414: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/19(木) 21:27:56.24 ID:8VYCcX/J0

   おやおや、皆さんもうお帰りですか?
      劇はもうしばらく続きます。
   裏方たちの繰り広げる喜劇の物語、
第二幕、とある科学のタタリの昼に、開幕です。



415: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/19(木) 22:23:15.35 ID:8VYCcX/J0

九月十四日夕刻――。

とあるランジェリーショップの前で少女が空を眺めている。
少女の目線の先にはモニターが取り付けられた飛行船が浮かんでいた。
そのモニターはとあるニュース番組を映しているようだ。

TOPICS:米スペースシャトル打ち上げ成功

白井「お姉さま?」

店内から下着を手にしたまま出てきたのは少女の後輩だ。
白井はお姉さまと声をかけた人物、御坂の視線を追って同じく飛行船へと目を移す。

白井「……最近多いですわよね、確かフランスとロシア、スペインも打ち上げましたし」

宇宙に埋蔵金でも埋まってるんでしょうか、なんて茶化した言い方をする。

御坂「さぁね。それより、あんたは早く買い物済ませなさいよ。あんたの趣味に付き合うの結構恥ずかしいんだから」

白井「この際お姉さまも常盤台のエースとしてもっと大人びた下着を」

もう何度したかもわからない会話を繰り返そうとしたその時、
白井の携帯がピロピロと着信音を鳴らした。

白井「お姉さまと憩いの時間を邪魔するなんて、一体どこのどなたですの?」

心底めんどくさそうに携帯を取り出し通話ボタンを押す。

白井「もしもし? あぁ、初春ですの。……強盗? そんなものは警備員(アンチスキル)に任せておけば……。
  第二十三学区? あの航空宇宙関連の……」



416: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/19(木) 22:24:39.25 ID:8VYCcX/J0

しばらくして電話を切った黒子は見るからに沈んで見えた。
白井は御坂に二、三度頭を下げた後、店内に戻り手に持っていた下着を元の場所に戻すとまた慌しく店から出てくる。

白井「申し訳ありません、お姉さま。折角付き合っていただいたのに」

御坂「もういいわよ。それより今日は早めに帰ってきなさい。夜になったら天気が崩れる“かも”知れないから」

白井「はい、ですの……」

白井はその何気ない言葉のやり取りにどこか違和感を覚えていた。
その違和感の正体はわからないままだったが、二人は別れ黒子は風紀委員(ジャッジメント)の詰所へと足を向ける。

――――――――
――――
――

白井が風紀委員の詰所に到着すると、同僚の初春が出迎えてくれた。
若干の無駄話を挟み、状況の確認。
強盗犯が奪っていったのは機密性が高く宇宙の苛酷な環境にも耐えられるアタッシュケースらしい。
いろいろと推測を巡らせてみたが、最終的に白井が初春のナビで強盗犯を追い取り返してみればいいということで落ち着いた。
途中、なぜか信号機のトラブルが発生するという、白井たちにとっては幸運な出来事により
ほどなくして強盗犯グループを発見した白井が路地裏に入ったところで奇襲を仕掛ける。

白井「どっせーい!!」

黒服A「うわ、なんだ!?」

白井は脚を折りたたんだ状態で空中にテレポートすると
アタッシュケースを持って一番後ろを走っていた黒服の男にドロップキックを放つ。
当然、そんなものを受けた男は勢い余って転倒してしまう。

黒服B「何ッ!?」

男の叫び声を聞き、他数名の黒服たちが一斉に振り返る。
だが、彼らが目視したときには白井の指はアタッシュケースに触れており、
次の瞬間にはアタッシュケースを持ったままテレポートで振り向いた黒服たちのそのまた後ろへと移動する。

黒服C「くそっ、テレポートか!」

白井「こっちですわよ」

白井の姿を見失った黒服たちに、白井は挑発するように声をかける。

黒服D「こいつ!」

何の躊躇もなく懐から拳銃を取り出した黒服たちは銃口を白井へと狙いを定めようとする。
しかし、テレポーター相手にそれでは遅すぎた。
黒服たちが狙いをつけるより早く、またしても空中へとテレポートし二度目のドロップキックを放つ。
二人ほどまとめて転倒させると、すかさず服の端へとテレポートさせた鉄心で地面へと縫い付けてしまう。
続けて、もう一人同様にして地面に縫い付けるが残った二人はその場から逃走してしまう。
その場に打ち捨てられた拳銃を見れば、その古臭さから外部の人間だろうということが推測できた。



417: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/19(木) 22:27:31.88 ID:8VYCcX/J0

黒子はハァ、と一つ溜め息をついてアタッシュケースへと腰掛ける。
とりあえず強盗犯の捕縛と奪われたものを取り返したことを初春に連絡しようと携帯を取り出す。
丁度その時、タイミングよくピロピロと着信音が鳴り響く。
そのタイミングのよさから初春が監視カメラでこちらの様子でも伺っていたのかと思い通話ボタンを押し携帯を耳に当てる。

白井「もしもし、初春ですの?」

御坂『あぁ、黒子? ちょっと頼みがあるんだけど』

白井「お姉さま? えーとそれが」

御坂『まだ仕事中だった? ごめんごめん、邪魔しちゃったわね』

白井「いえ、それで頼みごとというのは?」

御坂『なんか部屋の抜き打ち検査があるって後輩に聞いてさ、私の私物隠しといてくれないかなーって』

白井「……お姉さまもまだ外に?」

御坂『まぁいいわ、他の子にあたってみるから。
  あんたも早く帰ってきなさいよ、今夜から明日いっぱい雨“かも”って話だから。じゃあね』

白井「お、お姉さま!?」

心配するだけして電話は切られてしまった。
最後の問いかけには答えてもらえず、ランジェリーショップの前で分かれる時にした違和感をまたしても感じていた。
魚の骨がのどにつっかえたような気分の悪さだが、今はそんなことよりも――。

白井「キィーッ! お姉さまが私以外の子に頼みごとなんて許せませんのー!」

至極私的なことで悶え声を荒げる白井だったが、次の瞬間に突如として浮遊感を味わうことになる。
そしてその浮遊感の原因が腰掛けていたアタッシュケースが“消えた”ことによるものだと気付いたのは、
地面に倒れこんで硬く冷たいアスファルトで頭をぶつけた後だった。



418: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/19(木) 22:28:37.75 ID:8VYCcX/J0

白井「イタタ……、一体何が。ッツ!?」

鈍い痛みを覚えた頭を片手で擦ろうと手を頭の上にやろうとした直後、
頭の鈍痛をはるかに上回る痛みが右肩を襲う。
肩に目をやれば痛みの原因が、いつの間にか突き刺さったコルク抜きの鉄部分だと言うことがわかる。
原因を確認したところでゆっくりと身を起こし、先ほどまではいなかったその人物へとしっかり目を据える。

白井「何者、ですの」

白井の前に立っていたのは『さらし』を巻いただけの上半身とその上からブレザーを羽織っただけという異様な格好をした少女だった。
その少女は、白井の問いには答えずただクスリと笑うだけ。
たったそれだけのことで直感的に彼女がどういった人物なのか思い当たる。

白井「テレポーター、ですのね」

「あら、もうお気付き? さすが同系統の能力者は理解が早いわね。
 私の能力は座標移動(ムーブポイント)、不出来な空間移動(アナタ)と違って物体に触れる必要がないのよ。
 どう? 素晴らしいでしょう、風紀委員活動第一七七支部の白井黒子さん」

まさに優越感に浸ってますといった感じの少女は、またクスリと笑って空中に腰を下ろす。
少女が腰を下ろそうとした場所には何もない。
であれば、当然のことながら後ろに倒れ先ほどの白井と同様に後頭部を打ち付けることになる。

「っっったあああ!?」

よほど想定外のことだったのか、少女は頭を抑え跳ねるように飛び起きる。
そして、自分が腰を下ろそうとした場所に目を向け何もないことを確認するとキョロキョロと辺りを見回し始める。
わけのわからない行動に白井はどう動いたものかと困惑気味だ。
そんな白井に少女は声をかける。

「ちょっとあんた! 残骸(レムナント)をどこへやったのよ!」

白井「は? れむ……なんですのそれは?」

聞き覚えのない単語に肩を抑えたまま可愛らしく頭を傾ける。

「とぼけてんじゃないわよ! さっきのアタッシュケースのことよ!」

どうやらレムナントとはさっきのアタッシュケースのことらしい。
しかし、どちらにしろ身に覚えのない話に白井は今度は逆側へと頭を傾ける。

白井「もしかして、転移座標を間違えたんですの?」

「!?!?!?」

白井の言葉に少女は目に見えてうろたえてみせる。
その様子に見ていて飽きが来ないな、などと思ってみたり。
しばらく目を閉じ熟考していたかと思うとカッと両の目を見開き、一言。

「覚えてらっしゃい!!」

そう言い残すと、手に持っていた軍用警棒を一度振り黒服たちをどこかへ座標移動させ、
もう一度軍用警棒を振り今度は少女自身が座標移動してそこには白井だけが残されることになる。

白井「いったいなんなんですの……」



421: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 10:56:44.52 ID:4acUqOqH0

私、佐天涙子は本日絶好調である。
朝のテレビの占いに始まり、授業で当てられた時もちゃんと答えられたし、
ジュースを買えば当たりが出てでもう一本。
身体検査(システムスキャン)ではなんと能力が発現!
結構珍しい能力らしくって学校が終わった後木山先生のところで詳しく調べてもらって、今はその帰りなのだ。

佐天「しかもなんとレベル5! 私もびっくりしたなー」アハハ

レベルはまだわかってなかったけど、能力が発現したってことで初春が「お祝いしましょう!」って言いだして、
これから初春の寮でお泊りパーティ。

佐天「今日はほんと運がいいっていうかなんていうか。私を中心に世界が回ってるんじゃないか、って疑いたくなるよ。
  今なら私は世界の王にすらなれる!なんてねー」

これでもう一つ何かいいことでもあれば本気で世界征服考えちゃおっかなぁ。

ヒュン!

佐天「ん? なんか変な音が、」

ゴン!ゴトン!

佐天「ぃったあああ!?!? 何なのよもう……、ってアタッシュケース? これが落ちてきたの?」

見上げてみるが周囲に高い建物などは一切ない。
遥か上空からなら私の首が折れてるだろうし、一体どこから?

