SS速報VIP:禁書「赤ちゃんはどこ…?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305685060/1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:17:40.64 ID:2S4zlxjQ0
・上禁の結婚後。少し不幸な話。>>1のオナニー。
・シスター結婚不可なところは見逃してください。禁書の世界だし何とかなるやん。
・短い。
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:18:15.90 ID:2S4zlxjQ0
美琴「……」
今日も花束を持って病室に向かう。
右手に一束、左手に一束。アイツらは別々の病室にいるから。
美琴「……おっす」
禁書「あ、短髪。今日も来てくれたんだ」
美琴「そうよー、わざわざ花束持参で来てやったんだから。この美琴サマに感謝しなさい」
禁書「どうせぼっちで暇だったからに決まってるんだよ。ププ」
美琴「コイツ……」
禁書「ふふ、冗談なんだよ。ありがとう短ぱ………みこと。」
美琴「……ええ」
アイツとの出会いから5年。わたしは短パンも短髪もやめていた。
美琴「で?どうなのよ傷の調子は」
禁書「うん、もう大分塞がってきてるんだよ」
禁書「あのお医者さんがいればもっと綺麗に直してくれたんだろうけどね。贅沢は言えないんだよ」
美琴「カエルのじいさんか……一昨年だっけ?」
禁書「うん、主の元へ旅立ったんだよ。…あれ?あのお医者さん信仰してた宗教はあったのかな」
美琴「どうだかね。『冥土帰し』なんていう神サマ冒涜するようなアダ名持ってるくらいだしね」
禁書「でもあの人は沢山の人を助けてきたんだよ。…もちろん、とうまも」
美琴「…あの医者が生きていれば、今のアイツもどうにかなったかもしれないわね」
禁書「……4年前」
禁書「とうまが告白してくれた時、すごく嬉しかったんだよ」
美琴「…うん」
この間までのわたしだったら、こんな話はとても聞けなかった。
アイツとインデックスが結婚してからも、どうしてもアイツのことが忘れられなくて。
でも今は口を挟まずに聞く。
禁書「でもとうまはけっこんするまで私に手を出さなかったんだよ」
へえ、アイツにそんな堪え性があったんだ。
美琴「意外とカタブツね。アイツのことだから女の子をとっかえひっかえヤリまくってるのかと思ったわ」
禁書「む。いくらなんでも失礼なんだよみこと」
美琴「あはははは、ごめん冗談冗談」
禁書「…けっこんしてとうとうその夜が来ても」
禁書「とうまは……優しくしてくれたんだよ」
禁書「でも馬鹿。すっごく馬鹿」
禁書「あんなに頑張って耐えてるとうまの顔が眼前にあったらこっちが申し訳なくなるかも」
美琴「コラコラ。アイツそんな時まで他人優先か」
それからインデックス、あまり生々しい話をするんじゃありません。
禁書「それでも、とうまの気持ちはものすごく嬉しかった」
禁書「だから、その時に授かった命は絶対大切に育てていこうって決めたんだよ」
インデックスは右手で自分の膨らんだお腹を撫でた。
今は妊娠9か月だという。
禁書「…多分、この子は帝王切開で摘出することになると思う」
美琴「……そうね」
彼女は下半身不随になっていた。
美琴「おーっす」ガラ
美琴「ちょっとアンタ、来てやったんだから歓迎の挨拶くらいしたらどうなのよ」
美琴「…花束花瓶に挿しとくわね。ナースさんが水換えてくれるってさ」
上条「……」
美琴「今あの子9か月目に入ったわよ。そろそろベビーカー買っとかないと困るんじゃないの?お父さーん」
上条「……」
美琴「―――じゃあまた来るから。ちゃんとご飯食べるのよ」
無理な注文をした。
これは8割方インデックスから聞いた話。あとの2割は通行人やら医者やらから。
結婚して3か月。二人はアイツの実家に出かけたらしい。
おめでただと報告したら、アイツの父親は泣いて喜んだそうだ。もちろん母親も。
ただ『息子に負けてられん』と言って、二人の目の前で母親に夜の誘いをした時は空気が死んだという。
その日は実家に一泊。隣の部屋で物音がしてから静まるまでの時間は、それはそれは短く粗末なものだったとはインデックス談。
『おはよう』
そう言ったアイツの顔は今までになく嬉しそうだったという。
家族の記憶がないアイツにとっては、全員で喜び合えることが何より嬉しかったらしい。
昼間両親に見送られてバスに乗り、二人は学園都市近郊の自宅に戻る。
そしてバスは転落した。
公式発表では原因はまだ不明。けれどわたし達には推測が出来てしまった。
事故現場で正体不明の閃光が目撃されたが、スタングレネードの類は残骸すら見つからなかったということ。
そして妹達から聞いた情報が確かなら事故直後、付近で一人の魔術師が捉えられたらしい。
この二つから成る仮説。それはきっと正しい。
ただこの事件は一人の馬鹿な魔術師がトチ狂っただけであって、アイツの体質は関係がないと願いたい。
病院に運ばれた時、インデックスは他の乗客に比べてかなり軽傷だった。
懐妊が発覚してすぐ、彼女の古い友人とやらがやってきて彼女にとある魔術を使っていた。
いや、正しくは"彼女に"ではなく、"彼女の子に"。
一人の人間を術者が死ぬまで守り通す。そんな魔術だった。
もともとはその友人が彼女のために研究し続けていた魔術だったけれど、彼女の希望もあり、一度きりのその魔術はお腹の子に行使された。
そのおかげで胎児は事故から助かった。母親であるインデックスも、子供にかけられた魔術の恩恵を受けたらしい。母体が死んでしまっては胎児の命は無い。
ただインデックスに及んだ魔術の効果は薄く、彼女を完全に守ってはくれなかった。
下半身不随。
この時、インデックスの両足は既に動かなかった。
そしてアイツ。
閃光に驚きガードレールを突き破ったバスは5メートルの高さから転落。その中でアイツは強く頭を打った。
左腕の骨折は2か月で完全に治癒した。
でもアイツの意識は戻らない。極寒の北極海から生還した不死身の男が。
そして今。まだアイツは集中治療室で意識不明のままだ。
トレードマークだったツンツン頭も、もう肩に届く長さまで垂れ下がっている。そろそろ散髪するらしい。
美琴「ホント何やってんのよ、アンタ……」
病室の扉を閉めた。
上条「……」
そうか。
俺とインデックスが事故に遭ってから……もう半年経つのか。
ちくしょう、意識はあるってのに体が動きやしねえ。
インデックス今何してるかな……。あああ、国際結婚したばかりの美人妻の顔を半年見れないとは何たる不幸。
御坂が報告に来てくれるのは嬉しいけど、やっぱり直に会いたいよな…
インデックスは一般病棟、俺は集中治療室か。
こんな体じゃ見舞いにも行けやしねえ。
あ゛――――、背中が痒い。不幸だ…
禁書「あ、短髪。今日も来てくれたんだね」
インデックスは車椅子で中庭にいた。ひざ掛けに分厚い本を乗せて。
美琴「気持ちいいところねここ」
禁書「うん。このおっきな樹が好きなんだよ」
