレビで見ているような感覚。
俯瞰視点でゲームの主人公を眺めているような気分だった。
(ちくしょう……いらいらする……!!)
洗面所に直行して顔を洗ったあと、冷たい飲み物を一気飲みした。
それでも気分は少しも優れなかった。
その日は震えながら寝た。
69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:13:59.45 ID:rs2HI0+b0
『3 謎の男』
学校の帰り道である。
「当麻~~!!」
「おわっ!」
「会いたかったんだよってミサカはミサカはうれしさのあまり抱きついてみたり!」
背後から抱きつかれたので驚いてしまった。
打ち止めは愛らしい笑顔を浮かべながら上条に甘えていた。
小動物のように可愛らしい彼女の笑顔を見ると救われた気がした。
微笑みながら頭を撫でてやるとますます喜んでくれた。
「はは。可愛いや奴め。今日も一緒にどっか遊びに行くか?」
「うん! パフェが食べたいなってミサカはミサカは…」
そこで邪魔が入る。
71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:18:25.20 ID:rs2HI0+b0
「やっぱりアンタってロリコンだったの?」
「な…!」
常磐台の超電磁砲だった。
通学カバンを片手にさげながら冷たい眼差しを向けていた。
「俺はそんなんじゃ……。ただ打ち止めはまだ子供だから
遊び相手がほしいんじゃないかと思ってだな…」
図星だったのだが、上条は見苦しい言い訳を始めた。
そんな態度では少女趣味であると自白しているのと同じだ。
美琴は冷静に問いかけた。
「そうなんだ。で、これからどこ行くの?」
「え? いや別にどこに行くかは決めてないけど…」
「じゃあ。私と一緒にパフェでも食べない? その子も一緒にさ」
72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:21:58.32 ID:rs2HI0+b0
美琴は公園の売店を指差しながら言った。
打ち止めも了承してくれたので、3人分注文して
ベンチに座って食べていた。
上条の隣に2人の少女が座っていた。
(あー。平和だなぁ)
上条は流れる雲を見ながらそう思った。
ここ数日は悪夢の連続で最悪な気分になったが、
こうして女の子たちと甘いものを食べていると
全て忘れることが出来そうだった。
食べ終わったパフェの包み紙をゴミ箱に投げ捨てた。
「ねえ」 と美琴が話かける。
「前から気になってたんだけど。聞いてもいい?」
「ん? 別にいいけど…」
73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:24:12.46 ID:rs2HI0+b0
「あんた。同居しているシスターがいるわよね?
あの子とはどういう関係なの?」
「……」
上条は黙ってしまった。
詮索してくる美琴の目つきは鋭かった。
嫌でも夢の中の猟奇的な美琴を思い出してしまうので、
実は脅えていた。
それを年下の美琴に悟られたくなかったため、
上条は難しい顔をして沈黙したのだ。
それに元々答えにくい質問でもある。
「ねえってば」
美琴が催促してきた。
「あのシスターさんとも仲良しなのに。今度は打ち止めとも
いい関係になろうっての? 打ち止めは私の妹のような
存在じゃない。幼い子供ばかり好きになって…。やっぱりアンタは…」
74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:30:00.34 ID:rs2HI0+b0
「おいおい。落ち着けって」
「落ち着いてるわよ。あんたがはっきりしないのが悪いんでしょ?