佐天「とりあえず、落し物ってことでいいのかな。蓋は……鍵が閉まってるのか。
  風紀委員にでも持ってくべきなんだろうけど、今日はもう遅いしなぁ。ってそうだ!」

そうそう、私ってば丁度風紀委員のところに向かってるところじゃない。

佐天「初春に渡しとけばいいよね。……でも、これ何が入ってるのかなぁ」

――――――――
――――
――



422: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 10:58:23.78 ID:4acUqOqH0

佐天「初春ー、いるー?」ガチャリ

初春「はい、そうです。恐らくそっちかその隣の学区が怪しいでしょう――」

佐天「ありゃ? 電話中かぁ。とりあえず、玄関で待ってるとしますか」

相手は白井さんみたいだけど、風紀委員関係の電話かな?
家に帰っても仕事だなんて熱心だね初春は。

初春「――わかりました、絶対に生きて帰ってきて下さいね……」

佐天「初春ー? 電話終わったー?」オーイ

初春「ふぇ!? さ、佐天さんいつの間に……」

佐天「ついさっきだよ。さっきの電話って風紀委員の? 大変だね」

初春「はい。白井さんが無茶しなきゃいいんですけど……、とりあえず上がって下さい」スリッパドウゾ

佐天「白井さんが? なんか面倒な事件でも起きたの?」スリッパアリガト

ゴロゴロゴロ……

初春「機密情報なんで詳しくは言えませんけど、かなり危ないと思います」

佐天「そっかぁ、白井さんってば正義感強いからなぁ」

ゴロゴロゴロ……

初春「……」



423: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 10:59:38.50 ID:4acUqOqH0

初春「あの、佐天さん?」

佐天「何? 初春」

ゴロゴロ、ピタ。

初春「その大きな荷物は何ですか?」

佐天「へ? あ、これ? なんか上から突然落ちてきてさぁ。頭の上にゴンって。痛かったんだよー」

初春「あ、頭の上に!? 落し物ってことですか?」

佐天「わからない、周りには建物なんてなかったし、人もいなかったし。
  とりあえず、風紀委員の初春のところに持ってこうって思って」

初春「へー、不思議な話ですねぇ……、ってあれ!? これってもしかして?!」ガバッ

佐天「ど、どうしたの初春!?」ビクッ

初春「」ジー…

佐天「」ゴクリ

初春「二十三学区のエンブレム、やっぱり……」ボソッ

佐天「何かわかった?」

初春「はい、お手柄ですよ、佐天さん! とりあえず白井さんに連絡しないと!」カチャ

佐天「おー、なんか知らないけど、お手柄らしいぞ私!」ヤッタネ
  :
  :
  :
初春「うーん……出ませんねぇ、電源切ってるみたいです。留守伝にメッセージだけ残しときましょう」ア、ウイハルデス…



424: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 11:00:34.95 ID:4acUqOqH0

佐天「ねぇ、初春……。これって何が入ってるの?」

初春「えーと、それはちょっと……」

佐天「えー、いいじゃーん。私が拾ってきたんだから教えてよー」

初春「駄目ですよー、とてもじゃないですが口外出来ないことなんですから」

佐天「むー、初春の意地悪ー。いいもん、勝手に開けちゃうんだから」

初春「無理です。専用の鍵が必要ですし加えて10数桁のパスワードもあります。
  その上、宇宙でも耐えられるようなケースですからとっても頑丈で壊すこともできませんよ」

佐天「絶対?」

初春「絶対です!」

佐天「言ったなー。今日の私はとっても運がいいんだから、今日の私にできないことなんてない!」

初春は知らないんだ、私がレベル5になったこと。
今の私はレベル5、私の超能力を持ってすればこんなケースは……。

佐天「この鍵の部分に手を当てて~」ムムムム…

初春「無理ですって、もう。……そういえば、佐天さん。
  木山先生のところで詳しい検査してもらったんですよね? 佐天さんの能力って、」

バキリッ!

初春「えっ!?」

佐天「ふぅ、こんなもんかなぁ」ガチャリ

初春「あ、開いてる……、いったいどうやって……」ポカーン

佐天「どうよ初春。これが私の能力、時間加速(タイムアクセル)の力だ!」チナミニレベル5ダヨ

初春「えぇええええええええええええぇぇぇ!?!?!?!?!」



425: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 11:01:20.54 ID:4acUqOqH0

――――――――

初春「つまり物の時間を進める力ですか、しかもレベル5の……。なんかもうどこから驚いていいやら……」

佐天「ちょっとこの鍵の部分の時間を100億倍ぐらい加速させて見ました」

初春「100億って簡単に言いますけど、一瞬で何世紀も経ってますよ!?」ソリャコワレル

佐天「で、この機械の部品っぽいのなんなの? 初春」

初春「今日の佐天さん、とことん自由ですね。わかりました、教えますよ」

佐天「やったー、初春愛してるー♪」

初春「調子いいんだから……。これはですね、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の中枢です」

佐天「へ? それってあのすんごいコンピューターだっけ? 人工衛星と一緒に打ち上げられた」

初春「そうです。けどそれがここにある、おかしいと思いません?」

佐天「そうだよね、宇宙にあるものが何でこんなところに。もしかしてまた新しい奴作ったってこと?」

初春「いいえ、違います。これは本来宇宙にあるはずのもの」

佐天「それってまさか」

初春「壊されていたんです。7月28日に何ものかに地上から迎撃されて」

佐天「いやいや、もしほんとならニュースにでもなってるはずでしょ!?」

初春「逆ですよ、こんなこと公表できるわけありません」

佐天「ぐっ、確かに」

初春「それに最近、天気予報がはずれることってよくあると思いませんか?」

佐天「うーん、そういえばこの前も雨って言ってたのに降らなかったことあったよね」

初春「樹形図の設計者は表向きは完全な天気予報を行うものです。それがはずれるなんてありえませんよ」

佐天「ってことはこれ、本物なんだ……」

初春「だからそう言ってるじゃないですか」



426: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 11:02:37.30 ID:4acUqOqH0

初春「正直、こんなの知ってるってだけで裏の世界の人に狙われてもおかしくありませんよ」

佐天「そんな、裏の世界って厨二病くさいことを……」マダチュウイチダケド

初春「……」ムゴン

佐天「え、まじで?」

初春「……」コクリ

佐天「よ、よーし。聞かなかったことにしよう! そして初春も言わなかったことにしよう!」ネ?

初春「蓋開けちゃったじゃないですか……」

佐天「うわぁ、そうだよ、開けちゃったよ~。どうすんのよ私~!」アタマカカエ

初春「佐天さんはいつもいつも後先考えなさ過ぎなんですよ」

佐天「そんなこと今更言われたってー! あーもう、こうなったー!!」

初春「こうなったら?」

佐天「……してやる」ボソリ

初春「はい?」


佐天「学園都市を 征 服 してやるー!!!」ドーン!


初春「はい~~~!?」



427: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/21(土) 11:03:06.83 ID:4acUqOqH0

初春「佐天さん、落ち着いて下さい! そんな無茶苦茶なこと」

佐天「今日の私はとっても調子がいいのよ! 何だってできる! きっと学園都市の征服ぐらい簡単に!」

初春「できるわけありませんって! いくらレベル5になったからって一人でそんなこと!」

佐天「一人じゃないもん!」

初春「えっ?」

佐天「初春も共犯だもん! 私と一緒に征服するのよ!」

初春「状況的に共犯と言われても仕方ないですけど、私そんなこと」

佐天「いいの? 私言っちゃうよ? 初春が秘密にしてること」

初春「ちょちょ、ちょっと、一体なんのことですか!?」

佐天「木山先生に聞いちゃったんだからね、初春のこと」

初春「木山先生……まさか」

佐天「初春って巷じゃ守護神(ゲートキーパー)って呼ばれてるんだよね?」

初春「そ、そうですね、知られちゃいましたかー、困ったなー(棒読み)」

佐天「けどそれさえも仮の姿、本当は」

初春「」ゴクリ

佐天「――――なんだよね」ヒソヒソ

初春「ッ!!」

佐天「手伝ってくれるよね? 初春」

初春「……はい」

ああ、どうしてこうなってしまったのでしょうか。
佐天さんと一緒に学園都市を征服することになるなんて……。



431: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/23(月) 06:24:02.49 ID:cHGjgLc00

とある工事現場――。

御坂「出てきなさい、卑怯者!」

爆発音を聞きつけてそこへやってきた白井は、
どこにいるかわからない相手に、辺りに響く大きめの声で語りかけている御坂の姿を見つける。

結標「今日はずいぶんと焦っているようね。そんなに残骸を組みなおされるのが怖い?
  それとも実験を再開される方、かしらね」

御坂の呼びかけに応え、姿を現したのはレベル4の空間転移能力者、結標淡希こと座標移動。
このとき白井は、彼女のことを初春に調べさせ名前をはじめとしていくつかの情報を得ていた。

結標「あんなの放っておけばいいじゃない、元々そのために作られたんだし」

御坂「あんた、本気で言ってんの!?」

結標の物言いに怒りをあらわにする御坂は、八つ当たりのように空気中へ電撃を放出している。

結標「ただ、今私があなたに追われる理由はないと思うわ。だって私は残骸を持っていないもの」

御坂「そんな見え透いた嘘、誰が信じるものですか!」

結標「本当のことなんだけどねぇ。あなた、人の話を聞かないってよく言われるでしょ?」

御坂「黙りなさい!」

結標を一喝する声に呼応して、御坂から再び電撃が放出される。

御坂「私はムカついてる。頭の血管がブチ切れそうなくらいムカついてるわ!
  あの馬鹿、私が気づかないとでも思ったのかしら、ドア越しの声を聞いただけでもあんなに……、あんなにひどい」

白井(お姉さま……)

御坂は気づいていたのだ。
一度、怪我の応急処置をするために寮に戻ったとき、ドア越しに交わした会話。
たったそれだけのことで、白井の痛み、苦しみを察していた。




432: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/23(月) 06:25:21.94 ID:cHGjgLc00

御坂「ええ、私はムカついてるわよ。完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と、目の前のクズと。
  何よりこの状況を作り出した私自身にねー!!」

結標「甘ったるいほどに優しいのね。自分も被害者だって嘆いていれば戦わないでも済んだのに。
  なんにせよ私はここで捕まるわけにはいかない。どんな手を使ってもでもね」

御坂「逃げ切れると思う。あんたの手の内は、もうお見通しなのよ!」

御坂は狙いをつけやすいよう右手を振り上げて電撃を放つ体勢をとる。
当たれば一瞬で意識を刈り取れるように調整されたその電撃だが、
それが放たれる前に結標は軍用警防を軽く振ると目の前に何人かの人間を座標移動させる。

御坂「そんなスッカスカな盾で!」

結標「さて、問題。この中に関係ない一般人は何人混じっているでしょうか?」

御坂「ッ!」

直前まで座標移動で現れた人間もまとめて電撃を叩き込むつもりだったが、
『関係ない一般人』が混じっている、そう可能性を示唆されただけで手が止まってしまう。
どさり、と壁にされた人間たちが地面に落ちる。
その時には結標はすでに自身を座標移動して姿をくらました後だった。
残されたのは、悔しそうに歯噛みする御坂美琴ただ一人だった。



433: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/23(月) 06:25:48.61 ID:cHGjgLc00

白井(どうやらここから先は私の出番のようです)

テレポーターを追えるのはテレポーターだけ。
能力が似通っているということは自分だけの現実(パーソナルリアリティ)、果ては思考パターンも似通っているということ。
もし自分が同じ立場であればどこへ移動するのか。

白井(さぁいきますわよ白井黒子。必ず帰ってくるために。戦場の一番奥へと)