そこは中庭と言うには少し広すぎるくらいの場所だった。
緑が多く、ほぼ一面が手入れされた芝生。そこに車椅子使用者用の道が整備されていて。
ど真ん中には木漏れ日が気持ちのいい大木がどんと構えている。
その下で綺麗な髪を靡かせながら、インデックスは静かに本を閉じた。
5年の時を経た銀髪碧眼の少女は、誰もがはっとするほど美しい女性へ成長していた。
大樹の影に誰かが座っていることに気付いた。
その男はぽかんとした顔で上を見上げ、時折漏れる陽射しに目を細めながら、小刻みに震える手を抱えている。
この病院に緑が多いのは…多分、精神科の病棟があるせい。
症状の残った患者が病院にいるというのは、学園都市では見られなかった光景だ。
去年高校を卒業するまで、外の世界の技術がここまで遅れているとは思わずとても驚いたのをわたしは覚えている。
もし学園都市の病院に入院することが出来たなら、恐らく『冥土帰し』でなくても今よりはずっとマシな科学的治療を受けることができたはず。
この患者も、そしてインデックスもアイツも。
今の学園都市は以前よりセキュリティーレベルが上がり、そう簡単には侵入できなくなっている。
元々外部の人間が入院するのは不可能だけど、今は少し医者に見せることすら困難だ。
黒子にも卒業以来会っていない。
毎晩留守電に熱烈なラブメッセージを吹き込まれてはいるけど。
美琴「車椅子にも乗れるようになったのね。目を覚ましたひと月前はヘロヘロだったのに」
禁書「うん、体力が大分戻ってきたんだよ」
美琴「別にわたしが押してあげてもよかったんだけど…」
禁書「リハビリのために自分でやった方が良いと思ったんだよ」
美琴「そういえばアンタ、旦那さんのお見舞いには行った?」
禁書「……」
禁書「ううん、まだ行ってないんだよ」
美琴「どうして行ってやらないのよ。車椅子でも乗れるエレベーターあるでしょ?この病院」
禁書「……ちょっと、怖いんだよ」
美琴「は?」
禁書「とうまが目を覚まさないなんてことは今まで無かったんだよ。傷だらけでも、私が声を掛ければいつだって……」
禁書「そのとうまが、今は」
美琴「……」
美琴「そっか、アンタもアイツに助けられたんだっけ」
自分の中で一番強くて頼れる男が倒れている姿を見るのには勇気が要る。
インデックスはその一歩が踏み出せずにいるのだ。
美琴「……良いんじゃない?今はそれでも」
禁書「うん……」
禁書「…あ。それでね、みこと」
美琴「んー?」
禁書「とうまが目を覚まさない理由がわかったんだよ」
美琴「!?」
美琴「何!?何があったの!?どうしてアイツは目を覚まさないの!?なんで今まで分からなかったの!?」
美琴「――――――」
そうまくし立てたい気持ちを抑えて、訊いた。
美琴「何が、あったの?」
禁書「……」
禁書「…とうまの脳には腫瘍があるんらしいんだよ」
美琴「……は?」
美琴「待って。腫瘍?事故のせいで脳内出血とか神経断絶じゃなくて、腫瘍?」
禁書「うん。詳しいことは私にはよく分からないけど、体を動かすために使われる器官に大きな腫瘍ができて、働きが阻害されてるらしいんだよ」
美琴「え、だって…じゃあアイツが目を覚まさないのは事故のせいじゃなかったっていうの?」
禁書「事故に遭って意識不明になっている間に、腫瘍が出来たらしいんだよ」
美琴「何よそれ!?そんなバカな偶然あってたま……」
禁書「……」
美琴「…あ」
気付いた。
アイツの体質って、何だったっけ?
不幸。
禁書「とうまの脳はちゃんと活動しているらしいんだけど、体に電気信号が伝わってないの。だからもしとうまに意識があっても…」
美琴「……アイツは目を覚ませない」
美琴「医者はなんて言ってるの?」
禁書「かなり際どい位置にあって、手を出せないらしいんだよ。どこかを傷付けたらとうまは…」
美琴「嘘でしょ……」
午後の仕事には身が入らなかった。
昼休みに抜け出したせいで摂れなかった昼食を小さなおにぎりで済ませ、あとはパソコンの前で放心状態。
とある大企業のデータ管理。それがわたしの仕事だったけれど、今日の分の給料は最低記録だ。こんな時歩合制の会社は厳しい。
いつもなら能力を駆使してあっという間に仕事を終わらせるわたしが呆けているので、同僚や上司も気にかけてくれているらしい。
ただ、気にかけているのは今日終わらせるべきノルマのこと。
普段わたしがこなしている膨大な量が他の社員に回るわけだから、それは気が気でないだろう。
美琴「は―――――――……、能力者もラクじゃないわね…」
―――能力?
美琴「っ!」ガタッ
勢いよく立ち上がりすぎて、デスクに足をぶつけた。
美琴「―――――」
物凄い勢いで理論が組み立てられていく。どうしてこんな事に気が付かなかったのか。思わず笑いが漏れる。
わたしは電撃使い。レベル5の『超電磁砲』。
美琴「わたしの能力で、アイツの腫瘍を焼き切れるんじゃないの…?」
その後のわたしの行動は速かった。
美琴「アレの日なので早退します!!」
突如響き渡ったその声にオフィスの皆が反応する前に、わたしはもう外に飛び出していた。
あった。
わたしに出来ること。
結論から言って、無理だった。
面会時間を終えた病院に潜り込み、アイツの部屋の電子錠を外したまでは良かった。
けれどアイツの頭に手を当てて、能力の発動のために意識を集中させた時に気付いた。
…物理的に不可能だ。
さっきまでわたしは、アイツの生体電気の流れに乗せて自分の電撃を放ち、腫瘍を焼き切るつもりだった。
詳細な位置は生体電気の流れで探ればいい。
でもそれ以前の問題。腫瘍が焼き切れるような電流など流したらアイツの体が持たないのは明らか。
美琴「そ、それじゃ……砂鉄!微量の砂鉄を血液中に流し込んでわたしの能力で…」
斬り取る。
結果、アイツは脳内出血で死ぬ。
美琴「でっ、電気信号の経由は……!わたしがコイツの代わりに体を動かしてやれば…」
いくら学園都市第三位でも、そこまで高度で緻密な作業をする能力は無い。
ネットワーク上の情報とは違い、人体の電気信号は常に変化する上にデリケート。
麻痺やモニタリングくらいならともかく、その微妙な流れを完璧に再現するなんてことは、一人の人間の演算能力では不可能だ。
そもそもそれではわたしが手を離した瞬間コイツはまた意識不明になってしまう。
美琴「……あはは。やっぱダメだわ、わたし」
上条「……」
美琴「…ねえ。アンタの頭が動いてるってことは、この声も聴こえてるのかな」
心音を刻む機器の音が響く病室で、わたしは『レベル5』の無力さを知った。
美琴「わたし、アンタが好きだった」
美琴「ま、今なら襲われる心配もないし?思い切って言っちゃうけど」
美琴「昔好きだった…ううん、今も好きな男の奥さんを心配してお見舞いに来るなんて」
美琴「わたしも何で自分がこんなことしてるのか分からないけど……」
美琴「……恩返しってやつなのかもね」
わたしは静かに病室を後にした。
上条「……」
上条(おいおい、上条さんはいきなり女の子を襲うような野獣じゃありませんの事よ!?)