あんた、中学生くらいの女の子は眼中にないの?」
「……なんでそんなことを聞くんだよ?」
「私にも少しは脈があるかなって思ったの」
「…?」
「分からないの?」
上条は再び沈黙してしまった。
美琴がいつの間にか腕を絡めてきたのだ。
ささやかな胸の感触が腕に伝わった。
「どうして私があんたに絡んでいるのか。分からないの?」
「…!!」
朴念仁でも彼女の意図を察するのはできた。
76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:34:04.75 ID:rs2HI0+b0
美琴は遠回りに告白しているのだ。
「すまん。俺は禁書目録…あのシスターのことな。あいつが一番好きだ」
「…」
「ごめんな」
「…………そう」
もうこれ以上彼女の顔を見ていられなかった。
上条は打ち止めと手を繋ぎながら早足でその場を去っていった。
打ち止めは美琴を振り返りながら「どうしてお姉さまは泣いているの?」
と問いかけてくるのが、適当にあしらった。
その後は打ち止めを一方通行のところまで送ってから家に帰った。
78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:38:11.01 ID:rs2HI0+b0
帰宅後。
何気なくカバンを開けてみると、中には見知らぬ写真が2枚入っていた。
「…?」
首をかしげながらそれを手にとって間近で見る。
薄暗くてよく見えないが、目を凝らしてみると…
そこには上条と美琴の姿が映っていた。
「…!? ……!?」
上条は仰天して写真を落としそうになる。
写っていたのはあの時の夢に出てきた美琴だった。
猟奇的な眼差しと狂った微笑みは間違いなくあの時の美琴だ。
1枚目は美琴が上条に手錠をしてる場面。
2枚目は美琴に首を締められている上条の姿。
80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:42:05.86 ID:rs2HI0+b0
「なに見てるの、とうまぁ?」
のんきな声のインデックスが覗き込もうとしてくるので、
上条はすぐに身を翻して写真をカバンにしまった。
「な、なんでもない」
「怪しいなぁ。もしかして浮気とかしてないよね?」
「そんなわけないだろ! 俺はおまえだけを愛してるんだ」
「ぁ…」
禁書を抱きしめて黙らすことにする。
怒ったときはこうすれば許してくれるからだ。
頭を撫でながら耳元で甘言をささやき続けてなんとか
ごまかすことに成功したのだった。
食後。
風呂に入りながら写真のことについて考察していた。
81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:45:57.91 ID:rs2HI0+b0
(誰かのいたずらに違いない。だが、あれは夢の中の出来事だったはず…。
俺と御坂がそんな関係になったはずがないんだ。今日だって告白されたが
あいつに異常は見られなかった。だが…)
いくら考えようとしても頭痛がして思考を中断させられる。
頭痛はあまりにも激しくて眩暈すら覚えるほどだったので、
上条はもう考えすぎないようにした。
仮にあの写真が存在したところで明日も変わらない1日がやってくるのだ。
あれはたちの悪いいたずらだと思って綺麗に忘れることにした。
だが、そんな彼をさらに追い詰めるような出来事が起きるのだった。
prrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
「とうま。電話だよ?」
「ああ。今でるよ」
入浴後、髪の毛をかわかしていたら電話が鳴ったのだ。
82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 17:50:09.21 ID:rs2HI0+b0
上条はドライヤーのスイッチを切ってから受話器を持つ。
「はい。もしもし?」
「……」
「……」
「……」
3秒ほど経過しても返答がないので少しイラついた。
「もしもし? 聞こえてますか? 返事がなければ切りますよ?」
「………見ましたか?」
「…っ!?」
上条は思わず震えてしまった。
その声に聞き覚えはないし、奇妙な声は男か女かも判別がつかなかった。
機械で無理矢理に音声を変えたような声だった。
87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:00:38.32 ID:rs2HI0+b0
「見たとは……な、何をですか?」
「2枚。あなたのカバンに入れておきました」
「な…?」
電話の主は間違いなく写真のことを言っていた。
上条は顔面蒼白になって気絶しそうになった。
現実と非現実が入り混じる不思議な感覚だった。
そいつは話し続ける。