おおよその当たりをつけそこへ移動するための演算を開始する。
ゆっくりと立ち上がり、今一度、自分を思ってくれる優しい姉の姿を目に焼き付けようとそっと覗き込む。

カランカラン。

白井「あら?」

その音は足元にあった空き缶が転がった音。
どうやら足をぶつけてしまったのが原因らしい。

御坂「そこかあああアアアァァ!!!」

空き缶の音に過敏に反応した御坂は振り向きざまに電撃を放つ。

白井「ぇ……」

白井が隠れていたのは薄い鉄製の壁一枚のみ。
鉄は電気を通すため……。

白井「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙、お゙お゙お゙ね゙え゙さ ま゙あ゙あ゙あ゙!!」

見事通電。

御坂「ちょ、その声はまさか……、黒子おおぉ!?」



434: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/23(月) 06:27:09.05 ID:cHGjgLc00

デパートのレストランの窓から向かいの道路を覗き込む一つの影。

結標「どうやら見当違いの方へ向かったようね」

結標は座標移動で逃げ込んだその場所から、そっと周囲を伺っていたが御坂の姿は見当たらない。

結標「私自身はテレポートしないと考えてたみたいだけど、残念だったわね」

結標は二年前にカリキュラムにおいて演算ミスから大怪我を負ったことがある。
そのことがトラウマとなり今でも自分自身に能力を使うことを躊躇う傾向があった。
軍用警棒を振っているのも自分だけの現実をより強固なものにし、補うためなのだ。
しかしながら、自身を座標移動することができないわけではないため、このように逃げることも不可能ではない。
ただ、その弊害として軽い吐き気を覚え連続で使用すれば確実に嘔吐する自信があると、結標本人は自負している。

結標「とにもかくにも、残骸を見つけ出さないとね……」

結標は外部の協力者に対し、こう報告していた。
『私の存在に気づいた風紀委員のテレポーターが、私に能力で奪われる前にあらぬ所へ飛ばしてしまった』、と。
悪いのは元々残骸を運んでいた奴らで自身には非はないという言い訳に、協力者は若干訝しんでいたが
下っ端連中を使いどうにか見つけるからそれまでは身体を休めておけとの指示が受けていた。
結標はその指示に従い適当な仮宿を探して徒歩での移動を開始する。



435: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/23(月) 06:28:19.60 ID:cHGjgLc00

翌日、昼――。

初春と佐天の二人は、二人の通う中学校の屋上で昼食を食べていた。

初春「佐天さん、本気でやるんですか?」

佐天「もち!」

初春「うーん、やっぱりやめた方……」

佐天「だって、向こうはもう動き出してるんでしょ?」

初春「うっ、えぇ……はい」ショボン

佐天「昨日の今日だって言うのに見つかるの早すぎでしょ」ハァ

初春「猟犬部隊(ハウンドドッグ)とかいうのがすでに動いてるらしくて、今日の放課後にでも襲ってくるかと」

佐天「そう考えると、暢気に学校なんかきてていいのかなぁ、なんて思うよね」

初春「この日常も今日で終わりなんですねぇ」シミジミ

佐天「隙アリ! 初春のクリームパン一口もーらい」パクッ

初春「あー、一口って半分くらいなくなってるじゃないですかー、ひどいですよ佐天さーん」

佐天「お詫びと言っては何だけど、世界を征服した暁には世界の半分をくれてやろう」

初春「世界!? 学園都市で終わりじゃないんですか?!」エッ!?

佐天「やだなぁ、冗談じゃん初春。でも、学園都市の次は世界ってのも面白そうだよね」ウフフ

初春「そういうのなんていうか知ってますか? 取らぬ狸の皮算用って言うんですよ」シラー

キーンコーンカーン……

佐天「お昼も終わりかぁ。残り半日の学生生活、満喫するとしますかー」ヨッシ

初春「やっぱり不安ですー」



441: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/25(水) 01:03:32.15 ID:ywbmnuto0

放課後、校門――。

佐天「この校門を出た瞬間から私たちの非日常が始まるのね……」ウフフ

初春「うー、佐天さん楽しんでませんか? 捕まったら殺されるかもしれないんですよ?」ワカッテマス?

佐天「うーん、確かにそうなんだけどさー。なんていうかまるでアニメや漫画の主人公みたいじゃない?」

初春「捕まったら物語冒頭に出てくるようなただの都市伝説の一説で終わっちゃいますよぅ」メソメソ

佐天「初春はネガティブだなぁ、もう後戻りできないんだし諦めてポジティブにいこうよ!」

初春「せめてもう少し緊張感持って下さいよ……」

佐天「わかったわかった、さぁ行くよ初春ー」テクテク

初春「ぜんぜんわかってないじゃないですかー」トテテ

ゴロゴロゴロ……

――――――――

デニス「こちらデニス、対象が校門を出た。残骸を持って風紀委員の詰所へ向かっている模様」

ナンシー『こちらナンシー、追跡して人通りの少ないA地点で路地裏へ追い込め』

デニス「了解」



442: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/25(水) 01:04:47.93 ID:ywbmnuto0

ゴロゴロゴロ……

初春「……」カチャカチャ

佐天「……」カチャカチャ

――――――――

デニス「なぁマイク、あいつらずっと携帯いじっててまったく会話しねぇんだ」

マイク「今時の中学生なんてそんなもんじゃないのか。それよりもうすぐポイントに到達するぞ」

デニス「あぁ、わかってる」

――――――――

from: 初春飾利
to: 佐天涙子
sub: 絶対振り向かないで下さいね

追手が二人います。恐らく猟犬部隊です。


from: 佐天涙子
to: 初春飾利
sub: Re:絶対振り向かないで下さいね

んじゃそこの路地裏にでもはいろっか。
P.S.サブタイトルって前振り?


from: 初春飾利
to: 佐天涙子
sub: Re:Re:絶対振り向かないで下さいね

わかりました(/-T)シクシク
あと振りじゃありませんからね!



443: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/25(水) 01:06:54.58 ID:ywbmnuto0

マイク「なっ!? こちらマイク、対象がA地点の一つ手前の路地裏へ入った」

ナンシー『予定とは異なるが用は一目につかなければいい。捕縛後D地点へ移動しろ。
  無能力者の中学生二人に手こずる事は許されないぞ』

マイク「了解した。ヒュー、JC相手とかお兄さんテンション上がっちゃうよー」フヒヒ

デニス「落ち着けよロリコン、もし逃がしたら木原さんにぶっ殺されるんだぞ」

マイク「大丈夫、問題ない」キリッ

デニス「ほんとかよ……。行くぞ」

――――――――

マイク「お嬢ちゃんたち、こんなとこ歩いてるとスキルアウトに狙われちゃうよ」

二人に声をかけたのは猟犬部隊のマイクと呼ばれていた男だ。
その手には小型の拳銃のようなものが握られていて照準はすでに初春に合わせられている。
その隣には同じく猟犬部隊のデニスと呼ばれていた男が、マイクと同じものを佐天に向けている。
声をかけられた佐天と初春は、ぴくっと肩を震わせそっと後ろを振り向く。
足が止まっているその隙に猟犬部隊の二人はトリガーを引く。
小型拳銃から勢いよく発射されたのは銀色に光る細い針、
これは対象に突き刺さると電撃が流れる拳銃型のスタンガンなのだ。
対象との距離は僅かに5メートル足らず、使い慣れたその武器が目標を逸れることはない。
発射された針は二人の首筋に目掛け真っ直ぐに飛んでいく。
しかし、その針は二人を目前にして何かに弾かれ落下する。

マイク「なっ!?」

思わぬ出来事に目を剥く二人。
マイクは何が起こったのか理解できず驚愕している。
同じく言葉もなく驚愕しているデニスだが、彼が驚いたのは針が弾かれたことにではない。

デニス(この状況で笑ってやがる、だと……?)

振り向いた無能力者の中学生二人――、
暗い路地裏で誰かもわからない相手に声をかけられたというのに彼女らは口元を歪め笑っていたのだ。



444: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/25(水) 01:08:19.88 ID:ywbmnuto0

デニス「くそっ!」

咄嗟に再びトリガーを引くが、先ほどと同じように発射された針は何かに弾かれた後重力に引かれ落下する。

マイク「無能力者じゃなかったのかよ!?」

事前に与えられていた情報と異なる今の状況に、怒りの声をあげる。
初春は右手を残骸の取っ手から手を離し呆然と立ち尽くす猟犬部隊に向けた後、左手で携帯のボタンを押す。
すると、初春の右手からは電撃が放出され猟犬部隊の二人を襲う。

マイク「ぐああぁぁ」

デニス「うぐおおぉ」

猟犬部隊は短い悲鳴をあげた後、どさりと倒れ完全に沈黙した。

佐天「初春、ちょっとやりすぎなんじゃないの?」ウヒョー

初春「電流は低めに抑えましたから、大丈夫ですよ」タブン

佐天「んー、まいっか。ふははは、無能力者をなめるからこうなるのだー」ヤー

初春「超能力者が何言ってるんですか、まったくもう。
  ……この先にスキルアウトが溜まり場にしてる廃工場がありますからそこへ行きましょう」トテテ

佐天「りょーかーい」テクテク

ゴロゴロゴロ……



445: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/25(水) 01:08:58.24 ID:ywbmnuto0

――――――――

結標淡希は人気もない暗がりの路地裏を足早に歩いていた。
彼女は協力者からの連絡を受けとある廃工場に向かっているのだ。
情報によれば風紀委員の中学生が残骸を拾ったらしく、友人とともにそれを持って風紀委員の詰所に移動する途中、
学園都市の暗部組織に襲われその中学生たちは件の廃工場へ逃げ込んだという。

結標「無能力者だっていうし、とっくに捕まって残骸も回収されてそうだけど……」

なんの力も持たないただの中学生が暗部組織に狙われて無事なはずがない。
その中学生たちがどれだけ時間稼ぎをできるかはわからないが、いまだ立てこもっているのが理想。
最悪のケースは残骸は持ちされれ何の痕跡も残されていないことだ。
いくつかの可能性を考慮しながら歩き続けると路地裏から抜けひらけた場所に出てくる。

結標「ハァ、手遅れだったみたいね」

同時に廃工場が目に飛び込んできたが思わず落胆の声をあげる。
その理由は廃工場の扉が大きく開かれていたからに他ならない。

結標「まだ暖かい死体でも残ってるといいんだけど」

廃工場の扉が開いていると言うことは、暗部組織が中へと進入してしまったと言うこと。
まともに対峙すればただの中学生など拳銃の一発で沈黙させられてしまっていることだろう。
できるだけ多くの情報が残されていることを期待してその工場の中へと足を運ぶ結標だったが、
目の前に広がっていた光景に思わず言葉を失う。

結標「……これは、一体?」

そこにあったのは、倒れた人、人、人……。
恐らくは暗部組織の一員と思われる彼らがなぜこんなところで倒れているのか。
予想外の出来事で硬直し、結標はその場に呆然と立ち尽くす。