上条(ごめんな、…ありがとう御坂)
予定日が近づいてきた。
楽しみなんだよ。とうとう赤ちゃんとご対面なんだよ。
とうまのところにはまだ行けてないけど……この子が生まれたら、きっと一緒に行こう。
私に使われるのは全身麻酔なんだって。
すぐに抱けないのは残念。でも無事に生まれてきてくれるならそれでいい。
あ、そういえば名前どうしよう。
……とうま…
美琴「誰だ、アレ」
禁書「――――、…」
??「―…。……――――、」
この間の木の下で、インデックスが誰かと話していた。
知り合いかな。
にへら、と笑うインデックスの表情から、相手に対する信頼が読み取れた。
ステイル「じゃあ僕は行くよ。力になれなくてすまないね」
禁書「ううん、そんなことないよ。ありがとうステイル。またね」
ステイル「……ああ。また」
その男の人は病院を出て行った。
美琴「ちょろっとー。インデックス、今のはどちら様?」
禁書「あ、みこと。」
禁書「今のはステイル。ずっと昔からのお友達なんだよ」
美琴「ステイル?」
ステイル、という名前には聞き覚えがある。確かお腹の子に保護魔術をかけた魔術師が……『ステイル』。
美琴「そのステイルさんは、お見舞いに?」
禁書「うん。それと、とうまの治療法になるような魔術が私の知識のほかに無いかなって訊いてみたの」
禁書「……でも、やっぱり無かったんだよ」
美琴「それで励ましてくれてたんだ」
禁書「うん。ステイルは優しいんだよ」
美琴「…ふーん。見たとこ、えらく仲良いみたいね」
禁書「私の記憶にあるよりずっと昔からの仲みたいだからね。誤解を解いたらすぐに仲良くなれたんだよ」
もっとも、私の最初の記憶は『そのステイルから逃げている記憶』なのだが。
と、インデックスは申し訳なさそうな笑いを浮かべながら言った。
美琴「……ホントにそれだけ?」
よぎるのは、インデックスに"またね"と言われて顔を輝かせた、大柄な男の嬉しそうな顔。
禁書「ふえ?」
美琴「……」
…どうやらこのトンチンカンには分かっていないらしい。
朴念仁の旦那と良い勝負だ、とわたしは思った。
それでも、彼の気持ちにインデックスが気づかない方が……多分良いんだろう。
ステイルさんもそれを分かってインデックスと接している。
…すごいなあ。
わたしの気持ちは未だに決壊寸前。
――――――走る。
走る。
今日が予定日。そして今日、手術が行われる。
仕事は午前中に全部終わらせた。課長も満面の笑みで早退させてくれた。
砂鉄を道に走らせて、即席の動く歩道を造り出す。
能力の乱用だ。なんて無駄遣い。といつもなら思うところだけれど、今はそれを全力で行っている。
アイツは結局間に合わなかったな。
今既にインデックスは手術室の中。13時に手術開始で、今が丁度13時ぴったり。
恐らく人っ子一人いないであろう手術室前のベンチを思い浮かべながら、わたしは病院の門をくぐった。
そんなわたしの予想は完全に外れた。
手術室の前には、十を超える人間が集まっていたのだ。
よく知らない人たちだった。
でもその中に、この間木の下でインデックスと話していたステイルさんがいた。
そのステイルさんと親しげに話しているという事は、他の人も魔術サイドの人間なんだろう。
良く見ればおかしな恰好をした人たちばかりだった。
アイツのウニよりパワーアップ、ハリセンボンみたいな頭をした十字架Tシャツの若い男。
若い修道女4人。1人は厚底ブーツにミニスカ修道服という、オマエ神様バカにしてんのか的恰好をしている。
メデューサみたいな頭をした色黒のゴスロリ女。
清楚そうな……いや、前言撤回。凶悪な最終兵器を胸部に秘めた黒髪の女性。
そしてTシャツを脇腹で結び、片方の足を切り落としたジーパンという出で立ちの……ええと、年齢不詳の女。コイツも凶悪兵器所持者だ。彼女はもう泣きそうになっている。
最後に、どこかの制服なのだろうYシャツとネクタイをした眼鏡の少女。……コラコラ。その胸の膨らみは一体何ですかお嬢さん。核兵器並みですね。
彼らは、息を切らしながら走ってくるわたしを視認した途端、目の色を変えて――――…
…え?
ちょ。待…
建宮「おおっ、学園都市の元第三位さんが来たのよな!!凄いのよな!!ちょっと能力見せてお嬢さん!!」ドドドドド
五和「ちょ!ダメですよ建宮さん、ここは病院ですよ!しかもインデックスさん手術中ですー!」
ステイル「建宮ぁぁぁ!!!!巨人に苦痛の贈り物を――――!!!!!」
アンジェレネ「で、でも私もちょっと見てみたいかなーなんて…」
ルチア「何か言いましたかシスターアンジェレネ?」ゴゴゴゴゴ
アンジェレネ「な、なんでもありません…」
アニェーゼ「まったく。超電磁砲なんて凶悪なモンぶっ放しちまったらこの病院吹き飛んじゃいますよ!」
オルソラ「男の子でございましょうか……いえいえ、女の子でございましょうか。いえ、男…」
風斬「私は女の子だと思います……」
神裂「ひっぐ、えっぐ、あの子は…あの子は本当に大丈夫なのですかぁぁ!?お腹切ったら死んでしまうではありませんかー!!!ええい七閃!今助けに行きますよインデックスー!」
美琴「手術中はお静かにしろってんだゴルァァァアアアア!!!!!!!!!!」
ああ、もうすぐ生まれるんだな。
ちくしょう、俺も立ち合いたかったぜ……産声聞くのは父親の醍醐味ってもんだろ。
「――――」ガタ
…誰か来たな。
点滴の交換にはまだ早い。御坂が戻ってきたのか?
一方「――――随分と良い恰好じゃねェか、ヒーロー」
打止「本当に大丈夫?お姉様にも無理だったんだよ?ってミサカはミサカは…」
一方「ふン、俺を誰だと思ってやがンですかァクソガキが」
番外「変態のロリコンモヤシ。くけけ」
一方「もォモヤシじゃねェし。筋トレしましたァ。打ち止めももうロリじゃありませンー」
番外「うわ、なんかムカつく」
10032号「一方通行。ミサカ達も協力は惜しみません。完璧にお願いします、とミサカは念を押します」
一方「あァ…分かってる。行くぞ三下」
カチ。
一方「楽勝だってンだよォ!」
産声が聞こえた。
産まれた。
生まれたんだ。
美琴「―――」
この時わたしはどんな言葉を紡ぐつもりだったんだろう。
わたしが口を開く前に、インデックスの知り合いたちをかき分けて。
美琴「…ぁ―――――」
誰かが。
頼りない足取りで、それでも確かに歩いてきた。
上条「ギリギリセーフ……か?」
麻酔が切れたみたい。
まだ少しぼんやりしている意識をどうにか起こして、瞼を開ける。
病室だ。
無事に終わったのかな。
お腹のあたりが鈍く痛む。あうう。痛いよとうま。
あ、そうだ。
赤ちゃん!赤ちゃんはどこ!?
ちょっと誰か。私ととうまの赤ちゃんはどこなのかな、教えて欲しいかも。
ねえそこの人。あなた同じ病室の人?
新入りだよね。この病室に男の人はいなかったもん。
…あれ、気付いてない?
―――分かった。声が小さすぎて聞こえないんだ。
むうう、ちょっとでいいからこっちを向くんだよ。鏡で髪の毛セットしてる場合じゃないんだよ。
あ、まずい。また意識が遠くなってきたんだよ。視界が揺らいで…
は、早く!早く気付いて!おーい!