「あの時のことを覚えていませんか? 私はあなたが忘れてしまった
のではないかと思ってプレゼントしたのです」
「おまえは…誰だ? なぜ俺の夢のことを?」
「私はいつでもあなたのことを見ています。これだけは忘れないでください。
現実は1つしかありません。いずれお会いする時が来るかもしれませんね」
89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:06:34.13 ID:rs2HI0+b0
会話はそれで終わった。
「誰からだったの?」
事情を知らない禁書が涼しい顔で話しかけてきた。
「い、いや。気にするな。ただのイタズラ電話だよ。はは」
上条は汗をぬぐいながらそう言った。
そして禁書に抱きついた。
「あわわ! とうま? どうしたの?」
今は少しでも人の温もりを感じていたかった
不安と恐怖に襲われて気が動転してしまったのだ。
思わず泣き出してしまった上条だが、禁書は優しくなだめてくれた。
90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:10:59.71 ID:rs2HI0+b0
「大丈夫だよ。私はいつでもとうまの味方だからね」
「うぅ……うっ……」
彼女に膝枕されながら子供のように泣きじゃくっていた。
上条が眠くなるまでそうしてくれた。
禁書はすごく優しかった。
まるで上条にとって理想の女の子のように。
91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:15:50.45 ID:rs2HI0+b0
『4 回帰』
翌日の学校の帰り道だった。
人気の無い路地裏で不審な男と会っていた。
「お会いするのは初めてですね」
「おまえは昨日の…?」
「ええ」
昨夜の不審な電話の主だった。
帰り道を歩いていた上条に声をかけてきて
ここまで案内してきたのだ。
「まさか学生だったとはな。お前も何かの能力者か?
それとも魔術師の類か?」
「……さあ。どうでしょう」
「…」
92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:19:25.45 ID:rs2HI0+b0
「…ふふ」
「……用件を言え」
「ふふふ。失礼…。ではさっそく」
淡々と話すそいつは学生服を着ていた。
夏服のYシャツに紺色のズボン。
中肉中背のごく普通の男子学生。
背丈は上条とほぼ同じだった。
「今、向こうのあなたに繋がってます。お聞きになりますか?」
全く意味不明なことを話す男だった。
そいつは携帯電話を上条に渡そうとしていた。
上条は受け取っていいのか迷ったが、
気になったので携帯を手に取った。
待っていても事態は解決しないからだ。
94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:23:57.84 ID:rs2HI0+b0
電話から聞こえてきた音声は恐るべきものだった。
『今日からここで一緒に暮らしましょう』
上条の手が震えだす。
あの時の美琴の発した声そのものだった。
『よしよし。大丈夫だよとーま。私がずっと一緒にいてあげるんだから?』
『だれそのひと? もしかしてあのシスターさんのことなのかな?』
痛いくらいに目を見開いている上条。
その男は脅える上条に近寄って話しかけた。
「あなたはすぐ現実から目を逸らそうとする」
「彼女は今でもあなたを待ち続けています」
96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:26:58.44 ID:rs2HI0+b0
そいつはそれだけ言い残して去っていった。
上条は路地裏を飛び出してそいつのあとを追おうとしたが、
人ごみに紛れたので見失ってしまった。
(奴は一体何を言おうとしていたんだ?)
寒気を感じながら思考の迷路に迷い込んだ。
奴の言っていたことを考えるたびに眩暈がして
狂ってしまいそうになる。
それ以上に恐ろしいのは、あの少年が上条当麻にそっくりだったことだ。
分身と言っても過言ではないほどに。
その正体としてドッペルゲンガーを想起させた。
書物でしか読んだことのない程度の知識だが、
それがもたらす悪疫は理解してるつもりだった。
しばらくその場に立ち尽くしたが、
ようやく気持ちが落ち着いたので帰宅した。
97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:30:04.56 ID:rs2HI0+b0
「禁書目録…?」
玄関の前で裸の禁書が倒れていた。
うつぶせの状態で出血していた。
すでに死体だった。
「うぷっ……」
上条は耐え切れず吐いてしまった。
生々しい死肉と猛烈な腐臭は耐え切れるものではなかった。
(なぜだ…? なぜ…?)