初春「あれ? もしかして結標淡希さんですか?」

結標「ッ!?」

突如かけられた声に完全に脱力していた結標はハッとして我に返る。
咄嗟に手にしていた軍用警棒構えて声のした方へと意識を向けると同時に
周囲にある座標移動でテレポートさせられそうなものを視界の端へ押さえておく。

初春「お待ちしてました。けど、思ったより早かったですね」

廃棄された工場の中には何もない。
声の主はその工場の奥の方に友人と思われる黒髪の少女とともに立っていた。

結標(ぇ、何あの頭……)

彼女を見た瞬間、結標の脳裏には某国の鉢植えから人の頭が生えた某ゲームが過ぎったという。



452: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:32:16.83 ID:2TFYHFVz0

結標(いやいや、そんなこと考えてる場合じゃないでしょ)

一瞬関係のないことに意識を奪われそうになったが自身が置かれている異様な状況を改めて把握しようとする。
工場の内部はおよそ20m×16mの敷地に天井までの距離が5mぐらい。
空間移動能力を持つ彼女にとって空間把握は呼吸をするぐらい簡単なこと。
両目でしかと目視さえできればこの程度の体積は10cmの誤差もないことだろう。
そしてその床に散らばるのは軍隊を連想させる特殊な服に身を包んだ、意識を失っているであろう人間たち。
ぴくりとも動かないそれらが生きているのかさえわからない。

結標(こいつらは暗部の人間でしょうけど……、それが17人も倒れてるなんて)

それにこちらの名前を知られているというは非常にまずい。
おそらくは名前だけでなく結標の能力や強度、下手をすればトラウマのことも知られていることだろう。

結標「無能力者が襲われてるって聞いて助けにきてあげたんだけど、襲われたのはこの人たちの方なのかしら?」

数を数えるついでにそれぞれの服の状態を確認しつつ、それについての答えを少女たちへ問いかける。
もちろん明確な回答を期待しているわけではない。
これは状況を分析するためのただの時間稼ぎだ。

初春「襲われたのは紛れもなく私たちの方ですよ、結標さん。
  そしてこの人たちに対して私たちは何の能力も使用していません」

結標「そうなの? じゃあこの人たちは仲間内で同士討ちでもしたのかしら?」

結標(焼け焦げたような跡、壁に何かを叩きつけたような人型の凹み、鋭利なもので切り裂いた様な跡もあるわね。
  何が、『何の能力も使用していない』よ。恐らくはどちらかが発火能力、もう一人は空力操作かしらね)

初春「さぁ? それはどうでしょうか?」

結標(何にせよ、真正面から戦う必要はないわね。残骸はあっちのガーデニング娘が持ってる。
  それを私の手元に座標移動して私自身も座標移動すればこの子たちは追ってこられない……)

佐天「それより、私たち結標さんに聞きたいことあるんですよ」

結標「残念だけど私急いでるのよ。悪いけど失礼させてもらうわ」

結標(残骸を、座標移動ッ!)クイッ



453: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:33:30.41 ID:2TFYHFVz0

結標は軍用警棒をくるっと回して残骸を手元へ座標移動させようとする。
完了したら同時に続けて自身を座標移動するために予め気構えておく。

ヒュン

それは空間移動で現れたものが空気を切り裂く音。

結標(さぁ、掴んで……。ぇ?)

結標は残骸の入ったアタッシュケースの取っ手を掴もうとその手を伸ばしたがそこには何もありはしない。

結標(どういうこと……。演算をミスしたとでもいうの……?)

演算ミス。その単語が一瞬頭を過ぎっただけでトラウマが刺激され全身を嫌な汗が伝う。

初春「どうかしましたか? 『空気』なんか座標移動して」クスクス

結標の立つ位置とは対極の壁際に立つ少女はくすくすと笑う。

結標(空気? 私が今座標移動したのは空気だって言うの?)

今の状況に頭が追いついてこない。
だが、少女の含みのある口ぶりに結標は直感で何かがあることを感じ取っていた。
少女たちは依然としてくすくすと笑っているだけだが、気味が悪いと言ったらない。

結標(黒髪の方が耳打ちして……、爆笑!? こっち指差して二人で爆笑するってどういうことよ!?)

そこはかとない悪意も感じ取った結標は、爆笑する二人の少女に目を向けたまま自身のブレザーのポケットに意識を移す。
そこに入っているのは2本のダーツの矢。

結標(何かしたっていうのならまずはその元凶を絶ちましょうか。あと笑われたのも腹立つし)

ポケットには手を触れず目標へ向けてダーツの矢を座標移動する。

結標(その可愛い顔を苦痛に歪めなさい!)



454: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:34:59.83 ID:2TFYHFVz0

ポケットの中からダーツの矢が1本消失し、次に初春の前方約2mほどの空中に現れカランと床を転がるダーツの矢。

結標「なっ!?」

思わず驚きが声に出る。
結標は自身を除く座標移動には絶対的な自信がある。
肩口を狙った今の攻撃が数cmずれて床を転がるならまだわかる。
だが、その誤差が2mは考えられない。
これは何かされていることの確定的な裏づけとも言える事象なのだ。

佐天「何ですか? プレゼントですか?」プププ

結標(あっちの黒髪の方ほんと腹立つわね……。それはそうとあの二人は発火能力と空力操作のはずよ。
  ならこれは発火能力の応用で蜃気楼のようなものと考えるのが妥当かしら)

怒りで一瞬我を忘れそうになるがギリギリで思いとどまって状況の分析を行う。
結標は焼け焦げた跡を発火能力と切り裂かれた跡からカマイタチのような空力操作、
壁の凹みは空力操作で叩きつけたか、発火能力で爆発でも起こしたものと考えている。
そこから、残骸とダーツの座標移動の失敗により目標をずらされているのだと断定し、推測を立てた。
だがそれは残念ながら間違いである。
加えて正しい解は敵対する少女の口から明かされることになる。

初春「偏光能力(トリックアート)っていうんですよ」

結標「……ハァ?」

偏光能力――、それは能力の名称なのだろう。
だがそれはおかしい。
この状況で考えうる能力からかけ離れているのだ。

結標「それがあなたの能力だっていうの? ならこいつらは誰にやられたって言うのかしら?
  外傷と辺りの様子から焼けた跡に切り裂かれた跡、それに強い力で叩きつけられたような跡もあるわね。
  もしあなたの能力が本当にその偏光能力だとしたら、もう一人のあなたがこれを全部やったっていうのかしらね?」

イライラを吐き出すように早口でまくし立てる。
そんなことは不可能なはずだと、そんな嘘に騙されはしないと確固たる意思を示す。

佐天「私? 私は手を出してないですよ。全部初春がやりましたー」

結標「な、にを言って……!」

まるで教師にいたずらを咎められた生徒が友人にその罪を擦り付けるような言い回しにさらなる苛立ちを覚える。
さっきから会話の内容にまったくと言っていいほど整合性が感じられないのだ。
もうこれ以上の会話は無駄だと感じ始めていた結標はこの少女たちをどう殺すかを考え始めていた。
偏光能力にしろ発火能力による蜃気楼にしろ、数mの誤差が関の山、
ならばその誤差の最大範囲にありったけの物量を座標移動させてやればいい。
残骸と移動させるものが重ならないように地面から1mほど離した場所に座標移動させれば何一つ障害にはなりえない。



455: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:37:12.49 ID:2TFYHFVz0

初春「その倒れてる人たちですけど、そっちの三人には発火能力を使いました」

結標は耳を貸そうとしない。
また何か言い始めたがそんなことより何をどの位置へ座標移動するかを考えている。

初春「そっちの四人は窒素爆槍(ボンバーランス)、そっちの六人はまとめて電撃能力でやっちゃいました」

偏光能力に加えて、これで4つ。
一人に一つの能力しか得ることができないことは大前提だというのに、馬鹿な話だ。
今この場にいるのはたった二人、辺りに三人目が隠れることができそうな場所はどこにもない。

初春「そっちの二人は空力操作ですね、こんな風に」

ガーデニング娘が携帯を突き出し、何か操作したかと思うと辺りに突風が吹き始める。
そこで結標の思考が停止した。
外と繋がる出入り口は結標が入ってきた大きなスライド式の扉だけだ。
そしてその扉は結標の背後、だというのにこの突風は少女の方から吹いているではないか。
だが、まだこれだけなら偏光能力というのが二人の少女のどちらかの能力で、もう一人が空力操作だと考えられたかもしれない。
実際に目にしたのはまだこの二つだけなのだから。

だがしかし、

初春「そして残りの二人は空間移動で3mぐらいの高さから落としてあげました。……こんな風に」

いつの間にかその少女の手に握られていたダーツの矢。
それが手の平から跡形も消えてしまう。
そして結標の右肩を襲う激痛。

結標「ああぁっ……!?」

思わず悲鳴を上げて肩膝をつく。
見れば先ほどまで少女が握っていたダーツの矢が右肩に突き刺さってるではないか。



456: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:37:50.64 ID:2TFYHFVz0

結標「あなた一体……ッ!」

結標は突き刺さったダーツの矢を引き抜くと少女の方をキッとにらみつける。

初春「すごいでしょう? これ、『私の能力じゃない』んですよ?」

結標はその一言で完全にブチ切れた。

結標「っっいい加減にしなさいよアンタッ! 人にこんなもん突き刺しといて自分の力じゃないですって?
  冗談も休み休み言いなさいよ!」

佐天「先に突き刺そうとしたのは自分の方なのに、刺されたらブチ切れるってどうなのよ」プススー

結標「黙りなさい!」

初春「佐天さん、あんまり挑発しちゃダメですよ。私たちは結標さんに聞かなきゃいけないことがあるんですから」

佐天「あはは、ごめんごめん」

結標「くっ、……いいわ、聞きたいことあるんでしょう? 言ってみなさいよ」

それに答えるかどうかは別だけど、と付け加える。

初春「私たちが聞きたいのは一つだけ。……総括理事長のいらっしゃる場所への転移座標、
  もちろん知ってますよね? 『案内人』さん」

それを聞いたときの驚きはもはや言葉にすらならなかった。
ただの中学生が何故そのことを知っている? 何故そんなことを知りたがる?
何故、何故、何故何故何故……。

結標「あなたたち……、そんなこと聞いてどうしようって言うのよ」

佐天「もちろん決まってるじゃないですか。『学園都市をのっとる』んですよ!」

結標「……ぷっ、あははははは!! あなた本気で言ってるの?」

佐天「私たちには力がある! それを可能にするだけの力が!」

結標「このっ……」

突拍子もない発言に思わずこらえきれず噴出したが、黒髪の少女の言葉にカッとなる。
意識は再びポケットの中へ。
そこには残ったもう一本のダーツの矢。

結標「何が『力』よ、どういうカラクリか知らないけど、超能力なんかであの化物に立ち向かえるわけないでしょう!」

結標が実際にそのような行動を起こそうと思ったことなど一度もない。
ただ、一度だけ対峙し目を見たことがある。
多くは語らないが、その時に『超能力なんかでは勝ち目が微塵もない』と本能のようなものでそう感じ取った。



457: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:39:53.00 ID:2TFYHFVz0

結標の怒りは限界に来ていた。
中学生なんかに小馬鹿にされ、大能力者としてプライドを傷つけられた。
全てをぶち壊してしまい衝動に駆られ、ダーツの矢を黒髪の少女の頭が重なる位置へと座標移動させる。
それに対し、その少女は唐突に半歩後ろへ下がったではないか。
直後、ダーツの矢がさっきまで少女の頭があった場所へ微塵の誤差もなく現れる。

結標「かわした……? そんなことできるはずが……」

結標が移動させたのは佐天からは見えないポケットの中のダーツの矢だ。
それをいつ移動させるかもわからないのにまるで見えていたかのようにかわされるなんて考えられなかった。

佐天「時が見えるよ、初春」フフフ

初春「なんていうか、ほんと反則ですねその能力」

目を背けたくなるような現実に両膝を突いて腰を落とす結標を前に、
二人の少女たちは自分たちの会話に花を咲かしている。

結標(もう、何も考えたくない……)

佐天「ねー、もう諦めたのなら転移座標教えてくれませんか?」

結標(元々学園都市を裏切るつもりだったんだし、教えたっていいじゃない……)

佐天「おーい、聞いてますかー?」

結標「いいわ、あなたたちの好きにしなさいよ。転移座標は……」

全てを諦めたような表情の結標が、総括理事長のいる窓のないビルへの転移座標を口にしようとした時だった。



458: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/27(金) 14:40:54.39 ID:2TFYHFVz0

ドゴオオオオオン!!