…あ、
―――気付いたみたい。
―――こっちに来る。
何だろう、すごく懐かしいシルエットのような気がするんだよ。
よーし、完全記憶能力を誇るこの私にかかれば何なのかなんて一瞬で―――…
……
……
ウソ。
ウソウソ。
そんなのって有り得ない。
禁書「特大のウニが歩いてるんだよ」
上条「上条さんですよおバカさん」
美琴「…………一方通行?」
一方「あァ?」
鉢合わせしたのは、男子トイレから出てきた一方通行だった。
水を飛ばすな。手を振るな。ハンカチ使え。
美琴「…何でアンタがこんなとこに」
一方「居ちゃ悪ィのかよ。…そういうオマエは」
美琴「女なんだから化粧直しくらいするでしょうが」
ピリピリと棘のある会話。
打ち止めや番外個体から武勇伝を散々聞かされてはいたけれど、それでもわたしはコイツを許せそうにない。
一方「あァ、そりゃそォだよな。そンだけ汚らしく化粧崩れてりゃなァ」
美琴「んなっ……!」
一方「大方愛しのヒーロー様復活に号泣でもしたンだろ。乙女だねェ……クカカッ」
美琴「ううううるさい!!大きなお世話よ!!」
…うう、そんなにひどかっただろうか。
美琴「……てかやっぱりアンタ、知ってるんだ」
一方「はァ?」
美琴「アイツが復活したことよ。……まさかとは思ったけど、ここにいるってことはやっぱりアンタが…」
一方「知らねェな。俺は何もしちゃいねェ」
一方「あの三下を救ったのはオマエのクローン共。俺の力じゃねェ」
一方「アイツらの力だ。今度会ったら礼でも言っとけ」
美琴「……」
美琴「アンタ、それでカッコ良くキメたつもり?キャラ違い過ぎるんだけど」プププ
一方「うっせェ!!似合ってなくて悪かったなァ!」
美琴「まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」
一方「ふン……」
美琴「じゃあまたね。そのうち打ち止めの顔でも見に行くわ」ギイ
一方「…おォ」
一方「…………あァ?"またね"?」
一方「俺に、"またね"?」
一方「………クカカッ」
美琴『ぎゃああああっ!!なんじゃこの顔はァァァ――――!?わたしはこんな顔でアイツに会ってたのか――――――!?』
禁書「……」
禁書「………むぁ?」
上条「おっ。起きたかインデックス」
禁書「おはようなんだよ……」
上条「ああ。お疲れインデックス、頑張ったな」
禁書「うん…………」
禁書「―――――って!」
禁書「とうま!?ホントにとうまなの!?」
上条「当たり前だろ?このツンツン頭はなかなか他にいないと思うぞ」
上条「お前が分からなかったらショックだからさっきセットしたんだ」
禁書「ど、どうして…?とうまは頭の中にコブがあってもう目を覚まさないんじゃ……」
上条「おいおい物騒なこと言うなよ」
上条「…昔の知り合いが助けてくれたんだ。9972人がかりでな」
禁書「」
禁書「正直、とうまの人脈を侮っていたんだよ……」
上条「ハハハ、それでもまあかなり特殊な知り合いだからな」
禁書「…それで?もしかしてその人たちは全員女の子だったするのかな?」
上条「うっ!?………いや!全員じゃない。1人男だ、多分」
禁書「大して変わらないんだよ……」
上条「でもそういうのじゃないから。ただの知り合い」
禁書「ふーん…」
上条「あら?」
禁書「……」
上条「寂しかったもんだから嫉妬しちゃいましたかインデックスさん」
禁書「うっ、うるさいんだよっ!!///」
禁書「でも、ほんとうに良かったんだよ……とうま…とうま……っ」
上条「はいはい、上条さんはここにいますからねー。手を握ってますからねー」
禁書「………ふふ、とうまおかしい」
上条「ん、何が?」
禁書「だって私ももう"上条"だよ?インデックス=ライブロラム=上条。その言い方は変なんだよ」
上条「あ―――、そういえばそうだな。よし、"当麻さん"に変更……も変だな。なんか母さんぽい」
禁書「普通に『俺』で良いと思うんだよ。とうまお父さんになるんだから、こうどっしりした感じでいてほしいんだよ」
上条「そうだよなあ。授業参観とかで『頑張れ―、上条さんがついてるぞー』なんて子供に言えないよな」
禁書「あ、"お父さん"とかも良いんだよ。ちょっと古いような気もするけど」
上条「ああ。それもいいな――――――――…
上条「しっかし俺が父親か……何か実感湧かないな」
禁書「私はずっとお腹の赤ちゃんと一緒だったからね。もう母親準備は万端なんだよ」
上条「おおっ、頼もしいですねインデックスさん」
禁書「ふっふーん♪」
上条「頼りになるお母さんで良かったなぁ。ほれほれ、お父さんだって頼りになりまちゅからねー」
禁書「…とうま?私は赤ちゃんじゃないんだよ」
上条「いやインデックスさん、アナタじゃなくてそのすぐ横です」
禁書「…?」
ころん、と首をひねると。
禁書「あ…」
柔らかいタオルに包まれた、小さな命がそこにいた。
禁書「……とうま。」
上条「ん?」
禁書「名前。最高の名前を考えようね」
上条「ああ。そうだな」
完
上条「たださ……」
禁書「どうしたのとうま?」
上条「なんつーか…両親揃って入院中ってのもなんだか情けない話だよな…」
禁書「…それは言いっこなしなんだよ……」
ホントに完。
以上です。お付き合い下さった方ありがとうございました
今のところ次スレの予定はありませんが、またその内ひょっこり現れるかもしれません。
その時またお付き合いしていただけたら嬉しいです。それでは
一方通行かっこいいよ一方通行
元スレ
美琴「……」
今日も花束を持って病室に向かう。
右手に一束、左手に一束。アイツらは別々の病室にいるから。
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:18:41.48 ID:2S4zlxjQ0
美琴「……おっす」
禁書「あ、短髪。今日も来てくれたんだ」
美琴「そうよー、わざわざ花束持参で来てやったんだから。この美琴サマに感謝しなさい」
禁書「どうせぼっちで暇だったからに決まってるんだよ。ププ」
美琴「コイツ……」
禁書「ふふ、冗談なんだよ。ありがとう短ぱ………みこと。」
美琴「……ええ」
アイツとの出会いから5年。わたしは短パンも短髪もやめていた。
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:19:23.84 ID:2S4zlxjQ0
美琴「で?どうなのよ傷の調子は」
禁書「うん、もう大分塞がってきてるんだよ」
禁書「あのお医者さんがいればもっと綺麗に直してくれたんだろうけどね。贅沢は言えないんだよ」
美琴「カエルのじいさんか……一昨年だっけ?」
禁書「うん、主の元へ旅立ったんだよ。…あれ?あのお医者さん信仰してた宗教はあったのかな」
美琴「どうだかね。『冥土帰し』なんていう神サマ冒涜するようなアダ名持ってるくらいだしね」
禁書「でもあの人は沢山の人を助けてきたんだよ。…もちろん、とうまも」
美琴「…あの医者が生きていれば、今のアイツもどうにかなったかもしれないわね」
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:22:36.78 ID:2S4zlxjQ0
禁書「……4年前」
禁書「とうまが告白してくれた時、すごく嬉しかったんだよ」
美琴「…うん」
この間までのわたしだったら、こんな話はとても聞けなかった。
アイツとインデックスが結婚してからも、どうしてもアイツのことが忘れられなくて。
でも今は口を挟まずに聞く。
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:23:02.61 ID:2S4zlxjQ0
禁書「でもとうまはけっこんするまで私に手を出さなかったんだよ」
へえ、アイツにそんな堪え性があったんだ。
美琴「意外とカタブツね。アイツのことだから女の子をとっかえひっかえヤリまくってるのかと思ったわ」
禁書「む。いくらなんでも失礼なんだよみこと」
美琴「あはははは、ごめん冗談冗談」
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:23:28.43 ID:2S4zlxjQ0
禁書「…けっこんしてとうとうその夜が来ても」
禁書「とうまは……優しくしてくれたんだよ」
禁書「でも馬鹿。すっごく馬鹿」
禁書「あんなに頑張って耐えてるとうまの顔が眼前にあったらこっちが申し訳なくなるかも」
美琴「コラコラ。アイツそんな時まで他人優先か」
それからインデックス、あまり生々しい話をするんじゃありません。