吐き続けながら疑問が次々と頭に浮かんでいた。
「どうしてだろうね?」
「…!?」
98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:34:13.30 ID:rs2HI0+b0
包丁を持った美琴が微笑んでいた。
血塗られた刃は、間違いなく禁書を殺害したことを意味していた。
「戻りなさい」
「ぐ…」
瞬きする余裕すらなかった。
一瞬で接近されて腹部を刃物で刺されてしまった。
「いこう?」
失血量に比例して意識が朦朧としていた。
彼女は小声で何事か話していたが、聞き取ることはできなかった。
(もう……ここにいられないのか…。
またあの世界に行かなくちゃならないのか…。
嫌だ。……嫌だ。受け入れたくない…)
99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 19:38:02.71 ID:rs2HI0+b0
「ふふふ~ん。ふふ~ん♪」
聞こえてきたのは御坂美琴の鼻歌だった。
よほど上機嫌なのか、編み物をしている。
上条は彼女にそのような趣味があるとは知らなかった。
「目が覚めたのね?」
上条の頭を優しく撫でる。
「ずいぶん長く眠っていたわ。もう二日ぐらいは経ってるわよ?」
美琴はファンシーなデザインのカレンダーを見ながら言った。
「そろそろ薬が足りなくなったかな?」
テーブルの上に怪しい薬と注射器がおいてあった。
104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 20:48:56.32 ID:rs2HI0+b0
「苦しくない? 鎖を少し緩めてあげようか?」
それは上条の全身を拘束してあるものだった。
ベッドの上で寝かされていて一歩も動けない状態だった。
ここは美琴の女子寮の部屋だった。
「美琴。聞きたいことがある。禁書と打ち止めは生きているのか?」
「さあね。泥棒ネコのことなんてもう忘れたわ」
「……」
「ところでさ。寝ている間、ずいぶんうなされていたわよ?
まるで現実を教えようとする心と、それを拒否して
逃避しようとする精神のハザマで苦しんでいるみたいに」
美琴は注射器を構えながら言った。
106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 20:54:01.79 ID:rs2HI0+b0
「これはそういう薬なの。当麻が辛い現実に苦しみ続けて
死んでしまわないように幸せな夢を少し見させてくれるの。
楽しかったでしょ? 悪夢もたくさん見れたんじゃない?」
言いながら上条の手に注射器を打ち込む。
そこにいるのは猟奇的に微笑む現実世界の美琴だった。
上条は近くにあった鏡を見て絶望した。
自信の首筋には何者かに締められた跡が残っていた。
顔にはかすかに殴られたようなあざも見受けられる。
「でもね。ここは現実なの」
「あんたは私だけのもの。私が当麻を逃がすわけないでしょ?
たとえあんたに嫌われても諦めないわ。
邪魔な女は全部殺したから問題ないしね」
「大好きよ。当麻」
The end (要望あれば解説する)
109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 21:01:51.65 ID:rs2HI0+b0
解説 読みたい人だけ読んで。
①実は作中で上条が現実世界と思っていた世界が『ただの妄想』 走馬灯のようなもの。
禁書が妙に優しくて素直なのもそのため。
夢と思われた世界は一部が経験した事実。中には捏造(妄想)あり。例えばヤンデレ美琴の夢で
上条は実は脱出できず、監禁されたままだった。美琴ヤンデレ化、逆レイプまでは事実。
冒頭の病院の夢は、監禁生活と麻薬の恐怖が生み出した妄想世界。
あれは真実ではない。
禁書虐待の夢は、今までわがままな禁書に不満を持っていて、
暴力を振るいたいと思っていた願望が生み出した完全な妄想。あれも真実ではない。
②謎の男子学生と会うことで監禁された事実が浮かび上がる。
彼の正体は上条の心の分身。上条に現実を見させる役割を持っている。
2枚の写真。携帯電話での音声の再生。
③現実世界に回帰。上条は美琴に監禁されていた。麻薬を打たれている。
110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/10/04(月) 21:11:32.73 ID:1z2duwP/0
おもしろこわかった
>>1乙
上条 「意味が分からん…!!」