御坂「佐天さん! 初春さん!」

三人(と倒れた猟犬部隊たち)のいた廃工場の壁に、轟音とともに大きな横穴が空けられる。
そしてその直後に聞こえてきた少女の声。

白井「お姉さま! もし初春と佐天さんがいらっしゃたらどうするおつもりで……」

さらに追って聞こえてくる鈴の音のような少女の声。
破壊によってもたらされた白煙が晴れて、横穴を抜けて姿を現す二人の影。
学園都市の誇る超能力者、超電磁砲こと御坂美琴とそのパートナーの風紀委員、白井黒子である。



462: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:14:59.10 ID:mWF4Ej+f0

初春「……」

佐天「……」

御坂「よかった、二人とも無事みたいね」ホッ

白井「私が携帯をもっと早く確認していればよかったのですが……、申し訳ないですの」

結標「白井黒子に、第三位……」

白井「結標、淡希!?」

御坂「なんですって!?」

結標「私もとことんついてないわね」ハァ

御坂「あんた、佐天さんと初春さんに何もしてないでしょうね」

結標「見ればわかるでしょう。ご覧の有様よ」

左手で右肩を押さえ、覇気のない受け答えする様は何とも言えない哀愁が漂っている。

白井「この倒れている妙な格好をした方々は一体……」

御坂「残骸を狙う他の組織と争って共倒れってとこかしら?
  おかげで佐天さんも初春さんもなんともなかったみたいね」チラリ

初春「……」

佐天「……」



463: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:16:02.27 ID:mWF4Ej+f0

結標「ふふ、おめでたいわね、あなたたち」クス

白井「何にせよ、あなたは警備員に突き出させて頂きますの」

風紀委員で支給されている手錠を取り出し、結標に近づく白井。

結標「もう何もかもどうでもよくなっちゃた。好きになさ、ぇ?」

ゴオォッ!

御坂「キャッ、目が……。何なのよこの突風!?」

白井「お姉さま! 結標淡希が!」アレヲ!

御坂「と、飛んでる……」ポカーン

結標「この風……、どういうつもりかしら、お花畑のお嬢ちゃん?」 ←空中

初春「……」

結標が視線を向けた先で、初春は携帯を持った左手を結標に向けて
まるでこの風を操っているような、そんな手の動きをしていた。



464: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:17:16.21 ID:mWF4Ej+f0

御坂「初春さんって空力操作だったの……?」ホェー

白井「そんなはずは……。確か、初春の能力は定温保存(サーマルハンド)、
  手で持っているものの温度を一定に保つ能力のはずですの」

佐天「結標さんには聞かなきゃならないことが残ってるんです。邪魔しないで下さい」

白井「佐天さん、何を言ってるんですのっ!?
  初春も、これがあなたの仕業だと言うのなら早く結標淡希を下ろしてくださいまし!」

初春「それはできません。佐天さんが言ったとおり結標さんには聞かなきゃいけないことがあるんです」

白井「聞かなきゃならないこと……? それは、一体……」ギリ

初春「白井さんに答える必要はありません」

白井「初春っっ!」

初春「結標さんは私たちが警備員に連行しておきますからお二人は帰ってもらえませんか?
  あぁ、手柄がほしいのなら一七七支部に連れて行きますけど」

結標「人のこと、物扱いしてくれちゃって」ギリリ ←空中

白井「初春……、一体どうしてしまったんですの?」ガクリ

初春「……」



465: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:18:20.13 ID:mWF4Ej+f0

御坂「黒子、言っても無駄よ」

白井「お姉さままで!」

御坂「二人がどういうつもりなのかわからないけど、残骸が関わってる以上引くわけにはいかないの」

白井「まさか、お姉さま」

御坂「張っ倒してでも言うことを聞いてもらうわ」ビリビリ

佐天「ふーん、やっぱり高レベルの能力者って傲慢なんですね」

御坂「今回ばっかりはなんと言われても引かないって決めてるの。例え友だちが相手でも、ね」ビリビリ

佐天「それ本当に友だちって言えるんですか?」プススー

初春「御坂さんって私たち以外に友達いなさそうですもんねー」クスクス

御坂「なっ……! ふ、ふふふ、いいわ二人とも。きついお仕置きが必要みたいね……」ワナワナ、ビリビリ

佐天「アハハハ、お仕置きだってさ初春っ」ハハッ

初春「怖いですねー、佐天さん」アロハ

ぷちん

御坂「レベル5舐めてんじゃねえぞクソがあああアアアァァ!」ピシャーン!



466: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:18:52.23 ID:mWF4Ej+f0

怒りのボルテージが最高潮に達した御坂は、加減を忘れて強力な電撃を放つ。

白井「おおお、お姉さまぁあっ!?」アワワ

御坂「ハッ! つい怒りに我を忘れて……。初春さん! 佐天さん!」

佐天「ひゃー、あんなの食らってたら黒コゲになっちゃうよ」

初春「ですねー、ヒステリックな女性って嫌ですよねー」

御坂「ぇ」

白井「ぶ、無事なんですの?」

初春「お返しです!」カチ

バチバチッ

初春が携帯を操作した直後、突き出した右手から電撃が放たれる。

御坂「そんなっ!?」

白井「馬鹿なことがっ!?」

ピシャーン!



467: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:19:57.66 ID:mWF4Ej+f0

御坂「こんなものぉっ!」ビリビリ

電撃使いの御坂は放電して軽く相殺してみせる。しかし、

白井「ですの゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」

御坂「黒子おおおお!!」

電撃を視認してから回避するなどまず不可能。
そんなことが可能なのは電撃使いか一部の能力者ぐらいである。

御坂「黒子! しっかりして、黒子!」

白井「お、おねぇ……」ガクリ

初春「心配しなくていいですよ、私は『御坂さんと違って』ちゃんと手加減しましたから」

佐天「初春やっさしィー!」バシッバシッ

初春「ちょ、ちょっと、佐天さん痛いですって」ケホケホ

御坂「なんなのよ……、結標を浮かせてる風といい今の電撃といい、わけわかんないわよ!」

初春「知りたいですか? この力の正体が」ウフフ

御坂「……」コクリ



468: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:21:28.71 ID:mWF4Ej+f0

初春「いいでしょう、実は誰かに言いたくてうずうずしてたんですよ。
  この力、電撃も風もですがこれは人工的に作り出した超能力なんです」

御坂「は? 人工的にって、超能力自体が元々……」

初春「残骸……、つまり樹形図の設計者に演算させて行使する超能力、こう言えばわかりやすいですか?」

結標「まさか、嘘でしょう……!?」 ←空中

初春「樹形図の設計者の演算速度、記憶領域は人間の脳を上回ります。
  それならAIM拡散力場の情報と演算パターンを書庫(バンク)から拝借すれば、なんというかこの通りなわけです」

佐天「実際、超能力使ってるのは初春って言うより樹形図の設計者みたいなものってことですよ」フフン

御坂「あ、ありえないわそんなこと……」

佐天「ありえないって言われても、その目で見たんですから信じてもいいんじゃないですか?」

初春「徹夜でプログラム組むの大変だったんですよ、まったく」

--------

昨夜のこと――。

佐天「ねぇ、この樹形図の設計者ってどのくらいのすごいものなの?」

初春「ぶっちゃけ人間の脳よりもすごいですよ」

佐天「へー……、じゃあ超能力とかも使えるかな?」ピコーン!

初春「そんな馬鹿なこと……、いや可能かもしれません、そんな気がしてきました!」

佐天「やれる! 初春ならやれるよ!」

初春「私もそんな気がしてきました! 偶然にもうちのパソコンに接続できますしやってみましょう!」

明け方――。

初春「できましたー!」

佐天「さすが初春ー!」



469: ◆tVP11EVtkPKg 2011/05/28(土) 22:22:23.00 ID:mWF4Ej+f0

結標「可能だったんだわ……、人間以外が超能力を使うこと……」 ←空中

初春「能力にもよりますが今のところレベルは3~4が限界なんですよね。
  プログラム次第でもしかしたらレベル5クラスかそれ以上も可能かもしれませんけど」

御坂「そ……ない」

佐天「はい?」

御坂「そんなの、絶対に認めない!!」バチバチバチ!

初春「無駄です、そんなチャチな電撃じゃ窒素装甲(オフェンスアーマー)の壁は破れませんよ!」

御坂「プログラム次第でレベル5かそれ以上? 私の努力を何だと思ってるのよ!!」ピシャーン!


佐天「うわー、なんか変なとこでスイッチ入っちゃったみたいだよ、初春」ワーォ

初春「でも、もし御坂さんが超電磁砲(レールガン)撃ってきたら窒素装甲じゃ防げませんよ?
  窒素装甲の強度は4ですし同時に使える能力は二つまでですからね」

結標「」 ←空中 ←2つ目

佐天「じゃあその前に私が御坂さんを倒さないとってことね」

初春「お願いします」

佐天「あいよ。安心してよ、初春に力は絶対使わせないから」



476: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/03(金) 00:06:04.12 ID:LX3NBIR50

御坂「機械なんかに簡単にレベル5越えられたらこっちはたまんないのよ!」バチバチピシャーン!