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 11:24:55.08 ID:2S4zlxjQ0
禁書「それでも、とうまの気持ちはものすごく嬉しかった」
禁書「だから、その時に授かった命は絶対大切に育てていこうって決めたんだよ」
インデックスは右手で自分の膨らんだお腹を撫でた。
今は妊娠9か月だという。
禁書「…多分、この子は帝王切開で摘出することになると思う」
美琴「……そうね」
彼女は下半身不随になっていた。
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 12:08:29.92 ID:2S4zlxjQ0
美琴「おーっす」ガラ
美琴「ちょっとアンタ、来てやったんだから歓迎の挨拶くらいしたらどうなのよ」
美琴「…花束花瓶に挿しとくわね。ナースさんが水換えてくれるってさ」
上条「……」
美琴「今あの子9か月目に入ったわよ。そろそろベビーカー買っとかないと困るんじゃないの?お父さーん」
上条「……」
美琴「―――じゃあまた来るから。ちゃんとご飯食べるのよ」
無理な注文をした。
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 12:09:08.66 ID:2S4zlxjQ0
これは8割方インデックスから聞いた話。あとの2割は通行人やら医者やらから。
結婚して3か月。二人はアイツの実家に出かけたらしい。
おめでただと報告したら、アイツの父親は泣いて喜んだそうだ。もちろん母親も。
ただ『息子に負けてられん』と言って、二人の目の前で母親に夜の誘いをした時は空気が死んだという。
その日は実家に一泊。隣の部屋で物音がしてから静まるまでの時間は、それはそれは短く粗末なものだったとはインデックス談。
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:13:57.63 ID:2S4zlxjQ0
『おはよう』
そう言ったアイツの顔は今までになく嬉しそうだったという。
家族の記憶がないアイツにとっては、全員で喜び合えることが何より嬉しかったらしい。
昼間両親に見送られてバスに乗り、二人は学園都市近郊の自宅に戻る。
そしてバスは転落した。
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:14:33.15 ID:2S4zlxjQ0
公式発表では原因はまだ不明。けれどわたし達には推測が出来てしまった。
事故現場で正体不明の閃光が目撃されたが、スタングレネードの類は残骸すら見つからなかったということ。
そして妹達から聞いた情報が確かなら事故直後、付近で一人の魔術師が捉えられたらしい。
この二つから成る仮説。それはきっと正しい。
ただこの事件は一人の馬鹿な魔術師がトチ狂っただけであって、アイツの体質は関係がないと願いたい。
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:17:32.52 ID:2S4zlxjQ0
病院に運ばれた時、インデックスは他の乗客に比べてかなり軽傷だった。
懐妊が発覚してすぐ、彼女の古い友人とやらがやってきて彼女にとある魔術を使っていた。
いや、正しくは"彼女に"ではなく、"彼女の子に"。
一人の人間を術者が死ぬまで守り通す。そんな魔術だった。
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:17:59.70 ID:2S4zlxjQ0
もともとはその友人が彼女のために研究し続けていた魔術だったけれど、彼女の希望もあり、一度きりのその魔術はお腹の子に行使された。
そのおかげで胎児は事故から助かった。母親であるインデックスも、子供にかけられた魔術の恩恵を受けたらしい。母体が死んでしまっては胎児の命は無い。
ただインデックスに及んだ魔術の効果は薄く、彼女を完全に守ってはくれなかった。
下半身不随。
この時、インデックスの両足は既に動かなかった。
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:18:28.34 ID:2S4zlxjQ0
そしてアイツ。
閃光に驚きガードレールを突き破ったバスは5メートルの高さから転落。その中でアイツは強く頭を打った。
左腕の骨折は2か月で完全に治癒した。
でもアイツの意識は戻らない。極寒の北極海から生還した不死身の男が。
そして今。まだアイツは集中治療室で意識不明のままだ。
トレードマークだったツンツン頭も、もう肩に届く長さまで垂れ下がっている。そろそろ散髪するらしい。
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/18(水) 18:18:57.43 ID:2S4zlxjQ0
美琴「ホント何やってんのよ、アンタ……」
病室の扉を閉めた。
上条「……」
27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:32:46.18 ID:vCjew5Y30
そうか。
俺とインデックスが事故に遭ってから……もう半年経つのか。
28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:33:12.76 ID:vCjew5Y30
ちくしょう、意識はあるってのに体が動きやしねえ。
インデックス今何してるかな……。あああ、国際結婚したばかりの美人妻の顔を半年見れないとは何たる不幸。
御坂が報告に来てくれるのは嬉しいけど、やっぱり直に会いたいよな…
インデックスは一般病棟、俺は集中治療室か。
こんな体じゃ見舞いにも行けやしねえ。
あ゛――――、背中が痒い。不幸だ…
29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:33:40.16 ID:vCjew5Y30
禁書「あ、短髪。今日も来てくれたんだね」
インデックスは車椅子で中庭にいた。ひざ掛けに分厚い本を乗せて。
美琴「気持ちいいところねここ」
禁書「うん。このおっきな樹が好きなんだよ」
そこは中庭と言うには少し広すぎるくらいの場所だった。
緑が多く、ほぼ一面が手入れされた芝生。そこに車椅子使用者用の道が整備されていて。
ど真ん中には木漏れ日が気持ちのいい大木がどんと構えている。
その下で綺麗な髪を靡かせながら、インデックスは静かに本を閉じた。
5年の時を経た銀髪碧眼の少女は、誰もがはっとするほど美しい女性へ成長していた。
30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:34:53.09 ID:vCjew5Y30
大樹の影に誰かが座っていることに気付いた。
その男はぽかんとした顔で上を見上げ、時折漏れる陽射しに目を細めながら、小刻みに震える手を抱えている。
この病院に緑が多いのは…多分、精神科の病棟があるせい。
症状の残った患者が病院にいるというのは、学園都市では見られなかった光景だ。
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:35:20.28 ID:vCjew5Y30
去年高校を卒業するまで、外の世界の技術がここまで遅れているとは思わずとても驚いたのをわたしは覚えている。
もし学園都市の病院に入院することが出来たなら、恐らく『冥土帰し』でなくても今よりはずっとマシな科学的治療を受けることができたはず。
この患者も、そしてインデックスもアイツも。
今の学園都市は以前よりセキュリティーレベルが上がり、そう簡単には侵入できなくなっている。
元々外部の人間が入院するのは不可能だけど、今は少し医者に見せることすら困難だ。
黒子にも卒業以来会っていない。
毎晩留守電に熱烈なラブメッセージを吹き込まれてはいるけど。
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:37:04.27 ID:vCjew5Y30
美琴「車椅子にも乗れるようになったのね。目を覚ましたひと月前はヘロヘロだったのに」
禁書「うん、体力が大分戻ってきたんだよ」
美琴「別にわたしが押してあげてもよかったんだけど…」
禁書「リハビリのために自分でやった方が良いと思ったんだよ」