佐天「……じゃあ機械なんかじゃなく私と勝負しませんか?」ズズイ

御坂「なんですって?」ピク

佐天「御坂さんたちにはまだ言ってませんでしたよね。私実はレベル5の超能力者なんですよ?
  って言っても昨日なったばっかりなんですけど」

御坂「へー、おめでとう。それで序列は何位なのかしら?」

佐天「さぁ? 結構珍しい能力みたいで他と比べるのが難しいらしいんですよ。
  けど……、そうですね。今ここで御坂さんを倒せたら、私は実質二位ですよね?」

御坂「ぷっ……、あはははははは。本気で言ってるの? それ」

佐天「もちろん本気ですよ」

御坂「いいわ、やってやろうじゃない。レベル5ってのが嘘か本当かは知らないけど
  佐天さんがそう言うんだったら私も本気でやらなきゃいけないわよね。何せ相手もレベル5なんだし」

佐天「ええ、手なんか抜いたら御坂さんボッコボコですよ」

御坂「(ぶちっ!)……どいつもこいつも、第三位のこの私をイラつかせてんじゃないわよぉ!!」ババリバリッシュ!


初春「佐天さん……」

初春(三位の人を倒したらその人が三位です、二位じゃありませんよ……)



477: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/03(金) 00:08:11.94 ID:LX3NBIR50

御坂「とりあえず、自称レベル5の佐天さんのお手並み拝見といきましょうか」

御坂はそう宣言してから得意の電撃を、佐天に向かってノーモーションで放つ。
怒りに我を忘れつつある御坂の攻撃は手加減なしの文字通り一撃必殺の高圧電流が佐天を襲う。

佐天「遅すぎて話になりませんね」ヒョイ

御坂「なっ!?」

視覚してから回避行動など取れるはずもないその一撃が佐天に直撃する直前、
信じられないスピードで動き回避してしまったのだ。
ありえない、考えられないことだと御坂は目を白黒させている。
しかし、実のところ佐天は右方向へ『歩いて』移動したに過ぎなかった。
たったの二歩、足を右、左と動かしただけ。
それこそありえない話だが、佐天の能力がそれを可能にしていた。

佐天「時間加速(タイムアクセル)、それが私の手に入れた力の名前です」

御坂「たいむ、あくせる……?」

佐天「周囲の時間を加速させる力です。私は今の御坂さんの攻撃を歩いてかわしただけです。
  ただし、御坂さん過ごしている時間の20倍の早さで、ですが」

御坂「時間を操る超能力なんて聞いたことが……」

佐天「今、その目で確認したじゃないですか。なのに信じられないと? なら……」

そこで一度区切り、佐天は御坂に向かって足を一歩踏み出す。
そして次の瞬間、御坂が気付いた時には佐天は御坂の真後ろに立っていた。
遅れてゴオォと突風が巻き起こる。

佐天「御坂さん自身で体感してみますか? 通常の100万倍ぐらいの時間加速を」



482: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/04(土) 22:49:42.69 ID:aHCYqHOn0

御坂の頬を伝う一筋の冷や汗。
100万という桁外れな数字に驚きよりも先に恐怖と言う感情が降って湧く。

御坂「ぅ、うわあああああ!!」バチバチ

咄嗟に触れさせまいと四方八方に手当たり次第の電撃を放つ。

佐天「あはははは、御坂さんビビリ過ぎでしょー」ハハハ

その声は真正面から。
さっきまで背後にいたのに佐天は再び御坂の正面に立ち対峙していた。

御坂「はぁはぁ……。当然よ、一瞬でおばあさんにされたらたまらないわ!」

佐天「大丈夫ですよ。私の能力、人間に使うには致命的な欠陥があるんです。
  仮に100倍の早さで時間を加速させたとすれば、その人は1秒で100秒分の行動が可能です。
  まぁ、要するに反抗する人には使えないってことです」

御坂「なっ!? さっきのはただの脅しってわけ……。私がビビる様はさぞ滑稽だったでしょうね」ギリリ

佐天「おかしすぎてお腹がよじれそうでしたよ」ハイ

御坂「けど、それならそのことは黙っておくべきだったわね。
  私自身に使えないんならそんな能力これっぽっちも怖くないわ」

佐天「“敵”に弱点を教えてもらって勝った気ですか?
  レベル5ってやっぱり傲慢ですね、私はこんな風にならないようにしないと」フフン

御坂「御託はいいからかかってこいって言ってんのよッ!!」ピシャーン!

度重なる挑発を受けて、御坂は怒りに任せた超高圧電流を放つ。

佐天「無駄無駄ー!」

佐天に向かって一直線に飛んでいった電撃だったが、目標を目前にして右へと逸れてしまう。

御坂「ッ! もう一度!」

演算ミスによる操作ミスかと思い、再び電撃を放つ御坂だがやはり同じように逸れていく。



483: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/04(土) 22:50:48.80 ID:aHCYqHOn0

佐天「はいはずれー」クスクス

御坂「佐天さん、あなたなのね……。今度は何をしたって言うのかしら」

佐天「えー、少しは自分で考えて下さいよー。御坂さんも“自称”レベル5なんですよねー?」

御坂「こ、んのおおおおおおおおお!!」

三度放たれる電撃。
今度は一直線に伸びる一本の電撃ではなく上、右、左とカーブを描いた三本の電撃。
しかし、今度も佐天を目前にして電撃はあらぬ方向へと逸れてしまう。

佐天「第三位程度じゃわからないかもしれませんねー。めんどくさいし、答え教えてあげますよ。
  これはですね、私の周囲の時間を加速させてるんですよ。
  電撃に限らず全ての現象は時間の流れの速い方へと流れていくんです。それで、」

御坂「知ったことかあああああああああアアアアアァァァ!!」チャリーン

怒声とともに御坂が取り出したのは一枚のコイン。
もう何も聞きたくなかった。何も知りたくなかった。
目の前の全てを、破壊しつくしてしまいたくて、己が二つ名を全力で放つ。

御坂「超電磁砲(レールガン)!!!」

ローレンツ力をによって音速を超えてはじき出されたコインは凄まじい破壊力を見せる。
何よりも常人が音速の攻撃に反応などできるはずもない。
だが――。

ゴオオオォォン!!

その音は真上から聞こえてきたものだ。
見上げれば廃工場の天井に大きな穴が開いている。

佐天「人の話は聞きましょうよ。言ったでしょう、全ての現象は時の流れに逆らえないって」

時の流れの前に超電磁砲も平等に歪んでしまった。
さっきの電撃と同じように逸らされてしまったのだ。



484: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/04(土) 22:51:59.34 ID:aHCYqHOn0

御坂「そんな……、私の超電磁砲が……」ガクガク

佐天「なんか拍子抜けだなぁ。学園都市、女性最強の超能力者がこの程度だったなんて。
  私、まだ本気の半分も出してませんよ? その気になればこんなことだって……」

佐天は落胆の声を漏らした後、両手を宙に向かって掲げる。
御坂はただその姿を茫然自失といった状態で眺めているだけだ。

佐天『時よ、進め』

たった一言。
佐天が呟いただけで突如として工場内が暗闇に包まれた。

御坂「っ!?」ビクッ

御坂は突然の暗転に息を飲み暗闇に恐怖する子どものように肩を震わせる。
時刻は6時前、夏至は過ぎたといってもまだまだ日は長く、
工場にはいくつもの窓がありさっきまではそこから赤みがかった日差しが差し込んできていたはずだ。
しかし、今はそれがなく光源と呼べるものがまったくといってなくなってしまっていた。

佐天「空を見てください」

暗闇の中で響き渡る声に、また大きく肩を震わせる。
恐る恐るといった感じで御坂は言われたとおり空を見上げる。
そして思わず眼を剥く光景を目にする。

御坂「星……?」

超電磁砲によって空けられた天井の大穴。
そこから差し込んでくる仄かな明かりは夜空に輝く星々のものだった。

佐天「太陽系の星の時間を加速させました。今は深夜0時ぐらいです」

世界は佐天を中心に回っている。
比喩でも錯覚でもなく御坂にはそれがこの世の真理とさえ思えていた。



498: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:45:44.69 ID:8zN+MrmJ0

佐天「その気になればこんな大掛かりなこともできますし……」

御坂「ぅ……あぁ……」ガタガタ

佐天「こうやって小さく円を描くように能力を使えば、手の平の上で竜巻を作ることもできます」ビュオオォ

御坂(無理! むりムリ、無理よこんな化物……、勝てっこない……)ガクガク

佐天「さっきまでの威勢はどうしたんですかー?」ビュゥン

佐天は小首をかしげながら手の平の竜巻を放り投げる。
小規模なそれは人を巻き上げるほどではないにしろ、辺りに強風を撒き散らせる。

御坂「きゃああっ」

かつて第一位の能力者に対して味わった絶望という感情。
同じレベル5でありながらなぜこんなにも差があるのか――。

佐天「あはははは。御坂さんはいつもこんな気持ちで能力を振るってたんですねー。
  楽しいです、とっても楽しいですよ、弱いものいじめって!」

天を仰ぎ笑いながらくるくると回る佐天。
もはや彼女を止めることができるものなどこの場には存在し得ないのか……。



499: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:46:22.72 ID:8zN+MrmJ0

「お姉さまは、そんなこと、絶対にしたりしませんの……」

佐天「はい?」

擦れるような声に笑い声が中断される。

白井「お姉さまは、嬉々として弱いものいじめをするような方では、ございませんの!」

御坂「く、黒子……?」

佐天「白井さんてば、もう目が覚めたんですか?」

初春「御坂さんの電撃で電撃慣れしてたからでしょうかね、あの威力なら数時間は目覚めないと思ったんですけど」

白井「風紀委員として、道を踏み外そうとしている友人を放って寝てなんかいられませんもの」

佐天「そう言われてもですね、他に選択肢がなかったんですから仕方ないじゃないですか。
  正直、何の事情もわかってない白井さんに口出しされたくないですよ」

白井「なら事情を話してくださればいいじゃないですの!」

佐天「話せるわけないでしょう!」

白井「どうしてですの!」

佐天「話したら……! 白井さんたちが、危険な目に合うから……」

白井「!!」

御坂「佐天さん、あなた……」



500: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:47:41.71 ID:8zN+MrmJ0

佐天「私が馬鹿だったから……、パンドラの箱を開けてしまったから……、
  学園都市の暗部に狙われて初春も巻き込んじゃって……。
  学園都市を支配するなんて厨二臭い計画、失敗したら間違いなく死んじゃいますよ……。
  そんなことにこれ以上大事な友達を、巻き込めるわけないじゃないですかっ!」

白井「佐天さん……」

御坂「私たちのことを思って……」

佐天「……」

初春「……」

結標「はいはいはい、青臭い茶番をどうもありがとう、反吐が出るわ糞餓鬼ども」 ←空中

初春「結標さんでしたっけ? いい話の途中なんですからもう少し空気読んでもらえますか?」

結標「お断りよ。もううんざり、何もかも……。そう何もかもがうんざりなのよ!」 ←空中

白井「突然何を……」

結標「私の目的はね、その残骸を使って人間以外が超能力を行使できるかどうか調べること……。
  なのにあなたたちが一足飛びで答えを教えてくれちゃって、私の頭ん中ぐっちゃぐちゃよ!」 ←空中