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:45:07.00 ID:vCjew5Y30
美琴「そういえばアンタ、旦那さんのお見舞いには行った?」
禁書「……」
禁書「ううん、まだ行ってないんだよ」
美琴「どうして行ってやらないのよ。車椅子でも乗れるエレベーターあるでしょ?この病院」
禁書「……ちょっと、怖いんだよ」
美琴「は?」
禁書「とうまが目を覚まさないなんてことは今まで無かったんだよ。傷だらけでも、私が声を掛ければいつだって……」
禁書「そのとうまが、今は」
美琴「……」
美琴「そっか、アンタもアイツに助けられたんだっけ」
自分の中で一番強くて頼れる男が倒れている姿を見るのには勇気が要る。
インデックスはその一歩が踏み出せずにいるのだ。
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:45:56.02 ID:vCjew5Y30
美琴「……良いんじゃない?今はそれでも」
禁書「うん……」
禁書「…あ。それでね、みこと」
美琴「んー?」
禁書「とうまが目を覚まさない理由がわかったんだよ」
美琴「!?」
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:46:38.13 ID:vCjew5Y30
美琴「何!?何があったの!?どうしてアイツは目を覚まさないの!?なんで今まで分からなかったの!?」
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:47:04.36 ID:vCjew5Y30
美琴「――――――」
そうまくし立てたい気持ちを抑えて、訊いた。
美琴「何が、あったの?」
禁書「……」
禁書「…とうまの脳には腫瘍があるんらしいんだよ」
美琴「……は?」
37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:47:34.97 ID:vCjew5Y30
美琴「待って。腫瘍?事故のせいで脳内出血とか神経断絶じゃなくて、腫瘍?」
禁書「うん。詳しいことは私にはよく分からないけど、体を動かすために使われる器官に大きな腫瘍ができて、働きが阻害されてるらしいんだよ」
美琴「え、だって…じゃあアイツが目を覚まさないのは事故のせいじゃなかったっていうの?」
禁書「事故に遭って意識不明になっている間に、腫瘍が出来たらしいんだよ」
美琴「何よそれ!?そんなバカな偶然あってたま……」
禁書「……」
美琴「…あ」
気付いた。
アイツの体質って、何だったっけ?
38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:48:22.01 ID:vCjew5Y30
不幸。
39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/19(木) 18:51:24.36 ID:vCjew5Y30
禁書「とうまの脳はちゃんと活動しているらしいんだけど、体に電気信号が伝わってないの。だからもしとうまに意識があっても…」
美琴「……アイツは目を覚ませない」
美琴「医者はなんて言ってるの?」
禁書「かなり際どい位置にあって、手を出せないらしいんだよ。どこかを傷付けたらとうまは…」
美琴「嘘でしょ……」
46: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:50:01.54 ID:bzNRBKbz0
午後の仕事には身が入らなかった。
昼休みに抜け出したせいで摂れなかった昼食を小さなおにぎりで済ませ、あとはパソコンの前で放心状態。
とある大企業のデータ管理。それがわたしの仕事だったけれど、今日の分の給料は最低記録だ。こんな時歩合制の会社は厳しい。
いつもなら能力を駆使してあっという間に仕事を終わらせるわたしが呆けているので、同僚や上司も気にかけてくれているらしい。
ただ、気にかけているのは今日終わらせるべきノルマのこと。
普段わたしがこなしている膨大な量が他の社員に回るわけだから、それは気が気でないだろう。
美琴「は―――――――……、能力者もラクじゃないわね…」
47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:50:28.50 ID:bzNRBKbz0
―――能力?
48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:51:05.60 ID:bzNRBKbz0
美琴「っ!」ガタッ
勢いよく立ち上がりすぎて、デスクに足をぶつけた。
美琴「―――――」
物凄い勢いで理論が組み立てられていく。どうしてこんな事に気が付かなかったのか。思わず笑いが漏れる。
わたしは電撃使い。レベル5の『超電磁砲』。
美琴「わたしの能力で、アイツの腫瘍を焼き切れるんじゃないの…?」
49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:51:56.39 ID:bzNRBKbz0
その後のわたしの行動は速かった。
美琴「アレの日なので早退します!!」
突如響き渡ったその声にオフィスの皆が反応する前に、わたしはもう外に飛び出していた。
あった。
わたしに出来ること。
50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:52:23.59 ID:bzNRBKbz0
結論から言って、無理だった。
51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:52:51.75 ID:bzNRBKbz0
面会時間を終えた病院に潜り込み、アイツの部屋の電子錠を外したまでは良かった。
けれどアイツの頭に手を当てて、能力の発動のために意識を集中させた時に気付いた。
…物理的に不可能だ。
さっきまでわたしは、アイツの生体電気の流れに乗せて自分の電撃を放ち、腫瘍を焼き切るつもりだった。
詳細な位置は生体電気の流れで探ればいい。
でもそれ以前の問題。腫瘍が焼き切れるような電流など流したらアイツの体が持たないのは明らか。
美琴「そ、それじゃ……砂鉄!微量の砂鉄を血液中に流し込んでわたしの能力で…」
斬り取る。
結果、アイツは脳内出血で死ぬ。
52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:53:19.28 ID:bzNRBKbz0
美琴「でっ、電気信号の経由は……!わたしがコイツの代わりに体を動かしてやれば…」
いくら学園都市第三位でも、そこまで高度で緻密な作業をする能力は無い。
ネットワーク上の情報とは違い、人体の電気信号は常に変化する上にデリケート。
麻痺やモニタリングくらいならともかく、その微妙な流れを完璧に再現するなんてことは、一人の人間の演算能力では不可能だ。
そもそもそれではわたしが手を離した瞬間コイツはまた意識不明になってしまう。
53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:53:51.58 ID:bzNRBKbz0
美琴「……あはは。やっぱダメだわ、わたし」
上条「……」
美琴「…ねえ。アンタの頭が動いてるってことは、この声も聴こえてるのかな」
心音を刻む機器の音が響く病室で、わたしは『レベル5』の無力さを知った。
54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:54:18.13 ID:bzNRBKbz0
美琴「わたし、アンタが好きだった」
美琴「ま、今なら襲われる心配もないし?思い切って言っちゃうけど」
55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:54:45.31 ID:bzNRBKbz0
美琴「昔好きだった…ううん、今も好きな男の奥さんを心配してお見舞いに来るなんて」
美琴「わたしも何で自分がこんなことしてるのか分からないけど……」
美琴「……恩返しってやつなのかもね」
わたしは静かに病室を後にした。
56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:55:34.86 ID:bzNRBKbz0
上条「……」
上条(おいおい、上条さんはいきなり女の子を襲うような野獣じゃありませんの事よ!?)