御坂「それは空力操作で飛ばされてるからじゃ……」

結標「もういいわ……、皆殺しにしてあげる」ゴゴゴゴ ←空中

白井「なっ!?」



501: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:49:06.23 ID:8zN+MrmJ0

初春「何を言い出すかと思えば、能力が使えないあなたがどうやって私たちを殺すんですか?」

結標は初春によってただいま絶賛空中を舞っている最中である。

初春「空間移動ならともかく、こんな風に不規則に宙を舞わされている状態で座標移動の複雑な演算は不可能でしょう」

結標「ええ、そうね。O点の私が常時動いている状態じゃ『精確な』演算はできないわね。けど……」 ←空中

初春「?」

結標「もっと大きな空間から同じくらいの空間への、大雑把な座標移動なら可能なわけよ。
  例えば、この工場内の上半分の空気を下半分に座標移動する、なんてのはどうかしら?」 ←空中

初春「そ、そんなことしたらあなただって!!」

結標「言ったでしょう、『皆殺し』だって」 ←空中

御坂「はぁっ!?」

佐天「ちょっ、いくらなんでもそんな大規模なテレポートされたら!!」

白井「馬鹿な真似はおよしなさい!」

結標「みんな死ねええええええええええええええ!!!!!」 ←空中



502: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:49:36.65 ID:8zN+MrmJ0

初春(いけない……、佐天さんの能力は長距離の移動はできない……)

佐天自身の時間の流れと、能力対象外の時間の流れが異なる場合、
一時的に五感を失うのと等しい状況に陥る。
空気の流れが対比してゆっくりになれば匂いは感じ取れなくなるし、音も聞こえなくなる。
そして時間経過で移動しているのは空気だけでなく光も同じである。
空気同様に、自身を加速しすぎれば光さえ失ってしまうのだ。

おそらく結標の狂乱ぶりから残りわずか数秒で空気を座標移動するだろう。
その残り時間を佐天の能力で2倍に引き伸ばしたとすれば、
明るさに限って言えば今の半分の暗さの中を移動することになる。
4倍に引き伸ばせば明るさは四分の一になってしまう。

日中の明るさなら10倍、つまり十分の一の明るさでもうすぼんやりと周囲が見渡せた。
だが、今は深夜なのだ。
調子に乗った佐天が刻を夜まで加速させたため、今存在する光源はわずかばかりの星の明かりのみ。

ぎりぎり見えるかどうかの3倍に引き伸ばしたとして約10秒前後の時間がある。
その間に初春を連れ、御坂と白井を連れ、この廃工場から脱出することは不可能。
まさに絶望的な状況。

初春(こうなったら……)



503: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:50:11.81 ID:8zN+MrmJ0

結標「これが、触れていない物も移動できる空間移動と座標移動と絶対的な差よおおおおお!!」 ←空中

自棄を起こした結標が全てを自爆覚悟の座標移動を行おうとした次の瞬間!

初春「ロック!」

初春が一言呟いただけで、何も起こりはしなかった。

御坂「……え? え?」

白井「何も、起こりませんの?」

佐天「初春! あんたまさか!」

初春「……」

佐天「能力、……使ったの?」

御坂「初春さんの、能力……?」



504: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:50:56.08 ID:8zN+MrmJ0

結標を見上げれば口をパクパクと動かし、まるで壁を叩くパントマイムのように空中をバンバンと叩くような動作をしている。
さっきまでの違いは空力操作によってくるくると回されていたのが、今は何もない空中に立っているように見える。
そして初春はまるでお祈りでもするかのような両手を組んだ姿勢をとっている。
当然だがその手からは携帯が手放され地面に叩きつけられていた。

初春「他に方法が思いつかなくて……」

佐天「ごめん、私が調子に乗ったばっかりに……」

白井「初春の能力は定温保存(サーマルハンド)のレベル1のはず。ならこれは樹形図の設計者による能力では……」

初春「……」

初春は答えない。
ただ、その両手をそっと開き、落とした携帯を拾おうとする。

結標「……けんじゃなっ、わっ!? ひゃあああ」

同時に結標の声が聞こえ、空中にいた彼女は落下して尻餅をついた。

結標「いたた……、この能力、まさかあなた……第六位!?」

初春「ッ!!」ビクッ

がしゃん。

その言葉に目に見えてうろたえた初春はせっかく拾った携帯を再び落としてしまう。



505: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:52:03.20 ID:8zN+MrmJ0

結標「その反応……、本当にあなたが第六位、密室殺人(デスルーム)なのね」ゴクリ

御坂「です、るーむ?」

初春「……」

佐天「……」

結標「空間と空間の間に壁を作り隔離する空間断絶能力……。
  都市伝説かと思ってたけど実在したなんて……」

御坂「能力を暴走させ窒息死したっていう、あの……?」

結標「間違いないわ。こんな特異な能力、該当する人間は他にはいないはず」

白井「初春がそんなすごい能力者だったなんて……」

初春「……すごくなんてないです」

佐天「初春……」

初春「こんな……人殺しの能力なんて……」

御坂「人、殺し……?」



506: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:52:40.81 ID:8zN+MrmJ0

初春「あれは一年前の出来事でした。能力調査の一環でテレポーターを私の能力で閉じ込める、ただそれだけ」

初春はぽつりぽつりと語り始める。

初春「結果、私の力は11次元にまで干渉し、テレポーターさえも出て来れないことが判明しました」

白井「なんと……」

初春「これは面白いと研究者たちは大喜びでしたが、そこで悲劇が起きました。――能力の暴走です」

御坂「暴走?」

初春「能力を解除しようと思っても解除できなかったんです。手を開いても閉じても能力は解除されず、
  テレポーターの人は私が隔離した空間の中で弱っていきました。
  隔離した空間は小さめでしたからすぐに空気がなくなり、彼女は絶命しました」

結標「……」ゴクリ

初春「私は貴重なレベル5ということでこれといったお咎めはなし、考えられないでしょう?
  レベル5は人殺しが許されるんってことですよ?
  自身の能力に恐怖した私は書庫をハッキングして自分の能力をレベル1に書き換え今日まで暮らしてきました」

定温保存――。
その実態は、保温対象を隔離し外界との温度差を生じさせないことで空間内の温度を変化させない
密室殺人の能力応用によって作り出された偽の能力だったのだ。



507: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:53:34.90 ID:8zN+MrmJ0

結標「超電磁砲(レールガン)に時間加速(タイムアクセル)、挙句の果てに密室殺人(デスルーム)ですって?
  冗談じゃないわよ、こんな化物ばかりの空間にいたら命がいくつあっても足りないわ。
  私は一足先に帰らせてもらうわ」

結標は軍用警棒を一振り、自身を座標移動させこの場から離れようとするが……。

結標「あら? ……もう一度っ!」

初春「逃がしませんよ? すでにこの工場全体を能力で囲いました。
  私が第六位だと知られた以上、皆さんにはここで死んでもらいます」

結標「なっ!? ちょっと、冗談でしょう!?」

白井「初春! やめるですの!」

御坂「何も殺さなくたって……!」

初春「白井さんに御坂さんも、これは他人事じゃないですよ?
  皆さんって言うのは結標さん、白井さん、御坂さんのことですから」

御坂「え?」

白井「はい?」



508: ◆tVP11EVtkPKg 2011/06/19(日) 19:54:26.47 ID:8zN+MrmJ0

佐天「初春! 白井さんや御坂さんはこのことを人に言ったりなんて……」

初春「信用できません。私が信用するのは世界でただ一人、佐天さんだけです」

佐天「う、初春」///

初春「他の人なんか何人死んだって構いません。白井さんや御坂さんも例外じゃありません。
  私の世界には佐天さん一人いればそれで満足なんです」

白井「や、やばいですの、初春の目が光を失って完全に病んでますの」ウググ

御坂「私たちの声、絶対聞こえてないわよ……」アワワ

初春「佐天さん、私が隔離できるのは一つの空間だけです。
  工場全体を囲ってテレポートでの逃走は封じてますから、佐天さんがぶっ殺しちゃって下さい」

佐天「……初春」

御坂「佐天さんこんなことやめて!」

白井「そうですの、さっきだって私たちを巻き込みたくなかったって」

佐天「ごめんなさい、白井さん、御坂さん。初春と約束なんで、死んで下さい」ニコッ



515: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:23:54.81 ID:3WDZ9zM20

結標「冗談じゃないわよ、あんたらみたいなガキに殺されてたまるもんですか!
  直接動きを制限されないのなら、あなたの方から殺すまでよ。死になさい!」

結標は軍用警棒を振るう、振るう。
足元に転がっていた暗部の犬どもを初春と『重なる』ように座標移動させる。

初春「無駄ですよ」

だが、初春は事も無げに座標移動で送られてきた暗部をバックステップでかわす。

初春「この工場内は私の手の平も同じ、おかしな動きがあればすぐに察知できます」

結標「このっ!」

佐天「あと、余所見は厳禁ですよ?」

結標「がぁッ!?」

それは一瞬の出来事だった。
気付けば佐天が目の前に立っていて、腹部に蹴りが深々と突き刺さっている。

佐天「あなたには統括理事長のいる場所への転移座標を聞かないといけないから、まだ殺しません。
  だから、しばらく気絶しててください」

沈黙。
膝から崩れ落ちた結標はピクリとも動かず、完全に沈黙してしまった。

佐天「次は白井さんと御坂さんの番ですよ」ニコリ

御坂「ひっ!」タジ

白井「くっ、お姉さまが脅えて……」



516: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:24:41.55 ID:3WDZ9zM20

白井「佐天さんを傷つけることになってしまいますが、仕方ありませんの……」

白井はそっと両の手をスカートの裾から中へと伸ばし、得物に触れる。
ヒュン、と空気を割くような音をさせ鉄心を転移させる。
狙うのは佐天の足首、アキレス腱だ。

佐天「はい、はずれー」

白井「!?」

鉄心が転移する瞬間、佐天は白井の狙った右足を横にずらす。
転移した鉄心は重力に引かれて床に落ち、金属の高い音を響かせる。

佐天「テレポートの瞬間って、時間ベクトルがわずかに『揺れる』んですよ。
  私にはそれがわかる、見える、感じるんです。下等なテレポーターごときが勝てるわけないんですよ。
  正直めんどくさいんで潔く死んでくれませんか?」

白井「ご冗談を。佐天さんこそ今なら友人のよしみで原稿用紙20枚分の反省文で許してあげてもよろしいですのよ?」

佐天「力の及ばない格上相手にする交渉とは思えませんね。もういい、死n」

途中から佐天の言葉がぶれて聞こえる。
言葉のぶれを感知したときには佐天が白井の目の前から姿を消していて、
コンマ数秒後には結標同様に意識を刈り取られていることだろう。

白井(ッ! 殺られる……!)

佐天(さようなら、白井さん。初春のために死んでくだ……、ッ!?)

バチバチッ!

空気との摩擦で何かが弾けるような音を立てて電撃が迸った。



517: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:25:31.21 ID:3WDZ9zM20

白井「お姉さま!」

佐天「あっぶなー……、さっきまで子犬みたいに震えてたくせに、まだ戦うんですか? 御坂さん」

御坂「もう、何も失いたくないから……」

佐天「はい?」

御坂「黒子も、妹達も、佐天さんも初春さんも、誰も失いたくないのよもう!」

バチバチ、ピシャーン!

感情の高ぶりをそのまま攻撃に乗せた、超高電圧の電撃が佐天を襲う。

佐天「そんなの喰らったら一発で心臓止まりま、うぇぁっ!?」

時間加速で御坂の攻撃を回避した佐天を、再び電撃が襲う。
寸でのところではあったが同様に時間加速でどうにか回避に成功する。

御坂(今の佐天さん相手に手加減なんかしてたら勝てっこない……。
  当たったら心臓止まっちゃうだろうけど、電気ショックで蘇生すれば問題ないわ!)

佐天(動きが読まれてる? 御坂さんの能力を考えれば電磁波を使ったレーダーか何か。それなら……)

連続して電撃を放つ御坂から、大きく距離をとる佐天。

佐天「……」

御坂「……」

御坂と佐天、二人のレベル5はじっと互いを睨みあったままもう口を開こうとはしない。
喋ることすら隙に繋がる、僅かな隙が敗北に繋がる。
この戦いはそれほど高次元の戦いなのだ。



518: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:26:33.16 ID:3WDZ9zM20

次元の違いに白井が割って入る隙など存在しない。
白井にできるのは御坂の勝利を祈って見守ることだけ。
そして永遠に続くのではとさえ思われた長い、あるいは短い睨みあいの状態から先に動いたのは佐天だった。

こつこつと、ローファーを鳴らせて御坂に向かって直進する佐天。
まだ能力(タイムアクセル)は使わない。
一歩、二歩と近付くたびに緊張が走る。
そして5歩目、御坂が牽制の電撃を放とうかと考えた瞬間、佐天が姿を消す。

御坂(目では見えなくても、私のレーダーには映ってるわよ……、その右後方からの不意打ち!)

御坂「そこよっ!」

ばっ、と振り向き様に電撃を放つ。

御坂「!?」

しかしそこには誰もいない。
なぜ?という疑問が浮かぶ前に御坂の鳩尾に痛みが走る。

御坂「かはっ……」

佐天「残念でした、それは私が時間を意図的にゆがめて作ったダミーです。そしてとどめ!」

腹部の痛みに膝を突く御坂を前に、佐天はバックステップで軽く距離をとり両手を広げる。

佐天「まがれマガれ凶れ凶れ凶れ凶れ凶れ凶れ凶れ……」

御坂「ぐっ、何を……?」

御坂の周囲を回るように突風が吹き始める。
それは佐天の能力によって時間が歪められたことで発生したもの。
そしてどんどんと勢いを増していく突風は瞬時にして竜巻と化す。



519: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:27:14.55 ID:3WDZ9zM20

佐天「フィニッシュ!」

佐天が両手を交差すると竜巻の直径が小さくなる。
さっきまでの大きさが竜巻の中心に人が一人入れるかどうかというもの、
それがさらに小さくなったとなれば吹き飛ばされまいとどうにか耐えていた中の人間は竜巻に巻き込まれ宙を舞う。

御坂「きゃああああああああぁぁ」

佐天「必殺、時の竜巻(タイムタイフーン)!」

ごしゃあぁぁっ!!

錐もみ状態で宙を舞っていた御坂が勢いよく地面に叩きつけられる。
ぐったりとした様子でピクリとも動かない。

佐天(決まった……!)

佐天「フッ、みねう、」

初春「佐天さん、後ろッ!」

佐天「え?」

佐天は憧れていた一つ年上の少女に完膚なきまでに勝利して自己陶酔に陥っていた。
隙だらけの佐天が振り向くよりも先に少女は佐天にしがみ付く。

佐天「なっ……し、白井さん!!」

白井「お姉さまが命がけで作ってくださったこのチャンス、無駄にはしませんわ……!」

佐天が御坂にとどめを刺し、完全に意識が逸れた隙に白井は佐天の約5m背後に空間移動していたのだ。



520: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:27:57.18 ID:3WDZ9zM20

白井「こうやって密着してしまえば佐天さんの力は何一つ有効な手はない、そうでしょう?」ニヤリ

白井の言う通り佐天の力の弱点は相手に密着されること。

佐天「離れてくださいよ、このっ、このおおおお!」

白井「そんなに離して欲しいのでしたらお望み通りに」

暴れる佐天に白井は自身の力を行使する。

佐天「うぇっ!?」

気付けば天井近くの空中に、しかも上下逆さまという状態に佐天は目を丸くする。
そして後を追って白井自身も佐天の両脇に足を乗せ、両足を掴むように空間移動する。

初春「あ、あれはっ!」

白井「固法先輩直伝、疾風迅雷落とし! またの名を……」

ズガアアアアアン!!

白井「 キ ン 肉 ド ラ イ バ ー !!」

キャンバスに叩きつけられた佐天はぐったりとした様子でピクリとも動かない。



521: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:28:25.44 ID:3WDZ9zM20

佐天、御坂、結標、さらに猟犬部隊の17人が倒れ伏し死屍累々といった状況で
工場内に立っているのは白井と初春の二人だけ。

初春「そんな、佐天さんが負けるはず……!」

白井「驕りが過ぎたんですの。佐天さんも、初春も」

初春「ひっ!」

初春は咄嗟に祈るように握っていた両の手を開き工場全体にかけていた能力を解除する。
そしてすぐに白井の周囲に能力を再度行使しようとする。

白井「遅いですの」

初春の真後ろに空間移動した白井は初春の右手を掴み捻りあげる。

初春「うっ、ぐぁ……は、離して」

白井「初春、終わりにしましょう……」

そう呟いて白井は初春を空中に空間移動させる。
佐天に仕掛けたとき同様に、直後に自身も空間移動すると今度はパンツの中に初春の頭をねじ込みパイルドライバーを叩き込む。

ズガアアアアアン!!

白井「 パ ン ツ ド ラ イ バ ー !!」

キャンバスに叩きつけられた初春はぐったりとした様子でピクリとも動かない。



522: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:29:22.06 ID:3WDZ9zM20

今、工場内に立っているのは白井だけ。
白井は呆然とした様子で立ち尽くし空を見上げる。

白井「……虚しいですの」

視線を下に戻し、もう一度周囲を見渡す。
目当てのもの――残骸(レムナント)を見つけゆっくりとした歩調で近付く。
白井は残骸に触れると能力で外側のケースのみを空間移動させ中身を露呈させる。
パソコンの部品程度にしか思えないソレを見下ろし、白井は残骸のケースを振り下ろす。

白井「こんなもの! こんなものさえなければ誰も傷つかずに!
  壊れろ! 壊れてしまえですのッ!!」

がしゃん、がしゃん、ばきり、ぐしゃり

残骸が文字通りの残骸と化しても白井はケースを振り下ろすのをやめない。
力の続く限り何度も何度も振り下ろし続ける。

白井「このおおおおお!! ……あ」

感情に任せてケースを振り回していた白井にもついにそのときが訪れたのだ。
手に汗が滲み、取っ手が滑りケースが宙を舞う。
ケースの行き先を見届けようと見上げると、目の前にケースが落下してくるところだった。

がんっ!

頭を強く打った白井は倒れこみぐったりとした様子でピクリとも動かない。

そして、工場内に立っているものは誰もいなくなった。

――――――――
――――
――



523: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:30:13.73 ID:3WDZ9zM20

夜明け――。

結標「ぅーん、ッイタタ……何これ、体中が痛いわ……」

死屍累々の工場内で最初に目を覚まし身体を起こす一人の少女。
全身の痛みに耐えながらぼーっとした頭で周囲を見渡す。

結標「何よ、これ……」

理解することを拒否しそうになるわけのわからない状況に苦悶の声を漏らす。
昨日あったことをゆっくりと反芻してどうにか状況を理解する。

結標「残骸も粉々で何も残ってない……笑っちゃうわね」

笑うといっても自嘲気味の乾いた笑いにしかならないのが情けない。

結標「それもこれもこいつらのせい……!」

何があったかはわからないがどうやら気絶しているだけらしい。
今のうちにと、落ちている残骸の破片を邪魔をしてくれて目障りな少女たちの脳みそ目掛けて座標移動させようとする。

結標「……うそ、でしょう?」

能力が使えない、能力を使おうとすると激しい動悸に襲われ演算に集中できなくなっていた。

結標「は、はは……、私にはほんとに何も残ってないのね……」

もう何も考えたくなかった。
危害を加える気力も失い、結標はそのまま工場を跡にした。

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524: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:30:42.92 ID:3WDZ9zM20

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

佐天「う~ん、もう食べられないってば~」

初春「何漫画みたいな寝言言ってるんですか、佐天さん。いい加減起きてくださいよもう!」ベチン

佐天「ふぇ? あれ、初春おはよ……ってなんで初春がいんの?」

御坂「初春さんだけじゃないわよ」

白井「私たちもおりますのよ」

佐天「いやいや、それこそなんでいるんですか? っていうかここどこ!? 何この状況!?!?」

初春「佐天さんもわからないんですか?」

佐天「私もってどういうこと?」

御坂「どうもこうも、目が覚めたらこの状況よ。結標を追いかけてるとこまでは覚えてるんだけど……」

白井「私もですの」

初春「私もここ二日くらいの記憶が曖昧で……、佐天さん何か覚えてませんか?」

佐天「うーん……、確か昨日学校帰りに初春と風紀委員一七七支部に向かってたような……。
  けどそこまでしか思い出せない……、ぅー身体もなんか痛いし……」

全員「「うーん……」」



525: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:31:11.83 ID:3WDZ9zM20

御坂「このままここで考えてても仕方ないし、病院にいきましょうか……」

白井「そうですわね、結標に付けられた傷が痛みますの……」

佐天「この変な格好で倒れてる人たちはどうします?」

初春「匿名で通報しときましょう。私たち記憶がないですし、関わり合いにならないほうがいいですよ」

御坂「じゃ、そういう感じで」

なんか私、特に首が痛いです

うん、私も首が……

私は頭ですの、瘤ができてて、イタタ……

ほんと何があったのかしらね……

あの工場でバトルロイヤルでもやってた、とか?

あはは、なんですかそれ~、そんなわけないですよ

それなら全員倒れてる理由がわかりませんの、お姉さまは勝ち残っているはずですの

そうですよね、そんなことがあったらレベル5の御坂さんの優勝ですよねー

あはははは、くすくす、えーそんなー……


  とある科学のタタリの昼に――。 / 終



526: ◆tVP11EVtkPKg 2011/07/22(金) 22:36:53.77 ID:3WDZ9zM20

全力で投げやりに終わらせたった!!
佐天さんの時間加速(タイムアクセル)、初春の第6位密室殺人(デスルーム)、黒子の48の殺人技
やりたいこと全部やれたんで満足です
なんか質問あったら全レスするんでどうぞ、三日後ぐらいにHTML化依頼出しときます


元スレ
SS速報VIP:???「ククク……、」 御坂妹「」 一方通行「」 上条「」