上条(ごめんな、…ありがとう御坂)
57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:56:13.68 ID:bzNRBKbz0
予定日が近づいてきた。
楽しみなんだよ。とうとう赤ちゃんとご対面なんだよ。
とうまのところにはまだ行けてないけど……この子が生まれたら、きっと一緒に行こう。
私に使われるのは全身麻酔なんだって。
すぐに抱けないのは残念。でも無事に生まれてきてくれるならそれでいい。
あ、そういえば名前どうしよう。
……とうま…
58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:56:46.28 ID:bzNRBKbz0
美琴「誰だ、アレ」
禁書「――――、…」
??「―…。……――――、」
この間の木の下で、インデックスが誰かと話していた。
知り合いかな。
にへら、と笑うインデックスの表情から、相手に対する信頼が読み取れた。
59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:57:16.36 ID:bzNRBKbz0
ステイル「じゃあ僕は行くよ。力になれなくてすまないね」
禁書「ううん、そんなことないよ。ありがとうステイル。またね」
ステイル「……ああ。また」
60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:58:59.78 ID:bzNRBKbz0
その男の人は病院を出て行った。
美琴「ちょろっとー。インデックス、今のはどちら様?」
禁書「あ、みこと。」
禁書「今のはステイル。ずっと昔からのお友達なんだよ」
美琴「ステイル?」
ステイル、という名前には聞き覚えがある。確かお腹の子に保護魔術をかけた魔術師が……『ステイル』。
61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 09:59:51.42 ID:bzNRBKbz0
美琴「そのステイルさんは、お見舞いに?」
禁書「うん。それと、とうまの治療法になるような魔術が私の知識のほかに無いかなって訊いてみたの」
禁書「……でも、やっぱり無かったんだよ」
美琴「それで励ましてくれてたんだ」
禁書「うん。ステイルは優しいんだよ」
美琴「…ふーん。見たとこ、えらく仲良いみたいね」
禁書「私の記憶にあるよりずっと昔からの仲みたいだからね。誤解を解いたらすぐに仲良くなれたんだよ」
もっとも、私の最初の記憶は『そのステイルから逃げている記憶』なのだが。
と、インデックスは申し訳なさそうな笑いを浮かべながら言った。
62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 10:00:27.71 ID:bzNRBKbz0
美琴「……ホントにそれだけ?」
よぎるのは、インデックスに"またね"と言われて顔を輝かせた、大柄な男の嬉しそうな顔。
禁書「ふえ?」
美琴「……」
…どうやらこのトンチンカンには分かっていないらしい。
朴念仁の旦那と良い勝負だ、とわたしは思った。
それでも、彼の気持ちにインデックスが気づかない方が……多分良いんだろう。
ステイルさんもそれを分かってインデックスと接している。
…すごいなあ。
わたしの気持ちは未だに決壊寸前。
72: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:30:10.67 ID:bzNRBKbz0
――――――走る。
73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:30:36.20 ID:bzNRBKbz0
走る。
今日が予定日。そして今日、手術が行われる。
仕事は午前中に全部終わらせた。課長も満面の笑みで早退させてくれた。
砂鉄を道に走らせて、即席の動く歩道を造り出す。
能力の乱用だ。なんて無駄遣い。といつもなら思うところだけれど、今はそれを全力で行っている。
74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:31:06.19 ID:bzNRBKbz0
アイツは結局間に合わなかったな。
75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:31:35.00 ID:bzNRBKbz0
今既にインデックスは手術室の中。13時に手術開始で、今が丁度13時ぴったり。
恐らく人っ子一人いないであろう手術室前のベンチを思い浮かべながら、わたしは病院の門をくぐった。
76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:32:16.95 ID:bzNRBKbz0
そんなわたしの予想は完全に外れた。
手術室の前には、十を超える人間が集まっていたのだ。
よく知らない人たちだった。
でもその中に、この間木の下でインデックスと話していたステイルさんがいた。
そのステイルさんと親しげに話しているという事は、他の人も魔術サイドの人間なんだろう。
77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:32:43.19 ID:bzNRBKbz0
良く見ればおかしな恰好をした人たちばかりだった。
アイツのウニよりパワーアップ、ハリセンボンみたいな頭をした十字架Tシャツの若い男。
若い修道女4人。1人は厚底ブーツにミニスカ修道服という、オマエ神様バカにしてんのか的恰好をしている。
メデューサみたいな頭をした色黒のゴスロリ女。
清楚そうな……いや、前言撤回。凶悪な最終兵器を胸部に秘めた黒髪の女性。
そしてTシャツを脇腹で結び、片方の足を切り落としたジーパンという出で立ちの……ええと、年齢不詳の女。コイツも凶悪兵器所持者だ。彼女はもう泣きそうになっている。
最後に、どこかの制服なのだろうYシャツとネクタイをした眼鏡の少女。……コラコラ。その胸の膨らみは一体何ですかお嬢さん。核兵器並みですね。
78: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:34:04.06 ID:bzNRBKbz0
彼らは、息を切らしながら走ってくるわたしを視認した途端、目の色を変えて――――…
…え?
ちょ。待…
建宮「おおっ、学園都市の元第三位さんが来たのよな!!凄いのよな!!ちょっと能力見せてお嬢さん!!」ドドドドド
五和「ちょ!ダメですよ建宮さん、ここは病院ですよ!しかもインデックスさん手術中ですー!」
ステイル「建宮ぁぁぁ!!!!巨人に苦痛の贈り物を――――!!!!!」
アンジェレネ「で、でも私もちょっと見てみたいかなーなんて…」
ルチア「何か言いましたかシスターアンジェレネ?」ゴゴゴゴゴ
アンジェレネ「な、なんでもありません…」
アニェーゼ「まったく。超電磁砲なんて凶悪なモンぶっ放しちまったらこの病院吹き飛んじゃいますよ!」
オルソラ「男の子でございましょうか……いえいえ、女の子でございましょうか。いえ、男…」
風斬「私は女の子だと思います……」
神裂「ひっぐ、えっぐ、あの子は…あの子は本当に大丈夫なのですかぁぁ!?お腹切ったら死んでしまうではありませんかー!!!ええい七閃!今助けに行きますよインデックスー!」
美琴「手術中はお静かにしろってんだゴルァァァアアアア!!!!!!!!!!」
79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:42:06.01 ID:bzNRBKbz0
ああ、もうすぐ生まれるんだな。
ちくしょう、俺も立ち合いたかったぜ……産声聞くのは父親の醍醐味ってもんだろ。
「――――」ガタ
…誰か来たな。
点滴の交換にはまだ早い。御坂が戻ってきたのか?
一方「――――随分と良い恰好じゃねェか、ヒーロー」
80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:42:46.85 ID:bzNRBKbz0
打止「本当に大丈夫?お姉様にも無理だったんだよ?ってミサカはミサカは…」
一方「ふン、俺を誰だと思ってやがンですかァクソガキが」
番外「変態のロリコンモヤシ。くけけ」
一方「もォモヤシじゃねェし。筋トレしましたァ。打ち止めももうロリじゃありませンー」
番外「うわ、なんかムカつく」
10032号「一方通行。ミサカ達も協力は惜しみません。完璧にお願いします、とミサカは念を押します」
一方「あァ…分かってる。行くぞ三下」
カチ。
一方「楽勝だってンだよォ!」
81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) 2011/05/20(金) 17:43:14.29 ID:bzNRBKbz0
産声が聞こえた。
産まれた。
生まれたんだ。
美琴「―――」
この時わたしはどんな言葉を紡ぐつもりだったんだろう。
わたしが口を開く前に、インデックスの知り合いたちをかき分けて。
美琴「…ぁ―――――」
誰かが。
頼りない足取りで、それでも確かに歩いてきた。
上条「ギリギリセーフ……か?」
87: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:42:40.70 ID:bzNRBKbz0
麻酔が切れたみたい。
まだ少しぼんやりしている意識をどうにか起こして、瞼を開ける。
病室だ。
無事に終わったのかな。
お腹のあたりが鈍く痛む。あうう。痛いよとうま。
あ、そうだ。
赤ちゃん!赤ちゃんはどこ!?
ちょっと誰か。私ととうまの赤ちゃんはどこなのかな、教えて欲しいかも。
88: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:43:14.16 ID:bzNRBKbz0
ねえそこの人。あなた同じ病室の人?
新入りだよね。この病室に男の人はいなかったもん。
…あれ、気付いてない?
―――分かった。声が小さすぎて聞こえないんだ。
むうう、ちょっとでいいからこっちを向くんだよ。鏡で髪の毛セットしてる場合じゃないんだよ。
89: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:43:52.10 ID:bzNRBKbz0
あ、まずい。また意識が遠くなってきたんだよ。視界が揺らいで…
は、早く!早く気付いて!おーい!
…あ、
―――気付いたみたい。
―――こっちに来る。
90: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:44:18.73 ID:bzNRBKbz0
何だろう、すごく懐かしいシルエットのような気がするんだよ。
よーし、完全記憶能力を誇るこの私にかかれば何なのかなんて一瞬で―――…
……
……
ウソ。
ウソウソ。
そんなのって有り得ない。
禁書「特大のウニが歩いてるんだよ」
上条「上条さんですよおバカさん」
91: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:45:20.06 ID:bzNRBKbz0
美琴「…………一方通行?」
一方「あァ?」
鉢合わせしたのは、男子トイレから出てきた一方通行だった。
水を飛ばすな。手を振るな。ハンカチ使え。
美琴「…何でアンタがこんなとこに」
一方「居ちゃ悪ィのかよ。…そういうオマエは」
美琴「女なんだから化粧直しくらいするでしょうが」
ピリピリと棘のある会話。
打ち止めや番外個体から武勇伝を散々聞かされてはいたけれど、それでもわたしはコイツを許せそうにない。
92: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:46:21.15 ID:bzNRBKbz0
一方「あァ、そりゃそォだよな。そンだけ汚らしく化粧崩れてりゃなァ」
美琴「んなっ……!」
一方「大方愛しのヒーロー様復活に号泣でもしたンだろ。乙女だねェ……クカカッ」
美琴「ううううるさい!!大きなお世話よ!!」
…うう、そんなにひどかっただろうか。
93: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:47:27.94 ID:bzNRBKbz0
美琴「……てかやっぱりアンタ、知ってるんだ」
一方「はァ?」
美琴「アイツが復活したことよ。……まさかとは思ったけど、ここにいるってことはやっぱりアンタが…」
一方「知らねェな。俺は何もしちゃいねェ」
一方「あの三下を救ったのはオマエのクローン共。俺の力じゃねェ」
一方「アイツらの力だ。今度会ったら礼でも言っとけ」
美琴「……」
94: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:47:54.35 ID:bzNRBKbz0
美琴「アンタ、それでカッコ良くキメたつもり?キャラ違い過ぎるんだけど」プププ
一方「うっせェ!!似合ってなくて悪かったなァ!」
95: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:48:22.01 ID:bzNRBKbz0
美琴「まあいいわ。そういうことにしておいてあげる」
一方「ふン……」
美琴「じゃあまたね。そのうち打ち止めの顔でも見に行くわ」ギイ
一方「…おォ」
一方「…………あァ?"またね"?」
96: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:48:50.77 ID:bzNRBKbz0
一方「俺に、"またね"?」
一方「………クカカッ」
美琴『ぎゃああああっ!!なんじゃこの顔はァァァ――――!?わたしはこんな顔でアイツに会ってたのか――――――!?』
97: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:49:19.54 ID:bzNRBKbz0
禁書「……」
禁書「………むぁ?」
上条「おっ。起きたかインデックス」
禁書「おはようなんだよ……」
上条「ああ。お疲れインデックス、頑張ったな」
禁書「うん…………」
禁書「―――――って!」
99: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:50:39.28 ID:bzNRBKbz0
禁書「とうま!?ホントにとうまなの!?」
上条「当たり前だろ?このツンツン頭はなかなか他にいないと思うぞ」
上条「お前が分からなかったらショックだからさっきセットしたんだ」
禁書「ど、どうして…?とうまは頭の中にコブがあってもう目を覚まさないんじゃ……」
上条「おいおい物騒なこと言うなよ」
上条「…昔の知り合いが助けてくれたんだ。9972人がかりでな」
禁書「」
100: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:51:07.26 ID:bzNRBKbz0
禁書「正直、とうまの人脈を侮っていたんだよ……」
上条「ハハハ、それでもまあかなり特殊な知り合いだからな」
禁書「…それで?もしかしてその人たちは全員女の子だったするのかな?」
上条「うっ!?………いや!全員じゃない。1人男だ、多分」
禁書「大して変わらないんだよ……」
上条「でもそういうのじゃないから。ただの知り合い」
禁書「ふーん…」
上条「あら?」
禁書「……」
上条「寂しかったもんだから嫉妬しちゃいましたかインデックスさん」
禁書「うっ、うるさいんだよっ!!///」
101: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:51:34.51 ID:bzNRBKbz0
禁書「でも、ほんとうに良かったんだよ……とうま…とうま……っ」
上条「はいはい、上条さんはここにいますからねー。手を握ってますからねー」
禁書「………ふふ、とうまおかしい」
上条「ん、何が?」
禁書「だって私ももう"上条"だよ?インデックス=ライブロラム=上条。その言い方は変なんだよ」
上条「あ―――、そういえばそうだな。よし、"当麻さん"に変更……も変だな。なんか母さんぽい」
禁書「普通に『俺』で良いと思うんだよ。とうまお父さんになるんだから、こうどっしりした感じでいてほしいんだよ」
上条「そうだよなあ。授業参観とかで『頑張れ―、上条さんがついてるぞー』なんて子供に言えないよな」
禁書「あ、"お父さん"とかも良いんだよ。ちょっと古いような気もするけど」
上条「ああ。それもいいな――――――――…
102: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:52:09.51 ID:bzNRBKbz0
上条「しっかし俺が父親か……何か実感湧かないな」
禁書「私はずっとお腹の赤ちゃんと一緒だったからね。もう母親準備は万端なんだよ」
上条「おおっ、頼もしいですねインデックスさん」
禁書「ふっふーん♪」
103: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:52:35.59 ID:bzNRBKbz0
上条「頼りになるお母さんで良かったなぁ。ほれほれ、お父さんだって頼りになりまちゅからねー」
禁書「…とうま?私は赤ちゃんじゃないんだよ」
上条「いやインデックスさん、アナタじゃなくてそのすぐ横です」
禁書「…?」
ころん、と首をひねると。
禁書「あ…」
柔らかいタオルに包まれた、小さな命がそこにいた。
禁書「……とうま。」
上条「ん?」
禁書「名前。最高の名前を考えようね」
上条「ああ。そうだな」
完
104: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:53:02.34 ID:bzNRBKbz0
上条「たださ……」
禁書「どうしたのとうま?」
上条「なんつーか…両親揃って入院中ってのもなんだか情けない話だよな…」
禁書「…それは言いっこなしなんだよ……」
ホントに完。
106: 黒子毛 2011/05/20(金) 18:58:42.79 ID:bzNRBKbz0
以上です。お付き合い下さった方ありがとうございました
今のところ次スレの予定はありませんが、またその内ひょっこり現れるかもしれません。
その時またお付き合いしていただけたら嬉しいです。それでは
一方通行かっこいいよ一方通行
SS速報VIP:禁書「赤ちゃんはどこ…?」